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Il record dell’incubo〜悪夢の記憶〜

70霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2011/10/30(日) 02:48:17 HOST:i121-114-185-226.s04.a001.ap.plala.or.jp
 横一線。鈍く輝く刃が湊たちの前を横切った。ぱらぱらと数本の髪の毛が落ちていくのを見て、湊の表情が凍りつく。後数歩前に進んでいたら確実に血を流していただろうなんて考えて身体を震わせた。そんな湊の後ろで険しい表情をしているのは優希だ。胸元に手を入れて鋭い目つきで前を睨みつける。フッと湊たちの前に姿を現したのは刹。その長い銀髪の髪が、風のない校舎の中にもかかわらずふわふわと不自然に揺れていて、まっすぐに湊を見つめるその瞳には明らかな敵意と狂気が宿っていた。僅かに顔をしかめ湊は後ろへと下がる。しかし刹も逃げることは許さないとでも言うかのように、湊が引き下がった分、前へと進んでいく。
 軽い破裂音が響く。反射的に音のした方を湊が確認すると、優希が銃口を天井へと向けて刹を睨みつけていた。まるで威嚇するかのように鋭い目つき。普段優希を見慣れている湊でさえ驚くほどに鋭く冷たい表情。まるで邪魔をするなら殺すことだって躊躇わないとでも言うような……。そんなことを気にせず刹は嗤う。まるで悪魔のように刀を構え狙いを一点に定めながら嗤う。
 風斬り音と共に放たれる払い。受け止めるにも湊は刀を防げるような武器は持っていない。短く舌打ちをして半歩後ろに下がったところで、無常にも刃は湊の腹を裂く。噴出す赤と見開かれる青の瞳。痛みに声を上げることさえ忘れて湊は傷を押さえた。出血の量のわりには傷は浅いようで……鈍い痛みが続けざまに襲い掛かる。痛みに顔をしかめながらもまっすぐと刹を見れば全身に悪寒が走るのを感じた。心底楽しそうな、まるで玩具で遊ぶ子供を髣髴(ほうふつ)させるような様な笑み。窓から差し込む太陽の光が照らすその姿は余計に不気味で……。大声で優希が叫ぶのと同時に湊の意識は闇の中へと落ちていく。

 「歪曲せよ、我が言葉のとおりに。秋月湊は傷を負わなかった!!」
 
 優希の言葉の後不自然に辺りが歪む。歯車が噛み合うような音と、悲鳴にも似た甲高い音が響き渡る。刹が思わず顔をしかめると優希は勝ち誇ったように笑う。跡形もなく消え去る赤と、塞がる湊の傷。まるで何もなかったかのように、最初からそうだったとでもいうかのように、穏やかな寝息を立てている。低く舌打ちをして刹は刃を振るった。優希が黙って手をかざせば刀の軌道が不自然に曲がり床へと向かう。ありえないと呟いて刹はまっすぐに優希を睨みつけた。無表情で刹の様子を伺う優希の頬を汗が伝い落ちていく。
 呆気なく刹は刀から手を離した。地面に倒れる刀の音が思っていたよりも反響したのか少しだけ驚いたような表情をして、ため息を一つ。

 「昔よりも簡単に発動できるようにでもなったのかなぁ? 少なくとも昔は放たれてすぐの攻撃には対応できなかったよね?」

 紅零といるときは打って変わり口調を崩して刹は話す。懐かしむような声色とは違い表情は氷のように冷たく、明らかな殺意に満ち溢れていた。それを見た優希は軽く鼻で笑い「お互い様じゃないか。お前何時の間に創作能力以外の能力を使えるようになったんだ?」なんていう風に問いかける。殺気を孕んだ鋭い視線と、冷たいのにどこか悲しげな視線が絡み、互いの動きを縛り付ける。横たわる湊の吐息だけが場違いで……。
 沈黙を先に破ったのは刹だった。反響する足音と押し殺したような息の音。それらの音も静電気が発する音にも良く似た音にかき消されていく。銃声、罵声、何かが飛び交う音……辺りを忙しない音が支配していく。互いが言葉を発することはなく、ただただ相手の攻撃を防ぎ、反撃する。そんな単純な展開が永遠と繰り返されていく。余裕綽々の表情で、相手の出方を伺ってはさも愉快だと言うように嗤って、ただの様子見だと言うかのように。
 刹が氷の刃を無数に放てば優希が得体の知れぬ力で辺りを歪めてそれを防ぎ、優希が得体の知れぬ力を使って辺りを崩せば、刹は同じように得体の知れぬ力で一瞬にして辺りを修復させ。銃を放てば念動力を応用した壁を作ってそれを防ぎ、刀を振るえばその軌道を狂わせて……。遊戯にも良く似た茶番のような展開。面白くないというように刹はため息をついて、一度優希から距離をとる。

 「お互い本気でいきましょうよ。出し惜しみなどせずに」


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