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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:35:24 ID:F94asbco0
前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1369565073/

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485名も無きAAのようです:2016/10/03(月) 21:56:29 ID:slfccTV.0
推測に基づくハッタリだった。
新聞にあったのは、カール・クリンプトンという医者が銃撃戦に巻き込まれて死亡したという情報だった。
デレシアはまず、この新聞の情報自体に疑問を抱いた。
ジュスティアがこの情報が流れるのを黙認したり、ましてや、手を貸したりするはずがない。

彼らは面子を重んじる。
矜持の固まりとも言える彼らが、汚点を晒すはずがない。
となると、誰かが情報を流したのだ。
正にその場に居合わせ、情報を流すことで少しでも事態に変化をもたらそうとする男が。

例えば、その病院に入院していたトラギコならば、その情報を流すだろう。
更に言えば、カールという医者についてここまで新聞が短時間で調べるはずなどあり得ない。
生前に仲が良かった人間が、彼を記事にさせたのだ。
そこで再びトラギコが出てくる。

記者に強引に書かせるだけの力と、それに見合った情報提供能力を持つ人間は一人しかいない。
情報提供者は、間違いなくトラギコだ。
それらを推測で導き出した後、デレシアは家事とほぼ同時に起こった狙撃を結び付けた。
デレシア達を狙った狙撃手は自らの役割が失敗したと判断し、その狙いを別の場所、即ち火災現場に向けたはずだ。

ただ鐘を鳴らすだけならば、何も火事を起こす必要はない。
火事を起こすという事は、そこにいた人間を殺すつもりで火を放ったのだ。
現に軍人が二名も死亡し、コンセプト・シリーズの棺桶が使用されたと記事にはあった。
入院患者の中で最も命を狙われてもおかしくないのは、トラギコだ。

彼を殺すために狙撃手はその銃口を病院に向けたが、思わぬ誤射があったのだろう。
殺しても大して利益にならない医者が死に、トラギコは生き残った。
想像でしかないが、その死んだ医者とトラギコはすぐ近くにいた可能性が高い。
場所の特定が出来ない狙撃を目の当たりにした彼ならば、狙撃手の位置を知りたがるはずだ。

(=゚д゚)「知ってるラギか?」

食いついてきたのを確認してから、デレシアはトラギコの言葉を引用した。

ζ(゚ー゚*ζ「私がペラペラ喋るような人間に見える?」

(=゚д゚)「……ショボン・パドローネが脱獄犯を引き連れて、この島にいるのは知ってるラギね?」

観念した風にトラギコが口を開き、情報を語り始めた。
デレシアは頷き、二人の名を挙げた。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、デミタス・エドワードグリーンとシュール・ディンケラッカーでしょ?」

(=゚д゚)「そいつらを見つけたラギ。
    ただ、色々と分からねぇことばかりラギ。
    俺に分かったのは、それ以外にもジョルジュ、イーディン・S・ジョーンズがショボンに絡んでいるってことぐらいラギ」

486名も無きAAのようです:2016/10/03(月) 21:57:10 ID:slfccTV.0
トラギコが挙げた三人の名前。
ジョルジュはいいとして、もう一人は割と有名人だった。
イーディン・S・ジョーンズは歴史学者であり、棺桶研究の第一人者だ。
棺桶狂いの研究者として多くの棺桶の復元に携わってきた男で、おそらくは、現代で最も多くの棺桶と触れ合ってきた人間かも知れない。

どうやらティンバーランドは、今回はかなり念入りに準備をして組織を大きくしているようだ。
そして、この島で確実にデレシア達を排除するつもりらしかった。
更にトラギコは、この島に円卓十二騎士のショーン・コネリとダニー・エクストプラズマンが来ている事、ライダル・ヅーがトラギコを使って事態の収拾を図ろうとしていることを話した。
彼が見た三種類のコンセプト・シリーズの話を聞いた時、デレシアはそれが“ファイヤー・ウィズ・ファイヤー”と“レ・ミゼラブル”、そして“エドワード・シザーハンズ”であることが分かった。

ジョーンズが関わっているのであれば、コンセプト・シリーズを惜しげもなく配給していることも理解出来る。

ζ(゚、゚*ζ「あらあら、それは物騒な話ね」

(=゚д゚)「で、ショボンは何をしようとしてるんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ、たぶんだけど私を殺したいんじゃないかしら?」

(=゚д゚)「冗談はよせラギ。
    手前を殺すなんてのは、その気になれば今すぐにだって……」

ζ(゚ー゚*ζ「私がそれをさせると、本気で思う?」

笑顔で答えたデレシアの目を見て、トラギコは溜息交じりに舌打ちをした。

(=゚д゚)「……ちっ。
    まぁいい、兎にも角にも俺は脱獄した二人とショボンの行方を追ってたら、シュールに会ってジョーンズに会って、そんでもってジョルジュに撃たれた。
    これでいいラギか?」

半ばやけになったような口調だったのは、デレシアの実力を理解しての事。
観念したトラギコは自分の持つ情報を全て話した気になっているが、まだ少し足りない。

ζ(゚ー゚*ζ「まだ隠し事あるんでしょ?
      この島の記者に知り合いでもいるの?」

(=゚д゚)「隠し事ってレベルじゃないが、協力者がいるぐらいラギ。
    アサピー・ポストマンって新聞記者ラギ」

ζ(゚ー゚*ζ「その人は今どうしてるの?」

トラギコは鼻を鳴らした。

(=゚д゚)「さぁな。
    今頃、今朝の事件を調べているんじゃねぇか?」

記者は今頃襲われているだろう。
生き残るかどうかは、その記者の技量次第だ。
もしもその記者が将来有望な人間であれば、生き延びた後に目指す場所は一か所だ。
現在、この島に安全な場所はなく、あるのは海上の城。

487名も無きAAのようです:2016/10/03(月) 21:57:55 ID:slfccTV.0
オアシズだけが、唯一真実を無事に外に運び出せる安寧の地だ。

(=゚д゚)「今度は俺が質問する番ラギ。
    狙撃をした馬鹿はどこにいるラギ?」

ζ(゚ー゚*ζ「グレート・ベルにいるわよ」

(=゚д゚)「根拠は?」

ζ(゚ー゚*ζ「デイジー紛争の時に前例があるのよ。
      この島に来て、あの場所を狙撃に使わない狙撃手はいないわ。
      それに、狙撃手の正体は多少心当たりがあるんじゃない?」

(=゚д゚)「……まぁな。
    たぶん、カラマロス・ロングディスタンスラギ」

トラギコが島に到着して早々に狙撃された時の状況を考えれば軍が島に送り込まれた時、狙撃手が配備されている事が確実なものとなった。
ジュスティアが本気であればカラマロスを連れてくるはずだと考えていたが、それは当たっていたようだ。
彼は今、ジュスティアで最も優れた狙撃手として広告塔の役割を担っている。
腕のいい狙撃手が島の大部分を見下ろすことの出来る位置に陣取れば、逃亡犯を見つけてもすぐに対応できる。

という事は、カラマロスもティンバーランドの人間という事だ。
軍の深部にまで食い込むその根は、彼以外にもティンバーランドに所属する人間が軍にいることを示している。
これは有益な情報だった。
少しでも彼らの動きにつながる情報が得られれば、こちらはその分だけ先手を打つことが出来る。

思いがけず良い情報が手に入り、デレシアはこれから後の動きについて考えた。
ティンカーベルの問題には手を出さずとも、ジュスティアが相手をしてくれるだろう。
円卓十二騎士は無能の集団ではない。
多少手こずるかもしれないが、時間稼ぎにはなる。

その間にニューソクを無力化することも可能だろうが、どうにもそれでは面白くない。
ヒートが今何を追っているのか、彼女に手を貸す必要があれば、そうしたかった。
ブーンの願いが彼女の手助けであり、それが彼の選択ならば、その結果がどのような物になるのかを見せてやりたい。
例え結末がどのような物であろうとも、ブーンにはヒートの生き方と選択の果てを見届けさせたかった。

(=゚д゚)「ところで、もう一人の女は?」

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとお出かけ中。
       他に知りたいことは?」

間違ってもヒートの名前は出さない。
彼女は殺し屋として指名手配を受けた身だ。
今でも彼女に組織を潰され、恨みを持つ人間は山といるだろう。

(=゚д゚)「お前、ショボン達が所属してる組織に心当たりがあるラギか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、心当たりというか答えを知ってるわよ」

(=゚д゚)「……教える気は?」

488名も無きAAのようです:2016/10/03(月) 21:58:36 ID:slfccTV.0
ζ(゚ー゚*ζ「今は、ないわね」

そう。
今は、教えない方がいい。
彼にはまだやってもらう事がある。
ティンバーランドに関わるには、まだ力が不足している。
、 、 、
たかがジョルジュ如きに後れを取るようでは、とてもではないが話にならない。
警察官としてやってもらいたいことならあるが、まだ彼はティンバーランドを知らない状況で動いてもらいたい。
知っていれば、警察内にいる細胞にトラギコの動きが監視され、その内殺されてしまうだろう。

(=゚д゚)「だろうな。
    それで、これからどうするつもりラギ?」

ζ(゚ー゚*ζ「それについても、教える気はないわ。
       刑事さん、貴方はこの事件をどうしたいの?」

訝しげな表情でトラギコがデレシアを見た。

ζ(゚ー゚*ζ「解決したいの?
      それとも、ただ黙って結末を傍観したいの?」

(=゚д゚)「取引を持ちかけるんだったら、いくらなんでも材料不足ラギね」

ζ(゚ー゚*ζ「取引? ふふ、そんなことするつもりはないわよ。
      ただ私は訊いているだけよ、貴方がどうしたいのかを」

(=゚д゚)「事件解決を望まない警察はいねぇラギ。
    何が望みだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「今はまだ秘密。
      それで、どうするの? トラギコ・マウンテンライトの答えは?」

妖艶な笑みを浮かべたデレシアに対して、トラギコは大きな溜息を吐いたのだった。

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                           ( 二ニ ニ)      August 10th PM05:50
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489名も無きAAのようです:2016/10/03(月) 21:59:58 ID:slfccTV.0
黄昏時。
鐘の音が鳴り響く、逢魔が時。
ヒートはアサピーが複数の棺桶持ち――エーデルワイス――に警護されながら病院から出てくるのを見下ろし、その警備体制の厳重さに舌を巻いた。
死角を補い合うように路地裏を移動し、こまめに状況の連絡を行っている様子は凶悪犯の輸送に似ている。

減音器の取り付けられたカービン銃を構える四人の棺桶持ちに囲まれ、その中央にいるアサピーは周囲を見渡し、不安そうな様子だった。
もしも彼らがアサピーを病院から別の場所に移すのであれば、夜になりきらないこの時間帯、そして路地裏を使う事は読めていた。
彼女の読み通り現れた一行は、アパートの階段の踊り場に姿を隠すヒートには気付いていなかった。
となると、おそらくはティンバーランドの人間もこの機会を狙っている可能性がある。

そうして、集団が路地をしばらく進んだ時、一人が叫んだ。

(::[∵/.゚])「……コンタクト!!」

接敵。
敵との接触は即ち、襲撃者の来訪を告げる吉報だ。
見れば、集団の正面に髭を蓄えた男が一人。
間違いなく、デミタス・エドワードグリーンだ。

そしてデミタスはヒートが見ている目の前で、その姿を消した。
高速移動による現象ではない。
それにしては予備動作も舞い上がる砂塵もない。
全身を不可視にする強化外骨格の成す業だ。

だがヒートはその棺桶に対して、一切後れを取ることなく立ち回れた。
早速一人がアサピーを抱きかかえて、建物の屋上へと続く退路を選んで跳躍した。
教則通りの判断だ。
狭い路地で不可視の人間を相手にするぐらいなら、退路が多々ある屋上を選んで保護対象者を逃がした方がいい。

その間に残った人間で襲撃者を撃退すれば、無事に何もかもが終わる。
だが教則通りという事は当然その対応をされている可能性もある、と思った次の瞬間、一人の首が地面に落ちた。
場数を踏んだはずの人間が、デミタスの姿を捉えられていない。
戦闘の素人であるデミタスに負けているという事は、その姿を目視出来ていないのだ。

強化外骨格の目を持ってしても目視が出来ない。
これは厄介そうだ。
そう思っていると、アサピーを連れていた人間が倒れた。
デミタスが移動したとは考えにくく、その倒れ方は、銃で撃たれた人間のそれによく似ていた。

また、狙撃だ。
鐘の音に合わせた狙撃は、その頻度と正確さを増している。
早目に片付けなければ、次はヒートが撃たれる番だ。
そして意外なことに、アサピーは自らの意志で屋上から路地裏へと落ちた。

ノパ⊿゚)「……へぇ、やるじゃんか」

棺桶を背負い直し、ヒートは称賛の言葉をつぶやく。
狙撃されていることに気付いたらしく、撃たれにくい建物の影を選んだのはいい選択だ。
デミタスに蹂躙されるエーデルワイスの一行を見下ろしていたヒートは、起動コードを口にした。

490名も無きAAのようです:2016/10/03(月) 22:02:11 ID:slfccTV.0
ノパ⊿゚)『あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ』

装着を終え、ヒートは踊り場から跳躍。
姿が見えるようになったデミタスの前に、ヒートは着地した。
その姿を見たデミタスは目を見開き、うんざりした様に大声を上げた。

(#´・_ゝ・`)「……また邪魔するか、女!!」

ノハ<、:::|::,》「悪いけどな、またあたしなんだよ、男」

右腕の杭打機を起動させ、ヒートは問答無用で疾駆した。

(´・_ゝ・`)「そう何度も!!」

デミタスは背負っていた小型のコンテナを掲げ、それを楯のようにした。
ヒートはほくそ笑んだ。
巨大な左手でコンテナを掴み、電流を放つ。

(;´・_ゝ・`)「うおっ?!」

デミタスは咄嗟にコンテナを手放し、その電撃をすんでのところで回避した。
掴んだコンテナをヒートはデミタスに投げつけるも、驚くほど素早い身のこなしでそれを避け、一目散に逃走する。
どうやら、このレオンに飛び道具がないのを知っているようだった。
だとしても、捕まえさえすれば何のことはない、一撃で殺せる。

(´・_ゝ・`)「しつこい女だ!」

路地の向こう側から声が聞こえてくる。
また屋上にでも逃げられたら面倒だが、同じ手は二度と喰わない。

ノハ<、:::|::,》「逃がすかってんだよ!」

曲がり角を進むと、そこにデミタスの姿はなかった。
その代わりに、見たことの無い人影がそこに佇んでいた。

川[、:::|::,]「……」

ほっそりとした体に黒い鎧を纏い、青白い輝きを目に湛えた強化外骨格。
見たことの無い形の棺桶だった。
主兵装と呼べそうなものは装備しておらず、体一つだけで戦う形のようだ。
近接戦闘で強みを発揮するタイプかも知れない。

だが奇妙だ。
殺意、敵意と言った物がまるで感じられない。
腰まである長い黒髪は風に揺らめきもしない。
不気味ささえ感じた。

ノハ<、:::|::,》「おい手前! デミタスはどこだ!!」

491名も無きAAのようです:2016/10/03(月) 22:03:31 ID:slfccTV.0
またもや逃げられ、ヒートは苛立ちを声に滲ませてその黒い棺桶持ちに問いかける。
回答が得られるとは思っていないが、ヒントの一つでも得られれば行幸。
デミタスを庇うという事は、彼の仲間という事なのだ。
デミタスが捕まらないなら、その関係者を捕まえればいい。

「……まさか、その声」

声が聞こえた。
懐かしい声が、聞こえたのだ。
もう二度と聞けないはずの声が。

ノハ<、:::|::,》「嘘……だろ……」

声のした方向を見上げる。
二階建てのアパートの屋上に、その人物はいた。
黒髪を風になびかせ、夕日を半身に浴び、懐かしい顔のその人物が。

川 ゚ -゚)「ヒート、お前なのか?」

それは――

ノハ<、:::|::,》「か、母さん……?」

――死んだはずの母親、クール・オロラ・レッドウィングだった。

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                                        August 10th PM05:55
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                Ammo→Re!!のようです Ammo for Reknit!!編
                                   第二章【departure-別れ-】 了
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492名も無きAAのようです:2016/10/03(月) 22:05:37 ID:slfccTV.0
これにて第二章は終了です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

493名も無きAAのようです:2016/10/03(月) 22:22:24 ID:wFL1QYQ.0
乙乙

494名も無きAAのようです:2016/10/05(水) 19:13:59 ID:V6IVE.x20
おつおつ
ヒートにはデミタスが見えてるのか

495名も無きAAのようです:2016/11/14(月) 21:13:06 ID:39bdZoJo0
まだだろうか……

496名も無きAAのようです:2016/11/15(火) 15:05:38 ID:6EgiHm/Q0
sageすらできない早漏がなんか言ってるな

497age:2016/11/16(水) 03:23:49 ID:p8pQoJf60
age

498名も無きAAのようです:2016/11/16(水) 08:17:47 ID:h8QDZgzg0
ageただけで早漏呼ばわりなんてひどいわこの童貞!

499名も無きAAのようです:2016/11/16(水) 08:44:38 ID:llY7pYsU0
このhage!!

500名も無きAAのようです:2016/11/17(木) 00:12:31 ID:IcbrZOhI0
また髪の話してる…(´・ω・`)

501名も無きAAのようです:2016/12/28(水) 00:37:26 ID:B158qcEY0
土曜日にVIPでお会いしましょう!

502名も無きAAのようです:2016/12/28(水) 00:48:28 ID:lCuGDrjA0
やったぜ

503名も無きAAのようです:2016/12/28(水) 12:11:55 ID:tCEnnqNc0
よっしゃ!

504名も無きAAのようです:2016/12/29(木) 08:01:01 ID:vTKrVCiU0
やっふぅ!

505名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 16:22:26 ID:L4tdTcI60
VIPってどこ?

506名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 17:16:46 ID:Z/w6x86A0
>>505
ニュー速VIP
http://vipper.2ch.net/news4vip/

507名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:18:22 ID:OQQmnSoU0
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死体の中には老人の姿もあった。
死体の中には妊婦の姿もあった。
死体の中には少年の姿もあった。
だが、凄惨な殺人現場のどこにも慈悲は見つからなかった。

これが“レオン”と呼ばれる冷血な殺し屋の仕業であることは、疑いようもない。

                       ――ヨルロッパ地方で発刊された五年前の新聞記事

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508名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:20:18 ID:OQQmnSoU0
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                                          August 10th AM10:07
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八月十日。
肌寒い朝の空気が陽によって暖められ、グルーバー島の森には気持ちのいい風が吹いていた。
だが長時間その風に身を晒せば、流石に寒気を覚えるだろう。
その見返りとして、降り注ぐ光の柱が立ち上る蒸気を照らし出す幻想的な森の姿を見ることが出来る。

小川のほとりに一張りのドームテントがあった。
テントの上部に設けられた透明の天窓からは、緑色に輝く葉の隙間から青空が見えた。
寝転んで空を見上げながらトラギコ・マウンテンライトは自ら下した決断について、今一度考えを巡らせていた。
果たして、あの判断は正しかったのだろうか。

追い続けてきた最重要参考人である旅人――デレシア――から提案されたのは、今このティンカーベルで起こっている騒動を鎮圧させるために協力し合うというものだった。
それは魅力的な提案だった。
警察の本部があるジュスティアから軍隊と警察が動員され、この島の歴史上最大の厳戒態勢にも関わらず爆破テロや放火、殺人が起こっている状態だ。
そこにデレシアが手を貸してくれるというのであれば、この事態を収束させられるかもしれない。

そう思ってしまう自分が嫌だった。
警察の仕事は事件の解決と犯人の逮捕であり、他人にそれを委ねることではない。
だがその感覚の正体が、かつて自分が捨てた矜持と呼ばれるものの残滓であることに気が付き、すぐに握り潰した。
要は解決出来ればいいのだ。

509名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:24:40 ID:OQQmnSoU0
体裁など、犬にでも食わせればいい。
こうして、トラギコはデレシアの提案を受け入れ、今後の動きについての説明を受けた。
実行は明日であり、今日は準備の日になるとの事だった。
今のトラギコに必要なのは、体力を回復させ、傷を負って鈍る動きをどうにか補う手段を見つける事だ。

驚いたことに、デレシアはすでに計画を練り固め、トラギコはその計画に必要な駒として加算されていた。
最初から彼女はトラギコが提案に乗る事を考えていたのか、それとも、即興でこの計画を作ったのか。
崖から落ちた車からトラギコを助け出したのは、トラギコが提案に同意すると確信があったのだろう。
ここまで頭の回転の速さと実力が伴っている人間は初めてだ。

これまでにトラギコは多くの人間を見てきた。
優れた頭脳を持ちながら、行動が伴わない人間。
行動力はあるが、先を考えるだけの思慮が足りない人間。
覚悟がないくせに人に覚悟を強要する人間。

計画を手短に語ったデレシアは、非の打ち所がない人間だった。
長い時間をかけて説明するような作戦では、誤解が生じて綻びになる危険性もある。
手短に語れるという事は、それだけ要点がはっきりとしているという事だ。
とてもではないが、馬鹿や凡人には出来ない。

聞いたことがある。
天才とは簡潔な言葉で相手に理解させる生き物であり、秀才は長く難解な言葉で相手を納得させるものだと。
デレシアは紛れもなく前者だ。
道理で苦労するわけだ。

オアシズで起こした騒動の手がかりを残さず、いくつもの街で暗躍した彼女が凡人や俗物であるはずがない。
なるほど、この女は先を見通す力が常人や天才と呼ばれる人種を遥かに凌駕しているのだ。
当然、未来を知る人間を正攻法で出し抜くことは出来ない。
付け焼刃で考え出した策略など、意味をなさないだろう。

