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あと3話で完結ロワスレ
1
:
FLASHの人
:2012/12/09(日) 21:32:05
ルール等詳細は
>>2
を参照
お前が、このロワを、完結させるんだ……!
305
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:41:33
アリ塚の1階、王蟲突入の2秒後。
突如、フロアのテラフォーマーズ達に凄まじい閃光と火炎が襲いかかった!
「油虫(ゴキブリ)狩り、世界チャンピオン!黒だn「じょう!」え、ちょ、」
「来てるぞ、バカ!」
「うそ、何でアレがぜんぜん効いてないのよ!?」
「何度も見ただろ、奴らに半端な熱は通用しない!
一匹一匹確実に潰せ!」
王蟲の口から飛び出したのは、『怪人蜘蛛女』と『仮面のヒーロー』。異色のタッグである。
怪力と器用さを併せ持つ蜘蛛の持つ剣が、昆虫界随一のバッタの脚力から放たれるムエタイの舞が、
動揺するテラフォーマーズを次々となぎ倒してゆく。
突然の攻撃で統制に乱れが出ているのだ。
テラフォーマーズ達がどうにか体勢を立て直し、侵入した二人を包囲する頃には
既に数体の惨殺死体が転がっていた。
状況が落ち着いたのをいいことに、
待ってましたとばかりに『怪人蜘蛛女』が改めて見得を切った。
「地底からの使者、黒谷ヤマメッ!死んでいった仲間達の復讐はあたしが果たす!!」
焦げ茶色の丸くふくらんだスカートからは、失われた両膝下の代わりに4本のロボットアームが飛び出している。
腰を落として交互に腕を突き出すポーズ。
両足を失った彼女を最期まで守りぬいた男のポーズだ。
右腕は少女の姿に不釣り合いな機械の鉤爪に置き換わっている。
上半身を覆う鎧の背中からは、3本目の金属の腕が大剣を携えている。
その姿は、まさしく7本肢の蜘蛛の化生であった。
「最近の油虫は、じょうじょう鳴くのが流行りなのかしら」
「……ヤマメ、ビビるなよ。ヤツらは逃げ腰の相手から狙ってくる」
「油虫如きが何匹束になろうと、この土蜘蛛サマの敵ではないわ!
…って、何そのポーズ」
ヤマメと背中合わせに身構える『仮面のヒーロー』、ティン。
額からは二本の触覚が伸び、顔の輪郭はキチン質の甲殻で覆われている。
右腕に怪力をもたらす篭手、左腕に高熱を帯びた赤い鉤爪。
両足を踏みしめて左の拳に手を当て、右掌で宙にゆっくりと円弧を描いている。
彼の本来のスタイル・ムエタイとは違う精神統一の構え。
彼に『正義』を教えて散っていった男が『変身』する際にとっていたポーズである。
“SPIRITS”と銘打たれた黒いコンバットスーツに身を包んだその姿は、
『仮面』こそないものの、まさしくあの『仮面のヒーロー』の様であった。
306
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:42:55
「「じょじょう」」
「じょうじ」
二人を取り囲むゴキブリ人間はまだ何十匹も残っている。
ゆっくりこいつらの相手している時間はない。
腐海の瘴気に満たされたこの一帯で呼吸ができるのは、
肺に溜まった王蟲の漿液が残っている間だけだからだ。
だから……
「「「じょあああああああああああ!」」」
「ヤマメ、行くぞ!」
「よしきたぁ!」
蜘蛛とバッタにゴキブリの群れが殺到し、黒地白抜きの包囲円は一瞬で塗りつぶされた。
だが、中心にあるべき二人の姿は忽然と消失。
どこだ。…2箇所で響くゴキブリ人間の悲鳴。
そこか。だがあるのは死体だけ。再び悲鳴。再び。また。
上。ホールの天井と壁を縦横無尽に跳ね回る二つの影。
空中から地上に奇襲。すぐさま上空へと退避。そして再びかく乱。その繰り返し。
ティン。バッタの脚力は地上で蹴りを繰り出すに留まらないことを戦友から学んでいた。
ヤマメ。本来熟練を要する筈のバルキリースカートの扱いを、蜘蛛の本能で理解していた。
敵の姿を見失ったテラフォーマーズに、
ティンの飛び蹴りが、ヤマメの斬撃が、止むことのない落雷のように降り注いだ。
二人と、その仲間たちに残された時間は長くない。
だから……二人の意志はひとつ。
しんがりといえど、ここで死ぬ気はさらさらない。
速攻で、ゴキブリどもを狩り尽くす。
先行した二人に合流し、勝つ(いきのこる)ために。
【黒谷ヤマメ@東方project】
[状態]:疲労(小)、妖力消費(中)、両足膝下欠損・止血済み
右腕欠損・アタッチメントアーム@仮面ライダーSPIRITSに換装
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
お尻にハチ刺され
[装備]:
体:グレートメイル@パワポケ12秘密結社編
右手:パワーアーム@仮面ライダーSPIRITS
左手:セラミックの剣@風の谷のナウシカ、スパイダーブレスレット@スパイダーマン
第3腕:西洋大剣の武装錬金“アンシャッター・ブラザーフッド”@武装錬金
(第3腕はアンシャッター・ブラザーフッドの特性により付加されている)
両太もも:処刑鎌の武装錬金“バルキリースカート”@武装錬金
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:女王蟻の肉団子@HUNTER×HUNTER(残り30%)、カイコガの幼虫@テラフォーマーズ(完食)
、タランチュラの素揚げ@現実(残り100%))、
ボーラ@パワポケ12秘密結社編、昆虫飼育ケース@現実、『卵』@???
[思考・状況]
基本:バトルロワイアルから脱出する。
1:『卵』を無事に持ち帰る。
2:1階大広間のテラフォーマーズを全滅させ、先行した味方と合流する。
3:自分が生還できない場合は、信用できる者の元に『卵』を託す。
※サクレツの実@虫姫さまを使い切りました。
【ティン@テラフォーマーズ】
[状態]:疲労(中)
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
腐海の菌類のカプセル除去済み
[装備]:
体:SPIRITSのコンバットスーツ@仮面ライダーSPIRITS
右手:怪力のこて@パワポケ12秘密結社編
左手:炎のツメ@ドラゴンクエスト7
両足:クイックシルバー@ロマサガ2
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:毛ガニ@現実(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))、バグズ手術能力発現薬@テラフォーマーズ×11
、マグマ火炎砲@地球防衛軍2(弾切れ)
[思考・状況]
基本:自らの命を捨ててでも、仲間を守る。
1:1階大広間のテラフォーマーズを全滅させ、先行した味方と合流する。
307
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:44:18
一匹の獣が、駆ける。駆け登る。阻むもの無きアリ塚の中を。
正確には、獣ではなく、蟻。魔獣を元に生み出された、既に亡き王の忠実な兵隊アリである。
ツノの様に尖った頭。半人半馬の体。蹄の付いた4本の脚。
そして、左肩に纏った醜悪な人面には、はちきれんばかりの『怒り』を満載している。
そのキメラアントの名を、モントゥトゥユピー……通称ユピーといった。
獣の背にまたがる、否、しがみつく、青い厚手のワンピースの少女。
古代日本で高官の娘として何不自由なく育った彼女は、ただ『姫』と呼ばれていた。
彼女は服飾や美容などといった一般的な女性の趣味と呼ばれるものには興味をもたず、
もっぱら毛虫などを集めては飼育し、観察するのを日課としていた。
そんな『姫』のことを、周囲の者はいつしか『虫愛づる姫君』と呼ぶようになっていた。
「ゆ、『ゆぴい』よ」
「……何だ」
「後ろからは声が聞こえてこぬ。
どうやらその『隠れ身のまんと』とやらが役に立ったみたいじゃ」
姫は怯えた様子で潜入に成功したことをユピーに伝える。
彼女が虫の感情を感じ取ることにより、視認できない虫の存在を知ることができるのは
レコから託されたレヴィ=センス結晶の腕輪のおかげである。
だが、姫が怯えているのは追ってくるかもしれない虫に対してではない。
これから対決するであろうバトルロワイアル主催者に対してでもない。
もっと身近にいる虫……ユピーである。
姫はユピーの主がこのバトルロワイアルで死んだことを聞いていた。
一見落ち着いた様子のユピーだが、
彼に溜め込まれた怒りの感情は左肩の瘤の中でぐつぐつと煮えたぎる音が聞こえるようだった。
その怒りはもちろん姫に向けられている訳ではない。
だが、姫は近くに居るだけでその圧力と熱量に中てられ、気絶しそうな程の重圧を感じていた。
(……コッチニ来イ……サア、早ク……)
そんな姫に、上から主催者のものと思しき声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声だ。本来、腕輪で判るのは虫の感情だけの筈。
だが王蟲と出逢い、念話で話した時を境に
腕輪の力で聞くことのできる声が鮮明になってきていたようだった。
「右の階段からじゃ。……我らを誘っておる」
「……」
黙って姫の誘導に従うユピー。
背中の姫のことは、
『念能力も無いのに虫の存在を感じることができる便利なヤツ』
程度にしか思っていない。
1階でしんがりを務めているティンとヤマメのことは、
『囮になってくれるのは助かるが、別にいなくてもやることは変わらない』
程度には思っている。
彼にとっては王への奉仕こそ全てに優先し、
自分を含むそれ以外のことはどうでも良い事だった。
主君の敵討ち。復讐。
直接の下手人が既に存在しない現在
王を殺したバトルロワイアルというプログラムの主催者への復讐を
一秒でも早く果たすことが、彼の全てであった。
他の部分は、ただひたすらに空虚であった。
【モントゥトゥユピー@HUNTER×HUNTER】
[状態]:オーラ消費(大)、左肩のコブに怒り満載
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:
体:隠れ身のマント@パワポケ12秘密結社編
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:さぬきうどん@仮面ライダーSPIRITS(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))
地蟲@風の谷のナウシカ(参加者の死体、完食)
[思考・状況]
基本:王の仇を討つため、主催者を殺す。
【虫愛づる姫君@堤中納言物語「虫愛づる姫君」】
[状態]:疲労(小)、ユピーの溜め込んだ怒りに恐怖
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:レイピアGスラスト@地球防衛軍2
右腕:レヴィ=センス結晶の腕輪
体:青き衣@風の谷のナウシカ
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:王蟲の無精卵@風の谷のナウシカ(残り20%))
オーダイ@サバイビー
不明支給品あり
[思考・状況]
基本:主催者を打倒し、生還する。
1:『オーダイ』を持ち帰る。
2:ユピーが怖い。
308
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:46:38
1階、大広間。
床は一面テラフォーマーズの死体で埋め尽くされ、
生き残っている者は片手の指で数えられる程になっていた。
とはいえ、敵もさるもの。
上空からの攻撃に対応し、反撃を仕掛けてくる者もいた。
だがそれでも、ティンとヤマメの両名、現在まで辛うじて健在。
残りのテラフォーマーズは…
「シュッ!」
「ギ…ギギッ…!」
「あと…2体……!」
「ジョッ!…ギッ……ブルィィィ…」
「これでっ、あと…1体よ!」
残り1体。
二人は空中から同時に攻撃を仕掛ける。
その瞬間の彼らに油断があったかといえば、答えはNOである。
テラフォーマーは例え1体でも油断ならない相手。
むしろ、ゴキブリのスピードを持つこの敵にとっては、数が減って
自由に動ける空間ができた時の方が脅威は大きい。
故に、二人は最後のこの1体にこそ全神経を集中し、細心の注意を払って仕留めに掛かった。
「オラアアアア!」
「うりゃあああ!」
「……じょっ!」
……それが、いけなかった。
「じょおおう!」
「ッ!?」
「ヤマメ!」
突如、銀色の砲弾の如き一撃が、ヤマメに突き刺さった。
その人型をした砲弾と共に吹き飛ばされるヤマメ。
その『とびひざげり』の威力は凄まじく、咄嗟にガードに回した
金属製の右腕と第3腕をまとめて破壊する程であった。
伏兵は、ティンの蹴りを受け倒れゆく最後の一体と同じような顔をしたゴキブリ人間であった。
その頭には髪が無く、額に漢字の『小』に似た斑紋が付いている。
ティンはこの個体に見覚えがあった。
西暦2599年に火星探査船・バグズ二号で卵から生まれた次世代型テラフォーマーズ2体のうち、
小町正吉と死闘を演じた方の個体である。
……だがティンが『それ』から受けた印象はまるで別人である。まず、全身に銀灰色の鎧を纏っている。
さらに、鎧と同じ材質らしき剣盾を構えている。だが武装は大した問題ではない。
(このゴキブリ野郎、動きが素人じゃない!)
旧世代型テラフォーマーに見られなかった次世代型ならではの『人間らしい動き』に、磨きがかかっている。
ムエタイを修めたティンには、その身のこなし・剣捌きが熟練のものであることが一目でハッキリ判った。
主催者の元で戦闘訓練を受けていたのか?
そう思案しつつティンが援護に駆け寄る間に、なおも『小の字』はヤマメに猛攻を仕掛ける。
舞うような動きで剣撃を放つ『つるぎのまい』は
左手のセラミックの剣と脚代わりのロボットアームを材木の様に切り刻み、
大気をバァンと突き破る速さの『まわしげり』は
一瞬ヤマメの脇腹に20センチもめり込み、金属の鎧をキラキラと紙クズの様に粉砕した。
ティンはたまらずその凶行に割って入る。
この場で遭った戦友であり、師でもあるあの男と同じフォームの飛び蹴りで。
バッタの跳躍力と脚力から生み出される恐るべき威力の蹴りが、『小の字』に向かう。
だが、命中の瞬間……『小の字』はティンの方を向き、ニタァという擬音の付きそうなおぞましい笑みを浮かべた。
『小の字』はティンの飛び蹴りを盾でヤマメに『うけながし』たのだった。
そして蹴りを受けたヤマメは潰れるような音を吐きながら水平に吹き飛ばされ……
大広間内壁に咲くいびつな赤い花となった。
『小の字』は壁にべったり貼り付けられたヤマメを見届けると
唖然とするティンの方を向き、またニタァと笑った。
309
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:48:00
ゴキブリの戦士とバッタの闘士がペアで死の舞踏を舞う。
リードするのは常にゴキブリ。
早回し動画のような、怖気の走るような機敏さで剣舞を舞う。
防戦一方のバッタ。手が出せない。
テラフォーマーズの身体能力、ヒトの生み出した戦闘技術に加え、剣そのものの切れ味も凄まじい。
刃筋を立てられた状態でアレを受けたら、金属の篭手ごと腕を斬り落とされる。
バッタの身体に刻々と傷が増えてゆく。
壁に貼り付けられたヤマメは、二人のペアダンスを前にしても動くことが出来ない。
文字通りの、壁の花。
だが、驚くべきことに、その花はまだ生きていた。
もってあと数分の命だが。
(苦しい。息が出来ない。胴体の半分ほどを潰されたみたい。
寒い。体の中……背骨の辺りがスースーする。恐らく『丸見え』になっているのだろう。
ティンは……まだ戦ってる?あたしも、立たなきゃ……。脚がもう無いんだった。
怪我が酷すぎて、全身の感覚が無い。
苦しいよ。あたし……死ぬのかな。嫌だ。死にたくない……まだ、死ねないよ。
ティン……!あのままじゃ、ティンまで死んじゃう……!
あたし達、あの油虫に殺されるの?そんなのヤだよ。
……せめてアレだけは誰かに頼めないかな。無理か。姫もユピーも先に進んじゃったし。
ああ、目が霞んできた……ティン、せめてアンタの…最期だけは……みとどけ………
………………‥‥‥‥‥‥・・・・・・・)
意識を失いつつあったヤマメは、壁に腰掛けるようにズリ落ちた。だが……
(チクッ!)
不意に、臀部に鋭い痛みが走る。
怪我の痛みはまるで感じないのに。
手放しかけたヤマメの意識が、引き戻される。
刺さったのは……針?
310
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:49:07
『小の字』の『正拳突き』を受け、吹き飛ばされたティン。
強固な鎧の上からはティンの攻撃が通用しない上、ヤツの剣の切れ味は一撃必殺。
剣に気を取られ、素手への注意が疎かになったティンに
いずれこのような結果が訪れるのは明らかであった。
倒れ伏すティンは、最後の賭けに出る。
すなわち、『薬剤』の大量投与。
バグズ手術被験者であるティンの体質を虫寄りに近づける『薬剤』は、
大量に使用することでより高い戦闘能力を得ることができる。
手持ちの『薬剤』の入った注射器をありったけ取り出すティン。
4本の注射器をまとめて握り締め、脚に突き刺そうとするが……。
『小の字』はそれを許さない。
剣を水平やや下、倒れているティンの頭にピタリと向け、腰を落とす構えを取った。
まるで切っ先を銃口に見立て、ライフルで狙い撃とうとするかの様に……
神速の刺突『しっぷう突き』の構えである。
事実、テラフォーマーズの身体能力で放たれる『しっぷう突き』の剣速は
恐るべきことに銃弾にも迫るであろう。
もはや注射を打つ数秒の猶予すらない……万事休すか。
ティンは歯噛みしながら、狙いを定める『小の字』と睨み合う。
その時突然『小の字』の身体がブレた。何かがぶつかった?
続いて『小の字』に命中した何かから伸びる紐がグルグル巻き付いてゆく。
これはヤマメの支給品!生きているのか!
ティンは脚に注射針を刺しながら、視界の端でボーラの飛んできた先を見やった。
311
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:50:12
そこに居たのは……やはりヤマメ!だがその変わり果てた姿は何だ!?
彼女は放射状に伸びる6本の細長い肢で身体を支えている。投擲のために振り抜いた右腕も同様の肢だ。
そして、臍から下には6本肢の付け根、
その後ろにつながった大きな卵のような胴体……あれではまるで本物の蜘蛛だ。
人間らしい姿が残っているのは……頭、臍から上の『人間の』胴体、そして左腕……
左手に握り締めているのは、予備の注射器か!
「ティン!まだ生きてる!?」
話は後だ、まずは目の前の奴を!
ティンに投与された大量の『薬剤』が効力を発揮しだした。
背中からスーツを突き破って翅が伸び、皮膚が黒く変色する。
ティンのDNAに組み込まれたサバクトビバッタの、群生相の形質が発現しているのだ。
だが太古の昔より恐れられた害虫・サバクトビバッタ……その群生相の、最も顕著な特徴は外見ではない。
それは……動物も植物も、進む先にある生物は全て喰らい尽くす獰猛さである!
「こんな所で、死ねるかァァ!」
『小の字』が巻き付いた紐を振りほどく一瞬の隙に、ティンは猛然と突撃。
暴力的な笑みを浮かべながら、一気呵成のラッシュを仕掛ける。
が、鎧の硬度とテラフォーマーズの頑強な肉体に阻まれ、殆どダメージは通らない。
しかし、『小の字』の身体はその勢いに後ずさりし、浮き上がり……遂には吹き飛ばされる!
吹き飛ばされた先には、ヤマメ!
……の眼前に張られた、蜘蛛の網!
網を振り払おうと、『小の字』がもがくが……
「罠符『キャプチャーウェブ』&スパイダーストリングス!」
ヤマメの両腕から放たれる糸が追い討ちをかける!
『小の字』の身体を繭のように縛り上げたヤマメは、そのまま……
「ふっ……!ぬうぅぅりゃあああああ!!」
そのまま『小の字』を無理矢理地面から引き剥がし、体ごと振り回し始めた!
徐々にその回転半径と速度は増し、部屋に唸るような風切り音が響く!
いわゆるジャイアント・スイング、いや、ハンマー投げの体勢!
仕掛けられる方の身体は回転方向を向いているため、何かが当たったら頭から全体重ごとぶつかる!
その体勢を見て……ティンが閃く!
「ヤマメ!そのままぶん回せ!」
「…!わかった!」
ティンは回転するヤマメを尻目に壁に跳躍!
三角跳びの反動と翅の羽ばたきで加速を付け、さらに身体の捻りを加えた……渾身の蹴りを放った!
「じょ、じょう…!「うぅぅうおおおお!らあああああああ!!」
本家もかくやという威力で放たれたティンの飛び蹴りは、円運動する『小の字』に絶妙なタイミングで激突!
その瞬間、『小の字』の顔に明らかな恐怖の表情が浮かんだ!
