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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】
1
:
名無しさん
:2004/11/27(土) 03:12
コソーリ書いてはみたものの、様々な理由により途中放棄された小説を投下するスレ。
ストーリーなどが矛盾してしまった・話が途切れ途切れで繋がらない・
気づけば文が危ない方向へ・もうとにかく続きが書けない…等。
捨ててしまうのはもったいない気がする。しかし本スレに投下するのはチョト気が引ける。
そんな人のためのスレッドです。
・もしかしたら続きを書くかも、修正してうpするかもという人はその旨を
・使いたい!または使えそう!なネタが捨ててあったら交渉してみよう。
・人によって嫌悪感を起こさせるようなものは前もって警告すること。
341
:
名無しさん
:2005/11/19(土) 17:29:24
『後生だから、逃がしてくれー!』
『私のお腹には赤ちゃんが居るのよ…子供を産ませてよ…』
『畜生、彼女に手を出すな、俺から先に殺せ!』
『うう、済まない、父さんを許してくれ…』
『いたい、いたいよう…』
『お母さ〜ん…』
「うわーっ!!こんなの生き地獄だぁあーっ!!」
急に頭を抱えて騒ぎ出す矢部に、周りはぎょっと目を見開いた。
「入江くん、逃がしてやってよ〜!!」
「逃がすったって、ここ釣り堀だぞ!?てゆうか何で泣いてんの?」
それでも矢部は「逃がして」と懇願し続けた。入江は訳が分からなかったが、泣かれてしまっては仕方がない。
渋々魚を池に戻した。散り散りになって泳いでいく魚を、あ〜ぁ、といった顔で見送る芸人たち。
只一人、矢部太郎だけは笑いながら手を振っていたが。
「お礼なんて、いいよぉ〜、へへへ…」
あー、ちょっとイタい人だなあ、矢部さんて。という声が聞こえたけれど気にはしなかった。
この日から、矢部が暫く魚料理を食べられなくなったのは、言うまでも無いかも知れない。
終
矢部 太郎(カラテカ)
石 …未定
能力…知性を持つ生物(外国人はもちろん動物や鳥、虫など)と会話ができる。
ただ、相手が日本語を喋り出したり矢部が相手側の言語を用いだすのではなく
石が言葉や仕草を翻訳して互いの意識に伝達する形になっているので、
まわりからは危険な人に見えるw
条件…人間以外の相手に能力を使った場合、後遺症で十分〜二十分ほど
相手の性質が移って抜けなくなる。
(犬だったら臭いをやたら気にしだし、蛇なら寒い所で動けなくなる)
342
:
名無しさん
:2005/11/19(土) 18:38:22
乙です。
石の特性をよく生かした話ですね。大笑いしました。
343
:
名無しさん
:2005/11/19(土) 18:47:17
乙!非常に楽しめましたよ。
読みきりの番外編だし、本スレ投下しても良いんじゃないでしょうか。
344
:
名無しさん
:2005/11/20(日) 01:11:35
乙です!
そうですよね〜魚だってそう思ってますよね・・・
確かに生き地獄(笑)
345
:
◆/KySNfOGYA
:2005/11/22(火) 19:29:46
SPWとピースの矛盾してる話、投下させていただきます。
346
:
each other
◆/KySNfOGYA
:2005/11/22(火) 19:38:56
ピース。彼らの名前はダイノジから聞いていた。腕の良いコント師だと聞く。
真面目で、直向で、面白くて。良い後輩だと、笑顔で彼らは言っていた…のに。
どうして彼らとこうして、対峙してるのだろう。
「…なんで、石の力、使わんのです?」
「そうですよ。石、使わないで勝てるとでも思ってるんですか?」
のったりした関西弁と、キッチリした声。性格が上手くかみ合ってそうな、真面目そうなコンビ。
だからこそ、黒にいるのが、不思議でならない。
「…君らこそ。何で力使わないの?」
「少なくとも、本気でない相手に力を使うのは酷なもんでしょう?」
ふ、と笑う。やっぱり。黒向きの人間じゃあない。
「やい!俺のこと無視するんじゃねぇ!」
「「「あ、忘れ(て)(とっ)た。」」」
「やい!んだよ、小沢さんまで!…畜生、ゼッテェ泣かせてやる!」
ぎり、と歯を鳴らし、二人を睨む潤。単純と言うか、何と言うか。頼もしいことだ。
347
:
each other
◆/KySNfOGYA
:2005/11/22(火) 19:49:24
そんな至って真面目な潤を嘲笑うかのように睨む。確か、綾部君とか言った。
「…君?何がおかしいの?」
「いや、大女優と結婚して浮かれてるのかなあ…って思いまして。」
くすくす、くすくす、と笑う。…ああ、潤、ちょっと怒るかも。
「…裕実は、関係ないだろ。」
ぞくり。
冷ややかな空気が辺りを包む。潤がキレた。正直、少し怖い。
「…フフ、じゃあ、その二つの石、貰いますよ。又吉。いくぜ。」
「おう。」
又吉君が息をすぅ、と吸い込んだ。瞬間。俺達の目の前で、何かが起こった。
彼はゆっくりと、口調を崩さず俺達に語りかけるように物語を話し出す。
「あぁぁあぁあぁ!!!!!!!」
「っひう、っさ、ん、ああっく、っふ…!!!!」
涙が溢れてくる。潤は頭を抱えてしゃがむ。俺は泣き崩れる。
脳内でどんどんと大切な人が殺されていく。消滅していく。
俺がいくら名前を呼んでも、皆は無視して俺の目の前から消えていく。
まるで、あの頃のように。
348
:
each other
◆/KySNfOGYA
:2005/11/22(火) 20:04:54
俺は、高校を中退した。全てが信じられなくなった。
ただ、それだけのこと。苦しかった。本当に、苦しかった。
でも潤はきっとこれ以上の苦痛を味わっているんだ。
俺は頭を抱え、涙を流しながら思った。(更なる苦しみによってそんな考えは頭からうせたけど)
「、さ、小沢さ、ん!大丈夫…?!」
「…潤…」
俺は安心し、さらに涙が溢れる。けれど、そんな余裕はない。
彼らのほうを見る。くすくすと笑っていた。
「どうでしょう…?素敵やありません?この物語は。」
「…これを素敵だなんていうんなら、君ら、相当趣味悪いね。」
「ほめてくれて、どうもありがとう御座います♪なぁ、又吉。」
「……そやね。」
あくまでテンションをあげようともせず、下げることもなく。ただ彼は、淡々と。
…まさか。
「…小沢さん。こりゃあ、負けてらんねぇな。」
「そうだね。…行くよ、潤。」
潤は黙って頷く。
「そんな事よりパーティ抜け出さない?」
パチン
しゅん、と。舞台は町から山に変わる。
そして連続攻撃だ。
「ミツバチ達が君を花だと勘違いして集まって来ちゃうだろ。」
パチン。
俺が指を鳴らすとピースの二人の周りにミツバチが寄ってくる。
そしてミツバチ達が攻撃してくる。
「っくそ!」
綾部君が言って、地面を触る。その時、石が光った。
地面が盛り上がり、龍の形となって俺達に向かってくる。
「!」
「、やい、あたし、認めないよ!」
潤が言うと、龍は動きを止め、崩れ落ちた。
すると俺の力も解けたようでミツバチが消え去っていた。
349
:
each other
◆/KySNfOGYA
:2005/11/22(火) 20:13:13
「…厄介な力ですね。」
「そりゃどーも。」
綾部君がチ、と舌打。
二人に僅かな隙が出来る。そこを俺は見逃さない。
「(此処は逃げたほうがいいか。)」
「君は僕のカワイイ子猫ちゃんだから!」
パチン
ぼん、と煙が二人を覆い、煙がなくなると二人は人ではなく、
ダボダボな服を身に纏う可愛らしい子猫になっていた。
「…ったく…。手ごわい奴らだった…。」
潤はふぅ、と溜息。
「俺の力の時間も少なくなってきてるし…。此処は逃げよう。」
「そうだな。」
「そんなことよりパーティ抜け出さない?」
パチン
先程の町に戻ってくる。俺達はハァ、と溜息を漏らし、顔を見合わせ、少し笑った。
「…ねぇ、潤。」
「あ?」
「……俺ね?どうも、あの二人は、望んで黒にいると思えない。特に、ホラ、物語の力を使う彼。」
「…ああ。アイツか。何で?」
俺は少し黙り、口を開いた。
「少し…悲しそうだった。戦いながら笑っている綾部君を見て…。」
俺は俯く。
「彼らの……彼らの、心の欠片<ピース>を握っているのは誰なんだろう・・・。」
潤が俺を見つめる中、おれは心の底から溜息を漏らした。
350
:
名無しさん
:2005/12/01(木) 22:40:32
廃棄させていただきます。
中途半端な波田陽区とヒロシとだいたひかるの話。
351
:
名無しさん
:2005/12/01(木) 22:40:57
「今週だけでこれだけですよ。」
ここはとある収録スタジオ。少し薄暗い楽屋内。
波田はきょとんとした顔で、そう言って突き出してきたヒロシの拳を受け止める。
下に手を添えると、指が解かれて何色もの石が波田の手に落ちた。
「…うわ〜、大量ですねぇ」
目を輝かせる波田とは対照的に、ヒロシの顔色は暗い。
「こんなのいらないですよ。朝から晩までなんだか監視されてるような気がして、落ち着かないですし…」
俯くヒロシの目の下には隈が浮き、まともに睡眠時間を取れていない事を窺わせた。
「じゃあ俺が引き取りますよ。…なんか随分濁ってますね。」
内部から沸き起こっているような薄い曇り。波田はこのくすんだ色を今まで何度も見ていた。
「黒のユニット、…ですか。」
あの組織に関わった石は大体こんな感じの色をしている。
「…俺狙われてるんでしょうかね。」
「まぁ…そうなんじゃないですか?こんなに襲ってくるんでしたら。」
波田は、懐から袋を取り出し、今しがたヒロシから譲り受けた石を丁寧に仕舞う。
随分この袋も重くなったもんだ。波田が満足気に微笑む横で、ヒロシは自分の指に光る石を眺めていた。
「僕も波田さんみたくペンダントにすれば良かったかな。」
オリーブ色の上品な石。それを、ヒロシは少しいかつい指輪に加工して自分の指にはめていた。
「そうですか?首苦しくなる時ありますよ、これ。」
「…抜けなくなっちゃったんですよ。」
「え?」と、波田が聞き返すより先に、ヒロシは不安げな顔で続けた。
「どうしても、抜けなくなっちゃったんです。引っ張ってもびくともしない。どうしたら良いんでしょう。」
352
:
名無しさん
:2005/12/01(木) 22:41:33
顔は青ざめ、何かに怯えるようにしてヒロシは指を押さえる。
「落ち着いてくださいヒロシさん。指輪が外れないだけでしょ?大丈夫ですって…」
「俺思うんです。この石は俺の皮膚と同化しているんじゃないかって。…最近、断続的に指が痛むんですよ。」
「そんなまさか…」
背中を丸め、指を押さえながらうずくまるヒロシの姿は痛々しく、波田はかける言葉が見つからなかった。
やがて、ゆっくりと顔を上げたヒロシはその手をかざし、「見てください波田さん。」と力無く言った。
「俺の石、濁ってきてませんか?少しずつですけど…」
そう言われて見ても、波田の目にはそれはただ澄んだ美しい石にしか映らなかったし、
ヒロシと違い四六時中その石を眺めていたわけでは無かったので色の違いもよくわからなかった。
「考えすぎですよ。」
「…そうでしょうか。色が…変わってきている気がするんです。
俺が最初にこの石を手にした時はもっと澄んでたのに…なんだか…怖いんです。俺、いつか黒の…!」
「ヒロシさん!」
しっかりしてください、そう言って波田はヒロシを諌めたが、ヒロシの顔色は優れない。
「ヒロシさんノイローゼなんじゃないですか?石の事考えるの止めた方がいいですよ。
自分をしっかり持っていないと、石に呑まれてしまいますよ。」
「…そう、ですよね…」
「もうすぐ時間ですし、スタジオ行きましょう!仕事したら忘れますって!」
なるべく怯えさせないように肩に触れると、ヒロシが小さく震えているのがわかった。
「波田さん、もし…」
「はい?」
顔を上げたヒロシと、立ち上がった波田と目線がかち合う。
「俺がもしも、石に呑まれて暴走するような事があったら、
黒側に回ってしまったら…、俺をこの石ごと斬って下さいね…」
353
:
名無しさん
:2005/12/01(木) 22:42:07
あれから三日経った今も、その言葉はまだ波田の頭の中に反響していた。
あの時、自分は「出来ない」と言った。
石を斬るという事、石を破壊するという事、それはつまり持ち主の死を意味している。
――例え敵になったとしても、友人は殺せない。絶対に。
ヒロシの石は、本当に皮膚と同化してしまったのだろうか。
そんな事あるわけがないとわかってはいるけれど、あの時の尋常じゃない様子を思い出すと不安になる。
