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仮投下スレ

1偽ひろゆき★:2012/09/25(火) 02:28:45 ID:???0
仮投下スレです
ちょっと不安……とか冒険しました! なSSは一度ここに通しておくといいかもしれません。

182ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/02/07(木) 21:31:35 ID:No0j934Q0
仮投下乙です
特に問題はないかと思われます

183 ◆1WOpAbkgRc:2013/03/03(日) 01:53:58 ID:QUuUB0ls0
やる夫、チハ、畜生マッマ、グンマー仮投下します

184 ◆1WOpAbkgRc:2013/03/03(日) 01:54:40 ID:QUuUB0ls0
やきうのお兄ちゃんが起こした惨状を目の当たりにしたやる夫は、振り返ることもせずにひたすら逃げ続けていた。
しかし、元々疲弊していた身体についに限界が来てしまう。
やる夫は息を切らせながらその場に座り込んだ。

「おにゃのこはいないし、怖い人ばっかりだし、もう散々だお…」

何はともあれ、まずは疲れた身体を回復させるために水分を補給しようと思い直した。
数刻前にもしたように、デイバックからボトルを取り出す。
キャップを開け、口を付けたままボトルをひっくり返して中の水を一気飲みした。

          ,-‐-、
          | 天 |  ング
   ング     | 然 |
          | 水 |
      / ̄⌒)  (⌒ ̄\ング
    / ,. ^‐'_ヽ /__ー^ 、 \
  / // ̄ ` ⌒ ´ ̄\\ \
 (  </            \ノ   )
  \ \           / /
 ング \ \       / /
                   ング

そうしていると、やる夫の耳がある物音を捉えた。

「ム、ムガモゴ・・・?(ん、何だお・・・?)」

口に水を含みながらやる夫が音のするほうに目を向けると





一台の戦車がこちらに向かってきていた。



         ___
        /⌒  ⌒\         ━━┓┃┃
       /(  ̄)  (_)\         ┃   ━━━━━━━━
     /::::::⌒(__人__)⌒:::: \         ┃               ┃┃┃
    |    ゝ'゚     ≦ 三 ゚。 ゚                       ┛
    \   。≧       三 ==-
        -ァ,        ≧=- 。
          イレ,、       >三  。゚ ・ ゚
        ≦`Vヾ       ヾ ≧
        。゚ /。・イハ 、、    `ミ 。 ゚ 。


予想外の事態に思わず水を吹き出してしまうやる夫。

185 ◆1WOpAbkgRc:2013/03/03(日) 01:55:22 ID:QUuUB0ls0
「なな、なんだおアレ!?あんなもん反則だろうがお!!!
 おおおお落ち着け、そそそそ素数を数えて落ち着くんだおおおおお、1,3,5,7,9…」

やる夫が焦りを募らせている間にも、戦車はやる夫に近づいてきている。
とっさに逃げようとしたやる夫だが、足をつんのめらせてその場で転んでしまった。

(あばばばばばばばもう無理、オワタ、やる夫の冒険はここで終わってしまうんだお…)

やる夫は頭を抑え、震えながら死を覚悟した。



(あれ?参加者がいるよ。なんかすごく怯えてる…それに怪我もしてるみたいだ。たぶん殺し合いには乗ってないんじゃないかな)

道端に座り込んでいるやる夫を発見したチハはやる夫に近づいた。
次第に怯え始めたやる夫に何度か声をかけたが成果はなく、背を向けて丸くなっているやる夫の前でただ佇むしかなかった。

(うーんどうしよう…お姉さん、ちょっと出てきて代わりに対応してよ)



…………お姉さん?

チハの発した言葉にやる夫は反応する。
会話の内容から察するに目の前の戦車の乗員は二人以上、一人は声の感じからしておそらく少年だろうか。
そしてその声の主が残りのうち一人の乗員を「お姉さん」と呼んでいる。


つまり


戦車の中にいるのは


「お…お…お…」



゚ | ・  | .+o   ____* o。 |。|   *。 |
゚ |i    | +   /_ノ ' ヽ_\   | |!    |
o。!    |! ゚o /(≡)   (≡)\   | * ゚ |
  。*゚  l ・/::::::⌒(__人__)⌒:::::\ |o  ゚。・    
 *o゚ |! |     |r┬-|     |  + *|
| ・    o \      `ー'´     / *゚・ +||    
 |o   |・゚  >         |  *。*   |    
* ゚  l|  /           |    | +|
 |l + ゚o  /           | *゚・ ||  ・ |o
 o○ |   | 丶    ヽ  /  | *o|  *。
・| + ゚ o /| /     | /   |  O *。|
 O。 | ( ∪  / ̄\∪  ノ。* 。   |
 o+ |!* \  /     |  ノ   |  *o|
 |・   | ゚・  )ノ     \ | o○ |!


「おにゃのこおおおおおおおおおお!!!!!」

186 ◆1WOpAbkgRc:2013/03/03(日) 01:56:11 ID:QUuUB0ls0
やる夫の中から疲労も恐怖も何もかもが消し飛んだ。
「戦車の中でお姉さんとキャッキャウフフしたい」という思い一心で、
未だ丸出しの息子を滾らせながら戦車へと駆け出す。

その間に戦車のハッチが開き、中から乗員が姿を現した。





J( 'ー`)し



       ____
     /_ノ ' ヽ_\
   /(≡)   (≡)\
  //// (__人__) ///\
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /

       ____
     /_ノ  ヽ_\
   /(○)   (○)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /

       ____
     /-‐  ‐-\
   /(●)   (●) \
  /    (__人__)    \
  |      `ー '     |
  \              /


      / ̄ ̄ ̄\
    / ─    ─ \
   /  (●)  (●)  \
   |    (__人__)    |
   \    ` ⌒´    /
   /              \



「いやいくら死ぬ前にセクロスしたいとは言っても、羊水の腐ったBBAとなんてごめんだお。
 やる夫にだって選ぶ権利ぐらいあるお。ていうかマジ萎えたんだけどやべえどうしよう」

期待はずれの結果にやる夫のテンションは大幅ダウン。
頂点を向いていた息子も次第に地面へと頭を垂らし、平常時のように収縮し始めた。
今のやる夫の心情は、例えるなら自慰行為中にうっかり母親の顔を思い出してしまった際の物と同じだった。

(な、なんだろう…急に元気になったと思ったら、また静かになって何か言い出したけど…)
「あなた参加者でしょ?私達は殺し合いには乗ってないよ。あなた名前は?」

やる夫のテンションの高低の激しさにオロオロしている同行者を尻目に、
戦車の中から現れた中年の女性がやる夫に話しかける。
それにやる夫は表情も変えず冷徹に返した。

187 ◆1WOpAbkgRc:2013/03/03(日) 01:56:52 ID:QUuUB0ls0
「人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗るもんじゃないかお?
 そもそもやる夫にはBBAに名乗る名前なんてないお。
 教えてほしければ年頃のメスの一人や二人ぐらい連れてこいお。それじゃやる夫はこれで」





J( 'ー`)し



     ↓マッマ
     ,,,,, ,,,,,,_
   ,,;;;彡-ヽ;;;;;;;                      /ヽ_,-
  {;;彡;;;;;;;;;;-"`;}                  ヽー-'
  {彡< //、_,-'_ヽ       ↓やる夫      /
   >;/ ,---, l三|)      ,-、         ゝ~     が
  ヾ=、. '^"`.ヽ,. |/^ヾ-、__/'_ ヽ        <
   ,-ヽ.  _'=-'、/ こ\\/: :-/`-、     ノ     あ
. _,-ー/|::|ヽ、' ~./-,、__~ヽ 〉'|ヽ/: : : : : :\   \
': : : : ヽ|: ヽ `>< |.  `;;-///: : : : : : : : ヽ  ノ     あ
ヽ: : : : |: :/、 /ミミ/'|  ;;. |<: : : : : : : : : / \ `)
: :ヽ: : :'-/: .ヽ /,:ヽ.|  ; |、ヽ。。o-::/     ヽ<     あ
-、: :ヽ: :<: : ヽ/ヽ;>ヽ l .|_/-、:_/>----ー--、\ヽ_
~ー-::<: :ヽ: :/;/|/  〉  )-,、 ,_/    ̄ ̄`-、  ヽ, )>、 あ
: : : : : :|:/: :.>;;(/, , }`---' > / ,-、      \ \  ヽ
: : : : : : ): : :|ー( }ヽ.ヽ.ヽ-、_,/   /~          ヽ<./
: : ://`/~:~:~: :ヽ^>-' ;;ヽヽ:l:ヽ-'/           ヽ|


      __          __
     _l\ \―――― _'\_ `,,_
     `ヽ l´ ̄、、 `lヘ,rl´、,, _,,゙l‐'-/ヽ
    /ヽ、\ ヾll ,/゙ト 、`,,_ ‐'' _,,'ソ
     l  l;;ヽ、ヽ,,/\ l ` ‐ ̄ r_―_,、'l' \       それ以上いけない
    ヽ ' ,. 、,,!、,\ \、,,_ ll_(,ヽ、llノ ―' \
      ヾ,l |;l、、ヽ \ \,,_  ̄_ヽo_`_‐ ,,ヽ
      ヾ,'l |;l、、,,!、,\/,_ ` '' ‐.‐_‐:"l (( 、) i_',、
        ヾ,'l |;l、、ヽ、,\゙' ‐、'ー‐'"  ̄ `' 、 \
         ヾ,'l |;l 、、,,!、,ヽ、、\  _ 'O,_ \ ヽ
           ヾ,'l |;l、、,,ヾ‐ ` ''l        ̄ヽ ´=ヽ
            ヾ,'l |;l| |;;三;;l  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /,l l;;三;;l
              ヾ,'_,,、ノ爰;;/‐' ̄ ̄ ̄ ̄ヾ,‐',ノ爰;;/
                  ̄´            ̄´




188 ◆1WOpAbkgRc:2013/03/03(日) 01:57:26 ID:QUuUB0ls0
中年の女性、畜生マッマと同行する戦車、チハはやる夫と名乗った怪我人を保護してチハの中で情報交換を始めた。
まず戦車チハが参加者の一人であることを伝え、やる夫からこれまでの経緯を聞きだす。
しかしやる夫の説明を聞いている途中から、すでにマッマのやる夫に対する印象は最悪だった。

「ええと、やる夫はまずおにゃのこをレイ…じゃなくて、おにゃのこを助けてお礼にセクロ…でもなくて」

要するにこの男、ただの暴漢である。
ああだこうだと誤魔化そうとしてはいるが、ところどころに本音が見え隠れ。
その身に負った怪我も付着した血も、全て自業自得だった。

「…どうやらあんたを助けたのは間違いだったみたいだね…」
「そ…そんな言い方酷いお!た、確かにやる夫もちょっとどうかしてたとは思うお…
 でももうむやみやたらに襲ったりなんかしないお。
 それよりも、やる夫が逃げてきた方には行かないほうがいいお。
 二人も参加者を殺した黄色い化け物がいるんだお」

やる夫の弁明を半ば聞き流していたマッマだが、思わぬ情報に驚きを見せる。

「ちょっと待った!黄色い化け物が二人も殺したって…?」
「そ、そうだお…それを見てやる夫は逃げてきたんだお」
(黄色い化け物って…お姉さん…)

「黄色い化け物」。数刻前に看取った一等自営業が、仇と言って憎んでいた参加者。そして…
もし二人の殺人者が同一人物だとするならば、その犯人は野球場の方面へ向かっている事になる。
マッマは少し考え込み、やる夫に向き直った。

「ちょっとその現場まで案内してもらえないかしら」
「は、はあ!?あんた何言ってんだお!?話聞いてたかお!?
 やる夫はもうあんな殺人鬼のいるところに戻りたくないお!!」

それを聞いて今度はやる夫が驚く番だった。
たった今その現場から逃げてきたというのに、再び戻されるというのがやる夫は不満だった。

「ゴチャゴチャ言ってんじゃないの、粗末なモノ付けてても男でしょ。もっとシャキッとする!」
「ふざけんじゃねえお!もうあんた達には付き合ってられないお!やる夫は降ろしてもらうお!」

やる夫がハッチから体を乗り出し外に出ようとしたところで、マッマに引っ張られ再びハッチの中に引き摺り込まれた。

「ちょ、何するんだお!離せお!」
「うるさいね、私だってあんたみたいなダメ男どっかに捨て置きたいところだけど、仕方なく嫌々連れ添ってるのよ。
 わかったらさっさと案内する、ホラ!早くしないとこいつであんたの愚息を叩き潰すよ!」
(ちょっと二人とも、僕の中で暴れないでよ…)

苛立ちを高まらせたマッマは、支給品のハンマーを取り出しやる夫の前にちらつかせる。
そうして泣き叫ぶやる夫を強引に殺人現場まで案内させた。
複雑に逃げ回っていたわけでもなかったので、やる夫も漠然とではあるが道順を覚えていた。

「ううう…やっぱりここの参加者みんな怖いお…あ、そこの角を左だお」
(でもしょうがないよやる夫君…僕だって怖いけど、隠れてたって何にもならないし。
 それに、ついさっき出会った人が僕らに遺言を残して亡くなったんだ。
 『黄色い化け物を殺して仇を討ってくれ』って。
 殺すかどうかはともかく、 あの人の想いを無視するなんてできないよ)
「そんなこと言ってるけど、チハだってこのおb…お姉さんが怖くて従ってるだけだお?」
(い、いや…そんなことは…痛っ!お姉さん、床を叩かないでよ…!)

やる夫の証言の中にも出てきた「黄色い化け物」。
マッマがそのフレーズに過敏に反応を示しているのにチハは気づいていた。
もしかして、何か心当たりがあるのではないか…?
それはまさかよく文句と共に口にする、彼女の息子の事ではないかとも思ったが、
一等自営業ややる夫の証言からイメージされるそれと現在自身に乗ってる女性が、血縁ましてや親子関係だとはとても思えなかった。

とにもかくにもマッマはその黄色い化け物なる人物の正体を確認したがっていると推測し、
消極的ながらも捜索を手伝おうと思っていた。
加えて一等自営業から想いを託されたという使命感もまた、少しばかり彼の恐怖心を抑える手伝いをしていた。

189 ◆1WOpAbkgRc:2013/03/03(日) 01:58:34 ID:QUuUB0ls0
「はあ…やたら説教してくるところとか、暴力的なところとか、なんだかやらない夫にそっくりだお…あ、そっち右だお」
「あんたの友達かい?そんな友達がいるなんてむしろ運がいいじゃない。その子もあんたのためを思ってやってるんでしょうよ」
「そんなはずないお。ここでもやる夫のこの綺麗な顔を思い切り蹴ってきたんだお。親にも蹴られたことないのに…」

呟きながらやる夫は自分の頬をさする。
傷に隠れているが、よく見ると確かに軽い痣ができていた。

「"ここ"って…その友達も参加させられてるのかい?」
「お、おお…たぶんそうだお。最初に集められた会場でやる夫のすぐ近くにいたんだお」
「じゃああんたその友達が心配じゃないの!?」
「だ、だって…生き残った一人しか帰れないんだお?やらない夫の心配なんてしても無意味じゃ…」

やる夫の返答を聞いたマッマは、顔を抑え大きく溜息をついた。

「うちの息子にも引けをとらないぐらいのろくでなしだね、あんたは…
 こんな状況下で友達ほっぽっといて、やってることは女漁り?
 そのやらない夫って子に同情すら湧いてくるよ」
「う、うるさいお!やる夫だって大変だったんだお…攻撃されたり疑われたり…
 おばさんにどうこう言われる筋合いはないお…!」
「用が済んだら私達の弾除けにでもなってもらおうかね…」

度重なるマッマの言葉責めがやる夫の心を刺したが、それが次第にやる夫の心に現実感を与えていた。

(でもよくよく考えてみると、この状況って結構チャンスなんじゃないかお?
 ちょっと狭いけどこの戦車の中にいれば安全だし、あいつの持っていた拳銃なんてちっとも怖くないお。
 ただ問題はこのおばさんと一緒にいると、おにゃのこを見つけてもセクロスできそうにないという点だお。
 というかこのおばさんと一緒にいるだけで性欲なんてちっとも湧かないお…)

先程までの衝動が嘘であるかのように、やる夫の心は冷静さを取り戻していた。
どんなに逃げ回ったところで、首輪を嵌められ殺し合いの最中にいる限り安全地帯など存在しない。
同行者に不満はあるものの、戦車と行動を共にしている現在のやる夫の状況はまさに不幸中の幸いなのだ。
戦車から降りて彼らと離別しようとした自分のなんと間抜けなことか。自身の行動を反省し、やる夫は考えを続ける。

(そもそもやる夫は本当におにゃのことセクロスできればそれでよかったのかお?
 やらない夫が誰かに殺されても?やらない夫はたぶん殺し合いには乗ってないお。
 殺し合いから脱出する方法や、もしかしたらやる夫を必死に探してるのかもしれないお。
 それなのに…やる夫はこれでいいのかお?)

性欲喪失による無気力感のためか、とりあえず身の安全が確保できたためか。
やる夫は、共に巻き込まれている親友や殺し合いについて思考を巡らせることができていた。

やる夫の暴走は本当に彼の性欲のみに起因するものだったのか。
ひょっとすると今の苦境から彼の心を守るために働いた、一種の防衛本能だったのではないだろうか。
ともかくこの一連の出会いや出来事はやる夫に幾ばくかの変化をもたらしていた。
その変化がただ一時のものであるかどうかはまだわからない。

「そこずっと真っ直ぐ・・・あ、何か飲み物ないかお?」
「コーラならあるよ(ニッコリ」



          ,-‐-、
          | 醤 |  ング
   ング     | 油 |
          |   |
      / ̄⌒)  (⌒ ̄\ング
    / ,. ^‐'_ヽ /__ー^ 、 \
  / // ̄ ` ⌒ ´ ̄\\ \
 (  </            \ノ   )
  \ \           / /
 ング \ \       / /
                   ング


         ___
        /⌒  ⌒\         ━━┓┃┃
       /(  ̄)  (_)\         ┃   ━━━━━━━━
     /::::::⌒(__人__)⌒:::: \         ┃               ┃┃┃
    |    ゝ'゚     ≦ 三 ゚。 ゚                       ┛
    \   。≧       三 ==-
        -ァ,        ≧=- 。
          イレ,、       >三  。゚ ・ ゚
        ≦`Vヾ       ヾ ≧
        。゚ /。・イハ 、、    `ミ 。 ゚ 。




(うわっ、汚っ!)

190 ◆1WOpAbkgRc:2013/03/03(日) 01:59:29 ID:QUuUB0ls0
【E-1 /1日目・早朝】

【やる夫@ニュー速VIP】
[状態]:負傷(中程度)、血が付着、テンションsage、擬似賢者モード
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜2(確認済み)、しょうゆ一㍑(1/4消費)@現実
[思考・状況]
基本:性欲喪失。とりあえず今は生き延びる
1:オエーッ!
2:畜生マッマを殺人現場に案内する
3:でも戻りたくない
4:畜生マッマから離れたい
5:でもチハからは離れたくない
6:やらない夫がちょっと心配
7:でもやっぱりおにゃのこには会いたい
※やきうのお兄ちゃんを危険人物だと認識しました(名前は把握していません)
※擬似賢者モードによりテンションが下がり、冷静になってます。性欲が回復すれば再び暴走するかもしれません。



【畜生マッマ@なんでも実況J】
[状態]:健康、やる夫にイライラ
[装備]:ぬるぽハンマー@AA
[道具]:基本支給品一式×2、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜1(治療に使えそうなものは無いようです)、ハイヒール一足@現実
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める
1:やる夫が目撃した殺人現場へ案内させる
2:野球場方面へと向かう
3:やる夫をどっかに捨てたいが、野放しにするのもまずい気がする
4:もしバカ息子がいたら……どうする?
5:やる夫の友達のやらない夫に親近感



【チハ@軍事】
[状態]:損傷無し、燃料残り92%、内部が少し醤油臭い
[装備]:一式四十七耗戦車砲(残弾無し)、九七式車載重機関銃(7.7mm口径)×2(0/20)
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品1〜3(治療に使えそうなものは無いようです)
[思考・状況]
基本:死にたくない
1:やる夫の案内どおりに進む
2:殺しに乗った人に遭ったら……どうしよう
3:お姉さんは黄色い化け物に心当たりがあるのかな?
※チハは大戦中に改良が施された、所謂「新砲塔チハ」での参戦です。
※チハは自分の武器の弾薬が無い事にまだ気づいていません。


<<支給品紹介>>


【ぬるぽハンマー@AA】

ぬるぽとレスされたらガッとレスし返す2chではお約束の流れ。
その際に用いられるAA↓で使用されているハンマー。

  ( ・∀・)   | | ガッ
 と    )    | |
   Y /ノ    人
    / )    <  >__Λ∩
  _/し' //. V`Д´)/
 (_フ彡        /
  ↑これ



【しょうゆ一㍑@現実】

キッコーマン印。飲みすぎると死ぬ。

191 ◆1WOpAbkgRc:2013/03/03(日) 01:59:50 ID:QUuUB0ls0
「オイオイ…センシャトカマジネーワ…(うーむ…戦車は流石に厳しいな…)」

グンマーは田代から逃げ果せたあと、北へとキャタピラを走らせる一台の戦車を発見していた。
現在の武装で戦車を相手取るのは流石に部が悪いと判断したグンマーは、
相手が戦車から降りたところを襲って戦車を奪おうと、陰に隠れながら後を追っていた。

スピードをあまり出してはいないうえに、
入り組んだ街中では戦車の機動が鈍くなることも相まって、
グンマーにとって尾行するのは容易かった。

しばらく尾行を続けていると突然戦車のハッチが開き、中から小太りの男が顔を出した。

「ヤベッ!バレタカ!?(しまった!勘付かれたか!?)」

咄嗟に身を隠すグンマー。
だが男はすぐにまた戦車の中に身を引っ込め、操縦を続けた。

「ビビラセヤガッテ…キノセイカ…(驚いたな…きのせいか…)」

気づかれずにすみほっと胸をなでおろす。同時に彼はある一つの確信を得ていた。

(あいつも試練を受けている新成人だな…)

