したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

FRAME・GHOST

1竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/20(日) 15:12:12 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
こんにちわ、もしくは初めまして。
といってもこの掲示板で何度か作品を投稿して、続いたり、続かなかったりを繰り返しております。竜野翔太です。
三作同時進行は厳しいなー、と思いながらもこの作品を投稿したのには理由がありまして。
それは知りたい人がいれば、お答えしましょう。
なるべく注意してるつもりではありますが、頭で出来た設定が中々上手くいかず更新できないという例が幾度かありますので、これもまだまだ未完でありますので、何卒お付き合いくださいませ。
 
注意事項です。
・本作は学園とバトルが入っており、恋愛もちょこっと混ざってます。
・チェンメ、荒らしなどはご遠慮ください。
・グロ表現はなるべく控えますが、もしかしたらあるかもしれません。
・パクリや倒錯などはしていないつもりですが、もしも『アレ?』と思う点があれば、お申しください。
・誤字脱字、あると思いますがその時は早めに訂正いたします。
・コメントや意見、アドバイスなども受け付けております。

長くなってしまいましたが、次レスから始めさせてもらいます。

2ライナー:2011/11/20(日) 15:25:58 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼いたします、ライナーです^^

ほう、3作目ですか。MAGIC MASTERのほうも良かったとは思いますが、止めてしまったんですね。
是非3作目の制作理由を伺いたいですね^^
まあ、3作目を作ると言うことはラフがしっかり描けていることと存じます。
ってなわけで、こっちもチョクチョク見ていきたいと思いますので、宜しくお願いします。

ではではwww

3竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/20(日) 15:41:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.1「戦場原学園」

 ―――戦場原学園。
 東京都の三分の一の学園面積を誇るその学園では、少し変わった授業を受けている。
 それは自分の『強さ』によって学年とクラスが決まる事。
 無論、武器の携帯はオーケーで、持ってこないということはほぼいないだろう。
 四十人ごとにクラス分けがされており、トップの四十人がAクラスに入る。それから四十区切りでB、C、D、E、Fと下がっていくごとに強さは弱くなっていく。
 そう、この学園は『強さ』至上主義なとんでもない学園だ。
 そして一人、その学園で暮らす少年がいる―――。

「……ぅあ」
 少年は学生寮の一部屋で小さな呻き声を上げる。
 丁度目覚まし時計が耳障りな音を鳴らす少し前に起きる事が出来た。
 黒い髪をツンツンにしたその少年は、二人が充分に暮らせそうな寮の中で、誰にという訳でもなく呟く。
「―――眠ィ」

「だからさぁ、結局のところ女の魅力は全て!身体に詰まってるってワケ!」
「……朝からなんつー話をしてんだよ、テメーは」
 少年は自分のクラスの教室、1-Dに入ると、友人の話に溜息をつく。
 二人は席が前後で、前の席に座っている相手が身体の向きをこっちに向かせている。
「……実のところ、幽鬼(ゆうき)もそう思うだろ?」
「お前じゃねーし、思うかよ」
 幽鬼、と呼ばれた少年は当然のようにそう返す。
 一年D組の少年、藤村幽鬼(ふじむら ゆうき)は下から三番目という、中途半端な『強さ』のクラスに在籍している。
 弱い、とまではいかないが、お世辞にも強いとは言えない。そんな微妙な立ち位置のクラスだ。
 彼と話していたのは、神山翔一(かみやま しょういち)は藤村と中学からの付き合いの友人だ。
 腐れ縁、という表現が一番合っているような気もする。
「んな話は昼休みにでもしろっての。にしても、今日は一段とテンション高いな」
「当たり前だろ!何たって今日は美人転校生が来るんだから!」
 転校生だぁ?と藤村は眉を下げる。
 よく耳を澄ますと、既に教室にいる生徒の会話から『転〜』『美人〜』などちらほら聞こえる。
 ガセじゃないのか、と藤村が適当に思っていると、神山が一人で話し出す。
「しかも、さっき応接室をちょっくら覗いてきたんだけどよ、結構可愛かったぜ!」
「へー、どんな?」
 藤村は特に聞きたいというわけではなかったが、そう適当に聞くと神山がヒートアップしだす。
「まず、背は160前後だったな。んで、黒髪のポニーテールで、目は結構きりっとしてた」
「……見た目で身長って分かるもんなのか」
 藤村はやや呆れながら、神山に言う。
 藤村の好きなタイプは、黒髪だが、わがままを言えば結んでるより、下ろしている方が好みだ。
 それを知っている神山は、
「お前はその子を狙うかもしれんが、ダメだぞ!俺が先だ!」
「何を後先競ってんだよ!別にどーでもいいし、好きにしやがれってんだ!」
 藤村は思わずそう叫んでしまっていた。
 そうこうしてる間に、生徒も集まりだし、担任の教師も入ってきて、朝のHRが始まる。
 先生が軽く咳払いをして、話を始める。
「えー、皆も知ってるとは思うが今日は転入生が来ている。皆、仲良くするんだぞ」
 入ってくれ、と先生が言うと教室の扉が開けられ、転入生の少女が足を踏み入れる。
 身長は160前後、黒い髪をポニーテールにして束ねており、目はきりっとしている美人な顔立ちだ。
 不覚にも藤村は、神山が言ってたよりも数倍美人に見えた。
 その少女は黒板にチョークで名前を書き出す。
「―――転入生の霧野七瀬(きりの ななせ)です。宜しくお願いします」
 霧野七瀬、という少女は軽くお辞儀をする。
 彼女は、見とれている藤村と目が合うと、にっこりと微笑み返す。
 藤村はこの時確信した。

 神山との約束を守れないであろう、と―――。

4竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/20(日) 15:50:13 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます。
まあ、制作理由の方はですね、今やってる作品の展開を考えながら、適当に『こんなのってアリじゃね?』っていう作品とは別の設定を考えていたら、創作意欲が高まってしまいまして、大体のストーリーが出来てしまったというわけです。
ただの思いつきのような感じもしますが、ライナーさんの仰った10個の注意点は、踏まえています(はずです)。
これ以外の二作もそのような気がしますが、これは結構女性キャラが多めに出てきます。役一人、危ういのも出てきますが……。
こちらの優先順位は低いので、ゆっくりになるお思いますが、お付き合いください。

5ライナー:2011/11/20(日) 16:29:27 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
えーと、気になるところがあったのでちょっと……

女性キャラが多いですか、まあそのパターンは多くの男に夢を与えますよね(笑)
しかし、それは裏を返せば女性に票が貰えなくなるんですね^^;
まあ、これは男による男のための男だけの……とかそう言う理念があるなら別に良いんですが、ここの掲示板は女性がいないわけではありません。
ちなみにこの手法は真面目な男に受けないという欠点を持ち合わせます。
そう、アイツはアイドルにも見向きもせず、本を読んでもラノベのウハウハは嫌いだった……とまあ思い出話はストップするとして。
もし書くんでしたら女性受けるキャラクターで書くことをお薦めします。
これはキャラ造りの中でも重要なことで、異性の特性を知ることが大切です。そうすることで、ただ変わった性格というのではなく、人間としての深みが出てきます。
ちなみに、男性が女性のキャラクターを書く場合、少女漫画がうってつけです。あれは女性中心に書かれていますからね。
僕なんか、しょっちゅうキャラ造りのために乏しいお小遣いをはたいて、妹に買うんだよねーなんてごまかしながら少女漫画を購入しております(笑)
まあ、別にそこらどうでも良いようでしたら、スルーお願いします。

後は、制作理由ですが、この場合はキャラ造りをそれぞれ出来ていて、さらに短くその物語を最初から終わりまでまとめて出来ているかどうかです。
竜野さんの場合は、実際3作品ほど落としてありますので、あまり増やすことはお薦めしません。
まあ、しっかり完結できることを願っております。

ではではwww

6竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/20(日) 19:58:38 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「じゃあ霧野。皆に何か自己紹介的なものを」
「はい」
 先生が霧野に促すと、霧野は短く返し、一歩前に出る。
 生徒達が静かになって話しやすい空気が作り出されると、霧野は小さく息を吸い込んで、こう口にした。

「私、まだ武器を持ってないから。襲わないでね」

 教室が震撼した。
 この学校に、武器を持たずに来るということがどれほど恐ろしい事か、全員が理解してるからだ。
 さすがに先生も知らなかったのか、口を大きく開けて硬直している。
 自分の席からじゃ全体は見えないが、恐らく生徒全員同じリアクションをしているだろう。
(……武器を持たずに、ねぇ……)
 藤村も口元を引きつらせながら、視線を落とす。
 彼の視線にあるのは、自分の右手だ。手の甲を隠すように包帯が巻かれてある。
(……でも、人の事言えねーか)
 藤村は息を吐く。
 先生は落ち着き始めて、霧野に席へ着くよう促す。
 霧野もこくりと頷き、指定された席へと座り、一時間目の授業、藤村の苦手な現代文が始まった。

 四時間目も終わり、藤村は無意識に霧野の席へ視線を移す。
 彼女の席は窓側の一番後ろ。まあ転入したのだから、自分の好きな席ではなく、必然的に後ろに行くのは当然だろうが。
 しかし、そこには霧野の姿は無かった。
 もう何処か行ったのか、と思う藤村に神山の声が飛ぶ。
「どした?幽鬼。いきなり七瀬チャンにゾッコンか?」
「違ーよ。つーか古いし」
 藤村は神山に適当なツッコミをして、否定する。
 霧野に気が無い、というのは語弊が有るが、いきなり『好き』になれるほど自分は可愛い子好きだとは思っていない。
 藤村は、鞄から休み時間中に購買で買った好物のメロンパンを出し、食べ始める。
「そう言うお前はどうなんだよ。お前お姉さん系が好きだ、とか言ってなかった?」
「フッ。いつの話をしてんだよ。今の俺はどんな女の子もオッケーだぜ?」
 恥ずかしいなコイツ、と思いながら藤村はメロンパンを食べ進める。
 ちなみに神山が『お姉さん系が好きだ』と言っていたのは、つい四日前である。
「にしても、今六月の初めだろ?こんな時期に転入なんて随分と中途半端だよなぁ」
「まー、仕方ないんじゃね?親の仕事の都合もあるだろうしさ」
 藤村と神山は珍しく実のある話を始めた。
 藤村達が今いる戦場原(せんじょうはら)学園は東京の三分の一の敷地面積を誇る。そのためか、現在の東京は、戦う事を目標とした教育施設がいくつも出来上がり、東京だけが一つの隔離された世界のようになっている。
 親の都合でこんなとこに引っ越してきたのか、と霧野のことを多少不憫に思う藤村。
 すると、神山が何かを思いついたように、僅かに声を上げる。
「なーなー、幽鬼」
「何だよ」
 藤村は呆れ気味に聞き返す。
 神山のにんまりした表情から、ロクでもないことだということが何となく想像できた。
「七瀬チャンが武器を持つまでは、俺らが護ってあげねー?」
「……」
 神山の台詞に藤村は、きょとんとする。
 意外とまともな事を言ってきたからだ。
「やっぱ武器なしは可愛そうだしな。こういう時は男が護ってあげなきゃいかんよ!」
「……お前にしちゃ良い事言うじゃ―――」
 しかし、藤村の褒め言葉は神山の煩悩が支配した言葉でかき消される。
「んでもって、護ってあげたあかつきには『私、神山君がいないと生きていけない!これからは一生のパートナーとして』みたいな展開にぃぃ!!」
「お前いっぺん死んでこい」
 褒めの言葉を最後まで言わなくて良かった、と藤村は真剣に思った。
 それはそれとして、神山の意見には藤村も賛成だ。武器がなくては、この学校で生活するにはかなり厳しい。
 と、頃合を見計らったように、同じ組の男子が教室に入ってくる。
「皆!霧野さんが購買近くで騒ぎになってるらしいぞ!」
 それを聞いた藤村はぎくっと、大きく肩を揺らし、神山の目は輝いた。
 二人は急いで教室から出ると、購買へと向かう。
「しゃあ、行くぜ幽鬼。早速出番だ!『七瀬チャン親衛隊』出撃ー!」
「俺はそんなモンに入隊した記憶はねぇぞ!?」
 と言いながらも、霧野のことが心配なのか、藤村も神山と一緒に購買へと足を走らせていた。

7竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/20(日) 20:07:45 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

まあ、男のためのとするわけではないんですが……。
主人公に好意を寄せるのも少人数なので、ラノベのようなウハウハ展開は避けられるかと((

少女漫画買うんですか!?
僕はさすがにそこまでしてないな……いやでもお金ないし、どっちみち買えないんですけどね((
でも姉が持ってるのなら何冊かあるから、こっそり見て見るのもありですかね。

はい、今回はきっと完結できると思います。
いや、させます!させてみせますとも!

8竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/20(日) 21:16:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤村と神山が購買の付近にたどり着くと、沢山の生徒の野次馬で霧野の姿が見えない。
 二人は人ごみを掻き分けて、霧野の姿を探す。
 すると、一箇所だけぽっかりと空いた空間があり、そこへ視線を向けると、黒髪ポニーテールの少女がいた。
 彼女は両腕を広げ、後ろの少年を護っているような体勢だ。証拠付けに霧野の前には三人の男がいる。
 耳にはピアスをしており、頭はスキンヘッド。見るからに不良だった。
 その真ん中の男と、霧野は睨み合っている。
 何してんだアイツ、と叫びたくなる藤村だが、ここは冷静に神山と状況を見定める。
「邪魔すんじゃねぇよ、一年!関係ねぇだろ!」
「……目の前で人が苛められてるのに、邪魔しないわけないじゃないですか!」
 何となく、その会話だけで理解できた。
 理由は分からないが、霧野に庇われている少年があの三人の不良に苛められているのを霧野が発見し、間に割って入った。ということだろう。
 霧野の背後の少年にはアザなどが見えている。
「……翔一、あの三人三年だぞ」
「うわー……七瀬チャンもいきなり先輩に喧嘩売るとはねぇ」
 二人が霧野の前の三人が三年だと分かったのは履いている上履きだ。
 上履きのつま先の色で、学年が分かるようになっていて、現在は一年が赤、二年が青、三年が緑だ。
 次に入ってくる一年が緑のを使用する。
 それは、学年で色が被らないようにするための細工なんだとか。
 見てみれば、背後の少年の上履きのつま先の色も緑だ。
 『どけ!』『嫌です!』と三年と霧野が言い合っていると、真ん中の男が手にメリケンサックをつけて霧野に殴りかかる。
 これはもう行くしかねぇ、と思い飛び出そうとする藤村と神山だったが、
「たぁっ!!」
 という霧野の声が響く。

 見れば、彼女が拳をかわし、軽く飛んでから男の顔面に蹴りを入れていた。

 野次馬含め、襲っていた三年、襲われていた三年、藤村と神山全員が口を大きく開けて硬直してしまう。
 当の霧野本人も蹴った後に気付いた。
「…………………………あ」
「まっちゃん!」
 蹴られた男に残りの二人がそう声をかける。
 まっちゃんは、倒れても尚、ピクピクと動いていたが、力尽きたように動きを止めた。
 すると、我に返った二人は霧野に襲い掛かる。
 そこで『七瀬チャン親衛隊』の二人が飛び出す。
 藤村と神山が割って入り、藤村が霧野の腕を掴む。
「……君は……」
 霧野が何か言いかける前に、藤村が焦った調子で言う。
「何してんだお前!とりあえず走るぞ、霧野!」
 藤村が強引に霧野の腕を引っ張って走っていく。
 『え?ちょっと?』と焦った声を発する霧野に、藤村は全く気を配っていない。
「アンタも!大丈夫か?」 
 神山も襲われていた少年の腕を引いて、藤村と一緒に走り去っていく。
 戦場原学園・購買の陣は、『七瀬チャン親衛隊』の撤退により、勝敗が決した。
 しかし、討ち取られたまっちゃん軍大将のまっちゃんを誰も保健室に連れて行こうとはしなかった。

9ライナー:2011/11/20(日) 22:05:34 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
しょっちゅう済みません、コメント失礼します、ライナーです。
今週はこれで終わりなので、何卒お付き合いの程を……

アドバイス、と言うより注意と言った方が良いのでしょうか。とりあえずそんなところです。
今回の注意点は、現実味(リアリティ)ですね。
それというのも、作者ってたまに失敗することのある分野なのですが、この小説は矛盾が生じています。

戦場原(せんじょうはら)学園は東京の三分の一の敷地面積を誇る。そのためか、現在の東京は、戦う事を目標とした教育施設がいくつも出来上がり、東京だけが一つの隔離された世界のようになっている。

本文から抜き出したこの一文、何が矛盾か分かるでしょうか。
この一文を見ると、インデックスを思い出すのですが、それは置いておいてですね。
まず根本的なことから申し上げますと、何故戦闘が必要なのでしょうか?
今の時代、平和主義が多く一般的に争いは拒まれています。その中で、何故学校内で戦闘を取り入れているのか、それが明らかになっていません。
少子化なのに、そんな戦闘して子供の数減らすようなことしなくても……こういう意見も出てきますね。
さらに矛盾しているのが、戦闘を主としている学校なら何故普通に現代文が出てくるのでしょうか。戦闘の授業があってもおかしくないと思いますし、生徒内の事ならば、ただの荒れた学校ですしね。
そう言った矛盾をふまえて文章を構成してくださいね。
なんかこれで見てると、少し口が悪いですが3作目で大丈夫なんでしょうか?
無論3作同時にやるとしたらいろんな方面で頭使わなくてはなりませんし、正直心配です。
と言っても僕にも失敗はありますからね。僕の小説の方にもアドバイスお願いします、自分じゃ見えてないところあると思うので。
何かと上から目線で、うざったいコメントでしたが、優しく受け取って貰えれば幸いです。

ではではwww

10竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/20(日) 22:22:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントというより、アドバイスですね。
ありがとうございます。

インデックスは知っていたのですが『アレって東京の三分の一じゃなかったような。東京西部を開拓したんだよね?』という曖昧な記憶で作って、ウィキペディア見たら『東京の三分の一に匹敵』的なこと書いてました。ちゃんと見てからやるべきでしたね……。
なるほど。
設定が奇抜すぎても、理由などを考えないと中身が無い内容になってしまう、というわけですね。
確かに今思えば、何で戦いが必要なんだろう((
いや、戦いなどの授業もありますけど……。
ちゃんとした授業も無いと、学校って感じがしませんし……。

はあ、こう指摘されると本当に大丈夫なのか心配になってきました……。
これからアドバイスを踏まえた訂正をすると後付で余計に分かりづらくなりますしね((

いやいや、ライナーさんの小説は僕のような矛盾など無いので、多分アドバイスよりもコメントの方が多いと思います……。

11竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/21(月) 19:35:41 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤村と神山は、霧野と襲われていた少年を連れて校舎裏まで必死に走った。
 四人はそこで立ち止まり、後ろを確認してあの二人が追って来ていないことを確認すると、安心したようにホッと溜息をつく。
 溜息というより、四人の吐いた息は息切れに近い。
「……はー、はー……」
 藤村は霧野の腕から手を離して、やや前にかがみながら膝に手を置き、息を切らしている。
 神山も少年の腕から手を離し、下に腰を下ろして、疲れをあらわにしている。少年は何故か隠れるように息を切らし、霧野は胸の中心に手を当て、息を整えようとしている。
 若干落ち着いてきたのか、藤村は霧野に視線を向ける。
「……お前、転校初日から何してんだよ……。先輩に喧嘩売りやがって……!」
 霧野は若干頬を膨らませて、藤村に反論する。
「だって……目の前で人が殴られたり蹴られたりしてるのに、見逃せないよ!」
「だからって、自分が関係してない喧嘩に首を突っ込むなよ」
「じゃあ、助けなかったらいいじゃん!」
 何故か助けたはずの藤村と、助けられたはずの霧野が喧嘩を始める。
 神山は止める力が残っていないのか、大きく息を吐いている。
 それを止めたのは、襲われていた少年だ。
「あ、あの……すいません!僕のせいで……」
 止めた少年に藤村と霧野は振り返る。
 それから、二人とも渋々言い合いを止める。
「……それに、僕のせいだし……」
 少年は俯いてそう言う。
 泣きそうな、悲しそうな声ではなく、どこか嘲笑が混じったような自責の念に駆られたような声だ。
「……えっと、三人はD組の人……だよね?美人の黒髪転校生が来たってことは……君が霧野さん?」
 少年は何故か一年の事情に詳しかった。
 上履きのつま先の色で、三人が一年だと分かっても、組まではわからないはずだ。赤でも色の濃さなどでクラスが分けられているわけでもない。
 そこで、藤村は勘付く。
「……アンタ、もしかして一年か……?」
「……うん」
 少年は恥ずかしそうに答える。
 彼の上履きのつま先は緑色。それでも一年生だということは……。
「……といっても、二年留年してて年齢は君らより二つ上なんだけどね……」
 卑屈な台詞が響く。
 藤村達はどう声をかけていいか分からず、口元を緩めて苦笑いを浮かべていた。
 この学園は『強さ』で学年とクラスが決まる。
 そのため、あまり弱すぎると進級できない場合が稀にある。試験での実技が大きな点数となり、言ってしまえば出席日数よりも点数がかなり大きめなのだ。
 実技でしくじったりすると、出席日数が足りていても留年、という結果になってしまう。
 試験もそれほど過酷なものではないため、一番弱いクラスのF組でも進級できないものは年に一人か二人程度だ。
「……にしても、何で三年の奴等に襲われてたんだ?」
「……実は、彼らとは一年の時から一緒のクラスで……僕は気が弱いし、強くもないから彼らのパシリみたいになっていて……毎日昼を買いに行ってるんだけど、今日はたまたま遅刻しちゃって。彼らが頼んだ物を買えなかったから……」
 随分と理不尽な理由だ。
 藤村と神山は低く舌打ちをして、霧野は心配そうな眼差しで少年を見つめている。
「と、とりあえず、今日はありがとう……!でも、僕に関わるとロクなことないから……あまり関わらない方がいいよ……」
 じゃあね、と少年は言ってその場から走り去っていく。
「……助けてやりたいが……」
「本人が望まないんじゃなぁ」
 藤村と神山も教室へ戻るべく歩き出す。
 霧野はその二人について行き、教室へと戻って行った。

12ライナー:2011/11/22(火) 20:25:22 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

なるほど、何かこの少年にまだまだ登場の予感があるようなないような……

≫10
まあ、一般的にはそう言う授業がないと学校らしい感じがしませんが、これもまた戦う理由に付け足されます。
何故戦いは必要なのに、それだけじゃなくそう言った授業も必要なのか。と言うところですね。
まず、『〜らしさ』ではなく、『この小説はこういう世界観だから』と言うことを伝えなくては面白みが掛けてしまいます。
もし普通の授業を付け足すにしても、僕のような疑問が生まれないため、色々と考慮して、それらの疑問が生まれないよう推敲に推敲を重ねなくてはなりません。
つまり、描きたい展開だけに目がいけば、どんなに文章力がついていても底の浅い作品になるのですね。
竜野さんは今のところ物語による矛盾はありませんが、そう言った説明をしていなければ、いずれ読者の方に矛盾を感じることが多くなるでしょう。
そう言うことを考えて、遅くても話の展開を上手く器用することで説明は付け加えられます。

それからこれは竜野さんの小説から推測して見つけたアドバイスなのですが、小説のタイトルです。
竜野さんの小説のタイトルには、打ち切りにした初めの小説を除いて、ほぼ全てが英語と言うこと。
英語では駄目! と言うことではありませんが、幾つかのバリエーションを身につける程度でお付き合い下さい。
英語というのはスタイリッシュに、なおかつ洒落た感じに見えますが、伝わりづらいと言うのが欠点です。
例えば打ち切りになったMAGIC MASTERを参考にさせていただきますと、

魔法(魔術)の修士 魔法(魔術)の熟練者

など、まあ僕はネーミングセンスがないので微妙ですが、こんな感じになるのです。
さて、英語と日本語、どちらが伝わりやすいでしょう?
人によるかも知れませんが、日本語の方が日本人はインプットしやすいですよね?
それに『MASTER(マスター)』というのは先程挙げた「熟練者」、「修士」の他にも「親方」、「主」、「喫茶店の主人」など複数の意味を持つので感じ方が読者と作者で別れてしまいます。
そこで矛盾が生まれたりするのですが、逆にそれらを全て曖昧にして、読者の想像に任せるというほとんどプロでしか使わない方法があります。
まあ、これは一意見なので参考までに……

ではではwww

13月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2011/11/23(水) 11:16:50 HOST:s802036.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
こんにちはノ
「竜野さんの新作ktkr!!」とか思いながら読ませて頂きました←

学園+戦闘って、ぐっと来るものがありますよね! 月峰の大好物なのでs((
私も戦闘系を書いてみたいなぁ、とか思ってはいるのですが、なかなか竜野さんのような緊迫感溢れる戦闘描写が書けずに断念しがちですorz

さて、それはさておき、これからどのようなバトルが展開するのか、他にもどのようなキャラが登場するのか、とても楽しみです!
これからも頑張ってくださいノ

14竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/25(金) 18:00:21 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

まあ、登場したりしなかったりです。
それは物語を続けて読んでもらえれば……。

やっぱり、後付けになっても説明は加えた方がいいですよね。
はい。じゃあ、これからなるべく説明を入れるようにします。
にしても、こういう世界観の作品って難しいですね……。

いや、作品のタイトルについては何もいえません。
僕も今回は日本語のタイトルにしようとしたのですが、中々思いつかなくて……。
今更新してる三作品中二つが英語、一つが漢字交じりですしね……。
気をつけようと思います。

月峰 夜凪さん>

コメントありがとうございます^^

僕もそういうの描いてるんですが、どうも学園でのバトルが上手く展開しません((
毎回学校の外でやってるような気がするので……。
いえいえ、月峰さんは恋愛系の描写が上手いじゃないですか!僕にはあんな風に描くのは無理ですし、ストレートに感情を出してる連中ばっかになりますし((

バトルはまあ……毎回同じような感じになっちゃうかもしれませんが、キャラは出来るだけ個性を出していきたいと思います!
はい、お互い頑張りましょう!

15竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/25(金) 18:22:28 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……ふぁー」
 藤村は学校から帰宅後、学園が管理している寮(何故か男女混合)の一部屋に入り、息を吐く。
 いきなり転入生がやってきたり、その転入生が問題起こしたり、助けたはずなのに喧嘩したり、と今日は自分でも色々やったな、と思う一日だった。
 この寮の部屋は二人暮らすのが丁度いいくらいの広さで、少し狭めながらも台所まで用意してある。
 藤村の部屋は壁際にベッドを置き、真ん中にテーブルを置いてある。
 その他に、本棚などがあるが、それ以上はほとんどと言っていいほど何も無い、いかにも殺風景な部屋だ。
 藤村はベッドに鞄を放り投げて、適当にベッドに寝転ぶ。
 それから携帯電話を開き、アドレス帳を開く。藤村が今見ているのは、か行に登録してある人物だ。
 名前は二人しか入っていなかった。
 神山翔一と霧野七瀬だ。
 実は、昼休みの後、教室に戻る途中に霧野から『せっかくだから連絡先交換しようよ!』と言われ、藤村と神山の二人は連絡先を交換していた。
 霧野のメールアドレスは結構適当だ。
 自分の名前の後に、誕生日と思われる数字四桁と、恐らく血液型であろうローマ字一つがあった。
 プロフィール公開してんじゃん、と思う藤村だがそこはあえて気にしないようにする。
 すると、急に携帯電話が着信を知らせる音を鳴らす。
 表示された名前は『神山翔一』だった。
「……もしもし?」
『おーう、もしもし!幽鬼か!?」
 今日一日で疲れた藤村にとってかなり鬱陶しい声だった。
 藤村は軽く息を吐いて、
「……番号間違ってなかったら俺だけど?で、何の用だよ」
 電話越しに神山の不適な笑いが聞こえる。
『実はよー。今から俺が今超ハマってるアニメの『ゴスロリメイド・みーたん』を視聴しようと思ってるんだが、お前も一緒に―――』
「お断る」
 電話から『えぇ!?』という驚愕の声が聞こえる。
 藤村は続けて、
「まさか、そんなモンを視聴させるために電話したのか。お前暇だな」
『んだと!?そんなモンって言葉は聞き捨てならねぇぞ!?今から見る六話は、ファンの間でも幻の回だと言われててだな……』
 神山のマジ熱弁が鬱陶しかったので、携帯電話を耳から遠ざける。
 それでもまだ声が聞こえてくる。止める様子が無いのを見るとこっちが黙って聞いてると思っているようだ。
 藤村は、囁くように携帯電話に口を近づけて呟く。
「お疲れ様でしたー」
 そして、強制的に携帯電話を切る。
 一仕事終わったような顔で息を吐き、携帯電話を枕の横に置く。
「……今日は、早めに休むか」
 藤村はそう思い、さっさと夕飯などを済ませておこうと思い、仕度を始めた。

「……うーん……」
 一方で霧野は悩んでいた。
 学校の同級生と初めて連絡先を交換したので、頑張って電話をかけようとするが、中々踏み出せない。
 しかも、大した用事でもないのにかけたら迷惑がられるだろう、と思っている。
 霧野七瀬のメンタルは、意外と弱いのだ。
「……藤村君と神山君……どっちが暇かな」
 どうせなら、暇で大した用事も無いけど、話し相手になれるくらい暇な相手がいいなー、と思っている。
 ちょっとだけ、失礼な奴だ。
 霧野は溜息をついて、携帯電話を横に置く。
「……ま、いっか。明日学校で話せるんだし……」
 霧野はそう呟いて、ベッドにもぐりこむ。
 どうやら、彼女も今日一日でかなり疲れたようだ。

16竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/25(金) 21:18:23 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 霧野は学校へ向かっていた。
 今日は転入してから二日目。昨日の事はクラスメートにも注目されているだろうが、彼女は気にしない。
 言っているだけなら言わせておけばいいし、からかってくるなら無視すればいい。
 メンタルが弱い霧野七瀬だが、彼女は外からの打たれ強さには自信があった。
(……よーし、昨日は出来なかったけど、今日は二人に声をかけてみよー!)
 霧野は昨日、藤村と神山のどちらにも出来なかった『話しかける』を目標として掲げていた。
 霧野は両手で拳を握り締めながら、小さくガッツポーズをしている。
 やれるやれる、と口の中で何かの呪文のように呟く。
 すると、背後から鉄筋を持った何者かが霧野に襲い掛かる。
 背後に気を配っていなかった霧野は避けるタイミングを失う。
 ゴン!!と鈍い音が、小さく響く。

「幽鬼ィーーー!!」
 藤村は教室に入るなり、泣きそうな顔をした神山に肩を強く掴まれる。
 かなり嫌そうな顔をしている藤村だが、泣きそうで目が霞んでいる神山は気にもしてないだろう。
 朝っぱらから何だ、言わんばかりに重たい溜息を吐いて、藤村は仕方が無いので神山に問いかける。
「……何だよ」
「お前……昨日ホントにくればよかったのに……!」
 どうやら、『ゴスロリメイド・みーたん』の幻の第六話が良かったらしい。
 神山が泣く事はほとんどないのだが、アニメを見ると神山は泣き上戸になってしまう。
「……何でお前来なかったんだよ!」
「昨日は疲れてたんだ。それに、俺が今期で見てるアニメは『鷹の美剣(みつるぎ)』だけだって……」
「やっぱり黒髪美少女か、コノヤロー」
 その言葉に藤村はギクッとする。
 藤村が見ている『鷹の美剣』は、『鷹』と名乗る、黒髪の美少女が突如自分の前から姿を消した師匠を探しながら、強敵と出逢い、心身共に生長して行く。という物語である。噂では、高校生が書いている、というのもあるらしいが。
 藤村も最初は、そういう時代劇的なものに惹かれ見ていたのだが、鷹の純粋な師匠への想いなど色々感情移入してしまい、かなり感動した、ということだ。
 もっとも、藤村は鷹の『黒髪美少女』という設定にも惹かれて見ていたのだが。
「バッ……そんなんじゃねぇよ!お前だって、どうせメイドに惹かれただけだろうが!!」
「ふざけんな!俺はちゃんとあらすじも読んで、原作も買って、声優陣も吟味した上見てるんですぅ!ジャンルが全てじゃないわ!」
「そんなもん俺だって一緒だっつの!」
 朝の教室で、アニメオタク二人の議論が開始される。
 しかし、それを止めたのは携帯電話の着信音だ。
 二人は口を止めて、最初に藤村が口を開く。
「……お前のじゃねぇのか?」
「違う。俺の着信音は『ゴスロリメイド・みーたん』主題歌の『君のハートにろっくおん!』だから―――」
「はい、もしもしー」
 聞けよ!と神山のツッコミが響く。
 携帯電話の着信音は藤村の物で、彼の携帯電話には『霧野七瀬』と表示されていた。
 藤村は、ごく軽い感じで電話に出る。
 しかし、聞こえてくるのは僅かな物音だけで、霧野の声は聞こえてこない。
「……?おい……」
 不審に思った藤村が声をかけた瞬間、霧野のものとは違う声が響く。
『よォ、元気か?少年?』
 それは聞き覚えのある声だ。
 昨日の昼休みに、霧野が蹴り飛ばした……。
「まっちゃん!」
『その名で呼ぶんじゃねぇよ!松田だ!』
 まっちゃんこと松田のツッコミが返って来る。
「何でお前が霧野の携帯を持ってるんだよ」
『あァ?考えりゃわかるだろ?』
「……っ、お前ら霧野に何かしたのか!?」
 松田の笑いが僅かに聞こえる。
『いや。だが、これからするつもりだ。今は動けなくしてるだけだが……そォだな。お前らがこの女の代わりに殴られてくれるってんなら別にいいぜ?』
 理不尽な要求だった。
 だが、藤村と神山の答えは決まっている。
 藤村は顔を合わせずに、答える。
「分かった。何処にいる?」
『駅の裏手にある工事現場だ。十五分以内に来い。三十秒経過するごとに、女の綺麗な顔に傷がつくぜ?』
「十五分!?」
 藤村の顔が強張る。
 駅といえば、学校から走っても二十分はかかる。
 だが、松田は時間を変えようとも延ばそうとも考えない。
『じゃあな』
 一方的に電話が切られる。
 藤村が携帯電話を折りたたみ、ポケットの中に突っ込む。
「……どうする、幽鬼?」
 神山の言葉に、藤村は迷うことなく答える。
「とりあえず行くしかねぇだろ!翔一、俺達は『七瀬チャン親衛隊』じゃねぇのか!」
「……ああ、そうだな」
 藤村と神山は頷き合って、教室を飛び出す。
 途中ですれ違った先生の制止も聞かずに、走る。
 ただ一人の、友達を救うために。

17竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/26(土) 13:13:40 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……」
 霧野はうっすらと目を開ける。
 目に映るのは見覚えの無い工事現場のような場所だ。根拠は周りに置いてある鉄筋などの材料があるからだろう。
 身体を起こそうとする霧野だが、頭に痛みが走り、身体の力が一気に抜けてしまう。
「目ぇ覚めたか?」
 霧野の耳に言葉が飛んでくる。
 聞いたことのある声だ。だが、その声の主を思い出しても良い思い出など思い出せなかった。
 霧野が顔を上げると、そこにいたのは、昨日の昼休みに顔を蹴り飛ばした先輩だ。
「……貴方は……まっちゃん……!」
「テメェもその名で呼ぶんかい!」
 松田の鋭いツッコミが入る。
 霧野は彼の名前を知らないのだから、そう呼ばれても仕方がないのだが。
 すると、霧野は自分の身体に違和感を覚える。
 腕を後ろに回され、手首を拘束されている。手だけではなく、足首も拘束され身動き一つ取れない状態だ。
「……これは……!今から何をする気……!?」
 ひひっ、と松田は気味の悪い笑みを浮かべる。
「なぁに、簡単なことさ。テメェを餌にあの男二人をおびき寄せたのさ。俺にはお前に蹴られた借りがある。その借りを、あの二人がお前をやる代わりに肩代わりしてくれるんだってよ!」
「……、な……!」
 霧野の表情が驚愕に染まる。
 男は周りにいる昨日の二人の他に、四、五人いる方へと足を向けて時計を確認する。
「……リミットは十五分。それが過ぎれば、お前もあの二人も……どうなるか知ったこっちゃねぇ」

