[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
从 ゚∀从二人暮らしのようです(-_-)
1
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 10:11:46 ID:KbZp5als0
※ハートフル同棲ものですが少しエロがあります
47
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 13:10:37 ID:4qu9ploU0
乙
凄く面白いしヒートが可愛い
切ないがニュッが再び前を向けるようになって良かった
48
:
名も無きAAのようです
:2016/05/08(日) 00:33:03 ID:lpkNqOp60
千葉県民の俺としては情景が浮かびすぎてしまうな
49
:
名も無きAAのようです
:2016/05/08(日) 00:47:06 ID:r42CXgUc0
古館でチャンネル帰るあたりがニュッ君というかν速民というかっぽくて凄く好き
乙
50
:
名も無きAAのようです
:2016/05/13(金) 22:12:08 ID:/yCAQXko0
他のはいつ書くの?明日?明日だよね?
51
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 01:35:13 ID:INs3mbfI0
救いの無い話はやめろ
泣く
52
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 07:54:24 ID:BImXu.QU0
ありがとうございます。
>>49
書いたの結構前だったので投下するまでに古舘が富川さんに交代するとは思いませんでした…。
>>50
週一ぐらいでやっていきます。
53
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 07:56:28 ID:BImXu.QU0
二人暮らしのようです
京急本線大森海岸駅から徒歩3分・JR京浜東北線大森駅から徒歩9分
鉄筋コンクリート造り 築29年
2DK 家賃10.8万円(一人5.4万円)
54
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:01:27 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从二人暮らしのようです(-_-)
京急本線大森海岸駅から徒歩3分・JR京浜東北線大森駅から徒歩9分
鉄筋コンクリート造り 築29年
2DK 家賃10.8万円(一人5.4万円)
55
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:03:16 ID:BImXu.QU0
ハインは軽いよね、と言われる事がある。もっとストレートにお前はビッチだと罵られる事もある。
まぁ確かに私はよく彼氏が変わっている女だと見られているだろうしそれは事実なのだ。
最長でも一年、最短で一週間。飽きやすいし長続きしない。だけど一人は寂しい。
誰かと一緒にいたいのだ。別に二十四時間ずっと男と一緒に行動していたい訳じゃあない。
一人の時間も大切にしたいし私は拘束するのも拘束されるのも好きじゃない。
だけど夜に一人で寝る時に無性に寂しくなるのだ。人肌恋しいとかそういうのとはちょっと違う。
とにかく一人で夜を迎えるのがどうしてか寂しくてまるで自分が底なしの闇夜に溶け込んでしまう気がするのだ。
でもそういうのは男からすれば子供っぽいと感じるらしい。見た目のわりに子供なんだと。
私としては幼い子供のそれとは少し違うと思うのだけれどはっきりと言い切る材料はない。
飽きやすく長続きしないという性格は男性関係だけではなく私の人生全般にも言える事だ。
商業高校を出てふつーに就職したけど二年も続かなかった。それからはバイトを取っ替え引っ替えしてなんとか生きている。
バイトだってそれほど長くは続かない。仕事に飽きたり人間関係が面倒になるとおさらばだ〜ととっとと辞めてしまう。
せっかく就職した会社を辞める時はさすがに勇気が必要だったけどなんでもないバイトを辞めるのは簡単だ。
ハードルだって低い。こんがらがって面倒になってしまったバイト先の人間関係も綺麗さっぱりリセットだ。
なにせ私は鞄の中で誰の策略かこんがらがってしまったイヤホンを解かずに捨ててしまうほどの人間だ。
そうやって付き合った男もバイト先も面倒になればすぱすぱ切ってすっきりリセットしてきた。
きっとこれからもそうやって生きていくんだと思う。それが私の生き方だしもう今更変えられないだろう。
56
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:04:53 ID:BImXu.QU0
助かっている点とすれば親がもはや私に興味がないという事だ。もう私は息苦しい実家を就職時に出ている。
私には出来のいい妹がいる。成績も大して良くなかった私と比べるとその差は幼少時から顕著だったと言える。
勉強も出来るしお手伝いも進んで出来る、常にクラスの中心だったし友達も男女問わず多かった。それが妹だ。
学習塾にバレエ、英会話と習い事に行かせても全然やる気を見せなかった私に母は早々に見切りをつけ妹への投資に集中した。
なんでもない公立の商業高校に進んだ私と違って妹は地域トップの私立のバリバリ普通科進学校に進んだ。
特に目立たない地方の中小企業にたった数人の同期と共に就職した私とは違って妹は国内有数の国立大学へと進んだ。
母も父も妹を見ていたし私も家で必要とされていない事は分かっていた。それに自分で選び進んだ道も同然だ。
就職が決まって高校を卒業してから独立という名目で一人暮らしをすると告げた。母も父も特に止めず、むしろ喜んでいるようだった。
かくして私は家を出て一人暮らしを始めた。男もバイトもころころ変わるのと同じでその住まいもあまり長続きはしなかった。
色んな男と付き合ったし色んな街に住んだ気がする。男の部屋に転がり込んだ事もあったしその逆もあった。
今はフリーターのもやしと同棲している。フリーターのもやし。こう書くとちょっと面白いや。
そのもやしはマンガ家志望でいつもマンガを描いている。そして生きていくためにやはりバイトをする。
高校を卒業してマンガ家になるべく上京してきたのだという。根暗のくせに行動力だけは一人前だ。
私とそのもやしは同じバイト先で知り合った。第一印象はいかにも根暗なオタクでいいものではなかった。
だけどいつの間にか同棲するまでになるのだから不思議なものである。それにオタクと付き合うのも初めてだ。
バイト先で私達が付き合っていると知っている者はいないんじゃないかと思う。職場でいちゃこらするような二人でもない。
付き合い始めてからも特に職場で接し方が変わる訳でもないのだ。本当に今まで通りである。
57
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:08:11 ID:BImXu.QU0
しかしそう思うといま私は人生においてずいぶん珍しい時期にいるものだ。オタクっぽいもやしと同棲。
普段の私が見たらどーしたんだ気変わりすげーなと言ってくるに違いない。というか絶対言う。
付き合った男はいろいろだけどやっぱりヤンキーっぽいのが多い。私自身見た目はヤンキーだ。
目つき悪いし髪型もあんまり女の子らしくない。まぁ私みたいなのが女子女子してるのも似合わないけど。
夜にドンキに行っちゃう系のヤンキーと付き合う事が多かった。もちろんスウェット着用で。
たいてい中古ゼロ・クラウンとかBbとかワゴンRとかに乗っている。あれはある意味で制服に近い。
そんな私がオタクっぽいもやしと同棲してエッチまでしているのだ。私の歴史帳にデカデカと見出しが出るだろう。
もやしの名前はヒッキー。もう同棲を始めて一ヶ月半ぐらいになる。
私がヒッキーと初めて話したのはバイトの休憩中だった。休憩室には私とヒッキーの二人しかいなかった。
スーパーのレジ打ちは社員とパート、バイトの三種類に分けられる。私とヒッキーはバイトのカテゴリだった。
レジ打ちは殆ど女性だ。社員は若い女性新入社員ばかりでそのうちに仕事に向いていないだとか寿退社とかで辞めていく。
パートは出産して子育てもある程度まで行って余裕が出来たおばさんがメインだ。人間関係が一番ぎすぎすしているけどそれはまた別の話。
そしてバイトは学生が中心だ。なのでバイトが出てくるのも平日は夕方以降だしテスト期間はがっつり休む。朝から出てくるのは土休日ぐらいだ。
そう考えると平日の朝からでも出てくるフリーターのバイトはパートが休む時の代打として重宝されていた。
フリーターのバイトは私とヒッキーの二人だけだったのである。それでなんとなく同じだなぁという共通意識があった。
レジ打ちの仕事は別の先輩に教えてもらっていたし元々他の店でも経験があった。それにヒッキーは口数が少ない。
あまり人と喋っているのを見なかった。もちろんレジではきちんと話しているのだけれど、人付き合いとなれば急に口数は減っていた。
それにヒッキーは見るからにオタクって感じだった。身長は百六十もないし髪も全体的にもっさりしているキノコヘアーだ。
服も微妙にダサいしかけているメガネもオシャレ感のない細い黒フレームだけのいかにも実務的なものだ。
何が入っているのかいつもリュックサックでバイトに来る。それしか鞄がないんじゃないかと思うぐらいだった。
そんなでヒッキーにいい印象は特になかったのだけれど休憩室で一緒になってなんだか話してみたくなったのだ。
純粋な好奇心。私の好奇心は何歳になっても衰えないのだ。
58
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:11:05 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「ヒッキーさんって普段なにしてるんすか?」
携帯電話を見ていたヒッキーは驚いて顔をあげた。まさか話しかけられるとはって顔だ。
まぁ挨拶以外でこれまで話した事もないし私の見た目はヤンキーっぽいし喋り方も男っぽいし仕方ないだろう。
初対面の人に話しかけられるとビビられる事がちょくちょくある。こちらには威圧するつもりもないのに失礼だ失礼。
(;-_-)「え、えっと…」
从 ゚∀从「だってバイトでフリーターなの私とヒッキーさんだけじゃないっすか。 私は本当にただぶらぶらしてるフリーターなんすけど」
(;-_-)「あー、えっと、ぼくはちょっと訳ありで」
从 ゚∀从「訳あり?」
(-_-)「あの、マンガ家目指してるんですよ、ぼく」
从 ゚∀从「マンガ家!?」
失礼ながらちょっと吹き出してしまいそうだった。見た目通りまんまじゃねーか!
これでめちゃくちゃ萌え萌えなマンガ描いてたらもうまさしく見た目と中身完全一致男である。
(-_-)「そ、そんなに驚く事かな…」
从 ゚∀从「いやー身近にそういう人いなかったもんで。 それでフリーター?」
(-_-)「うん、マンガ家になりたくて高校を出て上京してそういう大学に入って、それで今はマンガを描きながらフリーター」
从 ゚∀从「じゃあ描いて出版社とかに持ち込んでるって事?」
(-_-)「そう、まだ全然ダメだけど」
从 ゚∀从「へぇ〜、すげーや。 やっぱり昔から?」
59
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:13:57 ID:BImXu.QU0
(-_-)「物心ついた頃から描いてたよ」
从 ゚∀从「どんなの描いてるんですか?」
(-_-)「い、色々だよ」
从 ゚∀从「じゃあ好きなマンガは?」
(-_-)「それも色々あるけど…」
从 ゚∀从「じゃあ一番」
(-_-)「一番…そうだな、キングダムっていう作品だね」
从 ゚∀从「あー前にアメトークでやってたやつ! あれ読んでみたかったんすよね」
(-_-)「あれは本当に面白いよ。 読みだすと止まらなくなる。 熱い展開と躍動感ある絵がいいんだ」
从 ゚∀从「えー面白そう。 ヒッキーさんのマンガ見てみたいなー。 一人暮らしっすか?」
(-_-)「うん、蒲田の方で」
从 ゚∀从「今度行っていいっすか?」
(;-_-)「え、あぁ、うん、いいけど」
それから数日後に本当にヒッキーの部屋に行った。そして描いているマンガを見せてもらった。
むちゃくちゃうまかった。ジャンプで連載できるじゃねーかと思ったけど、それでも受賞歴はないのだという。
いつも家でだらだらなんとなーくジャンプを読んでいたけどすごく競争の激しい世界なのだろう。富樫死すべし。
そしてヒッキーの絵柄は少し古くさいものだった。萌え萌えだと思っていたら正反対。むしろ硬派な路線をいっている。
目盛り付きマンガ原稿用紙やスクリーントーン、それを削る専用のカッターも見せてもらった。Gペンは指に刺さるとかなり痛いらしい。
それからヒッキーの家にあったキングダム一巻を読んだ。むちゃくちゃ面白かった。掴みバッチリ。すぐに一巻を読み終わってしまった。
一息ついて部屋をぐるりと見渡す。普通の1Kのアパートで、全体的に物が少ない。鞄は本当にリュックサックしかなかった。
マンガはキングダムをはじめ数作品のみで、ヒッキー曰く大量に所有しているがスペースが限られるので実家に置いてきたそうだ。
あまりのレパートリーに友達がよくマンガ喫茶代わりにやって来たと語った。キングダムは選抜された少数精鋭なのだ。
部屋は来客が来るからと焦って急に片付けた様子もなく普段からそれほど持ち物がないんだろうなと感じた。
キッチンに調味料は少なく冷蔵庫にもあまり買い置きがない。缶ビールの一つもなく二リットルのお茶が冷えていた。
袋ラーメンが幾つか置かれ四十五リットルのビニール袋には弁当の空箱が捨てられているのであまり自炊はしない方だ。
そういえばヒッキーはいつも値引き後の弁当や惣菜を買っていたなぁと思い出す。
60
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:17:03 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「なんで蒲田なんすか?」
(-_-)「その、大学が蒲田で」
从 ゚∀从「それでバイト先が大森」
(-_-)「京浜東北線で一駅だし、あそこ駅から近いし」
从 ゚∀从「なんで蒲田でバイトしなかったんすか」
(;-_-)「え、ほら、だって大学通ってた頃は知ってる顔がたくさんいた訳だし…」
そんな感じでヒッキーは人と接するのを避けていた。しかし話しかければちゃんと返してくる。
深刻なコミュ症ではなさそうだった。それに本物のコミュ症じゃレジ打ちなんか出来ないし。
その時点で私は一緒に住んでもいいかなと考え始めていた。私の住んでるアパートはバイト先からまぁまぁ近い。
一ヶ月ほど前に男と別れて2DKの部屋をまさしく持て余していた。このまま普通の部屋に引っ越してしまおうかとも思っていた。
男が出て行った一部屋は全く使っていないし一人で家賃十万八千円を払うのはちときつい。ちとじゃなくて結構きつい。
もしそこにヒッキーが住めばな。バイト先からも近くなるし。まさにウィン・ウィンってやつ。
少ししてから私とヒッキーはどちらかが告白した訳でもなく成り行きみたいに自然と付き合うようになった。
ヒッキーはやっぱり童貞だった。童貞は初めてじゃなかったけどヒッキーのファーストタッチは一番かわいかった。
腕は細いし身体はガリガリなのにチンチンだけ立派に勃起してて面白かった。
そして私の部屋に引っ越して来ないかと持ちかけるとさんざん迷った挙句にヒッキーは了承した。
ヒッキーの荷物は少なく単身パックで済んだので費用はそれほど掛からなかった。
そうして私とヒッキーの同棲生活が始まったのだ。交わした約束はマンガの邪魔をしないという事だ。
ヒッキーは私の二つ年上だった。バイトでは超先輩なんだけどももういいっしょ〜という事でタメ口になった。
バイト先で最近ヒッキー君とよく喋るねぇとパートのお局的なおばさんに言われたが喋ればいい奴なんすよと返しておいた。
まさか付き合っていて同棲までしているとは思うまい。その手の話はパートのおばさん連中が好きなので黙っておく。
そんなおもしろ話題を提供したからって私もヒッキーも何の得もしない事はアホでも分かる。黙っておくのが最善。
61
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:19:52 ID:BImXu.QU0
ヒッキーはマンガを描いては持ち込んだり賞に応募したりしていた。そして生きていくためにバイトを続けていた。
これほどうまいのに厳しいものだ。そして私はヒッキーが持ち込んだキングダムをたちまち読破してしまった。
王騎がヤバかった。王騎超ヤバい。死に様もヤバい。私も天下の大将軍ですよとか言いながら散りたい。
これまでジャンプばかり読んでいた私にとって衝撃的だった。ワンピースもブリーチも面白いけどキングダムは格別。
今では毎週ヤング・ジャンプもコンビニで立ち読みするぐらいだ。ただしキングダム以外はそれほど面白くない。じょうじ。
まずヒッキーはキャンパス・ノートに大体の構想を書く。そして試行錯誤しながらネームを描く。
シャーペンでは消せてしまうので気合を入れてボールペンでネームを描くのだ。
そしてマンガ原稿用紙に下書きをして丁寧にペン入れをする。下書きを消してベタ入れをしてスクリーントーンを貼る。
今ではパソコンでマンガを描けるしトーンの処理もマウスでぱぱっと出来るらしいがヒッキーは完全に手描きだ。
