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あと3話で完結ロワスレ
241
:
298:Final Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/27(日) 20:12:03
――――だらしねぇな。
どこかで、兄貴の声が聞こえた気がした……。
【鎌田吾作@本格的 ガチムチパンツレスリング】
[状態]:全身ボロボロ、闇人化
[装備]:焔薙@SIREN2、ジーンズとTシャツ@現実
[所持品]:なし
[思考]
基本:蟹に、なりたいね……
242
:
298:Final Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/27(日) 20:12:17
投下終了です。
243
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:12:40
ドーモ、ライター=サン。投下乙です。
私もこの企画に参加させていただきたいと思います。
まずは名簿と各種情報、続けて1話(298話)を投下させていただきます。
244
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:16:14
【ロワ名】ニンジャスレイヤーロワ
【生存者6名】ニンジャスレイヤー【フラッシュバックによる無力化の可能性】、シルバーキー【右腕使用不可】、アースクエイク
サラマンダー、ディプロマット【限界寸前】、デスドレイン【マーダー】
【主催者】フィリップ・N・モーゼズ
【主催者の目的】イクサとカラテを楽しむ
【補足】会場はネオサイタマとキョートを模して作られた空間です。重金属酸性雨は降っていません。また、主催者による首輪の爆破はありません。
【名簿】6/100
○ニンジャスレイヤー/●ディテクティヴ/●ナンシー・リー/○シルバーキー/●ヤモト・コキ/●ネザークイーン/●デッドムーン/●ドラゴン・ゲンドーソー/●ドラゴン・ユカノ/●ダークニンジャ
●ジェノサイド/●ブラックヘイズ/●フォレスト・サワタリ/●ラオモト・カン/●ヒュージシュリケン/○アースクエイク/●バンディット/●ビホルダー/●ソニックブーム/●ヘルカイト
●レイザーエッジ/●インターラプター/●サボター/●クイックシルヴァー/●フロストバイト/●アゴニィ/●レオパルド/●ガントレット/●ヴィトリオール/●ミニットマン
●イクエイション/●テンカウント/●オブリヴィオン/●ビーハイヴ/●バジリスク/●シルバーカラス/●ロード・オブ・ザイバツ/●ダークドメイン/●イグゾーション/●ニーズヘグ
●パラゴン/●スローハンド/○サラマンダー/●パーガトリー/●ヴィジランス/●ブラックドラゴン/●アイボリーイーグル/●レッドゴリラ/●パープルタコ/●アンバサダー
○ディプロマット/●ガラハッド/●ジルコニア/●ミラーシェード/●トゥールビヨン/●メンタリスト/●ワイルドハント/●チェインボルト/●サンバーン/●ブルーオーブ/●ジャバウォック
●ディヴァーラー/●アノマロカリス/●インペイルメイト/●イグナイト/●ガンスリンガー/●コンジャラー●ソルヴェント/●メイガス/●ファランクス/●センチュリオン
●プリンセプス/●ペインキラー/●ボーツカイ/●モスキート/●アガメムノン/●ネヴァーモア/●シズケサ/●シャドウドラゴン/●ドラゴンベイン/●スパルタカス
●スワッシュバックラー/●ミョルニール/●セントール/●フロッグマン/●ノトーリアス/●キャバリアー/●ナックラヴィー/○デスドレイン/●ランペイジ/●シーワーラット
●アコライト/●マニプル/●アナイアレイター/●スーサイド/●フィルギア/●アサイラム/●ネブカドネザル/●ニンジャキラー/●ケジメニンジャ/●イヴォルヴァー
245
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:19:21
「エンド・オブ・ニンジャ・ロワイアル」#1
重金属酸性雨が降っておらず、慰霊碑が既に撤去されていようとも。それが精巧なイミテーションでしかなかったとしても。
フジキド・ケンジにとって、マルノウチ・スゴイタカイビルとは特別な場所だ。妻子を失い、ナラクをその身に宿し、ニンジャスレイヤーとなった場所。
ネオサイタマの死神。ベイン・オブ・ソウカイヤ。暗黒非合法探偵。ニンジャスレイヤーとそれに付随する様々な憶測、伝説、事実。その全ての物語の、始まりの場所。
脳裏に浮かびかけたあの日の光景を、ニンジャスレイヤーは首を振って頭から追い出す。あの悪夢を忘れたいわけではない。あの絶望から逃げたいわけでもない。
今は悪夢も絶望も必要ない。今はただ、カラテを。やり遂げる力を。「……大丈夫か?」隣に立つシルバーキーが声をかける。
「怖い顔してたぜ。……なぁ、そう難しく考えるなよ。気楽に行こうぜ、気楽にさ。ああ、もちろん気を抜けって言ってるわけじゃあないぞ?そう気負うなってことさ」
そう言って笑うシルバーキーの右腕は見るも無残な有様だ。マニプルの古代ローマカラテにより、骨が完全に粉砕されてしまっているのだ。
ニンジャスレイヤーはシルバーキーの顔を見た。「そう、単純なことだ。ここを終わりの地とする。この悪趣味なイクサと、モーゼズというニンジャのな」
ニンジャスレイヤーは天井を見上げた。シルバーキーもつられて見上げた。倒すべき敵が待つであろう屋上を、外からでは雲に、中からでは天井に阻まれ見ること叶わぬその場所を、見据えた。
----------------------------------
「ふん、まさか元とはいえザイバツのニンジャを背負う羽目になるとはな」マルノウチ・スゴイタカイビル三階。その廊下を三人のニンジャが歩いていた。
とはいえ、実際に歩いているのは二人である。一人は気絶し、別のニンジャに背負われているのだから。
「言っておくが、俺は代わってやらんぞ。カラテが振るえなくなるからな」気絶したディプロマットを背負うアースクエイクにサラマンダーが尊大に告げる。
「わかっている。元よりそのつもりもない……ん?」アースクエイクが立ち止まる。当然、サラマンダーも。
あなたがニンジャ聴力の持ち主なら、たしかに上階でサツバツとしたカラテシャウトとヤクザスラングが響いているのがわかるだろう。
……そして、ここにいる二人のような優れたニンジャ第六感を持つ者なら、さらにその上の階層に存在する、邪悪なニンジャソウルをも知覚しているはずだ。
「ニンジャスレイヤー=サンめ、さっそく始めよったか。それにこれは……奴か」「我が不甲斐なき弟弟子がいつ些細なミスをするとも限らん。さっさと行くとしよう」
「ニンジャスレイヤー=サンが心配か?元ザイバツのグランドマスターともあろう男が過保護なものだ」
「ドラゴン・ドージョーにクローンヤクザ程度に遅れをとるようなサンシタがいるとでも思うたか?」
「ふん、どうだかな。俺がドージョーを襲撃したときは、状況判断さえまともに出来ぬニュービーがゴロゴロしていたが。まあ、それはどうでもいい。……行くぞ」「言われるまでもない」
----------------------------------
246
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:21:34
マルノウチ・スゴイタカイビル七階!そこでは、サツバツとした殺戮が繰り広げられていた!「「「ザッケンナコラー!」」」「イヤーッ!」「「「アバーッ!?」」」
ニンジャスレイヤーのスリケンがクローンヤクザを三人まとめて貫通!クローンヤクザはその場に折り重なり倒れる!
すると廊下の角を曲がって、四人のクローンヤクザが新たに現れる!「「「「スッゾコラー!」」」」
倒れたクローンヤクザの死体を踏みしめ、新手のクローンヤクザ達はニンジャスレイヤーとシルバーキーに迫る!「イヤーッ!」「「「「アバーッ!」」」」スリケンがクローンヤクザの頭部を貫通!四重殺!
「おいおいおい!いったいどれだけいるんだよ!」シルバーキーが叫ぶ。彼らは数分前からこの主催者が配置したであろうクローンヤクザ達の猛攻を受けているのだ。
一人ひとりは弱くとも、どこからともなく大量に現れるクローンヤクザには、さしものニンジャスレイヤーも手を焼いていた。
「わからぬ。だが、どれだけいようと殲滅するのみ」スリケンを構え、敵の到来に備えながらニンジャスレイヤーが答える。
「俺のジツじゃだめなのか?」シルバーキーのユメミル・ジツはニューロンを焼くことができる。同じDNAから作られたクローンヤクザは同じニューロンを持っており、故にジツで一掃することができるのだ。
「まだだ。今使ってもこの階層にいるクローンヤクザを全滅させられるかはわからん。全てのクローンヤクザを集め、まとめて殺す……イヤーッ!」
曲がり角から顔を出したクローンヤクザの額にスリケンが突き刺さる!「とは言ってもよぉ……このままじゃ」シルバーキーは不安げに呟く。
そう、いくらチャドー呼吸による回復が可能なニンジャスレイヤーといえど、その体力は無限ではない。敵がどれだけいるかわからぬ以上、このままではジリー・プアー(徐々に不利)だ!
「イヤーッ!」そのとき、突如床に大穴が開いた!そしてそこからエントリーしてくるバーガンディ装束のニンジャ!その背には別のニンジャが背負われている!
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン」「ドーモ、サラマンダー=サン。……アースクエイク=サンは?」ニンジャスレイヤーがエントリーしてきたニンジャ――サラマンダーに問いかける。
「イヤーッ!……あやつなら下でクローンヤクザと戯れている。すぐに合流するだろう。あやつ……結局こいつを俺に押し付けていきよった」
サラマンダーは背中のディプロマットを顎で示した。「それより上だ。デスドレインがこの上にいるようだ。イヤーッ!……動きがないことを見ると、おそらくは待ち構えているのだろうな」
「……デスドレイン」ニンジャスレイヤーの問に答えながら、サラマンダーは時折片腕でスリケンを投擲しクローンヤクザを殺害していく。
デスドレインの所在がわかった今、彼らにとってクローンヤクザはもっとも注意を払うべき問題ではなくなった。アースクエイクの働きによるものか、襲来するクローンヤクザの数が減っているとくれば尚更だ。
「この先妙な動きをされては困る。早急に討つべきだと俺は思うがな……イヤーッ!」
「しかし、このクローンヤクザ達を放置するわけにも……イヤーッ! ……いくまい」「……俺だ。俺に任せてくれ」
その時、それまで黙っていたシルバーキーが口を開いた。「オヌシが?」ニンジャスレイヤーがシルバーキーの顔を怪訝そうに見る。
ニンジャスレイヤーはシルバーキーのジツをよく知っている。その未熟なカラテのワザマエもまた、同様に。
「ああ、俺だ!俺だってニンジャだ、あいつらよりもカラテはできる。それにいざとなったらジツで一網打尽!な?任せてくれよ。……俺なら、大丈夫だからさ」
247
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:22:42
シルバーキーはまっすぐニンジャスレイヤーを見つめ返す。二人の間を沈黙が支配する。サラマンダーは無造作にスリケンを投げ、クローンヤクザを殺害している。
「……いいだろう」そして、ニンジャスレイヤーが折れた。シルバーキーは顔を綻ばせた。
「決まったか。それでは行くぞ、ニンジャスレイヤー=サン」サラマンダーが上階へと向かう。ニンジャスレイヤーもまた、シルバーキーに背を向け走りだした。
シルバーキーはそれを見送った。ニンジャスレイヤーは階段を登り切る寸前にちらりとシルバーキーを振り返り、上階に消えていった。
「「ザッケンナコラー!」」この階層のどこかからヤクザスラングが聞こえてくる。排除対象を、シルバーキーを探しているのだ。
「へっ、いいぜ。そんなに俺を見つけたいのなら、俺から場所を教えてやるよ。お前たちを倒すのは――」
シルバーキーはニンジャ肺活量を活かし、大きく息を吸い込む。そしてニンジャ声量の限りに、全力で叫んだ!
「――俺だぁぁぁああっ!」「「「「「「ザッケンナコラー!!!!」」」」」」廊下に雪崩れ込むクローンヤクザ!シルバーキーがカラテを構える!未熟ながらも強い意志を秘めた、カラテを!
----------------------------------
八階に上がったニンジャスレイヤーとサラマンダーが見たものは、大量のクローンヤクザの死体だった。
床や壁に残った黒いヘドロや体をあべこべに拗られたクローンヤクザ達の死に様が、それらがデスドレインの仕業であることを如実に語っている。
「あそこか」「そのようだな」ニンジャスレイヤーが指し示したのは、階層の四分の一もの広さを持つ宴会場の入り口だ。
カチグミ・サラリマンが利用することが多いマルノウチ・スゴイタカイビルにおいて、宴会場が巨大なものとなるのは当然のことだ。
宴会とは出世と昇進における重要なファクターであり、宴会芸と呼ばれる古典的芸能が脈々と受け継がれていることからもそれは察することができる。
平安時代のサラリマン達は、自らの宴会芸を高め、またそれを派手なものにするべく広い宴会場を欲したのだ。
つまるところ、宴会場は実際広い。それこそ、ニンジャのイクサですら不自由なく行える程度には。
「ディプロマット=サンはどうする」「外に置いておいてはクローンヤクザに殺される可能性がないとは言い切れん。連れて行くしかなかろう。中ならまだ護ることもできる」
「了解した……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがフスマをトビゲリで破壊し、宴会場へとエントリーする。
続けてサラマンダーが宴会場へと足を踏み入れ、ディプロマットを壁にもたれかからせる。そこは、乱れに乱れていた。美しい墨絵が描かれていたであろうフスマは黒く染まり、壁にかかったカケジクは半ばで破られている。
その下手人は誰か。考えるまでもない。ニンジャスレイヤー達が侵入した位置とは正反対に立つ男。デスドレイン。
「ドーモ、デスドレイン=サン。ニンジャスレイヤーです」「サラマンダーです」圧倒的な邪悪を前にして進み出る、二人のニンジャ戦闘者。その意志は揺るぎなく、カラテの冴えに陰りなし。
248
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:25:28
臆す事なくアイサツを決めたドラゴンニンジャ・クランのニンジャ達は、油断無くカラテを構える。
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、サラマンダー=サン。……アァン?二人だけか?まったく舐め腐ってくれるなァおい。それとも……」アイサツを終えたコンマ1秒後、デスドレインが動く!
「……そのお仲間は動けねぇのかァ!?」囚人メンポから吐き出された暗黒ヘドロが一斉に湧き上がり、数多の筋となって飛翔する。
その狙いはニンジャスレイヤーやサラマンダーではなく、後方の壁にもたれかかるディプロマットだ!彼は度重なるイクサとポータル・ジツの行使によって気絶し、当然回避など不可能!
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのスリケンが、サラマンダーのチョップが、ディプロマットへと向かうアンコクトンを叩き落とす!
だが、足りない!撃墜を免れた一筋のアンコクトンが、ディプロマットへと接近する!
おお、ナムサン!このままディプロマットはアンコクトンにより拗られ、潰され、惨たらしく殺されてしまうというのか!?
「イヤーッ!」答えは否!見よ、ディプロマットの前に回転ジャンプで降り立った巨漢のニンジャを!「スマン、遅れたな。……イヤーッ!」
そのニンジャが繰り出した裏拳は正確にアンコクトンを打ち、壁へと吹き飛ばした!ゴウランガ!
これこそがビッグニンジャ・クランのソウルを憑依させたニンジャのニンジャ筋力のなせる技であり、シックスゲイツが一人、アースクエイクのカラテのワザマエなのだ!
「ふん、俺はお守りではないのだがな……。ドーモ、デスドレイン=サン。アースクエイクです」未だ横たわるディプロマットを横目で見ながら、アースクエイクはアイサツした。
そしてそのまま、その場でのカラテ警戒へと移行する。その視線が、一瞬ニンジャスレイヤーとかち合った。両者は無言で頷いた。
「あー、ドーモ、アースクエイク=サン。デスドレインです。……なンだよ、つまらねぇなァ」デスドレインは苛立ちを隠そうともせず、オジギした。
その周囲には弾かれたアンコクトンが集まり、煮えた重油めいて泡立っている。「まぁいいや。どうせ全員殺すんだからよォ!」デスドレインが叫ぶ。その言葉を皮切りにアンコクトンが、爆ぜた!
----------------------------------
(……感謝する)無言で頷きながら、ニンジャスレイヤーは心の中でオジギした。何に?アースクエイクに。
動けぬディプロマットのために護衛を買ってでた、かつての怨敵に。不思議なものだ、とニンジャスレイヤーは思う。
センセイと共に自らの手で殺害したかのソウカイニンジャとこうして共闘することになるとは、ニンジャスレイヤーもアースクエイクも、おそらくはブッダさえも予想していなかっただろう。
しかし、一度イクサで直接カラテを交え、そのワザマエを知っているからこそ、ニンジャスレイヤーは迷いなくディプロマットの護衛をアースクエイクに託すことができる。
まさにサイオー・ホース。そしてそれは、隣に立つサラマンダーにも言えることだ。サラマンダーがこの殺し合いの中で何を経験し、どのような心境の変化があったのかはわからない。
ただ一つ言えることは、ロードの死によりキョジツテンカンホー・ジツを脱したサラマンダーが、センセイとのイクサの果てにドラゴン・ドージョーを継いだということだ。
249
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:27:18
ニンジャスレイヤーは彼らのイクサを見届けた。サラマンダーのチョップがセンセイを両断するその瞬間を、見届けた。
おそらくはイクサの最中に何らかのインストラクションが行われたのだろう。センセイとのイクサを終えたサラマンダーは、ザイバツ・シャドーギルドのグランドマスターではなく、ドラゴン・ドージョーの後継者としてそこに存在していた。
「来るぞ、ニンジャスレイヤー=サン。ぬかるなよ」「無論だ」サラマンダーの声に、ニンジャスレイヤーが答える。
短い、ごく短いやり取りだ。しかし、その中にある信頼はどれほどのものであろうか。同じ師を持ち、同じカラテを学び、同じインストラクションを授かった。だが、一度は道を違え、イクサの果てに一方が勝利し、一方が敗れた。
そんな二人が師の遺志を継いで、意志を同じくして、共に並び立っている。敵はデスドレイン。邪悪なニンジャだ。
強力なジツも備えている。だが、それがどうしたというのだ。兄弟子と弟弟子、カラテにカラテをかけて100倍。越えられぬ壁など、討てぬ敵など、あるはずもない!
「まぁいいや。どうせ全員殺すんだからよォ!」デスドレインの叫びと共に殺到するアンコクトン!
ニンジャ動体視力をもってしても数えるのに難儀するほどに枝分かれしたアンコクトン、その全てが四方八方からニンジャスレイヤーとサラマンダーに襲いかかる!
「イヤーッ!」対するサラマンダーは地を叩き、周囲のタタミを浮き上がらせた!タタミで何をしようというのか!?答えはもちろん、カラテだ!
「「イヤーッ!」」唱和する二人のカラテシャウト!浮き上がったタタミに渾身のダーカイ掌打だ!SPAAAAAM!奇妙な衝撃音と共に、前方のアンコクトンが全て弾け飛ぶ!
ゴウランガ!これはまさにマスタータタミことソガ・ニンジャが、そしてロード・オブ・ザイバツが得意とした衝撃伝達カラテの再現!
前方のアンコクトンが消え去り、道が開ける!デスドレインへと繋がる、その道が!ニンジャスレイヤーは、サラマンダーは駆ける!
側面から襲い来るアンコクトンを弾き、躱し、少しずつ、しかし確実に距離を詰めていく!
「イヤーッ!」そしてついに、サラマンダーが背後に回ったアンコクトンを蹴り、反動を推進力に変えて前方へと跳んだ!その先には当然デスドレイン!「大人しく死んどけよ、なぁ!」
デスドレインはアンコクトンを盾めいて凝縮!オミヤゲストリートでのダークニンジャとのイクサで見せたアンコクトンによる防御体勢をもって、サラマンダーのカラテに備える!
一方のサラマンダーは空中で極限まで身を捻る!上体がほとんど真後ろを向き、右腕が異様な緊張状態と化す!
ゴウランガ!これはまさしくタタミ・ケンではないか!?そう、我々は知っている。インターラプターの切り札であるこのカラテを。
サラマンダーがかつてインターラプターの絶対防御カラダチを使ってみせたことを、知っている!ならば、サラマンダーがこのカラテを使えぬ道理など、ない!
「ハイーッ!」サラマンダーが叫ぶ!サラマンダーの全ニンジャ筋力をもって放たれたタタミ・ケンが、アンコクトンの盾へと振りぬかれる!
「「グワーッ!?」」悲鳴が……二つ!?いったい何が起こったというのか!?仰け反り、たたらを踏むデスドレイン。その周囲に盾となっていたアンコクトンは存在しない。
サラマンダーのタタミ・ケンにより、形を保つことさえ許されず四散したのだ!では、サラマンダーは?……おお、ナムサン!地に臥し吐血しているではないか!
サラマンダーのタタミ・ケンはたしかに強固なるアンコクトンの盾を破った。だがそれと同時に、サラマンダーは頭上から襲いかかったアンコクトンにより、地へと叩きつけられていたのだ!
250
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:29:07
デスドレインはオミヤゲストリートのイクサにて、アンコクトンが絶対無敵ではないことを知った。アンコクトンの守りは、研ぎ澄まされたカラテの前には屈するのだと知った。
だからこそのクロスカウンター。カラテを受けきったのちの反撃ではなく、防御を薄くしててでも同時攻撃を選んだのだ!
デスドレインとてニンジャだ。そのニンジャ判断力は実際見事!「へへッ!まず一人ィ!」……そう、これが一対一のイクサであったならば!
赤黒の風が、疾る。その接近に気づいたデスドレインが迎撃のアンコクトンを練り上げるよりも早く。サラマンダーを叩きつけたアンコクトンが彼をカイシャクするよりも早く。
ニンジャスレイヤーは、兄弟子が切り開いた道へと風の如き疾さで駆け込んだ。「……ふざけンな」デスドレインが鍛錬すらしたことのないカラテで迎撃を試みる。
遅い。そして弱い。「ふざけンなよ」鈍化した時間の中で、ニンジャスレイヤーはデスドレインのヤバレカバレなチョップをいとも簡単に回避する。
「……何なんだよ!お前――」パァン。四重一音の打撃音が響く。両手を広げ着地するニンジャスレイヤー。崩れ落ちるデスドレイン。力を失い分解されるアンコクトン。
チャドー暗殺拳奥義、アラシノケン。完全な体勢から完璧なタイミングで放たれたそれは、デスドレインの体内を尽く破壊し……ワッザ!?
----------------------------------
「まぁいいや。どうせ全員殺すんだからよォ!」デスドレインの声が響く。こうして護衛に来たはいいが、おそらくもうデスドレインがディプロマットに攻撃を仕掛けることはないだろう。
そうアースクエイクは黙考する。アンコクトンをけしかけた所でアースクエイクがそれを弾くのはわかりきっているし、何よりあの二人がそのような暇をデスドレインに与えるはずもない。
シルバーキーがこの場にいないことは気がかりだが、下階のクローンヤクザの死体を見る限りではおそらく下に留まっているのだろう。
ならば今は気にしてもしょうがないことだ。「そんな風に寝ておらずに、アグラでもしたらどうだ。目は覚めているのだろう」
黙考しながらもカラテ警戒の構えだけは崩さずに、アースクエイクはディプロマットに声をかける。
「……ん」力なく横たわっていたディプロマットが、難儀そうに体を持ち上げる。
「このイクサにどれほどの時間が掛かるかはわからんが、少なくともこれで終わりではない。少しでもカラテを回復させておけ。お前の出番は必ずやってくる」
「……ああ、そうだな」ディプロマットはアグラした。彼が担うべき仕事――彼の最期の仕事に、思いを馳せながら。
----------------------------------
251
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:31:05
「アバッ……アバッ……」デスドレインが、起きる。起き上がる。体のいたるところから血とアンコクトンを吹き出しながらも、ゆっくりと、しかし確実に体を起こしていく。
そして、立ち上がった。チャドー奥義アラシノケンは、完全成功時に相手の体内の尽くを破壊する。
四度の打撃によるカラテ衝撃力が体内で衝突し、内的爆発によってズタズタに破壊するのだ。故に、必殺。ロード・オブ・ザイバツですら即死と行かぬまでも数分で絶命するところまで追い込んだ、奥義の中の奥義。
ニンジャスレイヤーが持ちうるカラテの中でも最強最大の殺傷力を持つそれを受けてなお、デスドレインは立ち上がった。
デスドレインの体の大半が連戦によってアンコクトンに置き換わっているというのも理由の一つだろう。
デスドレインが攻撃を受けたその瞬間に本能的に体の一部のアンコクトンを流失させ、完全な形の内的爆発を避けたというのもそうだ。だがしかし、それらはあくまで理由の一部分でしかない。
真にデスドレインを生き長らえさせたもの。それはあまりにも強い生への執着。
無数のモータルとニンジャを何の良心の呵責も無く殺しておきながら、自らは死にたくないと臆面もなく叫ぶ、身勝手極まりない生きることへの渇望。それをニンジャ生命力が後押しし、必殺を受けてなお死なずその体を動かし続ける。
「ガイオン……ショージャノ……カネノオト……」デスドレインが、あるいはダイコク・ニンジャが呪詛を吐く。生きようと、死ぬまいと、必死の抵抗を試みる。
その身からアンコクトンを染み出させる。だがしかし、それだけだ。必殺を受けて死なないということは、必ずしもこの場を切り抜けられるということを意味しない。
「サラマンダー=サン!無事か!」「当然だ」ニンジャスレイヤーの呼びかけに答え、サラマンダーもまた立ち上がる。
そして、二人のドラゴン・ドージョーの戦士は目を閉じる。「「スゥー……ハァー……」」それは厳かな、そして神聖なチャドー呼吸のユニゾン。
『チャドー。フーリンカザン。そしてチャドー』センセイのインストラクションが、弟子たちの脳裏に、心に響く。「ショッギョ……ムッジョノ……ヒビキアリ……」
アンコクトンが動き出す。それ自体が意志を持っているかのように、ニンジャスレイヤーを、サラマンダーを狙う。
ニンジャスレイヤーは目を開いた。そして駆け出した。デスドレインの周りを、高速で旋回する。では、サラマンダーは?
