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ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです
1
:
名無しさん
:2020/10/14(水) 17:28:46 ID:YvZFQxxU0
タクシー
(゚」゚)ノ
ノ|ミ|
」L
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
_/ ̄ ̄\_
└-○--○-┘=3
675
:
◆gFPbblEHlQ
:2022/09/04(日) 14:09:17 ID:7IoV7Kbc0
≪1≫
魔物発見に関するニュースが世間を騒がせる中、とある男がVIP市内のテレビ局を訪れていた。
彼はスタッフに案内されてスタジオに入った。生放送の張り詰めた空気が彼を出迎えた。
「ここで、本日のゲストに登場していただきましょう」
司会の振りでカメラが切り替わり、別位置のカメラがスタジオの出入り口を映し出す。
続けてスタッフが扉を開くと、その向こうから今日の特別ゲストが姿を現した。
件の人は灰色のカーディガンにジーンズ、スニーカーという極めてラフな装いだった。
爪'ー`)「ここまで案内ありがとう。行ってくるよ」
――勇者軍最大戦力、王座の九人を率いる男、フォックス。
彼は同伴していた案内役スタッフに礼を言い、穏やかな笑みをたたえて歩き出した。
カメラを横切って舞台セットに上がり、司会の隣にしれっと並び立つ。それを認め、司会は語った。
「現魔戦争の時代、勇者ブーンと共に戦場を渡り歩いた方々がいらっしゃいます。
超能力を備えた彼らはいつしか『勇者軍』との呼び名をもって、多くの支持を集めました」
「今回ご登場して頂いたのはそんな勇者軍の現役メンバー、フォックスさんです。
フォックスさん、本日はよろしくお願い致します」
爪'ー`)「はい。よろしくお願いします」
司会の挨拶に余裕をもって答えるフォックス。
大仰な肩書きを笠に着ない呑気な言動。司会も思わず頬を緩め、笑みをこぼした。
しかし司会はすぐ我に返り、討論番組に相応しい態度で番組を進行していった――。
.
676
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 14:20:58 ID:7IoV7Kbc0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
( <●><●>)「……このように、敵は順調に外堀を埋めてきています。
お嬢様の決断を待てる時間はそう無いと、ご理解頂けたでしょうか」
ワカッテマスはテーブルに置いたタブレット端末を操作し、昨夜放送された討論番組を一時停止した。
( <●><●>)「ちなみに全国中継です。ネットで見逃し配信もされてます。
なんと言いますか、これは非常に分かりやすい手遅れですね」
ミセ*゚-゚)リ「……お嬢様にとっては、でしょ。さして影響ない癖に」
川д川「でもお嬢様がこれを見なくて済んだのは好都合よ。
こんなの見せたら話も変わりそうだし、特訓場に居てよかったと思う」
午前6時。ツンちゃん宅に赴いたワカッテマスはリビングで足止めを食っていた。
相手はミセリと貞子の2人。彼女達の狙いは時間稼ぎだった。
昨日の話し合いから一夜明けてツンちゃん宅に集う関係者たち。
ドクオとブーンはまだ来ていないが、最終決断の時はあと数時間の内に迫っていた。
それでも『魔界に帰る』 という決断だけは昨日の段階でツンが下している。
問題はその次。彼女が魔界への帰還と引き換えに付け加えたいという『条件』の方にあった。
しかも彼女は誰にも頼らず、たった1人でその交渉に臨もうとしている。
かくしてツンは特訓場に引きこもり、現在進行系で交渉に備えているのだった。
( <●><●>)「勇者軍のこういった手口は強かと言う他ない。
人間対魔物、という伝統ある図式も遠からず完全復活させられます」
( <●><●>)「敵は最初から――数十年前からこのプランを用意していたのでしょう。
魔物発見の第一報から各メディアへの展開、あまりに手際がよすぎる」
川д川「先に言うけど魔術での対処は難しいわよ。
この規模になっちゃうと、記憶消去よりも洗脳の方が人道的でしょうね」
( <●><●>)「いいえ、対処の必要はありません。反応しても開戦を早めるだけです。
私としても戦闘は回避したいので、まぁ、そうなるよう動くつもりですが」
ワカッテマスは椅子に浅く座り直し、ミセリと貞子に改めて視線を送った。
今の話は前置きに過ぎないと、彼の素振りに明確な影が差す。
.
677
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 14:29:26 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「ところで、私の魔眼が大概のものを見通せる事は知っていますね?」
ミセ*゚ー゚)リ 川д川
何をそんな分かりきったことを。
2人は真顔かつ無言で応えた。
( <●><●>)「では、少しばかり話は逸れますが……」
( <●><●>)「貞子、我々の情報を勇者軍に流していた人物について、話してもらえますか」
川д川「……それならハインリッヒ高岡でしょ? 今更それがどうしたの」
( <●><●>)「白々しい問答をするつもりはありません。
あなたが居れば全容の把握には数日とかからない筈です」
ワカッテマスは目を光らせて言った。
( <●><●>)「貞子、あなたは敵の情報を揉み消しましたね?」
川д川
川д川「悪いけどこれ以外の答え方は無理よ。自分で『そうしておいた』から」
ほんの少しも悪びれず、同じ調子で機械的に言い返してみせる貞子。
それは魔眼で予期した通りの答えだった。ワカッテマスもたじろぐ事はなかった。
( <●><●>)「ええ分かっています。魔眼対策としては一番手堅い手段を取りましたね。
私が聞きたい答えに関して、記憶を消して鍵までかけてある」
( <●><●>)「それではミセリにも同じ質問します。貴方はどうですか」
ミセ*゚ー゚)リ「……大概のものを見通せるんだから、分かるでしょ」
続くミセリは逡巡を滲ませながら曖昧に呟いた。
彼女とて魔術の心得はあるが、貞子のように魔眼を退けられるレベルには遠く及ばない。
故に思考は筒抜けの状態。こんな問答はするまでもなく、ミセリの思考は既に暴かれているのだ。
ミセ*゚ー゚)リ「だから『知らない』わ。ハインリッヒが悪い、答えはそれだけ」
だとしても、ミセリはワカッテマスが望む答えを決して語らなかった。
たとえ見透かされた答えであっても、彼女は頑なに真実を黙殺しようとしていた。
.
678
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 14:44:00 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「……なるほど」
( <●><●>)「お嬢様の従者として、主人の瑕疵につながる事柄は決して語らない。
私の魔眼を知っていてなお、それを徒労と分かっていても」
――彼の魔眼は『神の視点』である。
その一方的な読解への抵抗は無意味であり、いっそ開き直った方が建設的だと誰もが匙を投げる。
どうせ考えは見抜かれてしまうのだ。体裁を取り繕う意味は無いし、言葉を選ぶ意味などもっと無い。
そして程なくコミュニケーションは形骸化し、言葉の価値は自ずと損なわれていく
だが、ミセリと貞子にとっては言葉の価値など些末な事だった。
どれだけ会話が非効率になろうと『魔王城ツンの不利益』になる言葉は元から無価値。
ワカッテマスが『神の視点』を備え、言葉の価値を損なわせるとしても知った事ではないのだ。
ゆえに、『神の視点』が導き出した『合理的で価値ある会話劇』はどこにも起こらない。
ワカッテマスは、こういう不毛な遠回りが嫌いではなかった。
( <●><●>)
( <●><●>)「これから話すことは全て、決して、他言無用でお願いします」
ワカッテマスは味気ない前置きを挟んで言った。
この後に続く言葉を水で薄めるような、静かな声色だった。
.
679
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 14:48:41 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「まず最初に、毛利まゆの排除を提言しておきます」
ミセ*゚ー゚)リ(……提言?)
ミセリはぴくりと反応し、ワカッテマスの話に殊更気を張った。
普段の断定的な口振りがいやに丸くなっているように感じ、ほのかに気味が悪かった。
( <●><●>)「排除すべき理由については省略します。
2人とも、大まかな事情は察しておられるでしょう」
川д川「……なんの話だか」
ミセ*゚ー゚)リ「さっぱり分からないわよね」
2人はわざとらしく目をそらしてうそぶいた。
彼女達は、もう随分前から毛利まゆの正体を突き止めていた。
しかし努めて放置を決め込み、毛利まゆ個人の動向を最大限放置してきた。
――たとえ毛利まゆが勇者軍に情報を流していた張本人だったとしても。
ハインの暗示を受ける以前から、そも最初から敵以外の何者でもなかったとしても。
毛利まゆが『魔王城ツンの日常』を意味する以上、彼女達は毛利まゆを見逃すしかなかったのだ。
勿論これは軍属者としてあるまじき背反である。
ツンの従者としては合理でも、敵の尻尾を掴んでおいてみすみす手放した事は厳罰に値する。
なのだが――。
( <●><●>)「今のはあくまで提言です。最終判断は私が下すものではありません」
ミセ;*゚ー゚)リ「……待ってなにその緩い感じ。気持ち悪いんだけど」
ワカッテマスは、敵の動向を看過していた彼女達をさらに見逃してしまった。
即死級の厳罰を覚悟していた手前、ミセリは肩透かしを越える違和感を彼に覚えていた。
.
680
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 14:52:25 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「毛利まゆが勇者軍につながる敵だという事実。
これをお嬢様に伝えるか、実際の対処はどうするのか、全て任せます」
ミセ;*゚ー゚)リ「……まあ、任せてくれるならいい」 チラッ
川; д川「あなたがそこに一枚噛んでくれるのは、心強いけど……」 チラッ
ワカッテマスの言動を上手く受け取れず、貞子と見合ってぎこちなく反応するミセリ。
そんな様子を捨て置いて、ワカッテマスは呆気なく次の話題に移った。
( <●><●>)「では次に――魔眼の未来視に終わりが来ました」
( <●><●>)「私はこれを打破するつもりですが、恐らく不可能です」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ「待って、そっちのが意味不明だった」
川д川「未来視の終わり、っていうのは穏やかじゃないわね」
( <●><●>)「そうですね。要するに私が死ぬという事なので。
詳しいことは追って話しますが、概要だけは早めに伝えておこうかと」
ワカッテマスがこの不毛な足止めに付き合っていた理由はこれか、と悟る2人。
魔眼の未来視が終わる。『神の視点』に永遠の終わりがやってくる。
( <●><●>)「繰り返しますが、他言無用ですよ」
なんの裏付けもなくポンと提示された未来の展開は、今はまだ、誰の胸にも響いてはいなかった。
.
681
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 14:56:34 ID:7IoV7Kbc0
≪2≫
〜特訓場〜
(´・_ゝ・`)「――かくしてワカッテマスは上で待機中だ。
いつでも呼んでこれるわけだが、準備はできてるんだろうな」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。やること自体はそう多くないしね、いつでもいける」
対話に向けた準備を終え、荒野の特訓場にて凛と佇む魔王城ツン。
ジャージ姿で僅かに汗ばんだ身体はウォーミングアップを完全に済ませてある。
肉体言語もまた言語。対話に用いて何が悪い、というのが彼女の理屈だった。
(´・_ゝ・`)「だったら俺はもう行くわ。助けは要らないそうだしな」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、大丈夫よ。楽しみにしててね」
(´・_ゝ・`)「うーい。今後の動きが決まったらよろしくー」
ξ゚⊿゚)ξ「……どう転んでもまた頼ると思うから、よろしく」
盛岡はあしらうように手を振って見せ、背中を丸めて去っていった。
これでもう後戻りはできない。あと10分もしない間にワカッテマスはやってくる。
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;´⊿`)ξ(ああ、流石に緊張するな……)
不意に思考が躓いて縺れ、心臓の鼓動が拍子を外したような錯覚を覚える。
ツンは慌てずに呼吸を意識し、元の調子に戻ろうとまじないの言葉を脳裏で唱えた。
大丈夫、大丈夫、大丈夫――効果はすぐに表れて、彼女は自然と元のペースに戻っていた。
ξ;-⊿-)ξ(……大丈夫。これは勝ち負けの戦いじゃない。
行動で示すことが、一番大切なのよ)
持ちうる手札は全て揃えた。あとは手順と組み合わせの問題。
彼女は意識して普段通りの自分になりきり、魔王城ツンという理論武装の殻に深く潜り込んだ。
.
682
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:00:22 ID:7IoV7Kbc0
ノパ⊿゚)「……でさあ、そろそろこっちにも話振ってくんねえかな」
ξ-⊿-)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「えっ?」
ツンはきょとんとした様子で反応し、遠くから聞こえてきた声にパッと振り向いた。
地面に胡座で座り込んでいる素直ヒートと目が合い、中身の無い時間が5秒ほど無に帰す。
ξ゚⊿゚)ξ
ノパ⊿゚)
ノハ;゚⊿゚)「……いやだからさ! 呼びつけといて放置すんなって言ってんの!
