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ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです

1名無しさん:2020/10/14(水) 17:28:46 ID:YvZFQxxU0

         タクシー
      (゚」゚)ノ
    ノ|ミ|
     」L
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        _/ ̄ ̄\_
       └-○--○-┘=3

634 ◆gFPbblEHlQ:2022/05/04(水) 21:59:21 ID:iZuaE51Q0

≪1≫


           〜夕食後〜


  \ナノダワナノダワ/

     ξ;゚⊿゚)ξ ミセ*゚ー゚)リ    この辺に盛岡→
    /   つ   ( つ O   
    (_  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ('A`)
 .   | ̄|し|                    |ノ( ヘヘ



( ^ω^)(こんな茶番が末路とは、つくづく運が無い……)

 ツンちゃんズの情報共有を他人事のように眺めながら、彼は在りし日の選択を思い起こしていた。
 死んで終えるか、生きて続けるかという単純な二者択一。
 興味本位で後者を選んでしまった自分について、彼はもう自分の愚かしさを呪うばかりだった。



━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━▼━

         (´・_ゝ・`)「――大役に空きがある」

━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━▲━



(´・_ゝ・`)

( ^ω^)(……自由にやるとは言ってみたものの)

( ^ω^)(この行動が、お前の思惑通りでなければいいんだがな――……)


.

635名無しさん:2022/05/04(水) 22:00:46 ID:iZuaE51Q0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


(^ω^)「――この感じだと、僕の事情はまだ話してないのかお?」

 唐突に、情報共有という目的から逸脱した疑問を投げかけるブーン。
 それでピタリと場が硬直する。ツンは静かに彼を振り返った。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;´⊿`)ξ「まだ隠し事あんのーー!?!?!?!?」

 直後絶叫。
 度重なる隠し事にツンはひっくり返ってめちゃくちゃになった。所々もげた。

ミセ;*゚ー゚)リ「えっと、あなたの事情って言うとアレのこと? いやあれはまた別件で」

ξ;´⊿`)ξ「も話せよーーーー!! 全部をよォーーー!!」ピョインピョイン

 ツンは飛んで跳ねるなどして遺憾の意を示した。
 しかし何も起こらない。誰も気にしていなかった。

( 'A`)「それって勇者絡みの話じゃねえの? あれそんな秘密にしてたか?」

( ^ω^)「僕は隠したことないお! 自分からも言わないけどNE!!!!」

('A`)「まぁブーンってあだ名からして露骨だったしなぁ。
    俺も名前聞いた時には 『ああ〜でしょうね』 って感じだったぜ」

('A`)「ほら、ツンもハインさんが言ってた紹介を思い出せよ。こいつのあだ名は何だったよ?」

ξ;´⊿`)ξ「ポパイ」

('A`)「ほらな? 現魔戦争の時に出てきた『勇者ブーン』と同じあだ名じゃねえか。
    そんな奴がハインさんと一緒に居たんだぞ? そりゃなんかあるって」

ξ;´⊿`)ξ「私はポパイって言いました。ボケたので拾ってください」

ボケ拾いおじさん「ポパイてなんやねーーん!!!!!!!wwwww」

.

636名無しさん:2022/05/04(水) 22:01:51 ID:iZuaE51Q0


('A`)「で、今それを話して意味あんのか? 確かにツンは分かってないっぽいけど」

( ^ω^)「……そうやって仲間外れにするからツンも思い詰めちゃうんだお。
      ちゃんと話すって決めたんだから、どんな事でもハッキリさせとくべきだお!」

ξ゚⊿゚)ξ「な、内藤くん……!」

 ブーンの堅実な提案に感動を覚え、もげる跳ねるひっくり返るなどしていたツンも我に返る。
 そうだよそういうのが欲しかったんだよ。ツンは再三ひっくり返って喜んだが誰も見ていない。

( ^ω^)「名字で呼ぶなんて水臭いお! これからはブーンって呼んでほしいお!」
                     タスク
ξ゚⊿゚)ξ「うん!!! これからは『牙』と呼ぶ!!」

( ^ω^)「ブーンだお」

ミセ;*´ー`)リ「……そうですね。休憩がてら内藤くんに話を任せましょうか。
        もう何でも話しちゃっていいわよ。でも平和的にお願いね、あとが怖いから」

( ^ω^)「任されたお!!」

 もうどうにでもなれ状態のミセリにバトンを託され、ブーンは自信たっぷりに胸を叩いて見せた。
 続けて彼は開口一番、この話の核心部分から打ち明けるのだった。

.

637名無しさん:2022/05/04(水) 22:02:28 ID:iZuaE51Q0


(^ω^)「――実は僕、勇者ブーンの末裔なんだお!」


ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「は? 敵じゃん」


ミセ*゚ー゚)リ  ('A`)

 そして、またもや空気が凍りついた。

.

638名無しさん:2022/05/04(水) 22:03:40 ID:iZuaE51Q0


ξ゚⊿゚)ξ「敵がよ」

ミセ;*゚ー゚)リ「お、お嬢様……?」

 ブーンの暴露を耳にした途端、ツンは脊髄反射で結論を口走っていた。
 勇者の末裔すなわち怨敵。掌返しはほんの一瞬の出来事だった。
 さっきまで敵味方の区別で散々葛藤していたのは何だったのか。ツン以外みんなそう思っていた。

ミセ;*゚ー゚)リ(そんなバカな、これまでの友好的な姿勢はどこに――!?)

('A`)(こいつまた偏見を……)

(; ^ω^)「ま、まぁ固定観念的には確かにそうだけど、それでも僕は敵じゃないんだお!」

(; ^ω^)「僕らは今、勇者軍の『ある計画』の為に揃って狙われてるんだお。
       逃げるにしても戦うにしても、ツンは今こそ奴らの目的を知るべきなんだお!」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「ある計画、目的だぁ……?」

 嘘くせえなぁと言わんばかりに悪態をついて見せるツン。
 ブーンはあくまで語気を保ち、真摯に続きを物語った。

.

