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Il record dell’incubo〜悪夢の記憶〜

1霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/03/06(日) 23:06:24 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
初めまして、霧月 蓮(ムヅキ レン)と申します。ここでは始めて小説を書かせていただきます。

更新は非常に亀で、誤字脱字も非常に多いですが、生暖かい目で見てくださると助かります。
出来るだけ遠まわしに表現するように致しますが、グロイ表現が多々あります。それでも大丈夫、と言う方はどうぞよろしくお願いいたしますね。

アドバイス、感想等があれば喜んで。

一応、学園、ファンタジー、歪み、と言った感じの者が中心となっています。特殊能力が出てきたり、魔法使い吸血鬼が出てきたりと、多分滅茶苦茶です
非常に駄文で、まとまりのない文章ではありますが……。

2霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/03/07(月) 20:12:18 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
序章 闇(ブイオ)と光(ルーチェ)の人々

 しん、と静まり返った校舎の廊下には規則的な足音だけが響いている。ここだけを切り抜くとなんとも階段に良くありそうなシチュエーションではあるが、廊下を歩いている人物……すなわち足音の主である少年は脅える素振りを見せるどころか自分の周りにすら興味を示していなかった。この少年、秋月 湊(アキヅキ ミナト)は、肩より二、三センチメートルほど長い白金の髪に深い青の瞳の持ち主である。ハーフのような顔立ちをしていて、肌の色はと言えば妙に白く病弱なイメージを受けるものだ。さらに言ってしまえば男子にしては細身で、少し力を入れただけで壊れてしまいそうなそんな脆く儚い印象を受けた。
 彼が身に纏っているのは、真っ白なブレザーで、襟や裾に黒いラインの入ったものだ。そのブレザーのボタンは全て開けられていて、下に着ているYシャツと青いネクタイが見えていた。この程度の格好が一番楽だと湊本人は思っているのだが、ブレザーの丈が少々長めなため歩くたびにユラユラと揺れてみているほうとしては非常に鬱陶しく感じる。そんな湊の胸に輝く金の六芒星のバッチには“光高等部生徒会会長”と刻まれていて湊のこの学園での地位の高さを主張し続けていた。
 しかし、現在の時刻は十一時三十分……生徒が見回りをするには少々どころかかなり遅い時間である。普通の一般生徒ならば今頃宿題に追われたり、眠りについていたりと思い思いに過ごしているころだろうか。しかしこの学園……聖鈴学園(セイレイガクエン)は違う。この学園は闇(ブイオ)の生徒と光(ルーチェ)の生徒の二つの大きなグループで構成され、その二つの争いが絶えることはほとんど無いのだ。

 「……遅れました。現在の状況は?」

 港が向かっていたのは、光高等部生徒会室というプレートのかかった教室で、中では二人の少年と、一人の少女がモニターと睨めっこをしていた。。その中の、肩より二、三センチメートルほど短い栗色の髪に、金の瞳の少年……三宮 優希(サンノミヤ ユウキ)が振り向いて少々文句ありげな表情をした後、ため息をつく。そして「相手の方は三人小鳥遊(タカナシ)三兄妹です。あれが出てきたとなると少々僕らが不利ですね。襲われている生徒は高度の自己治癒能力を所有しているため、どうにか持ちこたえています」と説明した。

3霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/03/07(月) 20:48:18 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
 湊は小さくため息をついた後「またあの兄妹ですか……仕方ないですね。僕が出ましょう」と言う。それを聞いたその場にいた三人は思わず自分の耳を疑う湊はこの学園無いでもぶっちぎってトップを争う平和主義者の二人のうちの一人であり、本気で戦うところ、さらに言ってしまえば他人相手に怒っているなんていうことを目撃したものはいないのである。まぁ、この学園の生徒会は、能力、および力の強さ、頭脳、身体能力などで決められるため、会長である湊はトップクラスの力を持っていると考えて間違えはないだろう。

 「戦う、ですか?」

 恐る恐る、というような感じで、太股のあたりのまでの長さの黒髪に、所々銀色のメッシュを入れている、薄水色の瞳の少女、月見里 羽音(ヤマナシ ハオト)が問いかけた。それを聞いて少し首を傾げた後、小さく頷いた湊は「防ぐだけでも十分戦意を喪失させることは可能ですよ。もっとも時間が掛かりそうですが、問題はないでしょう。要は襲われている生徒の回復を完了させて逃がせば言いのですから」と静かな声で言う。僅かに浮かべた笑みは、自信の表れというよりは悲しげな笑みであった……。

 そんな頃、モニターに映し出されていた部屋では二人の少女が机に座り、ただただ少年が刀を振るうのを眺めている。標的にされているのは湊と同じデザインの制服をきちんと着ている少年であった。しかしその制服は、血で紅く染まってしまっているうえに、あちこちが切り刻まれてしまっていて、かろうじてデザインが分かると言うような感じになってしまっている。逆に刀を振るっている白銀の髪、右が薄紫、左が水色の瞳に真っ黒なブレザーで襟と裾に白いラインの入った制服を身にまとった少年、小鳥遊 刹(タカナシ セツ)は全くといっていいほど傷ついておらず、返り血で制服とその髪の一部を紅く染めている程度だった。

 「あ……あぁ……」

 虚ろな目をして刹を見つめ必死に後ろへと逃げようとしている少年は斬り付けられては、傷が塞がれなんていうような堂々巡りを繰り返して疲れ果ててしまっている。自己治癒能力だなんて非常に便利なようにも感じるが、斬りつけられた瞬間の痛みをなくすことは出来ないし、簡単に死ぬことは出来ないし……もしかするとただ単に苦痛を与え続けるだけのものなのかもしれない。回復するだけで反撃は結局自分の力で行わなければいけない。攻撃には向かない能力なのだ。
 フッと机に座っていた少女の内、太股の辺りまでの白銀の髪、右が薄紫、左が水色の瞳に、黒のケープ調の上着に真っ白なリボン、真っ白なラインの入ったものに、濃い灰色のワンピース、かかとの高い白のブーツを履いている少女、小鳥遊 紅零(タカナシ クレイ)が立ち上がって、ドアを見つめる。そんな彼女の胸元には銀の六芒星のバッチが輝いていてそれには“闇中等部生徒会会長”と刻まれている。

 「さぁ……出来損ないの光の会長の登場だ……」

4霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/03/08(火) 19:14:26 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
 ダンッと少々乱暴な音を立てて教室のドアが開く。入ってきたのはすっかり息を切らして肩で息をしている湊。しかしその目だけは鋭く刹や、紅零を捉えて揺らがない。しかし机に座っているもう一人の少女には注意が行っていない様だ。逆に机に座っているもう一人の少女、踝までの白銀の髪を黒いリボンでツインテールにしていて、紅零と全く同じ制服を身に纏った、薄紫の瞳の少女、小鳥遊 月華(タカナシ ゲッカ)はスチャッと机から降りて興味ありげに紅零の横に並ぶ。ちなみに身長は非常に小さく紅零と並んで立つと完全に妹のように見えてしまう。しかしその胸には“闇高等部生徒会会長”と刻まれた銀の六芒星のバッチがつけられているため、高等部の人間であり、紅零の姉であることを示している。もっとも飛び級制度がない学園だからこそこう断言できるのであるだけなのだが。

 「久方振りですね……紅零さん、刹さん」

 静かな、それでいて威圧感の漂う声で湊は言う。それを聞いた月華は両手をバタバタさせて「ボクの方は無視かよぅ!?」なんて非常に子供っぽい声を上げた。それを聞いて僅かに表情を緩め「貴方は全く変わっていないようで。お久しぶりです月華さん」と軽く頭を下げる。だからと言って威圧感が消えたというわけでもない。単純に言えば表情が緩んだだけでその他は呼吸が安定した以外何の変化もない。
 刹が刀を振るう手を一度止めて、不思議なものでも見るように湊に目を向ける。その姿は月明かりに照らされた……悪魔。やれやれ、と小さく声を漏らした後「こんなことを言っても無駄かと思いますが……こんな無駄なこともうやめませんか?」と問いかける。刹は無言で首を傾げた後、紅零のほうを見た。紅零は嗤う。静かに嗤う……。

 「あら……やはり出来損ないは出来損ないね? 復讐を諦めた愚者なんてそんなものかしら?」

 巻き起こるのは嘲笑。静かに目を閉じて息を吸い込んだ後「はてさて……こんなことをしても“あの人たち”が戻ってくる訳ではないのに、復讐と称して殺意を他者に向ける……一体どちらが愚かでしょうかね。勿論僕も愚かである事は認めますが」と言い放つ。ギリッと歯軋りをした後、刹になにやら指示を出す紅零。嗚呼……どうやら平和的には終わらないようだ、そんな風に考えて僅かに悲しそうな表情をする湊。もっともそんなこと無意味なのは分かっているのだが。
 静かな光が刹の手に舞い降りたかと思えば、その光は一瞬にして弓矢へと姿を変える。……創作能力、自分の思い浮かべたものを作り上げる特殊な能力の一つである。高度なものになればなるほど作り上げることのできるものは緻密で、より美しいものを一度に複数個作り上げることが出来るようになる。しかし元々、その場にはないものを作り出すので必ずそのものは三十分の間に形を崩してしまうなんていう不便な点も多々ある。所詮能力なんてそんなものなのだ。メリットがある分それに見合ったデメリットが必ずある。それが身体的な面か、精神的な面かは問わずに、だ。

 「……戦うつもりはないのですが?」

 そんなことを言ったところで刹は問答無用で弓矢を放つだろう。そう想像してすっかりため息をつくことぐらいしか出来なくなってしまう湊。案の定、だ。刹は優しげなそれでいて悪魔のような笑みを浮かべて弓を放つ。それに大人しく当たるか、と問われれば流石に否な訳で、とりあえず湊はヒラリと矢を避けることにする。能力を使えば早いのではあるのだが、湊の力はある条件が揃わないと使えないのだ。それ故に湊が能力を使うことは非常に少ない。まぁ結局ピンチに陥ったときはかなり強引にでも条件を揃えたりもするわけなのだが。

5霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/03/09(水) 20:38:05 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
 ヒラリ、と一片の花弁が舞った。湊の手から不可思議な蔓が伸びて刹の手足を絡めとり、動きを封じ込める。条件が揃っていない状態で使える最小限の能力……先ほど条件が揃わないと能力は使えないと言ったばかりだったか。では訂正しよう。湊の能力は四つありそのうちの二つは条件が揃わないと使えない謎の能力、後の二つは植物を自在に操る植物操作と幻術などを見せ正常な視覚情報を奪う、視覚掌握である。二つの能力とも非常に高度なものであり、それ故に湊のことを悪魔と呼ぶものも多い。もっとも湊がこのような能力を使うのはあくまで防衛のためであり、攻撃のためではないのだが。
 静かに紅零が手を動かす。一瞬にして蔓があっけなく朽ち果ててしまう。それを見てクククッと不気味な笑みを浮かべた後「忘れたのかしら? 俺の一つの能力、能力掌握の力を」と静かに告げる。能力掌握……他者の能力を一時的に奪い取り、自分のものにしてしまう能力である。勿論奪い取るといっても、劣化版複製に近いものであり、元の能力よりは劣る能力になることが多い。その辺はあくまで能力の持ち主の体調と気分によって変動するものであってなんとも言えないところがあったりもするのだが。
 弓を刀へと変え、スイッと湊の首筋に鈍く光る刃を当て「所詮はそういうことです……。貴方はいつまで経っても出来損ない」と刹が嗤う。フッと虚ろな目をしていた少年の横にも湊が姿を現して、少年に立つように指示をしていた。ヒュンッという風斬り音がして、刀が振り下ろされる。

 「残念でした。本物はこっちです」

 弱弱しくも自分の足で立ち上がった少年を庇いながら湊が静かに告げた。その瞳に宿る光は強い意思。相手に攻撃の意思を見せないことを誓いながらも、自分の後ろに隠した少年は守るという絶対的な意思の光。振り返った刹は無言で息を呑む。湊の目に宿った光は闇に墜ちた彼等にはあまりにも鋭すぎて……。

 「っはは……クソが!! お前がいなければ全て何事も無かったように回っていた!!」

 吐き捨てるように、あまりにも突然刹が叫んだ。突然すぎて話の繋がりが見えずに黙って首を傾げる月華。紅零は腕を組み、刹の後ろから、湊を睨みつけている。刹と、紅零……どちらの目にも宿っているのは闇……。信じることを忘れ。疑うことしか出来なくなった悲しき闇……。そんな闇が湊には暗すぎて……。
 ギュッときつく拳を握って湊は叫ぶ。「ええ。全ては僕のせいです。だから恨むのなら僕を恨め!! 関係のない人に刃を向けるな!!」と。小さく肩を揺らしながら、刀を銃に変える刹。引き金を引こうとする刹を制そうとする紅零……。撃たれてしまわぬ内に、少年を逃がそうと窓を植物で叩き割り、抱きかかえるような形で飛び出す湊。ユラリユラリと湊に近づく刹。
 嗚呼……無情にも悪魔の弾丸が放たれる。パン、という人を殺すにしては間抜な音と同時に、窓から飛び出して少年を突き飛ばした湊の肩から鮮やかな紅が噴出す。
 肩を押さえそれでも植物を操作して少年を地面に叩きつけられないようにする。自分よりも他人……それが秋月湊という少年の生き方なのである……。

 NEXT Story〜第一章 光(ルーチェ)の人々〜

6霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/03/09(水) 21:24:40 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
第一章 光(ルーチェ)の人々

 小鳥の声が聞こえてくる。ゆっくりと瞳を開いた湊の視界に入ったのは優希の姿であった。湊の肩に手を乗せたまま静かに目を閉じている。何時間もそうしていたのだろう、頬には妙な汗が伝っている。服装は湊や襲われていた少年と全く同じ制服で胸には湊同様金の六芒星のバッチ。それにはやはり“光高等部生徒会副会長”と生徒会での彼の地位を現す文字が刻まれていた。窓でも開けているのだろうか、時々吹いてくる風が頬をなでるのが酷く心地よかった。

 「三宮、さん?」

 すっかり掠れた声で湊が言えば、キリッとしたつり目がゆっくりと開いて湊を見つめる。優希は静かに笑った後「会長、無断欠席三日、僕の残業分、たっぷり働いてもらいますから」と告げる。やれやれ、もう少し可愛らしい言葉は掛けられないものか、と文句を言ってやろうとも思ったが恐らく優希が寝ずに自分に治癒能力を向けてくれたのだろうと考え、苦笑いだけで返すことにする。ひそかにこの人は怒らせると後が怖いし、なんていう風に考えているのは間違っても優希に知られてはいけない。
 小さく息を吐き「三日ですか……随分長い間気を失っていたようですね」なんていう風に呟いて、ゆっくりと体を起す湊。身に纏っている制服には紅がすっかりこびりついて落ちそうにもない。これはまた制服を新調しなくてはならないか、とため息をつく。優希は無表情とも、心配そうとも取れるような表情で「窓から飛び降りるなんてことは止めていただきたい。僕が飛び出してなかったら死んでましたよ? アンタ」なんていう風に冷たい言葉を吐く。やはり毒舌だな、と湊は頬を掻き力の抜けきった自らの体に鞭を打ち立ち上がる。
 静かにドアが開き入ってきたのは湊が助けた、少年である。少年は肩より三センチメートルほど短い黒髪に、灰色の瞳、なんて言う平凡な容姿。雰囲気はいたって真面目そうであり、模範生、といったところであろうか? もっとも手に持っている黒魔術入門なんていう本を除いての話だが。

 「先日は有難う。僕、高等部一年C組、黒羽 翆(クロハ スイ)……。回復能力を所有しています」

 静かに少年、黒羽 翆が名を告げ、自らの能力を明かす。そんなことをしなくても湊と優希は生徒会の人間なので殆どの生徒の能力などは把握しているのだが。まぁ礼儀正しいということにしておくか、と湊はため息をついた。翆は続ける。静かな、それでもどこか、いや心底残念そうな声で「何故、僕を助けた? 僕は死にたかった。あの人の元に行きたかった……」と。
 思わず顔を見合わせる湊と優希。なんと言って良いか分からないというような表情をした湊を見て呆れたような表情をして、翆の頬を思いっきり引っ叩く優希。この行動には翆を初め、普段優希を見ている湊でさえ驚いた。

 「消失願望ということか……。なんて愚かな。生きたくても生きられなかったやつが山ほどいるんだ。少々贅沢ではないか? 少なくともお前のいうあの人が俺なら、お前がとっとと死んで自分のもとに来ても欠片も嬉しく無いが? まぁその人自身ではないからなんとも言えないし、自分の言ってることが正しいとも思わないがな」

 全くの無表情でそう告げた優希は心底不愉快そうに鼻で笑う。流石というかなんというか……なんていう感じで湊は苦笑いを浮かべ「人間なんて急がなくてもいずれ死ぬんです。不老不死でもない限り、ね」と言う。翆はすっかり俯いてしまって、あれこれと言葉を捜す。

 「世の中つらいことなんて山ほどあります。それでもそれと同じくらいに楽しいこともあるものですよ」

 静かにそう笑った後、ゆっくりと歩き出す湊。優希は翆を睨みつけた後、湊の後を追って歩き出す。静かに翆は口を動かす「それは貴方達が強いから言える言葉なんだ」と……。

7霧月蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/03/10(木) 21:53:24 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
 生徒会室に戻った湊を待っていたのは、生徒会役員からの説教の嵐である。心配させんな、だとか勝手な行動をとるなだとか、窓を割るんじゃねぇ、また部活が問題起したぞ、どうすんだこの野郎とか、なんだか関係ないことも数個混ざっていたがひとまず気にしないことにしよう、そうしないとやっていけないと湊はため息をつく。ちなみにこの学園の生徒会は、会長一人、副会長一人、書記一人、会計一人、会長推薦の情報処理が一人の五人で構成されている。まぁ能力がトップクラスの連中の集まりなので、ある意味人間兵器が手を結んでいる非常に危険な状態だと捉える生徒も多い。
 自分の席の前に高々と積み上げられた書類を見て呆れたような表情をして「誰ですか、こんな嫌がらせチックなことするのは」と呟く。そうすればその場にいた生徒会役員がいっせいに優希を指差した。それでもその中の一人、光高等部生徒会会計というバッジをつけたオレンジがかった茶髪に、透き通った青の瞳の少年、暁 風雅(アカツキ フウガ)は笑いながら「でも、全部目を当して分けてあるんだぜ。付箋で区切ってる。優ちゃんが倒れてる人に仕事を押し付けるのは可愛そうだ、って言って必死に片付けてたんだぜ?」なんていう風にさりげない報告。羽音もくすくすと笑って風雅の言葉に頷いていた。

 「おや、相変らずなようで」

 クスリというべきか、ニヤリというべきか……とにかく良く分からない笑みを浮かべて、優希に顔を向ける湊。優希は慌てたように顔を逸らし「ち、違う。お前に仕事を押し付けると倍返しにされそうで嫌なだけだ」と若干必死に言う。まぁそれはただただ怪しいだけで、羽音が静かに笑って「やっぱり素直じゃないです」と指摘してしまえば、何もいえなくなってしまうだけだった。ちなみに羽音は白のケープ調の上着に真っ黒なリボン、真っ黒なラインの入ったものに、薄い水色のワンピース、かかとの高い黒のブーツなんていう格好でやはり胸には生徒会の証であるバッチが輝いている。
 一名女顔がいるとはいえ男ばかりの中に女子、なんて言うのもなんと言うか悲しいものがあるが、羽音自信は別に気にしてもいなかった。と、いうか風雅に気にしないでやんないと潰れるぜ? いろんな意味でと言われたこと、さらに力で選ばれたのだから性別など関係ないなんて言う優希の言葉を聞いて、大分時間は掛かったものの、ごく自然に生徒会に溶け込み始めている。もっとも風雅と優希が時々始める大喧嘩にはいまだ慣れずにいるが。
 光だ、闇だなんて正直言って羽音には良く分からないものだったりもする。羽音は高等部からこの学園に入ったためあまりその辺の事情には詳しくないのだ。それに光も、闇もどちらも双方のグループが顔を合わせない限りは、普通の学生と何も変わらない。確かに闇のほうは不良のような連中が多いが、高がそんなことだ。闇だけのグループでいる限りは非常に温厚な生徒が多い。それが光と顔を合わせるだけで妙に攻撃的になる……それが羽音には理解できない。理解したくないというのが正しいかもしれないな、と考えて羽音は静かに笑みを浮かべる。

 「まぁ会長復帰ってことでひと安心だろ。天使の羽音ちゃん」

 語尾に星やらがついても可笑しくないぐらい明るい声で風雅が言う。羽音は苦笑いを浮べて頷いて「そうですね。会長はお強いですし、風雅さんの大暴走を止めてくださいますですから」小さく頷いてそういう羽音。天使なんて言う呼び名は彼女の能力ゆえであり、羽音自身もう否定するのも面倒になってきているので自然と定着してしまったものである。まぁ呼び名の原因となっている羽音の能力についてはまた後ほど話すことにしよう。
 羽音の言葉を聞いて、僅かにショックを受けながらも頬を掻き「仕事の効率も上がるしな」と風雅は笑う。そんな風雅に対し優希は「……アンタは無駄な仕事を増やすだけでしょう?」とつめたい言葉を吐く。どうやら風雅は生徒会の中では珍しいくらいのお調子ものであり、余計な仕事ばかり増やしているらしい。それでも会話に参加できるだけ認められてはいる、と考えたい。

8霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/03/12(土) 23:26:37 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「で、会長。部活動の問題の件はどうすんの? 結構苦情は言ってるから何らかの罰は必要だと思うけど?」

 何気なく、風雅が言った言葉で、その場の空気が変わる。普段はふざけていても結局のところは生徒会。根は真面目な人間ばかりが集まっている。静かに優希が息を吐き「病み上がりにこの話題はどうかと思うが……対応を先延ばしにするわけにもいかないしな」と呟いて自分の席に座る。それを合図にして、全員が自分に与えられている席に座っていく。ただ一つ開いているのは、会長推薦の情報処理の席だけ。空席なのか休んでいるだけなのか、それは良く分からないが生徒会役員全員が気に留めていないようである。
 重い表情でため息をついて「何でしたっけ? 野球部が他の学校の部活に危害を加えたんでしたっけ?」と湊が言う。小さく羽音が頷き「はいです。制服デザインは光のものです。一番酷い人で全治一ヶ月だそうですよ。もっとも名前が上がっているせいとはごく一部です」と言う。風雅は頬杖を突いてあれこれ思考をめぐらせているようで何も言いはしなかった。優希は静かにため息をついて、呆れたような表情を浮かべている。

 「困ったものですね。闇じゃあるまいし、こんな問題を起すなんて……」

 小さく呟いた言葉に風雅は「つっても闇も光を攻撃して殺したりするだけで外では普通だろ」なんて言う風に言う。あはは、と乾いた笑みを浮かべて少々困ったように視線を泳がせる湊。本来なら教師に任せたいところではあるが、生徒会からの案を審議して訂正を加えたりするだけだったりもするので、結局のところ生徒会である湊たちが決断を下さないといけないのだ。
 羽音が小さな声で「厳重注意、では甘すぎますですね……やはり部活停止ですか?」なんて言う風に呟いている。湊のほうは少々メモを見ながら悩み顔。風雅なんて思考をめぐらせるのを諦めたのか、机に突っ伏して文句をいい始めている。それを睨む監視役的存在もいたりはするのだが、気にはならないらしい。

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区切りますね。あまり思いつかない……((

9霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/03/16(水) 19:58:33 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「この際仕方ないでしょう。甘い処分を下して、調子に乗られるのも困りますし……部活動停止、と言ったところでどうでしょう? 廃部はやりすぎな気がしますし」

 ため息をついて静かな声で湊が告げる。優希なんかはいかにも不服そうに「この誇り高き聖鈴学園の恥さらし者になんて甘い……」と呟いている。それでも湊に問いかけられれば反対だ、とは言わないのは湊には逆らえないのか、反対する気もないのか……その辺は良く分からないがとりあえず賛成してくれるようである。羽音は小さく笑って頷き、風雅も親指を立てて大賛成。と、いうか風雅の場合は話し合いに飽きてきただけだったりするので、処分がどうなろうが賛成していただろう。
 疲れたように肩の力を抜き、羽音がテーブルの上に置いてくれたコーヒーを啜る。時間にして約三十分弱。もっとも殆どが黙り込んでいた時間なため、実際に言葉を発していたのは十分程度であろうか? そんな短い時間ではあったものの、三日間眠っていた湊からすれば酷く疲れると言うか、面倒なものだった。風雅が真面目にやらないのも原因かもな、と考えて湊は深くため息をつく。優希は優希ですぐに風雅に突っかかるし、そのたびに羽音はおろおろ、仲裁に入るのも結構疲れてしまう。

 「まぁ、あれだよな。楓(カエデ)のやつ怪我してから大分仕事効率が落ちたよなぁ」

 突然、何の前触れもなしに風雅が言う。優希は不愉快そうに顔を顰めて「お前が手を抜くからだろ? 少なくても会長は必死だ。ドジだが」と言う。ドジと言われて凄い勢いで顔を上げるのだが、事実なため文句が言えずにしょぼん、とするだけの湊。なんともだらしがないものである。羽音なんかは苦笑いを浮べて、一人一人に紅茶を淹れている。湊だけがコーヒーを飲んでいるが羽音にとってその辺は気にならないようである。むしろ湊がコーヒーにしてくれとか、自分が言ったものと別なものを頼むと嬉しそうに笑うから、結局のところ世話好きなだけかもしれない。

 「そう言えば黒須(クロス)の馬鹿はどうなったんですか? あいつの方がはるかに風雅より使えたのに」

 そんな風に優希が問いかければ、湊の表情に僅かな影が宿る。それを見た優希はああ、聞いてはいけないことを聞いてしまったな、と後悔する。しばらくの沈黙の後、おずおずと口を開いて、湊は「黒須さんは……墜ちてしまいましたよ。風雅さんが生徒会に入る三週間ほど前でしょうか」と告げる。墜ちるとは光の生徒が闇へと移動することを指し、あまりよくは思われてはいない行為である。多くの場合は裏切り者として扱われるわ、闇のほうにも元光の生徒として信用されないわで、あまり心地よい思いをするようなものではない。
 どよん、としたとでも言うのだろうか? 思い雰囲気が四人を取り巻く。普段はふざけている風雅だって仲間意識は強く、同じ所属の生徒は当たり前、時には闇の生徒まで救ってしまう人間である。普段は喧嘩ばかりだが、何だかんだ言って優希がピンチになれば即座に駆けつけるであろう。そんな人間。羽音だって仲間のためならば力を使うことは躊躇わない。もっとも、光の生徒としては人殺しなんてやりたくないのは誰だって一緒である。普段は毒舌な優希だって、目の前で同じ所属の生徒が殺されたりすれば弱音を吐くのだ。
 湊は典型的な光、のタイプであり、相手が怪我をしていればそれがたとえ敵だろうがなんだろうが力を貸してしまうような人間。それ故に沢山の場面で裏切られもするし、そんな性格を利用されて深い傷を負ったりもする。肉体的にも精神的にも、である。それでも湊が正気でいられるのは意志の強さなのか、それとも何か裏があるのか……それは誰にも分からない。それでも支えようとする人間は沢山いるし、慕ってくれる人間も沢山いる。それ故に湊もそれらの人に心配を掛けまいと笑っていることが多かった。

 「すみません……ああ! もう見回りの時間ですね。俺は今日は……一階ですか。風雅は三階、会長と羽音は二階ですね」

 慌てて、話を逸らすように優希が言う。湊は薄く笑みを浮かべて小さく頷いている。羽音もどこか安心したように息を吐いて笑っていた。風雅なんかは沈黙の間に流した汗を苦笑いを浮べながら拭っているのだった。

10雪音レイ/秋月葉月/刹那/秋空湊/奏/レン/打ち止め ◆REN/KP3zUk:2011/04/02(土) 17:50:39 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
 各自が生徒会室を出て自分の持ち場へと走る。少々逃げるような感じもしたが湊は全く気に留めていないようだ。正直、闇墜ちの話が出るたびにこんな感じなので慣れてしまっている。横でビクビクと震える羽音に向かって薄い微笑を向けて「二階は初等部の教室がありますね。僕の弟と、腹違いの妹がいるんですよ」なんて言う風に湊は優しく声を掛ける。僅かに顔を挙げ湊を見つめ、羽音は首を傾げる。その身長差、約二十センチメートル。上目遣いで自分を見てくる羽音に正直ドキッとするが身長差のせいだ、落ち着け自分なんて言う風に自分に言い聞かせている湊。
 羽音は、いつの間にか闇墜ちの話をすっかり頭から追い出し、初等部生徒会のここが可愛い、だとかここが駄目だなんて言う風に熱弁を始める。湊も楽しげに話す羽音の話を聞いてクスクスと笑みを漏らしていた。羽音は小さい子が大好きなので初等部生徒会のメンバーや、その他初等部の大勢がお気に入りだったりする。湊も年下が好きだし(決して恋愛感情ではない)、以外かもしれないが優希もそうだ。そう考えると子供好きが集まったものだな、これはいい親になるかもしれない、なんて言ううふうにすっかり思考を話とは全く関係ないほうに脱線させている自分に、湊は苦笑いを浮べる。
 そんな二人が二階にたどり着けば、まだ校舎に残っている初等部の生徒達は、楽しそうに談笑を繰り広げたり、廊下で鬼ごっこをして楽しんでいるようだ。そんな元気な初等部生徒の中にも、きゃあきゃあ声を上げて談笑しているタイプと、今日のテストはどうだった、あれはもっとこうするべきだなんて言う風に冷静に話しているグループがあったりする。それを見た湊は小さく頷いて個性的でよろしい、と考えたりしていた。羽音は微笑ましい光景でも見るかのように終始ニコニコ。そんな二人が通りかかれば殆どの生徒が黙って頭を下げる。そこに浮かんでいるのは羨望と、畏怖の念だった。
 二人が高等部の生徒会メンバーだからか、それとも単純に先輩にあこがれているのか、それは良く分からないがまぁこの学校の風習のようになってしまっているので湊も困っていた。頭を下げなくてもいいと言っても聞いてくれない生徒が多いのだ。

 「ルチ兄めーっけ!! 光の子が襲われてるの。ボクと涼(リョウ)だけじゃ手に負えないから手伝って!!」

 突然現れて、一気にまくし立てるように言う夏夜 憐(ナツヨ レン)は太股のあたりまでの長さの濃紺の髪に右が赤、左が青のオッドアイの少女である。真っ白で黒いラインの入った上着に赤いリボンタイ、上着の下には真っ白なワンピースを着ている。おしゃれには気を使っているのか、頭には白いリボンのカチューシャ、首にはアクアマリンと、サファイアの埋め込まれた雪の結晶のネックレスをつけていた。ネックレスの方は校則違反にもなりそうだったが、能力制御用のものなのでぎりぎりセーフだったりもする。そんな彼女の胸にも初等部生徒会と刻まれた湊と同じデザインのバッチ。
 緩んでいた表情を一瞬にして厳しいものへと変え、憐の横にいた肩位までのプラチナブロンドに深い青の瞳の少年、秋月 涼(アキヅキ リョウ)に視線を移す湊。涼は憐と同じ上着に赤いネクタイ、その下にワイシャツを着て、ズボンはハーフパンツを穿いている。その胸には初等部生徒会副会長と刻まれたバッチ。憐とは違って視線をあちこちに泳がせ落ち着きがない。それを見た湊はやれやれ、とため息をついた後、憐を急かし走り始める。周りの何も知らない生徒はキョトンとして首をかしげていたが今は相手にする暇などない。

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ここで光の主要キャラが一名以外揃いました((

11霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/04/02(土) 18:15:00 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「涼君、状況の説明をお願いしますです」

 憐の横を少しだけ浮いて滑るように移動する涼に羽音が言う。涼はすっと体の向きを羽音と湊に向けて小さく頷いた後「襲われているのは初等部の生徒で、吸血鬼の一族の子と無能力者のグループですね。闇もグループですし、憐さんの言霊を通さないやつがいて……」涙目になりながら一気に説明する。言霊というのは言ったことを実際に起こす能力のことであり、「この人形は僕の思い通りに動く」といえば実際に人形を思い通りに動かすことが出来たりするものである。しかし直接言霊を使い人の命にかかわるようなことは出来ない。さらに憐のタイプは言霊を使用する場合「我が言葉は真実の言葉」と言うフレーズが一番前につけなくてはならず少々面倒だったりする。
 湊は黙って思考とめぐらせながら走る。言霊を通さない力といえば高度な魔法か、能力拒絶の系統の能力者だ。他には上位生物を召喚出来る者……そうなると少々厄介かもしれない、そう考えて深くため息をつく。下手をすれば自分や羽音でも太刀打ちできないかもしれないそう考えて少しだけ憂鬱になったりもする。そもそも言霊が通じないとなると湊の切り札さえ通じない可能性もあるのだから。少しだけ顔を上げて「涼、ここで能力を使って移動するのはやめなさいな。後々足手まといになられては困ります」冷たく、涼に向かって湊は言う。涼も小さくうなづいた後はむかいもせずに滑るような移動をやめた。

