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ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです

1名無しさん:2020/10/14(水) 17:28:46 ID:YvZFQxxU0

         タクシー
      (゚」゚)ノ
    ノ|ミ|
     」L
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        _/ ̄ ̄\_
       └-○--○-┘=3

604名無しさん:2021/12/20(月) 21:50:06 ID:xDJkNY0g0


ミセ*゚ー゚)リ「……そろそろ宿題の答えを聞きましょうか。
      お嬢様から見た『人間』とはなんなのか、そこから始めていきましょう」

( <●><●>)「ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ

ミセ*゚ー゚)リ「だからお前は――」ガタッ

 その瞬間に起こった出来事は、私の制止が間に合うような薄鈍いものではなかった。

ミセ*゚ー゚)リ「――少し黙れ」

 ミセリさんがすごい勢いで立ち上がり、ワカッテマスさんの首を容赦なく掴み上げる。
 それと同時に滅紫色の魔力――ワカッテマスさんの魔力が空中に火花を散らした。

( <○><●>)「あなたが話を迂遠にしている」

 ――ワカッテマスさんが魔眼の力を解放する。
 その瞬間、彼の首を力強く掴んでいた腕がばちんと音を立てて翻った。

ξ;゚⊿゚)ξ「あっ」

 見れば彼女の腕はぐちゃぐちゃに潰れており、現在進行系で『内側』が波打っていた。
 それでもなお残った片腕で魔眼を潰そうとするミセリさん――私の叫びはここに間に合っていた。

ξ; ⊿ )ξ「やっ、やめなさい!」

ミセ*゚ー゚)リ「――ッ」

 魔眼の一寸先に迫っていたミセリさんの手がピタリと止まる。
 しかしそれは私の声が理由ではなかった。
 この時すでに、ミセリさんの体の自由は魔眼によって完全に封じられていた。

( <○><●>)「まったく。この状況でお嬢様の方が冷静とは」

ミセ;* ー゚)リ「……お、まえ……!」ググッ

 魔眼の力は圧倒的であり、ミセリさんの抵抗が実を結ぶ気配はまったくない。
 それから彼女は呆気なく足の関節を折り畳まれ、無造作にその場に転がされてしまった。

ξ;゚⊿゚)ξ「その腕、すぐに治さなきゃ!」

 固く絞った雑巾のようにひしゃげた彼女の片腕。
 致命傷ではないが放置もできない。今すぐ貞子さんを呼んでこなければ――

.

605名無しさん:2021/12/20(月) 21:54:10 ID:xDJkNY0g0


( <○><●>)「――貞子であれば術式を構築している真っ最中です。
        特訓場の一角を魔界につなげる大仕事です。邪魔しないように」

ξ;゚⊿゚)ξ「そ、そんな……!」

 狼狽する様子から次の言動を先読みされたのか、あるいは単なる未来視か。
 ワカッテマスさんは燕尾服の襟を正し、すんと居直ってから口を開いた。

( <●><●>)「お見苦しいものをお見せしました。一旦、話をシンプルにしましょう」

 彼の視線が私を捉える。
 その魔眼を使えば力尽くでも連れ帰れるだろうに、情けをかけられているのだ。

( <●><●>)「お嬢様が地上に残る場合、戦闘の中心はあなたになります。
        今のままでは必然的にこの街が戦場となりますが――」

ξ;゚⊿゚)ξ

( <●><●>)「それでも、この街に残りますか?」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ「……ダメ。この街に迷惑はかけられない」

 見え透いた誘導尋問だが、これ以外の答えが私には無かった。

( <●><●>)「決まりですね。では出奔のご用意を」

ξ;゚⊿゚)ξ「で、でもどこに行くの……?」

( <●><●>)「人間の居ない場所です。今は国外逃亡という認識でよろしいかと」

ξ;゚⊿゚)ξ「……帰ってこれる?」

( <●><●>)「いずれは。事後処理の進捗次第でしょう」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「事後処理って、具体的には何をするの?」

( <●><●>)「さっきミセリが話した通りです」

ξ;-⊿-)ξ「……あなたの口から聞きたいのよ」

.

606名無しさん:2021/12/20(月) 21:58:11 ID:xDJkNY0g0


( <●><●>)「――勇者軍に属する者、与する者の絶滅です。
        彼女は先程1ヶ月と言いましたが、本来これは長期的に実行すべき施策であり――」

 それから彼は事後処理の計画とその必要性を説き始めたが、正味的外れだった。
 私が聞きたいのはそんな事ではない。魔物視点の正当性だけを語られても私には響かない。

 馬鹿げた話だが、そもそも彼らは選民と大量虐殺を前提にしている。
 だから今ここで言質が必要なのだ。ここだけは絶対に引き下がれない。
 でなければ、後々どれだけの人が死んでも最終的に『正しいこと』にされてしまう。

 魔物にとっての正しさだけで、この一大事が片付けられてしまうのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「……勇者軍に与する者の、定義は?」

( <●><●>)「それはもちろん、1度でも彼らに助力したもの全て、例外なくです」

 彼は当然のように答えた。

( <●><●>)「対立を扇動したもの。誤情報の流布に積極的だったもの。」
        本件を踏み台にして成果をあげたもの――助力の定義は様々でしょう」


( ^ω^)

(^ω^)←めちゃくちゃ心当たりがある人


(^ω^)「ドクオ、僕もう死ぬかもしれんお」

('A`)「みじけえ付き合いだったな」

( <●><●>)「……あなたの場合は事情が異なりますので別枠ですよ。
        勇者軍への助力が自発的なものでなければ、記憶の消去だけで十分でしょう」

( <一><一>)「現魔王は穏健派なのです。関係者は一族郎党皆殺し、などとは言い出しませんよ」

ξ;゚⊿゚)ξ(ナイスナイスナイス!!!! 言質取ったったぞ!!!)

 ヤバい流れがチラついていたが、内藤くんのアシストもありこちらに有利な言質が取れた。
 内藤くんマジでナイス。本当にお手柄だぞ。

.

607名無しさん:2021/12/20(月) 22:00:41 ID:xDJkNY0g0



(; ´ω`)「……なんだそうなのかお。助かったお……」

('A`)「この場で即死じゃなくてよかったな」

(; ´ω`)「いやぁ僕でこれなら『まゆちゃん』は更に大丈夫だお。本当によかったお……」


ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「――えっ?」


('A`)「あっ」

 いま、内藤くんが聞き捨てならない名前を出した。
 私は思わず彼に詰め寄って、率直な疑問を彼に投げかけていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「待って、なんでそこでまゆちゃんの名前が出るの?」ズイッ

(; ^ω^)「いやちょッ顔が近いお! いきなりどうしたんだお?」

( <●><●>)

(;'A`)「あーツン、ちょっと落ち着いてだな……」

ξ;゚⊿゚)ξ「――聞いてるのは私でしょ!? 早く答えなさいよ!」ガシッ

 私はついに声を張り上げて内藤くんの肩に掴みかかった。
 私自身が勝手に悩んだり、周りにどうこう言われたりするのは別に慣れている。
 だから何とか言葉を選び、ここまで冷静な自分を装うことができたのに――。

.

608名無しさん:2021/12/20(月) 22:00:42 ID:xDJkNY0g0



(; ´ω`)「……なんだそうなのかお。助かったお……」

('A`)「この場で即死じゃなくてよかったな」

(; ´ω`)「いやぁ僕でこれなら『まゆちゃん』は更に大丈夫だお。本当によかったお……」


ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「――えっ?」


('A`)「あっ」

 いま、内藤くんが聞き捨てならない名前を出した。
 私は思わず彼に詰め寄って、率直な疑問を彼に投げかけていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「待って、なんでそこでまゆちゃんの名前が出るの?」ズイッ

(; ^ω^)「いやちょッ顔が近いお! いきなりどうしたんだお?」

( <●><●>)

(;'A`)「あーツン、ちょっと落ち着いてだな……」

ξ;゚⊿゚)ξ「――聞いてるのは私でしょ!? 早く答えなさいよ!」ガシッ

 私はついに声を張り上げて内藤くんの肩に掴みかかった。
 私自身が勝手に悩んだり、周りにどうこう言われたりするのは別に慣れている。
 だから何とか言葉を選び、ここまで冷静な自分を装うことができたのに――。

.

609名無しさん:2021/12/20(月) 22:02:24 ID:xDJkNY0g0


( <●><●>)「――お嬢様、今は一刻を争います。
        ここを離れるという結論はもう出たはず。今夜中に急ぎご用意を」

 私が内藤くんを問い詰めている間にワカッテマスさんが話を終わらせる。
 彼は足早にリビングを出ようとするが、――ここでもなぜか嫌な予感がした。

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ、そっちも待って!!」ガタッ

ミセ;*゚ー゚)リ「お嬢様、私がご説明するので今は……!」

 私はミセリさんの制止も無視して彼を追った。
 本当に嫌な予感がする。彼を逃してはならないと全身がピリピリしている。

ξ;゚⊿゚)ξ「…………!」

 けれど、喉が詰まって言葉が出てこない。
 この胸中に渦巻く最悪をどう言い表すべきか、的確な言葉が分からなかった。

( <●><●>)「……まだ何か? 私にも任務がありますので」

 扉に手をかけたワカッテマスさんが振り返りざまに言う。
 彼は明らかに逃げようとしている。でも、何と言って止めるべきか分からない。




 ――私は今、何を言えばいい?

.

610名無しさん:2021/12/20(月) 22:03:25 ID:xDJkNY0g0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
         ☆ツンちゃんの今後を決める大事な安価☆
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
        A - ξ;゚⊿゚)ξ「まゆちゃんは大丈夫なのよね!?」

        B - ξ; ⊿ )ξ「言うこと聞くから、全部話して……」

        C - ξ゚⊿゚)ξ「お前を殺す」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
              ※詳細は投下後に追記※
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




          __
  ( ̄ (´・_ゝ・`) )
   ``ヽ   /⌒ヽ,-、
      ヽ__,,/⌒i__ノ 
         (_)

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611名無しさん:2021/12/20(月) 22:03:46 ID:xDJkNY0g0


─ ̄ ─_─ ̄  ─_ ─ ̄─_─  ̄─ ̄─_─  ̄─_─ ̄─_─ ̄─ ̄─_─ ̄─
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            【Loading Privilege - Block Buster Breaker】

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612名無しさん:2021/12/20(月) 22:04:16 ID:xDJkNY0g0




       <<業務連絡:安価は妨害されました。。。。。。>>



.

613名無しさん:2021/12/20(月) 22:05:17 ID:xDJkNY0g0






ξ; ⊿ )ξ

( <●><●>)「……何もないのであれば、これで失礼します」

 その後、ワカッテマスさんはそそくさと出ていってしまった。
 彼の気配はもうどこにもない。追いかけることは不可能だった。

ξ; ⊿ )ξ

ミセ;*゚ー゚)リ「お、お嬢様……」

 魔眼の束縛が消えたのだろう。ミセリさんがひしゃげた片腕を抱えて立ち上がってくる。
 それからすぐ、みんなの視線が私に集まってきた。

 そりゃそうだろう。私は今、とても大事な言い合いに負けてしまったのだ。
 何も言えなかった。じわじわと嬲るような不安の波が押し寄せてくる。耐えるので手一杯だった。



(; ^ω^)「……えっと、結局なにがどうなったんだお?」

( 'A`)「……とにかくこっちは方針決めて動きたいんだよ。なるべく早く。
    そんで言い合いになった訳だが、ツンが街を出るって辺りで話は終わっちまったな」


( ^ω^)

(^ω^) ????

.

614名無しさん:2021/12/20(月) 22:09:09 ID:xDJkNY0g0


(;'A`)「……要するにだ、今の言い合いでボロを出したのはツンだけってことだよ。
    特に痛いのは大した反論が出来なかった事だな。次も向こうのペースで話が始まるぞ」

( ^ω^)「あっそれ知ってるお! 『あのとき反論しなかったという言質』 ってやつだお!」

('A`)「ワカさんはそこまで小物じゃねえよ。これくらいで勝手に話を進めたりもしないはずだ。
    でも次会ったら完全論破だと思うぜ。ツンもいよいよ心折られるんじゃねえかな」

( ^ω^)

(^ω^)「ウワー!! それは極めて悲惨」

('A`)「だいたい、今日の放課後からしてツンは半端だったんだよ。
    こうなる予感はあっただろうに備えが甘すぎた。……自業自得だ」

(; ^ω^)「さっきの放課後ティータイムにそんな意味があったのかお!?
       僕だけ普通にサ店エンジョイしてたお……」

 私は顔を伏せて2人の会話を聞いていたが、正直つらかった。
 安全圏から投げ込まれてくる小石ほど痛いものはない。あと惨めだった。



ξ; ⊿ )ξ「……知ってたなら……」ボソッ

 どうして誰も助けてくれなかったのか。助言のひとつもくれなかったのか。
 そんな横暴を心の中で押し潰し、私は大口を開けて太息を吐き出した。

 叫べるものならいっそ叫びたかった。
 物理的敗北ともまた違う、魔界に居た頃の屈辱が脳裏に蘇ってくる。

 でもここで回想シーンに入ると本当に膝から崩れ落ちると思う。
 ダメだ、もう何も考えないようにしよう。

.

615名無しさん:2021/12/20(月) 22:12:02 ID:xDJkNY0g0


ミセ;*゚ー゚)リ「……私は、どんな事になってもお嬢様を優先します。
       夜逃げになっても構いません。あなたはもう自由に――」

ξ; ⊿ )ξ

 額に汗を滲ませたミセリさんが矢継ぎ早に希望を語る。
 けれど私にはまったく響かなくて、

ξ; ⊿ )ξ「……無茶、言わないでよ」

 これくらいしか、返事が思いつかなかった。

 答えは最初から決まっていた。この生き方で意固地になっていたのは私だけだ。
 結局のところ――自由に不慣れな魔物が1匹、自由を求めて人間社会に来た結果がこれなのだ。

 もちろん努力はした。人に迷惑をかけないよう色んなルールも覚えてきた。
 身内に迷惑をかけないよう試験も頑張って突破した。
 誰の迷惑にもならないように。でも自分の意思も通せるよう綱渡りのような努力を続けて――

 ――その結果、当然の帰結が遂にやってきたのだ。

.

616名無しさん:2021/12/20(月) 22:14:44 ID:xDJkNY0g0


 今朝のくだり、ミセリさんの質問に綺麗事を返した私はなんて自分本位だったんだろう。
 現実を知った今なら分かる。人間は敵じゃない、なんて曖昧な答えは無意味だったのだ。

 50年前の戦争はまだ終わっていない。人間と魔物の敵対関係は今なお続いている。
 敵じゃないとか半端に思ったところで状況は揺るがない。まったくの無力だった。
 だから彼女は確かめたのだろう。今の私がどういった基準で敵味方を区別しているのか――

 ――人間という群体が否応なく敵に回った時、魔王城ツンは本当に敵を倒せるのか。

 なのに私は、私達が50年前に敵に回したものを『敵ではない』と言ってしまった。
 そして今現在に至ってなお、私は煮え切らない気持ちのまま敵味方の区別を誤魔化そうとしている。

 いずれ人間社会は魔物を完全に敵と見做す。
 50年間白紙にしていた紙を呆気なく投票に使い、人間達は魔物排除に躍起になるはずだ。
 また同じ過ちを繰り返さないよう、前例を踏まえて正しい行動を取るに決まっている。


ξ; ⊿ )ξ(私、は……)ギュッ


 そして今、未だに私だけが白紙の紙を握りしめている。
 他のみんなは既に投票を終えている。残っているのは私だけ。
 投票締め切りはもうすぐなのに、それでも私は自分の考えに確信を持てずにいる。

 ――学校の同級生、テレビ、新聞、週刊誌、ネットニュース、SNS、街を行き交う雑多な声。
 所構わず無尽蔵に生産される話題の数々。それをひとつひとつ真偽で分別してもきりがなかった。
 善悪のフィルターなんて最初に目詰まりしている。掃除も交換も待たずに破れてしまった。

 これらを踏まえて白紙を広げ、最初から分かりきっていた答えを記入する。そうするしかない。
 要するに時間切れだ。私は、然るべき答えをそのまま口に出して言った。

.