もしヒロシが暴走したら、自分は斬れるだろうか。一時的に石に操られているのとはわけが違う。
石と同化した人間を、自分は斬れるだろうか。いつぞや長井を斬った時のように、容赦なく刀を振るえるだろうか。
354
:
名無しさん
:2005/12/01(木) 22:42:35
「あーもう!」
波田は不安を消し去るがごとく頭を振り、頬を叩いた。
そんな馬鹿な事あるわけがない。
「俺は何を本気にしてんだ…」
ヒロシの石は澄んでいた。そうだ、一辺の曇りも無かった。心配は無い。何も。
しかし依然胸の曇りは晴れず、波田の意に反して膨張するばかりだった。
自分を見上げ、すがるような眼差しを向けてきたヒロシ。その目は必死で、どこか儚くて波田は恐ろしく感じた。
ただの杞憂であって欲しい。波田は気を紛らわせようとギターを引き寄せる。
体を曲げたはずみで首から下げた石が着流しの裾から垂れた。
ミルク色の優しい色をしたこの石、ヘミモルファイト。初めて目にした時と変わりなく澄きとおったまま。
石には意思があると、誰かから聞いた。持ち主の意思に関係なく、悪意ある石は黒へ、善意のある石は白へと
持ち主を導くらしいと。石が話しかけてくるのだと。そんな事、あるのだろうか。
だとしたら自分の石はどちら側なのだろうか。
この石も、いつか黒く染まる日が来るのだろうか…
疑問は尽きず湧いて出る。
それからため息も。
355
:
名無しさん
:2005/12/01(木) 22:42:55
「悩み事ですか?」
突然降ってきた、どこか抑揚の無い声に顔を上げると、そこには数少ない女ピン芸人だいたひかるが立っていた。
自分の世界に入っていたせいで一瞬呆けていた波田だが、ふと我に返って思い出した。
ここはテレビ局で、自分はこの後収録を控えている。廊下のソファに座って休憩していたんだ。
だいたはテレビで見る時と全く同じいつもの無表情で両手に缶コーヒーを持っていた。
軽く頭を下げて挨拶をし、少し席を詰めて、「座りますか」とそう尋ねると、だいたは苦笑して言った。
「…波田さんって無防備なんですね。私の事疑わないんですか?私、黒かもしれませんよ?」
「石を隠しもせずに堂々と指にはめている人に言われたくないですよ。…石を見ればなんとなくわかるんです。
少し黒がかった石を持ってる人はヤバイんですけど、だいたさんの石は真っ青ですから。」
波田はそう言ってだいたの右手に輝くリングを指差した。
「そうですか。でも私白でも無いですよ。」
「そうなんですか。」
「ええ、興味ないんです。だってバカらしいじゃないですか。」
同じ芸人同士なのに。
だいたは波田の隣に腰を下ろし、けだるそうにため息をついて缶コーヒーを開けた。
「おかしいですよね。なんか最近、みんな殺気立っちゃってる。
知ってます?誰かは私も聞かなかったけど、若手で死にかけた人がいるんですって。」
「本当ですか?」
そう聞き返すものの、内心、波田はそんなに驚いているわけではなかった。
人間の欲望や信仰心というものは凄まじいものだ。そしてこの石はその対象になるには十分なほどの魔力を秘めている。
そのため波田はいつかこうなる事を予想していたし、なって当然だとも思っていた。
356
:
名無しさん
:2005/12/01(木) 22:43:13
「どこか狂ってますよね。」
「狂ってますねぇ。」
こんな石に、命まで投げ出す人がいるんですねぇ。だいたは吐き捨てるように言う。
波田はヒロシの言葉を思い出していた。
『俺がもしも、石に呑まれて…暴走するような事があったら、黒側に回ってしまったら―――』
石のために命を捨てるというのなら、ヒロシも狂っているのだろうか。
「ヒロシさん…」
だいたが小さく呟いた。波田は驚いて顔を上げる。なぜここでだいたの口からその名が出たのか。
「…?ヒロシさんがどうかしました?」
さっきまでの嫌な妄想が頭を駆け巡る。
「そうだ、私ヒロシさんを探してる途中だったんですよ。」
「…探してる?」
嫌な予感が加速する。だいたはなんでも無いような声で言った。
「消えちゃったんですって。煙みたいに楽屋から。」
「えっ―――」
357
:
◆LHkv7KNmOw
:2006/01/24(火) 15:15:12
雨上がり決死隊中心の話を途中まで書きました。最後まで書けるか目処が立って
いないので、ここに投下してみます。あと、能力スレの>302もちょっと見てください。
358
:
◆LHkv7KNmOw
:2006/01/24(火) 15:18:29
故意の空騒ぎ
Ⅰ・はじまりはおだやかに
「…どうする?」
「聞かんといてくださいよ。」
周りを見渡せばざっと10人。
一体何なんだ。黒ユニットは人間のクローンでも作ってるのか?
「こうなったんも全部…。」
目の下に隈のある、やや影を背負った男が呟く。
そして、隣に突っ立っている男を横目で睨みつけ、良く通る声で叫んだ。
「お前が石を無くしたんが悪い!」
「そ、そんなんゆうても仕方ないやん。」
カメラが回っていないところでは滅多に大声を出さない筈の相方に少なからず動揺する。
電光につやつや反射する髪の毛を掻きながら、雨上がり決死隊・蛍原が困ったように言った。
そうなんです…。蛍原は石を携帯のストラップの代わりにして持っていたわけで…。
ある日その紐が切れかかっていたわけで…。
でも「まあいいか」と思った蛍原は、そのまま仕事を続けていたわけで…。
いつの間にか何処かに落としてしまったのです。
359
:
◆LHkv7KNmOw
:2006/01/24(火) 15:21:17
さかのぼること数時間前。
「あ、携帯がない。」
と、気付いた時にはすっかり夜も更けてしまっていた。
何気なく携帯を取り出そうとポケットに手を突っ込んだ瞬間、いつもはあるはずの物が無いことが分かった。
記憶を掘り返す。確か、最後に使ったのは控え室の中だった筈だ。
踵を返し、もう一度建物の中に入る。
歩みは段々早くなり、何時しか走り出す程になっていた。
顔に少なからず焦りの色が見える。
それは、電話が掛けたいからとか、早く帰りたいからとかそういう理由ではなく。
彼は携帯にストラップとして自らの石、モスアゲートを取り付けていたのだ。
万が一例の、最近噂になっている『黒』とかいう奴らに拾われてしまっては、という考えが頭を過ぎる。
その嫌な予感を打ち消すように、頭を振る。
それに合わせて自慢のさらさらの髪の毛が宙を踊るが、決して乱れることは無かった。
控え室の扉を勢いよく開ける。
膝に手を置き、前屈みになって二、三度大きく呼吸し、唾を飲み込む。
中では相方である宮迫が本日何本目になるのか分からない煙草を吹かしながら雑誌を黙々と読んでいた。
ドアの音に少しだけ反応し、顔を上げるも、ちらりと蛍原に目線を向けただけで、再び雑誌を捲り始めた。
宮迫の後ろの方でガサゴソ、ガタン、と耳障りな音が小さな控え室の壁に反射し、響く。
「あれ〜……?」
と、蛍原の困ったような声が時折聞こえた。
宮迫は雑誌をテーブルの上に投げ置き、
「どないしたん。」
酷く面倒くさそうな口調ではあったが、やっと口を開いた。
360
:
◆LHkv7KNmOw
:2006/01/24(火) 15:23:59
「いや、俺の携帯知らん?」
「え〜…?見てへんで。」
欠伸をしつつ、宮迫は答える。
なんだ、そんなことか。とでも言いたそうだ。
__あんな、あの携帯には…。
という言葉が喉まで出かかったが、まだ思い当たる場所はある。
少しでも騒ぎにしたくない事と、ついでに(あくまで“ついで”だ)相方に心配かけたくないといった理由で、この時は言わなかった。
ところが、だ。何処を探せど、携帯は見つからない。
蛍原は苛ついて髪の毛をがしがしと掻く。これはいよいよやばくなってきた。
石を無くしてしまった、という焦りと共に、心臓も早鐘の如く鼓動する。
再び控え室の近くに戻ってきてしまった。足取りは重い。
今度は静かにドアを開けた。
宮迫は未だ煙草を吸いつつ、別の本を読みふけっている。
「なあ、ホンマに見てない?」
「しつこいぞ。」
蛍原はドアの前で、身体を丸めてしゃがみ込んだ。
その尋常ではない落ち込みようにさすがに違和感を覚えたのか、宮迫が声を掛ける。
「そんなに携帯が必要なんか。やったら俺に言えばそんくらい…。」
「宮迫、俺の携帯な…。」
貸してやるのに、と言いかけた宮迫の声を遮るように、蛍原が口を開いた。
361
:
◆LHkv7KNmOw
:2006/01/24(火) 15:26:30
「…お前何してんねん。」
相方に事情を説明すると、酷く小さな声、且つ無表情でこう言われた。
少しだけ、背中に寒気が走った。
これなら怒鳴られてビンタされた方がまだマシかも知れない、とまで思えた。
はあ、と深い溜息をと共に乳白色の煙が吐き出される。
煙たさに咳が出そうになるも、妙な緊張感から、それさえも許されないような錯覚に陥る。
宮迫は灰皿に吸い始めたばかりの煙草をぐりぐりと押し付けた。
溢れかえった灰皿から二、三本の吸い殻がテーブルに転げ落ちる。
ゆっくり椅子から重い腰を上げ、宮迫はジャケットを羽織る。
何故か無言のままの宮迫に声を掛けることが出来ず、蛍原はその様子をじっと見詰めた。
そして宮迫は蛍原とすれ違う瞬間に、「おい、行くぞ。」と一言だけ言った。
「はは…、頼もし。」
予想外だったのか。
早歩きで楽屋を出る宮迫に、蛍原は嬉しさを隠せなかった。
362
:
◆LHkv7KNmOw
:2006/01/24(火) 15:29:23
とりあえず此処まで。
続きはなんとなく構想を練ってはいます。評判が良ければ頑張って書きます。
363
:
名無しさん
:2006/01/26(木) 10:06:15
>>357-362
乙。なんか面白そうだね。
もし続きを書くならここじゃなくて添削スレの方がいいかも
364
:
◆k4w5bzAdTA
:2006/01/30(月) 23:53:46
オリラジのちょっとした話。
**************************************
収録前の、共演者で賑わう楽屋。
隅に二人の男が輪から離れて座っていた。
「誰か持ってる人いると思う?」
二人の内の片方、眼鏡をかけた男が尋ねた。
何のことかは言わなかったが、『石』を指している事は間違いない。
「…バッドさんとか」
相方の質問にもう一人の男が共演者である先輩の名を出した。
やっぱそうかなー、と呟いた男―オリエンタルラジオ・藤森の手には小さな石があった。
彼が言うには、最近この石を―まるで石が付け回して来るかのように―色々な所で見掛けるようになり、いい加減鬱陶しくなったそうだ。
だからとりあえず拾ったらしいが、
「どうするんだ、それ」
相方の―オリエンタルラジオ・中田が言った。
365
:
◆k4w5bzAdTA
:2006/01/30(月) 23:55:06
決めてない、と藤森は答えた。
―どうやら本当に『鬱陶しいから拾った』だけらしい。
中田は藤森に気付かれぬようにこっそりと溜め息を吐いた。いつもの事だけど、コイツは一々危なっかしい。
拾って、誰かに襲われたりしたらどうするつもりだったのだろうか――多分そんな事思い付かなかったのだろうけど。
二人が『石』についての話を先輩から聞いたのは、結構前のことになる。
中田は正直冗談だと―からかわれているのだと思った。そんな非常識な事を信じろという方が無理だった。
だから、その先輩が目の前で起こした超常現象も暫く信じる事ができなかった。
藤森は直ぐに信用して夢中になっていたけれど。
366
:
◆k4w5bzAdTA
:2006/01/30(月) 23:56:15
「関わらないようにする、って言っただろ?」
石をじっと見つめている藤森に問いかける。
それは『石』のことを知った後に二人で話し合って交した約束だった。
「うん、でも面白そうだし」
中田は相方の言葉に目を丸くした。
「お前、それ」
本気で言ってるのか。そう続けようとして気付いた。
石を見つめる藤森の目が、まるで取り憑かれているかのようにギラギラと光っている事に。
思わず絶句した。
同時に―おそらく白なのであろう―先輩の言葉を思い出した。
危ない目に合いたくなかったら、関わったらいけないよ。
関わったら、もう戻れないから。
中田は藤森の持つ石を見た。
ざまあみろと言うかのように石が煌めいた。
何かが崩れていくのを感じた。
もう無関係ではいられないのだと、思い知った。
367
:
名無しさん
:2006/01/31(火) 12:44:45
>>364
-
>>366
乙!続きが気になる。ぜひ書いてくれ!
