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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第五章
1
:
◆POYO/UwNZg
:2019/09/24(火) 22:17:16
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?
遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。
ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!
世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!
そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。
========================
ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし
========================
2
:
◆POYO/UwNZg
:2019/09/24(火) 22:17:49
【キャラクターテンプレ】
名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:
種族:
職業:
性格:
特技:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:
【パートナーモンスター】
ニックネーム:
モンスター名:
特技・能力:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:
【使用デッキ】
合計20枚のカードによって構成される。
「スペルカード」は、使用すると魔法効果を発動。
「ユニットカード」は、使用すると武器や障害物などのオブジェクトを召喚する。
カードは一度使用すると秘められた魔力を失い、再び使うためには丸一日の魔力充填期間を必要とする。
同名カードは、デッキに3枚まで入れることができる。
3
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2019/09/24(火) 22:18:54
『皆さま、大変お待たせ致しましタ。
当魔法機関車は、間もなくアコライト外郭に到着致しまス。お手回りのお荷物など、お忘れにならないようお願い致しまス』
魔法機関車の客車の中で、車掌のボノがいつも通りに到着のアナウンスをする。
あまりに様々なことがありすぎた、キングヒルでの濃密な一日。
それから一夜が明けると、まだ早朝のうちから『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちは魔法機関車に乗り込み、王都を発った。
行先はアコライト外郭。現在、アルメリア王国とニヴルヘイムの戦いの最前線となっている場所だ。
ここで長い間兵の指揮を執り、たったひとりでニヴルヘイムの大軍と戦っている『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を援護する。
それが、今回バロールから言い渡されたミッションである。
《はいは〜い。うちやで〜。
これからナビとしてみんなのバックアップをさせてもらうさかい、改めてよろしゅうなぁ。
UI周りはおいおいアップデートしてくつもりやけど、最初のうちは慣らしちゅうことで不具合御免やね〜》
客車の壁面の一部がパッと切り替わり、窓くらいの大きさの画面にみのりのバストアップが大写しになる。
このアコライト外郭防衛クエストからは、みのりがキングヒルから『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の支援をするのだ。
なお、バロールは別の仕事があって同席できないという。早くもみのりに丸投げしている格好だ。
しかし、同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』であるみのりがナビゲートした方が心強いし、安心できるだろう。
《ほな、到着前にもういっぺん説明すんで〜。
アコライト外郭は、現在アルフヘイムとニヴルヘイムの激突しとる最前線やね。
みんなも知っての通り、ゲームだと『聖灰』のマルグリットはんと最初に出会うイベントで有名な場所や。
ま……終盤でバロールはんと三魔将のひとり・幻魔将軍ガザーヴァが綺麗さっぱり消し去ってまうんやけどなぁ》
バロールがその場にいたら『ぐはぁ!?』と仰け反って苦しんだに違いない皮肉をさらりと交えながら、みのりが説明する。
アコライト外郭はキングヒル防衛の要。ここを突破されると、王都は丸裸になってしまう。まさに最重要防御拠点だ。
ゲームのストーリーモードでは、漆黒の鎧を纏い闇の天馬ダークユニサスに跨った幻魔将軍ガザーヴァがボスを務める。
ブレモンでも屈指のトリックスター、軽妙な喋りとボケ・セルフツッコミで敵も味方も煙に巻く幻魔将軍との決着の場でもある。
《もう連絡途絶えてえらい経つけど、最後に生存確認したときの外郭側の戦力は300、二ヴルヘイム側の兵力は目算で約6000。
こっちの兵士は体力的に限界で、兵糧も尽き掛けてる。持ってあと一週間ってとこやって》
しかし、それももうだいぶ前の話だ。
キングヒルも今回以前に幾度か兵士や兵糧、物資の支援を行っているが、これ以上兵力を外郭に回すと王都の防備が手薄になる。
王都防衛の観点からこれ以上の支援はできず、今はただ手をこまねいているしかなかった。
今回やっと『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を派遣し戦力を補充することができるが、外郭が現状どうなっているかはわからない。
陥落していないことから全滅は免れているだろうが、危機的状況には変わりないだろう――というのが王都の見解だった。
ならば、一刻も早く参戦して援護しなければならない。
「アコライト外郭……か……」
客車の長椅子に腰掛けながら、なゆたは呟いた。
これからなゆたたちを待ち受ける戦いは、言うまでもなく過酷なものだろう。きっと、無傷ではいられない。
だが――そんな戦いへの不安と同じくらい、なゆたの心を占めるもの。
それは、アコライト城郭を守る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の存在だった。
キングヒルを守る堅固な外壁として建築された、長大な城塞――アコライト外郭。
難攻不落の要害ではあるが、城壁だけでは敵を食い止めることはできない。兵士はもとより、何より指揮官が有能でなくては。
自軍の20倍もの圧倒的戦力差。それを長い間埋めるとは、外郭にいる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は只者ではない。
その強力な『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と、早く会ってみたい――
そんな気持ちが、なゆたを逸らせる。
《バロールはんが城郭に救援の一報を入れといたさかい、魔法機関車は攻撃されんはずや。
到着したら、まず『異邦の魔物使い(ブレイブ)』とコンタクトを取ってや〜?
そうそう、みんなのスマホのインベントリに入れた支援物資は、到着したら兵士に分けたってえな〜。
美味しい食べ物とぬくい毛布さえあれば、疲れもだいぶ回復するもんやからねぇ》
疲弊しきった心と身体を癒すのは、温かな食べ物と清潔な寝具。これにつきる。
それは、自衛隊活動の一環として地球で被災地へ救援に行ったこともあるジョンが誰よりもよく分かっているだろう。
《無事『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と面通しできたら、うちに連絡してなぁ。
みんなのスマホにうちとの連絡手段は入っとるやろ? こっちはいつでも回線を開いて待ってるさかい、よろしゅうに〜。
ほなら……みんな、あんじょうおきばりやす〜》
にこやかに笑うと、みのりは一旦通信を切った。
みのりの言ったとおり、パーティー全員のスマホにはみのりと連絡を取り合うアプリが入っている。
これで、いつでもキングヒルとは通信ができる状態だ。
「よし……! みんな、いくよ!」
前方に、長々とその身を横たえる城塞が見えてくる。その巨大な壁一枚の向こう側は、血で血を洗う激戦地だ。
椅子から立ち上がると、なゆたは右拳を握りしめて仲間たちをぐるりと見回した。
「必ずこの戦いに勝ち残るんだ! レッツ・ブレーイブッ!!」
大きく右腕を天に突き出し、気合を入れる。
やがて魔法機関車が外郭の脇に停車すると、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちはアコライト外郭の内部へと乗り込んだ。
4
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2019/09/24(火) 22:19:16
古今東西、籠城戦というものは酸鼻を極めたものになりがちである。
孤立無援で増援も物資の供給も断たれ、それでも持ち場を死守して戦わなければならない。
食糧は枯渇し、雑草をむしって食べる者、軍馬を殺して食べる者もいる。――いや、それならばまだマシな方だ。
中には進退窮まり、死んだ仲間の亡骸を貪ったり土を食べる者まで出始める。
激戦で埋葬する手が足りず、戦死者の亡骸がその場に放置されるということも珍しくない。
そんなとき、何が起こるかと言えば――死体の腐敗による疫病の発生だ。
不潔な環境は爆発的に伝播してゆき、生きている者たちは敵の他に死んだ仲間にも苦しめられる羽目になる。
日々精神的に追い詰められ、極限状態で死に瀕してゆくことを自覚することの恐怖もまた、筆舌に尽くしがたい。
中には、恐怖のあまり精神に異常をきたす者もいるくらいだ。
まさにこの世の地獄。そして、そんな籠城戦の最後はたいてい餓死か、敵も道連れの玉砕と決まっている。
アコライト外郭からの定期連絡はすでに途絶えて久しく、誰も内部の様子を知る者はない。
だが、その状況が決して楽観視できないものということだけは、容易に想像がつく。
歴史が示す通り、きっとこの城郭の中も埋葬されない屍があちこちに横たわり、汚泥の散らばる惨憺たる有様なのだろう――
と、思ったが。
「……はれ?」
仲間たちと一緒にアコライト外郭内に入ったなゆたは、思わず目を丸くした。
そう。
てっきり、城郭の中は酷い有様になっていると思っていた。亡骸のひとつやふたつ、いや十や二十はあると覚悟していた。
城郭に入ったらすぐさまインベントリの限界まで持ってきた物資を放出し、ひとりでも多くの人を救わなければ……と。
そう思っていたのだが。
「なんか、キレイ……」
なゆたは小さく呟いた。
片付いている。
むろん、戦場である。相応に破壊の跡や補修の形跡はあるものの、予想よりも遥かに状態がいい。
まるで、地球の有名な戦跡のような。観光地のような片付きっぷりである。
いや。このアコライト城郭の異様さは、そんなところにあるのではない。
『デコられている』。
無骨な城壁のあちこちに、大小さまざまな羊皮紙に描かれた似顔絵がずらりと貼られている。
一瞬、賞金首を捜索するための人相書きかと思ったが、違う。
ポップな書体で『MAHORO YUMEMI Absolutely Live in ACOLITE!!』と書いてある、その羊皮紙は――
「……ポスターだ」
そう。
これは賞金首の人相書きなどではない、紛れもないイベント告知のポスター。
そして、そのポスターにでかでかと描かれた、『キラッ☆彡』とばかりに茶目っ気たっぷりにポーズを決める人物は――。
「おぉ〜っ! お待ちしておりました!」
呆気に取られてポスターを見ていると、不意に背後で声がした。
振り返ってみると、ひとりの男が立っている。
見知らぬ顔だ。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』パーティーでない。とすればこのアコライト外郭の兵士なのだろう。
……たぶん。
「え……えーと……」
男のいでたちを見て、なゆたは口元を引き攣らせた。
簡素な兜とチェインメイルを着込んでいる辺り、兵士であろうとは思う……が、それ以外の付属品が常軌を逸している。
額には『マホロ命』と書かれたハチマキを巻き、リングアーマーの上に蛍光ピンクの法被を羽織っている。
手に持っているのは剣や盾ではなく、ただの棒である。――いや、ただの……ではない。光っている。
そう。
どこからどう見ても、男はオタクだった。
5
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2019/09/24(火) 22:19:43
「いやいや! いやいやいや! 貴公らが王都からの増援でござるかァ〜! お待ち申し上げておりましたぞォ〜デュフフフ!」
男は満面の笑みを湛え、やけに馴れ馴れしく『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に近付いてきた。
「よォ〜こそ! よォ〜こそ! アコライト外郭へ!
いや、貴公らは実に! 実に運がいい! 今、ちょうど午後のライヴの真っ最中でござる!
ささ、こちらへ! 貴公らも我らの女神! いやさ戦乙女のライヴあーんど生配信を観て、萌え萌えキュンキュンするでござる!
デュフッ! デュフフフフ……!」
「え、えっ? ちょっ、ライヴって……!
あたしたちは戦いに来たのであって、そんなのを観に来たわけじゃ……!
ここの責任者の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこですかーっ!?」
「デュフッ! 戦い? そんなのあとあと! まずはライヴに参加しなくてどうするんでござるか!
皆の者! お客人を会場まで運んで差し上げるでござる!」
「「「「「「「「御意!!!!」」」」」」」
どこから湧いて出たのか、いつのまにか何人もの兵士たちに囲まれている。
その兵士たちも最初の兵士同様ハチマキを巻き、法被を着込んでいる。城郭防衛隊の制服かとも思ったが、明らかに違う。
法被の背中には『MAHORO LOVE』と大書されている。意味が分からない。
なゆた、明神、エンバース、カザハ、ジョンの5人は瞬く間に城郭の内部へと運ばれていった。
「……ここは……」
到着したのは、城塞の中庭に続く扉の前だった。このアコライト外郭の中でも、もっとも堅固な場所である。
扉の中から、歌声が聞こえてくる。
それは、どこかで聴いたことのある歌声だった。
「ささ、存分にお楽しみくだされー! 我らの戦乙女、マホロたんのアブソリュートリィ☆ライヴを!」
兵士が観音開きの大きな扉を開く。
その途端、なゆたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の視界に飛び込んできたのは――
中庭に設けられたステージの上で、煌めくライトに照らされながら歌うひとりの少女の姿だった。
「み――――ん――――な――――! 盛り上がってるっ! かぁ―――――――――いっ!!!」
眩しいほどの光の海。耳をつんざくような、アップテンポのメロディ。
地震かと思うほどに地面が激しく揺れているのは、ステージに集まったファンたちの鳴らす足踏みのせいだ。
中庭を埋め尽くす聴衆の前で、なゆたと同じくらいの年齢と思しき少女が踊り歌っている。
ほとんど足元まである長い金色の髪をツインテールに纏め、ヘッドセットと戦乙女の鎧一式を装備した、凛とした姿。
垂れ目がちな碧眼とキラキラした笑顔は、まさしく掛け値なしの美少女と言っていい。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――――――――!!!」
「マ! ホ! ロ! マ! ホ! ロ! マ! ホ! ロ! マ! ホ! ロぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい!」
「マホた――――――ん!!! 結婚してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ファンたちが怒涛のような歓声をあげる。中にはキレッキレのオタ芸を披露している者までいる。
そう――これは、間違いなくライヴだった。そして――
なゆたは、ステージに立つ少女のことを知っていた。
「……ユメミ……マホロ……」
呆然とした様子で呟く。
ユメミマホロ。
ブレモン配信の第一人者と言われ、地球では圧倒的人気を博しているVtuberであった。
6
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2019/09/24(火) 22:19:57
動画視聴者に『ブレイブ&モンスターズ!』の配信者で一番有名なのは誰か? という質問をした場合――
10人中10人がユメミマホロと答えるだろう。
ユメミマホロはブレモンのモンスター『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』をアバターとするVtuberである。
ブレモンの膨大なデータを独自に研究し、日々新しいコンボや戦術を提案してはそれを配信している。
外見が可愛いのは当然だが、その喋りも楽しい上に分かりやすく、決してマニアックな技術の披露だけに留まらない。
ブレモンのみならずアニメ、時事ネタ、レゲーから最新ハードの話題まで広範な知識を有し、その視聴者数は他の追随を許さない。
もちろん、ただ喋るだけではない。デュエルにおいても相当の強豪である。
ユメミマホロのアバター『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』は高レアでステータスも高い。
光属性のデッキはアンデッド、魔族、吸血鬼等にめっぽう強く、イベントでも引っ張りだこだ。
最近は声の良さを買われ、バーチャルライヴまで開催するほどの売れっ子ぶりである。
なゆたとはまったく別のアプローチでの、ブレモン界隈の寵児と言えよう。
そのバーチャルアイドル・ユメミマホロが、この場にいる。
「まさか……ユメミマホロがアコライト外郭を守る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だっていうの……?」
地球にいたときは、なゆたもユメミマホロの配信をよく視聴していた。
きっと明神も、エンバースもよく知っているだろう。
番組の中でぽよぽよ☆カーニバルコンボを取り上げられたこともある。『スゴいけど強いづらい』と評価はいまいちだったが。
しかし、アコライト外郭の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がユメミマホロだというのなら納得である。
彼女ほどの腕があれば、生半な相手に押し負けることはないだろう。
「じゃあ、次の曲! いっくよ―――――――――――――っ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
ステージは大盛り上がりだ。ここだけ見ていると、地球にいた頃のユメミマホロのライヴ配信と何も変わらない。
プログラムは流れるように次の曲へと移行した。地球で聴いたことのある、彼女の代表曲とも言うべき歌だった。
「……なんか……全然予想と違うね……」
傍らにいる明神に、ぎこちなく笑いながら言う。
てっきり、外郭の中は死と腐敗と絶望の渦巻く極限の世界だと思っていたのだが。
実際に見る外郭は死や絶望とはまったく無縁だった。どころか、漲るパワーに満ち溢れている。
それはきっと、ユメミマホロのお陰なのだろう。
Vtuberのトップアイドルとしてのカリスマが圧倒的不利にある兵士たちを結束させ、ひとつに纏めているのだ。
……纏めすぎてちょっと目も当てられないことになっているが、それはとりあえず不問としておく。
《はぇ〜、ほんなことになっとったんやねぇ。わからんもんやわぁ〜。
ま、とにかく城塞の中の人たちの士気がまだまだ高いんなら安心やねぇ。
うちは配信とか観たことあらへんから、そのマホロちゃんはよう知らへんのやけど……。
詳しく事情を聞いて、敵さんを撃退する方法を考えなあかんねぇ》
「はい。……とりあえず、ライヴが終わってから彼女にコンタクトを取ろうと思います。
彼女ひとりなら、食い止めるのが精一杯でも……『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がこれだけいれば、きっと勝てるはず!」
《ほうやねぇ。まずまず、最悪の状況は回避できたことやし。
次は敵さんの指揮官とか、軍の編成とか。なゆちゃん、その辺詳しく訊いといてぇな?
情報が多ければ多いほど、うちもこっちで対策立てやすくなるしなぁ》
「了解です!」
スマホでみのりと交信してから、またステージの方を見遣る。
結局、なゆたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はその後40分、たっぷりユメミマホロのライヴを観た。
7
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2019/09/24(火) 22:20:12
「はいどうもぉ〜! というわけで、ユメミマホロなんですけれども。
今日はな、なんと! この生配信に特別ゲストが来てくださってまぁ〜す! ご紹介しましょう!
