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1
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/20(日) 15:12:12 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
こんにちわ、もしくは初めまして。
といってもこの掲示板で何度か作品を投稿して、続いたり、続かなかったりを繰り返しております。竜野翔太です。
三作同時進行は厳しいなー、と思いながらもこの作品を投稿したのには理由がありまして。
それは知りたい人がいれば、お答えしましょう。
なるべく注意してるつもりではありますが、頭で出来た設定が中々上手くいかず更新できないという例が幾度かありますので、これもまだまだ未完でありますので、何卒お付き合いくださいませ。
注意事項です。
・本作は学園とバトルが入っており、恋愛もちょこっと混ざってます。
・チェンメ、荒らしなどはご遠慮ください。
・グロ表現はなるべく控えますが、もしかしたらあるかもしれません。
・パクリや倒錯などはしていないつもりですが、もしも『アレ?』と思う点があれば、お申しください。
・誤字脱字、あると思いますがその時は早めに訂正いたします。
・コメントや意見、アドバイスなども受け付けております。
長くなってしまいましたが、次レスから始めさせてもらいます。
63
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/03/30(金) 22:03:37 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.9「藤村幽鬼VS那月流生」
「流生さーん。そーいや、桜っちは?」
辺りを見回していた狩矢が、流生にそう問いかけた。
彼は親しんだ女子にはニックネームで呼ぶ癖でもあるのだろうか。『桜っち』と呼んでいるからには苗字か名前に『桜』と入るのだろう。『桜子』とか『桜井』だと思う。
問われた流生は、『あー』と間延びした声を漏らして、
「今ちょいと出かけてるわ。ジュースとか買いに行かせてるんだった」
それを聞いた狩矢は呆れたような表情をする。
「……またか。何でアンタは十二歳の女の子をそんなにコキ使ってるんだよ。で、今日は何本だ?」
狩矢に問われた流生は、初対面の藤村でも分かるくらい不恰好にもじもじしだした。
それから狩矢から視線を外して、呟くように答えた。
「……七」
「2リットルを七本も!?いつかあの子腕骨折するんじゃね!?」
「うるせぇよ!アイツの教育でお前にガタガタ言われる筋合いはねぇ!」
二人は藤村が居る事も忘れ、いつも通りと思われる言い合いを繰り広げていた。
その光景は、小さい頃からずっと一緒に居る幼馴染のようにも見えるし、付き合って数年経った恋人同士のようにも見えるし、長年よく連れ添った夫婦のようにも見えた。
ところが、二人の言い合いは止むどころかどんどん熾烈を極めていった。果てにはただの悪口の応酬だ。
そんな中、店のドアが開き、元気な女の子の声が、小さな店内に響いた。
「ただい―――ッ」
その少女の声は最後まで続かなかった。
少女は袋を持っていた手を離し、その空いた手で自分の口を押さえ顔を赤くしている。幸い落としたペットボトルの飲み物からは中身が溢れなかった。
少女は背を向けて、しゃがみこんでしまう。
年齢十二歳程度の、桜色の髪をツインテールにした少女は、潤んだ瞳で流生を見つめている。
「―――、」
「……あー、悪かった。そーいや、最近誰も来ないから……忘れてたわ」
流生は困ったような表情を浮かべながら、そう言った。
首を傾げている藤村をよそに、狩矢は手を振りながらその少女へと近づいていく。
「うぃっす!久しぶりだな、桜っち」
「……この子が桜っち?」
狩矢はああ、と頷いて、少女の頭に手を置いて紹介する。
「この子は桃音(ももね)ミル。ここの従業員なんだぜ」
名前を聞いて、藤村は固まった。
―――『桜』が入ってない。
苗字が『桜井』でもなく、名前が『桜子』でもなかった。
「名前に『桜』入ってないんかい!じゃあ何でその子のニックネームが『桜っち』なんだよ!」
「だって、髪の毛が桜色だし」
「髪色かよ!!」
その後十数分間、『桜っち』こと桃音ミルはずっとしゃがみこんで泣いていた。
その理由を、藤村はまだ知らない。
64
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/04/02(月) 10:56:25 HOST:p24060-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
コメント失礼します^^ノ
かなり前まで遡るのですが、幽鬼くんの鷹の美剣に対する熱は凄いですねw 私も是非とも読んでみたいでs((
それにしても、古賀塚ちゃん可愛いです。そして幽鬼くん、ちょっと場所変わろうk((藤村ハーレムの輪は順調に(Σ)広がっていきますなw
何気に思ったのですが、戦場原学園の生徒、ということは古賀塚ちゃんも後々戦闘に加わる可能性もあるのでしょうか……よし、正座して待っておこう((
武器屋の女店主の流生さん……何だか、大物というか、凄く強い人の予感がするのは月峰の気のせいでしょうk((
そして、桜っちことミルちゃん、この場面だけ見てると、夫婦喧嘩に居合わせて泣いている子供にも見えr((黙
さて、個性的な新キャラも続々登場で、続きが楽しみです!頑張ってください^^
65
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/04/02(月) 11:16:18 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰 夜凪さん>
コメントありがとうございます^^
藤村君の八割くらいは鷹の美剣で構成されています。
彼からあの作品を取るともう何も残らないんじゃないだろうk((
あ……確かに藤村ハーレムが……こうやって見ると神山君が不憫すぎて泣けてきます((
後々は加わると思いますけど、そんなに多くないような……古賀塚ちゃんは癒し担当でs((
あの人は会長以上につかみ所がない人です。会長より難しい時点で終わってるような気が……。
流生さんは……台詞で出せるかどうかは分からないから書きますが、会長に『あの人と戦うのはヤダ』と言わしめる程ですw
桜っちは流生の子供みたいな感じなので、あながち間違ってないですねw
ちなみに次は桜っちがすごく喋る予感が……。
ここまで個性が強くなると藤村君が埋もれそうな気もしますが……。
月峰さんの言葉をいつも励みにしております!期待に沿うよう頑張ります^^
66
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/04/02(月) 11:41:30 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
とりあえず泣き止ませる事に苦戦したが、藤村は桃音を泣き止ませ一人用の椅子に腰を掛けて(何故か知らんが)狩矢を、桃音は睨みつけている。
その視線を、気にしませんよと言わんばかりに狩矢は流生と話し続けている。
何で狩矢を睨んでいるんだろう、と藤村は疑問に思いながらも引きつった表情を浮かべながら桃音を見ている。
すると、藤村の耳ではなく頭に直接言葉が流れてきた。
『何見てるんです?私の顔に何かついてますか?』
「……?」
藤村は辺りを見回すが、周りにいる人物は誰も自分と話していない。
狩矢と流生は二人で話しているし、桃音は恨めしそうに狩矢を睨みつけている。女性の声だったのだが、その二人はどちらも自分と話していない。
首を傾げている藤村に、さっきと同じ声で頭に声が流れる。
『こっちです、こっち。っていうか「何見てるんですか?」と問いかけた筈です。貴方がさっきまで視線に捉えていた人物は誰ですか?』
「……桃音、か?」
藤村は視線を桃音に向けてそう問いかける。
桃音は睨みつけるような目から、普通の幼さを感じさせる丸い目をして藤村の方を見る。
『……直接声を出さなくても思うだけでいいんです。私は人前で喋るのが苦手で、生まれつきテレパシーを使えるんです。何故かは分かりませんけどね』
藤村は思わず口を開きそうになったが、相手の言葉を思い出して、言いたい事を頭の中で再生する。
たったそれだけの事で、桃音との『会話』が成立するのだ。
『でも、さっき元気な声出してなかった?アレは何だったんだ?』
『……アレは……流生さんだけだと思ってたから……あの人とは普通に話せるんです……』
桃音は顔を赤くして、目線を僅かに話すとそう呟くように思った。
流生が『忘れてた』と言っていた事は、桃音が特定の人物としか喋れないという事だったのか。
話を変えたいのか、桃音は『そういえば』と前置きして、
『ところでお名前は?私の名前だけ知らされたというのがあまり快くないもので』
『ああ、藤村だ。藤村幽鬼。よろしくな、桃音』
幽鬼さんですか、と桃音は頭で復唱した。
『分かりました覚えておきます。それから、私の事はミルとお呼びください。苗字で呼ばれるのはあまり好きではないですし、何より私も下の名前でお呼びしたいので。こちらだけ下の名前でっていうの、あまり好きじゃないんです』
口に出さない時だけはよく喋るな、と藤村は思わず口に出してしまった。
『ちなみに、私は狩矢が大嫌いなので、苗字で呼んでます。下の名前で呼ばないでくださいって言ったところ、あんなヘンテコなあだ名つけられました』
そうなのか、と藤村は苦笑いを浮かべる。
桃音は首を傾げて、問いかけるように藤村に訊く。
『ところで、貴方はココに何をしに来たんです?戦場原学園の生徒のようですが、初見の顔ですけど』
そこで、藤村はハッとして、狩矢に叫ぶように言う。
「そういえば、狩矢!何でお前は俺をココに連れてきたんだよ!会わせたい人ってのは流生さんなのか?」
いきなりの大声に狩矢は驚いたのか、肩をビクっと震わせる。
「何だ、お前。私に会わせる為に彼を連れてきたのか?」
「……まあ……アイツの戦いに足りないモンを見てもらおうと……」
ふーん、と適当に返事を返して流生は藤村を見る。
「まあ、見ただけじゃそいつの戦闘センスは計れんしな」
流生は指でついてこい、というジェスチャーをしながら背を向け、奥の扉を開ける。
そこには、下へと続く階段が下に伸びていた。
「お前を見てやる。ついて来な、幽鬼」
67
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/05/13(日) 11:53:56 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
地下への階段を下りていくとそこにはだだっ広い何もない白い空間が広がっていた。明らかに店の地下だけで収まっていない気がするのだが。
藤村はこのスケールに圧倒されていると、桃音の言葉が脳に届いた。
『ここは流生さんが用意した簡易修行スペース「ルキルキ・バトルサーキット(仮)」です。壁や天井にはかなり強度が高い素材を使用しているので、そう簡単に壊れる事はありませんよ』
補足的な説明だった。
藤村としてもそっちの方が分かりやすいので助かるが、さっきのふざけた名前はどうにかならないものか。しかもサーキットじゃないし。
流生は首を鳴らして、藤村と向かい合うように、十数メートル離れたところに立つ。
「んじゃ、始めようぜ藤村幽鬼。アンタの力を私に見せてくれ」
「え!? アンタと戦うのかよ!」
藤村はぎょっとする。
『見せてくれ』なんて言うから、てっきり誰かとの戦いを傍観するだけだと思っていた。どうやら、彼女は理論派ではなく、実践派の人間なんだろう。
だが、藤村にはどうしても彼女と戦えない理由が二つあった。
一つは女である事。
よっぽどの事がない限り、藤村は女に手を出したりしない、差別的な言い方だが、藤村は女とだけは戦うのが嫌なのだ(例外で篠崎とも戦わないらしい)。
二つ目は相手が丸腰であること。
立ち振る舞いは隙がないのだが、どうしても戦わないといけないと言うのならせめて武器は構えていてほしい。だが、今の相手は武器を構えるどころか、むしろこっちから攻撃を仕掛けるのを待ってるような気がする。
「……やりにくいんだが」
「何だお前は。紳士的な事言って私を惚れさせたいのか」
「違うっての。武器も何も持ってない丸腰の女の人と戦えってのが俺のポリシー的にアウトなの」
流生は溜息をつく。
流生は手で髪をくしゃくしゃとかきながら、
「面倒だなぁ。私は武器を持たずに戦うってのに。それでも武器持たなきゃいけねーの?」
「無理にとは言わん。が、それならば構えの一つでも取ってくれ。じゃないとやりにくくてしょうがない」
流生は再び溜息をついた。
今度は呆れたような、駄々をこねる子供を見ているような溜息だった。
「……知らねーぞ、後悔しても」
その言葉で流生の雰囲気が変わった。
流生はズボンに手を当てて、藤村に質問を投げかける。
「お前、戦場原学園の工藤政宗とは戦ったかい?」
「……ああ、一度だけ。ボロ負けしたけどな」
じゃあダメだな、と流生は呟く。
藤村はそんな小さな呟きも聞き逃さなかった。
「じゃあダメだよ。お前は私に勝つことが出来ない。だって、私はアイツより強いから」
流生はズボンを右足の付け根まで片方だけ下ろした。かなりきわどい場所だが、そこには藤村が見逃せないものが刻まれていた。
青色の降霊紋。
言葉にしなくても分かる。降霊紋を見て、彼女が『武器を持たない理由』と『余裕を見せる理由』が一気に分かった。
降霊術者であり、工藤政宗より強い。
藤村からしたら。工藤政宗に手も足も出なかった藤村からすれば、あの工藤政宗より強い彼女はどれほどの化け物に見えてしまうのだろう。
流生は青い降霊紋を見せつけながら、口の端に笑みを浮かべ言った。
「出て来い。時間だぜ、水神(みなかみ)」
『……んもー、少し時間をずらそーとは思わないの? このバカ宿主。今はみーちゃんのお昼寝の時間だとゆーのに』
瞬間、とぼけた声の後に流生の周りに水が渦巻きだした。
68
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/06/03(日) 14:49:37 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
突如噴き出した水。その水は渦巻きだし、水の中心点からどこかとぼけた女の声が聞こえてきた。
藤村はこの感覚に似たものを知っている。というか、最近となってかなり似た感覚を身体で覚えているのだ。
そう、降霊の召喚だ。
水が消えると、流生の後ろに彼女の降霊だと思われる人物が現れていた。淡い水色の着物を身に纏い、袖はサイズが合っていないのか指先も出ずに、だらんと途中から垂れている。髪は綺麗な紫色の長髪で、その女性を一言であらわすなら「美女」が最適であろう。しかし、彼女の身体は水で出来ているのか、透けていた。
彼女が流生の降霊。名前は先程、水神と呼んでいた。
藤村も対抗するべく右手の包帯を何も言わずに解いた。
すると、焔華が召喚され、彼女は目つきを鋭くして寝ぼけた表情をしているだらしない水神を睨みつける。
『水神。……おい水神。……おい、水神!!』
『ひ、ひゃい!?』
水神は甲高い声を上げて、ビシッと姿勢を正した。
焔華の口調はまるで、失敗ばかりでダメな後輩を叱る先輩のようなものだった。降霊の中でも上下関係は存在するのだろうか。どっちが先に霊になったとか。
眉間にしわを寄せ、明らかに怒っている焔華に水神はのんびりした口調で声を掛けた。
『あ、焔のじゃないかー。お久しぶりー』
『お前は相変わらずだな、水神。というか、先輩をつけろお前は!』
焔華は怒っている。
何というか降霊にも色んな性格の奴がいるんだな、と藤村は思う。
風椿もそれなりにテンションは高かったが、水神は何というか面倒くさい。流生と性格が真逆だ。風椿の時はまだ工藤と性格が似ていたからここまで不自然に思う事はなかったのだろう。
『やだなー、焔のー。あんま細かい事気にすると老けちゃうぞ?』
ぶちっと何かが切れた音がした。
その音は明らかに焔華のこめかみからだ。
『……私達は霊だ……老けても問題ないだろう……!』
怒っている、確実に怒っている。
焔華の言葉が怒りで震えている。確かに、こんな後輩はかなり腹が立つ。
『そーじゃなくて、せーしん的にだよぅー。おばば焔のー』
『……テメェ』
焔華の口から初めて『テメェ』という二人称を聞いた。
相当怒っているな。藤村は背後に冷たい殺気を感じている。だが、その殺気は自分に向けられたものではないだろう。
『そーいや、この前風のが来てたよ』
『風椿が?』
水神は何の脈絡もなく、話題を変えた。どうせさっきの会話に飽きたのだろう。
焔華も話題が変えれば殺気を抑え始めた。
『うん。何でも焔の降霊を使う面白い奴がいたんだってー。もしかして、と思ったらやっぱり焔のだったか』
『……だったらどうするつもりだ?』
うーん、と水神は考え出す。
しばらく考えた後ににかっと笑って、藤村と焔華の両方という意味で、ビシッと人差し指で指す。
『倒すよ。二人とも』
『やれるものなら、ぜひともやってもらおうか』
降霊の間だけで話が進み、双方の降霊がそれぞれの宿主の身体に入り込む。
瞳を青くした流生が首を鳴らしながら、藤村に問いかける。
「さーて、と。何か降霊の間だけで進んじゃったけど……藤村。準備はいいかよ?」
「ああ。とっとと始めようぜ!」
キッと、赤い瞳の藤村が流生を睨みつける。
69
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/06/30(土) 22:26:29 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤村幽鬼と那月流生の戦いを、ただ傍観している狩矢と桃音。
狩矢は腕を組みながら二人を眺めていた。やがた、視線を落として自分の隣で二人を見つめている桃音に話をかける。
「……桜っち。どう思う?」
桃音から言葉は返ってこない。
だが、言葉の代わりと言わんばかりに狩矢の脳内に、直接桃音の声が返ってきた。
彼女お得意の、テレパシーというやつだ。
『……どう思う、とは?』
「だから、桜っちは戦況がどうなると思う? やっぱ、幽鬼があっさり負けちまうか。それとも、それなりに奮闘して負けるか」
狩矢の質問に、桃音は考え込む。
柄にもなく、顎に手を添えて。
どんな質問でもすぐに答えを出せるように、瞬時に複数の回答を割り出す彼女だが、今回の質問では珍しく口を閉ざす時間が長かった。
やがて、彼女は狩矢と同じように腕を組み、答えを出した。
『……貴方の、選択肢には無いんですね』
答えにならないような解答。
その答えに狩矢が首を傾げていると、桃音が補足するように再びテレパシーを使用する。
『……貴方の選択肢には、『藤村幽鬼が勝つ』という選択肢がないのですか?』
意外だったのか、狩矢は僅かに目を見開いた。
桃音は続ける。
『私自身も、彼が流生さんに敵うとは思いません。精々いったとしても、半径五メートルに入る程度でしょう。ですが、初めから『負ける』という選択肢しか用意しないのは、納得がいきません。こと戦いにおいては、何が起こるか分からない。力量だけで勝敗が確定してしまうのなら、競馬やギャンブルなど、ただ勝つためのお遊戯に成り下がりますし』
淡々と話す桃音に、狩矢はかなり驚いていた。
いつも必要最低限のことしか言わない彼女が、こうも言葉を発するなんて。珍しい事もあるもんだ。
そう。世の中には、滅多に起こらない珍しいことが起こる事もある。
例えば、
―――藤村幽鬼という焔の降霊術者が、那月流生という水の降霊術者と戦い、勝つという奇跡とか。
(……まあ、無いとは言えないんだよなぁ。だが、)
桃音がどう言おうと、狩矢は絶対と言って良いほど藤村が流生に勝てないという確信があった。
理由は二つある。
一つは単に相性の悪さだ。炎と水では小学生でも分かるくらい、水が有利である。炎なんて水をかけてやれば、すぐに鎮火できる。簡単な理由だ。
もう一つは、那月流生という女の戦闘力だ。
彼女は一度、現在の戦場原学園の生徒会長を務める工藤政宗と戦ったことがある。
その際の勝者は那月流生。それだけでなく、戦いの後に『彼女とはもう二度とやりたくない』と工藤に言わしめたほどだ。
だから、この二つの理由で狩矢は確信を持っていた。
(幽鬼は、流生さんの足元にも及ばないんじゃねぇか?)