 藤村と神山は学校の階段を全速力で下りながら、話をしていた。
「どうするつもりだよ、幽鬼!こっから全力で走っても駅までは十五分以上かかるぞ!」
「それでも行くしかねぇだろ!霧野を見てるわけにはいかねぇんだし」
 二人は校舎を飛び出して、校門へと向かう。
 しかし、そこへ声が飛んでくる。
「オイ、お前ら。もうすぐ授業始まるだろ。何処に行く気だ」
 声は後ろの方からした。
 二人が振り返ると、人相が悪く、肩より少し長めの白髪の男と、耳が隠れる程度の銀髪の少年が立っていた。
 二人は自転車を押して、学校へ来たところのようで、傍らには自転車がある。
「……、あの二人!生徒会の人じゃねぇか!」
「……まさか、ここで見つかるとは……だが、ツイてる!」
 藤村は二人に近づいて、こう言う。
「すいません!今僕の母と、アイツの父が危篤で!すっごい急いでるんですよ!」
「あァ?」
 人相の悪い方が、眉間にシワを寄せ、睨みつけてくる。
「あのなぁ、んなバレバレの嘘が通じると思ってんのか?いいから早く教室に戻って……」
 人相の悪い方が、ふと銀髪の少年を見ると、そっちはそっちで泣きそうな顔になっていた。
 どうやらその場しのぎの藤村の嘘が、通用したらしい。
「危篤!?それは大変だ!えーと……僕と彼の自転車を使うんだ!さあ!」
 銀髪の少年は自分のと、強引に人相の悪い人の自転車を、藤村と神山に与える。
「今日は早く帰って、お母さんとお父さんを大事にするんだよ!」
「「は、はい!!」」
 藤村と神山は与えられた自転車で、駅へと全力でこぐ。
 それを見つめていた人相の悪い方、生徒会書記の那月忠勝(なづき ただかつ)は、同じ生徒会の会計、明智創一(あけち そういち)を睨みつけて、
「オイ、創一。何であの二人を見逃したんだ?嘘だって気付いてないわけじゃねぇよな」
「いいじゃないか。僕らも昔、よく使った手口だろ?」
「ハンッ」
 那月は鼻で息を吐いて、面倒そうに呟く。
「……あの時は、お前は一言も言わなかったろーが」

18竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/26(土) 15:16:53 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 霧野七瀬は誰一人として言葉を発することなに空間で、ただ一人地面に伏していた。
 松田の言葉によれば、『十五分以内に藤村と神山が来なければ、自分を痛めつけるが、二人が間に合えば、自分には手を出さない』というものだ。
 だが、十五分以内というリミットが既に無茶な要求だった。
 学校から駅までは走っても十五分以上はかかる。走るのに自信がある者ならば、十五分以内に着けるかもしれないが、駅からこの工事現場までは三分程度かかる。
 藤村と神山は走るのに自信があるようには見えないし、勿論松田もそう思ってこの場所を用意したのだろう。
「……」
 霧野は何とか隙を見て抜け出そうと、手首や足首を無駄に動かして、拘束しているガムテープの粘着を緩めようとする。
 しかし、運が悪い事に粘着が緩むより早く、リミットがきてしまった。
「十五分……だな。あの二人は間に合わなかったか……」
 松田が指を鳴らしながら、霧野に近づいて行く。
「残念だったな。見捨てられたか」
「……最初から、来るわけがないって……分かってたから」
「あん?」
 松田は首を捻る。
 霧野は続けて、
「……彼らとは、昨日知り合ったばかり……そんな会って一日足らずの私を助けようなんて……思うはずが無い」
 霧野は笑みを零す。
 それから、松田を馬鹿にするように告げる。
「ばーか」
 松田のこめかみに、青筋が浮き出る。
 松田は右の拳を強く握り締め、真上に振り上げる。
「そォかよ。だったら、お前は誰からも助けられなくて、いいんだなァ?」
 松田の拳が霧野の顔にヒットする、直前に、松田の体が真横に大きく動く。
 彼を動かしたのは、彼に襲われ、霧野に助けられた、二年留年し、松田達の言いなりになっていたあの少年だ。
 霧野を襲ったのは彼で、ここへ連れて来たのも彼だ。恐らく松田達の命令だろうが、何故襲った相手が、助けたのだろうか。
「大丈夫ですか!?」
 少年は素早く霧野の足首を拘束しているガムテープを剥がそうとする。
「山口ィィ!!テメェ、どういうつもりだぁ!!」
 呼ばれた少年、山口は霧野を助けようとするために、松田の言葉を聞いていない。
 彼は、霧野を襲った罪悪感から、彼らから霧野を助けようと勇気を振り絞って、反旗を翻したのだ。
 だが、彼一人ではどうにもならない。
 霧野の足首の拘束が解けたところで、山口は松田達によって囲まれてしまう。
「山口君!」
「き、霧野さん……!逃げてください……!急に殴っちゃったりして、ごめんなさい……!僕が引き付けておけば、霧野さんは遠くへ逃げられる……!だから、早く……」
 霧野は両手と両足を地面につけ、殴られ、蹴られる山口を見ていた。
 彼女は歯を食いしばって、その光景を見ていた。
 助けることが出来ない。自分の無力感を責めながら。
「……嫌……。目の前で、誰かがやられているのに……、それを見過ごすなんて嫌!誰か……」
 霧野は、無意識に叫んでいた。
「私はいいから、誰か彼を……助けてあげて!!」

 キキィッ!!とブレーキ音が入り口の方で響く。

 松田達はそっちに視線を向けると、二人の自転車に乗った人物のシルエットが映る。
 二人は自転車から降りて、
「……霧野を襲ったのはお前か……留年生!本来なら一発殴ってやるとこだが……」
「七瀬チャンを助けたってことで、見逃してやるよ。よくやったな!」
 二人は近づいて行く。
 十メートル程霧野達から離れたところで、会話を続ける。
「さーて、大切なお友達の叫びが聞こえたのは……この辺りかな?」
「お前の行動原理は『友達だから』じゃなく、『黒髪美女だから』だろ?」
「ちげーよ、馬鹿」
 現場に急行した、藤村幽鬼と神山翔一が到着した。
 二人は、鋭い目つきで松田達を睨みつけている。

19ライナー:2011/11/26(土) 16:22:30 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

さて、こっからどう逆転劇が始まるか楽しみです!
山口君、君はやれば出来る子だと思っていt((殴
まっちゃんは往生際が悪いですね、ホント目に余りまs((殴

それと、前回のアドバイスは済みませんでした。
別に絶対と言ったわけではないのですが、そう言う伝わり方が多かったようでお詫びいたします。
それと、今までのアドバイスに少し誤りがありました。
擬音表現についてですが、簡易な音(カッ、ストッ、など)は良いようです。と言うか僕のこのアドバイスを鵜呑みにしないでくれて、ありがとうございます(笑)
この事について、僕の小説の先生にこっぴどく叱られました。お前の小説は簡易な擬音が無いから堅い感じがするんだよ!、とこんな感じで^^;

続きも楽しみにしております、ではではwww

20竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/26(土) 17:10:26 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

はい、とうとう二人が到着しましたね。
山口君もやればできるんです!やらないだけd((
まっちゃんは……まあ、特に言う事がないかr((

いえいえ。
こちらも誤った解釈をしてしまったようで……。すみません。
どうしても擬音をつけちゃうんですよ……。
その方が伝わりやすいと思うのですが、文が軽くなっちゃいますしね……。
小説の先生がいるんですか?
それはいいですねー。僕に先生がいたら、どれだけダメ出しをされるだろうか((

はい、頑張らせていただきます。

21竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/26(土) 17:39:17 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤村と神山を目に、霧野も松田達も山口も固まっていた。
 しかし、一番驚いていたのは霧野だ。
 来ないと思っていたのに。それでも来てくれた。
 そう思うと、無意識に涙が目から零れていく。
「……な……何で……何で来たの?」
「……何でって……決まってんだろ」
 藤村は首を軽く鳴らして、松田を睨みつけながら、答える。
 迷いの無い、しっかりとした声で。
「俺達は『七瀬チャン親衛隊』だぜ?助けるに決まってる」
「意外とノリノリじゃねーか」
 藤村の言葉に神山はそう言う。
 霧野は涙を流したまま、俯いて、聞こえるかどうか分からない声で呟く。
「―――ありがとう」
 藤村は笑みを一瞬だけ見せて、松田を睨む。
 彼らに囲まれていた山口も、抜け出して、霧野の側にいる。
 神山は頭の後ろに手を回しながら、軽い調子で藤村に話しかける。
「なあ、幽鬼。相手八人いるけど……任せていい?」
「……別にいいけどよ、お前武器持ってきてねーのかよ」
「仕方ねーだろ。だって重いし、でかいし」
 神山の言葉に藤村は溜息をつく。
 彼の武器を知っている藤村は気持ちは分かるらしいが、助けに行くのが分かってるのに、何故持ってこなかったのだろう、と頭を悩ます。
「だったら、霧野と山口は頼んだぞ」
「おお!任せとけ!」
 神山は霧野と山口のところへ駆け寄る。
 霧野の手首を拘束している、ガムテープを剥がしている。
「……ねぇ、神山君……。相手は八人だよ?……藤村君一人でいいの?」
「ああ、そーだぜ」
 霧野の言葉に神山は軽く答えた。
 その軽さに、霧野と山口は不安を募らせる。
 一方で、松田達八人はたった一人の藤村を睨みつけている。
「……七瀬チャンさ。幽鬼が右手に巻いてる包帯、何なのかって気にならなかった?」
 そう言えば、口には出さなかったが霧野は、藤村の右手の甲を隠すように巻かれている包帯が気になっていた。
 もし怪我などだったら聞かない方がいい、と思い聞くのを躊躇っていたのだ。
 神山は笑みを浮かべながら、言う。
「良かったな。幽鬼のアレは、中々見れるモンじゃねぇぜ」
 藤村は神山達の言葉を聞いていたかのように、タイミングよく、包帯を外しだす。
 彼の右手の甲に妙な物がある。
 赤い模様だ。円の中心に丸が一つ。そして、円と丸を通るようにバツ印が描かれている。
 霧野も、山口も見た事が無い物だ。
 藤村の目つきに鋭さが増し、呟くように彼が囁く。
「……待たせたな、出番だぜ。焔華(えんか)」
『―――ふん、まったくだ。待ちわびたぞ』
 どこからともなく声が聞こえる。
 女性の声だ。事情を知っている神山以外は辺りを見回すが、女性は霧野しか見当たらない。
「そろそろ見えるだろ」
 藤村の周りに炎が渦巻く。
 そして、藤村の横に、炎が集まり、それが人の形を成していく。
 黒い髪に、着物を着ている女性だ。だが、炎で創られたとは思えないほど、目つきは冷たい。
「幽鬼の手にある紋章は降霊紋(こうれいもん)って言ってな。あの女の人は、幽鬼の降霊(こうれい)。聞いたことあるだろ?降霊術って言葉」
 つまり、と神山は一度言葉を区切る。
「幽鬼は炎の降霊使い。降霊術者だ」
 幽鬼は側にいる焔華に促すように言う。
「いくぜ。あそこの八人、ぶっ潰すぞ」
『命令するな。だが、お前は私がおらねば話にならんからな。手伝ってやる』

22竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/26(土) 21:40:40 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……こ……」
「……降霊術……?」
 山口と霧野は藤村の側にいる着物の女性、焔華を見て呟く。
 降霊術ぐらいは二人も聞いたことがある。
 占いの目的のために、亡者の霊を呼び出す魔術の形態のことだ。だが、
「降霊術者の場合は勝手が違うのさ」
 というのが神山の返答だ。
 霧野と山口はまだよく分からないのか、首を傾げたまま神山を見る。
「幽鬼や身体のどこかに降霊紋がある奴の場合は、自身の降霊を呼び出して、身体に憑依させて戦う。それが、降霊紋を持つ者の降霊術だ」
 霧野と山口は改めて藤村と焔華へと視線を向ける。
 二対八。
 数では圧倒的に松田達が勝っているのだが、怯えているのは松田達で、藤村と焔華の二人は物怖じ一つしていない。
『ふん』
 焔華は、怯えている松田達を見て呆れたように息を吐く。
『今の時代の男どもはこんなにも情けないのか。なあ、幽鬼』
「俺に振るんじゃねーよ。つか、さっさとコイツら片付けようぜ」
 命令するなと言っただろう、と焔華は呟き、藤村と身体を重ねる。
 すると、焔華が藤村の中に入って行くように消え、藤村の全身に炎が纏い、目が紅くなり鋭さが増す。
「これが、降霊術での戦い方。『憑霊(ひょうれい)』だ」
 神山がそう告げる。
 松田達は用意には動かない。
 それに対して、藤村も一歩たりとも動こうとしない。それは、単に余裕からか。
 すると、八人の中から一人が藤村に突っ込む。
 藤村の肩目掛けて鉄筋を振り下ろす。
 肩にぶつかるような鈍い音が響く。が、肩に当たった鉄筋はぐにゃあ、と溶け曲がっていく。
「ッ!?」
「今の幽鬼は炎を纏ってんだ。鉄なんか効くわけねーだろ!」
 神山は自信満々に言う。
 だが、今の彼は完全に戦闘の実況となってしまっている。
「こ、これならどうだぁ!?」
 次はスタンガン。
 藤村の腹に当てられ、電流を流す。前に、スタンガンが炎で破壊されてしまう。
「ば、化け物だ!!」
 松田を置いて、残りの七人は背を向けて必死に走り去って行く。
 残された松田も、藤村に完全に勝てないと思っているのか、尻餅をついて、口を開けたまま震えている。
「おい、お前ら!俺だけ……置いて行くんじゃねぇよ!」
 藤村が松田の前に立つ。
「……わ、悪かった……。だから、今回は……」
「―――許してくれ、か?」
 藤村の口が動く。
 藤村幽鬼としての言葉か、焔華としての言葉かは分からない。
「……それは、失敗してしまった時の山口が言ったとしても、お前は見逃したのか?」
「……ッ!」

 幽鬼の拳が松田の頬に叩き込まれる。

 松田はそのまま地面に倒れて、動かなくなった。
 藤村が息を吐くと、焔華が藤村の身体から出て行き、姿を消した。
「やったな、幽鬼!」
「実況なんて得な役に回りやがって……」
 藤村は、完全に傍観者と化していた神山にそう悪態をつく。
 山口は霧野に肩を貸される状態で立っていた。
「……あの……」
「何も言うなよ。今は堅いことはどーでもいいんだ」
 山口の言葉が止まる。
 だが、と藤村は付け加えるように言葉を足す。
「霧野に、後でもっかい謝っとく事。いいな?」
「……はい!」
 山口の顔から、笑みが零れる。
 霧野を救った藤村と神山は、霧野と山口とともに、学校へと戻ることにした。

23竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/27(日) 03:18:32 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

『いやー、ホント今日俺はカッコよかったと思うぜ!』
 藤村は神山と電話をしながら、自分の寮へと入った。
 きちんと自転車は、生徒会の二人に返したし(その後こっぴどく叱られた)、松田達ももう山口や霧野に手を出さないと約束してくれたし。昨日に続き、今日も疲れが溜まったような気がする。
 藤村は、ベッドに腰掛けて神山の話を聞いていた。
『つーか、俺。焔華さんに挨拶したいんだけど……電話変わってくんね?』
「アホか。アイツに携帯電話近づけた瞬間、壊れるっての!大体、挨拶目的で降霊術使わせようとすんな」
 藤村の右手にはいつものように包帯が巻かれている。
 包帯を巻いてる理由は、『常に紋を出しておくと、焔華が勝手に出てきたりするから』らしい。他の術者も隠す者が多いようで、見ただけで降霊術者だ、と分かる者はほとんどいないだろう。
『しかし、カッコよかったぜ、幽鬼!ありゃ七瀬チャンも惚れたんじゃねぇの?』
「それはねーな。それなら、助けに来たお前だって可能性あると思うぞ」
『やっぱり!?だよね、そう思うよな!』
 神山のテンションが一気に上がった。
 言わなければ良かった、と思った頃にはもう遅い。神山のマシンガントークが始まった。
 耳から携帯電話を遠ざけて、騒がしい声がやむまで待とうとしている。
 ぶっちゃけた話、このまま切ってもいいのだが。そうしたらまた後で掛け直してくるに違いない。
 そして、藤村は話題に出た霧野について、何かを思う。
「なあ、翔一。霧野って何処の寮に住んでるんだろーな?」
『あの時の俺はマジで……ん、さーな。女子寮とか行ってそうだな。少なくとも、俺らみたいに男女混合の安い寮には行かないって』
「……だろーな。何かアイツちょっと上品だし」
 同感ー、と間延びした神山の声が聞こえてくる。
 その声は軽い調子ともとれるし、眠そうともとれる。
『あ、充電ヤベェ!んじゃ、また明日な!』
「おう、じゃあな」
 神山が電話を切る。
 藤村は横に携帯電話を置いて、息を吐く。
 すると、目の前の光景に違和感を感じた。
 自分が腰掛けてあるベッドとは別のベッドが、側面が向かい合うように、向こう側の壁にくっついた状態で置かれている。
「……?」
 藤村は眉をひそめる。
 この寮は自分一人で、ルームメイトなどいないはずだ。
 彼の知能をフルで活用させて、ある答えを見出す。
 霧野七瀬が何処に住んでいるのか知らない。彼女は転校して来たばかり。ここは男女混合の寮。
 そう、恐らく今日から彼のルームメイトになるのは……。
 部屋のインターホンが鳴る。
 藤村が恐る恐るドアを開けると、そこに立っていたのは荷物を抱えた霧野だった。
「……お前、まさか……!」
 問いかけようとする藤村の言葉が分かったのか、霧野はコクリと頷く。
「今日から一緒に住まわせてもらう、霧野ですっ!よろしくね、藤村君!」
 彼女はウインクをして、藤村に言う。
 一見可愛らしい仕草だが、今の藤村にとっては『霧野がやって来た』というだけでも、とんでもない災害である。

 ―――こうして、物語は幕を開ける。

24竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/27(日) 13:15:00 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.2「ルームメイト」

 今日は土曜日だ。
 霧野七瀬が転校してから四日経ち、その霧野七瀬と同じ部屋になってから三日経つ。
 藤村幽鬼は、土曜の朝は外を数分ブラつく、という習慣があるため、今は丁度その帰りだ。
 藤村は部屋の鍵を出して、扉の鍵を開ける。
 部屋に入ると、とんでもない物を見てしまった。

 それは、現在パジャマから着替え中の霧野七瀬だ。
 それが分かった理由は、彼女の足元に脱いだパジャマが無造作に置かれてるし、下着姿のまま動作が止まっているからだ。

「……あ」
 藤村は顔を赤くして、そう呟く。
 状況がようやく飲み込めた霧野は耳まで真っ赤に染めて、目に涙を溜めている。
「……えーと……」
 藤村は言い訳の言葉を考えているがそれどころではなかった。
「いやあああああああああ!!」
 甲高い霧野の悲鳴とともに、頬を平手で打つ音が部屋の中に響く。

 藤村と霧野は向かい合ってテーブルを囲んでいる。
 しかし、部屋の空気はただならぬもので、霧野はぷいっと藤村と目を合わせないようにしているし、藤村は頬に平手打ちされた跡の手形を残しながら、眉を下げ、霧野を見ている。
 部屋の中は静寂が包んでいた。
「……あのなぁ、確かに俺も悪かったが、お前も悪いだろ」
 藤村はそう言う。
 霧野はまた、僅かに涙を溜めながらキッと藤村を睨むと、
「女の子の裸を見といて!何で私が悪いの?」
「何の為にお互いのベッドにカーテンを取り付けたんだよ!」
 藤村は軽く机を叩いて、そう言う。
 二人のベッドの側面にはカーテンが取り付けてある。
 これは霧野が『同じ部屋だけど、寝顔を見られるのは抵抗がある』と言うので、付けてもらったものだ。藤村は着替えもカーテンを閉めて、中で済ませると霧野と約束していた。
 まさかこんなに早く破綻するとは。
「……う……」
 霧野は自分が無理言って付けてもらった手前、言い返せなくなる。
「俺がいなくても、中で済ませろ。こういうことだってあるんだから」
「……ごめん」
 霧野は小さく頭を下げて謝る。
 藤村も、こっちも悪かった、と言って謝り、とりあえず二人は和解する。
 すると、藤村は霧野のベッドに何かあるのを見る。
「霧野。そのベッドに置いてあるの何だ?」
 霧野は自分のベッドに視線を移す。
「ああ、これ?さっきやっと届いたの!」
 霧野はベッドから、それを取り出す。
 それは日本刀だった。
 黒い鞘に納まった、日本刀。柄の先には二本の紐のような物が垂れている。
「……お前の武器って刀だったのか」
「うん。そーだ、さっき刀と一緒にこれが届いてたよ」
 霧野はそう言うと、脱いだパジャマのポケットから二つの封筒を取り出し、その一つを藤村に渡す。
 藤村は不審に思いながらも、封筒を開けて、中身を取り出す。
 中に入っていたのは、手紙と一枚の紙切れだ。
 手紙の内容は『これと一緒に封入されている紙は月曜日の中間試験にて使用します。絶対無くさないように』とあった。
 紙切れは番号が振ってあるだけの、特に変わったところは無い物だ。
「……九番?席の番号か……?」
「え?私も九番だけど……?」
 霧野が自分の紙を見ながら言った。
 席の番号なら同じ番号はありえないだろうし、封筒が二つ来ているという事は藤村用と霧野用がちゃんとあると言うことだ。
「今は分かんねぇけど、月曜日になれば分かるだろ」
 藤村は手紙と紙切れを封筒に戻し、仰向けに寝転がる。
 土曜日は特に何もすることがなく、普段はテレビを見るか、ゴロゴロするかだが、部屋に誰かといると何だか変な感じだ。
 それも女子とだというのだから、妙に緊張してしまう。
「あ、ねぇねぇ藤村君!」
 霧野が藤村の顔を覗きこむように話しかける。
「……?何だよ」
「私、こっちに来てまだ間もないし、街を案内してよ」
 藤村は溜息をついて身体を起こす。
 特に何をするわけでもないからか、藤村は霧野を街に連れて行くことにした。

25竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/27(日) 19:02:01 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 二人は制服に着替え、街に出た。
 休日なのに制服、というのには理由があった。
 戦場原学園は外出時には、休日であっても制服という校則がある。室内にいれば私服だろうが、何でもいいのだが。
 しかも、外出時は極力武器の持ち出しも禁じられている。
 霧野は手をかざして、辺りを見回すと、声を上げた。
「へー。街は意外と普通なんだね。武器がほとんど無いってのも、学校とは違うし」
「……街中も武器があったら世紀末だっつの……」
 藤村は霧野の言葉に溜息をつきながらそう呟く。
 こっちの事情を知らない、ということは霧野は東京の外部からやって来た、ということになるのだろうか。
 霧野は藤村の方を向いて、問いかける。
「ねぇねぇ、何で東京は戦闘に関する教育施設が増えたの?」
「さーな」
 藤村はそう返す。
 そう返された霧野はきょとんとした表情になって、
「……藤村君は知らないの?」
「……俺だけじゃなく、誰に聞いても曖昧な答えが返ってくるだろうよ」
 藤村は退屈そうに説明を始める。
「説は二つ。いつ来るか分からない戦争などの時のための対策。もう一つは、始めは護身用の訓練施設だったのがどんどん進んで戦う事を基にした施設になった。それを学校にも組み込み始めて、今に至る。どっちも嘘くせーけどな」
 藤村は息を吐く。
 戦闘を目的とした施設が無ければ、自分も降霊術などを使わなくていいのだろうか。そう考えると、複雑な気持ちだ。
「藤村君はどっちであってほしいの?前者か後者か」
「どっちでもいいよ。嘘くせーけど、どっちも現実味はあるし」
 霧野は、ふーんと適当に返事を返す。
「お前は何でこんなトコに来たわけ?」
 藤村の質問に、霧野がへ?と反応する。
 霧野は僅かに言い淀み、
「……、親から『行って来い』って無理矢理……ってとこかな?」
 霧野は苦笑いを浮かべながらそう答える。
 それは、ここに来たのが嬉しい笑みではない。
 憐れみや、嘲り。そう言った自分を笑うような感情が含まれていた。
「……そうか。何か、悪いな……」
「いや、いいよ!気にしないで!」
 急に気を遣われ、霧野は慌てる。
「そうだ!そろそろお昼だし、何処かで食べない?」
 霧野は藤村に、そう促す。
 二人が歩き出したとき、角から飛び出た人影に藤村はぶつかり、尻餅をついてしまう。
 ぶつかった相手も、同じように尻餅をついてしまっていた。
「わわ、藤村君大丈夫?そっちの人も大丈夫ですか?」
 霧野は藤村とぶつかった人にそう問いかける。
 ぶつかった人は、小柄で肩くらいまでの金髪の少女だ。見れば藤村達と同じ制服を着ている。
「……悪い、大丈夫か?怪我とか……」
 藤村は立ち上がって、尻餅をついてしまっている少女に手を差し伸べる。
 少女は顔を上げる。
「……ぁ……、」
 少女は僅かに呟くと、いそいそと立ち上がって、お尻の辺りを手ではたく。
「……だ、大丈夫です……。怪我とかないから……すいませんでした……」
 少女は小さくお辞儀をして、その場から去って行く。
 藤村は少女の背中を目で追いながら呟く。
「……何か変な奴だな」
「山口君の女バージョンみたい」
 藤村と霧野は少女から視線を外し、空腹を満たすため、喫茶店に入って行く。

26ライナー:2011/11/28(月) 17:24:03 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

おっと? ぶつかった少女、何だか怪しいですね。
にしても降霊術、マジ神だ……!!

ふむ、しっかりと戦闘理由を書いていますね。まあ良いと思います。
個人的には、と言うか一般の小説から推測して言わせて貰いますと、あまり設定は曖昧なものにするべきではないと思います。
それに、設定でも微妙な矛盾が起こってきたりします。
1つは、いつあるか分からない戦争のため。これの矛盾ですが、国の防衛として自衛隊が使われているのはご存じですよね?
その自衛隊と同じ訓練のようなものをするのは何故か、と言うところでしょうか。
2つ目は、護身用の訓練施設が発展して。これは何故護身か必要となったのか、ここがポイントです。ちゃんとした理由がなければ戦闘理由とは繋がりません。
そして、何故学校に組み込んだのか、ここもしっかりと伝えなくてはなりません。
噂にだけ流れている状態なら、国民はハッキリとした理由が欲しくて、反乱などを起こすでしょう。そう言うこともふまえて、曖昧な設定造りは止めましょうね。

ではではwww

27ライナー:2011/12/03(土) 10:48:30 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
すみません、コメント失礼します、ライナーです。

えーと、熱くなりすぎて少し口が悪くなってしまいました事をお詫び申し上げます。
とりあえず、理由は書けているので良いと思います。
これからはホント気を付けたいと思います。もうちょっと小説に関して冷静になれればいいのですが、時間が無く、謝罪も遅れてしまいました。
ではでは、ライナーでした。

28竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/03(土) 13:22:31 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

はい、実は(?)怪しいんです。
しかも結構変な子でして……。
まあ後から出てきますが、降霊術者は幽鬼だけではないんですよね……。
近いうちに二人目出ると思います((

いえいえ、指摘してもらってるので少々キツイ方が……。
いや、こちらこそ至らぬ点があり、アドバイス感謝しております。
それでは、次も頑張りますね^^

29竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/03(土) 13:55:17 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 とりあえず、昼ごはんを食べ終わった藤村と霧野は店を出る。
 これから特にしたいこともない二人だ。
 顔を見合わせて、帰ることにすると、
「あーーーっ!?」
 と後ろから聞き覚えのある声が叫びを上げる。
 藤村と霧野がそちらへ視線を向けると、自分達を見てショックを受けている神山翔一の姿があった。
 何やってんだアイツ、と呆れ顔になっている藤村に、神山はずかずかと近づいていてくる。
「何でお前七瀬チャンと二人きりになってんだよ!」
 いきなりこれか。
 相手が涙目になって必死に問いかけてくるところを見ると、適当に誤魔化しても面倒なので正直に答える。
「何でって……案内だよ。霧野はこっちに来たばっかだし」
「じゃあ何で俺を誘わないんだよ!」
「二人で案内すると右往左往して霧野が疲れるだろうが」
 神山の言葉が、藤村の意見に詰まる。
 確かに二人で案内すると、案内する側の意見が一致しない場合あっちこっちに行って案内されている側は疲れるだろう。
 そのため、藤村もあえて神山を誘わず一人で案内していたのだ。
「それでも納得いかん!二人でなんて!」
「仕方ねーだろ」
「うん。神山君より藤村君のほうが頼みやすかったし。部屋同じだから」
 霧野の言葉に神山と藤村が固まる。
 神山は口を開けて固まり、藤村は何で言っちゃうかな的な顔でいる。霧野は二人の反応にきょとんとしている。
 そしてやがて、何かに気付いたように、
「……何か、いけないこと言っちゃった……?」
「遅ぇよ!!」
 藤村は叫ぶ。
 神山は藤村の胸倉を掴んで、もう既に軽く泣いている。
「何でお前七瀬チャンと同じ部屋なの!?つー事はあれか!二人は今同じ屋根の下で寝てるのか!」
「紛らわしい言い方すんじゃぇねよ!そうだけども!」
 藤村は神山の手を振り解く。
 神山はその場で膝から崩れ落ち、泣き出している。
 馬鹿らしくなった藤村は溜息をついて、頭に手を当てる。
「……もう帰ろうぜ、霧野」
「……ちょっと、待て……」
 神山がゆっくりと立ち上がって、涙を拭う。
 どうやら、神山は本気で泣いていたようだ。
 神山は二人の方を向いて、
「封筒、届いてるだろ?中にあった番号……二人は何番だ?」
 神山の口調が真剣なものになる。
 二人もそれに気付き、顔を見合わせて答える。
「二人とも九番だ。お前は?」
「……十三。待て、試験の時の席番号かと思ったけど……同じ番号って事は違うのか?」
 顎に手を添え、神山を呟く。
「番号の事は俺らも何か分かってねぇ。ただ、同じ番号が二つもあるって事は……」
 ハッと、神山はあることに気付く。
 まさか、と前置きをして言葉を放った。
「二人とも同じ席に座っていちゃいちゃしながら……」
「よし、霧野。帰ろうぜ」
「うん」
 神山の言葉に藤村と霧野はすたすたと帰って行く。
 置いていかれた神山は『待って!冗談だって!』などと言うが、二人は聞いていない。
 まあ当日まで一週間もないし、当日に分かればいいか、と藤村は考えている。

 今日は土曜日。試験まで、あと二日である。

30竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/03(土) 17:38:28 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「ふあーっ!」
 部屋に戻るなり、霧野はすぐに自分のベッドへと飛び込む。
 彼女の声は長い道のりを超えて、ようやく我が家に帰って来た。言うなれば修学旅行から帰って来た、みたいな感じの声だ。
 疲れているような声を出した霧野に、藤村は僅かに心配そうな顔をした。
「悪いな、疲れたか?」
 その言葉に霧野は反応して、ぶんぶんと首を横に振る。
「ううん、私が言ったんだもん。むしろ、一緒に来てくれてありがとって感じだよ!」
 霧野はニッコリとした笑顔を藤村に向ける。
 その笑顔が可愛かったのか、藤村は僅かに頬を染めて、顔を背ける。背後に霧野は顔を背けた藤村に、首を傾げている。
 藤村が顔を逸らした視線の先には、封筒があった。
 中間試験に関わる、謎の番号が書かれた紙切れが入っている封筒だ。
 藤村は封筒を手に取り、中にある紙切れの番号をもう一度確認した。
「……九番、か。さっぱり意味が分かんねぇな」
 振り返ると霧野も同じように自分の封筒の中の紙切れを取り出していた。
「うん。同じ部屋だからって思ったけど……神山君のルームメイトは違う番号だって言ってたもんね」
「……考えても仕方ねーか」
 藤村は紙切れを封筒の中にしまい、溜息をつく。
 藤村達にとっては、次の中間試験が高校生初めての試験である。実技試験……つまり、少なくとも戦う事は明らかだ。
 包帯を巻いている右手に藤村は視線を落とす。
(……実技、か。俺の今の実力が、どこまでいけるかだな……)
 そう思って、藤村は右の拳を強く握り締める。

 戦場原学園、生徒会室。
 ここには、特例や許可がない限り、生徒会の役員以外は入れない。中は普通の教室より狭めで、長机が四角形をかたどるように配置され、椅子が五席用意されている。
 扉を開けると、奥の壁に窓が設置してあるが、今はその窓は見えない。
 何故なら、窓の前に一人の人物が立っているからだ。
 茶色の髪をツンツンにさせた、左腕に腕章をつけた身長が高めの少年だ。
 扉を開けたのは、その少年と同じく腕章をつけている黒髪の女子だ。
「……そろそろ下校時刻よ、いつまでそこにいる気なの?」
「……ああ、いたんだ。ごめん、気付かなかったよ」
 少年は振り返るとかなりの美青年だ。彼がつけている腕章には、『生徒会会長』と書かれている。
 生徒会会長。
 この学園で、その言葉がどれほどの意味を持つのか。
 戦場原学園の生徒会会長と、副会長は人格を問わずに決まるのだ。
 自分より弱い奴の言う事を聞かない、と言う生徒が出ないために、会長は学園で一位の生徒、副会長は二位の生徒務めるのだ。
 どちらも三年生に限定されてしまうのだが。
 少年がつけている腕章が『会長』。扉を開けた少女がつけている腕章は『副会長』。
 つまり、今生徒会室にいる二人が、学園のツートップだ。
 生徒会長、工藤政宗(くどう まさむね)と副会長、真田紫(さなだ ゆかり)。
「で、政宗君。一人で残って何やってたの?」
「ん、考え事さ」
 考え事?と真田は首を傾げる。
 工藤は軽く頷いて、笑みを浮かべたまま答える。
「もうすぐ一年の試験だろ?今回は、期待できる生徒はいるのかなー?」
 真田は呆れたように息を吐く。
「……昨年度の会長がやったような事、やる気じゃないでしょうね」
「さあ、どうかな」

31竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/03(土) 22:57:45 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.3「中間試験」