地球からいらした『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の皆さんで〜す! はい拍手拍手〜!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
「マホたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「神増援キタ――――――――――――――――!!!」
ライヴ終了後、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちは放送スタジオと書かれた部屋でユメミマホロと接触した。
ユメミマホロは快く応じてくれたが、やっぱり根っからのVtuberである。ライヴは終わっても生配信は続いているらしい。
どこに対して配信しているのかは不明だが。いや、そもそも本当に配信しているのかも不明だが。
兵士たちがガラス越しにサイリウムを振って熱い声援を送る中、なゆたが口元を引き攣らせる。
「ささ、皆さん自己紹介をお願いします!」
「え……ええと、わたしはモンデンキントって言います……。
アコライト外郭が孤立無援で絶体絶命って聞いて、その援軍に……」
「うは! モンデンキントさん! 初めまして〜! ひょっとして、モンデンキントさんってあの『月子先生』です?
スライムマスターの!」
「……あ、はい……その、一応……」
「お噂はかねがね! みんな―――――――――!! あのモンデンキントさんが増援に来てくれたよ――――――――!!
っていうか月子先生、JKだったんですかぁ! これは意外! あたしてっきりもっとお年を召していらっしゃるかと!
ヒュー! これはあたしとデュオっちゃうしかない的な!? 新ユニット誕生みたいな! 盛り上がってきた―――――!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「マホたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい!」
「よく見たら、あのテレビでおなじみイケメン自衛官! ジョンさんまでいらっしゃるじゃないですかやった―――――!!
イケメンマッチョとかぶっちゃけどストライクです! あとでサインくださいキャ―――――☆彡
あとはキャワイイシルヴェストルちゃんと、フロム臭半端ない狩人さんと、あと……なろう系主人公っぽいお兄さんでーす!」
テンションが異常に高い。なゆたは眩暈を覚えた。
「おっと、ついつい久しぶりのゲストってことでテンションが……いけないいけない、フフ……。
それはともかく、援護に来てくれたのは心強いですね! ありがとうございます! これで勝つる!」
ぐっ! と拳を握り込むユメミマホロである。
「えと……。ユメミマホロさんは――」
「マホたんでいいですよ〜! あたしと月子先生の仲じゃないですかぁ!」
気安い。なゆたは絶句した。
「えぇ〜……。マ、マホたんは、今までどうやってニヴルヘイムの大軍に抵抗してたんですか?
わたしたち、アコライト外郭は明日をも知れない状態って聞いてきたんですけど、全然違うし……。
籠城って言うと普通は食べ物だって満足に食べられないだろうし、医療器具も……」
「え。別に?」
「え」
あっけらかんと返され、なゆたは間の抜けた声を出してしまった。
「食糧については心配なかったですよ〜?
敵がね〜。ワニとかトカゲとか、そういう爬虫類系なんですよね〜。それ捕って食べてましたし。
え〜と、『ムシャクシャしたんでバジリスクをムシャムシャしてみた』とか。
『ヒュドラで燻製肉作ってみた』とか。いくつか配信もしましたよ。
あんまり登録者数稼げませんでしたけどね〜。
他にも『暇だからサバイバル生活してみた』とか『孤立無援だから籠城してみた』とか。ネタには事欠かなかったですね!」
「逞しすぎる……」
色々予想外すぎる事態に、なゆたはただ唖然とするしかなかった。
8
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2019/09/24(火) 22:20:24
「まっ! とにかく、ようこそいらっしゃいました! 歓迎しますよ〜。
今日は大した襲撃もないと思いますし、何もないところですけどゆっくりしてって下さい。
明日から劣勢を挽回する作戦を考えていきましょう!」
「はい! よろしくお願いします、マホたん!
あ、ところで――」
ひとつ、気になっていたことを口にする。
「マホたんのマスター。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこにいるんですか? 中の人っていうか――」
今なゆたたちの目の前で会話しているのは、モンスター『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』だ。
ブレモンは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』とパートナーモンスターで一組である。
であれば、当然ユメミマホロの近くにはマスターである『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がいるはずである。
だが、少なくとも周囲にそれらしき姿は見えない。
なゆたがきょろきょろと周囲を見回すと同時、マホロが凄い勢いで詰め寄ってくる。
美少女ヴァーチャルアイドルはなゆたの胸倉を一瞬掴むと、
「……中の人などいない」
と、やたらドスの利いた声でぼそ、と呟いた。
「あっ、ハイ……」
触れてはいけないところに触れてしまったらしい。なゆたはドン引きした。
筋金入りのVtuberだけに、中の人の存在に言及するのはタブーということなのだろう。
甚だやりづらいが、それでも『異邦の魔物使い(ブレイブ)』とモンスターの連携は取れているようだし、戦うのに問題はない。
それなら黙っておこう……となゆたは心の中で誓った。
パッと手を離すと、マホロは元の朗らかな表情に戻った。くるりと踵を返し、部屋から出ていこうとする。
「宿泊する部屋の用意ができるまで、城塞の中を案内しますよ。
と言っても、みんなはもうゲームで間取りについては把握してるかもだけど……。
何か質問があれば、遠慮なく訊いちゃってください。知ってる情報は全部教えます、ホウレンソウは大事!
……あたしもみんなにアコライトで戦うにあたっての『ルール』を説明しておかなくちゃだし」
「ルール?」
「うん。……といっても、難しいことは全然ないですけどね〜。
ただし、それを守れないと死にます。間違いなく死ぬ。だから、みんなも気を付けて!」
突然物騒な話になった。
どうやら、ユメミマホロを指揮官とする城郭防衛隊はそのルールを厳守してきたために、今まで生き残ってきたということらしい。
「じゃ、城壁の上にあがりましょうか。そこからだと全体が見やすいし……敵の姿も見えるから」
マホロが背中越しに右手の親指で城壁を指す。
側防塔内部にある螺旋階段をのぼり、20メートルほど上の城壁上部の歩廊に行くと、アコライト外郭の内外がよく見渡せた。
背後に目をやると、うっすらと王都キングヒルの白亜の尖塔が見える。
そして、前方には――
城壁前に蝟集する、無数のバジリスクやヒュドラ、コカトリス、巨大なワニやトカゲなどの爬虫類型魔物たちの姿があった。
その数はほとんど地平線を埋め尽くしている。ざっと見ただけでも6000などという当初の情報を遥かに凌駕していた。
このモンスターがすべて、二ヴルヘイムの尖兵――。
絶望的というしかない彼我の兵力差に、なゆたはぞっとした。
だが、マホロは眼下に群がる魔物たちを見慣れているのか、顔色ひとつ変えない。
「大丈夫ですよー。数だけは多いけど、空を飛んだり壁をよじ登ってこられるようなモンスターはいないし。
空も飛べないからね。『今のところは』無害。もちろん真正面から戦うとなったら結構強いし、あたしでも結構てこずるけど。
こっちから手を出しさえしなければ、ね」
「そうなんですか……。それにしても、これだけの数のモンスターを操るなんて……。
敵の指揮官はどんな相手なんですか? やっぱり、ニヴルヘイムの三魔将の誰かだったり……?」
「んー。そういうんじゃないかなー。知ってる人は知ってると思うけど」
「知ってる人は知ってる……?」
「煌 帝龍(ファン デイロン)って知ってる?」
「!!」
煌 帝龍。
その名を聞いて、なゆたは思わず身体をこわばらせた。
9
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2019/09/24(火) 22:20:43
ブレイブ&モンスターズ! は、年に一度大規模な世界大会を開催する。
基本的にトーナメント形式で、まずそれぞれの国ごとにプレ大会が開催され、各国の優勝者が本大会へと進む。
煌帝龍はその世界大会の中国代表である。つまり、中国で最強のブレモンプレイヤーということだ。
しかし、この人物についてはそのデュエルの腕よりも黒い噂の方が知られている。
「まぁ、知ってるかー。でーすーよーねー。
実はあたし、こっちに来る以前に一度トークイベントで会ってるんだけど……まさか異世界で敵同士になるなんてね」
なゆたの反応に、マホロが右手をひらひら振って笑う。
煌は中国の巨大コングロマリット、帝龍有限公司の若きCEOとして君臨している。
中国において帝龍の展開するIT産業、ならびにエネルギー事業の規模は他に比肩しうる者がない。まさに一強多弱だ。
そして、煌帝龍はそんな自社の潤沢にも程がある財力を遺憾なくブレモンに費やしているというのだ。
そのやり口は強引そのもの。欲しいものを手に入れるためなら手段を選ばない。
眉唾ものの噂では、中国黒社会で暗然たる影響力を持っている犯罪組織『龍頭(ドラゴンヘッド)』とも繋がりがあるという。
いうなれば、企業レベルの金銭感覚でブレモンに傾倒している人物――ということになる。
「そんなのが、ニヴルヘイムの召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』……!」
なゆたたちアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と敵対する、ニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
それが、このアコライト城郭防衛戦の敵将。
自分たちが戦い、打倒しなければならない相手――。
なゆたたちはかつて、リバティウムにおいて世界大会優勝者ミハエル・シュヴァルツァーを撃退している。
世界大会で煌はミハエルに敗退しているが、だからといって煌がミハエルより劣る相手だということにはならない。
ブレモンは戦略、戦術の素養の他、知識や分析能力、勝負度胸など、あらゆる要素が複雑に勝敗に絡んでくる。
そして、それぞれのプレイヤーには得意とする戦い方があり、それは決して楽観視していいものではない。
状況によっては、ミハエルよりも煌の方が相手にしづらい――という可能性さえある。
いずれにしても気を引き締めていかなければならないということだ。
「みんな知ってることだけど、ソシャゲはお金がそのまま力になる……。そういう点では、帝龍の資金力は無尽蔵。
この大地を埋め尽くすような数のモンスターも、買いあさったクリスタルにものを言わせてると思う。
純粋なマネーパワーでは、あたしたちに勝ち目はまったくないかな」
は、とマホロは溜息をつき、肩を竦めた。
といって勝機のない籠城戦に絶望しているような素振りはない。どころか、ライヴで兵士たちを鼓舞していたくらいだ。
まだまだやる気、意気軒高という様子である。
これほどの圧倒的戦力差を見せられて、なぜいまだにマホロが意気阻喪していないのか、それが不思議である。
「……それじゃあ――」
「あたしはね。キミたちを待ってたんだよ」
「……わたしたちを?」
「そう。あたしひとりじゃどうにもならなかった。城壁防衛隊のみんなが絶望しないようにライヴをして、鼓舞して――
現状維持をすることしかできなかった。
でも、今はもう違う。キミたちが来てくれた……新しい『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が。
それなら勝てる。絶対に勝てる! さあ――ここから、みんなで絶対的不利の盤面をひっくり返そう!」
ネットの海でブレモン配信の第一人者と呼ばれたヴァーチャル・アイドルが、そう言ってにっこりと笑う。
正真、マホロは今までずっと待っていたのだろう。この劣勢を覆せる仲間の到来を。
たったひとりで巨大な城塞のすべてに目を配り、人員を配置し、襲撃に備え。
兵士たちの負傷を癒し、歌と踊りで恐怖心や不安感を取り除き、こんな状況なんて何でもないと励まし続けた。
いつ来るともしれない仲間たちをあてもなく待ち続ける、自らの心細さや苦悩など、おくびにも出さずに――。
そして、そんなマホロの努力は実を結んだ。
なゆたたちの訪れを信じ続けたマホロの想いを無碍にはできない。
たとえ相手がどんな大軍であろうと、潤沢な資金にものを言わせてスペルカードやレアモンスターを用意したとしても。
必ず、勝たなければならない。
「ええ! 絶対勝ちましょ、みんなで!」
なゆたはマホロと固い握手を交わした。
かくして、アコライト外郭の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』・ユメミマホロと共に、防衛戦は幕を開けたのである。
【アコライト外郭のVtuber、ユメミマホロと合流。
ニヴルヘイム軍の首魁が中国代表・煌帝龍と判明。パートナーモンスターやデッキについては不明。
アコライト外郭防衛戦開始。】
10
:
カザハ&カケル
◆92JgSYOZkQ
:2019/09/27(金) 23:41:24
早朝に魔法機関車に乗り込み、アコライト外郭に向かった私達。
カザハははじめて電車が開通した時の明治時代の人よろしく「魔法機関車パネェ!」と騒いでいた。
>『皆さま、大変お待たせ致しましタ。
当魔法機関車は、間もなくアコライト外郭に到着致しまス。お手回りのお荷物など、お忘れにならないようお願い致しまス』
「もう着くの? 魔法機関車はっや!」
>《ほな、到着前にもういっぺん説明すんで〜。
アコライト外郭は、現在アルフヘイムとニヴルヘイムの激突しとる最前線やね。
みんなも知っての通り、ゲームだと『聖灰』のマルグリットはんと最初に出会うイベントで有名な場所や。
ま……終盤でバロールはんと三魔将のひとり・幻魔将軍ガザーヴァが綺麗さっぱり消し去ってまうんやけどなぁ》
幻魔将軍ガザーヴァは三魔将の一人だけあって攻略本でもそれなりの幅をとって解説されている。
漆黒の鎧を纏い闇の天魔を駆るという厨二病患者が大喜びしそうなビジュアルだ。
が、何故かページの隅に迷言集というコーナーが設けられており、
”我こそは魔王直属イワシ将のひとり……って弱そうだな!?”
“貴様らはこいつを日焼けしたユニサスだと思っているだろうが実は違う”
といった感じの台詞が並んでいる。
「この人絶対黙っといた方が格好いいタイプだ……!」
《間違いない……!》
今のところこのパーティーにデフォで飛行できるモンスターは私しかいない。
ゲームのストーリーモードではここのボスとして出て来るらしく、もし出てこられたら否応なく迎撃の要となってしまいそうだ。
とはいえ、この旅はすでにゲームとは全く違う展開に進んでいる。おそらくここで出て来る可能性は低いだろう。
>「よし……! みんな、いくよ!」
>「必ずこの戦いに勝ち残るんだ! レッツ・ブレーイブッ!!」
「レッツ・ブレーイブッ!! ほらほら、明神さんもエンバースさんもやる!」
リーダー自ら考案したキャッチコピーと共に右腕を天に突き出す。
魔法機関車を降り、なゆたちゃん達に続いて歩き出そうとしたカザハがふと足を止める。
《どうしたんですか?》
「この場所、知ってる……」
《”以前”来たことがあるのかもしれませんね……》
昨晩の明神さんの「お前さ、ホントはいくつなの」という質問に対し、
カザハは本当のところは分からないけど地球での享年は自分は明神さんより少し年上で私は彼と大体同じぐらいと答えていた。
“少し年上”も”大体同じ”も結構幅がある表現だがまあ嘘ではない。しかしそれは飽くまでも地球での享年の話だ。
バロールさんは転生というより混線と言っていたし、本当は地球での享年なんて意味が無いのかもしれない。
カザハは暫し心ここにあらずといった様子で外郭を眺めていたが、すぐに我に返って駆け足で皆に追いついた。
ついにアコライト外郭に突入する。一歩踏み込めば屍累々の戦場が広がっている……と思いきや。
11
:
カザハ&カケル
◆92JgSYOZkQ
:2019/09/27(金) 23:42:03
>「……はれ?」
>「なんか、キレイ……」
「綺麗ってかこのポスター、アイドルみたいな人がキラッとしてるよ!?」
>「おぉ〜っ! お待ちしておりました!」
地獄絵図を覚悟して突入したところ予想外の光景で逆に戸惑っている一行を、
変わった装飾品を装備した兵士らしき者が出迎えた。
>「いやいや! いやいやいや! 貴公らが王都からの増援でござるかァ〜! お待ち申し上げておりましたぞォ〜デュフフフ!」
>「よォ〜こそ! よォ〜こそ! アコライト外郭へ!
いや、貴公らは実に! 実に運がいい! 今、ちょうど午後のライヴの真っ最中でござる!
ささ、こちらへ! 貴公らも我らの女神! いやさ戦乙女のライヴあーんど生配信を観て、萌え萌えキュンキュンするでござる!
デュフッ! デュフフフフ……!」
「この世界にもオタクっているんだ……!」
>「え、えっ? ちょっ、ライヴって……!
あたしたちは戦いに来たのであって、そんなのを観に来たわけじゃ……!
ここの責任者の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこですかーっ!?」
>「デュフッ! 戦い? そんなのあとあと! まずはライヴに参加しなくてどうするんでござるか!
