したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

SS練習スレ2

1シンの嫁774人目:2011/01/30(日) 23:08:56 ID:ZxrlcmLE
自分もSSを書いてみたいけど
初めて書くから…
昔書いてたけど長い事書いていないから…
上手く書けるか心配。
そんな人のためのスレです。
他にも投下する前にここに載せて反応を見たい人等、広く募集しております。

SS・感想を書いてくれる人、共に随時募集中。

感想を書く人は気になった点は遠慮なくやんわりと指摘し、気に入った点はしっかり誉めましょう。

※練習スレ利用の注意事項は本スレのテンプレに準じます。
 原作カプを崩すネタを書く場合は、本スレに投下せず、練習スレに注意書きの上で書きましょう。

3凍った鈍器「コードン」:2011/02/08(火) 00:12:47 ID:f8.Z1iZo
「―――駄目だ、やっぱりここは『知ってる人間界』じゃない」
「そう、なんだ…」
こんな状況になったのは運がいいのか悪いのか。
少なくとも『追手』から逃れることが出来たのは幸いだが。
「でも、どんなことがあっても俺が絶対に守るから…!」
「…うん!でも絶対無茶しちゃだめだからね」
微笑みで返してくれる彼女を見る度に、心がとても暖かくなる。
何もなかった自分に未来(あす)への道を照らしてくれた、愛しい少女。
もしも、彼女も同じことを想っていてくれるのなら、どれほど嬉しいことか。
「とりあえずこれからどうするの?シンちゃ…」
『まてぇーーーい!!』

飛び出した亜沙を追い、稟も件の二人に相対する立ち位置になる。
「彼女」は驚き、黒髪の少年の後ろへ隠れる。
「…何なんだアンタ達?」
一見華奢な印象を持っていた少年だが、睨みつける眼力が尋常ではない。
まるで親の敵でも見る眼だ。
若干怯むも、何とか活を入れ耐える。
「あ、あんたその人にどうするつもりなんだ!?」
「…アンタ達には関係ないだろ」
「か、関係あるわよ!その人は私のお母さんなんだから!」
「あ、あの…」
黒髪の少年の後ろからゆっくりと顔を出し

「どちら様ですか?」

ありえないはずのことを、亜沙の母親『時雨亜麻』が言い、
稟と亜沙はしばしの間言葉を理解できなかった。


SHUFFLE!〜Platonic Love〜
     開幕

4凍った鈍器「コードン」:2011/02/08(火) 00:13:20 ID:f8.Z1iZo
この作品を、ここの住人方と「亜麻さんが好き過ぎる親友(とも)」に捧げる

5シンの嫁774人目:2011/02/08(火) 06:54:50 ID:TcYyQT.g
>>4
コードン氏乙です。
何だこの展開は!?シンは魔族設定?
あと分からん人おるかもしれんから一応age

6シンの嫁774人目:2011/02/08(火) 11:03:02 ID:tVpv1ZyQ
シン達は研究所から逃げてきたときの設定なのかぁ

7シンの嫁774人目:2011/02/09(水) 07:12:04 ID:Bljyk3Oc
そういえば『時雨亜麻』ってのは彼女が人間界に飛ばされてからの名前だよな
となるとこっちのは当然魔界時代の名のままだが原作で明言されてたっけか?
単に覚えてないだけか未出なのか曖昧なので誰か知ってたら教えて

8シンの嫁774人目:2011/02/09(水) 23:10:57 ID:l2k031dw
>>7 調べてみたけど、特にはないみたいだね。間違ってたらすいません。

9シンの嫁774人目:2011/02/10(木) 00:05:16 ID:EeaCRseE
雑談する時はsageようぜ……

10シンの嫁774人目:2011/02/10(木) 08:00:32 ID:NqnYl63c
コードン氏の作品だから最初亜麻さんでたときシンと不倫というなの背徳な関係かと不覚にも思ってしまったw
正直そっちの方が俺得だったw

11シンの嫁774人目:2011/02/15(火) 00:19:04 ID:9bQmgOYo
初投稿しようと、バレンタインネタ書いてたのにもう過ぎてるorz

まあ、気にしたら負けだwwww

ということですので、読みにくい表現や分かりにくい描写などがあるかもしれませんが
ご容赦ください

また、ネタは「SHUFFLE!」で書いてみました

コードン氏と同じく、原作の根底を崩してしまうような内容になっておりますのでご注意してください




今日は2月14日、世の中ではセントバレンタインデーというやつである

恋人同士が愛を確かめ合ったり、思い人に思いを伝えたりと賑やかである


俺、シン・アスカにとってはこの日はいい思い出ばかりではない

昔はこの日をすごすときは悲しい思い出しかなかった

だが、今日からは少しでも楽しい思い出を増やしていきたい

そんなこんなで、俺はデートの待ち合わせの場所に死ぬ勢いで走っていた


前もって、いろいろと準備はしてきたがまさか、デート本番で遅刻はないだろう、俺

「あ〜!間に合ってくれよ!!」



光陽公園噴水前、バレンタインのこともあり、カップルの待ち合わせなどでごった返している

「ん〜シンちゃん、遅いな〜」

猫の耳を思わせる白い帽子にその脇にワンポイントとしてピンクのリボンを二つ付いている

淡いブロンドヘアーに紫の瞳の幼さが残る少女がそこでシンのことを待っていた

「もう…まったく相変わらずだな、シンちゃんも…」

彼とこうやって、付き合うようになってからもよく私に気遣いをしすぎて遅れてくることがよくあった

そんな彼の優しさは、私だけではなく彼の周りの人たちにも向けられていた

彼は優しすぎるのだと思う、あれで昔は荒れていたらしいが

「ん〜あ、シンちゃんだ♪」

彼の事を考えていたら、その本人が走ってこちらに向かってきていた

「あ〜確か、こういうことを噂をすれば影ありっていうんだっけ?」

そんなことを思い出していたら、彼はもう私の目の前にきていた



約束の時間に5分送れて、俺は彼女の前にたどり着いた

「はぁはぁ……す、すみませんでした、ちょっと疲れて仮眠をとってたら、約束の時間10分前だったもので」

「大丈夫だよ、シンちゃんのそういう所もよく分かってるから」

そう彼女はつぶやいたが、それでも俺としてはいつもいつも遅れてしまう為、申し訳なさで苦笑いをしてしまった

「まあ、いつまでもここにいてもしょうがないから……そろそろいこっか♪」

「そうですね、それじゃ…行きましょうか」

俺は、彼女に右手を差し出した

「うん♪」

そして、彼女の差し出された左手を掴んで歩き出した

12シンの嫁774人目:2011/02/15(火) 00:22:42 ID:9bQmgOYo
ガタンゴトン、ガタンゴトン

電車特有の移動音が、リズミカルに音を立てる

俺と彼女は、俺のある目的の為に電車に乗って、目的地まで移動していた

「そうだ、待っていてお腹もすいたでしょうし、ちょっと待ってください」

俺は準備していたバックの中から、用意していたバスケットを取り出した

「よっと、朝手早く作ったんで彩りとかが少し雑になってるかもしれませんけど、どうぞ」

バスケットを開けて、サンドイッチなどを綺麗に彩をされて、入っていた

「おいしそう、いただきます」

彼女はその中で、俺が試しに作ってみたバナナサンドを何故か、選んだ

「あ、それは……」

「はむ、ん……おいしいよ、シンちゃん」

「あ、そ、そうですか…それはよかったです」

そんなことがありながら、電車は進んでいく



「……シンちゃん、ここって……」

「ああ、悪かったな……なんか付き合わせるような感じになって」

そう、俺の目的地は……家族が眠る地だった

「丁度、今日が命日で……それに君を家族に会わせたかったから」

大きな樫の木の脇に立てられていた洋風の墓には、枯葉が多く覆っていた

「やっぱり、暫くきてなかったから掃除しないとな」

「私も手伝うよ、シンちゃん」

二人で手早く枯葉を払い、バックに入れていた花を取り出し、供えて手を合わせた

「父さん、母さん、それにマユ……俺は元気に過ごしてるよ」

瞳を閉じ、これまでの事を思い返していた……

「色んな事があったよ……本当にね、辛いこともいっぱいあったけど」

俺は、彼女の顔を見てもう一度、墓前に向かい合った

「そして、彼女に会えたんだ……幸せにしてあげたい幸せになりたいと思える彼女に会えたんだ」

「シンちゃん……」

「だから、まだ父さん達の所には行けない……親孝行にもなるか分からないけどさ」

その時、俺の手の甲に雨が落ちてきた

「こ、こんな、俺だけど……見守ってくれるかな、父さん」

雨が手の甲にぼたぼたと落ちていく……雨は俺の涙だった……

「シンちゃん……私もいるよ、だから一緒に頑張ろう」

「う、うん……ありがとう、ありがとう……」

彼女の抱擁が、その暖かな温もりが嬉しかった

13シンの嫁774人目:2011/02/15(火) 00:23:46 ID:9bQmgOYo
「なんか、恥ずかしいところみせちゃいましたね」

俺は、涙を拭い払った

「ううん、シンちゃんのそういう所を私は好きになったんだから」

「うっ……」

気恥ずかしさで顔が真っ赤になって、誤魔化そうとしてバックに残っていた物を思い出した

「あ、そ、そうだ……これ、受け取ってくれるかな?」

取り出したのはラッピングのされた小さな箱

「ああ、今日はバレンタインだったね……あれ?でもそれにしては箱が小さいね」

彼女はその箱をみて、首を軽く捻ってみていた

「開ければ分かるよ」

「うん、それじゃあ……」

ラッピングのリボンを外し、箱の蓋を開けると中には……

「ぇ、これって……シンちゃん?」

中に入っていたのは、シンプルなシルバーリングだった

「俺に君の一生をくれないかな?」

「……うん、私もあなたと一生を過ごしたいよ」

そして、俺は体を少し屈め、彼女の唇を……




「……レハ、カレハってば!!」

「カレハ先輩、早く戻ってきてください」

「ままぁ、シンさんと亜麻さんの甘いバレンタインでの告白♪」

「あ〜カレちゃん、帰ってこないね」

金髪の少女は、恍惚の笑みを浮かべながら何を見ているのだろうか?

それは、彼女しか知らない別の世界の話である



おまけ


「あ〜こうなったのもシンちゃんの性じゃない!」

「えぇぇ…それは理不尽ですよ、亜沙先輩」

「だって、そうじゃない……なんで、よりにもよって、お母さんにもチョコあげたのよ?」

「いや、だって…昔からお世話になりっぱなしですし、偶にはお返しぐらいしないと」

焦りながら、説明するも亜沙は納得してくれない

「シンちゃん、そんなに気にしなくてもいいのに〜でも、そんなシンちゃんが可愛いな♪」

「って、亜麻さん、そういって抱きつかないでくださいよ!」

「えぇ〜だって、シンちゃんは未来のあっちゃんの旦那様になるんでしょ?」

「「ちょっと、亜麻さん(お母さん)!!」」

顔を真っ赤にして、声をそろえていた

「わ、私はまだそんな」

「も〜あーちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだから〜♪」

と、娘を度付く母親の姿の隣には、未だに妄想の世界に浸るカレハ先輩がいた

「はぁ……なんでこんなことに……」

俺は頭を抱え、なぜこのような状況になったのかを考えていた

だが、それがシン・アスカの宿命という名のDESTINYだからであるという妄言が頭をよぎり

項垂れるしかなかった

14シンの嫁774人目:2011/02/15(火) 00:32:57 ID:9bQmgOYo
うぅ、初投稿ということもあって

やっぱり表現おかしいよなと思うところが多すぎたorz
それよりも改行しすぎで読み難くなってそうです(汗

読んでもらえれば分かると(ダブン 思いますがシン×亜麻さんですが

オチはこれしか思い浮かばなかったですw
流石です、先輩w

もっと修行して、帰ってきます、では〜



おまけのおまけ


今日は、バレンタインという恋人や親しい人に贈り物をする日であるが
ここ日本では、主にチョコを送ることが主流である

俺、シン・アスカはこの日の為に、お世話になった人たちに感謝の印として様々な物を用意した
シアやネリネ達には手作りチョコを送りとどけたが手作りということは伏せておいた
なぜなら、側には我が家の家事主の芙蓉楓さんがいらっしゃったからである
「ばれた後が大変だからな……偶には、俺にも家事をしたって罰は当たらないってのに」
もしばれたときのことを想像してみた……

「シン君は、私の隠れてチョコを作ってたんですか?なんですか?私が手伝っちゃまずいんでしょうか?」
「あ〜楓さん、こういうことはやっぱり一人でやらないと……」
「私、邪魔になっちゃいますか?私イラナイですか?私はシン君のためだったら……」

想像しただけでちょっと、気が滅入った……
「さて、あとはおじさん達か……早く渡して、この疲れを癒すのにプリムラとゲームしよう」
そう思い、足取りを家に向け、駆け出していった


「え〜っと、おじさん達は……あ、いたいた」
「ん?やあ、シンたんじゃないか」
「お、シン殿、一体どうしたんだい」
シアとネリネの父親であり、神界と魔界の王であるユーストマおじさんとフォーベシイおじさんである
「魔王のおじさん、そのシンたんってどうにかならないんですか、そのめちゃくちゃ恥ずかしいんですが」
「いや〜呼び方を考えているとどうしても神ちゃんとかぶっちゃってね、でもたんって呼び方可愛いじゃないか」
「はぁ、まあいいです……それとこれ、俺からのバレンタインの贈り物です」
用意していたバックから、二つの袋を取り出しおじさん達に渡した
「んん?シンたん、バレンタインは女性から男性にチョコを送るものじゃなかったのかい?」
「それは、日本特有の文化です、本来は親しい人や家族に贈り物を送っているんですよ」
「そうなのかい、じゃ、早速開けさせてもらおうか」
「あ、神ちゃんずるいじゃないか、開けるなら二人同時に開けようじゃないか」
「まー坊が、とろとろしてるからじゃねぇか」
ユーストマおじさんはその性格に分かるように、袋を豪快に開けた

「お、これは……巾着ってやつか?」
巾着の布柄は、キキョウとリシアンサス、そしてライラックの花をあしらった物を使っている
「私のほうは、これはエプロンだね」
エプロンは黒地にネリネとリコリス、そしてセージの花のワンポイントの刺繍がされている
「はい、ユーストマおじさんとフォーベシイおじさんにプレゼントするなら何がいいかなと思って、自分で作れそうなのがそれぐらいだったので」
「おお、シン殿、俺の為に……未来の息子からの贈り物とは嬉しいもんだな、まー坊」
「うん、そうだね……神ちゃん、これ以上の贈り物はなかなかないものだよ」
ユーストマおじさんは涙を浮かべながら喜び、フォーベシイおじさんは俺が見たことのないような笑みを浮かべていた

「神ちゃん」
「まー坊」
おじさん達は向かい合い、俺のほうを見た

「え?」

といきなり二人に抱えられた
「ちょ、おじさん達いきなりなんですか!?」
「この良き日を祝わなくてなんだってんだい、なぁ、まー坊」
「そうだね、神ちゃんこんな時こそ、祝わないと」
「ということで」

「「今から飲むぞ〜!!」」

ノリノリなおじさん達に抱えられ、ユーストマおじさんの家に連れて行かれる

「ちょ、おじさん達こんな時間からは、勘弁してくださいって!!」
「堅い事いうなって、シン殿」
「そうだよ、シンたん」
流石、王様'sである、こちらの話は却下された
「こ、こんなはずじゃなかったのにぃぃ〜!!」

そして、俺はおじさんの家の中に消えていった

改行のペース考えるの難しいな、そしておまけなんて書かなきゃ良かったorz

15シンの嫁774人目:2011/02/15(火) 01:12:54 ID:uD9tWDcI
大変GJであります!
是非妄想だけでなく現実でもその光景が見てみたいです


まさか私意外に彼女を書く漢がおられるとは・・・
全身全霊で応援いたします

16シンの嫁774人目:2011/02/15(火) 07:56:12 ID:iUk9HrIM
シンの家族の命日って6月じゃなかったっけ?
と思ったがカレハ先輩の妄想だったのかw

17シンの嫁774人目:2011/02/20(日) 13:19:56 ID:54.WVSO6
>>15-16
拙い文章に感想をいただき、感謝感激です
調子にのって、また書いてみましたw
内容的には前回のプロローグ的な何かです

原作の内容、及び主人公に関して根底から崩してしまう内容ですので原作を大切にする方はご注意ください


もしもの話の始まりを語ろう
始まりは少女の妄想だったかもしれないが
それでも尚、その妄想は世界を生み出した事に代わりはない
少年と少女の出会いから、語ることにしよう


少年の名はシン・アスカ、この物語の主人公だ
少年は、幼少期に家族を失い、愛の意味を忘れてしまった
だが、優しさを忘れられなかった少年の心は、歪擦り切れ、磨耗していた
父との約束、死への罪、力への固執……
癒されない心、刻まれた深き傷、救いを与え、救いを拒む
少年の心は壊れかけていた


そして、少女も全てを失い、その身に呪詛を受け
時を超え、心すら空になりながら生きていた

壊れかけの少年と空の少女……

出会ったのは偶然か必然か、はたまた……神の悪戯か

おや、まあ……そろそろ物語を語りましょうか
少年と少女の始まりの物語を



……夢を見た……
まだ、子供の頃の幸せだった頃の儚い夢
父さん、母さん、マユ……そして
場面が移り変わり、俺は雨の中で立ち尽くしていた

振り返るとそこには女の子が立っていた
雨に濡れ、泣いているようにも見える少女の瞳には、光は無く暗い闇を映していた

「なんで、あなたが……」
「……」

ああ、何度も繰り返し見続けた夢、後悔と罪を認めた日の夢
夢の中の俺は、女の子の言葉を聴くことしか出来なかった

「あなたなんか、あなたなんか……」

言葉を最後まで紡ぐ前に俺の意識は覚醒した……



「……罪は、消えない……そういうことかよ」

外を見れば、あの時と同じように雨が舞っていた

「雨か……」

窓に映る俺の瞳は、夢の女の子よりも深い闇を宿していた……



俺は服を着替え、町へ出かけようと玄関に向かうと

「おはようございます」
「……ああ、おはよう……楓」

芙蓉楓、俺が家族を失い、一人になった時に俺を預かってくれた芙蓉家の一人娘
だが、彼女の俺を見る眼は、あのときから変わらない……それが俺の背負った罪だから

「どちらにいかれるんですか?」
「ああ、少し出かけてくる」
「そうですか……」
「……」

彼女の態度の理由も分かっているから、今の俺にはどうしようもなかった

「雨……降ってますね」
「ああ、それじゃ……いってきます」
「ええ、いってらっしゃい……私はあなたがいないほうが清々します……」

小さい声でだが、それははっきりと俺の耳に響いて聞こえた

18シンの嫁774人目:2011/02/20(日) 13:21:44 ID:54.WVSO6
……私は、死んだのかな……

私は、ある目的の実験に協力する際に自分の肉体と魔力を強化されていた
そして、その実験の際に私の魔力が暴走したのだ
強化された力は私が制御できるものじゃなかった
溢れ出した魔力が全てを無へと掻き消していく……
人が、紅い砂へと……血のように紅い砂へと却っていく……
悲鳴と呻きが飛び交う中、私は紅い砂に飲み込まれ、意識を失った

私は、空だった……心には何も無かった
家族も無く、愛するものも無い私に
ただ、人の役に立てるのならと協力したのに……
結局、私のしたことは死を振り撒いただけなのだろう

……私は、本当に何ができたのかな……

その時、視界に光が溢れ出し、私の意識をまた失った



俺は、家を出た後、さまざまな思い出が詰まっている緑公園にきていた

「……雨、止まないな……」

雨が体に降り注ぎ、コートは濡れ体も冷え切っていたが傘を差す気分にはなれなかった

「……俺は、俺は……」

先程の楓の言葉がいつまでも頭に過ぎる……
俺は、結局あの時から何も変わってない、後悔し、その現実から逃げ続けている
雨が俺を濡らす、罪を思い出させるように降り続ける

「……ん、何だ?光が溢れ、っ!?」

急に目の前に光が溢れ出し、俺の視界は白に塗り潰されていった


「くっ……収まったか、一体何が、ぇ?」

塗り潰された視界が元に戻り、俺の目の前には先程までいなかった少女がいた
淡いブロンドに白い肌、こんな雨の中で薄い病院服のような服
そして、人間とは違う長い耳が……

「魔族?でも、なんで……」

気を失っている少女をこのままにしておけないが楓がいる家には連れて行けない

「……仕方が無い、あそこに行くか」

俺はコートを脱ぎ、まだ濡れきっていないシャツを少女に羽織らせ
少女を背負いながら、目立つ耳が見えないように傘を差し、目的地を目指し走り出した



うん、中二病全開ですねw
こんな文章ですが今後とも頑張って書いていけるようにしますw

19シンの嫁774人目:2011/02/20(日) 19:58:37 ID:v8cD5gwo
作品が投下されてたのでage
GJ! 原作は知りませんが、続きが楽しみな作品です。
シンは何故楓に嫌われているのか? 現れた魔族の女の子は誰なのか?
んーむ、先が気になります。

ところで、前書きや後書きが本文と近い位置にあるので、そこがちょっと気になりました。
レスを変えたり、改行をもう少し多くしたり、ラインとかを入れて区切ったりと工夫してみてはどうでしょうか?