ティンの穿孔キックが黒くヌラヌラ光る頭部をバリバリと頭の先から粉砕!
さらに黒い破片と白い液体、そして、何だかよくわからない肉片を大量にブチ撒き散らしながら、
ティンの右脚がドリルのように『小の字』の首に滅りこんでゆく!
そしてティンの蹴りは遂に『小の字』の身体を縦に貫通し
後には正中線を抉られたテラフォーマーズの身体だけが残った。
緩んだ蜘蛛糸の繭の中で『小の字』の四肢がまだビクビク動いているが
それらに司令を送る神経はもう残っていない。もう戦うことは出来ないだろう。
312
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:51:06
「やれやれ、この油虫まだ動いてるわ」
ヤマメが6本の肢でティンに歩み寄る。
ティンは『小の字』の身体を突き破り、蹴り足を伸ばした体勢のまま地面に不時着していた。
「ヤマメ……その体は」
「アンタ達みたいなバグズ手術の被験者、とかいうのを虫の身体に近づける薬だっけ?
あたしもこう見えて一応蟲の妖怪だからね、一か八か、最期の賭けに使ってみたのよ」
「だが、アンタみたいな姿の変異は見たことがない」
「足りない身体の部品を補おうとした結果……一種の生存本能ってやつが働いたのかもね」
(それに、あそこであたしが諦めて何もせずに死んだら……あの蜜蜂に申し訳が立たないもの)
受け流されたティンの飛び蹴りをマトモに受け、絶命しかけたヤマメはあの時の事……
このバトル・ロワイアルに参加させられて間もない時にあった事を思い出していた。
その時ヤマメは休憩の為に腰を下ろそうとして、お尻を蜜蜂に刺されたのだった。
痛さのあまり跳び上がってお尻の下を見た時、
腸がちぎれて死んだ蜜蜂の他に、カブト虫が何かを運んで逃げていくのが見えた。
……あの蜜蜂は同族でもない仲間を守るために闘って死んだというのか?
それとも、カブト虫が運ぶ物体がそれほど重要だったのか?
今となってはその真意は知れない。
……だが、今重要なのはその内容ではなく、ヤマメが蜂に刺されるという、
何でもない一幕を思い出すに至った経緯。
その時ヤマメを刺した針は一旦抜き取られたが
スカートの布地の中に残っていた。
飛び蹴りを受けて壁に叩きつけられたヤマメがズリ落ちた時、その針が偶然刺さったのだ。
その時の針の痛み。注射針という発想。
そして……その時確かに聞こえたあの若い蜜蜂の
(諦めるな、アホー!!)
という檄。
あまりに荒唐無稽で人に話す気も起きないが、現在ヤマメがこうして生きているのは
あの一寸にも満たぬ蜜蜂の……魂のおかげであると実感していた。
313
:
名無しロワイアル
:2013/02/03(日) 22:55:37
「ってアンタ、それ……大丈夫なの?」
のんきに回想している場合ではない。
ティンのダメージが深刻だ。全身に切り傷・打撲を負っている。
特に『正拳突き』を受けた腹部のダメージは深刻だ。恐らく内蔵もただでは済んでいない。
だが最も致命的なのは……ティンの頭の輪郭を覆っていたキチン質の外骨格が
顔を侵食するかのように広がりだしていたことだ。
「やっぱり、こうなっちまったか……」
ティン他、虫の能力を組み込まれたバグズ手術の被験者は通常時、
手術の効果で相容れないはずのヒトと虫の肉体を共存させている。
だが、注射の効果で肉体が虫に近づいた状態が長く続きすぎると
ヒトの免疫機構の働きでショック症状を起こし、死に至る。
テラフォーマーたちや『小の字』との闘いで薬を使いすぎたことに加え、
肝臓および腎臓の一部を『小の字』の『正拳突き』で破壊されて
注射の成分を分解できなくなっていたティンの肉体のバランスは、歯止めなく虫に傾き続けていた。
「すまない……俺はもう戦えない。上には……お前一人で行け……
あの姫サンとユピーを、助けてやってくれ……
俺は、もう死んだことになってる人間だ……生きて帰っても
居場所がない……大事なヒトも……皆死んじまった……
俺には、もう何も無いんだ……
こんな所に連れて来られたけど……
アンタや、本郷さんみてえな奴らと出会えたのは、幸運だった……
……ヤマメ、お前は、生きて還るんだ……!」
ティンの呼吸が浅く、不規則になりだした。重度の免疫性ショックの症状だ。
ティンの頭部は、もう殆どバッタそのものになりつつあった。
複眼の中心の瞳と顔の傷に、わずかにヒトの面影を残すのみである。
そのままティンは天を仰ぎ、意識を失った。
ティンの『遺言』を聞いたヤマメ。……無性に腹が立った。
314
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:57:01
「諦めてんじゃないわよ、バカ!」
ティンの頬を左手で張り倒す。死なせてたまるか。
ヤマメはまず2個の核鉄を取り出し、祈るように、
それこそ願掛けの賽銭を投入するようにティンの胴体の傷口に押し込んだ。
パピヨンから聞いた話によれば、この金属塊は武器になるだけでなく、傷を癒す力もあるらしい。
何でも、潰された心臓の代わりとして機能した例もあるとか。
これを損傷したティンの臓器の代わりにする。
先ほどの戦闘でバルキリー・スカート、アンシャッター・ブラザーフッドは両方とも破損したため、
核鉄に戻った後もひび割れてしまっている。どこまでその効果を発揮してくれるかはわからない。
が……ビキビキとティンの身体が虫に変化していく音は止んだ……気がする。
それでも症状はまだ予断を許さない。
脈が不安定で、呼吸もか細い。虫の息だ。
胸の中心を押さえつけて心臓を無理矢理動かし、口移しで息を吹き込む。
周囲が妖怪だらけの中で生きてきたヤマメ。妖怪に蘇生処置が必要な状況などまず無いのに、
正しい方法など知るはずもないが、風の噂で聞いた方法をがむしゃらに試した。
何回かそれを繰り返した所で、ヤマメは気付いた。
ティンの身体が異常に冷たい。氷のよう……まるで凍死寸前だ。
ヤマメは意を決し
「瘴気『原因不明の熱病』……!お願い、効いて……!」
何と、熱病をもたらす病原体を少しづつティンに送り出した。
冷えた身体は熱病で温めればいいという、至極単純な発想。
消耗しきったティンの身体に、更に病原体を送り込むのが危険なのは百も承知。
だが、虫の様に、冷血動物のように冷えきったティンの身体に触れていると
何とかして温めなければならないと、ヤマメはそう感じた。
「『俺には、もう何も無い』なんて、そんな寂しいこと言わないでよ……!
あたしと子供を置いて逝くなんて、そんな冷たいこと言わないでよ……!」
顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、うろ覚えの蘇生行為を必死に続けるヤマメ。
その祈りは……その時、確かに、神に通じたのだった。
「今、何て言った……!?子供って……!」
「テ゛ィ゛ン゛〜〜〜〜〜〜!!」
ティンは遂に息を吹き返した。
だが、『子供』とは……!?
ようやく落ち着いたヤマメに、ティンは『子供』の意味を尋ねた。
ヤマメのデイパックから出てきたのは、プラスチックの直方体……昆虫飼育に使うケースだ。
その中には、糸に厳重に包まれ、さらに王蟲の漿液に浸された、野球ボール大の金色の玉が入っていた。
玉の中で何かの影が……動いたぞ!?
「あ、今ちょっと動いたよ!」
「まさか、子供ってこれの事か……!?」
「うん。あたしが3時間ほど前に産んだの」
「誰との子だ……?」
「しらばっくれないでよ。あの時アンタ、確かに『中』で出したでしょ……責任、取ってよね?」
ティンは再び意識を失った。
315
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 23:02:36
【黒谷ヤマメ@東方project】
[状態]:疲労(大)、妖力消費(大)
臍から下の下半身と、右腕がクモの姿
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:
体:ヤマメの服(破れています)@東方project
右手:ボーラ@パワポケ12秘密結社編
左手:メタルキングの剣@ドラクエ7(『小の字』より回収)、スパイダーブレスレット@スパイダーマン
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:女王蟻の肉団子@HUNTER×HUNTER(残り30%)、カイコガの幼虫@テラフォーマーズ(完食)
、タランチュラの素揚げ@現実(残り100%))、
メタルキングの盾@ドラクエ7(『小の字』より回収)、昆虫飼育ケース@現実、半妖の卵@オリジナル(現地調達)
アタッチメントアーム(破損)@仮面ライダーSPIRITS
[思考・状況]
基本:ティンと共に、生きて会場から脱出する。
1:『卵』を無事に持ち帰る。
2:先行した姫、ユピーと合流する。
3:自分が生還できない場合は、信用できる者の元に『卵』を託す。
【ティン@テラフォーマーズ】
[状態]:疲労(大)、全身の所々に切り傷と打撲(応急処置済み)
顔がサバクトビバッタの姿に変異
肝臓と腎臓の一部を損傷。ひび割れた核鉄@武装錬金×2により応急処置済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
腐海の菌類のカプセル除去済み
[装備]:
体:SPIRITSのコンバットスーツ@仮面ライダーSPIRITS
右手:メタルキングよろいの篭手部分@ドラゴンクエスト7(『小の字』より回収)
左手:メタルキングよろいの篭手部分@ドラゴンクエスト7(『小の字』より回収)
両足:クイックシルバー@ロマサガ2
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:毛ガニ@現実(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))、バグズ手術能力発現薬@テラフォーマーズ×6、
マグマ火炎砲@地球防衛軍2(弾切れ)
[思考・状況]
基本:仲間を守り、生きて会場を脱出する。
1:気絶中
2:セキニン、だと……?!
3:すまん、プロイ……。
大広間の片隅で、壁から顔を突き出したまま、沈黙していた王蟲。
彼女はまだ、死んでいなかった。……生きているとも言いがたい状態だが。
生死の境をさまよう彼女の声なき祈りが彼らを救ったことを、二人はまだ知る由もなかった。
【王蟲@風の谷のナウシカ】
[状態]:瀕死
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:ムシゴヤシの子実体@風の谷のナウシカ(完食))
[思考・状況]
基本:一人でも多くの参加者の生還。
1:……………………。
316
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 23:03:10
以上で投下を終了します。
317
:
名無しロワイアル
:2013/02/07(木) 00:26:28
人が居るか心配になってきたので…
勝手ながら、参加者を集計してみました。
◆Wue.BM1z3Y氏
DQFFロワイアルS XIII 完結
>>17
から3話連続
◆eVB8arcato氏
まったくやる気がございませんロワイアル
テンプレ、298話
>>33
◆nucQuP5m3Y氏
リ・サンデーロワ
テンプレ
>>44
298話
>>59
299話
>>122
◆6XQgLQ9rNg氏
それはきっと、いつか『想い出』になるロワ 完結
テンプレ、298話
>>46
299話
>>97
300話
>>174
◆9DPBcJuJ5Q氏
剣士ロワ
テンプレ
>>66
298話
>>137
299話
>>212
◆MobiusZmZg氏
素晴らしき小さなバトルロワイアル
テンプレ、288話
>>68
289話・序幕
>>161
289話・第一章
>>276
◆c92qFeyVpE氏
絶望汚染ロワ
テンプレ、288話
>>84
◆YOtBuxuP4U氏
第297話までは『なかったこと』になりました(めだかボックスロワ)
テンプレ、298話
>>149
299話
>>192
◆rjzjCkbSOc氏
謎ロワ
テンプレ
>>201
298話
>>234
299話
>>255
◆9n1Os0Si9I氏
やきうロワ
テンプレ、288話
>>206
◆tSD.e54zss氏
ニンジャスレイヤーロワ
テンプレ、288話
>>244
◆uPLvM1/uq6氏
変態ロワ
テンプレ
>>264
◆xo3yisTuUY氏
日常の境界ロワ
テンプレ、298話
>>265
◆XksB4AwhxU氏
虫ロワ
テンプレ
>>67
98話
>>302
318
:
名無しロワイアル
:2013/02/08(金) 00:27:37
>>317
乙です!
虫ロワは……その……最後の爆弾発言で全部吹っ飛んじまって感想がうまく纏まらないよw
319
:
FLASHの人
:2013/02/10(日) 01:49:35
>>317
まとめお疲れ様です!
素晴らしくわかりやすい!
立案者ながらなかなか顔を出せず申し訳ありません!読んでます!
まとめサイトとか諸々に手をつけないといけないのですが、ちょっと立て込んでまして
もう少ししたら始められると思います
完結済みの方はしばしお待ちを、俺を含め進行中の人は多くてもあと2話です、頑張りましょう!
320
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/02/20(水) 22:39:28
誰もいない……ちょっとネタを振ってみよう
アイム・ライアード「剣士ロワ最終話の完成度は63%と言った所です。
そして最終決戦はソードマスター形式で終わります」
取り敢えず、今月中には間に合いそうです。
321
:
名無しロワイアル
:2013/02/20(水) 22:59:01
>>320
「私は嘘つきです」さんに言われても……w
一行目だけは信用して良いですか?
322
:
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:48:23
なんとか創作意欲が復活したので、投下します。289話・290話をまとめて投下します!
323
:
やきうロワ・289話
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:48:52
ビルに入った日ハム小笠原はまず、人を探すことを先決とした。
この運営本部の奴らがいる場所ならばきっと誰かいるだろうと踏んだのだ。
だが、誰も見つかる気配がない。
「クッ……誰かいないのか」
ここ以外はもう禁止エリアとなる、というのは放送で聞いた。
だからこの場に既に人が集まっていてもおかしくはないはずだ。
嫌な汗が顔を伝って地面に落ちる。
もしかすると、もう生存者が6人ではなくなってしまったのだろうか。
殺し合いに乗っている人間が、すでにこのビルで誰かを殺して回っているのではないのか。
「――――ッ、なんだこれは!」
適当に探索をしていると、衝撃の濃い系が目の前に広がった。
目の前に、新井さん(なぜか阪神ユニ)の死体が転がっていた。
手には、放すものかと金本さんのグッズが持たれている。
「ひ、ひどい……誰が、こんな」
「フハハハ! どこかで見た顔だと思えば、小笠原さんじゃないですか!」
「ッ――――!」
後ろを振り向くと、日ハムのユニを着た青年が立っていた。
その顔には見覚えがあった。
印象がだいぶ違うが、ハンカチ王子と騒がれた斉藤祐樹に見える。
「小笠原さん、どうですか! 僕は最強なんですよ!!」
「まさか、新井さんは……」
「そうですよ! 僕が殺したんです、最強のボクに勝てるはずがありませんからね!!」
もはや、話が通じないような状態だ。
一体何が彼をここまで駆り立てられるのだろうか。
「フハハハ! 小笠原さん、かつて最強と言われたあなたを殺して、僕が真の最強となりますよ!」
「――――仕方ない、こうなったなら、俺も容赦はしない」
斉藤はナイフで小笠原を狙う。
対して、日ハム小笠原はバットを構えた。
その小笠原の姿はまるで、侍のようであった。
そして、渾身のフルスイングを放った。
すさまじい風が小笠原と斉藤の間に発生する。
斉藤はその風に負け、吹き飛ばされる。
壁に激突し、斉藤は動かなくなった。
「――――殺しはしたくない、でも……このまま彼を放置するわけにもいかない」
斉藤を身動きできない状態にしておこうと彼に近づく。
だがその瞬間――――。
グチャ、という鈍い音が耳に入ってきた。
324
:
やきうロワ・289話
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:49:09
「ッ――――!?」
「"最強"じゃないじゃないですか、こんなもので良く言えましたね。
所詮ピエロはピエロなんですよ」
「お前……なぜ、何故そいつを殺した!」
「プロの僕にとって信用できるのはプロだけだからですよ。
こいつはプロなんかじゃない、粋がってるだけのアマ同然だ。
どこかのチームの誰かさんたちと同じでね」
「なん……だとっ……!?」
実力がないから人を殺す……?
何をふざけたことを言っているのだ。
日ハム小笠原の目に怒りの炎がともる。
「ふざけるな……! 君は、人を殺して何も思わないのか……!!」
「そうですね、殺しすぎて申し訳ないですね」
「……ふざけるなよ、貴様」
「おやおやいいんですかね、正義の味方気取ってたのに僕を殺しちゃって……。
まぁ僕は今回も殺しただけですけどね(笑)」
「ふ、ざけるなああああああああああ!!」
小笠原の目には怒りしかなかった。
そして再びバットを構える。
しかし、先ほどの斉藤の時の構えより微かに鋭い何かが見える。
この畜生を生かしてはおけないと、小笠原の心が彼自身の構えを変えているのか。
「ッ、ああああああああああああああああああああああ!!」
そして、渾身のフルスイングを繰り出す。
だが内川は動じずにそれによる衝撃波をよける。
顔からは畜生さと余裕が伺えた。
「そんな萎びたようなスイングで僕が倒せるとでも思ってるのか?」
「クッ……」
「では、僕も本気を出させてもらいますよ」
そういいチックがデイバックからあるものを取り出した。
畜生バット――――チックバットとも呼ばれている彼の愛用バットだ。
主催陣営の一人である今江がある場所に隠したのをチックが見つけたのである。
「な……それは、規定違反ではないのか!?」
「規定じゃないぞ、だってNPBに公式に認められたんだからな(チックスマイル
それじゃあ死んでもらおう……あと6人のうち何人残ってるかは知らないがな。
横浜の犬6人と中日の岩瀬も合わせてこれで8人目だ、報酬だって余裕でもらえる」
内川はバットを構える。
ここまでか――――幾千もの戦いを切り抜けた侍も覚悟を決めた。
「うわああああああああああああああああああああああああ!!」 パンッ、パンッ、パンッ
叫び声や乾いた音を聞き目を開ける、すると視界にいたはずの内川がいなくなっていた。
いや、正確に言えば内川は目の前にいた。
頭や腹などから大量の赤い液体を流し、横たわった状態で。
325
:
やきうロワ・289話
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:49:25
「お前が……お前が岩瀬さんを……!!」
声がしたほうを見ると、銃を構えた血濡れの男がいた。
とても悲しそうな顔をしているのがガッツからもわかった。
岩瀬を心の底から尊敬している彼からすれば、怒るのは当然であろう。
「君は……」
「中日の、浅尾です……」
中日に浅尾という選手がいた覚えは小笠原にはない。
彼は、自分にとっての空白の時間の間にプロ入りした選手なのだろう。
「浅尾君、その血は……」
「僕は、もう許されないことをしました。 岩瀬さんや仲間のみんなが死んで……耐えきれなかったんだ……!」
「浅尾……君」
「でも、岩瀬さんを殺したと聞いて……僕は、許せなかったんです」
「わかってる……それに、内川君は許せないことをしたんだ。 許されることではないが、君のおかげで僕は助かった。 ありがとう」
そういうと浅尾君は窓の外を見た。
わずかに、拳銃を持った手が震えているのが見える。
今の彼は、悲しみやら苦しみの感情が混ざった状態なのだろう。
自分にはどうしようもない、彼自身の問題なのだと小笠原は思った。
「――――――――」
浅尾君が、何かを言った。
小笠原は最初何を言ったのか聞き取れなかった。
何を言ったのか聞こうとした――――
パァン
その瞬間、乾いた音が再び耳を刺激した。
【斉藤@日ハム 死亡】
【内川@ソフトバンク 死亡】
【残り2名】
326
:
やきうロワ・290話
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:49:50
気が付けば、暗い部屋にいた。
あの瞬間、何があったのか――――いまだ理解できない。
「起きろよ」
その声とともに、部屋に明かりが灯る。
そこは最初に集められた場所だった。
100人のNPB所属選手で殺し合いをしろと言われた場所。
彼――――小笠原にとっては困惑させられた場所だった。
2012年という、自分がいた2006年から数年過ぎた世界。
それが知らされた場所であった。
いつの間にか自分は戻ってきていた。
「お前は……主催の」
「そうだぞ、お前は最後の一人になった……それだけだ」
「ッ――――それじゃあ皆は」
「死んだぞ」
「……クッ」
残酷なことを、平気な顔して言いやがる。
コイツはどういう神経をしているのだ。
「お前らはなぜ、こんな殺し合いをしたんだ……理由を教えてくれ」
「ただのNPBの無能どもの余興だぞ」
「余興……?」
「殺し合いをして生き残った人間が本当にスターになれると勘違いしてるんだよ」
「なん……だと……?」
殺し合いをして生き残ればスター選手になる?
