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●事情によりこちらでSSを投下するスレ 4●

1tun:2011/08/11(木) 01:48:49 ID:???
プロバイダー規制や本スレの空気などでSSを投下できない人が、
本スレの代わりにこっちでSSを投下するスレ。

sageるとIDが???になるので恥ずかしい人にはお勧め。

412以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/12(月) 12:51:35 ID:???
ホワイトデーでさ

俺は例年通りツンデレへのお返し何にするか考えてたの

というのもツンデレ優しくて、俺なんかにも毎年バレンタインチョコくれるんでさ

お返しとかいらねーよ、なんて断られながらも絶対受け取ってもらうの

そんな感じでお返し渡してたら徐々に受け入れられるようになってさ

今じゃツンデレ、もうすぐホワイトデー、なんて探り入れてくるようになったの

俺としては秘密にしておいて驚かせたくてさ、なぁなぁで誤魔化しつつ逃げるのね

そしたらツンデレ、俺の後ろチョコチョコ付いてきながら聞き出そうとしてきてさ

あんまりしつこいんで、内緒、ってツンデレの口元に人差し指近づけて黙らせようとしたの

それ、しぃってポーズだけのつもりだったのが距離感誤って唇に指当たっちゃってさ

俺必死に弁明したんだよ、わざとじゃないって

でもツンデレムスッとしちゃって聞く耳持たず

それでホワイトデー当日、お詫びにいつもより良いお返し渡したんだけど

意地悪いツンデレ、私の唇奪われて、とか周りにふれ回っててさ、良いじゃんもう許してくれよ、って話

413以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/12(月) 12:52:52 ID:???
ホワイトデーでさ

私は例年通りアイツお返し何くれるのかなって想像してたの

というのもアイツ毎年律儀にバレンタインのお返ししてくれてさ

最初はね、その度贈り物なんていらないって言ってたの、心配りが重い、僕と結婚して下さい、的な

それでも毎年貰ってるとだんだん、今年は何くれるのかな、なんて期待するようになってきてさ

今じゃ、もうすぐホワイトデー、なんてカマかけてみたりするようになったの

だけどアイツいっつも渡すまで教えてくれなくてさ、愛想笑いでのらりくらり逃げてくの

それで今回はね、ちょっと調子乗って後ろ付いていきながらしつこく嗅ぎまわってたら

アイツ突然振り向いて私の口元に人差し指近づけてきてさ

小さい子静かにさせるように唇に指あてがって、内緒、って囁いてね

もう急にそんな事されたもんだから、少し時間止まって周りの音もかき消えてさ

アイツ何か喋ってたけど全然聞こえねーわ

それでホワイトデー当日、アイツからはね、それはそれは美味しいチョコ貰ったんだけど

正直、チョコよりもアイツをからかえる材料貰えたことの方が私的に美味しかったわ、って話

414以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/12(月) 23:18:11 ID:???
ツンデレさん子悪魔な感じで可愛いですなあ
GJ!!

415以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/15(木) 01:27:11 ID:vgJceh6I
規制で保守できなかった。
http://tunder.ktkr.net/up/log/tun2531.jpg

416以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/15(木) 02:17:02 ID:???
>>415
まじ天使

417以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/15(木) 03:19:35 ID:???
可愛すぎだろ女子高生

418以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/15(木) 05:52:21 ID:LduP4bbA
>>415
超久々wwwwww

419以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/15(木) 08:57:46 ID:???
>>415
本当に久々だな
そして相変わらずかわいいwww
GJ!!

420以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/15(木) 13:18:07 ID:???
>>415
久しぶりに見たけど相変わらず可愛いな
GJ!!

4211/5:2012/03/20(火) 12:43:44 ID:???
・風邪を引いて休んだツンデレの家に男が見舞いに来たら その1

『……暇……』
 ベッドに仰向けに寝たまま天井を見つめつつ、私は一人ごちた。インフルエンザにか
かって今日で五日目。学校も、もう三日も欠席している。
『一応、今日まで様子を見なさいってお医者さんに言われたけど、もうほとんど健康なのよね……』
 最初の二日間はそれこそ高熱と倦怠感と間接の痛みと咳が一気に襲って来ていて退屈
どころの騒ぎではなかったが、三日目になると嘘のように熱が下がり、昨日の朝にはも
うほとんど健康と変わりない状況だった。
『何か、病気で休んでるっていうのに勉強する気にもなれないしな…… だからといっ
て、遊ぶのも気が引けるし……』
 よっこらせっと私は体を起こし、布団をめくる。手に届く位置に置いてあったカーディ
ガンをパジャマの上から羽織って、立ち上がった。
『テレビでも見てれば、気が紛れるかもね。どのみち寝ようったって、寝過ぎるくらい
寝たんだもの。ボーッとしてるくらいなら、世の中の情報を仕入れた方がマシだわ』
 自分にそう言い聞かせて、リビングに下りる。
「げっ? ねーちゃん、もう起きて大丈夫なんかよ」
 ソファーに寝そべってマンガ雑誌を読んでいた弟の大輝が起き上がって、不審そうな
目付きで私を見る。
『だってもう熱もないし退屈なんだもの。それよりアンタ、いつ帰って来たのよ?』
「ついさっきだってば。つか、ねーちゃん。今日まで絶対安静なんだろ? 大人しく隔
離されてろよ」
『何よ。人を病原菌みたいな扱いしないでよね。念のために今日まで休みなさいって言
われてるだけで、もうほとんど治ってるんだから』
「ちょっ!? 寄ってくんなってば。俺にまで感染したらどうすんだよ」
『だからうつらないって言ってるでしょ? ムカつくから、アンタの顔に向けて咳して
あげるわ。ゴホッ!! ゲホッ!!』
「やめろバカ汚ねっ!!」
 すると、キッチンにいたらしい母親が怒鳴り声を上げた。

4222/5:2012/03/20(火) 12:44:05 ID:???
『何してるの、涼香っ!! 病み上がりなんだからふざけてないで大人しくしてなさい。
ぶり返したらどうするのよ』
『だってお母さん。ケンカ売って来たのは大輝の方なのよ? 何で私が怒られなきゃな
らないわけ?』
「ねーちゃんがインフルエンザなのに起き出して来るからだろ。もしうつったら責任取れよな」
『ホントにうつせるものならうつしてやりたいわよ。それで、私が苦しんだのと同じか
それ以上の苦しみを味わいなさい』
「だから寄ってくんなってば。きたねーから」
『誰が汚いっていうのよ? あんまり失礼な事言うと承知しないわよ』
『二人ともいい加減にしなさいっ!! 涼香は治りかけなんだから、大人しくしてるの。
あと、大輝もあまりお姉ちゃんをからかわない。分かった?』
 母親のカミナリに、私も大輝もさすがに言い合いを止めて口をグッとつぐんだ。
「ちぇっ。ねーちゃんのせいで俺まで母ちゃんに怒られちまったじゃん」
 小声で大輝が文句を言うのを、私は聞き逃さなかった。
『何言ってるのよ。アンタがいちいち突っ掛かって来るから――』
『コラッ!!』
 私の抗議は、母の怒声に遮られた。
『いつまでやってるのよ。本当にいい加減にしないと、お母さん怒るわよ』
「もう怒ってるじゃん」
『ねえ』
 私と大輝は、顔を見合わせて母に聞こえないようツッコミを入れる。
『あと、大輝!!』
「はいっ!?」
 自分だけ名指しにされて、弟が思わずビクッと姿勢を正す。母がシステムキッチンの
向こうから、身を乗り出して睨んでいた。
『いつもちゃんとお母さんって呼びなさいって言ってるでしょう。今度母ちゃんって言っ
たら、一ヶ月お小遣い停止だからね。分かった?』
「はーい」
 母の説教に、大輝は気のない返事をした。最近、この弟は中学になってから急速に生
意気になって来た気がする。小学校の頃は生意気でもまだ可愛げがあったものだが。

4233/5:2012/03/20(火) 12:44:27 ID:???
『涼香。これからちょうどお茶にしようかと思ってたところだけど、アンタも何か飲む?』
『え? うん。じゃあ、紅茶淹れてくれる?』
 熱が出ていたから、ずっとスポーツドリンクみたいなのしか飲んでいなかった。こう
してようやく温かい飲み物が飲めるようになった事に感謝しなければなと、私はしみじみ思う。
「えーっ? おかーさん、いいのかよ。姉ちゃん起こしたままにしといてさ」
 大輝が不満そうな声を上げるので、私はまた睨み付けた。しかし、私の抗議より早く、
母がたしなめる。
『大丈夫よ。もうほとんど完治しているんだから。先生も念のためって昨日言ってた位
だし。それに、感染してるならもうとっくにアンタにうつってるわよ』
 すると大輝は不満そうに返事をして、私をジロッと見た。
「寄るなよ、ねーちゃん。菌がうつるから」
『何だったら、たっぷり可愛がってあげてもいいわよ。今日は特別にね』
 まるで対戦前のプロレスラーみたいに、私はワザと大輝に顔を近づけて睨みつける。
と、その時出し抜けに、訪問者を告げる呼び鈴がなった。
『ちょっと悪いけど、出てくれる? 今、ガス使ってるから』
 キッチンから母親の声がする。私はそれをそのまま大輝に投げた。
『じゃあ、大輝。行って来てよ』
「えーっ? 何で俺が」
 不満顔の大輝に、私は自分の格好を指差した。
『だって私、パジャマなのよ? こんな格好で人前に出れる訳ないじゃない。ちょっと
は考えなさいよ』
 全く、男ってこれだから困る。少しは乙女の恥じらいというものを理解して欲しいも
のだ。なのに大輝ときたら、私の格好を一瞥すると、バカにしたように鼻を鳴らして言った。
「バッカバカしい。そんな、恥ずかしがるほど大したもんじゃねークセに」
『う、うるっさいわね!!』
 思わず蹴りを浴びせるも、大輝は軽く体をひねって避けると、そそくさと玄関に行っ
てしまった。
『ちょっと、涼香。体調が戻ったからって暴れたりしたらダメじゃない。ぶり返しでも
したらどうするの』
『だーって、大輝がひどい事言うんだもの。悪いのはあっちじゃない』

4244/5:2012/03/20(火) 12:44:47 ID:???
 私ばかり叱られてるみたいで不満に思って口答えすると、母は私を厳しい視線で見つめた。
『だからって、涼香が暴れていいって事にはならないでしょう。少しは自重なさい。あ
なたはもう高校生なんだから』
『はーい』
 あんまり口答えすると、せっかく準備してくれている紅茶が無くなりそうだったので、
仕方無しに大人しく頷くが、内心は不満たらたらだった。大体、母は二言目には高校生
だからとか、お姉ちゃんなんだから、とか女の子なんだから、とか言って私をたしなめ
る。男で中学生なら何やっても許されるなんて、理不尽も甚だしい。
「ねーちゃん。客だよ」
 いつの間にか戻ってきていた大輝の声に、私の思いが破られる。一瞬その言葉を頭の
中で飲み込めず、私は思わず聞き返してしまう。
『は?』
「だから、ねーちゃんにお客さんだって。クラスの人だよ」
『クラスの人……? ああ』
 ようやく得心が行った私は頷いた。そういえば、友人の友紀が休みの間、ノートやら
プリントやら持って来てくれてた事を思い出す。
「早く出なよ。玄関先で待ってんだからさ」
 弟の言葉に、私はちょっと驚いて問い質す。
『ちょっと。何で受け取ってくれなかったのよ。出られるわけないでしょ? 私、イン
フルエンザなのに』
「だって、もうほとんど治ってるってさっき自分で言ってたじゃん。だったら、顔くら
い見せてあげた方がいいだろ。心配して来てるんだからさ」
 まだ中学1年の弟に正論で押し返されて、私は返す言葉を失くしてしまった。確かに、
元気なところを見せて、明日から登校出来るよって教えてあげれば、きっと友紀も安心
するだろう。
『……私、パジャマなんだけど……みっともなくないかな……』
 自分の格好を確認して、誰にともなく呟くと弟が口を挟んだ。
「その方が見栄え病人らしくっていいだろ? 誰もねーちゃんの格好なんて気にし――
あイテッ!! 何すんだよ!!」

4255/5:2012/03/20(火) 12:46:26 ID:???
 余計な事を言う弟のおでこを、素早く指で弾くと、弟が額を抑えて軽く仰け反った。
睨み付けて抗議する弟を睨み返す。
『あのね。私だって花も恥らう17歳の乙女なんですからね。いくら姉弟だからって、
少しはデリカシーってものを持ちなさいよ』
 すると、キッチンから母親の鋭い叱責が飛んだ。
『涼香。ケンカは後にしなさい。お友達、待たせてるんでしょ?』
『あ、そうだった。大輝ってば、後で覚えてなさいよ』
「知るか。ベーだ」
 舌を出す弟をそのままに、私は急いでリビングから玄関に顔を出した。
 そして、玄関先で待つクラスメートを見て――そのまま、固まった。
「……よ、よお」
 ちょっと戸惑いがちな笑顔を浮かべながら挨拶したのは、女友達の友紀なんかじゃな
くて、男子生徒の、別府タカシ君だったからだ。


続く

うん。ただいいんちょに弟がいたらどんなんだろうなーって思って書き始めただけなのに、
何かやたら長くなったんだ。何故(´・ω・`)?

426以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/20(火) 13:16:25 ID:???
かかかわゆすGJ!!!
続き楽しみですなぁ!

しかし本スレが持たないな…

427以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/21(水) 00:05:48 ID:rZhzyyTk
続きわくてか!弟が主役かと思った

428以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/21(水) 00:12:10 ID:???
GJ
続き待ってるよー

429以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/24(土) 21:30:46 ID:???
>>295の続き

「…………」 カチカチ
「…………」
「…………」 カチカチ、ピッ
「…………」
「…………ん」 ウ゛ウ゛ウ゛、ピッ
「…………」
「…………」 カチカチ
「……それ男?」
「お兄に関係なくない?」 カチカチ
「……まあ……関係ないけど」
「うん」 カチカチ
「…………」
「……カオルは女」 カチカチ
「……ふーん」
「…………」 カチカチ
「…………」
「…………」 ピッ
「…………」
「……気になる?」
「膝の上でずっとメールされてれば気になるだろ」
「ふーん」 ウ゛ウ゛ウ゛、ピ
「…………」
「……勇気も女だよ」 カチカチ
「……別に聞いてねーよ」
「あれ、気になんないの?」 カチカチ
「別に」 プイ

430以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/24(土) 21:31:14 ID:fF0eClK.
「…………眠いんだけど」
「このまま寝れば?」 カチカチ
「お前膝に乗せたまま?」
「別にいーじゃん」 カチカチ
「よくはねーだろ」
「しょうがないなー……これで動ける?」 モゾモゾ
「いやどけよ、ベッドで寝るんだから」 ペシ
「わがままだなー」
「はいはい……はー、ようやく寝れる」 ドサッ
「ちょっと、なに壁のほう向いてんの?」
「ん?」
「こっち向いて」
「えー、おれ右が下じゃないとダメなんだけど」
「いいから」
「はいはい」
「まくら」
「いやだから……俺寝たいんだけど」
「じゃあほら、腕」
「腕?」
「伸ばして」
「…………ほれ」
「んー」 ゴロン
「…………」
「お兄ちょっと汗臭い」 カチカチ
「…………こっち向かないでそっち向けよ」
「だって右が下じゃないとなんかヤダ」
「…………」
「…………」 カチカチ
「…………はぁ……飯できたら起こして」
「ん」 カチカチ

〜学校〜

「でさー、お兄がメールの相手が男が女か聞いてくんの。ヤだよねー」
「てかあんたのケータイ男のアドレス無いよね」
「…………そんなことないよー」
「そういうことにしといてあげる」
「いやマジで」
「てかお兄さんって良い匂いしそうだよねー」
「いや普通に汗臭いよ、腋とか。男だもん」
「ふーん、毎晩腕枕なだけあるね」
「まあね…………あっ……くそっ!」
「引っかかりやすいなー」 ケラケラ

431以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/24(土) 21:31:46 ID:???
おわり

男だから臭いというのは偏見じゃないかなと思いますけどね

432以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/24(土) 21:34:29 ID:???
>>430
>「まくら」

「あたしのまくらは?」
「しらん」
「それ貸してよ」
に差し替えてください

433以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/24(土) 22:47:33 ID:???
>>432
特に差し替えなくとも脳内補完余裕でした
GJ!!


