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Ammo→Re!!のようです
1
:
名も無きAAのようです
:2015/02/08(日) 19:35:24 ID:F94asbco0
前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1369565073/
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配給
【Low Tech Boon】→ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html
【Boon Bunmaru】→ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻
574
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 22:39:54 ID:gHb2Rkgo0
憤りを露わにするデミタスの質問に答えたのは、ショボンではなくジョーンズだった。
彼は軽い口調で、さして重要でもない事のように話した。
(’e’)「あー、そのことか。
報告が遅いからどうしたのかと思って心配していたんだが、そうか、通じなかったか。
これは興味深いデータを手に入れられた。
協力に感謝だ」
(´・_ゝ・`)「馬鹿にしているのか!!」
勢いよく机を叩き、デミタスは体を乗り出しかねない勢いで怒声を浴びせる。
だがジョーンズはそれに対して眉一つ動かすこともなく、覚えの悪い学生に対してそうするように、淡々と語り始める。
(’e’)「まさか。 いいかね、君。
“レオン”はその存在こそ知れていたが、ずっと発見されていなかったんだ。
分かるかい? 名前とコンセプトだけの存在だったのだよ、今の今までね。
研究者は魔法使いじゃないし、私は想像だけで棺桶を語りたくない主義でね。
見つかった時にはどこだかの殺し屋が持っていて、研究資料も糞もない状態だったんだよ。
大方、価値も知らない修理屋が直したんだろうさ。
さて本題だ。 そんな代物の情報をどうやって知り得ろと?
その不確定な情報を君に与えたところで、有効活用できるか?
“全ての棺桶に対抗できるよう設計された”と曖昧な情報を言われても、信じられるか?
知っての通り、インビジブルは光学迷彩で肉眼とカメラに錯覚させる棺桶だ。
実験で使用した全ての棺桶の目を騙すことが出来た。
だからエーデルワイスにも通用しただろう?
いいかね、君の言っていることは――」
見かねたショボンは、両者の間に割って入る形で会話を切った。
(´・ω・`)「博士、落ち着いてください。
デミタス君、君の意見も分かるが、博士の言い分も分かってほしい。
誓って言うが、あの棺桶に関する情報はほとんどなかったんだ。
君も初戦で相手にインビジブルが効果を持たないと分かった段階で、こちらに報告してほしかったな。
とはいえ、今こうして互いを非難し合うのは生産的ではないだろう。
さ、改めて状況を確認するよ。
僕たちのターゲットを直接視認したのは?」
挙手したのはショボンを含めて四人。
川 ゚ -゚)
無表情のクール・オロラ・レッドウィング。
575
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 22:40:47 ID:gHb2Rkgo0
从'ー'从
(´・_ゝ・`)
ニヤニヤ笑いを浮かべるワタナベ・ビルケンシュトック、そして不満げな顔のデミタス。
三人以外に誰も手を挙げないのを確認してから、ショボンは頷いた。
(´・ω・`)「なるほど、僕を含めたこの四人だけか。
相手はデレシアと名乗る女だ。
あの馬鹿げた強さは、正直に言って脅威そのものだ。
博士、アバターの修理は可能かな?」
(’e’)「厳密に言うと、今すぐには無理だな。
コンセプト・シリーズにはもともと予備のパーツが無いんだ。
レオンに胸部を打ち抜かれて、腕を破壊されているからもう以前のような機敏な動きは無理だよ。
解れた糸を結んだら結び目が出来るような物さ。
それにここには設備がないから、満足いく修理は無理だね。
ま、それまでの間は別の機体を代用するしかないが、同じ設計思想のものがある。
本部に行けば、ちゃんとした後継機があるからそれを使おう」
(´・ω・`)「それはありがたい。
聞いての通り、デレシアは棺桶を何とも思わずに破壊する女だ。
これで少しは危険な奴であることが分かってくれると助かる」
lw´‐ _‐ノv「どんな棺桶を使うの?」
(´・ω・`)「いや、奴は棺桶を使わない。
対強化外骨格用の弾丸を使う生身の人間だ」
lw´‐ _‐ノv「……は?」
質問に対する答えに、シュール・ディンケラッカーは呆れた様な声を漏らした。
彼女の反応は至極当たり前の物だ。
軍用第三世代強化外骨格、棺桶と呼ばれるその兵器は人間程度では太刀打ちできるような物ではない。
例え対抗できる弾丸があっても、棺桶を前にして戦える人間など、普通はいない。
普通は恐怖に慄き、戦うという意欲を見せるはずはない。
獣を前にナイフを持ったところで人間が臆するのが自然の反応であるように、戦車にさえ対抗し得る強化外骨格を恐れないのは馬鹿か気狂いだけだ。
戦車に立ち向かう歩兵がいないのと同じように、棺桶に抵抗を試みる人間はいない。
そう考えるのが普通であり、常識だ。
(´・ω・`)「対峙すれば分かるさ。
だが、あの女を殺すことが僕たちの任務だ。
僕たちの夢を、あの女は何度も邪魔した。
生かしておく理由はない。
ところで、同志シナー」
576
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 22:42:30 ID:gHb2Rkgo0
名を呼ばれたシナー・クラークスは視線をショボンに向けたが、組んだ腕は解かなかった。
自分が何故名前を呼ばれたのか、彼は分かっている様子だった。
(´・ω・`)「トラギコを殺し損ねた時、何があったのかをもう一度話してくれるかな?」
( `ハ´)「……“番犬”ダニー・エクストプラズマンが来たアル」
細い目をより一層細め、シナーは忌々しげに語った。
仔細にこそ語りはしなかったが、彼の口調から決して快い思いをしたわけではないことは確実だ。
適度な沈黙と間こそが何よりも説得力を持つことを知るショボンは、あえて三秒間無言を保った。
彼は視線を周囲に向け、シナーの言葉が浸透するのを待ったのだ。
(´・ω・`)「そして僕は、“執行者”ショーン・コネリと戦う羽目になった。
この二人はジュスティアの円卓十二騎士、つまり、ジュスティアの最高戦力の二名だ。
分かるかい? ジュスティアがそれほどまでに危機感を覚えているんだよ。
だが、あいつらには手出しはしないほうがいい」
ジュスティアが世界に誇る十二名の最高戦力。
彼らの間に階級はなく、あるのは騎士の称号を持つというジュスティア人としての誇りだ。
同等の力を持つと認め合う彼らに上下の関係、即ち上官と部下の関係はない。
全員が最高戦力であり、全員がいてこその円卓十二騎士なのだ。
彼らと戦って生き延びることができただけで御の字だ。
果たして、次も無事でいられるかどうかの保証はない。
( ・∀・)「ほぅ、それはいい案ですね。
死人は少ない方がいいですから」
マドラス・モララーは頷きつつ、湯気の立つ紅茶を一口飲んだ。
キャソックに身を包む彼はいかにも聖職者らしい格好をしているが、それはあくまでも表向きの姿なだけであって、彼は信仰を捨てた人間だった。
彼の言葉は優しげな人間のそれだが、彼は自ら手を下さないだけであって、死によって何かが救われるのであれば大賛成という考えを持っている。
ニヤニヤ笑いを浮かべるモララーの隣りにいる男は、対象的な表情をしていた。
隣で眉を顰めるのは、かつてショボンと同じ職場で正義のために働いていたジョルジュ・マグナーニだ。
_
( ゚∀゚)「円卓十二騎士が出てきたのはいい傾向とは言えねぇな」
ジュスティアのことをよく知る彼は、当然、円卓十二騎士のことを知っていた。
かつてジュスティアで警察官としてその身を正義に捧げた男は、ジュスティアの深部に触れることが多々あり、円卓十二騎士が実在する実力集団であることを理解していた。
イルトリアに対抗するために生み出されたとされる十二人の騎士。
その実力は、間違いなくジュスティア内で最強と言っても過言ではない。
ショボンも騎士たちの実力はよく知っているが、考え方はジョルジュとは逆だった。
(´・ω・`)「いや、逆だよ。
僕らでも最高戦力を相手に生き延びられることが証明されたんだ、喜ばしいことだ。
僕が手出しをしないほうがいいと言ったのは、今は我々の存在を公にしたくないからさ。
世界中にいる同志は来る日に備え、静かに歩みを進めなければならないからね。
ここでジュスティアと本気でやり合うのは、理に適っているとは言えない」
577
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 22:44:23 ID:gHb2Rkgo0
( `ハ´)「あいつら、私達を狙っているアルよ。
今のうちに潰しておいたほうがいい気がするアル」
(´・ω・`)「そりゃあ潰した方がいいだろうけど、今はその時じゃない。
撃退するならまだしも、潰すとなったらかなり面倒になる。
ま、今は精々テロリストとしてでも誤解させておこうじゃないか。
今はデレシアを殺して、ついでにトラギコとアサピー・ポストマンも殺すことだけを考えればいいさ」
lw´‐ _‐ノv「気になってたんだけど、どうしてその二人を殺す必要があるの?