考え直しても、やはり彼女の手を借りた方が事件解決は円滑に行くはずだ。
賽は投げられ、後は最善の結果を出すために尽力するだけである。
しかしながら、まだ少しは考え直す余地はあるだろう。
何も焦る必要はない。

510名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:26:41 ID:OQQmnSoU0
体力を回復させ、一刻も早く前線に戻って事件を解決させるためにも、今は暴れることなく状況に身を委ねるしかない。

(=゚д゚)「……」

(∪´ω`)φ"

思案するトラギコと同じテントの隅に、一人の少年が腰を下ろしていた。
ニット帽を被り、天窓から差し込む光を利用して本を照らし、そこに何かを書き込んでいる。
時折分厚い本――恐らくは辞書――を見て、それからまた別の本へ書き込みをした。
まるで受験を控えた学生だ。

(=゚д゚)「おい」

(∪´ω`)φ"

少年は作業に夢中なようで、トラギコの声かけに気付いていない。

(=゚д゚)「おい、ブーン」

トラギコは少年の名前を呼んだ。
ブーンという名を持つ少年には、垂れ下がった犬の耳と丸まった犬の尾がある。
彼のような人間は耳付きと呼ばれ、世間では忌み嫌われる差別の対象だ。
そのため、耳付きは総じて人間を恐れ、目を合わせようとはしない。

目が合えば飛んでくるのは罵倒の言葉か暴力だけだ。
だがブーンは、小首を傾げてトラギコの目を見た。
その仕草は名前を呼ばれた仔犬の様だった。
無視をしていたのではなく、あまりに熱中するあまりトラギコの声に気付けなかったのだろう。

(∪´ω`)「お?」

(=゚д゚)「何書いてるラギ?」

(∪´ω`)「くろすわーど、です」

クロスワード。
ヒントを基に、文字数の制限と指定された文字を使ってマスに書き入れ、最後に浮かび上がる言葉を見つける文字遊びだ。
ブーンの歳は見た目から推測するに、六歳程度だろう。
六歳の子供がクロスワードとは、随分と渋い趣味をしている。

(=゚д゚)「ふぅん……」

(∪´ω`)「……あの、トラギコ、さん」

クロスワードの本から目を上げて、今度はブーンがトラギコの名を呼んだ。

(=゚д゚)「あ?」

(∪;´ω`)「おっ……」

511名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:30:38 ID:OQQmnSoU0
トラギコの剣幕に、ブーンが怯えを見せた。
怯えさせる気は毛頭なかったが、怪我をしているせいで気が立っており、結果的に子供を怯えさせてしまった。

(=゚д゚)「あぁ、悪い。 で、何だ?」

(∪;´ω`)「あの、ここなんですけど……」

おずおずとクロスワードの本を持って近づき、ブーンがトラギコにそれを広げて見せた。
トラギコは寝たままの状態で首を本に向け、そこに書かれている文字を読んだ。
そして、思わず驚きを表情に出すという失態を犯した。

(;=゚д゚)「……お前これ、随分と難しいのやってるラギね」

恐らく、対象年齢は中学生から高校生だろう。
並ぶ単語はどれも六歳の子供が使うには難しく、大人でも理解できないのがあるかもしれない。
辞書の助けがなければまず六歳児には無理だ。

(∪;´ω`)「この、jではじまる13もじのやつです……」

(=゚д゚)「……己の正義を他に知らしめ容認させること、ねぇ」

ヒントも難しく、言葉を知らない子供には難易度が高い。
このヒントはジュスティアの人間ならば一度は目にしたことのある言い回しで、本の作成者は意図してそれを選んだのだろう。
ジュスティアの学校で使用される道徳の教科書には必ずこの言い回しが使われ、子供たちは幼くして正義と悪の二つを覚えることになる。

(∪;´ω`)「さいしょは、せいぎ、かなっておもったんですけど、ますがあまっちゃって……」

子供なりに悩んだのはよく分かる。
確かに、これは言葉を知らなければ埋められない。
言葉を知らなければ辞書を引きようがなく、簡単には見つけられない。
だが惜しい。

ブーンの言っている言葉は、正解に限りなく近い。
これが教師であれば褒めるのだろうが、トラギコはそんな器用な真似はできない。

(=゚д゚)「正当化、ラギ」

中学生になった時、トラギコはこの言葉を嫌と言うほどその体に叩きこまれた。

教師の拳は正義であり、例え教師が誤った事でそれを振るおうとも、それは決して悪には転じなかった。
逆もまた然り。
全ては正義の物差しを誰が作ったのかが問題であることに気付けなった時の話だ。

(∪´ω`)「せーとーか?」

(=゚д゚)「手前が正しいってことにするってことラギ。
    それがどんなことだろうとも、だ」

512名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:33:07 ID:OQQmnSoU0
(∪´ω`)「おー?」

ブーンは首を傾げる。
どうやらよく分からないらしい。

(=゚д゚)「例えばだ、俺が理由もなくお前を殴ったとしようか。
    それが正しい事、必要なことだったと周りに説明することを正当化っていうラギ」

(∪´ω`)「お!」

ようやく意味が分かったようで、顔を輝かせて紙に文字を書きだした。
そして止まった。

(∪;ω;)「すぺる、わからないですお……」

綴りが分からなければ、クロスワードは進められない。
読み方が分かっても綴りは分からない物だ。
何だかんだと言っても、やはり、ブーンは六歳の少年なのだ。

(;=゚д゚)「……何なんだよ、お前は。
    j u s t i f i c a t i o nだ、覚えておけ」

(∪´ω`)「あ、ありがとうございますお……」

(=゚д゚)「気にすんな。 じゃあ、俺は寝るラギ。
    静かにしてろよ」

指さしたその先で、ブーンはしっかりと頷いた。
物分りが良い子供で助かる。
子供相手に気を遣わずに済むのはありがたかった。
ブーンの相手をしているほど、今は暇ではない。

今は眠り、体力を取り戻すのが重要だった。
無駄に動くことも、起きる必要もない。
食事については我慢すればいい。
ただ今は、休まなければならなかった。

瞼を降ろしたトラギコは、すぐに眠りに落ちた。

513名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:34:46 ID:OQQmnSoU0
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Ammo→Re!!のようです        _/~ヽ
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Ammo for Reknit!!編   ‐<{三三{ \三三三〉
                   / {_ノノ \ \ l
                  /{ {  /ヽ  ヽ
                  ヽヽ__} /      /
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第三章【trigger-銃爪-】

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ブーンはクロスワードと辞書を交互に見ながら、マス目を着実に埋めていった。
トラギコが言っていた正当化という言葉について辞書で調べたところ、ブーンは少し混乱していた。
出来ればもう一度トラギコに質問したかったが、寝ている彼を起こすわけにはいかなかった。
悩み所は、“正義”という言葉だった。

正義という言葉の意味を調べても、ブーンには分からなかった。
人として正しい事、とあった。
はて、人として正しい事とは何だろうか。
何が正しくて、何が正しくないかの基準がどこかにあるのだろうか。

人が行動する時には、それが正しいと信じているから行動するものではないのだろうか。
難しい問題だった。
疑問に思った時に質問をしていればよかったと後悔するが、今はどうしようもない。
次回にこの後悔を活かしさえすれば、無駄ではない。

今度デレシアに訊けば答えを得られるだろう。
空白にその言葉を書き留め、新たな問題に取り掛かる。
鉛筆を動かしながら、ブーンは焦燥感に駆られていた。
自分は果たして、こうしているだけでいいのかと。

(∪´ω`)φ″

ヒート・オロラ・レッドウィングの手助けをしたいと願い出たブーンに対してデレシアが告げたのは、トラギコの看病の依頼だった。
正確にデレシアの言葉を引用するのであれば、“トラギコを看病することがヒートの手助けになるのよ”とのことだ。
思えば、こうしてデレシアがブーン一人に何かを任せてくれたのは初めてなのかもしれない。
オアシズでの立ち回りは、ブーン一人の働きではなく、あくまでも補佐程度だった。

それを考えると、今の自分はデレシアに信頼されていることが誇らしかった。
信頼して、大切な役割を委ねてくれた。
何があっても、その信頼を裏切らないように努めなければならないと、ブーンは心を決めていた。
十二時の鐘と同時に食事を作り、それをトラギコに食べさせるという大きな仕事がある。

514名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:36:16 ID:OQQmnSoU0
それまでの間は勉強とトラギコの看病がブーンの役割だった。
勉強は好きだ。
知らない事を知り、少しでも足りない部分を補うことが出来る。
簡単に成長を実感できるため、ブーンは自分が確かに成長しているのだという自覚と共にデレシアとヒートの役に立てる日が近付いていると誇らしく思った。

すぐに眠り始めたトラギコを見て、その眠りが深いことを寝息から悟った。
暫くの間は起きないだろう。
テントの中には二人の呼吸と鉛筆が紙上を走る音だけが流れている。
静かな、そして有意義な時間の流れにブーンは表現し難い安心感を覚えていた。

クロスワードの大部分が埋まって来た時、ブーンの耳が跫音を捉えた。
近付いてくる二足歩行生物――人間――の跫音だった。
女性で、何か金属の物を持っている。
音の次に、匂いが届いた。

それは甘く、糖蜜のような香りだった。
その香りにブーンは覚えがあった。
海上都市ニクラメンで嗅いだことのある香りだ。
死の匂いを隠すための偽装か、それとも死の匂いそのものなのか。

断言できるのは、この香りの持ち主は山の様な死体を生み出してきた人間だということ。
友好的な人間性はなく、残虐非道な生活の持ち主であるという事だ。
そしてブーンは思い出す。
この匂いの持ち主を。

(∪;´ω`)「……お?!」

――ワタナベ・ビルケンシュトック。
間違いない。
この匂いは、彼女の物だ。
不運にも、眠っているトラギコはまだ彼女の接近に気付いていない。

甘い死の匂いを漂わせる彼女の存在に気付けているのは、優れた嗅覚と聴覚を持つブーンだけ。
この場を守れるのは、ブーンだけだ。
どうすればいい。
背筋が冷え、体が震えてその場に跪かせようとしてくるのを強引に拒み、考えた。

守らなければならない。
守るためには抗わなければならない。
例え敵わない相手だとしても、抗う事を諦めてはならないのだ。
抗うためには考え続けなければならない。

思考を止めればそこで終わってしまう。

515名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:37:11 ID:OQQmnSoU0
(∪;´ω`)「……」

トラギコをテントに残してブーンが囮になれば、せめてトラギコだけでも助けられるかもしれない。
しかし、ブーンに興味を示さないかもしれない。
ワタナベにとってブーンは脅威でも何でもない、ただの耳付きの子供。
追う価値もないと判断され、囮であるブーンを無視してトラギコを一直線に狙われたらおしまいだ。

多くを深くまで考えている時間はあまりない。
自分一人で出来る事など限られている。
ここは、トラギコの手を借りなければ状況を打破するのは無理だ。
眠っているトラギコを起こして状況を説明し、テントを出てから注意をブーンにひきつければその間にどうにか逃げてもらえるだろう。

ブーンに思いつく最善の案は、それしかなかった。

(∪;´ω`)「トラギコ、さん」

肩を揺らして、その名前を呼ぶ。

(=゚д゚)「ん?」

ただならぬ雰囲気を察したのか、トラギコはすぐに起きて半臥の状態になった。

(∪;´ω`)「ワタナベさんが、きてますお」

(=゚д゚)「……マジか」

トラギコの顔が真顔になり、何かを探すように周囲を見渡した。
恐らく武器になるような物を探しているのだろう。
ブーンの知る限りガスの詰まったボンベとナイフぐらいだ。
それだけであのワタナベに挑めるとは思えなかった。

これでも、少しは戦いの場を見てきたつもりだ。
得物による優劣の差ぐらいは理解出来たつもりだった。
当然、自分が時間稼ぎを出来るような戦いが出来ない事も理解している。
理解していても諦めることは出来なかった。

(∪;´ω`)「だから、にげて、ください」

その言葉を聞いた瞬間、トラギコはブーンの胸倉を掴んで引き寄せた。
全く予想外の事態に、ブーンは目を白黒させる。
何が彼の癇に障ったのか、全く分からない。

516名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:37:29 ID:jYoL/Lxo0
昨日はリアルタイムに見れなかったので、支援。

517名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:39:01 ID:OQQmnSoU0
(=゚д゚)「いいか、ガキが大人を気遣うな。
    俺が時間を稼いでやるラギ。 お前が逃げろ」

(∪;´ω`)「でも、トラギコさん、けがしてて……」

(=゚д゚)「あの女達は教えてくれなかったかもしれないが、いいか、覚えておけ。
    俺は一度だけしか言わねぇラギ。
    男には、絶対に譲れない意地ってものがあるんだよ。
    ガキに守られるってのはな、我慢できねぇんだよ、俺は」

(∪;´ω`)「……あっ!」

気付いた時には、ワタナベの匂いがより濃く、そして呼吸の音が聞こえるまでの距離に近づいていた。
テントのすぐ外に人がいると分かり、ブーンがトラギコに警告するよりも早く、トラギコはブーンの体を己の背後に引き摺り倒した。
ジッパー式の入り口が開き、現れたのは白いワンピースに身を包んだワタナベだった。
垂れ下がった目尻には攻撃的な印象は一切ないが、それでも、瞳の奥に宿る狂気の色は健在だ。

从'ー'从「はぁい、刑事さんお元気ぃ?
     ……って、あらぁ?
     いつぞやの仔犬君じゃなぁい」

(∪;´ω`)「……」

甘ったるい声と香り、そして気だるげな表情。
死を運ぶ大量殺戮者であるワタナベの佇まいは妖艶な娼婦の様だったが、その本質を知るブーンは決して気を許しはしなかった。
トラギコがブーンを庇うようにしてゆっくりと立ち上がり、ワタナベにその鋭い視線を向けた。
狭いテント内に、ただならぬ空気が満ちる。

(=゚д゚)「久しぶりって程でもねぇが、何の用ラギ?」

从'ー'从「忘れ物、届けにきたのよぉ」

そう言ってワタナベはアタッシュケースを掲げて見せた。
それが誰のものなのか、ブーンは漂ってきた匂いで理解した。
トラギコの物だ。
長年使いこんだのだろうか、匂いが鉄の中にまで染みついている。

(=゚д゚)「……ブリッツのコンテナか」

从'ー'从「そうよぉ、刑事さん忘れて行っちゃうんだものぉ。
     それと、車の中にも忘れ物があったから持って来てあげたのよぉ」

518名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:40:45 ID:OQQmnSoU0
見せつけるようにして、アタッシュケースに紐で括り付けられている一対の黒い籠手を掲げる。
そして、空いていた手で黒い拳銃を構えた。
オアシズで見たことがある。
トラギコの愛銃、ベレッタM8000だ。

その銃腔はワタナベを向き、撃鉄はトラギコを向いていた。
デレシアから習った、人に銃を渡す時の形だった。

从'ー'从「これ、大切な銃でしょ?」

その瞳に宿る怪しげな光の正体は分からない。
何かを誘っているような、それでいて狙っているような、奇妙な光だ。

(=゚д゚)「……ブーン、外に出てろ。
    大人同士の話し合いをするラギ」

(∪;´ω`)「あ、えっ……ぉ……」

罠の可能性は大いにある。
それぐらい、トラギコにも分かっているだろう。
分かっていて尚、トラギコは踏み出した。

从'ー'从「あらぁ? 大人の話し合いってことはぁ、ようやくその気になったのぉ?」

(=゚д゚)「黙ってろ。 ほら、早く行くラギ。
    大丈夫ラギ。 こいつは、今は危害を加えてこないラギ」

トラギコの声には有無を言わせぬ凄みがあった。
手負いとはいっても、トラギコの戦闘力はブーンよりも高いだろう。
一瞬の判断を迫られたブーンは、大人しく頷いた。

(∪;´ω`)「わかり……ました……お」

その言葉に従って、ブーンはテントを出た。
果たしてその選択が正しかったのか、今はまだ、分からない。

519名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:42:48 ID:OQQmnSoU0
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          ノ'´  |:人: : : j、、` /      弋こン /: : : : : :.八: : : : : : : \: : \二¨__
           八: :.ヽ: }        、、、¨´、 /:/: : : : /: : :\: : : : : : : \: : : : :ノ
                                          August 10th AM10:31
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(=゚д゚)「で、どういう魂胆ラギ?」

二人きりになったテントで、トラギコはワタナベの手から銃と棺桶――強化外骨格の通称――を受け取った。
あまりにも呆気なく武器を渡されたことに対して、彼は驚きの表情を禁じ得なかった。
渡すと見せかけて殺すことも出来たはずだ。
この女ならば、手負いのトラギコを殺すことなど造作もない。

何が狙いだ。
情報か、それとも別の何かを狙っているのか。
ブーンを逃がしても追おうとしないことから、狙いがトラギコにあるのは分かる。

从'ー'从「私はただお仕事をしているだけよぉ」

(=゚д゚)「……仕事?」

人殺しのする仕事など、一種類しかない。
ボランティアでもなければ、慈善活動でもない。
偽善にすらならない、ただ一つの行い。
殺しだ。

从'ー'从「そうよぉ。 お仕事よぉ。
     “後片付け”をするお仕事ぉ」

返されたばかりの拳銃を一瞬で構え、トラギコはその銃口をワタナベの頭に向けた。
弾丸が弾倉に装填されていることは手に持った感覚で分かる。
問題は、彼が車内に置き忘れたのと同じ状態、つまり弾が薬室に送り込まれているかどうかという事だった。
薬室に弾が込められていなければ、銃爪を引いても弾は出ない。

それどころか、致命的な隙を生むことになる。
それでも、脅迫材料としては生きてくれることを願うばかりだ。

520名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:45:01 ID:OQQmnSoU0
(=゚д゚)「俺を片づけるのは一苦労するラギよ?」

从'ー'从「あらぁ? 私は、現場の後片付けをしただけよぉ。
     ほらぁ、道具を持ち主に返して片付けるってお仕事よぉ?」

撃鉄を親指で倒し、銃爪に指をかける。
数グラムの力を込めるだけで、ワタナベの頭は熟れたトマトのように爆ぜるだろう。
ナイフを喉元に突きつけるのが最もいい手段だが、銃の威力を知っている人間にはこれも効果的だ。
しかしながら、ワタナベは涼しげな顔をしたまま、何を考えているのか分からない笑みを浮かべている。

こちらが撃たないとでも思っているのだろうか。
こちらは情報さえ聞き出せれば、ワタナベを殺しても一向に構わないのだ。

(=゚д゚)「いいか、手前が何でショボン達と組んでるのか、それについてはおいおい訊くが、手前の狙いは何だ?」

从'ー'从「私は私のやりたいように、気持ちのいいようにやっているだけよぉ」

(=゚д゚)「ふざけてる……って訳ではないラギね」

こういった手合い――殺しを楽しむ人間――は、己の美学に関する部分については嘘を吐かない。
それだけが唯一の誇りであり、それを偽る事だけは決してしないのだ。

从'ー'从「そりゃあもちろんよぉ。 私はいつでも真面目よぉ」

親指で撃鉄をゆっくりと戻し、銃を降ろす。
この狂人は紛れもなく頭のネジが外れた人間だが、それでも、欺くなどと言う煩わしい真似はしない。
騙すなら最初からトラギコを殺しているし、誰かの指示で隙を作ろうとしているのだとしても、それをここまで上手く出来るとは思えない。
数多の犯罪者を見続けてきたトラギコの直観は、そう告げていた。

この女は、真面目に狂っている。

(=゚д゚)「まぁ、コンテナを持って来てくれたのは感謝するラギ。
    だけど、手前はいいのか?
    そろそろ組織の人間が黙っちゃいねぇだろ」

いくら何でも、ワタナベの行動は組織としては見過ごせない物ばかりだ。
作戦行動の逸脱、妨害
味方からすればとんでもない邪魔者だ。
彼らが大きなことを企てているのであれば、ワタナベを処分した方が有益と判断しても不思議はない。

オアシズに仕掛けられていた爆弾解除に手を貸し、シュール・ディンケラッカーに殺されかけていたトラギコを助けたことが知られれば、組織に殺されるだろう。
仮にトラギコがワタナベの組織にいたとしたら、決して生かしてはおかない。

521名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:47:22 ID:OQQmnSoU0
从'ー'从「平気よぉ。
     私はあくまでも末端の末端でぇ、お上はいちいち気にしないわよぉ。
     それとも何ぃ? 心配してくれてるのぉ?」

(=゚д゚)「ふざけんな。 手前に勝手に死なれたりすると迷惑ってだけラギ。
    いいか、訳の分からない手前の道楽で手前が気持ちよく死ねると思うなよ。
    手前は、この俺が殺すラギ」

そうだ。
このろくでもない快楽殺人者には、苦痛に満ちた死が相応しい。
他の人間ではなく、トラギコが手ずから殺してやらなければ気が済まない。
デレシア同様、他の誰にも渡したくない存在だ。

彼の獲物。
彼が決めた、彼が捕まえ、彼が殺すべき相手。
己の牙が噛み砕くべき相手なのだ。

从'ー'从「……ふぅん。
     それは楽しみにしておくわねぇ。
     それじゃぁ、私は殺されない内に退散するわねぇ」

(=゚д゚)「待てよ。 外にいるあのガキに手を出すんじゃねぇぞ」

从'ー'从「分かってるわよぉ。 だからぁ、私は単に現場の後片付けに来ただけなのぉ。
     それにぃ、こう見えて子供は好きなのよぉ?」

殺人者が何を言うかと思えば、とんだ戯言だった。
本当に子供好きなら、子供を持つ親を殺したりはしない。
屍の山で悦に入る狂人の言葉など、耳を貸すに値しない。
所詮は殺人鬼の気まぐれ。

時々いるのだ。
妙な矜持を持った殺人鬼が。
女子供には手を出さない猟奇殺人者や、大人の女には手を出さない強姦魔。
異教の神を信じる人間だけを殺してきたと胸を張る屑が。