そんなふざけたことがあり得るはずがない。
選手が減ればそれだけファンはいなくなってしまうはずだ。
「まぁ、お前はこれで解放される……特別にお前は日本ハムに戻れるようにしてやる、感謝しろよ」
「――――お前に言っておいてやる」
「?」
「俺が、プロ野球を再び活気づけてやる……死んだみんなの分も」
「不可能に決まってるだろ」
主催の男はばっさりと切り捨てる。
だが、俺は本気で言っている。
この殺し合いで死んだ人の分もプロ野球を盛り上げる。
自分ができるのは、これぐらいだ。
こんな殺し合いをしたNPBの思惑通りに動くのは癪に触る。
だが、この殺し合いでプロ野球界は大きな打撃を受けるだろう。
327
:
やきうロワ・290話
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:50:14
「いや、不可能じゃない……俺が、プロ野球界のスターとして活躍すれば、きっと見てくれる人は増えるはずだ」
「――――好きにしろ、俺は知らないぞ」
そこで、意識が薄らいできた。
このまま眠ってしまえばどうなるのだろうか。
少なくとも……自分が死ぬというのがないことを願いたい。
だって自分は……プロ野球を、再び盛り上げなくては……なら、な……。
【生還者 小笠原@日ハム】
■ 数か月後 ■
『さぁ、やってきました……2013年日本シリーズ! 日本ハムVS阪神第4回戦です。
阪神甲子園球場は割れんばかりの歓声です! 最終回、1-2で阪神が1点リードしています。
抑えの久保康友、ランナーを2塁に背負ってバッターは今年日本ハムに年俸1500万という激安な遺跡をしたこの人! 小笠原選手!
今シーズンは三冠王を獲得し、チームをリーグ優勝に導きました!
先発のほとんどや主軸を失いながらも優勝できたのはこの人のおかげでしょう!』
俺は、阪神甲子園球場に立っていた。
観客は満員だった。
最初のうちは観客はほとんどいない、そんな状態になっていた。
だが、残った選手の努力により、ここまでこれた。
「さぁ……いくぞ!」
プロ野球ファンは、小笠原のことをこう言った。
『復活した侍』――――彼は本当のヒーローとなったのだ。
■ ■
328
:
やきうロワ・290話
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:50:48
「では、スポーツの時間です。 本日、日本シリーズの勝者が決定しました!
北海道日本ハムファイターズのみなさん、おめでとうございます!
それではこれまでの試合の結果をご覧いただきましょう」
阪神 ― 日ハム
1戦目 0 ― 10
2戦目 1 ― 8
3戦目 0 ― 12
4戦目 2 ― 3
合計 3 ― 34
【やきうロワ ち〜ん(笑)】
329
:
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:52:32
最後のがやりたかっただけとは言えないですが、投下終了です。
本当は普通のロワをやろうと思ってたけれど創作意欲がそっちに向いてくれないのです。
一応少しは書いてあるので2月末に完結できるまで書きあがった場合には投下するかもしれません。
330
:
名無しロワイアル
:2013/02/23(土) 23:04:26
>>328
なんでや!w
331
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:16:59
>>315
話に続き、
虫ロワの第99話、投下を開始します。
332
:
虫ロワ第99話
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:18:46
どうして、こうなった……。
うっすらと覚醒してきた意識で、ティンはあてのない思索にふけっていた。
どうしてこうなった……といっても、事の因果関係について、弁解はしないし、できるわけもない。
…ちょうど12時間前、リアルクィーンというシロアリをどうにか撃破した後のことだ。
あのシロアリには死に際に自分を殺した者の身体にこっそりと卵を産み付ける習性がある……
という情報を得ていた俺とヤマメは、戦闘後に身体の隅々までボディチェックを行う必要に迫られた。
そう……身体の隅々までだ。衣服や、下着の中もだ。
鏡などが手持ちになかったので、背中などのチェックは他者に任せる必要があった。
若い男女(ヤマメの年齢は知らないが)が、全裸で身体の隅々を互いにチェックし合ったのだ。
……その後ナニがあって『こうなった』かは、容易に想像のできる所であると思う。
だが、一つだけ弁明させて欲しい。……誘ってきた、というか、押し倒してきたのは向こうからだ。
……まさかヤマメまで卵生だったとは、その時思っても見なかったことだが。
「ん、目ぇ覚めた?」
ティンがため息をつくと、当のヤマメの声が聞こえてきた。頭の後ろからだ。
目を開くと、まだらに光る土の天井がゆっくりと流れている。
脚はスベスベとした丸くて大きな物体の上に乗っている。
腰からは6本の肢がトコトコと小刻みに歩く振動が伝わってくる。
背中が小さな肩に支えられている。
どうやらヤマメはティンを担いでアリ塚を登ってくれているらしい。
「生き返ったと思ったらまた急に気絶するんだもん。大丈夫?立てる?」
「何とか、な……」
腿と背中を固定していた蜘蛛の糸をペリペリ引き剥がし、ヤマメの背中から降りるティン。
自らの身体の異変に気付いた。頭が妙に重い。手で頭に触れてみると……。
硬い……のに、体温と感覚が直に伝わる。これは俺の皮膚なのか?
まさか……!両手で頭を撫で回し、輪郭を確認する。
「……!俺の頭!戻ってない?!」
「アンタ完全にバッタ頭になって死にかけてたのよ?
核鉄とやらをアンタの身体の中に押し込んだり、大変だったんだからね?」
333
:
虫ロワ第99話
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:21:25
腹をさすると、縫い合わされた跡があった。
ゴツゴツした塊が入っているようだが、不思議と異物感は感じない。
そして、全身をを動かしてみて気付いたのだが……
腹部以外のキズも、糸でくまなく縫合されていた。
「お前が手当してくれたのか……すまんな」
「人間のキズをそうやって手当したのは初めてだったんだけど、痒くなったりとかしてない?
流石にその頭は……どうしようもなかったけど。でもね、アタシその顔も結構好きだよ?
……美味しそうで」
「ソデで口元を拭いながら言ったら、シャレにならんぞ……」
「シャレで言ったつもりじゃないからね。
まあ、帰ったら腕の良い医者紹介してあげるから、それまでは我慢しな」
「帰るって、アンタの居た所にか?」
「言ったでしょ。責任取れって。それとも何?
あんたアタシを『後家蜘蛛の黒谷ヤモメ』にする気?」
「う……」
幼少の頃に幼馴染のプロイと別れ、故郷を捨ててストリート・チルドレンとなってまで彼女を探し続けたティン。
残される者の苦しみは身にしみて知っている。
その場の勢いとはいえ子供まで設けてしまったヤマメの言葉を
無碍にはねつけることなど、彼には到底できない。
再開の目を見ないまま、風の噂で病死したと聞いた幼馴染に、心の中で許しを乞うた。
(プロイ、すまない……やっと出来た友も、皆死んじまった……これ以上孤独になるのは
もう耐えられそうにない……だから……良いだろう?)
その時ティンの視界がかすみ、身体が大きく傾いた。
異変を察知したヤマメが叫ぶ。
「ティン!?」
第99話「コドク」
334
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:23:21
「まったく、脅かさないでよね……」
ティンは、極度の空腹で貧血状態に陥っていた。
テラフォーマーズとの闘いでエネルギーを使い過ぎたのか。
こんな状態では点々と続いているユピーのヒヅメをたどった先で起こるであろう戦闘にも支障が出かねない。
何か食べないと……デイパックを探ってみたが、だめだ、もう何も無い。
「なあ、ヤマメ。何か食べ物無いか?」
「ごめん……あたしも、自分のは全部食べちゃった」
「そうか……」
(あの『肉団子』は絶対に出せないし……ていうか、もう全部食べちゃったし……)
「今、何か言ったか?」
「い、いやっ、何も?」
「なら仕方ないな……」
仕方ない、我慢するか。
空腹のあまりゴキブリを生で食べた時に比べれば、この程度何ともない。
……とは言ってはみたものの、やっぱり減るものは減る。
胃袋がキリキリ痛むほどの空腹で、腹の虫が大音量で鳴り響いた。
それを見かねたヤマメが、
「こんなのでよかったら、あるけど…」
紙袋をおずおずと差し出すと、ティンはその中の揚げ物に夢中でかぶりついた。
うまい。
肢のカリカリとした食感に、プリプリした身の詰まった胴体が絶妙にマッチする。
塩コショウの加減も申し分ない。
やめられない、止まらない、とはこの事を言うのか。
あっという間の勢いで紙袋の中の『ソレ』を完食してしまった。
こんなに美味いものを出してくれた彼女に礼を言わなければ。
ティンは満面の笑み(の、つもり)でヤマメの方を向き、こう言った。
「サンキューな、ヤマメ。美味かったぜ。『タランチュラの素揚げ』」
335
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:24:10
彼の目の前には、今しがた平らげた生物と同じ身体を持った少女が居た。
(しまった……!)
だがヤマメは
「やだ……野性的……」
とつぶやき、そのまま顔を赤らめてうつむいてしまった。
なぜそんな恥じらうような反応をするのか?
どうやら気分を害してしまった訳ではないらしいが……
……ヨウカイとやらの考えることは、時々よく分からない。
彼女はつい先程まではヒトと変わりない姿をしていたはずなのだが……。
それにしても、乾き物を食べたせいか今度は喉が渇いた。
ティンは、既に支給された水を飲み干してしまっていた。
ヤマメに飲み物が無いか尋ねてみることにする。
彼女から微かにミルクのような匂いが漂ってきているのには気付いている。
牛乳か何かを支給されているのだろう。豆乳だったらなお有難いのだが。
「飲み物?水ならまだあるけど?」
「……何だか乳臭くないか?」
「牛乳なんて持ってないよ、あたし。……でも本当だ。乳臭い」
すると何かに気付いたヤマメはおもむろに黒い上着の襟を引っ張り、服の中、胸元を覗きこんだ。
「……!!さっきからどうも胸が張って変な感じがしてたんだけど……
……お乳出てる……」
その時、二人に……
……いや、アリ塚全体に地響きのような衝撃が走り
……直後、腹の底に沁み入るような、不吉な音色の重低音が響き渡った。
336
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:25:05
【黒谷ヤマメ@東方project】
[状態]:疲労(大)、妖力消費(大)
臍から下の下半身と、右腕がクモの姿、母乳が出始めた
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:
体:ヤマメの服(腰から下の部分が破れています)@東方project
右手:ボーラ@パワポケ12秘密結社編
左手:メタルキングの剣@ドラクエ7(『小の字』より回収)、スパイダーブレスレット@スパイダーマン
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:女王蟻の肉団子@HUNTER×HUNTER(完食)、カイコガの幼虫@テラフォーマーズ(完食)、
タランチュラの素揚げ@現実(完食))、
メタルキングの盾@ドラクエ7(『小の字』より回収)、昆虫飼育ケース@現実、半妖の卵@オリジナル(現地調達)
アタッチメントアーム(破損)@仮面ライダーSPIRITS
[思考・状況]
基本:ティンと共に、生きて会場から脱出する。
1:『半妖の卵』を無事に持ち帰る。
2:ユピーの残した足跡を辿り、先行した姫&ユピーと合流する。
3:上の方で戦闘が?
4:自分が生還できない場合は、信用できる者の元に『半妖の卵』を託す。
※女王蟻の肉団子@HUNTER×HUNTER、タランチュラの素揚げ@現実を消費しきりました。
【ティン@テラフォーマーズ】
[状態]:疲労(大)、全身の所々に切り傷と打撲(ヤマメの糸で応急処置済み)
顔がサバクトビバッタの姿に変異
肝臓と腎臓の一部を損傷。ひび割れた核鉄@武装錬金×2により応急処置済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
腐海の菌類のカプセル除去済み
[装備]:
体:SPIRITSのコンバットスーツ@仮面ライダーSPIRITS
右手:メタルキングよろいの篭手部分@ドラゴンクエスト7(『小の字』より回収)
左手:メタルキングよろいの篭手部分@ドラゴンクエスト7(『小の字』より回収)
両足:クイックシルバー@ロマサガ2
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:毛ガニ@現実(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))、バグズ手術能力発現薬@テラフォーマーズ×6、
マグマ火炎砲@地球防衛軍2(弾切れ)
[思考・状況]
基本:仲間を守り、ヤマメと共に生きて会場を脱出する。
1:ユピーの残した足跡を辿り、先行した姫&ユピーと合流する。
2:上の階で戦闘が?
3:セキニン、取らなきゃな
4:プロイ、許してくれるか……?
5:ヤマメの言っていたその医者に掛かれば、このバッタ頭も治るのか?
337
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:25:37
ユピーに震えながら掴まる姫。
どれだけの高さを登っただろうか。
姫の生まれた時代にこのような高さの構造物は存在しなかった。
複雑なアリ塚の構造も相まって、すっかり距離の感覚が判らなくなっていた。
階を上がるにつれて薄くなる瘴気の香り、そして大きくなってくる何者かの心の声だけが道標であった。
だが、その時は来た。
……近い。この階段を登った先に、声の主がいる。
その時姫に生じた感情は、安堵であった。
これ以上、この怒りの塊の傍に居続けたらそれだけで精神が圧し潰されそうだった。
ユピーも階段の先の存在に気付いたらしく、
「『ゆぴい』よ、わらわを下ろしてたもれ」
と言いかける姫を乱暴に床に下ろし、マントを脱ぎ捨てて階段を駆け登っていった。
一応護身用の武器は持ってはいるが、戦いとなれば彼女は全くの役立たずである。
できることといえば、巻き添えを食わないように隠れているぐらいのこと。
ユピーの怒りのオーラを間近で感じ続けて消耗しきった姫は
やっとの思いで物陰に潜り込み、マントにくるまると……そのまま気を失ってしまった。
【虫愛づる姫君@堤中納言物語「虫愛づる姫君」】
[状態]:肉体疲労(小)、精神疲労(大)ユピーの溜め込んだ怒りに恐怖
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:レイピアGスラスト@地球防衛軍2
右腕:レヴィ=センス結晶の腕輪
体:青き衣@風の谷のナウシカ
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:王蟲の無精卵@風の谷のナウシカ(残り20%))
オーダイ@サバイビー
不明支給品数個
[思考・状況]
基本:主催者を打倒し、生還する。
1:気絶中
2:『オーダイ』を持ち帰る。
3:ユピーが怖い。
338
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:27:07
ユピーが階段を駆け登った先で見たのは、無数の小さな足音と羽音を発散する黒い霧……
部屋一杯に蠢く数えきれぬほどの蟲の群れだった。
同僚であったシャアウプフと同質の、体を細かく分散させる能力か?
頭に浮かんだ疑問はすぐに消えた。
何故なら……
左肩に蓄積されたこの怒りのオーラが、今まさに大爆発を起こし
この蟲を全て消滅させ尽くすからだ!!
「うおおおおおあああああ!!死ぃにィィさらせああああアアアアaaaa!!」
咆哮とともに怒りのオーラが体に広がり、急速に圧力を増してゆく!
ユピーの全身がムクムクと積乱雲の様にドス黒く膨れ上がり、そして!
膨大な力は遂にピークに達し、刹那、破滅的な一息となって全方位に叩きつけられた!!
周囲の空間ごと無理矢理に弾き飛ばすかのように放出されたそのオーラの衝撃波は、
信じ難いことに呪印の力により威力の制限された状態で放たれたものである……!
だが、アリ塚を破壊できない程度までに弱められたその衝撃波は壁面・天井・床を延々反響して回り、
部屋中を駆け巡り続け、却って閉鎖空間における殺傷力を倍加していた。
爆発の衝撃とその余波はアリ塚全体を、暗澹とした音色を生む楽器に変貌させた。
(殺った、か……?!)
339
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:27:50
アリ塚の音色が収まった後も濃密な砂埃が生じ、視界が利かない。
怒りを放出し、醒めた頭でしばし様子を伺うユピーの予想は、砂塵の奥から聞こえてくる声で覆された。
「素晴らしい攻撃だった。
呪印で力を制限されているその状態で、防御の体勢を取ったこの私の体を5%も吹き飛ばすとはな。」
若い女の声。
だが、埃の中から浮かんでくる姿は……それとは似ても似つかない
ユピーの頭頂高の約2倍にもおよぶ巨大な球体であった。
よく見ればその表面には、蟲達が蠢いている。
このバトルロワイアルの主催者であり、参加者でもあるこの女……
シアン・シンジョーネの正体は、無数の蟲を依り代にしたアンデッド……レブナントなのであった。
彼女は、自身の肉体である蟲達を球状に密集させ、爆発のダメージを最小限に留めたのだ。
「その力、その怨念、正しく『魔王』の糧に相応しい。
貴様等キメラアントの王・メルエムの無念を晴らしたいと思うなら、ユピーよ。
その体と魂、これから喚ぶ『魔王』に捧げてはくれないか?」
目の前の蟲玉が何か言っている。ユピーにそれと言葉を交わす気はさらさらない。
だが、シアンの堅苦しくてそれでいて高慢な口調はどこか『王』に似ており
聞いているだけでユピーの怒りのオーラは再装填されていく。
次こそ殺す。再度の昇圧。再度の膨張。そして、再度の……!
球状の陣形を固め、再度シアンは防御の体勢に入った。
「聞く耳持たずか。だが、果たしてあと何発その攻撃を撃てるかな?」
340
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:28:38
シアンはユピーのオーラの消耗を見抜き、挑発する。
あと二、三発程度なら、この防御の陣形で十分に凌げる。
……が、再度の爆発、起きず。
膨張がピークに達しかけたユピーの体は急速にしぼみ、爆発の代わりに……
何百本もの触手が一斉に飛び出した。
それらは鞭のようにしなりながら球体と化したシアンに殺到する。
その一本一本が一流の戦士でさえ対処が困難な程の速度で迫る触手は、
瞬く間にシアンの身体にヒュンヒュンと絡みつき……
毛糸玉の様に、アリ一匹逃がす隙間も無く包みこんだ。
そして……
「うおらああああああああ!ブッッッ潰れろやああああああ!!」
ユピーは雄叫びと共に、毛糸玉から伸びる触手を有らん限りの力で引き絞り出した。
毛糸玉の表面が小刻みに震え出す。
ギリギリと自分の身体が軋み、所々から血が滲むのも、ユピーは意に介さない。
「うおおおおおおおおおおおお!」
ユピーは咆哮を上げながら、なおもシアンの身体を触手で締め上げる。
中からパキパキ、プチプチという破裂音が漏れ出す。
「ぬぅうううっ、がああああああああアアアアア!」
その叫びは、絶叫と表現した方が正しいか。
毛糸玉からどす黒い液体がジワジワと染み出しても、ユピーはまだ攻撃の手を緩めない。
「アアアアアアアア!オオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
ユピーの叫びは、いつしか慟哭へと変わっていた。その顔を汗と涙と鼻水と涎などが流れ落ちる。
毛糸玉からは何と湯気が上がり始めている。
急激な圧力の上昇・体積の減少により、内部の温度が上昇しているのだ。
341
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:29:26
ユピーの頬を涙が流れる。
王、今貴方の仇を討ちます。
憤怒、憎悪、怨恨、悲哀…あるいは歓喜か。
あらゆる感情が脳内に渦巻き、ユピーは半狂乱となっていた。
それ故に、シアンの肉体が圧壊してゆくにつれて、彼女の魔力が、
オーラが増大していくことを彼が感じ取ることは出来なかった。
シアンが『コドク』と呼ぶその儀式に、完成の時が近づいている。
【モントゥトゥユピー@HUNTER×HUNTER】
[状態]:オーラ消費(極大)、シアンを拘束中
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:
体:隠れ身のマント@パワポケ12秘密結社編
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:さぬきうどん@仮面ライダーSPIRITS(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))
地蟲@風の谷のナウシカ(参加者の死体、完食)
[思考・状況]
基本:殺す。
【シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編】
[状態]:瀕死、防御の陣形、ユピーに拘束されている、魔力上昇
結婚式ごっこにトラウマ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:レアモノの肉団子@HUNTER×HUNTER (完食))
[思考・状況]
基本:『コドク』の儀式の完成、そして……。
1:参加者の全滅。
2:参加者は、なるべく苦しめて殺す。
3:結婚式ごっこにトラウマ
4:顔を舐めまわされるのはもう勘弁して欲しい……。
342
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:30:26
以上で99話の投下を終了します。
盛大なネタかぶり?気にするな!俺は気にしない!!