今じゃなくてもいいでしょ」
ただの刑事とただの新聞記者。
肩書だけを見れば、いつでも殺せそうな存在だ。
事実、ワタナベの邪魔さえなければ、シュールはトラギコ・マウンテンライトを殺せた。
その報告を受けていたショボンだったが、今それを蒸し返すことが意味のないことはよく分かっていた。
犯罪者たちを仲間に引き入れた時点で、このような醜い揉め事が起こることは時間の問題だったのだ。
警察官をやっていたショボンは、そういったリスクを承知した上で彼らの脱獄を手助けし、同じ夢を見る同志として扱っている。
彼女にも自制心があることは、今この場で改めてワタナベを批難することをしなかったことからも明らかである。
全体の利益を考え、シュールは怒りを押さえ込んで質問をしたのだ。
そしてその質問は、的を射ていた。
(´・ω・`)「ところが、この二人はちょっと厄介な動きをしていてね。
ひょっとしたら、僕達のことを嗅ぎ回っているんじゃないかと思ってね。
それだと厄介だから、今のうちに死んでもらうんだ」
早い話がリスクマネジメントだ。
可能性は早めに摘んでおいたほうが、後に必ず役に立つ。
もしそれがあり得なかったとしても、後の憂いになる可能性が微量でもあれば今潰すべきだ。
後悔先に立たず、それがリスクマネジメントの基本である。
トラギコがマスコミと手を組んで事件の真相究明に乗り出すということは、十分に考えられる。
彼は事件をかき乱し、力で解決させる人間なのだ。
彼のせいで多くの警官が翻弄され、当初とは異なる形で事件を収束させられたことに恨みを持つ人間は少なくない。
ジュスティア人らしくない粗暴な男。
だからこそ、動きが読めないのだ。
不確定要素の塊は取り除くべきだ。
(´・ω・`)「最小の死人で、最大の成果を。
僕らはいつもそうしてきたんだ」
何か言いたげなジョルジュに向けて、ショボンは垂れた持ち上げながら言った。
(´・ω・`)「後輩を殺すことは気が咎めるかな?」
_
( ゚∀゚)「黙れよ、眉毛野郎。
俺がどうしてあの馬鹿を殺すことに躊躇う必要があるってんだ」
578
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 22:46:24 ID:gHb2Rkgo0
(´・ω・`)「ほら、君は彼のことをかなり高く評価していたし、可愛がっていたからね」
一睨し、ジョルジュはショボンの言葉に答えることはなかった。
彼の言葉は事実だった。
ジョルジュは己の後任としてトラギコを育て、自分の分身以上の存在を生み出そうとした。
彼には見込みがあり、その力は警察という権力の中でも決して霞むことのない眩いばかりの輝きそのものだ。
正義という言葉を捨てた時、トラギコはこれまで語り継がれてきた正義のなんたるかを理解したことだろう。
CAL21号事件は、彼を変えた。
甘い考えの全てを捨て去り、彼を一匹の虎へと駆り立てた。
その変化の瞬間を、ショボンも目撃していた。
あれは今思い出しても、彼という人間の核が表に出た瞬間だと断言できる。
誰よりも正しく在ろうとし、誰よりも人々の幸せを願う警察官としての信念。
彼は否定するだろうが、それは紛れもなく正義そのものだ。
ショボンはできればトラギコを仲間に引き入れたい気持ちがあったが、彼はおそらく、ショボンたちの行為を理解できないだろう。
彼はまだ若い。
人生経験ではなく、生き方として真っ直ぐすぎるのだ。
(´・ω・`)「さ、話を戻そう。
円卓十二騎士が出てきて、僕らは少し動き方を考えなければならない状況にある。
ここまではいいかな?」
無言を同意と受け止め、ショボンは続ける。
(´・ω・`)「今日、勝負を仕掛けようと思う。
理由はいくつかあるが、一番大きいことがある。
デレシアのグループが別れている、という確かな情報があるんだ」
_
( ゚∀゚)「……続けろ」
(´・ω・`)「デレシアは“レオン”と呼ばれた殺し屋――同志クールの娘――と、糞耳付きと行動を共にしている。
ところが、だ。
昨日同志クールたちが見た時、どうにも奇妙な様子だったらしい。
説明をしてもらってもいいかな?」
川 ゚ ?゚)「おそらくだが、あいつらは今何らかの理由で別行動をしている。
デレシアの出てくるタイミングも、ヒートの行動もそれを裏付けている。
私の勘でしかないだろうが、“目”の報告とも一致している」
疑問を投げかける人間はいなかったが、ショボンとクールを除く全員が同じ疑問を頭に浮かべた。
それを代表して口にしたのは、ニヤニヤ笑いを保ったままのモララーだった。
( ・∀・)「ちょっと待ちましょう。
同志ショボン、今娘とか言いませんでしたか?」
(´・ω・`)「あぁ、言ったよ。
娘、だ」
579
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 22:49:54 ID:gHb2Rkgo0
从'ー'从「レオンって言ったら、かなりの有名人よぉ。
特に私達の界隈ではねぇ」
_
( ゚∀゚)「俺も知ってる。
ヴィンスで大暴れした殺し屋だろ。
あの辺りを根城にしていたマフィアをいくつも潰して、突然姿を消した奴だ。
確かお前、娘は殺したとか言ってなかったか?」
(’e’)「それは私も気になるね。
どうやって“レオン”を手に入れたんだ?」
片目を僅かに吊り下げ、クールは次々と並べ立てられた質問に対して不快さを露わにした。
川 ゚ -゚)「あぁ、殺したはずだったんだが生きていたんだ。
どうにも糞耳付きの遺伝子というのはしぶとく出来ているらしい」
(’e’)「棺桶の入手経路は?」
川 ゚ -゚)「知らん。 そんなことはどうでもいい。
私が気に入らないのは、耳付きの遺伝子を持つ人間が生きているという事実だ。
今すぐにでも縊り殺してやりたい気分なんだ。
身から出た糞は自分で処理しなければならない」
クールの声色は変わらなかったが、彼女が無意識の内に振り下ろした拳が木製の机を強打した瞬間、全員が無言になった。
机上にあった物は軒並み2インチ以上飛翔し、再び机に叩きつけられることとなった。
(´・ω・`)「はいはい、細かな自己紹介はいずれまたね。
そんなことより、これから先の話をしてもいいかな?
いいよね?
じゃあ、続けよう」
咳払いの代わりに、ショボンは全員の目を見た。
これは彼の得意な手段で、他人の注意を惹く上で非常に効果があった。
十分に効果が染み渡ったことを確認してから、続けて口を開いた。
(´・ω・`)「兎にも角にも、デレシアを殺す。
これが最優先だ。
そのためには糞耳付きを殺すことも、レオンを手に入れる事も後回しにしてもいい。
だが、せっかくあの二人が一緒にいないのであれば好都合だ。
分断しているという事は、戦力が散っているという事。
ここが狙い目だ。
クール、ワタナベと組んでレオンを殺すんだ。
モララー、君も彼女達に同行してもらおう」
(;・∀・)「えぇっ…… 私が?
私はあんまり人殺しは好きじゃないんですけどねぇ」
从'ー'从「殺すのは私達がやるからぁ、あんたは犯せばいいわぁ」
580
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 22:51:52 ID:gHb2Rkgo0
( ・∀・)「あ、それなら。
ですが、娘さんを犯されてもいいんですか?」
川 ゚ -゚)「好きにしろ。 穴の開いたただの肉だ」
モララーはそれ以上言葉を紡がなかったが、彼の股間が反応したことをショボンは見逃さなかった。
彼の悪癖は治し用がない病巣のような物で、組織ではそれを黙認することになっている。
ジョルジュを除いて。
_
( ゚∀゚)「殺すだけにしておけ。 でねぇと、俺がお前を去勢してやるぞ」
(´・ω・`)「ま、ほどほどにするんだね。
相手は名の知れた殺し屋、棺桶同士での戦闘は完全に実力勝負になる。
上手い事立ち回ってくれよ」
( ・∀・)「まぁ、殺さなくていいのなら私はそれでいいんですがね」
(´・ω・`)「じゃあ次だ。
ジョルジュ、博士はデレシアを側面から叩いてほしい。
いわば伏兵だ」
(’e’)「君は馬鹿かね? 何で私が戦闘の人数にカウントされているんだ。
頭髪が少ないと脳が過冷却されて思考がおかしくなるのか?」
(´・ω・`)「だからこそ、ですよ。
博士がいれば誰も戦闘をするとは思わない」
_
( ゚∀゚)「……俺は構わねぇが、好きにさせてもらうぞ」
(’e’)「はぁ、脳筋共はこれだから。
ま、いいだろう。
デレシアが何か棺桶を使っているのだとしたら、丁度いい研究材料になるだろう」
ジョルジュはその言葉を鼻で嗤い、懐に下がった銃の重みを確かめるようにそこに手を伸ばした。
スミスアンドウェッソン、ジョルジュの愛銃がそこに収められている。
(´・ω・`)「シナー、君はトラギコかアサピーのどちらかを狙って消してくれ。
“目”も君と同じ動きをすることになっている」
( `ハ´)「円卓十二騎士はどうするアル?」
(´・ω・`)「放っておけばいい。
遭遇したら、任務を優先してくれ。
有り得ないとは思うが、デレシアを騎士たちが守ろうとしたら、騎士を排除すればいい。
だが無理はせず、必要なら撤収してくれ。
デレシア以外の相手は今回どうでもいいと考えていい。
いいか、何度も言うがデレシアを殺せ。
あの女は僕たちの敵だ。
大敵は最優先で排除しなきゃいけない」
581
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 22:54:20 ID:gHb2Rkgo0
改めて、その場の空気をショボンの一言が引き締めた。
誰よりも先に殺すべきは碧眼の旅人デレシア。
オアシズで対峙したショボンは、その危険性をよく分かっている。
あれは残しておくべきではない。
これまでに出会ってきたどの犯罪者よりも危険な存在であり、ショボン達の夢を阻む障害だ。
西川・ツンディエレ・ホライゾンから報告を受け、改めてその危険性を理解した。
刃の切っ先を恐れるように。
獣の歯牙を恐れるように。
世界の天敵。
ショボンが最終的にデレシアに対して下した評価はそれだった。
(´・ω・`)「そして残りのメンバー。
デレシアを正面から殺しに行くのは僕、シュール、デミタスだ」
_
( ゚∀゚)「選出の根拠は?」
(´・ω・`)「“インビジブル”の能力は“レオン”には通じないが、生身の人間には通じる。
そして同じく、“レ・ミゼラブル”の能力も人間には効果が大いにある。
音と視界、この二つを支配できる棺桶があればデレシアにも対抗できるさ。
それに、僕の“ダイ・ハード”も防御力は高い方だから、対強化外骨格の弾にもある程度は耐えられる。
そこにジョルジュ、君が伏兵として構えていれば完璧だ」
_
( ゚∀゚)「どうだかな」
短くそう言い残して、ジョルジュはそれ以降発言をすることはなかった。
まるで、やれるものならやってみろ、と言わんばかりの態度だ。
彼のそのような態度は珍しく、彼を知る者は少しばかり驚いていた。
(´・_ゝ・`)「ま、生身の人間相手なら大丈夫だろうな。
博士、大丈夫だろうな?
本 当 に 大 丈 夫 な ん だ ろ う な」
(’e’)「無論だとも。 肉眼では捉えられない不可視の棺桶、それがインビジブルだ」
lw´‐ _‐ノv「私のも平気でしょ?」
(’e’)「当然だとも。 聴覚が生きている限り相手に影響を及ぼす棺桶、それがレ・ミゼラブルだ」
強化外骨格研究の第一人者であるジョーンズの言葉は、この世界で棺桶に関わる人間であれば誰もが聞き入れるだけの説得力を持つ。
彼が発掘・修復した棺桶の数を考えれば、それは当然。
今の社会に流通しているほぼ全ての棺桶に精通する人間の言葉は、即ち、誰よりも知識のある人間の言葉なのだ。
(´・ω・`)「他の人間と戦っている時にもしデレシアと遭遇したら、最優先で狙うんだ。
いいね?」
( `ハ´)「……それで、デレシア達の居場所は分かっているアルか?」
582
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 22:58:27 ID:gHb2Rkgo0
(´・ω・`)「僕たちの“目”に探させたんだけど、全然見つからなくてね。
だけどレオンの居場所なら分かっている」
( `ハ´)「居場所が分からないのにどうやってデレシアと戦えと言うアルか。
オアシズで頭おかしくなったか?」
(´・ω・`)「おびき出せばいい。
やり方はとてもシンプルだ。
レオンを追えば自ずと出てくる。
それはもう証明された。 あの女は情に厚いらしい。
つまり、市街地のどこかに潜んでいるという事だ。
レオンを襲う場所とタイミングを僕たちで合わせておけば、狙った場所にデレシアを呼び出すことが出来る。
仮に失敗してもレオンを奪える」
从'ー'从「仔犬ちゃんはどうするのぉ?」
その言葉を聞いた瞬間、ショボンの形相が一変した。
(´・ω・`)「……寸刻みにして殺せ。
炙って殺せ。
糞尿の山で溺死させろ。
生きていることを後悔させて殺せ。
殺した後は晒せ。
肉屋に並ぶくず肉のように晒せ。
目玉と脳味噌をくりぬき、そこに糞を詰めて晒せ。
生物であることを忘れさせろ」
淡々と並べられた言葉の全てに、明白な殺意が籠っていた。
慈悲などというものは当然ない。
(´・ω・`)「さ、もうこんなもんでいいだろう。
作戦開始は正午丁度。
“目”が最初に動くことになっているから、それに合わせるように。