皆の者! お客人を会場まで運んで差し上げるでござる!」
>「「「「「「「「御意!!!!」」」」」」」
いつの間にか現れた大勢の兵士もといオタクに取り囲まれ、よく分からない間にライブ会場に運ばれた。
チーム陽キャのなゆたちゃんですら若干ついていきかねているこの状況、エンバースさんなどはHPをガリガリ削られてないか心配である。
一方のカザハはというと――すっかりオタク達に混ざって盛り上がっていた。
どうせライブを見る以外の選択肢がないのなら盛り上がってしまえということだろう。
「マホロちゃんかわい―――い!!」
これは別に異世界転生デビューしていなくても地球にいた時からそうである。
同類(オタク)に囲まれた時だけ陽キャと化す――オタクあるある性質のうちの一つだ。
>「……なんか……全然予想と違うね……」
>《はぇ〜、ほんなことになっとったんやねぇ。わからんもんやわぁ〜。
ま、とにかく城塞の中の人たちの士気がまだまだ高いんなら安心やねぇ。
うちは配信とか観たことあらへんから、そのマホロちゃんはよう知らへんのやけど……。
詳しく事情を聞いて、敵さんを撃退する方法を考えなあかんねぇ》
>「はい。……とりあえず、ライヴが終わってから彼女にコンタクトを取ろうと思います。
彼女ひとりなら、食い止めるのが精一杯でも……『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がこれだけいれば、きっと勝てるはず!」
>《ほうやねぇ。まずまず、最悪の状況は回避できたことやし。
次は敵さんの指揮官とか、軍の編成とか。なゆちゃん、その辺詳しく訊いといてぇな?
情報が多ければ多いほど、うちもこっちで対策立てやすくなるしなぁ》
>「了解です!」
その後40分白熱のライブは続いた――
決して遊んでいるわけではなく、兵士達の士気を高揚させるためにやっているのだろう。
もしかしたら単に気分が盛り上がるというだけではなく、歌を媒介としたスキル的な何かなのかもしれない。
ライヴが終わったかと思うと、放送スタジオと書かれた部屋に招かれた。
12
:
カザハ&カケル
◆92JgSYOZkQ
:2019/09/27(金) 23:42:51
>「はいどうもぉ〜! というわけで、ユメミマホロなんですけれども。
今日はな、なんと! この生配信に特別ゲストが来てくださってまぁ〜す! ご紹介しましょう!
地球からいらした『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の皆さんで〜す! はい拍手拍手〜!」
>「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
>「マホたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
>「神増援キタ――――――――――――――――!!!」
「配信されちゃってる!? 生配信に出ちゃってる!?」
>「ささ、皆さん自己紹介をお願いします!」
>「え……ええと、わたしはモンデンキントって言います……。
アコライト外郭が孤立無援で絶体絶命って聞いて、その援軍に……」
月子先生をも圧倒するユメミマホロ、強い……!
>「おっと、ついつい久しぶりのゲストってことでテンションが……いけないいけない、フフ……。
それはともかく、援護に来てくれたのは心強いですね! ありがとうございます! これで勝つる!」
暫しユメミマホロとモンデンキントの対談のようになった。
>「まっ! とにかく、ようこそいらっしゃいました! 歓迎しますよ〜。
>「はい! よろしくお願いします、マホたん!
あ、ところで――」
>「マホたんのマスター。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこにいるんですか? 中の人っていうか――」
人型の上にあまりにも自然に喋っているので忘れそうになるが、今目の前でユメミマホロとして喋っている人物は、『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』というモンスターらしい。
となれば、どこからか彼女を操る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が指示を出しているのだろう。
>「……中の人などいない」
>「あっ、ハイ……」
どうやらなゆたちゃんの質問は地雷だったようだ。
確かに兵士の士気の低下が要塞陥落に直結しかねないこの状況、中の人がおっさんだったりしたら目も当てられない。
カザハは私だけに聞こえるように「木を隠すなら森の中……」と呟いたのであった。
言われてみれば周囲にそれらしき人物が見当たらないとなれば、オタク軍団の中に紛れている可能性はあるかもしれない。
何はともあれ、中の人については深入りしない方がよさそうだ。
>「宿泊する部屋の用意ができるまで、城塞の中を案内しますよ。
と言っても、みんなはもうゲームで間取りについては把握してるかもだけど……。
何か質問があれば、遠慮なく訊いちゃってください。知ってる情報は全部教えます、ホウレンソウは大事!
……あたしもみんなにアコライトで戦うにあたっての『ルール』を説明しておかなくちゃだし」
>「ルール?」
>「うん。……といっても、難しいことは全然ないですけどね〜。
ただし、それを守れないと死にます。間違いなく死ぬ。だから、みんなも気を付けて!」
>「じゃ、城壁の上にあがりましょうか。そこからだと全体が見やすいし……敵の姿も見えるから」
城壁の上に上がってみると、外郭前方は、地平線の果てまで爬虫類魔物で埋め尽くされていた。
13
:
カザハ&カケル
◆92JgSYOZkQ
:2019/09/27(金) 23:43:35
「おおう……」
>「大丈夫ですよー。数だけは多いけど、空を飛んだり壁をよじ登ってこられるようなモンスターはいないし。
空も飛べないからね。『今のところは』無害。もちろん真正面から戦うとなったら結構強いし、あたしでも結構てこずるけど。
こっちから手を出しさえしなければ、ね」
>「そうなんですか……。それにしても、これだけの数のモンスターを操るなんて……。
敵の指揮官はどんな相手なんですか? やっぱり、ニヴルヘイムの三魔将の誰かだったり……?」
>「んー。そういうんじゃないかなー。知ってる人は知ってると思うけど」
>「知ってる人は知ってる……?」
>「煌 帝龍(ファン デイロン)って知ってる?」
カザハはすぐに攻略本の該当ページを探し当てた。
「中国代表の社長!? この世界は自動翻訳機能が付いてるみたいだけど語尾がアルになってたらどうしよう……!」
《どうもしませんよ!?》
>「みんな知ってることだけど、ソシャゲはお金がそのまま力になる……。そういう点では、帝龍の資金力は無尽蔵。
この大地を埋め尽くすような数のモンスターも、買いあさったクリスタルにものを言わせてると思う。
純粋なマネーパワーでは、あたしたちに勝ち目はまったくないかな」
「そんな……」
>「あたしはね。キミたちを待ってたんだよ」
>「……わたしたちを?」
>「そう。あたしひとりじゃどうにもならなかった。城壁防衛隊のみんなが絶望しないようにライヴをして、鼓舞して――
現状維持をすることしかできなかった。
でも、今はもう違う。キミたちが来てくれた……新しい『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が。
それなら勝てる。絶対に勝てる! さあ――ここから、みんなで絶対的不利の盤面をひっくり返そう!」
>「ええ! 絶対勝ちましょ、みんなで!」
「マホたん……! 今まで一人でよく頑張った! スライムマスター月子先生が来たからにはもう大丈夫!」
なゆたちゃんとマホたんさんは固い握手をかわし、カザハはどさくさに紛れてマホたんさんに感極まって抱き付く。
セクハラ勃発だが、よく考えると両方ともモンスターだしまあいいか。
こうして作戦会議が始まった。
相手の狙いは、モブ魔物の大群で消耗させて戦わずにして勝つといったところだろう。
いくらマホたんさんの加護があるといっても、このままではいつか力尽きる時がくる。
そうなる前にこちらから打って出なければならない。
14
:
カザハ&カケル
◆92JgSYOZkQ
:2019/09/27(金) 23:44:10
「爬虫類魔物を地道に倒してもラチがあきそうにないし指揮官を倒すしかないよね。
カケルに2人ぐらい乗ってもらってあとは何人か乗れそうな物にフライトをかければ
後方に控えているだろう指揮官のところに行けることは行けると思うけど……」
指揮官のところまで行って倒そうという単純明快な発想だが、この作戦にはいくつか問題点がある。
まず敵陣のド真ん中に突入するのは危険すぎる。
次に、敵の指揮官と戦うならマホたんさんの支援を受けたいところだが、
彼女がここを留守にするとその間に城壁防衛隊が陥落してしまう危険性がある。
何より、マホたんさんがここから移動するとなると”中の人問題”が発生してしまう。
カザハも同じような事を思ったようだ。
「駄目だ、色んな意味で危険過ぎる……! そうだ! 逆に敵をこっちに誘き寄せて迎え撃つっていうのは?」
そこでカザハは一枚のカードを取り出した。みのりさんから借り受けた幻影《イリュージョン》。
ありとあらゆる幻影を作り出せるスペルカード。
もともとはエンバースさん入城禁止展開に備えて借り受けたものだ。
「指揮官が自分が直接出向くしかないと思う程のモンスターを召喚したように見せかけたらどうだろう。
遠くからでも見えるのが第一条件だからミドガルズオルム級の超でかくて超強いやつ!」
《歴戦の中国代表がそんなに簡単に騙されてくれますかね……》
「エンバースさん、うまく敵をおびき寄せるにはどんなのを出せばいいと思う?」
ライブや生配信に付いていけずにすでにHP0になっているかもしれないエンバースさんに話を振ってみるカザハであった。
生存確認(焼死体だけど)も兼ねているのだろう。
15
:
embers
◆5WH73DXszU
:2019/10/03(木) 06:22:57
【メモリータクシス(Ⅰ)】
アコライト外郭へ走る列車の中、焼死体は腕組みをして、座席に腰掛けていた。
石油王によるブリーフィングにも反応を示さず――ただ、俯いている。
薄暗い藍色の眼光の奥には、冷徹な思考回路が巡っていた。
二十倍の兵力差/半ば機能不全した兵站/音信不通の指揮官。
希望的観測は出来ない――城塞が既に陥落している可能性は、十分ある。
その場合、バロールによる援軍の報せは裏目となる――敵は迎撃の準備をする事が出来る。
「……到着後、すぐにでも加勢が必要になる可能性がある。戦闘準備をしておくべきだ」
進言しつつ、焼死体は立ち上がると列車の乗降口へと歩み寄る。
焼死体の判断――最初に下車するのは、刺突/飛矢に対して耐性を持つ己が適任。
革帯で左腕に留めた盾の具合を確認/右手は愛剣を収めるコートの内側へ――戦闘準備は万端。
窓の外の城郭が段々と近づいてくる/焼死体はそれを、食い入るように見上げ続ける。
城塞が既に陥落している場合、敵が取り得る迎撃手段は大別して二つあった。
援軍を懐まで呼び込んで圧殺するか、移動中の列車ごと狙撃するか。
しかし焼死体の危惧は、結果として全て杞憂に終わった。
高火力スペルによる狙撃はなかった/列車を降りた瞬間、奇襲される事も。
焼死体は城郭の中へと進む/怖気とは無縁の不死者の足音――それが不意に、鳴り止んだ。
『……はれ?』
後方から、なゆたの間の抜けた声が聞こえた。
『なんか、キレイ……』
「何かがおかしい。一度、列車まで戻るべきだ。俺が偵察を――」
『おぉ〜っ! お待ちしておりました!』
視界外からの声――焼死体が瞬時に愛剣を抜き/振り向きざまに取る平正眼の構え。
蒼炎の眼光が声の主を捉え――そこで焼死体は止まった/より正確には凍り付いた。
蛍光ピンクの法被/ライトブルーのサイリウムに彩られた兵士が、一行を見ていた。
『え……えーと……』
「……モンデンキント。なんだ、あの格好は。俺が知らない間に実装されたネタ装備か?」
『いやいや! いやいやいや! 貴公らが王都からの増援でござるかァ〜! お待ち申し上げておりましたぞォ〜デュフフフ!』
「……誰か、日本の現地時間を確認出来る者は?俺達はエイプリルフールイベントに巻き込まれた可能性がある」
『よォ〜こそ! よォ〜こそ! アコライト外郭へ!
いや、貴公らは実に! 実に運がいい! 今、ちょうど午後のライヴの真っ最中でござる!
ささ、こちらへ! 貴公らも我らの女神! いやさ戦乙女のライヴあーんど生配信を観て、萌え萌えキュンキュンするでござる!』
『え、えっ? ちょっ、ライヴって……!
あたしたちは戦いに来たのであって、そんなのを観に来たわけじゃ……!
ここの責任者の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこですかーっ!?』
『デュフッ! 戦い? そんなのあとあと! まずはライヴに参加しなくてどうするんでござるか!
皆の者! お客人を会場まで運んで差し上げるでござる!』
「……ひとまず、俺達の歓迎会が出来るくらいの余裕はあるのか――いい事だ」
眼前の不可解に対する理解の諦めを――焼死体はそう、表現した。
16
:
embers
◆5WH73DXszU
:2019/10/03(木) 06:24:20
【メモリータクシス(Ⅱ)】
『ささ、存分にお楽しみくだされー! 我らの戦乙女、マホロたんのアブソリュートリィ☆ライヴを!』
大扉を抜けると、そこはライブ会場だった。
『み――――ん――――な――――! 盛り上がってるっ! かぁ―――――――――いっ!!!』
「……グッドスマイル・ヴァルキュリアか。汎用性の高い、いいモンスターだ。
戦闘の規模が大きいほど、バッファーとしての能力も活きる。
バロールの采配にしては――悪くないな」
焼死体の反応――至って平常運転/現実逃避。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――――――――!!!』
『マ! ホ! ロ! マ! ホ! ロ! マ! ホ! ロ! マ! ホ! ロぉぉぉぉぉぉぉ!!』
「この乱痴気騒ぎも――こちらの士気を敵に示すには、悪くない手だ」
『はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい!』
『マホた――――――ん!!! 結婚してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
『……ユメミ……マホロ……』
「なんだって?何も聞こえないぞ……」
背を曲げ、少女の口元に耳を寄せる。
『まさか……ユメミマホロがアコライト外郭を守る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だっていうの……?』
「ユメミマホロ?……記憶にない名前だな。だが、名が知れているのはいい事だ」
ゲームプレイヤーの名が知れ渡る理由は、大別すると三つだ。
ずば抜けて実力が高いか/恐ろしく実力が低いか――人格に難があるか、だ。
高く保たれた士気/パートナーチョイスから、ユメミ某は恐らくは一番目だと焼死体は推察した。
『じゃあ、次の曲! いっくよ―――――――――――――っ!!!』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!』
助走をつけて、空へと飛び立つようなイントロは、焼死体にも聞き覚えがあった。
ブレモンをテーマにしたVtuber/検証動画/歌ってみた――断片的な記憶は、ある。
だが一体どうしてか――ユメミマホロという人物に関しては、何も思い出せない。
『……なんか……全然予想と違うね……』
「いい事だ。負け戦の陣営なんて、見ずに済むならそれが一番いい」
焼死体はライブに見入る一行を離れて中庭を出た。
防壁へと向かう/見上げる/切石に指をかけ/体を持ち上げる。
壁上に立つ見張りがいる事は、気付いていた――それでも、防壁を昇る。
何もしていない時間が、不安だった/常に何かに備えていなくては、不安だった。
地平を果てまで埋め尽くす魔物の群れを見て――焼死体は、安堵していた。
敵の攻略法/殺傷方法に思いを馳せると――心が、落ち着いた。
17
:
embers
◆5WH73DXszU
:2019/10/03(木) 06:25:44
【メモリータクシス(Ⅲ)】
やがて音楽が鳴り止むと、焼死体は防壁から降りて一行と合流する。
『はいどうもぉ〜! というわけで、ユメミマホロなんですけれども。
今日はな、なんと! この生配信に特別ゲストが来てくださってまぁ〜す! ご紹介しましょう!
地球からいらした『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の皆さんで〜す! はい拍手拍手〜!』
『うおおおおおおおおおおおおおお!!』
『マホたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!』
『神増援キタ――――――――――――――――!!!』
今後の方針に関する合議の承諾を得て案内されたのは、硝子張りの見世物小屋だった。
蛍光色のソプラノ・ボイスが、焼け落ちた肉体の空洞に鮮烈に響く。
焼死体は狩装束のフードを掴んで、強く下に引いた。
『よく見たら、あのテレビでおなじみイケメン自衛官! ジョンさんまでいらっしゃるじゃないですかやった―――――!!
イケメンマッチョとかぶっちゃけどストライクです! あとでサインくださいキャ―――――☆彡
あとはキャワイイシルヴェストルちゃんと、フロム臭半端ない狩人さんと、あと……なろう系主人公っぽいお兄さんでーす!』
「よしてくれ。左腕を失う予定も、ナメクジになる予定もない。果たすべき使命なら――最近見つけたけどな」
『おっと、ついつい久しぶりのゲストってことでテンションが……いけないいけない、フフ……。
それはともかく、援護に来てくれたのは心強いですね! ありがとうございます! これで勝つる!』
『えと……。ユメミマホロさんは――』
『マホたんでいいですよ〜! あたしと月子先生の仲じゃないですかぁ!』
「マホたん。気が滅入るのは分かるが、そろそろ戦局について――聞いちゃいないな」
『えぇ〜……。マ、マホたんは、今までどうやってニヴルヘイムの大軍に抵抗してたんですか?
わたしたち、アコライト外郭は明日をも知れない状態って聞いてきたんですけど、全然違うし……。
籠城って言うと普通は食べ物だって満足に食べられないだろうし、医療器具も……』
『え。別に?』
『え』
「ヴァルキュリアのスキル構成なら、デバフ対策は容易だろう。兵糧は――」
『食糧については心配なかったですよ〜?
敵がね〜。ワニとかトカゲとか、そういう爬虫類系なんですよね〜。それ捕って食べてましたし』
「――まぁ、その、なんだ。意外とイケるから心配いらないさ」
『え〜と、『ムシャクシャしたんでバジリスクをムシャムシャしてみた』とか。
『ヒュドラで燻製肉作ってみた』とか。いくつか配信もしましたよ。
あんまり登録者数稼げませんでしたけどね〜』
「放送事故にならずに済んだだけ、幸運だと思うけどな」
『まっ! とにかく、ようこそいらっしゃいました! 歓迎しますよ〜。
今日は大した襲撃もないと思いますし、何もないところですけどゆっくりしてって下さい。
明日から劣勢を挽回する作戦を考えていきましょう!』
「明日から、か。なるほど――今日この配信に巻き込まれたのは、単なる交通事故として処理される訳だ」
『はい! よろしくお願いします、マホたん!
