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ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです

1名無しさん:2020/10/14(水) 17:28:46 ID:YvZFQxxU0

         タクシー
      (゚」゚)ノ
    ノ|ミ|
     」L
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        _/ ̄ ̄\_
       └-○--○-┘=3

559 ◆gFPbblEHlQ:2021/12/20(月) 19:02:54 ID:xDJkNY0g0

≪1≫


 その日の朝は妙に寝覚めがよく、午前6時にはすっかり目が覚めてしまった。
 二度寝したいのは山々だったが、健康ランドでしこたま健康になった体がそれを許さなかった。

ξ´⊿`)ξ(肉体そのものが健康という概念に耐えられない……)ムクッ

 私は「仕方ねえ起きるか」という気持ちで寝床を転げ出た。
 洗面所に寄ったり諸般もたもたしつつリビングに向かうと、なぜかそこにはドクオの姿があった。
 朝から縁起が悪い。

ξ゚⊿゚)ξ「え、なんで居るの」

('A`)「仕事だよ。お前のお守り、また再開するだってさ」

 ドクオは私の前を横切ってソファに座り、これまた真剣な表情でテレビを見始めた。
 しかもそれは海外のニュース番組を翻訳してるタイプの、なんかガチっぽいやつだった。

ξ゚⊿゚)ξ「えードクオ朝からそんなん見るの?」

('A`)「……たまにはな」

 人の生死やガチ目の紛争、政治宗教などがオブラートなしバイアス強めで語られるニュース番組。
 私も一緒になって10秒そこそこ眺めてみたが、朝から見るには随分と重たい内容が続いた。
 朝は2000年代中期の15分アニメを見るのが一番だというのにな。しゃらくせえ時代だよ。

ミセ*゚ー゚)リ「お嬢様、おはようございます」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、ミセリさんおはよ〜」

 挨拶がてらキッチンから出てきたミセリさん。その片手には朝食を盛った大皿が3枚乗っていた。
 空いてる手にも1枚あるので計4枚である。こっちもこっちで朝から重いな。

ミセ*゚ー゚)リ「今朝はサンドイッチですよ。沢山あるので死ぬほど食べてくださいね」

ξ゚⊿゚)ξ「死の引用が軽すぎる日常」

 時間的にはかなり余裕だが、やることもないので優雅に朝を過ごすとしよう。
 私は部屋に戻って身嗜みを整え、学校の制服に着替えてから朝食に立ち向かった。

.

560名無しさん:2021/12/20(月) 19:03:16 ID:xDJkNY0g0


ミセ*゚ー゚)リ「……お嬢様、少し大事な話があります。
      そう大した事でもないのですが、食べながら聞いてもらえますか」

ξ゚⊿゚)ξ「モグモグなのだわ」

 食事中、私はテレビを見ながら軽く頷いた。
 今見ているのはデパ地下の最新グルメ情報である。ドクオからはチャンネル権を奪った。
 当のドクオはグルメ情報には興味が無いらしく、ラグに寝転んで以降ずっと天井を見ている。

ミセ*゚ー゚)リ「まず、お嬢様は無事に試験を突破されましたよね。
      それで証明できた事は2つ。ご自身の成長と、人間相手に戦えるという事実です」

ξ゚⊿゚)ξ「しゃにむに示してしまったよな、それらを」

ミセ*゚ー゚)リ「……単刀直入にお聞きします。
      お嬢様にとって、人間という生き物はなんですか?」

ξ゚⊿゚)ξ



ξ゚⊿゚)ξ「なっ」

ミセ*゚ー゚)リ「人間は敵です。少なくとも、私には」

 なんですかって、なに? と綾波ぶって聞き返そうとした途端ミセリさんの私見に先を越される。
 人間は敵。そう断言した彼女の表情は、しかし普段通りの朗らかさを保ったままだった。

ミセ*゚ー゚)リ「でも、だからって積極的に敵を――人間を排除する訳ではありません。
       ただ私は、襲ってきた相手は例外なく敵として迎えます。人間も、魔物も、すべて」

ξ゚⊿゚)ξ「……あなたはそこまで薄情じゃないのだわ」モグモグ

ミセ*´ー`)リ「襲ってきたらの話ですよ。ですので普段は大人しくしてるでしょう?
       私達だって侵略目的でここに居る訳じゃありません。……そうですよね?」

ξ゚⊿゚)ξ「……もちろんなのだわ。戦う理由はない、だから人間は敵じゃない。
      そりゃ勇者軍みたいなのは敵だと思うけど、それでも――」

 ミセリさんのように白黒を分けることはできない。
 そもそも主語がデカすぎるのだ。こんな話、どうやったって粗が出てくる。

.

561名無しさん:2021/12/20(月) 19:06:30 ID:xDJkNY0g0


ミセ*゚ー゚)リ「――それでは、お嬢様には宿題を出しておきます。
       今日帰ってきたら答えを聞かせてください。いいですね?」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、この話って何? 本当になんなの!?」モグモグモグ!??!?!?

ミセ*゚ー゚)リ「だから大した話じゃないですってば。
       ただなんというか、あの試験には私も思う所がありまして……」

ξ;´⊿`)ξ「ウグゥー!」

 繰り返しになるが、先日の試験は私の実力だけで突破したとは言い難い内容である。
 私のことを誰よりも長く鍛えてくれたミセリさんだ。心配する気持ちもひとしおなのだろう。

ξ;゚⊿゚)ξ(ミセリさんを安心させるには、筋肉……!)

 しばらくは魔力絡みの特訓に集中したかったが、この感じだと物理の時間も削れそうにない。
 せめて寝る時間だけは確保しよう。半ば放心しつつ私は覚悟した。

ξ゚⊿゚)ξ「で、宿題ってどんな内容なの? 今日から10トンの重りをつけて生活とか?」

ミセ*゚ー゚)リ「それやると地盤沈下の擬人化になっちゃいますよ」

ξ゚⊿゚)ξ「そうだねx1」

 このくだり完全に要らなかったな。

ミセ*´ー`)リ「いいですか、今日お嬢様が帰っきてたらまた同じ質問をします。
       そこでもう一度答えを言って下さい。宿題はそれだけです」

ξ゚⊿゚)ξ
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「……人間という生き物について? だったら答えも同じになるけど」

ミセ*゚ー゚)リ「それならそれで構いません。考えること自体が宿題みたいなものですし」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「……そう。分かったのだわ」

 なんか本題をはぐらかされてるな、と思う。
 しかし追及するにもネタがなく、私はサンドイッチをモグモグするしかなかった。
 朝食シーンは以上です。

.

562名無しさん:2021/12/20(月) 19:13:00 ID:xDJkNY0g0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


('A`)「……本当にいいんですね、学校なんか行かせて」

ミセ*゚ー゚)リ「ええ。こっちで話すと逆効果にもなりかねないから。
       最低限の前置きはしたし、あとは自分で受け止めてもらうわ」

('A`)「あいつの夢を壊すと思いますけど……」

ミセ*゚ー゚)リ「せめて教訓にしておきたいのよ。どうせ壊れるものならね。
       まぁワカッテマスにも同意は取ってあるから。護衛、気を抜かないでね」

('A`)「…ッス」



〜ξ゚⊿゚)ξ「おまたせ〜」トテチテツン

 薄化粧をバッチリ決めて玄関に向かう私こと魔王城ツン@美少女。
 時刻は7時を回ったくらいと、遅刻に始まった第一話を思うとすごい大躍進だった。
 いや〜順風満帆ってこういう事なんだな。このまま人生のうまあじを味あわせてほしい。

うまみ自警団「うまみ自警団だ!!!!!!!!!!」

味わわ警察「味わわ警察だ!!!!!!!!」

ξ゚⊿゚)ξ「それじゃあ優雅に登校していくのぜ」

ゆっくり霊夢「ゆっくりしていってね」


('A`)「一応聞くけどさ、お前世界史の宿題忘れてないよな?」

ξ゚⊿゚)ξ「なんぞそれ」

('A`)「いやほら、モナーが最近バックレてるからって色々出されたろ。
    今日から代理の教師が来るとかって話だし。聞いてなかったのか?」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「そんな描写どこにあったのよ……」

 私達はすぐさま家を出て学校に駆け込んだ。
 まゆちゃんが先に来ていたので宿題を写させてもらった。
 無から生えてきた宿題を3行の描写で片付け、かくして私の学校生活は幕を開けた。

.

563名無しさん:2021/12/20(月) 19:14:23 ID:xDJkNY0g0

≪2≫


 登校後、ホームルームの時間になっても教師は現れなかった。
 担任のモナー先生に代わって誰かが来るとの話だったが、いかんせん音沙汰がない。
 新キャラ登場にちょっと身構え、猫を被っていたクラスメイトも次第にざわつき始めていた。

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとドクオ」ツンツン
  っ
 そういう私も周囲の喧騒に紛れてドクオに話しかけていた。
 本当は席を立ってまゆちゃんと話したかったが、なまじ距離があるのでドクオで妥協する。

ξ゚⊿゚)ξ「なんで来ないのよ先生」

('A`)「知らねえよ……」

 ドクオはふてぶてしくそっぽを向いて机に伏せた。
 ええいまったくドクオだな。頭上で消しカスを量産してやろう。



「……いや、やっぱアレだろ……」

 そのとき、クラス内の誰か(モブ)が答えを匂わせる一言を呟いた。
 私はすぐに耳をそばだてたが、クラスメイトの騒ぎが邪魔で上手く聞き取れない。

「それで職員会議するって顧問が――」

「ほら、あっちの学校とか……」

「――もう情報出回ってんじゃん」



ξ゚⊿゚)ξ

 友達が少ないせいで周囲のひそひそ話に加われない私は魔王城ツン。
 そりゃ金髪ドリル美少女は異端だろうけど少しくらい声かけてくれてもよくないか。
 意図せず居た堪れない気持ちになってしまった。私もドクオみたいに寝たフリをしよう。

.

564名無しさん:2021/12/20(月) 19:15:59 ID:xDJkNY0g0


ξ´⊿`)ξ「ああ〜昨日夜更しして今日も早起きだったから眠くて眠くて――」

 「――魔王城さん、もしかしてニュース見てないの?」

 自然な形で寝入るため、自然な形で布石を撒いていた私に誰かが話しかけてきた。
 やれやれやれやれ仕方ないな私は寝たかったんだけど呼ばれたら起きるしかない。
 私は隣に現れた人影を見上げ、親の顔より見た毛利まゆちゃんのご尊顔を拝見した。

ξ゚⊿゚)ξ「ああ〜おはようまゆちゃん。さっきは宿題ありがとね」

 「うん、ごめんね寝るとこだったのに」

ξ゚⊿゚)ξ「そうなんすよ(笑)」

 にしてもまゆちゃん、あんな窓際最後尾の涼宮ハルヒ席から話しかけに来てくれたのか。
 しかも現在クラス内で席を立っているのはまゆちゃんだけだ。
 正直すごく目立っているし、更にその行動はファーストペンギン的な影響まで周囲に及ぼしていた。

ξ゚⊿゚)ξ(……ああ、秩序が)

 彼女が席を立った時点で 『噂の先生が来るまで席で待とう』 という暗黙の了解は消滅。
 クラスメイト達は我先にとスマホを持ちだし席を離れ、控えめの声量で自由を謳歌し始めた。
 亀裂が入ればあとは一瞬。人間社会の秩序など簡単に崩壊するという事だな。

.

565名無しさん:2021/12/20(月) 19:18:48 ID:xDJkNY0g0


 「ニュース、見てないんじゃないかと思って」

ξ゚⊿゚)ξ「……えっ?」

 と、私が学級崩壊に目をくれている間。
 口辺に笑みを浮かべたまゆちゃんが私の視線を塞ぐように立ち位置を変え、改めて口を開く。

 にしても、小規模な学級崩壊を引き起こした女が無垢に話しかけてくるこの質感よ。
 色んな意味で感動を覚えてしまう。もしやこれがセカイ系の空気なのか?

ξ゚⊿゚)ξ「ニュースって何かあったの?」

 「あーやっぱり知らないんだ。今すごいんだよ? ニュースなんかそれで持ち切りだし」

ξ゚⊿゚)ξ「ほーん」

 「……でもさ、今の時代に魔物が出てきたんじゃ仕方ないよね。
  国が発表してるくらいだし、もう警察とか動いてるのかなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「はぇぁー魔物が」

ξ゚⊿゚)ξ「魔物が」

ξ゚⊿゚)ξ



ξ;゚⊿゚)ξ(……いや、それ、ダメなやつ)

 マジレス気味に脳裏で唱えたその瞬間、教室の扉が勢いよく開かれた。
 そうして顔を覗かせたのは隣のクラスの担任である。モブなので描写は割愛する。
 彼は教室内を無言で見渡してから、誰にあてるでもなくしゃがれた声で言い放った。

「体育館で全校集会だ。委員が整列させて、うちのクラスに続いて来てくれ」

 そう言い切って踵を返し、彼は教室内のざわつきを咎めもせずに帰っていった。
 最低限の指示。だがその声色は極めて深刻なものだった気がする。
 そうした機微にクラス内は浮かれ気味だったが、移動が始まる頃には誰も喋らなくなっていた。

.