私らなんも知らねえまま本番迎えるのか!? つか本番ってなんの本番だ!?」
lw´‐ _‐ノv「そらもうエッチなやつでしょ。5人揃って花嫁にされちゃうんだよ」
ノハ;゚⊿゚)「ねーちゃん、今そのボケは捌けねえよ……」
lw´‐ _‐ノv「ははっ。でも身売りは実際ありそうだよね、ひえ〜〜」
ヒートの横には彼女の姉である素直シュールの姿もあった。
サガットステージのブッダよろしく地面に寝そべり、○×ゲームのソロプレイに延々勤しんでいる。
完全にオフの雰囲気だった。
ξ゚⊿゚)ξ「まぁそうねえ……いきなり呼んだのは悪かったわよ。
でもほら、私達はマブダチのズッ友なんだしいいでしょ?」
ノハ;-⊿-)「……あーそうでしたね。そうですね、ハイ、ッス……」
自分達が命拾いできた口実を再三突きつけられ、ヒートの言葉は一瞬で勢いを失った。
金で買われた安い友情(おまけ:命)に準じつつ、彼女はおもねってツンに聞き直す。
.
683
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:03:20 ID:7IoV7Kbc0
ノパ⊿゚)「そんでも少しは説明してくれねえか? 大事な友達なら大事にしなきゃだろ?」
ξ゚⊿゚)ξ「いや、私もそうは思ってるんだけどさ……」
ツンは申し訳程度に前置きを挟んで言った。
ξ;゚⊿゚)ξ「ごめん、今回そこら辺は察してほしいのよ。
ていうか雰囲気で少しは分かんない? 他の3人は分かってそうだけど……」
ノパ⊿゚)
ノパ⊿゚)「うーわ察してちゃんだ。だりい女」
ξ゚⊿゚)ξ「否定しきれない悪口にむせび泣きそう」
だりい女こと魔王城ツンはそれでも懸命に生きた。
そうこうしてる間に素直四天王の残り2名、クールとキュートが周辺の散策から戻ってきた。
それに気付いたヒートはけろっと態度を変え、座ったままで2人の帰りを歓迎した。
ノパ⊿゚)「おかえりねーちゃん。キュートもなー」
o川*゚ー゚)o「ん〜」
ξ゚⊿゚)ξ「そっち、下見はどうだった?」
ツンの質問にはクールが答えた。
川 ゚ -゚)「いやまったく下見もクソも無いな。地形は一応覚えたが、私達には不向きな環境だ」
クールは不満気に言いながらヒートの傍に腰を下ろした。
キュートも続いて地面に座ったので、ツンも雰囲気的にその輪に加わっていった。
lw´‐ _‐ノv「ここらへんの地形、キュートが見てもそんな感じだったの?」
o川;*゚ー゚)o「そりゃねえ、こんだけ開けた場所だと流石に厳しいよ……」
lw´‐ _‐ノv「うちらのシマは市街地だもんね。シチュが悪いよシチュが」
ξ゚⊿゚)ξ(なんか流れで素直家の子になっちゃったな……)
地面に座った少女5人、素直四天王あらため素直ゴレンジャー。
これはこれで悪い気はしないな。そう思う素直ツンちゃんであった。
.
684
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:05:56 ID:7IoV7Kbc0
ノハ;゚⊿゚)「……で、けっきょく私は何をすりゃいいんだ?」
ふと、この場の誰に宛てるでもなくヒートが不安を口走った。
これから始まる交渉のため召集をかけられた素直四天王。
他の面々は既に何事かに向けて用意を始めており、手持ち無沙汰はヒートだけになっていたのだ。
川 ゚ -゚)「無論、私達の仕事といえば荒事に決まっているだろう。
詳しい部分は私も知らんがな。まぁ腹を括れ」
素直クールはそう言って自前の武器である日本刀を抜き、眼前に据えて刃を検めた。
真一文字に流れるその刀身は直刀に分類される古い様式のもの。
名を絶光刀といい、彼女はこれを 『死闘が想定される場合』 に限り封を切っていた。
川 ゚ -゚)「絶光刀、絶好調」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「は?」
川 ゚ -゚)「ふっ……」
クールは満足して刀を納めた。
.
685
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:12:46 ID:7IoV7Kbc0
o川*゚ー゚)o「あんたアホなんだからさ、とりあえずバトる準備だけしときなって」
ノハ;゚⊿゚)「ええ〜……」
ヒートにそう助言するキュートの持ち物は黒無地のボストンバッグだけだった。
彼女はその中から迷彩仕様の指抜きグローブを見つけ出し、問答無用でヒートに投げ渡した。
ノハ;゚⊿゚)「打ち合わせも無しでやんの? それでまた貧乏くじ引いたら最悪じゃね?」
o川*゚ー゚)o「最悪はいつも通りだし、内容が分かんないんだから仕方ないでしょ。
聞いてもツンちゃん教えてくんないし。ほんとだるいけど……」
ξ゚⊿゚)ξ「だるくて申し訳ない……」
とはいえ、試験の時と違って今日の素直四天王は万全の状態だった。
4人分の装備もボストンバッグに丸っと収まっており、100%の力を発揮する用意は十分にできている。
キュートは慣れた手付きで中身を漁り、各人の装備をポイポイと外に放り出していった。
川 ゚ -゚)「すまんキュート、左足のプロテクターが無いんだが」
o川;*゚ー゚)o「元々入ってなかったの! 入れ忘れた人が悪いので知りません!」ガサゴソ
_,
川 ゚ -゚) シュン…
lw´‐ _‐ノv「貸すから、私の」
_,
川 ゚ -゚) 「すまん……」
ちなみに素直キュートが装備を一括管理しているのには確固たる理由があった。
彼女達の中で、まともに整理整頓ができるのはキュートだけだったのだ。
o川;*゚ー゚)o「ねえちょっと!! このバッグにハッピーターン入れたの誰!?」
ノパ⊿゚)「食べていいぞ!」
o川;*゚ー゚)o「ハピ粉が手について最悪!!」ポイポイッ
ノパ⊿゚)「そんな……」
lw´‐ _‐ノv「あたしゃ食べるよ」サクサク
.
686
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:17:34 ID:7IoV7Kbc0
川 ゚ -゚)「――うむ。いつもの装備だ、心強い」
かくして数分後、最初に用意を済ませていたのは素直クールだった。
彼女はおもむろに腰を上げ、自分の装備を見直しては得意げに頷いていた。
彼女の装備は日本刀に両肘両膝のプロテクターのみ。
装いとしてはスケボー選手のそれが近く、機動力を損なわないよう防御は最低限に抑えられていた。
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「あれ、そういえば前と制服違ってるわよね? 新品にしたの?」
と、クールの姿をぼけっと眺めていたツンがある変化に気付く。
これまで着ていたコスプレ同然の安物学生服から、彼女達は装いを新たにしていたのだ。
その変わりようがあまりに見慣れたものだったので、ツンもここまで気付くのが遅れてしまった。
o川;*゚ー゚)o「ハァ……ハァ……それいま言うの? おそくない?」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「……前髪もちょっと切った?」
o川;*゚ー゚)o「リカバリーしなくていいから。切ってないし、ハァ……」
ξ゚⊿゚)ξ「てかめちゃ疲れておられる」
o川;*´ー`)o「準備を手伝うのも大変でね……」
クラシックなブレザー型ジャケットに灰色のプリーツスカート。
その由緒正しい上下セットは、ツンちゃん自身も袖を通すVIP高校指定の学生服(冬)に違いなかった。
川 ゚ -゚)「この制服は貰い物だ。安物はやめろとミセリさんから直々にな」
ξ;゚⊿゚)ξ「貰ったの!? なんで!?」
川 ゚ -゚)「これを着てVIP高校に通えとの依頼を受けている。お前まさか知らなかったのか?」
ξ;´⊿`)ξ「ちくしょう、また勝手に話が進んでる……」
.
687
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:18:55 ID:7IoV7Kbc0
川 ゚ -゚)「年齢的にも通学は若干キツいんだがな、モノは良いから気に入ってるぞ。
そのうち私も女子高生だ。転校初日はよろしく頼む」
ξ゚⊿゚)ξ「……あの、ちなみに何歳なの?」
川 ゚ -゚)「私か? 今年で23だが」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ
そりゃコスプレ感が出まくってたのも当然だな、と神妙に納得してしまうツン。
だったら物のついでにと、ツンは他の面々にも年齢を聞いて回った。
lw´‐ _‐ノv「さんちゃい」
ノパ⊿゚)「忘れた」
o川*゚ー゚)o「15歳。末の妹って事になってる」
ξ゚⊿゚)ξ「わたくし皆さんのキャラが分かってきましたよ」
川 ゚ -゚)「まぁこっちにも事情があるんだ。あまり詮索しないでくれると助かる」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなんだ。そうするわね」
長くなりそうな設定の掘り下げを回避し、ツンは即座に話を終わらせた。
.
688
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:27:16 ID:7IoV7Kbc0
川 ゚ -゚)「とにかくヒートも不安がるな。いつも通り、私と前衛を勤めればいい」
ノハ*゚⊿゚)「……おお! それならそうと言ってくれよ!」
クールの装備はシンプルだったが、ヒートの武装はその数段は簡易的だった。
先ほど渡されたグローブだけを両手にはめて、終わり。
彼女もすぐさま立ち上がり、軽いワンツーパンチで体を温め始めた。
o川;*゚ー゚)o「――はい完成!」
lw´‐ _‐ノv「いやぁすまんの」バサッ
一方で、戦闘準備に一番手間取っていたのは素直シュールだった。
腰の左右に合計4つのウエストポーチを装着し、オーバーサイズのPコートをその上に羽織る。
彼女もそれで準備完了のようだったが、手伝っていたキュートの疲弊ぶりもまた尋常ではなかった。
ξ゚⊿゚)ξ(なんか、時間かかった割に変化が無いわね……)ジー
lw´‐ _‐ノv「仕込みもどんどん早くなるねえ。姉の面目丸潰れだよ」
o川;*゚ー゚)o「だったら自分でやってよね。荷物なんて殆どシュールのじゃん……」
lw´‐ _‐ノv
ξ゚⊿゚)ξ ジー
lw´‐ _‐ノv「……暗器使いなんでね、中は意外と重装備なのよ」
o川;*´ー`)o「仕込みは私がやらされてますけどね」
シュールはツンちゃんからの熱い視線に応え、コートをめくってその裏地を披露してみせた。
コートの裏にはナイフ数本とワイヤーの束、あとは正体不明の小道具がぎっしりという感じだった。
ξ゚⊿゚)ξ(ニ、ニンジャ……!)
lw´‐ _‐ノv「もうちょい脱ぐと凄いんだけどね」
o川;*゚ー゚)o「脱いだら怒るよ。もう仕込みやらないからね」
.
689
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:30:55 ID:7IoV7Kbc0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
o川*゚ー゚)o「それじゃあ余ったものは片付けて、っと……」
ボストンバッグを整理して、キュートの仕事もこれで完了。
いざ立ち並んだフル装備の素直四天王を一望し、ツンは他人事のような感動を覚えていた。
ξ゚⊿゚)ξ「うおおすごい。4人パーティって感じ、モンハン」パチパチパチ
ノハ;゚⊿゚)「……てめえも立って準備しろよ。見学で済ますつもりか?」
ξ゚⊿゚)ξ「私はもうアップ済んでるから問題なし。
戦わずに済むならそれが一番だしね、焦ってもしょうがないのだわ」
ツンはやおらに立ち上がってジャージをはたいた。
さしあたって、ツンは最低限の情報を皆に伝えることにした。
ξ゚⊿゚)ξ「で、今から来るのはワカッテマスって名前の魔物なのだわ。
思考を読んだり未来を見通したり、そういう力を持ってる人なの」
ξ゚⊿゚)ξ「私はこれからワカッテマスさんと話をする。
でも間違いなく破綻するから、それが戦闘開始の合図になると思う」
川 ゚ -゚)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「もしそうなって戦いが始まったら、あなた達には私の味方をしてもらいたいの。
正直かなり危険だけど、私を守ってくれればそれで十分だから」
ツンは僅かに目を細めて表情を険しくした。
話し合うけど殴り合う。その見通しの歪さに、彼女自身でも思う所があるようだった。
川 ゚ -゚)「そうか。だったらこちらは要人警護を想定しよう。
思考を読むという能力を鑑みるに、私達が色々知ってるのは不都合なんだろう?」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなのよ。たとえばこの話し合いの『本当の狙い』とかも今は話せない。
そんなんだから、基本的には私に合わせてって感じになるんだけど……大丈夫?」
川 ゚ -゚)「問題ない。独断に許可が降りてるだけマシな依頼だ。
それと最後に確認なんだが、……まぁ答える必要が無ければ答えなくていい」
ξ;´⊿`)ξ「話が早くて助かるのだわ。ええ、答える保証はできないけど、なんでも聞いて」
.
