[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
801-
901-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。
【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】
1
:
名無しさん
:2004/11/27(土) 03:12
コソーリ書いてはみたものの、様々な理由により途中放棄された小説を投下するスレ。
ストーリーなどが矛盾してしまった・話が途切れ途切れで繋がらない・
気づけば文が危ない方向へ・もうとにかく続きが書けない…等。
捨ててしまうのはもったいない気がする。しかし本スレに投下するのはチョト気が引ける。
そんな人のためのスレッドです。
・もしかしたら続きを書くかも、修正してうpするかもという人はその旨を
・使いたい!または使えそう!なネタが捨ててあったら交渉してみよう。
・人によって嫌悪感を起こさせるようなものは前もって警告すること。
487
:
名無しさん
:2007/09/08(土) 07:53:19
>>486
おもしろかった!乙
「黒幹部の設楽」と「バナナマンの設楽」とか、うまいなーと思った
雰囲気もカコイイし、廃棄するには勿体ない気がするな
488
:
名無しさん
:2007/09/08(土) 09:23:43
>486
面白かったよー。
2対1の構図が意外だった。
仁さんにばれたことが回りまわって、菊地さんと小林さんっていうかラーメンズ?が
一戦交える結果を招いたわけだが、設楽さんは、黒同士の対立で
黒vs白の構図じゃなくなってしまいそうなのを避けたいのかな。
廃棄が勿体ないのは同意。
489
:
◆fO.ptHBC8M
:2007/09/10(月) 13:22:20
>>487
、
>>488
ありがとう
流石に流れ無視しすぎてるから本スレ投下して良いものか…
ただ、いくつか構想が思い浮かんだから完璧な番外編になるけど、
別視点の黒内部とかラー・片桐編とか君の席メンバー編、書けたら廃棄に落とすよ
490
:
名無しさん
:2007/09/13(木) 01:01:31
agr
491
:
名無しさん
:2007/09/23(日) 22:33:25
小説の中に歌詞の一節を入れても大丈夫?
もちろんちゃんと分かるようにして、何の歌詞かは小説の最後に書こうと思うんだが…
492
:
名無しさん
:2007/09/28(金) 23:32:53
>>491
個人的にはいいと思うよ。
493
:
−19歳
:2007/10/01(月) 01:12:45
「あなたに憧れていました」
そういって握手を求めるように手を出してきたのは見も知らぬ男だった。
ジュニアをためらわせたのは突然楽屋に知らない人間が入ってきたという現在の状況ではない。
まるで心酔するような、何か天の上を見るような信者のそれに似た輝きを
その男の瞳の中に感じたからだった。
・・・・帽子を目深に被り、白いシャツにGパンというどこにでもいるいでたちの
少しばかり細い、まだ歳若い男・・・
一歩引く。
ルミネの壁は薄い、叫べば必ず誰かに届く、
今でさえ、舞台の歓声はどよめきと振動をもって伝わってくる。
壁を隔てた、舞台と言う名の別世界から。
「逃げないでください」
絞り出すような声
「あなたに憧れていました
あなたのようになりたいと」
わぁっと言う歓声と拍手が津波のように響く
男の差し出された手の中には白い石。
とたんに爆発のような閃光。
それから後の事は
何も覚えていないと後々ジュニアは話した。
ドン、とぶつかった人がいた。
うつむき加減に歩いていた庄司は、その勢いに軽く跳ね飛ばされたが
ぶつかった男は振り返る様子も無く急ぎ足でルミネの外へと歩いていく
?失礼な奴だな。とは思ったが、元来物事を気にする性格ではない
楽屋の方にあるいていくと、そこには何故だか数人のひとだかり。
そのなかに見知った人間の後ろ頭を見つけた、ヒデさんだ。
「どうしたんですか?」
声を掛けると、少しおかしいような、信じられないというような、微妙な表情をしたまま振り返った
「おお、庄司おはよう」
「おはようございます、何か事故ですか?」
「いや、実はよくわからないんだが・・・」
ほら、と促されるように中を見ろというようなそぶり。
見やると幾人の頭の向こうには開け放されたままの楽屋内、
しきりに何かを話しかけている靖史さんの背中と、
話しかけられている相手は・・・まだ中学生ぐらいの少年。
ふとした拍子に顔を上げたその面差しに思わず息を呑む。
眼も鼻も口もあまりにある人物に似すぎていて。
「ジュニアさん!」
思わず声を上げてしまい、周囲の人間が一斉に振り返る。
慌ててヒデがすみませんというように頭を下げて人だかりの中から庄司をひっぱりだした。
「靖史さんがトイレから帰ってきたら、ジュニアさんがいなくなってあの少年がいたらしい」
「はぁ・・・・ジュニアさんは?」
「館内放送をかけたけど出てこない。」
「・・・・・・・・・結局、何なんですか?俺意味がよく分からないんですけど」
「俺もよくわからない。でもそれが今分かってるすべてで・・・
奇妙なことにあの少年は自分の名前を・・」
とそこまでいいかけたところで、楽屋の方から何かを叩き割る音、と壁に何かがぶつかる派手な破壊音がした。
そして関西なまりの怒声
「だからさっきから言っとうやろうが!!!俺の名前は千原浩史じゃあ!!!!」
すると人ごみの中から弾丸のように飛び出してきたものがある。少年だ。
「待たんかい!!」という靖史の声。
少年は反射的に立ちふさがって止めようとした庄司ともろにぶつかり、縺れ合うようにすっころんだ。
背中をしたたか打ちながらよく人とぶつかる日だと庄司は思った。
「そのまま捕えろ庄司!!」
言われるがままに少年の腰に手を回して動きを封じ捕獲する。
じたばたと逃れようとしながら睨みあげてくるその顔は、正しく若い頃のジュニアで
叩かれたり蹴られたりしながら、庄司はまじまじとその顔を見つめた。
「本当にジュニアさん?」
小首をかしげながら庄司が尋ねる。
「ハァ?」
吐き捨てるような返事。
そのやりとりに思わずヒデが噴出した。
「おいおい庄司・・・いくらなんでも」
「歳は?」
もう一度庄司が尋ねた。真っ直ぐな目で。
見てくれより頑丈そうな男にたじろいだのか、少しだけ少年はおさまり、
それからぶっきらぼうに呟いた
「・・・・・14歳。」
494
:
−19歳
:2007/10/01(月) 02:13:44
「絶対ジュニアさんの隠し子だと思いましたね。」
閉館後、暗いモニター室でヒデは言った。
話しかけられたのを聞こえているのかいないのか、靖史はモニターから流れる映像を凝視していた。
画面の光が青く白く靖史の顔を照らしながら点滅する。
部屋に残っているのは五人。
警備員と靖史とヒデと庄司と自分は千原浩史と名乗る少年。
「だって年齢的にできないことはないでしょう?
きっとこの子が会いにきて
びっくりしてジュニアさん逃げちゃったのかなぁ。あっはっは
・・・・くらいに思ってましたよ
多分、今日帰らされた芸人もそう思ってると思います。ちょっと笑ってましたもん」
あの後、結局閉館時刻になってもジュニアは現れなかった。
連絡も一切無い。
靖司の判断の元、ジュニアは『急病』ということにして
何が起こったか、少年は何者なのかを興味深げに知りたが者たちに
「何も見なかったことにしてとりあえず帰れ」という無茶な一喝をし
無理矢理帰らせた。それが一時間前のこと。
庄司もどちらかというと帰りたかったが、
少年が暴れたときに取り押さえる者が必要という理由の元、そのまま居残り命を出されて現在に至る。
一人では心細いという庄司にヒデが補助を名乗り出たが、こちらはただの興味本位だ。
ことがどうやらそれだけではないということが分かったのは、本当に少し前のこと
「ジュニアさんは、ルミネには来られましたが、出て行っていません」
モニターをチェックし終わった警備員が言った一言だった。
思わず三人は首を傾げた。言っている意味が分からない。
だが警備員も、顔色が悪いばかりで上手く説明できないのか
とりあえずこれを見てくださいと、モニター室に三人+捕獲された少年を招きいれた。
そこでようやく自体の大きさを把握する。
事件が起きたと思われる時刻以降のどのモニターにも、ジュニアは映っていなかったのだ。
入り口や出口だけではない、楽屋を出たなら映らないはずはない
廊下、階段に至るまで、どこにも映っていないのである。
ジュニアが消えた。
まさかそんなはずはと目を皿のようにして、繰り返し繰り返しモニターを見る靖史。
何度見ても。自分が楽屋を出てトイレに行き、帰るまでの間・・・・
誰も楽屋から出ていない。
ただ、不思議なことに、見たことも無い男が部屋の中に入り、一分とたたないうちに部屋を出ている。
帽子を目深に被り、白いシャツとGパンをはいた青年・・・。
芸人ではない、芸人ならどんな若手でもすぐわかる。
「俺。こいつと入り口でぶつかりましたよ」
庄司が言った。靖史が振り返った。
「顔は?」
「見ましたけど、一瞬ですから・・・なんとも」
そしてその目線はそのまま庄司の隣に座っている少年に移る。
ガンとこちらを睨みつけるその姿は、無理矢理首輪を付けられたものの懐く様子のない野犬のようで
それは確かに、14歳のときの彼であった。
「お前がルミネに入ったんも映ってない。どういうことや・・・」
「知らんわ!気付いたらここにおったんじゃ!!さっきからなんかいも言うとうやろう!!」
まだ声変わりしていない少年の声で唸る。
「・・・・・・・・もしお前が浩史なら、俺とお前しか知らんことをいうてみい」
「はぁ?」
上から下へねめつけるような少年の凝視。
フォローするようにヒデが言った。
「もし君が浩史君なら。彼は君のお兄さんだ」
「靖史はそんなにハゲとらんわ!」
間髪を入れない少年の返し。それもまた確かにジュニアを思わせる。
「ほくろの位置一緒でしょう?」
一応庄司もフォローを入れるが少年の表情にはますます困惑と怯えが広がるばかり。
「・・・・とりあえず・・・」
ヒデが出来るだけ冷静に言った。
「みんなで御飯を食べに行きましょう。
一旦頭を冷やして、それからどうするか考えませんか」
495
:
−19歳
:2007/10/01(月) 03:51:37
「本当に浩史かもしれへんな・・・」
煙草の煙と一緒に、何かを吐き出すように靖史が言った。
その目はテーブルの向かい側で肉を黙々と食べる少年の様子を、張り付いたように見つめている。
「何故です?」
ヒデが小さい声で訊ねた。
「・・・「帰りたい」って一言も言わへんやろ・・・?」
「・・・・・・ああ・・・・」
ヒデはわかったようなわからないような返事をした。
実際、なんと答えていいのか分からない。
「手の込んだドッキリかもしれませんよ
警備員もグルの
一番考えられるとしたらそれです
だとしたら、どこでバラすのかが問題ですけど」
こそこそと靖史に耳打ちする。
「悪趣味やな」
靖史が苦笑した。
そんな空気を他所に
「デザートも食べる?」
と庄司は隣の少年にメニューを開いて見せている。
黙ってプリンアラモードをを指差す少年を眺めながら、靖史はぐるぐると思考を巡らす。
もしこの少年が本当にジュニアなら
あの数分の間に何があったのか、(そんなことが在り得るのか?)
いや何があったにせよ・・・一体どうしたらいいのか
あの帽子の男は何なのか。
あるいはジュニアが何らかの手段で連れ去られ
この少年を置いていったなら、何の目的でそんなことを?
一体どうやって?犯人は?あの男?
何より、その場合ジュニアの身が無事なのかどうなのか、安否が気にかかる。
・・・・もしただのドッキリなら、
(こんな夜中まで14歳の少年を巻き込んだドッキリ?!)
よくこんなにそっくりな少年をつれてきたなと笑い飛ばしてやろう
「・・・・石。」
ぐるぐると巡る靖史の思考を、ヒデの呟きが止めた。
「なんや石て」
「・・・・いや、最近の噂ですよ。芸人の間で、いろんな石が出回ってるって
それを手にすると何でも不思議な力が手に入ったり、奇妙な現象が起きるとか何とか・・・」
自分でいいながらヒデは苦笑した。
「・・・ただの噂ですよ」
「石。持ってたわ」
と少年が口を開いた。
突然のことで一斉に三人の目線が少年に集中する。
「え?」
視線は斜め前を凝視したまま、少年が呟く。
「今思い出した。石持ってたわあのおっさん」
「誰のこと?」
庄司が尋ねる。
「あの知らん部屋で目が覚めたとき、目の前に白い石持ったオッサンが立っとった。
すぐ出てったけど。それからすぐあとに、こっちのオッサンが来た」
と靖史を指差す。
「最初のオジサンはモニターに映ってた人?」
「・・・・・たぶん・・・」
そこらへんの記憶は曖昧らしい。少年は困った顔でまた考え込んでしまった。
「『石』・・・」
思わず誰と無く呟く・・・石。
噂とはいえ奇妙に引っかかるキーワード。
石の噂。空白の数分。14歳の少年。ジュニア。パズルのように埋まってゆく何か。
一つだけハッキリしたこと。
あの『帽子の男』を探さなければ。
それがおそらく最後のピース。
「プリンアラモードお持ちしましたー!」
空気を読まない店員の声が
困惑の中を清清しく鳴り響いた。
496
:
名無しさん
:2007/10/01(月) 08:04:35
乙です。続きお願いします!
497
:
−19歳
:2007/10/01(月) 10:16:47
ういーっす。でも今日は用事なので
あさってにでもー。
498
:
−19歳
:2007/10/02(火) 21:07:13
冷静になってまじまじと見てみると
確かに兄に似ているし
確かに二人といないブサイクだ。と横に寝ている男を見て思った
時計を見ると朝の四時だった
昨日「とりあえずうちで引き取るわ」というこの男の一言の下
軽いノリで連れて来られて一晩。
「やっぱり警察に連絡した方がいいですよ」と言って別れた
あの二人の話を特に聞く気はないらしい。
とても眠れない自分の横で
うっとうしいほど大の字になって男は寝ている。
そっと布団を抜け出して、男の身体をまたいで部屋を出る。
玄関を音がしないようにそろそろと開けて外に出ると
風は冷たく、空はまだ濃い群青色をしていた。
特に当ても無く、歩き始めた。
並び立つマンション、綺麗に舗装された道路、雑草が覆い茂る空き地、小さな公園
新聞配達のバイクが横を通り過ぎる。
一瞬奇妙な目で見られたが、そういうものには慣れていた。
目が覚めたら毒虫になっていた男の話は読んだことがある
あれはなんだったか・・・・そうだ『変身』
でも目が覚めて周りがみんな変わっていたら
これは何と呼べばいいんだろう
知らない人が俺をジュニアと呼ぶ
世界中の日付が2007年になっている
モニターから流れるのは見たことも無いCM
ラジオから流れるのは聞いたことの無い音楽
異様に小さくなっている電話
さすがに鉄の猪だーと驚くことはないけれど
溢れるばかりの車の量と高層ビルが
自分の存在をわからなくさせる
周りが変わったんじゃない
自分がただ一人の異邦人なんだ
自分はやはり『変身』したんだ
そう感覚で理解するまで
それほど時間はかからなかった
神でも悪魔でもいいからこの現状から救ってはくれないかと思っていた
でもそう願っていたからこうなったんじゃなくて
何か持っていた恐ろしく大きなものを
自分は失ってしまったらしい
19年。
茫漠とした時間の量
その価値がイマイチ分からない
大変だと騒ぐのは周りばかりで
当事者であるはずの自分だけが
何がどう大変なのかがよくわからない
ただ
「にいちゃん」
後ろからふいに声を掛けられ振り返る
するとそこには先ほどの新聞配達のおじさん
「思いつめちゃいけねえよ・・・!」
江戸っ子なまりでそういうと無駄にアクセルを吹かせて横を通り過ぎていった。
しばらくそれを眺めていたが、くるりときびすを返してもと来た道を帰る。
玄関を開けると男は起きていた。
寝ぼけ眼でおお、と呻き。それから
「おかえり」
と言った。
・・・・ただ、自分に帰るところはあるらしい。
「思ったんやけどさぁ」
「あぁ?」
「毒虫はないよな」
「あ?」
「なんでよりにもよって毒虫やねんって思っとったけど
やっぱあれはないわ
あれよりはマシやと思うわ」
アホな顔をしたまま、男が「おぉ」と同意する
「お前なんもわかってへんやろ」
思わず笑った。
「わかってへんやろ靖史。」
そう言って屈託の無い笑顔で、少年は笑った。
499
:
−19歳
:2007/10/02(火) 22:19:58
うわっ
と声を上げて起き上がると、持っていた紙の束が一斉にバサバサと音を立てて床に落ちた。
「大丈夫?ヒデさん」
すると目の前に心配そうに覗き込む相方の顔。
「・・・・ああ」
あたりを見回すとそこは見慣れた楽屋で、どうやら調べ物を呼んでいるうちに
ソファーでうとうとと眠り込んでいたらしい
奇妙な夢をみた
奇妙な。
でも目が覚めた瞬間それは霞がかかってもう思い出せない。
心配そうな眼差しの相方に、大丈夫、と笑ってみせる。
「昨日遅くまで調べ物してたからさ。
お前、いつ来たんだ?」
「・・・・さっき」
床に散らばった紙を拾い集める。
それらは昨日の夜最近おこった奇妙な事件・『石』というキーワードが出てく
る噂・新聞記事等を集めたもので
それがことのほか膨大な量になったことに驚きを隠せなかった。
何か大きなものが、知らないところで動いているんじゃなかろうか・・・
「ところでさ」
ワッキーが携帯を出す。
「なんか昨日動画が回ってきてさ、ルミネで窃盗があったんだって?これが犯人?」
「ああ」
それはあの廊下のモニターに映った帽子の男の映像を携帯にダウンロードしたものである。
三人はあの後、知りうる限りの人間にその映像を送った。
「メール内容が『見覚えがあったら連絡を』ってさ、それは分かるんだけどさ。
なんで連絡先が『千原兄かヒデか庄司』なんだよ?
なんなのこの共通性の無い三人組」
ワッキーの分のお茶を入れながら、ヒデは笑った。
「たまたまその場に居合わせただけだよ」
「しかも、なにこの最後の文章。
『あと不思議な石の噂、身の回りに起きた奇妙な事件について何か知っていたら教えてください』って
意味わかんねぇよ」
「いやでも結構な量の噂話が来たよ」
「庄司にもコレナニ?って聞いたんだけどさ
『実際わけわかんないし。俺考えるのも説明するのも得意じゃないからヒデさんに聞いて!』って言うんだよ」
その庄司のモノマネがことのほか似ていて、ヒデは思わず噴出した。
「確かに理解してもらう自信はないし、説明すると長くなるんだけどさ・・・」
とその時、ピロピロとテーブルの上で携帯が鳴った。メールだ。
ちょっと待って。というしぐさをして携帯を開く。
すると庄司からのメール。
「噂をすると影だな」
とヒデは笑った。
『from 庄司
sub ごめんなさい
例の件について、これどういうことだって聞かれたんだけど
俺、上手く説明できないから
ヒデさんに教えてもらって って丸投げしちゃいました
ごめんなさい
品川がそっちに色々訊きに行くかもしれません 』
500
:
−19歳
:2007/10/02(火) 22:45:00
返信を送る。
『お前みんなに俺に説明してもらうよう言ってんのか(笑)
今ワッキーに聞かれてたとこだよ
あいつが来るなら一緒に説明した方が手間が省けるかな。いっそプレゼンするか』
返信の返事はすぐ返ってきた。
『?いまんとこ品川にしか言ってませんよ』
・・・・・え?
