したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第98話☆

1名無しさん@魔法少女:2009/04/04(土) 13:25:44 ID:7HzUR6lY
魔法少女、続いてます。

 ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレ避難所の2スレ目です。


『ローカル ルール』
1.リリカルあぷろだ等、他所でのネタを持ち込まないようにしましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
  あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
  ・オリキャラ
  ・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
  ・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)

『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
  投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
  SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
   「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。

【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
  読み手側には読む自由・読まない自由があります。
  読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
  書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
  頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
  読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。

『注意情報・臨時』(暫定)
 書き込みが反映されないトラブルが発生しています。
 特に、1行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えることがあるそうです。
 投下時はなるべく1レスごとにリロードし、ちゃんと書き込めているかどうか確認をしましょう。

前スレ
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_避難所☆
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12448/#2

778よくもまあそんな考え付く物だ 3 ◆6BmcNJgox2:2009/05/21(木) 00:10:36 ID:YvWIOmA6
「そこで、スカリエッティがなのはの隙を見て押し倒し! 犯す! 処女を奪ってしまうんだ!
彼も所詮は男だ。何しろ長い拘置所暮らしで色々溜まっていたし、ましてやなのはと二人きりの状況。
自身の中で沸き立つ性欲には敵わず、クローンを植え付ける位ならいっそ直接自分の子供
産ませてしまえと考える様になっていたんだよ!! 良いのかい!? こんな事で!!
本来なら僕が頂くはずだったなのはの処女が…スカリエッティに奪われてしまうんだぞ!?」
「ちょっ! 何で私があんな人に初めてあげなきゃならないの!? やっぱり相手は
時空犯罪者だから…最後まで信用出来ないよね!?」

 ついになのはがスカリエッティに処女を奪われると言う展開にまで至ったユーノの妄想に
なのははもはや本当にそうなってしまったかの様な恐怖を感じていたが…ユーノは
滅茶苦茶な理論を展開させながらも不思議と冷静な顔をしていた。

「しかし少し変だとは思わないかい? いくら不意打ちとは言え、君がその気になれば
スカリエッティを返り討ちにする事だって容易なはず。なのにそうしなかった。
理由は分かるかい? それは…なのは自身もそれを望んでいたからなんだよ!!」
「待って! ユーノ君待って! それはおかしい!! 絶対おかしいから!!」

 無理矢理なら仕方が無いにしても、あたかもなのは自身もスカリエッティを望んでいた
と言わんばかりのユーノの妄想になのはは焦るが、一度喋りだしたユーノの口は止まらない。

「ああ…見える…見えるぞ…スカリエッティのガッチガチに硬化したカリが…なのはの
まだ穢れを知らない…本来なら僕が奪うはずだった処女膜目掛けて潜り込んで行く………
なのになのはは抵抗らしい抵抗すらせずに…それを受け入れて行くんだ………。
で、『アァァァァ!! ジェイル…ユーノ君なんかよりずっとず〜っと…頼もしいよぉぉぉ!!
私…産むぅぅぅぅ!! クローンなんかじゃない正真正銘の私とジェイルの子供産むよぉぉぉ!!』
とか言っちゃうんだぞ!! ちっくしょぉぉぉぉぉ!! 完全に寝取られちまっただぁぁぁ!!
このクソビッチがぁぁぁ!!」
「ちょっと! 落ち着いて! 勝手に切れないで! それユーノ君の妄想の中の話でしょ!?」

 突然目から血の涙を流しながら号泣し始めたユーノになのはは戸惑うものの…
何だかんだでユーノの話はまだまだ続くのである。

「もはやそれは強姦では無かった。なのはがスカリエッティの事が好きになり、それを受け入れた時点で
立派な和姦。二人は互いの肢体を貪りあうかの様に……愛し合って行くんだ。畜生! 畜生!
想像するだけで切なくて…やるせなくなる!! あの優しくて良い子だったなのはが…僕を殺し…しかも
よりにもよってスカリエッティとくっ付くなんて…この世はこんなはずじゃない事ばかりだ!」
「ユーノ君…それ…あくまでも『被害妄想』の中の話だよね…? 本当にそうなって欲しいかの様な
願望を持ってるわけじゃないよね…?」

 まるで本当に寝取られてしまったかの様な悲しみを見せるユーノの姿…。なのはは自分に対する
ユーノの考えに疑問を持ち始めてしまっていたのだが………

779よくもまあそんな考え付く物だ 4 ◆6BmcNJgox2:2009/05/21(木) 00:12:10 ID:YvWIOmA6
「けどね…ここで芽生えるのは二人の愛だけじゃない。なのはの体内でもある異変が起こるんだ。
なのはの卵巣から排卵されたての新鮮な卵子と…なのはの中に撃ち放たれたスカリエッティの
無数の精子の内の一つが結合し…なのはの子宮に着床する。そう…スカリエッティの子を孕んで
しまうんだよ!! 僕を殺しておいてなのははあっさり別の男と…しかもスカリエッティと子供作る
なんて良いご身分だとは思わないか!? 全く酷い話だよね!? なのはがなのはなら卵子も卵子だ!
本来なら僕の精子と結合するはずだったのにあっさりスカリエッティの精子なんか受け入れて……
無節操にも程がある! 少しは相手を選べよ! 酷い! 酷すぎる! 全く酷い話だ!」
「酷いのはユーノ君だよ!! そんな事考えるなんて…」

 そりゃぁなのはだって『女性』なのだから、『男』に膣出しされてしまえば相手がユーノだろうが
クロノだろうがスカリエッティだろうがレジアスだろうがゲンヤだろうがグレアムだろうがヴァイスだろうが
グリフィスだろうがアコースだろうが(以下中略)何だろうが構わずにその子を孕んでしまい得るのは
仕方の無い女の性なのだが…そういう問題でも無いでしょうに。

「なのはの妊娠が発覚して、二人も本格的に覚悟を決めるんだ。何処か管理局の目に届かない
新天地に辿り着いたら、結婚してその子供と三人で暮らそうと……なのはもスカリエッティも
そう決意するんだけど…………幸せは何時までも続かなかった。二人が軌道拘置所を脱獄した
時点で、各世界で二人は指名手配されて…管理局員のみならずフリーの賞金稼ぎ魔導師までもが
二人を狙って来る様になる。そしてついにその賞金稼ぎの毒牙にかかってスカリエッティが
射殺されてしまうんだ!! なのはは結婚前から未亡人になってしまうんだよ!!」
「ちょっ! 何その急展開!」

 今までも最初からクライマックスと言わんばかりの超展開の連続であったが……今回もまた
凄まじかった。ユーノの妄想の中とは言え、なのはに殺されてしまったユーノに代わって
なのはの夫になるかと思われたスカリエッティがなのはとの間に出来た子を残して
殺されてしまうのだから。

「でもなのはは逃げるんだ。既に相思相愛の関係になっていたスカリエッティを見捨てる事は
極めて辛い事だけど、その為にお腹の子供を犠牲にする事は出来ない。殺されてしまった
スカリエッティの分まで生きて、その子供を産んで育てる…。せっかく掴んだ新たな生きがい…。
新たな目標の為になのはは必死で賞金稼ぎの追撃から逃れるのだけど…………日に日に
なのはのお腹の子供は大きくなって…逃げる事も出来なくなってしまうんだ。
そして…ある山奥で産気付き……なのははたった一人でのお産を試みざるを得なくなる。
でも…長い逃亡生活による身体的精神的疲労…管理局や賞金稼ぎ等の追跡者の恐怖…
僕を殺して殺人者になってしまった事でかつての仲間達との絆を切り捨てられ…なおかつ
新たなパートナーになると思われたスカリエッティまでも失った孤独…………
その他様々な要員が重なってボロボロになったなのはにとって………産みの苦しみは
とても耐えられる代物では無かった…………。そう、なのはもまたそのお産で亡くなってしまうんだ。
せっかく生まれた子供も母親は既に亡く…しかも人気の無い山奥だから……………………………。」
「………………………………。」

 その悲劇的な結末に思わずなのはでさえ涙してしまう程であったが…直後にユーノは
なのはの両肩を掴んだ。

780よくもまあそんな考え付く物だ 5 ◆6BmcNJgox2:2009/05/21(木) 00:14:13 ID:YvWIOmA6
「分かったかい!? 僕が浮気なんてしよう物なら最後! なのははこの様に転落して
しかも悲惨な最期を迎えてしまうんだぞ!! それでも良いのかい!?」
「あ! すっかり忘れてた! そういう話をしてたんだよね!?」

 ユーノの語る妄想劇が超展開の連続とは言え余りにも真に迫っていたせいか、
本来の『ユーノが浮気したら…』と言う事をすっかり忘れていたなのはだったが…
とりあえずユーノ自身も浮気したらこうなると考えて恐れているのだから、
浮気なんてしたりしないだろうと言う事でなのはは納得しようとしたが………
そこで彼女はある事に気付くのである。

「ちょっと待ってユーノ君。」
「な…何だい?」
「さっきまでの話で、ユーノ君は浮気が原因で私に殺されてしまうって役柄だったよね?
でも…その死んだ後のユーノ君はどうなっちゃうの?」
「え? どうなっちゃうって……死んだらお終いに決まってるじゃないか。」

 冷静になのはの問いに答えるユーノだが、今度はなのはが語り始めた。

「いや…分からないよ。私に殺されてしまった後、ユーノ君は『死後の世界』に行くのかもしれない。」
「死後の世界!?」
「うん。そしてそこで地獄の亡者に襲われていた一人の女の子をユーノ君が得意のバインド魔法で
助けた事がきっかけでその女の子とお近付きになるの。その女の子は……あのアリシアちゃん!」
「あ…アリシアって…まさかフェイトの…?」

 なのははユーノの妄想にかなり引いていたが…あんまり人の事は言えなかった。
なのはの妄想もまたユーノをかなり引かせる程の内容だったのだから。しかもアリシア…………

「その後、死後の世界でアリシアちゃんと再会出来た事が原因で良い人に戻ってたプレシアさんにも
出会って『うちのアリシアをよろしくお願いしますね?』とか何とか言われちゃって〜
死後の世界でアリシアちゃんとプレシアさん公認でイチャイチャしちゃうユーノ君…………
その後もクイントさんとか、その他色々な死んで死後の世界に来てた女性や、既に死後の世界で
生活していた過去の歴代美女達とも出会ったりして…イチャイチャイチャイチャイチャイ
チャイチャイチャイチャ………ユーノ君の女たらし!!」
「えええええええええええええええええええ!?」

 アリシアのみならずクイントさんまで引き合いに出して来たなのはにユーノは愕然とするしか無い。
このままでは別世界のアリサ=ローウェルまで出て来かねない勢いである。

「でも私はそんな死後の世界で色んな女の子とイチャイチャしちゃってるユーノ君なんて見たくない!
だから浮気なんてしないで! 絶対にしないで!」
「ああするもんか! 浮気なんてしたら僕がなのはに殺されるだけじゃなく、なのはの人生まで
滅茶苦茶になってしまうじゃないか! そんな事にはしない! 絶対させない!!」

 と、力一杯互いに抱きしめ合うなのはとユーノ。雨降って地固まる。これで全ては丸く収まりました………

 って別にそんな話じゃないでしょ!? ………とまあお粗末様でしたー! ちゃんちゃちゃんちゃん

                     おしまい

781 ◆6BmcNJgox2:2009/05/21(木) 00:18:41 ID:YvWIOmA6
自分の妄想の中とか、他の二次創作とかならなのはが他の男にNTRされても平気と言うか
むしろそこにエロを見出してしまうんですけど、公式でユーノ捨てて…とかなったら
私…ショック死するかもしんない

これから始まる公式の新展開で新規で対なのは用の男キャラがでっちあげられないとも限りませんし…

782名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 00:39:42 ID:EkQcYWWY
二次創作では断固なのフェイですが、原作でユーノが捨てられるのは確かにショックですな。
それは嫌すぎる。

嫌すぎると言えば……二人の想像力もなっ!

というわけでGJ!

783名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 00:54:27 ID:ph3K6m4o
煽りとかじゃなくて真面目な疑問なんだが
毎回称賛レスがつくが、ID量からして自演ではないっぽいけど
この文章が面白いと感じる人間はほんとにいるのか?
俺の感覚がおかしいのか?

784名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 01:00:10 ID:aW4O3AcA
>>783
いるんだろ。俺としてはむしろ、お前の物言いにファシズムを感じるんだが?

785名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 01:15:21 ID:vUEdTl2I
お二人ともGJ!!です。
片や犯罪者の殺人パーティ、片やアホな話。ここは本当に同じスレの中なのだろうか?w
個人的には、外道犯罪者って堪らない。金のためとかで動く人間は遊んだりとかはしないでスマートに殺すので好きですね。

786名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 02:06:30 ID:XOE1fh7I
>>783
俺は面白い。
こういう意味で死ぬほど頭の悪い噺は好悪が分かれるから感覚は別に可笑しくないんじゃないの。

そんなわけで乙! ほんと酷い想像力のコンビだなw

787名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 07:03:57 ID:IhBxoosM
被害妄想のベクトルが同じって面白いですね、GJ!

このユーノとなのはのイチャイチャが見てみたいです。

788名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 08:09:08 ID:aYEl2GG2
>>783
他の人の書き込みで同じこと思うよ。
でも、人の好みはそれぞれだから。
商業出版見てるだけでもそれくらいわかるでしょ。

789名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 09:29:18 ID:2POYp9nQ
>>783
気に入らないものはスルー

790名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 14:45:25 ID:pRTnFO0Q
>>783
保管庫行けばお前の好きな中二病SSも沢山あるぜ

791名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 17:05:11 ID:zbosuorA
>>783
人の感性なんざ千差万別だ

っていうかお前の聞き方は失礼すぎる
人としての感覚は間違いなく最低
自分がつまらないと感じるものは他の人間もつまらないはずだ!と思える自己中っぷりはある意味感心するがな

792名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 18:45:34 ID:FB48tY/s
>>791
>人としての感覚は間違いなく最低
モチツケ。お前さんも言いすぎだ


..         ∬ ∬   ⌒*__*⌒
           旦 旦   ヽ|・∀・|ノ  とりあえず
         ┳━━┳   |__|   お茶置いとくなの
                  | |

793名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 18:54:08 ID:dGS6YUY2
とりあえず、お気に入りの作品で一発ぬいてみろ
なにもかも些細な事になるから

794名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 19:47:48 ID:HIFU7gL6
聖王様が引き起こした発情災害にはいつもお世話になってます

795名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 20:52:05 ID:ct8ul8ck
ユーノ×フェイトのお尻モノを今だに待ち続けている

796ザ・シガー:2009/05/21(木) 22:41:41 ID:8bxcuioY
他人の言葉にいちいち噛み付くなー

と、言うわけで流れを変える為に投下行くわ。
急ぎで書いたギャグ短編、若干キャラ崩壊あり、「機動六課の男達」シリーズ。

797機動六課の男達:2009/05/21(木) 22:43:15 ID:8bxcuioY
機動六課の男達 ファミレス編


 そこには、一つの賑わいがあった。
 硬質な陶器や金属が織り成す音と、活気に受け答えをする澄んだ女性らの声。
 女性、総じて皆が皆若く美しい少女らは、短いスカートから見えるすらりと伸びた足であわただしく駆け回る。
 ここはクラナガンでも有名なファミリーレストラン、ジョアンナミラーズのチェーン店の一店舗。
 時刻は昼時、店内では多くのウェイトレスが注文を受けそしてまた受けた注文の品を運び、忙しいランチタイムを駆け抜けている。
 と、そんな時だった、一人のウェイトレスの少女の目が店の入り口に向く。
 そこには新しく入店してきた四人組の、容姿も年代もバラバラの客の姿。
 少女はこれに、思わず手にした用済み食器をトレーから落としてしまいそうな勢いで駆け、店の厨房に飛び込んだ。
 そんな彼女に、厨房に同僚が驚き、問う。


「どうしたの?」

「き、来た!」

「何が?」

「ろ、六課の人たち!」


 答えるや、その場にいたウェイトレスの少女らは一斉に厨房入り口に詰め寄り、件の客が座った席を見る。
 そこには案の定、四人の男、機動六課の男たちがいた。
 これに、少女らは歓喜の声をあげる。


「ああん、今日はヴァイスさんも一緒よ!?」

「グリフィスさんもいるじゃない!」

「きゃー! ザフィーラさん人間形態だわ! 素敵ぃ!」

「エリオ君カワイー!」


 と、ウェイトレスの少女らは口々に四人の男性客に、嬉しげにそして姦しく喜ぶ。
 彼女らにとって、機動六課のお客さん、といえばそれは決してなのはやフェイト達のような美女・美少女ではない。
 それは、ヴァイス、グリフィス、エリオ、ザフィーラの四人の、機動六課では数少ない男性陣の事だ。
 明るく気さくな兄貴分、少し悪っぽい雰囲気がある大人の男であるヴァイス。
 眼鏡の似合う理知的な美貌を持つ、クールな美青年グリフィス。
 あどけない笑顔が堪らなく愛らしい、幼い美少年エリオ。
 褐色の肌に逞しい長身をした守護獣の偉丈夫、ザフィーラ。
 それはもう、美男・美少年の宝庫である。
 ショタから屈強な美男子まで、おおよそあらゆる女性のニーズに応えるであろう男のチョイス。
 これに、ここジョアンナミラーズで働くウェイトレスの少女らが惹かれぬ訳がない。
 ヴァイスの気さくな微笑に心奪われる者、グリフィスの眼鏡を掛け直す仕草に狂喜する者、ザフィーラの剥き出しの肩の筋肉に興奮する者、エリオに萌え狂う者。
 好みは様々だが、皆自分の好きなタイプの男性に潤んだ瞳を投げ掛けている。
 中にはヴァイ×グリやザフィ×エリというBLネタに走る者すらいた。
 熱視線を送りながら、少女らのが言った。


「あー、いつものくだけた感じも良いけど、真面目な顔のヴァイスさんも素敵ねぇ」

「ほんとねぇ」

「グリフィスさんは相変わらず知的なところが堪んないわぁ」

「エリオくんも可愛い〜♪」

「ザフィーラさんも寡黙なところが素敵だわぁ」

「みんな何を話してるのかしら?」



 少女らは語る、憧れの男達への想いを。
 そして想う、自分らの知らぬ彼らの事を。
 きっと彼らの事だ、何か素敵な話でもしているんじゃないか。
 四人掛けのテーブル席で食後のコーヒーを飲みながら語らう美男の集団を見つめながら、少女らはそんな事を想った。
 それがどれだけ現実からかけ離れているか知らずに。

798機動六課の男達:2009/05/21(木) 22:45:27 ID:8bxcuioY
 




「なんだと? もう一回言ってみろグリフィス」

「ええ、何度だって言いますよ。あなたは見る眼がない、と」


 立ち昇るコーヒーの湯気より濃密な殺気を眼光に込めて交わしつつ、ヴァイスとグリフィスが言い合う。
 その様はまるで決闘に興じる古き騎士のように勇ましく、狂犬同士の殺し合いのように凄まじい。
 同じテーブルに座ったエリオとザフィーラは、ただその気迫に押され押し黙っている。
 しばしのにらみ合いの後、グリフィスは先ほどの一言に繋げるように言う。
 理知的に、囁くような残響で、されどしっかりと。


「ストッキングは黒でも白でもガーターが最高です」


 馬鹿馬鹿しいエロ話題を吐いた。


「何言ってんだ! ストッキングといえばパンストで黒オンリーだろうが!」


 と、ヴァイスも同じくエロスで返す。
 そう、これは機動六課の男達にとってはただの食事ではない。
 定期的に集って行うエロチック座談会なのである。
 ちなみに、今日の話題は足関係からストッキングへと移行し、ヴァイスとグリフィスの議論へと発展した。


「あのムッツリとした肉厚の尻を包み込むパンストの黒、下に穿いた下着と織り成す二重奏、正に男として生まれた事を泣いて喜びたくなる至福だ」


 果たして誰の事を思い返しているのか、ヴァイスはどこか遠くを見ながらまるで一個の芸術品を愛でるように語る。
 これにグリフィスも負けじと言葉を紡いだ。


「何を言いますか。ほっそりとした腰を覆うガーターの芸術的ラインと太股の白が描く様は、それこそ思わず時を忘れて魅入ってしまうほど甘美な情景でしょう。個人的には白ストが良いですね」


 最上の工芸品を説明するかのように、グリフィスは夢想した情景にうっとりとしながら静かに語る。
 そんな彼に、ヴァイスは眉根を怒りに歪めて言う。


「白ストだ? 男なら黒だろ黒!」

「白ストの良さがわからないとでも!?」

「悪いとは言わんが、黒には負ける! それにパンスト破いてする方が無理矢理感あって良いじゃねえか」

「言いましたね!」

「言ったとも!」


 男の誇りと性嗜好を賭けた議論は白熱し、さらなる激化を辿る。
 ちなみに、余談ではあるがシグナムは黒スト、はやては白ストを愛用しているが、それが両者の語らいに関係あるかどうかはまったく別の話。
 どんどんエスカレートするヴァイスとグリフィスの言葉の応酬。
 その様を、横のエリオとザフィーラは静かに聴いていた。
 あまりに激しい言い合いに、言葉を挟むきっかけが見つけられないのだ。
 と、しかしそこで、ふとヴァイスが視線を横のエリオに向けた。


「おいエリオ、お前はどう思う?」

「ご意見伺いましょう、エリオ君」


 グリフィスも視線と疑問符を少年に向ける。
 少年はこれに待ってましたとばかりに意気揚々と言葉を返す。


「僕は断然ニーソですねぇ。やっぱりニーソックスがミニスカと見せる合体技“絶対領域”に勝るものはありませんよ!」


 少年は、それこそ太陽のような明るい笑顔で自分のエロチック願望を語る。
 ちなみにルーテシアはニーソであるが、これと本件が関係あるかどうかはまた別の話。
 だが少年の語った夢に、男二人は吼えた。


「はっ! ニーソ? これだからゆとりは」

「少々青いですねぇ、ニーソでは。ま、悪くないんですが」

「な! ニーソのどこが悪いんですか!?」


 今度はエリオも混じり、バカエロス談義はさらなる白熱を見せる。
 ただし、パッと見は真面目な顔で美男が話しているだけなので、それを知らぬウェイトレスの少女らはウットリとその様を見ていた。
 彼女らがこれを知ればどんな顔をするのか見ものである。
 と、三人が激しい萌とエロスの言葉を交わす中、今まで沈黙を守っていた男が静かに口を開いた。


「まあ、待てお前ら」


 静かな渋い残響を吐いたのは寡黙なる男、楯の守護獣ザフィーラ。
 守護獣の静かな言葉、その深みのある響きに三人は押し黙る。

799機動六課の男達:2009/05/21(木) 22:46:36 ID:8bxcuioY
 そんな彼らに、ザフィーラはまた静かに言葉を続けた。


「足とは何もつけぬ状態が最も美しいのだ。太股から爪先まで、滑らかな白い素足が見せ付ける生まれながらの、むしゃぶりつきたくなるような状態こそがあるべき姿だ」


 蒼き狼は自身の性癖を、それこそ天下正義とばかりに謳う。
 その様は勇壮ですらあるほどに勇ましく、同時に馬鹿馬鹿しくてずっこけてしまいそうだった。
 ちなみにアルフは素足全開であるが、それが彼の語る理想と関係あるかどうかはまた別の話。

 こうして、パンスト派・ガーター派・ニーソ派・素足派、まったく嗜好の異なる男共のエロス談義はコーヒーを都合100杯以上消費するまで続いた。
 余談ではあるが、議論の締めくくりは『やっぱりオッパイ最高、あと尻もね』で終わったのは、また別の話。


終幕。

800ザ・シガー:2009/05/21(木) 22:50:55 ID:8bxcuioY
投下終了。
たぶん総執筆時間、1時間かそこらで書いた超即席バカ話。

人の主張にいちいち牙を剥くことの不毛さを皆にもわかって欲しかったんだ!
パンストが好きなヤツがいればガーターが好きなヤツもいるんだ!
ちなみに、本等はエリオにルーじゃなくキャロを語らせようと思ったが、何穿いてるか忘れたので急遽ルーにした。


あとちなみに、余談ではあるが俺は黒ガーターが好きです、大好きです。

801名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 22:55:09 ID:CSn84QWM
>>783
お前の気持ちは分かる

802名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 23:06:27 ID:B.9u2aoQ
コーヒー飲みすぎだろwww
ドリンクバーだけでやってたらすげえ迷惑ww

クロノとヴェロッサとかはどういう趣向だったのかが気になる。
キャロは靴下着用じゃないのか?