617名無しさん:2021/12/20(月) 22:19:03 ID:xDJkNY0g0


ξ;-⊿-)ξ「魔界に、帰るのだわ」

ミセ;*゚ー゚)リ「……いや、冗談ですよね? それじゃあ魔界に居た頃と同じ――!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ぜんぜん同じじゃないわよ。こんな大事に巻き込まれたのは初めてなのだわ」

ミセ;*゚ー゚)リ「で、ですが……!」


('A`)「すげぇ正常な判断だと思う」

( ^ω^)「若人の貴重な一票に涙が止まらない」


ミセ;*゚ー゚)リ「ほらお嬢様! 2人もああ言ってますし今一度考え直してみませんか!?
       あんなガン垂れ野郎は無視でいいんですよ! 性格悪いし」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや2人とも満場一致ですごい後押ししてるけど。
       ていうかミセリさんだって魔界に帰るの勧めてたわよね?」

ミセ;*゚ー゚)リ「それはそうですが……」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ「……あんまり大袈裟にならないで。
        私だって無条件で帰るつもりはないのだわ。正直ムカつくし」

ミセ;*゚ー゚)リ「お、お嬢様……!」

 そう言いつつ、今後の展開はほぼ決まっていた。
 私は遠からず魔界に帰る。仔細はどうあれこれだけは絶対に覆らない。

『――助けてね』

 でも、そうする前に守りたい約束があるのだ。

 目に見えない多数派なんてこの際どうでもいい。
 今は目に見える例外だけを大切にして、その綺麗な思い出を胸に魔界へと帰る。
 これが今の私にできる最大限の高望み。実現しうるギリギリの独善だろう。

 我ながらめちゃくちゃ自分勝手だなと思う。
 でも仕方ない、これ以上の打算は私には無理だ。
 敵も味方もなく全てを丸く収めようなんて、今の私にできる訳がなかったのだ。

.

618名無しさん:2021/12/20(月) 22:20:22 ID:xDJkNY0g0



ξ゚⊿゚)ξ「……ところで内藤くん、さっきの話の続きなんだけど」

 よし切り替えていこう。

 私は椅子にかけ直し、心を落ち着けながら情報収集に打って出た。
 今の私は完全に除け者だ。この局面の情報自体がまったく揃っていない。
 だから最初に情報を整理する。対ワカッテマスさん用の理論武装はその次だ。
  _,
(; ^ω^)「えっ、どれの事だお?」

('A`)「まゆちゃんの事だろ。お前あれ秘密だったんだからな」

( ^ω^)

(^ω^) Oh....


ξ;-⊿-)ξ「やっぱり。もう巻き込まれてるのね……」

 で、嫌な予感の正体はやっぱりこれか。

 この話題、確かに話し方によってはブチギレていたと思う。
 ワカッテマスさんもそれを懸念して話を中断したのだろう。
 なんというか、慣れた扱いをされたものである。

.

619名無しさん:2021/12/20(月) 22:23:55 ID:xDJkNY0g0


ξ゚⊿゚)ξ「……ねえ、もう全部教えてよミセリさん。
       みんな、私の知らないとこで何をやってるの?」

ミセ;*゚ー゚)リ「……申し訳ありませんお嬢様。それは私の独断では……」

 目を泳がせてたじろぐミセリさんを見て「おっ行けるな」と直感する。
 私はすぐさま両手で顔を覆い、泣き出した素振りをして大詰めに入った。
 涙は武器でしょって微熱S.O.S!!でも歌ってるしな。食らえよメインヒロインの泣き落としを。

ξ ⊿ )ξ「もうワガママ言わないから、魔界にも帰るから、仲間外れにしないでよ……」

ξ ⊿ )ξ「私はただ、考えを整理したいだけなのよ……」

 嘘は言っていない。
 この先どこかでワカッテマスさんに一発勝負を仕掛ける所存だが、嘘は言ってない。

ミセ;*゚ー゚)リ「ああ、どうか顔を上げてくださいお嬢様……!」

ξ:::⊿゚)ξ(……ぜってえタダじゃ帰らねえからな……)

 最悪あのガン垂れ野郎とは殴り合いになるだろうが、そこはもう割り切っていこう。
 どうせあいつは私を殺せない。立場的にも半殺しくらいが関の山に決まっている。
 いざとなったら魔眼にレモンだ。目に効く刺激物を死ぬほど用意して臨もう。

ミセ;*´ー`)リ「で、では私はひとまず腕の治療をしてきますから、一旦お開きにしませんか?
       話はまたその後でって感じで、今すぐここでは無理ですよぉー……」

ξ;゚⊿゚)ξ「えー先っぽだけ! てかドクオ達が話してくれてもいいのよ!?」

('A`)「魔眼を敵にしたくないので嫌です」

 こいつダメだ忠誠心がない。

ξ;゚⊿゚)ξ「内藤くんは?」チラッ

( ^ω^)「あ、僕も経過観察中の身分なのでちょっと、すみません……」

ξ゚⊿゚)ξ「Oh.......Realistic.......」

 おかしい。仲間だったら組織とか平気で裏切ってくれるんじゃないのか。
 なんだこの現実的な距離感。親密度上げるイベントとか私が見落としてたのか?

.

620名無しさん:2021/12/20(月) 22:25:16 ID:xDJkNY0g0





(´・_ゝ・`)「――どうしたよ。揉め事か」

 そんな時だった。
 すっとぼけたように上擦った声が、AKIRAの台詞と共に現れたのは。


ξ;゚⊿゚)ξ「お、お前はまさか……!」

(´・_ゝ・`)「盛岡ですけど」

 スーツ姿のなんちゃら議会所属のおっさんの、盛岡デミタス。
 彼は真顔で私達を眺め、やがて何かに得心したのか笑みを浮かべて頷いていた。

(´・_ゝ・`)「……誤作動かと思って慌てて来てみりゃ、そういう事かよ」

 盛岡は静かに独りごちて天井を仰いだ。
 誰にも、彼が何を言っているのか分からなかった。



ξ゚⊿゚)ξ …ハッ

ξ;゚⊿゚)ξ「そ、そうそう揉め事なのよ!!
       まさに今、盛岡さんの出番なんですよ!!」

(´・_ゝ・`)

(´^_ゝ^`)ニコォ…

 笑顔を作り、当てつけのように深々と腰を折って見せる盛岡デミタス。
 私にはそれが悪魔の所作に見えていたが、悪魔と魔物なんて大体一緒だし、まぁいいかと思った。

.

621名無しさん:2021/12/20(月) 22:29:53 ID:xDJkNY0g0


(´^_ゝ^`)「そう畏まらずとも、遠慮なく私を使って下さい。
      ギブアンドテイクなんて言いませんから。さあどうぞ、なんなりと……」

ξ;゚⊿゚)ξ(こいつ、小物っぽいゴマすりに躊躇がない……!)

 あの盛岡デミタスが目的もなく私に傅くとは思えない、が。
 こいつが居れば私も盤面に手が届くのだ。引き下がっては元も子もない。
 悪魔相手に五分の契約――望むところである。

ξ゚⊿゚)ξ「……なら、みんなが隠してることを全部教えて。全部よ」

(´・_ゝ・`)「お安い御用で。だけど俺の隠し事は教えない。オッケー?」

ξ゚⊿゚)ξ「うん、お願い。今は盛岡さんしか頼れる人が居ないから……」チラッ

 私はNTR展開を示唆させるような口振りでミセリさんをチラ見した。

ミセ;* Д )リ「あ゙ぁ……ッ!」

 これが驚くほど効いた。魔眼に壊された腕より痛がってるの逆に恐ろしいな。
 NTRで脳を破壊するやつが魔物にも通じるとは思わなかった。困ったらまた使おう。

ミセ;* Д )リ

ミセ;*゚ー゚)リ「――ああもういいですよ! 話がこう半端じゃ仕方ないです!
       あとで私が怒られますから、一度しっかり話し合いましょう!」

 NTRで脳を破壊された結果、彼女は魔王軍の規律よりも従者としての立場を尊重してくれた。
 それでも肩をがっくり落とし、後々起こるであろう面倒事に早くも溜息をついている。
 すまないミセリさん。今の私は私情だけで動いているんだ。

.

622名無しさん:2021/12/20(月) 22:33:36 ID:EfRpEneM0
きてんじゃん!!!

623名無しさん:2021/12/20(月) 22:34:58 ID:xDJkNY0g0


ξ;゚⊿゚)ξ「ミセリさんは治療が先でしょ! 腕ぐしゃぐしゃなんだからね!?」

ミセ;*゚ー゚)リ「あ、そういえばそうでしたね」

( ^ω^)「むっ! それくらいなら僕の復元能力で直せるから直すお!」ヒョイパクー
 つ゚

ミセ*゚ー゚)リ「うおお直ったぞ」

 なんやかんや内藤くんが光の速さで激化薬を飲んで能力を発動。
 復元能力をいい感じに駆使してミセリさんの腕を修復した。
 流石には完治は無理そうだったが大体直っていた。すごいなあと思った。


('A`)「……ったく、俺は守秘義務を遵守するからな。何言っても無駄だぜ」


(´・_ゝ・`)「あいつ魔界の自宅にエロ本めちゃくちゃ転送してるぜ。異種姦ばっかり」

ξ゚⊿゚)ξ「そっかドクオも人間が大好きだったのね。私の好きとは意味が違うけど……」

(´・_ゝ・`)「まず彼はショタ石化界隈の造形が深く」

ξ゚⊿゚)ξ「ショタ石化界隈!?」

ゆっくり魔理沙「という訳で今回は色んな特殊性癖について解説していくんだぜ」


(;'A`)「――待ってくれ濡れ衣だ!! 俺の性癖は極めてノーマルだぞ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「最近なにでシコった?」

(;'A`)「答える訳ねえだろ!!」

(´・_ゝ・`)「そういやコミックバベルの11月号読んだか?」

('A`)「あーあれみぞね先生の」

ξ゚⊿゚)ξ

 その後いくつかの秘密を盾に説得、晴れてドクオも仲間になってくれた。
 まさにツンちゃん軍団再結成の瞬間である。名シーンだなぁ。

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624名無しさん:2021/12/20(月) 22:36:08 ID:xDJkNY0g0



          #08 開かれた社会とその敵とツンちゃん


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625名無しさん:2021/12/20(月) 22:40:24 ID:xDJkNY0g0

≪6≫


 首都高を走る彼のミニバンは最悪のプレイリストで彩られていた。
 知らない古い音楽を解説なしで聞かされ続けるのは、正直言って苦痛だった。

(´・ω・`)「……100ワニのプレイリストだったら、冗談で保存してあるけど」

 「……あれ、ヨルシカ入ってたでしょ」

(´・ω・`)「それに変えるよ」

 運転中、助手席の私をチラ見して気を遣ってくるショボーン。
 彼はすぐに端末を操作して音楽を変えた。ヨルシカの「だから僕は音楽を辞めた」が流れ始める。

(´・ω・`)「フェイゲン、老人相手にはウケるんだけどな」

 「老人相手にはね。ていうか私があれ嫌いなの知ってるでしょ?」

(´・ω・`)「……えっ、ナイトフライって蛾なの?」

 窓の向こうには首都高の夜景。
 どこを走ってるかも分からないが、今日の目的だけはハッキリしている。

 私はこれから勇者軍の人と会う予定だった。
 『当日』の予定を組むとかで、私にも声が掛けられたのだ。
 応じない理由はない。というか断っても無意味だ。私はもう引けない所まで踏み込んでいる。

(´・ω・`)「個人的には夜逃げの意味で選んでみたんだけど、ごめんね」

 「……まだ着かないの?」

(´・ω・`)「降りてもしばらく下道だよ。あと2時間ってトコかな」

 魔王軍の索敵能力はかなり広範囲に及んでいる。
 VIP市全体は当然として、あの街に入った時点で付けられるマーキングはかなりの曲者だった。
 イメージ的には全長300kmほどの糸。これを振り切る方法は、現時点ではゴリ押ししかない。

 だから、今こうして首都高を走っているのもマーキングを外す意味合いが強かった。
 つまりは300km分の遠回りである。敵に位置情報を与えない為とはいえ、中々につらい。

.

626名無しさん:2021/12/20(月) 22:43:29 ID:xDJkNY0g0


 ――このマーキングに最初に気付いたのはショボーンだった。
 彼は目ざとい人間である。他人の嘘や欺瞞、イカサマというものを常に考慮して動いている。
 そんな猜疑心に『超人的な肉体』という激化能力を加味して云々、まぁ上手くやったんだと思う。

 これだけ特殊な技能を持っていても組織とか、出世とか、そういうのを考えるんだな。
 私にはよく分からない。一般人のラインで生きてれば、それこそ豊かな一生を送れそうなのに。

(´・ω・`)「これからキミは勇者軍の機密を知る。
      僕の信用あってこその、とんでもないVIP待遇だよ」

(´・ω・`)「……と言うと恩着せがましいけどさ、君には本当に感謝してるんだ。
      私の実力が少しずつ評価されてきてる。次の作戦、上手くいったら大出世できるぞ」

(´・ω・`)「こないだなんて、あの王座の九人が僕に教えを請うてきたんだよ?
      僕も代わりに稽古をつけてもらったけど、あれは爽快だったね」

(´・ω・`)「だからさ、君にもお礼がしたいんだよ。リクエストはあるかい?」

 「……じゃあ音楽止めて」

(´・ω・`)

(´・ω・`)「いいの? 俺とサシで喋るの、嫌じゃない?」

 彼はそう言って端末を叩き、聞き分けよく音楽を切った。
 車内が走行音だけになる。頭が少し、軽くなったような気がした。

 「イヤホン付けるから大丈夫。着きそうになったら起こして」

 ようやく雑音が消えたところで、私は有線イヤホンを取り出して両耳に蓋をした。
 続いてスマホでYouTubeのプレイリストを開き、窓に向かって身を捩る。
 目を閉じて、長く息を吐いた。他人と喋るつもりはもうなかった。

(´・ω・`)「……まったく、僕だって普通に眠いんだけどな。音楽くらいシェアしようよ」

 「……好きなものとは一人で向き合いたいの。分かるでしょ」

(´・ω・`)「僕も勝手に聞かせてもらうからね。沈黙は苦手なんだ」

 その後、イヤホンの向こうから別の音楽が聞こえてきた。
 とても小さな音量だったが、彼はまた古めかしい曲を流し始めたようだった。
 確か坂本なんとかの星がどうこうみたいな……ダメだ、興味がなくて思い出せない。

.

627名無しさん:2021/12/20(月) 22:44:49 ID:xDJkNY0g0


(´・ω・`) 〜♪

 車の走行音に音楽が2種類、ついでに鼻歌という子守唄四重奏。
 いささか耳が大変だったが、頭を止めて一眠りするには丁度いい情報量だろう。

 私はすとんと力を抜いて、震える窓辺に体を預けた。
 意識は程なく微睡みに解けて流れ、

(´・ω・`)「……おやすみ、毛利まゆ」

(´・ω・`)「利用価値がある限り、君の存在には意味があるよ」

 そして、私は左眉をかいて呟いた。

.