一瞬、息が止まった。
ゆっくりと携帯の画面に合っていた焦点が、向こう側にいる相方に移る。
「どうした?」
目が合った。
起きぬけで鈍っていた思考がフル回転する。
全身の細胞が緊急自体だと警鐘を鳴らした。
まさか。
「・・・・・・お前さ・・・そういえば今日、朝から名古屋で収録だから、夕方まで帰れないって言ってなかったっけ・・・」
「・・・・・ああ、早めに終わったんだ」
「・・・・・・・まだ、昼前だぞ・・・」
「・・・・・」
視線が、ゆっくりと絡まる。
目の奥に宿る光に
強烈な、違和感。
「・・・お前」
息を吸った。
「・・・・・誰だ」
501
:
−19歳
:2007/10/02(火) 22:48:24
うわぁ思いがけず長くなった
占領してしまってごめんなさい。
明日と明後日で多分終わります。出来るだけ後は短くします。
502
:
名無しさん
:2007/10/03(水) 19:45:48
おもしれー
別に長くなってもいい 期待
503
:
−19歳
:2007/10/03(水) 20:24:12
ああ、そういってもらえるとありがたいです。
よかった引かれてるかと思いましたw
頑張ります
504
:
名無しさん
:2007/10/03(水) 21:57:56
長くてもいいよー。
この時点で、ヒデさんと庄司さんは黒なんですか?
ワッキーさんと仲良く喋ってるのがちょっと嬉しかった・・・けど、
偽者かー。
この先が楽しみです。期待してます。
505
:
−19歳
:2007/10/03(水) 22:10:06
「「俺の力は」」
まるで二重音声のように声がだぶる。
「「バレると解けてしまうんよなぁ」」
絵の具が水に溶けるように、目の前の映像が滲んだと思うと、それはすぐに再びかたちを成して
見知った者の姿になった。
「・・・・・ぐっさん・・」
驚きすぎて、それ以上の言葉が出てこない。
目の前にはまるではじめからそうであったかのような堂々とした貫禄で、ぐっさんが座っている。
これは、奇妙な夢の続きじゃないか。
俺はまだ眠っているんじゃないだろうか。
「こんなに早くにバレたんははじめてやけどな」
そうして開いて見せた手の中に、光り輝く玉虫色の・・・・『石』。
眩暈がした。
「・・・ジュニアさんも、ぐっさんが・・・?」
「ジュニアになんかあったんか?」
とぼけているのか、それとも。
「・・・・突然、子供に・・・なりました」
ようやく搾り出せたのはその一言。
特に動じる様子もなく、すんなりと事情を悟った表情で
ぐっさんはゆっくりと顔を横に振った。
「何があったんか詳しくは知らんけど、それは俺と違う。
俺の石の力は『模写』や。自分や他人を見たことあるものに変化させることは出来ても
その人間のまま若返らせたりは出来んわ」
「・・・石。というのは一体何なんです・・」
「もう知ってるやろう?持っていたら力が使えるようになる
まあその力の種類は、人それぞれというか、石それぞれやけどな」
「・・そんなもの、どうやって手に入れるんです・・?」
「手に入れるんと違う。石が人を選んで。人が石を呼ぶんや。
使い方も力も石が教えてくれる
お前もそのうち石に選ばれるかもしれへん。
石に関わる者に巻き込まれるのは、石に呼ばれる前兆や
そしたら俺の言ってる意味が何もかも分かるやろう」
言っている事の部分部分がまるで暗号のようでよくわからない
それ以前に信じたくない。
が、こう目の前でその力を披露されては。
・・・けれど一方で、少しずつ落ち着いてきた自分がいる。
「あの事件に何の関係もないんだったら
何故ワッキーのフリをして俺に接近する必要があるんです
庄司にも。」
「お前らがこんなメールをあっちこっちに送るから。何があったか調査して来いと言われたんや
・・・まぁ、こんなメールを送るくらいやから、まだ何も知らんのやろう
石もまだ持っていないんやろうとは思ったけど」
「誰に」
見えてくる。
「誰に頼まれて、調査しろと」
その後ろに、何か大きな蠢きが。
「しゃべりすぎたかな」
にっ、とおおらかないつもの笑みで、ぐっさんは笑った。
「まぁ銀七出身のよしみや。何も知らんかったって報告しとく。
だから、お前も何も聞かんかったことにして
これ以上は関わるな」
「無理です」
思わずはっきりと返事をした。
これだけ目の前に不可思議なものを並べ立てられて、触れるなというほうが無茶な話だ。
「・・・お前のために言っとるんや。
お前は石を持ってないから。その力がよくわかってない
石も持たんと不用意にこちらの世界に関わることが、
どんなに危険なことか」
「確かに、最初は好奇心で関わったことですが
目の前で被害者が出てるんです。
それをこの状態で突然放置しろと?」
思わず声を荒げた。
すると静かにぐっさんはため息をつき、少しばかり何かを考えているようだった。
そして、微かに、しかたないなぁ、と口元が動いたように見えた。
「・・・ヒデ、すぐにお前は自分が間違ってたって思うことやろうと思う。
でも恨まんとってくれ、それはお前にわかってもらうためやし、 好奇心は猫をも殺すんや
・・・・まぁ、殺すことはない、そこまで酷いことはないけどな」
「?」
その何か暗示めいた言葉に気を取られて、ヒデは気付かないでいた。
ぐっさんの手の中の石が、鈍く、しかし強い光を帯び始めているのを。
506
:
−19歳
:2007/10/03(水) 22:13:07
>>504
いえーヒデも庄司も千原兄弟もみんな石の存在をよく知らないって設定ですー。
いまんとこ出てくる中ではぐっさんと帽子の男だけです。
でもユニットは隠れたところで出来上がっています。
本編ではもうみんな使われているので
邪魔にならないようこっちの方に投下しました。
ありがとうございます。
507
:
−19歳
:2007/10/03(水) 22:50:45
エレベーターの中で、偶然一緒になったのはワッキーだった。
「庄司、今から仕事?」
「ううん。ヒデさんにちょっと用事、今日はここの楽屋にいるって聞いてたから
昼過ぎから連絡つかないから来てみたんだけど、もう帰ったのかな?」
足の下から浮くような感覚がして、エレベータが動く。
「いるんじゃないかな。俺も約束してたし」
「ワッキーは?」
「おれも用事。あとネタの打ち合わせ。
今名古屋からやっと帰ってきたとこなんだわ」
「?昼にヒデさんと会ってたんじゃないの?」
「いいや?何で?」
あれ?と庄司は首を傾げたが、やはり元来物事を深く気にするタイプではない
まぁいいか。後でヒデさんに聞けばとさらりと流して
話題は今日あった出来事へと移っていった。
楽屋のドアをあけると、そこには誰もいなかった。
夕日が窓から差しこみ、静かに椅子や机に長い影を作っている。
けれど確かに誰かがいたらしい、
灰皿の上には、何か大量の紙が燃やされたような跡があり、
椅子の上には上着がかかったままになっている。
「ヒデさん?トイレかな?」
ワッキーが廊下と部屋を交互に覗く。
「荷物はあるよ。携帯も」
とその時、指差した荷物の影で何かが動いた。
「?」
しゃがんで、覗き込む。
パタン、パタン、と右に左に動く、シッポが見えた。
「ワッキー、猫がいる」
「え?マジ?」
荷物の影から姿を現したのはやや大きめの、三毛猫。
その猫はゆっくりと二人の足元までやってきて
恐ろしく悲しげに、にゃあ。と鳴いた
にゃあ、にゃあにゃあにゃあ
と、繰り返し繰り返し、何かを訴えるように。
508
:
−19歳
:2007/10/04(木) 00:01:08
俺が間違ってましたほんとうにすみませんでした。
と後悔するまでに五分とかからなかった。
ぐっさんの言っていた言葉の意味と重みを、今俺は痛いほど感じている。
「うわーこの猫オスの三毛猫だぞ」
相方が俺を持ち上げる。自分の胴が伸びるのが分かる。
「何?珍しいの?」
「遺伝子がどうのこうので、滅多にいないんだよ」
「へー、じゃ、高く売れるんじゃない?」
コラァ!と叫びたいがシャー!!としか声は出てこず
しかたないので庄司に猫キックを喰らわせた。
「こらお前庄司になにすんだよ」
ぺしりと額を叩かれる。
「どっからまぎれこんだんだろう」
「てかそれよりヒデさんは?」
おかしいなぁ、と呟いてワッキーが携帯を取り出す。
開いた携帯の上の文字列を見た瞬間、思わず手が出た。
変換機能を使って、自分がヒデだと伝えられれば・・・!
閃きと同時に手が出たことに、自分はずいぶん冷静さを失っていることに気付かされる。
ぱちん。と音がして、携帯のボタンを肉球が叩いた。
「あっはっはこの猫電話かけようとしてるよ」
「カワイイー」
爆笑する二人が今は憎らしい。
落ち着け。落ち着くんだと自分に言い聞かせる。
『俺の力は、バレると解けてしまうんよなぁ』
ぐっさんの言葉が頭の中で反芻する。
自分がヒデだと、いや最低猫じゃないと、こんな猫いないと言葉に出してもらえれば
おそらく自分は戻れるのだ。無理なことじゃない。
「抱く?」
「いや、いい」
そういって断る庄司と目が合った。
そうだ、庄司なら。
昨日今日で不可思議な事件に目の当たりにしている。
最初に少年をジュニア本人と気付いたのもこいつだし
バカは勘が鋭いというのは10年以上こいつに連れ添った品川の揺るがない持論だ。
にゃあ、と鳴いた。
気付いてくれ。何かがおかしいと。
すると庄司のガラス玉のような目がこちらをじっと覗きこんできた。
「この猫さぁ・・・もしかして・・ヒデさん・・・
・・・・の猫かなぁ」
「えー?右手がコロコロになればいいって言うくらいの潔癖症が猫なんて飼うかー?」
「どっかで拾ってきたとか。
今、猫もって帰るための籠とかそういうの買いに行ってるんじゃない?」
「あーそうかも・・あれ?何かこの猫急にぐったりしたぞ。え?泣いてる?」
「お腹すいてるのかな?お弁当の残りとかないかな、煮魚とか」
「煮魚は濃いんじゃね?」
多くは望むまい。多くは望むまいと念仏のように心で唱える。
そういやこいつ品川に化けたぐっさんもスルーしたんだったっけ・・・。
というかワッキーそもそもお前が!!10年以上も連れ添った相方のお前がまず気付かんでどうする!!
俺は気付いたぞ!!!
「あれ?また急に元気になった」
相変わらず気付く様子の無い相方に
俺は思い切り猫パンチを食らわせ続けた。
509
:
−19歳
:2007/10/04(木) 00:16:38
あと5スレか6スレでまとまると思います
お言葉に甘えてちょっと長くなりました
510
:
−19歳
◆rUbBzpyaD6
:2007/10/05(金) 01:18:30
「ヒデさん遅くなるならさぁ、先にちょっと覗いてこようかな。
店閉まっちゃうかもしれないし」
少し冷えてきた部屋で、温かいコーヒーを注ぎながら庄司が言った。
「どこへ?」
「ここすぐ南にいったとこにある本屋。
なんか画像の男の人に似てる人が働いてるんだって。
後輩からメールで来たから」
「画像の男って泥棒だっけ?不法侵入?
それ一人で行くの危なくないか?」
すると同意するかのように三毛猫がにゃーと鳴いた。
「・・・うーん・・・
どうしようか。って相談しに来たんだけど、ヒデさん遅いなー」
庄司は少し窓の外を眺めていたが。徐々に暗くなる空を見ながら、意を決したように立ち上がった。
「ちょっとだけ、見るだけ見てくるよ。
見れば分かると思うんだよなー本人か違うかくらいは」
にゃにゃにゃにゃにゃー!と猫が騒ぎ立てる。
「気をつけろよ」
「うん」
(行くんじゃない!)
「でも早く解決しないと困るだろうし
・・・・え?」
庄司が振り返る。そこにはじたばたして鳴きわめく猫を抱きかかえたワッキーがいるばかり。
「今ヒデさんの声しなかった?」
「?いいや?」
首を傾げて、まぁいいかと上着を羽織る。
「すぐ戻るよ」
まるで寄り道でもするときのように、軽くそう言って庄司は部屋を出ていった。
ドアが閉まる瞬間、ひときわ甲高く鳴く猫の叫び声を、後ろに聞きながら。
本屋の場所はすぐにわかった。さほど大きくはない二階建ての建物。
外に並べられている雑誌の中から適当に拾い上げて店に入る。
広くは無い店内をぐるりと一周したがそれらしき人物は見あたらない。
歳若い人はみな、どちらかというとしっかりした体つきで、
あの時一瞬垣間見た、細い体と薄暗い表情のイメージとは重ならなかった。
・・・・ハズレかな。
「520円です」
そのままお金を払って店を出る。
とその時、入れ違いに入ってきた人間と、肩がぶつかった。
うつむき加減に歩いていた庄司は、その勢いに少し跳ね飛ばされる。
───Deja vu 。
あの時と違うのは、立ち止まり、振り返ったこと。
お互いが、まるで鏡のように。
511
:
−19歳
◆rUbBzpyaD6
:2007/10/05(金) 02:44:47
シャー!!!
と声を上げて、ワッキーの手に思い切り齧り付く。
「いて!!」
緩んだその腕をすり抜けて、勢いよくドアノブに飛びつくと、
重みと反動で、ガチャリと音を立ててドアが力なく開いた。
その隙間に身体を滑り込ませ全速力で外に出る。
人の足の間を猛スピードでかいくぐる度、きゃあという声が上から何度も聞こえたが、気にしている余裕は無い。
階段を駆け下り、閉じようとする玄関の自動ドアをぶちやぶる勢いで突っ切る。
外に出ると一目散に南へ向かった。
───石も持たんと不用意にこちらの世界に関わることが、
どんなに危険なことか───
ぐっさんの言葉を思い出す。
彼の言うとおりだ。関わるべきじゃなかった。
自分の手に余るものだと分かった時点で、大人しく身を引くべきだった。
もし本屋にいるその男が、帽子の男と同一人物であったら、不用意に接近することがどれほど危険なことか。
もしその力を発動されてしまったら、石を持っていない自分たちには、何一つ成す術がないのだ。
───早く解決しないと、困るだろうし──
庄司の言葉が頭の中をリフレインする。
大した興味さえもなく巻き込まれた上、そんな親切心で関わっているのに
わけもわからない相手に、どうにかされてしまったら、
そんな悲劇だけは、どうか。
ぐっさんは何か背後に組織があるようなことを言っていた
今なら分かる、その存在と目的の有無はともかく
石を持っていてさえ、組織に入らねば、身を守りきれないほど、危険なのだ。
人ごみを駆け抜けると目的の本屋が見えてきた。
何事もなくあってくれという期待を軽々と裏切り、
視界に庄司と──誰か、が向かい合って言い争っているのが見える。
諭そうとする庄司の声と、まるでそれを聞かない子供のようなわめき声。
そして男の手が自分の胸ポケットに伸びたかと思うと
そこから現れたのは、透き通る白い石。
さぁっ庄司と顔色が変わり、身を翻すようにして逃げだす。その後ろで石が光る
───と思われた瞬間。
に゛ゃあ゛あ゛あ゛
断末魔のような叫び声を上げ、爪と言う爪を出して三毛猫が男に飛び掛った。
その姿は猫というよりも凶暴な野生の獣のそれである。
何が起きたか把握できず、唖然とこちらを見ている庄司に叫ぶ
(逃げろ!!・・・・と言ってもわからないか・・・!)
石を持っている男の手に爪を深々と立て、思い切り引き下ろすと
「ぎゃぁ!!」という声と共に、赤い斑点が飛び散った。
そして、その拍子に石がするりと指を抜け、カン、という音を立てて地面に転がる。
(チャンス!!)
その瞬間を逃さず、猫は石を咥えて一目散に走り出した。
男は驚いて、我を忘れて必死の形相で追ってくる。
当たり前か、これが無くては、この男もただの人間。
今この時だけはこの猫の姿がありがたい
人ごみをすり抜け塀に飛び乗り、都会の裏通りを弾丸のように猫は逃げる。
どうか、今のうちに逃げてくれ、と
繰り返し繰り返し、心の中で願いながら。
512
:
−19歳
◆rUbBzpyaD6
:2007/10/05(金) 03:46:36
街灯の下にその石を置いて見てみると、それはどうやら琥珀らしかった。
白いと思っていたがよく見るとほんのりと薄い黄色がかかっている。
珍しい色でありながら、それが琥珀だと分かったのは
まるで不気味な影をうつすように、石の中にサソリが入り込んでいたからだ。
琥珀は樹液が固まって出来た石、虫や葉が入りこむことはまれにあり、むしろその方が価値は高い。
それにしても
(気味悪いな)
というのが正直な感想だった。
あのあと町中を走り、男をまいた後、ヒデはひたすら歩いて靖史の家を目指していた。
靖史にこの石を渡せば、何かに気付いてくれる確立は高い。
「なんじゃこの猫ー」
と言ってまるで気付かれず追い出される可能性も高いといえば高いが。
どちらにしても、この姿のまま家に帰ってもしかたがないし、誰とも連絡は取れない
ここしか来る所はないのだ。
深くため息をつく。
リーリーと虫の音ばかりが聞こえる、誰もいない夜の公園の水のみ場で喉を潤す。
走り続けたため肉体は疲労困憊し、ぐったりとしていたが、ここまで来てぐだぐだしてもしかたがない。
家までもう一息だと立ち上がったその時
じゃり、
と誰かの足音がした。
じゃり、じゃり、と静かに近づいてくる足音。
街灯が少しずつ、その輪郭を浮き立たせる。
すらりとした高い背。それは先刻別れたばかりの。
───庄司。
どれくらい前からこちらに気付いていたのか、じっと張り付いたように凝視している。
驚いて見返していると、ゆっくりと口を開いた。
「・・・ここに来るまでのあいだずっと考えてたんですけど・・・」
膝を追って目線を近くする。
「・・・・・ひょっとして、ヒデさん?」
何か空気が歪むような感覚のあと
街灯が映し出す人の影が、二つになった。
「・・・助かったよ・・・」
と言うと
「いえこちらこそ」
といって庄司は笑った。
安堵と疲労で立ち上がる気力が無い。
今更になって気付いたが体中擦り傷と泥だらけでボロボロだった。
「もしただの猫ならうちで飼おうかと思いました
俺猫アレルギーだけど」
そういって笑う庄司の肩を借りてなんとか立ち上がる。
手の中には例の琥珀。
これをあの二人の元に届けたら、とりあえず任務は終了にしよう。
でもその前に
「・・・携帯、貸してくれるか・・・?」
「はい?」
「心配してると思うから」
今は自分の手で、
電話できることがなにより嬉しい。
513
:
−19歳
◆rUbBzpyaD6
:2007/10/06(土) 00:56:20
「石を咥えたまま人込みをジグザグに駆け抜けていく姿はロナウジーニョのようでした」
庄司は身振り手振りを交えて今日一日にあった出来事を説明する。
「大変でしたよ・・・こりごりです。
これが終わったら、もう二度と関わらないことをお勧めします」
災難であったろうに冗談を交えて話す二人の言葉を笑いながら聞いていたが、
若干の沈黙の後、靖史は気になっていたことを口にした。
「で、これ、どうやってつかうねん」
と机の上に置かれた、問題の白い石を指差して言う。
石を中心に、四人は顔を見合わせる
「・・・さぁ・・・・?」
「例えばこうやって・・・」ヒデが石を手の中に入れて
「戻れ!」
叫んでみたが何も起こらない。
そして少し恥ずかしい。
「それなら・・・」
と庄司が石を掴んで恭しく相手に渡すそぶりをする
「監督、ウィニングボールです。」
「それはモノボケ」
と笑いながらヒデからツッコミが入る。
すると靖史がその直径4センチくらいはあろうかという白い石をひょいと取り上げて
「ピッコロ大魔王」
と言って口に咥えたので、ヒデと庄司は同時にぶはっと噴出してしまった。
そして靖史の横でその一連の光景を眺める、ものすごく不信そうな少年の目。
「あ、ごめん・・・・」
と謝る靖史から不機嫌な顔のまま、細長い手を伸ばして石を掴むと
そのまま少しだけ上に掲げて
「この錠剤には成人一日の栄養全てが含まれています」
と言った。その順応性の高さと
「大きすぎ!飲めへん!」
という間髪入れない靖史のツッコミのやりとりに、
庄司とヒデは、やはり少年はジュニアで
そしてお互いの相方で兄弟だと改めて感じる。
「ま、とりあえず。壊すか」
と靖史が立ち上がり、どこからかミノとトンカチを持ってきた。
「いいんですか?」
「しゃあないやろ。もっぺん犯人に返して『使ってくれ』って言う訳にもいかへんし
あ、敷くもん敷くもん」
と台所からまな板を持って来ると、その上に石を置き、丁度真ん中にミノを宛がう。
幸い大きい石なので、安定はしそうだ。
「浩史下がっとけ」
と言ってトンカチを振り上げたその時。
───力が、欲しくはないか・・・・?