566名無しさん:2021/12/20(月) 19:24:34 ID:xDJkNY0g0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ――移動が終わって今は体育館。

 冷たい床に放り出された生徒達の中、私はさっきの言葉を脳内で繰り返していた。
 魔物が出た。国が発表した。ニュースになっている――本当ならば超一大事だ。
 周囲の様子も加味すると、私の思考は嫌でも悪い方へと傾いていった。

ξ;-⊿-)ξ(……基本的に、魔物は人間の姿になって生活してるはず。
        擬態=魔人化を習得してなきゃ移動許可も出ないし、その検閲は徹底的なはず)

ξ;゚⊿゚)ξ(単独で移動するにも相当魔術に長けてなきゃ無理だし、その痕跡は絶対に残る。
       勝手に移動した奴が処刑されたなんて話、昔は結構あったらしいし……)

 きっとドクオやミセリさんはこの事を知っていたのだ。
 知っててあえて話さなかったのは、私に教えたとしても意味が無いからだろう。

 第二次現魔戦争が起こるか否か――これはそういう話に直結している。
 私の裁量でどうこうできる問題ではない。疎外感はあるが、仕方ないと思う。

.

567名無しさん:2021/12/20(月) 19:27:01 ID:xDJkNY0g0


 程なくして体育館全体にアナウンスが入った。
 魔物という立場上、これから先の話を思うと気が重くなる。

 アナウンスに続いて壇上に出てきたのはハゲの教頭先生だった。
 彼は台本らしき紙切れを持って演台に構え、悠長に口火を切った。

『――……えー、ニュースを見て知っている生徒も多いと思いますが』

『非常に残念なことですが、先日この日本で、魔物による死傷者が発生しました』

ξ;゚⊿゚)ξ(し、死傷者……!?)

 死傷者。その単語ひとつに現実が凝り固まる。
 教頭先生はしばし言葉を止め、生徒の反応を窺いながら続きを話した。

『50年ほど前、現魔戦争と呼ばれるものがありました。この日本も戦場でした。
 授業でも習っていますね。魔物というのはそれほど危険な生物なんです』

『それがまた現れたということで、昨日発表がありました。国の正式なものです。
 追々情報は揃うと思いますが、当校としても今後の対応を――』

.

568名無しさん:2021/12/20(月) 19:38:28 ID:xDJkNY0g0


「――おい!!!! 勇者軍? がなんか動くらしーぞ!!!!!!!!!!!!!!」

 瞬間、教頭の話を台無しにするようなおちゃらけた声が体育館に木霊した。
 実際その声は大騒ぎを目論んだ陽キャの煽動であり、続く言葉もバズ狙いの大声だった。

「なんか全員に配るとか言ってっけど……これロボットじゃねええの!!??!!!!?!?」

「……うわマジじゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「戦争がはじまる……ってコト!?!???!?」

 端に居た教師が数人動きだし、クソ陽キャ生徒とそれに反応した奴らを懲らしめに向かう。
 前者は体育館の外に連行され、後者も整列からつまみ出されて怖い体育教師の近くに座らされた。
 それは10秒足らずの一幕であったが、当の魔物である私をビビらせるには十分なイベントだった。

ξ;゚⊿゚)ξ(し、心臓に悪い……!)ズキズキ

 非日常感に狂った人間、実際目の当たりにすると恐怖しかない。
 デビルマンみたいな展開が他人事ではないとよく分かった。みんな平和に生きよう。

 しかし、一度火が点いた民意はそう簡単には静まらなかった。
 先のイベントに扇動された全校生徒が一斉に噂話を始め、形のない喧騒で体育館を震わせる。
 大人数が打ち合わせもなく同じ行動を取るのは壮観ではあったが、いや本当に居心地が悪い。

 勇者軍が動く。ロボットが配られる。戦争が始まる。
 いや待てなんだロボットって。私だって頭が沸騰しかけてるんだが。情報が足りなすぎる。

ξ;゚⊿゚)ξ(くっ……! 私だけ出遅れてるのだわ、情報弱者なのだわ……!)

 だが残念なことに私はコミュ障である。この状況で聞き込みができるほど機敏ではない。
 華奢で可憐で美少女だしな。
 今は周囲の会話を盗み聞きする程度で抑えておこう。私は魔物だ、ボロを出す訳にはいかない。

ξ゚⊿゚)ξ …!

 そんな感じでキョロキョロしてると、視界の端にまゆちゃんが映った。
 どうやら彼女は私の方をずっと見ていたらしく、その視線に応えると小さく手を振って返してくれた。
 陽キャの扇動から始まった騒ぎに気をやられたのだろう。彼女は苦笑いで首を傾げていた。

ξ゚⊿゚)ξ(むっ、セカイ系の気配……!)

 『黙れ』という旨の放送が入るまでの数秒間、私達は日常を求めて目を合わせたまま過ごした。
 そこには大変ジュブナイルな質感があり、よかった。

.

569名無しさん:2021/12/20(月) 19:47:16 ID:xDJkNY0g0





『……皆さんが静かになるまで2分かかりました。
 今の2分を魔物に与えたら、恐らく殆どの生徒が成す術なく殺されるでしょう』

 生徒がみんな死ぬ、なんて例えを軽々しく出せる教職者はそう居ない。
 教頭という立場であれば尚更言葉は選ぶだろうに、選んだ結果がこの切り口なら大したものだ。
 先ほどの騒ぎが尾を引いて教頭を「カッケぇ〜」と茶化す生徒も居たが、居るので仕方ない。

『それは教師も同じです。情けない話ですが、魔物が出ても私達では皆さんを守れません。
 自分の身は自分で守る。その為にも今はとにかく落ち着いて、複数人で協力して行動することです』

『さっきのような発言こそが、こういった緊急事態中における最大の障害物なんです。
 幸い国の動きは迅速ですから、集団行動を乱すような言動は謹んで――』

 特定の生徒を悪者にする発言すら解禁して行われる切実な注意喚起。
 だがその言葉尻はまたしても遮られ、今度は放送室から校舎全体に向けての呼び出しがあった。

 天井付近のスピーカーから大きなノイズと荒い呼吸音が流れ出てくる。
 誰かのイタズラという感じではない。事の緊急性はその息遣いだけで理解できた。

『……しゅ、集会中に失礼します。手が空いている教師は至急、職員室に戻って下さい』

『電話対応が間に合っていません。また来校されている保護者の方も多く、……』

 その途端、教頭はマイクに顔を寄せて言った。

『全校集会はここまでとします。皆さんはここでしばらく待機してください。先生方は集まって』

 私は教頭のアドリブを完璧な判断だと思った。
 しかし彼の即断は生徒から反感を買ったらしく、こちらもまたザワザワと騒ぎ始めてしまった。

 それを横目に教師陣が打ち合わせを終え、各種対応のため体育館を後にしていく。
 教師は半分居なくなったが、残った精鋭コワモテ教師が怖かったのでみんな黙った。

ξ゚⊿゚)ξ …

 以降30分、ひどく居た堪れない沈黙が続いた。
 自分だけが仲間になれないその群れの中で、私はずっと息を殺して顔を伏せていた。

.

570名無しさん:2021/12/20(月) 19:50:12 ID:xDJkNY0g0

≪3≫


 〜30分後〜


「あ、おかえりなさい」

 体育館から教室に戻ってくると、見知らぬ女教師が教壇に立っていた。

ξ゚⊿゚)ξ「……?(誰よアイツ……見ない顔ね……)」

 クラスのみんなも彼女に対して「えっ誰」と口々に呟いている。
 とはいえその正体は半ば自明で、クラスの興味関心は分かりやすく彼女に集まっていた。
 職務放棄をエンジョイしているモナー先生の代役。心当たりはそれくらいしかない。

「みんな意外と落ち着いてるねー。私けっこう緊張してるんだけどな、こんなタイミングだし」

 彼女は出欠表と私達の顔を見比べながらペンを走らせた。
 ちなみに今日うちのクラスに欠席者は居ない。
 見れば分かる事だろうに、彼女は私達の顔と名前を覚える為にあえて時間をかけていた。

 彼女は若い先生だった。幼い顔つきにメガネをかけ、鎖骨に届くサイドテールを左にさげている。
 明るい茶髪をしているが染めた感じではない。地毛なのだろうか、少し金髪も混じって見える。
 ロングカーディガン、膝丈スカート、黒タイツ。なるほどこいつはエレン・ベーカーのフォロワーだな。

「うんうん全員揃ってて何よりです。やはりモブキャラは雁首揃えてこそですね」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ !?

「はい先生! 出欠終わったんなら自己紹介してほしいです!」

 突然とんでもねえ事を言い放った先生をスルーし、1人のモブ生徒が声を張り上げる。
 他の生徒もそれに追従し、先生の自己紹介へと強引に話題を変えようとしている。
 お前らそれでいいのか。今すごいこと言ってたぞ。流石の私もあそこまでは言わないぞ。

.

571名無しさん:2021/12/20(月) 19:51:04 ID:xDJkNY0g0


「あー……ごめんね、先に言っとくべきだったね。私は別に新しい担任とかじゃないんだよ。
 今だけの臨時っていうか、モナー先生の代わりの代わりみたいな」

 好奇と期待の眼差しをぐっと遠ざけるように彼女は答える。
 しかしその様子は一見して誘い受け。好奇心に駆られた若人を止めるには力不足だった。

「えっとね、だから自己紹介とかする意味ないんじゃないかなーって。
 私が任されてるのって注意喚起のホームルームだけだし、……あの、始めていい?」

「ダメです!!」

「え、えー……!」

 四方八方に汗マークを飛ばしてそうな慌てぶりが生徒達の嗜虐心をさらに煽る。
 この辿々しい感じは新米で間違いないな。私は目の保養をしながらそう思った。

「――分かった分かった! もう自己紹介するから! 私は」

.

572名無しさん:2021/12/20(月) 19:55:40 ID:xDJkNY0g0






「ということで、今は国全体が対応に追われてるから、みんなも落ち着いて行動してね」

「特に夜中は出歩かないこと。魔物に会ったらまず助からないんだからね?」

ξ゚⊿゚)ξ

 はーい、とまばらな返事が空を飛び交う。
 今なんか文脈が消し飛んだ気がする。と言ってもクラス内にさしたる異変はない。
 ドクオをチラ見してもただのドクオだし、本当に何も起こっていないようだった。

ξ゚⊿゚)ξ …?

 きっと通りすがりのキング・クリムゾンだろう。
 私は魔法の言葉、まぁいいかを唱えて思考を差し止めた。


 名も知らぬ新米教師いわく、事態を重く見た保護者も学校側に色々直訴しているらしい。
 少なくとも今日は臨時休校。明日以降のことはメールやLINEで一斉送信されるとのことだった。

「それじゃあ私の仕事はここまで! 短い付き合いだったけど楽しかったよ!」

 彼女は元気よく言って教壇を降りた。
 若く瑞々しい教師の退場を惜しむ声が方々から湧いてくる。男子のそれは殊更痛切であった。

「――捨てたんですね、全部」

 最後の最後、去り際のほんの一瞬。
 彼女は教室の扉を閉めながらじっと私の方を見て、よく分からないことを口にしていた。

ξ゚⊿゚)ξ ?

 よく分からないので、私も他のみんな同様にスルーを決め込むことにした。

.

573名無しさん:2021/12/20(月) 20:00:19 ID:xDJkNY0g0


 彼女が去った後、本日休校との報せが校内に響き渡った。
 門限は1時間後。夕方頃には今後の対応を連絡する。
 保護者を呼べる人はなるべくそうして、まとまって帰るよう校内放送が繰り返される。

ξ;゚⊿゚)ξ「えー宿題やったの完全に無駄なのだわ……」

('A`)「丸写しの宿題で何言ってやがる。文句言うなよ」

ξ;-⊿-)ξ「じゃあもう帰って寝ちゃおうかしら。普通に睡眠不足だし……」




 「あっ……魔王城さん、帰るの?」

 と、私の当て所ない独り言がどこぞの誰かにキャッチされた。
 というか慣例的にまゆちゃんだった。もう構ってくれすぎて泣きそうだった。慈悲。
 振り返ってみると彼女の手には弁当箱がある。言いたい事はなんとなく察しがついた。

 「あの、お弁当、せっかくだし一緒にどうかなって……」

ξ゚⊿゚)ξ「別にいいけど、朝は食べてないの?」

 「食べてきたけど、いつも5時には朝食済ませてるから……」

 花の女子高生が修行僧みたいな生活してるんだなぁ。
 ともあれせっかくのお誘いだ。ミセリさんのサンドイッチは学校で食べていくとしよう。
 かくして私達は机を寄せ合い弁当箱を広げるに至った。

( ^ω^)「こんな時にメシ食べようって発想、逆にすごいお!」

('A`)「肝が座ってんなあ」

 内藤くんを含めた計4人で各々メシを食べ始める。
 他のクラスメイト達も帰ったり駄弁ったり陰謀論に花を咲かせたり、自由だった。

.

574名無しさん:2021/12/20(月) 20:03:24 ID:xDJkNY0g0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 「なんか一気に大騒ぎだよね。魔物が出た〜ってさ」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね」

 「死傷者が出てたなんてさっき初めて聞いたよ。
  まだ見てないけどニュースもすごいんじゃない?」

('A`)「わりとマジですごいぞ。特に年寄りの反応がすごい」

 「そうなの? やだなぁ、こういう時って火事場に紛れる人が一番怖いよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「……このニュース、ドクオは最初から知ってたの?」

('A`)「そりゃ昨日の速報をリアタイしてるからな。お前の視界にも入ってただろ?」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「マジで?」

(;'A`)「マジだよ。お前、本当に一切知らなかったのか……」

 という事は、昨夜健康ランドで見てたやつがそうだったのか。
 早く教えてくれればよかったのに。いやでも本当に目の前で見てたしな、言い返せない。


( ^ω^)「魔物めちゃくちゃこえーお!!!」モグモグ

 「……内藤くん、最初からそんなキャラだったっけ?」

( ^ω^)「いつも通りだお!!!!!!!!」

.