次回も楽しみしてますー

803名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 23:31:10 ID:evZsnx0U
これで4人とも童貞だったら腹が捩れるところだったw

804名無しさん@魔法少女:2009/05/21(木) 23:32:34 ID:XOE1fh7I
>>800
素晴らしいwwwwww まったくザフィーラさんは男だぜ。
キャロはかぼちゃパンツだと勝手に思った。
かぼちゃパンツはズボンの一種で最高の芸術品 byアンサイクロペディア

次回も楽しみにしています。

805名無しさん@魔法少女:2009/05/22(金) 00:38:51 ID:jXvr3rcs
脚フェチは解らなくはないがオチから判断するに全員、胸はともかく尻にまで手を出しているのか……。
特にヴァイスに「姉さんのお尻に、挿入れさせてください」に言われた時、シグナムはどうしたんやら。
……まさか素直に尻を突き出したのかww

806名無しさん@魔法少女:2009/05/22(金) 00:44:15 ID:rgzR//ZM
GJ!
しかし、男は黙って車椅子時代のはやてちゃんの靴下だろ…jk

807アルカディア ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 00:58:32 ID:IN5TLEBM
お久しぶりです、なんとか生きてます。
半年ぶりくらいに投下させてもらいます。

「伊達眼鏡と狙撃銃」

 注意事項
・ザ・シガー氏原案の短編連作『ソープ・ナンバーズ』シリーズからのスピンアウトです。
・長編。一部、微エロ描写有り。シリアス気味。クアットロメインのSSです。
・ネトラレ気味な描写とかも有るので、苦手な方はご注意を。
・NGワードはトリップでお願いします。
・原作『ソープ・ナンバーズ』からの設定改変、こじつけ解釈の部分も存在します。
・原作者のザ・シガー氏に最高の敬意を表して―――

*エロ描写は、このスレの普通のエロSSが普通のエロ漫画位だとすると、レディコミ位だと考えて下さい。
*カップリングは基本不定。どう変遷するのかを昼ドラのように楽しんで頂ければと思っています。

808名無しさん@魔法少女:2009/05/22(金) 00:59:35 ID:0s4sQxSM
なにをいうか、慣れぬ地球の冬で足が冷えないように、というリンディさんの親心が伺える9歳フェイトのストッキング+靴下だろJK



……なるほど、こりゃ不毛だ。
ここのところの流れを的確にギャグにしてまとめる其手腕、御見それしました、GJです。











だれか尻だけじゃなく尿道にも手を出す猛者はいないものか(ボソッ

809伊達眼鏡と狙撃銃5話 1/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:00:07 ID:IN5TLEBM
 性懲りも無く、件の男は翌日もソープ・ナンバーズの4号室に顔を出した。
 昨夜は流石にやり過ぎたかと、クアットロも少々反省していた所だったのだ。
 頭に血が上っていたとは言え、矢張り公私混同は行ってはならない。あくまでこれは仕事なのだから。
 あの男。あの泣き喚き方からして、どうやらトラウマを本気で抉ってしまったらしい。
 よく足を運び金を貢いでくれた男だったが、これっきりになるかもしれない。クアットロは薄々そんな事も考えていた。
 ―――でもまあ、十二分に繁盛しているソープ・ナンバーズのことだ。常連客の一人が減ったところで、大勢に影響は無い。
 寧ろ、自分のストレッサーの一つが消えてくれると考えれば帳尻も合う―――。
 そんなことを胡乱に考えていたが、目の前には馴染みの辛気臭い顔が俯いている。

「俺を打ってくれ。……打って、詰ってくれ。―――でも、昨日のような事だけは、頼むから……やめてくれ」

 注文が一つだけ増えたようだ。だがまあ、どうという事の無い話だ。
 普段と同じように、ただ己の務めを果たすのみ。
 そう、ただそれだけの話なのだ。

 クアットロは、嗜虐的な笑みに唇を歪ませ、バラ鞭を手に取る。
 部屋の明かりが落ちる。さあ、ショウタイムだ。
 鞭の音が高らかに響く。ミッド最高のSMショウの観客は、真新しい花瓶に活けられた深紅の薔薇だけだった。


 ―――此処は『ソープ・ナンバーズ』ただ一晩の春を求めて男達が集う、ミッドチルダの不夜城―――


『伊達眼鏡と狙撃銃』 第五話:二人の共犯関係


 傾いた天秤を元に戻さなくては。
 ヴァイスがまず考えたのはそれだった。
 昼は周囲を欺き温かく迎えられるような虚飾の自分を作り上げ、夜は打たれ詰られる事で周囲を欺く事への罪悪感を麻酔する。
 そんな、危ういバランスの二重生活を続けてきたヴァイスだ。
 こんなシーソーの中央に立つような危うい生活が、いつまでも続けられる筈が無いことなど、最初から判りきっていた。
 崩壊の日が近づいているのは、自分が誰よりも知っている。。
 それでも、守れることなら守りたかった。ぬるま湯のような安楽な生活を、いつまでも続けたかった。
 ……昨夜の彼女の言葉は、紛れも無い自分への攻撃だった。
 寝ぼけ眼で全てから目を反らしていた自分が、一体どんな存在なのかを改めて見せ付けられた。
 寒中で、突如身に纏った衣服を剥がれたような衝撃。
 彼が、己に温もりを与える小さな炎に手を伸ばしたのは当然の事だろう。
 ―――それが己を破滅させると解っていても止める事ができない薬物中毒者のように。

「―――――――――」

 繰り返される日常と化した昼食時。ヴァイスの言葉に、ティアナは首を傾げた。
 ヴァイスの言葉は確かに音としてティアナに届いた筈なのに、彼女はその言葉を理解できずにいた。
 ずっと待ち望んでいた言葉だった筈なのに、余りに唐突過ぎて、それが現実なのかを認識できずにいた。
 不安げに瞳を揺らしていたティアナの顔に理解の色が広がり、頬に赤みがさす。
 ヴァイスは、もう一度同じ言葉を繰り返した。
 ティアナが、ぱっと顔を輝かせる。普段は凛とした表情の下に隠している、彼女の齢相応の少女としての笑顔が顔に溢れた。

「――――――!! ―――――――――!!!」

 身を乗り出して、全身全霊でヴァイスの言葉に応えた。歓喜の気持ちと、幸福の想いの丈を一度に伝えようとして、言葉に詰まる。
 もどかしい。普段の自分なら、もっと冷静に対応出来たはずなのに。はしたない自分を窘めようとするが、上手く行かない。
 ティアナの目尻には、嬉し涙さえ光っていた。

 ティアナ・ランスターはとても優秀で聡明な少女だ。しかし、過度の恋愛感情は人の眼を曇らせる。
 加えて言うなら、彼女は未だ17歳の少女だ。純粋過ぎ、幼な過ぎたのだろう。
 ヴァイスの友人を自称するグリフィスなら、あるいはソープ・ナンバーズの1、2番あるいは4番なら即座に看破しただろう。
 愛を語るヴァイスの瞳が見つめているのは、『ティアナ・ランスター』という少女ではなく、無垢な笑顔を向ける彼女の反応だけだということに。

810伊達眼鏡と狙撃銃5話 2/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:01:28 ID:IN5TLEBM
「クアットロさん、紹介します! こちらが、あたしの……その、彼氏のヴァイス・グランセニックさんです!」

 幸福感溢れる満面の笑みを浮かべて、ティアナはその男をクアットロに紹介した。
 馴染みの喫茶店での昼の一時、クアットロにとってのささやかな幸福の時間は硝子のように砕けて消えた。
 『初対面のティアナのカレシ』は、やや青ざめた顔を引き攣らせながら、ぎこちない会釈をした。

「……ハジメマシテ」

 ヴァイスが内心の動揺を隠そうと必死なのは明白だったが、その道に長けたクアットロはあくまで平静を装った。
 昼の彼女としての淑女の気品を欠かさぬよう、柔らかく微笑んでたおやかに一礼する。

「初めまして、ヴァイスさん。私、クアットロと申します。
 お噂はかねがねティアナさんから伺っておりました。お会いできて光栄ですわ」

 陽の下のクアットロは、夜の彼女とはまるで別人のようだった。
 瀟洒な細い眼鏡と青いイヤリング。ベージュのルージュを薄く引いて、理知的で落ち着いた大人の女性の風貌を輝かせている。
 そこに、丸眼鏡をかけ、隈取濃いメイクで深紅の唇を歪める夜の彼女の形相は想像さえ出来ない。
 ヴァイスは戸惑っていた。本当に、これがあのソープ・ナンバーズのクアットロと同一人物なのだろうか?
 そんな心の動きを見て取ったのか、クアットロは眼鏡を僅かに押し上げ、ヴァイスに微笑みかける。

「折角こうしてお会いできたのですから、是非ヴァイスさんのお話を伺いたいですわ。
 ……ティアナさんとのお話を、たっぷり、色々と―――」

 決してティアナには見えない角度で、クアットロの視線がヴァイスの瞳を射抜いた。
 どす黒く塗りつぶされた、呪い殺さんばかりの憎悪の視線。
 ヴァイスは身震いをする。間違い無い。この視線、この憎悪はこの女のものだ。
 あのソープランドの雌の体臭が立ち込める、薄暗い部屋で見たのとまるで同じ瞳だ。
 自分を蔑み、見下し、嫌悪し、嘲笑し、憎悪する。この瞳こそ、クアットロというこの女本来の瞳だ。あの夜の姿こそ、この女の本性だ。
 それが何故、こんな昼の世界で何処ぞのキャリアウーマンのような小奇麗な格好で、アフタヌーンティーを楽しんでいるのか?
 それも、ティアナと一緒に。

「ね、綺麗な人でしょう、ヴァイスさん! 今までクアットロさんには色んな相談に乗ってもらってたんですよ」

 ティアナは零れんばかりの笑みで、クアットロにたなごころを向ける。
 ―――そういえば、最近新しい年上の友人ができて、よく相談に乗ってもらっているというような話を、ティアナから聞いていた気がする。
 ぼんやりと、ヴァイスは朧げにティアナとの会話を回想してみた。ヴァイスは、ティアナとの会話の内容など殆ど覚えてはいない。
 ヴァイスが必要としているのは、ティアナの無条件の好意だけだ。ティアナの嗜好や人格などに興味は欠片も無いからだ。
 二人の会話は、常にティアナが楽しげに話題をふり、ヴァイスは持ち前の話術でそれに調子を合わせるだけだった。
 それでも、二人の会話は常に噛み合っていた。
 それだけで、ヴァイスは満足だったからだ。
 そうとは知らぬ、ティアナは幸せだったからだ。
 ティアナは腕を大きく広げ、花のような笑顔で全身から至福を振り撒きながら、二人にこれまでの経緯を滔々と語る。
 普段と変わらぬ笑顔のまま、クアットロはこの事態の原因を究明しようとその話に耳を傾けてた。
 普段より僅かに険しい表情のヴァイスは、この場をどう繕おうか思案し、上の空でその話を聞き流していた。

「……―――それじゃ、あたし、少しお手洗いに行ってきますね!」

 何時の間にか、話は終わっていたらしい。ティアナはオレンジジュースを飲み干すと、軽い足取りで席を立った。
 ヴァイスはその背中へ手を伸ばすが、引き止める為の良い言葉が浮かばない。ティアナの蜂蜜色の髪が靡いて消えていく。
 見知らぬ喫茶店の円卓で、ヴァイスはクアットロと二人取り残された。孤島にでも置き去りにされたような気分だった。

811伊達眼鏡と狙撃銃5話 3/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:02:20 ID:IN5TLEBM
 恐る恐る、ヴァイスは円卓に座るクアットロに視線を戻した。
 小さく首を傾げ、クアットロは再びヴァイスに微笑みかける。ふんわりと柔らかに。見るものを魅了せずにはおかない淑女の笑みで。

「このクッキー、私のお気に入りなんです。焼きたてで香りも良くて、とっても甘くて美味しいの。ヴァイスさんもお一ついかがですか?」

 クッキーの入った小皿を差し出され、ヴァイスは狼狽した。
 夜の彼女を知るだけに、この昼のクアットロの姿が不気味で堪らないのだ。そんなヴァイスの内心を知ってか知らずか、クアットロは上品にクッキーを口に運ぶ。

「うぅん! やっぱり素敵! この香りが堪らないわ〜 紅茶にもバッチリですのよ!」
「……その、アンタはやっぱりソープ・ナンバーズの―――」
 
 おずおずと、目を細めてクッキーを味わうクアットロに声を掛ける。
 瞬間。ぐしゃりとクアットロの繊細な手が固い拳を形作り、指の間からパラパラとクッキーの粉が零れ落ちた。
 彼女はいかにも興が冷めたと言うような面持ちで、流し目をヴァイスに送る。
 開かれた掌は、無惨に砕けたクッキーの残骸がべったりと汚れていた。
 彼女は、それを下品にも舌で舐め上げた。
 蛇の舌のような長く赤い舌が、ぞろりと端整な指を這っていく。冷たい流し目がヴァイスを捉えて離さない。
 ヴァイスは、身じろぎさえ出来なかった。
 指に残った汚れを紙ナプキンで拭き取り、クアットロはヴァイスに優しく微笑んだ。

「折角な素敵なティータイムですもの。無粋なお話は別の機会に致しませんか、『ヴァイスさん』?」
 
 ヴァイスに向き直り、小鳥のように小さく首を傾げる。 
 ―――その時には、もうティアナと親しげに話していた元の彼女に戻っていた。

「すみません、遅くなっちゃいました! あ〜っ、クアットロさん、クッキー全部食べちゃったんですか!?
 楽しみにしてたのに……」
「ごめんなさいね、ティアナさん。言い訳させてもらうと、ヴァイスさんにもクッキーの味をみて貰っていたの。
 ここのクッキーは焼きたてが一番ですものね。ヴァイスさんもとっても気に入ってくれたみたいよ。……ねえ、ヴァイスさん?」
「あ、ああ、香りが良くて、凄く旨いクッキーだったよ! ここのお菓子はどれも旨いのばかりだよな、ははは」
「そうだったんですか! ヴァイスさんも気に入ってくれて嬉しいです! あたしのお勧めは他にはアップルパイと―――」

 再び何でもない談笑に花が咲く。
 ヴァイスは調子良く会話を合わせながらも、机の下で膝が震えるのを止められなかった。
 あの表情は一体何だ?
 クッキーの残骸で汚れた指を舐め上げた時のクアットロの目。あんな貌は夜の姿の時でさえ見たことも無い。
 憎悪でもなければ、今見せている笑顔でもない。―――あの表情は、正しく狂気に類されるものだ。

812伊達眼鏡と狙撃銃5話 4/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:03:19 ID:IN5TLEBM
「このシュークリームもどうぞ! バニラの香りが効いてて焼きたてで皮もパリパリですから、食べるなら今のうちですわよ」

 平然と談笑を続けながらも、クアットロは胸中で脈打つ冷たい衝動を押さえ込むのに必死だった。
 今すぐ眼前の男の喉元から股下までを一直線に切り裂き、汚穢な腸を引きずり出して撒き散らしてやりたいという衝動である。
 どうして気付けなかったのだ。いや、どうして気付けたというのだ。
 ティアナの恋する男性が、己が蛆虫以下と蔑むこの最低の男だったなんて。
 己をティアナに重ねて夢想に耽る度、絵本の中の王子のように想っていた男が、よりにもよってこの男だったなんて。
 死んだ魚も同然だったこの濁った瞳が、宝石のようなティアナの瞳と見つめ合ったというのか。
 自慰の真似事をして汚い性器を擦りあげたこの指が、白魚のようなティアナの指と絡まったというのか。
 くぐもった呻きを漏らすばかりだったこの舌がティアナに愛を囁き、床の反吐を舐めたこの唇でティアナに口付けたというのか―――。
 未熟なティアナとは違い、クアットロの慧眼は一目で看破していた。
 ―――この男は、ティアナのことを微塵も愛してなどいない。ただ、自分の精神の均衡のために利用しているだけなのだ。
 許せない。
 今この時もティアナの純情を裏切りながら、彼氏ヅラして笑顔で紅茶を啜る男を、許せる筈など無い。
 ぎりりとはしたなく音を立てる奥歯を、唇の端を噛み千切って押し殺した。
 少し気を緩めれば、ナイフでチーズケーキを切り分ける腕が疾り、この男の喉笛を真一文字に掻き切りそうになる。
 押さえ難い衝動に眩暈さえ感じながらも、感情は冷たく凍ったまま、怒りというべき温度にまで上昇しない。
 妹のノーヴェのように感情を爆発させることができれば、どれだけ楽だろうと思う。
 徹底的に理性で己を律してきたクアットロの仮面は、これほどの局面にあっても剥げ落ちることは無かった。
 伊達眼鏡の下に形作った偽りの彼女は、ただ微笑ましげに目を細めて初々しいカップルを見守っている。

「はい、ヴァイスさん、あ〜ん♪」
「おい、ちょっと勘弁してくれよ! その、クアットロさんも見てるじゃないか!」
「いいじゃないすか、もう恋人同士なんですし。応援してくれたクアットロさんに、結果報告です!」
「ええ、そういう時は恥ずかしがらずに男らしく受け止めてあげるものですよ、ヴァイスさん」

 許せない。どうして許しておけるだろうか。ティアナの為にも、この男は絶対に許す訳にはいかない。

「ふふっ、とっても面白い方ですのね。ヴァイスさんって。是非またゆっくりとお話をお聞きしたいですわ」

 去り際、クアットロはたおやかに一礼し、ヴァイスに極上の笑みで微笑みかけた。
 ティアナと腕を組んでいたヴァイスの口元が引き攣り、取り繕うようにヴァイスも一礼をした。
 無垢な笑顔を満面に浮かべたティアナは、悪戯っぽく小さく笑んで、そっとクアットロに耳打ちをする。

「ね? ヴァイスさん、素敵な人だったでしょう? 
 あっ、でも盗ったりしちゃあ駄目ですよ! ヴァイスさんはあたしの彼氏なんですからねっ!」

 噛み締め過ぎた唇から、口中に生臭い鉄の味が流れ込んだ。
 ここに至り、ようやくクアットロは己の胸中に渦巻く感情が怒りなのだと認識した。

813伊達眼鏡と狙撃銃5話 5/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:04:04 ID:IN5TLEBM
 ここはミッドチルダの歓楽街。場末の風俗店から一本抜いてすっきりした様子の男が歩み出て、空を見上げて舌打ちをした。
 夕方から崩れだした天気はいつしか雨に変わり、眩しいネオンを曇らせる霧となって降り注いでいる。
 そんな歓楽街の裏路地を、夜空と同じ黒墨色のコートの襟を立て、早足に歩く男の姿があった。
 ……ヴァイスには、違う選択肢もあったのだ。
 昼間に出会った不吉な女の事など脳裏から消し去り、そのまま日常を送ることも、恒例となったソープ通いを止める事も。
 だが、ヴァイスはこうして冷たい雨の下をソープ・ナンバーズへと急いでいる。
 それは習慣だからではない。
 夜の世界から隔絶された場所にあるべきであるヴァイスの昼の日常、そこに侵食してきた影の正体を知るためだった。
 ティアナと共に現れたあの女、クアットロ。あれは、ヴァイスの昼の生活にとって紛れも無い異物だ。
 目を瞑り耳を塞ぎ、無かったことにしてしまえば良かったのかもしれない。
 しかし、ヴァイスにはそれが出来なかった。
 クアットロの瞳。指を舐め上げながら自分を見据える狂気交じりの瞳が、どうしようも無く不気味で堪らなかった。
 怯えて暮らす今のヴァイスには、単純な恐怖の対象など枚挙に暇ない。だが、あれはそれらのどれとも違う、正体不明の闇だ。
 それが一体何なのか、確かめなければ自分に安息の眠りは訪れない。
 ―――そんな不可解な衝動に突き動かされて、ヴァイスは霧雨の下を早足で歩いていた。

「こんばんは、ヴァイスさん。またお会いしましたね」

 雨の中でも失われない鮮烈な香水の香りが、ヴァイスの鼻を衝いた。
 女は、ヴァイスに背を向けて立っていた。深紅のコートと深紅の傘。
 彼女は童女のように楽しげに傘をくるくると回すと、軽やかな足取りで振り返った。
 深紅のリップで彩った唇が、三日月型に吊り上る。
 ―――それは、昼出会った彼女と同じ顔でありながら、似ても似つかない商売女、ソープ・ナンバーズのクアットロだ。
 彼女は丸眼鏡の下の瞳を細め、唇を歪めて笑う。
 ああ、矢張り、これがこの女の本当の笑い方なのだ。ヴァイスは背筋を駆け上がる悪寒を感じながらも、どこか安堵していた。
 クアットロは耳に口付けるように妖しく囁く。

「ねぇ、今晩も私をご指名なんでしょう? これ以上雨に濡れて体を冷やしてもいけませんから、早く参りましょう。
 いつも同じ部屋だと詰まらないでしょうから、今晩は特別に趣向を凝らしていきましょう」

 その声には有無を言わせない冷たい迫力に漲っており、ヴァイスは促されるままに立ち並ぶラブホテルの一室に入った。
 
「ふふ、たまには違うお部屋もいいものね」

 クアットロは眼前で上等のコートを脱ぎ捨て、ボンテージへと衣装を換えていく。
 しかし、その口調は普段の嗜虐性が嘘に思える程、穏やかで落ち着いていた。
 ヴァイスは、打たれ続けた犬のような目で、眼前の理解不能な女を見上げる。
 
「貴方の趣味はよく解ってるつもりよ。今夜もたっぷりと虐めて抜いてあげるわ」

 そう言って、クアットロはヴァイスの両手と両足を固く縛り、それを背中で結び合わせた。
 えびぞりで固定されたヴァイスは、自分では身動き一つできない状況だ。
 珍しい状況ではない。
 これまでのプレイで、ヴァイスは縛られ、打たれ、石版を背中に乗せて椅子となることまで強要されてきたのだ。
 普段なら、ここで彼女は鞭を取り出す場面である。しかし、彼女が取り出したのは一枚の紙片だった。
 クアットロはピンヒールでヴァイスの頭を踏みにじり、それを朗々と読み上げた。

814伊達眼鏡と狙撃銃5話 6/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:06:46 ID:IN5TLEBM
「時空管理局 本局古代遺物管理部 機動六課 ロングアーチ所属、ヴァイス・グランセニック陸曹
 出身は第4管理世界カルナログ。局員IDはEMB02720-063329487、役職はヘリパイロットで所持資格はヘリ操縦のA級ライセンス。
 魔導師としてはミッドチルダ式のB+―――へぇ、結構なものじゃない。
 六課に来る以前は航空武装隊第1039部隊からミッドチルダ首都航空隊の運輸部第2班へハシゴしてるわね」

 くすくす、と楽しげに笑いながらクアットロはヴァイスのプライバシーを読み上げる。

「凄ぉい! 武装隊時代はアウトレンジからの狙撃の腕はエース級だったんですって!
 ふむふむ、その武装隊時代に人質にとられた妹のラグナの左目に誤射してしてしまい、妹さんは左目失明。あらら〜。
 それ以来、銃を持つのを止めて運輸部に移動、と。
 使用デバイスはセミオート対人狙撃銃タイプのインテリジェント、『ストームレイダー』。
 誤射事件後はヘリの管制デバイスとして使用中。なるほどなるほど!」

 自分が懸命に抑圧し、砂をかけていた筈の記憶が赤裸々に明かされていく。
 流石のヴァイスも堪らずに声を上げた。

「うぁぁぁぁ、やめてくれ! そんな事関係ないだろう! 畜生、明確な規則違反だぞこんなこと!
 客のプライバシーを詮索してべらべらと喋るなんて、法に触れているっ!」
「客のプライバシー? 何を言ってるのかしら? 私はただ、『お昼に会った友人の彼氏』とラブホに入っただけですわよ。
 つまりこれは、貴方と私の自由恋愛。恋人同士、お互いを深く理解しあいましょう♪」
「おいこら、ふざけるのもいいかげんに―――」
「……本っっ当に詰まらない男ね」

 からかうような調子で猫のような笑みを浮かべていたクアットロは、退屈そうに吐き捨てた。

「貴方、武装隊時代は随分と派手に遊んでたそうじゃない。
 夜の街での通り名は、『弾も女も百発百中、無敵のスナイパーヴァイス』だったんですって? それも自称で!
 恥っっずかしい! ジュニアスクールの子供より酷いネーミングセンスよ! 私だったら首を括るわね。
 その『無敵のスナイパーヴァイス』様は、肝心な時に自分の妹に誤射して目玉潰して、自信もプライドも全部失くして。
 挙句インポになるまで悩みつめて。
 ……そこで、潔く首でも括れば良かったのに、ずるずると生き延びて。
 失くした自信やプライドを埋めるために、外見だけを取り繕って人の輪に入り込んで。
 その反動で、人を騙してる罪悪感に耐え切れずに、マゾでもないのにSMプレイに嵌り込んで。
 要するに、貴方は唯の寄生虫なのよ。ティアナさんや仕事仲間から鎮痛剤代わりの笑顔を貰うだけの唯の乞食。
 本当に、下らない男」

 ぐうの音も出ず、ヴァイスは黙り込む。クアットロの言葉は全て正鵠を射ている。
 昼のただ一度の出会いで、クアットロは、ヴァイス・グランセニックという男の全てを看破していた。
 クアットロは一切の虚飾のない表情で、心の底からの嫌悪の視線を投げていた。
 その唇が、再び嗜虐へと歪む。