地の底から湧きあがるような声が、部屋に響いた。
514
:
−19歳
◆rUbBzpyaD6
:2007/10/06(土) 01:34:11
白い石から、オーラのように何かが立ち上る。
それは変幻自在に人の手のような形になったり人型になったりと蠢き
不気味な声を発した。
───・・・力が、欲しくはないか・・・?
もし我と契約を交わすなら、
他人から芸人としての力を奪い自分のものとする
その術を与えよう・・・
才を磨き実力を蓄えたそのものが何の苦労もなく手に入る・・
このままでいたくないのなら・・・
目指すものの頂がなお高いところにあるのなら・・・
我と契約を交わせ・・・
何・・力を奪ったところで人が死ぬわけでは
ゴン。
鈍い音がした。
とたんに石から出ていた煙のようなものが、水をかけられたようにフシュンと音を立てて消えた。
そして最後の叫びのような
眼前を覆う一瞬の閃光。
全員がまぶしさに目を閉じ、そして恐る恐る開くと、そこにはもう嘘のように何も無く。
テーブルを見ると、ミノが深々とまな板に打ち付けられ
白い琥珀は、中に入っていた蠍ごとぱっかりと二つに割れていた。
靖史が、トンカチを振り下ろしたのだ。
「話くらい最後までさせてやれや」
「いや、終わったんかなーって・・・」
と靖史が言いかけたところで、全員がハッとして振り返る。
そこにはいつもと変わらない、スラリとした長身の、彼がいた。
+19年の、彼が。
「なんかまだ話したそうやったで」
そう言って笑う表情と
まるで何も無かったかのような不遜な態度に
「ジュニア!」「「ジュニアさん!!」」
と思わず待ちわびたヒーローの登場を迎えるような
三人の歓喜の声が同時にあがった。
515
:
−19歳
◆rUbBzpyaD6
:2007/10/06(土) 03:23:27
それから数日後、警察署からの帰り道。
「だから14歳だったんですね」
と庄司が言った。
「あ?」
「何でそんな中途半端な年齢なんだろうって思ってたんですけど
芸人として生きてきた時間を奪われたから
修行を始める前に戻ったんだなって」
「お前危なかったな。20前に戻されるとこだったぞ」
ヒデが笑う
「俺の場合は、あの帽子の男は俺の時間が欲しかった訳じゃなくて
力発動して若返らせて訳わかんなくさえちゃえ!
っていう感じでしたけどね」
庄司もそういって笑っていたが、ふと、小さい声で呟いた。
「・・・・でも、脅えてましたよ。
俺とあの本屋で目があった瞬間『見つかった!!』って顔をして
多分、自分自身でやったことが、怖かったんじゃないでしょうか」
今となっては確かめる術もない。
あの後、例の帽子の男は仕事場に戻ることなく忽然と姿を消した。
不法侵入の犯人として警察に届けはしたが
その行方はようとして知れない。
金品の被害も無いということで、
警察の方にもあまり真面目に探す気がないというのは見て取れた。
男は、石が壊されたことを知ったのかもしれない。
あるいは、その力に取り込まれて───。
「あの後調べたんですけどね。あの帽子の男。
貴方に憧れて、一度は芸人を志した男だったそうですよ
真面目で努力もしたけれど結局──絶望したんでしょうね
ある日突然、自分には才能が無いからもう止めると言い出したとか」
ヒデがいう言葉に
「・・・ああ、何かそんなこと言っとった気がするなぁ・・」
とジュニアは曖昧な返事をした。
「覚えてないんですか?」
「そこらへんは記憶がぼやけてんなぁ
石に取り込まれてたときは
何か奇妙な夢みたいやったわ。
起きた瞬間は覚えてたやけど、
どんなんか言おうとしたらもう何もわからへんような」
目を閉じて、思い出そうとしても何か混沌とした渦の中にいるような
ただその中からひとつだけ思い出せる
こちらを凝視する───心酔するような
まなざし。
516
:
−19歳
◆rUbBzpyaD6
:2007/10/06(土) 03:27:30
おしまい。
長くなってほんとにすみません。
そして長くてもいいといってくださったかたありがとうございます。
読んで下さってありがとうございました。
廃棄だからと好き放題書きました。楽しかったです。
517
:
名無しさん
:2007/10/06(土) 05:42:28
乙!面白かったです。
ここ数日毎日読むのを楽しみにしてました。
518
:
−19歳
◆rUbBzpyaD6
:2007/10/06(土) 20:29:31
おお、感想が!ありがとうございます。
そういっていただけると書いたかいがあります
519
:
名無しさん
:2007/10/07(日) 19:34:09
乙!
おもしろかったーー!!!1
520
:
名無しさん
:2007/12/10(月) 01:05:53
お久し振りです。>478-481の続きです。
↓念の為再び説明
主要キャラが現在使用中+本スレ停滞中なので、本編にも番外編にもなれない妙なパラレルです。
廃棄スレということもありだいぶ好き勝手やらさせていただいてます。
おかしなところがあればつっこんでやってください。
521
:
名無しさん
:2007/12/10(月) 01:07:36
「黒、やったんですか」
川島の低い声が闇に落ちる。落ち着き払った声ではあったが、それとは裏腹に胸を打つ早鐘は落ち着く気配を見せない。
「なに、しらんかったん?」
意外やわーと言いながら、哲夫は準備運動とばかりにぐるぐると肩を回している。その先に堅く握り締められた手があり、その中に石があることは明らかだった。
…ついこの間まで一緒の劇場でしかも同じ組で仕事してきた二人と、まさかこんな形で対峙するとは思いもしなかった。
混乱する感情の中に、虚無感が混ざった。小さく舌打ちをして、もう一度小林を見上げる。何も言わない白い男は腕組みをしたまま動かない。
522
:
名無しさん
:2007/12/10(月) 01:08:29
どうするん、と哲夫が問い掛けてきた。戦うのか黒に入るのか、それ以外の選択肢は用意していないらしい。
「…黒には入らん。けどお二人とも戦いたくない」
「そんなん言われてもなぁ?」
「なぁ?」
哲夫が振り返ると、その一歩後ろにいた西田が間の抜けた声で答える。その西田も先程から小林同様腕組みをしたまま動かない。
川島は混乱する頭を無理矢理回して、なんとか手を考えようとした。
戦うにしても状況はあまりにも不利だ。自分に有利な夜とはいえ、3対1、しかも相手の能力はわからない。
今までも何度か同じような状況で襲われたことがあった。しかしそれはまだ能力の使い方も知らない、若手だったからこそ切り抜けられたのだ。今とは話が違う。
それならば逃げるか。
それは何の解決にもならない、自分がいくら逃げたところで彼等の追撃は止まらないだろう。
それならばどうする―
523
:
名無しさん
:2007/12/10(月) 01:10:30
不意に思考が中断され、川島は弾かれたように顔を上げた。哲夫が近くにあったビルの壁を思い切り叩いたからである。
「何も知らんで戦うのもアレやから、俺の能力は教えといたるわ。」
哲夫は話しながら壁をコツコツと叩く。
「俺の能力は分解と再構築ができるってもん。例えば…一旦解散!んですぐ集合!」
哲夫が手を叩くと同時に指の隙間から強い光が発せられた。
光に怯んだ川島の右足に、急激な重みが襲った。何が起こったのかを把握する術はなく、バランスを失った体はよろけ、倒れこむ。
「なんっ…」
咄嗟に両手をついて、顔面から地面に激突することだけは防げたが、地についた己の膝の間から得体の知れない塊が見えて、川島は言葉を失った。
524
:
名無しさん
:2007/12/10(月) 01:11:03
それはコンクリートの塊だった。右足首からふくらはぎのあたりまで、まるで蛇のように絡み付いている。
顔を上げると、哲夫が手をついていたあたりの壁が不自然に凹んでいる。足に絡み付いたものがビルの壁だったものだとわかるまでそう時間はかからなかった。
引き剥がそうとするが、ビルの壁と変わらない堅さのそれはがっちりと組み付いて離れない。
哲夫は嗜虐的な笑みを浮かべている。その後ろで西田があ、と小さい声をあげて哲夫を呼んだ。
「『教えといたる』、て実際にやってもうたら結局卑怯やん」
「あぁそうやった」
どこまでも呑気な西田のツッコミに、哲夫は刈り込まれた頭を掻いた。
525
:
名無しさん
:2007/12/10(月) 01:13:02
―洒落にならん。
川島は心の中で呟いた。背中を嫌な汗が伝う。
「んじゃ、遠慮なくいかせてもらうな。…一旦解散!」
哲夫は再び石を光らせる。最早川島に迷っている暇はなかった。
戦うにしても逃げるにしても、まず距離を取りたい。二人の立っている後ろ数メートル付近にある影を目指して石の力を発動させる。
漆黒の空間を通り抜け、寸分の狂いもない場所から飛び出す。これで確実に背後をとれる。
―はずだった。
「かはっ…!!」
予想だにしなかった衝撃に息が詰まる。全身、特に胸辺りにはしる強い痛み。
何事かと自分の体を見れば、自分がたった今飛び出した壁から、コンクリートの塊が「生えて」いた。それが絡み付くように全身を取り巻いていたのだ。
顔を上げると、笑い飯の二人はこちらを向いている。まるでここから出て来るのがわかっていたように。
「聞いてたけど、えらい能力やな」
西田が目を丸くして言った。
能力が知られているのは予想の範囲内だった。しかし影が多い今なら、こちらの動きを読めるはずがない。それならば何故。
526
:
名無しさん
:2007/12/10(月) 01:14:35
哲夫が再び両手を構えた。
―とにかく今は、大人しくコンクリ詰めにされるわけにはいかない。
川島は貼り付けられている壁の影に再び潜り込み、今度はアスファルトの地面から飛び出した。
しかしまたも、コンクリ片が体を覆った。上半身、そして首まで締め付けるそれに、呼吸さえおぼつかなくなる。
間違いなく、動きが読まれている。
そうでなくては考えられないことだった。
大振りの能力の割に正確すぎる攻撃。それを可能にしてるのは西田の力なのだろうか。
一方で全く動く気配の無い小林の能力も気になる。
どうすればいい、
句点の後は続かない。疑問ばかりが先行して、考えがまとまらない。
どこまでも答えが見えず、全て投げたしたくなる。そんな絶望が川島を支配しつつあった。
527
:
名無しさん
:2007/12/10(月) 01:15:48
以上です。
また細々とここで更新したいと思ってます。
本スレまた賑わうといいですねー(´・ω・`)
528
:
元・8Y(ry
◆pP7B4KibtE
:2007/12/27(木) 22:10:30
まとめサイトの管理人さんと某所で偶然お会いした際にお話した短編、
どうにもこうにもまとまらず、半年以上経過してしまった事もあって
ここに投下する事にしました。
529
:
元・8Y(ry
◆pP7B4KibtE
:2007/12/27(木) 22:13:31
「あ、おい待てよ、光――」
口を衝いて出た名前に、しまった、と思った時にはもう遅かった。
相手の機嫌の悪さを物語るような耳障りな音に眉を顰めながら、田中は反射的に耳から離した受話器を思わず数秒眺めた。
――ていうかあいつも家の電話から掛けてきてたのかよ。光っちゃんに聴かれたどうするつもりだっての。
わざわざ妻が外出中である事を確認してから話し出したところを見ると最低限気を遣ってはいるらしいが、それにしても無用心だ。
『黒』の人間なら家に忍び込んで盗聴器を仕掛けるくらいはやりかねないし、事務所の社長でもある太田の妻は、それなりに
――少なくとも田中も太田も太刀打ち出来ない程度には――頭の切れる人間だ。
万が一異変に気付かれたら隠し通す事が不可能に近いのは、彼自身が一番知っているはずだが。
のろのろと受話器を置きながら、思わず溜息を漏らす。
久しぶりの丸一日のオフにいきなり相方から電話が掛かってきたかと思えば、その内容は最近食傷気味になってきた『白』と『黒』の話だ。
少しくらい無愛想な態度をしたところでバチは当たらないと思ったのだが、どうやら電話越しに伝わったこちらの不機嫌さは相方の癪に障ったらしい。
いや、叩き付けるように電話を切った原因はそれだけではないだろう。
電話を掛けてきた時点で相方の機嫌は地を這うようなレベルだったようだし、
話の途中で電話を切ろうとする相方を咄嗟に引き止めようとして、うっかりここ数年相方が嫌っている呼び方をしてしまったのもまずかった。
明日会った時に相方がまだ憮然としているようなら、少しは機嫌取りをしておくべきかもしれない。
頭が痛くなるような思いで振り向くと視界の端にちょうど机の上に出していた緑色の石が映り、思わずもう一度溜息をつく。
ルビーやサファイアと違い、エメラルドは一切の攻撃力を持たない。
その分浄化に特化した力には凄まじいものがあるが、自衛の力すら持っていないというのは余りに大きな欠点だ。
どうしてこんな面倒な石が転がり込んできたのか。それも、よりによって若手のカテゴリからはとっくに外れている自分に。
それとも、まだ自分が知らない――もしくは、『忘れている』?――何かがあるのか。
ふと浮かんだその考えに悪寒が走り、田中は頭を振ってその仮説を頭から叩き出す。
それでも、薄曇の今日の空のように、嫌な予感は頭から離れなかった。
530
:
元・8Y(ry
◆pP7B4KibtE
:2007/12/27(木) 22:16:58
追伸(というより私信)
まとめサイト管理人様へ
私事でしばらく忙しくなりそうな事もあって中途半端になってしまって申し訳ありません。
531
:
ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/12/28(金) 02:33:52
ちょっと質問なんすけど、枡野さんの一人称って僕ですかね?
俺ですかね?出す予定なのでできれば答えて頂きたいです。
532
:
ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/12/28(金) 02:47:41
間違えた。『升』野さんでした。
533
:
176@まとめ
:2007/12/29(土) 03:06:17
>530
ありがとうございます!秘かにお待ちしておりました。
太田さんが携帯を持っていない点や名前が出ただけでも恐い社長の威光、
ファンには嬉しい限りの行き届かれた描写で嬉しいです。
いえいえ、こちらもあれから某所にはご無沙汰でしたので。ご用事頑張ってください。
534
:
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/07(月) 04:16:08
品庄の話投下します。
設定などに無理があるかも知れないので、取り敢えずこちらに。
535
:
BERSERKER of OLIVE
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/07(月) 04:19:49
「しながわあああぁーっ!」
思わずビクッと全身が震えて、品川祐は楽屋のドアノブを掴み損なった。
顔を向ければ、駆けて来るのは次長課長、河本準一。
何ですかと歳下の先輩に訊ねれば、にんまりと丸い顔を更に丸めて見上げて来る。
同じ様に品川も顔を丸めて、今度こそドアノブを握った。
「時間あるなら、上がります?」
「そっちも時間あるならそうさせて貰うわ」
ドアを開け、どうぞと品川が促すと、いやに嬉しそうな様子で中に入る。
すぐに河本は、テーブルの向こうで寝そべっている庄司を見付けた。
「あ、庄司寝てるんか。俺らの楽屋にする?」
「いや良いですよ。こいつちょっとやそっとじゃ起きないすから」
やっぱこいつ、石使ってやがったな…
品川は大口を開けて眠りこけている庄司を見ながら、ひっそり息をついた。
庄司の石は闘争本能を飛躍的に増大させる代わりに、発動している間自身で力を制御出来ない。おまけに発動後は猛烈な睡魔に襲われるという厄介極まりないものだ。
朝会った時から欠伸を連発し、しきりに目を擦っていたからまさかとは思っていたが。
少し楽屋を空けた隙にはもう爆睡ぶっこいている相方を見て、品川のまさかは確信となった。
まあ石使わないでケガされるよりはマシっちゃマシか。
そう前向きに捉える事にして、河本に向き直った。
その表情を見て、品川は思わず苦笑を漏らす。
「めちゃめちゃ嬉しそうですね。何かあったんですか?」
「何かあったも何も。お前ら見てほんっっま安心したわ。今ホラ、あるやん。あの…」
「ああ、石…ですか?」
例の、と言うと、河本はそれ、と顔を顰めながら頷いた。
「周り誰見ても敵ちゃうんか思えて来て。俺もう人間不信なりそうや。
 品川は白やろ? もう何か、ほんま安心したわ」
白の傍にいたって襲われる時は襲われますけどね、とは思ったが言わず、代わりに小さく愛想笑いで返しておいた。
周りが全て敵の様に思えてしまうその感覚は良く解ったから。今安心し切っている先輩をわざわざ不安がらせる事もないだろう。
暫く他愛のない事を二人で喋っていたが、やがて楽屋の奥の影がむっくりと、身を起こした。
庄司は暫くしかめっ面で二人を見ていたが、それが河本と品川だと解ると、目元だけは眠そうに、緩く笑ってみせた。
まだ寝てても良いぞ、と品川が言ってやる。
しかし庄司は畳をぼーっと眺めた後、何かに気付いた様に顔を上げ、緩慢な動作で立ち上がり、壁にぶつかりながらよろよろと楽屋を後にした。
その背を、二人揃って見送る。
「…何やあいつ。大丈夫なん?」
536
:
BERSERKER of OLIVE
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/07(月) 04:23:08
「……大丈夫でしょ。顔でも洗いに行ったんじゃないですか」
ふーん、と河本は返したが、閉じたドアを見る品川の視線が、いつもより僅かに厳しくなっている事に気付いた。
同時に、一人置いて来た相方を思い出す。
そんな河本を見透かす様に、品川は河本さん、とやはり厳しい面持ちで訊ねた。
「井上さん。今一人なんですか」
「解らん。俺がこっち来る時は楽屋に一人やった。けど、今はどうやろ。あんま他の芸人とこ遊びに行く様な奴でもないけど…」
沈黙が二人を包む。
見に行きますか、と品川が切り出すと、河本は一も二もなく頷いた。
「しょおおぉぉーじっ!」
どっかと背中からタックルを喰らい、庄司は目の前の自動販売機にへばり付いた。
振り返れば、目の前には次長課長、井上聡。
どうしたんですかと同い歳の先輩に訊ねれば、目をキラキラさせて見上げて来る。
「庄司おるなあー思って。それだけ」
「それだけですか」
苦笑を漏らしながら、自動販売機に小銭を入れ、ボタンを押す。
ガコンと音がしてから、缶コーヒーを取り出した。
「何や眠そうやなあ。あんま寝てないん?」
「俺寝起きなんです。だからコレで、目覚ましです」
屈託なく笑う庄司に釣られて、井上もそっか、と笑って返した。
プルタブを開け、缶に口を付ける。コーヒーを飲みながら、庄司は右に左にと視線を彷徨わせていた。
しかし右の方を暫くじーっと見てから、口元を僅かに持ち上げた。
それを井上は、缶の向こうに見付けた。
「ええもんあった?」
「え? …いや、何でです?」
「今めっちゃ楽しそうやったで。一瞬やけど」
そうですか? と目を細めて笑う。
やっぱり右の方を見て、飲み干した缶を脇のゴミ箱に放り込んだ。
「…そう言えば、河本さん俺らの楽屋いましたよ」
「あ、ほんま? そーなんやー。品川と?」
「そうですよ。二人で座って、何か話してました」
「へえー」
「はい…」
困った様に笑いながら口元に手を添える庄司を、井上はやっぱりにこにこと機嫌良く見上げていた。
537
:
BERSERKER of OLIVE
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/07(月) 04:26:46
うーん、と庄司は辺りをきょろきょろと、時に井上をちらちらと窺っていたが、やがて右の方へと足を踏み出した。
井上も、それに続く。
二、三歩進んで、庄司は付いて来る井上の方を振り返った。
「あのーすいません、いのう…」
「すいません」
『えさん』、と庄司が言い切るより先に、二人に声が掛かる。
井上と庄司、二人揃って顔を上げた。
「すいません…あの、井上さんと、庄司さんですか」
うん、と同時に頷く。
井上は庄司の横に並び、知ってる? と男を見ながら小声で訊ねた。庄司の答えは、さあ。
ひょろっと背の高い優男は二人を交互に見た。
「お二人共、石…持ってますよね。大人しく渡せば、何もしません」
石…!