いいね、それまでに所定の位置に着いておくんだ」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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///: : i: : : :i i │∠ : イ// ミ=-彡 ; /: : :八: :\
/{:八: : :i/: :八: ∨|八| |/ :j / /: : :/ ハ : \
‥…━━ August 11th AM11:44 ━━…‥
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デレシアは潮風を楽しんでいた。
海沿いに旅を続け、その香りは新鮮さを失いつつあるが、決して飽きることはない。
かつては死の象徴と化していた海も、今では人類誕生前の青々しさを取り戻し、コバルトブルーの色が目に眩しい。
母なる海とはよく言ったものだ。
583
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:03:03 ID:gHb2Rkgo0
熱から逃れるために海に逃げた生き物の死骸で溢れ、腐臭に満ち、海岸線にはガスで膨れ上がった肉塊が打ち上げられていたあの光景。
それは死その物の光景だった。
やがて死骸は風化し、骨となり、骨は白い砂浜の一部となった。
海を汚していた死体の山は豊かな海の養分となり、多くの生物を支える基盤となった。
成長の過程を見守る母の心地で世界を眺めるデレシアは、街に溢れていたはずの活気が消えていることが気になっていた。
ティンカーベルは他から孤立した形の集落に近い物があり、それ故に、内々で盛り上がる日常を何よりも重要視していた。
本来朝市も島民だけで楽しんでいたものが観光客にも知れ渡っただけであり、その活気を本当に作り出しているのは島民だけだ。
その在り方は昔から変わらないが、ジュスティアと協力し合うようになってからは少し変わってきたのかもしれない。
街の治安が自分達だけでは守り切れないと理解した、デイジー紛争。
この島を舞台にジュスティア軍とイルトリア軍が争ったとされる紛争の真実は、伝えられている物とはかなり異なる。
実際はジュスティア軍と一人の狙撃手が争ったのであり、争うように仕向けられた戦いだった。
その背景にいたのはブーンの恩師であり、デレシアの友人であるペニサス・ノースフェイス。
彼女は単独でジュスティア軍に戦いを挑み、無事に生還を果たした。
だが真実に気付いた人間がいた。
その人間達はこれを決して表沙汰にせず、歴史を偽る事で平穏を作り出した。
平穏の裏で調べ、そして分かったのはその争いを仕組んだ組織の巨大さだった。
世界最大の生物が茸であるように、その組織は地中深く世界中に根を張り巡らせ、実態が分からない程のものだったのだ。
それはティンバーランドと呼ばれる巨大な秘密結社であり、共同体であり、思念体だった。
三度壊滅させ、そして、デレシアの前に四度目の姿を見せた。
雑草の如き執念で立ちあがり、菌糸のように図太く育とうとする大樹。
ζ(゚、゚*ζ「……」
面白くもない話だ。
何度も生まれてくる存在を踏み潰し、摘み取るのは面倒極まりない。
とは言え、前回はやや早めに芽を摘み取った事がいけなかったのだろう。
十分に成熟してから叩き潰し、その病巣を焼却処分しなければ意味がない。
デレシアはこれから先の旅を円滑に進めるためには、この島での出来事をどう処理するべきかを決めていた。
相手の目的はヒートの棺桶と、デレシアの命。
ブーンはそれらを手に入れるための便利な道具でしかない。
だが事態は一変し、彼らの目的は一時的に退けられた。
それで引き下がるような性格であれば、ティンバーランドは今もあるはずはない。
連中は必ず、今日中に行動を起こしてくる。
それをより確実なものとするために必要なのは、デレシアやヒートがその姿を相手に見せる事だ。
隠れていては仕方がないという判断を基に、デレシアはトラギコを使う事で作戦を成立させた。
あの刑事には大樹の根深さを調べてもらう役割を担わせ、更にはジュスティアの動きをけん制してもらわなければならない。
今頃はどうにかして狙撃手の写真を撮影しようと躍起になっている事だろう。
珍しく骨のある報道者、アサピー・ポストマンと言う人間と協力し合えばそれも叶うに違いない。
かつて世界を賑わせていたマスコミの力は大分衰えているが、その分、報道という行為に真剣に取り組む人間が増えた気がする。
584
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:04:50 ID:gHb2Rkgo0
世界は今も変わりつつある。
こうして、昔とほとんど変わらず閉鎖的な街を見下ろしていても、その変化は足の下から感じ取れる。
少しずつ変わっている。
オアシズの停泊地として島を提供し、セカンドロックを作り、ジュスティアと協力し合っている姿が正にそれを証明している。
島民の意識も変わってくるだろう。
変化を拒み続けることは不可能であると分かってきた人間が増えている。
いずれこの島はジュスティアを中継地として、閉鎖的な考えを失っていくだろう。
そうして、歴史が変わっていく。
それが自然の流れ。
変化を止めることなど、誰にも出来ない。
人間は人間であるが故に、常に変動と進化を続けていく。
その果てが世界に終焉を導いた第三次世界大戦の結果だとしても、それもまた、人間の在り方なのだろう。
それら全てを含めて、デレシアは世界が愛おしかった。
ティンバーランドは人間の進化を否定する存在であり、デレシアにとっては現存する唯一の仇敵だった。
ζ(゚、゚*ζ「全く、しつこいのは嫌ね……」
その独り言を聞く人間は、彼女の近くには誰もいない。
デレシアは一人、状況が整うのを待っていた。
傍観でも静観でもなく、自らが用意した手段と相手の手段がどのように動くのか、それを見守っているのだ。
ζ(゚、゚*ζ「ふぅ……」
珍しく溜息を吐き、デレシアは次の瞬間には笑顔を浮かべていた。
決して悲観はしない。
確かに旅を邪魔され、こちらが相手の欲する物を潰そうとした矢先に先手を打たれたのは腹立たしい話だ。
しかしながら、そのおかげで見ることの出来る景色がある。
ζ(゚ー゚*ζ「……さぁて、見せてもらおうかしら、男の子。
貴方の強さ、貴方の意地を」
そして。
正午を告げる鐘の音が鳴り響き、虎が奔走する――
585
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:10:21 ID:gHb2Rkgo0
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‥…━━ August 11th AM11:30 ━━…‥
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鐘が鳴る三十分前に仮眠を終え、武器の手入れと同じぐらい慎重に自らの体の手入れを行ったヒートは簡単な食事を済ませてから、服に袖を通した。
殺し屋として生きていた時と同じ、黒のワイシャツに上下黒のスーツ。
喪服を着る必要性を省き、常に自分の葬儀をあげるという気持ちで黒一色に統一した姿は、死神を思わせる。
赤茶色の髪を後ろで束ね、重いコンテナを背負う。
銃も持った。
棺桶も持った。
覚悟は済ませた。
後は、見つけて殺すだけだ。
黒いブーツの紐を締め上げ、ヒートは街へと出て行った。
鋭い眼光はそれだけで人を殺せるほど鋭利で、殺意に燃えた蒼い炎を宿している。
腕時計が示す時間は午前十一時四十分。
ヒートは徐々に、だが確実に人の目が届きにくい場所を選んで歩いていく。
しかし、厳戒態勢の続く状況下であるため、出歩く人はほとんどいない。
市場を賑わせる売り子の声すら聞こえない程だ。
これでいい。
日中の殺しは目撃者が障害となるが、今はその心配をする必要がない。
鐘楼の死角となる建物の傍で立ち止まり、ヒートは振り返った。
時刻は間もなく午後十二時になろうとしている。
鐘の音が全ての攻撃に関連していることから、相手がこの時間帯を狙ってくることをヒートは予想していた。
そして何より、ねっとりと絡みつく視線は昨日からずっと感じていた。
ノパ⊿゚)「……来いよ、いるんだろ?」
586
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:11:14 ID:gHb2Rkgo0
影から生まれるようにして、一人の女が姿を現す。
野に咲く花を思わせる華奢な姿をしているが、その実、猛毒を持つ狂気の女。
ワタナベだ。
手に持つのは小型のスーツケースのような物。
棺桶のコンテナだろう。
となると、以前に見たプレイグロードではない。
Aクラスの棺桶ならば、力でねじ伏せられる。
両者の距離は約三百フィート。
从'ー'从「うふふっ、やっぱりわかっちゃうんだぁ。
流石ねぇ。
一度、レオンがどんなものなのか、見たかったのよねぇ」
ノパ⊿゚)「そうかよ!」
問答の途中、ヒートが動いた。
懐に右手を伸ばし、そこからM93Rを抜き放つ。
すでに撃鉄は起こされ、魔法のように安全装置が解除されたそれは姿を見せた途端に人を殺し得る得物と化す。
銃腔はワタナベを捉え、銃爪は当然のように引き絞られた。
それをコンテナで防ぐ者が在った。
ただのコンテナではなく、Bクラスの強化外骨格を収容、装着するためのコンテナだ。
その堅牢さは装甲車に匹敵するものがあり、九ミリの弾では例え対強化外骨格用の物だとしても貫通は無理だ。
川 ゚ -゚)「さて、どうやって殺したものかな。
この粗暴な女は」
現れたのはクール・オロラ・レッドウィング。
ヒートにとっては世界中で今最も殺したい人間が目の前に現れ、願ってもない幸運に恵まれた形になる。
ワタナベなど、どうでもいい。
今は、母だった女を殺すことが最優先。
冷静さを失うことなく殺意の純度を高め、ヒートは鋭く目を細めた。
牽制の弾幕を張りつつ、ヒートは怒りを込めた声で起動コードを口にする。
ノパ⊿゚)『あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ!』
从'ー'从『この手では最愛を抱く事さえ叶わない』
ほぼ同時に、ワタナベもコードを入力した。
装着速度はワタナベの方が早いだろう。
小型であればあるほど、装着速度が短くなるのは常識だ。
だが装着完了までの間、ヒートの体はコンテナという固い壁に守られることとなる。
装着を終えたヒートの前に現れたのは、豹のように肉薄するワタナベだった。
ノハ<、:::|::,》『甘いんだよ!!』
从'ー'从「あなたもねぇ!!」
587
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:12:26 ID:gHb2Rkgo0
十指に鋭利な刃を備えたワタナベが、その刃を滑空する燕のように空に向けて閃かせた。
耳障りな甲高い音を聞いたヒートは、咄嗟に脚部のローラーを起動させて後退し、その一撃を避ける。
紙一重のところでその攻撃はヒートの眼前を通り過ぎ、虚空を切り裂いただけで済んだ。
ヒートは背中に冷たいものを感じた。
レオンの装甲は薄い。
銃弾にさえ気を遣うのに、高周波発生装置の備わった武器の攻撃など、受ける訳にはいかない。
ましてや、左腕を破壊されれば防御と言う概念そのものを失うと言ってもいい。
十分に距離を取り、二人を警戒する。
ワタナベに守られるようにして位置を変えたクールが、無表情のまま口を開く。
川 ゚ -゚)『……そして望むは、傷つき倒れたこの名も無き躰が、国家に繁栄をもたらさん事を』
余裕を持った距離で、クールがジェーン・ドゥの起動コードを入力した。
どうやら、あの遠隔操作の棺桶は使えないらしい。
コンセプト・シリーズがあそこまでの痛手を受ければ、一日で修復をすることは無理だろう。
コンテナに体が取り込まれ、自立したコンテナ内で装着が行われる。
从'ー'从「ちぇっ」
ワタナベはクールのコンテナを楯にするようにして後ろに下がり、ヒートから距離を開けた。
賢い選択だ。
至近距離での戦闘は確かに彼女武器に分があるようが、機動力ではこちらが負けることはない。
下手に距離を詰めれば自分からの有利性を殺しかねない事を理解している。
ただの殺人狂ではない。
快楽を知り、理性を持った殺人装置。
冷静な殺人者は自分が死なないようにして、時間をかけてでも相手を殺す方法を考えるのが好きな生き物だ。
味方であっても楯として使えると判断すれば迷わずに利用する姿勢は、彼女が場馴れしている証。
むやみやたらに突っ込んでこないのは、知性が高いことを意味していた。
ノハ<、:::|::,》『厄介な女だ』
幸いなのは、ワタナベとヒートのどちらも近距離でしか戦闘が出来ない物だという事だ。
速度を生かした接近戦なら、ヒートに分がある。
拮抗状態をいつまでも続けるわけにはいかない。
浅く短く息を吐き、ヒートは腰を落とす。
冷静に対処する。
チェスの駒を動かすように、最善の一手を選ぶだけでいい。
狙いは一人だけなのだ――
588
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:15:11 ID:gHb2Rkgo0
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そして、鐘の音が鳴り響く。