「本当なら、貴方程度の虫一匹、うちの店にお金を貢いでくれる限り、鼻にもかけず見逃してあげる所なんだけど―――。
 貴方は大きな失敗をしたわ。それは、ティアナ・ランスターを食い物にしようとしたこと。
 自分の犯した罪の大きさを知りなさい。貴方は自分の鎮痛のために、あの純真な笑顔を欺いているのだから。
 その罪、私が贖わせてあげる。この慈悲に涙しなさい。そうね、まずは―――泣き叫んでもらおうかしら?」

815伊達眼鏡と狙撃銃5話 7/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:07:53 ID:IN5TLEBM
 縛られて身動きの取れないヴァイスを横目に、クアットロは脱ぎ捨てられたコートのポケットをまさぐった。
 その手が何かを探り当て、彼女は酷薄に微笑む。取り出したその手には、ヴァイスの通信端末が握られていた。
 ヴァイスの目が驚愕と恐怖に見開かされる。
 プライパシー保護のための厳重なセキュリティに守られている筈のそれを、彼女は鼻歌交じりに開いて履歴を表示した。

「やめろ! 見るな! それは俺の―――」

 呂律の回らない口調で、必死に制止しようと叫ぶヴァイスを無視し、彼女はいとも簡単に目的のものに辿り着いた。
 それは、ヴァイスが懸命に封をしてきた記憶。開けてはならない扉の向こうに葬り去り、埋めた筈の記録。

「あら、この未開封メールの束は何かしら?
 このアドレスからのメールは、全部一つのフォルダに纏められてるわね。
 開封もしてないのに、保護をかけて、後生大事に保存してる……一体、どんな内容なのかしら? 
 ふふ、ちょっと興味が湧いちゃったから、一個中身を確かめてみようかしら♪」
「やめ、それだけは―――やめろぉおぉぉぉっ!!」
 
 ドラッグを求めて喘ぐ中毒者のような無様で、ヴァイスは叫んだ。
 目を血走らせ、涎を垂らしながら絶叫した。
 クアットロは満足げに目を細め、『再生』のスイッチを押した。

“お兄ちゃん、元気ですか? 管理局のお仕事は忙しいですか?
 きっとお兄ちゃんが見てくれることを信じて、このメールを送ります―――”

 幼い少女が、カメラの向こうの『お兄ちゃん』に向かって語りかけていた。
 不安に唇を震わせながらも拳を握り、言葉に詰まりながらも、懸命に笑顔を作って、真摯に語りかけていた。

“お兄ちゃん、元気ですか? 私は元気です。今度のクラス替えで新しい友達が出来ました―――”

 懸命に、切実に、『お兄ちゃん』に向けて語られられる真心篭った少女の言葉。
 それは、欲望渦巻く場末のラブホテルにはどこまでも似つかわしく無い清浄な祈りの言葉だ。
 “お兄ちゃん―――”“お兄ちゃん―――”画面の中の少女に語りかけられる度、ヴァイスは焼き鏝でも当てられたかのように体震わせる。
 涙と涎と鼻水で汚れた顔を床に擦りつけ、懸命に少女の声から逃れようとするが、全身を縛る戒めが耳を塞ぐ事すら許さない。
 最初は怨嗟の叫びを上げ、停止を懇願していたヴァイスだが、やがてもがく気力も失い、小さな呻吟だけを残した。
 クアットロはヴァイスの姿に憐憫の欠片すら催さず、喜々としてビデオメールの再生を続ける。
 それらは決まって、“お兄ちゃん、元気ですか?”で始まり―――“お返事、待ってます”で締められていた。
 チェシャ猫の笑みで囁く。

「駄目じゃない『お兄ちゃん』こんなに可愛い妹が、お返事を欲しがってるのに無視するなんて。
 しっかり、元気なところを見せてあげないと。
 うん、ここは私が骨を折って、『お兄ちゃん』の元気な姿をラグナちゃんに送ってあげることにしましょう♪」

 取り出されたハンディビデオカメラを見た瞬間、ヴァイスはその邪悪の意図を悟った。

「やめろっ、それだけは、頼む、止めてくれ、止めろ、止めろ、止め、止めろっ―――」

 一声づつオクターブを上げながら叫び、これ程の力が残っていたのか、目を血走らせて激しくもがいた。
 しかし、戒めは固く、もがけばもがく程、荒縄は肌に食い込み、より情けない無様を晒していく。
 それでも、ヴァイスは眼前の悪女の一欠片の情けに願いを託し、もはや人語と解せない程に喉を枯らして懇願した。
 無論、クアットロはヴァイスに対して一欠片の情けなど持っている筈がない。

「ほら、ラグナちゃん、見えてますか〜〜〜! 良かったですね〜、お兄ちゃんはこんなに元気ですよ〜!
 ほらほら、縄でぐるぐる巻きに縛られてるのに、体の力だけでぴょんぴょん跳びはねちゃって!
 流石はラグナちゃんのお兄ちゃん、全身から気力が満ち溢れてますね〜」

 獣のような低い唸りを上げながら、それでもヴァイスはクアットロの足元に辿り着いた。
 芋虫のように地を這いながら、懸命にクアットロの足元に体当たりをし、撮影を止めようと足掻く。
 だが、クアットロはひらりとかわすと、バラ鞭を揮って容赦なく打ちつけた。

「見て見てラグナちゃん、とってもタフなお兄ちゃんの姿を!
 こんなに叩いても、蹴っても、全然平気で元気元気のヴァイスお兄ちゃん!
 格好よくて素敵なアイアンマンですね〜」

816伊達眼鏡と狙撃銃5話 8/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:08:43 ID:IN5TLEBM
 紅い唇を、更に毒々しい赤の舌が舐め上げる。
 クアットロはメインディッシュとばかりにヴァイスを蹴り転がし、露になったそのペニスを掴んだ。
 カメラをセットし、クアットロは悲しげにレンズに向かって憂いる。 

「でも……お兄ちゃんのココだけは、どうしても元気になってくれないの。
 こんなに揉んであげても摩ってあげても、全然元気になってくれないの。
 テレビの前のラグナちゃんも応援してあげて!
 頑張って、お兄ちゃん! 立ち上がって、お兄ちゃん!
 もう一度逞しい所を見せて、戦って、お兄ちゃん! ―――きゃははははははっ!!」

 柔らかいままのペニスを握ったまま、クアットロは目尻に涙さえ浮かべて哄笑を上げた。
 ヴァイスは、もう、抵抗をやめていた。唇を噛んで、恥辱と絶望にただ静かに涙を零すだけだった。
 それでも、これ見よがしに、カメラと通信端末をリンクさせた意図を酌み取れるだけの理性は十分に残っていたらしい。
 執念で伸ばした指が、遂にクアットロの足を掴んだ。

「ぅぅぅ、訴えてやるぞ、ぷ、プライパシーの侵害だ、脅迫だ、あんたのやってることは全部違法だ―――」

 クアットロは億劫そうに鼻を鳴らす。

「あら、それが何? 確かにちょっぴりルール違反をしてるかもしれないけど、この位、信号無視程度の軽犯罪よ。
 貴方が私を訴えれば、多少の罰金か、短い懲役を喰らうかもしれないけど、ただ、それだけ。
 ―――ただ、貴方が警察に駆け込むより、私が送信ボタンを押す方が速いのは間違いないわね。
 私を1、2年檻にぶちこんで、その代償で可愛い妹さんが、一生残る心の傷を負うのは釣り合わないと思わない?
 蛮勇奮って脅迫なんてする前に、自分と相手の力の差ぐらい考えなさい」

 ヴァイスはここに至って激昂するでもなく、悄然と頭を垂れて哀願した。

「頼む、お願いだ、何だってする―――だから、それだけは、やめてくれ……」

 その泣訴に、クアットロは少女のような爛漫な笑みを浮かべた。新しい玩具を手に入れた子供のような笑みだった。
 子犬の頭でも撫でるかのように、惨めに窶れた姿を晒すヴァイスの頭をくりくりと撫でた。

「ふふ、よく出来ました。
 安心しなさい。これを送りつけるなんて嘘よ、ジョーク。ラグナちゃんだっけ?
 あんな可愛い女の子を傷つけるような非道い事、この私がする訳無いじゃない♪
 大丈夫、悪いようにしないわ。 ……本当に、貴方が何だってするんならね」

 ヴァイスは項垂れて動かない。それは、無言の肯定だった。

「誓ってもらおうかしら。私の下僕となることを。
 貴方が本当に私に従うなら、この足に口付けなさい」

 白い足を彩る毒々しいまでに赤いハイヒール。
 ヴァイスは芋虫のように這い進み、静かにその爪先に口づけた。
 地に伏せられたその表情は伺い知ることは出来ない。
 クアットロは鷹揚に頷き、もう片方の足でその背を踏みつけた。

「これで、貴方は私もの。存分に働いてもらうわよ。
 別に難しいことをさせようという訳じゃあないから、安心しなさい」

 睥睨しながら、クアットロは唯一にして絶対の指令を口にする。

「ティアナ・ランスターと別れなさい。
 それも、彼女を傷つけないように。細心の注意を払いながら、違和感の無いように、徐々に、自然に。
 彼女が貴方に幻滅するのではなく、彼女に自分の恋心が誤りであると、自分から気付かせるように。
 そう、全ては一睡の夢であったかのように、彼女の関係を解消しなさい」

 諾々と頷くヴァイスだったが、その裡に湧き上がった疑問は至極当然のものだった。
 ―――要求するのは、ただ、それだけなのか?
 ―――ただ、それだけの為に、この女はこれだけの事を仕出かしたのだろうか?
 ―――ただ、それだけの為に、自分はこれ程の責め苦に遭わなければならなかったのか?
 クアットロは、そんな胸中を斟酌する筈などなく、ただ満ちた所有欲に嫣然と微笑み、呟くようにもう一度繰り返した。

「……そう、これで貴方は私のもの」

817伊達眼鏡と狙撃銃5話 9/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:09:32 ID:IN5TLEBM
 近頃のクアットロとディエチの不和もあり、空気が悪くなりがちだったソープ・ナンバーズの控え室。
 しかし、その日は以前のような和気藹々とした団欒に包まれていた。

「うわっ、お〜いしぃ〜、このクッキー、クア姉が買ってきてくれたのっスか?」
「ええ。最近行き着けのお菓子屋さんのお気に入りなの。今度はシュークリームも買ってきてあげるわね」
「ありがとうっス、クア姉、楽しみに待ってるっスよ! こう、仕事の合間に食べる甘いものは最高っすねぇ!」
「食い気もほどほどにな、ウェンディ」

 そんな喧騒を単純に楽しむものもいれば、狐に抓まれたような面持ちで、訝しげにクアットロを見つめる者もいた。
 チンクは妹達と歓談するクアットロに首を捻り、静かにコーヒーを口に運ぶウーノに視線だけで問うた。
 ウーノはチンクに視線に応えるように、少しだけ首を傾げると、再び気品ある仕草でコーヒーカップに唇をつけた。
 一体どうしたのだろうか?
 気に入らない客との不和やディエチとの対立で、最近のクアットロは気が立っているように見えたのだが。
 解らないとかぶりを振って、チンクもクッキーを一つ摘む。
 心地よい甘みと香ばしさが口中に広がった。
 杞憂だろうか。気分が落ち込むこともあれば、持ち直すこともある。
 それが人間というものだ。そう、自分達は人間として生きているのだから。
 ―――そう、自分を納得させることにした。
 きっと杞憂なのだ。
 クアットロの笑顔に、今までの不機嫌な表情よりも不安を覚えるのも、きっと自分の考えすぎなのだ。

「ウーノ姉様もお一ついかがですか? これは甘さ控え目で、きっと姉様好みですわよ」

 当のクアットロは、今までに無い高揚感を覚えていた。
 胸中にかかっていた靄が晴れたというだけではない。
 ヴァイスを奴隷として従えた瞬間、言葉に出来ない興奮と達成感が背筋を走りぬけたのだ。
 「不感症である」ということを誰よりも蔑んでいたのは、他でもないクアットロ本人だった。
 ヴァイスへの嫌悪感も、その近親憎悪から生まれた部分が大きいだろう。
 夜に街を出歩き、欲望に釣られた男を破滅させて遊ぶのも一種の鬱憤晴らしだ。
 自分は、客を癒す女神たるドゥーエのようにはなれない。彼女はそう確信していた。

 ―――だが、彼女は手に入れたのだ。自分の大切な人を幸せにする方法を。
 それは、唾棄すべき男たちを破滅させてきた外道の業だった。
 自分も、ドゥーエ姉様と同じように、人を幸せにすることが出来る。それも、自分らしい方法で。
 その体験は、クアットロに深い自信と満足感を与えた。
 確かに、仕事に見せかけて客と接触し、脅迫まがいの事をしたのは褒められたことではないだろう。
 でも、仕方ないことだ。
 だって、ティアナの為なんだから。
 彼女は、自分が正道を歩んでいることを信じて疑わない。
 どんな外道の手段を用いようと、例え法に触れることを行おうと、頓着しない。
 これは、ティアナの幸せの為なんだから。

「お疲れ様、今、上がりです」

 控え室にディエチが顔を出し、上機嫌のクアットロの表情は一瞬だけ強張った。
 そう、ディエチとグリフィスの関係も、クアットロの抱える重大な懸案事項だったのだ。
 しかし、クアットロの脳裏に、電撃が走るかのように解決策が閃いた。

 ―――そうだ、あの男を、ディエチから寝取ってしまえばいいんだ!

 ああ、自分がもどかしい。どうして、こんな簡単な事に気付かなかったのだろう!
 そうすれば、もうディエチと対立することも、ディエチが下種男の食い物にされることもない。
 これ以上単純明快な解決方法が他にあるだろうか!
 自分の特技を、愛する人を幸せにするために使うことが出来るのだ。
 どうして今まで、詰まらない男の家庭を崩して遊ぶような、無為な事ばかりしてきたのだろう。
 自分の頬がどんどん上気していくのが、クアットロにははっきりと自覚できた。
 ディエチは随分とあの男にぞっこんのようだから、振られた時には深く悲しむことだろう。
 でも、仕方がない。
 だって、これはディエチの幸せの為なんだから。
 ……ディエチ、この私が幸せにしてあげる。
 含み笑いを堪えながら、クアットロは控え室を後にした。

818伊達眼鏡と狙撃銃5話 10/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:10:10 ID:IN5TLEBM
 夜景見渡せる瀟洒なレストランのテーブルで、二つのワイングラスが凛と小さな音を奏でた。
 向かい合う男女は、通りすがりの誰しも、一流としての教育を施された筈のウェイターさえも振り返る程の美男美女だ。
 男は、白いタキシード姿の細身の美男子だ。
 グラスを唇に運ぶ僅かな挙措からも育ちの良さと品位が伺え、それでいて誠実さと純朴さが滲み出す優しげな顔立ちをしていた。
 女は、黒いドレスの凛烈な美女。
 鮮烈な色香を立ち上らせているが、決して下品ではなく、己を正しく律する大人の女性としての玲瓏さを併せ持っている。
 男であっても女であっても、羨みながらも納得せざる得ない完璧なカップルだった。

「……本当に、夢みたいですよ。僕のような男が、クアットロさんのような方にお食事を誘われるなんて。
 その、すみません、上手く言葉がまわらなくて。女性と食事をご一緒する機会なんて、殆どないもので……」

 ひたすらに恐縮する男に、女は優しく微笑んだ。

「いいえ。こちらこそお忙しい中ご一緒頂き光栄ですわ。
 グリフィスさんには六課に伺った時にお世話になりましたし……。
 私の方こそ、今夜は年甲斐もなくはしゃいでしまって御免なさい。
 私のような仕事ばかりしている女に声を掛けて下さる殿方なんて、全然いらっしゃらないのよ」
「そんな、勿体ない! 僕だったら―――」
「貴方でしたら?」
「その、僕だったら、放っておかないのに、と……」
「まあ、グリフィスさんったら、お上手!」

 少年のように赤面して頭を掻く男と、手を叩いて喜ぶ女。
 女は男の本性を、端整な美形の下に隠された、その欲望に黒く汚れた内面を知っていた。 
 男は女の正体を、淑女然としたナイトドレスを脱ぎ捨て、ボンテージを纏う本職を知っていた。
 そして、互いに相手がそれを知っていることも知っていた。
 つまり、これは最初から全てが茶番劇。
 この高級ホテルでの食事も、この談話も、この先の「本番」の前菜でしかない事を知りつつ、二人は初めて恋を知った少年少女のように語らっている。
 相手の仮面に手を伸ばし、虚飾を剥ごうとするような無粋など行う筈が無い。
 急ぐ必要は無い。
 どの道、決着がつけば相手は地に這い無様を晒すことは重々承知している。

「―――ごめんなさい、少しお酒が回り過ぎたみたい。少し休ませてもらっていいかしら」

 だが、思いのほか早く、女はメインディッシュを希望した。
 ならば是非もない。男は女に掌を広げる。

「大丈夫ですか? 下のホテルの一室を予約しているんです。体調が良くなるまで、そこでゆっくりと休んでいって下さい」
「ええ。ありがとうございます……」

 弱々しい仕草ながらも、女は固くその手を握り締めた。

819伊達眼鏡と狙撃銃5話 11/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:10:51 ID:IN5TLEBM
 窓の向こうにミッドチルダの夜景が煌く。
 環境問題の殆どを解決したミッドチルダの明かりは、真に清らかな人の営みの灯火だ。
 だが、そんなものには脇目を向ける程の価値すら無い。
 艶めき温もりが伝う最高の女の裸体が、膝の上で全身を震わているのだから。

「んっ、グリフィス、さんっ―――」

 既に、共に三度果てた。
 だが、求めども求めども女の体に限りなく、男が求めれば求めるほど、女はそれに応えて男を求める。
 欲望を吐き出す肉として、それだけでも極上の部類。
 しかし、その真価はそんな安いものではない。
 この女の瞳。快楽に喘ぎながらも、じっと自分の瞳を覗き込む女の瞳。
 男―――グリフィスは、性感とは違う快感が、背筋を駆け上るを実感していた。
 この女、この僕に挑んでやがる―――。
 面白い! 女を堕とし服従させるのも、いささか飽きてきたところだ。
 解き方を覚えたパズルを幾度も繰り返しているような、そんな倦怠感を打ち破る、とびっきりハイになれる刺激が欲しかったのだ。
 この女を貶めることが出来たら、それはどれ程の快楽だろう……?

「グリフィスさん、グリフィスさん―――」

 対面座位で突き上げられ、涙目になりながらも、その瞳の奥の理性の灯火は決して揺らがない。
 快楽に耐えかねるように、幾度もグリフィスの胸板に唇を付け、紅いキスマークを残す。
 
「―――っ、クアットロさん……」

 一際強くグリフィスが突き上げると、小さな悲鳴と共に、肩口に小さくその歯を立てた。
 男の勲章たる、ラブヴァイトの痕。小さな歯型。そこから、一筋の血が流れ落ちる。

「……ぁ、ごめんなさい、私」
 
 それを拭うように、クアットロは下でちろりと首筋を舐め上げる。
 母犬が子犬を愛でるような優しげな仕草だったが、その瞳が告げていた。

“このまま、この喉笛を食いちぎってやろうか?”

 望む所。その前に、このまま胎まで貫いてやろうかとばかり、更に激しくグリフィスは腰を突き上げる。
 二匹の毒蛇が互いの尾を喰らうような交合は、いつ果てるともなく捻れ続いた。


「もう、嘘つき。優しくして下さるって言ったのに」

 全てが終わり、クアットロはそう言って童女のように屈託なく笑った。
 ただ、それだけ。
 ただ、それだけのことが、グリフィスの絶対の自信に小さな罅を入れた。
 過去に彼が指で溺めて目で堕とし、その肉を貪った女達。
 その誰もが、過去一度たりと、情交のあとに己より先に身を起こす事は無かったのだ。
 腰砕けた女どもは、言葉すらなく己の性技の余韻に震えるか、熱の篭った瞳でこちらをじっと見つめるだけだった。
 しかし、この女は軽飄な仕草で体を起こし、あたかも己と対等であるかのように微笑んで見せたのだ。
 思えば、この女を抱いている最中、ずっと小さな違和感があった。
 女については百洗練磨のグリフィスは、クアットロが自分の技によって快楽に溺れていることを確信していた。
 表情、嬌声、ナカの蠕動まで、間違いなく本気で感じている女のそれだった。
 だのに、どこか霞でも抱いているような、妙な違和感を拭いきれなかったのだ。
 そして、この女はあれほどの痴態を見せながらも、ついにその地金を見せることなく、情交を済ませた。
 ―――ついに、グリフィスは、この女を堕とすことが出来なかったのだ。

 小さな屈辱。そして、それを押し流す歓喜。
 
「すみません、貴女があんまり魅力的だったので、止まらなくなってしまいました」
「まぁ、私が悪いって言うの?」
「ええ、罪つくりな方ですよ、貴女は」

 この女、絶対屈服させて服従させて、堕とす所まで堕してやる。
 この僕無しでは、生きていけない体にしてやる―――。
 グリフィスは一晩かけて六度果てたというのに、総身に精気を漲らせて爽やかに微笑んだ。

 ―――掛かった。
 クアットロは、体中に付いた穢れを払うべく、鼻歌交じりにシャワーへと向かった。

820伊達眼鏡と狙撃銃5話 12/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:11:49 ID:IN5TLEBM
 まるで、生まれ変わったような気分だった。
 行き交う人々も、風の音も、街の喧騒も、何もかもが新鮮に感じる。
 今までは、ただそこにあるだけの、無関心だった筈のモノ達がすべて輝いて見える。
 何て素晴らしいんだろう!
 時に呪いさえした、不感症という自分の欠陥さえも愛しく感じる。
 ―――あの男、確かに中々の技の持ち主のようだ。
 だが、自分を堕とすには到底及ばない。
 性感の一切が存在しない自分は、最初からあの男とは違う土俵に在るのだ。
 それを知らず、あの男はこの私に挑み続けるのだろう。
 小さな小さな自分のプライドを守るために。
 何て素晴らしいんだろう!
 この自分が、誰かを幸せにするための力を持っていたなんて!

 クアットロは浮かれていた。ティアナと待ち合わせの何時もの喫茶店。
 待ち合わせ時間より随分早く席について、含み笑いを漏らしながら、独り紅茶を口に運ぶ。
 ……しかし、彼女のテンションとは対照的に、現れたティアナは少し浮かない顔をしていた。

「―――どうしたの、ティアナさん? 何か心配事でも?」
「……それが、ヴァイスさんの事なんですけど」

 あの男が、何か粗相でも仕出かしたのだろうか? 
 ティアナを傷つけるような事をしたならば、ただでは済まさないと強く言い含めておいた筈だが。

「あたし、思い切ってヴァイスさんをホテルに誘ってみたんです。その、そろそろいい頃かな、って思って」

 クアットロの表情が凍りついた。
 いけない。ティアナは、そんな淫らなことをすべきではない。
 彼女は清らかな存在であるべきなのだ。

「ええと、陸士学校でもみんな済ませてる、って言ってたから、あたし達ももういい頃だと思ったんです。
 それで、ヴァイスさんを、誘ってみたんです。上着を脱いで……。
 そしたら、ヴァイスさん、困ったような顔して、優しくあたしに上着をかけて言ってくれたんです。
 こういう事はまだ早い、もっと自分を大事にしなくちゃ駄目だ、って」

 妥当な判断だ。今回は折檻は勘弁してやろう、などとクアットロは考える。
 もっとも、元よりヴァイスがそれに応じることなど不可能なのだ。
 あの性的不能者に、女性の愛に応えるなど端ッから無理な話だ。

「あたし、大事にされてるなぁ、って思って凄く嬉しかったんです。
 でも、もしかしたらあたしに魅力がないだけかも、って思ったら、凄く落ち込んじゃって。
 あたし、クアットロさんみたいな大人の魅力のある女になりたいんです!
 早く、ヴァイスさんと釣り合うような立派な女になりたいんです!
 お願いします! どうすればいいか教えて下さい!」

821伊達眼鏡と狙撃銃5話 13/13 ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:12:19 ID:IN5TLEBM
 釣り合う? 馬鹿な! 最初から貴女はあの下種男には勿体無い素晴らしい女の子だ!
 私のようなアバズレの真似なんてする必要は微塵も無い!
 そう声高に叫びたかったクアットロだったが、優しくいい含めるようにティアナに諭した。

「いいこと、ティアナさん? それはきっと彼の言う通りだと思うわ。
 今の貴女には、今の貴女にしかない素晴らしい魅力があるの。この私が保証するわ。
 無理に背伸びして大人の女になろうとする必要なんて無いの。
 今の自分を大切にして、今まで通りにすればいいのよ。
 それがきっと、貴女には一番似合ってるはずだし、貴女が一番幸せになれる方法の筈よ」

 ティアナは瞳を広げ、真摯な顔でじっとクアットロの話を聞いていた。
 聞き終えると、その言葉を反芻するように目を閉じ、何度も一人で頷いた。
 そして。
 すっと目を開いたティアナは、今までの彼女からは考えられないような冷たい口調でクアットロに吐き捨てた。
 
「あたしらしさ、って一体何なんですか? あたしの幸せ、って一体何なんですか? 
 案外、詰まんない事言うんですね、クアットロさん。
 それとも、貴女もあたしを自分の人形代わりに使って、判子で捺したようなステレオタイプの幸せに当てはめて、それで満足するだけなんですか?
 それって、ただのマスターベーションですよね?
 そんなことに、あたしを使わないで下さい」

 クアットロは青冷めた顔で唇を震わせた。
 自他共に認める最高の策士は、少女の一言でみっとも無い程に狼狽をしていたのだ。

「ち、違うのよ! ティアナさん、私はそんなつもりじゃ―――」

 ティアナは詰まらなさそうに、ふん、と鼻を鳴らした。
 彼女は、テーブルに乱暴に紙幣を叩きつけて席を立った。

「自分を大切にしていないのも、無理な背伸びをしているのも貴女の方じゃないんですか、クアットロさん?
 人にご高説を垂れる前に、まず自分を見直したらいかがしら?
 生活リズム崩れてるんじゃないですか? 髪も爪も、荒れ気味ですよ」

 ティアナは踵を反すと燕のような軽い足取りで立ち去った。
 クアットロは呆然と立ち尽くしていたが、ティアナの言葉に小さな違和感を思い当たった。
 それは。

「……―――ドゥーエ姉様!?」

 振り返っても当然のようにそこには誰も居らず、机の上に置き去りにされた1000ミッドの紙幣が、頼りなく風に揺れているだけだった。

822アルカディア ◆vyCuygcBYc:2009/05/22(金) 01:19:34 ID:IN5TLEBM
本っっ当にご無沙汰しております。
今回学んだことは、小出しに書くと一本の中でテンションのブレが内容にでるので、一回の投下分は出来るだけノリに任せて一気に書こう! ということでした。
短い間隔で投下されている職人の皆様の作品を読むと、頭が下がる思いです。
中々執筆時間は取れませんが、毎日このスレには養分をもらっているので、少しづつでも返していければ幸いです。


>>司書様
 毎度お手数ですが、保管庫に保存の際に、投下のレスとレスの間の部分に、↓の挿入をお願い致します。


     ◆

 
 内訳は、改行二つ、全角スペース5つと◆、改行二つです。

823名無しさん@魔法少女:2009/05/22(金) 16:34:32 ID:1s2gLczI
アルカディア氏GJ!
お待ちしてましたよ〜。
氏の書くクアは、相変わらず外道味に溢れていらっしゃる(勿論誉め言葉。
ヴァイスの未来がホント心配だ。内面的にも社会的にも。
次もお待ちしてます!