……見るまでもない。既に彼らの心はセンセイの教えと、そしてカラテで繋がっている。強い絆を持つテニスの達人たちが窮地において同調するように、お互いの意図など、なすべきことなど、既に理解している!
「オゴレルモノ……ヒサシカラズ……」アンコクトンが獲物を追う。だが、捉えられない。避けられるわけでも、弾かれるわけでもない。
ただ、二人のニンジャがハヤイ!ハヤイすぎるのだ!アンコクトンを置き去りにし、旋回を終え、デスドレインに向かって走る二人の……否!二匹のドラゴンが今、天を駆ける!
かつてはセンセイと二人で。その後は一人で。そして今は、兄弟子とともに!ドラゴン・トビゲリ!
「「イイイイイヤアアアアアアアーッ!!」」「グワーッ!」トビゲリがデスドレインの頭部を捉え……その首を捻り切る!宙を舞うデスドレインの頭部!さしものデスドレインもこれで終わりか!?
……いや、まだだ!未だ地に立つデスドレインの肉体、その首の断面からアンコクトンが伸び、空中のデスドレインの頭部と繋がる!コワイ!
まだ生き足りないと、殺し足りないというのか!なんという、なんという執念か!そしてトビゲリを終えた直後のニンジャスレイヤーとサラマンダーは、これを阻止することができないのだ!
252
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:32:32
アンコクトンが頭部を引き寄せる!デスドレインが復活するのを、黙ってみていることしかできないというのか!「イヤーッ!」その時、飛来した物体がアンコクトンを断ち切った!アースクエイクが投擲した相棒の、ヒュージシュリケンの巨大スリケンだ!
そして再度宙に浮いた頭部に向かって飛び込んできたのは……アグラによりカラテを回復したディプロマット!万全には程遠いカラテを振り絞って両手をかざす!「イヤーッ!」デスドレインの頭部が展開されたポータルに飲み込まれ、消えた!そのままディプロマットは残されたデスドレインの体を蹴り、バク転して着地する。
デスドレインの体がゆっくりと倒れる。そして、アンコクトンを撒き散らしながら爆発四散!これが邪悪なる大量殺戮ニンジャ、罪を罪とも思わず、自らの欲求を満たし続ける犯罪者、デスドレイン――ゴトー・ボリスの最後だ!驕れる者は久しからず!インガオホー!インガオッホー!
----------------------------------
その後、彼らはクローンヤクザを殲滅し終えたシルバーキーが帰還するまで、暫くの休息をとった。白い壁に黒いアンコクトンが付着した邪悪でありながらもゼンめいた空間で、彼らはザゼンした。サラマンダーの背中の傷はチャドー呼吸により癒えるが、ディプロマットの方はそうもいくまい。
タイムリミットが迫りつつあるこのイクサにおいて、その休息の時間は侵されざるべき貴重なものだった。「……すまない」シルバーキーが帰還した数分後、ニンジャスレイヤーが突如口を開いた。ディプロマットへと向けた言葉だ。「すまない。このような役目を、オヌシに背負わせることになってしまった」
「……いいさ、そんな気はしていた。もとよりキョート城で捨てたのをあんたに拾われた生命だ。今更惜しみはしないさ」ディプロマットは笑った。「……それに、俺がそばに居てやらないと、弟が悲しむだろうからな。さあ、もう時間に余裕もない。……始めよう」
その場にいた全員が立ち上がる。ディプロマットは全員の顔を見回した。ニューロンに、心に刻み付けるように。「さらばだ、ニンジャスレイヤー=サン。サラマンダー=サン。アースクエイク=サン。シルバーキー=サン。……イヤーッ!」ニン010101レ0101010101オ10101010101010101010101
010101010101010101010101010101010101010101010101001101001100010100101010100コ10101空0010100010100101100100101001010010101010010100101010101010101010101010101010101イ010010ター101010101010101010101001010100101010100101010101010010101010101010010101010101010101010101010010101
【デスド0101ン 死亡】
【ニ01ジ0101レ01ヤ01 0101】
【01ラ010101ー 0101】
【0101スク0101ク 0101】
【シルバーキー 0101】
【バトルロワイアル 終了】
【優勝者 ディプロマット】
「エンド・オブ・ニンジャ・ロワイアル」#1 終わり #2 に続く
253
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:32:57
以上で投下は終了です
254
:
名無しロワイアル
:2013/01/27(日) 23:49:09
>>253
アイエエエエ!?
ナンデ?ニンジャナンデ!?
ニンジャスレイヤーの狂った言語センスをそのまま再現するとはw
255
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:12:35
謎ロワ299話投下します
256
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:13:03
――――11:06:01
――――鉄塔:上層付近
「何故、生きてるんだ……?」
意味が分からない、と言った口調で、阿部さんが呟く。
死んだと思っていた人間が、目の前に立っていれば、誰だって混乱するだろう。
「まさか、死んでなかったのか……?」
そんなはずはない。
数時間前、阿部さんは吾作の遺体を目撃したのだ。
その際、生死も確認した。
……その際、"本当に"死んでいる事も、確認した。
だが、そんな吾作が、立ち上がってここに来ている。
阿部さんと先生、2人の頭には、1つのワードが浮かんでいた。
――――どういうことなの……。
そんなことを考えている内に、吾作は刀を抜く。
その刀はかつて闇人をも斬り倒した事のある刀、"焔薙"であった。
それを、闇人と化した吾作が振るうとは……。
257
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:13:22
「……どうやら、やる気満々のようだな。こっちも、ヤる気で行かないとヤバいぜ!」
「ええ……分かってます!」
先生は、未だ慣れない手つきで銃を構える。
阿部さんは、ツナギのチャックをギリギリの所まで下ろす。
ジリジリと、お互いがお互いの出方を窺っている。
……下手に動けば、やられる。
阿部さん、そして先生は今までの戦いの中で得た"経験"から。
吾作は、未だ微かに残る、パンツレスラーであった頃の"経験"から。
その答えを、導き出していた。
「……!」
それを、荒々しく破ったのは、吾作だった。
大胆にも刀を上段に構え、一気に振り抜く。
だが、阿部さんの持つ"電光丸"が、自動的に攻撃を防ぐ……!
……だが、攻撃を防いだせいで、微量に残っていたバッテリーが、底を尽きた。
「そんなもの振り回しちゃあ……危ないだろうッ!」
役に立たない電光丸を放り投げ、怒りの籠った鉄拳を、的確にお見舞いする。
……忘れられがちではあるが、阿部さんの本職は、自動車整備工だ。
連日、ハードワーク(意味深)をこなしていたお陰で、体は、自然と鍛え上げられていたのである!
そんな、とてつもない肉体から繰り出されるパンチは、やはりとてつもないものであった。
元パンツレスラーであった吾作も、この打撃の嵐には、なす術もなく打ちのめされるばかり。
……だが、それはあくまで表面上の事。
幾ら強いとは言え、所詮は拳での殴打。倒すまでには、至らない。
それは、阿部さんも十分分かっていた。
「阿部さん……!」
「分かってる。これからが本番だ! ――――破アッー!」
気合いの入った声と共に――――阿部さんの股間から青白い光弾が!
258
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:13:45
「――――ッ!!」
いろんな意味で予想外だったのだろう。
高速で飛来する光弾に、吾作は何も出来ずにただ食らってしまった。
あまりの威力に少し後ずさるも、すぐに体勢を立て直す。
……光弾の当たった場所からは、シュウシュウと煙のような物が上がっている。
だが、大した痛手にはなってはないようだ。
現に、吾作の顔は、依然生きていた時のような笑顔を浮かべている。
「これで終わりじゃないぜ?」
しかし、阿部さんは怯まない。
それどころか、この状況を楽しんでいるようにさえ見える。
「……!?」
「良かったのか、ホイホイ勝負を仕掛けて」
気がつけば、吾作の背後には阿部さんが。
残った片腕で、吾作のズボンを下ろす。
「俺は、闇人だって構わないで食っちまう人間なんだぜ?」
吾作の下半身は、既に無防備。
それを確認してから、阿部さんのツナギのチャックが下まで下ろされる。
……こうなってしまった以上、もう、吾作の運命は決まったようなものである。
――――そして、運命の瞬間が訪れた。
259
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:14:14
「 あ お お ー っ ! ! 」
吾作の叫び声が、辺りに響く。
色々な意味で言葉に出来ない光景に、先生は思わず目を背ける。
「別に、苦しめたい訳じゃないからな。すぐに終わらせてやる……」
そう言い終わるか終わらないかの内に……阿部さんの腰辺りに、力が集まっていく。
……一撃で、終わる。
お互いが、それを実感していた。
「しっかり、ケツの穴を締めておけよ?」
阿部さんの手に、力が籠る。
がっしりと腰を掴んで、逃がさないように。
最初から、手加減する気はない。
下手に手加減すれば、余計に苦しませるだけだから。
「破アッ――――!!」
260
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:14:51
――――迸る光。そして、そこに溶けてゆく、吾作。
「か、に…………アッ――――!!」
吾作は見た。
いつも変わらない笑顔で、自分を待ってくれる兄貴を……。
――――吾作、だらしねぇな。もう一度、俺とレスリングだ。
そして、吾作は……笑顔のまま、消滅した。
【鎌田吾作@本格的 ガチムチパンツレスリング 消滅】
261
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:15:33
終わった。
かつて吾作のいた場所には、焔薙が、ただ残されているだけ。
それを、阿部さんは拾い上げる。
「……そろそろ行かねえとな」
空を見上げて、2人は歩き出す。
――――全てを、終わらせる為に。
【離島線四号基鉄塔・蜘蛛糸・上層付近/午前】
【阿部高和@くそみそテクニック】
[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中の上)、いい男、寺生まれの力(残り57%)
[装備]:TDNアーマー@本格的 ガチムチパンツレスリング、焔薙@SIREN2
[所持品]:支給品一式、くりまんじゅう@ドラえもん、葉巻@MGS3、火掻き棒@SIREN、
きせかえカメラ@ドラえもん、兄貴のジーンズ@本格的 ガチムチパンツレスリング、
フォトンブレードPG@龍が如く4、釘バット@SIREN2、コート@かまいたちの夜3
[思考]
基本:"ウホッ!いいエンド"で全てを終わらせる
1:Kさん達の所に行こう
※寺生まれの力を受け継いでいます
※フェアリーナイトメアを習得しました
【スペランカー先生@スペランカー先生】
[状態]:ボロボロ、残機:0
[装備]:シングルアクションアーミー(2/6)@MGS3
[所持品]:支給品一式、ステルス迷彩(残り使用時間:36秒)@MGS3、がんじょう(残り1個)@ドラえもん
[思考]
基本:死なないように、生きて帰る
1:Kさん達の所に、行きましょう
※闇人の対処法を知りました
262
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:15:44
投下終了です
263
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:21:48
状態表にミスがありました
[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中の上)、いい男、寺生まれの力(残り57%)
を
[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中の上)、いい男、寺生まれの力(残り42%)
に修正します
264
:
◆uPLvM1/uq6
:2013/01/30(水) 18:03:27
とりあえずテンプレだけ投下しておきます。
【ロワ名】変態ロワ
【生存者6名】
・クマ吉@ギャグ漫画日和
・亀仙人@ドラゴンボール【右腕使用不可】
・ふんどし仮面@銀魂【限界寸前】
・マクシーム・キシン@悪魔城ドラキュラ
・安錠春樹@新米婦警キルコさん
・ムッツリーニ@バカとテストと召喚獣【フラッシュバックによる無力化の可能性】
【主催】裁判長@逆転裁判【洗脳されている】
【主催者の目的】変態共に死刑を執行する
【補足】
・会場は悪魔城の中、裁判長は悪魔城の最上部にいます。
・キシンはマーダー。それ以外は対主催です
265
:
◆xo3yisTuUY
:2013/01/30(水) 21:18:16
はじめまして。
今日はテンプレだけということでご勘弁を。
【ロワ名】「日常の境界ロワ」
【生存者6名】1.阿部高和(くそみそテクニック)【限界寸前】
2.漆原るか(STEINS;GATE)【フラッシュバックによる無力化の可能性】
3.藤堂晴香(寄生ジョーカー)【右腕使用不可】
4.真紅(ローゼンメイデントロイメント)
5.水瀬伊織(アイドルマスター)
6.鯨(グラスホッパー)
【主催者】藤堂奈津子(寄生ジョーカー)
【主催者の目的】最終優勝者(最も過酷な生存に適する者)を苗床とした寄生生命体の創造。
【補足】首輪のかわりに、参加者の体内に72時間で発現する寄生体の核が投与されており、それが実質的なタイムリミットとなっている。
優勝者への褒賞は、賞金のほか、ただひとつしかないその抗体とされている。
まっすぐで、凝りすぎないロワという感じで行こうかと思います。
266
:
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:52:19
「日常の境界ロワ」 298話投下します。
267
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:54:09
決着は、一瞬だった。
それも当然、といえばそうかもしれない。
方や、満身創痍の身体に鞭打ち、欠けたナイフと己の身体を弾丸にして挑んだ男。
方や、数々の修羅場を潜り抜けて来た、ライフル装備の大男。
銃撃を受けきってでも相手に切り込む覚悟だったというのに、その銃撃さえ無くても、前者の渾身の一撃は、後者には届かない。
勢い込んだその腹に、鋭く膝を蹴りこまれて、男は無残に地面に転がった。
――交錯は、一瞬だったのだ。
敗北、か。仰向けに倒れたまま、男は宙を見上げた。ビルの無機質な天井が、随分と遠く見える。
彼――阿部高和の身体は、限界をとうに超えていた。
ほぼ三日間の不眠不休に加え、幾度も繰り返された強敵との死闘は、彼の命を確実に削ってきていた。
身体は磨耗し、精神は磨り減り、それでも倒れることなく進み続け――
――つい先ほど、友の命と自身の身体を犠牲にして、このゲームの最悪の“切り札”を沈めたばかりなのだ。
青いツナギは血の斑に染められ、身体中痛くないところが無いというほどに怪我だらけだ。
立ち上がることもできず、自慢の息子もピクリとも勃ち上がらない。
――なるほど。これが俺の死か。
阿部は、どこか冷静に、それを受け入れていた。
あいつを――伊織を逃がすために、こいつに単身挑んだときから、覚悟はできていたのだ。
勝ち目など無かった。そんなことは、出会ったときから知っていた。
だが悔しさは無い。これだけの時間が稼げれば、あいつは上まで上れただろう。
その先に何が待っているかはわからないが、今のあいつなら、それを乗り越えることができるだろう。
『いいこと、死ぬなんて許さないから。死んだりなんかしたら殺すわよ!』
脳裏に彼女の声が浮かんで、くく、と阿部は笑う。
彼女の声は厳しい言葉でも甘ったるく、ひどく脳裏にこびりつく声だ。だがまさか死に際にまで、脳内で聞こえてくるとは思わなかった。
あれは相当のじゃじゃ馬だが、確かにいい女だ。男を手玉に取るには、些か幼なすぎるが――。
あれの未来を、少しだけでも見てはみたかったが。
そんな感傷は俺には不似合いだろうけどな、と阿部はまた笑った。
あいつの言葉を裏切ってしまうのは、漢の美学に反するが――だが、それもまた仕方のないことだ。
今まで思っていたよりもずっと、死は心地いい。
やりきった感情すらある。イッた後のように、精神も清んでいる。
性欲に任せた人生でもあったが、ここらで幕引きなのもまた運命だろう。
あとはあいつらの無事を祈りながら、走馬灯に意識を委ねるのも、悪くないかもしれない――。
そう、思っていた。
268
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:54:56
そんな阿部の顔を、鯨が覗き込んできた。
卵が孵化するのを待ち侘びるかのように。阿部の死を見届けるためだろうか。
黒いシルエットのように、彼の顔は照明の影となっていて表情が見えない。
だがそれは、まるで深淵に覗き込まれているかのような――
突如、阿部の脳内に流れ込んでくる、走馬灯とは違う映像。
心地よい回想が突如として濁っていく。視界までもそれに侵されていく。
泥のようなものに塗りつぶされていくように、思考がそれに支配されていく。
それは怨念であったり、憎悪であったり、恐怖、嫉妬、――絶望。
自身の人生から、幸福だけを取り除いた出涸らしのように、無造作で無機質な負の感情の塊。
自分の前で死んでいった者たち。自分が殺した者たち。自分の手が届かなかったものたち。
そういったものの、見えるはずもない感情が形を持って渦巻いて、曖昧ながらも明確に、色を持ち、脳内から心へと押し寄せる。
亡者たちが、地獄の底から手を伸ばし、自分を絡め取り引き摺り落とそうとしているような。
それは、生きようとすらしていない自分を、さらに死へと駆り立てるような。
現実で感じるすべての感情を否定し、死という安楽へ逃げ込みたくなるような。
「――人は誰でも、死にたがっている」
感情が、生存本能へ反乱を起こしているかのような――。
「これ、か」
阿部は、呻いた。
「雪歩をやったのは、これか」
脳内の映像を掻き消そうともがきながら、呻くように言葉を搾り出す。
閉じかけていた目を見開き、自分を見下ろす男に、憎悪の篭った視線を遣る。
確信があった。あの時、あの僅かな時間に、あの臆病な少女に自らの死を選ばせたのは、きっと、この感情に他ならない。
それを駆り立てているのは、間違いなく、この男なのだという、確信が。
「雪歩という者は知らない。だが俺の前で命を絶った、雪の似合いそうな女はいたな」
阿部を見下ろす鯨は、こともなげに答えた。
特に感慨も無く、その死に思い入れも無い、そういった口ぶりだった。
「――そうか」
阿部は、再度呻いた。語尾が震えた。
「俺は、お前を探していたぞ」
倒れたままの、阿部の声が一段と低くなる。
唸るような、目の前の敵を噛み殺してやりたいとでも言いたげな、野獣の声になっていた。
269
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:55:30
「俺が離れたわずかのうちに、雪歩を自殺に追い込んだ奴をな。
あの臆病な子に、自分を殺すなどと出来る筈も無いだろうよ。
殺すこと、死ぬことだけでなく、人を傷つける事すら恐れていた、ただの少女にそんなことがな。
俺は探していたんだぜ。直接手を下さず、人を自殺に追い込むことができる能力者ってやつをなぁッ!」
阿部が感情を剥き出しにして吼える。
押寄せる絶望の波に打ち勝つように、ただひたすら目の前の存在に対しての憎悪を顕にする。
身体が動いたのならば、一切の箍を外してでも、目の前の男を殴っていただろう。
雪歩の無残な死体を抱いて慟哭した、あの時の誓いを無かった事にするなど、できるものか。
「俺には確かに、もうお前を殺すだけの力は残っていない――。
だが同時に、自らを殺すだけの力も無い。だからこの、お前の能力は俺には無意味だ。
むしろ俺は感謝したいぐらいさ。こんな感情を蒸し返してくれてよ。
この生きた怒りって感情をな……」
入らない力を無理やりに込めて、拳を握る。
先ほどまでの、緩やかな死を望んでいたことがただの気の迷いであったと、自分に言いたかった。
そんな恥があってたまるか。
こいつを目の前にして諦める事は、それこそ、こいつの能力の結果で自殺することと何も変わらない。
俺の人生のケツが、そんなシマりの悪いことでたまるものか。
「――俺はゲイだぜ」
唐突に、宣言した。
「生産的じゃない存在さ、殺し屋のお前と同じじゃないの」
鯨の表情は変わらない。だが、お前と一緒にされたくはないという感情はあるはずだ、と阿部は感じていた。
満身創痍、喋るだけの体力も気力も無いはずなのに、言葉だけは次々に溢れてくる。
この期に及んでも俺は絶倫ってことかい。阿部はまた一人で嗤った。
「異端者だぜ。虐げられもしたさ。だが俺は強く生きたぞ。薔薇の魂を持ってな。
知ってるかい。のばらってのは、束縛への反乱の象徴でもあるってね」
綺麗な薔薇――とは言えないが、薔薇に象徴される、阿部の人生はそういうものだった。
薔薇色とも言い難いが、決して不幸な人生ではなかった。
「俺の薔薇はここで枯れちまうかもしれないね……だが枯れない薔薇だって、俺は知っているんだぜ」
鯨が、相も変らぬ醒めた表情で阿部を見下ろしている。阿部は、皮肉めいた笑みを彼に見せた。
鯨がそれでも阿部を殺そうとしないのは、彼が自殺を見慣れすぎているからだろうと思う。
死を前にした人間が饒舌なのは、彼が一番よく知っている。喋るのをやめたとき、自分が死んでしまうと思い込んでいるのだと。
270
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:57:03
「薔薇の誇りは、そう簡単に、傷つけさせられるものじゃないぜ――!」
阿部の声が一際大きくなった。
刹那、鯨の表情が僅かに歪み、突然身を捻るように仰け反る。
一瞬遅れて、その場を疾風のような刃が掠めた。
鮮血が飛ぶ。鯨の巨体の肩口に、鋭く斬跡が入る。
「ちっ……見破られたか」
阿部が呻く。
彼が喋り続けていたのは、それから意識を逸らさせるためであった。
だがこの相手は、プロだ。だから、それに気付いたのだろう。
紅い人形が、僅かに血の光沢の残った刀を翻して、鯨に迫る。
鯨はライフルを大きく後ろ手から回し、素早い動作で人形に照準を合わせた。
ハッと身体を固くしたその人形の一瞬の隙に、鯨は銃撃を加えることなく、大きく飛び退いた。
奇襲を受けた時は、迎撃に徹するのではなく、その場を放棄して退却し、態勢を整えるのが、殺しを生業とする者達の鉄則だ。
鯨は、その巨体に似合わぬ素早い動作で、階段へ続く通路へと身体を翻した。
紅の人形――真紅は、それを追い大地を蹴る。
「追うな、やつはプロだ」
阿部の一声に、真紅は足を止めた。阿部に振り向きはせず、背中を見せたまま、鯨の消えた通路を睨んでいる。
「そうね。ただ私も、ある意味プロなのだけど?」
「奴は――戦いのプロというよりは、殺しのプロだ。いや、死のプロ、か。
逸っても、いいことは無いぜ」
倒れたままで説教とは情けないがね、と阿部はぼやくように言った。
真紅は嘆息する。
「まぁ、あの子を置いてもいけないし、貴方の言うとおりだわ。
るか! 大丈夫よ、来なさい」
真紅が声をかけると、下の階段から、漆原るかが恐る恐ると顔を出す。
奇襲を仕掛ける以上、身軽な自分が一人で戦ったほうがいい。真紅はるかを、そう諭して待たせてあったのだ。
尤も、彼女自身の実力はともかく――彼女が武器と言って憚らない、あのレプリカの刀では戦力とも言い難いというのが、本心のところであったのだが。
「あいつはどうやら次の階へ逃げたみたい。待ち伏せしているのかもしれないから、油断はならないわね」
阿部に背中を向けたまま、真紅は階段の向こうから視線を外さない。
「逃げた、とは極めて主観的だが――まぁこの階から消えたのは間違いなさそうだな。
だが、その先に水瀬伊織が――行っている。すまないが、追いつかれる前に、頼む」
「――伊織。ああ、容姿は、人から、聞いているわ。了解よ」
「ひとつ、気をつけてくれ。あいつに意識を傾けすぎるな。奴の目の前では、死に――駆り立てられる」
「自殺させる能力者、だったかしら。それも、他の子から聞いたわ。
死の色が、あまりに濃すぎる人。傍にいるだけで、『死に近くなる』って――。
でも――。大丈夫。それに引き摺り込まれたりしないわ」
271
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:57:42
ようやく阿部の傍に辿り着いたるかが、阿部の身体の無残な怪我に思わず息を呑み、眼を逸らす。
生きているのも不思議に見えるというのに、どうして彼は喋り続けることができるのだろう。
僕を見て、どうして目を輝かせたりしたんだろう、などと考えていた。
――知らぬが仏、である。
「あの、ええと……大丈夫、なんですか」
「阿部、だ」
阿部は、深く溜息をつく。
「だが大丈夫じゃ、ないな」
「悪いけど、手の施しようも無いわ」
阿部に同調するように、真紅も容赦なくも思える一言を呟いた。
「そんな……なんとかならないんでしょうか。
僕はもう、誰にも死んでほしくなんて、ないんです」
るかは、既に目に涙を溜めている。
喪失は、何度味わっても、辛い。ひとつの命が終わるということを受け入れる経験は、人間の心に重く沈む。
それが続いたとしても、決して一つ一つが軽くなることはない。
はじめから、喪い続けた彼にとっても、それは同じことだ。
「へぇ、うれしいこと言ってくれるじゃないの。
でもな、るか。俺はここが人生のケツだ。もう自分の墓穴すら掘れないってのは残念だがね。
……そうだな、お前にこれをヤろう。俺が今までずっと使ってきたナイフだ。
お前に戦えとは言わない。だが……そいつは、俺をずっと守ってきた、お守りみたいなもんだと思ってくれ。
万一戦うときが来たならば……やや欠けてはいるが、ブスリとやれば挿入(ささ)るだろう」
「は、はいっ」
るかは、阿部の視線の動きに合わせ、もう上がらない阿部の腕を取ると、その手に握ったナイフを、阿部の指を一本ずつ離しながら、優しく持ち上げた。
「名前は」
「漆原るか、です」
「……そうか、いい名前だ」
るかの頬を、涙が伝う。
阿部は、少し悲しい顔をした。腕が上がらない。涙を拭いてやることのできない身体が、少しだけ悔しかった。
「――真紅。あとは頼んだぞ。薔薇族の魂は君に託そうじゃないの」
「勝手に、私をその薔薇族とやらの一味に加えないでもらえるかしら」
阿部の言葉に、背を向けたままの真紅の冷静な返事。
ほんの二日前、戦場で出会い、僅かに言葉を交わしたときから、二人の関係はずっとそういうものであった。
「いいじゃないか。お互い薔薇同士、仲良くやらないか」
「――貴方が言うと、薔薇も随分と俗な花に思えてくるわね」
本人は――少なくとも真紅は――否定するだろうが、お互いに心を許している。そういう関係だ。
「そうかい。だが真紅、あんたは気高く、綺麗だ。俺が認めるんだから、相当なもんだぜ」
阿部の、レディに言うには余りにガサツな――しかし、本心からの褒め言葉。
「――ありがとう、阿部。でも減らず口はその辺にして、もう休みなさい。
あとは私に任せればいいわ。伊織のことも、るかのことも、この歪んだアリスゲームのことも」
それを減らず口とすら評した真紅を、阿部は楽しいやつだと笑った。
「そうかい、安心した。頼んだぜ、薔薇乙女」
「安心して逝きなさい。頼まれたわ、薔薇漢」
272
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:58:08
真紅が、歩き出す。彼女は、一度も振り向かなかった。
その後ろを、るかが阿部を何度か見遣りながら続く。
それを、頭が動かないために視線だけで見送り、阿部はまた視線を天井に移した。
俺としたことが、ずいぶん喋っちまったな。
お喋りな奴は嫌いなのだが――。
こんな死にかけだというのに、言葉は途切れることなく口から溢れていった。
不思議なもんだ。死ぬその間際まで話ができるなんて、思いもしなかった。
――まぁ、いいか。
阿部は、ゆっくりと目を閉じた。
最期なんだ、そんなロマンが、あってもいいじゃないか。
今は、薔薇の散るように、ゆるやかで安らかな気分だ。
死を受け入れていた、恥じるべき先程の気持ちとはまた違う。
これは死ではない。花が散ることは、季節の巡りと同義なのだ。
次の種が芽吹けば、それでいい。子種は随分と無駄にしたが、心は引き継がれたのだから、それでいい。
伊織、すまん。俺は死ぬ。お前との約束は、守れなかった。
雪歩を守れなかった。お前を最後まで守り続けることもできなかった。不甲斐ない男だと笑ってくれ。
だが、俺の魂は、俺ののばらの精神は、お前や、真紅や、るかに託した。
死ぬなよ。魂を、こぼすなよ。生きて、帰れよ。
――俺の墓には、似合わないだろうが、薔薇でも供えておいてくれよ。
【コントロールタワー17階・深夜】
【真紅@ローゼンメイデントロイメント】
[状態]:疲労(中) 能力使用不可
[装備]:日本刀(一部欠損)@現実
[道具]:見崎鳴の左目@Another 人形お着替えセット@ローゼンメイデン 基本支給品×2
[思考]:このアリスゲームを終わらせる。
【漆原るか@STEINS;GATE】
[状態]:疲労(小) 全身に掠り傷 轟音に対する強い恐怖
[装備]:妖刀・五月雨@STEINS;GATE 蝉のナイフ(先端破損)@グラスホッパー
[道具]:殺虫剤@寄生ジョーカー 基本支給品×1
[思考]:真紅に従う。生き残る。
【コントロールタワー18階・深夜】
【鯨@グラスホッパー】
[状態]:疲労(中) 左肩口に斬り傷
[装備]:ライフル銃(残弾5/8)@寄生ジョーカー
[道具]:ライフル銃弾×14@寄生ジョーカー 『罪と罰』@グラスホッパー 基本支給品×3
[思考]:過去を“清算”する。
【阿部高和 死亡 残り5名】
273
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:58:48
以上です。
274
:
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:08:41
『Splendid Little B.R.』、第二話の第一章を投下します。
TRPGのリプレイに、たまについてる予告漫画を見るのが好きなので、ちょっと作りました。
閲覧しなくとも本編を読むにあたって問題はありませんが、登場人物の見た目など知りたい方はどうぞ。
ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/comic_02.html
275
:
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:09:33
……違う、URLはそれじゃない!w
正しくは下記になります。削っても見られるんですが、いきなりつまずいて申し訳ない。
ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/etc_comic02.html
276
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:10:17
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)まことの騎士
Scene 01 ◆ 白の鳥・まるで玩具のような
幼子の、遊びですね。
雪によって滅ぶ箱庭の維持を使命とする鳥は、玲瓏な声でそう言った。
なにものにも染まらず、染めようとするものも退ける、響きは凍てて耳朶を灼く。
だが、優美な韻律を含ませてさえずる鳥――齢三十にも満たぬ見目をした女の、双眸はひどく茫洋としていた。
初夏の陽にきらめく緑を宿した瞳には空疎と超然が混淆して、硝子玉のように透き通っている。
彼女が黙してかぶりを振れば日覆いの絹から薄香の髪が溢れ、口許を隠すように添えられる手をいろどった。
粛然たる居住まいは世界を俯瞰しているのか傍観しているのか、あるいは諦観しているのかさえ余人に悟らせない。
この箱庭にある鳥よ。
あなたも、『そう』なのですか。
ただひとつ、歌う言葉の自嘲だけが周囲の空気をふるわせる。
◆◆
分かりません。
いえ。貴方のなさっていることは、私には分かりたくありません。
もとより初めから主によって創られ、箱庭を見守る私に、これだけは分かりようもない。
だからでしょうか。私の紡いでいるこの言葉さえ、貴方に届くことなどありません。
この箱庭に在る私は、外なる果てで戯れに浮かべられた『夢』の欠片でしかないのですから。
そして、ある意味では貴方も……正しくあの方と相似した視点をもって、この箱庭を眺めつつある。
これだけは分かります。
分かりましたから、もう、やめておしまいなさい。
すでに滅びも近いとはいえ、創世主の真似事をして、貴方は何を得られるのです。
まるで玩具のような為様で弄んでいるの箱庭に想いを寄せて、貴方はこんなに憔悴しているではありませんか。
今にも泣き出しそうになりながら、中座するのもこらえ、おぼつかぬ指と四肢をふるわせて――。
急き立てられるように、貴方は、形の合わない小片を押し込み繋いで間隙を埋めようとしつづける。
いちど歪めてしまったものを壊し切ることも出来ず、別の物を創ってしまうことも出来ずに、ずっと。
ずっとその掌で温めたなら、いつか、別の箱庭の小片が馴染むかもしれないとでも思っているのですか。
愚かしい。ほんとうに、惨めで、哀れで見苦しいものですね。
これ以上に付け加えるものもないだろう、これに、どうして別の小片が馴染むのです。
綻び解けるものを無理に繋いで疵を押し隠す。その行いに、どれほどの価値があるのですか。
なにより、貴方自身が己の行いを愚かしいと思っている。箱庭の維持にも繋がらないと解している。
そうと分かってなお突き進んだのが、同じ鳥としてある貴方の、最も救いようのないところです。
無様にしがみついている、これが、貴方になにをしてくれました?