(=゚д゚)「よく言うラギ」

ワタナベがテントから出て行ったのを見届けてから、トラギコは密かに安堵の溜息を吐いた。
M8000の遊底を引くと、薬室には弾が入っていた。

(=゚д゚)「……あいつ、馬鹿か」

――或いは、トラギコが撃たないと確信していたのか。

522名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:49:08 ID:OQQmnSoU0
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             / >:`ヽ:{:.:」  `¨゙        ト-升ヘ,  ∠Z仏∨.:
             / /.:.:.:.:.:.:/ :{   /     弋外F癶  r┐Y.:.:}.:.:
            / / .:.:.:.:.:.:  .:ハ   __       `¨´   _,ノ ノ:.く.:.:.
           / /  .:.:.:.:.:./ ./.:.∧   `Y``ァ        r‐<:.:.:.:.:.`ヽ
                                          August 10th AM10:53
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

思っていたよりもすぐにテントから現れたワタナベに、ブーンは少し驚いた。
話していた内容は全て聞こえていたが、特に争うようなこともなく、大人の話し合いというものは案外あっさりしているのだと受け入れた。

从'ー'从「はぁい、仔犬君。
     もういいわよぉ」

(∪;´ω`)「あ、え、はい……」

从'ー'从「いつも一緒のお姉さんたちはいないのかしらぁ?」

(∪;´ω`)「お……」

デレシア達の事は何があっても話してはならない。
それは、デレシアに言いつけられなくても分かる事だ。

从'ー'从「ふふふ、冗談よぉ。
     話せるはずないわよねぇ。
     それにぃ、いたらもう出てきている頃だものねぇ。
     じゃあ、今ここで私が仔犬君をめちゃくちゃにしても大丈夫ってことねぇ」

ちろり、と蛇のようにワタナベが舌を見せた。
背中に刃を当てられたかのように、ブーンは寒気を覚えた。
嗜虐的な笑みの奥に、純粋な殺意の姿が見えたのである。

(∪;´ω`)「いや、ですお……」

从'ー'从「これも冗談よぉ。
     それじゃあ、またねぇ」

523名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:52:05 ID:OQQmnSoU0
ひらひらと手を振って、ワタナベは森の中に消えて行った。
自分の身に何も起きなかったことに安堵し、ブーンはようやく安堵の息を吐くことが出来た。
テントに戻ると、トラギコはアタッシュケースに籠手を戻しているところだった。

(=゚д゚)「おぅ、悪いな」

ワタナベがこの場所を探し当てたことに驚いた様子もなく、研ぎ澄まされた冷静さを保っている。
ヒートやデレシアもそうだが、どうすればここまで冷静でいられるのだろうか。

(∪;´ω`)「あ、いえ……」

いつか、自分もそう在れるようになりたいと強く思う。
そうすれば、デレシア達が困難に陥った時に、ブーンも力になれる。

(=゚д゚)「じゃあ俺はまた寝るラギ。
    何かあれば起こせ」

そう言ってトラギコは枕代わりにしている寝袋の傍にアタッシュケースを置いて、その上に拳銃を乗せた。
先ほどまでの緊張状態などまるでなかったかのようにトラギコは横になり、すぐに浅い寝息をたてはじめる。
肝が据わっている、とはこのことを言うのだろう。
彼に見習い、ブーンも先ほどまでの作業に戻ることにした。

ワタナベの匂いがまだ漂っていることが気になるが、大したことではない。
本を開いて、再び文字と向き合う。
やがて少し肌寒いと感じ、メッシュの窓を閉じる。
だがトラギコにはまだ寒いようで、腕を組んで暖を取ろうとしていた。

(∪´ω`)「お……」

少し考え、ブーンは本を閉じた。
そして、トラギコの傍に横たわり、体を丸めて身を寄せた。
これで少し暖かくなればと思っての行動だったが、トラギコの本能がブーンの体温を感じ取り、ブーンを包むようにして抱いた。
大きな腕にしっかりと抱かれ、ブーンは少しだけ戸惑いながらも、瞼を降ろして眠ることにした。

トラギコの腕はとても力強く、そして優しげだった。

524名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:53:02 ID:OQQmnSoU0
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       (^)   ;;:;::: ヾ;:.,ヾヾヾ    ノ;;:;::: ヾ;:.,ヾヾヾ;:;:.;:;;:ヾノ;:;:.,ヾヾヾ;:;:.,ノ
 ;;:;::: ヾ;:.,ヾヾヾ:::;:;:       ;;:;:φ:: ヾ;:.丿,ヾヾヾ;:(^);:.;:;:;::: ヾ    ;:.ヾ;:;:.,ヾ/
    ;;:;丿:: ヾμ;:.,ヾヾヾ (^)  ;;:;:   丿  ヾ;:;;:ヾ::;ヾ;;:;:: ノ:.,ヾヾ;ξ:;:.;: ヾ丿
;;:ヾ::;ヾノ      ;;:;::: ヾ;:.,ヾヾヾ 丿  ;:ρ;ヾヾ:;::ヾヾ ヾ;ノ:ヽヾ;:;ヾ:;::ヾヾヾ;:ヾ)
   ;;ァ!\\| |:;;ヾ:;: .r;. ::: ヾヾ:;::ヾrヾ:;;ヾ:;:;:;:.r;. ; . \|.ヾヾ| |ヾヾヾ;;:;:::ヾ)     ,.,.   ,,
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   ..|;|   | |   ||   | |   | | | |     | |   ∥  | |         ,.,:,,:;;:;::;,.,。,.,:,;:::
   ..|;|   | |   ||   | |   | | | |     | |  ,,_∥._,,r゙゙゙゙ヾ゙^゙ヽ  - - - - -''"''yi''-"''yi''
   ..|;|   | |   ||   | |   | |,,,r''''' .゙'゙゙゙ """   ゙^゙ヽ'"゙~' ′'"゙~' ′、   .,..ili  .,,,.il
August 10th PM00:01
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

次にブーンが目を覚ましたのは、正午を告げる澄んだ鐘の音が聞こえた時だった。
昼食の時間だ。
デレシアから教わった昼食は、コンソメスープを使ったパンリゾットだった。
食料を購入する時間がなかったこともあり、具材は山菜しかないが、美味しくできるだろう。

問題は、トラギコを起こさずに抱擁から逃れる方法だった。
ゆっくりと体を動かし、腕を解こうとする。
それがトラギコを眠りの世界から引き戻してしまった。

(=-д゚)そ「……んぁ?
      あぁ?!」

腕の中にいたブーンを見てトラギコは驚き、その腕を一瞬で解いた。
思わずブーンも驚き、飛び退くようにして立ち上がる。
耳付きを嫌う人間は、触れただけでブーンを死ぬほど殴ってくる。
トラギコもそういう人間ではない可能性は否定しきれなかった。

殴られると思い、両手が自然と顔を庇うようにして上がっていた。

(;=゚д゚)「いつからそこにいたラギ……」

(∪;´ω`)「ご、ごめんなさい……」

(;=゚д゚)「いや、謝る必要はないラギ」

525名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:56:20 ID:OQQmnSoU0
トラギコの驚き様は、ブーンを抱いていたことに対しての物ではなく、ブーンの存在に気付けなかった自分を責めているようだった。

(=゚д゚)「あぁ、別に殴りはしないラギよ」

(∪;´ω`)「……けるんですか?」

(=゚д゚)「蹴らねぇよ。
    気を遣ってくれたんだろ?
    すまねぇな」

(∪;´ω`)「……お。
       いえ、その……はい……」

(=゚д゚)「撃ちもしないし、切ったりもしねぇよ」

(∪;´ω`)「はい……です、お……
       あの、お、おなか……へってますか?」

顔を守っていた両手をおろし、ブーンは当初の目的を果たすことにした。
昼食の提案に対してトラギコは、短く一度だけ頷いた。
間違っても彼の機嫌を損ねないように、美味しい物を作らなければならない。
テントの前室に移り、バーナーを使って調理を開始することにした。

クッカーに川で汲んできた水を入れ、それが沸騰するまで待つ。
沸騰した水にコンソメスープのブロックと一つまみの塩を入れ、黄金の色に染まるのを見つめる。
小さく切った歯応えのある山菜――葉ワサビとデレシアは呼んでいた――を入れ、千切ったパンをスープ全体が隠れるぐらいまで詰めた。
蓋を閉めて火を小さくし、少しの間だけ待つ。

火を消してクッカーとフォークを持ってトラギコの元に戻る。

(=゚д゚)「悪いな、手間かけさせて」

(∪;´ω`)「い、いえ……」

(=゚д゚)「コンソメのリゾットか……
    どれ、美味そうな匂いしてるラギ」

ブーンから受け取り、蓋を取ってトラギコはすぐに食べ始めた。
スープを吸ったパンは膨らみ、柔らかくなっている。
体力がない人間でも食べられる食事だった。
湯気の立つパンを口に運び、もぐもぐと美味そうにトラギコは咀嚼した。

526名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 19:58:43 ID:OQQmnSoU0
(=゚д゚)「薄味でいいな。
    お前の分は?」

すっかりトラギコの昼食にだけ意識を捉われていたため、本来自分が食べるべきパンも一緒にクッカーに入れてしまったことに、今気付いた。
気恥かしく、ブーンは首を横に振った。

(∪´ω`)「だいじょうぶ、ですお」

(=゚д゚)「……俺の言葉が分かってねぇようラギね。
    俺は、お前の分の飯はどこだって訊いたラギ。
    大丈夫、は答えになってねぇ」

(∪;´ω`)「お…… ぱん、ぜんぶつかっちゃって……」

(=゚д゚)「馬鹿か、手前は……
    だったらお前が食えばいいラギ」

(∪;´ω`)「それは、だめです…… ぼく、トラギコさんのかんびょーしないと」

(=゚д゚)「なぁ、飯が冷めるからその話は後でじっくり聞かせてもらうが、飯を半分に分けるラギ。
    そうすりゃ、俺もお前も飯を食えるだろ」

(∪;´ω`)「トラギコさん、おなか、へっちゃいます」

(=゚д゚)「うるせぇ。 何度も言わせるな。
    ほら、食うぞ」

有無を言わせず、トラギコは蓋にリゾットを取り分け、それをブーンに差し出した。

(=゚д゚)「スープを飲みたかったら言うラギ」

(∪´ω`)「ありがとう、ございます……お」

(=゚д゚)「いいんだよ、ほら、食うぞ」

がつがつと一心不乱に食べ始めたトラギコを見て、それから手に持つリゾットを見た。
冷めない内に食べた方が絶対に美味いのは、見れば分かる。
その場に座って、両手を合わせていつもの挨拶をした。

(∪´ω`)「いただき、ます」

口の中のリゾットを飲み込み、トラギコは異物を飲み込んだかのような奇妙な顔をして食事の手を止めた。

527名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:01:31 ID:OQQmnSoU0
(=゚д゚)「……何ラギ、それは」

(∪´ω`)「お? あいさつ、ですお」

(=゚д゚)「何だ、宗教でもやってるラギ?」

(∪´ω`)「しゅーきょー? ちがいますお。
      あいさつ、ですお」

(=゚д゚)「……なぁ、お前、宗教って知ってるラギ?」

ブーンはすっかり柔らかくなったパンをスプーンですくって口に運び、数度噛んでから飲み込んだ。
そして、トラギコに問われたことを答えた。

(∪´ω`)「おなじなにかをしんじるひとのあつまりですお」

宗教についてはヒートに教えてもらったことがある。
彼女の幼馴染がそれにのめり込み、それまで持っていた唯一の取り柄を失った原因であると。
詳しく話を聞くと、どうにもそれは昔から人間の間に根付く考え方であるという事だった。
それはまるで人の生き方と同じだと、ブーンは感じた。

誰もが何かを正しいと信じて生きている。
それは先ほどトラギコが言った正義という言葉そのものであり、正義というものの在り方の違いで人は争う。
異なるものを受け入れられないのが人間だ。
だからブーンは殴られ、蹴られ、嫌われ、虐げられてきたのだ。

(=゚д゚)「まぁ、そんな感じラギ。
    ならその挨拶は何なんだ?」

(∪´ω`)「おしえてもらったんですお」

(=゚д゚)「デレシアにか?」

(∪´ω`)゛

(=゚д゚)「ふぅん」

さほど興味もなさそう返事をして、食事に戻った。
二人はそれから無言で昼食を続けた。
無言だったが、トラギコがブーンの食事に満足した様子なのは、彼が最後に吐いた溜息が雄弁に物語っていた。
トラギコは寝袋を叩いて枕にし、横になってぽつりとつぶやいた。

528名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:04:42 ID:OQQmnSoU0
(=゚д゚)「飯、美味かったラギ」

(∪*´ω`)「お……!」

空になったクッカーと蓋を持って、ブーンはそれを洗うためにテントの外に出た。
頭上で陽が輝き、森に降り注ぐ光の量が増えていた。
光の柱が雨のように地面を照らし、小さな川は光を反射してキラキラと輝いている。
大きめのカップで水を汲んでクッカーを洗い、その水は川ではなく近くの地面に撒いた。

妙な視線を感じたのは、洗い終えたクッカーをテントの外に干そうとした時だった。

(∪´ω`)「……お?」

重厚かつ強力な獣の視線。
自然界に生きる、産まれたままの強者の視線だ。
物騒な視線の出所に首を向けると、川を挟んだ向かい側に、それはいた。

(・(エ)・)

茶色の毛に包まれた、巨大な生物。
それは、ブーンが生まれて初めて遭遇したグリズリー――別名:灰色熊――だった。
あまりにも巨大なその生物を前に、ブーンの体は硬直した。
野生の膂力の化身はその力を示さずとも、身に纏う雰囲気だけで周囲に己の力を誇示することが出来る。

彼は知らなかったが、グリズリーは野生動物の中でも頂点と呼ばれる領域に位置する生物であり、武器を持たない人間では太刀打ち出来るようなものではない。
比肩し得るのは同じ領域にいる生物だけ。
――以上の情報をブーンが知るはずもなかったが、それでも、彼の中にある生命本能は即座に警告を発した。
関わってはならない、と。

(∪;´ω`)

どうするべきか、ブーンは考えた。
“あれ”はおそらく川に水を飲みに来ただけなのだが、ブーンに気付いて動きを止めているのだ。
こちらがどう動くかで、あれがどう動くのかが決まる。
武器はない。

トラギコも今はテントの中だ。
野生生物はワタナベよりもある意味で恐ろしい。
話が通じない上に、一切の慈悲を持たない。
野生の掟に従って行動するため、戦略を立てる余裕がなければ実力で挑むしかない。

武器を持つトラギコがいてくれれば、状況はまだこちらが有利だったに違いない。
だがブーンが声を出せばあれは動くだろうし、その動いた先にいるのは勿論ブーンだろうし、そのままトラギコまで狙われかねない。
あれが向ける視線の種類は、視線の先にいる生き物が餌か敵かを見極める類のそれだ。
ブーンに出来るのは息を呑んで、あれがどう動くかを見守るしかない。

そのはずだった。

529名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:06:31 ID:OQQmnSoU0
(∪;´ω`)「お?!」

その瞬間、新たな視線の持ち主がブーンを取り囲むようにして現れた。
音もなく、静かに。
風に運ばれて鼻に届いた香りと雰囲気に、ブーンは安心感を覚えた。

(∪´ω`)「ししょー?」

それは師匠であるロウガ・ウォルフスキンの香りであり、雰囲気だった。
静かに現れた狼の群れはそのまま静かにブーンの傍に寄り、三匹がブーンの前に立った。
十匹の狼達が立つ位置は、明らかにブーンを守るための配置だ。

 /i/i、
ミ ゚(叉)

直立すれば人間の大人ほどもある全身を覆う灰色の毛はまるで銃身のように鈍く輝き、低い姿勢はいつでも高速で移動し、攻撃を加えられるように計算された構えをとっている。
何故この狼達がブーンを守るのか、彼は知る由もなかった。
だが理由はどうあれ、狼を前にした“あれ”は鼻を一度鳴らしただけで攻撃の意志を示さないまま、森の奥へと歩み去ったのは紛れもない事実だった。
一気に緊張の意図がほぐれたブーンの周りに、狼達が集まってくる。

一定の距離を保ったままそれ以上近付いてこようとはしないが、透き通った黄金色の瞳を向けて興味深そうにブーンを見ている。
これもまたブーンの知らない事だったが、この森において狼はグリズリーと同じ領域に立つ生物だった。
グリズリーが個の強さの化身であれば、狼は集団の強さの化身だ。

(∪´ω`)「お」

群れの長と一目で分かる一際大きな体の狼が、ブーンの前に歩み出た。
四足で立っていてもブーンよりも大きく、後ろ足で立ち上がればいつか見た強化外骨格よりも大きいだろう。

 /i/i、
ミメ゚(叉)

特徴的だったのは、その顔に付いた傷だった。
それが銃傷であることにブーンはすぐに気付いた。
銃を使う生き物は人間だけ。
つまり、この狼は人間に撃たれ、そして生き延びたのだ。

530名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:09:53 ID:OQQmnSoU0
何故助けられたのか、狼が人間の言葉を介して説明することはあり得ない。
それでも、狼は紛れもなくブーンを助けた。

(∪´ω`)「お」

 /i/i、
ミメ゚(叉) ヲフ

(∪´ω`)「おー」

 /i/i、
ミメ゚(叉) ウォ

(∪´ω`)゛「おっ」

会話と呼べる会話ではなかったが、ブーンには動物の言葉が理解できるという特技があった。
それは彼が耳付きとして生きていく中で、どうしても野良犬や野良猫と食糧を分かち合う必要があり、その際に身につけた能力だった。
相手が狼でも、やることは変わらなかった。
何を話しているのか、というよりも、何を言わんとしているのかを理解し合うコミュニケーションだ。

 /i/i、
ミメ゚(叉) ……フ

仔犬がいると思ったら、その仔犬から同族の匂いがしたことから助けた、という言葉にブーンは納得した。
縄張りを荒らしに来たのではない事が分かると、狼はブーンに警告をした。
“あの”生き物は非常に凶暴で強力であるため、出来れば関わらず、存在を察したら逃げた方がいいという事だった。
だが、ブーンは留守を任されているため、そう簡単に逃げるわけにはいかないのだと説明すると、狼は飽きれた風に息を吐いた。

狼が数歩近づき、ブーンの頬を軽く舐め、鋭い牙で優しく肩を甘噛みした。
それはブーンを仲間とみなす行為だった。
群れの長が認めた仲間は即ち、群れの仲間である。
ブーンを取り囲んでいた狼達はブーンにそれぞれの形で情を示し、森の奥へと戻っていった。

(∪´ω`)「おー」

多くを語らずに多くを伝えてくれるその姿は確かに、ロウガの背中を思い起こさせたのであった。

531名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:12:30 ID:OQQmnSoU0
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.. : :‐=ニ二:::::::::, -‐''"   _,,..彡'´ ̄          ` ¨´'' :廴
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August 10th PM00:41
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ブーンが狼と別れた頃、グルーバー島にあるルルグベ教会に一人の訪問者があった。
ピーター・ロドリゲス神父は久しぶりの来訪者が余所者であると同時に、同業者であると一目で分かった。
黒いカソックを着た男は穏やかな笑みを浮かべ、首から提げた十字架を誇らしげに、だがつつましくピーターに見せた。
分厚い扉の外に立つ男の姿を見たピーターは、閉ざしていた扉の閂を外して男を笑顔で招き入れた。

( ''づ)「ようこそ、ルルグベ教会へ」

( ・∀・)「どうも神父様、突然の訪問をご容赦ください」

礼儀正しい男だった。
無碍に扱う理由はない。

( ''づ)「いえ、お気になさらず。
    さぁ、今紅茶を淹れますのでどうぞこちらへ」

扉を閉じ、神父を来客用の小部屋へと案内する。
彼がどこの教会に所属しているのか分からない以上、下手なもてなしは出来ない。
棚から高級な紅茶の缶を取り出し、茶菓子として信者から差し入れでもらったクッキーを出すことにした。

( ''づ)「お待たせいたしました、さ、どうぞ」

( ・∀・)「いやいや、申し訳ない。
     私、マドラス・モララーといいます。
     セントラスの教会で神父をしております」

セントラス。
それは十字教徒であれば誰もが知る聖地だ。
十字教発祥の地であり、聖遺物に触れることの出来る街。
宗教都市セントラスでの聖務は全ての聖職者にとっての憧れだった。

532名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:15:37 ID:OQQmnSoU0
高い紅茶を選んで正解だ。
心象を損ねなければセントラスへの足掛かりとなるかもしれない。

( ''づ)「わざわざセントラスから。
     巡礼の旅ですか?」

巡礼とは、各地に点在する教会を訪ね歩き、かつて世界を再生した聖者たちと同じ歩みを辿る神聖な行為。
限られた人間にのみ、その聖務が与えられ、世界中の教会を繋ぎ続ける事が出来る。
巡礼を終えた聖職者は教皇から祝福を受け、神に愛された存在として認められる。
聖職者であれば、誰もが一度は夢見る行為だ。

( ・∀・)「いえ、完全な私用で来たのです。
     この教会には神父様おひとりですか?」

( ''づ)「シスターたちがいるのですが、ほら、今は島がこんな状態ですので皆宿舎にこもっております。
     紹介が遅れました。
     私、ピーターと言います」

( ・∀・)「よろしく、ピーター神父。
      そして、さようなら」

その言葉と同時に吹いた風が、首筋を撫でた。
首を傾げた記憶はなかったのだが、ピーターの視界がゆっくりと傾き、地面に向かって落ちて行った。
疑問を抱く間もなく視界が黒く染まり、意識がなくなった。
彼は幸運だった。

最期まで首を切り落とされたことに気付くことがなく、邪悪な笑いを浮かべるモララーの顔を見ずに済んだのだから。
幸運なまま絶命した神父の首が転がらないよう、一人の女がそれを乱暴に踏みつけた。