軍事技術が発達している彼の故郷では、兵器の扱い方も子供のうちからある程度教えている。
グンマー出身者ならたとえ未成年でも戦車を操縦するなど容易なことである。
当然彼も簡単な戦車なら乗りこなすことができた。
故に彼は戦車に乗っている男を自分と同じグンマー出身の新成人だと思っていた。

男がすぐに身を引っ込めたのも、自身の気配を察知したからではないかとグンマーは推測していた。
もし男がそのまま戦車を降りていたら、グンマーは咄嗟に駆け寄って出てきた男を殺していただろう。
その危機を回避した事からも、戦車の操縦者は只者ではないと思い込んでいた。

自分同様に誇り高い戦士を目指す者を殺すのは心苦しいが、席が一つと限られている以上、心を鬼にしなければいけない。
戦場では時に仲間の命を踏み越える勇気も必要なのだ。
グンマーはより警戒を強くしながら再び尾行を始めた。


【E-1 /1日目・早朝】

【グンマー@まちBBS】
[状態]:健康、首筋に血を吸われた痕、首元から出血(微量)
[装備]:熱光学迷彩服(所々破れている)@攻殻機動隊
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本:優勝して、村を守る戦士になる
1:戦車(チハ)を尾行し、隙を見て奪い取る
2:使えそうな武器を探したい
3:武器が見つかるまでは弱そうな参加者のみを仕留める
※チハを支給品だと思っています。また、畜生マッマが乗っていることに気づいてません
※やる夫を自分と同様に成人の儀を受けているグンマー出身者だと思っています

192 ◆1WOpAbkgRc:2013/03/03(日) 02:00:34 ID:QUuUB0ls0
投下終了です。

193ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/03/03(日) 08:21:30 ID:v0nbD/vM0
仮投下乙 内容は問題ないと思う あとはタイトルが足りないくらいですかね
醤油といえばブームくんを思い出すなぁ

194ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/03/03(日) 17:27:45 ID:S9sIsx2Q0
仮投下お疲れ様です
問題ないと思いますよー

195 ◆1WOpAbkgRc:2013/03/03(日) 23:22:17 ID:yEFc7cqQ0
全鯖規制により2chに書き込めないので、どなたか代理投下お願いします。
タイトルは「おっぱいなんて、ただの脂肪の塊だろ」で

196 ◆shCEdpbZWw:2013/03/11(月) 10:51:56 ID:Y9OHWRk60
近所のネカフェからの投下を試みましたが、proxy規制がかかっておりました
こちらに投下いたしますので、どなたか代理投下していただければ幸いです

197 ◆shCEdpbZWw:2013/03/11(月) 10:52:31 ID:Y9OHWRk60
――夢を見た。



随分と昔のことのように思えた。
なにせ、俺が道を行けばその不吉な体に罵詈雑言を浴びせられていた頃だ。
罵詈雑言だけならまだよかった、ガキどもが悪魔退治ごっこでもしているかのように石を投げつける時だってあった。

俺の身体は生まれつきこんな真っ黒なものだった。
まだガキだった頃は、どうして俺がこんな目に遭わなきゃいけないのかが分からなかったな。
俺は成長するにつれて、俺をこんな目に遭わせた人間どもを、俺をこんな体に生んだ親を、境遇を呪ったりもした。
だが、呪っていたところで状況はまるで変わりゃしなかった。
矛先を向ける先を見失った俺は、次第に何もかもがどうでもよく思えるようになった。

俺の一生は、生きとし生けるもの全てに疎まれ、憎まれ、蔑まれ……そう定められているのだと、諦めた。
孤独なその環境こそが俺にとっての楽園であり、その方が気楽なんだ、そう思っていた。
自分以外の誰かのことを思いやることなんて、面倒で仕方が無かったし、考えたことさえなかったかもしれない。



夢の中で一本の手が差し伸べられた。
この手は……忘れるものか。
街の片隅で傷ついていた俺を抱き寄せようとする、その男の腕を。
俺に石を投げつけた奴らと比べると、妙に頭身が大きなその男の腕を。

アイツは売れない絵描きだった。
誰にも相手にされず、それでもなお自分の描きたいものを一心に描き続けた男だ。
僕らは似た者同士だな、そんなことも言っていたっけな。

冗談じゃなかった。
アイツの境遇がどうだか知った事じゃないが、俺の楽園にずかずかと足を踏み入れてきた侵略者、最初はそう思っていた。
だから、俺を抱きかかえようとするをアイツの腕の中で暴れ、その手を跳ね除け、爪を立てたりもした。
今にして思えば、アイツの商売道具に傷をつけたわけなんだよな……ちょっと悪いことしたな、と思う。

そんな俺の抵抗などお構いなしに、アイツは何度も何度も俺の前に現れては懲りずにその手を差し伸べて来た。
いったい何を考えていやがる、ってのが率直な印象だった。
俺の皮でも剥いで三味線でも作る気か、あるいは保健所から送り込まれた刺客なのか。
はたまた魔除けのグッズにでもして商標登録でも取るつもりか、そういう穿った見方しか出来なかった。

最後はもう根負けだったのかもしれない。
俺を抱き寄せて頬ずりしてくるアイツのことを正直キモいとは思いながらも、観念したんだ。
もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ、って感じだった。
優しさだとか温もりだとか、そんなものの存在を信じられなかった俺が、初めてそれらを身に受けた瞬間だった。



人々が忌み嫌う俺の黒い毛並みを、アイツはこよなく愛してくれた。
「ホーリーナイト」なんて大層な名前まで俺によこしてくれた。
意味はなんだと聞いたら「黒き幸」だってよ、不吉だと蔑まれた俺に随分と皮肉めいた名前じゃないか、気に入ったぜ。

アイツは俺のことを何度も何度もキャンバスに描き続けた。
それ自体は悪い気分じゃなかったが、元々大して売れてもいないアイツの絵はますます世間に相手にされなくなっていった。
その日暮らしという言葉がまさにピッタリだったが、まぁそんなことは俺にとっちゃ慣れっこだったんだけどな。
でも、ただでさえデカい図体のアイツの身体は見るも無残にやせ細っていった。
食っていくためには別の絵を描くことだって出来たはずだった……が、アイツはそれをしなかった。

アイツが今わの際に俺に託してくれたことがある。
故郷でアイツの帰りを待つ恋人に手紙を届けてくれないか、と。
冷たくなって、二度とその目を開けなくなったのを看取ってから、俺は飛び出したんだ。



そして――





 *      *      *




「アピャーッ!?」

腹を貫くような激しい痛みに襲われて俺は飛び起きた。
また痛みで意識が飛んでしまいそうになるのを何とかこらえる。

「ぐっ……俺は……いったい……?」

首を動かすのも億劫な状態だったが、今の状況を確認しなきゃならない。
視界に入ったのはメガネをかけたオッサンと、その後ろでなんだか所在なさげにボンヤリとしている猫だった。

198 ◆shCEdpbZWw:2013/03/11(月) 10:53:04 ID:Y9OHWRk60
「おや、気が付きましたか。今、手当てをしますからね」

そう言うとオッサンは「マキ○ン」と書かれた容器を俺に押し当てる。
中身は消毒液なんだろう、またさっきと同じ突き抜けるような痛みが俺の腹を走り抜けた。

「ぎゃおおおん!?」

思わず情けない叫び声をあげてしまった。
耐え切れない痛みに、思わずジタバタと身をよじろうとする俺を、オッサンががっちりと押さえつける。

「動かないでください、ちゃんとした手当てが出来ませんから」

そう言いながらまた「マ○ロン」を持った手を俺の方に伸ばして来る。
ふざけるな、誰がそんなこと頼んだって言うんだ……と口にする前に三度痛みが走る。

「ぶるぅぅあぁっ!?」

もういっそこのまま殺してくれ、と思うほどの痛みだ。
恐る恐る腹の方に視線を向けてみると、何をどうやったらこんな風な傷が出来るのかと思うほどに俺の腹はただれていた。
切り傷でも、刺し傷でもない、じわじわと広範囲にわたって感じる痛みの下からは、ジワジワと血が染み出してきている。

「君を見つけたのが襲われてすぐで良かった。少しでも遅れてたら危なかったかもしれませんよ」

オッサンがそう言うのを聞き、俺はようやく何があったのかを思い出すことが出来た。
スーツを着込んだ、目の前のオッサンとは別の男に出会ったことを。
殺し合いに勝ち抜いて世界を美しくするという願いを叶えるんだという世迷言を聞かされたことを。
そして、そいつが妙なバケモノを繰り出してきて、抵抗空しく変な攻撃を受けたことを。

(クソッ、つーことは、俺はあのバケモノにやられた、ってわけか……!)

痛みに耐えるのも兼ねながら、俺はギリッと歯ぎしりする。
それでもなお俺が生きてる、ってことは……殺されそうになったところにこいつらがやって来た、ってことか……?

「心配いりませんよ、あの生き物を操っていた男はもうここにはいませんから」

俺の心を読んだかのように、オッサンが話す。
そして、口を動かしながらも、手にしたガーゼで俺の腹を丁寧に処置し、最後にクルクルと包帯を巻きつけていった。

「これでよし……と。これで命の心配をすることは無くなったと見ていいでしょう」

ふぅっ、とオッサンが自分の額の汗を拭った。
為すがままにならざるを得なかった俺の身体にはその黒い毛の中にいっそう目立つ白い帯が巻かれていた。
これじゃ、闇夜に溶け込むことも出来ない、目立って仕方ないじゃないか、と俺は内心毒づいた。

「……ホントに? ホントにもう大丈夫ナノ?」
「ええ。しっかり消毒もしましたから、破傷風にかかることもないでしょう」

今までずっと黙りこくっていた猫が、不安そうにオッサンに問いかけた。
声のトーンからすると、コイツは雌猫か。
そんな不安を鎮めるかのように、オッサンは優しく返した。

「……ヨカッタ、ヨカッタよぉ!」
「ぬぅおわっ!?」

次の瞬間、雌猫が駆け寄って俺に抱きついてきた。
衝撃でまた腹に痛みが走るが、そんなのはお構いなしと言わんばかりにギュウギュウと俺を抱きしめてきやがる。

「ヒドイ……こんな黒コゲになっちゃって……」

俺にしがみつきながら雌猫は涙を流し続ける。
……ってちょっと待てゴルァ、誰の身体が黒コゲだっつーんだよ!
こちとら、この黒い毛並みを少なからず誇りに思っているっつーの!

「まったくです。これほどの大ヤケドを負って命があること自体が奇跡と思っていいでしょう」

うおーい!! オッサンもかゴルァ!!
大ヤケドだと思ってんなら、全身に包帯巻きつけてみろってんだよ!!
だいたい、全身真っ黒コゲになって生きている生き物がいるわけないだろ、常識的に考えて!
チクショウ、こいつら俺の毛並みをバカにしてやがるのか……?

199 ◆shCEdpbZWw:2013/03/11(月) 10:53:37 ID:Y9OHWRk60
「ワタシ……ワタシ……ギコ君が死んじゃうかと……」

そんな俺の心中など知る由もなく、雌猫がおいおいと泣き続ける。
……ん? なんでコイツは俺の種族を知っていやがるんだ……?
そう思った瞬間に雌猫がまた俺にしがみつく手にギュッと力を籠めたらしく、俺の身体に何度目か分からない激痛が走る。

「はっ、離せゴルァ!!」

痛みに耐えかねて、というのもあったし、知らない奴に抱きつかれて訳が分からない、というのもあった。
俺は痛む体をおして、その雌猫を思いっきりドン、と突き飛ばした。
キャッ、と小さな悲鳴を上げてその雌猫が地面を転がった。

「ゴ、ゴメンね……? その……い、痛かった……ヨネ?」

その瞳を涙で潤ませながら、雌猫が上目づかいで俺を見つめる。
雌猫の一点の澱みもないその目と俺の目が合い、思わず俺は舌打ち交じりに視線を逸らしてしまった。

「気持ちは分かりますが、ダメですよ、しぃさん。あんまり傷に障るようなことをしては」
「……ウン」

オッサンが雌猫を宥めるように語りかけた。
……ん? しぃ……? どっかで聞いたような……うっ、頭が……

「……なんなんだよ、アンタらは」
「おっと、これは失礼。申し遅れてしまいました、ギコさん」

このオッサンもか。
何だって俺の種族を知ってやがるんだ? それも、さも俺の名前であるかのように扱いやがって……

世の中にゃ、俺以外にも山ほどギコ猫ってやつがいるらしい。
それらに共通しているのは、口が悪いことと、反骨精神を持ち合わせているということ。
とりわけ、黒く生まれちまった俺は、周りの環境も手伝ってか人一倍反骨精神が強いという自負はあるんだがな。

「私はいわっちと申します……まぁ、しがないゲーム屋でして」

俺が向ける警戒の視線などどこ吹く風、いわっちと名乗るオッサンがしぃを抱きかかえながら自己紹介する。
……ゲーム屋? そういやさっき俺を襲った奴もゲームがどうとか言ってやがったな……

「こちらはしぃさん、君のお知り合いでしょ……」
「……オイ」

いわっちとやらの話を遮るように俺は凄んで見せた。
警戒、というよりももう敵意を籠めた視線をぶつけてやったが、オッサンは怯む様子もない。
抱きかかえられたしぃって雌猫が、意外な物を見るような目で俺のことを見つめていやがる。

「ゲーム屋、っつったな……もしかしてオッサン、アンタは俺をこんな風にした奴の知り合いじゃねえのか? え?」
「それは……」

図星だったのか、いわっちの顔が少しばかり歪む。
……だけど、それも一瞬のことだった。
すぐに平静さを取り戻したのか、さっきまでと変わらない落ち着いた口調に俺に話す。

「確かに、あの男は知らない仲ではありません」
「いわっちサン……」
「えぇ、大丈夫ですよ、しぃさんが心配するようなことではありませんから」

不安げな表情で見上げるしぃの頭を、いわっちがそっと撫でるのを俺は冷ややかな目で見ていた。

「彼との関係は……なんと言えばいいでしょうかね。
 まぁ、一番シンプルに表現するとしたら……そう、ライバル、とでも呼ぶのが近いでしょうか」
「ライバル……ねぇ」
「そうです。時に切磋琢磨し、時に手を取り合い、互いを高め合ってそれを世に還元する……それが私と彼の関係です」
「するとアンタもアレか、あいつと同じように世界を美しくするために俺に死ね、ってか」

俺がピシャリと言い放つが、いわっちは首を軽く横に振るだけだった。

「……いえ、そんなことは。どうやら彼とは道を違えてしまったようですし」
「……へっ、どうだか。口じゃいくらでも言えるからな」
「そんな……ギコ君……!」

まただ。
しぃって奴があたかも俺とは旧知の仲であるかのように話しかけてきやがる。
反発するかのように俺がキッと睨んでやったら、すぐにしぃは視線を逸らして俯いた。

200 ◆shCEdpbZWw:2013/03/11(月) 10:54:06 ID:Y9OHWRk60
「……言葉だけじゃ信じてもらえるか分かりませんが……
 少なくとも、私たちがそのまま放っておいたら君の命は危なかったでしょう。それは分かりますね?」
「それはまぁ……そうだけどよ」

確かにこのオッサンが居合わせていなかったら、俺は今頃惨めにのたれ死んでいたかもしれないわけだ。
それを思えば、少なくともこのいわっちとやらがさっきの奴と違って殺し合いには乗っていないのかもしれない。

……だけど、それを額面通りに信じていいのか?
俺をしつこく追い回して保護してきたアイツ以外の奴は、皆が皆俺を忌み嫌っていたんだぞ?
そんな俺にアイツと同じような優しさだとか温もりだとかをくれるやつなんてそうそういるわけないじゃねえか。
それこそ、今後は体のいい駒として使われる可能性だって無くは無いんだからな。

「……ともかくギコさん。私たちは殺し合いに乗るつもりはありません。
 むしろ、彼のような者たちに対抗し、殺し合いを停めたいと願っているのです。
 その為に仲間を集め、時期が来たら……」
「お断りだゴルァ」

俺の言葉に、いわっちがキョトンと目を丸くした。

「大体、さっきから人のことギコだギコだ、ってなぁ……
 間違っちゃいねえが、俺にはちゃんとホーリーナイトって名前が……」
「ギ、ギコ君……? なに言ってるノ……?」
「うるせえっ! ちゃんと名前で呼びやがれ!!」

……ったく、一体なんなんだよ。
なんで俺はアイツにギコって呼ばれるだけでこんなにイラついてんだ……?
俺の言葉を受けて、またさめざめと泣くその姿がさらに俺の苛立ちを増していきやがる。

ダメだダメだ、助けてもらったのはありがたいが、このままコイツらといても精神的に保たねえ。
俺はスッと立ち上がって、まだ痛む腹に手を当てながらゆっくりと二人に背を向けて歩き出した。

「待っテ! そんな……そんなケガしているのに歩き回ったら……ギコ君、死んじゃうヨ!?」
「だからそうやって呼ぶなっつってるだろーが!!」

振り向いて俺が怒鳴ると、もう雌猫の口から言葉が発せられることは無かった。
呆然自失、といった具合の表情を見せている。

「……俺だって殺し合いなんてさらさらゴメンだ。
 だけどな、俺にゃやらなきゃいけねえことがあるんだよ……だから邪魔するんじゃねえ」

口から出まかせだった。
俺としては独りでいる方がよっぽど楽なんだ、今までそうだったし、これからもそのつもりだ。
だけど、それをそのまま口に出しても、はいそうですか、と納得する連中には見えなかった。
アイツならまだしも、それ以外の奴にあれこれと付き纏われるなんて想像したくもねえ。
だから、適当にやらなきゃいけないこと、なんてことをデッチ上げてみた。

いわっちって奴が、俺の決意がもう揺るがない、ということを悟ったような、そんな表情に変わった。
もうこれで俺に構ってくることもねえだろう、そう思い、もう一度奴らに背を向けて歩き出す。

「……助けてくれたのには感謝するぜ。だけど、もう俺には構うな……分かったな?」

そこまで吐き捨てて、一歩二歩と足を進め始めたその時だった。



「……ギコさん!」

背後からいわっちの声が聞こえる。
もう振り向いて怒鳴るのも面倒になってきたぞ、チクショウ。
一瞬足を止めてしまった俺だが、その声を無視して再び歩き始めようとした。

「……君の言うことは分かりました。
 君が何を為さねばならないのか、それを聞くのは無粋というものでしょう」

分かってるじゃねえか。だったら、さっさと行かせてくれや。

201 ◆shCEdpbZWw:2013/03/11(月) 10:54:32 ID:Y9OHWRk60
          ホーリーナイト
「ですが、君が『聖なる騎士』の名に違わぬ気骨を持っているのでしたらこれだけは聞いてください!」

俺は動かそうとした足を再び止めた。

「私たちは12時までにテレビを使ってこの殺し合いを停めるよう呼びかけるつもりです!
 その際に力を結集する為にここ、森林公園に時間を決めて集うことも併せて呼びかけます!」

そこまで言われれば、その後に何が続くかぐらいは俺でも読めた。

「君のやらなければならないことが済んでからでも構いません……!
 その力をどうか私たちにも貸してほしいのです!」





   ∧∧
   /⌒ヽ)  「……勝手にしやがれ」
  i三 ∪
 ¬三 |
  (/~∪
  三三
 三三





そう吐き捨て、俺は森林公園を後にした。





 *      *      *





再びいわっちに抱きかかえられたしぃは、しばらくの間泣き続けた。
大好きなギコが助かったのは嬉しかった……が、その後に自分を拒絶するかのような言葉を浴びせられたことがこの上ないショックだったのだ。

「ドウシテ、ドウシテ……?」

泣きじゃくるしぃを抱え、いわっちはただ優しくその頭をポン、ポンと撫で続けていた。

「……しぃさん」
「……ナァニ?」

依然としてしゃくりあげながら、しぃがいわっちを見上げる。

「……パラレル・ワールドという言葉をご存知ですか?」
「……」

知らない、という言葉の代わりに、しぃはただ黙って首を横に振った。
そうですか、と一つ呟いたいわっちが言葉を並べる。

「簡単に言ってしまえば、色んな世界が同時に存在している、ということでしょうか。
 たとえば、恐竜という動物はこの世から滅んでしまいましたが、どこかに恐竜が今でも覇権を握っている世界があるかもしれない。
 あるいは、私のような人間ではなく、別の生物がこうして文明を築き上げている世界があるかもしれない。
 もっと単純に言えば、私が今ここでコインを投げたとして表が出た時の世界と、裏が出た時の世界が別々に存在するかもしれない、ということです」
「……どういうこと?」

少しばかり落ち着いたしぃが、いわっちに尋ねる。

202 ◆shCEdpbZWw:2013/03/11(月) 10:55:06 ID:Y9OHWRk60
「……ギコさんは、もしかするとしぃさんの知っているギコさんとは別の世界から来たギコさんかもしれない、ということです」
「……エ?」
「そうでなければ、あそこまで彼がしぃさんに対してあのような応対をするとは思えないのです。
 しぃさんから聞いたギコさんは、口は悪いですけれども貴女に対してはあのように邪険に扱うようなことは無かったはず」

そこまで言ってから一呼吸置き、さらにいわっちが続ける。

「……もっとも、しぃさん。恐らくは貴女も私とは別の世界の住人ではないでしょうか?」
「……しぃが?」
「ええ。少なくとも、私の身の回りには貴女のように言葉を話す猫というものは存在しませんから。
 ですが、どこかに猫が言葉を使い、文明を築き上げている世界があるとして、そこからしぃさんがやって来たとすれば理屈は合います」

想像だにしなかったことを聞かされ、しぃは思わず黙りこくってしまう。

「それに、クタタンが使役していたあのような生物も……私の住む世界には存在はしていませんでした。
 支給品の一つなのでしょうが、それも様々な世界から集められたのだとすれば合点がいきます」
「じゃ、じゃあ……あのギコ君の世界にはしぃが存在していないかもしれない……ってコト?」
「その可能性はあります。見ず知らずの娘にいきなり抱きつかれればああいう反応も無理なからぬことかもしれませんねえ」

しぃは寂しさに囚われていた。
黒コゲになってしまったけれども、あのギコ猫が自分の知るギコ猫とは全く別の存在であること。
そして、あのギコ猫には自分にまつわる思い出などそもそもが存在しないということ。
見た目は同じなのに、そんなことが本当にあるのだろうかという思いを抱いていた。
いわっちの言うことも推測でしかないが……さっき見かけた怪物もしぃは見たことが無かったのだ。
とするならば、やはりさまざまな世界から参加者のみならず武器が集められているということを意味する、しぃはそう思った。
それはつまり、パラレルワールドの存在を認めることでもあり、あのギコ猫が自分とは何の繋がりもない赤の他人であることも認めざるを得ないことだった。

(デモ……)

しぃは心優しい。
たとえ自分のことを知らなくても、たとえ先刻のような扱いを受けたとしても。
黒いことを除けば自分のよく知るギコ猫を放っておくことが出来なかった。
出来ることならば、いわっちを置いてでもギコ猫の下へと駆け寄りたかった。
そこでどんなに邪険に扱われようとも、連れ添って歩いていきたかったのだ。
だが、それは自分をここまで守ってくれたいわっちとの決別を意味しかねないことをしぃは承知していた。
その選択を取れないのもまた、しぃが心優しい所以である。

「……大丈夫ですよ、しぃさん。ギコさんを信じましょう」

しぃの心中を知ってか知らずか、いわっちがしぃを励ますように声をかける。

「ギコさんには私たちの方針もお教えしました、テレビを使って停戦を呼びかけることもです。
 それならば、私たちがすべきことはなんでしょうか?」
「……それまでに仲間と情報を集めて……テレビ局に行くコト?」
「その通りです。ギコさんにやらなきゃいけないことがあるのと同じように、私たちもやらなきゃいけないことが多いのですから」

そう言ったいわっちが辺りを見回す。
漆黒の闇に包まれた森林公園の空に、ほんの僅かであるが光が射してくるのをいわっちは感じ取った。

「朝も近いですね。今しばらく仲間と情報を集め、テレビ局へと向かうことにしましょう。
 随分寄り道も長くなってしまいましたしね」
「ウン、分かったヨ」

203 ◆shCEdpbZWw:2013/03/11(月) 10:55:41 ID:Y9OHWRk60
小さな手でしぃが涙を拭う。
そして、ギコ猫が向かった方角にもう一度視線を向け、その後で今出来る精いっぱいの笑顔を作っていわっちに向ける。
いわっちもまた、それに応えるように笑顔を作る。
それから二人はギコ猫とは逆の方向へと足を進め始めたのだった。



【C-2/森林公園/早朝/一日目】

【しぃ@AA】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:皆死んじゃうのはイヤ
1.ギコ君が心配だけど頑張らないと……
2.カイブツ(ネメア)がコワイ……
3.パラレルワールドってなんだろう?