690
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:34:39 ID:7IoV7Kbc0
川 ゚ -゚)「――その相手、手加減は必要か?」
ξ;´⊿`)ξ
ξ゚⊿゚)ξ
ツンは表情をリセットし、頭の中をまっさらにしてから反応した。
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、手加減?」
川 ゚ -゚)「そうだ。今日はわりかし本気装備だからな、今なら相当戦えるぞ」
ノパ⊿゚)「信用しろよな! こないだの電撃野郎だって今なら余裕だぜ!?」
o川*゚ー゚)o「………………」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ああ。そうなのね、それは心強い……」
ツンは、自信満々に語るクールとヒートの顔を直視していられなかった。
彼女達はワカッテマスの強さを知らない。知らないからこそ、彼女達は大言を口にできるのだ。
ξ;゚⊿゚)ξ(自信があるのは嬉しい)
ξ;-⊿-)ξ(私じゃ言えない強い言葉も、今は頼もしい……)
――でも、無理だ。
恐らく彼女達は電撃野郎ことエクストを基準にワカッテマスを捉えている。
エクストの戦闘能力を根本的に読み違えている点を差し引いても、彼女達の目算は完全に的外れだ。
ξ;゚⊿゚)ξ(こんなこと、言いたくないけど……)
素直四天王を守るためには今ここで釘を刺すしかない。
ツンは咄嗟に言葉を選び、オブラートに包んで頭の中に用意した。
ξ;゚⊿゚)ξ「……あのね」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「この場の全員が手加減なしで戦っても、勝ち目は無いのよ……」
その言外に無自覚の本音を添えて、ツンは慎ましく口を開いた。
.
691
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:40:12 ID:7IoV7Kbc0
ξ;゚⊿゚)ξ「私を含めた5人でやっても、ワカッテマスさんには絶対勝てないの」
ξ;゚⊿゚)ξ「だから、手加減とかそういうことは考えないで。
これは勝ち負けの戦いじゃないから、危険な事はしないでほしくて……」
_,
ノパ⊿゚)「……ハァ? んだよそれ」
素直四天王は揃ってツンを注視していた。
自分達のプライドにケチをつけるようなツンの口振りに、短気なヒートは特に難色を示していた。
_,
ノパ⊿゚)「前にやったエクストってのは魔王軍の最強格なんだろ?
今度のはあれより強いってのか? どれくらい強いのか言ってみろよ」
ξ;-⊿-)ξ
ヒートの追求にツンは無言を貫いてみせる。
これ以上の説明は無意味だと、固唾を飲んで顔を背ける。
川 ゚ -゚)「……ふむ、そうか……」
かたやクールは軽率な前言を悔いたのか、渋い表情を覗かせて思慮に耽っていた。
上には上がいる。そんな常套句を自分に言い聞かせ、彼女はふっと鼻で笑った。
川 ゚ -゚)「いや、そこまで言われると立つ瀬がないな」
ξ;゚⊿゚)ξ「……ごめんなさい」
川 ゚ -゚)「いいんだ、私達だってここで死ぬ気は無い。忠告に感謝する。
だが引き際もこっちで決めるぞ。またボコられたら堪らんからな」
ξ゚⊿゚)ξ「もちろん全部任せるのだわ。みんなを守る余裕も私には無いから」
川 ゚ -゚)「――と、聞いての通りだ。魔王軍へのリベンジという趣旨、今日は忘れろ」
そう言いながら他の面々を見遣るクール。
そこには三者三様の反応があったものの、彼女の決定に確たる異議を唱える者は居なかった。
lw´‐ _‐ノv「仕事が楽になるなら何でもいいよ」
ノハ;゚⊿゚)「いやでもこいつの話おかしくねえか!?
話し合うけど戦いにはなる、でも絶対勝てねえってバカバカしくねえか!?」
o川;*´ー`)o「はいはいヒートは黙ろうね……」
もうすぐワカッテマスがやってくる。
ツンは簡単に話をまとめ、素直四天王に最後の助力を申し入れた。
.
692
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:43:25 ID:7IoV7Kbc0
ξ゚⊿゚)ξ「私とワカッテマスさんの話し合いは間違いなく破綻する。
戦闘開始はそのタイミングになる、ってさっき言った通りだけど」
ξ゚⊿゚)ξ「みんなとにかく無茶はしないでほしいの。私が一番気にしてるのはその部分だから。
無茶をしないって約束してくれるなら、お礼もそれだけいいものを用意する」
川 ゚ -゚)「分かった無茶はしない。だから金をくれ4人分」
ξ゚⊿゚)ξ「ほんとに話が早いな」
気前のいい即答。ツンも思わず普段の調子で反応してしまった。
ξ;゚⊿゚)ξ「……えっと、細かいとこは任せちゃってるし、私から言える事はもう無いんだけど。
それでも一応、最後にあなた達を頼った理由だけは話しておくわね」
ノパ⊿゚)「頼った理由?」
川 ゚ -゚)「……そういえば、いつものメンツがここに居ないな」
ミセリやドクオをふと思い浮かべ、彼女達の不在を訝しむクール。
戦力的にも彼女達を頼らない理由はなく、当然この場に集まるものだと一考するが――。
ξ゚⊿゚)ξ「今日はこれで全員よ。ミセリさん達は来ないわ」
川 ゚ -゚)「それは――」
o川*゚ー゚)o「で、だからなに? 要するに負けイベって事でしょ?」
川 ゚ -゚)「まぁ待てキュート。大事な部分だ、聞こう」
ツンの台詞を軽んじたキュートを諌め、クールは続きを話すようツンに首肯してみせた。
.
693
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:51:37 ID:7IoV7Kbc0
ξ゚⊿゚)ξ「……上手くは、言えないんだけど」
ξ゚⊿゚)ξ「この話し合いをするなら、私は、人間を頼らなきゃいけないと思ったの」
――心というものの深層は、言語としての機能、精巧さを喪失させる事でしか言葉にできない。
そして、自分の言葉を手ずから台無しにするその行いは、言葉を扱う全ての者を例外なく無力に変える。
自分にとっては意味があっても、他人にとってはそうでもない無数の物事。
それを他人に伝えることは、大なり小なり、当事者の心に治りにくい傷を残すものだ。
ξ;-⊿-)ξ「……だからね。私は、あなた達が最後まで味方でいてくれたら、それで十分なの」
ξ;-⊿-)ξ「私は、それに見合うだけの振る舞いを頑張るから」
ξ;゚⊿゚)ξ「だから見てて。最後まで、私が人間の味方でいられるかどうか……」
魔王城ツンが今しがた話したこと、これからワカッテマスに話すこと。
それらは必ず痕を残し、彼女の中で大きな変化へとつながっていく。
――ひび割れた卵の殻。亀裂をついばむ雛鳥の寓意。
魔眼の力をもってしても、この先の未来は暗闇に閉ざされたままであった。
( <●><●>)(……やはり、この方の未来は言語化しがたいな)
ワカッテマスは未来視を止め、目の前の現実に意識を戻した。
遠くに見える魔王城ツンとその仲間達をじっと見つめ、整然とした足取りでツンのもとへ向かう。
彼がわざわざ歩いているのは、そうして時間をかけることが『必要な手順』だったからだ。
.
694
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:52:42 ID:7IoV7Kbc0
lw´‐ _‐ノv「――てかもう来てて草」
そのとき、ワカッテマスの登場にいち早く気付いたシュールが草を生やして警告した。
素直クールは即座に反応し、彼女と同じ方向を見てワカッテマスの姿を目視した。
ノパ⊿゚)「よっしゃ! 私は前衛ッ! だよな!?」
川 ゚ -゚)「……いや、キュートと交代だ。
魔王城ツンの護衛は私とキュートでやる」
ノパ⊿゚)
ノハ;゚⊿゚)「なんで!?!?!?」
o川;*゚ー゚)o「嫌です!!!!」
急なポジションチェンジに三女四女のダブルブーイングが爆発する。
しかしクールは気にも留めず、耳打ちする形でシュールにニ三指示を出した。
川 ゚ -゚)「そっちでヒートを宥めておいてくれ。
あいつは話し合いには向かん。今日は足手まといだ」
lw´‐ _‐ノv「んじゃキュートはどうすんの」
川 ゚ -゚)「今日は頼る。アレがそこまで強いなら、キュートにしか対処できない場面が必ずある」
lw´‐ _‐ノv「りょ」
2人は短く会話を済ませてキュート達を振り返った。
lw´‐ _‐ノv「キュート、必要なもん取ったらバッグ貸して。ヒートに持たせるから」
o川;*´ー`)o「はいはいはいはい分かりました分かりました分かり(ry」
ノハ;´⊿`)「やだよ荷物持ちなんかよォー!!」
ξ゚⊿゚)ξ(姉妹の力関係が出ている……)
.
695
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:56:07 ID:7IoV7Kbc0
川 ゚ -゚)「……という事で」
ξ゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚)「いつでもいけるぞ」
すっ、と囁くように告げるクール。
その一言は間違いなく、魔王城ツンから号令を引き出すための言葉だった。
ξ;゚⊿゚)ξ「……みんな、上手く立ち回ってね」
もう引けない。やっぱり無しとはもう言い出せない。
みんなが始まりの合図を待っている。
ツンは胸に手を当て、大きく息をした。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「……はぁ……」
話し合い、戦い、その両方に『どうせ負ける』と高を括りながら。
魔力の回路に熱を入れ、自分の首元に赤マフラーを成形する。
ぶっちゃけツンも大まかな未来は予想がついているのだ。
どうせ話し合いは成立しない。実力行使も意味を成さない。
魔眼のワカッテマスは一度決まったことを絶対に覆さない。
それでもこうして過程を踏むのは、そうする事が『必要な手順』だから。
然るにこれは――同意の上での『儀式』に違いないのだ。
.
696
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:56:43 ID:7IoV7Kbc0
ξ;゚⊿゚)ξ「……始めるのだわ」ザッ
ひび割れた卵の殻。亀裂をついばむ雛鳥の寓意。
その雛鳥には、生まれる前からハダリーという名前が用意されていた。
.
697
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:58:17 ID:7IoV7Kbc0
≪3≫
( <●><●>)「お待たせしました」
ξ゚⊿゚)ξ「……いえ、丁度いいタイミングだったわ」
代わり映えしない荒野の中程で立ち会う両者。
芯を通したように直立するワカッテマスに、ツンは否応なく強い威圧感を感じ取っていた。
だが尻込みしている余裕はない。時間経過で不利になるのはツンの方なのだ。
ξ゚⊿゚)ξ
( <●><●>)「どうぞ話してください。私はそれを聞きに来たのです」
ワカッテマスは少し肩の力を抜き、余裕をもってツンに話しかけた。
魔眼の性能をひけらかすような真似はしないと、あくまで紳士的に振る舞って見せる。
ξ;゚⊿゚)ξ(……そう、どうせ私の考えはすぐにバレる。
今のこういう考えだって、ワカッテマスさんには……)
( <●><●>)
ξ-⊿-)ξ(なるべく、なにも、考えないように……)
ξ-⊿-)ξ(用意はしてきた。用意した言葉だけを、反射的に……)
( <●><●>)
ξ;-⊿-)ξ(……思考は、散らさないと……)
それからツンは色々なことを考えた。
ワカッテマスはただ傍観し、何も言わなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「……そうよね。手早く済ませましょう」
ツンは無表情で言い、用意していた台詞を続けた。
.
698
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 15:59:05 ID:7IoV7Kbc0
ξ゚⊿゚)ξ「とりあえず紹介しておくけど、後ろの2人は私の友達。
あとの2人もその辺の岩陰に隠れてると思う」
( <●><●>)「素直四天王、と自称される方々ですね。
存じ上げております。ヒトの友人、羨ましい限りです」
ξ゚⊿゚)ξ「……一応言っとくけど殺さないでね。
これから何がどうなるか知らないけど、それだけは本当にお願い」
( <●><●>)「はい、承知致しました。お約束します」
ワカッテマスはツンの両隣に控える素直クール&キュートを覗き見た。
彼女達は警戒心を保ったまま、ワカッテマスを捉えたまま、最低限の会釈をした。
川 ゚ -゚)「素直クールだ。お気遣い感謝する」
o川*゚-゚)o「……ッス」
( <●><●>)
2人の思考を読み取ると、ワカッテマスは片手を口元にやって数秒ほど考える素振りを見せた。
ツンにはそれが無意味な動作に思えたので、話を急いてテキパキと彼に問いかけた。
ξ゚⊿゚)ξ「続き、いい?」
( <●><●>)「……はいどうぞ。お気になさらず」
ワカッテマスは顔を上げて言った。
.
699
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:00:52 ID:7IoV7Kbc0
ξ゚⊿゚)ξ「……勇者軍が、私を狙ってこの街に来ようとしてる。
私がこのまま街に残ると、次の現魔戦争の引き金にもなりかねない」
用意していた台詞を練習通りに口に出し、ツンは話声を勢いに乗せた。
ここから先は予定調和のやり取りになる。彼女は半ば機械的に、感情を込めずに続きを話した。
ξ゚⊿゚)ξ「私のパパは事を穏便に済ませたがってる。だから私を連れ戻したい。
私はもちろん地上に残っていたいけど、それが無理なのも分かってる」
( <●><●>)「はい」
コンマ数秒の短い相槌。タイミングは完璧だった。
ξ゚⊿゚)ξ「私の身元は敵にバレてる。それを公表されたら今までみたいな暮らしはもう出来ない。
だからもう、私個人の範疇では、勇者軍には殆ど完敗してる状態なのよね」
( <●><●>)「――心の底から望んでいた『ありふれた日常』を人質にされた。
お嬢様がそういった認識をされている事は、魔眼がなくとも理解しております」
ξ゚⊿゚)ξ「そう。だからこの話し合い、私とっては敗戦処理みたいなものなのよ。
この期に及んで最善は期待してないの。……まずはこんなとこかしらね」
( <●><●>)「はい。どうぞ続きを」
.
