[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
メール
|
1-
101-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
FRAME・GHOST
1
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/20(日) 15:12:12 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
こんにちわ、もしくは初めまして。
といってもこの掲示板で何度か作品を投稿して、続いたり、続かなかったりを繰り返しております。竜野翔太です。
三作同時進行は厳しいなー、と思いながらもこの作品を投稿したのには理由がありまして。
それは知りたい人がいれば、お答えしましょう。
なるべく注意してるつもりではありますが、頭で出来た設定が中々上手くいかず更新できないという例が幾度かありますので、これもまだまだ未完でありますので、何卒お付き合いくださいませ。
注意事項です。
・本作は学園とバトルが入っており、恋愛もちょこっと混ざってます。
・チェンメ、荒らしなどはご遠慮ください。
・グロ表現はなるべく控えますが、もしかしたらあるかもしれません。
・パクリや倒錯などはしていないつもりですが、もしも『アレ?』と思う点があれば、お申しください。
・誤字脱字、あると思いますがその時は早めに訂正いたします。
・コメントや意見、アドバイスなども受け付けております。
長くなってしまいましたが、次レスから始めさせてもらいます。
2
:
ライナー
:2011/11/20(日) 15:25:58 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼いたします、ライナーです^^
ほう、3作目ですか。MAGIC MASTERのほうも良かったとは思いますが、止めてしまったんですね。
是非3作目の制作理由を伺いたいですね^^
まあ、3作目を作ると言うことはラフがしっかり描けていることと存じます。
ってなわけで、こっちもチョクチョク見ていきたいと思いますので、宜しくお願いします。
ではではwww
3
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/20(日) 15:41:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.1「戦場原学園」
―――戦場原学園。
東京都の三分の一の学園面積を誇るその学園では、少し変わった授業を受けている。
それは自分の『強さ』によって学年とクラスが決まる事。
無論、武器の携帯はオーケーで、持ってこないということはほぼいないだろう。
四十人ごとにクラス分けがされており、トップの四十人がAクラスに入る。それから四十区切りでB、C、D、E、Fと下がっていくごとに強さは弱くなっていく。
そう、この学園は『強さ』至上主義なとんでもない学園だ。
そして一人、その学園で暮らす少年がいる―――。
「……ぅあ」
少年は学生寮の一部屋で小さな呻き声を上げる。
丁度目覚まし時計が耳障りな音を鳴らす少し前に起きる事が出来た。
黒い髪をツンツンにしたその少年は、二人が充分に暮らせそうな寮の中で、誰にという訳でもなく呟く。
「―――眠ィ」
「だからさぁ、結局のところ女の魅力は全て!身体に詰まってるってワケ!」
「……朝からなんつー話をしてんだよ、テメーは」
少年は自分のクラスの教室、1-Dに入ると、友人の話に溜息をつく。
二人は席が前後で、前の席に座っている相手が身体の向きをこっちに向かせている。
「……実のところ、幽鬼(ゆうき)もそう思うだろ?」
「お前じゃねーし、思うかよ」
幽鬼、と呼ばれた少年は当然のようにそう返す。
一年D組の少年、藤村幽鬼(ふじむら ゆうき)は下から三番目という、中途半端な『強さ』のクラスに在籍している。
弱い、とまではいかないが、お世辞にも強いとは言えない。そんな微妙な立ち位置のクラスだ。
彼と話していたのは、神山翔一(かみやま しょういち)は藤村と中学からの付き合いの友人だ。
腐れ縁、という表現が一番合っているような気もする。
「んな話は昼休みにでもしろっての。にしても、今日は一段とテンション高いな」
「当たり前だろ!何たって今日は美人転校生が来るんだから!」
転校生だぁ?と藤村は眉を下げる。
よく耳を澄ますと、既に教室にいる生徒の会話から『転〜』『美人〜』などちらほら聞こえる。
ガセじゃないのか、と藤村が適当に思っていると、神山が一人で話し出す。
「しかも、さっき応接室をちょっくら覗いてきたんだけどよ、結構可愛かったぜ!」
「へー、どんな?」
藤村は特に聞きたいというわけではなかったが、そう適当に聞くと神山がヒートアップしだす。
「まず、背は160前後だったな。んで、黒髪のポニーテールで、目は結構きりっとしてた」
「……見た目で身長って分かるもんなのか」
藤村はやや呆れながら、神山に言う。
藤村の好きなタイプは、黒髪だが、わがままを言えば結んでるより、下ろしている方が好みだ。
それを知っている神山は、
「お前はその子を狙うかもしれんが、ダメだぞ!俺が先だ!」
「何を後先競ってんだよ!別にどーでもいいし、好きにしやがれってんだ!」
藤村は思わずそう叫んでしまっていた。
そうこうしてる間に、生徒も集まりだし、担任の教師も入ってきて、朝のHRが始まる。
先生が軽く咳払いをして、話を始める。
「えー、皆も知ってるとは思うが今日は転入生が来ている。皆、仲良くするんだぞ」
入ってくれ、と先生が言うと教室の扉が開けられ、転入生の少女が足を踏み入れる。
身長は160前後、黒い髪をポニーテールにして束ねており、目はきりっとしている美人な顔立ちだ。
不覚にも藤村は、神山が言ってたよりも数倍美人に見えた。
その少女は黒板にチョークで名前を書き出す。
「―――転入生の霧野七瀬(きりの ななせ)です。宜しくお願いします」
霧野七瀬、という少女は軽くお辞儀をする。
彼女は、見とれている藤村と目が合うと、にっこりと微笑み返す。
藤村はこの時確信した。
神山との約束を守れないであろう、と―――。
4
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/20(日) 15:50:13 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます。
まあ、制作理由の方はですね、今やってる作品の展開を考えながら、適当に『こんなのってアリじゃね?』っていう作品とは別の設定を考えていたら、創作意欲が高まってしまいまして、大体のストーリーが出来てしまったというわけです。
ただの思いつきのような感じもしますが、ライナーさんの仰った10個の注意点は、踏まえています(はずです)。
これ以外の二作もそのような気がしますが、これは結構女性キャラが多めに出てきます。役一人、危ういのも出てきますが……。
こちらの優先順位は低いので、ゆっくりになるお思いますが、お付き合いください。
5
:
ライナー
:2011/11/20(日) 16:29:27 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
えーと、気になるところがあったのでちょっと……
女性キャラが多いですか、まあそのパターンは多くの男に夢を与えますよね(笑)
しかし、それは裏を返せば女性に票が貰えなくなるんですね^^;
まあ、これは男による男のための男だけの……とかそう言う理念があるなら別に良いんですが、ここの掲示板は女性がいないわけではありません。
ちなみにこの手法は真面目な男に受けないという欠点を持ち合わせます。
そう、アイツはアイドルにも見向きもせず、本を読んでもラノベのウハウハは嫌いだった……とまあ思い出話はストップするとして。
もし書くんでしたら女性受けるキャラクターで書くことをお薦めします。
これはキャラ造りの中でも重要なことで、異性の特性を知ることが大切です。そうすることで、ただ変わった性格というのではなく、人間としての深みが出てきます。
ちなみに、男性が女性のキャラクターを書く場合、少女漫画がうってつけです。あれは女性中心に書かれていますからね。
僕なんか、しょっちゅうキャラ造りのために乏しいお小遣いをはたいて、妹に買うんだよねーなんてごまかしながら少女漫画を購入しております(笑)
まあ、別にそこらどうでも良いようでしたら、スルーお願いします。
後は、制作理由ですが、この場合はキャラ造りをそれぞれ出来ていて、さらに短くその物語を最初から終わりまでまとめて出来ているかどうかです。
竜野さんの場合は、実際3作品ほど落としてありますので、あまり増やすことはお薦めしません。
まあ、しっかり完結できることを願っております。
ではではwww
6
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/20(日) 19:58:38 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「じゃあ霧野。皆に何か自己紹介的なものを」
「はい」
先生が霧野に促すと、霧野は短く返し、一歩前に出る。
生徒達が静かになって話しやすい空気が作り出されると、霧野は小さく息を吸い込んで、こう口にした。
「私、まだ武器を持ってないから。襲わないでね」
教室が震撼した。
この学校に、武器を持たずに来るということがどれほど恐ろしい事か、全員が理解してるからだ。
さすがに先生も知らなかったのか、口を大きく開けて硬直している。
自分の席からじゃ全体は見えないが、恐らく生徒全員同じリアクションをしているだろう。
(……武器を持たずに、ねぇ……)
藤村も口元を引きつらせながら、視線を落とす。
彼の視線にあるのは、自分の右手だ。手の甲を隠すように包帯が巻かれてある。
(……でも、人の事言えねーか)
藤村は息を吐く。
先生は落ち着き始めて、霧野に席へ着くよう促す。
霧野もこくりと頷き、指定された席へと座り、一時間目の授業、藤村の苦手な現代文が始まった。
四時間目も終わり、藤村は無意識に霧野の席へ視線を移す。
彼女の席は窓側の一番後ろ。まあ転入したのだから、自分の好きな席ではなく、必然的に後ろに行くのは当然だろうが。
しかし、そこには霧野の姿は無かった。
もう何処か行ったのか、と思う藤村に神山の声が飛ぶ。
「どした?幽鬼。いきなり七瀬チャンにゾッコンか?」
「違ーよ。つーか古いし」
藤村は神山に適当なツッコミをして、否定する。
霧野に気が無い、というのは語弊が有るが、いきなり『好き』になれるほど自分は可愛い子好きだとは思っていない。
藤村は、鞄から休み時間中に購買で買った好物のメロンパンを出し、食べ始める。
「そう言うお前はどうなんだよ。お前お姉さん系が好きだ、とか言ってなかった?」
「フッ。いつの話をしてんだよ。今の俺はどんな女の子もオッケーだぜ?」
恥ずかしいなコイツ、と思いながら藤村はメロンパンを食べ進める。
ちなみに神山が『お姉さん系が好きだ』と言っていたのは、つい四日前である。
「にしても、今六月の初めだろ?こんな時期に転入なんて随分と中途半端だよなぁ」
「まー、仕方ないんじゃね?親の仕事の都合もあるだろうしさ」
藤村と神山は珍しく実のある話を始めた。
藤村達が今いる戦場原(せんじょうはら)学園は東京の三分の一の敷地面積を誇る。そのためか、現在の東京は、戦う事を目標とした教育施設がいくつも出来上がり、東京だけが一つの隔離された世界のようになっている。
親の都合でこんなとこに引っ越してきたのか、と霧野のことを多少不憫に思う藤村。
すると、神山が何かを思いついたように、僅かに声を上げる。
「なーなー、幽鬼」
「何だよ」
藤村は呆れ気味に聞き返す。
神山のにんまりした表情から、ロクでもないことだということが何となく想像できた。
「七瀬チャンが武器を持つまでは、俺らが護ってあげねー?」
「……」
神山の台詞に藤村は、きょとんとする。
意外とまともな事を言ってきたからだ。
「やっぱ武器なしは可愛そうだしな。こういう時は男が護ってあげなきゃいかんよ!」
「……お前にしちゃ良い事言うじゃ―――」
しかし、藤村の褒め言葉は神山の煩悩が支配した言葉でかき消される。
「んでもって、護ってあげたあかつきには『私、神山君がいないと生きていけない!これからは一生のパートナーとして』みたいな展開にぃぃ!!」
「お前いっぺん死んでこい」
褒めの言葉を最後まで言わなくて良かった、と藤村は真剣に思った。
それはそれとして、神山の意見には藤村も賛成だ。武器がなくては、この学校で生活するにはかなり厳しい。
と、頃合を見計らったように、同じ組の男子が教室に入ってくる。
「皆!霧野さんが購買近くで騒ぎになってるらしいぞ!」
それを聞いた藤村はぎくっと、大きく肩を揺らし、神山の目は輝いた。
二人は急いで教室から出ると、購買へと向かう。
「しゃあ、行くぜ幽鬼。早速出番だ!『七瀬チャン親衛隊』出撃ー!」
「俺はそんなモンに入隊した記憶はねぇぞ!?」
と言いながらも、霧野のことが心配なのか、藤村も神山と一緒に購買へと足を走らせていた。
7
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/20(日) 20:07:45 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
まあ、男のためのとするわけではないんですが……。
主人公に好意を寄せるのも少人数なので、ラノベのようなウハウハ展開は避けられるかと((
少女漫画買うんですか!?
僕はさすがにそこまでしてないな……いやでもお金ないし、どっちみち買えないんですけどね((
でも姉が持ってるのなら何冊かあるから、こっそり見て見るのもありですかね。
はい、今回はきっと完結できると思います。
いや、させます!させてみせますとも!
8
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/20(日) 21:16:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤村と神山が購買の付近にたどり着くと、沢山の生徒の野次馬で霧野の姿が見えない。
二人は人ごみを掻き分けて、霧野の姿を探す。
すると、一箇所だけぽっかりと空いた空間があり、そこへ視線を向けると、黒髪ポニーテールの少女がいた。
彼女は両腕を広げ、後ろの少年を護っているような体勢だ。証拠付けに霧野の前には三人の男がいる。
耳にはピアスをしており、頭はスキンヘッド。見るからに不良だった。
その真ん中の男と、霧野は睨み合っている。
何してんだアイツ、と叫びたくなる藤村だが、ここは冷静に神山と状況を見定める。
「邪魔すんじゃねぇよ、一年!関係ねぇだろ!」
「……目の前で人が苛められてるのに、邪魔しないわけないじゃないですか!」
何となく、その会話だけで理解できた。
理由は分からないが、霧野に庇われている少年があの三人の不良に苛められているのを霧野が発見し、間に割って入った。ということだろう。
霧野の背後の少年にはアザなどが見えている。
「……翔一、あの三人三年だぞ」
「うわー……七瀬チャンもいきなり先輩に喧嘩売るとはねぇ」
二人が霧野の前の三人が三年だと分かったのは履いている上履きだ。
上履きのつま先の色で、学年が分かるようになっていて、現在は一年が赤、二年が青、三年が緑だ。
次に入ってくる一年が緑のを使用する。
それは、学年で色が被らないようにするための細工なんだとか。
見てみれば、背後の少年の上履きのつま先の色も緑だ。
『どけ!』『嫌です!』と三年と霧野が言い合っていると、真ん中の男が手にメリケンサックをつけて霧野に殴りかかる。
これはもう行くしかねぇ、と思い飛び出そうとする藤村と神山だったが、
「たぁっ!!」
という霧野の声が響く。
見れば、彼女が拳をかわし、軽く飛んでから男の顔面に蹴りを入れていた。
野次馬含め、襲っていた三年、襲われていた三年、藤村と神山全員が口を大きく開けて硬直してしまう。
当の霧野本人も蹴った後に気付いた。
「…………………………あ」
「まっちゃん!」
蹴られた男に残りの二人がそう声をかける。
まっちゃんは、倒れても尚、ピクピクと動いていたが、力尽きたように動きを止めた。
すると、我に返った二人は霧野に襲い掛かる。
そこで『七瀬チャン親衛隊』の二人が飛び出す。
藤村と神山が割って入り、藤村が霧野の腕を掴む。
「……君は……」
霧野が何か言いかける前に、藤村が焦った調子で言う。
「何してんだお前!とりあえず走るぞ、霧野!」
藤村が強引に霧野の腕を引っ張って走っていく。
『え?ちょっと?』と焦った声を発する霧野に、藤村は全く気を配っていない。
「アンタも!大丈夫か?」
神山も襲われていた少年の腕を引いて、藤村と一緒に走り去っていく。
戦場原学園・購買の陣は、『七瀬チャン親衛隊』の撤退により、勝敗が決した。
しかし、討ち取られたまっちゃん軍大将のまっちゃんを誰も保健室に連れて行こうとはしなかった。
9
:
ライナー
:2011/11/20(日) 22:05:34 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
しょっちゅう済みません、コメント失礼します、ライナーです。
今週はこれで終わりなので、何卒お付き合いの程を……
アドバイス、と言うより注意と言った方が良いのでしょうか。とりあえずそんなところです。
今回の注意点は、現実味(リアリティ)ですね。
それというのも、作者ってたまに失敗することのある分野なのですが、この小説は矛盾が生じています。
戦場原(せんじょうはら)学園は東京の三分の一の敷地面積を誇る。そのためか、現在の東京は、戦う事を目標とした教育施設がいくつも出来上がり、東京だけが一つの隔離された世界のようになっている。
本文から抜き出したこの一文、何が矛盾か分かるでしょうか。
この一文を見ると、インデックスを思い出すのですが、それは置いておいてですね。
まず根本的なことから申し上げますと、何故戦闘が必要なのでしょうか?
今の時代、平和主義が多く一般的に争いは拒まれています。その中で、何故学校内で戦闘を取り入れているのか、それが明らかになっていません。
少子化なのに、そんな戦闘して子供の数減らすようなことしなくても……こういう意見も出てきますね。
さらに矛盾しているのが、戦闘を主としている学校なら何故普通に現代文が出てくるのでしょうか。戦闘の授業があってもおかしくないと思いますし、生徒内の事ならば、ただの荒れた学校ですしね。
そう言った矛盾をふまえて文章を構成してくださいね。
なんかこれで見てると、少し口が悪いですが3作目で大丈夫なんでしょうか?
無論3作同時にやるとしたらいろんな方面で頭使わなくてはなりませんし、正直心配です。
と言っても僕にも失敗はありますからね。僕の小説の方にもアドバイスお願いします、自分じゃ見えてないところあると思うので。
何かと上から目線で、うざったいコメントでしたが、優しく受け取って貰えれば幸いです。
ではではwww
10
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/20(日) 22:22:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントというより、アドバイスですね。
ありがとうございます。
インデックスは知っていたのですが『アレって東京の三分の一じゃなかったような。東京西部を開拓したんだよね?』という曖昧な記憶で作って、ウィキペディア見たら『東京の三分の一に匹敵』的なこと書いてました。ちゃんと見てからやるべきでしたね……。
なるほど。
設定が奇抜すぎても、理由などを考えないと中身が無い内容になってしまう、というわけですね。
確かに今思えば、何で戦いが必要なんだろう((
いや、戦いなどの授業もありますけど……。
ちゃんとした授業も無いと、学校って感じがしませんし……。
はあ、こう指摘されると本当に大丈夫なのか心配になってきました……。
これからアドバイスを踏まえた訂正をすると後付で余計に分かりづらくなりますしね((
いやいや、ライナーさんの小説は僕のような矛盾など無いので、多分アドバイスよりもコメントの方が多いと思います……。
11
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/21(月) 19:35:41 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤村と神山は、霧野と襲われていた少年を連れて校舎裏まで必死に走った。
四人はそこで立ち止まり、後ろを確認してあの二人が追って来ていないことを確認すると、安心したようにホッと溜息をつく。
溜息というより、四人の吐いた息は息切れに近い。
「……はー、はー……」
藤村は霧野の腕から手を離して、やや前にかがみながら膝に手を置き、息を切らしている。
神山も少年の腕から手を離し、下に腰を下ろして、疲れをあらわにしている。少年は何故か隠れるように息を切らし、霧野は胸の中心に手を当て、息を整えようとしている。
若干落ち着いてきたのか、藤村は霧野に視線を向ける。
「……お前、転校初日から何してんだよ……。先輩に喧嘩売りやがって……!」
霧野は若干頬を膨らませて、藤村に反論する。
「だって……目の前で人が殴られたり蹴られたりしてるのに、見逃せないよ!」
「だからって、自分が関係してない喧嘩に首を突っ込むなよ」
「じゃあ、助けなかったらいいじゃん!」
何故か助けたはずの藤村と、助けられたはずの霧野が喧嘩を始める。
神山は止める力が残っていないのか、大きく息を吐いている。
それを止めたのは、襲われていた少年だ。
「あ、あの……すいません!僕のせいで……」
止めた少年に藤村と霧野は振り返る。
それから、二人とも渋々言い合いを止める。
「……それに、僕のせいだし……」
少年は俯いてそう言う。
泣きそうな、悲しそうな声ではなく、どこか嘲笑が混じったような自責の念に駆られたような声だ。
「……えっと、三人はD組の人……だよね?美人の黒髪転校生が来たってことは……君が霧野さん?」
少年は何故か一年の事情に詳しかった。
上履きのつま先の色で、三人が一年だと分かっても、組まではわからないはずだ。赤でも色の濃さなどでクラスが分けられているわけでもない。
そこで、藤村は勘付く。
「……アンタ、もしかして一年か……?」
「……うん」
少年は恥ずかしそうに答える。
彼の上履きのつま先は緑色。それでも一年生だということは……。
「……といっても、二年留年してて年齢は君らより二つ上なんだけどね……」
卑屈な台詞が響く。
藤村達はどう声をかけていいか分からず、口元を緩めて苦笑いを浮かべていた。
この学園は『強さ』で学年とクラスが決まる。
そのため、あまり弱すぎると進級できない場合が稀にある。試験での実技が大きな点数となり、言ってしまえば出席日数よりも点数がかなり大きめなのだ。
実技でしくじったりすると、出席日数が足りていても留年、という結果になってしまう。
試験もそれほど過酷なものではないため、一番弱いクラスのF組でも進級できないものは年に一人か二人程度だ。
「……にしても、何で三年の奴等に襲われてたんだ?」
「……実は、彼らとは一年の時から一緒のクラスで……僕は気が弱いし、強くもないから彼らのパシリみたいになっていて……毎日昼を買いに行ってるんだけど、今日はたまたま遅刻しちゃって。彼らが頼んだ物を買えなかったから……」
随分と理不尽な理由だ。
藤村と神山は低く舌打ちをして、霧野は心配そうな眼差しで少年を見つめている。
「と、とりあえず、今日はありがとう……!でも、僕に関わるとロクなことないから……あまり関わらない方がいいよ……」
じゃあね、と少年は言ってその場から走り去っていく。
「……助けてやりたいが……」
「本人が望まないんじゃなぁ」
藤村と神山も教室へ戻るべく歩き出す。
霧野はその二人について行き、教室へと戻って行った。
12
:
ライナー
:2011/11/22(火) 20:25:22 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
なるほど、何かこの少年にまだまだ登場の予感があるようなないような……
≫10
まあ、一般的にはそう言う授業がないと学校らしい感じがしませんが、これもまた戦う理由に付け足されます。
何故戦いは必要なのに、それだけじゃなくそう言った授業も必要なのか。と言うところですね。
まず、『〜らしさ』ではなく、『この小説はこういう世界観だから』と言うことを伝えなくては面白みが掛けてしまいます。
もし普通の授業を付け足すにしても、僕のような疑問が生まれないため、色々と考慮して、それらの疑問が生まれないよう推敲に推敲を重ねなくてはなりません。
つまり、描きたい展開だけに目がいけば、どんなに文章力がついていても底の浅い作品になるのですね。
竜野さんは今のところ物語による矛盾はありませんが、そう言った説明をしていなければ、いずれ読者の方に矛盾を感じることが多くなるでしょう。
そう言うことを考えて、遅くても話の展開を上手く器用することで説明は付け加えられます。
それからこれは竜野さんの小説から推測して見つけたアドバイスなのですが、小説のタイトルです。
竜野さんの小説のタイトルには、打ち切りにした初めの小説を除いて、ほぼ全てが英語と言うこと。
英語では駄目! と言うことではありませんが、幾つかのバリエーションを身につける程度でお付き合い下さい。
英語というのはスタイリッシュに、なおかつ洒落た感じに見えますが、伝わりづらいと言うのが欠点です。
例えば打ち切りになったMAGIC MASTERを参考にさせていただきますと、
魔法(魔術)の修士 魔法(魔術)の熟練者
など、まあ僕はネーミングセンスがないので微妙ですが、こんな感じになるのです。
さて、英語と日本語、どちらが伝わりやすいでしょう?