『―――始まるみたいです』
桃音の言葉で、狩矢が視線を二人へと向ける。
藤村と流生はお互いに突っ込んで、炎と水の拳を激突させた。
70
:
計
:2012/07/01(日) 13:53:48 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
クソ中二小説死亡wwwwwww
才能無しwwwwwwwwwwww
71
:
玄野計
:2012/07/01(日) 14:04:51 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
こうして、
>>1
は死んだ。重度の中二病が大きな原因で(笑)
72
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/07/20(金) 21:24:58 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤村と流生の拳が激しくぶつかり合う。
だが、この競り合いの勝者は言うまでも無い。
そもそも、相性が悪すぎるのだ。
炎と水なんて、比べる前に決着は着いているのに。
勿論、流生の勝利だ。
後方に勢いよく飛ばされた藤村は、その勢いを殺すことなく背中を壁へと打ちつけた。
「が……!」
「おいおい、軽すぎだろ。もうちょい踏ん張ってくれよ」
『焔のの術者は軽いなー。でも軽いってちょい羨ましい。女子としては軽いって言葉は魅力的に聞こえるのだよー!』
「お前はちょっと黙れんのか」
水神の言葉に、流生は呆れたように告げる。
それを聞いた水神はぶー、と頬を膨らませて不機嫌な顔をしている。
「ほら、とっとと起きろ幽鬼。じゃねーと追撃するぜ?」
「……言われなくても!」
藤村はほとんど立つ時間を有さず、炎を拳に纏い、流生に突っ込んでいく。
それを見ている狩矢と桃音は驚きの表情をしている。
「あいつ、馬鹿じゃねーのか? 流生さんのカウンターに遭うだけだぞ!?」
『……いえ、私にはとても……』
桃音はじっと藤村を見つめている。
とても面白い研究材料を見つけた時のように。
『彼が、無謀をする目には見えませんけど?』
藤村は流生の顔目掛け拳を放つ。が、やはり狩矢の言うとおりに事は進行した。
藤村の拳を身体を逸らし流生はかわす。彼女はそのままがら空きになっている藤村の腹に肘をくらわせ、前のめりになる藤村の顎に、すかさず膝を叩き込み、上へと打ち上げる。
「あちゃー! ほら、言わんこっちゃない!」
『……っ! いや、まだです!!』
桃音の脳の言葉に狩矢が顔を上げる。
桃音が叫んだため、その声が流生と水神にも届いたのか、桃音を含めた四人は一斉に上へと打ち上げられた藤村へと視線を送る。
「……終わりだと……思ってんじゃねぇよ……!」
藤村は口の端から血を流しながら、そう搾り出すように告げる。
彼は右の手の平を広げ、前方に真っ直ぐ広げる。その腕を支えるように、左腕を右腕に添えて、狙いを定めている。
彼が手の平を向けている先にいる人物は決まっている。
那月流生だ。
「……まさか!」
『彼の狙いは……!』
傍観していた狩矢と桃音がはっとしたように、藤村の狙いに感づく。
『うっそでしょー!?』
「残念ながら本当のようだぜ、水神」
流生は楽しそうな、それでいて焦っているような表情を見せる。
彼女の頬を、一筋の汗が伝う。
「……カウンターなんざ、最初から分かってんだよ……! まっすぐやっても、勝ち目なんかねぇから、なるべく全面に攻撃できる、上からって手を思い浮かんだのさ!」
藤村の狙いは、
上から炎を逆噴射して攻撃する。
そんな荒業だが、完全に相手の不意を突いた。狙いも定まった。力も十分に溜め込んだ。
「い、っけえええええぇぇぇぇぇぇぇ!!」
藤村は右の手の平から、光線のように炎を放射した。
流生のいた場所は瞬く間に炎に包まれ、修行場所は赤い炎に包まれた。
この勝負の行方は、狩矢にも、桃音にも、流生にも、水神にも、焔華にも、そして、
藤村にも分からない。
73
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/03(金) 15:12:09 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
勢いよく炎を下方へと噴射した藤村の身体は、反作用の原理によって宙に浮いたまま上へと上昇し続ける。
炎を加減していなかったため、天井が迫っている事にも気付かずに、スピードを全く殺すことなく藤村は背中を天井へと打ち付けた。そのことによって、藤村の手から放たれていた炎は治まり、彼の身体はまっ逆さまに急降下していく。
そんな彼の身体に冷たい鉄が絡みつく。しかし、絡みついた鉄は全く意味を成さずに、ちょっとしたクッションにもならず、藤村の身体は床へと叩きつけられた。
「……ぐぉ……?」
激痛にごろごろ転がりながら身悶える藤村。だが、彼がもがくたび鎖は複雑に絡まっていく。
そんな藤村の動きを止めるように、脳に直接劈(つんざ)くような声が響く。
『……う、動かないでくださいっ! 今から鎖解くのでっ!』
藤村が鎖の伸びている先を目で追うと、桃音の小さく細い腕が鎖の先をがっしりと掴んでいた。
どうやら、彼女が鎖を伸ばし藤村を引き寄せようとしたのだろうが、少女の弱い腕力では不可能だったらしい。横にいる狩矢は腹を押さえて、堪えるように笑っている。すごく腹が立つ。
桃音は藤村に駆け寄り、複雑に絡んだ鎖を必死に解いていく。
『……ごめんなさい……。私にもっと腕力があれば……』
「あ……いや、いーよ。気にしなくても。助けてくれようとしてくれたんだし。少なくとも、あそこで爆笑を必死に堪えてる奴よりはマシだ」
言いながら、藤村は忌々しい目で狩矢を睨みつける。
狩矢は目に溜まった涙を指でこすると、一足遅くこちらへと歩み寄ってきた。何がそんなに面白かったのか。桃音の救出が空回りした事がそんなにツボだったのか。
「いやぁ……おべっ、おめで、とっ……くふふ……!」
「祝福する気が僅かにでもあるなら笑うな。そんなに面白い事俺もミルもしてねーぞ」
狩矢が笑いを抑えるために、大きく深呼吸をして、引きつらせた表情をしながら言う。
彼の視線は、藤村が炎を強引に放ったため真っ赤な爆炎と真っ黒な爆煙に包まれた、流生が立っている場所だ。
「あれさ、流生さん大丈夫かな?」
「あ」
思わず、と言った調子で藤村の口から間の抜けた声が漏れる。
藤村もここまでの微調整はしていまい。そもそもあの状況で調整を利かせられるものか、少なくとも藤村の頭脳にそんなスペックを求めてはいけない。
三人が見つめていると、しばらくして炎と煙の中から聞き覚えのある女性の声が聞こえてくる。
「あー、危ない。ったく、無茶してくれんじゃん。政宗とかだったら死んでたぞ、これ? ……まあ、」
女性の声は、一度言葉を区切る。
それから、炎と煙を水で吹き飛ばして、言葉を告げた。
「私じゃなかったらマジで死亡レベルだぞ?」
彼女は。
那月流生という女性は、上からの攻撃の一切を防ぐように円盤状の水の盾を構えていた。どんな威力の炎でも、流生の水には勝てなかったのだ。
「……マジかよ……」
藤村は驚愕と共に、落胆の声を漏らした。
狩矢と桃音も同じように、目を大きく見開いている。
「今のは思い付きにしてはいい攻撃だったぞ。私もビックリした。その証拠に、ほら!」
流生は水の盾を生み出していた左腕を藤村に見せた。
先ほどまでコートの長い袖がついていた左腕には、袖など一切消えており、彼女の左腕には僅かな火傷の跡がついている。
「おめでとう。お前は曲がりなりにも私に傷をつけたってことだ」
喜んで良いのだろうか。
彼女が相当強いのは分かった。だが、これじゃ『倒す』にはならない。褒められることではあっても、藤村はどこか納得できずにいた。
「まあ、そんな落ち込むんじゃねーよ。政宗も最初はこんなんだったぜ? 誇ってもいいんだよ、お前は」
「流生さーん。結局のところ、こいつに足りないものって分かった?」
狩矢の言葉に流生が思い出したように考え始める。
「……武器とかは不必要だな。幽鬼の場合は持ってたら邪魔になりそうだし。強いて言うなら、戦い方が滅茶苦茶だからなー」
そう聞いた藤村は、頭を下げて床に手をついた。
相手に願いをこうような、土下座よりももっと確固たる意志があるものだ。
その光景を見た流生は急に慌てだし、その体勢をやめさせるように促すが、藤村は言葉を紡ぐ。
「……頼む! 俺を、鍛えてくれ……!」
「はァ?」
74
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/03(金) 23:56:09 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「頼む、俺を鍛えてくれ!」
「はァ?」
いきなり土下座のような体勢で頼み込む藤村に、流生は大慌てだ。
そもそも脳の許容量がそんなに大きくない彼女にとっては、今この状況はとてつもなく頭を狂わせる。
流生は何をどうすればいいのか分からず、とりあえず状況を把握しようと努める。
え、えーと……。とりあえず幽鬼は私に負けた? で、いいんだよな、うん。それで、戦い方がどーのこーの言った後にこうなって……そもそも何で私に修行を頼んでんだ?
流生はもう限界だ。
狩矢も桃音もそう判断し、桃音がテレパシーを使い彼女を落ち着かせる。
『流生さん、落ち着いて。とりあえず一緒に状況を一個ずつ理解していこう』
「……お、おう……」
桃音のテレパシーにより、流生は落ち着きを取り戻し、藤村に顔を上げるように促す。
「で、何でお前は私に、その……修行を頼んだんだ? 他に頼める奴なんていくらでも―――」
「いや。アンタしかいないんだ」
妙に力が篭っている藤村の瞳に、流生は妙に期待を持つ。
彼女は、藤村の言葉を黙って聞くように、彼の次の言葉を待っている。
「……工藤会長をハッキリと『自分より弱い』って言うアンタには笑われるかもしれないけど……俺の今の目標は工藤会長なんだ! あの人を超えるために、俺はアンタの指導を受けたい! 一週間に一日でもいい! 一時間だけでもいい! ダメか?」
藤村の声に力が篭っている。
彼の言葉に、流生は笑みをこぼした。
「くっくっ……、政宗が目標ねぇ。こりゃ大きく出たもんだ」
流生は知っている。
今戦場原学園で工藤政宗が学園最強を意味する『生徒会長』になっていること。それが大きな原因で彼が多くの生徒に尊敬されている事。そして、かつて自分が到達できなかった席に今彼が座っていること。
「いいだろう、お前のその心意気勝ってやるよ! 一日とか一時間とか、小さいこと言わずに毎日でも来いよ」
「……ありがとうございます!」
流生の言葉に藤村はすごく嬉しそうな表情をする。
藤村は視線を狩矢に移す。
「狩矢。お前に頼みがある」
藤村の言葉に狩矢は首を傾げる。
「霧野と篠崎の修行、お前が付き合ってやってくれ。俺よりしっかりとアドバイスできるお前のほうがいいだろうからさ」
藤村のその言葉に狩矢は嬉しそうな顔をする。
彼は藤村と強引に肩を組んで、
「そうかそうか! ようやくお前も俺を認めてくれたかぁ!」
藤村幽鬼は今日で大きな目標がもう一つ出来た。
工藤政宗と那月流生。
二人の降霊術者を越える、という大きな目標が。
75
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/04(土) 22:21:36 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.10「Student council」
昼休みを迎えたD組の藤村、霧野、神山は目の前の光景に愕然としていた。
厳密に言えば、愕然としていたのは神山のみであり、藤村と霧野はそうでもない表情をしているのだが。
「……お、屋上が使えないだとぉー!?」
三人は屋上の前の扉で立ち止まっている。
三人は屋上で昼食を摂るのが日常になっており、こういう状況は予想もしていなかった。今から教室に戻っても席を三つ確保できる保証はないし、どうしたもんか、と神山は頭を悩ませている。
ぶっちゃけ食べられれば何処でもいい派の藤村と霧野は裏庭に行こう、と神山に提案するが、彼は外で食べるのはあまり好ましくないらしい。屋上でも一緒だろうに。
そんな三人の後ろから、一人の女子が声を掛ける。
「君達、今屋上は使えないわよ」
三人が一斉に振り返る。
声を掛けたのは長い黒髪を持った女子だ。だが、声は妙に大人っぽさを感じさせ、顔つきもきりっとした、可愛いというよりも美しい系の女子だ。
「……幽鬼。テメェはまたあんなお姉様系女子と親しくなりやがって……」
「知り合いじゃねぇよ。女子が出てくるたびそう思うのやめような」
藤村は女子の顔をじっと見る。
「……でも、どっかで見たことあるような……」
一方で、向こうも藤村の事をじっと見つめている。
それから、ハッとしたようにして、藤村に近づいていく。藤村と女子の顔が間数センチ程にまで距離が縮まる。
その光景に神山は絶望したような表情をし、霧野は顔を赤くしている。
「……あの?」
「……、」
女子は何も言わない。
ただ、藤村の顔をじっと見つめた後、確認を取るように口を開いた。
「……もしかして、藤村幽鬼くん?」
「な、何で俺の名前を……?」
女子が藤村の名前を知ってることに、神山と霧野は反応する。
「幽鬼ィ! テメェやっぱお近づきになってたんじゃねぇか!」
「藤村くん! いつの間にそんな美人さんと知り合ったの?」
どんどん誤解が膨張していく。
藤村より早く、二人の言葉に女子の方が笑みをこぼす。
「ふふっ、そうじゃないわよ。まあ、確かにこれをつけていないと誰か分からないかもね」
女子はポケットから布を取り出した。
それは輪のようになっており、女子は左腕に輪になっている布をスッと通す。布に書かれている文字は『生徒会副会長』。
そう、学園で二番目に強い生徒がなる事のできる役職を示す腕章を女子は何の躊躇いもなくつけた。
「自己紹介するわね」
女子は、自身の長い髪を自慢するように手で髪をなびかせるように軽く梳いた。
「戦場原学園三年A組、生徒会副会長職の真田紫(さなだ ゆかり)よ。よろしくね、一年生さん」
四人は食堂へと赴いた。
真田が通るだけで生徒達は道を空け、生徒会副会長とそのご一行と分類されてしまう藤村達、計四人分の席はすぐに用意された。
弁当を広げている藤村、霧野、神山とは対照的に真田は食堂で買った物を食べるらしい。
だが、メニューがかなり豪快だ。
ハンバーグ定職にとんかつ定職、あげくどっちもライスは大盛りになっている。
「……よ、よく食べるんですね……」
霧野が表情を引きつらせる。
真田は何てことないような口調で、
「これくらい食べないと元気出ないもの。逆に貴方達はよくそれだけで足りるわね」
そんなに食べるのに何でそんなスタイルがいいんだろう、と霧野は考えてしまう。
ここで、藤村は真田に疑問を投げかける。
「あの、何で俺の事を知っていたんですか?」
「……ああ、やっぱり気になる?」
真田は笑みを浮かべながら、ハンバーグを切るために持っていたナイフとフォークを置いた。
彼女は頬杖を突いて、
「会長から聞いていたの。『面白い一年生がいるって』ね」
真田は藤村をじっと見つめて、
「私にも教えてほしいなぁ。君のいろんなコト♪」
妖艶な笑みとともに、言葉を告げられた。
76
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/05(日) 20:37:59 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
真田の言葉に、藤村は顔を顰めた。
じっとこちらの顔を眺めてくる真田に対し、彼女に対して警戒している藤村は、真田と視線を合わせ問いかけた。
「……何が、知りたいんですか?」
藤村の問いに真田は薄い笑みを浮かべた。
よく見なければ笑っているかそうでないか分からないような、そんな本当に薄っすらとした笑み。
真田はハンバーグを食べやすい大きさに切っていきながら、
「……そりゃあ、決まってるじゃない」
ぱくっ、と切ったハンバーグを食べて、水で流し込むように飲み込むと、ナフキンで口を拭く。
一旦落ち着いたのか、彼女は一息吐いて、
「政宗く……工藤会長が君の何に興味を持ったのか、かな」
何故今言い直した!?