824ザ・シガー:2009/05/22(金) 18:41:21 ID:jZmCRLc6
もう、バカバカ大バカ! ずっと音沙汰なしで……
本当に待ってたんだからね!
バカ……

と、アリサちゃん風味にツンツンデレデレしてしまうくらい大歓喜祭でございますよ。


かなり最低な理由でティアナとねんごろになったヴァイス!
相変わらず容赦ねえクアの責め責めっぷり!
遂に激突(性的に)した腹黒メガネーズ! 
え!? なんで全部知ってる風味なの、ドゥーエ姉たま!?

と、今回もまあ、実に素敵でした。
ドロドロ的にww
しかし、ヴァイスを手中にした時のクアの得た愉悦、この感情の起伏がこの先どう転がるのか。
どす黒く滾るグリフィスきゅんがどうクアを攻めるのか。
気になりすぎてまた熟読してしまうわ。

で、まあ結局何が言いたいかというと、GJ! ってことだね!
自分の心の平静の為にのた打ち回るヴァイスが素敵すぎです、もう。
そして。こういう暗部のあるヴァイスの直前にバカ話を投下しちゃってちょっと恥ずかしいのは秘密だぜ?

アルカディア氏! 次回も大いに大いにお待ちしてますよ!


と、ソープ創設者としてこの大作ドロドロ劇場にはついコテ付きで感想なぞを入れてしまうザ・シガーであった。

825名無しさん@魔法少女:2009/05/23(土) 00:04:10 ID:7RFG7PLQ
おお、久しぶりの投下乙です。
今回もクアが素敵でしたww
GJです

826名無しさん@魔法少女:2009/05/23(土) 00:30:53 ID:uUGpyDnk
GJ!!です。
やばいぜ。
ここまでいいように嬲られたら、精神的に追い詰められた人がスナイピングで、
クアットロの頭を吹き飛ばしちゃうよw

827名無しさん@魔法少女:2009/05/23(土) 00:48:15 ID:uUGpyDnk
途中で送ってしまった。すまない。
まぁ、友人として怒るのはいいかもしれないがやりすぎって感じ。
度が越えたことをしていると、制御下にある人間は耐え切れずに暴走して、
操り手は上記に書いた無残な結末が。
彼女自体も今、相手の罪に制裁を加えることに酔って自分の不満や罪から逃げているや、
そこから発生する鬱憤を晴らしている節がありますし。ヴァイスに文句は言えないかも。

828 ◆6BmcNJgox2:2009/05/23(土) 18:10:10 ID:j74/SNOs
すみません。こんな時間ですがまた書かせていただきます。
相変わらずの大冒険ぶり(?)ですがお付き合い下さい。

・なのは×スカリエッティ
・今まで↑の路線は「スカのアタックに最初は嫌よ嫌よ言ってたなのはが屈しちゃって
結局その子供産んじゃう」ってパターンだったけど、今回は逆になのはがスカリエッティにアタックするw
・エロ
・キャラ崩壊注意
・オリ出る(殆どモブ同然だけど)

829こっちのがよっぽど厳罰だわ 1 ◆6BmcNJgox2:2009/05/23(土) 18:11:28 ID:j74/SNOs
 聖王のゆりかごを利用し、時空管理局壊滅を企んだジェイル=スカリエッティであったが、
機動六課を筆頭とした管理局の猛反撃によって敗れ、逮捕されてしまった。

 こうして、軌道拘置所に拘束されると言う厳罰に処されたスカリエッティであったが…
それでもなお彼には反省の色は無く、管理局もほとほと困り果てていた。

 しかし…そのスカリエッティを恐怖のズンドコに陥れるある事件が起こるのである。それは…

「こんにちわ。」
「ん…?」

 ある日、軌道拘置所内でスカリエッティが収監されている独房に一人の女性が訪れた。
彼女の名は言わずと知れた高町なのはである。

「何の用だ?」
「いやね、軌道拘置所に閉じ込めてもなお反省の色の無いジェイルに新しい刑罰を与えようって話になってね?」
「小娘のくせに馴れ馴れしい口を叩くな!」

 いきなり『ジェイル』と名前で呼んで来るなのはにスカリエッティは馴れ馴れしさを感じ、
思わず怒鳴り付けていたのだが、なのはの表情は変わらず、むしろ優しい微笑を浮かべていた。

「言いたい事はそれだけ? ならこれからジェイルに新しい刑罰を与えま〜す。」
「ふっ…何をやっても無駄だ。私は何をされようとも管理局には………ってうぉぉぉぉ!!」

 今までと同じ様に余裕の笑みを浮かべていたはずのスカリエッティが突如として驚嘆した。
何故ならば………なのはがスカリエッティの目の前で堂々と服を脱ぎ出し、その全裸体を露としていたからだ。

「なななななな…何をするんだ………と…と…突然…。」
「何って…これからジェイルに与える刑罰をするには裸にならなきゃならないんだよ。」
「裸にって………普通こういうのは刑罰対象が服を脱がされるんじゃないのか!?
素肌に直接ムチを打ったりなんかする為に………とか。」

 なのはの行動にスカリエッティから『余裕』の二文字は完全に消滅していたが………
一糸も纏わない生まれたままの姿のなのはの肢体は美しかった。豊満な乳房…括れた腰…大きすぎず、
かつ小さすぎ無い丁度良い大きさの尻…太股……。普段のサイドポニーでも、バリアジャケット装着時の
ツインテールでも無いストレートに下ろされた頭髪はなのはを不思議と大人びて見せ、何よりも
普段から白を基調とした服装を多く着用しているが故に……なのはの全身の柔らかな素肌が
なんとも言えない美を演出していた…………。そんな彼女の無防備な肢体を間近で見せられる
スカリエッティ…………羨ましすぎる。これの何処が刑罰なんだと………。

「どう? 私のカラダ…綺麗でしょ?」
「ど…何処が…。そんな小便臭そうなの見ても誰も喜ばんよ…。」
「あら? そんな事言っちゃうの? でもそれってアンリミテッドデザイア…無限の欲望の
名が泣くとは思わないの? 女の子の裸に欲望を抱けないなんて…矛盾だよ。」
「何とでも言え。私はお前の様な小娘等に興味は無い。」

 自身の美しき肢体をアピールし迫るなのはに対し、スカリエッティは必死に冷静さを装うが…
残念ながらカラダは嘘を付けず、その股間は完全に勃起していた。

830こっちのがよっぽど厳罰だわ 2 ◆6BmcNJgox2:2009/05/23(土) 18:12:08 ID:j74/SNOs
「ウフフ…そんな事言ってオチンチン勃ててるのは何処の誰かな〜?」
「こっこら! 触るな! 触るなと言っている!」

 勃起した一物をズボンの上から優しく握るなのはに対し怒鳴るスカリエッティだが、
なのはの表情に『恐れ』の文字は無い。

「あのねジェイル…。自分の立場は分かってる? 貴方は管理局に反旗を翻すも空しく敗れて
逮捕された時空犯罪者。そして私は反省の色の無い貴方に新しい刑罰を与えに来た管理局員。分かる?」
「だ…だが…しかし…それの…それの何処が刑罰と言うのだ!?」

 確かになのはの言葉には矛盾がある。『刑罰』を与えに来たと言うわりには、全裸になって
スカリエッティを興奮させるばかりで刑罰らしい事は何もやっていない。

「フフフ…。それが素人の浅はかさだよジェイル…。貴方は既に私の刑罰の術中にはまってるの。」
「な…何!? って驚いてる隙にズボンとパンツ下ろすなよ!!」

 何と言う事だろう。なのはは堂々とスカリエッティのズボンとパンツを下ろし下半身を露出させてしまった。
しかもなのははさらにスカリエッティの股間にぶら下がる一物に優しく手を添えるのである。

「あら意外と立派なオチンチンじゃない。これならクローンなんて手を使わなくても立派な
子供を作る事だって出来るのに。」
「わっ! こら! 離せ! 触るな!」

 慌て戸惑うスカリエッティだが、なのはは相変わらず優しい微笑を向ける。

「今まで貴方がやって来たクローンやその他、命を弄ぶ様な研究はもう未来永劫やらせはしないし…
貴方がナンバーズの女の子達のお腹に仕掛けていたクローンも全部処分しちゃったけど…
その代わり…私が貴方の子供を産んであげても良いよ?」
「何ぃぃぃぃぃ!?」

 なのはの爆弾発言にスカリエッティの目は大きく見開く。しかしなのはは容赦無く彼を押し倒した!

「あらあら、機械仕掛けの女の子の身体は平気で弄ったりするくせに、生身の女の子はダメ?
でも言っておくけど貴方に拒否権は無いよ! これが貴方に対する刑罰! 貴方がどんなに嫌がっても
私は産むから! ジェイルの赤ちゃん産んであげるから!!」
「な…何だと!? ふざけるな! 貴様…正気か!?」

 なのはの行動はとても正気の沙汰とは思えない。しかし…彼女は本気だった。
仰向けになったスカリエッティの上に跨り、その勃起した一物を自身の膣口へ押し当てる
なのはの目は…本気で彼の子を産むと言う強い意志に溢れていた………

「さあ行くよジェイル! って痛ぁぁ!!」
「なっ…お前………!?」

 意気揚々とスカリエッティの一物を自身の膣口に潜り込ませるなのはだが、その直後
強烈な激痛を感じたかの様に悶えた。良く見ると…彼女の膣口からは真っ赤な血が流れ出ていた…

831こっちのがよっぽど厳罰だわ 3 ◆6BmcNJgox2:2009/05/23(土) 18:15:01 ID:j74/SNOs
「お…お前まさか処女だったのか!?」
「当たり前じゃない…今日が初めてなんだもん…。」
「なっ……処女なら…処女なら何でこんな事を!」

 そのやり口はとても処女とは思えないのに…処女だったなのは。女性にとって処女とは大切な物だと言うのに
時空犯罪者…しかも受刑者であるスカリエッティに対して自分から散らす様な行為を見せたなのはの
心中は……例え稀代の天才と言われたスカリエッティを持ってしても読める物では無かった。

「構わないよ! 命を弄ぶ研究ばっかりして来たジェイルに命の尊さを教えられるなら
私の処女なんて安いものだよ!」

 なのはは自分から腰を動かし始めた。初めてでそんなに勢い良く動かすのは凄い痛い事だと思うのに…
なのははその痛みに顔を歪ませながらも動かし続けて行くのである。

「アッ! アンッ! アッ! ど…どう? 気持ち良いでしょ!?」
「ふ…ふざけるなぁぁ…こんな刑罰など何処の世界にあると言うのだぁぁ! 私は負けんぞぉぉ!!」

 スカリエッティは表情を歪ませ、必死に快感に耐えていたが…その間にもなのはの膣肉は
スカリエッティの一物を強く咥え込み、耐え難い快感を与えていた……。

「私は負けん! 私は負けんぞ! こんな物………こんな物ぉぉぉ!!」

 快感は時に苦痛以上の苦痛となる。軌道拘置所に常駐する恐るべき獄卒どもによる刑罰等より………
高町なのはとのSEXの方がよっぽどスカリエッティにとっては地獄であった………

 必死に快感に負けまいと耐え続けるスカリエッティだが…残念ながらそのカラダは正直だった。
スカリエッティは強烈な射精意を感じていたのである。

「うわっ! 出る! 出る!」
「出して出して! ジェイルの精子私に頂戴!? 私のお腹の中にある子宮と言う名の
天然の培養槽にジェイルの精子が加われば…そこで新たな命が芽生えるの!
クローンとは違う、自然の摂理に則った生命本来の子孫の残し方! 私はジェイルに
それを伝える為に…………貴方の子供をこの身を持って………産むの!!」
「く…くそぉぉぉ!! これが! これが刑罰だと言うのかぁぁぁぁ!!」

                  ど び ゅ っ

「う…うあ……………。」

 出してしまった。スカリエッティはついになのはの繰り出す快感に負け…射精してしまった。
なのはの膣…子宮を自身の精子で満たしてしまった。クローンやその他、様々な生命研究を
続けて来た彼にとって……その様な原始的な行為を取り、なおかつそれに快感を感じてしまった事は
敗北も同然だった…。

832こっちのがよっぽど厳罰だわ 4 ◆6BmcNJgox2:2009/05/23(土) 18:16:18 ID:j74/SNOs
「それじゃあ今日の刑罰はここでお終い。しばらくの間はこの軌道拘置所で大人しくしててねジェイル。
脱獄とかその他…変な事しちゃったら…子供の顔…見せてあげないからね!」
「ま…まさか………本当に……本当に私の子供を産むつもりか!?」

 スカリエッティはそこがまだ信じられなかった。管理局のエースともあろうお方が
時空犯罪者の子供を産む等…正気の沙汰では無い。ましてやなのは程の美人なら
男の方から寄って来てもおかしくないと言うのに……。

「私ね…こう見えてもあんまり男の人に縁が無いの。表向きは皆エース・オブ・エースって呼んで
持ち上げたりするけど…裏じゃ悪魔だの何だの酷い言い様…。おかげで私に寄って来る男の人なんて
いやしない。むしろ避けられてる位だよ。頼みの綱だったユーノ君も無限書庫の女性司書Aさんと
さっさと結婚しちゃったし……。私…嫌だよ! このまま相手も無くて…子供も作れなくて……
一人身のままシワクチャのお婆ちゃんになっちゃうなんて……嫌! そんなの絶対に嫌!」

 先程まで笑っていたと言うのに…突然泣き出すなのはに秘められた悲しみ…
それはスカリエッティも思わず黙り込む程であったが…なのはは続けた。

「でもそんな時に私はある事を知ったの。ねぇジェイル…アマゾネスって女性だけの部族…知ってる?
そのアマゾネスが子孫を残す際には、他所の部族から男の人をさらって来て、それで子供を
作らせたりしたんだって。もう相手がいないからいっそその手で行こうって思ったの。で、丁度良い具合に
貴方がここに転がり込んで来て………ならもうジェイルの子供産むしか無いじゃない!」
「何だ…何がお前をそこまで必死にさせるのだ…。」

 なのはの必死さはスカリエッティも唖然とさせる物だったが…そこでなのはは脱いだ衣服を
着ながらスカリエッティの疑問に答えた。

「クローンって、確かに近代的で先進的なイメージがあるけど…クローンでしか種の保存の出来ない様な
社会って…それは凄く悲しい事だと思う。クローンで増やしても個性が無くなるし、何より一つ一つの
『命』の価値が軽くなってしまうと思うの。どんなに科学技術が発達しても…人間もまたその根底は
動物と一緒なんだから…やっぱり自然の摂理に則って男女が身体を重ね合わせた共同作業で
種の保存を行って行く事も…大事だと思う。私はジェイルの子供を産む事でその事を貴方に伝えたい。」
「………………………。」

 なのはがスカリエッティの子を産もうとする行為は正気の沙汰では無いが………
それも全てはなのはなりの考えがあっての事かも…しれない……

「それにクローンでしか種の保存をやらなくなったりしよう物ならそれこそジェイル、貴方の
勝利みたいになっちゃうじゃない? だから私は貴方の子供を産む事でそれを否定したいの。
クローンやその他生命操作の権威なジェイルが…ただの人間の女性と子供を成すなんて………
様にならなくなると思わない?」
「くそ! お前の狙いはそれか!? それなのか!? その為だけにお前は我が身を犠牲にしようと
言うのか!? 狂ってる! 絶対に狂っている! お前の方がよっぽどおかしいぞ!!」

 なおもスカリエッティはなのはの正気を疑うが…なのはは構わず出口のドアを開いて外へ出ていた。

「じゃ、私はもう行くから。良い子にしてないとダメだよジェイル。」
「ふんっ…それもこれも全部私を脅す為のポーズで…時空犯罪者の子供なんて産んでたまるか
ってのが本音だろうに…………。」

833こっちのがよっぽど厳罰だわ 5 ◆6BmcNJgox2:2009/05/23(土) 18:17:35 ID:j74/SNOs
 それから数ヶ月近い月日が流れたある日、何時もの様に軌道拘置所内の独房にいたスカリエッティに
対し管理局員や看守が数人やって来ていた。

「ジェイル=スカリエッティ、出ろ。貴様の処刑が決まった。」
「ほう…それはまた突然だな。」

 ついにスカリエッティが処刑される日が来た。と言うのに…意外に彼は冷静だった。
まるで自分が死ぬ事等恐れてはいないと言わんばかりに………

 処刑台に立たされ、金属製の柱に括り付けられるスカリエッティ。そして彼に対して
死刑執行を行う者達がデバイスを向ける。銃殺ならぬ魔法殺刑だ。

「これよりジェイル=スカリエッティの処刑を行う。はじめぇ!!」

 死刑執行を伝える声が響き渡ると同時に魔法のチャージが開始され……スカリエッティを撃ち抜く…
と思われていたはずなのに……響き渡るのは魔法の発動する派手な音だけで…スカリエッティの体には
傷の一つも出来はしなかった。

「ん? どうした? どうしたと言うのだ!?」

 彼等の行動にわけの分からないスカリエッティだが…

「今この瞬間、ジェイル=スカリエッティは処刑された!」
「何!?」

 スカリエッティは無傷だと言うのに…スカリエッティは処刑されたと叫ぶ死刑執行人達…
全くわけが分からない。

「何故だ!? 何故私を撃たない!? 処刑する気があるならさっさと処刑しろ!!」
「ジェイル=スカリエッティの処刑ならば既に完了している。」
「だが私は………。」
「我々はジェイル=スカリエッティの処刑をするとは言ったが、高町ジェイルの処刑をするとは言っていない。」
「何!? って高町ジェイルって!?」

 いきなり変な事を言われて頭が混乱しかけるスカリエッティだが…

「今日から貴方は高町家の婿養子になるんだよ。」
「おっお前はぁぁぁ!」

 そこへ現れたは高町なのは。しかし、少し様子が違った。何故ならば…彼女は一人の小さな
赤ん坊を優しく抱き抱えていたからである。

「ほら見てジェイル、貴方の子供よ。パパに似てこの悪そうな目付きが凄く可愛いでしょ?
でもクローンじゃないんだよ。私の卵子をジェイルの精子で受精させて、子宮で育てた
正真正銘の私達の子供。凄いね〜。まさに生命の神秘だよね〜。」
「うわああああああ!! 本当に産んでやがるぅぅぅぅぅ!!」

 なのはは本当にスカリエッティの子供を産んでいた。もう正気の沙汰では無い!

834こっちのがよっぽど厳罰だわ 6 ◆6BmcNJgox2:2009/05/23(土) 18:18:59 ID:j74/SNOs
「何故だ!? 何故なんだ!? お前等一体何がしたいんだよぉぉぉ!!」

 スカリエッティは叫ぶしか無かった。こんな悔しさは今まで感じた事が無かった………。
しかし、なのははもとより他の局員もまたそんな彼を笑顔で見つめていた。

「貴様は今日から高町一等空尉殿の夫となり、高町ジェイルとして生きるのだ。
下手な刑罰等よりこっちの方が貴様にはよっぽど厳罰に値すると分かったからな。」
「私はシングルマザーでも構わなかったんだけど〜、こっちの方が面白いと思ってOKしちゃった!
この子にとってもパパがいた方が良いと思うしね。」
「な…なんだと…。」

 これで分かった。今までのなのはの正気の沙汰とは思えない奇行の数々を初めとした
スカリエッティに対する仕打ち…。全てはこの日の為。変に艱難辛苦を与えるより、
むしろ幸せを提供した方がスカリエッティに対しては毒になると管理局は考えたのだ。
人間…苦痛には耐えられても…快楽には…脆い。

「さらに貴様がその頭脳を管理局の為に尽くしてくれると言うのならば…ある程度の自由も約束しよう。」
「そんな勝手に私を信用しても良いのかな…? 私は管理局を内側から壊滅させるかもしれないぞ。」
「だから〜! そうさせない為に私がいるんじゃない! ねぇ! あ…な…た…。」
「うあああああ!! 私に寄るなぁぁぁ!! 触れるなぁぁぁぁぁ!!」

 何でこんな事になっちまったのか…とても正気の沙汰では無く得体の知れない
なのはの行動は彼にとって何者以上に恐ろしい物となっており、その慌てふためく姿に
管理局も安心と言わんばかりの顔をしていた。

「やはりな。高町一等空尉と暮らす事は奴にとって何よりの刑罰の様だ。精々仲良くするんだぞ!」
「じゃあ行こっか! これから貴方を私達の愛の巣に案内してあげる! これからも頑張ろうね!
クローン研究なんて二度とさせないけど…その代わり私が貴方の子供沢山産んであげるから!」
「うあああああ!! やめろぉぉぉ!! 離せぇぇ!! 嫌だ! そんな事するならいっそ殺せ!
私を殺せぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 高町ジェイルと改姓させられたスカリエッティは…こうしてなのはに引張られるまま…軌道拘置所から姿を消した。

 こうして、美しくも恐ろしい若妻を手に入れたジェイル=スカリエッティ改め高町ジェイルは、
彼女に見張られ、また愛されながら管理局の為の研究に生涯を捧げざるを得なくなり…

 なのはの産んだ沢山の子供達もまた、二人の子供に相応しい才能豊かな人材に育ち
管理局の様々な分野で活躍しているそうな………

                   おしまい

835 ◆6BmcNJgox2:2009/05/23(土) 18:23:49 ID:j74/SNOs
スカ陣営側に捕まっちゃった管理局側の人達が色々やられちゃう様なパターンは
結構ある様な気もしない事もありませんが、逆に管理局に逮捕されたスカとかが…
ってパターンはあんまり無い様な気がしたので思い切ってやってしまいました。

836名無しさん@魔法少女:2009/05/23(土) 22:11:58 ID:9tFKXvLE
>アルカディア氏
オッス兄弟、相変わらず貴兄の話は良いな。お陰でコッチは涙目だよコノヤロウ!GJ!
ドロドロした展開もそれはそれで楽しみだが・・・互いに裏の無いエロ展開にも期待してますぜ
しかしグリフィスw生真面目で優等生だった君は何処に行ったww

>◆6BmcNJgox2氏
ちょ、ドクター(デフォ:DT)代われw
ユーノが滅茶苦茶黄昏れた顔で飲んだくれてる有様が幻視できたよ

しかし、実際の所スカリエッティは、他人を愛することができるのだろうか?
他人に愛されることを、受け入れることができるのだろうか?
ナンバーズを「最高傑作」とは呼んだものの、そこには自分の描いた名画を眺めるような感覚しかなかったのならば、
悲しいくらいに歪んでるね。そんな奴には最高の刑罰だ。幸せになれよ

>>恐怖のズンドコに
ちがーう!

