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Il record dell’incubo〜悪夢の記憶〜

78霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/01/04(水) 20:20:29 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「ふ、二人とも私を庇って……。魔法を使おうにも相手を捕捉出来なくて……それで」

 大きく身体を揺らしながら楓は言う。湊はギリッと歯軋りをしながらも、楓の背中をさすって落ち着かせようとした。深く息を吸い込んでは吐き出す。それだけの簡単な動作が酷く億劫そうに見えて、湊は心配そうに楓を見つめた。何度も息を深く吸ったり吐いたりを繰り返すうちに楓も落ち着いたようで、軽く湊を押して、口元に笑みを浮かべる。まだ引きつったぎこちない笑み。

 「一体誰が?」
 「私にもさっぱり……。姿形を全く捉えることが出来ない。音もしなかった……それで天使の力を借りた羽音さんと悪魔の力を借りた風雅さんが私を突き飛ばして、気づいたら……」

 楓がきつく手を握り締める。小刻みに震えるのは、恐怖か怒りか……そんな事、楓も分からなかった。楓を車椅子に座らせて、湊は深く、深くため息をついた。何度目かも分からないため息。とにかく楓を安全なところに避難させて、蓮の元に行こうと考えて、車椅子を押して廊下を走り始める。辺りに転がるものを避けるのは大変だったが、どうにか引っ掛らずに済む。安全な場所、そう考えて走るも、結局思いついたのは一緒に連れて行くことだけ。今の学園じゃ一人にした時点でどの場所も危険にしか思えなかったのだ。
 高等部三年A組教室前。そこで湊は楓の様子を確認する。元々体の弱い楓だ、殺気の出来事のせいで疲れてダメージを受けていないかが気になるのだ。動きが止まった車椅子に気づいたのか楓は不思議そうに首をかしげて「どうかしたんですか? もしかして敵が?」と問いかける。そんな楓の様子にクスリと笑みを浮かべて「いえ。体調の方は平気かなぁ、と思いまして」と答えた。
 瞬間、鋭い光が湊と楓の周りをグルグルと回る。何かの攻撃だろうか、そう考えて咄嗟に楓を覆うように抱きかかえて、きつく目を閉じる。ポケットから種子を落として光と自分達の間に蔓でドームを作り上げた。出来るだけ強度を高くして、その中できつく楓を抱きしめる。楓の方は驚いたように短く声を上げた後は、驚いて身体が動かないのか、それとも何かを悟ったのか動かずにジッと、湊が拘束を解くのを待っている様だ。
 
 「……もう大丈夫でしょうか?」

 僅かに身体を越して、耳を澄ませながら湊は呟く。楓は返事をしない。少し可笑しいなと思いながらも、何の音もしないことを確認して蔓を枯らす。辺りを見回しても特に変化はないようだ。光もすっかり消えて何もなかったような光景が広がっている。ふいにゴトン、と何かが落ちる音がした。恐る恐る音のした方を見ると抱きかかえた楓の姿。ボタボタと“それ”があったであろう位置からは紅が噴水を髣髴とさせるように吹き出されていた。
 湊は地面におっこちたそれを静かに拾い上げる。……頭だ。紅で化粧をした、今まで抱きしめていた人物の頭。防御に入るのが遅かったんだ、そんな言葉が湊の頭に浮かんだ。その場に崩れ落ちて声を上げる。守れなかった、ごめんなさいと何度も繰り返して、縮こまって身体を震わせる。もっと早く防御に入っていれば、もっとあたりを警戒していれば……こうしていれば、ああしていれば、そんな考えがいくつも、いくつも浮かんできて湊を責め立てる。
 人のいない廊下には湊の泣き叫ぶ声だけが響いた。


NEXT Story〜番外 復讐と狂気 銀の欠片〜
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なんか六章がとてつもなく長く感じました
戦闘描写が出来ません。わかりきっていたことです

目次

序章 闇(ブイオ)と光(ルーチェ)の人々>>2-5
第一章 光(ルーチェ)の人々 >>6-15
第二章 闇(ブイオ)の人々 >>16-21 >>23
第三章 聖鈴学園 >>30-35 >>39-40 >>42
番外 悪夢の日 紺の欠片>>44-45
第四章 能力定義と禁忌>>46-47 >>49-55
第五章 体育祭と言う名の小規模戦争 >>57-60 >>63-65
第六章 終焉への歯車は狂い >>68-71 >>73-77


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