575名無しさん:2021/12/20(月) 20:07:07 ID:xDJkNY0g0


ξ゚⊿゚)ξ「……まゆちゃんもやっぱり怖い? 魔物とか、色々」

 「私はー……どっちかって言うと人間かな」

 話に沿って尋ねてみると、まゆちゃんは先程と同じように『人間の方が怖い』と答えてくれた。
 ここは魔物に対する印象を言ってほしかったのだが、これ以上踏み込むのは私が無理だった。
 彼女の口から魔物への罵詈が出てきたら多分泣いてしまう。そっとしておこう。

 「現魔戦争の時代からたった50年だもんね。
  年数的には一世代も跨いでないんだもん。戦争になったりするのかなぁ」

ξ;゚⊿゚)ξ「き、きっと大丈夫よ。そのうち収まってくれるのだわ」

 「だといいけど、今の政治家ってもろに戦争経験者だしねぇ……」

ξ;´⊿`)ξ「ああ、昨今のヤングは老人を信頼してないから……」

 だとしても、今この地上には魔王軍の精鋭とワカッテマスさんが来ているのだ。
 彼らであれば間違いなく対応に当たっている。簡単な解決であれば数日も必要ないだろう。


ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ

 ――簡単な解決? 私、いま何を考えた?


( ^ω^)「あ、死傷者の内訳が出てるお。現在死者1名だってお」コトッ

 不意に、スマホを見ている内藤くんが安易な解決を想像した私に冷水を浴びせてきた。
 机に置かれた彼のスマホにはyoutubeのニュースチャンネルが表示されている。
 速報と銘打たれた動画が数分前にあげられていた。内藤くんが画面をタップし、それを再生する。

.

576名無しさん:2021/12/20(月) 20:10:39 ID:xDJkNY0g0


 『魔物の第一発見者として通報を行った70代男性の死亡が、遺族の意向により公表されました』

 『男性は地元猟友会に所属しており、昨晩もヒグマ出没の通報を受けて出動していたとの事です』

 『男性が魔物に遭遇したとされる時刻は午後11時頃、同猟友会の数名と山に入ったところ――』


( ^ω^)「この人、鳥獣保護法とか全部無視して魔物に発砲したっぽいお。
      年齢的にもそういう世代だし、魔物相手に血がのぼったのかもNE……」

 内藤くんは動画を止めて適当なニュースサイトに画面を切り替えた。
 それをパッと見ただけでも似通った文言がスクロールいっぱいに立ち並んでいる。
 見分けはつかないが、大半が魔物関連のトピックであることは明らかだった。心臓が痛い。

('A`)「死傷者とか言っといて具体的な数字は後出しか。人道的配慮も使いようだな」

( ^ω^)「同感だお」

ξ゚⊿゚)ξ「……これ、実際何人くらい巻き込まれてるの?」

('A`)「知らねえよ。巻き込まれたってだけなら猟友会とか近くの住民、とにかく沢山だろ」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや、そりゃそうだけど……」

 ……微妙に腑に落ちない。だってこれヒグマと魔物が同レベルで遭遇してるんだぞ。
 そりゃ人間視点ならこれでいいのかもしれないが、どう考えても私には違和感が残った。

.

577名無しさん:2021/12/20(月) 20:14:26 ID:xDJkNY0g0


ξ;゚⊿゚)ξ「ねえドクオ、昨日の速報ってどんな内容だったの?」

('A`)「魔物が出たから国が動くって話だよ。自衛隊を動かすとか何とか」

ξ;゚⊿゚)ξ「場所は? この国のどこに魔物が出たの?」

('A`)「……そういや、昨日のニュースじゃ都内って言ってたか?」

( ^ω^)「言ってたお」

 ドクオと内藤くんが顔を見合わせる。彼らも違和感に気付いたようだった。
 私は深く息を吐き、逸る気持ちを抑えつつ考えを口にした。

ξ;-⊿-)ξ「……ヒグマって北海道のクマでしょ?
        都内で出たって話とは噛み合わないのだわ」

( 'A`)「そうだよな。自分で言ってて俺も気付いたが」

 てめぇドクオ私の名推理に便乗しやがったな。

( ^ω^)「てことは、東京と北海道で別々の魔物が出たって事かお?」

ξ;゚⊿゚)ξ「いいえ、もしそうだったら都内の情報が少なすぎるのだわ。
       多分このニュース、私達がここまで気付くのを想定したうえで――」

('A`)「――おいツン、今はメシだろ。時間もねえんだから急いで食おうぜ」

 持論の展開に熱が入ってくるや否や、ドクオは的外れな注意で私の話を遮った。
 続けて視線でまゆちゃんを指し示し、人前で話しすぎだと暗に諌められる。
 確かにまゆちゃんを置いてけぼりにしてしまった。この話は一旦胸に秘めておこう。

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578名無しさん:2021/12/20(月) 20:16:54 ID:xDJkNY0g0



 「……思ったんだけどさ、魔物ってこの50年間どうしてたんだろうね」

 しかしまゆちゃんはこちらの気遣いを察したのだろう。
 自分のせいで会話が止まるのをよしとせず、彼女はおもむろに話を続けようとした。
 そうなんだよな、まゆちゃんってこういう子なんだよな。モブキャラなのに健気で泣けてくる。

 私はドクオに目配せをして確認を取ってから、ゆっくりと彼女に聞き返した。

ξ゚⊿゚)ξ「……どうしてそう思うの?」

 「だってさ、そうやって隠れてたって事はいつでも攻撃できたって事でしょ?
  だからちょっと不思議に思って。その魔物、意外と普通に暮らしてたんじゃないかな?」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ*゚⊿゚)ξ「まゆちゃん……!」

 なんて冷静かつ穏健なスタンスなんだ。
 人間みんながこうならいいのにな。無理か。悲しいな。

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579名無しさん:2021/12/20(月) 20:18:19 ID:xDJkNY0g0


 「きっと魔物の中にも温厚なのが居るんだよ! でなきゃ何十年もこっちで暮らせないって!
  どうにか和平交渉とかできないのかな、戦争なんて時代でもないんだし……」

ξ゚⊿゚)ξ(そうなのよ、手を取り合えればみんなハッピーなのよ……)モヌモヌ

 私は心内で同意しつつサンドイッチを食べ進めた。
 きっと彼女は例外だろうが、人間側からこういう話が出てくるのは本当に嬉しかった。
 机上の空論でも絶望を語るよりはずっとマシだ。心の友よ……。
                                        
 「――そうだ、魔王城さんは魔物が現れたらどうする?
  わるいスライムじゃないよ〜的な感じだったら話聞いてみる?」

ξ;゚⊿゚)ξ「え、スライム基準で考えるの……?」

 私は答えに迷って目を泳がせた。
 だって私がその「わるいスライムじゃないよ」を言ってる魔物なのだ。答えに困る。

 「私だったら話くらいは聞いちゃいそうだなー。
  会った時点でほぼ詰んでるみたいだし、逆に気楽かも」

ξ;゚⊿゚)ξ「そこは普通に逃げてほしいのだわ」

 「じゃあそうなったら魔王城さんに助けを求めるよ!
  その時はちゃんと受け取ってね、最後のエメラルド・スプラッシュを」

ξ;´⊿`)ξ「それ助けに行っても間に合わないやつ……」

.

580名無しさん:2021/12/20(月) 20:20:19 ID:xDJkNY0g0



 「――助けてね」


ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「えっ?」

 「……えっ? あ、もしかして本気っぽく聞こえちゃった?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、いや、なんか緩急がすごいから」

 今のまゆちゃん、花京院典明を引用した直後とは思えないガチトーンだったな。
 私も咄嗟のことで上手い切り返しができなかった。私がコミュ障だから……。

「えっと、立場が逆なら私も助けに行くから〜って流れをキメようかと……」

ξ;´⊿`)ξ「そうなのね、こんな状況だから少し真に受けたのだわ。すまぬ……」

 「あはは、仕方ないよ。私だってこの空気にアテられてるしね。
  多分これからもっと大変になるよね。心頭滅却、落ち着いて行動しなくちゃ」

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ大丈夫よ。呼んでくれたらいつでも駆けつけるのだわ」

 「本当? 助けに来てくれる?」

ξ゚⊿゚)ξ「そらもう白馬の王子様よ」パッカラパッカラ


( ^ω^)「風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに」

('A`)「工作員や邪魔は入るだろうけど、絶対に流されるなよ」


 「2人もやっぱりそう思う? 情報社会だもんねー生きづらさしかないよ〜」

( ^ω^) ('A`)

ξ゚⊿゚)ξ「そうだねx1」

 ネットミームを持ち出して女子高生にマジレスされる哀愁は筆舌に尽くしがたいな。
 そろそろ門限が迫ってきている。よーし帰るぞ!

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581名無しさん:2021/12/20(月) 20:23:44 ID:xDJkNY0g0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 「それじゃあ私は親が来てるから。みんなまたね」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。まゆちゃんも気をつけてね」

 かくしてまゆちゃんとは校門で別れることになった。
 彼女は校門近くに路駐していた黒いミニバンに乗り込み、車内からこちらに手を振ってくれた。
 なんていい子なんだ。私は清楚かつエレガントに手を振って見せた。

('A`)「こいつ急にしおらしくなったな」

ξ^⊿^)ξ「エロ本みたいなこと言わないで。車内の親御さんが見てるかもしんないでしょ」

(;'A`)「いやぁ今更だろ、お前の素行なんてまゆちゃん喋りまくってそうだけど……」

ξ^⊿^)ξ「別にいいのよ。礼儀は弁えてますって伝わればプラスなのだわ」

('A`)「なんでそういうクレバーさが日常的に発揮されないんだ……」

(^ω^)「残念なツン」

ξ^⊿^)ξ「内藤くん、そういう悪口は地味に刺さるのよ」

 まゆちゃんを乗せたミニバンが法定速度を遵守して走り去っていく。
 あとは私達も家に帰るだけだが、ここで私は棚上げにしていた問題を掘り返すことにした。

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582名無しさん:2021/12/20(月) 20:28:08 ID:xDJkNY0g0


ξ゚⊿゚)ξ「……ねえ、ちょっと駅の方に寄ってかない?」

('A`)「は? なんで」

ξ゚⊿゚)ξ「街の様子を見ておきたいのよ。ニュースの事とか色々調べたいし。
      ミセリさんにも宿題出されてるし、どうせドクオも指示受けてるんでしょ?」

 魔物発見というニュースは私達にとっては死活問題だ。
 しかしそんな一大事の中、呑気に学校に送り出された私の現状はもっと意味不明だ。
 こんな状況なら普通は家から出られない。そこで意味深になってくるのが今朝の宿題である。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ミセ*゚ー゚)リ「……単刀直入にお聞きします。
      お嬢様にとって、人間という生き物はなんですか?」

ミセ*´ー`)リ「いいですか、今日お嬢様が帰ったらまた同じ質問をします。
       そこでもう一度答えを言って下さい。宿題はそれだけです」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 一連のニュースを伏せたまま与えられたこの宿題。
 ミセリさんの狙いはおおよそ分かるが、にしても今は考える時間が欲しかった。

 つまりこれは『自分の目で確かめてこい』という感じの問答だ。
 現実を知った私がどんな答えを口にするのか、問いの核心も大体この辺にあるだろう。
 彼女の期待を外さない為にも、ここは一旦アドベンチャーパートに入らねばならぬのだ。

('A`)「……分かったよ。でも夕飯には帰るからな」

ξ゚⊿゚)ξ「適当に見て回るだけだから大丈夫よ。気が済んだらすぐ帰るのだわ」

(^ω^)「じゃあみんなでコメダ行くお!!!!!」

ξ゚⊿゚)ξ「いやよ」

(^ω^)

 まずは駅周辺の空気を見てみて、それから魔物出現のニュースを追っかけてみよう。
 何はなくとも人間観察である。私達は順路を変え、駅周辺へと繰り出した。

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583名無しさん:2021/12/20(月) 20:32:29 ID:xDJkNY0g0

≪4≫


 ――およそ半月前、勇者軍日本支部。


(-@∀@)「遅いぞ。俺を呼びつけといて何様のつもりだ」

 時系列的には#05-3の半月前、アサピーは雑務の合間にフードコートへと呼び出されていた。
 その呼び出しの為に捻出した10分間のうち、既に2分以上が無為に消えている。

爪'ー`)「いやすまん。普通に断られると思ってたんだ、用意が遅れた」

(-@∀@)「だったら聞き方を改めろ。時間を作れるか? なんて連絡を入れるな」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(-@∀@)「……作れるか、だと?」

(-@∀@)

(#-@∀@)「俺に作れねえもんはねえ!!!!!!」ドン!!!!!!!!!!!!!!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(-'@∀@)「ってなるんだから俺は」

爪'ー`)「でも『今暇か?』って聞くとガン無視されるしな」

(-@∀@)「はいはい残り7分ちょっとだ。本題の時間が消えちまうぞ」

 アサピーはテーブルに肘を置いてから続けた。

(-@∀@)「つっても見りゃあ分かるけどな。後ろのそいつは誰だ?」

 彼は首を伸ばしてフォックスの背後を覗き見た。
 フォックスはこの場に1人の男を連れてきていた。それは、見るからに若い10代の子供であった。

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584名無しさん:2021/12/20(月) 20:34:28 ID:xDJkNY0g0


爪'ー`)「そうそう、彼をお前に会わせようと思ってな。紹介するよ」スッ

 フォックスはそう言いながら道を開け、後ろに控えていた青年をアサピーの前に招いた。

(´・ω・`)

 垂れ眉を添えた温和な目元。一見して優男に見える幼い顔立ち。
 しかしその一方でアサピーを値踏みしている強かな気配。
 アサピーは彼の瞳に強い野心を感じ取っていた。

爪'ー`)「ショボーン君だ。先の襲撃においても偵察などで働いてくれた」

(-@∀@)「……ああ思い出した。お前、いつだか戦闘記録が見たいとか言ってきた奴だな」

(´・ω・`)「はい。その節はありがとうございました」

 ショボーンとして紹介された青年は必要十分なお辞儀をして言った。
 その間にフォックスは席につき、時間が無いと急かしてショボーンにも着席を命じた。
 彼に与えられた席はアサピーの真正面。残り時間は6分ほどだった。

爪'ー`)「簡潔に言う。このショボーン君を次の作戦に使おうと思っている。
     潜入捜査の成果があってな、魔王城ツンを捕獲するチャンスを作れそうなんだ」

(-@∀@)「捕獲だぁ? どうやって」

(´・ω・`)「毛利まゆという人間を人質にします。魔王城ツンの友人です」

 3人とも早口で会話していた。
 既に勝負は始まっていて、時間が来たら終わりだと全員が弁えていた。

.