人によるかも知れませんが、日本語の方が日本人はインプットしやすいですよね?
それに『MASTER(マスター)』というのは先程挙げた「熟練者」、「修士」の他にも「親方」、「主」、「喫茶店の主人」など複数の意味を持つので感じ方が読者と作者で別れてしまいます。
そこで矛盾が生まれたりするのですが、逆にそれらを全て曖昧にして、読者の想像に任せるというほとんどプロでしか使わない方法があります。
まあ、これは一意見なので参考までに……
ではではwww
13
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/11/23(水) 11:16:50 HOST:s802036.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
こんにちはノ
「竜野さんの新作ktkr!!」とか思いながら読ませて頂きました←
学園+戦闘って、ぐっと来るものがありますよね! 月峰の大好物なのでs((
私も戦闘系を書いてみたいなぁ、とか思ってはいるのですが、なかなか竜野さんのような緊迫感溢れる戦闘描写が書けずに断念しがちですorz
さて、それはさておき、これからどのようなバトルが展開するのか、他にもどのようなキャラが登場するのか、とても楽しみです!
これからも頑張ってくださいノ
14
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/25(金) 18:00:21 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
まあ、登場したりしなかったりです。
それは物語を続けて読んでもらえれば……。
やっぱり、後付けになっても説明は加えた方がいいですよね。
はい。じゃあ、これからなるべく説明を入れるようにします。
にしても、こういう世界観の作品って難しいですね……。
いや、作品のタイトルについては何もいえません。
僕も今回は日本語のタイトルにしようとしたのですが、中々思いつかなくて……。
今更新してる三作品中二つが英語、一つが漢字交じりですしね……。
気をつけようと思います。
月峰 夜凪さん>
コメントありがとうございます^^
僕もそういうの描いてるんですが、どうも学園でのバトルが上手く展開しません((
毎回学校の外でやってるような気がするので……。
いえいえ、月峰さんは恋愛系の描写が上手いじゃないですか!僕にはあんな風に描くのは無理ですし、ストレートに感情を出してる連中ばっかになりますし((
バトルはまあ……毎回同じような感じになっちゃうかもしれませんが、キャラは出来るだけ個性を出していきたいと思います!
はい、お互い頑張りましょう!
15
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/25(金) 18:22:28 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「……ふぁー」
藤村は学校から帰宅後、学園が管理している寮(何故か男女混合)の一部屋に入り、息を吐く。
いきなり転入生がやってきたり、その転入生が問題起こしたり、助けたはずなのに喧嘩したり、と今日は自分でも色々やったな、と思う一日だった。
この寮の部屋は二人暮らすのが丁度いいくらいの広さで、少し狭めながらも台所まで用意してある。
藤村の部屋は壁際にベッドを置き、真ん中にテーブルを置いてある。
その他に、本棚などがあるが、それ以上はほとんどと言っていいほど何も無い、いかにも殺風景な部屋だ。
藤村はベッドに鞄を放り投げて、適当にベッドに寝転ぶ。
それから携帯電話を開き、アドレス帳を開く。藤村が今見ているのは、か行に登録してある人物だ。
名前は二人しか入っていなかった。
神山翔一と霧野七瀬だ。
実は、昼休みの後、教室に戻る途中に霧野から『せっかくだから連絡先交換しようよ!』と言われ、藤村と神山の二人は連絡先を交換していた。
霧野のメールアドレスは結構適当だ。
自分の名前の後に、誕生日と思われる数字四桁と、恐らく血液型であろうローマ字一つがあった。
プロフィール公開してんじゃん、と思う藤村だがそこはあえて気にしないようにする。
すると、急に携帯電話が着信を知らせる音を鳴らす。
表示された名前は『神山翔一』だった。
「……もしもし?」
『おーう、もしもし!幽鬼か!?」
今日一日で疲れた藤村にとってかなり鬱陶しい声だった。
藤村は軽く息を吐いて、
「……番号間違ってなかったら俺だけど?で、何の用だよ」
電話越しに神山の不適な笑いが聞こえる。
『実はよー。今から俺が今超ハマってるアニメの『ゴスロリメイド・みーたん』を視聴しようと思ってるんだが、お前も一緒に―――』
「お断る」
電話から『えぇ!?』という驚愕の声が聞こえる。
藤村は続けて、
「まさか、そんなモンを視聴させるために電話したのか。お前暇だな」
『んだと!?そんなモンって言葉は聞き捨てならねぇぞ!?今から見る六話は、ファンの間でも幻の回だと言われててだな……』
神山のマジ熱弁が鬱陶しかったので、携帯電話を耳から遠ざける。
それでもまだ声が聞こえてくる。止める様子が無いのを見るとこっちが黙って聞いてると思っているようだ。
藤村は、囁くように携帯電話に口を近づけて呟く。
「お疲れ様でしたー」
そして、強制的に携帯電話を切る。
一仕事終わったような顔で息を吐き、携帯電話を枕の横に置く。
「……今日は、早めに休むか」
藤村はそう思い、さっさと夕飯などを済ませておこうと思い、仕度を始めた。
「……うーん……」
一方で霧野は悩んでいた。
学校の同級生と初めて連絡先を交換したので、頑張って電話をかけようとするが、中々踏み出せない。
しかも、大した用事でもないのにかけたら迷惑がられるだろう、と思っている。
霧野七瀬のメンタルは、意外と弱いのだ。
「……藤村君と神山君……どっちが暇かな」
どうせなら、暇で大した用事も無いけど、話し相手になれるくらい暇な相手がいいなー、と思っている。
ちょっとだけ、失礼な奴だ。
霧野は溜息をついて、携帯電話を横に置く。
「……ま、いっか。明日学校で話せるんだし……」
霧野はそう呟いて、ベッドにもぐりこむ。
どうやら、彼女も今日一日でかなり疲れたようだ。
16
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/25(金) 21:18:23 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
霧野は学校へ向かっていた。
今日は転入してから二日目。昨日の事はクラスメートにも注目されているだろうが、彼女は気にしない。
言っているだけなら言わせておけばいいし、からかってくるなら無視すればいい。
メンタルが弱い霧野七瀬だが、彼女は外からの打たれ強さには自信があった。
(……よーし、昨日は出来なかったけど、今日は二人に声をかけてみよー!)
霧野は昨日、藤村と神山のどちらにも出来なかった『話しかける』を目標として掲げていた。
霧野は両手で拳を握り締めながら、小さくガッツポーズをしている。
やれるやれる、と口の中で何かの呪文のように呟く。
すると、背後から鉄筋を持った何者かが霧野に襲い掛かる。
背後に気を配っていなかった霧野は避けるタイミングを失う。
ゴン!!と鈍い音が、小さく響く。
「幽鬼ィーーー!!」
藤村は教室に入るなり、泣きそうな顔をした神山に肩を強く掴まれる。
かなり嫌そうな顔をしている藤村だが、泣きそうで目が霞んでいる神山は気にもしてないだろう。
朝っぱらから何だ、言わんばかりに重たい溜息を吐いて、藤村は仕方が無いので神山に問いかける。
「……何だよ」
「お前……昨日ホントにくればよかったのに……!」
どうやら、『ゴスロリメイド・みーたん』の幻の第六話が良かったらしい。
神山が泣く事はほとんどないのだが、アニメを見ると神山は泣き上戸になってしまう。
「……何でお前来なかったんだよ!」
「昨日は疲れてたんだ。それに、俺が今期で見てるアニメは『鷹の美剣(みつるぎ)』だけだって……」
「やっぱり黒髪美少女か、コノヤロー」
その言葉に藤村はギクッとする。
藤村が見ている『鷹の美剣』は、『鷹』と名乗る、黒髪の美少女が突如自分の前から姿を消した師匠を探しながら、強敵と出逢い、心身共に生長して行く。という物語である。噂では、高校生が書いている、というのもあるらしいが。
藤村も最初は、そういう時代劇的なものに惹かれ見ていたのだが、鷹の純粋な師匠への想いなど色々感情移入してしまい、かなり感動した、ということだ。
もっとも、藤村は鷹の『黒髪美少女』という設定にも惹かれて見ていたのだが。
「バッ……そんなんじゃねぇよ!お前だって、どうせメイドに惹かれただけだろうが!!」
「ふざけんな!俺はちゃんとあらすじも読んで、原作も買って、声優陣も吟味した上見てるんですぅ!ジャンルが全てじゃないわ!」
「そんなもん俺だって一緒だっつの!」
朝の教室で、アニメオタク二人の議論が開始される。
しかし、それを止めたのは携帯電話の着信音だ。
二人は口を止めて、最初に藤村が口を開く。
「……お前のじゃねぇのか?」
「違う。俺の着信音は『ゴスロリメイド・みーたん』主題歌の『君のハートにろっくおん!』だから―――」
「はい、もしもしー」
聞けよ!と神山のツッコミが響く。
携帯電話の着信音は藤村の物で、彼の携帯電話には『霧野七瀬』と表示されていた。
藤村は、ごく軽い感じで電話に出る。
しかし、聞こえてくるのは僅かな物音だけで、霧野の声は聞こえてこない。
「……?おい……」
不審に思った藤村が声をかけた瞬間、霧野のものとは違う声が響く。
『よォ、元気か?少年?』
それは聞き覚えのある声だ。
昨日の昼休みに、霧野が蹴り飛ばした……。
「まっちゃん!」
『その名で呼ぶんじゃねぇよ!松田だ!』
まっちゃんこと松田のツッコミが返って来る。
「何でお前が霧野の携帯を持ってるんだよ」
『あァ?考えりゃわかるだろ?』
「……っ、お前ら霧野に何かしたのか!?」
松田の笑いが僅かに聞こえる。
『いや。だが、これからするつもりだ。今は動けなくしてるだけだが……そォだな。お前らがこの女の代わりに殴られてくれるってんなら別にいいぜ?』
理不尽な要求だった。
だが、藤村と神山の答えは決まっている。
藤村は顔を合わせずに、答える。
「分かった。何処にいる?」
『駅の裏手にある工事現場だ。十五分以内に来い。三十秒経過するごとに、女の綺麗な顔に傷がつくぜ?』
「十五分!?」
藤村の顔が強張る。
駅といえば、学校から走っても二十分はかかる。
だが、松田は時間を変えようとも延ばそうとも考えない。
『じゃあな』
一方的に電話が切られる。
藤村が携帯電話を折りたたみ、ポケットの中に突っ込む。
「……どうする、幽鬼?」
神山の言葉に、藤村は迷うことなく答える。
「とりあえず行くしかねぇだろ!翔一、俺達は『七瀬チャン親衛隊』じゃねぇのか!」
「……ああ、そうだな」
藤村と神山は頷き合って、教室を飛び出す。
途中ですれ違った先生の制止も聞かずに、走る。
ただ一人の、友達を救うために。
17
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/26(土) 13:13:40 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「……」
霧野はうっすらと目を開ける。
目に映るのは見覚えの無い工事現場のような場所だ。根拠は周りに置いてある鉄筋などの材料があるからだろう。
身体を起こそうとする霧野だが、頭に痛みが走り、身体の力が一気に抜けてしまう。
「目ぇ覚めたか?」
霧野の耳に言葉が飛んでくる。
聞いたことのある声だ。だが、その声の主を思い出しても良い思い出など思い出せなかった。
霧野が顔を上げると、そこにいたのは、昨日の昼休みに顔を蹴り飛ばした先輩だ。
「……貴方は……まっちゃん……!」
「テメェもその名で呼ぶんかい!」
松田の鋭いツッコミが入る。
霧野は彼の名前を知らないのだから、そう呼ばれても仕方がないのだが。
すると、霧野は自分の身体に違和感を覚える。
腕を後ろに回され、手首を拘束されている。手だけではなく、足首も拘束され身動き一つ取れない状態だ。
「……これは……!今から何をする気……!?」
ひひっ、と松田は気味の悪い笑みを浮かべる。
「なぁに、簡単なことさ。テメェを餌にあの男二人をおびき寄せたのさ。俺にはお前に蹴られた借りがある。その借りを、あの二人がお前をやる代わりに肩代わりしてくれるんだってよ!」
「……、な……!」
霧野の表情が驚愕に染まる。
男は周りにいる昨日の二人の他に、四、五人いる方へと足を向けて時計を確認する。
「……リミットは十五分。それが過ぎれば、お前もあの二人も……どうなるか知ったこっちゃねぇ」
藤村と神山は学校の階段を全速力で下りながら、話をしていた。
「どうするつもりだよ、幽鬼!こっから全力で走っても駅までは十五分以上かかるぞ!」
「それでも行くしかねぇだろ!霧野を見てるわけにはいかねぇんだし」
二人は校舎を飛び出して、校門へと向かう。
しかし、そこへ声が飛んでくる。
「オイ、お前ら。もうすぐ授業始まるだろ。何処に行く気だ」
声は後ろの方からした。
二人が振り返ると、人相が悪く、肩より少し長めの白髪の男と、耳が隠れる程度の銀髪の少年が立っていた。
二人は自転車を押して、学校へ来たところのようで、傍らには自転車がある。
「……、あの二人!生徒会の人じゃねぇか!」
「……まさか、ここで見つかるとは……だが、ツイてる!」
藤村は二人に近づいて、こう言う。
「すいません!今僕の母と、アイツの父が危篤で!すっごい急いでるんですよ!」
「あァ?」
人相の悪い方が、眉間にシワを寄せ、睨みつけてくる。
「あのなぁ、んなバレバレの嘘が通じると思ってんのか?いいから早く教室に戻って……」
人相の悪い方が、ふと銀髪の少年を見ると、そっちはそっちで泣きそうな顔になっていた。
どうやらその場しのぎの藤村の嘘が、通用したらしい。
「危篤!?それは大変だ!えーと……僕と彼の自転車を使うんだ!さあ!」
銀髪の少年は自分のと、強引に人相の悪い人の自転車を、藤村と神山に与える。
「今日は早く帰って、お母さんとお父さんを大事にするんだよ!」
「「は、はい!!」」
藤村と神山は与えられた自転車で、駅へと全力でこぐ。
それを見つめていた人相の悪い方、生徒会書記の那月忠勝(なづき ただかつ)は、同じ生徒会の会計、明智創一(あけち そういち)を睨みつけて、
「オイ、創一。何であの二人を見逃したんだ?嘘だって気付いてないわけじゃねぇよな」
「いいじゃないか。僕らも昔、よく使った手口だろ?」
「ハンッ」
那月は鼻で息を吐いて、面倒そうに呟く。
「……あの時は、お前は一言も言わなかったろーが」
18
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/26(土) 15:16:53 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
霧野七瀬は誰一人として言葉を発することなに空間で、ただ一人地面に伏していた。
松田の言葉によれば、『十五分以内に藤村と神山が来なければ、自分を痛めつけるが、二人が間に合えば、自分には手を出さない』というものだ。
だが、十五分以内というリミットが既に無茶な要求だった。
学校から駅までは走っても十五分以上はかかる。走るのに自信がある者ならば、十五分以内に着けるかもしれないが、駅からこの工事現場までは三分程度かかる。
藤村と神山は走るのに自信があるようには見えないし、勿論松田もそう思ってこの場所を用意したのだろう。
「……」
霧野は何とか隙を見て抜け出そうと、手首や足首を無駄に動かして、拘束しているガムテープの粘着を緩めようとする。
しかし、運が悪い事に粘着が緩むより早く、リミットがきてしまった。
「十五分……だな。あの二人は間に合わなかったか……」
松田が指を鳴らしながら、霧野に近づいて行く。
「残念だったな。見捨てられたか」
「……最初から、来るわけがないって……分かってたから」
「あん?」
松田は首を捻る。
霧野は続けて、
「……彼らとは、昨日知り合ったばかり……そんな会って一日足らずの私を助けようなんて……思うはずが無い」
霧野は笑みを零す。
それから、松田を馬鹿にするように告げる。
「ばーか」
松田のこめかみに、青筋が浮き出る。
松田は右の拳を強く握り締め、真上に振り上げる。
「そォかよ。だったら、お前は誰からも助けられなくて、いいんだなァ?」
松田の拳が霧野の顔にヒットする、直前に、松田の体が真横に大きく動く。
彼を動かしたのは、彼に襲われ、霧野に助けられた、二年留年し、松田達の言いなりになっていたあの少年だ。
霧野を襲ったのは彼で、ここへ連れて来たのも彼だ。恐らく松田達の命令だろうが、何故襲った相手が、助けたのだろうか。
「大丈夫ですか!?」
少年は素早く霧野の足首を拘束しているガムテープを剥がそうとする。
「山口ィィ!!テメェ、どういうつもりだぁ!!」
呼ばれた少年、山口は霧野を助けようとするために、松田の言葉を聞いていない。
彼は、霧野を襲った罪悪感から、彼らから霧野を助けようと勇気を振り絞って、反旗を翻したのだ。
だが、彼一人ではどうにもならない。
霧野の足首の拘束が解けたところで、山口は松田達によって囲まれてしまう。
「山口君!」
「き、霧野さん……!逃げてください……!急に殴っちゃったりして、ごめんなさい……!僕が引き付けておけば、霧野さんは遠くへ逃げられる……!だから、早く……」
霧野は両手と両足を地面につけ、殴られ、蹴られる山口を見ていた。
彼女は歯を食いしばって、その光景を見ていた。
助けることが出来ない。自分の無力感を責めながら。
「……嫌……。目の前で、誰かがやられているのに……、それを見過ごすなんて嫌!誰か……」
霧野は、無意識に叫んでいた。
「私はいいから、誰か彼を……助けてあげて!!」
キキィッ!!とブレーキ音が入り口の方で響く。
松田達はそっちに視線を向けると、二人の自転車に乗った人物のシルエットが映る。
二人は自転車から降りて、
「……霧野を襲ったのはお前か……留年生!本来なら一発殴ってやるとこだが……」
「七瀬チャンを助けたってことで、見逃してやるよ。よくやったな!」
二人は近づいて行く。
十メートル程霧野達から離れたところで、会話を続ける。
「さーて、大切なお友達の叫びが聞こえたのは……この辺りかな?」
「お前の行動原理は『友達だから』じゃなく、『黒髪美女だから』だろ?」
「ちげーよ、馬鹿」
現場に急行した、藤村幽鬼と神山翔一が到着した。
二人は、鋭い目つきで松田達を睨みつけている。
19
:
ライナー
:2011/11/26(土) 16:22:30 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
さて、こっからどう逆転劇が始まるか楽しみです!