本スレ無いので、こっちで9レス貰います
ちょっとエッチなので注意

4341/9:2012/03/24(土) 22:47:58 ID:???
・ツンデレが入浴中に地震に遭ったら

「フゥ……いいお湯だった……やっぱ、久々の温泉はいいなあ」
 浴衣に羽織をガッツリと着込み、タオルを肩に引っ掛け、着替えやら何やらを詰め込
んだビニール袋片手に、俺は旅館の廊下を自分達の宿泊部屋へと歩く。部屋の前に立つ
とドアを開け、中に声を掛けた。
「上がったぞ、ちな……みは、まだ風呂か。まあ、アイツは長風呂だしなあ」
 部屋の中はガランとしていて人気がなかった。布団がちゃんと二組敷かれている。ど
うやら、風呂に入っている間に仲居さんが用意しておいてくれたらしい。一人であるこ
とを確認して、俺は何度目かになる愚痴を呟く。
「全くちなみの奴…… せっかく二人きりで温泉来たんだから、混浴にしようぜって言っ
たのに、誰がお前なんかに私の裸を見せるか、バカ。いい加減にしろこのスケベとかっ
て……ホント、つれないよな……」
 今頃は鼻歌気分で露天風呂にでも浸かっているであろうわが婚約者を思って、俺はた
め息を吐く。もちろん婚約者である以上、キスはおろかエッチなことだって経験済みで
はあるが、ちなみは服を脱がす時は絶対に明りを消す事を強要する。
「もう婚約したんだし、もうちょっと甘えてくれてもいいと思うんだけどな。けど、ま
あこればっかりは焦っても仕方ないか。さてと、ロビーでビールでも買って来るかな」
 湯上りといえば、やはりビールだろう。ちなみが上がって来たら、二人で飲もうと思
う。もしかしたら、酔っ払って大胆になり、普段しないような事もさせてくれるかも知
れないな、とちょっと淫らな期待を寄せてしまったりもする。そんな考えを抱きつつ、
立ち上がった時だった。
「ん? 何だ?」
 思わず平衡感覚を失い、俺はよろめいて机に手を付いた。一瞬、のぼせて立ちくらみ
でもしたのかと思ったが、落ち着いて感覚を研ぎ澄ませると、床が小さく揺れているよ
うに感じられた。
「地震……か?」
 一瞬、緊張して身構える。が、揺れは大きくなる事無く、次第に小さくなり、やがて
完全に感じられなくなった。
「フゥ…… ちょっと大きかったな。今の」

4352/9:2012/03/24(土) 22:48:19 ID:???
 部屋に備えつけのテレビを点ける。NHKでは早速速報で地震のニュースを伝えていた。
「えーと、この辺は……震度3か。結構大きかったけど、まあそんなもんか」
 テレビを見ながら一人ごちる。そしてふと、風呂に入っている途中の我が婚約者の事
が気に掛かった。
「ちなみ……大丈夫かな? アイツ、地震苦手だけど、驚いて滑って転んだりしてないだろうな」
 様子を見に行きたいところだが、何せ女風呂に突入するわけにも行かない。はて、ど
うしようか。仲居さんにお願いしようかと考えあぐねていたら、唐突に部屋のドアが開いた。
「よう、ちなみ。無事だった……か……」
 現れたちなみの姿に、俺は思わず途中で言葉を失った。一応、浴衣に帯は巻いている
ものの、どうやら風呂から部屋まで大急ぎで走ってきたのか、しどけなく乱れていた。
そして、裾からは白い太ももが露になり、胸元も大きく広がっているのを辛うじて手で
押さえている。そしてちなみは、唖然としている俺に構わず、そのままパッと布団を捲
り上げると、そのまま中に潜り込んでしまった。
「お、おい。ちなみ?」
 様子を窺うべく声を掛けるが、全く返事がない。その代わり、中から何やらくぐもっ
た声みたいな音が聞こえるので、俺は布団に耳を近づけて聞いてみた。
『……地震……怖い……地震……嫌い……』
 どうやら、突然の揺れにビックリして、一目散に部屋まで駆け戻って来たらしい。もっ
とも、浴衣を着るだけの理性があったのは救いだ。
「ちなみさん。おーい、ちなみってば。もう揺れ収まってんぞ」
『……揺れるの……怖い……地震……いやぁ……』
 どうやら、恐怖のあまりに殻に閉じ篭ってしまったようで、安心させようと掛けた声
も全く耳に入っていないらしい。こういう時、取る手段は二つ。一つは相手が落ち着い
て出て来るのを待つか、或いはより強い恐怖を与えて隠れ場所から追い立てるか。
「けど……ちなみが落ち着くのを待ってたら、いつになるかわからんしなあ……」
 半ば呆れ気味に、俺は呟いた。机の下に潜り込んだまま、一時間近くも出て来ないこ
となどよくあることである。
「仕方ないなぁ……」
 俺は、ちなみの潜り込んだ布団の端を持つと、小さく左右に揺さぶった。
『ひゃあっ!!』

4363/9:2012/03/24(土) 22:48:39 ID:???
 地震とは似ても似つかない揺さぶりだったが、それでもちなみは慌てて布団から飛び
出ると、そのまま俺に飛び付いて来た。慌てて受け止めるも、そのまま勢いに押されて、
俺はちなみを抱いたまま、尻餅をついてしまう。
「あいってっ!!」
 思わず悲鳴をあげるが、布団の上だったので痛みはさしてなかった。体にかかる重み
に気が付き視線を向けると、ちなみが俺にしっかりとしがみ付いて震えていた。
『……また……揺れた……怖いよ……』
 罪悪感を感じ、俺はポンポンと軽く背中を叩きながら宥める。
「大丈夫。揺れてないから、怖がらなくていいってば」
『……でも……今……確かに……』
 顔を上げようとしないちなみに、怒られるだろうなとは思いつつ俺は本当の事を告げた。
「今のは俺が布団揺らしたんだよ。ちなみが全然出て来そうになかったから」
 するとちなみがピクッと体を反応させた。少し間を置いてから、ゆっくりと顔を上げ
て俺を睨み付ける。同時に、起き上がった上半身を見て、俺は驚いた。浴衣の前がはだ
け、その中には何も着けていない、まっさらなちなみの素肌が覗いていたからだ。
『……ホントに?』
 どうやらちなみは自分の格好に気付いていないらしい。俺も動揺してカクカクと頭を
上下に振りつつ、小さく返事をすることしか出来なかった。
「あ……ああ……」
 するとちなみは、小さな手を俺の顔に伸ばすと、親指と人差し指でギュッと鼻をつね
り上げてきた。その痛みが、俺を正気に戻す。
「ちょ……ちょっと待て、待てって!!」
『……意地悪……人を脅かして……楽しむなんて……最低……死ね……』
 悪態をつきながら、さらに指に力を込める。俺は必死に今の状況を伝えようと、呼吸
のままならない状況で必死に声を出した。
「違うってば!! それより前!! 前!!」
 鼻をつねられているので顔が固定されてしまい、俺の視線がちなみの胸元に吸い付い
て離れない。
『……前……?』

4374/9:2012/03/24(土) 22:48:59 ID:???
 俺を睨み付けたまま首を傾げ、それから俺の視線に釣られるように自分の体に視線を
落としたちなみは、その瞬間体が硬直した。顔がみるみるうちに耳まで朱に染まっていく。
『きゃあっ!!』
 普段の眠そうな声が信じられないくらいの悲鳴を上げて、ちなみは体を反転させ、浴
衣を掻き合わせた。それから、背中越しに俺の顔を見て、小さな声で聞いて来た。
『……タカシ……その……見た?』
 嘘をつくのは嫌なので、俺は正直に答える。
「ああ。つか、見なきゃ指摘出来ないだろ?」
 その答えに、ちなみがビクッと体を震わせる。そして、堪えきれないといった感じで
体を前に折って丸めた。
『……タカシのスケベ……変態……エッチ……覗き魔……痴漢……死んでしまえ……』
 恥ずかしさの裏返しなのか、怒涛のような暴言が口から飛び出してくる。それが一段
落するまで黙って聞いてから、俺は面白がるように言い返した。
「そんな事言っても、浴衣の前をはだけたままで飛びついて来たのはちなみさんなんですけど?」
 ちなみがまたビクッと大きく体を震わせる。ややあって、返事があった。
『……だって……タカシが揺らすから……怖かったんだもん……』
「悪かったよ。それについては謝る。けど、お前も慌てすぎじゃね? 下着も何も着け
ずに、浴衣一枚で風呂場から飛び出て来るなんてさ」
 よくよく見れば、長い髪の先の方は濡れたままだし、浴衣もところどころ濡れて体に
張り付いている。大慌てで拭いて、慌てて浴衣を着たのだろう。もっとも、全裸で飛び
出てくるほど理性を失ってはいなくて良かったとは思うが。
『……だって……地震……おっきかったから……崩れて……裸のまま下敷きとか……嫌
だもん……』
 振り向いたちなみの上気した顔に、俺はドキリとした。前は合わせたものの、浴衣の
襟元から覗く白い素肌は、先ほどの小さいけれどしっかりと存在を主張している二つの
双丘を思い出させる。その欲望をグッと抑え、俺はちなみを慰めようとそっと頭を撫でた。
「……震度3だってよ。たいして大きくもないし、それにもう収まったから心配するな」
『……うん……』
 生乾きの髪を指で優しく梳いてやると、ちなみが頭を俺の胸に持たれかけさせて来た。
口は悪いが、甘えん坊なのだ。

4385/9:2012/03/24(土) 22:49:21 ID:???
「落ち着いたら、風呂場に戻れよ。下着とか、風呂道具も置きっ放しなんだろ? それ
に、少し湯船に浸かった方がいいし」
 しかし、ちなみは首をフルフルと横に小さく振った。
『……無理……』
「何で? 大丈夫だって。地震は――」
『……違うの』
 俺の声を遮ってから、ちなみは恥ずかしそうに下を向いて、呟くように続けた。
『……その……全裸に……浴衣一枚で……なんて……恥ずかしくて……廊下……歩けな
いから……』
「何言ってんだよ。もう、その格好で部屋まで全力ダッシュしてきたじゃん」
 ちょっとからかうように言うと、脇腹にげんこつが飛んできて、俺は呻いて顔をしかめた。
『……あれは……無我夢中だったから…… お願い……取って来て……』
「女風呂にか? 止めてくれ。婚約者が犯罪者になっちまうぞ」
 いくら俺でも、女風呂に突入出来る度胸は持ち合わせていない。するとちなみは、ちょっ
と考えてから別の提案をして来た。
『……だったら……仲居さんに頼む……とか。同じ部屋なの……知ってれば……大丈夫
だと……思うけど?』
「あー…… そういう手もあるけどな。今度は別の意味で犯罪者になっちまう」
 ちなみが無言で怪訝そうに俺を見る。あまり言いたくはなかったが、仕方無しに、俺
は下半身を指した。
「これがさ。どうにも治まりそうになくって」
 俺の意思とは関係なく、下半身のアレが見事なまでに硬く屹立していた。予想通り、
ちなみが軽蔑したような目付きで俺を睨みつつ、ため息をつく。
『……さっきから……何か硬いものが……当たってると思ったら…… やっぱり……タ
カシは……筋金入りの変態だったのね……』
「仕方ねーだろ。付き合ってからずっと、お預け喰らってたちなみの胸を、初めて光の
中で拝む事が出来たんだ。興奮すんなって言っても無理だっての」
 気恥ずかしさから、半ばやけっぱちに弁解する。ちなみは呆れたように肩をすくめる
が、何気にその顔は真っ赤だった。
『……本当に……タカシって……どうしようもないね…… 煩悩の……固まりみたい……』

4396/9:2012/03/24(土) 22:49:43 ID:???
 浴衣にしがみついていた手が、俺の体をグッと鷲づかみする。痛みにちょっと顔をし
かめるが、同時にそれが恥ずかしさを耐える仕草なんだと思うと、物凄くいとおしくもあった。
「まあ、とにかくそんな訳だからさ。体離して、出来ればその……布団の中にでも入っ
ててもらえるとありがたいんだが。でないと治まりそうもないし」
 ちなみが離れてしまうのはかなり残念だったが、この際致し方ない。しかしちなみは、
鷲づかみした手は離したものの、体は俺に預けたままで、ジッと俺を無言で見つめていた。
「えっ……と……何?」
 無言の圧力に耐えかねて聞くと、ちなみは一瞬顔を伏せてから、上目がちに俺を見て、
小さくか細い声で呟いた。
『……えっ……と…………私が……静めてあげ……る……』
 そして、ゆっくりと手を下に這わせると、浴衣の上から、いきり立った俺のモノを優
しく掴んだ。
「え? おい、ちょっと?」
 唐突な行動に思わず動揺した声を上げると、ちなみは渋々といった顔つきで俺を睨んだ。
『……タカシは……スケベだから……治まるのなんて待ってたら……いつになるか……
分からないし…… だったら……私が……静めてあげた方が……早い……』
 にぎにぎと動く指の感触は心地良いがじれったくもある。我慢し切れなくなり、俺は
ちなみの体を抱き寄せると、体を反転させ、布団の上に倒し込んだ。
『え……きゃあっ!?』
 びっくりしたちなみが小さく悲鳴を上げる。布団の上に仰向けに寝かされたちなみが、
俺を睨み付けて文句を言った。
『……いきなり……何するのよ……』
「ゴメン。でも、どうせならちゃんとした方がいいと思ってさ」
 俺の言葉に、ちなみの顔が紅潮する。プイと横を向いて、ワザとらしく口を尖らせた。
『……私は……したいなんて……思ってないのに……』
「嘘でしょ?」
 即座に否定してみせる。すると、ちなみはビクッと体を震わせ、片腕で顔を覆って首
をイヤイヤするように振ってみせた。
『……違う……もん……そんな事ない……』
 しかし、俺はさらに追及する。