今明らかに彼女は『政宗くん』と呼びそうになっていた。だが、途中で『工藤会長』と改めたのは何故だろうか。工藤政宗本人に止められているのか、だが藤村の勝手な予想だが工藤はそんなこと気にしないと思う。
真田は頬杖をつきながら、藤村を真っ直ぐに見つめている。恐らく回答を待っているのだろう。
だが、工藤が自分に興味を持っているなんて今知ったし、当然分かるわけもない。
困っている藤村に助け舟の如く、何処かで聞き覚えのある声が飛んで来た。
「ダメですよ、紫先輩。後輩をそんなにいじめちゃ」
柔らかい男子の声だ。
振り返るとそこにいたのは耳が隠れる程度の銀髪少年だ。彼はトレイにどんぶりを乗せて、今まさに座る席を模索している途中だった。
藤村と神山はその男子に見覚えがあった。
確か霧野を助ける時に……、
「……あれ? 君どこかで見たような……」
「オイコラ、創一! 一人でさっさと行くんじゃねぇよ!」
もう一人男の怒号が響く。
声からして少し離れたところにいるようだが、近くで話されているようなボリュームで聞こえていた。
人相が悪く、肩より少し長めの白髪をした男がこちらへと近づいてくる。
二人の左腕には腕章がつけられている。銀髪少年の方は『生徒会会計』。人相の悪い少年の方は『生徒会書記』と書かれてある。
霧野を助けに行く時にお世話になった二人だ。
「いやぁ、ごめんごめん。紫先輩を見つけたから、挨拶しようと思ったんだ」
「だったら俺も連れて行けよ! 俺も生徒会だろうが!」
人相の悪い少年の方は、こちらを見ている藤村と神山に気付き、『あー!』と大きな声を上げる。
「テメェら、いつぞやの危篤野郎じゃねぇか!!」
危篤野郎? と藤村と神山は首を傾げる。何と言うか、ネーミングの無さに愕然とした。
少年は二人を睨みつけ、
「よくもまァ、生徒会役員の前で大嘘つきやがったな。ふざけやがって」
そんな少年をなだめるように、銀髪少年が相手の肩に手を置く。
「まあ、やめなって忠勝。そういえば、ちゃんとした自己紹介がまだだったね」
銀髪少年は仕切り直すように、トレイを藤村の席の隣に置いた。
「僕は二年A組の明智創一(あけち そういち)。生徒会の会計職です」
「……二年A組学年順位三位。那月忠勝だ。生徒会の書記やってる……」
那月の紹介が終わり、ここで藤村はある事を思い出す。
流生の苗字。
「あっ! もしかして、流生さんの弟!?」
「……お前、姉貴を知ってるのか?」
那月の態度が一転、藤村とかなり親しくなり始めた。
77
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/11(土) 15:45:39 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
流生と知り合っていた、と知ったからか、那月の表情に先程までの凶暴さは消え、眉間にしわがあるものの、少し和らいでいる。
その那月を見て、明智もほっと安堵の息を漏らす。
藤村幽鬼と那月忠勝。
なんとも異色の組み合わせだなぁ、と二つ分の定食を平らげ、静かにお茶を飲んでいる真田は心の中でそう呟く
「……そうか、お前も姉貴と同じ降霊術者か……。アイツ、強いだろ」
那月の言葉に藤村は頷く。
姉を『アイツ』呼ばわりするのは、ここに本人がいないからか。もしくは普段は嫌っているのか。嫌っているのなら『アイツ』と呼ぶのも納得できなくは無い。
「俺を含めた生徒会メンバーは割りと『ウェポン』で世話になってるんだよ。副会長の武器も、創一の武器も、『ウェポン』で手に入れた」
「ってことは、流生さんは意外と先輩達に協力的なんですね」
藤村の言葉の後に、明智がすかさず言葉を返す。
「そりゃそうさ。なんたって弟がいるんだからね。協力したいってのが、姉としての本心じゃないのかな」
ふーん、と藤村は軽く返事を返す。
姉もいなければ兄もいない藤村にはよく分からないが、流生は困っていれば名前が知らない人でも手を差し伸べてしまいそうだ。現に名前を知った相手の修行の師匠を請け負うくらいだ。器が大きいのか、それとも何も考えてないだけか。あの人は本当に掴みどころがない。
流生の話をしていたからか、真田は思い出したように口を開く。
「……あっ、そういえば最近流生さんに会ってないわね。無事三年生に進級できましたーって言いに行こうかしら」
「僕も挨拶しようと思ってたところですよ。紫先輩、今日の放課後一緒に行きます?」
真田の言葉に乗っかるように明智が言う。
すると、この場にはいない人物の声が、藤村達の耳に届いた。
「じゃあ俺も行こうかな」
初めて聞いた声じゃない。
声に心当たりのある藤村と、もしかしてと思う霧野はほぼ同時に振り返った。
そこにいたのは、この学園の全生徒の頂点に君臨する、生徒会会長の腕章をつけた男、
工藤政宗だ。
藤村と霧野の顔が一気に警戒するような表情に変わる。
工藤はそれを見抜いているのか、笑みを崩さないまま二人を見つめている。その三人の見つめあいに場の空気は緊迫し、神山も那月も明智も言葉を発さなかった。
そう、真田紫以外は―――。
「敵キャラみたいな登場はやめなさい、政宗くん。皆緊張してるじゃない」
「ああ、紫ちゃん。いたんだ。相変わらず君はよく食べるね。そんだけ食べて太らないのは何かの魔法かい?」
「馬鹿にしてる?」
「滅相もない」
会長と副会長の会話は日常的なものだが、二人にしか分からないものがあるのだろう、それが分からない藤村達には、二人の『日常』を捉える事が出来ない。
適当な日常会話を終わらせた工藤は、藤村と霧野の頭に手を乗せる。まるで、自分の子供を自慢するような口調で、真田達生徒会メンバーに話しかけた。
「紹介するよ。この二人がこの前俺が言っていた注目する一年生の藤村幽鬼くんと霧野七瀬さん。……本当はもう一人いるんだけど……今はいないみたいだね」
工藤が中間試験以降藤村達を注目しているのは知っていた。
つまり、彼が言う『もう一人』とは恐らく篠崎唯のことだ。
「しかし、君はもう流生さんとも知り合ったか。俺は彼女の一番弟子だから、経験談を言わせてもらうと……あの人、弟子には相当甘いよ」
参考になるのかならないのか、よく分からない経験談だった。
まあ確かに、優しそうで厳しそうにない人だから、大体の予想はついていた。
「さーて、俺はちょっと仕事があるから生徒会室に戻るよ。じゃあね、紫ちゃん、創一くん、忠勝くん。また放課後」
工藤は手を振って去っていく。
それを見た那月と明智は、次の授業が移動教室だったのを思い出し、二人も食堂から姿を消した。
78
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/11(土) 17:04:45 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「さて、と。そろそろ私も戻ろうかしら。食べ終わったし」
そう言いながら真田は立ち上がる。
彼女は立ち上がって、ぐっと目いっぱい伸びをする。そのため、ちらっとおへそが見えたりして、ポーカーフェイスを決め込んでいる藤村と神山は、ちらちらと真田の方を見ている。
それに気付いている霧野は、心の中で『男って最低』とか思いながら飲み物を啜っている。
真田が去ろうとしたところへ、
「紫せんぱぁーい!」
と元気な少女の声が飛び込んできた。
その声に聞き覚えがない藤村と霧野は、眉をひそめながら『真田先輩を尊敬してやまない生徒だろうか』と適当な予想を立てる。が、神山には妙に聞き覚えがあった。
真田を呼んだ少女は、一回だけじゃなく二回、三回と真田の事を呼んでいる。聞けば聞くたびにその声の持ち主が神山の頭の中でフラッシュバックする。
忘れもしない。中間試験、森林園で自分の両脇にて展開された少女と少女のすさまじい口喧嘩を。
「やっぱり先輩でしたか! 食堂で会うなんて奇遇ですね―――ってか、大体先輩って食堂派でしたっけ?」
神山翔一の苦手な女性第一号、神乃院市(かみのいん いち)。
生徒会に所属する少女で、一年A組に在籍している。彼女の左腕には生徒会メンバーであることを誇示しているかのように、『生徒会庶務』という腕章をつけている。若干水色がかった銀髪を背中まで伸ばしている美少女、通称『お市ちゃん』は妹のように真田を見つけるとぱぁっと笑みを浮かべていた。
すると、ふと神山の視線と神乃院の視線が重なる。
神乃院は神山の顔を見ると、はっと思い出したように、
「おー、神山くんじゃん! 中間試験以来だね、元気してたー?」
意外と覚えてくれていた。
理由は明確になっていないが、神山翔一という少年は女性から忘れられる事が多い。なので、久しぶりに会った女子に『久しぶり』と言われるのは、神山としても相当嬉しい。
神山は勝ち誇った顔をしながら、『今頃幽鬼はお市ちゃんと「あ、どうも初めまして」的な会話をしているに違いない。一歩リードだぜ』などと思いながら、ニヤけた表情のまま藤村の方を振り返ると、
「君が藤村幽鬼くんだよね! 初めまして」
「どうも。って待て。何で俺の名前を知ってるんだよ」
神山は絶望した。
恐らく工藤政宗が『一年生の藤村くんがさー』みたいに名前をちらつかせたせいで、神乃院も興味を持ったのだろう。学園最強の座に君臨する男が興味を持つ生徒、ということで彼を上司に持つ神乃院も気になったのだろう。D組の生徒から『あれが藤村くんだよ』などと言われていたため、顔は知っていたらしい。何度か声を掛けようとしたが、中々タイミングが合わず今まで出来なかったらしい。
そんな事を知らない神山は床に手をつき、絶望のポーズを取っている。そんな光景もう慣れました、な霧野は見て見ぬフリ。いきなり変な体勢をする彼を見慣れていない真田は、お腹の調子でも悪いのかな、などと思っている。
「いやー、ずっと話したかったんだよねー、君とは。大体、クラスが違うから廊下ですれ違うくらいだし、声を掛けようとしても君はいっつも霧野さんと話してるしね」
霧野の名前も知っていた。
恐らく、また工藤政宗の仕業だろう。
「そりゃ悪かった。気付かなかったよ」
「気にしないで。実際に声を掛けたわけじゃないし、君は私の顔を知らないんだし、大体気付かなくても不思議じゃないわよ」
神乃院は笑ってそう返す。
とても印象が良い娘だ。初対面の藤村と霧野は心底そう思う。
神乃院はポケットから棒が刺さっている飴を取り出して、口の中に放り込む。
「本当は篠崎唯ちゃんとも話したいんだけど……彼女は今どこ?」
神乃院は辺りをきょろきょろと見回す。
「ああ、ここにはいねぇよ。多分教室で友達と飯食ってる。あと、」
藤村は一度言葉を区切って、
「篠崎を表現する時は『彼女』じゃなくて、『彼』が正しいから。アイツ男だよ」
「……ほえ?」
神乃院は目を点にする。
そんな彼女の反応を見ながら霧野は『うんうん、分かる。私だって最初女の子だと思ったもん』と腕を組みながら頷いている。
「そーなの!? 私ずっと女の子だと思ってた! えー、男の子なんだ!?」
さすがに性別の情報までは工藤から聞かされていなかったらしい。
『唯』なんて名前を聞かされたら男とは思えないだろう。本人曰く『唯一の人物になれ』という意味で名前をつけた、と親から言われたらしい。
大声を張り上げる神乃院の耳に、一人の女子の言葉が届く。
「あらあら、公の場にて大声を張り上げるとはみっともない。女性としての品格が大きく欠落していますわよ、お市ちゃん」
79
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/11(土) 20:01:31 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
透明感のある、聞いていてとても心地の良い声だった。
太ももまである長く綺麗な黒髪をなびかせ、口元を扇子で隠しているという、典型的なお嬢様スタイルの少女。
彼女こそが、中間試験で神山、神乃院と一緒だったチームメイト。
神山翔一が苦手な女性第二号である、雪路冬姫(ゆきじ ふゆひめ)。
彼女はこちらへと近づいてくると、真っ直ぐに神乃院を見据えて、
「まったく、場を弁えてほしいものですわ。こんなに大勢の生徒がいらっしゃる中で、貴女は人目もはばからずにきゃーきゃー騒いで。猿か何かですの?」
雪路の言葉に、神乃院の怒りのパラメーターはマックスポイントを振り切った。
数値で表すなら、一二〇飛んで一五〇はいっているだろう。言葉で表すなら『超ヤバイ』だ。
「……アンタは、何回言えば分かるのよ! 私を『お市ちゃん』って呼ぶなって言ってるでしょ!」
「あらあら、会長様や副会長様やご友人は良いのに、何故私だけダメなのですか?」
「アンタの言い方は私に対しての嘲笑が混じってる気がするのよ! いや、気がするじゃない、完全に嘲笑が混じってる!」
「あら嫌ですわ。差別の次は被害妄想ですの? 思考があっちこっちに飛んで愉快ですこと」
「あー、腹立つ! 大体、アンタに品格がどうとか言われたくないっての! 自分がどんだけ品格良いと思ってるワケ?」
「決してそんな事は思っておりませんわ。ただ、一般女性としての品格を身につけてほしい、という心遣いですわ」
ぎゃあぎゃあと女同士の争いが繰り広げられている。
その丁度間に神山がいるのだが、女性二人は気付いていない。そもそも、雪路に至ってはそこに神山がいることにも気付いていないだろう。
二人の争いの中心に立っている神山が遂に限界を迎えたのか、彼は『うぎゃー』と叫びながら勢いよく立ち上がる。
「うっせぇよ! 中間試験と同じように俺を挟んで喧嘩すんじゃねぇ! するならせめて場所変えて! 俺を挟まないで!」
そう言われ神山の存在に気付いたのか、雪路は目を僅かに見開き『あら』と声を漏らし、
「あらあら、神山さんじゃありませんの。お元気でした? そちらの方は、神山さんのご友人ですわね」
雪路は藤村と霧野の存在にも気付いたのか、二人に笑みを見せながら自己紹介していく。
二人に紹介が終わると、一転して鋭い目つきをし、神乃院をキッと睨みつける。
「確かに、神山さんの言うとおりですわ。ここでは迷惑がかかりますし、場所を変えましょう、お市ちゃん」
「だ・か・ら! アンタだけは『お市ちゃん』って呼ぶなっつの! この似非お嬢様!」
「ッ! え、似非ですってぇ!? 聞き捨てなりませんわよ、その言葉は! ……け、決闘ですわ! 今日こそ雌雄を決して差し上げます!」
「ハンッ! 大体望むところよ! 私こそアンタに引導を渡してあげるわよ!」
「あらあら。別に無理して難しい言葉を使わなくてもよろしくてよ? 貴女の脳年齢が一〇〇歳を超えてることはわたくし、存じておりますので」
「誰がだこの野郎! 今日こそ徹底的にアンタを叩きのめしてやるわ!」
二人は罵声と怒号を浴びせあいながら食堂から姿を消していった。いつの間にか、真田紫の姿も消えている。
去っていく神乃院と雪路を見ながら霧野は、
「……神山くんの友達ってさ、ユニークだよね」
「……友達じゃねぇ、知り合いだ……!」
二人のせいで体力が大幅に削られたのか、神山にしては珍しく気の抜けた返事だった。
そして、今日のことは藤村達の今後に大きく関わっていく事になる。
生徒会長の工藤政宗、副会長の真田紫、会計の明智創一、書記の那月忠勝、庶務の神乃院市。戦場原学園の生徒会メンバー五人に、一日で会えるなんて早々無い事だろう。
そして、藤村も霧野も神山も同じく感じていることがあった。
生徒会の面々との関わりが、これから巻き起こる事件に自分達も関わっていく事になることを。
―――三人は知っていながらも続く日常の中、その『事件』に遠くない未来巻き込まれていく事になる。
―――To be next stage...enemies,Tsurugihama high school.
80
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/11(土) 20:42:35 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
〜あとがき〜
みなさんどうも、竜野翔太でございます。
今回は中間試験後の話を、四章にわたって書かせてもらいました。
実はこの作品は長編の後に息抜きとなるような短編を挟んでおります。
ずっとバトルとか続くと疲れるでしょうし。読む側も、僕としても((
古賀塚亜衣乃と出会って、流生さんと戦って、生徒会の面子と知り合って、という相変わらず藤村達は大変ですね。
本編の時間軸は大体六月の上旬くらいですかね……わぁ、スローペース。
次からはまた長編書きます。ああ、手首の心配をしなけれb((
さてさて、ここで余談に入ります。
実は生徒会メンバーの五人の名前には、ある共通点がございます。
歴史好きな人は気付くかもしれない、名前か苗字に戦国時代の人物の名前が入ってます。
工藤政宗→伊達政宗 真田紫→真田幸村みたいな感じです。
もし良かったら那月、明智、お市ちゃんも調べてみてください。創一の場合は既に苗字が((
実は今回が初登場? みたいな感じを出していた生徒会メンバーでしたが、意外と先に出てるんですよ。
最初から読み返していただけると、全員見つけ出せるはずです。中でも那月と明智は出番が一瞬だけでしたが。
藤村達も、どこかしこで生徒会メンバーと会っているわけですね。
さてさて、次回はいよいよ新キャラが登場します。
藤村達のクラスメート。
そして、彼女と生徒会が協力して解決する事件に藤村達も参加します。
それでは、次回の更新を楽しみにしていてくださいね。
昼食いっぱい食べてた真田紫。実は一日六食くらい食べます
81
:
ゆり/恭弥/臨也/凛々蝶/キエラ/アル/久賀見虎斬/九条涙/波
◆u7pJ1aUXto
:2012/08/12(日) 13:52:15 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.11「事件発生」
一人の少女は、自分が通う学校である戦場原学園の門の前に立っていた。
さすがに一時間目も丁度終わった時間なので、この辺りを通る生徒はいない。中には門の前を通り過ぎる人も何人かいるが、今日は平日だ。会社員は既に仕事場に行っているだろうし、主婦達も昼ごはんの買出しに行くには少々早いだろう。そのため、通るといっても片手の指だけで足りる程度だ。
少女は学校の門の前で立ったまま、軽く息を吐いた。
―――うるさいのは嫌いだ。
だからこそ彼女は、今までまともに学校にも行かなかった。行ったのは最初の一ヶ月程度。クラスメートの顔も名前も誰一人覚えていない。そもそも関わるつもりも無いから、彼女にとっては取るに足らないものだのだが。そんな今まで不登校だった彼女が学校に来たのは、勿論といえば勿論、事件が起きたからだ。
彼女は今まで止まっていた足を前に動かし、自分が在籍するクラスの教室に歩いていった。
一年D組に。
「ねぇ、藤村くん」
霧野は唐突に藤村に声を掛けた。
声を掛けられた藤村は、なにやら本を読んでいる。読んでいる物は『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』。ここ最近色々なことがあったため、最新の十一巻(古賀塚の直筆サイン入り)をまだ読みきれてなかったのだ。
藤村は顔を上げて、霧野の言葉に『何だよ』と返す。
「このクラスって席一つ空いてるよね? 病気の人とかいるの?」
霧野が指差した席は、窓側の一番前の席。
確かに今も空席で、転校生の霧野は未だにその席に誰かが座っているのを見たことが無い。急な病気で登校できなくなったのか、もしくは退学したのか。霧野は一人であれこれ考えていたが答えは出なかったらしい。知らないのだから、それが当たり前だが。
すると、藤村の背後から一人の少年が近寄ってきた。
「あー、あの不登校娘な」
声の人物は勿論、神山翔一だ。
彼も片手に『ゴスロリメイド・みーたん』の八巻を持っている。彼は藤村が流生と戦ったりしている間に暇だったらしく、既に読み終わっていて、かれこれ五回は読んでいるらしい。
神山の言葉に、霧野は首を傾げる。
「……不登校娘? 女子だったの?」
霧野が知らないのも無理は無い。そもそも、一ヶ月ほどしか登校していなかったから、藤村と神山でも話したことはないし、顔もぼんやりとしか覚えていない。声に至っては全然知らない。
神山は例の『不登校娘』の説明を始める。
「一ヶ月ほどしか登校してないから俺もよく分かんないんだけど……うちの学校の風紀委員。アレは厳正な入隊試験の結果、合格した者だけ入れるんだけど、不登校娘は試験ナシで入ったんだと。なんでも風紀委員長直々にスカウトしたらしくてな。試験結果の発表は三週間くらいかかるから、一ヶ月で入隊が決まったなんて異例中の異例だとよ」
よく分からない、という割にはかなり詳しく説明をした。
そこで霧野は『そこまで優秀なら、何で不登校になったんだろう?』という疑問を抱く。そこまで順調に進めていれば苦労も少ないだろうし、学校生活も楽しいと思う。あくまで霧野の主観だが、もし霧野が彼女の立場だったら、廊下をふんぞり返って歩いていると思う。
「……その子の名前は?」
「……あー、何だっけ?」
霧野の言葉に藤村が言葉を詰まらせ、神山の方へと視線を向ける。
神山はふふん、と得意げな顔をして名前を言おうとした瞬間、
バン、と大きな音と共に教室の扉が勢いよく開け放たれた。
扉を開けたのは女子だ。黒い短髪に、ずっと視線を合わせていたら射抜かれてしまいそうなほどの鋭い目つき。女子にしては背が高めで、恐らく一六〇後半はあるだろう。身体つきは華奢でスレンダーな体型の目つきだけが悪い美女だ。
彼女を見た瞬間、神山は藤村と霧野にしか聞こえないくらい小さな声で呟く。
「……噂をすれば、だな。折宮明日香(おりみや あすか)。不登校娘のお出ましだ」
休み時間なので、席は半分ほど空席になっている。自分が来ない間に席替えをしただろう、自分の席だった場所には別の生徒が座っている。折宮は扉の近くにいた女子生徒を睨みつけ、
「オイ、私の席は何処だ」
荒々しい口調で問いかける。
女子生徒は怯えたような反応を見せ、『窓側の一番前』と短く応えた。
折宮は礼すらもせずに、自分の席へと歩いていき、頬杖をつきながら窓の外の景色に目をやっている。
「あれが、戦場原学園風紀委員所属。通称『風紀委員の異端児』、折宮明日香だ」
藤村、霧野、神山の三人は彼女をしばらく見ていた。
神山が藤村に『放課後ゲーセン行こうぜ』などと言っている間も、霧野は折宮から目を離さなかった。
そして一瞬だけ―――、
霧野七瀬と折宮明日香の視線が重なった。
82
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/12(日) 14:19:03 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
放課後、藤村と神山は霧野と別れてゲーセンへと向かった。
生憎とゲームセンスが壊滅的な霧野は、行ってもお金を浪費するだけで、買いたい物があるから今は無理、と霧野からも断られた。
霧野が学校に来て以来、二人で遊ぶ時間が極端に減っていた藤村と神山。神山は久々に藤村と遊べるとのことで、テンションが結構上がっていた。
「いやー、ひっさし振りだな! お前とゲーセン行くなんざ」
「霧野が来てからほとんど来なかったからな。お前としては、女友達が出来て嬉しいんだろうけど」
その言葉に神山が反応する。
一番嬉しいのはお前だろうに、といった感じで。
「お前だって嬉しいだろ。憧れの黒髪美少女と一つ屋根の下で生活……どこまでいったの?」
神山の言葉に藤村は黙り込む。
彼は静かに無表情のまま、自分の右手の包帯を解き始める。
炎の化身、焔華が姿を現した。
「よし、焔華。焼こうぜ」
『おいおい、幽鬼。人肉ほど不味い肉は無いぞ?』
「わー、タンマタンマ! 冗談ですっ! 今のは軽いジョークじゃないですか!」
神山がそう誤魔化すと、藤村は右手に包帯を巻き始める。
分かればよい、と行って藤村はゲーセンへと足を運んでいった。
二人は行きつけのゲーセンへと入って行く。久しぶりに来ただけあって、僅かに内装に変化が見られたり、新しいゲームや新しい景品が置いてあったりしている。
「ほー。さすがにしばらく来ないと変わってるなー」
「いつまでも同じのばっかじゃ客も飽きるだろ。こういうのって、しょっちゅう来るより久々に来た方が新鮮味あるかもな」
二人はしばらく店内を歩き回る事にした。
すると、前方で見覚えのある黒髪ロングと銀髪少年がUFOキャッチャーに夢中になっているのを目撃した。いや、目撃してしまった。
先輩風の黒髪ロングの女子は『そこよ! ああ、ちょっと行き過ぎた!』などと言い、後輩風の銀髪少年は、先輩の欲しい物を取ろうと必死にプレイしている。
そんな二人を後ろから眺めている藤村は、隣にいる神山に問いかける。
「なあ、翔一。あの二人ってさ、俺らの知り合いじゃね?」
「気のせい気のせい」
「……多分、この前食堂で会ったよな?」
「気のせい気のせい」
そんな事を言っている二人の前で、景品をゲットできたのか、黒髪先輩と銀髪後輩は歓喜の声を上げた。
黒髪先輩が、手に入れた景品(大きめのぬいぐるみ)を抱きしめ、幸せそうな顔で藤村と神山の方へと振り向く。
藤村の予感は的中していた。
食堂で会った時には見たこともないような、可愛らしい笑みを浮かべた真田紫が前方にいた。
「「あ」」
藤村と真田はほぼ同時に声を上げ、真田は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にする。
珍しく呂律が回らない口調で彼女は、必死に言葉を紡ぐ。
「……あ、ああ……あな、貴方達、なな、何で……」
「やあ、藤村くんと神山くんだっけ?」
銀髪後輩、改め明智創一は何食わぬ顔で二人の存在に気付くと、ニッコリと笑みを浮かべた。
藤村と神山は二人に近づいていくと、呆れた表情で口を開いた。
「生徒会の副会長と会計が何やってるんですか? 生徒会業務はサボったんですか?」
「いいや、サボりじゃないよ。これは―――」
「調査だよ」
ふと、背後から声が聞こえた。
聞き覚えのある男性の声。声の持ち主はゆっくりとこちらに近づいてきていた。
生徒会会長工藤政宗。彼の両脇には書記の那月忠勝と庶務の神乃院市までもいる。
「ゲーセンを見回る、という役目なんだけど……紫ちゃん。遊んでいいって言った覚えはなけど? 欲しいなら事件が終わってからにしようよ」
言われた真田は顔を赤くして、反論を開始する。
「し、仕方ないでしょ! 事件が解決した頃には終わってるかもしれないじゃない!」
事件? と藤村と神山の二人は首を傾げる。
ここらで起きた事件だろうか、藤村にも情報通の神山にも覚えはない。この場に居合わせたことで、工藤も二人に説明せざるを得ない状況になってしまった。
彼は溜息をつきながら、
「まあ、被害者が君らじゃなくて良かったよ。今から言う事は、せめて話すなら霧野さんと篠崎さんだけにしておいてくれ」
なにやら深刻な話らしい。
工藤の真剣な表情からそれが見て取れるし、一緒にいる那月の表情もいつにもまして怖い。というか殺気立っている。
じゃあ説明して、と工藤は神乃院に説明を促す。
神乃院は咳払いをして、
「一回しか言わないからよく聞いて。この近辺で、最近戦場原学園の生徒が立て続けに襲われてるの」
83
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/12(日) 14:20:10 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
>>81
は別の掲示板の名前を使ってしまいました。
作品に影響はないので、ご心配なく!