628名無しさん:2021/12/20(月) 22:49:19 ID:xDJkNY0g0

【素直四天王編】
#01 >>2-65        #02 >>74-117   #03 >>122-160   #04 >>169-212
#05-1 >>231-289  #05-2 >>294-324 #05-3 >>330-363
#05-4 >>371-416  #05-5 >>422-461 #06 >>467-501   #07 >>510-551

【インナーゲーム編】
#08 >>559-627


ストレス回でした。インナーゲーム編はずっとこの調子です
常時ツンちゃんを追い詰めて選択を迫る感じになります つらい
お話自体はシンプルで分かりやすい感じにまとまっていきます うれしい

次回投下は来年4月頃です
エイプリルフールは無視する予定です

629名無しさん:2021/12/20(月) 22:54:28 ID:Fs63Jb2U0
乙!です

630名無しさん:2022/01/05(水) 22:12:27 ID:zYrCdFuc0
すごい急展開で夢中になって読んだ


631名無しさん:2022/01/22(土) 15:45:52 ID:17DkZ.zA0

どうなっていくんだとワクワクが止まらねえ

632 ◆gFPbblEHlQ:2022/05/02(月) 21:18:44 ID:/7emB4aA0
今週中に投下をしておくよ…!(^ω^)

633名無しさん:2022/05/02(月) 21:23:07 ID:cuIlhfVU0
わあ〜〜〜〜〜〜〜

634 ◆gFPbblEHlQ:2022/05/04(水) 21:59:21 ID:iZuaE51Q0

≪1≫


           〜夕食後〜


  \ナノダワナノダワ/

     ξ;゚⊿゚)ξ ミセ*゚ー゚)リ    この辺に盛岡→
    /   つ   ( つ O   
    (_  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ('A`)
 .   | ̄|し|                    |ノ( ヘヘ



( ^ω^)(こんな茶番が末路とは、つくづく運が無い……)

 ツンちゃんズの情報共有を他人事のように眺めながら、彼は在りし日の選択を思い起こしていた。
 死んで終えるか、生きて続けるかという単純な二者択一。
 興味本位で後者を選んでしまった自分について、彼はもう自分の愚かしさを呪うばかりだった。



━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━

         (´・_ゝ・`)「――大役に空きがある」

━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━



(´・_ゝ・`)

( ^ω^)(……自由にやるとは言ってみたものの)

( ^ω^)(この行動が、お前の思惑通りでなければいいんだがな――……)


.

635名無しさん:2022/05/04(水) 22:00:46 ID:iZuaE51Q0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


(^ω^)「――この感じだと、僕の事情はまだ話してないのかお?」

 唐突に、情報共有という目的から逸脱した疑問を投げかけるブーン。
 それでピタリと場が硬直する。ツンは静かに彼を振り返った。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;´⊿`)ξ「まだ隠し事あんのーー!?!?!?!?」

 直後絶叫。
 度重なる隠し事にツンはひっくり返ってめちゃくちゃになった。所々もげた。

ミセ;*゚ー゚)リ「えっと、あなたの事情って言うとアレのこと? いやあれはまた別件で」

ξ;´⊿`)ξ「も話せよーーーー!! 全部をよォーーー!!」ピョインピョイン

 ツンは飛んで跳ねるなどして遺憾の意を示した。
 しかし何も起こらない。誰も気にしていなかった。

( 'A`)「それって勇者絡みの話じゃねえの? あれそんな秘密にしてたか?」

( ^ω^)「僕は隠したことないお! 自分からも言わないけどNE!!!!」

('A`)「まぁブーンってあだ名からして露骨だったしなぁ。
    俺も名前聞いた時には 『ああ〜でしょうね』 って感じだったぜ」

('A`)「ほら、ツンもハインさんが言ってた紹介を思い出せよ。こいつのあだ名は何だったよ?」

ξ;´⊿`)ξ「ポパイ」

('A`)「ほらな? 現魔戦争の時に出てきた『勇者ブーン』と同じあだ名じゃねえか。
    そんな奴がハインさんと一緒に居たんだぞ? そりゃなんかあるって」

ξ;´⊿`)ξ「私はポパイって言いました。ボケたので拾ってください」

ボケ拾いおじさん「ポパイてなんやねーーん!!!!!!!wwwww」

.

636名無しさん:2022/05/04(水) 22:01:51 ID:iZuaE51Q0


('A`)「で、今それを話して意味あんのか? 確かにツンは分かってないっぽいけど」

( ^ω^)「……そうやって仲間外れにするからツンも思い詰めちゃうんだお。
      ちゃんと話すって決めたんだから、どんな事でもハッキリさせとくべきだお!」

ξ゚⊿゚)ξ「な、内藤くん……!」

 ブーンの堅実な提案に感動を覚え、もげる跳ねるひっくり返るなどしていたツンも我に返る。
 そうだよそういうのが欲しかったんだよ。ツンは再三ひっくり返って喜んだが誰も見ていない。

( ^ω^)「名字で呼ぶなんて水臭いお! これからはブーンって呼んでほしいお!」
                     タスク
ξ゚⊿゚)ξ「うん!!! これからは『牙』と呼ぶ!!」

( ^ω^)「ブーンだお」

ミセ;*´ー`)リ「……そうですね。休憩がてら内藤くんに話を任せましょうか。
        もう何でも話しちゃっていいわよ。でも平和的にお願いね、あとが怖いから」

( ^ω^)「任されたお!!」

 もうどうにでもなれ状態のミセリにバトンを託され、ブーンは自信たっぷりに胸を叩いて見せた。
 続けて彼は開口一番、この話の核心部分から打ち明けるのだった。

.

637名無しさん:2022/05/04(水) 22:02:28 ID:iZuaE51Q0


(^ω^)「――実は僕、勇者ブーンの末裔なんだお!」


ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「は? 敵じゃん」


ミセ*゚ー゚)リ  ('A`)

 そして、またもや空気が凍りついた。

.

638名無しさん:2022/05/04(水) 22:03:40 ID:iZuaE51Q0


ξ゚⊿゚)ξ「敵がよ」

ミセ;*゚ー゚)リ「お、お嬢様……?」

 ブーンの暴露を耳にした途端、ツンは脊髄反射で結論を口走っていた。
 勇者の末裔すなわち怨敵。掌返しはほんの一瞬の出来事だった。
 さっきまで敵味方の区別で散々葛藤していたのは何だったのか。ツン以外みんなそう思っていた。

ミセ;*゚ー゚)リ(そんなバカな、これまでの友好的な姿勢はどこに――!?)

('A`)(こいつまた偏見を……)

(; ^ω^)「ま、まぁ固定観念的には確かにそうだけど、それでも僕は敵じゃないんだお!」

(; ^ω^)「僕らは今、勇者軍の『ある計画』の為に揃って狙われてるんだお。
       逃げるにしても戦うにしても、ツンは今こそ奴らの目的を知るべきなんだお!」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「ある計画、目的だぁ……?」

 嘘くせえなぁと言わんばかりに悪態をついて見せるツン。
 ブーンはあくまで語気を保ち、真摯に続きを物語った。

.

639名無しさん:2022/05/04(水) 22:04:54 ID:iZuaE51Q0


(; ^ω^)「――次世代の勇者を作り出す『人造勇者計画』。
      その計画を進める研究材料として、敵は僕らを狙ってるんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「えーそのネタバレ『嘘』っぽいな」

ミセ;*´ー`)リ「マジですよ。裏取りも済んでます」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「へ、へえ〜……そうなのね〜……」クルクル

 生返事を囁きながら金髪ドリルを指に巻くツン。
 神っぽいなパロディで茶化した途端にマジ報告が入ってきたため、露骨に動揺する。

ξ;゚⊿゚)ξ「……と、見せかけて?」チラッ

ミセ*゚ー゚)リ「大マジですよ」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;´⊿`)ξ「はいそうですよね、ハインさんも前に言ってたもんね……」

( ^ω^)「そんな感じだから、今この状況で下手こくのは色々ヤバいんだお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「なんとなく分かったのだわ。そっちも色々訳ありなのね」

(^ω^)「つらくきびしい」

ボケ拾いおじさん「現実はいつもそう」

ξ゚⊿゚)ξ「おじさん……」

.

640名無しさん:2022/05/04(水) 22:06:04 ID:iZuaE51Q0


(´・_ゝ・`)「なあブーン、そこまで言うなら妖刀の件も話すべきじゃないのか?
      そいつが気にしてる一般人も無関係じゃないんだ。ついでに言っちまえよ」

( ^ω^)

(´・_ゝ・`)「お前は当事者でもあり被害者でもあるんだ。語り手としては信頼に値すると思うが」

(^ω^)「……それもそうだNE!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ねえそれ、一般人って事はまゆちゃん絡みの話よね?
       あとで聞こうとは思ってたけど、あの子はどうして巻き込まれちゃったの?」

( ^ω^)「それは……」

 〜中略〜

(^ω^)「という経緯なんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな経緯が……!?」

.

641名無しさん:2022/05/04(水) 22:07:39 ID:iZuaE51Q0


 ――ハインリッヒの暗躍、妖刀による暗示の数々。
 ブーンはそれらを端的に説明し、粗が出ない範囲で全てを打ち明けた。

 いわく、ツンがやたらと人間に肩入れしていたのは妖刀の暗示が原因だという。
 件の一般人――毛利まゆも暗示によって役割を与えられ、ツンの友人として便利に使われていた。
 そのブーン自身も暗示によって戦闘用の別人格を組み込まれるなどしており、大変そうだった。


ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ(これ3行で済ませる話か……?)


( ^ω^)「僕のおじいちゃんはツンを育てつつ、いつか僕達の味方にしようと考えてたんだお。
      それもなるべく自然な形で、ツンの意思とも矛盾しないようにNE」

('A`)「……その意思の部分に介入してるのはギャグか?」

(; ^ω^)「そ、それは人間社会のルールを最低限守ってもらう為だお!
       魔力制御もできないこんなオタンコナス、暗示でハーネス付けとかなきゃ色々ヤバいお!」

ξ゚⊿゚)ξ「オタンコナスて」

(;'A`)「くっ! ほとんど悪口なのに言い返せねえ……!」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや事故物件の自覚はあるけども。ちょっとは味方になりなさいよ……」

 ドクオに小言を言いながら、ツンは自分の足元に小さな箱を想像していた。

 『これの中身はフィクションです』とメモを貼られた見すぼらしい小箱。一見してただのゴミ。
 ツンは実在しないその箱を眺め、俯瞰し、言いようのない喪失感を胸中に燻ぶらせる。

ξ゚⊿゚)ξ(……『そう悪くない』って、そう思うのは当然だったのね)

 だが、それ以上の自己言及は無い。浅いところで思考を切り上げる。
 箱の中身を真実だと――綺麗なものだと思い続ける為の防御反応。
 ツンは作為的に視野を狭め、実感を損なった優しい世界をそのままにした。

.

642名無しさん:2022/05/04(水) 22:10:10 ID:iZuaE51Q0


ξ゚ー゚)ξ「……でもまぁ、悪さをしてないなら今は許すのだわ」

 最終的に、ツンちゃんはいいこになってお返事をしました。
 とてもえらいなあ。誰にも迷惑をかけないようにがんばってるんだなあ――と。

( ^ω^)(まったくもって度し難い茶番だな)

 彼女の要領を得ない反応に皮肉を思いつつ、次にブーンはさりげなくドクオに近付いた。
 とても小さな声で、ドクオにだけ聞こえるようそっと耳打ちする。

( ^ω^)「ドクオ達って、今までずっとこうしてきたのかお?」

('A`)「……あ? 何がだよ」

( ^ω^)

(  ^ω)「いや、分からないならいいお」

 そうしてブーンはドクオを見限り、長息を吐いて天井を仰いだ。

 ――魔王城ツンとその周辺人物の関係性は滞っている。
 そんな考えが結論として脳裏に焼き付き、これ以上道化を演じる気にもなれなかったのだ。

( ^ω^)(……どいつにしても反応が軽すぎる。本人にしても、周囲にしても。
      なんだこれは、お互いの感情に踏み込まないよう取り決めでもあるのか?)

( ^ω^)(自分の行動原理にケチがついて、大事なお友達だって仕込みだったんだぞ?
      なのにどうして表に出さない。お前はそこまで器用だったか……?)


ξ;-⊿-)ξ「まぁまゆちゃんがエロ漫画みたいになってなくてよかったのだわ。
        ハインさんも無理はさせてないっぽいし、ひとまず安心かな」

ミセ;*゚ー゚)リ「申し訳ありません。すぐにお伝えできればよかったのですが……」

ξ゚⊿゚)ξ「いいのよ別に。ミセリさん達が私の友達に手を出すとも思ってないしね」

ミセ*゚ー゚)リ「……もちろんですよ」


( ^ω^)(そうだ、ここに居る連中は誰一人として魔王城ツンの感情に関わろうとしていない。
      それは本人でさえ同じことだ。彼女もまた、自分の感情を他人事のように扱っている)

.

643名無しさん:2022/05/04(水) 22:13:00 ID:iZuaE51Q0



(´・_ゝ・`)「――という事で、全部ハインと妖刀が悪いって話でした」

(´・_ゝ・`)「んで俺がその妖刀をボキッと折っといたから。もうぜ〜んぶ解決済みとのこと。
      刀の影響はもう殆ど無いと思うぜ。強力な暗示もなかったようだしな」

ξ;゚⊿゚)ξ「いやそんな簡単に解決するもんなの? 呪いの一種じゃないの?」

(´・_ゝ・`)「それが解決したそうですよ。後遺症とかも心当たり無いだろ?」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ「心当たり、心当たりか……」ウーン



( ^ω^)(……見るに堪えん。これでは余りに無防備すぎる)

( ^ω^)(いつか敵が現れて、そいつがお前の感情に踏み込んできた時)

( ^ω^)(もしその敵がお前の理解者になれてしまったら、お前は――)


( ^ω^)(――今のお前は、あの時と同じセリフが言えるのか?)

.

644名無しさん:2022/05/04(水) 22:15:53 ID:iZuaE51Q0


ξ゚⊿゚)ξ「あっ」

(´・_ゝ・`)「小林製薬」

ξ;゚⊿゚)ξ「そういえばそうだった、最近少しだけ変な感覚があるのよ」

 ツンはおもむろに右手を持ち上げて言った。

ξ゚⊿゚)ξ「話に沿ってるか分かんないけど、最近すごく調子が良いのよ。
       魔力の生成から成形までやたら成功するんだけど、理由が分かんなくて……」

(´・_ゝ・`)「……時期は? いつ頃からそうなった」

ξ゚⊿゚)ξ「そうねぇ……。試験よりは前だから、風呂でひっくり返った日の後とか?」

(´・_ゝ・`)



(;´・_ゝ・`)「待て、なんだそのイベント。お前が風呂でひっくり返ったとか聞いてないぞ」

ミセ*゚ー゚)リ「……お嬢様が風呂で倒れた日は、あなたが妖刀を壊してきた日と一致するわよ。
      あの日お嬢様が倒れたこと自体、妖刀の破壊が原因だと私達は思ってるけど」

(;´・_ゝ・`)「初耳だ。なんで俺に言わなかった?」

ミセ;*゚ー゚)リ「えっ、あなた何も言わなくても勝手に調べるじゃない。
       別に隠しもしてなかったんだけど、……まさか本当に知らなかったの?」

(;´・_ゝ・`)「…………」

 盛岡はいつにもなく狼狽えた様子を見せていた。
 ミセリが述べた補足の内容に、どこか引っ掛かる部分があるようだった。

ξ゚⊿゚)ξ「そうそう、試験の時なんて特に絶好調だったのよ。
       マフラーもマントも問題なく作れたし、あの謎回復とか我ながら奇跡なのだわ」

(;´・_ゝ・`)「で、その絶好調に心当たりが無いから、妖刀のせいかもと思ったんだな?」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。どちらかというとプラスだから、後遺症って感じでもないけど……」

(;´・_ゝ・`)「……いや、その見立ては限りなく正解に近いと思う。
      暗示が解けて、無意識に掛けてたブレーキが弱まったってのはあり得る話だ」


(;´・_ゝ・`)(なんせ俺がやった事だからな。それを狙わない訳がない)

.

