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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

41627-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 1/2:2013/08/05(月) 00:10:55 ID:rv47SWJM
扉の開く音がした。目をやるとドアのところに長身の男が立っている。
相変わらずのスーツ姿、手には黒い杖。
彼を一瞥して、またすぐ空を眺める姿勢に戻る。今日は雲が多い。
「おはよう。気分はどうだい」
背後から声がする。
「食事に手をつけていないんだって?食べないともたないよ。それに、せっかく君の為に
 家政婦のマリアが腕をふるっているのだから、食べてくれないと彼女が悲しむ。
 あとでまた運ばせるから、どうか食べてやってくれ。味なら僕が保証しよう。マリアの料理は絶品だ」
マリアという人のことなど知らない。
こつこつと杖をつく音がして、声がすぐ傍まで近付いてくる。
続けてわざとらしい溜め息が聞こえてきた。
「せっかくあの牢獄から助け出してやったというのに。まったく助け甲斐の無い奴だな、君は」
「ここも牢獄だ」
窓に嵌められた鉄格子に向かって呟くと、後ろの男はなぜか嬉しそうに笑う。
「そうかい?あんな湿って暗い牢屋みたいな部屋と一緒にされては悲しいな。空調もきいていて清潔で、
 何より色調が明るい。あそこと比べたらこの部屋は天国だろう?天国に現れる僕はさしずめ天使か」
どんな顔をしてそんな間の抜けたことを言うのか。
そちらに顔を向けると、すかさず目線を捉えられた。
「ようやくこっちを向いてくれたね。人と会話するときは、目を見て話すものだよ」
かけられる言葉には何も返さず、黙ったまま男の頭から爪先まで視線を走らせた。
組織の幹部の一人。七人のうちで一番若く、一番の新参。しかし序列は既に四位だと聞いた。
今もこの部屋の前には部下が控えているのだろう。
髪を後ろへ撫で付けて、スーツもネクタイもおそらく高級品。微かに香水の匂いがする。
手に持つ杖にも、細かい細工が施してあった。
「こうして君に会いに来たのは他でもない。君に仕事を頼もうと思ってね」
「やらない」
言った瞬間に殴られる覚悟をしていたが、男は平然と肩を竦めた。
「そんなつれないことを言わないでくれ。君の腕を見込んでいるんだ。君にしか頼めない」
そして、聞いてもいない麻薬組織についてぺらぺらと喋りだす。
無視してまた身体を窓の方に向けた。空を眺める。
鉄格子の隙間から見える空は、いつの間にか暗い色の雲に覆われていた。一雨来るかもしれない。
嫌な気分になった。
「雨が降りそうだね」
タイミングよく言われて、思わず振り返ってしまった。また視線が合う。
男は少しだけ首を傾げて微笑んだ。
「君は雨が嫌いかい?」
「……嫌いだ」
「そうか。僕は好きだよ」
その返答に無意識に顔を顰めていたらしい。男が苦笑を漏らした。
「雨が好きな人間のことも嫌いかな」
その問いに少し考えてから「どうでもいい」と返す。その後は特に言うこともなかったので黙った。
わざとらしい笑い声が部屋に響く。
「もっとにこやかな方が会話というものは楽しいんだけどな。よく食べてよく笑うのが健康の秘訣だ。
 ああそうだ。食事が駄目ならデザートを運ばせようか。マリアの作るシフォンケーキはとても美味いよ」
何個でも食べられるのだと得々と語る男から視線を外し、再び空へと戻そうとしたところで、
視界の隅で黒い杖がリズミカルに床を小突いているのに気がついた。小さく音をたてている。
その音につられてなんとなく男の右脚に目を落とす。
彼の持つ杖が装飾品ではないことは、初めて歩く姿を見たときに気づいていた。
そんな脚になっても幹部で居続けられるのは、または居続けようと思うのは、なぜだろう。


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