>>ALL
84
:
ゆり/恭弥/臨也/凛々蝶/キエラ/アル/久賀見虎斬/九条涙/波
◆u7pJ1aUXto
:2012/08/12(日) 16:59:43 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
霧野七瀬は一人で寮への帰り道を歩いていた。
ゲーセンに行っても、ゲームセンスが壊滅的な自分は楽しめずにお金が消えていくだけなので、一人で先に寮に戻ることにしたのだ。本当は篠崎と一緒に帰れればなぁ、と思いC組の教室を覗くと、教室に残っていた生徒が『唯ちゃんならもう帰ったよー』と言ったので、今現在の霧野は一人ぼっちだ。
男の子って本当にゲームとか好きだなー、などと頭の中で適当に思っている。確か前にも一人で帰っている状況があったような。藤村と神山がライトノベルの新刊を買いに行った時だ。厳密に言えばあの時は篠崎と一緒だったのだが、寮に戻っても一人だったので、結局のところ状況は同じだ。
最近自分って置いて行かれてる? などと不審がる霧野だったが、ハッと彼女の頭に良いアイデア、もとい自分の重要さを気付かせる方法を思いついた。
(そーだ! 折角だから、今日は早く帰って藤村くんのために晩ご飯を作ってあげよう! 藤村くんにはお世話になりっぱなしだし、私からも何かお礼をしたいし。どうせなら、神山くんや篠崎さんも呼んでみようかな?)
霧野が秘密のディナーパーティーの事を妄想していると反対側の通路に、
壁に背中を預け、携帯電話で誰かと会話している折宮明日香が視界に入った。
彼女はこちらには気付いておらず、電話の応対に集中しているようだ。何故かは分からないが初めて見た時から、『彼女とは友達になれそうな気がする』と思っていた霧野は、折宮のいる反対側の道路に移り、気付かれないように彼女に近づいていった。
そんな霧野に気付かず、折宮は電話の応対を慣れた様子で行っている。
「……ああ、心配はいらない。私をスカウトしたのはアンタだろ? ちょっとは私を信用しろっての。必要な時には応援の要請をするからさ。ああ? 生徒会との連携? そんなもん必要ないさ。私だけでいける。じゃあな」
折宮は携帯電話を折りたたみ、スカートのポケットの中にしまいこんだ。
こんな時に面倒くさいこと起こしやがって、と苛立つ彼女だったが、風紀委員である以上厄介ごとに巻き込まれるのは仕方のない事だ。頭では分かっていても、身体が微妙に拒絶反応を起こす。その不快感で苛立ちが増幅するが、とりあえずは仕事に集中だ、と思考を切り替える。
彼女が足元に置いておいた学生鞄を担ぐように持ち上げ、目的地に向かおうとしたところに、
「折宮さん!」
唐突に後ろから掛けられた、聞き覚えの全くない女子の声。振り返るとそこにいたのは黒い髪をポニーテールにした同じ学校の制服を着た、霧野七瀬だった。
折宮は彼女の事を毛ほども知らない。
そもそも、彼女が転校してきたのは折宮が学校に登校していない期間で、今日だって一瞬視線が合った程度だ。折宮としては霧野の事を全然気にしていないし、『クラスメートにこんな子がいるの知ってる?』と聞かれて顔を出されても、恐らく首を傾げ、数秒程度で『知らない』と返すだろう。
そんな事を知りもしない霧野は、笑顔で折宮に声を掛けていた。
やはり、自分はこいつを知らない。だからこそ、折宮は言葉を紡ぐ。
「……アンタ誰だ」
「霧野七瀬。貴女と同じ一年D組だよ。貴女が来ないうちに転校してきたの! よろしくね」
笑顔で霧野は答える。
今まで接してきた事のないタイプだ、と折宮は溜息をつく。
霧野は笑顔のまま、
「さっきは誰と電話してたの?」
「アンタには関係ないだろ」
「友達? ……にしては、結構深刻っぽかったよね。『生徒会との連携』だとか聞こえたし……風紀委員長さん?」
霧野は時として、鋭い勘を発揮する事がある。
それもごく稀にだが、篠崎が男であることも彼女が一番最初に気付いていた。先程の折宮の電話相手も彼女の言うとおり風紀委員長で、これまた彼女は直感で見抜いていた。
「何でお前は私が風紀委員だってことを……、まあいい。電話相手が委員長だろうと誰だろうと、お前が関わることじゃない。厄介な事件だしな」
「厄介ごと、なの?」
「ああ。関わりたくないだろ?」
こう言えば相手も引くだろう、と思い折宮は彼女に告げる。
だが、霧野は綺麗なほど見事に、折宮の予想を裏切った。
「じゃあ、話して! その事件、私にも関わらせてほしいの!」
「はぁ? 何で?」
「私、誰かの役に立ちたい! だから、その事件を私にも手伝わせて!」
霧野は折宮の手を掴み、そう懇願しだす。
自分のペースを乱されまくった折宮は、面倒そうな表情をして、
「あー、もう分かったよ! 分かったから手を離せ! あんま他言するなよ?」
霧野は自ら風紀委員の任された厄介ごとに、
藤村と神山は望まないまま厄介ごとに、
巻き込まれていくことになった。
85
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/12(日) 18:54:44 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
折宮は再び壁に背中を預け、腕を組みながら説明を開始する。
彼女の表情には言わずもがな真剣さが見て取れる。どうやら、電話の応対で何となく分かっていたことだが、相当深刻な問題のようだ。
霧野がどんな事件なんだろう、と身構えていると、
「お前、私がいない間に転校したって言ったよな。ってことは、ここの地理にはあんま詳しくないだろ?」
霧野は折宮の言葉に意表を疲れ、肩の力が抜けてしまう。
本題にはまだ入らないようだ。それほどまでに自分は信頼されていないのか、と心配になるが、折宮の言っていることは合っているので一応軽く頷いた。
すると、折宮は同じ声のトーンと口調で言葉を続ける。
「……じゃあお前、戦場原学園の近くにゲームセンターがあるのを知ってるか?」
何度も言うが、霧野はゲームセンターで良い思い出はない。
もしかしたら、その近場にあるゲームセンターが、丁度今頃藤村と神山が立ち寄っているゲームセンターであろうか、と霧野は顎に手を添え考える。折宮は『分からないんならいいんだが』と言っているが、藤村と神山が行ったところだろう、と根拠のない確信を持って『知ってる』と答える。
それを聞いた折宮の目つきと声色が急に豹変した。
さっきまでまだ穏やかな方だった目つきは射抜くほどに鋭く、声色は僅かに低い状態になり、言葉を紡いでゆく。
折宮の言葉は一言だった。
「あそこには近づくな」
霧野が『え?』と言う前に、折宮がすぐに言葉を続ける。
「……つい、一週間くらい前からか。そこのゲームセンター近辺で、戦場原学園の生徒が無差別に襲われているんだ」
瞬間、霧野の表情が凍りつく。
「無差別に生徒が襲われてる?」
同時刻、神山と同じく例のゲームセンターにいる藤村は神乃院の言葉に、思わず声を荒げてしまう。
幸いゲームセンター内なので音が大きく、藤村の声はほとんど他の客の耳に届いていなかったようだが、神乃院が口の前に人差し指を立て、静かにするようにジェスチャーを送る。
藤村は落ち着きを取り戻し、説明を続ける神乃院の言葉に集中する。
「学年、クラス、性別は……まあ来るのが大抵男子だから圧倒的に被害は男子が多いんだけど、学年とクラスにも何の共通点も見つからないし、個人同士でも共通点が見つからないの。一緒に来店した人でもない限りはね」
まさに無差別だな、と神山は呟く。
神乃院の説明を補足するように、今までしかめっ面で辺りに気を配っていた那月が口を開く。
「狙われてるのは戦場原学園の生徒が主だ。他の学校もやられてるらしいが……うちに比べれば被害はほとんどねぇ。他校を含めての無差別だ」
言い終わると、那月は再び殺気を辺りに撒き散らす。そのお陰か、藤村達のいるところを中進とした半径五メートルくらいには誰も近寄ってこなかった。
さすがは流生さんの弟、とも思うが、逆に彼女は大っぴらにして何も警戒しないと思う。
「被害が主にうちだから、犯人は戦場原学園に挑戦状を叩きつけてきたとみて間違いはないわ。何にしても、君達が被害に遭う前に私達と合流できて良かった」
真田は明智に取ってもらった大きいぬいぐるみを抱えながら親権に言う。
抱きかかえている可愛らしいぬいぐるみが真剣さを削いでいるが、そこは特にツッコまないでおこう。
工藤は踵を返し、背中を藤村達に向ける。
「俺達はそろそろ戻るよ。近々ここら辺を戦場原学園の生徒は立ち入り禁止にするから、君らも今日は急いで帰った方がいい」
あ、そうそう、と工藤が思い出したように声を出し、
「出来れば、明日の放課後。生徒会室においでよ。訳と事情を話して、霧野さんと篠崎さんも連れてね」
そう言い残せば、工藤は那月と神乃院とともに、巡回に戻って行った。一方の真田と明智は次なる景品ゲットを狙っているようで、他のクレーンゲームを見回っている。
工藤の言いつけを守ろうと、藤村と神山は早々にゲームセンターから外へ出る。
巻き込まれたな、と藤村は上を仰いで呟くが、その呟きは空に溶けていった。
86
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/12(日) 22:01:27 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤村は自分の寮の扉の前に立っていた。
今日帰る時に工藤から言われた事を忘れてはいない。とりあえず、帰ってから霧野には今日生徒会の面々から聞いた話を説明し、明日の放課後生徒会室に行くように言うだけだ。篠崎にも説明しないといけないのだが、篠崎への連絡は申し訳ないが電話で済まそうと思う。
ドアノブに手をやり、藤村はゆっくりと扉を開いた。
「……ただいま」
いつになくテンションの低い挨拶をする。
リビングに入ると、心配そうな目で霧野がこちらを見ていた。彼女の表情に面食らっていると彼女は藤村に抱きつき、目にはいっぱいの涙を溜めていた。そんなに一人にさせたことが悪かったのか、と藤村は罪悪感に苛まれる。
しかし、霧野の口からは藤村の予想とは大幅に違ったものだった。
「……おかえり、藤村くん……。なんとも、ない……?」
泣き出しそうな、搾り出すような声で霧野は藤村に問いかけた。
どういう意味か分からない。藤村としては、神山とゲームセンターに行っただけで、そこで偶然事件の調査をしている生徒会と合い、事件の事を聞いたまでで……。
そこで、藤村はもしかして、と一つの可能性を探り始める。
「霧野。お前、ゲーセン近辺での事件のこと……知ってるのか?」
「……うん。帰る途中に折宮さんに合って、そういう事件が起こってるって言うから心配で……」
まさか、自分達が生徒会から話を聞いている間に、霧野は『あの』折宮から事件のことを聞きだしていたとは。折宮はそういうのは他言しそうにないのに、よく言ったなと藤村は思う。だが、彼女のことだ。藤村は折宮の事をほとんど知らないが、あまり言いふらさないように霧野に釘を打っているに違いない。そこは安心できる。
霧野は、とうとう目から大粒の涙を流してしまった。藤村の無事が確認できて安心したのか。安堵共に流れた涙だ。
藤村は霧野の涙を指で拭ってやり、彼女の頭を軽く撫でる。
「心配するな。俺も翔一も無事だし、事件のことは偶然巡回していた生徒会の人から聞いた。これじゃ、説明しなくてもいいな」
え? と霧野は間の抜けた声を出してしまう。
藤村は鞄を適当な場所に置き、床に座り込んで言う。
「明日の放課後。生徒会室に集合。どうも生徒会や風紀委員だけじゃ、捜査も難航しそうだぜ」
夜になると、藤村は霧野に気付かれないように部屋を出て、篠崎へと電話を掛ける。
二、三回コール音が鳴ると、聞き覚えのある女の子らしい声が耳に届く。
『……ふぁい、もしもし?』
「悪い、篠崎。寝てる途中だったか?」
彼女の眠たげな声を聞き、藤村は申し訳なさそうに謝罪をする。篠崎は上手く回らない頭を何とか回転し、自分も同居人に気付かれないように部屋を出る。
それから、いつも通りのしっかりした中で、どこか頼りなさげな声で応対する。
『どうしたんですか? 藤村くんから電話なんて珍しいですね。普段はメールなのに』
「メールで済まそうかとも思ったんだけど、電話の方がいいかなって」
『?』
藤村の言葉の意味が理解できない篠崎は首を傾げる。
それに気付かない藤村は真剣な口調で、篠崎に会話を切り出す。今日聞いた事件についての。
「いいか、篠崎。今から説明することをしっかり聞いてくれ」
夜の街をつまらなさそうに歩く折宮明日香。彼女の頭を巡っているのは、霧野七瀬のことだった。
彼女が気になるとか、不快だ、という感想もあながち間違いではないが、それとは似ているが違う感覚が身体の中を駆けずり回っている。
一言で表すなら、彼女は『不思議』だ。
(何で自分から面倒事に関わろうとするんだよ。私がアイツの立場なら、絶対に関わらないのに……チッ)
折宮は心の中で舌打ちをする。
心と同時に実際にも舌打ちをしていたようで、道を歩いていた男性がこちらをちらりと見た。
(……いけ好かねぇ。何なんだよ、アイツは……)
折宮は心でそう呟き、
「……委員長が言った、『誰かとの繋がりを持て』って……あんな変な奴でもいーのかよ?」
87
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/13(月) 16:00:29 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.12「ミッション開始」
翌日の放課後。藤村は工藤に言われたとおり、事件のことを知っていた霧野と、電話で事件について説明しておいた篠崎、そして神山とともに生徒会室までやって来た。部屋にはいると、もう既に見慣れてしまった生徒会役員五人と、狩矢と折宮が集まっていた。
狩矢って生徒会に知り合いがいたのか、と問いかけたくなるところだが、自分に流生を紹介したのは彼だ。生徒会役員も那月の姉という事で知っているため、関わりが全くないと言うわけでもない。
それともう一人、折宮がいる理由も納得できる。
霧野が事件の内容を知っていたのは、折宮から事件の話を聞いたからだ。話す前の電話の会話で『生徒会との連携』という単語が聞こえたため、今回の事件は生徒会と風紀委員で済ませるということなのだろうか。折宮が一瞬こちらに視線を向けると、軽く息を吐いて顔を背けた。仲良くなるのは、まだ難しいらしい。
一応全員が揃ったようで、工藤が口を開く。
「さて、全員集まったね。召集の理由は知っているだろうが、もう一度話しておこうか。じゃあお願い、創一」
お前が説明するんじゃないんかい。
僕ですか、と若干ながら嫌そうな顔をする明智。
そういえば、ゲームセンターの時も神乃院に説明を任せていたし、この人は自分で説明しないのか。理由を聞けば『え? ヤダよ。だって説明苦手だもん』と言いながら鬱陶しいほど爽やかな笑みを浮かべそうで腹が立つ。今すぐにでも殴ってやりたい。
嫌そうな顔をするも、一応上司からの命令なので明智はこの場にいる全員に説明を始める。
「皆も知っての通り、戦場原学園の生徒が何者かによって襲われ、その被害は拡大しつつある。今回の件は生徒会並びに風紀委員の間で済ませようとしたのだが―――」
一度そう区切って明智はチラッと藤村達の方を見た。狩矢にも僅かに視線を向けている。
「強力な仲間が加わった。彼らは生徒会でも風紀委員でもないが、今回の事件の解決に共に尽力してもらおうと思う。……いいね、藤村くん」
明智は藤村に問いかける。
自分だけの意志で決めて良いのか迷い、霧野達の方を振り向く。彼女達は全員頷き、狩矢も頷いてくれた。そもそもお前は誰に連れられたんだ?