639名無しさん:2022/05/04(水) 22:04:54 ID:iZuaE51Q0


(; ^ω^)「――次世代の勇者を作り出す『人造勇者計画』。
      その計画を進める研究材料として、敵は僕らを狙ってるんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「えーそのネタバレ『嘘』っぽいな」

ミセ;*´ー`)リ「マジですよ。裏取りも済んでます」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「へ、へえ〜……そうなのね〜……」クルクル

 生返事を囁きながら金髪ドリルを指に巻くツン。
 神っぽいなパロディで茶化した途端にマジ報告が入ってきたため、露骨に動揺する。

ξ;゚⊿゚)ξ「……と、見せかけて?」チラッ

ミセ*゚ー゚)リ「大マジですよ」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;´⊿`)ξ「はいそうですよね、ハインさんも前に言ってたもんね……」

( ^ω^)「そんな感じだから、今この状況で下手こくのは色々ヤバいんだお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「なんとなく分かったのだわ。そっちも色々訳ありなのね」

(^ω^)「つらくきびしい」

ボケ拾いおじさん「現実はいつもそう」

ξ゚⊿゚)ξ「おじさん……」

.

640名無しさん:2022/05/04(水) 22:06:04 ID:iZuaE51Q0


(´・_ゝ・`)「なあブーン、そこまで言うなら妖刀の件も話すべきじゃないのか?
      そいつが気にしてる一般人も無関係じゃないんだ。ついでに言っちまえよ」

( ^ω^)

(´・_ゝ・`)「お前は当事者でもあり被害者でもあるんだ。語り手としては信頼に値すると思うが」

(^ω^)「……それもそうだNE!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ねえそれ、一般人って事はまゆちゃん絡みの話よね?
       あとで聞こうとは思ってたけど、あの子はどうして巻き込まれちゃったの?」

( ^ω^)「それは……」

 〜中略〜

(^ω^)「という経緯なんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな経緯が……!?」

.

641名無しさん:2022/05/04(水) 22:07:39 ID:iZuaE51Q0


 ――ハインリッヒの暗躍、妖刀による暗示の数々。
 ブーンはそれらを端的に説明し、粗が出ない範囲で全てを打ち明けた。

 いわく、ツンがやたらと人間に肩入れしていたのは妖刀の暗示が原因だという。
 件の一般人――毛利まゆも暗示によって役割を与えられ、ツンの友人として便利に使われていた。
 そのブーン自身も暗示によって戦闘用の別人格を組み込まれるなどしており、大変そうだった。


ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ(これ3行で済ませる話か……?)


( ^ω^)「僕のおじいちゃんはツンを育てつつ、いつか僕達の味方にしようと考えてたんだお。
      それもなるべく自然な形で、ツンの意思とも矛盾しないようにNE」

('A`)「……その意思の部分に介入してるのはギャグか?」

(; ^ω^)「そ、それは人間社会のルールを最低限守ってもらう為だお!
       魔力制御もできないこんなオタンコナス、暗示でハーネス付けとかなきゃ色々ヤバいお!」

ξ゚⊿゚)ξ「オタンコナスて」

(;'A`)「くっ! ほとんど悪口なのに言い返せねえ……!」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや事故物件の自覚はあるけども。ちょっとは味方になりなさいよ……」

 ドクオに小言を言いながら、ツンは自分の足元に小さな箱を想像していた。

 『これの中身はフィクションです』とメモを貼られた見すぼらしい小箱。一見してただのゴミ。
 ツンは実在しないその箱を眺め、俯瞰し、言いようのない喪失感を胸中に燻ぶらせる。

ξ゚⊿゚)ξ(……『そう悪くない』って、そう思うのは当然だったのね)

 だが、それ以上の自己言及は無い。浅いところで思考を切り上げる。
 箱の中身を真実だと――綺麗なものだと思い続ける為の防御反応。
 ツンは作為的に視野を狭め、実感を損なった優しい世界をそのままにした。

.

642名無しさん:2022/05/04(水) 22:10:10 ID:iZuaE51Q0


ξ゚ー゚)ξ「……でもまぁ、悪さをしてないなら今は許すのだわ」

 最終的に、ツンちゃんはいいこになってお返事をしました。
 とてもえらいなあ。誰にも迷惑をかけないようにがんばってるんだなあ――と。

( ^ω^)(まったくもって度し難い茶番だな)

 彼女の要領を得ない反応に皮肉を思いつつ、次にブーンはさりげなくドクオに近付いた。
 とても小さな声で、ドクオにだけ聞こえるようそっと耳打ちする。

( ^ω^)「ドクオ達って、今までずっとこうしてきたのかお?」

('A`)「……あ? 何がだよ」

( ^ω^)

(  ^ω)「いや、分からないならいいお」

 そうしてブーンはドクオを見限り、長息を吐いて天井を仰いだ。

 ――魔王城ツンとその周辺人物の関係性は滞っている。
 そんな考えが結論として脳裏に焼き付き、これ以上道化を演じる気にもなれなかったのだ。

( ^ω^)(……どいつにしても反応が軽すぎる。本人にしても、周囲にしても。
      なんだこれは、お互いの感情に踏み込まないよう取り決めでもあるのか?)

( ^ω^)(自分の行動原理にケチがついて、大事なお友達だって仕込みだったんだぞ?
      なのにどうして表に出さない。お前はそこまで器用だったか……?)


ξ;-⊿-)ξ「まぁまゆちゃんがエロ漫画みたいになってなくてよかったのだわ。
        ハインさんも無理はさせてないっぽいし、ひとまず安心かな」

ミセ;*゚ー゚)リ「申し訳ありません。すぐにお伝えできればよかったのですが……」

ξ゚⊿゚)ξ「いいのよ別に。ミセリさん達が私の友達に手を出すとも思ってないしね」

ミセ*゚ー゚)リ「……もちろんですよ」


( ^ω^)(そうだ、ここに居る連中は誰一人として魔王城ツンの感情に関わろうとしていない。
      それは本人でさえ同じことだ。彼女もまた、自分の感情を他人事のように扱っている)

.