585名無しさん:2021/12/20(月) 20:37:26 ID:xDJkNY0g0


(-@∀@)「人質なんざ街の人間全員でいいだろ。奴らは人間を守るぜ」

(´・ω・`)「ですが魔王城ツンを仲間にできる可能性があります。
      作戦の大筋には干渉しません。今言ったチャンスがひとつ増えるだけです」

(-@∀@)「おいフォックス、こいつ俺に意見しやがったぞ」

爪'ー`)「話を止めようとするな。分かってるだろ、向こうの戦力は未知数なんだ。
     厄介な相手は私が抑えるにしても、チャンスが多くて困ることはない」

(´・ω・`)「僕が毛利まゆを使って対象を呼び出し、人質交換でこちらに引き入れます。
      仮に失敗しても状況は有利。対象を孤立させられます」

(;-@∀@)「だからそんなアホみたいな呼び出しが通じる訳ねーんだよ。
       大体その毛利まゆってのはそこまで使える材料なのか?」

(´・ω・`)「断言できます。証拠が必要ならあとでいくらでも」

爪'ー`)「――残り5分だ。アサピー、彼の激化能力はお前のそれに似通っている」

 フォックスは折り返し地点で話題を切り替えた。
 2人もそれを止めなかった。

爪'ー`)「装備をくれてやってほしい。魔王城ツンと互角に戦えるだけの装備だ。
     そこまでやってようやく彼が使い物になる。露払いには私が付こう」

(-@∀@)

 アサピーは数秒だけ思考した。
 この手札を加える事で展開がどう変化するのか、リスクリターンは割りに合っているのか。
 今現在進めているプランとの並行は可能か、最終的な作戦の成否は何が決め手になるか――。

.

586名無しさん:2021/12/20(月) 20:39:14 ID:xDJkNY0g0


(-@∀@)「分かった」

 残り4分半になってアサピーが応える。
 次の瞬間、彼は白衣のポケットから折畳式のオセロ盤を取り出してテーブルに広げていた。

(´・ω・`)「……えっ、と」

(-@∀@)「3秒以内に打ってひっくり返せ。フォックス時間数えろ」

爪'ー`)「いいよ。ショボーン君、頑張ってね」

 両面白黒の石をテーブルにぶちまけ、乱雑に最初の4つを並べて先手番を済ませるアサピー。
 問答無用で始まったオセロ勝負。ショボーンは未だ呆気にとられていた。

(´・ω・`)

(;´・ω・`)「――ぼ、僕がやるんですか!?」


爪'ー`)「い〜」


(;´・ω・`)

(-@∀@)「俺に勝ってみろ」


爪'ー`)「ち」


(-@∀@)「王座の九人に加えてやる」

(;´・ω・`)「……ッ!」

 ショボーンは咄嗟に石を握り、3秒以内に盤面に打ち下ろした。

.

587名無しさん:2021/12/20(月) 20:40:43 ID:xDJkNY0g0


 〜4分後〜


(-@∀@)「んじゃ俺は仕事に戻る。今回のはツケだからな、ちゃんと埋め合わせろよ」

爪'ー`)「今日はいきなり呼んで悪かった。また頼むよ」

(;-@∀@)「だから頼むなっての! それで迷惑してんだから! ったく……」テクテク

 白衣を翻してフードコートを去っていくアサピー。
 その一方で、ショボーンは彼が盤上に残した『引き分け』という現実を受け止めきれずにいた。

(;´・ω・`)「……これ、僕の負けなんですよね」

爪'ー`)「ああショボーン君、オセロの結果は気にしなくていい。
     私もトランプとかであいつに勝てたことないしな。得手不得手の次元じゃないんだ」

(;´・ω・`)「いや、ですが……」

爪'ー`)「あいつにとっては単なるコミュニケーションさ。歓迎されたと思っておけばいい。
     今はひとまず作戦実行に備えておきなさい。健康第一、よく寝てよく食べることだよ」

 すれ違いざまにショボーンの肩を軽く叩き、フォックスもまた自分の仕事へと戻っていく。
 ショボーンはそれでも盤面に顔を寄せたまま、胸中の違和感にしかと向き合っていた。

(;´・ω・`)(最善手がぶつかり合った偶然だとすれば、分かるけど)

(;´・ω・`)(……こっちのイカサマを返されたのか?
      でもそんな動きは無かったし、引き分けになった理由がもっと分からなくなる……)



.

588名無しさん:2021/12/20(月) 20:45:11 ID:xDJkNY0g0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


(-@∀@)「――あのショボーンとかいうの。土壇場で目が濁るタイプだぜ。
       どう見繕っても大詰めには使えねえな。お前の買い被りだ」

爪'ー`)「発展途上なんだよ。我々も昔はそうだった」

 フードコートから場所を移し、2人は地下格納庫に続くエレベーターで再び鉢合わせていた。
 そうなるようフォックスが遠回りの道を選んだのだ。約束の10分を延ばす方法はこれしか無かった。
 立場のある2人の予定はそう簡単には被らない。話せるうちに話しておく、それが2人の鉄則だった。

(;-@∀@)「大体さぁ、オセロなんかでズルしても分かるだろ普通に。
       3秒制限だから待ったも入らないと思ったんだろうが、逆にバカだぞ」

爪'ー`)「そう言うなって、私としては面白い見世物だったよ。
     急に1列真っ白になったやつ、あれは本当に面白かった」

(;-@∀@)「ああ、最初にズル無しって言っときゃよかったな……」

爪'ー`)「まぁいいじゃないか。人手不足の中、やっと現れてくれた期待の星なんだ。
     お前も少しは妥協を覚えろ。完璧主義は時代遅れだぞ」

 iPad的なタブレット端末で雑務を処理しつつ、特に意味のない軽口を言い合う2人。
 エレベーターの降下につれて石油と科学薬品の臭いはどんどん複雑になっていく。
 アサピーはその刺激臭の内容を嗅ぎ分けて独りでに笑い、フォックスに生暖かい目で見られていた。

爪'ー`)「……にしても、向こうの魔術をどうにかしないと火の玉特攻すら計画できない。
     何より厄介なのは街全体を覆う結界だ。魔術というのは本当に忌々しい……」

爪'ー`)「まったく、最初の襲撃で決めきれなかったのが本当に悔やまれる。
     そうこうしてる間に向こうは戦力を整えてしまう。牛歩戦術が若干不安になってきたよ」

(-@∀@)「俺は知らねーからな。全部お前の指示だし、全部お前責任だから」

爪'ー`)



爪;'ー`)「そうなんだよ、そう思ったからこそショボーン君に目をつけたんだよ……!」

(;-@∀@)「……あーそう。お前その歳でかなり場当たり的だよな」

.

589名無しさん:2021/12/20(月) 20:47:44 ID:xDJkNY0g0


(-@∀@)「そういやあいつ、ショボーンの激化能力ってどんなモンなんだ?
       まだ確認してねえからここで教えてくれ。要点だけでいい」

爪'ー`)「彼の能力は『超人的な肉体』だよ。そこには思考能力も含まれている」

(-@∀@)「……思考か。だったら少しは俺に似てるな。考慮に入れとこう」

爪'ー`)「侮るなよ、あれの感覚は相当鋭いからな。薄っすらとだが魔力も分かるらしい。
     この状況下で情報収集を続けられてるのは彼だけだ。本当に貴重だよ」

(-@∀@)「下っ端諜報員の数少ない生存者だもんな。他の奴らは殆ど死んじまった。
       死亡前後の記録だけが奴らの成果だ。お前もちゃんとチェックしとけよ?」

爪'ー`)「当然だろう。見ていなかったら職務放棄じゃないか」

 フォックスはタブレット端末を暗転させ、小脇に抱えて壁に寄りかかった。
 手持ち無沙汰にカーディガンのポケットを探り、煙草の箱を転がしながら話を続ける。

爪'ー`)「……あの結界と人狼の組み合わせ、索敵も排除も迅速すぎて驚くしかなかった。
     私が潜入してもすぐにバレてしまうだろう。隠密行動は向こうが上手だ」

(;-@∀@)「ショボーンの魔力感知を体系化できりゃいいんだが、したところでなぁ」

爪'ー`)「構わないさ。第六感の共有なんて大仕事は次世代に任せればいい。
     今は赤外線と個々人の勘で間に合わせるしかない。気持ち的には竹槍兵さ」

(-@∀@)「……お前それ絶対に他所で言うなよ?
       うちは平気で火の玉特攻できる集団なんだからな。マジで気をつけろよ」

爪'ー`)「魔力の感じ方、ショボーン君に教わってみようかなぁ……」

.

590名無しさん:2021/12/20(月) 20:49:51 ID:xDJkNY0g0


(-@∀@)「……そんで件の結界だが、無力化の目処は一応立ってるぜ。
       ただし1回だけだ。本命の作戦はそっちで考えてくれ」

爪'ー`)「となると……残る問題は戦力差と世間体かな。
     全体の作戦時間にも関わってくる部分だ。まぁ最善を尽くすよ」

(-@∀@)「早めに頼むぞ。こっちもこっちでいい具合に煮詰まってんだから」

爪'ー`)「……その言い方だと、お前の 『本命』 は順調ということか?」

(-@∀@)「はは、まぁな」

 エレベーターが停止し、扉が開く。
 アサピーは先んじて通路に出ると、薄暗闇の中で振り返ってフォックスに言った。

(-@∀@)「気になるんなら少し見てけよ。ついでに面白い話も聞かせてやる」

 ニヤリと笑って顎で言うアサピー。
 その様子に胸騒ぎを覚えたフォックスは無言でエレベーターを動かそうとするが、動かない。

(-@∀@)「どうした故障か? 困ったなあ、修理には1時間掛かるぜ」

爪;'ー`)「……おいアサピー、私これから香港なんだぞ」カチカチカチカチカチ

 フォックスは閉ボタンを連打しながら強く抗議した。
 しかしアサピーは意に介さず、さも予定通りであるかのように態度を崩さなかった。

(-@∀@)「お前に会いたいっていう大口のスポンサーがもう来てるんだ。
       のこのこ俺を追ってきたお前が悪い。観念して巻き込まれろ」

爪;'ー`)「の、のこのこ……」

(-@∀@)「たまには実益を優先しろってことだ。先に行ってるからな」

 アサピーはたちまち歩きだして通路の奥へと進んでいった。
 彼の10分に対してフォックスが失う時間は60分。
 併せてスポンサーへの接待も加味すると、ツケの支払いとしては完全にぼったくりであった。

爪;'ー`)y-「……はぁ」

 エレベーターを降りるフォックスの手には早くも煙草の箱とライターが握られていた。
 ここで1本吸ってから行こう。接待用のテンションを作るため、彼は手早く煙草に火をつけた。

.

591名無しさん:2021/12/20(月) 20:55:26 ID:xDJkNY0g0

≪5≫


 〜 夜 駅ビルのドトール〜


ξ゚⊿゚)ξ

 昼を回って日没に差し掛かってくると、魔物に対する世間の反応はほとんど決まっていた。

(^ω^)「ドトール……とんでもねえオシャレスポットだお!!!!!」

('A`)「俺もそう思うよ」

 私たち魔物は社会的には外来生物の一種だが、その扱いは結構複雑になっている。
 多くの魔物が人間と同程度以上の知性を有しているため野生動物の定義には収まらない。
 だからといって知的生命体と見做せば人道的配慮が必要になってくるし、なんか色々難しいのだ。

 そうした小難しいあれこれを踏まえ、多くの人々は魔物の駆除を肯定ないし看過していた。
 要するに、社会はつつがなく魔物を排除する方向で固まってきているのだ。

 宥和政策やラブアンドピースを叫ぶ声も一応あったが、種族間戦争の歴史には到底敵わない。
 魔物は害悪であり危険な存在。色んな意見があるにせよ、土台にあるのはそういう考えだ。
 だから、この初動だけは本当にどうしようもないと思う。
 最初の出会いを間違えてしまった私達は、その地続きの現実で小賢しく生きるしかないのだ。

.