【いわっち@ゲームハード】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、モデルガン@サバゲ、不明支給品(0〜2・本人確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いをやめさせる
1.色々な人に情報を訊きたい
2.反抗の手はずが整ったらテレビ局からダイレクトを行う(遅くとも12時までに)
3.様々な異世界から人や物が集められているのでは……?

※12時までにテレビ局で仲間集めを行うことをギコ猫に宣言しました。その際の集合場所は森林公園になります。





 *      *      *





俺は森林公園を出た。
これといって行く宛てはない。
今は闇夜を駆けるだけの体力も残っていない。
ただトボトボと彷徨うことしか出来なかった。

204 ◆shCEdpbZWw:2013/03/11(月) 10:56:08 ID:Y9OHWRk60
俺は不器用だ。
優しさだとか温もりを与えられても、それを素直に受け取ることが出来ない。
自分の考えを力でねじ伏せられたとしても、それであっさりと生き方を変えることだって出来ない。



(そんなケガしているのに歩き回ったら……ギコ君、死んじゃうヨ!?)



脳裏にさっきの雌猫の声がリフレインする。
あのしぃって奴はなんだって俺にこうまで構おうとするんだ……?



……俺は何か大事なことを忘れているような気がする。
そもそも、俺はどうして最初に会った麻呂のような奴を知っていたんだ……?
次に出会ったお断り野郎は……どんな名前だったっけか……?
そして、あのしぃって雌猫は……?

頭が痛くなってきた。
殺し合い以外にも、今の俺には訳の分からないことだらけだ。



「勘弁してくれよ……休ませてくれ……」

今は頭も、身体もどこかでゆっくりと一人で休めたかった。
昔のように、誰にも邪魔されない寝場所を求め、少しだけ明るくなった街を俺は歩き続けた。



【C-2/森林公園付近/早朝/一日目】

【ギコ猫@AA(FLASH「K」)】
[状態]:打撲(小)脇腹のダメージ(中、治療済)、疲労(大)
[装備]:サバイバルナイフ@現実
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本:生存優先
1:とりあえず休ませろ
2:本能に従って生き残る…のを否定されたがどうしろってんだよ……
3:仲間なんて煩わしいので作るつもりはない……が、いわっちの言うことは一応覚えといてやるか
4:しぃ……? うっ、頭が……
5:磨呂、お断りします(名前未確認)、モッピー(名前未確認?)クタタン(名前未確認)を警戒
6:ひろゆきはマジで逝ってよし


※ギコ猫と特に関係が深いAAの記憶(とりわけ「K」に出演していないAA)が抜け落ちています。
  しぃ以外の記憶については次以降の書き手の方にお任せします。
※いわっちがテレビを使って停戦の意思を呼びかけることを知りました。集合場所が森林公園になることも把握しました。

※コロちゃん@家族が増えるよやったねたえちゃん が破損しました。壊れたまま森林公園に落ちています

205 ◆shCEdpbZWw:2013/03/11(月) 10:57:09 ID:Y9OHWRk60
投下は以上です
この度は多大なご迷惑をおかけいたしました 改めてお詫びいたします

206 ◆m8iVFhkTec:2013/04/19(金) 18:27:39 ID:5fphdqVU0
忍法帖のルールに関わる話なので、一度仮投下致します

207 ◆m8iVFhkTec:2013/04/19(金) 18:28:07 ID:5fphdqVU0
「遅い……!」

読み終えた本をパタンと閉じて、キバヤシは呟いた。
あれから結構な時間が経った。バイク君はまだ帰ってこないのか。
話に聞く限り、レストランがある場所はそこまで遠くはないはずだが。

「川越に呼び止められて説得されてるのだろうか?……まぁいい、それならそれで俺だけで調査するまでだ」
「キバヤシー、ボクハー?」
「あぁ、ジサクジエン君。君にも手伝ってもらう。頼りにしているよ」
「オー!!」

この生物はジサクジエン、僕に支給された謎の生物だ。
UMAの類なのは間違いない。コイツは頭だけで動き、さらに人語を話す。
とても興味をそそられる存在だが、意思疎通をする内に『UMA』と言う観念が『相方』に変わってしまった。
そして気が付けば、ジサクジエンの調査は後回しでいい、先に鮫島事件を……と考えていた。
もはや「それがコイツの能力だろうか?」と疑いたくなるほど、コイツの存在は俺の中にスルリと馴染んでいた。
どうにもジサクジエンの方を調査する気が起きないため、結局鮫島の方を再開することにした。優先順位的に間違ってないため、構わないだろう。

ジサクジエンに手伝ってもらい、図書館中から集めてきたいくつもの資料や本。
机の上に山積み……というほど多くはないが、それらのうち、一つを手に取って読み始める。




……先程からいくつもの資料に目を通しているが、一向に情報がまとまらない……。
鮫島事件関連と思われる資料を抜粋し、メモを取ってまとめているものの、どれも内容に統一性が無い。
ある資料では「鮫島と言うコテハンの男がリンチされた事件」と書かれている。
またある資料には「鮫島代議士絡み」の話が語られた。
先ほどの資料じゃ「呪いが関係する」と記されており、この本には「2002年に自殺者、行方不明者が増えた理由に鮫島が……」と明言されている。

「きっとデマが……デマが多すぎるせいだ……。完全に隠蔽されてしまっている……」

そう、諸説を数多く流すことにより、どれが正しい情報かを判別出来ないようにする隠蔽工作……。
それがこの鮫島事件において行なわれている可能性が非常に高い。
この手法は有名なもので挙げれば『都市伝説』なんかに使用されている。

都市伝説のほとんどは、個人の範疇では真相が確認出来ない程の突拍子もない陰謀論やウワサが語られている。
そのどれもが妄想や夢物語のような内容であるものの、確実にウソだとは言い切れないようなものばかり。
―――悪魔の証明。"100%無い"と断定するのは不可能、そんな話が集められているのが都市伝説である。
そこが魅力であり、話のタネとして広がる要因なのだ。ただし、口では「本当にあるかもよ?」と語りつつも、多くの人々は内心では信じていない。

では、その突拍子のないウソが詰められた箱の中に、たった一つだけ突拍子のない『事実』を混ぜてみたらどうだろう?
それを真実だと見抜ける者がどれだけいるだろうか? 仮に見抜いたとしても、それを公表したところで人々は信じるだろうか?
……これがいわゆる隠蔽工作の一つ。木を隠すなら森の中とはよく言ったものである。
もはや真相と言う名の木は、とてつもなく広大な森の中に埋もれてしまっていた。


俺は荒々しく本を閉じると、机の上へと放り出した。
検証出来る術が無い状況で諸説ばかりを集めたところで、もはやどうにもならないだろう。

「調査が完全に行き詰まってしまったな……」

このバトルロワイヤルの真相へたどり着くまでの道のりは果てしなく長い。
そして、それまでに俺が生き残っていられるかどうかの保証は無い……。
あぁ、なんてやるせない思いなんだろうか。何も分からないまま、死んでいくのだと思うと悔しくてならない。
机に突っ伏したまま、感情に任せて拳を机に叩きつける。
ドンッ、と激しい音が薄明かるくなった図書館に響き渡り、やがてすぐに静寂が戻ってきた。

……音? そういえばこれは何の物音だ?

キバヤシが図書館内の『音』に注意を傾けた時、初めて先程からガサゴソといった物音がしていることに気が付いた。

「ジエン君、何をしているんだ?」
「ピーディーエーダヨ」

何かと思えば、退屈していたであろうジサクジエンが、キバヤシのデイパックを漁っていたようだ。
ジサクジエンはPDAを取り出して床に置いて、上に乗ったりして遊んでいた。

208 ◆m8iVFhkTec:2013/04/19(金) 18:28:55 ID:5fphdqVU0
「……PDAか。ひろゆきは2ちゃんねるが閲覧出来ると言っていたが……」

キバヤシはジサクジエンからPDAを取り上げて、じっくりと観察をする。

「な、なんだこの凄まじい性能は……! 大型のコンピュータ並の機能性! さらに高画質!
 そしてこんなにもコンパクト……携帯電話のように折り畳む必要すら無いだなんて……!」

何を驚いているのかと思うかもしれないが、彼が活躍していたMMRは1990年代後半の話である。
その頃の携帯電話は、ここ最近画面がカラーになり、折り畳み携帯が普及してきた時代。
一方、PDAはモノクロ画面が主であり、パソコンというより電子手帳としての役割が大きかった。
インターネットはダイヤルアップ接続で出来たが、性能はデスクトップPCに大きく劣る。
携帯の方はiモードが実装されていたが、サイトが少なく、何よりコストがかかるため利用者はそれほど多くなかった。
だが、それが最新式だと言われていた当時の世界から、この世界に来てPDAを見たら驚くのも無理はない。

……90年代の人がどうして2ちゃんねるを知ってるかって? ほら、多分本編終了直後の2000年代から来たんじゃないだろうか。

「ミセテミセテ!」
「あぁ、いいだろう。……こんなことなら、真っ先にコレの機能を把握しておくべきだったな」

前述した通り彼は若干ステレオタイプの時代の人であるため、情報収集と言えばコンピュータよりも図書館を優先してしまう。
というか、彼にとって携帯はただの通信機器と言う見解が根付いているため、主催者から配信を受け取る
だから、支給されたPDAについては盲点だった。主催者からの配信を受け取るためだけの機器だと考えていた。

彼にとっては未来の世界の道具であるPDA、それをタッチペンを巧みに使いこなして操作する。
キバヤシのIQは170とも言われ、ほぼ初見である道具をものの数分で把握していくだけの知力はあった。
カメラにボイスレコーダー、現在位置がわかる地図に手書きメモ帳と、彼の想像を超えた万能さにまたしても驚いた。

「現在の地球の技術ではここまで画期的な物は無いだろう……主催者は相当な技術力を持っているに違いない……!」
「ソウカナー?」
「おそらく、裏社会のスパイなどがこう言った機器を使っているのかもしれない。
 それを一般市民であるこの俺が手にする日が来るとはな……あぁ、実に興味深い機械だ……」

まさかこのレベルの機械を一般人が、それも学生に至るまでほぼ全員が所持するような世の中になるとは、彼は想像もしなかっただろう。

「キバヤシー、コノ『ニンポーチョー』ッテナニ?」
「忍法帖……何のことかと思っていたが、どうもこのPDAに搭載されたシステムのことらしい」

そういえばひろゆきが最初に言っていた。
『一人殺す毎に忍法帖のレベルが1つ上がります。現時点での皆さんの忍法帖レベルは0ですね。
 レベルが上がると様々な恩恵が得られますが、レベルが1以上の方はバトルロワイアル板にて殺害した人物の名前と実名が公表されます。』
……殺害を行なうことのメリットを生み出すシステム、それが忍法帖。
キバヤシは規定の操作でヘルプメニューを開き、その内容に目を通していく。

「……なるほど、上手く出来たシステムだな、これは……」
「キバヤシー、ニンポウチョウニツイテオシエテー!」

209 ◆m8iVFhkTec:2013/04/19(金) 18:29:12 ID:5fphdqVU0

                _,.. -─   ─-、 しァ
          /!/ヽ‐'"         / イ⌒ヽ
         ,l_/           l l  / /!   ヽ
         |l         /lハ//  V| !   ハ
         | l       /  イ    ヽヽ/Vl !
         | ハVヽト`ー- ' イ/   ,ィ/!  \ ∧l |
        、ト、 \ ヽー- '  _,..ィ/ // ハ ト、   l!
         \  ヽ_,.メ、<イ_/__,.._-=ニ-ヽ _,/
          ヽi`、|  、‐rッヾ =|二|-=_rッァ `}',.}  「OK、わかった。説明していこう」
           { ヽ!    ̄ シノ! ヽヽ  ̄  //リ
           ヽヽ!`ー--‐'´/|  ` ー--‐ ' /./
            \!     ヾ_,.      /‐'
           _ィニlヽ    __    ,イiヽ、
       _,. -‐'"   l | \   `二´   ,r' l !  `ヽ、._
  _,. -‐ '"      l |   \       /   | l      `` ー- 、._
‐'"      _,. -‐  ̄`ヽrァr--`‐──'‐‐-r ,! !           `` ー-
    _,.ィ´     ヽ、._ ヽ        ./ /i  l
ァ‐/ /         \_ノ!        l / l  ',
 /   {       `ヽ、  }!ヽ!       /V !   ヽ
 !   ヽ      \  Y |  ` r====r'´  |    〉



(・∀・)「ワーイワーイ」


図書館内の自販機から拝借した缶コーヒーを一口啜り、説明を始めた。


      〜キバヤシで学ぶバトルロワイヤルの忍法帖システム〜


 
  NヽN`              `゙、
.、Nヾミ                i
 ヾミミ、       _,.ィイ八、     !
  ー-=ニ _,..、_'"'ノ,."-'ニ'ヾ、._ l_  「まず、一般的な"忍法帖"と言うのは本家の2ちゃんねる掲示板で使われている機能から来ている。
     {F|! '、辷゙iニ{´'_辷,゙ ゙!r'-r,^、i  かつて、荒らし対策としてプロバイダーごとに一括規制してきていたんだ。だが、その方法では同プロバイダの一般人を巻き添えにしてしまう。
      l;j゙、_   ノ ヽ)、  ノ'  ゝ:'/  そのために多くの顰蹙を買っていた……。そんな中、改善策として導入されたのがこのシステムだ。
      `!  ̄ヽ '   ̄~´  ,'.,ィ'    利用者のCookieごとにレベルを設けて、利用者がそのレベルを上げていくことで投稿間隔、容量などの利用制限を解いていくシステムだ」
       i.   --一 、   ,' |
        ヽ、 `二ニ´  ./  ト、
       ,..-i;:ヽ、   ,. '´  / ヽ、_
    _,.イ´  j   ̄ ̄   /   ,i、゙ト-、



  ?
(・∀・)「ドユコト?」

210 ◆m8iVFhkTec:2013/04/19(金) 18:29:24 ID:5fphdqVU0

    ,ィ, (fー--─‐- 、、
.    ,イ/〃        ヾ= 、
   N {                \
  ト.l ヽ               l
 、ゝ丶         ,..ィ从    |  「簡単に言えば"信用度"とでも言おうか。信用の低い最初こそ少し不便になるが、これまでのような余計な規制に巻き込まれなくなる。
  \`.、_    _,. _彡'ノリ__,.ゝ、  |   そして荒らしなどの迷惑行為を行なわず、普通に使用していれば信用され、そのうちに元通り快適に使用出来るようになるのさ」
   `ゞf‐>n;ハ二r^ァnj< y=レヽ
.    |fjl、 ` ̄リj^ヾ)  ̄´ ノ レ リ
    ヾl.`ー- べl,- ` ー-‐'  ,ン
      l     r─‐-、   /:|
       ト、  `二¨´  ,.イ |
     _亅::ヽ、    ./ i :ト、
  -‐''「 F′::  `:ー '´  ,.'  フ >ー、
    ト、ヾ;、..__     , '_,./ /l
   ヽl \\‐二ニ二三/ / /


   !
(・∀・)「ナルホドー」



なんとなく教養番組のようなノリになっている。
というのも、ジサクジエンの反応が良いから、そういう雰囲気になってるのだろう。
キバヤシは普段のプレゼンとさほど変わらない説明を行なっている。

「では前置きはこの辺にして、次はこのバトルロワイヤルにおける忍法帖について説明していこう」
「ハーイ!!」

解説は続く。


     |丶 \ ̄ ̄~Y〜、
     |  \_    /    \
    | \   /  /  ヽ   |
    \__ ̄   //\     ;!
      ,ゞi ̄ ̄l‐! ̄ ̄|- 、! 「いわゆる"忍法帖プログラム"は、殺害を行なうごとにレベルが上がり、そのレベルを消費することで恩恵が得られるシステムだ。
       i `ー‐"||"---' |b |'  レベルが高い恩恵ほど、より強力な恩恵が得られるため、殺し合いに積極的である者は、より大きなアドバンテージを得られるのだ」
        |    /     | /
        \  ー--   イ/
         ヽ   _,/ト\



( ・∀・)「ヘェー…ドンナノガアルノー?」

211 ◆m8iVFhkTec:2013/04/19(金) 18:29:35 ID:5fphdqVU0

       ,.ィ , - 、._     、
.      ,イ/ l/       ̄ ̄`ヽ!__
     ト/ |' {              `ヽ.   「これが忍法帖で得られる恩恵の一覧表だ!」
    N│ ヽ. `                 ヽ
   N.ヽ.ヽ、            ,        }                           ,-v-、
.  ヽヽ.\         ,.ィイハ       |                          / _ノ_ノ:^)
   ヾニー __ _ -=_彡ソノ u_\ヽ、   |                           / _ノ_ノ_ノ /)
.      ゙̄r=<‐モミ、ニr;==ェ;ュ<_ゞ-=7´ヽ                        / ノ ノノ//
.       l    ̄リーh ` ー‐‐' l‐''´冫)'./                      ____/  ______ ノ
       ゙iー- イ'__ ヽ、..___ノ   トr‐'                      _.. r("  `ー" 、 ノ
       l   `___,.、     u ./│                _. -‐ '"´  l l-、    ゙ ノ
.        ヽ.  }z‐r--|     /  ト,   __       . -‐ ' "´        l ヽ`ー''"ー'"
       | :ヽ、`ー-- '  ./ヽ  / ' "´/`゙ ーァ' "´  ‐'"´         ヽ、`ー /ノ
       ヽ  `ー--‐ _´  '//    /    /                __.. -'-'"
        |  | \   / /     l   /            . -‐ '"´
        \ |___>< / ヽ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【Lv1】
・プロキシ
  次の定時カキコの際に、使用者の"殺害者の実名"が公表されなくなる。

例:
 MSKK(モララー)
 オエー(川越達也)
 ショボーン(お断りします)
  ・
  ・
  ・

  ↓ 川越達也がボーナスを使用した場合

 MSKK(モララー)
 オエー(****)
 ショボーン(お断りします)
  ・
  ・
  ・    ……と表示されるようになる


・代理書き込み
  バトルロワイヤル板に1レスだけ書き込みができる。その際には使用者の名前が表示される。
  なお、最初の定時カキコ以降(6時以降)に使用可能となる。


【Lv3】
・P2
  3時間の間、禁止エリアに自由に出入りすることが出来るようになる。
  時間切れ15分前になるとアラームで知らせてくれる親切設計。
  

【Lv4】
・専用ブラウザ
  地図上に他の参加者の位置がマーカーで表示されるアプリをインストールする。

・キャップ発行
  全参加者の名前、顔写真、そしてリアルタイムの現在位置座標を表示するアプリをインストールする。
  専用ブラウザと合わせて使用することが出来れば、誰がどこにいるのかが手に取るようにわかる。


【Lv6】
・水遁の術
  全参加者の『忍法帖を未使用のPDA』の忍法帖レベルを強制的に0にする。
  

【Lv8】
・あぼーん
  使用者から半径100m以内にいる任意の参加者一人の首輪を爆破出来る。
  発動すると、該当する首輪から40秒のカウントが流れ、その後爆発。
  なお、その間に使用者が死亡した場合はキャンセルされる。


【Lv12】
・規制解除
  恩恵を使用したPDAの"オーナー"の首輪が外れる。
  ただし、バトルロワイヤル板に使用者の名前と現在位置が表示されてしまう。


これ以外に、恩恵を使用するとオマケとして『!omikuji』が表示される。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