643名無しさん:2022/05/04(水) 22:13:00 ID:iZuaE51Q0



(´・_ゝ・`)「――という事で、全部ハインと妖刀が悪いって話でした」

(´・_ゝ・`)「んで俺がその妖刀をボキッと折っといたから。もうぜ〜んぶ解決済みとのこと。
      刀の影響はもう殆ど無いと思うぜ。強力な暗示もなかったようだしな」

ξ;゚⊿゚)ξ「いやそんな簡単に解決するもんなの? 呪いの一種じゃないの?」

(´・_ゝ・`)「それが解決したそうですよ。後遺症とかも心当たり無いだろ?」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ「心当たり、心当たりか……」ウーン



( ^ω^)(……見るに堪えん。これでは余りに無防備すぎる)

( ^ω^)(いつか敵が現れて、そいつがお前の感情に踏み込んできた時)

( ^ω^)(もしその敵がお前の理解者になれてしまったら、お前は――)


( ^ω^)(――今のお前は、あの時と同じセリフが言えるのか?)

.

644名無しさん:2022/05/04(水) 22:15:53 ID:iZuaE51Q0


ξ゚⊿゚)ξ「あっ」

(´・_ゝ・`)「小林製薬」

ξ;゚⊿゚)ξ「そういえばそうだった、最近少しだけ変な感覚があるのよ」

 ツンはおもむろに右手を持ち上げて言った。

ξ゚⊿゚)ξ「話に沿ってるか分かんないけど、最近すごく調子が良いのよ。
       魔力の生成から成形までやたら成功するんだけど、理由が分かんなくて……」

(´・_ゝ・`)「……時期は? いつ頃からそうなった」

ξ゚⊿゚)ξ「そうねぇ……。試験よりは前だから、風呂でひっくり返った日の後とか?」

(´・_ゝ・`)



(;´・_ゝ・`)「待て、なんだそのイベント。お前が風呂でひっくり返ったとか聞いてないぞ」

ミセ*゚ー゚)リ「……お嬢様が風呂で倒れた日は、あなたが妖刀を壊してきた日と一致するわよ。
      あの日お嬢様が倒れたこと自体、妖刀の破壊が原因だと私達は思ってるけど」

(;´・_ゝ・`)「初耳だ。なんで俺に言わなかった?」

ミセ;*゚ー゚)リ「えっ、あなた何も言わなくても勝手に調べるじゃない。
       別に隠しもしてなかったんだけど、……まさか本当に知らなかったの?」

(;´・_ゝ・`)「…………」

 盛岡はいつにもなく狼狽えた様子を見せていた。
 ミセリが述べた補足の内容に、どこか引っ掛かる部分があるようだった。

ξ゚⊿゚)ξ「そうそう、試験の時なんて特に絶好調だったのよ。
       マフラーもマントも問題なく作れたし、あの謎回復とか我ながら奇跡なのだわ」

(;´・_ゝ・`)「で、その絶好調に心当たりが無いから、妖刀のせいかもと思ったんだな?」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。どちらかというとプラスだから、後遺症って感じでもないけど……」

(;´・_ゝ・`)「……いや、その見立ては限りなく正解に近いと思う。
      暗示が解けて、無意識に掛けてたブレーキが弱まったってのはあり得る話だ」


(;´・_ゝ・`)(なんせ俺がやった事だからな。それを狙わない訳がない)

.

645名無しさん:2022/05/04(水) 22:17:28 ID:iZuaE51Q0


(;´・_ゝ・`)

(;´-_ゝ-`)「少し1人で考える。お前らは続けててくれ」

 難しそうに眉をすぼめた盛岡が話し合いの輪を離れていく。
 それを区切りにブーンが喉を鳴らし、横道に逸れていた流れを元に戻そうとする。

( ^ω^)「――ともかく、勇者軍の目的は僕とツンを捕まえる事なんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「そういえばそんな話だった」

( ^ω^)「で、その目的が達成されると例の計画が捗って色々とヤバいんだお」

ξ;゚⊿゚)ξ「さっき言ってた人造勇者計画の事ね。
       なんか人体錬成とか始めそうな響きで物騒よね……」

( ^ω^)「まぁ人体錬成をする計画だからNE」

ξ;´⊿`)ξ「リライトしてェ……」

('A`)「……てかそもそも、どうして今頃そんな計画が動いてんだよ」

('A`)「お前が勇者ブーンの後継者じゃねえのか?
    そんなん作るまでもなく、勇者の末裔ならここに居るじゃねえか。自称だけど」

 ドクオの指摘はそりゃそうじゃ(オーキド博士)という感じだった。
 ツンやミセリも軽く頷き、ブーンの返事に耳を傾ける。

(; ´ω`)「勇者が一人じゃ心もとないってスタンスなんだお、今の勇者軍は。
       それが『勇者の大量生産』って発想に繋がる辺りで色々察してほしいお」


(^ω^)「あ、ちなみに僕は勇者的にはポンコツで、それっぽい事は何もできないお!」

ξ゚⊿゚)ξ「だったら敵じゃないわね! さっきのは訂正するのだわ!」

(^ω^)「ツンがアホで助かったお!」

.

646名無しさん:2022/05/04(水) 22:20:39 ID:iZuaE51Q0


('A`)「……ちょっと待て、悪いがアホはツンだけだぞ。
    お前とハインが勇者軍と敵対するワケ、お前の口からちゃんと話せよ」

ξ゚⊿゚)ξ(ツンって奴はそこまでアホなんだな……)

 ツンは気の毒に思った。

( ^ω^)「むっ! そこら辺の話だったらすごい簡単だお!
      僕らの目的は、勇者軍に捕まった 『勇者ブーン』 を取り返すことだお!」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「……勇者ブーンって、現魔戦争で出てくる例の勇者?」

( ^ω^)「そうだお! 歴史の教科書に出てくるヤツで間違いないお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「それがまだ生きてて、現在進行系で勇者軍のとこに居るの?」

( ^ω^)「今でもバッチリ生きてるはずだお! 研究材料としてNE!」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;´⊿`)ξ「ちくしょう、全然聞きたくないけどその経緯とは……」

( ^ω^)「僕らが調べた限りでは以下の通りだお!」


〜よくわかる経緯〜

1 勇者ブーン、魔王スカルチノフとの戦いを終えて地上に帰還。
2 勇者ブーン、帰還後のタイミングで何らかの勢力に捕縛された模様。
3 旧勇者軍が彼の捜索に乗り出すも成果なし。旧勇者軍は解散する流れに。
4 残った者達、新しく入ってきた者達が次世代勇者軍として活動開始。
5 次世代勇者軍が激化薬研究を開始。研究材料として勇者ブーンが運び込まれる。
6 その事実に気付いたハイン、勇者ブーン奪還のため行動を開始する。
7 無関係のオオアリクイ
      . ---------,,、
    /・_          ミミミミミ、
   // ´ `ゝ  ,,,,,,,,,,,,,,,,,,、 `ミミミミミミ、
   ζ   / ,, イ /   / λ ノミミミミミミ、
  ζ    |,/ ヽ丶,   し' 丶ヾミミミミミミ;

.