从'ー'从「あら、結構これいいわねぇ」

神父の首を背後から切り落としたワタナベ・ビルケンシュトックは、ナイフの使い心地に満足していた。
くの字に折れ曲がった特徴的なナイフは首を切り落とすのに都合のいい形をしており、骨ごと違和感なく切り落とせた。
切れ味の良さもさることながら、適度な重みが手に馴染む。
これはいいナイフだ。

いいナイフはいい仕事に繋がる。
支給されたナイフだが、このナイフを選んだ人間には見る目がある。

从'ー'从「どうせ殺すんならどうしてお茶なんて淹れさせるのぉ?」

533名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:17:57 ID:OQQmnSoU0
( ・∀・)「相手の好意を拒むのはどうにも気が引けまして」

ワタナベはどうにもこの男が理解できなかった。
首を失った神父の体を前に、モララーは紅茶を啜り、のんきにクッキーに手を伸ばす。
自らの手を汚さずに人の死を願うこの男は、ワタナベの価値観とは大いに異なった。
殺しとは、それ自体を堪能することにこそ醍醐味がある。

人が死ぬ姿を見るだけでいいのなら、病院に務めればいいのだ。
そうすれば労せずに人の死を見続けることが出来る。
だがこの男はそれすらもしない。
誰かが殺すように指示を出して、自分は決して人を殺さない。

実に不愉快な男だった。
生を終わらせる刹那に感じ取ることの出来るあの快楽を何だと思っているのか。
奪う事の快感を理解できない人間とは一生分かり合えない。
いつの日かこの男を殺し、死の味の甘さを教えてやろうとワタナベは笑みの奥で決意した。

从'ー'从「それでぇ? シスターは私が殺していいのかしらぁ?」

掌を見せて、モララーはそれを制した。

( ・∀・)「あ、それは少しだけ待ってもらってもいいですか?
     その前にやらないといけないことがあるので」

从'ー'从「何をするつもりなのぉ?」

( ・∀・)「シスターは処女なので、その前にせめて私が彼女達に男の味を教えてあげようと思いまして」

この男はいつもそうだ。
殺しの前に凌辱などと言う行為を挟もうとしてくる。
性的な快楽よりも殺しで得られる快楽の方が、病みつきになり、決して後戻りできない事を知らないのだ。
自慰しか知らない童貞と同じ、下卑た考えだ。

人の命を冒涜しているとしか思えない。
命を何だと思っているのだ。

从'ー'从「私は別にどうでもいいんだけどぉ、多分、ショボンとかが怒ると思うわよぉ」

( ・∀・)「ははは、黙っていればいいんですよ」

从'ー'从「ふぅん」

534名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:20:56 ID:OQQmnSoU0
( ・∀・)「では、私は少し席を外しま――」

その時、境界の扉が乱暴に開かれた音がした。
音を気にすることなく来客室から出ようとしたモララーが扉を開くと、そこにいたのは老犬を思わせる佇まいのジョルジュ・マグナーニだった。
特徴的な太い眉を吊り上げ、獲物を前にした獣の笑みを浮かべる。
  _
( ゚∀゚)「よぅ、何しに行くんだ?」

( ・∀・)「……いやちょっとお手洗いに」
  _
( ゚∀゚)「女を便所扱いする癖はいい加減に治せ」

( ・∀・)「ははは、お見通しか」

ジョルジュの脇を通り抜けようとしたモララーだったが、それを塞いだのはシュール・ディンケラッカーだった。
視線はワタナベに向けられたまま、その場に止まった体は部屋唯一の出入り口をジョルジュと並んで塞いでいた。
彼女がワタナベに対して敵意を向けているのは明白だが、ワタナベは涼しげな表情で受け流す。

从'ー'从「あらぁ、ご立腹なのぉ?」

lw´‐ _‐ノv「五月蠅い。 私の邪魔をして、何がしたいの」

トラギコを殺そうとしていたシュールを、ワタナベは軽く阻止した。
それに対して腹を立てているのだろう。
だが元はと言えば、ワタナベのトラギコを奪おうとしたシュールに非がある。
彼を殺すのは、ワタナベでしか有り得ないのだ。

子宮を疼かせる彼との殺し合いを楽しむ権利は、ワタナベだけの物。
断じて、この女にそれを譲る気はない。
  _
( ゚∀゚)「……邪魔をした? おいワタナベ、お前、何をした?」

从'ー'从「私の獲物を横取りしようとしたから、それを止めさせただけよぉ」

その言葉を聞き、ジョルジュの手が腰に下がったリボルバーに伸びた。
それに応じ、ワタナベもナイフの柄を軽く握りなおす。
  _
( ゚∀゚)「……お前がどうしてキュートに気に入られているのかは知らねぇが、この島で作戦に参加する以上は味方同士の妨害は止めろ。
    次に邪魔するっていうんなら、今度は俺が相手になるぞ」

535名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:24:07 ID:OQQmnSoU0
彼の提案は面白そうではあるが、ジョルジュはワタナベの好みではないため、今は遠慮しておきたい。
何より、この男と殺し合いをしてもつまらない。
殺し合いをするのであればやはり、トラギコが一番なのだ。
世 界 中 ど こ を 探 し て も 、自 分 と 殺 し 合 い を す る の に 相 応 し い 相 手 は ト ラ ギ コ し か い な い 。

キュート・ウルヴァリンが彼よりも上の人間であるため、そう簡単に手出しは出来ない。
涼しげな表情を浮かべ、ワタナベはすっと目を細める。

从'ー'从「考えておくわぁ」

その言葉を受けたジョルジュは鋭い眼光をワタナベに残し、モララーの襟首を掴んで部屋の中に押し戻した。
肩を竦めて、ワタナベは入れ替わる形で部屋を出て行った。
モララーが動けない今、女達を殺すのはワタナベの仕事だ。
久しぶりの殺しに、胸が高鳴る。

シスター達は教会と隣接する納屋のような建物にいる。
まだ陽の高い今は、せいぜい昼食後の歓談をして恐怖を和らげようとしているに違いない。
そんな健気な彼女達の前に現れ、命の終わる音を聞かせてもらえるかと思うと、自然と興奮した。
命乞いをするのか、それとも神に祈りをささげて奇跡を願うのか。

どのような形でその終わりを見せ、聞かせてくれるのだろうか。
ナイフで切るのもいいが、首を絞めてもいい。
指を切り落としてそれを口に突っ込むのもいいし、十字架を膣に突っ込んで破瓜の血を流させるのもありだ。
恐怖で命を彩る方法を考えるだけで、股座が濡れてくる。

殴殺は最後に取っておこう。
綺麗な顔が崩れないよう、顔ではなく内臓を中心に攻撃し、最後は心臓を殴って止める。
涙と鼻水、涎で汚れた顔はさぞや綺麗なことだろう。
礼拝堂を通り抜け、裏庭を進んで宿舎へと向かう。

二階建ての古めかしい建物の入り口は、質素な木で作られ、施錠はされていなかった。
鐘の音を恐れるのであれば鍵ぐらいはかけておいた方がいいのだが、この島の人間にはそこまでの智恵はないのだろう。
所詮は平和ボケした存在。
ジュスティアに守られることに慣れ、己を守る手段が余所者を排除するだけでは、こうも脆弱な人間に仕上がっても仕方ないだろう。

押し開いた扉の向こうもまた、木造りの空間が広がっていた。
一階にある小さな食堂から話し声が聞こえてきたのを、ワタナベは決して聞き逃さなかった。
神父の首を切り落としたナイフを手で弄び、跫音を消して食堂へと忍び寄る。
半開きになった扉から漏れ聞こえる声の中に男のそれが一種類混じっており、女の声は三種類あった。

536名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:26:01 ID:OQQmnSoU0
最低でも合計四人。
男は頭を縦に切り分け、女たちは寸刻みにして殺そう。
まずは足の腱を切って、自由を奪おう。
足の腱を切れば逃げる事を防ぐだけでなく、いい悲鳴を奏でてくれることをワタナベは知っていた。

从'ー'从「おこんにちはぁ」

扉を押し開き、満面の笑みでワタナベは声をかける。
突然の来訪者にも関わらず、聖職者たちは驚いた様子を見せず、何の疑いもなくワタナベに笑顔を返した。
直後に彼女が背中に隠していた大ぶりのナイフで男の顔を両断するまでは、一切の警戒心も抱かなかったはずだ。
縦に切り分けられた男は、だがしかし、切られたことに気付いていない表情のままその場に崩れ落ちた。

女の絶叫がワタナベの鼓膜を震わせた時、その鋭利な刃は女達の足首をまるで鎌鼬のように優しく撫で、正確にアキレス腱を断っていた。

从'ー'从「ねぇねぇ、どんな風に遊びましょうかぁ?」

ナイフを振って血を払い落とし、ぎらつくその表面を女たちに向ける。
女の一人が、ようやく何が起きたのかを理解したような表情でワタナベを見て、無造作に両手を胸の前で組んだ。
その行為が命乞いではないことにワタナベは気付き、激怒した。
この女は駄目だ。

この期に及んで神を信じ、それに縋ろうとしている。
神が助けることはない。
人がどれだけ祈りを捧げ、願おうとも、決して叶わない。
そんなものはこの世界にいないのだ。

神の不在を受け入れれば楽になるというのに、下手に抗おうとするから苦しむことになる。
死を前に本能のままに恐怖し、無力のまま死ねばいい。
命が消えるその直前までワタナベを楽しませれば尚良い。

从'-'从「……ちっ」

ワタナベの持つナイフが女の両手首から先を切断し、返す手で喉元を切り裂いた。
これで祈りを捧げることも十字を切ることも出来ない。
喉の出血を押さえることも出来ず、自らの血溜まりで女は顔を赤く汚していく。

537名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:29:05 ID:OQQmnSoU0
从'-'从「祈る暇があるなら悲鳴ぐらい聞かせなさいよぉ!」

残った二人は恐怖で声も出せなくなり、その場にへたり込んで失禁した。
あぁ、それでいい。
命が手の中で失われていく様を堪能し、それを奪っていく優越感に浸る。
これが殺しの醍醐味だ。

「え……ぐ……がっ……」

喉を切り裂かれた女は動かなくなり、細かく痙攣をして動かなくなった。
折角の御馳走が半分になってしまったが、まだ楽しめる。
舌なめずりをして、残りの女を切り刻み始めようとした、その時だった。
二人の女の頭が一発の銃声と共に爆ぜた。

否、ワタナベには一発にしか聞こえなかったが、実際に放たれた銃弾は二発。
音がほぼ一つに聞こえる程の速度での連射は、あの男の特技だ。
振り返ることなく、ワタナベはその男の名を呼んだ。

从'ー'从「あらぁ、ジョルジュ。
     無抵抗の人間は撃たない主義じゃないのぉ?」
  _
( ゚∀゚)「お前に殺されるぐらいなら俺が殺す。
    命を弄ぶな」

鋭く睨みつける彼の懐に下がる皮製のホルスターには、黒いリボルバーが収まっている。
S&W M29。
44口径の大型拳銃だ。
決して装弾不良を起こさないという利点だけを残し、連射性や取り回しやすさについてはオートマチックに劣るリボルバーだが、それを取り扱う彼の腕は確かだ。

今の時代にリボルバーをここまで使いこなせるのは、ジョルジュぐらいだろう。
実際、ワタナベがこれまでに殺し合いをしてきた人間の中でリボルバーを使っていた者はいたが、結局は酔狂や趣味を理由に使っていたに過ぎない。
皆、ワタナベとの殺し合いの中でその利点を生かすことなく死んでいった。
いまどきのカウボーイでも、オートマチックを使う。

だが、ジョルジュは別格だった。
戯れに切りかかろうと試みようとも、撃鉄の起きたリボルバーが魔法のようにその手に出現していた。
今こうしてナイフを持つワタナベと得物を持たないジョルジュはほぼ互角の立場、いや、場合によってはワタナベよりも優位な位置に立っているかもしれない。
それほどに、ジョルジュの早撃ちは圧倒的な力があった。

538名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:31:33 ID:OQQmnSoU0
  _
( ゚∀゚)「殺しを楽しむ屑が。
    なんなら、今ここで殺してやっても俺は構わねぇんだ」

从'ー'从「悪いけど、あんたと殺し合う趣味はないのぉ」

だが興味はある。
苦労してこの男を殺すことが出来れば、それはそれで面白いだろう。
賢明に生きてきた人間の死に際もいいが、キャリアの長い人間の死に際も好きだ。
健気なその一途さの終点が、無常の死だとは何とも泣けてくる話だ。

好奇心は高まる一方だが、この状況でそれを試すにはあまりにもリスクが高すぎる。
仮にここでワタナベが奇襲を仕掛けても、彼は難なく対応してしまう事だろう。
それでは駄目だ。
トラギコと殺し合うまでは、死ぬわけにはいかない。

――今はまだ、ジョルジュは殺さずにおこう。
  _
( ゚∀゚)「趣味の問題で言えば、汚い殺人狂と話し合う趣味も俺にはねぇ。
    ほら、やることが終わったら向こうに行くぞ」

ジョルジュも己の力量を正しく理解しているからこそ、ナイフを持つワタナベとこの距離にいながらも落ち着いていられるのだ。
確かに、いくら接近しようとも、こちらが攻撃を加える前に銃を抜いて撃てば距離と得物の関係は意味を持たない。
今は、我慢の時。
安酒を飲んで酔うのはいつでもできるが、何も熟成された酒の前に飲む必要はない。

全てはトラギコとの殺し合いまでの前戯。
本番までの暇潰しであり、それまでの演出でしかない。
ティンバーランドの目的ですら、ワタナベにとっては取るに足らない存在だった。
大局で考えればジョルジュとの確執など取るに足らない些事だ。

从'ー'从「ふぅん。 お優しい事ねぇ、警察のおじさん」
  _
( ゚∀゚)「……黙れよ、色狂い」

トラギコの上司だった男でも、ショボン・パドローネとジョルジュではその性質がまるで異なる。
どちらもかつては法の番人であり、正義の執行者だった。
ショボンはその正義を完全に見失い、ジョルジュはそれを捨てきれないでいる。
両者ともにジュスティア警察を抜け、彼らが対峙していた“悪”になってしまった。

539名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:34:53 ID:OQQmnSoU0
皮肉な物だ。
彼らの後輩は正義で在り続けようとしているというのに、正義で在り続けられなかった彼らは一つの夢のためにその手を汚し続けている。
こうして比較してみればみるほど、トラギコの魅力を思い知らされる。
一途に正義を追い求め続け、人間から虎へと変貌した彼。

変わらぬ姿勢は変わらぬ魅力。
頑なに昔と同じ価値観で仕事を続けるトラギコは、ワタナベにとって魅力的な人間だ。
やはり彼は最高だ。
最高の男だ。

彼と分かり合ったうえで本気で殺し合えば、間違いなくワタナベはこれまでで最高の性的な興奮を迎え、果てる事だろう。
少女のように純粋な心で、ワタナベはその日が来ることを願った。
一日でも早くトラギコがワタナベを理解し、殺し合いを望んでくれる日が来てほしいと祈りに近い形で願う事は、彼女にしては珍しい行動だった。
しかしながら、それもいたしかたないだろう。

偶然にもここは教会と言う、人間が願うにはおあつらえ向きの場所なのだから。

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 イ        /;!/:|-=≦イ、    \ \ \   j」__j}、  \i
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August 10th PM05:55
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もしも願いが叶うならば、奪われた家族を取り戻してほしい。
ヒート・オロラ・レッドウィングは、かつて何度もそう思い、叶わない夢と知って心を痛めていた。
歳の離れた弟を含んだ四人でヴィンスに旅行に行き、そこで爆破事件に巻き込まれた。
それは六年前、ヒートが19歳の時に起こった事件だった。

540名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:36:33 ID:OQQmnSoU0
マフィア同士の抗争による爆破事件によって、ヒートは自分以外の家族を失った。
そして、復讐鬼と化した。
鬼となり、事件に関わった全ての人間を殺した。
揺篭で寝ていた赤子も殺した。

両手は血で染まり、最後に、爆破を指示したマフィアの首領とその家族を惨殺した。
一つの組織を壊滅させ、ヒートの復讐は終わった。
終わった、はずだった。

川 ゚ -゚)「間違いない、ヒートだな」

ヒートがプレゼントしたブレスレットに血を残し、木っ端みじんに吹き飛んだはずの母親、クール・オロラ・レッドウィングが現れるまでは。
アパートの屋上から見下ろすその姿は、六年前に見たものと同じ。
声も、風になびく黒髪も。
疑いの余地もなく、母親だった。

ノハ<、:::|::,》「ど、どうして……」

敵前だというのに、ヒートは動揺を抑えるという事を考えられなかった。
血のように赤い夕焼け空を背に、クールは表情一つ変えずにヒートを見下ろしている。

川 ゚ -゚)「どこから話したものか難しいが、私はこうして生きている。
     これは事実だ」

ノハ<、:::|::,》「一体、どうして……生きて……
      今まで黙って……」

川 ゚ -゚)「あぁ、私がどうして生きているのか、という事を知りたいんだな。
     いいだろう、教えてやる。
     あれは私が仕組んだことだからだ」

昔と同じく、表情一つ変えずに言い放った一言はヒートを恐怖させた。
戦慄さえした。
鐘の音が響く中、はっきりと聞き取った言葉は、撃ち込まれたどの銃弾よりも鋭くヒートの体を貫いた。
否、抉り、腐食させた。

ノハ<、:::|::,》「ど、どうし……て……」

指先から血の気が失せて行く。
全てを否定するたった一言は冷酷無比な殺し屋、レオンをその場にくぎ付けにし、隙を作った。
これが殺し合いの間で行われていれば、ヒートの命はこの瞬間に失われていた事だろう。
だがそうはなっていない。

541名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:39:40 ID:OQQmnSoU0
母なりの慈悲なのか、それとも別の要因なのか、それを推測する余裕すらヒートにはない。
頭上から浴びせられる言葉はヒートの前身に突き刺さる針となり、思考を麻痺させる。

川 ゚ -゚)「全てとは言わんが、半分は私の責任でもある。
     お前の後に私の腹から出てきた糞の塊がいただろう?
     あの瞬間、私は絶望したよ。
     害虫を生み出す人間だった自分を知り、更に、その可能性を持つ男と結婚したことに。

     害虫をこの世から消滅させる最善の方法は母体を消し去る事だ。
     だがその前に、まずは生み出してしまった膿どもを拭きとらねばならん、だろ?
     世界中に散らばる害虫を消す前に、まずは足元の掃除からだ。
     出来るだけ楽に殺すために爆殺しようとしたのだが、詰めが甘かったのだな。

     いや、それとも同じ虫螻の血が混じっているからか?
     まぁどちらでもいい、今度こそ私がこの手で殺してやる。
     それが、母親としてしてやれるせめてもの慈悲だ」

絶句したまま、ヒートは何一つ身動きできなかった。
何を母に言われたのかは分かるが、理解が出来なかった。
あの事件を仕組んだのが母親、などと今言われても理解できる方が稀だ。
復讐を果たしたはずのヒートの行いは全て無駄であり、その黒幕である人間はこうして目の前に生きている。

心を殺し、人を殺し続けてきた歳月。
それら全てを頭上の女が否定し、嗤って、そして――

川[、:::|::,]『さぁ、死ね』

――黒い異形が、頭上から襲い掛かってきた。
思考とは別に、ヒートの体が動いた。
何百、何千と死地を潜り抜けてきた彼女の体細胞は反射的に体を動かした。
砲弾を彷彿とさせる蹴りを避け、反撃の回し蹴りが無意識の内に放たれていた。

542名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:50:54 ID:zxzwj6ZI0
その一撃を腕で防いだクールの強化外骨格はアパートの壁に叩き付けられ、堅牢な壁面に大きな亀裂を生じさせた。

ノハ<、:::|::,》「害虫……どういうことだ……」

川[、:::|::,]『言葉通りの意味だ。
      獣の血を持つ人型の生物など、この世の中にいていいはずがない。
      お前にも私と同じく、害虫を産む可能性のある子宮があり、遺伝子がある。
      悍ましい、実に気色の悪い話だ』

ヒートの弟は、耳付きと呼ばれる人種だった。
獣の耳を持ち、獣の尾を持つ人間故に忌み嫌われる存在。
それを害獣や害虫と呼ぶ人間は多くいる。
ヒートと父親は彼を家族の一員として歓迎し、祝福していたが、クールは違ったということだ。

耳付きが何故生まれるのか、何故生まれたのかについて、今のところ理由は分かっていない。
もしも確実に耳付きと言う人種を滅ぼしたければ、それが産まれた家計を文字通り根絶やしにするしかない。
それが悲しく、悔しく、どうしようもなく腹立たしかった。

ノハ<、:::|::,》「……そん……な」

川[、:::|::,]『安心しろ。
      世界が黄金の大樹になった暁には、私も自ら命を絶つ』

ノハ<、:::|::,》「……」

その一言でヒートの心が体とようやく結びついた。
言葉の真偽は知らない。
そんなものは、もう、どうでもいい。
弟と父を殺し、ヒートの心と体に消えない傷を負わせた張本人がここにいる。

断じて許してはならない仇が、目の前にいるのだ。

川[、:::|::,]『死んでくれ、世界のために』

ノハ<、:::|::,》「ぶっ殺す!」

左手の悪魔めいた鉤爪を大きく広げ、右腕の杭打機を起動させる。
バッテリーはまだ残量がある。
相手の棺桶の正体が分からなくても、こちらは対強化外骨格戦闘に特化した棺桶。
後れを取ることはない。

543名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:52:38 ID:zxzwj6ZI0
ノハ<、:::|::,》「お前は、絶対、殺す!!」

川[、:::|::,]『……』

石畳の地面を踏み砕く勢いで、ヒートは一気に疾駆した。
踵のローラーが加速を促し、黒い棺桶に肉薄する。
恐らく、髪の毛のように後頭部から垂れたケーブルはあの棺桶の特徴とも言えるものだろう。
そしてそれは、武器ではなく補助装置のような役割を果たしているはずだ。