212 ◆m8iVFhkTec:2013/04/19(金) 18:30:10 ID:5fphdqVU0
 .ト│|、                                |
. {、l 、ト! \            /     ,ヘ                 |
  i. ゙、 iヽ          /  /  / ヽ            │
.  lヽミ ゝ`‐、_   __,. ‐´  /  ,.イ   \ ヽ            |
  `‐、ヽ.ゝ、_    _,,.. ‐'´  //l , ‐'´, ‐'`‐、\        |
  ヽ、.三 ミニ、_ ___ _,. ‐'´//-─=====-、ヾ       /ヽ
        ,.‐'´ `''‐- 、._ヽ   /.i ∠,. -─;==:- 、ゝ‐;----// ヾ.、 「ただし、これらには使用限度がある。まず、『一つのPDAにつき、一つの恩恵しか使えない』と言う点だ。
       [ |、!  /' ̄r'bゝ}二. {`´ '´__ (_Y_),. |.r-'‐┬‐l l⌒ | }.  複数の恩恵を利用するためには、殺した相手のPDAをしっかり奪っておく必要があるということだな。
        ゙l |`} ..:ヽ--゙‐´リ ̄ヽd、 ''''   ̄ ̄  |l   !ニ! !⌒ //  どうやらワイヤレス機能でレベルの譲渡が出来るらしい。つまり、稼いだレベルの一部を移し、使用するのが基本だろう。
.         i.! l .:::::     ソ;;:..  ヽ、._     _,ノ'     ゞ)ノ./   そして最も高い恩恵である"規制解除"……これに限り使用対象を『PDAのオーナー』に限定している。
         ` ー==--‐'´(__,.   ..、  ̄ ̄ ̄      i/‐'/    俺の予想が正しければ、この恩恵のために誰もが自分のPDAを最後まで取っておく傾向があると思う」
          i       .:::ト、  ̄ ´            l、_/::|
          !                           |:    |
             ヽ     ー‐==:ニニニ⊃          !::   ト、
            ヽ     、__,,..             /:;;:   .!; \
             ヽ      :::::::::::           /:::;;::  /   l


    ?
( ・∀・)「フムフム…デモ、ナンデコンナシステムヲ、ツクッタンダロウネ?」



         N /i/´ ゙ ̄ ̄``ヾ)_
        Nヾ ゙        ゙ヽ
       N゙、            ゙i
       N゙ゞ            .!
       ゞミミ、  ノ,彡イハヾ、  i
       ー-r-==、'リノ_ノ_,.ヾミ,.ィ,ニi  「それはもちろん、参加者たちの殺し合いを促進させるためだ。恩恵はどれも数人殺すだけで生存出来る確率がぐっと上昇するものばかりだ。
.        {i `゙';l={゙´石ゞ}='´゙'r_/   ゆえに、自分の死を恐れている参加者に他者の殺害を、一歩踏み出させるのに一役買っているということだ。
.        ` iー'/ ヾ、__,.ノ  /i´    さらに一度『一人殺す』と言うハードルを乗り越えさせてしまえば、次からは殺しに対する躊躇が大幅に減る。
          !  ゙ニ-=、  u / ,ト,    やがて参加者たちは進んで殺害を行なうようになる……つまり、殺し合いがスムーズに進展していくというわけだ!」
           ヽ、i'、_丿 /// ヽ
        _,.ィヘヽ二 ィ'_/ /  ゙i\
  -‐ '''" ' ̄/ i ヽ_./´   ./    .| `\ 
      /  /ィ´ ゙̄i   /   ir=、  l'i"ヽ、
     ∠__,,..-イ i   /\_,イ,=-、 i 、,.ゞ、 | ゙'"ヽ \
!     .i-'´  ,i | ./`゙'i'   /i_.!._,..ヽ<!  ゙i、゙i.  =゙!  \
!    |   .,i゙::|/  .|  ,/::/-i   ゙i ゙i 三゙i ゙i   | /⌒
i/   .|   ,i゙:::i'    | ,/ ::/= .|三. ゙i/.|   .| .|  .ij:.
.l〉   |   ,i゙ :::|   .!' ::::i゙'i  ト.  ゙i | _,.. V =,!
 !   |  ,i゙ ::::|   / ::::::| l= ヾ!.._ ヽ」 "´;i  :.:i ./
. |   .|  .,i ::::::|  ,/::::::::::|  ヾ:.:. ヾ::" ゙     //
│   |  ,i::::::::| ,/ .::::::::: |   ゙i.:.:.:.:.:、:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/,ィ'"´
.|     |  i::::::::,イ::::::::::::::::|   /ト、;:;:;:;:;:;:;:;:;:;::,ノi|Y

213 ◆m8iVFhkTec:2013/04/19(金) 18:30:21 ID:5fphdqVU0
(; ・∀・)「ナ、ナンテコッタ! オソロシイハナシダ…」



ワキワキ              ワキ
    ., --、   i´!⌒!l  r:,=i
   .|l⌒l l   | ゙ー=':| |. L._」 ))
  .i´|.ー‐' |   |    |. !   l     ワキワキ
  |"'|.   l  │-==:|. ! ==l   ,. -‐;  「そう、俺たちは初めからひろゆきの手の内で踊らされているんだ……!
  i=!ー=;: l   |    l. |   | /   //    籠の中の鳥……いったい、俺たちに何が出来ると言うのか……!?」
  │ l    l、 :|    | } _|,.{::  7 ))
  |__,.ヽ、__,. ヽ._」 ー=:::レ'  ::::::|;   7
  \:::::\::::: ヽ  ::::::!′ :::|   .:/
    /ヽ::: `:::    ::::  ....::..../  ワキ   



キバヤシはそこまで話したところで一息をついた。
犯罪心理学の領域まで考慮された上でのこのシステム、全く本当によく出来ている。
こうも計算され尽くしては、殺し合いに乗る者を止める方法はおそらく存在しないだろう。
自分の命が狙われるのが先か、それともこの殺し合いに隠された謎を解き明かすのが先か……。
この殺し合いの目的について、会場について、ひろゆきの技術力について、そしてジサクジエンなどの謎の生物について……。

調べなくてはいけない課題は山ほどある。
それを『籠の中』で行なわなくてはいけない。
手がかりや痕跡を全て消されていたらアウト、それでもやるしかないんだ。

「あきらめない……。それがオレたちに出来る唯一の闘い方なんだ」

そう呟くと彼は図書館の奥の方……外からは発見されず、隠れられる程度の場所に向かい、そこに横になった。
少し頭を休ませたほうがいい。あまりに一気に動かしすぎるとオーバーヒートしてしまう。
時計の針は5時半を指し示す。定時更新まで30分程度あるが、今はそれほど早急に確認することも無さそうだろう。

「ジエン君、僕は仮眠を取るから見張りを頼む。1時間くらいしたら……あと誰かが来たと思ったら起こしてくれ」
「ワカッター!」
「そうだな……バイク君以外に協力者が、それも戦い慣れているような人物が現れてくれたら、図書館から出て調査したいところだな……。
 出来る事なら学校、病院、テレビ局辺りが望ましいんだが……。どこへ向かうにしろ、地図に名前が出てる時点で危険だろうな……」

そう呟いたところで、しばしの静寂が訪れた。
徐々に彼は睡魔に誘われて行き、やがて意識は闇の中に落ちていった。



【D-3・図書館/一日目・早朝】

【キバヤシ@AA】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、Vやねん!タイガース×36@なんでも実況J
[思考・状況]
基本:バトルロワイヤルの謎を解明する
1:…………
2:目覚めたらバトルロワイヤル板の確認を行ない、調査を再開する
3:バイク君が帰ってきたら手伝って貰う
4:出来れば図書館以外の場所も調査したい
5:バトロワは鮫島事件と何か関係がある……? だが、諸説が多すぎて現時点ではどうしようもない

【ジサクジエン@AA】
[状態]:(・∀・)イイ!
[思考・状況]
基本:キバヤシに従う
1:ミハルゾー!
2:1ジカンゴ、キバヤシヲオコス
3:ニンポーチョーニ、クワシクナッタヨ

214 ◆m8iVFhkTec:2013/04/19(金) 18:31:35 ID:5fphdqVU0
以上です
ご意見、問題点、修正点などがあればご指摘お願いします

215ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/04/19(金) 20:43:52 ID:iVkwqqZM0
仮投下乙です。
内容は、おそらく問題ないかと思われます。忍法帳の説明も、問題ないでしょう。

216 ◆m8iVFhkTec:2013/04/19(金) 22:24:04 ID:5fphdqVU0
ありがとうございます
それではこれより、本投下して参ります

217 ◆i7XcZU0oTM:2013/04/23(火) 00:00:14 ID:gVjzmJeM0
定時更新案の仮投下を致します。

218 ◆i7XcZU0oTM:2013/04/23(火) 00:00:29 ID:gVjzmJeM0


2 名前: ひろゆき :20XX/09/01(月) 06:00:00 ID:???

 こんにちわ、ひろゆきです。

 ゲームスタートから6時間が経過しました。
 皆さんいかがお過ごしですか?
 ちゃんと、この書き込みを確認していますか?
 してないと、後で困りますよ。


 以下が、残念ながら死んでしまった方の名前です。


 MSKK
 ショボーン
 オエー
 ウララー
 エルメス
 寺生まれのTさん
 一等自営業
 モッピー
 レベル男
 エルメェス
 原住民
 ドクオ
 麦茶ばあちゃん
 壁殴り代行
 ゆうすけ


 ……以上が、今までに死亡した方です。
 次に、とても重要な禁止エリアのお話です。

219 ◆i7XcZU0oTM:2013/04/23(火) 00:00:50 ID:gVjzmJeM0


 禁止エリアは、
 A-6
 F-3
 C-1
 B-2
 D-1
 E-2

 以上の6エリアが、一時間ごとに、上から順に禁止エリアになります。

 とても重要ですから、忘れないで下さいね。
 禁止エリアで死んでも、面白くないですから。
 次レスに、FOX君からのお知らせもあるので、そちらも見逃さないで下さいね。



 嘘を嘘と見抜ける人でないと(バトルロワイアルを生き残るのは)難しい。
 それでは、また6時間後……12時の定時カキコで会いましょう。


3 名前: FOX★ :20XX/09/01(月) 06:00:30 ID:???

 どうも。
 "プロキシ"を確認するために、殺害者の名前の公表は後から行います。
 こちらからの通知などは一切致しませんので、自分で確認してください。
 それでは。

220 ◆i7XcZU0oTM:2013/04/23(火) 00:01:00 ID:gVjzmJeM0










 何処かも分からない場所で、パソコンの前に座り作業を行うFOXと……ひろゆき。
 グイーン……と小さな稼働音を立てる鯖を背に、2人はモニターに向かっていた。

「……まあ、こんな物でしょうね」
「ええ」

 短い会話は、すぐに終わった。
 ……喋る事など、何もない。今はただ、粛々と進行するのみだ。



【不明/一日目・朝】
【ひろゆき】
[状態]:健康、血塗れ
[思考]
基本:バトルロワイアルを完遂する。

【FOX】
[状態]:健康
[思考]
基本:ひろゆきの補佐、書き込みの管理

221 ◆i7XcZU0oTM:2013/04/23(火) 00:01:12 ID:gVjzmJeM0
仮投下終了です。

222 ◆i7XcZU0oTM:2013/04/23(火) 00:02:22 ID:gVjzmJeM0
あ、ひろゆきの状態表から「血塗れ」の表記を削除します

223 ◆m8iVFhkTec:2013/04/24(水) 01:12:40 ID:SPi6doXU0
私も定時更新案を仮投下致します。

224 ◆m8iVFhkTec:2013/04/24(水) 01:13:33 ID:SPi6doXU0
2 名前: ひろゆき :20XX/09/01(月) 06:00:00 ID:??????
 生存者のみなさん、おはようございます。
 第一回定時更新の時間となりました。
 まずはこの6時間での脱落者の発表です。
  MSKK
  ショボーン
  オエー
  ウララー
  エルメス
  寺生まれのTさん
  一頭自営業
  モッピー
  レベル男
  エルメェス
  原住民
  ドクオ
  麦茶ばあちゃん
  壁殴り代行
  ゆうすけ
 以上の16名です。知り合いが亡くなった方はご愁傷様です。
 優勝さえすれば彼らを生き返らせる事も出来ますので、バンバン殺し合いに参加しちゃってください。

 そして殺害者と、Lv:01以上の忍法帖のオーナー名を発表します。

  殺害者名・・・被害者、被害者etc...
 【Lv=03】 
  やきうのお兄ちゃん・・・一頭自営業、エルメェス、原住民
  モララー・・・モララー MSKK、レベル男、ゆうすけ

 【Lv=02】
  クマー・・・エルメス、寺生まれのTさん
  クタタン・・・ドクオ、麦茶ばあちゃん
  お断りします・・・ショボーン、壁殴り代行

 【Lv=01】
  川越達也・・・オエー
  カーチャン・・・ウララー
  一条三位・・・モッピー

 ちなみに忍法帖のプロキシを使うことで、
 この殺害者名を隠すことが出来ますので、ご利用ください。


3 名前: ひろゆき :20XX/09/01(月) 06:00:07 ID:??????
 そして最後に禁止エリアの発表です。
  7時  D-1
  8時  F-1
  9時  D-5
  10時 E-6
  11時 F-4
  12時 D-6

 時間になってもエリアにずっと留まっていると、首輪が爆発してそのまま脱落となります。
 なお、海上にも禁止エリアが設けられますが、
 一応渡し船の上にさえいればセーフです。その辺りはご安心ください。

 あと、今から忍法帖の「書き込み代行」が解禁になりますよ。
 何かの告知などに使っていただければいいと思います。
 なお、「書き込み代行」を使用して質問されても、おいらから一切返信はしませんのでご了承ください。

 とりあえず、伝えるべき事は以上ですー。
 それでは、皆さんのご活躍に期待しております。。。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

225 ◆m8iVFhkTec:2013/04/24(水) 01:13:44 ID:SPi6doXU0

「……よし、書き込み完了」
「はい、お疲れ様です、ひろゆきさん」

椅子の背もたれにひろゆきは思いきりもたれ掛かった。
その隣でモニターをじっと見つめる中年の男が一人、労りの言葉をかける。
男の名はFOX。2ちゃんねるの鯖を管理人する存在。彼もバトルロワイヤルに関わっていた。

「いやぁ、お疲れ様はFOXさんの方ですよ。僕ギリギリまで寝てましたからね。
 ……それで、夜のうちに面白い参加者いました?」
「そうだねぇ、個人的にはいわっちが気になりますね。どうやら我々に『停戦』を持ちかけようとしてますね」
「へぇ、停戦……。直接は殺し合いを止めるんじゃなくて、停戦ですか。ほー……」

ひろゆきは興味深そうに、仕切りに頷く。
停戦……言わば『一時的な中断』であり、完全な和解ではない。
故に考えられる目的は『時間稼ぎ』。彼は一時的にでも猶予を求めているという事。
では、我々がその時間を与えたとして、いわっちは何をしようと言うのだろうか。
FOXもひろゆきも、その点については注目に値すると考えた。

「今後彼が実際に我々に交渉を持ち掛けてきたら、ひろゆきさんは乗ります?」
「うーん……いやぁ、どうかな」

FOXの問いに、含ませたような曖昧な返答で返した。

「それは置いといて、他だと、何か面白い参加者っています?」
「そうですねぇ……ZUNがとんでもなく勘が鋭いですね。推測だけで盗聴器に気付きましたから。
 あとはやきうのお兄ちゃん。開始早々暴れた挙句、エルメェス菌に感染しました」
「うっわぁ……」

これまた優秀なのからカオスなのまで色々居るもんですねぇ、とひろゆきは苦笑した。
やはりメンツがメンツだ、これから想定外の出来事も起こりうる可能性は高い。

「うん、じゃあ今から僕も監視の方に入るんで、FOXさん忍法帖担当なんで、そちらメインでお願いしますね」
「わかってますよ。そろそろ使用者が増えてくる時間だと思いますし、忙しくなりそうです」
「そうですかねぇ? 案外みんな慎重になりそうですけどね」
「それなら私も監視に回りますよ。ひろゆきさんだと絶対監視先が偏ると思うので」
「あ、はい。じゃあその時はその時で」

その言葉を最後に会話が途切れた。
二人はそれぞれヘッドホンを付け、コンピュータのモニターに視線を向けた。



……こうして、バトルロワイヤルの第二幕が開始される―――

226 ◆m8iVFhkTec:2013/04/24(水) 01:20:49 ID:SPi6doXU0
以上です。
私の場合、定時更新前にプロキシが使用されている事前提になってます。

一応案は二つ目になりますが、いいとこ取りとかでもいいと思います。
あと、意見などがあれば言ってくだされば修正します。

227 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:03:06 ID:izeT9O/s0
予約分を仮投下します

228 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:03:22 ID:izeT9O/s0


 やる夫とやきうのお兄ちゃんの2人で、気絶したままのグンマーを、民家の中に運ぶ。
 それを尻目に、ダイニングの机に腰掛け、PDAをチェックするマッマ。
 何故このような事をしているのか?答えは、案外単純である。
 そろそろ定時更新の時間だと言う事で、安全な場所でPDAをチェックしようと、マッマが提案したのだ。
 その為に、手頃な民家に入り、万が一のために、見張りとしてチハを外に置いておくと言う算段だ。
 最初は渋っていたチハだったが、マッマの説得で、渋々見張り役を引き受けたのだ。

「……」

 神妙な面持ちのまま、ジッとPDAを見つめる。
 ……やがて、その表情が悲しげな物へと変化して行く。

(6時間の間に、15人も殺されてるなんて……信じられない)

 だが……これは、紛れも無い事実。
 先程見かけた、3体の遺体同様に、どこかで、誰かが殺されている……。
 その事実が、マッマの胸を締め付ける。

「ちょ、ちょっと見せてほしいお……」
「しょうがないね…………ほら、アンタの名前、ここに載ってるわ」
「ホンマや」

 まさか本当に載るとは、と言った感じで、やきうのお兄ちゃんが驚く。

「ホンマや、じゃないわよ。これがどういうことか、アンタ分かってんの? 他に名前が出てる奴と共に、
 "危険人物"と、まあ十中八九思われるでしょうね」
「ふーん」
「もしかしたら、アンタが殺した人の知り合いが……アンタに復讐しに来るかもね」
「……ま、まあ誰が来ても返り討ちに……ぐえっ!?」

 その言葉を言い終わる前に……。
 マッマの鉄拳が、やきうのお兄ちゃんの腹に叩き込まれた。

「アンタはつくづく救いようのない馬鹿だね。これ以上罪を重ねるつもりかい?」
「そんなん言うても……ワイに復讐しようとする奴が相手でも、殺したらアカンとでも言うんか?
 そんなんワイは絶対に御免や。そもそも、れっきとした正当防衛になるやろ!」
「さっきも言ったけど、アンタに選択権なんて無いの。無駄口すら叩けなくしてあげようか?」
「くっ……」

229 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:03:37 ID:izeT9O/s0

 いくら身体的に勝ろうと、精神的に負けていてはどうしようも無い。
 口では強がっていても、やはりやきうのお兄ちゃんにとってマッマは恐ろしいのだ。
 マッマの畜生発言を見れば、恐れる気持ちも良く理解できるであろう。
 まあ、大抵の畜生発言が放たれる原因は、やきうのお兄ちゃんの方にあるのだが。

「…………全く、無駄な時間を使っちゃったよ。ほら、この禁止エリアを覚えておくんだよ」
「分かってるお。流石に、そんなので死にたくないお」
「この近くで禁止エリアになるんは……D-1か。まあ、あんま関係ないわ。ここは、D-1ちゃうしな」
「……」


 2人が反応を示す中、マッマは一人考えていた。


 ……人がいなさそうな場所から禁止エリアになっている。
 と言う事は、徐々に逃げ場をなくして、嫌が応でも戦わせようと言う意図だろう。
 だとしたら、ひろゆきは随分と酷い事をするものだ……。
 ここに連れてこられている者全てが、戦えるほど強い訳ではないのに。
 もしくは、深い理由なぞなく、適当に選んだだけなのか。


 それと同時に、これからの事もぼんやりと考えていた。


 殺し合いに乗っている奴の名前が出た。即ち、全員が警戒心を強める事に繋がる。
 ……出会う相手が、名前が出ていた殺人者ではないか。それとも、そうじゃないのか。
 これを見た誰もが、そう思うかもしれない。だが、この情報は……参加者全員が閲覧できる。
 つまり、名前の出ている殺人者自身も、これを見れるのだ。
 当然、自身がこれから警戒されることも、十分なほど分かるだろう。
 となると……やはり、そうそう姿を現さなくなるかもしれない。
 だとすると、危なくておちおち外も歩けない。だからって、別に諦めはしないけど。


「マッマ、どうしたんや。さっきからずっと黙っとるけど」
「アンタと違って、私はいろいろ考えてるのよ。とりあえず……アンタ達、ちょっとこの家調べてきなさい」




〜〜〜〜

230 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:03:58 ID:izeT9O/s0




「……15もの命が奪われていたなんて……」
「……」

 PDAを見ながら、悲しげな表情を浮かべるいわっち。
 だが、それ以上に悲しげで、かつ恐れた目でPDAを覗くしぃ。

「それなのに、私と来たら……情けないものです」

 肩を竦め、溜息を突く。
 いわっちの言う通り、あれから……ギコ猫と別れてから、誰にも出会えていない。
 時折、何処かから銃声のようなものも聞こえて気はしたが、それ以外は、何も無い。
 ただ、人がいないかどうか確かめながら、ここまで歩いてきたが、結果はこの有様であった。
 誰にも出会う事はなく、ただここまで辿り着いたのみ。
 だがこれは、同時に危険人物にも出会わなかったと言う事にもなる。
 その点では、ある意味幸運だったのかもしれない。
 しかし、情報を訊きたいと思っているいわっちにとっては、あまり好ましいことではなかった。

(…………それに)

 "異世界"の可能性……。
 本当に異世界から人が招かれていたり、自身の知らぬ世界から物が持って来られているのか。
 ……それを感じさせる事象に何度も遭遇はしているが、未だ半信半疑な状態だ。
 それを完全に裏付け出来る程の"何か"が、現時点では欠けている……。
 "停戦"を持ちかける前に、できればそれもはっきりさせたい……。
 そんな考えが、いわっちの頭の中に変わらず有った。

「……?」

 どうしたのだろう、と言った目線で、いわっちの顔を見るしぃ。

「あっ、いいえ、何でもありませんよ。少々、考え事をしていただけですよ」

 ……こんなところで、思い悩んでも仕方が無い。
 今は、立てた目標目指して、進むしか無いのだ。
 緩みかけた意思を再度引き締め、いわっちは歩き出した。

(……)

231 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:04:14 ID:izeT9O/s0

 辺りも明るくなるころだと言うのに、いわっちの心には、重苦しい暗雲が居座っていた。
 ……人である以上、恐怖からは逃れられない。
 未知の事態への、自身の死への、自身の計画の成否への、恐怖。
 それが、じわりといわっちの心に影響を及ぼして行く。
 微小なウイルスが、徐々に人の体を蝕むように。静かだが、確実に……。



「あッ」

 不意に、しぃが声を上げる。

「どうしました?」
「あれ……もしかしテ……」
「ん……!?」

 少々離れた民家の前の道路。そこには……戦車らしき物が、停まっている。
 ――――何故戦車がこんな所に。まさか、誰かの支給品?
 何となく危険な気がしたので、いわっちはしぃを抱えて物陰から様子を窺う。

(あれって絶対……戦車、だよネ?)
(間違い無く、戦車です…………)

 小声で、会話を交わす。
 それと同時に、いわっちの頭脳が、急に回転しだす。

 何故こんな所に?と言うか、そもそも何故戦車があるのだろうか。
 こんな状況自体が普通じゃないが……あえて普通に考えるならば、誰かに支給された物だろう。
 そして、支給された戦車に乗ってここまで来た、と言った所だろうか。
 だが……今の所、戦車に人が乗っているような気配はない。なら、どこにいるのか?
 流石に、戦車を乗り捨ててはいないだろう。壊れてもいない戦車を、捨てて行く理由はない。
 なら……近くにいる、と考えるのが自然だろう。

(私の考えが正しいならば、戦車に乗っていた人物は近くにいるはずです)
(どうして分かるノ?)