647名無しさん:2022/05/04(水) 22:25:09 ID:iZuaE51Q0

  _,
ξ;゚⊿゚)ξ「くっ、他人のお家事情はどうでもよさが勝るか……!」

 話が入ってこない勢いでオオアリクイの幻影まで見てしまったツン。
 怒涛の情報量を呑み込もうと頭を唸らせるが、そこはすぐさまブーンがフォローした。

(^ω^)「正直ただの内ゲバだから気にしなくていいお!
     次世代の勇者軍はクソ! それだけ分かってればOKだお!」

ξ゚⊿゚)ξ「人間はみんなクソよ」

('A`)「刀の悪影響ってこういう所に出てると思うんだよな……」

ξ゚⊿゚)ξ ?


( ´ω`)「……おじいちゃん、勇者ブーンとは子供の頃からマブダチだったんだお。
      そんなマブダチが人間の為に戦って、裏切られて、黙ってられる訳ないお……」
                     タスク
ξ゚⊿゚)ξ「そういえばハインさんと『牙』ってどんな関係なの? おじいちゃんて事は血縁?」

( ^ω^)「ブーンだお。そして普通に他人だお、初めて会ったのは10年くらい前になるお」

ξ゚⊿゚)ξ「はぇぁーなるほど」

('A`)

( 'A`)「……そこもついでに確認したいんだが、お前の言う『末裔』って言葉通りの意味なのか?」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「えー流石にそこは確認する必要なくない? アホは黙ってなさいよ」

(;'A`)「いやあるだろ。勇者ブーンは50年前の人間なんだぞ?
    そいつに息子が居たとして、今それが高校生やってんのはおかしいだろ」

ξ゚⊿゚)ξ !

 ツンちゃんショック!
 びっくりマークが頭から飛び出してしまった!

(;'A`)「今だって『子供の頃から』って言いやがったんだぞ?
    あのハインがガキの頃って何十年前の話なんだよ……」

('A`)「どう考えたって時系列が合わねえ。言葉足らずでなきゃ100%嘘だぞ」

 そう言いながらブーンを訝しむドクオ。
 当のブーンはそんな疑心を歯牙にもかけず、ドクオの疑問を流暢に紐解いていった。

.

648名無しさん:2022/05/04(水) 22:28:20 ID:iZuaE51Q0


( ^ω^)「親兄弟なら僕には居なくて、僕はいわゆる天涯孤独なんだお。
      勇者ブーンとハインの呼び方も、一番手っ取り早いのを適当に使ってるだけだお」

(^ω^)「血の繋がりは実際無いから、末裔って言い方は確かに間違ってるNE!」

('A`)「……結論、お前は普通の人間じゃないんだな?」

(^ω^)「体の作りは普通だけどNE! 人の子じゃないって意味では普通じゃないお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「あの、もしかしてブーンって人造勇者計画の落とし子だったりするの……?」

(^ω^)「全然違うお」

ξ゚⊿゚)ξ「的確な気付きで話を進めるやつ私もやりたかった」

 ツンは肩を落とした。



(´・_ゝ・`)「――ハインの目的は、魔王城ツンを育てて勇者軍攻略の切り札にする事だった」

 その時、ソファに掛けて思い耽っていた盛岡が明瞭な口振りで会話に割り込んできた。
 雑然と並べられたこれまでの情報を総括し、彼は語る。

(´・_ゝ・`)「そのためハインは妖刀を用いて魔王城ツンの育成環境を整理した。
      成果は上々。ツンはそれなりに強くなり、試験もなんとか突破できた」

(´・_ゝ・`)「だが妖刀を俺に壊された事でハインの計画は頓挫。
      ツンを恣意的に仲間に引き込む目論見は、知っての通りご破産となった」

(´・_ゝ・`)「かくして諸般の影響は消え、ハインも逮捕されて一件落着。
      魔王城ツンはパワーアップを遂げ、次なる戦いが幕を開けると」

 視線を空に向けて話していた盛岡がそこまでを語り終えてふっと俯く。
 長考を終えた彼の表情はいつも通りの無に戻っており、その語気もすっかり調子を取り戻していた。

ξ;-⊿-)ξ「……勇者軍との戦いは、やっぱり避けられないのよね」

 彼の独白に応じたツンが半ば諦めたように瞑目して呟く。
 それにドクオの嘆息が続くと、彼らの意識は否応なく現実問題に立ち返っていた。

.

649名無しさん:2022/05/04(水) 22:38:14 ID:iZuaE51Q0


 動機や目的、これまで秘密にしていた諸々のこと。
 それら全てを明らかにしても、現に差し迫る戦争に対しては何の回答にもなっていない。

 ここまでの会話は過去に関する補填、補足のようなもの。
 ツンが今まで後回しにしていた『納得』を後付し、足並みを揃え、未来の話をする為の下準備だ。

 それをざっくり終えた今、彼らはこの現状に対して改めて意見を出し合う必要があった。
 今現在、そしてこれから先の行動も含め、彼らはまだ具体的な結論には至っていないのだ。


(´・_ゝ・`)「避けるも何も、魔物発見のニュース自体が人間側のプロパガンダなんだぞ?
      二度目の現魔戦争をスムーズに始められるよう、根回しにだって余念は無い」

ミセ*゚ー゚)リ「それについては盛岡の言う通りです。
       心苦しいとは思いますが、彼らとの戦いはもう……」

ξ;´⊿`)ξ「……」

(´-_ゝ-`)「ま、対外的な立ち回りは向こうの圧勝ってワケ。
      勇者軍と言えど人間社会の一部、身内の扇動はお手の物だよ」

 言葉のアクセントをやや強め、勇者軍の回りくどい手口を当て擦る盛岡。
 彼は続けてツンに言った。

(´・_ゝ・`)「そろそろ結論を出してこう。結局のとこ、魔界には帰るんだよな?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……ええ。条件付きでそうするつもりなのだわ」

(´・_ゝ・`)「ふーん。で、その条件を呑ませたい取引相手は?」

ξ;゚⊿゚)ξ




ξ;-⊿-)ξ「多分、私以外の全員だと思う」

 ツンは目を閉じ、他の誰も直視しないままに呟いた。
 そうした様子は直接的に、この場に居る面々さえも例外ではないと仄めかしていた。

.