山口君、君はやれば出来る子だと思っていt((殴
まっちゃんは往生際が悪いですね、ホント目に余りまs((殴
それと、前回のアドバイスは済みませんでした。
別に絶対と言ったわけではないのですが、そう言う伝わり方が多かったようでお詫びいたします。
それと、今までのアドバイスに少し誤りがありました。
擬音表現についてですが、簡易な音(カッ、ストッ、など)は良いようです。と言うか僕のこのアドバイスを鵜呑みにしないでくれて、ありがとうございます(笑)
この事について、僕の小説の先生にこっぴどく叱られました。お前の小説は簡易な擬音が無いから堅い感じがするんだよ!、とこんな感じで^^;
続きも楽しみにしております、ではではwww
20
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/26(土) 17:10:26 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
はい、とうとう二人が到着しましたね。
山口君もやればできるんです!やらないだけd((
まっちゃんは……まあ、特に言う事がないかr((
いえいえ。
こちらも誤った解釈をしてしまったようで……。すみません。
どうしても擬音をつけちゃうんですよ……。
その方が伝わりやすいと思うのですが、文が軽くなっちゃいますしね……。
小説の先生がいるんですか?
それはいいですねー。僕に先生がいたら、どれだけダメ出しをされるだろうか((
はい、頑張らせていただきます。
21
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/26(土) 17:39:17 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤村と神山を目に、霧野も松田達も山口も固まっていた。
しかし、一番驚いていたのは霧野だ。
来ないと思っていたのに。それでも来てくれた。
そう思うと、無意識に涙が目から零れていく。
「……な……何で……何で来たの?」
「……何でって……決まってんだろ」
藤村は首を軽く鳴らして、松田を睨みつけながら、答える。
迷いの無い、しっかりとした声で。
「俺達は『七瀬チャン親衛隊』だぜ?助けるに決まってる」
「意外とノリノリじゃねーか」
藤村の言葉に神山はそう言う。
霧野は涙を流したまま、俯いて、聞こえるかどうか分からない声で呟く。
「―――ありがとう」
藤村は笑みを一瞬だけ見せて、松田を睨む。
彼らに囲まれていた山口も、抜け出して、霧野の側にいる。
神山は頭の後ろに手を回しながら、軽い調子で藤村に話しかける。
「なあ、幽鬼。相手八人いるけど……任せていい?」
「……別にいいけどよ、お前武器持ってきてねーのかよ」
「仕方ねーだろ。だって重いし、でかいし」
神山の言葉に藤村は溜息をつく。
彼の武器を知っている藤村は気持ちは分かるらしいが、助けに行くのが分かってるのに、何故持ってこなかったのだろう、と頭を悩ます。
「だったら、霧野と山口は頼んだぞ」
「おお!任せとけ!」
神山は霧野と山口のところへ駆け寄る。
霧野の手首を拘束している、ガムテープを剥がしている。
「……ねぇ、神山君……。相手は八人だよ?……藤村君一人でいいの?」
「ああ、そーだぜ」
霧野の言葉に神山は軽く答えた。
その軽さに、霧野と山口は不安を募らせる。
一方で、松田達八人はたった一人の藤村を睨みつけている。
「……七瀬チャンさ。幽鬼が右手に巻いてる包帯、何なのかって気にならなかった?」
そう言えば、口には出さなかったが霧野は、藤村の右手の甲を隠すように巻かれている包帯が気になっていた。
もし怪我などだったら聞かない方がいい、と思い聞くのを躊躇っていたのだ。
神山は笑みを浮かべながら、言う。
「良かったな。幽鬼のアレは、中々見れるモンじゃねぇぜ」
藤村は神山達の言葉を聞いていたかのように、タイミングよく、包帯を外しだす。
彼の右手の甲に妙な物がある。
赤い模様だ。円の中心に丸が一つ。そして、円と丸を通るようにバツ印が描かれている。
霧野も、山口も見た事が無い物だ。
藤村の目つきに鋭さが増し、呟くように彼が囁く。
「……待たせたな、出番だぜ。焔華(えんか)」
『―――ふん、まったくだ。待ちわびたぞ』
どこからともなく声が聞こえる。
女性の声だ。事情を知っている神山以外は辺りを見回すが、女性は霧野しか見当たらない。
「そろそろ見えるだろ」
藤村の周りに炎が渦巻く。
そして、藤村の横に、炎が集まり、それが人の形を成していく。
黒い髪に、着物を着ている女性だ。だが、炎で創られたとは思えないほど、目つきは冷たい。
「幽鬼の手にある紋章は降霊紋(こうれいもん)って言ってな。あの女の人は、幽鬼の降霊(こうれい)。聞いたことあるだろ?降霊術って言葉」
つまり、と神山は一度言葉を区切る。
「幽鬼は炎の降霊使い。降霊術者だ」
幽鬼は側にいる焔華に促すように言う。
「いくぜ。あそこの八人、ぶっ潰すぞ」
『命令するな。だが、お前は私がおらねば話にならんからな。手伝ってやる』
22
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/26(土) 21:40:40 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「……こ……」
「……降霊術……?」
山口と霧野は藤村の側にいる着物の女性、焔華を見て呟く。
降霊術ぐらいは二人も聞いたことがある。
占いの目的のために、亡者の霊を呼び出す魔術の形態のことだ。だが、
「降霊術者の場合は勝手が違うのさ」
というのが神山の返答だ。
霧野と山口はまだよく分からないのか、首を傾げたまま神山を見る。
「幽鬼や身体のどこかに降霊紋がある奴の場合は、自身の降霊を呼び出して、身体に憑依させて戦う。それが、降霊紋を持つ者の降霊術だ」
霧野と山口は改めて藤村と焔華へと視線を向ける。
二対八。
数では圧倒的に松田達が勝っているのだが、怯えているのは松田達で、藤村と焔華の二人は物怖じ一つしていない。
『ふん』
焔華は、怯えている松田達を見て呆れたように息を吐く。
『今の時代の男どもはこんなにも情けないのか。なあ、幽鬼』
「俺に振るんじゃねーよ。つか、さっさとコイツら片付けようぜ」
命令するなと言っただろう、と焔華は呟き、藤村と身体を重ねる。
すると、焔華が藤村の中に入って行くように消え、藤村の全身に炎が纏い、目が紅くなり鋭さが増す。
「これが、降霊術での戦い方。『憑霊(ひょうれい)』だ」
神山がそう告げる。
松田達は用意には動かない。
それに対して、藤村も一歩たりとも動こうとしない。それは、単に余裕からか。
すると、八人の中から一人が藤村に突っ込む。
藤村の肩目掛けて鉄筋を振り下ろす。
肩にぶつかるような鈍い音が響く。が、肩に当たった鉄筋はぐにゃあ、と溶け曲がっていく。
「ッ!?」
「今の幽鬼は炎を纏ってんだ。鉄なんか効くわけねーだろ!」
神山は自信満々に言う。
だが、今の彼は完全に戦闘の実況となってしまっている。
「こ、これならどうだぁ!?」
次はスタンガン。
藤村の腹に当てられ、電流を流す。前に、スタンガンが炎で破壊されてしまう。
「ば、化け物だ!!」
松田を置いて、残りの七人は背を向けて必死に走り去って行く。
残された松田も、藤村に完全に勝てないと思っているのか、尻餅をついて、口を開けたまま震えている。
「おい、お前ら!俺だけ……置いて行くんじゃねぇよ!」
藤村が松田の前に立つ。
「……わ、悪かった……。だから、今回は……」
「―――許してくれ、か?」
藤村の口が動く。
藤村幽鬼としての言葉か、焔華としての言葉かは分からない。
「……それは、失敗してしまった時の山口が言ったとしても、お前は見逃したのか?」
「……ッ!」
幽鬼の拳が松田の頬に叩き込まれる。
松田はそのまま地面に倒れて、動かなくなった。
藤村が息を吐くと、焔華が藤村の身体から出て行き、姿を消した。
「やったな、幽鬼!」
「実況なんて得な役に回りやがって……」
藤村は、完全に傍観者と化していた神山にそう悪態をつく。
山口は霧野に肩を貸される状態で立っていた。
「……あの……」
「何も言うなよ。今は堅いことはどーでもいいんだ」
山口の言葉が止まる。
だが、と藤村は付け加えるように言葉を足す。
「霧野に、後でもっかい謝っとく事。いいな?」
「……はい!」
山口の顔から、笑みが零れる。
霧野を救った藤村と神山は、霧野と山口とともに、学校へと戻ることにした。
23
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/27(日) 03:18:32 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
『いやー、ホント今日俺はカッコよかったと思うぜ!』
藤村は神山と電話をしながら、自分の寮へと入った。
きちんと自転車は、生徒会の二人に返したし(その後こっぴどく叱られた)、松田達ももう山口や霧野に手を出さないと約束してくれたし。昨日に続き、今日も疲れが溜まったような気がする。
藤村は、ベッドに腰掛けて神山の話を聞いていた。
『つーか、俺。焔華さんに挨拶したいんだけど……電話変わってくんね?』
「アホか。アイツに携帯電話近づけた瞬間、壊れるっての!大体、挨拶目的で降霊術使わせようとすんな」
藤村の右手にはいつものように包帯が巻かれている。
包帯を巻いてる理由は、『常に紋を出しておくと、焔華が勝手に出てきたりするから』らしい。他の術者も隠す者が多いようで、見ただけで降霊術者だ、と分かる者はほとんどいないだろう。
『しかし、カッコよかったぜ、幽鬼!ありゃ七瀬チャンも惚れたんじゃねぇの?』
「それはねーな。それなら、助けに来たお前だって可能性あると思うぞ」
『やっぱり!?だよね、そう思うよな!』
神山のテンションが一気に上がった。
言わなければ良かった、と思った頃にはもう遅い。神山のマシンガントークが始まった。
耳から携帯電話を遠ざけて、騒がしい声がやむまで待とうとしている。
ぶっちゃけた話、このまま切ってもいいのだが。そうしたらまた後で掛け直してくるに違いない。
そして、藤村は話題に出た霧野について、何かを思う。
「なあ、翔一。霧野って何処の寮に住んでるんだろーな?」
『あの時の俺はマジで……ん、さーな。女子寮とか行ってそうだな。少なくとも、俺らみたいに男女混合の安い寮には行かないって』
「……だろーな。何かアイツちょっと上品だし」
同感ー、と間延びした神山の声が聞こえてくる。
その声は軽い調子ともとれるし、眠そうともとれる。
『あ、充電ヤベェ!んじゃ、また明日な!』
「おう、じゃあな」
神山が電話を切る。
藤村は横に携帯電話を置いて、息を吐く。
すると、目の前の光景に違和感を感じた。
自分が腰掛けてあるベッドとは別のベッドが、側面が向かい合うように、向こう側の壁にくっついた状態で置かれている。
「……?」
藤村は眉をひそめる。
この寮は自分一人で、ルームメイトなどいないはずだ。
彼の知能をフルで活用させて、ある答えを見出す。
霧野七瀬が何処に住んでいるのか知らない。彼女は転校して来たばかり。ここは男女混合の寮。
そう、恐らく今日から彼のルームメイトになるのは……。
部屋のインターホンが鳴る。
藤村が恐る恐るドアを開けると、そこに立っていたのは荷物を抱えた霧野だった。
「……お前、まさか……!」
問いかけようとする藤村の言葉が分かったのか、霧野はコクリと頷く。
「今日から一緒に住まわせてもらう、霧野ですっ!よろしくね、藤村君!」
彼女はウインクをして、藤村に言う。
一見可愛らしい仕草だが、今の藤村にとっては『霧野がやって来た』というだけでも、とんでもない災害である。
―――こうして、物語は幕を開ける。
24
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/27(日) 13:15:00 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.2「ルームメイト」
今日は土曜日だ。
霧野七瀬が転校してから四日経ち、その霧野七瀬と同じ部屋になってから三日経つ。
藤村幽鬼は、土曜の朝は外を数分ブラつく、という習慣があるため、今は丁度その帰りだ。
藤村は部屋の鍵を出して、扉の鍵を開ける。
部屋に入ると、とんでもない物を見てしまった。
それは、現在パジャマから着替え中の霧野七瀬だ。
それが分かった理由は、彼女の足元に脱いだパジャマが無造作に置かれてるし、下着姿のまま動作が止まっているからだ。
「……あ」
藤村は顔を赤くして、そう呟く。
状況がようやく飲み込めた霧野は耳まで真っ赤に染めて、目に涙を溜めている。
「……えーと……」
藤村は言い訳の言葉を考えているがそれどころではなかった。
「いやあああああああああ!!」
甲高い霧野の悲鳴とともに、頬を平手で打つ音が部屋の中に響く。
藤村と霧野は向かい合ってテーブルを囲んでいる。
しかし、部屋の空気はただならぬもので、霧野はぷいっと藤村と目を合わせないようにしているし、藤村は頬に平手打ちされた跡の手形を残しながら、眉を下げ、霧野を見ている。
部屋の中は静寂が包んでいた。
「……あのなぁ、確かに俺も悪かったが、お前も悪いだろ」
藤村はそう言う。
霧野はまた、僅かに涙を溜めながらキッと藤村を睨むと、
「女の子の裸を見といて!何で私が悪いの?」
「何の為にお互いのベッドにカーテンを取り付けたんだよ!」
藤村は軽く机を叩いて、そう言う。
二人のベッドの側面にはカーテンが取り付けてある。
これは霧野が『同じ部屋だけど、寝顔を見られるのは抵抗がある』と言うので、付けてもらったものだ。藤村は着替えもカーテンを閉めて、中で済ませると霧野と約束していた。
まさかこんなに早く破綻するとは。
「……う……」
霧野は自分が無理言って付けてもらった手前、言い返せなくなる。
「俺がいなくても、中で済ませろ。こういうことだってあるんだから」
「……ごめん」
霧野は小さく頭を下げて謝る。
藤村も、こっちも悪かった、と言って謝り、とりあえず二人は和解する。
すると、藤村は霧野のベッドに何かあるのを見る。
「霧野。そのベッドに置いてあるの何だ?」
霧野は自分のベッドに視線を移す。
「ああ、これ?さっきやっと届いたの!」
霧野はベッドから、それを取り出す。
それは日本刀だった。
黒い鞘に納まった、日本刀。柄の先には二本の紐のような物が垂れている。
「……お前の武器って刀だったのか」
「うん。そーだ、さっき刀と一緒にこれが届いてたよ」
霧野はそう言うと、脱いだパジャマのポケットから二つの封筒を取り出し、その一つを藤村に渡す。
藤村は不審に思いながらも、封筒を開けて、中身を取り出す。
中に入っていたのは、手紙と一枚の紙切れだ。
手紙の内容は『これと一緒に封入されている紙は月曜日の中間試験にて使用します。絶対無くさないように』とあった。
紙切れは番号が振ってあるだけの、特に変わったところは無い物だ。
「……九番?席の番号か……?」
「え?私も九番だけど……?」
霧野が自分の紙を見ながら言った。
席の番号なら同じ番号はありえないだろうし、封筒が二つ来ているという事は藤村用と霧野用がちゃんとあると言うことだ。
「今は分かんねぇけど、月曜日になれば分かるだろ」
藤村は手紙と紙切れを封筒に戻し、仰向けに寝転がる。
土曜日は特に何もすることがなく、普段はテレビを見るか、ゴロゴロするかだが、部屋に誰かといると何だか変な感じだ。
それも女子とだというのだから、妙に緊張してしまう。
「あ、ねぇねぇ藤村君!」
霧野が藤村の顔を覗きこむように話しかける。
「……?何だよ」
「私、こっちに来てまだ間もないし、街を案内してよ」
藤村は溜息をついて身体を起こす。
特に何をするわけでもないからか、藤村は霧野を街に連れて行くことにした。
25
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/27(日) 19:02:01 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
二人は制服に着替え、街に出た。
休日なのに制服、というのには理由があった。
戦場原学園は外出時には、休日であっても制服という校則がある。室内にいれば私服だろうが、何でもいいのだが。
しかも、外出時は極力武器の持ち出しも禁じられている。
霧野は手をかざして、辺りを見回すと、声を上げた。
「へー。街は意外と普通なんだね。武器がほとんど無いってのも、学校とは違うし」
「……街中も武器があったら世紀末だっつの……」
藤村は霧野の言葉に溜息をつきながらそう呟く。
こっちの事情を知らない、ということは霧野は東京の外部からやって来た、ということになるのだろうか。
霧野は藤村の方を向いて、問いかける。
「ねぇねぇ、何で東京は戦闘に関する教育施設が増えたの?」
「さーな」
藤村はそう返す。
そう返された霧野はきょとんとした表情になって、
「……藤村君は知らないの?」
「……俺だけじゃなく、誰に聞いても曖昧な答えが返ってくるだろうよ」
藤村は退屈そうに説明を始める。
「説は二つ。いつ来るか分からない戦争などの時のための対策。もう一つは、始めは護身用の訓練施設だったのがどんどん進んで戦う事を基にした施設になった。それを学校にも組み込み始めて、今に至る。どっちも嘘くせーけどな」
藤村は息を吐く。
戦闘を目的とした施設が無ければ、自分も降霊術などを使わなくていいのだろうか。そう考えると、複雑な気持ちだ。
「藤村君はどっちであってほしいの?前者か後者か」
「どっちでもいいよ。嘘くせーけど、どっちも現実味はあるし」
霧野は、ふーんと適当に返事を返す。
「お前は何でこんなトコに来たわけ?」
藤村の質問に、霧野がへ?と反応する。
霧野は僅かに言い淀み、
「……、親から『行って来い』って無理矢理……ってとこかな?」
霧野は苦笑いを浮かべながらそう答える。
それは、ここに来たのが嬉しい笑みではない。
憐れみや、嘲り。そう言った自分を笑うような感情が含まれていた。
「……そうか。何か、悪いな……」
「いや、いいよ!気にしないで!」
急に気を遣われ、霧野は慌てる。
「そうだ!そろそろお昼だし、何処かで食べない?」
霧野は藤村に、そう促す。
二人が歩き出したとき、角から飛び出た人影に藤村はぶつかり、尻餅をついてしまう。
ぶつかった相手も、同じように尻餅をついてしまっていた。
「わわ、藤村君大丈夫?そっちの人も大丈夫ですか?」
霧野は藤村とぶつかった人にそう問いかける。
ぶつかった人は、小柄で肩くらいまでの金髪の少女だ。見れば藤村達と同じ制服を着ている。
「……悪い、大丈夫か?怪我とか……」
藤村は立ち上がって、尻餅をついてしまっている少女に手を差し伸べる。
少女は顔を上げる。
「……ぁ……、」
少女は僅かに呟くと、いそいそと立ち上がって、お尻の辺りを手ではたく。
「……だ、大丈夫です……。怪我とかないから……すいませんでした……」
少女は小さくお辞儀をして、その場から去って行く。
藤村は少女の背中を目で追いながら呟く。
「……何か変な奴だな」
「山口君の女バージョンみたい」
藤村と霧野は少女から視線を外し、空腹を満たすため、喫茶店に入って行く。
26
:
ライナー
:2011/11/28(月) 17:24:03 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
おっと? ぶつかった少女、何だか怪しいですね。
にしても降霊術、マジ神だ……!!
ふむ、しっかりと戦闘理由を書いていますね。まあ良いと思います。
個人的には、と言うか一般の小説から推測して言わせて貰いますと、あまり設定は曖昧なものにするべきではないと思います。
それに、設定でも微妙な矛盾が起こってきたりします。
1つは、いつあるか分からない戦争のため。これの矛盾ですが、国の防衛として自衛隊が使われているのはご存じですよね?