手描きの方がマンガに魂が伝わるのだという。見た目完全に文化系もやしのくせにマンガになるとヒッキーは体育会系だ。
ペン入れをしてからのベタ入れ、トーン貼りは繊細な作業だ。見ているだけでうわあああと頭を掻き毟りたくなる。
マンガ原稿用紙の上に静かにトーンを貼りカッターの刃の先でそっと切り抜いていく。するといつもマンガで見ているような絵になる。
しかしヒッキーはトーンにあまり頼らない。丁寧なカケアミをしゃっしゃっと引いていく。髪の毛もベタ塗りが多い。ツヤの部分は大変だ。
ただ素人目から見てヒッキーのマンガにケチをつけるのならば、ヒロインがあんまりかわいくないという事だ。清涼剤がないのだ。
ヒロインで思い出したのが、ヒッキーは童貞どころか女子と付き合ったも手を繋いだ事もなかった。
小学校中学校高校大学で何をしていたんだと訊くとマンガを描いていたと。ごもっとも。
正直見た目からオタクだしな〜そうだろうな〜と思ってたのでそんなに驚かなかったし世の中にはそういう人もいるんだな〜って感じ。
中学も高校もクラスにはヒッキーみたいな男子が数人いたし大体固まって教室の隅の方でアニメとかの話をしていた。
クラスでは浮いていたけど本人たちは楽しそうだった。高校を出てからオタクと接する事なんてなかったからヒッキーは新鮮。
62
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:22:53 ID:BImXu.QU0
ヒッキーにとって手を繋ぐのも身体を触るのもエッチをするのも私が初めてなんだ。この先の人生全部私基準だ。
そう思うとちょっと私で良かったのかなって思ったりもするけど胸を揉んでる時のヒッキーは幸せそうだからいいんだろう。
胸。私は自分で言うのもなんだけど胸が本当に大きい。明らかに目立つレベルで大きい。
ふつーに歩いてるだけでン万でどうとか声をかけられたりするし新宿とかでAV出てみないって嘘かほんとかスカウトされたりする。
胸が大きいだけでそういうのあり得る女って思われてるのはムカつく。見た目もあるんだろうけど。
それにン万でどうってなんでおめーが上目線で私の値段決めてんだって話。何様だっての。
そういう奴に限って週刊現代読んでそうな薄ハゲの四十代のオヤジだったりするからゲンナリする。
おめーは私で勃つかもしれないけど私はおめーじゃ盛り上がれないしン万もらっても足らない足らない。シコるか風俗行ってろ。
私の胸は小四はじめの頃までぺったんこだった。小四の夏から膨らみ始めて小六の終わりにはもう今の大きさになっていた。
毎年母が買ってきたブラジャーが入らなくなった。毎年毎年新しいサイズを買っていてどこまでいくのかちょっと怖くなった。
小学校卒業時点でFカップ。そんなもん今考えればとんでもねー事だ。私は自分の胸が本当にイヤだった。
男子はどいつもチラ見してくるし先生だってこっそり見ていた。私と話すとみんな視線が下に向くのでよく分かる。
持久走は本当に地獄だった。あれほど胸が邪魔なものはなかった。そもそも走るという行為が苦行なのだ。
男子は追い抜きざまにやっぱり見ていったし体育の先生も気づかれないように見ていた。気づいていたけど。
水泳でも当然胸の大きさは出るし、何より当時女子なんて殆ど体形が一緒だから私は余計に目立った。
ただおかげで高校では胸が大きいというだけでアホみたいにモテた。男子は本当にどいつもアホだ。
そのぶん女子の僻みがすごかったがそもそもあまり女子と仲良くグループ作りに参加するつもりもなかったしちょうど良かった。
彼氏がよく変わるというのは当時からだ。きっとあの頃からビッチだの言われていたのだろう。しかしそんな他人の評価で私という人間は変えられない。
結局のところ他人の評価は他人の評価でしかないのだ。私の体内には入ってこられないし私を変える事も出来ない。そんなものだ。
63
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:26:06 ID:BImXu.QU0
いくら胸が大きくても私はあまり目立ちたい訳じゃあなかった。確かに胸が大きければ男は本当に簡単に釣れる。
狙っている男に腕を組んで胸を当てると面白いぐらいに落ちる。おっぱいってすげーやと何度も感謝している。
でも私は普段から目立っていたいタイプではない。めっちゃ胸を露出した服を着て渋谷のスクランブル交差点とかあんまり歩きたくない。
多分注目を浴びる事を好んで快感を得ている人はそういうの気にならないんだろうけど私は知らない人にじろじろ見られるのがあまり好きではないのだ。
ヤンキーっぽい見た目のおかげで何見てんだこのおっさんと睨み返すとそそくさとどこかへ行ってしまう。おっさんの舐め回すような視線は不愉快だ。
週刊現代とか夕刊フジとか読んでそうないかにも頭は悪いけど性欲は有り余っています的な脂ぎったデブのおっさんが街にも列車にも多いのだ。
普通に社会に溶け込んでサラリーマンをやっておけばいいのに性欲だけは男子高校生なみなので本当にひく。
中学も高校もすごく楽しかったけど制服を着なきゃいけないという点では早く卒業してしまいたかった。私服なら胸が大きくても大人なんだと見られる。
けど制服でそれを押し上げるぐらいの胸だとみんな勝手にいかがわしい事を考えるのだ。いい迷惑だ。
ヒッキーのヒロインかわいくない問題に戻ると、私はヒッキーがこれまで生身の女性と接してこなかったからかわいく描けないんじゃないかと思ったのだ。
ワンピースみたいにとりあえずみんな女キャラのおっぱい大きくしときなよとまでは言わないけれど、もっとかわいく描けないものかねと。
ケチをつけようと思えばいくつも思い当たるところがある。例えば手ぶらでデートに来たりするところとかそりゃねーよ童貞って思う。
服だってとにかくダサい。まぁ本人がダサいしヒロインもダサい。私服シーンが少なく高校とかの制服でいっつも誤魔化しているのが見え見えだ。
基本のデッサンは出来ているのだ。高校ではマンガ部がなく美術部に入っていたというのでデッサン画的なのを描いてもらった。
美術室とかに置いてある彫刻像を描くみたいなやつ。いつも下描きはシャーペンなのに鉛筆を出してきてくれた。
パソコンで適当に調べて鉛筆でシャッシャッと描いてくれたんだけどこれもめちゃくちゃうまかった。
一本の鉛筆でアタリをつけて線を引いて濃紺に塗りつぶして教科書に載ってそうな絵が完成した。
けどヒッキー曰くこんなものは誰でも描けるのだという。背景なんかもみーんな当たり前みたいに上手に描けるのだと。
確かにヒッキーは背景も上手だ。山も家もビルも街も上手だ。パース?か何かもきちんとしている。
それに描いている時に迷いがない。私も見よう見真似でキャラクターを描いてみたがペン入れが緊張した。
シャーペンでの下描きはまぁまぁ満足出来るレベルだったけどペン入れは修正がきかない。
顔のラインは慎重になりすぎて随分と分厚く迷ったものになってしまった。
それに比べてヒッキーのペン入れは迷いがない。さっと描き上げてしまう。
やっぱりすごいんだな〜と感服するばかりだ。
64
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:29:47 ID:BImXu.QU0
まぁこれまで女性との触れ合いが一切なかったというヒッキーが私と一緒に暮らす事で女性を知る事が出来れば、と思う。
女性との触れ合いがなかったヒッキーの描くヒロインはリアルじゃないのだ。マンガやアニメとかで仕入れた知識でしかないのだ。
これまで恋愛の一つもやってこなかったからそういう話も書けないのだ。マンガ漬けの人生がそういうところで裏目に出てしまう。
ただ胸を揉むにしても私の生活スタイルを見るにしてもそれで何か掴めたらと思う。私自身別に女子女子してはいないけど。
まぁそれでもヤンキーっぽい私でもいっちょ前に化粧するしブランド物の鞄で出掛けたりする。当然生理も来る。しんどい日はしんどい。
男が出て行って部屋が空いてたからって理由で同棲に誘ったのだけれど、やっぱりヒッキーにとってもこの同棲をプラスにしてほしいのだ。
本当に同棲して良かった?と少しお酒を飲み過ぎて帰った日に訊いた事がある。
(-_-)「プラスだよ。 何もかもが新鮮だよ」
私には同性の友達が少ない。サバサバしている方だし、集団行動は苦手だし、言いたい事は言ってしまう性格のせいだ。
しかもバイト先も嫌になってしまえばはいさよなら!と辞めてしまうし男と別れればとっとと別の街へ住まいを変えてしまう。
それでもそんな私とでも付き合ってくれる限られた友達はいる。私にはその理解者たちがいてくれれば十分だった。
私の地元は栃木の鹿沼の方にある。最寄りの東武の駅には駅員がいなくてすぐ目の前の民家で切符を売っているぐらいだ。
そりゃあ当然東京に出てくるのは必然というものである。地元の小さい会社を辞めて私は東武線の区間快速で上京してきた。
一人でアパートを借りる余裕なんて最初はなくシェアハウスに住む事になった。そこで出会ったのがペニサスだ。通称ペニ。
ペニも田舎すぎる地元が嫌ってのもあって東京に出てきていた。なんだか気が合うし変に気遣いする必要もなく私達は仲良くなった。
彼氏が出来てシェアハウスは出てしまったけどペニとはちょくちょく連絡を取り合った。そして予定が合えばたまにご飯に行った。
今日も久しぶりにペニとご飯だ。新宿駅で待ち合わせ。京浜東北線と山手線で新宿まで出る。新宿はやっぱり都会だ。
人の多さビルの多さに圧迫される。山手線を降りて改札口へ進む通路にぶら下がる大量のサインシステムは過剰なぐらいだ。
路線がいくつもあって行き先が何個も表示されている。新幹線はないけれどどこか遠くに向かう特急も表示されている。
ここからならどこへでも行けるんじゃないかと錯覚するほどだ。改札口へ出ると待ち合わせの人でまたごった返している。
どこからこれだけ人が来てどこへ行くのだろう。しかし私もその有象無象の一人なのだ。日曜日の昼に新宿駅東口。
65
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:36:29 ID:BImXu.QU0
まだ東口は分かりやすい方だ。西口はヤバい。うっかり間違えて山手線から北通路ではなく中央通路に降りると厄介だ。
京王線と小田急線に出てしまう出口じゃない改札とかがあってなんじゃこりゃって感じだし中央西口とか出てしまうともうヤバい。
未だにサザンテラスの方に行く時は気持ちちょーっと緊張するぐらいだ。新宿駅は魔城だと思った方がいい。まだなんか作ってるし。
東口でなんとかペニと合流する。ペニは美容師をやっている。まだ経験は浅いけれど着実に夢へ進んでいるのだ。
美容師はとにかく難しく技術が必要だし、競争が激しいらしい。専門学校で本当に定員が埋まるのは美容学校ぐらいだという。
('、`*川「ハイン何ヶ月ぶりー?」
从 ゚∀从「たぶんさーん」
('、`*川「彼氏変わったー?」
从 ゚∀从「変わってまーす」
('、`*川「だよね〜〜〜」
ペニと会った時に彼氏報告をするのが恒例だ。そのぐらい毎回男が変わっている。
この前の男とはどう別れたか、今はどんな男と付き合っているか、どこに住んでいるか。
毎回それでペニは爆笑する。あんたは生きる標本だとホメてくれる。ホメられてんのか?
('、`*川「えーじゃああいつのいた部屋にそのヒッキーってやつ住み始めたんだ、わるー」
从 ゚∀从「利害の一致だよ。 ウィン・ウィンってやつ」
('、`*川「言いたいだけじゃんそれ」
从 ゚∀从「それ〜」
('、`*川「で、ヒッキーってどんなやつ? イケメン?」
从 ゚∀从「いや、ふつー。 ふつーってか、ふつー」
('、`*川「なにそれ。 何やってる人?」
从 ゚∀从「フリーター。 マンガ家目指してるの」
('、`*川「えーオタク?」
从 ゚∀从「うん、バイトにいっつも黒のリュック」
('、`*川「えー意外、ハインがそーいう人と付き合うのって超意外」
66
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:38:46 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「そりゃあ自分でもそう思うよ、オタクなんて初めてだし。 おかげでたまに一緒に萌えアニメ見たりする」
('、`*川「えぇ〜マジですごいね。 やっぱアニメ見て萌え〜とかいうの?」
从 ゚∀从「それがもう萌え〜って古いんだって。 今のオタクは全然萌え〜なんて言わないんだよ、それはステレオタイプのオタクなんだよって」
('、`*川「超必死じゃんソイツ。 じゃあなんて言うの?」
从 ゚∀从「なんだっけ、あぁー心がぴょんぴょんするんじゃーみたいなの」
('、`*川「キモ〜」
从 ゚∀从「服もユニクロ! グローバルワーク! 的なの」
('、`*川「え、チェックのシャツインとかするの?」
从 ゚∀从「いや、チェックシャツはオタクの制服だから着ない! って言ってた」
('、`*川「そこは意識高い系のオタクかい! マジでウケるね」
从 ゚∀从「でも楽しいよ、新しい世界って感じ」
('、`*川「そりゃあそうでしょうねー、向こうもそうなんじゃないかな」
从 ゚∀从「うん、童貞だったし手も握った事なかったって」
('、`*川「マジ? いくつ?」
从 ゚∀从「今年二十五」
('、`*川「へぇぇ〜スゴいね、逆にスゴい」
从 ゚∀从「でしょ〜」
67
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:41:38 ID:BImXu.QU0
('、`*川「でも本当によくハインと付き合ったねー。 全然アニメに出てこなさそーだし好みじゃなさそう」
从 ゚∀从「うん、私もそれ思う」
ヒッキーが好んでいるキャラクターはみんな物静かで大人しい女の子だ。
従順で清楚で性格も良く家事も出来る。異性と付き合った事もない。エッチなハプニングがあれば恥じらう。
私と同じところは胸が大きいところだけだ。それ以外に共通点を見つける事は出来なかった。
从 ゚∀从「でも有村架純が好きですーガッキーが好きですーって男もふつーにギャルと付き合ってたりするじゃん」
('、`*川「分かるー。 私もずっと福山雅治好きだったけど最近トレンディエンジェルの斎藤さん好きだもん」
从 ゚∀从「えー、ハゲ」
('、`*川「最近ハゲの良さが分かってきてねー1Q84って知ってる?」
从 ゚∀从「なにそれ」
('、`*川「まぁそれに出てる人もハゲ好きなんだけど分かるな〜って。 ハゲかけのハゲね」
从 ゚∀从「えー、ブルース・ウィルス?」
('、`*川「昔良かったよねー、最近のダイ・ハード見たらもうスキン・ヘッドじゃん!って」
从 ゚∀从「ペニもなんかすごいね」
('、`*川「ハインほどじゃないよ、本当にハインは飽きないんだから」
从 -∀从「自覚ありまーす」
('、`*川「本当にハインは飽きやすいしどこかに落ち着かないよね。 まぁそれが私は好きなんだけど」
68
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:44:23 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「ペニは良い理解者だよ」
('、`*川「東京とかかなりの街制覇してるんじゃない? 今どこ住んでるんだっけ」
从 ゚∀从「大森」
('、`*川「びみょ〜知らね〜行かね〜」
从 ゚∀从「第一京浜うるさいよー」
('、`*川「あの荻窪のシェアハウスからもう三年っしょ、怒涛の人生だよね」
从 ゚∀从「いつか落ち着くかな」
('、`*川「んまーいつかは落ち着くんじゃない? 案外今のオタク彼氏だったりして」
从 ゚∀从「んーどうだろうね」
('、`*川「先の事なんて分かんないよー、特にハインはね!」
きちんと自分の目標を持って邁進しているペニとは違って私には何のビジョンもない。
ただこうしよう、あぁすればいいやとボンヤリ考えてこれまで生きてきたのだ。
だから本当に、私は自分の未来なんて考えられない。想像も出来ない。
('、`*川「もし続いたらいつかオタク彼氏見せてよー、見てみたい」
从 ゚∀从「いいけどほんと電車男みたいな感じだよ」
('、`*川「電車男なっつー!」
ペニはふつーに美人だ。つーか美容師ってみんな美人。スタバ店員並にみんな美人。
もう二年ほど付き合っている彼氏がいる。彼氏も美容師。いつか結婚するんじゃないだろうか。
でもそう言うとそんなのまだまだ考えてないよ〜とペニはいつも笑い飛ばす。
ようやく美容師として歩み始めたばかりだしそういういうのはまだ先でいいんだと。
確かに結婚はある意味ではスタートだけどある意味ではゴールだ。捉え方は人それぞれだろう。
専門学校を頑張って出て長い下積みを経てようやく一人前の美容師として軌道に乗り始めたところなのだ。
別に今の時代に結婚したら仕事を辞めて専業主婦になりますっていうのはもはや古い流れだ。
だけど相手方の親がそれを求めるかもしれない。せっかく苦労して美容師になったのにそれではもったいない。
69
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:47:40 ID:BImXu.QU0
例えば高校しか出ていない私からすると女子が大学まで出て卒業してすぐに結婚ってなんかもったいないなーと思ってしまうのだ。
せっかく親がお金を出して大学まで行かせてくれたのにそのまま結婚じゃ活かされていないんじゃないかと考えてしまう。
というかお前はいい感じの男に出会うために親にお金出してもらって大学というステージというか舞台にまで行ったのかと。
もっともそれは大学まで行く女子は頭いいんだろうなーという漠然なイメージだし事実自分が学生時代つくづく頭が悪かったせいもある。
