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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

556名無しさん:2008/01/20(日) 06:06:06
少し間が空いてしまいましたが、>>535-537>>541-543の続きです。

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焦点の合わない目で床を睨んでいた。
待ち人はまだ来ない。
男はポケットの中の石を弄びながら、スタジオの喧騒を遠くに聞いていた。
ついさっき交わしたばかりの会話が、頭の中をぐるぐると巡る。










男が石を拾ったのは、五日前か六日前か。とにかくもうすぐ、一週間になろうとしていた。
拾ってから、見も知らない奴に声を掛けられる事が多くなった。危ない目にも遭った。
襲って来る奴は皆自分と同じくらいの若い男。
その男達が口々に言うには、

【石を寄越せ。それさえあれば、この世界で頂点へ行ける】

危険な目に遭い、必死に襲って来る奴等を目の当たりにした男が、その言葉を信じない理由はなかった。
石さえあれば、集めれば、頂点へ行けるんだと。信じた。だから欲した。
石の使い方も把握して、手に馴染んで、慣れて来た。
今初めて『そっち側』の人間になっている男は、緊張を振り払う様に、一度大きくかぶりを振った。

言われるままに連れられた場所はしんと静まり返っていて、いつも慌しいスタジオとは別世界の様に思えた。
足音も、呼吸音さえも、グレーのカーペットに吸い込まれて行く心地がした。確かにここならば、多少の事では人は来ないだろう。
男は、これから起こる筈の戦闘に身を震わせた。
目の前を歩く庄司の背は無防備で、攻撃を仕掛けようと思えばいつでも仕掛けられた。
だがもし、井上の使った石の効果が…何が起こったかは解らないが、それが今出たりしたら? 戦闘経験は相手の方が圧倒的に上だろう。すぐさま反撃され、終わりだ。
下手は打たない方が良いと、男は小さく深呼吸した。

やがてぴたりと足を止め、庄司が振り返る。
男は自分の心臓が、まるで映画のクライマックスの様に徐々に高鳴って行くのを感じた。

「お前、石拾ったのいつ?」

が、開口一番に、これ。
いつ石に手を伸ばそうかばかり考えていた男は、突然の質問に面喰らった。

「結構最近でしょ。三日四日前とか、一週間か。二週間はー…経ってないんじゃないかなあ?」
「そ、そんなのどうだって良いじゃないですか! 石戴けないなら俺………その為にここに来たんじゃないんですか!?」

思わず怒鳴るが、庄司は当たり? と笑うばかり。
こっちは攻撃の意を示しているというのに、この落ち着き様は何だろう。何か勝算でもあるのかと訝ってしまう。
これからの自分達の為に、目の前の男の持つ石が欲しい。だけど、迂闊に動けない。
どうしようかと目を泳がせている男とは対照的に、庄司は飄々と続ける。

「これ欲しいんでしょ? 俺の石、モルダヴァイドって言うんだってさ。俺石の事全然知らないけど、品川が調べて、教えてくれた」

ころんと丸いそれを簡単にポケットから取り出した。
一見するとアメ玉か、ビー玉か。鮮やかだが深い緑が庄司の瞳に映し出される。

「お前さ、俺と井上さんが石持ってるって誰から聞いたの」
「…多分庄司さんの知らない若手の奴です。俺がどうやって知ったかとか、どうでも良いでしょう?」
「そっか。どうでも良い、か」

庄司は目を伏しがちに緩く笑むと、モルダヴァイドをポケットに直した。
暫く、あー、だの、んー、だの唸っていたが、考え込んだ様子で口元に手を当て、男に目を戻した。

「白とか黒とか、まだ知らないんだ?」
「は? 白? 黒って…?」
「最近だもんなー、拾ったの。まだ知らなくて当然だよな。俺も脇田さんに聞いて初めて知ったし…
&nbspじゃあ俺と井上さん所来たのも、誰かに言われて、とかじゃなくて自分で来たんだ」
「そうですよ。だったら何なんですか。何が言いたいんですか」

要領を得ない会話に、男は焦りと苛立ちを覚えた。
だがその焦りも苛立ちも、庄司の一言によって打ち砕かれる。

「あのー、お前には残念なお報せになるけど…言いにくいんだけどね。
&nbspあの、知ってる? 俺とか井上さんとかの石奪ったって、お前が売れる様になるとかそういうの、ないから」

言いにくいと言う割にはあっさりと告げられた言葉に、男の口はあんぐりと開いたままになった。


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