232 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:04:35 ID:izeT9O/s0

 先程の考えと結論を、しぃに小声で伝えるいわっち。
 説得力があるような結論に、ただただしぃは感心するばかりだった。

(そこで……少々危険ですが、近づいて調べてみようかと思います)
(ええッ!?)
(勿論、しぃさんを危険な目に遭わせたりはしません。私の後ろに隠れていれば、大丈夫ですよ)

 そう言って、つかつかと停まっている戦車まで歩いて行こうとすると……!

(あっ! ……お姉さーん! 誰か来たよー!)








「で、あなたがいわっち、そっちの子がしぃ、ね……」
「そうです」
「渾名みたいな名前ね……まぁ、私も人の事は言えないけど」

 民家の中。
 いわっちとしぃ、それとマッマは、ダイニングで向かいあって座っていた。
 簡単に自己紹介を済ませ、2人は一息ついていた。
 ……やきうのお兄ちゃんとやる夫には、別室で未だ気絶したままのグンマーと共に待機させている。
 あの2人がいると、話がややこしくなると考えたマッマの措置だ。

「あなた、目標はあるの?」

 マッマがそう言うと、いわっちは地図を取り出し、森林公園を指差しながら言った。

「まず……一緒に来ていただける方を、この公園に集めるつもりです。その後……」
「それで?」

 ススッと指先をテレビ局の所まで持って行き、話を続ける。

「できれば12時までには、テレビ局にて、停戦の意思を伝えるつもりです」
「停戦?」

 その単語に、マッマは怪訝そうな顔をする。

233 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:04:47 ID:izeT9O/s0

「ええ。ひろゆきに、テレビ局を通じて停戦の意思を伝えます」
「それ…………問題ありまくりよ」
「な、何故ですか!?」

 一呼吸置いた後、マッマは話しだした。

「まず、幾ら停戦しようと訴えた所で、相手が乗らなきゃ意味が無いじゃない。私たちをこんな所に連れてきて、
 なおかつ殺し合いさせるような奴が、そんな誘いに乗ると思う? まず、無視されるか突っぱねられるでしょ」
「……」
「第一、テレビ局からあいつらに何か言う事って出来るの?」
「おそらく、出来るのではないかと。テレビ局から映像を流せば、あちらの目にも停まるでしょうし」
「まあ、その可能性はあるでしょうけど。あっちだって、私たちが逃げ出さないように見張ってるだろうしね。
 でも、その問題を乗り越えても、まだ大きな問題が残ってるわ」

 ふう、と一息つき、なおも喋り続けるマッマ。
 その声には、幾分かいわっちに対する呆れと怒りが籠っていたかもしれない。

「もし停戦が受け入れられたとして、その後はどうするのよ?」
「……その後?」
「そうよ、その後よ。停戦が運良く受け入れられたとして、その後はどうすんの?」
「その後は……」

 さっきとは打って変って、黙りこんでしまったいわっち。
 そこを突くように、マッマはさらに踏み込んでいく。

「それも考えずに、今までやってたの? ……私としては、その案を実行に移すのはやめた方が良いと思うけど」
「……で、ですが」
「言いたい事は良く分かるし、あなたを責めるつもりもないわ。でも、考えてみてよ。さっきも言ったけど、
 こんな所に無理矢理連れて来てるような奴が、こっちの言う事なんてまともに取りあう訳がないわ」

 ……何とも言えない、気まずい空気が、部屋を包んでいる。

「……ごめんなさいね、しぃちゃん。さっきから私が喋ってばかりで。怖かったでしょう」

 そう言いつつ、今までにない優しい目線を、しぃに向ける。

「大丈夫……。怖く、なかったヨ」
「ならよかったわ」

 ほんの少しだけ、空気が変わった時だった。

234 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:05:06 ID:izeT9O/s0





「うわあああああぁぁぁっ!?」





 ――――叫び声が、その空気を打ち破った。





〜〜〜〜





 マッマといわっち達が、別室で会話していた頃。
 やきうのお兄ちゃんとやる夫は、別の部屋でグンマーと共に待機していた。

「くそ、何でこんな仕打ち受けなアカンのや……」
「全くだお……」

 ハァ、と2人が同時に溜息をつく。
 殺し合いの最中だと言うのに、何故かここだけ妙にダラけた雰囲気に包まれていた。
 それもそのはず、畳敷きの床に寝転がり、ダラダラと過ごしていたのだから……。

「この家を調べた結果も、つまらん結果に終わっただけやしなあ」

 そう言ってボヤくやきうのお兄ちゃんに、やる夫が話を振る。

「そう言えば、少し気になってたことがあるお。さっき、何でお前はこいつの言う事が分かったんだお?」

 ……少し頭を捻ったあと、やきうのお兄ちゃんは言った。

「なんでやろな? 何か、何となく言うてることが分かったんや。不思議な事にな。何でやろな?」
「そんなの知らないお。あいつに聞けお」

 それで、会話は終わった。……また、何とも言えない倦怠感を含んだ空気が、部屋を包む。
 ……お互い、会話はほぼない。
 話すこともないし、特に話題が噛みあうようなことも無い以上、仕方の無い事である。

(何で、やる夫がこんな目に遭わなきゃならないんだお……)

235 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:05:26 ID:izeT9O/s0

 一人、心の中でグチグチと文句ばかり垂れるやる夫。

(思えば、ここに来て良い事なんて1つも無かったお! 初っ端から痛い目に遭わされたりしたし、
 滅茶苦茶グロい光景を見てしまったし、今だって、こんな訳の分からない奴の弾除けにされてるし。
 お先真っ暗だお……)

 いっそのこと、こっそり抜け出してしまおうか。

(トイレに行くフリして、こっそり外に出れば……でも、荷物持ってトイレに行くのは怪しまれるお。
 でも、何も持たずに外に出るのはどう考えても自殺行為だお…………一体、どうすればいいんだお)
「……ちょっとトイレ行ってくるわ。その間、お前あいつ見張っとけや」

 思い悩んでいるやる夫に、やきうのお兄ちゃんが唐突に声をかけた。

「えっ!? ちょ……」

 有無を言わさず、サッと部屋を出るやきうのお兄ちゃん。
 そんな態度に、一人やる夫は愚痴をこぼす。

「何なんだお」

 あまりの苛立ちに、不貞寝でもしてやろうかと思った、その時だった。
 ……ある物が、やる夫の目に入った。

(あいつ……鞄を置いて行ってるお! まあ、おかしくはないお。トイレに持って行っても……)

 そう……やきうのお兄ちゃんの鞄である。

(……そう言えば、あいつ鞄の中にいいモノ入れてたお! そいつをやる夫が手に入れれば……!)

236 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:05:48 ID:izeT9O/s0




『ああっ、"それ"ってワイのやないか!』
『油断してたお前が悪いんだお! これからは、お前がやる夫の弾除けになるんだお!!』
『ぐうっ……流石に"それ"相手やったら勝てへんわ……』
『やる夫を馬鹿にしてたからこうなるんだお……!』




 やる夫の脳内に、都合のいい妄想世界が広がる。

「ヒヒヒ……それじゃあ、早速頂くお!」

 こういう時だけは、行動力が高いのがやる夫である。
 素早く鞄を引き寄せ、手早く必要なモノを取り出す! ……はずだった。
 あの"良いもの"が、なかなか出てこない。どうでもいい物は、すぐ出るのに。
 そんな物たちより、あの"良いもの"を。

(早くしないと、あいつが帰って来るお……!)

 ……やきうのお兄ちゃんの、下品な足音が近づいてくる。
 それに同調するように、やる夫の鼓動も早まっていく!

(何でこいつ、鞄の中身片づけてないんだお……!)

 やきうのお兄ちゃんの手が、襖にかかったのと同時に。
 やる夫の手が、"良いもの"を掴んだ……!

「……!」
「へへへ……これで、やる夫の勝ちだお」

 勝ち誇った様に笑うやる夫と、対象的に静かに怒るやきうのお兄ちゃん。
 ……やきうのお兄ちゃんは恐れていた。"ええの"が、やる夫の手に渡ったのだから。

237 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:06:01 ID:izeT9O/s0

「ワイのモン盗りやがって……お前、死ぬ覚悟はできとるんやろな……?」
「それはこっちの台詞だお。拳銃で、ショットガンに勝てると思ってるのかお?」


 やる夫の持つ銃であり、かつてやきうのお兄ちゃんの"ええの"であった物。
 それは――――立派な、散弾銃だった。


「やる夫の言いなりになるなら、殺しはしないお。とっととその銃も捨てて、やる夫の言いなりになれお!」
「フン、調子乗ってると痛い目に遭うで?」
「それはこっちの台詞だおwwwwwwこの状況で何言ってるおwwwwww」

 この状態……広くない部屋で、お互い銃を向けあっている状態。
 普通ならば、まずやる夫の方が有利であろう。
 だが、1つだけやきうのお兄ちゃんが勝っている部分がある。それは……人を殺した経験だ。
 どれだけいい武器で威嚇しようが、そこから先に進むのは、また別の事だ。
 その点では……既に3人手にかけているやきうのお兄ちゃんの方が、上だった。
 しかし、それでも拳銃と散弾銃の差は大きい。

「……撃たへんのか?」
「そっちこそ、とっとと降伏した方がいいお……」

 お互いがお互いに狙いを定めたまま、じわじわと時が流れて行く。
 それを、打ち破ったのは。




「ザケンナ、コラ――――ッ!!」
「なっ、うわあああああぁぁぁっ!?」

238 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:06:17 ID:izeT9O/s0

 3人目の男――――グンマーだった。
 全く警戒していなかった相手からの攻撃で、やる夫はなす術もなく殴り飛ばされる。

「チイッ……目覚めとったんか!?」

 少し呆然としていたやきうのお兄ちゃんもハッと我に帰り、拳銃をぶっ放す。
 ……だが、大して狙わずに撃ったせいで、グンマーにはかすりもせずに、空中を貫くばかり。

「……お……ぐ……」

 腹部を思いっきり殴られ、ピクリとも動かずに気絶するやる夫。
 その手から、散弾銃がもぎ取られる。

「コイツハイマカラオレノモンダ。ヨビノタマトカネェノカ?(この武器は俺が頂く。予備の弾はないのか)」
「……」

 グンマーの問いかけに答えず、拳銃を構えたまま動かないやきうのお兄ちゃん。
 ……この騒ぎを聞きつけて、マッマ達も来た。

「死にたないなら、こっち来いひん方がええで」

 散弾銃の銃口をやきうのお兄ちゃんから逸らさずに、近くの鞄を探るグンマー。
 ……そこから弾倉のような物を取り出し、懐に仕舞う。

 (お前、他にも仲間がいただろう? だとすると、相手するには多勢に無勢だな)
「オマエ、ホカニモナカマイタダロ? アイテスルニャチトオオスギルゼ!」

 相手するには数が多すぎると判断したグンマーは、踵を返し、全速力で……。

「コンドアッタラ、ブッコロスカラナ!(次に出会った時は……容赦しない!)」

 窓を突き破り、外へと飛び出して行った。

239 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:06:33 ID:izeT9O/s0



 ……壊れた窓と、ぐちゃぐちゃに乱れた部屋の中を交互に見ながら、マッマは

「一体何があったのか、教えてもらおうじゃない」
「……教える事なんかあらへんわ。これ見れば十分やろ」

 明らかに苛立った口調で、やきうのお兄ちゃんが返す。

「アンタねぇ……!」
「ちょうどええタイミングやし……ワイはワイのやりたいようにやらせて貰うわ」

 そう言って、自分の鞄を拾い上げ、家を出ようとするやきうのお兄ちゃん。
 だが、その肩を掴み止めるのは……マッマだ。

「どこ行くのよ!」

 その答えの代わりに……やきうのお兄ちゃんはマッマの額に拳銃を突き付けた。

「……ッ」
「ワイはアンタの持ち物やない。……これからはワイの好きにやらせてもらうで」

 そう言って、やきうのお兄ちゃんも出ていった。




〜〜〜〜




「大丈夫かお?」
「私は大丈夫よ。そういうあんたはどうなのよ。気絶してたじゃない」
「……少々記憶が飛んでるけど、まあ大丈夫だお……」

 あの後。
 気絶していたやる夫を叩き起こし、全員で何とかチハに乗り込んでいた。

「……あいつの事は、もういいのかお」
「ええ。本人も言ってる通り、もうアイツとは"赤の他人"よ。でも、人殺しを放っておく訳にはいかないから、
 チハに乗ってあいつを追いかける。……向かった方向は確かに見たのよね?」
(うん……北東に向かってたみたいだよ)

 どれだけ畜生な発言をしていても、親は親。やはり、子供は大事なのだ。
 ……とは言え、さっきの事でその気持ちは80%程無くなってしまったのだが。

240 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:06:58 ID:izeT9O/s0

(あの2人は、放っておいて良かったんですか?)
「……ま、あれだけ言っておけば、作戦を良く考えるいい機会になるでしょ」

 ――――とにかく、"停戦"を持ちかける前に、それが本当に有効か考えてみて。
 家の前で別れる際に、マッマはしつこい程にいわっちに念を押しておいた。
 ……とは言え、最終的にどうなるかはいわっち次第なのだが。

「とにかく……できるだけ急いでよ。取り返しが付かなくなる前に、あの馬鹿をとっつかまえないとね」
(……とりあえず、無理のない程度で速度出すよ)



【D-2/一日目・朝】
【やる夫@ニュー速VIP】
[状態]:負傷(中程度)、血が付着、テンションsage、擬似賢者モード
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜2(確認済み)、しょうゆ一㍑(1/4消費)@現実
[思考・状況]
基本:性欲喪失。とりあえず今は生き延びる
1:アイツ(やきうのお兄ちゃん)は怖いけど……でもマッマの言う通りにする
2:チハからは離れたくないけど、畜生マッマから離れたい。今のとこ出来そうにないけど
3:やらない夫がちょっと心配。でもやっぱりおにゃのこには会いたい
※擬似賢者モードによりテンションが下がり、冷静になってます。性欲が回復すれば再び暴走するかもしれません。

【畜生マッマ@なんでも実況J】
[状態]:健康
[装備]:ぬるぽハンマー@AA
[道具]:基本支給品一式×2、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜1(治療に使えそうなものは無いようです)、ハイヒール一足@現実
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める
1:あのバカを追いかける。
2:とりあえず、やる夫を戦闘要員兼弾除けにする
3:グンマーはどうしようか。行方が分かれば……
4:やる夫の友達のやらない夫に親近感

【チハ@軍事】
[状態]:損傷無し、燃料残り83%、内部が少し醤油臭い
[装備]:一式四十七耗戦車砲(残弾無し)、九七式車載重機関銃(7.7mm口径)×2(0/20)
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品1〜3(治療に使えそうなものは無いようです)
[思考・状況]
基本:死にたくない
1:マッマの言う通りにする
2:殺し合いに乗った人には会いたくない
3:やきう兄に強い警戒。グンマーは……
※チハは大戦中に改良が施された、所謂「新砲塔チハ」での参戦です。
※チハは自分の武器の弾薬が無い事にまだ気づいていません。

※D-2の民家の中に、窓の大破した民家があります。どの辺りにあるかは不明

241 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:07:11 ID:izeT9O/s0




〜〜〜〜




「……」

 誰もいなくなったリビングで、ただ考えるいわっち。

(確かに、私は無条件にテレビ局から停戦を持ちかけられると思っていた……それに、その後の事も、
 具体的な事までは考えていなかった……ですが……)
「落ち込まないデ、いわっちサン……」
「大丈夫です、落ち込んでなどいませんよ……早い段階で欠点に気付けたのは、幸運でしたしね」

 ……そう。ここで、計画の欠点を知れたのだから、無駄ではない。
 あくまでも前向きに、いわっちはそう考えることにしたのだ。

「……テレビ局に、向かいましょう」
「? どうしテ?」
「やはり気になるのです。テレビ局を使えば、本当に停戦を持ちかけられるのかが。ですから、
 先にテレビ局を調べようかと思います。幸い、ここからだとそう遠くはありませんし」
「……デモ、途中で怖い人たちに出会ったラ……」
「……私がついていますから、大丈夫ですよ」

 誰が見ても強がりだと分かるその発言。
 だが、それでも。
 しぃの心を幾らか安心させる事はできる。

(……できれば、身を護れる何かがあればいいのですが……)

 一抹の不安を抱え、2人はテレビ局を目指して歩き出した。

242 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:07:23 ID:izeT9O/s0


【D-2・民家/一日目・朝】
【しぃ@AA】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:皆死んじゃうのはイヤ
1:ギコ君、大丈夫カナ……?
2:いわっちサンと一緒にテレビ局に行く
3:カイブツ(ネメア)がコワイ……できればもう遭いたくない

【いわっち@ゲームハード】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、モデルガン@サバゲ、救急箱@現実、不明支給品(0〜1・本人確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いをやめさせる
1:本当にテレビ局からダイレクトができるか確かめに行く
2:情報や人を集めたい。"異世界"の事も調べたい……
3:手はずが整い次第、停戦を持ちかけたいが……




〜〜〜〜




(よし……)

 チハに乗って走っていくマッマ達を尻目に、やきうのお兄ちゃんは路地を歩いて行く。

(拳銃の弾、あんま残っとらんなぁ……弾切れしたら、どないしよ……)

 野球場で荷物を検めた時には、拳銃の予備弾のような物は見当たらなかった。
 つまり、装填されている弾を撃ち切ってしまえば、それまでなのだ。
 ……武器になる物は他にもあるが、拳銃程の利便さはない。
 銃と言う物は、この場において大きな力となるのだ。

(一応武器になるモンはあるけど……正直、銃の方がええわ。こんな状況じゃ贅沢言ってられへんけど)

 そう考えると、やはりあの銃を奪われたのは残念なことだった。

(探し出して奪い返そうにも……武装したアイツには、勝てるかどうか分からへんしなあ。というか、
 どこにおるんかも分からへんしなぁ……)

 はぁ、と大きな溜息をついて、トボトボと歩き続ける。

243 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:07:51 ID:izeT9O/s0





(そういやさっきから、少し頭痛いんやが……何でやろか……?)