4407/9:2012/03/24(土) 22:50:03 ID:???
「俺のがいきり立ってるのに気付いて、自分も興奮して来ちゃったんでしょ? でなきゃ、
ちなみから積極的に俺のを握ってくるなんてありえないし」
『う…………』
 反論の声はなく、小さな呻き声だけが漏れた。どうやら、認めざるを得なかったらしい。
「だったら、俺だけじゃなくて、ちゃんとちなみも満足させてあげなきゃって思ってさ。嫌か?」
 そう聞くも、返事はない。俺の下で、体をギュッと強張らせているだけである。ちょっ
と意地悪な気分になって、俺は敢えて逆の事を言ってみた。
「返事が無いってのは、嫌だって事? だったら、このまま止めるけど。無理やりって
のは好きじゃないからさ」
 そのまま、ちなみの返事を待った。しかし返事がないので、わざとらしくため息をつ
いてみせる。
「そっか。だったらしょうがな――」
 言葉を発すると同時に、ちなみが俺の浴衣を掴む。顔を上気させ、潤んだ目で俺を睨
んで、小さく悪態をついてきた。
『……タカシの……悪魔……外道……私から……おねだりさせようだなんて……卑劣に
も……程がある……』
「だって、言わなきゃオッケーなのかどうか分からないし。で、どうなの? したいの?
したくないの?」
 俺の問いに、ギュッと唇を真一文字に結んで泣きそうな目で俺を睨んでいたちなみだっ
たが、やがて顔を逸らし、そして小さく頷いた。
『……お願い…………して…………』
「よし。そういう事なら、いっぱい気持ちよくしてやるからな」
 浴衣をはだけさせようとした時、ちなみが思いの外強い力で俺の手を掴んで制止させた。
『……待って待って……電気……消してから……明るいの……恥ずかしい……』
 しかし、今日の俺はどうにも止まりそうがなかった。どうしても、ちなみの素肌を明
りの下で見てみたい。だから俺は、ちなみの耳元で口を近付けてそっと囁いた。
「……ダメ。ちなみもそろそろ、恥ずかしさに耐える訓練しなきゃね」
 俺の意図を察し、ちなみがビクッとまた体を震わせた。
『や……ダメッ……』

4418/9:2012/03/24(土) 22:50:25 ID:???
 ジタバタする体を押さえ込むと、俺はちなみに激しく口づけをする。やがて抵抗が止
み、ちなみの舌が俺に応えるように蠢き始めてから、俺は出来る限り自然に、ちなみの
浴衣をはだけさせた。


「ちなみ。風呂行こうぜ。もう混浴でも大丈夫だろ?」
 お預けを食らっていた混浴の露天風呂に誘うが、ちなみは布団を被ったまま出て来よ
うとはしなかった。
「どうしたんだよ。お互い、もうどこも隠す必要がないくらい見せ合ったんだからいいだろ?」
 電気を点けたままでの交わり合いは、個人的にはかなり良かったと思うし、ちなみも
喜んでくれたと思っていたのだが、布団の中から聞こえて来たのは、怨嗟に近い声だった。
『……タカシに……死ぬほど恥ずかしい事……された……正直……死にたい……』
「何だよ。恥ずかしさを少しでも克服してやろうとしたのに、結局元の木阿弥か?」
 あれだけやっても、ちなみの恥ずかしがり屋は克服出来なかったらしい。半ばからか
い口調で聞くと、ちなみは布団から、頭半分だけ出して俺を睨み付けた。
『……だって……丸裸にされて……あんなところやこんなところまで晒されて……お嫁
に行けない……体にされて……』
 その言い草に、俺は思わず苦笑してしまった。
「おいおい。お嫁にいけないも何も、俺の婚約者じゃんか。将来の旦那が決まってるの
にお嫁に行けないってどういう事だよ?」
 すると、ちなみは再び布団に潜ってしまった。
『………から……その……………………』
 布団の中で何やらゴニョゴニョ言っているも、よく聞き取れずに、俺は聞き返した。
「何だ? 何て言ってるんだよ」
 すると、ちなみが僅かに頭を出す。顔が真っ赤な所を見ると、自分でも言ってて恥ず
かしい事を言ったようだ。
『……だから……その…………あ……あと一回しか……言わないから…………』
 そう言って、再び布団の中に潜り込んでしまう。このままだと聞き取れないのは明ら
かなので、俺は傍により、布団に耳を当てるほどに近付けてから、お願いする。
「じゃあ、今度はちゃんと聞くからさ。あと一回だけ、頼む」

4429/9:2012/03/24(土) 22:52:04 ID:???
『だ、だから……その……っ!!』
 僅かに大きく、前置きをしてから少し経って、くぐもった小さい声が、しかし確かに、
布団の隙間から漏れ聞こえてきた。
「……せ……責任……ちゃんと……果たして貰わないと……困るんだから……」


 この後、テンションが高まった俺が、強引にちなみを露天風呂に連れて行ったことは
言うまでも無い事実であった。


終わり
8レス目の空白分は個人で脳内補完ヨロです(*´∀`)ノ

443以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/24(土) 23:20:28 ID:ejCDeJ0M
gj!
最近スレ立たないな…

444以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/24(土) 23:29:45 ID:???
おっきっき!

445以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/24(土) 23:33:00 ID:???
えっちいのもいいもんだな
GJ!!

446以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/25(日) 00:02:10 ID:???
>>442
乙!

重箱の隅だが事後感を出すなら行間はもう少し空けた方が良かったかな

447以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/25(日) 00:25:59 ID:???
>>431
おお!まさかあの続きが見れるとは思わなかった
妹可愛いよ妹ww

>>442
なにこのエロ可愛すぎるフィアンセ
ちょっと俺のジョニーが治まりそうにないぜ

448以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/31(土) 19:50:50 ID:???
>>421-425の続きなので、こっちに投下

4491/6:2012/03/31(土) 19:52:07 ID:???
・風邪を引いて休んだツンデレの家に男が見舞いに来たら その2

『な……な……』
 思っていた言葉がなかなか出なくて、口を開いたまま喘ぐように動かす。取り乱しか
けた心をグッと抑え、深く息を吸い込んだ。一度視線を落とし、何も考えないように気
持ちを全部シャットダウンする。落ち着いたのを確認し、私は顔を上げて彼を見た。
『何で……別府君がウチに来たのよ。友紀は?』
 冷静な声が出せた事に、私は内心ホッとする。本当に、こんな所で取り乱したりした
ら、私の学校でのイメージは台無しだ。
「ああ。何か今日はどうしても外せない用事があるから代わりに頼むって、これ押し付
けられた」
片手に持った手提げ袋を持ち上げて示す。私は、呆れた気分でため息を漏らした。
『友紀ってば……用事があって来れないのは仕方ないけど、何でわざわざ別府君なんか
に託すのかしら。意味が分からないわよ』
「うーん…… やっぱり迷惑だったか? いや、俺も言ったんだけどよ。俺なんかが委
員長の家に行っていいのかって。だけどアイツ、全然オッケーだし、そんな事気にする
必要ないって言うからさ」
 私の脳裏に、友紀のちょっと含んだような笑顔が浮かび上がる。全く、おせっかい焼
きも程ほどにして欲しいものだ。
『迷惑といえば迷惑だけど、別に貴方のせいじゃないから。気にしないでいいわ』
 正直な所、いきなり家に来られたくなかったのは事実だ。こういうのは、もうちょっ
とこう、親しくなってからというか、本当を言うと、順序だったお付き合いをして、デー
トとかもするようになってから、初めて招待をするものだと思っていたのに。こんな風
にいきなり来られると、心の準備だって出来てないのに。
「いやー…… 気にするなって言われてもさ。強く断われなかったってのは事実なわけ
だし……」
 困ったような顔をする彼を前に、私は玄関先に正座して手を前に出して促す。
『もういいから、そこに座って、渡すもの渡してくれる? いろいろ説明、あるんでしょ?』
「あ、ああ」

4502/6:2012/03/31(土) 19:52:30 ID:???
 ちょっと気を取り直したような返事をして頷くと、彼は靴を履いたまま、上がり框に
腰を下ろす。そして紙袋と自分のバッグを置くと、紙袋の方を漁り、中からプリントの
束を取り出した。
「えーと、これが今日のノートのコピーな。あと、これが世界史のプリント。期末の範
囲だからしっかり予習しとくよう先生が言ってた。で、これが来月頭の予餞会に向けて
の準備のお知らせと」
 渡されたものを、一つ一つ確認していく。その場でしっかりと中を見て確認してしま
うのは、これはもう性分だった。
『どうでもいいけど、友紀のノートってば、落書き多すぎ。これじゃあ先生の話とか聞
いてるわけないわよね。それと世界史の青柳先生の字が相変わらず汚すぎなのに、友紀
ってば、さらに余計な落書き入れて訳わかんなくしてるし。全く……』
 ぶつくさと文句を言っていると、別府君が小さく笑いを漏らすのが聞こえた。
『ちょっと。何がおかしいの? そういう笑い方って不愉快なんだけど』
 ムッとした顔で聞き咎めると、別府君は何かを否定するように手を軽く振ってみせた。
「いや、ゴメン。いつもと同じ調子だったからつい。てか、その様子なら、大分具合良
くなったんだな。安心した」
『別に、別府君に心配して貰う謂れもないんだけど』
 憎まれ口を叩きつつも、彼が私を気にしてくれた事を、ちょっと嬉しく思う。それか
ら慌てて、心の中でこんなのは社交辞令なんだと、自分に言い聞かせた。
「まあ、そう言うなって。俺もだけど、クラスのみんなで心配してたんだぜ。委員長が
いないと、どうにも締まらないし。それに、さっき顔出した時、マスクにパジャマ姿な
のを見て、まだ具合悪いのかなって思ってたから」
 その言葉に、私はハッと気が付いた。別府君が来たって事自体で動揺して頭からすっ
飛んでいたが、そういえば自分はパジャマ姿だったのだ。羞恥で体がカアッと火照り、
思わず身を隠したくなる。しかし、今更そんな事出来る訳もなく、私は自分の腕で自分
の体を隠すように抱き締める事しか出来なかった。
『しっ……仕方ないでしょ。一応まだその……病人なんだから…… 明日には学校行け
るとは思うけど。あと、そんなにジロジロ見ないでくれる? はず……気持ち悪いから』

4513/6:2012/03/31(土) 19:52:50 ID:???
 本当だったら、今すぐにでもこの場から駆け去りたいくらいに恥ずかしい。とはいえ、
ここで取り乱したら後で余計に恥ずかしくなるだけだし。とにかく、大輝の奴が全て悪
い。別府君が帰ったら絶対に説教してやろうと、私は心に誓った。
「ゴ、ゴメン。そんなに見てるつもりはなかったんだけど……まあ、何ていうか制服以
外の委員長って見たこと無いから、何か新鮮でさ。まあ、その……と、とにかく、気を
悪くしたなら謝るよ……」
 別府君が申し訳無さそうな顔をして頭を下げるのを見て、いささか申し訳ない気分に
なる。不注意とはいえ、こんな格好で出てきた私が悪いのに、何だか彼のせいみたいに
なってしまったし。
『……も、もういいわよ。それより、渡すものはこれで全部かしら? だったら――』
 とにかく、今は早くお引取り願おう。あれこれ考えるのは後からでいい。そう考えて、
彼に帰るように促そうとした時だった。
『あらあら。ゴメンなさいね。わざわざ、届け物して頂くなんて』
 背後から唐突に母の声が響き、私は驚きでビクッと体を弾ませる。パッと振り向くと、
エプロンを外した母が、いそいそと廊下をこっちに向かって歩いて来ていた。
「え、えーと……」
 別府君も驚いた顔で、私を見た。何となく答えは分かっているけど、言葉に出て来な
い。そんな感じに思えたので、私は彼の後を継いで言った。
『ええ。ウチの、母よ』
 私の答えを聞いた途端、別府君がパッと立ち上がり、母に向かって深々とお辞儀をした。
「は、初めまして!! その……いいんちょ……いえ、静野さんのクラスメートの、えっ
と……別府タカシと言います。ほ、本日はその……」
『わざわざ涼香の為に、届け物しに来てくれたのね。ありがとう』
 ニッコリと微笑んでお礼を言う母の前で、別府君がしどろもどろになる。
「ああ、いえそんな。俺もその、頼まれて持って来ただけなんで、お礼言われるとか、
そんなんじゃ、全然その、ないですから……」
『いいええ。わざわざ時間を割いてくれたんだもの。そんな事無いわよ。ねえ?』
 謙遜する別府君の言葉を否定しつつ、母が同意を求めてくる。正直迷惑に思いつつ、
私は渋々頷いた。そして別府君を鋭く睨み付ける。私の意図を察したのか、別府君はか
まちに置いてあった自分のバッグに手を掛けて母に向き直る。

4524/6:2012/03/31(土) 19:53:11 ID:???
「いやその……静野さんには、その、いつも迷惑ばかり掛けているのでこのくらいは……
それじゃあ俺、そろそろ」
『別府君って言ったわよね? ちょっと、時間ある?』
 また母がとんでもない事を言いかけている予感がして、私はハッと母を見た。それか
ら慌てて余計な返事をしないように別府君に視線を向けようとしたが、既に遅かった。
「えっと、別に特に用事とかはないですけど」
『あら、そうなの。ちょうど良かったわ』
 両手を合わせ、首を軽く傾げてニッコリと微笑む母に、私は酷く悪い予感がしたが、
もはやそれを止める術を持ち合わせてはおらず、進んでいく事態を見守るしかなかった。
『今、ちょうどお茶を淹れたところなのよ。もし良かったら、別府君も少し上がって休
んでいかない? 外も寒いでしょうし、少し体を暖めていけば?』
『ちょ、ちょっと!!』
 ここでようやく私は口を挟む事が出来た。とはいえ、慌てて出した声はみっともなく
も上ずってしまい、私は慌てて口を押さえる。二人の視線が私に集まった事に気付き、
小さく咳払いして、私は母に小声で抗議した。
『母さん、何考えてるのよ。私、インフルエンザで休んでいるのよ? 知り合いなんて
家に上げられるわけ無いでしょう?』
『あら? 大丈夫よ。先生だって念のためにあと一日様子を見なさいと言われただけで、
もうほとんど完治しているじゃない。さっき、自分で言っていたでしょう?』
 一瞬、私は反論の言葉を失う。さっき自分で言った事が、こんな所で返って来るとは
思わなかった。とはいえ、別府君を家に上げてしまえば、ボロを出さない自信はないし、
大体こんな格好で男の子をお持て成しする訳にも行かない。
『それは、あくまで家族に対しての話よ。別府君は家に帰るんだし、外にまで菌を撒き
散らす訳には行かないわ』
 我ながら、この言い訳なら母も言い返せるわけないと自負する。しかし、母はあっさ
りと反論して来た。
『何言ってるの。もし、それでうつる様なら、もうとっくにうつっててもおかしくない
わよ。これだけ玄関先で話ししているんだから。大体、私がダメだと思ったら、貴女が
出る前に止めるし、そもそもこんな風に起き出している事を許すわけ無いでしょう?』
『で、でもだからって……』