仮に武器であれば、初手で蹴りを放つ必要はなかった。
ならば問題はない。
左手の雷電を浴びせかければ、耐性の無い棺桶は一撃で機能を停止する。
そこを杭で貫き殺せば終わりだ。

ノハ<、:::|::,》『うるぁっ!!』

急接近したヒートは左手を袈裟懸けに振り下ろした。
クールはそれを腕で防ぐ。
これを狙っていた。
左手が相手に触れる、その時を。

川[、:::|::,]『……っ』

青白い電流が放たれ、棺桶の機能を一時的に停止させる。
過電流により、棺桶から黒い煙が立ち上った。

ノハ<、:::|::,》「あぁぁっ!!」

ヒートは獣の叫び声をあげ、杭打機で棺桶の胸を貫いた。
確かな手ごたえ。
装甲を容易く貫通した杭は背中から突き出し、いくつもの機械部品と黒い液体を地面にまき散らした。
膝を突いた棺桶は、だがしかし、その両手でヒートの杭打機を掴んだ。

ノハ<、:::|::,》『なっ!?』

即死のはずだ。
心臓を確かに穿ったのに、どうして動けるのか。
執念が棺桶を動かすはずなどない。
あくまでも運動の補助であり、戦闘の手助けをするだけであって使用者の心を読み取って動く鎧ではない。

なのに、どうして。

川[、:::|::,]「デミ……タス……今……だ」

544名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 20:53:46 ID:zxzwj6ZI0
腕の先からノイズ交じりの声が聞こえてきた時、ヒートは理由に気付き、己の迂闊さを呪った。
この棺桶に、クールは入っていない。
これは――

ノハ<、:::|::,》『遠隔操作っ……!!』

(´・_ゝ・`)「もう遅いんだよ、女」

背後から声。
いつの間にかそこに回り込んでいたデミタス・エドワードグリーンが大ぶりのナイフを手に、ヒートにそう言った。

(´・_ゝ・`)「盗ませてもらうぞ、お前の命と棺桶を」

ノハ<、:::|::,》『やれるもんならやってみろ……男!』

右腕に巨大な重りが付いているだけでなく、レオンの主兵装である杭打機が失われたのは致命的だ。
機動力を生かしてデミタスを翻弄しようにも、この機械人形が邪魔になる。
軽量と小型化に特化したAクラスの棺桶であることが仇となり、ヒートはその場からほぼ動けない状態だった。

(´・_ゝ・`)「じゃあな」

デミタスはゆっくりと歩み寄り、高周波振動ナイフを強化外骨格共通の弱点であるバッテリー部目掛けて投擲した。
背中にあるバッテリーを守る術はない。
バッテリーが破壊されれば、どんな強化外骨格も動くことの無い甲冑と成り果てる。
そうすれば後は、毒ガスで殺すも水に沈めて殺すも、装甲の隙間に銃腔を突っ込んで撃ち殺すことも出来る。

一瞬の間にヒートは最悪のシナリオを想像した。
――鳴り響いた銃声が、最悪のシナリオを打ち切りにした。

ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、珍しい棺桶が揃ってるわね。
       アバターに、インビジブルね。
       私も混ぜてもらっていいかしら?」

何か別の言葉を誰かが発する間もなく、突如現れたデレシアの手の中で黒いデザートイーグルが火を噴いた。
それは黒い棺桶の首を貫き、自重に耐えかねた頭部がその場に落ちた。
二、三発目はヒートの腕を掴む腕の関節部を破壊した。
四発目はデミタスの股座を掠めた。

ジワリ、とそこから透明な液体が溢れ出してデミタスの足元に水溜りを作っていく。

545名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:09:21 ID:zxzwj6ZI0
ζ(゚、゚*ζ「失せなさい、私、今虫の居所が悪いの。
      ほら、ゴキブリみたいに一目散に逃げなさいよ。
      それとも死にたいのなら、今ここで殺してあげるわよ?
      それが望みなら、屠殺してあげるわ」

(;´・_ゝ・`)「くっ……!!」

デミタスが何かをしたようだが、ヒートの目には何も変化がなかった。
恐らく、不可視の技を使ったのだろう。
背を向けて遁走するデミタスをデレシアは見向きもしなかった。

ζ(゚、゚*ζ「……まったく、もう」

溜息を吐きながら、デレシアがヒートの傍に歩み寄ってくる。
何故かヒートはその姿に軽い畏怖を覚えた。

ζ(゚、゚*ζ「一人で突っ走るのは結構。
      一人で仇討をするのも結構。
      でもね、無謀は駄目よ」

子を叱る母のように。
子を躾ける父のように。
妹を窘める兄姉のように。
教え子を諭す教師のように。

デレシアはそう言って、ヒートの腕についていた黒い腕を引き剥がした。

ζ(゚ー゚*ζ「さ、もう大丈夫よ」

ノハ<、:::|::,》『……ごめん』

ζ(゚ー゚*ζ「いいのよ、ヒート」

ヒートはレオンの装着を解除し、改めて謝罪の言葉を口にした。

ノパ⊿゚)「ごめん……」

ζ(゚ー゚*ζ「理由があったんでしょ?」

ノパ⊿゚)「あぁ……」

話すべきか、それとも黙っているべきか。
ヒートは悩んだ。
デレシアを前にすると、あらゆる悩みを告解してしまいたくなってしまう。
恐るべき魅力、恐るべき包容力のなせる業だ。

ノパ⊿゚)「……ちょっと、話をさせてもらえないか?」

ζ(゚ー゚*ζ「勿論いいわよ」

546名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:12:08 ID:zxzwj6ZI0
これもきっと、デレシアの予想の範疇なのだろう。
だがそれでいい。
誰かに今の胸の内を話さなければヒートは狂ってしまう。
己が選び、歩んだ修羅の日々とそれを否定する存在の出現はとてもではないが彼女の心の許容量を超えた。

ζ(゚ー゚*ζ「心はね、目には見えないの。
       目に見えない傷は、見せようとしない限り決して癒せないのだから」

やはり彼女は全てを分かっているのだ。
世界の全てを知っているような彼女であれば、ヒートの心境ぐらい容易く想像できるに違いない。
ならばいっそ、全てを話してしまった方がいい。

ノパ⊿゚)「ありがとう、本当に……」

そして二人は、コーヒーショップに立ち寄って大きめのコーヒーを購入してから、ヒートが宿泊しているホテルに向かった。
ヒートの泊まっているホテルは最低限の設備が整った物で、快適さとは程遠い。
一つしかないベッドの上に並んで座り、二人はコーヒーを飲みながら時間が過ぎるのを待った。
具体的に何から話したらいいのかを考え、ヒートはようやく口を開いた。

ノパ⊿゚)「あたしは――」

それからヒートは語り始めた。
自分の家族について。
耳付きとして生まれた弟について。
弟の面影をブーンに見ていた事。

九年間に及ぶ復讐の日々。
それら一切合切を、デレシアに告白した。
己の過去を一つ残らず吐き出し、己の復讐の全てを否定する出来事を話した。
そして最後に、自分が何者であるかを告げた。

ノパ⊿゚)「……あたしは、薄汚れた殺人鬼だよ」

殺し屋ですらなく、ただ、無意味な殺しをしていただけの人間だったという結論。
復讐に身を焦がした女の成れの果てがこれだ。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、それはどうかしら」

――嗚呼、と思う。
たった一言で良い。
己の好意が無意味でなかったと否定してくれる存在を、自分が未だに欲している事実があまりにも情けない。

ζ(゚ー゚*ζ「その行いは決して無駄ではなかったわ。
       計画は別にしても、実行者は変わらないのだから。
       それに、私にとブーンちゃんにとって貴女が貴女を評価しているのとは全く別の人間よ。
       貴女は――」

547名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:14:23 ID:zxzwj6ZI0
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                 August 10th PM10:22
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トラギコ・マウンテンライトは空腹で目を覚ました。
周囲はすっかり暗くなり、漂う空気もすっかり冷たいものになっている。
どれだけ長い間眠っていたのか、腕時計に目を向ける。
夜光塗料が示す時間は、夜の十時を過ぎていた。

テントの中には人の気配がなく、どうやら、トラギコ一人だけが寝ている様だ。
命があるという事は、ワタナベやその仲間が襲ってきたわけでもなさそうだった。
オレンジ色の明かりがゆらゆらとテントの外で輝いているのを見て、誰かが焚火をしているのだと理解する。
恐らくは、看病をしていたブーンだろう。

バーナーではなく焚火に切り替えたのは、暖を取るためかもしれない。
中々に気の利く子供だ。
ティンカーベルの夜は冷える。

(=゚д゚)「……腹減ったな」

ふと漏らしたその一言の直後、テントの戸が開き、焚火の炎を背にデレシアが姿を見せた。
唐突に現れた彼女の姿に思わず声が出そうになったのを抑え込めたのは、トラギコの胆力の賜物だった。

(;=゚д゚)「お……」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあご飯にしましょうか」

デレシアがこうしているという事は、もう一人の赤毛の女も戻っているかもしれない。
あの女はデレシアと似た匂いがしたが、別の匂いもした。
暗く、湿った世界で生きてきた犯罪者の匂いだった。
恐らくは殺しを長く行ってきた人間だろう。

548名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:16:42 ID:zxzwj6ZI0
特長を覚え、警察本部にある犯罪者のリストと照合すればその正体が分かるかもしれなかった。
しかし、この面倒な事態が収束してから調べても十分に間に合うし、デレシア以上の重要人物ではないはずだ。

ζ(゚ー゚*ζ「もう体は動くでしょ?
      さ、外で食べましょう」

(=゚д゚)「あ、あぁ……」

この女は、トラギコを脅威とみなしていない。
利害の一致が無ければすぐにでも切り捨てられる便利な駒程度に思われているのだろう。
ジュスティア警察の有名人である“虎”など、この女にとっては道端にいる野良猫と同じなのだろう。
決して馬鹿にしているわけではなく、本当にその程度の存在としてしか認識していないのだ。

荒野に生きる肉食獣が小さな羽虫を見下していないのと同じ。
多少の口惜しさと共に体の節々に痛みを感じつつ、トラギコは立ち上がる。
眠っている間に包帯が新しい物になっていたことに、その時になって気が付いた。

(=゚д゚)「ちっ……」

子供とは言え、そこまで気を許してしまったとは。
枕元にコンテナと拳銃が置かれたままになっているのを見て、デレシア達に本当に敵意がないことは分かる。
本当に敵意があればわざわざ車からトラギコを助け出し、手当てをするはずがない。
見方を変えれば、これを使ったところで大して意味がないと言いたいのかもしれない。

両方の武器を手に取って、トラギコはテントを出た。
焚火を前にブーンがクッカーを持って何か作業をし、デレシアはそれを傍で見守っている。
赤毛の女はいなかった。
テントの中にいた時にはそこまで強く感じなかったが、森の中はかなり冷え込んでいる。

温かい酒でも飲みたい気分だ。

(=゚д゚)「よぅ、お前が包帯を代えてくれたのか?」

(∪´ω`)「お、そうですお……」

ブーンの持つクッカーには、分厚いベーコンが乗っていた。
香ばしく焼けたベーコンは三枚。
ブーンはフォークを使ってその焼き色を見ながら、焚火にクッカーをかざす。

(=゚д゚)「ありがとうな」

(∪*´ω`)「お…… どういたしまして」

ζ(゚ー゚*ζ「お酒は飲む?」

(=゚д゚)「いや、止めておくラギ」

長居をしすぎる訳にはいかない。
ここで傷を治療してもらっただけでも大助かりだ。
後はデレシアの魂胆を聞いてから、最初の提案を反故にして独自に動けば――

549名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:18:36 ID:zxzwj6ZI0
ζ(゚ー゚*ζ「状況が少し変わったから、本題はご飯を食べてからにしましょうか」

(=゚д゚)「……あぁ」

デレシアはトラギコの考えを見抜いたのか、決して厳しい口調ではなかったが、有無を言わせぬ強い意志を感じ取らせる声でそう言った。
反射的に頷いたトラギコはブーンの手前もあり、大人しくその言葉に従うことにした。
どうにもデレシアという人間が分からない。
一見すればただの女だが、その瞳の奥を覗き見てしまうと、彼女の言葉に対して反論や異見を言う気が途端に失せてしまう。

少しでも彼女に関する情報が手に入ればと思うが、こうしていても分かるのは彼女の謎ばかり。
数多の犯罪者を前にしても奥さなかったトラギコが、今こうして感じているのは恐怖にも似た感情。
子供が親に対して抱く、絶対的な力を前にした人間の本能が呼び寄せるそれだ。

(=゚д゚)「飯は何だ?」

(∪´ω`)「お、べーこんと、ぱんと、まめのすーぷですお」

相変わらずたどたどしい発音で、ブーンが夜の献立を言った。
火にくべられている鍋からはトマトをベースにしたであろう、甘酸っぱい香りが漂ってきている。
決して凝った料理ではないが、寒い夜には何よりの馳走だ。

(=゚д゚)「ほぅ、そいつはいいな。
    何か手伝ってやろうか?」

(∪´ω`)「だ、だいじょうぶですお」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふふ。 今ブーンちゃんは料理のお勉強中なの。
       ごめんなさいね、刑事さん」

(=゚д゚)「……いや、気にするな」

勉強。
思えば最後にトラギコが自ら進んで勉強をしたのは、警察学校時代だった。
正義の定義や警察官として必要な教養を学び、そして、結局はそれが何の役にも立たない知識の固まりだったと現場で痛感した。
全てを変えたのは、“CAL21号事件”。

それまで信じていた正義の何もかもを捨て、自分自身で正義を見出すきっかけになった事件が、トラギコの中で何度もその姿を現す。
最近その頻度が増えたのは、おそらくは、ショボンがトラギコにその事件の名前を告げたからだろう。
あの事件に関わった人間のほとんどが今では警察の上層部になり、同期だった人間は皆、トラギコとは違って多くの部下を持つ身となった。
ショボンもトラギコがあの事件でどう変わったのかを知る人間で、少なくとも、トラギコの味方だったはずだ。

警察を退職したショボンに対しても、トラギコはそれなりの信用を置いていた。
彼ならば、あのホテルで起きた事件に対してもオアシズの事件に対しても、必ずや真実を追い求めてくれると。
ところが、実際は真逆だった。
ショボンこそが真実そのもので、事件の首謀者にして殺人鬼だった。

たった一機の棺桶を奪取するために、海に浮かぶ街一つを舞台に大掛かりな殺人事件を演じて見せた。
巻き込まれた人間に対して、ショボンが申し訳ないという気持ちを抱くことはないだろう。
ショボンは犯人に対して武力を行使する際、決して後悔しなかった。
そして、微塵も自らの正しさを疑わず、決めたことを必ず実行する頑固さを持っていた。

550名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:20:10 ID:zxzwj6ZI0
おとり捜査で麻薬密売組織に潜入した際、ショボンは対抗組織の人間を拷問にかけ、文字通り寸刻みにして殺したことがある。
いくら捜査のためとはいえ、そこまでするとはと非難を浴びたが、ショボンは全く気にも留めなかった。
その犠牲で多くの人間が救われるのならば、犠牲に意味が生まれ、ショボンの行動が正しいことが証明されるという理屈だった。
そう言った過去があるショボンであれば、かつての部下を騙すことなど何とも思わないだろう。

真意に気付かぬままオアシズで奮闘するトラギコの姿は、さぞや滑稽に映ったに違いない。
それに、より一層ショックだったのはジョルジュだ。
ショボンと同じようにして堕落したことは流石にショックだった。
どうして、愚直なまでに正しいことをし続けてきた人間が意味の分からない組織に所属することになったのか、全く分からない。

トラギコに正義の在り方を教え、戦い方を教えた人間達が敵となるとは考えたくもなかった。

(=゚д゚)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、何か考え事かしら?」

(=゚д゚)「うるせぇラギ。
    手前には関係ねぇ」

デレシアが火にかけていたカップをトラギコに差し出した。
湯気の立ち上るカップからは、蒸気だけでなく、香ばしい香りが漂ってきている。
茶の類だろうか。

(=゚д゚)「何だ、こりゃ」

ζ(゚ー゚*ζ「ほうじ茶よ」

聞いたことの無い茶の名前だった。
何かを炒ったような甘さと香ばしさを兼ねた香りは、茶と言うよりも薬の匂いに近い。
茶色の液体を啜ると、トラギコは一口でその味が気に入った。
芳醇だが後味はすっきりとしていて、コーヒーや紅茶とは違った味わいがある。

(=゚д゚)「……いいな、これ」

すっかりデレシアのペースに乗せられていることに気付いていたが、それでもほうじ茶はトラギコの好みだった。
いつか店で見かけた時には常備用に買いだめをしておこうと密かに決めつつも、己のペースを失わないように気を付ける。

ζ(゚ー゚*ζ「カフェインが少ないから、病人には丁度いいのよ」

無言でその言葉を聞き流し、トラギコは折り畳み式の椅子に腰かけてブーンの調理が終わるのを待つことにした。
ゆらゆらと揺れる炎を眺め、トラギコはエラルテ記念病院で死んだカール・クリンプトンの事を思い出した。
彼のためにこの事件を解決する。
そのためならば、最初に考えた通り余計な矜持の全てを投げ出してもいい。

矜持が事件解決に一ミリも役立たない事はよく理解している。
デレシアの魂胆については、今は目を瞑ろう。
どうあれ、まずは事件解決を最優先とし、デレシア一行についてはその後考えればいい。
それにこちらがどれだけ考えたところで、この女にそれが通じるとは考えにくい。

551名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:22:00 ID:zxzwj6ZI0
裏をかくならばもっと念入りに準備をしてからでなければ対抗は出来ない。
一眠りして冷静になった思考が導き出した結論に、変更はない。
気持ちが固まった時、調理をしていたブーンが振り返って言った。

(∪´ω`)「できましたおー」

鍋からスープを皿に取り分け、軽く炙ったパンとベーコンが別の皿に乗せてトラギコに手渡された。
狐色の焦げ目の付いたベーコンの香りが食欲をそそる。
よく見ればベーコンは厚みがあり、食べ応えがありそうだった。

(=゚д゚)「どれ、じゃあ早速」

フォークをベーコンに突き刺し、一口で食べる。
塩味が食欲を喚起させ、パンを口に運び、その相性の良さに舌鼓を打つ。
続けてスープを食器から直接飲むと、濃厚なトマトのスープの中にある酸味と甘みの虜になった。
小さな豆が絶妙な食感となり、蕩けたトマトの残骸と合わさって官能的な旨みを演出した。

(=゚д゚)「……うめぇ」

(∪*´ω`)「お……!」

食事の感想を述べ、それ以降、トラギコは無言でスープとパンを胃袋に収めた。
皿をパンで拭い取り、そうして、デレシアを見た。
トラギコの視線と意図に気づいたデレシアは、だがしかし、食事をするブーンを慈母のような眼差しで見つめていた。

(=゚д゚)「よし、話を――」

ζ(゚ー゚*ζ「今は食事中よ、刑事さん。
      ゆっくりしましょ」

(=゚д゚)「……」

手綱を握っているのはデレシアだ。
トラギコはほうじ茶を飲みながら、その時が来るのを黙って待つことにした。
食事を終えたのは、それから二十分後の事だった。

ζ(゚ー゚*ζ「さ、お話をしましょうか」

(=゚д゚)「あぁ、さっき状況が変わったとか言ってたが、何があったラギ?」

ζ(゚ー゚*ζ「アサピー・ポストマンがオアシズに保護されたわ」

(=゚д゚)「何でオアシズが?
    っていうか、あいつ何やってるラギ……」

ζ(゚ー゚*ζ「ショボン・パドローネに狙われて、散々な目に合ったみたいね。
       で、彼も狙撃手の場所がグレート・ベルだってことに気付いたみたい。
       またこの島に戻ってきて、刑事さんと協力して事件を解決したいって言ってるわ。
       というか、もうこの島に来て刑事さんを探しているんだけどね」

552名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:24:17 ID:zxzwj6ZI0
デレシアがオアシズに逃げ込んだアサピーの情報と彼の目的を知っていることに、トラギコは少しも混乱しなかった。
彼女はオアシズの市長、リッチー・マニーと友好関係にあり、そこから情報が流れ出たのだろう。
この女の人脈はどこにでもあると思っておけば、もう、驚くことはない。
例えアサピーの行動を彼女が掌握していたとしても、だ。

ζ(゚ー゚*ζ「刑事さんはどう思う?」

(=゚д゚)「解決の方法によるラギね。
    どうせあの馬鹿、真正面からやろうとしてるんじゃねぇのか」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、その根拠は?」

(=゚д゚)「俺がそうするように仕向けたからラギ。
    だが、止めさせた方がよさそうラギね」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうしてもらえると助かるわ。
       それと、刑事さんには悪いんだけど、この事件にはまだ手を出さないでもらいたいの」

少しの沈黙を挟んで、トラギコはほうじ茶を口に含んだ。
無言でデレシアに理由の説明を求める。

ζ(゚ー゚*ζ「あの組織は一筋縄でいかないのよ。
       それに臆病者だから、あまり驚かせるとすぐに沈んじゃうのよ。
       そうしたらまた尻尾を掴むのは難しいし、下手したら、刑事さんの口が何かを話す前に開かなくなるわ」

(=゚д゚)「……手前の警告はありがたいが、そろそろ話してもいいんじゃねぇのか?
    なんなんだ、その組織ってのは」

思わせぶりな笑みを浮かべ、デレシアが続ける。

ζ(゚ー゚*ζ「名前を知っていれば何かが変わるわけでもなし、だから、まぁ精々どんな規模かぐらいかは教えてあげるわ。
      ジュスティアやイルトリアでそれなりの地位にいた人間が関わってるし、持っている棺桶の種類はジュスティア並でしょうね。
      悪いけど、警察じゃどうしようもないわよ。
      そんな規模を相手にしても、今は対応できないわよね」