『第一学年の生徒は、九時までに戦場原学園敷地内の森林園の入り口に来てください。繰り返します―――』
 朝の放送で、藤村と霧野は目が覚めた。
 結局、日曜日にも紙切れの番号の謎が解けず、月曜日になった。
 二人はカーテンを閉めたまま、着替えを始める。
 着替えている間は、何故か二人とも無言だ。寝起きで頭が回らないのか、話す事がないのか、静寂が部屋を包んでいた。
 着替え終わると、霧野は刀と封筒を、藤村は封筒だけを持って、森林園の入り口へと向かう。
「……結局分からなかったね、この番号が何なのか」
「ああ。でも今日分かるんだし、いいじゃねぇか」
 二人はそんな会話を交わしながら歩き、入り口へと到着する。
 そこには第一学年の生徒である約二百四十人が集まっていた。
 パッと見でクラスまでは分からないが、一人でいる者はほとんどおらず、最小でも二人組みのグループが出来ている。
「あ、二人とも。おはよう」
 藤村と霧野に声をかけたのは山口だった。
 彼も藤村達他の生徒と同じように封筒を持っている。ただ武器らしき物が見当たらないのが、すごく不安だ。
「なあ、どんな試験やるんだ?お前の番号は?」
「試験内容までは分からないよ……。ちなみに、僕は五十一番」
 藤村の質問に山口は答える。
 山口も違うのか、と藤村は鼻で息を軽く吐いた。
 神山から藤村と霧野の番号を聞いていたらしく、山口は二人の番号を言い当てた。
「やっぱり気になるね。同じ番号の人って何人いるのかな?」
 霧野が辺りを見回す。
 だが、紙切れを持ってうろついている人は見当たらず、結局見つけるのを断念した。
 すると、入り口の方から、
『やあやあ一年生諸君!待たせたねー!』
 というマイクで話している女性の声が聞こえた。
 入り口の前に立っているのは蝶の髪飾りをしている女性の教師だ。
 肩より少し伸ばした金髪に、スタイルの良い身体。男子生徒からはかなり人気の高い先生だ。
「藤村君、あの人は?」
「ああ。青奈千蝶(あおな ちちょう)先生。大学卒業してからすぐにこの学校に来た天才だってよ。大学もずっと首席だったらしいし「」
 ふーん、と霧野は返事を返す。
 前の青奈はマイクを持ったまま、話を続ける。
『さてさて!今日ルーキー達に挑んでもらう試験内容は、戦場原学園の敷地にあるこちらの森林園!この中のどこかにある水晶玉を持って帰ってきて欲しいの』
 戦場原学園森林園。
 東京の三分の一を占める戦場原学園の敷地内にある、敷地の十五分の一を占める森林。特に有名な草木はないが、よく試験会場に使われる場所だ。
『しかも、コレは個人戦ではありませーん。事前に皆に配った封筒の中にある番号が書いてある紙切れ。皆もう一度チェックしてー!』
 言われたとおりに生徒は一斉に封筒の中にしまっていた紙切れを取り出し、己の番号を確認する。
 藤村達三人も、番号を確認しあう。
『確認した?見間違いない?実はネ、自分と同じ番号を持ってる人って自分以外に二人いるのよ』
 青奈の言葉に真剣さがこもる。
 彼女はマイク越しでも分かるくらい、声のトーンを落ち着かせる。
『今から同じ番号の人同士、三人一組のチームを作ってください。この試験はチームで水晶玉を持って帰ってきてもらいまーす』
 同じ番号の理由が今分かった。
 これは同じチームの証。
 つまり、藤村と霧野とあと誰か一人が、チームを組み、この試験を受けることになるのだ。

32竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/04(日) 10:15:28 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……三人一組……?」
 そう呟き、藤村と霧野は辺りを見回す。
 山口も、自分のチームを探すために藤村達と別れる。
「……こんな中からもう一人を見つけろって言うのかよ……」
 現在、ここにいる人数は約二百四十人。
 その中から同じ番号を持った一人を探すなど、出来るのか?しかも周りもチームの人を探すために騒いでいるため、大声を出して聞こえるのか分からない。
 それを分かっていながらも、藤村は大きな声で呼びかける。
「おーい!九番のヤツいないかー!」
 しかし、間近である霧野にもあまり聞こえないくらい周りは騒がしかった。
「……まだ一人でいる人に聞いて回った方が早いかも」
「そうだな。面倒だけどそうするか」
「……あの」
 藤村と霧野の耳に、女子のか細い声が届く。
 二人が振り返ると、両腰に刀を一本ずつ挿している少女が声をかけている。
「……私、九番です……」
「あれ、お前……」
 その少女は、土曜日街に出た際に、藤村とぶつかった小柄な金髪の少女だった。
 同じ制服だったため、同じ学校の生徒だとは分かっていたが、同じ学年だとは思わなかった。
「……え、あ……あの時の……」
 相手の後ろから声をかけたため、少女も振り返られて初めて、ぶつかってしまった相手だと気付いた。
「……まあいいや。それより、九番だって言ったよな?」
「あ、はい……」
 少女は同学年にも関わらず、常に敬語で話してくる。
 初対面だから緊張しているのか、ぶつかったことがあって申し訳なく思っているのか、理由は分からない。初対面で、という理由なら珍しくないが、霧野は始めからタメ口だった。
 少女は封筒から紙切れを取り出して、藤村に見せる。
「じゃあ、お前が俺らと同じチームだな。藤村幽鬼だ、宜しくな」
 藤村は右手を差し出し、握手を認める。
 少女は僅かに躊躇いながらも、手を出す。もしかしたら右手の包帯が相手を躊躇わせたのかもしれない。
「……篠崎唯(しのざき ゆい)、です……」
 少女は藤村の右手に自分の右手を合わせ、握手を交わす。
 そして、藤村と同じように、霧野も手を差し伸べた。
「霧野七瀬。宜しくね、篠崎さん」
「……あ、はい……」
 霧野には特に包帯などないが、篠崎はここでも躊躇い、握手を交わす。
 しかし、霧野にはただ躊躇ったようには見えなかった。
(……藤村君の時より躊躇った時間が長かったような……。もしかして、あの子……)
『さあさあ、皆チームは出来たカナ!?』
 入り口前の青奈先生が再びマイクで呼び掛ける。
『んじゃ、全員気を引き締めろー!もちろん、相手のチームから水晶を奪うのもアリだから!制限時間は三時間!よーい、スタートォ!!』
 青奈の言葉で森林園の入り口が開かれる。
 遂に、中間試験が始まった。

33竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/09(金) 23:45:27 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤村、霧野、篠崎の三人、九番チームは森林園の中を歩いていた。
 周りに広がる景色は自然な葉や草の緑と、木の幹の茶色のみ。目印になりそうな物は無く、迷ったら大変だ。
 そんな森林の中を、藤村達は進んでいく。
「つっても、水晶玉を持って帰って来いって言われても……どんなモンかね?」
 藤村が何気なくそう呟く。
 それを聞いた霧野と篠崎は、うーんと小さく唸って、
「……やっぱり球体なんだよ。ヒントが『水晶玉』だけなら、見たらすぐ分かるんじゃないの?」
「……私もそうだと思います。しかも、こう緑と茶色ばかりなら、水晶玉も案外楽に見つかるかもしれませんし……」
 霧野の言葉に、篠崎が遠慮気味に賛同する。
 しかし、水晶玉という物自体が分かっても、大きさも問題になる。
 小さすぎると草などに隠れて見えないだろうし、大きすぎると敵チームに襲われたときに一気に不利になってしまう。
「何処にあるんだ?木の上とか、草の陰とかか?」
 執拗にきょろきょろしながら藤村は足を進める。
 霧野と篠崎も同じように、球形の物を見つけようと辺りを見回す。
「……見当たらねぇ」
 一向に見つかる気がしない物に、藤村は嫌気が差したのか悪態をつく。
 その様子に霧野は困ったように息を吐いて、
「仕方ないよ。そう簡単にクリアしたら試験にならないし」
 篠崎はどうすればいいのか分からず、口を小さく動かしていた。
 すると、霧野の足が唐突に何かに引っかかる。
「!」
 転びはしなかったものの、少しよろめいてしまう。
 霧野が視線を落とすと、あからさまに罠とでも言っているように、ぴんと張られた糸があった。
「……」
 霧野の表情が固まる。
 あれ。自分まずいことをしちゃったんじゃ?という彼女の予想は的中した。
 急に、ズドン!!という何かが落ちる鈍い音が響き、僅かに地面が揺れる。
 それから藤村達の目の前に現れたのは巨大な岩だ。俗に言う落石というやつだろう。
「どわああああああっ!?」
 藤村は思わず声を上げてしまい、逃げることもせず、霧野と篠崎を押し倒すような形で、横合いに逃げ、押し潰されるところを何とか免れた。
「……はー、ちくしょう!先生達もこんな悪質な罠仕掛けやがって!」
「……どうやら、敵チームの動向だけじゃなく、罠にも注意したほうがいいね」
 すると、藤村は肩を掴んだままの篠崎に声をかける。
「だ、大丈夫か?篠崎」
 篠崎は声をかけられると、肩に手を置かれてるのに気づいたのか僅かに頬を赤くして、振り払うように、藤村から距離を取った。
 それから、俯いたまま『大丈夫です』と返す。
 藤村は、小さな声で霧野に訊く。
(……俺、何か嫌われるようなことした……?)
(……さぁ?)
 もちろん、篠崎に悪気は無いだろうが、藤村は僅かに心にダメージを負ったようだ。
 しかし、霧野は霧野で別のことを考えていた。
(……今の挙動……。ここにきて確信がついた……。この子……)
「さぁー!いくぞいくぞ!みんな、罠には気をつけろよ!」
 藤村が無理矢理にに元気を出して先導する。
 その光景を見ながら、霧野と篠崎もついていく。
 篠崎は、霧野の顔をじっと見て、やがてこんな質問を繰り出した。
「……あの、藤村君っていつもあんな感じなんですか……?」
 質問された霧野は目を点にして、考え出す。
 それから、ちょっと間を空けて彼女は答えを出す。
「大体いつもあんな感じ。たまーに化けるけど」
「……化ける?」
 言葉の意味が分からず、篠崎は首を傾げ、きょとんとしている。
 分かりやすく言おうと、霧野は再び頭を悩ませ、答えを出す。
「……かっこいい、と思う時もあるけど……。まあ、今の藤村君を見ればそう思う人はほとんどいないだろうけど」
「そうなんですか……って、あれ?」
 返事を返した篠崎が唐突に声を上げ、その場に立ち止まってしまった。
 篠崎の方を見たまま、霧野も足を止める。
「……どうしたの?」
 霧野の質問に、篠崎は前を指差して、僅かに声を震わせて言った。
「……藤村君が……いない……」
 霧野が振り返ると、今まで前で張り切っていたはずの藤村幽鬼が確かに見当たらない。
 辺りを見回すもそれらしい人影は無く、葉や草の緑と、木の幹の茶色しか目に入ってこない状態だ。
 目印になりそうな植物はないし、大声を出しても届くか分からない広大な場所。
 
 霧野と篠崎を、一気に不安が包み込む。

34ライナー:2011/12/10(土) 12:24:26 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼いたします、ライナーです^^

いきなし藤村大変なことになってますね。不安だw
罠もはっちゃけていて面白いですね。

ええと、アドバイスの方ですが、言われた通り少しキツめでやらせていただきます。
やはり出てきます「擬音」ですね。
極力少なくしているのように見えますが、使いどころが悪いと意味がありません。
特に使われていた「ズドン!!」ですが、これはタブーです。このズドンをしっかり比喩を使って表さなければ、試験のシリアスさなどの特徴が薄れてしまいます。
さらに「!」のマークを使うのも、またタブーです。
竜野さんもある程度分かっているようですが、擬音には「!」を付けては薄っぺらい表現になってしまいます。
さらに厳しいことを言えば、擬音はほぼコメディーに使われる手法です。これでは、この描写がギャグファンタジーになりかねません。
個人的には、そう言った表現を控え、もっと比喩表現を学んだほうが良いと思います。まあ、自分も未熟なのですが……
まず擬音になれるには、意識して表現する事を挑戦してみましょう。それと、まずは擬音を繰り返し言葉の方で慣れておくと良いでしょう(ヒラヒラ、カチカチなど)

それと文章の言い回しですが、俗に言う落石。こんな意味の分がありましたよね?
これの意味をご存じでしょうか。 俗に言わなくてもほぼ落石ですよ?
俗に言う〜 といったものの使い方は、しっかり条件があります。
少し言い表しづらいのですが、自分の中、あるいは表面上こういった言葉が使われるが、俗に言う……という感じです。
例を挙げてみますと……

僕はとても勉強が好きだ。ゲーム何かより勉強が好きなだけで、遊んでいる感覚なのだが、それは俗に言う真面目なヤツらしい。

と、こんな感じです。
少し分かりやすくしたために、文としての崩れがありますが、意味が分かって貰えたでしょうか。
大まかに言うと、自分ではこう思っているが、一般的にはこういう事だ、って感じです。

ではではwww

35竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/10(土) 22:57:28 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「藤村くーん!」
 森林園に霧野七瀬の言葉が響く。
 彼女は口元に両手をかざし、大声で見失った仲間の名前を呼びかけていた。
 しかし、今大声を出すのはかなり危険だ。
 何故なら、大声を出せば自分の位置を教えているようなもので、自殺行為に近かった。
 他のチームに見つかっても『水晶は持ってません』と言えば、見逃してくれるかも分からない。
「……完全にはぐれた。大丈夫だとは思うけど……」
「……携帯電話で連絡とか取れませんか?霧野さんなら連絡先を知ってるでしょう?」
 その手があった、と霧野はスカートのポケットから携帯電話を取り出す。
 画面を開くと、液晶の画面は真っ暗だ。
 首を傾げて、電源を入れ直す霧野。起動した、と思ったら画面にある言葉が映し出された。

『充電してください』

(……充電切れとる……!)
 霧野は携帯電話の画面を眺めながら、寂しそうに佇んでいた。
 その様子に眉を下げて、どうすればいいのか分からない篠崎。
 今にも泣き出しそうなオーラと雰囲気を放ち、霧野はポケットの中へ携帯電話をしまった。
「……詰みました」
「……いえ、その……すいません」
 携帯電話で連絡を取ろうと提案した篠崎は、泣き出しそうな霧野を見て謝ってしまった。
 そんな絶望中の霧野の耳に、僅かに草が動く音が届く。
(伏せて!)
 霧野は自分より背が低い篠崎の頭を上から押さえつけるようにしながら、しゃがみ込む。篠崎も急な力を頭上から加えられ、自然にしゃがみ込む形になってしまう。
 二人は息を殺して、周りの音を聞いている。
「……くそっ!さっきこっちの方で声がしたのに……もうちょい奥か?」
「みたいだな。行こうぜ!」
 それは同じ試験を受けているチームの声だ。
 転入してきたばかりの霧野には誰か分からないし、篠崎も声だけで判断するのは難しいだろう。
 とりあえず、声からして二人の知り合いではないらしい。
 彼らが去っていく音がし、聞こえなくなると同時に、篠崎の頭に手を置いたまま、霧野が口を開く。
「……やっぱり気づかれた。でも、こっちの気配に気づいてくれなかったのは良かった」
「……」
 篠崎は頭の手を避けるように身体を逸らす。
 霧野はそんな篠崎の行動に訝しげな表情を浮かべ、僅かに目つきを鋭くする。
「……篠崎さん?」
「あ、いえ……なんでもないです!急ぎましょう……」
 立ち上がって、動くことを促す篠崎の腕を、霧野は掴み、
「待って」
 と一言告げる。
 篠崎は僅かに困ったような表情をして、振り払うように掴まれた腕を脱出させると、立ち止まる。
「……何ですか」
「……藤村君がいないから訊くけど……思えば最初から不自然だった」
 篠崎の問いかけに霧野は答えになっていないような答えを出す。
 だが、それはまだ続きがある。
「藤村君と私が求めた握手への躊躇い……。藤村君があなたに触れた時の挙動……。そして、」
 霧野は確信を突くような口調で告げる。
「さっきも、私があなたの頭に手を載せていた時の振り払うような動き―――、篠崎さん。間違っていたらごめんなさい。だから、単刀直入に訊かせてもらう」
 霧野は真っ直ぐに篠崎を見つめて、こう訊ねた。

「―――あなた、男だよね?」

 霧野が篠崎にそう訊ねる。
 篠崎は、霧野の言葉に僅かに躊躇いを見せた。そして、
 小さく、頷いた。

36竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/10(土) 23:05:00 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます。

藤村君はなんだかんだでかわいそうな子です。
その分、ある意味おいしいキャラでもありますが((

擬音のことは言うことがありません。
確かに少なくするように頑張っているのですが、やはり出しちゃうんですよね……。
僕の読んでいる小説では結構『ゴォ!!』や『ズバン!!』などが出てくるのですが。これも悪い表現なのでしょうか?
その小説、というかラノベなんですが、影響を受けて若干書き方を真似てるのですが……。

ああ、使い方間違ってしましたか。
僕も意味が曖昧なものは、調べてから使用した方がいいですね……。
これからなるべく気をつけたいと思います。

37ライナー:2011/12/11(日) 11:56:38 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント補足しておきます、ライナーです^^

えーと、擬音についてですが、竜野さんが挙げた例もタブーに入ります。
まずラノベだけを参考にするところが間違っていますね。
ちゃんとした小説も読まなければ、偏った書き方になってしまいます。
言うなれば、食生活に例えられるでしょう。色々な栄養を追ってこその食事ですから、小説もそれは同じで、ラノベや小説、それに時には漫画も(アイディア面で)役に立つときがあるでしょう。
それらをしっかりバランス良く読んで行かないと、それは単調なムードしか描けない。つまり食生活に直すと、肉ばっか食べ過ぎて調子が悪くなるのと同じです。

音関係に関しては、ラノベはほぼ役に立たないと考えても、可笑しくはないんですね。ですから、普通の小説で使われる比喩などを使った方が、より深みが出ます。
ちなみに、あれから僕もそれなりに調べてみたのですが、プロはあくまでプロだから擬音を使っていると言う意見が多数あることを確かめました。
やはり、プロだからこそというのがあるんですね。
もう1つ言うと、擬音はシリアス&バトルシーンでは素買わないことをお薦めします。使うと即雰囲気が崩れますので。
使うのであるならば、日常模写、コメディーなどの方があっていると思います。
それと、これも様々な方の意見から推測させていただいたのですが、擬音は繰り返し言葉(≫34のヒラヒラなど)なら問題ないという方が多数でした。
この事から、本を読むと言うだけの情報を取り入れるより、いろんな方々の意見を聞くことも大事だと思います。

ではではwww

38竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/16(金) 21:55:07 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.4「篠崎唯」

「だー、ちくしょう。どうすりゃいいんだよ」
 一方で、一人で森林園に迷った藤村は呟きながら歩いていた。
 自分ひとりで振り返らずに進んでいたわけで、迷うのも無理ないか、と思ったりもするのだが、真っ直ぐにしか進んでいないのではぐれるのは可笑しいな、と考えたりする。
 しかし、今の藤村は別れた二人を探すので精一杯だ。
「……あの二人で大丈夫かな。篠崎ってちょっと難しそうだし、霧野も肝心なトコ抜けてるからなー」
 藤村は、はぐれた二人の心配を始める。
 藤村は、思い出したように。更に自分って天才!とでも言いたそうな表情で、ポケットを漁りだす。
 彼が取り出したのはポケットにしまっておいた携帯電話だ。
 携帯電話を開けるが、彼の液晶画面は真っ暗だ。
 電源を入れて、霧野に連絡を取ろうと思った藤村。
 電源のボタンを押し、画面が表示されるのを待っていると、思わぬ言葉が表示された。

『充電してください』

 藤村は何かを悟ったような表情で、携帯電話をポケットにしまう。
「……うん。まあ、こんな事もあるよな……」
 携帯電話での連絡はとりあえず諦める事にした。
 仮に藤村の携帯電話が使えたとしても、霧野の携帯電話が使えないので、本末転倒になっていたであろう。
 無理矢理思考を変えて、そもそも、二人は一緒にいるのだろうか?という疑問が真っ先に浮かんできた。
 霧野のことはある程度知ってはいるつもりだが、篠崎の事は会ったばかり同然なので、一人の時どういう行動を取るのかいまいち掴めない。
 最悪のパターン、つまり三人が一人ずつに離散してしまった、という状況にだけは陥っていなければいい、と藤村は考えた。
 そして、もし自分だけがはぐれているのだとしたら、彼のやるべきことは一つだ。
「……せめて、合流した時に慌てないように、水晶の一つでも見つけておくか!」
 藤村は俄然やる気を出して、水晶のありそうな場所を手当たり次第に探っていく。

 霧野の突然の言葉に、篠崎は僅かに表情を強張らせた。
 その様子に気づいたのか、霧野はもう一度だけ、ゆっくりと告げた。
「―――、篠崎さん。あなたは……男。……だよね?」
 霧野と目を合わせる篠崎。
 篠崎は霧野から視線を外すように、顔を俯かせる。
 それから、表情を読ませないくらいに俯いた篠崎は、こくりと頷いた。
 篠崎は、頷いてから顔をスッと上げる。
 視線は、再び霧野と向かい合うようになる。
「……はい。私は男です」
 しっかりと、篠崎は霧野に伝えた。
「……嫌じゃないなら、女の子の格好をしている理由。……聞かせてもらえる?」
 篠崎は僅かに逡巡するように、再び俯いた。
 数秒間の沈黙の後に、篠崎は口を切る。
「……分かりました」
 再び、顔を上げて言葉を続ける。
「話します。私が……何故こんな格好をしているのか」

39ライナー:2011/12/17(土) 10:29:40 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

さて、藤村君は大丈夫なんでしょうか。
何かと不運が付きまとうみたいで、不安ですw
さらに携帯の充電を忘れていたのか、充電切れてるなんてもっと不安ですね^^;

篠崎さん……いや、君は何故女の子の格好を!?
そういう人n((殴

続きも楽しみにしております。ではではwww

40竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/17(土) 10:35:31 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます^^

いざとなったら降霊術使うので、藤村君は心配いりません。
でも森で使うと全部燃えるかm((
二人とも充電忘れてるんですよ……。
藤村が本編の中で『霧野は肝心なトコ抜けてる』と言ってますが、藤村君も同じです。
ってか二人は似た者同士ですw

まあ、篠崎さんもそれなりの理由で……。
ただ一つ言えることが。
そういう趣味の人ではありません((キリッ

41竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/25(日) 20:33:58 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 神山翔一は森林園の中をぐったりしながら歩いていた。
 単に歩き回って疲れたわけではない。風邪気味だとか熱が少しあるとか、体調が悪いわけでもない。
 彼の悩みの種は、試験で同じチームになった女子二人だ。
 通常なら女子二人に囲まれると『ひゃっほい、ハーレムじゃん!悪いな、幽鬼!』となるはずの神山だが、この時ばかりは状況が違った。
「大体、何で私がアンタと同じチームなワケ!?意味分かんない!」
「あらあら?それはわたくしと力を比べられることに対してのご不満ですの?随分と器の小さい事ですわね」
 彼と同じチームの女子二人の仲がものすごく険悪なのだ。
 片方の少女、若干水色がかった銀髪を背中まで伸ばしているのが神乃院市(かみのいん いち)。生徒会の庶務の役職を務めているA組の少女で、周りの人達からは下の名前から『お市ちゃん』と呼ばれている。
 もう一人。こいつが一番厄介だ。神山としてはこういうお嬢様系の女の子は二次元でしか見たことがない。
 太もも辺りまで伸ばした綺麗な黒髪に、右手で持っている扇子で口元を隠している。本当に漫画などに出てくる典型的なお嬢様スタイルだ。
 雪路冬姫(ゆきじ ふゆひめ)。
 神乃院と同じくA組に所属する少女で、彼女とは学年順位が同じであることからライバル意識をしている。
 そんなわけでとんでもない美女二人に囲まれている神山だが、心が癒されるどころか、どんどん疲れていく。
「大体、アンタと力の差なんて私の圧勝なんだから。別に今更比べることでもないでしょうに」
「あらあら?可笑しいですわね。順位が同じですのよ?ああ、夢の中で圧勝、と。妄想で生きてるなんて哀しい事この上ないですわね」
 何よ、何ですの、と二人が目を合わせ、丁度中心辺りで火花が散っているように見えた。
 神山は静かに呟く。
「……誰かー……。替わってくれー……」

 篠崎は小さな言葉で、話しを始める。
「……私の家は、篠崎流という剣術の家なんです。その家の当主は代々女性が務めるものです。……私の前には、姉が生まれました」
 霧野は黙って篠崎の言葉を聞いていた。
 その方が話しやすいのか、篠崎も僅かな躊躇いはあるものの、ゆっくりと滑らかに言葉を進める。
「……姉は剣の才能はあったようなんですが、篠崎流の剣術だけは会得出来ませんでした。だから、私が生まれたのと時をほぼ同じくして、何処かへ行ってしまったんです。私が生まれてから、私が男だ、ということは母上と父上、それとごく一握りの人だけの秘密とされました。だから私は、他の人にもバレないように、女の格好をしているんです。学校の書類も女子だし、見ての通り制服だって……」
「……何で?」
 霧野は口を開く。
「……何でその事を、私と藤村君に話してくれなかったの?」
「……言えなかったんです」
 篠崎はそう答えた。
 今にも泣き出してしまいそうな、震えた声で。
「……藤村君も、霧野さんも……私の事を友達と思ってくれてるし……、男の子だって言ったら、二人との絆を切ってしまいそうで……!」
 篠崎は顔を伏せてしまう。
 恐らく泣いている事だろう。その事を悟った霧野は、篠崎の肩に手を置く。
「そんな事ないよ」
 優しく篠崎に告げた。
 篠崎は涙を流していた顔を上げて、霧野の言葉を聞く。
「……私も藤村君も、そんな事で篠崎さんを避けたりしないよ。藤村君は、そんな事で人を避けたりしない。彼の周りには変な人がいるからね」
 恐らく、その変な人は神山のことだろう。
「だから、隠す事ないよ。逆に隠してた方が、これからの関係でギクシャクすると思うし。後で、藤村君にも話そう」
「……うん……」
 篠崎は霧野の言葉に頷く。
 それから霧野は立ち上がって、気持ちよさそうに伸びをする。
「さて!合流した時に驚かせるために、水晶。見つけておこう!!」
「き、霧野さん……。ちょっと声が大きいです……」

42竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/26(月) 19:57:59 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤村幽鬼は身を木の陰で隠しながら、森林園の中を歩いていた。
 と言っても他のチームと鉢合わせすることはなく、周りから聞こえる微かな声に反応して、身を隠しているだけなのだが。
 そんな藤村の耳に意外と近くで声が聞こえる。
 彼は咄嗟に身を屈め、木の陰から草の陰に身を隠す。
 聞こえてきたのは喧嘩しているような女子二人の声だ。
「ふふふっ。あらあら、どうしたんですの神乃院さん。ああ、自分が水晶を見つけられなかったから、わたくしを羨んでいるんですのね」
「はぁ?誰がアンタなんかを羨むかっての!大体、それも足にぶつけて見つけたからって、鼻にかけてんじゃないわよ!」
「運も実力の内、ですわよ」
 神乃院は自慢げな雪路を睨みつける。
 それに対して雪路は、ふふんと笑って余裕を見せている。
 二人の火花が激しさを増すのを、神山はがっくりと肩と気分を落として見ている。
「……あのさー……喧嘩やめない?」
「しょーがないでしょ!コイツが私に喧嘩売ってんだから!大体、アンタも男ならそれくらい察しなさいよ!」
 注意するように言っただけだが、こっちが怒られた、と神山は泣きそうになってしまう。
 それを慰めるように雪路が優しく語りかける。
「あらあら、八つ当たりですの?神山さんも可哀想に。わたくしは喧嘩を売っているつもりはありませんのよ」
「……ッ!その言い方が売ってるって言ってんのよッ!!」
 二人の口喧嘩はますます激化していった。
 感情的に言葉をぶつける神乃院と、それをあざ笑うようになだめる雪路。
 そんな女の喧嘩の真ん中に立たされている神山は、ポツリと呟いた。
「……幽鬼ー……助けてー……」
 神山の小さな叫びもむなしく、助けは来ない。
 三人はその場からどんどん離れていき、場には静寂が戻りつつあった。
 終始草の陰に隠れていた藤村は、立ち上がって去っていった神山に呟く。
「……すまん、翔一。無理だ」
 神山はこの場に藤村がいる、と知らなかったようで、身近な人物の名を言ったらしい。
 藤村は、翔一なら何とかなるだろう、と思い放って置く事にしたのだ。
「……とりあえず、俺は霧野と篠崎と合流しねぇと」
「―――藤村君!」
 唐突に少女の叫びが聞こえる。
 藤村がどこかで聞き覚えのある声に振り返ると、そこには霧野と篠崎が立っていた。
「霧野!篠崎!お前ら、無事だったのか!」
 二人は藤村に駆け寄る。
 霧野の表情には僅かな笑みが見える。
「藤村君も無事だったんだね、良かった」
 藤村は若干霧野の影に隠れている(ように見える)、篠崎とも目を合わせる。
「お前も無事だったんだな。良かった。……ん?」
 すると、藤村は篠崎を見て疑問の声を上げる。
 出会った時と違っている部分は無いが、彼女が何かを持っている。
 それは手の平に収まる程度の大きさの綺麗な色をした水晶玉だ。
「それ……見つけてくれたのか!?」
「はい。合流した時に藤村君を驚かそうって、霧野さんが……」
 霧野は『感謝してよね』的な表情を藤村に向ける。
 こういうところが無ければ、霧野も普通に可愛い女の子なんだが。
「とりあえず、ありがとな。さて、時間切れになる前にさっさと戻ろうぜ」
「あ、藤村君。ちょっと待って……」
 進もうとする藤村を霧野が止める。
 霧野は篠崎と僅かに言葉を交わした後に、篠崎を藤村の前に出すように背中を押した。
「……篠崎さんから。話しがあるから」
 篠崎はこくり、と小さく頷き、藤村を見つめる。
「……?ああ、分かった」
 藤村はきょとんとしながら、篠崎の話を聞くことにした。

43月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2011/12/27(火) 09:54:45 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
コメントさせていただきます!

篠崎ちゃん男だったのか……名前可愛いいから吃驚でs((
いや、もしかして某キャラみたいに「性別:篠崎唯」ってなったりするのk((黙

そして神山くん……確かに女子の喧嘩は怖いですよね。
でも喧嘩するほど仲が良いともいいますが、二人の場合はどうなんでしょうw

それでは、短いですがこれにて。続きも頑張ってください^^

44竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/29(木) 12:23:02 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰夜凪さん>

唯は出そうと思った時から『女ばっかだと、女子と接点ない神山が可哀想だ。藤村ハーレムはやめよう』と思って男にしましたw
う〜ん……それはないと思いますが、本編中で唯の代名詞を『彼』にするか『彼女』にするか悩み中です((

殴り合いにならないだけマシです((
お市ちゃんも雪路さんも、試験が終わってから出てきます!
……仲良いと思う!……多分((

はい、続きも頑張らせていただきます^^

45竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/29(木) 18:14:04 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 霧野、篠崎と合流した藤村は、篠崎の話をじっと聞いていた。
 篠崎が話し終わると、藤村は腕を組んで目を閉じ、うんうんと頷いてから目を開けた。
「……そっか」
 やはり、と言うべきか。藤村も霧野とほぼ同じような反応だった。驚いてはいるだろうが、そんなに表情には出ていない。むしろスッキリしたような顔だ。
 藤村は組んでいた腕を戻し、自然な体勢で話し始める。
「……なーんとなく、だけど……俺も薄々感づいてた」
「……藤村君、も?」
 霧野はきょとんとした顔で訊ねた。
 当の本人はこくりと頷いた。

「だって、女の子にしちゃ胸ペッタンコだし」

 …………………………………………………………………。
 全員が凍りついた。
 藤村本人は二人が固まっている理由を理解していないのか、頭の中を『?』で埋め尽くしているだろう。
 こほん、と咳払いをして霧野が口を開く。
「……今始めて、藤村君が最低だと思った……」
「え?何?何なの!?ねぇ、黙った理由を教えて!」
 戸惑う藤村をよそに、霧野と篠崎はスッと立ち上がって、すたすたと歩いていく。
 置いてかれそうになった藤村は、急いで二人の後を追いかける。
「おーい、沈黙の理由を教えてくれ!」
 藤村がそう叫んだ途端に、
 ふと、横合いから刀の切っ先が首元に寄せられる。
「ッ!?」
 寄せられたのは藤村でも霧野でもなく、篠崎だ。
 霧野は数歩後ろへ下がって剣を引き抜こうと柄へ手を伸ばすが、
「おっと、余計なマネすんなよ」
 剣を持った男が森林の茂みからゆっくりと近づいてきた。
 その男の他にも二人の男が、出てくる。
「……、霧野さん!」
 篠崎は自分の持っていた水晶を霧野へと渡す。
 それを受け取った霧野は大事そうにぎゅっと、水晶を抱きしめる。
「……チッ。まあいいぜ。とりあえずだ。その水晶と、この女。交換といこうぜ」
 剣を持っている男は、藤村と霧野にそう告げた。

 電気はつけず、朝の光だけが差し込んでいる一室で、二人の人物が話している。
 生徒会室にいる二人は、『生徒会会長』の腕章をつけた工藤政宗と『生徒会副会長』の腕章をつけた真田紫。
 真田は腕を組みながら、工藤に問いかける。
「……本当にやるの?政宗君」
「ああ。今年から恒例行事にしようかな」
 やめなさい、と言う真田だが工藤の耳には恐らく届いていないだろう。
 工藤は、着ているブレザーをある程度整えて、生徒会室を出ると同時に、呟いた。
「今年の一年には、どんな子がいるかなぁ?」
 彼が向かう場所―――。
 それは、現在試験が行われている『森林園』だ。

46竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/04(水) 00:25:26 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.5「風の悪魔」

 藤村と霧野は、捕らえられた篠崎(人質にされている)を目の前に、身動きが取れずにいた。
 今の二人から篠崎までの距離は目測で十メートル程度。三、四歩で縮めれる距離だが、自分が近づくまで相手が篠崎に何もしないわけが無い。篠崎を連れて逃亡する可能性も、篠崎を傷つける可能性も十分に考えられる。
 何をどうすればいいか分からない藤村の耳に、小声で話しかける霧野の声が届く。
「(……どうする?)」
 霧野の問い掛けはかなり大雑把だった。
 下手に動けば人質になっている篠崎が何をされるか分からない。
 最優先事項は篠崎の救出だろうが、相手が要求しているのは霧野が篠崎に渡され、霧野が所持している二つの水晶だ。
 篠崎を優先すると、水晶を相手に渡してしまうし、水晶を優先してしまうと、篠崎を見捨てることになる。
 どっちにしろ、人質を取っている相手のほうが有利だ。『先に水晶を渡せ』と言われて、篠崎と交換してもらわなかったら、こっちには何のメリットもない。
「(どうするって……そりゃ、最優先は篠崎の救出だろ)」
「(じゃあ、水晶は……?)」
「(相手の要求は二つとも、だろうなぁ。多ければ多いほど、点数は上がるし)」
 二人はこそこそと話しているつもりだが、違う目線で見ている篠崎と、篠崎を人質にしている三人組からは相談しているのがバレている。
 そこで、霧野は思い切って相手に問いかけた。
「……交換する水晶は二つとも?」
「当然だ!!」
 当然らしい。
 霧野は思わず溜息をついてしまった。
 相手が二つ要求する、ということは進級が難しい奴らだろうか。恐らく藤村や霧野よりも下のF辺りのクラスだろう。
 霧野はやむを得ず、という感じで腰に挿してある刀の柄に再び手をかけようとした瞬間、
「余計なマネはすんなって言っただろ!?」
 男の持っている刀の刃が、より篠崎に近づけられる。
 霧野の手が止まり、そのまま手を下に下げる。
「……よーし、抵抗出きねぇように、武器を捨てな!そして両手を上に挙げろ!」
 男はそんな要求をしてきた。
 一瞬、躊躇いが見えた霧野だが、篠崎を思うとどうも抵抗が出来ない。腰から刀を引き抜き、霧野は横合いへと投げる。脚で取ろうにも届かない距離だ。
 藤村は、そのまま両手を上に挙げるが、一人の少し太っている感じの男が藤村を睨む。
「オメーもだよ。武器捨てろって」
「……だって、俺武器持ってねーし」
 太っている男は藤村の言っていることが分かっていないようだった。戦場原学園は武器の携帯が必須のはず。それなのに、武器を持っていないのが理解出来ないのだろう。
 男は、二人が手を挙げるのを見ると、
「……よし、じゃあ交換だ。先に水晶を渡せ!」
「……先に渡して、そっちが篠崎さんを解放するとは思えない。やるなら同時に」
 男は引かない。
 恐らくベタに人質は解放しようと考えていなかったらしい。
「いいから、とっとと水晶を―――」
「同時にしましょう」
 霧野がギロッと相手を睨む。
 男は凄まれてしぶしぶ了承する。とりあえず水晶が手に入ればそれでいいのだ。
「……じゃあ、せーのでいくぞ。……せーのっ!」
 男の掛け声で、霧野は二つの水晶を相手に投げ、男は霧野を突き飛ばすように前へ押す。
 それと同時に、霧野は動き出す。
 霧野は前に押し出され、体勢を僅かに崩した篠崎の腰へと手を伸ばす。
「一本借りるよ」
 篠崎が振り返る暇も無く、霧野が篠崎の腰に挿してあった二本の内、一本の刀を引き抜く。
 そして、霧野は弾丸のごとく突っ込んで、男の手に水晶が渡るより早く、相手の鼻っ柱に鞘で打撃を加えた。
「……お前!?」
 残りの二人が霧野を囲むように、体勢を立て直す。
 しかし、霧野の目的は三人を自分が倒すことではなく、一人の人物を自由にすることだった。
 燃え盛るような闘志を秘めた、一人の男の。
「藤村君、出番だよ!」
「―――、ああ」
 藤村は右手を下ろし、手でやるのが面倒なのか、時間の短縮か。口で包帯を強引に噛み千切った。
「後は任せろ」
 藤村の背後に、炎の降霊―――『焔華』が現れた。

47竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/04(水) 17:04:20 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 口で包帯を引き千切った藤村の後ろに天から降りてきたように、ゆっくりと焔華が姿を現す。
 彼女の口には薄っすらと笑みが浮かんでいた。
『―――最近よく呼ぶな。そんなに私が恋しいか?』
 からかっている焔華の言葉に藤村は青筋を僅かに立てる。
 だが、今はそんなことをしている場合じゃない、と馬鹿と自覚している藤村も理解している。
「いいからとっとと力を貸せ。お前を出してると結構疲れるんだよ」
 ふん、と焔華は鼻で笑う。
 焔華は目を閉じ、藤村と重なり合うように彼の身体へと入っていく。
『命令するな』
 焔華が藤村の身体へと入り、姿を消す。と、藤村の身体に炎が纏い、目が赤くなり、鋭さが増した。
 初見の篠崎は綺麗な炎に目を奪われたからか、それともただ見入ってしまっているだけか分からないが、見とれたように藤村を見つめている。
 二度目だが、相変わらずの姿に霧野も眉を下げるしか出来なくなっていた。
「……やっぱり。どうやっても藤村君には追いつけないよ……」
 藤村は地面を蹴ったと思ったら、一瞬で太った男の懐まで潜り込む。
 太った男が藤村の接近に気付いたのは、彼の放った拳が腹に叩き込まれる寸前だった。
 男の腹に藤村の鋭い拳が突き刺さり、気付いたのとほぼ同時に、力士のような体型の男は五メートル程後方へと吹っ飛ばされた。
「絶好調!」
『私の力がな』
 ぐっと拳を握って、そう告げる藤村の後に焔華が小声で呟いた。
 水晶を持ったまま安堵していた霧野の背後から、最後の一人が襲い掛かる。
 藤村と篠崎はそれに気付いていたが、今更呼びかけても多分霧野はかわせない。篠崎は真っ先に走り出し、霧野の肩へと手を伸ばす。
「霧野さん、肩借ります!」
 え?と霧野が声を上げると、篠崎は霧野の肩を掴み、片腕だけで浮かせた身体を支える。それから身体を回転させるようにして、霧野の背後の男の顔に蹴りを叩き込む。
 篠崎が着地すると同時に、霧野を襲った男が倒れ、藤村達は勝利した。
「よっしゃー!」
「後は出口に行くだけだね!」
 藤村と霧野はハイタッチを交わす。
 それから二人は、ほぼ同時に篠崎の方へと視線を落とし、手の平を相手に向ける。
「勝利のハイタッチだ」
 篠崎はきょとんとした表情で、へ?と言葉を漏らす。
 ハイタッチを求めてきたからではない。
 いつの間にか、自分を仲間だと思ってくれていたことに対してだ。
「はい!!」
 篠崎は満面の笑みを向けて、二人の手の平に自分の両手の手の平を合わせた。

 生徒会室では、副会長と書記と会計のみが席に座っていた。
 三人しかいない理由は、庶務は試験中で、会長はその試験にこっそり忍び込もうと考えていたからだ。
 やがて、本を読んでいた『生徒会書記』という腕章をつけた那月忠勝が口を開く。
「……紫先輩。会長はどうしたんスか」
 見た目がものすごい強面なため、敬語は使わなそうに見えるが、一応は使っているらしい。
 彼の敬語に慣れている、といった感じで真田が疲れたように口を開く。
「……一年生の試験に潜り込んでるわよ。ったく、あの馬鹿……何考えてるのかしら。アレが生徒会長だってんだから、世も末よねー……」
 生徒会のメンバーは、会長の工藤政宗の奇行にはいつも振り回されている。
 トイレで席を外している間に、コーヒーの中に麦茶を入れられていたり、定例会議だというのに連絡もせず欠席したり、とんでもなく奇天烈な人だ。
 そんな彼と高校生活の三年間一緒にいる真田でさえも、まだ慣れていないらしい。
「……確か、前回の会長も潜り込んでましたよね……。僕と忠勝は何もありませんでしたけど……」
「政宗君も一年生の実力を見るだけだから、生徒会のお市ちゃんを狙うとは思えないけど……」
 真田は一度言葉を区切る。
 そして、溜息をついて、
「……試験に潜り込むのを恒例行事にするとか言ってるわ……」
「「何考えてんだあの人」」
 実際、冗談半分にも聞こえたりしたので、本来の目的は分からず、結局のところ『工藤政宗は意味の分からない人』というレッテルが、現在いる三人の生徒会メンバーの中で貼られていた。

48竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/04(水) 19:09:55 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 試験の残り時間も後二十分ほどだ。
 藤村、霧野、篠崎の三人は駆け足で出口、もとい森林園の入り口へと向かっていた。
 落石に襲われたり、チームが分裂したり、他チームに襲われたりなど色々な事があった試験だが、ゴールはもうすぐだ。
 気の緩んだ三人の前に、一人の人物が通り過ぎようとしていた。
 茶色の髪をツンツン、というかところどころ跳ねているだけに見える髪形の中々の美青年だ。
 目測だが、高校一年生には見えない大人っぽさが見える。制服を着ている事から先生でもないようだ。
 警戒する藤村達に、突如として現れた美少年は笑顔で口を開く。
「お、発見!もう試験が終わるから誰もいないじゃないかって思ったけど……そうでもないみたいだね。良かったー」
 相手は一人で笑顔を浮かべたり、ホッと安心したり、とそれを見ている藤村達にとってはとても愉快な光景だ。
 霧野はこっそりと藤村に訊ねてみる。
「(藤村君、アレは誰?何で藤村君の友達ってこんな人ばっかなの?)」
「(俺の知り合い前提かよ。俺だって初めて見たっつーの。篠崎は知ってるか?)」
「(……、何となくですけど、顔を見たことあるような……)」
 篠崎の曖昧な言葉の後に、一人で話していた少年が藤村達の視線に気付く。
 すると、照れくさそうに頭をかいて、
「あー、ごめん。すっかり自分の中だけで話してたよ。自己紹介しなきゃいけないよね」
 すると、少年はポケットの中を漁りだす。
 そこから取り出した物を、左腕にすっと通す。
 それは腕章だ。しかも、ただの腕章ではなく『生徒会会長』と書かれた腕章。
 そう。
 戦場原学園の最強の生徒が付ける腕章だ。
 転入生の霧野はまだよく分かっていないが、『生徒会会長』の意味を分かっている藤村と篠崎は表情を一気に変える。
「……アンタ、それって……」
「お、思い出しました……。……生徒会長です……生徒会長の、工藤政宗さんです……!!」
 今までの工藤からは感じ取れないような静かな雰囲気が周りを包む。
 たった一つのアイテムを身に着けただけで、人はこうも変わってしまうのか。
 藤村は警戒しながら、工藤に問いかけた。
「……何の用だよ。工藤先輩」
「なぁに、大した事じゃない」
 工藤は薄い笑みを浮かべながら、藤村の問いに答える。
「この試験に潜り込んで、一年生の実力を試す。今回は君達の実力を見せてもらうよ」
「はぁ?」
 藤村達三人は、大きく口を開けて固まっていた。
 一方の工藤はやる気満々で腕をぶんぶんと振っている。
「……やる気満々かよあの人……」
「どうします?相手は学園最強ですよ?」
「大丈夫。こっちは三人いるんだし、降霊術を使える藤村君もいるんだもの!」
 霧野は不安な篠崎にそう声をかける。
 だが、包帯をしてないことで姿を表すことが出来る焔華は、あえて姿は出さず、声だけを三人に聞こえるようにして話す。
『油断はしない方がいい。―――あの男、幽鬼と同じような感じがする』
 とりあえず、藤村達も戦う用意が出来た。
 工藤は武器を構えないまま、腕を組んで立っている。
「……いいのかよ。武器構えないで。本気出してもいいんですよ?」
「そうかい。さすがに優しいなぁ」
 工藤は藤村の言葉を聞くと、腕章を外して無造作に地面に置いた。
 そして、制服の左の袖を一気にぐいっと引き上げる。
「ッ!?」
 そこで藤村達三人は大きく目を見開く。
 まるで信じられないものでも見たかのようなリアクションで、工藤の左肩を見た。
「―――、そっちも一人いるから。俺もいいよね?使っても」
 工藤の左肩には、円の中心に丸があり、その円と丸を通るようにバツ印が描かれている緑色の何かの紋様があった。
 藤村は勿論、霧野も篠崎もこれに良く似た、色が違うだけのものを知っている。
「それは……俺と同じ……!?」
『……間違いではなかったようだ。私の言った通り、あいつもお前と同じ降霊術者だ』
 工藤の背後で、風が力強く渦巻く。

49竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/06(金) 20:44:27 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 工藤の背後に巨大な竜巻が現れる。
 だが、それが攻撃のための物じゃない、とこの場にいる全員が理解していた。
 工藤の背後の竜巻。これが何を意味するか、藤村は勿論、霧野と篠崎も分かっていた。
 ―――予兆だ。
 焔華の場合は、上空から降りてくるような仕草で、その場に現れるが、今回は違った。
 とても力強い風。これで攻撃されればひとたまりもない。やがて、竜巻が治まり、中からはハットを被り、着物を着ている男性が出てきた。
『―――、』
 ハットの男は何も語らずに、ただ笑みを浮かべているだけだった。
 藤村達は構え、相手の出方を伺っている。
 緊張が辺りを包むのかと思えば、相手は思わぬトーンで声を掛けてきた。
『いやー、久しぶりー!元気にしてた?炎上ちゃーん!』
 かなり気さくな人(霊ではあるが)だった。
 例えるなら、お盆や正月などの長期休みに顔を見せる、年に一、二度程度しか会わないお兄さんのような人だ。
 相手の言葉に焔華は青筋を立てる。
『―――貴様、何度言えば分かる?私を『焔嬢ちゃん』と呼ぶのはいいが、発音に気をつけろと言ったはずだ。それじゃまるで私が炎上しているみたいじゃないか』
『似たようなモンだろ』
『断じて違う!!』
 焔華とハットの男の会話は、初めて会った間柄では無いような会話だ。
 まあハットの『久しぶり』や、焔華の『何度言えば分かる』という言葉から、久々に会った、ということが理解できる。
「……焔華、知り合いか?」
 そこで、完全に置いて行かれた藤村が、焔華に訊ねる。
 焔華は小さく頷いて、
『奴は風椿(かざつばき)。生前の知り合いだ。そもそも、降霊は元は人だ。私なら、大抵は知っている』
 風椿は笑みを浮かべながら、ハットを深く被り直す。
 焔華の服装が着物で、男はハットを被っている。男の服装とアイテムがあまりにも不似合いだ。
『出来れば、貴様とは会いたくなかったがな。運命というのは、まったく予想も出来んよ』
『俺だってこんな会い方はしたくなかったぜ、炎上ちゃん。だが仕方ないじゃないの。大人しくさぁ―――』
 風椿が一度言葉を区切った。
 一瞬で目つきを鋭くし、声のトーンがふざけた調子から低い調子に変わる。
『死合おうぜ』
 その言葉を合図として、焔華が藤村の身体に、風椿が工藤の身体に憑依する。
 炎を纏い、目が真っ赤に変色し、鋭さを増した藤村は、一瞬で工藤の懐へと潜り込む。
(―――、速いな。だが)
 藤村の強烈な拳が、工藤の腹目掛けて叩き込まれる。
 金属と金属を打ち合う様な轟音が響く。
 藤村の拳は、工藤に届いていなかった。
 彼の拳は工藤に当たる寸前で、見えないバリアにでも遮られたように、あとちょっとのところで止まっているのだ。
(……ッ!?当たらない!?)
「いい攻撃だね。速さも申し分ない。―――でも」
 藤村を跳ね返すように強烈な向かい風が藤村の身体を押し返す。
 何とか体勢を立て直し、上手く着地する藤村だが、先程、攻撃が届かなかった事を思案してしまう。
 永遠に解けない問題に直面した生徒を見るような目線で、工藤は告げる。
「風の鎧、とでも銘打とうか。君の攻撃が届かなかった理由は、俺の身体が風の鎧に覆われているからさ」
 工藤は風を纏い、緑に変色し鋭くなった瞳で、藤村達三人を睨みつけるように見つめる。
「まだまだこれからさ。さあ、君達の力を見せてくれ」

50竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/07(土) 17:57:12 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 今度は三人同時に工藤に突っ込む。
 霧野と篠崎が左右から挟撃するように、工藤の左右から。藤村は正面から工藤に向かっている。
 多対一の利点、隙を作りやすい事を利用して、三人は一斉攻撃に移っていた。
(―――!なるほど、三人同時か。だが、そんなんで隙を作ってちゃ、生徒会長になんてなれないんだよ)
 工藤が両手を下に向け、風を吹かせる。
 ただ地面に向けて風を放ったわけではなく、自分が上空に飛び立つために風を逆噴射させたのだ。
「ッ!?」
 三人は一斉に上空へと目をやり、すぐさま工藤の姿を捉える。
 しかし、捉えられたのも数秒だけだった。
 目の焦点が工藤に合ったかと思えば、一瞬で彼は消え、気が付けば藤村の懐に潜り込んでいた。
(―――、速ッ―――!)
 工藤の風を纏った強力な拳が、藤村の腹へと突き刺さる。
 藤村も工藤と同じく炎の鎧を纏ってはいるが、工藤はその鎧を突き抜け、藤村にダメージを与えた。
 藤村はそのまま五メートルほど後方へと飛ばされ、仰向けの状態で気を失う。
 畳み掛けるように工藤が振り返った瞬間、霧野がもう目の前に来ており、刀を振りかぶっていた。
 霧野が横に刀を振るう。
 が、工藤は刀の刀身を掴み、攻撃を防いでいた。
「な……ッ!?」
「俺に気付かれないように仲間がやられても声を出さなかったか。良い判断だけど、残念。その程度じゃ俺に隙は出来ないよ」
 工藤の蹴りが霧野の顎に直撃する。
 霧野の身体は上へと打ち上げられ、篠崎が刀を構えたままその光景を眺めていた。
 それが隙となったのか、工藤が一瞬で、篠崎の前へと現れる。
(……しまった……!)
 篠崎が攻撃の態勢も、防御の態勢も取る前に、工藤の拳が篠崎の華奢な腹へと叩き込まれる。
 篠崎はそのままうつ伏せに倒れ込み、その場には静寂が広がっていた。
「うー……ん。まあ、こんなもんかな」
 工藤は憑霊を解き、携帯電話を開いて時間を確認する。
「……残り十分か。彼らは目を覚まさないだろうから、保健室に連れて行くかな。水晶は手に入れてるんだし、このまま不合格ってのも可哀想―――」
 ようやく、隙が出来た。
 藤村は炎を纏った渾身の一撃を、工藤に食らわせるため突っ込んでいた。
「―――ッ!?」
 工藤はその気配を察知し、勢いよく振り返る。
 だが、今から降霊を出して、戦闘準備に入るには藤村と工藤の距離はあまりにも近すぎた。
(……まだ動けたのか!?)
 藤村は思い切り拳を振りかぶる。
「これで、終わりだぁ!!」

51竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/13(金) 21:17:14 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第6話「新たな目標」

 試験残り時間十分。
 藤村は渾身の力を込めた炎の拳で、油断して隙が出来た工藤に殴りかかる。
 ここで工藤を倒せば、とりあえず当面の危機は去る。後は疲労が溜まっている中、篠崎と霧野をどうするかだが、そこは工藤をぶん殴った後に考えよう、と藤村は考える。
 突っ込んだ時の勢いを殺さず、そのまま自分の体重を全てぶつけるように殴りかかる。
 藤村の拳が工藤の顔面を捉える。
 藤村は渾身の力を込めた拳を叩き込むために、振りかぶった拳を思い切り工藤にぶつける。
 ガッ!!という鈍い音が響き、藤村は殴った時の体勢で動きを止めた。
 藤村と工藤、二人の影はどちらも揺らぎはしなかった。

「―――惜しかったな、だが」

 工藤の声が藤村の耳に届く。
 工藤は降霊を出していないにも関わらず、藤村の炎の拳を素手で受け止めていた。
 受け止めている工藤の顔は、炎に苦しんでいるようには見えず、むしろ清々しいくらいに涼しげだ。
「これくらいで隙を作っているようじゃ、生徒会長になんてなれないよ」
 工藤は藤村の拳を受け止めたまま、彼の頭を掴む。
 そして、そのまま顔を下の地面へと叩きつける。
 体力が残り少なかった藤村は、激痛に顔を強張らせた後に、気を失い動かなくなる。
「……」
 工藤は自分だけが立っている今の空間を見渡し、未だ拳を掴んでいた感触が残る手の平を眺めた。
 ふぅ、と小さく息を吐いて、
「……少しヒヤッとしたな」

「……ぅ……」
 藤村は目を開ける。
 目に映ったのは白く綺麗な天井と、左右から覗き込んでいる霧野と篠崎の顔。
 藤村はばっと勢いよく起き上がって、慌てたように辺りを見回す。
「ここは!?」
「……ほ、保健室です……」
「私達、いつの間にか運ばれてて……」
 藤村の勢いに圧倒された篠崎と霧野が、怯えたように答える。
 二人の返答を聞いて、藤村は額に手を当て、悔しそうに呟いた。
「……俺は、負けたのか……!」
 その言葉は、霧野と篠崎の胸にも突き刺さった。
 霧野は気持ちを前に向けようと、話を切り出した。
「でも、試験はクリアらしいよ!水晶を二つも取ったし、そこは工藤会長に感謝かな!」
 霧野の口調からは、焦りが読み取れた。
 藤村は窓の外に眼をやって、小さく呟く。
「―――工藤政宗。でかい目標が出来たな」

 試験から三日後。工藤政宗は学校の三階にある生徒会室で、真田紫と一緒にいた。
 真田は試験の日の工藤の奇行を知っているため、余計な部分を省いて問いかける。
「で、どうだったのよ」
「ん、何が?」
 工藤の言葉に真田は肩を落とす。
「……何がって……試験に潜り込んだんでしょ?見込のある後輩はいたの?」
「あー、それね」
 工藤は真田からコーヒーを受け取り、窓際へと移りながら答える。
「いたよ。彼は面白くなると思う」
 すると、工藤は下で歩いている藤村を発見する。
 藤村も視線に気付いたのか、顔を見上げる。工藤は部屋の窓を開けて、軽く手を振った。
 藤村は工藤を見上げて、大きく息を吸い込む。
 何をする気だろう?と目を点にしている工藤の耳に、強烈な言葉が飛んできた。
「絶対にいつか、アンタをぶっ飛ばしてやるからな!!覚悟しやがれ!!」
 その言葉は窓際にいなかった真田の耳にも突き刺さったようで。
「な、何よ……今の声……」
 その言葉を自分に向けて放たれた工藤は、苦笑いを浮かべて答える。
「いやー……はは。……どうやら、近くで不良が喧嘩をしているみたいだね……」
 工藤は窓を閉めて、コーヒーを一口すする。
 一息ついて、楽しそうに口を開き、独り言のように小さく呟いた。
「本当に、楽しいな。この学校は」

52竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/14(土) 02:30:04 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
〜あとがき〜

やっと、というべきでしょうか。
一章(?)は無事に終えました。三作目が第一章を終えれるのは、何だか初めてですので。

さてさて、第一章は今まで普通の生徒だった藤村君の人との関係の輪が広がっていく、というのがテーマです。
今まで神山君だけだったのが、霧野、篠崎、工藤(?)とも広がりました。
第二章では更に広げつつ、そして皆さんに好感を持たれるような、魅力的なキャラ作りに頑張らせていただきたいと思います!

しかし、第一章の一話目。レス数がかなり多い……。十以上あったよ((
他は三〜六程度だと思うのですが……。
これからは一話一話をコンパクトにするように務めます。

第二章はどんなお話しになるのか、という話題に移りましょう!
第二章はですね、まず、藤村君が会ったら発狂しそうな人物が登場します!それが誰かはお楽しみで^^
後は、たらしの高校生、三人目の降霊術者、喋らない少女、生徒会の面々などなど……。
生徒会と藤村達が活躍します。
そして!今回の戦いの舞台は、戦場原学園ではなく、違う学校との戦いに発展します。
そこも楽しみに待っていただけたらな、と思っております!

それでは、今回はとりあえずこのあたりで。
次回の更新を待っていただけると、ありがたいです。


結局、篠崎の代名詞が『彼』か『彼女』かまだ決まってないや……

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
>>51にミス発見((
『第6話』じゃなく『ACT.6』です。
いきなり話数の表記変えてどうすんだ、自分((

53竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/14(土) 16:37:28 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.7「鷹の美剣」

 試験から六日後の日曜日の昼。
 藤村幽鬼はテレビの前で正座をしながら、画面に映し出されている番組を食い入るように見ていた。
 現在、彼が見ているのは『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』というアニメである。
 通常は深夜枠のアニメだ。
 何故こんな時間に藤村は見ることが出来ているのか。理由は簡単で、単に録画した物を見ているからだ。
 霧野とルームメイトになる前は、夜遅くまで起きて見ていたが、今は録画した物を見ている。
 真剣に見ている藤村とは対照的に、霧野は頬杖をついて、退屈そうにテレビの画面を眺めている。
 そもそもアニメにあまり興味が無いし、途中からでストーリーも理解できていないし。霧野からすれば何が面白いのかさっぱりだった。
 番組が終わり、藤村は録画したビデオテープを取り出して、
「……うん、今回も良かったな。来週は新キャラ出るし」
 腕を組んで、満足そうに頷く藤村に、霧野は冷めた口調で問いかける。
「藤村君ってオタクなの?」
 ぶっ!?と吹き出す音が聞こえた。
 いきなりの質問に、藤村は咳き込んで、僅かに涙目になりながら、霧野を指差す。
「ちょ、ちょっと待て!それはどういう意味だ?」
 だって、と霧野は冷めた口調を継続させながら言った。
「見た後の感想が明らかに。それに、ああいう女の子が主人公の作品って……私はよく知らないんだけど、美少女アニメって言うんじゃないの?」
 その言葉が藤村に火をつけた。
 藤村は本棚にある『鷹の美剣』一巻を取り出す。
 彼は『鷹の美剣』を刊行されている巻数まで全て買っており、アニメも毎週欠かさず見ている。
「確かに、アニメを知らんド素人は『鷹の美剣』を見て、美少女アニメだのとほざく!だがな、勘違いしてもらっちゃ困るんだよ!霧野。お前はアニメを見たことがあるか」
 あれ、何かスイッチ入った?ときょとんとしていた霧野だが、質問に首を傾げる。
「……まあ、あるけど。一応は。中学二年の頃に見てたのが最終回になってからはあんま見てないな」
「じゃあ聞くぞ!」
 藤村の語りに熱さが増す。
「その作品に出てた女性キャラは美少女だっただろ?二次元なんだよ!アニメなんだよ!そりゃ女子の絵だって可愛くなるさ!そんなん言い出したら、全てのアニメで可愛い女子が出たら全部美少女アニメだろうが!!」
 つまり、藤村の言い分は『深夜枠でやっている女子が主人公のアニメ=美少女アニメではない』ということらしい。
 こんなキャラだっけ?と表情が引きつる霧野。
 神山と一緒にいる時点で『普通じゃない』事は薄々気づいていたが。
「……藤村君って降霊術が使える以外は普通だと思ってたのに……こんなにアニメを語ると熱くなるなんて」
 溜息をつく霧野に、藤村はずいっ、と持っていた一巻を差し出す。
「とりあえず、いいから一回読んでみろ」
 藤村に気圧され霧野は思わず受け取ってしまう。
 霧野は表紙に映っている黒髪の美少女(一巻の表紙だから、恐らく主人公の『鷹』という少女だろう)を見て、
「……藤村君って黒髪の女子が好きなの?」
 聞かれた藤村は自慢げに腕を組みながら答える。
「まあな。個人的にはロングで、くくっていない方が好みだが」
 そこで、霧野は自分の髪型を気にしてしまう。
 自分はポニーテールにするのが主流であり、あまり下ろす事は無い。
 しかし、下ろしたら背中くらいまであるのでロングになるのだろうか、と首を傾げる。
(……下ろしてみようかな……)
 そう思った霧野は顔を赤くして、ぶんぶんと勢いよく首を横に振る。
(ち、違う違う!藤村君が言ったから下ろすわけじゃなくて!たまには気分転換でも……藤村君が言ったからじゃないんだからっ!!)
 いきなり首を横に振り出す霧野を、不審に思い地味に引き始める藤村。
 霧野は本を開いて、適当にページをぺらぺらとめくっていく。
 そして、本を閉じて、軽く息を吐く。
「……まあ、藤村君がそこまで言うならいいけど……」
 しかし、霧野は本を藤村に渡し返す。
「……暇な時にね」
 妙な事を考えてしまったため、頬を赤くしながら霧野は本を藤村に返す。
 今の霧野に、藤村の顔を見る勇気はなかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
霧野がツンデレになってしまった……
こんなキャラだっけ?

54竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/15(日) 10:02:55 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「おーっす!今日も仲良く登校か!羨ましいな、この野郎!」
 月曜日、学校にやってきた藤村と霧野は、いきなり神山にそう言われる。
 一緒に登校、も仕方ないだろう。
 何せ、同じ部屋なんだし、同じ学校で同じクラスなのだから、別々に出ることでもない。
 だが、最近忘れがちだったが、霧野の容姿は藤村の好みである(髪を下ろせばもっと好みだが)。一緒に登校していて、嬉しくないといえば、嘘になってしまうため、仕方が無い、と言っても内心はちょっと幸せだったりする。
 すると、藤村は自分の机に向かいながら、神山がチラシのような物を持っているのに気が付く。
「……、翔一。お前の持ってるそれ、何だ?」
 聞かれると神山は、待ってましたよその質問、と言わんばかりに目をきらっと輝かせる。
 藤村の机に神山はチラシを広げる。チラシに載っているのは、本の表紙らしき物と、一番上の所に『六月の刊行書籍一覧』と書かれている。
「実はよ、今日は新刊の発売日でな。お前、放課後空いてる?」
「……空いてるけど、面倒は嫌だぜ……?」
 大丈夫だって、と神山は前置きをする。
 どうやらこの話は相当に、藤村が興味持つことを確信しているようだ。
「今日の放課後、俺本屋に行くんだけど、お前も行かない?」
「お前が……本屋?」
 少なくとも、神山翔一という少年は本を読むような、文学的なイメージは皆無だ。
 ただのモテたい女好きなだけで、読んでいてもどうせ漫画程度だろう。
「実はさ、今月の新刊に『ゴスロリメイド・みーたん』の最新刊が発売なんだよ!それと―――」
「言ったろ。俺はそれに興味ないって。買いに行くなら一人で行け」
 藤村は神山をそう言って突き放す。
 だが、神山にとってはその台詞も想定内なのだろう。
 彼は笑みを浮かべて、わざとらしく独り言を呟いた。
「あーあ、残念だなぁ。折角『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』の新刊も発売なのに」
「ッ!!」
 藤村は神山の言葉に敏感に反応し、神山の持っていたチラシを奪い取り、再び目を通す。
 すると確かに、一覧表の中に『鷹の美剣 巻ノ十一』とある表紙が載っていた。
 藤村は素早く財布を出して、現在の所持金を確かめる。千円札が中に入っていた。十分に一冊は買える。
 藤村は、神山の肩に手を置き、親指を立てて告げる。
「ご一緒しよう」
「だろ?」
 ここで、二人の友情が更に深まった。
「ま、『ゴスロリメイド・みーたん』はどーでもいいけど、『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』は絶対に欲しいしな」
「いやぁー、『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』はいいから、『ゴスロリメイド・みーたん』は必須だな」
 二人の言葉の後に、打ち合わせをしたかのように、二人は声とタイミングを揃えて、『あ?』と言い睨み合う。
「てめー、『みーたん』がどうでもいいってどういうことだ。世の中には、ああいう可愛らしいアニメも必要なんだよ!『みーたん』の重要性が何で分からないんだよ!」
「メイドの作品なんてやりつくされて飽きるんだよ。だったら見てても飽きない時代劇風な作品の『美剣』の方が需要が高いだろうが!大体、『みーたん』は1クールだろ?『美剣』は2クールなんだよ!」
「放送期間で人気が決まると思うな!もうちょっとストックが必要なんだよ!それに、十月から第二期の放送が決定してるもんねー!」
 二人の言い合いは、周りのクラスメイトを引かせるくらいにヒートアップさせていた
 そんな視線も気にせずに、未だにあーだこーだ言い合っている。内容が内容なだけに、引かれるのも頷ける。
 アニメ談義でここまで熱くなると、さすがに周りも、二人をオタクだと思ってしまうだろう。
 そんな二人を見て、二人の友達である霧野は深い溜息をついた。
「……やっぱりオタクじゃん……」
 それは藤村幽鬼に告げる、心の底から出た本音だった。

55竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/21(土) 00:14:04 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 学校の放課後に、藤村と神山は早速書店へと足を運んだ。
 デパートや百貨店の中にある書店ほどの大きさがあり、本の種類も中々豊富そうだった。
 神山は早速、その書店で新しい本が並んでいる、新刊のコーナーを発見した。
 しかし、そこのコーナーには既に先客がおり、後姿なので、顔までは分からないが、小柄な女子で、戦場原学園の制服を着ていることだけは分かる。
「……む、先客がいたか……」
「女子でもラノベを読む娘っているんだな」
 その少女は手帳とペンを持ちながら、新刊のコーナーを分析しているような台詞を漏らす。
 その言葉の端々を、藤村と神山の二人は所々聞き取っていた。
「……『みーたん』の人気はまずまずか……。まあ1クールだし、十月には第二期もやるから、人気は安定している……。後はこの人気を維持できるかどうかだね……、問題はこれか」
 彼女は口を動かしながら、手帳にペンで何かを書き込んでいる。
 次に彼女が目をつけたのは、藤村が大好きな『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』だ。
「……問題作だね……」
 少女の言葉に、僅かに青筋を立てる藤村。
 それを必死になだめている神山だが、更なる少女の言葉が藤村の怒りに拍車をかけていく。
「……そもそも、何故この作品だけ二つに分けて平積みにされているんだ?一つにまとめて十分だろう。そもそも、私はこの作品が何故ここまでに人気が出たか、よく分からないし……」
 何故か、『鷹の美剣』に対しての評価は辛口を通り越して、ハバネロレベルだった。
 そこまでくると、藤村がキレるのも無理はない。彼は腕まくりをして、少女に近づいていく。
 しかし、そんな藤村を神山が必死に止めようとする。
「(んだよ、止めるな翔一!これは男の戦いだ)」
「(馬鹿かお前!しかもあの娘、女じゃねーか!怒るのも分かるが、他人の評価は気にしない方が―――)」
「(じゃあお前、『みーたん』があんな言われ方してたらどうするよ?)」
「(よし、行ってこい!)」
 結局、二人の結論はこうだった。
 『好きな作品を罵倒されて黙ってるような奴は、男じゃねぇ』。
 藤村は、ずかずかとハバネロ評価の少女に近づいていく。少女の後ろに立つと、初対面なのか、一応は敬語で話しかけた。
「……お嬢さん、ちょっといいですか?」
 いきなり『お嬢さん』はどうかと思う神山だが、彼は静かにその光景を見守っていた。
 少女が藤村の方に振り返ると、藤村は僅かに面食らった。
 少女の顔は僅かに幼さを残した顔立ちで、その顔に大きな目が妙に映えている。肩より眺めの黒髪もマッチしていて、一見して可愛い女の子だ。
 だが、それに藤村は惑わされなかった。
「……何か用かい?」
「えっとね、まあ盗み聞きしてたわけじゃないんだが、さっきのお嬢さんの評価が耳に入ってきましてね……」
 少女の質問に、藤村は冷静に答えていく。
 聞こえないように、と注意を払っていたのか少女は手で口を覆った。
「……、それは失礼な事をした。お恥ずかしいところを」
「いや、俺が気にしてるのはそこじゃなく……」
 藤村は咳払いをして、少女を指差した。
「アンタが俺の大好きな作品を散々罵倒していたことについてだよッ!!」
 そう藤村は宣言したが、少女は首をかしげただけだった。
 新刊のコーナーに目をやると、自分が低評価を下したのは一つのみ。彼が言っている『大好きな作品』も一つに絞られてくる。
 少女は理解したように、ああ、と声を出した。
「……それはすまない事をしたね。君はこれの愛読者だったが……。いやあ、自分の非凡な文才で書いた物が並ぶのが、どうもまだ恥ずかしくてね、ついつい罵倒してしまうのさ」
 その言葉に、藤村は目を点にする。
 今何て言った?とすぐさま聞き返したい気分に駆られた。
 彼が注目したのは『自分の非凡な文才で書いた物』という言葉だ。
 彼女が罵倒していたのは、『鷹の美剣』。そして自分の非凡な文才の物を罵倒したくなる。つまり、答えは一つだけだった。
「……ま、まさか……」
「ああ、名乗っておいた方がいいかな」
 少女はスッと手を差し伸べて、微笑みながら自身の名を名乗った。
「私は戦場原学園一年A組の古賀塚亜衣乃(こがづか あいの)。『愛野百合子(あいの ゆりこ)』というペンネームで、『鷹の美剣』の原作者をやっているんだ。私の作品を読んでくれて、どうもありがとう」
 藤村は、彼女の名前を聞くと、即座に土下座して何度も謝ったらしい。

56竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/28(土) 13:33:08 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……ライトノベル……ですか?」
 金髪の可愛らしい美少女(だが実は男の子)の篠崎唯は、霧野と一緒に下校してきた。
 なんでも、藤村と神山の二人が『今日は新刊発売だー!』と息巻いて、学校が終わってから本屋に直行したため、一人で帰っているところ、篠崎が声をかけたのだ。
 霧野は夫か彼氏の愚痴をこぼすように、文句を垂れている。
「そうなの。藤村君も神山君も……。ラノベのどこがいいのか……私にはさっぱりで」
 霧野の言葉に、篠崎は僅かに考える。
 それから、自分なりの答えを導き出す。
「多分、挿絵があるからだと思いますよ」
「挿絵?」
 霧野の疑問交じりの復唱に、篠崎はコクリと頷く。
「普通の小説には絵がないでしょう?でも、ライトノベルは所々に絵が入ってるから、案外読みやすいのかも知れません。それだったら、絵と内容と。二つ楽しめますから」
 しかし、霧野は口を尖らせて、再び愚痴をこぼす。
「……それなら漫画を読めばいいじゃん……」
「それも読まれている原因の一つですよ」
 ?と霧野は首を傾げる。
 篠崎は、まるでライトノベルの評論家のように、説明を続けた。
「普通の小説に比べてライトノベルの内容は、主観ですけど漫画に近いと思うんですよ。絵や内容に惹かれるからこそ、読まれているかもしれません」
 あくまで私の意見ですけど、と篠崎は付け加える。
 それを言われても、霧野はまだ口を尖らせている。
「私も全部を肯定するわけじゃないですけど、人の好みはそれぞれですしね」
「……まあ、そうなんだけど……」
 はぁ、と霧野は大きく溜息をつく。
「……そういえば、篠崎さんも結構詳しいですね」
「ああ、だって読んでますから」
 え、と霧野が目を軽くする。
 篠崎は霧野のその様子にも気付かずに、鞄の中をごそごそと漁っている。
 中から取り出したのは、一冊のライトノベルだ。
「藤村君から借りている『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』です」
(貴方もッ!?)
 篠崎の読んでいるもの、というよりも、藤村が既に篠崎に本を貸しているとは思わなかった。
 霧野でさえ、篠崎と話すのは試験が終わってからこれが初めてのような気がする。恐らく、藤村は仲良くなった人に本を貸しているのだろう。
 ならば、同居して二週間以上経っているのに、つい最近本を読むように言われた自分は何なんだろうか、と霧野は考えてしまう。
 だが、そこは同居してるから、と自分の中で割り切ってみる。
「……藤村君もハマってたけど……面白いの?」
「面白いですよ!とっても!バトルだけかと思いきや、感動できるところもあるんですからっ!!」
 滅多に大きな声を出さない篠崎が大きな声でそう言った。
 それだけで、ああ、相当なんだな、と分かる。
 篠崎も、結局のところ藤村と同じように、
「霧野さんも読んでみてくださいよ。絶対にハマりますから!」
 あの引っ込み思案な性格(に見える)篠崎が、ここまでゴリ押しするぐらいだから、面白いのだろう。
 だが、霧野としてはいまいち読む気は起きない。
 藤村の勧め、篠崎のゴリ押し。
 二人の言葉で霧野が導き出した返答はどこかで言った覚えがある、この言葉だ。
「……暇な時にね」

57竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/28(土) 21:58:27 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「本当に……すいませんでしたッ!!」
 藤村は勢いよく頭を下げ、丁度テーブルに額をぶつける。
 現在彼らがいるのは、書店の近くにあった少し洒落たような喫茶店だ。
 藤村と神山が並んで座り、彼らの前に古賀塚亜衣乃がちょこんと座っている。小柄な体型なので、座っているだけでも随分と可愛らしかった。
 頭を下げる藤村に、古賀塚は声を掛ける。
「いや、勘違いは誰にでもあることだし、気にしないでくれ。あんな風に言った私も悪かったのは事実だし……」
 藤村は、そう言われると頭を上げる。
 何故か今にも泣きそうな顔をしている。
「しかし驚いたな。『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』の作者が高校生だって噂は聞いたことあるけど……まさか俺らと同じ学校で、しかも同じ学年だったなんて」
 神山は驚いた、より関心するような調子で言った。
 その言葉に、古賀塚は小さく笑う。
「そうだね。学業との両立は中々難しいけど……作家は面白いし。私の非凡な作品で誰かが喜んでくれるなら、私はそれだけで嬉しいよ」
 そう言いながら、古賀塚は藤村へと視線を向ける。
 まるで『君のことだよ』と言っているように。
 ここにいる三人全員は、先程の新刊のコーナーで何かしら買っている。藤村は『鷹の美剣』の十一巻。神山は『ゴスロリメイド・みーたん』の八巻。そして、古賀塚は自分の作品を含めた、今月発売の新刊七冊。古賀塚の袋だけ、藤村と神山に比べて大きかった。
 すると、古賀塚の前に頼んだパフェが届く。
 頼んでいたのはいちごパフェと、作家という点以外はいたって普通の女子高生だった。
「……それで、君達の名前を聞いてもいいかな?」
「藤村幽鬼ですっ!!」
 今まで元気がなかった藤村が、急に元気よく名乗りだした。
 古賀塚はそれに僅かに驚いたようだったが、すぐに藤村に微笑みかける。
「藤村幽鬼か……。じゃあ『ゆうき』でいいね。君は?」
「神山翔一です」
「『しょういち』か。二人とも、よろしくね」
 幼い印象を与える古賀塚の笑みに、藤村と神山は癒されていく。
 古賀塚はパフェを食べ進めながら、話を続けていく。
「しかし嬉しいよ。私の本の愛読者が同じ学校にいたなんて。ルームメイトくらいかと思ったけど」
「古賀塚先生のルームメイトも読んでるんですか?」
 何故か、藤村は『先生』とつけ、敬語で接していた。作家だから『先生』をつけるのは普通だろうが。
「まあね。愛読者だよ。君とどっちが上かは分からないけど……」
「俺が上です!」
 藤村は自信を持って、そう言い放った。
 古賀塚はそんな藤村にくす、と笑って、
「じゃあ問題を出してみようか。第一問。鷹の最初の台詞は?」
 急にクイズ大会が始まった。
 アニメしか見てない上山は分からなかったが、藤村はその問題に即答する。
「『やはり、京(みやこ)に近づくにつれて賊が増えているな』ですよね」
「……正解だ。じゃあ第二問。第三巻。鷹の一番最初の台詞は?」
「『あー。最近寝不足で、身体が鈍ってないか不安です』」
「大正解。じゃあ第五巻の、鷹の最後の台詞は?」
「『私が、この腐りきった世界を変えてやる。だから、君達はそれまで待っててくれ』」
「……正解」
 ここまでくれば、さすがにオタクだな、と神山は引くが、同じ質問を『みーたん』で出されたら全て答えたろう。
 古賀塚は、藤村が並みの読者ではないと分かると、嬉しそうな表情を浮かべた。
「……一つ、質問してみようかな。ちょっと意地悪だけど……」
 ?と藤村は首を傾げている。
 古賀塚は藤村を見つめて、質問を口にした。
「君が、私の『鷹の美剣』を読み続ける理由は何だい?」
 藤村は予想外の質問がきたのか、僅かに驚いたような表情をした。

58竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/03(金) 23:06:59 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 古賀塚の質問に、藤村は言葉を詰まらせる。
 どう答えていいか分からない、というニュアンスではないようだ。何故こんな質問をしたのか、それが分からないようだった。
 藤村の表情をしばし見つめて、古賀塚は納得したように息を吐く。
「……だよね。いきなり聞かれても分からないだろう。悪かったね」
 古賀塚の謝罪に、藤村は首を横に振る。
「いえ、それはいいんですけど……何でそんな質問を?」
 古賀塚は目を閉じ、小さく頷いて答える。
「嬉しかったんだよ」
 一言だ。
 それだけの理由で?と思うかも知れないが、古賀塚はそれだけではない。
「まずは、ただ単に嬉しかった。今までにも、私の作品が大好きだと答えてくれた人はいたけど……君のように問題に即答できる人はほとんどいなかったしね」
 古賀塚の口調は楽しそうだった。
 それこそ、小説に出てくるキャラの台詞を音読しているような。聞いてて飽きない喋り方だった。
 その調子のまま、古賀塚は続ける。
「知ってる人は少ないと思うけど、たった一冊で完結した……。『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』の前作があってね―――」
「……『オジギソウ』」
 藤村の呟きに、古賀塚の表情が変わる。
 藤村が呟いたのは、古賀塚が言った前作の名だ。
 彼は古賀塚が売れていない時からの珍しいファンだった。今回の作品も、世界観やキャラだけじゃなく、自分の好きな作家だから、というのもあるだろう。
「……知っているのかい?私の前作を」
「ええ。持ってますよ、今でもたまに読みますし」
 初めてだった。
 古賀塚にとって、自分の作品をここまで愛してくれている人は、初めて会う。古賀塚の中で『嬉しさ』がどんどん膨張していく。
 古賀塚は鞄の中を漁りだす。
「……丁度いいものがないな。ゆうき、さっき君が買った『美剣』を貸してくれるかい?」
 藤村が首をかしげて、言われたとおりに本を渡す。
 古賀塚は、本の裏表紙にマジックで何かを書き出す。
「……君のようなファンには初めて会った。一気に大好きになっちゃったよ、ゆうき」
 彼女が裏表紙に書いたのは、自身のサインだ。
 それを見た藤村は、涙が出そうなほどに目を潤ませる。
「ほ、ホントにサインをもらってもいいんですか……?」
「構わないよ。そんなものでよければ。お礼の気持ちだよ」
 古賀塚は見るもの全てを癒すような笑みを、藤村に向ける。
 それから数分後、藤村達は店を出て、古賀塚は打合せがあるらしく、ここで別れることとなった。
「じゃあ、また会えたらね、ゆうき。しょういち」
「はい。これからも『美剣』見続けますし、読み続けます!」
 古賀塚は藤村の言葉に、嬉しそうに微笑んだ。
「……あー、俺も幽鬼から借りて読んでます。お金がなくて、買う余裕がなくて……」
「それならいいんだよ。悪いのは君じゃないし、魅力的な作品が多いからね」
 古賀塚は神山の言葉にそう返す。
 すると、藤村にしゃがむように促す。促された藤村は、疑問に思いながらもしゃがみこむ。古賀塚の背に合わすように。
 古賀塚は彼の耳元で、小さく呟いた。
「……私がこんなことするなんて、とっても珍しいんだよ?」
 途端に、古賀塚の唇が頬に触れる。
 古賀塚から、藤村へのキスだ。
 藤村は顔を真っ赤にして、しゃがんだまま固まってしまう。神山は『お前どんだけモテるんだよ。七瀬チャンの次は亜衣乃チャンか』みたいな表情でいる。
 古賀塚は小走りに二人から離れていって、振り返ると同時に、口元に人差し指を当てて言った。
「特別だよ!」
 そして、彼女はそのまま走り去ってしまった。
 藤村はしばらく固まったままでいた。神山も面倒になったので、藤村を置いて先に帰ってしまった。
 古賀塚は、打合せ場所に向かいながら、楽しそうに微笑みながら呟く。
「……好きになっちゃった。もう、ゆうきが頭から離れないよ」

 帰ってから藤村は、ものすごい勢いで霧野に『美剣』を勧めだした。
 あまりの勢いに圧倒され、霧野は渋々読み出し、瞬く間にハマっていった。

59竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/10(金) 21:23:21 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.8「那月流生」

 藤村幽鬼は、金属音が鳴り響く学校の裏庭に座り込んでいた。
 戦場原学園の裏庭は、校舎とグラウンドを合わせた広さを誇り、そのスペースは昼食や、修行の場所として活用される。
 現在、藤村の前で行われているのも、主な使用手段の一つである修行だ。
 といっても、勿論藤村は参加していない。今修行しているのは霧野と篠崎の三人だ。だが、藤村としては自分が何をしていいのか分からない。放課後『空いてる』と答えたら、急にここに連れ出されて現在に至る。
 霧野と篠崎が、肩で息をしながら距離を取った。
 二人は一斉に藤村の方を見て問いかける。
「「どう?」」
「何が!?」
 藤村には、やはり意味を理解することが出来なかった。

「修行を見てほしかった?」
 藤村は二人の答えにそう聞き返す。
 聞けば二人は、中間試験で真っ先に気を失ってしまったことに、少なからず負い目を感じているらしい。そのため、今日からここで修行を始めるらしいのだ。
「見てほしいって、なぁ……。俺だって戦いのプロじゃねぇし。先生に頼めよ」
「そんな仲の良い先生いませんよ」
 篠崎は藤村の提案にそう返す。
 二人だって、藤村に迷惑はかけまいと一番最初に先生に声を掛けてはいるのだ。だが、どの先生も忙しそうで、唯一暇そうに見えた青奈先生も『今日はアレがコレでソレだからー』という理解不能な言葉で回避された。
 そんな人が天才だなんて、世の中の不公平さを霧野と篠崎は痛感したのだ。
「身体の動きを見てくれればいいの!どこがいいとか、悪いとか」
「だから、それが分からないって言ってんだ。……焔華に訊いてみるか?」

 そして、焔華を呼び出し、彼女達の修行を見せること十分。彼女の答えは―――、
『さっぱり分からん』
 だった。
『見てほしいって……。私は戦いのプロじゃないし、教師とやらに見てもらえば早いんじゃないのか?』
 どこかで聞いたような台詞が帰ってきた。
 目の前にいる黒髪の少年が、さっきそんな感じのことを言ってた気がする。
 篠崎も諦めずに、そのことを焔華に話す。
 だが、彼女の答えはいつまでも『分からない』の一辺倒だった。
 藤村も、霧野も、篠崎も(焔華も)諦めかけたその時だった。
 
 ―――近くにある木から、少年の声が聞こえてきたのだ。

「何なら、俺が見てやらんでもないぜ」
 優しそうな、だがどこか軽いノリのある声だ。
 声の主は木から下りてくる。金髪の髪に、金色の瞳、金色のピアス。制服は着崩していて、チャラついた印象がある。彼の方からは野球で使うバットをしまえるような細長い袋が提げられていた。
「……誰だ、お前」
 いきなりの登場に、藤村達は警戒する。
「ん?あー、そんな警戒しなくていいぜ。俺はお前らの味方だと思ってくれていーから」
 金髪の男は、相変わらずの軽い調子でそう返す。
 そして、彼は僅かに声の調子を低くして、自己紹介を始める。
「一年B組の狩矢零太(かりや れいた)。下の名前で呼んでくれや」

60竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/25(土) 21:50:18 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 狩矢零太、と名乗った少年は口元にゆったりとした、余裕を見せ付けるような笑顔を浮かべている。
 無邪気や無垢とはまた違った、素直な笑みだ。
 彼の言った学年とクラスを心の中で復唱しながら、霧野は口を開いた。
「……B組、てことは……篠崎さんの一つ上のクラス?」
 霧野の言葉に、狩矢は指をパチン、と鳴らす。
「大正解。ポニテの子の言うとおり……ってか俺は篠崎さんは知らんけども」
 狩矢は肩をガクッと落として言う。
 そんな彼に、藤村は腕を組みながら問いかける。
「で、お前は何なんだ?俺らの味方だって言ってたけど……それを簡単に信用してくれると思ってんじゃねーだろーな」
 フッと狩矢は笑みを浮かべる。
「あー、思ってねぇぜ?特にお前と、後ろにいる亡霊さんはガードが固そうだしな」
 言葉に、藤村と焔華は反応する。
 二人を挑発するようにも思える口調と台詞で、狩矢は話を続けた。
「俺を信用するかしねぇかは自由だが、俺はお前ら三人の戦いにアドバイスが出来る。例えば、そこのポニテの子だったら―――」
 狩矢は言いながら、霧野を指差す。
 いきなり自分を指定してきたことに、霧野は驚き肩を大きく震わせる。
「攻撃の一振り一振りが大きすぎて、一撃を狙いすぎだ。もうちょっと冷静にいった方がいいぜ。一振りの後の隙がデカ過ぎて、自分から『狙ってください』って言ってるようなもんだしな」
「……!」
 初対面にダメ出しをされて、通常なら怒るところだが、霧野は言い返せなかった。
 いや、言い返せるわけがないのだ。
 彼の指摘が的確すぎて、言い返す気さえも喪失させた。確かに、自分は一撃に拘っていた、一振りの後の隙にも気付いていた。自分が改善すべきだと思っていたが、出来なかった点だけを見事に突いていたのだ。
 狩矢は次に篠崎を指差す。
「んで、こっちの子は―――戦い方は上手いんだが、型にハマりすぎだ。教科書(マニュアル)重視すぎて、自然体での戦いが出来ていない。元の型を意識しすぎて、自分の戦い方がなってねーんだわ」
 篠崎も指摘の後に、口をつぐんでしまった。
 彼女も言い返さなかった、いや。言い返せなかったの方が正しいだろう。何故なら、彼女は指摘の後に、悪戯がバレた時のように目を逸らしてしまったからだ。
 狩矢は自信に満ちた顔で、藤村に言う。
「な?」
 それに対して藤村が返す言葉は、実に簡単だった。
「……だからどうした」
 狩矢は驚いたような表情を向けている。
「霧野と篠崎の弱点を見抜いたってだけで、俺がお前を信用する材料にはならねーよ」
「何なら、お前の弱点も見抜いてやろうか?俺の目には、そういうのすぐにバレちまうんだぜ?」
 藤村は自分の身体に焔華を宿し、戦う気満々だ。
 狩矢も楽しそうな表情を浮かべている。
「―――やれるもんならやってみやがれ」
 藤村VS狩矢が幕を開けた。

61竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/18(日) 13:13:53 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤村幽鬼VS狩矢零太。
 全然ノリ気のこの二人の戦いを良しとしない者が、この場に二人だけいた。
 それは言うまでも無く、霧野七瀬と篠崎唯の二人だ。
 この二人には藤村と狩矢が戦おうとしている理由が分からない。男には男にしか分からない世界があるのだろうか。だが、本来の性別が男である篠崎も分かっていない様子なので、二人にしか分からない世界があるのだろう。
 とにもかくにも、二人の戦いは止めなければならない。
 無意識に、本能でそう思った霧野は、二人を止めるべく口を開き、なるべく大声で呼びかける。
「藤村君、狩矢君!別に戦わなくたっていいんじゃ……」
「俺もだよ」
 藤村は短くそう返した。
 恐らく『俺も戦う必要はないと思ってる』ということだろう。
 なら、何故そう思ってる藤村でさえも戦う意志を表しているのか。
 その答えは彼の目の前にいる人物、狩矢零太にあった。彼は下げていた細長い袋から猟銃を取り出し、担ぐようにして持っている。一見悠長に構えているが、これといって隙が無い。どこから攻撃しても当たらないような気さえするほど、隙が無い。
 狩矢はフッと笑って、
「下の名前で呼んでくれよ、ポニテちゃん。それに、俺だって別に戦いたいわけじゃないさ。俺は別に戦闘好きでもないからさ」
 狩矢は指で藤村を挑発するように、ちょいちょいと挑発する。
「ただ、知りたいだけだよ。俺の知り合いと同じくらい、この目の前にいる降霊術者が強いのかってな」
 藤村はその言葉に反応する。
 相手は自分以外にも降霊術者の知り合いがいるのか。
 この学校の人間か、それとも違う学校の知り合いか、あるいは大人の知り合いか。そこはどうでもいいが、そこまで言われるとこちらとしてもプライドがある。
 学校の知り合いなら目星が一つあり、彼には絶対に負けたくないとも思っているため、この勝負は引くわけには行かない。
「……行くぜ、焔華」
『……ああ。だが、油断するなよ』
 焔華にしては、珍しく藤村に忠告を言い渡した。
 藤村が首を焔華に向けるまでも無く、焔華は説明を続けた。
『お前はDクラスで奴はBクラス。たった二つの違いだが、奴は以前戦った工藤政宗とは違う威圧感を感じる。気をつけろよ』
 そう言って、焔華は藤村の身体の中に入り込んでいく。
 降霊術者の戦い、『憑霊』だ。
 藤村の目が赤く鋭くなり、彼の拳に真っ赤な炎が纏う。
 その光景は見慣れているためか、狩矢の表情に驚愕や動揺は一切無い。ただ、笑みが刻まれているだけだ。
「行くぜ」
「いつでもどーぞ」
 藤村は地面を力強く蹴って、狩矢との距離を一気に詰める。
 炎を纏った藤村の拳が狩矢の顔を目掛けて飛ぶ。だが、狩矢は手に持っていた銃身で拳を受け止める。
「ッ!?」
「これくらいで動揺してるんじゃ、まだまだ甘いヒヨっ子だぜ」
 狩矢は拳を銃身で受け止めたまま、藤村の腹に鋭い蹴りを繰り出す。
 僅かに息を漏らして藤村は後ろに二、三歩下がる。だが、狩矢は藤村に休む間を与える事も無く、更に追い討ちをかける。
 狩矢は銃身で藤村の顎を突き上げ、銃を振り回し、横っ腹に銃身での一撃を喰らわせる。横に傾く隙だらけの藤村の身体に、渾身の力を込めたボディーブローが勢いよく突き刺さった。
「……ッ!」
「……なぁーんだ、この程度かよ」
 藤村はそのままうつ伏せに倒れ、激しく咳き込んでいる。彼の身体に憑依していた焔華も身体の中からするりと出てきた。
『何という身のこなし……貴様、鍛えているのか』
「まーね。デタラメに強い降霊術者に鍛えてもらってるもんで。その人に比べりゃお前は全然だな。何がダメって、基本からダメすぎる。能力に頼りすぎだ」
 藤村は倒れたまま、狩矢を睨みつけている。
 だが、狩矢は笑みを浮かべて、藤村を見下ろすだけ。お前なんか怖くない、と言外に告げていた。
『お前の言う降霊術者とやらは……この学校の会長、工藤政宗の事か?』
「ん?あー……」
 狩矢は言葉を詰まらせる。
 バレてはいけないことがバレてしまい、言い訳を必死に探す子供のようだ。
「……まあその人も知り合いなんだが……俺を鍛えてくれる人は別なんだよな。あ、そーだ」
 狩矢が思いついたように手を叩く。
 それから藤村に視線を落として、
「今からその人に会いに行こうと思ってたんだよ。お前も来るか?」
 狩矢は倒れている藤村に手を伸ばす。
 不本意ながらも、自分の力だけで起き上がれない藤村は、彼の腕を掴み、やっと起き上がった。

62竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/24(土) 13:49:29 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤村は狩矢に連れられ、街にまで出てきた。
 武器を持っていない藤村が周りから注目される事はほとんどないが、猟銃を担いだままの狩矢はかなりといって良いほど目立ってしまっている。猟銃持ってる奴と一緒にいる自分はどう思われているのだろう?と少々不安を抱きながらも、藤村は狩矢についていく。
 そこで、狩矢はゲームに出てきそうな酒屋みたいな店の前で足を止める。
 店の看板には『ウェポン』と書かれていた。木製の建造物で、もう何十年も前から建ってそうな、年季が入ってそうな雰囲気がある。店自体もそんなに大きくなく、家と家の間にこじんまりと建っている。そんな店だ。
 そんな取り壊し直前のボロ酒屋みたいな店を前に、藤村は狩矢に問いかける。
「……なぁ、ここ入っていいのか……?俺ら未成年だぞ?」
「あ?なーに言ってんだよ。いいに決まってるだろ。武器屋なんだしさ」
 そう言って狩矢は何のためらいもなくドアを開けた。
 ドアを開けるなり地下に繋がる階段がある。藤村は先に行ってしまう狩矢の後を追って、その階段を下りていく。階段を下りると再びドアが目の前に現れる。そのドアのノブには『オープン』とかかれた板がぶら下がっていた。
「ぃよっし!開いてるな!」
「開いてる保障なかったのかよ!?」
 狩矢はノブに手を当てて、ドアを開ける。
「仕方ねーだろ。たまに開いてない時だってあるんだし。おーっす!久しぶりっす流生(るき)さん!」
 狩矢は入るなり、元気よく手を挙げてそう言った。
 その部屋の壁には刀や銃などが掛けられており、武器の展覧会にも見えた。だが、店の中は案外狭く、高校生でも十人くらい入ったら結構窮屈だろう。置くにはカウンターのようなものがあり、その置くには更に扉があった。恐らく従業員の人はその奥にいることだろう。
 狩矢の声の後に、その奥の扉がゆっくりと開いた。
 出てきたのは所々跳ねている肩より数センチ長い銀髪を持った、目つきが僅かに鋭い女性だ。身長は藤村とほぼ同じくらいで白いへそが出るシャツに毛皮のついた黒いコート。そして黒のズボンを履いており、お世辞にも色気があるとはいえない。むしろ男らしい。
 そんな女性に狩矢は親しげに話しかける。
「お久しぶりっす。いやぁー、相変わらず人来てないんすね」
「余計なお世話だっつーの。大体ここの店知ってるのだって戦場原学園の一部生徒だけだろ?そんなに有名になっても困るし……で?今日は何の用で来た?武器へのクレームか?」
 狩矢に流生と呼ばれた女性はまさに男のような口調で話している。
 すると、入り口の辺りで固まっていた藤村と目が合い、『誰だアイツは?』と狩矢に訊ねる。
「あー、紹介しますね!こいつ、俺の友達の藤村幽鬼。降霊術者なんすよ!」
「誰が友達だ!」
 ふーん、と流生は顎に手を添えながら藤村を凝視している。
 じろじろと自分を見てくる相手に、藤村は警戒をしていたが、何を見終えたのかは分からないが流生がふぅ、と息を吐く。
「そっか、零太のダチか。私はこの武器屋『ウェポン』の女店主、那月流生(なづき るき)だ。つっても、従業員も私ともう一人しかいないから……店と呼べるかも怪しいけど」
 流生はそう笑いながら自己紹介をした。
 そして、藤村は思う。
(―――那月?気のせいか、どっかで聞いたことあるような―――)

63竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/30(金) 22:03:37 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.9「藤村幽鬼VS那月流生」

「流生さーん。そーいや、桜っちは?」
 辺りを見回していた狩矢が、流生にそう問いかけた。
 彼は親しんだ女子にはニックネームで呼ぶ癖でもあるのだろうか。『桜っち』と呼んでいるからには苗字か名前に『桜』と入るのだろう。『桜子』とか『桜井』だと思う。
 問われた流生は、『あー』と間延びした声を漏らして、
「今ちょいと出かけてるわ。ジュースとか買いに行かせてるんだった」
 それを聞いた狩矢は呆れたような表情をする。
「……またか。何でアンタは十二歳の女の子をそんなにコキ使ってるんだよ。で、今日は何本だ?」
 狩矢に問われた流生は、初対面の藤村でも分かるくらい不恰好にもじもじしだした。
 それから狩矢から視線を外して、呟くように答えた。
「……七」
「2リットルを七本も!?いつかあの子腕骨折するんじゃね!?」
「うるせぇよ!アイツの教育でお前にガタガタ言われる筋合いはねぇ!」
 二人は藤村が居る事も忘れ、いつも通りと思われる言い合いを繰り広げていた。
 その光景は、小さい頃からずっと一緒に居る幼馴染のようにも見えるし、付き合って数年経った恋人同士のようにも見えるし、長年よく連れ添った夫婦のようにも見えた。
 ところが、二人の言い合いは止むどころかどんどん熾烈を極めていった。果てにはただの悪口の応酬だ。
 そんな中、店のドアが開き、元気な女の子の声が、小さな店内に響いた。

「ただい―――ッ」

 その少女の声は最後まで続かなかった。
 少女は袋を持っていた手を離し、その空いた手で自分の口を押さえ顔を赤くしている。幸い落としたペットボトルの飲み物からは中身が溢れなかった。
 少女は背を向けて、しゃがみこんでしまう。
 年齢十二歳程度の、桜色の髪をツインテールにした少女は、潤んだ瞳で流生を見つめている。
「―――、」
「……あー、悪かった。そーいや、最近誰も来ないから……忘れてたわ」
 流生は困ったような表情を浮かべながら、そう言った。
 首を傾げている藤村をよそに、狩矢は手を振りながらその少女へと近づいていく。
「うぃっす!久しぶりだな、桜っち」
「……この子が桜っち?」
 狩矢はああ、と頷いて、少女の頭に手を置いて紹介する。
「この子は桃音(ももね)ミル。ここの従業員なんだぜ」
 名前を聞いて、藤村は固まった。
 ―――『桜』が入ってない。
 苗字が『桜井』でもなく、名前が『桜子』でもなかった。
「名前に『桜』入ってないんかい!じゃあ何でその子のニックネームが『桜っち』なんだよ!」
「だって、髪の毛が桜色だし」
「髪色かよ!!」
 その後十数分間、『桜っち』こと桃音ミルはずっとしゃがみこんで泣いていた。

 その理由を、藤村はまだ知らない。

64月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2012/04/02(月) 10:56:25 HOST:p24060-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
コメント失礼します^^ノ

かなり前まで遡るのですが、幽鬼くんの鷹の美剣に対する熱は凄いですねw 私も是非とも読んでみたいでs((
それにしても、古賀塚ちゃん可愛いです。そして幽鬼くん、ちょっと場所変わろうk((藤村ハーレムの輪は順調に(Σ)広がっていきますなw
何気に思ったのですが、戦場原学園の生徒、ということは古賀塚ちゃんも後々戦闘に加わる可能性もあるのでしょうか……よし、正座して待っておこう((

武器屋の女店主の流生さん……何だか、大物というか、凄く強い人の予感がするのは月峰の気のせいでしょうk((
そして、桜っちことミルちゃん、この場面だけ見てると、夫婦喧嘩に居合わせて泣いている子供にも見えr((黙

さて、個性的な新キャラも続々登場で、続きが楽しみです!頑張ってください^^

65竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/04/02(月) 11:16:18 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰 夜凪さん>

コメントありがとうございます^^

藤村君の八割くらいは鷹の美剣で構成されています。
彼からあの作品を取るともう何も残らないんじゃないだろうk((
あ……確かに藤村ハーレムが……こうやって見ると神山君が不憫すぎて泣けてきます((
後々は加わると思いますけど、そんなに多くないような……古賀塚ちゃんは癒し担当でs((

あの人は会長以上につかみ所がない人です。会長より難しい時点で終わってるような気が……。
流生さんは……台詞で出せるかどうかは分からないから書きますが、会長に『あの人と戦うのはヤダ』と言わしめる程ですw
桜っちは流生の子供みたいな感じなので、あながち間違ってないですねw
ちなみに次は桜っちがすごく喋る予感が……。

ここまで個性が強くなると藤村君が埋もれそうな気もしますが……。
月峰さんの言葉をいつも励みにしております!期待に沿うよう頑張ります^^

66竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/04/02(月) 11:41:30 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 とりあえず泣き止ませる事に苦戦したが、藤村は桃音を泣き止ませ一人用の椅子に腰を掛けて(何故か知らんが)狩矢を、桃音は睨みつけている。
 その視線を、気にしませんよと言わんばかりに狩矢は流生と話し続けている。
 何で狩矢を睨んでいるんだろう、と藤村は疑問に思いながらも引きつった表情を浮かべながら桃音を見ている。
 すると、藤村の耳ではなく頭に直接言葉が流れてきた。
『何見てるんです?私の顔に何かついてますか?』
「……?」
 藤村は辺りを見回すが、周りにいる人物は誰も自分と話していない。
 狩矢と流生は二人で話しているし、桃音は恨めしそうに狩矢を睨みつけている。女性の声だったのだが、その二人はどちらも自分と話していない。
 首を傾げている藤村に、さっきと同じ声で頭に声が流れる。
『こっちです、こっち。っていうか「何見てるんですか?」と問いかけた筈です。貴方がさっきまで視線に捉えていた人物は誰ですか?』
「……桃音、か?」
 藤村は視線を桃音に向けてそう問いかける。
 桃音は睨みつけるような目から、普通の幼さを感じさせる丸い目をして藤村の方を見る。
『……直接声を出さなくても思うだけでいいんです。私は人前で喋るのが苦手で、生まれつきテレパシーを使えるんです。何故かは分かりませんけどね』
 藤村は思わず口を開きそうになったが、相手の言葉を思い出して、言いたい事を頭の中で再生する。
 たったそれだけの事で、桃音との『会話』が成立するのだ。
『でも、さっき元気な声出してなかった?アレは何だったんだ?』
『……アレは……流生さんだけだと思ってたから……あの人とは普通に話せるんです……』
 桃音は顔を赤くして、目線を僅かに話すとそう呟くように思った。
 流生が『忘れてた』と言っていた事は、桃音が特定の人物としか喋れないという事だったのか。
 話を変えたいのか、桃音は『そういえば』と前置きして、
『ところでお名前は?私の名前だけ知らされたというのがあまり快くないもので』
『ああ、藤村だ。藤村幽鬼。よろしくな、桃音』
 幽鬼さんですか、と桃音は頭で復唱した。
『分かりました覚えておきます。それから、私の事はミルとお呼びください。苗字で呼ばれるのはあまり好きではないですし、何より私も下の名前でお呼びしたいので。こちらだけ下の名前でっていうの、あまり好きじゃないんです』
 口に出さない時だけはよく喋るな、と藤村は思わず口に出してしまった。
『ちなみに、私は狩矢が大嫌いなので、苗字で呼んでます。下の名前で呼ばないでくださいって言ったところ、あんなヘンテコなあだ名つけられました』
 そうなのか、と藤村は苦笑いを浮かべる。
 桃音は首を傾げて、問いかけるように藤村に訊く。
『ところで、貴方はココに何をしに来たんです?戦場原学園の生徒のようですが、初見の顔ですけど』
 そこで、藤村はハッとして、狩矢に叫ぶように言う。
「そういえば、狩矢!何でお前は俺をココに連れてきたんだよ!会わせたい人ってのは流生さんなのか?」
 いきなりの大声に狩矢は驚いたのか、肩をビクっと震わせる。
「何だ、お前。私に会わせる為に彼を連れてきたのか?」
「……まあ……アイツの戦いに足りないモンを見てもらおうと……」
 ふーん、と適当に返事を返して流生は藤村を見る。
「まあ、見ただけじゃそいつの戦闘センスは計れんしな」
 流生は指でついてこい、というジェスチャーをしながら背を向け、奥の扉を開ける。
 そこには、下へと続く階段が下に伸びていた。
「お前を見てやる。ついて来な、幽鬼」

67竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/05/13(日) 11:53:56 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 地下への階段を下りていくとそこにはだだっ広い何もない白い空間が広がっていた。明らかに店の地下だけで収まっていない気がするのだが。
 藤村はこのスケールに圧倒されていると、桃音の言葉が脳に届いた。
『ここは流生さんが用意した簡易修行スペース「ルキルキ・バトルサーキット(仮)」です。壁や天井にはかなり強度が高い素材を使用しているので、そう簡単に壊れる事はありませんよ』
 補足的な説明だった。
 藤村としてもそっちの方が分かりやすいので助かるが、さっきのふざけた名前はどうにかならないものか。しかもサーキットじゃないし。
 流生は首を鳴らして、藤村と向かい合うように、十数メートル離れたところに立つ。
「んじゃ、始めようぜ藤村幽鬼。アンタの力を私に見せてくれ」
「え!? アンタと戦うのかよ!」
 藤村はぎょっとする。
 『見せてくれ』なんて言うから、てっきり誰かとの戦いを傍観するだけだと思っていた。どうやら、彼女は理論派ではなく、実践派の人間なんだろう。
 だが、藤村にはどうしても彼女と戦えない理由が二つあった。
 一つは女である事。
 よっぽどの事がない限り、藤村は女に手を出したりしない、差別的な言い方だが、藤村は女とだけは戦うのが嫌なのだ(例外で篠崎とも戦わないらしい)。
 二つ目は相手が丸腰であること。
 立ち振る舞いは隙がないのだが、どうしても戦わないといけないと言うのならせめて武器は構えていてほしい。だが、今の相手は武器を構えるどころか、むしろこっちから攻撃を仕掛けるのを待ってるような気がする。
「……やりにくいんだが」
「何だお前は。紳士的な事言って私を惚れさせたいのか」
「違うっての。武器も何も持ってない丸腰の女の人と戦えってのが俺のポリシー的にアウトなの」
 流生は溜息をつく。
 流生は手で髪をくしゃくしゃとかきながら、
「面倒だなぁ。私は武器を持たずに戦うってのに。それでも武器持たなきゃいけねーの?」
「無理にとは言わん。が、それならば構えの一つでも取ってくれ。じゃないとやりにくくてしょうがない」
 流生は再び溜息をついた。
 今度は呆れたような、駄々をこねる子供を見ているような溜息だった。
「……知らねーぞ、後悔しても」
 その言葉で流生の雰囲気が変わった。
 流生はズボンに手を当てて、藤村に質問を投げかける。
「お前、戦場原学園の工藤政宗とは戦ったかい?」
「……ああ、一度だけ。ボロ負けしたけどな」
 じゃあダメだな、と流生は呟く。
 藤村はそんな小さな呟きも聞き逃さなかった。
「じゃあダメだよ。お前は私に勝つことが出来ない。だって、私はアイツより強いから」
 流生はズボンを右足の付け根まで片方だけ下ろした。かなりきわどい場所だが、そこには藤村が見逃せないものが刻まれていた。
 青色の降霊紋。
 言葉にしなくても分かる。降霊紋を見て、彼女が『武器を持たない理由』と『余裕を見せる理由』が一気に分かった。
 降霊術者であり、工藤政宗より強い。
 藤村からしたら。工藤政宗に手も足も出なかった藤村からすれば、あの工藤政宗より強い彼女はどれほどの化け物に見えてしまうのだろう。
 流生は青い降霊紋を見せつけながら、口の端に笑みを浮かべ言った。
「出て来い。時間だぜ、水神(みなかみ)」
『……んもー、少し時間をずらそーとは思わないの? このバカ宿主。今はみーちゃんのお昼寝の時間だとゆーのに』
 瞬間、とぼけた声の後に流生の周りに水が渦巻きだした。

68竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/03(日) 14:49:37 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 突如噴き出した水。その水は渦巻きだし、水の中心点からどこかとぼけた女の声が聞こえてきた。
 藤村はこの感覚に似たものを知っている。というか、最近となってかなり似た感覚を身体で覚えているのだ。
 そう、降霊の召喚だ。
 水が消えると、流生の後ろに彼女の降霊だと思われる人物が現れていた。淡い水色の着物を身に纏い、袖はサイズが合っていないのか指先も出ずに、だらんと途中から垂れている。髪は綺麗な紫色の長髪で、その女性を一言であらわすなら「美女」が最適であろう。しかし、彼女の身体は水で出来ているのか、透けていた。
 彼女が流生の降霊。名前は先程、水神と呼んでいた。
 藤村も対抗するべく右手の包帯を何も言わずに解いた。
 すると、焔華が召喚され、彼女は目つきを鋭くして寝ぼけた表情をしているだらしない水神を睨みつける。
『水神。……おい水神。……おい、水神!!』
『ひ、ひゃい!?』
 水神は甲高い声を上げて、ビシッと姿勢を正した。
 焔華の口調はまるで、失敗ばかりでダメな後輩を叱る先輩のようなものだった。降霊の中でも上下関係は存在するのだろうか。どっちが先に霊になったとか。
 眉間にしわを寄せ、明らかに怒っている焔華に水神はのんびりした口調で声を掛けた。
『あ、焔のじゃないかー。お久しぶりー』
『お前は相変わらずだな、水神。というか、先輩をつけろお前は!』
 焔華は怒っている。
 何というか降霊にも色んな性格の奴がいるんだな、と藤村は思う。
 風椿もそれなりにテンションは高かったが、水神は何というか面倒くさい。流生と性格が真逆だ。風椿の時はまだ工藤と性格が似ていたからここまで不自然に思う事はなかったのだろう。
『やだなー、焔のー。あんま細かい事気にすると老けちゃうぞ?』
 ぶちっと何かが切れた音がした。
 その音は明らかに焔華のこめかみからだ。
『……私達は霊だ……老けても問題ないだろう……!』
 怒っている、確実に怒っている。
 焔華の言葉が怒りで震えている。確かに、こんな後輩はかなり腹が立つ。
『そーじゃなくて、せーしん的にだよぅー。おばば焔のー』
『……テメェ』
 焔華の口から初めて『テメェ』という二人称を聞いた。
 相当怒っているな。藤村は背後に冷たい殺気を感じている。だが、その殺気は自分に向けられたものではないだろう。
『そーいや、この前風のが来てたよ』
『風椿が?』
 水神は何の脈絡もなく、話題を変えた。どうせさっきの会話に飽きたのだろう。
 焔華も話題が変えれば殺気を抑え始めた。
『うん。何でも焔の降霊を使う面白い奴がいたんだってー。もしかして、と思ったらやっぱり焔のだったか』
『……だったらどうするつもりだ?』
 うーん、と水神は考え出す。
 しばらく考えた後ににかっと笑って、藤村と焔華の両方という意味で、ビシッと人差し指で指す。
『倒すよ。二人とも』
『やれるものなら、ぜひともやってもらおうか』
 降霊の間だけで話が進み、双方の降霊がそれぞれの宿主の身体に入り込む。
 瞳を青くした流生が首を鳴らしながら、藤村に問いかける。
「さーて、と。何か降霊の間だけで進んじゃったけど……藤村。準備はいいかよ?」
「ああ。とっとと始めようぜ!」
 キッと、赤い瞳の藤村が流生を睨みつける。

69竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/30(土) 22:26:29 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤村幽鬼と那月流生の戦いを、ただ傍観している狩矢と桃音。
 狩矢は腕を組みながら二人を眺めていた。やがた、視線を落として自分の隣で二人を見つめている桃音に話をかける。
「……桜っち。どう思う?」
 桃音から言葉は返ってこない。
 だが、言葉の代わりと言わんばかりに狩矢の脳内に、直接桃音の声が返ってきた。
 彼女お得意の、テレパシーというやつだ。
『……どう思う、とは?』
「だから、桜っちは戦況がどうなると思う? やっぱ、幽鬼があっさり負けちまうか。それとも、それなりに奮闘して負けるか」
 狩矢の質問に、桃音は考え込む。
 柄にもなく、顎に手を添えて。
 どんな質問でもすぐに答えを出せるように、瞬時に複数の回答を割り出す彼女だが、今回の質問では珍しく口を閉ざす時間が長かった。
 やがて、彼女は狩矢と同じように腕を組み、答えを出した。

『……貴方の、選択肢には無いんですね』

 答えにならないような解答。
 その答えに狩矢が首を傾げていると、桃音が補足するように再びテレパシーを使用する。
『……貴方の選択肢には、『藤村幽鬼が勝つ』という選択肢がないのですか?』
 意外だったのか、狩矢は僅かに目を見開いた。
 桃音は続ける。
『私自身も、彼が流生さんに敵うとは思いません。精々いったとしても、半径五メートルに入る程度でしょう。ですが、初めから『負ける』という選択肢しか用意しないのは、納得がいきません。こと戦いにおいては、何が起こるか分からない。力量だけで勝敗が確定してしまうのなら、競馬やギャンブルなど、ただ勝つためのお遊戯に成り下がりますし』
 淡々と話す桃音に、狩矢はかなり驚いていた。
 いつも必要最低限のことしか言わない彼女が、こうも言葉を発するなんて。珍しい事もあるもんだ。
 そう。世の中には、滅多に起こらない珍しいことが起こる事もある。
 例えば、

 ―――藤村幽鬼という焔の降霊術者が、那月流生という水の降霊術者と戦い、勝つという奇跡とか。

(……まあ、無いとは言えないんだよなぁ。だが、)
 桃音がどう言おうと、狩矢は絶対と言って良いほど藤村が流生に勝てないという確信があった。
 
 理由は二つある。
 一つは単に相性の悪さだ。炎と水では小学生でも分かるくらい、水が有利である。炎なんて水をかけてやれば、すぐに鎮火できる。簡単な理由だ。
 もう一つは、那月流生という女の戦闘力だ。
 彼女は一度、現在の戦場原学園の生徒会長を務める工藤政宗と戦ったことがある。
 その際の勝者は那月流生。それだけでなく、戦いの後に『彼女とはもう二度とやりたくない』と工藤に言わしめたほどだ。
 だから、この二つの理由で狩矢は確信を持っていた。

(幽鬼は、流生さんの足元にも及ばないんじゃねぇか?)

『―――始まるみたいです』
 桃音の言葉で、狩矢が視線を二人へと向ける。
 藤村と流生はお互いに突っ込んで、炎と水の拳を激突させた。

70:2012/07/01(日) 13:53:48 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
クソ中二小説死亡wwwwwww
才能無しwwwwwwwwwwww

71玄野計:2012/07/01(日) 14:04:51 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
こうして、>>1は死んだ。重度の中二病が大きな原因で(笑)

72竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/20(金) 21:24:58 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤村と流生の拳が激しくぶつかり合う。
 だが、この競り合いの勝者は言うまでも無い。
 そもそも、相性が悪すぎるのだ。

 炎と水なんて、比べる前に決着は着いているのに。

 勿論、流生の勝利だ。
 後方に勢いよく飛ばされた藤村は、その勢いを殺すことなく背中を壁へと打ちつけた。
「が……!」
「おいおい、軽すぎだろ。もうちょい踏ん張ってくれよ」
『焔のの術者は軽いなー。でも軽いってちょい羨ましい。女子としては軽いって言葉は魅力的に聞こえるのだよー!』
「お前はちょっと黙れんのか」
 水神の言葉に、流生は呆れたように告げる。
 それを聞いた水神はぶー、と頬を膨らませて不機嫌な顔をしている。
「ほら、とっとと起きろ幽鬼。じゃねーと追撃するぜ?」
「……言われなくても!」
 藤村はほとんど立つ時間を有さず、炎を拳に纏い、流生に突っ込んでいく。
 それを見ている狩矢と桃音は驚きの表情をしている。
「あいつ、馬鹿じゃねーのか? 流生さんのカウンターに遭うだけだぞ!?」
『……いえ、私にはとても……』
 桃音はじっと藤村を見つめている。
 とても面白い研究材料を見つけた時のように。

『彼が、無謀をする目には見えませんけど?』

 藤村は流生の顔目掛け拳を放つ。が、やはり狩矢の言うとおりに事は進行した。
 藤村の拳を身体を逸らし流生はかわす。彼女はそのままがら空きになっている藤村の腹に肘をくらわせ、前のめりになる藤村の顎に、すかさず膝を叩き込み、上へと打ち上げる。
「あちゃー! ほら、言わんこっちゃない!」
『……っ! いや、まだです!!』

 桃音の脳の言葉に狩矢が顔を上げる。
 桃音が叫んだため、その声が流生と水神にも届いたのか、桃音を含めた四人は一斉に上へと打ち上げられた藤村へと視線を送る。

「……終わりだと……思ってんじゃねぇよ……!」
 藤村は口の端から血を流しながら、そう搾り出すように告げる。
 彼は右の手の平を広げ、前方に真っ直ぐ広げる。その腕を支えるように、左腕を右腕に添えて、狙いを定めている。
 彼が手の平を向けている先にいる人物は決まっている。
 那月流生だ。
「……まさか!」
『彼の狙いは……!』
 傍観していた狩矢と桃音がはっとしたように、藤村の狙いに感づく。

『うっそでしょー!?』
「残念ながら本当のようだぜ、水神」
 流生は楽しそうな、それでいて焦っているような表情を見せる。
 彼女の頬を、一筋の汗が伝う。
「……カウンターなんざ、最初から分かってんだよ……! まっすぐやっても、勝ち目なんかねぇから、なるべく全面に攻撃できる、上からって手を思い浮かんだのさ!」
 藤村の狙いは、

 上から炎を逆噴射して攻撃する。

 そんな荒業だが、完全に相手の不意を突いた。狙いも定まった。力も十分に溜め込んだ。
「い、っけえええええぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 藤村は右の手の平から、光線のように炎を放射した。
 流生のいた場所は瞬く間に炎に包まれ、修行場所は赤い炎に包まれた。
 この勝負の行方は、狩矢にも、桃音にも、流生にも、水神にも、焔華にも、そして、

 藤村にも分からない。

73竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/03(金) 15:12:09 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 勢いよく炎を下方へと噴射した藤村の身体は、反作用の原理によって宙に浮いたまま上へと上昇し続ける。
 炎を加減していなかったため、天井が迫っている事にも気付かずに、スピードを全く殺すことなく藤村は背中を天井へと打ち付けた。そのことによって、藤村の手から放たれていた炎は治まり、彼の身体はまっ逆さまに急降下していく。
 そんな彼の身体に冷たい鉄が絡みつく。しかし、絡みついた鉄は全く意味を成さずに、ちょっとしたクッションにもならず、藤村の身体は床へと叩きつけられた。
「……ぐぉ……?」
 激痛にごろごろ転がりながら身悶える藤村。だが、彼がもがくたび鎖は複雑に絡まっていく。
 そんな藤村の動きを止めるように、脳に直接劈(つんざ)くような声が響く。

『……う、動かないでくださいっ! 今から鎖解くのでっ!』

 藤村が鎖の伸びている先を目で追うと、桃音の小さく細い腕が鎖の先をがっしりと掴んでいた。
 どうやら、彼女が鎖を伸ばし藤村を引き寄せようとしたのだろうが、少女の弱い腕力では不可能だったらしい。横にいる狩矢は腹を押さえて、堪えるように笑っている。すごく腹が立つ。
 桃音は藤村に駆け寄り、複雑に絡んだ鎖を必死に解いていく。
『……ごめんなさい……。私にもっと腕力があれば……』
「あ……いや、いーよ。気にしなくても。助けてくれようとしてくれたんだし。少なくとも、あそこで爆笑を必死に堪えてる奴よりはマシだ」
 言いながら、藤村は忌々しい目で狩矢を睨みつける。
 狩矢は目に溜まった涙を指でこすると、一足遅くこちらへと歩み寄ってきた。何がそんなに面白かったのか。桃音の救出が空回りした事がそんなにツボだったのか。
「いやぁ……おべっ、おめで、とっ……くふふ……!」
「祝福する気が僅かにでもあるなら笑うな。そんなに面白い事俺もミルもしてねーぞ」
 狩矢が笑いを抑えるために、大きく深呼吸をして、引きつらせた表情をしながら言う。
 彼の視線は、藤村が炎を強引に放ったため真っ赤な爆炎と真っ黒な爆煙に包まれた、流生が立っている場所だ。

「あれさ、流生さん大丈夫かな?」
「あ」

 思わず、と言った調子で藤村の口から間の抜けた声が漏れる。
 藤村もここまでの微調整はしていまい。そもそもあの状況で調整を利かせられるものか、少なくとも藤村の頭脳にそんなスペックを求めてはいけない。
 三人が見つめていると、しばらくして炎と煙の中から聞き覚えのある女性の声が聞こえてくる。
「あー、危ない。ったく、無茶してくれんじゃん。政宗とかだったら死んでたぞ、これ? ……まあ、」
 女性の声は、一度言葉を区切る。
 それから、炎と煙を水で吹き飛ばして、言葉を告げた。

「私じゃなかったらマジで死亡レベルだぞ?」
 彼女は。
 那月流生という女性は、上からの攻撃の一切を防ぐように円盤状の水の盾を構えていた。どんな威力の炎でも、流生の水には勝てなかったのだ。

「……マジかよ……」
 藤村は驚愕と共に、落胆の声を漏らした。
 狩矢と桃音も同じように、目を大きく見開いている。
「今のは思い付きにしてはいい攻撃だったぞ。私もビックリした。その証拠に、ほら!」
 流生は水の盾を生み出していた左腕を藤村に見せた。
 先ほどまでコートの長い袖がついていた左腕には、袖など一切消えており、彼女の左腕には僅かな火傷の跡がついている。
「おめでとう。お前は曲がりなりにも私に傷をつけたってことだ」
 喜んで良いのだろうか。
 彼女が相当強いのは分かった。だが、これじゃ『倒す』にはならない。褒められることではあっても、藤村はどこか納得できずにいた。
「まあ、そんな落ち込むんじゃねーよ。政宗も最初はこんなんだったぜ? 誇ってもいいんだよ、お前は」
「流生さーん。結局のところ、こいつに足りないものって分かった?」
 狩矢の言葉に流生が思い出したように考え始める。
「……武器とかは不必要だな。幽鬼の場合は持ってたら邪魔になりそうだし。強いて言うなら、戦い方が滅茶苦茶だからなー」
 そう聞いた藤村は、頭を下げて床に手をついた。
 相手に願いをこうような、土下座よりももっと確固たる意志があるものだ。
 その光景を見た流生は急に慌てだし、その体勢をやめさせるように促すが、藤村は言葉を紡ぐ。

「……頼む! 俺を、鍛えてくれ……!」
「はァ?」

74竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/03(金) 23:56:09 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「頼む、俺を鍛えてくれ!」
「はァ?」
 いきなり土下座のような体勢で頼み込む藤村に、流生は大慌てだ。
 そもそも脳の許容量がそんなに大きくない彼女にとっては、今この状況はとてつもなく頭を狂わせる。
 流生は何をどうすればいいのか分からず、とりあえず状況を把握しようと努める。
 
 え、えーと……。とりあえず幽鬼は私に負けた? で、いいんだよな、うん。それで、戦い方がどーのこーの言った後にこうなって……そもそも何で私に修行を頼んでんだ?
 
 流生はもう限界だ。
 狩矢も桃音もそう判断し、桃音がテレパシーを使い彼女を落ち着かせる。
『流生さん、落ち着いて。とりあえず一緒に状況を一個ずつ理解していこう』
「……お、おう……」
 桃音のテレパシーにより、流生は落ち着きを取り戻し、藤村に顔を上げるように促す。

「で、何でお前は私に、その……修行を頼んだんだ? 他に頼める奴なんていくらでも―――」
「いや。アンタしかいないんだ」
 妙に力が篭っている藤村の瞳に、流生は妙に期待を持つ。
 彼女は、藤村の言葉を黙って聞くように、彼の次の言葉を待っている。
「……工藤会長をハッキリと『自分より弱い』って言うアンタには笑われるかもしれないけど……俺の今の目標は工藤会長なんだ! あの人を超えるために、俺はアンタの指導を受けたい! 一週間に一日でもいい! 一時間だけでもいい! ダメか?」
 藤村の声に力が篭っている。
 彼の言葉に、流生は笑みをこぼした。
「くっくっ……、政宗が目標ねぇ。こりゃ大きく出たもんだ」
 流生は知っている。
 今戦場原学園で工藤政宗が学園最強を意味する『生徒会長』になっていること。それが大きな原因で彼が多くの生徒に尊敬されている事。そして、かつて自分が到達できなかった席に今彼が座っていること。

「いいだろう、お前のその心意気勝ってやるよ! 一日とか一時間とか、小さいこと言わずに毎日でも来いよ」
「……ありがとうございます!」
 流生の言葉に藤村はすごく嬉しそうな表情をする。

 藤村は視線を狩矢に移す。
「狩矢。お前に頼みがある」
 藤村の言葉に狩矢は首を傾げる。
「霧野と篠崎の修行、お前が付き合ってやってくれ。俺よりしっかりとアドバイスできるお前のほうがいいだろうからさ」
 藤村のその言葉に狩矢は嬉しそうな顔をする。
 彼は藤村と強引に肩を組んで、
「そうかそうか! ようやくお前も俺を認めてくれたかぁ!」
 
 藤村幽鬼は今日で大きな目標がもう一つ出来た。
 工藤政宗と那月流生。
 二人の降霊術者を越える、という大きな目標が。

75竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/04(土) 22:21:36 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.10「Student council」

 昼休みを迎えたD組の藤村、霧野、神山は目の前の光景に愕然としていた。
 厳密に言えば、愕然としていたのは神山のみであり、藤村と霧野はそうでもない表情をしているのだが。
「……お、屋上が使えないだとぉー!?」
 三人は屋上の前の扉で立ち止まっている。
 三人は屋上で昼食を摂るのが日常になっており、こういう状況は予想もしていなかった。今から教室に戻っても席を三つ確保できる保証はないし、どうしたもんか、と神山は頭を悩ませている。
 ぶっちゃけ食べられれば何処でもいい派の藤村と霧野は裏庭に行こう、と神山に提案するが、彼は外で食べるのはあまり好ましくないらしい。屋上でも一緒だろうに。
 そんな三人の後ろから、一人の女子が声を掛ける。

「君達、今屋上は使えないわよ」

 三人が一斉に振り返る。
 声を掛けたのは長い黒髪を持った女子だ。だが、声は妙に大人っぽさを感じさせ、顔つきもきりっとした、可愛いというよりも美しい系の女子だ。
「……幽鬼。テメェはまたあんなお姉様系女子と親しくなりやがって……」
「知り合いじゃねぇよ。女子が出てくるたびそう思うのやめような」
 藤村は女子の顔をじっと見る。
「……でも、どっかで見たことあるような……」
 一方で、向こうも藤村の事をじっと見つめている。
 それから、ハッとしたようにして、藤村に近づいていく。藤村と女子の顔が間数センチ程にまで距離が縮まる。
 その光景に神山は絶望したような表情をし、霧野は顔を赤くしている。
「……あの?」
「……、」
 女子は何も言わない。
 ただ、藤村の顔をじっと見つめた後、確認を取るように口を開いた。
「……もしかして、藤村幽鬼くん?」
「な、何で俺の名前を……?」
 女子が藤村の名前を知ってることに、神山と霧野は反応する。
「幽鬼ィ! テメェやっぱお近づきになってたんじゃねぇか!」
「藤村くん! いつの間にそんな美人さんと知り合ったの?」
 どんどん誤解が膨張していく。
 藤村より早く、二人の言葉に女子の方が笑みをこぼす。
「ふふっ、そうじゃないわよ。まあ、確かにこれをつけていないと誰か分からないかもね」
 女子はポケットから布を取り出した。
 それは輪のようになっており、女子は左腕に輪になっている布をスッと通す。布に書かれている文字は『生徒会副会長』。
 そう、学園で二番目に強い生徒がなる事のできる役職を示す腕章を女子は何の躊躇いもなくつけた。
「自己紹介するわね」
 女子は、自身の長い髪を自慢するように手で髪をなびかせるように軽く梳いた。

「戦場原学園三年A組、生徒会副会長職の真田紫(さなだ ゆかり)よ。よろしくね、一年生さん」

 四人は食堂へと赴いた。
 真田が通るだけで生徒達は道を空け、生徒会副会長とそのご一行と分類されてしまう藤村達、計四人分の席はすぐに用意された。
 弁当を広げている藤村、霧野、神山とは対照的に真田は食堂で買った物を食べるらしい。
 だが、メニューがかなり豪快だ。
 ハンバーグ定職にとんかつ定職、あげくどっちもライスは大盛りになっている。
「……よ、よく食べるんですね……」
 霧野が表情を引きつらせる。
 真田は何てことないような口調で、
「これくらい食べないと元気出ないもの。逆に貴方達はよくそれだけで足りるわね」
 そんなに食べるのに何でそんなスタイルがいいんだろう、と霧野は考えてしまう。
 ここで、藤村は真田に疑問を投げかける。
「あの、何で俺の事を知っていたんですか?」
「……ああ、やっぱり気になる?」
 真田は笑みを浮かべながら、ハンバーグを切るために持っていたナイフとフォークを置いた。
 彼女は頬杖を突いて、
「会長から聞いていたの。『面白い一年生がいるって』ね」
 真田は藤村をじっと見つめて、

「私にも教えてほしいなぁ。君のいろんなコト♪」
 妖艶な笑みとともに、言葉を告げられた。

76竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/05(日) 20:37:59 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 真田の言葉に、藤村は顔を顰めた。
 じっとこちらの顔を眺めてくる真田に対し、彼女に対して警戒している藤村は、真田と視線を合わせ問いかけた。
「……何が、知りたいんですか?」
 藤村の問いに真田は薄い笑みを浮かべた。
 よく見なければ笑っているかそうでないか分からないような、そんな本当に薄っすらとした笑み。
 真田はハンバーグを食べやすい大きさに切っていきながら、
「……そりゃあ、決まってるじゃない」
 ぱくっ、と切ったハンバーグを食べて、水で流し込むように飲み込むと、ナフキンで口を拭く。
 一旦落ち着いたのか、彼女は一息吐いて、
「政宗く……工藤会長が君の何に興味を持ったのか、かな」
 
 何故今言い直した!?
 
 今明らかに彼女は『政宗くん』と呼びそうになっていた。だが、途中で『工藤会長』と改めたのは何故だろうか。工藤政宗本人に止められているのか、だが藤村の勝手な予想だが工藤はそんなこと気にしないと思う。
 真田は頬杖をつきながら、藤村を真っ直ぐに見つめている。恐らく回答を待っているのだろう。
 だが、工藤が自分に興味を持っているなんて今知ったし、当然分かるわけもない。
 困っている藤村に助け舟の如く、何処かで聞き覚えのある声が飛んで来た。

「ダメですよ、紫先輩。後輩をそんなにいじめちゃ」

 柔らかい男子の声だ。
 振り返るとそこにいたのは耳が隠れる程度の銀髪少年だ。彼はトレイにどんぶりを乗せて、今まさに座る席を模索している途中だった。
 藤村と神山はその男子に見覚えがあった。
 確か霧野を助ける時に……、
「……あれ? 君どこかで見たような……」
「オイコラ、創一! 一人でさっさと行くんじゃねぇよ!」
 もう一人男の怒号が響く。
 声からして少し離れたところにいるようだが、近くで話されているようなボリュームで聞こえていた。
 人相が悪く、肩より少し長めの白髪をした男がこちらへと近づいてくる。
 二人の左腕には腕章がつけられている。銀髪少年の方は『生徒会会計』。人相の悪い少年の方は『生徒会書記』と書かれてある。
 霧野を助けに行く時にお世話になった二人だ。
「いやぁ、ごめんごめん。紫先輩を見つけたから、挨拶しようと思ったんだ」
「だったら俺も連れて行けよ! 俺も生徒会だろうが!」
 人相の悪い少年の方は、こちらを見ている藤村と神山に気付き、『あー!』と大きな声を上げる。
「テメェら、いつぞやの危篤野郎じゃねぇか!!」
 危篤野郎? と藤村と神山は首を傾げる。何と言うか、ネーミングの無さに愕然とした。
 少年は二人を睨みつけ、
「よくもまァ、生徒会役員の前で大嘘つきやがったな。ふざけやがって」
 そんな少年をなだめるように、銀髪少年が相手の肩に手を置く。
「まあ、やめなって忠勝。そういえば、ちゃんとした自己紹介がまだだったね」
 銀髪少年は仕切り直すように、トレイを藤村の席の隣に置いた。

「僕は二年A組の明智創一(あけち そういち)。生徒会の会計職です」
「……二年A組学年順位三位。那月忠勝だ。生徒会の書記やってる……」

 那月の紹介が終わり、ここで藤村はある事を思い出す。
 流生の苗字。
「あっ! もしかして、流生さんの弟!?」
「……お前、姉貴を知ってるのか?」
 那月の態度が一転、藤村とかなり親しくなり始めた。

77竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/11(土) 15:45:39 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 流生と知り合っていた、と知ったからか、那月の表情に先程までの凶暴さは消え、眉間にしわがあるものの、少し和らいでいる。
 その那月を見て、明智もほっと安堵の息を漏らす。
 藤村幽鬼と那月忠勝。
 なんとも異色の組み合わせだなぁ、と二つ分の定食を平らげ、静かにお茶を飲んでいる真田は心の中でそう呟く

「……そうか、お前も姉貴と同じ降霊術者か……。アイツ、強いだろ」
 那月の言葉に藤村は頷く。
 姉を『アイツ』呼ばわりするのは、ここに本人がいないからか。もしくは普段は嫌っているのか。嫌っているのなら『アイツ』と呼ぶのも納得できなくは無い。
「俺を含めた生徒会メンバーは割りと『ウェポン』で世話になってるんだよ。副会長の武器も、創一の武器も、『ウェポン』で手に入れた」
「ってことは、流生さんは意外と先輩達に協力的なんですね」
 藤村の言葉の後に、明智がすかさず言葉を返す。
「そりゃそうさ。なんたって弟がいるんだからね。協力したいってのが、姉としての本心じゃないのかな」
 ふーん、と藤村は軽く返事を返す。
 姉もいなければ兄もいない藤村にはよく分からないが、流生は困っていれば名前が知らない人でも手を差し伸べてしまいそうだ。現に名前を知った相手の修行の師匠を請け負うくらいだ。器が大きいのか、それとも何も考えてないだけか。あの人は本当に掴みどころがない。
 流生の話をしていたからか、真田は思い出したように口を開く。
「……あっ、そういえば最近流生さんに会ってないわね。無事三年生に進級できましたーって言いに行こうかしら」
「僕も挨拶しようと思ってたところですよ。紫先輩、今日の放課後一緒に行きます?」
 真田の言葉に乗っかるように明智が言う。
 すると、この場にはいない人物の声が、藤村達の耳に届いた。

「じゃあ俺も行こうかな」

 初めて聞いた声じゃない。
 声に心当たりのある藤村と、もしかしてと思う霧野はほぼ同時に振り返った。
 そこにいたのは、この学園の全生徒の頂点に君臨する、生徒会会長の腕章をつけた男、
 工藤政宗だ。
 藤村と霧野の顔が一気に警戒するような表情に変わる。
 工藤はそれを見抜いているのか、笑みを崩さないまま二人を見つめている。その三人の見つめあいに場の空気は緊迫し、神山も那月も明智も言葉を発さなかった。
 そう、真田紫以外は―――。

「敵キャラみたいな登場はやめなさい、政宗くん。皆緊張してるじゃない」
「ああ、紫ちゃん。いたんだ。相変わらず君はよく食べるね。そんだけ食べて太らないのは何かの魔法かい?」
「馬鹿にしてる?」
「滅相もない」

 会長と副会長の会話は日常的なものだが、二人にしか分からないものがあるのだろう、それが分からない藤村達には、二人の『日常』を捉える事が出来ない。
 適当な日常会話を終わらせた工藤は、藤村と霧野の頭に手を乗せる。まるで、自分の子供を自慢するような口調で、真田達生徒会メンバーに話しかけた。
「紹介するよ。この二人がこの前俺が言っていた注目する一年生の藤村幽鬼くんと霧野七瀬さん。……本当はもう一人いるんだけど……今はいないみたいだね」
 工藤が中間試験以降藤村達を注目しているのは知っていた。
 つまり、彼が言う『もう一人』とは恐らく篠崎唯のことだ。
「しかし、君はもう流生さんとも知り合ったか。俺は彼女の一番弟子だから、経験談を言わせてもらうと……あの人、弟子には相当甘いよ」
 参考になるのかならないのか、よく分からない経験談だった。
 まあ確かに、優しそうで厳しそうにない人だから、大体の予想はついていた。
「さーて、俺はちょっと仕事があるから生徒会室に戻るよ。じゃあね、紫ちゃん、創一くん、忠勝くん。また放課後」
 工藤は手を振って去っていく。
 それを見た那月と明智は、次の授業が移動教室だったのを思い出し、二人も食堂から姿を消した。

78竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/11(土) 17:04:45 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「さて、と。そろそろ私も戻ろうかしら。食べ終わったし」
 そう言いながら真田は立ち上がる。
 彼女は立ち上がって、ぐっと目いっぱい伸びをする。そのため、ちらっとおへそが見えたりして、ポーカーフェイスを決め込んでいる藤村と神山は、ちらちらと真田の方を見ている。
 それに気付いている霧野は、心の中で『男って最低』とか思いながら飲み物を啜っている。
 真田が去ろうとしたところへ、

「紫せんぱぁーい!」
 と元気な少女の声が飛び込んできた。
 その声に聞き覚えがない藤村と霧野は、眉をひそめながら『真田先輩を尊敬してやまない生徒だろうか』と適当な予想を立てる。が、神山には妙に聞き覚えがあった。
 真田を呼んだ少女は、一回だけじゃなく二回、三回と真田の事を呼んでいる。聞けば聞くたびにその声の持ち主が神山の頭の中でフラッシュバックする。
 忘れもしない。中間試験、森林園で自分の両脇にて展開された少女と少女のすさまじい口喧嘩を。

「やっぱり先輩でしたか! 食堂で会うなんて奇遇ですね―――ってか、大体先輩って食堂派でしたっけ?」

 神山翔一の苦手な女性第一号、神乃院市(かみのいん いち)。
 生徒会に所属する少女で、一年A組に在籍している。彼女の左腕には生徒会メンバーであることを誇示しているかのように、『生徒会庶務』という腕章をつけている。若干水色がかった銀髪を背中まで伸ばしている美少女、通称『お市ちゃん』は妹のように真田を見つけるとぱぁっと笑みを浮かべていた。
 すると、ふと神山の視線と神乃院の視線が重なる。
 神乃院は神山の顔を見ると、はっと思い出したように、
「おー、神山くんじゃん! 中間試験以来だね、元気してたー?」

 意外と覚えてくれていた。

 理由は明確になっていないが、神山翔一という少年は女性から忘れられる事が多い。なので、久しぶりに会った女子に『久しぶり』と言われるのは、神山としても相当嬉しい。
 神山は勝ち誇った顔をしながら、『今頃幽鬼はお市ちゃんと「あ、どうも初めまして」的な会話をしているに違いない。一歩リードだぜ』などと思いながら、ニヤけた表情のまま藤村の方を振り返ると、
「君が藤村幽鬼くんだよね! 初めまして」
「どうも。って待て。何で俺の名前を知ってるんだよ」
 神山は絶望した。
 恐らく工藤政宗が『一年生の藤村くんがさー』みたいに名前をちらつかせたせいで、神乃院も興味を持ったのだろう。学園最強の座に君臨する男が興味を持つ生徒、ということで彼を上司に持つ神乃院も気になったのだろう。D組の生徒から『あれが藤村くんだよ』などと言われていたため、顔は知っていたらしい。何度か声を掛けようとしたが、中々タイミングが合わず今まで出来なかったらしい。
 そんな事を知らない神山は床に手をつき、絶望のポーズを取っている。そんな光景もう慣れました、な霧野は見て見ぬフリ。いきなり変な体勢をする彼を見慣れていない真田は、お腹の調子でも悪いのかな、などと思っている。
「いやー、ずっと話したかったんだよねー、君とは。大体、クラスが違うから廊下ですれ違うくらいだし、声を掛けようとしても君はいっつも霧野さんと話してるしね」
 霧野の名前も知っていた。
 恐らく、また工藤政宗の仕業だろう。
「そりゃ悪かった。気付かなかったよ」
「気にしないで。実際に声を掛けたわけじゃないし、君は私の顔を知らないんだし、大体気付かなくても不思議じゃないわよ」
 神乃院は笑ってそう返す。
 とても印象が良い娘だ。初対面の藤村と霧野は心底そう思う。
 神乃院はポケットから棒が刺さっている飴を取り出して、口の中に放り込む。
「本当は篠崎唯ちゃんとも話したいんだけど……彼女は今どこ?」
 神乃院は辺りをきょろきょろと見回す。
「ああ、ここにはいねぇよ。多分教室で友達と飯食ってる。あと、」
 藤村は一度言葉を区切って、

「篠崎を表現する時は『彼女』じゃなくて、『彼』が正しいから。アイツ男だよ」
「……ほえ?」

 神乃院は目を点にする。
 そんな彼女の反応を見ながら霧野は『うんうん、分かる。私だって最初女の子だと思ったもん』と腕を組みながら頷いている。
「そーなの!? 私ずっと女の子だと思ってた! えー、男の子なんだ!?」
 さすがに性別の情報までは工藤から聞かされていなかったらしい。
 『唯』なんて名前を聞かされたら男とは思えないだろう。本人曰く『唯一の人物になれ』という意味で名前をつけた、と親から言われたらしい。
 大声を張り上げる神乃院の耳に、一人の女子の言葉が届く。

「あらあら、公の場にて大声を張り上げるとはみっともない。女性としての品格が大きく欠落していますわよ、お市ちゃん」

79竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/11(土) 20:01:31 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 透明感のある、聞いていてとても心地の良い声だった。
 太ももまである長く綺麗な黒髪をなびかせ、口元を扇子で隠しているという、典型的なお嬢様スタイルの少女。
 彼女こそが、中間試験で神山、神乃院と一緒だったチームメイト。
 神山翔一が苦手な女性第二号である、雪路冬姫(ゆきじ ふゆひめ)。
 彼女はこちらへと近づいてくると、真っ直ぐに神乃院を見据えて、
「まったく、場を弁えてほしいものですわ。こんなに大勢の生徒がいらっしゃる中で、貴女は人目もはばからずにきゃーきゃー騒いで。猿か何かですの?」
 雪路の言葉に、神乃院の怒りのパラメーターはマックスポイントを振り切った。
 数値で表すなら、一二〇飛んで一五〇はいっているだろう。言葉で表すなら『超ヤバイ』だ。

「……アンタは、何回言えば分かるのよ! 私を『お市ちゃん』って呼ぶなって言ってるでしょ!」
「あらあら、会長様や副会長様やご友人は良いのに、何故私だけダメなのですか?」
「アンタの言い方は私に対しての嘲笑が混じってる気がするのよ! いや、気がするじゃない、完全に嘲笑が混じってる!」
「あら嫌ですわ。差別の次は被害妄想ですの? 思考があっちこっちに飛んで愉快ですこと」
「あー、腹立つ! 大体、アンタに品格がどうとか言われたくないっての! 自分がどんだけ品格良いと思ってるワケ?」
「決してそんな事は思っておりませんわ。ただ、一般女性としての品格を身につけてほしい、という心遣いですわ」

 ぎゃあぎゃあと女同士の争いが繰り広げられている。
 その丁度間に神山がいるのだが、女性二人は気付いていない。そもそも、雪路に至ってはそこに神山がいることにも気付いていないだろう。
 二人の争いの中心に立っている神山が遂に限界を迎えたのか、彼は『うぎゃー』と叫びながら勢いよく立ち上がる。
「うっせぇよ! 中間試験と同じように俺を挟んで喧嘩すんじゃねぇ! するならせめて場所変えて! 俺を挟まないで!」
 そう言われ神山の存在に気付いたのか、雪路は目を僅かに見開き『あら』と声を漏らし、
「あらあら、神山さんじゃありませんの。お元気でした? そちらの方は、神山さんのご友人ですわね」
 雪路は藤村と霧野の存在にも気付いたのか、二人に笑みを見せながら自己紹介していく。
 二人に紹介が終わると、一転して鋭い目つきをし、神乃院をキッと睨みつける。

「確かに、神山さんの言うとおりですわ。ここでは迷惑がかかりますし、場所を変えましょう、お市ちゃん」
「だ・か・ら! アンタだけは『お市ちゃん』って呼ぶなっつの! この似非お嬢様!」
「ッ! え、似非ですってぇ!? 聞き捨てなりませんわよ、その言葉は! ……け、決闘ですわ! 今日こそ雌雄を決して差し上げます!」
「ハンッ! 大体望むところよ! 私こそアンタに引導を渡してあげるわよ!」
「あらあら。別に無理して難しい言葉を使わなくてもよろしくてよ? 貴女の脳年齢が一〇〇歳を超えてることはわたくし、存じておりますので」
「誰がだこの野郎! 今日こそ徹底的にアンタを叩きのめしてやるわ!」

 二人は罵声と怒号を浴びせあいながら食堂から姿を消していった。いつの間にか、真田紫の姿も消えている。
 去っていく神乃院と雪路を見ながら霧野は、
「……神山くんの友達ってさ、ユニークだよね」
「……友達じゃねぇ、知り合いだ……!」
 二人のせいで体力が大幅に削られたのか、神山にしては珍しく気の抜けた返事だった。

 そして、今日のことは藤村達の今後に大きく関わっていく事になる。
 生徒会長の工藤政宗、副会長の真田紫、会計の明智創一、書記の那月忠勝、庶務の神乃院市。戦場原学園の生徒会メンバー五人に、一日で会えるなんて早々無い事だろう。
 そして、藤村も霧野も神山も同じく感じていることがあった。
 生徒会の面々との関わりが、これから巻き起こる事件に自分達も関わっていく事になることを。

 ―――三人は知っていながらも続く日常の中、その『事件』に遠くない未来巻き込まれていく事になる。


 ―――To be next stage...enemies,Tsurugihama high school.

80竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/11(土) 20:42:35 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
 〜あとがき〜

 みなさんどうも、竜野翔太でございます。
 今回は中間試験後の話を、四章にわたって書かせてもらいました。

 実はこの作品は長編の後に息抜きとなるような短編を挟んでおります。
 ずっとバトルとか続くと疲れるでしょうし。読む側も、僕としても((
 古賀塚亜衣乃と出会って、流生さんと戦って、生徒会の面子と知り合って、という相変わらず藤村達は大変ですね。
 本編の時間軸は大体六月の上旬くらいですかね……わぁ、スローペース。
 次からはまた長編書きます。ああ、手首の心配をしなけれb((

 さてさて、ここで余談に入ります。
 実は生徒会メンバーの五人の名前には、ある共通点がございます。
 歴史好きな人は気付くかもしれない、名前か苗字に戦国時代の人物の名前が入ってます。
 工藤政宗→伊達政宗 真田紫→真田幸村みたいな感じです。
 もし良かったら那月、明智、お市ちゃんも調べてみてください。創一の場合は既に苗字が((

 実は今回が初登場? みたいな感じを出していた生徒会メンバーでしたが、意外と先に出てるんですよ。
 最初から読み返していただけると、全員見つけ出せるはずです。中でも那月と明智は出番が一瞬だけでしたが。
 藤村達も、どこかしこで生徒会メンバーと会っているわけですね。 

 さてさて、次回はいよいよ新キャラが登場します。
 藤村達のクラスメート。
 そして、彼女と生徒会が協力して解決する事件に藤村達も参加します。

 それでは、次回の更新を楽しみにしていてくださいね。


 昼食いっぱい食べてた真田紫。実は一日六食くらい食べます

81ゆり/恭弥/臨也/凛々蝶/キエラ/アル/久賀見虎斬/九条涙/波 ◆u7pJ1aUXto:2012/08/12(日) 13:52:15 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.11「事件発生」

 一人の少女は、自分が通う学校である戦場原学園の門の前に立っていた。
 さすがに一時間目も丁度終わった時間なので、この辺りを通る生徒はいない。中には門の前を通り過ぎる人も何人かいるが、今日は平日だ。会社員は既に仕事場に行っているだろうし、主婦達も昼ごはんの買出しに行くには少々早いだろう。そのため、通るといっても片手の指だけで足りる程度だ。
 少女は学校の門の前で立ったまま、軽く息を吐いた。
 ―――うるさいのは嫌いだ。
 だからこそ彼女は、今までまともに学校にも行かなかった。行ったのは最初の一ヶ月程度。クラスメートの顔も名前も誰一人覚えていない。そもそも関わるつもりも無いから、彼女にとっては取るに足らないものだのだが。そんな今まで不登校だった彼女が学校に来たのは、勿論といえば勿論、事件が起きたからだ。
 彼女は今まで止まっていた足を前に動かし、自分が在籍するクラスの教室に歩いていった。
 一年D組に。

「ねぇ、藤村くん」
 霧野は唐突に藤村に声を掛けた。
 声を掛けられた藤村は、なにやら本を読んでいる。読んでいる物は『鷹の美剣(たかのみつるぎ)』。ここ最近色々なことがあったため、最新の十一巻(古賀塚の直筆サイン入り)をまだ読みきれてなかったのだ。
 藤村は顔を上げて、霧野の言葉に『何だよ』と返す。
「このクラスって席一つ空いてるよね? 病気の人とかいるの?」
 霧野が指差した席は、窓側の一番前の席。
 確かに今も空席で、転校生の霧野は未だにその席に誰かが座っているのを見たことが無い。急な病気で登校できなくなったのか、もしくは退学したのか。霧野は一人であれこれ考えていたが答えは出なかったらしい。知らないのだから、それが当たり前だが。
 すると、藤村の背後から一人の少年が近寄ってきた。
「あー、あの不登校娘な」
 声の人物は勿論、神山翔一だ。
 彼も片手に『ゴスロリメイド・みーたん』の八巻を持っている。彼は藤村が流生と戦ったりしている間に暇だったらしく、既に読み終わっていて、かれこれ五回は読んでいるらしい。
 神山の言葉に、霧野は首を傾げる。
「……不登校娘? 女子だったの?」
 霧野が知らないのも無理は無い。そもそも、一ヶ月ほどしか登校していなかったから、藤村と神山でも話したことはないし、顔もぼんやりとしか覚えていない。声に至っては全然知らない。
 神山は例の『不登校娘』の説明を始める。

「一ヶ月ほどしか登校してないから俺もよく分かんないんだけど……うちの学校の風紀委員。アレは厳正な入隊試験の結果、合格した者だけ入れるんだけど、不登校娘は試験ナシで入ったんだと。なんでも風紀委員長直々にスカウトしたらしくてな。試験結果の発表は三週間くらいかかるから、一ヶ月で入隊が決まったなんて異例中の異例だとよ」

 よく分からない、という割にはかなり詳しく説明をした。
 そこで霧野は『そこまで優秀なら、何で不登校になったんだろう?』という疑問を抱く。そこまで順調に進めていれば苦労も少ないだろうし、学校生活も楽しいと思う。あくまで霧野の主観だが、もし霧野が彼女の立場だったら、廊下をふんぞり返って歩いていると思う。
「……その子の名前は?」
「……あー、何だっけ?」
 霧野の言葉に藤村が言葉を詰まらせ、神山の方へと視線を向ける。
 神山はふふん、と得意げな顔をして名前を言おうとした瞬間、

 バン、と大きな音と共に教室の扉が勢いよく開け放たれた。
 扉を開けたのは女子だ。黒い短髪に、ずっと視線を合わせていたら射抜かれてしまいそうなほどの鋭い目つき。女子にしては背が高めで、恐らく一六〇後半はあるだろう。身体つきは華奢でスレンダーな体型の目つきだけが悪い美女だ。

 彼女を見た瞬間、神山は藤村と霧野にしか聞こえないくらい小さな声で呟く。
「……噂をすれば、だな。折宮明日香(おりみや あすか)。不登校娘のお出ましだ」
 休み時間なので、席は半分ほど空席になっている。自分が来ない間に席替えをしただろう、自分の席だった場所には別の生徒が座っている。折宮は扉の近くにいた女子生徒を睨みつけ、
「オイ、私の席は何処だ」
 荒々しい口調で問いかける。
 女子生徒は怯えたような反応を見せ、『窓側の一番前』と短く応えた。
 折宮は礼すらもせずに、自分の席へと歩いていき、頬杖をつきながら窓の外の景色に目をやっている。
「あれが、戦場原学園風紀委員所属。通称『風紀委員の異端児』、折宮明日香だ」
 藤村、霧野、神山の三人は彼女をしばらく見ていた。
 神山が藤村に『放課後ゲーセン行こうぜ』などと言っている間も、霧野は折宮から目を離さなかった。
 そして一瞬だけ―――、

 霧野七瀬と折宮明日香の視線が重なった。

82竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/12(日) 14:19:03 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 放課後、藤村と神山は霧野と別れてゲーセンへと向かった。
 生憎とゲームセンスが壊滅的な霧野は、行ってもお金を浪費するだけで、買いたい物があるから今は無理、と霧野からも断られた。
 霧野が学校に来て以来、二人で遊ぶ時間が極端に減っていた藤村と神山。神山は久々に藤村と遊べるとのことで、テンションが結構上がっていた。
「いやー、ひっさし振りだな! お前とゲーセン行くなんざ」
「霧野が来てからほとんど来なかったからな。お前としては、女友達が出来て嬉しいんだろうけど」
 その言葉に神山が反応する。
 一番嬉しいのはお前だろうに、といった感じで。
「お前だって嬉しいだろ。憧れの黒髪美少女と一つ屋根の下で生活……どこまでいったの?」
 神山の言葉に藤村は黙り込む。
 彼は静かに無表情のまま、自分の右手の包帯を解き始める。
 
 炎の化身、焔華が姿を現した。

「よし、焔華。焼こうぜ」
『おいおい、幽鬼。人肉ほど不味い肉は無いぞ?』
「わー、タンマタンマ! 冗談ですっ! 今のは軽いジョークじゃないですか!」
 神山がそう誤魔化すと、藤村は右手に包帯を巻き始める。
 分かればよい、と行って藤村はゲーセンへと足を運んでいった。
 二人は行きつけのゲーセンへと入って行く。久しぶりに来ただけあって、僅かに内装に変化が見られたり、新しいゲームや新しい景品が置いてあったりしている。
「ほー。さすがにしばらく来ないと変わってるなー」
「いつまでも同じのばっかじゃ客も飽きるだろ。こういうのって、しょっちゅう来るより久々に来た方が新鮮味あるかもな」
 二人はしばらく店内を歩き回る事にした。
 すると、前方で見覚えのある黒髪ロングと銀髪少年がUFOキャッチャーに夢中になっているのを目撃した。いや、目撃してしまった。
 先輩風の黒髪ロングの女子は『そこよ! ああ、ちょっと行き過ぎた!』などと言い、後輩風の銀髪少年は、先輩の欲しい物を取ろうと必死にプレイしている。
 そんな二人を後ろから眺めている藤村は、隣にいる神山に問いかける。

「なあ、翔一。あの二人ってさ、俺らの知り合いじゃね?」
「気のせい気のせい」
「……多分、この前食堂で会ったよな?」
「気のせい気のせい」

 そんな事を言っている二人の前で、景品をゲットできたのか、黒髪先輩と銀髪後輩は歓喜の声を上げた。
 黒髪先輩が、手に入れた景品(大きめのぬいぐるみ)を抱きしめ、幸せそうな顔で藤村と神山の方へと振り向く。
 藤村の予感は的中していた。
 食堂で会った時には見たこともないような、可愛らしい笑みを浮かべた真田紫が前方にいた。

「「あ」」

 藤村と真田はほぼ同時に声を上げ、真田は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にする。
 珍しく呂律が回らない口調で彼女は、必死に言葉を紡ぐ。
「……あ、ああ……あな、貴方達、なな、何で……」
「やあ、藤村くんと神山くんだっけ?」
 銀髪後輩、改め明智創一は何食わぬ顔で二人の存在に気付くと、ニッコリと笑みを浮かべた。
 藤村と神山は二人に近づいていくと、呆れた表情で口を開いた。
「生徒会の副会長と会計が何やってるんですか? 生徒会業務はサボったんですか?」
「いいや、サボりじゃないよ。これは―――」

「調査だよ」

 ふと、背後から声が聞こえた。
 聞き覚えのある男性の声。声の持ち主はゆっくりとこちらに近づいてきていた。
 生徒会会長工藤政宗。彼の両脇には書記の那月忠勝と庶務の神乃院市までもいる。
「ゲーセンを見回る、という役目なんだけど……紫ちゃん。遊んでいいって言った覚えはなけど? 欲しいなら事件が終わってからにしようよ」
 言われた真田は顔を赤くして、反論を開始する。
「し、仕方ないでしょ! 事件が解決した頃には終わってるかもしれないじゃない!」
 事件? と藤村と神山の二人は首を傾げる。
 ここらで起きた事件だろうか、藤村にも情報通の神山にも覚えはない。この場に居合わせたことで、工藤も二人に説明せざるを得ない状況になってしまった。
 彼は溜息をつきながら、
「まあ、被害者が君らじゃなくて良かったよ。今から言う事は、せめて話すなら霧野さんと篠崎さんだけにしておいてくれ」
 なにやら深刻な話らしい。
 工藤の真剣な表情からそれが見て取れるし、一緒にいる那月の表情もいつにもまして怖い。というか殺気立っている。
 じゃあ説明して、と工藤は神乃院に説明を促す。
 神乃院は咳払いをして、

「一回しか言わないからよく聞いて。この近辺で、最近戦場原学園の生徒が立て続けに襲われてるの」

83竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/12(日) 14:20:10 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
 >>81は別の掲示板の名前を使ってしまいました。
 作品に影響はないので、ご心配なく!

 >>ALL

84ゆり/恭弥/臨也/凛々蝶/キエラ/アル/久賀見虎斬/九条涙/波 ◆u7pJ1aUXto:2012/08/12(日) 16:59:43 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 霧野七瀬は一人で寮への帰り道を歩いていた。
 ゲーセンに行っても、ゲームセンスが壊滅的な自分は楽しめずにお金が消えていくだけなので、一人で先に寮に戻ることにしたのだ。本当は篠崎と一緒に帰れればなぁ、と思いC組の教室を覗くと、教室に残っていた生徒が『唯ちゃんならもう帰ったよー』と言ったので、今現在の霧野は一人ぼっちだ。
 男の子って本当にゲームとか好きだなー、などと頭の中で適当に思っている。確か前にも一人で帰っている状況があったような。藤村と神山がライトノベルの新刊を買いに行った時だ。厳密に言えばあの時は篠崎と一緒だったのだが、寮に戻っても一人だったので、結局のところ状況は同じだ。
 最近自分って置いて行かれてる? などと不審がる霧野だったが、ハッと彼女の頭に良いアイデア、もとい自分の重要さを気付かせる方法を思いついた。
(そーだ! 折角だから、今日は早く帰って藤村くんのために晩ご飯を作ってあげよう! 藤村くんにはお世話になりっぱなしだし、私からも何かお礼をしたいし。どうせなら、神山くんや篠崎さんも呼んでみようかな?)
 霧野が秘密のディナーパーティーの事を妄想していると反対側の通路に、

 壁に背中を預け、携帯電話で誰かと会話している折宮明日香が視界に入った。

 彼女はこちらには気付いておらず、電話の応対に集中しているようだ。何故かは分からないが初めて見た時から、『彼女とは友達になれそうな気がする』と思っていた霧野は、折宮のいる反対側の道路に移り、気付かれないように彼女に近づいていった。
 そんな霧野に気付かず、折宮は電話の応対を慣れた様子で行っている。
「……ああ、心配はいらない。私をスカウトしたのはアンタだろ? ちょっとは私を信用しろっての。必要な時には応援の要請をするからさ。ああ? 生徒会との連携? そんなもん必要ないさ。私だけでいける。じゃあな」
 折宮は携帯電話を折りたたみ、スカートのポケットの中にしまいこんだ。
 こんな時に面倒くさいこと起こしやがって、と苛立つ彼女だったが、風紀委員である以上厄介ごとに巻き込まれるのは仕方のない事だ。頭では分かっていても、身体が微妙に拒絶反応を起こす。その不快感で苛立ちが増幅するが、とりあえずは仕事に集中だ、と思考を切り替える。
 彼女が足元に置いておいた学生鞄を担ぐように持ち上げ、目的地に向かおうとしたところに、

「折宮さん!」
 唐突に後ろから掛けられた、聞き覚えの全くない女子の声。振り返るとそこにいたのは黒い髪をポニーテールにした同じ学校の制服を着た、霧野七瀬だった。

 折宮は彼女の事を毛ほども知らない。
 そもそも、彼女が転校してきたのは折宮が学校に登校していない期間で、今日だって一瞬視線が合った程度だ。折宮としては霧野の事を全然気にしていないし、『クラスメートにこんな子がいるの知ってる?』と聞かれて顔を出されても、恐らく首を傾げ、数秒程度で『知らない』と返すだろう。
 そんな事を知りもしない霧野は、笑顔で折宮に声を掛けていた。
 やはり、自分はこいつを知らない。だからこそ、折宮は言葉を紡ぐ。
「……アンタ誰だ」
「霧野七瀬。貴女と同じ一年D組だよ。貴女が来ないうちに転校してきたの! よろしくね」
 笑顔で霧野は答える。
 今まで接してきた事のないタイプだ、と折宮は溜息をつく。
 霧野は笑顔のまま、
「さっきは誰と電話してたの?」
「アンタには関係ないだろ」
「友達? ……にしては、結構深刻っぽかったよね。『生徒会との連携』だとか聞こえたし……風紀委員長さん?」

 霧野は時として、鋭い勘を発揮する事がある。
 それもごく稀にだが、篠崎が男であることも彼女が一番最初に気付いていた。先程の折宮の電話相手も彼女の言うとおり風紀委員長で、これまた彼女は直感で見抜いていた。

「何でお前は私が風紀委員だってことを……、まあいい。電話相手が委員長だろうと誰だろうと、お前が関わることじゃない。厄介な事件だしな」
「厄介ごと、なの?」
「ああ。関わりたくないだろ?」
 こう言えば相手も引くだろう、と思い折宮は彼女に告げる。
 だが、霧野は綺麗なほど見事に、折宮の予想を裏切った。
「じゃあ、話して! その事件、私にも関わらせてほしいの!」
「はぁ? 何で?」
「私、誰かの役に立ちたい! だから、その事件を私にも手伝わせて!」
 霧野は折宮の手を掴み、そう懇願しだす。
 自分のペースを乱されまくった折宮は、面倒そうな表情をして、
「あー、もう分かったよ! 分かったから手を離せ! あんま他言するなよ?」
 霧野は自ら風紀委員の任された厄介ごとに、
 藤村と神山は望まないまま厄介ごとに、

 巻き込まれていくことになった。

85竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/12(日) 18:54:44 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 折宮は再び壁に背中を預け、腕を組みながら説明を開始する。
 彼女の表情には言わずもがな真剣さが見て取れる。どうやら、電話の応対で何となく分かっていたことだが、相当深刻な問題のようだ。
 霧野がどんな事件なんだろう、と身構えていると、
「お前、私がいない間に転校したって言ったよな。ってことは、ここの地理にはあんま詳しくないだろ?」
 霧野は折宮の言葉に意表を疲れ、肩の力が抜けてしまう。
 本題にはまだ入らないようだ。それほどまでに自分は信頼されていないのか、と心配になるが、折宮の言っていることは合っているので一応軽く頷いた。
 すると、折宮は同じ声のトーンと口調で言葉を続ける。
「……じゃあお前、戦場原学園の近くにゲームセンターがあるのを知ってるか?」
 何度も言うが、霧野はゲームセンターで良い思い出はない。
 もしかしたら、その近場にあるゲームセンターが、丁度今頃藤村と神山が立ち寄っているゲームセンターであろうか、と霧野は顎に手を添え考える。折宮は『分からないんならいいんだが』と言っているが、藤村と神山が行ったところだろう、と根拠のない確信を持って『知ってる』と答える。
 それを聞いた折宮の目つきと声色が急に豹変した。
 さっきまでまだ穏やかな方だった目つきは射抜くほどに鋭く、声色は僅かに低い状態になり、言葉を紡いでゆく。
 折宮の言葉は一言だった。

「あそこには近づくな」

 霧野が『え?』と言う前に、折宮がすぐに言葉を続ける。
「……つい、一週間くらい前からか。そこのゲームセンター近辺で、戦場原学園の生徒が無差別に襲われているんだ」
 瞬間、霧野の表情が凍りつく。

「無差別に生徒が襲われてる?」
 同時刻、神山と同じく例のゲームセンターにいる藤村は神乃院の言葉に、思わず声を荒げてしまう。
 幸いゲームセンター内なので音が大きく、藤村の声はほとんど他の客の耳に届いていなかったようだが、神乃院が口の前に人差し指を立て、静かにするようにジェスチャーを送る。
 藤村は落ち着きを取り戻し、説明を続ける神乃院の言葉に集中する。
「学年、クラス、性別は……まあ来るのが大抵男子だから圧倒的に被害は男子が多いんだけど、学年とクラスにも何の共通点も見つからないし、個人同士でも共通点が見つからないの。一緒に来店した人でもない限りはね」
 まさに無差別だな、と神山は呟く。
 神乃院の説明を補足するように、今までしかめっ面で辺りに気を配っていた那月が口を開く。
「狙われてるのは戦場原学園の生徒が主だ。他の学校もやられてるらしいが……うちに比べれば被害はほとんどねぇ。他校を含めての無差別だ」
 言い終わると、那月は再び殺気を辺りに撒き散らす。そのお陰か、藤村達のいるところを中進とした半径五メートルくらいには誰も近寄ってこなかった。
 さすがは流生さんの弟、とも思うが、逆に彼女は大っぴらにして何も警戒しないと思う。
「被害が主にうちだから、犯人は戦場原学園に挑戦状を叩きつけてきたとみて間違いはないわ。何にしても、君達が被害に遭う前に私達と合流できて良かった」
 真田は明智に取ってもらった大きいぬいぐるみを抱えながら親権に言う。
 抱きかかえている可愛らしいぬいぐるみが真剣さを削いでいるが、そこは特にツッコまないでおこう。
 工藤は踵を返し、背中を藤村達に向ける。
「俺達はそろそろ戻るよ。近々ここら辺を戦場原学園の生徒は立ち入り禁止にするから、君らも今日は急いで帰った方がいい」
 あ、そうそう、と工藤が思い出したように声を出し、
「出来れば、明日の放課後。生徒会室においでよ。訳と事情を話して、霧野さんと篠崎さんも連れてね」
 そう言い残せば、工藤は那月と神乃院とともに、巡回に戻って行った。一方の真田と明智は次なる景品ゲットを狙っているようで、他のクレーンゲームを見回っている。
 工藤の言いつけを守ろうと、藤村と神山は早々にゲームセンターから外へ出る。
 
 巻き込まれたな、と藤村は上を仰いで呟くが、その呟きは空に溶けていった。

86竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/12(日) 22:01:27 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤村は自分の寮の扉の前に立っていた。
 今日帰る時に工藤から言われた事を忘れてはいない。とりあえず、帰ってから霧野には今日生徒会の面々から聞いた話を説明し、明日の放課後生徒会室に行くように言うだけだ。篠崎にも説明しないといけないのだが、篠崎への連絡は申し訳ないが電話で済まそうと思う。
 ドアノブに手をやり、藤村はゆっくりと扉を開いた。
「……ただいま」
 いつになくテンションの低い挨拶をする。
 リビングに入ると、心配そうな目で霧野がこちらを見ていた。彼女の表情に面食らっていると彼女は藤村に抱きつき、目にはいっぱいの涙を溜めていた。そんなに一人にさせたことが悪かったのか、と藤村は罪悪感に苛まれる。
 しかし、霧野の口からは藤村の予想とは大幅に違ったものだった。
「……おかえり、藤村くん……。なんとも、ない……?」
 泣き出しそうな、搾り出すような声で霧野は藤村に問いかけた。
 どういう意味か分からない。藤村としては、神山とゲームセンターに行っただけで、そこで偶然事件の調査をしている生徒会と合い、事件の事を聞いたまでで……。
 そこで、藤村はもしかして、と一つの可能性を探り始める。

「霧野。お前、ゲーセン近辺での事件のこと……知ってるのか?」
「……うん。帰る途中に折宮さんに合って、そういう事件が起こってるって言うから心配で……」
 
 まさか、自分達が生徒会から話を聞いている間に、霧野は『あの』折宮から事件のことを聞きだしていたとは。折宮はそういうのは他言しそうにないのに、よく言ったなと藤村は思う。だが、彼女のことだ。藤村は折宮の事をほとんど知らないが、あまり言いふらさないように霧野に釘を打っているに違いない。そこは安心できる。
 霧野は、とうとう目から大粒の涙を流してしまった。藤村の無事が確認できて安心したのか。安堵共に流れた涙だ。
 藤村は霧野の涙を指で拭ってやり、彼女の頭を軽く撫でる。
「心配するな。俺も翔一も無事だし、事件のことは偶然巡回していた生徒会の人から聞いた。これじゃ、説明しなくてもいいな」
 え? と霧野は間の抜けた声を出してしまう。
 藤村は鞄を適当な場所に置き、床に座り込んで言う。
「明日の放課後。生徒会室に集合。どうも生徒会や風紀委員だけじゃ、捜査も難航しそうだぜ」

 夜になると、藤村は霧野に気付かれないように部屋を出て、篠崎へと電話を掛ける。
 二、三回コール音が鳴ると、聞き覚えのある女の子らしい声が耳に届く。
『……ふぁい、もしもし?』
「悪い、篠崎。寝てる途中だったか?」
 彼女の眠たげな声を聞き、藤村は申し訳なさそうに謝罪をする。篠崎は上手く回らない頭を何とか回転し、自分も同居人に気付かれないように部屋を出る。
 それから、いつも通りのしっかりした中で、どこか頼りなさげな声で応対する。
『どうしたんですか? 藤村くんから電話なんて珍しいですね。普段はメールなのに』
「メールで済まそうかとも思ったんだけど、電話の方がいいかなって」
『?』
 藤村の言葉の意味が理解できない篠崎は首を傾げる。
 それに気付かない藤村は真剣な口調で、篠崎に会話を切り出す。今日聞いた事件についての。
「いいか、篠崎。今から説明することをしっかり聞いてくれ」

 夜の街をつまらなさそうに歩く折宮明日香。彼女の頭を巡っているのは、霧野七瀬のことだった。
 彼女が気になるとか、不快だ、という感想もあながち間違いではないが、それとは似ているが違う感覚が身体の中を駆けずり回っている。
 一言で表すなら、彼女は『不思議』だ。
(何で自分から面倒事に関わろうとするんだよ。私がアイツの立場なら、絶対に関わらないのに……チッ)
 折宮は心の中で舌打ちをする。
 心と同時に実際にも舌打ちをしていたようで、道を歩いていた男性がこちらをちらりと見た。
(……いけ好かねぇ。何なんだよ、アイツは……)
 折宮は心でそう呟き、

「……委員長が言った、『誰かとの繋がりを持て』って……あんな変な奴でもいーのかよ?」

87竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/13(月) 16:00:29 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.12「ミッション開始」

 翌日の放課後。藤村は工藤に言われたとおり、事件のことを知っていた霧野と、電話で事件について説明しておいた篠崎、そして神山とともに生徒会室までやって来た。部屋にはいると、もう既に見慣れてしまった生徒会役員五人と、狩矢と折宮が集まっていた。
 狩矢って生徒会に知り合いがいたのか、と問いかけたくなるところだが、自分に流生を紹介したのは彼だ。生徒会役員も那月の姉という事で知っているため、関わりが全くないと言うわけでもない。
 それともう一人、折宮がいる理由も納得できる。
 霧野が事件の内容を知っていたのは、折宮から事件の話を聞いたからだ。話す前の電話の会話で『生徒会との連携』という単語が聞こえたため、今回の事件は生徒会と風紀委員で済ませるということなのだろうか。折宮が一瞬こちらに視線を向けると、軽く息を吐いて顔を背けた。仲良くなるのは、まだ難しいらしい。
 一応全員が揃ったようで、工藤が口を開く。
「さて、全員集まったね。召集の理由は知っているだろうが、もう一度話しておこうか。じゃあお願い、創一」
 
 お前が説明するんじゃないんかい。
 
 僕ですか、と若干ながら嫌そうな顔をする明智。
 そういえば、ゲームセンターの時も神乃院に説明を任せていたし、この人は自分で説明しないのか。理由を聞けば『え? ヤダよ。だって説明苦手だもん』と言いながら鬱陶しいほど爽やかな笑みを浮かべそうで腹が立つ。今すぐにでも殴ってやりたい。
 嫌そうな顔をするも、一応上司からの命令なので明智はこの場にいる全員に説明を始める。
「皆も知っての通り、戦場原学園の生徒が何者かによって襲われ、その被害は拡大しつつある。今回の件は生徒会並びに風紀委員の間で済ませようとしたのだが―――」
 一度そう区切って明智はチラッと藤村達の方を見た。狩矢にも僅かに視線を向けている。
「強力な仲間が加わった。彼らは生徒会でも風紀委員でもないが、今回の事件の解決に共に尽力してもらおうと思う。……いいね、藤村くん」
 明智は藤村に問いかける。
 自分だけの意志で決めて良いのか迷い、霧野達の方を振り向く。彼女達は全員頷き、狩矢も頷いてくれた。そもそもお前は誰に連れられたんだ?
 藤村が頷くと明智は納得したように笑みを浮かべる。
 だが、
「待て」
 女性の声が割り込む。
 見ると折宮が少し手を挙げながらそう言っていた。彼女は壁に背を預け、腕を組んだまま目を閉じている。寝ていないことだけは分かっていたが。
 彼女は目を開くと、先程まで背を預けていた壁から身体を離す。

「私は反対だ。ここにいる霧野七瀬に事件を話したものの、それは事の危険を知らせるため。事件の解決に協力してもらおうなんて思っていない。それに、アンタ達とも協力するつもりはない。私は私のやり方でやってみせる」

 それを聞いた霧野は不安そうな顔をしていた。
 相手が初めから協力させる気なんてなかった、という言葉自体は気にしてはいないだろう。それ以上に、彼女が一人を望む事に不安を感じているのだと思う。
「折宮さん! 協力しようよ! これは一人じゃ出来ない事だよ!?」
「何と言おうと、私の意志は変わらない。お前も、面倒な事になる前に身を引いておいた方がいい」
「……折宮さん」
 霧野の言葉を、折宮は即座に斬り捨てる。彼女は本当に一人で全てを片付けるつもりだ。
 彼女の発言で一気に場は静まり返った。そんな空気が不快に思ったのか、当の本人である折宮は逃げるように生徒会室から出て行ってしまった。

「やれやれ……、今日はお開きにしようか」
「政宗くん……。いいの? 彼女を放っておいて」
 真田の言葉に工藤が溜息混じりに答える。
「何とかしてみるさ。それが……いや、それも俺の仕事だろう?」
 程なくして、今日の作戦会議は終了した。
 話は全く進まず、ただ事件の内容を大雑把に理解しただけだった。

88竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/17(金) 23:17:31 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 折宮明日香は一年生クラスの廊下を歩いていた。
 規則的な足音。真っ直ぐ立ち、一切の揺らぎも見せない身体。彼女の足が前へ前へ動くたびに、短い髪の毛先が僅かに上下する。
 放課後、という事もあって現在廊下には彼女しかいない。そこで何をしているのかというと、教室内にまだ生徒が残っていないかの確認である。
 と、そこでふと折宮が足を止め、振り返らないまま言う。
「―――気付かないとでも思ったか。コソコソと女の子を追い回すなんてみっともない。生徒会長がするようなマネじゃないんじゃないか?」
 彼女が言うと、廊下の柱の影から工藤がひょこっと顔を出した。
 女子が行うと可愛らしい仕草だが、高校三年生の工藤が行うと……言ってしまえば悪いが、微塵の可愛さも見出せない。
 彼は尾行を看破されると、苦笑いを浮かべながら人差し指で頬をかきながら、
「いやぁ、気付かれるとは思わなかったな。さすがは、風紀委員長自らスカウトした委員だ、とでも言うべきかな?」
「世辞を言うために来たのかよ」
 折宮は目上の工藤に対しても敬語ではない。
 電話で風紀委員長と連絡していた時も敬語じゃなかったし……そういう敬意を払うことにはあまり気にしていないんだろうか。
 工藤は両手をポケットに突っ込んで、

「本題に入ろうか。君は、どうしても俺達と協力してはくれないのかな?」

 折宮の表情が僅かに険しくなる。
 まだ言うか、というニュアンスの目つきで工藤を睨みつけると、
「言ったはずだ。私はアンタ達とは組まないって。私は私のやり方で事件を解決するってな」
 工藤は溜息をつく。
 まるで、そう返してくるのが分かっていたかのような反応だ。
「良いじゃないか。目的は一緒なんだ。一緒にやった方がよりいっそう早く済む」
「生徒会に風紀委員。更には無関係な生徒も巻き込んどいてよく言うぜ」
「無関係な生徒? それを言うなら君も事情を霧野さんに話したんだろ?」
「私が話さなくても、奴に話すように藤村にお前が仕掛けたんだろが」
 どちらの言う事も正論だ。
 工藤は『より早い事件の解決のため、力のある生徒を集める』やり方。一方で折宮は『無関係な生徒を巻き込まないため、どれだけ時間がかかってもいいから、より犠牲の少ない』やり方。二人の意見は真っ向から衝突していた。
 いわば水と油。
 二人の思想が結局交わる事は無い。