837B・A:2009/05/23(土) 23:22:13 ID:AvRlB5jM
ようやっと書けたので投下します。


注意事項
・非エロでバトルです
・時間軸はJS事件から3年後
・JS事件でもしもスカ側が勝利していたら
・捏造満載
・一部のキャラクターは死亡しています
・色んなキャラが悲惨な目にあっています、鬱要素あり
・物騒な単語(「殺す」とか「復讐」とか)いっぱい出てきます
・主人公はスバル(とエリオ)
・SSXネタもたまに含まれます
・ご都合主義
・タイトルは「UNDERDOGS」  訳:負け犬

838UNDERDOGS 第二十五話①:2009/05/23(土) 23:23:08 ID:AvRlB5jM
駆動炉の破壊に成功したことで防衛システムの機能が大幅に低下し、クロノ達は膠着していた戦況を一気に巻き返すことができた。
抵抗は未だ根強いものの、ガジェットの連携にも乱れが生じており、彼らは道中で孤立してしまった仲間を回収しながら態勢を立て直し、
一丸となってスカリエッティのもとへ進軍していく。

「敵は浮き足立っている。怯むな、突撃!」

「うおおおおぉっ!」

ギャレットの号令で十数人の魔導師達がガジェットの群れへと切り込み、無数の攻撃魔法が鋼の戦闘機械を鉄くずへと変えていく。
被害は多いものの、立て続けにゆりかごの要所を制圧できたことや、クロノやユーノのようなエース魔導師が体を張って前に出ていることで、
彼らの士気はかつてないほどに高ぶっていた。ガジェット達はその勢いを止めることができず、無様な鉄の塊を増やしていくばかりだ。
だが、圧倒的な物量差だけはどうしようもない。50の敵を薙ぎ払ったところで、後ろには100の兵力が待ち構えているのだ。
いくら士気が高くても、その物量差を覆すのは容易なことではなかった。

「クロノ、僕が押さえている間に!」

非魔導師をバリアで庇いながら、ユーノは無数のチェーンバインドを発動させてガジェットの群れを拘束する。
それを見たクロノはギャレットに部下を下がらせるよう命じると、自身も後衛へと後退し、
デュランダルに登録されている中で最も威力のある魔法の詠唱を開始する。

「ぐっ………AMFが濃い。クロノ、早く!」

「後2秒保たせろ! よし、ユーノいくぞ!」

詠唱を終えたクロノが無数の氷柱を頭上に出現させると、ユーノはガジェットの拘束を自ら解除する。
そして、バインドの維持に回していた魔力の全てを防御魔法へと集中させ、来るべき衝撃に備える。

「クロノ、撃て!」

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」

撃発音声と共に無数の氷柱がガジェットの群れに降り注ぎ、身を裂くような冷気が通路を満たしていく。
いつもより余分に魔力を込めたそれはデュランダルの氷結強化機能によって生み出された本物の氷柱であり、
着弾するとごく狭い範囲ではあるが凍結作用を持った冷気をまき散らすように改良された破格の対AMF仕様だ。
例え全滅させることができなかったとしても、敵の大部分を無力化できるはずである。

「やったか?」

全員が固唾を飲んで見守る中、視界を遮る白い靄が少しずつ晴れていく。その向こうから現れたのは、
装甲をズタズタに引き裂かれて氷漬けにされたガジェットであった。張り詰めていた空気が僅かに弛緩し、
何人かは歓声を上げてクロノを称えた。だが、その安堵は次の瞬間、絶望へと塗り替えられた。

「何………だと……?」

凍り付いたガジェットの後ろには、傷つきながらも未だ稼働している大量のガジェットが蠢いていた。
その数はクロノが予想していたよりも遥かに多く、凍り付いた仲間を無慈悲に破壊しながらこちらに向かってきている。

「こ、これは!?」

クロノの攻撃の余波から仲間を守るために張っていたバリアが音もなく消失していき、ユーノが驚愕の声を上げる。
それだけでなく、シャマルが張っていた治癒の結界も消えており、飛んでいた者も次々に墜落している。
ゆりかご内部を包み込むAMFの濃度が増していっているのだ。それによって氷柱の凍結効果が無効化され、
後方にいたガジェットは被害を免れたのである。

《聖王陛下、反応ロスト システムダウン。艦内復旧のため、全ての魔力リンクをキャンセルします》

無機質な合成音のアナウンスが流れたかと思うと、今までに体感したことのない濃度までAMFが高められていく。
艦の要である聖王が消失したことで、ゆりかごのメインコンピューターが自身の安全を最優先とするプログラムを
発動させたのであろう。それはつまり、生死は別として聖王が無力化されたことを意味する。

(フェイトがやったのか!? くっ、彼女は無事なのか? エリオ達は?)

飛来した熱線が、クロノの思考を中断する。咄嗟にただの鈍器と化したデュランダルで襲いかかってきたガジェットを叩き潰すが、
その後ろから更に数体のガジェットが赤いケーブルを触手のように振り回しながら飛びかかってくる。
その距離は致命的で、防御魔法も加速魔法も使えぬ現状では左右から繰り出される敵の攻撃から逃れることができない。

839UNDERDOGS 第二十五話②:2009/05/23(土) 23:23:54 ID:AvRlB5jM
「クロノ!」

ユーノの悲鳴が遠くから聞こえて、クロノは自分が酷く冷静でいることに気がついた。もうすぐはやて達と同じ場所に逝くというのに、
死が訪れる瞬間を観察する余裕すらある。まるで泥の中にいるかのように、世界の動きがゆっくりだ。

《エイミィ………フェイト…………》

逃れようのない死の運命を前にして、クロノの脳裏に大切な家族の笑顔が思い浮かんだ。
最早、これまでなのか。そんな後悔すら胸をよぎる。
その時、眩い緑の輝きが、襲いかかるガジェットを焼き払った。

「提督、伏せてください」

背後から飛び出たディードが、クロノの体を引きずり倒して被害を免れたガジェットのコアに強烈な蹴りを叩き込む。
そして、すぐさまクロノを連れて大きく後退、前線指揮官であるギャレットの名を呼ぶ。

「ギャレット」

「はっ!? じ、実弾デバイス隊、撃てぇっ!」

ギャレットの号令で鉛玉の雨が降り注ぎ、接近していたガジェットの装甲に蜂の巣模様を描いていく。
無論、魔法のように一撃必殺とはいかないが、弾幕を張ったことでガジェットを足止めすることはできる。

「すまない、オットー、ディード。助かった」

「お気になさらずに」

「みんな、これを。ありったけ持ってきた」

実弾デバイス隊の側に着地したオットーが、ライディングボードで牽引してきたケースを開錠する。
そこには爆弾やミサイルなどの質量兵器こそないものの、大小様々な実弾デバイスとそれに用いる弾薬が詰められていた。
どうやら、クラウディアに備蓄されていたものを全て持参したようだ。

「ユーノ、魔法は?」

「ダメだ、盾もバインドも作れない。バリアジャケットを維持するのが精一杯だ。君達は?」

「…………ダメです、回復は十分とは言えない。レイストームは撃てて後2発、
ディードの腕も、くっついているだけで使いものにならない」

魔法は封じられ、戦闘機人である2人も消耗が激しい。
実弾デバイスがあるとはいえ、それだけでスカリエッティがいると思われるラボまで進撃するのは難しいだろう。
一度撤退し、態勢を立て直すべきかともクロノは考えた。だが、この機を逃せばスカリエッティはゆりかごを捨て、
どこか別の次元世界に逃亡するかもしれない。敵側についていたナンバーズが全て倒された今が、
彼を捕縛する最大のチャンスなのだ。
打開策が浮かばぬまま、ただ弾薬だけが無意味に消費されていく。
その時、クロノの懐の通信機が受信を告げた。

『提督、聞こえますか?』

「グリフィスか?」

『まずいことになりました。ゆりかごがミッドの重力に引きずられています』

「何だって?」

『事実です。僕達は派手にやりすぎたのかもしれません。今のゆりかごに、ミッドの重力から逃れる術は…………』

「駆動炉を破壊したことが裏目に出たか。グリフィス、地上への被害は?」

『待ってください、今、ルキノが概算を………えっ、そんな…………』

通信機の向こうから息を呑む音が聞こえ、場違いな静寂が訪れる。

「グリフィス? グリフィスどうした?」

『クラナガンが…………』

「なに?」

『ゆりかごの落下予想地点は、首都クラナガンです』

「なっ……………」

『事実です。バリアが弱体化しているので、大部分は大気圏の摩擦熱で燃え尽きますが、
残った部分が首都を直撃…………クラナガンは、この世から消滅します』

ゆりかごがクラナガンに堕ちる。それは文字通り悪夢のような光景だ。そこにいる誰もが、性質の悪い冗談であることを望んでいた。
だが、グリフィスはこんな時に冗談を口にするような人物ではない。ならばそれは、嘘偽りのない事実なのだろう。

840UNDERDOGS 第二十五話③:2009/05/23(土) 23:24:54 ID:AvRlB5jM
「グリフィス、本局へ………いや、地上本部に打診しろ! すぐに住民の避難とゆりかごの迎撃を…………」

『無理です、地上も戦闘機人の攻撃を受けていて、とてもゆりかごの落下に対応できる状態じゃありません』

「だが、クラウディアの砲撃だけでは……………」

アルカンシェルを搭載していないクラウディアでは、ゆりかごが大気圏に突入する前に破壊し切ることができない。
ゆりかごに搭載されている質量兵器を、内部から爆破させようかともクロノは考えた。
だが、肝心の質量兵器がどこにあるのかわからなければ意味がない。
そうなってくると、自分達に残された手段はたった1つであった。

「グリフィス、今からクラウディアの炉心を暴走させるのにどれだけかかる?」

その言葉の意味を、傍らにいたユーノとオットーはすぐに理解することができなかった。
だが、グリフィスは最初からその質問が来ることをわかっていたかのように、即座に返答する。

『30分…………25分で炉心が臨界を迎え、誤差5分以内に大爆発を起こします。
アルカンシェルには遠く及びませんが、それでも十分な破壊力です』

「すぐに準備しろ。クラウディアを自爆させる」

「待って! クロノ、本気なのかい? クラウディアは君の艦だろう?」

「言っただろう、クラウディアは片道だと! 他に方法がない時は、自爆させてでもゆりかごを沈めるプランだった。
それにクラナガンには、この戦いと無関係な人々が大勢いるんだ。昨日と変わらぬ今日が来ると信じていた人達が! 
死なせる訳にはいかないだろ!」

世界の変革は、大多数の人々には無関係な出来事である。彼らが気にかけていることは、次元世界の安寧や聖王の復活などではなく、
今日一日を平穏に、幸福に過ごすことなのだ。例え正義が成されずとも、深い絶望がなければそれで良い。
明日の到来が約束されているなら、不条理に涙する者がいても構わない。戦争も政治も犯罪も、
彼らからすれば遠い別世界で起きた事件のようなものなのである。そして、大衆とは鈍感で無関心で、それ故に正直な生き物なのだ。
だから、何かが変わってしまった世界を前にしても、何事もなく朝を迎えられるのなら、自分達の幸福が脅かされないのなら、
大衆は日常の裏に潜む不条理から目を背けようとする。労働や勉学に勤しみ、友達や恋人と語らい、家族と団欒し、
ちょっとしたトラブルに悩み、傷つき、些細な出来事に笑い、涙する。そんな退屈ではあるが平穏な毎日を、
クロノ・ハラオウンは彼らから奪ってしまった。自らが掲げる正義に反するという身勝手極まりない理由から、
武力による変革を実行してしまったからだ。
かつて違法された技術を研究する施設を襲撃し、輸送列車を襲い、軍事拠点を破壊し、プロパガンタを流す。
それらは全て、世に蔓延る外道を打ち倒し、世界を正すための行いであった。
だが、その過程で今の生活を守ろうとする者達を排除せねばならず、周囲の街や自然に被害が及ぶことがあった。
その思いがどれだけ尊く、正しいものであったとしても、正義に殉じる覚悟があったとしても、
自分達がしてきた行いは社会の秩序を乱す暴力でしかないのである。
しかし、それでも彼らは生きている。
不条理に怯え、秩序を乱す者達を憎みながらも、明日はもっとより良い生活をと日々を懸命に生きている。

「僕達は、みんなから平和な昨日を奪った。その上、明日まで奪うなんて…………そんなのはご免だ!」

「明日か…………そうだね、ここにいるみんなは、明日を取り戻すために集まった仲間だ。
ミッドを見捨てるなんて、そんな選択肢は選べない」

「ユーノ」

「君に従おう。僕だって思いは同じだ」

そう言って、ユーノはクロノから視線を逸らす。
ただそれだけで、クロノはユーノの胸中を察することができた。
彼は残りたかったのだ。この混沌とした最終決戦の場のどこかにいるであろう、高町なのはと再会するために。
不可抗力とはいえ魔法の力を開花させてしまい、その運命を捻じ曲げてしまった女性に償うために。

(すまない、ユーノ)

心の中で親友に詫び、クロノは通信機で撤退命令を出すよう管制を勤めているティアナに命じる。
その命令は即座に電波となってゆりかご内で戦う者達に伝えられ、押されつつあったレジスタンス達は逃走を開始した。
無論、万が一にもスカリエッティがこの場を去らぬよう、転送ルームを制圧していた部隊には転送装置の破壊を命じることも忘れない。

841UNDERDOGS 第二十五話④:2009/05/23(土) 23:26:29 ID:AvRlB5jM
「グリフィス、コードを送るから彼女達にも伝えてくれ。『帰宅時間だ』と」

『了解しました。炉心臨界まで残り25分、ご武運を』





救いたい命があった。
守りたい魂があった。
やり直したい過去があった。
果たしたい復讐があった。
償いたい罪があった。
そして、貫きたい正義があった。
7年前、あの眩しい星空の下で大好きな人に抱かれながら、自分は強くなりたいと思った。
弱いままの自分でいたくない、炎の中から救い出してくれた人のように強くなりたいと、魔導師の道を志した。
やがて、憧れは尊敬へと代わり、自分だけの正義が胸の中に生まれた。
もちろん、辛いこともたくさんあった。自身の出生と能力、才能の有無、救えなかった命、過信から起きた過ちと挫折、
憎しみによる正義の喪失、大切な家族との死別。
その度に、あの星空を思い出して戦い続けた。それはまるで、飛べない鳥が大空を夢見て懸命に羽ばたいているようで、とても痛ましい姿であった。

(間違い…………だったのかな? あの人みたいに、強い思いを束ねれば、どんな理不尽にも負けないって。
今度こそ、この熱い思いを貫けるって…………あたしなりに、頑張ってみたのに…………)

義憤の拳は欲望の糸で絡め取られ、完膚無きまでに叩きのめされた。マッハキャリバーも半壊し、
全身の至る所でスパークが起きている。左目も機能を停止したのか、視界の半分が暗闇に包まれている。
言わば半死半生。今の自分は機能停止寸前の機械が奇跡的に稼働し続けているようなもので、いつ止まったとしてもおかしくはない。
そして、ここで抗うことを諦めたとしても、誰も咎めはしないであろう。
その死を嘆くか無謀と罵るかはわからないが、力及ばずに倒れたのだと誰もが認めてくれるはずだ。

(けれど…………)

それを是とせぬ思いが、胸の片隅でくすぶり続けていた。
辛くて苦しくて、涙が出るくらい痛いのに。叫び出したいくらい怖いのに。
魔力も体力も尽きて、リンカーコアが壊れそうなほど軋みを上げているのに、この機械仕掛けの体は倒れてはくれなかった。
それどころか、苦痛の奥から戦うための闘志が沸々と湧き上がってくる。
限界のはずなのに、まだ戦えるとこの魂は叫んでいる。

「ああ、そっか」

呟いたスバルが見たのは、倒れそうになる自分の体を支える死者の腕であった。
それも1人や2人ではない。今日までに散っていった無数の英霊達が、挫けそうになる心を必死で鼓舞してくれている。

『大丈夫よ、スバル。あなたは1人じゃない』

『そうよ、母さんの娘で、ギンガの妹なんだから』

『こんな老いぼれでも良ければ、いくらでも力を貸すぜ』

『信じてください、自分の力を。その思いを』

『忘れるな、あたしが鍛えたお前の力は守る力だ』

『届かぬのなら、届く距離まで駆けろ、スバル』

『ここで諦めたら、きっと後悔するよ。部隊長からの忠告や』

『生憎、こっちは定員だ。だからよ、もう少しだけ粘ってみろよ。俺の代わりに』

『約束がある限り、私達はいつまでも一緒です、スバル』

1人1人の言葉に込められた力は、決して大きくない。だが、無限に束ねられた言葉は太陽の光のように全身へ染み渡り、
疲れ果てた体に尽きぬ闘志が湧き上がる。

842UNDERDOGS 第二十五話⑤:2009/05/23(土) 23:27:15 ID:AvRlB5jM
(ギン姉、母さん、父さん、キャロ、ヴィータ副隊長、シグナム副隊長、八神部隊長、ヴァイス陸曹、
イクス……………みんな、一緒にいたんだ。ずっと、ずっと一緒に……………)

壊れかけの体に力が漲る。
動かぬ足が地面を捉え、握り拳が空を切り、鋭い眼差しが白い空間を睨みつける。
自分の自惚れが情けなかった。いくら思いが強くても、たった1人では底が知れている。
どんなに重ねたところでそれはただの独り善がりでしかない。
けれど、今は違う。この戦いは自分1人のものではないし、自分だけで戦っていたわけでもない。
たくさんの人々が支え、導き、護ってくれている。束ねられたその思いこそが、戦うための原動力なのだ。

「例え血で汚れた腕でも、誰かを抱き締めることはできる。こんな人殺しでも、側にいてくれた人たちがいる。
なら、この戦いはあたしだけのものじゃなくて、みんなの明日を守るための戦いなんだ。
ここまであたしを支えてくれた、この瞬間まであたしを生かしてくれた全ての人達の辛い記憶を閉ざすための」

傍らに1人の女性が降り立つ。
亜麻色の髪に白い衣装。手には深紅の宝石が取り付けられた金色の杖。
スバルが憧れ、その背中を追いかけ続けた恩師。
かつての姿と意思を取り戻した高町なのはは、この世の全ての罪科を背負ったかのような
辛い表情を浮かべながら、頭を垂れた。

『ごめんなさい、スバルに全部押し付けてしまって。本当なら、わたしが…………わたし達が終わらせるはずだったのに』

自分は現実を見失い、フェイトは戦いに敗れ、はやてはこの世を去った。
みんながこんなはずじゃなかった人生を歩まぬことを願い、戦う力をその手に取った少女達は、
志半ばにして挫けてしまった。その無念は教え子達へと引き継がれ、苦難の道を歩ませることとなった。
こんなはずではなかったのだと、なのはは我が身の未熟さと引き起こしてしまった悲劇に懺悔しているのだ。

『あの時、わたしがヴィヴィオを………………』

「良いんです、なのはさん」

悔やむ恩師の言葉を遮り、スバルは決意のこもった瞳でなのはを見上げる。

「やり直しましょう。まだ、間に合います。みんな一緒に…………あたしが終わらせますから」

辛いことも苦しいこともたくさんあった。けれど、その中で見つけた答えもある。
それを実行するためにも、散っていったみんなの無念を晴らすためにも、長く続いた戦いは終わらせなければならない。
新しい自分を始めるためには、今までの自分を終わらせねばならない。
だが、なのはは静かに頭を振った。あなたとは逝けないと。

『あの娘が泣いちゃうから。だから、スバルとは逝けない。傷つけるだけかもしれないけど、
悲しむだけかもしれないけど、それでも1人にはできない。ずっと一緒にいるって決めたから。
だから、スバルとは逝けない。わたしはヴィヴィオと逝かなくちゃ』

なのはがそう答えることを、スバルは最初からわかっていたような気がした。
彼女はいつもそうだ。自分1人で勝手に決めて、手の届かないところに逝ってしまう。
いつかは彼女のいる場所まで逝けると思っていた時もあった。しかし、自分と彼女は違う。
どんなに追いかけたところで、その高みまで昇ることはできない。
けれど、彼女と同じものを目指すことはできる。別々の道を歩きながら、同じ目標に進むことができる。
だから、ここでお別れだ。
新しい明日を始めるために、今日まで続いた悲しみを終わらせよう。

843UNDERDOGS 第二十五話⑥:2009/05/23(土) 23:28:19 ID:AvRlB5jM
『覚えている、スバル? 努力の時間は決して自分を裏切ったりしない。回り道したのなら、それだけ何かを得たはず。
だから、後は自分らしく…………自分なりに羽ばたくだけ。不屈の心は、その胸に……………』

「はい、なのはさん。私は空を飛べないけれど……………駆け抜けることはできる」

力強い頷きと共に、蒼い翼が雄々しく羽ばたく。
それを形作っているのは、ここにいる全ての英霊達の思いであった。
そして、尊敬する恩師が見守る中、たくさんの人達の思いに支えられたスバルは、白い闇の向こう側へと駆け出していった。





どんな人生においても予想外の事態とは起こり得るものである。
例えそれが、スカリエッティのような生まれる前から己の生き方を決定付けられていたとしても、
時に神は気紛れを起こしたかのように有り得ない事象を引き起こす。
その最たる具現を、人はこう呼ぶ。
奇跡と。

「バ、バカな…………」

殴られた頬を押さえながら、スカリエッティは自分の前に立ち塞がる理不尽を睨みつける。
痛みはなかったが、酷い屈辱感が湧き起こった。例えるなら、チェックメイトの宣言を終えた瞬間に
チェス板を引っくり返されたような気分であろうか。確定した勝利を有耶無耶にされることほど腹立たしいことはない。
だが、それ以上に疑問なことがあった。それは、どうして目の前の少女が立ち上がっているのかということだ。

「何故だ、確かに致命傷だったはず! 圧倒的な絶望を前にして、何が君を突き動かす!?」

「それは………あたしが1人じゃないからだ!」

怒涛の如く繰り出されるコンビネーションの勢いに圧され、スカリエッティは思わず防御しようと身構えた。
しかし、スバルの攻撃は鉄壁のはずのフィールド防御を揺るがし、不定形なはずの力場に見えない亀裂を走らせる。
AMFによって完全に魔法を封じられた状況で、絶対防御たる自身の障壁が崩れようとする有り得ない出来事を前に、
スカリエッティは動揺を隠せなかった。その僅かな隙をこじ開けんとスバルは殴りかかり、スカリエッティは益々追い込まれていく。
だが、彼とて伊達に天才と呼ばれている訳ではない。すぐにスバルの瞳が金色に染まっていることに気づき、
普段の冷静さを取り戻してスバルから距離を取る。

「なるほど、機人エネルギーか。源は違えど、魔力と機人エネルギーは類似した点が多い。
瀕死の体を一時的に立ち上がらせることもできるだろう。だが、疑問が1つ残る。
私の絶対防御は君の振動破砕が天敵だ。理論上、君の攻撃を受け止めた時点でこの体はバラバラに砕け散るはず。
だからこそ解せない。どうして、私は生きている?」

触れたものを瞬時に粉砕する彼女のISは、手加減などできる代物ではない。仮に直撃を免れたとしても、
振動エネルギーを少量でも流し込まれれば全身の骨や筋肉がズタズタに引き裂かれてしまう。
彼女は振動エネルギーを拳に纏うことで触れた箇所のみを破壊する技を有していたが、
それにしたって肉体に密着しているフィールド魔法だけを傷つけるなど不可能なはずだ。
科学者として不可解を許容できないスカリエッティは、当然の如く疑問を投げかけた。
すると、スバルは足下に転がっていた金属片を床に零れた培養液の水たまりへと蹴り込み、小さな波紋を立てて見せる。

「振動エネルギーは波紋と同じだ。小石を落とせば水たまりいっぱいに広がっていく。
けれど、大海原に小石を落としても、波紋は広がり切らない」

「流し込むエネルギー量を減らしたというのかい? そんな芸等ができる訳が……………まさか?」

ある仮説に思い至ったスカリエッティは、まだ波紋が広がっている水たまりに別の金属片を投げ入れた。
すると、水面にできた2つの波紋が互いにぶつかり合い、波打ちながら消えていく。程なくして、水たまりは元の静寂を取り戻した。

844UNDERDOGS 第二十五話⑦:2009/05/23(土) 23:29:34 ID:AvRlB5jM
「波は波で消える。自身の内部で振動エネルギーを拡散、相殺させることで放出するエネルギーを調節したのか!?
私を傷つけず、絶対防御のみを砕けるように。そんなことをすれば、君自身の体に途轍もない負荷がかかるはずだ。
体内で爆発が起きているようなものなのだよ? 立っているのも辛いはずだ。そこまでして不殺を貫くのは何故だい?
君の言う、管理局の魔導師の誇りとやらかい?」

「それもある。けど、それ以上に大切なことを思い出せたんだ、あたしが何をしたかったのかを。
この力は誰かを傷つけるためのものじゃなくて、守る力。何かを守れる自分になりたくて、あたしは魔導師になったんだ。
だから、あたしはお前を殺さない。叩きのめして、捕まえて、そして全て終わらせる。あたしの、機動六課の、
いや時空管理局とお前の因縁を、ここで終わらせる! でないと、あたしは前に進めない。あたしは1人じゃないから、
力を貸してくれているみんなの因果をここで断ち切らないと、新しい自分を始められない! この戦いは、あたし達の戦いだから。
あたし達が明日を取り戻すための戦いだから!」

「そして、君は何を得る? 私を倒したたところで、君が多くの命を奪ってきたテロリストであるということは変わらない。
そして、罪は正当化されることはあっても消えることはないのだよ。例え君が正義を成したとしても、
君を憎む者は存在し続けるだろう。どれほどの命を救ったところで、君に家族を殺された者は君を恨むだろう。
この私が、世界を変えて見せたこの私がその証明だ。それでも君は戦うと言うのかい? 取り戻した世界は、
果たして君の存在を許してくれると思うかい?」

「もしも世界があたしを拒絶するなら、それでも良い。あたしは法の裁きを受ける。
八つ裂きにされるのならそれも構わない。けれど、それはこの戦いが終わってからだ。
お前を倒して、あの懐かしかった日々を…………もう戻らないあの時間を、
みんなが取り戻した後のことだ。だから、みんなの魂をこの拳で預かる」

再び振動エネルギーが流し込まれ、フィールド魔法が歪む。
だが、冷静さを取り戻したスカリエッティは防御を抜かれる前に彼女の目が利かない左側へと回り込み、
右腕のカギ爪を振るう。スバルは横っ飛びに避けようとしたが、左足のデバイスが破損していたために
ジャンプのタイミングが崩れ、頬に一文字の傷が走る。

845UNDERDOGS 第二十五話⑧:2009/05/23(土) 23:30:15 ID:AvRlB5jM
「動きが鈍いなぁ、ゼロ・セカンド」

「くっ……………」

転がるように着地したスバルは、起き上がりながら右拳を作って身構える。
残されたエネルギーが少ないのか、スバルは反撃してこなかった。
対するスカリエッティも、荒い呼吸を吐きながらカギ爪に魔力を込めていく。
本来ならばバインドや射撃魔法で牽制したいところではあるが、AMFによって無効化されてしまうため、
魔力を飛ばす攻撃は使用できないのだ。そして、互いに消耗も激しく、次の一手が最後の攻撃となるだろう。
その一撃を凌ぐことさえできれば、目の前の憎たらしい小娘の顔を粉々に打ち砕くことができる。

(これは試練だ。私自身が運命に打ち勝てという過去からの試練だ。君は私の生み出した技術によって造られながら、
私に牙を剥く存在。私自身が過去に犯した唯一の汚点であり失敗だ。それを修正した時こそ、
私は求めていた自由な世界を手に入れることができる。君を打ち負かした時こそ、我が悲願の成就の時だ!)