(=゚д゚)「曖昧な話ラギね」

ζ(゚ー゚*ζ「知りすぎているよりも、知らない方が貪欲に探れるでしょ?」

(=゚д゚)「違いねぇ。
    で、俺は結局のところ、どう動けばいいラギ?」

ζ(゚ー゚*ζ「私が動きやすくなるよう、戦局をかき回してほしいの。
      特に、狙撃手をどうにかしてもらえると助かるわ」

要は陽動要員として、狙撃手の注意を惹きつける羊を演じろという事。
狙撃手としてグレート・ベルに居座っているのは、ジュスティア軍最高の狙撃手、カラマロフ・ロングディスタンスだ。
彼の腕については多くの逸話が残され、軍ではプロパガンダにも使われている。
皮肉にもその狙撃の腕はトラギコが実際に撃たれたことで証明されている。

553名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:26:20 ID:zxzwj6ZI0
(=゚д゚)「まぁいいだろう。
    そこまで言うからには、勝算があるんだろうな?」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、勝算を気にして生きても人生はつまらなくなるわよ」

くつくつとデレシアが笑う。
こうして笑う姿を見ると、年若い少女の様だが、その中身は碩学。
武力と知力を兼ね備えた万物の支配者とでも言おうか。

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫よ、もしも刑事さんがちゃんと意地を見せてくれたら、貴方の願いを聞いてあげるわ」

(=゚д゚)「手前、俺を馬鹿にしてるラギか。
    俺の願いなんて――」

ζ(゚ー゚*ζ「カール・クリンプトン、彼のためにもこの事件を解決したいんでしょう?」

読まれている。
誤魔化しは通用しない相手だが、トラギコは一つ反論してみることにした。
その反論に対してデレシアが応じてくれれば、何故彼女が手を貸してくれるのかが分かる。

(=゚д゚)「手前を連中が狙ってるって言ってたよな、だったら、別に俺は関係ねぇラギ」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、私は別にいいのよ?
      、 、 、 、
      あの程度の雑魚を撒いて、やりたいことをやるなんて訳ないわ」

(=゚д゚)「あの程度、だと?」

ワタナベも脅威だが、それ以外の人間も全員が脅威そのものだ。
シュールの操る棺桶――レ・ミゼラブル――は敵意を抱いた者を戦闘不能にし、餃子屋だった男は火炎放射兵装の棺桶を持っている。
ショボンはダイ・ハードを所有し、ジョルジュはダーティ・ハリーで武装している。
彼らの棺桶は皆、名持ちの棺桶だ。

名持ちの棺桶は厄介極まり、トラギコのブリッツでは対抗するのは難しい。
ブリッツは緊急時の近接戦闘に特化しているのであって、中長距離には対応できない。
量産機の棺桶を何十体並べたところで、相手にすらならない。
対強化外骨格の装備があっても、果たして、それが効くかどうか。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、あの程度よ。
       私にとっては何てことの無い小石。
       ただね、ブーンちゃんのお勉強にちょうどいい機会だと思ってね」

トラギコは、文字通り固まった。
この女。
デレシアは、今、何と言ったのか。
勉強の丁度いい機会、と言ったのか。

(=゚д゚)「……は?」

554名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:29:41 ID:zxzwj6ZI0
ζ(゚ー゚*ζ「この子はまだまだ世界を知らないといけないし、生き方も知らないといけないのよ。
       そういった点で言えば、今回の件はいい機会でしょ?」

(=゚д゚)「俺には手前の価値観が分からねぇラギ……」

だが、例えこの女がどのような価値観を持ち合わせていても、その力を借りられるのならば矜持は捨てると決めていた。
トラギコは諦めるようにして、深く息を吐いた。

(=゚д゚)「だけど、意地の見せ所だけは、教えてやるラギ」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう、刑事さん。
       ブーンちゃん、それじゃあそろそろ寝ましょうか」

(∪´ω`)゛「おー」

大人しく話を聞いていたブーンは眠そうな声で返事をして、テントに戻っていく。

(=゚д゚)「おい、ブーン」

(∪´ω`)「お?」

(=゚д゚)「飯、美味かったラギよ」

(∪*´ω`)「……よかったですおー」

嬉しそうにそう言って、ブーンはテントの中に入っていった。
暫くの間、トラギコとデレシアは言葉を発さなかった。
薪が爆ぜる音が静かに森に吸い込まれていく。
火の粉が夜空に舞い上がり、冷たい風がそれを攫って行った。

ζ(゚ー゚*ζ「……それじゃあ、明日の話をしましょう」

(=゚д゚)「あぁ、頼むラギ」

デレシアはほうじ茶をトラギコのカップに注いで、それから、ゆっくりと話を始めた。
計画に必要な物、人間。
今後トラギコ達がとるべき行動と、ショボン達がとるであろう行動。
細かなタイミングに至るまで話を聞いたトラギコは、素直に感心していた。

この女の素性は分からないが、味方になればこの上なく頼もしい存在となるのは間違いない。
そうして話が続き、時間が流れていく。
アクセントから出身地を探ろうと試みるも、彼女のアクセントは非常に綺麗な物でどこにも癖はなかった。
滑らかに積み出される言葉はまるで歌の様にも聞こえた。

話が終わり、腕時計を見ると夜の十一時を過ぎていた。

(=゚д゚)「アサピーの馬鹿たれが俺を探してるって言ってたな。
    あの馬鹿を迎えに行ってくるラギ」

555名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:32:10 ID:zxzwj6ZI0
立ち上がり、アタッシュケース型のコンテナを持ち上げる。
気持ちは決まった。
行動も決まった。
後はトラギコが駒として動き、デレシアに手を貸すしかない。

そのためにはあと二人、巻き込まなければならない。
アサピーは簡単だが、もう一人。
石頭のライダル・ヅーを説得して味方に引き込む必要がある。

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。多分だけど、この森に向かっていると思うわよ。
      貴方がここに落ちたの知ってるはずだから」

(=゚д゚)「ありがとよ。 じゃあな」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、じゃあまた明日」

トラギコは焚火を背に、その場から逃げるようにして早足で歩き去った。
広大な森の中は暗く、足元も良く見えない。
星空と月明りだけがトラギコを照らしている。
今頃、この森のどこかでトラギコを探している新聞記者を探さなければならない。

彼に少しでも考える脳味噌があれば、大声でトラギコを探すような真似はしないはずだ。
夜の森を歩き、まずは舗装路を目指すことにした。
そこを歩いていれば街まで戻ることが出来るし、運が良ければアサピーと会うことも出来るだろう。
出来る限り早めに合流したいが、現実的には時間がかかるのは必至。

慌てることなく確実にアサピーを見つけるため、トラギコは深く溜息を一つ吐いた。
落ち着きを失ってはならない。
全ては明日。
時間が来るまでの間にどこまで積み上げ、どこまで備えられるかが肝心だ。

勿論、トラギコにとってこの事件がどう終わるのかが最大の関心事だが、もう一つの関心事があった。
それはデレシアの正体よりも気になることで、どうにも頭から離れない。
果たして。
数多の障害を乗り越えた末に、果たして、あの耳付きの少年。

――ブーンは、どのような人間になるのだろうか。

556名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:33:23 ID:zxzwj6ZI0
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         /三三三三三二ニ=- /三二ニ=}ニ=- /
        /三三三三三二ニ=- /-= イ / ̄}ニ= /{
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          //|/  ` ニi                 ∨
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                            Ammo→Re!!のようです Ammo for Reknit!!編
                                       第三章【trigger-銃爪-】 了

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557名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 21:35:43 ID:zxzwj6ZI0
これにて第三章は終了です。

質問、指摘、感想などあれば幸いです。

558名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 22:05:54 ID:VEbAexVw0
( ゚ω^ )ゝ 乙であります!
場面は表側のTinker!!編の7章当たりの話で、今回はその裏側のお話。
ヒートに関して掘り下げられたのと、相変わらず謎の塊のデレシアの底の知れなさが面白かったです。
ジョルジュカッコイイわ……

559名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 22:35:09 ID:EjxxLP0Q0
投下乙です
ところで大分前に出てきた棺桶「プレイグロード」ってファイレクシアの疫病王/Phyrexian Plaguelordが元ネタです?

560名も無きAAのようです:2017/01/01(日) 23:21:59 ID:zxzwj6ZI0
>>559
この病気の最終段階:うわごと、ひきつけ、そして死。
まさにその通りです!
あの頃のMTGは輝いておりました……

561名も無きAAのようです:2017/01/05(木) 10:07:09 ID:3.1wtOog0
                                      _,,,、、、、、 ,,_
            ,、 -‐‐‐- 、 ,_                 ,、-''´      `丶、,,__ _,, 、、、、、,
         ___r'´        `'‐、.            /             `':::´'´     `ヽ、
      ,、‐'´  _,,、、、、、、_     ヽ`‐、         _/               ': :'          ヽ.
     /        `'' ‐-`、-、  ヽ、 ヾヽ、、_   ,、-',.'                , 、          ヽ
    /     -‐-、、,,_‐-、 、 \ヾ‐-、ヽ、、、;;;,、 '´ ., '                '´、,ヽ          丶
.   /      -‐‐‐==、丶、ヽ. ヽヽ、ヽミ/   ./                 :.木 :            ',
   i'     ‐-、、,,_==/=ゝ ヽ\ \_i レ' ,,,、,,__./                 ,, '.` '´;            ',
.  i    ヽヽ、、,,,___,,,/-‐〃´\ヽ`、 ゝ´ ´´´. ,'                  /  Y´ヽ            ;
  ,,{   ヽ  \、丶_;;,/_//;;;;;;;;;;;;'ヽヽr'::     ,'                 , '   }   !            .i
〆'    iヾ   ヾミ 、_'´' ヾ'‐ 、;;;ソ´'、{::::::    ,'                r'.   ,'  l            .!
./ / , i `、ヽ、 ''‐- =`;;,,、‐      ヽ}、:::::::::......,'                ,'     /  .,'            .,'
{ {  { .{ヽ `、ヽ.`''''''''""´  、  ,‐-、 iゝ:::::::::::,'                ノ    ノ  、'         

http://gekiyasu-h.com/sp/main.html

562名も無きAAのようです:2017/01/06(金) 03:53:55 ID:jgs/eyuI0
乙です。
狼達がブーンを助け助けたシーンでふと前作の歯車の都を思い出して涙が…。
デレシアの素性の知れなさが際立ってきて色々妄想が捗ります。次回はついに戦闘パートかと思うととても楽しみ…。今回もとても面白かったです!

563名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 17:15:02 ID:gHb2Rkgo0
今晩VIPでお会いしましょう

564名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:17:13 ID:gHb2Rkgo0
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目的のために悪を利用することなかれ。
常に純然たる純潔を忘れず純粋に真実を追及すべし。
新雪の如く、穢れなき存在であれ。
それこそが矜持となり、力となり、正義となる。

理性を失った獣となることなかれ。

                                ――ジュスティア警察 警察手帳より

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                                    目的のためには手段を選ぶな。
                               例えそれが悪行だろうと、偽善だろうと。
                                正義などと言う大義名分は捨て置け。
                           平穏を護る者に、そのような物は不要なのだ。

                                       獣となることを誇りに思え。

イルトリア治安維持軍 軍規より――

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朝日が水平線の彼方から昇る前に、獣の耳と尾を持つ少年の意識は夢から現実へと戻っていった。
テントで一夜を明かした少年の名前はブーンといい、彼は今、寝袋の中で豪奢な金髪を持つ女性の腕に抱かれた状態で目を覚ました。
朝森の漂う森の涼しげな香りに交じって女性特有の甘い香りが鼻孔をくすぐり、ブーンの胸は気恥かしさよりも安堵感でいっぱいになった。
心から安心出来る目覚めに、ブーンの心は溶けるように安堵した。

ζ(゚ー゚*ζ「おはよう、ブーンちゃん」

名を呼んで頭を撫でてくれたのは、美しい碧眼と波打つブロンドの持ち主であるデレシアだ。
彼女の声は雪解け水のように澄み切り、淀みも歪みも濁りもない、楽器の奏でる音色の様だった。
人間離れした聴力を持つブーンは、その声が大好きだった。
いつまでも聞いていられる、心地のいい音であり、何よりも心安らぐ声だ。

彼女が口にする言葉を真似して、一日も早くその発音を自らのものにしたかった。
文章を作ることは出来るようになってきたが、早口で単語を並べる事や難しい語を滑らかに発音するのはまだ不得手な状態だ。
今はたどたどしい発音でしか言葉を紡げず、褒められる発言が出来るのは人の名前と地名、そして“餃子”という単語だけ。
そして、口癖は一向に治りそうになかった。

(∪*´ω`)「おはようございますおー」

ζ(゚ー゚*ζ「早起きさんね」

565名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:18:17 ID:gHb2Rkgo0
どうして早く目が覚めたのか、ブーンはその理由が分かっていた。
不安と心配、そして期待と緊張によるものだ。
デレシアの考えている計画に自分が組み込まれ、その役をしっかりと果たせるのかという危惧は一向に薄れない。
現状を考えると、誰もブーンを責められないだろう。

彼が例え、数多の死地を潜り抜けた歴戦の猛者であったとしても、不安を完全に拭い切る事は難しい。
ティンカーベルと言う海に囲まれた島の中に潜む強力無比な敵に狙われ、その正体や規模が不明ともなれば、よほどの豪胆者でも不安を抱かずにはいられない。
相手にする組織の規模などを正確に知るデレシアだけは、おそらくこの島で唯一不安を抱かずに敵対できる存在に違いないだろう。
彼女は状況を分析した後、彼女を追っていた人間を一時的にとは言え味方に引き入れ、共闘体制を形成した。

幼くともいくつもの修羅場を見てきたブーンは、やはり、デレシアがいれば何事もどうにかなってしまうのだろうと理解しつつあった。
楽観的に見るのではなく、大局的に見ての判断だ。
格が違う、と言う言葉の意味をブーンはデレシアを通じて学ぶことが出来た。
金持ちでも、徒党を組む暴力者でも、巨大な組織の人間でさえも、デレシアには敵わなかった。

その理由をブーンは、何手先を見据えているかの差だと考えている。
だからこそ先んじて行動することも、後になって最適な対応を取る事も出来るのだ。
相手の行動が分かっていれば、恐れることはない。
必要なのは備える事なのだ。

(∪´ω`)「あの、きょう……」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫よ。 さ、まずは朝ごはんをしっかりと食べましょう。
       朝ご飯はその日の元気の源なんだから」

(∪*´ω`)゛「はい!」

肌寒い朝の中、二人は寝袋から静かに起き上がる。
伸びをして体をほぐし、ひんやりとした空気の漂うテントの外に出て行く。
森はまだ暗く、陽の光は届いていない。
夜の気配がまだ残留した空気は新鮮そのものであり、ブーンの肺はすぐに冷えた空気と入れ替えられた。

夏の匂い。
生物の活気が色濃く滲み出たこの匂いが、ブーンは好きだった。

ζ(゚ー゚*ζ「今日の朝御飯は何かリクエストはあるかしら?」

(∪´ω`)「おー」

正直、ブーンは食事の種類というものをあまり知らない。
主食となる物が米かパンなのか、添えられるのが肉か、魚か、それとも野菜か。
特定の料理が好きという事はないが、好んで食べたいものはある。

(∪´ω`)「デレシアさんのごはんなら、なんでもたべたいですお」

そう。
デレシアの作ってくれる料理であれば、何でもいい。
勿論、ヒートの料理もそうだし、ロウガ・ウォルフスキンの料理もそうだ。
彼女たちの料理は全てが美味しく、全てがブーンの好みだった。

566名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:20:19 ID:gHb2Rkgo0
飲食店で提供される料理よりも、何よりも、ブーンは彼女達が作ってくれる料理が好きだ。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。
      そしたら、そうねぇ……
      今日は忙しいから、私の好きなメニューにするわね」

(∪*´ω`)「やたー」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、料理をするからブーンちゃんは顔を洗ってきなさいな」

(∪´ω`)「はいですおー」

ブーンはタオルを持って顔を洗いに河原に行き、冷たい水で顔を丁寧に洗う。
その冷たさはまるで氷の様だ。
氷のように冷たく、澄んだ川の水は平熱の高いブーンにとってはありがたいものだった。
テントに戻ると、デレシアが朝食の準備をしていた。

クッカーの上で焼かれているのは、ベーコンと卵。
甘い香りの油がベーコンから染み出して、得も言われえぬ香ばしさを漂わせる。
オレンジに近い濃厚な色の黄身を中心に、白身が放射状に広がってベーコンの半分を覆っている。

(∪´ω`)「おー、おひさまやきですか?」

サニーサイドアップ、という単語を口にしたブーンの頭をデレシアの手がそっと撫でた。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇそうよ。 じゃあ、ここで問題。
       どうしてお日様焼き、って言うか分かるかしら?」

(∪´ω`)「おー? おひさまで、やいたんですか?」

その答えに、デレシアが笑みを浮かべる。

ζ(゚ー゚*ζ「昔そういう兵器を考えた人がいたけど、太陽光で卵を焼くのは結構大変だったの。
      ほら、こうして上から見ると太陽みたいでしょ?」

確かにそう言われてみれば、黄身が太陽、白身が陽光に見えなくもない。
となれば、ベーコンはさしずめ雲と言ったところだろうか。
また一つ知識を獲得したブーンはデレシアの顔を見て頷いた。

(∪´ω`)゛「おー」

ζ(゚ー゚*ζ「今日の朝御飯は、昔のイルトリアのメニューよ」

(∪´ω`)「むかしの?」

イルトリアと言えば、ロウガやロマネスク・O・スモークジャンパー、ギコ・カスケードレンジ、ミセリ・エクスプローラー、そしてペニサス・ノースフェイスの故郷だ。
どのような街か、ブーンは全く知識がない。
知っているとしたら、これまでに会ってきた人間の全員が桁違いの力を持っているという事ぐらい。
そして、ブーンに大切なことを教えてくれた人間という事だ。

567名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:24:16 ID:gHb2Rkgo0
いつかはイルトリアに行ってみたいと思っているが、それが叶うのはきっとずっと未来の話だろう。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、本当に昔の話。
       今でこそご飯が美味しいって言われているんだけど、昔はとても個性的な料理ばかりでね。
       その個性的な料理の中でも、この朝食だけはどこの人にも美味しいって言われていたの。
       フル・ブレックファスト、って言うのよ。

       ただ、ちょっと食材が足りていないから本物はまた今度ご馳走してあげるわね」

(∪*´ω`)「やたー」

ζ(^ー^*ζ「うふふ、その時は皆で一緒に食べましょうね」

そっと差し出されたマグカップを受け取り、その匂いにブーンの持つ犬の尾が反応した。
まるで花の蜜のような香りがする、琥珀色の液体。
一見すると紅茶だが、これまでにブーンが飲んできたどの紅茶とも違う。
そして一口飲むと、ブーンはその豊かな香りに全身が総毛立った。

鼻から突き抜ける香り高さは、まるで目の前に花束があるかのよう。

ζ(゚ー゚*ζ「気付いた?
      それはね、ロータスポンドっていう種類の紅茶なの。
      紅茶には沢山の種類があるから、それもまた一緒にお勉強していきましょうね」

(∪*´ω`)「お!」

手際よく調理を進めていくデレシアは、スライスしたトマトをソテーして、それをサニーサイドエッグの横に添える。
軽くソテーされたトマトからは得も言われえぬ香りが漂い、その酸味と甘みの混合した香りがブーンの食欲をそそった。
心配していたことは全て些事としか思えなくなり、早くも朝食が楽しみで仕方がない。
ローブの下で揺れる尻尾を見て、デレシアがそっと微笑む。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、私も顔を洗ってくるからブーンちゃんはパンを焼おいてちょうだい」

(∪´ω`)「わかりましたー」

自分にも何かができることがブーンは嬉しかった。
料理ができるようになっただけでも、かなりの進歩が実感できている。
進歩の実感は彼にとって、自分が無力な存在でないことの証明と同じ意味を持っていた。
デレシアに任されることが増えるたびに、ブーンは喜びを覚えた。

彼女と出会ってから、ブーンは多くの“初めて”を学んだ。
初めての事は、良くも悪くもいつでもブーンを興奮させた。
知識が増えることもあれば、命の危機に瀕することもあった。
確かに言えることは、デレシアと一緒にいればブーンの世界は際限なく広がるという事だ。

道具として扱われていた日々の中では想像も、ましてや理解することも出来なかっただろう。
他人を大切だと思える事。
何かを教わる事の楽しさ。
誰かの為に自分の意志で戦いを挑む事。

568名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:25:52 ID:gHb2Rkgo0
そして、誰かに想われる喜びを。

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ヒート・オロラ・レッドウィングは夏の朝市が開かれるよりも早く目を覚まし、湯気の立つコーヒーを飲みながら準備を進めていた。
泥のような色をしたコーヒーの味は、やはり泥に似た味がした。
砂糖をいくら足してもその苦みだけは消える様子がなかったため、角砂糖を八つ入れたところでヒートは諦めた。
彼女の準備はいたって単純だったが、単純故に決して気を抜くことはない。

武器を整え、体を整える。
それこそが彼女の準備だ。
戦いに挑み、殺しを遂行する準備。
頼りになる道具は己の体と心、そして武器だ。

調整の済んだ体は何よりも使い勝手のいい武器となる事を、ヒートは良く知っていた。
彼女の四肢だけでなく、その指の一本に至るまで精巧な武器と化している。
拳は鎚となり、抜き手は刃となる。
準備が整えば、彼女は得物なしでも武器を持つこととなる。

何年間も続けてきたこの準備は、習慣に近い行為として体に染みついていた。
復讐を誓い、殺しを始めた頃から使い続けている二挺の拳銃の手入れは目隠しをしても出来る領域にある。
連射機構を改造し、フルオート射撃が可能になったベレッタM93R。
その銃身下、トリガーガードの前には本来備わっているはずのグリップがあるのだが、ヒートの場合はそれがナイフになっている。