藤村が頷くと明智は納得したように笑みを浮かべる。
だが、
「待て」
女性の声が割り込む。
見ると折宮が少し手を挙げながらそう言っていた。彼女は壁に背を預け、腕を組んだまま目を閉じている。寝ていないことだけは分かっていたが。
彼女は目を開くと、先程まで背を預けていた壁から身体を離す。
「私は反対だ。ここにいる霧野七瀬に事件を話したものの、それは事の危険を知らせるため。事件の解決に協力してもらおうなんて思っていない。それに、アンタ達とも協力するつもりはない。私は私のやり方でやってみせる」
それを聞いた霧野は不安そうな顔をしていた。
相手が初めから協力させる気なんてなかった、という言葉自体は気にしてはいないだろう。それ以上に、彼女が一人を望む事に不安を感じているのだと思う。
「折宮さん! 協力しようよ! これは一人じゃ出来ない事だよ!?」
「何と言おうと、私の意志は変わらない。お前も、面倒な事になる前に身を引いておいた方がいい」
「……折宮さん」
霧野の言葉を、折宮は即座に斬り捨てる。彼女は本当に一人で全てを片付けるつもりだ。
彼女の発言で一気に場は静まり返った。そんな空気が不快に思ったのか、当の本人である折宮は逃げるように生徒会室から出て行ってしまった。
「やれやれ……、今日はお開きにしようか」
「政宗くん……。いいの? 彼女を放っておいて」
真田の言葉に工藤が溜息混じりに答える。
「何とかしてみるさ。それが……いや、それも俺の仕事だろう?」
程なくして、今日の作戦会議は終了した。
話は全く進まず、ただ事件の内容を大雑把に理解しただけだった。
88
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/17(金) 23:17:31 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
折宮明日香は一年生クラスの廊下を歩いていた。
規則的な足音。真っ直ぐ立ち、一切の揺らぎも見せない身体。彼女の足が前へ前へ動くたびに、短い髪の毛先が僅かに上下する。
放課後、という事もあって現在廊下には彼女しかいない。そこで何をしているのかというと、教室内にまだ生徒が残っていないかの確認である。
と、そこでふと折宮が足を止め、振り返らないまま言う。
「―――気付かないとでも思ったか。コソコソと女の子を追い回すなんてみっともない。生徒会長がするようなマネじゃないんじゃないか?」
彼女が言うと、廊下の柱の影から工藤がひょこっと顔を出した。
女子が行うと可愛らしい仕草だが、高校三年生の工藤が行うと……言ってしまえば悪いが、微塵の可愛さも見出せない。
彼は尾行を看破されると、苦笑いを浮かべながら人差し指で頬をかきながら、
「いやぁ、気付かれるとは思わなかったな。さすがは、風紀委員長自らスカウトした委員だ、とでも言うべきかな?」
「世辞を言うために来たのかよ」
折宮は目上の工藤に対しても敬語ではない。
電話で風紀委員長と連絡していた時も敬語じゃなかったし……そういう敬意を払うことにはあまり気にしていないんだろうか。
工藤は両手をポケットに突っ込んで、
「本題に入ろうか。君は、どうしても俺達と協力してはくれないのかな?」
折宮の表情が僅かに険しくなる。
まだ言うか、というニュアンスの目つきで工藤を睨みつけると、
「言ったはずだ。私はアンタ達とは組まないって。私は私のやり方で事件を解決するってな」
工藤は溜息をつく。
まるで、そう返してくるのが分かっていたかのような反応だ。
「良いじゃないか。目的は一緒なんだ。一緒にやった方がよりいっそう早く済む」
「生徒会に風紀委員。更には無関係な生徒も巻き込んどいてよく言うぜ」
「無関係な生徒? それを言うなら君も事情を霧野さんに話したんだろ?」
「私が話さなくても、奴に話すように藤村にお前が仕掛けたんだろが」
どちらの言う事も正論だ。
工藤は『より早い事件の解決のため、力のある生徒を集める』やり方。一方で折宮は『無関係な生徒を巻き込まないため、どれだけ時間がかかってもいいから、より犠牲の少ない』やり方。二人の意見は真っ向から衝突していた。
いわば水と油。
二人の思想が結局交わる事は無い。
「無関係でも力があれば貸してもらう。より早い事件解決になると思うけどなあ」
「私はそうとは思わない。無関係な生徒を巻き込むなんざ、生徒会長のやるべきことじゃねぇ」
工藤は溜息をつく。
すると彼は、最大の切り札を使うように両腕を水平に広げた。抵抗さえもしないというように。
「……何のマネだ? 『俺は抵抗しないから、制限時間内に俺を倒したら従う』ってか? いくらなんでも無抵抗な人間を甚振る趣味はないんだが」
「いいや。そうじゃないよ」
工藤は言葉を区切ると、
「今回の事件が、風紀委員長自ら『結託してほしい』と言われても、君は意地張って一人でやるつもりかな?」
「……何だと?」
折宮の眉が、僅かに動く。
89
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/19(日) 11:07:52 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
工藤が口にした『風紀委員長』という言葉に、折宮は顔を顰める。
彼女にとって、『風紀委員長』という存在はとても大きい。折宮は委員長に誘われて風紀委員に入った、というのもあるが、今まで誰もが恐れていた自分の力を、彼女が認めてくれたのが一番嬉しかった。『風紀委員長』は折宮にとって、居場所を作ってくれた恩人なのだ。だから折宮は委員長に忠誠を誓っている。委員長が進む道を必ずついていき、邪魔するような障害を全てなぎ払いサポートする。折宮は委員長に心酔していたのだ。
だからこそ、目の前にいる工藤政宗の言葉に腹が立つ。
脅しのつもりか、無理矢理にでも協力させるために、わざわざ委員長の名前まで出しやがって。折宮の思考と目に迷いはなく、腰の裏に挿してあるダガーを、鞘からスッと引き抜き、切っ先を工藤に向ける。
向けられた工藤は眉一つ動かさず、自分の喉元に突きつけられたダガーの切っ先を眺めている。首に少し当てただけで、スパッと切れてしまいそうな程鋭く尖っている。
工藤は広げていた両手をポケットに突っ込んで、
「……何のつもりかな、これは? 脅しかい?」
「それはこっちの台詞だぜ。わざわざ委員長の名前まで出しやがって……、それで私が動くとでも思ってやがるのか?」
「俺は別に脅しのつもりじゃないよ。ちゃーんと委員長さんと話してきたし」
「そういう問題じゃねぇよ。言ったろ、私は『一人でする』って。だから……アンタの手は借りないし、必要ない」
折宮が意地を張って『一人でやる』と言い切っているのには理由がある。
折宮は『風紀委員長』に忠誠を誓っている。居場所を作ってくれた委員長に恩返しがしたい。そのため、彼女の風紀委員としての行動は全て『委員長への恩返し』なのだ。たとえこの一件が片付いても、彼女の委員長への恩返しは終わらないだろう。きっと、委員長が卒業するまでやり続けるはずだ。
委員長と話し、その事を知っている工藤は、
「何も一人で背負う事ないんじゃない? 協力することは大事だよ?」
「私はそれが必要ないと言っている! さっきから人の話をちゃんと聞いているのか!?」
「悪いと思わないのか」
工藤の言葉に折宮は眉をひそめる。
風紀委員長の命令を無視し、生徒会との協力を拒絶していることをだろうか。そう言われれば、委員長の命令に背くわけにもいかないし。
折宮が思考を巡らせていると、工藤が言葉を続ける。
「風紀委員長の命令を無視し、さらには……協力してくれる人を思い切り突き放して、君の良心は痛まないのかい?」
そこで折宮はハッとする。
霧野七瀬。自分が事件を話さなくても、工藤によって無理矢理協力させられていたであろう人物。
彼女が自分に話をかけてきた理由なんて分からない。確か『誰かの役に立ちたい』とか言っていたような気がする。
しかし、折宮はそんな彼女に、
『事件の解決に協力してもらおうなんて思っていない』。
そんな事を言って、突き放した。その後の霧野の表情はかなり曇っていたような気がする。
彼女は最後まで、自分と協力して事件を解決する、と思っていたはずなのに。
「俺が言えるのはここまで。気が変わったなら明日の放課後、生徒会室でお待ちしてまーす」
工藤はそのまま背を向け歩いていた。
折宮は工藤にダガーを突きつけていたことも忘れていたのか、急いでダガーを鞘にしまう。
ふぅ、と息を吐き、彼女は窓の外に目をやる。
「……私は、一体どうすればいいんだよ」
90
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/19(日) 13:22:35 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
工藤と折宮が学校の廊下で話していた頃、寮にいた霧野は自分のベッドに腰掛けながら、ずっと暗い表情を浮かべていた。
恐らく、折宮の言葉が響いたのだろう。自分だけ彼女と友達だ、と勘違いしていたのが急に恥ずかしくなってくる。
はあ、と霧野が溜息をつくと、
「霧野!」
「は、はうぃっ!?」
急に名前を呼ばれたので、変な言葉を出してしまった。
呼んだのはルームメイトの藤村である。
変な声を出した事に霧野は顔を赤くして、俯きだす。どうやら相当恥ずかしかったらしく、今の霧野をどうしようかと藤村も困っているようだ。
深呼吸して落ち着いた霧野は、やや遠慮がちな視線で藤村を見ると、
「……何?」
と聞き返す。
用がなければ呼ばないだろう、と思い自分を呼んだ理由を訊ねたのだ。
藤村は呆れたように息を吐きながら、
「……お前、大丈夫か? さっきから五、六回呼んでんのに反応しねーしよ」
「嘘!? そんなに呼んでたの!? ゴメン、全然気付かな―――」
「いや、五、六回は嘘だけどさ」
嘘かいっ! と霧野は藤村にツッコむ。
しかし、藤村の表情が心配そうなのは霧野も気付いている。迷惑かけちゃったかな、とあはは、と乾いた笑みを霧野は無理矢理浮かべた。
霧野は自分の膝においてある手を、軽くきゅっと握り締めると、
「……折宮さんにとってさ、私って……お節介だったのかな?」
「やっぱりそのことで悩んでたのか」
藤村は霧野が何を思いつめているのか何となく察しがついていたらしく、そう言うと霧野の横に座る。
隣に座られるとは思っていなかったため、霧野はちょっとだけ顔を赤くして僅かにもじもじしだす。
その様子に気付かない藤村は、
「……お節介……ねぇ。俺は折宮じゃねぇから分かんねぇし、アイツの気持ちを分かんねぇけど……」
藤村は言葉を一度区切る。
「少しでも迷惑だ、とか鬱陶しいだとか思ってたら、俺はわざわざ話さないと思うぜ?」
その言葉に霧野がハッとする。
確かに自分がしつこく聞いたのもあり、面倒そうな表情もしていたが、本当に面倒で迷惑で鬱陶しいなら事件に関わらせようともしないはずだ。少なくとも、本気で面倒だとは思っていないはず。
面倒なら『ゲームセンター付近が危ないから近づくな』で済ませられるだろうし。折宮はわざわざ自分が転校してきたばっか、という確認や、地理は詳しくないよな、という確認まで取っていた。心の奥底では、協力してほしいと思っているかもしれない。
「あんまり深く考え込まなくてもいいんじゃねーの? 折宮はちょっとばかし意地っ張りなだけだと思うけどな」
何かあんまり深く考えてなさそーだし、と藤村は付け加える。
何故かは分からないが、藤村と話していると落ち着く。
霧野は隣にいる藤村の横顔を眺め、小さく笑みをこぼした。霧野はそのまま自分の頭を藤村の肩に乗せる。まるで、恋人同士が公園のベンチでやっているような光景だ。
急に寄りかかられたため、藤村は顔を赤くして、
「な……っ、お前……!」
「藤村くんってなんだかんだで不思議だよね」
「はぁ?」
霧野の言葉の真意が掴めず、藤村は首を傾げる。
「だって、すぐに悩みを解決してくれるし。それに……」
霧野が頬を赤く染めながら言う。
「隣にいてくれるだけで、こんなにも安心するもん」
その言葉に、藤村も悪い気はしなかったのか、身体を動かさないように固定している。
いつの間にか霧野は寝てしまい、身体のバランスを崩すと、今度は藤村の膝の上に転がり込んできた。
91
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/19(日) 19:04:09 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
翌日の放課後、藤村は神山とともに生徒会室にやって来ていた。霧野も二人と同じD組であるが、彼女はやるべき事があるらしく今は別行動だ。生徒会室には遅れて来るらしい。
藤村が扉を開けると、部屋の中にいつもの五人はいなかった。その代わりと言えるのか、役員である神乃院と狩矢の二人だけしか集まっていなかった。
意外な人数の少なさと組み合わせに、藤村はきょとんとする。
「……なんだ、神乃院と狩矢だけか? 工藤会長達は?」
役員に聞くべきだろう、と藤村が神乃院に訊ねると、彼女は携帯電話を取り出し、何か操作している。
何か連絡でもされたのだろうか。
「……さあ、よく分かんない。工藤先輩がサボるのは珍しくないけど、紫先輩や明智先輩が何の連絡もないってのが妙なのよ」
大体貴方は『お市ちゃん』って呼んでいいのよ? と呼び方が引っかかったのか、そんな事を言いながら説明した。
というかあの会長、しょっちゅうサボるのか。サボり魔が生徒会長で大丈夫だろうか。この学校の行く末が本当に不安になる。来年はまともな人が会長でありますように。
ふと気になった藤村は、狩矢がここにいる理由を訊ねてみる。
「そーいや、狩矢。何でお前はここにいるんだ?」
「零太って呼べよ。つーか言ってなかったっけ?」
何をだ、と藤村は問い返す。
会話を聞いていた神乃院、改めてお市ちゃんが携帯電話をしまいながら口を開く。
「私達、小学校からの友達なのよ。大体言ってなかったっけ? 言ったような気がするんだけど」
いや、初耳です。
狩矢がここにいるのも、流生さんと知り合いなのもこれで合点がいった。しかし、この二人が既に知り合いとは。知った今でも、二人の組み合わせは若干違和感がある。
すると、今度は神乃院が口を開く。
「大体貴方達、霧野さんはどうしたのよ? 一緒のクラスじゃなかったっけ?」
「ああ、七瀬チャンなら明日香チャンと一緒に来るらしいぜ? 『絶対に連れて来るから先行ってて!』って言われた」
神山が答える。
その答えに神乃院が『はあ?』と声を上げる。
「折宮明日香を!? アイツ、協力は一切しないとか言ってたじゃない! 大体、今更戻ってこられても迷惑よ!」
前回折宮が協力を自ら断った件で、神乃院は彼女の事をすっかり嫌いになってしまったようだ。
何故か神山のせいじゃないのに、神乃院は思い切り彼に怒鳴っている。そんな神乃院の肩に、狩矢が手を置き彼女を落ち着かせる。
神乃院は思い切り怒鳴っていたため、肩で息をしている。
「ま、まあいいじゃねぇか。協力者が増えるのはいいことだし、無理矢理にでも協力させようぜ」
「……藤村くんが言うなら、別にいいけど……」
彼女は僅かに息を切らしながらそう言う。
神乃院の言葉を聞いた狩矢はニヤニヤしながら、
「あれぇ? お市ちゃん、まさか幽鬼のこと……」
「ッ!? ば、ばばばばバッカじゃないのッ? そ、そそ、そんそん、そんなことあるわけないでしょうがッ!!」
『が』で神乃院は狩矢の顔面に蹴りを決める。
自分の頭より高い場所にある相手の顔を蹴れるなんて、どんだけ足が上がるんだよ、というのが藤村の感想だ。一方で、強引に足を上げたためスカートが僅かにめくれたため、中のパンツを見れた神山は真顔で鼻血を流している。
神乃院は気を失った狩矢に、
「私はただ同じ一年生なのに工藤先輩に尊敬されててすごいなあって思っただけ! 特別な感情なんて抱いてないわよ! 大体……私に好きになられても、藤村くんは迷惑でしょ?」
最初の方は熱くなって大声で叫んでいたが、最後だけは藤村に問いかけたためか、声が小さかった。
僅かに頬を赤くして、恥じらいながら問いかけてきたため、藤村は僅かにドキッとしてしまう。
藤村は顔を逸らしながら、
「め、迷惑じゃねーよ……好きになられるってのは嬉しい事だしさ」
そんな光景を見ていた神山は『何で幽鬼ばっかり!』と泣いていた。
92
:
ねここ
◆WuiwlRRul.
:2012/08/19(日) 19:09:29 HOST:EM117-55-68-168.emobile.ad.jp
初めてコメントさせていただきます!
途中まで読ませていただいたのですが霧野さん黒髪とかタイp((
戦闘ものは苦手で苦手でしょうがないので、戦闘もの書ける竜野さんに憧れます…・ω・`
これからも頑張ってください、更新楽しみにしてます^^
93
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/19(日) 19:14:50 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ねここさん>
コメントありがとうございます^^
自分の作品の女性キャラは僕のタイプを僅かに反映させていますw
だからこの作品のキャラの頭髪の黒率が上がるかも……。黒髪っていいですよn((
いやいや、僕もまだまだ未熟ですので。毎回戦闘シーンを書くのに苦心しております((
はい、期待に沿えるよう頑張ります^^
94
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/22(水) 17:28:07 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
しばらくして真田、那月、明智の三人が遅れて生徒会室にやってくる。そんな三人の大物の間に一人だけ、かなり身を縮めている篠崎も混じっていた。
真田は一仕事終えたのか思い切り身体を伸ばしている。那月もかったるそうに首をぐるりと回し、明智は寝不足なのか欠伸をしている。一体何をしてきたんだ、と藤村は思う。
その質問を解消するように神乃院は三人に訊ねる。
「……大体三人ともお疲れですけど……一体何をなさってきたんですか?」
神乃院の問いに対し、真田は軽い口調で答えた。
「んー、アレよ。ウチの被害者にちょっと話をね。……何十人もいて大変だったわ」
そう言って真田はもう一度伸びをする。
大変でしたね、と他人事のように流す神乃院に那月が小さな声でつぶやく。
「……本当は庶務の仕事なんだけどな……」
そう言われると、神乃院はボッと顔を赤くして、わたわたと慌てだす。
「す、すすす……すみませんでした!! いや、その、言い訳じゃないんですけど、大体私知らなくて……ッ!」
「いや、いいよお市ちゃん。僕らが勝手にやったことだから、気にしないで」
急に慌てる神乃院に明智がそう声を掛ける。明智は僅かに背伸びして、那月の頭にチョップを食らわす。『ぐほっ』と言って那月は困ったような表情をしながらチョップされた部分を押さえている。
神乃院はうう、と涙目になりながら落ち込んでいる。そんな彼女を隣にいる狩矢が慰めていた。
一人だけ三人の圧力に恐れていた篠崎はぶるぶる震えながら、藤村の傍まで駆け寄ってくる。
「……うおぅ、大丈夫か篠崎? すげぇ怖かったろ?」
「は、はいぃ……。何だか、生きてる心地がしませんでした……。あの三人に比べて、私ってどれだけ個性がないんだろう……」
真剣に悩む篠崎だった。
だが、彼女に個性が無いかと問われるとそれは否だろう。見た目も金髪で可愛い顔立ちだし、そもそもこれで男の子なんだから、それで十分個性だと思う。篠崎でさえ個性がないなら、神山はどうなるんだろう? オタク、という以外に個性が見当たらない。
そんな神山は自分の個性を探しているのか、自分の身なりをチェックしている。
「……あれ、政宗くんは?」
「さあ……副会長もご存知でないんですか?」
「ご存知でないわよ。あの間抜け馬鹿お調子者会長……何処に行ってるのかしら?」
普段そんな風に思っていたのか、と藤村達は真田の本音を聞いて苦笑いしていた。
反論できないのは、自分達も心のどこかでそう思っているからだ。
そんな時、
「やあやあ、皆待たせたね!」
例の間抜け馬鹿お調子者会長が元気よく戻ってきた。
彼が扉を開けっ放しにしているためか、扉の前の光景が僅かに見えている。黒髪のポニーテール……霧野と一緒だったのだろうか?