20シンの嫁774人目:2011/02/20(日) 22:21:56 ID:54.WVSO6
>>19
感想ありです、なるほどそこの点を気をつけてみます
自分としても、そのように指摘してもらわないと分からないところなどありますので


作品としてもちゃんと完成できるようにがんばっていきますのでよろしくお願いします

21シンの嫁774人目:2011/02/20(日) 23:31:24 ID:NbAOdRgM
楓がどう変わるんだろうな、>>14とはまるっきり別人だな

22シンの嫁774人目:2011/02/21(月) 00:08:06 ID:NSBhPITg
>>21
>>14は原作時間軸ですが、>>17は過去時間軸の妄想世界ということですのでw

23シンの嫁774人目:2011/02/21(月) 00:25:56 ID:R1pYhOtQ
まとめスレにも書きましたが、保管はどういたししましょう?
練習スレはゆっくり投稿するのが多い様なので保管するのでしたら物語がすべて終わってからまとめてしようと考えてますが

24シンの嫁774人目:2011/02/21(月) 18:57:33 ID:NSBhPITg
>>23
とりあえず、現状は保留でお願いします
まだまだ、作品としても完成していませんし、設定的な問題がどうでるか分かりませんので

25なのポネタ05:2011/05/07(土) 23:10:01 ID:aJC0MPNs
 十年という月日は早いようで遅く、長いようで短いものだった。少なくとも、今のシンには過去を穏やかに懐古するくらいの落ち着きと余裕があった。
 新暦七十五年三月――シン・アスカ・高町がコズミック・イラから第九十七管理外世界、地球に次元漂流してから、十年の月日が経過した。
 


 時空管理局、湾岸特別救助隊に所属する隊員が寝泊りする寮の一室に、シンは何をする事もなく、ベッドに横になっていた。
 年単位もの時間が経過すれば、青年を小さい子どもから「中年」と呼ばれるものに変え、もうすぐ三十路になろうかという二十歳後半にまで片足を突っ込ませていた。
 漆黒の髪は女と見間違うくらいに肩の下まで伸びており、初対面の男性には女性だと間違えられる事もあり、下心丸出しな声を掛けられる事も珍しくない。
 子どもっぽい、幼さを残す顔立ちは精悍さで溢れ、それが端整な顔にプラスされた事で、実年齢よりほんの少し若く見られている事を、シンは知らない。
 机の上に置いてある端末が、通信が入った事を知らせる電子音を鳴らすと、シンはゆっくりと起き上がり端末を手に取る。
 内容は一通のメール。紅い瞳を左から右、上から下へと動かし、書かれている内容を確認すると、端末をポケットにしまい自室を後にする。向かう先は、指定された局の食堂。



「おぉ〜い」
 食堂へとやって来たシンに、直ぐ様声が掛けられる。
 出入り口の傍にある四人掛けのテーブルに、一人の少女が手を振っている。茶髪のショートカットに黄色いヘアピン、管理局の青い制服に身を包んだ八神はやてだった。その手元には飲み物が置かれている。
 闇の書事件解決までは動かなかった足はすっかり完治し、家族同然だった車椅子に別れを告げていた。
 心身共に成長したはやては、特別捜査官として数々の難事件を解決に導き、局内での活躍を知らない者はいない程、優秀な魔導師として現在に至る。
 シンも微笑を浮かべ手を振り替えし、はやてが座るテーブルへと近づく。そして彼女の対面に腰掛けた。
「久しぶりだな」
「そうやねぇ、アスカさん忙しいから滅多に会えんし。あっごめんなぁ偶の休みに呼び出して」
「いいって」
 両手を合わせ拝み倒すように謝罪するはやてに、シンは苦笑交じりに「そんな事ない」と手を振った。
 シン・アスカの現在の肩書きは『湾岸特別救助隊』の、いくつかある小隊の一つ『クリムゾン』の隊長である。ちなみにこの名前、シンの周囲の者――部下や上司達――が勝手に命名し、彼は「恥ずかしいから止めてくれ」と日々反対署名(シンのみ)を部隊長に申請しているが、一向に認められていない。救助隊のみならず、他の部署にまで浸透してしまっているので、もう手遅れなのだが……。
 湾岸特別救助隊とは、時空管理局・災害担当課の中でも、特に人命救助を専門とする部隊で、危険地帯への突入や迅速な救助活動等を行う為、個人として高い能力が要求される部隊。そして彼が所属するそこでは、ミッドチルダ南部の港湾地区を担当しており、陸上と海上両方が担当区域である事など、特別救助隊で一番激務な部署。
 シンの制服ははやてのそれとは違い、ギンギラギンでちっともさりげなくない、銀色仕様。まぁそんな目立つ制服でも、災害担当局員の憧れなのだが。
「そか。そう言ってくれると助かるわぁ。でな、アスカさん」
「大丈夫、直ぐ来ると思う」
「おおきに」
 シンの言葉に、はやては小さく頷いた。
 はやてがシンを呼び出したのは、デートの約束を取り付ける訳でもなく、昼食を一緒に取る訳でもなく(シン主観だが)、彼を通してある人物を呼び出してほしい、というものだった。
 はやてがその人物に直接会いに行くなり交渉すればいいのが一番だが、前者は彼女自身多忙である事、後者は、何とも間抜けな話だが、その人物との連絡手段がなかった。そこで彼女は繋がりがあるシンを仲介人として頼ったのであった。
 二人の耳に、くぐもった振動音が入る。どうやらそれははやての端末から発せられるものだったようで、彼女がポケットからそれを取り出し、通話ボタンを押して、連絡を入れてきた相手と言葉を交わす。
 シンがテーブルに両腕を乗せたと同時に、はやてへの用事は終わったらしく、彼女は「ありがとう」と会話を止め、端末をポケットにしまい直した。
「来たって」
 顔を綻ばせるはやてに、シンも小さな笑みを返した。
 それからは、二人は互いの近況や仕事の愚痴等、他愛のない話を続けていた。後者に関しては、はやてが管理局の、組織としての体質にあーだこーだと不満を述べたり、ミッドチルダで食べられる日本食はあまり美味しくない、等々。
 どうやら、はやては日々ストレスと死闘を演じていたらしい。今のところ、そこからくる負担に、彼女の美貌が損なわれる事はなさそうだが。

26なのポネタ05:2011/05/07(土) 23:12:31 ID:aJC0MPNs
「おい」
 はやての愚痴がエンジンの火を噴き始め、シンがうんざりしかかったちょうど、彼の背中に冷ややかな声が掛けられる。本来ならシンより先にはやてが気がつきそうだが、彼女は自分の鬱憤を晴らす事に夢中になっていた所為で、その目は曇っていた。
 シンが振り向き、はやてがハッとしたように視線を向けると、二人の『美女』が立っていた。
 一人ははやてと同じ髪型――髪色は銀だが――を煩わしそうに掻き上げ、エメラルドグリーンの瞳をシン『だけ』に向けている。紺のタートルネックの胸元は、遠目からでもよく分かる程、大きく膨らんでいた。下半身のジーンズタイトスカートから伸びた、雪のように白い太ももが、健康的な色気を醸し出している。もう一人は青色の長い、嘗てツインテールだった髪を、ポニーテールで纏めていた。花柄のキャミソールが可愛らしいが、薄着なので体のラインがくっきり出ている。他人の視線には無頓着なのだろうか。隣の巨乳とは対照的に、小さな胸がスレンダーな体にマッチしている。流行のパンツを穿いた下半身は肌の露出がなく、鉄壁のガードを誇っていた。ただ、こちらもピッタリしているので、お尻の線がくっきりだが。
「出迎えくらい寄越せ、馬鹿者」
「シ〜ン」
 ギロリ、とシンを睨む闇統べる王の横を、雷刃の襲撃者が走り抜け背中から彼に抱きついた。
「元気そうだな」
 シンは雷刃の襲撃者の頭を撫でつつ、久しぶりの再会を喜んだ。
 闇統べる王も雷刃の襲撃者と同じなのか、鋭い視線は変わらないが、口元は小さく緩んでいた。彼女はシンの隣に腰を下ろす。
 雷刃の襲撃者ははやての隣に座ろうとしたが、はやてが椅子をシンの隣まで持ってきてくれて、彼女もシンの隣に落ち着いた。
 時が経つにつれ、マテリアル達の容姿は人間と同じように成長していった。彼女達とほぼ同類の、はやての守護騎士達の方は、十年前と変わっていない。両者の違いは、未だに不明のままだった。当事者達に言わせれば「どうでもいい」らしいが。
 管理局での奉仕活動を無事に終えた雷刃の襲撃者と闇統べる王は、一年間のみ管理局員として働き、そして辞め、第九十七管理外世界の地球、日本の海鳴市にある私立聖祥大学付属小学校に通う事になった。二人はエスカレーター式に小、中、高を卒業し、闇統べる王は大学に、雷刃の襲撃者は喫茶『翠屋』にパティシエ見習いとして日々奮闘している。
 変わったのは外見だけでなく、中身も多少の変化があった。
 闇統べる王は言葉遣いが柔らかくなった。これは本人が言うには「塵芥共に我の、真の言葉を聞かせるのは惜しい」との事。シン達の前では、相変わらずの我様言葉だ。
 雷刃の襲撃者は高町桃子が作るお菓子の数々に魅了されたらしく「僕も作りたい!」の一言から端を発した『将来の夢はケーキ屋さん計画』は順調に進み、調理師免許の資格も習得済みである。

27なのポネタ05:2011/05/07(土) 23:13:28 ID:aJC0MPNs
「久しぶりやなぁ二人共」
「飲み物取ってくる」
「いらん、いいから早く用件を済ませろ」
「ここにパフェってあったっけ?」
 はやてが話を進めようとするが、シン達は聞こえていないのかメニュー表を片手に騒ぎ出す。
「それでな、今日私が呼んだんは――」
「パフェはあるぞ、チョコとストロベリーと……」
「じゃあね、両方」
「止めておけ。こんな所の料理なぞ三流だ」
 はやての眉がヒクヒクと震える。表情こそにこやかだが、彼女から怒りのプレッシャーが発せられ始めてきた。
「雷刃ちゃんと統べ子ちゃんになぁ」
「パティシエとしては色んなとこの料理に興味があるんだよ」
「パティシエ……っは! 半人前のくせに妄想だけは逞しいな」
「何だとぉ!?」
「喧嘩するなよ……」
 はやての額に青筋が立ちまくり、彼女は握り拳を作りゆっくりと天に掲げる。その姿を見た、とある男性局員が「我が生涯に一片の悔いなし……」と呟いた。
「闇統べ何か世界征服とか頭ぱっぱらぱーじゃないか! そんな奴に僕の夢を馬鹿にする資格なんかないね!」
「貴様……私を愚弄するか」
「すいませーん、注文を――」
「うるさぁーい!」
 はやての絶叫と共に拳がテーブルに振り落とされ、食堂内に響く。
 シン達は勿論、周りにいた局員や食堂のおばちゃんまで、皆目を丸くし言葉を失った。騒がしかった室内が水を打ったかのように静まり返る。
「何だ子鴉。それとも、流石鴉だけあって喧しいか」
 闇統べる王だけは椅子に踏ん反り返り挑発的な笑みを浮かべていたが。
「ちょう黙れ」
「……ふ、ふん」
 マジでブチ切れ五秒前どころかとっくにロケットタートしているはやてに、闇統べる王は腕を組み小さく鼻を鳴らした。気丈に振舞ってはいるが、その額から冷や汗を掻いているのは、気圧されている証拠か。
 闇の欠片事件で、自身のお腹に風穴を空けられた苦い思い出は、未だに彼女を苦しめているのかもしれない。
『ご、ごめんあんさい』
「ん、ええよ」
 どもりながら頭を下げ謝罪するシンと雷刃の襲撃者に、はやても落ち着いたのか、傍に置いてあったジュースをストロー越しに啜り、一息吐いた。しかし三十手前の男が二十手前の小娘に頭を下げている図は、情けなくおかしいものだ。
「で、今日二人を呼んだ理由やねんけど」
 はやては腕を組んで、それをテーブルの上に乗せ身を乗り出すようにマテリアル達を見据えた。この時、闇統べる王とほぼ同じ姿勢になる。両者の違いは、はやての腕は自身の体に密着しているが、闇統べる王はタートルネック越しの西瓜が腕と体との密着を妨げていた。それを見たはやては、ふつふつと黒い感情が湧き出てくるのを感じた。
 そりゃ、小さいより大きい方がいい。小の代わりは大でも出来るが、大の代わりは小には無理なのだから。
 はやての周りにも、闇統べる王と同等、それ以上の大きさを持つ人物もいる。何も思うところがないという訳ではないのだ。
 せめて、あのパイパイをどう揉んでくれようか、と静かに計略を巡らせ始めた。

28なのポネタ05:2011/05/07(土) 23:14:01 ID:aJC0MPNs
「? 早く言え」
「ん、んん。ごめんな」
 可愛らしく小首を傾げる闇統べる王に、はやては邪な心を誤魔化すように咳払いをし、
「前に言うとった、私の部隊が稼動準備中や」
 本題に入った。随分と脱線してしまい事故が起きてしまったが、幸い怪我人等は出なかったのが奇跡だ。周囲の人達も、いつの間にか元に戻っている。ただシン達の近くにいた局員達は、いつの間にか姿を消していたが。
「今二人は管理局から退いた身や」
 闇統べる王は眼光を鋭くし、雷刃の襲撃者ははやての話を聞いていないのか欠伸をしている。
「そんな二人にこんな事頼むのは間違ってる思うけど……それでも……!」
 はやては居住まいを正し、マテリアル達に頭を下げた。
「魔導師として、機動六課に、私に力を貸してください」
 闇統べる王は黙ってはやての下げた頭を睨み据え、雷刃の襲撃者は彼女とシンを交互に見比べた。彼ははやての話を予め把握していたのだろうか、特に驚きもせず、黙っていた。
「その体勢を止めろ。話が出来ない」
 闇統べる王の冷たい声に、はやてはゆっくりと顔を上げた。
 闇統べる王がはやてに向ける全てのものは、いつだって無機質で冷酷だった。彼女から見れば、はやては闇の書の主、闇を統べる王の玉座を放棄した腰抜けに他ならなかった。許せなかったのだ。
「今日呼び出したのはそれが全てか?」
「そうや」
「そうか……」
 闇統べる王は伏目がちに立ち上がり、律儀に椅子を戻して踵を返す。彼女が向いた先は、食堂の出入り口。
「断る。私も忙しい身だ。貴様の『仲良しごっこ』に付き合う気はない」
「…………」
「おい」
 言い過ぎだろ、とシンが険の篭もった声と視線を闇統べる王の背中に向けるが、彼女は詫びれもせずそのままだった。
 はやては若干顔を伏せ、唇を噛み締める。テーブルの下の手は、管理局の制服をきつく握り締めていた。
『仲良しごっこ』と皮肉を漏らされても、はやては何も言い返せなかった。
 機動六課にスカウトした局員に、はやてに近い人が多かったからだ。
 組織の中で、親しい人と一緒に仕事をしたいという気持ちは誰にでもある。だが、はやてのそれは、あからさま過ぎた。
 管理局の上層部にも、闇統べる王と同じ意見を持つ者は少なくなかった。
「だが」
「……え?」
 闇の欠片事件では敵同士、解決後もいがみ合うといっていい程、絶望的な仲の悪さ。口を開けば挑発と皮肉が飛び交い、最悪の場合バリアジャケットを展開するまでに至った。
 絶対に仲直りしない、できっこない――幼いはやては、常にそう思っていた。十年経った今では、その気持ちは和らいでいるが、彼女と分かり合えるとは微塵も思っていない。
 はやては、闇統べる王を通して、自分自身を見ているような気がしたのだ。もしかしたら――守護騎士達やなのは達と出会えず、一人ぼっちだったら。姿形が同じというのも、それに拍車を掛けている。
 そのような、憎まれ口しか聞いた事のない闇統べる王の、穏やかな声色に、はやては耳を疑った。

29なのポネタ05:2011/05/07(土) 23:14:41 ID:aJC0MPNs
「もしうぬが、手に負えない塵芥が出てきたら、直ぐに知らせろ」
「統べ子、ちゃん?」
「その時は、我が三分で方を付けてやる」
 闇統べる王の言葉に驚いたのははやてだけではなく、シンや雷刃の襲撃者も同じだった。
「それで文句はあるまい」
 闇統べる王は額に手を当て、大きく息を吐き出した。
「我は帰る。今週中にレポートを書き上げなくてはならないからな。シン・アスカ、八神はやて」
 じゃあな、と闇統べる王はそのまま歩き出した。
 はやては魚みたいにぽかんとして呆気に取られていたが、彼女の言葉を理解したのか、その顔に喜色が浮かびまくる。
「ありがとう!」
 はやてはその場で立ち上がり、感謝の意を込めたお辞儀をすると、闇統べる王は振り向かず、ひらひらと手の平を振っていた。
「照れてるかもな」
「だよねー」
 シンと雷刃の襲撃者も口元を緩める。
「雷刃ちゃん、ごめんなぁ。やっぱり私、さっきの話は……」
「あー、そうしてくれると僕も助かる、かな」
 席に座り直したはやては、雷刃の襲撃者を見据え再び頭を下げる。彼女は気まずそうに組んだ両手をテーブルの上に乗せた。はやての頼みをきっぱりと断れなかった身としては、彼女が考え直してくれた事に感謝しつつも、小さな罪悪感が生まれたからだ。
「僕も今の仕事、止めたくないし……でも、闇統べの気持ちと同じさ。困った時は直ぐに駆けつける」
 その時は一番にね、と雷刃の襲撃者は、はやてにウインクした。一番に拘ったのは、彼女が『雷』の名を持つからか。
「そか。ほんと、ありがとな」
「えへへ」
「……そういえば」
 はやてと雷刃の襲撃者が微笑み合う中、シンは制服の袖を捲くり腕時計に視線を落とした。
 まだ、あと一人、この場に呼んだ人物が姿を現していないのだ。彼女の性格なら、遅刻する事はありえないといっていい程しないのだが……。
 天気予報だって、百発百中ではない。魔法が発達したこのミッドチルダという世界でも、それは全次元世界の共通事項なのかもしれない。
「すみません、遅れました」
 シンの背中に、もう一度声が掛かった。今度のそれは、闇統べる王のものとは対照的な、温かく穏やかなものだった。慈愛に満ち溢れているというか、クラシック音楽特有の落ち着きさが感じられるもの。
「珍しいな」
「すみません、緊急の呼び出しで」
 シンは背後の人物に振り返らなかった。姿を確認しなくても、誰だか分かっているのだ。
 十年前のあの日から、共にいたパートナーの声を、聞き間違う筈がなかった。

30なのポネタ05:2011/05/07(土) 23:15:18 ID:aJC0MPNs
 新暦七十五年五月十三日。
 機動六課の屋外訓練場に、新人フォワード四人組が横一列に並んでいた。皆訓練用の防護服に身を包んでいる。その内二人――少年と少女は、これから行われる訓練に備え心を落ち着かせているのか、屈伸と伸脚を繰り返していた。
「今日が初めてだっけ」
「うん」
「訓練の初日」
「うん」
「……雨降ってきた」
「うん」
 残りの二人の一人――ティアナは、隣の――最後の一人――スバルが相変わらずの上の空だったのを確認し、困ったものだと吐息を漏らした。
 今日の天気は快晴。絶好の訓練日和である。勿論、天気予報での降水確率はゼロだ。
 スバルは、機動六課のフォワードとして迎えられてから、ずっとこの調子だった。持ち前の明るい性格は鳴りを潜め、溜め息と陰鬱さを周囲に撒き散らしていた。
 ティアナは、訓練校時代からの親友が初めて見せるものにショックを受け、どうしたものかと顎に手を当てる。
「何だっけ……憧れの人?」
「うん……」
 ティアナの言葉に、スバルは小さく頷き、先程のまでとは少し違う生返事を返す。



 スバルは四年前、ミッドチルダの臨海空港で起きた大規模な火災発生に、姉のギンガともども巻き込まれた。
 当時のスバルは魔法も何も、力を持たない、か弱い少女だった。荒れ狂う炎の波の中、はぐれた姉を探して懸命に歩いていた。そうして、火の海の中を彷徨っていた時、スバルの背後にあった銅像の根元がひび割れ、彼女に覆いかぶさるように折れた。
 絶体絶命。幼いスバルは恐怖で目を瞑る。
 助けて、と。心の中で叫んだ声は、確かに届いた。
『怪我はありませんか?』
 一人の魔導師に。
 上空からふわりと着地した魔導師が、穏やかな笑みを浮かべて。
 その時、スバルは思った。彼女のようになりたい、と。誰かを守り、助けられるような人になりたい、と。
 それから、スバルは『明日への力』を求め、魔導師の道を志したのだ。

31なのポネタ05:2011/05/07(土) 23:15:55 ID:aJC0MPNs
「折角管理局に入ったのに、一度も会えないんだよ? おかしいよ」
「おかしいって」
 あたしに言われても、とティアナはふくれるスバルに手を焼く。
 スバルの不満に思う気持ちは分かるが、ここで管理局に文句を言ったり愚痴を零したところで、憧れの人が目の前に現れる、なんて都合のいい事が起こる筈もなく。
 魔法という、第九十七管理外世界の地球から見れば『奇跡』に等しいものが蔓延っているミッドチルダでも、無理な話だった。
「せめて名前だけでも聞いてればなー」
「確かに……そうすれば人に聞くだけだし」
「それで運命の再会をして『大きくなったね』って頭撫でてもらうんだー!」
「はいはい……」
 またか、とティアナはスバルに散々聞かされた、理想という名の妄想話を断ち切るように手を振る。普段は活発だが落ち着きがなく、悪い言い方をすれば女の子らしくないスバルだが、この時だけは非常にそれらしかった。失礼な話だが。
「みんなぁー、集まってぇー」
 そんな、訓練とは全く関係ない話をしていると、訓練場の出入り口の方から、ティアナ達を呼ぶ、どこか気の抜けた声が響く。
「っと、スバル行くわ……スバル?」
 早く行こう、とティアナは駆け出したが、隣のスバルが突っ立ったままの状態な事に立ち止まり首を傾げた。
 一体どうしたというのだろう。まだ妄想の世界から帰還していないのなら、一発くれてやろうかとティアナが思ったその時、
「スバル!?」
 相棒が走り出した。それも全速力。
 何があったのよ、と聞く暇もなく先に行ってしまったスバルの背中を忌々しげに睨みつつ、一人残されたティアナも足を動かす。
 ようやく集まった新人達を見回した金髪の女性は、満足げに頷いた。
「じゃあ、訓練を始めるんだけど……その前に」
 そう言って、隣の、茶髪の女性の背中をポンと叩く。
 茶髪の女性は暝黙したまま、一歩前に出た。
「皆さん、初めまして」
 口を開くと、川のせせらぎを連想させる、母性溢れる声。
 ティアナは思わず見惚れてしまった。
(って、そんなキャラじゃないし!)
 ティアナは胸に湧いた感情を振り払うように頭を振り、スバルはどうしたんだろうと視線を横に向けると、彼女は「わあぁ……!」と、小さく歓喜の声を漏らしていた。
(なるほど、この人か)
 どうやら、この茶髪の女性がスバルの『憧れの人』みたいだ。彼女の瞳はらんらんと夜空に耀く星のような有り様だった。頬も紅潮している。
(それにしても、出来過ぎじゃない?)
 ティアナは、この機動六課を設立した人物に、届くかどうかも分からない念話を送った。
(まぁ、いいか)
 親友がこんなにも喜んでいるのだから、それに水を差すのも野暮というものである。
 ティアナは視線をスバルの憧れの人に戻す。
「……という訳で、本日から皆さんの指導、そして隊長を務めさせて頂く……」
 嫌いじゃない――ティアナは直感的に、そう思った。何故なら、
「星光の殲滅者です」
 執務官になるという夢もあるが、自分も彼女みたいに、誰かに尊敬されるような魔導師になるのもいい、という思いを、胸に抱いたから――



 魔法少女リリカルなのはマテリアル 〜スターライトブレイカーズ〜
 はじまります。

32なのポネタ05:2011/05/07(土) 23:16:44 ID:aJC0MPNs
本スレで覚えていてくれた方がいたので放置してた最後の話を投下。所々おかしいとこあるかもしれませんが勘弁を。
この話の後の流れは機動六課が壊滅までは同じ、それ以降は闇統べと雷刃が助太刀してマテリアル無双って感じですかね。
どうでもいいけど初対面の人に『星光の殲滅者』はないと思った。

33シンの嫁774人目:2011/05/08(日) 16:05:06 ID:N/p1ApVo
投下がきてたのでage

GJ! 最後のオチで不覚にもワロタw
このお話のスバルは憧れの人からどんな影響を受けたのでしょうね
ところでなのはさんはいずこへ?

