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Il record dell’incubo〜悪夢の記憶〜

1霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/03/06(日) 23:06:24 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
初めまして、霧月 蓮(ムヅキ レン)と申します。ここでは始めて小説を書かせていただきます。

更新は非常に亀で、誤字脱字も非常に多いですが、生暖かい目で見てくださると助かります。
出来るだけ遠まわしに表現するように致しますが、グロイ表現が多々あります。それでも大丈夫、と言う方はどうぞよろしくお願いいたしますね。

アドバイス、感想等があれば喜んで。

一応、学園、ファンタジー、歪み、と言った感じの者が中心となっています。特殊能力が出てきたり、魔法使い吸血鬼が出てきたりと、多分滅茶苦茶です
非常に駄文で、まとまりのない文章ではありますが……。

16霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/05/04(水) 19:46:23 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
第二章 闇(ブイオ)の人々

 少々乱暴に蓮が一つの教室のドアを開く。その部屋の中では紅零が優雅に紅茶を啜り、真新しいソファの上で刹が眠っていた。眠っているのにもかかわらずしっかりと日本刀を抱いているあたり、仮眠程度なのだろう、と蓮は判断して苦笑いを浮べた。まったく、まだ小さいくせに無理をしてとも言いたくなるがそれを言ってしまえば、目の前で紅茶を啜っている紅零に徹底的に殴られそうなので言葉を飲み込んだ。何故刹に言った言葉で紅零が怒ったりするのか、そう思うかもしれないが刹と紅零は背丈が全く同じなのである。単純に同じ身長の刹が小さいといわれれば間接的に自分のことも小さいと言っている、と解釈してしまうようだった。
 その辺は少々過剰反応過ぎるだろう、と思いながらも気に触るようなことを言わなければ普通の少女と大差ないと蓮は思っているので、気にとめもせず、ただただ小さいという言葉を二人に向けないようにだけしていた。もっとも、そのほかの言葉はそのときそのときの気分によって反応が変わってしまうので、言った後に後悔する、なんて言うことも多々あるのではあるが。それでも蓮が紅零に構うのはやはり幼い頃からの姿を知っているから、であろうか? それは本人ですら分からないらしいが蓮が紅零を信用しているのも、紅零が蓮に心を許しているのも揺るぎのない事実であった。

 「あら……戻ってきていたのね。お疲れ様。と言っても失敗したみたいだけども」

 ふと顔を上げた紅零が蓮に向かってそういう。小さく頷きながらフードを脱げば紅零が若干上機嫌な様子であったため僅かに首を傾げる。ここで何かあったのか、と聞いて紅零の機嫌が悪くなるのは避けたいし、紅零の場合は本当に機嫌がよければ勝手に話し始めるだろう、そう考えて蓮は何も言わずに床に腰を下ろした。付き合いは長いものの正直言って紅零との接し方を模索しているようなところがあるのは、絶対に本人には覚られないようにしなくては、そう思うと自然にため息が出てきた。
 自分の顔を怪訝そうに覗き込みながらも、何かを話したそうにしている紅零を見れば少しだけ笑みがこぼれるも、表情の変化が乏しいせいか紅零は全く気付いていないようだった。それでも話したいことはあるようでトテトテと蓮に近づいてきて横に座った。一体何を言い出すのだろうか、そう考えて予想できる言葉とそれに対する受け答えを何個か頭の中で挙げていくが、紅零の姿を見ても特に当てはまるものはない。髪形はまったくといっていいほど変わってもいないし、化粧をしているわけでもない。一体どんな言葉が飛び出してくるのか、それが全く分からずにビクビクしてしまう蓮。

 「聞いてよ、お兄様意識を取り戻したって!!」

 紅零の言葉を聞いて蓮は思わず目を見開く。紅零が兄の話を自分に持ち出すのは珍しかったのもあるし、紅零がいつにもなく子供のように笑っていたというのもある。珍しいこともあるものだな、それほど兄のことが好きなのだろうと考えて、一人頷いた。それを見た紅零は蓮が無表情ながらも喜んでくれているとでも解釈したのだろう、よりいっそう明るい笑顔を浮かべて鼻歌を歌い始めていた。普段からこうならもっと可愛げがあるだろうに、そう考えてクスリ、と蓮は笑う。

17霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/05/05(木) 21:22:44 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
 いつの間にか目を覚ました刹が小さく欠伸をして、目を擦っていた。その表情はどこか不機嫌そうに見えた。そんな刹を見て少し首を傾げた後、さては紅零と意見が食い違ったか、説教されて不貞寝、そうでもなければ刹視点で見て誰かが紅零に無礼でも働いたのだろう、と考える。正直に言うと刹が寝起きで機嫌が悪いのはそれ以外の理由はほぼ無いのである。刹は重度のシスコンではあるがため、紅零に関することは結構根に持つ。まぁ代わりと言ってはなんだがそれ以外の怒りの感情は、短時間でも寝てしまえばころっと忘れてしまうのである。そう言った面から見れば扱いやすい存在かもしれない。
 目が合ったのでとりあえず「お目覚めか……お兄さんの件おめでと」なんて言う風に声を掛ければ、刹は余計に不機嫌そうな顔。地雷でも踏んだか? 蓮はそう考えて首を傾げる。普段の刹はと言えば気に入らないことを言ったりしたり、紅零の妨害をしない限りは相手が光である場合を除き、温厚でニコニコ笑っているような子である。紅零は少し困ったような表情をして「さっきからあの調子。困ったものよ」なんて言う風に蓮に耳打ちをする。それっきり何を言っていいのかも分からないというように黙り込んでしまう。

 「……お兄様なんて……あんな人、僕は大嫌いだ」

 ポツリ、と刹が呟いた。どういうことだ、蓮がそう問いかける前に刹が声を荒げ始める。ただただ心の内を叫び始める。

 「あんな人……お姉様や僕を裏切ったじゃないか!! 見捨てたじゃないか!! 湊と……あいつと同じ裏切り者だ!!」

 刹達とその兄の間に何があったか、それは蓮には分からない。紅零や刹と行動することは多かったが、それと同じくらいに病院で一人で過ごすことも多かった。それゆえ蓮が持っている刹達の情報も穴だらけで、足りないものばかりだ。たとえば刹が紅零に異常なまでの執着を見せること……これは元々シスコンだったためとも言えるが“あの日”を境に酷くなっている。その“あの日”に何があったかは蓮は途中までしか知らない。正しく言うと途中までしか見ていないのである。途中まではその場にいたが、あることが原因で病院に担ぎ込まれる羽目になり……その後のことは誰に聞いても教えてはくれない。少なくても蓮が見ていたところまででは刹が紅零に執着を見せるようになるのには不十分だ。
 刹達とその兄の間に何かが起こったとすると、自分が病院に運び込まれた直後あたりだろうと蓮は考える。蓮の記憶には残っていないだけでもっと前に起こっている可能性もあるが、少なくても自分が病院に運び込まれる前までは、刹は純粋に兄のことを尊敬していたと思う。となるとやはり自分が入院している間、さらに言えば自分が病院に運び込まれた一〜三時間の間に起こったことが原因だと考えられる。何故そんな短時間に絞り込めるかと問われれば紅零にその兄が病院に運び込まれた時間を聞き、帰ってきた時間から推測すると行動を起せる時間がそれぐらいしかないためだ。もっとも情報が少なすぎて蓮にはどうとも言えないのではあるが。

 「俺には良く分からんが……紅零はそうは感じていないようだが?」

 蓮がそう言うと、刹はキッと蓮を睨みつける。紅零はすっかり困った顔をしてため息をつく始末。こういう場合多くは蓮が何とかしなくてはならないので、酷く面倒だ。蓮一人では流石に出来ることも限られてくるのだし、間違った対応をすればさらに機嫌を損なってしまう。心の底から刹を初めとする小鳥遊兄妹との対立は避けたいと思っている蓮にとって、今、刹の機嫌を損なうことは非常に都合が悪いことだ。困ったことになった、と頭を抱える蓮。元々人との関わりが得意ではないせいかこういうときにどうしていいのかが全く分からない。普段と同じような対応をすればまず機嫌を損ねるだろう。出来ることなら面倒だと叫んでしまいたい。

18霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/05/13(金) 22:11:47 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
 どうしていいのか分からずに黙り込んでいれば刹は小さく笑った。まるで知っているというように、心の中の何かを吐き出すように笑い出す。ヤバイ、そう思って蓮が動き出したときには刹はすでに刀を抜き放っていた。少し首を傾げた後「知ってるさ……。僕の言うことなんてどうでもいいだろ? お姉様の言うことが正しいとでも言うんだろ?」なんて平坦な声で言う。地雷を踏んだかと蓮は深くため息をついた。ゆっくりと向けられる刀に目を向けながらも己の武器は取り出さない。武器を取り出してこれ以上機嫌を悪くされても面倒だと思ったのだ。事実そのような対応をして被害が拡大したこともある。
 蓮はさて、どうしたものかと考え込みながらも、出来るだけ表情を変えないようにする。こういうときにどういう顔をしていいかも分からないのだ。精神を落ち着かせるだとか、安定、落ち着きをつかさどるような精霊や妖精、神などを召喚すればいいのかもしれないが、召喚には非常に重いリスクが付きまとうのだ。特に蓮のように四大精霊などを呼び出せるようなクラスになってしまうと余計である。召喚能力者なんていってしまうと妙に万能なイメージを持ってしまうかもしれないが実際のところはそうでもない。それに見合う代償を支払ってやっと召喚することができるものなのだ。さらに言ってしまえば、才能も問題であり才能が無ければいくら代償を支払ったところで何も得ることは出来ない。まぁ当然といえば当然の話である。
 能力を得た変わりに蓮が失ったものといえば右目の視力と一部の感情である。視力なんて言うのはまだ左目が見えているため問題はない。しかし感情の方は多少どころは非常に問題ありだ。元々感情表現は得意な方ではないのだが、余計に感情を表現することが出来なくなった、とでも言うのだろうか? しかも失ったのが負の感情ならまだしも、蓮が失った感情は主に喜びである。出来なかったことが成功してもなんとも思わないし、出来なかったことができるようになるのなんて、よくあること、で済ませてしまうのだ。まぁ自分のことだけならば良いのではあるが、他人、もしくはクラスメート全員が喜んでいる中一人だけが無表情でいたりする。まぁ楽しむというような感情がなくなっていないのが唯一の救いかもしれない。

 「……逃げないんですか?」

 クスッと笑みを零しながら刹が言う。蓮は小さく頷いて真っ直ぐと刹を見つめる。逃げ切れる自信がないというのもあるがやはり一番の問題は先ほども言ったとおり、これ以上刹の機嫌を損ねることである。先ほどから紅零は黙ってあれこれ考えているようで動きを見せない。使えない後輩め、そんな風に心の中で毒を吐くが、口に出してしまえば敵が増えるだけなので黙っておくことにする。

19霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/05/15(日) 16:16:30 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「逃げても無駄、だろ?」

 蓮は目の前でほくそ笑む刹に向かって吐き捨てるように言う。闇のごく一部の主要メンバーが刹のことを白銀の悪魔、なんて言うように呼ぶのがよく理解できる。仲間を消すことだって全く躊躇いのない冷徹さ……下手をすれば闇ごと壊滅してしまいそうだ、そう考えて蓮は僅かな笑みを浮かべた。そんな蓮の顔を見て眉をひそめ、無言で手に握った刀を振り上げる刹。頭を庇いもせずに振り上げられる刀と、刹の腕を交互に見る。刹が使う刀は僅かに特殊な装飾の施された日本刀であり、長さは2尺4寸5分……大体74.4センチメートル程度のものである。重さは1400グラム程度のもので、振り回すにしては少々無理がある。刹のような中学生程度なら尚更であろうか? さらに日本刀を扱うものが合う事故で多いのはその刀を振るうさいにその重さに負けてしまい、自分の足を切ってしまう、というものらしい。そう考えると蓮は自分が切られるよりも、刹が誤って足を切ってしまわないかのほうが心配である。
 低い舌打ちと刀が振り下ろされるのを示す風斬り音。静かに目を閉じて刀が自分の頭を砕くのか、それとも体を切り裂くのかをただただ待つ。ここで命乞いをしないで死を楽しみながら待っているあたり自分は歪んでいるのだろうな、と蓮は考えていれば、ガキンなんて言うような金属が聞こえた。いつまで立っても振り下ろされることない日本刀を怪訝に思い薄く眼を開けば、紅零が日本刀で刹の刀を防いでいるのが目に入った。刹は驚いたように目を見開いて紅零に刀を防がれた状態のまま固まってしまっていた。