うわ来たわ、と井上は庄司を見上げた。
一方の庄司は面倒臭そうに腕を掻いている。
何でこいつこんな普通なん、と井上は思ったが、男からしてみれば表情に起伏のない井上も充分平静に見えただろう。
「ちょぉ、庄司」
「はい?」
「石言うてるで、あの人」
「多いですよね最近」
「うん。どうする?」
「俺は石手放す気ないですよ。井上さん、渡すんですか?」
井上はぶんぶんと首を横に振った。
それを見て男は半分諦めた様に溜息を落とした。
「俺も本当、穏便にしたいんですよ。お二人はテレビにも沢山出てますし、もう良いでしょう?」
瞬間、庄司は弾ける様に視線を上げて目だけで男を見た。が、井上は気付かない。
井上は自身の石、金の入っているポケットを、ぎゅっと押さえた。
「しょーじ、どうすんの。お前の石、何なん?」
「俺の石は一応攻撃系ですよ。向こうも一人で二人に来るんだから、攻撃系じゃないですか?
 でも俺のはここで使うのはちょっと…うーん。井上さんは?」
「俺? 俺のんは…」
「いつまで話してるんですか…!」
業を煮やしたらしく、男は素早く上着のポケットから石を取り出した。
ヤバい、と井上も石を取り出す。同時に床を蹴った。
「しょーじっ、後頼んだでっ!!!」
「えっ、ちょっ、井上さん、待っ………!!」
井上の能力は、石の凍結。
俺があいつの能力止めてまえばそれで終わりや、と井上は石を握り締めた。
井上の石から光が放たれる。
井上は両手を頭上で合わせ、ピーンと全身を直立に保ったまま、勢いを殺さず床を滑った。
この時、庄司がその場にいない筈の河本の、威勢の良い競りの声を思い出していた事などはどうでも良い。
床を滑った井上の、行き着いた先は―――
538
:
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/07(月) 04:31:39
一旦ここまでです。
井上の呼ぶ「庄司」は「しょーじ」にしか聞こえない。
539
:
名無しさん
:2008/01/07(月) 18:19:53
面白いです!続きがすごく気になる。
タックルかけといて
>「庄司おるなあー思って。それだけ」
という井上の言葉に笑いました。
今までの能力の設定もちゃんと生かされてると思いました。
自分は彼らについてあまり詳しくないので
個々の芸人の描き方についてはコメントできないです。すみません。
どなたか詳しい方お願いします。
540
:
名無しさん
:2008/01/07(月) 18:33:28
遅くなったけれど名無しさんの麒麟川島と笑い飯の話の続編、とても面白かった。また続きが読みたい。こつこつとでもいいので更新待ってます。
541
:
BERSERKER of OLIVE
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/07(月) 22:32:30
しん、と静寂が落ちる。
庄司は手を前に突き出したまま、視線だけは自身の真下に向いていた。
男の目は、庄司の足下へ…
築地のマグロとなった井上は、庄司の元へと辿り着いていた。
だがしかし、井上の能力を知らない二人には何が起こったのか解らない。
庄司と男と。ゆっくりと、視線がかち合う。
ごくりと互いが生唾を飲み込む音さえ聞こえそうだ。
「お前、何かなった?」
「いや、別に…」
「俺も別に…」
「「……………」」
足下で固まったままの井上を見ながら、庄司はあーあと目を閉じた。
目覚めた瞬間、戦闘の気配を感じた。いや、気配を感じて、目を覚ました。
だから眠い目を擦って楽屋を後にしたし、眠い身体を叩き起こす為にコーヒーを飲んだ。
井上が来た時は正直、どうしようかと思った。
単純に巻き込みたくなかったし、何より戦うのなら、なるべく一人が良かった。
河本が自分達の楽屋にいると言えば井上はそっちへ行くかと思ったがそうも行かず、足を踏み出せば付いて来た。
だからはっきり、付いて来て欲しくないと言おうとした。
だけど言い切るより先にこの男が現れて。…で、今、これ。
庄司はズボンの右ポケットに手を入れ、モルダヴァイドを手の中でころころと転がした。
全く異常はない様に思う。男も何ともない、と言っていた。
井上さんの能力って何なんだろ。まさか戦意を削ぐとか、そういう系? と頭を捻りながら、庄司は男に向き直った。
ぐちゃぐちゃ考えたって仕方ない。起こった事はもう起こった事だし。
「お前さあ」
「…はい」
「何石使おうとしてんだよ。今誰もいないから良いけどさ、人が来るかも知れないじゃん。普通考えるでしょ」
「だから、です。お二人が、困ると思って…」
あー成程それ狙いかあ、と逆に納得してしまった。
まあそれでも石を渡す気はなかったし、それは井上も一緒だろう。
だからこそ今こうして、井上は直立不動のまま固まってる訳で。
少しイラついた風の庄司に、男は怯んでる様だった。
石に手を掛けようかどうか迷っている。ただ、庄司もまたポケットに手を入れているから、動けない。
庄司はそんな男に気付いているのかいないのか、まあ良いや、と歯を見せた。
それは、男が度々テレビで目にする笑顔そのままだった。
「取り敢えず、場所変えよ。ここ人来るし、派手に出来ないでしょ」
バタバタバタ、とスタッフよりも慌しく、二つの足音が廊下中に響き渡る。
品川と河本は、忙しなく左右に目と顔を動かしながらスタジオを駆け回っていた。
次長課長の楽屋に、井上の姿はなかった。
その後井上と仲の良い芸人達の楽屋を訪ねたが、何処にもいなかった。誰一人、井上の所在を知る者はなかった。
芸人達は井上を捜す手伝いを申し出たが、別に何かあったと決まった訳でもないし、大事にしたくないので断った。
通り掛かるスタッフ達に訊ねるも、皆さあ、と曖昧な答えを返すだけ。
仕方なく、手当たり次第のローラー作戦に出た。
トイレ、楽屋、階段、非常口。ありとあらゆる扉を開けて、ありとあらゆる通路を抜けて、井上の姿を捜す。
と、品川が突然足を止めた。
「ちょっ、河本さん河本さん!」
「何や、おったか!?」
「あれ、多分…井上さん? …っすよね?」
真っ直ぐに伸びた廊下を少し逸れると、僅かに広いスペースがある。
そのスペースのソファの上。品川の位置から、ピンと伸ばされた手と頭が、僅かに見えた。
「聡!」
河本が慌てて駆け寄る。
ソファの背もたれに顔を向ける形で横たわっている為、傍目には変なポーズで寝ている様に…見えなくもない。
「河本さん、井上さん動かないすけど…大丈夫なんすか?」
「良かった、大丈夫や。これ、聡の能力やから」
「どーゆー事っすか。井上さん、めちゃめちゃ冷たいですよ」
「マグロや。マグロんなって、相手の石の能力、凍らせるんや」
542
:
BERSERKER of OLIVE
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/07(月) 22:41:55
「凍らせるって…そりゃまた凄いっすね。無敵じゃないすか」
「その代わりこいつはこれ。起きたら、暫く寒さでガッチガチや」
ふーん、と品川は井上に掛けられていた上着を掴み上げた。
ふらっと楽屋を後にした、庄司が着ていたものだ。
「…河本さん、これ。井上さん、庄司といたみたいっすね」
「ほんまか。でも、そしたら庄司は? 聡と一緒におったんやろ?」
「…さあ。井上さんと別れてどっかふら付いてんじゃないですか?」
「でも聡石使ってるんやで。何かあったんちゃうかって」
「井上さんに聞くのが早いと思いますけど。いつ元に戻るんです?」
品川の言葉を聞くと、あっ、と声を上げ、河本はゆるゆると顔を上げた。
「聡元に戻るんな…その戦闘が終わったら…やねん」
「『戦闘が終わったら』?」
河本の言葉を繰り返す。
それが何を意味するかなど、考えなくても解る。
「井上さんが凍らせたらもう終わるでしょう、普通。まだ終わってないってどういう事です?」
「解らん。でも、聡が封じ込めれるんは一度に石一個やから。相手が何人もおったり、何個も持ってたりしたら……」
「でもこんな建物の中であいつが使ったら俺すぐ解りますよ! 派手な石の力なんか感じませんよ!?
 終わるって、どう終わったら井上さん起きるんすか!?」
「そんなん俺に言われても知らへん! 聡の石が感じるんやろ。『何か』が終わったって。
 それ以上、俺には何も言えへん」
河本が言い終わる前に品川は立ち上がっていた。
掴んでいた上着を、河本に押し付ける。
「すいません河本さん、井上さん頼みます。俺、…捜して来ます」
河本の返事も待たず走り出す。
止める事も出来ず、河本は呆然とそちらを見ていたが。
やがて押し付けられた上着を井上に被せると、ソファを背にして座り込んだ。
それから数分後。
ビクリと身震いすると同時に、井上の瞳に生気が宿り始めた。
―――あのバカ、何処にいんだよ!
ほぼ毎日一緒にいる相方だ。庄司の持つ石の放つ空気は知っている。
その空気を必死に手繰りながら、品川は階段を駆け上がっていた。
何階上ったか解らない。が、品川は廊下に飛び出し、精神を研ぎ澄ませた。
この階で間違いない。きっとこの階にいる筈だ。
庄司の石は爆発的な力を生み、しかも自制する事は出来ないから、解放されればその力はほぼ垂れ流しの状態となる。
こんな建物の中で発動させれば、品川でなくとも気付くだろう。
だが今、集中しなければ存在を感じ取れない。という事はまだ大丈夫だ、少なくとも、石は使っていない。
取り敢えずその事には安心しながら、品川は廊下を進んで行く。
二個、三個と角を曲がる。
四個目の角を曲がったその時。
「庄司………!」
いた。
背の高い優男と二人、こちらに歩いて来ている。
「あれ、品川じゃん」
何やってんの、と続きそうなその調子に拍子抜けする。
庄司が若い男に、じゃあこれで、と告げると、男は会釈し、そそくさと二人の脇をすり抜けて行ってしまった。
その男を見送ってから、庄司は品川を横目で見た。
そして、言ったのは―――
「何やってんの」
あんまり予想通りのセリフに脱力して、ずるずると背中が壁を伝った。
そんな品川を、庄司は相変わらずきょとんとした表情で見る。
「何って…お前いねぇから。井上さんあんなだし」
543
:
BERSERKER of OLIVE
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/07(月) 22:45:27
「えっ、あんなって、まだあのままなの? あの、」
「築地のマグロな。石の凍結とかすげーけど、あの格好のままフリーズはちょっと勘弁だわ」
「確かに。俺もヤかも」
薄く笑って、庄司は両手をポケットに突っ込んだ。
だが不意に、何かに気付いた様に左手を見る。
どした、と品川が訊くも、何でもないと返された。
「で、あいつ誰よ。見た事ないけど」
「あいつ?」
「さっきの若いの」
「ああ。何か、最近来たばっかの若手だってさ。何かあんまここ知らないらしいから、社内見学してた」
「お前何ともねえの?」
「何も」
「あそ」
何の為に走り回ったんだと、品川は息を落としながら床を見た。
まあ何かあったと決まった訳でもないのに、少し姿が見えないからと勝手に慌てたのは自分だ。
いやむしろ、何もなくて良かったじゃないか。
井上さんの解凍にタイムラグがあっただけかと、そう思う事にした。
「もしかして、」
頭上から掛けられた声に顔を上げる。
目の前に立つ歳下の相方は、酷く穏やかで柔らかい、大人びた笑顔を見せていた。
「捜してくれてた? 品川さん、汗だくじゃないですか」
「うるせぇ!」
キャラを作ってそう言うと、くしゃっと子供の様に相好を崩す。
よいしょと品川が立ち上がると、それを見て、庄司は伸びをしながら歩き出した。
「…ありがとな」
品川の数歩先を行きながら、聞こえるか聞こえないかの声量で落とされた、庄司の声。
滅多に言われないその言葉と、普段は高めで張っている相方にしては稀に聞く、低くて落ち着いた声色に、何だからしくねぇなと思ってしまう。
そしたら何だか照れ臭くなって、うん、もどうも、も返すタイミングを失ってしまった。
そんな自分がまた恥ずかしかったから、品川はもう相方からの謝意は聞こえなかった事にして、ただ無言のまま、庄司から数歩の距離を保つ事にした。
544
:
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/07(月) 22:50:07
まだ続きますが以上です。
>>539
有難うございます!初投下なもので、もの凄く嬉しいです。
次から設定が色々怪しくなって来ますので、終わりまで生温く見守っていただけると幸いです。
545
:
◆1En86u0G2k
:2008/01/17(木) 23:41:01
こんばんは! 進行会議スレで確認させていただいた後の投下です。
自分の独断で考えた展開が多かったため、こちらを利用させていただきました。
当初の構想より大分早い地点で力尽きてしまったので、とりあえずアメザリとますおかの話を。
それでは、よろしくお願いいたします。
546
:
日常のルール
◆1En86u0G2k
:2008/01/17(木) 23:42:29
都内某所、ファミリーレストランの一角。
時刻は夜の11時。店の奥に設けられた大人数用の席いっぱいに、たくさんの若者が陣取っている。
その風貌は様々だったが、とにかく彼らは、ああだこうだとひとつの議題について話し合っているようだった。
リーダーらしい男の声がボリュームを絞りつつもあまりに甲高いので、店員や客が時々、驚いたようにそちらへ目を向けている。
「…うん、とりあえずこの方向やな。コント3本と、最後にみんなで1本、ドカンとしたやつ」
たくさんのメモ書きの末、しっかりした字で書き直された計画を指で示しながら。
総括としての高音に一同が、自分たちのライブが少しずつ形になりゆく嬉しさと緊張感を交えた顔で頷く。
「じゃあみんな、大体何やりたいか考えとけよ〜。次の会議は…」
「…あのっ、柳原さん!」
小さく叫ぶような声は、携帯電話のスケジュール帳を呼び出そうとしていた男―アメリカザリガニのうるさい方こと柳原 哲也―の指を、止めた。
目線を上げれば、ふざけながらも沢山のアイディアを出してみせた後輩が、一転して顔を曇らせている。
(うわ、またか)
喜べない経験の豊富さで、予測は容易だった。ここ最近、ライブの打ち合わせ後はほとんどこんな調子なのだ。
手首に巻いた革紐の、そこに通した白い石がぼんやりと光る。
“…出番ですかっ!?”
自分よりさらに少し高いハイトーンボイスが、意気揚々と、柳原の脳裏に響いた。
要は心配性なのである。
石を手にして、妙な争いの存在を知って、真っ先に恐れたのは親しい者が巻き込まれること。
特に後輩たちは―見た目オッサンみたいなんもおるけど―まだ若く、芸歴も浅い。
何を基準に芸人たちへ渡るかは謎のまま、石は不気味な勢いで広まり続けてはいたが、基本的に年齢や知名度と石の所有率は、ほぼ反比例のグラフを描く。
この争いにおいて文字通り無力な若手たちにとっての最悪の展開といえば、やはり、強制的に先輩芸人に利用されてしまうパターンだろう。
実際、柳原自身も名も知れぬ若手に襲われた経験が何度もある。
話し合いの全く成立しない、誰かに操られた目とうつろな表情。回避という名目で行われる反撃と、傷付き倒れるその姿。
はなから納得のいく争いではなかったが、己の相手が見知った後輩になると想像すれば、許しがたいのはなおさらである。
というわけで彼は、情報収集を積極的に行い、同時に石を使ってその裏にある嘘や策略を発見し、必要であればそれを周囲に知らせ…
とにかく災厄が起きる前に叩くことに力を注いできた。
(ほんまは俺がもっと、直接色々できたらよかったんやけどなぁ)
正面突破ではなく抜け道を探すようなやり方は、あまり得意ではなかった。
ただ十分な力があればあるだけ突っ走ってしまう柳原のこと、能力が攻撃系でなかったのは、実はとても幸いだったのかもしれない。
決定的な力の行使を他人に―例えば先輩や相方に―ゆだねてしまう苦しさが、心に追加されてしまうことを除いては。
「…柳原さん?」
名を呼ばれ、はっと顔を上げた。
見回せば後輩たちは不思議そうにこちらを見つめていて、ああごめん、それで?と慌てて話の先をうながす。
ライブ前に聞いた妙な会話。先輩や後輩のささいな変化。同期にまつわる気になる噂。
誰々が石を手にした、誰々が襲われた――
報告される情報は雑多でとりとめもなく、結局争いに関係のない話だったりもする。
ただそれも全体に広がる不安と恐怖の成せる技なのだと思えば、無下に聞き流そうとも思えないのだった。
(…頼られてるんやもんな、俺)
それに今度の話は核心を突いていた。間近に控えた番組収録における、スタッフの不自然な動きと急な予定変更。読みが当たればターゲットを若手に絞った、大掛かりな作戦が練られている可能性が高い。
緊張と責任にわずかな喜びを混ぜて気を引き締め、対応策と参加できるメンバーに思いを巡らせー
途端、別の後輩が横から切羽詰まった声を上げた。
「あぁもう絶対あいつ嘘ついてると思うんすよお!柳原さん、一度会ってくれませんか!?」
「お、ええけど…誰や?別の事務所?お前の同期か?」
「僕の彼女です」
せっかく入れ直した気合いが、見事に崩れた。すう、と息を吸い、高音のツッコミを、一閃。
「―俺は嘘発見機ちゃうわっっ!!!」
547
:
日常のルール
◆1En86u0G2k
:2008/01/17(木) 23:44:17
出番を待つ、テレビ局内の楽屋だった。
時刻は正午を回ったところ。テレビの中では人気俳優の登場に、黄色い歓声が上がっている。
その音に紛れ込ませるようにして、男が一人、携帯電話を手にしていた。
「…確かに、明日の特番、楽屋の振り分けが変わっとるわ。5つにそれぞれ分かれる予定が、大部屋ひとつ。ダブルブッキングちゅうわけでも、ないみたいやし…」
メモを片手に渋い顔のまま話を続けるのは、ますだおかだの小さい方こと、増田 英彦である。
「で、部屋割り担当が、お前が怪しい言うてたスタッフや。…これは確定かもわからんなぁ」
電話の相手は後輩との会話から、不審な気配をいち早く察知した柳原。懸念のせいだろうか、少し声のトーンが低い。
その音階を耳に時計を見上げれば、収録の開始時間はとっくに過ぎ去っていて。
といっても少し前、楽屋を訪れた若いスタッフが報告していったから、事情は把握できていた。
―ちょっとトラブルで、開始遅れてます。ああ、でも30分ぐらいで!ほんとに、30分ぐらいで!
そう聞かされてから、すでに1時間が経とうとしていたけれど。
(うわー…あの子、正直に言うてくれたらええのに)
全く始まる気配がないのを憂うべきか、それとも作戦会議を続けられると喜ぶべきか。
唸りながらテーブルに転がしていた石を指先で転がせば、応じるように淡い光が点滅する。
“…まだ、ヘコんでんの?”