343
:
◆c92qFeyVpE
:2013/02/24(日) 10:55:33
投下乙です!
ユピーの激情が見事……に対してヤマメ達はさぁwww
絶望汚染ロワ289話投下します
344
:
289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望
◆c92qFeyVpE
:2013/02/24(日) 10:56:37
『ねえ貴方、ちょっと聞きたいのだけど』
『何いきなり話しかけてるわけ?』
第一印象―――最悪。
『まあ、あいrすが俺のことを覚えてねえって言うんじゃ仕方にい。
俺のやることは変わんねぇからよ』
『さっきの私を守るって奴? 知らない相手に守ってもらうほど弱いつもりはないわ』
『守るんじゃない、守ってしまうのがナイト』
変な奴、これ以上彼を表すに相応しい言葉は思いつかない。
『フランドール……紅魔館の地下に幽閉されてる吸血鬼だったわね。
そんな奴の説得が彼女にできると思うの?』
『うむ、確かにフランはだいぶ少しばかり頭がヒットしちまうことが多いけどよ、それでも話の通じない奴じゃにい。
俺はフランと、フランを助けようとするさくらを信じるべ』
呆れるぐらい変な奴で。
『さくらと……こっちはフランドール? まさか二人共死んでるなんて……』
『―――くしょう』
『え?』
『ちくしょおおおおおおおお!!!』
それでいて、無駄に優しくて。
『ブロント……』
『剣崎とイムカは……死んだ。後はバベルの塔に乗り込むだけなんだが?』
『そう、マジックの方は手筈通りに上手くいってるはずよ。少し時間を置いてから向かいましょう』
『おぃィ? 準備完了状態なら今すぐ乗りこむべき、死にたくないならそうするべき』
『……その涙痕を消す時間をあげるって言ってるの』
どうにも放っておけない……変な奴。
◇
345
:
289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望
◆c92qFeyVpE
:2013/02/24(日) 10:57:23
(それなのに、こういう時は頼りにしたくなる……)
都合のいい話だろう、それは理解している。
それでもそう思わざるを得ない程に、彼の持つオーラは強く人を惹きつけるのだ。
マジックは先程から口を開こうとしない、ただぼんやりとランスの死体を見つめたまま動かない。
魂の汚染、この殺し合いの中で多くの犠牲を出してきたそれはアリス一人にどうにか出来るものではなかった。
だが今この場にいるのは二人だけ、ずっと側にいた騎士はここにはいない。
一刻を争う状況でアリスの思考が回り続ける、自分が一人で彼女を助ける方法がないかを探すため。
(言葉だけでどうにかなるような代物じゃない……けど、私の魔法じゃ魂の浄化なんて……)
どれだけ思考を巡らせようと、アリスの持っている手札にこの状況を打開する手段は存在しない。
無力感が込み上げ悔しさから、唯一動く左の拳を強く握る、爪が手の平に食い込むがその程度のこと気にも――
(―――あった!)
突然顔を跳ね上げ、マジックの手を取り無理矢理開かせる、
「っ……離して! もう、何をしたって……」
「いいから、黙って見てなさい」
抵抗するマジックには取り合わず、アリスは静かに瞳を閉じて記憶を辿る。
皮肉にも「本気」を出すことを意識したせいで、自分の力のみに拘っていた。
一人だけで解決する必要はないのだ、自分の力でダメなら別の誰かを頼ればいい。
そう、七色の魔法では浄化できない魂も、彼女の魔法ならば癒すことができるはず。
あのフランドール・スカーレットさえも心を開いたという、素敵な魔法。
それは―――
「出来たわ」
「………お饅頭?」
それは、【手の平から和菓子を生み出す魔法】。
自らのカロリーを媒体として和菓子を作り出す、たったそれだけの、小さな魔法。
『この魔法はね、今はいない……ボクが大好きな人達が使う、幸せに満ちた魔法なんだ』
そう言いながら、少し寂しげに笑っていたさくらの姿を思い出す。
あの時は使い道の無いくだらない魔法だと切り捨てたが、今ならわかる。
この魔法に込められた、何よりも尊い想いを。
「マジック、食べてみて。絶望してようが食欲ぐらいあるでしょう」
「っ……」
マジックが最後にまともな食事を取ってから丸一日経過している。
どれだけ負の感情に支配されていようと、空腹感までは消せはしない。
無理矢理渡された饅頭とアリスを交互に見て、恐る恐るといった様子で口元へと運ぶ。
ぱくり、と一口噛り――
「わ、美味しい……」
絶望に染まっていた顔が、綻んだ。
これこそがこの魔法に込められた想い。
346
:
289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望
◆c92qFeyVpE
:2013/02/24(日) 10:57:59
「相手に、ほんの少しの笑顔を与える魔法、か……」
胸元で桜色に光るペンダントを握り、小さな魔法使いへと想い馳せる。
「少しは目が覚めたかしら?」
「アリス……ご、ごめんなさい、こんな状況で、私は何を……」
「反省するのは後、今は上へ向かうのが先よ。
……私達は一人じゃない、必ずアム・イスエルを倒せるわ」
その言葉に力強く頷き返すマジックを見て、そっと胸を撫で下ろす。
今行ったのはクルックーの説法やリセットの「クラウゼンの手」と違い、ほんの一時の応急処置。
再び魂が汚染されるまでどれだけの猶予があるかわからないのだ、今は前へと進み続けるしかない。
「行くわよ、マジック!」
「ええ!」
◇
『SLASH』
『THUNDER』
『LIGHTNING SLASH』
「があっ……!!」
ブレイドの雷を纏った斬撃がブロントの体を捉えた。
堪らず吹き飛ばされ、その手から剣と盾がこぼれ落ちる。
『あー、こりゃ本気でマズイ』
「け、んざき……!」
「所詮こんなものかい、これで終わりだよ」
海東の言葉に従い、ブレイドが剣を振りかざしながらブロントへと駆け出す。
それを認識こそすれど、その手には迫る刃を防ぐ手立てが存在しない。
(すまにい……剣崎、俺は―――)
『ケンザキの事を、諦められるはずがない!』
「――っ!?」
347
:
289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望
◆c92qFeyVpE
:2013/02/24(日) 10:58:42
ブロントの命を刈り取るために振り下ろされた刃。
それは彼の寸前で動きを止めていた。
ブレイドがブロントを殺すことを躊躇った……などというわけではない。
「イムカ……」
それは機関銃であり、ライフルであり、大筒であり、剣でもある。
ヴァルキュリアを倒すために作られた武器、イムカの想いが込められた「ヴァール」によって、ブロントはブレイドの刃を受け止めていた。
「イムカ、お前……」
『ケンザキは私達を裏切っていない! ならば私も諦めない!』
「……そうだな、大分少しばかり諦めが心を支配している鬼になっていた」
「何をしているブレイド! 早くトドメを刺せ!」
海東の言葉に反応し、鍔迫り合いをしていたブレイドが僅かに間合いを取る。
「それにはどちらかと言うと大反対だな!!」
それを追いかけるように踏み込み、ブロントはヴァールを構える。
通常の人間よりも高い力を持つエルヴァーンと言えど、その巨大な武器を片手で扱うことは不可能だ。
だがナイトは片手剣しか扱えないわけではない。
それはブロントが好ましく思っていない、幻想郷に紛れ込んだもう一人のナイトの得意技、
常に響く笑い声と共に幾度と無く放たれた、伝説の突き技―――
「パワースラッシュ!!」
鋭く突き出された剣先がブレイドの体を捉えた。
しかし、ブレイドの装甲である超金属とヴァールの刀身では強度が余りにも違いすぎる。
ヴァールの全体に亀裂が走るのを感じながら、それでもブロントはその突きを止めようとはしない。
何故なら彼は知っているからだ、この武器が―――イムカの魂が、この程度で砕けやしないことを。
「おおおおおおおおおお!!!」
「馬鹿なっ!?」
ブレイドの装甲が砕け、その身にヴァールの刀身が突き刺さる。
これが剣崎一真であったなら、それでもまだ諦めずに反撃を試みたであろう。
だがディエンドに召喚された、魂の無いブレイドにそれだけの意思は持つことができない。
呆然と自身に突き刺さった刃を見て、その体を消失させていく。
「っ……は、はは! やはり僕の言った通りだったようだね!」
「海東……」
「結局キミも、友情より自分の命を選んだんだ!」
嘲笑する海東へと、ブロントは無言でヴァールを構え直す。
「そんな今にも壊れそうなガラクタで、僕を倒せると思っているのかい?」
「今のお前には何を言ってもわからないだろうな、まずはそのヒットした頭を冷やしてやる」
互いの獲物を相手に突き付け対峙する。
この状況ではブレイドとのダメージが大きいブロントの不利は否めない。
それでも、彼は一歩も退かず、仮面に隠された海東の瞳を見据えていた。
『ブロント……お前は、俺のようには、なるな、よ……』
(言われるまでもにい、俺がバーサーク状態になることなどありえないのは確定的に明らか。何故なら……)
「キミもいい加減に死にたまえ!!」
「ナイトは、相手の心も守るからよ!!」
348
:
289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望
◆c92qFeyVpE
:2013/02/24(日) 10:59:20
◇
「ふふ、流石騎士様、格好良いことを言うわね」
アム・イスエルはそう言うと魔法ビジョンを消し、部屋の入口へと視線を向ける。
後一分もしない間に二人の魔法使いはここへと到達するであろう。
だが、彼女はそのことに動じた様子は一切無い。
「ランス君の死体を見て持ち直したのは意外だったけど……」
呟き、視線を横へとずらす。
そこに立っているのはパステル・カラー、その瞳には一切の光が宿っていない、完全汚染人間の一歩手前まで来ているだろう。
「ふふっ、便りにしているわよ、パステル」
アム・イスエルのその背後。
そこにあるのは、巨大な魂の集合体―――【汚染塊】。
「さあ、魔法使いさん。一人の死は乗り越えたかもしれないけど―――100人の死をぶつけられたら、耐えられるかしらね?」
【バベルの塔・65階/深夜】
【アリス・マーガトロイド@東方Project】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(小)、右腕使用不能、魂汚染度60%
[装備]:上海人形@東方Project
[道具]:ミニ八卦炉@東方Project、さくらのお守り@D.C.Ⅱ、基本支給品
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、これからは「本気」を出す
3、ブロントのことは意地でもさん付けしてやらない
【マジック・ガンジー@ランス・クエスト・マグナム】
[状態]:疲労(小)、魂汚染度68%
[装備]:バルフィニカス@魔法少女リリカルなのはGOD
[道具]:ハニーの欠片@ランス・クエスト・マグナム、さくらのマント@D.C.、基本支給品
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、ランスのことは、今は考えない
【バベルの塔・55階/深夜】
【ブロントさん@東方陰陽鉄】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)インビンシブル1時間使用不能、フラッシュバックによる無力化の可能性、魂汚染度50%
[装備]:ヴァール@戦場のヴァルキュリア3、ガラントアーマー一式@東方陰陽鉄
[道具]:ブレイバックル@仮面ライダーディケイド
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、海東を止める
3、救うのではない、救ってしまうのがナイト!
4、カオスはどこかで捨てたい
【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
[状態]:疲労(小)、魂汚染度65%
[装備]:ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド
[道具]:ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、世色癌箱@ランス・クエスト・マグナム、基本支給品
[思考]:
1、最後まで生き残り各世界のお宝を手に入れる
2、ブロントを倒す
3、友情に価値なんてない!
349
:
◆c92qFeyVpE
:2013/02/24(日) 10:59:47
以上で投下終了です
350
:
◆Air.3Tf2aA
:2013/02/26(火) 20:21:40
【ロワ名】現代ジャンプバトルロワイアル
【生存者6名】
1.ポートガス・D・エース@ONE PIECE
2.小野寺小咲@ニセコイ【フラッシュバックによる無力化の可能性】【限界寸前】
3.赤司征十郎@黒子のバスケ【右腕切断】
4.杠かけがえ@めだかボックス
5.藍染惣右介@BLEACH【マーダー】
6.斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難
【主催者】
鶴喰梟@めだかボックス(獅子目言彦により殺害されている)
獅子目言彦@めだかボックス
【主催者の目的】自らの『欲望』を妥協して満たす
【補足】
・梟博士が捕らえていた獅子目言彦が暴走。優勝すれば願いが叶うという仕組みだけは残っていますが実質主催者は不在、言彦の殺害がゲームクリアーの障害となっている状況です。
・願いが叶う仕組みをどうやって手に入れたかは不明。梟亡き今知る者はなし。
・『主催者』鶴喰梟は主催本拠地の屋上で死亡している
ひとまずテンプレだけ。問題などあれば言いつけて下さいな。
351
:
名無しロワイアル
:2013/02/27(水) 00:20:19
剣ロワと虫ロワの蟲毒の儀式に精神汚染ロワの汚染塊……
共通点の多い設定だけにそれぞれどんな結末を目指すのか、見ものだなw
352
:
◆YOtBuxuP4U
:2013/02/27(水) 04:07:30
ちらちら他の方のを読んでるのだけれど、
虫ロワのヤマメちゃんがかわいくて仕方ない……なんということだ
っと、ずいぶん間が空きましたが、「第297話までは『なかったこと』になりました」を投下します!
※ただし本編ではありません!
353
:
XXX:死者スレ
◆YOtBuxuP4U
:2013/02/27(水) 04:10:50
???「……おはよう、球磨川先輩」
???「といっても、“ここ”には昼や夜の概念なんてないのだけれど」
???「少なくともたった今起きた相手に掛ける言葉は、おはようで合っているわよね?」
球磨川「……出迎えはきみひとりかい、赤さん」
???「ええ――」
赤青黄「――私ひとりよ、先輩(はぁと)」
赤青黄「他の子はあなたの顔なんて見たくないか、まだ続いてるお話に夢中だわ」
赤青黄「ほら、向こうのモニターの前。けっこうな人が群がっているでしょう?」
赤青黄「みんな知りたいのよ――自分が関わったお話の結末を」
赤青黄「あなたが台無しにして、それでも終わらせきることができなかった、夢の跡をね」
球磨川「そう、か……」
球磨川「つまりここは天国とか地獄とか、そういうのじゃないのか」
球磨川「……安心院さんは、こんな場所を用意してたってことなんだね…………」
赤青黄「ええ」
球磨川「どうりで。」
球磨川「どうりで不思議だったわけだ。」
球磨川「僕は≪大嘘憑き(オールフィクション)≫で死体の傷を『なかったこと』にしたけど」
球磨川「本当なら、死者の死そのものを『なかったこと』にしてやるつもりだった」
球磨川「でも出来なかった」
赤青黄「そう、出来なかった」
赤青黄「死体の傷は無くなれど、心までは戻らなかった」
赤青黄「この箱庭学園で最も大切なものである心だけは、取り戻すことが出来なかったのよね」
赤青黄「――それは“ここ”があったから」
赤青黄「“この場所”を安心院さんが創って――」
赤青黄「死んだ人の心が集まる“ここ”を、“学園外”と定義したから、よ」
赤青黄「球磨川先輩はずっとそれを“自らに課せられた制限”だと思っていたようだけれど」
赤青黄「気付くべきだったわね、どこかで。最初から間違えていたことに」
赤青黄「最初から――貴方が私と戦った、あの神経衰弱のように――勝負が決まってたことに」
354
:
XXX:死者スレ
◆YOtBuxuP4U
:2013/02/27(水) 04:11:48
球磨川「そうだね。……気付くべきだったんだ。僕は」
球磨川「僕は気付くべきだった――」
球磨川「僕がことを上手く運べるわけがないってことに、さっさと気付くべきだったんだ……」
赤青黄「ずいぶんとしおらしいですね、先輩」
赤青黄「お得意の格好つけも外して、ずいぶんと丸くなったご様子ですが――」
赤青黄「まだ貴方には仕事が残っていますよ(はぁと)」
赤青黄「ゲーム中、散々迷惑をかけた上、死体の尊厳まで侮辱しきった罪は重いですからね」
赤青黄「今から私と一緒に、全員に巡礼して、一人一時間謝罪の時間です」
赤青黄「箱庭学園の命を預っていた者として――私があなたを逃がしません(はぁと)」
球磨川「手厳しいね」
球磨川「まあ、いつの世も嫌われ者に対する態度なんてこんなものかな……」
球磨川「なまじ今回は僕が愚かだっただけに、余計に身に沁みちゃうなあ」
球磨川「わりとヒーローっぽく散ったつもりだったけど、迎えの数もひとりだけだしね」
球磨川『それについては全然、これっぽっちも気にしちゃないけど!』
球磨川「けほん……でも、そんな中で」
球磨川「僕のことを嫌いなはずの君が僕を迎えに来てくれたのは、少し驚くな」
球磨川「いつぞやの高貴くんの言葉はうわぁと思ってたけれど、君は本当は、本当に優しい子だったり?」
赤青黄「――そんなわけあるわけないじゃないですか」
赤青黄「少なくとも球磨川先輩に対しては、今も昔もこれからも、」
赤青黄「この赤青黄は軽蔑以外の感情を一切持ちませんので。安心してください(はぁと)」
球磨川「……だろうね」
赤青黄「それでもこうして迎えに来てあげたのは――伝言があるからです」
球磨川「伝言?」
赤青黄「保健室の赤衣の天使(レッドエンゼル)、赤青黄としてではなく」
赤青黄「安心院さんの端末の「悪平等(ぼく)」として、球磨川先輩に伝言があるからですよ」
球磨川「……!」
赤青黄「もちろん安心院さんからね」
355
:
XXX:死者スレ
◆YOtBuxuP4U
:2013/02/27(水) 04:12:46
赤青黄「さて、前置きは終わり。あなたが望む・望まないにかかわらず、」
赤青黄「今から私はその伝言を読み上げて――赤衣の天使(レッドエンゼル)に戻るわ」
赤青黄「3秒、時間はあげるから」
赤青黄「せめて地べたに座るのはやめて、ちゃんと立って聞くようにしなさい(はぁと)」
赤青黄「3」
球磨川「……やれやれ」
赤青黄「2」
球磨川「本人も“ここ”にいるだろうにわざわざ伝言なんて」
赤青黄「1」
球磨川「はは、よっぽど僕は見捨てられちゃったってことなのかな――――――」
赤青黄「<――――ごめんなさい>」
球磨川「……え?」
赤青黄「<本当に、申し訳ないと思っている>」
赤青黄「<僕がこんなことを言うなんて、どんな驚天動地が起ころうと思ってもいないことだったけど>」
赤青黄「<もしかしたらこの言葉は、今日僕がきみに言うために残されてたんじゃないかとすら思うよ>」
球磨川「――――おいおい。おい」
球磨川「ちょっとそれはないぜ――“それはない”、ぜ、安心院さん」
赤青黄「<きみは悪くない>」
赤青黄「<今回の件については――僕が、全面的に、悪かったと思う>」
赤青黄「<きみがしようとしたこと、その名誉に誓って>」
赤青黄「<僕がなぜこんなにも僕のことを蔑み、君に謝っているのか、その真意は明かさないでおこう>」
356
:
XXX:死者スレ
◆YOtBuxuP4U
:2013/02/27(水) 04:13:32
赤青黄「<それでも僕は。僕はバカだったと思う>」
赤青黄「<思慮が足りない、我慢がきかない、夢しか見てない――子供だったと思う>」
赤青黄「<だから僕はきみを迎えに行けない>」
赤青黄「<きみから逃げて死んだ僕はまだ、きみの言葉を聞く準備ができていないんだ>」
赤青黄「<だからせめて>」
赤青黄「<せめてこの、物語の結末を見届けるまで……悪いけど、待っててくれるかい?>」
赤青黄「<球磨川禊へ>」
赤青黄「<安心院なじみより>」
赤青黄「<2パーセントの愛情と、98パーセントの信頼を込めて。――嬉しかったよ>」
球磨川「……」
赤青黄「……以上」
赤青黄「感想はありますか? 球磨川先輩」
赤青黄「あるならその涙をぬぐって、5秒以内に答えておけば、あとで私から伝えておきましょう」
赤青黄「なあんて――野暮なことは言いませんけど(はぁと)」
赤青黄「どうせもうすぐ、終わりです。ゆっくり感情を整理してください」
赤青黄「……結局、貴方も安心院さんも、そして私も。だれもがみんな、子供だったのかもしれないわね」
赤青黄「夢を作って、それを追って、勝手に失望してしまったり」
赤青黄「誰かの夢を叶えようとして、空回りしてしまったり」
赤青黄「くだらない意地の張り合いにいつまでも付き合って、でも割と楽しい気がしてしまったり?」
赤青黄「全く――融通の利かないというか、一筋縄ではいかないやつらだわ」
球磨川「……でも僕は」
球磨川「僕はそいつらのそういうとこ、嫌いじゃないぜ」
赤青黄「奇遇ね。私もよ(はぁと)」
赤青黄「まさか球磨川先輩と意見が一致する日が来るだなんて」
赤青黄「死んでも無いと思ってたけど、ふふ、案外、死んでみるものね」
球磨川「……さっき、もうすぐ終わりって言ってたけど」
赤青黄「ええ。ほら、モニターを見れば分かるわよ。もうすぐこのバトルロワイアルは終わるわ」
赤青黄「ああ、さっきは球磨川先輩、ずいぶんしおらしくなってましたけど――」
赤青黄「この結末を見てもそんな腑抜けた態度でいるのなら、もう少し私は貴方を軽蔑しちゃうかも?」
357
:
XXX:死者スレ
◆YOtBuxuP4U
:2013/02/27(水) 04:14:39
球磨川「……」
球磨川「――これ、は」
赤青黄「1、優勝エンド。」
赤青黄「2、脱出エンド。」
赤青黄「3、全滅エンド。」
赤青黄「バトルロワイアルの終わり方は、この3つのどれかに当てはまると言われているけれど」
赤青黄「今回は、全滅エンドね。」
赤青黄「ただし――きっと世にも珍しい、通常ならありえない、そんな全滅エンドだわ」
球磨川「……なんとなく、僕が“ここ”に来て、君と会話してる理由が分かった気がするよ、赤さん」
赤青黄「あら本当かしら? なら話が早いわ、さっさと言ってちょうだい」
赤青黄「そう、今回先輩は、無理して戦って、しかも最後に消えちゃったもんだから――」
球磨川「そう、僕は」
球磨川「今回に限っては一回も、あの言葉を使わずに死んでしまった」
赤青黄「グッド。じゃあほら、ハリー、ハリーよ、球磨川先輩。あの五人がまだ生きているうちに」
赤青黄「あなたに“勝った”あの五人に、ここから負け惜しみを言ってあげなさいな(はぁと)」
球磨川「――――ああ、そうだね」
球磨川「あー。改めて言うと、随分きざな言い回しだけど」
球磨川『僕はこれでも、けっこう演技派な自負はあるから、カッコよく言おうか――』
『――“また勝てなかった”。』
球磨川『もし生まれ変わったら、今度こそ、勝つ――――なんて、どう?』
赤青黄「一言余計なとこまで含めて、すごく球磨川禊ですね」
赤青黄「……まあいいでしょう。じゃあ、あとは任せましたよ」
球磨川『?』
赤青黄「貴方には言ってません。さ、付いてきなさい(はぁと)謝罪の旅は長いですよ(はぁと)」
球磨川『ちょっと赤さん、耳は引っ張らないでくれない!? 痛、いた、アタタ……』
358
:
XXX:タイトルコール
◆YOtBuxuP4U
:2013/02/27(水) 04:16:19
◇◆◇◆
???「さて、みなさんここまでこのロワを読んでくれてありがとう」
???「最後のタイトルコールをするのは、当然この僕に任せてもらおうかな」
???「7932兆1354億4152万3222個の異常性と」
???「4925兆9165億2611万0643個の過負荷」
安心院「合計1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを持った“悪平等”――この安心院なじみにね」
安心院「いやまあ、ここまでの2回のタイトルコールも言ってしまえば僕だったんだけどね」
第298話「こんなふうにスキルで名前を変えて」
第299話「タイトルのときだけこの死者スレからちょっとお邪魔してたと言うわけさ」
安心院「……こらそこ、そんな裏話は別にいいから本編はよ!とか」
安心院「あんまり人が泣いちゃうようなことを言うもんじゃないぜ……?」
安心院「これでも今ちょっと精神的にダウンしてるところなんだからさ」
安心院「さて」
安心院「前座にしてはずいぶん長く喋ってしまったけど――そろそろ名残惜しさにお別れを言わなきゃいけない」
安心院「僕が殺した少女たちの結末を、せめて君たちだけは覚えておいてくれ。」
安心院「さあ、第300話――」
第300話「ウソツキハッピーエンド」
◆◇◆◇
359
:
◆YOtBuxuP4U
:2013/02/27(水) 04:19:05
投下終了です。死者スレは本編に入りませんね?入りません。
本編は今から書くので2月中に投下できたらいいなあと思います。
360
:
名無しロワイアル
:2013/02/27(水) 08:31:28
うっわ、そんな手があったのかwww
らしいなぁ、投下乙です
361
:
名無しロワイアル
:2013/02/27(水) 15:39:55
あれ?まだ参加受け付けしてたっけ?