650名無しさん:2022/05/04(水) 22:40:44 ID:iZuaE51Q0


ξ゚⊿゚)ξ「私、今日は特訓場の方で寝るのだわ。
       もういい時間だし、今日はこれで解散にしましょう」

(;'A`)「……なんだそれ。今の流れでどうしてそうなるんだよ」

ξ-⊿-)ξ「私が考えてる条件のこと、今は誰にも話したくないのよ」ガタッ

 そう言い切って立ち上がり、ツンは強い視線で盛岡を見遣った。
 『私の意図を見抜いてくれ』と暗に訴えかけてくるその瞳――盛岡の返事は早かった。

(´・_ゝ・`)「これはすごい推論なんだが、ここで俺達を味方にするのは都合が悪いんだな?」

ξ゚⊿゚)ξ「……分かってくれるなら、あとは任せていい?」

(´・_ゝ・`)「そこで俺を頼るかね。責任重大じゃん」チラッ

 言葉ながらに周囲の顔色をうかがう盛岡。
 ドクオは不満げに目を細めているが、ブーンは相変わらず微笑みデブのまま。
 ミセリについても別段変化は見受けられず、ツンの言動に口を挟もうとする者は居なかった。

( ^ω^)(――堪らない関係性だな)

(´・_ゝ・`)「……あい分かった。ここは理解のある盛岡おにいちゃんに任せておきなさい。
      魔界に帰るって方針が確定してるだけ十分だ。あとは好きに暴れな」

 盛岡は各位の反応を考慮して言い、降参するように両手を上げて見せた。

ξ゚⊿゚)ξ「……私、これからずっと特訓場に居るから。
       適当な時にワカッテマスさんを連れてきて。あんまり早いのも困るけど」

(´・_ゝ・`)「適当な時っていつさ」

ξ゚⊿゚)ξ「それも任せるのだわ。ワカッテマスさんの行動なんて正直読めないし。
       なるべくみんな揃っててほしいけど、無理はしなくていい」

(´・_ゝ・`)「……了解」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ-⊿-)ξ「それじゃあ、また明日ね」

 それきりツンは何も言わず、宣言通りにリビングを出ていった。

.

651名無しさん:2022/05/04(水) 22:48:39 ID:iZuaE51Q0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


('A`)「……逃がしてよかったのかよ」

 開けっ放しにされたリビングの扉を恨めしそうに眺め、ドクオが呟く。

('A`)「あいつ、隠し事を増やして話を終わらせやがったぞ。
    色々打ち明けようって感じの趣旨はどこ行ったんだよ……」

(´・_ゝ・`)「お前らを信用してるんだよ。だから何も話さなかった」

ミセ*´ー`)リ「そりゃまあワカッテマスを言い包めるのを優先するわよね。難易度的に」

 ツンの思惑を代弁するように言葉を並べていく2人。
 その訳知りぶりが鼻についたのか、ドクオは更に語気を荒らげた。

( 'A`)「だったら尚更、この場の連中くらい味方につけとけよ……」

(´・_ゝ・`)「……いくら俺らが入れ知恵しても、ワカッテマスの魔眼はそれを見破れちまう。
      無意味とまでは言わないでおくが、俺らの存在が逆効果になる可能性は否めない」

 そんなドクオを諫めるように状況を俯瞰してやる盛岡。
 ドクオはその意図を汲もうと数秒黙り、頭を冷やしてから反応した。

('A`)「……俺らが居ると、ツンが弱くなるって言いたいのか?」

(´・_ゝ・`)「部分的にそう。ワカッテマス相手に交渉する手前、邪魔に思われたんだろ」

('A`)

(;'A`)「……だとしても無理があるだろ。つまりそれ、誰にも頼らず話をつけるって事じゃねえか」

(´・_ゝ・`)「それでいいじゃん。自立への第一歩とでも思っとけよ」

(;'A`)「ミセリさんは気にならないんですか。あいつ確実に痛い目見ますよ」

ミセ*゚ー゚)リ「そりゃ気にはなるけど……お嬢様がそう決めたなら、見守るだけよ」スッ

 ミセリの反応は極めて淡白だった。
 彼女は何食わぬ顔でそう言うと、席を離れて台所の方に行ってしまった。
 何があろうと最優先事項は変わらない。彼女は態度でそう示していた。

.

652名無しさん:2022/05/04(水) 22:50:48 ID:iZuaE51Q0


(´・_ゝ・`)「つーことで今日は解散だな。
      ワカッテマスが動いたら再集合って感じで、以上よろしく!」

(^ω^)「分かったお!」

('A`)「……ああ」

 食器を洗うありふれた音。ミセリが家事を始めると、それと同時に緊張の糸が切れる。
 白けた、という言い方でも語弊は無かった。
 少なくともドクオはそう感じ、ありありと嘆息を零していた。

(´・_ゝ・`)「まぁたかが1回の話し合いだ。ドクオもあんま高望みするなよ」

('A`)「……お前には分かんねえよ」

(´・_ゝ・`)「へーそうですか、分かり合ってる人達は大変そうですね。それじゃ」

 クソみてえな煽りを言い残して盛岡が退出。
 かくして緊急会議は幕を下ろし、微々たる進捗を上げてお開きとなった。
 そのうちドクオも溜飲を下げると、所在なげに帰宅の準備に取り掛かるのだった。

( ^ω^)「えードクオはもう帰るのかお?」

('A`)「そりゃ帰るだろ。やる事ねえんだから」

(^ω^)「それなら特訓場に行ってツンを手伝うお!
     話してない事、まだまだいっぱいあるはずだお!」

('A`)「タコピーみたいなこと言うな。大体な、俺らの付き合いはそういう感じじゃねえんだよ」

(^ω^)「じゃあどうしてそんなに不機嫌なんだお? 仕事だけの関係ならそうはならないお!」

(;'A`)「……お前もう1回くらい妖刀で別人格作ってこいよ。正直キモいぞ」

(^ω^)「図星でなんも言えんかw」

(#'A`) イラッ

 ブーンは腹パンされて沈んだ。

.