645名無しさん:2022/05/04(水) 22:17:28 ID:iZuaE51Q0


(;´・_ゝ・`)

(;´-_ゝ-`)「少し1人で考える。お前らは続けててくれ」

 難しそうに眉をすぼめた盛岡が話し合いの輪を離れていく。
 それを区切りにブーンが喉を鳴らし、横道に逸れていた流れを元に戻そうとする。

( ^ω^)「――ともかく、勇者軍の目的は僕とツンを捕まえる事なんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「そういえばそんな話だった」

( ^ω^)「で、その目的が達成されると例の計画が捗って色々とヤバいんだお」

ξ;゚⊿゚)ξ「さっき言ってた人造勇者計画の事ね。
       なんか人体錬成とか始めそうな響きで物騒よね……」

( ^ω^)「まぁ人体錬成をする計画だからNE」

ξ;´⊿`)ξ「リライトしてェ……」

('A`)「……てかそもそも、どうして今頃そんな計画が動いてんだよ」

('A`)「お前が勇者ブーンの後継者じゃねえのか?
    そんなん作るまでもなく、勇者の末裔ならここに居るじゃねえか。自称だけど」

 ドクオの指摘はそりゃそうじゃ(オーキド博士)という感じだった。
 ツンやミセリも軽く頷き、ブーンの返事に耳を傾ける。

(; ´ω`)「勇者が一人じゃ心もとないってスタンスなんだお、今の勇者軍は。
       それが『勇者の大量生産』って発想に繋がる辺りで色々察してほしいお」


(^ω^)「あ、ちなみに僕は勇者的にはポンコツで、それっぽい事は何もできないお!」

ξ゚⊿゚)ξ「だったら敵じゃないわね! さっきのは訂正するのだわ!」

(^ω^)「ツンがアホで助かったお!」

.

646名無しさん:2022/05/04(水) 22:20:39 ID:iZuaE51Q0


('A`)「……ちょっと待て、悪いがアホはツンだけだぞ。
    お前とハインが勇者軍と敵対するワケ、お前の口からちゃんと話せよ」

ξ゚⊿゚)ξ(ツンって奴はそこまでアホなんだな……)

 ツンは気の毒に思った。

( ^ω^)「むっ! そこら辺の話だったらすごい簡単だお!
      僕らの目的は、勇者軍に捕まった 『勇者ブーン』 を取り返すことだお!」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「……勇者ブーンって、現魔戦争で出てくる例の勇者?」

( ^ω^)「そうだお! 歴史の教科書に出てくるヤツで間違いないお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「それがまだ生きてて、現在進行系で勇者軍のとこに居るの?」

( ^ω^)「今でもバッチリ生きてるはずだお! 研究材料としてNE!」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;´⊿`)ξ「ちくしょう、全然聞きたくないけどその経緯とは……」

( ^ω^)「僕らが調べた限りでは以下の通りだお!」


〜よくわかる経緯〜

1 勇者ブーン、魔王スカルチノフとの戦いを終えて地上に帰還。
2 勇者ブーン、帰還後のタイミングで何らかの勢力に捕縛された模様。
3 旧勇者軍が彼の捜索に乗り出すも成果なし。旧勇者軍は解散する流れに。
4 残った者達、新しく入ってきた者達が次世代勇者軍として活動開始。
5 次世代勇者軍が激化薬研究を開始。研究材料として勇者ブーンが運び込まれる。
6 その事実に気付いたハイン、勇者ブーン奪還のため行動を開始する。
7 無関係のオオアリクイ
      . ---------,,、
    /・_          ミミミミミ、
   // ´ `ゝ  ,,,,,,,,,,,,,,,,,,、 `ミミミミミミ、
   ζ   / ,, イ /   / λ ノミミミミミミ、
  ζ    |,/ ヽ丶,   し' 丶ヾミミミミミミ;

.

647名無しさん:2022/05/04(水) 22:25:09 ID:iZuaE51Q0

  _,
ξ;゚⊿゚)ξ「くっ、他人のお家事情はどうでもよさが勝るか……!」

 話が入ってこない勢いでオオアリクイの幻影まで見てしまったツン。
 怒涛の情報量を呑み込もうと頭を唸らせるが、そこはすぐさまブーンがフォローした。

(^ω^)「正直ただの内ゲバだから気にしなくていいお!
     次世代の勇者軍はクソ! それだけ分かってればOKだお!」

ξ゚⊿゚)ξ「人間はみんなクソよ」

('A`)「刀の悪影響ってこういう所に出てると思うんだよな……」

ξ゚⊿゚)ξ ?


( ´ω`)「……おじいちゃん、勇者ブーンとは子供の頃からマブダチだったんだお。
      そんなマブダチが人間の為に戦って、裏切られて、黙ってられる訳ないお……」
                     タスク
ξ゚⊿゚)ξ「そういえばハインさんと『牙』ってどんな関係なの? おじいちゃんて事は血縁?」

( ^ω^)「ブーンだお。そして普通に他人だお、初めて会ったのは10年くらい前になるお」

ξ゚⊿゚)ξ「はぇぁーなるほど」

('A`)

( 'A`)「……そこもついでに確認したいんだが、お前の言う『末裔』って言葉通りの意味なのか?」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「えー流石にそこは確認する必要なくない? アホは黙ってなさいよ」

(;'A`)「いやあるだろ。勇者ブーンは50年前の人間なんだぞ?
    そいつに息子が居たとして、今それが高校生やってんのはおかしいだろ」

ξ゚⊿゚)ξ !

 ツンちゃんショック!
 びっくりマークが頭から飛び出してしまった!

(;'A`)「今だって『子供の頃から』って言いやがったんだぞ?
    あのハインがガキの頃って何十年前の話なんだよ……」

('A`)「どう考えたって時系列が合わねえ。言葉足らずでなきゃ100%嘘だぞ」

 そう言いながらブーンを訝しむドクオ。
 当のブーンはそんな疑心を歯牙にもかけず、ドクオの疑問を流暢に紐解いていった。

.

648名無しさん:2022/05/04(水) 22:28:20 ID:iZuaE51Q0


( ^ω^)「親兄弟なら僕には居なくて、僕はいわゆる天涯孤独なんだお。
      勇者ブーンとハインの呼び方も、一番手っ取り早いのを適当に使ってるだけだお」

(^ω^)「血の繋がりは実際無いから、末裔って言い方は確かに間違ってるNE!」

('A`)「……結論、お前は普通の人間じゃないんだな?」

(^ω^)「体の作りは普通だけどNE! 人の子じゃないって意味では普通じゃないお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「あの、もしかしてブーンって人造勇者計画の落とし子だったりするの……?」

(^ω^)「全然違うお」

ξ゚⊿゚)ξ「的確な気付きで話を進めるやつ私もやりたかった」

 ツンは肩を落とした。



(´・_ゝ・`)「――ハインの目的は、魔王城ツンを育てて勇者軍攻略の切り札にする事だった」

 その時、ソファに掛けて思い耽っていた盛岡が明瞭な口振りで会話に割り込んできた。
 雑然と並べられたこれまでの情報を総括し、彼は語る。

(´・_ゝ・`)「そのためハインは妖刀を用いて魔王城ツンの育成環境を整理した。
      成果は上々。ツンはそれなりに強くなり、試験もなんとか突破できた」

(´・_ゝ・`)「だが妖刀を俺に壊された事でハインの計画は頓挫。
      ツンを恣意的に仲間に引き込む目論見は、知っての通りご破産となった」

(´・_ゝ・`)「かくして諸般の影響は消え、ハインも逮捕されて一件落着。
      魔王城ツンはパワーアップを遂げ、次なる戦いが幕を開けると」

 視線を空に向けて話していた盛岡がそこまでを語り終えてふっと俯く。
 長考を終えた彼の表情はいつも通りの無に戻っており、その語気もすっかり調子を取り戻していた。

ξ;-⊿-)ξ「……勇者軍との戦いは、やっぱり避けられないのよね」

 彼の独白に応じたツンが半ば諦めたように瞑目して呟く。
 それにドクオの嘆息が続くと、彼らの意識は否応なく現実問題に立ち返っていた。

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649名無しさん:2022/05/04(水) 22:38:14 ID:iZuaE51Q0


 動機や目的、これまで秘密にしていた諸々のこと。
 それら全てを明らかにしても、現に差し迫る戦争に対しては何の回答にもなっていない。

 ここまでの会話は過去に関する補填、補足のようなもの。
 ツンが今まで後回しにしていた『納得』を後付し、足並みを揃え、未来の話をする為の下準備だ。

 それをざっくり終えた今、彼らはこの現状に対して改めて意見を出し合う必要があった。
 今現在、そしてこれから先の行動も含め、彼らはまだ具体的な結論には至っていないのだ。


(´・_ゝ・`)「避けるも何も、魔物発見のニュース自体が人間側のプロパガンダなんだぞ?
      二度目の現魔戦争をスムーズに始められるよう、根回しにだって余念は無い」

ミセ*゚ー゚)リ「それについては盛岡の言う通りです。
       心苦しいとは思いますが、彼らとの戦いはもう……」

ξ;´⊿`)ξ「……」

(´-_ゝ-`)「ま、対外的な立ち回りは向こうの圧勝ってワケ。
      勇者軍と言えど人間社会の一部、身内の扇動はお手の物だよ」

 言葉のアクセントをやや強め、勇者軍の回りくどい手口を当て擦る盛岡。
 彼は続けてツンに言った。

(´・_ゝ・`)「そろそろ結論を出してこう。結局のとこ、魔界には帰るんだよな?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……ええ。条件付きでそうするつもりなのだわ」

(´・_ゝ・`)「ふーん。で、その条件を呑ませたい取引相手は?」

ξ;゚⊿゚)ξ




ξ;-⊿-)ξ「多分、私以外の全員だと思う」

 ツンは目を閉じ、他の誰も直視しないままに呟いた。
 そうした様子は直接的に、この場に居る面々さえも例外ではないと仄めかしていた。

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650名無しさん:2022/05/04(水) 22:40:44 ID:iZuaE51Q0


ξ゚⊿゚)ξ「私、今日は特訓場の方で寝るのだわ。
       もういい時間だし、今日はこれで解散にしましょう」

(;'A`)「……なんだそれ。今の流れでどうしてそうなるんだよ」

ξ-⊿-)ξ「私が考えてる条件のこと、今は誰にも話したくないのよ」ガタッ

 そう言い切って立ち上がり、ツンは強い視線で盛岡を見遣った。
 『私の意図を見抜いてくれ』と暗に訴えかけてくるその瞳――盛岡の返事は早かった。

(´・_ゝ・`)「これはすごい推論なんだが、ここで俺達を味方にするのは都合が悪いんだな?」

ξ゚⊿゚)ξ「……分かってくれるなら、あとは任せていい?」

(´・_ゝ・`)「そこで俺を頼るかね。責任重大じゃん」チラッ

 言葉ながらに周囲の顔色をうかがう盛岡。
 ドクオは不満げに目を細めているが、ブーンは相変わらず微笑みデブのまま。
 ミセリについても別段変化は見受けられず、ツンの言動に口を挟もうとする者は居なかった。

( ^ω^)(――堪らない関係性だな)

(´・_ゝ・`)「……あい分かった。ここは理解のある盛岡おにいちゃんに任せておきなさい。
      魔界に帰るって方針が確定してるだけ十分だ。あとは好きに暴れな」

 盛岡は各位の反応を考慮して言い、降参するように両手を上げて見せた。

ξ゚⊿゚)ξ「……私、これからずっと特訓場に居るから。
       適当な時にワカッテマスさんを連れてきて。あんまり早いのも困るけど」

(´・_ゝ・`)「適当な時っていつさ」

ξ゚⊿゚)ξ「それも任せるのだわ。ワカッテマスさんの行動なんて正直読めないし。
       なるべくみんな揃っててほしいけど、無理はしなくていい」

(´・_ゝ・`)「……了解」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ-⊿-)ξ「それじゃあ、また明日ね」

 それきりツンは何も言わず、宣言通りにリビングを出ていった。

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651名無しさん:2022/05/04(水) 22:48:39 ID:iZuaE51Q0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


('A`)「……逃がしてよかったのかよ」

 開けっ放しにされたリビングの扉を恨めしそうに眺め、ドクオが呟く。

('A`)「あいつ、隠し事を増やして話を終わらせやがったぞ。
    色々打ち明けようって感じの趣旨はどこ行ったんだよ……」

(´・_ゝ・`)「お前らを信用してるんだよ。だから何も話さなかった」

ミセ*´ー`)リ「そりゃまあワカッテマスを言い包めるのを優先するわよね。難易度的に」

 ツンの思惑を代弁するように言葉を並べていく2人。
 その訳知りぶりが鼻についたのか、ドクオは更に語気を荒らげた。

( 'A`)「だったら尚更、この場の連中くらい味方につけとけよ……」

(´・_ゝ・`)「……いくら俺らが入れ知恵しても、ワカッテマスの魔眼はそれを見破れちまう。
      無意味とまでは言わないでおくが、俺らの存在が逆効果になる可能性は否めない」

 そんなドクオを諫めるように状況を俯瞰してやる盛岡。
 ドクオはその意図を汲もうと数秒黙り、頭を冷やしてから反応した。

('A`)「……俺らが居ると、ツンが弱くなるって言いたいのか?」

(´・_ゝ・`)「部分的にそう。ワカッテマス相手に交渉する手前、邪魔に思われたんだろ」

('A`)

(;'A`)「……だとしても無理があるだろ。つまりそれ、誰にも頼らず話をつけるって事じゃねえか」

(´・_ゝ・`)「それでいいじゃん。自立への第一歩とでも思っとけよ」

(;'A`)「ミセリさんは気にならないんですか。あいつ確実に痛い目見ますよ」

ミセ*゚ー゚)リ「そりゃ気にはなるけど……お嬢様がそう決めたなら、見守るだけよ」スッ

 ミセリの反応は極めて淡白だった。
 彼女は何食わぬ顔でそう言うと、席を離れて台所の方に行ってしまった。
 何があろうと最優先事項は変わらない。彼女は態度でそう示していた。

.

652名無しさん:2022/05/04(水) 22:50:48 ID:iZuaE51Q0


(´・_ゝ・`)「つーことで今日は解散だな。
      ワカッテマスが動いたら再集合って感じで、以上よろしく!」

(^ω^)「分かったお!」

('A`)「……ああ」

 食器を洗うありふれた音。ミセリが家事を始めると、それと同時に緊張の糸が切れる。
 白けた、という言い方でも語弊は無かった。
 少なくともドクオはそう感じ、ありありと嘆息を零していた。

(´・_ゝ・`)「まぁたかが1回の話し合いだ。ドクオもあんま高望みするなよ」

('A`)「……お前には分かんねえよ」

(´・_ゝ・`)「へーそうですか、分かり合ってる人達は大変そうですね。それじゃ」

 クソみてえな煽りを言い残して盛岡が退出。
 かくして緊急会議は幕を下ろし、微々たる進捗を上げてお開きとなった。
 そのうちドクオも溜飲を下げると、所在なげに帰宅の準備に取り掛かるのだった。

( ^ω^)「えードクオはもう帰るのかお?」

('A`)「そりゃ帰るだろ。やる事ねえんだから」

(^ω^)「それなら特訓場に行ってツンを手伝うお!
     話してない事、まだまだいっぱいあるはずだお!」

('A`)「タコピーみたいなこと言うな。大体な、俺らの付き合いはそういう感じじゃねえんだよ」

(^ω^)「じゃあどうしてそんなに不機嫌なんだお? 仕事だけの関係ならそうはならないお!」

(;'A`)「……お前もう1回くらい妖刀で別人格作ってこいよ。正直キモいぞ」

(^ω^)「図星でなんも言えんかw」

(#'A`) イラッ

 ブーンは腹パンされて沈んだ。

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653名無しさん:2022/05/04(水) 22:51:23 ID:iZuaE51Q0


('A`)「……そんじゃあ俺も帰ります。お疲れした」

ミセ*゚ー゚)リ「お疲れさまー。明日の呼び出しは急だと思うから気をつけててね」

('A`)「分かってますよ。ミセリさんも――」

 と、その先に続く台詞を言い淀み、ドクオは不自然な沈黙を挟んで目をそらした。

('A`)「……なんでもねっす。連絡無くても明日は早めに来るんで、それじゃ」

(^ω^)「ドクオ〜僕も帰るから置いてかないでほしいっピお〜」

.

