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あと3話で完結ロワスレ

342虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:30:26
以上で99話の投下を終了します。
盛大なネタかぶり?気にするな!俺は気にしない!!

343 ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:55:33
投下乙です!
ユピーの激情が見事……に対してヤマメ達はさぁwww

絶望汚染ロワ289話投下します

344289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望  ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:56:37

『ねえ貴方、ちょっと聞きたいのだけど』
『何いきなり話しかけてるわけ?』

第一印象―――最悪。

『まあ、あいrすが俺のことを覚えてねえって言うんじゃ仕方にい。
 俺のやることは変わんねぇからよ』
『さっきの私を守るって奴? 知らない相手に守ってもらうほど弱いつもりはないわ』
『守るんじゃない、守ってしまうのがナイト』

変な奴、これ以上彼を表すに相応しい言葉は思いつかない。

『フランドール……紅魔館の地下に幽閉されてる吸血鬼だったわね。
 そんな奴の説得が彼女にできると思うの?』
『うむ、確かにフランはだいぶ少しばかり頭がヒットしちまうことが多いけどよ、それでも話の通じない奴じゃにい。
 俺はフランと、フランを助けようとするさくらを信じるべ』

呆れるぐらい変な奴で。

『さくらと……こっちはフランドール? まさか二人共死んでるなんて……』
『―――くしょう』
『え?』
『ちくしょおおおおおおおお!!!』

それでいて、無駄に優しくて。

『ブロント……』
『剣崎とイムカは……死んだ。後はバベルの塔に乗り込むだけなんだが?』
『そう、マジックの方は手筈通りに上手くいってるはずよ。少し時間を置いてから向かいましょう』
『おぃィ? 準備完了状態なら今すぐ乗りこむべき、死にたくないならそうするべき』
『……その涙痕を消す時間をあげるって言ってるの』

どうにも放っておけない……変な奴。




345289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望  ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:57:23

(それなのに、こういう時は頼りにしたくなる……)

都合のいい話だろう、それは理解している。
それでもそう思わざるを得ない程に、彼の持つオーラは強く人を惹きつけるのだ。
マジックは先程から口を開こうとしない、ただぼんやりとランスの死体を見つめたまま動かない。
魂の汚染、この殺し合いの中で多くの犠牲を出してきたそれはアリス一人にどうにか出来るものではなかった。
だが今この場にいるのは二人だけ、ずっと側にいた騎士はここにはいない。
一刻を争う状況でアリスの思考が回り続ける、自分が一人で彼女を助ける方法がないかを探すため。

(言葉だけでどうにかなるような代物じゃない……けど、私の魔法じゃ魂の浄化なんて……)

どれだけ思考を巡らせようと、アリスの持っている手札にこの状況を打開する手段は存在しない。
無力感が込み上げ悔しさから、唯一動く左の拳を強く握る、爪が手の平に食い込むがその程度のこと気にも――

(―――あった!)

突然顔を跳ね上げ、マジックの手を取り無理矢理開かせる、

「っ……離して! もう、何をしたって……」
「いいから、黙って見てなさい」

抵抗するマジックには取り合わず、アリスは静かに瞳を閉じて記憶を辿る。
皮肉にも「本気」を出すことを意識したせいで、自分の力のみに拘っていた。
一人だけで解決する必要はないのだ、自分の力でダメなら別の誰かを頼ればいい。
そう、七色の魔法では浄化できない魂も、彼女の魔法ならば癒すことができるはず。
あのフランドール・スカーレットさえも心を開いたという、素敵な魔法。
それは―――

「出来たわ」
「………お饅頭?」

それは、【手の平から和菓子を生み出す魔法】。
自らのカロリーを媒体として和菓子を作り出す、たったそれだけの、小さな魔法。

『この魔法はね、今はいない……ボクが大好きな人達が使う、幸せに満ちた魔法なんだ』

そう言いながら、少し寂しげに笑っていたさくらの姿を思い出す。
あの時は使い道の無いくだらない魔法だと切り捨てたが、今ならわかる。
この魔法に込められた、何よりも尊い想いを。

「マジック、食べてみて。絶望してようが食欲ぐらいあるでしょう」
「っ……」

マジックが最後にまともな食事を取ってから丸一日経過している。
どれだけ負の感情に支配されていようと、空腹感までは消せはしない。
無理矢理渡された饅頭とアリスを交互に見て、恐る恐るといった様子で口元へと運ぶ。
ぱくり、と一口噛り――

「わ、美味しい……」

絶望に染まっていた顔が、綻んだ。
これこそがこの魔法に込められた想い。

346289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望  ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:57:59

「相手に、ほんの少しの笑顔を与える魔法、か……」

胸元で桜色に光るペンダントを握り、小さな魔法使いへと想い馳せる。

「少しは目が覚めたかしら?」
「アリス……ご、ごめんなさい、こんな状況で、私は何を……」
「反省するのは後、今は上へ向かうのが先よ。
 ……私達は一人じゃない、必ずアム・イスエルを倒せるわ」

その言葉に力強く頷き返すマジックを見て、そっと胸を撫で下ろす。
今行ったのはクルックーの説法やリセットの「クラウゼンの手」と違い、ほんの一時の応急処置。
再び魂が汚染されるまでどれだけの猶予があるかわからないのだ、今は前へと進み続けるしかない。

「行くわよ、マジック!」
「ええ!」





『SLASH』
『THUNDER』

『LIGHTNING SLASH』

「があっ……!!」

ブレイドの雷を纏った斬撃がブロントの体を捉えた。
堪らず吹き飛ばされ、その手から剣と盾がこぼれ落ちる。

『あー、こりゃ本気でマズイ』
「け、んざき……!」
「所詮こんなものかい、これで終わりだよ」

海東の言葉に従い、ブレイドが剣を振りかざしながらブロントへと駆け出す。
それを認識こそすれど、その手には迫る刃を防ぐ手立てが存在しない。

(すまにい……剣崎、俺は―――)

『ケンザキの事を、諦められるはずがない!』

「――っ!?」

347289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望  ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:58:42

ブロントの命を刈り取るために振り下ろされた刃。
それは彼の寸前で動きを止めていた。
ブレイドがブロントを殺すことを躊躇った……などというわけではない。

「イムカ……」

それは機関銃であり、ライフルであり、大筒であり、剣でもある。
ヴァルキュリアを倒すために作られた武器、イムカの想いが込められた「ヴァール」によって、ブロントはブレイドの刃を受け止めていた。

「イムカ、お前……」

『ケンザキは私達を裏切っていない! ならば私も諦めない!』

「……そうだな、大分少しばかり諦めが心を支配している鬼になっていた」
「何をしているブレイド! 早くトドメを刺せ!」

海東の言葉に反応し、鍔迫り合いをしていたブレイドが僅かに間合いを取る。

「それにはどちらかと言うと大反対だな!!」

それを追いかけるように踏み込み、ブロントはヴァールを構える。
通常の人間よりも高い力を持つエルヴァーンと言えど、その巨大な武器を片手で扱うことは不可能だ。
だがナイトは片手剣しか扱えないわけではない。
それはブロントが好ましく思っていない、幻想郷に紛れ込んだもう一人のナイトの得意技、
常に響く笑い声と共に幾度と無く放たれた、伝説の突き技―――

「パワースラッシュ!!」

鋭く突き出された剣先がブレイドの体を捉えた。
しかし、ブレイドの装甲である超金属とヴァールの刀身では強度が余りにも違いすぎる。
ヴァールの全体に亀裂が走るのを感じながら、それでもブロントはその突きを止めようとはしない。
何故なら彼は知っているからだ、この武器が―――イムカの魂が、この程度で砕けやしないことを。

「おおおおおおおおおお!!!」
「馬鹿なっ!?」

ブレイドの装甲が砕け、その身にヴァールの刀身が突き刺さる。
これが剣崎一真であったなら、それでもまだ諦めずに反撃を試みたであろう。
だがディエンドに召喚された、魂の無いブレイドにそれだけの意思は持つことができない。
呆然と自身に突き刺さった刃を見て、その体を消失させていく。

「っ……は、はは! やはり僕の言った通りだったようだね!」
「海東……」
「結局キミも、友情より自分の命を選んだんだ!」

嘲笑する海東へと、ブロントは無言でヴァールを構え直す。

「そんな今にも壊れそうなガラクタで、僕を倒せると思っているのかい?」
「今のお前には何を言ってもわからないだろうな、まずはそのヒットした頭を冷やしてやる」

互いの獲物を相手に突き付け対峙する。
この状況ではブレイドとのダメージが大きいブロントの不利は否めない。
それでも、彼は一歩も退かず、仮面に隠された海東の瞳を見据えていた。

『ブロント……お前は、俺のようには、なるな、よ……』
(言われるまでもにい、俺がバーサーク状態になることなどありえないのは確定的に明らか。何故なら……)

「キミもいい加減に死にたまえ!!」
「ナイトは、相手の心も守るからよ!!」

348289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望  ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:59:20




「ふふ、流石騎士様、格好良いことを言うわね」

アム・イスエルはそう言うと魔法ビジョンを消し、部屋の入口へと視線を向ける。
後一分もしない間に二人の魔法使いはここへと到達するであろう。
だが、彼女はそのことに動じた様子は一切無い。

「ランス君の死体を見て持ち直したのは意外だったけど……」

呟き、視線を横へとずらす。
そこに立っているのはパステル・カラー、その瞳には一切の光が宿っていない、完全汚染人間の一歩手前まで来ているだろう。

「ふふっ、便りにしているわよ、パステル」

アム・イスエルのその背後。


そこにあるのは、巨大な魂の集合体―――【汚染塊】。


「さあ、魔法使いさん。一人の死は乗り越えたかもしれないけど―――100人の死をぶつけられたら、耐えられるかしらね?」


【バベルの塔・65階/深夜】

【アリス・マーガトロイド@東方Project】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(小)、右腕使用不能、魂汚染度60%
[装備]:上海人形@東方Project
[道具]:ミニ八卦炉@東方Project、さくらのお守り@D.C.Ⅱ、基本支給品
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、これからは「本気」を出す
3、ブロントのことは意地でもさん付けしてやらない

【マジック・ガンジー@ランス・クエスト・マグナム】
[状態]:疲労(小)、魂汚染度68%
[装備]:バルフィニカス@魔法少女リリカルなのはGOD
[道具]:ハニーの欠片@ランス・クエスト・マグナム、さくらのマント@D.C.、基本支給品
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、ランスのことは、今は考えない


【バベルの塔・55階/深夜】

【ブロントさん@東方陰陽鉄】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)インビンシブル1時間使用不能、フラッシュバックによる無力化の可能性、魂汚染度50%
[装備]:ヴァール@戦場のヴァルキュリア3、ガラントアーマー一式@東方陰陽鉄
[道具]:ブレイバックル@仮面ライダーディケイド
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、海東を止める
3、救うのではない、救ってしまうのがナイト!
4、カオスはどこかで捨てたい

【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
[状態]:疲労(小)、魂汚染度65%
[装備]:ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド
[道具]:ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、世色癌箱@ランス・クエスト・マグナム、基本支給品
[思考]:
1、最後まで生き残り各世界のお宝を手に入れる
2、ブロントを倒す
3、友情に価値なんてない!

349 ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:59:47
以上で投下終了です

350 ◆Air.3Tf2aA:2013/02/26(火) 20:21:40
【ロワ名】現代ジャンプバトルロワイアル
【生存者6名】
1.ポートガス・D・エース@ONE PIECE
2.小野寺小咲@ニセコイ【フラッシュバックによる無力化の可能性】【限界寸前】
3.赤司征十郎@黒子のバスケ【右腕切断】
4.杠かけがえ@めだかボックス
5.藍染惣右介@BLEACH【マーダー】
6.斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難

【主催者】
鶴喰梟@めだかボックス(獅子目言彦により殺害されている)
獅子目言彦@めだかボックス
【主催者の目的】自らの『欲望』を妥協して満たす

【補足】
・梟博士が捕らえていた獅子目言彦が暴走。優勝すれば願いが叶うという仕組みだけは残っていますが実質主催者は不在、言彦の殺害がゲームクリアーの障害となっている状況です。
・願いが叶う仕組みをどうやって手に入れたかは不明。梟亡き今知る者はなし。
・『主催者』鶴喰梟は主催本拠地の屋上で死亡している

ひとまずテンプレだけ。問題などあれば言いつけて下さいな。

351名無しロワイアル:2013/02/27(水) 00:20:19
剣ロワと虫ロワの蟲毒の儀式に精神汚染ロワの汚染塊……
共通点の多い設定だけにそれぞれどんな結末を目指すのか、見ものだなw

352 ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:07:30
ちらちら他の方のを読んでるのだけれど、
虫ロワのヤマメちゃんがかわいくて仕方ない……なんということだ

っと、ずいぶん間が空きましたが、「第297話までは『なかったこと』になりました」を投下します!

※ただし本編ではありません!