592名無しさん:2021/12/20(月) 21:01:12 ID:xDJkNY0g0


ξ゚⊿゚)ξ(期待してた訳じゃないけど、こうも綺麗に傾くものなのね……)

 にしても今日だけで何回ニュースサイトを見返しただろうか。
 速報の文字も見飽きてしまった。というか気疲れがすごい。
 こんなインターネットに毎日接続してたら脳が壊れてしまうぞ。ネコチャンでバランスをとろう。

       ,、,、
     〜(  ) ニャーン

(図1:抽象化されたネコAA)


ξ゚⊿゚)ξ「ああ〜」

 私はネコチャン動画コンテンツを吸ってバランスをとった。
 現代はいいよな。現実逃避のネタがいくらでも転がってやがる。

('A`)「……いい時間だ。もう帰ろうぜ」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ-⊿-)ξ「……それなら少し、日用品を買って帰りたいのだわ。
        多分これから品薄になるし、来れないから」

('A`)「ああそう。じゃあミセリさんには俺から連絡入れとくわ」

( ^ω^)「戦争特需? ってやつだお!!」

(;'A`)「いやまだ戦争始まってねえから。備えあればって話だよ」

( ^ω^)



( ^ω^)「――始まってるだろ。どう見ても」

 内藤くんは以前のような冷たい口調で言い切った。
 ドクオは何も言い返さない。私も大して異論はなかった。

 それから私達は会計を済ませ、日用品を求めて街を巡った。
 雑貨店、薬局、スーパーなど、やはりどこでも不自然な売り切れが出始めている。
 みんな何かに備えているのだ。件のニュースは今なお更新が続き、死者は4人になっていた。

.

593名無しさん:2021/12/20(月) 21:05:11 ID:xDJkNY0g0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 自宅に着いてもミセリさんの出迎えはなかった。
 それでもリビングの明かりは点いていたから、私はドクオと内藤くんを連れてリビングに入った。

( <●><●>)「……遅いご帰宅ですね。寄り道はいかがでしたか」

 中で待っていた燕尾服の魔物、ワカッテマスさんが私を見遣って口を尖らせる。
 ただでさえ圧迫感のある視線が今日は殊更重苦しい。あのニュースの後だ、当然だと思う。
 私は咄嗟に目をそらし、皮肉染みた含みのある彼の問いかけに応じた。

ξ;゚⊿゚)ξ「し、収穫はあったのだわ。買い物もできたし」

( <●><●>)「先にミセリから状況を聞いて下さい。私の話はすぐ終わりますから」

 しかし、ワカッテマスさんは途端に話を切り上げてソファに座ってしまった。
 結論は出ている――こちらの話を聞くつもりはないと態度で示すようだった。
 果てしなく圧を感じる。胸元に宿る不安がじわじわと燻り始める。現実味がヤバかった。

ミセ*゚ー゚)リ「3人ともこちらへ。大事な話があります」

 その一方、おかえりとも言ってくれなかったミセリさんが食卓の椅子に掛けたまま私達を振り返る。
 呼ばれたのでそっちに向かう。椅子には座らず、彼女の近くで立ったまま話を聞いた。

(; ^ω^)「……あの、僕も居ていいのかお?
      流れで家まで上がっちゃったけど、我ながら信用できないんじゃ……」

ミセ*゚ー゚)リ「今回こっちが使える人間が少なくてね。場合によっては力を借りるし、もののついで。
      素直四天王にも同じ話を通してあるし、まぁ混ざって聞いといて」

( ^ω^)「おk」




ξ゚⊿゚)ξ

 ……ダメだ、今の言い方にすら冷たい意図を感じ取ってしまう。

 『使える人間』というのはどういう意味だ? 素直四天王にはどう話したんだ?
 今の私はかなりダメっぽい。誰の恣意にも過剰反応してしまう。これは本当にダメそうだった。

.

594名無しさん:2021/12/20(月) 21:05:13 ID:xDJkNY0g0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 自宅に着いてもミセリさんの出迎えはなかった。
 それでもリビングの明かりは点いていたから、私はドクオと内藤くんを連れてリビングに入った。

( <●><●>)「……遅いご帰宅ですね。寄り道はいかがでしたか」

 中で待っていた燕尾服の魔物、ワカッテマスさんが私を見遣って口を尖らせる。
 ただでさえ圧迫感のある視線が今日は殊更重苦しい。あのニュースの後だ、当然だと思う。
 私は咄嗟に目をそらし、皮肉染みた含みのある彼の問いかけに応じた。

ξ;゚⊿゚)ξ「し、収穫はあったのだわ。買い物もできたし」

( <●><●>)「先にミセリから状況を聞いて下さい。私の話はすぐ終わりますから」

 しかし、ワカッテマスさんは途端に話を切り上げてソファに座ってしまった。
 結論は出ている――こちらの話を聞くつもりはないと態度で示すようだった。
 果てしなく圧を感じる。胸元に宿る不安がじわじわと燻り始める。現実味がヤバかった。

ミセ*゚ー゚)リ「3人ともこちらへ。大事な話があります」

 その一方、おかえりとも言ってくれなかったミセリさんが食卓の椅子に掛けたまま私達を振り返る。
 呼ばれたのでそっちに向かう。椅子には座らず、彼女の近くで立ったまま話を聞いた。

(; ^ω^)「……あの、僕も居ていいのかお?
      流れで家まで上がっちゃったけど、我ながら信用できないんじゃ……」

ミセ*゚ー゚)リ「今回こっちが使える人間が少なくてね。場合によっては力を借りるし、もののついで。
      素直四天王にも同じ話を通してあるし、まぁ混ざって聞いといて」

( ^ω^)「おk」




ξ゚⊿゚)ξ

 ……ダメだ、今の言い方にすら冷たい意図を感じ取ってしまう。

 『使える人間』というのはどういう意味だ? 素直四天王にはどう話したんだ?
 今の私はかなりダメっぽい。誰の恣意にも過剰反応してしまう。これは本当にダメそうだった。

.

595名無しさん:2021/12/20(月) 21:09:43 ID:xDJkNY0g0


ξ゚⊿゚)ξ(ああ、もっとドトールに居座るべきだったな……)

 今朝のニュースを知ってから、私は自覚している以上にくたくたになっていた。
 駅周辺で街の様子を見て、行き交う声に耳を向けて、ニュースを追って、それが間違いだった。

 人間と魔物の邂逅――その非日常感に浮足立っていたのは私だった。
 本当に愚かだ。学校が終わった瞬間、寄り道などせず素直に帰るべきだった。
 そうしていれば、現実という言葉の意味がたった半日で塗り替わることもなかったはずだ。

 ……油断していた。私はまたしても思い上がっていたのだ。
 ちょっと探せばまゆちゃんのような例外を見つけられると、甘い考えで宝探しに出向いてしまった。

ξ゚⊿゚)ξ

 結果この有り様だ。
 具体的に何を見て聞いて知ったのか、もはや回想シーンすら挟みたくない。
 ほんと自傷行為みたいなアドベンチャーパートだった。全カットも当然だろう。

ミセ*゚ー゚)リ「ひとまず順を追ってお話します。まずは例のニュースについてですが――」

 それからミセリさんは一連の話題をおさらいしてくれた。
 そして案の定という感じではあるが、やはり彼女は意図的に私を泳がせていたようだ。

ミセ*゚ー゚)リ「――そして、ニュースに出てきた魔物は実在しません。あれは偽物です。
      ワカッテマスが直接確認してきたので、これについては絶対です」

ミセ*゚ー゚)リ「一連の報道、恐らくは勇者軍が仕掛けた一策であると考えられます。
      本物だったのは『被害者』だけ。何も知らない、普通の人間が殺されています」

(; ^ω^)「えっ、人間が人間を殺したのかお? あんなニュースを作る為に?」

('A`)「お前がそう思うんなら多分そうだよ。俺ら魔物に人間の理屈は理解しきれねえ」

ミセ*゚ー゚)リ「そうね、私も最初は理解に苦しんだ。でも……」

 ミセリさんは瞑目し、息を整えてから続けた。

ミセ*゚ー゚)リ「……お嬢様にとっては最悪の状況です。
      ところでお嬢様、今朝のやり取りを覚えていらっしゃいますか?」

ξ;゚⊿゚)ξ(覚えてる、けど……)

 鮮明に覚えている。だからその話題には触れたくなかった。
 ミセリさんから出された問いかけ――魔王城ツンにとって人間とは何か。
 それに対する明確な答え。今朝にはあった確かな一言が、今の私には遠く霞んで見える。

.

596名無しさん:2021/12/20(月) 21:17:58 ID:xDJkNY0g0


ξ;-⊿-)ξ「覚えて、いるのだわ」

 私はそっぽを向いて渋々答えていた。
 ミセリさんの真っ直ぐな瞳に耐えられない。すごく嫌だ。帰りたい。

ミセ*゚ー゚)リ「考えることはできましたか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……うん……」

 ――これは、よくよく考えればおかしな話なのだ。

 一度は戦争までした人間と魔物。
 まして私は戦争を仕掛けた魔王の血筋だし、多くの人々にとっては仇のような存在である。
 それがどうして人間に肩入れしているのと聞かれれば、嫌だけど、消去法なんだと思う。

 そもそもの話、魔物の中でも私だけが異質なのだ。
 人間を敵に回して困るのも、正体がバレて困るのも、魔界に帰りたくないと駄々をこねるのも。
 だから私はこんな風に、どこにである『みんな』という枠組みの常識に馴染めずにいる。

('A`)

 私という存在は人間にとって異物であり、魔物にとってはただの異常者。
 この中途半端な立ち位置を解消する方法は、実はずっと前から分かっていた。

( ^ω^)

 味方が欲しいなら誰かと同じ敵を殴ればいい。
 気分に合わせて都合よく、その時々に応じて都合のいい敵味方を拵えればいい。

 そんな誰でも知ってる普通の処世術、ありふれた凡策を倣えば全てが解決に向かう。
 人間は好きですが、魔物を差別するような事を言ったので今は敵です。
 そう答えたなら安心は目の前だ。感情的にも矛盾はない。そう考える自分は確かに居る。

 けれど、ここで答えを出し渋るから私はこんな有り様なのだ。

 自分の感情を自分で決めきることができないのに、周りの考えにも全く同調しようとしない。
 弱いくせに中途半端な傲慢を振りまいて、答えを出せないのにずっと考えるフリばかりして。
 一人で勝手に孤独を深めて、誰の手も取れないまま――。

.

597名無しさん:2021/12/20(月) 21:17:58 ID:xDJkNY0g0


ξ;-⊿-)ξ「覚えて、いるのだわ」

 私はそっぽを向いて渋々答えていた。
 ミセリさんの真っ直ぐな瞳に耐えられない。すごく嫌だ。帰りたい。

ミセ*゚ー゚)リ「考えることはできましたか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……うん……」

 ――これは、よくよく考えればおかしな話なのだ。

 一度は戦争までした人間と魔物。
 まして私は戦争を仕掛けた魔王の血筋だし、多くの人々にとっては仇のような存在である。
 それがどうして人間に肩入れしているのと聞かれれば、嫌だけど、消去法なんだと思う。

 そもそもの話、魔物の中でも私だけが異質なのだ。
 人間を敵に回して困るのも、正体がバレて困るのも、魔界に帰りたくないと駄々をこねるのも。
 だから私はこんな風に、どこにである『みんな』という枠組みの常識に馴染めずにいる。

('A`)

 私という存在は人間にとって異物であり、魔物にとってはただの異常者。
 この中途半端な立ち位置を解消する方法は、実はずっと前から分かっていた。

( ^ω^)

 味方が欲しいなら誰かと同じ敵を殴ればいい。
 気分に合わせて都合よく、その時々に応じて都合のいい敵味方を拵えればいい。

 そんな誰でも知ってる普通の処世術、ありふれた凡策を倣えば全てが解決に向かう。
 人間は好きですが、魔物を差別するような事を言ったので今は敵です。
 そう答えたなら安心は目の前だ。感情的にも矛盾はない。そう考える自分は確かに居る。

 けれど、ここで答えを出し渋るから私はこんな有り様なのだ。

 自分の感情を自分で決めきることができないのに、周りの考えにも全く同調しようとしない。
 弱いくせに中途半端な傲慢を振りまいて、答えを出せないのにずっと考えるフリばかりして。
 一人で勝手に孤独を深めて、誰の手も取れないまま――。

.

598名無しさん:2021/12/20(月) 21:20:20 ID:xDJkNY0g0


ミセ*゚ー゚)リ「これから先、勇者軍は大手を振って動き出すでしょう。
      敵は『同じ人間を守る』という大義名分をでっち上げたのです。分かりますか?」

ξ゚⊿゚)ξ「……うん」

ミセ*゚ー゚)リ「勇者軍は人間の集まりです。我々と違って身分を隠す必要がありません。
      ですので、多くの人間は彼らの活動を歓迎するでしょう。魔物退治の専門家として」

ミセ*゚ー゚)リ「そうして味方を増やした結果、彼らは正義の名のもとに我々を攻撃します。
      自作自演でそれなりの成果を出しながら、正々堂々と殺意を向けてくるのです」



( ^ω^)「……あれ? でもこっちの居場所はもうバレてるお?
      だったら今すぐにでも攻めて来るんじゃないかお?」

('A`)「そうする前に俺達に見せたいんだろうよ。人と魔物の対立とか、色々なもんを」

( ^ω^)「なんで?」


ξ゚⊿゚)ξ ポツン


('A`)「……そういうもんにショックを受ける奴が居るからだよ。
    魔物相手に盤外戦術、しかも心理戦を仕掛けてくるなんて前代未聞だぜ」

( ^ω^)「なんで?」

(;'A`)「いやこっちは物理でゴリ押すだけで勝てるんだぞ? 心理戦なんか普通にしねぇよ」

('A`)「でも今回はそれが通じる。だからそうして俺らを煽って、ボロが出るのを期待してんだろ」


( ^ω^) 思考中。。。
( ∞)



  _,
( ^ω^)「……あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る、的な?」

('A`)「だいたいあってる」

 それ令和のたとえじゃないだろ。

.