368
:
名無しさん
:2006/01/31(火) 16:00:57
>>367
続き考えてないし、依頼スレの45さんがいらっしゃるので
一応ここで終わりの予定です。
369
:
◆k4w5bzAdTA
:2006/01/31(火) 17:15:16
トリップ付けるの忘れてた…
>>368
は私です。
370
:
名無しさん
:2006/02/03(金) 16:46:47
麒麟とスピワの軽い話考えてみたんですが投下オケ?
371
:
名無しさん
:2006/02/03(金) 17:08:20
いいとオモ。
372
:
名無しさん
:2006/02/03(金) 17:16:58
てか投下してくれ。
373
:
◆y6ECaJm4uo
:2006/02/03(金) 22:32:47
了解。遅くなってすまん。軽いと言うか、ちょっとシリアスな番外編、みたいな。
「―−君ッ!!何やってんの?!」
おざ―さん?何で泣いてるの?
「やめぇやっ!やめてくれッ!!」
何で、喚いてるの?
「なぁ、どうしたんだよッ!!」
俺…何で怒鳴ってるんだ?
「川島君ッ!!」
【 夢 】
嫌な夢だった。夢から目覚めた俺は、嫌な汗で体中べたべただった。
気色の悪い感触。奥さんが大丈夫?と声をかけてくる。俺はニコ、と微笑む。
石を見た。妙に禍禍しく光っている。まるで―−今の夢が―…。
―――真実となる、ようで。
◆
今日は笑金の収録があった。笑金の特徴と言えば、休憩時間が長いこと。
芸人達は雑談をしたり、クイズを出し合ったり、それぞれ楽しい時間をすごしていた。
ふと、井戸田は楽屋の端を見ると、川島が一人、目を瞑って座っていた。
井戸田は今日、見た夢のこともあり、妙に気になって声をかけにいく。
「どしたの?」
「…潤さん。いや、別に何もないですよ。…ただ、頭痛がちょっと。」
「そうなの?大丈夫?…何かあったの?」
川島は一瞬、ドキッとした。それは、井戸田の言葉に心当たりがあったからだ。
―−2丁拳銃の、襲撃。その日から頭痛が度々あった。そして途切れ途切れに聞こえるのだ。
あの日、聞いた声だ。黒く淀んで、…まるで、人の悪意によく似た。
「…君?川島、君?」
「、ぁ、ハイ。大丈夫です。…スンマセン、ちょぉ、放っておいて貰えませんか?」
「…。ン。わかった。無理、しないでね。」
川島は軽く礼をした。そして井戸田は見逃さなかった。
…黒水晶が見せた、酷く禍禍しい光を。
374
:
◆y6ECaJm4uo
:2006/02/03(金) 22:43:59
井戸田が小沢の横を通り過ぎた時、こっそりと声をかけた。
(おざ―さん。ちょっと。)
(…ン。)
小沢は後輩達にちょっとゴメンね、と席をはずした。
◆
「―−川島君の、様子がおかしい。…正しくは、黒水晶の、だけど。」
「…ウン。何となく、気付いてたよ。」
「光が、いつもより鈍いんだ。…黒の、石みたいで。」
「―!まさか…?!」
「いや、川島君に限ってそれはないよ。」
沈黙が流れる。ギィ、と扉が開く鈍い音がする。
そこにいたのは今、会話の主役となっていた川島の相方。
田村裕、だった。
「…?どないしたんです「田村君!」
「、っちょ、何なんですか?どないしたんです?!」
「…川島君の様子がおかしいんだけど。何か気付いたことはない?」
「え…。…!」
まさか、と言った田村の表情。
小沢と井戸田は顔を見合わせ、田村に問い詰める。
「…心当たり、あるんなら教えてくれないかな?」
「川島君の為なんだ。」
「―…。実は、」
ガシャァァァァン!!
『?!』
「ッ、行こう、潤!田村君!」
「はい!」
「オウッ!」
井戸田は、自分を恨んだ。
普段の自分では全く使えないカンが、まさか、
こんな時に当たってしまうなんて。
唇を軽く噛んだ。
375
:
名無しさん
:2006/02/03(金) 22:59:22
小文字が多いのが少し気になるかも。嫌いな人も多いですし。
でもGJ!続き楽しみにしてます!
376
:
◆y6ECaJm4uo
:2006/02/03(金) 23:18:40
バタンッ!
乱暴に扉を開ける井戸田。
其処には、赤みのかかった瞳の川島が、いた。
「ッ、ぁあぁああああ!!」
「竹山さん?!」
竹山の名前を何度も呼び、小沢は竹山の体を揺らす。
すると体をブル、と震わせ、竹山は一回発狂して、気を失った。
「(竹山さんは炎を使えて、相当強い。…その、竹山さんが…。)」
「川島君ッ!!何やってんの?!」
「―−何、って?」
「やめぇや。やめてくれ!何したいねん、川島!」
「…関係ない。」
「なぁ、どうしたんだよッ!!川島君ッ!!」
『カワシマ…。アア、宿主様のこと。』
クク、と自身の低く響く美しい声でいやらしい笑い声を上げた。
明らかにいつもの川島とは様子が違った。
目は赤く、雰囲気がいつもより黒々しい。
噂に聞いたことはあった。稀に、石のあまりに強大な力に呑まれ、自我を忘れて
身を石に預けてしまうらしい。
『…フフ、驚いているようですねェ…?』
「、ったりめぇだろッ…!」
「何をしたの…?川島君に。」
『イエイエ。大した事はしてませんよォ。…タムラなら、知ってるはずですけどォ。』
「…ッ、」
『語る時間位なら差し上げますよ…。ま、その後はどうなるか。それは貴方達しだいですけどネェ…。』
「ちょっといい?」
『ハイ?』
川島―−…いや、黒水晶はニコリと微笑んだ。
いつもの優しい微笑みでなく、恐ろしい微笑み。
「他の、何にもしらない芸人は如何した?」
『…そうですねェ。ハンデとして、教えてあげましょうかァ…。
俺の真実の力は三つ。一つ目は御存知である影に隠れる。
二つ目は、影に人を閉じ込める、こと。三つ目は闇に人を呑む、こと。』
「二つ目の力で他の芸人を…。」
『エエ。邪魔、ですしネェ。もう説明終わりですし、タムラ、どうぞ?』
「…何で呼び捨てやねん。…実は、少し前に2丁拳銃さんが…。…襲ってきたんです。」
驚きの表情を隠せないようだった。
まさか―−、何の関係もないような二人が。
黒でない麒麟を襲ったと言うことは、必然的に。
2丁拳銃の二人が、黒だ、ということで。
「そん時、川島、ちょおオカシい時があったんです。…多分、コイツが出てきたんだと思います。」
『ハハッ!鋭いじゃァないか!タムラァ!…もう、いいですね?…そろそろ、我慢の限界なんだ…。』
身をブル、と震わせる。
それは確かに、犯罪者のような、姿で。
殺しを楽しむ連続殺人魔のような。
井戸田は顔を青ざめさせ、酷く神を恨んだ。
377
:
◆y6ECaJm4uo
:2006/02/03(金) 23:20:13
一応此処までです。
ヤバイ…前のお方が素晴しすぎるから
駄っぷりが余計目立つ…。
378
:
◆1En86u0G2k
:2006/02/09(木) 01:30:54
すいません、こちらで以前投下されたよゐこ2人の能力案を使わせていただきたいのですが、
よろしいでしょうか?
負荷のことなど自分が勝手に考えた部分もあるので、
98(ikNix9Dk)さんがいらっしゃいましたらお返事頂けると幸いです。
379
:
名無しさん
:2006/02/11(土) 17:53:26
>>378
自分98さんでは無いけど、向こうは廃棄スレに投下していたし
話も番外編だと言っていたので、少し位の変更なら良いんじゃないでしょうか?
380
:
名無しさん
:2006/02/11(土) 22:45:11
内Pメンバーで何か書いてみようとして挫折しました。
その一部を投下。
なんからしら使ってもらえたら幸いです。
「ごめん、ふかわ。……俺は最後の最後に、自分に負けた」
何かを悟ったような笑み。柔らかい、いつもの口調。
「だから、俺はこのまま消えてしまうと思う。そう遠くないうちにこの黒い石は完成される。……それでこいつは、白い石を止めてくれるだろう」
当たり前の事実を口にしている、そういうような、悲しみも何も含まれてない言葉。
ふかわは拳を握り締めて、じっと聞いていた。まだ涙は溢れてきていない。
「俺一人でみんなが助かるんだ。……なんか映画みたいだな」
自分が消えることによって周囲に平穏が訪れる。ふかわが、大竹が、三村が、仲間たちが苦しい戦いから解放される。
それは内村にとって、一部でとても魅力的であった。そしてその自己犠牲のみを願っていれば、黒い石に侵食されることはなかっただろう。
しかし内村のもう一部分は、その平穏の中、仲間たちと笑いあう自分の姿を願ってしまう。
少し前みたいに、みんなで馬鹿みたいな事をして、くだらないことを喋って笑っている自分の姿を……
その当たり前の願いがほんの少し、黒い石につけ込む隙を与えていた。
「映画……」
このメンバーで、いつか撮りたかった。こんな酷い物語ではなく、もっと温かい、幸せになれるような映画を。
こじ開けるように心の隙間から黒い力が流れ込んでくる。自分というものが徐々に希薄になっていく感覚に、内村は流れるはずのない汗を感じた。
「……でも」
黙って内村の話を聞いていたふかわは口を開いた。
「内村さんが吸収される前に、白い石を僕たちが倒してしまえば、」
「それは、無理だ」
ふかわの言葉を遮り、内村ははっきりと言った。
「白い石を倒す方法がないんだ。黒い石を使う以外の方法は、調べてみたけどなにも見つからなかった」
381
:
◆1En86u0G2k
:2006/02/13(月) 01:01:01
>>379
お返事ありがとうございます!
とりあえず出来上がり次第、添削スレの方にその旨も含めて
投下してみようと思います。
382
:
98
◆hfikNix9Dk
:2006/02/13(月) 13:30:18
>>381
98です。是非使ってくださいますようお願いします。
一応前に書いた設定の補足をしておきます。
有野:影の変形は単純な形状(適当な形の手・ハンマーなど)のみ可能
濱口は「完全な同意者」であり、彼の影を使うこと・彼とともに影と同化することができる
影さえあればOKなので、懐中電灯などを持っていればいつでも使える
影=存在を無理に増幅する能力なので、過剰に使いすぎると自分の存在自体にバグを起こし、
酷い吐き気や重圧感に襲われ動けなくなる
濱口:精神攻撃などは、相手がトリガーとなる言葉を口にすると同時に
「捕った」と言わなければ止められない
精神攻撃を跳ね返した場合、その有効時間は本来の半分となる
とりあえず考えていたものなので、変更・補足をして頂いて構わないです。参考程度に。
文才が皆無なせいで、ほぼ設定だけ考えて放置していた状態でしたので…
使って頂けるだけでとても嬉しいです。
383
:
◆yPCidWtUuM
:2006/02/16(木) 23:30:17
すいません、ちょっとさまぁ〜ずの、というかバカルディの昔話を書いています。
いくらか書き進めてみたのですが、この先少しこちらへの投下作品から設定をお借りしたく思います。
>>33
のさまぁ〜ずとくりぃむの話のうち、
「家族持ちの三村のために黒を選ぶさまぁ〜ず」という設定。
(t663D/rE)さんの“Black Coral & White Coral”のうち、
>>103-106
の中で、バカルディ時代のさまぁ〜ずが白だった、という設定と、虫入り琥珀を大竹が持ち出す設定。
これをお借りして書いてみたいと思っているのですが、よろしいでしょうか?