353XXX:死者スレ ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:10:50
 


???「……おはよう、球磨川先輩」

???「といっても、“ここ”には昼や夜の概念なんてないのだけれど」

???「少なくともたった今起きた相手に掛ける言葉は、おはようで合っているわよね?」

球磨川「……出迎えはきみひとりかい、赤さん」

???「ええ――」

赤青黄「――私ひとりよ、先輩(はぁと)」

赤青黄「他の子はあなたの顔なんて見たくないか、まだ続いてるお話に夢中だわ」

赤青黄「ほら、向こうのモニターの前。けっこうな人が群がっているでしょう?」

赤青黄「みんな知りたいのよ――自分が関わったお話の結末を」

赤青黄「あなたが台無しにして、それでも終わらせきることができなかった、夢の跡をね」

球磨川「そう、か……」

球磨川「つまりここは天国とか地獄とか、そういうのじゃないのか」

球磨川「……安心院さんは、こんな場所を用意してたってことなんだね…………」

赤青黄「ええ」

球磨川「どうりで。」

球磨川「どうりで不思議だったわけだ。」

球磨川「僕は≪大嘘憑き(オールフィクション)≫で死体の傷を『なかったこと』にしたけど」

球磨川「本当なら、死者の死そのものを『なかったこと』にしてやるつもりだった」

球磨川「でも出来なかった」

赤青黄「そう、出来なかった」

赤青黄「死体の傷は無くなれど、心までは戻らなかった」

赤青黄「この箱庭学園で最も大切なものである心だけは、取り戻すことが出来なかったのよね」

赤青黄「――それは“ここ”があったから」

赤青黄「“この場所”を安心院さんが創って――」

赤青黄「死んだ人の心が集まる“ここ”を、“学園外”と定義したから、よ」

赤青黄「球磨川先輩はずっとそれを“自らに課せられた制限”だと思っていたようだけれど」

赤青黄「気付くべきだったわね、どこかで。最初から間違えていたことに」

赤青黄「最初から――貴方が私と戦った、あの神経衰弱のように――勝負が決まってたことに」

354XXX:死者スレ ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:11:48
 
球磨川「そうだね。……気付くべきだったんだ。僕は」

球磨川「僕は気付くべきだった――」

球磨川「僕がことを上手く運べるわけがないってことに、さっさと気付くべきだったんだ……」

赤青黄「ずいぶんとしおらしいですね、先輩」

赤青黄「お得意の格好つけも外して、ずいぶんと丸くなったご様子ですが――」

赤青黄「まだ貴方には仕事が残っていますよ(はぁと)」

赤青黄「ゲーム中、散々迷惑をかけた上、死体の尊厳まで侮辱しきった罪は重いですからね」

赤青黄「今から私と一緒に、全員に巡礼して、一人一時間謝罪の時間です」

赤青黄「箱庭学園の命を預っていた者として――私があなたを逃がしません(はぁと)」

球磨川「手厳しいね」

球磨川「まあ、いつの世も嫌われ者に対する態度なんてこんなものかな……」

球磨川「なまじ今回は僕が愚かだっただけに、余計に身に沁みちゃうなあ」

球磨川「わりとヒーローっぽく散ったつもりだったけど、迎えの数もひとりだけだしね」

球磨川『それについては全然、これっぽっちも気にしちゃないけど!』

球磨川「けほん……でも、そんな中で」

球磨川「僕のことを嫌いなはずの君が僕を迎えに来てくれたのは、少し驚くな」

球磨川「いつぞやの高貴くんの言葉はうわぁと思ってたけれど、君は本当は、本当に優しい子だったり?」

赤青黄「――そんなわけあるわけないじゃないですか」

赤青黄「少なくとも球磨川先輩に対しては、今も昔もこれからも、」

赤青黄「この赤青黄は軽蔑以外の感情を一切持ちませんので。安心してください(はぁと)」

球磨川「……だろうね」

赤青黄「それでもこうして迎えに来てあげたのは――伝言があるからです」

球磨川「伝言?」

赤青黄「保健室の赤衣の天使(レッドエンゼル)、赤青黄としてではなく」

赤青黄「安心院さんの端末の「悪平等(ぼく)」として、球磨川先輩に伝言があるからですよ」

球磨川「……!」

赤青黄「もちろん安心院さんからね」

355XXX:死者スレ ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:12:46
 
赤青黄「さて、前置きは終わり。あなたが望む・望まないにかかわらず、」

赤青黄「今から私はその伝言を読み上げて――赤衣の天使(レッドエンゼル)に戻るわ」

赤青黄「3秒、時間はあげるから」

赤青黄「せめて地べたに座るのはやめて、ちゃんと立って聞くようにしなさい(はぁと)」

赤青黄「3」

球磨川「……やれやれ」

赤青黄「2」

球磨川「本人も“ここ”にいるだろうにわざわざ伝言なんて」

赤青黄「1」

球磨川「はは、よっぽど僕は見捨てられちゃったってことなのかな――――――」


赤青黄「<――――ごめんなさい>」


球磨川「……え?」

赤青黄「<本当に、申し訳ないと思っている>」

赤青黄「<僕がこんなことを言うなんて、どんな驚天動地が起ころうと思ってもいないことだったけど>」

赤青黄「<もしかしたらこの言葉は、今日僕がきみに言うために残されてたんじゃないかとすら思うよ>」

球磨川「――――おいおい。おい」

球磨川「ちょっとそれはないぜ――“それはない”、ぜ、安心院さん」


赤青黄「<きみは悪くない>」


赤青黄「<今回の件については――僕が、全面的に、悪かったと思う>」

赤青黄「<きみがしようとしたこと、その名誉に誓って>」

赤青黄「<僕がなぜこんなにも僕のことを蔑み、君に謝っているのか、その真意は明かさないでおこう>」

356XXX:死者スレ ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:13:32
 
赤青黄「<それでも僕は。僕はバカだったと思う>」

赤青黄「<思慮が足りない、我慢がきかない、夢しか見てない――子供だったと思う>」

赤青黄「<だから僕はきみを迎えに行けない>」

赤青黄「<きみから逃げて死んだ僕はまだ、きみの言葉を聞く準備ができていないんだ>」

赤青黄「<だからせめて>」

赤青黄「<せめてこの、物語の結末を見届けるまで……悪いけど、待っててくれるかい?>」

赤青黄「<球磨川禊へ>」

赤青黄「<安心院なじみより>」

赤青黄「<2パーセントの愛情と、98パーセントの信頼を込めて。――嬉しかったよ>」

球磨川「……」

赤青黄「……以上」

赤青黄「感想はありますか? 球磨川先輩」

赤青黄「あるならその涙をぬぐって、5秒以内に答えておけば、あとで私から伝えておきましょう」

赤青黄「なあんて――野暮なことは言いませんけど(はぁと)」

赤青黄「どうせもうすぐ、終わりです。ゆっくり感情を整理してください」

赤青黄「……結局、貴方も安心院さんも、そして私も。だれもがみんな、子供だったのかもしれないわね」

赤青黄「夢を作って、それを追って、勝手に失望してしまったり」

赤青黄「誰かの夢を叶えようとして、空回りしてしまったり」

赤青黄「くだらない意地の張り合いにいつまでも付き合って、でも割と楽しい気がしてしまったり?」

赤青黄「全く――融通の利かないというか、一筋縄ではいかないやつらだわ」

球磨川「……でも僕は」

球磨川「僕はそいつらのそういうとこ、嫌いじゃないぜ」

赤青黄「奇遇ね。私もよ(はぁと)」

赤青黄「まさか球磨川先輩と意見が一致する日が来るだなんて」

赤青黄「死んでも無いと思ってたけど、ふふ、案外、死んでみるものね」

球磨川「……さっき、もうすぐ終わりって言ってたけど」

赤青黄「ええ。ほら、モニターを見れば分かるわよ。もうすぐこのバトルロワイアルは終わるわ」

赤青黄「ああ、さっきは球磨川先輩、ずいぶんしおらしくなってましたけど――」

赤青黄「この結末を見てもそんな腑抜けた態度でいるのなら、もう少し私は貴方を軽蔑しちゃうかも?」

357XXX:死者スレ ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:14:39
 

球磨川「……」

球磨川「――これ、は」


赤青黄「1、優勝エンド。」

赤青黄「2、脱出エンド。」

赤青黄「3、全滅エンド。」

赤青黄「バトルロワイアルの終わり方は、この3つのどれかに当てはまると言われているけれど」

赤青黄「今回は、全滅エンドね。」

赤青黄「ただし――きっと世にも珍しい、通常ならありえない、そんな全滅エンドだわ」

球磨川「……なんとなく、僕が“ここ”に来て、君と会話してる理由が分かった気がするよ、赤さん」

赤青黄「あら本当かしら? なら話が早いわ、さっさと言ってちょうだい」

赤青黄「そう、今回先輩は、無理して戦って、しかも最後に消えちゃったもんだから――」

球磨川「そう、僕は」

球磨川「今回に限っては一回も、あの言葉を使わずに死んでしまった」

赤青黄「グッド。じゃあほら、ハリー、ハリーよ、球磨川先輩。あの五人がまだ生きているうちに」

赤青黄「あなたに“勝った”あの五人に、ここから負け惜しみを言ってあげなさいな(はぁと)」

球磨川「――――ああ、そうだね」

球磨川「あー。改めて言うと、随分きざな言い回しだけど」

球磨川『僕はこれでも、けっこう演技派な自負はあるから、カッコよく言おうか――』



『――“また勝てなかった”。』 



球磨川『もし生まれ変わったら、今度こそ、勝つ――――なんて、どう?』

赤青黄「一言余計なとこまで含めて、すごく球磨川禊ですね」

赤青黄「……まあいいでしょう。じゃあ、あとは任せましたよ」

球磨川『?』

赤青黄「貴方には言ってません。さ、付いてきなさい(はぁと)謝罪の旅は長いですよ(はぁと)」

球磨川『ちょっと赤さん、耳は引っ張らないでくれない!? 痛、いた、アタタ……』

358XXX:タイトルコール ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:16:19
 


◇◆◇◆



???「さて、みなさんここまでこのロワを読んでくれてありがとう」

???「最後のタイトルコールをするのは、当然この僕に任せてもらおうかな」

???「7932兆1354億4152万3222個の異常性と」

???「4925兆9165億2611万0643個の過負荷」

安心院「合計1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを持った“悪平等”――この安心院なじみにね」

安心院「いやまあ、ここまでの2回のタイトルコールも言ってしまえば僕だったんだけどね」

 第298話「こんなふうにスキルで名前を変えて」

 第299話「タイトルのときだけこの死者スレからちょっとお邪魔してたと言うわけさ」

安心院「……こらそこ、そんな裏話は別にいいから本編はよ!とか」

安心院「あんまり人が泣いちゃうようなことを言うもんじゃないぜ……?」

安心院「これでも今ちょっと精神的にダウンしてるところなんだからさ」

安心院「さて」

安心院「前座にしてはずいぶん長く喋ってしまったけど――そろそろ名残惜しさにお別れを言わなきゃいけない」

安心院「僕が殺した少女たちの結末を、せめて君たちだけは覚えておいてくれ。」

安心院「さあ、第300話――」



 第300話「ウソツキハッピーエンド」



◆◇◆◇

359 ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:19:05
投下終了です。死者スレは本編に入りませんね?入りません。
本編は今から書くので2月中に投下できたらいいなあと思います。

360名無しロワイアル:2013/02/27(水) 08:31:28
うっわ、そんな手があったのかwww
らしいなぁ、投下乙です

361名無しロワイアル:2013/02/27(水) 15:39:55
あれ?まだ参加受け付けしてたっけ?

362名無しロワイアル:2013/02/27(水) 15:45:17
受け付けてなかったと思うけど、そういうふうに見える告知ってどっかであったっけ?

363名無しロワイアル:2013/02/27(水) 21:22:00
>>9
>>10
のあたりのレスを参考にすれば……参加表明期限はそこまで厳密でない
とも解釈できるかなぁ

364 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/02/27(水) 23:40:02
死者スレ! その手があったか!!
後、剣士ロワ最終話、ペース配分ミスで今月中は無理っぽいです。
事前にハーマルくん使って告知しておいて申し訳ありません。
UX発売前には仕上げなければ……!

365FLASHの人:2013/02/28(木) 00:13:38
どもです。
今から参加?別にいいよ?(えー

短期決戦で2.3作完結すりゃ形になるだろうと思ってた認識の甘い自分を戒めるべく
もういくらでも迎え入れます。来るものウェルカム去るもの捕縛。
大丈夫大丈夫。多分大丈夫。

366リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:55:39
「よぉ……そろそろ……限界か?」
ゼクレアトルは体に傷こそ負っていないものの、息も絶え絶えに生存者に問う。
ここ部屋に突入した時には六人だった生存者は、地に伏した恋川春菊と霊幻新隆を除き今は四人。
その四人のうちでも蝉が脇腹を大きく抉られておそらくはもう戦うことは適わない。
無理やり巻いたパーカーの厚手の生地を染み透してなお滴る血が刻限を示すかのように床に赤い水溜りを作り続けている。
「まだまだ……そっちこそ、限界が近いんじゃないの?」
春瓶はぐっと歯を食いしばって、口の端を上げてみせる。
三体目の世界鬼を撃破した時、この部屋に「世界鬼の世界のルール」が適用され、具現化が可能となった頼もしい相棒、ハイドも彼に倣って笑う。
「そうだぜ三下、俺達呪術人形に似たその体、いつまで保つんだ?」
「わかっちゃいたんだけどな、制限がなければ、俺を倒すことは不可能だから……」
ゼクレアトルもまた、薄く笑って手を床にかざす。
ぼうっと光った手に呼応するように、同じく光った床から加湿器のように上がった霧が形を成して春瓶達を見下ろした。
「霧の妖怪シュムナ……さあ、斬っても突いても効かないこいつは……どう凌ぐ?」
シュムナがその体で壁や床をじわじわと溶かす様を見せ付けるように部屋中に広がると、ゼクレアトルはまたも問うた。
「気にいらねぇぜ……この期に及んで、こんな奴だとはよ!!」
一喝。
ハイドの手に握られた「荒くれ鎖鋸(テキサスチェーンソー)・暴(ハリケーン)」が床に螺旋を描く用に傷を刻む。
その傷から吹き出した暴風はそのまま渦を巻いて部屋の中心に天井へと登る竜巻を作り上げた。
「お覚悟!!」
その暴風に巻き込まれ、霧の体を一本の筋として部屋の中央に繋ぎ止められたシュムナに向かったのは鉢かつぎだ。
先刻、春瓶より託された獣の槍を飲み込み、その体を槍へと変化させて雷の如く竜巻の中心へと飛来する。
一閃。
「ぐおぉぉぉぉ」
斬れず突けずの霧と言えど、極印を込めた退魔の槍に体を侵食されたのだ、当然の如くそれは致命の一撃となった。
激しい戦いに崩れた壁の隙間から差し込むまばゆい光。
その光の中に散るように、シュムナは消え失せ、場には静寂と緊張が戻る。

367リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:56:40
「わかってると思うが……」
ふっ、と軽く息を吐いて、ゼクレアトルは世間話をするように軽い口調で語り出した。
「俺様はこのままお前らの敵として消える運命だ。あらゆる世界から脅威を呼び寄せて、お前らに差し向けるこの力を使いすぎて。あるいはお前らの誰かに殺されて、な」
生存者たちはそれに応えない。
全員が明らかなゼクレアトルの消耗には気づいていたし、終わりが近いことを感じていた。
それでもなお、気を緩めることは敗北に繋がると、この会話もまた罠ではないかと警戒を怠りはしなかった。
「さて……それはともかくとして、だ……なぁ、さっきお前たちが開放したあの世界。あのガシャポンみたいな玉。俺様の頭の上にも浮いてるこれ。なんて言うか知ってるか?」
「しらねぇよ!早く死ね!」
蝉の悪態を無視してゼクレアトルは笑う。
「これはな『宇宙の実』って言うんだ。実って言うくらいだ、樹に生るんだぜ、これ」
今度は蝉も沈黙で返す。
「それと、そこに倒れてる男、恋川な。そいつ、必殺技があるんだ。『慈愛斬り』っつってな、痛みを感じる間もなく相手を粉微塵に斬り刻むすげえ奴が」
沈黙。
ゼクレアトルが話しかける彼らには、ゼクレアトルの意図がわからない。
「質問だ、何で恋川はそれを使わなかった?『現時点で』アイツが使える最も強力な技なのに?」
「……もう、技を使えないほどに消耗なされていたからでしょう」
しばらくの沈黙に、返答なくば状況が進まないと判断して鉢かつぎが答える。
「なるほど、納得できる理由だ。だが、こうも考えられる」
ゼクレアトルは己の頭上に浮かぶ球を手にとって、言った。
「恋川はその技を『知らなかった』……俺様がこの球の名前を『知らなかった』ように」
「知らな……い?」
混乱。
今度はゼクレアトルの言葉の意味がわからない。
彼は言う。
恋川は自分の最も強い技を知らなかったと。
ゼクレアトルは己が司る頭上の世界の名称を知らなかったと。
「そうだ、知らなかった。俺様は今は『知っている』けどな……さて、賢い蝉、意味、わかるか?」
「ヒニク言いやがって!どーせバカだよ!」
大声を出して傷の痛みに体を折る蝉を愉快そうに見て、ゼクレアトルはこう続けた。

368リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:56:57
「つまりだ、この世界に入ってくる情報が更新されている。俺たちが戦い始めた時にはまだ存在していなかった情報が、今は入ってきているんだ。どういうことか?簡単だ。
 俺達の世界はまだ続いている。ムシブギョーも、ゼクレアトルも、月光条例も、神のみぞ知るセカイも……なぁ、ハクア」
「クッ……!」
またも羽衣で姿を消し、ゼクレアトルの背後を取っていたハクアは、呼びかけられたことに警戒して振り下ろしかけた鎌を退いて距離をとる。
「お前ならわからないか、桂馬ほどじゃなくても頭脳派のキャラだ。俺様の言っている意味が」
「意味……?」
構えは崩さず、あくまで警戒したままハクアは呟く。
これがただの時間稼ぎや罠だった場合を考え、平行して一瞬でも早く決着をつける策を練りながら。
「ま……さか……」
しかし、固まりかけていたその策が吹き飛ぶほどの結論が、彼女の脳裏に閃いてしまった。
それは決して認めたくない、しかし抗えない説得力を持った推論だった。
「この世界は……借り物……」
「そうだ、この世界は、勝手に進んでいる、借り物の――――――――」

369リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:57:17
世界が




途切れた

370リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:57:50




















俺は一体、何をやってるんだ……
目の前に重ねられた原稿に目を落とし、自問する。
俺が今、つい今しがたまで描いていたのは、二次創作の同人誌の原稿だ。
来月開催のイベントにむけて、長年やりたかった好きなキャラクターでのバトルロワイヤルパロディ……
だったはずだ……
描き始めた手は一向に止まる気配を見せず、勢いに任せて描くも描いたり300話……
予定だったはずの「来月」は二年も前に過ぎ去り、同じイベントに二年越しで新刊として出そうと思っていた。
その最終話を勢いのままに描いて、あと少しで完成のはずだった。
「はずだった」「予定」は現時点を持って全てストップ。
メタ発言を華麗に決めるはずだったゼクレアトルは沈黙し、それ以上の言葉を発することはない。
こんなに楽しく、ライフワークのように次々に描いて来たのに、今になってどうして手が止まるのか。
わからない、まさか無意識のうちに完成してしまうことを拒否しているのか。
いや、それは違う。
299話目を描き始めたとき、ついにやりたかった全てをぶちまける最高の快感を感じた。
300話を描いている時だって、物語を終わらせられることが誇らしくて仕方がなかった。
だったらなぜ、なぜ今俺の手は、思考は止まっているのか。
ほら、続きを話すんだゼクレアトル、この世界は借り物で、そして、この物語は……

371リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:58:09
そうか、そうなのか。
俺は気づいてしまった。
この借り物の世界が、偉大な先生方が悩みに悩んで作ったキャラクターと世界観を借りてきただけの二次創作が嫌になったんだ。
いや、嫌になったというのは厳密には違うかもしれない。
二次創作っていうのは読者の自然な感動の発露の一つだ。
あの魅力的なキャラを、あのかっこいい設定を、あの憧れの世界を自分の手で動かしてみたいという、ごく健全な行為だ。
だったら、俺はなぜ、もうこの話を描きたくなくなっているんだ。
そうだ、そうなんだ。
こんな素敵なキャラや、設定や、世界を、自分の手で生み出してみたくなってしまっているんだ。
もう、借り物では満足できなくなってしまったんだ。

372リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:58:28
それから俺は、今まで描いた全ての原稿を、1話ずつ大切に茶封筒に入れていつでも読める位置に保管してあるそれを、ダンボールに詰め込んだ。
描きかけの、終わることのない300話目も、一つの封筒に入れ、箱に入れて封をした。
そして俺はまた白紙の原稿用紙を取り出す。
溢れて溢れて仕方がないアイデアを傍らのノートに書きなぐりながら、自分の創作意欲をペンに乗せて白い紙に叩きつけていく。
ああ、なんて楽しい。
生み出すことはこんなにも喜びに溢れている。

373リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:58:44

いつか、自分が胸を張って世に送り出せる作品が描けたら、もう一度あの箱を開けよう。
そうしてあのキャラクターたちに、借りてきたあの素晴らしき世界の全てに感謝をしながら、描けなかった続きを描こう。
物語は完結するべきだ。
しかしそれは、作者が完結させるべきだと思ったときに完結すべきだ。俺はそう思う。
それがいつになるかはわからないけど、いつか出来る。俺は、出来るようになりたいんだ。

【リ・サンデーロワ 未完結】

374リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:59:02














「なぁ、最高の名作の条件って奴を知ってるか」
「売れることか?高い評価をされること?それとも誰もが名前を知ってることか……違う」
「違うんだ。名作かどうかはそんなことで決まらない」
「いいか、名作ってのはな、『読んだ奴の人生を変える』んだ。そして『人生を変えられた奴が、変えた本を名作と呼ぶ』んだ。それだけなんだよ」
「だからよ、この物語は、間違いなく名作だ。名作に、今、なった」

【完】

375 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:59:47
以上で投下終了です!
これ本当のロワでやったらボッコボコの奴やで!

376名無しロワイアル:2013/03/07(木) 16:41:20
こういう落ちか……これは予想外、というより予想できるかw
何にせよ完結乙でしたー!

……ところで、まだ新規参加は有りなやつですかね(震え声)?

377名無しロワイアル:2013/03/07(木) 16:44:00
追いついた―!

>>207 >>323 >>326 やきうロワ
やきうでカオスというからムネリンロワの系列かなと思いきや、ネタは使いつつも割りと最後まで一般人ロワしてた印象
一般人ロワだからこそ、主催者倒して大勝利!ってのじゃないんだけど
でも主催者への宣言とか込で小笠原がヒーローしてくれたから中々さわやかな最後だったと思う

>>213 剣士ロワ
ぶっちゃけすんげえ好みです
書き手自身も言ってたようにSDガンダムしまくっているところがw
上手いんだよなあ、SDガンダムじゃないキャラがSDガンダムするそのクロスがw
ゼロVS逞鍛の正義の力とか天の刃とか虎燐魄オキクルミとかすげえよ
ってか、ちゃっかり語られてる爆心烈火武者頑駄無とか、ジェネラルジオングとかどれだけSD好きをニヤニヤさせんだよw
そして、それが故にSDガンダムしていない、でも熱い修羅同士の戦いがいい意味で浮いてるんだよな―w
まじでこいつらには光とか闇とか関係なくただ剣士として目の前の剣士と戦ってるんだなってのが伝わってくる
それだけにこの決着にタクティモンじゃないけど慟哭したくなる

>>233 >>255 謎ロワ
どういうことなの……。
まじどういうことなの!?
つうかこれ、どう終わるか想像つかないんだけどwww
流石“謎”ロワw

>>244 忍殺ロワ
おお、すげえ、投下形式からして忍殺だ(150字区切り
他のだれでもないニンジャスレイヤーだからこそ、本人もブッダに感謝していたように、本編でスレイしたニンジャとの共闘ってのが夢の展開だよなw
しかもその理由もキョジツテンカンホーとか、ドラゴン先生とかをうまい具合に拾ってて納得できるしw
その二人でぼこってもぼこってもなデスドさんはマジしぶとかったなー
っつうか主催者てめえかよwww 荒木やZUNほど元のキャラ濃かったっけ―!?w 
最後の振りといいどうなんだろこれ

>>266 日常の境界ロワ
やばい、この阿部さんになら掘られてもいいかもしんない
謎ロワとかの阿部さんが一般化されがちだけど、原作(?)じゃすごいいい男だってのはやる夫ロワの時から聞いちゃいたが
この阿部さんは本当にかっこよかった。男だからこそ惚れるわ
単にかっこいいだけじゃなくてちゃんとゲイとしてかっこいいのがすげえ
多分これ、阿部さんとしてかっこいいんだろなー、原作しらんけど
というか絡み方もうめえよw
非生産的とか、薔薇とか、ルカ子とかw
直接出番ないのにいおりんやゆきぽとの関係もなんか伝わってきて、いい阿部さんの最終回でした!