 ――――自身を蝕むモノに、気付かないまま。



【D-2/一日目・朝】
【やきうのお兄ちゃん@なんJ】
[状態]:健康、エルメェス菌浸食中(程度不明)
[装備]:H&K USP@現実(6/16)
[道具]:基本支給品一式×3、PDA(忍法帖【Lv=03】)、PSP@現実、木製のバット@現実、釘バット@現実、
    ひかりのこな@ポケットモンスター、台風コロッケ(残り11個)@現実、不明支給品×1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本:生き残る
1:何とかして、銃を手に入れたい
2:もうマッマに会う気はない。次に出会ったら……
※エルメェス菌に感染しました。どのような影響があるのかは不明です
※やきうのお兄ちゃんがどこに向かったのかは、後続の書き手さんにお任せします




〜〜〜〜




「ヘヘッ、コレガアリャアイッキニラクニナルワ(これで、戦いが楽になる……)」

 少々足は痛むが、まだ戦える。……完全ではないが、足の傷も少し治った。
 一層、優勝への欲望を増して、路地裏を駆け抜けるグンマー。

「ダケド……サスガニ、コノアシデバンバンタタカウノハキツイワ(だが……この足では、戦いに支障が出てしまう)」

 自分には、村を護る使命がある。
 だからこそ、ここでやられるわけには行かないのだ。
 そのためにも、体調を整えねばならない。

244 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:08:05 ID:izeT9O/s0

「ドッカニカクレテ、ナオルノマツカ……? イヤ……(どこかに隠れて、傷の回復を待つか? だが……)」

 幸いにも、ここは住宅街。
 隠れる場所は、幾らでもある。

「……ベツニ、ビビッテニゲテルワケジャネエシ……(……これは、敵前逃亡などではない……)」

 長々と、考えている余裕などない。
 戦場では、その隙が命取りになるのだから。
 グンマーは……それを、言葉では無く心で知っていた。
 だからこそ、素早い決断を下した。

「シャーネー、シバラクカクレッカ。ダガ、コッカラハナレタホウガイイワ」
(仕方無い、暫く身を隠そう。だが……ここからは離れた方がよさそうだ)

 そう呟いて、グンマーは走るスピードを上げた。



【グンマー@まちBBS】
[状態]:健康、首筋に血を吸われた痕、足負傷(中程度・回復中)
[装備]:熱光学迷彩服(所々破れている)@攻殻機動隊、サイガ12(8/8)@現実
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、洗顔クリーム、予備マガジン
[思考・状況]
基本:優勝して、村を守る戦士になる
1:今は何処かに隠れて傷の回復を待つ。
2:頃合いを見て、戦場に赴く
※チハが喋ることを半信半疑に思っています
※やる夫を自分と同様に成人の儀を受けているグンマー出身者だと思っています


≪支給品紹介≫
【サイガ12@現実】
90年代に開発された、セミオート式散弾銃。装弾数8発。
ある程度の連射も効くので使いこなせば恐ろしい武器になる。

245 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:08:28 ID:izeT9O/s0
仮投下終了です。
指摘点などあったら、よろしくお願いします

246ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/05/05(日) 21:40:20 ID:B/2Ya2Zg0
仮投下お疲れ様です
問題無いと思いますよ

247 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 22:05:21 ID:izeT9O/s0
意見ありがとうございました。
本スレに投下いたしました

248 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:18:38 ID:eKluyms.0
規制がかかっていたのでこちらに投下します
どなたか代理投下をよろしくお願いいたします

タイトル「涙の中にかすかな灯りがともったら」

249 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:19:04 ID:eKluyms.0
嗚咽が、噛み殺したような鳴き声が、うらぶれた雑居ビルの間に響き渡った。
吹き抜けるそよ風は、錆びついた鉄の匂いを帯びており、空虚な雰囲気に拍車をかける。
そんな錆びついた非常階段には三つの人影が並んでいた。
二人の女に見下ろされるような格好で、二頭身の黒服男――クラウドさんがむせび泣いている。

「……くっ……うぅっ……」

涙はこぼすまいと努めるも、そんな理性を上回るほどにクラウドさんの心中は無念さに支配されていた。
それをオロオロと見つめるばかりの日本鬼子に、少しばかりの苛立ち交じりに見つめるのは鬼女だ。

三人が出会ってものの数十分。
その間に転機となるべき定時カキコが行われた。
進入禁止となるエリアの発表に加え、行われたのがここ六時間での死者の発表だった。

既にその目の前でMSKKの死を見届けたクラウドさんが、最もその生命を案じていた男。
レベル男の名を、居並ぶ死者の中に見つけたその瞬間、クラウドさんは膝からガクッと崩れ落ちた。
そのまま鉄サビなど意に介することもなく突っ伏して、声を殺して泣き続けた。

ほんの僅かの間とはいえ、生死を共にした男の死。
それはクラウドさんに言いようのない悲しみと、自信に対する慙愧の念を同時にぶつけてきた。
「例え悪い結果だとしても気を落とさないこと」、これは先刻鬼女が発した言葉だ。
それはクラウドさんとて重々承知はしている……しているが、事実として自分が護れなかったことはそんな言葉も吹き飛ばしてしまった。



「あ、あの……クラウ……」

見るに見かねた鬼子が言葉を絞り出そうとしたその時だった。

「いつまでクヨクヨしてんのよっ!!」

怒号を叩きつけながら、鬼女が首根っこを掴むようにしてクラウドさんを引き起こす。
クラウドさんのその小さな体に合わせるように、片膝を突いて鬼女が真っ直ぐクラウドさんを見据えた。
対するクラウドさんは、涙を浮かべながらも決してその視線を外そうとはしなかった。

「私言ったわよね!? 殺されちゃった時はもうどうしようもないって!
 卑屈になるのは間違いだって!! 悪いのは全部……全部殺した人なんだって!!!」

一つ言葉を並べるごとに、鬼女はその語調を強めていく。
決してそれはクラウドさんにだけ叩きつけられたものではない。
この忌むべき殺し合いに乗った連中に向けてぶつけられたようなものだった。
それは目の前のクラウドさんも、そして傍らの鬼子も分かっていた……だからこそ、二人とも言葉を挟むことは出来なかった。

「アンタは……アンタはどうせこう思ってるんでしょ……!
 『ボクが護れなかったから、あの人は殺されちゃったんだ』、って……!」

クラウドさんがコクリと小さく頷く。
事実、鬼女の言葉は図星であったからだ。

「正義の味方気取ってるけど、所詮一人だけの力でやれることなんて限られてるのよ!
 アンタがどれだけ力を持っていたとしても、一人だけで全員を護れるだなんてのは思い上がりもいいとこよ!」
「そんなの……そんなの分かってるよ!」

ついにクラウドさんもせき止めていた感情を爆発させるかのように口を開いた。

250 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:19:22 ID:eKluyms.0
「だけど、自分の力で出来るだけのことをやろうと思うことの何が悪いっていうの!?
 ボクは、ボクの力で出来るだけの人を護りたかった……それが出来なかった自分を責めることぐらい……」
「それが現実だって言うのよ!」
「現実……?」

鬼女も一歩も引かない。
ここでクラウドさんの精神が崩壊するようでは、戦闘能力に乏しい自分たちの危機をも意味するからだ。

(冗談じゃないわよ……! 荒療治かもしれないけど、この子にはシャンとしてもらわないと困るのよ……!)

もし、自分の言葉に打ちのめされてしまうようならば、それまでの人間だった……鬼女はそう割り切ろうとしていた。

「そう、アンタ一人じゃ、全員を護りきれっこない……それが現実よ……
 そして、それをアンタは受け入れなきゃいけないのよ!」
「だからって……! それを認めちゃったら、ボクがボクである存在意義が……!」
「人の話は最後まで聞きなさいよ!!」

クラウドさんの言葉を遮って、鬼女がもう一度ジッと見つめた。
まるで吸い込まれそうな瞳に、思わずクラウドさんも言葉を詰まらせた。

「どうして一人でなんでもかんでも抱え込もうとするのよ! そんなに私や鬼子ちゃんが信用できないの!?」
「だ、だって……」
「そりゃ、私たちはアンタみたいにあの猫妖怪を正面から撃退できるだけの力は無いわよ……
 でも、それが出来るアンタだって、結局殺しまくってるクズたちの前じゃ私たちと五十歩百歩よ!
 何も出来ていないってことにかけては、アンタと私たちに大した違いは無いわよ!」
「そんな……」

自分のアイデンティティを真っ向から否定されたクラウドさんは、もう心が折れそうになっていた。
ただでさえ痛感していた自分の無力さを、ここまで容赦なく突きつけられることなど、今までに経験していなかったのだ。
レベル男を喪った悔しさから流した涙と、別の種類の涙がうっすらとその瞳に浮かび始めた。

「……だからさ」

それを押し留めたのは、先ほどまで忌憚ない言葉を浴びせていた鬼女だった。

「一人じゃどうにもならないんだったら……みんなでなんとかするしかないでしょ!?」
「みんな……で?」
「そうよ……"みんなで"、よ」

自分が皆を護るという意識の強いクラウドさんからすれば、皆で手を取り合って立ち向かうという発想はすっぽりと抜け落ちていた。
浮かびかけた涙もすぅっと引いて、キョトンとした目で鬼女を見据えた。

一方で、鬼女からすればそれこそが当然の思考であった。
所詮は一介の市民に過ぎない鬼女は、それ単体の力だけを見れば大したことは無い。
だが、時として皆を戦慄させる"鬼女ネットワーク"を駆使し、彼女たちなりに巨悪へと日々立ち向かっているのだ。
時にそれが行き過ぎになるきらいこそあるものの、一人一人ではとても出来ないことを皆で手を取り合えば出来ることを鬼女は誰よりも知っている。

「……いい? 誰かに頼るなんてことは別に恥ずかしいことじゃないのよ?
 人には誰にだって得手不得手ってものがあるんだから……自分一人でなんでも出来るなんてのはただの思い上がりよ」
「思い上がり……か」
「誰かを支えて、そして誰かに支えられて生きている……それが社会の理ってもんなのよ。
 猫野郎みたいな殺し合いに乗ったクズはそんな簡単な事さえ忘れちゃってる奴なの。
 そんなクズに鉄槌を下すならね……そんな社会の道理ってもんを叩きつけてやりゃいいのよ!」

クラウドさんにとって、このバトルロワイアルは今までの自分というものを粉々に粉砕するだけのイベントだった。
自分は誰かを護れるほどじゃないという現実を突き付けられ、それに思い悩んだりもした。
だが、ここにきて新たな考えを示してくれるようなそんな人物との邂逅を果たすことが出来た。
それは、今までなら単に護る対象でしかなかったような、そんな人物。

251 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:19:56 ID:eKluyms.0
「ボクにも……出来るのかな?」
「アンタ一人じゃ無理よ……だからこう考えなさい」

そこまで言った鬼女が、初めてその口元にうっすらと微笑を浮かべた。

「"みんなで"やれば、何でも出来るって」

すると、鬼女の勢いに乗せられたかのように、今度はこれまで沈黙を守っていた鬼子が一歩前に進み出た。

「クラウドさん……もう忘れちゃったかもしれませんがもう一度言わせてくださいね」

そして自分の手をそっとクラウドさんの手と重ねた。

「私も協力出来ることがあれば協力します……だから、一緒に頑張りましょう……ね?」

そう言って重ねた手をギュッと握りしめた。
クラウドさんは思わず赤面すると同時に、コクリと頷くことしか出来なかった。
そんな二人の様子を見て、やれやれと言わんばかりに鬼女は小さくため息をついた。

「ありがとね、鬼子ちゃん……途中で止められたらどうしよう、って思ってたわよ」
「私も鬼女さんの文字通り鬼気迫る態度にはビックリしちゃいましたけど……」

すると、鬼子は鬼女に顔を向けて柔和な笑顔を見せた。

「別に鬼女さんはクラウドさんのことをただ単に責めてたわけじゃないってことは……なんとなく分かりましたから」
「……へぇ」

思わず鬼女が感心したような表情を見せる。

「鬼女さんと会ってからまだそんなに経ってませんけど……そんなことする人じゃないってことはなんとなく分かります。
 人の心に棲む鬼と対峙してきた私には、それがなんとなく分かるんです」
「さっきは、鬼気迫るって言ってたじゃない」
「人は時に、心を鬼にしてでも事を為さねばなりませんから……それが今だった、というだけのことですよ」
「鬼子ちゃんには敵わないや」

そう言って二人は思わず笑い合った。
つられるようにして、クラウドさんもまた涙の跡の残る顔にうっすらと笑顔を浮かべたのだった。
未だに涙で滲むその瞳に、新しい光が微かに灯った、そんな瞬間だった。





 *      *      *





「……それにしても本当にふざけてるわね」

PDAを手に鬼女が吐き捨てた。
画面には定時カキコの情報が映し出されている。
この六時間で脱落……即ち命を落とした参加者十五人の名前が煌々と映し出されている。
だが、その名前のどれもが凡そ人の名前とは思えないものばかりだったのだから。

252 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:20:16 ID:eKluyms.0
「ゆうすけ、ってのはまだギリギリ分かるわよ……でも他の連中はどれもこれもそうとは思えないじゃない」
「……ということは、鬼女さんみたいに自分の名前を忘れさせられてるということですか?」
「その可能性はあるわね……」

そこまで思考を巡らせ、鬼女はチラリとクラウドさんへと視線を向けた。
クラウドさんは鬼子に抱きかかえられるようにして、鬼女のPDAを覗き込んでいた。
時々鬼子が顔をほころばせながら「……もふもふ」と呟いては、それを「やめなよ」と窘める様子が見られた。
段々鬼女としても止めるのが面倒になって来たので、もうそれをそのままにしてある。

だが、よくよく考えてみれば、二足歩行とはいえこんな大きさで動き回って人間と意思疎通をする動物を鬼女は見たことがない。
それはクラウドさんだけじゃなく、鬼子に関してもそうであったのだがひとまずそのことは思考の片隅に留めておくことにした。
鬼女がここまで出会ってきたのは鬼子にモララーというクズ猫(名前はPDAで把握した)、そしてこのクラウドさんの三人。
その全員が自分のような人間――ホモ・サピエンスとはまるで姿形の異なる生き物なのだ。

しかし、鬼女は見ている。
あのひろゆきがこのバトル・ロワイヤルの開幕を高らかに告げた会場には自分以外にももっと多くの人間がいたはずだと。
そんな人間と、未知なる生物をごった煮にして殺し合わせるのはどういうことだろう……鬼女はそう考えていた。

「……ねぇ」
「何?」

たまらず鬼女はクラウドさんに問いかけた。

「さっきあなたが言ってたモノウルッテレ……なんだっけ、まぁいいわ。
 それってここに載ってるレベル男、って人の事でいいのかしら?」
「多分……そうだと思うよ」

レベル男はMSKKと同じようにモララーの手にかかっていたことが読み取れた。
あの時自分が相手を無力化しておけば、とクラウドさんはまた自分を責めそうになるのをグッとこらえた。

「その人は……その人間だったの? 私みたいな」
「……え? そうだったけど」
「じゃあ、最初に殺されちゃった、っていうMSKKって人は……」
「う〜ん……身長はお姉さんの半分くらいかな。お饅頭に胴体と手足が付いて歩いてるようなそんな感じの人だったよ」
「何よそれ……」

思わず鬼女は呆れ顔に変わる。
目の前の鬼子が「お饅頭……」と目を輝かせるその暢気さもまた呆れを加速させた。
何はともあれ、この殺し合いに招かれた者たちの姿形はまるで統一感のないものであることを鬼女は痛感したのだった。

「……なんにせよ、あのクズ猫みたいなのが他にもいるわけだからね……
 たとえ相手が人間に見えなくたって、注意するに越したことは無いわね」
「そうですね、どうやらクラウドさんのおっしゃってたお二人以外にも、あのモララーという猫は別に一人手にかけたようですし」

クラウドさんを弄る手を止めずに、それでいて真剣な表情で鬼子も鬼女に続いて発言した。
定時カキコではここまでの殺害者も公開されていた。
十五人の命を奪った参加者の数はしめて八人。
鬼女たちからすれば、それは当面注意しなければならない者たちの名前でもある。

「でも、裏を返せばこの八人さえなんとかしちゃえば当分は安心かしらね」
「……そうだといいんだけどなぁ」
「どういうことよ」

思わずポツリと呟くクラウドさんの言葉に鬼女がすかさず反応する。

「だって、あの猫みたいに自分から仕掛けてくるようなのばかりとは限らないじゃない。
 もしかしたら、ある程度人数が減るまでは力を温存するために殺し合いに反対するフリをしている人だって……」
「待ちなさいよ、もしかして私たちがそうなんじゃないか、って言いたいの?」
「いや、二人がそういう人じゃないだろう、ってのは分かるけど……」
「……でも」

鬼女が噛みつくところを割って入ったのは鬼子の言葉だった。

「クラウドさんの言うことも分かるんです……
 心に巣食う鬼を巧みに言葉や態度で包み隠しながら、その牙を研いでいるような人がこの世には確かにいるのです。
 ましてや、今は状況が状況です……そんな人がいるかもしれないと心に留めておくだけでも危険はかなり回避できるのではないでしょうか」
「鬼子ちゃんの言うことも一理あるんだろうけどさ……そんなの注意しようがないじゃない」
「そのあたりは私にお任せくだされば」
「……鬼子ちゃんなら、そんな奴を見破れるってこと?」
「……たぶん」

縋るにはずいぶんとか細すぎる蜘蛛の糸を前にし、鬼女は再びため息をつく。
それでも、ここでいつまでも立ち止まっているわけにはいかなかった。
立ち上がって、尻のあたりを軽く叩きながら、二人を鼓舞するように鬼女は言う。

253 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:20:34 ID:eKluyms.0
「……とにかく私たちがあの猫野郎のようなクズに立ち向かうにはもっと仲間が必要よ。
 きっと三人でもまだ手に余ると思うもの」
「では、誰と接触するかは私にお任せできますか?」
「そうね……そこまで言うなら鬼子ちゃんに任せてもいいかもね。
 そこから相手の本音を探るのは私の役目かしら」

クラウドさんとの接触を決めたのも(半ば可愛さに目が眩んだとはいえ)鬼子の意思によるものが大きかったということもある。
それ故に、結局は鬼女も鬼子の進言を容れることとなった。
その相手の真意を見極めるのは、物怖じせずに言葉をやり取りできる鬼女自身が手を挙げた。

「それじゃあ、ボクは何か危ないことがあったら真っ先に立ち向かう役目、かな?」
「……でも、捨て石になろうだなんて考えないでちょうだいよ?
 死んじゃったらどうにもならないの、最悪の場合は逃げの一手を選んだって誰も責めやしないわよ」
「……分かってるよ」

そして、結局護衛役には一番腕の立つクラウドさんがなし崩し的に収まることとなった。
護ることに強いこだわりを持つクラウドさんに、鬼女は一抹の不安を感じてはいた。
だが、それ以外の役目をこれといって思いつかなかったばかりに、これも受け容れざるを得なかった。


「とにかく、モララー以外の七人のクズの情報を集めるためにも、人を選んでどんどん接触しないとね」
「そうですね……きっと私たち以外にも同じように集団で行動を共にする人もいるはずです」
「そんな人たちに会えたらいいのかな」

思い思いの考えを口にしながら、三人が短くも濃密な時間を過ごした雑居ビルを出たその時だった。





――見るも無残な左手をした、直垂に袴姿、烏帽子を被った男が倒れているのを見つけたのは。





 *      *      *





ズルズルと、足を引きずるようにして一条三位は夜明けの街中を彷徨い歩いていた。
彼からすれば、見るもの全てが新鮮なこの街を楽しみながらも、ただ無為にふらついているわけではなかった。

「……ひとまずはあの高い塔のようなものを目指すとするかの」

視線の先にあったのは、周囲のビル群より一際存在感を放っていた建物――近鉄百貨店であった。
彼の住まう都では決して存在し得なかったほどの高さで聳え立つ建物に、一条三位はとりわけ心魅かれていた。

「あれだけ大きい建物ならば……籠城できる場所などごまんとあるはずでおじゃる」

実際、その内部は幾度かの抗争により滅茶苦茶になっていることを、一条三位が知る由もない。
ただただ、まるで火に吸い寄せられる夏の虫の如く、一心不乱に一条三位は近鉄百貨店を目指した。

……だが、レベル男とモッピーとの戦いで一条三位が受けたダメージは甚大なものであった。
とりわけ、イオナズンによるダメージは急所こそ外れていたとはいえ、本来ならば行動不能に陥ってもおかしくないものだ。
それでも、勝利への意志……即ち生還しzipの桃源郷を創るという強い意志と、見ず知らずの街並みに対する強い憧憬。
その強い精神力で今の一条三位はどうにか体を動かすことが出来るという状態だった。
必然的にその歩みはのっそりとした重苦しいものへとなっていく。

254 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:20:55 ID:eKluyms.0

愛用の日本刀を杖代わりにしてゆっくり、ゆっくりとその歩を一条三位は進める。
ゲームキューブを切りつけ、モッピーを突き刺した日本刀は確実にその切れ味を失っていた。
さらに、イオナズンの爆破の衝撃で、左腰に挿していた鞘はその用を成さぬほどにボロボロになってしまっていた。
その結果、抜身の刀を知らずとはいえアスファルトに突き立てながら歩くものだから、刃こぼれはさらに加速する。
目指す近鉄百貨店が徐々にその姿を大きくする頃にはすっかり日本刀はなまくらと化してしまった。
しかし、一条三位はそのことに気付かない。

気付かない、といえばもう一つ。
一条三位は時刻が六時を過ぎたにもかかわらず、未だに定時カキコを見ていなかった。
zip蒐集を生業とする彼がPDAの扱いを知らぬというわけはない。
ただ単純に、時間も忘れて近鉄百貨店を目指していたばかりに、大事な情報が流れているのにも気づいていなかった。
これが、後からでも見返すことのできる"定時カキコ"というスタイルであることが一条三位にとっては幸いしてはいる。
が、自らの所業が晒されているということには、今の一条三位は完全に無自覚であった。

「ま、まだでおじゃるか……?」

当の一条三位は、いつまで足を動かしても近鉄百貨店に辿りつけないことに苛立ちを感じつつあった。
確かに見る景色に心を奪われたりすることはあったものの、寄り道の出来るような身体ではない。
一直線に近鉄百貨店を目指していたはずだが、一向に目的地に近づいているような感覚が無かった。
それはつまり、本人の想像を超えて体力が失われていることの証左でもあるのだが。

「まったく……麿が何故に歩かねばならぬでおじゃるか……
 普段ならば従者に牛車でも引かせて雅に動くところで……」

少しずつ愚痴も漏れ始めたその時だった。



「……でクヨクヨしてんのよっ!!」
「!?」

ビル街に響き渡る女の怒声に、思わず一条三位は辺りを見回した。
声の発信源は遠くない……むしろすぐ近くであるように思えた。

「……むふふ、場も弁えずに大声を張り上げる間抜けがおるようじゃな……
 ちょうどよい、この刀の錆にしてくれようか……それとも先程手にしたあの南蛮風の槍で……」

屍を築き続けることが、zipの桃源郷を創る最短ルートと信じて疑わない一条三位は、思わぬ獲物の出現に顔を醜く歪ませた。
ひとまずは声のする方へそろり、そろりと忍び寄ろうとして……



そこで体力の限界が訪れた。



裏路地にその体を滑り込ませたその時に、何でもない段差に一条三位が躓く。

「うおっ!?」

膝から崩れ落ちるように地面を舐めた一条三位は、すぐさま体を起こそうとする。
……が、身体に力が入らない。

「ど……どういうことで……おじゃるか……?」

左手の一部を吹き飛ばされただけではない。
イオナズンの爆発による衝撃は身体全体にもダメージを与えていた。
そんな身体で、アスファルトを歩くにはお世辞にも適したとは言えない靴で数時間も歩き続けたのだ。
最早、精神力で肉体をカバーするには足りないほどに、一条三位は消耗しきってしまっていた。

「こ……こんなところで……!」

最後の気力を振り絞って数m這いずるが、それが精一杯だった。
目標とする雑居ビルを目の前にしたところで……一度一条三位はその意識を手放したのだった。





 *      *      *





「ちょ、ちょっとどういうこと!?」
「だ、大丈夫ですか!?」

変わり果てた姿で倒れる男を目の前にし、思わず鬼女と鬼子が驚きの声を上げる。
鬼子に至ってはすぐさま駆け寄って助け起こそうとしたその時だった。

255 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:21:22 ID:eKluyms.0

「……ちょっと待って!」

二人に出会ってから、一番大きな声を張り上げて制したのはクラウドさんだった。
地に伏せる一条三位に駆け寄っていた鬼子もピタリとその足を止めて振り返った。
勿論、鬼女も同様に傍らのクラウドさんを見下ろすような格好で視線を向ける。