文章などは基本的に借用する予定はなく、設定のみです。
お二方とも、もし見ていらっしゃれば、お返事いただけるとありがたく思います。
384
:
小蠅
◆ekt663D/rE
:2006/02/18(土) 01:54:52
>>383
どうも、こんにちは。
その設定はもともと本スレ投下分では使わなかった物ですが、
特に相反する設定で書かれている方はいないようですし、自分は大丈夫ですよ。
投下される話がどういう話になるか、楽しみにしています。
385
:
◆yPCidWtUuM
:2006/02/19(日) 01:51:02
>>384
ありがとうございます。それでは使わせていただきます。
ekt663D/rEさんの作品、いつも楽しく読ませていただいてます。
そちらのお話も楽しみにしております。
386
:
名無しさん
:2006/02/21(火) 16:43:48
おざーさんとハチミツの戦闘なしのお話おk?
387
:
名無しさん
:2006/02/21(火) 19:52:52
いいお
388
:
名無しさん
:2006/02/21(火) 20:05:14
新宿にある居酒屋で、一人の男が佇んでいた。
名前は小沢一敬。「白」の一員である。
【我ノ正義ハ正シキ路】
「(遅いなぁ)」
生ビールを一口、口に含んで小沢は思った。
彼は今、人を待っていた。
その人は彼にとっての親友であり、いい相談相手だった。
「遅くなったな。」
「…二郎ちゃん。」
にこ、と小沢が微笑み、どうぞと席を空けた。
小沢と二郎は今、相反する立場にあった。
二郎は「黒」小沢は「白」
彼らは本当は敵同士なのだ。
それ故に二郎は警戒していた。
いつ、戦いを挑まれるかわからないから。
スペサルタイトを軽く握り締め、席に座った。
彼の石は決して戦闘向きではなかったので、余計に緊張していた。
「(けど、知らないと思うんだよなぁ。俺が黒だってこと。直接黒と白としてあってねぇし。)」
―−っつか、知られて欲しくない、というか。
「どしたの?何か頼みなよ。小沢さん奢っちゃうよ!」
「…珍しい。」
「そうでもないって。」
はは、と苦笑してまたビールを飲んだ。
二郎は店員を呼び、ビールを頼んだ。
「…あ、そだ、二郎ちゃん大酒飲みだから俺破産しちゃうかもなァ…。」
「大丈夫、そんな飲みませんよ。」
苦笑。暫く、沈黙が続いた。
389
:
名無しさん
:2006/02/21(火) 20:20:33
そして暫くして、店員が二郎の注文した品を持ってきた。
二郎は早速飲み始める。
「…で、何の用よ。」
「……二郎ちゃん、さ。」
「ん?」
「………黒なんだよね?」
二郎は言葉に詰まった。
やはり気づいてしまったのか。
正直迂闊だった。何にも気にせず、思い切り飲める親友だったから。
ピリピリとした関係になるのが辛かった。
「―−なんで知っている?」
「…俺の友達が、二郎ちゃんに襲われた、ってさ。」
「……。」
「アイツはキケンだ 一緒にいるのはやめとけ いつか君をも」
「襲うだろう、って。」
真剣な眼差しに二郎はたじろいだ。
その言葉を発したのは誰か。そんな考えが脳内をめぐる。
「…俺は今日、戦うつもりはないよ。石、置いてきたし。」
「……アンタさ、本当に甘いよなぁ。」
「どっちの意味で?」「色々な意味で。」
二人は笑って言い合った。
黒と白。
そんなものはこの間忘れていた。
「…二郎ちゃんさ、何で黒に入ったわけ?脅されてたりするの?」
「そんなんじゃねぇ。」
…
・・・
「そんなんじゃない、あの人は、そんな汚ぇことしないよ。」
「…っじゃあ、何で?」
390
:
名無しさん
:2006/02/21(火) 20:26:00
「…黒に誘われたとき。俺は、本能に問いかけた。」
"俺の心よ"
"俺の正義とは何だ?"
「…そう問いかけたら、黒に入れ、と声が聞こえた。ただそれだけだ。」
「二郎ちゃん…」
「俺の選んだ路が、正義だ。俺はそう思ってる。…それに松田はついてきてくれてる。…感謝、してるんだ。」
悲しそうだった。
小沢の勝手な考えかもしれないが。
悲しそうな瞳を、していた。恐らく嘘をついてると彼は察していた。
「…今日は、さ!白とか黒とか忘れて飲もうね。」
「おう。…次会うときは、敵かもな。」
「…そうかも、ね。」
いつくらいかな。
この戦いが終わるのは。
F i n
391
:
名無しさん
:2006/02/25(土) 16:10:10
かこいいv
392
:
rosso
:2006/03/27(月) 01:50:54
無名芸人(正直誰でもよかったw)主人公で行きますー
品庄の品川出てきますー、こっちも誰でも良かったんですが、私がファンなのと
芸人さんの中でも特に欲が強そうだったので。
石は適当です。石がしゃべりまくるのでそういうの嫌いな人はスルーしてくださいー
393
:
rosso
:2006/03/27(月) 01:51:45
少しばかり街から離れた、暗く静かな道で、
音も無く、目の前に出てきたのは見たことも無い生き物であった。
最初は暗闇の中にしゅー、しゅー、という不気味な呼吸しか聞こえなかったが
やがてじゃり、じゃりと足音を立て、歩み寄ってきた方と思うと、ゆらりと街頭の下に姿を現した。
それはぱっと見、人より二周りは大きな半魚人のようであり、
黒い鱗で全身は覆われ、手足は鷲のような鋭い鍵爪で、肩からは突起のような大きな角が飛飛び出ていた。
身体だけではない、目はぎらぎらとひかり、魚のようにぎょろりとして、口は耳元まで裂け、
そこから滴るなぞの液体は、地に落ちるたびジュウ、という音を立てて小さく地面に穴を開けた。
まるで映画に出てきたエイリアンのような風貌にくわえて、さらには腐った魚のような悪臭。
こんなものが夜道物陰からのっそり出てきたのだから、とっさに亜『黒』の襲撃かと、
瞬間的に身構えた品川であったが、次の瞬間思いがけない言葉を聞いた
化け物がこちらを見て、一瞬身震いしたかと思うと。
「ギャー!!!化け物ーーーーー!!」
と、叫んだのである。
化け物はお前だろうが。と突っ込む間もなく。化け物は必死の形相で、ダッシュでその場から逃げ出した。
残されたのは唖然としたままの品川と、その声に何事かと窓を開けて外を見回す近隣住民のみ。
「何だったんだ・・・・」
という呟きは、
夜の帳の下りた、暗い闇の中に吸い込まれていった。
394
:
rosso
:2006/03/27(月) 01:52:41
少し離れた暗い街の裏道で、その男はがくがくと震えていた。
身体に飛び出ていた突起や鱗は、徐々に消えてゆき、ゆっくりとごく普通の人間にもどってゆく。
完全に人間に戻ったのを確認すると。男は固く握り締められた手を開いた。
そこには赤い石の中に黒い輝きを持つ、『ブラックスター』と呼ばれる石があった。
「おい!なんだよ!あの化け物は!?」
男は手に持った石に話しかける。
石は輝きながら、テレパシーのような声を発する。
『・・・・だから言っただろう。芸人ってのは、誰しも腹の中に化け物を飼っているものさ
誰よりも認められたい、
誰よりも前に出たい、
誰よりも上に立ちたい、
誰よりも笑わせたい、
そういった芸人の中にある、欲望に凝り固まった化け物が、その芸人を動かすんだよ。
お前が石を発動させれば、その化け物の姿を見ることが出来る
お前が対峙した男は、特にそれが強いのさ
・・・だけど、ははっ確かにすげえ化け物だったな。あれくらい大きいのはめずらしいや』
その石は饒舌にそう応えた。
男は納得いかないというように石に問いかける。
「じゃあなんで、そういう芸人にお前は憑かないんだ?元々強い化け物に憑けば他のやつらの欲も回収しやすいだろう?なんで俺みたいな無名芸人に憑くんだ」
石はめんどくさそうに応えた。
『だって仕方がないだろう。
俺の力は持ち主の芸人の持つ欲に値する化け物に、一時的に変身させることと
相手の中にある化け物を目に見えるようにすること。
あと、元々ある欲を強めること。
この三つだ。
元々欲の強い芸人に憑いたら、たいていは速攻で自分の中の化け物に喰われるんだよな。
自分の中の化け物を自分じゃ止められなくなるのさ、
もうめんどくさいんだよ、持ち主がいなくなってまた探さなきゃならなくなるのは。
宿主は、長持ちしたほうがいいんだよ。
ああ、そうだ、お前に言ってなかったな、俺の前の持ち主の名前を知りたいか?それはな・・・』
「いや、いい」
と男は石の喋りを遮った。
「聞きたくない」
石は嗤うように答えた。
『芸人って言うのは因果なものだよな
欲がなくちゃ前に進めない
欲に喰われれば壊れてしまう
だけど、お前の中の欲は芸人にしちゃ格別薄いよな。
でもそんなものか?そのままでいいのか?
言っただろう?お前が化け物になって相手を倒せば、そいつの欲と力を貰えるぞ
あんなでかい化け物じゃ倒せなくても、手近なところから、そうだな、お前の相方とか・・・・』
「黙れ」
『欲しくないのか?少しずつ強くなればいつかは・・・』
「黙れ」
男は耳を塞いだ。
聞くな。聞いてしまえばおかしくなる。
そうだこいつは言うとうり、宿主に出来るだけ寄生して、大きくなるのが目的だ。少しでも長く、少しでも多く。
だから俺についた。意思の弱い、欲の弱い俺に。
少しずつ調教し、少しずつ汚し、やがては自分の思うままに動く、巨大な化け物にするために。
わかっている、すべてわかっている────のに。
耳を塞いだ手の指の間を、石から発せられる黒いドロドロが、水のように入っていく。
『欲しくはないのか?
栄光が
喝采が
賞賛が
金が
俺を利用すれば、全てが手に入るんだぞ・・・・俺の言うとおりにすれば・・・』
声を、拒むことが出来ない。
恐怖しながらも心のどこかで満たされてゆく優越感。
心の奥底に充満していく闇に向かって
俺は何度も叫び続けた、
誰か助けてくれ、誰か
と。
おしまい
395
:
名無しさん
:2006/03/27(月) 13:30:30
おお、斬新な設定!
なんかホラー映画みたいで面白かった。
冒頭ギャグチックなのに後半ちゃんと怖くてスゴス。
しかし品川…w
396
:
◆vGygSyUEuw
:2006/04/15(土) 18:57:16
ちょっと思いついたので落とさせてください。
スピワの超短編、小沢目線。
------------------------
何だか、かれこれ五分ほど路地裏を走っている。
それを追うのは、誰とも知らぬ女芸人コンビ。
「待てーっ!」
「逃がさないわよ!」
威勢のいい声をあげて走る彼女たちは、そこそこ若くそれなりに可愛い。
もったいないなあ。
芸人なのも、黒なのも。
…うーん、我ながら関係各方面に怒られそうな独り言。
「もう、なんでよりによって女の子よこすかなあ…」
「こっちが弱いってわかっててやってるよねえ、全く黒は意地が悪いんだから…」
なかなかしぶとい追跡者にうんざりしている相方に、多少の皮肉をまじえて返す。
振り向きざまの推測ではあるものの、恐らくまだ20代半ばぐらいであろう相手に対し、こっちは三十路も過ぎたヤロー二人。
しかも一人は肉体年齢おじいさん。っていうかオレなんだけどね。
早々に膝が泣き言を言っている。しかも呼吸もヤバげ。
石の力で騙し騙し走ってるけど、そろそろ限界だ。
「どーする?」
「うーん、お引き取りいただきたいけど…」
「無理っぽいね」
ちらっと振り返る。二人ともさすがに疲れてきたのか、それともこのチャンスを逃すと何かまずいことでもあるのか、結構な形相だ。
「とにかく、このまま逃げてもらちあかないし、ちょっと軽く…」
煌めくアパタイトを胸ポケットから引き出し、一言。
「太ったっていいよ、だって大好きな君の量が増えるんだからっ!」
「……きゃああああ―――っ!!」
すぐに二重音声で聞こえる、絹を裂くような悲鳴。
「…何やった」
我が相方が呆れ顔で呟く。
「いや、ちょっと『自分が急激に太った』って幻覚をね。
女の子には効果テキメン」
「あんた甘くねえよ」
声を絞り出しての説明に、即座にツッコミが入った。
いいなあ、まだまだ元気で。
同じ距離を走ってた筈なのに、倍以上の疲労を抱えてる気がする。
「鬼かアンタは」
「もー何でもいいよ…あの猛攻から解放されれば」
切れた息が整う前に、スタジオまで飛ぶ。
直前に視界の端に入るのは、呆然と座り込む二人の姿。
ごめんね、でも…ダイヤモンドは傷つかないだろ?
