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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

26623-419 まとも×電波(1/2):2012/02/13(月) 00:55:50 ID:moLg4026
血の臭いが嫌いだと言う。
だったらその場に留まっていないでさっさと離れれば良いと薦めたのだが
「そしたら血の臭いで僕だけ浮きだってデフレスパイラルだ。ストレスで血を吐く」
と返って来たので、それきりその提案はしないでいる。
血の色も服が汚れて目立つから嫌いだと言う。
その割にいつも白地のパーカーを着ていることを指摘すると
「服が白くないと僕は夜から出られなくなる。何も見えない。カラスは鳥目だから」
と返って来たので、服についてはもう何も言わないことにして、よく落ちる洗剤を買ってやった。
臭いが付いたり服が汚れたりするのが嫌なら、せめて返り血をなるべく浴びないようにしろ、
そんな忠告をしてみたところ
「努力してみる」
と素直に頷かれた。たまに会話が普通に成立する分、この男は厄介だ。

俺はビルの階段を昇っている。
一階でエレベータのボタンを押してみたが、案の定、無反応だった。
こんなに歩かせやがってあの野郎、と俺は心の中で悪態をつきながら目的地である七階まで辿り着く。
表向きは、ナントカいう横文字の小洒落た名前をした株式会社の事務所だ。裏向きには……なんだったか。
ドア脇の呼び鈴らしきものを押したが、やはり何の反応も無い。というか、鳴った手応えすらない。
ノックもしてみる。反応なし。
まあ、反応が無いことはわかりきっていることなのだが。
ゆっくりとドアを開ける。すると、咽返るような血の臭いが鼻に付いた。
これは誰だって嫌になるレベルだろうと、俺は毎回思う。
「また派手にやりやがって」
わざと大きめに声を張りながら、俺は注意深く、奴の姿を探す。
目の届く範囲には見当たらなかったので、奥の部屋へと進む。
その部屋の入り口で中をざっと見回して、俺は部屋の隅にあるロッカーに目を留めた。
床のものを踏まないようにしながら、俺はロッカーの前まで足を運ぶ。
そして、ノックをした。
「……入ってます」
数秒の後、ロッカーの内側からくぐもった声が返って来た。俺はため息をついて、その扉を開ける。
そこには白いパーカーを着た青年が、すっぽり収まっていた。
状況によって驚愕にも恐怖にも笑いにも転がりそうな、奇妙な光景。
俺は一瞬だけうんざりしたが、顔には出さない。
「入ってます」
ぼそぼそと同じセリフを繰り返しているが、俺は無視する。
「お前、前に自分は閉所恐怖症だって言ってなかったか」
男は俯けていた顔を少しだけ上げて俺を見た。
「閉じられているのは世界だ。だから僕はずっと閉じこもっている。物理的閉塞は意味が無い」
瞳の色は漆黒だが、その眼にカラーコンタクトが装着されていることを俺は知っている。
「わかったから、さっさとそこから出てこい」
言いながら俺は腕時計を確認する。
時間にはまだ余裕があるが、ここから離れるのが早いに越したことはない。
何より黒服を纏った『処理班』の連中とコイツを引き合わせるのは気が乗らない。
「ほら」
右手を差し出して促す。
男は俺の手をじっと見つめて、何を思ったのか己の右腕を凄い勢いで持ち上げた。
ひゅ、と空を切る音がして、俺の手首ギリギリにナイフの刃先が向けられる。
「おいこら」
みっともなく後ずさりしなかった自分を褒めてやりたい。


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