裏を返せば、これに、貴方はなにかをしてやれると仰るのですか?
愛を叫んだところで、ここより先にはもう何もない。貴方が、すべて壊してしまったから。
何かを憎もうにも、ここから遡ってももう何もない。貴方が、すべて消してしまったから。
世界を切り取り抱き締めて、二度と手に入らないものを求めている事実さえも知っていて、
そこまで行ったというのなら、もう、やめてしまえば楽になれるでしょうに。
それでも許せないのですか。
それでも手離せないのですか。
それでも諦められないのですか。
それでも、忘れられないのですか。
荒らげた息を吸って、ならばと白の鳥は続ける。
言葉が胸で凍って砕け、そのたびに彼女自身を傷つけてなおも口を開く。
ならば……せめて、終わらせてしまいなさい。
終わってしまえば、夢だったとでも思えるでしょう。
いつかあの方の仰っていたように、忘却が精算にはならないのだとしても。
◆◆
.
277
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:10:51
Scene 02 ◆ 合咲の間・開幕『剣劇(ブレイド・オペラ)』
乱れて舞い散る、雪が迷宮を満たしていた。
『合咲の間』と名付けられた一室の、天地左右も見え分かぬほどに氷の花があまぎって鳴る。
空がない百万迷宮を照らす星の欠片の、ひどく澄んだ一片さえ、これほどさやけく瞬きはしないだろう。
そして、本来なら命の危険をもたらす冷気からは、ひとに対する敵意や殺意の欠片も感じられない。心を奪われれば
盲目のうちに果てると知れていてもなお、冬の朝を思わせて蒼く締まった空気を恐ろしいものとは思えなかった。
空気。くうき、空(くう)――から、『そら』。
迷宮の天階にあると聞く『空』も、この雪のように美しく鮮烈なものなのだろうか。
肌を刺す寒気を裏切るように、虚ろに澄んだ六ツ花が輪郭は心もとなく、淡い。
穢れない白に、白く重なる影へと認識が吸い寄せられ、胸の拍動さえ潰れて聴こえなくなる。
永遠を思わせて降り積もる、この雪に埋もれ解け敢えるのなら、
現し世に在るいかなものどもも、眠るように終われるのではないだろうか。
ひどく危うい感傷に衝かれて、テトリスは強くかぶりを振った。
世界の滅びを。いいや。自身の死をすら受け容れる心地を受けた足が、止まっている。
受容とも諦観ともいうべき思いが、胸にともった希望や気力を消すものが、自身のどこから沸き起こったものか
判断がつかなかった。生を希求して脈打つ胸は主の思いに揺り戻しをかけるように激しく高鳴っている。
死ぬわけにはいかない。
花白に向けて宣誓し、国にある者の意気を上げる【突撃】を行わんとしていた体が動かない。
もとより先手を取るにあたって、自身の機転や才知には期待していなかった。
だが、騎士の核たる武勇を支える精神が揺らされてしまえば、肉体もそれに引きずられてしまう。
足を止めたまま、動かない自身の呼吸が。早鐘を打つ心音がうるさい。
やまぬ動悸はテトリスの胸中で焦燥と認識され、そのまま、本能的な恐怖に取って代わろうとする。
致命に至る自失を払うべく、ほつれた雪に濡れて束をなした髪を跳ね上げて一刹那、
「ホントに……きみは、アカツキのことを心配しないんだね」
猫と同じかたちをした耳に、どすのきいた声がもつれる。
「【決闘場】だったっけ。
大事な仲間とはぐれる罠にも慣れっこなのかな、百万迷宮の騎士ってヤツは!」
心中の憤懣を堪えかねてか。地の底をすべる苛烈が天の氷雪を割り裂いた。
その声に追随するように、騎士を嫌う救世主は無造作な足取りでもって間合を詰めていく。
花白。天から降る花の名をもつ少年が振るった剣の、太刀筋はひどく感覚に拠っている。しかし、逆落しの一閃でもって
武をおのが道と定めるテトリスの体幹を揺らし得た事実は、彼の有する感覚が正しいことの証左となった。
身体の延長を思わせて馴染んでいる刃に剣を噛み合わせた騎士の、腕に重たくしびれが残る。
「先手、っていうか。このまま全部もらおっかな」
雪をものともせずに踏み足へ力を込める花白は、女性的な面立ちに獰猛な笑みを刻んだ。
「ふざけるな」冷気でひりついていたテトリスの頬に、瞬間べつの赤みが宿る。「国のために仲間を信じ、力を合わせる。
それがランドメイカーだ。民はボクらの姿を見て、胸に芽生えた《希望》を育てていく」
迷宮では、ひとの思いが力になる。
胸に湧いた義憤を、このとき確かな力として、テトリスは四肢に力を込めた。
取り回しに難がある両手剣の切っ先を、ほんのわずかに自身の胸へと引き寄せ、花白の剣を絡めとる。
他者に血を流させることしか出来ぬとうそぶいた救世主の、縦の軌道を刻む刃が、峰をすべって頭を垂らした。
「アカツキが何を思ってるかは知らないが、仲間だって《民》のひとりなんだ。
アイツがボクに託すというなら、こちらは『災厄王』の末裔たる誇りをもってそれに応える!」
278
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:11:18
初手の斬撃を受け流して刃を返すテトリスの言葉から、迷いというべきは払われていた。
六花がもたらす困惑と自失を払って、はじめてそれが『白の力』――救世主の異能と思い至る。
なんだ、ボクはホントに『散漫』としてたんじゃないか。白の力で剣圧を増幅させた一閃を、自身が傷を負う未来を
厭わず捌ききる。被害を最小限に留めることだけに意識を集中させていた騎士は、引いたあごに戸惑いを隠した。
自身の異変。始まりも終わりも分からなかった白いパズルに、ピースがはまって確かな形をなしていく。
「……そうかい」
失望と妬心を隠そうともしないため息が、雪に抗って立つ耳を突き刺した。
剣をいなされて重心を崩したまま、ゆらりと巡らせた花白の瞳に、先ほどまでの思い切りのよさはない。
魔物ならば呪詛や術理の構築が必須となる【困惑】のスキルを、迷宮支配者のもつはずの迷核へ干渉して顕してみせた
規格外。世界を手玉に取るほどの力を有する者の気勢と戦意は、相手を選ばず、相手の顔を認識せぬがゆえにあった
気負いのなさを喪い、テトリス個人への《敵意》に変貌していた。
「テトリス。僕はお前らみたいな莫迦が一番嫌いだ。さっきお前の言ってたとおりに」
硝子の質感を有する血濡れた剣を手にする、彼は星の欠片の輝きを受けて傲然と立っていた。
線の細い身体にくすんだ白さの衣装を纏う、彼は世界へ貧弱でみすぼらしい姿を晒していた。
箱庭と呼ばれた世界を救って――自身の好ましく思った魔王を手にかけたことで一度死に、この迷宮においては
魔王としての価値を無くした玄冬を殺して二度死んだ少年は、しかして今なお、ここに在る。
「託した? 違う。お前らが勝手に擦り寄ったんじゃないか。お前らが押し付けていったんじゃないか」
自身の正しさを疑いながらも相手を信じ、ひととしての間違いを正せと言えるもの。
テトリスの向こうにある何者かの影が去来するのを、花白は呼気を押し出して否定した。
ふるえる膝を冷笑で隠し、ひりつく二の腕に力を込め、折れそうな心を守るために言葉を操る。
「矜持、じゃあないな」それに応じるテトリスの声は、彼の耳朶をも冷たく打った。「意地か。それが、お前の」
「本音は『逆上だ』って言いたい? でも、……逆上だとしてもお前らのせいだ」
騎士の纏ったサーコートの襟が、吹き上がった風に巻きあげられて乾いた音をたてる。
いかにして――いかに思って打ち込んだものか掴みきれず、テトリスの得物も身体の脇にと流された。
王のもとにあった救世主と、国王を目指す騎士が演じる剣劇(ブレイド・オペラ)。
壮麗たる剣の舞踏、救世主の魂として箱庭の創世主に選ばれた少年と、百万迷宮が創世主たる神の血を引く
『災厄の王子』の決戦は、その序幕を終えぬうちに化けの皮を剥がされていた。
大舞台が瓦解した後に残るのは安いつくりの三文芝居。玄冬以外のなにものも信じまいとする花白と、《民の声》が
生み出す希望を信じるテトリスの、みじめたらしい綱引きだ。いいや。双方の主張が平行線上にあり、『影弥勒』の側が
【分断】のエニグマで殲滅戦を規定している現状、これは、そんなものでは終わらない。
相手が折れて剣を手放すまで、我慢比べを続けるか、
敵と定めてしまったものを殺して、
命を、奪っていくだけの、
「はな、しろ」
騎士のついた吐息が、子供のような響きをなした。
縁のない眼鏡の下では、無愛想な瞳がはっきりと見開かれている。
「へぇ。大食らいの莫迦は血の巡りも悪いんだ。普段は胃にでも集まってるんじゃない?」
思考の死角を衝かれた者に特有の反応を見もせずに、花白はあっけらかんとした声で笑ってみせた。
ぼぉん。古い柱時計の鳴らすような音の、どこか間の抜けた響きがテトリスの耳に届く。
その音が空間そのものをゆがめていくさまを察知すれば、その事実が彼の心をも乱していく。
279
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:12:05
「花白ッ! お前……お前はッ!!」
「『きみ』が、僕に何か言う権利はないと思うんだ」騎士に掴まれた左の腕を、花白はもう片方の手で掴み返した。
「あの結界を張ったのが『影弥勒』なら、当然、その仕組みも知ってるはずだろ?」
頑是無い子供に言い聞かせるような声音の、ひとを憐れむ態度が、テトリスにひとりの男を連想させる。
帝国陸軍武官ムラクモ。流派や忍者であるなしを超えた血盟である『影弥勒』に属するものは、すでに亡き乙女より
命を受けて血盟に潜んだ騎士の「誰から落とす」という問いに対して、何を臆するということもなく告げていた。
――命の器が壊れかけているいま、世界の嘆きも最大限に高まっているはずだ。
命の器。
死んだものの命を計上し、それが満ちれば世界が滅んでしまうもの。
そうして、それはこの迷宮に仕掛けられていたエニグマ、【封鎖結界】の外見(そとみ)であった。
【封鎖結界】。儀式忍法『新神宮殿』と、その主であるムラクモに何者も近づけなくする仕掛け。
深人が<黒真珠砦>にも似た森の要害を砦跡に変えた『スプレンディッド・ビッグ・ウォー』によって解除を行い、
真理を得て不死となったものとの最終決戦<クライマックスフェイズ>に至る道――すなわち『真の忍神』を生む
儀式を壊して、相手の抱く野望を潰えさせる道を、拓いた――はずの。
「ふん。ムラクモってヤツも、けっこう頭がいいんだね」
どっちかっていうと、頭のいい莫迦だけど。
棘に満ちた言葉をこぼして、救世主であった少年は騎士に視線を合わさせた。
戦慄と呆然が相半ばしている相手の腕を払って下がり、澄んだ剣の切っ先でもって胸を指す。
「命の器を【結界】にしたなら、それを壊さなきゃアイツと戦って終われない。
命の器を壊したいなら、器を命で満たさなきゃいけない。殺しあわなきゃ終わりにも行き着けない」
テトリスを敵と定めた花白の声は、沁み入るように優しい響きを有していた。
ともに死のうと言われたときのことを追想していた瞬間と同じ、噛み締めるような微笑みはひどく穏やかだ。
すべてを受容し諦観したがゆえに満たされた、それは日常の点景をただ綺麗だと眺めるものの顔つきにも似ている。
本来ならば、そうした表情を浮かべるものの《希望》となることこそ人類が弱者となった迷宮に挑んでゆく道を決めた
ランドメイカーの――パジトノフ公爵テトリス九世の責務だが、違う。これだけは違う。
彼が浮かべる安らぎの背景だけは、けして認めてはならないと生命が叫んでいる。
嬉しかった。ホントに、嬉しかったんだよ。
だってここに来るまでは、みんな僕にだけ殺させてたんだもの。
こうした言葉が、ほんとうに聴こえたのかどうかはテトリスの側にも判らない。
だが、判らなくとも関係はないと思えるほどに、花白の瞳に浮かんだ色は終わっている。
「分かるんだ。もう、この箱庭も限界に近いって」
雪。花白や玄冬の箱庭では、けして降り止むことがなかった滅びの証左。
ひどく静かな終わりをもたらすものを美しいと眺める、少年はどこにもたどり着かぬ空疎を体現している。
「……ひとが、死にすぎたからか」
しわがれた騎士の声を、空疎はかるく頷いて肯定した。
「救世主や玄冬じゃないきみにも、せかいの嘆きが、歪みが『聞こえた』んだろ?
なら殺すのをやめても無駄さ。このまませかいは雪に埋もれる。玄冬を殺して滅びを避けたってときに溢れたら
意味が無いから、救世主が殺したものだけは命の器に計上されないけど――」
もはや『花白』をさえ捨てたとみえる少年は、影ひとつない笑みを嗜虐的にゆがめて締めくくる。
「ここには、自分が犠牲になって箱庭を続けさせる玄冬<魔王>も、かれを殺せる救世主もいない」
.
280
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:12:30
ひとを嘲り踏みにじる意志に応じないのが、テトリスに出来る最大限の努力だった。
「つまり」それでも、黒い猫耳がひくつくことだけは止められない。「この世界が雪に埋もれる『時間切れ』を待つか、
相手方と死合って積極的に世界を滅ぼすか。ボクらには、そのどちらかを選べというわけだな」
「そ。でももう、時計の針がふた回りするまでに終わっちゃうと思うな」
花白が剣を振るわない理由を知って、耳の内側に生えた白い毛までもがざわついた。
時間切れ。
世界が終わってしまうまでの猶予は1クォーター(約六時間)の、三分の一。
常ならば迷宮の、ひとつの部屋への移動や罠などの探索、戦闘や休憩にかける時間にさえ満たない。
「……解ったんなら諦めなよ」
残された時間と人数。遡行不可能な過去の出来事。
誰も救わぬと決めたものは、みっつの要素を味方につけて「諦めたら楽になれるよ」と続けた。
甘くすらある言葉でもって相手の戦意を雪に解かさんとする、彼はテトリスにかける憐憫の情を惜しまない。
「僕を終わらせるのは、絶対に、お前なんかじゃない」
ただひとつ譲れなかったものだけを、自身のすべてで守りながら。
玄冬によって終われずに在り続けている花白は、ゆえに空疎として雪の中たたずむ。
一方で、答えられたはずの謎は答えられたために厳然たる真実となって、民なき者へと迫り来ていた。
◆◆
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281
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:13:11
Scene 03 ◆ 時の極光・願い飢えたその果てに
災厄王は三界の主を喚び出し、「ただいまより世界はひとつとなれ」と命じた。
すると天階と地上、地階はみるみる合わさり、世界はひとつとなった。
災厄王おおいに喜び世界を我が物にせんとしたが、三位一体となった世界の主はかれに告げた。
「人の身で世界を我が物にしようとは傲岸不遜、その命果つるまで、汝を幽閉せん」
災厄王の足許から迷宮が広がり、彼が秘術を尽くして逃げようとも、牢獄の壁は虜囚とすべきに追いすがった。
そのとき、世界は終わり、新たな世界が始まった。
ひとの知る土地のすべては、ひとつの迷宮となったのである。
――――名も知れぬ迷宮職人<ダイダリスト>、タカラ・マルコキアスの序文を借りて
◆◆
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282
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:13:33
「……こんなこと、分からなきゃ良かった?」
剣劇が言葉に断ち切られての第二幕は、ひそやかな声にて始められた。
しずかに壊れてゆくものを眺めて息をつく花白の、テトリスに問う声は恍惚としてさえいる。
世界が滅んで黙したそのとき、彼は、はじめて世界を抱き締められるとでもいいたげに睫毛を伏せる。
もはや双方剣を構えず、会話も成立しない局面を迎えて、騎士は大剣を杖がわりにして身体を支えていた。
剣の一閃によって決着をつけられぬ間にも刻一刻と、世界は終わりに近づいていく。
なにも為さぬまま、滅びを告げる雪に消え敢えるか、最終決戦で積極的に世界を滅ぼすか。
【困惑】にさえ昇華され得ぬくるめきを覚える選択を前にすれば思考も止まる。この世界は必ず終わる。
騎士では、いけない。積み上げた武勲では、目の前にある『空疎』を殺した先に進んでいくこともかなわない。
笑うしかない状況だと、テトリスの脳漿は告げている。
笑ってしまえば、少なくとも肉体は弛緩を得られることも経験していた。
それでも吐息に色はつかず、肩を揺らすたび白く凍ったものが緩んで溶けてほどけていく。
「黙ってるって、ことはさ」
声がかけられたという事実に対して目を上げれば、伏せられた空疎の睫毛に銀花の欠片が舞い降りた。
「きみは、自分が潔白だなんて思わないんだ。血に汚れた手で何かを掴めるなんて思えないんだ」
「汚れのない身で、なけりゃあ……」
幸せにはなれないかというくだりを、テトリスは胸中に呑んで殺した。
「自分が潔白である――なんて。そんな根拠のないこと、よく思えたもんだよね」
やはりと、言うべきなのだろうか。
かつての救世主であり、花白という名を持っていた空の少年は、自分に対して言葉を発していない。
「だってひとは……ヒトビトは、どれだけ同類を殺してきたの?