599名無しさん:2021/12/20(月) 21:24:15 ID:xDJkNY0g0


ミセ*゚ー゚)リ「いいですかお嬢様、これから話すことはほぼ間違いなく起こります。
       明確な方針と対策が今すぐ必要です。手遅れになる前に」

ξ゚⊿゚)ξ「……はい」

ミセ*゚ー゚)リ「お嬢様が地上に残る場合、いつか我々は勇者軍と衝突します。
      そうなれば多くの人間が我々の手によって死ぬでしょう。私もそれに加担します」

ミセ*゚ー゚)リ「――そして、お嬢様の顔や名前、果てはこの住所さえも敵は把握しています。
      今回それがバラまかれなかった理由は、敵もお嬢様を捕らえる機会が欲しいからです」

ξ゚⊿゚)ξ

ミセ*゚ー゚)リ「もちろん我々はお嬢様をお守りします。奴らには絶対に渡しません。
      ですがそれでも問題があります。敵が、こちらの情報を公表する可能性があるのです」

ミセ*゚ー゚)リ「……もしそうなったら地上での生活は困難です。既存の人間社会にはまず属せません。
      姿形を変える、魔術で誤魔化すなどの対策はありますが、今までのようには……」

 そこまで言ってミセリさんは口を噤んだ。
 思いつめたように目を見開いて、胸元に手を当てて、深く俯く。

ミセ*゚ー゚)リ「これは、お嬢様だけを狙った敵の攻撃です。
       あなたの優しさを逆手に取った、人質作戦にも等しい謀略なのです」

ミセ*゚ー゚)リ「……ですが、ですが私にはこれがまったく効いていないのです。
       お嬢様が悲しむ姿は想像できても、私自身の心は少しも動いておりません」

ミセ*゚ー゚)リ「人間同士で殺し合った。自作自演の罪が魔物になすりつけられた。
       世間が魔物を悪く言う――だからどうしたと、私は思ってしまうのです」

ξ゚⊿゚)ξ

 ミセリさんはさも自分が悪いかのように語ったが、魔物の中ではあっちが普通である。
 なのに私が傷つかないよう言葉を選んでくれているのだ。それがまた、私の首を優しく絞めている。



('A`)「あ、ちなみに俺もそう思ってるからな」

( ^ω^)「流石だお! いの一番に10人ブッ殺してる奴は違うお!」

('∀`)「へへっ」

.

600名無しさん:2021/12/20(月) 21:26:17 ID:xDJkNY0g0




ミセ*゚ー゚)リ「……お嬢様、魔界に戻りましょう」

 ぽつり、とミセリさんは小さく呟いた。



ミセ*゚ー゚)リ「お嬢様が魔界におられるその間、我々が全力をあげて事態を収拾させておきます。
       その際にも無関係な人間は殺しません。人間社会への配慮も万全にします」

ミセ*゚ー゚)リ「勇者軍に属する者、与する者だけを選んで絶滅させます。
      完遂までに1年もかかりません。ほんの1ヶ月、お嬢様の安全さえ確保できれば――」

ξ゚⊿゚)ξ「――そうね。それは、最初からそうだったのだわ……」

 私は相変わらず目をそらしたまま、表面上はミセリさんに首肯していた。

 都合の悪いものをすべて消し、私のために『今まで通り』を再現された世界。
 それをちょっぴり想像してみて、そこに生じるであろう変化を考えてみる。
 さぁ思考実験だ。ホモジナイズされた個人の日常、失われるのは一体なにか?

ξ゚⊿゚)ξ

 すべてが他人事になった世界。安全圏から他人の人生をつついて遊ぶ自分。
 実感を損なった優しい世界で踊っている、そんな未来の自分を思い描いてみる。

 ――そう悪くない。

.

601名無しさん:2021/12/20(月) 21:29:04 ID:xDJkNY0g0


ξ;-⊿-)ξ(――いや、そんなわけない! 私はそんな風に考えないのだわ!)

 ダメだ、あと数センチ先にある崖っぷちが天国への近道に思えてしまう。
 私も相当限界っぽい。誰かクソみたいなギャグで私のマジレスを止めてくれないか。
 そういや盛岡はどこ行ってるんだ。今こそお前の屁理屈が必要なんだぞ役に立て。

ミセ;*゚ー゚)リ

 今ここに居るミセリさんは自滅覚悟で私と相対している。
 口を開けば開いた分だけ、私との価値観の違いが露呈していくことを彼女は自覚しているのだ。

 最大限に気を遣い、相手の気持ちを汲み取って、それでもなお致命的な溝が埋め切れない。
 長年連れ添った私達だからこそ、如実に可視化されるすれ違いがどんどん傷口を広げていく。

 ――けれど彼女は逃げようとしない。
 魔界に戻るという最後の逃げ道――選択肢を、他ならぬ私が自分の意志で取捨できるように。





( <●><●>)「ミセリ、私が頼んだのは状況説明までです。
        余計な事を話す必要はありませんよ」

 途端、ソファに座るワカッテマスさんが結論を急かすように口を挟んできた。
 私は動揺して彼を一目したが、ミセリさんは彼の忠言をすっかり無視して話を続けていた。

.

602名無しさん:2021/12/20(月) 21:36:35 ID:xDJkNY0g0


ミセ*゚ー゚)リ「選択は自由です。お嬢様はどうされたいですか?
       おすすめは出来ませんが、このまま地上に残ることだって」

( <●><●>)「――ありえない。決定事項を覆すつもりですか」ガタッ

 彼女の言葉を遮って物々しく立ち上がるワカッテマスさん。
 普段の冷静さから零れた苛立ちは、たった1滴の上澄みゆえに凄まじい迫力を伴っていた。
 それでもミセリさんは彼をガン無視し、どこか諦めたような優しい瞳で私を見つめていた。

ξ;゚⊿゚)ξ(……仲裁、……私が? この2人を?)

 当事者なのに部外者扱いされてる疎外感無力感、そしてこの身内のギスギス感。
 お前どうせ魔界に帰りたくないんだろ? っていう前提で扱われてる感じも更にキツい。

 確かに魔界には帰りたくないけど、私にだって打算的な思考回路はある。
 みんなが望む結論など最初から分かっている。もうずっと前から分かっているのだ。

 今日一日で嫌というほど現実を見た、人間を見た。
 人も魔物も例外なく、私という異物が盤面から消えることを願っている。
 私がこの世に居る限り、私はずっと誰かに迷惑をかけ続けてしまう。

 ――だったらもう帰った方がいい。
 意地も何もかなぐり捨てて、全体の合理を優先するべきだ。

 と、これが私の打算的思考。天秤の片側に乗せられた無機質な現実である。
 あとは空いてる片側に、私個人の願いや綺麗事を乗せれば答えが出る。私の感情が決まる。

 感情は決して単色ではない。
 でも、集団の中において個人の繊細な色合いを守る方法なんて私は知らない。
 周りの色をぐちゃぐちゃにしても真っ黒になるだけだし、私にできる事なんて少ししかない。

 今なら事態を最小限に食い止められる。
 みんなしあわせ最善の打算――拒む理由など最初からないと、私は分かっていた。

.

603名無しさん:2021/12/20(月) 21:39:30 ID:xDJkNY0g0


( <●><●>)「ミセリ、あなたは事の重要性を理解できていない。
        この状況は戦争にすら発展しかねない。最悪の場合、誰が罰を受けると――」

ξ;゚⊿゚)ξ「……ッ」

 言葉の最中、ワカッテマスさんがじろりと私を睨んだ。
 彼の言い分は分かる。穏健派と名高い魔王の娘が戦争の切欠になるなんて最悪の冗談だ。
 そりゃ絶対回避しなきゃいけない。と思うと、天秤の片側がまたしても重くなった。

( <●><●>)「――よろしいですか、私は魔王ロマネスクに仕える者です。
        優先すべきは王の意向。そこを違えることは絶対にない」

 そう断言しながらワカッテマスさんがミセリさんに歩み寄る。
 敵意ある視線で彼女を見下ろし、仄かに魔力を解き放つ。

( <●><●>)「お嬢様を変に迷わせるような口振りはやめて頂きたい。
        誰がどう見ても結論は出ています。あなたの言動は無意味だ」

ミセ*゚ー゚)リ「……生憎こっちはお前、……あなたみたいな魔王信者じゃないんですよ」

 彼らはただ、仕える相手に忠実であろうとしているだけだった。
 ミセリさんは私に対して、ワカッテマスさんは私のパパに対して。
 ゆえにこの対立は必然のもの。誰かが答えを出さない限り、彼らは決して自分を曲げないだろう。

 私が立場を曖昧にして、答えを出さずに安穏と生きた結果だ。

ミセ*゚ー゚)リ「魔眼のワカッテマス――魔王軍総指揮官殿、どうぞソファにお戻りください。
       ガン垂ればっかの堅物に代わって、今とても繊細な話をしているので」

( <●><●>)




( ^ω^)「ガン垂れwwwwwwwwww」

::('A`)::「やめっ、やめろ内藤笑うな、つられる……!」プルプル

( ^ω^)「だっておwwwwwwwwwwww」

 あいつらぜってえ後で殴る。

.

604名無しさん:2021/12/20(月) 21:50:06 ID:xDJkNY0g0


ミセ*゚ー゚)リ「……そろそろ宿題の答えを聞きましょうか。
      お嬢様から見た『人間』とはなんなのか、そこから始めていきましょう」

( <●><●>)「ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ

ミセ*゚ー゚)リ「だからお前は――」ガタッ

 その瞬間に起こった出来事は、私の制止が間に合うような薄鈍いものではなかった。

ミセ*゚ー゚)リ「――少し黙れ」

 ミセリさんがすごい勢いで立ち上がり、ワカッテマスさんの首を容赦なく掴み上げる。
 それと同時に滅紫色の魔力――ワカッテマスさんの魔力が空中に火花を散らした。

( <○><●>)「あなたが話を迂遠にしている」

 ――ワカッテマスさんが魔眼の力を解放する。
 その瞬間、彼の首を力強く掴んでいた腕がばちんと音を立てて翻った。

ξ;゚⊿゚)ξ「あっ」

 見れば彼女の腕はぐちゃぐちゃに潰れており、現在進行系で『内側』が波打っていた。
 それでもなお残った片腕で魔眼を潰そうとするミセリさん――私の叫びはここに間に合っていた。

ξ; ⊿ )ξ「やっ、やめなさい!」

ミセ*゚ー゚)リ「――ッ」

 魔眼の一寸先に迫っていたミセリさんの手がピタリと止まる。
 しかしそれは私の声が理由ではなかった。
 この時すでに、ミセリさんの体の自由は魔眼によって完全に封じられていた。

( <○><●>)「まったく。この状況でお嬢様の方が冷静とは」

ミセ;* ー゚)リ「……お、まえ……!」ググッ

 魔眼の力は圧倒的であり、ミセリさんの抵抗が実を結ぶ気配はまったくない。
 それから彼女は呆気なく足の関節を折り畳まれ、無造作にその場に転がされてしまった。

ξ;゚⊿゚)ξ「その腕、すぐに治さなきゃ!」

 固く絞った雑巾のようにひしゃげた彼女の片腕。
 致命傷ではないが放置もできない。今すぐ貞子さんを呼んでこなければ――

.

605名無しさん:2021/12/20(月) 21:54:10 ID:xDJkNY0g0


( <○><●>)「――貞子であれば術式を構築している真っ最中です。
        特訓場の一角を魔界につなげる大仕事です。邪魔しないように」

ξ;゚⊿゚)ξ「そ、そんな……!」

 狼狽する様子から次の言動を先読みされたのか、あるいは単なる未来視か。
 ワカッテマスさんは燕尾服の襟を正し、すんと居直ってから口を開いた。

( <●><●>)「お見苦しいものをお見せしました。一旦、話をシンプルにしましょう」

 彼の視線が私を捉える。
 その魔眼を使えば力尽くでも連れ帰れるだろうに、情けをかけられているのだ。

( <●><●>)「お嬢様が地上に残る場合、戦闘の中心はあなたになります。
        今のままでは必然的にこの街が戦場となりますが――」

ξ;゚⊿゚)ξ

( <●><●>)「それでも、この街に残りますか?」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ「……ダメ。この街に迷惑はかけられない」

 見え透いた誘導尋問だが、これ以外の答えが私には無かった。

( <●><●>)「決まりですね。では出奔のご用意を」

ξ;゚⊿゚)ξ「で、でもどこに行くの……?」

( <●><●>)「人間の居ない場所です。今は国外逃亡という認識でよろしいかと」

ξ;゚⊿゚)ξ「……帰ってこれる?」

( <●><●>)「いずれは。事後処理の進捗次第でしょう」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「事後処理って、具体的には何をするの?」

( <●><●>)「さっきミセリが話した通りです」

ξ;-⊿-)ξ「……あなたの口から聞きたいのよ」

.