脳裏で問いかける、自分に似た声。どうやら、責任を感じているらしい。
要は、ひたすらに不満なのである。
石を手にして、妙な争いの存在を知って、真っ先に懸念したのは芸人が芸人でなくなってしまうこと。
振り回される日々、費やされる時間、動向の探り合い―石がなければ起こらなかった、騒動の全て。
芸人は芸を磨き、それを披露し笑いを取って、同業者を含んだ観る者すべてを、楽しませるのが仕事である。石をめぐるややこしい諍いも、その結果付く傷も、全く意図するところではない。
この争いに強制参加するはめになった芸人を待つ恐るべき展開といえば、やはり、怪我やショックが元で活動自体に支障をきたすパターンだろう。
才能や目標に壁を感じてならまだしも、そんな理不尽な原因で芸人が減るかもしれないことが、とにかく増田には許せなかった。
せっかくみんな、それぞれ一生懸命頑張ってんのに。なんでこんなもんに、邪魔されなあかんのや。
はなから傍観するには腹立たしすぎる争いと思っていたから、状況を打破しようと決意するのはごく自然な流れだった。
というわけで彼は、芸人側から出た情報にスタッフ等別方向の関係者から聞き込んだ情報を重ねることで、これから起こる騒動や策略の概要を明確に把握し、先回りして争いを終わらせようと尽力している。
立ち位置は多分、白寄りなのだろう。どうせなら自らの考えと近い側に協力した方が、迷いも生まれないはずだった。
(ほんまは俺がもっと、そういう方向に強い石やったらよかったんやけどな)
増田の石には手にした物体を大リーガー並みのスピードで投げられる力が宿っている。
正直、求めていた類の能力ではなかった。つい最近も、逃げる黒側の若手に手加減して投げた財布がよりにもよって頭に命中し、相手が2日寝込んだと聞いて死ぬほど落ち込んだばかりだ。
相手を傷つけない能力が欲しかった。そう、例えば相方のような、何だったら笑えるぐらいの――
548
:
日常のルール
◆1En86u0G2k
:2008/01/17(木) 23:45:16
『―あとは、方法ですね。大部屋に若手集めて、どうやっていっぺんに黒にするつもりなんか…』
柳原の声が霧散する思考を引き止めてくれた。
青田買いと称されたその番組への出演者は、まだテレビに姿を見せたことのない芸人ばかり。石を持ったという噂もほとんどなく、抵抗は受けにくいだろうが、とにかく数が多い。
よくある手として浮かぶのは黒い欠片だが、はいこれ飲んで!で納得してもらえる物体ではない。その後収録が始まるのだから、下手な騒ぎは起こせないはず。
念のため黒側に属する芸人の動きも確認してみたが、その時間帯に現場に姿を現せそうな者は少なかった。
「ちゅうことは、黒の奴に命令された代打…実際に動くんも、スタッフかもしれんな」
『僕もその線を疑ってます。ただ、方法の特定が難しくて…』
うーん、と唸り声が2つ響いたところで、楽屋のドアが不意に開く。
思わず石を握り込んで振り返れば、そこにはきょとんとした顔の相方が立っていた。
「…っくりしたぁ…お前、ノックぐらいせえよ」
「えー、自分の楽屋やのに?」
言いながら置かれたスチール缶が、カタンとテーブルで音を鳴らす。どこ行ったかと思ったらコーヒー買いに行ってたんか、ラベルに書かれた文字を追って小さく納得し――
次の瞬間、電光のようにひとつの可能性が閃いた。
「―柳原、俺ちょっと思いついたわ。相手に気付かれずに、こっそり欠片を飲ます方法…!」
(…なんや最近、こいつに助けられてばっかりやな)
貴重なヒントを増田にもたらしたとは気付かない相方は、隣でのんびり缶を開けにかかっている。
549
:
日常のルール
◆1En86u0G2k
:2008/01/17(木) 23:45:56
そこは某テレビ局の片隅にある、ほとんど使われなくなった倉庫の中。
時刻は夕方4 時半、忙しく行き交う人々の声は遠く、さざめきのように聞こえている。
「な…なんのことか、僕にはさっぱり…」
ドアを背に、なぜかペットボトルを持ってたたずむ相手から距離を置くため、男がじりっと後ずさる。
「そないビビらんでもええよ。なんもせえへんって、頼みたいことがあるだけやから」
男にのんびり呼びかける芸人の名は平井 善之―アメリカザリガニのうるさくない方。
警戒を解かないままこちらを睨むように見上げる男のズボン、右ポケットの膨らみを指してへらりと笑う。
「とりあえず、欠片持ってたら、渡してくれへんかなぁ。黒いやつ」
「………!!」
驚愕に息を詰まらせた顔色は所持したものの正体と企みを確証づける。
続いて目の色は明らかに警戒から敵意へと変わり、首筋に走る悪寒が誰かに受けた思考汚染を予感させて。
(うーわ、ホンマにこいつやったんや)
前情報を手に入れたとは言え、平井の中では賭けに近い感覚の断定だったが―どうやら大当たりらしい。
全然嬉しくないけどなぁ。ぼやきながら首にかけた小瓶の中に意識を集中させれば、じわりと暖かい感覚が広がってゆくけれど。
“―倉庫に水って、まいてもええもんかね?”
ついでに脳裏に響く低い声が、面倒な問題をもうひとつ平井に思い出させた。
要は相方任せ―もとい、相方次第だったのである。
石を手にして、妙な争いの存在を知って、最初に気になったのは柳原の意志と動向。
多少予想してはいたが―案の定柳原は今の状況に憤り、「なんとかせなあかんやろ!」と、熱血マンガの主人公並みの勢いで言い切ってみせた。
それなりの力を手にした上での発言かと思ったが、完璧な補助系だと明かされて、どこまでもあーちゃんやわ、心中でこっそり嘆いた記憶がある。
この争いにおいて十分な力を持たない者に訪れる悲劇的な展開といえば、やはり、歯向かってあっさり返り討ちに遭うパターンだろう。
柳原の意見を尊重すれば、属するべきは黒でなく白。色の性格上白が正統だろうか、それなら大概正統派の方が苦戦を強いられるものだ。
アニメにせよゲームにせよマンガにせよ、魅力ある圧倒的な力を持った相手が主人公の前に立ち塞がることで、物語は大きな盛り上がりを見せるのだから。
はなから気の進まない争いではあったが、正義感だけで突破できるほどこの争いは甘くなく、そして柳原が傷付くのは平井の本意でもない。
というわけで彼は、柳原が見抜いた嘘やごまかしを元に探り当てた企みの、その首謀者の元へ出向いては、トラブルが起きる前にせっせと潰す日々を送っていた。
その方が派手な争いを避けられたし、石は戦闘向きでも、持ち主の意志はまた別のものである。
(ほんまは俺の方があいつみたいに、探れる能力やったらよかったのにな)
元々隠しアイテムや秘密のワープポイントに心躍らせる方だ、真っ向勝負はあまり得意ではない。
ただ柳原も柳原で苦手分野―相手の隠された本心を知るたび落ち込んでいる―に奮闘しているので、不平を言うつもりは今のところ、なかった。
真実を引きずり出すには他人や仲間を信じすぎている相方の思考が、どこかで落とし穴になるのではないかという危惧だけは、常に抱えていたけれど。
「…あ、ヤナ?終わったで、うん、正解やった」
携帯電話を肩と頬で挟みながら平井は作業を続ける。
“若手が大量出演する番組の合間を狙って、黒側が一気に仲間を取り込もうとしている”
不穏な噂は現実になりかけていたらしく、実行犯として複数のスタッフの存在が疑われ、平井はそのうちのひとり―大量の黒の欠片を渡された男に接触した形だった。
『大丈夫やったか!?ケガは!?』
「んー?いや全然……なんもしてへんよ!めちゃめちゃ穏便やって」
傍らで倒れる男は気を失っているらしいが、時々小刻みに痙攣していた。
とはいっても蔦で縛り、葉をけしかけて徹底的にくすぐり倒しただけなので、それほど経たないうちに目覚めるだろう。
「持ってた欠片も消さしてもろたし、そのへんのことは忘れるやろ…そっちは?」
『今、岡田さんと一緒に追っかけてる!こいつは、脅されてただけ!多分、いけるはずや!』
走りながら話しているのだろうか、必要以上に声が大きい。平井は思わず電話を落とさない程度に顔を背け、それからふと電話を床に置いてみる。
「あー…、この方が全然やりやすいなぁ」
『何が!?』
「今掃除中やねん」
機材の類は見当たらなかったが、水浸しの床を捨て置けばスタッフの彼が怒られるだろう、それはさすがに気の毒だ。
終わったら行くわ。届ける気のない声量で苦笑して、平井はそれきり水拭きに没頭した。
550
:
日常のルール
◆1En86u0G2k
:2008/01/17(木) 23:47:03
それから数日後、大阪にある、某劇場にて。
時刻は夜の6時に届きかけ、滞りがなければそろそろ本番。楽屋の中には4人の芸人が顔を揃えている。
「…で、こないだのは結局、何がどうなってたん?」
「「「ぇえええ!!?」」」
間の抜けた響きにはズッコケと爆笑、頭を抱える仕草、三者三様のリアクションが向けられたが。
いたって真面目なつもりらしい男―ますだおかだのスベる方、失礼―大きい方こと岡田 圭右は、ん?と頭上に疑問符を浮かべて目をしばたかせる。
「…ちゃんと説明したやないですか、僕!」
「いや、なんやようわからんまんまでな。みんな喜んでたから、うまくいったんやな〜とは思ったけど」
「嘘やろお前…流れなら俺もあん時、話しといたやないか」
「いやいやいや、これもしかしたら、一番最初から話さなならんかもしんないすよ」
「ほんまかぁ〜…えー…やっぱり俺のせいなんかなあ…」
「いや増田さんちゃいますよ、僕の伝え方が下手やったんですきっと……」
(うわわ、これ、もしかして黙ってた方がよかったんか…)
笑いを必死にこらえる平井はさておき、増田と柳原は何やら深刻な顔で肩を落としてしまっていて。
ごまかすように半笑いで首元に触れれば、鎖で繋がった異なる色の光がチカチカと瞬く。
“うわ、出た!置いてきぼりかい!”“いつものことながら、型破りな奴やな〜…ええで!破天荒!”
身に覚えのある声がふたつ、脳裏で騒いでいたが、さすがにそれは言わないでおいた。
要は選択権をまるごと、相方に委ねたのである。
石を手にして、妙な争いの存在を知って、最初に浮かんだのは感心にも似た驚嘆。
(みんなすごいなあ。なんでこんな大変なこと、積極的にやってんねやろ)
争って、揉めて、傷付け合って―自主的に参加するには魅力がなさすぎる。いっそ石を捨ててしまおうかとすら思っていた岡田を引き止めたのは、他ならぬ増田の存在だった。
この争いにおいて意思が統一されていないコンビやトリオ―4、5人いたりするとこもおるけど、とにかく―が辿る不幸な展開といえば、やはり、その不和を原因にした仲違いや潰し合いだろう。
自分が消極的と知っても増田が怒らない自信はあったが、彼の願いは至極もっともだと思ったし、石を捨てて無力になった自分が迷惑をかける展開が望ましくないことぐらいは、簡単に想像できた。
そこで岡田は考えた。とりあえず相方の自分が間違いなく味方でいれば、ややこしい色々が、多少なりともプラスに働くはずだと。
というわけで彼は、直接の攻撃を厭う増田に代わって積極的に前線に立ち、面倒を企む相手を阻止することに決めた。―もちろん、ダメージは極力与えないように努めて。
相方の分まで動く、一度そういう方針を固めてしまえば、なぜか自分の元に石が2つも来てしまった、その理由にもなってくれそうな気がしたのだ。
(ほんまは俺よりこいつの方が、2個ある!ぐらいのハンデもらってもよさそうやのにな)
石が芸人の元にやってくる基準とタイミングについては誰も把握できていない。
よりによってなぜ、自分だったのか。
増田にひとつあげられたらええのに、なんてことを、実は今でも思っている。
「―せやから、あの日。若手がいっぱい待機しとる大部屋にはペットボトルとかやなくて、大っきな電気ポットが置かれる予定やったんです」
「中身はコーヒー…まあ、味が強かったらなんでもよかったんでしょうけど…その中に欠片を溶かして、みんなに飲ませてしまおうっちゅう、計画やったわけですね」
「大体が初のテレビ出演、そういう時はみんな、緊張して飲み物もガンガン飲むから…、全員やないにしろ、かなりの人数に仕込むことができるやろ?」
「欠片を飲んだ奴は操りやすいから、“指令が来るまでは普通通りに過ごせ”とか、帰り際にでも言うておいて」
「で、そのまま各地に散ってもらえば、準備完了ですわ」
「囮やら足止めやら様子見やら、好きなタイミングで使える尖兵のできあがりや」
最後に心底不快そうに増田が吐き捨て、やっと流れを理解した岡田はハー…と感心したように口を開ける。
「ようできた計画やなあ。そりゃまずい、止めなあかんわ」
「―だから、止めれたんですよ!岡田さんが転ばして、捕まえてくれたんが犯人ですっ!」
「えっ、ホンマか!」
「ポット持ってたやろ」
「いや、あれ使ってひとボケかますつもりなんかな〜っと思って」
「そんなわけないやないですかっっ!!」
「ふははは」
柳原は相変わらず全力でツッコんでくれ、平井は耐えきれずにまた爆笑し、増田は諦めたように首を横に振っている。
岡田はとりあえず笑っておく。こういう日々がしばらく続くのだと把握さえできていれば、多分、どうにかなるだろうと思ったので。
551
:
日常のルール
◆1En86u0G2k
:2008/01/17(木) 23:47:45
そんなわけで、彼らは彼らなりの考えでもって、日常を時々非日常で潰しながら懸命に過ごしている。
もちろん全ての策略を見抜いて全員を救えるわけがなく、
全ての戦いを無難かつ無事に切り抜けられるわけがなく、
全ての芸人を面倒から守れるわけでもなければ、
全ての意味を悟って、納得できるわけでもない。
ただ彼らはなんとなく、このままではいけないような気がしていて。
自分たちが動くことで、何かが少しだけ、ましになればいいと思ったので。
「平井さんまた遅刻やで!」
「いや、電車がな…」
「嘘やっ!」
「あっお前、石使うんズルくないか」
「いや〜、今日の俺は輝いてたなあ」
「あれ石のおまけやろ」
「…あれ、なんでわかったん?」
「わかるわぁ、だって岡田やもん…」
落ち着いたかに見えた日常のすぐ先に、また別の策略と面倒と困難と騒動と、もしかしたら絶望が、待ち受けているのだけれど。
それはその日が来たら語ることにして、とにかく、不思議な石を手にした彼らの日々は続くのだ。
力の限り。…あるいは、それなりに。
552
:
◆1En86u0G2k
:2008/01/17(木) 23:52:25
岡田圭右(ますだおかだ)
石:ピーターサイト(理想の石・目標に近づくための方法を持ち主に感づかせ、実現させる力を与える)
能力:岡田が向いている方向にシャッターを作りだし、石の能力を無効化する。
シャッターの有効時間は約5秒程度。
一定時間経つと、自動的にガラガラ開く。
条件:まっすぐ立った状態から「閉店ガラガラ」をする事。
ポーズを取った時岡田が向いている方向にシャッターが出るため
ポーズ前に方向転換し、シャッターの場所は変えられるが、
ポーズ中・ポーズ終了時に方向転換をしてもシャッターの場所は変わらない。
また、連発はできず最低20秒程の間隔が必要。
代償:発動後しばらくの間、石で受ける影響が大きくなる。(説得を受けやすい、治療されやすい等)
一度だけ面白いギャグを言ってしまうオプション付き。
石:コランダム(鋼玉。多結晶の塊は加工して研磨材などに使われる)
能力:触れた物の表面の摩擦係数を少なくする(スベリまくるようにする)。
力の調整しだいで、スベりやすさは変わる。
(床に使えば「うまく立っていられない程」にも「走ろうとすると転ぶ程度」にもできる)
対象は無生物に限り、複数の物に使うことも可能。
条件:「パァ!」のフレーズで発動。
岡田の意思で取り消さない限り効果は持続するが、意識がなくなるか
体から石が離れると、その時点で消える。
力の使い方にもよるが、基本的に1日合計20回程度が限界。
増田英彦(ますだおかだ)
石:ブルーレースメノウ(どこかの国で、神の石と崇められている石)
能力:投げる力を増幅する。
とにかく、持った物体を投げられるスピードが上がる。
野球で言うと、160km/時位の速さ。
条件:片手で持てる大きさのモノに限る。
疲労するとスピードが衰え、コントロールが利きにくくなる他、腕や肩にも大きな負担がかかる。
投げた物体が投げられた瞬間の力を持続できるのは、約3秒。
ますだおかだのお2人の石と能力は、以前能力スレに挙がっていた案を参考にしています。
岡田さんが2個持ちという話題に魅力を感じたので、そこらへんも引用させていただきました。
それでは、以上です。
どうもありがとうございました!
553
:
名無しさん
:2008/01/18(金) 17:12:58
乙!面白かったです。
4人がそれぞれ、自分の石のことで思い悩んでいる部分が良かったです。
それにしても岡田www
554
:
名無しさん
:2008/01/18(金) 18:58:05
乙!面白かったです。
二個持ち岡田がとっても素敵。主人似×2かw
本スレ投下してほしいなあ。
555
:
名無しさん
:2008/01/19(土) 02:18:43
各自の思いが微妙に違ってるのがいいね。
緩さが松竹っぽくて好きだ。
投下乙!
556
:
名無しさん
:2008/01/20(日) 06:06:06
少し間が空いてしまいましたが、
>>535-537
、
>>541-543
の続きです。
------------------------------------------
焦点の合わない目で床を睨んでいた。
待ち人はまだ来ない。
男はポケットの中の石を弄びながら、スタジオの喧騒を遠くに聞いていた。
ついさっき交わしたばかりの会話が、頭の中をぐるぐると巡る。
男が石を拾ったのは、五日前か六日前か。とにかくもうすぐ、一週間になろうとしていた。
拾ってから、見も知らない奴に声を掛けられる事が多くなった。危ない目にも遭った。
襲って来る奴は皆自分と同じくらいの若い男。
その男達が口々に言うには、
【石を寄越せ。それさえあれば、この世界で頂点へ行ける】
危険な目に遭い、必死に襲って来る奴等を目の当たりにした男が、その言葉を信じない理由はなかった。
石さえあれば、集めれば、頂点へ行けるんだと。信じた。だから欲した。
石の使い方も把握して、手に馴染んで、慣れて来た。
今初めて『そっち側』の人間になっている男は、緊張を振り払う様に、一度大きくかぶりを振った。
言われるままに連れられた場所はしんと静まり返っていて、いつも慌しいスタジオとは別世界の様に思えた。
足音も、呼吸音さえも、グレーのカーペットに吸い込まれて行く心地がした。確かにここならば、多少の事では人は来ないだろう。
男は、これから起こる筈の戦闘に身を震わせた。
目の前を歩く庄司の背は無防備で、攻撃を仕掛けようと思えばいつでも仕掛けられた。
だがもし、井上の使った石の効果が…何が起こったかは解らないが、それが今出たりしたら? 戦闘経験は相手の方が圧倒的に上だろう。すぐさま反撃され、終わりだ。
下手は打たない方が良いと、男は小さく深呼吸した。
やがてぴたりと足を止め、庄司が振り返る。
男は自分の心臓が、まるで映画のクライマックスの様に徐々に高鳴って行くのを感じた。
「お前、石拾ったのいつ?」
が、開口一番に、これ。
いつ石に手を伸ばそうかばかり考えていた男は、突然の質問に面喰らった。
「結構最近でしょ。三日四日前とか、一週間か。二週間はー…経ってないんじゃないかなあ?」
「そ、そんなのどうだって良いじゃないですか! 石戴けないなら俺………その為にここに来たんじゃないんですか!?」
思わず怒鳴るが、庄司は当たり? と笑うばかり。
こっちは攻撃の意を示しているというのに、この落ち着き様は何だろう。何か勝算でもあるのかと訝ってしまう。
これからの自分達の為に、目の前の男の持つ石が欲しい。だけど、迂闊に動けない。
どうしようかと目を泳がせている男とは対照的に、庄司は飄々と続ける。
「これ欲しいんでしょ? 俺の石、モルダヴァイドって言うんだってさ。俺石の事全然知らないけど、品川が調べて、教えてくれた」
ころんと丸いそれを簡単にポケットから取り出した。
一見するとアメ玉か、ビー玉か。鮮やかだが深い緑が庄司の瞳に映し出される。
「お前さ、俺と井上さんが石持ってるって誰から聞いたの」
「…多分庄司さんの知らない若手の奴です。俺がどうやって知ったかとか、どうでも良いでしょう?」
「そっか。どうでも良い、か」
庄司は目を伏しがちに緩く笑むと、モルダヴァイドをポケットに直した。
暫く、あー、だの、んー、だの唸っていたが、考え込んだ様子で口元に手を当て、男に目を戻した。
「白とか黒とか、まだ知らないんだ?」
「は? 白? 黒って…?」
「最近だもんなー、拾ったの。まだ知らなくて当然だよな。俺も脇田さんに聞いて初めて知ったし…
 じゃあ俺と井上さん所来たのも、誰かに言われて、とかじゃなくて自分で来たんだ」
「そうですよ。だったら何なんですか。何が言いたいんですか」
要領を得ない会話に、男は焦りと苛立ちを覚えた。
だがその焦りも苛立ちも、庄司の一言によって打ち砕かれる。
「あのー、お前には残念なお報せになるけど…言いにくいんだけどね。
 あの、知ってる? 俺とか井上さんとかの石奪ったって、お前が売れる様になるとかそういうの、ないから」
言いにくいと言う割にはあっさりと告げられた言葉に、男の口はあんぐりと開いたままになった。
557
:
BERSERKER of OLIVE
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/20(日) 06:11:40
名前欄にトリップを入れ忘れてしまいましたが、
>>556
の続きです。
------------------------------------------
その口から思わず零れたのは、ウソだ、の三文字。
「ウソじゃないんだよ。お前を諦めさせようとか思って言ってるんでもないし。
 お前さっき、俺と井上さんに『一杯テレビ出てるし』みたいな事言ったよな。だからそーじゃねーかなーと思ったんだよ。
 そういうウワサ真に受ける奴いるけど、ほんと、この石そーゆーんじゃないから。だって俺この石拾ってから別に仕事増えてねーもん」
膝の力が抜ける気がした。
ポケットの中の小さな石が、とてつもなく重く感じた。
「じゃあ何でこんな石を…? 俺が危ない目に遭って来たのは…?」
「危ない目に遭うのは石持ってたらしょうがないんじゃないかな」
「しょうがないって…」
「でも実際、欲しがる人はいるからね。売れる訳じゃなくても、何かすげー力でもあるんでしょ、きっと」
売れる訳でもないのに、自分を危険に晒してまで、他人を危険に巻き込んでまで手に入れたくなる何かがこんな石に詰まってるのだろうか。
男はふと、顔を上げた。
もう笑ってはいない庄司の真っ直ぐな目を見ると、この人も自分を襲って来た奴等と同類なのではと思えて来て、思わずポケットを強く押さえた。
だから、俺が勘違いをしていると気付きながらも、ここに連れて来たんじゃ……?