どれだけ、玄冬と救世主に犠牲を強いてきたの? あの人やバカトリに無理をさせたの。
争いのない世界を望んでたっていうなら、どうして、かみさまはあんなふうに作っちゃったのかな」
先刻の繰り返しとなる言を、今度はテトリスも止めなかった。
止めても無駄だと感じたのではない。滅びまでの空白を、音で埋めたいと思ったわけでもない。
「今までヒトビトを殺して、傷つけて、せかいの滅びに手を貸してきたくせに。
いざせかいが滅ぶとなったら『救世主と玄冬によって救われる』だなんて、道理が通らないよ」
花白の言を聴く少年は、自身の才知が不足に逃げることなく黙考することを選んでいた。
騎士では、いけない。世界を呪う彼を剣によって殺すことでは、ここより先にある何処にも向かえない。
そのすべてが真実であったとして、そうであるからなんだというのだ。
何処にも行けぬからといって、ここまでの道で覚え掴んだ《希望》を投げ出す道理はない。
ランドメイカーだからではなく、異能があるからでもなく、まず、自身がテトリス・パジトノフであるために。
ただひとりの乙女と交わした誓いに、乙女のもとを離れる自分をさえ受け容れた彼女に応えるために――。
ここでも、約束は守っていく。あの雪の日に交わした約束を、守り続けていく。
――約束する。必ず、君にふさわしい王になってここに帰ってくる。
この言を聞いて、乙女――「七不思議の」リジィは、騎士でもいいのにと首を傾げた。
だが、そこだけはテトリスにも譲れはしなかった。騎士であるなら、リジィを守ることは出来る。しかし騎士では
王国を拓けない。王の傍らにあって輝くことはかなっても、みずから希望の炎をともすことはかなわぬがゆえに。
ある意味では、暗黒不思議学園の国王たるリジィと袂を分かちかねない選択を、しかして彼女は許していった。
友好国との事情はあれども、ほんのすこし寂しげに、けれども、この気性ゆえにこそと言いたげに。
リジィが命を落としたいま、かりに彼女と交わした約束を破ったとしても、その事実にはきっと誰も気付かない。
だが、彼女に向けて世界をもっと良くすると宣誓したテトリス自身だけは、約束を破った事実を絶対に忘れない。
忘れられるものか。凛と紅い瞳。ときおり林檎の朱がさすなめらかな頬。リジィが好きだから帰ってくるわけじゃない。
よく通る声。雪に流れた金の髪。素直に伝えて行けなかったことは、すべてくちづけに込めたのだ。
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283
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:14:02
黙示録の乙女。理想を胸に学園を打ち立てた女王が、足を折ってひざまずく。
災厄の王子。王になるとの誓いをたてた騎士が、乙女のあごにと手を添える。
さよならは言わないわ。決然としたリジィの言葉に、テトリスも胸中で同意していた。
さよならの言葉は、いつかこの手が冷たくなろうと、あの日荒野を目指した心が凍りつくまで要らない。
誓いの、あるいは道を征く覚悟を表明した接吻は、熱に解けた雪の苦みを舌に刻んでいる。
叙事詩的な光景に影を落とす苦みこそが、騎士としてありつづけていたテトリスに飛躍を促した。
王のため、勇者のごとくに斃れること。それが騎士に出来る最後の誓いの表明だとして、自分は、そこにいかな意味も
見出さない。それを実行したところで忠誠を誓うべき王はすでになく、世界の滅びも止められはしない。
まぶしいものを見たかのように、風雨に立ち向かうように。少年は瑠璃のしずむ双眸をすがめた。
「どうして」
口をついた言葉の調子はひどく静謐で、選ばれた単語は滑稽なほど朴訥だった。
だが、その単語にこそ空疎な少年はいっとき花白となって、意識をテトリスの側にと向ける。
「どうしてなんだと、お前は言う。
世界に、神とやらに、そしてボクらに――花白。お前は問いをかけてばかりだ」
無慈悲な吹雪を、刹那、そよと吹いた風が払った。
雪雷さえ寄せ付けぬ、それは初夏の緑を思わせて爽やかなものをふたりの間に残していく。
「だからなんだっていうんだ。僕に殺せと強いたせかいを、そこに住むものを恨んで、憎んで呪って何が悪い……!」
花白の、雪に映える薄紅の髪より深い瞳の紅を、テトリスは真っ向から見つめ返した。
双方『睨んでいる』との形容が至当な、視線には切迫したものがある。身を震わせるほどの切迫と焦燥とに苛まれて
なお見出したいものがある。信じたいものがある。殉じたい、重なりたい、愛したいものが確かにある。
少なくとも、いまこのときのテトリス・パジトノフは『それ』ゆえに渇き餓えている。
その気持ちが花白の側にあると明言しないのが、ある意味では、この少年の示す誇りの最たるものであった。
「違うだろう。質問ってのは審問じゃない。それは、相手を痛めつけるために行うものじゃない。質問ってのは」
「答えを求めて行うものだなんて、お前なんかが言えるわけ?」
ただ、素っ気ないと思われがちな物言いだけは、この場で直せるようなものでもない。
理合いの勝って、いささか教条的な印象さえ残す物言いに、花白が噛み付くのも当然だと思えた。
噛み付いてもらえるだけで、十分だった。
「じゃあ、どうしてお前はボクに問いかけた?」
噛み付いてくれた少年を受け止めた災厄の王子は、そのまま、彼の手筋を崩しにかかる。
「お前が『影弥勒』だから。騎士で貴族で、僕の嫌いな軍人っぽいヤツだからに決まってるじゃない」
「銀朱隊長、か? そういう人間でいいんなら、ムラクモやアカツキも変わらないさ」
敵だから、軍人だから貴族だから騎士だから。記号の力を、他者との相似でもっていちどきに打ち払う。
「この戦場に向かうのを選んだのはお前自身だ。その時点で、お前は問いかけるべきをボクらだと定めている」
処刑人としてもあった友の、あるいは抗魔式にて相手を無力化する仲間の手筋を思い出しながら、
「自意識、過剰すぎ。僕は、お前らじゃなくてアカツキと一緒にいたんだよ」
テトリスは、花白の隠していたのだろう本音をここで引き出し、たしかに掴み取った。
「同じことだ。さっき『救世主が殺したものだけは、命の器が計上しない』と言っただろう。
ずるい言い草だが――本当に世界の滅びを望んだとして、ボクがお前だったら、あそこで加賀十也を殺さない」
息を呑んだ花白の、細い身体を風が揺らしていく。
飛雪は花と見まごうものから、ざらざらと振りかかる氷塊にと成り代わっている。
ぴんと立った耳のなかに入り込もうとする雪を、テトリスはかぶりを振って追い払った。
284
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:14:23
「お前だけは命の器を無視出来る。それで世界を滅ぼしたいなら、他のヤツらに殺し合わせるだろうさ。
そして答えが要らないなら、相手の苦しむ姿も見ないなら、自分以外のものに問いをかける必要だってない。
なにより――神を憎んでいようと、玄冬を信じられるなら。お前だって、『真の忍神』に何かを願えるはずなんだ」
神に願いたいことはない。
花白の言に恨みつらみ以上のなにかを感じたがゆえに、テトリスは質問の手を緩めない。
「ボクにかみさまのことは分からない。だが、ここにはソイツと関係ない『神の死体』なんざ腐るほどある」
相手に痛い問いを放てば、自身も心に痛みをおぼえることを体感しながら。
『新神宮殿』。死んだものにさえ使い道を見つけるような人間が、神へと願う権利を手にする儀式忍法。
さながら戦時にある騎士団や軍隊と同じか、それ以上に理想や概念、機能といったものだけが肥大したものの手によって
世界が生まれかねない構図に生理的な忌避感を覚えた少年の瞳は、希望喰いどもに襲われたかのように渇き餓えていく。
「やめろよ……」
しいて言うなら情に餓えた心を潤すは、花白の漏らした声であった。
「やめろ。もういいじゃないか。僕は、そんな話は聞きたくなんか、ッ、ない!」
創世主があることの意味を知る『もと救世主』は、そのとき、完全に空疎の影を払った。
剽げた部分の影もなく震え、嵐を受けたざわめく胸で砕かれた言葉に何ひとつとして嘘はない。
機転のきかないテトリスでさえ、激情の発露をもう少し誤魔化せたのではないかと感ぜられるほどに、彼は揺らいでいる。
きつく目を閉じ、剣を持たぬ側の手を胸にと添えて歯を食いしばっている姿を隠そうともしない。
それでも、この少年はテトリスの言葉を耳をふさぐことだけは選ばなかった。
「なにがいいんだ。このままじゃ、ボクだってお前に何も答えられない」
相手の情を喰らうような言葉を放ったテトリスもまた、相手の無様には言及しない。
皮肉の棘や諧謔の牙を振り捨てて求めたものに手を伸ばすものを、無様だとは思わない。
「答えなんか要らない。だって、僕が諦めて、玄冬を忘れてしまったら!
この『箱庭』にいる僕には、もう、なにも好きになれるものが無くなる――ッ」
「それが、お前の核というわけか」
わめきが示した花白は、滑稽で頑是無い子供だった。
小児的な激情をぶつけ返されたテトリスも、自身に可能なかぎりにおいてそれを聴く。
「アカツキとともにいたのは、玄冬を忘れない命を繋ぐために、アイツを好きになろうとしたから。
十也を殺したのは、アカツキと生きていけそうな自分に耐えられなくなったから。……下衆の勘ぐりだけどな」
なにかを好きになりたいという気持ちは、《希望》を抱くうえで何より大事なものだと知っているから。
「いいよ、それで」ぞんざいな響きを投げた子供が、鼻をすすりあげた。「でも、だから僕は、ずっと笑っててやる」
皮肉も剽げた笑みもなくした彼からは、消極的な滅びに向かわんとしていた空疎も失せている。
理解しても共感してはならない存在が理解も共感も可能な人間に変わったからこそ、テトリスの側も彼を直視することを
拒めない。ただ溢れるがためだけに横溢すると言わんばかりに、花白はなにものも救わぬ力を発散させている。
「どこに行っても僕だけは、他の誰かを殺さないと終われないから。
だから加害者の顔をして、僕たちだけにこんなものを押し付けた世界を踏みにじってやるのさ」
怒りも憤りも通り越して、哀れみにも似た色が、テトリスを射抜く紅の瞳に差した。
【人類の敵】がひとりは、この言葉をもって、終わった自身が未だ戦場に立つ意義を定める。
《希望》を拒み《好意》をはねのけて、ひとと衝突するしかない《敵意》でもってかろうじて現し世と繋がる少年の双眸には、
しかして空疎を気取っていた頃には見られなかった色がある。
玄冬以外のものとあれると信じれば、そこで終わるしかない彼が全力をもって守り、しがみついてさえいる「不信」は
いま、間違えようもなく「落下ダメージの」テトリス・パジトノフにと向けられている。
285
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:15:09
「……それでも、お前の心は耐えられなかったじゃないか。
世界を憎んでいたって、自分の行いが悪いんだと思えて、苦しむことが出来ていたんじゃないか」
だが、先刻と同じ《敵意》を前にしても、テトリスはもはや恐れなかった。
滅びに対する恐怖――より正確には、穏やかな心持ちで滅びを受け容れかけた自身に対する恐怖はある。
しかして目の前にある花白は、テトリス個人に感情を抱いて立ち向かう人間だ。その苛烈や救いようがないほどの潔癖に
神経を引きちぎられる思いをしようと、《民》になれぬ人類の敵であろうと、騎士の武で殺し得ぬ者であろうと、
「だったら! その涙を知らずに征く者は、ひとに審判だけを下せる者は『まことの騎士』じゃないッ!」
相手が強い思いを抱くに至ったことに、敬意を払うことは出来る。
世界すべてを敵に回してまでも果てを目指した相手の、名誉を守ることは出来る。
「ボクはいずれ、騎士を率いる王になるんだ。それが国を滅ぼすような【暗黒騎士】を目指すもんか」
そして、王を目指して荒野を征く道を選んだ少年は、ゆえにこそ騎士としてある今の自身を否定はしない。
まことの騎士。《民の声》に応えられるのならば真贋など関係ないとも感じはするが、それでも、胸には銀のロケットがある。
騎士を送り出した乙女の肖像画と、その遺髪を収めた、忠誠と愛情をそそぐべきものが確かにあるのだ。
冒険を経て技量を上げ、成長したことで心持ちが変わろうとも、注いだ情愛は少年の道に光を灯し続けていく。
「それならッ!」
叫びを斬り裂く風の、曲歌が、迷宮の一室を掻き回した。
世界のすべてを葬る雪は、このとき、テトリスと花白の間にわたって光源を隠す。
戦場にある二人の、いずれの道行きに影が伸びているのか。いずれの背にこそ光があるのか分からなくなる。
――ぼぉん。
間の抜けた時計の音が、ふたたび鳴ったのはそのときだ。
砕けてもなお輝く星の欠片が、薄闇にたたずむ花白の姿を浮き立たせる。
「……それなら。すべてあいして――ゆるしてみせろよ」
口の中で、紡ぎ出される響きを惜しむかのような言葉。
それを耳にし、それが生み出すものを感じた、テトリスの表情が凍りつく。
「星術? ……三大魔道(オーソドックス)まで行使するだとッ!?」
「知らないよ、そんなの。僕は、ただ……ほんのすこし願っただけだ」
だが、硝子の剣を構えるでもなく微笑む少年の――魔法を操る言素(ロギオン)と念素(ポエトン)を、ただのひと言で
呼び寄せ操り得たものの声に鬼気などない。
林檎のように赤くなっていたはずの頬が、いま、このときは青ざめて果敢なく。
まるで今にも泣きそうだというテトリスの感想は、雪と星の生み出す白の光に飲み込まれた。
.
286
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:15:34
◆◆
【星術まじない:時の極光/Light of the Past】
過去の出来事を映し出す魔法。
アイテムひとつか、現在いる部屋を選ぶ。選んだ対象にまつわる過去に起こった重要な出来事を映し出す。
特に重要な出来事がない場合、その道具や部屋が生まれたときのことが分かる。
対象:――――
効果:わずかな効果(まじないの使用者にとり、わずかに状況が良くなる)
難易度:9 使用者・花白の〔魅力〕:4
状況:重要な出来事が起きたときと天候が同じ(+1修正)、対象には使用者も干渉している(同左)
代償:まじないの使用者が、代償として《HP》を1D6点減らす(+1修正)
逆効果:まじないに絶対成功した場合、花白はテトリスに対して「愛情」を1点得る(−2修正)
判定:〔魅力〕 ―― 2D6+4+1>=9
(2D6+4+1>=9) > 11[6,5]+4+1 > 16 > 成功
◆◆
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287
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:16:08
Scene 04 ◆ 災厄の王子・誇りのままにその慈悲を与えよ
閉じていた目を開いてみれば、ひろがるものに胸をうたれた。
冷たい空気の、抜けていく果てにたゆとう闇を区切る天井がこの場所にはない。
それに気づく前から、二の腕のひりつくような開放感があった。頭上に分厚い雲があろうと、その合間より銀花が
降り来たろうと変わらない。震えがくるほど鮮やかな空気は、そこにあるものの認識を打ち据えたいのか、穏やかに
解かしたいのか掴めない。掴めないまま雪風巻に吹かれてしまえば、掴めぬままでよいのだと無条件に思えてしまう。
(……これが『空』というものなのか)
百万迷宮が飲み込み、砕いてしまったものに抱かれるテトリスの、思いは自問にすらならなかった。
迷宮――『牢獄』が起源となるものに囚われたすべての魂が『海』や『虹』、『月』や『太陽』などとともに存在を
知らずして焦がれ、心の慰みとするもののひとつが、目の前にある。種族的な記憶がそうと叫んでいる。
言葉を奪われたテトリスの纏う外套が、風によるものでなく輪郭を変えていた。
普段は動きを抑えている猫の尻尾は、いまや垂直に持ち上がり、あるじの覚えた歓喜を表してやまない。
だが、「尻尾が動いた」という感覚があっても、彼には、指の一本も動かせなかった。
空の下に一歩を踏み出して、周囲の景色が変わらない。雪のひとひらを捕まえようと伸ばした指も応えない。
(こいつは星術士が伝えるどの術でもない。なら、まずもって『まじない』だろう)
「ほんのすこし願っただけ」。
花白の言葉と系統だった星術にない効果をたどれば、答えはおのずと導かれた。
たとえば、これが迷宮の壁のひとつに向けて映像を映し出す【幻燈】ならば自分の身体は動く。加えて、迷宮の他の壁が
健在なら自分がどこにいるのか自失することも出来ない。失ったものを探す【導きの灯】では空間を超えられず、また、
実体の無いもの――この場合は、テトリスのなかにある空の記憶――を探し出すこともかなわない。
そして【時の極光】は、過去の重要な出来事を映し出す。
まじないという言葉に反して、いまテトリスの「立っている」場所の現実感は魔法のように強いものだ。
だが、それも記憶を封じ、あるいは目覚めさせるという『白の力』や状況、代償といった要素も手伝えば、けして不可能
ではない。まじないとは体系化された魔法にない効果の幅広さと、再現性の低さを備えた簡素な術であるから。
立ち上がった尻尾を鎮めるかたわら、適度に可能性を潰した少年は、潰したものを土台に気を落ち着けた。
尻尾と同じに空ばかり見ていた視線を落とせば、高層建築物のくすんだねずみ色が視界を満たす。瀝青。列強の一たる
ダイナマイト帝国の『船』にも使われたという素材が、これほどに多用される場所は百万迷宮のどこにもない。
(ここは、十也や修羅ノ介……ムラクモやアカツキたちの世界。この迷宮が、生まれた場所だ――)
戦慄と納得に満ちた脳漿から、思考の末端がほどけて溢れた。
【決闘場】の罠――《マグネットムーブ》と言ったか、雷使いの能力者が操ってみせた磁力によってテトリスが誘われかけた
場所もまた、まじないを使った花白のいる『合咲の間』だ。
ならば左京やアカツキの所持する物品も、「術者が位置する部屋にあるもの」という条件を満たす。
そして、ここまで強力に過去を写し込んでいる結果もかんがみれば、『これ』に花白自身も干渉していた事実がまじないの
効果を高めている可能性は十分に考えられた。
(それならこれは、迷核の。あるいは……迷核となかば同化している、迷宮支配者の過去なのか)
そこに考えの至った瞬間、テトリスは真に過去の光景へ溶け込んだ。
自分の肉体に由来する五感が極限まで削られ、主観のなかに客観が混淆する。
映し出されている過去の持ち主の視点と、すでに結晶化した記憶をためつすがめつするときの、あの感覚――過去のあるじすら
持ち得ぬ角度からカメラが当てられるときの視点とが、ひどく澄んだ思考のなかだけで両立していく。
先刻の剣劇とは比べ物にならない出来ばえの舞台においても、雪は、絶えることなく舞い遊んでいた。
高層建築の一面に流れる映像の予報によれば、あすもあさっても雪。現在時刻は十九時五十二分、
(な……こいつ、が……憎い?)