654名無しさん:2022/05/04(水) 22:53:14 ID:iZuaE51Q0

≪2≫


('A`) テクテク

(^ω^) テクテク

 ツンちゃんハウスを後にした2人は同じ帰路を辿り、夜更けの住宅街をテクテクしていた。
 車の音も遠くにしかない深夜帯。何となしに口数は減っていたが、会話の切欠はすぐに訪れた。

( ^ω^) ピタリ

 不意にブーンが足を止め、十字路の左方を振り返る。
 ここを曲がればハインリッヒの屋敷が見えてくる。ドクオは気付き、ブーンに話しかけた。

('A`)「あんま気にすんなよ。お前が自由にできてるんだ、そう悪い事にはならねえって」

( ^ω^)(……ハインを心配したと思われたのか。コンビニ寄るか迷っただけなんだがな)

 再び歩き出したドクオを小走りで追いかけ、ブーンはドクオの隣に並んで彼の顔を覗き込んだ。
 それを気色悪く思ったドクオは肩を丸めて訝しみ、またダルそうに溜息を吐く。

(;'A`) テクテク

(^ω^) テクテク



(^ω^)「ドクオがツンデレをした!!!!!!!!」

(;'A`)「……判定どうなってんだよ。してねぇから」

(^ω^)「した!!!!!!!」

(#'A`)

 ブーンは二度目の腹パンを受けて沈んだ。

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655名無しさん:2022/05/04(水) 22:55:28 ID:iZuaE51Q0


(; ゚ω゚)「ぐぅぅ……暴力&理不尽系ツンデレを今日日拝めるとは……!」

('A`)「今度また俺をツンデレ扱いしたら怒るからな。そういうのはツンに言ってやれ」

(; ^ω^)「えーでもツンってツンデレっぽい事しないし……。
      ツンデレじゃない人をツンデレ扱いするのはよくないお」

(;'A`)「……あれでも昔は名実が揃ってたんだよ。今はちょっとアレだけど」

( ^ω^)

(^ω^)「ツンの!??!?!? 昔話があるのかお!?!?!??」

 ブーンの大声が真夜中に響き渡る。迷惑行為である。
 ドクオは顔をしかめてブーンから距離を取り、どういう対処が楽かを計算して肩を落とした。

('A`)(これここで話さねえと絶対面倒だな……)

(^ω^)「え〜それ聞きたいお聞きたいお聞きたいお聞きたいお」

 ドクオが返答を渋った途端、すぐにダル絡みして駄々をこね始めるブーン。
 絶対面倒だなというドクオの予感は間髪入れずに的中し、やっぱりとても面倒になった。

(;'A`)「……大した話はしねぇからな。でも黙って聞けよ、俺がいいって言うまで」

( ^ω^)「相槌もダメかお?」

('A`)「最小限なら可」

(* ^ω^)「分かったお!!!!!!」

(^ω^) スン…

 そうしてブーンがスン…とすると、ドクオは魔界での暮らしを渋々思い返した。
 ドクオは適当な昔話に当たりをつけ、ぼんやりとした口調でそれを語り始める――。

.

656名無しさん:2022/05/04(水) 22:58:59 ID:iZuaE51Q0



('A`)「……俺が魔王軍に加わろうとしてた時、一度だけあいつに助けられた事がある」

('A`)「認めたくねえけど、俺が魔王軍に入れたのはツンのおかげなんだよ」

( ^ω^)「ほーん。魔王軍って入るの難しいのかお?」

('A`)「いや別に。当時の実力でも一兵卒の基準には達してたと思うぜ。
    まぁそこら辺の事情は“““お家柄”””だな。俺の血筋は少し面倒なんだよ」

('A`)「つっても、そういう事情の俺を魔王軍に誘ったのもツンなんだがな。
   そりゃ魔王軍加入まではフォローしろよって話なんだが」

( ^ω^)

(^ω^)「ドクオがまたツンデレをした!!!!!!!!!!(小声)」

('A`)「あん時すげー門前払いされたんだよな。入軍テストすら拒否されてたし……」

('A`)「で、もう殴り込みで直談判しかねえと思ってた矢先、ツンが揉め事を起こしたんだわ」

 と、ドクオは不意に鼻で笑って首を傾げた。
 喉元過ぎれば、と思わせるような軽薄さで彼は続ける。

.

657名無しさん:2022/05/04(水) 23:02:17 ID:iZuaE51Q0


('A`)「あの頃のツンって殆ど軟禁状態だったんだけどよ、なのにあいつ城から逃げ出したんだよ」

(^ω^)「うおお盛り上がってきた!(小声)」

('A`)「そらもう上から下まで大騒ぎでな。凄かったんだわ、俺は鼻ほじって見てたけど」

(^ω^)「鼻はほじらない方がいい」

 ブーンは医学的見地から冷静に指摘した。

('A`)「で、その脱走がバレたタイミングってのが丁度テストの最中でな。
    当然テストは中止になって、その場に居た志願者達も捜索に駆り出されたんだ」

('A`)「だけど捜索隊に加わった入軍志願者にはこんなお達しもあったんだ。
    ツンを見つけた者はいかなる場合においても魔王軍加入を認可するってな」

('A`)「あとはもう簡単な話だ。捜索隊に紛れ込んだ俺がツンを見つけて、終わり」

( ^ω^)

(; ´ω`)「ええーー!! それじゃツンのツンデレエピソードになってないお!!
       最後もうちょっと掘り下げてほしいお!! ドクオ自分語りが下手だお!!」

('A`)

('A`)「……なんであんたが来るのよ、って言われたよ」

( ^ω^)




(^ω^)「コテコテやん」

('A`)「マジ笑うよな」

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658名無しさん:2022/05/04(水) 23:04:20 ID:iZuaE51Q0


('A`)「あいつのツンデレエピソードは色々あるが、鉄板ネタは今話した通りだ。
    今のあいつは確かにアレだけど、思春期拗らせる前はもうちょい単純だったんだよ」

( ^ω^)「なるほどNE! 人に歴史ありだお!」

('A`)「満足したなら黙って歩け。早く帰って寝たいんだよ……」

 ドクオはそう言って歩調を早め、ブーンを放って話を切り上げた。
 そんな彼の背中に向けて、ブーンはハッキリと言葉を投げかける。

( ^ω^)「――もう少し、今のツンと向き合った方がいいお」

('A`)

( 'A`)「……お前、しばらく家事全部やれ」

(; ^ω^)「ええー!? 図星でなんも言えないからって酷いお!!」

 ちなみにブーンは経過観察のためドクオのアパートに転がり込んでいる。
 同居中なので家事は分担しているが、今しがた全部ブーンの仕事になった。

(; ´ω`)「嫌だお〜ドクオのカピカピパンツ洗うのは嫌だお〜」

('A`)「余計なこと言うからだっての。嫌なら少しはデリカシーを持て」

(; ´ω`)「でもそのデリカシーのせいでみんなギスギスしてるんじゃ……」

('A`)「よし分かった。家事全部一ヶ月やれ」

(; ´ω`) スン…

 会話はそれから続くこともなく、2人は無言で同じ帰路をテクテクした。

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659名無しさん:2022/05/04(水) 23:05:28 ID:iZuaE51Q0


('A`)「……あ、お前そういえば10人ブッ殺したこと俺に擦りつけただろ」

(^ω^)!?


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

( ^ω^)「流石だお! いの一番に10人ブッ殺してる奴は違うお!」

('∀`)「へへっ」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


('A`)「流した俺も悪いけど、ちゃんと訂正してお詫びしろよな」

(^ω^)「なんか勢いで言っちゃったNE……」

('A`)「よくないぞ!」

 ブーンは>>599での誤った発言を撤回した。
 この10人については>>183が正であり、かくしてこの件は丸く収まったのだった。

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660名無しさん:2022/05/04(水) 23:07:03 ID:iZuaE51Q0

≪3≫



川д川「……おや、お嬢様じゃないですか」

ξ゚⊿゚)ξ「ごめんね。邪魔しないから続けてて」

 所変わって荒野の特訓場。
 そこでは貞子が魔界へと続くすごい転送魔術を構築中で、全体的にすごかった。

川д川「ああいえ、作業自体はもう済んでますから。これは微調整という体の時間稼ぎです」

ξ;゚⊿゚)ξ「……色々察してるのね。時間稼ぎだなんて」

川д川「ワカッテマス相手に何かされるんでしょう? 応援していますよ」

 魔界の言葉を然るべき図形に収め、何もない空中に次々と展開していく貞子。
 いわゆる魔法陣的なそれを遠隔成形する彼女の技能に、ツンはしばらく目を奪われた。

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり貞子さんは凄いわね。魔術でプラネタリウム作っとるが……」

 大小無数の術式が出現と消失を繰り返すその中心には転送魔術の核が鎮座している。
 魔術の核は青く透き通った巨大水晶――のように見える、実体を得た魔術そのもの。

 単なる魔術なら大抵の魔物が習得可能だが、『魔術の実体化』ともなると習得者は限られてくる。
 平面的な作りから立体的な作りへの変遷。ここで大多数の者がふるいに掛けられてしまうからだ。

 つまり、すごい。

川д川「でもこれ1人でやる作業じゃないんですよ。とんでもないクソ案件でして」

ξ;´⊿`)ξ「実際やれてる人に言われても……」

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661名無しさん:2022/05/04(水) 23:09:22 ID:iZuaE51Q0


川д川「それで私、話し相手になった方がいいですか?」

 作業の傍ら、貞子がツンをチラ見して軽く尋ねる。
 ツンは少し考えた様子を見せてから、貞子の隣に腰を下ろし、体育座りになって顔をうずめた。

ξ゚⊿゚)ξ「こんなの聞いても今更なんだけどさ」

川д川「はい、なんなりと」

ξ゚⊿゚)ξ「……私の知らないところで、どれくらい始末してたの?」

川д川「始末、というと――……」

 その質問が意味するところは明白だった。
 貞子は同時に彼女の意図を悟り、無意味に誤魔化そうとはしなかった。

川д川「そのこと、ワカッテマスから聞かされたのですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいえ別に。前から普通に察してたのだわ。
       みんなに気を遣わせると思って聞かなかっただけ」

 ツンは足を伸ばして上体を反らし、のびのびツンちゃん状態になった。

ξ゚⊿゚)ξ「さっきね、隠し事はやめようって感じでみんなと少し話し合ったのよ。
       正直まだまだ話し足りないんだけどさ、これは貞子さんに聞いとこうと思って」

川д川「……そうでしたか。上ではどんな話を?」

ξ-⊿-)ξ「内藤くんの身の上話と、勇者軍の目的と、……それくらいかな。
       やっぱりみんな、自分の隠し事を自分から話そうとは思わないわよね」

川д川「立場上どうしても言えない事もありますから。板挟み、というやつです」

ξ゚⊿゚)ξ「それも分かってるのだわ。誰でもそうだと思うけどね……」

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662名無しさん:2022/05/04(水) 23:13:34 ID:iZuaE51Q0


ξ゚⊿゚)ξ「……勇者軍ってさ、あれからずっと街に来てたんでしょ?」

川д川

ξ゚⊿゚)ξ「一番最初の襲撃から今までずっと。
       でも、貞子さんとミセリさんがそれを始末してたのよね」

川д川「……はい、そうですね。その通りです」

 貞子が短く答えると、ツンはもう一度体育座りになって頬杖をついた。
 ツンはただ漠然と空を見つめ、何事も無かったかのように独白した。

ξ゚⊿゚)ξ「私の隠し事はこれなのよ。『気付いてる』って事をずっと隠してた。
       誰でもやってる普通の事だけどさ、ここが限界かなって」

川д川「……ちなみに、気付かれる切欠などはあったのですか?
     お嬢様には悟られないようにと、一応ミセリと気を配っていたので」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「ただの勘だけど……普通に気付かない?
      こんな状況でのうのうと暮らせる訳ないんだし。そこまでバカじゃないのだわ」

川д川「であれば、むしろ私達の方がお嬢様に見逃されていた訳ですね」

ξ゚⊿゚)ξ「それはお互い様よ。だから今更なのよ、全部」



ξ゚ー゚)ξ「……ていうか私、さっきから普通の事しか言ってないわね」

 ツンはどこか幸せそうだった。

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663名無しさん:2022/05/04(水) 23:16:03 ID:iZuaE51Q0


川д川「――最初の襲撃から数えて46人。
     これが、お嬢様を狙って送り込まれてきた敵の総数です」

 貞子はすっぱりと言って作業の手を止めた。
 そこら中に展開されていた魔術の数々も途端に消え去り、空気がしんと静まり返る。

川д川「私の担当は索敵と死体の処理でした。迎撃はミセリが全て。
     幸い敵は少数での潜入に徹してましたので、ミセリが負傷する事もありませんでした」

ξ゚⊿゚)ξ「そりゃ相手は人間だもの。そこら辺は全然心配してないのだわ」

川д川「敵も段々大人しくなってくれたのですが、こちらの見通しが甘かったですね。
     防戦に徹する余り、敵に致命的な一手を打たれてしまいました」

ξ゚⊿゚)ξ「それもいいのよ。こっちから攻め込む訳にもいかなかったでしょ?
       私が嫌がるのが目に見えてたから、そういう事は極力避けてたのよね」

川д川「半分はそうですね。あと半分はロマネスク様の方針です」

ξ゚⊿゚)ξ
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「……半分か。ちょっと自意識過剰だったわね」ピョイン

 よっこらせ、と呟いて跳ねるように立ち上がるツン。
 制服のスカートを数回はたき、土埃を払って一息つく。

ξ;゚⊿゚)ξ「あーもう、なんか色々あって着替えもまだじゃないの。
       勢いだけでこっちに来ちゃったし、先に風呂入っとけばよかったのだわ……」

川д川「あ、お風呂だったら向こうに作ってありますよ」

ξ゚⊿゚)ξ「しゃにむに便利」

川д川「お湯もまだ熱いと思います。地面くり抜いただけの作りですが、よければ」

.

664名無しさん:2022/05/04(水) 23:20:40 ID:iZuaE51Q0


ξ-⊿-)ξ「そういう事なら失礼して、一風呂浴びて来ようかしら」

川д川「着替えはどうされます? お持ちしますけど」

ξ゚⊿゚)ξ「……ジャージかな。明日は動ける格好でやりたいし」

川д川「承知しました。適当なのを用意しておきます」

ξ゚⊿゚)ξ「ん、ありがとう」

 ツンは周囲を一望し、岩場の向こうに立ち上る湯気を見つけた。
 彼女は迷わず歩き出すも、貞子の次の一言がその足を止めさせる。


川д川「なぜ、私には言ったのですか?」


ξ゚⊿゚)ξ

川д川「それに、ああまで言って孤立する必要はなかったように思いますが」

ξ゚⊿゚)ξ「……やっぱり聞いてたのね」

川д川「聞いていなかった、とは言っておりませんから」

 どうして自分に聞いたのか、なぜ自分には隠し事を話したのか。
 そういう疑問を一纏めにした貞子の問い掛けに、ツンは笑顔で振り返って見せる。

ξ゚ー゚)ξ「貞子さん、いざとなったら私を裏切れるでしょう?」

川д川「――そんな、まさか」

 一瞬の間が全てを物語る。

ξ゚⊿゚)ξ「強いて言うならこれが理由。でも勘違いしないでね、信用してるって意味だから」

 ズルい言い方をしている、と自覚しながら答えるツン。
 取って付けるだけで聞こえが良くなる簡単な言葉を、彼女は沢山弁えていた。

.

665名無しさん:2022/05/04(水) 23:25:13 ID:iZuaE51Q0


ξ゚⊿゚)ξ「……私は1人でワカッテマスさんを言い包めるしかないのよ。
      魔眼相手に杞憂って事は無いし、つけ入る隙は極力減らしたいのだわ」

ξ゚ー゚)ξ「ほら、みんなって私が頼ったら応えちゃうでしょう?
      ていうか私がそう思ってるから、こういう甘えを突かれたくないのよね」

川д川「ワカッテマスはそんなこと言いませんよ。使えるものは全て使え、というタイプですから」

ξ-⊿-)ξ「私もそうは思うけどね。弱味になりかねない手札は使えないじゃない」

川д川

 この瞬間、いとも呆気なく『使えない手札』として切り捨てられた者達を思う貞子。
 それでも彼女は言葉にはせず、極めて打算的な形でツンの話を受け止めていた。

ξ゚⊿゚)ξ「その点、貞子さんに話す分には大丈夫だと思ったの。
       理由はさっき言った通りだけど、これで答えになってるかしら?」

川д川「……ええ。十分です」

 しかし、と貞子は語尾に続ける。

川д川「今の話をみんなにしても、間違いではなかったと思いますよ」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「それは、明日分かる事なのだわ」

 ツンは強かに囁いた。

.