その自衛隊と同じ訓練のようなものをするのは何故か、と言うところでしょうか。
2つ目は、護身用の訓練施設が発展して。これは何故護身か必要となったのか、ここがポイントです。ちゃんとした理由がなければ戦闘理由とは繋がりません。
そして、何故学校に組み込んだのか、ここもしっかりと伝えなくてはなりません。
噂にだけ流れている状態なら、国民はハッキリとした理由が欲しくて、反乱などを起こすでしょう。そう言うこともふまえて、曖昧な設定造りは止めましょうね。
ではではwww
27
:
ライナー
:2011/12/03(土) 10:48:30 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
すみません、コメント失礼します、ライナーです。
えーと、熱くなりすぎて少し口が悪くなってしまいました事をお詫び申し上げます。
とりあえず、理由は書けているので良いと思います。
これからはホント気を付けたいと思います。もうちょっと小説に関して冷静になれればいいのですが、時間が無く、謝罪も遅れてしまいました。
ではでは、ライナーでした。
28
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/03(土) 13:22:31 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
はい、実は(?)怪しいんです。
しかも結構変な子でして……。
まあ後から出てきますが、降霊術者は幽鬼だけではないんですよね……。
近いうちに二人目出ると思います((
いえいえ、指摘してもらってるので少々キツイ方が……。
いや、こちらこそ至らぬ点があり、アドバイス感謝しております。
それでは、次も頑張りますね^^
29
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/03(土) 13:55:17 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
とりあえず、昼ごはんを食べ終わった藤村と霧野は店を出る。
これから特にしたいこともない二人だ。
顔を見合わせて、帰ることにすると、
「あーーーっ!?」
と後ろから聞き覚えのある声が叫びを上げる。
藤村と霧野がそちらへ視線を向けると、自分達を見てショックを受けている神山翔一の姿があった。
何やってんだアイツ、と呆れ顔になっている藤村に、神山はずかずかと近づいていてくる。
「何でお前七瀬チャンと二人きりになってんだよ!」
いきなりこれか。
相手が涙目になって必死に問いかけてくるところを見ると、適当に誤魔化しても面倒なので正直に答える。
「何でって……案内だよ。霧野はこっちに来たばっかだし」
「じゃあ何で俺を誘わないんだよ!」
「二人で案内すると右往左往して霧野が疲れるだろうが」
神山の言葉が、藤村の意見に詰まる。
確かに二人で案内すると、案内する側の意見が一致しない場合あっちこっちに行って案内されている側は疲れるだろう。
そのため、藤村もあえて神山を誘わず一人で案内していたのだ。
「それでも納得いかん!二人でなんて!」
「仕方ねーだろ」
「うん。神山君より藤村君のほうが頼みやすかったし。部屋同じだから」
霧野の言葉に神山と藤村が固まる。
神山は口を開けて固まり、藤村は何で言っちゃうかな的な顔でいる。霧野は二人の反応にきょとんとしている。
そしてやがて、何かに気付いたように、
「……何か、いけないこと言っちゃった……?」
「遅ぇよ!!」
藤村は叫ぶ。
神山は藤村の胸倉を掴んで、もう既に軽く泣いている。
「何でお前七瀬チャンと同じ部屋なの!?つー事はあれか!二人は今同じ屋根の下で寝てるのか!」
「紛らわしい言い方すんじゃぇねよ!そうだけども!」
藤村は神山の手を振り解く。
神山はその場で膝から崩れ落ち、泣き出している。
馬鹿らしくなった藤村は溜息をついて、頭に手を当てる。
「……もう帰ろうぜ、霧野」
「……ちょっと、待て……」
神山がゆっくりと立ち上がって、涙を拭う。
どうやら、神山は本気で泣いていたようだ。
神山は二人の方を向いて、
「封筒、届いてるだろ?中にあった番号……二人は何番だ?」
神山の口調が真剣なものになる。
二人もそれに気付き、顔を見合わせて答える。
「二人とも九番だ。お前は?」
「……十三。待て、試験の時の席番号かと思ったけど……同じ番号って事は違うのか?」
顎に手を添え、神山を呟く。
「番号の事は俺らも何か分かってねぇ。ただ、同じ番号が二つもあるって事は……」
ハッと、神山はあることに気付く。
まさか、と前置きをして言葉を放った。
「二人とも同じ席に座っていちゃいちゃしながら……」
「よし、霧野。帰ろうぜ」
「うん」
神山の言葉に藤村と霧野はすたすたと帰って行く。
置いていかれた神山は『待って!冗談だって!』などと言うが、二人は聞いていない。
まあ当日まで一週間もないし、当日に分かればいいか、と藤村は考えている。
今日は土曜日。試験まで、あと二日である。
30
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/03(土) 17:38:28 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「ふあーっ!」
部屋に戻るなり、霧野はすぐに自分のベッドへと飛び込む。
彼女の声は長い道のりを超えて、ようやく我が家に帰って来た。言うなれば修学旅行から帰って来た、みたいな感じの声だ。
疲れているような声を出した霧野に、藤村は僅かに心配そうな顔をした。
「悪いな、疲れたか?」
その言葉に霧野は反応して、ぶんぶんと首を横に振る。
「ううん、私が言ったんだもん。むしろ、一緒に来てくれてありがとって感じだよ!」
霧野はニッコリとした笑顔を藤村に向ける。
その笑顔が可愛かったのか、藤村は僅かに頬を染めて、顔を背ける。背後に霧野は顔を背けた藤村に、首を傾げている。
藤村が顔を逸らした視線の先には、封筒があった。
中間試験に関わる、謎の番号が書かれた紙切れが入っている封筒だ。
藤村は封筒を手に取り、中にある紙切れの番号をもう一度確認した。
「……九番、か。さっぱり意味が分かんねぇな」
振り返ると霧野も同じように自分の封筒の中の紙切れを取り出していた。
「うん。同じ部屋だからって思ったけど……神山君のルームメイトは違う番号だって言ってたもんね」
「……考えても仕方ねーか」
藤村は紙切れを封筒の中にしまい、溜息をつく。
藤村達にとっては、次の中間試験が高校生初めての試験である。実技試験……つまり、少なくとも戦う事は明らかだ。
包帯を巻いている右手に藤村は視線を落とす。
(……実技、か。俺の今の実力が、どこまでいけるかだな……)
そう思って、藤村は右の拳を強く握り締める。
戦場原学園、生徒会室。
ここには、特例や許可がない限り、生徒会の役員以外は入れない。中は普通の教室より狭めで、長机が四角形をかたどるように配置され、椅子が五席用意されている。
扉を開けると、奥の壁に窓が設置してあるが、今はその窓は見えない。
何故なら、窓の前に一人の人物が立っているからだ。
茶色の髪をツンツンにさせた、左腕に腕章をつけた身長が高めの少年だ。
扉を開けたのは、その少年と同じく腕章をつけている黒髪の女子だ。
「……そろそろ下校時刻よ、いつまでそこにいる気なの?」
「……ああ、いたんだ。ごめん、気付かなかったよ」
少年は振り返るとかなりの美青年だ。彼がつけている腕章には、『生徒会会長』と書かれている。
生徒会会長。
この学園で、その言葉がどれほどの意味を持つのか。
戦場原学園の生徒会会長と、副会長は人格を問わずに決まるのだ。
自分より弱い奴の言う事を聞かない、と言う生徒が出ないために、会長は学園で一位の生徒、副会長は二位の生徒務めるのだ。
どちらも三年生に限定されてしまうのだが。
少年がつけている腕章が『会長』。扉を開けた少女がつけている腕章は『副会長』。
つまり、今生徒会室にいる二人が、学園のツートップだ。
生徒会長、工藤政宗(くどう まさむね)と副会長、真田紫(さなだ ゆかり)。
「で、政宗君。一人で残って何やってたの?」
「ん、考え事さ」
考え事?と真田は首を傾げる。
工藤は軽く頷いて、笑みを浮かべたまま答える。
「もうすぐ一年の試験だろ?今回は、期待できる生徒はいるのかなー?」
真田は呆れたように息を吐く。
「……昨年度の会長がやったような事、やる気じゃないでしょうね」
「さあ、どうかな」
31
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/03(土) 22:57:45 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.3「中間試験」
『第一学年の生徒は、九時までに戦場原学園敷地内の森林園の入り口に来てください。繰り返します―――』
朝の放送で、藤村と霧野は目が覚めた。
結局、日曜日にも紙切れの番号の謎が解けず、月曜日になった。
二人はカーテンを閉めたまま、着替えを始める。
着替えている間は、何故か二人とも無言だ。寝起きで頭が回らないのか、話す事がないのか、静寂が部屋を包んでいた。
着替え終わると、霧野は刀と封筒を、藤村は封筒だけを持って、森林園の入り口へと向かう。
「……結局分からなかったね、この番号が何なのか」
「ああ。でも今日分かるんだし、いいじゃねぇか」
二人はそんな会話を交わしながら歩き、入り口へと到着する。
そこには第一学年の生徒である約二百四十人が集まっていた。
パッと見でクラスまでは分からないが、一人でいる者はほとんどおらず、最小でも二人組みのグループが出来ている。
「あ、二人とも。おはよう」
藤村と霧野に声をかけたのは山口だった。
彼も藤村達他の生徒と同じように封筒を持っている。ただ武器らしき物が見当たらないのが、すごく不安だ。
「なあ、どんな試験やるんだ?お前の番号は?」
「試験内容までは分からないよ……。ちなみに、僕は五十一番」
藤村の質問に山口は答える。
山口も違うのか、と藤村は鼻で息を軽く吐いた。
神山から藤村と霧野の番号を聞いていたらしく、山口は二人の番号を言い当てた。
「やっぱり気になるね。同じ番号の人って何人いるのかな?」
霧野が辺りを見回す。
だが、紙切れを持ってうろついている人は見当たらず、結局見つけるのを断念した。
すると、入り口の方から、
『やあやあ一年生諸君!待たせたねー!』
というマイクで話している女性の声が聞こえた。
入り口の前に立っているのは蝶の髪飾りをしている女性の教師だ。
肩より少し伸ばした金髪に、スタイルの良い身体。男子生徒からはかなり人気の高い先生だ。
「藤村君、あの人は?」
「ああ。青奈千蝶(あおな ちちょう)先生。大学卒業してからすぐにこの学校に来た天才だってよ。大学もずっと首席だったらしいし「」
ふーん、と霧野は返事を返す。
前の青奈はマイクを持ったまま、話を続ける。
『さてさて!今日ルーキー達に挑んでもらう試験内容は、戦場原学園の敷地にあるこちらの森林園!この中のどこかにある水晶玉を持って帰ってきて欲しいの』
戦場原学園森林園。
東京の三分の一を占める戦場原学園の敷地内にある、敷地の十五分の一を占める森林。特に有名な草木はないが、よく試験会場に使われる場所だ。
『しかも、コレは個人戦ではありませーん。事前に皆に配った封筒の中にある番号が書いてある紙切れ。皆もう一度チェックしてー!』
言われたとおりに生徒は一斉に封筒の中にしまっていた紙切れを取り出し、己の番号を確認する。
藤村達三人も、番号を確認しあう。
『確認した?見間違いない?実はネ、自分と同じ番号を持ってる人って自分以外に二人いるのよ』
青奈の言葉に真剣さがこもる。
彼女はマイク越しでも分かるくらい、声のトーンを落ち着かせる。
『今から同じ番号の人同士、三人一組のチームを作ってください。この試験はチームで水晶玉を持って帰ってきてもらいまーす』
同じ番号の理由が今分かった。
これは同じチームの証。
つまり、藤村と霧野とあと誰か一人が、チームを組み、この試験を受けることになるのだ。
32
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/04(日) 10:15:28 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「……三人一組……?」
そう呟き、藤村と霧野は辺りを見回す。
山口も、自分のチームを探すために藤村達と別れる。
「……こんな中からもう一人を見つけろって言うのかよ……」
現在、ここにいる人数は約二百四十人。
その中から同じ番号を持った一人を探すなど、出来るのか?しかも周りもチームの人を探すために騒いでいるため、大声を出して聞こえるのか分からない。
それを分かっていながらも、藤村は大きな声で呼びかける。
「おーい!九番のヤツいないかー!」
しかし、間近である霧野にもあまり聞こえないくらい周りは騒がしかった。
「……まだ一人でいる人に聞いて回った方が早いかも」
「そうだな。面倒だけどそうするか」
「……あの」
藤村と霧野の耳に、女子のか細い声が届く。
二人が振り返ると、両腰に刀を一本ずつ挿している少女が声をかけている。
「……私、九番です……」
「あれ、お前……」
その少女は、土曜日街に出た際に、藤村とぶつかった小柄な金髪の少女だった。
同じ制服だったため、同じ学校の生徒だとは分かっていたが、同じ学年だとは思わなかった。
「……え、あ……あの時の……」
相手の後ろから声をかけたため、少女も振り返られて初めて、ぶつかってしまった相手だと気付いた。
「……まあいいや。それより、九番だって言ったよな?」
「あ、はい……」
少女は同学年にも関わらず、常に敬語で話してくる。
初対面だから緊張しているのか、ぶつかったことがあって申し訳なく思っているのか、理由は分からない。初対面で、という理由なら珍しくないが、霧野は始めからタメ口だった。
少女は封筒から紙切れを取り出して、藤村に見せる。
「じゃあ、お前が俺らと同じチームだな。藤村幽鬼だ、宜しくな」
藤村は右手を差し出し、握手を認める。
少女は僅かに躊躇いながらも、手を出す。もしかしたら右手の包帯が相手を躊躇わせたのかもしれない。
「……篠崎唯(しのざき ゆい)、です……」
少女は藤村の右手に自分の右手を合わせ、握手を交わす。
そして、藤村と同じように、霧野も手を差し伸べた。
「霧野七瀬。宜しくね、篠崎さん」
「……あ、はい……」
霧野には特に包帯などないが、篠崎はここでも躊躇い、握手を交わす。
しかし、霧野にはただ躊躇ったようには見えなかった。
(……藤村君の時より躊躇った時間が長かったような……。もしかして、あの子……)
『さあさあ、皆チームは出来たカナ!?』
入り口前の青奈先生が再びマイクで呼び掛ける。
『んじゃ、全員気を引き締めろー!もちろん、相手のチームから水晶を奪うのもアリだから!制限時間は三時間!よーい、スタートォ!!』
青奈の言葉で森林園の入り口が開かれる。
遂に、中間試験が始まった。
33
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/09(金) 23:45:27 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤村、霧野、篠崎の三人、九番チームは森林園の中を歩いていた。
周りに広がる景色は自然な葉や草の緑と、木の幹の茶色のみ。目印になりそうな物は無く、迷ったら大変だ。
そんな森林の中を、藤村達は進んでいく。
「つっても、水晶玉を持って帰って来いって言われても……どんなモンかね?」
藤村が何気なくそう呟く。
それを聞いた霧野と篠崎は、うーんと小さく唸って、
「……やっぱり球体なんだよ。ヒントが『水晶玉』だけなら、見たらすぐ分かるんじゃないの?」
「……私もそうだと思います。しかも、こう緑と茶色ばかりなら、水晶玉も案外楽に見つかるかもしれませんし……」
霧野の言葉に、篠崎が遠慮気味に賛同する。
しかし、水晶玉という物自体が分かっても、大きさも問題になる。
小さすぎると草などに隠れて見えないだろうし、大きすぎると敵チームに襲われたときに一気に不利になってしまう。
「何処にあるんだ?木の上とか、草の陰とかか?」
執拗にきょろきょろしながら藤村は足を進める。
霧野と篠崎も同じように、球形の物を見つけようと辺りを見回す。
「……見当たらねぇ」
一向に見つかる気がしない物に、藤村は嫌気が差したのか悪態をつく。
その様子に霧野は困ったように息を吐いて、
「仕方ないよ。そう簡単にクリアしたら試験にならないし」
篠崎はどうすればいいのか分からず、口を小さく動かしていた。
すると、霧野の足が唐突に何かに引っかかる。
「!」
転びはしなかったものの、少しよろめいてしまう。
霧野が視線を落とすと、あからさまに罠とでも言っているように、ぴんと張られた糸があった。
「……」
霧野の表情が固まる。
あれ。自分まずいことをしちゃったんじゃ?という彼女の予想は的中した。
急に、ズドン!!という何かが落ちる鈍い音が響き、僅かに地面が揺れる。
それから藤村達の目の前に現れたのは巨大な岩だ。俗に言う落石というやつだろう。
「どわああああああっ!?」
藤村は思わず声を上げてしまい、逃げることもせず、霧野と篠崎を押し倒すような形で、横合いに逃げ、押し潰されるところを何とか免れた。
「……はー、ちくしょう!先生達もこんな悪質な罠仕掛けやがって!」
「……どうやら、敵チームの動向だけじゃなく、罠にも注意したほうがいいね」
すると、藤村は肩を掴んだままの篠崎に声をかける。
「だ、大丈夫か?篠崎」
篠崎は声をかけられると、肩に手を置かれてるのに気づいたのか僅かに頬を赤くして、振り払うように、藤村から距離を取った。
それから、俯いたまま『大丈夫です』と返す。
藤村は、小さな声で霧野に訊く。
(……俺、何か嫌われるようなことした……?)
(……さぁ?)
もちろん、篠崎に悪気は無いだろうが、藤村は僅かに心にダメージを負ったようだ。
しかし、霧野は霧野で別のことを考えていた。
(……今の挙動……。ここにきて確信がついた……。この子……)
「さぁー!いくぞいくぞ!みんな、罠には気をつけろよ!」
藤村が無理矢理にに元気を出して先導する。
その光景を見ながら、霧野と篠崎もついていく。
篠崎は、霧野の顔をじっと見て、やがてこんな質問を繰り出した。
「……あの、藤村君っていつもあんな感じなんですか……?」
質問された霧野は目を点にして、考え出す。
それから、ちょっと間を空けて彼女は答えを出す。
「大体いつもあんな感じ。たまーに化けるけど」
「……化ける?」
言葉の意味が分からず、篠崎は首を傾げ、きょとんとしている。
分かりやすく言おうと、霧野は再び頭を悩ませ、答えを出す。
「……かっこいい、と思う時もあるけど……。まあ、今の藤村君を見ればそう思う人はほとんどいないだろうけど」
「そうなんですか……って、あれ?」
返事を返した篠崎が唐突に声を上げ、その場に立ち止まってしまった。
篠崎の方を見たまま、霧野も足を止める。
「……どうしたの?」
霧野の質問に、篠崎は前を指差して、僅かに声を震わせて言った。
「……藤村君が……いない……」
霧野が振り返ると、今まで前で張り切っていたはずの藤村幽鬼が確かに見当たらない。
辺りを見回すもそれらしい人影は無く、葉や草の緑と、木の幹の茶色しか目に入ってこない状態だ。
目印になりそうな植物はないし、大声を出しても届くか分からない広大な場所。
霧野と篠崎を、一気に不安が包み込む。
34
:
ライナー
:2011/12/10(土) 12:24:26 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼いたします、ライナーです^^
いきなし藤村大変なことになってますね。不安だw
罠もはっちゃけていて面白いですね。
ええと、アドバイスの方ですが、言われた通り少しキツめでやらせていただきます。
やはり出てきます「擬音」ですね。
極力少なくしているのように見えますが、使いどころが悪いと意味がありません。
特に使われていた「ズドン!!」ですが、これはタブーです。このズドンをしっかり比喩を使って表さなければ、試験のシリアスさなどの特徴が薄れてしまいます。
さらに「!」のマークを使うのも、またタブーです。
竜野さんもある程度分かっているようですが、擬音には「!」を付けては薄っぺらい表現になってしまいます。
さらに厳しいことを言えば、擬音はほぼコメディーに使われる手法です。これでは、この描写がギャグファンタジーになりかねません。
個人的には、そう言った表現を控え、もっと比喩表現を学んだほうが良いと思います。まあ、自分も未熟なのですが……
まず擬音になれるには、意識して表現する事を挑戦してみましょう。それと、まずは擬音を繰り返し言葉の方で慣れておくと良いでしょう(ヒラヒラ、カチカチなど)
それと文章の言い回しですが、俗に言う落石。こんな意味の分がありましたよね?
これの意味をご存じでしょうか。 俗に言わなくてもほぼ落石ですよ?
俗に言う〜 といったものの使い方は、しっかり条件があります。
少し言い表しづらいのですが、自分の中、あるいは表面上こういった言葉が使われるが、俗に言う……という感じです。
例を挙げてみますと……
僕はとても勉強が好きだ。ゲーム何かより勉強が好きなだけで、遊んでいる感覚なのだが、それは俗に言う真面目なヤツらしい。
と、こんな感じです。
少し分かりやすくしたために、文としての崩れがありますが、意味が分かって貰えたでしょうか。
大まかに言うと、自分ではこう思っているが、一般的にはこういう事だ、って感じです。
ではではwww
35
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/10(土) 22:57:28 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「藤村くーん!」
森林園に霧野七瀬の言葉が響く。
彼女は口元に両手をかざし、大声で見失った仲間の名前を呼びかけていた。
しかし、今大声を出すのはかなり危険だ。
何故なら、大声を出せば自分の位置を教えているようなもので、自殺行為に近かった。
他のチームに見つかっても『水晶は持ってません』と言えば、見逃してくれるかも分からない。
「……完全にはぐれた。大丈夫だとは思うけど……」
「……携帯電話で連絡とか取れませんか?霧野さんなら連絡先を知ってるでしょう?」
その手があった、と霧野はスカートのポケットから携帯電話を取り出す。
画面を開くと、液晶の画面は真っ暗だ。
首を傾げて、電源を入れ直す霧野。起動した、と思ったら画面にある言葉が映し出された。
『充電してください』
(……充電切れとる……!)
