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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

30724-369 背中合わせ(2/2):2012/06/25(月) 00:48:13 ID:kZUnIqKQ

きつく奥歯を噛み締める俺をよそに、「それに」と彼は言葉を続ける。
「すっきりしたお陰で、こんな風に貴方の背中に思い切り寄りかかれるようになりました。
 誰かに背中を預けることがこれほど温かくて心地よいものだなんて、羽があった時は分からなかった」
「…………」
「本当に、貴方と出会ってから、私は色々なことを知ってばかりです」

ふと、後ろで縛られた手に彼の指先が触れた。探るようにして、優しく掌を重ねてくる。
「貴方が助けに来てくれて嬉しかった。私は幸せ者ですね」
「それは、結局のところ助けられなかったことへの嫌味かよ」
「そうですね。半分くらいは」
からかうような声と共に、背中が少しだけ揺れた。俺がよく使う言い回しを真似たつもりらしい。
「お前な……」
「でももう半分は本心です。最後の最後まで貴方と一緒に居られて、私は本当に幸せだと」
指と指を絡め、強く握り締められる。
「ありがとうございます」
しっかりとした声音が、牢の中に響いた。
その声に処分を待つ者の怯えや恐れは感じ取れなかった。俺への恨みの響きも無い。迷いも痛みも後悔も。
どんな顔で感謝の言葉など紡いでいるのか。確かめてやりたかったが、この体勢ではそれも叶わない。
ただ、彼の体温が伝わってくるだけだ。

なぜ『奴ら』が俺とこの男を引き離さずに二人一緒に縛り上げて閉じ込めたのか。
簡単だ。この密着した状態では『化け物』は本性を現さない。
鉄の扉を切り裂く鋭い爪も、狭い壁など吹き飛ばせる刃の如き翼も、
現したと同時に背にある者の身体を傷つけ引き裂いてしまうだろう。
だから愚かな化け物は本性を現さない。理性を総動員して、本能に近い破壊衝動を必死で抑え込む。

狙いは半分は成功している。しかし、もう半分は失敗だ。
奴らは正しく理解していない。
自分達が切り捨てた『同胞』は、『化け物』の理性の留め金であるのと同時に、引き鉄でもあることを。

不意に泣き出したい衝動にかられた。
これから男が続けて何を言おうとしているのか、俺には察しがついている。
処刑を待つこの絶望的な状況下で、彼がなにを望むのかもわかっていた。
聞きたくないと思った。しかし、聞きたいとも思っていた。
俺は彼の何もかもが好きで、だから背中の彼を感じながら、ただ目を閉じる。

「もう我慢しなくて良い。さあ、貴方は此処から逃げなさい」

羽を失ってもなお凛とした声が、俺に命じた。


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