666名無しさん:2022/05/04(水) 23:26:22 ID:iZuaE51Q0



          #09 ツンちゃん寓意譚-ステラーカイギュウ


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667名無しさん:2022/05/04(水) 23:28:16 ID:iZuaE51Q0

#08 >>559-627 #09 >>634-666

年始以降の進捗がダメダメだったので、今季投下はこれにて終了です…('A`)
次の投下は8月頃です。難敵ワカッテマスにツンちゃんが言い渡す帰還の条件とは…

うおおおお!(^ω^)

668名無しさん:2022/05/05(木) 10:25:44 ID:4epYdUFw0
おつうううううううう

669名無しさん:2022/05/09(月) 15:58:48 ID:g8EBSXuk0
乙乙乙乙乙

670名無しさん:2022/05/09(月) 19:56:18 ID:DL3gtP160
このループでの最初のころに比べるとたくましくなったなぁツンちゃん
むしろこっちが元々なんだろうけど

671名無しさん:2022/05/15(日) 14:09:02 ID:inzOJYic0
おつんつん

672 ◆gFPbblEHlQ:2022/08/29(月) 02:09:15 ID:MKUS8vzg0
近日中に投下しておきます
また1話分だけの投下になりますが70レスほどあります
よろしくお願いします(^ω^)('A`)

673名無しさん:2022/08/29(月) 21:33:26 ID:zJJFLfIY0
きたわね!!!

674名無しさん:2022/08/31(水) 23:43:36 ID:/k2WwZSU0
生きがい

675 ◆gFPbblEHlQ:2022/09/04(日) 14:09:17 ID:7IoV7Kbc0

≪1≫


 魔物発見に関するニュースが世間を騒がせる中、とある男がVIP市内のテレビ局を訪れていた。
 彼はスタッフに案内されてスタジオに入った。生放送の張り詰めた空気が彼を出迎えた。

「ここで、本日のゲストに登場していただきましょう」

 司会の振りでカメラが切り替わり、別位置のカメラがスタジオの出入り口を映し出す。
 続けてスタッフが扉を開くと、その向こうから今日の特別ゲストが姿を現した。
 件の人は灰色のカーディガンにジーンズ、スニーカーという極めてラフな装いだった。

爪'ー`)「ここまで案内ありがとう。行ってくるよ」

 ――勇者軍最大戦力、王座の九人を率いる男、フォックス。
 彼は同伴していた案内役スタッフに礼を言い、穏やかな笑みをたたえて歩き出した。
 カメラを横切って舞台セットに上がり、司会の隣にしれっと並び立つ。それを認め、司会は語った。

「現魔戦争の時代、勇者ブーンと共に戦場を渡り歩いた方々がいらっしゃいます。
 超能力を備えた彼らはいつしか『勇者軍』との呼び名をもって、多くの支持を集めました」

「今回ご登場して頂いたのはそんな勇者軍の現役メンバー、フォックスさんです。
 フォックスさん、本日はよろしくお願い致します」

爪'ー`)「はい。よろしくお願いします」

 司会の挨拶に余裕をもって答えるフォックス。
 大仰な肩書きを笠に着ない呑気な言動。司会も思わず頬を緩め、笑みをこぼした。
 しかし司会はすぐ我に返り、討論番組に相応しい態度で番組を進行していった――。


.

676名無しさん:2022/09/04(日) 14:20:58 ID:7IoV7Kbc0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


( <●><●>)「……このように、敵は順調に外堀を埋めてきています。
        お嬢様の決断を待てる時間はそう無いと、ご理解頂けたでしょうか」

 ワカッテマスはテーブルに置いたタブレット端末を操作し、昨夜放送された討論番組を一時停止した。

( <●><●>)「ちなみに全国中継です。ネットで見逃し配信もされてます。
        なんと言いますか、これは非常に分かりやすい手遅れですね」

ミセ*゚-゚)リ「……お嬢様にとっては、でしょ。さして影響ない癖に」

川д川「でもお嬢様がこれを見なくて済んだのは好都合よ。
     こんなの見せたら話も変わりそうだし、特訓場に居てよかったと思う」

 午前6時。ツンちゃん宅に赴いたワカッテマスはリビングで足止めを食っていた。
 相手はミセリと貞子の2人。彼女達の狙いは時間稼ぎだった。

 昨日の話し合いから一夜明けてツンちゃん宅に集う関係者たち。
 ドクオとブーンはまだ来ていないが、最終決断の時はあと数時間の内に迫っていた。

 それでも『魔界に帰る』 という決断だけは昨日の段階でツンが下している。
 問題はその次。彼女が魔界への帰還と引き換えに付け加えたいという『条件』の方にあった。

 しかも彼女は誰にも頼らず、たった1人でその交渉に臨もうとしている。
 かくしてツンは特訓場に引きこもり、現在進行系で交渉に備えているのだった。

( <●><●>)「勇者軍のこういった手口は強かと言う他ない。
        人間対魔物、という伝統ある図式も遠からず完全復活させられます」

( <●><●>)「敵は最初から――数十年前からこのプランを用意していたのでしょう。
        魔物発見の第一報から各メディアへの展開、あまりに手際がよすぎる」

川д川「先に言うけど魔術での対処は難しいわよ。
      この規模になっちゃうと、記憶消去よりも洗脳の方が人道的でしょうね」

( <●><●>)「いいえ、対処の必要はありません。反応しても開戦を早めるだけです。
        私としても戦闘は回避したいので、まぁ、そうなるよう動くつもりですが」

 ワカッテマスは椅子に浅く座り直し、ミセリと貞子に改めて視線を送った。
 今の話は前置きに過ぎないと、彼の素振りに明確な影が差す。

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677名無しさん:2022/09/04(日) 14:29:26 ID:7IoV7Kbc0


( <●><●>)「ところで、私の魔眼が大概のものを見通せる事は知っていますね?」

ミセ*゚ー゚)リ 川д川

 何をそんな分かりきったことを。
 2人は真顔かつ無言で応えた。

( <●><●>)「では、少しばかり話は逸れますが……」

( <●><●>)「貞子、我々の情報を勇者軍に流していた人物について、話してもらえますか」

川д川「……それならハインリッヒ高岡でしょ? 今更それがどうしたの」

( <●><●>)「白々しい問答をするつもりはありません。
        あなたが居れば全容の把握には数日とかからない筈です」

 ワカッテマスは目を光らせて言った。

( <●><●>)「貞子、あなたは敵の情報を揉み消しましたね?」

川д川

川д川「悪いけどこれ以外の答え方は無理よ。自分で『そうしておいた』から」

 ほんの少しも悪びれず、同じ調子で機械的に言い返してみせる貞子。
 それは魔眼で予期した通りの答えだった。ワカッテマスもたじろぐ事はなかった。

( <●><●>)「ええ分かっています。魔眼対策としては一番手堅い手段を取りましたね。
        私が聞きたい答えに関して、記憶を消して鍵までかけてある」

( <●><●>)「それではミセリにも同じ質問します。貴方はどうですか」

ミセ*゚ー゚)リ「……大概のものを見通せるんだから、分かるでしょ」

 続くミセリは逡巡を滲ませながら曖昧に呟いた。
 彼女とて魔術の心得はあるが、貞子のように魔眼を退けられるレベルには遠く及ばない。
 故に思考は筒抜けの状態。こんな問答はするまでもなく、ミセリの思考は既に暴かれているのだ。

ミセ*゚ー゚)リ「だから『知らない』わ。ハインリッヒが悪い、答えはそれだけ」

 だとしても、ミセリはワカッテマスが望む答えを決して語らなかった。
 たとえ見透かされた答えであっても、彼女は頑なに真実を黙殺しようとしていた。

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678名無しさん:2022/09/04(日) 14:44:00 ID:7IoV7Kbc0


( <●><●>)「……なるほど」

( <●><●>)「お嬢様の従者として、主人の瑕疵につながる事柄は決して語らない。
        私の魔眼を知っていてなお、それを徒労と分かっていても」

 ――彼の魔眼は『神の視点』である。

 その一方的な読解への抵抗は無意味であり、いっそ開き直った方が建設的だと誰もが匙を投げる。
 どうせ考えは見抜かれてしまうのだ。体裁を取り繕う意味は無いし、言葉を選ぶ意味などもっと無い。
 そして程なくコミュニケーションは形骸化し、言葉の価値は自ずと損なわれていく

 だが、ミセリと貞子にとっては言葉の価値など些末な事だった。
 どれだけ会話が非効率になろうと『魔王城ツンの不利益』になる言葉は元から無価値。
 ワカッテマスが『神の視点』を備え、言葉の価値を損なわせるとしても知った事ではないのだ。

 ゆえに、『神の視点』が導き出した『合理的で価値ある会話劇』はどこにも起こらない。
 ワカッテマスは、こういう不毛な遠回りが嫌いではなかった。

( <●><●>)

( <●><●>)「これから話すことは全て、決して、他言無用でお願いします」

 ワカッテマスは味気ない前置きを挟んで言った。
 この後に続く言葉を水で薄めるような、静かな声色だった。

.

679名無しさん:2022/09/04(日) 14:48:41 ID:7IoV7Kbc0


( <●><●>)「まず最初に、毛利まゆの排除を提言しておきます」

ミセ*゚ー゚)リ(……提言?)

 ミセリはぴくりと反応し、ワカッテマスの話に殊更気を張った。
 普段の断定的な口振りがいやに丸くなっているように感じ、ほのかに気味が悪かった。

( <●><●>)「排除すべき理由については省略します。
        2人とも、大まかな事情は察しておられるでしょう」

川д川「……なんの話だか」

ミセ*゚ー゚)リ「さっぱり分からないわよね」

 2人はわざとらしく目をそらしてうそぶいた。

 彼女達は、もう随分前から毛利まゆの正体を突き止めていた。
 しかし努めて放置を決め込み、毛利まゆ個人の動向を最大限放置してきた。

 ――たとえ毛利まゆが勇者軍に情報を流していた張本人だったとしても。
 ハインの暗示を受ける以前から、そも最初から敵以外の何者でもなかったとしても。
 毛利まゆが『魔王城ツンの日常』を意味する以上、彼女達は毛利まゆを見逃すしかなかったのだ。

 勿論これは軍属者としてあるまじき背反である。
 ツンの従者としては合理でも、敵の尻尾を掴んでおいてみすみす手放した事は厳罰に値する。
 なのだが――。

( <●><●>)「今のはあくまで提言です。最終判断は私が下すものではありません」

ミセ;*゚ー゚)リ「……待ってなにその緩い感じ。気持ち悪いんだけど」

 ワカッテマスは、敵の動向を看過していた彼女達をさらに見逃してしまった。
 即死級の厳罰を覚悟していた手前、ミセリは肩透かしを越える違和感を彼に覚えていた。

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680名無しさん:2022/09/04(日) 14:52:25 ID:7IoV7Kbc0


( <●><●>)「毛利まゆが勇者軍につながる敵だという事実。
        これをお嬢様に伝えるか、実際の対処はどうするのか、全て任せます」

ミセ;*゚ー゚)リ「……まあ、任せてくれるならいい」 チラッ

川; д川「あなたがそこに一枚噛んでくれるのは、心強いけど……」 チラッ

 ワカッテマスの言動を上手く受け取れず、貞子と見合ってぎこちなく反応するミセリ。
 そんな様子を捨て置いて、ワカッテマスは呆気なく次の話題に移った。

( <●><●>)「では次に――魔眼の未来視に終わりが来ました」

( <●><●>)「私はこれを打破するつもりですが、恐らく不可能です」

ミセ*゚ー゚)リ

ミセ*゚ー゚)リ「待って、そっちのが意味不明だった」

川д川「未来視の終わり、っていうのは穏やかじゃないわね」

( <●><●>)「そうですね。要するに私が死ぬという事なので。
        詳しいことは追って話しますが、概要だけは早めに伝えておこうかと」

 ワカッテマスがこの不毛な足止めに付き合っていた理由はこれか、と悟る2人。
 魔眼の未来視が終わる。『神の視点』に永遠の終わりがやってくる。

( <●><●>)「繰り返しますが、他言無用ですよ」

 なんの裏付けもなくポンと提示された未来の展開は、今はまだ、誰の胸にも響いてはいなかった。

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681名無しさん:2022/09/04(日) 14:56:34 ID:7IoV7Kbc0

≪2≫


 〜特訓場〜


(´・_ゝ・`)「――かくしてワカッテマスは上で待機中だ。
      いつでも呼んでこれるわけだが、準備はできてるんだろうな」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。やること自体はそう多くないしね、いつでもいける」

 対話に向けた準備を終え、荒野の特訓場にて凛と佇む魔王城ツン。
 ジャージ姿で僅かに汗ばんだ身体はウォーミングアップを完全に済ませてある。
 肉体言語もまた言語。対話に用いて何が悪い、というのが彼女の理屈だった。

(´・_ゝ・`)「だったら俺はもう行くわ。助けは要らないそうだしな」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、大丈夫よ。楽しみにしててね」

(´・_ゝ・`)「うーい。今後の動きが決まったらよろしくー」

ξ゚⊿゚)ξ「……どう転んでもまた頼ると思うから、よろしく」

 盛岡はあしらうように手を振って見せ、背中を丸めて去っていった。
 これでもう後戻りはできない。あと10分もしない間にワカッテマスはやってくる。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;´⊿`)ξ(ああ、流石に緊張するな……)

 不意に思考が躓いて縺れ、心臓の鼓動が拍子を外したような錯覚を覚える。
 ツンは慌てずに呼吸を意識し、元の調子に戻ろうとまじないの言葉を脳裏で唱えた。
 大丈夫、大丈夫、大丈夫――効果はすぐに表れて、彼女は自然と元のペースに戻っていた。

ξ;-⊿-)ξ(……大丈夫。これは勝ち負けの戦いじゃない。
        行動で示すことが、一番大切なのよ)

 持ちうる手札は全て揃えた。あとは手順と組み合わせの問題。
 彼女は意識して普段通りの自分になりきり、魔王城ツンという理論武装の殻に深く潜り込んだ。

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682名無しさん:2022/09/04(日) 15:00:22 ID:7IoV7Kbc0






ノパ⊿゚)「……でさあ、そろそろこっちにも話振ってくんねえかな」




ξ-⊿-)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「えっ?」

 ツンはきょとんとした様子で反応し、遠くから聞こえてきた声にパッと振り向いた。
 地面に胡座で座り込んでいる素直ヒートと目が合い、中身の無い時間が5秒ほど無に帰す。


ξ゚⊿゚)ξ

ノパ⊿゚)


ノハ;゚⊿゚)「……いやだからさ! 呼びつけといて放置すんなって言ってんの!
      私らなんも知らねえまま本番迎えるのか!? つか本番ってなんの本番だ!?」

lw´‐ _‐ノv「そらもうエッチなやつでしょ。5人揃って花嫁にされちゃうんだよ」

ノハ;゚⊿゚)「ねーちゃん、今そのボケは捌けねえよ……」

lw´‐ _‐ノv「ははっ。でも身売りは実際ありそうだよね、ひえ〜〜」

 ヒートの横には彼女の姉である素直シュールの姿もあった。
 サガットステージのブッダよろしく地面に寝そべり、○×ゲームのソロプレイに延々勤しんでいる。
 完全にオフの雰囲気だった。

ξ゚⊿゚)ξ「まぁそうねえ……いきなり呼んだのは悪かったわよ。
      でもほら、私達はマブダチのズッ友なんだしいいでしょ?」

ノハ;-⊿-)「……あーそうでしたね。そうですね、ハイ、ッス……」

 自分達が命拾いできた口実を再三突きつけられ、ヒートの言葉は一瞬で勢いを失った。
 金で買われた安い友情(おまけ:命)に準じつつ、彼女はおもねってツンに聞き直す。

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683名無しさん:2022/09/04(日) 15:03:20 ID:7IoV7Kbc0