4535/6:2012/03/31(土) 19:53:35 ID:???
 それ以上、決め手になるような理由を探し出せず私が言葉に詰まっていると、別府君
の方から助け舟を出してくれた。
「いえ。長々とお邪魔すると迷惑でしょうし、それにせっかく回復して来たのにここで
また体力使わせてぶり返したりしたら、僕の方も申し訳が立ちませんから」
 彼の言葉に、私は心の中でよくやったと頷く。正直、声に出して褒めてあげたいくら
いの気持ちだった。これなら、母も無理強いはしないだろう。
 と、思ったがそれはまだ、甘い考えだった。
『あら? 若いのにしっかりしてるのね。でも大丈夫よ。そこまで心配しなくても、こ
の子ってば、そこまでヤワじゃないから。もう食欲も回復してるし、どのみち夜まで起
きてるつもりだったんでしょ?』
 その言葉は、言外にもしここで別府君を帰すようなら、私もそのまま病人扱いに戻し
て、お茶抜きでベッドに戻すと、そういう意味に取れた。しかし今の私は、仮に今日一
日の残りを全てベッドで過ごせと言われても、そちらを選択するだろう。
『そんな訳ないじゃない。少しの間だけ、起きてようと思っただけで……少しでも疲れ
たら、すぐにベッドに戻るわよ』
 キッパリと母の言葉を否定するが、それはもはや、母の気持ちを代えるだけの力は持
ち合わせていなかった。
『じゃあ、別府君が帰ったら、寝ればいいじゃない。どのみち、お茶はリビングで飲ん
でいくつもりだったんでしょう? なら、一人くらい増えたって変わりないわよ。ねえ?』
『変わりあるわよ。よその人を呼び込むっていうのは、倍以上に体力使うんだから、身
内だけとは違うんだから』
 しかし、母は私の言葉を無視し、どうしていいか分からずに戸惑った顔を見せている
別府君に向き直った。
『涼香の言ってる事は気にしないでいいわ。いろいろ理由を付けてるけど、単に家に男
の子を上げるのが恥ずかしいってだけなんだから。貴方はどうなの? 迷惑かしら?』
「いえ。別に俺自身は迷惑ってわけじゃ、全然ないですけど」
 ほとんど誘導尋問のような母の問いを別府君が否定する。その瞬間、私はグッと小さ
く呻いた。ほぼ、敗北が決定した瞬間だった。
『なら、決まりね。どうぞ、上がって行って。大してお持て成しも出来ないけど、お茶
とお菓子くらいなら出せるから、ゆっくり休んでいって』

4546/6:2012/03/31(土) 19:54:14 ID:???
 これ以上断わり切れなくなったと悟ったのか、別府君は軽く頭を下げた。
「すみません。それじゃあ、ちょっとだけ……って、いいよな?」
 私に確認して来たので、私は不機嫌そうにそっぽを向くと、素っ気無く答えた。
『知らないわよそんなの。誘ったのは私じゃなくて母さんだもの。好きにすればいいじゃない』
 こんな急展開なんて、望んでいないのに。私は恋愛にハプニングなんて望んでいない。
段階を踏んで、少しずつ前に進んでいくのが望ましいのに。何だか、友紀も母も、グル
になってるんじゃないかと疑心暗鬼になりつつ、私は仕方なく別府君をリビングに案内
するのだった。


続く
大分時期外れになってきたが

とりあえず、4月になったら本気出す

455以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/01(日) 01:17:53 ID:???
GJ!
続き期待

456以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/01(日) 03:16:23 ID:???
GJ
もう四月だぜ

457以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/01(日) 18:48:32 ID:???
>>454
4月だぞ起きろオラア!!!!!!!!

4581/3:2012/04/02(月) 20:39:50 ID:???
 もう三月だというのに寒い。
 俺は頬に当たる冷たい風を感じつつ歩いていた。大した用事ではなく、単にコンビニに行った帰りである。食料と雑誌の入ったビニール袋を提げて、
一向に咲く気配のない公園の桜を見ると、寒さがより一層、身に染みるようだった。
 家に着くと、玄関に家人のものではない女物のスニーカーが置いてあった。台所には『買い物に行ってきます。ゆっくり買い物に行ってきます。ロ
マンスの神様はきっと二人を愛してるから……ね?  母』と書き置きがあった。余白には『タカシ』と『あずさ』で相合い傘まで書いてあるという
サービス振り。
 ――うちのかーちゃんあたまおかしい。
 部屋のドアを開けると、果たして俺の彼女である梓ちゃんが寝転んで本を読んでいた。
「あ、おかえりー」
「くつろいでるな」
「いまさら遠慮してもしかたないでしょー。ボクが来たなら出かけてないでちゃんと出迎えなきゃダメじゃん」
「無茶言うなよ・・・・・・なに読んでるんだ?」
「エロ本」
「えっ」
「えっ」
 きょとんとする梓の手元にあるのは、確かに私が厳重に隠蔽していたアハンウフン本!
「ば、ばか! お前、なにやってんだよ!」
「固いこと言うなって。大丈夫、ボクはちゃんとタカシの性癖を受け止めるつもりだから」
「やめろ・・・・・・その暖かい目で俺を見るのをやめろ!!」
「そっかー、タカシは傾向として、全裸に靴下とか、全裸に眼鏡とか、すっぽんぽんに何かワンポイント身につけてるのがいいんだね」
「分析するな!!」

4592/3:2012/04/02(月) 20:41:26 ID:???
 閑話休題。
 ショックから立ち直ると、俺は
「こほん、それで、何か用かね?」
と尋ねた。立ち直るのには20分ほど時間を要したが、ともかく。
「うん、それ渡しに」
 先ほどと同じ姿勢で、しかしエロ本は取り上げたので普通の漫画を読みつつ、梓は答えた。顔はページから話さず、指だけで示す。その先には、不
器用な包装の包みがあった。
「……なに、これ」
「本当は、バレンタインにあげるつもりだったんだけど、間に合わなかったから今日になったの」
 まるで台本を読み上げるかのように淡々とした梓に多少の違和感を感じつつ、包装を解こうとしてはたと思い出した。
「……あの、バレンタインに貰ったケーキみたいなことはないよな』
 そう、あの狂乱に満ちたバレンタイン。
 渡された箱の中身は製作者曰く『チョコレートケーキ』だったはずだが、『動く』『滴る』『発火する』という、およそケーキどころか食品とは思
えない特徴を備えた異形だった。無論、インポッシブルなミッションを伝え終えたように、自動的に消し炭になったケーキを食べられるわけもなく。
「あ、あれは、ちょっと失敗しただけだよ!」
「ちょっと……だと?」
 あれが『ちょっとした失敗』なら、アメリカ大統領が間違って核ミサイル発射しても『けっこうな失敗』で済むだろう。
 戦慄を禁じえない俺に、梓はマンガを放り出し、焦ったように続けた。
「それに説明したじゃん。『動く』のはケーキ内で発生した炭酸ガスの圧力のせいで、『滴る』のは単に生焼けだっただけで、『発火した』のは食用
油が酸化して熱を帯びたわけで」
「そこじゃねぇんだよ、説明が欲しいのは!」
「もー、いいじゃん! 代わりにこれ用意したんだからね。今度は食べ物じゃないから!」
「……解ったよ」
 俺はそっと包装を解いた。包装の素人くささから、これも手作りの一品だろうという予測はできたが、それがもたらす結果は予測不能だ。
 やがて、中から現れたものは、細長い毛糸の塊だった。
「これは・・・・・・マフラー?」
「マフラーだよ」
 とそこまで言ってから、梓は早口で付け足した。
「質問は受け付けないから……!」
 見れば、顔を漫画本で覆い隠している。
 質問と言えば、まぁ、確かに客観的には、お世辞にもいい出来とは言えない。編み目も不揃いだし、全体的にでこぼこに歪んでいて、オレンジ色の昆
布みたいなフォルムだった。なるほど、そっけなかったのはこれが原因というわけか。
 だが! 今この場で客観的な視点がどれほどの価値があるのだろう? そんなものはドブに捨ててしまえばよろしい。
 重要なのは。このマフラーが、梓が俺のために苦労して作ってくれた一品(そして勝手に動いたり鳴いたりしなさそう)であるという、その事実のみ! 
 俺は颯爽とマフラーを首に巻きつけると、胡坐をかいた膝をぽんぽんと叩いた。
「うむ、とりあえず梓。俺の膝に座れ」

4603/3:2012/04/02(月) 20:41:57 ID:???
「うぇ!?」
 その一言で、梓は弾かれた様に顔をこちらに向けた。
「い、いきなり何言ってんだよ!」
「いいから。俺のイチャラブしたいメーターが振り切ったのだ。予告するが、今からお前を膝の上に乗せて、首にこのマフラーを二人で巻いて、一緒に
アフタヌーンを読む。決定事項です」
 抗議の声も無視して、俺は再度、膝をぽんぽんと叩く。
「ど、どんだけー・・・・・・」
 呆れながらも、のそのそと動き出す梓を見て、顔が自然ににやけていく。
「そんなこといって、結局は俺の膝へ移動する梓が大好きです」
「そ、それは・・・・・・ だって、その・・・・・・タカシの部屋の漫画はもう読み飽きたから、新しいの読みたいし」
 素敵な言い訳いただきました。俺の膝に収まった梓にマフラーをかけてやり、一方の端は俺の首に巻き付ける。
「本当はこういうのちょっと狙ってた?」
「そ、そんなわけないだろ!」
「でも、なんか妙に長めのような気がしますけど……」
「うっさい! ふん、まず最初は『無限の住人』読むからね」
「渋いっすね、梓さん。だが、俺はあえて『ラブやん』から読む派なのだ!」
「狭そうな派閥だねぇ・・・・・・」
「じゃぁ、間を取って、『謎の彼女X』から」
「それ単にページの話だよね」
「卜部さんの裸エプロンよかったなぁ」
「そうか、裸エプロンも『裸でワンポイントフェチ』に入るのか」
「まだ言うか。あ、そうだ、それならついでに言っておくけど」
「ん?」
「俺、『全裸にマフラー』って最高に興奮するんだけど、どうだろう?」
「はぁ!?」
「俺の性癖、受け止めてくれるんだよな?」
「げっ……う、うぅ〜、ずるい!」
 自分の言った台詞を思い返し、顔を真っ赤にして悔しげにこちらを睨む梓でした。

 あと、本人曰く『ちくちくしたのが擦れて新感覚』だったそうです。

461以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/02(月) 21:30:41 ID:???
あずさん可愛いしえろいし最高だなあ!
GJ!

462以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/02(月) 22:47:02 ID:???
裸マフラーやらすとかタカシもげろ

463以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/02(月) 22:56:08 ID:???
うげぇ!これは可愛いよ!

4641/4:2012/04/29(日) 03:53:54 ID:???
【ツンデレをしばらく放置してたら】

 しばらくボクっ娘を放置していたら、何やら拗ねてる様子。
「…………」
 ふくれっ面をしつつも、微妙に俺の視界に入る位置をキープしている。その程度の冷静さはあるようだ。
「はぁ……仕方ない、目を潰してボクっ娘を見ないようにし、このストレスから解法されよう」
「もうちょっとマシな解決方法あるだろっ! ていうかとっととボクに話しかけろっ!」
 ものすごい勢い込んでこっちに寄ってきた。びっくりした。
「こんにちは」
「こんにちは! 挨拶は大事だけど、でもそうじゃない!」
「先手を打たれた。もうダメだ」
「いちいちくじけるなっ! とにかく、ずーっとボクを無視してた理由をお尋ね申すよ!」
「や、無視じゃなくて。何かと忙しくて放置してただけです」
「……ホントに? ボクに飽きたとかじゃないの?」
「不安げな表情がそそりますね!」
「ふ、不安なんてこれっぽっちもないよ! でも飽きたかどうかだけ一応聞いておくよ!」
「つーか、飽きるほどお前の身体を貪ってないぞ」
「かかかっ、身体って! 身体って! ま、まだそーゆー関係じゃないよっ!」
「まだ?」
「い、いーからいちいち食い付くなっ!」
「ふむ。まあいい、ともあれ、ようやっと暇になったのでまたお前と遊べるぞ。よかったな、梓?」
「うんっ!」(満面の笑み)
「…………」
「…………」(気がついた)

4652/4:2012/04/29(日) 03:54:19 ID:???
「……あー、その。さしもの俺も照れますよ?」
「ちっ、ちちちっ、違う違うよっ! タカシと一緒で嬉しいとかじゃないもん! ま、またタカシに嫌がらせできて嬉しいなーの方の嬉しいだもんっ!」
「あー、うん。そだな」ナデナデ
「そ、そだもん。それ以外ありえないもん」
「でも、今日は忙しいからまた明日な」
「え……」
「そんな地獄に落ちたみたいな顔するない」ナデナデ
「そ、そこまで絶望的な顔してないよっ! ……で、でも、本当に今日も忙しいの? どしても?」
 梓は俺の手を握り、必死な顔で聞いてきた。心がぐにゃりとなる。
「……あー、や、どうしても、ではない」
「やたっ! じゃ、じゃあさっ、じゃあさっ、今日は一緒に遊んでも大丈夫だよね? ね?」クイクイ
「ま、まあ」
「じゃあ、じゃあ、うち来て、家!」
「はぁ」
 というわけで、梓宅。
「えへへ、えへへへー。久しぶりだなー、タカシがこの部屋に来るの久しぶりだなー♪」
 もう超ご機嫌な感じで梓が俺の隣でニコニコしているわけで。
「そんな久しぶりか?」
「一ヶ月ぶりくらいだよ! ちょー久しぶりだよ、ちょー!」
「言う程でもないだろうに」
 そう言いながら、梓が用意してくれた茶菓子を手に取る。
「あっ、それね、それね、前にタカシが食べておいしいって言ってたお菓子だよ。ど、どかな? おいし?」
「もぐもぐ。まずい」
「ご、ごめんね……」(涙じわーっ)

4663/4:2012/04/29(日) 03:54:42 ID:???
「泣くなッ! 冗談に決まっとろーが!」
 慌てて梓の頭をなでる。なんか今日のコイツおかしい。いや普段も結構な割合でおかしいが、今日はそれに輪をかけておかしい。
「うぅ……今日もタカシはいじわるだよ。いじわるサンバだよ」
「ヒッヒッヒ。さあ今度は誰の子を取り上げるかな?」
「産婆違いだよ! ……えへへ、こういうやりとりも久しぶりだよ♪」
「いちいち嬉しそうにするない」
「し、してないよ! ちっとも嬉しくなんてないよ! ……で、でもホントはちょっぴり嬉しいから、さっきみたいなのもっと言って」
 何やら恥ずかしげに俺の服の袖をちょっと引っ張る梓。変なところで照れる奴だ。
「分かった。じゃあ何かボケろ」
「と、突然言われても……ど、どしたらいいかな?」
「じゃあ、思いつくまで適当に遊びましょう」
「そ、そだね、そだね! 何する? 何する?」
「うーん、そうだな……」
 ぐでーっと横になって考えるフリをしてると、梓がすすすーっと寄ってきた。
「ん?」
「べ、別に?」
「ふむ。……梓、おいで」
「お、あ、う……ぼ、ボクは別にその、あの……えと。……い、いいの?」
 何やら葛藤があったようだが、欲求の方が勝ったようだ。
「知らん。少なくともお前がいいなら俺は問題ない」
「じゃ、じゃあ、その、行くけど……べ、別にタカシのことを好きとかじゃないからね! 久しぶりで寂しかっただけだからね!?」
「それは言い訳になってるのか?」
「うっ、うるさい! で、いいのっ!?」
「ダメ」

4674/4:2012/04/29(日) 03:56:06 ID:???
「あぅぅ……」(涙目)
「すぐ折れるな。冗談に決まっとろーが」
「あっ……」
 ぐいっと梓を引き寄せる。すっぽりと、梓の身体は俺の胸に収まった。こういう時、小さいと便利。
「……あ、あぅ」
「何を赤くなってるか」
「あ、赤くなんてなってないよ! ちょっとなんか泣きそうなだけだよっ!」
「なんでやねん」
「だ、だって、久しぶりに抱っこされたし……あ、あのさ、他意はないんだけどさ、ちょこっとだけしがみついていい?」
「他意しかねーだろ」
「い、いーじゃんよーっ! 久しぶりなんだしっ! ここまでしたら後は似たようなもんだよ!」
「あー、まあいいよ」
「うぎゅむーっ♪」
「言う前にしがみついてるし……」
「くんくんくん……はふぅ。タカシの匂いだぁ♪」
「嗅いでいいとは言ってないぞ、変態娘」
「へ、変態じゃないよっ! その勲章はタカシにこそ似合うんだよっ!」
「へーへー」ナデナデ
「あっ、なでられながら抱きつくのいいっ! もっとなでて、ボクがクンクンしてる間なでてて?」
「……まあ、放置してたのは俺だし、いいか。分かった、俺も気合を入れよう。フオオオオ!」ナデナデ
「ふおおおお!」クンクンクン
「何の集団だ、これ」
「手が止まってるよ!」クンクン
 よく分からない休日だったという噂。

468以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 10:53:12 ID:???
|з・`)b グッ!!