34シンの嫁774人目:2011/05/08(日) 21:09:34 ID:Xmvk7DO6
お久しぶりです
確かに初対面で星光の殲滅者と名乗るのはインパクトが凄いと思います
二十歳後半のシンですがもちろん奥さんは居るんですよね?

35シンの嫁774人目:2011/05/08(日) 22:18:00 ID:6//pF29g
てかシン星光とくっついてるっぽくね?気のせい?

36シンの嫁774人目:2011/05/08(日) 22:37:05 ID:Bz9OmLKM
お久しぶりです。いやまさかこうして続きが読めるとは……
正直闇統べが結構まともに成長してて安心したww でも一番変わったのは雷刃かもしれないな。
しかし星光エンドだったとしか思えない。10年来のパートナーだし。なのはとフェイトの現状も気になるところ。
あと名前についてはそれぞれ
「シュテル・ザ・デストラクター」
「レヴィ・ザ・スラッシャー」
「ロード・ディアーチェ」
と呼び名が新しくつくみたいだし、これで通ってるってことでいいんじゃないかな!
なんかそれぞれ日本語に訳し直すと変わってないみたいだけどね!

37なのポさん:2011/05/11(水) 00:06:58 ID:aQ4g.QQw
レスありがとうございます。

シン→湾岸特別救助隊で大活躍。奥さん? 恋人? 何それ美味しいの? 
   マテリアル達には『家族に向ける愛情』を抱いている。

星光→一等空尉。航空戦技教導隊所属。優秀な為各部署からラブコールされまくり。シグナムと仲が良い。

雷刃→喫茶店兼洋菓子店『翠屋』店員。よくつまみ食いする。高町桃子、高町美由希に可愛がられている。

闇統べ→大学生。アリサやすずかと仲良くやっている。

なのは→新暦67年の事故で魔導師を引退。現在はユーノの手伝い。

フェイト→執務官。救助隊員になろうか迷った。シンは憧れの人。

こんな感じです。名前が挙がってないキャラは考えてませんでした、すいません。
パートナー云々は「仕事でも私生活でも常に一緒にいた」という意味でお願いします……ってあれ? それって夫婦?

やっぱりSSを書くのは楽しいですね。次は東方Projectモノをやってみようかなと思います。

38シンの嫁774人目:2011/05/11(水) 14:54:15 ID:JUbNAaxw
そうか、シンがいてもなのはのあの大怪我は避けられなかったのか…

39シンの嫁774人目:2011/05/15(日) 16:05:16 ID:7jv.na7M
なのはの大怪我シンにとっても辛かったでしょうね
そして今の状態のシンを見る限り…これは御見合フラグ

40シンの嫁774人目:2011/05/15(日) 18:19:25 ID:6Aw1QvjU
なのはの大怪我は不破(士郎の旧姓)の業みたいなもんだから避けようなかったんだろうな(恭也も美由希もその原因と同じことしたことあるし)

41シンの嫁774人目:2011/05/16(月) 00:27:40 ID:Y86ZN.v2
でもシンは気付いてやれなかった自分を責めそうだな。
そんな時になのはが本編通りに強がったりしてたらもう泣いちゃうんじゃないだろうか。

42そろそろ ◆o8DJ7UhS52:2011/06/28(火) 22:08:25 ID:DpzTyaio
これより本スレのはたてネタの続き的な短い話を投下します
直接的な表現の無いKENZENな話ですが、少しばかりグレイズしちゃってるんでご注意を

43そろそろ ◆o8DJ7UhS52:2011/06/28(火) 22:15:01 ID:DpzTyaio
昼の世界の住人である人間達の住む、里と呼ばれる場所。
本来であれば寝静まっているはずのそこも、近年では里を訪れる夜の世界の住人である妖怪が増えた事と、その妖怪達相手に商売をするある種たくましい人間達が現れ、何時しか里は眠らない街となっていた。
そんな里の、喧騒の絶えない深夜の繁華街から遠く離れた場所に長屋街と呼ばれる場所が存在する。
月明かりの下、全ての住人が眠りに付いたその場所に、場違いのように窓から明かりが漏れている小さな家があった。

窓から漏れ出していたのはランプの灯、そのランプの灯に照らされた部屋の中には二つの人影があった。
一人はこの家の住人であるシン。
もう一人は客人であり、シンの友人である烏天狗のはたて。
はたては珍しい経緯を持った外来人であるシンの取材を兼ねて遊びに来る事があり、今回もその用件で訪れていた。

だが今は取材をする訳でもなく、かと言って遊んでいるわけでもなく、ただ二人は互いに背を向け合い黙って座っていた。
シンはランプのすぐ近くに座り、手を動かし何かの作業をしていた。
一方のはたては肌布団に身を包み、ただ静かにぺたんと座り込んでいた。
肌布団に包まっていて判り辛いが、はたての上半身はブラジャーを身に着けているだった。
本来はその上に身に着けているはずのはたてのブラウスは、今はシンが手にしており、ランプの灯を頼りに縫い針でブラウスから外れたボタンを取り付けていた。

しばらくの間そうして、やがてシンが大きく息を吐き出す。
それは作業の終わりの合図であった。

「終わったぞ」
「ありがとう…シンって裁縫できるんだ。何だか意外」
「裁縫は兵隊の重要な仕事だったりするからな。てかあんたが出来ないだけだろ」

くすりと笑うシンに、はたても釣られて笑う。
シンは補修を終えたブラウスをはたてへと手渡す。
それを受け取ろうとはたてが手を伸ばす際、肌布団が少しはだけてしまい、シンは思わず顔ごと視線を反らす。
はたてはシンのそんな反応が面白かった。

「今更恥ずかしがる? 全部見たのに」
「いやそういう訳じゃなくてだな…恥ずかしいって言うか、その…あーもう、いいから早く着ろ」

先程までの位置へと戻り再び背を向けて座る。
不貞腐れているのが隠れていないシンの後姿を少しの間眺めてから、はたてはブラウスに袖を通しはじめる。

「なぁ、これからどうするんだ?」
「帰るわ、夜の闇に紛れてね」
「そっか…」

背中越しにかけられたシンの問いかけに、少々格好を付けた口調で返すはたて。
シンはそれに素っ気無く、そして短い言葉で応えた。
最も素っ気無いと思っているのはシンだけで、はたてにはその声が普段と比べてトーンが落ちている事が分かり、知らぬ内にだが笑みが浮かんだ。
何となく後ろ髪を引かれる気持ちがあったが、そうも行かないとはたては立ち上がる。

「いたっ」

だが立ち上がろうと腰に力を入れた所で痛みが走る。
股関節から来るその痛みに、少しばかりひざを落としてしまう。

44そろそろ ◆o8DJ7UhS52:2011/06/28(火) 22:16:32 ID:DpzTyaio

「おい、大丈夫か?!」
「平気よ、まだちょっとヒリヒリするだけ」

なんでもないと言った風を装う。
だがその表情は少しばかり痛みをこらえた物であり、そしてその痛みの原因を作ったのは自分なのだと思うと、シンには申し訳なさが浮かぶ。

「そんな顔しないでよ。しようって言ったのは私なんだし、まぁ覚悟の上よ」
「…うん」
「でもこっちこそごめんね。布団、汚れちゃったし」
「はたてのせいじゃないよ」
「いやいや私の血だし、あれ」

二人して妙な問答だなと思い到り、そして同時に小さく笑いあう。
シンの表情が明るい物になった事に安心したはたては、ややぎこちない動きで戸口へ向かう。

「帰るね」
「うん…」

そう言って戸口を開けたはたてだが、去る事無くそのまま敷居の前で立ち止まる。
シンはそれを訝しがりながら、どう声をかけたらいいのか分からず、はたての行動の成り行きを見守る。
はたては振り返り、シンの元へ。

「どうし…」

シンの言葉をはたては自分の唇で遮る。
高下駄を履いてもなお背丈の低いはたてからのキスは、約十秒ほど続く。
ただ唇同士を重ねるだけの、つい先程までしていた荒々しい物ではなく、二人が最初にしたのと同じ穏やかなキス。

やがてはたてが唇を離した時、シンの顔は茹で上がった様に真っ赤になり、表情も呆然とした物になっていた。
それを見てはたてはしてやったりと言った笑みを浮かべる。

「またね」

そう言うと、はたては未だに動けずにいるシンを置いて、朝焼けが見え始めた空へと飛び立っていった。
シンがやっと我を取り戻した時、はたての姿はもう見えなくなっていた。

二人にとって忘れられない一日は、朝日が昇ると共に終わり、そして忘れられない日々が始まろうとしていた。

45そろそろ ◆o8DJ7UhS52:2011/06/28(火) 22:18:57 ID:DpzTyaio

セウト!

ポッキーゲームの続編つか本スレ>>57の後のお話
>>57がプロローグならこれはエピローグ、日本語で言うと事後だよGeorge!
ロダだと見づらい方達がいるのと、表現的にも大丈夫と思ったんで練習スレに投下する事にしました
ですがダメなら削除してください

表現は大丈夫でも、文章力はまったく大丈夫じゃないがな!


二人の間に何があったかは想像にお任せします
ちなみにエロイ事がありました

ではでは

46シンの嫁774人目:2011/06/29(水) 11:09:58 ID:JNYoVy/Y
いきなり事後w
そろそろ氏もDSS氏みたくその時の状況を詳しくお願いします!

あと気付いてない人の為にage

47シンの嫁774人目:2011/06/29(水) 23:56:55 ID:hxAb/96g
最初からクライマックスを超えたのかww

48簿記入門 ◆rxZFnGKLCg:2011/07/01(金) 01:45:22 ID:IvmTer9.
鈴仙「ターゲットの監視報告を行います」
輝夜「うん」
永琳「お願いね」
鈴仙「まず、ターゲットはいつもの通り軽く農作業に従事した後、寺子屋に慧音さんの
   手伝い。それが終わると軽いトレーニングをして再び農作業。
   夕方、偶然会った寺子屋の子供から肉と野菜をもらうとその足で妹紅さんの家に直行。
   鍋を作り、そのまま談笑。お酒が入ったようで泊りでその日を終えました」
輝夜「永琳………」
永琳「ええ」
輝夜「ウドンゲ、たしか前回は」
鈴仙「はい、釣った魚を持ちこみ泊りでした」
輝夜「………くっ!!」
永琳「ふぅ…やはり距離的な問題からかアドバンテージはあちらが上のようね」
輝夜「幸い泊りとはいえ連泊はないからいいけど…これは危ういわ!」
永琳「ええ、通い婚が成立する前になんとかしないと…。時間的に厳しいわね」
鈴仙「(本当にただの飲み会なんだけどなぁ)」←ちょくちょく参加している
てゐ「(っていうか恋愛観が平安で止まってるのわどうよ)」
輝夜「と、と、と、とりあえずこっちからアプローチかけていかないとダメね!
   こっちから恋文でもなんでも送ってみないと!!」
永琳「姫様!こ、こちらからなんてな、なんて破廉恥な!」
輝夜「しかたないじゃない!あ、でもこ、恋文なんてどう書けば…、永琳はドウ思う?」
永琳「こ、恋文なんて書いた事もなければ送った事もないわよ!」
輝夜「そうだ!歌集、残しておいた歌集をヒントに………」
鈴仙「(あいつ恋歌送られて理解できるのかなぁ)」
てゐ「(せいぜい慧音か妹紅あたりに解読頼んで楽しい事になるに決まってるウサ)」
鈴仙「(だよねぇ)」
永琳「はっ!そうだ、魔理沙よ!恋の魔法使いを自称している魔理沙に聞けばどんな
   風に書けばいいのかわかると思うわ!」
輝夜「それだ!」


魔理沙「へっくしょん、うえーい暑くなってきたのになんか変な寒気がするのだぜ」
霊夢「風邪?いやね、うつさないでよ」


しかしながら、まだ本格的な色恋を知らない魔理沙に情熱的な恋文がかけるわけもなく、
年相応に顔を染め、実家にいたころのお嬢様風の地がでるほどてんやわんやしたあげく
(後日、記事のネタにと密かに監視していた文が「ありゃあかんですわ、あんなものみ
 せられたら…、もう魔理沙たんとちゅっちゅしたいに」とコメントを残す。)
結局は恋愛経験者のパルスィが彼女達の恋愛コーチ役に収まる事になったとか。

49簿記入門 ◆rxZFnGKLCg:2011/07/01(金) 01:50:46 ID:IvmTer9.
お嬢さ魔理沙!ほぅ、そんなのもあるのか!

50シンの嫁774人目:2011/07/01(金) 07:58:24 ID:l9rczNOs
一言で言うとワラタw

51シンの嫁774人目:2011/07/01(金) 08:22:37 ID:wLdZZO7s
一言で言うと輝夜かわいいよ輝夜
ところで練習スレでもグロい内容ってOK?
普通に手足やら首が千切れたり内臓が出てくるようなの書こうと思ってるんですけど

52シンの嫁774人目:2011/07/01(金) 18:15:57 ID:AfXWTZJA
簿記入門さんGJですw
俺も魔理沙とちゅっちゅしたい

>>51
注意書きがあるなら大丈夫じゃないですか?

53シンの嫁774人目:2011/07/01(金) 19:25:55 ID:lOI9m.n.
>>48
ダメだろwwパルスィの恋愛経験って、元ネタ的に最悪の結末迎えただろwww

54シンの嫁774人目:2011/07/02(土) 11:19:12 ID:16YXowRY
>>51
心配ならテキストをうpろだに上げてURLはっつけるのオススメ。
注意書きも一緒に書いとけばよっぽどじゃなきゃ文句は飛んでこない。

>>53
だが待って欲しい、嫉妬以外を抜けばすごく良いお嫁さんなのかもしれない。
つまり浮気さえしなければきっとパルスィもすごく良いお嫁さんだよ、ううん知らないけどきっとそう。

浮気への対処は包丁でぐっさりとか教えると思うけど。

55シンの嫁774人目:2011/07/02(土) 12:05:48 ID:wcL/vK/Y
>>54
なら楓さんや言葉さんも呼んでおきましょう
いい浮気対策を教えてくれますよ
というかこのスレの女性陣は少し転べばヤンデレ化しそう。フェイトさんとか

56シンの嫁774人目:2011/07/03(日) 10:31:11 ID:2WN0jFe2
なんか書きこもうとするとエラーが出る時があるんだけど
もしかしてEモバイルで繋ぐとしたらばって書き込み不可?

57シンの嫁774人目:2011/07/03(日) 23:07:11 ID:SJKdDqMg
>>56
すまん。分からん。

58シンの嫁774人目:2011/09/07(水) 20:12:29 ID:Fr0ij7QY
ちょっと思いついたので書いてみました。
ご指導鞭撻のほどをお願いします。





 昼時、食堂にて。
「ねえエリオ君」
「なに? キャロ」
 食後の落ち着いた体で、ふと思いついたように少女は口を開いた。視線の先には、誰が頼んだかツインストローの刺さった巨大なジュースフロートを前に怯むシンと、便乗便乗と鼻歌を歌いながら別のストローを挿し込もうとするフェイトの姿がある。
「フェイトさんいつも“便乗”ってしてるけど、意味あるのかな?」
 よく言えば真似っ子、悪く言えば二番煎じ・・・いや、どちらも良いとは言いがたい呼称か。むしろ年齢を考えれば二番煎じの方がマシかもしれない。
 目を向ければ軽くあしらわれてなおニコニコしているフェイトと、シンに怒られながらも楽しそうにフロートのアイスをつついてるスバル。――ああ、注文したのスバルさんなんだ。シンさんまたなにかやっておごらされてるのか・・・等とエリオは目を逸らしたくなったが、たしかにフェイトは目立っていなかった。シンの気をひけているようには見えない。
「・・・」
「・・・私たちも注文してみる?」
「ええ!? い、いや、今はいいよお腹いっぱいだし・・・恥ずかしいし・・・」
「そう? 今ならそんなに目立たないと思うけど」
 確かに。周囲の視線はシンとスバルに集中しているし、注目を浴びることはないだろう。よしんば見られたとしても、真似をしてふざけてるだけと見られて気にも止まらない・・・
「って、シンさんじゃないんだから騙されないよ!」
「ああは言ってるが、実際かなり揺らいでたぜ。今のはなかなかの戦略だった」
「はい、ヴァイスさん」
「ヴァイスさん!?」
 気が付けば彼らの兄貴分であるスナイパーがそこにいた。
「そうよ、頑張ったわねキャロ」
「「フェイトさん(隊長)!?」」
 そしてさっきまで向こうに居たはずの便乗魔もいた。
「あ、なんだか便乗しやすそうだったからつい・・・それじゃね」
 軽く手を振りながら食堂から去っていく。その後ろ姿を見てエリオは悟った。意味の有無はともかく、確実に手段と目的が入れ替わりつつあるのだと。






「と、いうわけで『第一回 フェイトさんに上手に便乗させる会』会合を始めたいと思います」
「キャロ!?」



 ひとまず終われ。

59シンの嫁774人目:2011/09/11(日) 23:58:42 ID:jBqjQL96
このスレはフェイトさんは便乗なしでは語れません

60ネチョ注意 ◆HciI.hUL72:2011/10/10(月) 23:43:03 ID:5yYbhFE.
WARNING!! A HUGE BATTLE SHIP gina*shin-netyo IS APPROACHING FAST
ttp://u8.getuploader.com/jyonan/download/165/gina-shin.zip

ゴッドイーターのジーナ・ディキンソンとシン・アスカの18禁のお話です
大事な事だから2回繰り返しますが18禁です
18禁なので18歳未満及び18歳でも高校生は見ちゃいけませんよ
DLパスは−(ハイフン)を抜かしたファイルタイトルの前半、解凍パスはファイルタイトルの後半です

内容は滅茶苦茶薄いので期待しないでくださいね
しかしまあ、最初はシンの上着をクンカクンカしつつオ○○ーするなのはさんをこっそり見ちゃって興奮した挙句なのはさんをOSHIOKIするシンの話を考えていた筈なのに、どうしてこうなった

61シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:19:46 ID:BJrvEIZ.
今からSSを投下します
微妙にグロイ内容なので苦手な方は閲覧注意です

62シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:21:42 ID:BJrvEIZ.
「えっと ジャンプ買った、ポテチ買った、後は何だっけ?」
プラントの所有するコロニー アーモリーワンの商店でシン・アスカが商品でいっぱいのカートを右手で押し、左手でメモを見ながら呟く 
「コートニーにMS工学の書籍とリーカに化粧品とファッション雑誌だな 後は俺が買っておくからお前はレジで会計済ませておけ」
レイ・ザ・バレルもシンと同じく片手でカートを押しながらメモを読んでシンに残りの買い物を教える
シン・アスカ、並びにレイ・ザ・バレルはここでザフト艦ミネルバに乗艦しザフト兵としてこれから戦ってゆく・・・筈なのだが運命とは分からない物だ 彼等もまさか自分達が死ぬ事でトラブルに巻き込まれるなどこの時は夢にも思わなかっただろう
「いや、レイはコートニーの買い物済ませてきて 俺はリーカの買い物してくるから」
「何故だ? 俺が両方買いに行けば済む話だろう?」
「雑誌は色々面倒臭いんだよ...週刊だったり月刊だったり別冊だったり増刊号だったりミラクルとかヤングとかスーパーとか前に付いてる名前が違ったりさぁ」
そんな事も分からないのかというようなシンの説明に苦虫を噛み潰したような表情で返すレイ
「それくらい俺も知ってるぞ」
レイの当然という様な返答に若干呆れた顔と口調になるシン
「とか言って置きながら赤マルジャンプ買ってきたのはどこの誰でしたっけー?」
「・・・・なぁ、まだ根に持ってるのか?」
「週刊ジャンプと赤マル間違えるってドコのオカンだよ!? またベタな間違いするなぁ!」
前にシンがレイに週刊少年ジャンプを買って来るよう頼んだ時、レイは間違えて赤マルジャンプを買ってきた事をシンはまだ怒っているのだ キレ気味のシンにレイも少しムスッとした口調になる
「赤マルだろうが何だろうが同じ漫画だろ?」
「全然違うよ! というか赤マルって週刊なのか月刊なのか何時売ってるのかも良く分かンねぇよ! 何が連載してンのかもサッパリ分からん漫画なんぞ読めるかァッ!」
「お前がちゃんと説明しなかったのが問題だと思うが?」
「普通ジャンプ買ってきてって言ったら週刊の方だろ!? 誰が赤マルなんか頼むよッ!」
捲し立てるシンにレイもキレる
「そこまで言うなら自分で買えッ! 人に頼むな!」
「ジャンケンで負けたら買い出しに行くって言い出したのはレイだろ!?」
そもそも何故この二人がシンと同じセカンドステージのテストパイロット、リーカとコートニーの分まで町に買い出しに来てるのか、話は数時間前に遡る

63シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:23:56 ID:BJrvEIZ.
此処はとあるMSハンガー内、今ここに三人の男女が無言でお互いを牽制している
「恨みっこなしよ、二人共」
メガネを掛けた女性が沈黙を破った。彼女の名はリーカ・シェダー 彼等はこれから絶対に負けられない戦いに臨まなければならないのだ
「当然だ」
決して避けられぬ戦いに コートニー・ヒエロニムスが決意を込めながら返す
「負けるかよ・・・!」
最後にシン・アスカが獲物を狙う獣の如き目で二人を見据える 彼等の誰一人としてこの戦いに負けられないのだ
「じゃあ、行くわよ・・・」
リーカが拳を握り、頭上に振り上げるとソレに呼応するようにシンとコートニーも拳を握りしめ頭上に振り上げ三人とも再び無言になる
「「「・・・」」」
先に動けば敗北 動かずとも敗北 些細なミスも許されないこの状況で迂闊な行動を取るような愚を彼等は犯さない。しかし誰一人動かなければ何時まで経っても勝負が終わらない だからこそ三人とも攻め時を探し、呼吸音一つ無い無音のMSハンガーに時計の秒針の音だけがカチカチと静かに響き渡る。時間にして約10秒程 三人とも背中や額に汗が滲み、見開かれた瞳が相手の一挙一動を見逃さず、振り上げた拳に更に力が込められる。永遠とも思える静寂にも迫るカタストロフの予兆
「「「・・・ッ!」」」
三人の拳が停止すると沈黙にピリオドが打たれる。そして振り上げた拳が振り下ろされ全員が腹の底から声を出す
「「「最初はグー! ジャンケンポン!」」」
そう 散々勿体付けて煽ったにもかかわらずやる事は只のジャンケンなのだ そして三人の手はリーカとコートニーがグー シンはチョキ 
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁあああああああああっ!! 負けたぁああああああっ!」
「アタシ達の勝ちね」
「それじゃあ買い出し頼んだぞ シン」
「シン、コレ買い出しのリストよ じゃ頑張ってね〜♪」
悔しがるシンを尻目にリーカとコートニーはハンガーを後にした
「チクショォオオオオオオオオッ!!」
何故ジャンケン程度でここまでヒートアップしたのか。言うまでも無いかもしれないが一応説明しておくとリーカ コートニー シンの三人はザフトの最新鋭MSのテストパイロットなのだ、そして軍の機密に触れる以上彼等の行動には少しばかり制約が生じる。
それぞれのMSの情報は勿論 外出一つにも申請や許可が必要であったり 外部との通信にも制約が掛けられたりする その為物品を手に入れるのも一苦労 一応欲しい物を関係者に要求すれば手に入る事は入る。しかしそれはパイロットの精神安定を図る為の『仕事』でしかなく、要求したその日に手に入るという物ではない。従って自分で買いに行くのが一番手っ取り早いのだが端的に言うと『買い物行くのメンドクセ 誰か一人パシらせようぜ』と言う話なのだ ちなみに買い物の費用も負けた人間が全額負担する事になっている、正に非道 神も仏もあったもんじゃない 一方シンはガレージで一人項垂れていた
「あぁ・・・」
シンも休日くらいは自分の行きたい場所でやりたい事をやりたい物だ、しかしこのままでは間違いなく買い物だけで丸一日潰れてしまう。それだけは何としても避けなくてはならない
「こうなったら!」
そういうと携帯を取り出し、アドレス帳からある人物の番号を入力する 40秒ほどで目的の人物が電話に出た

64シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:25:31 ID:BJrvEIZ.
「レイ! 起きてるか!?」
「・・・誰・だ・・」
親友レイ・ザ・バレルが電話に出ると、シンは少し安心したの近くに有った機材の上にドカッと腰を下ろす
「俺! シン!」
「・・・朝っぱらから・・何の・用だ・・シン・・・」
電話に出たレイ・ザ・バレルが眠そうに返すのも無理ない、何せ今の時間は朝の6時 今しがたジャンケンをした3人以外の人間はほぼ全員眠っている時間だ
「眠ってるとこゴメンな レイ」
「・・・お前非常識という言葉を知ってるか?・・・それで何の用だ・・・」
「ホンっとにゴメン でレイって今日ヒマ?」
「特に予定は無いが」
「じゃあ話が早いわ 買い物付き合って!」
「嫌だ」
一言で拒否するレイにシンも懇願する
「即答!? そこを何とか!」
「・・・一応聞くが何が有った?」
「いや実はさぁ-」
そういうとシンはこれまでにガレージ内で起こった事の顛末をレイに説明する
「つまりお前の罰ゲームの尻拭いを俺に手伝えと?」
「そっ」
「もう一度言うぞ? 嫌だ」
「だからそんなこと言わずに頼むよレイお願い!」
シンの必死の懇願にもレイは呆れた口調を変えずに答える
「こっちは気持ち良く寝ていたというのに、よくまぁそんな事で叩き起こしてくれたな」
「ホンットにゴメン でどうすれば手伝ってくれる?」
既にレイの意思とは関係無しに手伝う事が決定し、交渉の段階に入っているがこういう事は強引な位で丁度良いのだ
「そもそもなぁ、何故あの二人に俺達がジャンケンでどっちが買い出しに行くのか決めている事を教えた?」
元々この買い出し決めのジャンケンは3人が決めた物では無くレイとシンがやっていたゲームなのだ
「いや教えたというか、バレたというか」
罰ゲームと言っても二人でやる分にはあまり問題は無い、どちらが負けても自分の買い物のついでに少し寄り道をすればそれで済む話なのだ、しかしこれが3人になると話が変わってくる。寄り道のまた寄り道をしなければならず荷物も増える訳だから、同じ距離の移動でも掛かる労力は違う。

65シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:27:31 ID:BJrvEIZ.
「最近じゃないか? それで掛ける物が手間暇では無く正真正銘の罰ゲームになったのは」
「アレさぁ、回数を重ねるごとに悪意が込もってきたんだよね」
3人がしたこのパシリ決めも最初の頃はそこまで辛いものでは無かった、しかしパシリでキツイ思いをした人間は次の敗者に対してキツイ量の買い物を要求してしまうものなのだ、自分が辛い思いをしたのだからお前はもっと辛い思いをしろ というようにパシリの量や重さがドンドン増えていきこの大げさな状況を生んでしまったのだ。ならそのジャンケン自体止めた方が一人一人の負荷は減るのだが『俺がキツイ思いをしたのに今更止められるか!お前をパシらせるまで終わらせん!』というように誰にキツイ思いを味あわせるかという物に変わってしまったのだ。
「まぁテストパイロット同士打ち解けられて良かったんじゃないか? じゃ俺は寝るぞ」
「ちょっ 待ってよレイ!」
そもそもレイとシンでやっていたパシリ決めのジャンケンを何故テストパイロット同士でもやるようになったのかというと元々はパイロット同士の仲を良くする為にやりだした事なのだ。知っての通りシン・アスカはあまり社交的な人間ではなくどちらかと言えば他排的な人間なのだが最新鋭のMSをチームで操縦する場合それはマイナス要素でしか無い。最初期は他のテストパイロットとも連携が上手く行かず意見の相違から衝突する事も多々有った、だが心を許した人間には協調性を持って行動できる為、何とかして仲を良く出来ない物かとリーカやコートニーは思考錯誤をしていた。そんな時にレイとシンが買い物のパシリ決めにジャンケンをしている事を知ると、それを自分達でもやってみないかという話になった。結果は成功 何故成功したのか理由の説明だが、こう言っては悪いがシンは子供っぽい性格をしている為こういうしょーもない事でもムキになって取り組む。だから勝っても負けても相手としっかり向き合う為、それを続けている内に他のテストパイロットとも徐々に打ち解けて行けた。結局のところ人同士が仲良くなる為にすべき事は、小難しく考えるのではなく相手としっかり向き合って接していく事なのだ。
元々は親交の為の茶目っ気有る王さまゲーム程度の罰ゲームがこんな面倒な罰ゲームになってしまったのだ どうしてこうなった
「・・・昼飯」
「えっ?」
切られたと思っていた電話が切られていなかった事と予想もしなかったワードがレイの口から出た事からシンは一瞬思考が止まった
「昼飯奢れと言っているんだ」
拒絶の意思を伝えるのではなく、条件を伝えると言う事はつまり
「・・・てことは・・買い出し・・付き合ってくれるって事?!」
「あぁ 昼飯を奢れ それが条件だ」
「やった! ありがとうレイ!」
買い物で一日潰れる心配が無くなった安心感からシンはガレージで拳を握りガッツポーズをし、今日の予定をスムーズに終わらせる為にレイと相談を始める
「でさぁ どっから片づける?」
「取り合えず今の時間からでも買える物を買っておけ コンビニやスーパーならこの時間でも開いてるだろ?」
通常デパートや商店は大体9時や10時以降に開くが、それまで時間を無駄にするのも何なのでシンに買える物を買うよう指示をする
「うん 分かった」
「あ それとお前バイク持ってたよな? それに荷物詰める様にしておけ、買い出しで使うから」
「へーい」
これで今打てる手は全て打った。しかしそれまでの時間を無駄にする気は無い、自分が起きた後の行動を決める為、寝る前にシンに最後の指示をしなければ
「後 買い物のリストをメールで送ってくれ、それを見てどこから回るか決めるからな。じゃ俺は7時半位まで寝なおすからそう言う事で」
「分かった んじゃお休みー」
とまぁそんなこんなでシンとレイは買い出しに来ている訳だ
ちなみにもう一人のテストパイロット マーレ・ストロードは単独行動を好む為ジャンケンには参加すらしていない

66シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:31:19 ID:BJrvEIZ.
場面は再びアーモリーワン内の商店へ戻る
「漫画読まない俺に漫画を買って来いと言うお前の方がどうかしてると思うぞ!」
「んな事言ったらピアノ触った事も無い俺にピアノの何か良く分かんない物買ってこいって言ったレイはどうなンだよ! 俺はちゃんと言われた物買ってきたぞ!?」
そんな事を他の客もいる店の中で人眼も憚らずに言い合っていると、見かねた店員が二人の近くに来て注意をする
「あのぉ・・・お客様」
「「何!?」」
「他のお客様のご迷惑になりますので、もう少し静かにして頂けませんか?」
周りを見渡せば、同じ様に買い物に来た人々がゴミを見るような目でシンとレイを睨んでいる
「「あ...」」
非常に気まずい雰囲気の中、止まってしまった会話を続ける為にシンが先に言葉を発した
「・・とにかくレイはコートニーの買い物済ませて来て」
「・・・分かった」
そうこうして買い物を終えた二人はレジで精算も済ませた
「やっぱ凄い量だな」
「そりゃ罰ゲームみたいな物だしな 有り得ない量になるのも仕方ないんじゃないか?」
積み上げた商品の山を見ながら二人が呟く、二人で頑張った御陰でスムーズに終わったがやはりすごい量になってしまった
「これバイクに積めるかぁ?」
「荷造り用の網やらサイドカーまで持ち出したんだし行けるだろ」
後はこれをそれぞれリーカとコートニーの部屋に置いてくれば買い出し終了、後は自分達の好きなように遊びに行ける
「んで今何時?」
「11時半 ちょうど昼飯前だな」
「まだ昼になってないの? それじゃ飯食ってから帰るか、荷物置いてから飯食いに行くかどっちにする?」
「さきに荷物を片づけてしまおう」
「それじゃ一旦帰るか」
そう言うと商品をビニール袋に詰め込み両手に袋を持ち二人は店を後にする。
自動ドアが開くとその先にはアスファルトの道路 レンガの歩道 休日の昼という事で賑わった街が見える 気象や温度、時間まで管理できるスペースコロニーが、熱くも寒くもなく丁度良い気温とポカポカとした日光の、実に喉かで平和な光景を作りだしている。往来を通る人々の楽しそうな笑顔や他愛も無い日常会話を見ながら歩いていると軍人である自分達も開放的な気分になってくる。だというのにこのまま無言で帰るのは余りにも勿体無い。だから自分達も買い物帰りにする他愛も無い会話を始めるべきだ。

67シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:32:59 ID:BJrvEIZ.
「あのさー レイー?」
「何だ?」
二人とも両手に重い荷物を持っていながら歩調を変えることなく、自然に会話が出来る。こういう時は軍人として体を鍛えていて良かったと思う
「昼飯何食う?」
「取り合えずコースメニューのランチだな」
「昼からコース料理ぃ!?」
「何か文句あるか?」
別に文句は無いがコース料理という事は当然高いのだろう、買い出しであまり金銭的余裕のないシンには痛すぎる出費だ
「もうちょっと安い奴にしない・・・?定食屋でラーメンとかさぁ」
それが恩人に対する感謝かと溜息交じりに返すレイ そもそもどんな条件で手伝うと言ったのか、忘れてしまったのかコイツは?
「お前の買い物に付き合ってやったのは何の為だ?」
「いやぁ、それは・・・」
「安心しろ」
「何? 安めのとこにしてくれンの?」
「あぁ 最高級の店で食おうと思ってる。前から一度行ってみたい思っててな。」
「ちょっ!」
「人をこんな事に付き合わせたんだからそれ位奢れ」
それを言われると弱いが今のシンの懐事情は、非常に寒い状態に成ってしまいっている為、そんな事をすれば財布の中身が寒い所か氷河期になってしまう。うまい棒すら買えやしないではないか
「オイ・・・マージ勘弁してくンねぇ?」
これで暫くは買い食いもできそうにないし今日どこかで遊ぶ事もできない。溜息交じりに肩を落としてしまうシンの肩をポンと叩いて慰めるレイ
「まぁそう気に病むな。減るものじゃないし」
「俺の財布の中身が減るんだよ・・・」
「今日遊ぶ金くらいは奢ってやるから」
「えっ マジ!?」
「給料日になったら利子つけて返し貰うがな」
「えぇ・・・」
それは奢りではなく借金だよレイと言いたいが返す気力も無い。やはりこの親友はイイ性格をしているが、それなそうでこちらにも考えが有る。
「じゃ良いわ、俺等の今日の昼飯はコーヒー一杯!」
「えっ?!」
まさかの衝撃発言に度肝を抜かれるレイ。今正に買い物と言う重労働を終えた人間がコーヒーで満足できるか? 誰が考えても答えは否だ。どう考えても液体で少し胃が膨れる分さらに空腹感が増すに決まっている。しかも二人揃ってという事は死なば諸共とでもいう気か? 折角手伝ってやったのにそんなものに付き合わされて堪るか
「どこで奢るかはレイが決める事だけど、何を奢るかは俺が決める事だよなぁ?」
「屁理屈言うな というか昼飯がドリンク一杯って正気かお前」
「人間一日くらい飯抜いたって死にゃしねぇよ」
確かに少しくらい飯を抜いた所で死にはしないが辛くないのか? 人間空腹と渇きが一番辛いんだぞ?
「なんでそこまでしてケチるんだお前」
「だって来週のジャンプ買えないじゃん!」
呆れた 漫画の為に飯抜いてまで金を惜しむのかコイツは

68シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:34:54 ID:BJrvEIZ.
「どーすンの? 俺の奢りが嫌なら自分で何か食えば?」
それは嫌だ 何の為にこんな事に付き合ったというのだ。しかしここでレイが荷物をほっぽり出して帰った所で買い物は済んでしまっている訳だから後はシンが自力で持って帰れば良い。結果、レイは骨折り損のくたびれ儲けで終ってしまう。
「分かった分かった 大盛りのパスタかピッツァで我慢するから勘弁してくれ」
「そうこなくっちゃ」
シンに押し切られる形で妥協してしまったレイ 次はもう少しうまく誘導しなくてはと心の中で密かに誓うのであった
そんな世界の行く末とは全く関係ないどーでも良い話を繰り返していた二人だがここでシンが少し歩みを緩めレイに問いかける
「なぁレイ?」
「何だ?」
「俺達さぁ 最新鋭の戦艦に乗って 最新鋭のMSを与えられて ザフトのエリートとしてこれから軍人として働いて行くだろ?」
「それがどうしかしたか?」
シンの言った事はザフトの軍人にとって名誉以外の何物でもないがシンにとってはそれほど良い事では無い まぁ悪い事でも無いが
「最高のMSを使うのは良いけど、やっぱMSで戦う様な事は無い方が良いよな」
「自分の意思で軍人になったのに戦うのは嫌なのか?」
「当たり前だろ? 戦争なンか起らないに越した事は無いよ、周り見てみろよ」
シンに言われて周りを見渡して見れば、様々な人間がアーモリーワン内の町を歩いている

‐ママー、晩ごはん何にするのー? 僕お肉食べたーい それじゃあハンバーグにしようか-
親子であろう子供と大人が今日の晩の献立を話している、別の方向を見れば
-ねぇどこ行く? 君と一緒ならどこでも良いよ-
カップルと思わしき男女が手を繋いで歩いている、また別の方向を見れば
-ねぇこの服可愛くない? ホントだマジ可愛い!-
友達であろう二人の女性が服屋の店先のショーケースに納められた服を指さしながら姦しく騒いでいる

何の変哲もない日常の光景だが、それを見てもシンが何が言いたいのかさっぱり分からずレイの頭の中でクエスチョンマークが浮かぶ
何が言いたいのか聞こうと顔を向ければシンは微妙に腹立つドヤ顔を浮かべていた
「な?」
「何が 『な?』 だよ」
「分かんない? 戦争になったらこんな光景見れないんだって」
「あぁ・・そういうことか・・」
何の変哲もない、平和な世界の人々が織りなす情景。シンが求めた物はこういった平和な日常だ

69シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:36:10 ID:BJrvEIZ.
そもそもシンは戦争がしたくて軍人になった訳ではない、むしろその逆だ。シンはもう失わない為、何も奪われないように力を得たのだ。と言うのもシンは2年前までオーブに住む普通の4人家族で普通に暮らす普通の少年だった。しかし2年前のオーブ本島での戦争がシンから全てを奪った。当時連合は宇宙を根城とするザフトを殲滅せんと宇宙に進もうとしていた、しかし宇宙に上がる為の装置『マスドライバー』を連合は持っていなかった。だからオーブの保持しているマスドライバーを手に入れようと連合はオーブにザフトとの戦争に協力する事を強要した。しかし当時のオーブ代表ウズミ・ナラ・アスハ率いる各士族は『他国の争いに介入しない』というオーブの理念である中立の立場を頑なに守ろうと連合の要求を拒否、そして悲劇が起った。
海岸線で連合とオーブのMSが激戦を繰り広げそこら中でビームや火薬の爆音と衝撃が響き渡り黒い硝煙がもうもうと立ち込める戦場の真っただ中をシンの家族は避難していた。そんな時シンの妹のマユ・アスカが自分の携帯を落としてしまい拾いに行こうとした、母と父はそんな物は放っておけと言ったが当たり前だ。何時流れ弾が飛んで来るか分らない戦場など一刻も早く非難しなければ命が幾つ有っても足りないとうのに、そんな物の為に時間を食う訳にはいかない。だがその携帯はシンがマユの誕生日プレゼントとして買ってあげた物でマユにとって掛け替えのない物なのだ。ゴネ続けるマユをどうにかしようとシンは14歳の頭で考えた『携帯が無くなってゴネるなら携帯を取り戻せばいい』そしてシンは携帯を取りに行き無事その手にマユの携帯を納め家族の元に戻ろうとすると目の前が爆発した。誰が撃ったのかは分からないがそこは戦場 どこかのMSが撃った弾が流れ弾が地面に当たりシンの近くを吹き飛ばしたのだ。幸い~シンは~爆風に煽られ吹っ飛んだだけで大したケガは無かった。しかしシンの家族はそうはいかなかった、爆発で出来たクレーターの近くにはシンの家族が居たのだ。シンは急いで家族の元に走ったがそこにあったのは家族だったモノの血と肉塊の集まりだった。父親は首から上が丸々消失し、体の大部分が消炭になり、腹から艶やかな光沢を持つ内臓が露出していた。母親は体の各関節が有り得ない方向にねじ曲がり所々から骨が飛び出して、体の下には何杯ものバケツをひっくり返したかのような血溜まりができていた。
そして妹のマユ・アスカは片腕以外の全ての部位が吹き飛び、断面から赤い肉と骨を覗かせ小さな血だまりを作っていた。運が良かったと言えば良いのか悪いと言えば良いのか。もしシンが携帯を無視していれば家族と一緒に肉塊になっていたかもしれない。もしマユが携帯を落とさずシン達の家族が立ち止まらず走り抜けていれば4人全員生きていたかもしれない。しかし現実は残酷だ、シン・アスカは最初は何が何だか分からなかった。つい先程まであんなに動いていたのに、あんなに走っていたのに、あんなに息を切らしていたのに、あんなに叫んでいたのに、あんなに大切な家族だったのに、あんなに あんなに あんなに あんなに
若干14歳の少年にはそれが家族の死体だと直ぐには理解できなかった、嘘だ違う有り得ないと心で何度否定しても目の前の肉塊は残酷な現実をシンに突き付けた。そしてシンは泣いた 叫んだ 喉が裂けるほどにシン・アスカは泣き叫んだ。その後オーブの将校トダカが戦場で泣くシンの身柄を保護、オーブに居場所の無くなったシンは同じコーディネーターという事でプラントに移り住んだ。 どうしてこんなことに? だれがいけなかった? どうすれば家族は死なずに済んだ? そうして考えるうちにシンは一つの結論に達した
力だ あの時力が有れば自分の家族は死なずに済んだ筈だ。自分にもう家族はいない、だがこれから先自分の様に誰かが戦争で泣くのを見るのは嫌だ。誰かを泣かせない為にはどうすればいい? 理不尽な暴力が横行する世界で力なき人々を守る為にはどうすればいい? 力が有れば良い、全てを守れる力が有れば。そしてシンはCEにおける最強の力 MSを手に入れる為にザフトに入ったのだ

だからこそシンは戦争を嫌う、そうなったときの為に力を手に入れこそしたが、積極的に使うべき状況が訪れることなどシンは望んでいない。
「そういうこと」
「なるほどな」
レイにとってもこんな平和な光景は悪いものではないし、こうしてシンと他愛も無い会話を続けるというのも悪い気はしない。その証拠にレイの口元は本人も気づかない程だが僅かに綻んでいる

70シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:37:22 ID:BJrvEIZ.
そうこうして歩いていると二人は停めていたバイクの元まで来ていた
「んじゃ荷物積もう」
「ちゃっちゃと終わらせるか」
バイクの横に取り付けたサイドカーとバイク後方に荷物を積み終えると、シンはバイクに跨りキーを回そうとするがレイがそれを制止する
「おい」
「何?」
「ヘルメットかぶれ」
そう言うとレイはフルフェイスメットをシンに放り投げた
「えー?」
「お前何時もノーヘル運転してるだろ 俺が知らないとでも思ったのか?」
「別にいいよ・・・うっとおしい」
シンにとってヘルメットは特に必要な物では無い、ノーヘルで今まで何の問題も無かったのだからヘルメットなど視界が狭くなる分却って邪魔だ
「安全運転第一だ」
「そんなもん二人乗りしてる時点で・・・」
「良いからかぶれ お前の為に言ってるんだぞ?」
買い出しを手伝ってくれたレイの好意を無下にするのも悪いのでシンは渋々メットをかぶった
「へーい」
シンがメットを被るのを確認するとシンの後ろに座るレイ
「それじゃ帰るか、俺も腹が減ったから早く昼飯食いたいしな」
レイが座るとシンはバイクのキーを回しアクセルを回した
「じゃ出発しんこー」
そういうとバイクは加速し、シン達軍人が寝泊まりしている宿舎に帰るために車道を走り始めた
車体と体で風を切りコロニー内に整備されたアスファルトの車道を疾走するバイクが、交差点を左折する為に減速、ハンドルを左に切り体を左に傾けて左折する。
「なぁレイー?」
シンがいきなり首を曲げて後部座席のレイを見た為レイが慌てて怒鳴る
「な 何やってんだお前ッ! 前見て運転しろ!」
「ゴメンゴメン」
「で何だっ!?」
「宿舎までどんくらいだっけ?」
「・・・確か後10分位だったと思うが」
「そう ありがと」

一方その頃もうセカンドステージの機体 アビスのテストパイロット マーレ・ストロードは
「もうそろそろか・・・?」
これであの邪魔なシン・アスカに一泡吹かせてやれると邪悪な笑みを浮かべていた。
「インパルスは貴様の様な低級コーディネートされた人間が乗るべきものではないんだよ」
彼は元々ザフトの威心を掛けた機体 インパルスのパイロットになる事を望んでいたがその座はシンに奪われてしまった、だから
「骨の一本でも折ってくれれば恩の字か・・・?」
シンの乗るバイクに細工をした

71シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:38:18 ID:BJrvEIZ.
場面は再びシンとレイを乗せたバイクに戻る、先程左折した交差点からずっと直進しており、バイクが下に降りてゆく。トンネルに入って行ったのだ
暗がりの中を走行していると前の車両が減速し始めた、この先の車が赤信号にでも止まったのだろう、シンもそれに習ってバイクを減速させようとブレーキをかける
「ん・・?」
何か妙だ、ブレーキを引いているのに速度計が殆ど下がらない
「どうした? 前の車が停止し始めているぞ、お前も止まれ」
ブレーキを使っているのに速度計も体感速度も変わらないと言う事はつまり
「ヤっ・・バ・・っ! ヤバイッて!」
急に慌てふためくシンにレイも慌てる
「どうした!?」
一気に冷や汗と油汗が全身から噴き出るのを感じ、声あらん限りに自分達の状況を叫ぶ
「ブレーキっ 壊れてるッ!!」
「なッ?!」
どうすればいい? このままでは前の車両に追突してしまう。片側1車線だから右に逃げれば対向車と正面衝突 そしてトンネルの中だから横や後ろに逃げる事も出来ない
「ハンドブレーキ! クラッチ!」
とにかく減速・停止する為の装置を叫びシンに伝えようとするレイ
「ダメだ! き 効かないッ! どうっ すりゃ!」
「アクセル戻せッ! アクセル!」
「あ あぁっ!」
確実に戻そうと視線を下ろしてアクセルを戻すが
「前見ろッ! 前っ! 前っ!」
慌てて視線を前に戻すとと目の前に車両の後部が迫っていた
「うぁああアぁぁぁあアぁアアああッ!!」
追突を避けようと急いでハンドルを右に切る
「な 何っ してんだお前っ!」
右を走れば停止車と追突どころか対向車と正面衝突だ シンはトチ狂ってしまったのか?
「危ねぇえええッ!!」 ププーッ!!
案の定右側車線の対向車が派手にクラクションを鳴らしながら目の前に迫ってきたが
「くのっ!」
慌ててハンドルを左に曲げギリギリの所で避け、右側に取り付けたサイドカーが対向車と衝突して後方に吹っ飛ばされた
「間走りゃオッケーだって!」
そう 車両帯の間の白線は本来だれも走っていない、だからバイクが自然停止するまで運転すれば理論上は行けるっちゃ行けるのだ
「お前正気かぁッ?!」
「他にどうしろってんだよッ!」
まぁどちらにせよ危ない事に代わりは無い、トンネルの中はトラックなどの横幅の広い車も走っているし中には白線のギリギリを走っている車も有るのだから。しかしそこはMSパイロットにしてバイク弄りが趣味のノーヘル運転常習者のシン・アスカ かなりギリギリな所も有ったが巧みにバイクを操作し左車線の停止車両と右車線の対向車を避けていく

72シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:39:18 ID:BJrvEIZ.
「よしッ! 出口! 見えて来たぞレイっ!」
「良いから運転に集中しろぉッ!」
一歩間違えれば大事故という緊張感から二人とも全身汗だくになって走行しているとトンネルの出口が見えて来た
「このっ まま行けば!」
蛇行運転を繰り返したため時速も60キロ程に下がった。トンネルの外にさえ出てしまえばあとはどうにかなる筈だ
「あ!」
トンネルの終わりにT字形の交差点が有ったのだが、正面の信号が赤という事は横の信号は青 つまり横断歩道を歩く歩行者が居るのも当然だ
「ッ!!」
停止線の前で停止している左側車線の車の死角から家族連れと思わしき集団が横断しようとしている、右に急ハンドルを切ってギリギリの所で避けるが
「わッ!!」
避けた直ぐそこでシンから見て右方から左折してきた車を避けようと左に再び急ハンドルを切り対向車を避けるが、連続で急ハンドルを切った為曲がり切れずバイクが横転
シンの左足がふわりと車体から離れ、バイクに足を戻そうとするが左足が車体とアスファルトの間に挟まれてしまい、シンの左足の側面が硬いアスファルトと擦れ、擦り傷ではすまない激痛がシンを襲い肉片混じりの血飛沫が舞う
「ぃぃ゛っでぇ゛え゛え゛え゛えええええッ!!」
「う゛ぁ゛ぁ゛あ゛ああああッ!」
コマの様に独楽をするバイクから二人は回転の勢いを維持したまま積んでいた荷物ごとバイクから投げ出されアスファルトの地面を転げ回った、
「「ッ―――――――――――ッ!!」」
二人は声にならない悲鳴を上げながら転げ回り、シンは交差点の着き当たりの段差に後頭部を強打した所で停止、レイもシンの直ぐ傍で仰向けに停止した
「あっ・・・はっ」
意識が朦朧とし、シンはぼやけた視界を取り戻す為に所々がへこんだヘルメットを無造作に投げ捨てる
「ぶっう! ふっ」
転げ回った時に内臓をやったのか、折れた骨が内臓に突き刺さったのかは分からないが、腹の底から生温かい何かがこみ上げきて、口の中に鉄の味が広がる。呼吸が出来ない為それを吐こうと咳き込むと、粘り気を帯びた赤黒い血が口から噴き出し、残りの血は口を伝い顎から滴り落ちて衣服に黒い染みが広げた。
「うぇほッ! えっほッ! えぇっほッ! うぇっ!」
全身が痛い、右腕を地面に付いて上体だけ起こして左足を見れば関節が有り得ない方向に折れ曲がっている上、足の側面の皮がずる剥けて剥き出しなり傷だらけになった筋肉から湧水のように滾々と出血して骨も少し見えており、まるでおろし金で擦り降ろしたかのような惨状だ。
「あぁっ・・はっ・・・はぁっ・・・!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い 痛みがシンの体と思考を支配し、悲痛な呻き声を上げることしかできなかった
「ぅぅぅう・・・・!」
左手を見れば服の所々が赤黒く変色しており出血しているのが服の上からでも良く分かる。手首から先の部位は五本の指がそれぞれ本来曲がらない方向に曲がっている上、中の骨が指の肉と皮膚を突き破っている個所も見える。その上二の腕から先がぶらぶらとしている、恐らく脱臼したのだろう。他の部位も酷い怪我だ、長袖の服を着ている為よく分からないが鈍痛や激痛を感じている事から上半身も至る所を怪我しているのが分かる。ざっと見ただけでも打撲 脱臼 擦過傷 骨折 出血 内臓損傷 こんな状態でも生きていられるのは軍人として体を鍛えていた事と、レイがヘルメットを被るように言ったからだ。もしノーヘルで運転していれば間違いなく頭蓋骨陥没 脳挫傷 頸椎損傷等の怪我で即死していた筈だ。しかし大けがには変わりない、今すぐ救急車を呼ばなければならないがこの怪我では携帯もかけられる気がしない。周りの誰かに呼んで貰おうと先程避けた人が居る真正面の横断歩道を見ると何かを叫んでいる。顔はぼやけて良く見えないし、耳もよく聞こえないが何か叫んでいるのは分かる
「・・・‐――っ!!」
何かと思い周りを見渡せば大型トラックがこちらに向かって爆走している
「ッ!」
トラックが走って来るのも当然、先程も説明したが本来シンが走ってきたトンネルは赤信号だったつまり その横の信号は青信号で車が走っているという事だ
「レイぃ・・・ッ!」
急いでレイの体を引きずり這いずってでも逃げようとするが痛みに支配され体が思う様に動かない
「シン・・?・・ッ!」
ここで気絶していたレイが起き、自分達の今の状況を把握、レイも逃げようとするがシンと同じく体が思う様に動かない。荒い呼吸音を鳴らしながら腕を伸ばしてデコボコとしたアスファルトを掴み、伸ばした腕をまげて二人は必死に這いずった

73シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:40:49 ID:BJrvEIZ.
「ハッ」
 ‐俺帰ってジャンプ読むのに
「ハァッ」
 ‐早く
「あ ハァッ」
 ‐逃げなきゃ!
「ハッ ハァ」
 ‐体が動かねぇ
「ハァッ ハッ」
 ‐死ぬのか?
「ハァッ ハァッ」
 ‐こんな所で死ぬのか?
「ハァ あぁっ」
 ‐俺の人生16年で終るのか?
「ハァ」
 −力の弱い人達を守る為にザフトに入ったのに
「ハッ ハァッ」
 ‐嫌だ! 死にたくない!
ここでトラックが二人に気付きブレーキを掛け、アスファルトとタイヤの間に摩擦音が響き渡る
「あぁうっ アッ」
‐どうしてこんな―
その思いとは裏腹に無情にもレイはトラックに跳ね飛ばされ、シンは車輪とアスファルトの間に巻き込まれる
グシャ ベキ ベキベキベキ バキャ!
聞くに堪えない人間の体が壊れる音が二人の頭に響き
ぐちゃ ばしゃ びちゃ べちゃ
千切れ飛んだ肉と血がアスファルトにへばり付く音が辺りに響き先程とは比べ物にならないほどの量の血がそこらじゅうに飛び散る。『車は急に、止まれない』そんな事は子供でも知っている事だ。そしてそれを見ていた人々が絶叫を上げる
「うぅああアぁああアアぁ!?」
「キャーーーーーーー!!」
「首飛んだぞッ!?」
「うおえ゛え゛え゛え゛!!」
三者三様の言葉だが人々の言葉はそれぞれ惨劇を物語っていた。
そして亀のように遅く動いていた筈のシンの視界がぐるぐると回る
 −アレ? 俺何で飛んでんの?
言葉を紡ごうとしているのにどういう訳か言葉が出て来ない
 −何か、回ってね?
先程までの自分のスピードを考えれば今の自分は有り得ない速度で動いている、しかもあれほど感じていた苦痛が一切感じられない
 −あれー?
というか首から下の感覚が一切無い、滞空が終わりアスファルトに顔を打ち付けてゴロゴロと転がっても一切痛みが無かった
 −あー・・・
自分の目で先程まで自分が居た場所を見るとそこには首が無くなり、手足が千切れ首の無いズタボロの自分の体が見えるし、直ぐ傍にはピクリとも動かないレイが全身から血を流して死んでいる
 −俺・・死んだのか・・
そう、首から下が丸々無くなっているのだから言葉を発する事など出来る訳がない。苦痛も感じない所か感じる為の体が無いだけだったのだ
 −死ぬ・んだ・・
人間 首が無くなって生きてられる訳がない。もし生きていればそれは人間の形をしたナニかだ
 −まぁ・・いいかもな・・
自分の死は決定しているのだから今更あーだこーだ足掻いても仕方がない。もっとも足掻く為の体が無い訳だが
 −とうさん・・と・・かあさんと・・マユの・・ところへ・・逝けると思えば・・・
瞼が重くのしかかり視界が徐々に黒く染まってゆく
 −死ぬ・・のも・・悪くない・・かも・な・・
シン・アスカ 死亡 享年16歳

74シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:41:47 ID:BJrvEIZ.
ここでようやく二人を跳ねたトラックが停止し、トラックの運転手が慌てて自分が跳ねた人間の状態を確かめようと道路に飛び出す
「おぉいッ! 大丈夫か!?」
コレだけの交通事故が起こったのだ、周りの車は既に停止している為安全に道路を確認に出れる。
「え・・?」
人間 というか生き物を車で轢き殺せばどうなるか。言うまでも無いが原型を留めない死体が出来上がる。だからこのトラックの運転手は人間がグチャグチャになった死体を見る覚悟が有った
「どう なっ・・え・・?」
だがそこには予想の斜め上を行く光景が広がっていた
「死・・体・・どこ・・?」
そう 人間が『異常』な形になっている光景を思い描いていたのにそこには
「な・・・えっ・・・・?」
千切れ飛んだ手足を思い浮かべた そこら中に飛び散った血痕を想像した 只の肉塊と化した人間を覚悟した なのに 『普通』しか無かった 何も無かった 何の変哲もないトラックしか無かった
 −ねぇ今の見た?見た見た。首飛んだよね。ママーあれなにー?。見ちゃダメ!。うぇええ・・・。死体どこよ?。だって・・血とか飛んだよな?。えぇー・・。あれ?。首とか・・え――。あたしも見た見た。
周りの人々も足を止め徐々に視線と口をトラックに集め始めている。これだけの大事故だ直に警察や軍などもここに来るだろう。しかし跳ねた筈の死体はどこにも無い、自分は幻覚でも見ていたのか?そんな事はあり得ない、確かに自分は人間を二人跳ねて轢いた筈だ。その証拠に轢いた瞬間トラックの窓ガラスに夥しい量の血がへばり付き、ガッタンと車体が揺れ何かを轢いたのを体で感じた筈だ。
しかし何も無い 先程トラックの窓ガラスに飛び散った血痕すら存在しない。だがトラックが通り過ぎた後ろの道路には人が乗っていたであろう、無人のバイクが積んであった荷物を道路にブチ撒けた状態で横転しタイヤを空回りさせていた。状況の整理が着かないトラック運転手は道路の真ん中で呆然とするしか無かった。
「は・・・はあぁ?」

75シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:43:12 ID:BJrvEIZ.
・東京都内−某所

逃げなければ そう思い伸ばした腕でシンとレイは地面を掴む
「はぁッ ハァ ハァッ ハぁっ ぁっ?」
ここで違和感を感じる二人 それもその筈、自分達はゴツゴツしていてデコボコとしたアスファルトを掴んだのに滑らかな平面を掴んでいる感触を手の平に感じたのだから
「はっ ハッ はっ は はぁっ」
ふと視線を地面に落とすとそこには滑らかな木があった 
「はぁ はぁ ハっ ハァっ ハァッ ハァッ」
落ち付いて状況を整理しよう まず今の自分達がうつ伏せになっている地面はコンクリートでは無く、色合いや感触や見てくれは木だ。しかしそれが有り得ない。何度も言うが自分達はアスファルトの地面を這いずっていた筈だ。断じて木の上を這いずってはいなかった。それに光が違う、先程まで人口の物ではあるが日光が射す場所に居た筈なのに今見ている光はどうみても蛍光灯の光だ。とにかく這いずったままの姿勢では周りもよく見えない、状況を確認すべく二人はゆっくりと立ち上がった。
「はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ ぁ はっ」
二本足で立ち、周りを見渡すとどうみてもそこは先程までいた二人が居た道路ではなくマンションの一室だった。滑らかで平坦な地面の木はフローリングの床だったのだ。
「「はっ?!」」
ここで直ぐ近くに迫っていたトラックを確認する為に勢いよく後ろを振り向くがそこには白塗りの壁と明かりの付いていない部屋と、白い壁にもたれ掛って胡坐をかいている中年男性が見えるだけで、トラックなど影も形も無かった。死の脅威が消えた事を確認すると安堵から腰が抜け、シンは四つん這いになり、レイは腰砕けになってフローリングに座り込んだ
「た 助かったぁ・・・はぁ はぁ はぁっ」
助かった そう口にするシンだが素直に安心して良い物なのかレイには疑問だった
「助かっ たの・・か・・・? ハァッ はっ はぁ」
汗だくになり呼吸も荒いまま周りを良く見渡してみると 自分達が座っている場所はフローリングの床 周りは白塗りの壁 天井には蛍光灯とエアコン等の空調設備 自分達から見て右手の窓ガラスの向こうには手すり付きのベランダとそこから見える町のネオンの光 誰が何と言おうがそこはマンションの一室だった。有り得ない 自分達が居る場所が今まで居た場所と違う事が有り得ない 
一番有り得ないのが目の前に有る物体だ 家具一つ無い殺風景な部屋なのにその部屋の奥にはあまりにも異質な存在感を放つ物体が存在していた
それは黒い玉 直径一メートル程のサイズでツルツルとした滑らかな表面で、この世のありとあらゆる光を吸収してしまいそうなほど重く黒い色をした玉が二人の前に鎮座していた
「また出て来た・・」
動機が治まらない二人とは対照的に玉の前で中年男性が涼しい顔をしながら呟く
「ハァ ハァ ハッ・・んで・・・ここ・・ドコ?」
シンが疑問の言葉をレイに投げ掛けるがその質問には「知るか」という返答以外何も浮かばなかった。

マンションの一室 そこには出身 年齢 人種 性別 国籍の一切を問わず死んだ筈の人間が集められていた。
そこで繰り広げられる物、それは絶対に逃れられない。地球に潜むエイリアン『星人』との生き残りを掛けた殺し合い
その部屋を管理する物 死者を操る物 マンションの一室に置かれた黒い玉 誰が呼んだか その名は
 
 GANTZ

76シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 00:50:09 ID:BJrvEIZ.
とまぁそんな感じで前スレの270辺りで書いたGANTZとのクロスSSの続きというかちゃんとした版です
取り合えず気の向くままに書いてみましたが。いかかがでしたか?この後はネギ星人のミッションを書くつもりです
要望・質問・感想・指摘 等が有りましたら遠慮なく申しつけ下さい

77シンの嫁774人目:2011/10/21(金) 18:56:28 ID:t1TZUDNo
>>76
投下乙! マーレは奪い取ったと思いきや式典であっさりエクステ三人組に撃たれて、
インパルスのシートを手放してしまえばいいと思うよ。
むしろ地獄に落ちろ。

78シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 10:57:27 ID:2sXJoTtE
今からGANTZssの続きを投下します
部屋の中の描写をしっかりやったら前回より長くなってしまいました・・・というかこんな駄文の続き待ってる人居るかなぁ・・・

79シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:00:20 ID:2sXJoTtE
彼等は死んだ トラックに撥ねられて死んだ筈なのだ。しかし現に二人は生きている、靴を履いたままマンションの一室の中に居るのだ。
「・・・で・・どう・・する?」
「俺に聞くな・・・」
先程まで大汗かきながら肩で息をしていたシンとレイの二人だが、楽な姿勢でフローリングの床に居続ける内に呼吸も安定して来て、今では動悸も殆ど無くなり、汗も引き始めていた。
「それでここ何?」
「知るか」
シンの疑問にレイが一言で返すのも無理は無い、自分達の置かれている状況は何から何まで異常なのだから。まず自分達が先程まで居た場所と違う場所に居る事がおかしい。次にこの部屋の中に居る人間がおかしい、この部屋には自分達を除けば中年男性が二人いるのだが彼等も自分達と同じく靴を履いたままだ。
これがそもそもおかしい、当たり前の話だが大抵の人間はマンションの中では靴を脱ぐのが普通なのだから。
「後この玉なんだよ」
「だから知るか。あ、おい! 何する気だ!?」
シンが言う玉とは目の前にある黒い玉の事だ。道路から突然マンションの一室に来て最初に二人の目を引いたのがこの玉だ。見渡す限り家具一つ無い殺風景な部屋なのに何故かこの黒い玉だけが鎮座しており、玉に興味が湧いたシンはその玉に手をかざし触れてみるが。
「何とも無いわ・・」
見た目通りの滑らかな感触で金属特有の冷たさを手に感じるだけだった
「つーか無事だったんなら早く帰ろう?」
そしてこんな部屋で生活している訳でも無い筈だろうに、自分達の他に男性二名が黙って胡坐かいてくつろいでいる事もおかしい。
「そうだな」
こんな所に居ても仕方がない。シンもさっさと宿舎に帰ってポテチ食いながらジャンプを読みたいしレイはレイでやりたい事が有るのだから。そう言うと二人は部屋に居た二名の男性を無視して玄関に向かった。
「あ あの」
玄関に向かおうと踵を返すと、黒い玉の近くの窓ガラスの傍に座っている男性がシンとレイを呼びとめたが
「何ですか?」
「い いやなんでもない・・・」
シンが用件を聞くと何故か罰の悪そうな顔をして黙りこくってしまった
「・・・?」
疑問は尽きないが今はこの部屋から出て自分の部屋に帰らなければと、再び玄関に向かう二人。左の部屋は電気が付いていないキッチンで行き止まり、なら必然的に右の部屋が玄関へ続く道と言う事になる。しかし右の部屋に向かおうと壁側の近くを歩くと壁を背にして胡坐をかいている男がこちらを睨みつけて来た。
「・・・!」
男の眼は明確な敵意を二人に向けていた。正面からガン飛ばされた事に腹が立ち、シンも同じ様に睨みながら強めの口調で返す。
「・・何か用ですか?」
「止せ シン」
しかしレイが肩を掴んでそれを制止する。こんな所で一々争っていても仕方がないだろうに。本当にこの親友は直ぐに熱くなるから困ったものだ、まぁそれはアカデミー時代からの付き合いで分かっている事だが。
「ふんっ・・・」
シンが子供っぽくそっぽを向くと二人はさっさと右の部屋に向かった
「あ 玄関」
通路を右に曲がると、思った通り玄関の扉がそこに有った。シンは早くこの部屋から出ようと駆け足で近付きドアノブに手を掛ける。
「あれ?」
妙だ、ドアノブが回らない。見た限り鍵は掛かって無い、なのに何故? 
「えぇっ?」
今度は両手で握り込んで回そうとするがどれだけ力を込めてもドアノブが回らない。
「何してるんだ?」
一体何をしているのかレイが後ろから聞いてくるが、何が起こっているのかはこっちが聞きたい所だ
「ドアノブが・・・回んないって言うか」
「何だ?」
「何か・・・触れない」
「はぁ?」

80シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:01:29 ID:2sXJoTtE
シンは一体何を言っている? 目の前に有る物が触れない筈ないだろうに。
「いやだからツルッツル滑って触れないんだって」
「良いからちょっと退け 貸してみろ」
埒が明かないのでシンを押しのけてレイがドアノブに手を掛けるが
「あ?」
ドアノブを握り込もうとしても何の手応えも無い。物に触ればそれに触れた感触が神経を通して手に伝わる筈なのにそれすら無いということは、自分達は目の前のドアに触れる事すらできていないという事なのだろう。
「何なんだコレは・・ん? 何してる?」
ふと後ろを見るとシンが手を腰に置いて片手で周りの壁を触り始めていた。いきなり何をし始めたのか聞いてみると
「やっぱり・・・」
「何がやっぱり何だ?」
「壁だよ壁」
シンがポンポンと壁を叩くが壁を叩く音が一切聞こえて来ない。
「ドアだけかと思ったけどこの壁全部触れないよ。」
「何・・?」
「しかもホラ 無理矢理触ろうとするとコレだよ」
壁にもたれ掛り体重を掛けて壁を押すとシンの掌が右上に滑る。掌を真ん中に戻してもう一度壁を押せば今度は左下に滑った、それは決して隣接し合う事の無い同極の磁石を無理矢理くっ付けようとする行為に良く似ていた。
「どうする?」
シンの言う事が本当ならお手上げだ。たとえどんな鍵の掛かった扉でも開けてしまうピッキングの達人が居たとしても目標に触れないのではどうしようもない。
「取り合えず・・戻るか」
開かない扉相手に悪戦苦闘しても仕方がない。これからどうするかは取り合えず先程までいた部屋に戻ってから考えるとしよう。再び最初に居た部屋に戻るとまずは窓ガラスからの脱出を試みようとシンが窓の鍵に触れるが
「窓はどうだ?」
シンに聞きながらレイも外部と連絡を取ろうと携帯をポケットから取り出すがコレも失敗。携帯は電波が圏外になっているどころか電源すら入らない状態だ。
「チっ・・こっちも駄目」
「ハーっ・・携帯も駄目か」
これで何故こんな部屋に二人の男性が大人しく寛いでいるのかが判明した。彼等はこの部屋から『出ない』のではなく『出れない』のだ、出れるのなら誰が好き好んで、あんな不気味な黒い玉以外何も無い部屋に何時までも居続けるだろうか。
結局この部屋の壁のどこにも触れる事は出来なかった。レイも溜息をつきながら困った様子で頭をポリポリと掻いていると、ふと窓の外を見ていたシンが何かに気づきいた
「なぁ レイ?」
「どうした?」
「俺等・・・コロニーに居たよな?」
何を当たり前の事を 自分達はザフト軍人だからコロニーにいて当然だし、そもそも自分達はあそこで買い物してただろうに
「それがどうかしたか?」
そういうとシンは窓の外を指をさして、体をブルブルと震わせながらこう言った
「外壁が・・・無い!」
「はぁっ?!」
突然だがコロニーに何故周りを覆う外壁が存在するのかご存知の方は居るだろうか。言うまでも無い事かもしれないが真空の世界であり重力の存在しない宇宙空間で地上と同じような生活スペースをポンとそのまま作ればどうなるか、当然全ての物が真空の宇宙に吸い出されて消えていってしまう、だからコロニーは宇宙でも人が住めるよう密閉された空間であるのが当然なのだ。それにプラントの所有するコロニーは殆どが砂時計の様な形状をしておりその内部に人々の生活スペースを作っている為、屋外又は外が見えれば何処に居てもコロニーの壁が見える筈なのだ。
しかしシンの指さした方向にはコロニー内であれば何処に居ても見える筈の外壁が存在しておらず、下に見える町のネオンと月明かりに照らされた夜景が広がっているだけだった。
「ここは・・アーモリーワンじゃないという事か?」
「そう、だよな。しかも月をあぁやって見上げるって事は・・・ここって・・地球?」
「馬鹿言え! コロニーから地球までどれだけ離れてると思っているんだ!?」
レイが狼狽するのも無理は無い、今見えている光景が真実なら自分達はスペースコロニーから遠く離れた地球までわざわざ移動させられたという事なのだから。
ありえない まずコロニーから地球への移動など短時間で行える物ではないし、そもそも何処の誰がそんな事をする必要が有るというのだ? コレが人為的な物で無いのなら自然現象? もっとありえない話だ。
「あのさ ちょっと落ちつこうよレイ 何時ものレイらしくないよ?」
「あ あぁすまん。少し取り乱してしまった」
「じゃあさ 取り合えず状況を整理しようよ」

81シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:02:44 ID:2sXJoTtE
そう言うと二人は部屋の中央である玉の前に胡坐をかいて座った。
「まず ここは何処だと思う?」
「・・・分からん」
「憶測で良いから」
シンの言葉に腕を組み唸りながら考えるレイだが、ここで部屋の外に見える街に気付く。
「シン あの塔・・・何だと思う?」
「へ?」
レイはそう言うと、外の高層ビルや平坦な建造物が立ち並ぶ街並みの中で、一際目立つ紅白色をしている三角形の塔を指さした。
「・・・エッフェル塔? じゃもしかしてここパリ?」
「エッフェル塔ってあんな紅白な色だったか?」
形こそ似ているがその塔は、地球のパリにあるエッフェル塔とは異なる色をしており、それが『東京タワー』と呼ばれる建造物と言う事を彼等は知らない。
「違うかぁ・・・」
「分からないなら、仕方ないからさっきまでの状況を整理しないか?」
「そうだな それで俺等がさっきまで居た場所はアーモリーワンだよな?」
「あぁ」
まず自分達はコロニーで買い物をしていた。
「んで買い物終わって与太話した後にバイクに乗って帰ろうとした これで有ってるよな?」
「あぁ」
ここまでは何の問題も無かったが、問題はこの後に起った
「その後・・・バイクのブレーキ壊れて・・・」
「事故って横転したな」
躊躇なく言いきるレイにシンは少し引いてしまう。自分達がどんな目に会ったのか忘れた訳ではないだろうに。
「お前ちゃんとバイクの点検したか?」
レイから整備不良を疑われたが、彼の趣味はバイク弄りであるから、定期的に整備しているし、出かける前にも簡単な車両点検をしたからそれは無いと信じたい。
「ちゃんとやったよ、というかトンネル入るまではブレーキ動いてよな? 何で急に壊れたんだろ?」
それに途中までは普通に運転できていた、何故途中からブレーキが利かなくなったのか疑問で仕方ない。
「分からん あと何で横転した?」
レイの口調は疑問のそれでは無く明らかに問いただす物であったが、もう過ぎた事を言及されても困る。何とかごまかそうと先程の状況を思い出すと、なんとか言い訳が思い浮かんだ
「いやあの・・・ほら 車の影から歩行者が渡ってきてそれ避けた後また車来て、それ避けたら・・・」
「連続の急ハンドルで横転したと?」
嘘は言っていない。繰り返し言うが断じて嘘は言っていない。咄嗟の事で対応しきれなかっただけだ。
「うん でさぁ、その後バイクから放り出されて・・・道路転げ回ったよな?」
「・・・あぁ」
ここから先は思い出したくもない。なにせ自分達は猛スピードでアスファルトの地面を転げ回り全身を打ち付けたのだから
「それで・・・大怪我した・・よな?」
しかし今の自分達はこうして五体満足で会話している、一体自分達の身に何が起こったか皆目見当がつかない。違う場所に居たかと思えば、次は怪我した筈の体が無傷になっているのだから、訳が分からない。
「何で・・体・・何ともねぇの?」
「治療・・された・・とかか?」
まぁ怪我自体は治療すれば治る物ではあるが、それでも時間を置かなければ治る物では無い。もしこの体が無傷である理由が、治療を受けた事による物なら自分達の意識は何カ月も飛んでいたことになる。それに何故こんな部屋で治療したのかが分からない。
「てことはココ・・・病院?」
「には見えんがな」
自分で言って思ったがこの部屋が病院の一室の病室・治療室と言うのが一番ありえない話だろう。こんなベッドも家具も何も無く、おかしな玉が鎮座していて、壁に触れない病室が有って堪るか。
「それでさぁ、その後俺等・・・」
ここから先は正直言って理解不能どころの話では無い、何せ体がズタボロになった所で目の前にトラックが爆走してきたのだから、そしてトラックは自分達に気付きブレーキを掛けたが
「轢かれたよな?」

82シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:03:41 ID:2sXJoTtE
トラックは急ブレーキを掛けたのだが、自分達から数メートルも離れていない所で掛けたブレーキなど間に合う訳が無い。自分達は怪我をしていて動けなかったのだし、トラックがスピードを落としきれず目の前に迫ってきていた事も憶えている。だから自分達は絶対に轢かれた筈なのだ。
「・・・確かに・・轢かれたな」
「じゃあ何で生きてんの?」
通常 爆走してくるトラックに轢かれた人間はどうなるか、言うまで無く即死だ、死体は原型すら留めないだろう。にもかかわらず自分達は今こうして会話している。何事も無く無事だったから棚上げにしていた問題だが、それがこの部屋に来てからの一番の謎だ。
「ちょっと良いかい?」
ここで先程二人を呼びとめた、玉の傍の窓ガラス付近に居た中年男性が顔を近づけながら話し掛けてきた。
「何ですか?」
「やっぱり・・・君たちも死にかけたのかい?」
やっぱり その言葉に二人の意識も自然と男性に向いていた。
「貴方は?」
「私は・・ビルの建設作業をしていたんだが、そこで事故が起こって・・」
「何が有ったんです?」
彼に一体何があったのかも気になる、事故と言うからには何かあったのだろう。
「金属疲労か・・・故障かは分からないが、とにかく鉄骨を運んでいたクレーンが壊れて私の上に鉄骨が落ちて来て、私はその下敷きになったんだ・・・」
「え・・?」
トラックに轢かれた自分達の状況を第三者に話せばどう思われるか、間違い無く即死だ。そして彼が遭遇した状況も自分達に負けず劣らずの物だった。
「それから・・・意識が朦朧として・・・気が付いたらココに・・。」
「それって・・・」
どう考えても、彼も自分達と同じ様に
「そう 常識的に考えても私は死んだ筈なんだ」
「て事は・・もしかして・・・ココ・・」
死んだ筈の人間だ、状況から考えてそれ以外ありえない。そして死者が逝く場所と言えば。
「天国?」
他に行く所と言えば地獄だが、特に悪行もしていない自分が行く場所は、厚かましい話かもしれないが天国以外考えられなかった。
「そんな訳無いだろ、人間は死ねばそれで終いだ。天国などある物か」
「いや・・・だってさぁ」
ではこの状況は何だというのだ。あの世以外の場所だというなら納得いく説明をして欲しい物だ。
「じゃあ何か? お前の言う天国は2LDKの部屋の事を指すのか?」
「いやココ1LDKじゃね?」
「2LDKだろ」
「どっちでも良いよ・・」
話が逸れてしまったが、何故この男性は最初にその事を話さなかったのか疑問になった、情報交換をして互いにデメリットなど無い筈なのに、何故自分と同じ様な状況に合ったと知った事で、シン達に話しかけて来たのか理由を聞いてみた。
「それはそうとして何で急に話し掛けて来たんですか? さっきまでずっと黙ってたのに」
「それは・・あそこに居る男が出て来た時にも、お互い何が有ったのか聞こうと話し掛けたんだ」
その男とは先程シンとレイを睨んだガラの悪い男だ。
「意気投合とはいかなかったが会話をしている最中に、私がコーディネーターと分かると態度が一変して怖くなってしまって、君たちもそうかと思ってね・・」
男性の言葉にシンは怒りを覚えた。コーディネーター ナチュラル それぞれのいざこざから始まった戦争によって彼は家族を失ったからだ。だからシンはコーディネーターにせよナチュラルにせよ、どちらかを差別する人間がまた戦争を呼びよせる気がして成らなかった。
「んだそれ・・・おいアンタ」
「あ?」
そしてコーディネーターを差別するナチュラルと言えば彼の中では一種類しか居なかった。
「アンタ ブルーコスモスか?」
青き清浄なる世界の為に コーディネーターは自然の摂理に逆らう存在 そんな意味不明な理由で難癖付けてはコーディネーターに突っかかって来る組織 又はその意思に賛同する人間を指す言葉がブルーコスモスだ。コーディネーターを名前では無く『コーディネーター』と呼び捨てにする人間はシンの中ではブルーコスモスと相場が決まっていた。
「ハッ・・・おめでたい奴だな」
しかし男の口から出て来た言葉はシンの意思とは反する言葉だった。

83シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:05:50 ID:2sXJoTtE
「何?! どういう意味だ!?」
「自分達を忌み嫌うナチュラルはあの馬鹿共だけだと思ってる事が、おめでたいと言っているんだよ『コーディネーター』」
「何だとぉッ!?」
男の言葉に激昂し、掴みかかろうと立ち上がるシンだが
「止せ!」
それをレイが先程と同じ様に制止する。
「だって!」
「今俺達がやるべき事は喧嘩か? こんな所で争っても仕方ないだろ」
レイの言ッている事はこれ以上ない程の正論だ。シンはこの男に今すぐ掴み掛かりたい所だが、そんな事をしても時間と体力を浪費するだけで何の意味も無いし、そもそも見ず知らずの人間といきなり喧嘩を始めるほどシンは好戦的な人間ではない。
「・・・チッ!」
何とか怒りを胸の中に押し込んだシンを尻目に、レイはこの男も自分達と同じ様に死にかけてこの部屋に来たのか、どうかが知りたかった。それさえ分かればこの部屋に集まった人間の共通点が判明するからだ。
「それで、貴方も死にかけてこの部屋に来たんですか?」
「何故俺が貴様の質問に答えなければならん」
しかし現実は無情だ。相手がこれでは会話など望める筈も無く、男性が黙ってしまったのも当然の事だ。
「そうですか」
意思疎通をする気の無い人間と、無理にコミュニケーションを取ろうとしても軋轢や衝突しか生まれず、険悪な雰囲気になるだけだ。何時までこの部屋に居なければならないのかも分からない状況で、喧嘩など愚かとしか言いようがない。
ドラマやサスペンスなどで良くあり、現実でも偶に起こる話しだが、複数の人間が一カ所に長時間閉じ込められると、些細なトラブルが殺し合い等の惨劇に繋がる事も珍しく無い。だからレイは無用のトラブルを避ける為にこの男を無視する事にした。
「一応聞いておきますがこの部屋に出口は有りますか?」
「あったらこうしていないよ」
当然と言えば当然だ、誰が好き好んでこんな部屋にいつまでも居たいと思うだろうか。
「周りの住民は? ココがマンションなら隣部屋に誰かいるんじゃないですか?」
「私もそう思って、一人で叫んでみたり、物音出してみたけど反応は一切無かったよ」
出口なし 外部との連絡不能 普通なら万事休すだがそれで諦めはしない。
「それと先程『出て来た』って言いましたけど、どういう意味ですか?」
気になるのが男性が言った言葉だ、フィールドを歩いていれば出て来るRPGの雑魚敵じゃあるまいし、ポンとこの空間に出て来る訳が無い。
「どういう意味と言われても・・・そのままの意味だがどうかしたのかい?」
「なぁレイ 何が言いたいの?」
「俺達が入ってきた入口はどこですか?」
出口が見つからないなら入口を見つければ良い。元々そこから入って来たのだから、そこから出れば良いだけの話だ。
「そっか! 出口が無いなら入口から出れば良いよな! で、どこから入ってきたんですか?」
何故こんな単純な事に気付かなかったのか不思議で仕方ないが、次々と明らかになる怪現象に脱出の考えが少し薄れてしまっていたのかもしれない。ともかく自分達がこの部屋に入って来た時の光景を目撃している男性にその時の状況を聞けば脱出のヒントになるかもしれない。
「どこ・・と・・・言われても・・・答えずらいというか何と言うか・・・」
しかしそれを問いただされた男性の表情は、何故か苦虫を数匹噛み潰したような顔に変わってしまった。何でも良いから脱出のヒントが欲しい二人は男性を急かす。
「良いから教えて下さい」
「お願いします!」
「・・・・そこ」
男性が視線を向け、指さした物を見て二人は唖然とする。男性が指さしたのは先程シンが触れた黒い玉だったのだ。
「「は?」」
「いやだから この玉から出て来たんだ」
男性が何を言ってるのか分からず、二人は数秒思考が停止した。玉から出て来た? どこぞのネコ型ロボットの秘密道具よろしく出て来たとでも言うのか? そんな事ある訳ないだろう。
「・・・ふざけてるんですか? 真面目に答えて下さい」
「だから言いたくなかったんだよ・・・絶対に信じてくれないだろうし」
「信じるもクソも・・第一出て来るってどうやって?」
「何て・・言えば良いんだろう・・・んーっ・・・」
玉から出て来たと言われても、皆目理解できない。一体全体何をどうすれば人間が玉から出て来るというのだ? 仮に玉の中に入れられた状態で玉が展開して出て来たとしても、そもそもその玉に入れられる時点で、この部屋に入ってきた事になる。そして二人の質問に答えようと、うんうん唸って考えていると、ハッと良い例えを思いつき 
「あ ファックス」
「へ?」
今の状況に全く関係ない単語が突然飛び出て来て再び思考が停止するが、男性はさらに意味不明な事を語り始めた。
「ファックスみたいに出て来たんだよ。玉から光線が走ってそれで君たちがこの部屋に出て来たんだ」

84シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:08:09 ID:2sXJoTtE
は? それが今の説明を聞いた二人の率直な感想だった。人間が? ファックス? 玉から? 光線? 意味不明意味不明意味不明意味不明理解不能 落ちついて今の説明と単語を整理しよう
 
「『自分達』は『黒い玉』から『光線』が走り、そこからあたかも『ファックス』の様にこの部屋に入ってきた。」

無茶苦茶だ 人間の体は主にたんぱく質で構成されているから、光で人間は作れない。それ以前に光で物質を作ることなど不可能だ、丁度セカンドステージの機体に装備されているデュートリョンビームのように、光線で信号やエネルギーを送る事は可能だが、物質を作り 送り出す事など不可能だ。
仮に男性の言葉が真実だとしよう、自分達は黒い玉から光となって出て来たと。ではその光から生み出された自分達は一体何だ? 人間か? 立体映像のホログラムか? 光から生み出された存在に体温があるか? 呼吸をするか? 汗をかくか? 脈が有るか? 肉体があるか? 男性の説明と自分達の今の体の状態は、何もかもが噛み合わず結論 男性の言葉と説明はおかしいとしか言いようが無い。
「あの・・・「分かる 言いたい事は分かる、変な事言ってると思われてるのは良く分かっているよ。でも本当なんだ 君達が信じようと信じまいとね。」
「えぇ・・?」
ふと黒い玉を見るとジジッと妙な音を発しながら、光線を出していた
「ん?」
その光が走った後には何か物が出来ていた、いや 玉から発せられる光が物を作りだしていったのだ、さながら『ファックス』が印刷するかのように
「うぉッ?!」
「ほら 丁度出て来た」
それは物では無く肉だった 四つの小さな肉塊が筋肉や骨の断面図を見せ、光と共に肉が成長するかのように断面図から徐々に生え、形を作って行った。
「何・・・だ・・これ・・・」
気持ちが悪い 真っ赤な肉の断面図を見て気分の良い人間が居る物か。ちなみにこの肉は断面が剥き出しなのに、血が一滴出ていなかった。
「うげっ!」
この光景をファックスと呼ぶのは言い得て妙だったが、断面図を表しながら出て来るそれはファックスというより、視覚的にはレントゲンやCTスキャンの方が合っていた。しかしCTスキャンは白黒 又は青黒といったように本物と同じ色は出せないし、断面図も筋繊維や血管や骨等、ここまで正確な物は見せられない。徐々に形作られて行くそれは、四つん這いの手足だという事が分かってきて同時に、人間なら皮膚が有るべき場所に柔らかそうな毛皮があり、明らかに人間の体では無かった。手足を作り終わり、今度は内臓の断面図を見せながら胴体から上半身を作って行った。
「うわぁ・・・」
その光景が怖くなり、二人は立ち上がって、出て来る体から離れた。通常、生物の体は呼吸や脈の関係上意識しなくても自然に体が動く物だが、その体だけ時が止まったかのようにピクリとも動かなかった。そして全身を作り終わると玉からの光が消え、同時に出て来た物の体が動き出した。
「何・・これ・・」
「犬・・だ・・・よ・・な?」
その場に現れた生物の名前は、自分達の知る限り犬と呼ばれる生物だった。
白と黒の毛皮 四つん這いの手足 頭の横にピンと立った二本の耳 尻には尻尾 前に寄った目 口から出ている長いベロ どこからどう見ても犬その物だ。
「ハッ ハッ ハッ ハッ」
「君達もこうやって出て来たんだよ」
自分達はこうやって体の断面図を晒しながら出て来た? 人間がそんな状態になって生きてられるのか? 今ここに居る自分達は一体何なんだ?
それはそうとしてこの生物を犬と呼んで良いのかが疑問だった、生物は光から出てくる物ではないし、こんな風に胴や内臓が輪切りになって生きてられる物でも無いし、こんな風に出て来た生物が見たままの物なのかどうか確かめる必要が有った。
「おいシン ちょっと触ってみろ」
と言う訳でレイがこの生物が本当に犬かどうか確認させようと、シンに触れるよう命令する。
「えっ? 俺!? 何で?!」
しかしシンもこんな訳のわからない方法で出て来た生物には、たとえ犬でも触れたくない。
「良いから!」
「なん・・・えぇっ・・・?」
「気を付けろよ」
気を付けろっていう位なら自分でやれよ、と言いたい所だが押し切られる形で渋々従った。ただシンもこの犬が本当に只の犬かどうか疑問だったので確かめたかったのだ。しかし、いきなり触って機嫌を損ねては危ない為、どうにかして安全に触れない物かと考えていると、ポケットの中にある物に気付き
「・・食べるか?」
買い出しの時に買っておいた、おつまみをポケットから取りだして食べさせようとするがシンの手は震えていた。何せ体の断面図を晒しながら光と一緒に出て来た生物だ、本当に只の犬なのかも疑問だ、差し出した瞬間に掌ごと食い千切られないかビクビクしながら、犬におつまみを差し出した。

85シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:09:28 ID:2sXJoTtE
「ハッ ハッ ハッ ハグッ ハグッ」
「ヘッ ヘッ ヘッ ヘッ」
シンの掌に乗っていたつまみを食い終えると、犬はシンに尻尾を振り始めた。犬が人間に好意や服従の意を示す動作に、シンの少し表情が和らぐ。
「食べ・・たな」
これで少なくともこの生き物が食事を取り、腕を食い千切るような危険な生き物では無い事がわかった。
「ほら 他になんかやってみろ」
しかしそれだけでは判断材料が不足していると感じたのだろう。レイがシンに更なる指示を出す。シンは自分でやれと言いたい思いを、再びグッと堪えて再びこれが犬かどうか確認する。
「チッ・・お手!」
「ヘッ ヘッ ヘッ」
シンが再び掌を差し出すと、犬も自分の手をシンの掌に乗せた。どうやら人の言葉は理解できるようだし人に飼われていたようだ。
「良く出来たな お座り!」
再び命令すると四つん這いの状態から後ろ脚を曲げ座り込んだ。性格も従順 犬その物だ。
「ヘッ ヘッ」
「良く出来たな ん・・?ハハッ! や 止めろ!」
犬と同じ目線に顔を落とし、褒めながら犬の頭を撫でると嬉しかったのか、犬がシンの顔を舐めながらひっ付き押し倒して来た。体毛は柔らかく体温も暖かい。
「ハハハ! くっ付くな! く くすぐったい! コラ! 舐めるなって! ワッハハ! ハハハハ!」
舌でベロベロ舐められ、くすぐったさから笑いが止まらず、シンの顔から先程まで浮かべていた、恐怖の表情は消えていた。
「よーし良し良し良し! 良い子だ!」
体勢を立て直し、シンは犬の頭をこれでもかと言う程、クシャクシャに撫でた。犬も尻尾をぶんぶん振り、喜びの意思をシンに示している。
犬だ コレは誰が何と言おうが俺の知る限り、犬と呼ばれる生物で間違いない。もしこれが犬で無いというなら俺は犬という生物の認識を著しく間違えている事になる。
少しそうしていると、その場の生物の息遣い以外、一切無音だった部屋に突然音楽が流れ始めた。

 ♪〜♪ ♪〜♪ ♪〜♪
それは不気味な静寂に包まれていた部屋には、明らかに場違いともいうべき陽気な音楽だった。
「んだこの音楽?」
「どこから流れてるんだ?」
 
 あーたーらしーい あーさがきた 
 きぼーうの あーさーだ 

そして歌が流れ始め部屋人間全員が音の出所を探す。
「この玉からじゃないかい?」
男性が言う通りこの歌は黒い玉から流れており、部屋の人間全員が玉の前に寄って来た。
 
 よーろこーびに むねをひーらけ 
 おーおぞーら あーおーげー 

「何だこの歌」
それは聞き覚えの無い歌だった。いつどこで誰が作ったのかも分からない。
「誰か聞いた事あるかい?」

86シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:10:36 ID:2sXJoTtE
らーじおーの こーえにー 
 すーこやーかな むーねをー 
 こーのかおーるかぜーに  ひらーけよ 

「あ ラジオ体操の歌」
しかしシンだけはこの歌が何の歌なのか知っていた
 
 そーれ 1 2 3♪

歌が終わると、部屋は再び物音一つしない静寂に包まれた。そして玉の前に寄っていた人間が玉の異変に気付く。玉の表面に文字が浮かんできたのだ。
「何か出て来たぞ」
「ん・・?」
玉にはこう文字が出ていた。
  
 てめえ達の命は、
 無くなりました。

 
 新しい命を
 どう使おうと
 私の勝手です。


 という理屈なわけだす。

「え?」
「は?」
「どういうこと?」
その文章は余りにも不気味で、不可思議で意味不明だった。
「命は無くなりましたって・・やっぱ俺等・・・死んだの?」
死んだかどうか、先程の議論が再び頭に浮かび、シンはショックから表情を少し陰らせた。
「馬鹿言え じゃあ今ここで息してるのは誰だ?」
しかしレイがこれを一刀両断 確かに自分達が死んでいたとしても今の自分達は、こうして生きているし肉体が有り呼吸が有る、死んでいればそんな物必要無い筈だ。
「まぁねぇ・・ていうかコレ、所々字が変じゃね?」
それと玉に浮かんだ文字を見ると、フォントやサイズがバラバラだったり、パソコンで打ち込んだ字や手で殴り書きした字がごちゃ混ぜになった文章が浮かんでいた。他にも『り』が反転して『い』になっていたり『す』の字も反転している。
「やっぱりいたずらじゃないかな?」
確かにこの文章や先程の音楽は、どう見ても人を馬鹿にした物だ。
「にしては手が込み過ぎじゃないか?」
ただ悪戯でここまでの大仕掛けや、今の文明から見れば明らかなオーバーテクノロージーを扱えるのかは疑問だが。
「つーか・・この文章ってさぁ・・・」
「どうした?」
「メチャクチャ馬鹿馬鹿しいけど・・・真面目に捉えるとすげー怖い文章じゃ無い?」
シンがそう言うと玉の表示が切り替わり、別の文字と顔写真が出て来た。
「また何か出て来たよ」

87シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:11:31 ID:2sXJoTtE
てめえ達は今から
 この方をヤッつけに行ってくだちい
  ねぎ星人
         特徴
          つよい
          くちい
         好きなもの
           ねぎ、友情
         口ぐせ
          ねぎだけで
         じゅうぶんですよ!!   

玉には肌が色白で、緑色の直毛が天に向かって伸び、八の字眉毛で頬が痩せた、何処か残念そうな表情をした子供の顔写真が、周りの意味不明な紹介文に囲まれる位置に表示されていた。
「コレ何が言いたいの?」
「ねぎ・・・星人?」
「いやコレ子供だろ」
相変わらず字が反転していたり、殴り書きだったり、ミミズが這った様な字がごちゃ混ぜになった文章が表示されていた。
「しかもやっつけにって・・・」
「何か始まるのかな?」
突然、継ぎ目一つ無かった玉に継ぎ目が生じ、轟音を鳴らしながら左右後方から引き出しが勢い良く開いた。
「わっ!」
「ビックリしたぁ・・・」
行き成りの事で驚いたが、落ちついて開いた引き出しの中にある物を見ると、ショットガンの様な大きめの銃が立て掛けられ、ハンドガン程の小型の銃が左右の引きだしに取り付けられていた。
「これ・・銃かな?」
「何かオモチャっぽい形してるな」
シンが玉に近づき、シン達から見て左の引きだしに取り付けられていた小型の銃を取りだし、じっくり観察する。全体的に丸っこい形状をしており、上下には二つのトリガー取り付けられ、薬莢が出る穴が無く、マガジンも確認できず、撃鉄も確認できない、銃身がブローバックするようにも見えない。しかも銃口に穴が開いてない。これではシンがオモチャと思っても仕方ない話だ。
「うぅわぁッ!!」
ここで右側から玉の中を覗き込んだレイが驚いて尻もちを突いた。
「どうした?!」
「ななな な 中! 人! 人! 人!」
レイが指さす方向を見ると 其処には全裸で禿げ頭の男性が体育座りの形で玉の中に居た。
「なん・・・これ・・人間・・・か?」
「・・・作り物・・じゃないのかい?」
コレが人間だと思えなくても無理は無い。この部屋は何から何まで異常なのだから。レーザー光線で生物を完全な形で出現させるわ、突然意味不明な文章を出すわ、玉が展開して銃のような物を出すわ、挙句の果てにはその玉の中に全裸の男がいるときた物だ。
何故こんな玉の中に人が居る? しかも男性は見た限り熟睡おり、生命維持装置の様な物が全身に取り付けられていた。さらに細かい異常を上げると男性の体には、まつ毛以外の体毛が確認できなかった。
「おいシン! 何を!?」
ここでシンが玉の中の男が本物の人間かどうか確かめようと、指で恐る恐る触れた。
「・・暖ったかい・・・」
玉から出て来た犬と同じように、男性を指で触った感触は普通の人間のソレだった。
「本物・・?」
「生きてるみたいだけど、何故こんな所に人が?」
良く見れば口に取り付けたマスクが荒い呼吸音と共に曇っている為、明らかに呼吸をしている事が分かる。
「寝てるみたいだけど、一連の怪異はもしかしてこの人が?」

88シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:12:46 ID:2sXJoTtE
「起こしてみるか?」
この部屋の謎に玉の中の男性が関わっているのは明らかで、これまでの真相を知るには玉の中の男性から事情を聴かなければならない、その為シンは男性の耳元に近づくと大きく息を吸い、部屋中に響く程の大声を出して眠っている男性を叩き起こそうとした。
「おーい! アンタ! 何でこんな所に居るんだよ!? この部屋は一体何なんだ!?」
しかし返答は一切無し 玉の中の男性は相変わらず熟睡している。
「起きろぉ――――――――ッ!!」
耳元で大声を出そうが体を揺すろうが、男性はノ―リアクションだった。
「起きないね・・」
「はーっ・・・・もう放って置け。時間の無駄だ」
普通耳元でこれだけ大声を出せば起きるか何らかのリアクションは示すものだが、それが一切無いという事はこの男性は何をしようが起きないという事なのだろう。これ以上この男性に関っても時間の無駄だ。
男性を放っておく事にしたシンは、後ろの引きだしに近づき、そこに有る物が銃では無く、別の物だと気づく。
「コレなんだろ?」
後ろの引き出しに入っているケースを取りだすと、ケースには自分の名前が彫ってあった。
 [シンくん]
「名前・・彫ってある・・・」
「どうした?」
しかも良く見れば自分を含めて レイ おじさん 犬 さっきのガラの悪い男と 全員分のケースが有った
「人数分有るし・・」
「ちょっと全員に回してくれ」
そう言われ、自分のケースの下に有ったケースを取りだしレイに回そうと取りだすが、自分の名前とは違い変な名前が彫られていた。
 [パッキンロン毛]
「はぁ? これレイのか?」
「どうした? 良いからこっちに渡してくれ」
本当にレイの物か疑問だったが、この場に金髪でロン毛の人間と言えばレイしかいなかった為、レイにケースを手渡した。
「はい」
「何だこの名前・・・」
自分のケースは普通に名前が彫られていたのに、何故レイはあだ名が彫ってあったのだろうか。他のケースも取り出していくと、全てあだ名が彫ってあった。
 [おっさんA]
「これじゃないですか?」
「おっさんって・・・」
確かに良い年齢は行ってそうだがコレは酷いんじゃないか? 受け取ったら目に見えて落ち込んでしまったし。
 [おっさんB]
「ハイ 多分アンタのだよ」
「・・・」
先程一悶着あった男に渡そうとしたがシカトされた。コーディネーターから物など受け取りたくもないという事か? まぁ本人が要らない用だしコレは後ろの引き出しに戻しても良いだろう。
そしてその下には犬のケースまで有った、用意周到と言うか何と言うか。若干呆れながら犬のあだ名を見ると。
 [バター犬]
最悪だ 意味は伏せておくが、このあだ名が真実ならつまりこの犬はそういう犬で、その舌で先程自分の顔やら手を舐めまくったということだ。
「バター犬・・」
しかしこの玉は何故、そんなことまで知っているのかが疑問だった。
「その犬OLか誰かに飼われてたんだろ」
「何で意味知ってんだよ」
玉だけじゃなく親友のレイもその意味を知っていた。レイはこう見えてソッチの知識もそれなりに持ち合わせているようだ。
「何が入ってるんだろ?」
そんなこんなでケースが行き渡ると、ケースを受け取らなかった男とバター犬以外の全員が座り込んでケースの中身を確認した。
「靴が入ってるな」
中には所々メタリックな部品や丸い金具が飾り付けられた黒い靴と黒く薄い布が入っていた。それにしてもこの玉から出て来た物はどれもこれも、玉と同じ様な漆黒の色をしている物だ。

89シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:14:05 ID:2sXJoTtE
「これ・・・もしかして服? パイロットスーツ?」
布を広げてみると、それは首から足元まで覆えるサイズの全身タイツスーツだった。
「これを・・着ろという事か?」
ここでシン達は一つ勘違いをする、言うまでも無いかもしれないがシンとレイはMSパイロットだ。だから全身を覆うスーツと聞けばパイロットスーツがまず思い浮かぶ。そしてパイロットスーツには全身を機密できるスーツともう一つ必要な物が有るのだが、ケースの中にはそれが影も形も無かった。
「どうでも良いけどヘルメットどこ?」
「何処にも無いな」
そうヘルメットだ コレが無ければ宇宙ではMSの気密が破れればそのまま窒息死するし、宇宙で無くとも高速で動くMSのコクピットの中で派手に頭や体をぶつける危険性が有る為、ほぼ全てのMSパイロットはパイロットスーツとヘルメットを被る物なのだがケースの中にはそれが無かった。だからコレをパイロットスーツだと思っている二人はヘルメットが無ければ、この服を着ても意味が無いと思っているのだ。まぁ何事にも例外は有り、パイロットスーツやヘルメットを被らないMSパイロットも居るにはいるが。
「コレまた良く出来てるねぇ」
男性の言う通りそのスーツは良く出来ていた。サイズはピッタリだし、丸い金具が取り付けられている位置は完全な左右対称。おまけに糸のほつれ一つ無いという状態だ。
「でどうする? 着る?」
一応レイに着るかどうか聞くシンだったが、レイはこれを一蹴に伏せた
「意味不明な部屋に意味不明な玉に意味不明な文章、そしてその玉の中で全裸で熟睡した男がいる そんな部屋で誰が何の為に用意したかも分からん服など誰が着るか」
「だよなぁ」
そういうとレイと男性は服と靴を出しっぱなしにして、シンは服と靴をケース内に戻してケースを閉じた。
「じゃ 取り合えずこの銃が本物かどうか、試してみようぜ」
ここでシンが先程玉が展開してから、持ちっぱなしだった小型の銃を構えた。
「これ・・・本物か?」
「やっぱりオモチャじゃね?」
「それにしては重いし良く出来てるけどね」
確かにオモチャにしては良い造形をしているし、手に持った時に感じる重量感は、正に本物の銃のそれだ。
「どうやって確かめる?」
「それはやっぱ一回撃ってみないと」
まぁこの銃が本物かオモチャかは試し打ちして見れば分かる事だ。玉が出れば本物 出なければ見た目通りのオモチャ それで終いだ。
「どこに撃つんだ?」
レイが聞くとシンは窓ガラスに向かって銃を構えた。
「窓ガラスにしようぜ これなら壊れても問題無いし。皆離れて」
この銃が本物だったとして、それがどれ程の威力を発揮するのか分からない以上、近くに居れば巻き添えを食らわないとも限らない。
「シン もう良いぞ」
全員がシンと窓ガラスから離れたのを確認すると、シンは銃を窓ガラスに向けて腰を落とし、脇を締め両手で銃を構え、万全の態勢でトリガーに指を掛ける。
「それじゃ一発!」
掛け声と共に、銃に二つ付いている上のトリガーの引き絞るが、反応は無かった。
「アレ?」
引く場所を間違えたのか 今度は下のトリガーを引いたがそれも反応無し。
「はぁ・・・やっぱオモチャだよ コレ 上引いても下引いても弾出ねぇし」
「やっぱりいたずらか何かか?」
服も銃もオモチャだった以上、この部屋でする事がもう無くなってしまった。まさかねぎ星人と、表示されている写真の子供を『やっつける』準備を、常識ある人間が始める筈も無く、部屋の中の人間は途方に暮れるしか無かった。
「一体何なんだよこの部屋・・・マジ意味分かんねぇんだけど」
「これからどうすれば・・・」
「ん?」
ここで周りを見渡していたシンが、男性の体に異常が起こっている事に気付く。
「どうしたシン?」
慌てふためきながらシンは、震える指で男性の頭を指さした

90シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:15:00 ID:2sXJoTtE
「おじさん! 頭が! 頭が!」
「へっ?」
シンの言葉で男性は自分の頭を触ろうとしたが、手が頭をスカッと通り過ぎてしまった。厳密に言うと手と頭が徐々に無くなり始めていたのだ。
「わっ?! わ! わぁ――――――ッ!」
それは先程バター犬が出て来た時とは逆に、頭から体の断面図を晒しながら徐々に消え始めていたのだ。
「っ・・・・・」
頭頂部が消え、眼球が消え、鼻が消え、口が消えて喉まで消滅すると男性は声を出す事が出来ず、そのまま部屋から完全に消えて無くなった
「! 退けコーディネーター!」
そして先程の男が怒声を上げながらシンを突き飛ばして、玉の引き出しに取り付けられていた小型の銃を引っ掴んだ。
「痛っ!」
「おい大丈夫かシン!」
見れば男の体も消え始めていたようだ、だから一刻も早く銃を取ろうとしたのだろうが、何故シンが今試し打ちをして、オモチャと判明した銃に拘るのかが分からなかった。
「あぁ 大丈夫」
「ど どうする? 俺達以外全員消えたぞ?」
周りを見ればバター犬も消えて無くなり、この部屋に残されたのはシンとレイだけだった。
「あのさ・・レイ・・」
そしてレイの頭も消え始めていた。
「俺も・・もしかして・・・消えてるのか?」
「・・・うん」
「何が どうなって・・・あ?」
少し動揺していたレイの口調は、目が消えると何故か、何時もの落ちついた口調に戻った。
「どうした?」
「心配しなくて良さそうだぞ。外に出」
レイも口と喉が消えると声が出せずそのまま消えて行ったが、親友の体の断面図を見るというのは気分が悪い物だ。
「あ! おいっ! レイッ!?」
とうとうこの部屋にシン一人だけが、取り残されてしまった
「チッ・・どーするよ・・オイ・・!」
どうすれば良いのか分からず、慌てふためきながら体の状態を確かめようと頭頂部を触ると手がスカッと空振りしてしまった。シンの体も消え始めていたのだ。
「あっ! 俺もかよ!」
自分の体だから見えないが恐らく、自分も体の断面図を晒しながら消えているのだろう。
「ど どうっすりゃっ」
これはただ事ではない、何か手を打たねば。しかし刻一刻と体は消えていく、時間はそう多く残されてはいない。ではどうすればいいのか考えると、シンはさっきのスーツを思い出した。
「あ! そうだスーツ!」
慌てて下を見てケースを取ろうとしたが、もうシンの目は消え、フローリングの変わりにコンクリートをその眼に映していた。
「クッソ! どこだぁ? どこに有んだよッ!?」
だが体だけはまだ、あの部屋にあるようだ。見えない部屋の床を手さぐりで触りまくり、ようやく自分の名前が彫られているケースを手にとった。
「有った!」
ケースの取っ手を握りしめると、送られてきた下半身ごとケースがその手に握られていた。

 行ってくだちい
 00:60:00

そして誰もいなくなった部屋で黒い玉がタイマーを刻み始めた

91シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:15:58 ID:2sXJoTtE
「・・・何をしているんだ?」
後ろを見るとレイが可哀想な人を見る目でこちらを見つめていたが、当然と言えば当然だろう。上半身だけで慌てふためくシンの姿は、傍から見ればさぞ滑稽に写ったのだから。
「えっ!? いや・・その・・」
「そのスーツ結局持ってきたのか」
「うん で、ここ何処?」
見渡せばそこは先程まで居た部屋では無く、夜の閑静な住宅街だった。
「見た限り住宅街だな 相変わらず外壁は無いが」
部屋の中と同じくそこにもコロニー内で有れば、絶対に見える筈の外壁はどこにも見えなかった。
「やっぱり・・・ここ地球なのか?」
「認めたくは無いがそうとしか考えられんな」
「で、どうすんの?」
「帰るに決まってるだろ」
まぁここが地球ならば仕方ない。それならそれで再び宇宙に上がってアーモリーワンに帰るだけだ。
「だよな でもどうやって?」
「まぁここが何処だろうが電車も見えるし歩いて帰らないかい? 駅まで行けばここが何処かも分かるだろうしね」
ふと周りを見れば遠くに電車が走る光景が見えた、なら後は駅に向えば駅員なり何なりにココがどこなのか聞ける、それから事情を話してアーモリーワンと連絡を取るか、宇宙港に向かえば良い。
「そうですね」
「んじゃ帰るか」
シン達が帰路に向かおうと足を揃えるが、シンを突き飛ばした男だけは、先程取った銃をじっと見つめていた。
「おーい! アンタは帰らないのかー!」
感じは悪いがここに一人で置いて行くのも悪い気がしたので、一緒に帰ろうと声を掛けるが。
「勝手に帰れ」
一言で断られてしまった、これ以上この男とかかわるのも馬鹿らしいので、レイと男性は早々に駅に向かって歩き出した。
「はぁ・・・もう行くぞ」
「あぁ」