ナイフは決して錆びることが無いよう、切れ味が落ちることの無いように研がれていた。
拳銃ではカバーすることの出来ない超近距離戦闘を制することの出来るこのナイフは、これまでに何度も人の命を奪い、ヒートの命を守ってきた。
そのナイフを取り外し、砥石を使ってその刃を更に研ぎ澄ました。
鋭利な刃は必ず役に立つ。

喉笛を切り裂く時にはそれを実感する。

ノパ⊿゚)「……」

部屋にはエアコンの駆動音とヒートが刃を研ぐ音だけが揺蕩っていた。
ヒートは何度も反芻するようにして、一つの事を考えていた。
母親である、クール・オロラ・レッドウィングの言動についてである。
本気で自分を殺そうとしていたという現実を考えて、彼女の発言は殆どが真実だろう。

569名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:27:31 ID:gHb2Rkgo0
即ち、自分を除く家族全員を爆殺するという計画を立てた張本人は母親であり、その目的は耳付き――獣の耳と尾を持つ人種――を根絶やしにする為。
狂気だ。
正に、狂気としか言いようがない。
その血を引く人間が自分だと思うと、ヒートは憤りと共に吐き気を覚えた。

確かに、耳付きは世間から疎まれている。
それは紛れもない事実だ。
奴隷として売られ、詳しい研究もされていない、正に家畜とほぼ同じ扱いを受けているのは誰もが知っている。
というよりも、誰もがそう教育され、そう感化され、そう信じるようになっているのだ。

弟が生まれるまでは、それはいささか疑念のある考え方だと思っていたが、ヒートは口には出さずにいた。
耳付きと関わることはほとんどない人生だったし、街中で売られている子供を見たことがあるが、それを助けようとは思わなかった。
それがヒートの世界だった。
弟が生まれるまでは。

弟を目にしたとき、ヒートは己の認識の全てが変わった。
耳付きに興味を持ったのは、間違いなく弟の影響だった。
彼が病気にかかった時にはどうすればいいのかなど、図書館で調べることが増えた。
そこで分かったのは、耳付きに関して興味を持っている人間はほとんどおらず、誰も研究をしていないという事実だ。

何故耳付きが生まれるのか。
耳付きは何故人間離れした身体能力を有しているのか。
ヒートはそういったことに興味が湧いたが、答えは終ぞ得られることはなかった。
しかしながら、得られたものがあった。

耳付きと呼ばれる人種は、人よりも優れている部分の方が圧倒的に多いという事だ。
一度風邪をひけばもう二度と引くことはなかったし、体温の高さ故に寒さにも強かった。
だが、それは耳付きという人種を知るだけであり、共に生活をしていれば誰でも気付く事だ。
ヒートが得た最大の成果は、それではなかった。

弟がいるというだけで、ヒートの世界は全てが輝きに満ち、新たな発見に溢れたものとなった事が、何よりも素晴らしい成果だった。
弟はこの世界の宝物だった。
世界を引き換えにしてでも守りたいと思う存在だった。
仔犬のように可愛らしい弟は母よりもヒートに懐き、歳が離れていることもあってヒートが食事などの世話をした。

おむつを替え、寝かしつけ、風呂にも入れた。
愛情を注ぎ続け、弟は育っていった。
言葉もままならない中、弟が初めて喋った言葉は「ねーね」だった。
ヒートはその言葉を聞いた時、涙を流して喜んだ。

だが思い返せば、母親は弟が生まれてからずっと彼に対して目を背け続けていた。
世話全般をヒートに任せ、自分は仕事に専念していた事を思い出す。
家計を支えるためとヒートは納得していたが、それは結局、弟の存在を疎ましく考えていたからだろう。
首も座り、一人歩きを始めたのは生後七か月の頃だったが、それを目撃したのはやはりヒートだった。

思い出が次々に浮かび上がり、ヒートは改めて母親に対して殺意が湧き上がって手に力が入った。
思い出の何もかもを吹き飛ばし、弟の命と父の命を奪った女。
血の繋がりがあろうとも、必ず復讐は果たす。
これまでに積み上げてきた屍の中の頂上に、あの女を加えることは義務に近い物がある。

570名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:29:14 ID:gHb2Rkgo0
肉親の不始末は肉親が付ける。
研ぎ終わったナイフをM93Rし、次に弾倉に弾を装填する。
この後、強化外骨格との戦闘は必ず起こる。
通常の拳銃弾では棺桶の装甲を貫通することは出来ないため、強装弾を使用しなければならない。

強装弾はその貫通力故に生身の人間には効果が薄い。
デレシアから作戦を伝えられ、ヒートは感情の赴くまま徹底的に棺桶との戦闘を行う役割を担った。
曰く、ヒートはまだ“レオン”を使い切れていないとの事で、それがヒートの弱点でもあるとの事だった。
確かに、自分でも自覚していた。

対強化外骨格用強化外骨格、つまり、棺桶との戦闘に徹底して特化して作られたレオンが他の棺桶に後れを取ることは設計者の意にそぐわない。
デミタス・エドワードグリーンが使用している“インビジブル”は肉眼、カメラから完全に姿を隠すことに特化した棺桶だ。
だが、レオンにはその姿が見えていた。
負ける要素も、まして後塵を拝するなどあってはならないことだった。

これもまたデレシアからの情報だが、レオンは製造されたほぼ全ての棺桶に対して対抗できる能力がある。
例えば光学迷彩を用いてカメラを騙す棺桶や、猛毒を撒き散らす棺桶、強固な装甲を持つ棺桶などを圧倒できるそうだ。
つまりは、ヒートの技量、知識、そして経験不足が問題でありそれが解消されれば、今後棺桶との戦闘は優位に立てる。
今必要なのは、多くの棺桶との戦闘を経験して、ヒートの戦い方を確立することだ。

クールが使っていた棺桶が何に特化しているのかを察することが出来れば、あのような醜態を晒さずに済んだ。
遠隔操作に特化した棺桶など、これまでに見たことも聞いたこともなかった。
経験と知識不足がもたらした致命的なまでの失態だった。
例えるなら、ショットガンの特性を知らずに近接戦闘を挑んだ獣のような物だ。

獣と人間との違いは理性の差である。
即ち、戦いを挑む相手に対して理解があるか否かだ。
その点で論じるならば、間違いなくヒートは獣と同じだった。
闘争本能に従い、理性を欠いた哀れな獣。

今後は無謀な戦いは避け、確実に勝ち、殺 せ る 戦 い をしなければならない。
それが自分のためだ。
未知の敵に対しての抵抗力を高めなければならない。
人間と獣の最大の違いは、理性の有無だ。

理性が働くならば、選ぶべきは効率に限る。
取り急ぎ狙うべきは、戦闘慣れしていないながらも、持っている棺桶が厄介な人間。
最優先で潰さなければならないのは、シュール・ディンケラッカー。
“レ・ミゼラブル”は音を使って暴徒を鎮圧することに特化しており、生身の人間では対抗するのが難しいとの事だった。

トラギコ・マウンテンライトもそれに殺されかけたとの事で、もしもあの女がブーンを狙ったとしたら、非常に不味いことになる。
ブーンは人間離れした聴覚を持っており、音を使った兵器が相手の場合、影響力は計り知れない。
潰さなければならない。
ヒートの中にある優先事項の最上位に、ブーンの存在があった。

仮初の復讐を果たした虚無感に支配されていたヒートを救ってくれたブーンを害する者は誰であれ、何であれ、叩き潰す。
もう二度と失うものかと、ヒートは一発ずつ覚悟と殺意を込めて弾を弾倉に込めていく。
Bクラスの代表格であるジョン・ドゥの装甲であれば、五発ほど正確に同じ場所に当てれば穴が開くだろう。
装甲の薄い場所ならば一発で貫通できる。

571名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:31:28 ID:gHb2Rkgo0
ヒートの戦い方は大きく二つある。
一つはレオンを使った直接的かつ最接近した状況での戦い。
そしてもう一つは、離れた位置から銃を使っての戦いだ。
単一の目的に特化したレオンは強力な装備の代償として、近距離以外での戦闘が出来ない。

それを補うのが拳銃である。
勿論、拳銃以外の銃を使う選択肢もあるが、手持ちの銃にライフルはない。
それに、ライフルを持ち歩く趣味はない。
最善の武器とは、目立たず、そして効果的でなければならない。

威力の点で言えば当然レオンに劣るが、拳銃は中距離での戦闘を有利に運ぶための貴重な道具だ。
特に、予期せぬ状況で戦闘が発生した時には役に立つ。
用意しておいた弾倉全てに弾を込め、ヒートは窓の外に目を向ける。
空はまだ暗く、漂う雲の色は紫色をしている。

ノパ⊿゚)「……夜明け、か」

様々な思惑がうごめく夜明け前。
これから訪れる夜明けはヒートが想像している以上の意味を持つだろう。
この島に来てから二日。
ショボン・パドローネ達は虎視眈々と、デレシアに一矢報いるその時を待っているに違いない。

オアシズから逃げおおせ、死刑囚を脱獄させ、島にやって来るデレシアを待ち構えていたのだ。
手痛い失敗からデレシアの実力を知った上で考えられた計画。
ジュスティアまでも巻き込んでいることから、計画に対して自信があり、ジュスティアをあまり意に介していないという考えが現れている。
自信があるという事は勝算があるという事。

力技とも断じきれるこの計画を、デレシアは即座に打ち破ろうとしている。
大それた計画を台無しにするためには、必ずそれ以上に大きな力が働く。
人数と規模ではこちらが劣っているが、それを埋め合わせて覆すだけの戦略と戦術がデレシアにはある。
相手がこちらを狙っているのならば、こちらから出迎えてやればいいと、デレシアは事もなげに言った。

正面からの殴り合いに持ち込むつもりなのかとヒートは度肝を抜かれたが、無策のまま相手が仕掛けてくるのを待ち構えるよりも、準備が整う前に迎え撃った方が勝算は高い。
綿密な作戦というものは、対象が予想外の動きをした途端に崩れるものだ。
当然だが、作戦というものにはいくつもの可能性を考慮したものが用意されている。
チェスの名手が最低でも20手先を読むように、計画者は相手の出方に合わせた計画を使い分けて対応する。

だからデレシアは、考慮されていない可能性を選んで迎え撃つという。
幾重にも張り巡らせた相手の策には必ず心理的な抜け道がある。
デレシアはこれまで、襲い掛かる驚異の全てを己の手で蹴散らしてきた。
その蹴散らすという行為は相手の中に強い印象を残し、デレシアの反応は即ち反撃という図式が出来上がっている事だろう。

それこそが盲点となる。
今回の目的は敵の排除ではなく、彼らの目的を阻止することだ。
もしもデレシアが排除を目的として行動していれば、彼らの計画のどれか一つに該当してしまうかもしれない。
だがその目的が異なった物であれば前提が覆り、彼らが頼みの綱としている計画を破綻させられる。

572名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:33:53 ID:gHb2Rkgo0
まるで賭けのような動きだが、ヒートは仮にそうだとしても、デレシアの賭けから降りるつもりはなかった。
彼女はヒートの知る限り、誰よりも物事を知り、誰よりも強い人物だ。
その正体が気になるが、ヒートがこれまで自分の過去を語らなかったように、デレシアが語るのを待つしかない。
こちらから訊くのは、どうしても出来なさそうだ。

弾倉の準備を終え、コーヒーを飲む。
溜息を吐いて、作業の手を止める。
感情に身を任せた自分がやるべきことは分かっている。
復讐を。

復讐を果たすのだ。
この感情に捉われた人間は、等しく醜い顔をしている事だろう。
今、ヒートはこの顔をブーンに見られたくなかった。
見られてしまえばきっと、ブーンに嫌われてしまうだろう。

復讐に身を焦がす殺人者の顔など、見せるべきではないのだ。

ノパ⊿゚)「……絶対に、殺してやる」

復讐は何も生まないと言う人間がいるが、ヒートに言わせればその人間は真の意味で復讐を知らないのだ。
生きる気力を奪われ、己の命すら無価値に思える中で生きる糧となったのは復讐心だ。
その心がヒートを生かし、ヒートを動かした。
殺された家族のために、それに関わった全ての人間を殺し尽くすという目的を手にした。

手を血で染め上げる復讐の日々が終わり、達成感と喪失感に満たされた状態で故郷に帰り、ブーン達と出会った。
そして故郷で起きた事件がきっかけでデレシアの旅に同行することになり、今日に至る。
復讐によって失った物は喪失感と人間性。
逆に、得たものは数多くある。

復讐はヒートに多くを与えてくれた。
故に、少なくともヒート・オロラ・レッドウィングの中で復讐は無意味ではない。
暴力を行使されたのであれば、暴虐によって報復をすればいい。
例えそれが肉親だろうとも。

――肉親を殺すことに躊躇するような心は、もう、ヒートには残っていないのだ。

573名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:37:00 ID:gHb2Rkgo0
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         /'i,ヽ          Ammo for Reknit!!編
        / ..;;;i:::::;\
        | ̄ ̄| ̄ ̄|      第四章【monsters-化物-】
        | l⌒l | l⌒l |
        | |...::l | |;;;;;l |;;:ヽミゞ;;    ゞ;:;:ヽ
     ミゞ;;;|  ̄ |  ̄ |;:;ミ__ヽミゞ,,_;;:ヽ_;:ゞ;;____.____ ミゞ;;ミゞ;;
   ヾ;:;:ヽミ;;| l⌒l | l⌒l |;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;; ゞソミゝミゞ;;ヾ;:;;:
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ティンカーベルに堂々とした面持ちで聳え立つルルグベ教会には、信仰心とは異なる同一の志を持つ人間が一堂に会していた。
神に祈りを捧げる教会に、この日、神を信じる人間は一人もいない。
正確に言えば、生きている人間の中で神を信じている人間は皆無だった。
ソファに深々と腰かけていた禿頭の男が、前屈みになって姿勢を整える。

(´・ω・`)「状況の確認と行こうか」

朝食後のコーヒーを飲んだ後、最初に口を開いたのは、その場で最年長のショボン・パドローネだった。
一見すれば優雅な空間だが、境界の裏手にある納屋に積み上げられた死体を見れば、この教会が神に見放された空間であることが分かる。
紅茶を飲むデミタス・エドワードグリーンが漂わせる空気は、決して好意的な物ではなかった。
彼の生み出す空気の原因は、その向かい側に座る人間にあった。

(’e’)「ん? 何かね、デミタス君。 僕は男に見つめられる趣味はないんだが」

コーヒーを上品に飲みながらそう言ったのは、イーディン・S・ジョーンズだ。
教科書に載るほどの有名人だが変わり者。
棺桶研究の世界的権威であり、その魅力に生涯を捧げることを誓った碩学だ。

(´・_ゝ・`)「お前のせいで、こっちは何回も殺されかけたんだ。
      おい、ショボン。
      状況の確認の前にするべきことがあるんじゃないのか?」

(´・ω・`)「と、いうと?」

(´・_ゝ・`)「相手のことだ。
      あれは女じゃない、化物だ。
      おまけに俺の“インビジブル”がまるで通じなかった。
      これはどういうことだ?」

574名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:39:54 ID:gHb2Rkgo0
憤りを露わにするデミタスの質問に答えたのは、ショボンではなくジョーンズだった。
彼は軽い口調で、さして重要でもない事のように話した。

(’e’)「あー、そのことか。
    報告が遅いからどうしたのかと思って心配していたんだが、そうか、通じなかったか。
    これは興味深いデータを手に入れられた。
    協力に感謝だ」

(´・_ゝ・`)「馬鹿にしているのか!!」

勢いよく机を叩き、デミタスは体を乗り出しかねない勢いで怒声を浴びせる。
だがジョーンズはそれに対して眉一つ動かすこともなく、覚えの悪い学生に対してそうするように、淡々と語り始める。

(’e’)「まさか。 いいかね、君。
   “レオン”はその存在こそ知れていたが、ずっと発見されていなかったんだ。
   分かるかい? 名前とコンセプトだけの存在だったのだよ、今の今までね。
   研究者は魔法使いじゃないし、私は想像だけで棺桶を語りたくない主義でね。

   見つかった時にはどこだかの殺し屋が持っていて、研究資料も糞もない状態だったんだよ。
   大方、価値も知らない修理屋が直したんだろうさ。
   さて本題だ。 そんな代物の情報をどうやって知り得ろと?
   その不確定な情報を君に与えたところで、有効活用できるか?

   “全ての棺桶に対抗できるよう設計された”と曖昧な情報を言われても、信じられるか?
   知っての通り、インビジブルは光学迷彩で肉眼とカメラに錯覚させる棺桶だ。
   実験で使用した全ての棺桶の目を騙すことが出来た。
   だからエーデルワイスにも通用しただろう?

   いいかね、君の言っていることは――」

見かねたショボンは、両者の間に割って入る形で会話を切った。

(´・ω・`)「博士、落ち着いてください。
     デミタス君、君の意見も分かるが、博士の言い分も分かってほしい。
     誓って言うが、あの棺桶に関する情報はほとんどなかったんだ。
     君も初戦で相手にインビジブルが効果を持たないと分かった段階で、こちらに報告してほしかったな。

     とはいえ、今こうして互いを非難し合うのは生産的ではないだろう。
     さ、改めて状況を確認するよ。
     僕たちのターゲットを直接視認したのは?」

挙手したのはショボンを含めて四人。

川 ゚ -゚)

無表情のクール・オロラ・レッドウィング。

575名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:40:47 ID:gHb2Rkgo0
从'ー'从

(´・_ゝ・`)

ニヤニヤ笑いを浮かべるワタナベ・ビルケンシュトック、そして不満げな顔のデミタス。
三人以外に誰も手を挙げないのを確認してから、ショボンは頷いた。

(´・ω・`)「なるほど、僕を含めたこの四人だけか。
     相手はデレシアと名乗る女だ。
     あの馬鹿げた強さは、正直に言って脅威そのものだ。
     博士、アバターの修理は可能かな?」

(’e’)「厳密に言うと、今すぐには無理だな。
   コンセプト・シリーズにはもともと予備のパーツが無いんだ。
   レオンに胸部を打ち抜かれて、腕を破壊されているからもう以前のような機敏な動きは無理だよ。
   解れた糸を結んだら結び目が出来るような物さ。

   それにここには設備がないから、満足いく修理は無理だね。
   ま、それまでの間は別の機体を代用するしかないが、同じ設計思想のものがある。
   本部に行けば、ちゃんとした後継機があるからそれを使おう」

(´・ω・`)「それはありがたい。
      聞いての通り、デレシアは棺桶を何とも思わずに破壊する女だ。
      これで少しは危険な奴であることが分かってくれると助かる」

lw´‐ _‐ノv「どんな棺桶を使うの?」

(´・ω・`)「いや、奴は棺桶を使わない。
     対強化外骨格用の弾丸を使う生身の人間だ」

lw´‐ _‐ノv「……は?」

質問に対する答えに、シュール・ディンケラッカーは呆れた様な声を漏らした。
彼女の反応は至極当たり前の物だ。
軍用第三世代強化外骨格、棺桶と呼ばれるその兵器は人間程度では太刀打ちできるような物ではない。
例え対抗できる弾丸があっても、棺桶を前にして戦える人間など、普通はいない。

普通は恐怖に慄き、戦うという意欲を見せるはずはない。
獣を前にナイフを持ったところで人間が臆するのが自然の反応であるように、戦車にさえ対抗し得る強化外骨格を恐れないのは馬鹿か気狂いだけだ。
戦車に立ち向かう歩兵がいないのと同じように、棺桶に抵抗を試みる人間はいない。
そう考えるのが普通であり、常識だ。

(´・ω・`)「対峙すれば分かるさ。
     だが、あの女を殺すことが僕たちの任務だ。
     僕たちの夢を、あの女は何度も邪魔した。
     生かしておく理由はない。

     ところで、同志シナー」

576名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:42:30 ID:gHb2Rkgo0
名を呼ばれたシナー・クラークスは視線をショボンに向けたが、組んだ腕は解かなかった。
自分が何故名前を呼ばれたのか、彼は分かっている様子だった。

(´・ω・`)「トラギコを殺し損ねた時、何があったのかをもう一度話してくれるかな?」

( `ハ´)「……“番犬”ダニー・エクストプラズマンが来たアル」

細い目をより一層細め、シナーは忌々しげに語った。
仔細にこそ語りはしなかったが、彼の口調から決して快い思いをしたわけではないことは確実だ。
適度な沈黙と間こそが何よりも説得力を持つことを知るショボンは、あえて三秒間無言を保った。
彼は視線を周囲に向け、シナーの言葉が浸透するのを待ったのだ。

(´・ω・`)「そして僕は、“執行者”ショーン・コネリと戦う羽目になった。
     この二人はジュスティアの円卓十二騎士、つまり、ジュスティアの最高戦力の二名だ。
分かるかい? ジュスティアがそれほどまでに危機感を覚えているんだよ。
     だが、あいつらには手出しはしないほうがいい」

ジュスティアが世界に誇る十二名の最高戦力。
彼らの間に階級はなく、あるのは騎士の称号を持つというジュスティア人としての誇りだ。
同等の力を持つと認め合う彼らに上下の関係、即ち上官と部下の関係はない。
全員が最高戦力であり、全員がいてこその円卓十二騎士なのだ。

彼らと戦って生き延びることができただけで御の字だ。
果たして、次も無事でいられるかどうかの保証はない。

( ・∀・)「ほぅ、それはいい案ですね。
      死人は少ない方がいいですから」

マドラス・モララーは頷きつつ、湯気の立つ紅茶を一口飲んだ。
キャソックに身を包む彼はいかにも聖職者らしい格好をしているが、それはあくまでも表向きの姿なだけであって、彼は信仰を捨てた人間だった。
彼の言葉は優しげな人間のそれだが、彼は自ら手を下さないだけであって、死によって何かが救われるのであれば大賛成という考えを持っている。
ニヤニヤ笑いを浮かべるモララーの隣りにいる男は、対象的な表情をしていた。