また心臓が、早鐘を打ち出した。
「庄司さん…も、俺から、石、奪いますか………?」
「お前の?」
庄司の視線が、男のポケットへ。
だがすぐに、んー、と眉根を寄せて男を見た。
「お前がどうしても俺のを欲しいって言うなら、良いよ俺は、戦っても。でも…俺は、ヤかな。
 面白くなさそーじゃん」
……………は?
「おも、しろく、…ない―――?」
ともすれば聞き流してしまいそうな程自然に紡がれた不自然な言葉。
一瞬、耳がバカになったのかと思った。思わず、庄司の言葉を繰り返していた。
だが庄司は、だってそうでしょ、とあっけらかんと笑ってみせた。
「試しに戦ってみる? お前が良いなら良いけども。悪いけど、後悔すると思うよ。
 お前石見付けてすぐじゃん。白も黒も知らないんでしょ。目的も間違ってたっつって今テンション下がってるし。
 そんな相手とやり合って石奪っても…ねえ、つまんねーでしょ」
何を、言っているんだろう。
難しい単語は一切ない。非常に解り易く単純な筈なのに、何故か頭が付いて行かなかった。
男の口が、再びあんぐりと開けられた。
「テンション下がってんのお前だけじゃないよ。俺だって今低いよ。
 せっかく眠い身体叩き起こしてお前ん所行ったのにさ、何だよこれ。
 今度こそは絶っっ対面白くなるって俺ん中で決定してたのに。すげー損した気分。寝てれば良かったー」
「ちょっ、ちょっと良いですか」
何、と欠伸しながら庄司が訊ねる。
訊きたい事は沢山あるが、多過ぎて何から訊けば良いのか解らない。
まず、今耳に引っ掛かった単語について、訊く事にした。
「『俺の所に来た』って、どういう事ですか。俺が石持ってる人捜してた事を、知ってたんですか?」
「知ってー…た、訳じゃないけど、」
ニッと、庄司が口を持ち上げる。
一見すれば打算的なイヤらしい笑みなのだろうが、男には単純に、とても楽しそうだと映った。
「解ったよ。誰かが、あの場所で、何て言うかこう、何かをしようとしてるっていうのは」
「それが、庄司さんの石の能力?」
「ううん、俺のは全然違う。何て言うんだろうなこれ。能力っていうか……性格、じゃないかなあ?」
性格、と男が口の中で呟く。庄司はうん、と頷いた。
「聞いた話だけどさ、石にもあるんだって、性格が」
視線を上げた庄司と、目が合う。
真ん丸い瞳に己が映ったその瞬間、ぞくりと全身が粟立った。
「俺の石、そういうの大好きな奴なんだよ。
 お前の石はどうか知らないけど、俺のはそういう性格だから、何か見付けたら訊いてもないのにすぐ俺に教えてくれんの。
 ……あのーほら、何て言うか、同じ石でも持つ人によって、性格とかでさ、使い方とかそういうの、変わって来るでしょ。
 それと一緒で、同じ人が違う石持ったら、その石によってその人の使い方とかそういうのも変わるんじゃないかな。
 これは俺が勝手にそう思ってるだけだけど、多分そういう事じゃねーかな」
「い、石に人が、使われるって事ですか?」
558
:
BERSERKER of OLIVE
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/20(日) 06:14:39
「言い方は悪いけど、俺はそうだと思ってる。俺達だって石、使う訳だし」
「じゃあ、庄司さんは石をどう使って…石は、庄司さんを、どう、使ってるんですか?」
「さあ」
言い様のない、得体の知れない気持ち悪さが全身を這い回る。
つ、と背中に冷たいものが伝った。
庄司の口調は優しく、一つ一つの単語もとても柔らかいのに。思わず一歩、退いてしまいそうになる。だけど耳は庄司の言葉を忠実に待った。
そんな男の気持ちなど何処吹く風とばかりに、明るい口調で庄司は続ける。
「お前今までただ石振り回してただけだと思うけど、これからは考えてみて、お前の石の事。
 こいつは何考えてんのかなとか、今何したいのかなとか。その内自分の事考えるみたいに、自然になるから」
「石の事を、自分の事みたいに」
「うん、多分大丈夫。お前の事選んでくれた石なんだから。
 こっちがこいつの気持ち汲んだら、その分こいつもこっちの気持ち汲んでくれるから。ほんとだって。
 こいつと一緒に今まで戦って、乗り越えて来たんだろ? こいつもお前の相方みたいなもんじゃん」
「……………」
いつの間にかポケットから石を取り出し、男は手の中のそれをまじまじと見ていた。
次いで庄司を見ると、な? と柔らかい笑顔を向けられた。
思わずこちらも笑んでしまいそうな表情だが、今はとても笑い返す気になれなかった。
自分の気持ちと、石の気持ちと―――考えた結果が、庄司の今の行動なのだろうか。
「石の気持ちと、庄司さんの気持ちを汲んだ答えが、『俺と今戦うのは面白くない』って事ですか」
「そうなる、かな」
「何か、…変、じゃないですか?」
「何処が」
「だって、俺が石持ってまだ日が浅いとか、俺のテンションが下がってるとか、だから奪ってもつまらないとか。
 石を奪うのが目的って言うより、ただ戦うのが楽しいって事じゃないですか、それじゃ庄司さんも石も、ただの戦闘―――」
じ、と真っ直ぐ見返す庄司の瞳を見ている内、あれ、と男は思った。
この人の眼、こんなに色素が薄かっただろうか。
黒でもない。茶色でもない。少しくすんだその色は………
「な…!! ……んでも、ない、です」
先に見たアメ玉の様な、ビー玉の様な石ころを思い出して、いよいよ額から汗が滲み出た。
一方の庄司は、途中で言葉を切られて不満そうに眉間に皺を寄せていた。
まるで見えない何かに見られている様な、奇妙で怖ろしい感覚。
その正体が、解った気がした。
庄司は首を捻ったが、まあ良いや、ともう一度欠伸した。
「俺が言えるのはそんくらいかなあ。まあほとんど受売りに近いけど」
「誰の………?」
うーん、と唸って、答えない。
口元は笑っていたが、俯いていた為に表情までは見えなかった。
「あ、後、白と黒の事は知っといた方が良いよ。入る入らないは別にしても、知るだけで相当楽しくなるし」
何が楽しいのか、とはもう訊く気力も起きなかった。
ただ、『入る』『入らない』と言うからには、白と黒は何かの団体の事なんだろうなと思った。
「俺が黒に入ったらどうなるんですか」
「え、どうなんだろ」
「庄司さん、どっちですか」
「俺ー…は、白。けど、ごめん俺実は良く知らないんだよ。黒とか白とか。だから本当は上から言える立場じゃないんだけど」
苦笑する庄司に、男はやっと小さく笑い返す事が出来た。
その瞳はもう黒くころころと動いていて、男の恐怖心も気持ち悪さも、波の様に消えて失せた。同時に堰を切った様に汗が滲み出す。安堵の余りその場にへたり込んでしまいそうだ。
だがやはりそんな男には気付く様子もなく、庄司は携帯で時間を確認した。
本格的に眠そうに欠伸して、男の方へ足を進めて来る。
思わず身構えたが、庄司はそのまま男の横を通り過ぎて行く。この話はこれで終わりという事だろうか。
男は庄司の後ろを付いて歩いた。
「大人しそう、お前の石」
前を向いたまま突然言われ、男は、は、と咽喉から間抜けに空気を漏らした。
「俺の石と逆だ」
「そうなんですか。気性が荒い感じなんですか?」
559
:
BERSERKER of OLIVE
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/20(日) 06:18:19
「うーん。…って言うか、めちゃくちゃなんだよ。寝てても叩き起こすし、すぐはしゃぐし。図体だけでかいガキみたいな感じ」
「はあ」
「何かごめんな、変な話ばっかして。意味解んないでしょ」
「いえ…別に」
「ほんと? 俺ずっと、あー解んねーだろーなーって思いながら喋ってたんだけど、解る?」
「わか…りはしなかったですけど、何となくは」
「何となくでも良いよ。ごめんな」
『戦闘狂』―――と、あの時言い掛けた。
誰もが避けたがる戦いに、楽しいだのつまらないだのそんな価値判断を持ち出すなんて、ただのイカれた戦闘狂だと。
今でもそう思っている。もう汗は流れていないけど、シャツの背中はひんやりと冷たかった。
なのに、今その戦闘狂と横に並んで歩き、交わしているこの会話は何なんだろう。
声も口調も喋り方も全く変わっていないのに、纏う空気一つで、今目の前にいるこの人と、さっき目の前にいたあの人と、同じヒトなのだろうかとさえ思える。
だけど、
「今度また会ったら、そん時は思いっ切り出来たら良いな」
無邪気に弾んだその言葉に、やはり同じヒトなのだと、実感した。
どうしようかと、やはり床を睨みながら男は考えていた。
そこへ、バタバタとガサツな足音が響く。
ごめん遅くなったと頭を掻きながら、待ち人がこちらへやって来た。
待ち人、男の相方はきょろきょろと辺りを窺うと、小声でそっと言う。
「で、どうだった? 行って来たんだろ?」
その目は純粋で、期待に輝いていた。
きっと無事に男が帰って来たから、何か収獲があったと思っているんだろう。
無理もない、この相方はまだ石があれば頂点へ行けると思っている。そして彼は石を持っていない。
男が自分の分の石を奪って来てくれたと思って疑わない。
「俺がさっき聞いた事、そっくり話す。これからどうするかは、お前が決めてくれ」
男の相方はどういう事かとぽかんと口を開けていた。
ああこいつ、何にも知らないんだなあ。そんな相方が少し羨ましくなった。
あんな奇妙な、狂気に近いものを見せられるくらいなら、何も知らないまま、石があれば頂点へ行けると信じていたかった。
そう言えば、と男は自分とは違う男の相方を思い出した。
ついさっきまで喋っていた男の相方。
酷く慌てた様子で、坊主頭のてっぺんまで汗を掻きながら、自分と彼の目の前に現れた。
あの人も彼と同じなのだろうか。それとも自分の相方と同じ様に、何も知らないでいるんだろうか。
知らなければ、その方が良いのかも知れない。
……いや、二人の事を考えるのは止めよう。
男は目の前の相方にどう説明するか。それだけに集中する事にした。
560
:
BERSERKER of OLIVE
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/20(日) 06:21:39
ソファの上で、井上はぶるぶると震えていた。
唇は紫色に染まり、歯はかちかちと鳴っている。
その背を、河本は乾布摩擦の様に激しくさすってやっていた。
それに合わせて井上の全身もガクガク揺れる。
「あいつら何処まで行ったんやろ。これで入れ違いとか面倒臭い事なってなかったらええけど」
心配しているのか文句を言っているのか、微妙なラインの声色で河本は言った。
その河本の目を、井上は見れないでいた。
どういう事なんやろ。井上は揺さ振られながら必死に考えた。
庄司と二人でいた時、現れた男は一人だった。
だから井上は石を使った。相手の石さえ封じてしまえばもう相手は何も出来ない。戦闘終結、ハッピーエンド。
ところが目を覚ましてみれば、一緒にいた筈の庄司はいないし、時計は妙に進んでいた。
敵が複数いたり、石が複数あったのかも知れない。そう考えれば何も不自然な事はない。
だが何より引っ掛かるのは、井上が石を発動させた瞬間だ。
井上は庄司に背を向け、若い男の方へ突進した。
だがマグロとなって床を滑る正にその瞬間、凍り付く直前の井上の足は、進行方向とは逆の床を蹴っていた…気がする。
見てはいない。自信も確証もない。ただこの身体が、足が、逆を蹴ったと言っている。
逆を蹴って行き着く先は、同い歳の後輩の所。
どういう事なんやろ。井上はもう一度心の中で呟いた。
井上の唇にやっと赤みが差して来た頃、井上さん戻ったんすか、と声が聞こえた。
品川と、庄司だ。
二人揃っているのを確認すると、河本は安堵して眉尻を垂れ下げた。
いやー参った、と言いながら品川はソファの背もたれに手を突いた。
「別に何もなかったっすよ。多分井上さんが元に戻るのに時間掛かってただけじゃないですか?」
「…ふーん? まあまだ聡の石よぉ解らん所多いしなあ。何もなかったんならええわ。
 それにしてもおもろかったでー、俺が庄司何かあるんちゃうかって言った後の品川!
 もうめっちゃ慌てまくって俺に質問攻めでうっっっざいの何の!
 しまいには立ち上がって、『河本さん、井上さん頼みます。俺…』、」
「ちょちょちょ、…それ本気で恥ずかしいんで、止めて貰って良いすか?」
二人のやり取りを見ながら、庄司は手を叩いてケラケラと笑っていた。
が、井上の視線を感じて向き直る。
どうしたんですかと言われても、何と答えて良いか解らなかった。
その井上の肩に掛かってる物を見て、庄司は、あ、と声を上げた。
「良いですよ俺の上着。まだ着てても」
「…え? あ、いや、ええわ、もう大丈夫やから。返すわ。庄司のやったんやな、これ」
羽織っていた上着を脱ぎ、庄司に渡そうと手を伸ばす。
「庄司何ともないん」
「はい全然」
「石も? 普通?」
「はい、何もないですよ」
「あいつどうしたん」
「帰りました」
そう、と井上が言うと、庄司は一瞬不思議そうに瞬いたが、何も言わず井上から上着を受け取った。
「おい庄司、そろそろ」
「あ、もう?」
品川が声を掛けると、庄司は顔を上げて品川の横に立った。
品川が携帯の時計を見せると、ほんとだと言って上着を着た。
「俺らそろそろ打ち合わせあるんで、行きますね」
「そか、じゃあな。お疲れさん」
「はい、お疲れ様です」
会釈して、二人は河本と井上に背を向けた。
無言のまま、それを見送る。
「あの二人…偉いなあ」
はあと息を落として河本は呟いた。
「狙われるん解ってんのに白やてはっきり言い切って、そんで何かでっかい相手と戦ってるんやもんなあ」
俺にはムリや、と河本は井上に言うでもなく一人ごちた。
井上がソファから立ち上がる。
河本の後頭部をじっと見詰めた。
確かに自分達にはムリかも知れない。だけどそれは、偉い…んだろうか。
「俺らは、このままでええんちゃうかな」
いつもはぼんやりと抜けた事ばかり言っている井上にしては珍しい、まともかつ真面目な言葉。
振り向いた河本は、井上の眼が自分の遥か向こうを見据えているのを見て、ただ、そうかな、と返すより外なかった。
仲の良い後輩だけれど、彼等と自分達は酷く遠く、離れてしまったのかも知れない。
561
:
BERSERKER of OLIVE
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/20(日) 06:26:27
仕方がない事だ、と井上は思う。
彼等には彼等の信念が、自分達には自分達のやり方がある。
河本はムリだと、自分にではないが言った。そう思うのなら、ムリに飛び込む必要はない筈だ。
もどかしいな、と河本は思う。
別に正義に目覚めている訳ではない。出来るなら何もなく、平穏に過ごしたい。
だが、黒を許している訳ではないのに、戦うでもなくこそこそと怯える生活を続けていて良いのだろうか。
後輩はあんなにも堂々と立ち向かっているのに。
ただ共通して思うのは、相方に危険な目に遭って欲しくはないという事。
だから井上は飛び込む必要はないと思うし、飛び込んで欲しくないとも思う。
だから河本はもどかしいと感じるし、立ち向かって行く事をしない。
じゃあ、と、疑問が湧いた。じゃあどうしてあの二人はあの派閥に属しているんだろう。
考えても、答えが出るものではない。
「俺らも、戻ろか」
「ん」
もう寒ないん、と河本が訊ねると、へーき、と井上は答えた。
二人並んで、楽屋へ向かう。
井上はポケットに手を入れ、金に触れた。
―――ほんまに俺が元に戻るんが遅かっただけなんやろか。俺が凍らせた石は何やったんやろ。
だがこの石に封じ込められた能力を知る術は、ない。
「すげー、ほんとに凍ってんじゃん」
一人きりの楽屋。
左のポケットから取り出したごつごつと角張った石を目の高さまで掲げ、庄司智春は白く曇ったそれを己の瞳に映していた。
良く見ればその石は、ほのかに黒ずんでいる様に見える。
今朝戦って引っぺがした石。少し物足りない戦闘だったなあと思い出す。奪った相手は、知らない奴だった。
井上の能力は全く知らなかったし、発動した後も解らなかった。
だけど―――『石の凍結とかすげーけど』。この品川の言葉で、井上の能力を知った。直後、ポケットに突っ込んだ左手が触れたひんやりと凍った感触に、その意味を理解した。
ずっと温いポケットに入れていたのに未だ冷凍庫から取り出した直後の様な冷気を放つ石に、普通の方法じゃ溶けないんだろうなと推測する。
凍った石と顎をテーブルに乗せて、じぃっと眺めた。
それと同時に、自分の存在を主張する様に、右のポケットが微かに熱を帯びた。
誰に言ったのか、確かになー、という庄司の声が、彼以外誰もいない筈の楽屋に響く。
井上の能力が石の凍結、封印だという事は解った。
だけど、男の持っていた石と、やんちゃくれの丸っこい石と、奪ったばかりのこの石と。その中でどうしてこの石が選ばれたんだろう。
井上は自分の方に滑って来たんだから、『敵』の石を凍らせる訳じゃなさそうだ。
黒い欠片を見付けてそっちに向かう…とか? うーん、と庄司は頭を捻った。
井上はあの男が黒い欠片の影響を受けているかどうかは知らなかった筈だ。仮に井上の石が黒い欠片を持つ石を凍らせるなら、自分がこの石を持ってない時点で井上の特攻は不発に終わる事となる。
良く、解らない。何に反応するんだろうな、あの石。
暫く考えたけど、もともと頭を使う事が苦手な庄司は、まあでも井上さんの事だし、敵=黒い欠片って思っちゃったのかもなあ、と結論付けた。
しかし別れ際、石は何ともなかったかと井上に問われ、見上げられたのが引っ掛かる。
どういう事なんだろ、と庄司は井上同様心の中で呟いた。
実際は、井上の金が、緊張の余り多少躊躇いを含んだ男の敵意よりも、黒い欠片に冒された石の放つ波動を『害』とみなして向かって行ったというのが真実だが、庄司には知る由もない。
やはり庄司は、まあ良いか、何かあれば向こうから訊いて来るかと、それで済ませただけだった。
「それよりどーしよ、これ」
ほわ、と欠伸する。
「凍っちゃったらもうダメじゃん。使い道ないでしょこれ」
投げて当てるくらいしか、と言いながら、凍った石を手に取り、キャッチボール程度の力で壁に放り投げた。
ゴツ、と鈍い音を響かせて、畳に転がる。
涙が目に浮かんで、石がぼやけた。
「脇田さんなら溶かせるのかなあ。でもそしたら多分脇田さんが処分しちゃうしー。
 溶けるまで俺が持ってるか、それかこのままいつか溶けますよーっつってもうあげちゃう? それはねーか」
一人でくつくつと声を殺して笑う。
そう言えばこの凍った石、このまま溶けないという事は有り得るのだろうか。だとしたら井上の石はかなり厄介な事になるが。
562
:
BERSERKER of OLIVE
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/01/20(日) 06:27:49
でもまあ自分の石じゃないし、と、庄司は今度こそ井上の石について考えるのを止めた。元来物事への頓着は薄い方だ。
「まあ良いや。脇田さんでも誰でも、最初に気付いた人にあげるって事で」
立ち上がって石を拾って、左のポケットに戻す。
欠伸の所為で零れる涙をぐいと拭うが、しかしその間も欠伸と涙は止まらない。
あーこの後も仕事あるのになあ。他の人に会って、泣いてたとか思われたら最悪だ。
庄司は楽屋を出てトイレへ向かい、眠気覚ましと涙を洗い流す為に顔を洗った。
少しはすっきりしたかと廊下を歩いてスタジオへ向かう。
その途中、庄司は厳しく眉をひそめ、小さく首を振った。
「…ダメだって今は。行けないって。いや行きたいの解るけどさ、これから仕事なんだから。皆に迷惑掛かるだろ」
そのまま暫く歩いていたが、はあーと溜息をついてポケットに手を突っ込んだ。
ダメだって、と子供に言い聞かせる様な口調で何度も言う。
「大人しくしてろよ」
最後にそう言って、庄司はスタジオに入った。
漏れそうな欠伸を、噛み殺しながら。
------------------------------------------
以上で終わりです。
設定や流れに色々おかしな点があるのではないかと思い、こちらに投下させて戴きました。
問題なければ本スレ投下も考えているのですが、問題あればこのまま廃棄処分という形にしたいと思っています。
なので、矛盾点や何じゃこりゃ等ありましたらば、バシッと言ってやって下さい。
戦闘もなくムダに長い話でしたが、ここまで読んで戴き有難うございました!