それに私の親は優秀な妹に投資を集中していたので私がもし大学に行きたいといってもおそらく取り合ってもらえなかったはずだ。
そう考えると私はどーしようもない嫉妬に近いものを抱いているのかもしれない。本当にどーしようもないししょーもないと思う。
それにしても短大に行った同級生も大学に行った同級生も髪を染めておしゃれな服を着て女子女子しているのが本当に多かった。
みーんな揃って大学デビューだ。街中で会ってもあれ誰だっけってなる。成人式で男子たちはずいぶんと苦労するだろう。
('、`*川「ハインの彼氏最長記録ってどんだけだっけ」
从 ゚∀从「一年」
('、`*川「一年か〜、今どのぐらい?」
从 ゚∀从「二ヶ月ぐらい」
('、`*川「二ヶ月か〜どうだろうね〜」
从 -∀从「わかなんないよ〜」
本当に分からない。私は未来の事なんて分からないし自分の事すら分からない。
このままヒッキーと続くのか、またいつもみたいに飽きてしまうのかなんて分からない。
この人とは続くかも、と思ってもそれは全くアテにならない。ふとした拍子にあ、いいやってなってしまう。
それは男もバイトも一緒なのだ。そうやって男もバイトも住まいもころころ変えてこの数年を過ごしてきた。
色んな男と付き合って色んなバイトをして色んな街で暮らした。それでも飽きはいつかやって来るのだ。
どの男にもどのバイトにもどの住まいにも必ず終わりがやって来て私は次へと旅立っていく。
色んな男のもとへ行ってそのたびに私は旅立っていった。いや、逆なのかもしれない。
色んな男が私のもとへやって来て私から旅立っていったのかもしれない。
ヒッキーはどうなのだろう。初めての女が私なのだ。
また私は飽きてしまうのかもしれないけれど、ヒッキーが必要としているのなら私は隣にいたい気がする。
(-_-)「ハインはさ、どうしてぼくの事を気に入ったの?」
ペニと食事に行った数日後、ヒッキーは突然切り出した。
ヒッキーはペン入れをしていて、一ページ描き上げたところだった。
インクを乾かすためペン入れが終わったマンガ原稿用紙をアルミラックの上にそっと置いた。
ペン軸からGペンを外してティッシュでインクを拭き取る。ヒッキーは主にGペンと丸ペンを使う。
70
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:50:45 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「なんだよ急に」
私はヒッキーがその前にペン入れを終えた原稿用紙のベタ塗りを手伝っていた。
ぐしゃっとなってしまわないように一方通行に消しゴムをかけて、筆ペンでベタを塗る。
それでも髪の毛との境界線付近は怖いのでそこはヒッキーに任せている。
私が受け持っているのは線付近を除くおおまかなベタ塗りだ。
興味が出てきて私も邪魔にならないぶんだけ手伝うようになった。
(-_-)「ふと気になってさ。 ぼくとハインって真逆だもの」
从 ゚∀从「オタクとヤンキーだからな。 対極的な取り合わせだ」
(-_-)「そうでしょう」
从 ゚∀从「なに、どうして自分の事をこいつは好きになったんだって気になるのか?」
(-_-)「まぁ…」
从 -∀从「はじめみんな通る道だよなぁ」
ヒッキーは初めての恋愛なのだ。経験値はそこらの高校生以下だ。
从 ゚∀从「私はさ、夢を追いかけてる人が好きなんだ」
(-_-)「夢」
从 ゚∀从「そう、夢」
私が一貫して惹かれるのは夢を持っている男だ。それはヤンキーでもインテリでも学生でもおっさんでも分け隔てない。
将来ビックになるとか社長になりたいんだとかそういう漠然としたイメージではなく明確なビジョンを持った男だ。
そういう男に惹かれて私は色んな男を渡り歩いてきた。きっと私にこれまで目立った夢の一つもなかったからだろう。
私には子供の頃からの夢だとかずっと続けている趣味だとかがない。見た目で誤魔化しているけど中身はきっと空っぽに近い。
自分にないものを他人に、男に求めているのもしれない。だから夢を、明確なビジョンを持ってそれに突き進む男を好きになってしまうのだ。
ヒッキーだってそうだ。見た目はまんまオタクだし惹かれなかった。あんまり喋らないし印象だってたいして良くなかった。
でもマンガ家を目指していると言われて初めて応募用の原稿を見た時に私はときめいたのだ。惹かれたのだ。
71
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:54:26 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「もしかして不安? 私みたいなのがヒッキーと付き合っているの」
(-_-)「まぁ、なくはないよね」
私の男もバイトも続かないのはヒッキーに話してある。正直に言っておこうと思ったのだ。
それでヒッキーが不安に感じる事があれば仕方ない。それは私が悪いだろう。
(-_-)「ぼく見た目こんなだし、普段あんまり喋らないし、マンガだけでここまで生きてきたし、女の人と付き合う事もないんだろうなって思ってたんだ」
从 ゚∀从「うん」
(-_-)「だからハインがぼくなんか気に入ってくれて嬉しかったな」
从 ゚∀从「なんだよ急に」
逆に私はヒッキーこそ私で良かったのか、と気になる時もある。これまでヒッキーは女性と巡りあう事もなかったしずっと疎遠だった。
たまたまそんなヒッキーに話しかけたのが私だったし、もはや言い方を変えれば私しかいなかった。
バイト先でもヒッキーと積極的に話している女性はいない。業務的に伝達事項を言うぐらいだ。
ヒッキーには選択肢が私しかなかった。これまで女性の選択肢が一切なかったヒッキーに初めて現れた選択肢が私だった。
まさしく受け入れるようにヒッキーはその選択肢を受け入れたんじゃないだろうか。選択肢が現れたのならば、じゃあという感じで。
初めて手を繋いで初めてキスをして初めてエッチをした。私以外でそれらを得る事はなく比較対象も存在しない。
女性ならば誰でも良かったんじゃないかと思ってしまうのだ。私である必要はなかったんじゃないかと。たまたま私だったんじゃないかと。
でもそんな事を考えだしたらキリがないし、どうして自分を好きになったのか男に訊く女なんてただの重い女だ。
それでも私はヒッキーに何かを与えられているのだろうか。手を繋ぐ、キスをする、エッチをする、それ以外に。
でも結局のところヒッキーには全てが初めてなのだし、比べる対象もないのだし、この関係を断ち切りたいと言い出さないように思える。
与えられたものを何一つ拒まず受け入れて、これでいいよ、そのままでいいよとこの関係は続いていく。
たとえば私がヒッキーのマンガ制作を邪魔しまくったりしない限りは。
(-_-)「でも逆にさ、ぼくからマンガを取ったらハインはもう見向きもしてくれなさそうだよね」
从 ゚∀从「え?」
72
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:58:33 ID:BImXu.QU0
(-_-)「言わなきゃいけない事があってさ」
从 ゚∀从「なんだよ」
(-_-)「今描いてるこれをラスト・チャンスにしようと思うんだ」
从 ゚∀从「なんだよ、それ」
(-_-)「実家から電話が来たんだ。 いい加減帰って来いって」
从 ゚∀从「なんでだよ、そんなの関係ねーだろ」
(-_-)「いいや、ダメなんだ。 うちの実家さ、地元じゃちょっと有名な工芸職人の家なんだ。 そしてぼくはそこの一人息子」
从 ゚∀从「それじゃ、いわゆる跡取り」
(-_-)「そう。 親はぼくが継いでくれる事を昔からずっと望んでいたんだけどぼくはどうしてもマンガ家になりたかった。 粘り強く説得して大学まで行かせてもらった」
なんとなくヒッキーが言いたい事が分かった。ヒッキーの親が言いたい事も分かった。それは世界の全てだ。
从 ゚∀从「結果」
(-_-)「そう、結果が出ていない。 大学を出してもらってフリーターになってずっと描いているのに、結果が出ていない」
从 ゚∀从「でも、まだ三年ぐらいだろ?」
(-_-)「もう三年なんだよ。 親が辛抱切らすにはじゅうぶんだ。 結果が出ないのならこれ以上いても無駄だから帰って来い、そして継げと」
从 ゚∀从「屈するのかよ」
73
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:01:24 ID:BImXu.QU0
(-_-)「ずっとまだチャンスはあるって言い続けてきたんだ。 でももう言い逃れは難しい。 確かに結果がないとダメだと自分でも思う」
从 ゚∀从「だからこれをラスト・チャンスにするのか?」
(-_-)「それぐらい自分を追い込まなきゃダメなんだ。 魂を込めなきゃダメだ。 背水の陣ってやつだよ」
从 ゚∀从「もう決心してる」
(-_-)「うん。 親にも言った。 これで最後にするって。 その代わり結果が出たら続けさせてくれって」
从 ゚∀从「…分かった」
それは私がどうこう言うべきではない気がした。今は同棲しているけどこれまでのヒッキーのマンガ人生において私は最近出てきたばかりに過ぎない。
でも、ヒッキーがもしマンガ家の夢を諦めてしまったら私はいよいよ失望するのだろう。飽きてしまうのだろう。
それにヒッキーは地元に帰ってしまうのでこの関係は破綻する。同棲なんて男女の関係を繋ぎ止めるにあたって絶対的な鎖にはならない。
私は受け入れるしかない。そして応援するしかない。微力ながら丁寧にベタ塗りをするぐらいしか出来る事はない。
暫く会話はなかった。ヒッキーは作業に戻った。ヒッキーは一ページごとに下描きをしてペン入れをするのでまた下描きからだ。
トーン貼りや細部のベタ塗りは全ページのペン入れが終わってから一気にやるのがヒッキーのやり方だ。
私はベタ塗りを終えて原稿用紙を戻した。今週のヤング・ジャンプを読み始めたがキングダムは休みだった。
テラフォーマーズもゴールデンカムイも東京喰種もパープル式部も私にとってキングダムの代わりにはならない。
ワンピースがない週のジャンプほどに喪失感に襲われる。
74
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:04:57 ID:BImXu.QU0
ヒッキーの部屋を見渡す。前の男が住んでいた時と比べると本当に別の部屋だ。
三代目 J Soul Brothersのポスターは貼られていないしプロテインを飲む容器も置かれていない。
パイロットの製図用インクのボトル、ペン軸、箱に並べられたつけペン。何本かキャップがなくなっているカラフルなコピック。
芯の折れにくいシャーペン、大きいサイズのMONO消しゴム、使用後にティッシュで拭かないと先端が固まる修正液。
細かいベタ塗りに役立つ太いサイズのマッキー。十五センチと三十センチの定規。
キングダムを筆頭にしたヒッキー激選のマンガ本。安い台湾製のノート・パソコン。
リネンシャツばかりの数の少ない服。相変わらずバイト先に背負っていくリュックサック。
デートにリュックサックはやめてくれと懇願してヒッキーがしぶしぶ買ったポーターのウエストバッグ。
私はこの部屋も好きだ。マンガを描く事だけに研ぎ澄まされた部屋だ。
ラスト・チャンスと決めた作品を賞に応募するべく送ったあともヒッキーはまた新たにマンガを描き始めた。
どうしてかと訊くとマンガを描いていないと落ち着かないのだそうだ。積み重ねってすごい。私には分からない感覚だ。
だけど今日はヒッキーのシフトが休みで。追い込む必要はないんだからどこか気晴らしに行けばいいんだとアドバイスした。
私は残念ながら朝からシフトなのだ。パートのおばちゃんが法事だという。だから今日ヒッキーは一人の休日を過ごしている。
勿論休みは一緒がいいのだろうけど、私とヒッキーが付き合っている事は知られると面倒になるので黙っている。
なのでむやみに休みを合わせられないのだ。たとえ異質な組み合わせでも休みを合わせまくっていたらそのうちバレる。
だからたまーに休みを合わせてデートに行くぐらいだ。まぁ同棲しているのだしその程度でいいと思う。過保護な高校生でもない。
それにヒッキーは見た目通りインドアな奴なのだ。休みの日にあまり外に出ない。そもそもシフトが休みの日はいつもマンガを描いている。
だから今日みたいにマンガに追われず一日の休みがあったら何をするのだろうか。ちょっとそれにはご一緒させてもらいたかったかもしれない。
バイト先の隣にはTSUTAYAがあるから何か見たかった作品を一気に見ているのかもしれない。それだったら一人の方が気楽なのかも。
75
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:12:45 ID:BImXu.QU0
私の方といえばコンディションが最悪だった。生理。くっそだるいしレジで立っているのすらしんどい。正直しんどい。
ようやく昼食休憩となりレジにカゴをタテに置いてもう閉鎖だ〜〜〜とアピールしつつ休憩所へへばるようにやって来た。
食欲あんまりない。今日はヨーグルトだけ。私は女子女子しているタイプじゃないので小食でもない。普段は普通に食べる。
だけど今日ばかりはダメだ。ヨーグルトだけ食べてあとはパイプ椅子にだらりと座る。休憩終わんなきゃいいのに。
こういう時に限って嫌いな社員と休憩が被っている。休憩室に二人だけ。黙ってテレビ見てればいいのに話しかけてくる。
私はあんまり興味ないです調子悪いですアピールをしてスマホばかり見て曖昧に返事をするが社員は懲りないのだ。
三十八歳の独身正社員。顔はイケメンでパートさんにもまぁまぁ人気があるが私は嫌いだ。自信にみなぎっているからである。
私からすればただのスーパーの正社員だろって感じだけどこいつはそれをすごいステータスだとマジで思っちゃっている。
俺ってイトーヨーカドーの正社員なんだぜって前にマジで言っててひいた。イトーヨーカドーの正社員そこまですごくねーわ。
それに女性と話している時の俺カッコいいだろ俺話上手いだろ俺モテるんだぜオーラがなんかすごいのだ。
今だって学生の頃どうやって飲みで女をおとしたかを語っている。それを私に語ってどーすんだ。
お前の全盛期には興味ないし今のお前にも興味ない。だけど一応はいはいと聞いておく。
どうせこいつもうまくいけばこの女抱けるんじゃねーのかとか思っているのだろう。
過去の栄光にすがっているだけの男には興味ない。むしろみっともないと思う。
どれだけ昔カッコよくても今がダサければダサい。それだけだ。
過去にどれだけ人気のあったアイドルでも今がダサければダサい。当たり前の事だ。
あの人は昔とてもカッコよかったんだよおと言われても今がダサければどーしようもない。
_
( ゚∀゚)「というかハインちゃん彼氏いないの?」
从 ゚∀从「いないっすよー」
言えないよねー、ヒッキーと付き合ってますなんて。職場恋愛は百パーセント面倒になる。百パーセントだ。
_
( ゚∀゚)「バイトの奴とか声かけてこないの」
从 ゚∀从「いやー? 同じ学生とかがいいんじゃないっすか、私まぁまぁ年上になっちゃうし」
_
( ゚∀゚)「えぇ〜もったいないなぁ〜」
76
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:16:16 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「だってバイトって高校生か大学生っすよ〜、私もう別モノっすよ」
_
( ゚∀゚)「そうかぁ〜」
高校生はさすがにないけど大学生と付き合うのもちょいちょいある。言わないけど。
_
( ゚∀゚)「でも俺から言わせるとバイトはみんな草食系だよね〜草食系」
从 ゚∀从「そっすか〜?」
_
( ゚∀゚)「そうだろ〜、モナーはしっかりしてるけどいかにも奥手って感じだしクックルも全然ダメそうだなぁ」
从 ゚∀从「はぁ」
_
( ゚∀゚)「あーあとヒッキーなんて論外だね! いかにも根暗って感じだしオタク丸出し」
从 ゚∀从「あ〜そうっすね〜」
_
( ゚∀゚)「ああいうのクラスに何人かいたよな〜クラスの隅の方で固まってんの。 クラス対抗球技大会じゃ戦力外。 どうせアニメとか見てるんでしょ?」
从 ゚∀从「見てるんじゃないっすかね」
_
( ゚∀゚)「ああいうオタクって何が楽しいんだろうね〜しかもあいつってフリーターでしょ、いい歳して何やってんだか」
从 ゚∀从「はぁ」
_
( ゚∀゚)「いや〜無理だね〜考えらんないわ〜。 俺が親だったらも〜勘当ものだぜ?」
从 ゚∀从「あいつマンガ描いてるんすよ」
77
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:20:24 ID:BImXu.QU0
_
( ゚∀゚)「え? マンガ?」
从 ゚∀从「ガキの頃からずーっとマンガ描いてて本気でマンガ家目指してるんです。 夢追いかけてるんすよ」
_
(; ゚∀゚)「へ、へぇ、なんか、詳しいね、ヒッキーの事。 もしかして付き合っちゃってるとか」
从 ゚∀从「付き合ってますよ」
_
(; ゚∀゚)「え」
从 ゚∀从「私ヒッキーと付き合ってますよ」
_
(; ゚∀゚)「え…」
从 ゚∀从「一緒に暮らしてます」
_
(; ゚∀゚)「え、ちょ」
从 ゚∀从「だからお前にあいつの事とやかく言われる筋合いはないと思うんすけどね。 何も知らねーくせに」
そのまま席をたつ。社員はぽかんとしている。ほんと生理死ね。イライラする。
でもイライラするのは生理だけじゃなくあの社員にもヒッキーの親にもだ。
それにヒッキーをバカにされてイラッとする私がいる。前まで同じような事思ってたのに。