霧野は携帯電話の画面を眺めながら、寂しそうに佇んでいた。
その様子に眉を下げて、どうすればいいのか分からない篠崎。
今にも泣き出しそうなオーラと雰囲気を放ち、霧野はポケットの中へ携帯電話をしまった。
「……詰みました」
「……いえ、その……すいません」
携帯電話で連絡を取ろうと提案した篠崎は、泣き出しそうな霧野を見て謝ってしまった。
そんな絶望中の霧野の耳に、僅かに草が動く音が届く。
(伏せて!)
霧野は自分より背が低い篠崎の頭を上から押さえつけるようにしながら、しゃがみ込む。篠崎も急な力を頭上から加えられ、自然にしゃがみ込む形になってしまう。
二人は息を殺して、周りの音を聞いている。
「……くそっ!さっきこっちの方で声がしたのに……もうちょい奥か?」
「みたいだな。行こうぜ!」
それは同じ試験を受けているチームの声だ。
転入してきたばかりの霧野には誰か分からないし、篠崎も声だけで判断するのは難しいだろう。
とりあえず、声からして二人の知り合いではないらしい。
彼らが去っていく音がし、聞こえなくなると同時に、篠崎の頭に手を置いたまま、霧野が口を開く。
「……やっぱり気づかれた。でも、こっちの気配に気づいてくれなかったのは良かった」
「……」
篠崎は頭の手を避けるように身体を逸らす。
霧野はそんな篠崎の行動に訝しげな表情を浮かべ、僅かに目つきを鋭くする。
「……篠崎さん?」
「あ、いえ……なんでもないです!急ぎましょう……」
立ち上がって、動くことを促す篠崎の腕を、霧野は掴み、
「待って」
と一言告げる。
篠崎は僅かに困ったような表情をして、振り払うように掴まれた腕を脱出させると、立ち止まる。
「……何ですか」
「……藤村君がいないから訊くけど……思えば最初から不自然だった」
篠崎の問いかけに霧野は答えになっていないような答えを出す。
だが、それはまだ続きがある。
「藤村君と私が求めた握手への躊躇い……。藤村君があなたに触れた時の挙動……。そして、」
霧野は確信を突くような口調で告げる。
「さっきも、私があなたの頭に手を載せていた時の振り払うような動き―――、篠崎さん。間違っていたらごめんなさい。だから、単刀直入に訊かせてもらう」
霧野は真っ直ぐに篠崎を見つめて、こう訊ねた。
「―――あなた、男だよね?」
霧野が篠崎にそう訊ねる。
篠崎は、霧野の言葉に僅かに躊躇いを見せた。そして、
小さく、頷いた。
36
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/10(土) 23:05:00 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます。
藤村君はなんだかんだでかわいそうな子です。
その分、ある意味おいしいキャラでもありますが((
擬音のことは言うことがありません。
確かに少なくするように頑張っているのですが、やはり出しちゃうんですよね……。
僕の読んでいる小説では結構『ゴォ!!』や『ズバン!!』などが出てくるのですが。これも悪い表現なのでしょうか?
その小説、というかラノベなんですが、影響を受けて若干書き方を真似てるのですが……。
ああ、使い方間違ってしましたか。
僕も意味が曖昧なものは、調べてから使用した方がいいですね……。
これからなるべく気をつけたいと思います。
37
:
ライナー
:2011/12/11(日) 11:56:38 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント補足しておきます、ライナーです^^
えーと、擬音についてですが、竜野さんが挙げた例もタブーに入ります。
まずラノベだけを参考にするところが間違っていますね。
ちゃんとした小説も読まなければ、偏った書き方になってしまいます。
言うなれば、食生活に例えられるでしょう。色々な栄養を追ってこその食事ですから、小説もそれは同じで、ラノベや小説、それに時には漫画も(アイディア面で)役に立つときがあるでしょう。
それらをしっかりバランス良く読んで行かないと、それは単調なムードしか描けない。つまり食生活に直すと、肉ばっか食べ過ぎて調子が悪くなるのと同じです。
音関係に関しては、ラノベはほぼ役に立たないと考えても、可笑しくはないんですね。ですから、普通の小説で使われる比喩などを使った方が、より深みが出ます。
ちなみに、あれから僕もそれなりに調べてみたのですが、プロはあくまでプロだから擬音を使っていると言う意見が多数あることを確かめました。
やはり、プロだからこそというのがあるんですね。
もう1つ言うと、擬音はシリアス&バトルシーンでは素買わないことをお薦めします。使うと即雰囲気が崩れますので。
使うのであるならば、日常模写、コメディーなどの方があっていると思います。
それと、これも様々な方の意見から推測させていただいたのですが、擬音は繰り返し言葉(≫34のヒラヒラなど)なら問題ないという方が多数でした。
この事から、本を読むと言うだけの情報を取り入れるより、いろんな方々の意見を聞くことも大事だと思います。
ではではwww
38
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/16(金) 21:55:07 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.4「篠崎唯」
「だー、ちくしょう。どうすりゃいいんだよ」
一方で、一人で森林園に迷った藤村は呟きながら歩いていた。
自分ひとりで振り返らずに進んでいたわけで、迷うのも無理ないか、と思ったりもするのだが、真っ直ぐにしか進んでいないのではぐれるのは可笑しいな、と考えたりする。
しかし、今の藤村は別れた二人を探すので精一杯だ。
「……あの二人で大丈夫かな。篠崎ってちょっと難しそうだし、霧野も肝心なトコ抜けてるからなー」
藤村は、はぐれた二人の心配を始める。
藤村は、思い出したように。更に自分って天才!とでも言いたそうな表情で、ポケットを漁りだす。
彼が取り出したのはポケットにしまっておいた携帯電話だ。
携帯電話を開けるが、彼の液晶画面は真っ暗だ。
電源を入れて、霧野に連絡を取ろうと思った藤村。
電源のボタンを押し、画面が表示されるのを待っていると、思わぬ言葉が表示された。
『充電してください』
藤村は何かを悟ったような表情で、携帯電話をポケットにしまう。
「……うん。まあ、こんな事もあるよな……」
携帯電話での連絡はとりあえず諦める事にした。
仮に藤村の携帯電話が使えたとしても、霧野の携帯電話が使えないので、本末転倒になっていたであろう。
無理矢理思考を変えて、そもそも、二人は一緒にいるのだろうか?という疑問が真っ先に浮かんできた。
霧野のことはある程度知ってはいるつもりだが、篠崎の事は会ったばかり同然なので、一人の時どういう行動を取るのかいまいち掴めない。
最悪のパターン、つまり三人が一人ずつに離散してしまった、という状況にだけは陥っていなければいい、と藤村は考えた。
そして、もし自分だけがはぐれているのだとしたら、彼のやるべきことは一つだ。
「……せめて、合流した時に慌てないように、水晶の一つでも見つけておくか!」
藤村は俄然やる気を出して、水晶のありそうな場所を手当たり次第に探っていく。
霧野の突然の言葉に、篠崎は僅かに表情を強張らせた。
その様子に気づいたのか、霧野はもう一度だけ、ゆっくりと告げた。
「―――、篠崎さん。あなたは……男。……だよね?」
霧野と目を合わせる篠崎。
篠崎は霧野から視線を外すように、顔を俯かせる。
それから、表情を読ませないくらいに俯いた篠崎は、こくりと頷いた。
篠崎は、頷いてから顔をスッと上げる。
視線は、再び霧野と向かい合うようになる。
「……はい。私は男です」
しっかりと、篠崎は霧野に伝えた。
「……嫌じゃないなら、女の子の格好をしている理由。……聞かせてもらえる?」
篠崎は僅かに逡巡するように、再び俯いた。
数秒間の沈黙の後に、篠崎は口を切る。
「……分かりました」
再び、顔を上げて言葉を続ける。
「話します。私が……何故こんな格好をしているのか」
39
:
ライナー
:2011/12/17(土) 10:29:40 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
さて、藤村君は大丈夫なんでしょうか。
何かと不運が付きまとうみたいで、不安ですw
さらに携帯の充電を忘れていたのか、充電切れてるなんてもっと不安ですね^^;
篠崎さん……いや、君は何故女の子の格好を!?
そういう人n((殴
続きも楽しみにしております。ではではwww
40
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/17(土) 10:35:31 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
いざとなったら降霊術使うので、藤村君は心配いりません。
でも森で使うと全部燃えるかm((
二人とも充電忘れてるんですよ……。
藤村が本編の中で『霧野は肝心なトコ抜けてる』と言ってますが、藤村君も同じです。
ってか二人は似た者同士ですw
まあ、篠崎さんもそれなりの理由で……。
ただ一つ言えることが。
そういう趣味の人ではありません((キリッ
41
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/25(日) 20:33:58 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
神山翔一は森林園の中をぐったりしながら歩いていた。
単に歩き回って疲れたわけではない。風邪気味だとか熱が少しあるとか、体調が悪いわけでもない。
彼の悩みの種は、試験で同じチームになった女子二人だ。
通常なら女子二人に囲まれると『ひゃっほい、ハーレムじゃん!悪いな、幽鬼!』となるはずの神山だが、この時ばかりは状況が違った。
「大体、何で私がアンタと同じチームなワケ!?意味分かんない!」
「あらあら?それはわたくしと力を比べられることに対してのご不満ですの?随分と器の小さい事ですわね」
彼と同じチームの女子二人の仲がものすごく険悪なのだ。
片方の少女、若干水色がかった銀髪を背中まで伸ばしているのが神乃院市(かみのいん いち)。生徒会の庶務の役職を務めているA組の少女で、周りの人達からは下の名前から『お市ちゃん』と呼ばれている。
もう一人。こいつが一番厄介だ。神山としてはこういうお嬢様系の女の子は二次元でしか見たことがない。
太もも辺りまで伸ばした綺麗な黒髪に、右手で持っている扇子で口元を隠している。本当に漫画などに出てくる典型的なお嬢様スタイルだ。
雪路冬姫(ゆきじ ふゆひめ)。
神乃院と同じくA組に所属する少女で、彼女とは学年順位が同じであることからライバル意識をしている。
そんなわけでとんでもない美女二人に囲まれている神山だが、心が癒されるどころか、どんどん疲れていく。
「大体、アンタと力の差なんて私の圧勝なんだから。別に今更比べることでもないでしょうに」
「あらあら?可笑しいですわね。順位が同じですのよ?ああ、夢の中で圧勝、と。妄想で生きてるなんて哀しい事この上ないですわね」
何よ、何ですの、と二人が目を合わせ、丁度中心辺りで火花が散っているように見えた。
神山は静かに呟く。
「……誰かー……。替わってくれー……」
篠崎は小さな言葉で、話しを始める。
「……私の家は、篠崎流という剣術の家なんです。その家の当主は代々女性が務めるものです。……私の前には、姉が生まれました」
霧野は黙って篠崎の言葉を聞いていた。
その方が話しやすいのか、篠崎も僅かな躊躇いはあるものの、ゆっくりと滑らかに言葉を進める。
「……姉は剣の才能はあったようなんですが、篠崎流の剣術だけは会得出来ませんでした。だから、私が生まれたのと時をほぼ同じくして、何処かへ行ってしまったんです。私が生まれてから、私が男だ、ということは母上と父上、それとごく一握りの人だけの秘密とされました。だから私は、他の人にもバレないように、女の格好をしているんです。学校の書類も女子だし、見ての通り制服だって……」
「……何で?」
霧野は口を開く。
「……何でその事を、私と藤村君に話してくれなかったの?」
「……言えなかったんです」
篠崎はそう答えた。
今にも泣き出してしまいそうな、震えた声で。
「……藤村君も、霧野さんも……私の事を友達と思ってくれてるし……、男の子だって言ったら、二人との絆を切ってしまいそうで……!」
篠崎は顔を伏せてしまう。
恐らく泣いている事だろう。その事を悟った霧野は、篠崎の肩に手を置く。
「そんな事ないよ」
優しく篠崎に告げた。
篠崎は涙を流していた顔を上げて、霧野の言葉を聞く。
「……私も藤村君も、そんな事で篠崎さんを避けたりしないよ。藤村君は、そんな事で人を避けたりしない。彼の周りには変な人がいるからね」
恐らく、その変な人は神山のことだろう。
「だから、隠す事ないよ。逆に隠してた方が、これからの関係でギクシャクすると思うし。後で、藤村君にも話そう」
「……うん……」
篠崎は霧野の言葉に頷く。
それから霧野は立ち上がって、気持ちよさそうに伸びをする。
「さて!合流した時に驚かせるために、水晶。見つけておこう!!」
「き、霧野さん……。ちょっと声が大きいです……」
42
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/26(月) 19:57:59 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤村幽鬼は身を木の陰で隠しながら、森林園の中を歩いていた。
と言っても他のチームと鉢合わせすることはなく、周りから聞こえる微かな声に反応して、身を隠しているだけなのだが。
そんな藤村の耳に意外と近くで声が聞こえる。
彼は咄嗟に身を屈め、木の陰から草の陰に身を隠す。
聞こえてきたのは喧嘩しているような女子二人の声だ。
「ふふふっ。あらあら、どうしたんですの神乃院さん。ああ、自分が水晶を見つけられなかったから、わたくしを羨んでいるんですのね」
「はぁ?誰がアンタなんかを羨むかっての!大体、それも足にぶつけて見つけたからって、鼻にかけてんじゃないわよ!」
「運も実力の内、ですわよ」
神乃院は自慢げな雪路を睨みつける。
それに対して雪路は、ふふんと笑って余裕を見せている。
二人の火花が激しさを増すのを、神山はがっくりと肩と気分を落として見ている。
「……あのさー……喧嘩やめない?」
「しょーがないでしょ!コイツが私に喧嘩売ってんだから!大体、アンタも男ならそれくらい察しなさいよ!」
注意するように言っただけだが、こっちが怒られた、と神山は泣きそうになってしまう。
それを慰めるように雪路が優しく語りかける。
「あらあら、八つ当たりですの?神山さんも可哀想に。わたくしは喧嘩を売っているつもりはありませんのよ」
「……ッ!その言い方が売ってるって言ってんのよッ!!」
二人の口喧嘩はますます激化していった。
感情的に言葉をぶつける神乃院と、それをあざ笑うようになだめる雪路。
そんな女の喧嘩の真ん中に立たされている神山は、ポツリと呟いた。
「……幽鬼ー……助けてー……」
神山の小さな叫びもむなしく、助けは来ない。
三人はその場からどんどん離れていき、場には静寂が戻りつつあった。
終始草の陰に隠れていた藤村は、立ち上がって去っていった神山に呟く。
「……すまん、翔一。無理だ」
神山はこの場に藤村がいる、と知らなかったようで、身近な人物の名を言ったらしい。
藤村は、翔一なら何とかなるだろう、と思い放って置く事にしたのだ。
「……とりあえず、俺は霧野と篠崎と合流しねぇと」
「―――藤村君!」
唐突に少女の叫びが聞こえる。
藤村がどこかで聞き覚えのある声に振り返ると、そこには霧野と篠崎が立っていた。
「霧野!篠崎!お前ら、無事だったのか!」
二人は藤村に駆け寄る。
霧野の表情には僅かな笑みが見える。
「藤村君も無事だったんだね、良かった」
藤村は若干霧野の影に隠れている(ように見える)、篠崎とも目を合わせる。
「お前も無事だったんだな。良かった。……ん?」
すると、藤村は篠崎を見て疑問の声を上げる。
出会った時と違っている部分は無いが、彼女が何かを持っている。
それは手の平に収まる程度の大きさの綺麗な色をした水晶玉だ。
「それ……見つけてくれたのか!?」
「はい。合流した時に藤村君を驚かそうって、霧野さんが……」
霧野は『感謝してよね』的な表情を藤村に向ける。
こういうところが無ければ、霧野も普通に可愛い女の子なんだが。
「とりあえず、ありがとな。さて、時間切れになる前にさっさと戻ろうぜ」
「あ、藤村君。ちょっと待って……」
進もうとする藤村を霧野が止める。
霧野は篠崎と僅かに言葉を交わした後に、篠崎を藤村の前に出すように背中を押した。
「……篠崎さんから。話しがあるから」
篠崎はこくり、と小さく頷き、藤村を見つめる。
「……?ああ、分かった」
藤村はきょとんとしながら、篠崎の話を聞くことにした。
43
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/12/27(火) 09:54:45 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
コメントさせていただきます!
篠崎ちゃん男だったのか……名前可愛いいから吃驚でs((
いや、もしかして某キャラみたいに「性別:篠崎唯」ってなったりするのk((黙
そして神山くん……確かに女子の喧嘩は怖いですよね。
でも喧嘩するほど仲が良いともいいますが、二人の場合はどうなんでしょうw
それでは、短いですがこれにて。続きも頑張ってください^^
44
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/29(木) 12:23:02 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰夜凪さん>
唯は出そうと思った時から『女ばっかだと、女子と接点ない神山が可哀想だ。藤村ハーレムはやめよう』と思って男にしましたw
う〜ん……それはないと思いますが、本編中で唯の代名詞を『彼』にするか『彼女』にするか悩み中です((
殴り合いにならないだけマシです((
お市ちゃんも雪路さんも、試験が終わってから出てきます!