653名無しさん:2022/05/04(水) 22:51:23 ID:iZuaE51Q0


('A`)「……そんじゃあ俺も帰ります。お疲れした」

ミセ*゚ー゚)リ「お疲れさまー。明日の呼び出しは急だと思うから気をつけててね」

('A`)「分かってますよ。ミセリさんも――」

 と、その先に続く台詞を言い淀み、ドクオは不自然な沈黙を挟んで目をそらした。

('A`)「……なんでもねっす。連絡無くても明日は早めに来るんで、それじゃ」

(^ω^)「ドクオ〜僕も帰るから置いてかないでほしいっピお〜」

.

654名無しさん:2022/05/04(水) 22:53:14 ID:iZuaE51Q0

≪2≫


('A`) テクテク

(^ω^) テクテク

 ツンちゃんハウスを後にした2人は同じ帰路を辿り、夜更けの住宅街をテクテクしていた。
 車の音も遠くにしかない深夜帯。何となしに口数は減っていたが、会話の切欠はすぐに訪れた。

( ^ω^) ピタリ

 不意にブーンが足を止め、十字路の左方を振り返る。
 ここを曲がればハインリッヒの屋敷が見えてくる。ドクオは気付き、ブーンに話しかけた。

('A`)「あんま気にすんなよ。お前が自由にできてるんだ、そう悪い事にはならねえって」

( ^ω^)(……ハインを心配したと思われたのか。コンビニ寄るか迷っただけなんだがな)

 再び歩き出したドクオを小走りで追いかけ、ブーンはドクオの隣に並んで彼の顔を覗き込んだ。
 それを気色悪く思ったドクオは肩を丸めて訝しみ、またダルそうに溜息を吐く。

(;'A`) テクテク

(^ω^) テクテク



(^ω^)「ドクオがツンデレをした!!!!!!!!」

(;'A`)「……判定どうなってんだよ。してねぇから」

(^ω^)「した!!!!!!!」

(#'A`)

 ブーンは二度目の腹パンを受けて沈んだ。

.

655名無しさん:2022/05/04(水) 22:55:28 ID:iZuaE51Q0


(; ゚ω゚)「ぐぅぅ……暴力&理不尽系ツンデレを今日日拝めるとは……!」

('A`)「今度また俺をツンデレ扱いしたら怒るからな。そういうのはツンに言ってやれ」

(; ^ω^)「えーでもツンってツンデレっぽい事しないし……。
      ツンデレじゃない人をツンデレ扱いするのはよくないお」

(;'A`)「……あれでも昔は名実が揃ってたんだよ。今はちょっとアレだけど」

( ^ω^)

(^ω^)「ツンの!??!?!? 昔話があるのかお!?!?!??」

 ブーンの大声が真夜中に響き渡る。迷惑行為である。
 ドクオは顔をしかめてブーンから距離を取り、どういう対処が楽かを計算して肩を落とした。

('A`)(これここで話さねえと絶対面倒だな……)

(^ω^)「え〜それ聞きたいお聞きたいお聞きたいお聞きたいお」

 ドクオが返答を渋った途端、すぐにダル絡みして駄々をこね始めるブーン。
 絶対面倒だなというドクオの予感は間髪入れずに的中し、やっぱりとても面倒になった。

(;'A`)「……大した話はしねぇからな。でも黙って聞けよ、俺がいいって言うまで」

( ^ω^)「相槌もダメかお?」

('A`)「最小限なら可」

(* ^ω^)「分かったお!!!!!!」

(^ω^) スン…

 そうしてブーンがスン…とすると、ドクオは魔界での暮らしを渋々思い返した。
 ドクオは適当な昔話に当たりをつけ、ぼんやりとした口調でそれを語り始める――。

.

656名無しさん:2022/05/04(水) 22:58:59 ID:iZuaE51Q0



('A`)「……俺が魔王軍に加わろうとしてた時、一度だけあいつに助けられた事がある」

('A`)「認めたくねえけど、俺が魔王軍に入れたのはツンのおかげなんだよ」

( ^ω^)「ほーん。魔王軍って入るの難しいのかお?」

('A`)「いや別に。当時の実力でも一兵卒の基準には達してたと思うぜ。
    まぁそこら辺の事情は“““お家柄”””だな。俺の血筋は少し面倒なんだよ」

('A`)「つっても、そういう事情の俺を魔王軍に誘ったのもツンなんだがな。
   そりゃ魔王軍加入まではフォローしろよって話なんだが」

( ^ω^)

(^ω^)「ドクオがまたツンデレをした!!!!!!!!!!(小声)」

('A`)「あん時すげー門前払いされたんだよな。入軍テストすら拒否されてたし……」

('A`)「で、もう殴り込みで直談判しかねえと思ってた矢先、ツンが揉め事を起こしたんだわ」

 と、ドクオは不意に鼻で笑って首を傾げた。
 喉元過ぎれば、と思わせるような軽薄さで彼は続ける。

.