ノパ⊿゚)「そんでも少しは説明してくれねえか? 大事な友達なら大事にしなきゃだろ?」

ξ゚⊿゚)ξ「いや、私もそうは思ってるんだけどさ……」

 ツンは申し訳程度に前置きを挟んで言った。

ξ;゚⊿゚)ξ「ごめん、今回そこら辺は察してほしいのよ。
       ていうか雰囲気で少しは分かんない? 他の3人は分かってそうだけど……」

ノパ⊿゚)

ノパ⊿゚)「うーわ察してちゃんだ。だりい女」

ξ゚⊿゚)ξ「否定しきれない悪口にむせび泣きそう」

 だりい女こと魔王城ツンはそれでも懸命に生きた。
 そうこうしてる間に素直四天王の残り2名、クールとキュートが周辺の散策から戻ってきた。
 それに気付いたヒートはけろっと態度を変え、座ったままで2人の帰りを歓迎した。

ノパ⊿゚)「おかえりねーちゃん。キュートもなー」

o川*゚ー゚)o「ん〜」

ξ゚⊿゚)ξ「そっち、下見はどうだった?」

 ツンの質問にはクールが答えた。

川 ゚ -゚)「いやまったく下見もクソも無いな。地形は一応覚えたが、私達には不向きな環境だ」

 クールは不満気に言いながらヒートの傍に腰を下ろした。
 キュートも続いて地面に座ったので、ツンも雰囲気的にその輪に加わっていった。

lw´‐ _‐ノv「ここらへんの地形、キュートが見てもそんな感じだったの?」

o川;*゚ー゚)o「そりゃねえ、こんだけ開けた場所だと流石に厳しいよ……」

lw´‐ _‐ノv「うちらのシマは市街地だもんね。シチュが悪いよシチュが」

ξ゚⊿゚)ξ(なんか流れで素直家の子になっちゃったな……)

 地面に座った少女5人、素直四天王あらため素直ゴレンジャー。
 これはこれで悪い気はしないな。そう思う素直ツンちゃんであった。

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684名無しさん:2022/09/04(日) 15:05:56 ID:7IoV7Kbc0


ノハ;゚⊿゚)「……で、けっきょく私は何をすりゃいいんだ?」

 ふと、この場の誰に宛てるでもなくヒートが不安を口走った。
 これから始まる交渉のため召集をかけられた素直四天王。
 他の面々は既に何事かに向けて用意を始めており、手持ち無沙汰はヒートだけになっていたのだ。

川 ゚ -゚)「無論、私達の仕事といえば荒事に決まっているだろう。
     詳しい部分は私も知らんがな。まぁ腹を括れ」

 素直クールはそう言って自前の武器である日本刀を抜き、眼前に据えて刃を検めた。
 真一文字に流れるその刀身は直刀に分類される古い様式のもの。
 名を絶光刀といい、彼女はこれを 『死闘が想定される場合』 に限り封を切っていた。

川 ゚ -゚)「絶光刀、絶好調」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「は?」

川 ゚ -゚)「ふっ……」

 クールは満足して刀を納めた。

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685名無しさん:2022/09/04(日) 15:12:46 ID:7IoV7Kbc0


o川*゚ー゚)o「あんたアホなんだからさ、とりあえずバトる準備だけしときなって」

ノハ;゚⊿゚)「ええ〜……」

 ヒートにそう助言するキュートの持ち物は黒無地のボストンバッグだけだった。
 彼女はその中から迷彩仕様の指抜きグローブを見つけ出し、問答無用でヒートに投げ渡した。

ノハ;゚⊿゚)「打ち合わせも無しでやんの? それでまた貧乏くじ引いたら最悪じゃね?」

o川*゚ー゚)o「最悪はいつも通りだし、内容が分かんないんだから仕方ないでしょ。
       聞いてもツンちゃん教えてくんないし。ほんとだるいけど……」

ξ゚⊿゚)ξ「だるくて申し訳ない……」

 とはいえ、試験の時と違って今日の素直四天王は万全の状態だった。
 4人分の装備もボストンバッグに丸っと収まっており、100%の力を発揮する用意は十分にできている。
 キュートは慣れた手付きで中身を漁り、各人の装備をポイポイと外に放り出していった。

川 ゚ -゚)「すまんキュート、左足のプロテクターが無いんだが」

o川;*゚ー゚)o「元々入ってなかったの! 入れ忘れた人が悪いので知りません!」ガサゴソ
  _,
川 ゚ -゚) シュン…

lw´‐ _‐ノv「貸すから、私の」
  _,
川 ゚ -゚) 「すまん……」

 ちなみに素直キュートが装備を一括管理しているのには確固たる理由があった。
 彼女達の中で、まともに整理整頓ができるのはキュートだけだったのだ。

o川;*゚ー゚)o「ねえちょっと!! このバッグにハッピーターン入れたの誰!?」

ノパ⊿゚)「食べていいぞ!」

o川;*゚ー゚)o「ハピ粉が手について最悪!!」ポイポイッ

ノパ⊿゚)「そんな……」

lw´‐ _‐ノv「あたしゃ食べるよ」サクサク

.

686名無しさん:2022/09/04(日) 15:17:34 ID:7IoV7Kbc0






川 ゚ -゚)「――うむ。いつもの装備だ、心強い」

 かくして数分後、最初に用意を済ませていたのは素直クールだった。
 彼女はおもむろに腰を上げ、自分の装備を見直しては得意げに頷いていた。

 彼女の装備は日本刀に両肘両膝のプロテクターのみ。
 装いとしてはスケボー選手のそれが近く、機動力を損なわないよう防御は最低限に抑えられていた。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「あれ、そういえば前と制服違ってるわよね? 新品にしたの?」

 と、クールの姿をぼけっと眺めていたツンがある変化に気付く。
 これまで着ていたコスプレ同然の安物学生服から、彼女達は装いを新たにしていたのだ。
 その変わりようがあまりに見慣れたものだったので、ツンもここまで気付くのが遅れてしまった。

o川;*゚ー゚)o「ハァ……ハァ……それいま言うの? おそくない?」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「……前髪もちょっと切った?」

o川;*゚ー゚)o「リカバリーしなくていいから。切ってないし、ハァ……」

ξ゚⊿゚)ξ「てかめちゃ疲れておられる」

o川;*´ー`)o「準備を手伝うのも大変でね……」

 クラシックなブレザー型ジャケットに灰色のプリーツスカート。
 その由緒正しい上下セットは、ツンちゃん自身も袖を通すVIP高校指定の学生服(冬)に違いなかった。

川 ゚ -゚)「この制服は貰い物だ。安物はやめろとミセリさんから直々にな」

ξ;゚⊿゚)ξ「貰ったの!? なんで!?」

川 ゚ -゚)「これを着てVIP高校に通えとの依頼を受けている。お前まさか知らなかったのか?」

ξ;´⊿`)ξ「ちくしょう、また勝手に話が進んでる……」

.

687名無しさん:2022/09/04(日) 15:18:55 ID:7IoV7Kbc0


川 ゚ -゚)「年齢的にも通学は若干キツいんだがな、モノは良いから気に入ってるぞ。
     そのうち私も女子高生だ。転校初日はよろしく頼む」

ξ゚⊿゚)ξ「……あの、ちなみに何歳なの?」

川 ゚ -゚)「私か? 今年で23だが」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ

 そりゃコスプレ感が出まくってたのも当然だな、と神妙に納得してしまうツン。
 だったら物のついでにと、ツンは他の面々にも年齢を聞いて回った。


lw´‐ _‐ノv「さんちゃい」

ノパ⊿゚)「忘れた」

o川*゚ー゚)o「15歳。末の妹って事になってる」


ξ゚⊿゚)ξ「わたくし皆さんのキャラが分かってきましたよ」

川 ゚ -゚)「まぁこっちにも事情があるんだ。あまり詮索しないでくれると助かる」

ξ゚⊿゚)ξ「そうなんだ。そうするわね」

 長くなりそうな設定の掘り下げを回避し、ツンは即座に話を終わらせた。

.

688名無しさん:2022/09/04(日) 15:27:16 ID:7IoV7Kbc0


川 ゚ -゚)「とにかくヒートも不安がるな。いつも通り、私と前衛を勤めればいい」

ノハ*゚⊿゚)「……おお! それならそうと言ってくれよ!」

 クールの装備はシンプルだったが、ヒートの武装はその数段は簡易的だった。
 先ほど渡されたグローブだけを両手にはめて、終わり。
 彼女もすぐさま立ち上がり、軽いワンツーパンチで体を温め始めた。

o川;*゚ー゚)o「――はい完成!」

lw´‐ _‐ノv「いやぁすまんの」バサッ

 一方で、戦闘準備に一番手間取っていたのは素直シュールだった。
 腰の左右に合計4つのウエストポーチを装着し、オーバーサイズのPコートをその上に羽織る。
 彼女もそれで準備完了のようだったが、手伝っていたキュートの疲弊ぶりもまた尋常ではなかった。

ξ゚⊿゚)ξ(なんか、時間かかった割に変化が無いわね……)ジー

lw´‐ _‐ノv「仕込みもどんどん早くなるねえ。姉の面目丸潰れだよ」

o川;*゚ー゚)o「だったら自分でやってよね。荷物なんて殆どシュールのじゃん……」


lw´‐ _‐ノv

ξ゚⊿゚)ξ ジー


lw´‐ _‐ノv「……暗器使いなんでね、中は意外と重装備なのよ」

o川;*´ー`)o「仕込みは私がやらされてますけどね」

 シュールはツンちゃんからの熱い視線に応え、コートをめくってその裏地を披露してみせた。
 コートの裏にはナイフ数本とワイヤーの束、あとは正体不明の小道具がぎっしりという感じだった。

ξ゚⊿゚)ξ(ニ、ニンジャ……!)

lw´‐ _‐ノv「もうちょい脱ぐと凄いんだけどね」

o川;*゚ー゚)o「脱いだら怒るよ。もう仕込みやらないからね」

.

689名無しさん:2022/09/04(日) 15:30:55 ID:7IoV7Kbc0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


o川*゚ー゚)o「それじゃあ余ったものは片付けて、っと……」

 ボストンバッグを整理して、キュートの仕事もこれで完了。
 いざ立ち並んだフル装備の素直四天王を一望し、ツンは他人事のような感動を覚えていた。

ξ゚⊿゚)ξ「うおおすごい。4人パーティって感じ、モンハン」パチパチパチ

ノハ;゚⊿゚)「……てめえも立って準備しろよ。見学で済ますつもりか?」

ξ゚⊿゚)ξ「私はもうアップ済んでるから問題なし。
      戦わずに済むならそれが一番だしね、焦ってもしょうがないのだわ」

 ツンはやおらに立ち上がってジャージをはたいた。
 さしあたって、ツンは最低限の情報を皆に伝えることにした。

ξ゚⊿゚)ξ「で、今から来るのはワカッテマスって名前の魔物なのだわ。
       思考を読んだり未来を見通したり、そういう力を持ってる人なの」

ξ゚⊿゚)ξ「私はこれからワカッテマスさんと話をする。
       でも間違いなく破綻するから、それが戦闘開始の合図になると思う」

川 ゚ -゚)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「もしそうなって戦いが始まったら、あなた達には私の味方をしてもらいたいの。
       正直かなり危険だけど、私を守ってくれればそれで十分だから」

 ツンは僅かに目を細めて表情を険しくした。
 話し合うけど殴り合う。その見通しの歪さに、彼女自身でも思う所があるようだった。

川 ゚ -゚)「そうか。だったらこちらは要人警護を想定しよう。
     思考を読むという能力を鑑みるに、私達が色々知ってるのは不都合なんだろう?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうなのよ。たとえばこの話し合いの『本当の狙い』とかも今は話せない。
       そんなんだから、基本的には私に合わせてって感じになるんだけど……大丈夫?」

川 ゚ -゚)「問題ない。独断に許可が降りてるだけマシな依頼だ。
     それと最後に確認なんだが、……まぁ答える必要が無ければ答えなくていい」

ξ;´⊿`)ξ「話が早くて助かるのだわ。ええ、答える保証はできないけど、なんでも聞いて」

.

690名無しさん:2022/09/04(日) 15:34:39 ID:7IoV7Kbc0


川 ゚ -゚)「――その相手、手加減は必要か?」

ξ;´⊿`)ξ

ξ゚⊿゚)ξ

 ツンは表情をリセットし、頭の中をまっさらにしてから反応した。

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、手加減?」

川 ゚ -゚)「そうだ。今日はわりかし本気装備だからな、今なら相当戦えるぞ」

ノパ⊿゚)「信用しろよな! こないだの電撃野郎だって今なら余裕だぜ!?」

o川*゚ー゚)o「………………」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ああ。そうなのね、それは心強い……」

 ツンは、自信満々に語るクールとヒートの顔を直視していられなかった。
 彼女達はワカッテマスの強さを知らない。知らないからこそ、彼女達は大言を口にできるのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ(自信があるのは嬉しい)

ξ;-⊿-)ξ(私じゃ言えない強い言葉も、今は頼もしい……)

 ――でも、無理だ。

 恐らく彼女達は電撃野郎ことエクストを基準にワカッテマスを捉えている。
 エクストの戦闘能力を根本的に読み違えている点を差し引いても、彼女達の目算は完全に的外れだ。

ξ;゚⊿゚)ξ(こんなこと、言いたくないけど……)

 素直四天王を守るためには今ここで釘を刺すしかない。
 ツンは咄嗟に言葉を選び、オブラートに包んで頭の中に用意した。

ξ;゚⊿゚)ξ「……あのね」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ「この場の全員が手加減なしで戦っても、勝ち目は無いのよ……」

 その言外に無自覚の本音を添えて、ツンは慎ましく口を開いた。

.

691名無しさん:2022/09/04(日) 15:40:12 ID:7IoV7Kbc0


ξ;゚⊿゚)ξ「私を含めた5人でやっても、ワカッテマスさんには絶対勝てないの」

ξ;゚⊿゚)ξ「だから、手加減とかそういうことは考えないで。
       これは勝ち負けの戦いじゃないから、危険な事はしないでほしくて……」
  _,
ノパ⊿゚)「……ハァ? んだよそれ」

 素直四天王は揃ってツンを注視していた。
 自分達のプライドにケチをつけるようなツンの口振りに、短気なヒートは特に難色を示していた。
  _,
ノパ⊿゚)「前にやったエクストってのは魔王軍の最強格なんだろ?
     今度のはあれより強いってのか? どれくらい強いのか言ってみろよ」

ξ;-⊿-)ξ

 ヒートの追求にツンは無言を貫いてみせる。
 これ以上の説明は無意味だと、固唾を飲んで顔を背ける。

川 ゚ -゚)「……ふむ、そうか……」

 かたやクールは軽率な前言を悔いたのか、渋い表情を覗かせて思慮に耽っていた。
 上には上がいる。そんな常套句を自分に言い聞かせ、彼女はふっと鼻で笑った。

川 ゚ -゚)「いや、そこまで言われると立つ瀬がないな」

ξ;゚⊿゚)ξ「……ごめんなさい」

川 ゚ -゚)「いいんだ、私達だってここで死ぬ気は無い。忠告に感謝する。
     だが引き際もこっちで決めるぞ。またボコられたら堪らんからな」

ξ゚⊿゚)ξ「もちろん全部任せるのだわ。みんなを守る余裕も私には無いから」

川 ゚ -゚)「――と、聞いての通りだ。魔王軍へのリベンジという趣旨、今日は忘れろ」

 そう言いながら他の面々を見遣るクール。
 そこには三者三様の反応があったものの、彼女の決定に確たる異議を唱える者は居なかった。

lw´‐ _‐ノv「仕事が楽になるなら何でもいいよ」

ノハ;゚⊿゚)「いやでもこいつの話おかしくねえか!?
     話し合うけど戦いにはなる、でも絶対勝てねえってバカバカしくねえか!?」

o川;*´ー`)o「はいはいヒートは黙ろうね……」

 もうすぐワカッテマスがやってくる。
 ツンは簡単に話をまとめ、素直四天王に最後の助力を申し入れた。

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692名無しさん:2022/09/04(日) 15:43:25 ID:7IoV7Kbc0