>>276 Splendid Little B.R.
箱庭に舞い降りてつもりゆく雪は桜となる
全編通して描写されてるそれこそが、きっとこの話の全て
読んだ今感じているこの想いを言葉にはできないだろう
多分これは感想は書きにくい話だと思うけどとにかく綺麗だった
愛そうとして愛せない花白と、愛せなくとも愛せるまで噛み砕くテトリス
多分それは残酷でも優しいんだと思うんだ

>>302 >>332 虫ロワ
あれ、外見やら設定やらでかなりがっつり虫要素持ち多いのに、なんか普通にかっこよかったりラブコメってたりしてるー!?
フルアーマーヤマーメのクロスオーバーっぷりやべえw
ってかティンも何気にヒーロー装備がいい具合にクロスオーバーの成果だしw
そんな二人がラブコメってる傍らでシリアスに最終決戦しているユピーらに謝れw
虫ロワ故に蠱毒が正しく蠱毒なんだよなー
ここはここで、ラブっている奴らのせいでオチが読めないw

>>344 絶望汚染ロワ
絶望だとか汚染だとかそういうのがテーマだからこそ、桜の魔法よりもほんのちょっとだけ笑顔にしてくれる和菓子とか、黄金の魂の塊なナイトが意味を持つんだろうなあ
アリス負けるな、ブロント負けるな、マジック負けるな

>>353 めだかロワ
死者すれ!?
この発想はなかった!
たしかにこれなら後三話縛りも破ってないし、しかもなかったことになったこのロワだからこそでもあるし、ナイス発想!
うわあ、最終回も楽しみだああ!

>>366 リ・サンデーロワ
エタ―で、だけどエンド
思えばこの最後のためにタイトルにリ・ってつけてたのか
たしかにこれもまた、三話完結でしか出来んw
消滅設定にしろ、最後にしろ、最初から最後までこの企画ならではのロワだった
ところで、 ◆nucQuP5m3Yさん? 早くオリジナル書きましょうよ。え、そういうことじゃない?
これ、書き手をさらにメタ書き手が書いているっていう構図なんだよな―w
作中作者さんが新たな未来に進んで人生変わって、だから名作になったんで、【完】
名作としてここに完成したからこそ、確かに完結してるんだよな―。未完なのにw

378名無しロワイアル:2013/03/07(木) 16:47:49
こりゃたしかにホントのロワでやったらキレるわw
ここだから出来るネタ、って感じのネタで上手いなぁ
最後の名作の条件とかゼクが言いそうな感じの締め方だし。
未完、乙でした。

>>376
>>365らしいですぜー

379 ◆ULaI/Y8Xtg:2013/03/07(木) 18:41:03
ではではテンプレ投下ー。
ぶっちゃけロワかどうか怪しいけどまあ、殺し合いにはかわりないし((

【ロワ名】ダンガンロンパ―もういっかい! リピート絶望学園♪―
【生存者六名】霧切響子/不二咲千尋【フラッシュバックの危険性】/日向創/七海千秋【プログラム体としての限界寸前】/狛枝凪斗【右腕欠損】/田中眼蛇夢
【主催者】江ノ島盾子アルターエゴ
【主催者の目的】一度は希望を手にした者達が、何もかも忘れて絶望する様を見たい
【補足】・会場は希望ヶ峰学園、ジャバウォック諸島。なお、希望ヶ峰学園内部以外は侵入禁止となり、侵入した場合は徘徊しているモノケモノに容赦なく抹殺される。
    ・新世界プログラムの残骸を集めて出来た世界の為、全員プログラムの存在。
    ・ただし、プログラム内で死亡した場合は現実世界で脳死する。
    ・全員の記憶は奪われている。時間軸は全員が死亡後、もしくは本編終了後。
    ・どうやって現実で死亡している人物を参加させたのかは不明。
    ・なお、作品の都合上マーダーが誰かは明かさないでおく。

正直かなりの異色、趣旨に合うかも分かりませんがやれるだけやってみますー。

380名無しロワイアル:2013/03/10(日) 01:38:52
3万字ってWiki何ページ分ぐらいだっけ?
教えて分かる人。
(後から後から書きたい展開が湧いて出て来る。楽しいけど終わんねぇ)

381名無しロワイアル:2013/03/10(日) 02:04:15
3ページくらいじゃね?

382名無しロワイアル:2013/03/10(日) 05:02:02
>>377
阿部高和さんは一話完結型のホモ向けエロ漫画のキャラクターなんだよ……w
原作で語られてるキャラ設定なんて
ノンケだって構わず食っちまうホモセックスが上手な自動車修理工ってぐらいなんだよ……w
だから日常の境界ロワでのかっこ良さのほうがむしろ異常なんだよ……w

383380:2013/03/10(日) 21:09:52
>>381
ありがとう。
1話でこんな量書いたのはパロロワ抜きにしても初めてだから自分でビックリ。
最初は軽い気持ちだったのに……改めてこの企画の発起人に感謝の念が絶えない。
それにしても、4分割とか5分割とか書いちゃう人は凄いなぁ。自分には到底出来そうも無い。

384剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:11:19
剣士ロワ、最終話を投下します。

385剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:12:55
 轟音と共に、洛陽宮殿が崩落する。度重なる戦いの余波によるものではなく、起き上った闇の神の巨体に突き崩されたのだ。
 ゼロガンダム達は宮殿の崩壊から素早く抜け出し、瓦礫と化した洛陽宮殿の上に立つ。
 トゥバンとタクティモンの戦う気配が無くなっていたことも含めて彼らの安否が気掛かりだが、今はそれ以上の危機が、目の前に現れた。
「あれが、常闇の皇……!」
 厳密に言えば、それは常闇の皇の本体を収めた、闇の最終決戦兵器。
 何時、何処で、何者が、何の為に――建造の由来、目的など全てが謎に包まれた、時空の狭間に存在した破壊兵器、ジェネラルジオング。
 その姿は、異様としか言い様の無いものだった。
 身体は茨のような形状の赤黒い結晶状の物質によって構成され、その上に金の縁で彩られた紫の鎧を無理矢理被せたような不格好な姿で、それが却って不気味だ。
 本体に肩どころか関節に相当するものが無い為に、両手は独立ユニットとして浮遊している。
 頭部の意匠は、巨大な2本角と小さな4本角のバランスの悪さが目につくと同時、得体の知れぬ威圧感を対峙する者に与える。
 しかしその頭部を見て、ジオン族の機兵に共通する独特のデザインラインと多くの共通点があることに、ゼロガンダムはすぐに気付いた。
「あれは、機兵……なのか……?」
 その答えは、是でもあり、否でもある。
 今のジェネラルジオングは、黄金神にとってのカイザーワイバーン、そして、今や忘れ去られし古代神にとってのカイザーティーゲルに相当する物となっている。
 即ち――神の身体。
 ジェネラルジオングの全身の棘、そして両手の指の先に設けられた砲門に、巨大な闇の力が充填される。
 たったそれだけのことで、ゼロガンダム達の身体に異常が起きた。
「な、なんだ……?」
「体に、力が入らない……!?」
 全身から、力が抜けて行く。剣を握るどころか、立つことさえも出来ずに跪き、その場に倒れ伏す。
「どうしたというのだ、お前達!」
 唯一それを免れたスプラウトが呼び掛けるが、ゼロガンダムにも、オキクルミやゼロにも何が起きているのか分からなかった。
「なんだ、エネルギーが……光の力が……押し潰される……!?」
 状況を僅かに解析したゼロは、しかしあまりにも常軌を逸した現象をより鮮明に確認したことにより、更なる混乱に陥っていた。
「お前達も、落ちるのだ……デス・クリスタルの悪夢に」
 逞鍛が呆然と呟いた、直後、天から赤い矢が――ジェネラルジオングを構成する結晶体の一部が雨のように降り注いだ。
 ゼロガンダムは、オキクルミは、ゼロは、抵抗すらできず、飲み込まれるしかなかった。






386剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:15:35




 無我夢中だった。
 突如として崩落を始めた宮殿の中で、最初、タクティモンは膝を着いたまま立つことすらできずにいた。
 それほどに、タクティモンはトゥバン・サノオの死を悼み、悲しんでいた。
 このまま宮殿の崩落に呑まれて、押し潰されて静かに消え去るのも良いかと思った、その時だった。
 人一人を容易に押しつぶせるほどの大きな瓦礫が、トゥバン目掛けて落ちて来たのだ。
 気付いた時には両の足で立ち、両の手で蛇鉄封神丸を握り、振るっていた。
 そうすることの意味も知らず、理由も分からぬまま、タクティモンは一心不乱に剣を振るい瓦礫を撥ね退け続けた。
 数分後。洛陽宮殿は完全に崩壊し、瓦礫の雨も止んだ。タタリ場の瘴気に浸食された曇天の下、タクティモンはトゥバンの亡骸と共に立っていた。
 終わってから、タクティモンは自分が何故、反射的に身体を動かしたのかを考えた。
 トゥバン・サノオは、最早ただの肉塊。それを守ったところで、何の意味があるというのだ。
 決して答えの出ることの無い自問自答に沈む直前、タクティモンは自分の顔に違和感を覚え、手で触れた。
 指先が、何かの液体で濡れた。
 これは何かと考えること数秒、答えはすぐに出た。
「馬鹿な……! 私が、涙を……?!」
 タクティモンは自分が涙を流していたことに、今になって気付いた。
 よく見れば、鎧も涙で濡れていた。一滴や二滴では到底足りないほどに。
 驚愕によって、思考が白く埋まる。タクティモン自身が、『タクティモン』というデジモンについて熟知しているが故に。
 タクティモンとは、デジタルワールドの幾万年分にも及ぶ記録の中で、戦場で無念の最期を遂げた武人デジモン達の怨霊とも呼ぶべき無数の残留魂魄のデータを、バグラモンの手によって1体のデジモンとして練り固められた存在だ。
 その存在に、誰かの死を悲しみ、悼み、涙を流すという性質を記したデータは、何処にも存在しない。
 主君への忠誠心、一介の武人としての性、完璧(パーフェクト)を好む――タクティモンの人格を構成する要素など、たったそれだけなのだ。
 なのに、タクティモンは間違いなく、泣いていた。つい先程まで、虚しき最期を迎えてしまった男の死を悼み、悲しんで。
 これはどういうことなのだ。まるで自分が別人にでもなってしまったのではないかとすら考えて、タクティモンはその思考の中に答えを見つけ出した。

387剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:18:51
「まさか、“変わった”というのか……この、私が……。今の時代のデジモンが……!」
 タクティモンの生きる時代のデジタルワールドは、それまでのデジタルワールドと大きく性質を異にしている。
 それは、デジモンから『進化』が失われたこと。そして、デジモンは生まれてから一生その性質を変えることなく、正義は正義、悪は悪のままに一生を終えるというものだ。
 かつてデジモンが強く願えば自らを変えることができる種族だったという事実を知る者は、最早バグラモンとその側近であるタクティモンしかいない。
 デジタルワールドは電子的なデータを解して、人の心によって照らされて認識される宇宙――即ち、人という種の心の在り様によって法則が書き換えられる世界なのだ。
 その世界の法則に於いて、デジモンの進化とは人の夢や希望の表れだった。
 そしてデジモンから進化が失われたということは、人々の心から夢や希望が失われた――『代わり得る自分自身』を信じられなくなったということを意味する。
 即ち、絶望による諦観と虚無感によって人の心が満たされ、それに伴ってデジタルワールドも変質してしまったのだ。
 その世界で生まれたタクティモンも当然、それは変わらない。人々の心が絶望に支配され膿み腐っていく時代で、自分の可能性を心から信じられる者がどれだけいるというのだ。
 だが、現にタクティモンは“変わっていた”。切っ掛けは、疑いようも無い、トゥバン・サノオとの戦いだ。
 トゥバン・サノオが見せた、人の持つ底知れぬ可能性。今より前を、今より先を、今より上を目指す、飽くなき志。
 それを目の当たりにして、タクティモンは心を動かされたのだ。
 ただ剣を振るうことしかできない武人から、誰かの為に悲しみの涙を流せるものへと変わる程に。
 そして、バグラモン自らの手によって創造された自分が、このもう一つの巡り合いの戦争【クロスウォーズ】と呼ぶべき場所――善と悪、光と闇が相克する殺し合いの場で変われたこと。
 それが意味する所を、タクティモンは悟った。
「……陛下。貴方の大義、その奥底には……貴方の願いが眠っていたのですね。この私にも……!」
 振り返り、迸る闇の波動の根源を睨む。
 そこには、赤黒の双頭龍と見紛う程の邪悪の権化が存在していた。
 あれを倒さねば、あまねく世界の未来は闇に閉ざされ、光を失うことになるだろう。
 視線を、再びトゥバンの亡骸へと戻す。そして、その手に握られたままのイルランザーを取り去った。
 不思議と、簡単に取ることができた。まるで、トゥバンが死して尚、イルランザーにはまだ往くべき戦場があることを承知しているかのように。
「去らばだ、トゥバン・サノオ」
 別れの言葉を告げて、タクティモンは邪神の下へ――自分が往くべき戦場へと走った。
 今の自分の、心の命ずるままに。












388剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:21:09










 気が付けば、ゼロガンダムは荒野で倒れていた。
 痛む体に鞭打って立ち上がり、自分はどうして倒れていたのか、少しずつ思い出す。
「そうだ、俺は……常闇の皇の、ジェネラルジオングという機兵と戦って――……」
 ……――辛うじて勝利を収めた。そして、仲間達に別れを告げて、元の世界へと帰ることになったのだ。
 つまりここは、ゼロガンダムの故郷――スダ・ドアカ・ワールドだ。
 状況をどうにか思い出すと、一つ溜息を吐いてその場に腰を下ろし、呼吸を整え体力の回復を待つこと数十分。
 歩く分には苦の無い程度に回復すると、ゼロガンダムは荒野を一人歩き続けた。
 歩いた。
 歩き続けた。
 ただただ、只管に、歩き続けた。
 時間の感覚も麻痺し、空腹と眠気にも必死に耐えて、ゼロガンダムは歩き続けた。
 既に荒野は終わり、見覚えのある城下町へと至った。
 しかし、誰もいない。
 いや、違う。何もいない。
 人も、犬も、猫も、鳥も、虫も、何一つとして、生命の気配がない。
 ドゥームハイロウの発動によってザンスカール族以外の全ての命が奪われたのだから当然、というわけでもない。
 我が物顔で世界に跳梁跋扈していた魔物や暗黒の一族――闇の勢力の気配すら無いのだ。
 本当に、何一つとして、命と呼ぶべきものが何も無いのだ。
 残っているのは、荒れ果てた街と大地だけ。
 ゼロガンダムは、今まで感じたことの無いような、言い知れぬ不安と恐怖に身震いして、グラナダの王都を後にした。
 その後、ゼロガンダムは幾つもの町や村、集落を巡ったが、何もいなかった。
 グラナダ王国以外の国々……ドレスデン、ダバード、ブリティス、アルビオン、ミリティア、ウィナー、アルガス、ラクロア。そのいずれも、同様だった。
 そして、最後に辿り着いたのは古代遺跡兵器ドゥームハイロウ。
 幻魔皇帝アサルトバスターの居城となっていたこの場所でさえも、同様だった。
 玉座へと歩み寄り、それを雷龍剣で一刀両断しても、それ以上は何も変わらず、何も起こらなかった。
 その一撃で全ての力を出し尽くしたのかのように、ゼロガンダムは崩れるように倒れた。
 その胸に在るのは、勝利の実感でも、使命を為し遂げた達成感でもなく、希望や絶望さえもない、虚無感だけだった。
 誰も、何も、いない。
 守るべき仲間も、共に生きる友も、戦うべき敵も、討つべき仇敵も、鳥獣や虫さえも……誰一人、何一つ、存在しない、せかい。
 闇を乗り越えたその先にあったのは、光でも、希望でも、未来でもなく。