あ、ところで――』
『マホたんのマスター。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこにいるんですか? 中の人っていうか――』
「確かに、到着予定時間を伝えていなかったのは、こちらの落ち度だ。
だが、それにしたっていい加減、身支度が済んでもいい頃合い――」
ユメミマホロのマスターは、女性である――焼死体の推察。
根拠――彼女のブレモンに対する、強い熱意/深い造詣/高い実力。
全てを兼ね備えた女性声優が実在、抜擢/或いは育成されたとは考え難い。
元からそうであったと考える方が妥当性が高い――
『……中の人などいない』
『あっ、ハイ……』
「なるほど、スピリット属なら生理現象とも無縁だろうしな。理想的なアイドル体質――」
焼死体の戯言は、聖威を伴う眼光によって封殺された。
18
:
embers
◆5WH73DXszU
:2019/10/03(木) 06:26:15
【メモリータクシス(Ⅳ)】
『宿泊する部屋の用意ができるまで、城塞の中を案内しますよ。
と言っても、みんなはもうゲームで間取りについては把握してるかもだけど……。』
「目を閉じていても、一周出来る自信があるよ。
咎人断ちの大剣目当てで、嫌と言うほど周回したからな。
だが戦術的要衝は、あんたから直接説明を受けた方が理解が早いだろう」
『何か質問があれば、遠慮なく訊いちゃってください。知ってる情報は全部教えます、ホウレンソウは大事!
……あたしもみんなにアコライトで戦うにあたっての『ルール』を説明しておかなくちゃだし』
『ルール?』
『うん。……といっても、難しいことは全然ないですけどね〜。
ただし、それを守れないと死にます。間違いなく死ぬ。だから、みんなも気を付けて!』
「確かルールその1は、中の人などいない――だったな」
『じゃ、城壁の上にあがりましょうか。そこからだと全体が見やすいし……敵の姿も見えるから』
城壁の上から見下ろせる光景は先ほど確認済み/敵の主戦力は爬虫類系の魔物のみ。
攻城に長けた特殊能力も/策を弄する知性もない――特に感慨もない。
容易く殺せる/殺しても心の傷まない――楽な相手だ。
『大丈夫ですよー。数だけは多いけど、空を飛んだり壁をよじ登ってこられるようなモンスターはいないし。
空も飛べないからね。『今のところは』無害。もちろん真正面から戦うとなったら結構強いし、あたしでも結構てこずるけど。
こっちから手を出しさえしなければ、ね』
「手持ちのレベリングをするには少々、リンクする相手が多すぎるな」
『そうなんですか……。それにしても、これだけの数のモンスターを操るなんて……。
敵の指揮官はどんな相手なんですか? やっぱり、ニヴルヘイムの三魔将の誰かだったり……?』
「ガザーヴァなら、こんな手間の割に効果の薄い手は使わない。
それとも……そう思わせる事すら、奴の手の内か。
あり得ない話じゃないのが、怖いな」
『んー。そういうんじゃないかなー。知ってる人は知ってると思うけど』
『知ってる人は知ってる……?』
「ニブルヘイム側の、マイナーなキャラクターって意味か?」
『煌 帝龍(ファン デイロン)って知ってる?』
「ああ、なるほど。そういう意味か。そいつなら知ってるぞ。何せ奴は――」
そこで、焼死体は黙り込んだ/死体に還ったかのように硬直した。
『まぁ、知ってるかー。でーすーよーねー。
実はあたし、こっちに来る以前に一度トークイベントで会ってるんだけど……まさか異世界で敵同士になるなんてね』
――奴は、奴は――何だ?
『そんなのが、ニヴルヘイムの召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』……!』
――何故思い出せない?……いや、違う。
『みんな知ってることだけど、ソシャゲはお金がそのまま力になる――』
――何故、覚えている?自分の名前も、思い出せないのに。
19
:
embers
◆5WH73DXszU
:2019/10/03(木) 06:27:54
【メモリータクシス(Ⅴ)】
『――それなら勝てる。絶対に勝てる! さあ――ここから、みんなで絶対的不利の盤面をひっくり返そう!』
『ええ! 絶対勝ちましょ、みんなで!』
――何か、すごく大切だった事を、忘れてしまっている気がする。
『マホたん……! 今まで一人でよく頑張った! スライムマスター月子先生が来たからにはもう大丈夫!』
『爬虫類魔物を地道に倒してもラチがあきそうにないし指揮官を倒すしかないよね。
カケルに2人ぐらい乗ってもらってあとは何人か乗れそうな物にフライトをかければ――』
「……敵地のど真ん中に、片道切符の急行便か。面白い冗談だな」
『駄目だ、色んな意味で危険過ぎる……! そうだ! 逆に敵をこっちに誘き寄せて迎え撃つっていうのは?』
『指揮官が自分が直接出向くしかないと思う程のモンスターを召喚したように見せかけたらどうだろう。
遠くからでも見えるのが第一条件だからミドガルズオルム級の超でかくて超強いやつ!』
「多量のクリスタルと引き換えに召喚された超レイド級が、
敵を薙ぎ払う訳でもなく突っ立っている、か。
なるほど――中々ユニークな作戦だ」
『エンバースさん、うまく敵をおびき寄せるにはどんなのを出せばいいと思う?』
「さあな。大きく白旗でも上げれば、様子を見に来るんじゃないか。そんな事より――マホたん」
焼死体がユメミマホロへと歩み寄る/その細い肩を掴む――山吹色の双眸に、顔を寄せる。
「俺を見てくれ。この顔に見覚えはないか?以前、どこかで会った事は?」
焼死体は冷静さを欠いていた/己が冷静さを欠いていると気付けないほどに。
不完全に蘇った失われた記憶は、強度の意識混濁を誘発していた。
亡者が生命の香りに惹かれるように、戦乙女を見つめる。
『――え、えーと?なんてゆーのかな。気持ちはすっごく嬉しいよ?
だけどあたし、ファンのみんなを裏切るような事は出来ないの。
それに、今は仕事が恋人みたいなものだから……その――』
瞬間、ユメミマホロの左手が閃光と化した――肩を掴む右腕を強打/肘窩を掴み/引く。
焼死体の体幹を崩した動作は、同時に武闘における引手を成していた。
即ち、攻防一体/崩した時には、突いている――
『――ごめんなさい』
氷点下の声/徒手空拳による【聖撃(ホーリー・スマイト)】。
弱点属性によるクリティカル――焼死体からは悲鳴すら上がらない。
ただ、短打にあるまじき打撃力によって宙を舞い――城壁の内側へと落下した。
「――うおおおおおっ!?」
我に返った/己の状況を理解した焼死体の悲鳴と、その数秒後に地面への激突音が、周囲に響いた。
20
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:18:39
「魔法の習得は、君たちブレイブにとってそう難しいことではないよ。
この世界においては資質と感性に恵まれてなければ会得し難いものだけど、君たちに限っては違う」
暖炉の火が煌々と燃える傍らで、その炎の揺らめきを映すグラスの中身を飲み干しながら……
バロールは言った。俺は対面で同じワインを傾けながら聞く。
「へえ。なんか転生チート的な特典で魔法適正アップとかあったりすんの?」
正確には転生じゃなくて転移だが、召喚の際になんらかの加護がもたらされてもおかしくはない。
少なくともミハエルとの一件で、言語の翻訳機能が追加されてることは明らかだ。
「そうわけではないんだ。アルフヘイム式の召喚技術では、召喚者に利するような加護は与えられなかった。
翻訳は、召喚魔法ではなくアプリケーション側の機能だね。"多言語対応"が拡大解釈されたものなんだろう」
バロールは述懐する。俺は速攻で眠たくなりそうだったが、全然眠気は出てこない。
回復魔法の影響で疲れが消え失せたせいか、他の連中が寝静まっても俺は眠れなかった。
バロールが不眠不休で働き続けてるってのはこういうことか。
いつか絶対体壊すと思うけど、まぁ嫌な思いするのは俺じゃないしどーでもいーや。
そんなこんなで眠れない俺は、夜明けまでの時間、バロールから魔法について講釈を受けていた。
ジョンも指摘した、俺自身の戦力強化の為。魔法の習得は試しておくべきだろう。
「これは少し自慢になるけどね。元来、才ある者達が感覚的に理解し、行使してきた『魔法』という技術を――
我が師、ローウェルは体系立てて纏め上げ、理論化することに成功した。私も手伝ってね。
ある程度、読み書きや掛け算割り算が出来る知識水準の者ならば、誰でも魔法を習得出来るようになったんだ」
もちろん、専門的に学ぶにはやはり資質が必要になるけどね、と付け足す。
しかしそれじゃ、アルメリアはとっくの昔に魔法大国になってるはずだ。
国民全員が魔法を使えるなら、バルゴスみたいな肉弾特化の傭兵が幅を効かせてる理由がない。
肉体労働にしたって、魔法を使えばもっと効率よく大規模にやれるはずだ。
「読み書きも算数も、皆が当たり前のように習得しているわけじゃないよ。
アルメリアの識字率は人口の半分にも満たない。その人口も、あくまで王都が把握出来ている限りだ。
都市部から離れた村落では、未だに戸籍を持たない住民も多数存在しているからね」
「あ、あー……そりゃそうか。そうだよなぁ……」
見たところアルフヘイムは中世から近世の西洋くらいの文明レベルだ。
地球なら読み書きが特殊技能扱いだった時代だ。御触書を読み上げる公示人が専門職だったくらいの。
文字を読めない人間が、当たり前に存在している。これを異様と思うのは、文明人気取りの傲慢さなのかもしれない。
「私が召喚のターゲットに日本という地域を選んだ理由には、プレイヤー総数の多さの他にもう一つあるんだ。
国民のほぼ全員が生まれると同時に市民権を取得し、最低でも9年にわたって厳密に整備された教育を受けている。
識字率・四則演算習得率は限りなく100%に近い……魔法を学ぶ上でこれほどの好条件はそうそうないよ」
「詳しいな……」
21
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:20:56
それで命懸けの世界に放り出されちゃんじゃたまったもんじゃねえけど。
しめじちゃんとか多分まだ義務教育も終わってねえだろうしな。
ただ、アルフヘイムでイマイチ魔法が流行らない理由と、俺達が魔法を覚えられるって理由には納得がいった。
「前置きは分かった。そのおじいちゃん直伝の超凄い魔法メソッドとやらは、一夜漬けで覚えられるもんなの?
俺夜明けにはアコライト行かなきゃだから、ちゃちゃっと攻撃魔法とか使いたいんだけど」
「難しいね。誰でも習得できるとは言ったけど、物覚えにはやっぱり個人の素質が絡む。
そして気を悪くしないで欲しい。私の見立てでは、君に天性を感じさせるような魔法の素質は……ない」
「やっぱ?」
まぁなんとなくそんな気はしてたよ。俺が中高生だったらショックで寝込んでるね。
流石にもういいトシだから、魔法の才能がないことに絶望したりはしねえけど。
バロールは微妙に気まずそうに俺を見る。なんだその目はよぉ!哀れんでんじゃねえぜ!!
「ただ、魔法の属性によっても得意不得意は顕著に表れるからね。
師の纏めた理論の要諦は教えるから、あとは君自身が得意分野を見つけて伸ばして行ってほしい。
現状、この短い期間で私に出来ることは、ここまでだ」
ワインを一気に飲み干すと、バロールは自分に解毒魔法をかけて席を立った。
仕事に戻ると――そう言いながら部屋を出るバロールは、最後に振り返って言った。
「戦力の大幅なジャンプアップとはならなくても、魔法は着実に君の助けになるはずだよ。
ただ忘れないで欲しいのは……君たちブレイブが最後に頼みを置くべきは、付け焼き刃の魔法やスキルじゃない。
これらは君たちの旅路を支える補助輪にはなっても、メインシャフトがガタガタでは意味がないんだ」
「……パートナー、か」
「そう。君たちは『異邦の魔物使い』だ。こればかりは、アルフヘイムの誰にも真似できない。
私たちには出来ない、君たちだから出来ること……それこそがこの世界を救うと、そう信じているよ」
それは、魔法の才能がない俺への、バロールなりの慰めだったのかもしれない。
あるいは、『自分達の劣化コピーになるな』という戒めの言葉なのかも。
ブレイブだから出来ること――その意味を、俺は多分まだ理解出来てない。
理解を、しなくちゃならない。
明日、アコライトで合流することになってる先輩ブレイブは、その答えを知ってるんだろうか。
バロールが辞した部屋で、俺は静かに目を閉じる。
暖炉の灯がまぶたを貫通して、いつまでも視界は明るいままだった。
◆ ◆ ◆
22
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:21:32
>『皆さま、大変お待たせ致しましタ。
当魔法機関車は、間もなくアコライト外郭に到着致しまス。お手回りのお荷物など、お忘れにならないようお願い致しまス』
汽車のガタゴト揺れる音に混じって、ボノのアナウンスが聞こえてきた。
コンパートメントの一室でジョンと組手の復習をやってた俺は、鬼軍曹から逃げ出すように部屋を出た。
「ついに来たな、アコライト。マル様親衛隊にベチボコにされて以来だぜ」
すでに客室にはパーティーメンバーが集まっていて、壁に石油王の顔が投影されていた。
遠隔通信魔法だ。バロールのサポートもあろうが、あいつもう魔法をここまで使いこなしてんのかよ。
>《はいは〜い。うちやで〜。
これからナビとしてみんなのバックアップをさせてもらうさかい、改めてよろしゅうなぁ。
映像越しの石油王はいつものぽやぽやした顔で俺達を見回す。
俺はと言えば、昨日あんだけ名残惜しんだ手前、こっ恥ずかしくて目も合わせられなかった。
>《ほな、到着前にもういっぺん説明すんで〜。
アコライト外郭は、現在アルフヘイムとニヴルヘイムの激突しとる最前線やね。
みんなも知っての通り、ゲームだと『聖灰』のマルグリットはんと最初に出会うイベントで有名な場所や。
ま……終盤でバロールはんと三魔将のひとり・幻魔将軍ガザーヴァが綺麗さっぱり消し去ってまうんやけどなぁ》
「出たなブレモン7大害悪パッチの一つ、アコライト消失……
マル公の信者共が更地を巡礼する羽目になったアレだな」
アコライト外郭はマルグリット絡みのイベントでプレイヤーにとっても思い出深い人気スポットだ。
マル公のファン団体、通称親衛隊はここを拠点に活動しているし、プレイヤー同士が交流する場でもあった。
それを知ってか知らずか悪意の塊たる開発チーム様は大型パッチでガザーヴァにここを破壊させ、更地に変えちまった。
当然フォーラムは荒れに荒れ、親衛隊の何割かはゲーム自体引退したっつういわくつきの場所でもある。
>「アコライト外郭……か……」
なゆたちゃんが感慨深げにつぶやいて、窓の外に目を遣った。
車窓越しに見える城塞都市は、過日の峻険な姿が未だ健在だ。
アコライト外郭。
アルメリア王国の鎮守の要であり、国内最大規模の軍事拠点。
ぐるりと街を囲む城壁からは、国内各地へ向けて幾条にも鉄道や大街道が伸びている。
この整備され尽くした交通網によって、アルメリア国軍はアコライトの駐留部隊を全土に迅速に送り込める。
国内のどこが侵略されようが、反乱が起きようが、一両日には大部隊が陸運されて戦地に急行できるってわけだ。
内陸国家のアルメリア王国において、陸上の兵站輸送は何にも優先されるべき重要な要素である。
で、あるがゆえに。
ここアコライト外郭が落とされれば、その影響は国土の全てに波及する。
敵に奪われた鉄道や街道は、そのまま国内各地への進撃を迅速容易にしてしまうからだ。
アコライトからは俺達が乗ってきたキングヒルへの直行便も出てる。
魔法機関車で大部隊を王都に送り込まれれば、待ってるのはあの防衛観念のカケラもない都市構造。
つまりアコライトは国防の要であると同時に、致命的なウィークポイントでもあるのだ。
戦争で真っ先に狙われるであろうアコライトが、未だ陥落していないのは奇跡に近い。
その奇跡は……バロールが異世界から喚び起こした奇跡だ。
最前線で未だ戦い続けている、俺達より先輩の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――。
23
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:22:16
>《バロールはんが城郭に救援の一報を入れといたさかい、魔法機関車は攻撃されんはずや。
到着したら、まず『異邦の魔物使い(ブレイブ)』とコンタクトを取ってや〜?
だが奇跡はいつまでも続きはしない。ニブルヘイムの苛烈な攻勢によって、潰えようとしている。
それを阻止し、今再び祝福の灯をともすのは、俺達の役目だ。
>「よし……! みんな、いくよ!」
なゆたちゃんはやおら立ち上がり、来たるべき決戦に向けて気炎を吐いた。
俺も立ち上がる。こういう時に真っ先に支えんのもサブリーダーの役目だからな。
>「必ずこの戦いに勝ち残るんだ! レッツ・ブレーイブッ!!」
……この掛け声だけはマジでどうにかなんねえかなぁ!?