563
:
Phantom in August
◆ekt663D/rE
:2008/01/27(日) 01:49:05
本スレ
>>469-473
の続き
【@渋谷・センター街】
えっ、と思った瞬間には既に、松丘の体躯は背後へとはじき飛ばされていた。
もうこれで何度目になるかもわからないアスファルトとの衝突とそれに伴う腕の擦り傷よる痛みに松丘の顔が歪む中、
その視界は確かに見覚えのある横顔が佇んでいる姿を捉える。
「何で……」
貴方が『白い悪意』なのですかと続けたい言葉は声にならない。
今まで松丘と平井によって負ったダメージはもちろん、それまで意志を持つ芸人を襲う課程で負ってきたダメージを隠さずに
その人は、つぶやきシローは感情の抜け落ちた表情のままゆっくりと顔を平井と松丘の方へと向け、ぎこちなく唇の端をつり上げた。
『……ヒヤヒヤ、したぞ。 芸人』
発される声は間違いなくつぶやきシローの物。柔道の技を使う点でも間違いはない。
何故気付かへんかったんやろうと松丘は思わず自己嫌悪の想いで唇を噛むけれども
その声は彼が舞台上で笑いを引き起こす要素でもある北関東の訛りを帯びていない、滑らかな標準語。
そんなささやかな違和感が後ろ向きではあるけれども腕は確かなこの先輩の名を松丘の選択肢から除外させていたようで。
「つぶやきさんを、解放してください……今すぐに」
しかし、平井があえぐように発する言葉で松丘はハッと我に返る。
いつまでも悔やんでばかりいても仕方がない。生来の……と言うよりもこれまでの人生で身につけた楽観的な思考を紡いで
胴体の、特に腹部の周りのボリュームの割にはやたらと華奢な四肢に力を込めて松丘は立ち上がった。
「どこに石があるかわかったんや。今回はしくじったけど次かその次には絶対に引き剥がす。
……やったらその前に降参した方がエエんちゃうんか?」
石の力の副作用なのか、それとも考えたくはないがそろそろそういう年齢なのか、今までさんざん叩き付けられてきた
以上に身体がへばっているような感覚を味わいながらも敢えて強気に出る松丘だったけれど。
564
:
Phantom in August
◆ekt663D/rE
:2008/01/27(日) 01:52:00
『……構わないよ』
さらりと答える『白い悪意』に、一瞬相手が何を口にしたのか信じられず、その身体の動きは止まった。
その耳に、重ねて発せられる『白い悪意』の言葉が届く。
『そんなにこの芸人が大切なら、この芸人の代わりになる身体と叶えるに値する願いがあるのならば、いつだって替わってやろう』
「っざけんじゃねぇぞ!」
え、どういう事と松丘の頭脳がその言葉の意味を租借して理解しようとするよりも先に、平井が声を荒げ、吠えた。
「つぶやきさんが助かっても次にあんたが誰かを支配しちゃ意味がないでしょうが!」
その支配された人間が第二・第三の『白い悪意』となって他の芸人を襲うだけ。全体で見れば何も変わらない。
『私の存在理由は誰かの願いを叶える事……私はただそれを果たそうとしているだけに過ぎない』
憤慨する平井に対し『白い悪意』は平然と答え、ふと何かを思い出したかのように目を細めた。
『……何なら君達でも構わないのだしね』
「…………っ!」
同時に、ギラリとつぶやきの眉間で石が煌めき、冷ややかかつ全てを見透かすような視線が
二人を順番に射貫いていく。
『どうやらお前ら二人のどちらとも、その歩む道の先は波乱に満ちているようだ。
私に視えるのは少しの期待と手応えと、けれどその先にある絶望と苦難。……どうだ? 私と手を組まないか?
そうすれば邪魔な芸人どもを蹴散らし、運命を修正し、順風満帆実に薔薇色の未来を君達に約束しよう』
「……あンなぁ。目の前でつぶやきさんの無惨な姿見せられといて薔薇色の未来もクソもあるか?」
まるでRPGの悪ボスか何かのように言葉を紡ぐ『白い悪意』を睨み付けて松丘はすかさず言い返した。
今まで10年以上も芸人を続けて着々と積み上げてきた全てが去年のあの秋の日の一瞬に打ち崩された、あの虚脱感と絶望が怖くないと言えば嘘になる。
失った物を取り戻し、更にその先に辿り着くために焦りがないと言っても嘘になる。
けれど。
だからといって、それとこれとは別の話。
こうしてその正体と本性を知ってしまった上でじゃあよろしくお願いしますと『白い悪意』に手を差し出せる筈がない。
「そうですよ、僕らは僕らの力で未来をつかみ取って見せますからっ!」
……あんたはおとなしく封印されろっ!
松丘に同調するように平井も吠え、ダルメシアン・ジャスパーが煌めいて空気が熱を帯びていく。
565
:
Phantom in August
◆ekt663D/rE
:2008/01/27(日) 01:56:39
『……愚かな芸人だ』
はあ、と一つ大仰に肩をすくめると『交渉決裂だ』と小さく呟いて『白い悪意』は眉間の石と両手に白い光を輝かせだした。
『 』
ぼそりとその口元で言葉が紡がれ、微かに届く音の不穏な内容に松丘の大粒の双眸がギョッと見開かれた瞬間。
『白い悪意』の両手と眉間から球状の光が周囲へとばらまかれた。
今までは一撃で沈めようという意志が強かったのか一筋の光の帯状だった攻撃が、疲弊しているからかあるいは確実に倒そうという
意志に転向したか、今回放たれた攻撃はハンドボールのボール程度の大きさの光の球。
しかし、その数が半端なかった。ざっと見繕って五十個以上の光の弾は上下左右にまんべんなく散らばっていく。
「……何か昔のバラエティ番組にあった企画みたいやな」
一瞬浮かべた動揺を強引に押し殺し、サーペンティンの楯が使えない以上はとなるべく被弾面積を狭めようと身体を丸めながら
松丘が呟く声が耳に届き、平井は頷く。
しかしマシンによって撃ち出されたバレーボールを狭い足場の上で避けるような懐かしい企画というよりも、
目の前の辺り一面を光の球で覆い尽くすそれは、いつかゲームセンターで見かけたシューティングゲームの画面を連想させた。
「………………」
ゲームならボムを使えば窮地を脱する事も出来ようが、いかんせん自分達の手持ちにボムになりうる物はない。
(冷静に考えれば通常のショットもない体たらくではあるが)
だったら、飛来してくる光の弾玉を直撃にならない程度にかすらせつつ避け続け、勝機を待つしかないだろう。
小刻みに身体を動かして光の弾を除けながら、拓けた空間はないか調べ、見つけ次第恐れることなく踏み込む……文章にすれば簡単だが
途方もない作業である頃は他ならぬ彼自身が一番認識している。
――でも、やるしかないか。
威勢良く啖呵を切ってしまった手前、弱音を吐く訳にも行かず、平井は全身の神経を集中させる。
主の決心を応援するかのように喉元でダルメシアン・ジャスパーが煌めく中。
その覚悟を打ち砕くかのように、平井達の背後から一陣の強烈な突風が路地を吹き抜け、
光の弾幕は風に揺さぶられ、互いに誘爆して白く溶けていった。
566
:
Phantom in August
◆ekt663D/rE
:2008/01/27(日) 02:06:13
舞台になってる2005年からすると未来の話題が出てきて、ちょっとスレのルールの死ネタ禁止に抵触しそうなので
とりあえず今回からはこちらに投下。
567
:
原石
◆3zNBOPkseQ
:2008/01/31(木) 21:54:57
信号が変わり、人々は一斉に各々の目指す方へ歩き出す。
摩天楼は珊瑚、空は水面、まるでここは深い海の底。
人込みはお互いには無関心にそれでも魚の群れのように規則的に流れ交差する。
その中をいつものように仕事場に向かって歩いていた彼女は
その時、何かに気付いたように、ふと立ち止まった。
細い身体はとたんに後ろから流れてくる人々の肩に押され、幾度となく無遠慮に弾かれる。
それはまるで規則的に定められたものからたったひとり外れた逸脱者。
振り返る。
異質なものでも見るかのような一瞥を左右の流れに感じながら、彼女は交差点の真ん中で一人立ち竦んだ。
空を見る。東京の空に濁った夕暮れ。
時計を見る。
・・・・まだわずかに時間がある。
静かに意を決して流れに逆らって歩き出す。
肩までの黒髪が、艶やかに靡いた。
568
:
gemstone
◆rUbBzpyaD6
:2008/01/31(木) 21:56:29
すみませんタイトルとトリップ間違えてしかもあげてしまいました。
569
:
名無しさん
:2008/03/15(土) 00:30:47
遅くなりましたが感想を
◆NtDx8/Q0Vgさん
自分の見た限りでは品川庄司、次長課長ともに過去に投下された話と矛盾する点はありませんでした。
本スレ投下で大丈夫だと思います。
庄司は以前はただ石に操られていただけだったのに
今回の話では石を積極的に受けいれるようになっていてますます怖さが増してきたように思います。
◆ekt663D/rEさん
戦闘シーンに迫力があってすごいです。
続きをお待ちしています。
◆rUbBzpyaD6さん=
>>567
さんでいいのかな?
短い中で描写がとても細かくて頭の中に情景がはっきり浮かんできました。
彼女の正体がとても気になります。
570
:
If,....
:2008/03/20(木) 21:11:56
「俺の『シナリオ』は俺自身にしか見えないこと、片桐さんしか知らないんだ。」
片桐仁は動くことも出来ずにただ小林賢太郎を見ていた。
「つまり、ほかの人に『シナリオ』を見せるときはいくらでも中身を替えられた。」
小林はしゃがんで、倒れている設楽の石、更に設楽が集めた石を自らの手に置いた。
「でも、設楽さんにいつ本当のことがばれやしないか心配で、
彼の近くにいるときは常に緊張したよ。冷静を装うことは何より難しい。」
話し掛けられているのに声が出ない。口がカラカラして喉に言葉がつまってしまう。
片桐は自分の石をギュっと握り、不安を打ち消そうとするが、その顔には戸惑いが張り付いている。
「あと、ひとつで石が全部あつまる。」
独り言めいた呟きの後、スクッと立ち上り、片桐を見据えながら小林は言った。
「俺には最初から目的があった。つまり最初から---------…
全て、『シナリオ』通りだったんだ。」
*************************************************************
もし、この物語の終わりが来るならばと考えた末の作品です。
この作品の続きを書きたい方、アレンジしたい方がいたらどうぞご自由に。
っといっても先にラーメンズ書いてる方がいらっしゃるのでそこらへんは
書き手さんにご報告お願いします。
最後に、読んで下さり誠にありがとうございます。不満はどうぞ心のうちに
しまっておいていただけると幸いです…。
571
:
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/04/05(土) 23:35:41
>>569
遅くなりましたが、感想まで有難うございます。
それではこれから本スレ投下して来ます。続きなんかがもし出来上がったら、またこちらか添削スレに落とさせて戴きたいと思います。
572
:
名無しさん
:2008/04/07(月) 12:08:34
>>570
とりあえず小林が相当好きってことは分かった
573
:
名無しさん
:2008/04/07(月) 21:02:27
>>572
もっと言い方あるだろ。気持ち悪いとかさぁ
574
:
名無しさん
:2008/07/07(月) 00:57:41
>>570
なんかかっこいいなあ
小林ならそれぐらい考えててもおかしくないかもね
ただ設楽もその魂胆を黙って見過ごしたりはしなさそうな気もするけども
なんかドラマチックな展開でいいなーと思った。こういうの結構好きなんだ
575
:
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/12/14(日) 20:14:47
誰もいなさそうなのでコソーリ投下。
------------------------------------------------------------
彼らが集まったのはただの番組の一企画で、恐らくは偶然だった。
だけど、その場にいた全員が、「ああ」と思った。
ああ、全員同類だ、と。
しかし思ったが、誰もそんな事はおくびにも出さない。
田中はぶんぶんと手を振り叫び、山根がそれのとばっちりを喰らい、庄司は笑いながら田中の頭をはたき、岡田は一緒に騒ぎながらも場を和ませ、波田は合いの手を挟みながら間を取り持っていた。
やがて企画に向けての練習も終わり、各々が各々の場所へ散って行く。その道中。
「山根ぇ。気付いたよな?」
田中卓志の呼び掛けに、山根良顕は口を真一文字に結んで頷いた。
「全員持ってた。これってヤバいかなあ?」
「ヤバいかも知んない。他の人が『どっち』なのかは解んないけどさ…」
自分以外の三人―――岡田と庄司と波田がどういう考えの基で石を持ち、動いているのか。
「解んないけど、変に警戒するのもダメだと思う。取り敢えず暫くは情報集めたり、様子見た方が良いと思う。油断はしないでさ」
うん、と田中が頷いた後、話は続かず、移りもせず、二人はただ無言で廊下を歩いた。
己と相方の身を守るという準備を、心の中でしっかりと進めながら。
全員持っとったなあ…と、岡田圭右は廊下を歩きながら天井を仰いだ。
どないしょう、増田に相談した方がええんかなあ。
いやいや、と首を振る。
まだ何かあると決まった訳じゃない。ただ一堂に会した芸人達が全員石を持ってたという、それだけだ。更に言えば、実際に「ハイこれです」と石を見せて貰った訳でもない。全員が石を持ってるというそれ自体、岡田の勘違いかも知れないのだ。
下手な事言うて、あいつに心配掛けたないしなあ。
岡田が話せば、ますだおかだの頭脳である増田はまず間違いなく動くだろう。いやその前に、あの四人の名前を聞いただけで笑い飛ばすかも知れない。まさか、あの四人が黒かもやって!? って。
庄司、田中、山根、波田を順々に思い浮かべる。脳裏に浮かぶ四人は四人共、「岡田さん!」と今にも叫んで飛び付いて来そうな笑顔だ。
そやそや! あの四人やで!? 人の石取る様な子らか!?
全体的に緩くのほほんとした面子の所為か危機感も薄く、岡田は彼らを信頼するという選択肢を選んだ。
576
:
◆NtDx8/Q0Vg
:2008/12/14(日) 20:15:22
一方、庄司智春はポケットに手を突っ込みながら、呑気に廊下を歩いていた。
全員が石を持ってた。すぐに解った。きっと皆解ってた。だけどその場で誰も何も言い出さなかったから、庄司も何も言わなかった。
皆持ってんじゃん、と、驚きと同時に連帯感というか、四人に対して仲間意識の様なものを覚えたのだけど、恐らくは他の所有者達と同じ様に彼らもまた『石』という単語を口にしたり耳にしたりしたくないだろうからと、自粛した。
どうしようとかは思わなかった。相方である所の品川を思い浮かべる事さえなかった。
岡田も田中も山根も波田も皆優しくて良い人だから、彼らが自分に危害を加えるだとか、そんな事は有り得ない。庄司はそういうものの考え方をする事が往々にしてあった。
少し嬉しそうに、四人を思い出すかの様に、忍ばせていた石に触れる。
『疑う』という発想そのものを、庄司は持ち合わせていなかった。だって彼らは自分に優しいから。
波田陽区は元来た道を振り仰いだ。
自分を除いた四人に対して、石は五つ。石を二つ持っているのが誰かも、解ってしまった。
あの人達に限って、とは思う。実際、石を集め、配り歩き、人より多くの所有者に接して来たという自負を持つ波田の、所謂『悪い人達』プロファイリングに、四人は当てはまらなかった。
だけど些細な言動に気を配り、意識を働かせてしまうのは、この争いに巻き込まれた者の宿命か。
しかし正直、波田は彼らが黒いユニットかどうかにさしたる興味を抱いてはいなかった。まず第一に疑うべき事ではあるし、もしそうであれば全力で阻止しなければならないとは思っているが、それは波田が四人に気を配っていた最大の理由にはあたらない。
波田が興味を抱いていたのは、彼らの行動理念だった。
所有者が石を呼び、石が所有者を呼ぶ。あの四人も恐らくそうして呼ばれ、石を手にしているのだろう。厄介な代物だ。いざこざに巻き込まれる事も、一度や二度ではなかった筈だ。
なのに彼らは石を捨てず、所持している。それは何故なのか、理由が知りたかった。しかしはっきり口に出して問う訳にも行かなかったので、波田は四人の一挙手一投足、一言一句を逃さず捉える事にしたのだった。
知ったとして、どうする? それは波田にも解らない。
ただ、石を持つに相応しくない…さしたる理由も持たずに所有している者がいたとしたら。
その時は、その人の石を貰うか、さもなくば、奪う、という事になるかも知れない。
まあこの、石の世界に勝るとも劣らず厳しい世界を生き抜いている人達なんだから、大丈夫だろうとは思うけど。うん、大丈夫だろう、多分。
波田はそこで思考を終え、漸く足を前に向けた。
田中と山根は無言で廊下を歩き、
岡田は一人で頷きながらずんずんと歩みを進め、
庄司はにこにこと、次また集まる時に思いを馳せ、
波田は一度ギターを弾く振りをしようとしたが、止め、スティックでドラムを叩く真似をした。
------------------------------------------------------------
ヘキサゴンのエアバンド〜ごめんよ金剛地〜でした。続きません。
テレビで見ていて石持ってる人ばっかだなーと思ったので。
警戒したり信頼したり喜んだり興味を持ったり。色々です。
お粗末さまでした。
577
:
If,...2
:2008/12/15(月) 23:28:14
570の続きです。
多少おかしなところあるかもしれないけど、
気にしないでくれると嬉しいな。
--------------------------------------------------------------------------
2人の間にある時は、まるで止まっているかのように見える。
片桐はこのまま全てが透明になって、
なにもかも夢であってほしいと、思い始めていた。
「あと、ひとつで石が全部集まるんだ。」
小林は同じことをもう一度言った。
くるっと横を向いて高層ビル30階の1室から外を見る。
部屋の蛍光灯は点いていても、外の色とりどりの光は美しかった。
まるで小林の手の上で輝く石のように。
片桐は手をポケットに出し入れして、まるで落ち着かない。
そして、小林の次の言葉を緊張したような面持ちでまっている。
「ねぇ、片桐さん。」
小林は外を見たままで言う。
片桐はぎゅっと眼を瞑った。手は今もなお、せわしない。
左手はぎゅっとにぎり。右手は落ち着かないように動いている。
「石が1人の持ち主のところに集まると、争いはなくなるんだよ。
だから俺が全部持っておくんだ。」
夢見ごこちで小林は語る。
「ちがう…、」
片桐は上ずった声で応じた。
「賢太郎、石持つようになってから変になっちゃったよ…。」
片桐は両手を力なく下げた。
小林は窓を向いていた体ごと、片桐の方を向く。
「変?なにをいってるんだ?」
片桐は弱弱しい口調で続けた。
「なんか、石の力で書いたシナリオで生きてるみたいなんだ…。
そんなのおかしいじゃん…。だって人生にシナリオなんて無いんだから…」
「そんな事はわかっている…、
けれど、上手くいくように有効に使うことは間違ってはいないだろ?」
小林は少し驚いたように返す。
うつむきながら片桐はなおも続ける。
「わかってない!!石集めるのは、自分の石がなくなるのが怖いんでしょ!!