397
:
◆vGygSyUEuw
:2006/04/15(土) 19:01:09
終わりです。
井戸田さんに甘くねえよって言わせたかっただけw
398
:
名無しさん
:2006/04/15(土) 23:44:55
>397
文の雰囲気大輔。
399
:
◆vGygSyUEuw
:2006/04/19(水) 16:01:18
>>398
嬉しい…。ありがとうございます。
400
:
名無しさん
:2006/04/30(日) 21:53:37
山本軍団の話を書いたのですが、本編に沿っているのかいないのか、方向性が微妙になってしまったのでこちらに投下。
401
:
最弱同盟 1/6
:2006/04/30(日) 21:54:54
仕事帰りの会社員で賑わい始めた居酒屋の、その一番奥の個室で、二人の男が酒を飲み交わしていた。一人はひょろりと背が高く、もう一人は黒縁の眼鏡を掛けている。
共通するのは痩せて貧弱な体型であること、そして芸人であるということ。
先に口を開いたのは黒縁眼鏡の方、ドランクドラゴンの鈴木だった。
「そっか、じゃあアンガールズの二人も持ってるんだ、あの石」
「はい」
頷いたアンガールズの田中は、いつになく真剣な表情をしている。
彼が自分の石に宿る奇妙な力に気付いたのは、つい先日のことだった。
どうやら他の芸人たちも同じように力の宿った石を手にしているらしいこと、そしてその石を巡って争う者までいるらしいことは、たまたま耳に入ってきた情報から知ることが出来た。
しかしそれ以上の話を聞き出そうとすることは、自らその争いに首を突っ込むことになりそうで、気が引けた。そこにタイミングよく、芸人の中でも親しい間柄である鈴木から、飲みに行こうとの誘いがあったのだ。
もう一人、ロバートの山本もこの場にいるはずだったのだが、つい先程仕事で遅れるという内容のメールが来た。少し手持ち無沙汰になったところで、田中は思い切って鈴木に相談を持ち掛けた。
「どうすればいいんですかねー、これから。ていうか、鈴木さんはどっちなんですか?」
「どっちって……白か黒か、ってこと?」
「そうです」
その質問に、鈴木は少し考える素振りを見せた。
「特にどっちって意識したことないんだけど……まあ、どっちかって言ったら白なんじゃねえの? 事務所の先輩に白の人が多いから、その人たちに言われて協力したりもしてるからさ」
実際のところ、白につくか黒につくかという問題は、鈴木にしてみればどうでもいいことだった。今白側にいるのは、その方が面倒がないと考えたからであって、要は、戦いを避けられればそれでいいのだ。
「それにさー、黒なんて相当強い人じゃなきゃ無理そうじゃん。ほら、俺なんて、あいつにも反抗出来ないくらいだからさ」
「……ああ」
“あいつ”という言葉が指しているであろう人物を頭に思い浮かべて、田中は納得する。それはつまり、もうすぐここを訪れるはずの人物のことなのだが。
噂をすればなんとやらで、それから五分もしない内に彼は姿を現した。
402
:
最弱同盟 2/6
:2006/04/30(日) 21:56:07
「どうもお待たせしましたー」
少しテンションの高い山本に曖昧に返事をしながら、田中は視線を彼の足元に移す。ジーンズの裾に隠れて少し見えにくいが、確かに鈴木と同じ場所にそれはあった。芸人に不思議な力を与えるパワーストーン。
「あの、山本さん――」
彼にも同じような相談をしようとした田中の言葉を山本が遮った。
「ねえ二人ともこの後時間あるんでしょ? 折角だから、もっと静かな店で飲みましょうよ。俺、いい店教えてもらったんですよ」
「え」
遅れて来ておいて何言ってるんだ、という思いが二人の胸中を過ぎる。しかし、それをストレートに口に出したりはしなかった。代わりに鈴木が、かなり遠回しな表現でその申し出を断ろうとする。
「あ、あのさ、山本君仕事長引いて疲れてるでしょ? 俺達も腰を落ち着けたところだしさ、このまま――」
「何言ってんすか、どうせ飲むならいい所の方が疲れ取れるに決まってるじゃないですか」
ああやっぱり。
三人の中で一番の年下でありながら、何故か一番の傍若無人っぷりを発揮する山本に、田中も鈴木も逆らうことが出来ないのだ。この三人組が「山本軍団」と呼ばれる所以である。
そこでふと、何かを思いついたように鈴木が田中に視線を送る。田中も鈴木の言わんとするところをすぐに理解した。こんなことに力を使うのは気が引けるが、確かにそれが一番手っ取り早い。
左手にこっそり握り締めた石に意識を集中しながら、右手で山本の肩をポンポンと叩く。
「まあまあまあまあ、そのいい店には今度行けばいいでしょう?」
「だーかーらー、行きたい時に行かないと意味ないんだって!」
山本はバシッと田中の手をはたき落とした。
「……あれ?」
おかしい、力の使い方は間違っていなかったはず……ということはまさか、自分の力は山本にすら効かないってことでは!?
力の反動も相俟って、田中の気分は一瞬にしてどん底にまで落ちた。
「わかってくれた?」
「あー、はい」
どうでもよくなってしまった田中は、項垂れながらそう答える。
「田中君は納得してくれましたよ。鈴木さんはどうなんですか」
勝ち誇った様子の山本に仕方なく頷きながら、鈴木は声に出さずに「使えねー」と呟いた。
403
:
最弱同盟 3/6
:2006/04/30(日) 21:56:50
都会の喧騒が少しずつ遠ざかっていく。前を歩く山本の足取りに迷いは見えないが、あまりに人通りのない場所へ進んでいることに、田中と鈴木は不安を覚えていた。
「本当にこの道で合ってる?」
堪り兼ねたように鈴木が訊ねたが、山本は自信満々に「合ってますよ」と答えるだけだった。
「でも、いくらなんでも人がいなさ過ぎじゃないですか?」
先程の失敗からどうにか回復した田中も山本に問うが、
「静かな所だって言っただろ。ほら、隠れ家的な名店っていうの? そういう感じの所」
やはり取り合ってはもらえなかった。
実際のところ、二人が懸念しているのは店に辿り着けるかどうかということではない。この状況は、明らかに危険なのだ。石を狙われている人間にとっては。
薄暗く、静まり返った通りの向こうから、少しずつ近付いてくる気配を感じる。ただの通行人ではあり得ない、明らかにこちらに敵意を持った気配。
それはゆっくりと速度を上げ、3人が彼らを視認出来た時には、既に全員が全力で疾走していた。
「逃げろ!」
誰かの号令で一斉に走り出す。しかし黒い欠片の影響か、限界を無視した速度で走り続ける集団に、三人はあっという間に追いつかれてしまう。
どうやらこの場を乗り切るには、力を使うしかないらしい。
そう判断した鈴木は、足首に微かに触れている石へと意識を集中する。それは少しずつ熱量を増し、鈴木の精神力を己の力へと変換していく。
そして集団の先頭を駆ける若者の手が鈴木に触れた瞬間、彼とその周囲の空間は、重力から解放された。
先頭の若者は、地面を踏み締められずに前のめりになり、そのままふわりと浮き上がる。鈴木が彼を後方へと軽く押すと、若者は“領域”の外へと弾き出されて尻餅を着いた。
「鈴木さーん! びっくりしたじゃないですか、力使うなら先に言ってくださいよ」
山本の文句に、咄嗟のことだから仕方ないと思いつつも「ゴメン」と謝る。
404
:
最弱同盟 4/6
:2006/04/30(日) 21:57:34
「とりあえず、このまま逃げよう」
鈴木は手近な電柱に手を掛けると後方へ押しやるようにした。反動で体は前方へと進む。
田中と山本もそれに倣うことにしたが、この空間にある程度馴れている鈴木と違い、彼らの空中遊泳はかなり危なっかしい。障害物に気をつけるのは勿論、力に巻き込まれて浮かび上がった小石にも気を遣わないと怪我をする羽目になるのだ。
それでもどうにか、走るより若干速いくらいの速度を出すことが出来た。
追手の集団はどうやら下っ端らしく、特殊な能力は使わずに直接掴み掛かってくる。しかし無重力空間では、徒手空拳はほとんどその威力を発揮しない。前列の若者達を軽くあしらっているうちに、少しずつ黒の集団との距離は開いていく。
「このまま振り切れれば……」
鈴木は、普段ならばほとんどかかない汗を拭い、力の源にもう一度意識を集中した。
意識的に広げた“領域”は、その分だけ体力の消耗を早めている。限界に達するまで、持ってあと一分。力を解けばあとは自分の足で逃げるしかないのだが、力を使い果たした鈴木に、果たしてそれだけの体力が残っているのか。
幸いなことに、集団は既に闇へ紛れる程度まで後退していた。今なら力を解いても大丈夫だろう、そう思ったその時、消耗しきったはずの集団から飛び出してくる者がいた。疲れを見せない、どころか短距離選手並の速度で、再び三人との距離を詰めてくる。
「まさかあれ、石の力なんじゃ」
下っ端ばかりの集団だと思っていたが、中には能力者が紛れ込んでいたのだ。その若手は無重力の“領域”相手に自分の能力で戦う方法を編み出していた。
身体能力の強化、それもかなりの下位クラスではあるが、今は彼らに追いつけるだけの脚力があればいい。そして彼の石はその目的を充分に果たした。
彼は3人と着かず離れずの距離を保ちながら、冷静に“領域”の範囲を見極める。そしてそのぎりぎり、体にまだ重力の残る地点で、彼は思いっ切り地面を踏み切った。
重力加速度の消えた“領域”内で、その男は前方斜め前へとそのままの速度で上昇する。その前方には、不慣れな無重力空間で不自由そうな山本がいた。
鈴木自身を“領域”の外へ出す事は出来ない、だからこそ必死に“領域”内へ留まろうとしているはずの山本を、そこから引き摺り出そうとしたのだ。
振り向いた山本は、慌てた様子で逃げようとする。しかし踏ん張りの利かない無重力空間では、高速で接近する物体を避けるのは難しい。男は山本の腕を掴み、“領域”の外側へ向け、強制的に加速させた。
しかし彼のこの目論見は、思わぬ展開を呼ぶ。
405
:
最弱同盟 5/6
:2006/04/30(日) 21:58:35
「山本さん! 後ろ!」
田中が悲鳴のような裏返った声を上げた。後方に振り向いた山本の後ろ、つまり進行方向には、電柱がひっそりと聳え立っている。田中と鈴木は咄嗟に手を伸ばすが、山本と電柱の接近速度はそれを超えていた。
田中は思わず目を覆う。石を巡る争いによって、数少ない友人の一人が犠牲になるかもしれないことが、田中には耐えられなかった。
しかしそこに、閉じた瞼を透かすように、光が差し込んできた。薄目を開けて見ると、淡く黄色味がかった光が山本の腕を覆っている。その腕は電柱に激突する手前で、山本の体を支えていた。
「山本君」
「山本さん……」
田中と鈴木は揃って安堵の声を上げた。
山本は無重力空間でためていた“重力に逆らって立つ力”を腕力として放出し、激突の衝撃を吸収したのだった。
鈴木は小さく息を吐くと、限界の迫っていた能力を解いた。体がストンと地面に落ち、慣れ親しんだ重力の感覚が戻ってくる。
「うわ、は、離せって!」
山本の声にそちらを向くと、黒の若手が尚も諦めずに山本に掴み掛かっていた。今こそ自分の出番と察した田中は、ポケットから自らの石を取り出し握り締める。今度こそ失敗しないよう、いつもより余計に集中して。
「まあまあ、もう諦めようよ。仲間もみんなついてきてないみたいだしさ」
田中の言葉に、若手の男は攻撃をやめて大人しくなった。山本に全力の一撃を止められたことで、既に心が折れ掛けていたのかもしれない。しかし力がちゃんと使えたという事実に、田中は深く安堵していた。
406
:
最弱同盟 6/6
:2006/04/30(日) 21:59:11
山本の言葉に嘘はなかったようで、その後すぐに三人は目的の店に辿り着くことが出来た。隠れ家の名に相応しく、普通ならなかなか立ち寄らないような場所にひっそりと立っている店だ。
それぞれの席に腰を落ち着け、注文した料理と酒が運ばれてきたところで、鈴木が小言を言い始めた。
「山本君が無茶苦茶言ったせいで襲われる羽目になったんだからなー、ちょっとは反省してよ」
「いいじゃないですか、体動かした後の酒は美味いって言うでしょう」
「そういう問題じゃないだろー」