……仲良いと思う!……多分((
はい、続きも頑張らせていただきます^^
45
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/29(木) 18:14:04 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
霧野、篠崎と合流した藤村は、篠崎の話をじっと聞いていた。
篠崎が話し終わると、藤村は腕を組んで目を閉じ、うんうんと頷いてから目を開けた。
「……そっか」
やはり、と言うべきか。藤村も霧野とほぼ同じような反応だった。驚いてはいるだろうが、そんなに表情には出ていない。むしろスッキリしたような顔だ。
藤村は組んでいた腕を戻し、自然な体勢で話し始める。
「……なーんとなく、だけど……俺も薄々感づいてた」
「……藤村君、も?」
霧野はきょとんとした顔で訊ねた。
当の本人はこくりと頷いた。
「だって、女の子にしちゃ胸ペッタンコだし」
…………………………………………………………………。
全員が凍りついた。
藤村本人は二人が固まっている理由を理解していないのか、頭の中を『?』で埋め尽くしているだろう。
こほん、と咳払いをして霧野が口を開く。
「……今始めて、藤村君が最低だと思った……」
「え?何?何なの!?ねぇ、黙った理由を教えて!」
戸惑う藤村をよそに、霧野と篠崎はスッと立ち上がって、すたすたと歩いていく。
置いてかれそうになった藤村は、急いで二人の後を追いかける。
「おーい、沈黙の理由を教えてくれ!」
藤村がそう叫んだ途端に、
ふと、横合いから刀の切っ先が首元に寄せられる。
「ッ!?」
寄せられたのは藤村でも霧野でもなく、篠崎だ。
霧野は数歩後ろへ下がって剣を引き抜こうと柄へ手を伸ばすが、
「おっと、余計なマネすんなよ」
剣を持った男が森林の茂みからゆっくりと近づいてきた。
その男の他にも二人の男が、出てくる。
「……、霧野さん!」
篠崎は自分の持っていた水晶を霧野へと渡す。
それを受け取った霧野は大事そうにぎゅっと、水晶を抱きしめる。
「……チッ。まあいいぜ。とりあえずだ。その水晶と、この女。交換といこうぜ」
剣を持っている男は、藤村と霧野にそう告げた。
電気はつけず、朝の光だけが差し込んでいる一室で、二人の人物が話している。
生徒会室にいる二人は、『生徒会会長』の腕章をつけた工藤政宗と『生徒会副会長』の腕章をつけた真田紫。
真田は腕を組みながら、工藤に問いかける。
「……本当にやるの?政宗君」
「ああ。今年から恒例行事にしようかな」
やめなさい、と言う真田だが工藤の耳には恐らく届いていないだろう。
工藤は、着ているブレザーをある程度整えて、生徒会室を出ると同時に、呟いた。
「今年の一年には、どんな子がいるかなぁ?」
彼が向かう場所―――。
それは、現在試験が行われている『森林園』だ。
46
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/04(水) 00:25:26 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.5「風の悪魔」
藤村と霧野は、捕らえられた篠崎(人質にされている)を目の前に、身動きが取れずにいた。
今の二人から篠崎までの距離は目測で十メートル程度。三、四歩で縮めれる距離だが、自分が近づくまで相手が篠崎に何もしないわけが無い。篠崎を連れて逃亡する可能性も、篠崎を傷つける可能性も十分に考えられる。
何をどうすればいいか分からない藤村の耳に、小声で話しかける霧野の声が届く。
「(……どうする?)」
霧野の問い掛けはかなり大雑把だった。
下手に動けば人質になっている篠崎が何をされるか分からない。
最優先事項は篠崎の救出だろうが、相手が要求しているのは霧野が篠崎に渡され、霧野が所持している二つの水晶だ。
篠崎を優先すると、水晶を相手に渡してしまうし、水晶を優先してしまうと、篠崎を見捨てることになる。
どっちにしろ、人質を取っている相手のほうが有利だ。『先に水晶を渡せ』と言われて、篠崎と交換してもらわなかったら、こっちには何のメリットもない。
「(どうするって……そりゃ、最優先は篠崎の救出だろ)」
「(じゃあ、水晶は……?)」
「(相手の要求は二つとも、だろうなぁ。多ければ多いほど、点数は上がるし)」
二人はこそこそと話しているつもりだが、違う目線で見ている篠崎と、篠崎を人質にしている三人組からは相談しているのがバレている。
そこで、霧野は思い切って相手に問いかけた。
「……交換する水晶は二つとも?」
「当然だ!!」
当然らしい。
霧野は思わず溜息をついてしまった。
相手が二つ要求する、ということは進級が難しい奴らだろうか。恐らく藤村や霧野よりも下のF辺りのクラスだろう。
霧野はやむを得ず、という感じで腰に挿してある刀の柄に再び手をかけようとした瞬間、
「余計なマネはすんなって言っただろ!?」
男の持っている刀の刃が、より篠崎に近づけられる。
霧野の手が止まり、そのまま手を下に下げる。
「……よーし、抵抗出きねぇように、武器を捨てな!そして両手を上に挙げろ!」
男はそんな要求をしてきた。
一瞬、躊躇いが見えた霧野だが、篠崎を思うとどうも抵抗が出来ない。腰から刀を引き抜き、霧野は横合いへと投げる。脚で取ろうにも届かない距離だ。
藤村は、そのまま両手を上に挙げるが、一人の少し太っている感じの男が藤村を睨む。
「オメーもだよ。武器捨てろって」
「……だって、俺武器持ってねーし」
太っている男は藤村の言っていることが分かっていないようだった。戦場原学園は武器の携帯が必須のはず。それなのに、武器を持っていないのが理解出来ないのだろう。
男は、二人が手を挙げるのを見ると、
「……よし、じゃあ交換だ。先に水晶を渡せ!」
「……先に渡して、そっちが篠崎さんを解放するとは思えない。やるなら同時に」
男は引かない。
恐らくベタに人質は解放しようと考えていなかったらしい。
「いいから、とっとと水晶を―――」
「同時にしましょう」
霧野がギロッと相手を睨む。
男は凄まれてしぶしぶ了承する。とりあえず水晶が手に入ればそれでいいのだ。
「……じゃあ、せーのでいくぞ。……せーのっ!」
男の掛け声で、霧野は二つの水晶を相手に投げ、男は霧野を突き飛ばすように前へ押す。
それと同時に、霧野は動き出す。
霧野は前に押し出され、体勢を僅かに崩した篠崎の腰へと手を伸ばす。
「一本借りるよ」
篠崎が振り返る暇も無く、霧野が篠崎の腰に挿してあった二本の内、一本の刀を引き抜く。
そして、霧野は弾丸のごとく突っ込んで、男の手に水晶が渡るより早く、相手の鼻っ柱に鞘で打撃を加えた。
「……お前!?」
残りの二人が霧野を囲むように、体勢を立て直す。
しかし、霧野の目的は三人を自分が倒すことではなく、一人の人物を自由にすることだった。
燃え盛るような闘志を秘めた、一人の男の。
「藤村君、出番だよ!」
「―――、ああ」
藤村は右手を下ろし、手でやるのが面倒なのか、時間の短縮か。口で包帯を強引に噛み千切った。
「後は任せろ」
藤村の背後に、炎の降霊―――『焔華』が現れた。
47
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/04(水) 17:04:20 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
口で包帯を引き千切った藤村の後ろに天から降りてきたように、ゆっくりと焔華が姿を現す。
彼女の口には薄っすらと笑みが浮かんでいた。
『―――最近よく呼ぶな。そんなに私が恋しいか?』
からかっている焔華の言葉に藤村は青筋を僅かに立てる。
だが、今はそんなことをしている場合じゃない、と馬鹿と自覚している藤村も理解している。
「いいからとっとと力を貸せ。お前を出してると結構疲れるんだよ」
ふん、と焔華は鼻で笑う。
焔華は目を閉じ、藤村と重なり合うように彼の身体へと入っていく。
『命令するな』
焔華が藤村の身体へと入り、姿を消す。と、藤村の身体に炎が纏い、目が赤くなり、鋭さが増した。
初見の篠崎は綺麗な炎に目を奪われたからか、それともただ見入ってしまっているだけか分からないが、見とれたように藤村を見つめている。
二度目だが、相変わらずの姿に霧野も眉を下げるしか出来なくなっていた。
「……やっぱり。どうやっても藤村君には追いつけないよ……」
藤村は地面を蹴ったと思ったら、一瞬で太った男の懐まで潜り込む。
太った男が藤村の接近に気付いたのは、彼の放った拳が腹に叩き込まれる寸前だった。
男の腹に藤村の鋭い拳が突き刺さり、気付いたのとほぼ同時に、力士のような体型の男は五メートル程後方へと吹っ飛ばされた。
「絶好調!」
『私の力がな』
ぐっと拳を握って、そう告げる藤村の後に焔華が小声で呟いた。
水晶を持ったまま安堵していた霧野の背後から、最後の一人が襲い掛かる。
藤村と篠崎はそれに気付いていたが、今更呼びかけても多分霧野はかわせない。篠崎は真っ先に走り出し、霧野の肩へと手を伸ばす。
「霧野さん、肩借ります!」
え?と霧野が声を上げると、篠崎は霧野の肩を掴み、片腕だけで浮かせた身体を支える。それから身体を回転させるようにして、霧野の背後の男の顔に蹴りを叩き込む。
篠崎が着地すると同時に、霧野を襲った男が倒れ、藤村達は勝利した。
「よっしゃー!」
「後は出口に行くだけだね!」
藤村と霧野はハイタッチを交わす。
それから二人は、ほぼ同時に篠崎の方へと視線を落とし、手の平を相手に向ける。
「勝利のハイタッチだ」
篠崎はきょとんとした表情で、へ?と言葉を漏らす。
ハイタッチを求めてきたからではない。
いつの間にか、自分を仲間だと思ってくれていたことに対してだ。
「はい!!」
篠崎は満面の笑みを向けて、二人の手の平に自分の両手の手の平を合わせた。
生徒会室では、副会長と書記と会計のみが席に座っていた。
三人しかいない理由は、庶務は試験中で、会長はその試験にこっそり忍び込もうと考えていたからだ。
やがて、本を読んでいた『生徒会書記』という腕章をつけた那月忠勝が口を開く。
「……紫先輩。会長はどうしたんスか」
見た目がものすごい強面なため、敬語は使わなそうに見えるが、一応は使っているらしい。
彼の敬語に慣れている、といった感じで真田が疲れたように口を開く。
「……一年生の試験に潜り込んでるわよ。ったく、あの馬鹿……何考えてるのかしら。アレが生徒会長だってんだから、世も末よねー……」
生徒会のメンバーは、会長の工藤政宗の奇行にはいつも振り回されている。
トイレで席を外している間に、コーヒーの中に麦茶を入れられていたり、定例会議だというのに連絡もせず欠席したり、とんでもなく奇天烈な人だ。
そんな彼と高校生活の三年間一緒にいる真田でさえも、まだ慣れていないらしい。
「……確か、前回の会長も潜り込んでましたよね……。僕と忠勝は何もありませんでしたけど……」
「政宗君も一年生の実力を見るだけだから、生徒会のお市ちゃんを狙うとは思えないけど……」
真田は一度言葉を区切る。
そして、溜息をついて、
「……試験に潜り込むのを恒例行事にするとか言ってるわ……」
「「何考えてんだあの人」」
実際、冗談半分にも聞こえたりしたので、本来の目的は分からず、結局のところ『工藤政宗は意味の分からない人』というレッテルが、現在いる三人の生徒会メンバーの中で貼られていた。
48
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/04(水) 19:09:55 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
試験の残り時間も後二十分ほどだ。
藤村、霧野、篠崎の三人は駆け足で出口、もとい森林園の入り口へと向かっていた。
落石に襲われたり、チームが分裂したり、他チームに襲われたりなど色々な事があった試験だが、ゴールはもうすぐだ。
気の緩んだ三人の前に、一人の人物が通り過ぎようとしていた。
茶色の髪をツンツン、というかところどころ跳ねているだけに見える髪形の中々の美青年だ。
目測だが、高校一年生には見えない大人っぽさが見える。制服を着ている事から先生でもないようだ。
警戒する藤村達に、突如として現れた美少年は笑顔で口を開く。
「お、発見!もう試験が終わるから誰もいないじゃないかって思ったけど……そうでもないみたいだね。良かったー」
相手は一人で笑顔を浮かべたり、ホッと安心したり、とそれを見ている藤村達にとってはとても愉快な光景だ。
霧野はこっそりと藤村に訊ねてみる。
「(藤村君、アレは誰?何で藤村君の友達ってこんな人ばっかなの?)」
「(俺の知り合い前提かよ。俺だって初めて見たっつーの。篠崎は知ってるか?)」
「(……、何となくですけど、顔を見たことあるような……)」
篠崎の曖昧な言葉の後に、一人で話していた少年が藤村達の視線に気付く。
すると、照れくさそうに頭をかいて、
「あー、ごめん。すっかり自分の中だけで話してたよ。自己紹介しなきゃいけないよね」
すると、少年はポケットの中を漁りだす。
そこから取り出した物を、左腕にすっと通す。
それは腕章だ。しかも、ただの腕章ではなく『生徒会会長』と書かれた腕章。
そう。
戦場原学園の最強の生徒が付ける腕章だ。
転入生の霧野はまだよく分かっていないが、『生徒会会長』の意味を分かっている藤村と篠崎は表情を一気に変える。
「……アンタ、それって……」
「お、思い出しました……。……生徒会長です……生徒会長の、工藤政宗さんです……!!」
今までの工藤からは感じ取れないような静かな雰囲気が周りを包む。
たった一つのアイテムを身に着けただけで、人はこうも変わってしまうのか。
藤村は警戒しながら、工藤に問いかけた。
「……何の用だよ。工藤先輩」
「なぁに、大した事じゃない」
工藤は薄い笑みを浮かべながら、藤村の問いに答える。
「この試験に潜り込んで、一年生の実力を試す。今回は君達の実力を見せてもらうよ」
「はぁ?」
藤村達三人は、大きく口を開けて固まっていた。
一方の工藤はやる気満々で腕をぶんぶんと振っている。
「……やる気満々かよあの人……」
「どうします?相手は学園最強ですよ?」
「大丈夫。こっちは三人いるんだし、降霊術を使える藤村君もいるんだもの!」
霧野は不安な篠崎にそう声をかける。
だが、包帯をしてないことで姿を表すことが出来る焔華は、あえて姿は出さず、声だけを三人に聞こえるようにして話す。
『油断はしない方がいい。―――あの男、幽鬼と同じような感じがする』
とりあえず、藤村達も戦う用意が出来た。
工藤は武器を構えないまま、腕を組んで立っている。
「……いいのかよ。武器構えないで。本気出してもいいんですよ?」
「そうかい。さすがに優しいなぁ」
工藤は藤村の言葉を聞くと、腕章を外して無造作に地面に置いた。
そして、制服の左の袖を一気にぐいっと引き上げる。
「ッ!?」
そこで藤村達三人は大きく目を見開く。
まるで信じられないものでも見たかのようなリアクションで、工藤の左肩を見た。
「―――、そっちも一人いるから。俺もいいよね?使っても」
工藤の左肩には、円の中心に丸があり、その円と丸を通るようにバツ印が描かれている緑色の何かの紋様があった。
藤村は勿論、霧野も篠崎もこれに良く似た、色が違うだけのものを知っている。
「それは……俺と同じ……!?」
『……間違いではなかったようだ。私の言った通り、あいつもお前と同じ降霊術者だ』
工藤の背後で、風が力強く渦巻く。
49
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/06(金) 20:44:27 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
工藤の背後に巨大な竜巻が現れる。
だが、それが攻撃のための物じゃない、とこの場にいる全員が理解していた。
工藤の背後の竜巻。これが何を意味するか、藤村は勿論、霧野と篠崎も分かっていた。
―――予兆だ。
焔華の場合は、上空から降りてくるような仕草で、その場に現れるが、今回は違った。
とても力強い風。これで攻撃されればひとたまりもない。やがて、竜巻が治まり、中からはハットを被り、着物を着ている男性が出てきた。
『―――、』
ハットの男は何も語らずに、ただ笑みを浮かべているだけだった。
藤村達は構え、相手の出方を伺っている。
緊張が辺りを包むのかと思えば、相手は思わぬトーンで声を掛けてきた。
『いやー、久しぶりー!元気にしてた?炎上ちゃーん!』
かなり気さくな人(霊ではあるが)だった。
例えるなら、お盆や正月などの長期休みに顔を見せる、年に一、二度程度しか会わないお兄さんのような人だ。
相手の言葉に焔華は青筋を立てる。
『―――貴様、何度言えば分かる?私を『焔嬢ちゃん』と呼ぶのはいいが、発音に気をつけろと言ったはずだ。それじゃまるで私が炎上しているみたいじゃないか』
『似たようなモンだろ』
『断じて違う!!』
焔華とハットの男の会話は、初めて会った間柄では無いような会話だ。
まあハットの『久しぶり』や、焔華の『何度言えば分かる』という言葉から、久々に会った、ということが理解できる。
「……焔華、知り合いか?」
そこで、完全に置いて行かれた藤村が、焔華に訊ねる。
焔華は小さく頷いて、
『奴は風椿(かざつばき)。生前の知り合いだ。そもそも、降霊は元は人だ。私なら、大抵は知っている』
風椿は笑みを浮かべながら、ハットを深く被り直す。
焔華の服装が着物で、男はハットを被っている。男の服装とアイテムがあまりにも不似合いだ。
『出来れば、貴様とは会いたくなかったがな。運命というのは、まったく予想も出来んよ』
『俺だってこんな会い方はしたくなかったぜ、炎上ちゃん。だが仕方ないじゃないの。大人しくさぁ―――』
風椿が一度言葉を区切った。
一瞬で目つきを鋭くし、声のトーンがふざけた調子から低い調子に変わる。
『死合おうぜ』
その言葉を合図として、焔華が藤村の身体に、風椿が工藤の身体に憑依する。
炎を纏い、目が真っ赤に変色し、鋭さを増した藤村は、一瞬で工藤の懐へと潜り込む。
(―――、速いな。だが)
藤村の強烈な拳が、工藤の腹目掛けて叩き込まれる。
金属と金属を打ち合う様な轟音が響く。
藤村の拳は、工藤に届いていなかった。
彼の拳は工藤に当たる寸前で、見えないバリアにでも遮られたように、あとちょっとのところで止まっているのだ。
(……ッ!?当たらない!?)
「いい攻撃だね。速さも申し分ない。―――でも」
藤村を跳ね返すように強烈な向かい風が藤村の身体を押し返す。
何とか体勢を立て直し、上手く着地する藤村だが、先程、攻撃が届かなかった事を思案してしまう。
永遠に解けない問題に直面した生徒を見るような目線で、工藤は告げる。
「風の鎧、とでも銘打とうか。君の攻撃が届かなかった理由は、俺の身体が風の鎧に覆われているからさ」
工藤は風を纏い、緑に変色し鋭くなった瞳で、藤村達三人を睨みつけるように見つめる。
「まだまだこれからさ。さあ、君達の力を見せてくれ」
50
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/07(土) 17:57:12 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
今度は三人同時に工藤に突っ込む。
霧野と篠崎が左右から挟撃するように、工藤の左右から。藤村は正面から工藤に向かっている。
多対一の利点、隙を作りやすい事を利用して、三人は一斉攻撃に移っていた。
(―――!なるほど、三人同時か。だが、そんなんで隙を作ってちゃ、生徒会長になんてなれないんだよ)
工藤が両手を下に向け、風を吹かせる。
ただ地面に向けて風を放ったわけではなく、自分が上空に飛び立つために風を逆噴射させたのだ。
「ッ!?」
三人は一斉に上空へと目をやり、すぐさま工藤の姿を捉える。
しかし、捉えられたのも数秒だけだった。
目の焦点が工藤に合ったかと思えば、一瞬で彼は消え、気が付けば藤村の懐に潜り込んでいた。
(―――、速ッ―――!)
工藤の風を纏った強力な拳が、藤村の腹へと突き刺さる。
藤村も工藤と同じく炎の鎧を纏ってはいるが、工藤はその鎧を突き抜け、藤村にダメージを与えた。
藤村はそのまま五メートルほど後方へと飛ばされ、仰向けの状態で気を失う。
畳み掛けるように工藤が振り返った瞬間、霧野がもう目の前に来ており、刀を振りかぶっていた。
霧野が横に刀を振るう。
が、工藤は刀の刀身を掴み、攻撃を防いでいた。
「な……ッ!?」
「俺に気付かれないように仲間がやられても声を出さなかったか。良い判断だけど、残念。その程度じゃ俺に隙は出来ないよ」
工藤の蹴りが霧野の顎に直撃する。
霧野の身体は上へと打ち上げられ、篠崎が刀を構えたままその光景を眺めていた。
それが隙となったのか、工藤が一瞬で、篠崎の前へと現れる。
(……しまった……!)
篠崎が攻撃の態勢も、防御の態勢も取る前に、工藤の拳が篠崎の華奢な腹へと叩き込まれる。
篠崎はそのままうつ伏せに倒れ込み、その場には静寂が広がっていた。
「うー……ん。まあ、こんなもんかな」
工藤は憑霊を解き、携帯電話を開いて時間を確認する。
「……残り十分か。彼らは目を覚まさないだろうから、保健室に連れて行くかな。水晶は手に入れてるんだし、このまま不合格ってのも可哀想―――」
ようやく、隙が出来た。
藤村は炎を纏った渾身の一撃を、工藤に食らわせるため突っ込んでいた。
「―――ッ!?」
工藤はその気配を察知し、勢いよく振り返る。
だが、今から降霊を出して、戦闘準備に入るには藤村と工藤の距離はあまりにも近すぎた。
(……まだ動けたのか!?)
藤村は思い切り拳を振りかぶる。
「これで、終わりだぁ!!」
51
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/13(金) 21:17:14 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第6話「新たな目標」
試験残り時間十分。
藤村は渾身の力を込めた炎の拳で、油断して隙が出来た工藤に殴りかかる。
ここで工藤を倒せば、とりあえず当面の危機は去る。後は疲労が溜まっている中、篠崎と霧野をどうするかだが、そこは工藤をぶん殴った後に考えよう、と藤村は考える。
突っ込んだ時の勢いを殺さず、そのまま自分の体重を全てぶつけるように殴りかかる。
藤村の拳が工藤の顔面を捉える。
藤村は渾身の力を込めた拳を叩き込むために、振りかぶった拳を思い切り工藤にぶつける。
ガッ!!という鈍い音が響き、藤村は殴った時の体勢で動きを止めた。
藤村と工藤、二人の影はどちらも揺らぎはしなかった。
「―――惜しかったな、だが」
工藤の声が藤村の耳に届く。
工藤は降霊を出していないにも関わらず、藤村の炎の拳を素手で受け止めていた。
受け止めている工藤の顔は、炎に苦しんでいるようには見えず、むしろ清々しいくらいに涼しげだ。
「これくらいで隙を作っているようじゃ、生徒会長になんてなれないよ」
工藤は藤村の拳を受け止めたまま、彼の頭を掴む。
そして、そのまま顔を下の地面へと叩きつける。
体力が残り少なかった藤村は、激痛に顔を強張らせた後に、気を失い動かなくなる。
「……」
工藤は自分だけが立っている今の空間を見渡し、未だ拳を掴んでいた感触が残る手の平を眺めた。
ふぅ、と小さく息を吐いて、
「……少しヒヤッとしたな」
「……ぅ……」
藤村は目を開ける。
目に映ったのは白く綺麗な天井と、左右から覗き込んでいる霧野と篠崎の顔。
藤村はばっと勢いよく起き上がって、慌てたように辺りを見回す。
「ここは!?」
「……ほ、保健室です……」
「私達、いつの間にか運ばれてて……」
藤村の勢いに圧倒された篠崎と霧野が、怯えたように答える。
二人の返答を聞いて、藤村は額に手を当て、悔しそうに呟いた。
「……俺は、負けたのか……!」
その言葉は、霧野と篠崎の胸にも突き刺さった。
霧野は気持ちを前に向けようと、話を切り出した。
「でも、試験はクリアらしいよ!水晶を二つも取ったし、そこは工藤会長に感謝かな!」
霧野の口調からは、焦りが読み取れた。
藤村は窓の外に眼をやって、小さく呟く。
「―――工藤政宗。でかい目標が出来たな」
試験から三日後。工藤政宗は学校の三階にある生徒会室で、真田紫と一緒にいた。
真田は試験の日の工藤の奇行を知っているため、余計な部分を省いて問いかける。
「で、どうだったのよ」
「ん、何が?」
工藤の言葉に真田は肩を落とす。
「……何がって……試験に潜り込んだんでしょ?見込のある後輩はいたの?」
「あー、それね」
工藤は真田からコーヒーを受け取り、窓際へと移りながら答える。
「いたよ。彼は面白くなると思う」
すると、工藤は下で歩いている藤村を発見する。
藤村も視線に気付いたのか、顔を見上げる。工藤は部屋の窓を開けて、軽く手を振った。
藤村は工藤を見上げて、大きく息を吸い込む。
何をする気だろう?と目を点にしている工藤の耳に、強烈な言葉が飛んできた。
「絶対にいつか、アンタをぶっ飛ばしてやるからな!!覚悟しやがれ!!」
その言葉は窓際にいなかった真田の耳にも突き刺さったようで。
「な、何よ……今の声……」
その言葉を自分に向けて放たれた工藤は、苦笑いを浮かべて答える。
「いやー……はは。……どうやら、近くで不良が喧嘩をしているみたいだね……」
工藤は窓を閉めて、コーヒーを一口すする。
一息ついて、楽しそうに口を開き、独り言のように小さく呟いた。
「本当に、楽しいな。この学校は」
52
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/14(土) 02:30:04 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
〜あとがき〜
やっと、というべきでしょうか。
一章(?)は無事に終えました。三作目が第一章を終えれるのは、何だか初めてですので。
さてさて、第一章は今まで普通の生徒だった藤村君の人との関係の輪が広がっていく、というのがテーマです。
今まで神山君だけだったのが、霧野、篠崎、工藤(?)とも広がりました。
第二章では更に広げつつ、そして皆さんに好感を持たれるような、魅力的なキャラ作りに頑張らせていただきたいと思います!