 「何で逃げないのよ、この馬鹿!! 上手く逃げると思ってたから別のこと考えていたじゃない!!」

 紅零が顔を僅かに蓮に向けて叫ぶように言う。何で俺が怒られるんだよ、そんな風に思いながらも蓮は少しだけ後ろに引いて立ち上がる。鋭い目つきで刹が睨んでくるが、とりあえず気にしないことにして、紅零をどうにかしなくてはならないかと考えてため息をついた。ここで紅零に死なれては高等部にいる紅零の姉、月華に絞め殺されるとなにやら物騒な考えが浮かんできたが、とりあえず頭を振って追い出すことにした。怪我させるのも戦力が減るから避けたいし、腕一本ぐらいの覚悟ぐらいは必要だろうかと苦笑いを浮べる。

 「つか紅零、何でテレキネシスで防がなかったし」

 目の前に紅零の肩が少し揺れた。ああ、テレキネシスを使えることを忘れていたのだろう、そう勝手に解釈して、刹に近づく。刹の耳元で「そのままだと大好きなお姉ちゃん叩ききることになるぜ?」なんて言う風に囁いてやれば、あっさりと刹は刀を引いて鞘にしまった。姉の存在はやはり大きいところのようだ、と笑みを浮かべながら刹の頭をなでてやる。そんな蓮を威嚇するかのように刹はただただ睨みつける。この光景を見ているとなんだか、兄が弟を宥めているようにも見えるのだから不思議だ。

20霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/02(木) 19:20:43 HOST:i118-21-90-39.s04.a001.ap.plala.or.jp
 はぁ、と蓮はため息をつく。疲れたというよりもほっとしたというのが正しい。刹はいまだに不愉快そうな様子ではあるが刀を再び抜こうとするそぶりは見せない。もしかすると能力でナイフでも作って飛ばしてくるかもしれない、そうも考えたがそれをやろうとしたところですぐに気づくことが出来る。所詮は能力。魔法だと聞くと万能に近い気もするが能力、といわれるとそうもいかない。単純にできることが限られているからである。刹の場合は武器など意思を持たないものならば容易に生み出して、操ることが出来る。それが百だろうが千だろうが、だ。
 しかし元々はないものを一時的に作る能力だと、どうしても空間に歪みができてしまうことになる。なかったものを強制的にあるに変換してしまうのだから仕方がないのだろうか。その際に生まれる歪みに能力者が耐えられなくなってしまうのが三十分であり、そこで一旦能力を0に戻す……つまりは発動していた能力を解除し、元の歪みのない状況へと戻す必要があるのである。また、これはあくまで刹の話であり、他の能力者だと十分ももたないものが多い。そうじゃなくても多くは十五分程度で耐え切れなくなってしまうのだ。さらに言えば多くのものを作り出すほど能力の質は落ちる。
 刹はと言えばいくら作り出したところで三十分はもつし、一つ一つの質もその辺の能力者に比べて高い。元々刹の創作能力自体が希少な能力であるため、能力は平均していることが多い。そう考えれば刹のずば抜けた能力は異端だといえる。

 「っと、俺はそろそろ行くぜ。元々顔見世程度のつもりだったしな」

 そう言ってフードを被りなおした蓮を見て紅零は僅かに顔を顰め「あら、もう少しゆっくりしていけばいいじゃない?」なんて言う風に言った。それにかぶせるように刹も「急いで何処に行くんです? 何かやましいことでも?」とからかうような口調で言った。散々からかってすっきりしようとでも考えているのだろうか、と蓮は考えて低く舌打ちをした。あまり触れられたくないようなことだったのだろうかそう考えて刹はしてやったりとばかりに笑みを浮かべる。

 「墓。何ならついてきてもいいぜ?」

 なんでも無いことのようにさらっと言う蓮。それを聞いて思わず声を失うのは紅零である。刹の方はぞっとしたような顔をして固まっていた。さらっとした物言いとは違い、表情は完全に闇そのものである。いじり倒そうかと思っていた刹であったが、下手なことを言えば殺される、そう考えてしまって何もいえなかった。もっとも蓮が刹を殺そうとするなんてまずありえない話なのだが。