隣で眉を顰めるのは、かつてショボンと同じ職場で正義のために働いていたジョルジュ・マグナーニだ。
  _
( ゚∀゚)「円卓十二騎士が出てきたのはいい傾向とは言えねぇな」

ジュスティアのことをよく知る彼は、当然、円卓十二騎士のことを知っていた。
かつてジュスティアで警察官としてその身を正義に捧げた男は、ジュスティアの深部に触れることが多々あり、円卓十二騎士が実在する実力集団であることを理解していた。
イルトリアに対抗するために生み出されたとされる十二人の騎士。
その実力は、間違いなくジュスティア内で最強と言っても過言ではない。

ショボンも騎士たちの実力はよく知っているが、考え方はジョルジュとは逆だった。

(´・ω・`)「いや、逆だよ。
      僕らでも最高戦力を相手に生き延びられることが証明されたんだ、喜ばしいことだ。
      僕が手出しをしないほうがいいと言ったのは、今は我々の存在を公にしたくないからさ。
      世界中にいる同志は来る日に備え、静かに歩みを進めなければならないからね。

      ここでジュスティアと本気でやり合うのは、理に適っているとは言えない」

577名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:44:23 ID:gHb2Rkgo0
( `ハ´)「あいつら、私達を狙っているアルよ。
     今のうちに潰しておいたほうがいい気がするアル」

(´・ω・`)「そりゃあ潰した方がいいだろうけど、今はその時じゃない。
      撃退するならまだしも、潰すとなったらかなり面倒になる。
      ま、今は精々テロリストとしてでも誤解させておこうじゃないか。
      今はデレシアを殺して、ついでにトラギコとアサピー・ポストマンも殺すことだけを考えればいいさ」

lw´‐ _‐ノv「気になってたんだけど、どうしてその二人を殺す必要があるの?
       今じゃなくてもいいでしょ」

ただの刑事とただの新聞記者。
肩書だけを見れば、いつでも殺せそうな存在だ。
事実、ワタナベの邪魔さえなければ、シュールはトラギコ・マウンテンライトを殺せた。
その報告を受けていたショボンだったが、今それを蒸し返すことが意味のないことはよく分かっていた。

犯罪者たちを仲間に引き入れた時点で、このような醜い揉め事が起こることは時間の問題だったのだ。
警察官をやっていたショボンは、そういったリスクを承知した上で彼らの脱獄を手助けし、同じ夢を見る同志として扱っている。
彼女にも自制心があることは、今この場で改めてワタナベを批難することをしなかったことからも明らかである。
全体の利益を考え、シュールは怒りを押さえ込んで質問をしたのだ。

そしてその質問は、的を射ていた。

(´・ω・`)「ところが、この二人はちょっと厄介な動きをしていてね。
     ひょっとしたら、僕達のことを嗅ぎ回っているんじゃないかと思ってね。
     それだと厄介だから、今のうちに死んでもらうんだ」

早い話がリスクマネジメントだ。
可能性は早めに摘んでおいたほうが、後に必ず役に立つ。
もしそれがあり得なかったとしても、後の憂いになる可能性が微量でもあれば今潰すべきだ。
後悔先に立たず、それがリスクマネジメントの基本である。

トラギコがマスコミと手を組んで事件の真相究明に乗り出すということは、十分に考えられる。
彼は事件をかき乱し、力で解決させる人間なのだ。
彼のせいで多くの警官が翻弄され、当初とは異なる形で事件を収束させられたことに恨みを持つ人間は少なくない。
ジュスティア人らしくない粗暴な男。

だからこそ、動きが読めないのだ。
不確定要素の塊は取り除くべきだ。

(´・ω・`)「最小の死人で、最大の成果を。
      僕らはいつもそうしてきたんだ」

何か言いたげなジョルジュに向けて、ショボンは垂れた持ち上げながら言った。

(´・ω・`)「後輩を殺すことは気が咎めるかな?」
  _
( ゚∀゚)「黙れよ、眉毛野郎。
     俺がどうしてあの馬鹿を殺すことに躊躇う必要があるってんだ」

578名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:46:24 ID:gHb2Rkgo0
(´・ω・`)「ほら、君は彼のことをかなり高く評価していたし、可愛がっていたからね」

一睨し、ジョルジュはショボンの言葉に答えることはなかった。
彼の言葉は事実だった。
ジョルジュは己の後任としてトラギコを育て、自分の分身以上の存在を生み出そうとした。
彼には見込みがあり、その力は警察という権力の中でも決して霞むことのない眩いばかりの輝きそのものだ。

正義という言葉を捨てた時、トラギコはこれまで語り継がれてきた正義のなんたるかを理解したことだろう。
CAL21号事件は、彼を変えた。
甘い考えの全てを捨て去り、彼を一匹の虎へと駆り立てた。
その変化の瞬間を、ショボンも目撃していた。

あれは今思い出しても、彼という人間の核が表に出た瞬間だと断言できる。
誰よりも正しく在ろうとし、誰よりも人々の幸せを願う警察官としての信念。
彼は否定するだろうが、それは紛れもなく正義そのものだ。
ショボンはできればトラギコを仲間に引き入れたい気持ちがあったが、彼はおそらく、ショボンたちの行為を理解できないだろう。

彼はまだ若い。
人生経験ではなく、生き方として真っ直ぐすぎるのだ。

(´・ω・`)「さ、話を戻そう。
      円卓十二騎士が出てきて、僕らは少し動き方を考えなければならない状況にある。
      ここまではいいかな?」

無言を同意と受け止め、ショボンは続ける。

(´・ω・`)「今日、勝負を仕掛けようと思う。
      理由はいくつかあるが、一番大きいことがある。
      デレシアのグループが別れている、という確かな情報があるんだ」
  _
( ゚∀゚)「……続けろ」

(´・ω・`)「デレシアは“レオン”と呼ばれた殺し屋――同志クールの娘――と、糞耳付きと行動を共にしている。
      ところが、だ。
      昨日同志クールたちが見た時、どうにも奇妙な様子だったらしい。
      説明をしてもらってもいいかな?」

川 ゚ ?゚)「おそらくだが、あいつらは今何らかの理由で別行動をしている。
     デレシアの出てくるタイミングも、ヒートの行動もそれを裏付けている。
     私の勘でしかないだろうが、“目”の報告とも一致している」

疑問を投げかける人間はいなかったが、ショボンとクールを除く全員が同じ疑問を頭に浮かべた。
それを代表して口にしたのは、ニヤニヤ笑いを保ったままのモララーだった。

( ・∀・)「ちょっと待ちましょう。
      同志ショボン、今娘とか言いませんでしたか?」

(´・ω・`)「あぁ、言ったよ。
      娘、だ」

579名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:49:54 ID:gHb2Rkgo0
从'ー'从「レオンって言ったら、かなりの有名人よぉ。
      特に私達の界隈ではねぇ」
  _
( ゚∀゚)「俺も知ってる。
    ヴィンスで大暴れした殺し屋だろ。
    あの辺りを根城にしていたマフィアをいくつも潰して、突然姿を消した奴だ。
    確かお前、娘は殺したとか言ってなかったか?」

(’e’)「それは私も気になるね。
    どうやって“レオン”を手に入れたんだ?」

片目を僅かに吊り下げ、クールは次々と並べ立てられた質問に対して不快さを露わにした。

川 ゚ -゚)「あぁ、殺したはずだったんだが生きていたんだ。
     どうにも糞耳付きの遺伝子というのはしぶとく出来ているらしい」

(’e’)「棺桶の入手経路は?」

川 ゚ -゚)「知らん。 そんなことはどうでもいい。
     私が気に入らないのは、耳付きの遺伝子を持つ人間が生きているという事実だ。
     今すぐにでも縊り殺してやりたい気分なんだ。
     身から出た糞は自分で処理しなければならない」

クールの声色は変わらなかったが、彼女が無意識の内に振り下ろした拳が木製の机を強打した瞬間、全員が無言になった。
机上にあった物は軒並み2インチ以上飛翔し、再び机に叩きつけられることとなった。

(´・ω・`)「はいはい、細かな自己紹介はいずれまたね。
      そんなことより、これから先の話をしてもいいかな?
      いいよね?
      じゃあ、続けよう」

咳払いの代わりに、ショボンは全員の目を見た。
これは彼の得意な手段で、他人の注意を惹く上で非常に効果があった。
十分に効果が染み渡ったことを確認してから、続けて口を開いた。

(´・ω・`)「兎にも角にも、デレシアを殺す。
     これが最優先だ。
     そのためには糞耳付きを殺すことも、レオンを手に入れる事も後回しにしてもいい。
     だが、せっかくあの二人が一緒にいないのであれば好都合だ。

     分断しているという事は、戦力が散っているという事。
     ここが狙い目だ。
     クール、ワタナベと組んでレオンを殺すんだ。
     モララー、君も彼女達に同行してもらおう」

(;・∀・)「えぇっ…… 私が?
      私はあんまり人殺しは好きじゃないんですけどねぇ」

从'ー'从「殺すのは私達がやるからぁ、あんたは犯せばいいわぁ」

580名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:51:52 ID:gHb2Rkgo0
( ・∀・)「あ、それなら。
      ですが、娘さんを犯されてもいいんですか?」

川 ゚ -゚)「好きにしろ。 穴の開いたただの肉だ」

モララーはそれ以上言葉を紡がなかったが、彼の股間が反応したことをショボンは見逃さなかった。
彼の悪癖は治し用がない病巣のような物で、組織ではそれを黙認することになっている。
ジョルジュを除いて。
  _
( ゚∀゚)「殺すだけにしておけ。 でねぇと、俺がお前を去勢してやるぞ」

(´・ω・`)「ま、ほどほどにするんだね。
     相手は名の知れた殺し屋、棺桶同士での戦闘は完全に実力勝負になる。
     上手い事立ち回ってくれよ」

( ・∀・)「まぁ、殺さなくていいのなら私はそれでいいんですがね」

(´・ω・`)「じゃあ次だ。
      ジョルジュ、博士はデレシアを側面から叩いてほしい。
      いわば伏兵だ」

(’e’)「君は馬鹿かね? 何で私が戦闘の人数にカウントされているんだ。
    頭髪が少ないと脳が過冷却されて思考がおかしくなるのか?」

(´・ω・`)「だからこそ、ですよ。
     博士がいれば誰も戦闘をするとは思わない」
  _
( ゚∀゚)「……俺は構わねぇが、好きにさせてもらうぞ」

(’e’)「はぁ、脳筋共はこれだから。
    ま、いいだろう。
    デレシアが何か棺桶を使っているのだとしたら、丁度いい研究材料になるだろう」

ジョルジュはその言葉を鼻で嗤い、懐に下がった銃の重みを確かめるようにそこに手を伸ばした。
スミスアンドウェッソン、ジョルジュの愛銃がそこに収められている。

(´・ω・`)「シナー、君はトラギコかアサピーのどちらかを狙って消してくれ。
      “目”も君と同じ動きをすることになっている」

( `ハ´)「円卓十二騎士はどうするアル?」

(´・ω・`)「放っておけばいい。
      遭遇したら、任務を優先してくれ。
      有り得ないとは思うが、デレシアを騎士たちが守ろうとしたら、騎士を排除すればいい。
      だが無理はせず、必要なら撤収してくれ。

      デレシア以外の相手は今回どうでもいいと考えていい。
      いいか、何度も言うがデレシアを殺せ。
      あの女は僕たちの敵だ。
      大敵は最優先で排除しなきゃいけない」

581名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:54:20 ID:gHb2Rkgo0
改めて、その場の空気をショボンの一言が引き締めた。
誰よりも先に殺すべきは碧眼の旅人デレシア。
オアシズで対峙したショボンは、その危険性をよく分かっている。
あれは残しておくべきではない。

これまでに出会ってきたどの犯罪者よりも危険な存在であり、ショボン達の夢を阻む障害だ。
西川・ツンディエレ・ホライゾンから報告を受け、改めてその危険性を理解した。
刃の切っ先を恐れるように。
獣の歯牙を恐れるように。

世界の天敵。
ショボンが最終的にデレシアに対して下した評価はそれだった。

(´・ω・`)「そして残りのメンバー。
     デレシアを正面から殺しに行くのは僕、シュール、デミタスだ」
  _
( ゚∀゚)「選出の根拠は?」

(´・ω・`)「“インビジブル”の能力は“レオン”には通じないが、生身の人間には通じる。
     そして同じく、“レ・ミゼラブル”の能力も人間には効果が大いにある。
     音と視界、この二つを支配できる棺桶があればデレシアにも対抗できるさ。
     それに、僕の“ダイ・ハード”も防御力は高い方だから、対強化外骨格の弾にもある程度は耐えられる。

     そこにジョルジュ、君が伏兵として構えていれば完璧だ」
  _
( ゚∀゚)「どうだかな」

短くそう言い残して、ジョルジュはそれ以降発言をすることはなかった。
まるで、やれるものならやってみろ、と言わんばかりの態度だ。
彼のそのような態度は珍しく、彼を知る者は少しばかり驚いていた。

(´・_ゝ・`)「ま、生身の人間相手なら大丈夫だろうな。
      博士、大丈夫だろうな?
      本 当 に 大 丈 夫 な ん だ ろ う な」

(’e’)「無論だとも。 肉眼では捉えられない不可視の棺桶、それがインビジブルだ」

lw´‐ _‐ノv「私のも平気でしょ?」

(’e’)「当然だとも。 聴覚が生きている限り相手に影響を及ぼす棺桶、それがレ・ミゼラブルだ」

強化外骨格研究の第一人者であるジョーンズの言葉は、この世界で棺桶に関わる人間であれば誰もが聞き入れるだけの説得力を持つ。
彼が発掘・修復した棺桶の数を考えれば、それは当然。
今の社会に流通しているほぼ全ての棺桶に精通する人間の言葉は、即ち、誰よりも知識のある人間の言葉なのだ。

(´・ω・`)「他の人間と戦っている時にもしデレシアと遭遇したら、最優先で狙うんだ。
     いいね?」

( `ハ´)「……それで、デレシア達の居場所は分かっているアルか?」

582名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 22:58:27 ID:gHb2Rkgo0
(´・ω・`)「僕たちの“目”に探させたんだけど、全然見つからなくてね。
     だけどレオンの居場所なら分かっている」

( `ハ´)「居場所が分からないのにどうやってデレシアと戦えと言うアルか。
     オアシズで頭おかしくなったか?」

(´・ω・`)「おびき出せばいい。
      やり方はとてもシンプルだ。
      レオンを追えば自ずと出てくる。
      それはもう証明された。 あの女は情に厚いらしい。

      つまり、市街地のどこかに潜んでいるという事だ。
      レオンを襲う場所とタイミングを僕たちで合わせておけば、狙った場所にデレシアを呼び出すことが出来る。
      仮に失敗してもレオンを奪える」

从'ー'从「仔犬ちゃんはどうするのぉ?」

その言葉を聞いた瞬間、ショボンの形相が一変した。

(´・ω・`)「……寸刻みにして殺せ。
     炙って殺せ。
     糞尿の山で溺死させろ。
     生きていることを後悔させて殺せ。

     殺した後は晒せ。
     肉屋に並ぶくず肉のように晒せ。
     目玉と脳味噌をくりぬき、そこに糞を詰めて晒せ。
     生物であることを忘れさせろ」

淡々と並べられた言葉の全てに、明白な殺意が籠っていた。
慈悲などというものは当然ない。

(´・ω・`)「さ、もうこんなもんでいいだろう。
     作戦開始は正午丁度。
     “目”が最初に動くことになっているから、それに合わせるように。
     いいね、それまでに所定の位置に着いておくんだ」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                  /  i  : |  |  :/ .:/     / :/ |: ;    |: :  |
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            //∨|八i |  | ヒ|乂 ///イ     |     j: : : . '.
            ///: : i: : : :i i  │∠ : イ//    ミ=-彡 ;    /: : :八: :\
            /{:八: : :i/: :八: ∨|八|  |/ :j            /    /: : :/ ハ :  \
‥…━━ August 11th AM11:44 ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

デレシアは潮風を楽しんでいた。
海沿いに旅を続け、その香りは新鮮さを失いつつあるが、決して飽きることはない。
かつては死の象徴と化していた海も、今では人類誕生前の青々しさを取り戻し、コバルトブルーの色が目に眩しい。
母なる海とはよく言ったものだ。

583名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 23:03:03 ID:gHb2Rkgo0
熱から逃れるために海に逃げた生き物の死骸で溢れ、腐臭に満ち、海岸線にはガスで膨れ上がった肉塊が打ち上げられていたあの光景。
それは死その物の光景だった。
やがて死骸は風化し、骨となり、骨は白い砂浜の一部となった。
海を汚していた死体の山は豊かな海の養分となり、多くの生物を支える基盤となった。

成長の過程を見守る母の心地で世界を眺めるデレシアは、街に溢れていたはずの活気が消えていることが気になっていた。
ティンカーベルは他から孤立した形の集落に近い物があり、それ故に、内々で盛り上がる日常を何よりも重要視していた。
本来朝市も島民だけで楽しんでいたものが観光客にも知れ渡っただけであり、その活気を本当に作り出しているのは島民だけだ。
その在り方は昔から変わらないが、ジュスティアと協力し合うようになってからは少し変わってきたのかもしれない。

街の治安が自分達だけでは守り切れないと理解した、デイジー紛争。
この島を舞台にジュスティア軍とイルトリア軍が争ったとされる紛争の真実は、伝えられている物とはかなり異なる。
実際はジュスティア軍と一人の狙撃手が争ったのであり、争うように仕向けられた戦いだった。
その背景にいたのはブーンの恩師であり、デレシアの友人であるペニサス・ノースフェイス。

彼女は単独でジュスティア軍に戦いを挑み、無事に生還を果たした。
だが真実に気付いた人間がいた。
その人間達はこれを決して表沙汰にせず、歴史を偽る事で平穏を作り出した。
平穏の裏で調べ、そして分かったのはその争いを仕組んだ組織の巨大さだった。

世界最大の生物が茸であるように、その組織は地中深く世界中に根を張り巡らせ、実態が分からない程のものだったのだ。
それはティンバーランドと呼ばれる巨大な秘密結社であり、共同体であり、思念体だった。
三度壊滅させ、そして、デレシアの前に四度目の姿を見せた。
雑草の如き執念で立ちあがり、菌糸のように図太く育とうとする大樹。

ζ(゚、゚*ζ「……」

面白くもない話だ。
何度も生まれてくる存在を踏み潰し、摘み取るのは面倒極まりない。
とは言え、前回はやや早めに芽を摘み取った事がいけなかったのだろう。
十分に成熟してから叩き潰し、その病巣を焼却処分しなければ意味がない。

デレシアはこれから先の旅を円滑に進めるためには、この島での出来事をどう処理するべきかを決めていた。
相手の目的はヒートの棺桶と、デレシアの命。
ブーンはそれらを手に入れるための便利な道具でしかない。
だが事態は一変し、彼らの目的は一時的に退けられた。

それで引き下がるような性格であれば、ティンバーランドは今もあるはずはない。
連中は必ず、今日中に行動を起こしてくる。
それをより確実なものとするために必要なのは、デレシアやヒートがその姿を相手に見せる事だ。
隠れていては仕方がないという判断を基に、デレシアはトラギコを使う事で作戦を成立させた。

あの刑事には大樹の根深さを調べてもらう役割を担わせ、更にはジュスティアの動きをけん制してもらわなければならない。
今頃はどうにかして狙撃手の写真を撮影しようと躍起になっている事だろう。
珍しく骨のある報道者、アサピー・ポストマンと言う人間と協力し合えばそれも叶うに違いない。
かつて世界を賑わせていたマスコミの力は大分衰えているが、その分、報道という行為に真剣に取り組む人間が増えた気がする。

584名も無きAAのようです:2017/02/18(土) 23:04:50 ID:gHb2Rkgo0
世界は今も変わりつつある。
こうして、昔とほとんど変わらず閉鎖的な街を見下ろしていても、その変化は足の下から感じ取れる。
少しずつ変わっている。
オアシズの停泊地として島を提供し、セカンドロックを作り、ジュスティアと協力し合っている姿が正にそれを証明している。

島民の意識も変わってくるだろう。
変化を拒み続けることは不可能であると分かってきた人間が増えている。
いずれこの島はジュスティアを中継地として、閉鎖的な考えを失っていくだろう。
そうして、歴史が変わっていく。

それが自然の流れ。
変化を止めることなど、誰にも出来ない。
人間は人間であるが故に、常に変動と進化を続けていく。
その果てが世界に終焉を導いた第三次世界大戦の結果だとしても、それもまた、人間の在り方なのだろう。

それら全てを含めて、デレシアは世界が愛おしかった。
ティンバーランドは人間の進化を否定する存在であり、デレシアにとっては現存する唯一の仇敵だった。

ζ(゚、゚*ζ「全く、しつこいのは嫌ね……」

その独り言を聞く人間は、彼女の近くには誰もいない。
デレシアは一人、状況が整うのを待っていた。
傍観でも静観でもなく、自らが用意した手段と相手の手段がどのように動くのか、それを見守っているのだ。

ζ(゚、゚*ζ「ふぅ……」

珍しく溜息を吐き、デレシアは次の瞬間には笑顔を浮かべていた。
決して悲観はしない。
確かに旅を邪魔され、こちらが相手の欲する物を潰そうとした矢先に先手を打たれたのは腹立たしい話だ。
しかしながら、そのおかげで見ることの出来る景色がある。

ζ(゚ー゚*ζ「……さぁて、見せてもらおうかしら、男の子。
      貴方の強さ、貴方の意地を」

そして。
正午を告げる鐘の音が鳴り響き、虎が奔走する――


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