でも。キングヒルに着いたばかりの頃とは、俺達はもう違うはずだ。
>「レッツ・ブレーイブッ!! ほらほら、明神さんもエンバースさんもやる!」
カザハ君さん(年上)の求めに応じ、右手を振り上げる。
「任せろ!いくぜ!!レッツ・ブレイブ!!!!!!!」
気恥ずかしさも何もかもうっちゃって、俺は高らかに叫びを上げた。
エンバースの野郎はガン無視くれやがったので無理やり腕を掴んで掲げた。
何も迷うことはない。
俺達は、同じ方向を見て、歩き出した。
◆ ◆ ◆
24
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:22:58
魔法機関車を降りて、すぐに目の前の状況の異様さが理解できた。
籠城戦ってのは基本的にドロ試合になりがちだ。
防衛拠点に籠れば兵力の不利は覆せるが、撃退はできても攻め手を滅ぼせるわけじゃない。
生まれる膠着は、下手すりゃ数ヶ月とかそのレベルで交戦状態を維持することとなる。
兵站補給のアテがなけりゃ、早晩城の備蓄は尽きてしまうだろう。
そうなれば待ってるのは極限の飢えと乾き、不衛生による疫病の蔓延に、先の見えない戦いに対する絶望。
その昔豊臣秀吉が行った鳥取城の兵糧攻めが阿鼻叫喚の地獄を生んだのは有名な逸話だ。
都合よく本国からの援軍が来るか、外的要因で敵の兵站が途絶えて撤退するか。
それ以外に、防衛側が単独で勝利した籠城戦の記録はほとんど残っていない。
そういうわけだから、もう何日も補給のないアコライトではさぞ惨状が広がってるだろうと思ってた。
死体の一つや二つ転がって、石畳は破壊しつくされて、兵たちは傷の治療も出来ずに死んでいくのだろうと。
そう、覚悟していた。
だが――
>「なんか、キレイ……」
なゆたちゃんが零した通り、アコライト外郭は予想よりも遥かに綺麗だった。
死臭や腐臭も漂ってこない。路傍には餓死者どころか、従軍商人の露天が立ち並んでいる。
景気よく食事や軍需物資を並べて呼び込みの声を上げる彼らに、疲れや絶望の顔色はない。
そして、なぜか建物の壁にはきらびやかな絵画がたくさん貼ってあった。
絵画っつうか、ポスターだこれ。それも戦時中のプロパガンダとかじゃない。
可愛らしい女の子が星間飛行のジャケ写みたいなポーズを決めてる、なんだこれ?
ポスターにはポップな字体の英語で、なんらかのイベントの日程が書かれている。
大須観音とかでよく見かけるライブの告知ポスターじゃねえか。
「英語……英語!?なんで地球の言語で書かれたポスターがあんだよ!?」
>「おぉ〜っ! お待ちしておりました!」
ポスターに目を奪われていると、背後から妙に甲高い早口の声が聞こえた。
振り返ればそこに居たのは……こっちもなんだこれ?
兜は良い。チェインメイルも良い。ここは城塞だし、兵士ぐらいおるわな。
でもサーコート代わりに羽織ってるそのドピンクの法被はなんなんだよ!?
ほんでこいつが持ってるの、ライブとかで振るサイリウム棒じゃねーか!
>「いやいや! いやいやいや! 貴公らが王都からの増援でござるかァ〜!
お待ち申し上げておりましたぞォ〜デュフフフ!」
「お、オタクぅー……」
今どき笑い方まで完璧なオタク見ねえよぉ……世界観ガン無視すぎる……。
まさかこいつがアコライトで頑張ってる先輩ブレイブなの?
>「この世界にもオタクっているんだ……!」
「いやまぁオタク気質な奴はどの世界にも居るだろうけどよ……。
こんな十年くらい前のテンプレみてーなオタクが居てたまるか」
今どきアキバでもこんなん見ねえよ。
アキバに居るの外国人観光客と地下アイドルくらいだけども。
ドン引きしている俺達をよそに、オタクはススっと近寄ってくる。
25
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:23:51
>「よォ〜こそ! よォ〜こそ! アコライト外郭へ!
いや、貴公らは実に! 実に運がいい! 今、ちょうど午後のライヴの真っ最中でござる!
ささ、こちらへ! 貴公らも我らの女神! いやさ戦乙女のライヴあーんど生配信を観て、萌え萌えキュンキュンするでござる!
デュフッ! デュフフフフ……!」
萌え萌えキュンて。萌え萌え萌えキュンて!!
俺は一体何を見せられているんだ!真ちゃんの白昼夢が感染したのか!?
>「……誰か、日本の現地時間を確認出来る者は?俺達はエイプリルフールイベントに巻き込まれた可能性がある」
「なんぼなんでも悪ノリが過ぎるわ!誰が得するんだよ旧世代のオタクの生態なんか見て!」
>「え、えっ? ちょっ、ライヴって……!
あたしたちは戦いに来たのであって、そんなのを観に来たわけじゃ……!
ここの責任者の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこですかーっ!?」
流石のなゆたちゃんもこれには困惑である。
ライフエイク相手に真っ向から啖呵切った胆力もかたなしだ!
>「デュフッ! 戦い? そんなのあとあと! まずはライヴに参加しなくてどうするんでござるか!
皆の者! お客人を会場まで運んで差し上げるでござる!」
オタクが仲間を呼び、俺達は取り囲まれた。
う……あ、圧が凄い……。完全なるヤバみを感じる。
そうして文字通り手も足も出ないまま、俺達はオタク集団に運搬されることとなった。
着いたのは城壁に囲まれた中庭。
オタク団子からぺっと吐き出されてすぐに、極彩色が目に飛び込んでくる。
>「ささ、存分にお楽しみくだされー! 我らの戦乙女、マホロたんのアブソリュートリィ☆ライヴを!」
「は?ライブ?こんなとこで?なんで!?」
頭いっぱいの疑問符は、すぐに押し流された。
音響魔法か何かで拡大された大音声が、音楽を伴って耳を貫いたからだ。
>「み――――ん――――な――――! 盛り上がってるっ! かぁ―――――――――いっ!!!」
光り輝くステージの上で、一人の少女が歌い、踊っていた。
人だかりの中央で、なお埋没しないその煌めき。
金髪ツインテールにヘッドセット、瀟洒な鎧をまとったその姿は……
「……馬鹿な、そんな、まさか」
俺は知ってる。ブレモンプレイヤーなら知らないはずがない。
今、俺の目の前で踊っている彼女。その、光輝に満ちた名を、叫んだ。
「マホたんだぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!!!」
ユメミマホロ――ブレモン配信をメインコンテンツに据える、バーチャルYouTuberだ。
そのブレモンに対する深い造詣、視聴者を飽きさせない喋りのテクニック、
何よりも高度なモデリングによって表情をコロコロと変える見た目の可愛らしさ!!!!
おそらく全宇宙で最高のバーチャルYouTuber、それがユメミマホロ……マホたんだ!!!!!!!!!!!
対モンデンキントの為にひたすら動画を漁っていた頃、マホたんの動画には何度も心を癒やされた。
陰鬱な最底辺を這いずり回る俺が出会った、電脳世界の福音だ!
26
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:25:13
>「まさか……ユメミマホロがアコライト外郭を守る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だっていうの……?」
「ま、マジで?こんな奇跡があっていいのか!?マホたんにリアルで会えるなんてっ!!!!!」
バロール……!ありがとう、それしか言う言葉が見つからない……!
俺は今!生まれて始めて幸運を神に感謝している……っ!!!
>「じゃあ、次の曲! いっくよ―――――――――――――っ!!!」
一曲吟じ終えたマホたんがMCで場を繋ぐ間に、ステージの機材が組み替えられていく。
裏方が手際よく機材を設置して、次の曲のイントロが流れ出した。
この曲は……!『ぐーっと☆グッドスマイル』!!マホたんの代表曲だ!!
>「……なんか……全然予想と違うね……」
なゆたちゃんが若干表情筋を引き攣らせながら笑う。
へいへいへいノリ悪いんちゃうかー?そんなぎごちない笑顔じゃノンノンですよ!!
「だけど予想よりずっと良い。こいつがバロールの差配なら、あいつもたまには良い仕事するぜ」
>「いい事だ。負け戦の陣営なんて、見ずに済むならそれが一番いい」
イントロがもうすぐ終わる。
俺は体がうずくのを感じた。心の底から湧き上がる熱が、エネルギーが、出口を求めてぐるぐるしている!
こうしちゃいられねえ!拙者もMIX打たせていただきます!!!
「オタク殿!コール表を!!」
「御意、こちらにご用意が!」
振り返って案内してくれたオタクに呼びかけると、返答と一緒に包みが飛んできた。
中身はライブの合いの手を記したコール表と、法被と、サイリウム棒。
スーツの上から法被を羽織り、光る棒を装備すれば、俺は、いや拙者は、もう無敵だ。
コール表に目を通す。
やはりライブ文化はマホたんがこの世界に持ち込んだモノ。
内容は全部分かる。一秒で覚えて、拙者は群衆の中に飛び込んだ。
「うおおおおおおおおおお!いくぞッ!!
タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!ダイバー!バイバー!ジャージャー!」
マホたんの歌声にオタク達と一緒になってMIX(合いの手)を打ち、
フレーズの合間にはクラップ(拍手)を入れる。
マホたんが放ったウインクは俺に向けられたものだいや俺だとオタク同士で殴り合う。
曲調が静かなバラードに移り変われば、みんなで壁にもたれて腕を組み、
『マホたんがビッグになって俺も鼻が高いよ……』と後方彼氏面だ。
「マホたぁぁぁあん!!!ホァ!ホァァァァァァァァ!!!!」
そうして拙者は実に40分、夢のような時間を過ごした。
いや!夢で終わらせない!マホたん単推し担当としてこれからも応援し続けるよ!!!!
世界とか救ってさぁ!!
27
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:26:35
◆ ◆ ◆
>「はいどうもぉ〜! というわけで、ユメミマホロなんですけれども。
今日はな、なんと! この生配信に特別ゲストが来てくださってまぁ〜す! ご紹介しましょう!
地球からいらした『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の皆さんで〜す! はい拍手拍手〜!」
ライブが終わった後、俺達はマホたんに連れられて放送スタジオにやってきた。
ライブ直後なのにすぐ配信だなんてマホたんは仕事熱心だなぁ。
「いやぁ、素晴らしいライブで御座った。尊みがMAXすぎて拙者感涙ヴォイ泣き致して候」
ライブの熱も覚めやらぬまま、マホたんの紹介を受けて雑にコメントする。
スーツの上からピンク法被は羽織ったままだ。ヨドバシカメラのスタッフみたいだぁ。
>「配信されちゃってる!? 生配信に出ちゃってる!?」
カザハ君は無邪気にはしゃいでいる。
ちょっとちょっとちょっとーカメラ回ってるでござるよー気付いておいでかーコレコレー。
>「ささ、皆さん自己紹介をお願いします!」
>「え……ええと、わたしはモンデンキントって言います……。
アコライト外郭が孤立無援で絶体絶命って聞いて、その援軍に……」
>「うは! モンデンキントさん! 初めまして〜! ひょっとして、モンデンキントさんってあの『月子先生』です?
スライムマスターの!」
モンデンキントの名前にマホたんは機敏に反応する。
うおお……ブレモン界の有名人二人、交わることのなかった両者が一同に!
尊ぇ……てぇてぇよぉ……。
>「よく見たら、あのテレビでおなじみイケメン自衛官! ジョンさんまでいらっしゃるじゃないですかやった―――――!!
イケメンマッチョとかぶっちゃけどストライクです! あとでサインくださいキャ―――――☆彡
あとはキャワイイシルヴェストルちゃんと、フロム臭半端ない狩人さんと、あと……」
マホたんは俺をチラっと見て、どうコメントしたものか迷うような仕草を見せた。
>「なろう系主人公っぽいお兄さんでーす!」
「すっげえオブラート包んだな今!?」
いっけね、素が出ちゃった☆
でもね、でもね!それって『とくに特徴ない』って言ってるのと同義なんですよ!!
あとは最近のトレンドだと『パーティ追放されそう』とかそういう感じの形容だね!
いや実際それに近い感じにはなってたけど昨日まで!
「拙者は笑顔きらきら大明神と申す者。しかしこの場では名前に意味など御座りますまい。
今の拙者はただの名もなきマホたん推しのガチ恋勢に過ぎぬゆえ」
>「おっと、ついつい久しぶりのゲストってことでテンションが……いけないいけない、フフ……。
それはともかく、援護に来てくれたのは心強いですね! ありがとうございます! これで勝つる!」
メイン盾いないから勝つるかどうかは保証しかねるけど。汚い流石忍者汚い。
さっくりと自己紹介を終えた俺達は、早速アコライトの現状について情報共有に移る。
なゆた氏の懸念した、兵站物資の不足。マホたんはあっけらかんと問題ないと言った。
>「食糧については心配なかったですよ〜?
敵がね〜。ワニとかトカゲとか、そういう爬虫類系なんですよね〜。それ捕って食べてましたし」
「な、なるほどぉー……マホたんのサバイバル知識は為になるなぁ」
28
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:27:22
敵さんも兵糧攻めしてる相手に食料提供してたとか考慮しとらんだろ。
爬虫類ってうまいのぉ?鶏肉みたいな味とか言うけど牛豚以外の大概のお肉は鶏肉みたいな味だしさぁ。
>「え〜と、『ムシャクシャしたんでバジリスクをムシャムシャしてみた』とか。
『ヒュドラで燻製肉作ってみた』とか。いくつか配信もしましたよ。
あんまり登録者数稼げませんでしたけどね〜。
他にも『暇だからサバイバル生活してみた』とか『孤立無援だから籠城してみた』とか。ネタには事欠かなかったですね!」
そんでどこに配信してんだよ。アルフヘイムにもようつべってあんのか。
敵さんも兵糧攻めしてる相手に配信ネタ提供してたとか考慮しとらんだろ(二回目)。
>「まっ! とにかく、ようこそいらっしゃいました! 歓迎しますよ〜。
今日は大した襲撃もないと思いますし、何もないところですけどゆっくりしてって下さい。
明日から劣勢を挽回する作戦を考えていきましょう!」
なんとも雑な質疑応答だったが、これでアコライトの異様さの謎は解けた。
メシは現地調達で、士気はライブで思いっきりバフかけて、そうしてこの城塞は戦線を維持し続けてきたのだ。
その有り様について、外野があれこれ口を出すべきじゃない。
ユメミマホロは間違いなく、アコライトの希望だった。
しかし外郭が壊滅してるわけじゃないなら、ずっと音信不通だったってのはどういうことなんだ?
バロールが先んじて救援の連絡を入れられたってことは、通信自体の不備ってわけじゃあるまいに。
>「はい! よろしくお願いします、マホたん!
あ、ところで――」
形にならない疑念はなゆたちゃんの声でふっとかき消えた。
>「マホたんのマスター。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこにいるんですか? 中の人っていうか――」
「あっおいやめろやめろマジで!」
制止も虚しく放たれた問い。
なゆたちゃんからしてみれば聞いて当然っつうか、雑談の一環くらいのつもりだったんだろう。
しかしそれは、Vtuberにとっては禁句、地雷を踏み抜く一言だ――
>「……中の人などいない」
マホたんは弾丸みたいな機敏さでなゆたちゃんに詰め寄り、ぼそりと呟いた。
有無を言わせぬ圧の籠もった言葉に、なゆたちゃんはドン引きしながら引き下がる。
これ放送事故じゃない?大丈夫?カメラ止めて止めて。
「いないよぉ中の人なんて。Vtuberは電脳世界に生まれた高性能AIなんだよ?わかれよな」
>「なるほど、スピリット属なら生理現象とも無縁だろうしな。理想的なアイドル体質――」
「うるせえアンデッド!お前は黙ってろ!!」
おそらくこの場で最も意味不明な存在であるエンバースの減らず口を塞いだ。
こいつはこいつでなんなんだろうな、今更だけど。お前こそ中の人どっかにいるんじゃないの?
>「宿泊する部屋の用意ができるまで、城塞の中を案内しますよ。
と言っても、みんなはもうゲームで間取りについては把握してるかもだけど……。
なゆたちゃんから離れたマホたんは俺達を伴って配信室を出る。
>「目を閉じていても、一周出来る自信があるよ。
咎人断ちの大剣目当てで、嫌と言うほど周回したからな」
「俺もやったなぁ。2ボスのレアドロだろ?あんだけ頑張って厳選したのに次パッチでもう鉄屑だぜ。
俺の一ヶ月はなんだったんだっつー」
29
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:28:04
型落ち装備の価値が暴落すんのはまぁオンラインゲーなら仕方ないんだけどさ。
せめて強化派生できるとかさぁ!廃人の努力に報いるアプデをお願いしますよ!
>「何か質問があれば、遠慮なく訊いちゃってください。知ってる情報は全部教えます、ホウレンソウは大事!