700
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:02:49 ID:7IoV7Kbc0
ξ゚⊿゚)ξ「とりあえず、私はワカッテマスさんの言うとおりにして魔界に帰るのだわ。
ただし条件付きで。今日の要件はこの部分よ」
( <●><●>)「なるほど、そうでしたか」
ワカッテマスはわざとらしく頷いた。
( <●><●>)「でしたら先に魔王軍全体の方針をお伝えします。
端的に申しますと、結論としては先日のまま変わっておりません」
( <●><●>)「お嬢様を魔界に帰したのち、我々は事後処理を開始します。
勇者軍とその協力者を対象に、殺害を含めた必要な対処を行います」
ξ;゚⊿゚)ξ「……殺害って、認めるのね」
( <●><●>)「オブラートに包む意味がありますか?」
彼は返答の間を設けずに続けた。
( <●><●>)「今回の事案は規模が大きすぎるため、半端な記憶消去では埒が明きません。
よって一度、我々は勇者軍の作戦に付き合うつもりでいます」
ξ゚⊿゚)ξ「付き合うって、具体的には?」
( <●><●>)「この街で迎え撃ち、敵の主力を落とした上で、敗北を演じます」
ξ゚⊿゚)ξ
_,
ξ;゚⊿゚)ξ「そ、想像してたのと違う流れになってるわね……」
敗北を演じる、という彼の目論見に驚きを隠せないツン。
人間社会の平和を乱さないという意味ではこれ以上ない算段だが、予想外ではあった。
.
701
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:08:19 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「――事後処理を円滑に行う為の、一芝居です」
と、ツンが気を抜いたところで説明が再開される。
ツンは努めて心を閉ざし、都合のいい言葉に惑わされないよう感情を押し殺した。
筒抜けだからこそ努めて冷静に。動揺は無意味なのだ。
( <●><●>)「この街で戦闘を行い、敵の主力を殺害し、形だけの勝利を持ち帰らせる」
( <●><●>)「そしてそれ以後、勇者軍が決起することは二度とありません。
そうなるように事後処理を行います。……意味はお分かりですか?」
記憶消去が現実的でない以上、今回の件は時間経過による風化が最も手堅い。
人の噂も七十五日――とはいかないだろうが、自然消滅という形で終われば何よりも平和的である。
要するにすべて打算。俯瞰してみれば、彼の含みはすんなりと理解できた。
ξ-⊿-)ξ「……表向きには『人間側の勝利』で事を終わらせる。
あなた達は、その裏側で勇者軍を消そうと考えてる」
ξ゚⊿゚)ξ「あとは時間に解決させるとして……そんなに上手くいくものなの?
ごめんなさい、ちょっと想像がつかないんだけど……」
( <●><●>)「それについては勇者軍の人員を洗脳、同士討ちさせる予定なので問題ないかと。
報道関係についても既に手は打っていますし、心配ご無用です」
ξ;´⊿`)ξ「……ありがとう。想像がついたわ。そうよね、できるのよね」
.
702
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:10:02 ID:7IoV7Kbc0
ξ;-⊿-)ξ「それで、私が思ってる条件のことなんだけど」
ツンは息が整うのを待ってから切り出した。
ξ゚⊿゚)ξ「私、友達の無事を見届けてから魔界に帰りたいの。
この街を戦場にするなら尚の事、戦いが終わるまでは」
( <●><●>)
( <●><●>)「ご友人とは、毛利まゆの事ですね?」
ワカッテマスの声がほのかに重みを増した。
ツンはつぶさにそれを感じ取り、反射的に片足をずり下げていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「――そッ、そうよ!」
ツンは咄嗟に持ち直すと、声を荒らげて自分自身に発破をかけた。
綻びを最小限に留め、元の調子を急いで取り繕う。
( <●><●>)「つまり、毛利まゆを特別に助けたいと。そういう事ですか」
ξ;゚⊿゚)ξ「……確認するまでもないでしょ。どうせ私の考えなんか……」
自棄を滲ませた口振りで動揺を薄めようとするツン。
ワカッテマスは、ただそれを眺めていただけだった。
( <●><●>)
ξ;゚⊿゚)ξ …?
彼の返事は、しばらくのあいだ返ってこなかった。
.
703
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:17:19 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「……この街への進軍に際し、勇者軍は一般人の避難を行います。
彼らも人間社会を敵に回すことは避けたいはず。人間側の被害はまず軽微でしょう」
ξ;゚⊿゚)ξ
( <●><●>)「毛利まゆもその避難に加わって街を離れます。
少なくとも今現在、彼女は『軽微な被害』の中には入っておりません」
ξ;゚⊿゚)ξ「……私の出した条件は、意味が無いって言いたいの?」
( <●><●>)「はい。毛利まゆの無事は私が確約します。
護衛を付けろと仰るならそうします。それで済みますから」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、と」
( <一><一>)「それでは帰還のご用意を。魔界でお父様がお待ちですよ」ザッ
ワカッテマスは口早に話を終わらせて踵を返した。
燕尾服の裾を翻し、じつに呆気なくこの場を去ろうとする。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「……待って。ごめんなさい、続けさせて」
そんなワカッテマスを認めたツンは弱々しく呟いて彼を呼び止めた。
今の話に嘘はない。しかし、本心をちゃんと告げたかと言えばそうでもなかったのだ。
ツンは腹を括り、本当のところを口にした。
ξ;゚⊿゚)ξ「守りたいのはまゆちゃんだけじゃないの。
他の人間も全員。……できれば、勇者軍も」
( <●><●>)「――そうでしたか」
ワカッテマスは足を止め、またあっさりと元の位置に戻ってきた。
.
704
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:18:47 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「では改めて条件を確認します」
( <●><●>)「勇者軍を含むすべての人間に危害を加えるな。
と、このような認識でよろしいでしょうか」
ξ;゚⊿゚)ξ「……うん」
( <●><●>)
( <●><●>)「不可能です。お嬢様の想像を叶える事はできません」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「こ、今後二度と……」
( <●><●>)「――今後二度と魔界を出ない、と約束されてもダメです。
くだらない考えはおやめ下さい。あなたの身売りを誰が喜ぶというのですか」
ξ;゚⊿゚)ξ「じゃあどうすれば聞き入れてくれるの? 私が差し出せるものなら何でも……」
( <●><●>)「そういう話ではないのです。はっきり言わなければ分かりませんか?」
ワカッテマスは取り付く島もないくらい徹底的にツンを突き返し、最後に核心を突いた。
( <●><●>)「お嬢様、どうせ無理だと思っておられるなら取り繕うのはやめて下さい。
何でも差し出すとは言いますが、突き返される前提では検討にも値しません」
ξ;゚⊿゚)ξ
( <●><●>)「――どうせこの人は私の『何でも』を受け取らない。
この発想から出たであろう言葉で、いったい私から何を引き出せると思ったのですか」
.
705
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:20:46 ID:7IoV7Kbc0
ξ;゚⊿゚)ξ「……いや、あの、」
( <●><●>)
ξ;゚⊿゚)ξ「確かにそう、そう思ってたのは、」
( <●><●>)
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ; ⊿ )ξ
ξ; ⊿ )ξ「はい。認めます、ごめんなさい……」
そのとき、ツンの心に致命的なひびが入った。
彼女は自分の身を抱えるように両腕を組み、深々と顔を伏せた。
川 ゚ -゚)(キュート、用意しろ)
o川*゚-゚)o(はいはい……)
ツンの背後で目配せをしているクールとキュート。
緊張感が肌を刺す感覚。彼女達は合図を待っていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「――でもっ!! 人間を助けたいって気持ちは本当なのよ!?
さっきは甘えて言ったけど、ワカッテマスさんが望むなら私は――!!」
( <●><●>)「それは面白い冗談ですね」
言い切る前から本気の提案を冗談として受け流されてしまう。
ツンはそこで妙にムキになってしまい、彼に邪魔された続きを強く言い放った。
ξ; >⊿<)ξ「――次の魔王の座を、あなたに譲ったっていいと思ってるの!!」
( <●><●>)
( <●><●>)「それは面白い冗談ですね」
ワカッテマスは同じ反応を繰り返した。
.
706
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:22:41 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)
ξ;゚⊿゚)ξ「……な、えっ……?」
まるで芳しくないワカッテマスの反応にたとたどしく狼狽えるツン。
自分から差し出せる最大の価値を一言で片付けられ、彼女はすっかり寄る辺を失くしていた。
( <●><●>)「すみませんが魔王の座に興味はありません。
当然お嬢様の体にも。金品にも、名誉にもです」
( <●><●>)「私の仕事は滞りなく事後処理を終わらせること。
もちろん被害は最小限に留めますが、ゼロにする事は不可能なのです」
ξ;゚⊿゚)ξ「そ、そんなの分かんない、なんで……」
( <●><●>)「人間側がそれを望まない。理由は単にそれだけです。
死んでも魔物に一矢報いたい。そう考える人間も少なくありませんので」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
( <●><●>)「それに、考えてもみてください」
( <●><●>)「死を覚悟して挑んだ結果、情けをかけられ成果も得られない。
そうして生まれる心の揺らぎを――人間達は『屈辱』と言い表すのでしょう?」
ξ;゚⊿゚)ξ
( <●><●>)「というか、私だけではどうやったって魔王軍の意思は統一できません。
残念ながら人間の生死を厭わない魔物は多数派になると思うのですが」
ξ; ⊿ )ξ
( <●><●>)「そこは当然、お嬢様が『説得して回る』という認識でよろしいですね?
だとしても事故は必ず起こるでしょうから、そういった現場のイレギュラーについては――」
.
707
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:23:45 ID:7IoV7Kbc0
ξ; ⊿ )ξ
ツンは押し黙り、何も言わなかった。
ただそれだけの時間が数十秒と流れ、時間切れがやって来る。
( <●><●>)「すべてのご希望を叶えられず申し訳ありません。
しかし、僭越ながら、ご希望の大部分は受諾できたように思います」
( <●><●>)「ご友人の無事はお約束します。人間達への被害も最小限に留めます。
ただ、たとえ我々が一丸となって配慮しても、『取りこぼし』というものは必ず出てきます」
( <●><●>)「お嬢様にはその一点のみ看過して頂きたいのですが、……いかがでしょう」
ξ; ⊿ )ξ
( <●><●>)「……何を仰っても構いませんよ」
――ワカッテマスの言うとおり、ツンの願望は概ね実現を約束されている。
ただし『完璧には遂行できない』と断りを入れているだけで、彼の対応は誠実そのものであった。
ツンは、誰一人として犠牲にならなければいいと思っていた。
それは現実的に不可能だとワカッテマスは言い、それでも善処を約束してみせた。
結果的にツンの取り越し苦労だった部分は大きいが、落とし所と見ればそう悪くない。
故に、これ以上のケチは『もっと完璧な仕事をしろ』と傲慢にのたまうようなもの。
自分の無力さを棚に上げて。自分の手を汚すつもりもなく、薄汚い現実を私の視界に入れるなと。
ξ; ⊿ )ξ
だから彼女は何も言えなかった。
話し合いはこれで終わりだと、そう認めざるを得なくなっていたのだ。
.
708
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:24:33 ID:7IoV7Kbc0
――しかし、こうした詰みの状況をツンは先んじて読み切っていた。
『どうせ言い負かされる』と高を括り、負け筋ごと打算に組み込んで一計を案じていたのだ。
ξ; ⊿゚)ξ チラッ
ツンは振り返って素直クール達を見た。
彼女達を頼ったのは『こうなった時』の為だ。
川 ゚ -゚)” コクン
o川;*´ー`)o
2人はそれを戦闘開始の合図と受け取った。
ワカッテマスだけが、魔王城ツンの深層を正確に読み取ろうとしていた。
( <●><●>)
ξ;゚⊿゚)ξ「……いやよ。必要な犠牲なんて、私は認めないのだわ」
向き直ったツンは台本通りの台詞でワカッテマスに反抗した。
その瞬間に魔力を解き放ち、鮮烈な真紅を空に奔らせる。
ξ#゚⊿゚)ξ「今日は、『絶対』を約束してもらうまで終わらせないのだわ」
( <●><●>)「はい」
そして、形だけの無意味な戦闘が始まるのだった。
.