 「涼、今日の能力の残量は?」

 走るペースや呼吸を全く乱さずにそう問いかける湊。涼は少し考えるような動作をした後「今日はまだ一度しか使ってないのが九回は大丈夫です。優希さんみたく制限がなければいいのに」と小さくそう答える。九回かとため息をつき自分を含め四人の能力の弱点を上げていく。出た結論はどうにかフォローしあえる程度、場合によっては不利である。やれやれ、参ったなと小さく声を漏らす湊のことを羽音が不安そうに見上げた。
 階段に差し掛かれば湊は、ダンッと手すりを越えて飛び降りる。後ろの方で涼たちが叫んでいるがそこは無視。さっさと行って先制攻撃したほうがいいと判断しての行動だ。横を通り過ぎた闇の生徒が咄嗟に攻撃を仕掛けようとしてきたが、周りにいた光の生徒がその闇の生徒を取り囲んで湊を庇う。事情は良く分からないが高等部の会長が急いでいるのだから邪魔はさせない、とでも言うように闇の生徒を睨みつけている。初めは抵抗していた闇の生徒もとうとう身動きすら取れなくなってしまった。廊下で談笑していた生徒も殆どが道を開け、涼たちが通り過ぎるまで廊下を塞がないようにしている。
 こういうのは非常に助かるな、そう考えながらも湊は羽音達のペースなど微塵も考えずに突っ走る。少々息が上がってきたが戦いに支障が出るほどではないだろう、そう判断してどんどんペースを上げていく。羽音が後ろの方で「病み上がりなんだから、あまり無茶しないで下さい!!」と叫ぶが、病み上がりだとかそんなことは今関係ない、と一蹴。倒れたときは倒れたときだ、そんな風に考えるが何故か戦闘中に倒れてしまうことは考えていない。それが湊の甘さなのだろうか? 羽音は大きくため息をついて、死んでも知りませんからねと小さな声で呟いた。そんな憐の言葉を聞いて「ルチ兄は馬鹿だから気にしたら負け」なんて言うふうに言っている。涼は相変わらずおどおど。

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>>10は名前ミスです。別のところの名前になってましたね。申し訳ありません。

12霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/04/02(土) 19:48:43 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
 しばらく走ったところで湊は足を止める。聞こえてくるのは金切り声。少しだけ警戒してゆっくりと近づく。目に入ったのは……紅。あたりはすっかり紅く染まり白かった壁や色鮮やかな花瓶、透明な窓ガラスまでもを一色に染め上げていた。さすがの湊も声を失う。鋭く睨む視線の先には、血が滴るレイピアを握った少年、霧月 蓮(ムヅキ レン)がいた。真っ黒なロングコートを着て深くフードを被り顔を隠している。フードの中から覘くのは赤と青の瞳、真っ白な膚……濃紺の髪。首にはサファイアとアメジスト、ゴールデンベリルの埋め込まれた蝶のネックレスをつけている。腕にも全く同じデザインのブレスレットをつけていた。身長は湊より五センチメートル程度低い。
 ギリッと歯軋りとした後、紅く染まった生徒の一人が、無傷の生徒を抱きしめて「助けて……」なんてか細い声を上げたのを聞いて、湊は制服の下に隠し持っていた拳銃を取り出した。蓮はケタケタと笑い「なるほど、誰よりも闇に近かったアンタが光にいると……これは滑稽だな」と冷たく言い放つ。口の中で五月蝿い、と呟きながらも銃の安全装置を外す湊。銃如きじゃ相手に敵いはしない、そう分かっていても能力を使うのを躊躇ってしまった。相手の能力を理解しているから、下手に能力を使えば危ないことも分かるのだ。
 スイッと湊に刀を向ける蓮。どうやら湊が能力を使うまでは、自分も能力を使わないつもりのようだ。湊の後ろの方から聞こえてくる四つの足音に僅かに顔を顰めながらも、視線だけはずっと湊のことを捉えていた……。

 「こういう風に戦うのは初めて、でしたね。貴方は随分戦闘慣れしていそうだ」

 小さくため息をついてそういう湊。皮肉のつもりではあったが蓮はクスリと笑って「まぁな。伊達に場数は踏んでいないさ」なんて言う風にあっさりと肯定されてしまった。苦笑いを浮べて引き金を引く。やけに軽い音が響くと同時に蓮が走り出す。膝下まであるロングコートを羽織っているにも変わらずに軽やかに銃弾を交わしてゆく蓮。口には出さないが、湊はこう思う。……化け物め、と。蓮とは初等部からの付き合いではあるがそのときから得体の知れないオーラを漂わせていたな、そんな風に考えて苦笑いを浮べる。こんな無駄な思考めぐらせる余裕まで有るのか自分は、と。
 ヒュンッと風斬り音が聞こえた。目の前を横切るレイピアを見て、僅かに体が震えた。怖い、素直にそう思う。立場柄、闇との戦闘は何度も経験したことがある。しかし、多くの場合相手は低級から中級程度の能力者や無能力者で、蓮のように本気で下手に能力を使えない相手とは滅多に戦ったことがないのだ。紅零の力も確かに恐ろしいが、あちらは所詮劣化コピー。元の能力ほど協力じゃないし、自分の力をコピーされたところで弱点は知っているわけだからそこまで脅威になるわけでもない。刹の方は確かに能力でいろんな武器作り、それを扱って戦うし、相手の動きを何らかの能力で縛ってしまう。だが所詮はその程度。動きを縛られたところで能力は使えるし、様々な武器を使われたところで能力で防いでしまえば致命傷を負うことはない。
 月乃とは戦ったことはないが、あれは蓮と同じぐらい不気味だな、と考える。羽音達の足音が近くなってきた。さて、そろそろ一撃食らわせないと本当に不利になってしまうな、そう考え、半ば強引に体の向きを変え蓮に蹴りを入れる。レイピアで防がれるか? なんて言う風に心配したりもしたがそんなことはなく、あっさりと蹴り飛ばされる。壁に叩きつけられる蓮を見て、銃使う必要なかったじゃないかとため息をつきすばやく銃を制服の下に戻す。そう言えば涼からはグループだと聞いていたが他のメンバーが見当たらない、まさか味方まで殺したのだろうか? なんて言う風に蹴りが決まったことで完全に余裕が出てきている湊。

 「あー……。……力使うわ」

 能力を使わない戦闘に無理を感じたのだろう、首につけているネックレスに触れてそう宣言する蓮。能力に依存しているタイプか、なんて湊は蓮に呆れの含まれた視線を向ける。それでも蓮に能力を使われてしまえば大体均等である立場が一気に崩れこちらが不利になってしまう。失敗した……小さくそう呟いて、湊は後悔する。

 「あはは……それはヤバイ」

13霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/04/04(月) 15:22:50 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
あ、ミス発見。「協力=強力」ですね
変換ミスがあるようで……

14霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/04/04(月) 16:52:50 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「振り回されながら戦うのも嫌いではありませんが……男である以上は振り回す方がいいですよね!!」

 半ば叫ぶようにそう言った後、意味もなく振るった手には金色の弓が握られていた。言葉とは裏腹にその表情は戦いたくない、と主張を続けていた。蓮がフッとネックレスから手を離す。蓮のつけているネックレスは淡い光を発し始めていて、これから何かが起こる、ということを示していた。羽音だけでもいいから早く着てくれ、心からそう願うが足音を聞く限り後二分はかかるだろう。さて、後二分、どうやって能力を使わせないようにするか……そう考えていると軽く頭痛を覚える。明らかに無理なのだ。雑談をして時間を稼ぐにも二分は流石に長すぎる。能力使用の予兆を見せている相手に武器で攻撃なんて仕掛けてしまったら即座に能力で反撃されてしまうだろう。蹴りが決まったときの余裕は何処へ行ったのか、すっかり追い詰められてしまっていた。
 蓮はニヤリ、と笑う。今からお前をバラバラにしてやる……口には出さないものの目がそう言っていた。冷や汗が湊の頬を伝う。自分の馬鹿なんて叫びたくもなるがそれは後ろから来るであろう羽音達には不安要素となってしまうだろう、そう考えて必死に堪えた。口元だけが嫌にはっきり見える蓮は妙に不気味であった。口元だけを見せるだけでここまでも不気味になるものか……単純に蓮という存在が異質なだけなのか……、気になりはするが結論を知りたいとは思わなった。それこそ知ってしまったら自分も目の前にいる蓮のようになってしまうのだろう、そう考えて少しだけため息をつく。何でこんなピンチになりながら戦いとは関係ない方に思考を持っていけるんだよ、自分なんて言う風に少々自嘲を浮べる。

 「偉大なる四大精霊、水のウィンディーネ、同じく風のシルフィードよ……我が名のもとに姿を現せ!!」

 何処からか強い風が吹いた。思わず風の吹いてきた方を確認するが何もいない。湊は眉を顰め蓮の方に視線を戻す。蓮の横には美しい女性。流れるような青の髪に寂しげな水色の瞳……全身を包む水のような綺麗な色をしたドレス……。寒色ばかりだからであろうが、見ているだけで寂しくなってくる。感ではあるもののこっちがウィンディーネかと判断して湊はため息をつく。シルフィードは何処だと思い目を凝らすがそれらしきものは全く見えない。そんな湊を見て蓮はケタケタと笑う。そして平坦な声で「残念、シルフィードは空気に溶け込んでしまって俺でも気配を判じるのでやっとなんだ」と言った。湊はため息をつき、オイオイ、それでよく戦闘の場に出そうと思ったな、そう考えながら自分のホワイトダイアモンドの埋め込まれた星型のネックレスに触れる。
 四大精霊クラスの相手となると勝てる気もしないが、抵抗しないよりはましだろう、そう考えた。自らのネックレスが淡い光を発したのを確認した後、一度目を瞑る。能力を使うには一度落ち着いた方がいい、攻撃を食らってしまえばそこまでではあるが、大丈夫。視覚掌握を使って自分の周りの情報をゆがめる。この程度のことなら精霊であるシルフィードやウィンディーネは気付いてしまうであろうが、あくまで精霊などを召喚できるだけの人間である蓮には分からないはずだ。気配でさぐっても視覚情報がゆがめられている以上迂闊には攻撃できないだろう、そんな風に甘い魂胆だった。結論を言ってしまえばあっさりと攻撃されてしまったのだ。甘かったな自分、そんな風に考えてため息をついた。

 「バーカ。精霊から情報を拾えば問題ねーんだよ」

 吐き捨てるように蓮がそう言った。湊はグッと金の弓矢を握る力を強くして「甘かったですね……なるほど情報の共有まで出来るのですか」と呟く。これは思っていた以上にきついな。それとも湊の想像が甘いだけか……まぁここでは明らかに湊の想定が甘すぎる、それだけだといえるかもしれない。幼い頃m蓮の召喚の実力の低さを見てしまっているからどうせこの辺までしか出来ないだろう、と決め付けてしまうのだ。

15霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/04/05(火) 11:46:25 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
 後頭部でも殴られたのだろうか? 酷く頭が痛む、そう考えながら湊は顔を顰め、矢を放つ。矢は空中で止まってフワフワと浮いている。シルフィードか、そう考えて湊はニヤリと笑みを浮かべた。その刹那に矢から無数の枝が伸びて隙間もなくシルフィードを包み込んでしまった。指示を出したのは湊であり、湊がシルフィードの全体像を把握するのは無理なので首から上が出たなんとも間抜な状態なのだが。蓮はあわててシルフィードに抜け出すように指示を出す。それでもシルフィードは抜け出そうとしない……否、出来なかった。
 蓮の顔が歪むのを見て湊は心底嬉しそうに笑って「こんなことも出来るんですね。植物にシルフィードを捕らえろと指示を出してみたのですが」と弾んだ声で言う。よりいっそう蓮の顔が歪むのを見て湊は満足げに頷いて、手に持っていた種をポイッと投げた。それからは枝が出るわけでもなく、ただただ湊の手のひらに落ちて転がった。人の顔が歪むのを見て喜ぶ人間ではないはずなのだが、戦いのときになると相手の歪んだ顔は自分が有利だという証拠のような気がして、心地がよいものだった。こんなことで心地いいと思う自分は少し異常かもしれない、そう考えて湊は小さく肩を揺らす。

 「まぁ、所詮はランクの違いってことです。僕はSの上……ですけど?」

 静かに湊が言う。ランクというのはこの学園の中で能力の強さを分けたもので、下から順にD、C、B、A、Sがある。さらにその中で、上中下と分けられていた。その中でも生徒会に入るチャンスが得られるのはAの上ランク以上のもの、と非常に狭いのだ。ちなみにBの中以上のランクのものは能力制御のネックレスをつけている。これは過去に安全とされていたBの中ランクのものが暴走してしまい、多くの生徒がその能力の犠牲になってしまってから決定したものだった。能力暴走の原因は分からないが、制御する装置がなかったからだ、と強引に上が決めたのである。
 悔しそうに、それでも目だけは鋭く湊を睨みつけながら「下がれシルフィード。 ……俺はSの下だがな……」と言った。スゥッとシルフィードが消えて絡まっていた木の枝が音を立てて床に落ちる。湊はまったく、蓮もそうではあるが戦う気があるのだろうか自分なんて言う風に考えて、小さく首を振る。馬鹿馬鹿しい、とにかく羽音達が来たらあのはじで脅えている子達を連れて逃げてもらって、涼だけを残しておいてもらおう、そう考えて弓矢を空中に投げる。弓矢は不自然な音を立てて剣へと姿を変えていく。

 「あー!! 会長勝手に戦いを始めないでくださいです!!」

 蓮が右手を前に突き出して、ウィンディーネに指令を出そうとしているところで、少々気の抜ける声が聞こえてきた。剣を構えながらも湊が後ろを向けば、羽音と涼が不満ありげな表情で、憐は明らかに呆れたような表情をして立っていた。蓮は僅かにため息をついて時計を確認する。その後に静かな声で「ウィンディーネ、下がれ。タイムアップだ」と言った。きょとんとして首を傾げる湊たちをよそにフワリとコートを翻して歩いていってしまった。しばらくポカンとした後に慌てて傷ついた生徒達に駆け寄る。
 どうやら怪我負っているのは一人だけで、しかも回復の早い吸血鬼、致命傷になるようなものは少ないということでどうにか言霊と羽音の力のコンボで回復させることに成功した。湊はその間中、涼に説教をされていた。本来は湊が兄であるのだから、こんなことがあるなんてことは全くないのだがどうやらこの兄弟は違うらしい。仕舞いには湊が話を聞かないものだから涼に頬を思いっきり引っ張られている始末。回復が終わった憐は小さな声で「何をやっているのだねこの兄弟は」と呟いた。羽音も同感だというように小さく頷いている。

 「馬鹿兄!! 相手は高度の召喚能力者ですよ!? 下手をすればここにいる全員が全滅の可能性もあったんですからね!!」

 あーはいはい、と湊に受け流されて頬を膨らませる涼。憐にお前の兄に何を言っても無駄だ諦めろ、といわれて疲れたように頷く。そんな涼の頭を静かに撫でる羽音。助かった生徒達なんかはなんか自分たちの持っている生徒会のイメージと違う、なんて言う風にショックを受けているようだった。そんなことよそに、湊は無言で蓮の走っていった方を眺めいるのだった。

 NEXT Story〜第二章 闇(ブイオ)の人々〜

16霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/05/04(水) 19:46:23 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
第二章 闇(ブイオ)の人々

 少々乱暴に蓮が一つの教室のドアを開く。その部屋の中では紅零が優雅に紅茶を啜り、真新しいソファの上で刹が眠っていた。眠っているのにもかかわらずしっかりと日本刀を抱いているあたり、仮眠程度なのだろう、と蓮は判断して苦笑いを浮べた。まったく、まだ小さいくせに無理をしてとも言いたくなるがそれを言ってしまえば、目の前で紅茶を啜っている紅零に徹底的に殴られそうなので言葉を飲み込んだ。何故刹に言った言葉で紅零が怒ったりするのか、そう思うかもしれないが刹と紅零は背丈が全く同じなのである。単純に同じ身長の刹が小さいといわれれば間接的に自分のことも小さいと言っている、と解釈してしまうようだった。
 その辺は少々過剰反応過ぎるだろう、と思いながらも気に触るようなことを言わなければ普通の少女と大差ないと蓮は思っているので、気にとめもせず、ただただ小さいという言葉を二人に向けないようにだけしていた。もっとも、そのほかの言葉はそのときそのときの気分によって反応が変わってしまうので、言った後に後悔する、なんて言うことも多々あるのではあるが。それでも蓮が紅零に構うのはやはり幼い頃からの姿を知っているから、であろうか? それは本人ですら分からないらしいが蓮が紅零を信用しているのも、紅零が蓮に心を許しているのも揺るぎのない事実であった。

 「あら……戻ってきていたのね。お疲れ様。と言っても失敗したみたいだけども」

 ふと顔を上げた紅零が蓮に向かってそういう。小さく頷きながらフードを脱げば紅零が若干上機嫌な様子であったため僅かに首を傾げる。ここで何かあったのか、と聞いて紅零の機嫌が悪くなるのは避けたいし、紅零の場合は本当に機嫌がよければ勝手に話し始めるだろう、そう考えて蓮は何も言わずに床に腰を下ろした。付き合いは長いものの正直言って紅零との接し方を模索しているようなところがあるのは、絶対に本人には覚られないようにしなくては、そう思うと自然にため息が出てきた。
 自分の顔を怪訝そうに覗き込みながらも、何かを話したそうにしている紅零を見れば少しだけ笑みがこぼれるも、表情の変化が乏しいせいか紅零は全く気付いていないようだった。それでも話したいことはあるようでトテトテと蓮に近づいてきて横に座った。一体何を言い出すのだろうか、そう考えて予想できる言葉とそれに対する受け答えを何個か頭の中で挙げていくが、紅零の姿を見ても特に当てはまるものはない。髪形はまったくといっていいほど変わってもいないし、化粧をしているわけでもない。一体どんな言葉が飛び出してくるのか、それが全く分からずにビクビクしてしまう蓮。

 「聞いてよ、お兄様意識を取り戻したって!!」

 紅零の言葉を聞いて蓮は思わず目を見開く。紅零が兄の話を自分に持ち出すのは珍しかったのもあるし、紅零がいつにもなく子供のように笑っていたというのもある。珍しいこともあるものだな、それほど兄のことが好きなのだろうと考えて、一人頷いた。それを見た紅零は蓮が無表情ながらも喜んでくれているとでも解釈したのだろう、よりいっそう明るい笑顔を浮かべて鼻歌を歌い始めていた。普段からこうならもっと可愛げがあるだろうに、そう考えてクスリ、と蓮は笑う。

17霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/05/05(木) 21:22:44 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
 いつの間にか目を覚ました刹が小さく欠伸をして、目を擦っていた。その表情はどこか不機嫌そうに見えた。そんな刹を見て少し首を傾げた後、さては紅零と意見が食い違ったか、説教されて不貞寝、そうでもなければ刹視点で見て誰かが紅零に無礼でも働いたのだろう、と考える。正直に言うと刹が寝起きで機嫌が悪いのはそれ以外の理由はほぼ無いのである。刹は重度のシスコンではあるがため、紅零に関することは結構根に持つ。まぁ代わりと言ってはなんだがそれ以外の怒りの感情は、短時間でも寝てしまえばころっと忘れてしまうのである。そう言った面から見れば扱いやすい存在かもしれない。
 目が合ったのでとりあえず「お目覚めか……お兄さんの件おめでと」なんて言う風に声を掛ければ、刹は余計に不機嫌そうな顔。地雷でも踏んだか? 蓮はそう考えて首を傾げる。普段の刹はと言えば気に入らないことを言ったりしたり、紅零の妨害をしない限りは相手が光である場合を除き、温厚でニコニコ笑っているような子である。紅零は少し困ったような表情をして「さっきからあの調子。困ったものよ」なんて言う風に蓮に耳打ちをする。それっきり何を言っていいのかも分からないというように黙り込んでしまう。

 「……お兄様なんて……あんな人、僕は大嫌いだ」

 ポツリ、と刹が呟いた。どういうことだ、蓮がそう問いかける前に刹が声を荒げ始める。ただただ心の内を叫び始める。

 「あんな人……お姉様や僕を裏切ったじゃないか!! 見捨てたじゃないか!! 湊と……あいつと同じ裏切り者だ!!」

 刹達とその兄の間に何があったか、それは蓮には分からない。紅零や刹と行動することは多かったが、それと同じくらいに病院で一人で過ごすことも多かった。それゆえ蓮が持っている刹達の情報も穴だらけで、足りないものばかりだ。たとえば刹が紅零に異常なまでの執着を見せること……これは元々シスコンだったためとも言えるが“あの日”を境に酷くなっている。その“あの日”に何があったかは蓮は途中までしか知らない。正しく言うと途中までしか見ていないのである。途中まではその場にいたが、あることが原因で病院に担ぎ込まれる羽目になり……その後のことは誰に聞いても教えてはくれない。少なくても蓮が見ていたところまででは刹が紅零に執着を見せるようになるのには不十分だ。
 刹達とその兄の間に何かが起こったとすると、自分が病院に運び込まれた直後あたりだろうと蓮は考える。蓮の記憶には残っていないだけでもっと前に起こっている可能性もあるが、少なくても自分が病院に運び込まれる前までは、刹は純粋に兄のことを尊敬していたと思う。となるとやはり自分が入院している間、さらに言えば自分が病院に運び込まれた一〜三時間の間に起こったことが原因だと考えられる。何故そんな短時間に絞り込めるかと問われれば紅零にその兄が病院に運び込まれた時間を聞き、帰ってきた時間から推測すると行動を起せる時間がそれぐらいしかないためだ。もっとも情報が少なすぎて蓮にはどうとも言えないのではあるが。

 「俺には良く分からんが……紅零はそうは感じていないようだが?」

 蓮がそう言うと、刹はキッと蓮を睨みつける。紅零はすっかり困った顔をしてため息をつく始末。こういう場合多くは蓮が何とかしなくてはならないので、酷く面倒だ。蓮一人では流石に出来ることも限られてくるのだし、間違った対応をすればさらに機嫌を損なってしまう。心の底から刹を初めとする小鳥遊兄妹との対立は避けたいと思っている蓮にとって、今、刹の機嫌を損なうことは非常に都合が悪いことだ。困ったことになった、と頭を抱える蓮。元々人との関わりが得意ではないせいかこういうときにどうしていいのかが全く分からない。普段と同じような対応をすればまず機嫌を損ねるだろう。出来ることなら面倒だと叫んでしまいたい。

18霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/05/13(金) 22:11:47 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
 どうしていいのか分からずに黙り込んでいれば刹は小さく笑った。まるで知っているというように、心の中の何かを吐き出すように笑い出す。ヤバイ、そう思って蓮が動き出したときには刹はすでに刀を抜き放っていた。少し首を傾げた後「知ってるさ……。僕の言うことなんてどうでもいいだろ? お姉様の言うことが正しいとでも言うんだろ?」なんて平坦な声で言う。地雷を踏んだかと蓮は深くため息をついた。ゆっくりと向けられる刀に目を向けながらも己の武器は取り出さない。武器を取り出してこれ以上機嫌を悪くされても面倒だと思ったのだ。事実そのような対応をして被害が拡大したこともある。
 蓮はさて、どうしたものかと考え込みながらも、出来るだけ表情を変えないようにする。こういうときにどういう顔をしていいかも分からないのだ。精神を落ち着かせるだとか、安定、落ち着きをつかさどるような精霊や妖精、神などを召喚すればいいのかもしれないが、召喚には非常に重いリスクが付きまとうのだ。特に蓮のように四大精霊などを呼び出せるようなクラスになってしまうと余計である。召喚能力者なんていってしまうと妙に万能なイメージを持ってしまうかもしれないが実際のところはそうでもない。それに見合う代償を支払ってやっと召喚することができるものなのだ。さらに言ってしまえば、才能も問題であり才能が無ければいくら代償を支払ったところで何も得ることは出来ない。まぁ当然といえば当然の話である。
 能力を得た変わりに蓮が失ったものといえば右目の視力と一部の感情である。視力なんて言うのはまだ左目が見えているため問題はない。しかし感情の方は多少どころは非常に問題ありだ。元々感情表現は得意な方ではないのだが、余計に感情を表現することが出来なくなった、とでも言うのだろうか? しかも失ったのが負の感情ならまだしも、蓮が失った感情は主に喜びである。出来なかったことが成功してもなんとも思わないし、出来なかったことができるようになるのなんて、よくあること、で済ませてしまうのだ。まぁ自分のことだけならば良いのではあるが、他人、もしくはクラスメート全員が喜んでいる中一人だけが無表情でいたりする。まぁ楽しむというような感情がなくなっていないのが唯一の救いかもしれない。

 「……逃げないんですか?」

 クスッと笑みを零しながら刹が言う。蓮は小さく頷いて真っ直ぐと刹を見つめる。逃げ切れる自信がないというのもあるがやはり一番の問題は先ほども言ったとおり、これ以上刹の機嫌を損ねることである。先ほどから紅零は黙ってあれこれ考えているようで動きを見せない。使えない後輩め、そんな風に心の中で毒を吐くが、口に出してしまえば敵が増えるだけなので黙っておくことにする。

19霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/05/15(日) 16:16:30 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「逃げても無駄、だろ?」

 蓮は目の前でほくそ笑む刹に向かって吐き捨てるように言う。闇のごく一部の主要メンバーが刹のことを白銀の悪魔、なんて言うように呼ぶのがよく理解できる。仲間を消すことだって全く躊躇いのない冷徹さ……下手をすれば闇ごと壊滅してしまいそうだ、そう考えて蓮は僅かな笑みを浮かべた。そんな蓮の顔を見て眉をひそめ、無言で手に握った刀を振り上げる刹。頭を庇いもせずに振り上げられる刀と、刹の腕を交互に見る。刹が使う刀は僅かに特殊な装飾の施された日本刀であり、長さは2尺4寸5分……大体74.4センチメートル程度のものである。重さは1400グラム程度のもので、振り回すにしては少々無理がある。刹のような中学生程度なら尚更であろうか? さらに日本刀を扱うものが合う事故で多いのはその刀を振るうさいにその重さに負けてしまい、自分の足を切ってしまう、というものらしい。そう考えると蓮は自分が切られるよりも、刹が誤って足を切ってしまわないかのほうが心配である。
 低い舌打ちと刀が振り下ろされるのを示す風斬り音。静かに目を閉じて刀が自分の頭を砕くのか、それとも体を切り裂くのかをただただ待つ。ここで命乞いをしないで死を楽しみながら待っているあたり自分は歪んでいるのだろうな、と蓮は考えていれば、ガキンなんて言うような金属が聞こえた。いつまで立っても振り下ろされることない日本刀を怪訝に思い薄く眼を開けば、紅零が日本刀で刹の刀を防いでいるのが目に入った。刹は驚いたように目を見開いて紅零に刀を防がれた状態のまま固まってしまっていた。

 「何で逃げないのよ、この馬鹿!! 上手く逃げると思ってたから別のこと考えていたじゃない!!」

 紅零が顔を僅かに蓮に向けて叫ぶように言う。何で俺が怒られるんだよ、そんな風に思いながらも蓮は少しだけ後ろに引いて立ち上がる。鋭い目つきで刹が睨んでくるが、とりあえず気にしないことにして、紅零をどうにかしなくてはならないかと考えてため息をついた。ここで紅零に死なれては高等部にいる紅零の姉、月華に絞め殺されるとなにやら物騒な考えが浮かんできたが、とりあえず頭を振って追い出すことにした。怪我させるのも戦力が減るから避けたいし、腕一本ぐらいの覚悟ぐらいは必要だろうかと苦笑いを浮べる。

 「つか紅零、何でテレキネシスで防がなかったし」

 目の前に紅零の肩が少し揺れた。ああ、テレキネシスを使えることを忘れていたのだろう、そう勝手に解釈して、刹に近づく。刹の耳元で「そのままだと大好きなお姉ちゃん叩ききることになるぜ?」なんて言う風に囁いてやれば、あっさりと刹は刀を引いて鞘にしまった。姉の存在はやはり大きいところのようだ、と笑みを浮かべながら刹の頭をなでてやる。そんな蓮を威嚇するかのように刹はただただ睨みつける。この光景を見ているとなんだか、兄が弟を宥めているようにも見えるのだから不思議だ。

20霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/02(木) 19:20:43 HOST:i118-21-90-39.s04.a001.ap.plala.or.jp
 はぁ、と蓮はため息をつく。疲れたというよりもほっとしたというのが正しい。刹はいまだに不愉快そうな様子ではあるが刀を再び抜こうとするそぶりは見せない。もしかすると能力でナイフでも作って飛ばしてくるかもしれない、そうも考えたがそれをやろうとしたところですぐに気づくことが出来る。所詮は能力。魔法だと聞くと万能に近い気もするが能力、といわれるとそうもいかない。単純にできることが限られているからである。刹の場合は武器など意思を持たないものならば容易に生み出して、操ることが出来る。それが百だろうが千だろうが、だ。
 しかし元々はないものを一時的に作る能力だと、どうしても空間に歪みができてしまうことになる。なかったものを強制的にあるに変換してしまうのだから仕方がないのだろうか。その際に生まれる歪みに能力者が耐えられなくなってしまうのが三十分であり、そこで一旦能力を0に戻す……つまりは発動していた能力を解除し、元の歪みのない状況へと戻す必要があるのである。また、これはあくまで刹の話であり、他の能力者だと十分ももたないものが多い。そうじゃなくても多くは十五分程度で耐え切れなくなってしまうのだ。さらに言えば多くのものを作り出すほど能力の質は落ちる。
 刹はと言えばいくら作り出したところで三十分はもつし、一つ一つの質もその辺の能力者に比べて高い。元々刹の創作能力自体が希少な能力であるため、能力は平均していることが多い。そう考えれば刹のずば抜けた能力は異端だといえる。

 「っと、俺はそろそろ行くぜ。元々顔見世程度のつもりだったしな」

 そう言ってフードを被りなおした蓮を見て紅零は僅かに顔を顰め「あら、もう少しゆっくりしていけばいいじゃない?」なんて言う風に言った。それにかぶせるように刹も「急いで何処に行くんです? 何かやましいことでも?」とからかうような口調で言った。散々からかってすっきりしようとでも考えているのだろうか、と蓮は考えて低く舌打ちをした。あまり触れられたくないようなことだったのだろうかそう考えて刹はしてやったりとばかりに笑みを浮かべる。

 「墓。何ならついてきてもいいぜ?」

 なんでも無いことのようにさらっと言う蓮。それを聞いて思わず声を失うのは紅零である。刹の方はぞっとしたような顔をして固まっていた。さらっとした物言いとは違い、表情は完全に闇そのものである。いじり倒そうかと思っていた刹であったが、下手なことを言えば殺される、そう考えてしまって何もいえなかった。もっとも蓮が刹を殺そうとするなんてまずありえない話なのだが。

 「もしかして桜梨(オウリ)ちゃんの?」

 紅零の問いかけに僅かに頷いて「一応は双子の片割れだしな。あの時は死ぬなんて思ってなかったけど。クソ生意気で化け物みたいな奴だったし」と答えた。双子、墓なんて言う言葉が出てきた瞬間に刹はバツが悪そうに顔を逸らした。刹の兄妹や家族は全員生きている。それは単純に蓮や過去の湊、蓮の双子の片割れ……多くの人物に守られてここまできたからである。今でこそまともに刀を振るって戦うことが出来る刹でも、ある事件が起こるまではただの無力な少年……。
 その点、蓮はと言えば当時から弱音や、好き、なんて言う感情を素直に表に出そうとはしない素っ気無い奴だった。今は大分話すようになってきたが昔は何を言っても帰ってくるのは無言ばかり。辛うじて話していた相手といえば湊や双子の片割れである、桜梨程度だった。刹からしてみればとっつきにくくて怖い……それでも守ってくれる頼りがいのある存在だった。それと同じように蓮も桜梨のことを頼りにしていたし、心の支えとしていた。その人物が死んでしまったのである。刹や紅零を守ろうとしたせいで。
 それでも蓮が刹や紅零に感情をぶつけることはなかったと思う。憐や涼とも決め手となる出来事が起こるまでは上手くやっていたし、湊にはしょっちゅう慰められていたのも刹は目撃している。その湊の腕の中で蓮が声を上げて泣いていたのも……。それを見て以来、桜梨を初め死んでしまった人のことを話題に出すのはやめた。思い出させて悲しい思いをさせたくない、そう思っての行動だった。それが正解なのかは刹には分からないが……。紅零も小さく頷いて「そう。じゃあ行ってらっしゃい」と引きつった笑みを浮かべて小さく手を振って見送った。

21霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/05(日) 14:26:50 HOST:i118-21-90-39.s04.a001.ap.plala.or.jp
 学園内に墓地があるというのはどういうことなのだろうか? 単純に生徒の身内、兄弟だと生き残った生徒が学校の敷地から出なくてもよいようにされている。この学園初等部から高等部全ての課程を終了するまでは生徒が学校の敷地内から出ることを許されていない。単純に対立が激化する学園から少しでも離れれば戻ってきたときに環境が大きく変化していることがある。それについていけなくなってしまう事を考えてのことである。
 他にもこの学園にいるのが能力者、魔法使い、吸血鬼など人から見て“化け物”等と称されるものが多いことも原因の一つである。勿論、能力を持たず、魔法も使わない、吸血鬼でもない一般人も居るのだがそのものたちも学園の外とは僅かに違いがある。頭脳に然り身体能力に然り……そう言った面で外での生活に対応できると判断されるまでは外に出してもらえない。特にAの中ランクのものとなると評価は余計に厳しくなっていく。
 それゆえにこの学園内で教師をしているのは、この学園卒業の能力者達が多いのだ。そう考えればこの学園は一種の保護、育成施設と捉えることが出来るかもしれない。事実、この学園にきたことで一切制御できなかった能力を制御できるようになり、今では外の一般人に紛れて生活しているものもいる。外からの攻撃があったところで生徒を捨てるようなことはなく、多くの場合理事長一人で対処をしていた。

