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SS練習スレ2

25なのポネタ05:2011/05/07(土) 23:10:01 ID:aJC0MPNs
 十年という月日は早いようで遅く、長いようで短いものだった。少なくとも、今のシンには過去を穏やかに懐古するくらいの落ち着きと余裕があった。
 新暦七十五年三月――シン・アスカ・高町がコズミック・イラから第九十七管理外世界、地球に次元漂流してから、十年の月日が経過した。
 


 時空管理局、湾岸特別救助隊に所属する隊員が寝泊りする寮の一室に、シンは何をする事もなく、ベッドに横になっていた。
 年単位もの時間が経過すれば、青年を小さい子どもから「中年」と呼ばれるものに変え、もうすぐ三十路になろうかという二十歳後半にまで片足を突っ込ませていた。
 漆黒の髪は女と見間違うくらいに肩の下まで伸びており、初対面の男性には女性だと間違えられる事もあり、下心丸出しな声を掛けられる事も珍しくない。
 子どもっぽい、幼さを残す顔立ちは精悍さで溢れ、それが端整な顔にプラスされた事で、実年齢よりほんの少し若く見られている事を、シンは知らない。
 机の上に置いてある端末が、通信が入った事を知らせる電子音を鳴らすと、シンはゆっくりと起き上がり端末を手に取る。
 内容は一通のメール。紅い瞳を左から右、上から下へと動かし、書かれている内容を確認すると、端末をポケットにしまい自室を後にする。向かう先は、指定された局の食堂。



「おぉ〜い」
 食堂へとやって来たシンに、直ぐ様声が掛けられる。
 出入り口の傍にある四人掛けのテーブルに、一人の少女が手を振っている。茶髪のショートカットに黄色いヘアピン、管理局の青い制服に身を包んだ八神はやてだった。その手元には飲み物が置かれている。
 闇の書事件解決までは動かなかった足はすっかり完治し、家族同然だった車椅子に別れを告げていた。
 心身共に成長したはやては、特別捜査官として数々の難事件を解決に導き、局内での活躍を知らない者はいない程、優秀な魔導師として現在に至る。
 シンも微笑を浮かべ手を振り替えし、はやてが座るテーブルへと近づく。そして彼女の対面に腰掛けた。
「久しぶりだな」
「そうやねぇ、アスカさん忙しいから滅多に会えんし。あっごめんなぁ偶の休みに呼び出して」
「いいって」
 両手を合わせ拝み倒すように謝罪するはやてに、シンは苦笑交じりに「そんな事ない」と手を振った。
 シン・アスカの現在の肩書きは『湾岸特別救助隊』の、いくつかある小隊の一つ『クリムゾン』の隊長である。ちなみにこの名前、シンの周囲の者――部下や上司達――が勝手に命名し、彼は「恥ずかしいから止めてくれ」と日々反対署名(シンのみ)を部隊長に申請しているが、一向に認められていない。救助隊のみならず、他の部署にまで浸透してしまっているので、もう手遅れなのだが……。
 湾岸特別救助隊とは、時空管理局・災害担当課の中でも、特に人命救助を専門とする部隊で、危険地帯への突入や迅速な救助活動等を行う為、個人として高い能力が要求される部隊。そして彼が所属するそこでは、ミッドチルダ南部の港湾地区を担当しており、陸上と海上両方が担当区域である事など、特別救助隊で一番激務な部署。
 シンの制服ははやてのそれとは違い、ギンギラギンでちっともさりげなくない、銀色仕様。まぁそんな目立つ制服でも、災害担当局員の憧れなのだが。
「そか。そう言ってくれると助かるわぁ。でな、アスカさん」
「大丈夫、直ぐ来ると思う」
「おおきに」
 シンの言葉に、はやては小さく頷いた。
 はやてがシンを呼び出したのは、デートの約束を取り付ける訳でもなく、昼食を一緒に取る訳でもなく(シン主観だが)、彼を通してある人物を呼び出してほしい、というものだった。
 はやてがその人物に直接会いに行くなり交渉すればいいのが一番だが、前者は彼女自身多忙である事、後者は、何とも間抜けな話だが、その人物との連絡手段がなかった。そこで彼女は繋がりがあるシンを仲介人として頼ったのであった。
 二人の耳に、くぐもった振動音が入る。どうやらそれははやての端末から発せられるものだったようで、彼女がポケットからそれを取り出し、通話ボタンを押して、連絡を入れてきた相手と言葉を交わす。
 シンがテーブルに両腕を乗せたと同時に、はやてへの用事は終わったらしく、彼女は「ありがとう」と会話を止め、端末をポケットにしまい直した。
「来たって」
 顔を綻ばせるはやてに、シンも小さな笑みを返した。
 それからは、二人は互いの近況や仕事の愚痴等、他愛のない話を続けていた。後者に関しては、はやてが管理局の、組織としての体質にあーだこーだと不満を述べたり、ミッドチルダで食べられる日本食はあまり美味しくない、等々。
 どうやら、はやては日々ストレスと死闘を演じていたらしい。今のところ、そこからくる負担に、彼女の美貌が損なわれる事はなさそうだが。


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