三十五秒を回った瞬間、掲示板の流す映像に、ひとりの人間が現れた。
288
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:16:38
同時に、テトリスの脳は、写り込んだ過去にこめられた感情でもって直截に揺らされる。
白い部屋の壇上にあがった男の、秀麗な顔立ちを引き立てるプラチナブロンド。許容や妥協の一切見受けられぬ峻厳な双眸。
胸の、ざわつくものの源を眺めないという選択を下すことも許されない少年は、必死で思いの源を探った。
憎い。思い自体は強く烈しいが、そうではない。憤懣に近いものや、さらに未消化な衝撃は街の様々なモニタへいちどきに
映る男にも向いているが、何よりまず、この思いを感じた者と、それを追憶するテトリス自身にこそ牙を剥く。
(なぜだ。なぜ――? 疑問、を……叩きつけたいと思っているのか、こいつは)
おそらく、事態を受けたものがあまりに無力であったから。
思いがひどく強いのは、ここにどうしても噛み砕けないものがあって、何度も思い出していたから。
そうした理解は自身のおぼえる負担の軽減には一切繋がらないことを痛感しながら、それでも過去が物語を作る。
(イスカリオテ……反逆の、聖人とやらに)
アルフレッド・J・コードウェル博士。
複数の画面で男が名乗ると同時に、彼の二つ名<コードネーム>が脳裡にひらめいた。
記憶のあるじが知る年齢に比して若い肉体の、喉から紡ぎ出される声はテトリスの想像を外れない。深みはあるが厳しい、
男性性のかたまりだとすら形容出来る声音は、ひどく計算された抑揚をもって聴衆の耳朶を打つ。
彫りの深く端正な顔の、鼻梁に渡したブリッジで支えられたモノクルもそうだ。緑色の瞳の片方を彩るレンズと、頬に下がる
銀の鎖の繊細をもってしても、視線のするどさはいささかも減じなかった。
「あなた方の日常は、すでに壊れている」
酷薄なまでのひと言で、瞬間、テトリスは理解に至った。
様々なものの伝聞によって知った世界に関する知識の点が、線を通り越して面となる。
(『レネゲイドウィルス』。ひとを超人たらしめる与える代わりに、彼らの理性を奪うもの。
発見したものは、この、コードウェル博士。人類の多くがこれに感染したことと、ウィルスの侵蝕に耐え切れないものは
心を失い、ひとでない『ジャーム』になること。その怪物が世界を壊していることを、各国政府へ警告した……)
儀式忍法の土台となった世界の背景を自分に話した者は、加賀十也。
『探求の獣(クエスティングビースト)』のコードネームをもつ少年であった。
自身が一度死んだことで超人としての能力に目覚めた彼の、気怠げにしている眼に、あのときばかりは血が入っていたことを
覚えている。怪力を得るとともに、肉体の一部が獣のそれに変化する「キュマイラ」のシンドロームに覚醒したと知れると同時に、
自分が決定的に日常へ馴染めなくなったと理解した、彼は、それでも何かに焦がれる心までは喪っていなかった。
――いつか、この手でアイツを殺す――
たとえ、それがひどく昏いものであったとしてもだ。
アカツキのような年長者に属し、幾度となく鉄火場を乗り越えたものが、だからこそ沈黙した瞬間もよく覚えている。
同じ世界に生きていたという十也の話があったからこそ、あの技官は左京との戦いを選んだのかもしれない。
(……だが、これは……これが、ボク自身の気持ちか)
魔戦が行われた世界について、テトリスは伝聞によって得たことしか知らない。
一説には百万迷宮のいずこかから到達出来るともいうこの世界は、どれだけ終わっているか。どれだけ救いがないのか、
どれだけ苦しいのか生きづらいのか、それでも目指したいものが、見たい景色が、夢や希望があるのか。
血盟に与するか否かに関わらず、どこの世界にもあるような『人間』の話は、抱えきれぬほど聞いてきた。
その、ばらばらにほどけた欠片を繋いだものが、十也たちによる世界そのものの話だったのだ。
289
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:16:58
たとえば、十也も助力していたという『日常の盾』――UGN(ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク)。
コードウェル博士らが設立した、人類と超人<オーヴァード>の共存を目指す組織の背景も思い出せる。
人間以上の力を持つが、人間よりも人間性を喪いやすい超人。ヒトでなくなった者たちを世界に認め受け入れさせることを
目的にしたUGNは、博士の事故死をきっかけに治安維持の機能に重点を置いたものになったのだという。
レネゲイドが関連する事件の解決や情報の隠蔽を行う一方で、力の扱い方を知らぬ者を保護し、ウィルスがもたらす衝動を
制御する方法を教えて協力者を増やす。そうして時間を稼ぎながらウィルスを研究し――。
「UGNは、その意義を失った」
最終的には超人をヒトに戻すことを目的としていた組織を、設立者であった男があっさりと切り捨てた。
そればかりか、博士は人類の盾としてあった者たちすべてをこの夜を機に裏切った。オーヴァードの力を犯罪やテロに
扱う『人類の敵』に与し、みずからの手で複数のUGN支部を壊滅させたというのだ。
記憶操作や機械への干渉をもって博士の帰還を一般社会から隠すことには成功したが、それも無駄に終わったと聞いている。
完全者を名乗る魔女が立ち上げた『完全教団』の擁する騎士どもが、ウィルスや忍神の血といった異能に目覚めぬ「旧人類」の
肉体を破壊することで、かれらの霊的な救済を行うと全世界に向けて宣言し、実行したがゆえに。
「新たな世界のため、すべてを破壊しなければならんのだ」
すでに途切れた映像に映っていた男の名残が、追想する過去にあった。
コードウェル博士はUGNに向けたものと同じ調子で、自身の住まっていた世界そのものを捨てて征く。
「恐れることはない……悪しき肉体は滅び霊魂は救われる。新たなる器の完成をもって、人は次の階段を上るのだ」
いくつか断線した映像や音声の、原因を作り出した魔女が、高らかに笑う気配もあった。
プネウマ計画。愛を意味する語を冠したものが人々にもたらしたのは飢えに疫病、暴動、凍死というところだった。
「人間に価値は無い――殺してでも減らすべきだ。もう誰も『人口調節審議会』を止めることは出来ないのだよ」
政府の側からコードウェル博士の帰還に助力した帝国陸軍の武官が、黒く艶消しした刀を突きつけた。
人減らしが目的だと口にすることの出来る、彼は自分自身の手によってさえ組織を止めようとは思わない。
(浄化。滅ぼす。破壊する。……ほとんどは詩的で綺麗な表現だが、要は『皆殺しにする』ってことだろう)
情報を、統制するためだろうか。
ただ砂嵐を流すようになっていたモニタのひとつが、ノイズのような歌を流した。
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290
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:17:21
◆◆
――――全てを壊しー、それから創るー。
◆◆
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291
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:17:39
「……どうして」
はじめて自身の思考が肉声をなしたと感じた、その瞬間に『戻って』いた。
雪の吹き乱れる情景こそ変化はないが、空気の流れ方で分かる。分かってしまう。
「やあ、おかえり」
壁と天井でもって仕切られた空間で花白と直面せざるを得ないことを理解した、テトリスは片膝を折っていた。
迷核に込められていたであろう過去が、脳漿を圧迫し、花白の声の穏やかさが、彼の求めるものを思い起こさせる。
「頑張ってみたんだけど、ちゃんとした魔法はダメだったよ」
息を荒らげる騎士の背景を知ってか知らずか、花白は気楽そうな声で言った。きみが過去を見てる……過去と重なってるって
ことを理由にして、【刻騙し】の魔法が使えないかと思ったんだ。
でも、いっときでも滅びの時を止めるなんてどだい無理な話だったね。
そんな力が使えたら、僕だってもとの箱庭で……力が及ぶかぎり、ずっと使ってたと思うから。
「そんな――魔法を。いつ使ったんだ」
「いま」いたずらを自分からばらした子供の顔で、花白は星の欠片から手を離す。「『どうして』って、いま言ったじゃない。
そのとき、僕の力がちょっとだけ強まった気がしたんだ」
協調行動。思い浮かんだランドメイカーとしての用語を、テトリスは水筒の水で飲み込んだ。
相手に対して抱いた《好意》を、この場合は無意識に花白自身の糧として使われたということだろうか。
じかに手合わせした剣のみならず、救世主がもつ『白の力』も感覚的に操っていたと聞いたものだが、なるほどたしかに、
この少年にはひどく嗅覚のするどいところがある。
「結論を言うまでに、ひとつ問おう。お前の言う――『すべて』ってのは、一体どこまでのものを指すんだ」
だからこそ、先手を打って問いかけなければならなかった。
自身へ問いかけた花白に満足される必要はない。まして愛される必要もない。
だが、これだけは譲れなかった。ここで一歩でも譲ってしまえば、少年は自身が騎士でさえあれないと確信した。
「なんだ。それって最初に訊くべきところじゃない?」
「そこだけ聞けば正論だが、訊くまでにあれを見せたのはお前だ」
「それでも、おかしいよ」そして、花白は最も痛いところを晒した言葉を的確に拾って、ため息をついてみせる。
「すべては『すべて』さ。でも、そういうふうに訊くってことは、弾かなきゃいけないと思うものとか見ちゃった?」
「……そのとおりだ。民草――お前の言う『ヒトビト』か? ソイツらに審判だけを下せるヤツが、あそこにもいた」
アルフレッド・J・コードウェルの、あるいは完全者の、ムラクモの――。
三者三様に世界を壊すと言い放ったものたちの浮かべる表情は、おぞましいと形容しても足りなかった。
「理想もいい。ときには鬼になることだって必要だろう。そういう気持ちはボクにだってある」
理合いに秀でてひどく冷たく、しかして、双眸にだけは憎しみとも怒りとも取れる熱のさし続ける顔。顔。顔。
「だが……絆や命の途切れた瞬間で止まって、自分の力にまつわる衝動でしか動けない怪物となると話はべつだ」
方向こそ違えど『新世界』を求めて行動した彼らは、三者とも同じような顔つきをしていたのだ。
いちど死んだはずの人間は、これ以上死なない。
生まれ直すこともなければ、精神の変容がなされることもない。
ひとと繋がる理由もないというのに、変わりようのないがゆえに相対するものに変化を強要し続けるさまは、テトリスの
目から見れば屍霊術師の手によって立ち上がり、生者を憎む死霊のそれとなんら変わりはなかった。
「ふぅん。それだけ聞くと、きみが見てきたヤツは『ジャーム』ってのに似てるね」
わずかな間だが、アカツキとともにいた十也と行動した花白もオーヴァードを知っている。
極光によって過去に至る、それまでに聞いた言葉がなければ、テトリスは彼もジャームに近いものだと認識しただろう。
292
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:18:00
「ヤツらだけは許されないと感じたボクが正しいかどうかは、この際どうでもいい。
理想、目的――あるいは概念そのものになって、自分で自分を満たすやり方も忘れた輩だけは認められない」
「ギリギリで成り立ってる日常を壊して、整理して、水際立ったところから助けてくれるかもしれなくても?」
「整理や救済って言葉の裏には何がある。もと救世主。その『裏』に堪えられなかったのがお前なんじゃなかったか」
「……それだってウソじゃないけど、なんか落第したみたいに聞こえちゃうなぁ」
「いいさ。手前勝手にひとを神にする『新神宮殿』と同じに、こんなもの、本当は出来なくていい」
もっとも、王と王を守る騎士だけは、最後まで逃げてはならないのだが。
それゆえに、テトリスは花白よりも先に征くために心を燃やす。人類の敵となった者を超えるために口を開く。
「一番怖いと思ったのは、な。戻りぎわに耳に入った、子供の歌う声だったよ。
『全てを壊し、それから創る』……活劇の主題歌のようにも聴こえたんだが、ボクには裏にある意味が分かった。
そして、そんなものの意味が分からない子供の姿を、一瞬……ほんの一瞬であっても、想像がつかなくなったのさ」
「冗談とか夢物語で流せないくらいに、この箱庭も終わってたのかい?」
「終わっているかどうかは知らない。だが、どうしても分からない。どうして」
どうして。
答えようのない問いの、否定の一節こそが、テトリスの胸を衝き上げる。
「その歌も、ムラクモや完全者たちも、ヤツらの編んだ『新神宮殿』も同じだ。
どうして壊してから創るんだ。壊してからじゃないと創れないのか、全部壊していく必要は本当にあるのか。
風雨やなにかのように『ままならない』と思えるものも認めて、そいつを残しながら創ることは選べなかったのか」
続いた言葉は、問いの形さえなさないものだった。
血盟『影弥勒』の一員として儀式忍法に近い立ち位置にあった少年は、この問いに答えを望まない。
この世界にあるものを全て壊していくと、絆や歴史、伝統や生を振りほどいて応えられる者がいることをこそ望まない。
「それ、出来るんなら誰かがとっくにやってると思うんだ。僕らのせかいの、かみさまとかが」
「知るか。ボクはかみさまなんか見てない。いや――生き神様とか『不思議さま』には会ったけど、あれは」
「あれは?」
「いや、いい。かみさまが出来ないか、やらなかったことなら、それは人が努力していけることだ。
ボクにはわずかな《民》に《希望》を宿すことしか出来ないが、だからって最初から最後の手段に頼ってどうする」
「……羨ましいな、そういうコト、素直に言えるの。かみさまになれば楽かもしれないのに」
「楽じゃない」生き神様を知る少年は、その言葉だけは明確に否定した。「ひとの信仰に応えるってのは、楽なもんじゃない」
信仰者を獲得すれば、ひとは神になれる。
信仰もまた思いである以上、神は信仰を糧にして奇跡を起こす。
それが、百万迷宮における生き神様のあり方だ。
ではなにゆえに、ひとはこの世界における生き神様となる『真の忍神』を信ずるか。
おそらくは神鏡で未来を見透し、世界の終わりさえ分かってもなお、夢を諦めずに進む姿を信じるのだろう。
理想の見た夢を目指して神にまで至り、不滅の存在となろうとも色褪せぬ存在を前にした人々は、
胸に《希望》を、宿せようものか。
改めて、そうとだけ吐き捨ててしまいたくなる心地だった。
いまも発動し続ける『新神宮殿』の構造そのものは、筋が通っているとすら言えるものだ。
神の死体。それに神器「神鏡」と部品「理想の見る夢」を宿し、現人神や救世主たちの性質を作り変える。
あるいは「理想の見る夢」とやらを抱くことがかなった人物の篤信が、かれの信じる者を生き神様として蘇らせる。
『新神宮殿』のもととなった『棄神宮殿』は、力に溺れた「偽りの忍神」を異世界に隔離するためのものであると
言うのだから、このような場に喚ばれた者は等しく生き神様となりうる資格を有するのかもしれない。
だが、そうして生まれ直した世界にはきっと何も残らない。
理想や夢が膨らんだ結果として生まれる、世界には《希望》を抱くべき未来がない。
293
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:18:28
理想や夢を貫くために、ひとの、屍の使い道さえ見つけたもの――ひとを、もののように扱うひとの開闢していく
世界があるとして、「落下ダメージの」パジトノフ公爵テトリス九世は、そのような世界の誕生を認めない。
そんな場所には神がいようと、善人も悪人も悪役も、凡人や俗人さえもが等しくいないだろう。
大義があって理由のない世界では、そのような者は存在していたとしても認識がされないだろう。
思いが力になろうとなるまいと、ひとに対する《好意》も《敵意》も、敬意も名誉もない世界だけは認められない。
「そんな世界を望むようなヤツだけは、ボクは愛してなんかやれない。
出来ることといえば、ソイツらをボク自身の心にとどめて、一生をかけて考えていくくらいだ」
「なんだ。中途半端っていうか、きみもけっこう純粋なとこ、あるんだね」
気分を入れ替えるように、花白は空いていた手で背中を叩いた。
そのままひとつ伸びをして――硝子の刀身をもつ剣を纏った上着の裾で拭い、青眼に構え直す。
「愛せないなら、愛することが出来るようになるまで噛み砕く。でも、それってけっこう残酷だよ?」
「赦すにあたっては、納得がないと始まらない……」いかんなと続けたテトリスの声は、年齢以上に落ち着いていた。
「それも壊すうちに入るなら、ボクも、結局は壊して創ることしか出来ん。
だけど、壊したもののことは忘れない。ものを壊すに至ったきっかけが別の死や滅びであったとして、もう何も言えなくなった
ものを免罪符にすることはパジトノフ公爵家の。いや。『落下ダメージの』テトリスが流儀ではないな」
災厄王。罪なきものを百万迷宮に放り込んだ大罪人であると同時に、創造主にして偉大なる魔術の使い手。
テトリスはそうした存在の血を引いていることを誇りにしてきたが――脈々と受け継がれてきたものを誇りに思い、道を征くに
あたって心の支えにすることと、自身が正義を行うために死者の口を借りて何かを言わせることとは違う。
「決闘は……まぁ、男で国賓の保護を受けている者が相手ならよかろう。
どのみちノー・クォーターなんだし、ボクはまず、戦い終わった者を迎えてやらねばならんのだから」
心を脈打たせて溢れ出さんとする思いを、ゆえに少年は他人へ示さない。
これは無責任な同情や称賛で満たされていいものではないと、自身の裡で定義しているがゆえに。
代わりにというべきか、決闘を挑むために必要な白手袋を探すふりをすることが、彼の誇りに沿うやり方であった。
「じゃ、それが答えでいいんだね?」
「ああ。今のボクの全力がこれだ。何年か経てば変わるだろうが、さすがにそれは許してもらう」
といって、大剣を構えて打ち込めば、それで命の器が壊れかねない。
降伏勧告を行うことは可能だが、それでこの少年が無力化されるとも思えない。
そうして悩んでいるがゆえに、テトリスには、花白が浮かべていた表情の意味に気づけなかった。
「国賓……彩国の国賓預言師のこと、知ってたの?」
「ああ。直接は会っちゃいないが銀朱から聞いた。白梟という名の女性だったらしいな」
花白の、薄紅をした瞳の揺らぎは、その意味を探る前にかき消された。
今にも壊れてしまいそうなものに触れたかのような惑いは、瞑目したまぶたが隠してこぼさない。
同じ瞑目であっても話を聞きたくないと叫んだときとは真逆に、少年は青ざめた頬へ安らいだものを浮かべた。
「気難しいっていうか頑固だけど、悪い人じゃないんだよ。
玄冬を殺した僕は、救世主じゃなくなったのに……それでも風邪を、引かないようにしてくれてた」
「母親がわりのようなもの、だったのか」
母も、父というべきも、すでにないからだろうか。
花白が恐れながらも抱きしめている安らぎが、テトリスには分かれない。
「う……ん。分かんないな。いつだって、僕と『白の鳥』との距離は遠かったように思うから」
安らぎに翳をさす疲れが、いったい彼の何に由来しているのか、見当がつかない。
「だから。僕が他の誰かを殺さず終わる方法とか、ここで終わる僕を活かす方法は、これしかないと思えたよ」
「――ッあ!?」
白光が思考の死角をついて、テトリスの得物を跳ねあげた。
武勇を支える全力をもって敵を仕留める大剣。最も手に馴染んだ武器のひとつが、あっさりと手から離れた事実に
驚くまでに、騎士の身体は腰を落として、肩口から迷宮の床に転がる。
294
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:19:05
無理矢理に間合いを離して、舌に土の苦味をおぼえながら立ち上がれば、花白はすでに剣を構えていた。
ただ、玉壺の氷がごとくに透き通った刃の向かう先はテトリスなどではなく、
「お前、死ぬ気か? あそこまでしておいて……!」
「言ってたんだよ、玄冬が。殺すのは俺で最後にしろって」
そうと口にしてすぐに、花白はゆるゆるとかぶりをふった。
何もかも玄冬のせいにしちゃいけないや。僕だって本当は殺したくなんかないもの。
続いた言葉は、自身の骨を晒すものだった。そして、それを聞いた者を突こうとするものではなかった。
「莫迦野郎。それじゃ、そんなじゃお前は、何のためにッ」
「僕は、きみの答えに満足した。……それじゃダメ?
命の器は、こうしたら満ちない。それに世界がまた滅びに近づくまで、あの箱庭には救世主も生まれない」
そうすれば、ほんのすこしだけど、あの人が楽になれるんだ。
疲労と憔悴を手放そうとする、その表情が満ち足りていたこそ、テトリスは歳相応の怒りをあらわにした。
すべて良しとでも言わんばかりの顔は、言葉つきは、鮮烈なほどに白い少年も人類の敵も使うべきものではない。
人類の敵。ちくしょう。世界を愛そうとして愛せない花白は、たしかに希望を胸にして歩まんとするものどもとの共存は
出来ない。だが、どうしてそれなら最後まで、敬意を払える敵として、交わった道を歩んでいこうとしないのだ。
どうして土壇場になって、自身のすべてを賭して殉じようとしていた相手を変えて、しまえる――。
「……まさか」
「そういうこと。僕、ウソは下手なんだけど、なにを我慢してたかにまでは気づかれなかったな」
玄冬に殉じようとしていた花白の変心が分からない。
花白が玄冬に殉じることを前提に考えを巡らせていたテトリスに、分かれようはずもなかった。
あまつさえ、それが母親がわりのような存在のために死のうとしている、ということであるのなら。
「なんで……どうして、そこだけは間違わないんだ。なんで一貫させられるんだ、お前は」
命や人倫など振り捨てた選択をまえに、テトリスは身を起こそうとして、起こせない。
「ごめん。ホントは、あまり好きじゃない『力』なんだけどさ。ウソをついてごまかしたって、心は痛いままだから」
誰かを好きになるためにさえ、誰かに血を流させる必要がある。
花白のためにこそ聞き流すと決めていた言葉が、聞き流すと決めていたからこそ胸中に悔悟を呼び起こす。
何かを知っていることが美徳であるとは言わないが、知ろうとすることを放棄したのは、明らかな失策だった。
「だけど、きみは僕のこともゆるして――最期まで、見守ってくれるんだろ」
誰かを、好きになりたかった。
どうしようもなく審判や救済に向かない願いを抱いた救世主の出来損ないは、甘い声音でテトリスに乞う。
「違う! あれはそういう意味じゃな……ッ」
「言ったよね。『すべてあいして、ゆるしてみせろ』って」
最期まで見守ってくれという願いが『白の力』を伝わって、騎士の身体を石床に縛り続けていた。
王を目指すこの騎士の思いと、誇りの土台をなすのは愛したものに報いることと、情愛を注いで征くこと――。
願い乞うた花白と質を同じくするがゆえに、テトリスの誇りでは、白の呪縛をほどくことがかなわない。
同質の思いを抱いた二人のうち、片方が人ならざる『力』を有する事実が、ここにきて厳然たる差となって現れる。
「そして、きみは愛せないものも噛み砕くと誓った。……諦めずにたくさん考えて、ここで、決めてくれたんだ」
「こ、の……」
動かない身体に、《気力》を込めようとするテトリスの傍に花白はそっと近づいた。
花白。空より降り来たる雪を、その身と名とに纏った少年は、騎士の頬にあたたかな指先をすべらせる。
「だから、たとえば春に降る白い花。僕が持ってる綺麗なもの、あの人からもらったものを、きみにもあげる」
困ったような顔つきでそう言われれば、面食らうしかなかった。
――自分にとって大事なものを、口の中で噛み砕いて遊べる玩具をやるから大人しくしていてくれ。
子供が子供をあやすような言を受けたテトリスの緊張が、これでいちどきに切れてしまう。優れた力を持つがゆえに、人として
いびつになるものは数多くある。だが、花白の場合は言動と思考がどこまでも噛み合わないまま、ひとり死んでいくことが出来る。
そうであるからこの少年が、《民》とならない人類の敵たりうると分かってしまう。
295
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:19:25
どうしようもない。
諦観を全面に出した言葉は、苦い酸のようにテトリスの胸を灼いていく。
足りないのだ。どうしようもない人間を、どうしようもなくはない者にするには手数も時間も足りない。
そして、どうしようもない人間を、どうしようもないままで抱えていく考えを、よりによってこの自分が表明している。
いずれ世界が滅ぶなら、それを続けと願うなら。この戦いとて、ここで、終わっていくしかないのだ。
「春の花ってのは……この、白梅じゃあなく」
だから、せめてものこと、騎士は花白の名が持つ意味を問うた。
救世主として生まれたというのに人としてしかあれず、人としての玄冬や白梟、銀朱らをしか愛せずに――。
そうであったというのに、死に方だけは人のそれというには異常な少年を表すものが何なのかは知っておきたかった。
「桜だよ。救世主が玄冬を殺すと、せかいに降り積もった雪は、すべて春の花に変わるんだ」
誰の願いにも添えないまま逝く少年の笑みがおぞましいと思えても、知っておかねばならなかった。
その花白は自身の未熟にも無知にも気づかない様子で、自分が言った言葉に対してひどく素直な唸りを漏らす。
「まいったな。僕が死んだら、アカツキの記憶戻っちゃうや」
「『白の力』で、何かの記憶を封じているのか」
「そ。アイツは自分で自分の始末をつけようとしてた。首を斬るヤツも――腹を、切るようなヤツも同じだから」
自分の名前の意味と、ひとの死を同列に語れることの意味に、そのとき、テトリスも気づいた。
「だから、僕はきっと……僕みたいでさ。アイツのことも、好きじゃなかった」
「いいさ。べつにそれでも」
気づいて、しかし、触れなかった。
自分が何をしているか、どれだけ莫迦なことをしているかを、この少年は知っている。
だから最期に、花白はアカツキを嫌っていく。莫迦なことはこれで最後にしろと、間違ってはいないのに歪みがすぎて
届きもしない伝言を、届きもしないという程度では諦めることなく残していく。
「もうちょっと、まともに育てとは思うんだが」それなら、それで良かった。「とりあえず、お前はボクを信じたんだ。
その回りくどい伝言は、とりあえずヤツが生き残ってるかどうかを確かめてから伝えるさ」
ノー・クォーター、ノー・プロットの、どこにも繋がらない劇に、これ以上続けと願う趣味はテトリスにない。
それは、硝子の剣の刀身を返した花白も同じだった。
「……闘いはまだこれからだ。これからボクは王になる。
いつかも言ったが、王でなけりゃダメなんだ。王として、《民》が始めたこの魔戦を終わらせてやるには」
硝子の剣が、瞬間、輝きの質を変えた。
『白の力』を受けた刃は、よく練磨された鋼のように冴え渡った煌めきをのぞかせる。
あとに残ったものは、幼児のような首肯と、テトリスの周囲に纏い付く魔素。
災厄の王子を縛ってとどめた『白の力』の、成れの果てたる思いであった。
◆◆
.
296
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:19:47
Scene 05 ◆ 花白・君を殺して花を散らせて
春の花に息が止まった。
空から降る白い花に交ざって降るのは、救世主が生み出すという花。
ぼくの生まれた季節にして、玄冬の死んで迎える季節に咲いて舞い散る――。
雪に交じる花びらが狂い咲きの桜に見えたそのとき、左手はそれをたぐってつかんだ。
だけど、穴が空くほど見つめた萼は赤くて、指で透けるほど撫でた花びらも、切れ目なく丸いもので。
花びらが壊れてしまうほどに答えを探して納得して、僕は、やっと息を継ぐことが出来た。もう死んだほうがいいと
決めたときにも脈打つ鼓動が白々しいのに安らぎが体をめぐって、やっぱり未来に期待しているんだと思えた。
いま幸せになれなくても、幸せが一体なんなのかさえ分からなくてもだ。
未来に期待してるってことは、たぶん、僕は幸せになることをずっと夢見ている。
いま幸せになれなくても、幸せってものが、一体どんなものなのかさえ分からなくても。
ただ、きっと幸せってものは、あした生まれてくるきみと、あしたは剣を取らなかった僕とが巡り逢って、そして。
いずれ生まれてくるだろう、次の玄冬に、
僕の救わなきゃいけない、あのせかいを終わらせるものに、
最後には死に別れると分かっていても、それでも優しくされることだと思えた。
優しくされたいって言葉は死ぬほど薄っぺらくて、今からホントに死ぬヤツにはお似合いだった。
幸せ。
幸せを思えば浮かぶ、玄冬はけれど、ここでも死んだ。
こんな所でなければ願えない終わりのかたちを、僕こそが否定した。
そうしてこのまま元の箱庭に戻れたとして、あそこにはまだあの人が。箱庭を監視する鳥の片翼が変わらずにある。
救世主とされた僕の隣にあった、あの人は、なににも染まらない『白の鳥』だった。
ああ――ああ、きっと。
きっと、彩の国の城では僕の嫌いなあの人が。僕の好きになりたかった、あの人が。
もう変えることさえ出来ない、涼しそうな顔つきで、繰り返し永遠の冬に近づく世界を眺めている。
初夏の緑色をした目。普段は穏やかなのに、必要ならどこまでも酷薄になれるあの目は涙も流さない。
そのくせ、このごろは母親のような諦観をしずめた眼差しを、この僕に注ぎさえしている。
だから、それならやっぱり、僕のやることはひとつしかないと思えた。
誰からも忌まれる玄冬が好きで、かわいそうで、かわいそうだと感じたものを拠り所にして『正義』を為そうとした
僕と、創世主の帰還をしか信じ得ない白の鳥とは、目を逸らしたくなるほどの盲目だけはよく似ているとも思った。
管理者の塔で見た、怜悧な微笑み。
自分で玄冬を殺しに行くという僕の言葉を、嘘だと知っていたくせに。
子供そのものの癇癪をぶつけたときの、あの人の表情が浮かぶと同時に胸を刺す。
――……いいえ?