 「なあ、桜梨……お前が死んでもう三年経つのに、俺はまだ……」

 一つの小さな墓の前、小さな今にも消えてしまいそうな声で蓮が言う。小さな墓には霧月 桜梨(ムヅキ オウリ)と刻まれその下には生まれた年と死んだ年……。そっとそこを手でなぞって、今にも壊れてしまいそうな、無理矢理な笑みを浮かべて……。ツゥッと頬を伝う透明な雫は静かに地面を濡らしていった。
 運命なんて言うものは残酷である。寄り添う二人でも唯一の身内でも時が来れば容赦なく引き裂いてしまう。だからこそ蓮は思う。運命なんか絶対に信じない、と。自分の身内が殺されたことを運命なんかで片付けさせはしないと強く思う。運命だから仕方がないなんていって諦めているような奴を見れば、腹を割いて、八つ裂きにしてやりたいという衝動に駆られることさえもある。それをどうにか抑えながら生活しているのはストレスの連続である。

 「……もうすぐこの学園は戦火に飲まれる。今までのとは比にならないほどでかい戦火に……そうしたら俺はお前のところにいけるのかな……?」

  きつく、爪が手のひらに食い込むほどに握った拳は僅かに震えていた。それは死に対する恐怖か、これから始まるであろう大きな戦いへの、死という希望を見出しての武者震いか……。蓮の口元に浮かぶ笑みは無邪気な子供のように見えた。それと同時校舎の方からは爆発音、誰が暴れているのだろうか、手に持っていた花束を墓石の前に置きフラリと校舎に向かって歩き出す。死臭を好む獣のように死の音の聞こえる方へとただただ進む。

22霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/06(月) 20:54:43 HOST:i118-21-90-39.s04.a001.ap.plala.or.jp
 フッと校舎に入ったところで蓮は足を止めた。遠くから聞こえてくる悲鳴、罵声、嘆き。時計を見ればちょうど十九時を回ったところ。なるほど光狩りの時間かと小さく頷いて、また足を進める。光狩りというのは闇が一日に一度行う光を“消す”作業のことである。日によって時間は変わるがそう言えば今日は十九時からだったなと蓮は連絡班からの伝言を思い出して、頬を掻いた。蓮はこれでも実質闇のトップに立つ五人……闇高等部生徒会の副会長である。ここで行動を起さないのも内で敵を増やす原因になるのだろうか、そう考えて気が乗らないながら、コートのポケットから銀のナイフを取り出す。
 目の前を横切ったのは、黒い翼を持った銀髪の少年。あいつで良いか、そう考えてナイフを少年に向けて投げつける。少年ははっとしたように振り返って、ナイフを片手でつかむ。その制服は闇を示す漆黒のもの。涙目になりながらも「酷いですねー副バ会長ぉー僕ですよぉー悠斗(ユウト)ですよぉ」手で掴んだナイフを床へと放り投げ、僅かに頬を膨らませながら言う少年。フッと少年の姿が赤茶の髪を一本で束ね、気だるげな緋色の瞳をもつ小さな子供に変化する。彼の名前は小早川 悠斗(コバヤカワ ユウト)、身長百三十四センチメートルとかなり小柄だが一応は高等部生徒会書記に任命された高校生である。

 「なんだ……変化していたなら分かりやすくしろ。見たことない奴だから光だと思っただろうが」

 全く顔色を変えずに蓮はそういう。どうせ刺さったところで死なないんだろうとでも言いたげな表情で悠斗を睨みつける。悠斗のほうも悠斗でニコニコと笑って中指を立てて蓮を挑発。そんな安っぽい挑発には乗らなかったものの、フードの奥ではすっかり表情をゆがめている蓮。……どうやらこの二人は犬猿の中らしい。
 闇は基本的に内部での争いは禁止されている。単純に闇全体での敵は光であり、力を向けるべきは光に対してだと実質的リーダー、高等部生徒会長の月乃が示したためである。そのおかげもあってか闇の内部での打ち合いは少なかった。全くない、とはいえ無いが少なくても光の最下層に比べればうんと少なかった。もっとも不満を持つものは月乃を初めとする生徒会メンバーに歯向かったりもする。しかし多くの場合それは一瞬で鎮圧されてしまい、見せしめと称されて嬲り殺されていく。恐怖政治でしかないようにも思えるがコレも効果あり……。
 しかし蓮と悠斗は例外であった。顔を合わせるたびに喧嘩、同じ光を追ってぶつかっては喧嘩……生徒会の仕事の最中でも喧嘩、もはや月乃公認の喧嘩仲間へと化している。さらに言ってしまえばこの二人の場合は普通の能力者や魔法使い、一般人とは身体のつくりが違うので簡単に死ぬことはない。それも月乃に勝手にやっていろと言われる要因の一つだった。

 「しっかし最近は過激ですねぇー。このままだと“全面戦争”が起きてしまいそうですぅー」

 にっこりと、言ってる言葉にはそぐわない笑みを蓮へとむける悠斗。蓮は深くため息をついて「高度予知能力を持つお前が言うと洒落にならんから止めておけ。つか喋り方ウゼェよ」なんて言うように軽く言葉を返した。先ほど自分が言った学園が戦火に飲まれるという言葉と悠斗の言葉が重なれば完全に顔を顰めた。蓮と悠斗の言葉が近いものだったときの多くは予想を超えることが多い。予知とありとあらゆる精霊、生物から情報を得られる蓮がいうことなのだ、ほぼ間違いはないと言ってもいいだろう。
 
 「まぁ、戦火に飲まれるだろうさ。そう遠くないうちに、“あの日”より醜い戦火に」

 小さな、それでもやけに聞こえる声で蓮は言った。悠斗は久しぶりに意見が一致したというように満面の笑みを浮かべて手を叩いた。それを見て蓮は小さく舌打ちをして顔を逸らした。悠斗と意見があっても嬉しくなんかないというように。それと同時に蓮は思う。紅零や、刹をはじめとする“あの日”からの仲間だけはどんな手を使っても、どれだけ自分の手を使っても守ると……。それは闇に染まった、一人の少年の覚悟……。

NEXT Story〜第三章 聖鈴学園〜

23霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/07(火) 21:36:32 HOST:i118-21-90-39.s04.a001.ap.plala.or.jp
 フッと校舎に入ったところで蓮は足を止めた。遠くから聞こえてくる悲鳴、罵声、嘆き。時計を見ればちょうど十九時を回ったところ。なるほど光狩りの時間かと小さく頷いて、また足を進める。光狩りというのは闇が一日に一度行う光を“消す”作業のことである。日によって時間は変わるがそう言えば今日は十九時からだったなと蓮は連絡班からの伝言を思い出して、頬を掻いた。蓮はこれでも実質闇のトップに立つ五人……闇高等部生徒会の副会長である。ここで行動を起さないのも内で敵を増やす原因になるのだろうか、そう考えて気が乗らないながら、コートのポケットから銀のナイフを取り出す。
 目の前を横切ったのは、黒い翼を持った銀髪の少年。あいつで良いか、そう考えてナイフを少年に向けて投げつける。少年ははっとしたように振り返って、ナイフを片手でつかむ。その制服は闇を示す漆黒のもの。涙目になりながらも「酷いですねー副バ会長ぉー僕ですよぉー悠斗(ユウト)ですよぉ」手で掴んだナイフを床へと放り投げ、僅かに頬を膨らませながら言う少年。フッと少年の姿が赤茶の髪を一本で束ね、気だるげな緋色の瞳をもつ小さな子供に変化する。彼の名前は小早川 悠斗(コバヤカワ ユウト)、身長百三十四センチメートルとかなり小柄だが一応は高等部生徒会書記に任命された高校生である。

 「なんだ……変化していたなら分かりやすくしろ。見たことない奴だから光だと思っただろうが」

 全く顔色を変えずに蓮はそういう。どうせ刺さったところで死なないんだろうとでも言いたげな表情で悠斗を睨みつける。悠斗のほうも悠斗でニコニコと笑って中指を立てて蓮を挑発。そんな安っぽい挑発には乗らなかったものの、フードの奥ではすっかり表情をゆがめている蓮。……どうやらこの二人は犬猿の中らしい。
 闇は基本的に内部での争いは禁止されている。単純に闇全体での敵は光であり、力を向けるべきは光に対してだと実質的リーダー、高等部生徒会長の月乃が示したためである。そのおかげもあってか闇の内部での打ち合いは少なかった。全くない、とはいえ無いが少なくても光の最下層に比べればうんと少なかった。もっとも不満を持つものは月乃を初めとする生徒会メンバーに歯向かったりもする。しかし多くの場合それは一瞬で鎮圧されてしまい、見せしめと称されて嬲り殺されていく。恐怖政治でしかないようにも思えるがコレも効果あり……。
 しかし蓮と悠斗は例外であった。顔を合わせるたびに喧嘩、同じ光を追ってぶつかっては喧嘩……生徒会の仕事の最中でも喧嘩、もはや月乃公認の喧嘩仲間へと化している。さらに言ってしまえばこの二人の場合は普通の能力者や魔法使い、一般人とは身体のつくりが違うので簡単に死ぬことはない。それも月乃に勝手にやっていろと言われる要因の一つだった。

 「しっかし最近は過激ですねぇー。このままだと“全面戦争”が起きてしまいそうですぅー」

 にっこりと、言ってる言葉にはそぐわない笑みを蓮へとむける悠斗。蓮は深くため息をついて「高度予知能力を持つお前が言うと洒落にならんから止めておけ。つか喋り方ウゼェよ」なんて言うように軽く言葉を返した。先ほど自分が言った学園が戦火に飲まれるという言葉と悠斗の言葉が重なれば完全に顔を顰めた。蓮と悠斗の言葉が近いものだったときの多くは予想を超えることが多い。高度の予知をもつ悠斗とありとあらゆる精霊、生物から情報を得られる蓮がいうことなのだ、ほぼ間違いはないと言ってもいいだろう。
 
 「まぁ、戦火に飲まれるだろうさ。そう遠くないうちに、“あの日”より醜い戦火に」

 小さな、それでもやけに聞こえる声で蓮は言った。悠斗は久しぶりに意見が一致したというように満面の笑みを浮かべて手を叩いた。それを見て蓮は小さく舌打ちをして顔を逸らした。悠斗と意見があっても嬉しくなんかないというように。それと同時に蓮は思う。紅零や、刹をはじめとする“あの日”からの仲間だけはどんな手を使っても、どれだけ自分の手を使っても守ると……。それは闇に染まった、一人の少年の覚悟……。

NEXT Story〜第三章 聖鈴学園〜

一部言葉が足りないところがありましたので修正。後々見直していくとおかしいところが沢山ありますね……。

24ライナー:2011/06/12(日) 22:44:31 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
別スレで書かせて貰ったとおり読ませて頂きました!
文章力が高いですね、よほど推敲したとお見受けします^^
設定も面白いです。読めば読むほど吸い込まれていく感じです!

あと、気になった点では改行をもう少しするべきではと思います。
大事な文章を引き立たせるためにも必須です。(自分も大して上手い改行やってませんが^^;)
文章は塊が多いほど読む意欲を削り、良い作品でも飽きられることが多いそうです。
改行は小説の作法というらしいですから、もう少し取り入れてみては?

25霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/14(火) 19:07:26 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>ライナー様

あわわ、こんな低クオリティをお読みくださって感謝です!!
文章力についてはやっと、と言う程度でございます。表現等まだまだ学ぶことが沢山でして。
それは嬉しいです。やはり自信がないとはいえ必死に考えた物なので、面白いといってもらえるのは一番の喜びだったりします

改行、ですか。確かにぎちぎちに詰め込んでありますからね。だから読ませる気ないだろうとか言われてしまうのかもしれません;
なるほど、なるほど、それでは少しでも読みやすい作品となるよう、気をつけていきたいと思います。

貴重なご意見、ご感想有難うございました!

26月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2011/06/17(金) 18:43:03 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
なりきり掲示板の方で「感想書きます!」なんて言っていたのにかなり遅れてしまって申し訳ないですorz
>>24様と同じになってしまいますが、文章力がとても高くて情景がわかりやすいです^^
続き楽しみにしてます!

あと、私も最近小説上げてみました。
あなたの素敵な小説には到底及ばない堕クオリティですが、読んでいただければな、と思っています^^

27霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/17(金) 19:25:22 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>月峰 夜凪様

いらっしゃいませでございます。
文章力はやたらと低いです。表現力もないですし、書いている本人が混乱していたりします
ええ、今書いている途中なので完成し次第あげますね。

お、そうなんですか?
後ほど見てみますね。ちなみに僕の小説は誰よりも堕クォリティでございます

28kalro:2011/06/17(金) 20:20:10 HOST:nttkyo007103.tkyo.nt.ngn.ppp.infoweb.ne.jp
kalroです!
小説読ましていただきました。とてもおもしろいです!
読んでいる内にどんどん内容に引き込まれます!
僕も小説書いてますが到底およびませんね・・。
異能や魔法がとても好きなのでとても読んでいて楽しかったです。
続きを楽しみにしています。これからも頑張ってください!!

29霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/17(金) 21:36:29 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>kalro様

有難うございます。自信がないながら面白いといっていただけて幸いでございます。
内容に、引き込まれる、ですか。それならよかったです。分かり難い点等ありましたら言ってくださいませ。
んー……そうでもないと思います。僕なんてその辺にごろごろいるレベルより下程度ですよ。

私も異能や魔法は好きです。設定を練るのも読むのも楽しいですから。
はい、亀更新ですが地道に頑張っていこうと思います。コメント有難うございました

30霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/18(土) 13:02:46 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
第三章 聖鈴学園

 ひらりと桜が舞い落ちるのを見ていた。月に照らされた桜が妙に懐かしく思えて食いつくように窓から桜を見つめ続けている。仕事が残っているといって生徒会室に一人残ったところまではよかった。しかし外が気になってしまい仕事が全く手につかない。小さくため息をついて湊は自分を嗤う。結局何も変わっていないんじゃないか、そう考えてただただ自分のことを嗤った。不思議なことで生徒会のメンバーと離れ一人になれば過去のことが頭を巡った。忘れたと思っていた忌々しい記憶たちが……。
 小さくドアが開く音がした。男子陣がドアを開けたにしては静かだったし、羽音が忘れ物でも取りにきたのだろうか? そう考えて顔さえも向けずに窓の外を眺めていた。どうせ仕事中の休憩だと判断して勝手に去っていくだろう。そう考えた。そういう点から見れば湊は生徒会のメンバーにでさえ距離を作ってしまっているようだ。

 「光会長。光側の魔法使いさんが帰ってきましたの。これで特殊情報統括組織正式活動開始なの」

 思っていたより高い声だった。顔を声のするほうに向けてみれば、そこにはジト目気味で明るい桃色の目に、膝まである透き通るような水色の髪を少女が立っていた。髪には桃色のヘアピンを二本つけていた。服装は湊や紅零たちとは全く違う物で、白と桃色を貴重としたセーラー服だった。少女の名前はアズラエル。特殊情報統括組織のリーダーである。
 特殊情報統括組織というのは魔道書を初めとした魔法使いが扱う様々な情報類を外に漏らさないようにする物であり、光、闇のどちらにも属していないものであった。現在管理している魔道書の数は百冊程度、最前期はもっと冊数が有ったのだが湊や蓮がいう“あの日”に多くの魔道書が焼けてしまったのである。どうにかパートナーである一人の少年と運び出せたのが百冊だった。

 「魔法使い……楓のことですね。あの方は呪術師に近いと思いますが……とりあえずアズさん、報告感謝です。ところで利樹(リキ)さんは?」

 フウッと息を吐いた後にそういう湊。アズラエルは首を傾げた後「利樹は部屋で本の整理中なの」と言って笑った。サボりか、そう呟いた後頬を膨らませたアズラエルをみて湊は小さく手を合わせた。利樹という少年とアズラエルは幼いときより共にいるので仲が非常によかった。アズラエルの方は利樹のことを心から信頼しているようで、彼の悪口を言われてたりすると非常に怒る。まぁ彼女は超がつくほど天然なので、悪口に気づかないことも有るのだが。

31霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/18(土) 13:16:18 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
アズラエル、利樹君は月峰 夜凪様よりお借りしています。私が使うとなんだか可愛げがなくなってしまうような……。

それと>>30の貴重=基調です。申し訳ありません。

意味が分からないところ、解説がほしいところが有りましたら教えてください。物語に差し支えない程度で補足させていただきます。
まだ未熟ではありますが、どうぞ温かい目で見ていただけるよう、お願いいたします。

32霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/20(月) 20:15:36 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「さて、コレで今正式に活動しているのは、特殊情報統括組織と理事長直属の中枢部、各生徒会……か」

 アズラエルがさった後、小さく呟いて湊は窓に額を当てる。ひんやりとした感覚は気持ちよくもなんともなくて、ただガラスの存在を主張する程度の物にしか感じられない。静かに目を閉じて深く息を吸う。あまりにも自分が知っているこの学園が最悪だったことに似すぎていた。もしかすると厄介なことになるかもしれないなそう考えて深く息を吐いた。そんなこと考えたって憂鬱になるだけじゃないか、そう考えて首を振る。その程度で考えを払拭することはできないのではあるが。

 「湊。そんなに不安がらなくても貴方は予知方面は鮮やかなくらいにサッパリなのですから、気にしなくても問題ないかと」

 ふとドアが開く音と車椅子が動いているような、そんな音が聞こえた。聞きなれた声に驚いて顔を向ければそこには、腰の辺りまでの銀の髪にの少年がいた。車椅子に座って足には真っ白な布をかけている。しかしその両目は包帯でぐるぐる巻きにされ隠されてしまっている。その胸元に輝くのは湊のものと同じ形をしたバッチ。そのバッチには生徒会長推薦情報処理と刻まれていた。
 そんな少年の名前は小鳥遊 楓(タカナシ カエデ)。湊の幼い頃からの友人でもはや腐れ縁と化しているような人物であった。故にさらっと湊の考えを当ててしまったりと、色々湊にとって不都合なことが多いようである。ある事件をきっかけにしばらく、というか二年以上学園を離れていたのだが、それが今日戻ってきたというわけである。

 「と、言うか先ほど優希君にも会ってきましたが、貴方を初めあの頃のメンバーは大きく変化しているのですね。いい意味にも、悪い意味にも」

 クスリと楓が口元に手を当てて笑う。その後にキュッと口を結んで俯いてしまった。どうしたのだろうかそう考えて湊は楓に近づく。ゆっくりと急に大きな音を立てたりしないように気を払いながら楓の目の前へと移動すれば、黙ってしゃがみこみ楓の顔を覗き込んだ。震えていた。ただただ楓は震えて、無理矢理のぐちゃぐちゃの笑顔を浮かべていた。

 「学園の内部事情も大きく変わってしまっている……私ただ一人があの頃に取り残されて……」

 目を見開いた後、そっと楓の頭をなでた。正直に言えば恥ずかしくて仕方がない。湊は楓が学園から離れていることを羨ましいと思ったことがあった。毎日続く殺戮と、争いそれに疲れ果てて楓はいいな、こんなところにいなくてすむのだから、と。それが酷く悲しく思えた。勿論この学園に残るのも辛いかもしれない。しかし今の楓はどうだろう? ちっとも気楽そうにしてはいないじゃないか……。

33霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/25(土) 13:07:13 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
 小さく、楓の肩が揺れた。泣いたのだろうか? そう考えて湊の焦りは頂点に達した。楓は何故だか一度泣いた後のテンションが凄まじく不安定になるのだ。ハイテンションになったかと思えば、急に沈みだすし、そうなってしまうと湊もついていけなくなってしまう。クスリと抑えていた笑い声が漏れるのが聞こえた。はっとしたように港が顔を上げれば楓が腹を抱えて大笑いしていた。口元は押さえているが笑い声で完全に漏れている。コイツは……と思わず拳を握るが相手は一応病みあがり。深くため息をついて振り上げそうになった拳を押さえる。
 先ほどまでのしおらしさは何処へやら、もはや笑い声を抑えることさえやめて、声を上げて笑う楓。明るい声で「いやー、相変らず騙しやすいですね。何とかしないと足元すくわれますよ?」と言った。湊はふいっと顔を逸らして「う、五月蝿いです。相変らず悪趣味ですね」と言い放った。少し首を傾げた後、サッサと自分の席に座ってしまった湊の横に楓は移動する。どこか不機嫌そうな湊の顔を見て、僅かに沈んだ表情を見せた。もっとも見ているのは口元だけなので湊からすれば胡散臭いだけなのだが。

 「……すみません、久しぶりだったから……」

 俯いて謝罪の言葉を口にする楓を横目で見た後何も言わずに、ノートパソコンのキーボードを 叩き始める湊。どうしよう、本気で怒っているかもしれない、そうな風に考えて楓は恐る恐る顔を上げた。楓の予想に反して湊は笑みを浮かべていた。楓には見えないのだから、意味はないのだが、安心したような穏やかな笑みを浮べていた。

 「あの時のこと話しますよ。知らないままじゃ嫌でしょう?」

 そっと湊が口を開いた。首をかしげて楓が口をパクパクと動かす。穏やかな笑みを浮かべた湊はやけに平坦な調子で話し始めた。むごたらしくて、血に染まった忌まわしい記憶を……。楓が今の湊の表情を見たらどんな顔をするのだろうか? 驚いたような表情をするのだろうか? 君が悪いとでも言うような表情をするのだろうか? それほどまでに湊の浮べている笑みは異質で、気味の悪い物だった。

 「……それで、僕が能力を暴走させてしまいましてねぇ。殺してしまった……何人も、何人も。見方も、敵も。結局悪いのは闇じゃない……僕、なんですよ」

 もういい、そういうかのように楓が首を振る。今の湊はどこかおかしい、そう考えてため息をつく。断片的な欠片を手に入れながらもその先を聞くことを躊躇った。大体予想は出来る。湊が殺してしまったという人物の中に紅零たちが湊に敵意を見せる原因となった人がいるのだろうと。楓はため息をついて「この学園……聖鈴学園はどうなっているのでしょうか」と呟いた。また湊に話を聞くのもいいかもしれないそう思いながらも、現在の湊から漂う不穏な雰囲気にはそれをさせない何か、があるように感じた。優希辺りに聞いてみるかそう考えて、軽く額を押さえた。

 「嫌な予感がしますね……当たらなければよいのですが」

 ふと呟いた楓の言葉を合図だというかのように、生徒会室のドアが乱暴に開かれた……。

34霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/25(土) 13:09:54 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
またミスに気付いていながら直すのを忘れていた……。

×どこか不機嫌そうな湊の顔を見て、僅かに沈んだ表情を見せた。

○どこか不機嫌そうな湊の雰囲気を察して、僅かに沈んだ表情を見せた。

です。申し訳ありません>< 盲目キャラはあまり書かないので凡ミスが多いかと思われます。

35霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/26(日) 20:01:42 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
 そこに立っていたのは刹だった。全くの無表情でスタスタと楓に近づく。普段は隠しているさっきも今日は隠しきれないようだった。普段一緒にいる紅零もいないことから考えれば、指令を受けての単独行動か、独自の判断で勝手な行動をしているかのどちらかだなそう考えて湊はため息をつく。不思議な事に先ほどまでの妙な雰囲気は払拭されていた。どうやら気が別の方向に向けばあっさりと切り替えが出来てしまう人間らしい。ここまであっさり切り替えられてしまうと、ビクビクするのも馬鹿らしくなってくるような気もする。
 ドアの開く音に驚いて身体を震わせた後、少しだけ首を傾げた楓に刹は容赦なく日本刀を突きつける。刺しはしなかったがその鋭く光る切っ先をただただ楓に向けた。ヤバイと動き出した湊は能力で作り上げたナイフで囲んで動きを止める。楓は刹の実の兄だというのに、刀を向ける事に躊躇いなどは一切ないようだった。その瞳に宿っているのは深い闇。紅零やその他闇のメンバーとは比べ物にならないほど暗くて冷たい闇。紅零といるときは決して見せる事がない絶対なる闇。その闇を真正面から見た湊は思わず顔を逸らしてしまった。

 「刹、ですか?」

 震える声で楓が問いかけた。刹は醜く、歪んだ笑みを浮かべて一度刀を下ろして楓の耳元に口を寄せる。そして静かな、平坦な声で「えぇ……僕は刹ですよ? 貴方を殺しに来た。貴方が光である以上、僕が咎められる事はなぁい」と言った。しばらくの沈黙の後、刹はゆっくりと楓から距離をとる。まるで踊るかのように……。心底楽しそうに笑いながら、ある程度離れたところでスイッと刀を構えた。まるで抵抗されるとそう考えているかのように、慎重に間合いを計いる。その目には獲物を確実に狙う鷹のような鋭さがあった。
 グッと湊が自分を取り囲むナイフに手を伸ばしたところで楓が小さく首を振った。そうしてやけにはっきりとした声で「湊、手は出さないでいいですよ。この子は少し厄介ですからねぇ」と言った。まるで見えているかのように湊のいる方から刹のほうへと体の向きを変更させた。それを見た刹は、右手を上げて湊の周りにあったナイフを消す。しかし開放というよりは新しく作り上げた檻に閉じ込めただけだ。

 「ちょ、楓さん!? 貴方戦えるんですか!?」

 叫ぶかのように湊が声を上げた。フッと音もなく楓が車椅子から立ち上がって両目を隠すように巻いてあった包帯を取った。その下から現れたのは僅かに濁った水色の瞳。見えているのかは怪しいのだが、それを見た刹が僅かに怯んだ。楓は伝統の光に視線を移して眩しいと言うかのように目を細めた後に小さくため息をつく。

 「じゃあ始めましょう? この聖鈴学園ではコレが普通なのでしょう?」

36神音 光希 ◆ptZpvaYoVY:2011/06/26(日) 20:09:51 HOST:i118-17-46-116.s10.a021.ap.plala.or.jp

 初めまして! 神音光希と申します。

 大分前から読ませて貰っていましたが、なかなか感想が投稿出来ずにいました。

 今までずっと読んでて、描写がとも分かりやすくてスラスラと読めたりしました。
シリアスとかファンタジーとか僕は大好きなので、とても楽しく読むことができました。
 僕も小説を書いていますが、なかなか描写がかけないので見習いたいと思います……。


 これからも感想を書いていきたいと思いますので、宜しくお願いします!!

37霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/26(日) 20:47:42 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>神音 光希様

初めまして。

描写についてはまだまだ未熟でございます。自分でもあれ? と思うような言い回しが多々ありますから
私もシリアス、ファンタジーは好きなので楽しく書いています。それに実力が追いついていないのが現実ですが。

コメント有難うございました。

38霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/02(土) 14:38:09 HOST:i121-115-45-73.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>35 伝統の光→電灯の光です。ミスが多くてすみません

_________________________________
 しばらく睨みあった後、フッと楓が天上へと手を伸ばす。それに遅れて刹が楓の懐に飛び込んだ。牢屋の中から出ようと必死になりながらもこんなのが、普通だと思われてはたまらないと湊は考える。それに刹は敵ではあるが目の前で血が流れるのは見たくない。刹は本気だし、楓も同じだった。刹の能力で作り上げられた牢屋がガチャガチャと音を立てるが、鉄格子を捻じ曲げるほど湊は怪力ではない。低く舌打ちをして能力を使おうとしたところで、刹が声を普段はないほどに荒げて言う。その姿に思わず湊も動きを止めて、刹を見つめる。

 「ふざけるなよ……お姉様を捨てておいて今頃のうのうと現れやがって。しかも光につくだ? 何処まで馬鹿にしてくれんだよ!?」

 ヒュンッという風斬り音とともに刹の刀が振るわれた。それなのに楓は慌てることもなく、静かに目を閉じて繰り返し何かを呟いている。今度こそと湊がポケットの中に手を突っ込んで、種を一つ取り出す。湊の能力の一つ植物、植物操作は自在に植物を操ることができる。強度や動き、操作速度まで操作できる反面近くに植物や、その種子がないと意味を成さない。それ故に湊は普段から植物の種子をいくつか持ち歩いていた。拳銃などの武器を使うのもいいのだが、それだと大抵の能力者には防がれてしまう。テレキネシスやテレポート、音掌握などさまざまな能力がある時点で、能力なしに戦おうというのが間違っているのである。
 湊が手の中にある種子を成長させようと、意識を集中し始めたその時、大きく視界が揺れた。それは刹も同じようで、まっすぐと楓を切り裂く予定だった刀は勢いを失って下へと刃の軌道を変化させる。唯一の救いといえば下へと向かった刀が刹の足を切り裂いてしまわなかったことだろうか。2、3歩よろめいた後に右手で額を押さえる刹に目を向けて、楓は静かに悲しそうな笑みを浮かべた。湊の方はといえば訳が分からないというような表情をしながら、両手を下へと下げている。手を上げようにも力が入らないのだ。手に握っていた種子は音もなく床へと落ちた。

 「異端に裁きを、私に守護を」

 平坦な声で楓が告げる。鋭い光が走ったかと思えば、刹と湊の体から力が抜けて床へと突っ伏す。湊の場合は小さな牢屋に閉じ込められていたため、顔面を強打することになってしまったのだが。痛む顔を押さえようにも、力が入らない。意識があるのが不思議なぐらいに指一つ動かすことさえ出来なかった。刹が絞り出すような声で何かを言っているが湊も、楓もそれを聞き取ることは出来ない。遅れて刹の刀が倒れる音が響いた。不自然に遅れて倒れた刀に楓は芽をやったが、すぐに興味なさ気な表情をして、床に突っ伏す刹に目をやる。
 小さく息を吐いた後に、楓は静かに指を鳴らした。それに少し遅れて湊と楓の体に妙な圧力がかかる。ビクンッと不自然な位に体を震わせて湊は声を上げた。刹の方は声さえ出せないようで痙攣するかのように体を震わせている。その目だけは鋭く楓を睨みつけているが、涙が溜まってしまっているため恐ろしさなどはかけらも感じない。小さく楓は口を動かす。声には出さないが謝るかのように“ごめんなさい”と。優位に立っているはずなのに、少しも嬉しくなさそうに、ただただ口を小さく動かしている。

39霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/02(土) 14:42:08 HOST:i121-115-45-73.s04.a001.ap.plala.or.jp
 しばらく睨みあった後、フッと楓が天上へと手を伸ばす。それに遅れて刹が楓の懐に飛び込んだ。牢屋の中から出ようと必死になりながらもこんなのが、普通だと思われてはたまらないと湊は考える。それに刹は敵ではあるが目の前で血が流れるのは見たくない。刹は本気だし、楓も同じだった。刹の能力で作り上げられた牢屋がガチャガチャと音を立てるが、鉄格子を捻じ曲げるほど湊は怪力ではない。低く舌打ちをして能力を使おうとしたところで、刹が声を普段はないほどに荒げて言う。その姿に思わず湊も動きを止めて、刹を見つめる。

 「ふざけるなよ……お姉様を捨てておいて今頃のうのうと現れやがって。しかも光につくだ? 何処まで馬鹿にしてくれんだよ!?」

 ヒュンッという風斬り音とともに刹の刀が振るわれた。それなのに楓は慌てることもなく、静かに目を閉じて繰り返し何かを呟いている。今度こそと湊がポケットの中に手を突っ込んで、種を一つ取り出す。湊の能力の一つ植物、植物操作は自在に植物を操ることができる。強度や動き、操作速度まで操作できる反面近くに植物や、その種子がないと意味を成さない。それ故に湊は普段から植物の種子をいくつか持ち歩いていた。拳銃などの武器を使うのもいいのだが、それだと大抵の能力者には防がれてしまう。テレキネシスやテレポート、音掌握などさまざまな能力がある時点で、能力なしに戦おうというのが間違っているのである。
 湊が手の中にある種子を成長させようと、意識を集中し始めたその時、大きく視界が揺れた。それは刹も同じようで、まっすぐと楓を切り裂く予定だった刀は勢いを失って下へと刃の軌道を変化させる。唯一の救いといえば下へと向かった刀が刹の足を切り裂いてしまわなかったことだろうか。2、3歩よろめいた後に右手で額を押さえる刹に目を向けて、楓は静かに悲しそうな笑みを浮かべた。湊の方はといえば訳が分からないというような表情をしながら、両手を下へと下げている。手を上げようにも力が入らないのだ。手に握っていた種子は音もなく床へと落ちた。

 「異端に裁きを、私に守護を」

 平坦な声で楓が告げる。鋭い光が走ったかと思えば、刹と湊の体から力が抜けて床へと突っ伏す。湊の場合は小さな牢屋に閉じ込められていたため、顔面を強打することになってしまったのだが。痛む顔を押さえようにも、力が入らない。意識があるのが不思議なぐらいに指一つ動かすことさえ出来なかった。刹が絞り出すような声で何かを言っているが湊も、楓もそれを聞き取ることは出来ない。遅れて刹の刀が倒れる音が響いた。不自然に遅れて倒れた刀に楓は目をやったが、すぐに興味なさ気な表情をして、床に突っ伏す刹に目をやる。
 小さく息を吐いた後に、楓は静かに指を鳴らした。それに少し遅れて湊と刹の体に妙な圧力がかかる。ビクンッと不自然な位に体を震わせて湊は声を上げた。刹の方は声さえ出せないようで痙攣するかのように体を震わせている。その目だけは鋭く楓を睨みつけているが、涙が溜まってしまっているため恐ろしさなどはかけらも感じない。小さく楓は口を動かす。声には出さないが謝るかのように“ごめんなさい”と。優位に立っているはずなのに、少しも嬉しくなさそうに、ただただ口を小さく動かしている。

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二つ変換ミスを発見したので修正。圧力を掛けられたのは楓じゃないのに楓と書いていたとか……

40霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/02(土) 15:40:49 HOST:i121-115-45-73.s04.a001.ap.plala.or.jp
 ふと、楓が湊のいる牢屋に近づいてきた。苦しげに声を上げながら体を震わせているその姿に顔を向ければ、心底後悔したような表情を浮かべる。フラリと僅かに視界が揺れるのを感じながらもただただ湊を見つめる。湊には今それがどんなことだかという事にに思考を割く余裕なんてないのだが、楓は無言で湊を見下ろしていた。悲しそうにそれでも何かを堪える様に複雑な表情をしながら。しばらくした後にフッと体を刹の方へと向ける。ゆっくりと床に転がる刀に手を伸ばす刹を見て、流石にランクの違いで効き目に違いは出るのかとため息をついた。出来ることなら刹を傷つけたくはなかった。数少ない家族で実の兄弟を手にかけたいなんて微塵も思っていないのだ。当然といえば当然のことであろう。

 「う……あぁぁぁぁぁ!!」

 両目に涙を溜めて湊が絶叫する。その声に驚いた刹がぴたりと動きを止めた。先ほどまでは震えていた湊の体がピタリと動かなくなる。それに目をやることはなく楓は平坦な声で「私が使ったのは能力者にのみ有効な魔法です。傷はつきませんし、一時的に意識がなくなるだけなので安心して眠ってくださいね」と告げて笑った。色々な感情でぐちゃぐちゃになったぼろぼろの笑顔を……。だからと言って魔法の発動を止めたりはしなかった。今魔法を止めたりすれば先に意識を失った湊を含めて、刹はここにいる全員に牙をむくだろう。自分が殺されるは嫌だし、刹に自分を殺させるのも嫌だった。それに兄弟の問題に、関係ない湊が巻き込まれるのも嫌。意識がなくなった後も圧力をかけられ続ける湊に謝罪の言葉を述べながら、楓はさらに圧力を強いものへと変化させる。
 大きく刹の体が仰け反る。自然に圧力から逃れようとしているようだが、もう力が入らなくなってしまったようだ。意識を失うのも時間の問題だろうか、そう考えて静かに声を上げ始めた刹に近づく楓。刹のその手は刀に届く寸前で伸ばされていた。自分の顔の横に立った楓に助けを請うように顔を向けて、両目に溜まった涙を流していた。その姿を見て楓の心が揺らぎそうになる。助けてあげてもいいのではないだろうか? この子は意識がない人を襲ったりする子ではない、自分は殺されてしまうかもしれないがその前に少しだけでも躊躇いを見せてくれるのではないだろうか? もしかしたら一瞬でも昔のように笑いかけてくれるのではないのだろうか? そう言った考えを首を振りながら必死に頭の中から追い出そうとした。出来るだけ刹の顔を見ないように顔を逸らす。

 「ゆ、るさない……」

 ポツリ、と刹が呟いた。その後はもう声を上げることさえせずにぐったりとしていた。しっかりと閉じられた目からは意識を手放した後でも涙が零れている。指をならして湊と刹に圧力をかけていた魔法を解き、そっと刹の頬に触れた。妙に冷たいようなそんな気がして、僅かに焦りを見せる。もしかして死んでしまったのだろうか? 混乱に落ちかけた楓を救ったのは小さな、刹の口から漏れる吐息だった。ほっとしたように息を吐いて静かに刹の頭を撫でてやる。刹は何の反応も示さなかったが、楓はただただ満足そうに笑っていた。
 しばらくの静寂の後、楓は再び両目を隠すように包帯を巻いて車椅子に座った。いつの間にか牢屋が消えて、冷たい床に突っ伏した湊はソファに寝かせて、ブレザーの上を掛けてやる。三十分ぐらいで目を覚ますだろう、そう推測してそれまでに刹を紅零に押し付けるか寮に送り届けるか、そう考えて刹を抱きかかえる。ゆっくりと動き始める車椅子が自動だということが今は凄く助かった。
 ふいに動き始めていた車椅子が停止した。機械的な音声は「前方に人。しばらくお待ちください」なんていう風に告げる。教師でも見回りに来たのだろうか、楓はそう考えて小さく首をかしげた。そんな楓の耳に次に飛び込んできた声は車椅子が発する機械的なものでも、腕の中にいる刹の声でも、横たわる湊の声でもなく、低く静かな冷たい声……。蓮の声だった。

 「相変わらず甘いな。楓は」

41霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/09(土) 21:23:17 HOST:i121-114-188-23.s04.a001.ap.plala.or.jp
 フッと闇の中から蓮が現れた。優雅、とは決していえないものの、ゆったりとした余裕のある動きで。コートのフードから除く表情はどこか穏やかなものだった。しかしそん

な穏やかな表情をぶち壊すように、頬にこびりついた血はその鮮やかな赤を際立たせていた。蓮の肌が白いことも一つの原因なのだろうが、妙に赤が映えている。漂うのは妙に

鉄臭い臭い。……血だ、そう考えて楓は警戒したかのように表情を凍らせた。自然と刹を抱きしめる手に力が入った。蓮はそれを見て思わず苦笑いを浮かべた。やはり風呂に入

ってから来るべきだったなそう考えてため息をつく。

 「安心しろ召還可能回数も残ってないから戦うつもりはねぇよ。頼んでいたものとそれを受け取りに着ただけだ」

 スッと蓮が刹を指差して言った。いつも通り平坦な口調で。召還可能回数が残っていないと言われたところで楓は警戒を解こうとはしなかった。仕方が無いかなんていう風に

考えて蓮は両手を挙げた。仕方が無いし今回は刹を置いて立ち去るかそんな考えも頭に浮かんだ。実際、刹の方は紅零が騒いだら面倒だしついでに連れて行こう程度の考えしか

持っていないのである。それに刹の機嫌が悪ければまた八つ当たりされてしまう。それも面倒だしな、そんな風に考えて深くため息をついた。ここはさっさと“本命”を受け取

って立ち去ろうと思考を終わらせる。
 黙っていた楓が僅かに震えた声で「頼まれていたのは不死鳥フェニックスについての資料、でしたね? 何をするつもりですか? その力で誰かを生き返らせるつもりで?」

なんていう風に言った。楓の言葉を聞いて、しばらく首をかしげた後に蓮は僅かに表情を曇らせた。触れられたくないところに触れられたとでも言うような表情で、俯く。冗談

のつもりだったのだが蓮が反論する様子が無いので、きょとんとして首をかしげる楓。

 「安心しろよ。俺の力じゃまず無理だからさ」

 壊れそうな声だった。表情も酷く悲しそうな儚いもので……。深くため息をついた後に楓は車椅子を動かして蓮のぎりぎりまで近づいて腹の辺りに殴りを一発。本当はでこピ

ンの方が良かったのだが、車椅子に座ったままだと明らかに届かないので、立つこともせず、蓮の腹を殴ることにした。あまりにも突然のことだったためか、目を見開いて咳き

込む刹。深く息を吐いて楓は満足そうに髪をかきあげる。不満そうにそんな楓を睨みつけ、低く舌打ちをしながらも蓮は攻撃的な態度は見せなかった。……少々顔をしかめてい

たが。どうやら大分我慢強いらしい、そう考えて楓は表情をより満足そうなものへと変えた。
 落ち込むより少々しかめっ面でいる方が蓮には似合う。小さな声でそう呟いた跡に、ポケットの中からホチキスで止められた数枚の紙を取り出した。何かの本からの情報や、

インターネットからの情報とさまざまなところからフェニックスの情報を集めていたようで、紙にはぎっしりと文字が書かれている。それを見て蓮は僅かに驚いたようなそんな

表情をして楓の顔を見つめた。本当に調べてくれたのか、とでも言いたげに首をかしげながら楓の手から紙を抜き取った。夢中でその紙に書いてある情報に目を通していく。同

時に僅かに刹が声を漏らす。思っていたよりも回復が早くて焦りながらも楓は言う。

 「一応そこに書いていない情報が載っていた本も書いておきました。それと……あなたに頼まれごとをするのはこれで最後ですから」

 平坦な声だった。それでも蓮は小さく頷いて笑った。了解だと言うよりは手元の書類に夢中なだけである。深く息を吐いた後、蓮に刹を押し付ければ、なんでもないことのよ

うに蓮は紙に目を通すのをやめて、刹を抱きかかえた。そして静かな声で「じゃ弟さんは預かる。……この後少々面倒なことが起こりそうだが……死ぬなよ?」なんていう風に

言い残して再び闇の中へと戻っていく。
 それをしばらく見つめた後小さな声でそっちこそなんていう風に楓が呟いたが蓮には届かないようだった。いつかまた、“あの時”のメンバーと共に笑い合える日が来るよう

に、この“聖鈴学園”が元の居心地が良くて明るい学園に戻るようにと強く願う。それが学園での対立を知りながらもこの学園に戻ってきた楓の願い。そして彼が戦う数少ない、理由。

NEXT Story〜番外 悪夢の日 紺の欠片〜

42霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/09(土) 21:32:02 HOST:i121-114-188-23.s04.a001.ap.plala.or.jp
 フッと闇の中から蓮が現れた。優雅、とは決していえないものの、ゆったりとした余裕のある動きで。コートのフードから除く表情はどこか穏やかなものだった。しかしそんな穏やかな表情をぶち壊すように、頬にこびりついた血はその鮮やかな赤を際立たせていた。蓮の肌が白いことも一つの原因なのだろうが、妙に赤が映えている。漂うのは妙に鉄臭い臭い。……血だ、そう考えて楓は警戒したかのように表情を凍らせた。自然と刹を抱きしめる手に力が入った。蓮はそれを見て思わず苦笑いを浮かべた。やはり風呂に入ってから来るべきだったなそう考えてため息をつく。

 「安心しろ召還可能回数も残ってないから戦うつもりはねぇよ。頼んでいたものとそれを受け取りに着ただけだ」

 スッと蓮が刹を指差して言った。いつも通り平坦な口調で。召還可能回数が残っていないと言われたところで楓は警戒を解こうとはしなかった。仕方が無いかなんていう風に考えて蓮は両手を挙げた。仕方が無いし今回は刹を置いて立ち去るかそんな考えも頭に浮かんだ。実際、刹の方は紅零が騒いだら面倒だしついでに連れて行こう程度の考えしか持っていないのである。それに刹の機嫌が悪ければまた八つ当たりされてしまう。それも面倒だしな、そんな風に考えて深くため息をついた。ここはさっさと“本命”を受け取って立ち去ろうと思考を終わらせる。
 黙っていた楓が僅かに震えた声で「頼まれていたのは不死鳥フェニックスについての資料、でしたね? 何をするつもりですか? その力で誰かを生き返らせるつもりで?」なんていう風に言った。楓の言葉を聞いて、しばらく首をかしげた後に蓮は僅かに表情を曇らせた。触れられたくないところに触れられたとでも言うような表情で、俯く。冗談のつもりだったのだが蓮が反論する様子が無いので、きょとんとして首をかしげる楓。

 「安心しろよ。俺の力じゃまず無理だからさ」

 壊れそうな声だった。表情も酷く悲しそうな儚いもので……。深くため息をついた後に楓は車椅子を動かして蓮のぎりぎりまで近づいて腹の辺りに殴りを一発。本当はでこピンの方が良かったのだが、車椅子に座ったままだと明らかに届かないので、立つこともせず、蓮の腹を殴ることにした。あまりにも突然のことだったためか、目を見開いて咳き込む刹。深く息を吐いて楓は満足そうに髪をかきあげる。不満そうにそんな楓を睨みつけ、低く舌打ちをしながらも蓮は攻撃的な態度は見せなかった。……少々顔をしかめていたが。どうやら大分我慢強いらしい、そう考えて楓は表情をより満足そうなものへと変えた。
 落ち込むより少々しかめっ面でいる方が蓮には似合う。小さな声でそう呟いた跡に、ポケットの中からホチキスで止められた数枚の紙を取り出した。何かの本からの情報や、インターネットからの情報とさまざまなところからフェニックスの情報を集めていたようで、紙にはぎっしりと文字が書かれている。それを見て蓮は僅かに驚いたようなそんな表情をして楓の顔を見つめた。本当に調べてくれたのか、とでも言いたげに首をかしげながら楓の手から紙を抜き取った。夢中でその紙に書いてある情報に目を通していく。同時に僅かに刹が声を漏らす。思っていたよりも回復が早くて焦りながらも楓は言う。

 「一応そこに書いていない情報が載っていた本も書いておきました。それと……あなたに頼まれごとをするのはこれで最後ですから」

 平坦な声だった。それでも蓮は小さく頷いて笑った。了解だと言うよりは手元の書類に夢中なだけである。深く息を吐いた後、蓮に刹を押し付ければ、なんでもないことのように蓮は紙に目を通すのをやめて、刹を抱きかかえた。そして静かな声で「じゃ弟さんは預かる。……この後少々面倒なことが起こりそうだが……死ぬなよ?」なんていう風に言い残して再び闇の中へと戻っていく。
 それをしばらく見つめた後小さな声でそっちこそなんていう風に楓が呟いたが蓮には届かないようだった。いつかまた、“あの時”のメンバーと共に笑い合える日が来るように、この“聖鈴学園”が元の居心地が良くて明るい学園に戻るようにと強く願う。それが学園での対立を知りながらもこの学園に戻ってきた楓の願い。そして彼が戦う数少ない、理由。

NEXT Story〜番外 悪夢の日 紺の欠片〜

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なんだかおかしなことになっていたので投稿しなおし

43霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/11(月) 20:37:08 HOST:i121-114-188-23.s04.a001.ap.plala.or.jp
先に説明しておきます。

番外ストーリーはどちらかというとキャラの一人ごとに近い物で、本編には直接的に関わってくるとは限りません。

ある程度の背後関係や因果関係は浮かび上がるかもしれませんが、ものによってはただの独り言で終わってしまうこともあります。面倒だ、と言う方はコレを本編に差し支えは出ません

基本的に番外ストーリーは一人のキャラの視点によって語られ、そのキャラの主観、曖昧な記憶等、当てにならないものが多々混じっております。

以下、目次

序章 闇(ブイオ)と光(ルーチェ)の人々>>2-5
第一章 光(ルーチェ)の人々 >>6-15
第二章 闇(ブイオ)の人々 >>16-21>>23
第三章 聖鈴学園 >>30-35 >>39-40 >>22

44霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/11(月) 21:46:02 HOST:i121-114-188-23.s04.a001.ap.plala.or.jp
番外 悪夢の日 紺の欠片 (語り部:霧月蓮)

 俺、霧月 蓮には双子の片割れがいた。なぜ過去形なのかと尋ねられれば、その片割れは死んでしまったから、と答えるしかないだろう。……正しく言うと殺してしまったに限りなく近いのだが。その片割れの名前は霧月 桜梨。数分の違いで同じ日に生まれながらも俺の姉となることになった、俺の大事な片割れ。俺の双子だと言うには少々出来すぎた子で、よく劣等感を感じたのを今でも鮮明に思い出すことが出来た。そのくせ、桜梨は負けず嫌いで、何かと俺に勝負を仕掛けてきた。能力勝負や、朝食の早食い、どっちがもてるのか……そんなくだらないことを比べあって、大げさなぐらいに悔しがったり、喜んだりして……。
 そんな彼女、桜梨の能力は、“剥奪能力”。ありとあらゆるものを奪い取る能力だ。一時期俺はその能力のおかげで自分の能力をうまいことコントロールしていたことがある。いや俺がやったことじゃないのだからコントロールしてもらっていた、が正しいのだろうか? まぁそんな事はどうでもいい。問題は自分で自分の能力の弱さを知らず、能力を制御できないくせに無謀にも勝手な動きをしたことなのだ。俺がそんなことをしなければ桜梨は死ななかった。そう、俺があの時素直に桜梨の言うことを聞いて、動いていれば……。

                        *
 その日は満月だった。雲一つ無い晴天で、俺や桜梨、楓、紅零、刹、湊、優希をはじめとしたメンバーで寮を抜け出して星を眺めていんだ。流れ星を見るたびに声を上げて、笑って。星座を探して指差しては星座の本を持ってきていた優希に違う、って言われたり。その頃は光、闇なんて区別は無かった気がする。湊だろうが優希だろうが、今“光”として俺達と対立しているようなやつらとも、気が合えば遊んでいた。特に湊とは古い付き合いで、気づいた頃には一緒にいて当然みたいなそんな感じの中になっていた。一種の家族みたいなものだ、と俺は考えている。
 とにかく、ある出来事が起こるまで俺達は飛びっきり仲が良かった。もっとも俺はそのときから反抗的な態度をとることが多かったのだが。それでも遊びを壊そうなんて無粋な真似はしなかったし、なんだかんだ言って俺も楽しんでいた。そんなときに、だ。桜梨がフッと周りを見渡して「変な気配がするな」なんていう風に呟いた。優希もそれには気づいていたみたいで、小さく頷いていた。どうせ動物かなんかなんだろう、そう考えた俺はなんでもないって笑って、刹と二人で見に行ってくるなんて言ってみんなから離れた。桜梨が勝手な行動をしないで動物だとは限らないのだからまとまって動け、何事にも慎重に行動しろ、って言うのを聞かないで、刹の手をさっさと引いて歩いた。
 気配をたどり、たどり着いた寮の廊下。そこでみたのは無数の肉片だった。寮の壁は真っ赤に染まって、気分が悪くなるようなむっとした空気の中に鉄臭い血の臭いが充満していたんだ。訳が分からなくなって、それでも怯える刹を抱きしめながら、奥へと進む。奥へと進むほど壁にこびりつく血は新しいものへと変化していって、転がっているのも肉片ではなくて“動かない人間”が多くなっていた。その時、後ろから急に足音が聞こえて、慌てて振り返れば心配したというような表情をした紅零が立っていた。震えた声で「わ、私の能力なら役に立つかもしれないでしょ?」って言って、俺の服の裾をつかんだ。

 「ははは、特殊科なんていうから恐れてたけどさ、雑魚ばっかだよなぁ? つまんねぇ」

 そのときに聞いた下劣な笑い声を俺はまだ忘れていない。そのときの俺は感情のコントロールが妙に下手で、一度火がつくと抑えられなくなってしまって……。気づけば紅零と刹に口を押さえられていた。今は声を出したら殺される、って紅零は能力を使って俺に伝えてくれた。ふいに目の前には高等部ぐらいの男子生徒と女子生徒のグループが姿を現すのが見えた。隠れようにも場所が無くて、気づけば俺ら三人、凄い速さで走り始めていた。三人だと勝てないかもしれない、そう思って当初トップクラスの力を誇っていた桜梨、湊、楓に早く合流しようと、ただただ走った。

45霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/11(月) 22:00:51 HOST:i121-114-188-23.s04.a001.ap.plala.or.jp
 その後はもうあっというまだった。当初まだ初等部だった俺達はあっさりと捕まってしまう。明らかに殺されそうな雰囲気で、捕まる寸前に俺は風の妖精、シルフィードを召還して、つかまった後もとにかく攻撃を仕掛け続けていた。でも、俺の力だって万能じゃない。制限時間が来てしまいシルフィードは音も無く解けて消えた。……抵抗の手段が無くなった瞬間だった。振り下ろされそうな安っぽい剣の刃をただただ睨みつけて、交わすことだけに集中した。
 そこに息を切らしながら桜梨が突っ込んできた。鋭い目つきで高等部ぐらいの連中を睨みつけたと思えば、いつの間にか剣はすべて桜梨の手元へと移動していた。遅れて湊や楓、優希もやってきて、一見俺らの逆転のようにみえんだ。大きな問題は隠れていた連中に気づけなかったこと。……なぜそのときに周りを確認しなかったのか、俺は悔やみ続けている。
 フッと氷の刃が楓の足に突き刺さった。氷を操る能力なんて珍しくなかったけど、仲間が一人やられたってことで俺の気はすっかり動転していた。それにその寮にいるのはクラスメートや一応の友人が多くて、それらの人も殆ど殺されてしまっていて、俺はどうして良いかわからなかったんだと思う。次に氷の刃が向かったのは湊だった。それでも湊は楓の件で警戒していたこと、楓と違って目が見えたこともあってあっさりと避けていた。それでも最終的には何十個の氷の刃が一斉に飛んできて体を切りつけられて、床に突っ伏す。……そのときの俺には絶望しか見えない。
 低く優希が舌打ちをして反撃に移ろうとしたけど、元々優希の能力はかなり特殊なもので、しかも呻き声が響く中で発動できるようなものでもない。威力は絶大だがかなりの集中力を必要とするんだ。楓のうめき声に気をとられて能力を発動出来なかったらしい。桜梨の力でどうにか相手の能力を剥奪したところで俺の中の枷が音を立てて外れた。……高等部ぐらいの連中が楓や優希に手を出そうとしたのが原因だったと思うが、そこは記憶が定かじゃない。

 「蓮!! もう召還はするな。いつもみたいな制御は絶対に出来ない!!」

 桜梨がそう叫んだけど、俺にはどうすることも出来なかった。意味さえ分からなかった。力の暴走だ。勝手に炎の妖精、サラマンダーが召還されて、あろうことかそいつが放った炎の刃は刹に向かって飛んでいった。桜梨も剥奪の能力を使えばよかったのに、それをせずに刹と俺の間に割って入った。突き刺さった炎の刃が肉を焼く臭いを嗅いで……その後は取り乱して暴走を余計に酷いものにしただけだった。気づけば桜梨がすっかり動かなくなっていて、それと比例するかのように俺の力が気持ち悪いぐらいに渦巻いて……その後の記憶は無い。
 目が覚めたら病院のベッドの上にいた。先に退院したという湊と優希に話を聞けば俺の能力が暴走をして何人か高等部ぐらいの奴等を殺した、らしい。桜梨もそいつらと同じような死に方をしていたって。優希は最後まで意識があって、全て見ていたと言っていた。能力を使えなかったことを泣きながら謝られた。悪いのは俺なのに何度も、助けられなくてごめんだとか、とめられなくてごめんって……。
 優希は触れなかったけど、優希自身も大怪我をしていて、どうやらそれも俺がやったことらしい。……覚えていないなんてつくづく無責任だと思う。桜梨の墓に案内されたときはただ信じたくなくて、湊に八つ当たり紛いに怒鳴りつけたりした。……そこで湊に桜梨の能力で俺の能力をある程度奪ってコントロールしていたということも聞いたんだ。出来ることなら時間を戻したい……そんなくだらないことをいまだに考えている辺り、俺は何にも成長していないのかもしれない。俺はつくづく馬鹿だと思う。自分の力量を考えないし、うじうじと、過ぎ去ったことを考え続けて、悔やみ続けて、一切前に進めていない。……桜梨が見たら怒るのかな? 呆れられて終わりかな?

NEXT Story〜第四章 能力定義と禁忌〜

メモ帳にまとめて書いたら、思っていた以上に長くなりました。パッと見分かるとおり、本編に直接的な関わりはございません

……本当にただの一人ごとですね

46霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/18(月) 01:01:50 HOST:i121-114-188-23.s04.a001.ap.plala.or.jp
第四章 能力定義と禁忌

 早朝。ゆっくりと体を起こして時計を確認する蓮。彼がいるのは寮の自室である。寮の部屋と言われると数人で一つの部屋を使うとイメージがあるだろうが、ここ聖鈴学園は違う。この学園に入った時点で一人につき一部屋の部屋を割り振られそこで生活することになるのだ。食事等は各寮で出されるため自炊の必要は無い。なぜ一人で一部屋を使うのか、それは単純に、能力者、魔法使い、吸血鬼など様々な種族の子供が集まるとなると、各種族の相性の悪さやすごし方の違いが大きく出てきて、ストレスになってしまうことが多い、と言う理由だ。たとえば魔法使いたちは朝、決まった時間に起きて魔力生成のために身の清め、数分間の祈りの時間を必要とする。その時間が無ければ魔法使い専攻の授業に支障が出たりするし、何よりも同室の人間にとっても迷惑な話かもしれないのである。
 ちなみに、魔法使いとは逆に能力者は、前日に使った力の分、長い眠りを必要とする。そんな能力者と魔法使いが部屋を組んでしまうとどうなるか。能力者が本来の力を発揮できなくなってしまって、専攻授業に支障が出る。前日に力を使いすぎた能力者が遅刻することもあるのだが、無理矢理起きて学校に来たものの、専攻の授業で倒れました、なんていうのも洒落にならない。他にも魔法使い、能力者両者共に吸血鬼と同室になった場合には吸血行動によって酷い目に遭う、なんていう前例があるためか吸血鬼は明らかに部屋組の対象として除外である。
 ならば能力者同士、魔法使い同士、吸血鬼同士で部屋を組めば良いのではないだろうか? そう思うであろうが、全員が全員、大きかれ小さかれ何らかの力を持っているわけである。寮の中で喧嘩なんて起こった日には酷いことになるだろう。いや、一応はそれなりの自体には対応できるように設計されているが。ただやはりそのような喧嘩で大怪我をされるのも面倒だ、そんな理由で個々に部屋が与えられているのである。

 「ん……もう朝か」

 小さく伸びをして蓮はベッドから降りた。欠伸をした後、時計を見てため息つき、無造作に投げ捨てられている自らの制服を拾い洗濯籠の中に放り込む。とりあえず顔を洗って、髪を整える。ため息をつきながら歯磨きをしながら、そういえば俺、何で髪を伸ばし始めたんだっけなんてことを意味も無く考えていた。歯磨きが終わった後はクローゼットから制服を取り出してさっさと身支度を調える。

 「眠い……夜更かししすぎたな」

 ボフンッとベッドに倒れこみながらそう呟く蓮。蓮の場合の眠いは能力を使いすぎたからではない。そもそも蓮の能力はあまりにも能力としてのレベルを逸脱しているのだ。能力はあくまで狭い範囲で物事に些細な変化を及ぼすものである。高レベルになれば飛びぬけたことを出来るようなるような連中もいるが、それでもやはり制限時間や有効範囲、使用可能回数など様々な制限が付くことになる。蓮の場合は多くの制限が“安全に使いたいのなら”と言う感じの制限であるため破ることはたやすい。能力だとすれば高度よりもさらに上と言えるようなものなのである。しかし魔法使いだとしても蓮には魔力の生成なんて出来ない。力を所有している蓮でさえも自分の能力ないったい何なのか把握できていないのである。
 もぞりと手だけを動かしてベッドの横においてある紙の束を手に取る。その紙には“不死鳥、フェニックス”と大き目の字が書いてあった。ベッドに寝転がったまま書類に目を通していく。魔法としての召還の仕方、役目など細かくまとめられている。能力としての召還方法も書いてあるがなんだか胡散臭いほどに面倒くさい手順を踏まなくてはいけないようだ、そう考えて蓮は深くため息をついた。

47ルナ/星条風雅/白鷺/月見里姫/秋宮湊/御坂妹/古手梨花 ◆REN/KP3zUk:2011/07/23(土) 14:41:04 HOST:i114-180-250-205.s04.a001.ap.plala.or.jp
 蓮の力は、刹の能力のような意思の無いもので尚且つ自分の頭で理解、想像できなければ使えないと言うようなものではない。蓮以外の力だと神話上の生物やソロモン72柱をはじめとする悪魔などを召還するのは魔法使いの領分となっている。しかし前記のとおり蓮に魔力を練る様な力は無い。しかし蓮は召還能力を使うことが出来る……どういうことなのか良く分からない、小さく脱線した思考に苦笑いを浮かべて、手に持っていた書類を放り投げる。どうせ今のレベルでは召還できないのだから、そう考えて蓮は小さく笑った。楽しくて笑うと言うよりも、自嘲的なそんな笑み。一人でいるときなら蓮は良く笑う。蓮にとって笑うこと、泣くこと、その他感情を人に見せることは弱さを見せることと同じようなものだとなっているからなのだろうか。とにかく、一人でいるときの蓮は正直だった。

 「桜梨……俺あのころに戻りたいよ」

 小さな声で蓮が呟く。突然こんなことを呟くのも一人でなら珍しくないことだ。考えていた内容とは全く関係ないことを一人で口走っていることも多い。こんなところは刹が見かけたら多分、腹を抱えて大笑いするであろう。小さくため息をついて蓮は首を振る。笑ったり、ため息をついたり忙しいやつめ、そんなことを考えながら思考を学校で生活しているときのものへと戻そうとした。蓮の普段の性格は作られたものである。実際の蓮は人一倍寂しがり屋で、かまってちゃんで……そのくせ言葉は悪くて、人を突き放すようなことばかりを言う。寂しがりや、それが自分の性質だと蓮は十分に理解している。しかしそれは弱さだと思っているのだ。寂しがり屋な面など捨てたいなんていうことを本気で思っている。
 部屋にノックの音が響いた。時計を見上げた後、ベッドから降りて部屋の扉を開ければ、肩より三センチメートルほど短い黒髪に、灰色の瞳、なんて言う平凡な容姿。雰囲気はいたって真面目そうな少年……黒羽 翠が立っていた。蓮はその姿を見て低く舌打ちをした後「んだよ、黒須(クロス)」なんて抑揚の無い声で問いかけた。翠のことを黒須と読んだが翠自身は気にしていないようで、二カッとその真面目そうな雰囲気似合わないほどやんちゃな笑みを浮かべれば「俺だって本名で呼んで貰いてぇんだよ。俺は鳴神 黒須(ナルカミ クロス)だ、黒羽 翠じゃねぇ」なんていう風に言った。やれやれと蓮は呆れたように額を押さえた。

 「なら能力解けよ。三重能力者」

 いかにも面倒だ、そんな雰囲気を漂わせながら蓮はいう。どうやら他の感情は隠せても、呆れと面倒臭いなんていう感情は隠せないようだった。三重能力者なんていうのは黒須が能力を三つ持っているからつけたあだ名で特に意味は無い。と言うよりこの学園では能力を二つ三つ同時に所有している連中なんて山ほどいるのだから欠片も珍しくは無い。その点で言えば殆どの生徒が蓮からは三重能力者と呼ばれることになるのであろう。……なんともシュールと言うかわけの分からない空間になってしまいそうである。一人呼ぼうとしただけで全員が振り向いてしまいそうだ、そう考えて黒須は笑みを浮かべた。
 刹那、黒須が姿を変える。僅かに黒っぽい赤い髪に、青い瞳の少年、どうやらこの姿のときが鳴神黒須、この少年の本来の姿らしい。制服は闇を象徴とする黒いもので、翠の姿のときからは想像できないほどにだらしない、そんな雰囲気。翠の姿だと浮いてしまう黒魔術入門なんていう本も、なぜだか妙にしっくりきてしまっている。蓮は呆れたような表情をしながら「来るなら変身といてから来いよな。正体バレたらどうすんだよ」なんていう風に文句を言っていた。黒須を翠として光にぶち込んだのは実は蓮だ。そちらの方が情報も探りやすいし楽だなぁ、なんて考えてやったことだが、これが案外成功だったりする。生徒会の情報まではなかなか手に入れられないが、そのほかの光の状況なら容易に手に入れることが出来た。まぁまれに刹など何も知らない闇の生徒に襲われることもあったが、その辺は回復能力で何とかしてまいていることが多い。
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更新が非常に遅くなってしまい申し訳ありません。

現在スランプ中なため、非常に鈍亀更新になっています。

48霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/23(土) 14:42:16 HOST:i114-180-250-205.s04.a001.ap.plala.or.jp
あー……>>47別のところでの名前です。すみません><

こんな凡ミスを2回もして……消えたい((

49霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/23(土) 16:16:49 HOST:i114-180-250-205.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「にしても、刹のときの演技は流石だな」

 黒須から顔を逸らして真っ黒なコートを羽織りながら、褒めているようなそんな感じはしない言葉を蓮は投げかける。黒須は苦笑いを浮かべて頭を軽くかけば「慣れてるしな。半分お前のせいだぜ?」なんていう風に笑った。いかにも不愉快そうに蓮はフンッと鼻で笑えばどけろとでも言うように黒須を手で払うような動作をする。時計が指す時間は午前七時。朝食の時間である。まるで話は朝食中に聞くと言っているようで、黒須はさも可笑しそうに笑った。全く、口で言えば良いのにそんなことを考えながら、部屋の鍵を閉めてさっさと歩き始めた蓮の後ろを追う。

 食堂で蓮を待っていたのはやたらと上機嫌な月華だった。蓮と黒須を見れば満面の笑みで近づいてきて「やーやー、クロちゃんと蓮ちゃんが一緒なんて何時振りだろうねぇ」なんていう風に言った。面倒な奴に捕まった、蓮はそう考えて黒須に何とかしろ、とアイコンタクト。しかし黒須は露骨に顔を逸らして黙り込んでいる。どうやら俺の手には負えませんとでも言っているようであった。そんな二人の様子を不思議そうに眺めた後に、月華はグイグイと蓮と黒須の手を引いて歩き出した。蓮も黒須も逆らうと後が怖いから、とりあえず大人しく手を引かれたまま歩く。ふと蓮がこの子なんでこんなに上機嫌なのかしらと呟くと、黒須はさぁ? とでも言うかのように掴まれていない方の手を手を僅かにあげた。

 「今日の朝食見てよ!! デザートにケーキだよ!?」

 どうやらデザートに歓喜しているようだ。小さな声で蓮が太るぞと呟けば、月華は思いっきり蓮の足を踏みつけた。黒須はぼんやりとその様子を眺めて、余計なことを言うから、なんていう風に考えて苦笑いを浮かべる。案外この辺は蓮よりも黒須の方が賢いのかもしれない。……それが成績に反映されているかは別として。蓮が足を踏まれてもがくのをしばらく見つめた後に、月華を止める。蓮がとめるのが遅いだの何だのと喚いていたがそこは無視。と言うより自業自得だろうなんて、黒須は考えている。蓮は月華とは対照的に最早不貞腐れているようだ。こりゃぁ報告が出来ないぞ、なんて考えて黒須は深くため息をついた。
 フイッと蓮は顔を逸らしてさっさと端っこの角の席に座ってしまう。ガキめ黒須は小さくそう呟きながら仕方が無く月華と朝食をとることにした。生徒会長に逆らったとあれば後々面倒だ、主に制裁的な意味で。蓮が裁かれないのは単純に生徒会副会長だからと言う理由だけで、黒須はそのような特殊な地位についているわけでもない。そのためか生徒会メンバーに逆らえば即制裁、なんていう厳しい現実も待っているのである。全てが全てのことにそうなるとは限らないのだが、機嫌を損ねるのは得策ではない、黒須はそう考えて、深く深くため息をついた。それでも月華の話は面白いしまだマシであろうか、そう考えて諦めることにする。
 そんな黒須を尻目に蓮は淡々と食事を取っていた。その周りだけ妙に近づいてはいけないようなそんな雰囲気が漂っているため、周りにいた闇の生徒がすっかり怯えてしまっている。感情を出そうとしないようにしている割にはずいぶんイラつきが辺りに伝わってしまっているようである。自分もまだまだだな、そんなことを考えながらも食事を取る手を止めない。さっさと食べ終えて部屋に戻ろうそう考える。そもそも本当のことを言っただけで足を踏まれるなんて不服だった。気にしているのなら食べなければいいじゃないか、そんなことを一人で永遠と考え続ける。どうせ俺は気なんか使えませんよ、なんて仕舞いにはには開き直る始末。