「待って、って一体なんのつもりよ……」
「そうですよ、早く手当をすればまだなんとかなるかも……」

鬼子が焦りの色を濃くする。
先刻、この雑居ビルに入る時にこの男は倒れていなかった。
とすれば、ここ数十分の間にこの男はここに現れてそして倒れたのだということは容易に推測できた。
つまり、今ならまだ手を尽くせば助かるかもしれない、そう鬼子は考えていた。

「よく見てよ……その人が持ってる刀」

クラウドさんが指さす先には、一条三位が杖代わりに握っていた日本刀があった。
すっかりモッピーの血は乾いており、まるで赤錆のように刀身にまとわりついている。
それを見て鬼女は思わず目を丸くし、鬼子は小さくひっ、と悲鳴を上げた。

「な、なによ……じゃあこいつも人殺しのクズってこと……?」
「分からないよ……?
 モララーって猫妖怪みたいな人と会って、交戦せざるを得なくなったけど大ダメージを追って逃げてきたのかもしれないし」
「で、ですがこのまま放っておくわけには……」

思わずオロオロとする鬼子に対し、鬼女は意を決したかのようによし、と呟く。

「それじゃあ、そいつのPDAを見させてもらいましょ。
 確か、本人の名前が出るはずよね……それでそいつの名前があの八人の中にあればクロ、ってことじゃない」
「それはそうですが……もしクロだとしたらその時はどうするんですか……?」
「決まってるじゃない、その時は……」

鬼女が口を開こうとしたその時だった。



『ひろゆき討伐PT募集Lv70以上@5まず後衛優先、とるあえず近鉄百貨店集合、詳細きぼうhさ、参加希望者はテルしてくあさい』



「「「!?」」」

突如として響き渡る男の声に、三人は思わず辺りをキョロキョロと見回す。
気絶した一条三位はそれでもなお、目を覚ます気配さえなかった。

「ちょ、ちょっと何!?」
「ぼ、ボクに聞かれても……」
「な、何か拡声器のようなものでも使っているんでしょうか?」

三人の狼狽えなど知る由もなく、声の主はさらに三度同じ言葉を発した。
合計で四度その声を聞けば、さすがに発信源はある程度特定することが出来た。
雑居ビルからほど近いところに聳え立つ近鉄百貨店……その屋上だ。

「な、何を言ってんだか半分くらいよく分からなかったけど……」

屋上の声の主の独特の言語センスに加え、やれレベルだの後衛だのという言葉を並べられては鬼女には成す術もない。
それはまた鬼子も同じ事であった。

256 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:21:50 ID:eKluyms.0

「と、とりあえず『ひろゆき討伐』とか言ってたよね……?」
「はい……ということはこの人は味方、でしょうか?」

クラウドさんと鬼子が顔を見合わせながら呟くが、鬼女はそれを一蹴した。

「バッカじゃない!? あんなの罠に決まってるじゃない、罠よ!」
「わ、罠……ですか?」
「そうよ! あんなことしたら確かに人は集まってくるかもしれないわよ……
 でも、それで集まってくるのは私たちみたいにひろゆきを何とかしようって人たちだけとは限らないのよ!?
 モララーみたいなハイエナが獲物が集まってくるところを狙ってくるかもしれないのよ!?」
「それは分かりますが……」

思わず表情を曇らせる鬼子などお構いなしに、鬼女はさらに言葉を並べる。
わざわざ裏路地を選んでまで慎重な仲間を集めようとしただけあって、鬼女は警戒心を緩めない。

「仮にアレが言ってるひろゆき討伐が本当の事だとしてもよ……?
 私はそんな後先考えられないバカと行動するなんて真っ平御免よ!」
「う〜ん……何だかあの声の人に、ボクと似たような匂いを感じるんだけどなぁ……」
「だとしたらなおのことよ……」

クラウドさんの嗅覚までも一顧だにせずに、鬼女はいそいそと荷物をまとめ始めた。

「ホラ、二人とも急いで! さっさとこんな危ないとこ離れるわよ!」
「え……それじゃああの人はどうなっちゃうの?」
「だから言ってるでしょ! なんでもかんでも護れる、ってわけじゃないのよ!
 自分でバカやってる奴なんて自己責任よ! そんな奴護るくらいなら、もっと別のまともな人護るのに力使いなさい!!」
「あ、あの鬼女さん……」
「何よっ!?」

焦りからついつい鬼女は語気を荒げてしまう。

「この人はどうしましょうか……」

鬼子の指さす先には、倒れたまま目覚める様子のない男がいて、思わず鬼女も言葉を詰まらせた。
そもそも、まだ生きているかどうかさえ確認出来ていないその男は、殺人の禁忌を犯したかもしれないわけで、鬼女にとってはお荷物でしかない。
だが、目の前で倒れている男をそのまま捨ておくことは流石の鬼女とて出来なかった。
もし何かあったとしても、相手は傷だらけだし、こちらには腕の立つクラウドさんがいるということも鬼女の判断を変えさせた。

「……仕方ないわね、そいつは私とクラウドさんが交代で担いでいくわよ。
 鬼子ちゃんは、そいつの荷物を持ってて。もしコイツが人殺しのクズだとしても、こんなボロボロで武器も奪われたら何も出来ないでしょ」
「分かりました」
「あなたも、それでいいわね?」
「分かったよ」

まず鬼子が、続いてクラウドさんが小さく頷く。

そこからの行動は迅速だった。
鬼子が、一条三位の傍らに転がったデイパックを拾い上げ、周りに零れた基本支給品をかき集めた。
鬼女とクラウドさんは倒れた一条三位がまだ生きていることを確認すると、二人で協力して鬼女の背中へと担ぎ上げた。

257 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:22:10 ID:eKluyms.0

「準備はいいわね? 一刻も早くここから離れるわよ。
 もし途中でこっちに向かってくるような善良な参加者がいれば、なんとかして止めるんだからね」
「うん」
「分かりました」

互いに頷きあって、三人は傷だらけの男を抱えて足早に雑居ビルを後にした。
その男の正体が白日の下に晒された時、果たして三人はどういった道を選ぶのだろうか。



【B-4・雑居ビル周辺/1日目・朝】

【鬼女@既婚女性】
[状態]:健康、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜2、閃光手榴弾@現実×3
[思考・状況]
基本:殺し合いを打破する
1:鬼子とクラウドさんを信頼、協力する。
2:クラウドさんのやたら責任を抱え込む性格をなんとかしたい
3:殺し合い打倒派の協力者を集める(バカは願い下げ)
4:殺し合いに乗ったクズに会ったらその時は……
5:屋上の男から一刻も早く離れる
※自分の本名がわからないため、仮名として『鬼女(おにめ)』と名乗ることにしました


【日本鬼子@創作発表】
[状態]:健康、疲労(中)
[装備]:グラットンソード@FF11
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ミキプルーンの苗木@ミキプルーンコピペ、一条三位のデイパック
[思考・状況]
基本:殺し合いを打破する
1:鬼女さん、クラウドさんと協力する
2:クラウドさん可愛い
3:倒れていた男(一条三位)が心配


【クラウドさん@ゲームハード】
[状態]:健康、疲労(小)、悲しみ
[装備]:バールのような物@現実
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、エルメスのティーカップ@電車男、大盛りねぎだくギョク@吉野家コピペ
[思考・状況]
基本:みんなと協力して、殺し合いから脱出する
1:鬼女と鬼子と行動。助け合いながら二人を護る
2:誰にも死んで欲しくない
3:モララーと男(一条三位)を警戒
4:屋上の男が気になる


【一条三位@AA】
[状態]:気絶、全身にダメージ(大)、左腕機能停止、ススだらけ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:優勝して、全てのzipが手に入る桃源郷を創る
1:ある程度回復するまでどこかに身を隠す
2:見た事のないこの町に興味
3:やっぱりzipが欲しい
【備考】
※イオナズンを習得しました


※一条三位の持ち物(日本刀@現実、基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=01】)、グングニル@FLASH「グングニル」、きゅうり×10@なんJ、イオナズンの巻物@FLASH「イオナズン」 、ライター@現実、不明支給品×0〜2)は日本鬼子が回収しました。
 中身の分配に関しては次の書き手の方にお任せします。
※一条三位がモッピーとレベル男のPDAを回収したかどうかも次の書き手の方にお任せします。
※一条三位の持っていた日本刀@現実は鞘がイオナズンで破壊され、刀身もボロボロのなまくらになりました。

※鬼女、日本鬼子、クラウドさんはブロントさんの呼びかけを聞きました。
※一条三位はまだ定時カキコを見ていません。

258 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:22:33 ID:eKluyms.0
仮投下は以上です それではまた

259 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:08:29 ID:UCoTApuQ0
仮投下します

260 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:08:40 ID:UCoTApuQ0



 静かな街中を、たった一人で歩き続ける。
 夜の闇は既に消えて、辺りを朝の光が包んでいる。
 レストランから離れて、そんなに経ってはないはずだけど。
 何故だか、長い時間が経過しているように感じる。

「……もう、6時過ぎなのか……」

 もうそんなに経っているのか、とも思う反面。
 まだそれだけしか経っていないのか、とも思ってしまう。
 これまで、いつもの生活じゃ有り得ないような事ばかりだったけれど。
 それでもまだ、僕は生きている。でも……別の場所では、誰かが殺されているんだ。
 さっき確認した、定時更新に、殺された人の名前が載っていたから……。
 そして、誰かを殺めた人のリストの中には、やっぱり川越さんの名前が……。

(……)

 悶々とした気持ちのまま、僕は図書館に辿り着いた。重い足取りで、図書館へ入る。
 ひんやりとした空気と、図書館特有の本の匂いが、僕を迎えた。

「……確か、キバヤシさんのいた所はこっちだったはずだけど」

 朝だと言うのに、どことなく薄暗い通路を通り、キバヤシさんのいる所……資料室に向かう。
 資料室の扉を開き、キバヤシさんの姿を確認した時。

「ただいま戻り……って、えぇ!?」
「アッ、ナンダオマエ! オイキバヤシ、ヒトガキタゾ!」

 何だか小っちゃい生命体(?)がぽよんぽよんと跳ねながらキバヤシさんに向かっていく。

「む……ああ、バイク君。戻ってきたのか。随分と時間がかかったようだが……?」
「え、ああ、ちょっと」
「?」

261 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:08:56 ID:UCoTApuQ0

 どうやらキバヤシさんは、まだ定時更新を見ていないようだ……。
 ここで僕が、川越さんのことを黙っていても、頭の良いキバヤシさんなら、じきに気づく。
 なら、ここで話してしまったほうがいい……。

「……実は……」



〜〜〜



「まさか、そんな事があったとはな」
「ええ……」
「まあ……話を聞く限り、川越は料理を貶されでもしない限り自分から人に攻撃することはないようだな。
 どうしたものか……」

 そう言うと、キバヤシさんは腕を組みつつ考える。

「ソンナアブナイヤツ、ホットケバイイダロ?」
「そうは言うが……」

 ……確かに、川越さんをこのまま放置しておいていいのかどうか、分からない。
 もしあのレストランに誰も来なかったなら、何も起こらずに済むだろう。
 だが、誰かが来たら?
 そして、さっきのような事態になってしまったら?
 今度は、どうなるか分からない。

「……説得を試みるか? いや……だが……」

 なにやらブツブツと呟きながら、思案を巡らせるキバヤシさん。
 ……正直、僕にもどうすればいいのか分からない。
 常識的に考えるならば、まかりなりにも参加者を殺した人を放置しておくのは考えられない事だ。
 だが、川越さんが人まで手にかけてしまう、とは言い切れない。
 キバヤシさんも言ったが、料理を貶されでもしなければ、自分からは仕掛けないはずだ。
 なら放っておいても、あまり問題は無いのではないか……?
 だけど、何かあってから行動を起こすのでは……。

(どうすれば……どうすればいいんだろう……?)

 僕では、正しい判断が下せそうにない。
 困ってキバヤシさんの方を見ると、キバヤシさんもまた悩んでいた。

「……」

 お互い黙ったまま、ただ、時が流れた。

262 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:09:07 ID:UCoTApuQ0









 (…………)

 6時は、もうとっくに過ぎている。
 ……結局、私は。名前を定時更新で晒す事になってしまった。
 PDAを探ろうにも、イーノックの視線があった故に、行動が起こせなかった。
 そのせいで――――結局、名前が隠せなかった。

「ここをこうして……ほら、こうですよ」
「ありがとう……」

 そして、今。
 イーノックの方から、PDAを見ようと提案された所だ。
 ……断るのもおかしいし、結局応じるしかなかった。
 ひと足先に、内容に目を通す。

(…………やっぱり……載ってる)

 私の、今の名前が、しっかりと、載っている。

「……16人も殺されて……ここに載ってる奴には、気を付けないと……あなたも、気を付けて下さい。
 これに載ってる奴らがどこにいるか……!? あ、ちょ、ちょっと停めてくれ!」
「アイヨー」

 そう言うと、ゆっくりと速度を落として、路肩に寄ったままタクシーは停まった。
 一体、どうしたのだろうか。やはり、私の素性がバレてしまった!?
 喉元へ、スウッと刃物が突き付けられたかのような、恐怖が心にのしかかる。

 もしバレてしまったのならば、次に起こるのは……私への追求と非難。
 ……止めさせないと。その事実を――――言わせちゃいけない。
 言われてしまえば、私の今までやって来た事が、無駄になってしまいそうだから……。
 でも、放たれた言葉は、私の想像していたものとは全く違う物だった。

「ちょっと通り過ぎちゃいましたけど……図書館がありましたよね」
「え? ……いえ、よく見てませんでした……」
「ああ……ほら、あそこ」

263 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:09:26 ID:UCoTApuQ0

 そう言ってイーノックが指差す先には、確かに図書館があった。
 ……別に大した事じゃなかった。何だが、グッと寿命が縮んだ気がする。
 額に浮かぶ汗を手の甲で拭い、安堵の息をこぼす。
 でも。何故、私を責めないの?気付いたはずなのに……私が、人を殺した者だと言う事に。
 さっきとはまた違う恐怖が、私の心にのしかかる。
 ――――まさか、気付いた上で何も言わないの?もしそうなら、何のために?
 そんな事をする理由なんて、在る訳がない。

「図書館か。誰かいるんなら、接触を……いや、そもそも誰かいるんだろうか?」

 私が心底動揺しているのに、まるで気がついていないようだ。
 ああ、何だか全てが私を疑っている様な気さえして来た。
 いつから、私はこうなってしまったのだろうか?
 タケシを護ると決めた時から?それとも、初めて人を手にかけてしまった時?
 もしかしたら……ここに来た時点で、どこかおかしくなっていたのかもしれないけど。

「……行ってみない事には始まらないな。よし、Uターンして図書館の前に停めてくれ」
「アイヨー」





 ――――これから出会うであろう4人(と1体?)。
 果たして、それがどのような結果をもたらすのか……?

264 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:09:37 ID:UCoTApuQ0

【D-3・図書館/一日目・朝】
【マウンテンバイク@オカルト】
[状態]:健康、精神疲労(小)、川越への恐れ、苦悩
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、不明支給品×1〜3、治療用具一式@現実
[思考・状況]
基本:殺し合う気はない
1:川越さんを……どうすればいいんだろう?
2:レストランには、あまり戻りたくない……
3:"スタンド使い"って何だろうか?

【キバヤシ@AA】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、Vやねん!タイガース×36@なんでも実況J
[思考・状況]
基本:バトルロワイヤルの謎を解明する
1:川越をどうするべきか……
2:図書館以外の場所も調査したいが、今は……
3:バトロワは鮫島事件と何か関係がある……? だが、諸説が多すぎて現時点ではどうしようもない

【ジサクジエン@AA】
[状態]:(・∀・)イイ!
[思考・状況]
基本:キバヤシに従う
1:……ドースンダ?
2:ニンポーチョーニ、クワシクナッタヨ

265 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:09:48 ID:UCoTApuQ0


【D-3・図書館付近/一日目・朝】
【カーチャン@ニュー速VIP】
[状態]:健康、強いストレス、精神疲労(大)
[装備]:アロハ調館内着@現地調達
[道具]:基本支給品一式×2、PDA(忍法帖【Lv=01】)、不明支給品(武器無し)×1〜2、防弾ベスト@現実、
    壁殴り代行のチラシ@ニュー速VIP、匕首@現実、ベレッタM92(15/15)@現実
[思考・状況]
基本:必ずタケシを生き残らせる
1:……何が何だか分からなくなりそう
2:イーノックが使えるかどうか見極める。ダメなら……
3:タケシの害になりそうな参加者を、命を賭けて排除する
※竹安佐和記の名前をイーノックだと思っています
※タクシー@AAに乗っています

【竹安佐和記@ゲームサロン】
[状態]:健康、現実逃避、疲労(小)
[装備]:一番いい装備@エルシャダイ、ナックルダスター@現実
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、不明支給品(1〜2)
[思考・状況]
基本:"イーノック"として生き、全てを救う
1:図書館を調べてみよう……
2:A-10神を倒す方法が見つかり次第、A-10神を倒す
3:――――現実は見たくないけど、いつかは……
※自身をイーノックと思いこむ事で、運動能力が向上するようです。それを疑うと力が無くなります。
 ファヌソの力による物かは不明。
※タクシー@AAに乗っています

266 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:10:08 ID:UCoTApuQ0
仮投下終了です
指摘点などあればよろしくお願いします

267ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/06/15(土) 21:16:19 ID:WiEj7ZLk0
投下お疲れ様です
問題は特にありませんよー

268 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:17:42 ID:UCoTApuQ0
ありがとうございます
それでは本投下して参ります

269 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 22:45:55 ID:3NVYLIzY0
規制で投下が出来なかったので、こちらに仮投下したいと思います
ちょっと回線が不調なので時間かかると思いますが、よろしくお願いします

タイトル 「神々の戦い」

270 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 22:47:34 ID:3NVYLIzY0
ゴトン、と音がして牛乳瓶が滑り落ちてきた。
しゃがみ込んで取り出し口に手を伸ばし、慣れた手つきで蓋を取る。
そして、腰に左手を当てると、右手で瓶を握りしめて中身を一気に喉へと流し込んだ。
ごく、ごく、と数回喉が鳴る。

「……ぷはぁっ! やっぱり銭湯には牛乳に限りますねぇっ!」

朝から陽気に髪の子ファヌソが呟く。
今の今まで朝風呂を満喫していた彼が、火照った体を冷やすかのように牛乳を一気飲みする。
うっすらと白くなった口角を左手で拭うと、チラリと脱衣所にかかる大時計に目を遣った。
長針が間もなく天辺へと達し、短針は文字盤の「6」を指そうとしていた。

「ふむ……そろそろ時間のようですね。
 哀れな仔羊の命など私には興味などありませんが、情報として把握しておくに越したことはないでしょう」

万全の状態であれば、自分以外全員の命を小一時間もあれば奪うことなど容易い……それだけファヌソは自分の力に自信があった。
首に巻かれた忌々しい枷と、それが原因と見られる力の不調を除けば、自分を縛るものは何もない……ファヌソはそう考えている。
高みの見物としゃれ込み、時に場をかき回ししつつも最後はひろゆきも含めて神の力を見せつける、その方針に揺らぎはない。
それでも、本来ならば一顧だにしない他の参加者の生死の情報をファヌソが得ようとしたのには訳があった。

「十五人、ですか……決して悪くないペースでしょうかね。
 そして、殺しに乗ったのはしめて八人……この八人はまだ全員生存しているようで」

ファヌソはPDAを弄りながらしみじみと呟いた。
少なくとも、この八人ならしばらくは放っておいても場をかき乱してくれるだろう、ファヌソはそう考える。
勿論、自分に火の粉がかかるようならばその時は……とファヌソは気を緩めない。

「そして……フッ、やはりまだ生きているようですね、竹安佐和記よ」

ファヌソが最もその安否を知りたかった男、数刻前に自らの力(といっても支給品の力だが)で殺し合いの舞台に無理やり引き戻した男。
その竹安佐和記の生存を確認したところで、ファヌソはニヤリ、と口元に笑みを浮かべた。

「さすがにこれだけではあの男がどう立ち回ったのかは分かりませんが……まぁ、生さえあれば何かしらのことはするでしょう。
 命あっての物種、という言葉もあることですし……フフッ」

全てを救え、そう命じた男がとりあえずはその手を血に汚していないことが定時カキコからは読み取れた。
ここまでは全てが自分の思惑通り、この殺戮の舞台でさえ自分の手のひらの中の事であることを改めてファヌソは確信する。

271 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 22:50:36 ID:3NVYLIzY0
「それにしても……」

ただし、そんなファヌソでもままならぬことがある。
死者と下手人の発表に続いて発表された禁止エリアがそれだ。

「渡し船とやらにいれば無効化はされるようですが……恐らくは私のヘリは対象外でしょうねぇ。
 折角の機動力も今後行動範囲を歪に狭められれば使いづらくなることは間違いないでしょうし……」

ファヌソは先だって台場を調べておいた自分の判断を正しいものだったと再確認する。
台場を取り囲むようにして三つものエリアが禁止エリアに指定されていたからだ。
決して小回りが利くとは言えないヘリコプターでは、風向きの具合一つで禁止エリアに抵触する可能性は否めない。
かと言って、定時カキコで存在が示唆された渡し船が台場に泊まるという保障はどこにもなかった。
少なくとも、台場を探索した時に船を横付けできるような場所は見かけなかったはず、とファヌソは改めて思い返した。

「……さて、あまりグズグズしているのもいけません。そろそろ行かねば……
 何せ、私の力にひれ伏した仔羊はまだ竹安一人だけ……彼一人では八人もの殺人者から全てを救うのは荷が重すぎるというもの。
 なれば、また仔羊を探し出して私が導いてやらねばなりませんしねぇ」

手のかかる子供を相手にしているかのような苦笑をファヌソが見せた。
そして、自らに気合を入れるかのように自分の尻をバチィン、と一発引っ叩いた。
生まれたままの姿で定時カキコを確認していたファヌソが、悠然と白衣を着込む。
そして、颯爽と外に飛び出すと、銭湯に横付けしてあったヘリコプターへと優雅に乗り込む。
けたたましくプロペラが風切り音を立て、神の子が空へと飛び立った。
哀れな仔羊を探し求めて。