だけど夢を持って突き進んでいるヒッキーの方がはるかにカッコいい。輝いて見える。
あの社員の方がオシャレだし身長高いしイケメンだしいいミニ・クーパー乗ってるけどヒッキーの方がカッコいい。
しかし、やってしまった。ヒッキーと付き合っている事を言ってしまった。どうせ広がるだろう。知れ渡るだろう。
で、思ったより情報の拡散は早かった。数時間後には私とヒッキーが付き合っている事は職場に知れ渡っていた。
あの社員は腹いせにパートのおばちゃんに喋ったのだろう。パートのおばちゃんどものゴシップ好きは異常だ。病気レベル。
まして職場内のそういう話だとLINEのグループで回してんじゃねーかってぐらいに情報が広まるのが早い。
78
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:22:47 ID:BImXu.QU0
明日ヒッキーが出勤したら問いつめられるんだろうな。可哀想に。今日帰ったらあらかじめこうなったと言っておこう。
私もパートにパートにパートに聞かれまくったけどもう面倒だったから隠さなくなった。はいそうですよ、と。
別に悪い事じゃない。堂々としていればいいのだ。どうでもいい。どうでもいい。どうでもいい。
だけど聞こえてくる。えーあのオタクの子と? 似合わないよね。 ヤンキーとオタクって正反対。
休憩所でも更衣室でもこの話で盛り上がっているのだろう。そう考えると本当に面倒くさい。
面倒くさい。また私の悪い癖が出てきてしまった。もうこの職場も面倒くさい。
あぁ、面倒くさい。
从 ゚∀从「ごめん、付き合ってるのバレちゃった」
帰ってからヒッキーにそう告げると絶句していた。これが絶句というやつだ、的な見本レベル。
暫く固まっていたので面白くなって私はわははと笑い出してしまった。
(;-_-)「バレた?」
从 ゚∀从「うん、ぜーんぶバレた」
(;-_-)「全部って?」
从 ゚∀从「同棲してるのも」
(;-_-)「えぇ…」
从 ゚∀从「あとヒッキーがマンガ家目指してるのも」
(;-_-)「えぇ…!?」
今度は崩れ落ちた。膝から崩れ落ちた。これが崩れ落ちるというやつだ、的な見本レベル。
面白すぎて私はいよいよ腹を抱えて笑う。
(-_-)「いや笑ってる場合じゃないよ…どうするんだよ…」
いや、ヒッキーが珍しくマジで怒っている。そりゃそーか。これで怒らなきゃヒッキーは聖人だ。
从 ゚∀从「ジョルジュがすげーヒッキーバカにしてさ。 イラッとして」
(-_-)「ジョルジュさん…」
79
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:26:43 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「あいつべらべら喋ったみたいでパートにもバイトにも知られちゃった。 多分明日訊かれるね」
(-_-)「ど、どうしよう」
从 ゚∀从「厄介かな」
(-_-)「厄介な感じになるんじゃないかな」
从 ゚∀从「そしたら私辞めるよ」
(-_-)「え、辞める?」
从 ゚∀从「うん」
カバンを置いてどっこいしょーと座る。
从 ゚∀从「そしたら気まずくならないっしょ」
(-_-)「だけどそんな事で辞めるなんて…」
从 ゚∀从「いいのいいの。 今までそうしてきたし」
(-_-)「だけど…」
从 ゚∀从「いいんだってば」
ヒッキーは黙った。だけど何か言いたそうだった。
珍しい事だった。ヒッキーが何かしら意見を強く持つ事は少ない。
私との同棲生活だって流されるように始めてしまったのではと思うぐらいに。
从 ゚∀从「なに?」
私が促すとヒッキーは膝立ちのまま、小さく何か言った。
从 ゚∀从「え、なに?」
80
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:32:02 ID:BImXu.QU0
(-_-)「ハインはまた逃げるの」
从 ゚∀从「は?」
(-_-)「ま、またそうやって面倒になったりしたら職場変えてハインは逃げるの」
从 ゚∀从「別に」
(-_-)「に、逃げてるじゃないか! あまり傷つきたくないからハインはそうやっていつも逃げるんじゃないか。
いつまで逃げるつもりなの、そ、ぼ僕の前からもそうやっていつか逃げるんじゃないの?」
一気にまくし立ててからヒッキーは自分の部屋へ消えていった。あんなに声を荒げたヒッキーは初めて見た。
どもるし滑舌もそんなに良くない。だけどはっきり聞こえた。そんな風に考えていたとは思わなかった。
とっさの事だったとはいえ、返す言葉がないなと思った。その通りだ。私は傷つきたくないんだ。
傷つくのを恐れて人間関係が面倒になると職場を変える。面倒になると男を別れて住まいも変える。
今までそうしてきたしこれからもそうすると思っていた。それに限界があるのも一応分かっていた。
私は逃げる。飽きては面倒になっては逃げる。逃げ続ける。いつかヒッキーからも。
ヒッキーはきっと不安だったのだ。初めて付き合ったのが私だったばっかりに。
いつか飽きて面倒になってどこかに行ってしまう私に対して不安だったのだ。
また悪い癖が出て面倒だから辞めてしまおうと思っていた私が許せなかったのだ。
ヒッキーは夢を追いかけてずっと同じバイトで同じアパートでマンガだけを描いていたのに。
夢を追いかける人が好きだと言いながら私はそれを見届ける事すら出来ないのだ。
なんて情けないんだろう。情けない。私超ダサイじゃん。
从 -∀从「はぁ」
傷つきたくない。笑われたくない。気まずい思いをしたくない。逃げたい。
私って弱い人間だ。きっと心のどこかで分かっていたんだけど仕方ないよねそれが私だからとどこかで言い訳をしていたのだ。
ヒッキーにそんな事をあらためて思い知らされるなんて。
81
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:39:15 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「ヒッキー」
ヒッキーの部屋のドアまで這っていってドアに触れる。今日は開けないでおく。
从 ゚∀从「ごめん、まだあそこで仕事続ける」
私は弱い。傷つきたくない臆病者だ。
从 ゚∀从「ヒッキーを見届けるよ」
うん、とドアの向こうから聞こえてくる。今日はそれでいい。
私はラスト・チャンスと決めて描いた作品の行く末を見届けなければならない。
もしまたダメならヒッキーはマンガ家の夢を諦めなければならない。
そうすればヒッキーは実家に帰る。この同棲生活も終わる。
このまま終わってしまうのかもしれない。その先の事なんて考えられない。
でも、今それを考える必要はないのだ。私がヒッキーを信じてやらなくてどうするのだろう。
そんなダメだった時の未来なんて考えても仕方ない。私は本当に夢を叶えるヒッキーを見たいのだ。
ゲンキンな奴め、と言われればそれまでだ。けれど私は見たい。逃げずに見たい。
82
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:42:10 ID:BImXu.QU0
まさかのまさか。ヒッキーがジャンプで賞を取る。佳作。ジャンプ本誌に東京都ヒッキー(24)とバッチリ。
先に電話が来てヒッキーがそれを知られてくれて二人して飛び上がって喜んでしまった。
有名作者の講評も載っていた。『画力は十分。魅せる技術もピカイチ。ただしヒロインがもうちょっとかわいければ…!』
ただしヒロインがもうちょっとかわいければ…!←ほらな!意外と素人の評価も外れたもんじゃないだろう。
それにしてもすごい。まだまだ夢の第一歩なのだけれど。第一歩だけど、確実な第一歩だ。
着実に一つ階段を上がったのだ。夢へ間違いなく一段階近づいたのだ。
ヒッキーの親も結果を受けて保留だと言ったらしい。保留だって。素直じゃない。
確かに佳作を獲ったからって連載出来る訳じゃない。本当に入口が開いた程度だ。
それでも私は感動している。また新たにヒッキーはマンガを描き始めている。
同棲生活を続けて同じバイト先で働きながら私もちょこっと手伝いつつマンガを描く。
ヒロインがもうちょっとかわいくなればな、服装もオシャレになればなと思う。そうすれば多分もっと良くなる。
まだまだこの同棲生活は続く。やっぱり私はゲンキンな奴だと思う。だけど私は私なのだ。
やっぱりまた逃げたくなる時が来るかもしれない。飽きてしまう時が来るかもしれない。
ヒッキーだって、私が初めてだっただけで、そのうち他の女性を知るのかもしれない。
未来は未知数だ。どう進むのか分からない。描いている通りに軌道が進むとは限らない。
だから分からない。私はこんな人間だし分からない。今現在ではこのまま。それだけだ。
いつしか私はヒッキーじゃない男と付き合ってヒッキーの事なんて忘れてしまうのかもしれない。
いつしかヒッキーは私じゃない女性と付き合って新しい道を歩むのかもしれない。
だけど今はまだこのまま。二人で進みたいと思うのだ。
从 ゚∀从二人暮らしのようです(-_-)
83
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 10:03:52 ID:4b8UFH7g0
乙
2人の関係性いいなぁ
84
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 10:42:57 ID:DwjNKqRk0
いい
85
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 11:15:04 ID:QKNA8FjY0
いいなあ
86
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 12:36:43 ID:un4OyRpoO
おつ!好きだ!
87
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 17:08:40 ID:wUdg/Tp20
乙!前の彼氏って……
88
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 18:07:39 ID:wMJqwi3k0
これはいい恋愛ものだ
キングダム……いや……そんなまさか……
89
:
名も無きAAのようです
:2016/05/15(日) 14:00:21 ID:Sjxu6o1c0
乙
次も楽しみにしてる
90
:
名も無きAAのようです
:2016/05/20(金) 20:11:27 ID:hVbSTSCk0
ムカデ人間を推してくるまではわからないぞ
冗談はさておき、なんか不思議な読後感がする
面白かった
91
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 16:45:27 ID:hKs1utCE0
>>87
>>88
ぐぬぬすいません元ネタが分かりません
92
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 16:53:03 ID:hKs1utCE0
(-@∀@)その顔が見たかったようです川 ゚ -゚)
JR東海道線小田原駅から伊豆箱根バスで6分
最寄りバス停から徒歩2分
木造 築19年
2LDK+地下(車庫あり) 価格2500万円
93
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:02:41 ID:hKs1utCE0
これは記録だ。
この記録が誰かに読まれる頃には僕は死んでいるだろう。
何せ僕は死んでいるのだから、僕を罪に問う事は出来ない。
例え殺人者だと罵られ墓に唾を吐かれても構わない。
やはりもう死んでいるからだ。死後には何もないのだから気にもならない。
僕は最高の瞬間を味わった。もう未練はないので死ぬのだ。
この記録は僕の最高の瞬間を綴ったものである。
僕は恋をした。初めて彼女を見かけたのは五月の大型連休過ぎであった。
市内のドラッグ・ストアに勤務している僕は毎朝車で職場に向かう。
彼女を見かけたのはその出勤途中で、ぼくと同様に信号待ちをしているところだった。
向かいに自転車に乗った彼女が同じように信号を待っていた。僕はつい見とれてしまった。
見覚えのある制服で、市内の高校に通う女子高生だと分かった。スカートは折りたたまれず規定のものだった。
信号待ちをしている間、携帯電話を見る事もなくただ信号機が変わるのをじっと待っていた。
きっと真面目な性格なのだろう。聡明でありそうな印象を受ける。
信号が青になり彼女とすれ違う。美人だった。強く心に残った。
94
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:08:21 ID:hKs1utCE0
その女子高生は自分が思っていたより心の中に残ってしまった。
仕事が始まってもぼんやりと彼女の事を思い出してしまっていた。
今日は珍しく考え事をしているねと同僚にも言われてしまったぐらいだ。
僕は一目惚れをしたのだと気がついた。そんな事は初めての事だった。
多感な時期だった中学生の頃だって一目惚れなどしなかった。
次の日から注意して通勤中に彼女を探すようになった。
すると数日を経て彼女がとても規則正しい登校をしている事が分かった。
こちらが毎朝同じ時間に家を出ると彼女と必ず同じ交差点ですれ違うのだ。
きっと家を出る時間を決めていて毎朝きっかりにそれを守っているのだろう。
僕は毎朝彼女を見るのが楽しみになった。初めて見た交差点で必ず信号待ちをする。
対向には自転車に跨った彼女がやはり携帯電話を見る訳でもなく信号が変わるのをじっと待っている。
彼女の通う高校の生徒はこの付近ではあまり見ない。多くの生徒が通学に使う幹線道路はもっと東寄りにある。
恐らく彼女はこの近くの集落に住んでいるのだ。この道路は東西に伸びていて道沿いに集落が続いている。
彼女が通う高校は小高い丘を挟んだ南側にあり、丘を南北に貫く道路は存在せず避けるように進んでいくのだ。
東寄りの幹線道路を使わずこの集落を結ぶだけの道路で高校に向かうという事は、住まいはその集落なのだろう。
95
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:17:13 ID:hKs1utCE0
その集落は距離こそ近いものの僕の家からは離れている。僕の住む一軒家はどこの集落にも属さずぽつんと離れた場所に建っている。
そもそもこの一軒家は数年前に亡くなった父親の遺産だ。僕は市内のアパートで一人暮らしをしていたが相続してからはこの家に住んでいる。
平屋で築二十年ほど、随分と古臭い印象を受ける家だが地下倉庫もあって使い勝手が良い。一人で暮らすには少し広いのが難点だ。
集落から離れ、道路からコンクリートの急な坂を上がった先にある。その坂もこの家があるのみで人の往来は全くない。
背後には山が迫り畑の一つもなく、対して正面には小田原厚木道路が横切り一日中車が行き交っていて少しうるさい。
僕が独り立ちしたあとに父親はこの中古の一軒家を購入した。その後母親が他界してその後は父親一人で暮らしていた。
ただでさえ集落から離れた立地であるし気難しく口数の少ない父親に近所付き合いなどというものは皆無であったらしい。
自分が代わりに住むようになっても訪れる者はおらず、僕としてもその方が気楽だと考えられた。
彼女の事をもっと知りたいと思い、休みの日に夕方から窓を開けて道路を見ていた。彼女の下校時間を確かめたかった。
坂の上に建つ家からは道路がよく見渡せる。登校で通るのならば下校でも通るはずだ。道路の往来は少なく見落とす心配もない。
このまま道路を奥に進んでも民家はもう殆どなく、山あいに寂れた公園施設があるのみだ。今日のような平日は尚更往来は少ない。
またすぐ近くに小田原厚木道路のインターチェンジがあり信号機が設置された交差点がある。上手くいけば赤信号で止まる彼女を見られる。
出来れば日没前に見つけたかったが彼女は来なかった。日が暮れて街灯の下を通るところを見つける必要があった。
集落から離れ人気のないこの辺りは夜になると当然暗くなる。交差点の近くには街灯が設けられているがそれ以外は不気味なほどに暗い。
根気よく僕は道路を監視し続けた。すると日が暮れてから一時間以上経ってから彼女の姿が見えた。それはすぐに発見出来た。
ちょうどインターチェンジのある交差点が赤信号になって彼女の自転車が止まる。僕は身を乗り出して食い入るように彼女を見た。
闇夜に溶け込んでしまいそうな黒い髪が揺れる。姿勢良く自転車に跨がりじっと信号開通を待っている。凛としたその姿はとても美しい。
街灯がまるで彼女のためのスポット・ライトのように美しく照らしていた。僕はほうとため息をついた。そして彼女が欲しいと強く思った。
青信号に変わって彼女の自転車が進んでいく。小田原厚木道路の立体交差を越えて集落の方へ消えていった。
96
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:22:49 ID:hKs1utCE0
仕事の日は帰りが遅いので見られず、休みの日は同じ時間に窓から彼女の帰りを待った。すると彼女はやはり毎日きっかり同じ時間に家の前を通った。
下校時間から数時間が経過しているので部活動に勤しんでいるのだろう。しかし帰りの時間も毎日同じであるとやはり真面目な性格なのだと分かる。
僕にとって彼女の登下校を見るのが日課となりつつあった。そして彼女が欲しいという思いも日に日に強まっていた。
仕事中に彼女の事を考えるあまり手元が疎かになり注意される事もあった。珍しい、恋でもしているのではないかと職場で噂されているようだった。