……あたしもみんなにアコライトで戦うにあたっての『ルール』を説明しておかなくちゃだし」
>「ルール?」
>「うん。……といっても、難しいことは全然ないですけどね〜。
ただし、それを守れないと死にます。間違いなく死ぬ。だから、みんなも気を付けて!」
「握手は一人10秒まで……とかそういうのじゃ、ねえんだよな」
急に剣呑な話になって俺は思わず茶化したが、かえって事態の物騒さを痛感する羽目になった。
守らなければ死ぬルール。ってことは、守らずに死んだ奴が少なからずいるってことなんだろう。
今更だけど、当たり前のように人死にが出てるって事実に俺はさぶいぼが立った。
>「じゃ、城壁の上にあがりましょうか。そこからだと全体が見やすいし……敵の姿も見えるから」
そうして俺達はオタク達に見送られ、マホたんと一緒に城壁を登る。
歩廊は幅が結構広いが、高所だけあって風が強い。気を抜いたら吹き飛ばされちまいそうだ。
>「おおう……」
カザハ君が城壁の外を見下ろして嗚咽に似た声を出した。
俺も同じ気持ちだった。っていうか出した。
「うげぇ。爬虫類ヅラの御用提灯が十重二十重……コミケの会場じゃねえんだぞ」
>「手持ちのレベリングをするには少々、リンクする相手が多すぎるな」
「範囲火力持ちが泣いて喜びそうだな。タンクは別の意味で泣くだろうけどよ」
新米タンクのジョンを揶揄して笑おうとしたが、ちっとも笑えやしなかった。
なんだこりゃ。敵兵力6000ってガセもいいとこじゃねえか。
ざっと見積もってもその十倍、地平線の向こうにもいるなら二十倍はくだらねえぞ。
>「大丈夫ですよー。数だけは多いけど、空を飛んだり壁をよじ登ってこられるようなモンスターはいないし。
空も飛べないからね。『今のところは』無害。もちろん真正面から戦うとなったら結構強いし、あたしでも結構てこずるけど。
こっちから手を出しさえしなければ、ね」
「……お腹を空かせたアコライトの民にカザーヴァさんからお肉のプレゼント!ってか」
流石に想定外だ。この数相手にたった300人でずっと睨み合ってたのか?
なんぼマホたんがつよつよだからって数の暴力が圧倒的過ぎるだろ。
>「そうなんですか……。それにしても、これだけの数のモンスターを操るなんて……。
敵の指揮官はどんな相手なんですか? やっぱり、ニヴルヘイムの三魔将の誰かだったり……?」
脂汗の浮かぶなゆたちゃんとは対照的に、マホたんの顔は涼しげだった。
彼女は地平線の向こうから目を離さずに、とある名を口にする。
>「煌 帝龍(ファン デイロン)って知ってる?」
「……マジかよ」
今度は俺が絶句する番だった。
煌帝龍ってのは、ブレモン世界大会の中国代表プレイヤーの名前だ。
つまり、ミハエル・シュヴァルツァーと同じ――世界クラスの強者。
「ニブルヘイムはまたピックアップ召喚でSSR引き当てやがったってのか」
30
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:28:41
リバティウムでイブリースがミハエルを回収した時、俺はニブルヘイムも人手不足だと見立てていた。
少なくともミハエルクラスの人材はそうそういないと。数が限られてると、そう思ってた。
だが現実として、ミハエル以外にもニブルヘイムはSSRを獲得している。
煌帝龍は、大会でミハエルとも争ったことのある正真正銘の実力者だ。
そして帝龍にはもうひとつ、世界的企業のCEO――資産家としての顔もある。
つまり、金持ちだ。それこそ石油王が霞んで見えるくらいに、リアルマネーを所有している。
>「ああ、なるほど。そういう意味か。そいつなら知ってるぞ。何せ奴は――」
焼死体が何か思い当たったようだが、そのままフリーズした。
CPU使用率が100%になっておられる?
>「みんな知ってることだけど、ソシャゲはお金がそのまま力になる……。そういう点では、帝龍の資金力は無尽蔵。
この大地を埋め尽くすような数のモンスターも、買いあさったクリスタルにものを言わせてると思う。
純粋なマネーパワーでは、あたしたちに勝ち目はまったくないかな」
「そんだけ金持っててやることがソシャゲの廃課金かよ。コロコロコミックのホビー漫画じゃねえんだぞ……」
途方も無いスケールの話に頭が痛くなってきた……。
だってあの帝龍ですよ?なんなら俺の会社のパソコン全部あっこの製品だよ?
帝龍はIT分野にも強い。煌が持ってるスマホなりタブレットなりも、相応のスペックがあると見て良いだろう。
複数所持だって十分あり得る。ミハエルの時みたくタブレット強奪での無力化は現実的じゃあるまい。
>「中国代表の社長!? この世界は自動翻訳機能が付いてるみたいだけど語尾がアルになってたらどうしよう……!」
頭を抱える俺の隣で、カザハ君は相変わらず能天気にコメントする。
「ミハエルが『ニーチェ大好きだリュッセル!』とか喋ってたらその可能性もあったけどな……」
いかんいかん、現実から目を背けるな。
敵のスケールがでかいなんてのは今に始まったことじゃねえだろ。
タイラントも、ミドガルズオルムも、俺達は乗り越えてきたじゃねえか。
>「あたしはね。キミたちを待ってたんだよ」
目に飛び込んできた絶望的な光景。
だけれどマホたんは、いつもの人好きのする笑みで、俺達を見遣る。
>「……わたしたちを?」
>「そう。あたしひとりじゃどうにもならなかった。城壁防衛隊のみんなが絶望しないようにライヴをして、鼓舞して――
現状維持をすることしかできなかった。
でも、今はもう違う。キミたちが来てくれた……新しい『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が。
それなら勝てる。絶対に勝てる! さあ――ここから、みんなで絶対的不利の盤面をひっくり返そう!」
この城壁上には、アコライトに集う兵士達はいない。
ユメミマホロが弱みを見せるわけにはいかなかった、彼らはいない。
だから、彼女のこの言葉は、士気の鼓舞とは無関係の……本心なんだろう。
十重二十重に取り巻く絶望に、それでも抗い続けてきたブレイブの……俺達は、正真正銘の"救い"だ。
そうでなければならない。
>「ええ! 絶対勝ちましょ、みんなで!」
なゆたちゃんは迷いなく答え、マホたんの手を握る。
>「マホたん……! 今まで一人でよく頑張った! スライムマスター月子先生が来たからにはもう大丈夫!」
その圧倒的よさみの深い光景にカザハ君が乱入し、マホたんに抱きついた。
ッダロガケカスゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!何どさくさまぎれにくっついてんだエロ妖精が!!!
お客さんお触りはギルティですよ!!!!カザハ君の首根っこを掴んで引き剥がしながら、俺も言う。
31
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:29:49
「兵力も、物資も、何もかもが圧倒的に不利。どんだけ士気が上がったって、人間の体力には限りがある。
下で楽しそうにライブの感想言い合ってる連中も、もうだいぶ限界が来てるんだろうぜ。
マホたん氏もそのあたりは分かっておられよう」
ライブでの熱狂は、マホたんのサービス精神旺盛なパフォーマンスだけが理由じゃあるまい。
いやマホたんが今世紀最高にして最強のVtuberだってことには疑いはないけど、それだけじゃない。
みんな、何かに身を委ねて、絶望を忘れないとやっていけなかったんだ。
直視するには過酷過ぎる現実が、この壁の向こうには広がっている。
「……燃えるじゃねえか。燃え燃えキュンだぜ。こういう局面を、俺達は何度も覆してきたんだ。
課金額の多さでイキってやがるクソったれのシャッチョサンを、ぶっ飛ばしてやろう。
札束よりも拳でぶん殴られたほうが痛いってことを思い知らせてやるぜ」
俺の後ろでは剥がしたカザハ君とエンバースが今後の方針を話し合っていた。
つっても、カザハ君が出した案をエンバースが切って捨てるだけのいつもの光景だ。
こいつほんとこういうときだけイキキしてるよな……。
>『エンバースさん、うまく敵をおびき寄せるにはどんなのを出せばいいと思う?』
>「さあな。大きく白旗でも上げれば、様子を見に来るんじゃないか。そんな事より――マホたん」
議論を思いっきり投げ捨てて、エンバースはマホたんに一歩にじり寄った。
……と思ったらこいつ何しよん!!!マホたんの肩掴みやがった!!!
>「俺を見てくれ。この顔に見覚えはないか?以前、どこかで会った事は?」
「てめっこのっピンチケ野郎(クソガキ的な意味)がぁぁぁぁぁ!!何マホたん氏に接触してんだ!!
城壁はナンパをするところでは御座らんぞ!!!!」
唐突に直結厨と化したエンバースを剥がすべく俺がダッシュするより先に、
マホたんの左手が閃いた。エンバースの腕を打撃し、戒めを解いてバランスを崩す。
>『――ごめんなさい』
ドゴォ!とおおよそマホたんの細腕から想像もつかない音が響いて、焼死体は宙を舞った。
そのまま城壁から中庭へ20メートルの距離を自由落下していく。
地面とぶつかる音が聞こえるその時まで、俺は理想に殉じたエンバースに黙祷を捧げた。
うひゃひゃひゃ、ざまあみやがれ。
まぁ元から死んでるしこれ以上死にはしねえだろ。
「えー……なんというかその、うちの焼死体がとんだご無礼を……。
あの子ゾンビだから本能的に人を襲っちゃうだけで悪い子じゃないんですよマジマジ」
しかしあいつ、マホたんとどっかで会ったことでもあんのか?
Vtuberとリアルで対面する機会なんてあるわけがねえ。
典型的なナンパの口上でないなら、あいつもループの記憶が戻って来てるのかね。
「それはそれとしてマホたん氏、サ、サインとかもらっていいですかね……?
えーと色紙、色紙はないから……ふひっ、このネクタイに!『俊之くんへ』って入れてもらって!」
マホたんからサインを入れてもらったネクタイをウキウキ気分で身につけて、
俺は気合を入れ直した。デュフフ……最高だ……世界救い終わったら額縁に入れて家宝にしよう。
「まだ『ルール』の説明も聞いてないし、焼死体を引き上げながら話そうか。
あいつの耳が頭部ごと吹っ飛んでなけりゃの話だけど」
32
:
明神
◆9EasXbvg42
:2019/10/07(月) 01:30:27
まあ多少欠損してようがポーション注射で治んじゃないのぉ?
なんでもいいけどあいつアンデッドのくせにポーションで回復すんのな。
「まず俺が気になってんのは、あんだけ兵力揃えてる帝龍がなんで一気に攻めてこずに、
戦力の逐次投入なんかかましてんのかってことだ。
敵の肉で燻製作る蛮族相手にビビってるってわけじゃあ流石にねえだろう」
いくら強固な城壁があるからって、あんな大軍がいれば突破は難しくあるまい。
門とか構造的に弱い部分はいくらでもあるし、そこに戦力を集中させれば一発で開門だ。
プレイヤーである帝龍は当然、アコライトの内部構造だって知ってるはず。
こんな、見せびらかすためだけみたいな布陣を組む理由はない。
「ってことは、想定できる可能性は3つ。まず、あの魑魅魍魎自体が幻覚かなんかの虚仮威し」
これはカザハ君の提案から思いついた可能性だ。
『幻影』みたいな認識改変スペルで6000の兵力をウン十万に見せかけることはできなくもない。
「次に、あの軍勢は帝龍にとっても虎の子で、僅かな損耗もしたくない重要な戦力である可能性。
カンペキにアコライトを押しつぶすために、もっともっと多くの軍勢が揃うまで待機してるのかもしれん。
ただまぁあれだけの大軍だ、維持するだけでも相当なコストになるだろうし、これは期待薄だな」
ブレモンにおける帝龍の戦略は、盤石の布陣を構えたうえで敵を押しつぶすコンボ系だった。
やつがその定石に則るとすれば、可能性として一考の余地はある。
アコライトを陥落させてすぐに王都に攻め入ることを予定してるのかもしれないしな。
「最後。――この戦線膠着自体が、帝龍の狙いである。
つまり、外郭の防衛力を『外』に向けさせつつ、裏で何らかの工作をしてる可能性だ。
敵のほとんどは爬虫類系だって言ってたよな。だけど、『それだけじゃない』としたら」
レアル=オリジンやお姉ちゃんみたいに、知性を持ち、人間に限りなく擬態可能な魔物はいる。
敵が爬虫類系の異形だと強く印象づければ、人間型への警戒はどうしても薄くなる。
付近からの難民や行商を装って、外郭内に侵入することは不可能じゃない。
……とまぁべらべらまくし立てたけど、マホたん氏もそれくらいは考慮の内だろう。
伊達に何ヶ月も防衛戦を続けちゃいない。戦闘経験において、彼女と俺達には天地の開きがある。
俺は知らなきゃならない。この世界で戦い続けるってことが、どういうことなのか。
「ルールも含めて、俺はマホたん氏の見解を聞きたい。帝龍は何の為に布陣してやがるんだ。
そんで――俺達にはあとどれくらい、時間が残されてるのか」
【情報共有。サインをねだる】
33
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2019/10/08(火) 14:26:58
-----------------------------------------------------------------------------------
「あいつ最近テレビの取材受けたんだって?」「調子にのってるよな」「しっ!本人きたよ」
みんななぜか僕の悪口を影で言っている。
一体なにがいけないのだろう、僕はただ仲良くしたいだけなのに。
みんな僕が近くにいれば仲良く友達のフリをする。
でもそれは僕が怖いから、直接対峙したら勝てないと、そうわかっているから
「みんな!おはよう!」
ニコニコしながら、そんな人達にあいさつするのもいつの間にか馴れた。
笑顔を絶やさなければ、いつか僕の事を思いなおしてくれるかもしれないと思ったから、笑顔を続けた。
無駄なんて事わかっているのに。
歴代の天才高校生、そんなタイトルでも、テレビで紹介されれば、僕の事を理解してくれる人が現れる。
そう思ってテレビや雑誌のオファーを受け続けた、無駄だと分っているのに。
信じたかった、世界の広さを、テレビや小説でよく出てくる、人の温かさを。
結果的に言えば理解者はだれ一人として現れなかった。
「しょ・・・勝負ありー!」
テレビの企画で当時の金メダリストと戦う事になった。
天才と呼ばれ、天狗になってる子供を大人が容赦なく叩き潰す、そんな趣味の悪さ100%の企画だった。
「すみません・・・この人本物ですか?」
自分でもさすがにこの時の発言はよくなかったと思う、しかし本当に弱かった、侮辱したかったわけではないが、本当に弱かったのだ。
生放送だった為にどうしたらいいのか分らない大人達、笑いものにするはずが逆に自分たちが侮辱されたのだ。
あの時の周りの大人達のあの目線は忘れられない。
その次の日から倒した選手のファンから、テレビ局のお偉いさんから、通りすがりの人から、嫌がらせを受けるようになった。
結果を信じられない大人達が、僕をリンチにするため、徒党を組んで人気のない路地で襲い掛かってきたこともあった。
嫌がらせに屈せず、相手が凶器を持ってきても返り討ちにした。
行動はどんどんエスカレートし、僕を殺そうとする奴まで現れた、それでも僕は負けなかった。
一人で全てを返り討ちにし続けた僕は裏でこう呼ばれた・・・【化け物】と
たしかに僕の発言はよくないものであった、それは間違いないだろう。しかしこんな目に会うほどの物だったのだろうか?
圧力によってどのスポーツの世界にも入れなくなった僕は、この件で業界に絶望していた事もあり、逃げるように自衛官になった。
僕が入った当時の自衛隊の世界は年功序列の世界だった、人によっては最悪というかもしれないが、それ以外で差別される事はなかった。
途中で実力主義に変わり、当然一人だけ浮いていた僕は引き抜かれて、特別な扱いを受けた。
「いえーい!みんな!!自衛隊をよろしく!」
例えそれが健全PRの為のアイドル活動を含んだ引き抜きだったとしても、僕は認められた気がして、言われるがままにやり遂げた。
アイドルとして活躍するようになってから、世間の風向きが変わっていった。
「イケメン自衛官大人気・・・」「彼の素質は・・・」「災害の時の彼の活躍は勲章物で・・・」
過去の事をすっかり忘れ、今度は媚始めるマスコミ達。
家を出れば黄色い声と、嫌悪の目を向けていたはずの大人達が、一斉に僕に媚を売り続ける。
満足していた、しなきゃいけない、だってこんなにみんな僕をほめてくれるんだから、認めてくれるんだから。
あれ・・・結局僕は・・・なにがしたったんだっけ・・・?