この瞬間を合図とし、ヒートが動く。
眼前のコンテナが開き、中からジェーン・ドゥの姿が現れる。
ノハ<、:::|::,》『るぁっ!!』
選んだ行動は疾駆。
ヒートの体は弾丸のような速度で一気にジェーン・ドゥに接近し、悪魔じみた左手が装着を終えたばかりの頭を捕えた。
青白く輝く高圧電流が一気に放たれ、何一つ出来ないままジェーン・ドゥは沈黙した。
二対一という数字上の不利を真っ先に処理するためには、弱い方を消すのが一番だ。
ジェーン・ドゥは全身を覆う強化外骨格用。
つまり、レオンの電撃で動きを確実に奪い取れるのはクールの方。
動きを止めさえすれば、後でいくらでも殺せる。
右腕の杭打機でコンテナごと串刺しに出来るが、そうしたら致命的な隙が生まれ、ワタナベに殺される。
生身の人間では、バッテリーを破壊された棺桶から逃げ出す術を持たない。
一度こうなってしまえば、煮るなり焼くなり好きに出来る。
安心して殺すためにも、まずはクールの動きを止めなければならなかった。
廃莢されたバッテリーが宙を舞う間、次の標的にヒートの視線は向けられていた。
これでジェーン・ドゥは無視していい。
空のコンテナを蹴り飛ばし、視線を前に向ける。
ノハ<、:::|::,》『次っ!!』
从'ー'从「わぁお、はりきってるわねぇ」
589
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:16:59 ID:gHb2Rkgo0
ワタナベの棺桶は両腕だけ。
ならば移動速度は人間並み。
警戒しなければならないのは、十本の凶器だけだ。
あれがある限り、ヒートは至近距離での優位性を確実な物に出来ない。
それでも、有利なのはこちらだ――
( ・∀・)「ほうほう、これはまた。
勇ましい女性は好ましいですね。
どうれ、ここは私も混ぜてもらいましょう」
――新たな敵戦力がヒートの背後から現れるまでは。
( ・∀・)『食えるときは無礼な奴を食うんだ。 野放しの無礼な奴を』
聞いたことの無い起動コード。
ワタナベのそれと同じく、コンセプト・シリーズに相違ない。
両手、両足を覆う強化外骨格はいくつも見てきた。
だが――
( ・曲・)
――口元だけを覆う強化外骨格など、見たことも聞いたこともない。
( ・曲・)『握り拳では握手は出来ない』
そして、強化外骨格を同時に使う人間も見たことがなかった。
腕に装着された強化外骨格はマハトマ。
二つの棺桶を身につけた男は、よく見ればキャソックに身を包む神父の様にも見える。
予想はしていたが、突如として現れた増援とその異様さに、ヒートは驚きを禁じ得なかった。
どんな時でも油断はしたつもりはない。
しかし、異様な物ほど警戒するのは生物として自然な反応だ。
口元を覆う強化外骨格の狙いは、実際にその力を見ない限りは分からない。
ノハ<、:::|::,》『……だけどな、そんなもんが!!』
驚愕は一瞬。
決断も一瞬。
ヒートはキャソックの男は無視し、ワタナベの撃退を続行した。
男は脚部に装甲を纏わなかったことから、移動速度の変化はなく、ヒートの速さに追いつくことは不可能と判断したのだ。
ワタナベは顔色一つ変えずに両手の爪を体の前で交差させ、少しでもヒートの速度を殺そうと接近してきた。
大した度胸だ。
逃げ出すことも出来ただろうに、それを刃向ってくるとは。
从'ー'从「甘いわねぇ」
ノハ<、:::|::,》『手前がっ!!』
590
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:18:37 ID:gHb2Rkgo0
高周波振動に対抗できる唯一の左手で、ヒートはワタナベの両手を塞ぎにかかる。
耳障りな金属音が周囲の家屋にはめられたガラスを震わせた。
ヒートは鉤爪を押し込み、放電を行った。
从'ー'从「それはもう見たわぁ」
雷に撃たれるより速く、ワタナベはしなやかな体を生かして窮地を脱した。
青白い光が一瞬だけヒートの左手から放たれ、空バッテリーが廃莢された。
( ・曲・)『はいはい、油断大敵ってねー』
マハトマは戦闘に特化した棺桶ではない。
作業補助を目的として作られた物であるが、腕力の増強という点で言えば一般的な棺桶と遜色はない。
その拳を右腕の杭打機で防御できたのは、相手が素人だったからだ。
戦いの最中、不意打ちを仕掛けるのに声をかけてしまっては元も子もない上に、ヒートは必ずや邪魔が入ると考えていた。
また、口を覆う棺桶が中長距離の戦闘を行わないことは分かっていた。
もしもそれが出来るようであれば装着した時から攻撃を仕掛ければいいし、何より、ヒートの前に姿を晒さずに攻撃が出来た。
それをしなかったのは慢心、あるいは攻撃が出来ないため、せめてヒートの意表を突こうと考えた浅はかな思考の産物だろう。
ノハ<、:::|::,》『邪魔するんじゃねぇ!!』
( ・曲・)『ちぇっ』
得意の後ろ回し蹴りを放つも、男は絶妙な体捌きでそれを回避。
( ・曲・)『復讐なんて何も生みませんよ、お嬢さん』
ノハ<、:::|::,》『復讐を否定する奴にあたしは止められねぇ!!』
一気に注意を二方向に注がなければならなくなったことに、ヒートは内心で毒づいた。
厄介な女を処理しなければならないのに、面倒な男がもう一人現れたのは決して好ましくない状況だ。
その場を脱し、ヒートは二人から十分な距離を取った。
( ・曲・)『ふぅむ』
从'ー'从「どうするの、神父さん?」
( ・曲・)『どうするかって? 予定に変更はありませんよ。
むしろあの強気な性格、実にいい。
死ぬまでそうでいてもらいたいものですね』
ノハ<、:::|::,》『……』
出方を窺い、ヒートは考えた。
ワタナベの棺桶は近距離での戦闘に特化しているが、高周波装置以外に特異な機能はなさそうだ。
となれば、動き方は限られてくる。
その一方で、戦闘方法がまるで読めない男は油断ならない動きをすることが分かり、排除の優先度が高い。
591
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:19:50 ID:gHb2Rkgo0
( ・曲・)『逃げるのも結構ですが、やはり抵抗してこそ犯し甲斐があるというもの。
さ、せいぜいあがいてください』
ノハ<、:::|::,》『言われなくたってやってやるよ、変態野郎が』
その時、ヒートの背後で起きるはずのない事態が起きていた。
だが鐘の音が。
島全体に鳴り響く鐘の音が、その事態を彼女に悟らせなかった。
〔Ⅱ゚[::|::]゚〕
まるで脱皮する昆虫の様に、その背中から女の手が生えた。
装甲を内部から無理やり破って腕だけが現れるその姿を、ヒートが見ることはない。
彼女の視線と注意は、“このために立ち回る”二人に注がれているのだから。
静かに這い出たクールの手には高周波ナイフが握り締められ、それは音もなくバッテリーを破壊出来る必殺の得物だった。
その高周波ナイフは彼女が事前に装備していたもので、それこそが装甲を内側から切り裂いた物の正体だった。
だが、全身に密着している装甲内でそれを使うためには関節を外すだけでなく、人体構造を無視した動きをする必要がある。
痛みを伴う所ではなく、文字通り肉を断ち、神経をいくつも引き千切る事でのみ実現できる動き。
不可能と思われるその動きを、だがしかし、クールは声一つ漏らさずに実行することが出来た。
狙いは無防備な背中のバッテリー。
電源の供給を断つことでクールの動きを封じたように、レオンもまたバッテリーを破壊されることで動きを止める。
そうなれば、Aクラスながらも全身を覆う彼女の棺桶は拘束具と化す。
だがヒートは気付かない。
――そして、ナイフが音もなく投擲された。
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ハ ト、__'__ イ /、
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ショボン・パドローネは通信機から聞こえてくる会話に耳を傾け、デレシアが現れる瞬間を今か今かと待ち望んでいた。
あの女が現れれば、こちらは戦力の全てを差し向けて潰すことが出来る。
ワタナベもモララーもまだ戦いの最中だが、もう間もなく捨て駒に偽装したクールがヒートに引導を渡すことだろう。
だがデレシアは友軍の窮地には必ず現れ、事態を力で収束させる。
味方を大切にするというその性質を利用すれば、おびき出すことは容易だ。
出てきたところで“目”が狙いをつけ、シュールとデミタスが人間の五感の欠陥を利用し、ジョルジュとショボンが直接叩く。
デレシア一人のためにこの島で騒動を起こしたのだから、彼女一人のために大掛かりな餌場を作ることぐらい造作もない。
全ては夢のため。
592
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:21:28 ID:gHb2Rkgo0
世界が黄金の大樹となるために。
そのためならば街や村がいくら消えようとも構わない。
とうの昔にショボンは覚悟を決めていた。
(;`ハ´)『……う、動きがあったアルよ』
その一言が通信機から聞こえた時、ショボンは三つの事を考えた。
どのような動きなのか。
何故、前線にいないシナーがそれを報告したのか。
何故、狼狽しているのか。
(;`ハ´)『……ちょっとヤバいアル』
(´・ω・`)「正確に報告してくれないかな?」
(;`ハ´)『ジュスティアの連中アル……!!』
(´・ω・`)「は? それがどうしたんだい。 君の役割は、トラギコかアサピーを……」
(;`ハ´)『円卓十二騎士の二人と、トラギコがいっぺんに出てきたアル!!』
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‥…━━ August 11th PM00:17 ━━…‥
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間一髪の偶然だった。
指示された逃走ルートを走り抜け、路地を抜けた先で戦闘行為が行われているのを目撃したのが数十秒前。
抜け殻から腕が生えるかのような、グロテスクな光景を見たのが数秒前。
そして、ナイフの投擲を察知して急接近して切り払ったのが数瞬前。
それと同時に、二つの影が建物の影と屋根から現れ、殺伐としていた路地裏の戦場に大きな変化が訪れた。
一対三の状況に、更に四人が介入することになった。
その面々は実に壮観で、思わず感心するほどだった。
トラギコ・マウンテンライトはデレシアの策に踊らされている面々を見て、改めて、油断ならない存在であると痛感した。
円卓十二騎士、第七騎士“番犬”ダニー・エクストプラズマン。
ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『……ショボンはいないのか』
同じく円卓十二騎士、第四騎士“執行者”ショーン・コネリ。
593
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:23:10 ID:gHb2Rkgo0
<::[-::::,|,:::]『奴がいなくとも、情報は合っていた。
なるほど、これは確かに悪の巣窟、悪の会合だ。
報告のあった殺人鬼もいるな』
警察長官ツー・カレンスキーの専属秘書、ライダル・ヅー。
(::[ Y])『……なるほど』
いずれもジュスティア内においてかなりの地位にいる人間であり、ジュスティアに対する忠誠心は本物だ。
このうちの一人ならばまだいいが、三人揃った状態で会いたいと思う人間は正義の化身をその目で見たいと願う破滅志願者か馬鹿の二択だ。
方法は不明だが、そんな三人をデレシアはまんまと手玉に取って動かして見せた。
恐ろしいのは、その策がしっかりと効果を発揮しているという事だ。
ヅーの腕から降り、既に起動されたブリッツの切っ先をワタナベに向けた。
(=゚д゚)「よぅ、ワタナベ」
从'ー'从「はぁい、刑事さん。
体はもういいのかしらぁ?」
(=゚д゚)「俺よりも手前の心配をするんだな」
労せず明確な犯罪者たちを逮捕できる。
だがデレシアがこの道を選ぶように言ったのには、別の理由がある気がしてならない。
ノハ<、:::|::,》『トラギコか……』
(=゚д゚)「悪いが、お前も逮捕ラギ」
負傷した身ではあるが、高周波刀の威力は萎えない。
まずは自分のやるべきこととして、ここにいる犯罪者を刑務所に放り込む、もしくは殺さなければならない。
ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『トラギコ、後は我々が処理する。
お前はジュスティアに行け』
(=゚д゚)「あぁ?」
その一言を予想していなかったわけではない。
元々、トラギコはジュスティアに連れ戻されるのを避けるためにオアシズから逃げ、結果として足を撃たれ、入院することとなった。
ヅーが珍しく理解を示したために連行されていないが、それ以外の人間からしたらトラギコは確保するべき対象だ。
しかし、今このタイミングで言ってくるとは思わなかった。
流石は法の“番犬”だ。
ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『帰還命令が出ている。
それとも、また力尽くで戻されたいのか?