真田が工藤に何をしてたか訊ねると、工藤は笑顔のまま答える。
「まあ、ちょっとした一仕事。さあ、入れちゃって」
工藤がそう言うと、扉の前で誰かを連れて来ているらしい霧野が一生懸命引っ張っている。
「ほら、早く……入って、き、て……!」
「ふざ、け、んな……! 誰が入るか、よぉ……!」
女子の声がする。
霧野が必死に引っ張っていくのを、必死に抵抗しているようだ。相手は相当こっちに来たくないらしい。
二人が必死になっていると途端に、抵抗していた方の人物が、今まで掴んでいたものから手が離れたらしい。
「「あ」」
霧野とその人物が同時に声を上げる。
力強く引っ張っていたため霧野の身体は大きく後ろによろめき。バランスを失った彼女の身体は後ろにいた藤村へと勢いよく激突する。
95
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/22(水) 17:59:05 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「……ッ!」
思い切り霧野とぶつかり、やはり身体を倒してしまった藤村は起き上がろうとする。しかし、上に何かがのしかかっていて身体が起き上がらない。というか、身体に何かがではなく、顔の部分に何かがのしかかっている。
藤村は目を開けるが、頭にのしかかっていて暗い視界ではのしかかっている物の全貌は掴めない。
ただ、感触としては柔らかい、が。その奥に何か固いものがあるような気がする。そして香水のような甘い香り。上の方から『うーん』という起き上がろうという声が聞こえる。
間違いなく霧野の声だ。
ということは、今自分の顔の上に乗っかっている柔らかい物体の正体は……。
「きゃあっ!?」
状況を把握した霧野が甲高い声を上げる。確認できないが霧野の顔は今とても赤いと思う。
藤村の顔に乗っかっているのは彼女の胸だ。彼女の胸の谷間に丁度藤村の顔が埋まっている、という構図だ。
慌てて何が何だか、何をどうすればいいか分からない錯乱状態に陥っている霧野は、
「ちょ、ちょっと藤村くん! いつまでそ、そんなところにいるのよ! は……早くどいてぇ!!」
「お、お前がどかなきゃ俺がどけねぇだろ! お前が上に乗っかってんだぞ!」
かくして、藤村は窒息しそうになりながらも脱出し、肩で大きく息を吐いていた。神山は羨ましそうに藤村を見ている。
「はぁ……はぁ……苦しくて死ぬかと思った……!」
その言葉を霧野は聞き逃さなかった。
彼女は涙目で胸を押さえながら、その言葉をよく考え直してみる。
藤村は苦しいと言っていた。彼の顔に乗っかっていたのは自分の胸。つまり、これは胸が大きいということ? という思考に霧野は持ち込んでいく。
霧野はホッと息を吐く。『私って大きい方だったんだ』と安堵していた。恐らく、小さいほうだと思っていたのだろう。
しかし、藤村の言葉の本意は『自分の身体に乗っかっていた霧野の身体の重みによる圧迫感』で苦しんでいたため、彼女の胸が大きいからではなく、彼女の体重によるものだという事を、霧野はこれから知ることはない。
いつもどおりの騒々しい喧騒の後に、刺すような言葉が響く。
「……まったく、愉快な奴らだな」
そこにいたのは折宮明日香。
彼女は引っ張られていたため腕を痛めたのか、手首をぶらぶらと回している。
今までの出来事でそちらに視線がいっていなかった神乃院は彼女を忌々しそうな瞳で睨みつける。その視線に気付いたのか、折宮も負けず劣らず睨み返す。
「……何だよ、生徒会」
「……大体生徒会って名前じゃないんだけど、風紀委員。大体何でアンタがここにいるわけ?」
「私だってこんなとこに来るのは願い下げだっての。迷惑だったんなら帰るさ。そもそも、私は無理矢理連れて来られたわけであって―――ッ」
帰ろうとする折宮の襟を霧野は素早い動きで掴み取る。中途半端に首を絞めたのか、霧野が襟から手を離すと折宮は涙目で咳き込んでいる。
霧野はそれを気に留めず、折宮を神乃院の前に立たせた。
向かい合わされた意味が理解できていない神乃院と折宮は眉をひそめながら、霧野を見つめると、
「はい、仲良しするために握手しよ。こんなギスギスした空気じゃ共闘なんてできないし」
はぁ!? と神乃院と折宮は声を揃えた。
「何で私がこんな生意気な奴と握手なんてしなきゃいけないんだよッ!?」
「そうよ霧野さん! 大体いくらなんでもこんな奴と握手なんて私はしたく―――ッ」
「あ・く・しゅ!!」
生徒会室に霧野の大声が響き渡る。
近くにいた神乃院と折宮は堪らず耳を塞ぐ。霧野の勢いに負けた二人は渋々右手を差し出して、お互いに嫌そうな表情のまま握手をする。両方口を尖らせている。
「……仕方ないからよろしくてやるよ、神乃院市」
「……こっちこそよ、馴れ馴れしくしないでね。折宮明日香」
言葉はともかく、和解できたことに霧野は満面の笑みを見せる。
可愛らしく、幸せそうな、小さな子供が親から褒めてももらった時のような、無邪気な笑みだ。
96
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/23(木) 17:20:10 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「よーし、それじゃあ皆揃ったところで。工藤会長プレゼンツ、ビッグサプライズだよー!」
工藤が人差し指を立ててそう言った。
彼のテンションの割りに、周りは誰一人として盛り上がっていない。多分皆は『アンタが遅れた理由はどうでもいいから、さっさと作戦会議始めようぜ』だろう。実際藤村もそう思っている。
冷め切っている空気などお構いなしに工藤は勝手に話を進める。
無駄にメンタルが強い人だ。この状況で心が全く折れていない。お笑い芸人ならその場で崩れ落ちているだろうに。
「実は俺が遅れた理由はある人物に協力を要請してたのさ。俺だって、この人数で解決できるとは思ってないからね」
「だいじょーぶなの? 政宗くんの言う事の八、九割は信用できないんだけど」
「ねぇ、俺ってそんなに信用できない人物なの?」
真田の言葉に僅かに心が折れる工藤。
しかし、彼の心の修復速度は速い。既に立ち直って笑顔を浮かべている。
「大丈夫だよ、紫ちゃん。ここにいる全員が実力を認めるだろう」
全員が実力を認める?
その言葉に全員が息を呑む。
一体どれほどの人物なのだろうか。一年生の一位とか、二年生の一位とか、もしかして三年生の三位で、三年生スリートップを見たりできるのか、藤村達の胸は期待でいっぱいだ。
工藤が『入ってきて』と扉の向こうに声を掛け、扉が開かれる。
そして、
「おーほっほっほっ!! 工藤政宗会長様のご依頼により、雪路冬姫! ただいま参じょ―――ッ」
バァン!! という何かを叩く音と共に、左右両開きの扉が勢いよく閉められた。右の扉を神乃院が、左の扉を神山が閉めている。
扉の向こうで『いったぁぁぁ!!』という悲痛な叫びが聞こえるが、誰も扉を開けようとしない。
肩で大きく息をしている神乃院は工藤の方へと視線を向けて、
「で、大体どうしますか会長? 犯人は誰か分かってるんですか?」
話を綺麗に元に戻した。
雪路登場のくだりは全く無かったかのように。
しかし、やられてばっかりで黙っているほど雪路冬姫のプライドは小さいくはない。
雪路が外から扉を開けたため、扉の前にいた神乃院は大きく前へとバランスを崩し、机の角に頭をぶつける。
彼女は額を押さえ、涙目になりその場にうずくまる。
「いっ……たいわね! 大体何してくれんのよ、この似非お嬢様が!!」
「あらあら、それはこっちの台詞ですわ!! わたくしだって鼻を打ったのですわよ!?」
お互いぶつけて赤くなっている部分を押さえている。
ぎゃあぎゃあといつものように言い合いをしていると、それを眺めて溜息をついた折宮は工藤に問いかける。
「おい、会長さん。もしかして『コレ』が助っ人か?」
「コレ!? 物扱いしないでくださいませ!!」
「折宮! 聞く必要ないわよ! 物扱いしてやりなさい!」
さっきと態度を一八〇度変えて神乃院は叫ぶ。
工藤はフッと笑って、
「もしかしても何も、その通りだよ。雪路冬姫。一年生でお市ちゃんと同率五位に上り詰めている少女さ」
紹介されている本人は、神乃院との争いがヒートアップしたらしい。
胸倉を掴み合い、今にも殴り合いが始まりそうになっている。
97
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/24(金) 22:14:52 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
まさに取っ組み合いになっている神乃院市と雪路冬姫。
女の壮絶な喧嘩を目の当たりにした男子一同(篠崎は含むが、工藤は含まない)は、かなり引いた表情をしていた。その傍らで女子一同は『まあ女子同士はこうなるよね』みたいな表情をしている。
この争いを見ても表情を崩さなかった工藤が、手をぱんぱんと叩いて場を鎮める。
「はい、お市ちゃんも雪路さんも落ち着いて。俺から見れば二人とも可愛いからさ」
二人は肩で息をしながら争いをやめた。
どっちが可愛いか、という争いではなかったはずだが、何故か二人とも落ち着きを取り戻し始めている。
この際、理由はどうでもいいのだろうか。
「それじゃあ作戦会議―――いや、敵の正体を話してあげるよ」
工藤はいちいち言葉を焦らす。
そんな彼の性格を知っているはずの生徒会メンバーでさえも苛立ちを見せていた。唯一明智だけが、苛立ちを表情に表していないのは見事だった。いつもの事でもう慣れてしまったのだろうか。
犯人の正体が分かる、ということで全員が息を呑み、呼吸を殺して工藤の言葉を待っていた。
自分の言葉への期待感を肌で感じ取ったのか、工藤は椅子から立ち上がって窓の外を眺めながら言った。
「犯人ってさ―――誰だと思う?」
「とっとと言えよ!!」
真田の蹴りが、工藤の後頭部に直撃した。彼の頭はそのまま目の前の窓を突き破り、頭のみが窓の外に出ている。外から見たら少し怖い光景だろう。
工藤は笑いながら、穴が開いた窓から頭を引っこ抜く。奇跡的に工藤の頭からは血が一滴も流れていなかった。本当に彼は人間なんだろうか。
彼は痛いのは痛いのか、頭を押さえながら再び口を開く。
「やだなぁー、俺なりのジョークじゃないか。紫ちゃんのツッコミって最近殺人の域に達してない?」
「貴方は殺っても死なないでしょ? 今だって血すら出てないし……だから容赦なく出来るのよ。手加減抜きで」
軽く問題発言だが、工藤は軽く笑い飛ばす。
さて、と工藤が皆の方へと振り返ると、那月のハルバートと折宮のダガーが喉元まで迫ってきた。
「君らさ、完全に俺を殺そうとしてるよね。いいじゃん、ちょっとの焦らしぐらいさー。俺なりのユーモアだよ」
「そのユーモアが迷惑だって言ってるのよ、アホ会長」
「つーか俺らにそんなもんいらねーし。とっとと言えバ会長」
「ボケナスカース。ついでにタコ野郎が」
全員言葉が辛辣すぎるだろ。
折宮にいたってはただの八つ当たりにしか聞こえないんだけど。
それでも、アイアンハートの工藤政宗は決して折れない。
「あはは、皆それで俺がくじけると思う?」
「あのー、工藤会長。そろそろ話していただけませんかね?」
痺れを切らした雪路がそう言った。
徐々に表情に出していなかった明智の苛立ちが表情に表れ始めている。これは危ない。明智みたいなタイプはキレると危ない。
工藤は僅かに咳払いをして、話を進めた。
「まず犯人の人数だけど、君達は数人の小組織だと思ってる? それとも一人で実行していると思う?」
誰に、というわけでもなく問われた質問。
その質問に狩矢が答えた。
「んー、一人でっていうのは難しいでしょう。複数だと思うのが妥当では?」
「だよねー。まあ俺もそこら辺の不良グループだと思ってたんだけど……」
工藤が言葉を区切ると、明智が問いかけるように口を開く。
「……その言い方だと、会長の考えとは違うようですね」
工藤は笑みで答えを返した。
『その通りだ』というように。
「じゃあ、一体誰が?」
霧野が不安げに問いかける。
「犯人は複数、というのは大正解。だけど、小組織なんて小さいものに収まらない。俺らの敵は―――」
工藤は一度言葉を区切って、真相を告げた。
「剣木浜高校(つるぎはまこうこう)だよ」
98
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/25(土) 10:26:04 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
剣木浜高校とは、戦場原学園と割りと近い場所にある戦場原学園と同じような学校である。
戦場原学園の影に隠れて分かりにくいだけだが、剣木浜高校もそれなりに巨大な敷地面積を誇っており、戦場原学園に次いで大きいと言っても過言ではない。
だが、そう考えても向こうがこちらを襲ってくる理由が分からない。
今までだって二つの差はあったのだし、何故今更になって向こうが挑戦状を叩きつけてきたのかも不明だ。
工藤としては犯人の正体が掴めても、攻撃の理由が分かっていないため腑に落ちない部分も大きいだろう。
「つーか大きな組織ってのは大体想像できたけど……」
神山が区切るように言う。
その言葉を篠崎が引き継ぐため、口を開く。
「まさか学校だとは思いませんでしたね。学校同士の争い、となるんでしょうか……?」
不安げに篠崎が工藤に問いかける。
そんな篠崎の不安を払拭するように、工藤が笑顔のまま告げた。
「大丈夫だよ。そんな事にはさせないように、生徒会と風紀委員が協力するんだから」
言いながら工藤は折宮へと視線を遣ったが、偶然工藤の方を見ていた折宮はふいと顔を逸らした。
工藤の言葉に篠崎はホッと安堵の息を吐く。
「大体どうするんですか? 話し合いで解決させるつもりもないでしょう?」
「そうだね。相手の真意を確かめるために……潜入捜査を行う!」
工藤がそう言うと、段ボール箱を四つ机の上に置いた。
その箱の大きさは、大体上下の服一式が入るのがやっとといったところだ。潜入捜査、そういうことか。
「それはいいとして、誰がやるの?」
真田が無表情のまま箱をおもむろに開け、中を物色し始める。
男子の制服が一つ、その他三つは女子の制服だ。つまり潜入メンバーは男子一人、女子三人となる。
「言っとくけど、私は女子の制服サイズ合わないわよ? 男子の方なら……ギリだと思うけど」
そう言いながら真田は自分の豊かな胸に視線を落とす。
あの大きさで男子は無理があるだろう。
「大丈夫だよ。捜査メンバーは既に決めてあるさ」
工藤は言いながら全員の方を向きながら指していく。
「潜入メンバーは四人。霧野さん、篠崎さん、雪路さん、折宮さんだ!」
言われた本人達は驚愕の声を上げていた。
……つまり、男子制服は篠崎が着るのか?
99
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/25(土) 20:53:12 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
指名された四人はそれそれ制服の入った段ボール箱を抱えて更衣室へと向かっていった。やはり篠崎は男子校異質なのか。
数十分してから着替えを済ませた四人が生徒会室へと戻ってくる。
やはりいつもと違う姿に少しドキッとしてしまう藤村。それほどまでに見慣れた服装とは違う霧野を可愛いと思ったのだろうか、藤村の反応を見ながら神山と狩矢はニヤニヤと笑っている。
通常と同じように、女子の制服を着ている霧野と雪路はいいとして……問題はここからだ。
篠崎が女子の制服、折宮が男子の制服を着ていた。
篠崎はもじもじしながら顔を赤く染め俯いており、折宮も俯いてぷるぷると震えていた。
「うん、似合っているよ」
工藤がそんな事を口にした。
四人が着替えに行っている間に工藤は『彼女達には潜入先で、それぞれやるべき仕事を与えるんだー』と笑顔で楽しそうに話していた。
「君達は潜入先で今から俺が言うキャラを演じてもらう」
要は霧野達の設定だろう。
いきなり入って行っても怪しまれるだけだ。
「まず霧野さん。君は『突如転校してきた黒髪美少女』という設定」
「……び、美少女ですか……」
「篠崎さん。君は『クラスにこんな奴いたっけ? 目立たない系美少女』だよ」
「……要するに影薄いってことですよね……」
「雪路さんだね。君には『何かすっげー腹立つ高飛車お嬢様(取り巻き付き)』をお願い」
「何ですの、その癇に障るキャラは!?」
「最後に折宮さん、君は……『学園の不良を束ねる不良少年』で」
瞬間、折宮の手が工藤の顔を掴む。
「ちょっと待て。何で私が男なんだよ、おかしいだろうが!」
「可笑しくないよ。凄い似合ってる」
「ビジュアルの問題じゃねぇんだよ!!」
かくして、四人はミッションのため、剣木浜高校へと向かった。
100
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/26(日) 00:15:23 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
剣木浜高校の潜入に(嫌々ながら)向かうことにした霧野、篠崎、雪路、折宮の四人は何もしないのも退屈なので、適当に話しながら向かうことにした。
だが、全員が話すのはこれからの作戦どうのなどではなく、単なる工藤政宗への愚痴である。
主に話を展開しているのは雪路と折宮だけであるが。
「……ったく、何で私が男子の格好しなきゃいけねーんだよ! 工藤の野郎め……!」
「仕方ありませんわよ。この中で唯一男子に見えるのが貴女だけですもの」
折宮の憎しみが篭った言葉を何てことなく返す雪路。
そんな光景を見ながら霧野と篠崎は苦笑いを浮かべていた。
そんな霧野を横目で捉えた折宮は、
「何笑ってんだよ、霧野。お前もこんな面倒な事に使われて嫌だろ?」
「え? あ、いや……ううん。皆の役に立てるならいいかなって」
霧野は笑いながら答える。
自分にはこんな返し方は出来ない、と折宮は軽く息を吐く。
折宮は言葉を続けて、
「嫌なら嫌って言ってもいいと思うけど? お前だって、藤村といる方が嬉しいんじゃないのか?」
ボッ!! と急に霧野の顔が真っ赤に染まった。
耳までも真っ赤になっており、頭から湯気が出てるとさえ思わせていた。
「そ、そそそそそそそ、そんそん、そんなことあるわけないじゃないのぉぉぉ!? な、ななな、なん、何で急に、そ、そんな……!!」
霧野は急に言われたので、思い切り取り乱し呂律さえも回らなくなっている。
折宮としては『友達といる方が嬉しいだろう』という意味合いで言ったため、霧野がここまで混乱している理由は、彼女にしてはさっぱり分かっていない。
肩を大きく上下に動かしながら息を切らす霧野に、篠崎が落ち着くように背中をさする。
とりあえずどこからともなく罪悪感を感じた折宮は、霧野に一言侘びを入れた。
雪路は大して面識がないのか、篠崎を凝視して、
「しかし、お人形さんみたいな可愛さですわね。藤村さん達が近づくのも分かりますわ」
「べ、別に……藤村くん達はそういう間柄じゃ……。皆とはただのお友達だし……」
篠崎は遠慮気味に話す。
『しかし男は怖いですわよ?』などと雪路が忠告していると、彼女の勘違いを察した霧野が、
「そういう理由でも大丈夫。いくら藤村くんでも可愛いからって男の子に手は出さないでしょ」
場が凍った。
瞬間、雪路と折宮が今までに無い声量で大声を上げた。
「「お、男の子だってぇーーーっ!?」」
二人の声量で、周りの空気がびりびりと振動した気がした。
101
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/26(日) 01:33:23 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ちょうどキリがいい数字なので、100ごとに作者の呟き、みたいな感じで書き込んでいくか。
というわけで一回目の『作者の呟き』です。
今回は主要キャラについて話していこうかな、と思います。
・藤村幽鬼
言うまでも無く本作の主人公。霧野のルームメイトで、一年D組の生徒。
炎の降霊、『焔華(えんか)』を操る降霊術者で、彼女の宿主。神山翔一とは中学からの腐れ縁であり、親友でもある。
工藤政宗に敗北して以来、彼を自分の目標とし、那月流生を師匠としている。
※まあ彼は言うまでもなく、普通の王道主人公ですね。ヒロインと一緒にいる感じの。今では彼女との関係も曖昧ですが、徐々に明かしていこうかと思っています。
彼からしたら霧野も友達で止まってしまうかもですが、彼女が好意を持つきっかけはちゃんと書こうと思います。機会があれば、焔華との出会いも書きましょうか。
ちなみに、彼は作者としてちょっとだけ動かし辛いです。
・霧野七瀬
本作のメインヒロイン。藤村のルームメイトで一年D組の生徒。
刀を扱う黒髪ポニーテールの美少女ではあるが、転入当時は突拍子もない行動を起こしていた(後に藤村達により抑えられてきている)。
他人の役に立ちたいと考えており、藤村とは違う『自ら厄介ごとに首を突っ込む』性格。藤村に恋心のようなものを抱いているのか、彼との関係を仄めかされると顔を赤くしたり、彼の傍に寄ったりなど、藤村を異性として意識している行動を取る。
※今のところ作者の好きなキャラ二位です。一位はもちろん古賀塚さn((
彼女も典型的なヒロイン、と言えばいいのでしょうか? 戦う王道ヒロインみたいな感じで出来上がったキャラです。
彼女と藤村の恋路にも注目ですね。
・神山翔一
藤村、霧野のクラスメートの一年D組の生徒。
戦う姿は未だに描かれていない。霧野が転校した日に、藤村とともに『七瀬チャン親衛隊』を作った。
女子を呼ぶときは名前に『チャン』付けで呼ぶ。
※主人公とヒロインに色々ちょっかいかける王道キャラです。
そしていじられキャラでもあるので、彼が可哀想な少年である事は間違いないです。きっと友達の事が大好きなんでしょうね。
勿論、彼もちゃんと戦わせますよ。……かなり先になるような気がしますが。
・篠崎唯
藤村達と同級生の生徒で、一年C組所属。
誰もが振り返るほど可憐な容姿をしているが、本当は男子である。女子として育てられた同然なので、身体つきが男子よりも華奢で小柄な体型であり、中性的な身体つきをしている。
一人称も『私』で、同級生に対しても敬語で話す。
※こういうキャラ作りたいなー、と思って出来たキャラです。
濃くなるだろう、という理由でつけた性別問題が今ではただの障害物になっている。キャラが薄いです。
この子は出そうと思った時から、いやキャラを考えていた時から活躍させようとしているキャラですから、活躍はばっちりです!