469以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 11:07:19 ID:???
gj

470以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 12:41:17 ID:???
>>467
ボクッ娘甘えん坊過ぎるwwwwww

471以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 12:57:36 ID:???
>>467
なんだこのボクっ娘かわいすぎんぞおい!

4721/4:2012/04/30(月) 03:08:29 ID:???
【ふみをしばらく放置してたら】

「とー。とー。とー」
 先ほどから知り合いの中学生であるところのふみが突然部屋にやってくるなり人の頭にチョップを乱打するので困っている。
「やめてください、このままでは首が埋まってしまいます!」
「そのくらい当然の罰です、おにーさんのばか」
「まあとりあえずその手を止めることから始めないか」
「知りません。おにーさんなんて首が埋まって人なんだか亀なんだか分からない存在になっちゃえばいいんです。おにーさんのばか」
「そう馬鹿馬鹿言うない。何がそんな気に食わないのか、お兄さんに言ってみてはどうだろうか」
 そう言うと、ふみはぴたりとその動きを止めた。突然のことに、少し不安になる。
「ふ、ふみ……?」
「……おにーさんのせいです」
「はい?」
「おにーさんが、ずっとずっと、ずーっと私に会わないように避けているからです!」
「えええっ!?」
「おにーさんが私を嫌っているなんて、まるっとお見通しです。でも、そんなの知ったこったないです。どんなに嫌おうが、私はおにーさんに嫌がらせを続けます」
「いやいや、いやいやいや。嫌ってないぞ? むしろ逆というか、その、アレですよ?」
「……逆って、なんですか」
「だ、だから、そ、その、アレだよ、アレ。わ、分かるだろ?」
「……わ、分かりません。ちっとも全然分かりません。詳しく説明お願いします」
「嘘つけ。じゃあなんで顔が赤くなってんだ」
「っ! こ、これは違います。私の恐るべき攻撃により、おにーさんの目が完全におかしくなっただけです」
「おかしくてもなんでもいいから、見当がついてるなら、それだから。だから避けてるとか思われると、悲しいぞ、俺は」
「うー……。じゃ、じゃあ、仮に、仮に、です。それなら、どうしてずっと会わないようにしてたんですか。嫌がらせですか。大成功ですよ、おにーさんのばか」
「ちげー。ちょっと色々と忙しくてな」
「……これからも忙しいですか?」
「ふむ。どうだと思う?」

4732/4:2012/04/30(月) 03:08:55 ID:???
「内容次第では殺します」
「も、ものすごく暇です」(ガタガタ震えながら)
「そですか。……で、実際のところは?」
「ああ、幸いにしてもう大丈夫だ」
「……本当ですか?」
「ふみに嘘なんてつかねーよ」
 安心させるため、ふみの頭に手をのせる。そして、ゆっくりとなでる。
「うりゅー……」
「うりゅー?」
「ち、違います。久しぶりの感触に泣きそうになっただけです。いや今のも違います。……ち、ちょっとこっち見ないでください、おにーさんの変態」
「あー……どうやら寂しい思いをさせちゃったみたいだな。ごめんな、ふみ」ナデナデ
「……ちょこっとだけ抱きつきます。目をつむって耳を塞いでください。しなかったら殺します」
 とても怖いので言うことをきく。フリをする。薄目を開けて少しだけ耳から手を離す。
「ふえぇぇぇぇぇん……」
 がっしと俺に抱きつき、静かに泣いてるふみ。
「よしよし」ナデナデ
「うぅ……おにーさぁん……」
 思わず頭をなでてしまう。ふみはスリスリと俺の胸に頬ずりした。
「ぐすぐす……それで、なんで手を耳から離してるんですか」
「あ」
 いかん、ばれた。殺される。
「……まあ、おにーさんのことですから、私の言うことなんてきかないと思ってたから別にいいです。なでなでしてくれたから許したとかじゃないです」
「なでなでが好きなのか」
「違います」
「よしよし」ナデナデ
「ち、違います。好きとかじゃないです。こんなので喜ぶほど子どもじゃないです」
「なるほど。ちなみに、他にされて嬉しいこととかあるか?」

4743/4:2012/04/30(月) 03:09:26 ID:???
「おにーさんの生命活動が停止する様を見るのは結構好きです」
「お前は俺に死ねと言うのか」
「虫ケラのように息絶えるおにーさん、素敵です」
「褒められても死ぬ気はない」
「残念です。……あと、まあこれはどうでもいいんですが、抱っことかされると、気持ち悪くて吐き気がします」
「なるほど、抱っこか」ギュッ
「おえーおえー」ムギューッ
「俺の三倍くらいの力で抱きつき返してませんか?」
「気のせいです」スリスリスリ
「あと、俺の胸にものすげー頬をこすりつけてません?」
「またしても気のせいです。あ、おにーさんもうちょっと屈んでください」
「はいはい」
 言われたようにちょっと屈むと、ふみは俺の首に腕を回し、背伸びしながら俺に頬ずりした。
「ん、んぅ……おにーさん、もっと屈んでください。足がぷるぷるします」
「いつになったら中学生平均の身長に辿り着くんだ、ちび」
「うるさいですロリコン」
 口では全く勝てないので、素直にさらに屈む。
「それでいいんです。まったく、おにーさんは今日もばかで困ります」
 そんなことを言いながら、うにうにと頬ずりをするふみ。
「……なんですか」
 自分でも思うところがあるのだろう、頬を染めながらふみが俺を睨む。
「ええと。また明日も会うか?」
「どうしても私に性的ないたづらがしたいんですね。他の女の子を被害に遭わせるのも忍びないですし、私が我慢しましょう」
「久しぶりだが、やっぱりお前は酷いな」ナデナデ
「……そう思うんだったら、そんな優しい顔でなでないでください。おにーさんのばか」

4754/4:2012/04/30(月) 03:09:47 ID:???
「お前と一緒で、天邪鬼なんだ」
「私は正直者です。天邪鬼なんかじゃないです」
「ところで、そろそろ帰らなくて大丈夫か?」
「……今日はちょっと遅くまでいます。理由は不明であり以後ずっと不明です」
「天邪鬼じゃない、と」
 ぷにぷにとふみの頬を押す。不満そうな顔でふみは俺を睨んだ。
「今日もおにーさんはいじわるです。大嫌いです」
「いでいで」
 がじがじと頬を噛まれた。
「……嫌いですが、ちょこっとだけ好きです」
「えっ?」
 そう言った刹那、ふみは俺の頬にキスした。慌ててふみを見ると、その顔は真っ赤に染まっていた。
「う、うぅ……こ、こっち見ないでください。おにーさんのばか。えっち」
「い、いや、このバヤイえっちなのはふみではないだろうか」
「う、うるさいです。おにーさんは黙ってちゅーされてたらいいんです」
 そう言いながら、再び俺の頬にキスするふみ。どうなっている。
「え、ええと。お返しをするべきであろうか」
「……べ、べきです。礼儀として、です。別におにーさんにちゅーされたいとかじゃないです」
「じゃ、じゃあ」
 ちゅっ、とふみの頬に口づけする。弾力があり、同時にふにふにで、甘いような気がするようなふみの頬。
「……え、えっち。おにーさんのえっち。おにーさんはえっちです」
「そんな赤い顔でえっちえっち言うない。こっちまで恥ずかしくなってくる」
「う、うるさいです。と、とにかく、お返しのお返しをする必要があります。礼儀は大事ですから」チュッ
「な、なるほど。じゃあそのお返しを」チュッ
 そのあとは、お返し地獄になったわけで。30回までは覚えてる。
「はぁ……はぁ……。お、おにーさんの、えっち……」
 だから、俺の顔が涎まみれで、ふみも顔中涎まみれなのも、不思議な話ではないです。

476以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 05:57:30 ID:???
>>475
ふみたん久しぶりGJ!!

477以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 11:20:43 ID:???
>>475
涎まみれとか超エロいです

4781/7:2012/04/30(月) 11:25:12 ID:???
・男と離れて初めて男の大切さが分かったツンデレ

「ね、ね。かなみちゃんも帰りミスド寄ってこうよ。友ちゃんもさっちゃんも渡辺さん
も来るしさ」
「うん。行く行く。ちょうど、小腹空いて来た所だし」
 新しいクラスで出来た友達に誘われて、私は席を立つ。中学時代以来の親友であり、
コミュ力は私と比較にならないほど強い友子のお陰もあってか、新しいクラスでの滑り
出しはなかなか良好だった。
「よっし。そんじゃいこ。もうみんな廊下で待ってるよ」
 半ば引き摺られるようにして教室を出て他のみんなと合流する。しかし、私の視線は
自然と、昇降口と反対側の隣りのクラスに吸い寄せられた。
「どしたの、かなみ? みんな行くよ?」
 友子に声を掛けられ、私はハッと振り向いた。
「ううん。何でもない。いこ」
 歩き出そうとした私の横に並んだ友子が、軽く肘で小突く。
「何よ?」
 怪訝に思って横を向くと、友子が意味ありげな笑顔を浮かべて、囁いてきた。
「気になるんでしょ?」
「何がよ?」
 質問に、私は突き放すように問い返す。友子が何を言いたいかなんて、重々承知の上で。
「またとぼけてる。別府君のことに決まってるじゃない」
「何であたしがあんな奴のこと、いちいち気にしなくちゃいけないのよ。バカバカしい」
 友子の追及に、私は不満気に睨み付けた。しかし友子の顔に張り付いたイヤらしい表
情は消えない。
「だって、違うクラスになっちゃったから、今までみたいに学校でおしゃべりとか出来
なくなっちゃったもんね。何してるのか、気になるのかと思って」
「あんな奴が何してようが、あたしの知った事じゃないわよ。ぜーんぜん、気にもなら
ないんだから」
「ふーん」

4792/7:2012/04/30(月) 11:25:35 ID:???
 友子は生返事をしたが、その顔は明らかに信じてませんって顔だ。しかし、ここで怒
ると友子のペースに嵌まると気付き、私はぶっきらぼうにそっぽを向く。
「フン。信じようが信じまいが友子の勝手だけどね。とにかくあたしは、全然アイツの
事なんて、考えもしてないんだから。いい?」
 すると友子が親しげに私の肩を抱き、耳元で言った。
「いいわよ。その辺も含めて、これからバッチリ聞かせてもらうから」
 これから、と聞いて私はそれが、ミスドでお茶しながらという事に気付き抗議の声を上げた。
「ええ? ちょ、ちょっと止めてよ。前のクラスの時だってアンタのせいでタカシなん
かと夫婦扱いされて凄い迷惑したのよ? また新しい友達に変に誤解させるようなこと
言う気なんでしょ。絶対ダメ!!」
 こういう尋問は、あたしがタカシの嫁という前提で話を振って来るから、どう答えて
も絶対納得しないし、答えないと勝手に話を盛り上げられるしでどうしようもない。もっ
とも、幼馴染のタカシとは、実際恋人同士に見えるような事もやってはいるから、自
業自得でもあるのだけど。
「ダメと言われてはいそうですかと素直に従う友ちゃんじゃないことは知ってるでしょ?
新しい友達と親睦を深める為にも、そういう事はちゃんと知っておいて貰った方がいいじゃない」
「何が、そういう事、よ!! あたしをダシに話を盛り上げたいだけでしょが。絶対ヤ
ダってば!!」
 無駄だと分かっても断固拒否する。するとそこで、廊下の端から声を掛けられた。
「おーい!! 友ちゃーん!! かなみちゃんも早く行こうよー!!」
「あはっ!! 今行くってば」
 笑って手を振ると、友子は私の腕を取り、グイッと引っ張って走り出した。
「ちょ、ちょっと!! 自分で走れるってば!!」
「アハハ。まあ、いーからいーから」
 何がいーからよ、と思いつつ、仕方なく引き摺られるようにして私は、友達の輪に入
り、ミスドに向かったのだった。

4803/7:2012/04/30(月) 11:26:06 ID:???