 じぶんひとりだけの、えいえんのこどく。







389剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:25:24





 戦いを終えて故郷のカムイへと帰って来たオキクルミは、感慨に耽る暇すら無く目の前の惨状に言葉を失った。
 辺り一面はタタリ場に呑み込まれ、母なるカムイの大地は闇の瘴気に包まれていた。
 吹雪こそ止んでいるが、寒さも冬であるにしても異常で、木々すらも凍りついて折れている。
「まさか、双魔神どもの手がここまで……!」
 迂闊だった。別世界の恐るべき闇を倒して来たとは言っても、この世界の闇の勢力は健在だったのだ。
 しかも、時期は“厳冬の蝕”が差し迫った頃。
 オキクルミがこの世界を離れている間に、双魔神が本格的な行動を起こしていてもおかしくなかったのだ。
 碧眼の獣神へと転身し、オキクルミはエゾフジの麓、故郷のウエペケレへと走った。
 ウエペケレに辿り着いたオキクルミは大きな声で3度吠えたが、誰も応えない。村の何処からも、誰の臭いも漂って来ない。
 嫌な予感が胸を締め付けるが、それを振り払うようにオキクルミは村の中を駆け巡り、やがてエゾフジの麓、ラヨチ湖の畔にある山興しの儀式の舞台へと辿り着いた。
 そこで待っていたのは、地獄だった。
 サマイクル、ケムシリ爺、カイポク、トゥスクル、ワリウネクル……オイナ族の、村の仲間達の亡骸が、死屍累々という言葉のままに、儀式の舞台の周りに倒れていた。
 そして、エゾフジを噴火させカムイの大地に温もりを与える重要な儀式『山興し』を行う舞台の上には、ピリカと、コロポックル宿しの狼――アマテラスが折り重なって倒れていた。
 オキクルミは人間の姿に戻り、力無くその場に崩れ落ちた。
 両手を温もりの失われた大地に突き立て、立ち上がろうとするが、上体を起こすだけで精一杯で、力が入らない。
 悲しさと悔しさのあまり、声すら出ない。
 しかし、それが幸いした。微かな、今にも消えてしまいそうな程弱々しい呻き声を、オキクルミの耳は捉えることができた。
「ピリカ!!」
 今年の山興しの祈祷を捧げる役を任されていた、自分にも懐いていた少女の名を叫び、オキクルミは慌てて彼女の下へと駆け寄った。
 オキクルミが傍まで近寄って跪くと、ピリカも気付いて、顔をオキクルミの方へと向けた。
「オキクルミ……お兄ちゃん……? 帰ってきたんだ……良かった、無事で……。みんな、どこに行ったんだって、心配……してたよ……」
「喋るな、ピリカ!」
 ピリカの声は間近まで近付いて漸く聞き取れるほどにか細く、彼女の生命が今にも尽きようとしていることが嫌でも分かってしまった。
 見れば、ピリカも傷だらけで、彼女を庇うように倒れているアマテラスはその白い体を朱の隈取りとは違う、赤い血で染めていた。
「双子の魔神が、エゾフジから降りて来て……みんなは、オオカミさんと一緒に戦って、わたしは……ケムシリお爺ちゃんの代わりに、山興しを、いっしょうけんめい踊ったの……」
 言われて、オキクルミは目の前のラヨチ湖に巨大な物体が転がっていることに気付いた。
 黄金と白銀の、フクロウの姿を模したカラクリ仕掛けの怪物。双子の魔神、モシレチク・コタネチク。
 オイナ族の同胞とアマテラスは、山興しの儀式を阻もうと現れたこの双魔神との戦いで力尽きてしまったのだと悟った。
「ねぇ、お兄ちゃん。わたし、ちゃんとできたかな……? わたしの、力で……みんなを守れたかな……? なんだか、周りが真っ黒で、お兄ちゃんの顔も見えないの……」
 ピリカからの問いかけに、オキクルミは言葉に詰まった。
 何と答えればよいのだ。
 カムイの大地は温かさを失い闇に呑まれていると、事実を告げろというのか?
 未だ寒さに震えているピリカに、山興しは成功したぞと、見え透いた嘘を言えというのか?
 オキクルミには、そのどちらも言うことは出来ない。
「ピリカ……!」
 少女の名を呼び、抱き締める以外に思いつかなかった。
 だが、既にピリカの体は、冷たくなっていた。
 呼吸も、鼓動も、止まっていた。
「ピリカ……? ピリカ! ピリカ!!」
 息絶えた少女の名を、オキクルミは呼び続け……いつしかその呼び掛けは、慟哭へと変わっていった。
 英雄の慟哭が、母なる温もりを失った大地に木霊する。







390剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:29:18





 どことも知れぬ、暗黒の空間の中。
 そこでゼロは、延々と、幻影を見せつけられ続けていた。
「違う……!」
 否。それは幻影では無く、真実。
 過去にまだイレギュラーハンターの隊長だった頃のシグマとの戦いで、自身に纏わる記憶【メモリー】の全てを、ゼロは失っていた。
 だが、今見せられている映像に、ゼロはデジャビュを感じていた。
 それは、その映像に見覚えが――否、身に覚えがあるからに他ならない。
 メモリーの奥底に遺されていた記憶の残滓が囁くのだ。
 今、目の前に映し出されている者こそが真実だと。
 ゼロとは、究極の破壊者であるのだと。
「違う、止めろ! 俺は、俺はそんなんじゃない!!」
 ゼロの叫びが、虚ろに響き渡る。
 だが、映像は止まらない。
 ゼロのアイセンサに、視覚認識領域に、ありとあらゆる知覚領域に、映像が、データが、メモリーが、否応なしに現れて、記録されていく。
 次に現れたのは、親友と最愛の女性の、無残に破壊された残骸。
「カーネル! アイリス!!」
 彼らの名を叫び、がむしゃらに手を伸ばすが、どうしても届かない。幻に等しいただの記録に、触れられるはずがない。
 壊れた姿のまま、彼らの姿は消えてしまう。
 どうしてこうなってしまったのか。何故、ああなってしまったのか。
 誰が、彼らを壊したというのか。そんなものは、誰に問い掛けるまでも無く分かっていた。
 それでもゼロは、認めるわけにはいかなかった。
 不意に、眼前に何かの気配を感じた。
 姿は見えないが、ゼロにはそれこそが、自分の倒すべき敵なのだと直感し、一心不乱にセイバーを振るった。
 まるで、その“敵”を倒せば、この悪夢は終わるのだとばかりに。
 目の前の影は呆気なく斬られ、ゼロの目の前に倒れた。
 ゼロが倒すべき敵と直感したそれは、悪でもなく、闇でもなく、イレギュラーですらなく。
「エックス…………?」
 親友の残骸を前に、ゼロは愕然と、その場に崩れた。
 気付けば、闇が晴れていた。
 煌々と燃え盛る炎が夜の闇を赤々と照らし、ゼロの足元に転がる、無数の骸の姿を浮かび上がらせた。
 無数のレプリロイドの残骸が、ゼロ足元から地平線の果てまで広がっていた。
「俺が……俺がやったっていうのか……?」

391剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:31:38
 呆然と呟き、ふと、足元のレプリロイド達の残骸に目を遣る。
 どうやって壊したのか、どうやって壊れたのか、その全てを体が覚えていた。メモリーに記録されていた。
 覚えていないはずなのに、覚えている。やっていないはずなのに、やっていた。
 この現実が真実で、ゼロの実感や記憶が偽りだというのならば。
 俺は、一体なんなんだ!?
 声には出せなかった疑問に、メモリーの奥底に眠る影が答えた。
『そうだ、お前がやったのだ! よくやったぞ、ゼロ! わしの最高傑作よ!』
「黙れぇ! 俺は、俺は……!」
 目の前の惨状を褒め称える影の言葉に声を荒げて、否定しようとして、それ以上何も言葉が出て来なかった。
 何が違うというのだ。
 どうして否定できるのだ。この惨状を作り上げた張本人である自分が。
 ゼロの沈黙を意にも介さず、ゼロを最高傑作と呼ぶ老人は狂気を孕んだ声で叫び続ける。
『ライトの最高傑作、最後の遺産を基に造られた者達。その全てを、お前は凌駕した! よくやった、よくやったぞゼロ!』
 その言葉は、いよいよゼロを打ちのめした。
 全てのレプリロイドは、発掘されたエックスの構造やデータを参考に造られたと、ドクター・ケインから聞いたことがある。
 たった、それだけのことで。
 エックスを参考に誕生したという理由だけで。
 俺は、無数の同胞を破壊し尽くしたというのか!?
『お前こそ最強! 最強のロボットだ!』
 老人からの最大の賛辞を聞き届け、ゼロのボディが反応を示す。
 示す感情は、歓喜と愉悦。
「ワレハメシアナリ! ハハハハハ! ハァーッハッハッハッハッ!!」
 圧倒的にして絶対的な破壊者は、自らが成した破壊の痕跡を前に、高らかに笑った。笑い続けた。
 自らの存在意義を満たすという喜び、使命を為し遂げた達成感、破壊そのものに見出す愉悦に浸って。
 その狂気は、そのデータの中に押し込められたゼロの心を侵し、切り刻んでいく。

 俺は、この力で……もう、何も……! 壊したくなんか無いんだああああああああ!!

 ゼロの叫びは、何者にも届かず、己の内でのみ木霊し続けた。












392剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:34:45










 鎧は半ば砕け、降り注ぐ赤き破壊の雨を振り払う度に大剣は軋み、強烈な衝撃が痛みに変わって肉体を貫く。
 だが、手を休めるわけにはいかない。
 ここで自分が手を止めたら、誰が結晶の中に封じられた仲間達を守り、救いだすことができるというのだ。
 スプラウトが叩き落とした、ジェネラルジオングが発射した棘の数は既に数千にも及んでいる。
 それだけの数を捌き切ることはさしものスプラウトにも不可能であり、頑強なドラゴンころしの刀身も僅かに歪み、罅の入っていた鎧は幾度か棘が掠っただけで半分近くが砕け散った。
「ぐぅっ……!」
 そして遂に、左腕に小さな棘が突き刺さった。外見からは思いもよらぬ激痛にも、スプラウトは僅かに声を上げるだけで堪えた。
 スプラウトは元より、全長2mを超える大剣を片手で自在に操る。片腕を使えなくなったことは、それほど深刻ではない。
 だが、照準も何も無い、ただ数をばら撒いているだけの弾が当たってしまった。
 スプラウトの体力と集中力が限界に近付いているという事実こそが深刻なのだ。
 すると、急にジェネラルジオング――常闇の皇からの攻撃が収まった。
 一息吐く暇ぐらいは与えてやろうと嘲られているのだと、スプラウトは直感した。
 それに腹を立てるでもなく、その余裕に甘えて棘を抜き取り、呼吸を整える。
「もう諦めたらどうだ。奴らに常闇の皇のデス・クリスタルから逃れる術など無い」
 腑抜けたような声で逞鍛が吐いた戯言を聞いて、スプラウトは彼を鬼気迫る表情で睨みつけた。
「貴様は黙っていろ。これしきで、諦めてたまるか……!」
 逞鍛は何も言い返さず、代わりに視線をジェネラルジオングの頭部近くへと向けていた。そこを見ろと暗に示しているのだと理解し、スプラウトもジェネラルジオングの頭部を見る。
 その瞬間だった。ジェネラルジオングの放った閃光が、時空間を貫いた。
 同時に生じた衝撃波で吹き飛ばされないように体を支えながら、スプラウトは具に状況を確認した。
 空間を破壊され、虚空に空いた穴。その先に見える世界は、かつて垣間見たサルファーの巣食う元の世界――闇の寝床に酷く似ていた。
 やがて、その穴は閉じ、衝撃波による気流の乱れも収まった。
「デス・レイン……。ほんの0.001%でこの威力だ。最大出力で放てば、世界の10や20は纏めて消え去るだろうよ」
 逞鍛の口から、今の一撃も本来の威力の10万分の1程度だったと告げられる。それが事実ならば、ジェネラルジオングの、常闇の皇の脅威は計り知れない。
 1つの世界を一夜で滅ぼすこともできないサルファーとは比べ物にならない程の圧倒的な脅威だ。
 そんなバケモノを解き放ち、数多の世界を脅かすことを許すわけにはいかない。
「させぬ。させて、なるものか!」
 啖呵を切り、右腕だけでドラゴンころしを構えた、直後。
 スプラウトの眼前に、白き龍の聖剣が突き立てられた。

393剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:38:12
「その心意気や良し。しかし、歪んだ鉄の剣では不足であろう」
 洛陽宮殿の瓦礫を踏み締めながら、1人の剣士が歩み寄って来る。
 見るまでも無く、声と気配だけでそれが何者かすぐに分かった。
「この剣は、トゥバンのイルランザー」
 そして目の前の剣を見れば、否が応にも理解出来た。
 あのトゥバン・サノオが死んだのだと。
 そうなるだろうとは予感していた。だが、いざ事実として直面すると、俄かには信じ難かった。
「勝敗は決しなかった。だが、生死のみは別れてしまった」
 すると、スプラウトの内心を察したのか、タクティモンはそのようなことを言った。そして、そのまま当たり前のようにスプラウトの隣に並び立った。
 見ればタクティモンの兜が失われており、その中身が露出していた。スプラウトが感じていた通りその正体は、人間はおろか生物とは言い難いものだった。
 だが、その姿を間近で見ても、不思議と不快感や嫌悪感を覚えない。
 そうだ。タクティモンが常に自らを鞘として納めていた鋭利な刃のような狂気や怨念が、今は全く感じられないのだ。
「タクティモン……? 貴様、どういうつもりだ。まさか、今更こいつらに加勢するとでも」
「その心算で来た」
「なんだと!?」
 逞鍛からの問いにタクティモンはあっさりと即答する。
 これには問うた逞鍛のみならず、スプラウトも驚き、同時に疑念も湧いた。
「どういう心境の変化だ?」
「それは、後で話そう。スプラウト、時間を稼いでくれ。この奥義は、出すまでに練りが要る」
 スプラウトからの問いにも碌に答えようとせず、タクティモンは話を先に進める。
 しかしその声調はタクティモンらしくなく、戸惑っているような調子が混ざっていた。
 策を弄しはするが、虚言の類で他人を陥れる男ではない。その点は信じられる。
 過去、未だカイと行動を共にしていた時のことを思い出し、スプラウトはそれ以上の追及はやめた。
 この男が力を貸してくれるというのなら、心強いことに違いは無い。
「時間は?」
「1分もあれば」
「良かろう。しくじるなよ」
 最低限の言葉だけ交わして、スプラウトはドラゴンころしを棄ててイルランザーを握る。
 かつて“輝ける聖剣”と謳われながら闇へと堕ちた自分が聖剣を握って戦うことに、運命の皮肉を感じる。だが、迷いは無い。
 今は亡き仲間の為、今窮地に在る戦友の為、今こそ持てる力の全てを振るう時。
 スプラウトが剣を構えるのに呼応して、ジェネラルジオングの攻撃が再開される。……いや、違う。
 これから攻撃が始まる。
 全身を駆け巡る悪寒に肌が粟立ち、冷や汗が流れる。
 ジェネラルジオングの両手、それぞれの指に莫大な闇の力を充填した10の砲門が、スプラウトとタクティモンに向けられていた。
 先程までは、ほんの遊びでしかなかったのだ。
 これから始まるものこそジェネラルジオングの、常闇の皇の攻撃であり。
 その一撃で、この戦いを終わらせるつもりだ。

394剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:45:33
 それができるということは、先程のデス・レインを見ていれば誰しもが理解出来る。
 加えて、今向けられている10の砲門――いや、2つの大砲は、司馬懿の放った闇の究極奥義・天冥獄鳳斬と同質のものであり、それを遥かに上回る力だ。
 直撃すれば命が無いだけではない。ただ充填されただけで、闇の力を持たない者達は、身体から力を奪われ無力化されてしまう。
 途方も無い力を前に、スプラウトの気は散漫となり、諦めという言葉すら脳裏を過ってしまった。
 すると、突然タクティモンが口を開いた。
「我ら闇の者が、闇の盟主たる常闇の皇と対峙するとは……。これも、運命なのかもしれんな」
 タクティモンの口調は、どこか嬉しそうですらあった。
 そしてその言葉を聞いて、スプラウトもある事実に気付いた。
「いいや、我らの意志が切り開いた可能性だ。わしらでなければ、あのジェネラルジオングとやらは壊せまい」
 そうだ。あの力に対抗できるのは、この身に闇の力を宿している者だけなのだ。
 光の力を持つ彼らはその力を封じられて為す術も無いが、自分達は違う。
 ジェネラルジオングを壊せる者が、ここに2人揃ったのだ。
 スプラウトの心から、完全に迷いは消えた。
 それを悟ったのか、ジェネラルジオングは頭部と両腕の目をギョロリと動かし、2人を睨みつけ、両腕の極大暗黒砲を発射した。
 極大暗黒砲の一撃によって、スプラウトとタクティモン、そして逞鍛までもが消滅するかと思われた。だが、誰1人として消えなかった。
「冒涜の能力! ダークエボレウス!!」
 決して回避の出来ない、そして防ぎ切れない闇の攻撃を凌ぐ唯一つの術。それを、スプラウトは既に持っていたのだ。この殺し合いの舞台に呼ばれる、遥か以前から。
 闇をその身に取りこみ自らの力と成す、イヴォワールでも禁じられた邪法として封印されていた冒涜の能力。
 スプラウトはその能力を用いて、極大暗黒砲の闇のエネルギーを吸収してしたのだ。
 大暗黒砲の破壊力とダークエボレウスの吸収力、2つの力が鬩ぎ合う。だが、出力があまりにも桁外れだ。
 すぐに闇を溜め込む器である能力者の肉体が崩壊し、闇へと還る。そのはずだった。
 それをスプラウトは覆してみせた。理論は単純、吸収した闇の力を、そのまま即座に別の形で放出しているのだ。
 イルランザーの刀身から、エネルギーの刃が伸びて行く。オーラブレードと呼ばれるその剣技は、本来なら使用者の気や魔力をエネルギー源とする。
 それをスプラウトは、吸収した闇の力を即座にエネルギー源へと変換して行っているのだ。
 強大な闇の力の吸収と放出、それら2つを限界ギリギリの出力を常に保ちながら行うなど、人間業でも無く、まして正気の沙汰でもない。
 闇を喰らい続けて魔人と成り果て、50年以上を狂気の中で生き続けたスプラウトならばこその絶技。だがそれでも、無謀には変わらない。
 少しずつ、少しずつ、極大暗黒砲の出力に押されていく。
 それでも、スプラウトは諦めない。歯を食い縛り、足を踏ん張り、掲げた左手とイルランザーを握る右手を、決して下ろさない。
 やがて、極大暗黒砲が途切れた。だが、まだ終わりではない。撃ち終わったのはまだ指1本分、まだ9発分が残されているのだ。
 時間は、まだ30秒も経っていない――
「蛇鉄封神丸、四の太刀」

395剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:48:41
 ――が、タクティモンが突如として動いた。大地を蹴って跳び、ジェネラルジオングの左手も踏み台として更に跳躍する。
 1分要ると言ったのは、ジェネラルジオングの油断を誘う為の布石か。
 この期に及んで大した豪胆さだと呆れながら、スプラウトはタクティモンに先んじて仕掛ける。
 タクティモンを狙うジェネラルジオングの両手を、叩き落とさなければならない。
 オーラブレードは、既に数十mにも及ぶ長さになっていた。スプラウトの力を注ぎこめば、更に伸ばせるだろう。
 ならば、あれをやるか。イヴォワールでも、極めた者は歴代の“九つ剣”の中でもほんの一握りとされる、魔界から伝わったとも言われる究極の剣技を。
 限界を超えて動くことに悲鳴を上げようとする肉体を黙らせ、スプラウトは乾坤一擲の刃を振るった。
 その剣が断ち切るのは人ではなく、物ではなく、風でなければ空でもなく。
 次元を切り裂く究極斬撃・超次元断。
 この一撃に断てぬ物は、普通なら存在しない。だが、時空間を超越する力を持つ常闇の皇によって、ジェネラルジオングは超次元断を含め殆どの攻撃が通用しなくなっている。
 ジェネラルジオングの全身を覆う闇の結界は、この会場を覆っていた結界と同じ物。それを貫くことができるのは、本来ならば常闇の皇の力を超える光の力のみ。
 しかし、例外がたった一つだけ存在する。それは、闇の力を身に宿しながら、心に光を宿す者が御する闇の力。
 それを成し得る者こそは、即ち――天の刃。
「ぬぅおおおぉぉぉぉぉ!!」
 スプラウトは咆哮と共に超次元断を振るい、ジェネラルジオングの両手を一刀両断した。