最初にわざと攻撃を食らった時のような真似はもうしない。
あの時は彼女が自らの感情を押し殺していることに興醒めして攻撃を許してしまったが、
今の自分にそのような油断や慢心は微塵も存在しない。
その忌々しい社会正義をへし折って敗北感を刻みつけるために、全身全霊を賭けて放たれた一撃を捌いてみせよう。
確固たる決意を胸に、スカリエッティはカギ爪を振り上げる。
その時、彼の背後で小さな爆発音が響いた。





自分が刻一刻と別のものへと変化していくのを、カルタスはヒシヒシと感じ取っていた。
体内に埋め込まれたマリアージュの核は傷ついた体を修復せんと活性化しており、
全身の至る所が変化に伴う激痛で苛まれている。既に呼吸や脈拍は停止しているのか、
水たまりに顔が半ば浸かっているのに息苦しいとは感じなかった。
それでもカルタスは起き上がろうとしたが、どの筋肉も言うことを聞いてくれず、
指先一つ動かすこともできない。
仇敵と愛した女の妹が熾烈な戦いを繰り広げている中で、何もできないでいる自分がとても悔しく、
カルタスは血の涙を流しながら歯嚙みした。
いつかは終わるとわかっていた。
元々、この体はマリアージュの核を埋め込まれた時点で既に力尽きていたのだ。
ただ、心が死んでいなかったから動くことができただけ。死すらも喰らう執念が、
燃え尽きかけた精神をギリギリのところで繋ぎ止めていたのである。
だが、それもここまでだ。限界まで酷使された肉体は綻び、人ではない何かに変化していっている。
程なくして、自分は繁殖するだけの低能な存在へと成り果てるであろう。
復讐を果たすことも、大切な人を守ることもできずに。

(嫌だ…………それは、それだけは…………地獄に堕ちようと、辱しめを受けようと、
それだけは…………心だけは、折れたくない)

尚も諦めずに四肢を動かそうとするが、痛みが邪魔をしてうまくいかない。
ラッド・カルタスでは目の前の戦場に飛び込むこともできない。
こうしている間にも、彼女は追い込まれていっているのに。

(俺だけじゃ…………ダメ………なら、お前らの力を……………ああ、良いさ。全部くれてやる。
この体も魂も、全部食わせてやる。だから、少しだけ俺の言うことを聞け。俺が俺でいられる時間を、ほんの少しで良い)

必死で戦うスバルにギンガの姿が被る。
カルタスにはわかった、彼女も共に戦っているのだと。
妹を守るために、その魂が力を貸しているのだと。
ならば、自分も何かしなくてはいけない。どんなに惨めでも、何もせずに息絶えることだけは避けねばならない。

846UNDERDOGS 第二十五話⑨:2009/05/23(土) 23:31:01 ID:AvRlB5jM
「そんな格好悪いことしたら、あの世で呆れられるかも………ね」

そして、カルタスは抗うことを止めた。
生きようとする意思を手放し、朽ちた体が急速に死へと加速する。
最早、激痛すら感じなくなったカルタスの心に、マリアージュの意思が侵蝕を開始する。
楽しかった思い出も辛い記憶もかき消され、屈強な肉体が麗しい女性のものへと変わっていく。
すると、用途を成さなくなった外骨格が次々と弾け飛び、金属板が辺りに散らばっていく。
その中には、常に両足に装着していたギンガの形見も含まれていた。





その時、スバルはカルタスの声を聞いた気がした。
今から預かっていたものを返すから、受け取ってくれと。
それが何なのかはすぐに思い当たった。この重くなった左足を、見えぬ左目と無防備な左腕を守ってくれる武具。
そして、目の前の仇敵を叩きのめすことができる最後の武器。今こそ、幾年の月日を隔てて欠けていた半身が
母のもとへと戻ってくる。

「あれは、デバイスか?」

宙を舞う紫紺の宝石を認めたスカリエッティが、スバルに先んじてその手を伸ばす。
本能的に、あれを取られてはまずいと思ったのであろう。だが、スバルは咄嗟にウィングロードを伸ばして
スカリエッティの跳躍を阻むと、自身は渾身の力でウィングロードの壁を蹴って待機状態のブリッツキャリバーを掴み取り、
己の魂が命じるままに左腕を高々と掲げて両の拳を打ち鳴らせた。

『さあ、いくわよスバル』

『ぶつけなさい、あなたの全てを』

「ギン姉、母さん…………キャリバーズ、フォース・ドライブ!」

《Ignition》

《Get set》

衝撃波が大気を震わし、純白のローラーが半壊したマッハキャリバーに代わって左足に装着される。
正規の主を得て全ての機能を取り戻したブリッツキャリバーは、即座に右足のマッハキャリバーとデータをリンクさせ、
互いに不完全な面を補完しあう。そして、自身に備えられたリボルバーナックルとのリンク機能を発動させると、
空拳であったスバルの左腕に鋼の拳を転送させた。

《データ共有完了、ギア・エクセリオンとの同調率82%》

《ライトナックル、レフトナックル、共に異常なし》

《限界稼働時間まで残り120秒》

《問題ありません、いつでもいけます》

二対のデバイスの言葉を受け、スバルの意識は覚醒する。
初めて装着したにも関わらず、左半身に違和感は感じられなかった。
満身創痍の体は呼吸すら苦しかったが、不可思議な力が全身に漲り、自分の闘志を鼓舞している。
これは姉と母の魂の鼓動だ。2つのデバイスに込められていた想念が、自分の中に流れ込んできているのである。
ならば負ける道理はどこにもない。怒りも憎しみも捨て去り、偽りのない思いのままにこの拳を振るう。
ただそれだけだ。

847UNDERDOGS 第二十五話⑩:2009/05/23(土) 23:34:55 ID:AvRlB5jM
「いくよ、キャリバーズ」

《All right buddy》

《Yes sir》

二対の羽根が羽ばたき、着地と同時に水色の羽根をまき散らしながらスバルはウィングロードを駆け降りた。
時間にしてほんの一瞬。互いを隔てる距離をゼロへと縮めたスバルは、加速によって勢いがついた拳から
行使できる最後の振動エネルギーを放出する。

「4機のデバイスの、同時起動だと……………」

一拍遅れて、驚愕したスカリエッティが両腕を交差させる。
だが、立て続けに攻撃を受けて魔力を削り取られたことで、スカリエッティの絶対防御は
明滅を繰り返すまでに弱っていた。残された全ての力をそこに叩きこめば、突破することは可能なはずだ。

「一撃、必倒ッ!!」

「くっ、魔力が………」

右の拳が交差した腕を崩し、左の手刀がフィールドに亀裂を走らせる。
そして、間髪入れずに水色の球体をひび割れた魔力の壁に押し当て、スカリッティの態勢を突き崩す。
解き放たれるは何度も苦境から自分を救ってくれた水色の閃光。
憧れの魔導師を真似、思考錯誤を繰り返しながら編み出した自分だけの砲撃魔法。
大地を駆ける疾風の蒼。

「ディバイィィィンバスタァァァァァァッ!!!」

無限とも言える熱量が駆け巡り、苦悶しながらもスバルは機人エネルギーを放出する。
だが、押し切るためには僅かに足りない。明滅する不可視の力場は軋みを上げながら削り取られていくが、
それでもスカリエッティの本体にダメージはない。態勢を崩され、激痛でその身を焼かれながらも、
スカリエッティは渾身の魔力を込めたカギ爪で砲撃を切り裂きながら迫ってくる。

「私の勝ちだ、ゼロ・セカ………なっ!?」

砲撃を切り裂き、カギ爪を振り上げたスカリエッティが再度驚愕する。
何故なら、砲撃は一発だけではなかったからだ。先ほど放ったディバインバスターとは別に、
スバルの左手にはもう1つのディバインスフィアが保持されている。スバルは一発目を放ちながら、
左手に二発目の砲撃をチャージしていたのだ。

「砲撃の二連射だと!? どこにそれだけの力が!?」

「お前には、わからないだろう! これが不屈の………闘志だぁっっ!!」

両腕に装填されている全てのカートリッジを炸裂させ、不足しているエネルギーを補う。
もちろん、AMFによって魔法は無効化されてしまうが、スバルは構わず魔力をナックルスピナーで凝縮していく。
結果、溢れんばかりのエネルギーの奔流は暴風のようにスバルの左腕を蹂躙すると、
半ば暴発するかのよう肘から先を破裂させ、スバルの体を吹き飛ばした。
そして、全方位に向けて解き放たれた水色の渦は近くにあるものを手当たり次第に破壊していき、
視界を青く焼いていく。
全ての力を出し切って第一射を耐え切ったスカリエッティは、今度こそ防御も回避もできず、
魔砲の直撃を受けて爆炎に呑み込まれていった。








                                                         to be continued

848B・A:2009/05/23(土) 23:36:17 ID:AvRlB5jM
以上です。
自爆はやっぱりお約束だよね。
本当なら煙が晴れたところまで持っていきたかったけれど、
尺の都合でここまで。
下手したら後1話で収まらないかもしれない

849名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 00:40:51 ID:swkZKvH2
おお! 遂に永い激闘に終焉が!
今まで散っていった者達を幻視しながら奮い立つ様は実に素晴らしいですなぁ。

GJでした、物語の終末まであと少し、応援してます!

850名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 02:22:03 ID:.WA2PBAg
a

851名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 05:59:56 ID:P5q9JIsM
結局はこの展開
このラストの為にみんな死んだみたいで可哀想に思える

852名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 07:43:25 ID:c/37H/GU
>>851
結局あんたら無駄死にでしたってされるよかいいだろw

853名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 08:27:24 ID:DMJ7Ld2s
 管理世界中で戦闘機人は人を殺しまくってるし、このままじゃ、もろターミネーターの世界だぜ。
 それに管理局の実態が、こうもあからさまになったんじゃ、質量兵器に回帰する管理世界も出るだろうし
 このどさくさにロストロギアを持ち出す馬鹿も確実にいるだろうね。
 その上、聖王協会の権威も3年間も偽聖王様を担いでせいで地に落ちたし、カリムたちを聖王を否定した
異端者だと反旗を翻す原理主義者の過激派も出てくるかも・・・・・・
 スカが死に、ゆりかごが仮にクラナガンに落ちる前に破壊できても、こんなはずじゃなかった世界が後に
残るだけだろうね。
 クロノとその協力者は、テロリストとして死刑またはそれに準ずる刑罰を受けるだろうし、無印時代からの
メンバーで無傷で残りそうなのは、ユーノとフェイトくらいだが、この二人も、どの面下げて97管理外世界に
行けるかって状況だからな。

854名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 10:09:32 ID:9.LjsRn2
>>835
高町ジェイル…ご愁傷様です。
でも、成り行きの結婚だとしても幸せになれるさきっと!
子供ができていくうちにジェイルも親としての自覚となのはへの愛が目覚めたという展開をキボン
GJ!

>>848
これで全ての決着がついたのか…?
でもまだゆりかごの破壊という任務が残っている。
もう誰も死なずにすませたいけど…
そしてエリオはこれからの道どう歩んで行くんでしょう
とにかく次回も期待してます
GJ!

85526-111:2009/05/24(日) 18:10:04 ID:JziwV30Q
>>B・A氏
いよいよクライマックスですねぇ、GJでした
結末はどうなるのか。“負け犬”は“負け犬”のままなのか。続きを楽しみにしてます

一昨日からこっち涙目になりそうなくらいの良作ラッシュですねぇ。怖い怖い
さて、じゃあ覚悟ができたのでgkbrで涙目になりましょうか。投下予告です

・メインはディエチ、なのはさん。あとカルタスとか丸いのとか
・以前に投下した、ノーヴェ“隊長”とのこれから、から続く展開になります
・非エロ
・オリキャラ注意
・使用レス数24レス。投下間隔長めで落とします
・タイトル:ディエチが全力全開に目覚めた様です

それでは、投下を開始します

856ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:11:30 ID:JziwV30Q
今日も今日とて平和な海上隔離施設・・・
授業が捌けて、食事や掃除も終えてしまうと、後は就寝時刻を待つばかりとなる
昼間の賑やかな自由時間と違って、流石に夜は静かに過ごしているようだ

「・・・ふぁ」

小さな図書室でディエチは生欠伸を漏らしながら、読んでいた、というよりも眺めていた風景画集を閉じた
活字を読むのも好きだが、最近はこうした画集を眺めることにハマっている彼女である
時計に目を向ければ、時刻は既に就寝時間15分前・・・ディエチは書架に本を戻すべく立ち上がり、ぐぐっと背伸びをしてから本を手に取った

不意に、図書室のドアが開けられて、姉妹達の監督官でもある人物:ギンガが顔を覗かせた

「あ、ディエチ。ここに居たんだ」
「うん。どうかした?」
「ディエチ宛てに通信があってね。部屋に居なかったから探してたの。今、大丈夫?」
「大丈夫だけど・・・こんな時間に。誰が・・・?」



○ディエチが全力全開に目覚めた様です



ギンガに伴われて通信室に向かう
慣れた手付きで端末を操作し、通信を繋ぎ直すと・・・モニターの向こうには明るい色の髪をサイドテールに結わえた女性の姿があった

『あ、夜遅くにゴメンね。ディエチ』
「いえ、私は大丈夫です・・・なのはさん」

高町なのは一等空尉。平時に於いては航空戦技教導官として教導隊に籍を置くS+ランクの空戦魔導師。又の名を、誰が呼んだか『エースオブエース』
当人としては、そんな少々大袈裟な二つ名が面映ゆいらしいのだが、先の事件・・・JS事件を解決に導いた獅子奮迅の大活躍を鑑みれば、けして大袈裟でもない

『最後にお話できたのがいつだったっけ・・・もう一月くらいになるのかな?』
「そう、ですね。そのくらいです」
『ゴメンね。もう少し、お話できる機会があれば良いんだけど・・・』
「いえ、そんな・・・忙しいのは、知ってますから」

同じ“砲手”として、何か通じるものがあったのだろうか
事件終結後、更正プログラムを受講するようになったディエチの事を、なのはは少々気に掛けている様子である

余談ではあるが、その事を知った四女:クアットロが恐怖の余り失神してしまったこともあったりするが、まぁどうでも良い話であろう

857ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:12:30 ID:JziwV30Q
『実は、その忙しい仕事の事で、ディエチに手伝って貰いたいことがあるんだけど・・・』
「何ですか?」
『えと、その・・・ディエチ、一日教官、やってみない?』
「・・・は?」

突飛な言葉に、思わず問い返してしまうディエチであった

『実は、今度、教導を受け持つ部隊の訓練に、“重層防壁展開訓練”っていうのがあるんだけどね』
「はぁ」
『要するに、複数人数で同時にバリアを展開して、それを重ね合わせて硬い防壁を作る訓練なんだけど』
「・・・その、防壁の強度を確かめる手段が ――― 」
『うん、そういうこと・・・砲撃を撃ち込んで、抜かれなかったら合格。っていう訓練』

今頃、訓練生達は遺書をしたためているに違いあるまい。内心でそんな風に考えてしまうディエチである
教導隊の訓練がスパルタであるとは聞き及んでいたが、まさか、真正面からエースオブエースの砲撃を受け止める訓練が有るとは

「・・・でも、それならどうして私にそんな話を?なのはさんの方が適任なんじゃ・・・?」
『んー、そうなんだけど・・・実は、ちょっとリハビリ中なんだ。今、全力の砲撃を撃ったことがシャマル先生にバレたら・・・』

おっかなそうに首を竦めるなのはの姿に、ディエチは戦慄さえ感じていた
あのエースオブエースにも、敵わない人が居るんだ。と
一体、その『シャマル先生』とやらは、どれほどの剛の者なのだろうか ―――

「それじゃ、なのはさんの代役として、訓練に参加を。という事ですか?」
『うん。日程は一週間後。その日だけ付き合って貰えたら助かるんだけど・・・どうかな?』
「えっと・・・」

ディエチは、ギンガの方を振り返える
視線を巡らせた先に居る監督官殿はにっこり笑顔で頷いてみせた

「なのはさん?ギンガです。7日後でしたら大丈夫ですよ。特別な授業も無いですし」
『ありがと、ギンガ。ディエチはどう?お願いできないかな?』
「・・・わかりました。頑張ります」
『ありがとう。ディエチ。それじゃあ、夜遅くにゴメンね。詳しいスケジュールは明日にでも送るから目を通しておいて。
ギンガ、出向するのに書類仕事が必要だったら 早めに送ってくれないかな?』
「了解です。ちょっとややこしい手続きが必要ですが、まぁ、教導隊からの要請でしたらゴネる人もいないでしょう。明日の朝一番に教導隊のオフィスに送りますね」
『あはは、だと良いけど・・・それじゃ、二人共ありがとう』
「はい、失礼します。おやすみなさい」
『うん、おやすみなさい。みんなにもよろしくね』

858ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:13:30 ID:JziwV30Q
通信ウィンドウを閉じ、端末の電源を落としてディエチは席を立った
通信室を退室し、ギンガが施錠を確認して、二人は就寝時間を迎えた所為で照明の落ちた暗い廊下を歩く
ギンガがにっこりと、いつもの、どこか眠たげにも見える無表情なディエチに笑いかけた

「ディエチは、なのはさんと仲良しなのね」
「えと、そうかな・・・?仲良し、って言えるほどでも無いと思うけど」

照れ笑い、と言うにはもっと淡い。照れと恐縮と微かな喜色が混ざった、微妙な表情をディエチは俯かせた
なのはが自分に向けてくれる明るい笑顔を思い出せば、“仲良し”と言っても差し支えないと思うのだが、先の事件の中では砲口を向け合った間柄である
そのお陰で、どこか分かり合える部分があるのかも知れないが・・・命の取り合いが切っ掛けというのは、少々、複雑な心境だ

「でも、こんな風に訓練のアシスタントに抜擢されるなんて。相当に認めてくれてる証拠だと思うわよ?あのエースオブエースの代役だなんて」
「それは、嬉しいけど・・・でも、なのはさんがリハビリ中なのは、私の所為でもあるんだし・・・」

ブラスターモードの事はディエチも知っている
聖王のゆりかごの中で撃ち負けた時の事で、『どうやってあんな大出力を?』と、なのは本人に尋ねた時に教えて貰った
そして、その後遺症が今も彼女の身体とリンカーコアを蝕んでいる事を、マリエルが教えてくれた

『ディエチの所為じゃないよ。私が必要だと判断したから、全力全開を出し尽くしただけ・・・前に倒れた時に比べたら全然へっちゃらなんだし、そんなこと気にしないでね』

なのははそんな風に笑っていたけれど・・・

「私が、無茶させた分まで、頑張らないと」
「うん・・・でも、あんまり気負い過ぎちゃ駄目だよ。ディエチ」
「わかってる・・・それじゃ、おやすみなさい。ギンガさん」
「はい、おやすみなさい」

部屋に辿り着いた二人は就寝の挨拶を交わし、それぞれ別れた
寝室の中は当然真っ暗で、カーテン越しに差し込む月明かりが僅かに部屋の様子を浮き上がらせている
尤も、機人の目は暗視が利くので真っ暗だろうが何だろうが、些かも関係無いのだが
あまり広くもない部屋に二段ベッドが6つ、少々窮屈そうに並んでいる
トーレとウェンディの高鼾に混じって、姉妹達の穏やかな寝息が聞こえてくる・・・ディエチは足音を忍ばせて、自分の寝床にそっと歩み寄る

「む、ん・・・あら、ディエチちゃん・・・?今、戻ってきたの?」

起こしてしまったのか、眠っていなかったのか。二段ベッドのハシゴに手を掛けたディエチに、階下の住人が声を掛けてきた

「あ、ごめん、クアットロ。起こしちゃった?」
「ん・・・ウトウトしてたところだったけど・・・ディエチちゃんこそ、どうかしたのぉ?夜更かしなんて珍しいじゃない」
「うん、ちょっと通信室でお話しを」
「・・・こんな時間に非常識ねぇ。一体どこの常識知らずよ?」

859ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:14:30 ID:JziwV30Q
半分寝惚けているような、むにゃむにゃした声音のクアットロに、ディエチは言った

「なのはさんだけど?」
「なの

ぷっつりと言葉が途切れた事に首を傾げながら、下のベッドに横たわっている姉の顔を覗き込めば・・・どういう訳か、クアットロは一瞬で寝入ってしまっていた
ディエチが口にした名前の恐ろしさに失神していた。という方が正解なのかも知れないが、見事な寝入りっぷりである

「・・・そんなに怖がらなくても良いのに」

四女の姿に苦笑を漏らしながら、ディエチはベッドに上がると、タオルケットに潜り込んだ ―――



深夜、クアットロの絶叫(寝言)に全員が叩き起こされたりもするのだが、まぁ、どうでも良い話である



そんなこんなで、七日後・・・

転送ポートには小さな鞄を胸に抱えた平服姿のディエチと、監督官として同行することになった、ラッド・カルタス二等陸尉。そして丸っこい巨体・・・
ナンバーズのインテリジェントデバイスであるマスター型ガジェット:サンタの姿があった

「それじゃ、行ってきます」

見送りに来てくれた姉妹達とギンガにそう挨拶するディエチである

「お土産期待してるッスー!」

開口一番にそう叫ぶウェンディには、最早苦笑しか出てこない
“肩の力を抜くスキル”に関しては、やはり彼女が姉妹の中でも飛び抜けて優秀である。只の天然とも言うが

「しかし、サンタの運用許可まで下りるとはな・・・」

丸い装甲を撫でてやりながら、チンクは首を傾げて呟いた

「精密観測員としてレポートを出して欲しいらしい。君達の力は、既存の技術では量り切れない部分があるからだろうね」

カルタスの言葉に、なるほど。と頷く姉妹達である

「そういう事ならしっかりやってこいよ、サンタ。“隊長”に恥かかせるんじゃねぇぞ」
(りょ、了解です・・・頑張ります)

860ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:15:30 ID:JziwV30Q
額の、『Ⅸ』と刻印されたプレートをべしべし叩きながら、ノーヴェが物騒な口調で発した台詞に、サンタはピカピカでそう返す