709
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:28:55 ID:7IoV7Kbc0
≪4≫
ξ#゚⊿゚)ξ「はああ――ッ!」ダッ
低い姿勢で前に飛び出し、十分な勢いをつけてワカッテマスの眼下に滑り込む。
ツンは魔力で強化した拳を固め、下から突き上げるような形で彼を急襲した。
( <●><●>)「……お強くなられた。こちらでの生活も無意味ではなかったようですね」
だがワカッテマスから余裕の色は消えていない。
ツンが放った最初の一撃を、彼は『とある趣向』をもって受け止めていたのだ。
彼女の拳を受け止めたのは、ワカッテマスの首元に現れた『黒いマフラー』であった。
ξ;゚⊿゚)ξ「――なッ!?」
自分の赤マフラーと瓜二つのそれが目の前に現れ、ツンは一瞬戸惑いを晒してしまう。
ワカッテマスはすかさずその隙を捉え、マフラーの両端で彼女の片腕を絡め取った。
そのままひょいと空中に吊り上げ、反撃のしようがない状態にして話を続ける。
( <●><●>)「驚くことでもないでしょう。作りだけ見ればそう複雑でもありません。
これくらいの代物、魔力成形を習得している大概の魔物に作成できます」
ξ;゚⊿゚)ξ「……だとしてもアイデンティティなのよ! 現状唯一のッ……!」
そう息巻いて暴れるツンだがワカッテマスのマフラーはびくともしなかった。
引き剥がそうと力を入れても指先が食い込むのは自分の腕の方。
マフラー自体は鋼鉄のように固まったまま、ツンのあらゆる抵抗をじっと受け続けていた。
( <●><●>)「お嬢様のマフラー、咄嗟の展開にはまだ対応できないようですね。
試験終盤に見せた動きが普段からできるよう、頑張ってください」
言い終わると同時にワカッテマスは黒マフラーを空中に増産した。
黒色のオーラを纏うそれらは殊更純度の高い魔力で作られた特別製、計8本。
彼はそのマフラーを意のままに操作してみせ、瞬く間にツンの全身を縛り上げてしまった。
ξ;゚⊿゚)ξ(えっ、なんで――)
,,
ξ;゚⊿゚)ξ(――こうじゃないでしょ!?)
ここまでワカッテマスは指一本さえ動かしていない。
両手を後ろで組み、直立不動のまま、魔力の基本技術だけでツンを無力化してしまった。
しかも単純にパワー負けしていて歯が立たない。現時点で彼女の敗北は決定的だった。
戦闘シーンは1レス足らず。じつに儚いワンシーンであった。
.
710
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:30:37 ID:7IoV7Kbc0
黒マフラーでぐるぐる巻きにしたツンをゆっくりと地面に降ろし、横に寝かせる。
ワカッテマスは彼女を見下ろしながら、なんら変わりようのない調子で言った。
( <●><●>)「にしても、あっちの方は手強いのが居ますね」
ξ;゚⊿゚)ξ(あっち……?)
体を捩り、唯一自由な首をもたげてワカッテマスの視線を追うツン。
そうして視界に入ってきたのは、独りでに動く黒マフラーを相手取る素直キュートの姿だった。
o川;*゚ー゚)o「――――ッ!」
ξ;゚⊿゚)ξ(あ、あの人達、私を助けに来ないと思ったら……!)
だが黒マフラー相手に大立ち回りを演じているのはキュートだけ。
もう一方の素直クールはいつの間にか黒マフラーに捕まっており、ツン同様に地面に投げ出されていた。
川;゚ -゚)「――私に構うな! シュール達との合流を先にしろ!」
o川;*゚ー゚)o「いやクールが捕まるレベルなんだよ!? 向こうの2人じゃ即アウトだよ!」
o川;*´д`)o「てかもう私も諦めていい!? 超だるいんですけど!!」
川;゚ -゚)「う〜〜〜〜んもうちょい頑張れ!!」
ξ;゚⊿゚)ξ(あ、あの子、なんか私より粘ってるんだけど……)
ツンは、今尚ちゃっかり逃げ果せているキュートに衝撃を受けていた。
キュートを追って空を駆け巡る黒マフラーはひとつだけ。
とはいえそのスピードは尋常ではなく、パワーについてもツンを十分に上回っている。
マフラーとしての柔軟性から機動力対応力も高いそれを、しかしキュートは難なく躱し続けているのだ。
( <●><●>)「……片手間では分が悪いな」
ξ;゚⊿゚)ξ
間接的に人間に負けた。
そう思っても仕方がない、ツンにとっては信じがたい光景がそこにはあった。
.
711
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:32:48 ID:7IoV7Kbc0
o川;*´ー`)o「ああ〜」
だがキュートの奔走も長くは続かなかった。
というか自分から捕まりにいって終わった。
川;゚ -゚)「おいこら!! そういうとこ直せっていつも言ってるよな!?」
o川;*´ー`)o「これでも前向きな善処をしましたよ……」
結局キュートもマフラーに捕まってぐるぐる巻き。
これでツンちゃん陣営は5人中3人脱落。残る希望はシュールとヒートだけだが――。
ノハ#゚⊿゚)「うぉぉぉぉぉ離せぇぇぇぇぇ!!」
lw´‐ _‐ノv「ダメだったよ……」
( <●><●>)「これで全員ですね。お疲れさまでした」
宣告の後、その2人も黒マフラーに引きずられてここまで運ばれてきた。
もちろん彼女達も同様の拘束を受けており、結果として、ものの見事に全員が捕まってしまった。
.
712
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:34:05 ID:7IoV7Kbc0
lw´‐ _‐ノv「なんか捕まったりボコられたりばっかだね。1回泣いとく?」
o川*゚ー゚)o「相手が悪いよ相手が」
ノハ#゚⊿゚)「待ってろみんな!! こんなん私が引きちぎって――!!」
川 ゚ -゚)「……泣き落としなら3回は必要だな」
lw´‐ _‐ノv「……無茶だねえ」
ξ;゚⊿゚)ξ
( <●><●>)「お嬢様、どうかされましたか?」
言葉を失ったツンに平坦な声掛けをするワカッテマス。
だがその様子とは裏腹に、続く言葉はツンに凄まじい動揺を与えるものだった。
( <●><●>)「話し合いでは必要十分な言質を取れた」
( <●><●>)「魔眼のワカッテマスに戦いを挑み、誰一人として負傷者は出ていない」
ξ; ⊿ )ξ
( <●><●>)「これでもまだ――お嬢様にはご不満があるのでしょうか」
当てつけのような問いかけ。ツンの額にじわりと汗が滲む。
ξ; ⊿ )ξ「……まだ、勝負は……」
( <●><●>)
( <一><一>)「はあ……」
ワカッテマスは溜息を吐いた。呆れた、という感情を演じて見せる。
頑なに本心を言わないツンに対し、彼もそろそろ対応の仕方を変えようとしていた。
.
713
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:36:56 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「……お嬢様。今更言うことではないのですが」
( <●><●>)「実は私、魔眼の力は殆ど使っていないんですよ」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「――――は?」
( <●><●>)「出会い頭に少しだけ。以降は完全に素の状態です。
ですのでお嬢様の考えは分かりませんし、この話の結末も定かではありません」
ξ;゚⊿゚)ξ「……嘘よ」
( <●><●>)
( <●><●>)「そう思われても結構です。慣れておりますので」
ワカッテマスはツンの物言いに無抵抗で引き下がった。
ツンには、このやり取りの意味が全然分からなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ …?
――ワカッテマスは神の視点を持つ『完全な理解者』である。
そのような機能を備え、そのようなモノとして振る舞うことは彼の日常に違いないはずだ。
疑念を挟む余地などない。だって彼には魔眼があって、その能力を駆使する自由があるのだから。
魔眼のワカッテマスにとって他者の考えを理解することは日常茶飯事であり、自然なこと。
だからツンは自分のことを『理解されて当然』だと思っているし、それを前提として今日に臨んでいた。
理解されて当然。字面だけ見れば自惚れや傲慢と大差ないクソみたいな姿勢である。
しかし、魔眼のワカッテマスと対峙する以上はそういった開き直りを受け入れるしかない。
だって彼には魔眼があって、彼にはその能力を駆使する自由と権利があるのだから。
故に、今更そこで『魔眼は使っていない』と梯子を外されても意味が分からないのだ。
.
714
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:40:10 ID:7IoV7Kbc0
相手の自然体を認め――魔眼の力をしかと受け止め、全てを悟られてなお善処を見せる。
そうした振る舞いこそが敬意と尊敬を示す最良の方法であると、ツンは信じていた。
( <●><●>)
ξ;゚⊿゚)ξ
しかしその実、彼らの善意は明らかに食い違っていたのだ。
ツンと目線を合わせるために『完全な理解者』であることを端から放棄していたワカッテマス。
彼の在り方を尊重し、考えうる最良の方法で彼を迎えた魔王城ツン。
まとめてみれば単純な行き違いだが、こと今回の場合において落ち度があるのはツンの方だった。
ワカッテマスは『完全な理解者』としての自分を放棄しただけで、ツンとの相互理解までは放棄していない。
彼は魔眼が無くともきちんとツンの思いを汲んでいたし、彼女の意向に添えるよう常に気を配っていた。
手抜きなども一切なく、彼は彼なりの考えに基づいて対話を成立させようとしていたのだ。
対するツンはどうだったかというと、彼女はワカッテマスを『理解者』と断定し、多くの努力を怠っていた。
中でも致命的だったのは、相手を理解しようとする努力を怠ったこと。
私を理解しているならば――と仮定を重ね、このやり取りを談合試合のように捉えてしまったことだ。
ξ; ⊿ )ξ
話し合いの体をとっておきつつ、実際には台本通りの茶番劇を望んでいたツン。
つまり、彼女が用意した敬意などは、談合相手の機嫌を損ねないための接待に過ぎなかったわけだ。
相手に合わせて武器を取った者、武器を手放した者。
今回の『話し合い』という名目を踏まえ、真に誠実であったのは果たしてどちらか。
――いや魔眼使わないなら最初に言えよ。
そんな文句が過ぎる時点で、ツンがやりたかった『ゲーム』は完全に壊れていた。
.
715
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:44:17 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「……ご友人をこちらに集めましょうか。そうした方が不安もないでしょう」
ワカッテマスは素直四天王に目を向けた。
彼女達を縛る黒マフラーを遠隔操作し、諸々の装備ごと4人を引きずり寄せる。
ノハ;゚⊿゚)「――おい魔王城ツン!! てめぇなに負けムード出してんだよ!!」
o川*゚ー゚)o「負けなら負けで早めに解散したいです」
lw´‐ _‐ノv「ああ〜」
川 ゚ -゚)「ワンセット感がすごい」
ツンの近くに4人を転がし、ワカッテマスは再度マフラーを作り出して簡易的な椅子を用意した。
彼はその椅子に腰掛けると、姿勢を崩して背中を丸め、股座で柔く手を組んだ。
( <●><●>)「お嬢様」
ワカッテマスはツンに呼びかけた。
( <●><●>)「お嬢様」
ξ; ⊿゚)ξ
二度繰り返してようやくツンが面を上げる。
ワカッテマスは彼女の目を見ながら言った。
( <●><●>)「魔眼を使います」
ξ;゚⊿゚)ξ「……え」
ツンは呆気に取られ、ぽかんと口を開けた。
魔眼を使っていなかったという話すら半信半疑なのに、この人はなにを――。
彼女はすっかり面食らい、今こそ発揮するべき危機感を微塵も抱くことができなかった。
.
716
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:45:55 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「お嬢様の言葉に対し、私は、私なりに最大限の善処を試みました」
( <●><●>)「しかし不十分だった。お嬢様の思慮深さを、私は見誤っていた」
次の瞬間、彼の双眸に滅紫色の魔力が影を落とした。
とても分かりやすい魔眼発動の合図。正直これはただの演出だった。
ξ; ⊿ )ξ「……やめて」
だがそんな演出もツンを急かすには十分な効果があり、ツンはようやく危機感を覚えていた。
もし本当に魔眼を使っていなかったら。そして最後まで魔眼を使わせずに済む可能性があるなら。
はたと脳裏を埋め尽くしていく根拠なき希望。ツンは、彼が放った言葉の表層に縋るしかなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ「――ダメ、魔眼はもう使わないで!!」
( <○><○>)「ですがお嬢様は魔眼を使われる前提だった筈です。
元より私が的外れでした。この話し合いを普通のそれと勘違いし――」
ξ;゚⊿゚)ξ「違う、私が間違ってたのよ!! 私がワカッテマスさんに甘えてたの!!
ξ; ⊿ )ξ「私もちゃんと話すから!! お願い――今更こんなの見られたくないの!!」
( <○><○>)
( <○><○>)「私は、お嬢様専属の従者ではありませんので」
それでも彼女の嘆願は届かず、ワカッテマスは冷徹にツンを突き放した。
.
717
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:47:41 ID:7IoV7Kbc0
――心を暴かれる覚悟はあった。
そして、その暴かれた心の中に、ワカッテマスと同じ結論があれば大丈夫だと思っていた。
彼は自ずとツンの狙いを悟り、さっきの『口実作り』にも手を貸してくれるはずだったのだ。
ξ; ⊿ )ξ
もはや魔眼の発動は阻止できない。
だが間に合う行動がひとつだけ残されている。決行するしかなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ「――誰でもいい!! 誰か動いて!!」ガバッ
ツンは乱暴に起きて膝立ちになり、素直四天王に向けて声を張り上げた。
この期に及んで彼女達を頼り、再び戦いを始めること。
それだけが、ツンに許された最後の悪あがきだった。
ξ;゚⊿゚)ξ「あの『凝血解除』ってやつは使えないの!? 今度は全員の力を合わせて――」
川 ゚ -゚)「いや」
途端、素直クールはツンを遮って言った。
川 ゚ -゚)「これは勘だが、多分もう遅いぞ」
次にクールは、自分の体に巻き付いたマフラーをしゅるりと引き離しながら体を起こした。
難なく自由を取り戻した彼女に続き、他の3人も容易く拘束を解いていく。
ノハ;゚⊿゚)「……あれっ、誰かなんかした? なんで拘束解けてんの?」
lw´‐ _‐ノv「いやぁ魔眼は強敵でしたね」
o川*゚-゚)o「……そうだね」
しかし今の彼女達に戦意は見受けられなかった。
体を起こすだけで誰一人として立ち上がらず、両手は武器を手放したままだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「う、動けるなら早く……ッ!」
ツンは彼女達を急かそうとしたが、言葉は半端に止まり、適切な指示は何も続かない。
.
