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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

417 ◆tr.t4dJfuU:2006/07/02(日) 23:40:16
ある日、出演前の楽屋で俺が台本に目を通していると、
ふと、背後に座っていた庄司が話しかけてきた。

「・・・品川さん」
「ん?」
「もし俺が いなくなったらどうする?」
「そりゃもちろん、ピンの仕事が増えるかな。特に雛壇。
椅子に限りがあるなら二人より一人のほうが呼ばれやすいだろ」
「何それ。困んねぇの?」
「困るのは番組関係者。安心しろ俺がお前の分のレギュラー代わりにやってやるよ」
「お前それやりたいだけじゃん!」
「俺は一つでも多くレギュラーが欲しい!」

貪欲だなぁ、と言って庄司が笑った。
庄司が笑うと、いつだって空気は柔らかく和む。
よしウケた、と俺はほくそ笑んで満足していた。
それからすこし間があって、何かが背中にもたれかかってくる感触がした。静かに、ゆっくりと。
「・・・・庄司?」
背中合わせに、その背を預けるように寄せて来ている。後頭部に庄司の髪が触れた。
振り返ろうとしたが、身体がずれるとそのまま倒れこんできそうで、身体を動かすことが出来ない。
「おい」
少し心配になって声を掛けた。
「重い?」
「・・・・いや。すげえ気持ち悪い。何?何か言いたいことあんの?」
――お前普段こんなことしないだろ?と言う言葉は、驚きとともに飲み込んだ。
「・・・・一人でももう大丈夫・・・」
「は?」
「・・・何でもない」
嘘だ。と品川は直感的に思った。何かを隠してる。何か訴えたいことがある。
でも言いたくない。こういうとき八つ当たるより黙り込む癖が彼にはあった。
問いただしてやろうと口を開いたその時──静かな規則正しい呼吸が耳元で聞こえた
・・・寝てやがる
怒りのあまり張り倒しそうになる衝動を抑えて、ゆっくりと身体をずらし、
出来るだけ衝撃にならないよう身体を支えて、畳敷きの床の上に横にならせた。
上着を身体に掛けてやり───ふと、手が止まる。目を閉じて子供のように眠る庄司の顔色は少し悪かった。
・・・こいつこんな顔だったっけ。
前髪を少し上げて顔を見た。庄司の顔だ。剣のない、優しげな。
けれどどこか、いつもと違う、影が──その面に色濃く出ている。ぬぐいきれない違和感と共に。
──疲れてるのかな。
本番までまだ時間がある。静かにさせて30分前には起こしに来ようと、
品川は立ち上がって楽屋を出て行こうとした。
戸を開けたとき、遠くで庄司が微かに呻いたのが聞こえた。
「・・・・・・・けて・・・」
何と言ったのかは分からなかったけれど。

音もなく戸が閉められたあと、庄司は眠ったまま何かを求めるようにして手を伸ばした。
ゆっくりと広げられた手のひらの中に──赤い光を帯びた石は喰らいついたまま熱を帯びて
今一度、鈍い光を、放った。


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