 「お疲れ様、ですねぇー」

 クスリと嫌味な笑みを浮かべながらあらわれたのは悠斗だ。何で今日はこんなにも集まりがいいのだろうかそう考えて蓮は眉間に皺を寄せる。不愉快なものだと小さく蓮は呟く。ここまで不愉快になるのは珍しい。悠斗はそんな様子を眺めてより一層笑みを浮かべる。どうやら蓮がイライラしているのは、悠斗にとって面白い笑い話のようなもののようだ。そんなこと蓮に知られれば間違いなく混信の力で殴られるが、生憎蓮は普段の状態だと人の心を読むことなんて出来ない。まぁそれ専門の精霊や神、生物の力を借りれば別なのだがそれは明らかに例外であろう。無視だ無視、ほかのこと考えろなんて蓮はどうしても目の前の悠斗の姿を認めたくないようである。

50霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/30(土) 02:03:01 HOST:i114-180-251-220.s04.a001.ap.plala.or.jp
 そんな事お構いなく悠斗は蓮の真正面に座って食事を取り始めた。特に会話をするわけでもなく淡々と食事を取る蓮と、その様子を眺めて意地悪く笑いながら食事を取る悠斗。何処からどう見てもおかしな組み合わせだった。周りにいた生徒たちは戦々恐々と言った感じでさっさと食事を済ませては食堂から出て行った。そんな中気にしないで食事を取っているのは当の本人達と月華位であろう。黒須は気にしていないように見えて蓮が箸をおく小さな音だけで反応して蓮の方を見てしまっているので、実際のところは不安で仕方が無いらしい。と言うよりここで悠斗と蓮がぶつかったら間違いなく自分、死にますけどなんてことを考えている。
 カタンと小さな音を立てて蓮が席を立つ。おや? なんて声を漏らして悠斗は顔を上げる。なぜそんなに不愉快そうな表情なのだろうか、そう考えているようでしばらく首をかしげていた。そして、扉をノックするかのように机を叩いて、顎で席に座れと合図を出す。蓮はそれを見ることさえせずに食器の乗ったトレーを運んで行こうとした。それを見て僅かに顔をしかめた悠斗は、平坦な声で告げる。

 「なーに不機嫌になってるんですかー? 福バ会長さん、まだ半分も食べてないじゃないですか。ボクと“お話”しながらゆっくり食べましょうよー」

 そう言って悠斗は笑った。笑ったと言っても目だけは鋭く、蓮を捉えて動かない。蓮の方も蓮でゆっくりと振り返ったかと思えば鼻で笑って、歩き始めていた。冗談じゃねぇぞ、そう考えながら黒須は何でも無いかのように振舞う。それでも震える手を抑えることも出来ずにいた。黒須は蓮の能力を詳しくは知らない。それでも蓮が召還能力を使って四大精霊なんていう危険なものを召還するは知っているし、そのほかにも色々と危ないものを召還するのも知っている。それだけあれば蓮の能力を恐れるのには十分だった。ただでさえ分類不明で魔法にさえ近いと言われている能力だ。きっと自分の知らない危険なところが沢山あるのだろう、そう考えると自然と頬を冷たい汗が伝い落ちた。
 しばらく黙って様子を見ていた月華が静かに立ち上がって食器を下げたいつの間にか食べ終わっていたようで、横目で蓮の様子を見た。静かに黒須の元に戻ってくると「さっさと行くよ? 蓮と悠斗を引き剥がしても良いけど、それをするとなるとちょっとボクの身が持たない。あいつらに能力で干渉するのは難しいからね。だから生徒達を退避させるよぅ」と耳元で囁いた。黒須が小さく頷いたのを確認すれば静かに目を閉じて何かを呟き始める。その間に黒須は食器を下げて自分の能力の一つのテレパシーで食堂にいる蓮と悠斗以外に状況を伝えた。能力等のランクをはじめとして様々な面でトップクラスに立っている月華でさえ、能力での干渉が難しい蓮と悠斗の力……。小さな声で黒須は化け物だなと呟いた。
 瞬間、月華や黒須、その場にいた生徒達が姿を消した。蓮はしばらく驚いたように辺りを見渡していたが、状況を理解すると不服そうに息を吐いて、食器の乗ったトレーを少々乱暴に指定された台に置く。悠斗は分かっていたとでも言うかのように驚くことさえせずにクスクスと笑って蓮に向かって言葉を投げかける。楽しそうな、歌うような声で「さぁ、邪魔者もいなくなりましたし、お話しましょう?」と言った。どこか有無を言わせないようなそんな響きがあった。一般の生徒なら、黙って頷いてしまっていただろう。しかし蓮は違った。返事さえしなかった。

 「あれー? せっかく桜梨さんの素敵なお話をしようと思ったんだけどなぁ?」

 ピタリと蓮が動きを止めた。それを見た悠斗は満足げに笑ってさらに言葉を投げかける。不気味な程に明るい声色で「貴方が殺した大好きなお姉さんの話を、ね?」と。蓮の体が小さく揺れる。俯いて髪で隠された顔に浮かんでいたのは……恐ろしいほどの無。それは完璧な無だった。怒りは感じたし、五月蝿いとも思った。それなのに表情だけは無表情のまま固まっていた。静かな足音が自分の背後に迫ったことで蓮はやっと我に帰る。何をしているんだ、さっさと戻ってしまえ。そうすれば話は聞かないですむんだ、そう考えてくるりと体の向きを変える。そこで蓮は再び動きを止めることになる。
 歪んだ、そう表現するのが生易しいように感じる悠斗の笑みがそこにはあった。

51霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/30(土) 02:45:54 HOST:i114-180-251-220.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「どうして逃げるんでしょう? 怖いんですか? 過去を思い出すのが。この人殺し」

 やめろ、小さく蓮の口が動いた。それを見た悠斗はクツクツと口元を歪めて笑う。そして何度も何度も桜梨の名前を出してはお前が殺しただの、お前がいなければ……なんていう風に繰り返す。蓮の顔がどんどん青ざめていくのを見て悠斗は楽しそうに言葉を続けた。グッと手で耳を塞いでただただ、うわ言のように蓮はやめろと繰り返している。がたがたと震える足はこの場を離れることを許してはくれないようだ。駄目じゃないか自分。故意にじゃ無かったって言えよ、自分の意思じゃ無かったって言えよそう考えても言葉が突っかかってうまく出てこない。……結局は言い訳だけどそう考えて蓮は今にも壊れてしまいそうな、ぐちゃぐちゃな笑みを浮かべる。
 しばらくして悠斗は飽きてしまったとでも言うかのように小さく息を吐いた。それでもすぐにいいことを思いついたとでも言うかのように、手を打ってくるりと一回転。蓮の方に再び顔を向ける頃には蓮に良く似た少女の姿に変わっていた。活発そうな顔、短く切った濃紺の髪、透き通った赤と青の瞳……それを見て蓮はひっと声を漏らして後ろへと下がった。その少女自体が怖いのではない。少女のあちこちにある滲んだ紅と、焼け焦げたようなそんな痕が妙に生々しくて怖かった。それが無ければ蓮は迷わず、変身した悠斗だと分かっていても目の前の人物に抱きついて声を上げて泣いていただろう。

 「能力の定義は操ることの出来るもの、出来ることが常に特定されていること、そして大きかれ小さかれ絶対に能力を使えなくなる枷や制限があること。誰にでも発現可能なものであること……」

 悠斗は僅かに低い女の声で言う。すがるようにそれを見つめる蓮はカタカタと震えながら、耳を塞いでいる。……そんなことをしたところで音を完全に遮断することは出来ないだろうに。そう考えて悠斗はより一層歪んだ笑みを浮かべた。ただ蓮には目の前の少女が歪んだ笑みを浮かべたように見えるわけで……気づけば悠斗が変身していると言うことも忘れてしまっていたのかもしれない。酷く怯えたような、そんな表情でただひたすら悠斗のことを見つめ続ける。そんなすがるような目を無視して悠斗は言葉を紡いでいく。次々と詰まらずに言葉を並べて、それが蓮に突き刺さる様を見て笑う。

 「それに比べお前の力は基本的に制限が無い。あるとしても安全に使うためのもので、力を使えなくなるようなものじゃない。だってお前一度、精霊を三体召喚して一時間以上維持してたよなぁ? 二体で四十分以内なら使えると言うことじゃなくて、なら安全ってことだろう? そんなの制限でも、枷でもない。それに召喚は能力としては本来発現しないしなぁ? じゃあ魔法か? 違うよなぁ、お前は魔力の生成できない人間だ。どちらでもない半端もの、ってことだな」

 そこで悠斗は一度言葉を切った。すっかり床に座り込んで自分を見上げる蓮を見下ろすのが心地よかった。普段上から目線の蓮を屈服させたような、そんな錯覚を得ることが出来て、笑いがこみ上げてくる。静かに蓮の体を抱き寄せて耳元に顔を寄せた。大きく震えて逃げようとする蓮の体を押さえつけて動けないようにして、笑ってやる。明らかな嘲笑の意味をこめた意地の悪い笑いだった。蓮はただただ呆然と視界に入る自分のものではない濃紺の髪を見つめて、抵抗すら出来なくなっていた。それが余計に気持ちよくて悠斗は笑みを堪えることさえやめた。
 ハッと蓮は悠斗の笑い声で我に返る。自分の今の体制を見て心底不服そうなそんな表情をした。悠斗の笑い声がなければ相手が悠斗だという事も忘れていただろうに、相手が自分の大切な双子の片割れの格好をして自分に抱きついているという状況が酷く不愉快だった。振り払おうとしたときに悠斗は平坦な声で「半端ものに殺されて桜梨さんは悲しいでしょうねぇ? 貴方なら生き返らせることが出来るんでしょうから、生き返らせてあげたらどうです? 貴方の命と引き換えなら良いですよね」と告げた。ギリッと今までやめろとだけ呟いていたあ蓮は、ありったけの力で悠斗を突き飛ばしていた。

52霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/31(日) 01:01:55 HOST:i114-180-251-220.s04.a001.ap.plala.or.jp
 さっきは押さえ込まれてしまったが、あれは正気じゃなかっただけ。本来身長百三十四センチメートルで小柄な悠斗に力で負けるわけがなかった。確かに蓮も平均から比べれば小柄だが、悠斗ほどではない。そうでもないと思っていたが体格によって力は変わってくるようだ、蓮はそう考えて吐き捨てるかのように笑う。もっとも鍛えていない人間同士だからの話であろうが、そんな事はどうでもいい、そう考えて蓮はゆっくりと立ち上がる。立ち上がるのに手をついた台にはまだ湯気の立っている味噌汁の乗った台。俺こんなに残してたっけ? そんな風に考えながらも蓮はまっすぐ悠斗に目を向ける。

 「あーあ。むかつくなぁ、人殺しの半端ものの癖に」

 その言葉を聞いて蓮は無言で、味噌汁を手にとって悠斗に向かって投げつけていた。人殺しだと言うのならお前も同じだろうが、そう考えながら悠斗を睨みつけてやった。すっきりしたと言うわけでもないが、あまり暴れても月華に報告書を書かされるだけだ。もうさっさとこの場を離れよう。そうすれば聞きたくない言葉も聞かなくてすむ。そう考えて蓮はさっさと食堂から立ち去る。しばらく突然の味噌汁攻撃で悶えていた悠斗は「失敗かよ」とだけ呟いた。それは普段の間延びした物でも、誰かの口調を真似たものでもない低く、響きのないものだった。心底不愉快そうな表情をした後、さっさと立ち上がって食堂から姿を消す。まるで空気に溶けるように、音もなく……。

 「能力定義、か」

 寮に向かって歩きながら蓮は小さな声で呟いた。能力でも魔法でもない自分の力は何なのだろうか、そんな風に考えては思考が堂々巡りを繰り返して、小さく肩をすくめて笑った。どちらにせよランクは出ているのだし、能力か魔法かなんて知らなくても力を使うのに支障はない。能力は出来ることが限られているし、必ず能力を使えなくなる条件や状況がある。蓮にはそれがないがむしろそれは好都合だった。安全に使うために極力時間や召還数を一定に保とうとはするのだが、暴走覚悟ならそれを守る必要もない。出来ることは召還して、召還した物を自在に操ることと召還するものの種類から考えると範囲が広めだ。……そう考えるとやはり異質なのかもしれない。
 面倒なもんだな、吐き捨てるかのようにそう呟いて、蓮は寮の自室のドアを開いた。閉めたはずの鍵はなぜか開いていて、蓮は僅かに首をかしげる。コートの中から拳銃を取り出して、一気に部屋の中に踏み込む。そこにいたのは刹だった。床に正座して優雅にお茶を啜っていた。何で今日はこうも朝から疲れてばかりなのだろうかそう考えてもう、ツッコムことすらやめた。一度、刹にツッコムとそのまま刹のペースに飲まれてしまいそうで嫌だった。これ以上体力使ったら身が持たないなんて考えている。唯一の救いは今日は休みで授業がないことだけだろう。……生徒会の仕事は山積みだから休みかと言われれば違うのだが。

 「お疲れ様です。よく我慢しましたね」

 フッと顔を上げた刹はにこりと笑って言った。何で上から目線なんだよこいつ、そう思うも何も言わないでおく。もう言葉を発するのすら面倒だった。刹を無視し、拳銃をテーブルの上に投げ捨てて、ばたりとベッドに倒れこんだ。それを見た刹は怒りを見せるような様子もなくクスクスと笑っていた。笑われている、そう思うとなんだか妙に不愉快だが声を出してまで怒るような気さえ起きなかった。相当ダメージを受けてるんだな俺、そんな風に考えて蓮は息を一気に吐き出した。

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何なんだろう、この蓮の一人舞台……

53霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/07/31(日) 19:17:23 HOST:i114-180-251-220.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「蓮、今日は仕事休んで良いですよ。お姉様が一人で全てを終わらせましたし」

 刹が笑いながらそういえば、蓮は無言で顔を上げて無言で刹の顔を見つめた。不思議そうに首をかしげる蓮を見てため息をつけば「まぁ、休ませる代わりに僕が監視に入ることになりますけどね」なんて言って、横においてあった日本刀に触れる。ああ、食堂での一件で警戒でもされたのだろうか、そう考えて苦笑いを浮かべた後、力なく顔を伏せた。不満は特にないし休めるのなら蓮にとっては万々歳である。そんな蓮の様子を見て小さく、同情のこもった笑みを浮かべた後、刹は黙って本を読み始めるのだった。

                  *
 そんな頃、湊と優希は屋上にいた。こちらは会計、生徒会長選抜情報処理がいない闇の高等部生徒会のように掛けているものはないし、優希と羽音、楓なんていう具合に仕事を片付けてしまうのが早い奴も多い。それ故に特別な行事がない限り、授業がない日は休日になることが多かった。目の見えないはずの楓の仕事が速いのは少々謎だったが、能力かなんかで何とかしているのだろう、湊はそう考えている。優希の仕事が速いのは中等部でも生徒会に入っていたから、効率のいいやり方を分かっているのだろう。その点、同じく中等部から生徒会をやっている湊の仕事スピードが人並み以下なのが気になるが。そんなことをほかの生徒会メンバーに尋ねれば、決まってあの人の仕事は丁寧すぎるからと返ってくるのだった。
 ぼんやりと屋上から見える町並みを見つめる優希と、黙って空を眺めている湊。お互いに特に言うこともないらいしくそれぞれがぼんやりとすごしている。傍から見れば少々おかしな光景だがほんたちは微塵も気にしていないようである。喋りもしないのになぜ同じ場所にいるのかと言われれば、始めは会話をしながらゲームをしていて、話題がなくなってしまったからだ。ゲームにも飽きたし、話すこともない。帰ってもやることがないから帰りたくもない、そういう訳があってお互いが無言でいるわけだ。偶然会ったのなら気にしないだろうが、元々遊んでいたのだから気まずくて仕方がない。

 「あ、えっと、そういえば三宮さんの能力って特殊ですよね、蓮さんのもそうですが……能力定義に当てはまらないと言うか……」

 沈黙を破ったのは湊だった。少し遠慮気味にそういえば優希に貴方もそうでしょなんて返されて黙り込んでしまう。それを見た優希は少し困ったような表情をした後、前髪を掻き揚げて「そもそも能力の定義がここでは曖昧だろうに。色々な制限があって、誰にでも発現する可能性あり魔力を使わなければ能力なんて」と言葉を紡ぎ始める。それを聞いた湊は僅かに首をかしげてもうちょっと色んな言葉がついていたような気もするがなんていう風に考える。それを見て優希は苦笑いを浮かべながらも次々と言葉を紡いでいく。特についていけなくなることもないらしく湊は黙って聞いたり、質問を投げかけたりして会話をつなげていく。

 「んで俺や貴方、蓮の能力が特殊なのはおそらく魔法から劣化したものだから、だと思いますよ。ああ、植物を操る奴と幻覚を見せる奴は普通の能力でしょうけど」

 はい? なんていう風に間抜けな声を出して湊が首をかしげた。いきなり話が飛躍しすぎな気がすると考えながら必死に理解しようとする。面白そうに笑いながらも優希は話を続けていく。何でも始めは魔法使いの系統の一族、もしくは魔法使いだったのがいつの間にか魔力の生成が出来なくなって、魔法を能力として組み上げ直した結果だとのこと。それを聞いて湊は苦笑いを浮かべて「だから、能力定義にも当てはまらない、と……だとしたら僕たちの能力が出来るまで相当時間かかってますよね」なんていう風に笑っていた。優希の方も軽く笑って小さく頷く。笑いながらも付け足すように言葉を続けていく。

 「と言っても憶測でしかないですけどね。つか俺らの能力能力定義に当てはまらないところが多いと言っても、出来ることは一応限られてるし、禁忌もあるだろ」

 ご尤もです、そう小さく呟いて、湊は頷いた。

54霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/08/11(木) 15:23:23 HOST:i125-202-253-87.s04.a001.ap.plala.or.jp
 ゆっくりと蓮が体を起こす。どうやらもう夜になってしまっているようだった。刹のいた位置に目をやれば壁に寄りかかって座ったまま眠ってしまっている。小さくため息をついて少々乱暴に布団を掛けてやると力なく、コテンと倒れた。そんな刹の寝顔を見て、寝ているときは年相応って感じなんだけどなぁと小さく呟く。本人に聞かれると少々後が面倒ではあるが、当のご本人は気持ちよさ気に眠っているのだから関係のない話である。あまりジロジロと見ても刹が起きたときに色々面倒なので、そのまま黙ってベッドの上に寝転がって天井を見つめる。こんなときに頭をめぐるのは双子の片割れの桜梨のことばかりで正直嫌になる。依存しすぎだ、そう呟いても意味がない。
 不死鳥、フェニックス。復活の象徴とされる偉大な力だ。そいつの力を借りれば、死んだ人間でも復活させることが出来ると言う噂がある。正直言って蓮もそんなうまい話があるわけがないと思いながらも、その魅力に惹かれる一人だった。その力で桜梨を生き返らせることが出来たら、そう考えては無理だと繰り返し否定し続けている。そんな中でフェニックスの情報を集め続けているのは出来ないと諦めるためであった。しかし調べれば調べるほどに詳しい召還方法が分かってしまったりして、どんどん泥沼にはまっていく。最後の最後では時間があるときに実際に召還できるか確かめてしまえばいいという結論を出させてしまうようなものであった。

 「刹、ちょっと出かけてくるからな」

 結論を出した蓮は動くのが早かった。ベッドから起き上がってコートのフードを被ったかと思えば資料を片手にさっさと部屋を出て行ってしまう。さっさと歩いて向かうのは寮の屋上。寮の屋上は、学園の屋上とは違い殆ど人が来ることがない。目立つ召還をするに関しては取って置きの場所である。学園の屋上からは丸見えなのだが距離があるから、召還している人間が誰だかは分からないであろう。魔法じゃない方法で召還出来るのは蓮だけであるが、魔法使いでなら多くはないとはいえ召還魔法を扱うやつもいる。そしてその殆どが蓮のように黒いコートを身に纏っている。髪の色さえ見られなければ特定されることはほぼないだろう。
 書類の中から召還手順について書かれたものを取り出す。蓮の場合は初回の召還のときだけに面倒な手順を踏まないといけないだけであって、二回目以降は言葉を言うだけで簡単に召還できる。大して魔法で召還する者達は一回一回面倒くさい手順を踏んだり、複雑な魔法陣を書いたりしなくてはならないので面倒だ。その点については蓮は感謝している。一々大きな隙を作らなくてもすむのだから。

 「……数量の血……召還者の髪……何か妙な気分だな」

 召還の準備を終わらせた後に蓮はそう呟く。殆どが簡単に用意できるものだったが気味の悪いものばかりだった。流れ落ちたばかりの血液、召還者の髪に面倒な模様。その辺に落ちていた得体の知れない白い羽に火をつけて空へと放る。その羽根が宙に留まったのを確認してから、蓮は言葉を紡ぎ始める。

 「大いなる炎の不死鳥、フェニックスよ。汝が望みしものは用意した。今我の元に姿を現して力を与えよ」

 ゴウっと炎が大きくなって蓮を飲み込もうとする。それでも蓮は顔色一つ変えずに炎の中心の羽を見つめる。広がる炎を見れば僅かに失敗しただろうか? と首をかしげる。しかし明らかに召還は出来る手ごたえを感じる。何度も出来ないと諦めたことが出来る。そんな小さな希望が蓮の中に生まれた。必死に放出する力が一定になるように調節を続ける。次第に炎は落ち着いて大きな燃え盛る鳥へと姿を変えていく。普通のものならば驚いたであろうその光景も蓮はただただ無言で見つめる。

 『我が姿を見ても表情一つ変えぬとは見あげた人の子よ。我を呼び出したのは汝か?』

 落ち着いた流れるような透き通った声。蓮が黙って頷くとその炎の鳥、フェニックスはさも楽しげに笑う。そして右の翼を広げたかと思えば『汝は面白そうな奴だ。我、汝の力となろう』と告げる。口元を歪めて笑う蓮を見てフェニックスはこれほどの人間がまだいたのか、と笑みを浮かべる。ジュウッと蓮の首筋に赤い紋様が浮き出る。それは鳥の翼のような不思議なもの。契約の証だろう蓮はそう考えて気にも留めずに、フェニックスへと言葉を投げかける。

 「フェニックス、お前には死人を生き返らせることは出来るのか?」

55霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/08/11(木) 16:31:14 HOST:i125-202-253-87.s04.a001.ap.plala.or.jp
『ああ、もちろんだよ。我が主』

 蓮の言葉にフェニックスが笑って答える。蓮の表情がいよいよ明るくなる。その様をフェニックスは満足げに眺めた後『で、我が主、君は誰を復活させたいのかな?』と問いかける。蓮がフェニックスに突きつけたのは、蓮に良く似た少女、桜梨の写真。フェニックスは小さく唸った後、ハッとしたような表情をして蓮の周りを飛ぶ。その様子を不思議そうに蓮は見あげた。蓮の横に人の形をした光が一つ生まれる。蓮がそれに気づいて視線を落とした頃にはその光は、一人の少女の姿へと変わっていた。蓮と同じ濃紺の髪。長さは肩につく程度のものだ。その顔は勝気そうで、絆創膏が似合いそうなやんちゃっ子のよう。
 蓮の真っ白な肌とは違い、やや日に焼けた健康的な肌の色。……この少女は桜梨。間違いなく霧月 桜梨(ムヅキ オウリ)そのものだった。フェニックスはふむ、と言うと信じられないと言うような表情をして固まる蓮を見つめる。何だ人間らしいところもあるではないか、そういって安心でもしたかのように蓮の肩にとまる。蓮の何倍もあったその体は一瞬にして蓮のインコのような小さなサイズに変わっていた。それでも燃え盛る鳥なのは変わらないのだが、不思議と蓮の髪や服は燃えることはなかった。フラリと蓮の体がゆらる。静かに目を閉じてその場に倒れこんだ。……肩にとまったフェニックス諸共である。

 「ん……あれ? 俺死んだよな? 何で学園が?」

 入れ替わるように桜梨が目を覚ました。透き通った青の瞳は横に倒れる蓮よりも先に学園の方を目に留めたようだった。その後自分の足元に目をやって蓮が倒れていることに気づく。誰だかがわからなくて首をかしげていると、その胸に輝く生徒会役員の証であるバッチに目が行った。刻まれていた名前を見て、目を見開いた後に、近くに転がっていたフェニックスの首を絞めるかのようにもって、凄い勢いで言葉を投げかけ始めた。桜梨もまた不思議なことに燃え盛るフェニックスを持っても燃えることはおろか、火傷さえもしないようだ。ギューっとフェニックスを締め上げて早く真実を言えと脅す始末。……コイツ人間じゃない。フェニックスはそう思う。

 「ほぅ……で、そいつが力でお前を召還して俺を生き返らせた、と。この馬鹿が」

 フェニックスの説明を聞いて桜梨は不愉快そうに蓮の体を蹴飛ばす。小さく呻き声を上げたから生きてるのか、そんな風に考えてため息をつく。ついにコイツは禁忌にまで触れやがったかと呆れたような表情をして、締め上げていたフェニックスを放り投げた。能力で他者を生き返らせたりするのは禁忌とされているのだ。蓮の場合は能力と言えるのかも怪しいところがあるが、おそらくは禁忌だけは当てはまっているのだろう。そもそも禁忌については能力だけではなく、魔法にも当てはまることの方が多い。たとえば他者の命を能力でどうこうすることは禁忌だ。まぁ、単純に人を生き返らせてはいけませんなんていう感じのものだと捉えてくれればいい。
 直接的に命を剥奪してはいけないと言うものもあるが、これは桜梨のような剥奪能力などの一部の能力と魔法に限られてくるので関係ない。たとえを出すと、桜梨の剥奪能力で相手の命を盗むのは駄目だが、氷や炎、風、具現化とそんな能力で何か武器となるものを作り上げて、相手を仕留めるのは大丈夫、と言うものだ。もっとも桜梨の場合心臓などの臓器も一部盗めてしまうので殆ど曖昧なものに近いもの否めなのではあるが。臓器は命と言うよりもパーツなので関係ないんじゃないか、確かにないと死ぬ場合もあるけど、なんていう風に桜梨は気楽に考えるようにしている。

 「禁忌に触れてまで俺を生き返らせるとは、とんだ馬鹿だな」

 吐き捨てるかのように、それでも桜梨は嬉しそうに笑ってそう呟いた。フェニックスが『禁忌云々を言うならば、過去の奴らは少々特殊だったようだな』と言って笑う。そんなフェニックスに対し「うるせぇ」なんて言葉を投げつけて、桜梨は蓮を抱えて寮の中へと足を進めていくのだった。……この後、学園が大きな火種に包まれると言うことも知らずに

NEXT Story〜第五章 体育祭と言う名の小規模戦争〜

56霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/08/11(木) 17:42:02 HOST:i125-202-253-87.s04.a001.ap.plala.or.jp
息抜き代わり

作者「なげぇ……長いよこれ」

湊「でしょうね。改行もまともにしないから余計ですよ。メモ帳で書くから改行を忘れるんですよ」

作者「そうなんだけどね……直で掲示板で書いて誤爆するのやだし」

紅零「誤爆は確認すれば防げるわよ?」

作者「確認しても誤爆する、それが僕クオリティ」

紅零「嫌なクオリティね。いや、いいけど、別に。」

湊「ところでキャラの名前に由来とかあるんですか?」

作者「ある奴とないやつがいるよ。今回は季節とか結構使ってたりする」

湊「僕は秋月とついているだけあって秋ですか? 湊の方の意味が気になりますけど」

作者「そだよ。しっかし秋月でシュウゲツと読むのは誤算だった。普通にアキヅキで使っちゃったよ」

湊「ただの馬鹿ですね。ちゃんと調べないからですよ。で、湊の意味は?」

作者「港湾のことらしいよ。港湾施設の水上を港、陸上を湊と呼んでいたらしい。最終的に湊にしたのはノリなんだけどね」

湊「あ、何か悲しいことをさらりと言われた」

紅零「私は? 明らかに意味なさそうな名前だけど」

作者「元々は秋で紅葉になる予定だったんだけどね。友人にキャラ原案見せたら、こいつは紅葉ってキャラじゃねぇと突っ込まれたのさ。だから過去に使った名前を引っ張ってきた」

紅零「使い回しとか最悪ね。駄目作者」

作者「僕には何も聞こえない。
    さてそろそろ物語りも終盤です。最後まで皆様どうぞよろしくお願いします」

57霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/08/17(水) 18:35:24 HOST:i121-114-184-49.s04.a001.ap.plala.or.jp
第五章 体育祭と言う名の小規模戦争

 朝早く、鳴り響く轟音で全生徒が叩き起こされた。本日は桜梨が生き返ってから一週間。体育祭の日であった。この学園の様々な行事のいくつかは能力のランクを正確に出すためのものである。その中でも体育祭は能力と能力がぶつかり合うものである。また、この学園の行事の中では珍しく、生徒の保護者も見ることが出来る。他に生徒の保護者が見ることが出来るのは初等部学芸会と、中等部以上の学園祭だけなのだから、保護者が張り切ることも納得できるだろう。事実開始三十分前にして保護者たちは場所取りを完了し、開始を今か今かと待ちわびているのだ。
 他の生徒よりも早く出てきて様々な機械の設置を手伝う闇、光双方の生徒会は深くため息をついて、張り切る保護者達に目をやる。毎年のことではあるがいくらなんでも張り切りすぎだろう何て考えて全員が全員呆れたような表情を浮かべた。それでも作業をする手を止めると教師達の怒号が飛んでくるから作業だけはやめない。だんだんミスがあるんじゃないかと心配になってくるが、その辺は最終点検の係に丸なげである。そんな雑な作業でも教師たちが文句を言わないのは人間平気にもなりうるメンバーを下手に刺激したくないからなのだろう。光はそうではないとは言え闇も一緒に作業をしている。実際は闇のメンバーだからと言ってキレやすいと言うわけではないのだが、教師たちは一種の偏見を持っているらしい。

 「なぁんか、むかつく物言いですね」

 そんなことを言いながら湊を睨みつけているのは刹であった。腕に闇中等部生徒会会長推薦情報処理と書かれた腕章をつけていた。なぜ楓や他のメンバーがバッチなのに刹だけが腕章なのかと言えば、単純にバッチを紛失してしまったからなのであるが、本人は微塵も反省したり探したりする気は内容である。いや、戦闘の途中で粉々に砕け散っているので探しても無駄だったりするのではあるが。睨みつけらている当の湊はと言えばニコニコと笑みを浮かべて刹の頭を撫でていた。そんな様子を眺めて、刹がキレしまわないか冷や冷やするのは月華と蓮だった。八つ当たりとか勘弁だと呟いている。
 そんな横では風雅と優希が口論を繰り広げているし、楓は目が見えないから危ないと言われて日陰に避難させられている。それでも作業が順調に進むのは淡々と機材を運ぶ羽音と、精霊を召還して手伝わせている蓮がいるからであろう。この現状を眺めて紅零は呟く。小さな誰にも聞こえないような声で「今年の生徒会は大丈夫なのかしら」と。この言葉が聞こえていたなら蓮や教師たちは同意して頷いていたのだろうが、言葉は紅零以外、誰にも聞こえずに終わった。

 「刹、遊んでないで戻って来い」

 ため息をついて湊を睨みつけ続ける刹を呼び戻して、作業にもどらせる紅零。湊がキョトンとしながら近づいてこようとしたが紅零はそれを無視して作業に戻った。しばらく固まった後に、少し悲しそうに苦笑いを浮かべて湊も作業に戻った。そうして準備作業は淡々と進んでいく。大騒ぎされるのも嫌だが、淡々と作業されると作業されるでなんだか心配になってくる教師陣。何か企んでいるんじゃないかと考えては闇の方をちらちらと覗き見た。それに多少の不快感を覚えながらも表情に出したりはしない。妙なところでポーカーフェイスの上手い連中だった。まぁ悠斗だけは不愉快そうな表情をしていたのだが。
 そんなこんなでどうにか準備作業が終了して解散の号令を掛けられる。と言っても作業が終わったのは体育祭開始十分前だ、殆ど時間がないし朝食ももう食べ終わっている。服装については制服でやろうが体操服でやろうが自由なんていうことになっているので着替えさえも実は必要がない。そのためか多くは特別に設けられた生徒会チーム席にそのまま座って開始のときを待っていた。風雅と優希はものすごい速さで着替えに戻っていったが。生徒会チーム席は闇のものと光ものの、二つあるがその二つが隣り合ってしまっているので、非常にピリピリしたムードになってしまっている。まぁこれから起こるであろう事態を考えてか攻撃したりはしないのだが

58霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/08/20(土) 01:39:26 HOST:i121-114-184-49.s04.a001.ap.plala.or.jp
 そんなピリピリした空気を和らげるように、明るい一般生徒達の声が聞こえてくる。次々と現れては割り振られた席へと座っていく。そんな一般生徒を眺め、刹が僅かに顔をしかめて、視線を別の位置へと移動させる。桜梨はそんな刹の頭を軽く撫でて、辺りを見渡す。刹が少々不満げに見あげてくるがそこは無視だ。相手にして長引くと体力の無駄になるしそんなことを考えて、懐かしい行事の前の雰囲気を楽しむ。それとは対照的に蓮はずっと無表情で、地面を見つめていた。その顔はどこか青白く、不健康なもの。しかし全員が全員行事のほうへと興味が行っている訳で誰も蓮のことを気に留めたりはしなかった。
 一般生徒の席を見て桜梨が小さな声で「俺もあっちに座る予定だったんだよなぁ」と呟いた。実は生き返った上に色々な生徒会のどたばたに巻き込まれた桜梨は、いつの間にか闇高等部生徒会会長推薦情報処理に押し込まれていたのである。桜梨からしてみれば傍迷惑な話だが、月華が桜梨が少しでも蓮を見張りやすいようにと考えて行ったことと知り、大人しく生徒会入りの話を受けることにした。実際、桜梨から見れば蓮は見張ってないと何をやらかす分からない、幼い子供のようなものだった。過保護だな自分、そんな風に考えて桜梨は一人苦笑いを浮かべる。
 生徒達が楽しげに談笑する中、一人だけ異質な雰囲気を纏った女が現れた。地面につきそうな長さの三つ編みにされた金髪。どこかぼんやりとした右が紫色、左がの薄い青の瞳に、黒縁の眼鏡。服装は真夏の暑い中にもかかわらず胸元に紫のリボンのついた黒の長い上着に、薄紫のグラデーションのかかったワンピースを着ていた。手に持っているのは分厚い本と妙に大きな鍵で、異質を倍増させていた。……そんな彼女はこの聖鈴学園の理事長である。生徒でも名前を知っているものはいないと言われるのだから胡散臭さもあるのだが。

 「面倒……」

 本部席にたどり着いた彼女はそう呟いて席に座る。その様子を眺めていた月華は「相変わらずの格好だよねぇ」なんていう風に呟いて蓮に口をふさがれていた。蓮の動作も少し遅かったような気もするが、そんな風に桜梨は考えて呆れたような表情を浮かべる。刹はと言えばのんびりと本を読んでいるし、紅零は刹の読んでいる本を横から覗き込んで納得したように何度か頷いている。悠斗は欠伸をしながら一番日光の当たらない位置に陣取ってぼんやりと考え事をしている様子。どうやらこのメンバー誰一人として“体育祭”と言う行事に微塵も興味を示していないようだ。
 対照的に風雅のいる光生徒会はやる気満々と言った感じである。風雅は準備体操を念入りに行っているし、優希は優希で軽い準備を行っている。湊と羽音はその二人につられるかのように準備運動を始めていた。憐、涼の二人はストレッチをしていた。楓だけは日陰でのんびりとしているがそれは仕方がないことなのであろう。基本的に風雅と初等部の二人につられているような感じではあるのだが。ちなみに優希の場合はやるのならば負けたくないなんて言っている。

 「馬鹿みたいですね」

 小さくそう呟いたのは刹だった。流れる体育祭開始のアナウンスと、理事長からの長ったらしい言葉、張り切る奴ら、全てが刹にとってくだらないもののように見えた。紅零に今日だけは余計なことをするなと釘を刺されているため、大人しくしているだけで、それがなければ既に数人を殴り飛ばしていただろう。そう考えて刹は鼻で笑った。何を分かりきったことをとでも言うかのような感じだ。それを見て僅かに首をかしげたのは桜梨だ。良く分からないままぽんぽんと刹の頭を撫でてやる。うーっと声をあげながら刹を見て明るく笑ってやると、いかにもバツが悪そうに顔を逸らされた。一度自分が死んだときのことを引きずっているのだろう、そう考えて桜梨は一人頷くことにする。

59霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/08/21(日) 21:28:42 HOST:i121-114-184-49.s04.a001.ap.plala.or.jp
 張り裂けんばかりの歓声。ついに始まった体育祭を喜ぶ声、拒否する声……。湊は薄い笑みを浮かべて生徒達を見る。闇も光もこうなると大差ないものだ、そんなことを考えて声を漏らして笑う。優希が気持ち悪いものを見るかのような目で見てきたのを無視して生徒会メンバーに声を掛けた。全員が全員笑ってそれに答える。それは明るい楽しげな光景。
 紅零はそんな光景冷ややかな目で見つめた後、周りの生徒会メンバーに声を掛ける。光の生徒会の明るい笑顔に対して、闇の生徒会メンバーが浮かべたのは暗い歪んだ笑み。光に照らされることで出来る影のように暗くて冷ややかなもの。

 「じゃあ、基本ルールの説明をするぞ。チームは光一般チーム、光生徒会チーム、闇一般チーム、闇生徒会チームだ。能力の使用については自由だ。ただし相手の命を奪うようなことになったら失格。これは毎年の事だから分かっているな? 最終的にポイントが高いチームの優勝だから特に一般チームは頑張れよ」

 ルールー説明をしていくのは妙に良いガタイの体育教師。どうせ毎年変わらないんだからルール説明なんてせずにさっさと始めろよとぼやく生徒をよそに教師は淡々とルール説明を進めていく。退屈そうにする生徒と、真剣に聞く生徒、その違いは単純に元から学園にいる生徒か、どこかから新しく来た生徒かだけである。能力の使用は自由と聞いて怯えたような表情で顔を見合わせるのも新しく来た生徒。そんな事もう慣れっこな他の生徒たちは談笑を始めていた。無論生徒会メンバーも同じである。この学園の人間は安全基準が狂っているのだろうか、そんな風に新しく来た生徒たちは首をかしげた。
 ルール説明を終えた体育教師は満足げに頷いて本部席に戻っていく。すかさずにアナウンスで一番最初の競技の説明が入る。それを聞いた刹は本を置いて席を立つ。湊もメンバーの応援を受けながら席を立つ。横目で立ち上がった刹を見て少々嫌そうな顔をする。大して刹はと言えば湊が立ったことに気づきながらも何も言わずさっさと待機場所へと向かった。始めの競技は短距離走だ。もっとも安全な競技で、もっとも地味な競技だと保護者達の間ではちょっとした噂になっていたりするが、やる側としては危険すぎるのでご遠慮したい競技の一つとなっている。と言うか生徒達の共通認識は死にはしないが全競技等しく危険、と言うものだった。

 「刹、さん。お互い頑張りましょうね!」

 極めて明るい笑みを浮かべながら湊が刹に声を掛けた。刹は心底不愉快そうに振り向いた後「随分余裕ですね。まぁいいですけど。負けませんから」と冷たく声で吐き捨てるかのようにそう言う。やっぱりかなんていう風に呟いて湊はため息をつく。そんなのお構いなしに刹はさっさと歩いて行ってしまう。湊が待機場所にたどり着く頃には審判の教師と談笑を繰り広げていた。自然とその周りには闇の生徒が、少し離れた位置に光の生徒が固まっている。小さく頷いた後「ま、こんなもんですよね」と呟くのは湊だった。そんな湊の腰の辺りを叩いたのはアズラエル。明るい笑顔で「頑張りましょうなの」とだけ言って初等部の輪に戻っていった。
 しばらく様子を眺めてクスリと湊は笑う。光が刹を中心とした闇から離れているのは怖がっているからだと思ったが実際はそんな事はないようだった。真剣に勝つためにどんなタイミングで能力を使えばいいのかだとか、流れ弾を味方に当てないためにはだとかそんなことを話し合っているだけ。その話し合いが終わったら湊の周りに集まるもの、闇の回りだろうが関係なしに楽しげに走り回って遊ぶもの、笑顔で闇の数名に話しかけるものと色々な生徒がいた。そして多くは闇を恐れることなく好き勝手に待ち時間をすごしたり、闇の生徒に話しかけたりちょっかいを出したりしていた。刹はそれを見て不愉快そうな表情をしたが、他の闇の生徒も話しかけられるがままに話したり、ちょっかいを出されたら微笑ましい程度でやり返したりと案外平和的な様子。何だ自分が考えていたほどに自体は悪化していないんじゃないか、そう考えてほっと胸を撫で下ろした。

60霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/08/28(日) 21:42:54 HOST:i121-116-245-124.s04.a001.ap.plala.or.jp
 そんな湊とは対照的に刹は心底不愉快そうな表情のまま、息を吐く。対立が表面化してきたと思ったらこうだと悪態をつくかのように呟く。もっと事態が悪化していてくれた方がいいのになんて考えて、笑う。歪んだ不気味な笑み。周りに残っていた数名の生徒が震えたのを見てフイッと顔を逸らす。鳴り響くのは銃声。どうやら第一走者が走り出したようだ。短距離走は闇、光、双方の一般チームから十一人の代表を出して行う。一回に走るのは六人程度。生徒会のメンバーは人数が少ないので出す代表は一人で、一位から三位までに入ると一般生徒のチームの倍の点数をもらえることになっている。まぁそうでもしなければ人数の関係で代表を出せない生徒会メンバーは勝てないし、逆に生徒会メンバーが四人も出れば一般生徒に勝ち目はないのだ。
 全く面倒だ、そんな風に呟いたところで、とてつもない強風が吹き渡る。闇側の生徒が光を攻撃したようであった。あまりの強風に同じ闇の生徒までもがなぎ倒されている。刹は顔色一つ変えずにそれを眺めていた。怪我はないだろうかと大慌ての湊のほうがよほどイレギュラーに見えるような反応。闇の生徒達も多くは口元に笑みを浮かべ様子を眺めるだけ。仲間であろうと防ぎきれなかった連中の心配はしない主義のようだ。

 「やれやれ、とでも言えばいいんでしょうか?」

 小さな声で湊が呟いた。念入りに準備体操をして、スタートラインに立つ。どうやら刹も一緒の順番のようで湊の横に無言で並んだ。その横に着くかのように並ぶほかの生徒達の表情は何処か強張っていて……、何が起こっても大丈夫なようにと幾重にも能力を張り巡らせているようである。まぁ生徒会チームの人間と走るとなると、流れ弾がかすっただけでも酷い目に遭う可能性があるのだから仕方がないのかもしれない。第一走者がゴールして、次は大二走者。深く息を吸ってピストルの音だけに神経を集中させるのは湊。それに比べ刹はあちこちを見渡して余裕の表情。
 鳴り響く銃声。刹と湊が走り出したのはほぼ同時であった。全力で走り抜ける。どうやらお互いに能力を使うつもりはないらしく、周りで火花が散ったりしても基本的には無視。ひたすらゴールに向かって走るのみ……といっても所詮は短距離走。あっという間にゴール間近まで来てしまっている。先にスピードを上げたのは刹だった。慌てて湊もペースを上げるも結局は無駄。一位は刹の手に渡ることになる。二位でゴールして明るく「あーあ。相変わらず早いですね、刹さんは」なんて言って笑うも相手にして貰えなかった。少しではあるが流石の湊もショックを受けた。

 「危なかったねぇ、刹」

 生徒会席でそんな風に言うのは月華。へらへらと笑いながら、能力が見られないのは残念だなぁとかそんなことを付け足すかのように言う。それを聞いていた風雅は「会長惜しかったなー」なんていう風に呟いて天を仰ぐ。腹が立つぐらいの晴天だ。ニィッと笑みを浮かべて頬を叩く。そんな様子を怪訝そうに眺める優希を軽くからかっては、いつものとおりだと自分に言い聞かせていた。なぜだか分からないが妙な不安が彼、風雅の中にはあるのである。どんな? と聞かれると答えることは出来ないが、居心地の悪さを感じる嫌なもの。深く息を吐き出して新鮮な息を吸い込む。

 「何を考えてるんだか、俺」

 らしくもない、そう考えて首を振る。気にするなどうせ下らない杞憂だ、時間がたてば忘れるさそんな風に思考を持っていく。怪訝そうな表情でちょっかいを出してきた優希にしか仕返しをする。倍返しで殴られて、羽音に慰められて……。そうして笑う。そうしていれば心配事なんてなくなるんだとでも言うかのように笑った。優希には「その笑いが気持ち悪い」と言われたがいつものことだから気にしない。そう、気にしなければいい、いつものことなのだからいつも通り必死に言い聞かせて、勢いよく立ち上がる。

 「さぁて、次は俺の番だな!!」

 そう言って風雅は待機場所へと向かう。

61yuri:2011/09/01(木) 04:16:20 HOST:d219.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
不景気だと騒がれていますが・・・(;・ω・)☆ ttp://tinyurl.k2i.me/Afjh

62霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/09/24(土) 17:20:07 HOST:i60-34-141-138.s04.a001.ap.plala.or.jp
完全に更新がストップしてしまってますねorz

とりあえず今日と明日で少しだけでも進めたいと思います

63霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/09/24(土) 21:11:54 HOST:i60-34-141-138.s04.a001.ap.plala.or.jp
 風雅が参加したのはパン食い競争だった。ため息をついて自らの腹を撫でる。生憎のところ食欲も失せてしまっているが、別に食べきる必要はないのだしなんて考えて、準備運動を始める。闇生徒会側からは月華と桜梨が出るようだった。そこで風雅は首をかしげた。光側のもう一人がいないと。辺りを見渡せば優希が走ってくるのが見えた。聞いていないぞ、なんていう風に呟いて、自然と逃げようとする自らの足を止める。一緒の競技に出るだけで集中攻撃を受けそうだが、逃げたら逃げたで余計に酷い目に遇いそうだ。和気藹々と語り合うほかの生徒達を見て風雅は腹の底から空気を吐き出す。
 桜梨が無言で空を見上げ、何かを考えている様子。その横では月華がまるでウサギのように飛び跳ねて、満面の笑みを浮かべていた。集まりはじめる選手の中でも埋もれない目立ち具合に、待機場所からは離れた自分の席にいる刹と紅零が呆れたような表情をする。小さな声で馬鹿だなアイツなんていう風に呟くのはさっきまで沈みきっていた蓮であった。短く同意ですなんていう風に告げる刹の頭を軽くなでた後、伸びをする。

 「また生徒会対決になるのかしら?」

 心底つまらなそうに紅零が呟く。まぁそうしないと一般生徒を巻き込むからなぁなんていう風に蓮は考えて、首をかしげる。生徒会対決にしたって流れ弾とか危険だよなぁ? そこまで考えたところで結局は思考を止める。こんなの考えても無駄だ、そう一蹴。紅零は流れ弾が当たったところで自分の見を守れない方が悪いんじゃないなんて呟いて、興味なさ気に理事長の方を見つめ始めている。相変わらず人の思考を呼んだ様な発言をするんだなと蓮は思わず苦笑い。
 淡々と進んでいく競技。生徒会チームは最後に走ることとなる。……生徒会チームを最初に出してしまうと他の生徒が怯えるからという理由であるが、後から出しても凄まじい能力での攻防に一般生徒はドン引きであった。仕舞いには怖いと言って大泣きする生徒まで出る始末。そんな生徒をあやすために楓が向かうが包帯のお化けなどと言われて相当ショックを受けたようだった。完全に石化してしまった楓を羽音が引きずっていき、湊が泣きじゃくる生徒の頭をなでてやる。そこですんなりと生徒が泣き止んでしまって、楓がさらにショックを受けてしまった。なんというか一人重い雰囲気で日陰へと戻っていく。それに追い討ちを掛けるように何かを呟くのは涼であった。

 「おっしゃあ!!」

 軽い銃声と共に景気の良い声が飛んできた。どうやら風雅たちがスタートしたようである。満面の笑みで走る風雅と、その横を無表情で駆け抜ける桜梨の正反対さがなんだか妙に可笑しく感じる。優希は優希でぴったりと風雅の後ろを走っていてなんだか怖い。手を抜いたら殺すぞなんていう風に目が語っているのが、洒落にならない恐ろしさを含んでいる。それは優希がやっているせいだからなのか、誰がやっても同じようなものなのか、それは良く分からないが。
 そんな三人の背後から不健康そうな色をした光線を放つ月華。わりと本気で攻撃を加えている時点でなんかもう次元が違う。優希がハッとしたようにその光線に手を翳した瞬間に空間が歪み、光線が霧散して消える。……生徒達の間からこいつら人間じゃねぇと言う声が漏れた。同意ですよと言うように頷くのは風雅。生徒会に入っている時点で少なからず人間離れしているのではあるが、本人としてはそんな自覚はないらしい。と、言うか風雅よりも優希や湊がぶっ飛びすぎていて自分の力が霞んで見えて仕方がないだけなのである。化け物集団な生徒会恐るべし。
 特に大きな差がつくこともなく三人はぶら下がったパンの下へ。優希はパンに向かって手を翳し、得体の知れない力でパンを落とし、風雅は背中から悪魔のような翼を生やして飛翔、そして楽々とパンゲット。桜梨は月華を踏み台にしてパンを取りそれを食わえて走り出し、踏み台にされた月華は少々不服そうにしながらも、何処から出したかも分からぬ炎でパンを吊るしている紐を焼き切り、桜梨を追いかけての猛ダッシュ。なぜか仲間である桜梨が体を震わせる珍自体を作り上げている。一般生徒、思わず唖然である。

64霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/09(日) 01:15:08 HOST:i118-21-88-153.s04.a001.ap.plala.or.jp
 背中の翼を消し、風雅は笑う。思っていた以上に平和的な競技に安心したのだろう。何ださっきまでの心配は杞憂だったんじゃないか。そう考えてゴールまでひた走る。横にぴったりと並んで走りながらパンを口に含む優希を見て行儀の悪い奴なんて呟いて、余裕たっぷりの面持ちで。その後ろから聞こえてくる桜梨の罵声と、悲鳴もなんだかよくあるもののような気がして……。いや、罵声自体は普段から優希をはじめ、光の同級生達に散々浴びせられているのである意味日常の一コマと化してしまっているのは事実であるが。
 急に、何の前触れもなく風雅と優希の走るスピードが落ちた。対して急にスピードを上げて風雅と優希を抜かしていく桜梨。すれ違いざまに「スピード、ありがとさん」なんていう言葉を残して……どうやら風雅と優希から速さを奪ったようである。後ろから月華が「おおい!? 置いていくなよぅ!」と声を上げるが、待つどころかチラッと後ろを確認することさえせずに桜梨はゴールテープを切る。むしろ先ほどまで自分を追いかけて猛ダッシュしてきた人間を待つと、パンを取るために踏み台にしたことの仕返しを何らかの形でさせられそうで怖いのだろう。
 はぁ、とため息をついて風雅と優希に奪ったスピードを返す。その瞬間に走るスピードが上がり、走っている本人達の方が戸惑ったようだった。優希は驚きすぎたのか転びそうになってしまっている。対して風雅はすぐに慣れたのか何の苦もなく走っていく。優希をあざ笑うかのような笑みを浮かべて。そのまま順位が入れ替わることはなく、結局順位は桜梨、風雅、優希、月華となる。月華が桜梨に対して何か喚いていたが、桜梨は面倒くさそうに手で払うような動作をした後に、パンを口に含むのだった。優希は優希で風雅になぜ桜梨を抜かさなかったと詰め寄っていたが、風雅にお前も抜かせてなかったじゃんなんて返されてあっさりと黙り込んでしまった。

                                 *
 時間は過ぎ、いつの間にか午後。最後の競技、選抜リレーが始まろうとしていた。選抜と言いながらも生徒会チームは人数の関係で全員参加。さらに闇の生徒会チームのほうは光の生徒会に比べて人数が少ないため、誰かが2回走ることになるようだ。小さくため息をついて念入りにストレッチをする刹。一般生徒チームが駆け抜けるのをのんびりと眺める。ぶっちゃけ生徒会メンバーが全員参加するような競技を一般生徒と混ぜて行うと大変危険だ。一人、二人が混ざってやるならばある程度の加減は出来るのだが、人数が揃うと個々の力が小さくても大きな力となってしまう。それ故に選抜リレーだけは闇と光双方の一般生徒チームと生徒会チームは別々に競技をすることになっていた。競技の見た目の派手さから生徒会チームが最後の種目である。
 現在の得点差は人数が少ないながらも、一回の競技で一般生徒の倍以上の点数が入る生徒会チームがトップを僅差で争っている。一般生徒チームも大健闘。リレーの結果次第では逆転が可能な位置に立っている。まぁ、別々に競技をするといいつつも、結果は混同で出すため、希望は薄いのではあるが。

65霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/09(日) 23:09:17 HOST:i118-21-88-153.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「やれやれ、やっと出番ね。刹、トップは頼むわよ」

 紅零がため息をつきながら言う。そうすれば刹は満面の笑みを浮かべて「任せて下さい!」なんて妙に明るい声で言って胸を張った。頼もしい限りだねぇと笑う月華の言葉に少々照れ臭そうにして、スタートラインに立つ。光側のトップを確認すれば、相手は包帯のお化けこと楓だった。必死になって参加を止めようとする教師を無視しての参加である。それを確認した刹は楽勝じゃないか、なんていう風に鼻で笑う。
 しばらくの沈黙の後に鳴り響く拳銃の音。同時に刹が走り出す。長い銀の髪がゆらゆらと揺れて、日の光を浴びて輝く。楓が追いついてこないため、能力を使う必要もないと判断したのか幾分か肩の力を抜いているようにも見えた。しかし、楓は静かに息を吐いたかと思えばすべるように移動し、刹に迫っていた。それに気づけば、刹は僅かに目を見開いてスピードを上げる。それでも楓はすべるように移動して刹にぴったりとくっついて差を開かせない。

 「リンク……能力使用を宣言します」

 小さな声で刹が呟いた。ハウリングにも良く似た音が響いたかと思えば、刹のスピードが急に上がる。流石にそれについていけなかったのか刹と楓の間が開く。決して大きな開きとは言えないが、抜かされないだけマシか、そんな風に呟いて妥協することにしたらしい刹。刹からバトンを受け取り走り出したのは桜梨だった。静かな展開にキョトンとする教師達を無視して颯爽と走り抜けていく。対して光は羽音にバトンが渡っていた。走りでは勝てないとでも思ったのか、背中に天使の翼のような真っ白な翼をはやして、高速で飛び桜梨を抜かした。抜かされた桜梨の方は僅かに驚いたような顔をしながら「あれはありなのか?」と首をかしげ、あちこちからスピードを奪い取り更にスピードを上げる。
 羽音は抜かされまいと桜梨に向けて氷の刃を放つ。容赦なく降り注ぐ隙と覆った刃は容赦なく桜梨の肌を傷つける。肌を伝い落ちる血の感覚に顔をしかめながら桜梨は走ることはやめない。反撃しようにも一々能力を奪い取ったりするのも面倒くさい、そう考えて桜梨は氷の刃を避けながらも走る。そんな地味な展開で第三走者にバトンタッチ。光側の三番手は涼だ。滑るかのように進んでいくのを蓮が眺める。半周近くの差が開いてしまったが何とかなるだろうと考えてため息をつく。
 渡されたバトンを握り、蓮が走り出す。その瞬間にシルフィードを召還し、ふわりと飛び上がって、スピードを上げる。手を払うような動作をすれば凄まじい音と共に風の刃が飛ぶ。放たれた風の刃は真っ直ぐ涼の足に向かって飛んで鮮血を散らす。辺りからざわめきが起きるのも無視して、蓮が涼を抜いた。負けるもんかなんて涼が呟けば血の流れている足が不自に歪んで傷を消していく。足の傷が塞がった頃、涼の手から光線が放たれる。不健康なほどに真っ白な光線だ。
 それに気づいた蓮は蓮で、右手から淡く輝く光を放つ。精霊の力が具現化したものである。強烈な光が散り、光線と精霊の力が相殺して消える。そこからはもう簡単。火がついたかのようにお互いが能力を全力で放ちあって走る。グラウンドのあちこちが凸凹になってしまっているが、当の本人たちは気にしていないようである。

 「さていよいよラスト!! アンカーは光高等部生徒会、会長の秋月 湊と闇中等部生徒会、会長選抜情報処理の小鳥遊 刹です」

 明らかに興奮したかのようなアナウンス。前を走る刹の足を絡めとろうと植物の蔓を伸ばす。それを無言で燃やし尽くす刹。軽く悲鳴を上げながらも次々と植物の蔓や、葉を刃のように固めたものを投げつけたりする。刹も刹でナイフを大量に作り上げて湊が飛ばしてくるものにぶつけては打ち落としていた。上がる歓声ともっと激しい戦いを繰り広げろなんていう罵声を無視して、刹はひたすら走る。

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終わりまで押し込もうとしたら、本文が長すぎると言われましたorz

66霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/09(日) 23:20:59 HOST:i118-21-88-153.s04.a001.ap.plala.or.jp
 ゴールに近づくにつれて、湊からの攻撃が強くなる。刹も創作能力を中心に様々な能力を駆使して防ぐ。その様子はまるで小規模戦争の様。しかし走るスピードを遅くすることはなく、刹、続いて湊がゴールした。競技の終了を知らせる拳銃の音が鳴り響く。それで湊が首をかしげた。刹が使った炎やその他能力についてだ。刹の能力は創作能力だけではなかったのだろうか、そう考えて訳が分からずため息をつく。
 自分の周りに集まる生徒会メンバーに笑顔を向けて、開会と同じように並んだ。辺りであの競技はもっとああすることが出来ただとか、能力怖いとか……そんなことを話す一般生徒に目を向けて湊は笑う。

 「んじゃ閉会式を始めるぞー。いつもは小規模戦争なんていわれる体育祭も今回は大人しかったな? じゃあ早速結果発表だ」

 満面の笑みを浮かべて結果を発表していく教師。結局のところ選抜リレーで一位に輝いた闇生徒会チームがトップだった。二位は光生徒会、三位は光一般生徒、四位に闇一般生徒と続いた。その後は各教師からのお小言、退屈そうな表情をして、終始パソコンを弄っていた理事長の話を聞いて体育祭は幕を閉じた。
 楽しそうに結果について話す光の生徒会と一般生徒達を横目で見て、闇は嗤う。まるで玩具を見つけた悪魔のように。

NEXT Story〜第六章 終末への歯車は狂い〜

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今回の章は正直言って何がしたいのか分からないし、滅茶苦茶で意味が判らないものになってしまいましたね……。
次の章からはシリアス一直線の予定です

目次

序章 闇(ブイオ)と光(ルーチェ)の人々>>2-5
第一章 光(ルーチェ)の人々 >>6-15
第二章 闇(ブイオ)の人々 >>16-21 >>23
第三章 聖鈴学園 >>30-35 >>39-40 >>42
番外 悪夢の日 紺の欠片>>44-45
第四章 能力定義と禁忌>>46-47 >>49-55
第五章 体育祭と言う名の小規模戦争 >>57-60 >>63-65

67霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/23(日) 21:58:32 HOST:i121-114-185-226.s04.a001.ap.plala.or.jp
第六章 終末への歯車は狂い

 平和。体育最後何の事件も光狩りも起こらずに流れた一週間はそんな言葉がぴったりだった。闇も光を見て怪しい笑みを浮かべるだけで、実際に手を出してはこなかった。始めのうち

は警戒していた湊や羽音、風雅はすっかり安心しきって自堕落モードに突入している。行事もしばらくないせいか仕事も少ないのだ。もちろん各部活からの嘆願書もあるのだがそれを確

認するもの案外すぐに終わってしまうので意味がない。呆れたような表情で淡々と校内に仕掛けてある監視カメラと睨めっこを続ける優希。楓の方は黙り込んで何かを考えているようで

あった。そんな学園生活が一週間も続いたわけである。
 優希と楓だけはあの闇が一週間も大人しくしているのは可笑しいといって警戒を解くことはなかった。警戒を解いているのは前記どおり湊、羽音、風雅、それにプラスしてもともとお

気楽人間である憐と涼ぐらいであった。もっとも憐と涼の場合はもとより警戒していないだけなのだが、高等部メンバーから見れば、二人はまだ初等部なのだから仕方ないことなのらし

い。

 「近いうちに火蓋は落とされる……何とか、何とかしなきゃ……」

 ボソリと優希が呟いた。普段は一切見せないような苦悶に満ちた表情。そんな優希の様子に気づいた湊は不思議そうに優希の顔を覗き込む。その二つの瞳がまっすぐに優希を捉えて、

ジッと様子を伺っている。優希は小さく、呻き声にも似た声を上げて隠し事をする子供のようにプイッと顔を逸らした。そんな優希の態度に訳が分からないと言うかのように首をかしげ

て、優希の顔を覗き込むのをやめた。それでも首はかしげたまま優希の様子を伺う。羽音までもが様子に気づいて首をかしげる中、風雅だけは気にも留めずにイヤホンをつけて音楽を聴

いていた。駄目人間である。
 妙な沈黙が続く。誰も言葉を発することをせずに顔を見合わせていた。そんな沈黙を破ったのは乱暴にドアを開く音。飛び込んできたのは平和だった生徒会室には似合わない、血に染

まった少年。呼吸のたびにもれる荒く、妙な音、ぽたぽたと滴り落ちる赤。そんな異常な状況を見て生徒会メンバー全員が思わず息を呑んだ。湊が「涼!?」なんていう風に少年の名を呼

んでいるのを横目で見た後、風雅は少年、涼を生徒会室に引っ張りこんで、ソファに寝かせた。小刻みに震えて涙を流す少年を見て、大慌てで少年に近づく羽音。そしてその小さく動く

唇に耳を近づける。

「憐が死んじゃった……アイツ、憐の言霊も、僕の歪曲も効かなくて……」

 かすれた声。目を見開くのは優希だ。……言霊の少女、憐。性格こそお気楽で、何でもテキトーであるがその能力は確かに学園の中じゃトップクラスのものだった。直接人の命は奪え

ないとしても、言葉一つで間接的に人を殺めたり、運命さえも捻じ曲げてしまうであろう能力。防御の面で言えばただひとつ、自分には一切傷がつかないなんて指定するだけで、絶対的

な防御力を得ることが出来る。足が切り落とされると言えば、それも実現されるし、実際のところ勝負の勝敗でさえも言葉一つで決定してしまう、そんな能力を持った少女が殺されたと

言うのだ。ありえない、そう呟いて優希はきつく手を握った。
 小さく音を立てて湊が立ち上がる。小さな声で「アイツ、実の妹を殺しやがった」と呟いて、フラフラとドアの方へと歩いていく。風雅と羽音は訳が分からないと言うように首をかし

げて湊の様子を見つめていた。優希は静かに「どういうことだ? 人物が特定できたのか?」と湊に問いかけていた。もしそうならば自分が潰しに行くとでも言うかの様な表情で。ただただまっすぐと湊を見つめる。

 「言霊には一つ弱点があります。……神、もしくはそれらが行使する力相手には宣言が適用されない。この学園で神の力を行使できるのは召喚能力の霧月蓮だけです」

68霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/23(日) 21:59:44 HOST:i121-114-185-226.s04.a001.ap.plala.or.jp
第六章 終末への歯車は狂い

 平和。体育最後何の事件も光狩りも起こらずに流れた一週間はそんな言葉がぴったりだった。闇も光を見て怪しい笑みを浮かべるだけで、実際に手を出してはこなかった。始めのうちは警戒していた湊や羽音、風雅はすっかり安心しきって自堕落モードに突入している。行事もしばらくないせいか仕事も少ないのだ。もちろん各部活からの嘆願書もあるのだがそれを確認するもの案外すぐに終わってしまうので意味がない。呆れたような表情で淡々と校内に仕掛けてある監視カメラと睨めっこを続ける優希。楓の方は黙り込んで何かを考えているようであった。そんな学園生活が一週間も続いたわけである。
 優希と楓だけはあの闇が一週間も大人しくしているのは可笑しいといって警戒を解くことはなかった。警戒を解いているのは前記どおり湊、羽音、風雅、それにプラスしてもともとお気楽人間である憐と涼ぐらいであった。もっとも憐と涼の場合はもとより警戒していないだけなのだが、高等部メンバーから見れば、二人はまだ初等部なのだから仕方ないことなのらしい。

 「近いうちに火蓋は落とされる……何とか、何とかしなきゃ……」

 ボソリと優希が呟いた。普段は一切見せないような苦悶に満ちた表情。そんな優希の様子に気づいた湊は不思議そうに優希の顔を覗き込む。その二つの瞳がまっすぐに優希を捉えて、ジッと様子を伺っている。優希は小さく、呻き声にも似た声を上げて隠し事をする子供のようにプイッと顔を逸らした。そんな優希の態度に訳が分からないと言うかのように首をかしげて、優希の顔を覗き込むのをやめた。それでも首はかしげたまま優希の様子を伺う。羽音までもが様子に気づいて首をかしげる中、風雅だけは気にも留めずにイヤホンをつけて音楽を聴いていた。駄目人間である。
 妙な沈黙が続く。誰も言葉を発することをせずに顔を見合わせていた。そんな沈黙を破ったのは乱暴にドアを開く音。飛び込んできたのは平和だった生徒会室には似合わない、血に染まった少年。呼吸のたびにもれる荒く、妙な音、ぽたぽたと滴り落ちる赤。そんな異常な状況を見て生徒会メンバー全員が思わず息を呑んだ。湊が「涼!?」なんていう風に少年の名を呼んでいるのを横目で見た後、風雅は少年、涼を生徒会室に引っ張りこんで、ソファに寝かせた。小刻みに震えて涙を流す少年を見て、大慌てで少年に近づく羽音。そしてその小さく動く唇に耳を近づける。