「よし、それじゃあそろそろ出発しよう。ギンガ、留守中よろしく頼むよ」
「了解。お気を付けて」

にっこり笑顔で敬礼するギンガに、カルタス生真面目な答礼を返してポートを起動させた
二人と一機の姿が掻き消える・・・向かった先は、遙か彼方の訓練場だ

「・・・さ、私達も戻りましょう」

ギンガに促されて、姉妹達はそれぞれ喋りながら踵を返す・・・一人だけ、クアットロだけが、誰も居ない転送ポートの前に立ち尽くしていた

「・・・?クアットロ、どうかしたの?」
「・・・ドゥーエ姉様・・・ど、どうしましょう!?」
「はぁっ?」

いきなり、狼狽しきった叫びと共に抱き付かれて、ドゥーエは目を丸くした
周囲の驚きに反して、胸に縋り付くクアットロの、涙ぐんでさえ見える瞳はどこまでもマジである

「な、何?どうしたのよいきなり?」
「ディエチちゃんが・・・あのディエチちゃんが、悪魔に毒されちゃったら!クアットロは、どうしたら・・・!!」
「あ、あくまぁ?」

言うまでもなく、クアットロ的には「悪魔=高町なのは」である

「な、なぁ、ギン姉・・・その、ディエチが言ってた“なのはさん”ってのは、クア姉があんなにビビる程、非道い奴なのか?」

“あの”クアットロの思い掛けぬ狂態に、少々腰が引けた口調でノーヴェが尋ねてきた
彼女の問い掛けに、ギンガはそんなわけないじゃないと首を振り、

「厳しい人だって言う話はスバルからも良く聞いたし、実際その通りだったけど、それ以上に優しくて強い人だったわよ?
ディエチの事は前々から気に掛けてくれていたみたいだし、決して悪い人なんかじゃないわ」
「そうなのか・・・?」

ギンガの答えに首を傾げながらも頷くノーヴェである。が、二人の会話を聞きつけたクアットロはドゥーエの胸に縋り付いたまま猛然と食って掛かる

「心根の問題じゃないのよ!あの女は性質が悪魔なのよ!!」
「いや・・・それならクア姉も他人の事言えないんじゃない?」

呆れ混じりのセインのツッコミに、クアットロは妹がいぢめるーっ!という泣き言と共にドゥーエにぎゅーっと抱き付いてくる
困り顔になりつつも、しゃくりあげる妹の頭を撫でてやれるのが嬉しい次女殿であった

861ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:16:30 ID:JziwV30Q
――― さて、海上隔離施設から飛んだディエチ達は、クラナガンの地上本部を経由し、長距離転送で本局の訓練施設に辿り着いた
やけに物々しい視線が向けられるのは・・・主にサンタの所為であろう。局のエンブレムがプリントされたステッカーで、アピールはしているものの・・・

(・・・俺はただのインテリジェントデバイスなのに・・・)
「まぁ、こればっかりは仕方が無いよ」

ず〜ん、と落ち込むサンタを慰めるように撫でてやりながら、苦笑を浮かべるディエチである

「ん、どうかしたのか?」
「何でもないよ、カル兄。サンタがちょっと落ち込んでただけ」

沈んだ調子でカメラアイをピカピカさせているサンタには、カルタスも苦笑を禁じ得ない
姉妹達のように直接、彼の高速有意信号(ピカピカ)が読み取れるわけでは無いカルタスだが、付き合いがそこそこ有る所為だろうか
何となく、彼の言いたいことが解るような、サンタの妙に人間臭い一面に共感を抱く時がある
ちなみに、サンタのピカピカが解せる人物としては、12姉妹の他にはギンガとスバルの二名。それに、どういう訳かマリエル技官もそこそこ解読できるようだ
彼女が言うには、『相手が機械(デバイス)でも、顔を見れば解るよ?』との事だが、サンタの『顔』がどの辺なのかは判断に迷う所である
カルタスは励ますように、サンタの装甲を掌で軽く叩いてやりながら、

「まぁ、偏見なんて真面目に任務をこなしていれば、すぐに覆るものさ」
(だと良いんですがねぇ・・・)
「だと良いんですが。だって。そう言えば、カル兄とサンタって妙に仲が良いよね。何で?」
「何で?って・・・言われてもなぁ?」
(妙に気が合う感じはありますが・・・その理由を論理的に説明するのは難しくあります)

ちなみに、サンタはゲンヤとは反りが合わないらしく、口があったら噛み付きそうなくらいに顔を合わせた時は喧嘩腰だったりする。彼には腰も無いが

「ふぅん。そう言えば、弄られキャラ同士気が合うのかも、ってセインが言ってたっけ」
「弄・・・ゴホン、ディエチ。そろそろ私語は慎むように。それと、ここは隔離施設じゃないんだから“カル兄”は禁止だ。良いね」
「了解。カルタス監督官、又は二等陸尉殿」



広大な訓練場が見渡せる観戦スペースにある制御室に、カルタスはディエチを伴って入室した
ちなみにサンタはドアをくぐれないので、廊下の隅でオブジェと化している
事情を知らない局員が腰を抜かすかも知れないが、額には局のステッカーも貼り付けてあるので大丈夫だろう。多分

「失礼します。ラッド・カルタス二等陸尉。入ります」
「あ、カルタス君。それにディエチも。いらっしゃい。今日はごめんね、無理言って」

まぁ、座って座って。と促すのは12姉妹とサンタの調整官でもある、管理局でも指折りの精密技術官。マリエル・アテンザ技官である
あまり広くはない制御室を見回すが、ここに居るのは彼女一人のようだが・・・?

「あの、マリエル技官。高町教導官は?」
「ん、なのはちゃんならまだ下に居るわよ。予定時間よりも少し早いから、お茶でも淹れるね」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます、マリーさん。いただきます」

勧められた椅子に腰掛け、眼下の訓練場に目を向けるが・・・まだ訓練中では無いらしく、整列している人影の端の方が見えるだけである
そうしている間にも、マリエルは慣れた手付きで急須に茶葉を入れ、適温の湯を注ぎ、時間を置いて湯飲みに注ぐ・・・
何気ない所作だが、“精密”技術官のサガなのか。茶葉の分量も抽出時間も、目分量ながらきっちり“いつも通り”で、湯飲みに注いだ茶は計ったように三等分である
茶を注ぎ終えたところで、マリエルは肩越しに振り返って二人に訊ねた

862ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:17:30 ID:JziwV30Q
「二人共、お砂糖とミルクは?」

ガキッと表情を強張らせたカルタスが、シュガーポットを手にしているマリエルを慌てて制止する

「じ、自分はどちらも結構ですので!」
「あら、そう?男の人はみんな苦手なのかな?美味しいのに・・・じゃあ、ディエチは?」
「あ、その・・・私も、そのままでお願いします」
「あれ、ディエチも?」

少しだけ残念そうに首を傾げながら、自分の湯飲みに角砂糖2つとミルクを入れて掻き混ぜるマリエルである

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「いただきます」

ずずっ、と深く澄んだ色味の緑茶を啜り込む・・・適温の茶は、爽やかな苦味とまろやかな甘味のある、馥郁たる味わいである
そんな茶を啜る二人を尻目に、マリエルも自分の湯飲みに唇を付けた。こちらは半端に白く濁った、少々過剰に甘いお茶を、ずずっと啜り、

「美味しいと思うんだけど、そんなに駄目かなぁ?」
「いえ、自分は、その、どちらかと言うと、コーヒーでもブラックが好きな質なので」
「う〜ん、ディエチもお茶は何も入れない方が好き?」
「・・・その・・・どちらかと、言えば・・・」
「そっかぁ。残念。今のところ同士はリンディ提督とエイミィ先輩とギンガと・・・」

余談ながら、12姉妹の中では、

「セッテだけかぁ」

セッテがハマっていたりする。長女を筆頭に紅茶党が大勢を占めるナンバーズ12姉妹では唯一、お砂糖ミルク緑茶派である
余談ながら、ドゥーエは紅茶よりもコーヒーを愛飲しており、クアットロはブラックコーヒーの苦さに顔を顰めながらも次女殿の嗜好に合わせるべく日々努めているようだ

「――― ところで、マリーさんは今日はどうしてここに?」

空になった湯飲みを置きながら、ディエチはマリエルにそう訊ねた
今ではスカリエッティから押収した機人技術の研究主任でもある彼女が、まさか単に訓練のアシスタント。ということはあるまい

「うん。実は、なのはちゃんから今日の訓練にディエチが出てくるって聞いたから。砲撃のデータ採取と、ついでにテストして欲しい物があってね」
「テストって・・・何かの試射を?」
「正解。ずっと前に、ディエチが落としてったカノンがあったでしょ?もう1年と半年くらい前の事になるけど、覚えてない?」

思わず口元がヒクついてしまうディエチである
廃棄都市区画で初出撃した時のことは、未だに忘れられない。機動六課の隊長陣:なのは、フェイト、はやての三人を相手にしたあの一戦の事である
フェイトに追い掛け回され、はやての広域魔法を辛くも凌ぎ、そうかと思えばなのはとフェイトの砲撃が ―――

863ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:18:30 ID:JziwV30Q
「・・・えぇ、まぁ。忘れたくても忘れられません・・・」
「あ、あはは・・・えと、実はその時に、ディエチのカノンを回収してたんだ。
鑑識から技術部に回ってきて、バラして保管してたんだけどね。もう保管しておく必要も無くなったから、改造して魔力砲の試作機を組んでみたの。
その試作機を、ディエチに撃って貰いたくて」
「はぁ・・・わかりました」

不意に、制御室のドアが開けられ、息せき切らした女性が飛び込んできた

「ゴメンね、お待たせ!」

明るい色の髪をサイドで結わえた女性・・・ディエチをここに呼び出した張本人。高町なのは一等空尉だ
カルタスは椅子から立ち上がって敬礼をし、ディエチも彼に倣って立ち上がり、見よう見まねで敬礼した

「はぁ、はぁ・・・うん。二人共お疲れ様。今日は、無理言ってごめんね」
「いえ、そんな事無い、です・・・なのはさん」

久しぶりに対面したなのはに、どこか照れた表情でディエチはそう呟いた

「どの様な形であれ、外部への積極的な協力は早期更正にも繋がります。こちらこそ、本日はよろしくお願いします。高町教導官」
「ありがとう。協力に感謝します、カルタス二尉」

生真面目な口調のカルタスに答礼を返し、なのははほやっと笑ってみせた

「それじゃあ、早速なんだけど。訓練場の方に来て貰えるかな?廊下のあのガジェットは、貴女達のデバイスなんだよ・・・ね?」
「え?えぇ、サンタは、あ、あのガジェットの名前なんですけど、あの子は局の認定も受けた、私達のデバイスです」
「そっかぁ。良かった、走ってここに来る途中に見掛けたときは吃驚しちゃって」

吃驚した結果どうするところだったのか。やはり、ガジェットドローンが一般社会に溶け込むにはまだまだ時間が掛かりそうだ

「あの、警戒する気持ちはわかるんですけど、サンタは良い子ですし、あんまり邪険にしないでください」
「了解。それじゃあディエチ。カルタス二尉も付いて来てね」
「「了解!」」
「マリーさん。結界の準備だけお願いします。今日は特に動き回る訓練じゃないから、障害物の設定は要りません」
「オッケー。みんな、怪我しないように頑張ってね」

ひらひら手を振るマリエルに見送られて制御室を退室し、なのはに伴われて廊下を進むディエチとカルタスである
途中、廊下の隅に鎮座在しているサンタが、妙に怯えた様子でカメラアイをピカピカさせていたが、彼と某教導官殿の名誉の為に、ピカピカの内容は伏せておこう

「あの、なのはさん」
「ん、何?」
「今日の訓練のこと・・・訓練生の皆さんは知ってるんですか?」

864ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:19:30 ID:JziwV30Q
緊張の為か。少々強張った口調でディエチはなのはに訊ねた

「うん、大体話してあるよ」
「なのはさん達、教導隊が訓練を受け持つ生徒さんは、みんなエリートなんですよね。頑張らないと・・・」
「エリート、って言うか・・・まぁ、短期での集中的な技能訓練がメインだから。“専門技能のステップアップ”を目標にしてる部隊が多いのは確かだね。
今日、受け持ってる陸士243部隊は、ちょっと珍しい気質の部隊。あと、生徒さんって言っても、今日の部隊はみんな良い歳だよ?」

説明を聞きながら、ふとディエチは首を傾げた

「・・・あれ?なのはさんの所属って、“航空”戦技教導隊なのに、どうして陸士の部隊が?」

尤もな疑問に、なのははどこか諦観の混じった乾いた笑みを浮かべて、

「砲撃が入り用なら私の出番。っていう風潮が、教導隊にはあるみたいでね・・・」
「・・・納得。それで、珍しい気質って言うと、どんな部隊なんですか?」
「そうだね・・・どう説明しようか・・・」

首を捻るなのはに、カルタスが助け船を出した

「243は“常に最前線に投入される部隊”だね。戦場だったら防衛ラインの構築。事件・災害現場なら現場の封鎖。
武装隊風に言うと、部隊全員がフロントアタッカーで編成されてる部隊と言える。攻める事は不得手だが、“防衛”と“遮断”に関しては精鋭集団だよ」
「うん、そうそう。そんな感じの部隊。ちょっと荒っぽいのが多いね」

なのはの言葉に、少々苦笑を浮かべながらカルタスは“荒っぽい”彼らを弁護してやる

「陸隊には、努力肌の魔導師が多いですからね。荒っぽいのが多いというのは確かですが・・・心根が荒んだ輩は少ないですよ」
「・・・そうだね。陸隊の人は、付き合ってみればさっぱりした人が多いね。空隊のエリート部隊なんかには時々とんでもないのが居るから・・・」

珍しく、渋面を浮かべるなのはである。過去に、よほど不愉快な部隊があったのだろうか

そんな風に話し込みながら、三人と一機は訓練場に辿り着いた
243部隊は50人ほどの部隊で、各自グループに別れて基礎体力訓練に励んでいた。筋トレ、走り込みなど、空隊には縁の薄い光景である

そんな中、なのはの白い制服に気付いたらしい、大柄な男・・・243の部隊長:プラド二尉が駆け寄ってきた

「高町教導官。申し訳ありません、ただボサッと待たせる時間が勿体なかったもので基礎体をやらせておりました。
すぐに集合させることもできますが、如何いたしましょうか」
「いえ、折角ですからキリの良いところまでお願いします。今日は特別な講師を招聘していますからね。しっかり暖機しておいてください」
「了解!野郎共!ダッシュ10本追加!!」

イエッサー!という返事が50人分、綺麗に揃って返ってきた。243部隊は全員、こんなノリなのである

865ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:20:30 ID:JziwV30Q
ひたすら駆けずり回って汗を流す筋肉ダルマ達を尻目に、ディエチは少しそわそわした様子でなのはに訊ねた

「あの、なのはさん。私も準備運動とか、しておいた方が良いですか?」
「うん。必要だと思うことをしていれば良いよ。出番が来たら呼んであげるし・・・あ、その前に着替えて来なきゃだね」

バリアジャケットを身に纏える魔導師とは勝手が違うことを失念していたなのはとカルタスである
勿論、戦闘機人であるディエチはバリアジャケットが要らないくらいに頑丈なのだが、借り物の制服を汚させてしまうのも忍びない

「カルタス二尉。申し訳ないんだけど・・・購買部で彼女の着替えを見繕ってあげてくれないかな?代金は私の名前でツケておいてくれれば良いから」

なのはのそんな申し出に、ディエチは慌てて手を振って、

「なのはさん。大丈夫です。着替えなら持って来てますから、更衣室だけ貸してください」
「あ、そうだったの?それじゃあ・・・??」

女子更衣室に案内しようとして、なのはは怪訝な顔を作った
着替えを持って来ている。とディエチは言ったが、彼女は精々、ハンドバッグ程度の大きさの鞄を持ってきているだけだ
なのはの頭上にでっかい疑問符が浮かび・・・そして、何かに気付いた様子で彼女はディエチに詰め寄るとこっそり訊ねた

「・・・ねぇ、ディエチ。まさか、用意した着替えって・・・ナンバーズのスーツじゃないよね・・・?」
「え?でも、任務の時はいつも「カルタス二尉!購買までこの子を連れてってあげてください!」あの、でも「良いから!遠慮しないで!」

何処か引き攣った、沈鬱な表情を浮かべたままカルタスはぎこちなく敬礼し、ディエチを伴って訓練場を出て行った

「・・・高町教導官。何か問題でも?」
「問題、というか、何というか・・・あ、あははは・・・」

厳つい顔立ちを怪訝そうに歪ませるプラド二尉に、これまたぎこちなく乾いた笑いで無理矢理誤魔化そうとするなのはであった



今更言うまでも無いように思うが、ディエチが用意していたのはナンバーズ用のボディスーツであり、
それはつまり身体のラインが激しく浮き出る類の、全身タイツって言うかボディペインティグに近いレベルの、或る意味、真ソニックよりも過激な格好だ。露出は少ない?だから何?
本人が平気だとしても、同性としては傍で見ている方が恥ずかしいし、ちょっと気弱なところもあるディエチを好奇の視線に晒すのは忍びない

(上申しよう。あの娘達の為にも!上着くらい付いたまともな戦闘服を作ってあげなきゃ・・・!!)

羞恥、という要素には未だに鈍感らしい機人の姉妹達の為に、なのはは堅く決心したそうな



――― しばらくして、武装局員向けの訓練服に着替えたディエチとカルタスが訓練場に戻ってきた
黒いハイネックのシャツに、袖を捲り上げたカーキ色のツナギ。頑丈そうなショートブーツで足元を固めた姿は、ナンバーズのボディスーツよりも遙かに「まとも」である

866ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:21:30 ID:JziwV30Q
「うん、よく似合ってる。強そうだよ」
「ありがとうございます・・・でも、良いんですか?お金とか・・・?」
「全然平気だよ。心配しないで。それじゃあ、みんなにも紹介しておこうかな」

整列していた243部隊の方に向き直り、ザッ!と姿勢を正すゴリラ共になのはは言った

「今日の重層防壁展開訓練の砲手を務めてくれる、ディエチ教官です。総員、敬礼!」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

野太い合唱と共に敬礼を向けられたディエチは、突然の事に慌ててしまい、取りあえず真っ赤な顔を隠すようにぺこっとお辞儀をした
そんな彼女の姿に、なのはは励ますように肩を叩いて笑顔を作った

「まぁ、見ての通り、ディエチ教官はちょっと照れ屋さんなので、みんな、優しくしてあげてね」
「「「「「了解であります!!」」」」」

243部隊は全員がこんなノリなのである・・・とは言え、今日は少々いつもよりテンションが高い

――― そりゃそうである。エースオブエースの砲撃を真正面から受け止める訓練だった筈が、予定が変わって代役になり、
ましてそのリリーフが、妙に初々しくてしかも可愛らしい教官殿と来れば盛り上がらぬ筈が無い。明日の命が無いかも知れぬと覚悟を決めていただけに

弾むような駆け足で訓練位置に着く子分共を睥睨しながら、部隊長であるプラド二尉は憮然とした溜息を吐き出した
厳しく顰められた顔を見上げながら、なのはは訊ねる

「何かお悩みですか?プラド二尉」
「・・・解っているのでしょう、教導官殿。あの、ディエチ教官というのは何者なのですか?
自分とて教育隊や教導隊の隊員の顔を完全に網羅している訳ではありませんが、あんなにも自信なさげな教官は見たことがありません。それに ―――」

顔を上げたその先では、愛銃を抱えたディエチの後ろで、サンタがコネクションケーブルをイノーメスカノンの基部に接続しているところだった

「『本局訓練場にガジェットドローン襲来』・・・こんな報告を上げたら、自分は間違いなく正気を疑われるでしょうな・・・
素性に関してはおおよそ見当が付きますが、そんなことよりも「教官たるに相応しい実力があるのかどうか?ですね」

台詞を先取られたプラド二尉は、ぽりぽりと顎先を掻いて、盛大な溜息と共に言葉を吐き出した

「・・・そういう事です。教導官殿の肝いりだと言うのであれば間違いは無いのでしょうが・・・」

準備が終わったらしい。訓練のルールについて説明し終えたカルタスが励ますように背中を叩いて離れてゆく
そして、ディエチの後ろに控えているガジェット・・・サンタがカウントダウンを投影し、砲口の先では5人掛かりの重層防壁が展開された
陸士243部隊のトレードマークとも言える、身体を覆い隠すほどの大盾を構えた5人の姿に、なのはは息を呑んだ

「え?5人単位なの!?」

867ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:22:30 ID:JziwV30Q
なのはが驚愕している理由を“逆”に考えたプラドは、呆れたように嘆息する

「やはり、その程度の実力しか無いのでありますか。教導官殿、折角ですが本日の訓練は早めに切り上げ「違、そうじゃなくて!あぁ、ディエチ、ストップ!すとーっぷ!!」

大慌てに慌てるなのはの姿に気付いて、え?と視線を振り向けた時には、既にディエチはカノンのトリガーを引き絞っていて、


砲口から迸ったエネルギーの奔流は5人掛かりの重層防壁を紙の如く貫き、立ち並ぶ大盾を弾き飛ばし、驚く暇さえ与えられなかった隊員5名を薙ぎ倒していた


あれ?とディエチは首を傾げ、なのはは手遅れだった事に頭を抱え、プラド以下243部隊のゴリラ共は、揃って顎が落ちそうな顔をしていた

「・・・サンタ。さっきの砲撃。そんなに高出力だった?」
(いいえ?フルチャージでの砲撃に比べれば、エネルギーゲインはおよそ7割というところです。抜き撃ちよりはマシという程度ですよ?)
「あの人達、調子でも悪かったのかな?非殺傷設定にはしてあるから、怪我は無いと思うけど・・・大丈夫かな・・・?」

おろおろと気を揉んでいると、なのはとプラドが駆け足でやって来るところで、

「あ、なのはさ「ゴメンね、ディエチ。ちょっと後で」「済まんな。あの馬鹿共なら心配無用だ」

そんな台詞を置いて、ディエチの横を素通りし、ざわついている243の隊員達の方に走り去る二人を、呆然と見送り・・・

「ね、ねぇ、カル兄。私、何か失敗した?」

不安そうな表情で問い掛けてくるディエチに、笑いかけてやりながら、カルタスはポンと頭を撫でてやる

「いや。失敗してたのはむしろ、アッチだろうね」

防壁を展開していた彼らが何を失敗していたというのか。意味がわからないディエチの耳に、プラドの怒号が届いた


『この馬鹿野郎共がッ!!!!!!!』


「ぅわっ?凄い声・・・」



ディエチの砲撃と、プラドの怒声に腰を抜かしていた隊員達を一度整列させて、なのはは溜息を吐き出した

「そう言えば、事前に彼女の実力を教えていなかったね」

868ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:23:30 ID:JziwV30Q
先程の砲撃に薙ぎ倒された5人の中の一人が、震える腕を挙げて、なのはに尋ねた

「あ、あの、ディエチ教官は一体何者なんですか・・・?」

ついさっき、プラドが口にしたのと同じ台詞を震える声音で紡ぎ出した
震えているのは腕や声音だけでは無く、ここが極寒の極点であるかのように、彼らは身体中、歯の根が合わない程にガタガタ震えていた

「あの子は・・・そうね、一言で言うと・・・」

人差し指を頬に当てて考え込むなのはの姿に、一同はぐびりと固唾を飲み下し、

「『高町なのはにブラスターモードを使わせた女の子』って言えば、大体実力は判るかな?」

嘘は言っていない。確かにディエチは、聖王のゆりかごの中でなのはと砲火を交わし、彼女の切り札:ブラスターシステムを使わせていた
つまりそれは、分かり易く書き表すと、

『エースオブエースに命ギリギリの死力を尽くさせた女の子』(正しくはその中の一人)という事になる

数分前までのハイテンションは何処へやら
何もしていないのに真っ白に燃え尽きようとしている隊員達を励ますように、なのははにっこりと笑顔を浮かべると、

「それじゃあ、次。頑張っていこうか。彼女の砲撃を10人くらいで止めることが今日の合格ラインかな?」

あまりにも過酷な訓練の幕開けに誰もが胸の裡では悲鳴を上げ、11年前に鉄槌の騎士が呟いたのと同じ台詞を心の中で呟いていたそうな



「さて、お待たせ。ディエチ」
「あの、さっきの人達、大丈夫でした?怪我とかしてたら、ちゃんと手当しないと・・・」

砲撃の過激さに反して、心配性な言葉を漏らすディエチに苦笑を浮かべながら、なのはは彼女の肩をばんばん叩いた

「平気平気!ディエチは遠慮しないで、全力全開の砲撃をお見舞いしてあげてね」
「全力全開。ですか・・・頑張ってみます」

難しい顔で頭を捻るディエチに、首を傾げるなのはである
彼女の口癖であり、信条でもある四文字は、これ以上無いくらいに単純な理論だと思うのだが・・・?