606名無しさん:2021/12/20(月) 21:58:11 ID:xDJkNY0g0


( <●><●>)「――勇者軍に属する者、与する者の絶滅です。
        彼女は先程1ヶ月と言いましたが、本来これは長期的に実行すべき施策であり――」

 それから彼は事後処理の計画とその必要性を説き始めたが、正味的外れだった。
 私が聞きたいのはそんな事ではない。魔物視点の正当性だけを語られても私には響かない。

 馬鹿げた話だが、そもそも彼らは選民と大量虐殺を前提にしている。
 だから今ここで言質が必要なのだ。ここだけは絶対に引き下がれない。
 でなければ、後々どれだけの人が死んでも最終的に『正しいこと』にされてしまう。

 魔物にとっての正しさだけで、この一大事が片付けられてしまうのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「……勇者軍に与する者の、定義は?」

( <●><●>)「それはもちろん、1度でも彼らに助力したもの全て、例外なくです」

 彼は当然のように答えた。

( <●><●>)「対立を扇動したもの。誤情報の流布に積極的だったもの。」
        本件を踏み台にして成果をあげたもの――助力の定義は様々でしょう」


( ^ω^)

(^ω^)←めちゃくちゃ心当たりがある人


(^ω^)「ドクオ、僕もう死ぬかもしれんお」

('A`)「みじけえ付き合いだったな」

( <●><●>)「……あなたの場合は事情が異なりますので別枠ですよ。
        勇者軍への助力が自発的なものでなければ、記憶の消去だけで十分でしょう」

( <一><一>)「現魔王は穏健派なのです。関係者は一族郎党皆殺し、などとは言い出しませんよ」

ξ;゚⊿゚)ξ(ナイスナイスナイス!!!! 言質取ったったぞ!!!)

 ヤバい流れがチラついていたが、内藤くんのアシストもありこちらに有利な言質が取れた。
 内藤くんマジでナイス。本当にお手柄だぞ。

.

607名無しさん:2021/12/20(月) 22:00:41 ID:xDJkNY0g0



(; ´ω`)「……なんだそうなのかお。助かったお……」

('A`)「この場で即死じゃなくてよかったな」

(; ´ω`)「いやぁ僕でこれなら『まゆちゃん』は更に大丈夫だお。本当によかったお……」


ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「――えっ?」


('A`)「あっ」

 いま、内藤くんが聞き捨てならない名前を出した。
 私は思わず彼に詰め寄って、率直な疑問を彼に投げかけていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「待って、なんでそこでまゆちゃんの名前が出るの?」ズイッ

(; ^ω^)「いやちょッ顔が近いお! いきなりどうしたんだお?」

( <●><●>)

(;'A`)「あーツン、ちょっと落ち着いてだな……」

ξ;゚⊿゚)ξ「――聞いてるのは私でしょ!? 早く答えなさいよ!」ガシッ

 私はついに声を張り上げて内藤くんの肩に掴みかかった。
 私自身が勝手に悩んだり、周りにどうこう言われたりするのは別に慣れている。
 だから何とか言葉を選び、ここまで冷静な自分を装うことができたのに――。

.

608名無しさん:2021/12/20(月) 22:00:42 ID:xDJkNY0g0



(; ´ω`)「……なんだそうなのかお。助かったお……」

('A`)「この場で即死じゃなくてよかったな」

(; ´ω`)「いやぁ僕でこれなら『まゆちゃん』は更に大丈夫だお。本当によかったお……」


ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「――えっ?」


('A`)「あっ」

 いま、内藤くんが聞き捨てならない名前を出した。
 私は思わず彼に詰め寄って、率直な疑問を彼に投げかけていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「待って、なんでそこでまゆちゃんの名前が出るの?」ズイッ

(; ^ω^)「いやちょッ顔が近いお! いきなりどうしたんだお?」

( <●><●>)

(;'A`)「あーツン、ちょっと落ち着いてだな……」

ξ;゚⊿゚)ξ「――聞いてるのは私でしょ!? 早く答えなさいよ!」ガシッ

 私はついに声を張り上げて内藤くんの肩に掴みかかった。
 私自身が勝手に悩んだり、周りにどうこう言われたりするのは別に慣れている。
 だから何とか言葉を選び、ここまで冷静な自分を装うことができたのに――。

.

609名無しさん:2021/12/20(月) 22:02:24 ID:xDJkNY0g0


( <●><●>)「――お嬢様、今は一刻を争います。
        ここを離れるという結論はもう出たはず。今夜中に急ぎご用意を」

 私が内藤くんを問い詰めている間にワカッテマスさんが話を終わらせる。
 彼は足早にリビングを出ようとするが、――ここでもなぜか嫌な予感がした。

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ、そっちも待って!!」ガタッ

ミセ;*゚ー゚)リ「お嬢様、私がご説明するので今は……!」

 私はミセリさんの制止も無視して彼を追った。
 本当に嫌な予感がする。彼を逃してはならないと全身がピリピリしている。

ξ;゚⊿゚)ξ「…………!」

 けれど、喉が詰まって言葉が出てこない。
 この胸中に渦巻く最悪をどう言い表すべきか、的確な言葉が分からなかった。

( <●><●>)「……まだ何か? 私にも任務がありますので」

 扉に手をかけたワカッテマスさんが振り返りざまに言う。
 彼は明らかに逃げようとしている。でも、何と言って止めるべきか分からない。




 ――私は今、何を言えばいい?

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610名無しさん:2021/12/20(月) 22:03:25 ID:xDJkNY0g0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
         ☆ツンちゃんの今後を決める大事な安価☆
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
        A - ξ;゚⊿゚)ξ「まゆちゃんは大丈夫なのよね!?」

        B - ξ; ⊿ )ξ「言うこと聞くから、全部話して……」

        C - ξ゚⊿゚)ξ「お前を殺す」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
              ※詳細は投下後に追記※
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




          __
  ( ̄ (´・_ゝ・`) )
   ``ヽ   /⌒ヽ,-、
      ヽ__,,/⌒i__ノ 
         (_)

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611名無しさん:2021/12/20(月) 22:03:46 ID:xDJkNY0g0


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            【Loading Privilege - Block Buster Breaker】

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612名無しさん:2021/12/20(月) 22:04:16 ID:xDJkNY0g0




       <<業務連絡:安価は妨害されました。。。。。。>>



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613名無しさん:2021/12/20(月) 22:05:17 ID:xDJkNY0g0






ξ; ⊿ )ξ

( <●><●>)「……何もないのであれば、これで失礼します」

 その後、ワカッテマスさんはそそくさと出ていってしまった。
 彼の気配はもうどこにもない。追いかけることは不可能だった。

ξ; ⊿ )ξ

ミセ;*゚ー゚)リ「お、お嬢様……」

 魔眼の束縛が消えたのだろう。ミセリさんがひしゃげた片腕を抱えて立ち上がってくる。
 それからすぐ、みんなの視線が私に集まってきた。

 そりゃそうだろう。私は今、とても大事な言い合いに負けてしまったのだ。
 何も言えなかった。じわじわと嬲るような不安の波が押し寄せてくる。耐えるので手一杯だった。



(; ^ω^)「……えっと、結局なにがどうなったんだお?」

( 'A`)「……とにかくこっちは方針決めて動きたいんだよ。なるべく早く。
    そんで言い合いになった訳だが、ツンが街を出るって辺りで話は終わっちまったな」


( ^ω^)

(^ω^) ????

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614名無しさん:2021/12/20(月) 22:09:09 ID:xDJkNY0g0


(;'A`)「……要するにだ、今の言い合いでボロを出したのはツンだけってことだよ。
    特に痛いのは大した反論が出来なかった事だな。次も向こうのペースで話が始まるぞ」

( ^ω^)「あっそれ知ってるお! 『あのとき反論しなかったという言質』 ってやつだお!」

('A`)「ワカさんはそこまで小物じゃねえよ。これくらいで勝手に話を進めたりもしないはずだ。
    でも次会ったら完全論破だと思うぜ。ツンもいよいよ心折られるんじゃねえかな」

( ^ω^)

(^ω^)「ウワー!! それは極めて悲惨」

('A`)「だいたい、今日の放課後からしてツンは半端だったんだよ。
    こうなる予感はあっただろうに備えが甘すぎた。……自業自得だ」

(; ^ω^)「さっきの放課後ティータイムにそんな意味があったのかお!?
       僕だけ普通にサ店エンジョイしてたお……」

 私は顔を伏せて2人の会話を聞いていたが、正直つらかった。
 安全圏から投げ込まれてくる小石ほど痛いものはない。あと惨めだった。



ξ; ⊿ )ξ「……知ってたなら……」ボソッ

 どうして誰も助けてくれなかったのか。助言のひとつもくれなかったのか。
 そんな横暴を心の中で押し潰し、私は大口を開けて太息を吐き出した。

 叫べるものならいっそ叫びたかった。
 物理的敗北ともまた違う、魔界に居た頃の屈辱が脳裏に蘇ってくる。

 でもここで回想シーンに入ると本当に膝から崩れ落ちると思う。
 ダメだ、もう何も考えないようにしよう。

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615名無しさん:2021/12/20(月) 22:12:02 ID:xDJkNY0g0


ミセ;*゚ー゚)リ「……私は、どんな事になってもお嬢様を優先します。
       夜逃げになっても構いません。あなたはもう自由に――」

ξ; ⊿ )ξ

 額に汗を滲ませたミセリさんが矢継ぎ早に希望を語る。
 けれど私にはまったく響かなくて、

ξ; ⊿ )ξ「……無茶、言わないでよ」

 これくらいしか、返事が思いつかなかった。

 答えは最初から決まっていた。この生き方で意固地になっていたのは私だけだ。
 結局のところ――自由に不慣れな魔物が1匹、自由を求めて人間社会に来た結果がこれなのだ。

 もちろん努力はした。人に迷惑をかけないよう色んなルールも覚えてきた。
 身内に迷惑をかけないよう試験も頑張って突破した。
 誰の迷惑にもならないように。でも自分の意思も通せるよう綱渡りのような努力を続けて――

 ――その結果、当然の帰結が遂にやってきたのだ。

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616名無しさん:2021/12/20(月) 22:14:44 ID:xDJkNY0g0


 今朝のくだり、ミセリさんの質問に綺麗事を返した私はなんて自分本位だったんだろう。
 現実を知った今なら分かる。人間は敵じゃない、なんて曖昧な答えは無意味だったのだ。

 50年前の戦争はまだ終わっていない。人間と魔物の敵対関係は今なお続いている。
 敵じゃないとか半端に思ったところで状況は揺るがない。まったくの無力だった。
 だから彼女は確かめたのだろう。今の私がどういった基準で敵味方を区別しているのか――

 ――人間という群体が否応なく敵に回った時、魔王城ツンは本当に敵を倒せるのか。

 なのに私は、私達が50年前に敵に回したものを『敵ではない』と言ってしまった。
 そして今現在に至ってなお、私は煮え切らない気持ちのまま敵味方の区別を誤魔化そうとしている。

 いずれ人間社会は魔物を完全に敵と見做す。
 50年間白紙にしていた紙を呆気なく投票に使い、人間達は魔物排除に躍起になるはずだ。
 また同じ過ちを繰り返さないよう、前例を踏まえて正しい行動を取るに決まっている。


ξ; ⊿ )ξ(私、は……)ギュッ


 そして今、未だに私だけが白紙の紙を握りしめている。
 他のみんなは既に投票を終えている。残っているのは私だけ。
 投票締め切りはもうすぐなのに、それでも私は自分の考えに確信を持てずにいる。

 ――学校の同級生、テレビ、新聞、週刊誌、ネットニュース、SNS、街を行き交う雑多な声。
 所構わず無尽蔵に生産される話題の数々。それをひとつひとつ真偽で分別してもきりがなかった。
 善悪のフィルターなんて最初に目詰まりしている。掃除も交換も待たずに破れてしまった。

 これらを踏まえて白紙を広げ、最初から分かりきっていた答えを記入する。そうするしかない。
 要するに時間切れだ。私は、然るべき答えをそのまま口に出して言った。

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617名無しさん:2021/12/20(月) 22:19:03 ID:xDJkNY0g0


ξ;-⊿-)ξ「魔界に、帰るのだわ」

ミセ;*゚ー゚)リ「……いや、冗談ですよね? それじゃあ魔界に居た頃と同じ――!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ぜんぜん同じじゃないわよ。こんな大事に巻き込まれたのは初めてなのだわ」

ミセ;*゚ー゚)リ「で、ですが……!」


('A`)「すげぇ正常な判断だと思う」

( ^ω^)「若人の貴重な一票に涙が止まらない」


ミセ;*゚ー゚)リ「ほらお嬢様! 2人もああ言ってますし今一度考え直してみませんか!?
       あんなガン垂れ野郎は無視でいいんですよ! 性格悪いし」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや2人とも満場一致ですごい後押ししてるけど。
       ていうかミセリさんだって魔界に帰るの勧めてたわよね?」

ミセ;*゚ー゚)リ「それはそうですが……」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ「……あんまり大袈裟にならないで。
        私だって無条件で帰るつもりはないのだわ。正直ムカつくし」

ミセ;*゚ー゚)リ「お、お嬢様……!」

 そう言いつつ、今後の展開はほぼ決まっていた。
 私は遠からず魔界に帰る。仔細はどうあれこれだけは絶対に覆らない。

『――助けてね』

 でも、そうする前に守りたい約束があるのだ。

 目に見えない多数派なんてこの際どうでもいい。
 今は目に見える例外だけを大切にして、その綺麗な思い出を胸に魔界へと帰る。
 これが今の私にできる最大限の高望み。実現しうるギリギリの独善だろう。

 我ながらめちゃくちゃ自分勝手だなと思う。
 でも仕方ない、これ以上の打算は私には無理だ。
 敵も味方もなく全てを丸く収めようなんて、今の私にできる訳がなかったのだ。

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618名無しさん:2021/12/20(月) 22:20:22 ID:xDJkNY0g0



ξ゚⊿゚)ξ「……ところで内藤くん、さっきの話の続きなんだけど」

 よし切り替えていこう。

 私は椅子にかけ直し、心を落ち着けながら情報収集に打って出た。
 今の私は完全に除け者だ。この局面の情報自体がまったく揃っていない。
 だから最初に情報を整理する。対ワカッテマスさん用の理論武装はその次だ。
  _,
(; ^ω^)「えっ、どれの事だお?」

('A`)「まゆちゃんの事だろ。お前あれ秘密だったんだからな」

( ^ω^)

(^ω^) Oh....