362
:
名無しロワイアル
:2013/02/27(水) 15:45:17
受け付けてなかったと思うけど、そういうふうに見える告知ってどっかであったっけ?
363
:
名無しロワイアル
:2013/02/27(水) 21:22:00
>>9
>>10
のあたりのレスを参考にすれば……参加表明期限はそこまで厳密でない
とも解釈できるかなぁ
364
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/02/27(水) 23:40:02
死者スレ! その手があったか!!
後、剣士ロワ最終話、ペース配分ミスで今月中は無理っぽいです。
事前にハーマルくん使って告知しておいて申し訳ありません。
UX発売前には仕上げなければ……!
365
:
FLASHの人
:2013/02/28(木) 00:13:38
どもです。
今から参加?別にいいよ?(えー
短期決戦で2.3作完結すりゃ形になるだろうと思ってた認識の甘い自分を戒めるべく
もういくらでも迎え入れます。来るものウェルカム去るもの捕縛。
大丈夫大丈夫。多分大丈夫。
366
:
リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」
◆nucQuP5m3Y
:2013/03/07(木) 02:55:39
「よぉ……そろそろ……限界か?」
ゼクレアトルは体に傷こそ負っていないものの、息も絶え絶えに生存者に問う。
ここ部屋に突入した時には六人だった生存者は、地に伏した恋川春菊と霊幻新隆を除き今は四人。
その四人のうちでも蝉が脇腹を大きく抉られておそらくはもう戦うことは適わない。
無理やり巻いたパーカーの厚手の生地を染み透してなお滴る血が刻限を示すかのように床に赤い水溜りを作り続けている。
「まだまだ……そっちこそ、限界が近いんじゃないの?」
春瓶はぐっと歯を食いしばって、口の端を上げてみせる。
三体目の世界鬼を撃破した時、この部屋に「世界鬼の世界のルール」が適用され、具現化が可能となった頼もしい相棒、ハイドも彼に倣って笑う。
「そうだぜ三下、俺達呪術人形に似たその体、いつまで保つんだ?」
「わかっちゃいたんだけどな、制限がなければ、俺を倒すことは不可能だから……」
ゼクレアトルもまた、薄く笑って手を床にかざす。
ぼうっと光った手に呼応するように、同じく光った床から加湿器のように上がった霧が形を成して春瓶達を見下ろした。
「霧の妖怪シュムナ……さあ、斬っても突いても効かないこいつは……どう凌ぐ?」
シュムナがその体で壁や床をじわじわと溶かす様を見せ付けるように部屋中に広がると、ゼクレアトルはまたも問うた。
「気にいらねぇぜ……この期に及んで、こんな奴だとはよ!!」
一喝。
ハイドの手に握られた「荒くれ鎖鋸(テキサスチェーンソー)・暴(ハリケーン)」が床に螺旋を描く用に傷を刻む。
その傷から吹き出した暴風はそのまま渦を巻いて部屋の中心に天井へと登る竜巻を作り上げた。
「お覚悟!!」
その暴風に巻き込まれ、霧の体を一本の筋として部屋の中央に繋ぎ止められたシュムナに向かったのは鉢かつぎだ。
先刻、春瓶より託された獣の槍を飲み込み、その体を槍へと変化させて雷の如く竜巻の中心へと飛来する。
一閃。
「ぐおぉぉぉぉ」
斬れず突けずの霧と言えど、極印を込めた退魔の槍に体を侵食されたのだ、当然の如くそれは致命の一撃となった。
激しい戦いに崩れた壁の隙間から差し込むまばゆい光。
その光の中に散るように、シュムナは消え失せ、場には静寂と緊張が戻る。
367
:
リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」
◆nucQuP5m3Y
:2013/03/07(木) 02:56:40
「わかってると思うが……」
ふっ、と軽く息を吐いて、ゼクレアトルは世間話をするように軽い口調で語り出した。
「俺様はこのままお前らの敵として消える運命だ。あらゆる世界から脅威を呼び寄せて、お前らに差し向けるこの力を使いすぎて。あるいはお前らの誰かに殺されて、な」
生存者たちはそれに応えない。
全員が明らかなゼクレアトルの消耗には気づいていたし、終わりが近いことを感じていた。
それでもなお、気を緩めることは敗北に繋がると、この会話もまた罠ではないかと警戒を怠りはしなかった。
「さて……それはともかくとして、だ……なぁ、さっきお前たちが開放したあの世界。あのガシャポンみたいな玉。俺様の頭の上にも浮いてるこれ。なんて言うか知ってるか?」
「しらねぇよ!早く死ね!」
蝉の悪態を無視してゼクレアトルは笑う。
「これはな『宇宙の実』って言うんだ。実って言うくらいだ、樹に生るんだぜ、これ」
今度は蝉も沈黙で返す。
「それと、そこに倒れてる男、恋川な。そいつ、必殺技があるんだ。『慈愛斬り』っつってな、痛みを感じる間もなく相手を粉微塵に斬り刻むすげえ奴が」
沈黙。
ゼクレアトルが話しかける彼らには、ゼクレアトルの意図がわからない。
「質問だ、何で恋川はそれを使わなかった?『現時点で』アイツが使える最も強力な技なのに?」
「……もう、技を使えないほどに消耗なされていたからでしょう」
しばらくの沈黙に、返答なくば状況が進まないと判断して鉢かつぎが答える。
「なるほど、納得できる理由だ。だが、こうも考えられる」
ゼクレアトルは己の頭上に浮かぶ球を手にとって、言った。
「恋川はその技を『知らなかった』……俺様がこの球の名前を『知らなかった』ように」
「知らな……い?」
混乱。
今度はゼクレアトルの言葉の意味がわからない。
彼は言う。
恋川は自分の最も強い技を知らなかったと。
ゼクレアトルは己が司る頭上の世界の名称を知らなかったと。
「そうだ、知らなかった。俺様は今は『知っている』けどな……さて、賢い蝉、意味、わかるか?」
「ヒニク言いやがって!どーせバカだよ!」
大声を出して傷の痛みに体を折る蝉を愉快そうに見て、ゼクレアトルはこう続けた。
368
:
リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」
◆nucQuP5m3Y
:2013/03/07(木) 02:56:57
「つまりだ、この世界に入ってくる情報が更新されている。俺たちが戦い始めた時にはまだ存在していなかった情報が、今は入ってきているんだ。どういうことか?簡単だ。
俺達の世界はまだ続いている。ムシブギョーも、ゼクレアトルも、月光条例も、神のみぞ知るセカイも……なぁ、ハクア」
「クッ……!」
またも羽衣で姿を消し、ゼクレアトルの背後を取っていたハクアは、呼びかけられたことに警戒して振り下ろしかけた鎌を退いて距離をとる。
「お前ならわからないか、桂馬ほどじゃなくても頭脳派のキャラだ。俺様の言っている意味が」
「意味……?」
構えは崩さず、あくまで警戒したままハクアは呟く。
これがただの時間稼ぎや罠だった場合を考え、平行して一瞬でも早く決着をつける策を練りながら。
「ま……さか……」
しかし、固まりかけていたその策が吹き飛ぶほどの結論が、彼女の脳裏に閃いてしまった。
それは決して認めたくない、しかし抗えない説得力を持った推論だった。
「この世界は……借り物……」
「そうだ、この世界は、勝手に進んでいる、借り物の――――――――」
369
:
リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」
◆nucQuP5m3Y
:2013/03/07(木) 02:57:17
世界が
途切れた
370
:
リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」
◆nucQuP5m3Y
:2013/03/07(木) 02:57:50
俺は一体、何をやってるんだ……
目の前に重ねられた原稿に目を落とし、自問する。
俺が今、つい今しがたまで描いていたのは、二次創作の同人誌の原稿だ。
来月開催のイベントにむけて、長年やりたかった好きなキャラクターでのバトルロワイヤルパロディ……
だったはずだ……
描き始めた手は一向に止まる気配を見せず、勢いに任せて描くも描いたり300話……
予定だったはずの「来月」は二年も前に過ぎ去り、同じイベントに二年越しで新刊として出そうと思っていた。
その最終話を勢いのままに描いて、あと少しで完成のはずだった。
「はずだった」「予定」は現時点を持って全てストップ。
メタ発言を華麗に決めるはずだったゼクレアトルは沈黙し、それ以上の言葉を発することはない。
こんなに楽しく、ライフワークのように次々に描いて来たのに、今になってどうして手が止まるのか。
わからない、まさか無意識のうちに完成してしまうことを拒否しているのか。
いや、それは違う。
299話目を描き始めたとき、ついにやりたかった全てをぶちまける最高の快感を感じた。
300話を描いている時だって、物語を終わらせられることが誇らしくて仕方がなかった。
だったらなぜ、なぜ今俺の手は、思考は止まっているのか。
ほら、続きを話すんだゼクレアトル、この世界は借り物で、そして、この物語は……
371
:
リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」
◆nucQuP5m3Y
:2013/03/07(木) 02:58:09
そうか、そうなのか。
俺は気づいてしまった。
この借り物の世界が、偉大な先生方が悩みに悩んで作ったキャラクターと世界観を借りてきただけの二次創作が嫌になったんだ。
いや、嫌になったというのは厳密には違うかもしれない。
二次創作っていうのは読者の自然な感動の発露の一つだ。
あの魅力的なキャラを、あのかっこいい設定を、あの憧れの世界を自分の手で動かしてみたいという、ごく健全な行為だ。
だったら、俺はなぜ、もうこの話を描きたくなくなっているんだ。
そうだ、そうなんだ。
こんな素敵なキャラや、設定や、世界を、自分の手で生み出してみたくなってしまっているんだ。
もう、借り物では満足できなくなってしまったんだ。
372
:
リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」
◆nucQuP5m3Y
:2013/03/07(木) 02:58:28
それから俺は、今まで描いた全ての原稿を、1話ずつ大切に茶封筒に入れていつでも読める位置に保管してあるそれを、ダンボールに詰め込んだ。
描きかけの、終わることのない300話目も、一つの封筒に入れ、箱に入れて封をした。
そして俺はまた白紙の原稿用紙を取り出す。
溢れて溢れて仕方がないアイデアを傍らのノートに書きなぐりながら、自分の創作意欲をペンに乗せて白い紙に叩きつけていく。
ああ、なんて楽しい。
生み出すことはこんなにも喜びに溢れている。
373
:
リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」
◆nucQuP5m3Y
:2013/03/07(木) 02:58:44
いつか、自分が胸を張って世に送り出せる作品が描けたら、もう一度あの箱を開けよう。
そうしてあのキャラクターたちに、借りてきたあの素晴らしき世界の全てに感謝をしながら、描けなかった続きを描こう。
物語は完結するべきだ。
しかしそれは、作者が完結させるべきだと思ったときに完結すべきだ。俺はそう思う。
それがいつになるかはわからないけど、いつか出来る。俺は、出来るようになりたいんだ。
【リ・サンデーロワ 未完結】
374
:
リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」
◆nucQuP5m3Y
:2013/03/07(木) 02:59:02
「なぁ、最高の名作の条件って奴を知ってるか」
「売れることか?高い評価をされること?それとも誰もが名前を知ってることか……違う」
「違うんだ。名作かどうかはそんなことで決まらない」
「いいか、名作ってのはな、『読んだ奴の人生を変える』んだ。そして『人生を変えられた奴が、変えた本を名作と呼ぶ』んだ。それだけなんだよ」
「だからよ、この物語は、間違いなく名作だ。名作に、今、なった」
【完】
375
:
◆nucQuP5m3Y
:2013/03/07(木) 02:59:47
以上で投下終了です!
これ本当のロワでやったらボッコボコの奴やで!
376
:
名無しロワイアル
:2013/03/07(木) 16:41:20
こういう落ちか……これは予想外、というより予想できるかw
何にせよ完結乙でしたー!
……ところで、まだ新規参加は有りなやつですかね(震え声)?
377
:
名無しロワイアル
:2013/03/07(木) 16:44:00
追いついた―!
>>207
>>323
>>326
やきうロワ
やきうでカオスというからムネリンロワの系列かなと思いきや、ネタは使いつつも割りと最後まで一般人ロワしてた印象
一般人ロワだからこそ、主催者倒して大勝利!ってのじゃないんだけど
でも主催者への宣言とか込で小笠原がヒーローしてくれたから中々さわやかな最後だったと思う
>>213
剣士ロワ
ぶっちゃけすんげえ好みです
書き手自身も言ってたようにSDガンダムしまくっているところがw
上手いんだよなあ、SDガンダムじゃないキャラがSDガンダムするそのクロスがw
ゼロVS逞鍛の正義の力とか天の刃とか虎燐魄オキクルミとかすげえよ
ってか、ちゃっかり語られてる爆心烈火武者頑駄無とか、ジェネラルジオングとかどれだけSD好きをニヤニヤさせんだよw
そして、それが故にSDガンダムしていない、でも熱い修羅同士の戦いがいい意味で浮いてるんだよな―w
まじでこいつらには光とか闇とか関係なくただ剣士として目の前の剣士と戦ってるんだなってのが伝わってくる
それだけにこの決着にタクティモンじゃないけど慟哭したくなる
>>233
>>255
謎ロワ
どういうことなの……。
まじどういうことなの!?
つうかこれ、どう終わるか想像つかないんだけどwww
流石“謎”ロワw
>>244
忍殺ロワ
おお、すげえ、投下形式からして忍殺だ(150字区切り
他のだれでもないニンジャスレイヤーだからこそ、本人もブッダに感謝していたように、本編でスレイしたニンジャとの共闘ってのが夢の展開だよなw
しかもその理由もキョジツテンカンホーとか、ドラゴン先生とかをうまい具合に拾ってて納得できるしw
その二人でぼこってもぼこってもなデスドさんはマジしぶとかったなー
っつうか主催者てめえかよwww 荒木やZUNほど元のキャラ濃かったっけ―!?w
最後の振りといいどうなんだろこれ
>>266
日常の境界ロワ
やばい、この阿部さんになら掘られてもいいかもしんない
謎ロワとかの阿部さんが一般化されがちだけど、原作(?)じゃすごいいい男だってのはやる夫ロワの時から聞いちゃいたが
この阿部さんは本当にかっこよかった。男だからこそ惚れるわ
単にかっこいいだけじゃなくてちゃんとゲイとしてかっこいいのがすげえ
多分これ、阿部さんとしてかっこいいんだろなー、原作しらんけど
というか絡み方もうめえよw
非生産的とか、薔薇とか、ルカ子とかw
直接出番ないのにいおりんやゆきぽとの関係もなんか伝わってきて、いい阿部さんの最終回でした!
>>276
Splendid Little B.R.
箱庭に舞い降りてつもりゆく雪は桜となる
全編通して描写されてるそれこそが、きっとこの話の全て
読んだ今感じているこの想いを言葉にはできないだろう
多分これは感想は書きにくい話だと思うけどとにかく綺麗だった
愛そうとして愛せない花白と、愛せなくとも愛せるまで噛み砕くテトリス
多分それは残酷でも優しいんだと思うんだ
>>302
>>332
虫ロワ
あれ、外見やら設定やらでかなりがっつり虫要素持ち多いのに、なんか普通にかっこよかったりラブコメってたりしてるー!?