他の人に石を取られないようにしたいんだ!!
本当は!本当は!!成功しない未来が嫌なんだ!!失敗する未来怖いんだ!!」
急な片桐の勢いに小林は少したじろいだ。
「ねぇ、石になんて頼んなくても今まで以上に面白い舞台できるよ…。
新しい脚本書いて、色んなところで、色んな人に見てもらって、そんでまた新しい脚本書いてさ、
賢太郎ならできるよ!おれだって協力するから、もっと頑張るからさぁ…。
もうやめようよぉ…。」
後半は泣きべそになりながら、片桐は一気にぶちまけた。
小林はその言葉をちゃんと聞いてはいたが、意思の変わることはなかった。
「……残念だな。片桐さんなら俺の言う通りにしてくれる思ったんだけど…
早く終わらせたいのにな。」
片桐の唇をかむ音が聞こえるようだった。本当に残念だというように。
小林はあくまで言った。
「その石、頂戴?」
その時、小林の背後でゴソッと物音がした。
バッと振り向くと設楽が目を覚ましたのか、うめいた。
「うぅ、…ぃってぇっ」
その時、片桐の左手の石が輝き、右手から粘土が飛び出した。
小型の粘土ヘリコプターは猛スピードで駆け抜ける。
それは部屋の電灯のスイッチへ衝突した。
部屋の電気が消える。
その瞬間片桐は目を見開いた。
突然の暗闇で視界が安定しない小林は何が起こったのかわからない。
眼を瞑ることで暗闇になれた片桐は目標をあやまた無かった。
またもや片桐の右手から粘土が飛び出す。
「!?」
小林は驚いて咄嗟に振り向いたせいで、手に置いた無数の石が転がる。
二機目の粘土ヘリコプターは床に落ちた小林の石を奪う。
戻った二機目の粘土ヘリコプターを石ごと握り締め、
片桐は駆け出して、ドアを乱暴に閉めた。
578
:
If,...3
:2008/12/15(月) 23:34:09
「あーぁ。」
大きすぎるため息が静か部屋に響く
「やられちまったなぁ。どーすんの?」
設楽はよっこらせと床にあぐらをかいて座った。
「あぁでも、シナリオどうりなんだっけぇ?」
設楽がなぜか気さくに話し掛ける。小林は返事を返さない。
ドアのほうをじっと見つめている。
「これも計算のうちなんでしょ?」
ニヤニヤ笑いながら設楽は小林の表情をうかがう。
小林はゆっくりと重たい口を開く。
「…俺のシナリオでは、片桐さんは粘土を持ってない…------」
「ふーん。そりゃ残念だなぁ。」
おちょくるように設楽は合いの手をはさむ。
「持ち歩かないようにいったんだ…---」
何がおかしいんだ、と小林は呟く。
「事前に舞台は完璧に準備したのに…-----」
「そっかぁ。それにしても痛てぇなぁ、おい。ちょっと強くたたきすぎじゃね?」
設楽は痛そうに首の後ろをさする。
その行動は、まるで敵に示す反応ではない。小林は顔だけ設楽のほうを向いた。
「何か、しましたね。」
設楽の表情は悪戯っぽく笑っている。
「何事もアドリブが無きゃつまんねぇよ。
俺だってな、のんびり椅子に座ってたわけじゃねぇんだよ。」
調べられることはしらべたんだぜ?設楽は得意げに言う。
「お前のシナリオは、未知の人物が介入したとき崩れだす。」
焦りが表れた、小林はだんだんと口調が荒くなる。
「どうゆうつもりだ!なんであいつなんだ!!」
「おぉー、怖い怖い。考えればわかんだろ。
俺の行動だったら多少バランス崩してもしっかり書いてそうだから動じないだろうし、
でもある程度の中心に近くなくちゃ意味ねぇし。だから片桐。
どうせお前のことだから最後の最後まで
片桐にはこんな計画知られたくなかったんじゃねぇかな?って思うしよ。」
設楽は軽やかに語りだす。
それと反面に小林は厳しい表情で、固く押し黙る一方だ。
「つまり、なんかのイレギュラーが良い方向に転じねぇかなって思ったの。
つまり博打だよ。」
「ちなみにあの粘土は愛しい愛しい娘からのプレゼント。
もじゃもじゃ頭に粘土あげたら喜ぶよっていっといたんだ。」
そういえば一度も会ったこと無かったっけ?おかしそうに設楽はうぇっへっへと笑う。
「あなたの本心はまったく見えませんよ。」
小林は言う。
「おまえは顔に出すぎなんだよ。昔っからの付き合いなんだぜ?
気付くっての。片桐はもっと早く気付いてただろうよ。」
設楽は言う。
「いつから気付いてたんですか?」
小林はまた言う。
「いつからだろうねぇ?」
設楽はカラカラ笑う。
これ以上聞いても何も出ないだろうと捉え、小林は落ちた石を集めた後ドアに向かった
「…多少、予定は狂いましたが、シナリオは完全には壊れていませんからなんとかなるでしょう。
設楽さん、余計なことしないで下さいね?逃げられはしないんだ…。」
そういった後、ぱたんと小林はドアを閉め、あらかじめ持っていた鍵でドアを閉めてしまった。
しばらくたった後、1人残された広いフロアに設楽はゴロンと寝転がった。
「…ふー、疲れた。携帯持ってかれちゃったなぁ…。」
独り言は空しく響く。
「…もーちょい、はやく気付けたらなぁ…
めんどくせぇことになったよ、ほんとに。」
やはり空しく響くだけ。本心は誰の耳にも入ることは無かった。
------------------------------------------------------------
続きの続きです。
呼んでくれてる人いるのかな?
あっ、不満はどうぞ心のうちにお願いします。
この乱長文駄作をここまで読んで下さり、ありがとうございました。
579
:
元書き手
:2008/12/17(水) 08:15:35
ケータイで3日ぽちぽち書いてみた髭男爵編途中まで。
あまりにキャラ微妙だったのでコソーリ投下
能力は能力スレ参照。ちなみに所有石は
ひぐち君→クォンタムクワトロシリカ(濃い緑色、7種の石が入り交じった希少な石。過去のトラウマを消し飛ばし、感情と切り離してくれる)
山田ルイ→イエローカルサイト(黄色いカルサイト。繁栄・成功・希望を表す)
敵→ロシアンレムリアン(無色透明なクリスタルの一種で、ブルーエンジェルと呼ばれる場所から取れる物の名称)
580
:
元書き手
:2008/12/17(水) 08:16:41
*上流階級*
そこで聞こえるのは爆笑と拍手。
赤い絨毯が駆動して、ネタを終わらせた芸人を袖へ流し込んだ。
スタジオではゲストコメンテーターと司会のやり取りが続いている。
それを尻目に、再登場の予定が無い芸人達は楽屋に戻って、これから家へ帰るためにメイクを落として衣装から着替える。
――平和に帰る事が出来る芸人は、最近少数のようだが。
髭男爵もそうだった。
たった今、着替え終わって身支度を済ませた彼らも、また例外では無い。
闇夜纏う裏路地。怪しい目付きの男達5人に、ひとり大柄な男が絡まれていた。
髭男爵の山田ルイ53世こと、山田順三その人である。
「何でこんな事になったんやろなぁ…」
仕事終わりの困憊した口振りで、山田が呟く。
正直面倒だった。
純粋にただ人を笑わせたくて、芸人になりたくて、頑張って来たのに。
若手だろうが中堅だろうが、近年「石」の被害を受けてテレビや舞台に出られない者が増えたのを、彼は先輩達から聞かされた。
初めて石が見つかってから、もう随分経つのだが、その争いは絶える事が無い。
笑いを作るはずの世界が混沌に満ちていた。
それは、自分が望んだ世界では無い。
石の力でテレビ出演を妨害…なんて野暮な事をされるのは遺憾だった。
しかし相手がこちらの都合を聞き入れてくれるような集団なら、そんな事はしない。
ましてこんな風に対複数で絡んだりはしないだろう。
「山田さん?寄越せよ…石、なぁ」
狂喜に憑かれた目をしたヤツらがこちらに迫り来る。
その様相に思わずジリジリと下がる。
あかん、と山田は思った。
何せ、石は確かに持っている。
が、
彼は自分の石の能力を知らなかった。
581
:
元書き手
:2008/12/17(水) 08:17:31
つまり、先輩達が語ってくれたように石が光ったりしないし、能力が発動したりしないのだ。
それまで色々試してみたがダメだった。
なぜ光らないのか分からなくて相方に相談したが、解決策は見つからないままだ。
それを知らずにこちらに殴り込んで来ているなら、彼らはおめでたいなと山田は人知れず思った。
「…って言ったら、」
「あぁ?聞こえねぇなぁ」
「嫌だ、って言ったらどうすんねん?」
「…その時は力づくでも奪い取る」
それでも――芸人に対する強い思いの背景と、石に対する少しの嫌悪感がありながらも――石を投げ出さないのは、あるいは投げ出せないのは、相方のせいだった。
髭男爵の執事のひぐち君こと樋口真一郎は、山田が石を手にする前から不思議な石を手にしていた。
そして、かなり早い段階からその能力を引き出していた。
きっとそれは、彼の趣味が石の収集だった事も関わって来ているのだろう。
山田は自分や周囲が石の争いに巻き込まれ無いのをただ祈り、樋口は石の能力を理解すると同時期から、名前も分からないような若手芸人からの被害を受け始めた。
手の平にそれが乗った時点で戦いは始まってしまう。
望むにせよ、望まぬにせよ。
しかし、戦いに巻き込まれる可能性を考えれば、石を手放すのは更に危険である。
石の力で戦いたくは無い。
だが、石で応戦せざるを得ない。
矛盾に板挟みにされてしまう。
それでも。
「芸人なら見境無く襲われるんだよ。」
サラッと樋口は言う。
「だったら、俺が山田君を守ってやるから」
柄にも無い言葉だ。
…それでも。
確かに自分はまだ何も出来ない。
それを守ると樋口が言ったので、そして石を狙う黒の若手を一手に引き受けていたのを知っていたので、
山田はいつか樋口を助けたいと考えていた。
結果、樋口の事を考えると石を投げ出せなくなったのだ。
582
:
元書き手
:2008/12/17(水) 08:18:54
ポケットの中で静まった石を、ズボンの生地の上から触ってみる。
真っ黄色に染まったそれはイエローカルサイトと言うらしい。樋口が調べてくれた。
光らないし、喋らない。
意思疎通が出来ないパートナーは、なぜ自分を選んだのだろうかと思いながらも。
「渡さないなら…行け」
リーダー的な男の言葉に呼応して、下っ端共が襲いかかる。
男達は黒い欠片の力で、通常の人間以上の速度で距離を詰める。
誰もが体格は普通、中肉中背。
…もし山田のような体系の人間が本気を出して体当たりすれば、簡単に吹っ飛ばせるだろうか。
早さが早さだったからか、簡単に組み付かれる。
4人の男に四肢を拘束された状態。
「何すんね……ん!?」
全力で引き剥がそうとして、しかし相手の方が力が強い。
いきなりピンチだ。
ヤバい。
ほんとにヤバいな、と彼は思った。
普通、例えば物語の主人公は、こう言う時何とか出来るものなのだが。
ただ、主人公じゃなかっただけかもしれなかった。
4人の男に束縛された大柄な体はぴくりとも動かない。
恐ろしいまでのパワーで巨体を完全に押さえられてしまう。
「さて、ポケットを探らせてもらいますよ」
ひたひた。
夜の闇に紛れるような足音が静かにこちらにやって来る。
しかし何も出来ない。
山田が悔しさでギリッと歯を食いしばって、石がある右ポケットに男の手が伸び、
「ひぐちカッター!」
ドンッ。
空気の塊が男の背中を打撃したのが分かった。
体勢を崩した男は山田の前で膝を付いて座り、4人の取り巻きは何が起こったのか分からずにきょとんとしている。
…あぁ。
来てくれた。
「やっと先輩らしい事、してくれはった」
「やっと、って何だよやっとってぇー」
「…だけどね、」
「ん、何」
「気合い入って無いから、切れ味悪いカッターになってるで」
そこには、仕事終わりで髪の毛を後ろで束ね地味な私服を着た樋口がいた。
鞄を背負い、左手の内側に石を握り込んで立っている。急いで来たのか、額に汗を軽くかいていた。
不本意な顔をしている樋口を無視して山田は指摘した。
本来なら、この技は簡単に人を傷付けられる危険な技だ。それを加減した事は分かっている。
だからこそ、鈍い打撃音が響いたのだから。
583
:
◆1En86u0G2k
:2009/01/08(木) 17:01:51
お久しぶりです オードリーでこっそり失礼します
『石を持つ=売れっ子になる』という勘違いを利用された黒側の芸人に
いらん言いがかりをつけられた若林 という体 で以下をお読みください
584
:
とびだせハイウェイ
◆1En86u0G2k
:2009/01/08(木) 17:04:02
頭を吹き飛ばされたのかと錯覚した。白い光が脳裏に弾ける。
誰かのせいにしたいわけではないが、ややこしいらしい性分で、人並みかそれ以上に悩んできた。
一面に広がる暗い沼と、見上げる気も起きないくらいにそびえ立つ壁。吹き荒れる嵐に揺さぶられる毎日だった。
それでも一歩ずつ歩いてきたから、こんなふうに光が射すことだって、許されるのかなあ、なんて。
数歩先でまた暗く沈んでも、それはそれだ、なんて。
偽りのない澄んだ気持ちで、心からそう思えていたのに。
それを、こいつ―――今なんて言った?
限界まで熱くなったはずの頭の中が急速に、反転するように冷えてゆく。
「あんた、石のおかげでおれらが今こうなったって思ってんの」
腹立ちが限度を超えたらしい。喚くつもりがずいぶんと穏やかな声が出た。
ざり、と一歩踏み出し、男の顔を見つめる。
「石がなきゃおれたちは今の結果を残せてないって、」
言葉がふいに途切れる。
小さな目を見開き、浮かんだ表情は惚けたようにすら見えた。
信じられないものと、この世に存在しないはずのものと、対峙した時のような色。
585
:
とびだせハイウェイ
◆1En86u0G2k
:2009/01/08(木) 17:05:46
(石さえあれば)
(石さえなけりゃ)
(どいつもこいつもそんなつまんねえことばっかりで)
(…そんなふざけた話で俺を、俺らを、)
(……いったい、なんだと、おもって、)
どこか遠くでクラクションが高く響いた。
「………」
その音を合図に感情は切り替わる。再び浮かべたのは全身全霊を賭けた侮蔑と憎悪。
殺意が視線に宿るなら、7回は相手を小間切れにできそうなぐらいの、とびっきりの負の感情だった。
「…おまえ、よくも」
男が気圧されるように後ずさったのは、何も向けられた二人称に驚いたせいではない。
「よくも、そんなこと、言えるな」
体格の差や黒い欠片の効果で、たやすくアドバンテージを取れると、今の今まで確信していた。
それがこの瞬間、通用しないかもしれない、と本能に警告を鳴らされたためだった。
生半可な優位性はいとも簡単に跳ね返されて無に帰る。
それを伝えるに足るほどに、無力なはずの彼は、オードリー・若林正恭は、心の底から怒っていた。
長い時が流れた気もしたが、おそらくたかが数分だろう。真冬という度を超えて、場の空気がかたく凍っているだけだ。
「そんなにたかが石っころがすげえすげえっていうんなら」
やがて若林はぼそりとそう呟くと、傍らに転がっていた小石を拾い上げ、右手にぎゅっと握り込んだ。
「おまえをぶん殴るのに、どれっくらいか貢献してくれんのかよ」
返事は無かった。怯えるような気配だけがかすかに伝わった。
「…まあいいや」
期待していなかったので気にも留めない。異物を握った拳を引いて前方への距離を詰めるイメージ。
「殴ってみれば、わかんだろ」
物騒な呟きは口の中からちゃんと外へ出ただろうか。
そんなのもどうでもいいや、と思った。聞かせるまでもないし、聞いて欲しくもない。
若林は目の前に立つ男をもう同業者だとは思っていなかった。あれはただのくだらない、敵だ。
(ならぶん殴ったっていいじゃねえか)
およそ三十路の入り口に立つものらしくない短絡な思考でもって、ただ眼前の敵を打ち倒すがため、若林の拳はそれなりのスピードで男を――
586
:
とびだせハイウェイ
◆1En86u0G2k
:2009/01/08(木) 17:07:17
「ストーップ!!」
捉える前に中空で止まる。拳どころか身体全部が、中途半端な形で止まる。
背後からのホールド。
相手の体格と自信にあふれた張りのある声にピンとくるものがあったのか、若林は振り向く努力もせずにじたばたと暴れる。
「んだよ!離せよ馬鹿!邪魔すんな春日!」
その日は番組でもライブでもなかったから、不自然なまでに綺麗に揃った前髪も、ピンク色のベストもそこにはない。
いつもよりずいぶん普通の成人男性らしい見てくれをした春日―オードリー・春日俊彰は、がっちりと若林を抱えたまま、少しずつ後ろに下がりはじめる。
「離せってんだよバ春日!!聞こえねえのかよ!聞こえてねえわけねえだろ!!」
「いいからいいから」
「よっくねえよバーカ!!ふざけんじゃねえぞこの野郎!!」
機銃掃射よろしく浴びせられる罵声をはいはいと躱しながら、あっけにとられて立ちすくむ男に声を投げる。
「早く、」
「え、」
「そんなに長くは抑えてられないんで」
ほんとは抑えなくてもいいかと思ったんですが、そう続ける前に春日の意図は相手に伝わったらしい。
転げるような走り方で逃げ去っていった。比喩の生まれる瞬間に立ち会った気分だった。
黒いダウンジャケットが夜の闇に消えたころ、暴れていた若林はようやく静かになった。
抑える力をゆるめると、あっという間に振りほどかれる。
「…なんで止めたんだよ」
「あれくらいでいいだろ、もう」
「全っ然よくねえ。なんだあいつ、なんだよ、ほんっと腹立つわ」
「それはわかるけれども」
「わかってねえだろ、お前言われてねえじゃん。言ってやろうか俺何言われたか。すげえぞ、全部否定されたようなもんだぞ」
「いいよ言わなくて」
「じゃあ止めるなよ!」
「お前が腹立ってんのはわかってるし、本当はそうじゃないのも知ってる。いいだろ、それで」
「…なんだそれ」
消化不良の怒りはまだ若林の身体の中で暴れている。ベクトルの先を求めた力が無遠慮に胃に衝突してきて吐きそうだ。
こんなものを抱えて黙って眠れというのか。理不尽だ、と思う。知っていたつもりだったが、理解の範疇を越えていた。
代わりに睨みつけた春日の横顔は相変わらずフラットで、思わず舌打ちが出た。
理不尽はこんなところにも転がっている。
体勢を整えるふりをして春日の足を踏んでやると、踏んでるよ、と言われた。
わざとだよばか、と返した。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板