ヅー、トラギコを連れて行け』
594
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:24:15 ID:gHb2Rkgo0
(=゚д゚)「……俺を連れて行くんなら、そこにいる犯罪者共も一緒ラギ」
トラギコは高周波振動を続ける刃で目の前にいる犯罪者四人を指す。
それに対して、高周波振動発生装置の備わった腕で、エクストは犯罪者四人を指した。
全身高周波振動発生装置のダニー・ザ・ドッグはある意味で、高周波振動装備の化身そのものだ。
同じ高周波振動装置を備えている武器でも、この棺桶には効果を発揮できない。
どれだけ強力な砲弾でも粉と化してその威力を発揮する前に無力化できる。
いざこの男が本気を出せば、トラギコの体を木っ端みじんにすることも可能だ。
ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『聞きわけろ、トラギコ。
これは我々の任務だ。
た か が 刑 事 の 出 る 幕 じ ゃ な い』
(=゚д゚)「言ってくれるじゃねぇか。
た か が 騎 士 の く せ に 、この俺に喧嘩を売るってか。
売る相手を間違えるんじゃねぇラギ」
勿論、この喧嘩を買う気は毛頭ない。
買っても無駄になるだけだ。
ならば見せかけの撤退劇を演じるだけだ。
ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『……ヅー、行け』
(::[ Y])『言われずとも』
(=゚д゚)「ちっ、馬鹿が」
この言葉は本心だ。
戦力を一気に半分にする行為は、己の実力を過信しているからに他ならない。
自分達の装備や経験が豊かなのは事実だろうが、それが通じる相手と通じない相手が世の中にはいる。
ひょっとしたらデレシアはこれも想定していたのかもしれない。
あの女は、おそらく数十手先を読んで行動している。
ならば一度ぐらいは、流されてみるのもいいかもしれない。
そしてヅーはエクストの命令に従い、トラギコを抱きかかえてその場から離脱しようとした。
音もなく表れたそれが道を塞がなければ、トラギコはそのまま目抜き通りを走り抜け、ジュスティアまで運ばれていた事だろう。
(:::○山○)『……』
漆黒の強化外骨格。
黒檀の様な装甲を纏い、その足だけは上半身と対照的に異様に細い姿。
トラギコはその姿をよく知っている。
(=゚д゚)「……野郎」
595
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:25:45 ID:gHb2Rkgo0
ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『……貴様か。
同じ手は食わんぞ!!』
そして、エクストが駆けだした。
颶風と化した彼の突進に対して、現れたばかりの黒い棺桶は両腕を天に着き上げるだけ。
だがそれで十分な行動であることを、トラギコは知っていた。
(;=゚д゚)「馬鹿!! 火炎放射兵装ラギ!!」
言った時にはすでに彼の言葉を肯定するかのように、黒い棺桶の両腕から炎が吐き出された。
降り注ぐ炎が周囲一帯を包み込み、壁を、地面を、窓を、屋上を、暗雲の立ち込めはじめた空を紅蓮に染め上げる――
ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『食わんと言った!!』
(:::○山○)『?!』
――はずだった。
エクストの狙いは黒い棺桶ではなく、それが炎を使用すること。
両腕から炎が噴射された時にはエクストはすでに黒い棺桶の頭上に高々と飛翔し、炎の全てをその体で受け止めていた。
当然、その全身は高周波振動によって守られ、燃料もろとも炎を打ち消す。
(:::○山○)『……流石アルね』
<::[-::::,|,:::]『感心している暇があるのか?』
背後。
それも、最も対応が困難な下方からの声だった。
深く腰を落としたショーンが幻の様にそこに現れ、すでに抜刀の姿勢に入っていた。
(:::○山○)『っ!?』
間を開けない連撃。
一瞬の内に成立した連携に、誰もが驚いたことだろう。
だが彼らは円卓十二騎士。
十二人の最高戦力は、いついかなる時でもその力を発揮できるからこその存在。
<::[-::::,|,:::]『せぁっ!!』
巨大な高周波刀が黒い強化外骨格を捉える。
その刃が黒い棺桶を両断するかに思えたが、思わぬ事態がその手を止めさせた。
背中から入った刀が最初に切り裂いたのは、特殊な液体が詰まっていたタンクだった。
どこの装甲よりも堅牢に設計されていたタンクだったが、高周波刀の前には意味をなさなかった。
それが命運を分けた。
その液体は空気と触れることで爆発的に燃え広がり、その粘度は微量であれば高周波振動によってふるい落とされるが、大量に付着した場合はその逆の現象が起こる。
即ち、刃が燃えるのだ。
流石に得物が燃えたことに驚き、ショーンは咄嗟に刀を引いた。
596
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:27:33 ID:gHb2Rkgo0
もしもそのまま刀を前に振っていれば、黒い棺桶は上半身と下半身で泣き別れていた事だろう。
だが逆に、液体が散ることによって己の装甲を焼く危険性が大いにあった。
それを回避するために一瞬で判断を下したのは、流石の一言に尽きる。
半ば傍観者となっていた人間に動きがあったのは、着火した液体が地面に落ちるほんの少し前。
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rァヒコ_... -───ァ冖、
rv r─rf三| / fr㍉l
しーrrn─┴ ┴  ̄| 、-ノh
/ 川 | ____________」 !|
∠二二Ti「 じ | {こ} 「
_厶==、_____レ┴─‐--L仁_ } __!___j
y'´ / `ー─个'´ / ̄ j / V´ ̄/
〈 / / / / ヽ ー─、─j }ニ7
い/ イ / | ′ }  ̄丁´
∨ | ;′ | | ‐──一ァ′
ヽ | | ヽ ノ
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先手はトラギコ。
ブリッツではなくM8000を抜き、姿勢を崩した黒い棺桶の膝裏の関節を狙って発砲した。
膝さえ破壊出来れば、逃げることを阻止できるとの見立てだった。
当然、阻止する者が現れた。
五発の銃弾を悉く邪魔したのは、二人の人間。
両者とも脚部の強化を行ってはいないが、腕の力を使って地面を駆け抜けたのだ。
椀部のみを強化する棺桶の戦い方としてはよくある手段で、トラギコも応用したことのある方法だった。
それ故に迅速な動きに驚きはなかったが、緊急時の連携力を失っていないことに驚いた。
( ・曲・)『黙って見ている訳ないでしょう』
从'ー'从「ま、お仕事だからぁ」
いつの間に彼らが距離を詰めてこの場に接近してきたのかを考える間もなく、トラギコはその場から高速で後退していた。
トラギコを抱えるヅーの仕業だった。
(::[ Y])『……』
(=゚д゚)「引き上げるつもりラギか?」
素早く後ろに下がりつつ、ヅーはトラギコの言葉に頷いた。
(::[ Y])『後は彼らに任せておきます。
我々のやるべきことは、別にあるのですよね?』
(=゚д゚)「……さぁな」
急制動をかけ、ヅーが動きを止めた。
それは驚きなのか呆れによるものなのか。
恐らくはその両者だろう。
597
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:28:37 ID:gHb2Rkgo0
(::[ Y])『さぁな、ではないでしょう。
何を考えているのか話してください』
(=゚д゚)「時が来れば分かるラギ。
まぁ見てろ」
何か確証があるわけではない。
作戦など、あってないような物だ。
全てはデレシアの掌の上。
彼女がどのような采配をして、この先どうなっていくのか。
今はただ、それを見届ける他ないのだ。
(=゚д゚)「損はさせねぇラギ」
ショーンとエクストは眼前にいる二人の敵、そして彼らと敵対する一人の人間に視線を油断なく向け、次の行動を考えている事だろう。
敵が三人と味方が三人になるか、それとも敵が四人になるのか。
それは、黒い装甲とスカイブルーのシールドを持つ棺桶持ちが何者なのかによるところが大きかった。
敵の敵は味方とは言うが、果たして、この人間がそのような考えを持っているのかはまるで分からない。
ノハ<、:::|::,》『……』
その姿は初めて見る。
小柄な姿はAクラスか、それともBクラスかという微妙なライン。
从'ー'从「どうするぅ?」
( ・曲・)『どうするもこうするもないでしょう』
(:::○山○)『予定通り潰すだけアル』
態勢を整え、距離を十分に取った三人を前にした騎士二人はさぞかし喜んでいるに違いない。
骨のある悪を前に、ようやく己の力を存分に振るうことが出来る。
正義が成立する上で必要不可欠な悪を前にして喜ばない騎士はいない。
そして、それを滅ぼそうと決意しない騎士もまた存在しない。
天敵を得た騎士は何よりも強い。
彼らを動かすのは誇りと義務感、そして信念。
<::[-::::,|,:::]『三対二対一、三対三、四対二。
さぁ、どれだ?』
その問いかけは第三の勢力である、デレシアの仲間に向けられていた。
シールドの向こうに見える強気な瞳は、間違いなくあのスナオと名乗った赤毛の女だ。
ノハ<、:::|::,》『……』
598
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:31:13 ID:gHb2Rkgo0
返答はない。
声を聞かれまいとしているのだろう。
だが代わりに、反応があった。
奇妙なオブジェと化しているジェーン・ドゥへと近づき、右腕に備わった巨大な杭打機で背中から胸を一撃で貫いた。
あれでは中にいる棺桶持ちもひとたまりもないだろう。
背中から生えていた腕がその一撃に合わせて大きく痙攣し、二度と動かなくなった。
(=゚д゚)「……?」
ノハ<、:::|::,》『……やっぱりな』
流れ出てきたのは血ではなく、強化外骨格でよく使用される潤滑油と冷却水だった。
ノハ<、:::|::,》『後はあんたらで好きにしな』
<::[-::::,|,:::]『そうか、と黙って聞くと思うか』
(=゚д゚)「よせよ、ショーン。
そいつはショボン達とは無関係だ、俺が保証するラギ」
この騎士は、どこまで馬鹿なのだろうか。
狙うべき獲物が増える事を嘆くのではなく、歓迎するなど正気の沙汰ではない。
ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『それを判断するのは我々だ。
ヅー、いつまでそこにいる。
さっさと正義を果たせ』
(::[ Y])『……』
こんな時でさえ、騎士は騎士の心を持っていることにトラギコは心底呆れた。
せめて赤毛の女は関係ないのだから、構わなければいいのに。
人の忠告を聞かず、目の前に転がる物事を悪と正義の二極化するのが彼らの悪癖だ。
再度の命令に対して、ヅーは静かに答えた。
(::[ Y])『それを判断するのは私です。
正義は、私がこの目で見極めます』
それは、トラギコがこれまでに聞いたことの無いヅーの反抗的な言葉で、彼女が口にした中で最も刺激的な言葉だった。
599
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:37:50 ID:gHb2Rkgo0
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′ _「゙ム!ヘヽ /_ィ=ィ `ヾくヾ彡ノ=-_
|/|!| j、y},x√ゞ'′_ `ノi!\、ミ、ニ
l! |! `Y}" `´ _ォ′ { i! /≧く
! ! マ__ , .ィ´y/ ノ/-=ニ=>
ヽ └トく,. ´/ /-=ニ=>’.:.
ゞムY , -=ニ>’.::::::::.
`Lヽ_//-=/.::::::
Ammo→Re!!のようです Ammo for Reknit!!編
第四章【monsters-化物-】 了
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600
:
名も無きAAのようです
:2017/02/18(土) 23:59:44 ID:A0h0D/Ow0
おつおつ
601
:
名も無きAAのようです
:2017/02/19(日) 00:26:30 ID:lPI.XZ4o0
乙
戦況動くねぇ!モララー棺桶まで変態臭いな
602
:
名も無きAAのようです
:2017/02/23(木) 18:02:36 ID:dhkVYfDk0
そういやジョルジュって冒頭でかませパイロットとして出てるよね
それとは別人なのかな?