まさかあいつに限ってと否定する者もいたらしい。しかし現実はそうなのだ。僕としてもこれほど思い込む事はこれまでなかった。
自分でもどうして良いのか分からないのだ。恋愛などろくに経験がないまま大人になってしまったためである。
父親に似てあまり人と話す事が得意ではなく学生の頃からあまり人の輪に入る事が出来なかった。
仕事で女性の対応をする事もあるがやはりあまり上手ではない。
気晴らしにパソコンの電源を投入して動画を開いた。気に入っている動画はハード・ディスクに幾つも保存されている。
そこにあるのはカテゴリで振り分けるのならば全て同じ趣向のものとして扱われるだろう。
ある動画では女性が拘束されたうえ暴行され、ある動画では女性は何人もの男に嬲られている。
ある動画では女性が当然背後から襲われ、ある動画では女性が鞭で叩かれて肉が切れていた。
僕は女性の絶望する顔が好きだ。昔からそういう類の動画を好んで見ていた。
店に訪れる女性客の顔を見るたびにこの人はどんな絶望の顔をするだろうかと想像する。
しかしアップロードされている動画の殆どが本物を装った偽物なのだ。
女性のそれは演技であり、本物の絶望の顔をしていない。こればかりは不満が募るいっぽうだ。
是非とも彼女の絶望する顔が見たい。本物の絶望の顔が見たい。
97
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:27:55 ID:hKs1utCE0
どうすれば良いだろう、どうすればこの思いを叶えられるだろう。
悶々としながら暫く僕は日々を送った。そして熟考を重ねて決断した。
とある金曜日、僕は仕事が休みだった。僕はその休みをホームセンターに行くなどして準備に充てた。
日が暮れて夜になってから僕は黒の目立たない服に着替えた。念のため顔を覆うほどのマスクもしておく。
車で家を出て彼女が通る道路を少し移動する。ちょうど生い茂る木々で隠れられるあぜ道に車を停めた。
エンジンも切って車内の照明を落とす。よほどしっかりと見なければここに車が停まっているとは気づかれないだろう。
道路は緩やかに坂が続き、下り坂から上り坂に差し掛かったところだ。自転車の速度はここで必ず落ちる。
僕は腕時計を見て、インターネットで購入した護身用スタンガンを構える。既に家で試運転も済ませてある。
もう一度腕時計を見る。家の前を通る定刻時間から逆算した通過時間まで間もなく。僕は車の影からそっと様子を伺った。
万が一車が通ったらやめよう、と決めていた。しかし幸いにも車が通る気配はない。付近には民家もなく極めて静かだった。
そして遠くの街灯で影が動く。僕は目を凝らす。定刻通り。彼女だった。自転車で下り坂を降りてくる。
僕は息を潜めた。落ち着くように努力した。
静かな夜の道路に自転車の音だけが聞こえる。
それはだんだん近づいてくる。タイミングが重要だ。
僕は護身用スタンガンを強く握った。
遂に彼女が車の前に到達する。僕は飛び出した。
彼女の脇腹目指し護身用スタンガンを突き出した。
電流が彼女の身体を駆け巡る。
彼女は自転車から叩き落とされた。
そのままアスファルトの道路に落ちる。
自転車も盛り上がった側溝の蓋にぶつかり倒れた。
彼女は意識こそあるものの身体が硬直していた。
フィクション小説のように気絶はしなかった。
しかし身動きを封じるだけで十分だった。
素早く僕は彼女を助手席に載せる。
自転車もトランクに放った。
助手席に載せた彼女の手と足を粘着テープで固く巻きつける。
口にも貼りつけ目にはタオルを縛って対処した。
手筈通りスムーズに拘束は完了した。
更に学生鞄から携帯電話を見つけて電源を落とした。
パターンの認証が必要だったが電源を落とすのに認証は不要だ。
98
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:31:19 ID:hKs1utCE0
その作業の間にも車は一台も通らなかった。幸運だった。僕は静かに車を出して家に向かった。
対向車の視線が気になったがすれ違ったのは二台だけでどちらの運転手も携帯電話を見ていてこちらに関心はないようだった。
コンクリートの急な坂を登って家に着く。車庫に入れてしまえば外から様子は見えない。それでも僕は手早く彼女を家の中に運んだ。
もう彼女は硬直から回復したようで手足を動かし抵抗したが強力な事務用粘着テープを何重にも巻いているため無駄な抵抗だった。
地下の倉庫に彼女を運ぶ。床に敷いた布団の上に彼女を置いて口のテープをゆっくり剥がし目隠しのタオルを取った。
彼女は怒りと恐怖が入り混じった顔で僕を見ていた。ようやく喋れるようになったものの何と言うか迷っているようだった。
「…なんなんですか」
彼女は震える声で僕に問いかけた。周囲を見渡し現状を確認していた。冷静だ。
「ここは地下ですか」
(-@∀@)「あぁ」
窓がない事と階段を降りる感覚でそう推測したのだろう。僕は素直に認める。その方が手っ取り早い。
(-@∀@)「だから叫んでも誰にも聞こえないよ」
ここが完全に密室であり助けを呼ぶ事は出来ないとあらかじめ宣言しておいた方が良い。
聡明な彼女は叫んだり喚いたりするといった行為が無駄であるとすぐに理解するだろう。
「何が目的なんですか」
(-@∀@)「君が欲しかった」
「私が?」
(-@∀@)「そうだ」
99
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:39:02 ID:hKs1utCE0
僕は彼女ともっとゆっくり話したかったがはやる気持ちを抑えて次の行動に出た。
自転車を積んだままの車に再び戻る。車を出して箱根方面へ向かう。
箱根登山鉄道の線路を越えて国道一号線に入り、更に旧東海道へ進む。
途中からゴルフ場へと続く脇道を登り、すれ違いも困難なほど狭い林道へ入る。
街灯の一つもなく車が一台なんとか通れるだけのコンクリートの道が続く。
随分と奥に入り込んだところでそろそろ良いだろうと車を停めて自転車を降ろした。
ガードレールもない林道の脇はまさに断崖絶壁で急斜面が広がっている。
僕はそこに彼女の自転車を放った。音をたて自転車が急斜面を転がっていく。
部品が取れて形が歪みながらも自転車は転がり林の向こうへ消えていった。
僕は車に戻って家に帰る。あとは彼女との時間だ。
帰宅してしっかりと鍵をかけて地下に降りる。
物音で分かったのか拘束されたままの彼女が身を強張らせていた。
こうして灯りのもとでよく見るとやはり彼女は整った顔立ちをしている。
(-@∀@)「名前はなんというのかな」
「答えたくありません」
僕は傍らに置いておいた彼女の学生鞄を逆さまにして床にばら撒いた。
彼女が眉をひそめるのが分かる。ようやく表情に変化が出て嬉しい。
予想していた通りばら撒いた中身から学生証が見つかる。
真面目な彼女ならば常に持ち歩いているだろうと考えていたので正解だった。
(-@∀@)「三年生のクー…君はクーというのだな」
川 ゚ -゚)「…」
100
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:42:33 ID:hKs1utCE0
僕は彼女の絶望の顔が見たい。しかし名前を知られても彼女はぐっと言葉を堪えている。
きっと自転車を捨てに行っている時間に色々と考えたのだろう。
こうして見知らぬ男に拉致されて監禁までされているというのに冷静だ。
ここが地下で声が外に届かないと分かっているため騒いだりもしない。
今や彼女の命運は僕が握っているも同然であるのに、彼女が堅牢なつくりの城に見える。
彼女の絶望の顔を見るのは難しい事かもしれないからだ。
(-@∀@)「だんまりか」
川 ゚ -゚)「貴方の名前を聞いていません」
(-@∀@)「あぁ、確かに名前を聞いておいてそれは失礼だった。 僕はアサピーだ」
川 ゚ -゚)「アサピー…」
(-@∀@)「そうだよ」
川 ゚ -゚)「アサピーさん、これは犯罪です」
(-@∀@)「はは、やはり君は強いなぁ」
地下室は階段を除いて四畳半ほどだ。彼女を寝かせている布団が一畳ほどを占めている。
元は倉庫として使われていたためがらくたなどで溢れかえっていたが彼女のために撤去した。
当然ながら窓はなく低い天井から心許ない小さい蛍光灯が照らすのみだ。
(-@∀@)「ここは見ての通り完全密室だ。 君を助けに来る者はいない」
僕は大げさに手を広げてみせる。
(-@∀@)「僕と二人きりだ」
川 ゚ -゚)「どうでしょうか」
101
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:44:42 ID:hKs1utCE0
(-@∀@)「僕の家は集落から離れている。 そしてこの地下はいわば隠し部屋で一見分からないようになっている。
君が行方不明であると警察に届けられて万が一この家を調べられてもきっと気がつかれないよ」
川 ゚ -゚)「どうして言い切れるんですか」
(-@∀@)「さっきも言ったようにこの地下は隠し部屋だ、初見ではまず見つけられない。 また声も届かないほどの密閉っぷりだ」
じわじわと自分の置かれた状況が極めて絶望的であると知らせていく。ゆっくり絞め殺すように。
しかし彼女の表情はなかなか変わらない。やはり手強いものだと僕は内心思う。
それではさっそく強硬手段に出るしかないのだと決意をした。
川 ゚ -゚)「私が欲しかった、と言ったけれどどうするつもりなんですか」
(-@∀@)「分かっているだろう?」
僕は彼女に近づいて頬に触れた。彼女は逃げられずそれを受け止める。
頬を撫でてから僕の指は彼女の首、鎖骨、胸、腹を辿り制服のプリーツ・スカートに達する。
(-@∀@)「ねぇ」
プリーツ・スカートをつまみ上げると彼女の下着が見える。
(-@∀@)「どうしようかな」
彼女の表情が僅かに曇る。ぎゅっと唇を噛んでいる。
(-@∀@)「ねぇ、どうしてほしい?」
川 ゚ -゚)「…家に帰して下さい」
(-@∀@)「それはダメだねぇ!」
102
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:45:57 ID:hKs1utCE0
僕は彼女を犯した。拘束されたままの彼女の思いのままに犯した。
きっとそうだろうなと思っていたが彼女に男性経験はなかった。
布団に染みこんだ血液がそれを物語っていた。
未知の感覚に彼女は悶えていた。
しかしそれでも彼女の絶望の顔を見る事は出来なかった。
僕に制服を剥がされる時も。身体を撫で回されている時も。
僕の肉棒を頬に押し付けられている時も。口の中にねじ込まれた時も。
力ずくで足を開かされた時も。純潔を破られた瞬間も。
顔にたっぷりの精液を浴びた時も。
彼女はただ歯を食いしばって耐えるのみだった。
表情は苦痛に歪んでいたものの、それは絶望ではなかった。
精液を顔に浴びても、ようやく終わったのだと理解して顔を背けただけだ。
僕はますます彼女の絶望の顔をなんとか見たいと強く思った。
正直なところ彼女を犯すのはやむを得ない強硬手段だと思っていたのだ。
それにも関わらず彼女は耐えて絶望の顔を見せようとはしない。
強い心を持った芯の強い人なのだと僕はむしろ感心してしまった。
やはりなんとしても絶望の顔を見たい。
どうすればそれが叶うのか考え直す事にした。
103
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:49:56 ID:hKs1utCE0
彼女の粘着テープの拘束をいったん解き、手錠に切り替えた。
右利きだと申告したので左腕だけ手錠をかけ、空いた方を壁から突き出した杭に繋げる。
僕が力いっぱい引き抜こうとしてみてもびくともしなかったので彼女の力ではまず逃げ出せないだろう。
彼女は僕が脱がした下着と制服を身につける。それを僕は黙って見ている。彼女も何も言わない。
見られたくはないのだろうが無反応を貫く事で彼女なりの抵抗をしているのだと思う。
排泄は脇に置いたバケツでするようにと言いつける。それでも彼女は黙ったままで顔色を変えない。
恐らく普段から表情変化に乏しいのかもしれないが、それ以上に冷静であるよう務めているのだ。
これほどに人間の尊厳を奪うような扱いをしようとしているのにじっと堪えている。
その姿がもはや愛おしい。僕はそれをなんとか崩したい。
翌日、僕は通常通りに仕事へ向かうため準備をする。トーストとコーヒーの質素な朝食だ。
また彼女の分も地下に持っていく。出勤すると夜まで帰れないので昼の分と水も置いておく。
(-@∀@)「眠れたかい」
川 ゚ -゚)「…あまり」
(-@∀@)「これは朝、あっちは昼の分だ」
川 ゚ -゚)「仕事に行くんですか」
(-@∀@)「あぁ、社会人だからね。 帰ってくるのは夜だ。 休みはシフト制だよ。 でもその情報を知っていても無意味だろう」
川 ゚ -゚)「…」
彼女は黙る。実際そうだ。僕の情報をそれだけ知ってもこの密室である地下からは逃げ出せない。
携帯電話は電源を切ったまま保管しているし声の届かない地下からは助けを呼べない。
それにもし彼女の存在が知られればここは僕の家だから疑われるまでもなく僕は逮捕されるだろう。
だから助けも呼べない彼女に隠す事もないのだ。
104
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:57:32 ID:hKs1utCE0
僕は念入りに戸締まりをして車を出す。彼女を載せた痕跡は残していない。
きっと彼女の両親は昨夜のうちに娘が帰宅しない事に気が付き警察に届け出ているだろう。
ただでさえ登下校が毎日きっかり同じ時間なほどだ。一晩帰らないというのは極めて異常な事態のはずだ。
もう外では捜索が始まっているかもしれない。パトカーが彷徨いているかもしれない。平常心を保とう。
いつもと同じ時間。しかし定刻通りにも関わらず彼女の自転車とはすれ違わない。
彼女は僕の家の地下で、自転車は箱根のゴルフ場裏の林の中だ。それを知っているのは世界で僕だけだ。
途中でパトカーに一台だけすれ違う。女子高生の家出程度にしか捉えていないのだろう。
僕はいつもの様に彼女の事を考えながら仕事をして一日を過ごした。
どうしたら彼女を追いつめられるのか。見知らぬ男に拉致監禁され犯されたのにじっと耐えている彼女を。
僕は勤務を終えてすぐに家に帰る。これほど家に帰るのが嬉しいのはそうない事だ。
市内にはパトカーをちょくちょく見かけた。僕は臆する事なく堂々と運転をする。
帰宅して真っ先に地下へ降りた。僕が引き継いだこの家は2LDKの平屋だ。
奥の洋室から地下へ続く階段が設置されているが、それは隠れている。
元々地下は物置として使われおり殆ど出し入れがなかったために両親はそこに本棚を置いていたのだ。
講談社文庫から発行された浅田次郎作品の並んだ本棚をずらすと地下への階段が現れる。
まるで秘密基地のようでもある。僕はその階段を降りる。
(-@∀@)「帰ったよ」
置いておいたバケツを見ると排泄物が入っていた。排泄を我慢する事は困難であり仕方なくといったところだろう。
食事の方を見ると手付かずのままだった。僕に嬲り殺さるのならば飢えて死んだ方が良いという意思表示だろうか。
いわゆるハンガー・ストライキだ。しかし僕は彼女に餓死してもらいたくはない。
僕は彼女の制服であるシャツの胸ぐらを掴んで頬を引っ叩いた。
(-@∀@)「ダメじゃあないか、食べなければ」
105
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:59:55 ID:hKs1utCE0
彼女の絶望の顔を見るために取るべき行動はやはり暴力であると僕は考えていた。
人を支配するのに最も有効的かつ簡単なのは今も昔も暴力なのである。
与えられた食事を拒否する、これは暴力を振るう口実となる。
川 ゚ -゚)「…」
しかし頬を叩かれても彼女は黙って顔を背けるのみだった。
動揺する訳でもなく反抗する訳でもなく、ただ静かにそれを受け入れた。
さすがに何か彼女の特殊な事情があるのではと疑ってしまう。
拉致監禁されてまだ二十四時間未満で精神が崩壊するには早い。
妙に冷静で落ち着いているのは物分りが良いからだと思っていたがそれだけではない気もする。
頬を叩かれても処女膜を破られても彼女は絶望の顔を見せる事なく堪えている。
僕は意固地になっていた。そのどちらかで望みは叶うと思っていたのだ。
また彼女の服を剥いで乱暴に肉棒をねじ込んだ。
髪を掴んで後ろから動物のように犯す。
強く突きながら尻を叩いても彼女は必死に声を漏らすまいと堪えていた。
杭に繋がれた手錠が音をたてる。足りない。まだ足りないのだ。
身体を自由に楽しんでいるだけでは足りない。
(-@∀@)「ねぇ、中に出していい?」
尻を掴んで突きながら彼女の耳元で囁いた。
(-@∀@)「君の中で射精したいんだ。 どうなるか分かるよね?」
彼女は答えない。僕は畳み掛ける。
106
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:02:12 ID:hKs1utCE0
(-@∀@)「ゴムつけてないし妊娠しちゃうかもね。 君は十八で妊娠しちゃうんだ。
子供が出来てお腹がだんだん大きくなる。 僕の子供を孕むんだ。
そして一緒に育てるんだよ。 どんな子供かな。 君の子供なら可愛いよね。
男の子かな、女の子かな。 女の子なら君に似ているんだろうね。
ねぇ自分の子供がどんな感じか想像した事あるのかい?
君はまだ若いから帝王切開になるかもしれないね。
痛いかもしれないけれど頑張ろうね。
あと一人っ子じゃきっと寂しいよね。
二人目も三人目も欲しいかい?