「疲れた……」
 部屋に入るなり、私は制服のブレザーをベッドに放り、そのまま自分も倒れ込んだ。
「友子の奴め…… ある事ない事、ペラペラペラペラと調子に乗りやがって……」
 語気も荒く、そう文句を吐き捨てると私はスカートのポケットに手を伸ばす。携帯の
着信メールが幾つか来ているのを確認して、私は携帯を開く。さっきまで一緒にお茶し
てた友達からのメールと、前のクラスの友達からのメールが少し。でも、肝心のアイツ
のは、ない。
「タカシの奴め…… サボってやがんな……」
 悪態を吐きつつ、まずは来たメールから処理する。新しい友達にはキチンと。前から
の友達には気楽に、友子には適当に返してから、タカシへのメールを打つ。
[一日一通くらいはメール寄越せって言ったじゃない。このバカ!! 何してんのよ]
 絵文字を取り混ぜて怒っている事を強調した文を送信する。
「うー…… いかん…… 着替えないと、せーふくのスカートに皺が…… お母さんに
怒られちゃう……」
 しかし、疲労した体で一度寝転がってしまうと、なかなか起き上がることは出来ない。
そんな葛藤で悶々としていると、携帯が着信音を鳴らした。
「き……来たっ?」
 ガバッと起き上がってメールを開く。
「……何だ。さっちゃんか……」
 律儀に返信くれる友達はありがたいが、それでもがっかりした気持ちは否めない。気
を取り直して返信してから、また寝転がる。
「うー……しまった。せっかく起きたのに、また寝てしまった……」
 起き上がったのなら、部屋着に着替えるくらいすれば良かったのにと後悔するがもう
遅い。再び襲い来る疲労感と戦っていると、また着信音が鳴った。
「今度こそアイツよね。じゃなかったら承知しないんだから……」
 今度はさっきほど勢い込まず、寝転がったままメールを開く。
「……友子か…… 後でいーや」
 ベッと携帯を放り捨てると同時に、もう一通メールが来た。
「次こそは……あのヤロー……」

4814/7:2012/04/30(月) 11:26:32 ID:???
 しかし、今度もまた別の友達だった。この子はまだ知り合ったばかりだから気力を振
り絞って愛想のいいメールを作って送る。さらにさっちゃんからの再返信メールだった
り、今日遊んでない子からのメールも来たりしたが、肝心のタカシからは、一向に来ない。
「いい加減にしなさいよね!! 全く……っ!!」
 我慢しきれず、もう一通催促のメールを作る。
[何やってんのよこのバカ!! このあたしがメールしてやってんだから、さっさと寄
越しやがれーっ!!]
 ビシッという効果音が付く勢いで発信させる。と、1分経たずに着信音が鳴った。
「はやっ……って、どーせ違うんだろうけど」
 それでも僅かな期待を無視することが出来ず携帯を開く。From:タカシ。
「やっとか……ホント、何やってたのよアイツ。あたしからのメール無視するなんて最低」
 ぶつくさと文句を言いつつメールを開いた。
[ゴメン、寝てた。新しいクラスだと、色々と気疲れしちゃってさー かなみへのメー
ルの文面考えてたらいつの間にか……]
 忘れられていなかった事に、私はちょっとホッとする。もっとも、やきもきさせられ
た怒りが全部消え去った訳じゃないので、嫌味の一つや二つでも言ってやらないと気が
済まないと私は返信メールを作る。
[なーにが気疲れよ偉そうに。日頃ダラダラし過ぎてるから、ちょっと慣れない環境に
なっただけで疲れちゃうんじゃないの? だらしないわね、全く]
 そんな文章を打ちつつも、気が付くと私の表情は緩んでいたのだった。


「ハァ……」
 それから数日後の放課後。小さくため息をつく私を見逃さず、友子が絡んで来た。
「どしたの? ここんトコ、別府君に会えてないから、禁断症状でも出てるとか?」
「何でもかんでもアイツに絡めようとするな。このバカ!!」
 てい、とばかりにバッグを友子に振り下ろすが、友子はそれを素早くキャッチする。
「あっぶないわねー。こんなもん直撃したら、頭はともかく首がおかしくなっちゃうじゃない」
「フン。大人しく食らった事なんて一度だってないじゃない」
 しかめっ面で舌を出して見せると、友子は軽く笑った。

4825/7:2012/04/30(月) 11:26:55 ID:???
「だーって、かなみの攻撃ってすぐ先が読めるんだもん。避けるの簡単だし」
「人を鈍いみたいに言うな。友子が特殊なだけでしょーが」
 新聞部一のゴシップ記者を自認する友子の反射神経は異様なほどに良い。それを指摘
すると、友子は両手を腰に当て、胸を張った。
「まーねー。いちお、鍛えてますから」
 自慢する事じゃないだろ、と私は軽くこめかみを抑えた。友子の暴露記事が原因で失
墜した者や破局に追い込まれたカップルは何人もいる。
「んで、その新聞部の方はどうなのよ? 新入部員とか入ったわけ?」
 私の質問に、友子は思い出したように顔を上げてポン、と拳を打った。
「そうそう。今日はその新人に校内極秘スポットを教え込まなくちゃいけないから、か
なみとは遊べないよって言いに来たんだった。そんじゃ、また」
 シュタッ、と手を上げて挨拶すると、友子は消え去るような素早さで教室から出て行
った。残された私は、深々とため息をつく。
「全くもう…… さすがゴシップばっか扱ってるだけあって、ホント変なトコばっか気
が付くんだから……」
「あ、そうそう。忘れてた」
 いきなり傍で友子の声が聞こえ、私は思わず絶叫した。
「うわあああああっ!! どどど、どっから出てくんのよアンタわ!!」
 ドキドキする心臓を抑えながら文句を言うと、友子はフフン、と得意気に笑う。
「この業界で生き残るには、神出鬼没さは必須だからね。と、言いに来たのはそんな事
じゃなくて」
 途中で言葉を切ると、友子は顔を私の傍に近づけ、耳元でそっと囁いた。
「別府君の事が気になるんだったら、自分から積極的にならないとダメだよ。うかうか
してると、いつの間にか他の子が取ってっちゃうかも知れないからね。気を付けなよ」
「なっ…… 何言ってんのよアンタはっ!!」
 思わず友子に向き直って怒鳴ると、友子は素早く距離を取って私からの攻撃に備えつ
つ、真面目な顔でチラリと背中を――タカシの教室がある方を――一瞥する。
「単なるおせっかいだから、聞くも聞かないもかなみ次第だけどね。でも、新しいクラ
スでも、別府君結構人気だよ。それじゃ」

4836/7:2012/04/30(月) 11:27:41 ID:???
 そう言い置いて、友子は再び、私の視界から消え去った。しかし、友子の言葉が、私
の胸には錐のように突き刺さっていた。
「自分から積極的にって…… そんな事出来たら、苦労しないのに……」
 誰にも聞こえないように小さく、口の中で私は呟いたのだった。


 今日は、特に他の子たちとも遊ぶ約束がなかったため、私は一人教室を出た。
「こういう時、大体タカシが隣にいてくれたのにな……」
 今にしてみると、タカシは結構マメに私の相手をしてくれていたような気がする。メー
ルとか電話は無精者だが、いて欲しいと思う必要がないくらい、いつだって傍にいて、
構ってくれていたから、寂しいだなんて感じた事なんて一度もなかった。
「べ、別にあんな奴いなくたって…… 寂しいとか思わないし」
 小さく、自分の想いにツッコミを入れる。そんな事をしても全然気は紛れなかったが、
いないものは仕方が無い。バッグを持って、教室を出る。もしかしたら笑顔のタカシが
そこで待ってて……なんて一瞬期待したがそんな事は全然無く、私は一人、昇降口へ向
かおうとした。その時だった。
「ほらほら。別府君、早く早くーっ」
 背後から聞こえた女子の声に、私は咄嗟に立ち止まって振り向いた。自分のクラスを
挟み、二つ向こうの教室がタカシのクラスだ。その入り口に知らない女子がいて、何か
を引っ張り出そうとしている。
「ちょっちょっちょ…… 待てってばおい!! ちゃんと行くから引っ張るなって」
 慌てた男子の声が続いて聞こえる。それは紛れも無く、タカシの声だ。
「ダメダメ。そんな事言って、逃げようとするんでしょ? 約束なんだから、果たすま
で帰さないんだからね」
 えいっとばかりにタカシを引っ張り出したその子が、親しげにタカシの腕に腕を絡めた。
「だから待てって。つか、離せ。そんなガッチリ捕まえなくたって逃げたりしないってば」
「いーじゃん別に。それとも、あたしと腕組むのイヤとか?」

4847/7:2012/04/30(月) 11:28:19 ID:???
 見ていられなくなって、私は二人から背を向けた。友子の言葉が脳裏にリフレインす
る。まだ新しいクラスになってひと月も経っていないのに、いつの間にあんな親しい娘
が出来たんだろう。確かに、タカシは人付き合いが得意で、前のクラスの時も男女区別
無く友達は多かったが、あんな風に馴れ馴れしくするような子はいなかったのに。
「そんな……嘘……」
 もう一度振り返る勇気なんて無く、背後から聞こえる二人の声から逃げるように、私
は耳を塞いでその場から走り去ったのだった。


続きは夜にでも

485以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 11:49:22 ID:Ob915XK2
>>475
ふみはやっぱり可愛いなあ
GJ!!

>>484
乙女なかなみさん可愛い
続き超期待

4861/8:2012/04/30(月) 22:10:49 ID:???
・男と離れて初めて男の大切さが分かったツンデレの続き(>>478-484

 家に帰ると、ただいまも言わずに部屋に駆け上がり、制服のままベッドに飛び込む。
ずっと走って来たから息も上がっていたが、それ以上に心臓が締め付けられるようで、
私はしばらくベッドに横たわりながら悶絶していた。
「嘘……タカシが他の子とだなんて……そんな……」
 今まで、意識しなくてもタカシが傍にいた事に、今更ながらに気付かされる。それが
どんどん遠くなって行くのを感じていた。
「もし、タカシから彼女が出来たなんて言われたら……」
 想像するだけで、涙が出て来る。布団で顔を拭い、まだ決まった訳じゃないと自分に
言い聞かせる。
「でも……このまんまじゃ……手遅れになっちゃう……」
 友子の言葉が脳裏を過ぎる。あの情報通の友子が言った事だけに、今となっては真実
味を増して聞こえてくる。今日、タカシにベタベタしていたあの子は、間違いなくタカ
シに気があるのだろう。でなければ、あんな風に腕を絡めて甘えるような仕草を取ったりしない。
「……自分から積極的に……だなんてそんな……」
 それは、他人に取られたくなかったら、自分から告白しなさいという事なのだろう。
でも、そんな事恥ずかしくて言える自信ない。むしろ恥ずかしさに負けて、ついつい面
罵してしまいそうだ。そもそも、タイミングをどうすればいいのだろう、とか、どうい
う言い方をすればいいのだろうか、とか想像しつつ悶々としていたら、不意に携帯が着
信音を鳴らした。
「こんな時に……って、タカシからだ……」
 他にも複数件、メールが来ていたが、全然気付かなかった。他の子には後で言い訳し
ようと思いながら、タカシのメールを真っ先に開く。内容は、今見てるテレビのお笑い
番組についてだった。私も好きで、同じクラスの時はよく話題にしてた番組だ。
「全く、人が悩んでるってのに、アイツってばのん気に何書いてんのよ……」
 文句を言ってから、私は気付く。このままだと、こんなメールすらもう来なくなるか
も知れない。来ても、私にはあくまで幼馴染の友達としてのメールで、他の彼女ともっ
と親密なやり取りをするのだろう。私を優先してメールしてくれるなんて、それがどれ
だけ幸せなことか、私は今まで、全く気付きもしなかった。

4872/8:2012/04/30(月) 22:11:16 ID:???
「今やらなきゃ……手遅れになっちゃう……かも……」
 一日、一日、日が経つごとに私との縁は薄れ、今日の子との結び付きが強くなるかも
しれない。そんな不安が私を急き立て、私は決意してメールを打った。
[今日は気が乗らないから見てない。それより、見終わったらちょっと会えない? 少
しの時間でいいんだけど……]
 一瞬、送信ボタンを押す時に決意が揺らぎそうになるが、グッと気を引き締めてから、
ボタンを押す。それから、ベッドにドサッと横になると、ギュッと体を丸めて、タカシ
からの答えを待つ。
「……もし、忙しくて出て来れないとか言われちゃったら……もう、勇気出せないかも
知れない……」
 ただ待つのが、苦しい。まさか、タカシとの仲で、こんなにも辛い想いをするなんて
思ってもみなかった。時計をチラチラと見ても、全然針は進んでくれない。早く返事が
来てくれと、私はただひたすらに念じた。そして、ようやく着信音がなった時、私はも
どかしさを感じながら、急いで携帯を開く。
[何だよー、見てないのかよー。超面白かったのに。で、会えないかって何で? 出ら
れないこともないけど]
 文面から漂うのん気さが、腹立たしかった。断わられなかった事の安堵と怒りのパワー
の勢いのままに、メールを打つ。
[テレビの話題とか今はどうでもいい!! とにかく出て来れるんだったらつべこべ言
わずに来なさいよ。いいわね?]
 ためらわずにメールを送ると、私は立ち上がってジャケットを羽織ろうとして気付く。
「そういや、制服着たままだったっけ……」
 一瞬、そのままでもいいかと思ったが、やはり思い直した。帰って何時間も経ってる
のに未だに制服着てたとか、何してたって思われるだろうし。まだ少し時間があるので、
私は急いで制服を脱ぎ捨てると、クローゼットから着替えを引っ張り出した。


 4月といえ、夜はまだ肌寒い。もうちょっと厚着した方が良かったかなと思いつつ、
待ち合わせ場所の公園で、私はタカシを待った。
「わりぃ。待ったか?」

4883/8:2012/04/30(月) 22:11:36 ID:???
 タカシの声に、振り向いて私は文句を言った。
「すごい待った。どんだけ待たせれば気が済むのよって言うくらい」
「だって、テレビ見終わってからでいいって言ったじゃん。それから速攻準備したんだ
ぜ? むしろお前の方が早く来過ぎだろ」
 言い返されて、私はカチンと来てタカシを睨み付けた。
「しょうがないでしょっ!! こっちは居ても立ってもいられなかったんだから。のん
気なアンタとは違うのよっ!!」
「は?」
 キョトンとするタカシに、私は自分が余計な事を口走ったのに気付く。
「な……何でもないわよっ!! 今のは忘れてくれていいから」
 慌てて打ち消してから、私は顔を背けてうつむいた。腹立たしいけど、私の悩みなん
て理解出来る方がおかしいのだから。
「で、用事って何? 結構急ぎの事なんか?」
 私の発言から、どうやらタカシは私が焦っているらしいと感じたようだった。確かに
焦っているといえばそうだけど、多分タカシが思っている事とは若干違うだろう。その
誤解を解く為に、私は一つ前置きする。
「……べ、別に焦ってる訳じゃないわよ。ただその……今日中に一つ、確かめておきた
い事があるってだけで……」
「確かめたい事? 俺に?」
 鸚鵡返しに聞くタカシに、私は頷く。ドキドキする左胸に手を置いて、乳房の下の肉
をグッと鷲づかみに強く掴んで気持ちを落ち着かせようとする。そして、一つ深呼吸し
てから、私はしっかりとタカシを見て、口を開いた。
「……あのさ。今日の放課後……アンタといちゃついてた子、いたでしょ? その……
あの子と、どういう関係なのかなって……」
 最後まで言い切ってから、私は急に臆病心に負けてうつむいてしまった。こんな質問
をしてしまって、タカシにどう思われるのだろうか? それを考えるだけで怖くて堪らない。
「放課後いちゃついてたって……誰と?」
 何か分かってない風な返事に、私は思わず気が殺がれてガクッとなってしまう。それ
でも顔を上げることは出来ずに怒鳴った。