 スプラウトがジェネラルジオングの両手を斬り落としたのを、タクティモンは直に見るまでも無く察した。
 あれほどの攻撃を耐え凌いだだけでも驚嘆に値するというのに、直後にそれ以上のことをやってのけるとは。
 こうなっては、あれだけのことを強いたタクティモンが無様晒すことは、決してあってはならないことだ。
 ジェネラルジオングの体に到達したタクティモンは、そのままほぼ垂直に体表を駆け上がり、間もなく肩に至り、跳躍。ジェネラルジオングの頭頂部を真下に捉える位置を取った。
 タクティモンの背に輝く光輪がその輝きを一層に増し、蛇鉄封神丸は周辺の物質を大気ごと呑み込み力へと換え、刀身に迸る闇の力が視覚で捉えられるほどに猛り狂う。
 その太刀は、皇帝バグラモンによって『災厄』として定義された。
 その一撃がもたらす破壊は、最早剣戟はおろかデジモンの必殺技としての範疇を超え、当時ロイヤルナイツを始め数多のデジモン達からも一種の破壊や崩壊の現象として認識された。
 デジタルワールドを司る神『ホメオスタシス』を殺し、その体を数多の欠片【コードクラウン】へと破砕し、デジタルワールドを幾つもの『ゾーン』へと分断した災厄。
 その正体こそは、タクティモンと蛇鉄封神丸の最強最大の禁忌の必殺剣。
 この一撃を、今は亡き我が強敵(とも)への弔いとして奉る!
「究極奥義・星割!!」
 神殺しの一撃が、神の身体へと打ち込まれる。
 闇の結界すら物ともせず、たったの一撃で、ジェネラルジオングの巨体を真っ二つに斬り裂いた。







396剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:51:23






「……声?」
 倒れ伏したまま意識を失っていたゼロガンダムは、唐突な覚醒を迎えた。
 自発的な目覚めではない。誰かが、自分を呼んでいたのだ。
 しかし、周囲には誰もいない、何も無い。
 きっと、孤独に耐えかねた自分が生み出した幻聴だったのだと、ゼロガンダムは自嘲する。
 ――ゼロ……ゼロ……!――
「……違う。空耳なんかじゃない……!」
 ゼロは立ち上がり、周囲を見回し、耳を澄ます。しかし、誰もいないし、何も聞こえない。
 ならば、研ぎ澄ますべきはそれら以外の感覚。
 ゼロは目を閉じ、心を波打たぬ水面のように落ち着かせ、この世の全てに心を開くような感覚で待ち続けた。
 今度は、はっきりと聞こえて来た。
 自分の名を呼ぶ声、励ます声が。
「マーベット……父上……」
 ドゥームハイロウの発動によって消えてしまった仲間達、そしてアサルトバスターの姦計により自らの手で殺めてしまった父の、声が聞こえた、姿が見えた。
 直接目には見えず、耳には聞こえずとも、彼らの魂が確かに自分の傍に在るのだとゼロガンダムは気付いた。
 そして、その気付きに応じるかのように1人の竜騎士が、ゼロガンダムの目の前に現れた。
「ゼロマル!」
 アルフォースブイドラモンの、名前が長くて呼び辛いだろうからと教えてもらった彼の愛称を叫ぶように唱えて呼び掛ける。
 生前と変わらない、まるで犬のような人懐こい笑顔を浮かべて、アルフォースブイドラモンはゼロガンダムの呼び掛けに応えた。
「良かった。デス・クリスタルから抜け出せたんだね、ゼロ」
「デス・クリスタル……?」
 アルフォースブイドラモンの発した、聞き覚えの無い言葉をそのまま繰り返す。
 すると、アルフォースブイドラモンは険しい表情で頷いた。
「デジタルワールドに伝わる伝説の邪神……ムーンミレニアモンの、相手の心を甚振り殺す必殺技さ。奴は肉体を持たない精神体で、だからこそ他者の心を叩きのめして切り刻むことに長けている。そしてムーンミレニアモンこそ、別世界で常闇の皇と呼ばれるようになった、この殺し合いを仕組んだ全ての黒幕だ」
「つまり、今のは……幻覚、だったのか」
 聞き返して、すぐに返って来た解説に、その内容に困惑しながらも、ゼロガンダムは自分なりの解釈を口にする。
「正確には、今のまま迎えてしまうであろう来るべき未来の1つのヴィジョン……起こり得る、最悪の可能性さ」
 アルフォースブイドラモンが頷きながらも、ゼロガンダムの解釈を補足する。

397剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:53:25
 そこまで話を聞いて、少しずつ、ゼロガンダムは思い出した。
 自分は、まだ常闇の皇と戦ってすらいなかったこと。
 寧ろ、力を奪われ地に這い蹲って……そのまま、敵の術中に落ちてしまったのだ。
「不甲斐ない。まさか、完璧に敵の術中に落ちていたとは」
 敵が精神攻撃を得手としているとはいえ、今の今までその掌中で踊らされていたことすら気付けなかった。
 それはつまり、自分の心に付け入る隙があった、自らの未熟さ故のことと考え、ゼロガンダムは自戒の言葉を吐き出した。
 すると、それを聞いたアルフォースブイドラモンは苦笑を浮かべながら、ゼロガンダムを励ました。
「しょうがないさ。あの暗黒砲も含めて、完璧に初見殺しだもん。だけど、君の心の強さ、そして天の刃と呼ばれる君の仲間達のお陰で、道は拓かれた」
 すると、辺り一帯の景色が消え去った。滅びた王国も、無人の荒野も、何もかも消えて、無の暗黒の中にゼロガンダムとアルフォースブイドラモンは残された。
 だが、分かる。アルフォースブイドラモンの言った、拓かれた道。その先にある、往くべき最後の戦場。
 闇の中であろうと、もう見失うことは無い。
 ゼロガンダムの心にはもう、孤独も恐怖も、迷いも無い。
「ありがとう、ゼロマル。お前に出会えて、本当に良かった」
 闇に閉ざされた精神世界へ、死して尚、魂のみの存在となってまでも自分を助けに来てくれた戦友に、ゼロガンダムは心からの感謝の言葉を伝えた。
 それを聞いたアルフォースブイドラモンは穏やかな笑顔を浮かべると、すぐに歴戦の聖騎士の表情へと変えた。
「僕もだよ、ゼロ。……自分の可能性を、未来を信じて。その時にこそ、闇にも絶望にも負けない究極の力が生まれる!」
 その言葉を最後に遺して、アルフォースブイドラモンの魂――正確には彼というデジモンを構築するデータ――はその形を失って丸い球のような姿となり、どこかへと飛び去っていた。
 ゼロガンダムはそれを見送りながら、アルフォースブイドラモンが自分達の名前の共通点を使って考えた、決め台詞を思い出していた。
「……ゼロは、一つならば無。2つで無限。そして……!」
 雷龍剣と天叢雲剣を構え、それらの剣に宿る雷の力を最大限まで高める。
「ゼロガンダムとゼロマルの『0』が3つ揃えば、無限の光!」
 締めの言葉と同時に両手の剣を天へと掲げ、稲妻を走らせる。雷光が闇を切り裂き、ゼロガンダムの進む道を作る。
 友との言葉を胸に、ゼロガンダムは最後の戦場へと往く。







398剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:56:19





 悲しみに打ちひしがれ、オキクルミの心は身体以上に凍えていた。自分の心に温もりを与えてくれていた、掛け替えの無い者達に先立たれてしまったが故に。
 双眸から溢れる涙も、流れ出た途端に凍りついてしまうようになっていた。
 このままでは、遠からずオキクルミの肉体も冷気に侵され、やがて鼓動も途絶えてしまうだろう。
 そのことはオキクルミ自身も気付いていた。だが、それでも良いのではないかという考えすら、脳裏を過るようになってしまっていた。
 この孤独に耐えられないほど、オキクルミにとってオイナ族の仲間達は温かかったのだ。
 すると、突然、手を温かい何かが触れた。
「……アマテラス?」
 体中に朱の隈取りの化粧を施した、コロポックル宿しの狼の名を呼ぶ。
 双魔神と戦い、ピリカの傍らで息絶えたとばかり思っていたが、まだ生きていたのだ。
 アマテラスは自分の体のことも顧みず、オキクルミを気遣い、彼の体を少しでも温めようと、指先を舐めていたのだ。
 自らの命が絶えようとしているというのに、他者を気遣える底知れぬ慈愛の心。さながら、万物を照らす太陽のような温もりが、指先から伝わって来る。
 すると、何を思い立ったというのか、アマテラスは鋭利な槍で貫かれたような大穴の開いた身体に鞭打って立ち上がり、絵筆の先のような尾の先を振るいだしたのだ。
「よせ、アマテラス! 無理に筆業を使えば、お前も……!」
 オキクルミが止めようと声を掛ける。だが、アマテラスは以前と変わらぬ穏やかな表情で一声鳴くと、空に見事な筆を走らせた。
 空に現れたのは、月。
 イザナギのヤマタノオロチ討伐のその瞬間に輝いていた、あの時と同じ三日月だ。
 すると、オキクルミは背中から強い力の波動を感じた。虎錠刀が三日月の光を浴びて、淡く輝き始めたのだ。
 その輝きはだんだんと強さを増し、やがて、光が闇に呑まれた大地を照らし出した。
「な、なんだ!? 急に景色が……!」
 虎錠刀から放たれた光に照らされた途端、オキクルミが今まで見ていた景色が姿を変えた。
 現れたのは、闇に包まれた何も無い空間。地面を踏み締めているという感覚すら無い、延々と広がる闇の空間だ。
 いったい、何が起きたというのか。オキクルミには、光が収まった虎錠刀を見遣るぐらいしかできなかった。
「異界の大神よ、ありがとう」
 急に、声が聞こえた。聞き慣れた、もう二度と聞けると思っていなかったその声を聞いて、オキクルミは慌てて後ろを振り返った。
 そこには、孫権の姿があった。
「孫権……? どうしてお前が……いや、ここはどこだ?」
 思考が纏まらず、ただ口を吐いて出た、しかしそれゆえの真実の問い掛けに、孫権は徐に頷いた。
「ここは、常闇の皇が創り出した精神世界。魂だけの存在となった俺でも、ここでならこうして君に姿を見せることができるんだ」
「常闇の皇の……? …………そうだ! 戦いは終わってなどいなかったんだ! 俺は、奴の放った術に捕えられて……!」
 孫権から告げられた言葉により、オキクルミは全てを思い出した。
 同時に常闇の皇の絶大な力を思い知ることになり、言い知れぬ不安と恐怖で体が震える。

399剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:58:46
 手も足も出ずに膝を屈し地を嘗めさせられ、今も恐らくはいつでも自分を殺せるであろう、闇の神。
 そんな存在を相手に、自分は戦えるのかという疑念が生じ、自信が揺らぐ。
 オキクルミの心の迷いを察してか、孫権が静かに語りかけて来た。
「オキクルミ、畏れるな。本当の強さを知り、真の勇気を持つ君達に、もう恐れるものはなにもない。自分の心を信じて進むんだ」
 言って、孫権は赤いマフラーをオキクルミに差し出した。
 孫権が父親から受け継いだという、彼の死後にオキクルミが引き取っていた遺品だ。
 孫権は信じているのだ。オキクルミの持つ力が常闇の皇を倒すために必要不可欠であり、オキクルミはそれを成し遂げられる侠なのだと。
「すまない、孫権。俺は、お前に助けられてばかりだ」
 礼の言葉を告げると同時にマフラーを受け取り、それを首に巻き付ける。
 心から、畏れも疑いも迷いも消える。
 オキクルミの心に満ちるのは、本当の強さ、真の勇気。
 暗黒の闇に決して負けない、夜闇を照らす優しき月の如き光。
「だからこそ、お前達の分も戦い抜いてみせる。俺の……そして、お前達の大切なものを守る為に」
 友から受け継いだ、友が気付かせてくれた、大切なものを胸に抱き、オキクルミは孫権と、彼と共に駆け付けてくれていた戦友達に決意の言葉を告げる。
 戦友達はオキクルミの言葉を聞くと何も言わずに頷き、何処かへと消えて行った。
「往こう、友よ。虎暁を継ぎし我が魂は、真の勇気を知る君と共に!」
 その言葉を最後に、孫権もまた光となって飛び去っていった。
 その先が何処かは、すぐに分かった。そこは、常闇の皇との決戦の場に他ならない。
 すると、クトネシリカが輝き、その刀身から虹が生まれ、闇の先へと続く道を作った。
 虹はカムイに於いては不吉の前兆とされ、忌み嫌われるものとしての側面も持つ。
 これが大いなる闇の盟主の下へと誘うものならば、これほど不吉なものはそうはあるまい。
 だが、今更そんな物に恐れを成すことなどない。
 オキクルミは碧眼の獣神へと転身し、景気付けにと力の限り吠えた。
 白虎の鎧を纏う気高き狼は、決戦の地へと続く虹の橋を力強く蹴って走った。







400剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:01:00





 何もかもが破壊し尽くされた瓦礫の山の上で、ゼロは項垂れたまま動けずにいた。
 望まぬ破壊に疲れ果て、最早自発的には思考すら働かないほどの状態に追い込まれていた。
 このまま何の刺激も受けなければ、瓦礫の山の高さが上がる。
 それでいいのだと、ゼロは感じていた。
 壊す以外に脳の無いモノなど、一体、誰にも止められるというのだ。この世のどこに、身の置き場があるというのだ。
 自分自身の造られた理由、存在意義を知ってしまったが故に、ゼロは自分自身を肯定することも否定することもできず、闇の底に沈むしかなかった。
 すると、ゼロの眼前に小さな光る球体が現れた。
「ゼロ……どうしたんだい? 君らしくないよ、そんな顔は」
 球体が発したゼロの名を親しげに呼ぶ声を聞いて、ゼロはそれを凝視した。
 今の声は、決して聞き間違えることなどない。あいつの声だ。
「エックス……?」
 ゼロが連想した名をそのまま呼ぶと、光る球体はレプリロイドの姿の立体映像を投影した。
 その姿は、多少アーマーの形状が変わっていたが、紛れも無くエックスだった。
 自分が破壊してしまったはずの親友が目の前に現れ、ゼロは内心で大きく動揺した。だが表面上は冷静を装い、エックスへと問い掛ける。
「今更、俺に何の用だ?」
「君を、君の往くべき戦場へと導く為に」
 即座に返って来た答えに、ゼロは激怒した。
 今、こいつは俺に、戦場に行けと言ったか? 戦いに行けと、破壊の限りを尽くせと言ったか?
 ……ふざけるな!
「ふざけるな! こんな……壊すことしかできない俺に! 今更、何をさせようっていうんだ!! 敵を壊して、壊し続けて……! それでいつか、終わりが来るのかよ!!」
 感情の昂るままに、エックスを怒鳴り付ける。もしも彼に未だ肉体が存在していれば、胸倉を掴んで殴りかかっていそうなほどの剣幕だった。
 それほどに、ゼロは自ら存在に絶望していた。
 友や最愛の女性を救えず、破壊することしかできなかった。
 今も尚ゼロの心を苛む過去の悲劇の原因が、自分自身の存在理由にあった。
 破壊するだけのモノが、どうして誰かを愛し抜き、守り抜けるというのだ。
 仮にその破壊の力で倒すべき敵を倒したとして、その先に何があるというのだ。
 未来(可能性)も希望(祈り)も破壊してしまう自分に、何が残せるというのだ。
 ゼロの怒りと悲しみと絶望と、様々な負の感情が混濁とした言葉を叩き付けられても、エックスの目に迷いは無かった。
「……君に、どうしても伝えたい言葉がある」
 そう言って、エックスは両手を持ち上げた。両の掌には、先程までのエックスと同じ光る球体がそれぞれ1つずつあった。
 それらはエックスの掌から飛び立つと、エックスとゼロそれぞれの両隣に立つ位置で、姿を変えた。

401剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:03:22
「人間は何も知らず、何も持たず、何も教えられないまま生まれて来る。だが、それから色々なことを知って、学んで、色々な物を得ることで。自分で考えて、選んで、行動するようになっていく。なら、ロボットだって同じでいいはずだ」
 鈍色の鎧を身に纏った、金髪碧眼の類稀なる竜騎士――ダリオが、ゼロにそう語りかけて来た。
 彼の暮らしていたエルニド諸島には機械技術は殆ど存在せず、意志を持ったロボットもいなかった。
 ロボットについて何も知らないからこそ、ロボットという存在に対する一切の先入観を持たないが故の、互いの存在を同じとする真実の言葉。
「鉄機……ロボットは、何かの目的の為に造られなければならないとしても。その力で何をするか、どうやって生きて行くかは、そのロボットが自分で決めてもいいはずだ」
 青い鎧を纏った、天を翔ける二刀流の剣士――衛有吾も、ゼロに語りかける。
 彼の暮らしていた天宮は古代の超技術を研究する一門のお陰もあって高度な機械技術が存在し、鉄機武者と呼ばれるロボットもいる。
 その鉄機武者に親友を持っていたからこそ、ロボットという存在に対する親愛の念の籠もった、可能性を信じる祈りの言葉。
「ダリオ、衛有吾。お前達……」
 2人の亡き戦友までも自分の前に姿を現したことに対する驚きは、最早無かった。
 彼らから贈られた真実と祈りの言葉のみが、ゼロの心に響き渡る。
「ゼロ。君の心は、誰かから与えられたものじゃない。君だけのものなんだ。だから……君の心の信じるままに、戦うんだ」
 そして、永遠の親友の言葉が、ゼロの心を熱く叩く。
 実際の衝撃や刺激などを一切持たない、謂わば幻の鼓動が波動となり、ゼロを苛んでいた暗黒を吹き飛ばした。
 ここに至って、ゼロは今の状況を冷静に解析できた。
 此処は、何らかの仮想空間。
 気付かぬ間に――否、常闇の皇から受けた攻撃によって、ゼロの思考と人格がボディから切り離されて幽閉されていたのだ。
 そう言えば、レプリフォース事件の折にサイバー空間で似たようなことがあったな、などと、今と昔を照らし合わせるだけの余裕が自分に生まれていることに気付いて、ゼロは大きく溜息を吐いた。
「まったく……参ったな。まさかレプリロイドの俺が、幽霊なんて非科学的なものに説教されることになるなんて、考えたことも無かったぜ」
 まったく、情けない限りだ。死んだ奴にまで心配かけて、助けられるなんてな。
「吹っ切れたようだな」
 口には出さず、心の中で礼を言った直後に、ダリオが穏やかな笑みを浮かべてそう言って来た。
 出来の悪い弟のいる面倒見のいい兄貴らしいと思いながら、ゼロはすぐに頷いた。

402剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:05:13
「ああ。もう、迷いはしない。俺は、俺の心を、信念を、正義を信じて戦い続ける。立ち塞がるものは、たとえ神であろうと……斬り伏せるのみ、だ」
 決意の言葉を唱えると同時、ゼロのアーマーが通常の物から霞の鎧へと変わり、両手には炎の剣と力の盾が現れる。
 ゼロのその言葉を、正義の心が蘇るのを信じて待ち続けていたとばかりに。
「ゼロ。逞鍛を……俺の兄弟を、頼む」
 衛有吾は顔を俯けながら、申し訳なさそうに、改めてゼロにそう言った。息を引き取った時と全く同じ言葉だ。
 あの時ゼロは、戦友を自分の手で殺めてしまったことへの後悔と恐怖、そして2人を失ったことへの悲しみで、ただ慟哭するしかなく、答えることができなかった。
 しかし今は、逞鍛の人となりを知った上で、力強く答えられる。
「ああ、任せろ。まだ馬鹿なことを言うようなら、思いっ切りぶん殴ってやる」
 ゼロの冗談混じりの言葉に、衛有吾は苦笑をしながらも頷いた。
 すると、3人の身体が淡く輝き出し、元の姿を失い始めた。あの姿を保つ限界が来たのだと、ゼロは冷静に事態を受け止める。
 すると、ゼロの通信装置に文書データが送られて来た。差出人は、エックスだ。
 時間が無いのだということを承知し、ゼロはそれを読むのではなく記憶領域に直接インストールし、文字通り一瞬でその内容を理解する。
 目の前にいるエックスは、ゼロの知るエックスとは違う、異なる時間軸の未来の存在で、今はサイバーエルフと呼ばれるものだということ。
 ゼロが一度敵として、そして一度だけ肩を並べて戦ったハルピュイアはエックスの仲間で、死して尚、サイバーエルフとなって常闇の皇に取り込まれてもエックスを守り続けていたこと。
 そして――常闇の皇を打倒する為の、切り札。
 体を失っても尚、不屈の闘志と平和を祈り続ける、正義の心は微塵も褪せていない。
 変わらぬ友の在り方に、そして今まで共に戦ってくれていたのだという事実に、ゼロは今まで以上の心強さを感じていた。
「僕達には、もう祈ることしかできない……。だから、君達の勝利を祈っているよ」
「任せておけ」
 最高の親友の言葉に短く返して、ゼロは3人の魂が自分の前から消えて行くのを見送った。
 見送って、すぐにゼロは走り出した。自分の往くべき戦場へと、3人の友から受け取った祈りと共に。







403剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:07:52





 常闇の皇の放った赤き結晶の牢獄から、ゼロは、ゼロガンダムは、オキクルミは、3人が同時にその呪縛を破り、最後の戦場へと帰還した。
「まさか、こんなことが……!? デス・クリスタルの悪夢から、抜け出して来たというのか……!」
 3人の帰還を、誰よりも逞鍛が驚愕した。彼自身もまた、常闇の皇のデス・クリスタルに堕ち、それ故に真に闇の世界を求めるようになり、回天の盟約を結ぶに至ったからだ。
 逞鍛の驚愕に、ゼロのみが視線を向けて応じる。だが、すぐにその視線は外れた。
「スプラウト!」
 オキクルミは碧眼の獣神の姿のまま、スプラウトの名を呼び彼に駆け寄った。
 スプラウトは、全身の鎧が砕け散り、左腕と両足を失い、腹に大穴を開けて倒れていたのだ。
 残された肉体も闇の力を取りこみ過ぎた為か、最早人間としての名残が見られないほどに変質し、辛うじて顔に人としての面影を見出せる程度だった。
 スプラウトの凄惨な姿を見て、誰もが悟った。
 自分達が闇に囚われている間、彼は命を懸けて自分達を守り抜いてくれたのだと。
 オキクルミが駆け寄ると、スプラウトは残された右手で握りしめていたイルランザーを放し、戻って来た3人の顔を見て、微かに笑みを浮かべた。
「ふ、ふふ…………最後の、最後に……やっと、守れた……」
 今までスプラウトは、戦いの中に身を置き、最強の剣士と謳われながら戦いの中で大切なものを守れなかった。
 最愛の孫娘、ブリアン。そしてお節介焼きの愛すべきバカの聖騎士、カイ。
 自分の目の届かぬ所で、自分の目の前で、彼らを失った。自分には、彼らを守れるだけの力があるはずなのに。
 だが、今は。今度こそは。守るべき仲間達を、守り抜くことができた。
 これで、2人に少しは顔向けができる。
 復讐と憎悪の闇に呑まれた20年を超えて、再び光を取り戻した輝ける聖剣は、安堵しながらその生涯を終えた。
「スプラウト!!」
 ゼロも駆け寄った時には、既にスプラウトの息は止まっていた。やがて、スプラウトの肉体は、塵となって消えた。
 そして、3人を守っていたもう1人の剣士に、ゼロガンダムは背後から詰め寄った。

404剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:09:23
「タクティモン……!? 貴様が、何故!」
 半ばから折れた蛇鉄封神丸を大地に突き刺した状態で、タクティモンはゼロを庇うように立っていたのだ。
 不可解なことだった。その本質を闇に属するこの男が、アルフォースブイドラモンの盟友である自分を助けるはずが無い、自分達の助勢をするはずが無いと、ゼロガンダムは確信していたからだ。
 しかし、守られたことは事実。礼を述べ、この戦いを終えた後の決着を約束して、今は捨て置くか。
 そう考えを巡らせたところで、タクティモンが振り返った。
 兜が破壊され、中身の怨霊体が露出し噴出している状態で、凡そ表情と呼べるものは見出せない。
 なのに、この時だけは分かった。
 もう、声を出す余力すら無いのか、タクティモンは声を出さずに、しかし確かに呵々と笑ったのだ。
 自らの命が今尽き果てるというのに、タクティモンの心は晴れやかだった。
 死者の怨念の集積体である自分が変われたということは、全てのデジモンに変わることができる可能性が未だ秘められている確たる証拠なのだ。
 神を殺し世界を分断し、敵を倒すために生み出されたタクティモンが、強敵との戦いではなく、何者かを守って死ぬ。
 これが人の心に秘められた可能性の顕現でなくして、何だというのだ。
 陛下、どうかご安心を。あの赤の少年と青の少年と絆を結んだデジモン達が、貴方にも必ずや見せてくれます。
 人とデジモンの持つ、無限大な夢を。
 声には出せずとも呵々と笑いながら、無念と怨念から解き放たれたタクティモンは、タクティモンを成していた武人デジモン達の魂は、桜花の如く散華し、蛇鉄封神丸を遺して消滅した。
「何故だ、タクティモン……! なぜだぁああ!!」
 目の前で何も言わず、何も語らず、しかしほんの僅かなことだけは伝えて消え去った仇敵の名を、ゼロガンダムは叫んだ。
 アルフォースブイドラモンの仇を討てないことが悔しいのではない、ましてタクティモンの死を悲しんでいることなど断じてない。
 ただ、それでも、ゼロガンダムは叫ばずにはいられなかったのだ。


【スプラウト@ファントム・ブレイブ 死亡】
【タクティモン@漫画版デジモンクロスウォーズ 死亡】

405剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:11:40


「……あいつらは、お前達の帰還を信じていた。ジェネラルジオングを破壊し、その後も際限無く生まれ出でて来る闇の軍勢と戦い続けたのだ。見ての通り、全ての力を振り絞って……」
 スプラウトとタクティモンの戦いを、1人だけ後ろから眺め続けていた逞鍛は、3人にありのままの事実を伝えた。
 ジェネラルジオングを撃破した直後、常闇の皇は天空へと浮上し、闇の軍勢を生み出し始めたのだ。
 有象無象の低級妖怪だけではない、その中には生前死後問わず常闇の皇に恭順した闇の魂さえもいた。
 幻魔皇帝アサルトバスターと司馬懿サザビーを筆頭に、妖魔王キュウビ、地獄門の申し子・刹那など、錚々たる闇の軍勢が生前の力そのままに復活を遂げたのだ。
 魁斬頑駄無や頑駄無流星王など、勢いに乗じて同時に復活した天の刃とも呼ぶべき者達の助勢もあったとはいえ、それらを相手に戦い抜き、命と引き換えに全てを退けたという事実は称賛に値しよう。
 本来なら、こんなことは敵である彼らに伝えるべき事ではないはずだ。なのに、気が付けば言葉が口を衝いて出ていたのだ。
 やはて、逞鍛は無言のまま視線を上空へと向け、3人を促す。
 天空には、太陽は輝いていない。代わりに存在するのは、赤黒い紋様の刻まれた漆黒の球体だ。
 それから放たれているのは闇の瘴気、可視化どころか実体化すらしているほどの暗黒の呪い。
 一目でそれが如何なる存在かを、ゼロガンダム達は見抜いた。
「あれが、常闇の皇か……!」
「厳密には、あれの中に常闇の皇の本体――ムーンミレニアモンが収められているようだな」
 ゼロはゼロガンダムの言葉を肯定しつつ、エックスから受け取ったデータを参照して補足した。
 巨大兵器の中から球体が現れ、更にその中に本体がいるとは、随分と勿体付けたことだ。
 そしてゼロの補足説明を逞鍛は首肯し、更に付け加える。
「そうだ。純粋な妖力や魔力そのものともいえる存在であり、百鬼夜行を生み出し、世界の全てを呑み込む闇を齎す、暗黒の太陽にして古今絶無の闇の君主。それこそが、常闇の皇」
 逞鍛が常闇の皇の名を唱えた瞬間、まるでそれを合図にしたかのように、常闇の皇が宙に“闇”の一文字を記し、そこから湧出した闇が、瞬く間に世界を呑み込んだ。
「なんだ……――!? 今のも、筆業だというのか……?」
「何も見えない……!? くそ、センサーも全部正常に作動しない!」
「無限に広がる闇。常闇の皇とは、この闇そのものだというのか……!」
 オキクルミ、ゼロ、ゼロガンダムはそれぞれ、突如として訪れた闇の世界に困惑している。
 当然だろう。本当にたった一瞬で、先程までは微かに存在していた光が完全に消え去り、自分の姿すら確かめられない真の闇が顕現したのだから。

406剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:14:21
 だが、逞鍛には分かる。常闇の皇の膝下に跪き、回天の盟約を結び直属の配下となった逞鍛には、光に頼らずとも、周囲の状況がはっきりと認識できていた。
 上下左右の認識すらも曖昧になった闇の中で、天空から地獄の業雷が大地に落ち、地獄の業火が燃え盛り、氷結地獄が周囲を取り囲み、地獄の瘴気を乗せた旋風が吹き荒れる。
 それらの攻撃に反応することすらできず、3人は打ちのめされていく。
 闇の中でも頼れる聴覚や触覚を頼りに辛うじて直撃は免れていたが、防戦にすらなっておらず、一方的に甚振られているだけだった。
 今、常闇の皇が悠然と天空から大地へと降り立ち、そのまま世界を砕こうとしていることすらも気付けていない。
 目の前から光が奪われただけで、こんなにも無様な醜態を晒す。
 それが、光の戦士達の、彼らが掲げた“正義の力”の限界なのだと……認めてなるものか!
「うおおおおおお!!」
 雄叫びを上げて、逞鍛は高速戦闘形態で常闇の皇へと突貫する。
 闇の炎と氷を飛び越え、闇の颶風を振り払って飛ぶ。そして、両手に握った天刃と空刃を――兄の形見の双剣を振るい、常闇の皇へと渾身の縦一閃を放つ。
 だが、常闇の皇はその攻撃を、自身の神体である球状のカラクリを幾つも縦に分割することで回避した。
 そのままカラクリを逞鍛の体へとぶつけ、大地へと叩き落とす。
「ぐあぁぁ!」
 鎧が砕け散るほどの衝撃を受け、逞鍛は血反吐を吐きながら、しかし、天刃と空刃を手にすぐに立ち上がった。
 こんな程度で諦めてはならない、こんなことで負けてはいられないと。
「逞鍛! なにを……!」
 氷の棘に苦戦しているゼロが、逞鍛へと声を掛けて来た。
 思えば、本来なら逞鍛とゼロの間には何の因縁も無かった。
 それが、衛有吾の意志を解して通じ合い、そして同じ戦場にいる。
 衛有吾の意志、それを汲み取ったゼロの心。それらの情が結び付き、逞鍛へと届いた。
 そして、殺戮の儀式という極限の状況下でそれぞれに人の情に触れたことで、闇に堕ちながら、闇に生まれながら、変わることのできた2人の戦士の生き様が、逞鍛の心を突き動かした。
「……フッ。やっと、正気に戻った……!」
 兄が命を賭して守ろうとしていたものは、この闇の中にあるのか?
 自分が求めていた理想と正義は、この闇の中にあり得るのか?
 答えは、否。断じて否。
 天翔狩人摩亜屈が願っていたのは、逞鍛が望んでいたのは、こんな世界ではない。
 光あるが故に己とそれ以外との境界が生まれ、それ故に人は他者と他者とに分かれ、大小問わず争いや諍いの絶えず起こる世界であろうと、人は変わることができる、分かり合うことができる。
 光射す世界だからこそ、夢も、希望も、未来も、平和も意味があるのだ。
 闇だけの世界では、全てが混然一体となり、それ故に争いも諍いも一切生じない静かな世界となるだろう。
 しかしそれは、己とそれ以外のものどころか、有と無の境界すらも曖昧になってしまった、永遠の孤独の世界。
 暗黒の世界では、現実にも、絶望にも、過去にも、何もかもに意味が無い。
 そんな世界を認めるわけにはいかない。
 一度闇に屈したことを言い訳に、己が正義を棄てるわけにはいかないのだ。
 逞鍛が己の内に熱く脈打つ魂を自覚した、その時、彼方から移動する熱源が飛来した。
 その熱源は己の高熱によって光を放っており、その姿はまるで小さな太陽だった。
 逞鍛の目前に迫っていた、常闇の皇の放った無数の雷球と火球を全て受け止めて防ぎ切り、それは逞鍛の前に降り立った。
 それの名を、逞鍛は知っていた。

407剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:17:36
 爆心の鎧。清き心の持ち主にしか纏えぬ、灼熱の炎を宿した武具。しかし、昨日に烈火武者頑駄無と共に爆発四散したはずの物だ。
 何故この鎧が、今この時に自分の目の前に現れたのか。逞鍛には分からなかった。
 すると、爆心の鎧が現れた途端に常闇の皇の攻撃が激しさを増した。しかし逞鍛は、その様に苛烈さではなく焦りや動揺を感じていた。
 それを同様に感じ取ったのか、ゼロ達は爆心の鎧の発する灯りを頼りに、逞鍛と爆心の鎧を守るように戦い始めた。
 つい先程まで敵だった自分の為に、何の躊躇いも無く身を呈す。今は亡き、烈火の如く熱き魂の武者を思い出し、逞鍛はつい笑みを漏らした。
「信じていたぞ、摩亜屈……いや、逞鍛。お前の正義が蘇る、この時を」
 爆心の鎧から声が響き、そして燃え盛る炎が姿を変える。
 炎に現れたのは、烈火武者頑駄無。
「お前……頑駄無!?」
 逞鍛はつい今し方思い出していた相手が、唐突に鎧の中から現れたことに驚き、素っ頓狂な声を出してしまった。
 だが、頑駄無はそんなことは一切気に掛けず、話を先に進める。
「俺の魂は爆心の鎧に烈火の炎と共に宿り、眠り続けていたのだ。爆心の鎧もまた、闇との決戦の為に造られた武具の一つであるが故に……黄金神の啓示を受け、その時が来るのを待っていた」
 爆界天衝により、この仮初の世界を覆う結界が一時的に綻びた。その瞬間にスダ・ドアカ・ワールドの黄金神がこの儀式に干渉してきたことは、逞鍛も知っていた。
 しかし、それはゼロガンダムのシャッフル騎士団への叙任だけであり、まさか爆心の鎧と頑駄無にまで干渉していたとは、全く気付かなかった。
 恐らくは、常闇の皇に吸収されるはずだった頑駄無の魂を爆心の鎧に定着させ、爆心の鎧を各部分割して隠しておいたのだろう。
 逞鍛が自分なりに推理して納得をすると、頑駄無は拳を握り、炎を更に激しく煌々と燃やした。
「今がその時だ! 今こそ燃やすんだ、逞鍛! お前の武者魂を!!」
 躊躇いながら、爆心の鎧に手を触れる。
 まったく熱くない。寧ろ感じるのは、太陽の光のような温かさだ。
 闇に沈み、取り返しようの無い罪を犯した自分にも、この鎧を纏う資格があるというのか。
 体が震える。これこそ正しく、武者震い。
「……死んでも治らんものもあるようだな。礼を言うぞ、頑駄無」
 素っ気ない言葉に頑駄無は笑顔で応えると、爆心の鎧の炎と再び一体となった。
 逞鍛は爆心の鎧を身に纏い、立ち上がる。
 温かな炎が逞鍛の傷を癒し、熱く燃える武者魂が爆心の鎧の炎を更に激しく燃え盛らす。
 そして、上空の常闇の皇目掛けて、逞鍛は一直線に跳んだ。
 無防備な跳躍に、容赦無く闇の雷が落とされる。激痛が全身を襲ったが、どんな痛みだろうと痛くないと思えば痛くない。無茶な理屈だが、それが武者なのだ。
 攻撃を凌ぎ切り、常闇の皇の目前へと迫る。すると、常闇の皇はグルリとカラクリを回転させて巨大な腕を展開させた。
 球体から生える、片方だけの巨大な腕。不気味なその姿は、闇の王に相応しい威圧感も備えている。
 それもそのはず、この形態は常闇の皇の最強攻撃形態であると同時に、掌の部分に常闇の皇の本体――幻影の千年魔獣が位置しているのだ。

408剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:21:12
 常闇の皇から放たれるプレッシャーが、本体が姿を現したことによって殊更に強まる。
 そして、逞鍛は何ら抵抗することすらできず、常闇の皇に捕まってしまった。
 巨大な手で獲物を掴んだ状態で膨大な闇の力を放出し、相手を握り潰しながら最後は闇の力を爆発させる、単純明快な必殺技。
 絶体絶命の状況に至って、しかし逞鍛は不敵に笑った。
 全ては計算通りだと。
 常闇の皇から闇の力が放出されるのと同時に、逞鍛と頑駄無は同時に己の武者魂を熱く燃やし、爆心の鎧の力を、極限を超えて凄まじい速度で高めて行く。
 纏う炎が放つ熱は光へと変わり、常闇の皇が放つ闇と拮抗する。
 だがその代償に、逞鍛の肉体は炎に焼かれ、手足は融解を始めていた。
「待て! 何をする気だ、逞鍛!」
 逞鍛の異変を察知したゼロが、常闇の皇が放ち続けている攻撃を耐え凌ぎながら大声で呼びかけて来る。
 それを聞いた逞鍛は、ゼロと視線を合わせた。
「全く、この期に及んでも俺の心配などと……お前はバカか、ゼロ。衛有吾の頼みなどを真に受けて、赤の他人の俺を構って……」
 この俺も……情に救われるか。
 声には出さず、心の中で囁くように呟いた。
 情によって心を殺されたと思っていた自分が、他者の情によって心を救われる。これを皮肉というのだろう。
 いいや、違う。因果応報、この世にあって然るべき当然の摂理だ。頑駄無に心の中で諭され、素直に頷く。
 代わる言葉を、ゼロに、そしてゼロガンダムとオキクルミへと贈る。
「光の戦士たちよ、戦え! 今こそ、お前達の“正義の力”を示すのだ! そして……あの、懐かしい未来を、もう1度……!」
 未熟な頃、幼き日に、誰もが一度は夢見たはずの、希望に溢れた輝かしい未来。
 しかし、現実を生き続ける中でどうしても忘れてしまった、棄ててしまった、懐かしい未来。
 それを、もう1度見せてくれ。お前たちなら、正義の力を信じているお前たちなら、きっとできる。
 感極まり、最後までは言葉が出なかった。それでも、きっと伝わっただろう。少なくともゼロならば、これぐらいは察してくれるはずだ。
 気持ちを切り替え、目前の大敵を睨みつける。覚悟は、疾うに出来ている。
 兄者、今、私も逝きます。不出来の弟を、どうかお叱り下さい。
 そして、衛有吾。お前とは、話したいことが沢山ある。
「頑駄無、共に往くぞ!!」
「応!!」
 逞鍛と頑駄無、2人の武者魂の火が交わり、1つの魂の炎となる。
 心と心が繋がることで生み出される力、交魂(キャッチボール)が爆心の鎧が纏う炎と帯びる熱を、太陽と見紛う程にまで進化させる。
「爆界天衝、発火!!」
 暗黒の太陽の闇に呑まれた世界に、太陽が昇る。
 しかし、それは一瞬の輝き。
 それでも、闇を払う確かな光だ。
 その光と一つとなり、2人の武者の魂は消えて逝った。


【逞鍛@武者烈伝武化舞可編 死亡】

409剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:24:02


 常闇の世界に一瞬だけ昇った、小さき太陽。その輝きは闇を払い、暗黒の太陽を翳らせた。
 相応と分かっていても、矢張りあまりにも重い犠牲を払って。
 ゼロは敢えて何も言わず、名前すらも呼ばず、1人の武者の死に様を見届けた。
 常闇の皇は本体をカラクリの中に収容したが、手を破壊され、暗黒の太陽と呼ぶべき威容も所々が融け、歪んでしまっている。
 勝機が訪れたことを悟ったゼロは、決して気を逸らせず、エックスから受け取った常闇の皇についてのデータを確認する。
 常闇の皇、ムーンミレニアモンには物理的な攻撃は通用しない。邪神の精神体が目に見える形になっているだけ、という特異な存在であるためだ。
 だが、どんな攻撃だろうと通用しないわけではない。ムーンミレニアモンと同格かそれ以上の神性を帯びた攻撃ならば、その刃は邪神の魂に届く。
 今、この場にそれを可能とするものは――3人、それぞれの手の中にある。
 すると、再び虚空に闇の一文字が現れ、世界は再び闇に呑まれた。
 そして、3人の脳裏に、言葉が直接現れる。
――お前は破壊者として造られた。破壊者として望まれた。破壊者として願われた。お前の存在意義は、破壊以外にあり得ない――
――力への執着から生じた嫉妬心で友を殺したようなお前のような凡人には、何も救えない、何も守れない。お前は英雄などになれはしない、一生を凡人として終えるのだ――
――お前の戦いは無意味だ。帰るべき世界には、守るべき民も、語り合う友も、倒すべき敵も、愛する人も、既にいない。待ち受けているのは、永遠の孤独だけ――
 つい先程まで囚われていた、絶望の世界がフラッシュバックする。周囲だけでなく、己の内にまで闇が浸食して来る。
 しかし3人の心には最早、一片の畏れも迷いも無かった。
「俺の力は、破壊する為のものなんかじゃない! 友を! 友が信じるものを! 守る為の力だぁぁ!!」
 ゼロの決意の言葉に応えるように三種の神器は輝きを放つ。
 炎の剣を振るい、自らの恐怖が形を成した老科学者の幻影を切り裂く。
「一つの道を究めようとすれば、必ず成功と失敗を問われる。しかし……その道を歩むことにこそ掛け替えのない価値があるのだと、仲間達が教えてくれた。だから……俺は自分の心を信じて、ただ只管、己の道を歩んでいく!」
 オキクルミの心に宿る本当の強さ、真の勇気に応えてクトネシリカと虎錠刀、そして虎燐魄は眩い光を放ち、闇の氷壁を砕き進むべき道を切り拓く。
「たとえ俺の帰りを待ってくれている人がいなくても、俺は、俺を信じてくれた仲間達の願いを叶える為に戦う! そして、闇に奪われた全てを……光ある世界とそこに生きる命を取り戻してみせる!」
 魂だけの存在となりながら自分を奮い立たせてくれたスダ・ドアカの仲間達の祈りを聞いたゼロガンダムに、もう孤独への恐怖は無い。
 闇を乗り越えた先の光、絶望の先の希望、来るべき未来を信じて、雷龍剣と雷の神剣を手に進み続ける。

410剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:26:27
 3人の心の光が己の闇に打ち克つと、それに呼応してゼロガンダムに託されていた黄金神の祈り――スペリオルドラゴンの力の欠片が発現し、その胸にシャッフル騎士団の一員たる証“クラブ・オン・エース”の紋章が輝く。
 それだけに留まらず、ゼロガンダムの身に黄金神の想定すらも超えた変化が起きた。
 ゼロガンダムの鎧は黒を基調とした物から青を基調とした物へと変化し、マントは龍の翼を思わせる形状へと変化した。
 その姿は、愛機ドラグーンと、戦友アルフォースブイドラモンによく似ていた。
 未来を信じる心が生み出す奇跡の力、アルフォースを宿した新たなる騎士――青龍騎士アルフォース・ゼロガンダムが誕生したのだ。
 3人が放つ光は一つとなって更なる輝きとなり、常闇の皇の闇を打ち払う。
 常闇の皇は闇に紛れた僅かの内に己の神体を復元させていた。
 だが今更その程度のことで動揺などせず、3人は一斉に動き出した。

411剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:30:08
 先鋒を務めたのはゼロガンダム。堅牢さと軽量を併せ持つブルーデジゾイドの鎧に身を包み、新たに得た龍翼による神速のスピードと縦横無尽の空戦能力を初戦でありながら自在に発揮していた。
 僅か3日、それでも3日もの間、ずっと共に戦った戦友の能力。戸惑うことなどあるはずが無い。
 常闇の皇が攻撃を放とうとしてもその出鼻を悉く挫き、封殺する。漆黒の巨大な腕も決して愚鈍ではないが、神速の青龍騎士を捉えるには程遠い。
 その空中戦を、オキクルミとゼロは少し離れた地上で見守り、機会を覗っていた。
 オキクルミは碧眼の獣神の姿で背負った2本の剣を弓のように展開し、ゼロも背に乗り弓矢の矢の部分を担っていた。
 狙うは一瞬、ゼロガンダムによって常闇の皇の防御が完全に崩されるその時だ。
 間も無く、ゼロガンダムは常闇の皇よりも遥か高い天空へと昇り、そのまま超高速で垂直に常闇の皇の頂点部へと迫り、重ね雷龍衝を放つ。
 だが、常闇の皇は超高速の剣にすら対応し、神体を分割するカラクリで完全に回避する。
 攻撃を外したゼロガンダムは一瞬で地上すれすれの所まで移動し減速を余儀なくされる。
 一方、ゼロガンダムが態勢を立て直すよりも速く、常闇の皇の神体が再び球形に合体する――その瞬間、オキクルミは光の矢を放った。
 雄叫びを上げて、ゼロは炎の剣を常闇の皇の神体へと突き立てる。しかし貫くことはできず、常闇の皇の体にゼロがぶら下がる形となってしまう。
 常闇の皇は体の表面に電撃を流し、ゼロを機能不全に追い込もうとする。だが、ゼロは怯まない。
 ゼロは右腕に、死んでしまったゼットバスターの機能部分にアースクラッシュの要領で全エネルギーを集中、そのエネルギーを炎の剣を介して常闇の皇の内部へと叩きこむ。
 本来なら、ゼロのエネルギー量では常闇の皇に与えられるダメージはごく僅かなものでしかない。
 だがこの時、ゼロの心の光に、そして間近で2度も続けて発現した黄金神の力に触発され、三種の神器は鍵となる石板と呪文を介さず、真の力を発揮した。
 三種の神器から溢れ出る膨大なエネルギーは、ゼロの許容限界を遥かに超えるものだった。だがゼロはそのエネルギーを制御し、全てを炎の剣へと注ぎこむ。
「教えてやるよ、暗黒の太陽! 現代のイカロスはな、太陽を叩き落とすんだよ!!」
 ゼロが啖呵を切ると同時に、ゼロの右腕が爆発し、常闇の皇の神体の内部で大爆発が起きた。
 落下したゼロはゼロガンダムによって拾われ、暗黒の太陽は地へと墜ちる。
 そこへ、大地を駆ける碧眼の獣神――オキクルミが迫る。
 放つのは、虎燐魄と虎錠刀を通して体と心に伝わって来る、孫家の侠に代々伝わる必殺剣。
 それを己の剣技と合わせて、新たなる技へと昇華させた一撃。
「狼虎獣烈覇!」
 オイナ族の誇りと孫家の魂を宿した、クトネシリカと虎錠刀から放つ狼と虎の姿を持った斬撃は、常闇の皇の神体は完全に噛み砕く。

412剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:36:45
 そして、全ての神体を失った常闇の皇の本体――幻影の千年魔獣、ムーンミレニアモンの姿が遂に露わとなった。
 神体の巨体とは打って変わり、常闇の皇の本体は人間とさして変わらない。
 クリスタルの中に収まる双頭の邪神の魂は、忌々しげにオキクルミを睨む。
 しかし、ムーンミレニアモンに物理攻撃が通用しないのと同じ理屈で、ムーンミレニアモンは物体に対して干渉を行えない。
 それ故に、ムーンミレニアモンは常闇の皇としての機械の器を欲し、月の民の、そして逞鍛の精神を狂わせて操ったのだ。
 最早この戦いでの勝機は無いと察したか、ムーンミレニアモンは捨て台詞すら口にせず別時空への逃走を試みた。
 だが、それは未然に防がれた。眩い光の八方陣が現れ、闇の力を封じたのだ。
 大暗黒砲が光の力を封じたように、この八方陣は闇の力を封じる。
 その陣形を成す8つの光の根源となっているのは、8つの剣。
 聖剣イルランザー、蛇鉄封神丸、天刃、空刃、炎の剣、クトネシリカ、虎錠刀、そしてゼロガンダムの携える天叢雲剣。
「破邪剣聖――八紘の陣!」
 ゼロガンダムはゼロを地上へ下ろす際に、ゼロがエックスから託されたこの秘策を伝えられていた。
 その神速で以ってゼロガンダムは洛陽宮殿跡に遺されていたイルランザーと蛇鉄封神丸、天刃と空刃を回収。
 炎の剣を起点として、クトネシリカと虎錠刀をオキクルミから受け取り8つの剣を所定の場所へと配置し、八紘の陣を敷く為の布石としたのだ。
 天叢雲剣を大地へと突き刺し、八紘の陣を固定する。異界の大神の筆しらべの力が宿る神剣は、八紘の陣をより強固なものとする。
 そしてゼロガンダムは雷龍剣を手に、動きを封じたムーンミレニアモンへと歩み寄る。
 今共に戦う仲間、対峙することのできなかった仇敵、死に別れた戦友、この手で倒した敵対者、出会うことすらできなかった数多の剣士達。
 彼らへの万感の想いを込めて、ゼロガンダムは雷龍剣を構える。
 今更技や奥義など必要無い。全身全霊、全ての祈りを剣へと込めるのみ。
 身動き一つできず、ムーンミレニアモンはただただ驚愕に目を瞠り、迫り来る剣士を見るのみ。
 ゼロガンダムの剣が、ムーンミレニアモンを間合いに捉えた瞬間、雷光が走る。
 ムーンミレニアモンは体を真っ二つに斬り裂かれた。精神体ではありえないはずの肉体的な激痛を味わい、ムーンミレニアモンは別たれた双頭で断末魔の叫びを上げる。
 その双頭を、雷龍剣が切り裂く。その後も次々に神速の剣戟が放たれ――
「悪しき闇よ、零に還れ!」
 ――遂にムーンミレニアモンは、世界に欠片一つ残さず完全に消滅した。


【常闇の皇・ムーミレニアモン@大神&デジモンシリーズ 消滅】

413剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:40:44


 常闇の皇・ムーンミレニアモンの消滅と同じくして、常闇の皇によって造られた仮初の世界は瞬く間に崩壊を始めた。
 唯一の脱出手段である龍機を召喚しようにも、ゼロガンダムは戦いで消耗しており、雷龍剣の最終奥義である雷龍大系を行うには時間が足らない。
 否、それ以前に精根尽き果てた3人は、勝利を見届けると同時に気絶していた。今まで蓄積していた疲労とダメージが、ほんの一瞬だけ精神が弛緩した瞬間に、一気に押し寄せてしまったのだ。
 3人は戦いの中で斃れた数多の剣士達の亡骸と、彼らが振るった幾多の剣と共に、無という闇へと呑まれていく――その間際に、1つの光に導かれた2柱の光が、彼らを救いだした。
 常闇の皇の消滅により解放されたサイバーエルフ・エックスと、世界の外なる領域で常闇の皇の再誕を祝福せんと集っていた闇の神々と戦い、これを退けた光の神々の中心を担っていた2柱の神――黄金神スペリオルドラゴンと、大神アマテラスだ。
 アマテラスは消滅する世界に井桁の文字を記して簡易的な幽門を造り、魂たちを還るべき世界へと還り、再び輪廻転生の輪に加われるように施した。無論、そこに光と闇、善と悪の区別は無い。
 そして画竜の筆しらべで以って3人の傷を癒し、桜花の筆しらべを駆使して3人の体に生命力を注ぎ込む。唯一純粋な生命体ではないゼロの体は、機械の体にも精通している黄金神が癒しを与えた。
「光の戦士達……いや、ゼロ、ゼロガンダム、オキクルミ、ありがとう」
 黄金神は多くを語らず、数多の苦難を乗り越え幾多の祈りを背負って戦い抜き、大いなる闇を打ち倒した3人へ、心からの感謝の言葉を贈った。
 アマテラスもそれに続くように一つ鳴くと、眠っている3人の頬を舐めた。
「お疲れ様。3人とも、今はゆっくりと休んで。目覚めた時には、きっと……素晴らしい世界が待っているから」
 エックスは穏やかな笑顔で3人に告げて、自身もまた、永遠の眠りへと就いた。
 肉体を失ってなお魂だけで戦い続けた、異世界の心優しい戦士の魂に、2柱の神は安寧を願って祈りを捧げた。
 そして、彼の願いを叶えるべく、そして3人へのせめてものお礼として、黄金神と大神は、3人を丁重に元の世界へといざなった。

414剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:44:10


 そして3人は、帰るべき世界へと帰って来た。
 3人は気付けばそれぞれ元の世界で仲間達に囲まれていて、目を覚ました途端にもみくちゃにされた。
 ある者は喜びのあまり涙を流し、ある者は叱りながらも喜んでくれていた。3人は、そのことが無性に嬉しかった。
 別れの言葉を言う暇も無く他の2人と別れてしまったことに気付くのには、そんなに時間はかからなかった。
 寂しくないと言えば嘘になる。だが、何時までも引き摺るつもりは無い。自分にはまだ、この世界でやるべきことがまだ残っているのだから。
 だからこの言葉で、4日間の殺戮の舞台を自分で終えよう。
「ありがとう。お前達のことは、絶対に忘れない」
 願わくは、それぞれの世界の未来が、平和で希望に溢れた――懐かしい未来へと続いて行くように。

 殺戮の舞台はこれで終わり。
 だが、彼らの戦いはまだ終わっていない。
 オキクルミにはエゾフジに巣食う双魔神モシレチク・コタネチク、そして彼の世界の常闇の皇が。
 ゼロにはもう何度目かも分からないが復活の兆候を見せるシグマが。
 ゼロガンダムには黄金神の死と、それに合わせて復活する古代の闇の神々が。
 それぞれの世界には、それぞれの強敵が待ち受けている。
 それでも彼らはきっと、どんな闇にも絶望にも負けず、勝利を掴み取るだろう。
 彼らの心に、光がある限り。

415剣士ロワ第300話「光」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/03/14(木) 00:47:36
剣士ロワ、これにて完結です。
まさか、最後の最後にトリを付け忘れるうっかりをやらかしてしまうとは……。

読んで頂き、そしてこの作品を書かせて頂ける場を作って頂き、本当にありがとうございました。
作品を書いててこんなに楽しかったのは本当に久しぶりで、自分でもびっくりです。

416名無しロワイアル:2013/03/14(木) 07:13:24
執筆と投下、お疲れ様でした。
ああ……熱かったぁああ! バトルの内容や、とくにタクティモンの身の振り方もですが、
光射す世界への肯定を真っ直ぐに書いた部分にも心が震えました。
教条的にならず、息苦しくもない――本文で言われたとおりの「熱く脈打つ魂」が
伝わってくるのが素敵だなぁ、魂を燃やせる逞鍛たちがカッコいいなと思うことしきり。
氏のSSはロボロワの頃のものも好きだったんですが、てらいなく開かれた印象を
有するテキストには今回も魅せられました。原作の把握率は非常に悪いんですが、
それでも氏の文章で魂を燃やしたことは忘れないでしょう。
というわけで、最後になりますが完結おめでとうございます!

417FLASHの人:2013/03/15(金) 08:44:11
投下&完結お疲れ様です!
スパロボ始めたところで三国伝の技もイメージできるようになった俺に隙はなかった
重厚極まりないバトル描写と、熱い熱すぎる展開に震えっぱなしでした。
この熱さで300話まで続き、ついに完結したのかと思うと感涙を禁じえません。
重ね重ねお疲れ様&完結おめでとう!!