657名無しさん:2022/05/04(水) 23:02:17 ID:iZuaE51Q0


('A`)「あの頃のツンって殆ど軟禁状態だったんだけどよ、なのにあいつ城から逃げ出したんだよ」

(^ω^)「うおお盛り上がってきた!(小声)」

('A`)「そらもう上から下まで大騒ぎでな。凄かったんだわ、俺は鼻ほじって見てたけど」

(^ω^)「鼻はほじらない方がいい」

 ブーンは医学的見地から冷静に指摘した。

('A`)「で、その脱走がバレたタイミングってのが丁度テストの最中でな。
    当然テストは中止になって、その場に居た志願者達も捜索に駆り出されたんだ」

('A`)「だけど捜索隊に加わった入軍志願者にはこんなお達しもあったんだ。
    ツンを見つけた者はいかなる場合においても魔王軍加入を認可するってな」

('A`)「あとはもう簡単な話だ。捜索隊に紛れ込んだ俺がツンを見つけて、終わり」

( ^ω^)

(; ´ω`)「ええーー!! それじゃツンのツンデレエピソードになってないお!!
       最後もうちょっと掘り下げてほしいお!! ドクオ自分語りが下手だお!!」

('A`)

('A`)「……なんであんたが来るのよ、って言われたよ」

( ^ω^)




(^ω^)「コテコテやん」

('A`)「マジ笑うよな」

.

658名無しさん:2022/05/04(水) 23:04:20 ID:iZuaE51Q0


('A`)「あいつのツンデレエピソードは色々あるが、鉄板ネタは今話した通りだ。
    今のあいつは確かにアレだけど、思春期拗らせる前はもうちょい単純だったんだよ」

( ^ω^)「なるほどNE! 人に歴史ありだお!」

('A`)「満足したなら黙って歩け。早く帰って寝たいんだよ……」

 ドクオはそう言って歩調を早め、ブーンを放って話を切り上げた。
 そんな彼の背中に向けて、ブーンはハッキリと言葉を投げかける。

( ^ω^)「――もう少し、今のツンと向き合った方がいいお」

('A`)

( 'A`)「……お前、しばらく家事全部やれ」

(; ^ω^)「ええー!? 図星でなんも言えないからって酷いお!!」

 ちなみにブーンは経過観察のためドクオのアパートに転がり込んでいる。
 同居中なので家事は分担しているが、今しがた全部ブーンの仕事になった。

(; ´ω`)「嫌だお〜ドクオのカピカピパンツ洗うのは嫌だお〜」

('A`)「余計なこと言うからだっての。嫌なら少しはデリカシーを持て」

(; ´ω`)「でもそのデリカシーのせいでみんなギスギスしてるんじゃ……」

('A`)「よし分かった。家事全部一ヶ月やれ」

(; ´ω`) スン…

 会話はそれから続くこともなく、2人は無言で同じ帰路をテクテクした。

.

659名無しさん:2022/05/04(水) 23:05:28 ID:iZuaE51Q0


('A`)「……あ、お前そういえば10人ブッ殺したこと俺に擦りつけただろ」

(^ω^)!?


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

( ^ω^)「流石だお! いの一番に10人ブッ殺してる奴は違うお!」

('∀`)「へへっ」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


('A`)「流した俺も悪いけど、ちゃんと訂正してお詫びしろよな」

(^ω^)「なんか勢いで言っちゃったNE……」

('A`)「よくないぞ!」

 ブーンは>>599での誤った発言を撤回した。
 この10人については>>183が正であり、かくしてこの件は丸く収まったのだった。

.

660名無しさん:2022/05/04(水) 23:07:03 ID:iZuaE51Q0

≪3≫



川д川「……おや、お嬢様じゃないですか」

ξ゚⊿゚)ξ「ごめんね。邪魔しないから続けてて」

 所変わって荒野の特訓場。
 そこでは貞子が魔界へと続くすごい転送魔術を構築中で、全体的にすごかった。

川д川「ああいえ、作業自体はもう済んでますから。これは微調整という体の時間稼ぎです」

ξ;゚⊿゚)ξ「……色々察してるのね。時間稼ぎだなんて」

川д川「ワカッテマス相手に何かされるんでしょう? 応援していますよ」

 魔界の言葉を然るべき図形に収め、何もない空中に次々と展開していく貞子。
 いわゆる魔法陣的なそれを遠隔成形する彼女の技能に、ツンはしばらく目を奪われた。

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり貞子さんは凄いわね。魔術でプラネタリウム作っとるが……」

 大小無数の術式が出現と消失を繰り返すその中心には転送魔術の核が鎮座している。
 魔術の核は青く透き通った巨大水晶――のように見える、実体を得た魔術そのもの。

 単なる魔術なら大抵の魔物が習得可能だが、『魔術の実体化』ともなると習得者は限られてくる。
 平面的な作りから立体的な作りへの変遷。ここで大多数の者がふるいに掛けられてしまうからだ。

 つまり、すごい。

川д川「でもこれ1人でやる作業じゃないんですよ。とんでもないクソ案件でして」

ξ;´⊿`)ξ「実際やれてる人に言われても……」

.

661名無しさん:2022/05/04(水) 23:09:22 ID:iZuaE51Q0


川д川「それで私、話し相手になった方がいいですか?」

 作業の傍ら、貞子がツンをチラ見して軽く尋ねる。
 ツンは少し考えた様子を見せてから、貞子の隣に腰を下ろし、体育座りになって顔をうずめた。

ξ゚⊿゚)ξ「こんなの聞いても今更なんだけどさ」

川д川「はい、なんなりと」

ξ゚⊿゚)ξ「……私の知らないところで、どれくらい始末してたの?」

川д川「始末、というと――……」

 その質問が意味するところは明白だった。
 貞子は同時に彼女の意図を悟り、無意味に誤魔化そうとはしなかった。

川д川「そのこと、ワカッテマスから聞かされたのですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいえ別に。前から普通に察してたのだわ。
       みんなに気を遣わせると思って聞かなかっただけ」

 ツンは足を伸ばして上体を反らし、のびのびツンちゃん状態になった。

ξ゚⊿゚)ξ「さっきね、隠し事はやめようって感じでみんなと少し話し合ったのよ。
       正直まだまだ話し足りないんだけどさ、これは貞子さんに聞いとこうと思って」

川д川「……そうでしたか。上ではどんな話を?」

ξ-⊿-)ξ「内藤くんの身の上話と、勇者軍の目的と、……それくらいかな。
       やっぱりみんな、自分の隠し事を自分から話そうとは思わないわよね」

川д川「立場上どうしても言えない事もありますから。板挟み、というやつです」

ξ゚⊿゚)ξ「それも分かってるのだわ。誰でもそうだと思うけどね……」

.