「憐が死んじゃった……アイツ、憐の言霊も、僕の歪曲も効かなくて……」

 かすれた声。目を見開くのは優希だ。……言霊の少女、憐。性格こそお気楽で、何でもテキトーであるがその能力は確かに学園の中じゃトップクラスのものだった。直接人の命は奪えないとしても、言葉一つで間接的に人を殺めたり、運命さえも捻じ曲げてしまうであろう能力。防御の面で言えばただひとつ、自分には一切傷がつかないなんて指定するだけで、絶対的な防御力を得ることが出来る。足が切り落とされると言えば、それも実現されるし、実際のところ勝負の勝敗でさえも言葉一つで決定してしまう、そんな能力を持った少女が殺されたと言うのだ。ありえない、そう呟いて優希はきつく手を握った。
 小さく音を立てて湊が立ち上がる。小さな声で「アイツ、実の妹を殺しやがった」と呟いて、フラフラとドアの方へと歩いていく。風雅と羽音は訳が分からないと言うように首をかしげて湊の様子を見つめていた。優希は静かに「どういうことだ? 人物が特定できたのか?」と湊に問いかけていた。もしそうならば自分が潰しに行くとでも言うかの様な表情で。ただただまっすぐと湊を見つめる。

 「言霊には一つ弱点があります。……神相手には宣言が適用されない。この学園で神の力を行使できるのは召喚能力の霧月蓮だけです」

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可笑しなところで改行されてたし……orz

69霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/23(日) 23:59:28 HOST:i121-114-185-226.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「ご名答。つっても力使うとこっちもきついんだがな」

 ふわりと身に纏ったロングコートを揺らして蓮が現れた。まるで挨拶代わりです、とでも言うかのように湊は蓮に殴りかかる。しかし蓮も大人しく殴られるわけもなく、少し動いただけで避けた。真っ向から生徒会メンバーからの敵意を受けながらも、蓮は深くかぶったフードを脱ぐ。フードの下から現れたのは返り血の良く映える真っ白な肌。赤と青の二つの瞳は生徒会メンバーの誰を捉えるわけでもなく、ただただぼんやりと宙を見つめる。弧を描く唇と、何の表情も浮かんでいないガラスのような瞳のミスマッチさが不気味で、背中に悪寒が走るのを優希は感じていた。
 まっすぐと蓮を睨みつけて、湊は動かない。優希は冷や汗を流しながらも蓮の様子を伺う。その後ろのソファでは羽音が苦しげに呼吸を繰り返す涼を自らの後ろに隠すように立ち、風雅は楓を守るかのように楓のすぐ傍に立つ。そんな様子を眺めて蓮ははっきりと歪んだ笑みを浮かべる。それを見てまるで噛み付くかのように湊が吼える。「なぜ自らの手で、実の妹を殺したのだ」と……。

 「っふん、宣戦布告だ。初等部の連中はとっくに動き出してしまってるぜ?」

 蓮が嗤う。湊はギリッと歯軋りをしてふざけるな、と呟いた。握った拳が無意識のうちに小刻みに震える。そんなことを無視して蓮は歩き始めていた。規則的な足音を立てて、廊下を歩いていく。聞こえてくるのは、罵声、爆発音、断末魔……。僅かに鼻を突く鉄の臭い。蓮の後を追おうとするも、その鉄の臭いに思わず顔をしかめて、足を止めてしまった。一週間は嗅ぐことのなかった、大嫌いな臭い。相当な量の血が流れているのだろうか、そう考えて湊は口を押さえる。吐き気、不快感。一週間程度でここまで耐性が落ちるものかとため息をついて、深く息を吐く。
 優希はすっかり顔を青くして辺りを見渡す。幸い生徒会室周辺では争いは起きていなかった。血が転々と落ちではいるが、生徒会室のドアの辺りで消えているのを考えると、涼のものであろう。響き渡る罵声にどう対応すべきか、必死に考えて答えを出そうとする。何も思い浮かばない。警戒していたとはいえ、あまりにも突然すぎて頭の中が真っ白になってしまっていた。火種や悪夢なんていう言葉だけが真っ白になった頭の中に浮かんできては消えていく。
 ゆっくりと蓮を追って湊は歩き出す。吐き気を必死に抑えながら、鉄の臭いのする廊下を突き進んでいく。一発でもいいから蓮を殴ってやるなんて考えて廊下を進む。後から優希がついてきているのかを確認しながら歩くためか、吐き気のせいで歩くペースが遅くなってしまっているせいか、蓮の姿は見えるか見えないかのところまで離れてしまっている。罵声や悲鳴などは大分収まったが、臭いが酷くなっているような気がして。

 「……何で警戒を解いてしまっていたのでしょうか」

 後悔しても遅い、そんなことをしている暇があったらさっさと闇の連中をぶん殴って、事態を収拾しなくては、そう考えても不思議と言葉が漏れていた。駄目だな自分、そんな風に考えてため息をつく。蓮の姿は大分遠くなってしまったが、道的に生徒会室に行くはずだ。優希が歩くスピードを速めたのを確認をして、湊もスピードを上げる。
 ……刹那、視界の端で銀が揺れた。

70霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/30(日) 02:48:17 HOST:i121-114-185-226.s04.a001.ap.plala.or.jp
 横一線。鈍く輝く刃が湊たちの前を横切った。ぱらぱらと数本の髪の毛が落ちていくのを見て、湊の表情が凍りつく。後数歩前に進んでいたら確実に血を流していただろうなんて考えて身体を震わせた。そんな湊の後ろで険しい表情をしているのは優希だ。胸元に手を入れて鋭い目つきで前を睨みつける。フッと湊たちの前に姿を現したのは刹。その長い銀髪の髪が、風のない校舎の中にもかかわらずふわふわと不自然に揺れていて、まっすぐに湊を見つめるその瞳には明らかな敵意と狂気が宿っていた。僅かに顔をしかめ湊は後ろへと下がる。しかし刹も逃げることは許さないとでも言うかのように、湊が引き下がった分、前へと進んでいく。
 軽い破裂音が響く。反射的に音のした方を湊が確認すると、優希が銃口を天井へと向けて刹を睨みつけていた。まるで威嚇するかのように鋭い目つき。普段優希を見慣れている湊でさえ驚くほどに鋭く冷たい表情。まるで邪魔をするなら殺すことだって躊躇わないとでも言うような……。そんなことを気にせず刹は嗤う。まるで悪魔のように刀を構え狙いを一点に定めながら嗤う。
 風斬り音と共に放たれる払い。受け止めるにも湊は刀を防げるような武器は持っていない。短く舌打ちをして半歩後ろに下がったところで、無常にも刃は湊の腹を裂く。噴出す赤と見開かれる青の瞳。痛みに声を上げることさえ忘れて湊は傷を押さえた。出血の量のわりには傷は浅いようで……鈍い痛みが続けざまに襲い掛かる。痛みに顔をしかめながらもまっすぐと刹を見れば全身に悪寒が走るのを感じた。心底楽しそうな、まるで玩具で遊ぶ子供を髣髴(ほうふつ)させるような様な笑み。窓から差し込む太陽の光が照らすその姿は余計に不気味で……。大声で優希が叫ぶのと同時に湊の意識は闇の中へと落ちていく。

 「歪曲せよ、我が言葉のとおりに。秋月湊は傷を負わなかった!!」
 
 優希の言葉の後不自然に辺りが歪む。歯車が噛み合うような音と、悲鳴にも似た甲高い音が響き渡る。刹が思わず顔をしかめると優希は勝ち誇ったように笑う。跡形もなく消え去る赤と、塞がる湊の傷。まるで何もなかったかのように、最初からそうだったとでもいうかのように、穏やかな寝息を立てている。低く舌打ちをして刹は刃を振るった。優希が黙って手をかざせば刀の軌道が不自然に曲がり床へと向かう。ありえないと呟いて刹はまっすぐに優希を睨みつけた。無表情で刹の様子を伺う優希の頬を汗が伝い落ちていく。
 呆気なく刹は刀から手を離した。地面に倒れる刀の音が思っていたよりも反響したのか少しだけ驚いたような表情をして、ため息を一つ。

 「昔よりも簡単に発動できるようにでもなったのかなぁ? 少なくとも昔は放たれてすぐの攻撃には対応できなかったよね?」

 紅零といるときは打って変わり口調を崩して刹は話す。懐かしむような声色とは違い表情は氷のように冷たく、明らかな殺意に満ち溢れていた。それを見た優希は軽く鼻で笑い「お互い様じゃないか。お前何時の間に創作能力以外の能力を使えるようになったんだ?」なんていう風に問いかける。殺気を孕んだ鋭い視線と、冷たいのにどこか悲しげな視線が絡み、互いの動きを縛り付ける。横たわる湊の吐息だけが場違いで……。
 沈黙を先に破ったのは刹だった。反響する足音と押し殺したような息の音。それらの音も静電気が発する音にも良く似た音にかき消されていく。銃声、罵声、何かが飛び交う音……辺りを忙しない音が支配していく。互いが言葉を発することはなく、ただただ相手の攻撃を防ぎ、反撃する。そんな単純な展開が永遠と繰り返されていく。余裕綽々の表情で、相手の出方を伺ってはさも愉快だと言うように嗤って、ただの様子見だと言うかのように。
 刹が氷の刃を無数に放てば優希が得体の知れぬ力で辺りを歪めてそれを防ぎ、優希が得体の知れぬ力を使って辺りを崩せば、刹は同じように得体の知れぬ力で一瞬にして辺りを修復させ。銃を放てば念動力を応用した壁を作ってそれを防ぎ、刀を振るえばその軌道を狂わせて……。遊戯にも良く似た茶番のような展開。面白くないというように刹はため息をついて、一度優希から距離をとる。

 「お互い本気でいきましょうよ。出し惜しみなどせずに」

71霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/11/21(月) 22:58:25 HOST:i121-115-42-103.s04.a001.ap.plala.or.jp
 それを合図として、真っ白な光線が放たれる。悲鳴にも似た声を上げながらも優希はどうにかそれを打ち消す。刹の口元に浮かぶ歪んだ笑みを見て、ギリッと歯軋りをして、右手を振り上げた。歪む空間と不規則な形をした欠片が刹に向かって飛ぶ。飛び交う破片は容赦なく刹を切りつけて……。挙句の果てには攻撃を放った張本人である優希まで切りつけている。攻撃を仕掛けた本人が血を流して顔をしかめているのは少々滑稽な光景であった。仕舞いには二人揃ってフラフラ。
 刹を攻撃していたはずなのになぜ自分まで、そう考えて優希は深くため息をつく。再び風斬り音。ぽたぽたと血を垂らしながら連続して刹は刀を振るう。振るわれる刀は金属の光とはまた違った怪しい光が尾を引いていき……。まるで血を望み、誘うかのようにその光が揺らいで、辺りに溶け込んで。気合を入れるためか否か優希は短く息を吐き、ただただまっすぐと刹を睨みつける。沈黙。涼しげに嗤う刹と、何処か悲しげに、それでも鋭く刹を睨みつける優希。
 妙な緊張感と、快感。なぜか張り詰めたその空気が心地よくて、優希は首をかしげた。自分はついに可笑しくなってしまったのだろうか、と。
 そんな事お構いなしに、二人の間を金の光線が引き裂く。思わず目を閉じてしまうほどに眩い光。一瞬たじろいだ後、刹は「蓮! 余計なことはするな」なんて声を荒げて言う。物陰から出てきた蓮は気だるげに「へいへい」と返事を返して、欠伸を一つ。なんとも緊張感に欠ける存在であったが、その腕の中にはつい先ほどまで床に転がっていた湊がいて、優希は思わず息を飲む。

 「んじゃ、俺はこの障害物を撤去して帰りますよっと」

 そう言って、軽々と湊を持ち上げて蓮は歩き出す。一体なんだったんだと呟く刹の表情は、明らかに不愉快そうなものに変化していた。せっかく面白くなってきたのに邪魔しやがって、とでも言うかのように。対して優希は湊が連れて行かれたことに焦りを感じていた。目の前で起こったことなのに、何もすることが出来なかった、と唇をかんで……。きつく握った拳は小刻みに震えていた。
 再び横一線。鈍い光が目の前を過ぎる。思わず仰け反る優希に向けて刹は冷たく「余計なこと考えてると殺しちゃうよ?」と言い放つ。まずは目の前の敵か、そう考えてため息をつけば、黙って拳銃を刹に向けた。当たるとは微塵も思っていないが、威嚇ぐらいにはなるだろうと考えての行動である。しかし刹は楽しげに笑って刀を構えた。腕や横っ腹から流れる血は無視して、ただただ目の前にいる優希を殺すために。

 「一つ、聞いていいか?」

 恐る恐る優希が口を開く。お預けを食らって少々不服そうにしながらも刹は「一つだけね」と言って言葉を促す。早く切りかかりたいと言う衝動を押さえ込んでいるかのようにしきりに、早くしろと言う刹に優希は思わず笑みを零した。刀とあふれ出る殺気さえなければ可愛いやつなのに、そんな風に考えて優希は笑う。

 「お前は何で光を嫌う?」

 優希の問いに刹は首をかしげる。何分かりきったことを聞いているのだろうかとでも言いたげな表情で、ジッと優希を見つめる。そしてはっきりとした声で「お姉様が光を嫌うから。後は単純に湊が嫌い。それに味方する奴も。だから僕としては湊を殺せれば満足かもね」と言った。それを聞いて半ば呆れたような表情をしながらも「なぜ湊が嫌いなんだ?」と優希は問いかける。そうすれば刹は「一つだけって言ったじゃん」と笑うのだった。

72霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/11/21(月) 23:03:42 HOST:i121-115-42-103.s04.a001.ap.plala.or.jp
PCが直ったので普段は更新しない平日に更新です。
なんだかどんどん読みにくくなってるなぁ……。これが終わって続編を書くことになったら多分少しだけかき方を変えようかなぁと思ってます。
と言っても改行を増やすだけですがね

これから更新頻度は減るとは思いますが、完結はさせたいと思っていますのでよろしくお願いします

73霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/12/10(土) 14:38:44 HOST:i121-115-42-103.s04.a001.ap.plala.or.jp
 深く息を吐き、呆れたようにしながら優希は銃の引き金を引く。まさか当たるわけがないだろうと思いながら、刹の反撃に備える。冷たい刃が首に当てられた。不思議とそんな状態になってまで優希は冷静だった。刹が短く息を吐く音が聞こえて、咄嗟にしゃがむ。ぎりぎりで交わすことが出来た刀は、髪をかすめてパラパラと髪が舞う。避けられたことにか、それともわざと遅い動きで刀を振るったのに、ぎりぎりで避けたことに対してか、刹は不愉快そうに顔を歪める。
 優希はしゃがんだ体勢のまま刹の体勢を崩そうと払いを入れたが、音もなく避けられてしまう。静かに刹が刀を鞘へと戻し優希に背中を向ける。どういうつもりだろうか、そう考えて首をかしげる優希をよそに、刹はさっさと歩き出した。刹が向かう方向にあるのは生徒会室程度で、あとは下の階に下りるための階段があるぐらいである。そうなると紅零と合流するつもりかと優希はため息をついて、刹を追う。

 「っち……追ってくんなっての」

 小さな声で刹呟いたかと思えば、いくつもの刃が宙を踊った。キラキラと光を反射しながら飛び交う。あまりにも突然すぎて優希は刃の中へと突っ込んでいった。刃が肌を裂く感覚と飛び交う刃の風斬り音に顔をしかめながらも、足を止めようとはしなかった。追いつかなくてはいけないという妙な使命感が優希を支配していく。何とかして刹と紅零が合流するのを阻止しなければ、何か嫌なことが起きてしまうような、そんな気がして、優希は必死に刹を追う。
 そんな優希を見て刹は呆れたような表情を見せて、前方に見えてきた扉を確認する。流石にここまで連れてきてしまったらどうしようもないと判断したのだろう。優希に向けて使っていた能力を全て解除して、一刻も早く扉の奥にたどり着くことを優先した。そんな刹をみて優希も走るスピードを上げる。差は縮まらないがどうせ一本道見失うことはない。それこそ瞬間移動でも使われない限りは。

 「待てっての!!」

 優希の手から白い光線が放たれる。一か八か刹を怯ませることができれば、と放った自らの力を応用して作った不健康なほどに白い光。その光は音もなく真っ直ぐ飛び、刹の背中へと迫る。刹が気づいた頃には、光は既に刹を貫く寸前で……。咄嗟に体を捻らせた刹の横腹を容赦なく抉った。ボタボタと滴り落ちる大粒の血の雫と刹があげた短い悲鳴に優希は思わず目を見開く。楽に避けられるだろうと思っていた、防がれると思っていた。当たってもかする程度だと思った。だから今目の前で起こっている状況を理解できない。……いや、理解は出来るが、それを認めたくない。
 大きく揺れた刹の身体は、壁にぶつかってそのまま崩れるかのように倒れこむ。荒い呼吸の中に混じった呻き声は耳を塞いでも聞こえてきて、優希は悲鳴を上げる。今は敵でも、仲の良い友人だった……そんなつながりが優希を戸惑わせる。敵なのだからと放っておくべきなのか、それとも友人だからと助けるべきか。答えは出ているはずなのに優希は動かない。動けない。助けたいのにこいつが死ねば被害が減るかもしれないとそう考えてしまって……。その間にもどんどん刹から紅は流れ出て……。

 「あら……遅いと思ったら。刹をそんな風にしたのは貴方?」

 扉を開いて紅零が出てきた。ゆっくりと振り返る優希に柔らかな微笑を向けて。優希が警戒するような、それでも刹を気に掛けるような動作をするのを見れば紅零は嗤う。お前がやったんじゃないかとでも言うかのように、銃を構え冷たく嗤う。唾を飲み込む優希の手は僅かに震えていて、かすれた声で能力の発動を宣言する。刹の傷を塞ぐために現実を歪め、別の現実と繋ぎ合わせる自らの能力。能力が完全に発動されるよりも早く、紅零が引き金を引いた。軽い乾いた音が響き、飛び出した鉛弾は容赦なく優希を貫く。

 「ねえ、さま……?」
 「ごめんね。役立たずは要らないのよ?」

 銃口を突きつけられた刹は虚ろな目で紅零を見上げて、涙を零した。そしてゆっくりとした口調で「ね、さまの役に、立て、なかった……。ごめ、なさい」なんて言って、笑う。弱弱しくて今にも壊れてしまいそうなそんな儚い笑み。それを見て紅零は静かに微笑みその頭を撫でる。今までは十分役にたったとでも言うかのように優しく、静かに……。静かな時間を破ったのは刹の唸り声。僅かに顔をしかめて紅零は引き金を引く。

 「さようなら。……私の可愛い片割れ……」

74霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/12/31(土) 20:52:38 HOST:i118-21-88-174.s04.a001.ap.plala.or.jp
 飛び散る赤と、ぐったりと横になる自らの片割れをぼんやりと眺めた後、紅零は静かに歩き出す。頬を透明な雫が伝い、落ちていく。何が悲しいのか、何が辛いのか、紅零には理解できない。いや、理解したくない。雫を拭い、歩くスピードを速める。早くこの場から離れたい。そんな考えが頭を支配していく。そんな考えをかき消すために、まず月華と合流して戦況を確認して、その後は残っている生徒会メンバーを集めて……。そこまで考えて紅零は深く息を吐く。

 「流石に身内を殺すのには罪悪感を感じるのかしら?」


 そんなことを呟いて一人、月華が待っているであろう場所へと急いだ。

             *

 屋上。春の暖かな光の中に湊と蓮はいた。湊はぐったりと横になり、蓮はフェンスに座ってぼんやりと空を眺めていた。罵声の響く校内とは違って穏やかな様子。時々、微かな銃声や爆発音が聞こえるが、そんな音は似合わない光景。ぼんやりと空を眺めながら「あんまりドンパチやってると校舎崩れるんじゃねぇかなぁ」なんて気楽に呟く。ふと湊に目を向けてそろそろ目を覚ますだろうか? なんて考えた。
 ピクリと湊の手が動く。完全に力が抜けていた身体が痙攣したかのように震えて、もぞもぞと動いた。それを見て蓮の口元が弧を描いた。ゆっくりと確実に湊が身体を起こしす。しばらくの間あたりを確認するようにキョロキョロと周りを見回していたが、フェンスに悠々と座っている蓮を見た瞬間に、勢いよく立ち上がった。鋭く蓮を睨みつけて、ポケットに手を滑り込ませ、植物の種子を握る。

 「ずいぶん遅いお目覚めだな。優希、死んだぞ。後は羽音とか言うやつと風雅って言うやつもそろそろ、だ。相変わらず月華は化け物だな」

 声を殺して蓮は笑う。面白いことになったと言うわけではなく、投げやりな笑み。声を失う湊はポケットから手を出して、蓮へと蔓を伸ばしていく。深くため息をついた後小さな声で「サラマンダー、焼き払え」と呟く。瞬間辺りが炎に包まれて蔓が焼け落ちた。湊自身は種子から手を放し、咄嗟に炎の届いていない位置へと避けどうにか無傷。それを確認した蓮はつまらなそうに舌打ちをした。
 隠し持っていた拳銃を取り出して蓮へと向ける。無駄だろうと思う半面、召還を行うのが間に合わなければ、もしかして……なんていう風に考える自分もいて、安全装置を外す。それでも蓮は焦りもせずに、黙って湊を眺めていた。撃てるものなら撃てばいいとでも言うように足を組んで悠々と。鋭く蓮を睨みつけながらギリッと歯軋りをし、湊は引き金に指をかける。沈黙の後に乾いた音が響いた。

 「無駄だっての。この学園じゃそんなもの玩具だろ?」
 「なぜ妹を殺した? 目的は?」

 湊の問いを聞きながら、銃弾を防ぎ、蓮は首をかしげる。しばらく考えるような動作をした後なんでもないことのように「月華の指示さ。宣戦布告をして来いってな」と答えた。湊は凄い速さで蓮の座っているフェンスを蹴る。僅かに目を見開くも、バランスを崩すわけでもない。自分のことを睨みつけている湊を嘲笑ったかと思えば、静かにフェンスから下り、湊の後ろに立つ。

 「まぁ、俺はお前と戦うつもりはねぇし。ゲストに登場してもらうか?」

―――――

スランプ到来orz

75霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/04(水) 00:52:12 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 蓮の言葉と同時に銀の光が湊の周りを漂った。ゆらゆらと不自然に揺らぐ光はゆっくりと人間のシルエットを作り上げていく。そして一際まぶしい光を放ったかと思えば、光は完全に刹へと姿を変える。刀の柄に手をかけて片膝をついた状態で、瞼はしっかりと閉じられて……。湊が驚いたように目を見開くのをよそに刹は動かない。変わりに、とでも言うように蓮が笑う。その笑みに、何の反応も示さずに片膝をついたまま瞼を閉ざす刹の姿から湊は目を逸らせずにいた。美しいと思ったわけじゃない。……狂気だ。湊はそう呟いて、身震いする。言いようのない不安と、恐怖。
 どうするのが正解か、どんなことをしたらいけないのか、上手くこの場を切り抜けるには? そんな考えが雪崩のように押し寄せては消えていく。唾を飲み込み、蓮と刹がどんな行動に出るのかを窺う。ゆっくりと刹が目を開いて、辺りを見回すのを見て思わず身構えてしまって、湊は深くため息をつく。大丈夫だと言い聞かせてまっすぐ刹を見つめる。目を離すとすぐ切りかかられてしまうような、そんな気がして……。

 「ふぅん……契約は成立ってことでいいのかな? 蓮」

 しばらく自分の手を見つめていた刹がフッと蓮に顔を向けて問う。わざとらしく考えるようなしぐさを見せた後に、蓮は小さく頷く。唖然とする湊に向かって「死霊召還。普通の召還術師は絶対に手を出さない系統の召還さ。それこそ頭がイカレた愉快な奴がやることだ。まぁ、召還物が生きている間に契約を交わす必要があるんだけどな」なんて言って、再びフェンスに腰掛ける。僅かに顔を顰めた湊に刹がいつの間にか抜き放った刀の切っ先を向ける。
 その状態でしばらく硬直。何かを請うように蓮を見つめていると答えるように「好きにしろ。こっちに被害が出ないようにしろよ」と蓮がいう。その言葉を聞いた瞬間、刹の唇は弧を描き一気に刀を引いて構える。その瞳は鋭く湊を捉えて動かない。慌てて刹の動きを封じようと植物の蔓を伸ばす湊。それに絡めとられて、身動きを取れなくなっても刹は焦るどころか楽しそうに笑みを浮かべるだけだった。

 「ねぇ、湊? 覚えてる? あの日以前にお前がしたことを」

 甘い声。それとは酷くかけ離れた刹の冷たい表情に湊は息を飲んだ。刹を捉えるその瞳が不自然に揺らぐ。それを見て刹は満足そうに笑って「覚えてるみたいだね。じゃあ今すぐ償え」と吐き捨てる。目だけが決して笑っていない笑顔と、驚くほど冷たく、低い声。その姿が、声が、全てが不気味で……。
 刹那、炎が舞った。炎の赤は鮮やかに揺れて蔓を燃やしていく。咄嗟に蔓から離れた湊は、フェンスに寄りかかるようにして、バランスをとる。炎の中心に立つ刹を見て声を上げる。必死に「あの頃の僕がしたことは、確かに軽率でした。……で、でもあの頃の僕は無知で……」と叫ぶかのように……。そんな湊を炎の中心から刹は冷たく、ただただ冷たく眺める。

 「無知は免罪符にはならない。僕たちは、お姉様はお前のことを信用していた。……でもお前は裏切った。なんでもないような顔で輪の中に加わるお前を何度引き裂いて、ばらばらにしてやりたいと思ったか……」

 冷たい声。ずるずると力なく座り込む湊に刹はゆっくりと近づく。一歩一歩を確かめるように、しっかりと湊に向かって歩く。カタカタと小刻みに震える湊を見下ろして刹は首をかしげた。意味が分からないというように。静かに振り上げた自らの刀をぼんやりと眺めた後、ため息をつき、刀を鞘へと収めて笑う。そして先ほどの冷たい声が信じられないくらいに明るい、無邪気な声で「昔話をしましょうか?」と言った。
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書けば書くほど読み難さが進化していく。
読んでいる人がいるのか不安になってきたけど、僕は書き続けます((

76 ◆REN/KP3zUk:2012/01/04(水) 18:10:43 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 今にもなきそうな顔で刹を見上げる湊と、楽しそうに笑みを浮かべる刹。その二人をぼんやりと眺める蓮は、落ち着かないようで足を組んだり、伸ばしたりを繰り返す。そんな蓮を咎めるように刹は一瞬だけ顔を蓮に向ける。僅かに肩をすくめた後、脱いでいたフードを深くかぶり、蓮は立ち上がった。そしてしばらく湊を見つめた後、くるりと背を向けて、屋上から飛び降りた。直前に「刹、リミットは三十分だ。無駄話で時間を潰さないようにな。湊は、もし殺されずに済んだら、俺の教室に来い。ヒントをやるよ」なんていう言葉を残して。
 わずかに面食らったような表情をしていた刹も、やがて聞こえてきた鳥が羽ばたくような音を聞けば、ため息をついて視線を湊へと戻した。あまり時間は無駄に出来ない、そう考えて刹は静かに息を吸い込んだ。さっさと昔話を終えて償いを……。自然と刀の柄を握る手に力がこもる。死んでいても生きている時とほど変わらないものじゃないかと刹は笑う。

 「昔、聖鈴学園は闇と光という区切りではなく一般能力選抜科、特殊能力選抜科と言う区切りで分けられていました。その少年は一般能力選抜に属していながら、嫌われ者だった特殊能力選抜の六人と仲が良く、頻繁に遊んだりしていました。まぁ少年も一般能力選抜の中ではトップでしたしね。……正式名称は長いから次からは略称である一般科と特殊科って言う呼び名を使いますよ? その少年は六人の前ではいい顔をしておきながら一般科の友人の前では特殊科を、特にその中の六人を馬鹿にするような言い方をしていました。絶対に広めないと言う言葉を信じて六人が教えた、彼らの能力の粗を当時、特殊科に攻撃的な行為を仕掛けていた過激派の一般科の生徒に広めた……まぁ信じたほうも信じたほうでしょうか?」

 一気にまくし立てるように言う刹と、耳を塞いで謝罪の言葉を繰り返す湊。それを見て刹は嘲笑を浮べて、湊の腹を蹴る。力なく倒れこんで咳き込む湊の足を踏みつけた。麗らかな春の日差しが幻に見えるような、そんな光景。ガタガタと身体を震わせて、必死に許しを請う湊を始めは嘲笑を浮べながら見ていた刹の表情はどんどんと冷たくなって……。

 「……そしてあの日、事件が起こった。特殊科第一寮の生徒の惨殺……。覚えてるでしょう? 蓮が大暴走したあの事件……って、固有名詞出しちゃったよ。まぁいいか。あんた、桜梨さんが死んで悲しむ蓮を慰めておきながら一般科ではなんて言っていたんですっけ? “人の心を持たない化け物が何泣いてんの? 化け物は惨殺されて当然なのに”でしたっけ? まぁ桜梨さんが死んだのは蓮の暴走のせいだからその責任は問いませんが。事件を起こしたのは貴方が能力の粗を広めた過激派の連中でしたね。だから生き残った過激派の連中に仕返ししようと言ったとき、貴方は勝てないからやめろと言ったのでしょうか? お姉様は事実を知らないから貴方のことを仕返しを諦めた愚者、としか言いませんけど……。ちなみにこの情報は蓮の精霊さんが拾ってきた事実です。と言うか事実じゃなきゃそんな反応しないでしょ?」

 クスリと刹が笑う。スッと湊から離れてくるりと回れば「信じてたのに。バラさないって、克服を手伝ってくれるって言ったのを信じてたから沢山、沢山能力の粗とか教えたのに。しかも貴方も特殊科に来るべき能力を持っていたんですもんね。嫌になっちゃいます」なんて言い放つ。やっと身体を起こした湊は俯いて、涙を零す。フェンスに掴まってゆっくりと立ち上がりながら湊は言葉を紡ぎ始めた。
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プロットが失踪してズタボロorz
そろそろ終焉です

77霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/04(水) 19:19:10 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「確かに僕は酷いことをしました。あの事件だって僕が原因ですしね。でも、関係ない生徒まで巻き込む必要なんてないじゃないですか。狙うなら僕だけにすればいいのに……ボクにつくという理由だけで他人に攻撃するな」

 刹は答えなかった。無言で刀を抜いて、時計を確認した。残り二十五分、ずいぶん時間を無駄にしてしまったな、とため息をつきながら刹は刀を構える。しばらくの沈黙。風の微かな音だけが響いていた。沈黙を破ったのはやはり刹であった。短い吐息と共に、湊の懐へと一気に踏み込む。性格に湊を狙って振るわれた刀が、湊を切り裂くと同時にその姿は光に溶けて聞けていく。忌まわしそうに「視覚掌握か。あくまで償うつもりはないようだ」と呟いた。
 静かに今までいた位置とは真逆の方向に現れた湊は笑う。涙を零しながら右目に手を翳して「僕は生きることで償うつもりです。死ぬなんて逃げでしかないでしょう? まぁ殺されるのは別にいいですけど」なんて言って。青い瞳は徐々に黒く染まって……。それを見た刹は思わず息を飲む。面倒な奴、小さな声で呟いて刀を振るう。それと同時に無数の刃が現れて湊へと飛ぶ。
 湊は交わさなかった。刃が当たったところからはドロドロと紅が流れ出ていく。それでも焦るようなそぶりは見せずに、湊は涙を拭う。

 「知ってます? 僕の能力の中には事実を正反対にひっくり返すことが出来るものがあるんです。あるをないに、闇を光に、悪意を善意にって具合にね。まぁ結構、血を外に出さないといけないので滅多に使いません。面倒ですしねそんな条件。血出しすぎて死ぬのは間抜けですし」

 湊は笑う。悲しげに、笑って静かに刹を指差した。低く舌打ちをした後、ならば必要な量の血が出る前に殺せばいいなんて結論に行き着いて、刹は一気に湊の懐に踏み込んで刀を振るう。それを見て小さく頷いた後、湊はふらつきながら声を上げる。叫ぶように「小鳥遊刹残された時間があるという事実を、ないという事実に」と。瞬間に刹の姿が霧散して消える。深くため息をついて湊は座り込んだ。一瞬で自らの傷を塞ぐ。

 「はぁ……皆はどうなったのかな」

 よたよたと校内に進む湊が見たのは廊下に転がる死屍累々。原形をとどめているもの、留めていないものがごろごろと転がっている。湊は強烈な吐き気に襲われて口元を押さえて、半歩後ろに下がった。原型を留めているものたちの制服を眺めると光のものだけでなく、闇のものも多くある。遠くの方に呆然と立ちすくむ人影を見つけて湊は走り出す。制服の色は白……光のものだ。放っておいたら危ない、そう考えて湊は走るスピードを上げる。
 近づくにつれてはっきりと姿が見えてくる。腰の辺りまで伸ばした銀の髪、近くに放置された車椅子……。立ちすくんでいたのは楓だった。湊がその肩を叩くと大げさに肩を揺らして、ペタンと座り込んだ。その足元に転がるのは黒い長い髪をした少女とオレンジがかった茶髪の少年……楓が言うのよりも早く湊は二人の名前を呟く。かすれた声で「羽音、さんと風雅、さん?」と。小さく頷く楓の包帯はところどころ赤く変色していて……。制服のあちこちに赤、赤、赤……。

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終わりも近いので一気に更新
次も多分すぐに出せると思います

78霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/04(水) 20:20:29 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「ふ、二人とも私を庇って……。魔法を使おうにも相手を捕捉出来なくて……それで」

 大きく身体を揺らしながら楓は言う。湊はギリッと歯軋りをしながらも、楓の背中をさすって落ち着かせようとした。深く息を吸い込んでは吐き出す。それだけの簡単な動作が酷く億劫そうに見えて、湊は心配そうに楓を見つめた。何度も息を深く吸ったり吐いたりを繰り返すうちに楓も落ち着いたようで、軽く湊を押して、口元に笑みを浮かべる。まだ引きつったぎこちない笑み。