コーディネーター三人が帰るのを見届けると男はようやく重い口を開いた。
「行ったか・・・」
馬鹿な連中だ コレがいたずらか何かだと思っているのか? そんな訳ないだろう、何故なら俺はコーディネーターに眉間を打ち抜かれる瞬間をこの目で捉えたのだから。
俺はコーディネーターに殺された、それは誰が何と言おうと決して揺るがない事実。それはあの玉に出ていた『てめえ達の命は、無くなりました。』と言う文章が証明している。だからコレまでの事が悪戯など絶対にあり得ないのだ。そして玉にはこうも書かれていた『新しい命をどう使おうと私の勝手です。』つまり一度死んだ俺はあの玉に蘇らされた。そして玉に表示されていたターゲット『ねぎ星人』を倒す為にこの命を使われるのだろう。
ここまで理解しても普段なら、あの三人のコーディネーターを惨殺して、コーディネーターを殺す旅に再出発する所だが、今は状況が違う。俺の命があの黒い玉の支配下に有るなら、勝手な真似をすれば即座にあの玉に殺されるのだろう。非常に不本意では有るがまずは玉に表示されていたねぎ星人を殺さなければ。その為に玉の引き出しに有った銃もわざわざ持ってきたのだから。そう思い男は近くのコンクリート塀に狙いを定めた。
さっきのコーディネーターのガキは上下どちらのトリガーを引いても弾が出ないと諦めていたが、その程度の頭で自分達を新たな人類と名乗り、ナチュラルを野蛮な猿と呼ぶのだから、コーディネーターとはつくづく御めでたい連中だ。片方引いて駄目なら両方引けば良いだろうに。まぁそういう自意識過剰な所につけ込んで、これまで多くのコーディネーターを拷問して殺して来た訳だが。
男は腰を落とし、脇を締め、両手で銃を構えると上下二つのトリガーをゆっくりと、同時に引いた。 
 ガショッ!
突然、銃口に四枚 その後部でも四枚 計八枚の羽が、斜め上下左右に展開して銃がXの形になり少し驚いたが、落ちついてもう一度銃のトリガーを両方引く。
 
 ギョーン

92シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:17:19 ID:2sXJoTtE
しかしその結果は聞いた事も無い奇妙な銃声が夜の住宅街に響き、銃身が青白く発光しただけだった。もしかして本当に只のオモチャなのか?いやそんな筈は
 バァンッ!!
男が物思いにふけっていると突然目の前で轟音と爆裂音が響き、コンクリートがガラガラと崩れる音が聞こえ、粉々に砕けた塀の粉塵が辺りにもうもうと立ち込めていた。粉塵が鎮まるのを待ち、自分が今打った塀を確認すると、そこにはまるでRPG7でも撃ち込んだかのように、破壊されたコンクリート塀が有った。小型火器だというのに馬鹿げた破壊力の銃に男は興奮し別の場所にも連続で銃を撃った。
 ギョーン ギョーン ギョーン
銃声の後、数秒間を置いてから着弾した個所が順番に爆裂していった。どうやらこの銃は着弾してからその効果を発揮するまで、数秒のタイムラグが存在するらしい。それにしてもおかしな銃だ、通常、火器の威力は銃身・銃弾のサイズに比例するから、ハンドガン程度のサイズしか持たないこの銃ではどう頑張っても、精々マグナム程度の威力しか期待できないのに、その破壊力は対装甲火器に匹敵する。それと視認出来ない為、良く分からないが、実弾やMSが持つビーム兵器とも違う全く別の兵器。そんな物がこの携行サイズでしかも無反動で扱えるというのだからとんでもない話だ。
突然自分の手の中に転がり込んできた超兵器に男の心は躍った。これさえあれば これさえあればコーディネーターを幾らでも殺せる。しかし男には一つ気がかりな事が有ったそれは、これだけ強力な兵器を渡されたという事は、これから殺さなければならない『ねぎ星人』は、あの玉から出て来た兵器を使わなければ倒せない程強力な敵と言う事だ。玉の紹介にも『つよい』とあったのだから恐らくその戦闘力は人間を遥かに超える物なのだろう。そんな敵相手に幾ら強力とはいえ、この銃だけでは心許ない。一応他にも銃はあったし、玉の後ろにはスーツが入ったケースも有った。あのガキだけがそのケースを持っていたが恐らく、あのパッと見コスプレにしか見えない全身タイツスーツにも何か秘密が有るのだろう。
あのガキがこちらに渡そうとした時に硬意地を張らず素直に受け取ればよかったが、無い物ねだりをしても今更仕方ない。取り合えずこの銃一丁でターゲットのねぎ星人を殺さなければ。
しかしそのねぎ星人が何処に居るのか皆目見当が付かない。どうにかして位置を特定できない物かと考えていると、ポケットに異物感を感じた男はポケットの中から機械を取りだした。
「これか・・?」
その機械はコントローラーのような形状で、凄くアバウトでは有るが、この辺りの地図と赤い光点を示していた。恐らくこの光点の指し示す場所にねぎ星人が居るのだろうが、あの部屋に居る時にはこんな物は持ってはいなかった。つまりあの玉が俺達をココに転送する時に同時に転送したのだろう。実に用意周到な話だ。
しかし良く見ると地図には赤いラインが四角形に張られていた、推測では有るがこのラインを越えると玉から何かしらのペナルティが与えられるのだろう。まぁあの玉から指令を受けて帰ろうとしている連中はあのコーディネーター達しか居ないのだから、特に気にする問題でも無い。コーディネーターが何時何処で野垂れ死のうが俺にはどうでも良い、といっても出来れば自分の手で直接殺したいが。
「行くか」
そう言うと男はレーダーに表示されている光点に従って、夜の住宅街に消えて行った。

一方場面は駅に向かっているシン達に変わる。
「しかし、何でまたそんな訳のわからないスーツ持って来たんだ?」
シンが何故そのスーツを持ってきたのかが、レイには疑問だった。玉から出て来た銃がオモチャだったからスーツもオモチャだと思ったのだろう。しかしシンは神妙な面持ちでレイにこう返した。
「このスーツさぁ・・何か・・」
「何だ?」
「どこかで見た事有る気がするんだよねぇ・・・」
それはシン・アスカもGANTZとは無関係では無い事を意味していた。

93シンの嫁774人目:2011/11/06(日) 11:30:11 ID:2sXJoTtE
とまぁ前回に続き長々と説明して終わりました 
次回はミッション中の出来事を書く予定です。
後、このスレは総合クロスなのでまどマギとか、なのはとかの死亡キャラをGANTZなら幾らでも出せるのに、犬だけ出した理由ですが。
GANTZはヤンジャンで連載されている為、大抵の登場人物が碌な死に方をしません。まどマギのマミさんみたいにキャラクターがマミる事なんかガンツでは日常茶飯事ですからね。
だから練習段階のこのssでは女性キャラは登場させられませんでした。一応希望や要望等があれば出すかもしれませんが、出しても碌な目に合わないと思います。というかシン達もこれからとんでもない目に会う予定なので。
長々と書きましたが投下は以上です 
感想や指摘等がありましたらドンドン言ってください!

94シンの嫁774人目:2011/11/07(月) 10:59:45 ID:tTKEtlXY
>>93
GANTZはほとんど知らないしグロも苦手なほうなんですが、
続きが気になってしかたないです。

95シンの嫁774人目:2011/11/07(月) 12:17:21 ID:uQSVsER2
>>94
ありがとう御座います!
続きが気になる 私にとって最高の誉め言葉です!
ガンツって本当に、やってることは大したことないのに、毎回続きが気になって仕方ないんですよねぇ
次回も期待に添えるように頑張ります! ただ次回はねぎ親父登場までやろうと思っているので、ガチグロ展開になると思います…でもそれが無きゃガンツじゃないんですよ…orz

96シンの嫁774人目:2011/11/07(月) 21:58:51 ID:boH5jJxw
>>95
GJ!
GANTZはキングダムをみるついでにみるけど、グロイよねw
今やってるとことかw

97シンの嫁774人目:2011/11/08(火) 22:01:17 ID:8XYJbSzk
 俺の自慢の姉、千冬姉には特別な友達が一人いる。名前を篠ノ之束といって、俺の幼馴染、箒のお姉さんでもある。
 束さんは一言でいえば『天才』だ。どれくらい天才かというと、文字通り世界をひっくり返した大発明、ISをたった一人で作成、完成させるくらいの大天才だ。
 そんな彼女は感性の方も俺達凡人とは違っているらしく、性格もかなり個性的。
 だから当時の俺は子供心に、「あの人には千冬姉(彼女も色々と突き抜けた人だから)以外に友達できないだろうなぁ」と常々思ったものだった。

 ところがびっくり。俺の予想を裏切り、何と束さんに千冬姉以外の友達ができたのだ。しかもそれが男だったから二倍びっくりだ。
 束さん曰く「海で拾ってきた」というその人は、何か訳ありの事情があるらしく、行くあてもないということで、箒の実家の神社に暫く居候していた。
 昼間は神社の掃除や雑用をこなし、たまに道場の手伝いにくることもある。驚いたことに、あの人、剣道という枠組みを取っ払えばあの千冬姉とも互角にやり合うのだ。
 俺もときどき宿題を教えて貰ったりしたけど、ぶっきらぼうだけど面倒見がよくて、「千冬姉の他にもう一人兄貴がいたらこんな感じなのかな」って何となく思った。

 いや、少なくとも当時の俺は、彼――シン・アスカのことを、本当の兄のように思っていたのだ。



 そんな懐かしい思い出が、『そいつ』を見た瞬間、不意に俺の脳裏をよぎった。




IS<インフィニット・ストラトス> ―Le Petit Prince−
 第一話「フライト・オブ・ザ・イントルーダー」(体験版)

 楽しい筈の臨海学校。しかしIS学園上層部から通達された一つの特命任務が、楽しい旅行を大事件へと変えてしまった。
 ハワイ沖で試験稼働にあった第三世代型軍用無人IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が、突如制御下を離れて暴走。追跡を振り切り、監視空域を離脱したのである。

 IS。それは正式名称を『インフィニット・ストラトス』と言い、世界中に全467機存在する飛行パワードスーツである。
 元々は宇宙空間開発用のマルチフォーム・スーツとして開発されたのだが、十年前の『ある事件』をきっかけに、現在では『究極の機動兵器』として世界に認知されている。
 超音速による格闘能力、大質量の物質を粒子から構成する能力、操縦者を守る保護システム、コンピューター以上の処理速度、完璧なステルス能力、そして自己進化。
 それら全てを兼ね備えるISは、「女性にしか扱えない」という致命的な欠陥を抱えながらも、他のあらゆる現行兵器を圧倒的に凌駕し、史上最強の兵器として君臨していた。

 ISを倒せるのはISだけ。この緊急時において、暴走する『福音』を止められるのは、代表候補生を中心とする六人の専用機持ちIS学園生徒だけなのだ。
 こうして始まった『福音』捕獲作戦は、まず世界初の『ISを操縦できる男』、織斑一夏の『白式』と、篠ノ之箒の第四世代型IS『紅椿』がペアで出撃。
 『紅椿』の援護のもと、『白式』のバリア破壊能力『零落白夜』による電撃作戦を試みるが、『白式』撃墜により失敗。残存戦力の全てを投入する総力戦に切り替える。
 その後、『福音』の第二形態移行(セカンド・シフト)という予想外の展開もあったが、復帰した一夏も加えた五人がかりの猛攻によって遂に目標を追い詰めたその時――、

 ――『そいつ』は突然現れた。

98シンの嫁774人目:2011/11/08(火) 22:02:01 ID:8XYJbSzk


                    ◆          ◆          ◆




 俺が『そいつ』の接近に気づけたのは、ひとえに『白式』に搭載された超音速戦用の超高感度ハイパーセンサーのおかげだった。
 警告と同時にスラスターを逆噴射。後方への瞬時加速(イグニッション・ブースト)で慣性エネルギーを無理矢理相殺して急停止する。
 直後、頭上から急降下してきた黒い影が俺の鼻先を掠めた。……危ねぇ、ブレーキしてなきゃ間違いなく直撃コースだったぜ。

 俺と『福音』の間に割り込むように現れた、突然の乱入者。そいつはどう見てもISだった。だが、それにしては不可解な点が幾つもある。
 全身をくまなく覆う灰色の装甲、まるで甲冑だ。背中の赤い大型の推進翼が、やけに鮮やかに見える。
 顔は頭部全体を覆う仮面、というかヘルム型のハイパーセンサーに完全に隠され、その表情を窺うことはできない。

 まず、その時点でおかしい。

 前にも話したことだが、ISは防御の殆どがシールドエネルギーによって行われ、見た目の装甲はあまり意味をなさない。
 全身を包み込む『皮膜装甲(スキンバリアー)』と、いざという時の『絶対防御』。これら二重の守りが、搭乗者へのダメージをほぼ完全にシャットアウトしてくれるのだ。
 だから通常、ISは部分的にしか装甲を形成しない。それも飾りの意味合いが強いだろう。全身装甲(フル・スキン)なんて無駄の極みだ。

 そして全身のハリネズミのような武装。背中に大型近接ブレードが二本、二つ折りのバレルが腰の左右に一本ずつ、脛の外側からも柄のようなものが飛び出している。
 武装の数、それ自体に問題はない。数だけで言えば、例えばシャルの『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』なんかは、もっと多くの武器を仕込んでいるだろう。
 だが通常、ISは武装を量子化し、『拡張領域(パス・スロット)』と呼ばれる領域に格納、自由に展開することができる。
 俺の『白式』みたいに拡張領域が全て埋まっている訳でもあるまいに、あれだけの武装をわざわざ展開している奴の意図が理解できない。

 一瞬、俺の脳裏を「無人機」という単語がよぎった。二ヶ月前、学園の学年別トーナメントに乱入して大暴れした謎の無人ISが、ちょうどこんな感じだったのだ。
 だが、頭の中に浮かんだその可能性を、俺は即座に否定した。違う。あの時の無人機とは明らかに違う。
 あいつが現れた瞬間、周囲が一気に肌寒くなった気がする。殺気だ。あいつの殺気に当てられているんだ。機械にこんな嫌な殺気が出せる筈がない。

「……何者だ?」

 ラウラが右肩の大型レールガンを油断なく構え、警戒の表情で乱入者に尋ねる。この辺りの空域はIS学園の先生達が封鎖して、誰も侵入できない筈だ。
 かと言って、援軍のようにはどうも思えない。それならば千冬姉達から何か連絡があって然るべきだろう。

「答えろっ!」

 語気を強めるラウラに、仮面のISが初めて口を開いた。淡々と、ただ一言、奴は答える。

「――亡国機業(ファントム・タスク)」

 まるで男みたいな低い声だった。ファントム・タスク? いや、それよりこの声。仮面でくぐもっていたけど、どこか聞き覚えがある気がするのは、俺の気のせいだろうか。

「亡国機業ですって!?」

 乱入者の言葉に最初に反応したのはセシリアだった。

「聞いたことがありますわ。最近、世界中でISを強奪して回っているテロリスト!」

 セシリアの言葉に俺は息を呑んだ。ISを強奪? それじゃあ、まさか……!

「――まさか今回の事件、この『福音』の暴走事故は、お前が仕組んだのか!?」

 驚愕の声を上げる俺に、黒幕は仮面の奥で嗤った――ような気がした。

99シンの嫁774人目:2011/11/08(火) 22:03:00 ID:8XYJbSzk
 気がつけば俺は《雪片弐型》を振り上げ、仮面のISに斬りかかっていた。間合いを詰め、渾身の力で刃を振り下ろ――せない!?
 よく見れば奴が《雪片弐型》の柄尻に左の掌底を押し当て、がっちりと俺の右腕を固定している。
 思わず息を呑む、その一瞬が命取りだった。次の瞬間、振り抜かれた奴の右拳が俺の顔面に突き刺さっていた。
 バランスを崩し、海面へ真っ逆さまに落下する。ヤバい、と水没を覚悟した次の瞬間、まるで時間が止まったかのように海面ギリギリで身体がぴたりと静止した。

「しっかりしろ、一夏!」

 耳を打つ鋭い叱咤の声。ラウラだった。そうか、AIC(停止結界)で俺の落下運動を打ち消して助けてくれたのか。

「サンキュ、ラウラ! 助かったぜ」

 ラウラに礼を言い、俺は再び飛翔。あの仮面野郎めがけて一直線に突き進む。だがその時、それまで大人しくしていた『福音』が動いた。
 頭部からエネルギーでできた『光の翼』が噴出。羽ばたくと、無数の欠片が羽根のように飛び散る。その一つ一つが、超高速で敵を撃ち抜く超高密度のエネルギー弾だ。
 怒涛の勢いで降り注ぐエネルギー弾雨を前に、俺達は咄嗟に回避、または防御の構えを取った。
 だが一人、あの仮面野郎だけは動かない。奴はただ、脚の小型近接ブレードを右手で無造作に抜き放ち――、



 ――次の瞬間、俺達はとんでもない光景を目の当たりにした。



 ガッ!ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ――!

 やかましく耳を打つ金属音。怒涛の勢いで押し寄せる何十、何百というエネルギー羽根の嵐を、それ以上の超々高速で振るわれる刃がことごとく叩き落としている。
 何だよあれ? 何なんだよあれ!?
 まさかあいつ、あれだけの数の羽根を全部知覚して、その一つ一つに正確に斬撃を叩き込んでるのか? あんな短いナイフ一本で!?
 いや、あり得ないだろ。ハイパーセンサーがあっても無理だろ、そんなの!

 唖然とする俺達を余所に、奴は右手のナイフを『福音』めがけて投擲。間髪入れず、腰のバレルを展開。二門のレールガンが連続で火を噴いた。
 さらに奴は一連の反撃と同時進行で、背中の大型推進翼を展開。がばりと口を開けた紅翼の中から、さらに三枚の小型推進翼が顔を出す。
 スラスターが点火され、左右五枚ずつの紅翼の先に巨大な『光の翼』が形成される。が、それも一瞬。いや、正確には、俺達の眼が、次の瞬間には奴を見失っていたのだ。

 一方、『福音』は自慢の超高速・超精密機動で、迫りくる刃と弾丸を難なく回避――したかに見えた。
 だが『福音』の逃げた先には、既に仮面のISが瞬時加速で回り込んでいた。いや、正確には、奴が瞬時加速で移動した先に、『福音』の方が誘導されていたのだ。

 これは後で束さんに聞いた話だが、『福音』などの無人ISの強みの一つは、AI(人工知能)制御による無駄のない完璧な機動であるらしい。
 人間のような感情による揺らぎがないから、敵がいつ、どんな奇抜な攻撃を仕掛けても、正確に分析し、最適な回避行動を選択、実行することができるという。
 だがそれは逆に言えば、絶妙なタイミングで的確な攻撃を行えば、無人機の動きを好きなように誘導できるということでもある。
 それは瞬間的な判断が問われる高機動戦であるほど、少ない手数でより多くの選択肢を削り、相手を追い込みやすくなる。らしい。少なくとも千冬姉はそう言っていた。
 完璧だからこそ起きる弊害、その矛盾が機械制御の限界だと二人は口を揃えて言う。でもはっきり言って、俺には何が何だかさっぱり分からない。

100シンの嫁774人目:2011/11/08(火) 22:03:35 ID:8XYJbSzk
 奴の右手が『福音』の頭を鷲掴みし、ぎりぎりと万力のように締めつける。瞬間、掌の内側がピカッと光り、ズガンという轟音とともに『福音』の頭に亀裂が入る。
 あの光は、ビーム? あの野郎、掌に荷電粒子砲を仕込んでやがるのか!?
 しかも『絶対防御』を突破し、本体の装甲にヒビを入れるほどの大威力だ。もしもあの時、殴られるのではなく、あれを撃ち込まれていたらと思うとゾッとする。

『a…AAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 甲高いマシンボイスが大気を揺さぶる。『福音』の悲鳴だ。全身の装甲が卵の殻のようにひび割れ、小型のエネルギー翼が羽毛のように『福音』を包む。
 直後、あのエネルギー弾雨が零距離から奴を直撃。爆音が轟き、黒煙が二体のISを覆い隠す。

「やったか!?」

 俺は思わず叫んだ。あれだけの数のエネルギー弾をまともに食らって無事である筈がない。それは確信というより、願望だった。
 黒煙が晴れ、奴の姿が蒼穹に浮かび上がる。奴は――無傷だった。
 奴の身体を覆い隠す全身装甲。灰色一色だったそれは、しかし今は白と青に変わり、背中の翼と合わせて鮮やかなトリコロールカラーを形成している。

「まさか――第二形態移行!?」

 奴の変身にセシリアが悲鳴を上げる。だが、それは違うと俺は思った。
 奴はただ装甲の色が変わっただけだ。『白式』の一次移行(ファースト・シフト)や、『福音』の二次移行のような劇的な変化とは違う。
 現に全身装甲のツートンカラーは徐々に薄まり、元の灰色に戻りつつある。恐らくだが、装甲の色を変えることで飛躍的に防御力を上げているのだろう。
 そして常時あの形態でいないのは、多分エネルギーの消耗が激しくて長時間維持できないのだろう。そう、俺の『零落白夜』と同じように。
 つまり、あれが奴の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)。そして全身装甲の秘密だったのだ。

 奴が『福音』の頭を握りしめ、再び掌部ビーム砲を撃ち込む。ひび割れた頭部装甲が砕け散り、内部フレームが剥き出しになる。
 不意に『福音』のエネルギー翼が消失した。エネルギー切れだ。
 俺達との激闘と、二度の『絶対防御』の発動によって、今の『福音』には『光の翼』を維持するだけのシールドエネルギーがもう残っていないのだろう。
 だらりと四肢を脱力した『福音』を右手で掴んだまま、奴はその胸に左手を突き立てた。そしてブチブチと配線を千切りながら、何かを抉り出す。
 『福音』が身体を一度大きく痙攣させ、死んだようにそれきり動かなくなった。

 奴の左手に握られたもの。まるで命を持つように明滅する、菱形立体のクリスタル。それはISの心臓部、『福音』のISコアだった。

101シンの嫁774人目:2011/11/08(火) 22:12:11 ID:8XYJbSzk
本スレ691を見て、執筆中のISクロスを上げてみた。
544の人じゃないけどね
ネタ的に微妙なので練習スレ
体験版ということで前半だけ

……ごめん、嘘です。
まだここまでしか書いてないだけです。

あと実はコテハン持ってますけど、続き書くか不明なので今回は名無しです。
さぁ、私は誰でしょう(笑

102シンの嫁774人目:2011/11/09(水) 12:08:22 ID:OmYTU6/c
>>101
投下乙!
束さんに拾われたパターンか。
ISがデスティニーインパルスなのはいいとして……まさかの亡国機業!?


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板