718
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:50:05 ID:7IoV7Kbc0
川 ゚ -゚)「すまん。少し前から拘束は緩んでたんだが、約束を優先して大人しくしていた」
川 ゚ -゚)「雰囲気的に今から本気というのも興醒めだろう。ここらが引き際だ」
ツンの譫言に一方的な弁明を返すクール。
ツンはその内容を時間をかけて理解すると、目を丸くしたまま、か細い声でふと呟いた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……やく、そく……?」
川 ゚ -゚)
そのとき、素直クールはとても冷ややかな目でツンを見返していた。
_,
川 ゚ -゚)「おい、まさか忘れたのか? 無茶をするなと言ったのはお前だろう」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「――あっ」
彼女に言われてツンは反射的に思い出した。約束のこと、無茶をするなと言ったこと。
そして同時にこう思う。私はいま、取り返しのつかない失敗をしてしまった。
彼女だけが、そう思っていた。
ξ; ⊿ )ξ
ワカッテマスが魔眼を使う前提。
ツンの思惑を知った彼が『口実作り』を手伝ってくれる前提。
――なにもかも机上の空論だった。
理論武装の内側が、乾いた土くれのように崩れ始めていた。
ξ; ⊿ )ξ(……どうして魔眼を使ってないのよ)
ξ; ⊿ )ξ(いつもみたいに、普段通りにしてるだけでよかったのに……!)
.
719
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:52:52 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「すみません」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「――あっ! 違う、今のは違うのよ!」
ツンはワカッテマスの声で我に返った。
魔眼を宿す彼の双眸がツンをまっすぐに見つめていた。
ツンは急いで彼に背を向け、拘束されたままの不格好な姿勢で逃げ出した。
ノハ;゚⊿゚)(……いや、なんでこいつ取り乱してんだ?)
そんなやり取りを見ていたヒートは、ツンの異様な有り様に忌避感を覚えていた。
勝ち負けは最初から分かっていたはず。それが予定通りに終わっただけだろうに、なんで焦る。
ヒートには、今になって焦り始める彼女の言動が少しも理解できなかった。
ξ; ⊿ )ξ「違う! 今のは本心じゃないの! 本当にそれだけじゃなくて……ッ!」
( <●><●>)「はい。すべて承知しております」
( <●><●>)「魔眼はもう使っておりません。どうかこちらを向いてください」
取り留めのない言葉でがむしゃらに取り繕うツン。
彼女は芋虫のように這って逃げていき、程なくヒートのもとに漂着した。
ヒートの背後にすっぽりと身を隠し、目を見開いて息を荒らげる。
ノハ;゚⊿゚)「なあおい、お前どうしたんだよ……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……私の拘束を解いて、今すぐ」
ノハ;゚⊿゚)「いや見りゃ分かんだろ終わりだよ。よく分かんねえけど一回落ち着けって……」
ξ; ⊿ )ξ「――私は!! ここで絶対に戦わなくちゃいけないのよ!!」
ツンの一際大きな叫びは、しかしその悲痛さに対して余りにも荒唐無稽だった。
言語としての機能を失った耳障りな声。それを間近で聞かされたヒートは、機嫌を損ねた。
.
720
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:54:02 ID:7IoV7Kbc0
ノパ⊿゚)「うるせえなあ……」スッ
ヒートは激情を燻ぶらせて静かに立ち上がり、険しい表情でツンを見下ろした。
対するツンは追い縋るようにヒートを見上げるばかり。ヒートはその態度が尚更気に入らなかった。
ノパ⊿゚)「お前さっき言ってたよな? わざわざ最後に『無茶すんな』って念を押してよ。
魔物と戦う『人間』に対して言ったんだぞ。それがどういう意味か分かってんのか?」
ξ;゚⊿゚)ξ「……な、なに」
ノハ#゚⊿゚)「……あのな、こっちからすりゃお前ら全員バケモノなんだよ。
そんでこっちは人間だ。なあ、私が言いたいことくらい分かるよな?」
ξ;゚⊿゚)ξ
ノハ#゚⊿゚)
ヒートは20秒待った。
ノパ⊿゚)「いや、マジで分かんねえの?」
ξ;゚⊿゚)ξ「…………ちょ、ちょっと待って」
ノパ⊿゚)「相手はバケモノだぞ? 無茶しなかったら人間なんかすぐに死ぬだろ。
現にこっちは布切れ相手に大敗北だ。お前なんも見てなかったのかよ」
ツンを縛っている黒マフラーを掴み取り、自分の目線までぐっと持ち上げる。
ヒートは彼女に顔を寄せ、苛立ちのままに声を張り上げた。
ノハ#゚⊿゚)「――話し合いはどうせ無理! だから一緒に戦ってくれ! でも無茶はするな!
挙げ句そっちが決めた約束すら忘れて戦えって……てめえふざけてんのか!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ち、ちがっ」
ノハ#゚⊿゚)「あ゙あ゙!? じゃあ教えてくれよお嬢様! うちらの仕事は一体なんなんだよ!!」
ヒートはツンの曖昧さを一蹴して直接的に詰問した。
そして力尽くでワカッテマスの方を向かせ、この場において最も重要な質問を叩きつける。
.
721
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:54:56 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)
ノハ#゚⊿゚)「あのバケモノを見ろ」
ξ; ⊿ )ξ「……ぅ」
ノハ#゚⊿゚)「目ぇ逸らすな!! てめえが戦わせようとしたバケモノだろうが!!」
ノハ#゚⊿゚)「なぁおい!! 無茶するなってのは『死ね』って意味だったのか!?
あたしら差し出して話し合いのダシにでもするつもりだったのか!?」
ノハ#゚⊿゚)「その予定が狂ったから今度は約束ほっぽって『戦え』ってか!?
じゃあ最初からそう言えよ!! 土壇場で日和んじゃねえよボケ!!」
ノハ#゚⊿゚)「――散々ここまでやっといて、お前は結局何がしてえんだよ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「わた、私は、……ワカッテマスさんが、」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ; ⊿ )ξ「だ、だから、戦っても大丈夫なようにって、ちゃんと考えてて、」
ξ; ⊿ )ξ「考えてれば魔眼が、魔眼で全部、……なのに……」
.
722
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:55:43 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「……私は、お嬢様の敵で居た方がよかったのでしょうか」
長い長い静寂を経て、ワカッテマスがおもむろに呟いた。
元より感情表現に難のある彼だったが、その一言には、とても分かりやすい感情が込められていた。
ξ; ⊿ )ξ
しかし何もかも手遅れだった。彼らは既に致命的な行き違いを犯しており、後戻りはできない。
ここから先の会話はすべて、当事者たちの心に深い傷を残すに違いなかった。
( <●><●>)「私なりに、お嬢様の味方になろうと考えていました」
( <●><●>)「魔眼を使わず、きちんと言葉を交わすこと。
ロマネスク様に仕える立場上、私に許された譲歩はこれが限界でした」
( <●><●>)「……魔眼を使っていないことは、こうなるのであれば、先にお伝えすべきでしたね。
その点について弁明はありません。私はお嬢様を見くびっておりました」
.
723
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:56:45 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「お嬢様は本気で私に立ち向かっておられた。
魔眼の力に開き直らず、私と対等に話すために万全を期していた」
( <●><●>)「私の浅慮がそれを台無しにしました。
私は、あなたの事をまるで分かっていなかった」
( <●><●>)「ゆえに、この失態をあがなう義務が私にはあります」
そう言いながら椅子から立ち上がり、ワカッテマスは躊躇いなく素直ヒートに歩み寄った。
2人が真正面から向かい合う。ヒートは彼の双眸をしかと睨み返していた。
ノパ⊿゚)「……ンだよ。今更ビビんねえぞ」ポイッ
ヒートはツンを地面に投げ捨て、敵意をむき出しにして彼を威嚇した。
その間にも素直クール達が動き出しており、武器を手にして周囲を取り囲んでいた。
彼女達は全員、何が起こるか分からない次の瞬間に備えて身構えていた。
( <●><●>)「いえ、戦うつもりはありません。そうした方が、本当はいいのですが」
ノパ⊿゚)「でまた話し合いか? マジでいい加減にしろよボケ……」
一触即発の空気で向き合う両者。
かたやツンは失意に塞いだまま地面に倒れ、彼らの話に追いつこうとさえ考えていなかった。
( <●><●>)「――お嬢様は、あなた方を 『証人』 にするつもりでした」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ(なんで、それを)
ワカッテマスの話が始まる、その瞬間までは。
.
724
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 16:58:20 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「敵であっても民間人であっても、人間側の被害は一切出さずに戦闘を終える。
お嬢様自身、そのような理想が実現不可能である事は重々承知しておられました」
( <●><●>)「次の戦いで犠牲者が出るのは仕方がない。だがその程度の打算では腑に落ちなかった。
ゆえに、お嬢様には 『自分を許すための口実』 が必要だったのです」
ξ;゚⊿゚)ξ「……待ってワカッテマスさん、もう何も言わないで」
ワカッテマスの弁舌が途端に切れを増す。
ツンは体を起こして彼を宥めようとしたが、彼は僅かな反応さえもツンには返さなかった。
_,
ノパ⊿゚)「はあ? 急になんだよ口実って……」
ξ;゚⊿゚)ξ「あんたも聞かなくていいんだってば!」
( <●><●>)「はい。もとより今日の話し合いは『口実作り』が目的です。
あなた方を証人として、敗北を前提として。成果があれば棚ぼたといった気概で」
ξ;゚⊿゚)ξ「――私のことを勝手に説明しないで!!
魔眼で全部見たんでしょ!? 分からないの!?」
( <●><●>)「今度の戦いで発生する被害者をゼロにできると私が約束すればよし。
それが無理でも口実さえ作れれば『納得』には事足りる。勝ち負けは二の次です」
ξ;゚⊿゚)ξ「ねえ!! ワカッテマスさんは私の気持ちを正確に読み取ったんでしょ!?
だったら私が何を嫌がってるかも分かるはずよね!? なんで――」
ノパ⊿゚)「で、結局どういう口実が、なにを納得するために必要だったんだよ」
( <●><●>)「はい。概ねさっき言ったと思うのですが、要するにこういう事です」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「無視は、やめてよ……」
ワカッテマスはツンの嘆願にまったく耳を貸さなかった。
いま彼がやっている事は、本当にただの『説明』だった。
.
725
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:01:34 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「――魔眼のワカッテマスに勝負を挑み、負ける」
( <●><●>)「ただし全力で。一点の曇りなく、己の真意に基づいて全力で立ち向かう。
そうして至った結末であれば誰に対しても負い目はありません。無論、自分にも」
( <●><●>)「肝心なのは『戦い』が成立していた事実です。
1分未満の短い時間でもいい。それだけで全ての帳尻を合わせる事が可能でした」
( <●><●>)「だからこの話し合いは『失敗』なのです。私が魔眼を使わず、戦いを放棄したせいで。
お嬢様が望む展開にはならず、我々はこのような無益な状況に陥ってしまった」
ノパ⊿゚)
_,
ノハ;゚⊿゚) ?
川 ゚ -゚)「いかん、ヒートのやつ頭が追っついてないぞ」
lw´‐ _‐ノv「打算的な狙いがありましたって話じゃないの」
川 ゚ -゚)「だと思う。知らん」
o川;*´ー`)o(……見てらんねえ……)
( <●><●>)「……私と戦った人間にはどんな形であれ箔が付きます。
お嬢様があなた達に協力を求めた理由も、それが大部分を占めます」
( <●><●>)「ですが私はあなた達との戦いを最初から放棄しておりました。
お嬢様は人間が傷つくことを悲しまれる。そう思って、配慮したのですが」
川 ゚ -゚)「……横から聞いて悪いが、私達に箔を付けると良いことがあるのか?」
( <●><●>)「ええ。結果を上手く吹聴すれば人間を見下す魔物、見くびる魔物は確実に減るでしょう。
こちらも人間側との融和は本望ですので、意識改革を狙う場合には利が多いです」
( <●><●>)「なので、もしも私が魔眼を使っていて、お嬢様の考えを予め知っていた場合。
私は素直に談合に応じ、あなた達ともそれなりに戦っていたと思います」
川 ゚ -゚)「今話したような、真意に基づいた談合をしていたと」
( <●><●>)「はい。矛盾していると思われますか?」
川 ゚ -゚)「そりゃ少しはな。普通並ばない単語だろう、真意と談合は」
.