男の子だったら次は女の子、女の子だったら次は男の子がいいよね。
ねぇ、中に出していい? 君の中すごく気持ちいいよ、出すよ、出すよ」
彼女の中に遠慮無く放出する。長い余韻と共に肉棒を引き抜いて彼女の秘部を指で掻き混ぜると精液がねっとりと垂れた。
頭を掴んでそれを見せる。自分の体内から溢れ出る精液を彼女にしっかりと見せる。
(-@∀@)「出しちゃったよ、ほら、とろとろ溢れてるよ。 いっぱい出しちゃった。 一回で妊娠しちゃうかもね。 気持ちよかったから仕方ないよね」
秘部から溢れる精液を指ですくって彼女の口元に持っていく。歯を噛みしめて固く閉ざしている唇に精液を塗った。
指を押し込んで歯と歯茎に精液を這わせる。
107
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:02:33 ID:e/JuFkrw0
勃起した
108
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:03:41 ID:hKs1utCE0
川 ゚ -゚)「…」
手を離すと歯軋りの音が聞こえるほど彼女は黙って俯いていた。
それだけだった。怒る訳でもなく、泣く訳でもなく、取り乱す訳でもなく、ただ俯いていた。
もし彼女が本当に妊娠して腹が膨らんでくれば絶望の顔が見られるかもしれない。
しかし僕はそんな何ヶ月も先を気長には待てない。早く彼女の絶望の顔が見たい。
僕は困り果てた。
一週間が過ぎても僕は彼女の絶望の顔を見る事は出来なかった。
拘束した彼女に暴行したり犯したりしたが表情はやはり固いままだ。
仕事中にどうすれば良いのかを考える。やがて彼女の事をもっと知るべきなのでは、と思いついた。
彼女について僕が知っているのは名前と通っている高校ぐらいだ。彼女はあまり僕と会話をしようとしない。
それは彼女における僕へのささやかな抵抗なのだと思う。先に君が欲しかったのだと素直に伝えてしまったのが良くなかったのかもしれない。
拉致監禁して身体を好きに出来ても心までは支配出来ないぞという意思表示なのかもしれない。
僕はもっと彼女の事を知りたいのだ。そのためにはどうするかを考える。
今から彼女の心を開くのは極めて難しいだろう。
休憩時間になって、どうしようかとあれこれ思案しながら僕は携帯電話を取り出した。
社交的ではないと自覚がある僕に友人と呼べる人間は少ない。そのため頻繁に連絡をする者もいないのだ。
彼女は親しい者と一体どんな風にメッセージのやり取りをするのだろうと考えてみる。
メッセージのやり取り、そこで僕は思い出した。僕は彼女の携帯電話を持っているのだ。
そこにはきっと僕の知りたい情報がたくさん詰まっているはずだ。
ただし彼女の携帯電話はあの襲撃場所で電源を切ってからそのまま保管してある。
電源を投入すればたちまち位置情報が発信されてしまうので注意しなければならない。
109
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:05:03 ID:hKs1utCE0
当然そうなるだろうと思っていたが彼女の両親が警察に相談したのは確実であった。
昨夜遂にニュースで女子高生が行方不明だと流れたのである。早くも公開捜査に踏み切ったのだ。
彼女の顔写真と名前がテレビ画面に映し出されていた。学生証と同じ写真が使用されていた。
失踪から一週間が経っているし彼女の真面目な性格を考えると家出ではないと両親が訴え事件性が高いと判断したのだろうか。
ニュースでは携帯電話の電波通信があの襲撃場所で途切れたと伝えていた。しかし僕はあの場所に何の痕跡も残さず拉致を完遂したはずだ。
自転車も見つかっていないとアナウンサーは続けたので箱根のゴルフ場裏の林に投げ捨てたあの自転車はまだ見つかっていないようだった。
仕事が終わって家に帰る途中に今日は二台のパトカーとすれ違った。歩行者や対向車の食い入るように見ている。
幹線道路を越えると僕のよく使う道路は殆ど一本道となり、その脇に集落が伸びていく。
僕が彼女と毎朝すれ違っていたのも彼女を拉致したのもこの道路だ。
携帯電話の電波が途切れたのもこの道路となれば警察も重点的に調べるだろう。
その道路沿いにある僕の家にも当然話を聞きに来ると思われる。まして僕は平屋に一人暮らしだ。
集落から離れていて近所付き合いもなかったのでもしかするとあそこの人が怪しいのではと噂されているかもしれない。
証拠こそ残していないが容疑者として挙げられている可能性も考えておいた方が良いだろう。
僕に出来る事は努めて堂々としている事だ。何も付け入られないように振る舞う事だ。
それにあの地下への入り口はなかなか初見では見つけられないだろう。
もし警察が僕を容疑者であると断定し家に踏み込む事となってもそれはまだ先の事だろう。
110
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:11:13 ID:hKs1utCE0
翌日、僕は休みだったので車で山の方へ向かった。
家の前の道路を山の方へ進んでいくとどんどん道幅は狭くなる。
民家も殆どなく寂れた公園施設があるぐらいだ。更にその先へ進むと行き違いも厳しいような狭い山道となる。
それでも山を登って行くと開けた土地に霊園が広がっている。山あいの開けた場所に棚田のように墓石が並んでいる。
墓地の中にある駐車場に車を停めた。来園者は一人もおらず極めて静かであった。
僕は家に隠していた彼女の携帯電話と自分の携帯電話を取り出した。僕と彼女の携帯電話はキャリアが同じだ。
そして僕の携帯電話は圏外になっている。この墓地に到着する前からもうずっと圏外だった。
キャリアの電波エリアマップを見てもこの一帯は完全にサービス範囲外のようだった。
同じキャリアでも機種が違えば電波の取得には差が出ると聞いているがここまでエリア外ならば大丈夫なはずだ。
念のため周囲に人がいない事を確信してから彼女の携帯電話の電源を投入する。
時間をかけて携帯電話が起動する。そして認証に必要なパターンをなぞる。
このパターンを教えてもらうのに彼女の爪を三枚も無駄にした。
デスクトップはとてもシンプルなものだった。
ソニー製携帯電話のデスクトップにはアプリがあまり配置されていない。
ゲームの類は一つもインストールされていなかった。五ページあるデスクトップの中で何もないページも存在する。
さっそく無料通話アプリを開く。昔はメールなどの送受信を見るのが手っ取り早かったが今ではこちらの方がよく使用されている。
圏外の状態で電源を投入しているために新たなメッセージは見られない。恐らく行方不明となり心配するメッセージが届いているだろう。
今頃サーバに保管されているはずだが電波を受信出来る場所まで行かなければメッセージはこの携帯電話に届かない。
既存のメッセージを見て、彼女について知ろうというのが今回の一番の大きな目的だ。
数人とのメッセージのやり取りを見れば彼女について何か分かるのでは、と考えていた。
しかしそれは先頭のトーク履歴で呆気なく達成されてしまう。
メッセージの履歴の先頭にいるユーザーの名前はフルネームで登録されていた。
そのユーザーの苗字は、まさしく彼女の同じものだったのである。
111
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:14:22 ID:hKs1utCE0
(-@∀@)「くるう…」
僕はその名前を呟く。アイコンは誰かに撮ってもらったらしい自分の写真だ。
中学生ぐらいなのだろう、可愛らしい顔立ちでカメラに向かってピース・サインをしている。
恐らく妹なのでは、と思い僕は彼女のそのくるうという妹らしき女の子のメッセージをたどる事にした。
それは普段の彼女からは考えられないようなメッセージのやり取りだった。
くるうに対する彼女の口調は砕けたものでおちゃめなスタンプなども連発していた。
試しに他のユーザーとのメッセージのやり取りの履歴を見るとそれはいつもの彼女だった。
礼儀正しく節度を持ち顔文字の一つもなく聡明さを感じる。スタンプの連発など当然ない。
もう一度彼女とくるうの履歴に戻る。彼女のメッセージは砕けた口調、顔文字、スタンプの連発。
僕はそのギャップに慄いた。なんだこれはとすら思ってしまった。
履歴をたどると彼女からくるうに向かって好きだの大好きだの繰り返し送られているのが目立つ。
対するくるうからもお姉ちゃん大好き、などと返されている。
僕は確信した。やはりこのくるうは彼女の妹だ。そして彼女は妹を溺愛しているのだ。
絶対に僕に弱みを見せまいとしている彼女の決定的な弱点。それが妹の存在だ。
次にカメラフォルダを開いてみる。きっと妹を溺愛している彼女はくるうを撮影していると思ったからだ。
思った通りくるうと名前が付けられたフォルダがあった。それを開くとくるうを映した写真がずらりと並ぶ。
何十枚あるのだろうか、下の方へスクロールしていっても写真は続いていった。きっと日常的に撮影しているのだろう。
ソニー製の機種はカメラ機能が優秀であると聞いた事があるし彼女もそれを重視してこの機種を選んだのかもしれない。
くるうを映した写真を一枚一枚見ていく。電波は圏外状態から脱する様子はないし墓地に来園者もおらず焦る必要はない。
間違いなくくるうは中学生だろう、セーラー服を着た写真もある。室内で撮った写真もあればどこかに出掛けた時に撮ったものもある。
芦ノ湖で撮った写真もあれば伊豆下田で撮った写真もある。父親以上に彼女の方がくるうを撮影しているのではないだろうか。
112
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:17:03 ID:hKs1utCE0
僕は一枚の写真で手を止める。屋外で撮られた写真で、くるうはカメラに向かってピース・サインをしている。
注目すべきは背景だ。茶色の一軒家が映っている。自宅ではないだろうか。更に後ろには高架の道路が見える。
そこにはちょうど緑の案内看板が立っている。それは高速道路や有料道路に設置されているものだ。
最近の機種はカメラが高画質になっており拡大してみると文字がなんとか読み取れた。
そこには荻窪 小田原方面 出口500mと書かれている。その荻窪インターチェンジは僕の家の前にあるものだ。
僕の家の隣を走る小田原厚木道路はあの道路に寄り添うように北東方向へ伸びている。
彼女は同じ高校の学生の多くが使う幹線道路ではなくあの道路をわざわざ使って通学していた。
そのため僕は彼女の家があの道路沿いに広がる集落のどこかではと考えていたのだ。
彼女の携帯電話は赤外線通信機能を搭載したものであり僕の携帯電話にもそれはあった。
その写真を含めた数枚のヒントとなり得る写真を僕の携帯電話に赤外線通信で送信する。
そして彼女の携帯電話の電源を切り、鞄に仕舞ってから車を出した。
携帯電話の電波が受信出来るところまで降りてきてから僕は自分の携帯電話でグーグル・アースを開いた。
小田原厚木道路もグーグル・アースで見る事が出来る。そこであの写真に映っていた案内看板を探した。
案内看板が示す荻窪インターチェンジは僕の家のすぐ横だ。そこから五百メートルほど北上したところを表示させる。
その案内看板を見つける。その下には細い道路が横切っていた。あのいつもの道路から脇に入ったところである。
ちょうどそこに一軒家がある。僕はそれを表示させると、あの茶色の一軒家が現れた。
少し調整してみるとそれは彼女が撮った写真のアングルと完全に一致する。
僕の携帯電話に送信した先程の写真を見比べてもそれは確実である。
この茶色の一軒家が恐らく彼女の自宅なのだ。予想通りあの道路近くの集落だった。
この家から彼女の高校に通うならばあの道路を使うルートが最適だと言える。
彼女の自宅が分かった。彼女の弱点も見つけた。僕は次にどうすべきか再び考える。
家に着くと警察官が二人、僕の家を覗いていた。パトカーは近くに停まっておらず、付近一帯の聞き込みといったところだろう。
遂に来たか、と僕は気を引き締める。平常心を保ち怪しまれないように振る舞わなければならない。
仕事で身についた感情を顔に出さないという事をきちんと頭で思い浮かべる。
いつも通り、そうすれば乗りきれるはずだ。
113
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:24:30 ID:hKs1utCE0
(-@∀@)「あのう、すいません」
リアウインドウから顔を出して声をかける。
(-@∀@)「そこに住んでいる者ですが、何かご用ですか」
( ,'3 )「あぁ、すいません。 少し聞いて回っておりまして」
(-@∀@)「構いませんが、ひとまず車を入れてしまってよろしいですか」
( ,'3 )「はい、どうぞ」
車庫入れをしている間にも二人の警察官は車を注意深く見ていた。
行方不明の女子高生は自転車での帰宅中に消えたのだから仕方ないだろう。
実際に僕の所有するトヨタ・ファンカーゴは後部座席を倒せば自転車を積む事も出来る。
(-@∀@)「お待たせしました」
車庫入れを終え、僕は車を降りる。好青年として見られるよう努力する。
(‘_L’)「朝早くからどちらへ?」
(-@∀@)「両親の墓参りです。 この道路を登っていった先に墓地がありまして」
( ,'3 )「あぁ、久野霊園ですね。 若いのに感心です」
所轄の警察官は五十代と四十代ほどだろう。もし僕が容疑者として挙げられているのならば刑事が来るだろう。
やはり近所の家をとりあえず一軒一軒回、聞き込みに回っているのだろう。僕の家に順番が回ってきただけだ。
(-@∀@)「ところで話とは?」
( ,'3 )「あぁ、他でもない女子高生の行方不明事件についてです」
(‘_L’)「知ってますか?」
(-@∀@)「ええ、ニュースで見ました。 その女子高生が通っていると報道されていた高校もすぐ向こうですし家から近いのかなとは思っていましたが」
ごく自然な表情。近隣住民としては当然抱く興味。それを意識する。
114
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:26:57 ID:hKs1utCE0
( ,'3 )「はい、この先の集落に住んでおられる方です」
(‘_L’)「それで皆さんに話を聞いて回ってましてね、何か変わった事は?」
(-@∀@)「いえ、特には…。 静かで平和なところですし」
(‘_L’)「そうですか、行方不明のお嬢さんはそこの道路を使っていつも通学していたそうです」
(-@∀@)「へぇ、坂があるのに大変だ。 ここはインターチェンジがあるせいで狭い割には車がよく通る」
(‘_L’)「そうなんですよ、しかし目撃証言が何もないそうなんです。 何か物音とかは」
(-@∀@)「はぁ、ニュースは一昨日見たと記憶していますが、行方不明はいつからでしたか」
(‘_L’)「十日前です」
(-@∀@)「十日ですか、特に何も…。 本当に車の往来以外は静かなところですので」
(‘_L’)「そうですか」
警察官は家の方を見た。木造の平屋でクリーム色に塗られているが色褪せている。
(‘_L’)「ご家族は?」
(-@∀@)「いません、二年前に父親が亡くなり一人です」
(‘_L’)「一人でお住まいなのですか」
(-@∀@)「えぇ、平屋とはいえ一人では少し広すぎますがね」
自嘲気味に僕は笑ってみせる。
(‘_L’)「差し支えなければ中を拝見させていただきたいのですが」
(-@∀@)「えぇ、構いませんよ」
( ,'3 )「すいませんね」
(-@∀@)「いえいえ、事態が事態ですので」
115
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:31:06 ID:hKs1utCE0
僕は警察官二人を案内する。地下への階段は厚い蓋をした上から本棚できちんと塞がれている。
もし彼女が来訪者に気づき大声をあげて助けを呼んでも聞こえないはずだ。
事前に地下に大音量の目覚まし時計を置いて鳴らすテストをしてみたが聞こえなかった。
平屋は十三帖のリビングと八帖の洋室、同じく八帖の和室と風呂とトイレで構成される。
玄関からフローリングのリビングへと入り、次に和室を見せる。
(‘_L’)「和室は物置みたいですね」
(-@∀@)「ここは父親の部屋でした。 遺品を捨てようか迷っているうちにこうなってしまいまして」
(‘_L’)「なるほど」
(-@∀@)「そしてこちらが僕の部屋です」
最奥の八帖の洋室へ案内する。地下へと繋がる階段のある部屋だ。
( ,'3 )「ほう、本が多いですね」
本棚は三つ置かれている。うち一つの下に地下へ繋がる階段がある。
万が一本棚を動かされても床と同一の色の蓋が設置されている。
(-@∀@)「父親の遺品が多いです。 せっかくだから読もうと思ってこちらに移しました」
( ,'3 )「なるほど、それは良い」
どれどれ、と警察官が本棚に作者ごとに並べられた文庫本に目を通す。
( ,'3 )「あぁ、浅田次郎の天国までの百マイル。 私も最近読みましたがこれは名作ですね」
(‘_L’)「知っている作者ですか」
( ,'3 )「知っているもなにも浅田次郎は有名な作者だよ。 映画化もされた鉄道員で直木賞も受賞している」
(-@∀@)「高倉健の代表作の一つですね」
(‘_L’)「へぇ」
満足したようで二人は部屋を出て行く。風呂とトイレも覗いてご協力ありがとうございましたと頭を下げた。
116
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:34:43 ID:hKs1utCE0
( ,'3 )「何か変わった事や気づかれた事がありましたらご連絡下さい」
(-@∀@)「分かりました、早く見つかるといいですね」
僕は玄関を出て二人がコンクリートの坂を降りていくのを見届けた。
しっかりと施錠して部屋に戻り、本棚をずらして蓋を開ける。
階段を降りるが彼女は僕の方に視線も向けない。
(-@∀@)「いやぁ、驚いた。 警察が来たよ」
彼女がばっと顔を僕の方に向けた。僅かな希望を感じている。無駄なのに。
(-@∀@)「いや、帰っていったよ。 君がいるとも知らずに」
彼女が何かを言おうとして、諦める。萎んでしまったように俯いた。
(-@∀@)「だから言っただろう、この地下は完全密室だ。 君の存在は誰にも知られない」
川 ゚ -゚)「…」
また彼女は黙りを決め込むつもりだろうか。
しかし彼女は揺らいだ。僅かな希望を感じあっさり打ち砕かれたからだ。
彼女とて十代の少女だ。冷静を保っているが少女には変わりない。
そしてここで畳み掛けてみようと決める。新たに手に入れた強力なカードだ。
どこまでの破壊力を持っているかは試してみなければ分からない。
(-@∀@)「それにしてもさ」
わざとらしく、僕は切り出した。
(-@∀@)「可愛い子だね、くるうちゃん」