「無関係でも力があれば貸してもらう。より早い事件解決になると思うけどなあ」
「私はそうとは思わない。無関係な生徒を巻き込むなんざ、生徒会長のやるべきことじゃねぇ」
 工藤は溜息をつく。
 すると彼は、最大の切り札を使うように両腕を水平に広げた。抵抗さえもしないというように。
「……何のマネだ? 『俺は抵抗しないから、制限時間内に俺を倒したら従う』ってか? いくらなんでも無抵抗な人間を甚振る趣味はないんだが」
「いいや。そうじゃないよ」
 工藤は言葉を区切ると、

「今回の事件が、風紀委員長自ら『結託してほしい』と言われても、君は意地張って一人でやるつもりかな?」

「……何だと?」
 折宮の眉が、僅かに動く。

89竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/19(日) 11:07:52 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 工藤が口にした『風紀委員長』という言葉に、折宮は顔を顰める。
 彼女にとって、『風紀委員長』という存在はとても大きい。折宮は委員長に誘われて風紀委員に入った、というのもあるが、今まで誰もが恐れていた自分の力を、彼女が認めてくれたのが一番嬉しかった。『風紀委員長』は折宮にとって、居場所を作ってくれた恩人なのだ。だから折宮は委員長に忠誠を誓っている。委員長が進む道を必ずついていき、邪魔するような障害を全てなぎ払いサポートする。折宮は委員長に心酔していたのだ。
 だからこそ、目の前にいる工藤政宗の言葉に腹が立つ。
 脅しのつもりか、無理矢理にでも協力させるために、わざわざ委員長の名前まで出しやがって。折宮の思考と目に迷いはなく、腰の裏に挿してあるダガーを、鞘からスッと引き抜き、切っ先を工藤に向ける。
 向けられた工藤は眉一つ動かさず、自分の喉元に突きつけられたダガーの切っ先を眺めている。首に少し当てただけで、スパッと切れてしまいそうな程鋭く尖っている。
 工藤は広げていた両手をポケットに突っ込んで、

「……何のつもりかな、これは? 脅しかい?」
「それはこっちの台詞だぜ。わざわざ委員長の名前まで出しやがって……、それで私が動くとでも思ってやがるのか?」
「俺は別に脅しのつもりじゃないよ。ちゃーんと委員長さんと話してきたし」
「そういう問題じゃねぇよ。言ったろ、私は『一人でする』って。だから……アンタの手は借りないし、必要ない」

 折宮が意地を張って『一人でやる』と言い切っているのには理由がある。
 折宮は『風紀委員長』に忠誠を誓っている。居場所を作ってくれた委員長に恩返しがしたい。そのため、彼女の風紀委員としての行動は全て『委員長への恩返し』なのだ。たとえこの一件が片付いても、彼女の委員長への恩返しは終わらないだろう。きっと、委員長が卒業するまでやり続けるはずだ。
 委員長と話し、その事を知っている工藤は、
「何も一人で背負う事ないんじゃない? 協力することは大事だよ?」
「私はそれが必要ないと言っている! さっきから人の話をちゃんと聞いているのか!?」
「悪いと思わないのか」
 工藤の言葉に折宮は眉をひそめる。
 風紀委員長の命令を無視し、生徒会との協力を拒絶していることをだろうか。そう言われれば、委員長の命令に背くわけにもいかないし。
 折宮が思考を巡らせていると、工藤が言葉を続ける。

「風紀委員長の命令を無視し、さらには……協力してくれる人を思い切り突き放して、君の良心は痛まないのかい?」

 そこで折宮はハッとする。
 霧野七瀬。自分が事件を話さなくても、工藤によって無理矢理協力させられていたであろう人物。
 彼女が自分に話をかけてきた理由なんて分からない。確か『誰かの役に立ちたい』とか言っていたような気がする。
 しかし、折宮はそんな彼女に、

『事件の解決に協力してもらおうなんて思っていない』。
 そんな事を言って、突き放した。その後の霧野の表情はかなり曇っていたような気がする。
 彼女は最後まで、自分と協力して事件を解決する、と思っていたはずなのに。

「俺が言えるのはここまで。気が変わったなら明日の放課後、生徒会室でお待ちしてまーす」
 工藤はそのまま背を向け歩いていた。
 折宮は工藤にダガーを突きつけていたことも忘れていたのか、急いでダガーを鞘にしまう。
 ふぅ、と息を吐き、彼女は窓の外に目をやる。
「……私は、一体どうすればいいんだよ」

90竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/19(日) 13:22:35 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 工藤と折宮が学校の廊下で話していた頃、寮にいた霧野は自分のベッドに腰掛けながら、ずっと暗い表情を浮かべていた。
 恐らく、折宮の言葉が響いたのだろう。自分だけ彼女と友達だ、と勘違いしていたのが急に恥ずかしくなってくる。
 はあ、と霧野が溜息をつくと、

「霧野!」
「は、はうぃっ!?」
 急に名前を呼ばれたので、変な言葉を出してしまった。

 呼んだのはルームメイトの藤村である。
 変な声を出した事に霧野は顔を赤くして、俯きだす。どうやら相当恥ずかしかったらしく、今の霧野をどうしようかと藤村も困っているようだ。
 深呼吸して落ち着いた霧野は、やや遠慮がちな視線で藤村を見ると、
「……何?」
 と聞き返す。
 用がなければ呼ばないだろう、と思い自分を呼んだ理由を訊ねたのだ。
 藤村は呆れたように息を吐きながら、
「……お前、大丈夫か? さっきから五、六回呼んでんのに反応しねーしよ」
「嘘!? そんなに呼んでたの!? ゴメン、全然気付かな―――」
「いや、五、六回は嘘だけどさ」
 嘘かいっ! と霧野は藤村にツッコむ。
 しかし、藤村の表情が心配そうなのは霧野も気付いている。迷惑かけちゃったかな、とあはは、と乾いた笑みを霧野は無理矢理浮かべた。
 霧野は自分の膝においてある手を、軽くきゅっと握り締めると、
「……折宮さんにとってさ、私って……お節介だったのかな?」
「やっぱりそのことで悩んでたのか」
 藤村は霧野が何を思いつめているのか何となく察しがついていたらしく、そう言うと霧野の横に座る。
 隣に座られるとは思っていなかったため、霧野はちょっとだけ顔を赤くして僅かにもじもじしだす。
 その様子に気付かない藤村は、
「……お節介……ねぇ。俺は折宮じゃねぇから分かんねぇし、アイツの気持ちを分かんねぇけど……」
 藤村は言葉を一度区切る。

「少しでも迷惑だ、とか鬱陶しいだとか思ってたら、俺はわざわざ話さないと思うぜ?」

 その言葉に霧野がハッとする。
 確かに自分がしつこく聞いたのもあり、面倒そうな表情もしていたが、本当に面倒で迷惑で鬱陶しいなら事件に関わらせようともしないはずだ。少なくとも、本気で面倒だとは思っていないはず。
 面倒なら『ゲームセンター付近が危ないから近づくな』で済ませられるだろうし。折宮はわざわざ自分が転校してきたばっか、という確認や、地理は詳しくないよな、という確認まで取っていた。心の奥底では、協力してほしいと思っているかもしれない。
「あんまり深く考え込まなくてもいいんじゃねーの? 折宮はちょっとばかし意地っ張りなだけだと思うけどな」
 何かあんまり深く考えてなさそーだし、と藤村は付け加える。
 何故かは分からないが、藤村と話していると落ち着く。
 霧野は隣にいる藤村の横顔を眺め、小さく笑みをこぼした。霧野はそのまま自分の頭を藤村の肩に乗せる。まるで、恋人同士が公園のベンチでやっているような光景だ。
 急に寄りかかられたため、藤村は顔を赤くして、
「な……っ、お前……!」
「藤村くんってなんだかんだで不思議だよね」
「はぁ?」
 霧野の言葉の真意が掴めず、藤村は首を傾げる。
「だって、すぐに悩みを解決してくれるし。それに……」
 霧野が頬を赤く染めながら言う。
「隣にいてくれるだけで、こんなにも安心するもん」
 その言葉に、藤村も悪い気はしなかったのか、身体を動かさないように固定している。
 いつの間にか霧野は寝てしまい、身体のバランスを崩すと、今度は藤村の膝の上に転がり込んできた。

91竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/19(日) 19:04:09 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 翌日の放課後、藤村は神山とともに生徒会室にやって来ていた。霧野も二人と同じD組であるが、彼女はやるべき事があるらしく今は別行動だ。生徒会室には遅れて来るらしい。
 藤村が扉を開けると、部屋の中にいつもの五人はいなかった。その代わりと言えるのか、役員である神乃院と狩矢の二人だけしか集まっていなかった。
 意外な人数の少なさと組み合わせに、藤村はきょとんとする。
「……なんだ、神乃院と狩矢だけか? 工藤会長達は?」
 役員に聞くべきだろう、と藤村が神乃院に訊ねると、彼女は携帯電話を取り出し、何か操作している。
 何か連絡でもされたのだろうか。
「……さあ、よく分かんない。工藤先輩がサボるのは珍しくないけど、紫先輩や明智先輩が何の連絡もないってのが妙なのよ」
 大体貴方は『お市ちゃん』って呼んでいいのよ? と呼び方が引っかかったのか、そんな事を言いながら説明した。
 というかあの会長、しょっちゅうサボるのか。サボり魔が生徒会長で大丈夫だろうか。この学校の行く末が本当に不安になる。来年はまともな人が会長でありますように。
 ふと気になった藤村は、狩矢がここにいる理由を訊ねてみる。
「そーいや、狩矢。何でお前はここにいるんだ?」
「零太って呼べよ。つーか言ってなかったっけ?」
 何をだ、と藤村は問い返す。
 会話を聞いていた神乃院、改めてお市ちゃんが携帯電話をしまいながら口を開く。

「私達、小学校からの友達なのよ。大体言ってなかったっけ? 言ったような気がするんだけど」

 いや、初耳です。
 狩矢がここにいるのも、流生さんと知り合いなのもこれで合点がいった。しかし、この二人が既に知り合いとは。知った今でも、二人の組み合わせは若干違和感がある。
 すると、今度は神乃院が口を開く。
「大体貴方達、霧野さんはどうしたのよ? 一緒のクラスじゃなかったっけ?」
「ああ、七瀬チャンなら明日香チャンと一緒に来るらしいぜ? 『絶対に連れて来るから先行ってて!』って言われた」
 神山が答える。
 その答えに神乃院が『はあ?』と声を上げる。
「折宮明日香を!? アイツ、協力は一切しないとか言ってたじゃない! 大体、今更戻ってこられても迷惑よ!」
 前回折宮が協力を自ら断った件で、神乃院は彼女の事をすっかり嫌いになってしまったようだ。
 何故か神山のせいじゃないのに、神乃院は思い切り彼に怒鳴っている。そんな神乃院の肩に、狩矢が手を置き彼女を落ち着かせる。
 神乃院は思い切り怒鳴っていたため、肩で息をしている。
「ま、まあいいじゃねぇか。協力者が増えるのはいいことだし、無理矢理にでも協力させようぜ」
「……藤村くんが言うなら、別にいいけど……」
 彼女は僅かに息を切らしながらそう言う。
 神乃院の言葉を聞いた狩矢はニヤニヤしながら、
「あれぇ? お市ちゃん、まさか幽鬼のこと……」
「ッ!? ば、ばばばばバッカじゃないのッ? そ、そそ、そんそん、そんなことあるわけないでしょうがッ!!」
 『が』で神乃院は狩矢の顔面に蹴りを決める。
 自分の頭より高い場所にある相手の顔を蹴れるなんて、どんだけ足が上がるんだよ、というのが藤村の感想だ。一方で、強引に足を上げたためスカートが僅かにめくれたため、中のパンツを見れた神山は真顔で鼻血を流している。
 神乃院は気を失った狩矢に、
「私はただ同じ一年生なのに工藤先輩に尊敬されててすごいなあって思っただけ! 特別な感情なんて抱いてないわよ! 大体……私に好きになられても、藤村くんは迷惑でしょ?」
 最初の方は熱くなって大声で叫んでいたが、最後だけは藤村に問いかけたためか、声が小さかった。
 僅かに頬を赤くして、恥じらいながら問いかけてきたため、藤村は僅かにドキッとしてしまう。
 藤村は顔を逸らしながら、
「め、迷惑じゃねーよ……好きになられるってのは嬉しい事だしさ」

 そんな光景を見ていた神山は『何で幽鬼ばっかり!』と泣いていた。

92ねここ ◆WuiwlRRul.:2012/08/19(日) 19:09:29 HOST:EM117-55-68-168.emobile.ad.jp

初めてコメントさせていただきます!
途中まで読ませていただいたのですが霧野さん黒髪とかタイp((
戦闘ものは苦手で苦手でしょうがないので、戦闘もの書ける竜野さんに憧れます…・ω・`
これからも頑張ってください、更新楽しみにしてます^^

93竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/19(日) 19:14:50 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ねここさん>

コメントありがとうございます^^

自分の作品の女性キャラは僕のタイプを僅かに反映させていますw
だからこの作品のキャラの頭髪の黒率が上がるかも……。黒髪っていいですよn((
いやいや、僕もまだまだ未熟ですので。毎回戦闘シーンを書くのに苦心しております((

はい、期待に沿えるよう頑張ります^^

94竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/22(水) 17:28:07 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 しばらくして真田、那月、明智の三人が遅れて生徒会室にやってくる。そんな三人の大物の間に一人だけ、かなり身を縮めている篠崎も混じっていた。
 真田は一仕事終えたのか思い切り身体を伸ばしている。那月もかったるそうに首をぐるりと回し、明智は寝不足なのか欠伸をしている。一体何をしてきたんだ、と藤村は思う。
 その質問を解消するように神乃院は三人に訊ねる。
「……大体三人ともお疲れですけど……一体何をなさってきたんですか?」
 神乃院の問いに対し、真田は軽い口調で答えた。
「んー、アレよ。ウチの被害者にちょっと話をね。……何十人もいて大変だったわ」
 そう言って真田はもう一度伸びをする。
 大変でしたね、と他人事のように流す神乃院に那月が小さな声でつぶやく。
「……本当は庶務の仕事なんだけどな……」
 そう言われると、神乃院はボッと顔を赤くして、わたわたと慌てだす。
「す、すすす……すみませんでした!! いや、その、言い訳じゃないんですけど、大体私知らなくて……ッ!」
「いや、いいよお市ちゃん。僕らが勝手にやったことだから、気にしないで」
 急に慌てる神乃院に明智がそう声を掛ける。明智は僅かに背伸びして、那月の頭にチョップを食らわす。『ぐほっ』と言って那月は困ったような表情をしながらチョップされた部分を押さえている。
 神乃院はうう、と涙目になりながら落ち込んでいる。そんな彼女を隣にいる狩矢が慰めていた。
 一人だけ三人の圧力に恐れていた篠崎はぶるぶる震えながら、藤村の傍まで駆け寄ってくる。
「……うおぅ、大丈夫か篠崎? すげぇ怖かったろ?」
「は、はいぃ……。何だか、生きてる心地がしませんでした……。あの三人に比べて、私ってどれだけ個性がないんだろう……」
 真剣に悩む篠崎だった。
 だが、彼女に個性が無いかと問われるとそれは否だろう。見た目も金髪で可愛い顔立ちだし、そもそもこれで男の子なんだから、それで十分個性だと思う。篠崎でさえ個性がないなら、神山はどうなるんだろう? オタク、という以外に個性が見当たらない。
 そんな神山は自分の個性を探しているのか、自分の身なりをチェックしている。
「……あれ、政宗くんは?」
「さあ……副会長もご存知でないんですか?」
「ご存知でないわよ。あの間抜け馬鹿お調子者会長……何処に行ってるのかしら?」
 普段そんな風に思っていたのか、と藤村達は真田の本音を聞いて苦笑いしていた。
 反論できないのは、自分達も心のどこかでそう思っているからだ。
 そんな時、

「やあやあ、皆待たせたね!」

 例の間抜け馬鹿お調子者会長が元気よく戻ってきた。
 彼が扉を開けっ放しにしているためか、扉の前の光景が僅かに見えている。黒髪のポニーテール……霧野と一緒だったのだろうか?
 真田が工藤に何をしてたか訊ねると、工藤は笑顔のまま答える。
「まあ、ちょっとした一仕事。さあ、入れちゃって」
 工藤がそう言うと、扉の前で誰かを連れて来ているらしい霧野が一生懸命引っ張っている。
「ほら、早く……入って、き、て……!」
「ふざ、け、んな……! 誰が入るか、よぉ……!」
 女子の声がする。
 霧野が必死に引っ張っていくのを、必死に抵抗しているようだ。相手は相当こっちに来たくないらしい。
 二人が必死になっていると途端に、抵抗していた方の人物が、今まで掴んでいたものから手が離れたらしい。

「「あ」」

 霧野とその人物が同時に声を上げる。
 力強く引っ張っていたため霧野の身体は大きく後ろによろめき。バランスを失った彼女の身体は後ろにいた藤村へと勢いよく激突する。

95竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/22(水) 17:59:05 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……ッ!」
 思い切り霧野とぶつかり、やはり身体を倒してしまった藤村は起き上がろうとする。しかし、上に何かがのしかかっていて身体が起き上がらない。というか、身体に何かがではなく、顔の部分に何かがのしかかっている。
 藤村は目を開けるが、頭にのしかかっていて暗い視界ではのしかかっている物の全貌は掴めない。
 ただ、感触としては柔らかい、が。その奥に何か固いものがあるような気がする。そして香水のような甘い香り。上の方から『うーん』という起き上がろうという声が聞こえる。
 間違いなく霧野の声だ。
 ということは、今自分の顔の上に乗っかっている柔らかい物体の正体は……。

「きゃあっ!?」

 状況を把握した霧野が甲高い声を上げる。確認できないが霧野の顔は今とても赤いと思う。
 藤村の顔に乗っかっているのは彼女の胸だ。彼女の胸の谷間に丁度藤村の顔が埋まっている、という構図だ。
 慌てて何が何だか、何をどうすればいいか分からない錯乱状態に陥っている霧野は、
「ちょ、ちょっと藤村くん! いつまでそ、そんなところにいるのよ! は……早くどいてぇ!!」
「お、お前がどかなきゃ俺がどけねぇだろ! お前が上に乗っかってんだぞ!」
 
 かくして、藤村は窒息しそうになりながらも脱出し、肩で大きく息を吐いていた。神山は羨ましそうに藤村を見ている。
「はぁ……はぁ……苦しくて死ぬかと思った……!」
 その言葉を霧野は聞き逃さなかった。
 彼女は涙目で胸を押さえながら、その言葉をよく考え直してみる。
 藤村は苦しいと言っていた。彼の顔に乗っかっていたのは自分の胸。つまり、これは胸が大きいということ? という思考に霧野は持ち込んでいく。
 霧野はホッと息を吐く。『私って大きい方だったんだ』と安堵していた。恐らく、小さいほうだと思っていたのだろう。
 しかし、藤村の言葉の本意は『自分の身体に乗っかっていた霧野の身体の重みによる圧迫感』で苦しんでいたため、彼女の胸が大きいからではなく、彼女の体重によるものだという事を、霧野はこれから知ることはない。
 いつもどおりの騒々しい喧騒の後に、刺すような言葉が響く。

「……まったく、愉快な奴らだな」

 そこにいたのは折宮明日香。
 彼女は引っ張られていたため腕を痛めたのか、手首をぶらぶらと回している。
 今までの出来事でそちらに視線がいっていなかった神乃院は彼女を忌々しそうな瞳で睨みつける。その視線に気付いたのか、折宮も負けず劣らず睨み返す。
「……何だよ、生徒会」
「……大体生徒会って名前じゃないんだけど、風紀委員。大体何でアンタがここにいるわけ?」
「私だってこんなとこに来るのは願い下げだっての。迷惑だったんなら帰るさ。そもそも、私は無理矢理連れて来られたわけであって―――ッ」
 帰ろうとする折宮の襟を霧野は素早い動きで掴み取る。中途半端に首を絞めたのか、霧野が襟から手を離すと折宮は涙目で咳き込んでいる。
 霧野はそれを気に留めず、折宮を神乃院の前に立たせた。
 向かい合わされた意味が理解できていない神乃院と折宮は眉をひそめながら、霧野を見つめると、
「はい、仲良しするために握手しよ。こんなギスギスした空気じゃ共闘なんてできないし」
 はぁ!? と神乃院と折宮は声を揃えた。
「何で私がこんな生意気な奴と握手なんてしなきゃいけないんだよッ!?」
「そうよ霧野さん! 大体いくらなんでもこんな奴と握手なんて私はしたく―――ッ」

「あ・く・しゅ!!」

 生徒会室に霧野の大声が響き渡る。
 近くにいた神乃院と折宮は堪らず耳を塞ぐ。霧野の勢いに負けた二人は渋々右手を差し出して、お互いに嫌そうな表情のまま握手をする。両方口を尖らせている。
「……仕方ないからよろしくてやるよ、神乃院市」
「……こっちこそよ、馴れ馴れしくしないでね。折宮明日香」
 言葉はともかく、和解できたことに霧野は満面の笑みを見せる。
 可愛らしく、幸せそうな、小さな子供が親から褒めてももらった時のような、無邪気な笑みだ。

96竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/23(木) 17:20:10 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「よーし、それじゃあ皆揃ったところで。工藤会長プレゼンツ、ビッグサプライズだよー!」
 工藤が人差し指を立ててそう言った。
 彼のテンションの割りに、周りは誰一人として盛り上がっていない。多分皆は『アンタが遅れた理由はどうでもいいから、さっさと作戦会議始めようぜ』だろう。実際藤村もそう思っている。
 冷め切っている空気などお構いなしに工藤は勝手に話を進める。
 無駄にメンタルが強い人だ。この状況で心が全く折れていない。お笑い芸人ならその場で崩れ落ちているだろうに。
「実は俺が遅れた理由はある人物に協力を要請してたのさ。俺だって、この人数で解決できるとは思ってないからね」
「だいじょーぶなの? 政宗くんの言う事の八、九割は信用できないんだけど」
「ねぇ、俺ってそんなに信用できない人物なの?」
 真田の言葉に僅かに心が折れる工藤。
 しかし、彼の心の修復速度は速い。既に立ち直って笑顔を浮かべている。
「大丈夫だよ、紫ちゃん。ここにいる全員が実力を認めるだろう」

 全員が実力を認める?

 その言葉に全員が息を呑む。
 一体どれほどの人物なのだろうか。一年生の一位とか、二年生の一位とか、もしかして三年生の三位で、三年生スリートップを見たりできるのか、藤村達の胸は期待でいっぱいだ。
 工藤が『入ってきて』と扉の向こうに声を掛け、扉が開かれる。
 そして、

「おーほっほっほっ!! 工藤政宗会長様のご依頼により、雪路冬姫! ただいま参じょ―――ッ」

 バァン!! という何かを叩く音と共に、左右両開きの扉が勢いよく閉められた。右の扉を神乃院が、左の扉を神山が閉めている。
 扉の向こうで『いったぁぁぁ!!』という悲痛な叫びが聞こえるが、誰も扉を開けようとしない。
 肩で大きく息をしている神乃院は工藤の方へと視線を向けて、
「で、大体どうしますか会長? 犯人は誰か分かってるんですか?」
 話を綺麗に元に戻した。
 雪路登場のくだりは全く無かったかのように。
 しかし、やられてばっかりで黙っているほど雪路冬姫のプライドは小さいくはない。

 雪路が外から扉を開けたため、扉の前にいた神乃院は大きく前へとバランスを崩し、机の角に頭をぶつける。
 彼女は額を押さえ、涙目になりその場にうずくまる。

「いっ……たいわね! 大体何してくれんのよ、この似非お嬢様が!!」
「あらあら、それはこっちの台詞ですわ!! わたくしだって鼻を打ったのですわよ!?」

 お互いぶつけて赤くなっている部分を押さえている。
 ぎゃあぎゃあといつものように言い合いをしていると、それを眺めて溜息をついた折宮は工藤に問いかける。
「おい、会長さん。もしかして『コレ』が助っ人か?」
「コレ!? 物扱いしないでくださいませ!!」
「折宮! 聞く必要ないわよ! 物扱いしてやりなさい!」
 さっきと態度を一八〇度変えて神乃院は叫ぶ。
 工藤はフッと笑って、
「もしかしても何も、その通りだよ。雪路冬姫。一年生でお市ちゃんと同率五位に上り詰めている少女さ」

 紹介されている本人は、神乃院との争いがヒートアップしたらしい。
 胸倉を掴み合い、今にも殴り合いが始まりそうになっている。

97竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/24(金) 22:14:52 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 まさに取っ組み合いになっている神乃院市と雪路冬姫。
 女の壮絶な喧嘩を目の当たりにした男子一同(篠崎は含むが、工藤は含まない)は、かなり引いた表情をしていた。その傍らで女子一同は『まあ女子同士はこうなるよね』みたいな表情をしている。
 この争いを見ても表情を崩さなかった工藤が、手をぱんぱんと叩いて場を鎮める。
「はい、お市ちゃんも雪路さんも落ち着いて。俺から見れば二人とも可愛いからさ」
 二人は肩で息をしながら争いをやめた。
 どっちが可愛いか、という争いではなかったはずだが、何故か二人とも落ち着きを取り戻し始めている。
 この際、理由はどうでもいいのだろうか。
「それじゃあ作戦会議―――いや、敵の正体を話してあげるよ」
 工藤はいちいち言葉を焦らす。
 そんな彼の性格を知っているはずの生徒会メンバーでさえも苛立ちを見せていた。唯一明智だけが、苛立ちを表情に表していないのは見事だった。いつもの事でもう慣れてしまったのだろうか。
 犯人の正体が分かる、ということで全員が息を呑み、呼吸を殺して工藤の言葉を待っていた。
 自分の言葉への期待感を肌で感じ取ったのか、工藤は椅子から立ち上がって窓の外を眺めながら言った。
「犯人ってさ―――誰だと思う?」

「とっとと言えよ!!」
 真田の蹴りが、工藤の後頭部に直撃した。彼の頭はそのまま目の前の窓を突き破り、頭のみが窓の外に出ている。外から見たら少し怖い光景だろう。

 工藤は笑いながら、穴が開いた窓から頭を引っこ抜く。奇跡的に工藤の頭からは血が一滴も流れていなかった。本当に彼は人間なんだろうか。
 彼は痛いのは痛いのか、頭を押さえながら再び口を開く。
「やだなぁー、俺なりのジョークじゃないか。紫ちゃんのツッコミって最近殺人の域に達してない?」
「貴方は殺っても死なないでしょ? 今だって血すら出てないし……だから容赦なく出来るのよ。手加減抜きで」
 軽く問題発言だが、工藤は軽く笑い飛ばす。
 さて、と工藤が皆の方へと振り返ると、那月のハルバートと折宮のダガーが喉元まで迫ってきた。
「君らさ、完全に俺を殺そうとしてるよね。いいじゃん、ちょっとの焦らしぐらいさー。俺なりのユーモアだよ」

「そのユーモアが迷惑だって言ってるのよ、アホ会長」
「つーか俺らにそんなもんいらねーし。とっとと言えバ会長」
「ボケナスカース。ついでにタコ野郎が」

 全員言葉が辛辣すぎるだろ。
 折宮にいたってはただの八つ当たりにしか聞こえないんだけど。
 それでも、アイアンハートの工藤政宗は決して折れない。
「あはは、皆それで俺がくじけると思う?」
「あのー、工藤会長。そろそろ話していただけませんかね?」
 痺れを切らした雪路がそう言った。
 徐々に表情に出していなかった明智の苛立ちが表情に表れ始めている。これは危ない。明智みたいなタイプはキレると危ない。
 工藤は僅かに咳払いをして、話を進めた。
「まず犯人の人数だけど、君達は数人の小組織だと思ってる? それとも一人で実行していると思う?」
 誰に、というわけでもなく問われた質問。
 その質問に狩矢が答えた。
「んー、一人でっていうのは難しいでしょう。複数だと思うのが妥当では?」
「だよねー。まあ俺もそこら辺の不良グループだと思ってたんだけど……」
 工藤が言葉を区切ると、明智が問いかけるように口を開く。
「……その言い方だと、会長の考えとは違うようですね」
 工藤は笑みで答えを返した。
 『その通りだ』というように。
「じゃあ、一体誰が?」
 霧野が不安げに問いかける。

「犯人は複数、というのは大正解。だけど、小組織なんて小さいものに収まらない。俺らの敵は―――」
 工藤は一度言葉を区切って、真相を告げた。

「剣木浜高校(つるぎはまこうこう)だよ」

98竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/25(土) 10:26:04 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 剣木浜高校とは、戦場原学園と割りと近い場所にある戦場原学園と同じような学校である。
 戦場原学園の影に隠れて分かりにくいだけだが、剣木浜高校もそれなりに巨大な敷地面積を誇っており、戦場原学園に次いで大きいと言っても過言ではない。
 だが、そう考えても向こうがこちらを襲ってくる理由が分からない。
 今までだって二つの差はあったのだし、何故今更になって向こうが挑戦状を叩きつけてきたのかも不明だ。
 工藤としては犯人の正体が掴めても、攻撃の理由が分かっていないため腑に落ちない部分も大きいだろう。
「つーか大きな組織ってのは大体想像できたけど……」
 神山が区切るように言う。
 その言葉を篠崎が引き継ぐため、口を開く。
「まさか学校だとは思いませんでしたね。学校同士の争い、となるんでしょうか……?」
 不安げに篠崎が工藤に問いかける。
 そんな篠崎の不安を払拭するように、工藤が笑顔のまま告げた。
「大丈夫だよ。そんな事にはさせないように、生徒会と風紀委員が協力するんだから」
 言いながら工藤は折宮へと視線を遣ったが、偶然工藤の方を見ていた折宮はふいと顔を逸らした。
 工藤の言葉に篠崎はホッと安堵の息を吐く。
「大体どうするんですか? 話し合いで解決させるつもりもないでしょう?」
「そうだね。相手の真意を確かめるために……潜入捜査を行う!」
 工藤がそう言うと、段ボール箱を四つ机の上に置いた。
 その箱の大きさは、大体上下の服一式が入るのがやっとといったところだ。潜入捜査、そういうことか。

「それはいいとして、誰がやるの?」

 真田が無表情のまま箱をおもむろに開け、中を物色し始める。
 男子の制服が一つ、その他三つは女子の制服だ。つまり潜入メンバーは男子一人、女子三人となる。
「言っとくけど、私は女子の制服サイズ合わないわよ? 男子の方なら……ギリだと思うけど」
 そう言いながら真田は自分の豊かな胸に視線を落とす。
 あの大きさで男子は無理があるだろう。
「大丈夫だよ。捜査メンバーは既に決めてあるさ」
 工藤は言いながら全員の方を向きながら指していく。

「潜入メンバーは四人。霧野さん、篠崎さん、雪路さん、折宮さんだ!」
 言われた本人達は驚愕の声を上げていた。
 ……つまり、男子制服は篠崎が着るのか?

99竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/25(土) 20:53:12 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 指名された四人はそれそれ制服の入った段ボール箱を抱えて更衣室へと向かっていった。やはり篠崎は男子校異質なのか。
 数十分してから着替えを済ませた四人が生徒会室へと戻ってくる。
 やはりいつもと違う姿に少しドキッとしてしまう藤村。それほどまでに見慣れた服装とは違う霧野を可愛いと思ったのだろうか、藤村の反応を見ながら神山と狩矢はニヤニヤと笑っている。
 通常と同じように、女子の制服を着ている霧野と雪路はいいとして……問題はここからだ。

 篠崎が女子の制服、折宮が男子の制服を着ていた。
 篠崎はもじもじしながら顔を赤く染め俯いており、折宮も俯いてぷるぷると震えていた。

「うん、似合っているよ」
 工藤がそんな事を口にした。
 四人が着替えに行っている間に工藤は『彼女達には潜入先で、それぞれやるべき仕事を与えるんだー』と笑顔で楽しそうに話していた。
「君達は潜入先で今から俺が言うキャラを演じてもらう」
 要は霧野達の設定だろう。
 いきなり入って行っても怪しまれるだけだ。

「まず霧野さん。君は『突如転校してきた黒髪美少女』という設定」
「……び、美少女ですか……」
「篠崎さん。君は『クラスにこんな奴いたっけ? 目立たない系美少女』だよ」
「……要するに影薄いってことですよね……」
「雪路さんだね。君には『何かすっげー腹立つ高飛車お嬢様(取り巻き付き)』をお願い」
「何ですの、その癇に障るキャラは!?」
「最後に折宮さん、君は……『学園の不良を束ねる不良少年』で」

 瞬間、折宮の手が工藤の顔を掴む。
「ちょっと待て。何で私が男なんだよ、おかしいだろうが!」
「可笑しくないよ。凄い似合ってる」
「ビジュアルの問題じゃねぇんだよ!!」
 かくして、四人はミッションのため、剣木浜高校へと向かった。

100竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/26(日) 00:15:23 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 剣木浜高校の潜入に(嫌々ながら)向かうことにした霧野、篠崎、雪路、折宮の四人は何もしないのも退屈なので、適当に話しながら向かうことにした。
 だが、全員が話すのはこれからの作戦どうのなどではなく、単なる工藤政宗への愚痴である。
 主に話を展開しているのは雪路と折宮だけであるが。
「……ったく、何で私が男子の格好しなきゃいけねーんだよ! 工藤の野郎め……!」
「仕方ありませんわよ。この中で唯一男子に見えるのが貴女だけですもの」
 折宮の憎しみが篭った言葉を何てことなく返す雪路。
 そんな光景を見ながら霧野と篠崎は苦笑いを浮かべていた。
 そんな霧野を横目で捉えた折宮は、
「何笑ってんだよ、霧野。お前もこんな面倒な事に使われて嫌だろ?」
「え? あ、いや……ううん。皆の役に立てるならいいかなって」
 霧野は笑いながら答える。
 自分にはこんな返し方は出来ない、と折宮は軽く息を吐く。
 折宮は言葉を続けて、
「嫌なら嫌って言ってもいいと思うけど? お前だって、藤村といる方が嬉しいんじゃないのか?」

 ボッ!! と急に霧野の顔が真っ赤に染まった。
 耳までも真っ赤になっており、頭から湯気が出てるとさえ思わせていた。

「そ、そそそそそそそ、そんそん、そんなことあるわけないじゃないのぉぉぉ!? な、ななな、なん、何で急に、そ、そんな……!!」
 霧野は急に言われたので、思い切り取り乱し呂律さえも回らなくなっている。
 折宮としては『友達といる方が嬉しいだろう』という意味合いで言ったため、霧野がここまで混乱している理由は、彼女にしてはさっぱり分かっていない。
 肩を大きく上下に動かしながら息を切らす霧野に、篠崎が落ち着くように背中をさする。
 とりあえずどこからともなく罪悪感を感じた折宮は、霧野に一言侘びを入れた。
 雪路は大して面識がないのか、篠崎を凝視して、
「しかし、お人形さんみたいな可愛さですわね。藤村さん達が近づくのも分かりますわ」
「べ、別に……藤村くん達はそういう間柄じゃ……。皆とはただのお友達だし……」
 篠崎は遠慮気味に話す。
 『しかし男は怖いですわよ?』などと雪路が忠告していると、彼女の勘違いを察した霧野が、

「そういう理由でも大丈夫。いくら藤村くんでも可愛いからって男の子に手は出さないでしょ」

 場が凍った。
 瞬間、雪路と折宮が今までに無い声量で大声を上げた。

「「お、男の子だってぇーーーっ!?」」

 二人の声量で、周りの空気がびりびりと振動した気がした。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板