フルアーマーヤマーメのクロスオーバーっぷりやべえw
ってかティンも何気にヒーロー装備がいい具合にクロスオーバーの成果だしw
そんな二人がラブコメってる傍らでシリアスに最終決戦しているユピーらに謝れw
虫ロワ故に蠱毒が正しく蠱毒なんだよなー
ここはここで、ラブっている奴らのせいでオチが読めないw
>>344
絶望汚染ロワ
絶望だとか汚染だとかそういうのがテーマだからこそ、桜の魔法よりもほんのちょっとだけ笑顔にしてくれる和菓子とか、黄金の魂の塊なナイトが意味を持つんだろうなあ
アリス負けるな、ブロント負けるな、マジック負けるな
>>353
めだかロワ
死者すれ!?
この発想はなかった!
たしかにこれなら後三話縛りも破ってないし、しかもなかったことになったこのロワだからこそでもあるし、ナイス発想!
うわあ、最終回も楽しみだああ!
>>366
リ・サンデーロワ
エタ―で、だけどエンド
思えばこの最後のためにタイトルにリ・ってつけてたのか
たしかにこれもまた、三話完結でしか出来んw
消滅設定にしろ、最後にしろ、最初から最後までこの企画ならではのロワだった
ところで、 ◆nucQuP5m3Yさん? 早くオリジナル書きましょうよ。え、そういうことじゃない?
これ、書き手をさらにメタ書き手が書いているっていう構図なんだよな―w
作中作者さんが新たな未来に進んで人生変わって、だから名作になったんで、【完】
名作としてここに完成したからこそ、確かに完結してるんだよな―。未完なのにw
378
:
名無しロワイアル
:2013/03/07(木) 16:47:49
こりゃたしかにホントのロワでやったらキレるわw
ここだから出来るネタ、って感じのネタで上手いなぁ
最後の名作の条件とかゼクが言いそうな感じの締め方だし。
未完、乙でした。
>>376
>>365
らしいですぜー
379
:
◆ULaI/Y8Xtg
:2013/03/07(木) 18:41:03
ではではテンプレ投下ー。
ぶっちゃけロワかどうか怪しいけどまあ、殺し合いにはかわりないし((
【ロワ名】ダンガンロンパ―もういっかい! リピート絶望学園♪―
【生存者六名】霧切響子/不二咲千尋【フラッシュバックの危険性】/日向創/七海千秋【プログラム体としての限界寸前】/狛枝凪斗【右腕欠損】/田中眼蛇夢
【主催者】江ノ島盾子アルターエゴ
【主催者の目的】一度は希望を手にした者達が、何もかも忘れて絶望する様を見たい
【補足】・会場は希望ヶ峰学園、ジャバウォック諸島。なお、希望ヶ峰学園内部以外は侵入禁止となり、侵入した場合は徘徊しているモノケモノに容赦なく抹殺される。
・新世界プログラムの残骸を集めて出来た世界の為、全員プログラムの存在。
・ただし、プログラム内で死亡した場合は現実世界で脳死する。
・全員の記憶は奪われている。時間軸は全員が死亡後、もしくは本編終了後。
・どうやって現実で死亡している人物を参加させたのかは不明。
・なお、作品の都合上マーダーが誰かは明かさないでおく。
正直かなりの異色、趣旨に合うかも分かりませんがやれるだけやってみますー。
380
:
名無しロワイアル
:2013/03/10(日) 01:38:52
3万字ってWiki何ページ分ぐらいだっけ?
教えて分かる人。
(後から後から書きたい展開が湧いて出て来る。楽しいけど終わんねぇ)
381
:
名無しロワイアル
:2013/03/10(日) 02:04:15
3ページくらいじゃね?
382
:
名無しロワイアル
:2013/03/10(日) 05:02:02
>>377
阿部高和さんは一話完結型のホモ向けエロ漫画のキャラクターなんだよ……w
原作で語られてるキャラ設定なんて
ノンケだって構わず食っちまうホモセックスが上手な自動車修理工ってぐらいなんだよ……w
だから日常の境界ロワでのかっこ良さのほうがむしろ異常なんだよ……w
383
:
380
:2013/03/10(日) 21:09:52
>>381
ありがとう。
1話でこんな量書いたのはパロロワ抜きにしても初めてだから自分でビックリ。
最初は軽い気持ちだったのに……改めてこの企画の発起人に感謝の念が絶えない。
それにしても、4分割とか5分割とか書いちゃう人は凄いなぁ。自分には到底出来そうも無い。
384
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:11:19
剣士ロワ、最終話を投下します。
385
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:12:55
轟音と共に、洛陽宮殿が崩落する。度重なる戦いの余波によるものではなく、起き上った闇の神の巨体に突き崩されたのだ。
ゼロガンダム達は宮殿の崩壊から素早く抜け出し、瓦礫と化した洛陽宮殿の上に立つ。
トゥバンとタクティモンの戦う気配が無くなっていたことも含めて彼らの安否が気掛かりだが、今はそれ以上の危機が、目の前に現れた。
「あれが、常闇の皇……!」
厳密に言えば、それは常闇の皇の本体を収めた、闇の最終決戦兵器。
何時、何処で、何者が、何の為に――建造の由来、目的など全てが謎に包まれた、時空の狭間に存在した破壊兵器、ジェネラルジオング。
その姿は、異様としか言い様の無いものだった。
身体は茨のような形状の赤黒い結晶状の物質によって構成され、その上に金の縁で彩られた紫の鎧を無理矢理被せたような不格好な姿で、それが却って不気味だ。
本体に肩どころか関節に相当するものが無い為に、両手は独立ユニットとして浮遊している。
頭部の意匠は、巨大な2本角と小さな4本角のバランスの悪さが目につくと同時、得体の知れぬ威圧感を対峙する者に与える。
しかしその頭部を見て、ジオン族の機兵に共通する独特のデザインラインと多くの共通点があることに、ゼロガンダムはすぐに気付いた。
「あれは、機兵……なのか……?」
その答えは、是でもあり、否でもある。
今のジェネラルジオングは、黄金神にとってのカイザーワイバーン、そして、今や忘れ去られし古代神にとってのカイザーティーゲルに相当する物となっている。
即ち――神の身体。
ジェネラルジオングの全身の棘、そして両手の指の先に設けられた砲門に、巨大な闇の力が充填される。
たったそれだけのことで、ゼロガンダム達の身体に異常が起きた。
「な、なんだ……?」
「体に、力が入らない……!?」
全身から、力が抜けて行く。剣を握るどころか、立つことさえも出来ずに跪き、その場に倒れ伏す。
「どうしたというのだ、お前達!」
唯一それを免れたスプラウトが呼び掛けるが、ゼロガンダムにも、オキクルミやゼロにも何が起きているのか分からなかった。
「なんだ、エネルギーが……光の力が……押し潰される……!?」
状況を僅かに解析したゼロは、しかしあまりにも常軌を逸した現象をより鮮明に確認したことにより、更なる混乱に陥っていた。
「お前達も、落ちるのだ……デス・クリスタルの悪夢に」
逞鍛が呆然と呟いた、直後、天から赤い矢が――ジェネラルジオングを構成する結晶体の一部が雨のように降り注いだ。
ゼロガンダムは、オキクルミは、ゼロは、抵抗すらできず、飲み込まれるしかなかった。
▽
386
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:15:35
無我夢中だった。
突如として崩落を始めた宮殿の中で、最初、タクティモンは膝を着いたまま立つことすらできずにいた。
それほどに、タクティモンはトゥバン・サノオの死を悼み、悲しんでいた。
このまま宮殿の崩落に呑まれて、押し潰されて静かに消え去るのも良いかと思った、その時だった。
人一人を容易に押しつぶせるほどの大きな瓦礫が、トゥバン目掛けて落ちて来たのだ。
気付いた時には両の足で立ち、両の手で蛇鉄封神丸を握り、振るっていた。
そうすることの意味も知らず、理由も分からぬまま、タクティモンは一心不乱に剣を振るい瓦礫を撥ね退け続けた。
数分後。洛陽宮殿は完全に崩壊し、瓦礫の雨も止んだ。タタリ場の瘴気に浸食された曇天の下、タクティモンはトゥバンの亡骸と共に立っていた。
終わってから、タクティモンは自分が何故、反射的に身体を動かしたのかを考えた。
トゥバン・サノオは、最早ただの肉塊。それを守ったところで、何の意味があるというのだ。
決して答えの出ることの無い自問自答に沈む直前、タクティモンは自分の顔に違和感を覚え、手で触れた。
指先が、何かの液体で濡れた。
これは何かと考えること数秒、答えはすぐに出た。
「馬鹿な……! 私が、涙を……?!」
タクティモンは自分が涙を流していたことに、今になって気付いた。
よく見れば、鎧も涙で濡れていた。一滴や二滴では到底足りないほどに。
驚愕によって、思考が白く埋まる。タクティモン自身が、『タクティモン』というデジモンについて熟知しているが故に。
タクティモンとは、デジタルワールドの幾万年分にも及ぶ記録の中で、戦場で無念の最期を遂げた武人デジモン達の怨霊とも呼ぶべき無数の残留魂魄のデータを、バグラモンの手によって1体のデジモンとして練り固められた存在だ。
その存在に、誰かの死を悲しみ、悼み、涙を流すという性質を記したデータは、何処にも存在しない。
主君への忠誠心、一介の武人としての性、完璧(パーフェクト)を好む――タクティモンの人格を構成する要素など、たったそれだけなのだ。
なのに、タクティモンは間違いなく、泣いていた。つい先程まで、虚しき最期を迎えてしまった男の死を悼み、悲しんで。
これはどういうことなのだ。まるで自分が別人にでもなってしまったのではないかとすら考えて、タクティモンはその思考の中に答えを見つけ出した。
387
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:18:51
「まさか、“変わった”というのか……この、私が……。今の時代のデジモンが……!」
タクティモンの生きる時代のデジタルワールドは、それまでのデジタルワールドと大きく性質を異にしている。
それは、デジモンから『進化』が失われたこと。そして、デジモンは生まれてから一生その性質を変えることなく、正義は正義、悪は悪のままに一生を終えるというものだ。
かつてデジモンが強く願えば自らを変えることができる種族だったという事実を知る者は、最早バグラモンとその側近であるタクティモンしかいない。
デジタルワールドは電子的なデータを解して、人の心によって照らされて認識される宇宙――即ち、人という種の心の在り様によって法則が書き換えられる世界なのだ。
その世界の法則に於いて、デジモンの進化とは人の夢や希望の表れだった。
そしてデジモンから進化が失われたということは、人々の心から夢や希望が失われた――『代わり得る自分自身』を信じられなくなったということを意味する。
即ち、絶望による諦観と虚無感によって人の心が満たされ、それに伴ってデジタルワールドも変質してしまったのだ。
その世界で生まれたタクティモンも当然、それは変わらない。人々の心が絶望に支配され膿み腐っていく時代で、自分の可能性を心から信じられる者がどれだけいるというのだ。
だが、現にタクティモンは“変わっていた”。切っ掛けは、疑いようも無い、トゥバン・サノオとの戦いだ。
トゥバン・サノオが見せた、人の持つ底知れぬ可能性。今より前を、今より先を、今より上を目指す、飽くなき志。
それを目の当たりにして、タクティモンは心を動かされたのだ。
ただ剣を振るうことしかできない武人から、誰かの為に悲しみの涙を流せるものへと変わる程に。
そして、バグラモン自らの手によって創造された自分が、このもう一つの巡り合いの戦争【クロスウォーズ】と呼ぶべき場所――善と悪、光と闇が相克する殺し合いの場で変われたこと。
それが意味する所を、タクティモンは悟った。
「……陛下。貴方の大義、その奥底には……貴方の願いが眠っていたのですね。この私にも……!」
振り返り、迸る闇の波動の根源を睨む。
そこには、赤黒の双頭龍と見紛う程の邪悪の権化が存在していた。
あれを倒さねば、あまねく世界の未来は闇に閉ざされ、光を失うことになるだろう。
視線を、再びトゥバンの亡骸へと戻す。そして、その手に握られたままのイルランザーを取り去った。
不思議と、簡単に取ることができた。まるで、トゥバンが死して尚、イルランザーにはまだ往くべき戦場があることを承知しているかのように。
「去らばだ、トゥバン・サノオ」
別れの言葉を告げて、タクティモンは邪神の下へ――自分が往くべき戦場へと走った。
今の自分の、心の命ずるままに。
▽
388
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:21:09
気が付けば、ゼロガンダムは荒野で倒れていた。
痛む体に鞭打って立ち上がり、自分はどうして倒れていたのか、少しずつ思い出す。
「そうだ、俺は……常闇の皇の、ジェネラルジオングという機兵と戦って――……」
……――辛うじて勝利を収めた。そして、仲間達に別れを告げて、元の世界へと帰ることになったのだ。
つまりここは、ゼロガンダムの故郷――スダ・ドアカ・ワールドだ。
状況をどうにか思い出すと、一つ溜息を吐いてその場に腰を下ろし、呼吸を整え体力の回復を待つこと数十分。
歩く分には苦の無い程度に回復すると、ゼロガンダムは荒野を一人歩き続けた。
歩いた。
歩き続けた。
ただただ、只管に、歩き続けた。
時間の感覚も麻痺し、空腹と眠気にも必死に耐えて、ゼロガンダムは歩き続けた。
既に荒野は終わり、見覚えのある城下町へと至った。
しかし、誰もいない。
いや、違う。何もいない。
人も、犬も、猫も、鳥も、虫も、何一つとして、生命の気配がない。
ドゥームハイロウの発動によってザンスカール族以外の全ての命が奪われたのだから当然、というわけでもない。
我が物顔で世界に跳梁跋扈していた魔物や暗黒の一族――闇の勢力の気配すら無いのだ。
本当に、何一つとして、命と呼ぶべきものが何も無いのだ。
残っているのは、荒れ果てた街と大地だけ。
ゼロガンダムは、今まで感じたことの無いような、言い知れぬ不安と恐怖に身震いして、グラナダの王都を後にした。
その後、ゼロガンダムは幾つもの町や村、集落を巡ったが、何もいなかった。
グラナダ王国以外の国々……ドレスデン、ダバード、ブリティス、アルビオン、ミリティア、ウィナー、アルガス、ラクロア。そのいずれも、同様だった。
そして、最後に辿り着いたのは古代遺跡兵器ドゥームハイロウ。
幻魔皇帝アサルトバスターの居城となっていたこの場所でさえも、同様だった。
玉座へと歩み寄り、それを雷龍剣で一刀両断しても、それ以上は何も変わらず、何も起こらなかった。
その一撃で全ての力を出し尽くしたのかのように、ゼロガンダムは崩れるように倒れた。
その胸に在るのは、勝利の実感でも、使命を為し遂げた達成感でもなく、希望や絶望さえもない、虚無感だけだった。
誰も、何も、いない。
守るべき仲間も、共に生きる友も、戦うべき敵も、討つべき仇敵も、鳥獣や虫さえも……誰一人、何一つ、存在しない、せかい。
闇を乗り越えたその先にあったのは、光でも、希望でも、未来でもなく。
じぶんひとりだけの、えいえんのこどく。
▽
389
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:25:24
戦いを終えて故郷のカムイへと帰って来たオキクルミは、感慨に耽る暇すら無く目の前の惨状に言葉を失った。
辺り一面はタタリ場に呑み込まれ、母なるカムイの大地は闇の瘴気に包まれていた。
吹雪こそ止んでいるが、寒さも冬であるにしても異常で、木々すらも凍りついて折れている。
「まさか、双魔神どもの手がここまで……!」
迂闊だった。別世界の恐るべき闇を倒して来たとは言っても、この世界の闇の勢力は健在だったのだ。
しかも、時期は“厳冬の蝕”が差し迫った頃。
オキクルミがこの世界を離れている間に、双魔神が本格的な行動を起こしていてもおかしくなかったのだ。
碧眼の獣神へと転身し、オキクルミはエゾフジの麓、故郷のウエペケレへと走った。
ウエペケレに辿り着いたオキクルミは大きな声で3度吠えたが、誰も応えない。村の何処からも、誰の臭いも漂って来ない。
嫌な予感が胸を締め付けるが、それを振り払うようにオキクルミは村の中を駆け巡り、やがてエゾフジの麓、ラヨチ湖の畔にある山興しの儀式の舞台へと辿り着いた。
そこで待っていたのは、地獄だった。
サマイクル、ケムシリ爺、カイポク、トゥスクル、ワリウネクル……オイナ族の、村の仲間達の亡骸が、死屍累々という言葉のままに、儀式の舞台の周りに倒れていた。
そして、エゾフジを噴火させカムイの大地に温もりを与える重要な儀式『山興し』を行う舞台の上には、ピリカと、コロポックル宿しの狼――アマテラスが折り重なって倒れていた。
オキクルミは人間の姿に戻り、力無くその場に崩れ落ちた。
両手を温もりの失われた大地に突き立て、立ち上がろうとするが、上体を起こすだけで精一杯で、力が入らない。
悲しさと悔しさのあまり、声すら出ない。
しかし、それが幸いした。微かな、今にも消えてしまいそうな程弱々しい呻き声を、オキクルミの耳は捉えることができた。
「ピリカ!!」
今年の山興しの祈祷を捧げる役を任されていた、自分にも懐いていた少女の名を叫び、オキクルミは慌てて彼女の下へと駆け寄った。
オキクルミが傍まで近寄って跪くと、ピリカも気付いて、顔をオキクルミの方へと向けた。
「オキクルミ……お兄ちゃん……? 帰ってきたんだ……良かった、無事で……。みんな、どこに行ったんだって、心配……してたよ……」
「喋るな、ピリカ!」
ピリカの声は間近まで近付いて漸く聞き取れるほどにか細く、彼女の生命が今にも尽きようとしていることが嫌でも分かってしまった。
見れば、ピリカも傷だらけで、彼女を庇うように倒れているアマテラスはその白い体を朱の隈取りとは違う、赤い血で染めていた。
「双子の魔神が、エゾフジから降りて来て……みんなは、オオカミさんと一緒に戦って、わたしは……ケムシリお爺ちゃんの代わりに、山興しを、いっしょうけんめい踊ったの……」
言われて、オキクルミは目の前のラヨチ湖に巨大な物体が転がっていることに気付いた。
黄金と白銀の、フクロウの姿を模したカラクリ仕掛けの怪物。双子の魔神、モシレチク・コタネチク。
オイナ族の同胞とアマテラスは、山興しの儀式を阻もうと現れたこの双魔神との戦いで力尽きてしまったのだと悟った。
「ねぇ、お兄ちゃん。わたし、ちゃんとできたかな……? わたしの、力で……みんなを守れたかな……? なんだか、周りが真っ黒で、お兄ちゃんの顔も見えないの……」
ピリカからの問いかけに、オキクルミは言葉に詰まった。
何と答えればよいのだ。
カムイの大地は温かさを失い闇に呑まれていると、事実を告げろというのか?
未だ寒さに震えているピリカに、山興しは成功したぞと、見え透いた嘘を言えというのか?