662名無しさん:2022/05/04(水) 23:13:34 ID:iZuaE51Q0


ξ゚⊿゚)ξ「……勇者軍ってさ、あれからずっと街に来てたんでしょ?」

川д川

ξ゚⊿゚)ξ「一番最初の襲撃から今までずっと。
       でも、貞子さんとミセリさんがそれを始末してたのよね」

川д川「……はい、そうですね。その通りです」

 貞子が短く答えると、ツンはもう一度体育座りになって頬杖をついた。
 ツンはただ漠然と空を見つめ、何事も無かったかのように独白した。

ξ゚⊿゚)ξ「私の隠し事はこれなのよ。『気付いてる』って事をずっと隠してた。
       誰でもやってる普通の事だけどさ、ここが限界かなって」

川д川「……ちなみに、気付かれる切欠などはあったのですか?
     お嬢様には悟られないようにと、一応ミセリと気を配っていたので」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「ただの勘だけど……普通に気付かない?
      こんな状況でのうのうと暮らせる訳ないんだし。そこまでバカじゃないのだわ」

川д川「であれば、むしろ私達の方がお嬢様に見逃されていた訳ですね」

ξ゚⊿゚)ξ「それはお互い様よ。だから今更なのよ、全部」



ξ゚ー゚)ξ「……ていうか私、さっきから普通の事しか言ってないわね」

 ツンはどこか幸せそうだった。

.

663名無しさん:2022/05/04(水) 23:16:03 ID:iZuaE51Q0


川д川「――最初の襲撃から数えて46人。
     これが、お嬢様を狙って送り込まれてきた敵の総数です」

 貞子はすっぱりと言って作業の手を止めた。
 そこら中に展開されていた魔術の数々も途端に消え去り、空気がしんと静まり返る。

川д川「私の担当は索敵と死体の処理でした。迎撃はミセリが全て。
     幸い敵は少数での潜入に徹してましたので、ミセリが負傷する事もありませんでした」

ξ゚⊿゚)ξ「そりゃ相手は人間だもの。そこら辺は全然心配してないのだわ」

川д川「敵も段々大人しくなってくれたのですが、こちらの見通しが甘かったですね。
     防戦に徹する余り、敵に致命的な一手を打たれてしまいました」

ξ゚⊿゚)ξ「それもいいのよ。こっちから攻め込む訳にもいかなかったでしょ?
       私が嫌がるのが目に見えてたから、そういう事は極力避けてたのよね」

川д川「半分はそうですね。あと半分はロマネスク様の方針です」

ξ゚⊿゚)ξ
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「……半分か。ちょっと自意識過剰だったわね」ピョイン

 よっこらせ、と呟いて跳ねるように立ち上がるツン。
 制服のスカートを数回はたき、土埃を払って一息つく。

ξ;゚⊿゚)ξ「あーもう、なんか色々あって着替えもまだじゃないの。
       勢いだけでこっちに来ちゃったし、先に風呂入っとけばよかったのだわ……」

川д川「あ、お風呂だったら向こうに作ってありますよ」

ξ゚⊿゚)ξ「しゃにむに便利」

川д川「お湯もまだ熱いと思います。地面くり抜いただけの作りですが、よければ」

.

664名無しさん:2022/05/04(水) 23:20:40 ID:iZuaE51Q0


ξ-⊿-)ξ「そういう事なら失礼して、一風呂浴びて来ようかしら」

川д川「着替えはどうされます? お持ちしますけど」

ξ゚⊿゚)ξ「……ジャージかな。明日は動ける格好でやりたいし」

川д川「承知しました。適当なのを用意しておきます」

ξ゚⊿゚)ξ「ん、ありがとう」

 ツンは周囲を一望し、岩場の向こうに立ち上る湯気を見つけた。
 彼女は迷わず歩き出すも、貞子の次の一言がその足を止めさせる。


川д川「なぜ、私には言ったのですか?」


ξ゚⊿゚)ξ

川д川「それに、ああまで言って孤立する必要はなかったように思いますが」

ξ゚⊿゚)ξ「……やっぱり聞いてたのね」

川д川「聞いていなかった、とは言っておりませんから」

 どうして自分に聞いたのか、なぜ自分には隠し事を話したのか。
 そういう疑問を一纏めにした貞子の問い掛けに、ツンは笑顔で振り返って見せる。

ξ゚ー゚)ξ「貞子さん、いざとなったら私を裏切れるでしょう?」

川д川「――そんな、まさか」

 一瞬の間が全てを物語る。

ξ゚⊿゚)ξ「強いて言うならこれが理由。でも勘違いしないでね、信用してるって意味だから」

 ズルい言い方をしている、と自覚しながら答えるツン。
 取って付けるだけで聞こえが良くなる簡単な言葉を、彼女は沢山弁えていた。

.

665名無しさん:2022/05/04(水) 23:25:13 ID:iZuaE51Q0


ξ゚⊿゚)ξ「……私は1人でワカッテマスさんを言い包めるしかないのよ。
      魔眼相手に杞憂って事は無いし、つけ入る隙は極力減らしたいのだわ」

ξ゚ー゚)ξ「ほら、みんなって私が頼ったら応えちゃうでしょう?
      ていうか私がそう思ってるから、こういう甘えを突かれたくないのよね」

川д川「ワカッテマスはそんなこと言いませんよ。使えるものは全て使え、というタイプですから」

ξ-⊿-)ξ「私もそうは思うけどね。弱味になりかねない手札は使えないじゃない」

川д川

 この瞬間、いとも呆気なく『使えない手札』として切り捨てられた者達を思う貞子。
 それでも彼女は言葉にはせず、極めて打算的な形でツンの話を受け止めていた。

ξ゚⊿゚)ξ「その点、貞子さんに話す分には大丈夫だと思ったの。
       理由はさっき言った通りだけど、これで答えになってるかしら?」

川д川「……ええ。十分です」

 しかし、と貞子は語尾に続ける。

川д川「今の話をみんなにしても、間違いではなかったと思いますよ」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「それは、明日分かる事なのだわ」

 ツンは強かに囁いた。

.

666名無しさん:2022/05/04(水) 23:26:22 ID:iZuaE51Q0



          #09 ツンちゃん寓意譚-ステラーカイギュウ


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