鈴木と山本の間に不穏な空気が流れる。田中はほんの少し逡巡したが、結局石はポケットに収めたままにした。この後の展開を、田中は知っているからだ。
「まあ……確かに美味しいけどね、ここの店」
仕方ないな、という表情で折れる鈴木。しかし、眼鏡の奥の瞳は少しだけ笑っていて、それが決して不快ではないことを示していた。
それから三人は、共通の趣味などについて、お開きの時間が来るまで取り留めもなく話した。石についての話は誰もしようとしなかったし、田中も敢えて口に出そうとは思わなかった。
自分達のような脇役が、白につくか黒につくかなんて、この争い全体から見れば、とても些細なことなのだろう。
もしも自分に果たすべき役割があるとしたら、それは争いを厭うこと。戦いたくないと思い続けること。
それはきっと、最弱の人間だけに許された特権なのだから。
407
:
名無しさん
:2006/05/01(月) 17:35:12
乙!面白かったです。
ちゃんとキャラつかんでてすごいなあ。
408
:
名無しさん
:2006/05/19(金) 23:21:56
カンニング竹山と土田の話、落とします。
設定とかちょっと微妙かもしれません。
409
:
アンバランス 1/5
:2006/05/19(金) 23:24:16
真夜中の闇の空間に、一筋の亀裂が走っていた。
――目の前に現れた男について竹山は考える。
仲間、だったはずだ。
同じようなポジションにいて。
同じ先輩を慕っていて。
番組で共演した時は、二人で協力して場を盛り上げた事さえある。
しかし今、緑色のゲートの向こうから現れた彼は。
左手に宿る黒い光を、まるで見せつけているようで。
「……土田、さん」
その名を呟いた声は、微かに震えている。
対する土田は、まるでテレビ局の廊下で擦れ違ったかのような気安さで、片手を挙げて「よう」と言った。
しかし彼の出現は偶然ではあり得ない。何故なら彼は、石の力を使ったのだから。
竹山は挨拶を返さず、ただ、短く問う。
「どういう事……ですか」
「どういう、って?」
土田は口角を僅かに持ち上げ、笑みを作って答える。
「理由を訊かれても困るよ。……黒だから、じゃ駄目なの?」
竹山は息を呑む。脳裏に蘇るのは、黒の欠片に憎しみを増幅させられ、自分に襲い掛かってきた相方の姿。
“黒”は土田まで巻き込んだのか――その思いは怒りとなり、胸元の石が熱を帯び始める。
止めなくては、と思う。それは、彼と近しい自分の役目なのだと。
410
:
アンバランス 2/5
:2006/05/19(金) 23:25:38
眼前に出現した炎が、夜の闇を紅く切り裂きながら土田へと飛ぶ。しかしその炎が体を焦がす前に、土田は自らの作り出したゲートの向こうへと消えた。目標を失った炎が、空間へと拡散する。
「どこやっ!」
焦りで思わず敬語を忘れ、竹山は叫ぶ。
答える声は、背後から聞こえた。
「――こういう何もない空間には、その力は向いてないよね」
振り返っても土田の姿は見えない。ただ、闇の向こうから、少しずつ近付く足音がする。
「かといって狭い場所で使うのも危険だ。炎が燃え広がったりしたら、敵どころか自分まで、命を失う危険性がある」
ゆったりとした足取りで迫る土田。僅かな石の光に照らされたその姿は、まるで闇から浮かび上がるかのように見えた。
「ルビーが本来の力を発揮するには、サファイアの補助が不可欠なんだ。でも、そのサファイアの使い手は今はいない。という事は――この状況で狙われたら、竹山君は圧倒的に不利って事だ」
こつ、と最後の足音を響かせて、土田は竹山から三歩の距離で足を止める。
「黒に入らないかい、竹山君」
笑みを浮かべたまま、土田は言った。そして拒絶の暇すら与えずに続ける。
「なにも竹山君一人のためにそう言ってるんじゃない。俺は、この石を巡る争いを止めるために言ってるんだ」
訝しむ表情の竹山。しかし土田は、そうなる事を予測して台詞を用意している。
「“白”と“黒”っていう二つの勢力があって、しかもその二つは、ほぼ均衡している――だから戦いが起こってるんだ、とは思わない?」
竹山は答えなかった。満足そうにひとつ頷いて、土田は続ける。
「ここで強力な石を持った竹山君が黒に入る。するとこのバランスは大きく黒に傾く。黒が有利と見て、白を離れて黒に入る芸人もいるだろう。そうすれば更に黒の勢力が大きくなる。同じ事が続いていけば――ほら、戦う事なく争いが収まるじゃないか」
411
:
アンバランス 3/5
:2006/05/19(金) 23:27:05
竹山は、どこか力のない視線で土田を見詰めていた。ややあって、普段の彼らしくもない掠れた口調で呟く。
「全ての芸人が……黒に?」
「そう」
「皆、あの黒い欠片を植えつけられるって事ですか?」
「そうなるだろうね」
土田は当然のように言い切った。あの黒い欠片がどのような影響を及ぼすか、知らないはずがないのに――その表情には、迷いも恐れも見えない。
竹山は目を伏せ、ゆっくりと息を吐いた。この石を手に入れてから起こった様々な出来事――仲間だった者や敵だった者、それから何より大切な相方の事を思う。
しばらくして竹山は顔を上げた。その視線はある決意を込めて、土田を見据えている。
「俺は……黒の力が、許せん」
別段驚いた様子もなく、土田は視線を返す。
「中島を苦しめたあの欠片が許せん……」
怒りに呼応して、ルビーが眩い光を放った。迷いを振り切るように握り締めた拳を、炎の熱が覆っていく。
「土田さんにそんな事言わす、黒の欠片が許せないんや!」
竹山は地面を蹴り、拳を振り上げた。ゲートが開いてから閉じるまで、数瞬のタイムラグがある。そこに一撃を捻じ込むのは、不可能ではないはずだ。
対する土田は――動かない。ただ、シルバーリングをはめた左の拳を、竹山の拳に合わせるように持ち上げただけだ。
二つの拳が激突する。硬い衝撃と共に、火の粉が飛び散り空気を焦がした。
立ち込めた熱気を、風がゆっくりと吹き散らしていく。竹山は、戸惑いの表情で土田を見ながら拳を下ろし――そして目を見開いた。
412
:
アンバランス 4/5
:2006/05/19(金) 23:28:38
「残念だけど――ルビーの力でも、浄化は無理だよ」
土田の左手に輝くブラックオパール。その黒い光に衰えはない。
「そもそも俺は操られているんじゃない。協力してるんだ、自らの意志で」
その言葉に同意するかのように、ブラックオパールは小さく瞬いた。それがまるで闇に潜む魔物の眼のように見えて、竹山は怯んだように一歩後退する。
しかし土田は、竹山を追撃せずに拳を解いた。
「だから“俺の意志”で、今日の所は矛を納めておく。別に倒しに来た訳じゃないからね」
土田は左手を、ちら、と一瞥して下ろす。その視線を追った竹山が小さく声を上げた。ブラックオパールには全く通用しなかった竹山の炎だが、生身である土田の拳には、はっきりと火傷の痕を残していた。
敵であるはずの自分を気遣うような竹山の表情に、土田は苦笑する。
「俺の心配はいらないよ、いざとなったら回復の能力者に頼むから。それより、自分の心配したら?」
強すぎる己の力によって、竹山もまた火傷を負っていた。余り戦闘向きの能力ではない土田との戦いですらこうなのだ。弱点を突かれたり、不利な状況での戦いとなれば、このダメージは少なからず響く事になるだろう。
「これは警告だよ。その内黒の組織としても、本気でルビーを狙ってくるだろうからね」
土田は個人的な理由としても、非常にルビーの力を欲しているのだけど、それは口には出さない。出来れば竹山に、自身で黒に入る事を決めて欲しいと思っているからだ。
“土田の意志”は、今でも派閥とは関係なく、竹山を仲間だと思っている。だから、無理強いはしたくない。
「じゃあ……お大事に」
土田は再び片手を挙げて、軽い別れの言葉を告げる。同時に土田の背後の空間が裂け、赤色のゲートが出現する。
「今度会うときは、味方になっている事を願っておくよ」
最後まで飄々とした笑みを崩さないまま、土田はゲートの向こう側へと去っていった。
413
:
アンバランス 5/5
:2006/05/19(金) 23:29:33
竹山は暫くの間、呆然と土田の消えた空間を見詰めていた。信じられない、という思いが頭の中に渦巻いていて、思考がそこから先へと進まない。
しかし一方で、全て事実なのだと認めている自分もいる。あの石を手に入れた時から、緩やかに変化してきた日常の、これが一つの到達点なのだろう。
何もない所では無力な火種も、一度火薬庫の中に放り込めば、たちまち全てを焼き尽くす炎となる。そう――火種を落とした者すら巻き込む程の。
浅い痛みを発し続ける右手を左手でそっと覆いながら、何かで冷やさなくてはな、と思う。
彼の中の火種を消してくれるはずの中島は、しかし今、彼の隣にはいないのだった。
414
:
名無しさん
:2006/05/20(土) 10:10:06
乙!面白かったです。
ガンガレ竹山…。
415
:
名無しさん
:2006/05/20(土) 12:33:40
本スレに投下しても大丈夫とオモ。
416
:
◆PUfWk5Q3u6
:2006/05/20(土) 16:31:46
>>415
ありがとうございます。
上のも合わせて、保守ついでに投下してきます。
417
:
◆tr.t4dJfuU
:2006/07/02(日) 23:40:16
ある日、出演前の楽屋で俺が台本に目を通していると、
ふと、背後に座っていた庄司が話しかけてきた。
「・・・品川さん」
「ん?」
「もし俺が いなくなったらどうする?」
「そりゃもちろん、ピンの仕事が増えるかな。特に雛壇。
椅子に限りがあるなら二人より一人のほうが呼ばれやすいだろ」
「何それ。困んねぇの?」
「困るのは番組関係者。安心しろ俺がお前の分のレギュラー代わりにやってやるよ」
「お前それやりたいだけじゃん!」
「俺は一つでも多くレギュラーが欲しい!」
貪欲だなぁ、と言って庄司が笑った。
庄司が笑うと、いつだって空気は柔らかく和む。
よしウケた、と俺はほくそ笑んで満足していた。
それからすこし間があって、何かが背中にもたれかかってくる感触がした。静かに、ゆっくりと。
「・・・・庄司?」
背中合わせに、その背を預けるように寄せて来ている。後頭部に庄司の髪が触れた。
振り返ろうとしたが、身体がずれるとそのまま倒れこんできそうで、身体を動かすことが出来ない。
「おい」
少し心配になって声を掛けた。
「重い?」
「・・・・いや。すげえ気持ち悪い。何?何か言いたいことあんの?」
――お前普段こんなことしないだろ?と言う言葉は、驚きとともに飲み込んだ。
「・・・・一人でももう大丈夫・・・」
「は?」
「・・・何でもない」
嘘だ。と品川は直感的に思った。何かを隠してる。何か訴えたいことがある。
でも言いたくない。こういうとき八つ当たるより黙り込む癖が彼にはあった。
問いただしてやろうと口を開いたその時──静かな規則正しい呼吸が耳元で聞こえた
・・・寝てやがる
怒りのあまり張り倒しそうになる衝動を抑えて、ゆっくりと身体をずらし、
出来るだけ衝撃にならないよう身体を支えて、畳敷きの床の上に横にならせた。
上着を身体に掛けてやり───ふと、手が止まる。目を閉じて子供のように眠る庄司の顔色は少し悪かった。
・・・こいつこんな顔だったっけ。
前髪を少し上げて顔を見た。庄司の顔だ。剣のない、優しげな。
けれどどこか、いつもと違う、影が──その面に色濃く出ている。ぬぐいきれない違和感と共に。
──疲れてるのかな。
本番までまだ時間がある。静かにさせて30分前には起こしに来ようと、
品川は立ち上がって楽屋を出て行こうとした。
戸を開けたとき、遠くで庄司が微かに呻いたのが聞こえた。
「・・・・・・・けて・・・」
何と言ったのかは分からなかったけれど。
音もなく戸が閉められたあと、庄司は眠ったまま何かを求めるようにして手を伸ばした。
ゆっくりと広げられた手のひらの中に──赤い光を帯びた石は喰らいついたまま熱を帯びて
今一度、鈍い光を、放った。
418
:
◆tr.t4dJfuU
:2006/07/02(日) 23:43:40