オキクルミには、そのどちらも言うことは出来ない。
「ピリカ……!」
少女の名を呼び、抱き締める以外に思いつかなかった。
だが、既にピリカの体は、冷たくなっていた。
呼吸も、鼓動も、止まっていた。
「ピリカ……? ピリカ! ピリカ!!」
息絶えた少女の名を、オキクルミは呼び続け……いつしかその呼び掛けは、慟哭へと変わっていった。
英雄の慟哭が、母なる温もりを失った大地に木霊する。
▽
390
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:29:18
どことも知れぬ、暗黒の空間の中。
そこでゼロは、延々と、幻影を見せつけられ続けていた。
「違う……!」
否。それは幻影では無く、真実。
過去にまだイレギュラーハンターの隊長だった頃のシグマとの戦いで、自身に纏わる記憶【メモリー】の全てを、ゼロは失っていた。
だが、今見せられている映像に、ゼロはデジャビュを感じていた。
それは、その映像に見覚えが――否、身に覚えがあるからに他ならない。
メモリーの奥底に遺されていた記憶の残滓が囁くのだ。
今、目の前に映し出されている者こそが真実だと。
ゼロとは、究極の破壊者であるのだと。
「違う、止めろ! 俺は、俺はそんなんじゃない!!」
ゼロの叫びが、虚ろに響き渡る。
だが、映像は止まらない。
ゼロのアイセンサに、視覚認識領域に、ありとあらゆる知覚領域に、映像が、データが、メモリーが、否応なしに現れて、記録されていく。
次に現れたのは、親友と最愛の女性の、無残に破壊された残骸。
「カーネル! アイリス!!」
彼らの名を叫び、がむしゃらに手を伸ばすが、どうしても届かない。幻に等しいただの記録に、触れられるはずがない。
壊れた姿のまま、彼らの姿は消えてしまう。
どうしてこうなってしまったのか。何故、ああなってしまったのか。
誰が、彼らを壊したというのか。そんなものは、誰に問い掛けるまでも無く分かっていた。
それでもゼロは、認めるわけにはいかなかった。
不意に、眼前に何かの気配を感じた。
姿は見えないが、ゼロにはそれこそが、自分の倒すべき敵なのだと直感し、一心不乱にセイバーを振るった。
まるで、その“敵”を倒せば、この悪夢は終わるのだとばかりに。
目の前の影は呆気なく斬られ、ゼロの目の前に倒れた。
ゼロが倒すべき敵と直感したそれは、悪でもなく、闇でもなく、イレギュラーですらなく。
「エックス…………?」
親友の残骸を前に、ゼロは愕然と、その場に崩れた。
気付けば、闇が晴れていた。
煌々と燃え盛る炎が夜の闇を赤々と照らし、ゼロの足元に転がる、無数の骸の姿を浮かび上がらせた。
無数のレプリロイドの残骸が、ゼロ足元から地平線の果てまで広がっていた。
「俺が……俺がやったっていうのか……?」
391
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:31:38
呆然と呟き、ふと、足元のレプリロイド達の残骸に目を遣る。
どうやって壊したのか、どうやって壊れたのか、その全てを体が覚えていた。メモリーに記録されていた。
覚えていないはずなのに、覚えている。やっていないはずなのに、やっていた。
この現実が真実で、ゼロの実感や記憶が偽りだというのならば。
俺は、一体なんなんだ!?
声には出せなかった疑問に、メモリーの奥底に眠る影が答えた。
『そうだ、お前がやったのだ! よくやったぞ、ゼロ! わしの最高傑作よ!』
「黙れぇ! 俺は、俺は……!」
目の前の惨状を褒め称える影の言葉に声を荒げて、否定しようとして、それ以上何も言葉が出て来なかった。
何が違うというのだ。
どうして否定できるのだ。この惨状を作り上げた張本人である自分が。
ゼロの沈黙を意にも介さず、ゼロを最高傑作と呼ぶ老人は狂気を孕んだ声で叫び続ける。
『ライトの最高傑作、最後の遺産を基に造られた者達。その全てを、お前は凌駕した! よくやった、よくやったぞゼロ!』
その言葉は、いよいよゼロを打ちのめした。
全てのレプリロイドは、発掘されたエックスの構造やデータを参考に造られたと、ドクター・ケインから聞いたことがある。
たった、それだけのことで。
エックスを参考に誕生したという理由だけで。
俺は、無数の同胞を破壊し尽くしたというのか!?
『お前こそ最強! 最強のロボットだ!』
老人からの最大の賛辞を聞き届け、ゼロのボディが反応を示す。
示す感情は、歓喜と愉悦。
「ワレハメシアナリ! ハハハハハ! ハァーッハッハッハッハッ!!」
圧倒的にして絶対的な破壊者は、自らが成した破壊の痕跡を前に、高らかに笑った。笑い続けた。
自らの存在意義を満たすという喜び、使命を為し遂げた達成感、破壊そのものに見出す愉悦に浸って。
その狂気は、そのデータの中に押し込められたゼロの心を侵し、切り刻んでいく。
俺は、この力で……もう、何も……! 壊したくなんか無いんだああああああああ!!
ゼロの叫びは、何者にも届かず、己の内でのみ木霊し続けた。
▽
392
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:34:45
鎧は半ば砕け、降り注ぐ赤き破壊の雨を振り払う度に大剣は軋み、強烈な衝撃が痛みに変わって肉体を貫く。
だが、手を休めるわけにはいかない。
ここで自分が手を止めたら、誰が結晶の中に封じられた仲間達を守り、救いだすことができるというのだ。
スプラウトが叩き落とした、ジェネラルジオングが発射した棘の数は既に数千にも及んでいる。
それだけの数を捌き切ることはさしものスプラウトにも不可能であり、頑強なドラゴンころしの刀身も僅かに歪み、罅の入っていた鎧は幾度か棘が掠っただけで半分近くが砕け散った。
「ぐぅっ……!」
そして遂に、左腕に小さな棘が突き刺さった。外見からは思いもよらぬ激痛にも、スプラウトは僅かに声を上げるだけで堪えた。
スプラウトは元より、全長2mを超える大剣を片手で自在に操る。片腕を使えなくなったことは、それほど深刻ではない。
だが、照準も何も無い、ただ数をばら撒いているだけの弾が当たってしまった。
スプラウトの体力と集中力が限界に近付いているという事実こそが深刻なのだ。
すると、急にジェネラルジオング――常闇の皇からの攻撃が収まった。
一息吐く暇ぐらいは与えてやろうと嘲られているのだと、スプラウトは直感した。
それに腹を立てるでもなく、その余裕に甘えて棘を抜き取り、呼吸を整える。
「もう諦めたらどうだ。奴らに常闇の皇のデス・クリスタルから逃れる術など無い」
腑抜けたような声で逞鍛が吐いた戯言を聞いて、スプラウトは彼を鬼気迫る表情で睨みつけた。
「貴様は黙っていろ。これしきで、諦めてたまるか……!」
逞鍛は何も言い返さず、代わりに視線をジェネラルジオングの頭部近くへと向けていた。そこを見ろと暗に示しているのだと理解し、スプラウトもジェネラルジオングの頭部を見る。
その瞬間だった。ジェネラルジオングの放った閃光が、時空間を貫いた。
同時に生じた衝撃波で吹き飛ばされないように体を支えながら、スプラウトは具に状況を確認した。
空間を破壊され、虚空に空いた穴。その先に見える世界は、かつて垣間見たサルファーの巣食う元の世界――闇の寝床に酷く似ていた。
やがて、その穴は閉じ、衝撃波による気流の乱れも収まった。
「デス・レイン……。ほんの0.001%でこの威力だ。最大出力で放てば、世界の10や20は纏めて消え去るだろうよ」
逞鍛の口から、今の一撃も本来の威力の10万分の1程度だったと告げられる。それが事実ならば、ジェネラルジオングの、常闇の皇の脅威は計り知れない。
1つの世界を一夜で滅ぼすこともできないサルファーとは比べ物にならない程の圧倒的な脅威だ。
そんなバケモノを解き放ち、数多の世界を脅かすことを許すわけにはいかない。
「させぬ。させて、なるものか!」
啖呵を切り、右腕だけでドラゴンころしを構えた、直後。
スプラウトの眼前に、白き龍の聖剣が突き立てられた。
393
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:38:12
「その心意気や良し。しかし、歪んだ鉄の剣では不足であろう」
洛陽宮殿の瓦礫を踏み締めながら、1人の剣士が歩み寄って来る。
見るまでも無く、声と気配だけでそれが何者かすぐに分かった。
「この剣は、トゥバンのイルランザー」
そして目の前の剣を見れば、否が応にも理解出来た。
あのトゥバン・サノオが死んだのだと。
そうなるだろうとは予感していた。だが、いざ事実として直面すると、俄かには信じ難かった。
「勝敗は決しなかった。だが、生死のみは別れてしまった」
すると、スプラウトの内心を察したのか、タクティモンはそのようなことを言った。そして、そのまま当たり前のようにスプラウトの隣に並び立った。
見ればタクティモンの兜が失われており、その中身が露出していた。スプラウトが感じていた通りその正体は、人間はおろか生物とは言い難いものだった。
だが、その姿を間近で見ても、不思議と不快感や嫌悪感を覚えない。
そうだ。タクティモンが常に自らを鞘として納めていた鋭利な刃のような狂気や怨念が、今は全く感じられないのだ。
「タクティモン……? 貴様、どういうつもりだ。まさか、今更こいつらに加勢するとでも」
「その心算で来た」
「なんだと!?」
逞鍛からの問いにタクティモンはあっさりと即答する。
これには問うた逞鍛のみならず、スプラウトも驚き、同時に疑念も湧いた。
「どういう心境の変化だ?」
「それは、後で話そう。スプラウト、時間を稼いでくれ。この奥義は、出すまでに練りが要る」
スプラウトからの問いにも碌に答えようとせず、タクティモンは話を先に進める。
しかしその声調はタクティモンらしくなく、戸惑っているような調子が混ざっていた。
策を弄しはするが、虚言の類で他人を陥れる男ではない。その点は信じられる。
過去、未だカイと行動を共にしていた時のことを思い出し、スプラウトはそれ以上の追及はやめた。
この男が力を貸してくれるというのなら、心強いことに違いは無い。
「時間は?」
「1分もあれば」
「良かろう。しくじるなよ」
最低限の言葉だけ交わして、スプラウトはドラゴンころしを棄ててイルランザーを握る。
かつて“輝ける聖剣”と謳われながら闇へと堕ちた自分が聖剣を握って戦うことに、運命の皮肉を感じる。だが、迷いは無い。
今は亡き仲間の為、今窮地に在る戦友の為、今こそ持てる力の全てを振るう時。
スプラウトが剣を構えるのに呼応して、ジェネラルジオングの攻撃が再開される。……いや、違う。
これから攻撃が始まる。
全身を駆け巡る悪寒に肌が粟立ち、冷や汗が流れる。
ジェネラルジオングの両手、それぞれの指に莫大な闇の力を充填した10の砲門が、スプラウトとタクティモンに向けられていた。
先程までは、ほんの遊びでしかなかったのだ。
これから始まるものこそジェネラルジオングの、常闇の皇の攻撃であり。
その一撃で、この戦いを終わらせるつもりだ。
394
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:45:33
それができるということは、先程のデス・レインを見ていれば誰しもが理解出来る。
加えて、今向けられている10の砲門――いや、2つの大砲は、司馬懿の放った闇の究極奥義・天冥獄鳳斬と同質のものであり、それを遥かに上回る力だ。
直撃すれば命が無いだけではない。ただ充填されただけで、闇の力を持たない者達は、身体から力を奪われ無力化されてしまう。
途方も無い力を前に、スプラウトの気は散漫となり、諦めという言葉すら脳裏を過ってしまった。
すると、突然タクティモンが口を開いた。
「我ら闇の者が、闇の盟主たる常闇の皇と対峙するとは……。これも、運命なのかもしれんな」
タクティモンの口調は、どこか嬉しそうですらあった。
そしてその言葉を聞いて、スプラウトもある事実に気付いた。
「いいや、我らの意志が切り開いた可能性だ。わしらでなければ、あのジェネラルジオングとやらは壊せまい」
そうだ。あの力に対抗できるのは、この身に闇の力を宿している者だけなのだ。
光の力を持つ彼らはその力を封じられて為す術も無いが、自分達は違う。
ジェネラルジオングを壊せる者が、ここに2人揃ったのだ。
スプラウトの心から、完全に迷いは消えた。
それを悟ったのか、ジェネラルジオングは頭部と両腕の目をギョロリと動かし、2人を睨みつけ、両腕の極大暗黒砲を発射した。
極大暗黒砲の一撃によって、スプラウトとタクティモン、そして逞鍛までもが消滅するかと思われた。だが、誰1人として消えなかった。
「冒涜の能力! ダークエボレウス!!」
決して回避の出来ない、そして防ぎ切れない闇の攻撃を凌ぐ唯一つの術。それを、スプラウトは既に持っていたのだ。この殺し合いの舞台に呼ばれる、遥か以前から。
闇をその身に取りこみ自らの力と成す、イヴォワールでも禁じられた邪法として封印されていた冒涜の能力。
スプラウトはその能力を用いて、極大暗黒砲の闇のエネルギーを吸収してしたのだ。
大暗黒砲の破壊力とダークエボレウスの吸収力、2つの力が鬩ぎ合う。だが、出力があまりにも桁外れだ。
すぐに闇を溜め込む器である能力者の肉体が崩壊し、闇へと還る。そのはずだった。
それをスプラウトは覆してみせた。理論は単純、吸収した闇の力を、そのまま即座に別の形で放出しているのだ。
イルランザーの刀身から、エネルギーの刃が伸びて行く。オーラブレードと呼ばれるその剣技は、本来なら使用者の気や魔力をエネルギー源とする。
それをスプラウトは、吸収した闇の力を即座にエネルギー源へと変換して行っているのだ。
強大な闇の力の吸収と放出、それら2つを限界ギリギリの出力を常に保ちながら行うなど、人間業でも無く、まして正気の沙汰でもない。
闇を喰らい続けて魔人と成り果て、50年以上を狂気の中で生き続けたスプラウトならばこその絶技。だがそれでも、無謀には変わらない。
少しずつ、少しずつ、極大暗黒砲の出力に押されていく。
それでも、スプラウトは諦めない。歯を食い縛り、足を踏ん張り、掲げた左手とイルランザーを握る右手を、決して下ろさない。
やがて、極大暗黒砲が途切れた。だが、まだ終わりではない。撃ち終わったのはまだ指1本分、まだ9発分が残されているのだ。
時間は、まだ30秒も経っていない――
「蛇鉄封神丸、四の太刀」
395
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:48:41
――が、タクティモンが突如として動いた。大地を蹴って跳び、ジェネラルジオングの左手も踏み台として更に跳躍する。
1分要ると言ったのは、ジェネラルジオングの油断を誘う為の布石か。
この期に及んで大した豪胆さだと呆れながら、スプラウトはタクティモンに先んじて仕掛ける。
タクティモンを狙うジェネラルジオングの両手を、叩き落とさなければならない。
オーラブレードは、既に数十mにも及ぶ長さになっていた。スプラウトの力を注ぎこめば、更に伸ばせるだろう。
ならば、あれをやるか。イヴォワールでも、極めた者は歴代の“九つ剣”の中でもほんの一握りとされる、魔界から伝わったとも言われる究極の剣技を。
限界を超えて動くことに悲鳴を上げようとする肉体を黙らせ、スプラウトは乾坤一擲の刃を振るった。
その剣が断ち切るのは人ではなく、物ではなく、風でなければ空でもなく。
次元を切り裂く究極斬撃・超次元断。
この一撃に断てぬ物は、普通なら存在しない。だが、時空間を超越する力を持つ常闇の皇によって、ジェネラルジオングは超次元断を含め殆どの攻撃が通用しなくなっている。
ジェネラルジオングの全身を覆う闇の結界は、この会場を覆っていた結界と同じ物。それを貫くことができるのは、本来ならば常闇の皇の力を超える光の力のみ。
しかし、例外がたった一つだけ存在する。それは、闇の力を身に宿しながら、心に光を宿す者が御する闇の力。
それを成し得る者こそは、即ち――天の刃。
「ぬぅおおおぉぉぉぉぉ!!」
スプラウトは咆哮と共に超次元断を振るい、ジェネラルジオングの両手を一刀両断した。
▽
スプラウトがジェネラルジオングの両手を斬り落としたのを、タクティモンは直に見るまでも無く察した。
あれほどの攻撃を耐え凌いだだけでも驚嘆に値するというのに、直後にそれ以上のことをやってのけるとは。
こうなっては、あれだけのことを強いたタクティモンが無様晒すことは、決してあってはならないことだ。
ジェネラルジオングの体に到達したタクティモンは、そのままほぼ垂直に体表を駆け上がり、間もなく肩に至り、跳躍。ジェネラルジオングの頭頂部を真下に捉える位置を取った。
タクティモンの背に輝く光輪がその輝きを一層に増し、蛇鉄封神丸は周辺の物質を大気ごと呑み込み力へと換え、刀身に迸る闇の力が視覚で捉えられるほどに猛り狂う。
その太刀は、皇帝バグラモンによって『災厄』として定義された。
その一撃がもたらす破壊は、最早剣戟はおろかデジモンの必殺技としての範疇を超え、当時ロイヤルナイツを始め数多のデジモン達からも一種の破壊や崩壊の現象として認識された。
デジタルワールドを司る神『ホメオスタシス』を殺し、その体を数多の欠片【コードクラウン】へと破砕し、デジタルワールドを幾つもの『ゾーン』へと分断した災厄。
その正体こそは、タクティモンと蛇鉄封神丸の最強最大の禁忌の必殺剣。
この一撃を、今は亡き我が強敵(とも)への弔いとして奉る!