刺された胸が、絞られてたまらなくなる。
あの人は。他人行儀で張り詰めていて、ひどく近寄りがたいあの人は、
僕のことを……救世主が玄冬を殺して世界を救う未来を心から信じていた。
理屈や計算、どこかで理想さえ振り捨てた、およそあの人らしくないやり方で、
白の鳥たる白梟は、花白を信じてくれていた。
花白。
あの人が僕にくれた綺麗な名前を、あの人が歌えば、桜さえ美しく思える瞬間があった。
玄冬以外のものが救われたせかいに咲く花を認めるたび、僕からは冬が拭われた。
そうして日々を過ごしていれば、撥ね付けられても揺るがなかったあの人が棘を失うさまも見た。
これ以上甘えて寄りかかってしまえば、あの人が倒れてしまう。
直感としか言いようのない感覚を受けた僕からも、棘というべきは抜け落ちていった。
それは、でも、丸くなっただとか大人になったなんていうものじゃない。
救われたせかいがヒトビトにもたらした日々の安穏は、僕とあの人からじりじりと力を奪っていく。
――だから……終わらせてしまいなさい、花白。
終わってしまえば、夢だったとでも思えるでしょう。
あの塔で玄冬を斬って、僕は、ほんの少しだけ楽になれた。
だけど「次からの僕には優しくする」と約束したあの人は、どれだけ時代が巡ろうと終われない。
箱庭を維持することが白の鳥の役目だから、そもそも、箱庭にあるどんなものも途中で手放せはしない。
悲しいことを、つかの間の夢だったと思えるときは、あの人には最初から与えられてなんかいない。
297
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:21:06
季節が巡るうちに、あの人の顔をなす諸々の、ほんの一部でも目にしたからだろうか。
いつの間にか僕は、殺したいとさえ思っていて、それでも好きになりたかったあの人を憎めなくなっていた。
「貴方には、私がついています」。悠然と断言した約束を守ってしまえる、怜悧で強くて正しい、白の鳥。
そんなものでも悲しみや羨望や、諦観を覚えるものなのだと知ってしまったなら、救われるために傷つきたい僕は
あの人の胸奥に唇をつけて、わだかまる思いのいくばくかを吸いだしたいとさえ考える自分を四季の中に見つけていた。
きっと埒もないことと、あの人は笑うんだろう。
でも、僕はもうあの人を憎めない。約束を守るあの人を、要らないなんて思えない。
救世主の役目から開放して欲しいと思っていた僕を、あの人は玄冬を殺させることで開放してくれたから。
僕と約束したせいで、心に突き立つ楔をまたひとつ増やした、あの人がいとおしくなったから。
その気持ちが分かったのなら、今度は僕が、あの人を。
いいや。貴方……を。心がけずられるほど水際立った日常から、解放したい。
前の玄冬を斬って、ここでも『次』の玄冬を斬って、次も、この次もきっと、
僕は何度でも彼に出逢って、彼を知って、彼を斬って血に濡れて、赦されて心を痛める。
傷口を抉り続ける僕の思いを注げるものは、あの箱庭で微笑み続ける貴方しかいないと分かってしまったから。
だから……お願い、します。どんないろでもいいから、笑ってくれませんか。
玄冬を喪った自分の変節を僕自身が笑っても、どうしてか虚しくなってしまうのです。
虚しい、苦いと思いながら笑った頭に浮かんだのは、あのバカトリ。『黒の鳥』の剽げた顔だからかも。
悔しいけど、本当に、悔しいけど。最初の玄冬のために創世主から箱庭を譲ってもらい、二人目の彼のために箱庭さえ
滅ぼしかねなかった片翼と、玄冬から貴方に心を移しつつあった僕は、やっぱり同類だったのかもしれません。
ううん。あるいは「自分さえ死ねばすべてが終わる」と思い続けた玄冬と、いま、このときだけは。
そういうふうに思ってみると、愚かな僕はどうしようもなく、嬉しくなってしまう。
なのにお前も、死んだって莫迦なままでいるのか。
お願いだ、銀朱。めまいがするほど考えたはての選択にさえ「間違ってる」だなんて言うな。
僕が間違ったことをすれば、お前だけはいつも正してくれた。
覚えてるよ、彩国が第三兵団の隊長どの。でも、お前に言われなくたって今の状況の莫迦らしさは分かるさ。
こんな終わり方が美しいなら、こんな終わりを包んで続いていくせかいが綺麗だって言うんなら、こんなもの。
ああそうさ。せかいは、ときに綺麗で、せかいに生きるものの思いはときに美しいかもしれない。
けど『こんなもの』だよ。綺麗で美しいはずのものは、だって何度繰り返して続けてみたってあの人の、お前の、
僕や玄冬に――あの、トリの。黒鷹の心ひとつ救えないじゃないか。
だったらそれは、ほんとうに大切なものなのか。
僕と玄冬と鳥たちのたましいを、歪もうとも繋いできた想いを懸けて救うに足るものなのか。
雪消の日さえ信じられず、戦いの血で雪を溶かそうとしていた箱庭。かみさまに見放されたせかい。
綺麗で美しいものたちが、妙に薄っぺらく思えて、皮の一枚も剥がしてしまえば壊れてしまう書割のような代物は。
憎んだって、恨んだって呪ったって僕を生かしていく、とろとろとしたまどろみのように生ぬるい水の、ゆりかごは。
あんまりにも分からないから、べつに銀朱やネコミミじゃなくたって、いい。
答えろ。誰か、僕に、せかいのすべてに対して答えろ。せかいを好きになるために答えてみせろ。
あの莫迦や、あいつの大切な民草、玄冬と僕や鳥たちや他の箱庭をさえ、すべてあいして、ゆるしてみせろよ。
これは綺麗なものだって、これは愛すべきものなんだって、喰らったものの骨に突かれても笑って、みせてくれ。
は……イヤだな、ホント。なんでだよ。
銀朱なんて、とっくにムラクモに殺されちゃったくせに。
それでもアイツから教えるでもなく示してもらったものは、今も僕のなかでざわめいてる。
これを知ったから、きっと僕だってヒトビトじゃあない玄冬たちを好きになろうとしてしまったんだ。
せかいの嘆きを聴いて、嘆いても美しいせかいの矛盾を呪うほど、何もかもを好きになってしまいたかったんだ。
298
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:21:27
そんなふうに思うからこそ、このせかいは間違っていると言わなきゃいけないのに。
歪んでるんだって叫んで、嘆きに隠れたあかいものに気付いてもらわないといけない、のに。
どうしてそれなら、舞い降りてくる雪は綺麗なんだろう。粛然と滅びを受け容れるさまが、こんなに美しいんだ。嘘だ。
嘘だよ。滅びさえ諦めて受け容れるのが本当に美しいなら、そう思うのが本当の気持ちだっていうんならせかいは。
ほら、こうやってバラバラになるだけだから分かれよ。分かって――僕を、離せよ。
こんな僕に未来を託して、信じてくれたひとの気持ちに応えていくには、これしかないんだから。
お前だって先の救世主の血を引いてるんなら、こんなところでまで僕を叱っていくんじゃなくて、あの『鳥』の
空にも花を降らせて、ひとに近づいたあの人の心をなぐさめてくれ。それくらいはきっと、出来るだろ。
やけっぱちの恨みつらみには、きっと誰も気付けない。だけど、かたちにすれば少しだけ楽になれたよ。
それなら、いい。もういいんだ。だからこれで終わらせる。
白梟。
貴方がこのことを知らずとも、僕は構わない。
春に芽吹くような花なんかで、貴方の心が鎮まるとも思えない。
でも、どうせ貴方だって、勝手に僕のなにもかもを決めていったんですから。
これから僕は剣を振るう。そうして貴方を、白の鳥をいっとき籠から解き放していく。
せめて次の僕が生まれてくるときまでは、自由の身となった救世主を見ないでいいように。
僕や玄冬、黒鷹、ヒトビト。せかいからの絶えることない問いかけへ、ひととき応えずにすむように。
諦めるなんて赦さない。
自分の言ったことが守れないのはとても、とても痛いけど。
この時代にある白の鳥から離れると決めた、僕の自殺を貴方に捧げます。
不断に続く遠いあすで、いつかまた出逢うまで。殺すことでしか救えない僕が示せる優しさのひとしずくを。
【花白@花帰葬 死亡】
.
299
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:21:57
【交錯迷宮・合咲の間 Side.B】
【「落下ダメージの」テトリス@シニカルポップ・ダンジョンシアター 迷宮キングダム】
[状態]:まことの騎士、災厄の王子、王になる決意
[クラス・ジョブスキル]:【武勲】【剣劇】 [スキル]:【乱舞】【突撃】【受け流し】【鉄腕】
[装備・所持品]:大剣@迷宮キングダム、希望の魔除け@ラストレムナント、幽命丹@シノビガミ、
救世主の剣@花帰葬、「魔素」の素材×10@迷宮キングダム
[思考]:玄冬<魔王>となって、この魔戦を終わらせる
[参戦時期]:『猫耳王子×三女怪(迷宮キングダム リプレイ 女王の帰還)』終了後
[備考]:レベルが3から4に上がっています。その際に「感情値のリセット」が発生しました。
血盟忍法【二人袴】を修得しています。
血盟「影弥勒」の誰かが【感情】を抱いたとき、自分も同じ対象に同種の【感情】を手にします。
[テトリスの修得スキル]
【武勲】:騎士のクラススキル。戦闘開始時に指定した者に対するダメージを上昇させる。
【剣劇】:武人のジョブスキル。自分と同じエリアにいるもの全員に対して命中判定を行える。
【乱舞】:肉弾系のアドバンスドスキル。命中判定のとき、ダイスをひとつ多く振って命中や絶対成功の確率を上げる。
【突撃】:同上。戦闘時の移動フェイズに前進すると、命中率と武器の威力が上昇する。
【受け流し】:同上。自分が攻撃されたときに割り込んで使用。
判定の達成値が相手の命中判定の達成値を上回れば、その攻撃のダメージを1にすることが出来る。
【鉄腕】:同上。自分の攻撃でダメージを与えたとき、相手を1マス後退させる。
※花白が命を落としたことにより、救世主の力たる「白の光」が途絶えました。
光が封じていたアカツキの記憶から【フラッシュバックによる無力化の可能性】が生まれます。
※箱庭
『Splendid Little B.R.』の舞台。
エヌアイン完全世界・ダブルクロス・シノビガミの世界観がクロスオーバーしている世界。
ある雪の日、人を超人に変えるが彼らから理性を奪う「レネゲイドウィルス」を発見した人物が
日常の崩壊を世界へと告げ、それとほぼ同時期に旧人狩りを目的とした新聖堂騎士団による世界規模の
無差別テロルが発生。地獄門が開いてのち、そこより現れた妖魔を軸に目的を達しようとしていた
忍者も、こうなればヒトビトとの争いや死合いを余儀なくされた。
日常の崩壊を示唆された放送こそ隠匿されたが、あの日から雪は止むことがない。
ヒトビトのうちの、ある者は旧人狩りの電光兵団が手にかかった。
ある者はオーヴァード同士の争いに巻き込まれ、あるいは彼らを利用しようとした結果として死んだ。
ある者は忍者の力を持つ「蛹」として目覚めながら、その力を制御することが出来ずに暴走し、果てた。
そうして散ったすべての命は、命の器に取り込まれている。
※命の器@花帰葬
最終決戦<クライマックスフェイズ>が発生しないようになるエニグマ【封鎖結界】@シノビガミ参の
偽装であったもの。
花帰葬の舞台となった箱庭(世界)では、喪われた命の数がこの器に計上されていた。
この器が満ちるまでに救世主が玄冬を殺さない場合、降り止まぬ雪に埋もれて世界は滅ぶ。
だが、花白が玄冬を殺してもなお、この箱庭の滅びはやまない。
現在エニグマは解除され、影弥勒たちとの決戦に移行しているが、解除条件は「二つの陣営の生き残りが
十人以下になる」こと。交錯迷宮――ひいては迷宮によって隔絶された外の世界にも降り続ける雪は、
迷宮化現象の起きた箱庭の滅びを暗喩したそれである。
300
:
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:24:41
以上で投下を終了します。
途中、必要だなと思ったところでダイスロールを行ない、ルールを参照することで話の筋を立てていたのですが、
これはTwitter上のダイスボットにリプライを送って、返ってきた出目を基準にしてました。
判定の結果は、下記のページに目標値や使用したスキルなどと一緒にまとめています。
ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/etc_afterplay01.html
次回は第二章。ムラクモ vs. 藤林修羅ノ介です。
ここの容量「も」膨れてたので、分割投下の回数が増えるのは許してやってください……。
そして、ある意味では企画の趣旨を理解していない、知られている原作もさほどないだろう話を、
それでも読んでくださっている方に感謝を。
他人様の話に感想をつけるときと違って、巧くは言えませんが、とてもありがたいです。
301
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:33:04
>>67
で参加表明した虫ロワ、投下開始します。
302
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:35:21
【ロワ名】虫ロワ
【生存者6名】
1.王蟲@風の谷のナウシカ【重傷・限界寸前】
2.黒谷ヤマメ@東方project【右腕・両足欠損】
3.ティン@テラフォーマーズ
4.シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編【トラウマによる無力化の可能性あり】
5.虫愛づる姫君@堤中納言物語「虫愛づる姫君」
6.モントゥトゥユピー@HUNTER×HUNTER【メルエムの死に動揺】
【主催者サイド】
皇兄ナムリス@風の谷のナウシカ(司会)
シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編(ジョーカーと兼任)
以上の二人は主な進行役。
バックには高度な科学力と強大な組織力を備えた謎の勢力が存在する。
【主催者の目的】
実験サンプルの処分を兼ねた余興……
だったが、シアンが進行役という立場を利用して何かを企んでいることが作中で明かされている。
【参戦作品】
風の谷のナウシカ
東方project
テラフォーマーズ
パワポケ12秘密結社編
堤中納言物語「虫愛づる姫君」
HUNTER×HUNTER
仮面ライダーspirits
サバイビー
ドラゴンクエスト7
ロマンシング・サガ2
武装錬金
地球防衛軍、
虫姫さま
【補足】
会場はアリの巣のような形の、巨大な地下空洞である。
日光は入らないが、内壁を光ゴケ@ドラクエ7が覆っているため、ヒトの視力で活動するのに十分な明るさが保たれている。
首輪の代わりに参加者の身体には呪印と、腐海の菌類のカプセルが仕込まれている。
呪印は参加者の能力をある程度制限する機能と、
主催者の命令に反応し、カプセルに封じられた腐海の植物の発芽を促す機能が備わっている。
303
:
名無しロワイアル
:2013/02/03(日) 22:37:23
バトルロワイアル会場、地下大空洞から地上へと続く唯一の通路である
巨大アリ塚の頂上に、無数のモニターを眺める一つの眼があった。
正確には、一つ眼を象った兜。その生首の名をナムリスと言った。
兜の下に付いているべき体は数十時間前のオープニングで既に失われていた。
だが人の肉体を捨て、半不死者となったナムリスにとってそれは大した問題ではない。
事実、現在まで定時放送を始めとする司会の役目を元気に務め上げてきている。
先刻、まだ生き残っていた数少ない参加者を全て喰らい
会場に残る最後の参加者となった王蟲を見てナムリスはつぶやく。
「優勝は、あの蟲か。オメデトさん。
……アイツに言っても通じねえか。」
既に会場にはテラフォーマーズ・凶虫バゥ・殺人コオロギ等といった
大小様々な主催者の手駒達が放たれ、地下空間をくまなく埋め尽くしつつあった。
さらに本拠地および禁止エリアで発芽させられた菌類は
一口吸い込むだけでヒトの肺を腐らせる猛毒の瘴気を発し始めていた。
もはやこれではバトルロワイアルの体を為していない。
最後に生き残った参加者を、更に自らの手駒さえも楽には殺すまいとする主催者の悪意。
それはまるで、現世に地獄を生み出そうと試みているかの様だった。
その悪意に呼応するかのように、無数の複眼を爛々と赤く光らせながらアリ塚へ突撃する王蟲。
行く手を阻む大量の巨大グモに甲皮の所々を引き剥がされても、
傷口に巨大アリの酸液を浴びても、
爆弾ビートルを踏んで脚の何本かを吹き飛ばされても、
その勢いは止まらない。
「ヒヒッ……シアン、あの蟲諦めずにこっちに来やがるぜ」
「そうでなければ困る。
生への執着・希望……それが強ければ強いほどその裏返しである無念・絶望も強くなる。
知性ある者に対してわざわざこんなゲームを開いたのはそのためだ」
「アンタが何をやりてえかは知らねえがよ、中々面白いゲームだったぜ?
だが、それももう終わりか。流石のあいつもここまで生きて辿り着けそうにねえぜ?」
いくつもの傷を負い、蒼い血煙を上げながら
王蟲は遂にアリ塚の外壁に頭から激突。
轟音とともに大穴を空け、やっと王蟲の動きは止まったのだった。
アリ塚の1階……大広間の様に開けた空間に突然のぞく王蟲の頭。
待機していた主催者側の戦力である黒い類人猿のような生物……
テラフォーマーズ達にも、表情こそ無い(持たない)が仕草に動揺の色が表れている。
だが複眼の赤い光は全て消え失せ、まるで暗闇を閉じ込めたようである。
「死んだか?」
「……あの王蟲は、な。」
そうつぶやいたシアンと呼ばれているその女の姿は突如崩れ、階下へ煙のように流れ去っていった。
【シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編】
[状態]:健康
結婚式ごっこにトラウマ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:レアモノの肉団子@HUNTER×HUNTER (完食))
[思考・状況]
基本:???
1:参加者の全滅。
2:参加者は、なるべく苦しめて殺す。
3:結婚式ごっこにトラウマ
4:顔を舐めまわされるのはもう勘弁して欲しい……。
第98話「The half inch SPIRIT」
304
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:37:57
バトルロワイアル会場、地下大空洞から地上へと続く唯一の通路である
巨大アリ塚の頂上に、無数のモニターを眺める一つの眼があった。
正確には、一つ眼を象った兜。その生首の名をナムリスと言った。
兜の下に付いているべき体は数十時間前のオープニングで既に失われていた。
だが人の肉体を捨て、半不死者となったナムリスにとってそれは大した問題ではない。
事実、現在まで定時放送を始めとする司会の役目を元気に務め上げてきている。
先刻、まだ生き残っていた数少ない参加者を全て喰らい
会場に残る最後の参加者となった王蟲を見てナムリスはつぶやく。
「優勝は、あの蟲か。オメデトさん。
……アイツに言っても通じねえか。」
既に会場にはテラフォーマーズ・凶虫バゥ・殺人コオロギ等といった
大小様々な主催者の手駒達が放たれ、地下空間をくまなく埋め尽くしつつあった。
さらに本拠地および禁止エリアで発芽させられた菌類は
一口吸い込むだけでヒトの肺を腐らせる猛毒の瘴気を発し始めていた。
もはやこれではバトルロワイアルの体を為していない。
最後に生き残った参加者を、更に自らの手駒さえも楽には殺すまいとする主催者の悪意。
それはまるで、現世に地獄を生み出そうと試みているかの様だった。
その悪意に呼応するかのように、無数の複眼を爛々と赤く光らせながらアリ塚へ突撃する王蟲。
行く手を阻む大量の巨大グモに甲皮の所々を引き剥がされても、
傷口に巨大アリの酸液を浴びても、
爆弾ビートルを踏んで脚の何本かを吹き飛ばされても、
その勢いは止まらない。
「ヒヒッ……シアン、あの蟲諦めずにこっちに来やがるぜ」
「そうでなければ困る。
生への執着・希望……それが強ければ強いほどその裏返しである無念・絶望も強くなる。
知性ある者に対してわざわざこんなゲームを開いたのはそのためだ」
「アンタが何をやりてえかは知らねえがよ、中々面白いゲームだったぜ?
だが、それももう終わりか。流石のあいつもここまで生きて辿り着けそうにねえぜ?」
いくつもの傷を負い、蒼い血煙を上げながら
王蟲は遂にアリ塚の外壁に頭から激突。
轟音とともに大穴を空け、やっと王蟲の動きは止まったのだった。
アリ塚の1階……大広間の様に開けた空間に突然のぞく王蟲の頭。
待機していた主催者側の戦力である黒い類人猿のような生物……
テラフォーマーズ達にも、表情こそ無い(持たない)が仕草に動揺の色が表れている。
だが複眼の赤い光は全て消え失せ、まるで暗闇を閉じ込めたようである。
「死んだか?」
「……あの王蟲は、な。」
そうつぶやいたシアンと呼ばれているその女の姿は突如崩れ、階下へ煙のように流れ去っていった。
【シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編】
[状態]:健康
結婚式ごっこにトラウマ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:レアモノの肉団子@HUNTER×HUNTER (完食))
[思考・状況]
基本:???
1:参加者の全滅。
2:参加者は、なるべく苦しめて殺す。
3:結婚式ごっこにトラウマ
4:顔を舐めまわされるのはもう勘弁して欲しい……。
第98話「The half inch SPIRIT」
305
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:41:33
アリ塚の1階、王蟲突入の2秒後。
突如、フロアのテラフォーマーズ達に凄まじい閃光と火炎が襲いかかった!
「油虫(ゴキブリ)狩り、世界チャンピオン!黒だn「じょう!」え、ちょ、」
「来てるぞ、バカ!」
「うそ、何でアレがぜんぜん効いてないのよ!?」
「何度も見ただろ、奴らに半端な熱は通用しない!
一匹一匹確実に潰せ!」
王蟲の口から飛び出したのは、『怪人蜘蛛女』と『仮面のヒーロー』。異色のタッグである。
怪力と器用さを併せ持つ蜘蛛の持つ剣が、昆虫界随一のバッタの脚力から放たれるムエタイの舞が、
動揺するテラフォーマーズを次々となぎ倒してゆく。
突然の攻撃で統制に乱れが出ているのだ。
テラフォーマーズ達がどうにか体勢を立て直し、侵入した二人を包囲する頃には
既に数体の惨殺死体が転がっていた。
状況が落ち着いたのをいいことに、
待ってましたとばかりに『怪人蜘蛛女』が改めて見得を切った。
「地底からの使者、黒谷ヤマメッ!死んでいった仲間達の復讐はあたしが果たす!!」
焦げ茶色の丸くふくらんだスカートからは、失われた両膝下の代わりに4本のロボットアームが飛び出している。
腰を落として交互に腕を突き出すポーズ。
両足を失った彼女を最期まで守りぬいた男のポーズだ。
右腕は少女の姿に不釣り合いな機械の鉤爪に置き換わっている。
上半身を覆う鎧の背中からは、3本目の金属の腕が大剣を携えている。
その姿は、まさしく7本肢の蜘蛛の化生であった。
「最近の油虫は、じょうじょう鳴くのが流行りなのかしら」
「……ヤマメ、ビビるなよ。ヤツらは逃げ腰の相手から狙ってくる」
「油虫如きが何匹束になろうと、この土蜘蛛サマの敵ではないわ!
…って、何そのポーズ」
ヤマメと背中合わせに身構える『仮面のヒーロー』、ティン。
額からは二本の触覚が伸び、顔の輪郭はキチン質の甲殻で覆われている。
右腕に怪力をもたらす篭手、左腕に高熱を帯びた赤い鉤爪。
両足を踏みしめて左の拳に手を当て、右掌で宙にゆっくりと円弧を描いている。
彼の本来のスタイル・ムエタイとは違う精神統一の構え。
彼に『正義』を教えて散っていった男が『変身』する際にとっていたポーズである。
“SPIRITS”と銘打たれた黒いコンバットスーツに身を包んだその姿は、
『仮面』こそないものの、まさしくあの『仮面のヒーロー』の様であった。
306
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:42:55
「「じょじょう」」
「じょうじ」
二人を取り囲むゴキブリ人間はまだ何十匹も残っている。
ゆっくりこいつらの相手している時間はない。
腐海の瘴気に満たされたこの一帯で呼吸ができるのは、
肺に溜まった王蟲の漿液が残っている間だけだからだ。
だから……
「「「じょあああああああああああ!」」」
「ヤマメ、行くぞ!」
「よしきたぁ!」
蜘蛛とバッタにゴキブリの群れが殺到し、黒地白抜きの包囲円は一瞬で塗りつぶされた。
だが、中心にあるべき二人の姿は忽然と消失。
どこだ。…2箇所で響くゴキブリ人間の悲鳴。
そこか。だがあるのは死体だけ。再び悲鳴。再び。また。
上。ホールの天井と壁を縦横無尽に跳ね回る二つの影。
空中から地上に奇襲。すぐさま上空へと退避。そして再びかく乱。その繰り返し。
ティン。バッタの脚力は地上で蹴りを繰り出すに留まらないことを戦友から学んでいた。
ヤマメ。本来熟練を要する筈のバルキリースカートの扱いを、蜘蛛の本能で理解していた。
敵の姿を見失ったテラフォーマーズに、
ティンの飛び蹴りが、ヤマメの斬撃が、止むことのない落雷のように降り注いだ。
二人と、その仲間たちに残された時間は長くない。
だから……二人の意志はひとつ。
しんがりといえど、ここで死ぬ気はさらさらない。
速攻で、ゴキブリどもを狩り尽くす。
先行した二人に合流し、勝つ(いきのこる)ために。
【黒谷ヤマメ@東方project】
[状態]:疲労(小)、妖力消費(中)、両足膝下欠損・止血済み
右腕欠損・アタッチメントアーム@仮面ライダーSPIRITSに換装
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
お尻にハチ刺され
[装備]:
体:グレートメイル@パワポケ12秘密結社編
右手:パワーアーム@仮面ライダーSPIRITS
左手:セラミックの剣@風の谷のナウシカ、スパイダーブレスレット@スパイダーマン
第3腕:西洋大剣の武装錬金“アンシャッター・ブラザーフッド”@武装錬金
(第3腕はアンシャッター・ブラザーフッドの特性により付加されている)
両太もも:処刑鎌の武装錬金“バルキリースカート”@武装錬金
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:女王蟻の肉団子@HUNTER×HUNTER(残り30%)、カイコガの幼虫@テラフォーマーズ(完食)
、タランチュラの素揚げ@現実(残り100%))、
ボーラ@パワポケ12秘密結社編、昆虫飼育ケース@現実、『卵』@???