しかし、第一章の一話目。レス数がかなり多い……。十以上あったよ((
他は三〜六程度だと思うのですが……。
これからは一話一話をコンパクトにするように務めます。
第二章はどんなお話しになるのか、という話題に移りましょう!
第二章はですね、まず、藤村君が会ったら発狂しそうな人物が登場します!それが誰かはお楽しみで^^
後は、たらしの高校生、三人目の降霊術者、喋らない少女、生徒会の面々などなど……。
生徒会と藤村達が活躍します。
そして!今回の戦いの舞台は、戦場原学園ではなく、違う学校との戦いに発展します。
そこも楽しみに待っていただけたらな、と思っております!
それでは、今回はとりあえずこのあたりで。
次回の更新を待っていただけると、ありがたいです。
結局、篠崎の代名詞が『彼』か『彼女』かまだ決まってないや……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
>>51
にミス発見((
『第6話』じゃなく『ACT.6』です。
いきなり話数の表記変えてどうすんだ、自分((
53
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/14(土) 16:37:28 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.7「鷹の美剣」
試験から六日後の日曜日の昼。
藤村幽鬼はテレビの前で正座をしながら、画面に映し出されている番組を食い入るように見ていた。
現在、彼が見ているのは『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』というアニメである。
通常は深夜枠のアニメだ。
何故こんな時間に藤村は見ることが出来ているのか。理由は簡単で、単に録画した物を見ているからだ。
霧野とルームメイトになる前は、夜遅くまで起きて見ていたが、今は録画した物を見ている。
真剣に見ている藤村とは対照的に、霧野は頬杖をついて、退屈そうにテレビの画面を眺めている。
そもそもアニメにあまり興味が無いし、途中からでストーリーも理解できていないし。霧野からすれば何が面白いのかさっぱりだった。
番組が終わり、藤村は録画したビデオテープを取り出して、
「……うん、今回も良かったな。来週は新キャラ出るし」
腕を組んで、満足そうに頷く藤村に、霧野は冷めた口調で問いかける。
「藤村君ってオタクなの?」
ぶっ!?と吹き出す音が聞こえた。
いきなりの質問に、藤村は咳き込んで、僅かに涙目になりながら、霧野を指差す。
「ちょ、ちょっと待て!それはどういう意味だ?」
だって、と霧野は冷めた口調を継続させながら言った。
「見た後の感想が明らかに。それに、ああいう女の子が主人公の作品って……私はよく知らないんだけど、美少女アニメって言うんじゃないの?」
その言葉が藤村に火をつけた。
藤村は本棚にある『鷹の美剣』一巻を取り出す。
彼は『鷹の美剣』を刊行されている巻数まで全て買っており、アニメも毎週欠かさず見ている。
「確かに、アニメを知らんド素人は『鷹の美剣』を見て、美少女アニメだのとほざく!だがな、勘違いしてもらっちゃ困るんだよ!霧野。お前はアニメを見たことがあるか」
あれ、何かスイッチ入った?ときょとんとしていた霧野だが、質問に首を傾げる。
「……まあ、あるけど。一応は。中学二年の頃に見てたのが最終回になってからはあんま見てないな」
「じゃあ聞くぞ!」
藤村の語りに熱さが増す。
「その作品に出てた女性キャラは美少女だっただろ?二次元なんだよ!アニメなんだよ!そりゃ女子の絵だって可愛くなるさ!そんなん言い出したら、全てのアニメで可愛い女子が出たら全部美少女アニメだろうが!!」
つまり、藤村の言い分は『深夜枠でやっている女子が主人公のアニメ=美少女アニメではない』ということらしい。
こんなキャラだっけ?と表情が引きつる霧野。
神山と一緒にいる時点で『普通じゃない』事は薄々気づいていたが。
「……藤村君って降霊術が使える以外は普通だと思ってたのに……こんなにアニメを語ると熱くなるなんて」
溜息をつく霧野に、藤村はずいっ、と持っていた一巻を差し出す。
「とりあえず、いいから一回読んでみろ」
藤村に気圧され霧野は思わず受け取ってしまう。
霧野は表紙に映っている黒髪の美少女(一巻の表紙だから、恐らく主人公の『鷹』という少女だろう)を見て、
「……藤村君って黒髪の女子が好きなの?」
聞かれた藤村は自慢げに腕を組みながら答える。
「まあな。個人的にはロングで、くくっていない方が好みだが」
そこで、霧野は自分の髪型を気にしてしまう。
自分はポニーテールにするのが主流であり、あまり下ろす事は無い。
しかし、下ろしたら背中くらいまであるのでロングになるのだろうか、と首を傾げる。
(……下ろしてみようかな……)
そう思った霧野は顔を赤くして、ぶんぶんと勢いよく首を横に振る。
(ち、違う違う!藤村君が言ったから下ろすわけじゃなくて!たまには気分転換でも……藤村君が言ったからじゃないんだからっ!!)
いきなり首を横に振り出す霧野を、不審に思い地味に引き始める藤村。
霧野は本を開いて、適当にページをぺらぺらとめくっていく。
そして、本を閉じて、軽く息を吐く。
「……まあ、藤村君がそこまで言うならいいけど……」
しかし、霧野は本を藤村に渡し返す。
「……暇な時にね」
妙な事を考えてしまったため、頬を赤くしながら霧野は本を藤村に返す。
今の霧野に、藤村の顔を見る勇気はなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
霧野がツンデレになってしまった……
こんなキャラだっけ?
54
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/15(日) 10:02:55 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「おーっす!今日も仲良く登校か!羨ましいな、この野郎!」
月曜日、学校にやってきた藤村と霧野は、いきなり神山にそう言われる。
一緒に登校、も仕方ないだろう。
何せ、同じ部屋なんだし、同じ学校で同じクラスなのだから、別々に出ることでもない。
だが、最近忘れがちだったが、霧野の容姿は藤村の好みである(髪を下ろせばもっと好みだが)。一緒に登校していて、嬉しくないといえば、嘘になってしまうため、仕方が無い、と言っても内心はちょっと幸せだったりする。
すると、藤村は自分の机に向かいながら、神山がチラシのような物を持っているのに気が付く。
「……、翔一。お前の持ってるそれ、何だ?」
聞かれると神山は、待ってましたよその質問、と言わんばかりに目をきらっと輝かせる。
藤村の机に神山はチラシを広げる。チラシに載っているのは、本の表紙らしき物と、一番上の所に『六月の刊行書籍一覧』と書かれている。
「実はよ、今日は新刊の発売日でな。お前、放課後空いてる?」
「……空いてるけど、面倒は嫌だぜ……?」
大丈夫だって、と神山は前置きをする。
どうやらこの話は相当に、藤村が興味持つことを確信しているようだ。
「今日の放課後、俺本屋に行くんだけど、お前も行かない?」
「お前が……本屋?」
少なくとも、神山翔一という少年は本を読むような、文学的なイメージは皆無だ。
ただのモテたい女好きなだけで、読んでいてもどうせ漫画程度だろう。
「実はさ、今月の新刊に『ゴスロリメイド・みーたん』の最新刊が発売なんだよ!それと―――」
「言ったろ。俺はそれに興味ないって。買いに行くなら一人で行け」
藤村は神山をそう言って突き放す。
だが、神山にとってはその台詞も想定内なのだろう。
彼は笑みを浮かべて、わざとらしく独り言を呟いた。
「あーあ、残念だなぁ。折角『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』の新刊も発売なのに」
「ッ!!」
藤村は神山の言葉に敏感に反応し、神山の持っていたチラシを奪い取り、再び目を通す。
すると確かに、一覧表の中に『鷹の美剣 巻ノ十一』とある表紙が載っていた。
藤村は素早く財布を出して、現在の所持金を確かめる。千円札が中に入っていた。十分に一冊は買える。
藤村は、神山の肩に手を置き、親指を立てて告げる。
「ご一緒しよう」
「だろ?」
ここで、二人の友情が更に深まった。
「ま、『ゴスロリメイド・みーたん』はどーでもいいけど、『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』は絶対に欲しいしな」
「いやぁー、『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』はいいから、『ゴスロリメイド・みーたん』は必須だな」
二人の言葉の後に、打ち合わせをしたかのように、二人は声とタイミングを揃えて、『あ?』と言い睨み合う。
「てめー、『みーたん』がどうでもいいってどういうことだ。世の中には、ああいう可愛らしいアニメも必要なんだよ!『みーたん』の重要性が何で分からないんだよ!」
「メイドの作品なんてやりつくされて飽きるんだよ。だったら見てても飽きない時代劇風な作品の『美剣』の方が需要が高いだろうが!大体、『みーたん』は1クールだろ?『美剣』は2クールなんだよ!」
「放送期間で人気が決まると思うな!もうちょっとストックが必要なんだよ!それに、十月から第二期の放送が決定してるもんねー!」
二人の言い合いは、周りのクラスメイトを引かせるくらいにヒートアップさせていた
そんな視線も気にせずに、未だにあーだこーだ言い合っている。内容が内容なだけに、引かれるのも頷ける。
アニメ談義でここまで熱くなると、さすがに周りも、二人をオタクだと思ってしまうだろう。
そんな二人を見て、二人の友達である霧野は深い溜息をついた。
「……やっぱりオタクじゃん……」
それは藤村幽鬼に告げる、心の底から出た本音だった。
55
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/21(土) 00:14:04 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
学校の放課後に、藤村と神山は早速書店へと足を運んだ。
デパートや百貨店の中にある書店ほどの大きさがあり、本の種類も中々豊富そうだった。
神山は早速、その書店で新しい本が並んでいる、新刊のコーナーを発見した。
しかし、そこのコーナーには既に先客がおり、後姿なので、顔までは分からないが、小柄な女子で、戦場原学園の制服を着ていることだけは分かる。
「……む、先客がいたか……」
「女子でもラノベを読む娘っているんだな」
その少女は手帳とペンを持ちながら、新刊のコーナーを分析しているような台詞を漏らす。
その言葉の端々を、藤村と神山の二人は所々聞き取っていた。
「……『みーたん』の人気はまずまずか……。まあ1クールだし、十月には第二期もやるから、人気は安定している……。後はこの人気を維持できるかどうかだね……、問題はこれか」
彼女は口を動かしながら、手帳にペンで何かを書き込んでいる。
次に彼女が目をつけたのは、藤村が大好きな『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』だ。
「……問題作だね……」
少女の言葉に、僅かに青筋を立てる藤村。
それを必死になだめている神山だが、更なる少女の言葉が藤村の怒りに拍車をかけていく。
「……そもそも、何故この作品だけ二つに分けて平積みにされているんだ?一つにまとめて十分だろう。そもそも、私はこの作品が何故ここまでに人気が出たか、よく分からないし……」
何故か、『鷹の美剣』に対しての評価は辛口を通り越して、ハバネロレベルだった。
そこまでくると、藤村がキレるのも無理はない。彼は腕まくりをして、少女に近づいていく。
しかし、そんな藤村を神山が必死に止めようとする。
「(んだよ、止めるな翔一!これは男の戦いだ)」
「(馬鹿かお前!しかもあの娘、女じゃねーか!怒るのも分かるが、他人の評価は気にしない方が―――)」
「(じゃあお前、『みーたん』があんな言われ方してたらどうするよ?)」
「(よし、行ってこい!)」
結局、二人の結論はこうだった。
『好きな作品を罵倒されて黙ってるような奴は、男じゃねぇ』。
藤村は、ずかずかとハバネロ評価の少女に近づいていく。少女の後ろに立つと、初対面なのか、一応は敬語で話しかけた。
「……お嬢さん、ちょっといいですか?」
いきなり『お嬢さん』はどうかと思う神山だが、彼は静かにその光景を見守っていた。
少女が藤村の方に振り返ると、藤村は僅かに面食らった。
少女の顔は僅かに幼さを残した顔立ちで、その顔に大きな目が妙に映えている。肩より眺めの黒髪もマッチしていて、一見して可愛い女の子だ。
だが、それに藤村は惑わされなかった。
「……何か用かい?」
「えっとね、まあ盗み聞きしてたわけじゃないんだが、さっきのお嬢さんの評価が耳に入ってきましてね……」
少女の質問に、藤村は冷静に答えていく。
聞こえないように、と注意を払っていたのか少女は手で口を覆った。
「……、それは失礼な事をした。お恥ずかしいところを」
「いや、俺が気にしてるのはそこじゃなく……」
藤村は咳払いをして、少女を指差した。
「アンタが俺の大好きな作品を散々罵倒していたことについてだよッ!!」
そう藤村は宣言したが、少女は首をかしげただけだった。
新刊のコーナーに目をやると、自分が低評価を下したのは一つのみ。彼が言っている『大好きな作品』も一つに絞られてくる。
少女は理解したように、ああ、と声を出した。
「……それはすまない事をしたね。君はこれの愛読者だったが……。いやあ、自分の非凡な文才で書いた物が並ぶのが、どうもまだ恥ずかしくてね、ついつい罵倒してしまうのさ」
その言葉に、藤村は目を点にする。
今何て言った?とすぐさま聞き返したい気分に駆られた。
彼が注目したのは『自分の非凡な文才で書いた物』という言葉だ。
彼女が罵倒していたのは、『鷹の美剣』。そして自分の非凡な文才の物を罵倒したくなる。つまり、答えは一つだけだった。
「……ま、まさか……」
「ああ、名乗っておいた方がいいかな」
少女はスッと手を差し伸べて、微笑みながら自身の名を名乗った。
「私は戦場原学園一年A組の古賀塚亜衣乃(こがづか あいの)。『愛野百合子(あいの ゆりこ)』というペンネームで、『鷹の美剣』の原作者をやっているんだ。私の作品を読んでくれて、どうもありがとう」
藤村は、彼女の名前を聞くと、即座に土下座して何度も謝ったらしい。
56
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/28(土) 13:33:08 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「……ライトノベル……ですか?」
金髪の可愛らしい美少女(だが実は男の子)の篠崎唯は、霧野と一緒に下校してきた。
なんでも、藤村と神山の二人が『今日は新刊発売だー!』と息巻いて、学校が終わってから本屋に直行したため、一人で帰っているところ、篠崎が声をかけたのだ。
霧野は夫か彼氏の愚痴をこぼすように、文句を垂れている。
「そうなの。藤村君も神山君も……。ラノベのどこがいいのか……私にはさっぱりで」
霧野の言葉に、篠崎は僅かに考える。
それから、自分なりの答えを導き出す。
「多分、挿絵があるからだと思いますよ」
「挿絵?」
霧野の疑問交じりの復唱に、篠崎はコクリと頷く。
「普通の小説には絵がないでしょう?でも、ライトノベルは所々に絵が入ってるから、案外読みやすいのかも知れません。それだったら、絵と内容と。二つ楽しめますから」
しかし、霧野は口を尖らせて、再び愚痴をこぼす。
「……それなら漫画を読めばいいじゃん……」
「それも読まれている原因の一つですよ」
?と霧野は首を傾げる。
篠崎は、まるでライトノベルの評論家のように、説明を続けた。
「普通の小説に比べてライトノベルの内容は、主観ですけど漫画に近いと思うんですよ。絵や内容に惹かれるからこそ、読まれているかもしれません」
あくまで私の意見ですけど、と篠崎は付け加える。
それを言われても、霧野はまだ口を尖らせている。
「私も全部を肯定するわけじゃないですけど、人の好みはそれぞれですしね」
「……まあ、そうなんだけど……」
はぁ、と霧野は大きく溜息をつく。
「……そういえば、篠崎さんも結構詳しいですね」
「ああ、だって読んでますから」
え、と霧野が目を軽くする。
篠崎は霧野のその様子にも気付かずに、鞄の中をごそごそと漁っている。
中から取り出したのは、一冊のライトノベルだ。
「藤村君から借りている『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』です」
(貴方もッ!?)