「あ、向こうの準備ができたみたいだから・・・なのはさん、もう少し離れていてください」
「う、うん。頑張ってね」
「サンタ、データはちゃんと取れてる?転送はできた?」
(問題なくこなせていますよ。射線補正のサポートくらいはできる余裕がありますが?)
「大丈夫、私も実射は久しぶりだから、練習する・・・第二射用意。サンタ、カウントを」
(了解)

869ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:24:30 ID:JziwV30Q
そんな風に、ディエチが一日教官を務める「重層防壁展開訓練」は始まり、なのはは彼女の傍で、彼女が砲撃を放つ姿をじっと眺めていた
243部隊の部隊員達が必死の形相で防壁を重ねるが、拮抗の末にディエチの砲撃が撃ち勝つ・・・
回数を重ねる内に、段々コツが掴めてきているようだが・・・合格を得るには、今しばらく掛かりそうだ

そんな姿をしばらく眺めながら、訓練室には砲声と気合の声と悲鳴が飛び交い・・・

「次、第二十三射用意。サンタ、カウントを」
(了解。しかしディエチさん、向こうがすっかりバテてしまってるようですが?)
「え?あ・・・あの、なのはさん。こういう時はどうすれば・・・?」
「・・・」
「あの、なのはさん?」
「え?あ、うん。全くだらしないね、少し休憩にしてあげよう ――― プラド二尉、15分間休憩を取ります」

隊員達に混ざって訓練を受けていたプラドから了解の返答を念話で受け、なのはもぐぐっと背伸びをした
普段ならば自分が砲手を務めている訓練だから、こうして他人に任せてしまってそれを眺めているだけというのは、身体は楽だが妙に気疲れする

「ん〜・・・はぁっ」

両腕を上げ、胸を反らした背伸びに溜息を吐き出すなのはである。内心では、教導官がこんな事で良いのかな?などと思っていたりもするが、
下手を打ってシャマル先生にでも嗅ぎ付けられようものならば、彼女はリンカーコアをぶち抜いてでもベッドに連行してゆくだろう

「・・・あの、なのはさん。妙に顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
「え?あ、ううん。ダイジョブ。何でもないよ。ディエチこそ疲れてない?全力砲撃を23連発なんて、流石に私でも息が続かな

ぷっつりと、なのはの言葉が途切れた。ディエチは、表情を強張らせているなのはの顔を不思議そうに見上げる・・・


――― ディエチは、全く呼吸を乱していなかった。汗の一粒も浮かべていない ―――


「・・・どうして・・・?」
「へ?」
「あ、ご、ゴメンゴメン。ディエチが全然平気そうだったのがちょっと不思議だったんだ」

全力砲撃を、ほぼ立て続けに23連射。流石に息一つ乱さないという事は有り得ない
アグレッサーモードではジャケット能力の都合上フルポテンシャルは発揮できない為、多少は消耗を抑えられるが・・・それでも、息が上がるだろう
改めて、戦闘機人のスペックに驚くなのはだが、ディエチは少し困った顔で頭を掻いた

「全然、疲れないわけじゃないんだけど・・・ただ、通常、私達は、その・・・“全力”を出せないんです」
「え?」
「どう説明すればいいか、ちょっと難しいんだけど・・・」

870ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:25:30 ID:JziwV30Q
「・・・でも、教えて欲しい」
「はい・・・じゃあ、少しだけ。
私達姉妹の頭の中には、セーフティルーチンって言うプログラムがあって・・・要するに、“禁則事項”の事です。
エネルギーを戦闘運用する場合、“指揮官”の承認を経た作戦行動で無い限り、100%の出力は出せなくなってるんです」
「どうして、100%のエネルギー運用が、禁則事項に引っ掛かるの?」
「自分にダメージが返ってくるような、反動を受けるエネルギー運用が、プログラム上、自傷・自殺行為に引っ掛かるみたいで。
だから、普段は大体80%くらいのエネルギーゲインがリミット。“指揮官”の承認があれば、100%のエネルギー運用が可能、です」

ちなみに、ナンバーズ姉妹の中で“指揮官”の権限を持つのは、ウーノ、ドゥーエ、トーレ、クアットロの4名。それに創造主であるスカリエッティも指揮官権限を持っている
同時に指揮官権限持ちの姉妹にはセーフティルーチンも組み込まれていない

「聖王のゆりかごでなのはさんと撃ち合ったあの時は、勿論100%の、全開出力でした・・・それでも、勝てなかったけど・・・」
「・・・まぁ、あの時は限界突破のブラスターを使ったしね・・・使わざるを得なかったんだし。手強かったよ」

なのはは苦笑を浮かべていたが、その反動が今も彼女の身体を蝕んでいるという事実を知っているディエチとしては、少々心苦しい

「その、理論上は、100%以上のエネルギー運用をすることだって、不可能じゃ無いんです。
自己ブースト、魔力回路を通して出力を高める魔導師と違って、私達、機人のエネルギー運用は、もっと単純な仕組みですから」
「でも、セーフティルーチンのお陰で、自分の身体を壊すことはできないんだよね・・・シャマル先生が聞いたら、私にも付けてあげてって絶対言うよ。それ」
「あ、あはは・・・」

乾いた笑いを返してしまうディエチである

「でも・・・なのはさんのブラスターシステムに関しては・・・私も、理解できません。
結果的には、それが必要な事態になっちゃったけど、それでも、そんなにも自分の身体にダメージが残る手段を、どうして選んだんですか?」

セーフティルーチンで縛られている自分だから、わからないのかもしれない
それでも、悪く言えば、最悪の転び方をすれば自殺と同義であるシステムを用意しておいたなのはの思考は理解できない。正気を疑いさえした

そこまで言っておいて、怒られるかな?とディエチは思ったが・・・意外にも、なのはは笑っていた。澄んだ笑顔で

「ねぇ、ディエチ。私はね、きっと凄く単純で、貴女達の予想を遙かに上回るくらいに馬鹿なんだよ?」
「へ?」
「ブラスターを使った理由なんて、凄く簡単・・・『全力を出さずに負けたくなかったから』。ただ、それだけ」

開いた口が塞がらないディエチに、なのははクスクス笑いながらも言葉を続ける

「理論とか、打算とか、確率とか、そんな難しい事は何一つ考えて無かったの。
やらなきゃならない事があって、助けてあげたい子供が居て、それを全部やり通す為に必要な物を揃えていったら、こうなっただけなんだ」
「・・・あの子、ヴィヴィオの、事・・・ですか?」
「うん。それも大きい理由の一つ」

871ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:26:30 ID:JziwV30Q
清々しいほどにあっけらかんとした口調で、彼女は言った

「ヴィヴィオやフェイトちゃんと約束してたことも有ったしね。結果として、それがミッドを救う大活躍になったのかもしれないけど」
「え、えぇと、でも、それだけの理由で、死力を尽くしたんですか・・・?」
「うん、そういう事になるね。それだけの理由だったから」

にっこりと笑うなのはの笑顔に、ディエチはこっそりと溜息を吐き出した
“命”を賭ける事ができない自分と、“命”を賭ける事ができるこの人・・・どう足掻いても、勝てないわけだ
呆れたような、諦めたような顔をしているディエチの頭をぐりぐり撫でながら、なのはは少しだけ不敵な笑みを浮かべて見せる

「でも・・・いつか見てみたいな。ディエチの“全力全開”」
「それは、流石に・・・ごめんなさい」
「うん、判ってるよ。身体は大事にしなきゃね・・・あ、休憩時間。そろそろおしまいだね。ったく、いつまでへたり込んでるつもりなの・・・?」

未だに死屍累々たる有様を晒している243部隊の方に、なのはは歩いてゆく・・・彼女の背中を眺めながら、ディエチはもう一度盛大な溜息を吐き出した

「・・・“全力全開”。かぁ・・・ちょっとだけ、憧れるかな・・・?」

なのはの背中には、その呟きは届かなかった・・・けれど、すぐ後ろに控えていた丸いデバイスの耳には届いたらしい

(憧れますか・・・?)
「うん。ちょっとだけ、ね。私に、なのはさんみたいな力があったら・・・今よりもっと、みんなの力になれるんだけど」
(・・・)

憧憬の眼差しで、ディエチはなのはの背中を見詰めている・・・そんな姿に何を思うのか。サンタは何かを沈思している様だ
意を決して、彼はディエチに言った

(・・・出せますよ。ディエチさんの“全力全開”)
「え?」

サンタの言葉に、彼女は驚いて振り返った
驚きの中に、少しだけ期待と興奮が混じった視線を受けながら、サンタはカメラアイをピカピカさせて説明する

(・・・ずっと前の、俺が壊れた時の事件。覚えてますか?)
「うん。サンタが、命懸けでマナクリスタルの暴発を食い止めてくれた、あの時だよね」
(はい。セーフティルーチンは、隊長やディエチさん達、ナンバーズの皆さんだけに組み込まれてる物じゃなくて、俺達ガジェットにも入ってるんです)
「あ、そうだったんだ・・・え?」

サンタのピカピカに頷き、そしてディエチは首を傾げた
セーフティルーチンは、ガジェットにも組み込まれている・・・しかし、サンタは件の事件の際に、“命を賭けて”、マナクリスタルの暴発を食い止めた
“指揮官”の認証さえない、己の判断のみで、それを為せたというのは、辻褄が合わない話だが・・・?

872ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:27:30 ID:JziwV30Q
(ゆりかごが墜ちて、隊長やドクターが逮捕されたあの時に・・・俺は、自分でリプログラムしたんです。
勿論、致命的なバグが発生する可能性もありましたけど。セーフティルーチンなんかに縛られたままじゃ、隊長達を助け出せない。そう思ったから・・・)

結果的に、その判断は間違いではなかった
絶体絶命の場面で、彼はノーヴェ達を救うことができたのだから

「それじゃあ、つまり・・・?」
(はい。流石に、ディエチさんのセーフティルーチンそのものを削除してしまうことはできないでしょうけど、
基礎プログラムに接触して、ルーチンのプログラムをバイパスすれば、限界突破のエネルギー運用を可能にすることができると思います)
「本当に!?」

期待を露わに詰め寄るディエチだが、サンタは慌てて彼女を制した

(し、しかしですね!設計限界を超えたエネルギー運用をすれば、間違いなく自分にもダメージが返ってきます!それをさせない為の“安全装置”を外すんですから!)
「・・・それでも、サンタ。私は確かめてみたいんだ」

いつになく強い輝きを瞳に宿して、ディエチはもう一度、正面に振り返った
視線の先を歩いている、なのはの姿。彼女の背中・・・

「・・・あの背中に、追い付きたい・・・!」

余計な事を言ったかも知れない
そんな溜息を廃熱ダクトから吐き出しながら、サンタは提案した

(それじゃあ・・・この訓練が終わったら、高町一尉とマリーさんに相談してみましょう。“全力”での試射を)
「うん。ありがと、サンタ」
(お礼を言われるのも、何だか複雑です・・・今は訓練に集中してくださいよ?)
「了解。わかってる」

そう言いながらも、口調が弾んでいるのが聞けばわかる
もう一度、こっそりと溜息を廃熱するサンタであった



その後、再開された訓練は、ディエチの第四十五射を数えた時点で、一応の成果を上げる事に成功した
防壁展開の術式を最適化してやれば、もっと安定した高い防御力を得ることができるだろう。なのははそんな風に結論付けて、すっかり疲れ切った243部隊員を労った

「さて、それじゃあ・・・ディエチ。マリーさんから話は聞いたよ。そっちの子・・・サンタのサポートを受ければ、全力が出せるかも知れないって」
「はい。自分でも、確かめてみたいんです」
「・・・危険を伴う。それはわかってるんだよね?」
「承知の上です」

873ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:28:30 ID:JziwV30Q
はっきりと頷いたディエチに、なのはは嬉しそうな溜息を吐いて、制御室のマリエルに呼び掛けた

「マリーさん、なのはです。射撃用の計測ターゲットを出して貰えますか?」
『うん、わかったわ』

予め準備をしていたらしい
返答とともに、ドミノのように並んだターゲットが訓練場に現れた

「これが、破壊力計測ターゲット。結果に関しては、大体の目安っていうところだけど・・・沢山撃ち抜けた方が強い。そう思って間違いじゃないよ」

一枚一枚が分厚い魔力障壁で作られたターゲットは、真っ直ぐに100枚、等間隔で並んでいる
ちなみに、極平均的な武装隊の砲手ならば、全力射撃で30枚撃ち抜ければ一人前とされる。40枚抜けたなら一流だ

「なのはさんは、何枚抜けたんですか?」
「自己ベストは63枚。エクシードモードで、カートリッジを使っての結果だけど・・・一応、現役局員の記録ではトップなんだよ」

少しだけ得意げな顔で、えへんと胸を張るなのはである
おお、とディエチは小さく拍手を送る。が・・・

「まぁ、はやてちゃんの広域空間攻撃なら、100枚全部を一度で消滅させちゃうんだけどね・・・」

そんな溜息混じりの台詞に、機人の少女と彼女のデバイスの心は一つになった

((お二人とも、本当に人間ですか・・・?))

勿論、真っ当にターゲットを撃ち抜いたわけでは無いので、はやての記録は公式には残っていないのだけど
そんな風に話し込んでいると、一同の顔の前に投影モニターが現れ、マリエルの顔が映し出された

『お待たせ、計測準備完了。そっちは大丈夫?』
「はい、大丈夫です・・・あの、ごめんなさい。マリーさん。試作機の試射は・・・」
『あぁ、良いの良いの。ちゃんとしたデータを取る方が大事だし・・・結果によっては、改良しなくちゃならないかもなんだし』
「ディエチの全力が、私やマリーさんの想像以上だったら、大変な事故が起こるかもしれないからね。それじゃ、こっちに来て」

一直線に並ぶターゲットの真正面。50m程の地点にサークルが描かれ、なのはに呼ばれたディエチはその中に立った

「一応、ルールを説明するね。このサークルの中から、ターゲットの列を真っ直ぐに撃つこと。射撃はワントリガーのみの記録を有効とします」
「了解」
「これ以外には、特にルールは無いね・・・私が、こんなこと言ったって説得力が無いのはわかってるけど、無理しちゃ駄目だよ。ディエチ」

心配そうななのはに、ディエチは小さく笑みを浮かべて、こくりと頷いた

「大丈夫です。サンタも付いてくれますし、心配しないでください。それじゃ、サンタ。お願い」

874ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:29:30 ID:JziwV30Q
ディエチの呼び掛けに、こっそり溜息を吐き出して、彼はコネクションケーブルを展開した
4本をイノーメスカノンの基部に、3本をディエチの首筋の辺りに押し付ける・・・そこから、サンタはディエチの基礎プログラムに侵入した

(・・・同調完了。セーフティルーチンに接触します)
「お願い」

現状で、特に自覚できる事は何もないディエチである
ただ、傍で見ているなのはと243部隊員達は、ガジェットの接続を受けるディエチの姿に、少なからぬ衝撃を受けていた
付き合いが長いカルタスやマリエルは、さほど驚きもしなかったが

基礎プログラムの深部、コマンドの全てを監視しているセーフティルーチンを迂回するコマンドラインを作り、サンタはテストプログラムを走らせる
特に問題は無いようだ
頭の中に何かノイズのような物が走ったディエチは、怪訝そうに首だけを後ろに振り向けた

「ん?・・・サンタ、今何かした?」
(バイパスにテストプログラムを流しました。実害は無い筈ですが、大丈夫ですか?)
「うん、ちょっと吃驚したけど、それだけだよ・・・それじゃ、もう、セーフティルーチンは外れてるの?」
(はい。試してみてください)
「わかった・・・IS:ヘヴィバレル。発動」

サンタのピカピカに小さく頷き、ディエチはISを発動させ、チャージを開始した
正しく一体と化したカノンに、身に宿る全てのエネルギーを注ぎ込む・・・そして、出力80%・・・
いつもならば、ここがリミットとなる数値だが、何の遅滞も無く、エネルギーゲインは順調に高まってゆく

「凄い。本当に、出力が上がってく・・・!」
(100%以上の高出力になると、機体にもかなりの負担が掛かり始めます!気を付けてください!)
「了解・・・!」

出力、100%オーバー・・・その数値はディエチにとって未知の領域だ。決して出せなかった数値を超えた時、自分の身体はどうなるのか?
痛いかも知れないし、苦しいのかも知れない・・・そんな風に思っていたが、最初に襲い掛かってきたのはどちらでも無かった

「えっ・・・!?」

出力、120%
いきなり、視界が霞み、四肢の感覚が無くなった・・・いや、一瞬の事だ。目の前のターゲットは見えているし、ちゃんとカノンを抱えている
だが、その感覚が段々希薄になってくる・・・

「これが、限界突破・・・!?こんなの、良く・・・!」
(ディエチさん!)
「・・・まだ行ける。まだ!」

出力、130%
胸の奥、身体の芯が赤熱するような熱を帯びた
灼け付く喉から、彼女は掠れた叫びを上げるが、感覚の薄い手足は氷に突っ込んでいるかの様に冷たい

「ぅぁぁぁああっ・・・!!」
(出力140%突破!ディエチさん、これ以上は危険です!)
「ぐ、うぅっ・・・・・!」

カノン本体の集束器では扱いきれないほどの膨大なエネルギーをヘヴィバレルで強引に束ね、霞む視界でターゲットを睨み付ける
頬を流れ落ちる生温い脂汗の感触だけが妙にリアルな意識の中で、我知らず、彼女の唇が言葉を紡ぎ出した

「 ――― 全力、全開・・・ッ!!」

875ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:30:30 ID:JziwV30Q
私の記録、抜かれちゃうかな?となのはは呟いていた
かもしれませんね。とカルタスは苦笑を浮かべていた
いや、それは無いだろう。とプラドは憮然と言い放ち、243部隊員達は何枚抜けるかで賭けをしていた
モニターの照り返しを眼鏡に宿したマリエルは、医療班・救急チームに出動を要請していた

そして、ディエチは、本当に動かせるのかどうか自分でもあまり自信が無い指先で、トリガーを、


「ぅ、あああぁぁぁっ!!!!!」


いつもは凜と引き結ばれている、物静かな唇から獣の様な絶叫が迸る
放たれた魔力砲撃は真昼の太陽の様な、強烈な光と共に炸裂し、そして、衝撃と轟音が意識を ―――










「・・・あれ?」

ぱちっ、と目を醒ましたディエチは、見慣れた天井を見上げてそんな風に呟いた
上掛けを蹴飛ばして身を起こせば、隔離施設で着ているいつもの白いシャツとズボンを着込んでいる
訓練服を着て、なのはの訓練に参加したのは・・・

「夢、だったのかな・・・?」
「何を言ってるの、ディエチ」
「あ・・・ウーノ姉」

ベッドの傍に座り、難しい顔で投影表示されているレポートを睨んでいた長女:ウーノは盛大な溜息を吐き出して、取りあえずディエチの脳天に拳骨を落とした
ごちっ、と炸裂した握り拳に、思わず涙目になるディエチである

「痛っ!?な、何で?」
「ディエチ、自分が何をしたのか憶えていないの?訓練に参加したのは夢なんかじゃないわよ」
「え、えぇっと、確か、243部隊の人達との訓練に出て、それから、サンタに頼んで全力砲撃の試射を・・・」

ごちっ、と二発目が炸裂した

876ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:31:30 ID:JziwV30Q
「それよ。それが悪いのよ。下手をすれば命に関わるような危険な真似をどうしてしたの!?」
「・・・自分の力を、確かめてみたかったから・・・」
「その結果、取り返しの付かない事態になっていたら!?」

常の物静かな麗貌をかなぐり捨てて、ウーノはベッドに座って項垂れているディエチを猛然と叱り飛ばした
拳骨の痛みよりも、初めて見る長女殿の凄まじい剣幕に涙を浮かべてしまう彼女である

「今回に関しては、特に障害が何も残らなかったのが不幸中の幸いだけど・・・良いこと!?もう二度と、絶対にこんな事はしでかさないように!」

“叱られた”という初めての衝撃に、言葉も無く震えるディエチの姿に、ウーノは再び盛大な溜息を吐き出した

「ごめんなさい、少し言い過ぎたわ。ともかく・・・どうしてセーフティルーチンが組み込まれているのか、その意味を良く考えなさい」
「・・・うん、ごめんなさい。ウーノ姉」
「データとしては興味深いけれど・・・この手のテストは最低限、自分の身体を壊さないだけの手立てを構築した上で行いなさい。全く・・・」
「データ・・・そうだ、あの、私の、成績は!?」
「先に言っておくけど、貴方は正規の局員ではないのだから、公式記録には残っていないわよ」

そう前置きをして、ウーノはディエチの目の前にとあるデータを投影して見せた
トップには相変わらず、高町なのは一等空尉の名が躍っている・・・そして、自分の名前は何処にもない・・・なのはの記録は『71枚』とある・・・?

「あれ?なのはさんの自己ベストは、確か63枚でトップだったんじゃ・・・?」
「さぁ?記録は71枚になってるわね」
「・・・どうして?」
「知らないわよ。自分で考えなさい」
「え?え?どういうこと・・・?」

唸りながら首を傾げているディエチを残して、ウーノは席を立った

医務室を出ると、ドアの陰に隠れるように、クアットロが佇んでいた。隠れているつもりなのか、壁にぺったり張り付いている

「・・・何をしているの?」
「あ、あぁらウーノ姉様。ち、ちょぉっとお散歩というところですわぁ?」

眼鏡の奥の視線は何やら明後日を向いており、如何にも白々しく、苦しい言い訳である

「ディエチならもう起きているわよ。見舞いなら構わないわ」
「お、お見舞いなんてそんな、私は何一つ心配していませんし、ここに居るのもただの散歩なので「わかったわ、わかったわよ。好きになさい」

何やら必死な四女を押し止めて、ウーノは足早に医務室の前から去ってゆく
しばらく、クアットロはその場をウロウロし、廊下の向こうに誰の気配も無いことを確かめ、念のため曲がり角の向こうまで確認し、ようやく医務室のドアをくぐった

「・・・あ、クアットロ」

877ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:32:30 ID:JziwV30Q
「は、はぁい、ディエチちゃん。随分お馬鹿な真似をしたみたいねぇ?」
「・・・馬鹿は酷いなぁ・・・まぁ、否定はできないけど」
「ウーノ姉様じゃ無いけど、全くその通りよ。そんなに、“あの人”みたいになりたかったの?」

“あの人”みたいに強くなりたかったのか?
“あの人”みたいに身体を壊してしまいたかったのか?
クアットロの口調からは、どちらの意味で言っているのかを推し量ることはできないけれど・・・ディエチは、彼女なりの答えを口にした

「うん・・・あの人みたいに、なのはさんみたいになりたかった」
「・・・本ッ当に馬鹿ね」

クアットロにまで真剣に嘆かれた事は、割と衝撃である

「あの人くらい、必死になってみたかったんだ・・・でも・・・ねぇ、クアットロ」

呼び掛けられた四女は、呼び掛けた十女の顔を見る
そこにあったのは、眩しいほどの笑顔と、微かに滲む不敵さと、自信と・・・

「あの手応えなら・・・私はきっと、なのはさんにも負けないよ」
「だから何?」
「もしも、クアットロが悪い事を企んで、なのはさんに狙われる事になっても・・・私が、守ってあげられる。今度こそ、絶対・・・!」
「・・・付き合ってられないわね」
「あ、ちょ、クアットロ!?」

振り返りもせず、クアットロは結わえた髪を翻して医務室を去ってゆく


ドアをくぐり、そして、その陰に隠れるように佇んでいたニヤニヤ笑顔なドゥーエの姿に心臓が口から飛び出そうなほど驚いた


「ド、ド、ドゥーエ姉様!?な、何故ここに?」
「さぁ?お散歩ってところかしらねぇ?」

何処までも白々しい次女殿の言い分に、クアットロは赤く染まった頬を隠すように俯けたまま、ずかずかと歩み去る

「ちょっとちょっと、お姉様を置き去りにするような妹に育てた憶えは無いわよー?」

背中に投げ掛けられたそんな言葉に足を止め、ぽんと後ろからクアットロ肩を叩いて、ドゥーエは優しく微笑んだ

「良かったじゃない、クアットロ。貴方がちゃんと妹から慕われてるって解って、私も嬉しいわよ?」
「・・・あの娘に、あんなディエチちゃんに慕われても・・・私は、ちっとも嬉しくありませんわ」

俯けた顔を隠すように、クアットロは振り返るとドゥーエの胸に抱き付いた

「あんな、あんな・・・悪魔に毒された妹なんて、もう、使い物になりませんもの」

肩口に顔を押し付けてきた妹の背中を撫でてやりながら、ドゥーエは苦笑と共に呟いた

「・・・はいはい。全くその通りね。あんな、悪魔の優しさに毒された可愛い妹なんて、もう捨て駒にできないものね。大事にしなくちゃ」
「なっ!?ち、違いますドゥーエ姉様!私は、その、」
「あら、照れなくても良いじゃない?」
「て、照れとかそう言うのじゃなく!えぇと、つまり・・・あぁ、もう、ちゃんと聞いてくださいドゥーエ姉様!」
「ほらほら、可愛い妹に食事でも運んであげないと」
「ちゃんと話を聞いてくださってばドゥーエ姉様ぁ!」


――― 廊下から微かに聞こえてくるドゥーエとクアットロの話し声に耳を傾けながら、ディエチはベッドに寝そべった・・・口元に、淡い微笑を浮かべたまま




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板