「究極奥義・星割!!」
神殺しの一撃が、神の身体へと打ち込まれる。
闇の結界すら物ともせず、たったの一撃で、ジェネラルジオングの巨体を真っ二つに斬り裂いた。
▽
396
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:51:23
▽
「……声?」
倒れ伏したまま意識を失っていたゼロガンダムは、唐突な覚醒を迎えた。
自発的な目覚めではない。誰かが、自分を呼んでいたのだ。
しかし、周囲には誰もいない、何も無い。
きっと、孤独に耐えかねた自分が生み出した幻聴だったのだと、ゼロガンダムは自嘲する。
――ゼロ……ゼロ……!――
「……違う。空耳なんかじゃない……!」
ゼロは立ち上がり、周囲を見回し、耳を澄ます。しかし、誰もいないし、何も聞こえない。
ならば、研ぎ澄ますべきはそれら以外の感覚。
ゼロは目を閉じ、心を波打たぬ水面のように落ち着かせ、この世の全てに心を開くような感覚で待ち続けた。
今度は、はっきりと聞こえて来た。
自分の名を呼ぶ声、励ます声が。
「マーベット……父上……」
ドゥームハイロウの発動によって消えてしまった仲間達、そしてアサルトバスターの姦計により自らの手で殺めてしまった父の、声が聞こえた、姿が見えた。
直接目には見えず、耳には聞こえずとも、彼らの魂が確かに自分の傍に在るのだとゼロガンダムは気付いた。
そして、その気付きに応じるかのように1人の竜騎士が、ゼロガンダムの目の前に現れた。
「ゼロマル!」
アルフォースブイドラモンの、名前が長くて呼び辛いだろうからと教えてもらった彼の愛称を叫ぶように唱えて呼び掛ける。
生前と変わらない、まるで犬のような人懐こい笑顔を浮かべて、アルフォースブイドラモンはゼロガンダムの呼び掛けに応えた。
「良かった。デス・クリスタルから抜け出せたんだね、ゼロ」
「デス・クリスタル……?」
アルフォースブイドラモンの発した、聞き覚えの無い言葉をそのまま繰り返す。
すると、アルフォースブイドラモンは険しい表情で頷いた。
「デジタルワールドに伝わる伝説の邪神……ムーンミレニアモンの、相手の心を甚振り殺す必殺技さ。奴は肉体を持たない精神体で、だからこそ他者の心を叩きのめして切り刻むことに長けている。そしてムーンミレニアモンこそ、別世界で常闇の皇と呼ばれるようになった、この殺し合いを仕組んだ全ての黒幕だ」
「つまり、今のは……幻覚、だったのか」
聞き返して、すぐに返って来た解説に、その内容に困惑しながらも、ゼロガンダムは自分なりの解釈を口にする。
「正確には、今のまま迎えてしまうであろう来るべき未来の1つのヴィジョン……起こり得る、最悪の可能性さ」
アルフォースブイドラモンが頷きながらも、ゼロガンダムの解釈を補足する。
397
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:53:25
そこまで話を聞いて、少しずつ、ゼロガンダムは思い出した。
自分は、まだ常闇の皇と戦ってすらいなかったこと。
寧ろ、力を奪われ地に這い蹲って……そのまま、敵の術中に落ちてしまったのだ。
「不甲斐ない。まさか、完璧に敵の術中に落ちていたとは」
敵が精神攻撃を得手としているとはいえ、今の今までその掌中で踊らされていたことすら気付けなかった。
それはつまり、自分の心に付け入る隙があった、自らの未熟さ故のことと考え、ゼロガンダムは自戒の言葉を吐き出した。
すると、それを聞いたアルフォースブイドラモンは苦笑を浮かべながら、ゼロガンダムを励ました。
「しょうがないさ。あの暗黒砲も含めて、完璧に初見殺しだもん。だけど、君の心の強さ、そして天の刃と呼ばれる君の仲間達のお陰で、道は拓かれた」
すると、辺り一帯の景色が消え去った。滅びた王国も、無人の荒野も、何もかも消えて、無の暗黒の中にゼロガンダムとアルフォースブイドラモンは残された。
だが、分かる。アルフォースブイドラモンの言った、拓かれた道。その先にある、往くべき最後の戦場。
闇の中であろうと、もう見失うことは無い。
ゼロガンダムの心にはもう、孤独も恐怖も、迷いも無い。
「ありがとう、ゼロマル。お前に出会えて、本当に良かった」
闇に閉ざされた精神世界へ、死して尚、魂のみの存在となってまでも自分を助けに来てくれた戦友に、ゼロガンダムは心からの感謝の言葉を伝えた。
それを聞いたアルフォースブイドラモンは穏やかな笑顔を浮かべると、すぐに歴戦の聖騎士の表情へと変えた。
「僕もだよ、ゼロ。……自分の可能性を、未来を信じて。その時にこそ、闇にも絶望にも負けない究極の力が生まれる!」
その言葉を最後に遺して、アルフォースブイドラモンの魂――正確には彼というデジモンを構築するデータ――はその形を失って丸い球のような姿となり、どこかへと飛び去っていた。
ゼロガンダムはそれを見送りながら、アルフォースブイドラモンが自分達の名前の共通点を使って考えた、決め台詞を思い出していた。
「……ゼロは、一つならば無。2つで無限。そして……!」
雷龍剣と天叢雲剣を構え、それらの剣に宿る雷の力を最大限まで高める。
「ゼロガンダムとゼロマルの『0』が3つ揃えば、無限の光!」
締めの言葉と同時に両手の剣を天へと掲げ、稲妻を走らせる。雷光が闇を切り裂き、ゼロガンダムの進む道を作る。
友との言葉を胸に、ゼロガンダムは最後の戦場へと往く。
▽
398
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:56:19
悲しみに打ちひしがれ、オキクルミの心は身体以上に凍えていた。自分の心に温もりを与えてくれていた、掛け替えの無い者達に先立たれてしまったが故に。
双眸から溢れる涙も、流れ出た途端に凍りついてしまうようになっていた。
このままでは、遠からずオキクルミの肉体も冷気に侵され、やがて鼓動も途絶えてしまうだろう。
そのことはオキクルミ自身も気付いていた。だが、それでも良いのではないかという考えすら、脳裏を過るようになってしまっていた。
この孤独に耐えられないほど、オキクルミにとってオイナ族の仲間達は温かかったのだ。
すると、突然、手を温かい何かが触れた。
「……アマテラス?」
体中に朱の隈取りの化粧を施した、コロポックル宿しの狼の名を呼ぶ。
双魔神と戦い、ピリカの傍らで息絶えたとばかり思っていたが、まだ生きていたのだ。
アマテラスは自分の体のことも顧みず、オキクルミを気遣い、彼の体を少しでも温めようと、指先を舐めていたのだ。
自らの命が絶えようとしているというのに、他者を気遣える底知れぬ慈愛の心。さながら、万物を照らす太陽のような温もりが、指先から伝わって来る。
すると、何を思い立ったというのか、アマテラスは鋭利な槍で貫かれたような大穴の開いた身体に鞭打って立ち上がり、絵筆の先のような尾の先を振るいだしたのだ。
「よせ、アマテラス! 無理に筆業を使えば、お前も……!」
オキクルミが止めようと声を掛ける。だが、アマテラスは以前と変わらぬ穏やかな表情で一声鳴くと、空に見事な筆を走らせた。
空に現れたのは、月。
イザナギのヤマタノオロチ討伐のその瞬間に輝いていた、あの時と同じ三日月だ。
すると、オキクルミは背中から強い力の波動を感じた。虎錠刀が三日月の光を浴びて、淡く輝き始めたのだ。
その輝きはだんだんと強さを増し、やがて、光が闇に呑まれた大地を照らし出した。
「な、なんだ!? 急に景色が……!」
虎錠刀から放たれた光に照らされた途端、オキクルミが今まで見ていた景色が姿を変えた。
現れたのは、闇に包まれた何も無い空間。地面を踏み締めているという感覚すら無い、延々と広がる闇の空間だ。
いったい、何が起きたというのか。オキクルミには、光が収まった虎錠刀を見遣るぐらいしかできなかった。
「異界の大神よ、ありがとう」
急に、声が聞こえた。聞き慣れた、もう二度と聞けると思っていなかったその声を聞いて、オキクルミは慌てて後ろを振り返った。
そこには、孫権の姿があった。
「孫権……? どうしてお前が……いや、ここはどこだ?」
思考が纏まらず、ただ口を吐いて出た、しかしそれゆえの真実の問い掛けに、孫権は徐に頷いた。
「ここは、常闇の皇が創り出した精神世界。魂だけの存在となった俺でも、ここでならこうして君に姿を見せることができるんだ」
「常闇の皇の……? …………そうだ! 戦いは終わってなどいなかったんだ! 俺は、奴の放った術に捕えられて……!」
孫権から告げられた言葉により、オキクルミは全てを思い出した。
同時に常闇の皇の絶大な力を思い知ることになり、言い知れぬ不安と恐怖で体が震える。
399
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/13(水) 23:58:46
手も足も出ずに膝を屈し地を嘗めさせられ、今も恐らくはいつでも自分を殺せるであろう、闇の神。
そんな存在を相手に、自分は戦えるのかという疑念が生じ、自信が揺らぐ。
オキクルミの心の迷いを察してか、孫権が静かに語りかけて来た。
「オキクルミ、畏れるな。本当の強さを知り、真の勇気を持つ君達に、もう恐れるものはなにもない。自分の心を信じて進むんだ」
言って、孫権は赤いマフラーをオキクルミに差し出した。
孫権が父親から受け継いだという、彼の死後にオキクルミが引き取っていた遺品だ。
孫権は信じているのだ。オキクルミの持つ力が常闇の皇を倒すために必要不可欠であり、オキクルミはそれを成し遂げられる侠なのだと。
「すまない、孫権。俺は、お前に助けられてばかりだ」
礼の言葉を告げると同時にマフラーを受け取り、それを首に巻き付ける。
心から、畏れも疑いも迷いも消える。
オキクルミの心に満ちるのは、本当の強さ、真の勇気。
暗黒の闇に決して負けない、夜闇を照らす優しき月の如き光。
「だからこそ、お前達の分も戦い抜いてみせる。俺の……そして、お前達の大切なものを守る為に」
友から受け継いだ、友が気付かせてくれた、大切なものを胸に抱き、オキクルミは孫権と、彼と共に駆け付けてくれていた戦友達に決意の言葉を告げる。
戦友達はオキクルミの言葉を聞くと何も言わずに頷き、何処かへと消えて行った。
「往こう、友よ。虎暁を継ぎし我が魂は、真の勇気を知る君と共に!」
その言葉を最後に、孫権もまた光となって飛び去っていった。
その先が何処かは、すぐに分かった。そこは、常闇の皇との決戦の場に他ならない。
すると、クトネシリカが輝き、その刀身から虹が生まれ、闇の先へと続く道を作った。
虹はカムイに於いては不吉の前兆とされ、忌み嫌われるものとしての側面も持つ。
これが大いなる闇の盟主の下へと誘うものならば、これほど不吉なものはそうはあるまい。
だが、今更そんな物に恐れを成すことなどない。
オキクルミは碧眼の獣神へと転身し、景気付けにと力の限り吠えた。
白虎の鎧を纏う気高き狼は、決戦の地へと続く虹の橋を力強く蹴って走った。
▽
400
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:01:00
何もかもが破壊し尽くされた瓦礫の山の上で、ゼロは項垂れたまま動けずにいた。
望まぬ破壊に疲れ果て、最早自発的には思考すら働かないほどの状態に追い込まれていた。
このまま何の刺激も受けなければ、瓦礫の山の高さが上がる。
それでいいのだと、ゼロは感じていた。
壊す以外に脳の無いモノなど、一体、誰にも止められるというのだ。この世のどこに、身の置き場があるというのだ。
自分自身の造られた理由、存在意義を知ってしまったが故に、ゼロは自分自身を肯定することも否定することもできず、闇の底に沈むしかなかった。
すると、ゼロの眼前に小さな光る球体が現れた。
「ゼロ……どうしたんだい? 君らしくないよ、そんな顔は」
球体が発したゼロの名を親しげに呼ぶ声を聞いて、ゼロはそれを凝視した。
今の声は、決して聞き間違えることなどない。あいつの声だ。
「エックス……?」
ゼロが連想した名をそのまま呼ぶと、光る球体はレプリロイドの姿の立体映像を投影した。
その姿は、多少アーマーの形状が変わっていたが、紛れも無くエックスだった。
自分が破壊してしまったはずの親友が目の前に現れ、ゼロは内心で大きく動揺した。だが表面上は冷静を装い、エックスへと問い掛ける。
「今更、俺に何の用だ?」
「君を、君の往くべき戦場へと導く為に」
即座に返って来た答えに、ゼロは激怒した。
今、こいつは俺に、戦場に行けと言ったか? 戦いに行けと、破壊の限りを尽くせと言ったか?
……ふざけるな!
「ふざけるな! こんな……壊すことしかできない俺に! 今更、何をさせようっていうんだ!! 敵を壊して、壊し続けて……! それでいつか、終わりが来るのかよ!!」
感情の昂るままに、エックスを怒鳴り付ける。もしも彼に未だ肉体が存在していれば、胸倉を掴んで殴りかかっていそうなほどの剣幕だった。
それほどに、ゼロは自ら存在に絶望していた。
友や最愛の女性を救えず、破壊することしかできなかった。
今も尚ゼロの心を苛む過去の悲劇の原因が、自分自身の存在理由にあった。
破壊するだけのモノが、どうして誰かを愛し抜き、守り抜けるというのだ。
仮にその破壊の力で倒すべき敵を倒したとして、その先に何があるというのだ。
未来(可能性)も希望(祈り)も破壊してしまう自分に、何が残せるというのだ。
ゼロの怒りと悲しみと絶望と、様々な負の感情が混濁とした言葉を叩き付けられても、エックスの目に迷いは無かった。
「……君に、どうしても伝えたい言葉がある」
そう言って、エックスは両手を持ち上げた。両の掌には、先程までのエックスと同じ光る球体がそれぞれ1つずつあった。
それらはエックスの掌から飛び立つと、エックスとゼロそれぞれの両隣に立つ位置で、姿を変えた。
401
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:03:22
「人間は何も知らず、何も持たず、何も教えられないまま生まれて来る。だが、それから色々なことを知って、学んで、色々な物を得ることで。自分で考えて、選んで、行動するようになっていく。なら、ロボットだって同じでいいはずだ」
鈍色の鎧を身に纏った、金髪碧眼の類稀なる竜騎士――ダリオが、ゼロにそう語りかけて来た。
彼の暮らしていたエルニド諸島には機械技術は殆ど存在せず、意志を持ったロボットもいなかった。
ロボットについて何も知らないからこそ、ロボットという存在に対する一切の先入観を持たないが故の、互いの存在を同じとする真実の言葉。
「鉄機……ロボットは、何かの目的の為に造られなければならないとしても。その力で何をするか、どうやって生きて行くかは、そのロボットが自分で決めてもいいはずだ」
青い鎧を纏った、天を翔ける二刀流の剣士――衛有吾も、ゼロに語りかける。
彼の暮らしていた天宮は古代の超技術を研究する一門のお陰もあって高度な機械技術が存在し、鉄機武者と呼ばれるロボットもいる。
その鉄機武者に親友を持っていたからこそ、ロボットという存在に対する親愛の念の籠もった、可能性を信じる祈りの言葉。
「ダリオ、衛有吾。お前達……」
2人の亡き戦友までも自分の前に姿を現したことに対する驚きは、最早無かった。
彼らから贈られた真実と祈りの言葉のみが、ゼロの心に響き渡る。
「ゼロ。君の心は、誰かから与えられたものじゃない。君だけのものなんだ。だから……君の心の信じるままに、戦うんだ」
そして、永遠の親友の言葉が、ゼロの心を熱く叩く。
実際の衝撃や刺激などを一切持たない、謂わば幻の鼓動が波動となり、ゼロを苛んでいた暗黒を吹き飛ばした。
ここに至って、ゼロは今の状況を冷静に解析できた。
此処は、何らかの仮想空間。
気付かぬ間に――否、常闇の皇から受けた攻撃によって、ゼロの思考と人格がボディから切り離されて幽閉されていたのだ。
そう言えば、レプリフォース事件の折にサイバー空間で似たようなことがあったな、などと、今と昔を照らし合わせるだけの余裕が自分に生まれていることに気付いて、ゼロは大きく溜息を吐いた。
「まったく……参ったな。まさかレプリロイドの俺が、幽霊なんて非科学的なものに説教されることになるなんて、考えたことも無かったぜ」
まったく、情けない限りだ。死んだ奴にまで心配かけて、助けられるなんてな。
「吹っ切れたようだな」
口には出さず、心の中で礼を言った直後に、ダリオが穏やかな笑みを浮かべてそう言って来た。
出来の悪い弟のいる面倒見のいい兄貴らしいと思いながら、ゼロはすぐに頷いた。
402
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:05:13
「ああ。もう、迷いはしない。俺は、俺の心を、信念を、正義を信じて戦い続ける。立ち塞がるものは、たとえ神であろうと……斬り伏せるのみ、だ」
決意の言葉を唱えると同時、ゼロのアーマーが通常の物から霞の鎧へと変わり、両手には炎の剣と力の盾が現れる。
ゼロのその言葉を、正義の心が蘇るのを信じて待ち続けていたとばかりに。
「ゼロ。逞鍛を……俺の兄弟を、頼む」
衛有吾は顔を俯けながら、申し訳なさそうに、改めてゼロにそう言った。息を引き取った時と全く同じ言葉だ。
あの時ゼロは、戦友を自分の手で殺めてしまったことへの後悔と恐怖、そして2人を失ったことへの悲しみで、ただ慟哭するしかなく、答えることができなかった。
しかし今は、逞鍛の人となりを知った上で、力強く答えられる。
「ああ、任せろ。まだ馬鹿なことを言うようなら、思いっ切りぶん殴ってやる」
ゼロの冗談混じりの言葉に、衛有吾は苦笑をしながらも頷いた。
すると、3人の身体が淡く輝き出し、元の姿を失い始めた。あの姿を保つ限界が来たのだと、ゼロは冷静に事態を受け止める。
すると、ゼロの通信装置に文書データが送られて来た。差出人は、エックスだ。
時間が無いのだということを承知し、ゼロはそれを読むのではなく記憶領域に直接インストールし、文字通り一瞬でその内容を理解する。
目の前にいるエックスは、ゼロの知るエックスとは違う、異なる時間軸の未来の存在で、今はサイバーエルフと呼ばれるものだということ。
ゼロが一度敵として、そして一度だけ肩を並べて戦ったハルピュイアはエックスの仲間で、死して尚、サイバーエルフとなって常闇の皇に取り込まれてもエックスを守り続けていたこと。
そして――常闇の皇を打倒する為の、切り札。
体を失っても尚、不屈の闘志と平和を祈り続ける、正義の心は微塵も褪せていない。
変わらぬ友の在り方に、そして今まで共に戦ってくれていたのだという事実に、ゼロは今まで以上の心強さを感じていた。
「僕達には、もう祈ることしかできない……。だから、君達の勝利を祈っているよ」
「任せておけ」
最高の親友の言葉に短く返して、ゼロは3人の魂が自分の前から消えて行くのを見送った。
見送って、すぐにゼロは走り出した。自分の往くべき戦場へと、3人の友から受け取った祈りと共に。
▽
403
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:07:52
常闇の皇の放った赤き結晶の牢獄から、ゼロは、ゼロガンダムは、オキクルミは、3人が同時にその呪縛を破り、最後の戦場へと帰還した。
「まさか、こんなことが……!? デス・クリスタルの悪夢から、抜け出して来たというのか……!」
3人の帰還を、誰よりも逞鍛が驚愕した。彼自身もまた、常闇の皇のデス・クリスタルに堕ち、それ故に真に闇の世界を求めるようになり、回天の盟約を結ぶに至ったからだ。
逞鍛の驚愕に、ゼロのみが視線を向けて応じる。だが、すぐにその視線は外れた。
「スプラウト!」
オキクルミは碧眼の獣神の姿のまま、スプラウトの名を呼び彼に駆け寄った。
スプラウトは、全身の鎧が砕け散り、左腕と両足を失い、腹に大穴を開けて倒れていたのだ。
残された肉体も闇の力を取りこみ過ぎた為か、最早人間としての名残が見られないほどに変質し、辛うじて顔に人としての面影を見出せる程度だった。
スプラウトの凄惨な姿を見て、誰もが悟った。
自分達が闇に囚われている間、彼は命を懸けて自分達を守り抜いてくれたのだと。
オキクルミが駆け寄ると、スプラウトは残された右手で握りしめていたイルランザーを放し、戻って来た3人の顔を見て、微かに笑みを浮かべた。
「ふ、ふふ…………最後の、最後に……やっと、守れた……」
今までスプラウトは、戦いの中に身を置き、最強の剣士と謳われながら戦いの中で大切なものを守れなかった。
最愛の孫娘、ブリアン。そしてお節介焼きの愛すべきバカの聖騎士、カイ。
自分の目の届かぬ所で、自分の目の前で、彼らを失った。自分には、彼らを守れるだけの力があるはずなのに。
だが、今は。今度こそは。守るべき仲間達を、守り抜くことができた。
これで、2人に少しは顔向けができる。
復讐と憎悪の闇に呑まれた20年を超えて、再び光を取り戻した輝ける聖剣は、安堵しながらその生涯を終えた。
「スプラウト!!」
ゼロも駆け寄った時には、既にスプラウトの息は止まっていた。やがて、スプラウトの肉体は、塵となって消えた。
そして、3人を守っていたもう1人の剣士に、ゼロガンダムは背後から詰め寄った。
404
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:09:23
「タクティモン……!? 貴様が、何故!」
半ばから折れた蛇鉄封神丸を大地に突き刺した状態で、タクティモンはゼロを庇うように立っていたのだ。
不可解なことだった。その本質を闇に属するこの男が、アルフォースブイドラモンの盟友である自分を助けるはずが無い、自分達の助勢をするはずが無いと、ゼロガンダムは確信していたからだ。
しかし、守られたことは事実。礼を述べ、この戦いを終えた後の決着を約束して、今は捨て置くか。
そう考えを巡らせたところで、タクティモンが振り返った。
兜が破壊され、中身の怨霊体が露出し噴出している状態で、凡そ表情と呼べるものは見出せない。
なのに、この時だけは分かった。
もう、声を出す余力すら無いのか、タクティモンは声を出さずに、しかし確かに呵々と笑ったのだ。
自らの命が今尽き果てるというのに、タクティモンの心は晴れやかだった。
死者の怨念の集積体である自分が変われたということは、全てのデジモンに変わることができる可能性が未だ秘められている確たる証拠なのだ。
神を殺し世界を分断し、敵を倒すために生み出されたタクティモンが、強敵との戦いではなく、何者かを守って死ぬ。
これが人の心に秘められた可能性の顕現でなくして、何だというのだ。
陛下、どうかご安心を。あの赤の少年と青の少年と絆を結んだデジモン達が、貴方にも必ずや見せてくれます。
人とデジモンの持つ、無限大な夢を。
声には出せずとも呵々と笑いながら、無念と怨念から解き放たれたタクティモンは、タクティモンを成していた武人デジモン達の魂は、桜花の如く散華し、蛇鉄封神丸を遺して消滅した。
「何故だ、タクティモン……! なぜだぁああ!!」
目の前で何も言わず、何も語らず、しかしほんの僅かなことだけは伝えて消え去った仇敵の名を、ゼロガンダムは叫んだ。
アルフォースブイドラモンの仇を討てないことが悔しいのではない、ましてタクティモンの死を悲しんでいることなど断じてない。
ただ、それでも、ゼロガンダムは叫ばずにはいられなかったのだ。
【スプラウト@ファントム・ブレイブ 死亡】
【タクティモン@漫画版デジモンクロスウォーズ 死亡】
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