本編の品庄の話と、このスレの
>>110
さんのお話を読んで触発されて書きましたー
庄司が石に取り込まれる一日前のイメージです。
本スレに落とすほどのものでないので、ここで消化させてください。
419
:
名無しさん
:2006/07/09(日) 21:34:10
間違えたこっちだ。
新しい話を書き込んでもいいでしょうか
420
:
名無しさん
:2006/07/09(日) 21:34:47
というか、上げてしまったすみません・・・・・
421
:
名無しさん
:2006/07/09(日) 22:46:50
どぞ
422
:
名無しさん
:2006/07/10(月) 22:23:26
すみませんやっぱちょっと書き直します・・・・
423
:
名無しさん
:2006/08/09(水) 12:31:21
内容が意味不明になっている番外編の小説を投下します。
インパルス板倉がメインです。一応。
人物の性格崩壊が激しい?ので、それが嫌な人は気を付けてください。
口調もよく分からないので少々おかしいかと。
ちなみにオールギャグ。
424
:
423
:2006/08/09(水) 12:32:05
【maid in Japan】
「板倉さーん」
「…何」
相方・堤下に名前を呼ばれ、不機嫌そうに答える板倉。
最近、彼は慢性的な寝不足なのだ――もちろん、“黒”のおかげで。
「不機嫌ですね」
「不機嫌だよ! 毎日毎日襲われて、しかも普段は普通の芸人…もう疲れた」
「疲れているところ悪いけど、今日は白ユニットの集会だから」
「ああ、分かってるよ…って、はあ?!」
前回の集会は、確か何もまとまらなかったはずだ。
あの時には、石の争いがここまで激しくなるなんて、誰も気づいていなかったけれど。
今回はさすがに真面目な討論になるんだろうな…と板倉が言うと、堤下はあやふやに返す。
「質問の答えはハイかイイエだろ? なんだよその『ああ…うん』ってのは」
「まあ、感じ方は人それぞれってことで」
それを聞いた板倉は疑いの眼差しで堤下を見たが、どうやら集会は嘘ではなさそうだ。
その証拠に、たった今板倉のケータイにもメールが入ったのだ。
それですっかり信用してしまったのか、カクタスが警戒するようにちかっと輝いたのには気づかなかった。
2人は普段どおりテレビに出演し――そして普段どおり黒の下っ端に襲われながらも、無事に“仕事”を終えた。
425
:
423
:2006/08/09(水) 12:32:29
「またここかよ? みんな好きだよなー、ここ」
真夜中、2時。
インパルスの2人がやってきたのは、前回も集会を開いた和食店。
「料理が美味しいんだとさ」
「今回も話し合いがまとまらないに100円賭けるわ、俺」
100円かよ。
ついツッコミを入れてしまった堤下の声は、板倉までは届かなかった。
「とりあえず潜入…って、なんで俺たちはこんなところで立ち止まっていたんだろうな」
「何が!?」
「いらっしゃいませ。板倉様と堤下様ですね?」
何時ぞやの時と同じように、明るい笑みを見せる和食店の仲居。
彼女が去ってから、板倉がぽつりと言った。
「前回の時はまだまだ平和だったのにな…」
「そうだな…今は色々な奴が“石”を手に入れてさあ…スパイとかも出てきてるみたいだし」
「このまま行くと、芸人全員が手に入れちゃうかもな、石」
「まあな…なんか嫌だな、そういうの。めんどいし」
戦いを“めんどい”の4文字で済ませてしまう相方を見て、堤下は苦笑する。
「思考が浅くて悪かったな」
「そんなんじゃなくてさあ…」
――板倉には随分助けられてるよ、俺。
その言葉は心の奥にしまっておいて、堤下は不機嫌になった相方を引っ張って奥へと向かった。
426
:
423
:2006/08/09(水) 12:32:49
襖を開けると、それはもう大騒ぎだった。
「2人とも遅いですよ」
「な…こっちはさっきまで石持ち芸人に襲われてたんだよ! お前らが豪華な料理を囲んでいる間に!」
最初に始まるのは、細身の男2人――アンガールズの山根と、板倉のケンカ。
「人にはビビりとか弱いとか散々言っておいてこのザマですか」
「なんだと! ちょっと能力の相性が悪かっただけだ!」
「まあまあ…今日の集会は、板倉さんの話が中心ですから、落ち着かないと始まりませんよ」
同じく細身の男、アンガールズの山根が止めに入る。
板倉はまだ右掌に電気を溜めながら、怪訝そうな顔で山根を見た。
「俺が中心? …どういうことだよ」
「それは私、上田晋也が説明致します」
どこから沸いて出たのか、くりいむしちゅーの上田が板倉の真後ろに立つ。
板倉は一瞬「うわっ」と言いかけたが、上田だと気づくとほっと胸を撫で下ろした。
「立ち話もいいけど、早いとこ上がれよー!」
そう言ったのはくりぃむしちゅーの有田。
インパルスの2人は「失礼します」と言いながら、座敷の上に上がった。
427
:
423
:2006/08/09(水) 12:33:08
「で、俺中心って言うのはどういう事ですかね」
料理を皿に取りながら、板倉が言った。
それを見て上田がちょっと苦い表情をする。
「今で謝るわ。ごめん」
「な、何がですか?」
寒気がとまらない。
猛烈に嫌な予感がする。
そして、その嫌な予感は現実となる。
「じゃーん! お忙しい貴方にプレゼント」
「……!」
彼は持っていた皿を手から落とした。
それもそのはず、無駄にハイテンションなアンタッチャブル山崎が持っていたのは――メイド服。
どこの馬鹿がこんなものもらって喜ぶか、としらけた顔で言う板倉だったが、むしろ逆効果。
「別に喜んでもらうためじゃないですよー。これを着てもらってお仕事をしてもらうだけです」
「…コントでもしろと?」
「そうじゃなくて…まあ簡単に言うと、これを着てスパイをやってもらおうかと」
「スパ…はあ!?」
板倉はもう一度山崎を見る。
彼が持っているのは、どこからどう考えてもメイド服。
はねトび辺りで使うような、わざとらしいもの。
「…これでスパイやったら、目立つだろ」
「大丈夫! 一応、普通のスカートとかも準備してあるから!」
「…………」
怒っている。板倉は明らかに怒っている。
それは誰もが分かった。無言の圧力を放っているし、後ろのコンセントが蒼い火花を散らしているから。
「…何故、俺なんですか」
彼は声を絞り出して、やっとそれだけ言った。
「いやー、街中でアンケートをとったら、君が一番女装が似合うって」
「あ、ちなみにその他にもいたけど、“白”だったのはただ一人――」
「もう、いいです」
板倉は諦めたようにはあ、とため息をつく。
「あー、そうそう」
上田が思い出したように言う。
「一ヶ月くらいやってもらおうと思ってるから。」
その日、街は停電のため暗闇に包まれた。
428
:
423
:2006/08/09(水) 12:33:28
その頃、ロンドンブーツ1号2号の田村 淳は、板倉の考えていることを読み取っている最中だった。
淳は「板倉のことはよく分からない」と言ったのだが、設楽に言われて強制的にやっている。
今時はネットで何でも調べられるのだと。
便利な反面、迷惑極まりない――淳は密かにそう思った。
「お、来た」
件名、“板倉俊之”。彼の考えていることが、文章となって淳に届いた。
「ええと、何々…」
淳は自身の目を疑った。
『なにが“メイド服”だよ! そんなもんプレゼントされたって、嬉しくも何とも無いわ!
山崎、頼むからそれ仕舞え! 俺はそんな趣味ないんだって! あれはコントだ!』
そんな類の文章が、長々と綴られているメールの文面。
「め、メイド服…? 彼、そっち系じゃないよね…?」
板倉とは親しくも無いが、そっち系でないことを祈らずにはいられなかった。
この事が原因で、“黒”の人物たちは板倉を避けるようになった。
「なんか俺、やらかしたかなあ?」
「いいんじゃないの? 襲われる回数も減ったし」
――何も知らない2人は、ただ暢気だった。
429
:
423
:2006/08/09(水) 12:37:48
話が意味不明の上時間軸が謎になってしまいました。
完全番外で、歌唄い様の「午前三時のハイテンション」のかなり後という設定。
誰か約一名が翻弄される小説が書きたかっただけです。
430
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 18:59:55
ユニット進行会議スレで相談した話を投下させてください
設楽さんの過去話ですが番外編なので本編には関係しません
「なにこれは?」
セッティングを終えていない潰れた髪を撫でた設楽は呟いた。最愛の娘の手の平には、雲掛った
濃い空のような、宇宙から見た地球のような、宝石一歩手前の石がある。聞けば、友達と遊んでい
たときに公園の砂場で見付けたとのこと。
何か価値があるものなのかもしれない。妻に相談するために立ち上がりかけるが、娘が設楽のジ
ーンズを引っ張った。娘は子供とは思えない大人びた無表情で言う。
「これはわたしのじゃない」
小さな手は設楽の方へ伸びた。
最近はテレビ出演が増えた。テレビ出演には慣れていなかったが、知っている芸人が数多くいる
せいもあって、ようやく自分達らしさを出せるようになってきた。日村という存在をいかに世の中
に知らせるかを根拠として活動している設楽にとっては有り難い話だ。
バナナマン単独の楽屋で設楽は腕を組む。四畳半の小さな楽屋はトイレでじっと考えているとき
と同じような安心感がある。厚めの唇を小さく突き出した後、ポケットにいれたままだった石を取
り出した。
娘からのプレゼントということになるのだろうか。そういった暖かい雰囲気は無かったが、とに
かく託された側としては捨てるわけにもいかない。一応調べてみたところ、ソーダライトというパ
ワーストーンではないか、という過程に行き着くことが出来た。しかしそれだけで、結局は一番に
信頼している日村に相談してみよう、そういう結論に至る。
431
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:00:38
ピンで仕事をしている日村を待つ。戯れに石を空中に浮かばせてからキャッチする動作を繰り返す。
数分経ってから急にドアが開き、驚いた設楽の手もとが狂った。石が畳の上に転がる。
「お疲れ、日村さん」
相手が発言するより早く設楽が口を開いた。日村は戯けた表情で首を振ってから、設楽と同じよ
うに脱力しきった体勢で座りこもうとした。不幸にも転がった石の上で、痛みを感じた日村が大げ
さに尻を抑えて飛び上がる。設楽はただ笑う。
「設楽さん、またそういうこと……を」
楽しそうに咎める日村の表情は一転し、言葉は途切れた。痛みの原因である石を見て固まってし
まっている。元より人の変化を悟りやすい設楽は、その明らかな異常をすかさず感じとった。そし
て軽く尋ねる。
「どしたの?」
こうすれば全てを教えてくれる。今まで過ごしてきた中で知った法則だった。バナナマンの中で
強いのは設楽であり、日村に嘘は付けないからだ。
「いや、あの、この石どうしたの?」
案の定日村の口調は途切れ途切れで、冷静になろうとしているのが明らかだった。設楽は太い眉
を一瞬だけ寄せてから朝にあった娘との出来事を話す。
「……で、どうしようかっていう話なんだけど」
畳に転がったままだった石を一瞥した。黙って聞いていた日村が石を拾い上げる。何かを確かめ
るように凝視してから意見を述べた。
「売っちゃえば?」
432
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:01:26
日村にしては珍しい否定的な意見。設楽の警戒心は更に強くなる。さすがの日村もそれを悟った
が、焦れば焦るほどに支離滅裂な意見が増える。娘に返せ、砂場に埋め直せ、強度を確かめるため
にトンカチで叩いてみろ、話題が変わってしまった。
設楽は状況を一転させるための決定的な言葉を探す。勝手に捲し立てる日村の意見は念仏のよう
に聞き流して考え事に浸る。第一声を発するために口を開いた瞬間、青くて深い光が目の前に広がっ
た間隔があった。
何を隠してるの?