603
:
名も無きAAのようです
:2017/02/23(木) 19:59:53 ID:PY0Ad8eg0
( ・曲・)『食えるときは無礼な奴を食うんだ。 野放しの無礼な奴を』
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2341.jpg
こんな感じのイメージです。
>>602
あれはとっても昔の話なので、よく似ている全くの別人です。
604
:
名無しさん
:2017/02/24(金) 00:53:17 ID:bTuk9r1.0
やっぱりレクター博士か
605
:
名も無きAAのようです
:2017/02/24(金) 12:03:55 ID:.TGIZmGc0
トラギコ一番好きだわ
また主人公やらんかな
606
:
名も無きAAのようです
:2017/03/01(水) 10:49:01 ID:3RhnFMpE0
デレに匹敵する敵とか出てくるのかなぁ
あまりにも一強すぎて
トラギコが頑張ってる回めっちゃ好き
607
:
名も無きAAのようです
:2017/03/07(火) 17:28:44 ID:dKvJ5Ix60
ショボンがいろいろ有能すぎて笑うわ
608
:
名も無きAAのようです
:2017/03/07(火) 22:24:16 ID:b6Ui2O3U0
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2349.jpg
今度投下するのはこれに色が付く頃ですので、今しばらくお待ちください。
書いていただいた感想を読み返してニヤニヤするのが毎日の楽しみです。
ありがとうございます。
609
:
名も無きAAのようです
:2017/03/21(火) 23:45:40 ID:xPUsbv/c0
今週の土曜日にVIPでお会いしましょう
610
:
名も無きAAのようです
:2017/03/22(水) 08:43:37 ID:Q8x8x1VE0
わーい
611
:
名も無きAAのようです
:2017/03/22(水) 11:33:29 ID:5cUia/Vs0
よっしゃよっしゃ
612
:
名も無きAAのようです
:2017/03/22(水) 13:24:12 ID:BWSJQ0wg0
やったぜ
613
:
名も無きAAのようです
:2017/03/22(水) 23:36:36 ID:Szki6Kts0
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2357.jpg
色づきましたのでこちらを
614
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:02:06 ID:2nMT7N0s0
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【 問 題 】
あなたが狩りをしている途中、目の前に獲物が現れた。あなたならどうするか、答えなさい。
【一般的な模範解答】
周囲を警戒しつつ、追う。 / 獲物に察知されないよう遠距離から狙う。 等
【ジュスティアの場合】 狩った後、仲間にそれを分け与える。
【イルトリアの場合】 躊躇なく迅速かつ正確に殺す。
【セントラスの場合】 神に祈る。
――中学生を対象とした倫理観確認テストより抜粋。
実施業者:内藤書籍
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615
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:02:46 ID:2nMT7N0s0
嵐がティンカーベルを襲うのは珍しいことではない。
夏場ともなれば気まぐれに発達した入道雲が豪雨と暴風を伴い、島に潤いと新鮮な空気をもたらしてくれる。
これがティンカーベルで栽培される野菜の力の源であり、豊かな自然を形成している秘訣でもあった。
しかし、それはあくまでも自然界における嵐の話であり、気象の嵐である。
人間が生み出す混沌を比喩した嵐が島にやって来たのは、一世紀以上前に起こったデイジー紛争以来の事だった。
街の空気が変異していることに気付いた人間はごく僅かしかいなかったが、島民の中に本質を理解できている人間は一人もいなかった。
一部の島民はこの街に何やら不穏な空気が流れ込んでいる事には気付けていたが、その正体には気付けていない。
また、その嵐は二種類の勢力が対立して生まれたものではなく、三種類の勢力が関係して発生したことに気付いているのは、一人だけ。
嵐の中心に位置する一人の旅人。
変わっていく世界を旅し、多くを見てきた一人の旅人。
黄金の髪と空色の瞳を持つ一人の旅人。
心情を一切読ませない微笑みを湛え、島で起こっている騒動を見守る一人の旅人。
ζ(゚ー゚*ζ「……」
デレシア、ただ一人だけ。
彼女の瞳が見通すのは破滅の未来か、それとも逆転の未来か。
いや、或いは。
或いは、彼女だけが見ている別の未来か。
答えは、彼女しか知らない。
ζ(゚ー゚*ζ「流石、男の子ね。
意地の張り所が分かっているじゃない」
満足そうなその声と優しげな表情は、その視線の先で奮闘した男に向けての物だった。
世界の正義たらんとするジュスティア警察に所属する刑事、トラギコ・マウンテンライトは事前に話した全ての工程を見事に完了させた。
後は、彼がデレシアの期待を裏切らない働きを見せてくれれば、事態は彼女の考えた通りの展開になる。
尤も、彼に限ってデレシアの期待を裏切ることはないだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「……ふふ、やっぱり男の子はこうでなくっちゃ。
あの子の教育に役立ったし、その頼み、任されてあげる」
トラギコが望んだのは事件の解決。
島全体を舞台にデレシアを追うティンバーランドの連中を黙らせ、撤退させ、あわよくば脱獄犯が逮捕されればトラギコの望みは果たされる。
彼は根っからの警察官だ。
彼の上司が望んでいる物とは若干形が異なるが、彼が望むのもまた正義。
ルールを破る悪を打ち倒す存在たらんとしているのだ。
きっと彼は認めないだろう。
その昔、トラギコによく似た男がいた。
デレシアが認めた数少ない警察官、ジョルジュ・マグナーニはティンバーランドに堕ち、昔持っていたぎらついた情熱は失われた。
616
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:03:46 ID:2nMT7N0s0
代わりと言うわけではないが、トラギコには今のままでいてもらいたいし、在り続けてもらいたい。
彼は優秀な警察官であり、正義と呼ばれる信仰を彼なりの流儀で守っている。
世界に一人ぐらいはそういう人間がいた方がいい。
そうすれば、世界の均衡は保たれるのだ。
少なくともそうすれば、善悪の区別が付けられる。
だが度が過ぎれば、それは正義と言う大義名分を借りた暴力に成り下がる。
かつて世界を滅ぼすことになったのは、その狂った考えそのものだった。
狂った人間が正義の名のもとに振るう暴力は秩序も理性もなく、ただひたすらに醜い物だ。
程よい正義という考えこそが、世界の均衡には必要不可欠な要素である。
それがどのような信念に基づいた正義であれ、デレシアにとっては問題ではない。
ならば、将来有望なトラギコの頼みを一つぐらい叶えてやるのは後のためになる。
ブーンを教育する過程としてトラギコの望みが叶えられるのだから、ここで手を貸しても手間でも損でもない。
ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、逆転の時間よ」
そう言って、デレシアは肩にかけていたライフルを滑らかに構え、呼吸をするように銃爪を引いた。
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Ammo→Re!!のようです
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ィ:7 イ壬ソィ=-ミ、_ ヾ:.、: : .、:}、
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/゚ 、:::、::ー-:::7´ ヾ:.ハ:.i:}Ammo for Reknit!!編
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ヽ;、;丶:::::::::::::/ (( 丶:‐、`ヾ::ミ、___..._ノノ.:{:.:
` 、::::゙ー/ `ヽ.、`⌒ヾ、`ヽミ_:.:.....:.::::::ノ'第五章【lure-囮-】
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617
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:05:57 ID:2nMT7N0s0
正午の鐘が鳴る数分前。
鐘楼に陣取る狙撃手は獲物が現れるのを待っていた。
時が満ちれば、後は狙いをつけて銃爪を引くだけだった。
世界最高の腕前を自負する狙撃手は、狩人のように静かにチャンスを待っている。
マイク付きのイヤーマフ、頭から被った布、構えているライフルに至るまで全て、同系色の迷彩が施されていた。
よほど近い距離で見られなければ、ただの薄汚いゴミにしか見えないだろう。
どれだけ激しい風雨にさらされようともこの狙撃手が音を上げることはない。
忍耐力が無ければ狙撃手は務まらない。
この狙撃手にとって狙撃とは、何よりも神聖な行為だった。
死を運ぶ貴い行為はまるで神の御手の所業。
それが敵にもたらす恐怖と、味方に与える戦意高揚。
一発の銃弾で戦局を変える姿は味方にとって聖人の御業であり、敵にとっては悪魔の一撃に思える事だろう。
己の祖父が名高い狙撃手であったことを何度も親から聞かされ、英雄譚として今も軍内部でその存在が語り継がれていることは狙撃手の誇りだった。
奇しくもこのティンカーベルで祖父は凶弾に倒れ、短い生涯に幕を下ろした、非業の英雄。
今、自分がその街に狙撃銃を担いで来ていることを知ったら、祖父は数奇な運命にさぞや驚いたことだろう。
同じ戦場に立つことを、父は誇りに思ってくれるはずだ。
狙撃手、カラマロス・ロングディスタンスは伏せ撃ちの姿勢でグレート・ベルの真下で腕時計に目を向けつつ、カフェインレスのコーヒーをタンブラーから飲んだ。
その液体から旨みなど特に感じなかったが、暇潰しにはこれが丁度いい。
連日ほぼ不眠不休で狙撃を行う人間は、標的を視界に捉えるまでは同じ場所で石のように動かずに待ち続けなければならない。
狙撃手は何日でもそうして待ち続けるため、必然的に汚れることになる。
実際、カラマロスの周囲には己の汚物や飲食物の残りなどが散乱している。
だが彼は狙撃手。
狙撃手は排泄も何もかもを、一か所で行う。
時が訪れるのをひたすらに待ち続け、そして時が来た瞬間に銃爪を引く。
それが狙撃手。
それこそが、世界最高の狙撃手である“鷹の目”なのだ。
汚れることなど、その後に訪れる栄光の前には何の恥でもない。
〃∩ ∧_∧
⊂⌒(L ・ω・),,,___c-o____
つl;:;:ン;:凡;r-ァー´ ̄ ̄
配置につく前から狙撃対象は決められていた。
軍人である彼は、ショボン・パドローネやシュール・ディンケラッカー、デミタス・エドワードグリーンが狙撃対象であるとして命令を受けていた。
だがそれは、彼に与えられた命令であり、使命ではない。
彼には命令よりも優先すべき使命があった。
世界を黄金の大樹にするという使命。
ジュスティアは確かに世界の正義であろうとしているが、そのためには努力が足りない。
努力とは結果が伴って初めて理解され、協力が得られるもの。
結果の伴っていないジュスティアの努力など、意味がない。
618
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:07:07 ID:2nMT7N0s0
悪の根絶を目指して努力するのではなく、世界のルールを変えるために努力しなければならないのだ。
現にティンバーランドはいくつもの偉大な成果を挙げている。
力で全てが左右される今の世界は間違っていると、カラマロスは強く思う。
それはつまり非力な人間が虐げられ続け、常に強者だけが栄える狂った天秤が支配する不平等な世界。
彼が幼少期に受けた多くの屈辱も、その後見てきた世界の現状も断じて受け入れられるものではなかった。
世界には貧困が満ち溢れ、不平等が蔓延していた。
人の姿をした人ならざる生き物が根絶されていないことも、我慢ならない。
誰かが悲しむ世界は終わりにしなければならないのだ。
彼の祖父は偉大な狙撃手だったが、彼の父は凡夫であり、狙撃の才能がない事が父のコンプレックスだった。
偏執病と言っても過言ではない父のコンプレックスは、幼いカラマロスの教育に大きな影響を与えた。