[思考・状況]
基本:バトルロワイアルから脱出する。
1:『卵』を無事に持ち帰る。
2:1階大広間のテラフォーマーズを全滅させ、先行した味方と合流する。
3:自分が生還できない場合は、信用できる者の元に『卵』を託す。
※サクレツの実@虫姫さまを使い切りました。
【ティン@テラフォーマーズ】
[状態]:疲労(中)
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
腐海の菌類のカプセル除去済み
[装備]:
体:SPIRITSのコンバットスーツ@仮面ライダーSPIRITS
右手:怪力のこて@パワポケ12秘密結社編
左手:炎のツメ@ドラゴンクエスト7
両足:クイックシルバー@ロマサガ2
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:毛ガニ@現実(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))、バグズ手術能力発現薬@テラフォーマーズ×11
、マグマ火炎砲@地球防衛軍2(弾切れ)
[思考・状況]
基本:自らの命を捨ててでも、仲間を守る。
1:1階大広間のテラフォーマーズを全滅させ、先行した味方と合流する。
307
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:44:18
一匹の獣が、駆ける。駆け登る。阻むもの無きアリ塚の中を。
正確には、獣ではなく、蟻。魔獣を元に生み出された、既に亡き王の忠実な兵隊アリである。
ツノの様に尖った頭。半人半馬の体。蹄の付いた4本の脚。
そして、左肩に纏った醜悪な人面には、はちきれんばかりの『怒り』を満載している。
そのキメラアントの名を、モントゥトゥユピー……通称ユピーといった。
獣の背にまたがる、否、しがみつく、青い厚手のワンピースの少女。
古代日本で高官の娘として何不自由なく育った彼女は、ただ『姫』と呼ばれていた。
彼女は服飾や美容などといった一般的な女性の趣味と呼ばれるものには興味をもたず、
もっぱら毛虫などを集めては飼育し、観察するのを日課としていた。
そんな『姫』のことを、周囲の者はいつしか『虫愛づる姫君』と呼ぶようになっていた。
「ゆ、『ゆぴい』よ」
「……何だ」
「後ろからは声が聞こえてこぬ。
どうやらその『隠れ身のまんと』とやらが役に立ったみたいじゃ」
姫は怯えた様子で潜入に成功したことをユピーに伝える。
彼女が虫の感情を感じ取ることにより、視認できない虫の存在を知ることができるのは
レコから託されたレヴィ=センス結晶の腕輪のおかげである。
だが、姫が怯えているのは追ってくるかもしれない虫に対してではない。
これから対決するであろうバトルロワイアル主催者に対してでもない。
もっと身近にいる虫……ユピーである。
姫はユピーの主がこのバトルロワイアルで死んだことを聞いていた。
一見落ち着いた様子のユピーだが、
彼に溜め込まれた怒りの感情は左肩の瘤の中でぐつぐつと煮えたぎる音が聞こえるようだった。
その怒りはもちろん姫に向けられている訳ではない。
だが、姫は近くに居るだけでその圧力と熱量に中てられ、気絶しそうな程の重圧を感じていた。
(……コッチニ来イ……サア、早ク……)
そんな姫に、上から主催者のものと思しき声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声だ。本来、腕輪で判るのは虫の感情だけの筈。
だが王蟲と出逢い、念話で話した時を境に
腕輪の力で聞くことのできる声が鮮明になってきていたようだった。
「右の階段からじゃ。……我らを誘っておる」
「……」
黙って姫の誘導に従うユピー。
背中の姫のことは、
『念能力も無いのに虫の存在を感じることができる便利なヤツ』
程度にしか思っていない。
1階でしんがりを務めているティンとヤマメのことは、
『囮になってくれるのは助かるが、別にいなくてもやることは変わらない』
程度には思っている。
彼にとっては王への奉仕こそ全てに優先し、
自分を含むそれ以外のことはどうでも良い事だった。
主君の敵討ち。復讐。
直接の下手人が既に存在しない現在
王を殺したバトルロワイアルというプログラムの主催者への復讐を
一秒でも早く果たすことが、彼の全てであった。
他の部分は、ただひたすらに空虚であった。
【モントゥトゥユピー@HUNTER×HUNTER】
[状態]:オーラ消費(大)、左肩のコブに怒り満載
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:
体:隠れ身のマント@パワポケ12秘密結社編
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:さぬきうどん@仮面ライダーSPIRITS(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))
地蟲@風の谷のナウシカ(参加者の死体、完食)
[思考・状況]
基本:王の仇を討つため、主催者を殺す。
【虫愛づる姫君@堤中納言物語「虫愛づる姫君」】
[状態]:疲労(小)、ユピーの溜め込んだ怒りに恐怖
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:レイピアGスラスト@地球防衛軍2
右腕:レヴィ=センス結晶の腕輪
体:青き衣@風の谷のナウシカ
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:王蟲の無精卵@風の谷のナウシカ(残り20%))
オーダイ@サバイビー
不明支給品あり
[思考・状況]
基本:主催者を打倒し、生還する。
1:『オーダイ』を持ち帰る。
2:ユピーが怖い。
308
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:46:38
1階、大広間。
床は一面テラフォーマーズの死体で埋め尽くされ、
生き残っている者は片手の指で数えられる程になっていた。
とはいえ、敵もさるもの。
上空からの攻撃に対応し、反撃を仕掛けてくる者もいた。
だがそれでも、ティンとヤマメの両名、現在まで辛うじて健在。
残りのテラフォーマーズは…
「シュッ!」
「ギ…ギギッ…!」
「あと…2体……!」
「ジョッ!…ギッ……ブルィィィ…」
「これでっ、あと…1体よ!」
残り1体。
二人は空中から同時に攻撃を仕掛ける。
その瞬間の彼らに油断があったかといえば、答えはNOである。
テラフォーマーは例え1体でも油断ならない相手。
むしろ、ゴキブリのスピードを持つこの敵にとっては、数が減って
自由に動ける空間ができた時の方が脅威は大きい。
故に、二人は最後のこの1体にこそ全神経を集中し、細心の注意を払って仕留めに掛かった。
「オラアアアア!」
「うりゃあああ!」
「……じょっ!」
……それが、いけなかった。
「じょおおう!」
「ッ!?」
「ヤマメ!」
突如、銀色の砲弾の如き一撃が、ヤマメに突き刺さった。
その人型をした砲弾と共に吹き飛ばされるヤマメ。
その『とびひざげり』の威力は凄まじく、咄嗟にガードに回した
金属製の右腕と第3腕をまとめて破壊する程であった。
伏兵は、ティンの蹴りを受け倒れゆく最後の一体と同じような顔をしたゴキブリ人間であった。
その頭には髪が無く、額に漢字の『小』に似た斑紋が付いている。
ティンはこの個体に見覚えがあった。
西暦2599年に火星探査船・バグズ二号で卵から生まれた次世代型テラフォーマーズ2体のうち、
小町正吉と死闘を演じた方の個体である。
……だがティンが『それ』から受けた印象はまるで別人である。まず、全身に銀灰色の鎧を纏っている。
さらに、鎧と同じ材質らしき剣盾を構えている。だが武装は大した問題ではない。
(このゴキブリ野郎、動きが素人じゃない!)
旧世代型テラフォーマーに見られなかった次世代型ならではの『人間らしい動き』に、磨きがかかっている。
ムエタイを修めたティンには、その身のこなし・剣捌きが熟練のものであることが一目でハッキリ判った。
主催者の元で戦闘訓練を受けていたのか?
そう思案しつつティンが援護に駆け寄る間に、なおも『小の字』はヤマメに猛攻を仕掛ける。
舞うような動きで剣撃を放つ『つるぎのまい』は
左手のセラミックの剣と脚代わりのロボットアームを材木の様に切り刻み、
大気をバァンと突き破る速さの『まわしげり』は
一瞬ヤマメの脇腹に20センチもめり込み、金属の鎧をキラキラと紙クズの様に粉砕した。
ティンはたまらずその凶行に割って入る。
この場で遭った戦友であり、師でもあるあの男と同じフォームの飛び蹴りで。
バッタの跳躍力と脚力から生み出される恐るべき威力の蹴りが、『小の字』に向かう。
だが、命中の瞬間……『小の字』はティンの方を向き、ニタァという擬音の付きそうなおぞましい笑みを浮かべた。
『小の字』はティンの飛び蹴りを盾でヤマメに『うけながし』たのだった。
そして蹴りを受けたヤマメは潰れるような音を吐きながら水平に吹き飛ばされ……
大広間内壁に咲くいびつな赤い花となった。
『小の字』は壁にべったり貼り付けられたヤマメを見届けると
唖然とするティンの方を向き、またニタァと笑った。
309
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:48:00
ゴキブリの戦士とバッタの闘士がペアで死の舞踏を舞う。
リードするのは常にゴキブリ。
早回し動画のような、怖気の走るような機敏さで剣舞を舞う。
防戦一方のバッタ。手が出せない。
テラフォーマーズの身体能力、ヒトの生み出した戦闘技術に加え、剣そのものの切れ味も凄まじい。
刃筋を立てられた状態でアレを受けたら、金属の篭手ごと腕を斬り落とされる。
バッタの身体に刻々と傷が増えてゆく。
壁に貼り付けられたヤマメは、二人のペアダンスを前にしても動くことが出来ない。
文字通りの、壁の花。
だが、驚くべきことに、その花はまだ生きていた。
もってあと数分の命だが。
(苦しい。息が出来ない。胴体の半分ほどを潰されたみたい。
寒い。体の中……背骨の辺りがスースーする。恐らく『丸見え』になっているのだろう。
ティンは……まだ戦ってる?あたしも、立たなきゃ……。脚がもう無いんだった。
怪我が酷すぎて、全身の感覚が無い。
苦しいよ。あたし……死ぬのかな。嫌だ。死にたくない……まだ、死ねないよ。
ティン……!あのままじゃ、ティンまで死んじゃう……!
あたし達、あの油虫に殺されるの?そんなのヤだよ。
……せめてアレだけは誰かに頼めないかな。無理か。姫もユピーも先に進んじゃったし。
ああ、目が霞んできた……ティン、せめてアンタの…最期だけは……みとどけ………
………………‥‥‥‥‥‥・・・・・・・)
意識を失いつつあったヤマメは、壁に腰掛けるようにズリ落ちた。だが……
(チクッ!)
不意に、臀部に鋭い痛みが走る。
怪我の痛みはまるで感じないのに。
手放しかけたヤマメの意識が、引き戻される。
刺さったのは……針?
310
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:49:07
『小の字』の『正拳突き』を受け、吹き飛ばされたティン。
強固な鎧の上からはティンの攻撃が通用しない上、ヤツの剣の切れ味は一撃必殺。
剣に気を取られ、素手への注意が疎かになったティンに
いずれこのような結果が訪れるのは明らかであった。
倒れ伏すティンは、最後の賭けに出る。
すなわち、『薬剤』の大量投与。
バグズ手術被験者であるティンの体質を虫寄りに近づける『薬剤』は、
大量に使用することでより高い戦闘能力を得ることができる。
手持ちの『薬剤』の入った注射器をありったけ取り出すティン。
4本の注射器をまとめて握り締め、脚に突き刺そうとするが……。
『小の字』はそれを許さない。
剣を水平やや下、倒れているティンの頭にピタリと向け、腰を落とす構えを取った。
まるで切っ先を銃口に見立て、ライフルで狙い撃とうとするかの様に……
神速の刺突『しっぷう突き』の構えである。
事実、テラフォーマーズの身体能力で放たれる『しっぷう突き』の剣速は
恐るべきことに銃弾にも迫るであろう。
もはや注射を打つ数秒の猶予すらない……万事休すか。
ティンは歯噛みしながら、狙いを定める『小の字』と睨み合う。
その時突然『小の字』の身体がブレた。何かがぶつかった?
続いて『小の字』に命中した何かから伸びる紐がグルグル巻き付いてゆく。
これはヤマメの支給品!生きているのか!
ティンは脚に注射針を刺しながら、視界の端でボーラの飛んできた先を見やった。
311
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:50:12
そこに居たのは……やはりヤマメ!だがその変わり果てた姿は何だ!?
彼女は放射状に伸びる6本の細長い肢で身体を支えている。投擲のために振り抜いた右腕も同様の肢だ。
そして、臍から下には6本肢の付け根、
その後ろにつながった大きな卵のような胴体……あれではまるで本物の蜘蛛だ。
人間らしい姿が残っているのは……頭、臍から上の『人間の』胴体、そして左腕……
左手に握り締めているのは、予備の注射器か!
「ティン!まだ生きてる!?」
話は後だ、まずは目の前の奴を!
ティンに投与された大量の『薬剤』が効力を発揮しだした。
背中からスーツを突き破って翅が伸び、皮膚が黒く変色する。
ティンのDNAに組み込まれたサバクトビバッタの、群生相の形質が発現しているのだ。
だが太古の昔より恐れられた害虫・サバクトビバッタ……その群生相の、最も顕著な特徴は外見ではない。
それは……動物も植物も、進む先にある生物は全て喰らい尽くす獰猛さである!
「こんな所で、死ねるかァァ!」
『小の字』が巻き付いた紐を振りほどく一瞬の隙に、ティンは猛然と突撃。
暴力的な笑みを浮かべながら、一気呵成のラッシュを仕掛ける。
が、鎧の硬度とテラフォーマーズの頑強な肉体に阻まれ、殆どダメージは通らない。
しかし、『小の字』の身体はその勢いに後ずさりし、浮き上がり……遂には吹き飛ばされる!
吹き飛ばされた先には、ヤマメ!
……の眼前に張られた、蜘蛛の網!
網を振り払おうと、『小の字』がもがくが……
「罠符『キャプチャーウェブ』&スパイダーストリングス!」
ヤマメの両腕から放たれる糸が追い討ちをかける!
『小の字』の身体を繭のように縛り上げたヤマメは、そのまま……
「ふっ……!ぬうぅぅりゃあああああ!!」
そのまま『小の字』を無理矢理地面から引き剥がし、体ごと振り回し始めた!
徐々にその回転半径と速度は増し、部屋に唸るような風切り音が響く!
いわゆるジャイアント・スイング、いや、ハンマー投げの体勢!
仕掛けられる方の身体は回転方向を向いているため、何かが当たったら頭から全体重ごとぶつかる!
その体勢を見て……ティンが閃く!
「ヤマメ!そのままぶん回せ!」
「…!わかった!」
ティンは回転するヤマメを尻目に壁に跳躍!
三角跳びの反動と翅の羽ばたきで加速を付け、さらに身体の捻りを加えた……渾身の蹴りを放った!
「じょ、じょう…!「うぅぅうおおおお!らあああああああ!!」
本家もかくやという威力で放たれたティンの飛び蹴りは、円運動する『小の字』に絶妙なタイミングで激突!
その瞬間、『小の字』の顔に明らかな恐怖の表情が浮かんだ!
ティンの穿孔キックが黒くヌラヌラ光る頭部をバリバリと頭の先から粉砕!
さらに黒い破片と白い液体、そして、何だかよくわからない肉片を大量にブチ撒き散らしながら、
ティンの右脚がドリルのように『小の字』の首に滅りこんでゆく!
そしてティンの蹴りは遂に『小の字』の身体を縦に貫通し
後には正中線を抉られたテラフォーマーズの身体だけが残った。
緩んだ蜘蛛糸の繭の中で『小の字』の四肢がまだビクビク動いているが
それらに司令を送る神経はもう残っていない。もう戦うことは出来ないだろう。
312
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:51:06
「やれやれ、この油虫まだ動いてるわ」
ヤマメが6本の肢でティンに歩み寄る。
ティンは『小の字』の身体を突き破り、蹴り足を伸ばした体勢のまま地面に不時着していた。
「ヤマメ……その体は」
「アンタ達みたいなバグズ手術の被験者、とかいうのを虫の身体に近づける薬だっけ?
あたしもこう見えて一応蟲の妖怪だからね、一か八か、最期の賭けに使ってみたのよ」
「だが、アンタみたいな姿の変異は見たことがない」
「足りない身体の部品を補おうとした結果……一種の生存本能ってやつが働いたのかもね」
(それに、あそこであたしが諦めて何もせずに死んだら……あの蜜蜂に申し訳が立たないもの)
受け流されたティンの飛び蹴りをマトモに受け、絶命しかけたヤマメはあの時の事……
このバトル・ロワイアルに参加させられて間もない時にあった事を思い出していた。
その時ヤマメは休憩の為に腰を下ろそうとして、お尻を蜜蜂に刺されたのだった。
痛さのあまり跳び上がってお尻の下を見た時、
腸がちぎれて死んだ蜜蜂の他に、カブト虫が何かを運んで逃げていくのが見えた。
……あの蜜蜂は同族でもない仲間を守るために闘って死んだというのか?
それとも、カブト虫が運ぶ物体がそれほど重要だったのか?
今となってはその真意は知れない。
……だが、今重要なのはその内容ではなく、ヤマメが蜂に刺されるという、
何でもない一幕を思い出すに至った経緯。
その時ヤマメを刺した針は一旦抜き取られたが
スカートの布地の中に残っていた。
飛び蹴りを受けて壁に叩きつけられたヤマメがズリ落ちた時、その針が偶然刺さったのだ。
その時の針の痛み。注射針という発想。
そして……その時確かに聞こえたあの若い蜜蜂の
(諦めるな、アホー!!)
という檄。
あまりに荒唐無稽で人に話す気も起きないが、現在ヤマメがこうして生きているのは
あの一寸にも満たぬ蜜蜂の……魂のおかげであると実感していた。
313
:
名無しロワイアル
:2013/02/03(日) 22:55:37
「ってアンタ、それ……大丈夫なの?」
のんきに回想している場合ではない。
ティンのダメージが深刻だ。全身に切り傷・打撲を負っている。
特に『正拳突き』を受けた腹部のダメージは深刻だ。恐らく内蔵もただでは済んでいない。
だが最も致命的なのは……ティンの頭の輪郭を覆っていたキチン質の外骨格が
顔を侵食するかのように広がりだしていたことだ。
「やっぱり、こうなっちまったか……」
ティン他、虫の能力を組み込まれたバグズ手術の被験者は通常時、
手術の効果で相容れないはずのヒトと虫の肉体を共存させている。
だが、注射の効果で肉体が虫に近づいた状態が長く続きすぎると
ヒトの免疫機構の働きでショック症状を起こし、死に至る。
テラフォーマーたちや『小の字』との闘いで薬を使いすぎたことに加え、
肝臓および腎臓の一部を『小の字』の『正拳突き』で破壊されて
注射の成分を分解できなくなっていたティンの肉体のバランスは、歯止めなく虫に傾き続けていた。
「すまない……俺はもう戦えない。上には……お前一人で行け……
あの姫サンとユピーを、助けてやってくれ……
俺は、もう死んだことになってる人間だ……生きて帰っても
居場所がない……大事なヒトも……皆死んじまった……
俺には、もう何も無いんだ……
こんな所に連れて来られたけど……
アンタや、本郷さんみてえな奴らと出会えたのは、幸運だった……
……ヤマメ、お前は、生きて還るんだ……!」
ティンの呼吸が浅く、不規則になりだした。重度の免疫性ショックの症状だ。
ティンの頭部は、もう殆どバッタそのものになりつつあった。
複眼の中心の瞳と顔の傷に、わずかにヒトの面影を残すのみである。
そのままティンは天を仰ぎ、意識を失った。
ティンの『遺言』を聞いたヤマメ。……無性に腹が立った。
314
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 22:57:01
「諦めてんじゃないわよ、バカ!」
ティンの頬を左手で張り倒す。死なせてたまるか。
ヤマメはまず2個の核鉄を取り出し、祈るように、
それこそ願掛けの賽銭を投入するようにティンの胴体の傷口に押し込んだ。
パピヨンから聞いた話によれば、この金属塊は武器になるだけでなく、傷を癒す力もあるらしい。
何でも、潰された心臓の代わりとして機能した例もあるとか。
これを損傷したティンの臓器の代わりにする。
先ほどの戦闘でバルキリー・スカート、アンシャッター・ブラザーフッドは両方とも破損したため、
核鉄に戻った後もひび割れてしまっている。どこまでその効果を発揮してくれるかはわからない。
が……ビキビキとティンの身体が虫に変化していく音は止んだ……気がする。
それでも症状はまだ予断を許さない。
脈が不安定で、呼吸もか細い。虫の息だ。
胸の中心を押さえつけて心臓を無理矢理動かし、口移しで息を吹き込む。
周囲が妖怪だらけの中で生きてきたヤマメ。妖怪に蘇生処置が必要な状況などまず無いのに、
正しい方法など知るはずもないが、風の噂で聞いた方法をがむしゃらに試した。
何回かそれを繰り返した所で、ヤマメは気付いた。
ティンの身体が異常に冷たい。氷のよう……まるで凍死寸前だ。
ヤマメは意を決し
「瘴気『原因不明の熱病』……!お願い、効いて……!」
何と、熱病をもたらす病原体を少しづつティンに送り出した。
冷えた身体は熱病で温めればいいという、至極単純な発想。
消耗しきったティンの身体に、更に病原体を送り込むのが危険なのは百も承知。
だが、虫の様に、冷血動物のように冷えきったティンの身体に触れていると
何とかして温めなければならないと、ヤマメはそう感じた。
「『俺には、もう何も無い』なんて、そんな寂しいこと言わないでよ……!
あたしと子供を置いて逝くなんて、そんな冷たいこと言わないでよ……!」
顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、うろ覚えの蘇生行為を必死に続けるヤマメ。
その祈りは……その時、確かに、神に通じたのだった。
「今、何て言った……!?子供って……!」
「テ゛ィ゛ン゛〜〜〜〜〜〜!!」
ティンは遂に息を吹き返した。
だが、『子供』とは……!?
ようやく落ち着いたヤマメに、ティンは『子供』の意味を尋ねた。
ヤマメのデイパックから出てきたのは、プラスチックの直方体……昆虫飼育に使うケースだ。
その中には、糸に厳重に包まれ、さらに王蟲の漿液に浸された、野球ボール大の金色の玉が入っていた。
玉の中で何かの影が……動いたぞ!?
「あ、今ちょっと動いたよ!」
「まさか、子供ってこれの事か……!?」
「うん。あたしが3時間ほど前に産んだの」
「誰との子だ……?」
「しらばっくれないでよ。あの時アンタ、確かに『中』で出したでしょ……責任、取ってよね?」
ティンは再び意識を失った。
315
:
虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 23:02:36
【黒谷ヤマメ@東方project】
[状態]:疲労(大)、妖力消費(大)
臍から下の下半身と、右腕がクモの姿
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:
体:ヤマメの服(破れています)@東方project
右手:ボーラ@パワポケ12秘密結社編
左手:メタルキングの剣@ドラクエ7(『小の字』より回収)、スパイダーブレスレット@スパイダーマン
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:女王蟻の肉団子@HUNTER×HUNTER(残り30%)、カイコガの幼虫@テラフォーマーズ(完食)
、タランチュラの素揚げ@現実(残り100%))、
メタルキングの盾@ドラクエ7(『小の字』より回収)、昆虫飼育ケース@現実、半妖の卵@オリジナル(現地調達)
アタッチメントアーム(破損)@仮面ライダーSPIRITS
[思考・状況]
基本:ティンと共に、生きて会場から脱出する。
1:『卵』を無事に持ち帰る。
2:先行した姫、ユピーと合流する。
3:自分が生還できない場合は、信用できる者の元に『卵』を託す。
【ティン@テラフォーマーズ】
[状態]:疲労(大)、全身の所々に切り傷と打撲(応急処置済み)
顔がサバクトビバッタの姿に変異
肝臓と腎臓の一部を損傷。ひび割れた核鉄@武装錬金×2により応急処置済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
腐海の菌類のカプセル除去済み
[装備]:
体:SPIRITSのコンバットスーツ@仮面ライダーSPIRITS
右手:メタルキングよろいの篭手部分@ドラゴンクエスト7(『小の字』より回収)
左手:メタルキングよろいの篭手部分@ドラゴンクエスト7(『小の字』より回収)
両足:クイックシルバー@ロマサガ2
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:毛ガニ@現実(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))、バグズ手術能力発現薬@テラフォーマーズ×6、
マグマ火炎砲@地球防衛軍2(弾切れ)
[思考・状況]
基本:仲間を守り、生きて会場を脱出する。
1:気絶中
2:セキニン、だと……?!
3:すまん、プロイ……。
大広間の片隅で、壁から顔を突き出したまま、沈黙していた王蟲。
彼女はまだ、死んでいなかった。……生きているとも言いがたい状態だが。
生死の境をさまよう彼女の声なき祈りが彼らを救ったことを、二人はまだ知る由もなかった。
【王蟲@風の谷のナウシカ】
[状態]:瀕死
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:ムシゴヤシの子実体@風の谷のナウシカ(完食))
[思考・状況]
基本:一人でも多くの参加者の生還。
1:……………………。
316
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/02/03(日) 23:03:10
以上で投下を終了します。
317
:
名無しロワイアル
:2013/02/07(木) 00:26:28
人が居るか心配になってきたので…
勝手ながら、参加者を集計してみました。
◆Wue.BM1z3Y氏
DQFFロワイアルS XIII 完結
>>17
から3話連続
◆eVB8arcato氏
まったくやる気がございませんロワイアル
テンプレ、298話
>>33
◆nucQuP5m3Y氏
リ・サンデーロワ
テンプレ
>>44
298話
>>59
299話
>>122
◆6XQgLQ9rNg氏
それはきっと、いつか『想い出』になるロワ 完結
テンプレ、298話
>>46
299話
>>97
300話
>>174
◆9DPBcJuJ5Q氏
剣士ロワ
テンプレ
>>66
298話
>>137
299話
>>212
◆MobiusZmZg氏
素晴らしき小さなバトルロワイアル
テンプレ、288話
>>68
289話・序幕
>>161
289話・第一章
>>276
◆c92qFeyVpE氏
絶望汚染ロワ
テンプレ、288話
>>84
◆YOtBuxuP4U氏
第297話までは『なかったこと』になりました(めだかボックスロワ)
テンプレ、298話
>>149
299話
>>192
◆rjzjCkbSOc氏
謎ロワ
テンプレ
>>201
298話
>>234
299話
>>255
◆9n1Os0Si9I氏
やきうロワ
テンプレ、288話
>>206
◆tSD.e54zss氏
ニンジャスレイヤーロワ
テンプレ、288話
>>244
◆uPLvM1/uq6氏
変態ロワ
テンプレ
>>264
◆xo3yisTuUY氏
日常の境界ロワ
テンプレ、298話
>>265
◆XksB4AwhxU氏
虫ロワ
テンプレ
>>67
98話
>>302
318
:
名無しロワイアル
:2013/02/08(金) 00:27:37
>>317
乙です!
虫ロワは……その……最後の爆弾発言で全部吹っ飛んじまって感想がうまく纏まらないよw
319
:
FLASHの人
:2013/02/10(日) 01:49:35
>>317
まとめお疲れ様です!
素晴らしくわかりやすい!
立案者ながらなかなか顔を出せず申し訳ありません!読んでます!
まとめサイトとか諸々に手をつけないといけないのですが、ちょっと立て込んでまして
もう少ししたら始められると思います
完結済みの方はしばしお待ちを、俺を含め進行中の人は多くてもあと2話です、頑張りましょう!
320
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/02/20(水) 22:39:28
誰もいない……ちょっとネタを振ってみよう
アイム・ライアード「剣士ロワ最終話の完成度は63%と言った所です。
そして最終決戦はソードマスター形式で終わります」
取り敢えず、今月中には間に合いそうです。
321
:
名無しロワイアル
:2013/02/20(水) 22:59:01
>>320
「私は嘘つきです」さんに言われても……w
一行目だけは信用して良いですか?
322
:
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:48:23
なんとか創作意欲が復活したので、投下します。289話・290話をまとめて投下します!