以上がメインですかね。
生徒会や折宮、古賀塚などはメインとは違うサブキャラですね。
バ会長や副会長は……まあメインでも良いんですけど、生徒会メンバーで固めたかったんです。
そえでは、次回の『作者の呟き』は200レスの時に。
まあ会いましょう。
102
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/08/31(金) 20:26:22 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「いや、霧野……さすがに無理があるだろ」
霧野の発言に、大きな声を出したもののやはり信じられなかった折宮はそう言う。
そんな折宮の傍らで、同じ意見を持つ雪路はこくこくと頷いている。
そう言われても、という表情で霧野と篠崎はお互いの顔を見合わせた。
「……いや、私でも信じられないけど……本当なんだって」
「お前も信じてないのかよ」
霧野の言葉に折宮はそう返す。
言いながら、折宮は身長の関係上見下ろすように篠崎を見つめるが、元々目つきが悪い彼女が、凝視しているためさらに目つきが鋭くなり、睨みつけているような状態になっているため、篠崎は僅かに怯えている。
彼女が注目しているのは、篠崎の顔でも体型でもない。男か女かを見極めるために彼女が見ている先は……。
「……できれば、これは実行したくなかったが……篠崎、すまん」
折宮は言うと、スッと両手を伸ばし、
篠崎の胸に自分の両手を押し当てた。
押し当てて数秒、篠崎が恥ずかしいと思い始めた瞬間に、折宮はゆっくりと胸から手を離し、未だ相手の胸に触れていた官職が残る手の平を見ながらぶるぶると震えていた。
その光景を不気味に思いながら雪路が折宮に問いかける。
「折宮さん。どうかいたしましたの?」
「……ない」
雪路はよく聞き取れなかったため『は?』と声を漏らす。
何でもない、と言ったのか深く言及はしなかったものの、折宮はゆっくりと雪路の方を見て告げた。
「……胸なかった……」
「えぇーっ!? う、嘘でしょう!? そんな、胸がな……、えぇーっ!?」
雪路も雪路で相当混乱しているようだ。
恐らく彼女の言いたいことは『女性なのに胸がないなんておかしいですわー』的な事だと思う。篠崎は僅かに頬を赤くしながら、
「だ、だから男だって言ってるじゃないですかっ!」
混乱する折宮と雪路に篠崎はそう言い放った。
そんなこんなで四人は潜入先である剣木浜航行の門の前へと到着していた。
四人は門の奥にそびえる校舎を見つめて言葉を交わす。
「……やっと着いたな、いや。着いちまったな」
「あらあら、まだ嫌がってるんですの? いい加減覚悟を決めたらいかがです?」
「そうですよ。……私だって学ランが良かったんですから」
「いや、お前が着たら着たで違和感ありまくりだろ」
「まあそれは同感ですわ」
「まあまあ、とりあえず工藤会長から任された任務……しくじるわけにはいかないよ!」
四人は誰が言うまでも無く、校舎の中へと脚を踏み入れていく。
そうしながら折宮が全員に呼びかけた。
「行くぜ」
103
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/02(日) 00:32:28 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
とりあえず、工藤に言われたキャラ(設定)で剣木浜高校の中に潜入する事になった霧野、篠崎、雪路、折宮の四人はそれぞれ行動を開始する事にした。
一、霧野七瀬の場合。
転校生、という設定であるため、一時間目の授業が終われば彼女の周りには数名の生徒が集まっていた。比率的には女子の方が多めだが、男子も三、四人程度視界に映っている。
彼女はクラスメート達に囲まれながら、内心ではこう思っていた。
(……はあ、まさか二ヶ月程度の間で転校生としての自己紹介を二度もするなんて。どんだけ親が転勤してる家庭なのよまったく……)
設定をつけた工藤への愚痴にも思えるが、彼の言ったとおり、霧野の噂は『謎の美少女転校生』となっていた。
本人では『美少女』という自覚が無いため、そう囃し立てられるのには少し抵抗があり、本人としても恥ずかしい。
(うぅ、早く戦場原学園に帰りたい……)
真っ先に思い浮かんだのは藤村の顔だった。
彼が一番最初に思い浮かぶ、ということは彼に何か特別な感情を抱いてしまっているのでは、と考えてしまうが首を左右に大きく振って思考を無理矢理に変える。きっと一番身近にいるから思い浮かんだだけなんだ、という思考に。
一方で、霧野に質問してくる男女はこっちの気などお構いなしである。
「ねーねー、霧野さんってどんな男性が好みなの?」
「音楽とか聴く? 好きなアーティストとかは?」
「得意科目は何かな? 私は英語が得意なんだけど……」
「霧野さんっていい匂いするけど、何か香水使ってるの?」
「どうやったらそんな綺麗な髪を維持できるのー?」
クラスメートの質問攻めに目をぐるぐると回す霧野。
彼女はその場の全員を牽制するように、手の平を前に突き出して制止を促した。
それから呼吸を整えて全員に告ぐ。
「……ちょっと待って。質問には答えるから……答える代わりに、私が聞きたい事、先に聞いてもいいかな?」
二、篠崎唯の場合。
潜入した教室では休み時間中であった。
隣の男子が友達と仲良く話している内に、話しが盛り上がり僅かなアクションが交えられる。しかし、アクションが大きかったため、篠崎の机に男子の手が当たり、篠崎は『ひゃっ!?』という声を漏らす。
「あ、悪い……」
男子は思わず謝罪をした。
『クラスにこんな可愛い子いたっけ?』という設定の篠崎は、涙目になって男子生徒二人を見つめている。
その光景を目の当たりにした男子生徒は僅かに頬を赤くして、ひそひそと会話を始めた。地獄耳の篠崎には聞こえていたが。
「(……おいおい、あんな可愛い子クラスにいたか?)」
「(……いや、覚えてないけど……でも確かに超可愛いよな)」
「(ちょっと誘ってみよーぜ)」
二人は意見がまとまったのか、にっこりと笑顔を浮かべながら篠崎に問いかけた。
「え、えーと……今日時間ある? 良かったら俺らと喫茶店でさぁ……」
「……あ、あの、えっと……私、その……」
急な誘いに頬を赤くしてもじもじしだす美少女に見える少年篠崎唯。男と分かっていない男子生徒二人の心はもう篠崎の可愛さに射抜かれている。
僅かに困ったような表情を浮かべたまま、小さな声で返答を返す。
「……べ、別に構いませんけど……。……その、私なんかでいいなら……」
男子生徒二人は小さくガッツポーズをする。
篠崎は座ったままなので、どうしても男子生徒二人には上目遣いになってしまうため、その状況を利用して篠崎は上目遣いに訊ねる。
「その代わり、私が聞きたい事を聞いてもいいですか?」
104
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/02(日) 17:46:45 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
三、雪路冬姫の場合。
「ヲーホッホッホッホッ!! ホホホホホホ!!」
高笑いをしながら廊下を闊歩する雪路冬姫。これで回りに二、三人程度取り巻きの人がいればより偉そうかつ、周りの生徒も座めきだすだろうが、今一人の彼女ではただの痛々しい生徒である。
彼女は表では笑っているものの、内面では大号泣していた。
(……はぁ、何でわたくしがこのような役回りなんですの……? 工藤会長様もわたくしの事を勘違いなされていますわ。とりあえず、嫌でも課せられたお役目はまっとうしなければ。少しでも有力な情報を入手し、会長様のお役に立って見せますわ!)
彼女が自分で自分を奮い立たせた頃、丁度男子生徒がひそひそと会話を始めていた。
雪路は高笑いをしながら、その会話に聞き耳を立てていた。
適当に笑えばいいのだから、と考えている雪路であったが、聞き耳を立てるあまり高笑いが『おほほほ』から『うへへへ、ぐへっぐへっ』という下品な類の笑いに変化してしまっているが、雪路本人は気にしていないのだから、勿論気付いてなどいない。
彼女が聞いた会話を整理するとこういうことだ。
『あの女子ちょっと可愛いよな』『一年生の子か?』『俺、ああいう黒髪ロングがタイプなんだよなー』『ちょっと話しかけてみようぜ』といったところである。
雪路は心の中で思い切り叫ぶ。
(―――キタァァァ!!)
雪路は会話をしていた生徒の方へと振り向き、踵で音を鳴らしながら近づいていく。
それから動揺している生徒達に向かって、『高飛車なお嬢様キャラ』を全面に出した台詞を言う。
「あらあら貴方達、わたくしに興味がおあり? ならば傅(かしず)いても構わなくってよ? ただし!」
やるべきことを失念していない雪路は、しっかりと条件をつける。
「わたくしの知りたいことに、何でも答えてくださる?」
四、折宮明日香の場合。
学校の裏庭辺りで、折宮は表情を引きつらせながら戸惑っていた。
彼女が思うことは『どうしてこうなった?』である。
それもそのはず、彼女が転校してきていきなり不良グループに突っかかられたからリーダー格をぶっ飛ばしたところ、新たなリーダーとして担ぎ上げられたのだ。元々男っぽい顔立ちで学ランを着ているので、皆からは『兄貴』と呼ばれている。
工藤から出された彼女の設定は『不良少年』であるが、ここまで思い通りに行くとは思ってもいなかったであろう。
(……ちっくしょー、すんなり設定を達成しちゃった。案外工藤の考えも的を射てたってことかよ、納得いかねーし。しかも私、『兄貴』じゃないし)
とも言えず、彼女は仏頂面で座っており、頬杖をついている。
妙に不良スタイルが板につく少女だ。
「兄貴! 校内に美少女転校生と謎の影薄い美少女と高飛車な美少女がいるらしいですが、人目見ておきますか?」
一人の不良がそう言ってきた。
何でもかんでも美少女かよ、とツッコミたくなるのを抑え、彼女は軽く息を吐いた。
不良が言うに霧野と篠崎と雪路も上手く潜入できたようだ。彼女は一安心すると、
「いや、そこまで興味もねーし見る必要もねーよ。とりあえず腹減ったから焼きそばパンといちごミルク買ってこい」
へい、と返事をした不良とその他二人ほどが購買へと駆け足で向かっていった。
折宮は近くにいた地位的に二番目くらいの奴に、『耳を貸せ』と指で合図をする。
彼女は男に耳元で囁いた。
「今から俺が聞くことに全て答えろ。一つでも答えられなかったら叩き潰すからな」
105
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/09/05(水) 19:51:08 HOST:p10226-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
コメント失礼しますノ
さて、明日香姉さんがかっこよすぎるのですがどうしましょう←
毎度のことですが、どうも月峰は翔が書くかっこいい系の女の子を好きになるみたいです(´・ω・`)
というか、明日香姉さんと七瀬ちゃんの絡みが凄く好きです!なんというか、クールな子が一人だけに心を開くというか、そういうのが大好きなんですw某都市最強な白い人然り((
さて、無差別に生徒が襲われる事件……怖いですね。主犯は果たして誰なのでしょう。
それでは、今後も藤村ハーレム……じゃなくて、幽鬼くんの活躍を楽しみにしてます!