 *      *      *





「クソッ……クソッ……クソがぁっ……!!」

思い通りにいかない。
そんな苛立ちがA-10神を支配していた。

先刻はパシリに出来そうな輩をみすみす逃がしてしまった。
苛立ちからぶっ放した貴重な弾薬も使い切ってしまい、イライラを発散できない。
おまけに、自分の武器を探すよう命じた二人のパシリも戻ってくる気配が無い。
いつしか、太陽はずいぶんと昇っており、A-10のその胴体をジリジリと照らしつける。
空はまさに日本晴れ、そんな中を雄大に飛び回ることが出来れば、その苛立ちも少しは抑えられたかもしれない……が。

272 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 22:54:45 ID:3NVYLIzY0

「大体が、こんな狭っ苦しいところに俺を押し込めやがって……これじゃ、飛ぶにも飛べねえじゃねえか!!」

病院の駐車場は、ビル群に囲まれた周囲からすれば多少は開けた場所だ。
とはいえ、その程度のスペースでは軍用機たるA-10神が飛び立つにはまだまだ足りないというのが実情である。
武器もぶっ放せない、かといって自分でどこかに行こうにも飛ぶのは厳しく、走るにも狭いのでスピードを出し切れない。
夜神月とダディクールが収穫を得て帰って来ない限りは、八方塞りであった。

「奴らは何をしてやがる……! たかが武器探しに何時間かけてると思ってんだ!!」

怒りの矛先は未だ帰らぬ二人へと向けられた。
だが、矛先を向けたところでその場にいないわけだから如何ともし難い。
これがイーノック(こと竹安佐和記)やひろゆきをはじめとする主催者連中へと順々に矛先を向けるが結局は同じ事。
それがまた月とダディへと向けられ……A-10神の中では怒りが無限ループに陥っていたのだった。

A-10神も直情的ではあるが決して脳筋の愚か者ではない。
冷静になってこの閉塞感に満ちた状況を打破する方法を色々と模索するが……結局はそれも見つけられない。
彼が人の姿を取っていたのならば、まず間違いなく地団駄を踏んでいたであろう。
憤懣やるかたない、そんな思いをA-10神が抱いたその時だった。

「……ん?」

ふと、A-10神が何かの気配を感じ取った。
澄み渡った青空、その向こうから豆粒のような影がこちらへと近づいてくる。
それとともに、少しずつプロペラ音も辺りに轟き始めた。

「……チッ、なんなんだいったい……奴らが武器でも見つけて帰って来たんならいいんだがな」

僅かばかりの期待を込めて、A-10神は徐々に近づいてくるヘリコプターを認識する。
何の迷いもなくこちらに一直線に向かってくるあたり、間違いなく自分の存在を把握しているであろうことをA-10神は理解した。

「あのヘリは間違いなく俺に用があるんだろう……だが臭うな」

戦場を駆け巡ったA-10神の勘が、ついさっき抱いた期待を否定する。
傍から見ればただの戦闘機にしか見えない自分だ、その躰目当てに近づいてくる者だろう、A-10神はそう推測する。
そいつを体のいいパシリにでも出来ればいいが、先程から出会う連中の事を思えば素直な輩の方が少ないだろうと考えた。

273 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 22:59:13 ID:3NVYLIzY0

「……ちょうどいい、俺のイライラの捌け口にでもさせてもらうとするか」

溜まりに溜まった鬱憤を晴らすための餌がホイホイやって来たとA-10神は考えることにした。
ヘリコプターが駐車場に降り立つのをA-10神はただジッと待ち構える。
まるで感情を爆発させるために、グッと溜めを作るかのように。





 *      *      *





夜の空中散歩も趣があるが、東から昇る朝日を背に受けてのフライトもまた趣があるものだ。
ファヌソはそんなことを一人ごちながら、ヘリコプターを一路自らのスタート地点の方角へと向けていた。
遥か眼下に広がる街並みを見下ろすと、改めて自分が神であるという自覚をファヌソに持たせた。
耳をつんざくプロペラ音がいささか邪魔ではあったが、その程度で心を乱すほどファヌソは狭量な心の持ち主ではなかった。

ヘリコプターは海を渡り、工場地帯を横切る。
ファヌソがふと横を見れば、竹安と出会い、その命を強制的に引き戻した近鉄百貨店が聳え立っていた。
あの哀れな男は今どこで何をしているのやら、と他人事のようにファヌソは呟く。
そして、視線をちらと下に落としたその時、思わずファヌソは目を丸くした。

「ほぉ、戦闘機……ですかね」

周囲の建物からはぽっかりと空いた空間は恐らく駐車場であろうとファヌソは当たりをつけた。
そこに横たわる飛行機はあまりにも無骨な外観を露わにしていた。
少なくとも旅客機の類でないことはファヌソにも容易に想像がついたのである。

274 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:02:05 ID:3NVYLIzY0

「誰の支給品か知りませんが持て余してしまったんでしょうかね……ちょうどいい、アレも私が貰っていくとしましょう」

ファヌソがここまで出会ったのは、人間・竹安佐和記と死体となって見つかったウララーだけ。
故に、眼下に停まっているA-10神が参加者であるなどとは夢にも思っていなかった。
ウララーの造形自体が既にヒトのものではないが、それでも少なくともウララーは生物のような形態をとっていた。
まさか無生物である飛行機が参加者ではないだろうという考え、そしてヘリコプターという大型の支給品が割り当てられたという事実。
その二点がファヌソの判断を誤らせた。



開けた場所とはいえ、ヘリコプターを周囲の建物に接触させないように着陸させるのには神経を使う。
万一の事があろうと、自分が助かる自信があるファヌソではあるが、貴重な移動手段が奪われる可能性は否めない。
慎重に慎重を期してゆっくりとヘリコプターを駐車場へと着陸させた。
プロペラがゆっくりとその回る速度を落としていく。
キュゥン、とエンジンが沈黙する音を確認してから、ファヌソは白衣をなびかせて駐車場に降り立つ。
……次の瞬間、耳に響き渡る声にファヌソは思わず目を丸くした。



「……なんだァ? そのふざけた格好は!?」

不意に敵意をぶつけられるような格好となり、ファヌソは思わず辺りをキョロキョロと見回す。
どこから誰かが自分を見下ろして言葉を放ったのだと考えたが、誰かの気配を感じることは出来ない。

「なにをキョロキョロしてやがる! テメエだよ! そこの白衣着込んだテメエだ!!」
「……まさか」

ファヌソが声のする方に目を向けると、そこには自分が鹵獲しようと目をつけていた戦闘機――A-10神が鎮座していた。
理解の早いファヌソは、この戦闘機もまた参加者の一人(ヒトであるかどうかは置いておくとして)であることを受け入れる。

「いつまでも帰って来ないもやし野郎や猫耳野郎といい、さっきの妙な格好した野郎といい……ここにはロクな奴がいやしねえ!!」
「ぎゃんぎゃん五月蝿いですねぇ、子供じゃあるまいし」
「んだとぉ!?」

自分の力に絶大な自信があるファヌソは、たとえ泣く子も黙るA-10神に凄まれようと怯まない。
そして自らの力に絶大な自信があるのはA-10神もまた同じである。
自分が元いた世界で自分に忠実だった部下はもちろんのこと、ここに来てからも自分に対してここまで不遜な態度に出る者はいなかったのだ。

275 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:06:16 ID:3NVYLIzY0
「キサマ、初対面の相手……それも目上の相手に対する口の聞き方も分からんようだな」
「あなたこそ、初対面の相手にずいぶんな物言いでは? 一度鏡でもご覧になればよろしいのでは?」

A-10神が凄んでみても暖簾に腕押し、ファヌソはどこ吹く風である。
自らの怒りをさらりと受け流すかのようなファヌソの態度に、A-10神も我慢の限界を迎えようとしていた。
……だが、怒りに身を任せてみたところで、今のA-10神には何も出来なかった。
自慢のアヴェンジャーはひろゆきによって弾を奪われている。
本当なら使いたくもないチンケな(あくまでA-10神の基準である)MINIMIも先刻イーノックこと竹安佐和記を巡るいざこざで打ち尽くしてしまった。
いくら戦場で数々の輝かしい功績を打ち立てたA-10神と言えど、弾薬なしではただの飛行機である。
燃料があるだけ、まだマシであるとも言えるのだが。

「……フン、見た目によらず度胸だけはいいようだな」
「それはどうも」

忸怩たる思いでA-10神は矛を収めようとした。
下手に出るつもりなど毛頭無いが、それでもこの目の前の白衣男もパシリにして弾薬を捜させねば未来は無いことをA-10神は自覚している。

「口の聞き方についてはこれから叩き込まねばならんが、そのぐらい気骨のあるやつでないと俺の命令にはついてこれんだろうな」
「はぁ……命令?」
「そうだ、俺はあのたらこ唇のクソッタレをブチ殺してやるつもりでいる」
「それはそれは」

話半分にファヌソは聞き流す。
それはA-10神も悟っていることではあるが、構わずに持論を並べ立てる。

「それに向けて、今は忠実な下僕二人に奴を跡形も無く吹っ飛ばせるような武器を探させている」
「武器って……あなた、自分の立派な武器をお持ちではないので?」
「ケッ! 兵装は全部剥ぎ取られてんだ! 兵装の無い戦闘機なんて最早戦闘機じゃねえ!」

兵装が無い。
その言葉を耳にしてファヌソが少しばかり口角を上げ、にんまりとした笑みを浮かべる。

「戦闘機のプライドをズタズタにされてんだよ……これは最早宣戦布告以外の何物でも……おい、何だその笑顔は」
「あぁ、いえ、すみませんすみません。あまりにもあなたと私が似すぎていまして」
「はぁ?」

ファヌソは余裕綽々と言わんばかりに両の手を広げてみせる。

「実は私もちょっとした力を持っていましてね……それがあのひろゆきによって些か封じられてしまいまして」
「力だぁ? 言っとくが、俺はオカルトだのファンタジーだの、そんなのは信じねえからな」
「あなたが信じるかどうかはともかく、とにかく私もあの男には宣戦布告されたようなものだと思っていましてね。
 一泡吹かせる……いや、それでは足りませんね、奴を地獄に叩き落してやろうと考えてはいるのです」
「ほぉ、そいつはいい心がけだ」
「そこで、です」

276 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:09:31 ID:3NVYLIzY0
そこまで言って、ファヌソがずい、と一歩前に踏み出る。
ファヌソとA-10神の距離、およそ十数メートル。

「あなたがお探しの、ひろゆきを跡形も無く吹っ飛ばせるような武器……心当たりがありましてね」
「なにぃ!?」

もし、A-10神に表情というものがあるのならば、まさしく目を丸くしていただろう。
概ね想像通りの反応が返ってきたことで、ファヌソはますますその笑みを濃くしていく。

「よーし、キサマの話は分かった。それではさっさとその武器とやらを……」
「おっと、その前に」

身を乗り出すようにわずかに車輪を前に進ませたA-10神をファヌソが手で制する。
そして、次に放った言葉が二人が決して手と手を取り合うような関係でないことを浮き彫りにした。



「誰かに物を頼む態度というものを示していただけませんかねぇ?」



ファヌソとしてはA-10神の軍門に下る気などさらさらない。
むしろ、A-10神を自分が乗り回して、この下らぬ催しにさっさとピリオドを打ってしまってもいいと思っていた。
しかし、神の子としてのプライドにかけて軍門に下るどころか、対等な関係すらも拒絶する。
ファヌソからしてみれば、自分以外の参加者はすべからく自分の意のままに動くものと考えている。

神の子ファヌソとA-10神。
互いに神の名を冠する者同士は、似た者同士である故に激しく反発しあう。
まるで磁石の同じ極を近づけた時のように。



「……ふざけるなよ」

A-10神はその怒りの限界をついに突破した。

「この俺に頭を下げろだと? 俺がいなければ戦場で戦えない人間風情が!? 舐めるなッッ!!」
「この私を人間風情と同列に扱うとは、戦闘機風情が大した度胸ですね。
 所詮弾薬の尽きたあなたは鉄屑に片足突っ込んでるようなものだというのに……」
「鉄屑……!? キサマ、許さんぞ……上官命令に背いたものに命があるとでも思ったか!!」
「自分の立場もわきまえずに命令などと……しかるべき罰を加えてやる必要がありそうですねえ」

277 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:12:51 ID:3NVYLIzY0
前哨戦となる舌戦が幕を閉じる。
最初に動いたのは……兵装の無いA-10神だった。

「ミンチにしてやらあっ!!」

その巨躯を以って、一直線にファヌソへと突っ込んでいく。
アヴェンジャーもMINIMIも使えないA-10神に唯一残されたのは己が体だけである。

「おぉ、危ない危ない」

しかし、決して小回りが効くとは言えない。
おまけにほぼ停止した状態からの発進である。
ファヌソがこれを易々とかわしたのも当然の帰結であった。

「ちっ、どいつもこいつもちょこまかと……!!」

怒りに身を任せるA-10神はすぐさま方向転換を仕掛ける。
その速度は、ファヌソが想定していたよりもずっと速いものであった。
再び突っ込んでくるA-10神の前に、ファヌソの顔から余裕の色が若干失われた。
今度は機敏な動きで横に飛んでその突進を避ける……が、それをA-10神は織り込み済みだった。

「この俺から逃げられるとでも思ったか!!」

ファヌソが避けたかどうかというタイミングで、既にA-10神は方向転換の動作に入っていた。
180度回転をかける拍子に、その胴体も大きな弧を描いてファヌソに追撃をかける。

「おぉっと!」

素早く屈んでファヌソがこの攻撃もかわす。
しかし、立ち上がる前にA-10神が次の攻撃態勢に入る。

「しゃらくせえっ!!」

三度、突進を仕掛けるA-10神に対し、ファヌソの取った行動は……

「はっ!!」
「んだとぉ!?」

まっすぐ後方にジャンプして距離を取る事であった。
普通に考えれば無理な体勢であるが、神通力を使えば造作も無いこと。
風の流れを作り出し、それに身を任せる形でA-10神から離れる。

278 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:17:13 ID:3NVYLIzY0

「ケッ、そんなことをしたところで、キサマの死ぬのがちょっとだけ延びただけだ!!」

それでもA-10神は怯まない、止まらない。
ますます速度を上げ、ファヌソに迫る。
そのファヌソはというと、病院の壁を背負うような格好であった。

「死ねやぁっ!!」

これまでの最高速に達したA-10神の巨躯。
それをファヌソはギリギリまで引き付け……そして再び風の流れに乗って横へと飛び去った。
さながら、猛牛を相手にする闘牛士のごとく、猛るA-10神をあしらってみせる。

もうA-10神は止まらない。
そのまま一直線に病院の壁へと突っ込み……



ドカーン!



轟音を上げて病院の壁の一部が崩れた。
コンクリートの破片が、ガラスの破片も交えて辺りに飛び散る。
それを冷静にファヌソは避けていった。

「やれやれ、まったくたいしたじゃじゃ馬です。これで少しは大人しくなってくれれば……」

呆れた笑いを浮かべながら、ファヌソがゆっくりとA-10神へと歩み寄ろうとしたその時だった。

「逃がさねえぞ、このオカマ野郎がっ!!!」

声とともに沈黙したはずのA-10神の機体が動き始める。
周りの壁が崩れるのもお構いなしに、その期待をぐるん、と一回転させて再びファヌソと正対する。

「!?」

さすがのファヌソも驚愕の表情へと変わる。
なにせ、目の前のA-10神の機体は、ぶつけた所の塗装があちこち剥がれていたり、少し凹んでいるとはいえ、普通に動いているのだ。
どうしてか意思の疎通が図れるとはいえ、ここまで目の前の戦闘機をただの戦闘機としてしか見ていなかったからだ。
コンクリートの壁に突っ込みさえすれば機能を停止させる、そこで神通力をもってして自らの忠実な僕へと変える。
その手はずだったところで、わずかに計画に狂いが生じる……そこでファヌソの顔に一筋の汗が伝う。

「テメエも、さっきのクソ野郎もそうだ!! ちょこまかと逃げることだけは出来るようだがな……」
「さっきのクソ野郎?」

ファヌソが聞き返すと、A-10神は矢継ぎ早に言葉を返す。

279 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:19:54 ID:3NVYLIzY0
ファヌソが聞き返すと、A-10神は矢継ぎ早に言葉を返す。

「白い服にジーパンを着込んだ妙な野郎だ! 奴も口だけは回る奴だが、俺をどうこうすることは出来なかったがな!!」

A-10神が忌々しそうに先刻の出来事を思い出す。
……だが、それを聞いてファヌソの顔に再び笑みが戻った。
そのまま腹を抱えて笑い転げそうになる。

「……おい、キサマ何のつもりだ」

いきなり目の前で笑い出したファヌソを前に、さすがのA-10神も気味悪さを感じずにはいられなかった。
一方、ファヌソは愉快で愉快で仕方ない。
白い服にジーパンを着込んだ……こんな妙ちくりんな格好をした男はそう何人もいるわけではない。

(そうですか、そうですか、竹安佐和記……お前もコイツと出会っていたのですね!!)

全てを救えと命じた男が、この猛々しい戦闘機と出会っていた。
そればかりか、激昂させるような行動を取っていたという。
恐らくは、竹安もまた安易にこの戦闘機の軍門には下らなかったのだろう、ファヌソはそう推測する。

(全てを救うには強大な覚悟が必要、少なくともこのような野卑な戦闘機の言うことなど聞いている時間などありません!)

竹安が自分の意のままに動いているということを、この戦闘機を通じて知ることが出来た。
それがファヌソには愉快で愉快で仕方なかったのだ。

一方で、その反応からA-10神も目の前の優男と先刻の男に何らかの繋がりがあるであろうことを察した。

「キサマ……まさかさっきのクソ野郎の知り合いじゃねえだろうなぁ!?」
「そうだ、と言ったらどうします?」
「知れたこと!!」

結果として、日に油を注ぐような格好となった。
車輪から土埃を巻き上げ、A-10神が再び突進を仕掛ける。
鬼ごっこ第2ラウンドの開幕である。

しかし、戦況は変わらない。
追いかけるA-10神をヒラリヒラリとかわし続けるファヌソであるが、ファヌソにもまた攻め手は無い。

(しかし弱りましたね……私の神通力も少なからず封じられています。
 下手な攻撃ではあの戦闘機に傷を負わすことは出来ないでしょう……むしろその際の隙を突かれかねません)

ファヌソの手元にあるのはお医者さんカバンと、幾ばくかの弾薬だけ。
その弾薬も、仔羊に与えてやるためのもので、ファヌソ自身にそれを打ち出す手段は無い。
神通力もあるにはあるが、戦闘機に通じるとは考えづらかった。

(かと言って、ここでそのまま逃げるのは私のプライドが許しません……なにより)

それまでの柔らかな表情に、一瞬だけファヌソは真剣味を込めた。

280 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:24:27 ID:3NVYLIzY0
(哀れな仔羊が頑張っているのならば、少しだけ手を差し伸べてやろうではありませんか)

ファヌソは、A-10神を手なずけることを諦めた。
それならば、後々の憂いをここで絶ってしまおうと決めたのだ。
相手が見た目は無生物であるということも、ファヌソにその道を選ばせる一因となった。
……もっとも、この遊びに飽きたらファヌソも全員を手にかけるだけの意思はあったのだが。



ファヌソが再び風の流れに乗って距離を取る。
それを舌打ち混じりにA-10神が見据える……が、様子がおかしい。

「……何のつもりだ?」

目の前のファヌソは何やらロープのようなものを手にしていた。
これまで避けることだけしかしていなかったファヌソが初めて見せた行動である。

「そんなチンケな縄なんかで俺が止められるかよっ!!!」

構わずに突っ込むA-10神。
それを避けながら、ファヌソがロープの一端をA-10神に投げつける。
が、それは胴体にかすることも無かった。

「ハッ! このヘタクソが! 西部のカウボーイの方がもっとマシな……」

一笑に付そうとして、A-10神は違和感を覚えた。
その脚部に僅かに重さを感じたのだった。

「まさか……」

UターンしたA-10神の目に映ったのは、自分の脚からロープが一直線にファヌソへと伸びていたことだった。
だが、A-10神は怯まない。

「それがどうした!! その程度で俺が止められるとでも……」

再び前進しようとしたその瞬間だった。
ファヌソが再び風に乗ってまっすぐ後方へと飛ぶ。
もう何度も見てきた光景だった。

「馬鹿の一つ覚えみたいにそれしか出来ねえのかよっ!!」

突進ひとつしか出来ない自分を棚に上げ、A-10神が再び攻撃態勢に移ろうとする。
その瞬間、ファヌソの手にしたロープが、ピン、と張り詰めた。

281 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:26:29 ID:3NVYLIzY0





次の瞬間だった。





ブーッ! ブーッ! ブーッ!



「!?」

けたたましいアラーム音が鳴り響く。
それも、A-10神の足元からだった。
前を見ると、してやったり、といった表情でファヌソがこちらを見ていた。

「き、キサマ何をしやがった!!」

種明かし、とばかりにファヌソが口を開く。

「何、って分かりませんかねぇ、首輪ですよ、く・び・わ。
 もっとも、あなたの場合は首……機首ではなく脚の付け根にかかっているようですがね」

その一言でA-10神は何が起こったのか、そして何が起ころうとしているのかを察する。

「私が神通力で生み出したこのロープの先端には強力な磁石を付けています。
 本当なら首輪にロープを巻きつけて引っ張れればよかったんですけどねぇ、そんな隙間はありませんでしたし」

何度も何度も自分のすぐ近くを通り過ぎるA-10神の機体。
その脚に付けられていた首輪に、ファヌソは目を付けたのだった。

「確か、無理やり外そうとすれば爆発するんでしたっけ?
 いくらあなたの機体が頑丈でも……」

ファヌソの演説が続く。
だが、A-10神の耳には決して届かない。

(この俺が……爆破だとぉ? ハッ、そんなこと出来るわきゃねえだろ!!)

こんなちっぽけな首輪ひとつで自分を破壊できるなど露とも感じていない。
それは、神の名を冠するが故の驕りだったのかもしれない。


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