篠崎の読んでいるもの、というよりも、藤村が既に篠崎に本を貸しているとは思わなかった。
霧野でさえ、篠崎と話すのは試験が終わってからこれが初めてのような気がする。恐らく、藤村は仲良くなった人に本を貸しているのだろう。
ならば、同居して二週間以上経っているのに、つい最近本を読むように言われた自分は何なんだろうか、と霧野は考えてしまう。
だが、そこは同居してるから、と自分の中で割り切ってみる。
「……藤村君もハマってたけど……面白いの?」
「面白いですよ!とっても!バトルだけかと思いきや、感動できるところもあるんですからっ!!」
滅多に大きな声を出さない篠崎が大きな声でそう言った。
それだけで、ああ、相当なんだな、と分かる。
篠崎も、結局のところ藤村と同じように、
「霧野さんも読んでみてくださいよ。絶対にハマりますから!」
あの引っ込み思案な性格(に見える)篠崎が、ここまでゴリ押しするぐらいだから、面白いのだろう。
だが、霧野としてはいまいち読む気は起きない。
藤村の勧め、篠崎のゴリ押し。
二人の言葉で霧野が導き出した返答はどこかで言った覚えがある、この言葉だ。
「……暇な時にね」
57
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/28(土) 21:58:27 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「本当に……すいませんでしたッ!!」
藤村は勢いよく頭を下げ、丁度テーブルに額をぶつける。
現在彼らがいるのは、書店の近くにあった少し洒落たような喫茶店だ。
藤村と神山が並んで座り、彼らの前に古賀塚亜衣乃がちょこんと座っている。小柄な体型なので、座っているだけでも随分と可愛らしかった。
頭を下げる藤村に、古賀塚は声を掛ける。
「いや、勘違いは誰にでもあることだし、気にしないでくれ。あんな風に言った私も悪かったのは事実だし……」
藤村は、そう言われると頭を上げる。
何故か今にも泣きそうな顔をしている。
「しかし驚いたな。『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』の作者が高校生だって噂は聞いたことあるけど……まさか俺らと同じ学校で、しかも同じ学年だったなんて」
神山は驚いた、より関心するような調子で言った。
その言葉に、古賀塚は小さく笑う。
「そうだね。学業との両立は中々難しいけど……作家は面白いし。私の非凡な作品で誰かが喜んでくれるなら、私はそれだけで嬉しいよ」
そう言いながら、古賀塚は藤村へと視線を向ける。
まるで『君のことだよ』と言っているように。
ここにいる三人全員は、先程の新刊のコーナーで何かしら買っている。藤村は『鷹の美剣』の十一巻。神山は『ゴスロリメイド・みーたん』の八巻。そして、古賀塚は自分の作品を含めた、今月発売の新刊七冊。古賀塚の袋だけ、藤村と神山に比べて大きかった。
すると、古賀塚の前に頼んだパフェが届く。
頼んでいたのはいちごパフェと、作家という点以外はいたって普通の女子高生だった。
「……それで、君達の名前を聞いてもいいかな?」
「藤村幽鬼ですっ!!」
今まで元気がなかった藤村が、急に元気よく名乗りだした。
古賀塚はそれに僅かに驚いたようだったが、すぐに藤村に微笑みかける。
「藤村幽鬼か……。じゃあ『ゆうき』でいいね。君は?」
「神山翔一です」
「『しょういち』か。二人とも、よろしくね」
幼い印象を与える古賀塚の笑みに、藤村と神山は癒されていく。
古賀塚はパフェを食べ進めながら、話を続けていく。
「しかし嬉しいよ。私の本の愛読者が同じ学校にいたなんて。ルームメイトくらいかと思ったけど」
「古賀塚先生のルームメイトも読んでるんですか?」
何故か、藤村は『先生』とつけ、敬語で接していた。作家だから『先生』をつけるのは普通だろうが。
「まあね。愛読者だよ。君とどっちが上かは分からないけど……」
「俺が上です!」
藤村は自信を持って、そう言い放った。
古賀塚はそんな藤村にくす、と笑って、
「じゃあ問題を出してみようか。第一問。鷹の最初の台詞は?」
急にクイズ大会が始まった。
アニメしか見てない上山は分からなかったが、藤村はその問題に即答する。
「『やはり、京(みやこ)に近づくにつれて賊が増えているな』ですよね」
「……正解だ。じゃあ第二問。第三巻。鷹の一番最初の台詞は?」
「『あー。最近寝不足で、身体が鈍ってないか不安です』」
「大正解。じゃあ第五巻の、鷹の最後の台詞は?」
「『私が、この腐りきった世界を変えてやる。だから、君達はそれまで待っててくれ』」
「……正解」
ここまでくれば、さすがにオタクだな、と神山は引くが、同じ質問を『みーたん』で出されたら全て答えたろう。
古賀塚は、藤村が並みの読者ではないと分かると、嬉しそうな表情を浮かべた。
「……一つ、質問してみようかな。ちょっと意地悪だけど……」
?と藤村は首を傾げている。
古賀塚は藤村を見つめて、質問を口にした。
「君が、私の『鷹の美剣』を読み続ける理由は何だい?」
藤村は予想外の質問がきたのか、僅かに驚いたような表情をした。
58
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/03(金) 23:06:59 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
古賀塚の質問に、藤村は言葉を詰まらせる。
どう答えていいか分からない、というニュアンスではないようだ。何故こんな質問をしたのか、それが分からないようだった。
藤村の表情をしばし見つめて、古賀塚は納得したように息を吐く。
「……だよね。いきなり聞かれても分からないだろう。悪かったね」
古賀塚の謝罪に、藤村は首を横に振る。
「いえ、それはいいんですけど……何でそんな質問を?」
古賀塚は目を閉じ、小さく頷いて答える。
「嬉しかったんだよ」
一言だ。
それだけの理由で?と思うかも知れないが、古賀塚はそれだけではない。
「まずは、ただ単に嬉しかった。今までにも、私の作品が大好きだと答えてくれた人はいたけど……君のように問題に即答できる人はほとんどいなかったしね」
古賀塚の口調は楽しそうだった。
それこそ、小説に出てくるキャラの台詞を音読しているような。聞いてて飽きない喋り方だった。
その調子のまま、古賀塚は続ける。
「知ってる人は少ないと思うけど、たった一冊で完結した……。『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』の前作があってね―――」
「……『オジギソウ』」
藤村の呟きに、古賀塚の表情が変わる。
藤村が呟いたのは、古賀塚が言った前作の名だ。
彼は古賀塚が売れていない時からの珍しいファンだった。今回の作品も、世界観やキャラだけじゃなく、自分の好きな作家だから、というのもあるだろう。
「……知っているのかい?私の前作を」
「ええ。持ってますよ、今でもたまに読みますし」
初めてだった。
古賀塚にとって、自分の作品をここまで愛してくれている人は、初めて会う。古賀塚の中で『嬉しさ』がどんどん膨張していく。
古賀塚は鞄の中を漁りだす。
「……丁度いいものがないな。ゆうき、さっき君が買った『美剣』を貸してくれるかい?」
藤村が首をかしげて、言われたとおりに本を渡す。
古賀塚は、本の裏表紙にマジックで何かを書き出す。
「……君のようなファンには初めて会った。一気に大好きになっちゃったよ、ゆうき」
彼女が裏表紙に書いたのは、自身のサインだ。
それを見た藤村は、涙が出そうなほどに目を潤ませる。
「ほ、ホントにサインをもらってもいいんですか……?」
「構わないよ。そんなものでよければ。お礼の気持ちだよ」
古賀塚は見るもの全てを癒すような笑みを、藤村に向ける。
それから数分後、藤村達は店を出て、古賀塚は打合せがあるらしく、ここで別れることとなった。
「じゃあ、また会えたらね、ゆうき。しょういち」
「はい。これからも『美剣』見続けますし、読み続けます!」
古賀塚は藤村の言葉に、嬉しそうに微笑んだ。
「……あー、俺も幽鬼から借りて読んでます。お金がなくて、買う余裕がなくて……」
「それならいいんだよ。悪いのは君じゃないし、魅力的な作品が多いからね」
古賀塚は神山の言葉にそう返す。
すると、藤村にしゃがむように促す。促された藤村は、疑問に思いながらもしゃがみこむ。古賀塚の背に合わすように。
古賀塚は彼の耳元で、小さく呟いた。
「……私がこんなことするなんて、とっても珍しいんだよ?」
途端に、古賀塚の唇が頬に触れる。
古賀塚から、藤村へのキスだ。
藤村は顔を真っ赤にして、しゃがんだまま固まってしまう。神山は『お前どんだけモテるんだよ。七瀬チャンの次は亜衣乃チャンか』みたいな表情でいる。
古賀塚は小走りに二人から離れていって、振り返ると同時に、口元に人差し指を当てて言った。
「特別だよ!」
そして、彼女はそのまま走り去ってしまった。
藤村はしばらく固まったままでいた。神山も面倒になったので、藤村を置いて先に帰ってしまった。
古賀塚は、打合せ場所に向かいながら、楽しそうに微笑みながら呟く。
「……好きになっちゃった。もう、ゆうきが頭から離れないよ」
帰ってから藤村は、ものすごい勢いで霧野に『美剣』を勧めだした。
あまりの勢いに圧倒され、霧野は渋々読み出し、瞬く間にハマっていった。
59
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/10(金) 21:23:21 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.8「那月流生」
藤村幽鬼は、金属音が鳴り響く学校の裏庭に座り込んでいた。
戦場原学園の裏庭は、校舎とグラウンドを合わせた広さを誇り、そのスペースは昼食や、修行の場所として活用される。
現在、藤村の前で行われているのも、主な使用手段の一つである修行だ。
といっても、勿論藤村は参加していない。今修行しているのは霧野と篠崎の三人だ。だが、藤村としては自分が何をしていいのか分からない。放課後『空いてる』と答えたら、急にここに連れ出されて現在に至る。
霧野と篠崎が、肩で息をしながら距離を取った。
二人は一斉に藤村の方を見て問いかける。
「「どう?」」
「何が!?」
藤村には、やはり意味を理解することが出来なかった。
「修行を見てほしかった?」
藤村は二人の答えにそう聞き返す。
聞けば二人は、中間試験で真っ先に気を失ってしまったことに、少なからず負い目を感じているらしい。そのため、今日からここで修行を始めるらしいのだ。
「見てほしいって、なぁ……。俺だって戦いのプロじゃねぇし。先生に頼めよ」
「そんな仲の良い先生いませんよ」
篠崎は藤村の提案にそう返す。
二人だって、藤村に迷惑はかけまいと一番最初に先生に声を掛けてはいるのだ。だが、どの先生も忙しそうで、唯一暇そうに見えた青奈先生も『今日はアレがコレでソレだからー』という理解不能な言葉で回避された。
そんな人が天才だなんて、世の中の不公平さを霧野と篠崎は痛感したのだ。
「身体の動きを見てくれればいいの!どこがいいとか、悪いとか」
「だから、それが分からないって言ってんだ。……焔華に訊いてみるか?」
そして、焔華を呼び出し、彼女達の修行を見せること十分。彼女の答えは―――、
『さっぱり分からん』
だった。
『見てほしいって……。私は戦いのプロじゃないし、教師とやらに見てもらえば早いんじゃないのか?』
どこかで聞いたような台詞が帰ってきた。
目の前にいる黒髪の少年が、さっきそんな感じのことを言ってた気がする。
篠崎も諦めずに、そのことを焔華に話す。
だが、彼女の答えはいつまでも『分からない』の一辺倒だった。
藤村も、霧野も、篠崎も(焔華も)諦めかけたその時だった。
―――近くにある木から、少年の声が聞こえてきたのだ。
「何なら、俺が見てやらんでもないぜ」
優しそうな、だがどこか軽いノリのある声だ。
声の主は木から下りてくる。金髪の髪に、金色の瞳、金色のピアス。制服は着崩していて、チャラついた印象がある。彼の方からは野球で使うバットをしまえるような細長い袋が提げられていた。
「……誰だ、お前」
いきなりの登場に、藤村達は警戒する。
「ん?あー、そんな警戒しなくていいぜ。俺はお前らの味方だと思ってくれていーから」
金髪の男は、相変わらずの軽い調子でそう返す。
そして、彼は僅かに声の調子を低くして、自己紹介を始める。
「一年B組の狩矢零太(かりや れいた)。下の名前で呼んでくれや」
60
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/25(土) 21:50:18 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
狩矢零太、と名乗った少年は口元にゆったりとした、余裕を見せ付けるような笑顔を浮かべている。
無邪気や無垢とはまた違った、素直な笑みだ。
彼の言った学年とクラスを心の中で復唱しながら、霧野は口を開いた。
「……B組、てことは……篠崎さんの一つ上のクラス?」
霧野の言葉に、狩矢は指をパチン、と鳴らす。
「大正解。ポニテの子の言うとおり……ってか俺は篠崎さんは知らんけども」
狩矢は肩をガクッと落として言う。
そんな彼に、藤村は腕を組みながら問いかける。
「で、お前は何なんだ?俺らの味方だって言ってたけど……それを簡単に信用してくれると思ってんじゃねーだろーな」
フッと狩矢は笑みを浮かべる。
「あー、思ってねぇぜ?特にお前と、後ろにいる亡霊さんはガードが固そうだしな」
言葉に、藤村と焔華は反応する。
二人を挑発するようにも思える口調と台詞で、狩矢は話を続けた。
「俺を信用するかしねぇかは自由だが、俺はお前ら三人の戦いにアドバイスが出来る。例えば、そこのポニテの子だったら―――」
狩矢は言いながら、霧野を指差す。
いきなり自分を指定してきたことに、霧野は驚き肩を大きく震わせる。
「攻撃の一振り一振りが大きすぎて、一撃を狙いすぎだ。もうちょっと冷静にいった方がいいぜ。一振りの後の隙がデカ過ぎて、自分から『狙ってください』って言ってるようなもんだしな」
「……!」
初対面にダメ出しをされて、通常なら怒るところだが、霧野は言い返せなかった。
いや、言い返せるわけがないのだ。
彼の指摘が的確すぎて、言い返す気さえも喪失させた。確かに、自分は一撃に拘っていた、一振りの後の隙にも気付いていた。自分が改善すべきだと思っていたが、出来なかった点だけを見事に突いていたのだ。
狩矢は次に篠崎を指差す。
「んで、こっちの子は―――戦い方は上手いんだが、型にハマりすぎだ。教科書(マニュアル)重視すぎて、自然体での戦いが出来ていない。元の型を意識しすぎて、自分の戦い方がなってねーんだわ」
篠崎も指摘の後に、口をつぐんでしまった。
彼女も言い返さなかった、いや。言い返せなかったの方が正しいだろう。何故なら、彼女は指摘の後に、悪戯がバレた時のように目を逸らしてしまったからだ。
狩矢は自信に満ちた顔で、藤村に言う。
「な?」
それに対して藤村が返す言葉は、実に簡単だった。
「……だからどうした」
狩矢は驚いたような表情を向けている。
「霧野と篠崎の弱点を見抜いたってだけで、俺がお前を信用する材料にはならねーよ」
「何なら、お前の弱点も見抜いてやろうか?俺の目には、そういうのすぐにバレちまうんだぜ?」
藤村は自分の身体に焔華を宿し、戦う気満々だ。
狩矢も楽しそうな表情を浮かべている。
「―――やれるもんならやってみやがれ」
藤村VS狩矢が幕を開けた。
61
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/03/18(日) 13:13:53 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤村幽鬼VS狩矢零太。
全然ノリ気のこの二人の戦いを良しとしない者が、この場に二人だけいた。
それは言うまでも無く、霧野七瀬と篠崎唯の二人だ。
この二人には藤村と狩矢が戦おうとしている理由が分からない。男には男にしか分からない世界があるのだろうか。だが、本来の性別が男である篠崎も分かっていない様子なので、二人にしか分からない世界があるのだろう。
とにもかくにも、二人の戦いは止めなければならない。
無意識に、本能でそう思った霧野は、二人を止めるべく口を開き、なるべく大声で呼びかける。
「藤村君、狩矢君!別に戦わなくたっていいんじゃ……」
「俺もだよ」
藤村は短くそう返した。
恐らく『俺も戦う必要はないと思ってる』ということだろう。
なら、何故そう思ってる藤村でさえも戦う意志を表しているのか。
その答えは彼の目の前にいる人物、狩矢零太にあった。彼は下げていた細長い袋から猟銃を取り出し、担ぐようにして持っている。一見悠長に構えているが、これといって隙が無い。どこから攻撃しても当たらないような気さえするほど、隙が無い。
狩矢はフッと笑って、
「下の名前で呼んでくれよ、ポニテちゃん。それに、俺だって別に戦いたいわけじゃないさ。俺は別に戦闘好きでもないからさ」
狩矢は指で藤村を挑発するように、ちょいちょいと挑発する。
「ただ、知りたいだけだよ。俺の知り合いと同じくらい、この目の前にいる降霊術者が強いのかってな」
藤村はその言葉に反応する。
相手は自分以外にも降霊術者の知り合いがいるのか。
この学校の人間か、それとも違う学校の知り合いか、あるいは大人の知り合いか。そこはどうでもいいが、そこまで言われるとこちらとしてもプライドがある。
学校の知り合いなら目星が一つあり、彼には絶対に負けたくないとも思っているため、この勝負は引くわけには行かない。
「……行くぜ、焔華」
『……ああ。だが、油断するなよ』
焔華にしては、珍しく藤村に忠告を言い渡した。
藤村が首を焔華に向けるまでも無く、焔華は説明を続けた。
『お前はDクラスで奴はBクラス。たった二つの違いだが、奴は以前戦った工藤政宗とは違う威圧感を感じる。気をつけろよ』
そう言って、焔華は藤村の身体の中に入り込んでいく。
降霊術者の戦い、『憑霊』だ。
藤村の目が赤く鋭くなり、彼の拳に真っ赤な炎が纏う。
その光景は見慣れているためか、狩矢の表情に驚愕や動揺は一切無い。ただ、笑みが刻まれているだけだ。
「行くぜ」
「いつでもどーぞ」
藤村は地面を力強く蹴って、狩矢との距離を一気に詰める。
炎を纏った藤村の拳が狩矢の顔を目掛けて飛ぶ。だが、狩矢は手に持っていた銃身で拳を受け止める。
「ッ!?」
「これくらいで動揺してるんじゃ、まだまだ甘いヒヨっ子だぜ」
狩矢は拳を銃身で受け止めたまま、藤村の腹に鋭い蹴りを繰り出す。
僅かに息を漏らして藤村は後ろに二、三歩下がる。だが、狩矢は藤村に休む間を与える事も無く、更に追い討ちをかける。
狩矢は銃身で藤村の顎を突き上げ、銃を振り回し、横っ腹に銃身での一撃を喰らわせる。横に傾く隙だらけの藤村の身体に、渾身の力を込めたボディーブローが勢いよく突き刺さった。
「……ッ!」
「……なぁーんだ、この程度かよ」
藤村はそのままうつ伏せに倒れ、激しく咳き込んでいる。彼の身体に憑依していた焔華も身体の中からするりと出てきた。
『何という身のこなし……貴様、鍛えているのか』
「まーね。デタラメに強い降霊術者に鍛えてもらってるもんで。その人に比べりゃお前は全然だな。何がダメって、基本からダメすぎる。能力に頼りすぎだ」
藤村は倒れたまま、狩矢を睨みつけている。
だが、狩矢は笑みを浮かべて、藤村を見下ろすだけ。お前なんか怖くない、と言外に告げていた。
『お前の言う降霊術者とやらは……この学校の会長、工藤政宗の事か?』
「ん?あー……」
狩矢は言葉を詰まらせる。
バレてはいけないことがバレてしまい、言い訳を必死に探す子供のようだ。
「……まあその人も知り合いなんだが……俺を鍛えてくれる人は別なんだよな。あ、そーだ」
狩矢が思いついたように手を叩く。
それから藤村に視線を落として、
「今からその人に会いに行こうと思ってたんだよ。お前も来るか?」
狩矢は倒れている藤村に手を伸ばす。
不本意ながらも、自分の力だけで起き上がれない藤村は、彼の腕を掴み、やっと起き上がった。
62
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/03/24(土) 13:49:29 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤村は狩矢に連れられ、街にまで出てきた。
武器を持っていない藤村が周りから注目される事はほとんどないが、猟銃を担いだままの狩矢はかなりといって良いほど目立ってしまっている。猟銃持ってる奴と一緒にいる自分はどう思われているのだろう?と少々不安を抱きながらも、藤村は狩矢についていく。
そこで、狩矢はゲームに出てきそうな酒屋みたいな店の前で足を止める。
店の看板には『ウェポン』と書かれていた。木製の建造物で、もう何十年も前から建ってそうな、年季が入ってそうな雰囲気がある。店自体もそんなに大きくなく、家と家の間にこじんまりと建っている。そんな店だ。
そんな取り壊し直前のボロ酒屋みたいな店を前に、藤村は狩矢に問いかける。
「……なぁ、ここ入っていいのか……?俺ら未成年だぞ?」
「あ?なーに言ってんだよ。いいに決まってるだろ。武器屋なんだしさ」
そう言って狩矢は何のためらいもなくドアを開けた。
ドアを開けるなり地下に繋がる階段がある。藤村は先に行ってしまう狩矢の後を追って、その階段を下りていく。階段を下りると再びドアが目の前に現れる。そのドアのノブには『オープン』とかかれた板がぶら下がっていた。
「ぃよっし!開いてるな!」
「開いてる保障なかったのかよ!?」
狩矢はノブに手を当てて、ドアを開ける。
「仕方ねーだろ。たまに開いてない時だってあるんだし。おーっす!久しぶりっす流生(るき)さん!」
狩矢は入るなり、元気よく手を挙げてそう言った。
その部屋の壁には刀や銃などが掛けられており、武器の展覧会にも見えた。だが、店の中は案外狭く、高校生でも十人くらい入ったら結構窮屈だろう。置くにはカウンターのようなものがあり、その置くには更に扉があった。恐らく従業員の人はその奥にいることだろう。
狩矢の声の後に、その奥の扉がゆっくりと開いた。
出てきたのは所々跳ねている肩より数センチ長い銀髪を持った、目つきが僅かに鋭い女性だ。身長は藤村とほぼ同じくらいで白いへそが出るシャツに毛皮のついた黒いコート。そして黒のズボンを履いており、お世辞にも色気があるとはいえない。むしろ男らしい。
そんな女性に狩矢は親しげに話しかける。
「お久しぶりっす。いやぁー、相変わらず人来てないんすね」
「余計なお世話だっつーの。大体ここの店知ってるのだって戦場原学園の一部生徒だけだろ?そんなに有名になっても困るし……で?今日は何の用で来た?武器へのクレームか?」
狩矢に流生と呼ばれた女性はまさに男のような口調で話している。
すると、入り口の辺りで固まっていた藤村と目が合い、『誰だアイツは?』と狩矢に訊ねる。
「あー、紹介しますね!こいつ、俺の友達の藤村幽鬼。降霊術者なんすよ!」
「誰が友達だ!」
ふーん、と流生は顎に手を添えながら藤村を凝視している。
じろじろと自分を見てくる相手に、藤村は警戒をしていたが、何を見終えたのかは分からないが流生がふぅ、と息を吐く。
「そっか、零太のダチか。私はこの武器屋『ウェポン』の女店主、那月流生(なづき るき)だ。つっても、従業員も私ともう一人しかいないから……店と呼べるかも怪しいけど」
流生はそう笑いながら自己紹介をした。
そして、藤村は思う。
(―――那月?気のせいか、どっかで聞いたことあるような―――)
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板