323
:
やきうロワ・289話
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:48:52
ビルに入った日ハム小笠原はまず、人を探すことを先決とした。
この運営本部の奴らがいる場所ならばきっと誰かいるだろうと踏んだのだ。
だが、誰も見つかる気配がない。
「クッ……誰かいないのか」
ここ以外はもう禁止エリアとなる、というのは放送で聞いた。
だからこの場に既に人が集まっていてもおかしくはないはずだ。
嫌な汗が顔を伝って地面に落ちる。
もしかすると、もう生存者が6人ではなくなってしまったのだろうか。
殺し合いに乗っている人間が、すでにこのビルで誰かを殺して回っているのではないのか。
「――――ッ、なんだこれは!」
適当に探索をしていると、衝撃の濃い系が目の前に広がった。
目の前に、新井さん(なぜか阪神ユニ)の死体が転がっていた。
手には、放すものかと金本さんのグッズが持たれている。
「ひ、ひどい……誰が、こんな」
「フハハハ! どこかで見た顔だと思えば、小笠原さんじゃないですか!」
「ッ――――!」
後ろを振り向くと、日ハムのユニを着た青年が立っていた。
その顔には見覚えがあった。
印象がだいぶ違うが、ハンカチ王子と騒がれた斉藤祐樹に見える。
「小笠原さん、どうですか! 僕は最強なんですよ!!」
「まさか、新井さんは……」
「そうですよ! 僕が殺したんです、最強のボクに勝てるはずがありませんからね!!」
もはや、話が通じないような状態だ。
一体何が彼をここまで駆り立てられるのだろうか。
「フハハハ! 小笠原さん、かつて最強と言われたあなたを殺して、僕が真の最強となりますよ!」
「――――仕方ない、こうなったなら、俺も容赦はしない」
斉藤はナイフで小笠原を狙う。
対して、日ハム小笠原はバットを構えた。
その小笠原の姿はまるで、侍のようであった。
そして、渾身のフルスイングを放った。
すさまじい風が小笠原と斉藤の間に発生する。
斉藤はその風に負け、吹き飛ばされる。
壁に激突し、斉藤は動かなくなった。
「――――殺しはしたくない、でも……このまま彼を放置するわけにもいかない」
斉藤を身動きできない状態にしておこうと彼に近づく。
だがその瞬間――――。
グチャ、という鈍い音が耳に入ってきた。
324
:
やきうロワ・289話
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:49:09
「ッ――――!?」
「"最強"じゃないじゃないですか、こんなもので良く言えましたね。
所詮ピエロはピエロなんですよ」
「お前……なぜ、何故そいつを殺した!」
「プロの僕にとって信用できるのはプロだけだからですよ。
こいつはプロなんかじゃない、粋がってるだけのアマ同然だ。
どこかのチームの誰かさんたちと同じでね」
「なん……だとっ……!?」
実力がないから人を殺す……?
何をふざけたことを言っているのだ。
日ハム小笠原の目に怒りの炎がともる。
「ふざけるな……! 君は、人を殺して何も思わないのか……!!」
「そうですね、殺しすぎて申し訳ないですね」
「……ふざけるなよ、貴様」
「おやおやいいんですかね、正義の味方気取ってたのに僕を殺しちゃって……。
まぁ僕は今回も殺しただけですけどね(笑)」
「ふ、ざけるなああああああああああ!!」
小笠原の目には怒りしかなかった。
そして再びバットを構える。
しかし、先ほどの斉藤の時の構えより微かに鋭い何かが見える。
この畜生を生かしてはおけないと、小笠原の心が彼自身の構えを変えているのか。
「ッ、ああああああああああああああああああああああ!!」
そして、渾身のフルスイングを繰り出す。
だが内川は動じずにそれによる衝撃波をよける。
顔からは畜生さと余裕が伺えた。
「そんな萎びたようなスイングで僕が倒せるとでも思ってるのか?」
「クッ……」
「では、僕も本気を出させてもらいますよ」
そういいチックがデイバックからあるものを取り出した。
畜生バット――――チックバットとも呼ばれている彼の愛用バットだ。
主催陣営の一人である今江がある場所に隠したのをチックが見つけたのである。
「な……それは、規定違反ではないのか!?」
「規定じゃないぞ、だってNPBに公式に認められたんだからな(チックスマイル
それじゃあ死んでもらおう……あと6人のうち何人残ってるかは知らないがな。
横浜の犬6人と中日の岩瀬も合わせてこれで8人目だ、報酬だって余裕でもらえる」
内川はバットを構える。
ここまでか――――幾千もの戦いを切り抜けた侍も覚悟を決めた。
「うわああああああああああああああああああああああああ!!」 パンッ、パンッ、パンッ
叫び声や乾いた音を聞き目を開ける、すると視界にいたはずの内川がいなくなっていた。
いや、正確に言えば内川は目の前にいた。
頭や腹などから大量の赤い液体を流し、横たわった状態で。
325
:
やきうロワ・289話
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:49:25
「お前が……お前が岩瀬さんを……!!」
声がしたほうを見ると、銃を構えた血濡れの男がいた。
とても悲しそうな顔をしているのがガッツからもわかった。
岩瀬を心の底から尊敬している彼からすれば、怒るのは当然であろう。
「君は……」
「中日の、浅尾です……」
中日に浅尾という選手がいた覚えは小笠原にはない。
彼は、自分にとっての空白の時間の間にプロ入りした選手なのだろう。
「浅尾君、その血は……」
「僕は、もう許されないことをしました。 岩瀬さんや仲間のみんなが死んで……耐えきれなかったんだ……!」
「浅尾……君」
「でも、岩瀬さんを殺したと聞いて……僕は、許せなかったんです」
「わかってる……それに、内川君は許せないことをしたんだ。 許されることではないが、君のおかげで僕は助かった。 ありがとう」
そういうと浅尾君は窓の外を見た。
わずかに、拳銃を持った手が震えているのが見える。
今の彼は、悲しみやら苦しみの感情が混ざった状態なのだろう。
自分にはどうしようもない、彼自身の問題なのだと小笠原は思った。
「――――――――」
浅尾君が、何かを言った。
小笠原は最初何を言ったのか聞き取れなかった。
何を言ったのか聞こうとした――――
パァン
その瞬間、乾いた音が再び耳を刺激した。
【斉藤@日ハム 死亡】
【内川@ソフトバンク 死亡】
【残り2名】
326
:
やきうロワ・290話
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:49:50
気が付けば、暗い部屋にいた。
あの瞬間、何があったのか――――いまだ理解できない。
「起きろよ」
その声とともに、部屋に明かりが灯る。
そこは最初に集められた場所だった。
100人のNPB所属選手で殺し合いをしろと言われた場所。
彼――――小笠原にとっては困惑させられた場所だった。
2012年という、自分がいた2006年から数年過ぎた世界。
それが知らされた場所であった。
いつの間にか自分は戻ってきていた。
「お前は……主催の」
「そうだぞ、お前は最後の一人になった……それだけだ」
「ッ――――それじゃあ皆は」
「死んだぞ」
「……クッ」
残酷なことを、平気な顔して言いやがる。
コイツはどういう神経をしているのだ。
「お前らはなぜ、こんな殺し合いをしたんだ……理由を教えてくれ」
「ただのNPBの無能どもの余興だぞ」
「余興……?」
「殺し合いをして生き残った人間が本当にスターになれると勘違いしてるんだよ」
「なん……だと……?」
殺し合いをして生き残ればスター選手になる?
そんなふざけたことがあり得るはずがない。
選手が減ればそれだけファンはいなくなってしまうはずだ。
「まぁ、お前はこれで解放される……特別にお前は日本ハムに戻れるようにしてやる、感謝しろよ」
「――――お前に言っておいてやる」
「?」
「俺が、プロ野球を再び活気づけてやる……死んだみんなの分も」
「不可能に決まってるだろ」
主催の男はばっさりと切り捨てる。
だが、俺は本気で言っている。
この殺し合いで死んだ人の分もプロ野球を盛り上げる。
自分ができるのは、これぐらいだ。
こんな殺し合いをしたNPBの思惑通りに動くのは癪に触る。
だが、この殺し合いでプロ野球界は大きな打撃を受けるだろう。
327
:
やきうロワ・290話
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:50:14
「いや、不可能じゃない……俺が、プロ野球界のスターとして活躍すれば、きっと見てくれる人は増えるはずだ」
「――――好きにしろ、俺は知らないぞ」
そこで、意識が薄らいできた。
このまま眠ってしまえばどうなるのだろうか。
少なくとも……自分が死ぬというのがないことを願いたい。
だって自分は……プロ野球を、再び盛り上げなくては……なら、な……。
【生還者 小笠原@日ハム】
■ 数か月後 ■
『さぁ、やってきました……2013年日本シリーズ! 日本ハムVS阪神第4回戦です。
阪神甲子園球場は割れんばかりの歓声です! 最終回、1-2で阪神が1点リードしています。
抑えの久保康友、ランナーを2塁に背負ってバッターは今年日本ハムに年俸1500万という激安な遺跡をしたこの人! 小笠原選手!
今シーズンは三冠王を獲得し、チームをリーグ優勝に導きました!
先発のほとんどや主軸を失いながらも優勝できたのはこの人のおかげでしょう!』
俺は、阪神甲子園球場に立っていた。
観客は満員だった。
最初のうちは観客はほとんどいない、そんな状態になっていた。
だが、残った選手の努力により、ここまでこれた。
「さぁ……いくぞ!」
プロ野球ファンは、小笠原のことをこう言った。
『復活した侍』――――彼は本当のヒーローとなったのだ。
■ ■
328
:
やきうロワ・290話
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:50:48
「では、スポーツの時間です。 本日、日本シリーズの勝者が決定しました!
北海道日本ハムファイターズのみなさん、おめでとうございます!
それではこれまでの試合の結果をご覧いただきましょう」
阪神 ― 日ハム
1戦目 0 ― 10
2戦目 1 ― 8
3戦目 0 ― 12
4戦目 2 ― 3
合計 3 ― 34
【やきうロワ ち〜ん(笑)】
329
:
◆9n1Os0Si9I
:2013/02/23(土) 21:52:32
最後のがやりたかっただけとは言えないですが、投下終了です。
本当は普通のロワをやろうと思ってたけれど創作意欲がそっちに向いてくれないのです。
一応少しは書いてあるので2月末に完結できるまで書きあがった場合には投下するかもしれません。
330
:
名無しロワイアル
:2013/02/23(土) 23:04:26
>>328
なんでや!w
331
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:16:59
>>315
話に続き、
虫ロワの第99話、投下を開始します。
332
:
虫ロワ第99話
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:18:46
どうして、こうなった……。
うっすらと覚醒してきた意識で、ティンはあてのない思索にふけっていた。
どうしてこうなった……といっても、事の因果関係について、弁解はしないし、できるわけもない。
…ちょうど12時間前、リアルクィーンというシロアリをどうにか撃破した後のことだ。
あのシロアリには死に際に自分を殺した者の身体にこっそりと卵を産み付ける習性がある……
という情報を得ていた俺とヤマメは、戦闘後に身体の隅々までボディチェックを行う必要に迫られた。
そう……身体の隅々までだ。衣服や、下着の中もだ。
鏡などが手持ちになかったので、背中などのチェックは他者に任せる必要があった。
若い男女(ヤマメの年齢は知らないが)が、全裸で身体の隅々を互いにチェックし合ったのだ。
……その後ナニがあって『こうなった』かは、容易に想像のできる所であると思う。
だが、一つだけ弁明させて欲しい。……誘ってきた、というか、押し倒してきたのは向こうからだ。
……まさかヤマメまで卵生だったとは、その時思っても見なかったことだが。
「ん、目ぇ覚めた?」
ティンがため息をつくと、当のヤマメの声が聞こえてきた。頭の後ろからだ。
目を開くと、まだらに光る土の天井がゆっくりと流れている。
脚はスベスベとした丸くて大きな物体の上に乗っている。
腰からは6本の肢がトコトコと小刻みに歩く振動が伝わってくる。
背中が小さな肩に支えられている。
どうやらヤマメはティンを担いでアリ塚を登ってくれているらしい。
「生き返ったと思ったらまた急に気絶するんだもん。大丈夫?立てる?」
「何とか、な……」
腿と背中を固定していた蜘蛛の糸をペリペリ引き剥がし、ヤマメの背中から降りるティン。
自らの身体の異変に気付いた。頭が妙に重い。手で頭に触れてみると……。
硬い……のに、体温と感覚が直に伝わる。これは俺の皮膚なのか?
まさか……!両手で頭を撫で回し、輪郭を確認する。
「……!俺の頭!戻ってない?!」
「アンタ完全にバッタ頭になって死にかけてたのよ?
核鉄とやらをアンタの身体の中に押し込んだり、大変だったんだからね?」
333
:
虫ロワ第99話
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:21:25
腹をさすると、縫い合わされた跡があった。
ゴツゴツした塊が入っているようだが、不思議と異物感は感じない。
そして、全身をを動かしてみて気付いたのだが……
腹部以外のキズも、糸でくまなく縫合されていた。
「お前が手当してくれたのか……すまんな」
「人間のキズをそうやって手当したのは初めてだったんだけど、痒くなったりとかしてない?
流石にその頭は……どうしようもなかったけど。でもね、アタシその顔も結構好きだよ?
……美味しそうで」
「ソデで口元を拭いながら言ったら、シャレにならんぞ……」
「シャレで言ったつもりじゃないからね。
まあ、帰ったら腕の良い医者紹介してあげるから、それまでは我慢しな」
「帰るって、アンタの居た所にか?」
「言ったでしょ。責任取れって。それとも何?
あんたアタシを『後家蜘蛛の黒谷ヤモメ』にする気?」
「う……」
幼少の頃に幼馴染のプロイと別れ、故郷を捨ててストリート・チルドレンとなってまで彼女を探し続けたティン。
残される者の苦しみは身にしみて知っている。
その場の勢いとはいえ子供まで設けてしまったヤマメの言葉を
無碍にはねつけることなど、彼には到底できない。
再開の目を見ないまま、風の噂で病死したと聞いた幼馴染に、心の中で許しを乞うた。
(プロイ、すまない……やっと出来た友も、皆死んじまった……これ以上孤独になるのは
もう耐えられそうにない……だから……良いだろう?)
その時ティンの視界がかすみ、身体が大きく傾いた。
異変を察知したヤマメが叫ぶ。
「ティン!?」
第99話「コドク」
334
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:23:21
「まったく、脅かさないでよね……」
ティンは、極度の空腹で貧血状態に陥っていた。
テラフォーマーズとの闘いでエネルギーを使い過ぎたのか。
こんな状態では点々と続いているユピーのヒヅメをたどった先で起こるであろう戦闘にも支障が出かねない。
何か食べないと……デイパックを探ってみたが、だめだ、もう何も無い。
「なあ、ヤマメ。何か食べ物無いか?」
「ごめん……あたしも、自分のは全部食べちゃった」
「そうか……」
(あの『肉団子』は絶対に出せないし……ていうか、もう全部食べちゃったし……)
「今、何か言ったか?」
「い、いやっ、何も?」
「なら仕方ないな……」
仕方ない、我慢するか。
空腹のあまりゴキブリを生で食べた時に比べれば、この程度何ともない。
……とは言ってはみたものの、やっぱり減るものは減る。
胃袋がキリキリ痛むほどの空腹で、腹の虫が大音量で鳴り響いた。
それを見かねたヤマメが、
「こんなのでよかったら、あるけど…」
紙袋をおずおずと差し出すと、ティンはその中の揚げ物に夢中でかぶりついた。
うまい。
肢のカリカリとした食感に、プリプリした身の詰まった胴体が絶妙にマッチする。
塩コショウの加減も申し分ない。
やめられない、止まらない、とはこの事を言うのか。
あっという間の勢いで紙袋の中の『ソレ』を完食してしまった。
こんなに美味いものを出してくれた彼女に礼を言わなければ。
ティンは満面の笑み(の、つもり)でヤマメの方を向き、こう言った。
「サンキューな、ヤマメ。美味かったぜ。『タランチュラの素揚げ』」
335
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:24:10
彼の目の前には、今しがた平らげた生物と同じ身体を持った少女が居た。
(しまった……!)
だがヤマメは
「やだ……野性的……」
とつぶやき、そのまま顔を赤らめてうつむいてしまった。
なぜそんな恥じらうような反応をするのか?
どうやら気分を害してしまった訳ではないらしいが……
……ヨウカイとやらの考えることは、時々よく分からない。
彼女はつい先程まではヒトと変わりない姿をしていたはずなのだが……。
それにしても、乾き物を食べたせいか今度は喉が渇いた。
ティンは、既に支給された水を飲み干してしまっていた。
ヤマメに飲み物が無いか尋ねてみることにする。
彼女から微かにミルクのような匂いが漂ってきているのには気付いている。
牛乳か何かを支給されているのだろう。豆乳だったらなお有難いのだが。
「飲み物?水ならまだあるけど?」
「……何だか乳臭くないか?」
「牛乳なんて持ってないよ、あたし。……でも本当だ。乳臭い」
すると何かに気付いたヤマメはおもむろに黒い上着の襟を引っ張り、服の中、胸元を覗きこんだ。
「……!!さっきからどうも胸が張って変な感じがしてたんだけど……
……お乳出てる……」
その時、二人に……
……いや、アリ塚全体に地響きのような衝撃が走り
……直後、腹の底に沁み入るような、不吉な音色の重低音が響き渡った。
336
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:25:05
【黒谷ヤマメ@東方project】
[状態]:疲労(大)、妖力消費(大)
臍から下の下半身と、右腕がクモの姿、母乳が出始めた
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:
体:ヤマメの服(腰から下の部分が破れています)@東方project
右手:ボーラ@パワポケ12秘密結社編
左手:メタルキングの剣@ドラクエ7(『小の字』より回収)、スパイダーブレスレット@スパイダーマン
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:女王蟻の肉団子@HUNTER×HUNTER(完食)、カイコガの幼虫@テラフォーマーズ(完食)、
タランチュラの素揚げ@現実(完食))、
メタルキングの盾@ドラクエ7(『小の字』より回収)、昆虫飼育ケース@現実、半妖の卵@オリジナル(現地調達)
アタッチメントアーム(破損)@仮面ライダーSPIRITS
[思考・状況]
基本:ティンと共に、生きて会場から脱出する。
1:『半妖の卵』を無事に持ち帰る。
2:ユピーの残した足跡を辿り、先行した姫&ユピーと合流する。
3:上の方で戦闘が?
4:自分が生還できない場合は、信用できる者の元に『半妖の卵』を託す。
※女王蟻の肉団子@HUNTER×HUNTER、タランチュラの素揚げ@現実を消費しきりました。
【ティン@テラフォーマーズ】
[状態]:疲労(大)、全身の所々に切り傷と打撲(ヤマメの糸で応急処置済み)
顔がサバクトビバッタの姿に変異
肝臓と腎臓の一部を損傷。ひび割れた核鉄@武装錬金×2により応急処置済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
腐海の菌類のカプセル除去済み
[装備]:
体:SPIRITSのコンバットスーツ@仮面ライダーSPIRITS
右手:メタルキングよろいの篭手部分@ドラゴンクエスト7(『小の字』より回収)
左手:メタルキングよろいの篭手部分@ドラゴンクエスト7(『小の字』より回収)
両足:クイックシルバー@ロマサガ2
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:毛ガニ@現実(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))、バグズ手術能力発現薬@テラフォーマーズ×6、
マグマ火炎砲@地球防衛軍2(弾切れ)
[思考・状況]
基本:仲間を守り、ヤマメと共に生きて会場を脱出する。
1:ユピーの残した足跡を辿り、先行した姫&ユピーと合流する。
2:上の階で戦闘が?
3:セキニン、取らなきゃな
4:プロイ、許してくれるか……?
5:ヤマメの言っていたその医者に掛かれば、このバッタ頭も治るのか?
337
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:25:37
ユピーに震えながら掴まる姫。
どれだけの高さを登っただろうか。
姫の生まれた時代にこのような高さの構造物は存在しなかった。
複雑なアリ塚の構造も相まって、すっかり距離の感覚が判らなくなっていた。
階を上がるにつれて薄くなる瘴気の香り、そして大きくなってくる何者かの心の声だけが道標であった。
だが、その時は来た。
……近い。この階段を登った先に、声の主がいる。
その時姫に生じた感情は、安堵であった。
これ以上、この怒りの塊の傍に居続けたらそれだけで精神が圧し潰されそうだった。
ユピーも階段の先の存在に気付いたらしく、
「『ゆぴい』よ、わらわを下ろしてたもれ」
と言いかける姫を乱暴に床に下ろし、マントを脱ぎ捨てて階段を駆け登っていった。
一応護身用の武器は持ってはいるが、戦いとなれば彼女は全くの役立たずである。
できることといえば、巻き添えを食わないように隠れているぐらいのこと。
ユピーの怒りのオーラを間近で感じ続けて消耗しきった姫は
やっとの思いで物陰に潜り込み、マントにくるまると……そのまま気を失ってしまった。
【虫愛づる姫君@堤中納言物語「虫愛づる姫君」】
[状態]:肉体疲労(小)、精神疲労(大)ユピーの溜め込んだ怒りに恐怖
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:レイピアGスラスト@地球防衛軍2
右腕:レヴィ=センス結晶の腕輪
体:青き衣@風の谷のナウシカ
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:王蟲の無精卵@風の谷のナウシカ(残り20%))
オーダイ@サバイビー
不明支給品数個
[思考・状況]
基本:主催者を打倒し、生還する。
1:気絶中
2:『オーダイ』を持ち帰る。
3:ユピーが怖い。
338
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:27:07
ユピーが階段を駆け登った先で見たのは、無数の小さな足音と羽音を発散する黒い霧……
部屋一杯に蠢く数えきれぬほどの蟲の群れだった。
同僚であったシャアウプフと同質の、体を細かく分散させる能力か?
頭に浮かんだ疑問はすぐに消えた。
何故なら……
左肩に蓄積されたこの怒りのオーラが、今まさに大爆発を起こし
この蟲を全て消滅させ尽くすからだ!!
「うおおおおおあああああ!!死ぃにィィさらせああああアアアアaaaa!!」
咆哮とともに怒りのオーラが体に広がり、急速に圧力を増してゆく!
ユピーの全身がムクムクと積乱雲の様にドス黒く膨れ上がり、そして!
膨大な力は遂にピークに達し、刹那、破滅的な一息となって全方位に叩きつけられた!!
周囲の空間ごと無理矢理に弾き飛ばすかのように放出されたそのオーラの衝撃波は、
信じ難いことに呪印の力により威力の制限された状態で放たれたものである……!
だが、アリ塚を破壊できない程度までに弱められたその衝撃波は壁面・天井・床を延々反響して回り、
部屋中を駆け巡り続け、却って閉鎖空間における殺傷力を倍加していた。
爆発の衝撃とその余波はアリ塚全体を、暗澹とした音色を生む楽器に変貌させた。
(殺った、か……?!)
339
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:27:50
アリ塚の音色が収まった後も濃密な砂埃が生じ、視界が利かない。
怒りを放出し、醒めた頭でしばし様子を伺うユピーの予想は、砂塵の奥から聞こえてくる声で覆された。
「素晴らしい攻撃だった。
呪印で力を制限されているその状態で、防御の体勢を取ったこの私の体を5%も吹き飛ばすとはな。」
若い女の声。
だが、埃の中から浮かんでくる姿は……それとは似ても似つかない
ユピーの頭頂高の約2倍にもおよぶ巨大な球体であった。
よく見ればその表面には、蟲達が蠢いている。
このバトルロワイアルの主催者であり、参加者でもあるこの女……
シアン・シンジョーネの正体は、無数の蟲を依り代にしたアンデッド……レブナントなのであった。
彼女は、自身の肉体である蟲達を球状に密集させ、爆発のダメージを最小限に留めたのだ。
「その力、その怨念、正しく『魔王』の糧に相応しい。
貴様等キメラアントの王・メルエムの無念を晴らしたいと思うなら、ユピーよ。
その体と魂、これから喚ぶ『魔王』に捧げてはくれないか?」
目の前の蟲玉が何か言っている。ユピーにそれと言葉を交わす気はさらさらない。
だが、シアンの堅苦しくてそれでいて高慢な口調はどこか『王』に似ており
聞いているだけでユピーの怒りのオーラは再装填されていく。
次こそ殺す。再度の昇圧。再度の膨張。そして、再度の……!
球状の陣形を固め、再度シアンは防御の体勢に入った。
「聞く耳持たずか。だが、果たしてあと何発その攻撃を撃てるかな?」
340
:
虫ロワ第99話「コドク」
◆XksB4AwhxU
:2013/02/24(日) 00:28:38
シアンはユピーのオーラの消耗を見抜き、挑発する。
あと二、三発程度なら、この防御の陣形で十分に凌げる。
……が、再度の爆発、起きず。
膨張がピークに達しかけたユピーの体は急速にしぼみ、爆発の代わりに……
何百本もの触手が一斉に飛び出した。
それらは鞭のようにしなりながら球体と化したシアンに殺到する。
その一本一本が一流の戦士でさえ対処が困難な程の速度で迫る触手は、
瞬く間にシアンの身体にヒュンヒュンと絡みつき……
毛糸玉の様に、アリ一匹逃がす隙間も無く包みこんだ。
そして……
「うおらああああああああ!ブッッッ潰れろやああああああ!!」
ユピーは雄叫びと共に、毛糸玉から伸びる触手を有らん限りの力で引き絞り出した。
毛糸玉の表面が小刻みに震え出す。
ギリギリと自分の身体が軋み、所々から血が滲むのも、ユピーは意に介さない。
「うおおおおおおおおおおおお!」
ユピーは咆哮を上げながら、なおもシアンの身体を触手で締め上げる。
中からパキパキ、プチプチという破裂音が漏れ出す。
「ぬぅうううっ、がああああああああアアアアア!」
その叫びは、絶叫と表現した方が正しいか。
毛糸玉からどす黒い液体がジワジワと染み出しても、ユピーはまだ攻撃の手を緩めない。
「アアアアアアアア!オオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
ユピーの叫びは、いつしか慟哭へと変わっていた。その顔を汗と涙と鼻水と涎などが流れ落ちる。
毛糸玉からは何と湯気が上がり始めている。
急激な圧力の上昇・体積の減少により、内部の温度が上昇しているのだ。
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