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仮投下スレ

252 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:20:16 ID:eKluyms.0
「ゆうすけ、ってのはまだギリギリ分かるわよ……でも他の連中はどれもこれもそうとは思えないじゃない」
「……ということは、鬼女さんみたいに自分の名前を忘れさせられてるということですか?」
「その可能性はあるわね……」

そこまで思考を巡らせ、鬼女はチラリとクラウドさんへと視線を向けた。
クラウドさんは鬼子に抱きかかえられるようにして、鬼女のPDAを覗き込んでいた。
時々鬼子が顔をほころばせながら「……もふもふ」と呟いては、それを「やめなよ」と窘める様子が見られた。
段々鬼女としても止めるのが面倒になって来たので、もうそれをそのままにしてある。

だが、よくよく考えてみれば、二足歩行とはいえこんな大きさで動き回って人間と意思疎通をする動物を鬼女は見たことがない。
それはクラウドさんだけじゃなく、鬼子に関してもそうであったのだがひとまずそのことは思考の片隅に留めておくことにした。
鬼女がここまで出会ってきたのは鬼子にモララーというクズ猫(名前はPDAで把握した)、そしてこのクラウドさんの三人。
その全員が自分のような人間――ホモ・サピエンスとはまるで姿形の異なる生き物なのだ。

しかし、鬼女は見ている。
あのひろゆきがこのバトル・ロワイヤルの開幕を高らかに告げた会場には自分以外にももっと多くの人間がいたはずだと。
そんな人間と、未知なる生物をごった煮にして殺し合わせるのはどういうことだろう……鬼女はそう考えていた。

「……ねぇ」
「何?」

たまらず鬼女はクラウドさんに問いかけた。

「さっきあなたが言ってたモノウルッテレ……なんだっけ、まぁいいわ。
 それってここに載ってるレベル男、って人の事でいいのかしら?」
「多分……そうだと思うよ」

レベル男はMSKKと同じようにモララーの手にかかっていたことが読み取れた。
あの時自分が相手を無力化しておけば、とクラウドさんはまた自分を責めそうになるのをグッとこらえた。

「その人は……その人間だったの? 私みたいな」
「……え? そうだったけど」
「じゃあ、最初に殺されちゃった、っていうMSKKって人は……」
「う〜ん……身長はお姉さんの半分くらいかな。お饅頭に胴体と手足が付いて歩いてるようなそんな感じの人だったよ」
「何よそれ……」

思わず鬼女は呆れ顔に変わる。
目の前の鬼子が「お饅頭……」と目を輝かせるその暢気さもまた呆れを加速させた。
何はともあれ、この殺し合いに招かれた者たちの姿形はまるで統一感のないものであることを鬼女は痛感したのだった。

「……なんにせよ、あのクズ猫みたいなのが他にもいるわけだからね……
 たとえ相手が人間に見えなくたって、注意するに越したことは無いわね」
「そうですね、どうやらクラウドさんのおっしゃってたお二人以外にも、あのモララーという猫は別に一人手にかけたようですし」

クラウドさんを弄る手を止めずに、それでいて真剣な表情で鬼子も鬼女に続いて発言した。
定時カキコではここまでの殺害者も公開されていた。
十五人の命を奪った参加者の数はしめて八人。
鬼女たちからすれば、それは当面注意しなければならない者たちの名前でもある。

「でも、裏を返せばこの八人さえなんとかしちゃえば当分は安心かしらね」
「……そうだといいんだけどなぁ」
「どういうことよ」

思わずポツリと呟くクラウドさんの言葉に鬼女がすかさず反応する。

「だって、あの猫みたいに自分から仕掛けてくるようなのばかりとは限らないじゃない。
 もしかしたら、ある程度人数が減るまでは力を温存するために殺し合いに反対するフリをしている人だって……」
「待ちなさいよ、もしかして私たちがそうなんじゃないか、って言いたいの?」
「いや、二人がそういう人じゃないだろう、ってのは分かるけど……」
「……でも」

鬼女が噛みつくところを割って入ったのは鬼子の言葉だった。

「クラウドさんの言うことも分かるんです……
 心に巣食う鬼を巧みに言葉や態度で包み隠しながら、その牙を研いでいるような人がこの世には確かにいるのです。
 ましてや、今は状況が状況です……そんな人がいるかもしれないと心に留めておくだけでも危険はかなり回避できるのではないでしょうか」
「鬼子ちゃんの言うことも一理あるんだろうけどさ……そんなの注意しようがないじゃない」
「そのあたりは私にお任せくだされば」
「……鬼子ちゃんなら、そんな奴を見破れるってこと?」
「……たぶん」

縋るにはずいぶんとか細すぎる蜘蛛の糸を前にし、鬼女は再びため息をつく。
それでも、ここでいつまでも立ち止まっているわけにはいかなかった。
立ち上がって、尻のあたりを軽く叩きながら、二人を鼓舞するように鬼女は言う。


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