さらにいうと、翔一くんが何気に好きなので、彼の活躍も楽しみにしてますw
ではでは、続きも頑張ってください^^
106
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/06(木) 16:43:03 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ナギー>
コメントありがとうございます。僕の方もこの呼び方でいきますね^^
いきなり姉さんと呼んでもらえるとはw きっと明日香も喜んでいますw
本当は明日香は一人称『俺』でもっと男みたいなしゃべり方にしようかと思っていたんですけど、今更ながら男性キャラの個性がそげぶされそうなので、一人称は普通の女性キャラと一緒にしました。
自分の中でもかっこいい系の女性が好きなので、それで結構多めになっちゃったりしてるかもですw 明日香が出てからは、かっこいい系女性の登場はほとんどなくなると思いますw
明日香と七瀬の絡みはやろう、と思っていたことなのでw 構想どおりにできてホッとしていたりしますw 白い人……いいや、彼はロリコンなだk((
この話で風紀委員いっぱい出てきてもいいはずなのに、一人だけに任すとか委員長さん大胆(( ともあれこの事件で懐かしい(?)人物が出てきますw
あー、明日香もハーレムに加わるという嫌な予感が……。幽鬼に好意を寄せる女性を少なめにしようと思っていたのに((
彼は中々目立たない幽鬼の親友です。僕も彼が好きなので活躍させようかな、とは思っていますw 今のところ可愛そうな場面しかありませんがw
はい。期待に沿えるようがんばります^^
107
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/08(土) 17:55:33 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
『というわけで、私の聞き込みでは有力と思われる情報は手に入りませんでした。皆さんも事件のこことは知っているものの、黒幕などは全く知らないらしいです』
携帯電話から聞こえてくる可愛らしい声を聞きながら、生徒会長工藤政宗は静かに『そうか』と返した。
彼の電話の相手は戦場原学園の生徒を襲った主犯がいる剣木浜高校に潜入している四人のうちの一人、篠崎唯だ。彼は事件の詳細を知るために、篠崎以外にもう三人、霧野七瀬、雪路冬姫、折宮明日香を潜入させており、彼女達から情報を受け取る、という方法を実行していた。
今は篠崎唯から情報をもらっていたのだが、本来情報を教えてくれた側がする表情を工藤はしていなかった。どこかまずいような、同じことを何度も繰り返し言われたような顔だ。勿論のこと、篠崎は何度も繰り返し言ったわけではない。
「……なるほど」
『すいません。有力な情報を掴むことが出来なくって……』
申し訳なさそうに謝る篠崎に、工藤は慰めるように優しく言葉をかけてやる。
慰める、というより皆もこんな感じだから、というようなニュアンスで。
「いや、別に謝る必要はないよ。そうだろうと、俺も予想していたからね」
『へ?』
篠崎はきょとんとしたような、間のぽっかり抜けた声を思わず漏らした。
工藤はきわめて落ち着いた様子で、受話器の向こうにいる篠崎に語りかける。
「実は君からの連絡のちょっとだけ前に霧野さんと雪路さんからも連絡があってね。二人ともこう言ったよ『事件を知っていても黒幕を知っている人はいない』ってね」
それって、と篠崎が気付いたような声を出した。
四人のうち三人からの情報が全て同じ、ということは剣木浜高校に黒幕を知っている一般生徒はいないということになるのではないか。
篠崎も工藤も僅かにそんなことを感じ始めていた。
『そ、それじゃ……、私達が潜入しても意味なんてないんじゃ……っ!』
「すまないがそうかもしれない。でも、これは君が悪いわけじゃないから大丈夫だよ」
篠崎は唇を噛むような声を漏らすと、
『……何かあったら、また電話します』
すっかり落ち込んだ様子で、向こうから一方的に電話を切られた。
しばらく携帯電話を眺めて黙っていた工藤に、彼のルームメイト真田紫はお茶を入れたコップを運んできながら彼に聞いた。
「で、どうだったの? 貴方が送った潜入隊達は。上手くやってた?」
彼女の言葉に工藤は僅かに表情を曇らせ、
「んー、上手く溶け込めは出来たようだよ。ただ、情報の収集に手間取ってるみたい」
そう言うと、工藤の携帯電話がコール音を鳴らした。
表示された名前は『折宮明日香』。あれ、番号教えてたっけ? と不審に思う工藤だったが、携帯電話を開き、耳に当てると、
『工藤、テメェこの野郎ッ!! ふざけてんのか!!』
とんでもない怒号が飛んできた。
そんな怒らせるようなことしたかなー、と思う工藤だったが、今の大音量に携帯電話が壊れてなくてよかったと本気で思う。
彼は再び携帯電話を耳に当て、嫌そうな応対をする。
「……えー、何? 明日香ちゃん、何をそんなキレてんの? 俺なんか悪いことしちゃった?」
『そうじゃねぇよ。お前私にだけ連絡先教えてなかったろ! 折角の情報を手に入れてやったのに、どういうことだ。わざわざ霧野に教えてもらったよ!」
情報、という言葉を聞いて工藤は、
「あー、いいよ。結局君も黒幕までは掴めてないだろ? 実は他の三人もさー」
『ってことは私が一番乗りってことだな』
その言葉に、工藤の目つきが変わる。
「ってことは……」
『ああ。黒幕まで掴めたよ』
工藤は声色を真面目な調子に戻して、折宮に言う。
「明日香ちゃん、教えてくれ」
『いいよ。ただし、「教えてください折宮サマ」って言ったらな』
108
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/10(月) 15:28:59 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
言われたとおりに工藤は『教えてください折宮サマ』と言ったが、折宮の方が中々話してくれなかった。それもそのはずで、工藤の言い方が棒読みだったことが気に入らないらしい。結果的に工藤は五回ほど言い直させられて、ようやく折宮の口から情報を聞き出すことに成功した。
さすがに五回もやれば面倒になってきたのか、折宮もきっと妥協してくれたのだろう。
『まず情報の確認といこうか。お前が手に入れた情報をもう一回言え』
「……折宮さんってさ、俺が先輩だって忘れてない?」
命令されたことに怒りはしないものの、工藤はため息をついてそう言った。本人である折宮は特に何も言わない。代わりに『知るか』とだけ返ってきた。彼女は一生自分に敬語を使わないだろう、と工藤は確信した。
とりあえず話が進まないので、工藤は折宮の言ったとおり情報の整理と考えて知っていることを話した。
とは言っても、犯人に繋がる情報は『剣木浜高校の生徒』ということしかないが。
工藤は話し終わると、折宮に問いかけた。
「俺の情報が全然役に立たないことは分かってるよ。君はそれほど勝ち誇りたいのかい?」
『嫌な奴みたいな言い方するな。そんなんじゃないし、お前より優位に立とうとも思ってない』
こりゃ失敬、と工藤は素直に謝るが、真剣にではないだろう。
そんな工藤とのやり取りにも慣れたのか、折宮のため息も今まで長い間工藤と接してきたような感じがした。身近な人物でたとえると、真田紫あたりがつきそうなため息だ。
折宮が話を戻そうと、真剣な口調で再び口を開く。
『犯人の数って、大体何人ぐらいか把握できてるか?』
「さあね。そこまではさすがに分からないや。人数も把握できたのかい?」
『まあ、そんなところだが……』
最後の方だけ、自信に溢れてた口調から頼りなさが突出してきた。
? と工藤が首を傾げていると、折宮は先程の工藤の情報をもう一度確認するように聞き直した。
『さっき確か、犯人は「剣木浜高校の生徒だ」って言ったよな?』
「ハズレだったかい? 少し自信があったんだけど―――」
『いや当たってるよ』
折宮は一泊置いて答える。
『一人を除いてな』
工藤の表情が一瞬にして変わる。
犯人は複数。そのうちの一人が、剣木浜高校と関係が無い外部の人間だとでも言うのだろうか。
折宮は落ち着けるような口調で、
『主犯は五人。四人はれっきとした生徒だが、一人だけ名簿を見ても確認できなかったんだ。実際に私が見たわけじゃなく、舎弟どもが言ってたから、ガセの可能性もあるんだけどな』
「……さすがだね、もうそんなところまでたどり着いたって言うのか」
『マグレだよ。実際私が霧野達と同じようなやり方だったら、手に入れられてなかっただろうしな。そこは感謝しとくよ』
「はははっ、やめてくれよらしくない。しかし、さっき舎弟って言った? 反論してた割にはノリノリじゃないか」
「うっせーよ。ノってるんじゃなく、ノせられてるんだよ』
折宮は嬉しそうに言う。
その後も情報が続いたが、主犯五人の名前は判明していないようだ。聞こうとしたが舎弟達も知らないらしく、ただ五人が犯行を行ったのは知っているらしい。
「とりあえず、情報ありがとう。明日藤村くん達にも伝えておくよ。潜入組への伝達はよろしくね」
『オイオイ、私任せかよ』
折宮は軽く笑いながら言ったが、素直に了解した。
『あ、そうだ』
思い出したように、折宮は工藤が電話を切るのを止める。
工藤が眉をひそめていると、折宮は確認というよりは、質問的なニュアンスで問いかける。
『お前、篠崎が男だって知ってた?』
数秒の沈黙。
工藤の回答は『もちろんさ』という自信に満ちたものでもなければ、『えぇっ!? そうだったの!?』というオーバーなものでもなく。
「……うっそーん……」
言葉の割にはテンションの低いリアクションだった。
109
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/17(月) 21:00:29 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「へぇー、戦場原学園の生徒が無差別にねぇ」
武器屋『ウェポン』の女店主、那月流生は売り物の刀の刀身を入念に磨きながら言った。何度も何度も磨いた刀身は元の輝きを取り戻し、ぎらぎらと銀色に光っている。見てるだけで切り裂かれそうだ。
しかし、流生はまだ満足してないのか刀を眺め『うーん』と声を漏らすと、再び磨き始めた。
どうも納得していないようだ。やはりこういうものは素人には分からない職人のこだわりみたいなのがあるのだろうか。ドライな流生にあるとも思えないが。
流生の言葉に藤村は頬杖をつきながら言い返す。
「とか言って、本当は知ってたんでしょ、工藤会長とかの連絡で」
「あはは、やっぱバレたか!」
流生は笑い飛ばしながら言った。
やっぱり知ってたのか、と藤村は心の中で思う。こういう重大なことを工藤は伝えてそうだなと思い『ウェポン』に来て正解だった。
流生は刀を磨きながら、
「まあそれはそうとして、お前らも大変だな。つーか敵地への潜入メンバー誰一人知らないんだけど」
「あ、そうだった……」
霧野も篠崎も折宮も『ウェポン』に来たことがなかった。修行場所がここであることは伝えてはいたが、紹介はしてなかったな。今度連れて来ようと藤村は思う。意外と神乃院もここを雪路に教えてなかったようだ。彼女もついでに連れて来よう、と藤村は再度思う。
藤村が来たことに気付いた『桜っち』こと桃音ミルが明るい表情をして藤村にまとわり付く。
流生との戦いで藤村に好意に最も近い興味を抱いたらしく、藤村が来るのをずっと心待ちにしていたのだ。彼女は幸せそうな表情をしながら藤村にくっついている。藤村もどう対処すればいいか分からず、宙を泳がせていた手を落ち着かせ、彼女の頭の上に軽く乗せた。
「しっかし政宗も頑張ってやがるな。会長に向いてないとか言いやがって、相変わらず適当な奴だなー」
「いや、今も適当っすよ? でも意外としっかりしてるよな。潜入メンバーを選んだ基準はよく分からんが」
「まあそういうもんだって。私だってそこは適当に選ぶ自信しかねーし」
自信持つとこか? と藤村は心の中でツッコむ。
桃音が顔を上げて藤村を見つめると、彼女はテレパシーを使って藤村に問いかける。
『犯人のシルエットは掴めても、事件を起こした理由は分からずじまいですか。ちょっと手こずりそうですね』
「そうなんだよ。一体どんな理由が……」
「ただ喧嘩を売りたかった―――ってのは考えられねぇか?」
流生が口を開く。
彼女は磨いてた刀をようやく鞘に収めて机の上に優しく置いた。
藤村が聞き返すよりも早く、彼女の次の言葉が紡がれた。
「襲撃事件には因縁ってのがつきものだ。だが、それは特定個人に対してだけ。襲われた奴同士には何の関係もなかったんだろ? 同じ場所にいたってこと意外は。だったら、『喧嘩を売りたかった』ってのも考えられない理由じゃない」
藤村は納得してしまう。
確かに無差別な襲撃事件ならばいちいち理由をつけることもないはず。
この意見に意義を発したのが桃音だ。
『でもそんな子供っぽい理由でやりますかね? いくらなんでも単純すぎるというか……』
「単純で良いんだよ、こういうのは。ぐだぐだ考えたら良い理由ってのは中々浮かばないもんだしな」
桃音も納得してしまった。
流生は藤村の方を見つめて言う。
「卒業生の考えだ。そこまで深く考え込むこともない。―――だが、」
「ないとは言い切れない、ですよね」
「分かってんじゃん」
藤村は椅子から立ち上がって扉のドアノブに手をかける。
「ありがとぐおざいました、流生さん」
「政宗によろしくな」
藤村は勢いよく扉を開け、逃げ出すように店内から飛び出していった。
110
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/10/27(土) 17:27:48 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.13「脱出開始」
流生に言われた可能性の情報を、『ウェポン』から飛び出した藤村は生徒会室に戻りその場にいた工藤、真田、神乃院、神山に伝える。二年生メンバーと狩矢は見回りのようだ。いつ事件が起きてもおかしくないため、ゲームセンターに近寄る生徒を早く帰らせているらしい。
藤村が流生の言っていたことを話すと、工藤は考えるような仕草をしながら頷く。
「そうだね。可能性としてはありそうだ。それにしても、何処に行ってたのかと思ったら『ウェポン』にねぇ」
苦笑いをしながら工藤は言った。
どこか自分も行きたそうな感じに聞こえたが、仕事のせいで行けない。子供と約束していた遊園地を仕事が入ってしまい行けなかったお父さんみたいだった。
椅子に腰を掛けながらプリンを食べている真田が口を開く。
「流石、と言ったところかしら。あの人は私達みたいなカチコチの頭じゃ考えられないような思考回路をしてるからね。こういうところではかなり頼りになるわ」
まるで他はてんでダメみたいな発言だった。
流生が聞いたらどういう反応するんだろう。多分怒りも泣きもせず『あっはっはっはっ! 言うようになったじゃねぇか!』とか言ってむしろ喜びそうだ。
「でも、そうだとしたら疑問があるんですけど……」
神乃院が遠慮気味に手を挙げながら言った。
工藤と真田の視線が彼女に集中し、彼女は泣きそうな顔になりながらも質問の内容を伝える。
「工藤会長が折宮から手に入れた情報は『犯人の一人は学生ではない』。そして流生さんは『喧嘩が売りたかっただけ』。一体こんなことやって何になるって言うんですか? 大体、喧嘩を売りたいなら別に私達じゃなくてもいいでしょうに」
「そこが不思議なのよね」
真田がプリンを食べ終わり、溜息をついた。
犯行理由が分かっても動機が不純で目的が掴めない。彼らが一体何のためにこんな事を行ったのか。それが掴めないというのは何だか気持ちが悪い。
すると黙っていた神山が口を開く。
「んじゃ、その学生じゃない奴がうちに因縁があったんじゃねぇの?」
「―――!」
神山の言葉に工藤が表情を変える。
それに気付かない他のメンバー。真田が神山に呆れたように溜息をつく。
「それも考えたわよ。でもだったら何故在籍中の奴らがそいつの指示に従ってるのよ。突付けばいくらでも質問が出てくるわよ?」
「……いや、あの……あくまで可能性であって……」
真田の鋭い指摘に神山が完全に萎縮する。彼女は改めて怖いと全員が確認した。
「……一人、いるんだ」
工藤が口を開く。
意味深かつ意味が分からない言葉に全員が注目する。
工藤は全員の視線を感じたのか、彼らが駆動の方へと向くと話を始めた。
「あの学校でたった一人いたんだ。かつて俺と戦ってボロ負けした奴が。そいつは剣木浜高校で一番強く、信頼されている奴だった。あいつは俺達より一つ上だったから今回の事件とは関係ないと思ってたけど、かつての最強が声を出せば、全員が協力態勢に入るだろうね」
「……懐かしいわね。二年前だったっけ?」
真田が口を開いた。
彼女は一年の時から工藤といるため、彼に関する事件や出来事には彼女も関わってきた同然なのだ。だから覚えていたのだろう。
「奴の名前は東城影史(とうじょう かげふみ)。戦場原を去った後、剣木浜で最強に返り咲いた男さ」
111
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/17(土) 22:39:44 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「……剣木浜、かつての最強?」
工藤の言葉に藤村、神山、神乃院の三人が復唱した。
彼らは今年の四月に入学したばかりだ。工藤と剣木浜の最強、東城との事件は二年前。彼らがまだ中学二年生の頃だ。知らないのも無理はない。同じ高校の一年と二年が決闘した、という噂を神乃院が耳にした程度だ。
真田は二つ目のプリンカップを開けながら口を開いた。
「政宗くんと東城先輩の事件は、二人の苗字の頭文字を取って『東工(とうこう)事件』と呼ばれてるわ。ま、事件と言うほど大きなことじゃなかったんだけどね」
プリンを食べながら真田は淡々と述べる。
その事件に直接とは言わずとも、現場は目撃していたはずだ。その割には噂だけを耳にしたような、自分はそのことをほとんど知らなかったような口調だ。
あまりに淡々とした口調に違和感を覚えた藤村の心中を読み取ったのか、工藤は口を開いた。
こういう時は、何かと鋭い男が工藤政宗だ。
「紫ちゃんは決闘の場面を目撃したわけじゃないからね。彼女が駆けつけたのは決着がついた後さ」
「そうなんですか?」
反応を示したのは藤村ではなく神乃院の方だった。
彼女も真田の反応には違和感を覚えていたようだ。当の真田は冷蔵庫から三つ目と四つ目のプリンを取り出している。かなり上機嫌だ。
神乃院の反応に、真田はプリンを取り出しながら言葉を返す。
あくまでも淡々と。自分は無関係だ、とでも主張するように。
彼女の口調はさらりとしていて、聞きやすいといえばそうだが、違和感を覚えずにはいられない。
「まあ、二人が決闘するなんて知らなかったし。クラスメートから聞いて初めて知ったわ。柄にも無く血相変えて飛び出しちゃったし」
真田は冷静さを失わない人物だ。それは今までのやり取りからでも、藤村や神山は分かっていた。
能天気な工藤を支え、苛立つことが多い那月をなだめ、控えめな明智を牽制し、神乃院に好かれるような非の打ち所の無い彼女だ。よって生徒会メンバー四人の中でも群を抜いて冷静なはずだ。そんな彼女が血相を変えて飛び出すほど、工藤と東城の決闘は恐ろしいものだったのだろうか。
「当時の生徒会長は緩かったからね」
今でもそんなに変わらないだろうが、彼女は誤解を生まぬように『今よりもね』と付け加えた。
真田は四つ目のプリンも食べ終わり、再び冷蔵庫からプリンを取り出そうとするが、既になくなっていることにショックを受けていた。
ショックを受けたまま、彼女は説明を続ける。
「……当時の会長さんは形だけの置物のような会長さんだったわ。仕事を部下に任せ、実力があるくせにそれを振るわない。良いように言えば平和主義者。悪く言えばただのヘタレ。それが当時の会長だった。だから政宗くんと東城先輩の決闘を知っていても何も言わなかったんでしょう。仮にも当時の二年最強だったんだから。東城先輩は」
「あの時は俺もびっくりしたよ。いきなり先輩に喧嘩売られたんだもの。それを言うなら俺も藤村くん達に似たようなことしちゃったね」
工藤はあはは、と笑い飛ばす。
そこで、神山ははっとする。
「って待てよ。じゃあ本拠にいる七瀬チャン達が危ないんじゃ?」
「大体そうですよ! そんな危険人物がいるなら、早く退却させた方が大体良いですって!」
そうだね、と工藤が呟くように言う。
「紫ちゃん。俺から連絡しとくから、打ち合わせておいた場所へ向かってくれないかい」
「了解」
二人はまるで長年連れ添った夫婦のように必要以上の言葉を交わさなかった。
真田は部屋を出て、工藤は携帯電話で連絡を取る。
連絡先は折宮明日香の携帯電話だ。
112
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/12/02(日) 14:28:46 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
折宮はグランドに出ていた。
工藤政宗からの退却命令のメール。それを見た瞬時に彼女は他の潜入メンバーである、霧野、篠崎、雪路にメールを送った。内容は『グランドに集合。四人揃って退却する』という内容だ。
学ランを着た彼女がグランドで待っていると、篠崎と雪路が到着した。
あとは霧野だけか、と折宮は小さく呟いた。
「いきなり退却なんて急ですわね。取り巻きに妙な表情をされましたわ」
「俺だって納得いってないっつの。舎弟にメシ頼んでたんだぞ」
不機嫌そうに返答する折宮を見ながら、篠崎は口元に手を寄せてくすっと笑った。
それに気付いた折宮が鋭い眼差しで篠崎を見る。というより、睨んでいるという方が合うくらい眼光が鋭い。
目だけで『何笑ってんだよ』という質問を感じ取ったのか、篠崎は軽く謝ってから、
「折宮さん、今回のこの役。楽しかったでしょ?」
「なっ……!?」
篠崎の言葉に折宮はドキッとする。
彼女は僅かに頬を赤くしながら、叫ぶように反論する。
「そ、そんなわけねぇだろ!! 何で俺が工藤のお遊びに楽しさを感じてると―――ッ!」
「一人称。ちゃっかり『私』から『俺』に変わるほど役にハマってますわ」
ぎくり、と折宮は自分でも気付かないほど自然な今の状態を雪路に指摘されて、ようやく気がついた。
確かに潜入するまでは彼女は自分のことを『私』と呼んでいた。潜入した頃はうっかり『私』と言いそうになっていたが、今はそんな危うさも無い。むしろ、自然に『俺』と言ってしまうほどだ。
折宮は地面に手と膝をつきながら、どんよりとしたオーラを漂わせている。
「……忘れてくれ……。覚えててもいいが、役になりきっていたことは工藤に言うな……」
「分かっていますわ」
「大丈夫ですよ。言ったら工藤会長が折宮さんをいじり倒すの目に浮かびますし」
篠崎の言葉が、妙に折宮の心をえぐったことに本人は気付いていない。
篠崎は校舎の方に視線を移し、
「それにしても、霧野さん遅いですね。ちゃんとメールは送ったんですよね?」
「送ったよ。そこら辺は忘れないって」
「あ、そういえば」
すると雪路が思い出したように、
「中間試験中に神山さんが『最近出来た女の子の友達のメール返信が異様に遅い』と言ってましたわ。翌日教室で出会ってメールが来てたことに気付くとか。時期的に、その友達というのは霧野さんでは?」
全員が固まった。
中間試験といえば藤村、神山のいるD組に霧野が転入してきて数日後の出来事だ。女友達のいない神山が『最近出来た』というくらいなのだから、霧野のことで間違いないだろう。
もしかしたら折宮の連絡も気付いてないかもしれない。
「……折宮さん、どうしましょう……?」
折宮は無言で携帯電話をポケットから取り出し、
「あんにゃろう! 手間取らせやがって! ちょっと待ってろ、今すぐ電話をかけて―――」
じゃり、と地面を踏みしめる音が三人に届く。
気付けば周りには数人の剣木浜高校の生徒。彼らの手には鉄筋やバール、金属バットなどの鈍器が握られていた。これからどこかに攻めに行くような様子だ。
だが、この状況を見た三人が『どこかに攻めに行くんだな』とは思っていなかった。
自分達を襲うとしている目を、彼らがしていたからだ。
「……目測十人前後か。いけそうか?」
「いいえ、もっと多くなりそうですわよ?」
「なりそう?」
雪路のその言葉に折宮が彼女の視線の先を見つめる。
見れば校舎からさらに何十人と押し寄せてきていた。
「まさか、校舎の中が敵だらけってことはないよなあ?」
「ありそうですね。だとしたら」
一番危ないのは誰か。
折宮も雪路も篠崎も。それはすぐに答えが出てきた。
今ここにおらず、校舎にいる可能性が極めて高い霧野七瀬だ。
折宮はこめかみに青筋を立て、
「……篠崎、雪路。とっととこいつら潰して霧野を連れて帰るぞ!!」
彼女は短刀を逆手に持ち、臨戦態勢に入る。
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