 「一体誰が?」
 「私にもさっぱり……。姿形を全く捉えることが出来ない。音もしなかった……それで天使の力を借りた羽音さんと悪魔の力を借りた風雅さんが私を突き飛ばして、気づいたら……」

 楓がきつく手を握り締める。小刻みに震えるのは、恐怖か怒りか……そんな事、楓も分からなかった。楓を車椅子に座らせて、湊は深く、深くため息をついた。何度目かも分からないため息。とにかく楓を安全なところに避難させて、蓮の元に行こうと考えて、車椅子を押して廊下を走り始める。辺りに転がるものを避けるのは大変だったが、どうにか引っ掛らずに済む。安全な場所、そう考えて走るも、結局思いついたのは一緒に連れて行くことだけ。今の学園じゃ一人にした時点でどの場所も危険にしか思えなかったのだ。
 高等部三年A組教室前。そこで湊は楓の様子を確認する。元々体の弱い楓だ、殺気の出来事のせいで疲れてダメージを受けていないかが気になるのだ。動きが止まった車椅子に気づいたのか楓は不思議そうに首をかしげて「どうかしたんですか? もしかして敵が?」と問いかける。そんな楓の様子にクスリと笑みを浮かべて「いえ。体調の方は平気かなぁ、と思いまして」と答えた。
 瞬間、鋭い光が湊と楓の周りをグルグルと回る。何かの攻撃だろうか、そう考えて咄嗟に楓を覆うように抱きかかえて、きつく目を閉じる。ポケットから種子を落として光と自分達の間に蔓でドームを作り上げた。出来るだけ強度を高くして、その中できつく楓を抱きしめる。楓の方は驚いたように短く声を上げた後は、驚いて身体が動かないのか、それとも何かを悟ったのか動かずにジッと、湊が拘束を解くのを待っている様だ。
 
 「……もう大丈夫でしょうか?」

 僅かに身体を越して、耳を澄ませながら湊は呟く。楓は返事をしない。少し可笑しいなと思いながらも、何の音もしないことを確認して蔓を枯らす。辺りを見回しても特に変化はないようだ。光もすっかり消えて何もなかったような光景が広がっている。ふいにゴトン、と何かが落ちる音がした。恐る恐る音のした方を見ると抱きかかえた楓の姿。ボタボタと“それ”があったであろう位置からは紅が噴水を髣髴とさせるように吹き出されていた。
 湊は地面におっこちたそれを静かに拾い上げる。……頭だ。紅で化粧をした、今まで抱きしめていた人物の頭。防御に入るのが遅かったんだ、そんな言葉が湊の頭に浮かんだ。その場に崩れ落ちて声を上げる。守れなかった、ごめんなさいと何度も繰り返して、縮こまって身体を震わせる。もっと早く防御に入っていれば、もっとあたりを警戒していれば……こうしていれば、ああしていれば、そんな考えがいくつも、いくつも浮かんできて湊を責め立てる。
 人のいない廊下には湊の泣き叫ぶ声だけが響いた。


NEXT Story〜番外 復讐と狂気 銀の欠片〜
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なんか六章がとてつもなく長く感じました
戦闘描写が出来ません。わかりきっていたことです

目次

序章 闇(ブイオ)と光(ルーチェ)の人々>>2-5
第一章 光(ルーチェ)の人々 >>6-15
第二章 闇(ブイオ)の人々 >>16-21 >>23
第三章 聖鈴学園 >>30-35 >>39-40 >>42
番外 悪夢の日 紺の欠片>>44-45
第四章 能力定義と禁忌>>46-47 >>49-55
第五章 体育祭と言う名の小規模戦争 >>57-60 >>63-65
第六章 終焉への歯車は狂い >>68-71 >>73-77

79月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2012/01/05(木) 16:04:00 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
お久しぶりです、そしてコメント失礼しますノ

体育祭の明るい雰囲気から一気に逆転しましたね!月峰がこの学園に入学したら、秒殺どころか瞬殺でs((
やっぱり最終回は光か闇が全滅、となってしまうのでしょうか……?蓮くんと湊くん両方好きなので、これからどうなるかドキドキしています。
そして湊くんの「事実を正反対にひっくり返すことが出来る能力」、かっこいいです!最終回で「バッドエンドをハッピーエンドに変える」なんていう風に使ったりするのかn((

それにしても戦闘描写の上手さ、さすがです!色々と盗ませて頂きまs((蹴

これからも続き、楽しみにしてます!それでは短いですがこれにて。お互い頑張りましょう^^

80霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/05(木) 22:23:00 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
番外 復讐と狂気 銀の欠片(刹視点)

 復讐。あの日起こった事件の後、そのためだけに僕は力を望んで刀を手に取ったのだ。始めは玩具を与えられた子供がその玩具で夢中で遊ぶかのように、木の的に向かって刀を振っていた。それが強さにつながるのか、それは僕には良く分からなかったけど……。でも僕が刀を振るう練習を木の的相手に繰り返す間、蓮は微笑ましいものを見るかのように僕を見守っていた。もちろんそれだけだったら僕のやる気は出ないのだけど。
 お姉様もそこにいたんだ。上達すれば笑って僕の頭を撫でてくれた。蓮も同じだ。なんというか学園に来てからずっと会っていない父さんを思いださせるような優しさが蓮にはあった。他にも時々訓練の相手をしてくれた湊やお兄様、月華お姉様に優希……そんな人たちが作り上げる輪の中で、ぬるいともいえるような、心地よく過ごしていた。もちろんそのころの復讐の相手は事件を起こした連中で、他の一般科の連中はどうでも良かった。関係ない奴を潰したって意味がないしね。もっとも復讐と言う行為自体が愚かなことのような気もしたけど。

 「蓮兄ちゃん? 泣いてるの?」

 ある日、蓮が一人で泣いているところを見つけた。元々感情の起伏が小さい上に僕たちといると、絶対に涙だけは見せない人だった蓮の……。あ、ちなみにその頃の僕は基本的に年上の相手は、兄ちゃんか姉ちゃんをつけて名前を読んでいた。今は絶対にやらないけどね。まぁそんな事は置いといて、蓮が泣いている状況を目の前ではっきりと見てしまって僕はどうしたらいいか分からなかった。
 混乱しながらも湊が蓮を慰める時にしていたように、ギュッて抱きしめてその頭を撫でてみた。そしたら蓮、僕のことを思いっきり突き飛ばして、首を絞めてきた。嘘つき、原因はお前だったじゃないかって次々に言葉をぶつけて来たんだ。もう訳が分からなくて泣き出した僕を見て、蓮は目を見開いていたよ。しばらくしてフラフラと僕から離れて俯いていた。呼吸をどうにか整えて、何があったのかを連に聞く。

 「湊の奴、俺らのこと散々馬鹿にしてやがった……。俺らの前では大切な友人だとか言ってたくせに、一般科の連中の前ではあんな化け物は死ぬべきだ、あれは人間じゃない、ゴミ、、獣……居るべきじゃない……だってよ。ふざけんな」

 蓮が声を荒げて、そう言う。話を聞いていけば、過激派の連中に僕たちが克服するのを手伝ってくれるって湊を信じて教えた特殊能力の弱点や、粗、を事件を起こした一般科の連中に広めたこと、事件のときに桜梨さん、優希、楓、蓮みたいな一般科の連中が相手にすればまず勝てない相手を外に連れ出して、数で押せばいいようになるように手伝ったこと……。僕とお姉様は、正直その頃は能力さえ特殊でもその力をまともに扱えなかったし、警戒する必要なしって判断されたらしいけどね。抜け出す蓮を見つけてついていくって、ごねなければ僕たちも殺されていたんだろう、って蓮は言った。月華お姉さまはその時里帰り中で気を引く必要もなし。
 簡単なお仕事だったろうって笑ってた。湊は弱点広めて、蓮たちの気を引いていればいいだけだったんだしね。あの日にやったことを提案したのは湊だったらしい。もっとも本人は冗談のつもりで、特殊科の第一寮を掃除したいなぁって言ったらしいけど。本気にして行動した奴を手伝ってるんだから同罪だと思ってもいいでしょう?

 「人の心を持たない化け物が何泣いてんの? 化け物は惨殺されて当然なのにって笑ってたらしいぜ? 俺達って化け物なのかなぁ……」

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グダグダ番外。正直必要ない気がする蛇足品。
実は番外は完成させているんでこの続きも数分のうちに投稿しますよ。

81霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/05(木) 22:34:09 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 蓮は笑っていた。涙を零しながらも、ずっと笑ってた。そういえば湊、事件を起こした奴らに復讐しようって言ったとき顔を真っ青にして「勝てないからやめておこう」なんて言ったのか、なんて考えた。
 その日から僕の復讐の標的は湊になっていた。蓮が精霊を出してそれを相手に刀を扱う練習をしたり、蓮自身が刀を持って練習に付き合ってくれたりした。筋がいいなって褒められたときは本当に嬉しかった。そしてやっぱりお姉様を守れるようになる、湊に復讐をしてやるんだって思うと不思議と疲れも感じないで練習に打ち込む出来た。お姉様は酷く心配そうにしていたけどね。無理だけは禁止ってでこピンされたのを覚えてる。

 中等部に上がる少し前に、一般科と特殊科という区切りがなくなった。始めは様々な能力に触れることでより優秀な能力者を……って言ってたけど、特殊科第一寮の生徒を惨殺した事件で特殊科の連中は、酷く殺気立っていたよ。一般科の生徒はなぜかやたらと友好的だったけどね。それが余計に元特殊科の連中を怒らせた。
 そして出来上がったのが“闇(ブイオ)”と“光(ルーチェ)”。闇は月華お姉様が率いて、一般科であった生徒達を惨殺していく。それに対抗して出来たのが湊率いる光。ちなみに特殊科の中でも復讐は意味をもたないって言うやつは光に移って行ったよ。 優希がいい例だね。
 もちろん一般科の中でも闇に移ってくるやつはいた。……まぁ大抵が人殺し好きの狂った連中だったけど。そうして出来た二つの派閥はいつの間にか学校公認のものになって、制服までもがそれぞれに別のものが与えられた。……まぁ色を変えただけの単純なものだけど。

 僕はもちろん闇についた。練習がてらに光の連中を的にして刀を振るって……。気づいたらそれが楽しくなっていた。逃げ惑う相手を切りつけて、悲鳴を聞いて……笑って刺して抉って……時には相手の腕を切り落として、目の前でチラつかせてみたり、わざと急所をはずして苦しめながら殺したり……。
 それがとてつもない快感を僕に与えてくれていた。命乞いをする奴を踏みつけるのが好きだった、圧倒的な差を見せて潰すのが好きだった、自分が追い詰められても、最終的に相手を殺すのが楽しかった。血の色が、臭いが、滴る音が好きだった。相手があげる絶望の声が好きだった。
 いつの間にか復讐という理由をかかげて殺しを楽しむようになっていた。もっと残酷に、もっと惨く、もっともっともっと……。やむことのない欲望のままに刀を振るって……。まぁもちろん昼間の間だけは、真面目で優秀な生徒を演じていたけど、教師達は当然僕の行動に気づいていただろうさ。気づいた上で止めなかったんだよ? 酷い話だね。いや、僕が言えた義理じゃないけど。
 光狩りが本格的に始まってからも僕は変わらずに、どうやったら相手を最高に苦しめて殺すことが出来るのかだけを考えていた。もちろん湊に復讐するときに使う手段の研究、って言ってね。お姉様はあまり苦しませないように止めを刺してやれっていっていたけど、僕にはどうしても無理だった。散々遊んで踏みにじるのが好きだった。全てを復讐という言葉で正当化しようとしてたけど、狂気の沙汰だったろうね、きっと。復讐といいながら、関係のない他人も随分巻き込んでいたし。湊につくのは全て敵だ、とか言っちゃってね。
 ……僕は狂っているのでしょうか? もしそうなら狂わせたのは誰? 湊? それとも……。僕には分からない。自分が狂っているのかさえ……。

NEXT Story〜終章 嗤う悪魔〜

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ついに終章かぁ……。

82霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/05(木) 22:44:54 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>月峰 夜凪様

コメント有難うございます。

そうですね。確かに体育祭は完全にほのぼので書こうというか明るくしようと思って書いたものですし、逆に六章は本気で暗くしようとしています。落差が好きなんです(( ちなみに霧月も生き残る自身はありません。きっと刹君辺りに嬲り殺されるでしょう。
それは見てからのお楽しみ。ここまで来るとどんでん返しもできないものですが……。
蓮君と湊は僕も好きですよ。ただ協力してくれているリア友含め、なぜか湊君の人気が高いので嫉妬中です。とりあえず同情できないような形にはしてみましたが((
湊君の能力は強力ですねー。使い手はどうしようもないヘタレなのですが……。バットエンドをハッピーエンドには、出来ません。終章で明かしますけどね(ネタバレ乙

戦闘描写についてはまだまだ改善の余地ありすぎです。と、言うかその他描写も危うい……((

有難うございます。その言葉だけで僕は数倍張り切れます!(( いえいえ、こちらこそ有難うございます。
後もうしばらくこの駄作に付き合っていただければ幸いでございます。

83霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/07(土) 18:59:03 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
終章 嗤う悪魔

 よたよたと、湊が一つの教室に足を踏み入れる。中では蓮が窓際の机の一つに座ってぼんやりと空を眺めていた。窓から注ぐ、優しい光に照らされていて……その光景に思わず湊は息を飲む。綺麗だ、思わずそう考えてしまった自分に頬を引っ張った。相手は男だ正気に戻れ、なんて呟いているとうちに蓮が湊に顔だけを向けた。何処かぼんやりとした瞳は湊を捉えて動かない。やがて湊の制服にべったりとついている、血を見てほんの少しだけ驚いたような顔をする。首をかしげて、自分の制服を確認して湊は顔を顰めた。
 静かに湊の方へと身体を向ける蓮は、しばらく何かを考えるような動作を見せる。そしてしばらくの沈黙の後に「まぁ、楓も死んだんだな。抱きしめでもしたのか? まぁどうでもいいけど」なんていう風に言って笑った。その言い方にムッとして蓮を睨みつける湊。どうでもいい、その言葉に腹が立って一気に蓮の詰め寄って、胸倉を掴む。蓮は驚く素振りも見せずに小さく笑う。

 「悪いな。生憎、人が死にすぎてて感覚が麻痺してんだよ。不思議と悲しくもねぇし、なんとも思わないんだ。薄情な奴だろ?」

 湊に掴まれたまま蓮は笑う。何処か儚くて、今にも壊れてしまいそうな弱々しい笑み。それを見て思わず顔を逸らした。胸倉を掴んでいたその手は、力が抜けたようで……ダランと垂れた。どうしていいか分からない。今、何をするのが正解なのか、何をするのが間違いなのか……全く検討がつかなかった。誰がこんなことをしているのか、何のために、そんな考えがグルグルと頭をめぐる。闇が? 第三者が? 光を潰すため? それとも湊を殺すため……? 浮かんでは消える言葉に湊は黙って近くにあった机を蹴る。
 ふと蓮の表情が消えた。深く息を吐いて、立ち上がる。少し乱暴に湊の頭を撫でて、様子を伺っているようだった。訳が分からないというような表情をして、蓮を見あげる。それを見て蓮は言葉を紡ぐ。

 「そっちの生徒会を殺す前にこっちの主戦力はやられたぜ? 宣戦布告したまではいいが月華は“アイツ”に殺されたし、刹も死にかけた所に紅零が留め刺すし……紅零は俺がとっ捕まえて寝てもらってるけどな。まったく、駒は大切にしろってんだ」

 腕を組んで蓮が言う。何を言っているのか訳が分からないというような表情をして、ただただ蓮を見つめる湊と、表情の消えた顔に再び笑みを浮かべる蓮。その光景は何処か異質で……。そっと窓に手を置いて外を眺め始める蓮を見て、湊は寂しそうだと思う。感覚が麻痺してるだの、悲しくないだの、そう言ってるくせに本当は悲しいんじゃないだろうか? そう考えて湊は苦笑いを浮べる。自分がそんな憶測をしたところで何も変わらないのだから。

 「さて、約束だしヒントをやろうか。物語を変えるためのヒントを」
 「そうだ!!」

 突然、湊が声を上げた。ビクッと肩を揺らして、戸惑ったような表情をする蓮に向かって湊は、笑った。明るいとはいえない引きつった笑み。訳が分からないというように首をかしげて湊を見つめる蓮は何処か不安そうに見えた。信用してくれてもいいのになぁ、なんて考えながら湊はポケットから小さなナイフを取り出した。蓮の目の前でナイフをチラつかせて見ると、心底呆れたようなため息と表情が帰ってくる。
 深く息を吐いて湊は頷いた。成功するかは分からないが、何もやらないよりはマシだ。自分の中でそう結論付ける。手首にナイフを近づけると蓮は相変わらず呆れたような表情のまま腕を組んでいた。もしかして、自殺するとでも思われているんじゃないだろうか、なんて考えて湊は笑う。一度ナイフを手首から離すと、蓮は黙って首をかしげた。どうした? とでも問いかけてくるような表情。

 「蓮は僕の能力を知っているでしょう? 僕の能力で結末をひっくり返してしまえばいいんですよ。バッドエンドをハッピーエンドに……って具合にね」
 「無理だな。鍵が揃っていない今、俺たちは受け入れることしか出来ない」

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終章に見えな終章の開始((

84霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/07(土) 21:20:46 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 思わず、湊は顔を顰めた。なぜ断言できるんだと言いたげな表情で蓮を睨みつける。やる前から諦めているようにしか見えないのだ。それでも蓮は涼しい顔で、気にしていない様子。ギリッと歯軋りをした湊は一気に手首にナイフを押し当てた。手首から流れ出る赤をぼんやりを見つけていると、再び蓮がため息をつく。淡い光が蓮の周りをくるくると回っているのに気づいて湊は首を傾げた。
 気づけば傷は塞がって、ナイフも蓮の手の中。そんなに邪魔したいのか、と湊は頬を膨らませる。失敗したって別にいいのだ。やる前に諦めたくない……ただそれだけ。可能性があるのならそれに縋ろうとするのが人間でしょう? そう考えて湊は小さく頷いていた。そんな湊の考えを悟ったのか蓮は、心底呆れたようにして静かに机に腰を掛けて言う。酷く平坦な声で「残念ながら、お前の能力で物語の結末は変えられない。そういう風に作られているから。詳しくはよくわかんねぇけど、決まった物語全体の結末を変えるような干渉は出来ない。だからここまで来ると死んだ奴は生き返らないし、バッドエンドはバッドエンドのままだ」と……。

 「そんなの諦めているだけじゃないですか!!」

 怒鳴る湊を、蓮は嘲笑う。小馬鹿にするような蓮をきつく睨みつける湊。嘆息を漏らす蓮は足を組んで言葉を吐き出す。

 「お前がひっくり返せるのは“小さな事実”だろ。それこそ一人に対する死、一人に対する生、一人に対する時間。お前の力で有効なのは一人に対するものだけで多くのものに干渉は出来ない。だからいくら足掻いたって最終的に行き着くのはバッドエンド、そういう干渉しかお前には出来ない。下手にいじると今よりも酷いバッドエンドが来るかもしれないぜぇ?」

 湊はギリッと歯軋りする。それを見て蓮は頷いた。小さく震えるその手を見て余計なことを言わずに能力を使わせるべきだっただろうか、と蓮は首をかしげた。それをしたところで何も起きないし、それこそ出血多量で湊が死んで終わるだけなのだが。蓮からしてもどうしていいかわからない。とりあえずヒントを与えようとは思うが、どうせこの世界では役に立たないものだということも分かっている。
 小さく伸びをする。考えるのは面倒くさい。とりあえずヒントだけを丸投げして、自分はさっさと学園を出て紅零を避難させれば上出来だ、そう考えて蓮は小さく頷く。今の状況を見て学園から出るのは薄情な気もするが、自分らしくて、それはそれでいいだろう? と……。

 「まぁ、時間がねぇし、ヒントだけ投げてく。つってもこの世界では意味がないけどな。次があったら、思い出せ。……まず物語をバッドエンドにしないためには四つの鍵となる人物が必要だ。二人は色を苗字か名前に持ち、二人は……俺と刹。俺と刹は次でも名前は変わらない、苗字がどうかは知らんがな。……後は鍵と共に“アイツ”……黒幕を潰せ。手段は選ばなくていい。それだけで俺たちは解放されてハッピーエンド、だ」

 まくし立てるように言った後、蓮は教卓の下から紅零を引きずり出して、窓を開け放つ。理解できていないのか、突拍子もない言葉に呆れているだけなのか湊は何も言わなかった。クスリと笑って蓮は「次があったら……また会おうぜ?」なんて言い残して窓から飛び降りた。湊がハッとしたように、引きとめようとしたがその時にはユニコーンの背中に乗って飛び上がった後だ。相変わらず常識がぶっ飛んでやがる、そんな風に呟いて湊はため息をついた。蓮のヒント、ここで使えないなら意味がないじゃないかと考えて。
 状況を確認しよう、そう考えてゆっくりと教室から出ようとした。急に目の前に現れた、小さな少年に驚いて湊は動きを止める。ニコニコと目の前で笑みを浮かべている少年の手に握っているものが見えて、引き下がろうとしたときにはもう遅い。それは容赦なく湊の目に突き立てられた。あまりの痛みに声を上げることもできずに目を押さえてしゃがみ込む。

 「ジ・エンド、ですー、光の会長さん」

 痛みにもがきながらも逃げようとする湊に少年は、馬乗りになった。恍惚とした表情で湊の喉頭にナイフを突き刺して、真横に引き裂く。もう湊は動かなかった。刺された目を手で覆ったまま、力尽きていた。手についた血を舐めて少年は笑う。辺りに散った赤を見ればより一層、楽しげに笑った。真っ白だった湊の制服が赤に染まって……、そこで少年が姿を変えた。

 「ヒントもらってもここで使えないから意味なかったですねぇー? 福バ会長も何考えてるのやら」

 少年……悠斗は無邪気に笑って、首を傾げる。血を浴びて立つその姿はまるで悪魔のようで……。
__________________________
目が、目がああああッ!!((

85霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/07(土) 23:32:53 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 そんな頃、理事長室というプレートがかかった部屋には優雅に紅茶を啜りながら、本のページを捲る女がいた。本の上には血まみれで横になる湊の姿と、ほくそ笑む悠斗の姿が鮮明に描かれていた。それは、まるでフィギュアを本の上に並べているかのように飛び出している。恍惚とした表情でしばらくそれを眺めた後、不意に女はドアの方に顔を向けた。そこに立っていたのはアズラエルと一人の少年。二人の手には沢山の本が抱えられていた。少年の後ろには同じような本がいくつも固まって浮いていた。

 「あら、アズに利樹。魔道書、それで全部?」

 女の言葉にアズラエルが頷く。そうすれば女は満足げに笑って「そう。お疲れ様。今回は裏方に回ってもらって申し訳ないわね」と言った。少年は小さく首を振って「見てるだけで面白かったしそれで十分だよ」なんていう風に無邪気に笑う。変わり者ねなんてぼんやりと考える女をよそに、少年とアズは魔道書と共に奥の部屋へと姿を消した。それを見た女は深くため息をついて、足を組みなおす。
 再び本に視線を戻せば、肉塊が転がる校舎の中。女は心底楽しそうに笑った。赤に染まっている校舎が、真っ白な光の制服が、綺麗な銀色だったある少年の髪が、真っ白な肌の少女の肌が……赤く染め上げられた全てのものが女にとって、美しく見えた。スッと本に手を滑らせると一人の生徒の苦痛に歪んだ顔が大きく映し出される。それだけで女は大きな満足感が得られた。……こうでなければやっていけないなんて女は呟く。

 「おや、お姫様はまだ残酷なお話を堪能している途中でしたかー」

 ドアの方から間の抜けた声が飛んでくる。至福の時を邪魔されたとでも言うかのように女は声の主を睨みつけた。部屋に入ってきたのは悠斗だ。湊を殺したときに付いた血はすっかり綺麗に落とされていた。女の射抜くような視線も気にせずに悠斗は笑う。それを見た女はといえば不服そうに顔を逸らして、また食い入るように本を見つめ始めた。自然と口元が緩んでいく。
 その様子を見た悠斗は苦笑いを浮べながらもコーヒーを入れて、女の横に座った。ぼんやりと本に描かれた生徒達の苦痛に歪んだ顔を見て、何度か頷く。現状に満足しているとでも言うかのように……。深く息を吐いてコーヒーを啜った後、横目で女を見る。口元が緩みっぱなしの女を見て、こりゃ駄目だなんていう風に呟いて、肩をすくめる。少々不愉快そうな顔をされたけど気にしない。

 「それにしても今回は随分強引に終わらせたね?」
 「ええ、気に入らなかったから。結果、次の世界からはもう一人の俺も動くようだし、満足だよ? 湊少年がヒントを生かせるかは眉唾だけどね」

 悠斗の言葉に、女は笑った。相変わらず自由人なようだ、そう考えて悠斗は深くため息をついた。そんな悠斗の様子に女は黙って首を傾げる。しかし、女の興味はすぐに本へと戻っていく。よほど赤に染まった校舎が好きなのだろう。悠斗はぼんやりと湊を殺したときのことを考えながらコーヒーを啜る。手ごたえがなくてつまらなかったなぁ、というのが悠斗の感想なのだが。
 どちらにせよ、今までの間散々暴れることが出来たのだ。これぐらいの不満は我慢すべきだろう、そう考えて悠斗は立ち上がる。何気なく窓際に立ってみれば胸糞が悪くなるほどの晴天。学園の中では酷いことが起きたというのに、一歩外に出れば平和で、心底退屈そうな世界が広がっている。それを見ると悠斗は、やはりこの女に協力したのは正解だと思えてくるのだ。よほど退屈というものが嫌いらしい。

86霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/08(日) 00:02:31 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「さて、お姫様? 次の世界はどうするつもりかな?」

 考えるようなしぐさをする女。しばらくするとアズラエルと少年が消えた方部屋から、明るく「また学校がいいなぁ」なんていう声が聞こえてきた。その言葉を聞いた女は何度か頷いた後「こことよく似た学校でまた遊びましょう? 何度も、何度も、ね」と笑う。悠斗は少し苦笑いを浮べた後、同意するとでも言うように頷く。

 「まぁ退屈しないなら僕も文句はないからねぇー。ところでお姫様、今回は随分えぐい事をしたねぇ……生徒全殺し、って」

 悠斗の言葉を聞いた女は鼻で笑う。何、分かりきったことを言っているのだとでも言うかのように。だんだんと下がってきた眼鏡を上げて、一瞬だけ本から視線を外す。そして言うのだ。不敵な笑みを浮かべて「物語の最後なんて、惨たらしいものでしょう?」なんて。そして苦笑いを浮べる悠斗に向かって、机の上においてあった本を突きつける。

 「俺、この世界を自由に弄繰り回せるのが楽しいの。俺好みの物語がいくつも出来上がる」

 狂ったような笑い声。反響して本来の音よりも大きく聞こえる、それに悠斗は顔を顰めた。そんなことお構いなしに女は続ける。流れるように、歌うかのように言葉を紡いでいく。

 「俺が綴る悪夢は巡るの、そしてその悪夢の物語は惨たらしく幕を閉じて当然」

 そこまで言ったところで女は一瞬言葉を止めた。そしてまるで同意を求めるかのように、本を持っていない方の手を悠斗へと伸ばす。そして、まるで新しい玩具を与えられた子供のように無邪気に笑って「ねぇ、そういうものでしょう?」という。やれやれ、そんな風に呟きながらも悠斗は女の手を掴んで頷いた。それは、一人の女が綴る遊びに付き合うという意思表情。終わりまで女に協力するという誓い。……女は笑う、満足そうに笑う。
 ……そう、これはとても簡単なお話。狂った一人の女が人の命を弄んだ、そんな簡単なお話。そして小さな学園では何度も何度も悪夢が繰り返される、それだけのお話。そして、一つの始まりに過ぎないとても、残酷な序章……。

Il record dell’incubo〜悪夢の記憶〜 END
____________________________
終章というよりは、完全に序章っぽい終わり方。漂うやっつけ感((

87霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/08(日) 00:55:14 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
あとがき

 やっつけで終わった小説ですが、作者は友人にラーメンを食べたいといったら、さっさと小説を完結させろと言われたからむしゃくしゃしてやったと供述しており(ry

 さて、そんな下らないことは置いておき、最後までお付き合いくださった方はどれほどいらっしゃるのでしょうか? 
 この長ったらしい上にまとまりのない文章ですが……。

 ちなみにこの話、実はプロット自体は私が小説を書き始めた頃、四年前からあったものです。当時の私には設定だけで精一杯になってしまったのですが。
 ただそのときのプロットはあまりにも設定が浅すぎて……。唸りながらプロットに手を加えていました。
 後半でなぜかそのプロットが消えてしまったんですけどね。もう思いつきでつなげてやりました((

 執筆期間は書き始めたのが2011年三月、書き終えたのが2012年一月ですから、約十ヵ月程度でしょうか。自分の中では最速記録です
 そもそも最近はまともに小説を完結させてませんでしたしね。過去のものから書き方を変えてやっと馴染んできたところなのです。
 途中でアドバイスを下さった方がいましたが、それを反映せずに終わってしまったのがなんだかなぁ、という感じです。改行の少なさがすっかり癖になってしまっていて……。
 後は続編について。一応書くつもりでいます。このスレッドを使うか新しく建てるかで悩んでいますが。改行についても出来るだけやろうと思っています。

 ちょっとキャラについても触れましょうか? 使われなかった設定とか
 一番変更点が大きいのは紅零と蓮、そして刹です。
 紅零さんはただのヘタレ、脅されて闇をやってるだけの会長になる予定でしたし、刹君は終章で出てきた黒幕側の人間になる予定でした。
 蓮君なんて始めは何の力も持たないのに学園に乗り込んできた幼女の予定……面影がちっともありません。
 他にも羽音さんがヤンキーで会長だったり、湊がただのかませだったり……本当に大きく変えて書き始めています。
 羽音の能力が結局出ませんでしたが、天使化といいます。一定期間だけ天使の力を借りれる力です。使いたかったんですけどねぇ……。

 そしてキャラを借りていたのに殆ど出番がなかった二人を最後の最後で出させていただきました。キャラをお貸しくださった方、本当に有難うございます。
 もっと活躍させたかったのに……。

 長くなりましたが、ここまで読んでくださった皆様、本当に有難うございます。
 コメントを下さった皆様のおかげで、完結させることが出来ました。
 長い間有難うございました! 続編、またはその他小説で出会うことがありましたら、よろしくお願いします

88霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/08(日) 01:18:08 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
目次

序章 闇(ブイオ)と光(ルーチェ)の人々>>2-5
第一章 光(ルーチェ)の人々 >>6-15
第二章 闇(ブイオ)の人々 >>16-21 >>23
第三章 聖鈴学園 >>30-35 >>39-40 >>42
番外 悪夢の日 紺の欠片>>44-45
第四章 能力定義と禁忌>>46-47 >>49-55
第五章 体育祭と言う名の小規模戦争 >>57-60 >>63-65
第六章 終焉への歯車は狂い >>68-71 >>73-77
番外 復讐と狂気 銀の欠片>>80-81
終章 嗤う悪魔>>83-86

89月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2012/01/10(火) 16:42:13 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
コメントさせて頂きますね!

まさかの最後に利樹とアズが登場して、ちょっとテンションが上がり気味の月峰でs((

それにしても湊くん、最後のあれは痛そうだったz(( 読みながら某大佐のセリフが頭に浮かんでいたので、霧月さんのコメントでつい笑ってしまいましたw
そして最後に出てきた『お姫様』が気になります。世界を自由に弄繰り回すなんて、もはや神じゃないk((

もし続編が出るのなら、また別の世界の湊くん達が活躍するのか……もしくは、別の新しい子達も登場して見事悪夢を突破して見せるのか、とにかく楽しみです!
でも、あのお姫様を倒す術を探すのも結構時間掛かりそうですね。物語○○個分、ぐらいのとんでもない時間が((
それともお姫様は『倒す』対象ではないのでしょうか……?

それではこの辺で。とても楽しく読ませて頂きました! そして、お疲れ様でした^^ノ
次回作、または続編、楽しみに待ってますね^^

90霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/10(火) 17:13:42 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>月峰 夜凪様

アズちゃんと利樹君、シナリオカットしなければもっと出番が会ったんですけどね。いろいろな事情でシナリオカットが凄いことになったので、黒幕側についてもらいました((

目は痛いですよね。悠斗君なんでそんなとこ突き刺したし(( 実際あのコメントは台詞になる予定だったんですよw 横にいた人物Aにそれは某大佐にしか見えない方やめろ、と言われて消しましたが((
お姫様は神、と言う括りで問題なかったりします。ただそれはあくまで学園内で起きている物語の支配者、ということですね。作者と変わりないと思います(オイ
ちなみにお姫様、一度ストーリーの中に出てきています。、容姿等の描写があるのに名前が出てない人ですね。

湊君……出るは出るけど……という感じです。分かる人にはわかるあの性格です(( 実を言うと黒幕以外キャラは約二名を除いて総入れ替えです。黒幕さんのあの子も名前を変えてしまいますしね。
まぁ物語の統括者、ですからね。しかしもっとヤバイ奴が出てくるんでなんともいえません。蓮みたいな明らかに“何かを知っている”ようなよく分からないやつもいますしね。
お姫様についてはなんともいえないのです。黒幕である以上……って感じなんですがね((

いえいえ、こちらこそ駄文にお付き合いいただき、有難うございます。
はい、ねたがつきない限りは頑張るつもりですから、お暇でしたらまたよろしくお願いしますね^^


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