726
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:04:57 ID:7IoV7Kbc0
_,
ノハ;゚⊿゚)「……ちょ、一旦タイムな」
やがて、困惑した面持ちのヒートが両手でTを作って撤退していった。
彼女はちょいちょいと手招きして姉妹を呼び寄せ、円陣の中、小さな声で言った。
ノハ;゚⊿゚)「ダメだみんな、なんも分かんなくなった」ヒソヒソ
o川;*゚ー゚)o「いや真っ先にキレた奴が何を……」
川 ゚ -゚)「あー……まぁ分かんなくていいと思うぞ。私達にはあまり関係ない」
ノパ⊿゚)「あ、マジ? 関係ねぇの?」
川 ゚ -゚)σ「多分な。しょうがないから簡単に図解してやろう」スッ
lw´‐ _‐ノv「説明パートだねえ」
クールはその場にしゃがみ込み、指先を使って地面に2つの丸を描いて見せた。
彼女は片方の丸に逆さウンコめいたツインドリルを描き足し、それを魔王城ツンに見立てて話した。
川 ゚ -゚)「これ魔王城ツンな。もう片方はワカッテマスだ」
ノパ⊿゚)「うん」
川 ゚ -゚)「まず大前提として魔王城ツンはワカッテマスに勝てない。戦闘でも話し合いでも。
私達が居ても居なくてもここは変わらない。絶対に勝てない。マジで無理だ」
ノハ#゚⊿゚)「勝てねえだと!?!?!? やんなきゃ分かんねえよ!!!!!!」
川 ゚ -゚)「お前は元気でいいな」
そう言いながらツンからワカッテマスに向けて矢印を描き、否定を意味するバツ印を上に被せる。
クールは続けた。
川 ゚ -゚)「だが魔王城ツンは諦めがつかなかった。よほど犠牲を出すのが嫌だったんだろう。
どうにかワンチャンス拾ってやろうと考えて、ちょっとした策を企てたんだな」
ノパ⊿゚)「おお! 諦めねえのはいいことだな!」
lw´‐ _‐ノv「好感度の昇降が激しい」
o川*゚ー゚)o「人生が大変そう」
.
727
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:07:43 ID:7IoV7Kbc0
川 ゚ -゚)「ここからは推測も混ざるが、肝心なのは『付加価値』の部分だろう。
勝敗ではなく勝負そのものの価値だ。魔王城ツンはそこに目をつけたんだと思う」
lw´‐ _‐ノv「さっき言ってた『箔を付ける』ってやつだね」
川 ゚ -゚)「ああ。向こうの事情はよく分からんが、人間側の格を上げると色々捗るんだろうな」
彼女は地面に4つの丸を描き、付加価値を意味する記号として上向きの矢印を添えた。
川 ゚ -゚)「で、魔王城ツンは策をもって私達に付加価値をつけようとした。
でも実際には談合は成立せず、あいつの作戦は空回りに終わった」
川 ゚ -゚)「……という感じだと思うんだが、こうして見ると私達に関係する事柄はほとんど無い。
だから張り切って口を挟む理由も無い。ヒートは少し反省しろ」
ノパ⊿゚)
ノパ⊿゚)「あっ、これ私を叱るための説明だったの?」
川 ゚ -゚)「そうだよ。お前はすぐ感情を表に出すからな。私達を頼れる場面では特に」
ノハ;゚⊿゚)「う、すんません……」
川 ゚ -゚)「構わん。だがもう喋るな、邪魔になる」
ノハ;゚⊿゚)「……でもよぉあいつ、作戦あるなら最初に言えばよかったんじゃねえの?」
川 ゚ -゚)「勝てない相手に本気で挑む、その行為自体が『価値』だったんだ。
私達が気兼ねなく全力を出して負けられるよう、萎える情報は出さなかったんだろう」
川 ゚ -゚)「話は以上だ。これ以降ヒートはマジで黙れ」
ヒートを強めに諌めてさっと立ち上がるクール。
彼女は魔王城ツンを見遣り、素直四天王としての方針を改めて口に出した。
川 ゚ -゚)「魔王城ツン、こっちのスタンスは聞いての通りだ。
そっちの事情は知らん。頼まれた仕事はする。関係性は変わらない」
川 ゚ -゚)「腹が決まったら教えてくれ。私達は少し下がっておく」
彼女は気風よく言い切り、ツンに背中を向けて歩き出した。
他の姉妹も彼女に続き、ツンとワカッテマスを2人きりにして立ち去っていく。
ノハ;´⊿`)「証人てなんのこと……」
o川;*゚ー゚)o「……あんたマジでこういうの向いてないから。ほんとに黙りなって……」
.
728
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:11:32 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「素直クールは、律儀な人間ですね」
素直四天王が立ち去った後、ワカッテマスは再びツンに声をかけた。
ツンは地面に横たわったまま、彼の呼びかけにも応えず顔を伏せていた。
( <●><●>)「彼女達の実力は襲撃時の様子から把握しております。
人間基準では十分です。全力ならば私にも傷をつけられたでしょう」
ξ゚⊿゚)ξ「……お世辞でしょ。あなたに傷だなんて」
ツンは冷めた口調で言い、青ざめた顔を上げてワカッテマスの方を見た。
彼女は既に冷静さを取り戻していたようで、その有りようはいつにも増して素っ気なかった。
( <●><●>)「確かめてみますか? 再戦ならば今からでも」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「いい。引き際は任せるって言っちゃってるし」
( <●><●>)「……先程の口振りからして、彼女達はお嬢様の意向を汲むようですが」
ξ゚ー゚)ξ「私の狙いは全部バレてるのに? それこそ茶番なのだわ」
ツンは軽く言いのけて小首を傾げて見せた。
ξ゚⊿゚)ξ「だから戦いはさっきのでおしまい。本当に手も足も出なかったわね」
( <●><●>)「申し訳ありません」
ξ゚⊿゚)ξ「然るべき結果よ。口裏を合わせてないんだから、ああなって当然なのだわ」
ツンは黒マフラーに縛られたまま器用に立ち上がった。
彼女はすっかり元の調子という体で、あらゆる感情を表に出さず『魔王城ツン』に戻っていた。
その後、彼女はしばらくの間、傷ひとつ無い自分の体を眺めて何も言わなかった。
.
729
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:12:50 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「私は、お嬢様に謝らなければなりませんね」
( <●><●>)「さて、これからどうされますか」
しばしの沈黙を経てワカッテマスが口を開く。
漠然とした問いかけにツンは冗長に答えた。
ξ゚⊿゚)ξ「いや、どうするも何も……」
ξ゚⊿゚)ξ「あとは魔界に帰るだけだし、何も無いのだわ」
( <●><●>)
ξ゚⊿゚)ξ「……魔眼で見ればいいじゃない。わざわざ私に聞かなくたって」
( <●><●>)「要望などは無いのですか」
ξ;゚⊿゚)ξ「……だから無いってば。善処は約束してくれたんだし……」
ツンは開き直った様子で言った。
ξ゚⊿゚)ξ「今更ワガママを聞いてもらおうなんて思わないわよ
いいのよ別に、お土産とかはミセリさん達に頼んどくから」
( <●><●>)「本当に無いのですか」
ξ゚⊿゚)ξ
同じ台詞を繰り返すワカッテマスにツンは違和感を覚えた。
間を空けて、彼は続けて言った。
( <●><●>)「試験に受かれば地上での暮らしを続けていい、という約束を反故にしました」
( <●><●>)「お嬢様の配慮を無碍にした上に、あなたが一番嫌がることをしました」
ξ゚⊿゚)ξ
( <●><●>)「これでは足りませんか」
ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ?」
( <●><●>)「なんらかの補填、便宜を図るには、十分な理由だと思うのですが」
.
730
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:15:38 ID:7IoV7Kbc0
ξ;゚⊿゚)ξ「……あの、とりあえず確認なんだけど」
ツンは恐る恐る彼に聞き返した。
( <●><●>)「はい」
ξ;゚⊿゚)ξ「さっきのくだりはその為にやったの? 私にワガママを言わせる為に?」
( <●><●>)
( <一><一>)「違います」
彼は瞑目して即答した。真偽は不明だった。
( <●><●>)「これはあくまで諸々の謝罪を兼ねた補填です。
必要なければ何もいたしません。用意が済み次第、魔界に戻って頂きます」
( <●><●>)「最後にもう一度だけ聞きますが、本当に何もありませんか」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
真っ先に思いついたお願いは『黒マフラーを取って下さい』だった。
だが、彼の様子からして冗談半分で済ませていい問答ではないとツンは思った。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ
ツンは努めて状況を俯瞰した。
理論武装の残骸をかき集め、想像力を存分に働かせる。
およそ1分に渡る長考を終えて、ツンは言った。
ξ゚⊿゚)ξ「……まずはこれ、解いてくれるかしら。お願いとは別で」
( <●><●>)「かしこまりました」
ワカッテマスは彼女の注文につつがなく応えた。
体を縛っていた黒マフラーが途端に消え去り、ツンも自由を取り戻す。
.
731
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:17:06 ID:7IoV7Kbc0
ξ゚⊿゚)ξ「……あなたは、素直四天王の実力を認めてるのよね」
凝った体をほぐしながら、冷静さを取り戻した頭でツンが尋ねる。
( <●><●>)「はい。人間側の評価を改める材料としては」
ξ゚⊿゚)ξ「……犠牲者は抑えてくれるのよね」
( <●><●>)「そう約束しました」
ξ゚⊿゚)ξ「まゆちゃんのことも、任せていいのよね」
( <●><●>)
( <●><●>)「はい、もちろんでございます」
ワカッテマスは淀みなく言った。諸々の確認はこれで全部だった。
するとツンは冷めた声色のまま、途端に別の話題を切り出した。
ξ゚⊿゚)ξ「魔眼の未来視って、どこら辺まで見えてるものなの?」
( <●><●>)「それは、……一口には説明できませんね」
ワカッテマスは口元に手をやって考える素振りを見せた。
ややあってから、彼は簡略化した例え話でツンに説明した。
( <●><●>)「木を見る場合と、森を見る場合がございます。
まずそのどちらかに焦点を合わせ、未来と呼ばれるものを認識します」
( <●><●>)「一挙に全てを見通すことも可能ですが、負担は大きく、ブレが生じます。
未来を見るにしても『視界』があり、決して万能に機能するものではありません」
.
732
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:20:37 ID:7IoV7Kbc0
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、この話し合いの結末も分かってたりするの?」
( <●><●>)「……森を見る場合の解像度で、少しだけ」
( <●><●>)「お嬢様がこれから歩む未来は多くの情報と連動しております。
ですので、もっと遠くの未来を見る際にも、お嬢様の存在はどうしても視界に入るのです」
凛とした態度で弁明するワカッテマスに、ツンは続けた。
ξ゚⊿゚)ξ「これから私が何を言うかは、分かる?」
( <●><●>)
( <●><●>)「……パターンを大別できる程度には、分かっているつもりです」
彼はゆっくりと、時間をかけてそう答えた。
それは分かりきっていた答えだった。ツンも大して真に受けていなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんね、急にたくさん聞いちゃって」
( <●><●>)「いえ、ワガママはひとつだけと言った覚えもありませんので」
ξ゚ー゚)ξ「……意外と甘いのね」
ツンは言いながら笑って見せたが、その顔はどこか達観したようで、生気を伴っていなかった。
ワカッテマスはそんな彼女の内心に思いを馳せた。だが魔眼なしでは表面的な推察が限界だった。
諦めがついたような、心にもないものに突き動かされているような、見えない糸がそうさせているような。
彼は色々な言葉でツンを捉えようとして、いつしか不意に、昔のことを思い出した。
( <●><●>)(これはまるで、魔界に居た頃のような――)
彼が想起したものは魔界で暮らしていた頃の魔王城ツンだった。
今の彼女とそれを重ねて、ワカッテマスの推察はそこで終わった。
――もしも今、魔王城ツンがあの頃と同じ心境であるならば。
魔眼があろうとなかろうと、彼に出来ることは何も無かった。
.
733
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:22:38 ID:7IoV7Kbc0
ξ゚⊿゚)ξ「……帰らなきゃ、いけないのよね。試験は大丈夫だったのに」
ツンは言葉だけは恨めしそうに言った。
感情はさほど込められていない。記号的な恨み節だった。
ξ゚⊿゚)ξ「これでも頑張ってたんだけどね。ハインさんとも特訓してたし」
ξ゚⊿゚)ξ「赤マフラーとかマントとか作れるようにもなったのよ。
昔に比べたら目覚ましい進歩だと思わない?」
( <●><●>)「はい、すべて存じております」
ξ゚⊿゚)ξ
ワカッテマスが相槌を打つとツンの視線が彼を向いた。
彼女はまた、薄らと笑みを浮かべた。
ξ゚ー゚)ξ「でもそれだけ。他にはなんにも持って帰れない」
( <●><●>)
ξ゚⊿゚)ξ「私がやったぞ、って言えることが何もないの」
ξ゚⊿゚)ξ「みんな私のことで大変そうにしてるのに、私だけが手ぶらなのよ。
私はそれが嫌だったの。分かるんだけどね、仕方ないんだけど……」
ξ゚⊿゚)ξ「……1から1000まで全部無意味だった。
居ない方がみんなの為になるなんて、認めたくなかったな」
( <●><●>)「お嬢様、それは――」
ξ゚ー゚)ξ「誰もそんなの願ってないんでしょ? 知ってる。
でも全員が分かってるのよ。打算的にはそれが一番だって」
ξ゚ー゚)ξ「分かってるのに言わないの。私が自分で答えを出すのを、みんな待ってる」
.