狙撃の才能とは即ち、環境把握能力と素早い計算能力に頼るところが大きい。
天才的な勘でその複雑な計算を一瞬で終わらせ、環境による弾道変化を修正することが誰よりも早い事が、狙撃の才能だ。
カラマロスの父はどうしてもそれが出来なかった。
当たり前だ。
距離だけでなく湿度、風、地球の自転、標的の動き、銃と銃弾の特性など、多くの要素を瞬時に計算することが出来れば、誰でも狙撃手になることができる。
それが出来ないからこそ、父は自分を無能な人間だとして責め続けた。
せめて我が子には同じ思いをさせたくない。
そう思った父は、妻が身籠った時から行動を始めた。
視力にいいとされるあらゆるサプリメントを妻に服用させ、その効果が少しでも子供に伝わるようにした。
視力を徹底的に鍛え上げることは勿論、生まれてから銃の扱いも英才教育とも言える指導を受け続けた。
それは自分にない物を知識で補おうと足掻いた男がもたらした、執念の賜物だった。
執念は息子へと引き継がれ、見事にそれは開花した。
カラマロスの持つ高い狙撃能力は、生まれ持った才能と努力の両方によって獲得したもので、ジュスティアには彼ほどの努力家は一人もいない。
大概が才能を無駄にして日々を過ごしているか、努力をおこたる人間ばかり。
狙撃の名家であるという重圧を背負いながら毎日を生きてきたカラマロスに比肩する狙撃手がいないのも、当然だろう。
だが周囲が祖父を称えても、カラマロスはそれについて何か特別な感情を抱いたことはなかった。
結局は父が血を引き継ぐ者の責務としてカラマロスに祖父を尊べと強要したのであって、ある種の常識として刷り込まれているだけに過ぎない。
祖父に関する記憶はカラマロスには一つもなく、全て口頭や文献で伝えられたものだけ。
偉大な狙撃手、“ジョニー・ビー・グッド”ことジョニー・ロングディスタンスは若くして殺され、一人残された祖母が女手一つで父を育てた。
逸話は全て覚えている。
空中に放り投げたコインを撃ち抜いたり、鹵獲した粗悪な銃で敵軍の大将を長距離狙撃したりと、実に猛々しい物ばかりだ。
それが事実かどうかは分からないが、祖父が戦争で殺されたことだけは疑いようのない事実だ。
しかし、戦争で人が死ぬのは当たり前の話で、いちいち仇が誰なのかを考えていては、きりがない。
それでも、祖父を殺した人間だけは忘れることはない。
イルトリア史上最高の狙撃手、“魔女”ペニサス・ノースフェイス。
卑劣な手段を使って祖父を殺したその女に、カラマロスは何としても復讐を果たしたかった。
それは決して、祖父のための復讐ではない。
彼自身が手に入れるはずだった自由に対する復讐だった。
もし祖父が健在で、父に対する教育が違っていたのならば、カラマロスはもっと別の道を歩んでいたかもしれない。
彼には夢があった。
619
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:08:26 ID:2nMT7N0s0
冒険家としての夢。
航海士としての夢。
警察官としての夢。
探偵としての夢。
弁護士としての夢。
検事としての夢。
研究家としての夢。
彼には、別 の 夢 が あ っ た か も し れ な か っ た の だ 。
夢は親のエゴによって狙撃手へと塗り潰され、彼の人生は血で汚れる事となった。
狙撃は嫌いではなかったが、彼は、もっと自分の意志で未来を築き上げたかったのだ。
未来を奪われたそもそもの原因を作った魔女を、カラマロスは何としてでもこの手で殺したかった。
そうすることでロングディスタンス家の因縁は終わり、彼の子孫は夢を自由に追う事が出来ると信じた。
幼少期、彼が味わった屈辱は一生涯忘れることの無い物だ。
彼の両親が与えた名前はカラマロスだが、その名前はジュスティアの童話を知っている人間ならば誰もが聞いたことのある名前だ。
カラマロフ、カラマロスという双子の鼠が森で魔女と対峙し、正義の名のもとに罰するという童話。
物語の最後は魔女の魔法によって二人が一人の人間となり、英雄として人の二倍の寿命を生き続けることで完結となる幼児向けの話だ。
そして両親に与えられたこの名前が大人の誤解を招き、彼の人生に影響を与えることとなった。
始めに間違えたのは彼の親戚だった。
親戚はカラマロフ、と呼んだ。
彼の名前はカラマロスだった。
次に間違えたのは学校の教師だった。
教師はカラマロフ、と呼んだ。
彼の名前はカラマロスだった。
子供たちはカラマロスをからかい、カラマロフと呼んだ。
やがて時が流れ、彼は軍隊に入った。
次に間違えたのは上官だった。
間違いを指摘されたことに激怒した上官は、彼の書類を書き換えた。
カラマロフ・カラマロス・ロングディスタンス、と。
そして彼は、二つの名前を与えられることとなった。
カラマロフ、そしてカラマロス。
彼は自らのアイデンティティを奪われた。
未来を奪われ、己自身をも奪われた男は魔女への復讐を誓ったが、それは叶わぬ夢となった。
魔女は同じティンバーランドの同志の手によって殺された。
それはつまり、仇を失ったという事。
父親の悲願であった世界最高の狙撃手の称号が転がり込んできた時、カラマロスは酷い喪失感に襲われた。
目標が無くなった人間は虚無感のあまり、廃人のようになると言うが、カラマロスは違った。
確かに彼は夢を奪われ、そのことに対して怒りを覚えていたが、今は別の夢を追っている最中。
老婆が別の誰かに殺されようが、実はどうでもいいということに気付いた。
狂った世界を変え、正しい世界をもたらすという夢の前には、肉親の死でさえ些事でしかない。
彼の私情で大義をないがしろにすることは許されない。
620
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:11:02 ID:2nMT7N0s0
〃∩ ∧_∧
⊂⌒(L ・ω・),,,___c-o____
つl;:;:ン;:凡;r-ァー´ ̄ ̄
この時代は力が全てを変える。
ならば、今はその忌々しい流儀に従い、銃把を握る。
そして銃によって世界を変え、二度と人々が銃把を握らなくてもいい日をもたらす。
銃こそは世界を変える鍵だ。
事前の情報に従い、銃腔の位置を下方に修正する。
銃は相手を殺すための距離に余裕を持たせ、力の差を埋め合わせてくれる。
狙うは警察の癌。
荒くれ者の刑事。
トラギコ・マウンテンライト。
秘密結社たるティンバーランドを暴こうと試みる愚かな刑事を、この場で始末する。
真実を手に入れるのは煉獄の炎にその身を焼かれている時だろう。
だが彼の死は無駄にはならない。
今後、彼の様な有害な人間が現れた時にどう対応するべきなのか、その前例を作ることになったのだ。
貴重な前例を作ってくれると考えれば、トラギコは非常に優秀な人間として死ぬことになる。
ここでの殺し方、作戦は後世に残されることになるため、油断は出来ない。
見本となる殺し方をする責任がある。
万が一トラギコが生き延びれば、彼を殺すチャンスは遠退き、次の機会がいつになるか分からなくなってしまう。
ティンバーランドの存在を知った途端に殺されるようであれば、それはつまり、ティンバーランドの力と存在の大きさ、そして何よりティンバーランドが実在することを示す何よりの証拠になってしまう。
このチャンスにトラギコを殺せなければ、本部の方針としてはトラギコを今後狙う事は控えなければならないとの答えが出ている。
失敗は組織にとっての大きな損失となり得る。
もしもティンバーランドが本気を出せば、この島にいる全ての人間を殺すことも出来る。
それだけの力と兵力がある。
しかしそうはしない。
デレシアやトラギコを屠るために街を一つ吹き飛ばしたとなれば、その存在が公のものとなり、思い描いている形で世界を変えることが出来なくなってしまう。
一度に世界を変えることはできない。
力で変えた世界は長続きしない。
徐々に変えていくことで、最終的に世界はその姿を正しい物に直すことが出来る。
そのための歩み。
一歩ずつ確実に世界を変えていく。
大樹が急成長しないのと同じように、静かに根を張り巡らせ、成長してゆくのだ。
〃∩ ∧_∧
⊂⌒(L ・ω・),,,___c-o____
つl;:;:ン;:凡;r-ァー´ ̄ ̄
――鐘が鳴る。
運命の分かれ道となる、鐘の音だ。
エラルテ記念病院からトラギコが出てくるのを待っていると、遂に、扉が開いた。
トラギコの姿が見えた瞬間、カラマロスは狙点を彼の胴体に向けて修正した。
621
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:12:18 ID:2nMT7N0s0
被弾面積の小さい頭部を狙うのはリスクが高い。
確実に当てられる場所を狙う。
疲労困憊と言った様子のトラギコの顔が、深呼吸をするようにゆっくりと空を向く。
最期に空を見せてやった事を唯一の慈悲として、銃爪を引いた。
その数瞬前、白い輝きがカラマロスの視界に入ってきた。
それが狙撃の精度に僅かに影響を与えたが、結果は同じだった。
トラギコの胴体に着弾し、彼は膝を突いたが倒れはしなかった。
何より、血が出ていない。
防弾着を着込んでいるのだと、すぐに理解した。
〃∩ ∧_∧
⊂⌒(L ・ω・),,,___c-o____
つl;:;:ン;:凡;r-ァー´ ̄ ̄
一杯喰わされたと苛立ち、ボルトアクションで廃莢と装填を行う。
第二射を浴びせかけるべき相手はトラギコだが、フラッシュを浴びせかけた忌々しい人間の位置と武器を確認する。
光が発せられた方向へと銃腔を向け、そこにいた人間を確認する。
そこにいたのはアサピー・ポストマン。
武器ではなくカメラを持つマスコミの豚が、カラマロスの崇高なる目的を阻害したことが腹立たしかった。
今は豚を殺すよりも虎を殺す必要がある。
狙いを元の位置に戻した時、再びカラマロスは感情を揺さぶられた。
ライダル・ヅーがトラギコを連れ去り、射線上から消え去ったのだ。
まさかあのヅーがトラギコに加担するとは予想していなかった。
〃∩ ∧_∧
⊂⌒(# ・ω・),,,___c-o____
つl;:;:ン;:凡;r-ァー´ ̄ ̄
アサピーへと狙いを変え、銃爪を引く。
弾は風にあおられたのか、アサピーの頭ではなく肩を掠めた。
落ち着いて廃莢、装填。
発砲。
第三射目もまた狙いが逸れ、アサピーのカメラを直撃した。
望遠レンズが砕け、アサピーが動揺した表情のまま逃げ出そうと背を向ける。
絶好の機会だったが、だがしかし、四発目を撃つことはなかった。
どこからか飛来した銃弾が狙撃銃のスコープを破壊し、カラマロスの手からライフルを奪い取ったのだ。
スコープを失ったため、相手の正確な位置が把握できないが、彼は“鷹の目”。
狙撃手は一度発砲した場所からすぐに位置を変えることが鉄則とされており、今回カラマロスが喧嘩を売られた狙撃手もその鉄則を守るだろうと予想できた。
嵐が来る前に探さなければ、絶対に見つけ出すことはできない。
建物の中で籠城されたらそれまで。
622
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:16:22 ID:2nMT7N0s0
どうにかしておびき出さなければならない。
スコープの失われたライフルを構え、カラマロスは目を細めて索敵を始めた。
彼の視力は才能と努力の賜物。
光学式のスコープが無くても、ある程度の距離であれば目視することが出来る。
時間が刻一刻と過ぎていく。
シナー・クラークスからの通信で、円卓十二騎士がヒート・オロラ・レッドウィングのところに現れたとの連絡が入る。
焦るなと自分に言い聞かせる。
涼しいぐらいの気温なのに、額から汗が流れ落ちる。
もう、どこかに逃げてしまったのではないか。
すでに姿をくらまし、ヒートの元に向かっているのではないか。
あらゆる憶測が頭の中をよぎり、掌が汗で濡れた。
冷や汗をかくなど、何年ぶりだろうか。
失敗など、訓練生以来の経験だ。
諦めてはならない。
微細な可能性、兆しを見つけるのだ。
そうすれば、必ずや残滓にも似た痕跡を見つけられる。
――その答えは視覚ではなく聴覚で得ることとなった。
絶妙なタイミングでバイクのエンジン音が響き、それが遠ざかっていくのを聞いたのだ。
音の方に目を向けると、カラマロスの優れた視力が蒼いバイクが走り去る姿を捉えた。
それは、トラギコを逃しても余りある収穫だった。
カーキ色のローブ。
蒼いバイク。
タイミング。
必要なパズルのピースが揃っていた。
特別な無線機に向かって、カラマロスは冷静さを欠かないように注意しながら言葉を投げかけていく。
〃∩ ∧_∧
⊂⌒(# ・ω・)「“目”より連絡。 バイクで逃亡する人間を見つけた。
島の北に向かって逃げているぞ。
バイクの特徴は…… 話と完全に一致する」
これが噂に聞く天敵の仕業。
最重要目標。
世界の大敵。
狩人が獲物を前に興奮せずにいられるものか。
彼は生粋の狩人。
目の前に立ちはだかる全ての標的を撃ち抜く、必殺の狩人。
世界に平等をもたらし、あるべき姿に戻すための大樹の一部。
今こそ、大悪を屠るべく勇気を奮うのだ。
〃∩ ∧_∧
⊂⌒(# ・ω・)「デ レ シ ア だ !!