 「もしかして桜梨(オウリ)ちゃんの?」

 紅零の問いかけに僅かに頷いて「一応は双子の片割れだしな。あの時は死ぬなんて思ってなかったけど。クソ生意気で化け物みたいな奴だったし」と答えた。双子、墓なんて言う言葉が出てきた瞬間に刹はバツが悪そうに顔を逸らした。刹の兄妹や家族は全員生きている。それは単純に蓮や過去の湊、蓮の双子の片割れ……多くの人物に守られてここまできたからである。今でこそまともに刀を振るって戦うことが出来る刹でも、ある事件が起こるまではただの無力な少年……。
 その点、蓮はと言えば当時から弱音や、好き、なんて言う感情を素直に表に出そうとはしない素っ気無い奴だった。今は大分話すようになってきたが昔は何を言っても帰ってくるのは無言ばかり。辛うじて話していた相手といえば湊や双子の片割れである、桜梨程度だった。刹からしてみればとっつきにくくて怖い……それでも守ってくれる頼りがいのある存在だった。それと同じように蓮も桜梨のことを頼りにしていたし、心の支えとしていた。その人物が死んでしまったのである。刹や紅零を守ろうとしたせいで。
 それでも蓮が刹や紅零に感情をぶつけることはなかったと思う。憐や涼とも決め手となる出来事が起こるまでは上手くやっていたし、湊にはしょっちゅう慰められていたのも刹は目撃している。その湊の腕の中で蓮が声を上げて泣いていたのも……。それを見て以来、桜梨を初め死んでしまった人のことを話題に出すのはやめた。思い出させて悲しい思いをさせたくない、そう思っての行動だった。それが正解なのかは刹には分からないが……。紅零も小さく頷いて「そう。じゃあ行ってらっしゃい」と引きつった笑みを浮かべて小さく手を振って見送った。

21霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/06/05(日) 14:26:50 HOST:i118-21-90-39.s04.a001.ap.plala.or.jp
 学園内に墓地があるというのはどういうことなのだろうか? 単純に生徒の身内、兄弟だと生き残った生徒が学校の敷地から出なくてもよいようにされている。この学園初等部から高等部全ての課程を終了するまでは生徒が学校の敷地内から出ることを許されていない。単純に対立が激化する学園から少しでも離れれば戻ってきたときに環境が大きく変化していることがある。それについていけなくなってしまう事を考えてのことである。
 他にもこの学園にいるのが能力者、魔法使い、吸血鬼など人から見て“化け物”等と称されるものが多いことも原因の一つである。勿論、能力を持たず、魔法も使わない、吸血鬼でもない一般人も居るのだがそのものたちも学園の外とは僅かに違いがある。頭脳に然り身体能力に然り……そう言った面で外での生活に対応できると判断されるまでは外に出してもらえない。特にAの中ランクのものとなると評価は余計に厳しくなっていく。
 それゆえにこの学園内で教師をしているのは、この学園卒業の能力者達が多いのだ。そう考えればこの学園は一種の保護、育成施設と捉えることが出来るかもしれない。事実、この学園にきたことで一切制御できなかった能力を制御できるようになり、今では外の一般人に紛れて生活しているものもいる。外からの攻撃があったところで生徒を捨てるようなことはなく、多くの場合理事長一人で対処をしていた。

 「なあ、桜梨……お前が死んでもう三年経つのに、俺はまだ……」

 一つの小さな墓の前、小さな今にも消えてしまいそうな声で蓮が言う。小さな墓には霧月 桜梨(ムヅキ オウリ)と刻まれその下には生まれた年と死んだ年……。そっとそこを手でなぞって、今にも壊れてしまいそうな、無理矢理な笑みを浮かべて……。ツゥッと頬を伝う透明な雫は静かに地面を濡らしていった。
 運命なんて言うものは残酷である。寄り添う二人でも唯一の身内でも時が来れば容赦なく引き裂いてしまう。だからこそ蓮は思う。運命なんか絶対に信じない、と。自分の身内が殺されたことを運命なんかで片付けさせはしないと強く思う。運命だから仕方がないなんていって諦めているような奴を見れば、腹を割いて、八つ裂きにしてやりたいという衝動に駆られることさえもある。それをどうにか抑えながら生活しているのはストレスの連続である。

 「……もうすぐこの学園は戦火に飲まれる。今までのとは比にならないほどでかい戦火に……そうしたら俺はお前のところにいけるのかな……?」

  きつく、爪が手のひらに食い込むほどに握った拳は僅かに震えていた。それは死に対する恐怖か、これから始まるであろう大きな戦いへの、死という希望を見出しての武者震いか……。蓮の口元に浮かぶ笑みは無邪気な子供のように見えた。それと同時校舎の方からは爆発音、誰が暴れているのだろうか、手に持っていた花束を墓石の前に置きフラリと校舎に向かって歩き出す。死臭を好む獣のように死の音の聞こえる方へとただただ進む。


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