734
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:24:33 ID:7IoV7Kbc0
ξ゚⊿゚)ξ「……てな感じで、私にはもうこれしか思いつかなかったんだけど」
ξ゚⊿゚)ξ「あなたはきっと、最初からこれを狙ってたのよね」
ツンはそう言ってまた話を変え、嘘偽りのない吐露を呆気なく水に流した。
ワカッテマスにはそれがとても痛々しいものに思えていたが、彼も決して口を挟もうとはしなかった。
自分では彼女の味方にはなれない。彼は『敵』としての役割を果たそうとしていた。
ξ゚⊿゚)ξ「私が居なくても、みんなが上手くやってくれる」
ξ゚⊿゚)ξ「私が居ない方が、勇者軍との戦いだって気兼ねなくやっていける」
( <●><●>)
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚ー゚)ξ「じゃあ、そうしましょう」
ツンは簡単に言い、軽い足取りでワカッテマスに歩み寄った。
彼の目の前で足を止め、こちらを見つめる青白い顔を静かに仰ぐ。
ξ゚⊿゚)ξ「少し時間をちょうだい。支度を済ませてくる」
ξ゚⊿゚)ξ「それでおしまいだから。後腐れなく」
( <●><●>)「……よろしいのですか。数日の猶予は作れますが」
ξ゚⊿゚)ξ「いい。今日中に帰る」
ツンはためらわずに答えた。
ξ゚⊿゚)ξ「みんな色々気を遣ってくれるだろうし、今すぐ帰っても構わないくらいよ」
ξ゚⊿゚)ξ「でも、条件を付けるわ。ワガママを聞いてくれるなら、今から言うことを素直に聞き入れて」
( <●><●>)「それは内容次第ですね」
ξ゚ー゚)ξ「……きっと大丈夫よ」
自信ありげにツンは微笑み、そして、最後のお願いを胸に浮かべた。
.
735
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:29:59 ID:7IoV7Kbc0
ξ゚⊿゚)ξ「えっとね、行き先を変えてほしいの」
ツンは一歩引き下がり、組んだ両手をぷらんと垂らした。
下を見ながら足踏みをして、自分が立っている場所を無意識に確かめている。
( <●><●>)「魔界ではなく、ですか」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。具体的な当ては無いんだけど、繰り返したくないから」
ξ゚⊿゚)ξ「それで、誰の迷惑にもならなくて、1人で居られる場所がいいんだけど……」
( <●><●>)
それは、魔王城ツンの願いではなかった。
総意を効率的に叶えるため、『魔王城ツンっぽさ』を付加された打算に過ぎなかった。
ξ゚ー゚)ξ「って、これだけじゃ難しいわよね。ごめんなさい。本当に心当たりが無くて」
ξ゚⊿゚)ξ「魔界にはそんな場所無かったし、人の世界にも逃げ場は無いみたいだし。
正直言ってお手上げだから、やっぱり、ワカッテマスさんに頼るしかなくて……」
( <●><●>)「……魔界でもう一度やり直す、というお考えはありませんか」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚ー゚)ξ「繰り返したくないの」
ツンが笑顔を作って見せる。
ワカッテマスはそれを結論として受け取り、続けてぽつりと言った。
( <○><○>)「かしこまりました」
ξ゚⊿゚)ξ「――えっ」
それで、なにもかもおしまいだった。
.
736
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:30:22 ID:7IoV7Kbc0
#10 許されるための儀式
.
737
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:33:10 ID:7IoV7Kbc0
≪5≫
ツンが魔眼の発動を認めた次の瞬間、事は終わっていた。
特訓場の広い荒野に、もはや魔王城ツンという人物は存在していなかった。
( <●><●>)「……」
ひとり佇むワカッテマスは、一瞬前まで彼女が居た場所をただ眺めていた。
そこに素直四天王の足音がそぞろに近付いてくる。彼は振り返り、彼女達に言った。
( <●><●>)「終わりました。そちらは解散してもらって結構ですよ」
川 ゚ -゚)「……魔王城ツンはどこに行った?」
lw´‐ _‐ノv「こちら勘のいいガキが居ないもので……」
遠くからやり取りを見ていただけの彼女達は現状を掴めず目を泳がせていた。
彼女達は一瞬たりともツンから目を離していなかった。4人全員がツンの動向を見守っていたのだ。
にも関わらず魔王城ツンははたと消えてしまった。さしもの彼女達も無視できる状況ではなかった。
川 ゚ -゚)「報酬をまだ貰っていないんだ。困るぞ」
( <●><●>)「それは困りましたね」
ワカッテマスがなんの進展にも繋がらない返事をする。
クールは訝しみ、他の姉妹と顔を見合わせて困惑した。
続けて分かりやすい反応を見せたのは素直ヒートだった。
ノハ#゚⊿゚)「あんにゃろ報酬を踏み倒すつもりか!? ふざけんじゃねえぞ!!」
o川;*゚ー゚)o「あ、そういう捉え方」
ノハ#゚⊿゚)「だってそうだろ!? 違うのか!? なあ!!」
ヒートは声を荒らげてワカッテマスに詰め寄った。
( <●><●>)「さあ、分かりません」
ワカッテマスは内心ヒートのことを面白がっていた。
面白いので、特に理由もなく答えをぼかしてみたのだ。
.
738
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:36:05 ID:7IoV7Kbc0
川 ゚ -゚)「からかわずに答えてくれ。魔王城ツンはどこだ」
業を煮やしたような口調でクールが尋ねる。
ワカッテマスは小さく喉を鳴らし、調子を戻した。
( <●><●>)「申し訳ありませんが答えられません。
教えてしまったら、その時点で意味が無くなってしまいます」
川 ゚ -゚)「意味が分からん。生きてはいるのか?」
( <●><●>)「当然です」
川 ゚ -゚)「じゃあ魔王城ツンの支払い、魔王軍で立て替えてくれるか?」
( <●><●>)「それは無理ですね。こちらの貨幣は大して必要ではないので、持っていません」
ノハ;゚⊿゚)「ほらなあ!? やっぱあいつ踏み倒して逃げやがったんだよ!!」
川;゚ -゚)「ぬ、ぬぅ……」
一番避けるべき展開――無駄働きが発生したかもしれない。
クールは気が滅入る思いで今後のことを想像し、やがて苦肉の策を思いついた。
その方策を固めるべく、彼女はワカッテマスから慎重に情報を引き出そうとする。
川 ゚ -゚)「大事なことを聞くぞ。行き先は教えられない、以外の制約は無いんだろうな?」
( <●><●>)「……お嬢様は1人で過ごしたいと仰っておられました。
誰の迷惑にもならない場所で。そう願われたので、そのようにしました」
( <●><●>)「行き先を教えないのはお嬢様を1人にするためです。
もっとも、教えたところで人間に行き来できる場所では――」
川 ゚ -゚)「とすると、お前は『不完全な仕事』をしたことになるな」
クールは食い気味に言ってワカッテマスを焚き付けた。
彼女自身やや無理のある難癖だと自覚していたが、隙は隙として見逃す訳にはいかなかった。
川 ゚ -゚)「奴がどこに居ようと関係ない。現にこっちは迷惑をこうむっている。
この始末、誰がどうやって責任を取ってくれるんだ」
ノパ⊿゚)「そうだそうだ」
素直ヒートもそうだそうだと言っています。
.
739
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:39:26 ID:7IoV7Kbc0
川 ゚ -゚)「だいたい、誰の迷惑にもならない場所なんかありえないだろ。
お前はそれを承知して願いを叶えたのか? どう考えても無責任だろう」
( <●><●>)「――お嬢様はそれを望まれました」
ワカッテマスが頑なに言い切る。
だがそれ以上には反論せず、彼は厳かな様子でクールの言い分を待った。
川 ゚ -゚)「……ならば、魔王城ツンが周囲にもたらす『迷惑』を減らすのも、願いの内だろうな?」
彼女は力強くそう切り出し、このくだりの核心部分を畳み掛けた。
川 ゚ -゚)「ということは、魔王城ツンが私達にかけている『迷惑』を解決する――」
川 ゚ -゚)「これもまた、当人の願いに寄与する『願ってもない行い』だな?」
( <●><●>)
そのとき、ワカッテマスはほんの僅かに口端を上げていた。
度重なる質疑の着地点に、彼は端的な結論を提示した。
( <●><●>)「――そういった解釈は、可能であると考えます」
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「だったら話は早い」
クールは姉妹達を一瞥して言った。
川 ゚ -゚)「魔王城ツンと同じ場所に私達を送ってくれ」
川 ゚ -゚)「話をつけたらすぐに戻る。お嬢様はお1人様をお望みのようだからな」
.
740
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:44:14 ID:7IoV7Kbc0
( <●><●>)「……今はまず、上に戻ってミセリ達に説明しなければなりません」
( <●><●>)「この状況で一番おっかないのはミセリです。
あなた達は唯一の証人なんですから、私の弁明にも付き合ってもらいますよ」
ワカッテマスは踵を返して歩き出した。
その背中に向け、素直クールが鋭い一声を投げかける。
川 ゚ -゚)「先に返事だ」
( <●><●>)「――4人はダメです」
( <●><●>)「急ぐ必要はありません。あとで詳細を詰めましょう」
ワカッテマスがどんどん遠ざかっていく。
素直四天王はもう一度顔を見合わせ、やむなしといった雰囲気で各位呆れ気味な反応を見せた。
ノハ;´⊿`)「んでまた話し合いかよ……」
lw´‐ _‐ノv「頑張りなヒート。人生は対話バトルだよ」
o川;*゚ー゚)o「もう報酬とかよくない? 帰ってご飯にしよ?」
川 ゚ -゚)「キュートも甘えるな。金蔓は大事に育てなきゃいけないんだぞ」
o川;*´ー`)o「いや、その言い方はトゲまみれなのよ……」
.
741
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:44:40 ID:7IoV7Kbc0
― -_ ̄― -_ ̄― -_ ̄― -_-_ ̄ ̄― -_ ̄― ― -_ ̄― -_ ̄― -_ ̄― -_ ̄
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
___―===―___ ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ― ̄―‐―― ___
 ̄―――― ==  ̄ ̄ ̄ ̄_――_━ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―=‐―
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
 ̄___ ̄―===━___ ̄― ==  ̄ ̄ ̄ ――_――__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐―
―――― ==  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ―― __――_━ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―=
.
742
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:50:09 ID:7IoV7Kbc0
≪?≫
大粒の雪がしきりに降り注いでいた。風に乗って吹きつける白いつぶてが容赦なく体温を奪っていく。
――いったい、なにが。
彼女の認識は現実を捉えることなく空を漂い、白銀の世界に呑まれてその機能を喪失していた。
瞬きする間に一変した世界。彼女はいま、ただ呆然と目の前の景色に目を奪われていた。
夜光をたたえる雪景色の只中で、場違いにも程があるジャージ姿のまま、数十秒を無為に過ごす。
そうしていると、今にも膝に達しそうな積雪が耐えがたい痛みを彼女にもたらした。
蝕むような鈍痛だった。彼女は途端に突き動かされて足早に歩き出した。行き先は無かった。
隙間の多い雑木林を一歩ずつ、深雪に足を抜き差ししながら進んでいく。
彼女はふと空を見上げた。空には分厚い黒雲が立ち込め、風に吹かれて不気味に蠢いている。
夜なんだ、と彼女は思った。
ただそれだけを思い、他の事柄はなにも言葉にならなかった。
そのとき、一際大きな風が雑木林に波を打った。
ぶわあと木々が軋み鳴り、そこに積もっていた雪が方々で地面に雪崩れ始める。
彼女は踏み止まって風に耐えていた。頭上に降ってきた雪塊には、気付けなかった。
直後、彼女の頭にサッカーボール大の雪塊が叩きつけられた。
よほど高いところから落ちてきたのだろう。ずどん、という重苦しい音が一緒だった。
それでも魔物の体は頑丈である。衝撃こそ受けたものの、彼女自身はなんら無傷だった。
ξ ⊿ )ξ
けれど、彼女はそこで歩くのをやめてしまった。
急に惨めさが込み上げてきて、熱いものが目に浮かんで、止まってしまったのだ。
彼女は力なく肩を落とし、追いついてきた色々な感情に心身を苛まれた。
.
743
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:51:11 ID:7IoV7Kbc0
吹雪を全身浴びながら、しばし、たたずむ。
.
744
:
名無しさん
:2022/09/04(日) 17:52:02 ID:7IoV7Kbc0
――1950年代。
ソビエト連邦、シベリア連邦管区での一幕であった。
.
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