たった一言。たった一言だ。その影響力は僕の想像を越えるものだった。
彼女がまたばっと顔を上げた。そこには困惑と驚きが入り混じっていた。
口を開いて何か言おうとして言葉にならない。悲鳴に近い声だけがただ漏れる。
117
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:37:29 ID:hKs1utCE0
(-@∀@)「なんだい?」
川; ゚ -゚)「ど…どうして…」
(-@∀@)「え?」
川; ゚ -゚)「どうして…くるうの…」
やはりくるうは彼女の弱点だ。僕が彼女の愛する妹の存在を知っただけでこれほどに狼狽している。
絶望の顔とまではいかないが彼女はそれに近い表情をしている。知られたくなかった。隠したかった。
それほどにくるうが大事なのだ。彼女は今にも泣き出しそうになっている。
(-@∀@)「可愛いね、くるうちゃん。 とても可愛い。 欲しいなぁ、くるうちゃんも欲しい」
川; ゚ -゚)「だ、だめ、それはだめ、くるうは」
彼女が身を乗り出す。杭に繋がれた手錠が伸びてがちゃがちゃと音をたてる。
川 ; -;)「くるうは…くるうだけは、やめて、やめて」
彼女が懇願している。涙を流しながら僕に懇願している。空いている右手で僕の腕を掴み懇願している。
僕に拉致され監禁され暴行されレイプまでされたのに涙一つ見せなかった彼女が一心不乱に懇願している。
愉快だった。彼女の新たな一面をようやく見られた。くるうに関して彼女はこんなに必死になるのだ。
名前を出しただけなのに。
(-@∀@)「じゃあ、君は僕の言う事をきちんと聞かなければならないよね? 分かるよね?」
川 ; -;)「あ…う…」
彼女の頬を撫でる。指で涙を拭く。
(-@∀@)「君がちゃんと僕の言う事を聞けばくるうちゃんに危害を加えないよ。 全ては君次第だ」
川 ; -;)「わ…私次第…」
(-@∀@)「そう、くるうちゃんは、君次第」
118
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:41:05 ID:hKs1utCE0
僕は口を近づけて、舌を出した。彼女は意味を理解して、眉間に皺を寄せ、目を閉じて舌を出す。
僕はそれを絡めとる。そして彼女とセックスをした。遂に彼女との行為は一方的ではなくなった。
その日から彼女は従順になった。僕の言う事をきちんと聞くようになった。
与えられた食事は全て食べて肉棒を差し出せばおずおずと咥えるようになった。
これでようやく彼女を手に入れた気がした。それでもまだ物足りない。
やはり彼女の絶望の顔が見たいのだ。それこそが僕の一番の望みなのだ。
もし彼女の前でくるうを犯せば彼女は絶望の顔を見せてくれるだろうか。
そう考えると仕事中も勃起が収まらないようになってしまった。
川 ゚ -゚)「くるうは…可愛い妹なんです」
僕は彼女の座る布団の隣で話を聞いていた。
くるうの存在を持ち出してから彼女は僕と会話をするようになった。
川 ゚ -゚)「そして、可哀想なんです」
(-@∀@)「可哀想?」
川 ゚ -゚)「くるうは少し障害を持っています。 上手く話せなかったり、きちんと物事を判断出来ない。
それでお父さんに叩かれたりする事はよくありましたし、同級生に虐められているようなんです」
僕は彼女に妹について聞かせてほしいと頼んでみたのだ。
今ではすっかり彼女は従順で僕の言う事を何でも聞く。
川 ゚ -゚)「お父さんは身体が成長しても中身があまり成長しないくるうにいつも苛立っていました。 そしてよく手を出していたんです。
それで私が身代わりになる事もありました。 お母さんはいつも見ているだけでお父さんには口出しする事はありませんでした」
彼女の異常なまでの冷静さ、暴力に対する忍耐力。それは父親の暴力によって培われたものだったのだ。
川 ゚ -゚)「だけどくるうは私の可愛い妹なんです。 たった一人の可愛い妹…」
119
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:42:47 ID:hKs1utCE0
彼女は妹くるうを溺愛している。守ってやりたいと思っている。自分が犠牲になってもだ。
それは父親からの振るわれる暴力から、僕から強いられる監禁生活から。
愛する妹のために彼女は身を張っているのだ。自分を犠牲にしてでも守っているのだ。
それほどに妹を愛している。障害を持ち父親から疎まれ同級生から蔑まれる妹を。
僕は彼女を健気だと思った。そして報われないと思った。彼女こそ可哀想だとも感じた。
きっと彼女の父親は普通の事も満足に出来ない妹くるうに日常的に暴力を振るっていたのだ。
妹を庇いたい一心で彼女は父親の暴力の捌け口を引き受けていたのだろう。
彼女の極めて正確な登下校も真面目な性格だからと結論づけていたがそういう家庭状況が原因なのかもしれない。
また彼女の性格上家出ではなく事件性が高いと両親が判断したのだと僕は思っていたが逆に考えた可能性もある。
両親は、父親の暴力に耐えかねて逃げ出した彼女がその暴力を告発するのではと恐れたのかもしれない。
こういう地方の集落では悪い類の噂話はすぐに駆け巡り、狭いコミュニティでの覆しようのない世論を作り上げてしまう。
川 ゚ -゚)「だから私が守ってあげないといけない…」
あぁ、やはり可哀想だ。彼女はいつも妹を庇って生きてきたのだろう。
それなのにこんな地下に閉じ込められていてはその妹を助けられない。
守ってくれる彼女がいなければ妹は父親から暴力を受けてしまう。
まして彼女が行方不明であるため父親は気が立っているはずだ。
帰ってこない苛立ちを妹にぶつけているかもしれない。
それなのに彼女は助けられないのだ。守れないのだ。
こんな見知らぬ家の地下に拘束され好きでもない男に犯されているのだ。
なんと不憫なのだろう。僕こそが彼女を助けてやりたい。しかしそれは叶わない。
彼女は可哀想だ。彼女を助けられない。相反する両者が押し寄せ合う。
120
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:44:31 ID:hKs1utCE0
彼女の妹くるう。中学生。障害を持っている。彼女に愛されている。父親に疎まれている。
家庭内で暴力を受けている。同級生からはいじめられている。
彼女の弱点。彼女の愛する者。彼女の一番大切なもの。
それを壊せば彼女の絶望の顔が見られるだろうか。
僕は時間をかけて自然を装い彼女から妹くるうについて訊いた。
彼女の愛する者の話を聞かせてもらうのを装って訊いた。
少しずつくるうという少女の人間像が出来上がる。
写真は僕の携帯電話に転送してあるのでしっかりと記憶している。
彼女曰く、彼女の家庭は父親、母親、妹と彼女の四人暮らしだ。
父親は一般的な会社員で母親はパートをして生活の足しにしている。
裕福でもなければ貧しい訳でもない至って普通の家庭だろう。
彼女が行方不明となってから間もなく三週間となる。
精神的にも参ってしまっているだろう。仕事どころではないかもしれない。
何より妹が不安だと彼女は漏らした。それは父親から暴力を受けるのではという意味だけではなかった。
家庭において妹が心を開いていたのはまさしく彼女だけだったという。
彼女は妹を溺愛し、妹も彼女を必要としていた。依存しあっているのだ。
そのような妹の前から自分が消えてしまってはどうなってしまうのか予想も出来ないと彼女は言う。
121
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:46:27 ID:hKs1utCE0
過去に彼女が修学旅行で四日ぶりに帰宅しただけでも妹は泣いて飛びついてきたという。
半狂乱になっていても喪失状態になっていてもおかしくないと彼女は呟いた。
修学旅行で家を空けている間に妹は夜中に彼女を探して近所を徘徊していたという。
それを見つけ父親がひどく打ったが、次の日にまた彼女は探しに行ってしまったのだと。
もしかするとまた自分を探して夜な夜な歩きまわっているのでは、と彼女は涙を流した。
僕はそこで情報収集を遂に打ち切った。価値のある情報だった。
大丈夫だよ、と彼女の髪を撫でて僕は落ち着かせる。
妹に会わせてあげたい。僕はそう思う。
次の日から僕は日付が変わるあたりに自転車で出掛けるようになった。
自転車は長らく車庫の隅に置かれていたもので随分と傷んでいる。
この家は市街地から離れている上に通勤はいつも車を使う。
コンビニエンス・ストアもスーパー・マーケットも遠くて車の方が便利だ。
しかし今回は偵察であるので車は使えない。夜に車はとても目立つ。
自転車で夜の道路を走る。小田原厚木道路はこんな時間でも往来がある。
対して下を走るこの道路は人気がない。寝静まっているといった感じだ。
特定のポイントに着き、周囲を確認して自転車のライトを消した。
集落の中に車がやっと一台通れるかといったぐらいの道路が横に伸びている。
コンクリートで固められた上り坂をなんとか登っていくと間もなく茶色の一軒家が見える。
彼女の家だ。電気は点いていない。眠っているのだろう。そのまま止まらずに進む。
小田原厚木道路をトンネルで越える。街灯もない道が続く。不意に視界で何かが動いた。
自転車のライトを点けると少女の姿が浮かび上がる。僕はそのまま自転車を漕いですれ違う。
122
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:49:49 ID:hKs1utCE0
それは妹くるうだった。紛れも無く彼女の携帯電話に入っていた写真の姿そのものだった。
僕はそのまま自転車を漕いでひどく遠回りをして帰宅した。これを次の日も行なった。
その次の日も、その次の日も、パトカーに注意しながら同じ時間に自転車で走った。
くるうは毎晩その付近にいた。毎晩徘徊していた。毎晩姉を探していた。
彼女の懸念通りであった。少しずつ場所を変えながら彼女は夜中に歩き回っていた。
きっと両親は気づいていないのだろう。また気づいていてももうやめさせないのだろう。
言っても無駄だから。また次の日には出ていってしまうから。
更に行方不明から時間が経ち精神的に参って出来の悪い妹には気が回らないのかもしれない。
何より毎晩無防備に出歩いているというのは好都合だった。僕は次の行動に移る。
ここ数日と同じような時間に車を出す。日付を越え集落は寝静まっている。
車には一台もすれ違わない。パトカーの姿もない。
三週間以上経っているしこんな時間に毎日パトロール出来るほど暇ではないのだろう。
コンクリートの細い道をゆっくりと進む。ライトを消して慎重に進んでいく。
茶色の一軒家は今日も電気が点いていない。もう眠ってしまっている。
小田原厚木道路を越えるトンネルの途中で車を止める。
トンネルには蛍光灯の一つもない。月明かりすら差し込まない曇天の今夜ではまさに暗闇だ。
僕はヘッド・ライトを点灯させた。奥で人影が動いた。やはり今夜も出歩いていた。
(-@∀@)「ねぇ」
車を降りてくるうに声をかける。くるうは驚いて振り返り身を強張らせた。
(-@∀@)「こんな時間にどうしたの」
川 ゚ 々゚)「あ…うう…」
(-@∀@)「誰かを探しているの?」
警戒させないように優しく話しかける。誘導する。
123
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:03:33 ID:sl3GgMEg0
川 ゚ 々゚)「お…おね…ちゃ…」
(-@∀@)「お姉ちゃん? お姉ちゃんを探しているの?」
川 ゚ 々゚)「お、おねえちゃん、おねえちゃん」
(-@∀@)「もしかして、この人かな?」
家を出てくる前に携帯電話で撮影した彼女の写真を見せる。
従順な彼女は何に使うのか用途も聞かずに撮影に応じた。
川 ゚ 々゚)「あ、ああ! おね、おねえちゃん! おねえちゃん!」
予想以上に大きい声を上げたので僕は驚く。小さく狭いトンネルにそれは反響する。
(-@∀@)「お姉ちゃんに会わせてあげるよ」
川 ゚ 々゚)「あ…おねえちゃん」
(-@∀@)「そう、お姉ちゃん」
後部座席のドアを開けて促す。彼女は手を組んで躊躇った。
きっと知らない人には付いて行くなと言いつけられているのだろう。
不届きな不審者が増えた昨今では当然の事だ。学校でも家庭でもそう教えられる。
(-@∀@)「いいの、お姉ちゃんに会えるのに」
川 ゚ 々゚)「あっ、ああぁっ! おねえちゃ、あ」
彼女が映った携帯電話を遠ざけるとくるうはそれを追う。携帯電話を後部座席の置いてやると、ようやくくるうは車に乗った。
僕は素早くロックして運転席に座って車を出す。なんとか舗装だけされている細い道を進んでいく。
山の方をぐるりと回る形で夜の山道を走る。やはりすれ違う車は一台もない。
そのまますみやかに帰宅し、周囲に人影がないかきちんと確認してからくるうを家に招き入れた。
くるうはおねえちゃんと滑舌の悪い呟きを続けている。僕は彼女を粘着テープでくるうの手足を拘束した。
聞き取れない言葉を漏らしながらくるうは抵抗する事なく粘着テープを巻かれる。
124
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:06:15 ID:sl3GgMEg0
簡単なものだ。フローリングの床に置いたくるうを見下ろす。
目を閉じて息を深々と吐く。遂にこの時が来た。
これで僕は理想にたどり着けるのかもしれない。
彼女の絶望の顔をようやく見られるのかもしれない。
いくら冷静な彼女であろうとも。いくら忍耐力のある彼女でも。
壊れてしまうかもしれない。発狂してしまうかもしれない。
しかしそれが楽しみだ。楽しみで仕方ない。考えただけで勃起は最高潮だ。
時間を置こうと思ったが今すぐしよう。叶えよう。僕の理想。彼女の心配。くるうの望み。
僕はくるうを抱き上げて部屋に向かう。本棚をずらして床と同一に見える蓋を外す。
階段をゆっくりと降りる。彼女は眠っているようだった。もう随分と遅い時間なのだ。
川 ゚ 々゚)「お、おねえちゃ! おねえちゃん!」
彼女の姿を見つけてくるうが騒ぐ。僕はくるうを彼女の眠る布団から離れた床に置く。
眠っているなら好都合と僕はくるうをパジャマを脱がす。下着も脱がして裸にしてしまう。
まだ成長途中の身体。くるうは怯えている。僕はそれにあまり興味がない。
くるうをうつ伏せにして尻を持ち上げる。僕も服を脱ぎ裸になって肉棒にローションを塗る。
そしてくるうを押さえつけそれを秘部にねじ込んだ。
川 々 )「あ、ああああっ! いだあああああああ!」
くるうが叫ぶ。構わず僕は奥へと進ませる。何度も出し入れして奥へ奥へと押し込んでいく。
川 々 )「あああああいあああああああああ!」
痛みに耐えかねくるうが泣き叫ぶ。眠っていた彼女がようやく目を覚ます。
さぁ引き裂かれた姉妹の感動の再会だ。
125
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:08:59 ID:sl3GgMEg0
川 ゚ -゚)「えっ」
寝起きの彼女は状況を理解出来ないでいた。
数週間ぶりに再会した最愛の妹が後ろから犯されている。
地下にくるうの叫び声が反響する。反響する。反響する。
川; ゚ -゚)「え、あ、え、やだ、うそ、くるう」
川 々 )「あああっ、おねえぢゃあっ、あああっ!」
川; ゚ -゚)「やだ、くるう! くるう!」
彼女が飛び起きて駆け寄ろうとするが杭に繋がれた手錠がそれを阻む。
手錠が繋がれている以上僕のところまで届かない。見ているしかない。
最愛の妹が犯されていくのを見届けるしかない。
川 ; -;)「うそ、やめて、くるう、なんで、やめて、やめて、やめて」
これまで冷静だった彼女が錯乱している。
急に妹が現れて手を出さないと誓った男に服を剥かれて犯されている。
彼女の言葉は要領を得ず叫んでいるも同然だった。
川 々 )「あああああいだああああああああやあああああああ!」
川 ; -;)「やめて! くるうはやめて! どうして! やめて!」
川 々 )「いああああああああぐうううううううう」
川 ; -;)「やめて! やめて! くるう! くるう! くるう!」
川 々 )「ぎいいいっああああああああ!」
(-@∀@)「あーくるうちゃんいいよぉ、すごくいいぃ」
くるうを押さえつけ後ろから突きながら僕は彼女に微笑みかける。
(-@∀@)「やっと会えたね」
126
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:10:29 ID:sl3GgMEg0
それはまさに絶望の顔だった。遂に見る事の出来た彼女の絶望の顔だった。
信じた僕に裏切られ最愛の妹まで犯されて絶望している。たまらない。
僕の興奮は最高点に達し、たまらず絶頂を迎える。くるうの中に射精する。
驚きと悲しみと混乱と絶望が入り混じった顔で泣き叫ぶ彼女を見ながら長い射精をする。
紛れも無く人生最高の射精だった。かつて感じた事のない恍惚を味わった。
嬉しさのあまり笑いが漏れた。くるうの中で出しながら僕は笑った。
くるうの行方不明のニュースはすぐに世間を駆け巡った。
先に姉が行方不明となった時のニュースは小さなものだったが今度ばかりは大きくなった。
姉が失踪し一ヶ月も経たない内に妹までも姿をくらましたのだ。
ニュースでは妹には知能的に障害があった事も報じていた。
あの集落の住民が神妙な面持ちでインタビューに答えている。
小田原駅から車で十分ほどの閑静な住宅街だと紹介されていた。
出勤する際にも一時期見かけたパトカーがまた多く見られた。
道幅は広くないのにテレビ局の中継車も路上で停まっていていた。
集落の住民達は口々に心配です、早く見つかってほしいですと眉間に皺を寄せて答えていた。
しかし集落はなんだかそわそわしていてむしろ楽しんでいるようにも感じる。
127
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:12:25 ID:sl3GgMEg0
また一軒一軒警察官が訪れるかもしれない。捜査が進んでいなかったのではと批判もされている。
お昼の低俗なワイドショーではそういった警察の対応を批判する体勢を取っていた。警備もおろそかではなかったのかと。
実際くるうは夜中に一人で出歩いていたのだし、両親も気づいていたかは定かではないがそれを放置していたのだ。
怠慢だと批判されるのは両親もだと思うが世間も世論もワイドショーもコメンテーターも彼女の両親には優しかった。
両親は取材には応じられないとしてインターホンにマイクを突きつけられても黙りを決めていた。
代わりに親戚だという千葉県千倉の老夫婦がテレビ取材を受けていた。よく見つけるものだ。
老夫婦は暗い表情で早く見つかってほしい、犯人にはどうしてこんな事をするのかと訊きたいと言った。