そして業務連絡。
この3話ロワのまとめサイトの作成を始めました。
1ロワに1つ、まとめサイトの形を作ろうと思っています。

とりあえず第一弾として、「第297話までは『なかったこと』になりました」のサイトを
作成しました。
何故これを選んだかって?
打ち消し線と螺子乱舞でサイトの色が出しやすいからだよ!
ということでこんな感じです
ttp://akerowa.web.fc2.com/rwbox/medakatop.html
手癖で作っており簡素ではありますが、作者さん及びこれからまとめられてしまう皆様も
「俺のロワのまとめはこうしてくれ!」という要望があれば
私の技術の追いつく範囲で応えさせていただきます。

それでは引き続き、完結していく物語をお楽しみ下さい。

418名無しロワイアル:2013/03/15(金) 23:05:02
>>417
企画主さん、乙です。
まとめサイト、見せて頂きました。
各ロワごとにサイトのデザインにも個性をつけて頂けるとは思わなかったので
正直、驚いています。(KONAMI感)

ところで@wiki形式ではないということは
修正は各作者が勝手にできる訳ではない、という事でしょうか?

419FLASHの人:2013/03/17(日) 11:23:24
どうもでございます。
今日は「まったくやる気がございませんロワイヤル」のサイトができたので貼って置きます
やる気ですか?ええ、ございません
ttp://akerowa.web.fc2.com/yarukinothin/yarukitop.html

>>418
拙い作成能力で恐縮です
一応ロワがちゃんと続いていた体でサイトが出来上がっていればいいなと思っております
なお、修正についてはこのスレでご連絡いただければ直します
1企画でwiki乱立させるのもなんだなあと思ってサイト形式にしておりますので
お手数ですがご連絡いただければと思います

420 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/03/18(月) 23:49:39
>>419
まとめサイト作成お疲れ様です!
Wikiで一纏め形式だとばかり思い込んでいたので、態々一つずつを作って頂けるということで、頭が下がるばかりです。
拙作のまとめに関する要望は……
ブシドー風に言えば、
作成中のまとめサイト、あなた色に染め上げて欲しい。
サコミズ王風に言えば、
貴君にはSDガンダムを司る新しいロワまとめをやってくれ!
普通に言えば、思うままにお作り下さい。

421名無しロワイアル:2013/03/18(月) 23:56:50
>>419
話の中身はシリアスなのに、何と脱力系なデザインかw

422名無しロワイアル:2013/03/23(土) 02:40:48
作品を把握し直そうとして始めたゲームが面白くてやめられない…
執筆できねぇw

423名無しロワイアル:2013/03/23(土) 10:31:21
分かり過ぎる
しかもワールド3歯応え有り過ぎて進まない

424422:2013/03/23(土) 11:34:56
把握しようとしたキャラのシーンはとっくに過ぎているのに…w

425名無しロワイアル:2013/03/23(土) 21:22:54
>>422
あるあるw
自分もちょっと見直すつもりで単行本を手に取って、気付いたら全巻読んでたり、ベストバウト読みふけってたりw
そしてトゥバンの活躍を見直していて思ったのが、こんなバケモノが第1話で主人公の仲間入りってどういうことなの……。
しかも長期連載特有のインフレが始まってもおっさん強過ぎる上に日々の鍛錬で着実に強くなってるから誰も追いつけない。
最強キャラが文字通り最初から最後まで最強なんて稀有だよなぁ。

426名無しロワイアル:2013/03/23(土) 22:29:56
>>422
あるある過ぎて困るw
俺も書いてて改めて原作読みふけったり、またゲームをやり直したくなったりしたんだよなー

427名無しロワイアル:2013/03/25(月) 14:50:06
めだかでまさかの百人戦(バトルロイヤル方式じゃないけど)が始まって噴いた

428名無しロワイアル:2013/03/27(水) 17:23:45
今更だけど剣士ロワ最終回読み終わったああ!
投下乙!
やばい、まじこれやばい。
デジモンやSDガンダム、ロックマンX愛に溢れまくってる!
キャッチボールとか武者○伝ネタとかゼロマルで100%パロとか懐かしい未来やイカロスな岩本版ネタとかロックマンゼロも拾ってたし、漫画版クロウォ最終回とかもうね、やべえ
大神とかファントム・ブレイブだっけかも知ってたらもっとにやにやできたんだろなー、くっそうw
クロスオーバーしまくりの常闇を始めとした、まさしくクロスウォーズな光と闇の戦い感服しました!
SDガンダムにデジモンにロックマンXと大好きな要素がありまくりで本当にクリティカルなロワでした!
面白かったです!
また何処で氏の作品が読めれば幸いです! では!

429名無しロワイアル:2013/03/27(水) 17:24:44
あ、そういえば氏も触れてたUXで呂布仲間になる時に天の刃とか大地とか合体攻撃でのセリフなど、戦神決闘編のネタ満載らしいよ!

430 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/03/27(水) 22:12:34
>>429
なんだって! それは本当かい!?
妄想ロボロワ最終決戦そのままの最終話での登場に昂っていたのに、
更にその上があると! なんとしてでも仲間にしたいなぁ!
あ、呂布にグランドリーム持たせたのは自分です。
>>428
大神はPS3のHDリマスターが、ファントムブレイブはPSP版がオススメ。
時間と財布に余裕があったら、是非プレイして頂きたい。

431名無しロワイアル:2013/03/31(日) 19:02:36
ラジオと俺の最終話と、どっちが先になるか・・・

432428:2013/04/03(水) 23:59:02
>>430
おお、なんと!
呂布をホンダ武装させたのが自分ですw

433名無しロワイアル:2013/04/04(木) 22:02:51
>>431
最終話が先にアサギの主人公の座を賭ける。
そういやラジオって何時頃だっけ? 現状未定だったかな。

434FLASHの人:2013/04/06(土) 10:07:21
未定だけど5月の連休に出来たらいいなと思っておりますでラジオ(語尾

435名無しロワイアル:2013/04/07(日) 23:57:35
>>434
それまでに頑張って完成させるでムシ(語尾

436名無しロワイアル:2013/04/08(月) 00:02:43
>>434
私にやる気が全くございません ぼく禿げてまう

437 ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:42:08
>>417
さささ、サイトSUGEEEE!
個別でまとめサイトがつくられるとは思ってなかったので感謝感激です!
自分でもリスト化してない登場人物欄まで整備されてておどろく……
手間かけさせてしまいましてすいません

そして、2月中に投下できたら〜とか言ってたらもう4月ですが、
「第297話までは『なかったこと』になりました」の300話(最終回)を投下しますー。
せっかくだしエイプリルフール投下しようと思ってたけどそれすら間に合わなかった!

438300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:45:36
 

 かちり、と、時計塔の針が進んだ。
 そして朝の8時を指した。
 誰も受けやしないのに、教える教師も居ないのに、
 空々しく、白々しく、むごたらしく始業チャイムが鳴らされる。

 きーんこーんかーんこーん
 きーんこーんかーんこーん。
 
 そして。それが最後の役目だったと言わんばかりに、時計塔エリアは禁止エリアになった。 
 ……少年少女たちの箱庭が怨匣(ロワイアルボックス)となってから38時間。
 100人居たはずの参加者は、ずいぶん少なくなってしまった。
 2人居たはずの主催者も、もうどこかへと消えてしまった。

 空っぽに
 限りなく
 近い匣。

 そこには物語すら2話程度しか残っていない。
 他は全部『なかったこと』になってしまった。
 主催者も、マーダーも、対主催も、
 その他色々な登場人物が、すべて胸元に咲かせた花を散らして、
 しかしどうやって散って逝ったのかはもう分からなくなっている。
 未だ咲き続けているのは5輪だけ。
 何も知らず、知らされず、突然この状況に直面させられた5人の少女たちだけ。
 鰐塚処理。喜々津嬉々。与次郎次葉。希望が丘水晶。財部依真。
 すべてが0になった箱庭で、たった5人の少女たちがたった今何をしているかというと……。

「し、新鮮さはさすがになくなってたけどっ」
「まだ、食べれるのが、あって、良かったぁ……!」
「疲れたであります……5人でなければ、無理でありました」
「&strike(){もう足が動かないんですけど}で、ノゾミちゃん? どこに運べばいい?」
「機械的な算出の結果、最後に禁止エリアに選ばれる確率が高いのはあそこです」
「あー」
「確かに」
「それはそうでありますね」
「&strike(){遠いしだる……いや、}じゃあせっかくだし。あそこで、やろっか」
「ウィ。では始めましょう。箱庭学園、生徒会室で――」

 ぜーはーと息を切らして。腕一杯にたくさんの食べ物を抱えて。

「「「「「鍋パーティーを!」」」」」


 仲良く鍋を囲もうとしていた。


◆◇◆◇


 第300話「ウソツキハッピーエンド」


◆◇◆◇

439300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:46:46
 
 
 ぐつぐつと煮える土鍋が四角形の机の中央に置かれている。
 そして、一体どこから調達してきたのか四つの座布団が机を囲むように置かれ、
 ロボ娘・水晶を除く四人の少女たちがそれらに座り、箸を持って鍋を覗き込んでいる。

「……」「……」「……」「……」   「……」 

 少し離れて希望が丘水晶が同じ色の座布団に正座して、
 空の湯飲みを膝の上に置いて和み、食事の雰囲気を共有している。
 土鍋の中は鰹節とか昆布とかで出汁をとったアッサリめで何にでも合うスープに、
 中学生の好奇心と悪ノリで様々なものを放り込んだ――所謂「闇鍋」だ。

 箱庭学園の最大の要、本校舎の一室。 
 黒神めだかが、そしてこうならなかった未来では人吉善吉が、
 生徒会長として日々活動を行っていた場所……生徒会室にて。
 36時間もの間何も口にしていなかった少女たちは、まず腹ごしらえをすることにした。

 時計塔の一室にある食育委員の調理室。
 その部屋には沢山の食材が常に保存されているのを、彼女たちはオリエンテーションで知っていた。
 時計塔の屋上から下に降りるついでにそこへ行き、
 痛んでいない食材を出来る限り抱えて駆け下りるのに一時間を要したのは少し計算外だったが。

「機械的にお知らせします。あと5秒で煮込みが完了します。『5』」
「ふふ……中央のリンゴは渡さないぜワニちゃん。意外と美味いかもしれないし!『4』」
「ほう、この鰐塚処理の暗器(お箸)のスピードを甘く見ておりますなツッキー?『3』」
「むむむ、二人はリンゴ狙いかぁ……じゃああたしはやや左のロシアンから揚げを。『2』」
「&strike(){おまえら最初から攻めすぎだろ!?}あたしは……ちくわで……。『1』」

 少女たちは楽しく料理して。
 まず手を合わせて、大きな声で感謝のひとことを叫んで。

「「「「「いただきます!『0』」」」」」

 カウントが0になると同時に、鍋上の殺し合いを始めるのだった。

「いくでありますよー! 必殺鰐塚式、《口止め料理(ブロッククック)》!!」

 まずは見敵必殺!
 勢いよく飛び出した鰐塚の箸が暴力的に閃いてこんにゃくを跳ね上げる。
 そして中央のリンゴを無事に掴み口に運ぼうとしていた喜々津の、
 無防備に空いたその口めがけてこんにゃくをシュート!
 こんにゃくがゴールイン! 「もがッ!?」 これではリンゴを口に運ぶことができない!
 しかもこのこんにゃくはカミカミメニューだ!

「にゃんほいうほとふぁ(何ということだ)……! 噛み切るのに時間がかかって」
「リンゴは食べられないでありますねぇ! さあツッキー、リンゴを渡すであります!」
「ちょっと待ったぁー! まだわたしの「銃」があるよん!」
「なにっ!?」

 それは一瞬の油断であった!
 突如として横からかけられた声に気を削がれついそちらを見た処理が見たのは、
 すでにロシアンから揚げを一つ無事に食べ終えたらしく、
 しかしさらにもう一つ、箸にロシアンから揚げを「装填」した与次郎次葉の姿!

「――Bang!」
「もがっ……。……。〜〜〜〜!!!!」

440300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:47:58
 
 「てこ」の要領で跳ね上げられたから揚げは処理の口へと着弾! 思わず噛む!
 広がる味は――これは――ハバネロ団子から揚げだ!
 辛い!
 激辛い!
 処理は乙女にあるまじき顔になる! 目がぐるぐるになって、顔が赤くなる!
 少し経って今度は青くなる! ちょっとして口から火を噴いて叫ぶ。

「けほっ、む、むりぃっ! キャラを保つのが無理なくらい辛いよぉっ! あ、阿久根どの〜〜!」
「……機械的に言わせていただくと、
 ワニちゃんの感じる辛さは阿久根氏でもどうにもできないと思われます」
「そこ突っ込むんだノゾミちゃん!? って驚いてる場合じゃない!
 いざっ! 魔法少女ワンダーツギハ、神聖なる煮込みリンゴを食して天星の――」

 からん。
 ワンダーツギハの箸は空を切った。

「ってあれ? 無い?」
「&strike(){お前ら正直コントしすぎなんだよなぁ}えへ、ごちそうさまでした」
「「「タカちゃん!!??」」」
「&strike(){ざまぁwwwww}ふふふ、食べたのは私でしたー。でも、そこまで美味しくはなかったかな」

 いつの間にやら、あざとい笑顔でぺろりと口の端を舐めたのは財部依真であった。
 静かにかつ狡猾に、気取られないように箸を伸ばした綺麗な漁夫の利。
 財部依真はステルス・箸使いだったのだ。
 リンゴをめぐる鍋上の殺し合いはこうして決着を迎えた。
 ぱちくり、他三人は顔を見合わせて……そして大笑いを始める。
 してやられたー。おいしいとこ取ってくなータカちゃんは。ちょっとくらい分けてよもー。
 四人が笑いあう光景を、水晶は遠巻きに慈しむように眺めている。

 その次は謎の桃色こんにゃくを巡って4人は殺しあった。
 その次は最後の一個のロシアンから揚げを巡って4人は殺し合った。
 その次は見ていた水晶も妨害役に加わって、5人で白玉団子フルーツを巡って殺し合った。
 大きな鍋に闇鍋した、たくさんのおかずを巡って。
 数えきれないほど少女たちは殺し合って。
 胃袋の空白を埋めるように殺し合って。殺し合って、殺し合って、鍋が空になるまで戦い続けて。

 お腹がいっぱいになったら、苦しくなったし他に見てる人もいないので、
 女子らしさなんてかなぐりすてて、その場にぐでんと寝転んでやった。

「あはは。もう無理、入らないや。体力ゲージ全回復ってかんじ」

 大きくなったお腹をさすりながら喜々津嬉々が言った。

「こんなに食べたのはいつ以来でありましょう……昔は兄と大食い競争をしたりもしましたが」

 今は亡き兄のことを少し思い出しながら鰐塚処理がぽつり口ずさんだ。

「こういう形で食事に参加したのは初めてでしたが、楽しいですね、食べるのは」
「でしょ?ノゾミちゃん」
「ええツギハ。私も最後に……お腹がいっぱいになった気分が、します」

 希望が丘水晶と与次郎次葉は近くに寄り添いあって、ふふ、と笑いあった。
 
「……それで。これから、どうしよっか?
 ルール通り最後の一人を決める? ――ホントに殺し合っちゃう?」
「ははッ、まさか」「ありえないであります」
「それはないよ、タカちゃん」「ええ。その提案には賛成しかねます」
「&strike(){だよなあ}……あたしも、そう思ってた」

441300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:49:19
 
 そして財部依真が軽いノリで提案し、当たり前という風に四人が否定する。
 本当に当たり前みたいだった。
 というか。実際に、当たり前の話なのだ。
 だって。

「「「「「私たちは。大切な友達を殺してまで生きようとは、思わない」」」」」

 少女たち五人は、とってもとっても仲がいいのだから。
 彼女たちだけが残ってしまった時点で、彼女たちの中ではもう、
 バトルロワイアルなんて設定は。――『なかったこと』になっているのだ。
 殺し合って終わるような結末は無い。絶対に、ない。

 だから残り58時間、
 少女たちはこの箱庭で最後の時を共に過ごし、
 そして……仲良く皆で首輪の爆発を待って……この箱庭と共に心中することを決めた。

 誰もが誰も殺そうとしなければ、殺し合いなど、成立しない。


◇◆◇◆


 食事のあとはただ、分かりきった作業を進めた。
 脱出の可能性の模索。担当は主に、オーパーツじみたアンドロイドである水晶だ。
 まずどうにかして外に出られないかやってみる。
 外へ続く柵を人力で、あるいは飛行能力で、または爆薬などで乗り越えようと壊そうとする。
 しかし、謎バリアにより失敗。まあ当たり前の話だ。
 この囲いのスキルを定義したのはあの安心院なじみなのだ、
 安心院なじみの端末にすぎない5人がどうにかできるわけがない(というか、誰だって無理だ)。

 次に298話にて死体を巡礼したときに目についた、
 獅子目言彦の首からなぜか外れていた首輪――これを回収して分析をした。
 言彦の首を跳ねて首輪を外した後、球磨川禊が首の切断を『なかったこと』にしたのだろうか?
 今となっては真相は闇の中だが、
 ともかくこれによって、少女たちが誰の首も切断することなく首輪を回収できたことは僥倖だったのだろう。
 なぜなら、首輪を外すことが出来るなんて展開はすぐ否定されることになるからだ。

「やはり、不可能ですね……強力なスキルとマイナスによる呪い。
 私たち普通(ノーマル)の力ではどうにもなりません。もしかしたら、安心院さんでさえどうにもできないのでは」
「うん、やっぱり無理かぁ。ノゾミちゃんで無理なら、どうしようもないね」
「ねぇねぇ! じゃあワニちゃんの隠された右目に首輪を解除できるスーパー能力が備わってたりしないかな?」
「いやジロちゃんそれは無茶振りであります……この右目はもう何のスキルも宿してません」
「&strike(){ま、だよなあ}そして、外への連絡手段も全滅、っと」

 試行錯誤の果てに。
 生徒会室へと引き返してきた少女たちは、一縷の望みを外部からの救援に託した。
 電話、メール、あるいは無線など。
 全体から見ればとても今さらながら、本人たちも無駄だとは思っていたが、
 ひととおり外部への連絡手段を試してみたのだ。……そしてやはり無駄だった。

「こっちからの連絡が無理ってことは……外に居る誰かが気づいてくれるのを待つしかない、のかぁ」
「でもそれは――万が一、億が一にも満たない――ほとんど0の可能性であります」
「&strike(){というか、ありえねーだろ}あの安心院さんがそんなご都合主義を起こせるような余地を残すとは思えないよね」
「100人が閉じ込められて1日半以上経って、外部から何のアクションもない(なかったっぽい)時点でねー……」
「……C-7が禁止エリアになりました。あと。54時間」

 つまり彼女たちの寿命は、九割九分九厘、あと54時間しかないということなのだった。
 いや、ことここに至ってしまえばむしろ――54時間は、多くすら感じられる。


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