4894/8:2012/04/30(月) 22:11:56 ID:???
「や、やってたじゃない!! 誰だかなんて私の方こそ知らないわよ!! そ、その教
室から腕掴まれて引っ張られて、その後仲良さそうに腕組んじゃってたじゃない。知ら
ないとは言わせないわよ!!」
「ああ。天江さんか。あれはその、いちゃついてたって訳じゃなくて、むしろ連行され
たというか、まあ、単にそんな感じなんだけど」
「それにしては、随分仲良さげだったじゃない。まるで恋人同士みたいでさ」
 自分が嫉妬してるのが露わになるような事を口走ってしまい、また恥ずかしさが増す
が、実際そうなんだから仕方が無い。
「そんな感じだったのかなぁ……? てか、お前見てたのか」
 タカシの言葉に、私は不満そうな態度で顔を逸らした。
「……たまたま居合わせただけよ。まるで覗いてたみたいに言わないでよね」
「いや。そんなつもりで言ったわけじゃないけどさ。うーん……何て言うか……まあ、いいや」
 困ったように答えるタカシの態度が気になって、私はチラリとタカシを見る。うん。
確かに何だか気まずそうだ。
「何よ。何か後ろ暗いことでもあるの?」
 そう聞くと、タカシは慌てて両手でそれを否定した。
「ち、違うってば。天江さんとは単に席が隣りってだけだし」
「ふーん。席が隣同士なだけで、あんなに仲良くなるんだ?」
 ジロリ、と半目で睨み付ける。すると今度は、タカシが顔を逸らして頭を掻いた。
「ま、まあその……彼女、明るくておしゃべりで、男女とか区別なく話しかけて来てさ。
俺とも話し合ったから、まあその……仲の良いクラスメートってくらいにはなったけど、
それ以上ではないし」
「ただのクラスメートってだけで、あんな風に男子とベタベタ出来るのなんて、あたし
的には信じられないんだけど」
 まるで浮気を咎める嫁みたいな態度で、私はタカシと天江さんの仲を追及した。もっ
とも嫁どころか今のところは恋人ですらない、ただの幼馴染なわけでしかないのだけれど。
「本人曰く、スキンシップは好きだし全然抵抗ないんだってさ。女子に対してだと抱き
ついたりしてるし。むしろ俺に対してこういうのって苦手なの?って聞いて来てさ。そ
したらその……俺だって強がってみせるしかないじゃん」
 ちょっと自棄になったような言葉でタカシが返す。それに私は、苛立たしげに鼻を鳴らした。

4905/8:2012/04/30(月) 22:12:20 ID:???
「フン。強がってるとか言って、ホントは嬉しいんじゃないの? あんな可愛い子にベ
タベタされてさ」
 私の問いに、タカシが顔をしかめた。それを肯定と受け止めて、私は文句をぶちまけた。
「ほら、みなさい。スケベ。どうせ、胸の感触とか意識して、鼻の下伸ばしてたに決まっ
てんだから」
 もっとも、私には本来、非難する資格なんてありはしないのだけど。そもそも、私は
一度だってタカシに甘えたり擦り寄ったりしたことあっただろうか? もちろん、した
いと思ったことはあるけど、せいぜい手を繋いだぐらいだったような気しかしない。
「うるせーな。女の子から親しげな態度取られたら、男なんて多少はドキッとするもん
なんだよ。女だって、イケメン男子に声掛けられたらドキドキするだろ? それと一緒だって」
 いい加減苛立って来たのか、タカシの語気が多少荒くなる。しかし私も引っ込みが付
かなくなっているので、けんか腰でやり返した。
「あ、ほら。逆ギレした。やっぱり後ろ暗いところがあるから、怒るんじゃないの?」
「別に後ろ暗くなんて全然ないけどな。たかがゲーセンに遊びに行くのに引っ張られた
だけの事だし。つか、お前が確認したいってのは、その事か? 俺と天江さんが付き合
い始めたのかどうかっていう」
 唐突に核心に触れられて、私は今までの怒りが一瞬で吹き飛んだ。ドキッと心臓が跳
ね上がり、体温が一気に上昇する。しかし、バツが悪かったので私は、わざと不機嫌な
態度のままで小さく頷いた。
「……そうよ。わ、悪い?」
 強気な態度の私を、タカシが睨み返す。それから、フンと一つ荒く鼻息をついて、視
線を逸らした。
「別に悪かねーけど。ただ、何だってそんな事を気にするのかと思ってさ」
「……だって、ヤダもん」
 咄嗟に出た言葉に、言った私自身が驚く。思わず口を押さえてどうやって弁解しよう
かと頭を巡らせる。だけど、そんな言葉は何も思いつかなかった。むしろ、本音の方ば
かりが、どんどんと溢れ出てきて、ついに私は我慢し切れなくなって、口から出してしまう。
「……タカシが、もしその子と付き合い出したりしたら……もう、こうやって会ってく
れなくなっちゃうでしょ? メールだって、今までみたいにくれなくなっちゃうでしょ?」

4916/8:2012/04/30(月) 22:13:06 ID:???
 不安が、口を突いて出て来る。一度言葉を切って、私はタカシからの返事を待つ。タ
カシは、ちょっと考えてから、小さく肩をすくめて答えた。
「そんな事はないけどな。誰と付き合い出したって、かなみは昔からの幼馴染なんだし、
メールだって会うのだって、拒否はしないけど」
「でも、一番じゃないんでしょ?」
 タカシの答えは予想の範疇内だった。だから私は即座に次の質問をぶつける。
「だって、やっぱり付き合い出したら、彼女の事が優先順位は一番になっちゃうでしょ? 
会うのだって、彼女の方を優先するし、メールだって、彼女からのを先に返信して、私
のは他の友達同様に、後回しにするんでしょ?」
 立て続けに聞く私を、タカシはちょっと呆気に取られた顔で見つめていた。言葉を切っ
て荒く息をつきながら、タカシの答えを待つ。ややあって、タカシは頷いた。
「……そりゃあまあ、彼女が出来たらそうなるだろうな。やっぱり、一番好きな子を最
優先にしたいし、そうでなきゃ彼女にも失礼になるだろうから」
「でも、私はヤなの!!」
 タカシの返事に、私は感情を爆発させた。
「私が一番でなきゃイヤなの!! メールも、会うのだって……私だって、タカシが一
番なのに……だから、タカシも私の事を一番にしてくれなきゃ……イヤなの……」
 感情が昂ぶりすぎて、目から涙が零れ落ちた。泣いてる暇なんてないのに。そう思っ
て、手で目を拭い、潤んだ瞳でタカシを睨み付ける。
「だから……もう一番じゃなくなったらイヤだったから……だからそれで……知りたかっ
たんだもん…… タカシがどう思ってるのかって……」
 ここまで言い切ってから、私は顔を伏せた。目をギュッて閉じ、涙が溢れそうになる
のを必死で堪える。こんな所で泣いたら、泣き落としみたいになる。そんなのフェアじゃ
ない。そんなみっともない事したくない。拳をギュッと握り、肩を震わせ、私はただひ
たすらに我慢していた。
「……なら、付き合うか?」
「え?」
 タカシの言葉に、驚いて顔を上げた。溜まっていた涙がまた一筋零れ落ちるが、そん
なの気にならないくらい、私の心はタカシの言葉に支配されていた。
「付き合うって……その……私が?」

4927/8:2012/04/30(月) 22:13:32 ID:???
「ああ」
 顔を逸らしたまま、タカシは頷いた。何気ない風を装った口調ながら、タカシも恥ず
かしいらしい。もっとも、その時の私に、そんな事気付く余裕すらなかったが。
「俺は、女の子だったら最優先にするのはやっぱり彼女になると思う。だから、その……
かなみが、俺に自分を一番にして欲しいって思ってるんだったら……俺の彼女になれば、
自然にそうなるから……」
 心臓がドッキンバックンとハードな鼓動を鳴らし続ける。体がヒートアップし過ぎて
いて、何だか思考が上手く定まらなかった。
「……っと、その……アンタは……いいの? あたしを、その……彼女認定なんかして……」
 熱に浮かされたような私の問いに、タカシは頷く。
「そりゃまあ……嫌だったら、そんな提案しないし。もう十年来の付き合いだろ? 別
に、一歩先の関係になったって、どっちかっつったら、遅いくらいだし」
 タカシの言葉をぼんやりと考える。つまり、タカシは前から私と付き合いたいと思っ
ていたのだろうか? 私がいっつも罵ってばかりで、全然甘える所を見せなかったから、
そういう関係になるのを躊躇っていたのだろうか?
「で、かなみはどうなんだよ? まあ、その……交換条件みたいで申し訳ないけどさ。
けれど、付き合ってくれないならやっぱりその……他に彼女見つけるしかないし、そう
なったらかなみを一番って訳にはいかなくなるけど……」
「そんなのはヤだ」
 タカシの問いに、キッパリと私は答えた。そして、強く首を横に振る。
「タカシに、他の彼女が出来るなんて許せない。私が……ずっとタカシの一番でいたい
んだから……」
 タカシが好きだ。失いたくない。ずっと一緒にいたい。ずっと傍にいて、ずっとおしゃ
べりして、くっ付いていたい。しかし、これだけタカシの事が好きで好きで堪らないの
に、私はやはり、意地っ張りだった。
「……だから、ずっと一番にしてくれるって言うなら……付き合ってあげても……いい……」
 ほとんど私から告ったようなものなのに、肝心な所をタカシに言って貰って、しかも
それを渋々承諾したように言うなんて、全く持ってみっともない。だけどタカシは、小
さく笑って優しく言ってくれた。
「全く…… まあ、とにかく、今からはかなみは俺の彼女ってことで、公言していいんだよな?」

4938/8:2012/04/30(月) 22:14:07 ID:???
「それはダメ!!」
 慌てて拒絶すると、タカシは首を傾げた。
「何でだよ? 今、付き合ってもいいって言ったじゃん。晴れて、カップルとして成立
したんじゃないの?」
「そ、それでも……公言されるのは恥ずかしいし…… だからその、必要に応じてって
事で……」
「つまり、俺にベタベタしてくるような子がいたら、そう言ってお断りしろってか」
 正確に私の意をタカシが伝えてくる。無言で小さく頷くと、タカシが呆れた声を上げた。
「全くしょーがねーな。このヤキモチ焼きが」
「う……うるさいっ!! 仕方ないでしょこのバカ!!」
 悔しくて罵りながら、私はタカシにしがみ付いた。
「お、おい? どうしたんだよ?」
 動揺するタカシを抱き締めながら、初めて私は、小さく甘えた声を出した。
「……私だって……タカシに、スキンシップ……されたいんだから……」
「はいはい」
 クスリと笑って、タカシが私の背に腕を回してしっかりと抱き締めてくれる。これで
ようやく、私は心から安堵して、タカシに身を委ねる事が出来たのだった。


終わり
かなみさんはヤキモチ焼き

494以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01(火) 01:45:46 ID:???
おい!ニヤニヤが治らないぞどうしてくれる!!
かなみさんかわいすぎんだろチクショウ!

495以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01(火) 07:36:36 ID:???
>>493
良過ぎ GJ!

496以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01(火) 08:33:26 ID:???
やべー可愛いわーああ!あああ!!

497以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/02(水) 00:14:10 ID:???
・ツンデレと戯れにつつきあいをしたら

男「うーむ……」
女「なに見てんだよ、タカシ」
男「いや……あのさ。なんかお前、太ってないか?」
女「はぁ? 俺のどこが太っただって? 舐めてんのかてめぇ」
男「ほら、腹のこの辺の肉が前よりぷにぷにと」ツンツン
女「ひゃうっ……! 脇腹弱いんだから気安く触んな!」
男「悪い、けど他意はないんだ。ただ勿体ないなと思うだけで」ツンツン
女「そういうのを余計なお世話っつんだよ、バカ」
男「このままでは、かつみの美腹筋がヤバいことになりかねんな」ツンツン、ツンツン
女「ひっ……だ、だからつつくの止めろってば!!」
男「女だから脂肪がつくのは仕方ないのかなぁ……あと、つつく度に体ビクビクさせて可愛いぞ」
女「てめっ……! 止めろっつってんのが分かんねーのか!」ビスッ
男「ぎゃ!!」
女「ふんっ、これでつつかれる方の気持ちが分かったかよ!」
男「目玉つつくのは反則だろ……」
女「自業自得だ、死ねバカタカシ」

498以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/02(水) 00:21:17 ID:???
・ツンデレと戯れにつつきあいをしたら

男「うーむ……」
女「なに見てんだよ、タカシ」
男「いや……あのさ。なんかお前、太ってないか?」
女「はぁ? 俺のどこが太っただって? 舐めてんのかてめぇ」
男「ほら、腹のこの辺の肉が前よりぷにぷにと」ツンツン
女「ひゃうっ……! 脇腹弱いんだから気安く触んな!」
男「悪い、けど他意はないんだ。ただ勿体ないなと思うだけで」
女「そういうのを余計なお世話っつんだよ、バカ」
男「このままでは、かつみの美腹筋がヤバいことになりかねんな」ツンツン、ツンツン
女「ひっ……だ、だからつつくの止めろってば!!」
男「女だから脂肪がつくのは仕方ないのかなぁ……あと、つつく度に体ビクビクさせて可愛いぞ」
女「てめっ……! 止めろっつってんのが分かんねーのか!」ビスッ
男「ぎゃ!!」
女「ふんっ、これでつつかれる方の気持ちが分かったかよ!」
男「目玉つつくのは反則だろ……」
女「自業自得だ、死ねバカタカシ」

499以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/02(水) 00:21:51 ID:???
間違って連投しちまったスマヌ

500以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/02(水) 01:18:02 ID:???
かつみんカワユス

501以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/04(金) 00:29:21 ID:???
最近はこっちも賑わってていい感じだ
まとめてだけどGJ

502以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/05(土) 14:51:49 ID:???
>>421-425,449-454の続き投下

4月になったら本気出すと言いつつ、5月にまたいでしまった
もうインフルの時期なんぞ遥か遠い昔なのに……

5031/8:2012/05/05(土) 14:52:36 ID:???
・風邪を引いて休んだツンデレの家に男が見舞いに来たら その3

『いいわ。適当に座ってくれる』
 点けっ放しだったテレビを切り、私はソファに腰を下ろす。少し離れて、別府君が腰
を下ろした。
「えっと……その、本当にゴメン。委員長が迷惑だってのは分かってたけどさ……」
『いいわよ。強引に押し切ったのは母なんだもの。もっとも、キッパリ断わり切れない
貴方もどうかとは思うけどね』
 別府君が悪くないのは百も承知だけど、それでも嫌味の一つや二つも言わないと、とっ
ても腹の虫が収まりそうになかった。
「いや、その……あの場じゃあれ以上断わりようがなかったし……つか、出来る限り長
居しないようにするからさ」
『当たり前でしょ? 病人の家に長居するなんて、常識で考えられるわけないじゃない』
 情け容赦なく彼の言葉を切り捨てていくと、別府君がますます小さく体をちぢこませ
た。さすがに、これ以上いじめ過ぎるのも申し訳ないので、何か話題を変えようと、そ
う思った時だった。
「しつれーしまーす」
 大輝がお盆に菓子を持った皿を乗せてリビングに入って来た。
「かーちゃ……おかーさんが先にこれ、持ってけって」
『分かったわよ。そこに置いといて』
 テーブルを指して、さっさと出て行くように手で合図する。しかし大輝は、別府君の
前に立つと、ペコリとお辞儀をして挨拶した。
「初めまして。俺、弟の大輝って言います。ねーちゃんが、いつもお世話になってます」
「あ、どうも。こちらこそ初めまして。静野さんのクラスメートの別府タカシと言います」
 挨拶を返す別府君を見つつ、私はきな臭い物を感じていた。大輝があんな風に礼儀正
しく挨拶をするなんて、何か腹に一物持っているような気がしてならない。すると案の
定、大輝は別府君に突っ込んだ質問をし始めた。
「あの、一つ聞きたいんですけど、別府さんってねーちゃんとどういう関係なんですか?
彼氏とか?」
『ちょっと大輝っ!!』