-----------------------------------------------------------------------------------
34
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2019/10/08(火) 14:27:25
最悪の目覚めだった。
よりにも旅立ちの日にこんな夢を見るなんて。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
呼吸を整えつつ洗面台へと向かう、そして顔を洗い、鏡を見る。
そこには普通の・・・いつものジョン・アデルがいた。
「大丈夫・・・大丈夫・・・落ち着け・・・落ち着け」
呼吸を整え、もう一度鏡を見る、そこには普通の自分。
「・・・お前のやりたい事を昨日見つけたじゃないか、ジョン。落ち着け、大丈夫だ」
そう呟くと顔を洗い、服を着替え、旅立つ準備を始めるのだった。
「まさか全部用意してもらえるとは・・・」
ジョンの部屋の豪華なテーブルの上に似つかわしくない武器を並べられていた。
これは昨日バロールに頼んでいた、持っていくかもしれない装備候補達であった。
これらは全て殺す為の装備であり、殺されないようにする為の装備である。
武器を調べるほど、調べるだけ、避けようのない殺し合いが存在するのだ、という現実を見せ付けられる。
これとブレイブとしての力を使えば、人を容易に殺す事ができるだろう。
そうでもなくても自分には化け物と呼ばれた力が、肉体があるのだから、更に容易である。
日本では人を殺めることは悪である、それが常識。
だがこの世界でそれはもう通用しない。
「殺さなければ・・・殺される」
だれかを殺さなければ前に進めないかもしれない。
この世界では殺す事は悪じゃない、むしろ世界を・・・国を救うためなら進んで殺す事こそ・・・正義なのだ。
元の世界の常識を、いつまでも持っているわけにはいかない。
人を殺すなんて訳ない事だ、昨日バロールの話を聞いた時点で覚悟は決めていた。だが
【化け物】
「ッ・・・!」
生まれて僕に負の感情を見せない・・・やっとできた友達を・・・失いたくない。
これは戦争だ、なら当然相手もこっちの命を奪うつもりで向かってくる、その悪意になゆは、みんなは耐えられるだろうか?
悪意に晒され続けた僕のような苦しみは、みんなには味わってほしくなかった。
「みのりと約束したんだ・・・なにがあってもみんなを守るって」
全ての悪意からなゆ達を守ろう、守る為に今、僕ができる事をしよう。
世界を救う事自体にそこまで興味があるわけじゃない、だがなゆが、みんなが行く道をいっしょに、笑って歩いていたい。
「・・・例え同じ世界の人間を殺す事になったとしても」
35
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2019/10/08(火) 14:28:33
もっと重い空気になると思っていいたが、そこは歴戦のブレイブ達。
列車の中でも重たい空気になることなく、軽口を叩きながらいろんな話をしていた。
エンバースとなゆは二人で仲良く話しているし、カザハはなにかの本を読みながらニヤニヤし
僕と明神は昨日の確認とウォーミングアップを兼ねて体を動かしている。
>『皆さま、大変お待たせ致しましタ。
当魔法機関車は、間もなくアコライト外郭に到着致しまス。お手回りのお荷物など、お忘れにならないようお願い致しまス』
>「もう着くの? 魔法機関車はっや!」
「さて・・・僕達もそろそろ降りる準備始めよう」
僕の必要な物はトランクにほとんど詰めてある、バロールに頼んで貰った部長が背中に装備できる魔法のトランクだ。
質量を無視してアイテムを特定の個数だけ入れられるらしい、といっても部長の動きを阻害しない程度の小さいトランクなのでそんなに量は入らないが。
>《ほな、到着前にもういっぺん説明すんで〜。
アコライト外郭は、現在アルフヘイムとニヴルヘイムの激突しとる最前線やね。
みんなも知っての通り、ゲームだと『聖灰』のマルグリットはんと最初に出会うイベントで有名な場所や。
ま……終盤でバロールはんと三魔将のひとり・幻魔将軍ガザーヴァが綺麗さっぱり消し去ってまうんやけどなぁ》
当たり前だが全員が知っている前提で話が進んでいく。
だがしかし僕はといえば、ソシャゲとかのストーリーは全スキップ派なのでまったく知らないのだ。
昨日寝る前にこの世界の事についてはある程度勉強できたつもりだ。
だがそれはあくまでもこの世界の今までの歴史であって、この人物はこうで、こんな事をしでかす、という情報ではない。
つまり・・・
「さっぱりわからん」
全然分らなかった、重要な所はみんなが教えてくれるのでいいのだが、細かいところはさっぱりだった。
別に分らなくても敵なら殺す、味方なら生かす、そのくらいの認識でまあ、大丈夫だろう。
必要な所は別途聞けばいい。
>《もう連絡途絶えてえらい経つけど、最後に生存確認したときの外郭側の戦力は300、二ヴルヘイム側の兵力は目算で約6000。
こっちの兵士は体力的に限界で、兵糧も尽き掛けてる。持ってあと一週間ってとこやって》
重要な拠点と聞いていたが、あまりにもひどい報告に頭を抱える。
途絶えたにも関わらず兵士を即座に送って、正確な情報を確認していない事。
連絡が途絶え、殆ど未確認の地域にになゆ達を、ブレイブを送り込もうとしてる事。
「余裕がないにしろお粗末すぎる・・・」
列車から降りた途端に死体が見えるかもしれないな・・・なんて事を考える。
死体だけならいい、そこから病気が蔓延していたら、たまったもんじゃない。
追い詰められているなら死体を焼却する時間もないだろう、もしかしたら敵とは関係なく病気でほぼほぼ全滅なんてことも・・・。
陽気な雰囲気もここまでという空気が、列車内を、僕達を包もうとしていた。
>「必ずこの戦いに勝ち残るんだ! レッツ・ブレーイブッ!!」
不穏な空気を察知したのか、みんなを元気付けようと、なゆは大声で叫ぶ。
さっきまでの空気はどこへやら、みんな一転元気に動き出す。
やっぱりなゆ・・・君はリーダーの素質があるよ
「もちろん全員でね・・・レッツ・ブレイブ!」
36
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2019/10/08(火) 14:29:35
列車を降りたら死んでから時間が立っているような死体がお出迎え・・・という事はなかった。
>「なんか、キレイ……」
「キレイというか・・・これは・・・?」
>『デコられている』
「そう・・・それだよ」
機能性を重視された城壁のあちこちに謎の似顔絵?がたくさん貼られている。
行方不明者の似顔絵かと一瞬思ったが、全員同じ人間を描いたようだった。
>「綺麗ってかこのポスター、アイドルみたいな人がキラッとしてるよ!?」
「アイドルといえばアイドルだな、だがこんな人間僕は知らないぞ?色んなテレビに顔を出してるから色んな人を知っているつもりだが・・・」
こちらの世界にアイドルなんて概念があるのだろうか?だがそれにしてもあまりにも僕達の世界のアイドル像に近すぎる。
仕事柄、このくらいの年齢のアイドルは全員把握しているつもりだが・・・どの記憶にも引っかからない。
『MAHORO YUMEMI Absolutely Live in ACOLITE!!』 MAHORO YUMEMI・・・?知らない名前だ、やはりこの世界のアイドル・・・なのだろうか。
>「英語……英語!?なんで地球の言語で書かれたポスターがあんだよ!?」
あまりに自然で気づかなかったがここは僕達が住んでる世界とは別の世界なのだ。
このMAHORO YUMEMIが何者であるかわからないが、とにかく普通の事態ではない、とにかく----
>「何かがおかしい。一度、列車まで戻るべきだ。俺が偵察を――」
エンバースも僕と同じ違和感を感じ取ったらしい。
「賛成だ・・・なにかあってからじゃおそ・・・」
気づいたら目の前に一人の男が立っていた。
バロールに貰ったナイフを男に見えない位置で構える。
>「おぉ〜っ! お待ちしておりました!」
>「いやいや! いやいやいや! 貴公らが王都からの増援でござるかァ〜! お待ち申し上げておりましたぞォ〜デュフフフ!」
男は漫画の世界から飛び出してきたようなオタクスマイルを披露する。
なにが起こってるのかさっぱりわからない。
>「よォ〜こそ! よォ〜こそ! アコライト外郭へ!
いや、貴公らは実に! 実に運がいい! 今、ちょうど午後のライヴの真っ最中でござる!
ささ、こちらへ! 貴公らも我らの女神! いやさ戦乙女のライヴあーんど生配信を観て、萌え萌えキュンキュンするでござる!
デュフッ! デュフフフフ……!」
>「え、えっ? ちょっ、ライヴって……!
あたしたちは戦いに来たのであって、そんなのを観に来たわけじゃ……!
ここの責任者の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこですかーっ!?」
気づくと大勢のオタクに囲まれていた。
「君達、最低限の説明すらする気がないならこっちにも考えがあるぞ・・・!」
>「デュフッ! 戦い? そんなのあとあと! まずはライヴに参加しなくてどうするんでござるか!
皆の者! お客人を会場まで運んで差し上げるでござる!」
「「「「「「「「御意!!!!」」」」」」」
「ちょ・・・!?」「ニャアアアアー!」
結局抵抗していいのかわからず悩んでいる間にオタク軍団に連行されるのだった。
37
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2019/10/08(火) 14:30:30
>「み――――ん――――な――――! 盛り上がってるっ! かぁ―――――――――いっ!!!」
>「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――――――――!!!」
一体どうなってるんだ・・・?
ここを防衛しているという先輩ブレイブに会えず、ゲームのキャラクターのような少女の踊りを見させられている。
列車が目的地を間違えた?いやさすがにそれは考えられないだろう、最初にみた城壁はデコられていたとはいえ予め聞いていた情報と一致する。
>「マホた――――――ん!!! 結婚してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
じゃあなんでこんな状況になっている?どこでなにを間違った?
>「……ユメミ……マホロ……」
「しっているのかい?なゆ、もしかしてあの子もゲームのキャラクターだったり・・・?」
それにしてはバロール等とは違い、あまりにもアニメ調すぎるが。
>「まさか……ユメミマホロがアコライト外郭を守る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だっていうの……?」
なゆがなにかを理解したらしく、おそらくユメミマホロがブレイブである、という。
必死に応援してるオタク達はここの兵士で、ユメミマホロが兵士達の士気を維持する最後の砦。
「どうやら・・・想像してたより方向性は違うけど、最悪の状況なのは間違いなさそうだね・・・」
ここの兵士達はユメミマホロに依存しすぎている、彼女の命令とあらば命を投げ打ってでも戦うだろう。
死の恐怖に立ち向かっていけるかもしれない、だがやっている事は麻薬で自分を騙している兵士となんら変わりない。
違うのはなにに依存しているのか、という違いだけだ。
ユメミマホロがもし死んでしまったら・・・依存する先を失った兵士達のその後は・・・。
>「はいどうもぉ〜! というわけで、ユメミマホロなんですけれども。
今日はな、なんと! この生配信に特別ゲストが来てくださってまぁ〜す! ご紹介しましょう!
地球からいらした『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の皆さんで〜す! はい拍手拍手〜!」
歓声を浴びているこの少女が一番よくわかっているはずだ、この依存体系は非常によくない、と
だがこうせざるを得なかったのだろう、そうしなければ体より先に心が死ぬのが分っていたから。
>「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
>「マホたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
予想通りに状態の悪いアコライト城郭の現状に頭を抱える。
>「よく見たら、あのテレビでおなじみイケメン自衛官! ジョンさんまでいらっしゃるじゃないですかやった―――――!!
イケメンマッチョとかぶっちゃけどストライクです! あとでサインくださいキャ―――――☆彡
あとはキャワイイシルヴェストルちゃんと、フロム臭半端ない狩人さんと、あと……なろう系主人公っぽいお兄さんでーす!」
元気よく紹介される、とりあえず考えるのは後にしよう。
「よろしく!でも僕と仲良くしないほうがいいんじゃないかな?ほら僕も君も立場とかあるしさ・・・」
すっごい客席からの視線が痛い、嫉妬のオーラを纏った負のなにかが僕の体を包んでいた。
元の世界だったらこの発言だけで週刊誌に載ってしまうレベルだ、イケメン自衛官複数のアイドルに手を出していた!とかそんなタイトルで。
>「おっと、ついつい久しぶりのゲストってことでテンションが……いけないいけない、フフ……。
言われのない因縁をつけられるんで、やめてねホント・・・
口では言えないので心でそう呟くのだった。
38
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2019/10/08(火) 14:31:33
ライブも終わり、兵士の鋭い視線から開放され、やっと一息。
「やっぱりあの雰囲気は嫌いだ・・・」
僕もあんな感じの場所で歌ったり踊ったりすることはあったが、やっぱり好きになれそうになかった。
>「まっ! とにかく、ようこそいらっしゃいました! 歓迎しますよ〜。
今日は大した襲撃もないと思いますし、何もないところですけどゆっくりしてって下さい。
明日から劣勢を挽回する作戦を考えていきましょう!」
疲れた原因は殆ど君のせいなんだけどね・・・といいたいがやめた。
自分の口が災いしてまた兵士達の負のオーラを浴びたくない。
>「ルール?」
>「うん。……といっても、難しいことは全然ないですけどね〜。
ただし、それを守れないと死にます。間違いなく死ぬ。だから、みんなも気を付けて!」
「それは・・・一番最初に言うべき事なんじゃないか?兵士の手前言えないのはわかるがそれでも・・・」
>「確かルールその1は、中の人などいない――だったな」
凄いマジメなトーンで言い放つエンバース。
君のそのマジメにやってるのか、わざとなのかよくわからない言動・・・嫌いじゃないけど・・・自重しよう?めっちゃ睨まれてるよ?
>「じゃ、城壁の上にあがりましょうか。そこからだと全体が見やすいし……敵の姿も見えるから」
さっきまでのアイドルだったユメミマホロは息を潜め、冷静に答えながら、僕達を誘導する。
そこで僕達は自分たちの意識が、まだまだ足りてないという事実を突きつけられてしまう。
「な・・・なんだこれは・・・6000なんて嘘っぱちじゃないか・・・!」
時間が相当に経った情報など当てにならないと、分ってはいたがそれでも期待していた。
だが期待そのものが甘えだったのだと、改めて認識させられる。
新鮮じゃない情報などなんの価値もないのだ、と。
>「大丈夫ですよー。数だけは多いけど、空を飛んだり壁をよじ登ってこられるようなモンスターはいないし。
空も飛べないからね。『今のところは』無害。もちろん真正面から戦うとなったら結構強いし、あたしでも結構てこずるけど。
こっちから手を出しさえしなければ、ね」
なぜだ・・・?こっちが崩壊寸前なのはわかっているはずだ、なのにわざとトドメを刺さないのは・・・?
モンスター達は穴を開けるでもなく掘るでもなくただそこに佇んでいるではないか。
まるで・・・なにかを待っているような・・・?
「だ、だが、これだけのモンスターを確保するには敵だって簡単にでできるわけじゃないだろう?」
>「煌 帝龍(ファン デイロン)って知ってる?」
名前聞いた時、なるほど、と納得してしまった自分がいた、ブレモンだけじゃない、リアルでも有名なのだ。
その影響力は中国裏社会にまで及ぶといわれ、動かそうと思えば国すら動かせる、と噂されるほどの超が付く有名人。
>「みんな知ってることだけど、ソシャゲはお金がそのまま力になる……。そういう点では、帝龍の資金力は無尽蔵。
この大地を埋め尽くすような数のモンスターも、買いあさったクリスタルにものを言わせてると思う。
純粋なマネーパワーでは、あたしたちに勝ち目はまったくないかな」
ここに来てから、話がいい方向にまったく進んでいかない、いや、まだ全滅してなかったのは大変いい事だが・・・。
39
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2019/10/08(火) 14:32:11
>「あたしはね。キミたちを待ってたんだよ」\
>「……わたしたちを?」
>「そう。あたしひとりじゃどうにもならなかった。城壁防衛隊のみんなが絶望しないようにライヴをして、鼓舞して――
現状維持をすることしかできなかった。
でも、今はもう違う。キミたちが来てくれた……新しい『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が。
それなら勝てる。絶対に勝てる! さあ――ここから、みんなで絶対的不利の盤面をひっくり返そう!」
>「マホたん……! 今まで一人でよく頑張った! スライムマスター月子先生が来たからにはもう大丈夫!」
「なあ・・・僕達も協力したいのはやまやまなんだが、最低限その作戦の説明をしてくれないか?
まさか無計画なんて事はないよね?そうじゃなきゃ僕達は協力関係には――」
>「兵力も、物資も、何もかもが圧倒的に不利。どんだけ士気が上がったって、人間の体力には限りがある。
下で楽しそうにライブの感想言い合ってる連中も、もうだいぶ限界が来てるんだろうぜ。
マホたん氏もそのあたりは分かっておられよう」
>「……燃えるじゃねえか。燃え燃えキュンだぜ。こういう局面を、俺達は何度も覆してきたんだ。
課金額の多さでイキってやがるクソったれのシャッチョサンを、ぶっ飛ばしてやろう。
札束よりも拳でぶん殴られたほうが痛いってことを思い知らせてやるぜ」
明神のハートに火がついてしまったようだ、明神だけじゃない、なゆも、カザハももうすでにやる気マンマンだった。
こうなったら・・・止められないな・・・みんなについていこうと決めたのだ、彼らのやり方を見届けてやろう。
「あーあー!わかったわかりましたやってやりましょう!ただ作戦には容赦なく口出しさせてもらうからね?」
ハイハーイ!と元気よく飛び出してきたのはカザハだった。
>「爬虫類魔物を地道に倒してもラチがあきそうにないし指揮官を倒すしかないよね。
カケルに2人ぐらい乗ってもらってあとは何人か乗れそうな物にフライトをかければ
後方に控えているだろう指揮官のところに行けることは行けると思うけど……」
「今現在敵戦力が見えてるだけの種類しかいないとは限らないからね
当然、空に向けてなにかしらの迎撃手段を持ってるいると考えられる。そうなればあの速度じゃいい的だ。」
悪くないとは思うが今一歩それでは足りない、僕達の体は一つしかない。
失敗するリスクはできる限り減らしたいのだ。
>「駄目だ、色んな意味で危険過ぎる……! そうだ! 逆に敵をこっちに誘き寄せて迎え撃つっていうのは?」
>「指揮官が自分が直接出向くしかないと思う程のモンスターを召喚したように見せかけたらどうだろう。
遠くからでも見えるのが第一条件だからミドガルズオルム級の超でかくて超強いやつ!」
>「多量のクリスタルと引き換えに召喚された超レイド級が、
敵を薙ぎ払う訳でもなく突っ立っている、か。
なるほど――中々ユニークな作戦だ」
ウーンウーンとカザハは頭を悩ませる。
しばしの沈黙が場に訪れる、この数相手にそうそう丁度良く作戦が生まれるわけじゃない。
>『エンバースさん、うまく敵をおびき寄せるにはどんなのを出せばいいと思う?』
>「さあな。大きく白旗でも上げれば、様子を見に来るんじゃないか。そんな事より――マホたん」
「お・・・おい?なにしてるんだエンバース?」
シリアスな空気を突然ぶち壊したのは、このPTで一番シリアスな空気を生み出しているはずの・・・エンバースだった。
40
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2019/10/08(火) 14:33:41
>「俺を見てくれ。この顔に見覚えはないか?以前、どこかで会った事は?」
エンバースの突然マホロの肩を掴み顔を近づける。
その行為は、よく言えば中二病、悪く言えばセクハラとも取れる行為だった。
「え・・・えんばーす・・・?」
マホロとエンバースの顔が近くなればなるほど、僕の背後から負のオーラを強く感じる、怖くて振り向けないほどの。
「エンバースサン?そろそろやめたほうがいいと思うんだ、君のそれ、どこからどうみてもセクハラだし?
