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FRAME・GHOST

63竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/30(金) 22:03:37 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ACT.9「藤村幽鬼VS那月流生」

「流生さーん。そーいや、桜っちは?」
 辺りを見回していた狩矢が、流生にそう問いかけた。
 彼は親しんだ女子にはニックネームで呼ぶ癖でもあるのだろうか。『桜っち』と呼んでいるからには苗字か名前に『桜』と入るのだろう。『桜子』とか『桜井』だと思う。
 問われた流生は、『あー』と間延びした声を漏らして、
「今ちょいと出かけてるわ。ジュースとか買いに行かせてるんだった」
 それを聞いた狩矢は呆れたような表情をする。
「……またか。何でアンタは十二歳の女の子をそんなにコキ使ってるんだよ。で、今日は何本だ?」
 狩矢に問われた流生は、初対面の藤村でも分かるくらい不恰好にもじもじしだした。
 それから狩矢から視線を外して、呟くように答えた。
「……七」
「2リットルを七本も!?いつかあの子腕骨折するんじゃね!?」
「うるせぇよ!アイツの教育でお前にガタガタ言われる筋合いはねぇ!」
 二人は藤村が居る事も忘れ、いつも通りと思われる言い合いを繰り広げていた。
 その光景は、小さい頃からずっと一緒に居る幼馴染のようにも見えるし、付き合って数年経った恋人同士のようにも見えるし、長年よく連れ添った夫婦のようにも見えた。
 ところが、二人の言い合いは止むどころかどんどん熾烈を極めていった。果てにはただの悪口の応酬だ。
 そんな中、店のドアが開き、元気な女の子の声が、小さな店内に響いた。

「ただい―――ッ」

 その少女の声は最後まで続かなかった。
 少女は袋を持っていた手を離し、その空いた手で自分の口を押さえ顔を赤くしている。幸い落としたペットボトルの飲み物からは中身が溢れなかった。
 少女は背を向けて、しゃがみこんでしまう。
 年齢十二歳程度の、桜色の髪をツインテールにした少女は、潤んだ瞳で流生を見つめている。
「―――、」
「……あー、悪かった。そーいや、最近誰も来ないから……忘れてたわ」
 流生は困ったような表情を浮かべながら、そう言った。
 首を傾げている藤村をよそに、狩矢は手を振りながらその少女へと近づいていく。
「うぃっす!久しぶりだな、桜っち」
「……この子が桜っち?」
 狩矢はああ、と頷いて、少女の頭に手を置いて紹介する。
「この子は桃音(ももね)ミル。ここの従業員なんだぜ」
 名前を聞いて、藤村は固まった。
 ―――『桜』が入ってない。
 苗字が『桜井』でもなく、名前が『桜子』でもなかった。
「名前に『桜』入ってないんかい!じゃあ何でその子のニックネームが『桜っち』なんだよ!」
「だって、髪の毛が桜色だし」
「髪色かよ!!」
 その後十数分間、『桜っち』こと桃音ミルはずっとしゃがみこんで泣いていた。

 その理由を、藤村はまだ知らない。


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