ξ゚⊿゚)ξ「私とワカッテマスさんの話し合いは間違いなく破綻する。
      戦闘開始はそのタイミングになる、ってさっき言った通りだけど」

ξ゚⊿゚)ξ「みんなとにかく無茶はしないでほしいの。私が一番気にしてるのはその部分だから。
      無茶をしないって約束してくれるなら、お礼もそれだけいいものを用意する」

川 ゚ -゚)「分かった無茶はしない。だから金をくれ4人分」

ξ゚⊿゚)ξ「ほんとに話が早いな」

 気前のいい即答。ツンも思わず普段の調子で反応してしまった。

ξ;゚⊿゚)ξ「……えっと、細かいとこは任せちゃってるし、私から言える事はもう無いんだけど。
      それでも一応、最後にあなた達を頼った理由だけは話しておくわね」

ノパ⊿゚)「頼った理由?」

川 ゚ -゚)「……そういえば、いつものメンツがここに居ないな」

 ミセリやドクオをふと思い浮かべ、彼女達の不在を訝しむクール。
 戦力的にも彼女達を頼らない理由はなく、当然この場に集まるものだと一考するが――。

ξ゚⊿゚)ξ「今日はこれで全員よ。ミセリさん達は来ないわ」

川 ゚ -゚)「それは――」

o川*゚ー゚)o「で、だからなに? 要するに負けイベって事でしょ?」

川 ゚ -゚)「まぁ待てキュート。大事な部分だ、聞こう」

 ツンの台詞を軽んじたキュートを諌め、クールは続きを話すようツンに首肯してみせた。

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693名無しさん:2022/09/04(日) 15:51:37 ID:7IoV7Kbc0



ξ゚⊿゚)ξ「……上手くは、言えないんだけど」

ξ゚⊿゚)ξ「この話し合いをするなら、私は、人間を頼らなきゃいけないと思ったの」


 ――心というものの深層は、言語としての機能、精巧さを喪失させる事でしか言葉にできない。
 そして、自分の言葉を手ずから台無しにするその行いは、言葉を扱う全ての者を例外なく無力に変える。

 自分にとっては意味があっても、他人にとってはそうでもない無数の物事。
 それを他人に伝えることは、大なり小なり、当事者の心に治りにくい傷を残すものだ。


ξ;-⊿-)ξ「……だからね。私は、あなた達が最後まで味方でいてくれたら、それで十分なの」

ξ;-⊿-)ξ「私は、それに見合うだけの振る舞いを頑張るから」

ξ;゚⊿゚)ξ「だから見てて。最後まで、私が人間の味方でいられるかどうか……」


 魔王城ツンが今しがた話したこと、これからワカッテマスに話すこと。
 それらは必ず痕を残し、彼女の中で大きな変化へとつながっていく。

 ――ひび割れた卵の殻。亀裂をついばむ雛鳥の寓意。
 魔眼の力をもってしても、この先の未来は暗闇に閉ざされたままであった。


( <●><●>)(……やはり、この方の未来は言語化しがたいな)


 ワカッテマスは未来視を止め、目の前の現実に意識を戻した。
 遠くに見える魔王城ツンとその仲間達をじっと見つめ、整然とした足取りでツンのもとへ向かう。
 彼がわざわざ歩いているのは、そうして時間をかけることが『必要な手順』だったからだ。

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694名無しさん:2022/09/04(日) 15:52:42 ID:7IoV7Kbc0



lw´‐ _‐ノv「――てかもう来てて草」

 そのとき、ワカッテマスの登場にいち早く気付いたシュールが草を生やして警告した。
 素直クールは即座に反応し、彼女と同じ方向を見てワカッテマスの姿を目視した。

ノパ⊿゚)「よっしゃ! 私は前衛ッ! だよな!?」

川 ゚ -゚)「……いや、キュートと交代だ。
     魔王城ツンの護衛は私とキュートでやる」

ノパ⊿゚)

ノハ;゚⊿゚)「なんで!?!?!?」

o川;*゚ー゚)o「嫌です!!!!」

 急なポジションチェンジに三女四女のダブルブーイングが爆発する。
 しかしクールは気にも留めず、耳打ちする形でシュールにニ三指示を出した。

川 ゚ -゚)「そっちでヒートを宥めておいてくれ。
     あいつは話し合いには向かん。今日は足手まといだ」

lw´‐ _‐ノv「んじゃキュートはどうすんの」

川 ゚ -゚)「今日は頼る。アレがそこまで強いなら、キュートにしか対処できない場面が必ずある」

lw´‐ _‐ノv「りょ」

 2人は短く会話を済ませてキュート達を振り返った。

lw´‐ _‐ノv「キュート、必要なもん取ったらバッグ貸して。ヒートに持たせるから」

o川;*´ー`)o「はいはいはいはい分かりました分かりました分かり(ry」

ノハ;´⊿`)「やだよ荷物持ちなんかよォー!!」

ξ゚⊿゚)ξ(姉妹の力関係が出ている……)

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695名無しさん:2022/09/04(日) 15:56:07 ID:7IoV7Kbc0


川 ゚ -゚)「……という事で」

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)「いつでもいけるぞ」

 すっ、と囁くように告げるクール。
 その一言は間違いなく、魔王城ツンから号令を引き出すための言葉だった。

ξ;゚⊿゚)ξ「……みんな、上手く立ち回ってね」

 もう引けない。やっぱり無しとはもう言い出せない。
 みんなが始まりの合図を待っている。
 ツンは胸に手を当て、大きく息をした。

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ「……はぁ……」

 話し合い、戦い、その両方に『どうせ負ける』と高を括りながら。
 魔力の回路に熱を入れ、自分の首元に赤マフラーを成形する。

 ぶっちゃけツンも大まかな未来は予想がついているのだ。
 どうせ話し合いは成立しない。実力行使も意味を成さない。
 魔眼のワカッテマスは一度決まったことを絶対に覆さない。

 それでもこうして過程を踏むのは、そうする事が『必要な手順』だから。
 然るにこれは――同意の上での『儀式』に違いないのだ。

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696名無しさん:2022/09/04(日) 15:56:43 ID:7IoV7Kbc0



ξ;゚⊿゚)ξ「……始めるのだわ」ザッ


 ひび割れた卵の殻。亀裂をついばむ雛鳥の寓意。
 その雛鳥には、生まれる前からハダリーという名前が用意されていた。


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697名無しさん:2022/09/04(日) 15:58:17 ID:7IoV7Kbc0

≪3≫


( <●><●>)「お待たせしました」

ξ゚⊿゚)ξ「……いえ、丁度いいタイミングだったわ」

 代わり映えしない荒野の中程で立ち会う両者。
 芯を通したように直立するワカッテマスに、ツンは否応なく強い威圧感を感じ取っていた。
 だが尻込みしている余裕はない。時間経過で不利になるのはツンの方なのだ。

ξ゚⊿゚)ξ

( <●><●>)「どうぞ話してください。私はそれを聞きに来たのです」

 ワカッテマスは少し肩の力を抜き、余裕をもってツンに話しかけた。
 魔眼の性能をひけらかすような真似はしないと、あくまで紳士的に振る舞って見せる。

ξ;゚⊿゚)ξ(……そう、どうせ私の考えはすぐにバレる。
       今のこういう考えだって、ワカッテマスさんには……)

( <●><●>)

ξ-⊿-)ξ(なるべく、なにも、考えないように……)

ξ-⊿-)ξ(用意はしてきた。用意した言葉だけを、反射的に……)

( <●><●>)

ξ;-⊿-)ξ(……思考は、散らさないと……)

 それからツンは色々なことを考えた。
 ワカッテマスはただ傍観し、何も言わなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「……そうよね。手早く済ませましょう」

 ツンは無表情で言い、用意していた台詞を続けた。

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698名無しさん:2022/09/04(日) 15:59:05 ID:7IoV7Kbc0


ξ゚⊿゚)ξ「とりあえず紹介しておくけど、後ろの2人は私の友達。
       あとの2人もその辺の岩陰に隠れてると思う」

( <●><●>)「素直四天王、と自称される方々ですね。
        存じ上げております。ヒトの友人、羨ましい限りです」

ξ゚⊿゚)ξ「……一応言っとくけど殺さないでね。
      これから何がどうなるか知らないけど、それだけは本当にお願い」

( <●><●>)「はい、承知致しました。お約束します」

 ワカッテマスはツンの両隣に控える素直クール&キュートを覗き見た。
 彼女達は警戒心を保ったまま、ワカッテマスを捉えたまま、最低限の会釈をした。

川 ゚ -゚)「素直クールだ。お気遣い感謝する」

o川*゚-゚)o「……ッス」

( <●><●>)

 2人の思考を読み取ると、ワカッテマスは片手を口元にやって数秒ほど考える素振りを見せた。
 ツンにはそれが無意味な動作に思えたので、話を急いてテキパキと彼に問いかけた。

ξ゚⊿゚)ξ「続き、いい?」

( <●><●>)「……はいどうぞ。お気になさらず」

 ワカッテマスは顔を上げて言った。

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699名無しさん:2022/09/04(日) 16:00:52 ID:7IoV7Kbc0


ξ゚⊿゚)ξ「……勇者軍が、私を狙ってこの街に来ようとしてる。
      私がこのまま街に残ると、次の現魔戦争の引き金にもなりかねない」

 用意していた台詞を練習通りに口に出し、ツンは話声を勢いに乗せた。
 ここから先は予定調和のやり取りになる。彼女は半ば機械的に、感情を込めずに続きを話した。

ξ゚⊿゚)ξ「私のパパは事を穏便に済ませたがってる。だから私を連れ戻したい。
      私はもちろん地上に残っていたいけど、それが無理なのも分かってる」

( <●><●>)「はい」

 コンマ数秒の短い相槌。タイミングは完璧だった。

ξ゚⊿゚)ξ「私の身元は敵にバレてる。それを公表されたら今までみたいな暮らしはもう出来ない。
      だからもう、私個人の範疇では、勇者軍には殆ど完敗してる状態なのよね」

( <●><●>)「――心の底から望んでいた『ありふれた日常』を人質にされた。
        お嬢様がそういった認識をされている事は、魔眼がなくとも理解しております」

ξ゚⊿゚)ξ「そう。だからこの話し合い、私とっては敗戦処理みたいなものなのよ。
       この期に及んで最善は期待してないの。……まずはこんなとこかしらね」

( <●><●>)「はい。どうぞ続きを」

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700名無しさん:2022/09/04(日) 16:02:49 ID:7IoV7Kbc0


ξ゚⊿゚)ξ「とりあえず、私はワカッテマスさんの言うとおりにして魔界に帰るのだわ。
       ただし条件付きで。今日の要件はこの部分よ」

( <●><●>)「なるほど、そうでしたか」

 ワカッテマスはわざとらしく頷いた。

( <●><●>)「でしたら先に魔王軍全体の方針をお伝えします。
        端的に申しますと、結論としては先日のまま変わっておりません」

( <●><●>)「お嬢様を魔界に帰したのち、我々は事後処理を開始します。
        勇者軍とその協力者を対象に、殺害を含めた必要な対処を行います」

ξ;゚⊿゚)ξ「……殺害って、認めるのね」

( <●><●>)「オブラートに包む意味がありますか?」

 彼は返答の間を設けずに続けた。

( <●><●>)「今回の事案は規模が大きすぎるため、半端な記憶消去では埒が明きません。
        よって一度、我々は勇者軍の作戦に付き合うつもりでいます」

ξ゚⊿゚)ξ「付き合うって、具体的には?」

( <●><●>)「この街で迎え撃ち、敵の主力を落とした上で、敗北を演じます」

ξ゚⊿゚)ξ
  _,
ξ;゚⊿゚)ξ「そ、想像してたのと違う流れになってるわね……」

 敗北を演じる、という彼の目論見に驚きを隠せないツン。
 人間社会の平和を乱さないという意味ではこれ以上ない算段だが、予想外ではあった。

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701名無しさん:2022/09/04(日) 16:08:19 ID:7IoV7Kbc0


( <●><●>)「――事後処理を円滑に行う為の、一芝居です」

 と、ツンが気を抜いたところで説明が再開される。
 ツンは努めて心を閉ざし、都合のいい言葉に惑わされないよう感情を押し殺した。
 筒抜けだからこそ努めて冷静に。動揺は無意味なのだ。

( <●><●>)「この街で戦闘を行い、敵の主力を殺害し、形だけの勝利を持ち帰らせる」

( <●><●>)「そしてそれ以後、勇者軍が決起することは二度とありません。
        そうなるように事後処理を行います。……意味はお分かりですか?」

 記憶消去が現実的でない以上、今回の件は時間経過による風化が最も手堅い。
 人の噂も七十五日――とはいかないだろうが、自然消滅という形で終われば何よりも平和的である。
 要するにすべて打算。俯瞰してみれば、彼の含みはすんなりと理解できた。

ξ-⊿-)ξ「……表向きには『人間側の勝利』で事を終わらせる。
       あなた達は、その裏側で勇者軍を消そうと考えてる」

ξ゚⊿゚)ξ「あとは時間に解決させるとして……そんなに上手くいくものなの?
       ごめんなさい、ちょっと想像がつかないんだけど……」

( <●><●>)「それについては勇者軍の人員を洗脳、同士討ちさせる予定なので問題ないかと。
        報道関係についても既に手は打っていますし、心配ご無用です」

ξ;´⊿`)ξ「……ありがとう。想像がついたわ。そうよね、できるのよね」

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702名無しさん:2022/09/04(日) 16:10:02 ID:7IoV7Kbc0


ξ;-⊿-)ξ「それで、私が思ってる条件のことなんだけど」

 ツンは息が整うのを待ってから切り出した。

ξ゚⊿゚)ξ「私、友達の無事を見届けてから魔界に帰りたいの。
      この街を戦場にするなら尚の事、戦いが終わるまでは」

( <●><●>)

( <●><●>)「ご友人とは、毛利まゆの事ですね?」

 ワカッテマスの声がほのかに重みを増した。
 ツンはつぶさにそれを感じ取り、反射的に片足をずり下げていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「――そッ、そうよ!」

 ツンは咄嗟に持ち直すと、声を荒らげて自分自身に発破をかけた。
 綻びを最小限に留め、元の調子を急いで取り繕う。

( <●><●>)「つまり、毛利まゆを特別に助けたいと。そういう事ですか」

ξ;゚⊿゚)ξ「……確認するまでもないでしょ。どうせ私の考えなんか……」

 自棄を滲ませた口振りで動揺を薄めようとするツン。
 ワカッテマスは、ただそれを眺めていただけだった。

( <●><●>)

ξ;゚⊿゚)ξ …?

 彼の返事は、しばらくのあいだ返ってこなかった。

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703名無しさん:2022/09/04(日) 16:17:19 ID:7IoV7Kbc0


( <●><●>)「……この街への進軍に際し、勇者軍は一般人の避難を行います。
        彼らも人間社会を敵に回すことは避けたいはず。人間側の被害はまず軽微でしょう」

ξ;゚⊿゚)ξ

( <●><●>)「毛利まゆもその避難に加わって街を離れます。
        少なくとも今現在、彼女は『軽微な被害』の中には入っておりません」

ξ;゚⊿゚)ξ「……私の出した条件は、意味が無いって言いたいの?」

( <●><●>)「はい。毛利まゆの無事は私が確約します。
        護衛を付けろと仰るならそうします。それで済みますから」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、と」

( <一><一>)「それでは帰還のご用意を。魔界でお父様がお待ちですよ」ザッ

 ワカッテマスは口早に話を終わらせて踵を返した。
 燕尾服の裾を翻し、じつに呆気なくこの場を去ろうとする。

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ「……待って。ごめんなさい、続けさせて」

 そんなワカッテマスを認めたツンは弱々しく呟いて彼を呼び止めた。
 今の話に嘘はない。しかし、本心をちゃんと告げたかと言えばそうでもなかったのだ。
 ツンは腹を括り、本当のところを口にした。

ξ;゚⊿゚)ξ「守りたいのはまゆちゃんだけじゃないの。
       他の人間も全員。……できれば、勇者軍も」

( <●><●>)「――そうでしたか」

 ワカッテマスは足を止め、またあっさりと元の位置に戻ってきた。

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