彼女が欲しかったからだ、くるうは彼女の絶望の顔を見るためのトリガーとなるためだ。
また妹を心配する彼女の望みを叶えてやりたかったのだと僕は答える。しかしそれは呟きにしかならない。
千葉県千倉の老夫婦にも東京赤坂のワイドショーのスタジオにも届かない。テレビ放送は一方的な一方通行だ。
それに芸人をやっていたはずのこの司会者は彼女の何を知っているのだろう。知っているような顔で話しているが何も知らないだろう。
直前に読んだ台本資料だけで国民代表のような顔をしてよく話をする事が出来るものだ。一方通行に対する唯一の対抗策としてテレビの電源を落とす。
本棚をずらす。床と同一の蓋を外す。階段で下に降りる。
彼女が僕を睨みつける。その頬は涙で濡れている。飽きずに泣けるものだ。
脱水症にはならないだろうか。彼女にはきちんと水分を取ってもらいたい。ポカリスエットをもっと買ってこよう。
ポカリスエットならば僕の勤務するドラッグ・ストアで安く売っているし確かにそれはよく売れる。
川 ゚ -゚)「…くるうは」
何度目だろう。飽きないものだ。それほどに妹が大切なのだ。
128
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:14:39 ID:sl3GgMEg0
(-@∀@)「大丈夫、元気だよ」
川 ゚ -゚)「くるうをどうするんですか」
(-@∀@)「どうもしないよ」
彼女にあるのは怒りだ。裏切られた怒り。くるうのために犠牲になったのに。
初めて僕に向ける感情だ。今まで見せなかった顔だ。
僕としては悲しい。好きな人に怒りを向けられて嬉しい者はいないだろう。
出来れば彼女にそんな顔をしてほしくはない。当たり前の事だ。
(-@∀@)「僕が愛しているのは君だけだ」
彼女は答えない。彼女にあるのは怒り、憎しみ、不安、悲しみ、どれだろう。どれもそうだろうか。
それを僕は一つ一つ取り除いていきたい。取り除いてあげたい。僕は強く思う。
彼女はこんな地下から出られず可哀想だ。排泄もバケツではなく普通のトイレでするべきだ。
風呂にだって入りたいだろう。排泄用とは別のバケツに湯とタオルが用意されそれで身体を拭くだけだ。
髪をしっかりと乾かしたいだろうしトリートメントだってしたいだろう。爪を切り揃えたいだろうし無駄毛の処理もしたいだろう。
それを叶えてあげたい。叶えてあげられない。また相反する。いつも世界は相反している。対者。両者。両手。左右。1と0。
愛しているのに。笑ってほしい。応えてほしい。絶望の顔が見たい。壊したい。むちゃくちゃにしてしまいたい。
手を繋ぎたい。臼で轢き潰したい。共に歩きたい。肋骨を取り出して舐めさせたい。
世界は相反する。いつだって相反する。並行しない。対向する。
川 ゚ -゚)「くるうは本当に無事なんですか」
(-@∀@)「無事さ」
別にくるうには興味はないもの。君さえいればいいんだ。
彼女の家庭も。家庭内のパワー・バランスも。父親からの暴力も。障害を持つくるうが受ける学校での陰湿ないじめも。
テレビ取材に舞い上がり念入りに化粧をしてぺらぺらと内情と話す近所の主婦も。彼女の家庭が幸せな家庭だと信じてやまない親戚も。
彼女さえいればどうでいい。興味が無い。放り投げてしまう。むしろしがらみから解き放ってやりたい。
地下に仕舞った彼女はもう世界の誰も触れる事は出来ない。籠の中のお姫様。僕だけのお姫様。
助けてあげたい。こんな地下に入れられていては可哀想だ。救い出してあげたい。
129
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:25:06 ID:sl3GgMEg0
ちょっと中断します
130
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:28:59 ID:qsYpcDro0
待ってる
131
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 20:16:34 ID:ZO0BcwBs0
読んでいてこんなにしんどいのに引き込まれる
132
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 09:28:54 ID:8rNJ9F560
再開します
133
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 09:31:29 ID:8rNJ9F560
(-@∀@)「だから安心していいんだよ」
川 ゚ -゚)「…」
僕は準備をして彼女の分の夕食を作る。きちんと食べなければくるうを殺して切り刻んで酒匂川か早川に流してしまうかもしれないと伝える。
彼女は大人しく夕食を食べる。僕とて酒匂川か早川を血で染めたくはないしどちらも目立つ川なのできっと誰かに見つかってしまう。
警察だってテレビが言うより無能ではないのでいずれは僕にたどり着くのではないだろうか。明日にも令状片手に来たっておかしくない。
一人で平屋暮らし、近所付き合い皆無、自転車も運搬出来る車を所持している、これだけで容疑者として挙げられるだろう。
更に一人ならまだしも姉妹二人が連れ去られている。解決は一刻を争う、などと考えていてもおかしくはない。
とはいえ分かっているのは行方不明というだけで誘拐されたという確固たる証拠すらない。犯行声明も出ていないのだ。
ただ姉妹が時間差で忽然と消えたのだ。誘拐と決まった訳でもなく犯行声明もなく身代金の要求もない。
自転車が見つかったとの報道もない。付近の捜索はしているだろうが箱根じゅうを調べるには時間がかかるだろう。
僕は出来ればずっとこうして二人で生きていきたいと思う。けれど彼女の絶望の顔をもっと見たいと思う。
彼女を世界から隔離した。彼女を世界から切り離した。彼女を世界から奪った。彼女を鳥籠に閉じ込めた。
このまま永遠に二人でいられればいいのにと思う。どうして永遠は存在しないのだろう。どうして永遠は手に入れられないのだろう。
いつか警察がここに踏み込む日が来るだろう。そうすれば永遠は終わってしまう。やはりそれは永遠などではなかったのだと気付かされてしまう。
彼女は保護されてあの茶色の一軒家に戻されてしまう。僕は犯罪者の烙印を押されて刑務所に送られてしまう。今の生活が続けばいいのに。
どこか彼女と二人きりで過ごせる世界があればいいのに。絶望の顔のまま彼女の一瞬を永遠に出来ればいいのに。
僕は考えた。考えて考えて、考えぬいた。
そうして僕は、彼女との永遠を見つけ出した。
僕は十八歳の時に独り立ちをして一人暮らしをしていたので自炊は出来る方だった。
だから彼女が食べてくれるのは純粋に嬉しいものだ。くるうを酒匂川か早川に流してしまうとやんわり伝えているのが効いているのだろう。
食事を取るのが彼女の本意ではないにしても僕としては嬉しいのだ。僕が作ったものを彼女が食べているのだ。
134
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 09:35:38 ID:8rNJ9F560
くるうの失踪から時間が経ち、ニュースで触れられる事も殆どなくなった。
ニュースも新聞も世間も忘れやすい。新たな情報や捜査の新展開がなければ新規で報じられる事もない。
世界には夥しい量のニュースがあって一つの事件をいつまでもだらだらと報道し続ける訳にもいかない。
まして凶悪な事件や規模の大きい事故災害などでもなく真相が何も分かっていない姉妹の失踪事件だ。
面白がって取り上げたワイドショーや週刊誌も特に進展が見られないために今は手もつけない。
くるう失踪から二週間近くが過ぎた。市内のパトロールの強化も最近ではそれほど見られなくなった。
集落でパトカーとすれ違う事は少なくなったしテレビ局の中継車などはもう見る事もない。
熱しやすく冷めやすい世間はすぐに忘れる。発信するものも受け取るものも誰もが無責任なのだ。
しかしそれには無自覚なのである。どうせ忘れるならばさっさと忘れてしまえばいいのだ。
僕は彼女の絶望の顔をようやく見る事が出来、満足をした。それを同時に高望みもした。
もっと、もっと彼女の絶望の顔を見る事が出来るのではないか。更なる絶望の顔を見る事が出来るのではないか。
彼女の前で愛する妹を犯し絶望の顔を見る事が出来た。その後彼女は僕に怒りの顔を見せるようになった。
明確な定義など存在しないのだけれど本当の絶望の顔とは、怒る事も悲しむ事も出来ないものではないだろうか。
彼女には憤怒、憎悪、不安、悲哀が入り混じっている。それはもしかするとそれは雑味なのではないだろうか。
純粋な絶望、混じりけのない絶望。まっさらな絶望。それこそが僕の欲するものではないだろうか。理想ではないだろうか。
彼女を絶望だけで染める。絶望以外のものを体内から追い出す。彼女の中身が絶望のみで満たされた時、遂に世界が開く。
あぁ、楽しみだ。それこそ到達点だ。終焉だ。ゴールだ。僕はそれが欲しい。それを求める。追い求める。
そのために僕は時間をかける。時間をかけて時を熟成させる。警察の捜査が進まないうちにじっくりと待つ。
彼女の前でくるうを殺してばらばらに切り刻んでみれば彼女は本当の絶望の顔を見せるのではとはじめは思った。
しかしそれではその最中に怒りや悲しみが発生する。入り交じる。僕の求める真の絶望の顔にはならないかもしれない。
仕事中に何度も考え精査してようやく僕は今日に至るプランを思いついたのだ。彼女は本当の絶望の顔を見せてくれるはずだ。
この一週間をそのために費やした。期待から出てしまう笑みを彼女の前で堪える事はとても難しい事だった。
135
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 09:45:29 ID:8rNJ9F560
川 ゚ -゚)「くるうに会わせて下さい…」
くるうと感動の再会を果たしてから二週間近くが過ぎて、彼女の限界は近いようだった。
毎日譫言のようにくるうの名前を呟いていた。そして無事なのかと僕に問いかけた。
あれからくるうを彼女に一度も会わせていない。会っているけれど会わせていない。
くるうに会わせてしまうとプランが台無しになってしまう。混じりけのない絶望を引き出したいのだ。
しかし彼女は心身がすり減って食事はきちんと取らせているものの衰弱しているようだった。
(-@∀@)「まず食事を取るんだ」
慎重に階段を降りてトレーに載せた食事を彼女の元へ置く。今日はビーフ・シチューだ。
川 ゚ -゚)「本当にくるうは無事なんですよね…大丈夫なんですよね…?」
(-@∀@)「あぁ心配する事はない。 いつも君の近くにいるよ」
じっくり煮込んで作ったビーフ・シチューは僕の自信作だ。時間をかけて煮込んだので柔らかい肉はとろとろになっている。
それはまるでとろけるような触感だ。極めて柔らかい肉は彼女の口によって咀嚼されていく。
(-@∀@)「君がここに来てもう一ヶ月以上になるね」
川 ゚ -゚)「…そうですか」
(-@∀@)「僕はとても幸せだったよ」
川 ゚ -゚)「…そうですか」
もう、良いだろう。頃合いだ。
(-@∀@)「ねぇ、くるうに会わせてあげようか」
川* ゚ -゚)「えっ!?」
思いがけない言葉に彼女はついスプーンを落とす。よほど嬉しいのか顔が紅潮している。
川* ゚ -゚)「いいんですか」
136
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 09:52:59 ID:8rNJ9F560
(-@∀@)「あぁ」
でも、と僕は付け加える。
(-@∀@)「くるうは君の中にもいるけどね」
川 ゚ -゚)「え?」
(-@∀@)「すぐそこにもいるんだ」
僕は階段を登る。地下へ降りる寸前にそこに置いておいたくるうを引っ張る。
分割されたそれはどすん、と音をたてて四畳半の地下に落ちた。
紐で縛っておいた足が落ちて、胴体が落ちる。
そして最後に首が落ちてごろごろと床を転がった。
冷凍庫にずっと入れていたので髪は固まっている。
川 - )「あ…あ…」
(-@∀@)「美味しかったかい? 今日のビーフ・シチュー。 尻の肉は柔らかいね。
昨日の太ももの肉も柔らかくてフライにするには少し勿体無かったかな。
あぁ、腹ははじめどう肉を剥ぐべきか試行錯誤の繰り返しで効率良く取る事が出来なかったんだ。
でも君に最初に提供したくるうは腹から取ったものだから美味しく食べる事が出来るはずだよ。
頬の肉もとても柔らかかったね。 鯛も頬の肉は美味しいけれど人も頬の肉は美味しいみたいだ。
けれど早くに傷んでしまうようだったから冷凍保存をせざるを得なかったんだ。
僕の家の冷凍庫はそれほど高性能でもないし随分と古いものだから味が落ちてしまったのは否めない。
けれどくるうをたくさん君に食べさせてあげたかったんだ。 君の愛する妹だからね。
君の中でくるうは咀嚼され消化され君の血となり肉となる。 君の中で永遠に生き続けるんだ。
君の中にくるうはいる。 これでもう離ればなれになれないし寂しい思いをする事もない。
君達姉妹はずっと永遠だ。 誰にも邪魔されずお父さんに殴られる事もなく同級生に苛められる事もなく一緒に永遠の時を過ごすんだ。
あぁなんて幸せなんだ。 君の中にくるうはいる。 美味しかったかい?」
137
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 10:00:47 ID:8rNJ9F560
川 - )「あああああああああ!」
彼女が指を喉に突っ込む。おえ、とくぐもった声がして彼女がくるうを吐き出した。
吐瀉物と共にくるうが出てくる。くるうの尻から削ぎとってじっくり煮込んで柔らかくなった肉。
(-@∀@)「無駄だよおおお君がこの一週間食べた食事は全部くるうだよ! 食べたんだ! 飲み込んだんだ! 消化されたんだ! 君の中にくるうはいるんだよ!」
川 - )「ああああああああああああああ!」
(-@∀@)「そうそうそれだそれだああああ! その顔だ! その顔! その顔が見たかったんだ! あああ、その顔! その顔おおお!」
僕は勃起した肉棒を手でしごいた。あまりの興奮にすぐ絶頂に達してしまう。吐瀉物を出し続ける彼女の顔に精液がかかる。
彼女とくるうに精液が入り交じる。絶望の顔。本当の絶望の顔。真の絶望の顔。混じりけのない絶望の顔。絶望の顔。絶望の顔。
絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の
彼女は壊れてしまった。僕は満足した。望みは達せられた。
もう何も望むものはないと思った。これ以上望むものはない。
地下に降りて蓋を閉めて粘着テープで内側から塞ぐ。換気口にもしっかりと貼る。
押入れにあった七輪に練炭を置き、火をおこした。
たっぷりアルコールを飲んで酩酊状態にしておく。
酒に強くないのでこれで程なくして僕は眠りにつく。
138
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 10:14:57 ID:8rNJ9F560
これで僕と彼女は永遠だ。二人きりで永遠だ。彼女は絶望の顔のまま永遠だ。
僕が明日から無断欠勤する事でいずれ職場から警察に連絡がいくだろう。
そうなれば警察が様子を見に来ていつかこの地下を見つけるだろう。
そこで行方不明の姉妹と僕の死体を見つけて事件の真相を知るのだろう。
僕と彼女は引き離されるだろう。きっと彼女は家の墓に入れられるだろう。
しかしそれは関係のない事だ。死後に僕が犯罪者として罵られる事と同じほどに興味のない事だ。
何故ならば永遠はここから始まるからだ。この覚めない眠りから僕と彼女の永遠が始まるのだ。
死体が引き離されても永遠がここから始まるのだからもう関係がない事なのだ。
全てがここに終わり永遠がここに始まるのだ。その永遠には誰も立ち入れられない。
僕と彼女だけの永遠なのだ。絶望の顔の彼女。二人だけの永遠。ようやく叶えられる。
これは記録だ。
この記録が誰かに読まれる頃には僕は死んでいるだろう。
何せ僕は死んでいるのだから、僕を罪に問う事は出来ない。
例え殺人者だと罵られ墓に唾を吐かれても構わない。
やはりもう死んでいるからだ。死後には何もないのだから気にもならない。
僕は最高の瞬間を味わった。もう未練はないので死ぬのだ。
この記録は僕の最高の瞬間を綴ったものである。
それではさようなら。
(-@∀@)その顔が見たかったようです川 ゚ -゚)
139
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 10:27:11 ID:96ffTjMo0
文章力と相まってこの展開は震えるわ
乙
140
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 14:15:41 ID:y2uLeX5w0
乙、すげーひきこまれた
一瞬姉と妹を繋げるかと思ったけどそんなことはなかったぜ!
141
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 15:00:19 ID:2ij3N.3c0
ぬ き ま し た
乙
142
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 16:00:10 ID:O6BpLbzE0
やっぱ嘘つきハートフルの人じゃん!
怖い話、グロい話するときは事前に言いなさいっていつも言ってたでしょ!
143
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 16:12:39 ID:2DxIvkL60
なんだろうこの二郎で大の器にアブラのみ満タンな物体を完食させられたような読後感は…
144
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:01:56 ID:QihcY4Xc0
>>142
やべっバレた! お許し下さい!
145
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:16:44 ID:QihcY4Xc0
リハ*゚ー゚リ生きているか死んでいるかの境界線のようです爪'ー`)y‐
東京高速臨海鉄道りんかい線品川シーサイド駅から徒歩1分
RC16階地下1階建 築8年
2LDK+S 価格4870万円
JR予讃線詫間駅から車で20分
高松自動車道さぬき豊中ICから車で25分
木造 築49年
5K 価格550万円
146
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:19:44 ID:I1Y9ol3E0
バレバレだったから大丈夫
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板