5042/8:2012/05/05(土) 14:52:58 ID:???
 思わず大声で制止してしまってから、私はハッと我に返って別府君を見る。学校では
決して出さないような声に、別府君がちょっと驚いて私を見たのに気付き、私は素知ら
ぬ態度で、何事も無かったかのような態度を取って大輝を睨み付けた。
『全然違うわよ。ただのクラスメートで、友達でもないわ。それだけよ』
 危うい所で、地が出てしまうところだった。別府君の前でみっともない所なんて絶対
に見せられないのに。
「へー。友達でもないのに、女子の家に届け物とかするかなぁ。俺なら絶対ゴメンだけ
ど。色々とめんどくせーし」
「仲立(なかだて)に……っと、静野さんと仲が良い女子に頼まれたからさ。どうして
も行けないから届けてよって。どーせ暇だから良いでしょとか言われてさ。断わるのも
面倒じゃん」
「ああ。何かやたらと用事押し付けて来るよな。女子って。あーいうの、超ウゼーよな」
 納得したように頷く大輝に、別府君は愛想笑いを浮かべて返す。変に意気投合されて、
普段の私の事とかペラペラしゃべられると困るので、私は大輝に向けて鬱陶しそうに手
を払ってみせる。
『もういいでしょう? お客さんが来てるんだから、あなたはとっととあっちに行って
なさいよね』
 しかし、大輝はそう簡単には引き下がらなかった。
「もうちっといいじゃん。ねえ、別府さん。ねーちゃんてさ。学校だとどんな感じなの?
やっぱおっかない?」
『余計な事聞かないのっ!!』
 大輝の際どい質問に、つい声を荒げてしまい、私は慌てて口を押さえる。別府君がそ
れに、困ったような笑顔を浮かべつつ、手で私を制してから大輝の方を見て頷く。
「静野さんは……そうだね。大人しくて清楚な感じかな? 物静かで真面目でさ。さす
がは委員長っていう」
 別府君の私に対する評価に、つい私は嬉しくなってしまう。そうか。別府君は私の事
をそういう風に見てくれていたのかと。それから、すぐに思い直した。弟の前での話な
んだから、社交辞令込みに決まっていると。
「へー。何かねーちゃんって、家と全然違うんだな。家だとこうもっと――あイテッ!!」

5053/8:2012/05/05(土) 14:53:20 ID:???
 大輝に家での私の様子をバラされそうになって、慌てて私はチョコを一つ取って大輝
の顔に向かってぶつけた。頬を押さえた大輝が、私を睨み付ける。
「何すんだよ、ねーちゃん」
『あっちに行きなさいって言ってるでしょう? いい加減鬱陶しいのよ。分かる?』
 澄ました顔でそう言うと、私はソファに落ちたチョコを拾って包みを開け、口に放り
込む。正直、今はまだ何とかなっているが、いつまで平静を装い続けられるのかは自分
でも自信が無かった。しかも、さらに大輝が追い打ちを掛ける。
「ふうん。初めて男を家に呼んだのに邪魔されたくないってか」
 茶化すような笑顔を見せる大輝に、思わず手が出そうになるのを懸命に私は抑える。
そして大輝を無視すると、別府君に向けてそれを否定しておく。
『横で何か変な事を言ってるのがいるけど、気にしないで。間違いなく有り得ない事だから』
「へー。どうだかねえ。別府さんから見ても分かるでしょ? ねーちゃんってすっげー
奥手そうだからさ」
 私はキッと大輝を睨み付けた。しかし、一向に平気そうな弟の顔に、これは何を言っ
ても無駄だと悟った。これはもう、多少のリスクは込みでも実力行使に出るしかない。
そう思って立ち上がった時だった。
『ちょっと大輝。いい加減にしなさい。あんまりお姉ちゃんの邪魔しないの』
 キッチンから、呆れたように母が注意するのが聞こえた。
「ちぇっ。はーい」
 意外と素直に、大輝は引き下がってダイニングルームへと姿を消す。私はホッとため
息をついてソファに腰を下ろす。正直、別府君の前で大立ち回りなんてしたくなかった
から、ここは母に感謝だ。
「委員長の弟さんって、よくしゃべるんだね」
 別府君が、苦笑して肩をすくめる。それに私は、厳しい目付きで返した。
『何かおかしい? 私と正反対の性格で』
「いや、別におかしいって訳じゃないけどさ。ちょっと意外だなって思っただけで。そ
ういえば、お母さんもあまり人見知りしなさそうな感じだし」
『悪かったわね。私ばかり暗い性格で』
 揚げ足を取るように言って、私はちょっと拗ねてみせた。それに別府君が慌てて弁解
しようとする。

5064/8:2012/05/05(土) 14:53:41 ID:???
「いや、別にそんな事を言うつもりじゃ――」
 しかし、彼の言葉はお盆を持って入って来た母によって遮られた。
『ゴメンなさい、お待たせしちゃって。ちょっと電話入っちゃってね』
 そう断わりを入れつつ、リビングボードの傍にしゃがみ込んで、お盆に乗ったティー
カップを別府君の前に置き、次に私のティーカップを置く。しかし、私の前に出された
のが、可愛らしい猫の形をしたマイカップだったので、私は思わず母に抗議する。
『お母さん。何で私のカップがこれなのよ』
『あら? だってあなたのカップってこれじゃない。何か不満?』
『だって、人が来てるんだから……』
 こんな、子供向けみたいなカップは恥ずかしい、という言葉はグッと口の中に飲み込
んだ。そこまで言ってしまうと、却って余計に恥ずかしくなると気付いたからだ。
『何言ってるのよ。別に恥ずかしがるほどの事じゃないでしょう? それに、別府君が
来る前から準備してたんだもの。今更変えるのも面倒じゃない』
『……分かったわよ。もういいから、下がってよね』
 諦めたように言いつつ、私はチラリと別府君を一瞥する。予想通りの微笑ましそうな
顔つきに、何だか酷く居心地が悪い気がする。
『はいはい。それじゃあ別府君。是非、ゆっくりしていってちょうだいね』
「あ、はい。ありがとうございます」
 ソファに浅く腰掛けていた別府君が、そのまま頭を下げる。それに笑顔で軽く頭を下
げて応えつつ母が出て行くと、私は別府君に不満気な顔を向けて呟く。
『……何よ……』
「え? 何が?」
 わざとなのか天然なのか、そのまま聞き返す別府君に、私はため息をついた。
『気付いてないの? さっきからニヤニヤ笑ってること。何か、気持ち悪いんだけど』
 恥ずかしさを押し隠そうと毒を吐くも、全然役に立たない。そして、別府君の返事も、
予想通りだった。
「いや。何か委員長のカップが可愛いなって。あんまり学校でも可愛らしいグッズとか
使ってないからさ。何か意外だなって」
『悪い? 私だって女子だもの。可愛いものの一つや二つ持ってるわよ。ただ、お金掛
けて集めるほど執着はないってだけで、別にこだわりがあって使ってない訳じゃないわ』

5075/8:2012/05/05(土) 14:54:01 ID:???
 いささか自棄になって、私は答える。これで一つ、別府君に対する私のイメージが崩
れてしまった。
「いや。別に悪いとか思ってないし。学校だと、そういう所が見えないからさ。意外だ
なとは思ったけど、でもいいと思うよ。うん」
『……何か、バカにしてない?』
「してないってば。むしろ委員長に似合ってて良いと思うよ。そのカップ」
『……フン……』
 褒められて物凄く気恥ずかしくなり、私は鼻息も荒く紅茶に口を付ける。そして、砂
糖を入れてないことに気付き、思わず顔をしかめてしまった。
「どうかした?」
『何でもないわよ』
 こんな風に動揺しているなんて悟られたら、さらに私のイメージが下がってしまう。
別府君の問いを軽く流すと、私は何事も無かったかのように、グラニュー糖を紅茶に入
れると軽くスプーンでかき混ぜる。
『で、学校はどうなの? 私の他にインフルエンザに罹った人とかいない?』
 とりあえず当たり障りのない方向に持って行こうと、違う話題を振ると、別府君が頷
いて答えてくれた。
「ああ、それは大丈夫。クラスはいつも通り……というか、委員長がいないから、休み
時間の声が1.5倍くらい大きいかなって」
 その状況を想像して、私はため息をつく。
『ハァ……やっぱりね。いくら休み時間だからって、騒ぎ過ぎないようにって言ってる
のに、私が見てないとすぐそうなるんだから。どうせ、ホームルームの前とかも全然私
語が止まないんでしょう?』
「正解。先生が教卓をバンバン叩かないと収まらないって感じかな。それでも、委員長
の一喝には敵わないかな」
 普段は物静かな印象の私だけに、ごくたまに、どうしようもない時に出す一喝はそれ
だけで教室を静まり返らせる。今のクラスでは、一年間で二回ほどしか使っていない。
『あれはあれで、結構勇気がいるのよ。もっとも、大抵一度使えば、みんな気を遣って
そこまでの騒ぎにはならないから、まだ助かってるけど』
「だって、あれはビックリするもんな。委員長もあんな大きな声出せるのかって」

5086/8:2012/05/05(土) 14:54:21 ID:???
『別に好きでやった訳じゃないわよ。みんなが全然おしゃべりを止めようとしないから
仕方なくやっただけで。物凄く緊張するし、体力だって使うんだから……』
 本当は、単にイライラし過ぎて地が出てしまっただけの話である。今言った事は、そ
の後でいろいろ聞かれた時に取り繕った答えを、そのまま繰り返しただけの話だ。
「いや、分かってるって。だから、ほら。他の女子どもも気を遣って、委員長に協力し
てんだろうし」
『で、私がいないものだから、たがが外れてやかましくなってると。ホント、どうしよ
うもないわね。大体、さっきから偉そうなこと言ってるけど、大体いちばんうるさいの
って別府君じゃない。いつも、先頭に立って騒いでるんだから』
 私の指摘に、別府君は苦笑しつつ頭を下げた。
「いやー、申し訳ない。別にそんなつもりはないんだけどさ。何かしゃべってるとつい
つい盛り上がっちまうんだよなあ」
『言い訳なんてしてる時点で、大して反省してないじゃない。どうせ私がいないからっ
て、ここぞとばかりにはしゃいでたんじゃないの?』
「いやいやいや。そんな事ないってば。えーと……まあ、いつもと同じって感じかな?」
『ほら、やっぱり』
 呆れて嘆息すると、別府君は頭を掻いて、もう一度軽く頭を下げる。紅茶を啜りなが
ら、そんな彼の姿を見て私は思う。別府君のそういう、気が付くと周囲も巻き込んでし
まうような明るさが、私の惹かれる所でもあるんだけどねと。
「ところで、本当にもう具合の方は大丈夫なのか? 見た感じはいつもと変わらなく思えるけど」
 別府君が話題を変えてきた。本当に心配しているのか、それともこれ以上のお説教に
嫌気が差したのか。まあ、恐らくは半々くらいなんだろうなと思いつつ、私は頷く。
『見ての通りよ。熱ももう平熱だし、咳も落ち着いたわ』
「そっか。じゃあ、もう明日からは学校来れるのか?」
 別府君の問い掛けに、小さく頷く。
『ええ。お医者さんから、今日一日様子を見て、問題ないようだったら明日からは普通
に登校していいって診断貰ってるから、あなたのお相手してぶり返す事がなければ大丈夫』
 ちょっと意地悪に言うと、別府君が慌てて腰を浮かしかける。
「そうだよな。あまり無理させちゃいけないし、俺、早めに帰ったほうがいいよな?」

5097/8:2012/05/05(土) 14:54:42 ID:???
『冗談よ。この程度でぶり返すくらいだったら完治してないって事だし、お茶飲み終わ
るまでくらい、別にいてくれたって問題ないわ』
 平静を装いつつ、内心少し慌てて私は答える。実は、こうして別府君と差し向かいで
お茶を飲んでいる事を、何気に楽しみ始めていたのだ。何故なら健康であれば、絶対に
こんな機会はなかっただろうから。
「悪いね。何かこう、無理やり居座るみたいな形になっちまったってのに」
『どちらかと言うと、無理やり居座らされたと言った方が正しいわね。うちのお母さん。
結構頑固だから言い出したら聞かないもの。本当に、困った人だわ』
 申し訳無さそうな別府君を前に、私は軽く肩をすくめてみせる。その姿に気持ちが解
れたのか、別府君が笑顔を見せた。
「確かに。でも、委員長のお母さんって明るくって良さそうな人だよな。それに美人だ
し。何か羨ましいよ」
『……もしかして、別府君って熟女好き……とか?』
 母の事を褒めたりするので、嫉妬も相まって私は胡乱げな視線を別府君に送る。する
と別府君は慌てて両手を振って、それを否定した。
「いやいやいや。客観的な目線で見てって感じで。さすがに俺は同世代くらいの子の方
がいいし。ただまあ、ウチの親なんて普通のおばちゃんだからさ。やっぱり毎日会う顔
なら、キレイな方がいいじゃん」
『そうかしら? 自分の親なんて特に容姿なんて意識しないもの。それに、明るくて良
さそうだなんて、そんなの外面に決まってるじゃない。ごく普通の、口うるさい当たり
前の親だわ』
「そうかなあ? まあ、隣の芝生は青く見えるって言うしな。そういうものかな」
『そういうものよ。私が別府君のお母さんにお会いしても、きっと良さそうなお母さん
だなって思うわよ』
「うちのお袋があ? いや、そりゃないと思うけどな。うーん……」
 別府君が、唸り声を上げて考え込む。それを見て、私は内心微笑ましく思った。親な
んて多少煩わしく思える方が、きっといい親なんだろうと密かに思っていたから。もち
ろん、友達のように仲が良くてもそれはそれでいいのかも知れないが、口うるさく注意
してくれる親を煩わしいと思っても、同時に感謝もしているのだ。もっとも、おせっか
いなところはいただけないが。

5108/8:2012/05/05(土) 14:55:50 ID:???
「そういやさ。委員長って、弟さんがいたんだな。さっき会ったとき、ちょっと意外な
感じがした」
 別府君の声が、私の物思いを破る。
『意外? 何が?』
 咄嗟に聞き返すと、別府君は慌てて、何かを否定するように手を振った。
「ああ、いやその、変な意味じゃなくてさ。ただ、学校の印象だと一人っ子っぽいイメ
ージだったから。それに、普段あまり家の話とかしなくね? つっても、まあ、女子の
会話とか知らないから、俺のイメージが間違ってたら申し訳ないけどさ」
 そう言ってちょっと照れたように頭を掻く彼に、私は頷いてみせた。
『確かに、あんまり家族の話はしないわね。別に自慢出来るような話もないし、むしろ
弟の話なんて、愚痴ばかりになっちゃうもの。そういうの好きじゃないから』
 というか、弟の話をすると、自分のダメな面も引き出してしまいそうなので、避けて
いたのだ。せっかく大人しくて真面目で優秀なクラス委員長というイメージで定着して
いるのを、自分から壊すような真似は余りしたくない。
「もしかして、委員長って弟さんとそんなに仲良くないの?」
 何だか探るような調子で聞いて来る別府君に、私は頷く。
『姉弟なんてそんなものでしょう? 大体、だらしないしやかましいしワガママばかり
だしで鬱陶しいだけだわ。弟なんて。ほら、やっぱり愚痴になっちゃった』
 自らツッコんで、肩をすくめる。それに別府君が小さく笑った時、出し抜けに弟が声
を掛けて来た。
「何だよ、ねーちゃん。俺がどうしたって?」


続く
投下しようと思えば出来たのに、忙しさに紛れて放置してしまった。

511以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/07(月) 19:44:56 ID:???
おっつーん
委員長頑張れ


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