ξ;-⊿-)ξ「やっぱり。もう巻き込まれてるのね……」

 で、嫌な予感の正体はやっぱりこれか。

 この話題、確かに話し方によってはブチギレていたと思う。
 ワカッテマスさんもそれを懸念して話を中断したのだろう。
 なんというか、慣れた扱いをされたものである。

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619名無しさん:2021/12/20(月) 22:23:55 ID:xDJkNY0g0


ξ゚⊿゚)ξ「……ねえ、もう全部教えてよミセリさん。
       みんな、私の知らないとこで何をやってるの?」

ミセ;*゚ー゚)リ「……申し訳ありませんお嬢様。それは私の独断では……」

 目を泳がせてたじろぐミセリさんを見て「おっ行けるな」と直感する。
 私はすぐさま両手で顔を覆い、泣き出した素振りをして大詰めに入った。
 涙は武器でしょって微熱S.O.S!!でも歌ってるしな。食らえよメインヒロインの泣き落としを。

ξ ⊿ )ξ「もうワガママ言わないから、魔界にも帰るから、仲間外れにしないでよ……」

ξ ⊿ )ξ「私はただ、考えを整理したいだけなのよ……」

 嘘は言っていない。
 この先どこかでワカッテマスさんに一発勝負を仕掛ける所存だが、嘘は言ってない。

ミセ;*゚ー゚)リ「ああ、どうか顔を上げてくださいお嬢様……!」

ξ:::⊿゚)ξ(……ぜってえタダじゃ帰らねえからな……)

 最悪あのガン垂れ野郎とは殴り合いになるだろうが、そこはもう割り切っていこう。
 どうせあいつは私を殺せない。立場的にも半殺しくらいが関の山に決まっている。
 いざとなったら魔眼にレモンだ。目に効く刺激物を死ぬほど用意して臨もう。

ミセ;*´ー`)リ「で、では私はひとまず腕の治療をしてきますから、一旦お開きにしませんか?
       話はまたその後でって感じで、今すぐここでは無理ですよぉー……」

ξ;゚⊿゚)ξ「えー先っぽだけ! てかドクオ達が話してくれてもいいのよ!?」

('A`)「魔眼を敵にしたくないので嫌です」

 こいつダメだ忠誠心がない。

ξ;゚⊿゚)ξ「内藤くんは?」チラッ

( ^ω^)「あ、僕も経過観察中の身分なのでちょっと、すみません……」

ξ゚⊿゚)ξ「Oh.......Realistic.......」

 おかしい。仲間だったら組織とか平気で裏切ってくれるんじゃないのか。
 なんだこの現実的な距離感。親密度上げるイベントとか私が見落としてたのか?

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620名無しさん:2021/12/20(月) 22:25:16 ID:xDJkNY0g0





(´・_ゝ・`)「――どうしたよ。揉め事か」

 そんな時だった。
 すっとぼけたように上擦った声が、AKIRAの台詞と共に現れたのは。


ξ;゚⊿゚)ξ「お、お前はまさか……!」

(´・_ゝ・`)「盛岡ですけど」

 スーツ姿のなんちゃら議会所属のおっさんの、盛岡デミタス。
 彼は真顔で私達を眺め、やがて何かに得心したのか笑みを浮かべて頷いていた。

(´・_ゝ・`)「……誤作動かと思って慌てて来てみりゃ、そういう事かよ」

 盛岡は静かに独りごちて天井を仰いだ。
 誰にも、彼が何を言っているのか分からなかった。



ξ゚⊿゚)ξ …ハッ

ξ;゚⊿゚)ξ「そ、そうそう揉め事なのよ!!
       まさに今、盛岡さんの出番なんですよ!!」

(´・_ゝ・`)

(´^_ゝ^`)ニコォ…

 笑顔を作り、当てつけのように深々と腰を折って見せる盛岡デミタス。
 私にはそれが悪魔の所作に見えていたが、悪魔と魔物なんて大体一緒だし、まぁいいかと思った。

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621名無しさん:2021/12/20(月) 22:29:53 ID:xDJkNY0g0


(´^_ゝ^`)「そう畏まらずとも、遠慮なく私を使って下さい。
      ギブアンドテイクなんて言いませんから。さあどうぞ、なんなりと……」

ξ;゚⊿゚)ξ(こいつ、小物っぽいゴマすりに躊躇がない……!)

 あの盛岡デミタスが目的もなく私に傅くとは思えない、が。
 こいつが居れば私も盤面に手が届くのだ。引き下がっては元も子もない。
 悪魔相手に五分の契約――望むところである。

ξ゚⊿゚)ξ「……なら、みんなが隠してることを全部教えて。全部よ」

(´・_ゝ・`)「お安い御用で。だけど俺の隠し事は教えない。オッケー?」

ξ゚⊿゚)ξ「うん、お願い。今は盛岡さんしか頼れる人が居ないから……」チラッ

 私はNTR展開を示唆させるような口振りでミセリさんをチラ見した。

ミセ;* Д )リ「あ゙ぁ……ッ!」

 これが驚くほど効いた。魔眼に壊された腕より痛がってるの逆に恐ろしいな。
 NTRで脳を破壊するやつが魔物にも通じるとは思わなかった。困ったらまた使おう。

ミセ;* Д )リ

ミセ;*゚ー゚)リ「――ああもういいですよ! 話がこう半端じゃ仕方ないです!
       あとで私が怒られますから、一度しっかり話し合いましょう!」

 NTRで脳を破壊された結果、彼女は魔王軍の規律よりも従者としての立場を尊重してくれた。
 それでも肩をがっくり落とし、後々起こるであろう面倒事に早くも溜息をついている。
 すまないミセリさん。今の私は私情だけで動いているんだ。

.

622名無しさん:2021/12/20(月) 22:33:36 ID:EfRpEneM0
きてんじゃん!!!

623名無しさん:2021/12/20(月) 22:34:58 ID:xDJkNY0g0


ξ;゚⊿゚)ξ「ミセリさんは治療が先でしょ! 腕ぐしゃぐしゃなんだからね!?」

ミセ;*゚ー゚)リ「あ、そういえばそうでしたね」

( ^ω^)「むっ! それくらいなら僕の復元能力で直せるから直すお!」ヒョイパクー
 つ゚

ミセ*゚ー゚)リ「うおお直ったぞ」

 なんやかんや内藤くんが光の速さで激化薬を飲んで能力を発動。
 復元能力をいい感じに駆使してミセリさんの腕を修復した。
 流石には完治は無理そうだったが大体直っていた。すごいなあと思った。


('A`)「……ったく、俺は守秘義務を遵守するからな。何言っても無駄だぜ」


(´・_ゝ・`)「あいつ魔界の自宅にエロ本めちゃくちゃ転送してるぜ。異種姦ばっかり」

ξ゚⊿゚)ξ「そっかドクオも人間が大好きだったのね。私の好きとは意味が違うけど……」

(´・_ゝ・`)「まず彼はショタ石化界隈の造形が深く」

ξ゚⊿゚)ξ「ショタ石化界隈!?」

ゆっくり魔理沙「という訳で今回は色んな特殊性癖について解説していくんだぜ」


(;'A`)「――待ってくれ濡れ衣だ!! 俺の性癖は極めてノーマルだぞ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「最近なにでシコった?」

(;'A`)「答える訳ねえだろ!!」

(´・_ゝ・`)「そういやコミックバベルの11月号読んだか?」

('A`)「あーあれみぞね先生の」

ξ゚⊿゚)ξ

 その後いくつかの秘密を盾に説得、晴れてドクオも仲間になってくれた。
 まさにツンちゃん軍団再結成の瞬間である。名シーンだなぁ。

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624名無しさん:2021/12/20(月) 22:36:08 ID:xDJkNY0g0



          #08 開かれた社会とその敵とツンちゃん


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625名無しさん:2021/12/20(月) 22:40:24 ID:xDJkNY0g0

≪6≫


 首都高を走る彼のミニバンは最悪のプレイリストで彩られていた。
 知らない古い音楽を解説なしで聞かされ続けるのは、正直言って苦痛だった。

(´・ω・`)「……100ワニのプレイリストだったら、冗談で保存してあるけど」

 「……あれ、ヨルシカ入ってたでしょ」

(´・ω・`)「それに変えるよ」

 運転中、助手席の私をチラ見して気を遣ってくるショボーン。
 彼はすぐに端末を操作して音楽を変えた。ヨルシカの「だから僕は音楽を辞めた」が流れ始める。

(´・ω・`)「フェイゲン、老人相手にはウケるんだけどな」

 「老人相手にはね。ていうか私があれ嫌いなの知ってるでしょ?」

(´・ω・`)「……えっ、ナイトフライって蛾なの?」

 窓の向こうには首都高の夜景。
 どこを走ってるかも分からないが、今日の目的だけはハッキリしている。

 私はこれから勇者軍の人と会う予定だった。
 『当日』の予定を組むとかで、私にも声が掛けられたのだ。
 応じない理由はない。というか断っても無意味だ。私はもう引けない所まで踏み込んでいる。

(´・ω・`)「個人的には夜逃げの意味で選んでみたんだけど、ごめんね」

 「……まだ着かないの?」

(´・ω・`)「降りてもしばらく下道だよ。あと2時間ってトコかな」

 魔王軍の索敵能力はかなり広範囲に及んでいる。
 VIP市全体は当然として、あの街に入った時点で付けられるマーキングはかなりの曲者だった。
 イメージ的には全長300kmほどの糸。これを振り切る方法は、現時点ではゴリ押ししかない。

 だから、今こうして首都高を走っているのもマーキングを外す意味合いが強かった。
 つまりは300km分の遠回りである。敵に位置情報を与えない為とはいえ、中々につらい。

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626名無しさん:2021/12/20(月) 22:43:29 ID:xDJkNY0g0


 ――このマーキングに最初に気付いたのはショボーンだった。
 彼は目ざとい人間である。他人の嘘や欺瞞、イカサマというものを常に考慮して動いている。
 そんな猜疑心に『超人的な肉体』という激化能力を加味して云々、まぁ上手くやったんだと思う。

 これだけ特殊な技能を持っていても組織とか、出世とか、そういうのを考えるんだな。
 私にはよく分からない。一般人のラインで生きてれば、それこそ豊かな一生を送れそうなのに。

(´・ω・`)「これからキミは勇者軍の機密を知る。
      僕の信用あってこその、とんでもないVIP待遇だよ」

(´・ω・`)「……と言うと恩着せがましいけどさ、君には本当に感謝してるんだ。
      私の実力が少しずつ評価されてきてる。次の作戦、上手くいったら大出世できるぞ」

(´・ω・`)「こないだなんて、あの王座の九人が僕に教えを請うてきたんだよ?
      僕も代わりに稽古をつけてもらったけど、あれは爽快だったね」

(´・ω・`)「だからさ、君にもお礼がしたいんだよ。リクエストはあるかい?」

 「……じゃあ音楽止めて」

(´・ω・`)

(´・ω・`)「いいの? 俺とサシで喋るの、嫌じゃない?」

 彼はそう言って端末を叩き、聞き分けよく音楽を切った。
 車内が走行音だけになる。頭が少し、軽くなったような気がした。

 「イヤホン付けるから大丈夫。着きそうになったら起こして」

 ようやく雑音が消えたところで、私は有線イヤホンを取り出して両耳に蓋をした。
 続いてスマホでYouTubeのプレイリストを開き、窓に向かって身を捩る。
 目を閉じて、長く息を吐いた。他人と喋るつもりはもうなかった。

(´・ω・`)「……まったく、僕だって普通に眠いんだけどな。音楽くらいシェアしようよ」

 「……好きなものとは一人で向き合いたいの。分かるでしょ」

(´・ω・`)「僕も勝手に聞かせてもらうからね。沈黙は苦手なんだ」

 その後、イヤホンの向こうから別の音楽が聞こえてきた。
 とても小さな音量だったが、彼はまた古めかしい曲を流し始めたようだった。
 確か坂本なんとかの星がどうこうみたいな……ダメだ、興味がなくて思い出せない。

.

627名無しさん:2021/12/20(月) 22:44:49 ID:xDJkNY0g0


(´・ω・`) 〜♪

 車の走行音に音楽が2種類、ついでに鼻歌という子守唄四重奏。
 いささか耳が大変だったが、頭を止めて一眠りするには丁度いい情報量だろう。

 私はすとんと力を抜いて、震える窓辺に体を預けた。
 意識は程なく微睡みに解けて流れ、

(´・ω・`)「……おやすみ、毛利まゆ」

(´・ω・`)「利用価値がある限り、君の存在には意味があるよ」

 そして、私は左眉をかいて呟いた。

.


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