そもそも君にはもう既にお姫様がいるんじゃないかって僕思うんだ、うん、浮気は悪い文明って言われてるし」
>『――え、えーと?なんてゆーのかな。気持ちはすっごく嬉しいよ?
だけどあたし、ファンのみんなを裏切るような事は出来ないの。
それに、今は仕事が恋人みたいなものだから……その――』
うんうん、そうだよね、テンプレみたいな断り方ありがとう!もう負のオーラに僕の胃が耐えられないからはやく離れてもらえるかな?
>『――ごめんなさい』
「いやホントやめようエンバース?マホロちゃんだって困ってるし僕の胃がまじで痛い――えっ!?」
目を疑った。
エンバースが一瞬体をずらされた、そう思った瞬間にはエンバースに拳が・・・。
>「――うおおおおおっ!?」
エンバースが勢いよく吹き飛ばされる。
「へえええ・・・凄いね今の。見たことない技だったけどそれもしかしてスキルだったりする!?
できれば教えてもらえたりできないかな!僕実は格闘技とか大好きなんだ!
あ、でもスキルだと習得するのに時間かかったりってやっぱあるのかな?今の状況でそんな時間ないかなあ・・・」
エンバースの心配はどこへやら、興味は完全にマホロの格闘技に移行していた。
まあエンバースなら大丈夫だろう、最低限の手加減はしてるだろうし。
>「えー……なんというかその、うちの焼死体がとんだご無礼を……。
あの子ゾンビだから本能的に人を襲っちゃうだけで悪い子じゃないんですよマジマジ」
「本当に悪い人じゃないんですけど、たまに周りを見ずに特攻しちゃうクセがあって・・・
たぶん相当きついお灸が据えられると思うんで許してあげてください」
たぶん相当きついお灸が据えられるだろう、うん。
今回は誰も助けない、僕だって助けない、こればっかりは自業自得だからね。
>「まだ『ルール』の説明も聞いてないし、焼死体を引き上げながら話そうか。
あいつの耳が頭部ごと吹っ飛んでなけりゃの話だけど」
「ああ、それなら僕も手伝おう」
41
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2019/10/08(火) 14:34:34
>「まず俺が気になってんのは、あんだけ兵力揃えてる帝龍がなんで一気に攻めてこずに、
戦力の逐次投入なんかかましてんのかってことだ。
敵の肉で燻製作る蛮族相手にビビってるってわけじゃあ流石にねえだろう」
完全にギャグ時空に囚われたエンバースを引き上げながら、まずは明神が口を開く。
>「ってことは、想定できる可能性は3つ。まず、あの魑魅魍魎自体が幻覚かなんかの虚仮威し」
「・・・それはさすがになくないか?実際マホロ達・・・はそのトカゲを焼いて食べた事があるんだろ?
敵に捕まえさせる奴だけ本物のモンスターにすり替えるって方法もあるだろうけど・・・そんな器用な事する必要もないだろうし」
敵が圧倒的優位に立ってる状況でそんな事をする必要はほとんどないだろう。
もしあれの殆どが幻影だったとしたらここはこんなになるまで押されなかったはずだ。
>「次に、あの軍勢は帝龍にとっても虎の子で、僅かな損耗もしたくない重要な戦力である可能性。
カンペキにアコライトを押しつぶすために、もっともっと多くの軍勢が揃うまで待機してるのかもしれん。
ただまぁあれだけの大軍だ、維持するだけでも相当なコストになるだろうし、これは期待薄だな」
これは明神の言うとおりだと思う、本当に大事ならだらだらと攻める必要がない。
>「最後。――この戦線膠着自体が、帝龍の狙いである。
つまり、外郭の防衛力を『外』に向けさせつつ、裏で何らかの工作をしてる可能性だ。
敵のほとんどは爬虫類系だって言ってたよな。だけど、『それだけじゃない』としたら」
「その帝龍の狙いについてなんだが・・・」
僕が薄々感じていた事を口に出す。
「僕は本人に実際に会った事がないし、ゲーム内で接点が会ったわけじゃない、帝龍の事はあくまでもみんなと同レベルでしかしらない
だから僕がこれから言う事は・・・聞く価値がないと思ったら聞き流して欲しい・・・」
「もしかして敵は・・・帝龍は・・・「期待」してるんじゃないかな?」
コイツは突然なにを言い出すんだ、顔見なくてもみんなそう思っているだろう。
僕だって逆の立場ならそう言うだろう。
「みんなもしってる通り、帝龍はブレモンだけじゃない・・・いやリアルが成功してるからこそブレモンも強いんだ
帝龍は成功の方法を知っているんだ、生まれながらの天才っての奴かな、その才能はこっちの世界にきても圧倒的な物だっただろう」
「ライバル企業を潰し、吸収したのだって1件や2件だけじゃない、表沙汰にならないだけで当然、非合法の方法だってとってるだろう。
帝龍にしてみればアコライト外郭を落とすのも、ライバル企業を落とすのと何ら変わらない
むしろこれだけのモンスターを持っているんだ、法律もないこの世界じゃ、ココを落とすほうが彼にとっては楽かもしれない・・・」
たぶん法律なんて元々帝龍には関係ないのかもしれないけど、と苦笑いしながら話す。
「おそらく最初はここを即効潰すつもりだったと思う、でもそうはならなかった・・・マホロがいたからだ、
予想以上の抵抗をされて、当初の予定が狂った帝龍は思ったに違いない」
『あそこにいる猛者はもしかしたら自分の退屈・・・飢えを満たしてくれるかもしれない』
「だから帝龍はマホロが力を蓄えて・・・勝算を持って行動に出るまで待っている、自分の目の前に来るのをただジっと・・・待っている
1万はいるであろう軍勢を超えて・・・将を討ち取らんとする英雄を・・・【異邦の魔物使い】を待っている・・・そんな気がする」
「本人とせめて・・・話をしたことがあれば確証を得られたかもしれないけれど・・・」
あくまでも僕の中の妄想に過ぎないのだが・・・。
少しの沈黙の後パン!と明神が話を切り替えるように、手を叩く。
>「ルールも含めて、俺はマホたん氏の見解を聞きたい。帝龍は何の為に布陣してやがるんだ。
そんで――俺達にはあとどれくらい、時間が残されてるのか」
「そうだね・・・やはりなんだかんだいっても、マホロの意見が一番だと思う、聞かせてほしいな・・・考えを」
この場にいる全員が、マホロの発言を静かに待つのだった。
42
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2019/10/11(金) 22:18:40
>ルールも含めて、俺はマホたん氏の見解を聞きたい。帝龍は何の為に布陣してやがるんだ。
そんで――俺達にはあとどれくらい、時間が残されてるのか
>そうだね・・・やはりなんだかんだいっても、マホロの意見が一番だと思う、聞かせてほしいな・・・考えを
明神とジョンがマホロに情報提供を要請する。
が、マホロは笑って両手をパタパタと振ると、
「さっきも言ったけど、それは明日にしよう。その方があたしも説明しやすいし――
それにさ。あたしがどーのこーのって話をするより、見てもらった方が。きっとみんなも理解できると思うから」
そう言って、現段階での説明を避けた。
「それより! 折角みんな来てくれたんだし、歓迎をさせてよ。
今日はごちそうだー! あたし、思いっきり腕を振るっちゃうよー!
じゃあ……ちょっと待っててくれるかな? 今『食材を狩ってくる』から――」
マホロは軽い身のこなしでヒョイと城壁の胸壁にのぼると、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちを見た。
そして、そのまま何を思ったのか、身体を仰け反らせると仰向けに城壁の外へと身を躍らせる。
「あ! マホ――」
唐突にも程がある、マホロの身投げ。なゆたは仰天して胸壁から身を乗り出し、マホロの姿を目で追った。
マホロは真っ逆さまに落ちてゆく。
彼女は人間ではなく『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』というモンスターだ。
墜落しても死ぬことはないだろうが、それでも甚大なダメージは免れない。
しかも、落下地点には帝龍の放った爬虫類型の魔物たちが群がっている。落ちれば鋭い牙の餌食だ。
援軍が来たので、もう自分の役目は終わりと命を絶ったのか? ――いや、違う。
それは、狩りの始まりだった。
ぶあっ!!
地面に激突する寸前、マホロの背に一対の純白の翼が出現する。
マホロは落下から鋭く直角に方向転換し、地面すれすれを滑空すると、高速で弾丸のようにロール(回転)しながら飛んでゆく。
モーセが海を割ったように、大地を埋め尽くすトカゲの群れが中央から裂け、マホロに触れた者たちが跳ね飛ばされて宙を舞う。
「……『黎明の剣(トワイライトエッジ)』――プレイ」
「スキル。『戦乙女の投槍(ヴァルキリー・ジャベリン)』――」
マホロが呟くと同時、その周囲に光り輝く槍が無数に現れる。戦乙女の代表的武装、ヴァルキリー・ジャベリン。
出現した槍を即座に解き放つ。光の槍は四方八方に飛び散ると、当たるを幸いトカゲたちを貫いた。
ドドドドドドドウッ!!!
投げ槍どころの騒ぎではない、まるでミサイルだ。
ジャベリンはスペルカード『黎明の剣(トワイライトエッジ)によってブーストがかけられている。その威力は凄まじい。
「――はッ!」
ざざざざっ! と両脚で轍を刻みながら着陸すると、マホロは翼を消して徐に拳を構えた。武器の類は――ない。
無数のトカゲたちが集まってくる。マホロは瞬く間に取り囲まれた。
絶体絶命の危機に見える。……が、違う。
大顎を開き、マホロに食らいつこうとトカゲたちが攻めかかる。だが、一匹たりともマホロには触れられない。
迂闊に接近したモンスターたちは皆、マホロの拳に。蹴りに。瞬く間に打ち砕かれ、血ヘドを吐いて吹き飛ばされた。
「まだまだぁ!」
『聖撃(ホーリー・スマイト)』――徒手戦闘でのみ光属性の攻撃力を飛躍的に上昇させるスキルである。
本来、『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』は長槍や直剣などを武器とするモンスターだ。
しかし、ユメミマホロはこの『聖撃(ホーリー・スマイト)』を極限まで研ぎ澄まし、インファイターとして自己を鍛え上げた。
マルチのパーティープレイでは、マホロは後衛に位置しバフ効果のある歌で仲間たちを励ましている。
が、ソロではそのプレイスタイルは180度異なる。このゴリゴリのアタッカーがマホロ本来の持ち味と言う者も多い。
迂闊にマホロに触れてしまったエンバースが洗礼を受けるのは必然であったと言えよう。
「……『俊足(ヘイスト)』。プレイ」
ぎゅんっ!!
スペルカードが発動する。マホロの挙動がさらに速度を増す。
あたかも疾風のように、マホロがトカゲの大軍の間を縫う。そのたびに拳が一閃され、トカゲたちが砕け散る。
帝龍の軍団の中核をなしているモンスターはドゥーム・リザードといい、ストーリー中盤に出現するザコ敵である。
序盤ではフリークエストのボスを務めたこともある、それなりに硬くて強い敵なのだ。
しかし、それがまるで問題にならない。マホロの攻撃によって木っ端のように薙ぎ倒されてゆく。
「ギシャァァァァァァァァァッ!!」
轟く咆哮。見れば、ドゥーム・リザードの死体を踏みつけ、見上げるほどに巨大な多頭蛇が姿を現す。
ヒュドラ。ゲームでは終盤のダンジョンに出現する、ドゥーム・リザードとは比較にならない難敵だった。
43
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2019/10/11(金) 22:22:59
「シャァァァァァ―――――――――ッ!!」
唸り声と共に、ヒュドラの無数の頭部がマホロへと殺到する。
恐るべき速さの波状攻撃だ。――しかし、当たらない。
マホロはまるで踊るように軽やかな身のこなしで、必要最小限の挙動によってヒュドラの牙を躱してゆく。
「ひゅッ!」
たんッ! と強く地面を蹴って跳躍し、そのまま伸びきったヒュドラの頭部へ舞い降りる。
長い首を道の代わりにすると、そのままマホロはヒュドラの胴体へと駆け上がってゆく。
ヒュドラの弱点は首の根元に存在する中枢神経だ。それが無数の首を統御している。
弱点を攻撃されまいとヒュドラが無数の首でマホロを迎撃する。――だが、それも無駄な足掻きでしかない。
マホロは繰り出される幾多の首を跳躍して回避し、足場とすると、瞬く間に胴体へと接近した。
「……『限界突破(オーバードライブ)』――プレイ」
カッ!!
スペルカードが発動し、マホロの身体が金色に輝く。
「はあああああああ――――――――――ッ!!!」
気合一閃、マホロは右腕を大きく振りかぶるとヒュドラの胴体に渾身の一撃を繰り出した。
ガゴォンッ!! という硬い音が轟きわたり、小山のようなヒュドラの巨体がぐらり……と傾ぐ。
弱点の中枢神経に強烈な一撃を食らい、気絶したのだ。頭上に【STUN】の表示が出ている。
あとはもう、マホロの独壇場だ。――最初からそうだという説もあるが。
マホロは群がるドゥーム・リザードたちを片手間に蹴散らしながら、ゆっくりヒュドラの解体を始めた。
*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*
「お〜ま〜た〜せ〜! いや〜、いい汗かいた!」
ピンク色の法被を着た兵士たちが城門を開けると、マホロが朗らかに笑いながら入ってきた。
その後ろにはドゥーム・リザードとヒュドラの死体が山となっている。どうやら、こうして日々の糧を得ていたらしい。
「ヴァルハラ産ゴリラ……」
なゆたがボソリと呟く。マホロの愛称(?)のひとつである。
「じゃっ! さっそく料理するから待っててね! その間、あたしの動画でも観ててくれれば!
『暇だからヒュドラで蝶々結びできるか試してみた』とかオススメだよ〜!」
そんなことを言いながら、台車に乗せた大量のトカゲたちを城塞の中にある厨房へと運んでいく。
わたしも手伝います! と、なゆたも慌ててマホロの後を追う。
「ドゥーム・リザードで食べるのは足と尻尾だけ。胴体は食べられないよ。
でも、捨てないで取っといて。皮を剥ぐから――防具の素材に使えるからね」
「レア素材、リザードスキンね……。昔よく集めたっけ。じゃあ、こっちのヒュドラは?」
「ヒュドラは肉にも毒があるから、毒抜きしないと食べられないんだ。でも無毒化するとパサパサになっておいしくないの。
どっちかというと薬の素材。あとはヒュドラの毒腺から毒を抽出して、武器に付与したりとか」
「あー。『英雄殺しの毒(ヒュドラ・プワゾン)』かぁ〜。ポヨリンにも使えるかなぁ」
女子ふたりで厨房に立ち、何やら和気藹々とやっている。……ガールズトークにしては女子力がないが。
しばらくすると、食堂にふたりの作った料理が並んだ。
ドゥーム・リザードの肉を使った炒め物とカツ。それに王都から持ってきた食材で拵えたコンソメスープなどである。
「ささ、どうぞ召し上がれー! 特に自信作なのはこのトンカツ! いや、トカゲを使ってるからトカカツ? なのかな?」
マホロが小首をかしげる。
「う〜む。致命的に野菜が足りない……。もっとキングヒルから野菜を持ってくるべきだった……」
おたまを持ちながら、なゆたが眉を顰める。
激戦を予想し、ハイカロリーで高タンパクなものを中心に持ってきたのが裏目に出た。
食事を終えると、兵士が部屋の支度ができたと報告してくる。
客室というにはあまりに簡素な、使われていない部屋に毛布が置いてあるだけの様相だったが、戦時中だ。これでも上等だろう。
各々が用意された部屋に宿泊し、アコライト外郭での一日目は終わった。
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