外側には発せられなかった言葉のはずが伝わる。日村の思考の中に入ったような、周りが全て黒
い空気に満たされたような、説得だけの空間がそこにはあった。急な変化に対応出来なかった設楽
は息を飲む。日村の手から、記憶に新しい色の光がもれているのが分かった。
「設楽さん」
設楽以上に驚いた日村が弱い声色で名前を呼ぶ。それはひどく辛そうな顔で、何かを悟っている
ようだった。話を続けなければならない、意を決した設楽は次の言葉を探す。
「バナナマンさん、出番です」
違う方向から第三者の声がした。ハッとした設楽が声を追えば出演番組のADが息を切らしてい
た。しめた、と言わんばかりに目線を変えた日村はADに対して真面目過ぎる返答をした後に設楽
を促す。そんなことに構っている暇はない、そんな意味が込められている。
設楽はというと、ただ混在した疑問を整理するため考え込んでいた。先程の空間はイメージだけ
であったとしても、なぜそのようなイメージを一瞬にして作り出したのか。そして言葉を言ってい
ないにも関わらず日村に疑問が伝わった理由は。急に輝いた濃い青の光は何だったのか。恐らく答
えは全て日村が知っているのだろう。仕事が終わったらすぐにでも問いたださなければならない。
433
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:01:58
日村と並んで撮影場所に向かう。日村は石とは関係ない話題を次々に提供してくる。適当に対応
して笑いつつも歩き続ける。
仕事自体はとても楽しかった。共演者におぎやはぎがいるからかもしれない。和気あいあいと撮
影は進んだおかげで早く終了した。与えられた予想外の空き時間は疑問を追求するには十分過ぎる
長さだ。
少し用がある、と無理やりな口実を作って消えた日村を待つために楽屋に座り込んでいた。石は
日村に持たせているままなので観察出来ない。
壁にもたれているうちに楽屋のドアが開く。上半身に力を入れて話をする体勢に入った、が、そ
こにいたのは日村だけではなく。
「矢作さん?」
少々疲れ気味の矢作が軽く笑っていた。歯が零れる癖は相変わらずだが、少しだけ様子が違って
いる。罪悪感を隠しているのが分かる。
「どうしたの?」
設楽がいつかと同じ疑問符を投げかけるが答えは無かった。矢作は日村と目線を合わせ、小さく
頷いてから、何かを握っている右手を前に出し、下手な関西弁で言う。
「石のことなんて、どうでもよくなるんやー!」
何かが光った気がしたが、対したことではないのだろう。重力に逆らった髪をいじってから仕事
について考えた。余計なことを考えている暇はない、明日は確かネタ見せ番組がある。
「日村さん、明日のことなんだけど」
急な話題変換のせいで目の前の二人は面食らってしまっていた。数秒してからため息をついた日
村が笑いながら設楽の話に乗ってくる。送れて矢作もちょっかいを出してきた。設楽は笑いながら
咎める。頭の混乱が無くなったせいか話は軽く進んでいく。
434
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:02:54
設楽がポケットに手を入れた。小銭を確認するためだったのだが、先程まであった存在が消えて
いることにも気づいた。そして一連の流れを思いだす。
「あ、日村さん、石返してよ」
一瞬だけ空気が止まった。気づかなかった設楽は言葉を続けた。
「一応持ってないとさ」
娘から貰ったものだ、無くしたといったら泣かれてしまうかもしれない。続けなくとも日村なら
悟ってくれるはずだ。予想通り、少しためらったようだったが、石は設楽のポケットに戻った。小
銭と一緒に小さな音を作っていた。
仕事も仕事の後の付き合いも終えて帰宅する。既に深夜になってしまっていたので娘は寝ている
はずだったのだが、夜更かしをしているので叱って欲しいという妻の願いが待ちかまえていた。
疲れてはいたが親としての義務だ。テレビに齧り付く娘の横に座る。
娘はすぐに体の向きを変えた。奇妙な素直さだった。女の子の考えることは分からないなあ、設
楽は脳内でぼやく。
素直なのは最初だけだった。相手が不貞腐れているせいで中々話は終わらない。さすがは自分の
娘というべきか、幼いにしても受け流すのが上手くて説得する糸口が見つからないのだ。
大人相手の状況にシフトするために思考をまとめた。ポケットの辺りが暖かくなった気がした。
娘と視線を合わせれば二人だけの空間が広がったような感覚がある。
「いいか?」
「うん」
435
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:03:20
子どもは早く寝なきゃいけないんだ」
「うん」
「もうちょっと大きくなったら嫌でも眠れなくなるから」
「うん」
「そのときまで、待とうよ」
返事は無くなり頷くだけになった。空間が流れ落ちていつもの家が戻ってくる。設楽だけが辺り
を見回し、娘は囚われた目をこすった。眠たいのだろう。
ふらふら歩く娘が夜の夢に消えるまえに振り返った。大人にしては幼い驚き顔でいた設楽は表情
を正した。娘は呟く。
「石は?」
「ん、ああ、ここにあるよ。ほら」
「たいせつにしないといけないんだよ」
「……え?」
「そんな気がするの」
立ち尽くす設楽を放って娘は消えていく。家事を終えた妻が設楽のいる部屋に入ってくる。我を
取り戻した設楽は石をポケットに入れ直した。どうでもいい存在ではあったが、ひょっとしたら何
かあるのかもしれない。はぐらかされたから日村以外の誰かに尋ねてみようか、小さく頭に留めた。
前日に入念な打ち合わせをしたおかげでネタ番組は上手く行った。打ち上げの準備があるらしく
暇が出来る。日村は不在だ、ぶらつくついでに誰かに石について尋ねることにした。
436
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:03:44
廊下は遠くまで続いていて不気味なくらいに人がいなかった。普段ならスタッフが飛び回ってい
るはずなのに足音すらない。
壁に貼られたポスターを眺めながら進んだ。何か他のことに集中したかったからかもしれない。
プロが作ったポスターは様々な個性に満ちており、見知った芸人の冠番組のポスターもあった。嫉
妬するでもなく喜ぶ。
誰かと肩がぶつかった。ふらついた設楽は宜しくない目つきで相手を確かめた。年下に見える相
手はひどく疲れた顔をしていて、設楽と数秒間目を合わせてから思いついたように指を鳴らした。
「打ち上げの準備終わったらしいっすよ」
どうやらスタッフか誰かだったらしい。そうですか、小さく設楽が呟く前に相手が遮った。
「でもその前に何かあるって……ついてきて貰えますか?」
駄目だしかもしれない。少し調子に乗りすぎたか。気まずそうに頭を撫でる設楽は素直に応じる。
人のいない廊下を互いに無言で進んだ、空気に喉を詰まらせないため、設楽はまたポスターを見続
けた。
イラストが途切れる。いつの間にか来たことがない場所にいた。サプライズ企画があるのかも、
気楽に捕らえようにもおかしな雰囲気がある。
第六感が逃げろと告げた。ドッキリとかとは違う冷たさが根拠だった。歩を止めて様子を伺えば
相手が振り返り柔和な表情で微笑んでくる。
設楽が一歩後ろに下がった。何も考えない逃走本能だったが仇になる。相手が何かを察して手を
伸ばしてきたのだ。逃げるために振り返ったが仲間と思われる男がいる。廊下は一本道だ、部屋に
逃げ込もうにも左右に扉はない。
437
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:04:09
あっと言う間に捕まって口を抑えられた。全力で振りきろうにも一対二では答えは見えていた。
数秒間身動きが出来なくなったかと思うと、首の後ろに容赦ない衝撃が走る。気は失わなかった
ものの目眩で抵抗出来なくなってしまう。
ぐったりと項垂れて引きずられるままにされた先は使われていないスタジオだった。埃にまみれ
たカメラが様子を伺っている。
二人組が設楽を投げつけるようにした。背中を壁に打ちつけ大きな咳が出て、荒い呼吸で訳も分
からず二人を見上げた。最初の一人が眉を寄せる。
「もう分かるでしょう?」
悟らせるような口調。設楽には何も分からない。もう一人が吐き捨てる。
「知らないふりは無しですよ」
本当に知らないのに答えられるはずもない。困惑を浮かべたが済みそうになかった。鳩尾を蹴飛
ばされて息が止まる。最初の一人が手を伸ばした。
「石をください」
ソーダライトのことだろうか。ポケットから取り出す。
「やっぱり分かってるじゃないですか」
正解のようだ。石を渡せば全てが終わるのだろう。どうでもいい存在だからあっさり渡していい
はずなのにためらった。娘の言葉が頭に響く。
「早くしてください」
急かされても右手を開かなかった。内蔵が痛かったが無理やり立ち上がって相手を殴りつけた。
力は入らず形勢は逆転しない。立っているだけでも何かを吐き出しそうだ。
438
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:04:29
逆上した相手の手の平から光が零れる。悪いことの予兆であることは既に学習している。しかし
一歩下がる力もなかった、相手が一人ならば何とかなったのかもしれない。光が宙に舞う。
「あどでー、ぼぐでー」
場に適わない物真似が聞こえた。光のきらめきすら静止する。
「パパみだいだ力士になりだいど!」
思わず苦笑した設楽の横から見知った姿が出現した。猪突猛進と呼ぶにふさわしい姿であったが、
瞬きした後には光を止めていた相手を投げ飛ばしていた。ひどく滑稽だが設楽にとってはヒーロー
である。艶々の髪を揺らして日村は振り返る。
ヒーロー見参の言葉は無かった。忘れられていたもう一人が何かを振りかぶっていた。設楽は無
心で立ち上がる。
庇うはずの手は宙を切った。重い衝撃音が暗い部屋に響いた。日村の体がゆっくり落ちていく、
設楽は何もせずに立ち尽くす。
人が倒れる音。嫌な音。うつ伏せに倒れた体は動かない。加害者は青ざめた顔をしていた。観察
出来たのは頭がやたらと冷たくなっているからだった。異様な目線で相手を貫く、手にしていた石
が部屋全体を青黒く照らす。設楽は視線の合わない目で口を開く。
どうして?
言葉にはならなかったが、いつかと同じように相手には伝わっているようだった。相手は怯えて
いる。設楽は機械よりも正しく続ける。
俺達は何もしてないだろ?
「石が必要だったんです、俺は悪くない!」
相手が捲し立てるようになった。設楽は自分のすべきことを悟った。相手を説得しなければなら
ない。
439
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:05:02
石って何?
「芸人が持ってる石です、それを持っていればその人しかない力を持つことが出来る」
それだけのために俺らを襲ったんだ。
「集めなきゃいけないんです。これがあれば仕事が増えるかもしれない、有名になれるかもしれない」
相手が頭を抱えた。怯えきった目は設楽から逸らされなかった。設楽自身も相手から目を逸らさ
なかった。話をしているときは目を合わせなければならない。
「俺は悪くないんです! もう解放してください! 早く!」
懇願する相手に対して無表情を返した。そして呟く。
「償ってからね」
小さな間が空いた。相手は脱力し、立っているのがやっとになった。設楽はまた意志だけを飛ばす。
そっちは石で何が出来るの?
「手の平で触ったものを数秒間止めることが出来ます」
なら胸に手を当てなよ。
「え?」
心臓の動きを止めればいい。
「そんな、嫌だ、死にたくない!」
数秒なら死なない。それにほら、償う必要があるんだから。日村さんを見てみなよ。
「俺じゃない。俺がやったんじゃない」
でも協力した。
「確かに相方だけど、違う」
相方のやったことは償わないと。
440
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:05:28
「つぐなう」
出来ないなら、日村さんを直せよ。
「……うわぁー!」
相手が胸に手を翳した。石の光りが漏れて時間の流れが止まり、青黒い空間の中で相手は前のめ
りに倒れた。先程と同じだが小さい音が響く。設楽はソーダライトの光も忘れて日村の元に進む。
立てなかったので這うようにした。
「日村さん」
倒れてはいるが肩は上下している。だが頭を叩かれたのだ、安心は出来ない。助けを呼ぼうにも
歩く力がなく叫ぶしかなかった。肺が痛いから大音量は望めないにしても。
「もう助けは呼んである」
知った声だった。正体を探すために辺りを見渡しても姿はなかった。しかし近くにいるのは分か
る、大道具の影に潜んでいるのだろうか。
彼がそこにいる理由が分からなかった。ここはテレビ局だ、彼はテレビ出演を断り続けている。
ここは使われていないスタジオだ、ただの芸人である彼がここを知っているわけがない。答えは
相手が述べた。
「俺がやったんだ」
設楽が理解する前に相手の話が始まる。
「俺は最悪の事態を回避するシナリオを書くことが出来る。バナナマンのシナリオを書いた、そう
したらこうするしか方法がなかった」
紙を捲るような音がする。コントのような声色であるせいか、台本のイメージが浮かぶ。
「でも最良の方法ではない、だから許してくれなくてもいい。本当はもっと残酷だったから」
息継ぎの間が空く。
「本当は日村さんがその人達みたいにならないといけなかったから」
設楽は倒れている二人組を見渡し、最後に日村を凝視した。驚くくらいに冷静な頭で考えて言葉
を探した。石が未だに光っているせいかもしれない。
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