予 想 通 り の 場 所 に 奴 が 出 た ぞ!!」
623
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:19:13 ID:2nMT7N0s0
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その無線を聞いた時、ショボン・パドローネはすぐに行動を起こした。
情報で得ていたバイクによる移動は、やはりこの場で使用された。
未舗装の悪路だけでなく狭い路地も移動できるバイクは、この島では理にかなった乗り物だ。
事実、デレシアはそれを使ってバイカー集団からの追撃を逃れ、姿をくらました。
ならば、次にまた理にかなったその乗り物を使ってくるのは必然であり、むしろ使わない理由はどこにもない。
そしてデレシアの怪物じみた勘の良さを考慮すれば、この島に狙撃手が配置されていることを察し、その位置にも見当をつけたことだろう。
その上でヒートを襲えば、あの女はヒートを救うために必ず動く。
こちらが把握している限り、今、ヒートを助けに動けるのはデレシアしかいない。
デレシア自身が動き、ヒートの救援に駆けつける事だろう。
ある意味での信頼をもって、ショボンは策を練った。
だからこそヒートの襲撃に最善の駒を配置し、デレシアの迎撃にも最良の駒を配置した。
伏兵も備えた。
後は、答え合わせを待つばかりだった。
ショボンの読みは当たった。
最も厄介な狙撃手を無力化し、次に行うのは直接的な救援活動。
追跡があることを承知で迎えに来ると考えているとすれば、陣取る場所、通る道は限られてくる。
距離は使用するライフルによって変わるが、平均的な射程を考えて約半マイル。
射角を確保するために標高の高い北にいるはず。
その全てが正解した時、ショボンは己の正しさが証明されたことに対する喜びと、デレシアに読み合いで買ったことに優越感を覚えた。
だがそれもすぐに大義を思い出し、霧散した。
イグニッションを押し、赤いカウルを持つモタードタイプのバイクを始動させる。
大型バイク独特の力強いアイドリング音が鼓動のように響く。
まるで興奮状態にある大型の猛牛を思わせる独特の形状をした車体が、その力強いエンジン音によって一層動物的に見せた。
(´・ω・`)「聞いたな!」
オフロードヘルメットのバイザーを降ろし、ショボンが後ろに控えている二人に声をかけた。
“バンダースナッチ”、シュール・ディンケラッカーは無言でバイザーを降ろし、デミタス・“ザ・サード”・エドワードグリーンはクラッチを切ったままアクセルを捻った。
雄叫びにも似た音が、デミタスの意気の高さを代弁した。
624
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:20:44 ID:2nMT7N0s0
lw´‐ _‐ノv「……」
(´・_ゝ・`)「……」
内蔵されたインカムに向け、ショボンは士気をより上げるために檄を飛ばす。
(´・ω・`)「よし! 棺桶は僕とデミタスが使う。
シュール、君はシナーたちと合流するんだ。
あの女は絶対に無策で動く様な人間じゃない。
最終的にはヒートのところに来るはずだが、そうなった時、君がレ・ミゼラブルで動きを鈍らせれば簡単に潰せる。
だがその前にデレシアと僕たちが戦うことになったら、こっちに来るんだ。
予定通りに行くぞ」
三台のバイクが走り出し、人気の失せた街を走り抜けてデレシアの乗るバイクを追い始める。
落ちてきそうなほどに黒くなった空から、雨粒が一つ、そしてまた一つと降り始めた。
温い風が三人の肌を撫でつける。
途中で二方向に分かれ、ショボンはデミタスのバイクと並んで走った。
ショボンは情報こそが戦局を変え得る鍵だと考えている。
その中でも、特に駒を動かす上で必要な情報は駒の特性だ。
駒の得意なこと、苦手なことを知ればそれを生かした戦術を練る事が出来る。
戦術は戦局を変える。
この戦術がどう効果を発揮するかは分からないが、彼なりにデレシアと言う人間を考え抜いた末に考え出した策は、きっと上手くいくはずだ。
オアシズでデレシアが味方を誰一人として見捨てなかったことは、彼女の弱さを示している。
何より、あの一行は基本的にデレシアの力で持っているような物で、デレシアも人間である以上分身することはできない。
ならば、絶対に現れるよう仕向ければこちらの罠に足を突っ込んでくれるのは間違いない。
前回のオアシズでは別の目的を達成する必要があったため、デレシアの排除は二の次となっていた。
だが、この島を戦場に変えたのはデレシアを消すためだ。
他の些事にはこだわらず、デレシアを殺すことにだけ集中すればいい。
ヒートを殺せなくてもいい。
黄 金 の 大 樹 に と っ て の 害 虫 を 駆 除 す る こ と が 、 何 よ り も 大 切 な の だ。
(´・ω・`)「……くそっ、嵐か」
インカムで三人の音声は常に他共有されていると知りながらも、ショボンは悪態を吐いた。
バイクにとって嵐は天敵だ。
路面が濡れている状態であれば、乾いている時に比べて転倒の恐れが高くなる。
特に、カーブを曲がる際には細心の注意を払わなければならない。
例えオフロードタイヤを履いていたとしても、転倒と無縁と言うわけではない。
また、風にあおられれば思わぬ方向に流され、姿勢を整えようとする際に無駄な力が必要になる。
どちらもバランスを奪うバイクの敵だ。
特にカーブに於いての危険性の向上は看過できない。
625
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:21:33 ID:2nMT7N0s0
モタードタイプのバイクはその特性上車体が高く設計されており、風の影響を受けやすい。
風防も有って無いような物。
更にデレシアの乗っているバイクは速度を重視した設計の物で、このままでは逃げ切られてしまう。
行く先は分かっているが、そこに追い込むのではなくバイクに乗っている間に殺す気持ちでいなければ勝てない。
余裕は油断となり、油断は失敗へとつながる最短の悪手だ。
どんなバイクにも得手不得手がある。
スーパースポーツがオフロードを走れず、オフローダーが速度を出せないように、必ず苦手分野がある。
モタードはオフローダーの走破性を獲得しつつも、最高速度をオフローダーよりも向上させている。
地形が許せば、こちらの方が有利になる。
(´・ω・`)「雨風が酷くなる前に決着をつける!」
エンジンの寿命を縮める代わりに爆発的な加速力を約束する装置のスイッチを入れると、バイクの前輪が軽く浮いた。
市街地を抜け、暗い空に映える蒼色のカウルを持つバイクのテールランプを目視した。
エンジンが悲鳴を上げ、今にも壊れそうな音を奏でている。
追跡に気付いたのか、デレシアは自らに有利な舗装路の続く道を選び、街の西側に広がる工場地帯を目指し始めた。
直線での競り合いでは勝ち目はないが、目視さえしてしまえばこちらにも勝機はある。
体ごと車体を傾け、カーブでの減速を最小限に押しとどめる。
膝を擦る寸前まで車体を傾け、ようやくテールランプを視界に収める。
現れてはすぐに視界から消えてしまう赤いそれは、まるで鬼火だ。
(´・ω・`)「見つけたぞ、デミタス!」
(´・_ゝ・`)「あぁ、だが疾いぞ!!」
一瞬だけ目に入ったテールランプは尾を残して消え去り、二人はその残像を追うしかない。
あれだけの速度でよくも走ることが出来ると、ショボンは感心した。
転倒を恐れていないのか。
遂に、大粒の雨が黒い空から降り注ぎ始めた。
風に揺られて空気中で拡散し、視界をぼやけさせる。
細かな粒子となって雨が街の景色を一変させ、視認性を悪くした。
何か鋭利な物が地面に落ちていたとしても、気付くことは難しい。
パンクでもしようものなら、速度を出すことは不可能になる。
高速であればある程、滑らかな表面をしている舗装路はある危険性を帯びることになる。
即ち、摩擦力の喪失によるコントロール不可能な状態。
速度が出ている中、意図しないスリップは命に係わる事故に直結している。
条件は双方同じ。
(´・ω・`)「転倒させるんだ!!」
相手をスリップさせるためには速度を出させ、無理な姿勢に持ち込ませることが重要だ。
こちらも当然気を付けるが、タイヤと車体の差がここで現れ、相手よりも有利な立場に立つことが出来る。
デミタスもショボンの意図を理解し、重心を切り詰めたウィンチェスターショットガンを左手で構えた。
レバーアクションによる片手での操作性はバイクとの相性が非常によく、散弾による広範囲への攻撃は移動目標に対して有効だ。
626
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:23:35 ID:2nMT7N0s0
特に彼は逃走の際にバイクを頻繁に使っていた経験があることからその使用に長けており、片手でもバイクを操ることが出来る。
(´・_ゝ・`)「俺がやる!
ショボン、援護できるか!?」
(´・ω・`)「任せろ!」
装弾数の多いグロックを抜いて、ショボンは遠目に見えるテールランプ目掛けて銃爪を引いた。
だが視界が最悪とも言える中でそう簡単に弾が当たるはずもなく、赤い光を残してテールランプが薄れていく。
アクセルを捻り、速度を上げる。
すでに豪雨は霧のように拡散し、数十フィート先の視界を奪いつつあった。
横殴りの激しい雨が容赦なく降り注ぐ。
二人のバイクは何度も風にあおられ、マンホールの蓋によって危うく転倒しかけているというのに、デレシアは全くその様子を見せない。
それでも、デレシアを排除するのは不可能だとは思わなかった。
当てられずとも転ばせられれば、無事には済まない。
濡れた路面を転がり、壁にでもぶつかれば骨は砕け臓器は破裂することだろう。
仮に受け身を取って一命をとりとめたとしても、そこを狙えばこちら側の方が有利だ。
それを誘うには、相手を焦らせる必要がある。
焦らせるには、常に相手の視界に入っていなければならない。
姿勢を低くし、少しでも風の影響を受けないようにする。
今は引き離されないようについていくのがやっとで、距離を縮めきる頃にはヒートとデレシアが合流してしまうだろう。
そうなる前にどうにかしなければ、より厄介な状況になる。
常に視界に入れ続け、弾丸をバイクに当てるだけでいい。
タイヤに当たれば重畳だ。
(´・ω・`)「どれだけ逃げても!!」
カーブに差し掛かれば的が大きくなる。
そこが狙い目だ。
『前のバイク、停まりなさい!』
唐突に背後から聞こえてきたのは、空気を読まない警告の言葉。
ジュスティア警察だ。
カーチェイスを目撃した警官が無駄に気を利かせて無駄な警告を発したのだろう。
ここで争っても意味がないが、捕まっても意味がない。
(´・ω・`)「ちっ……」
(´・_ゝ・`)「どうする?」
(´・ω・`)「無視だ。
どうせ後でどうにでもなる。
今はデレシアを追うぞ!」
627
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:24:20 ID:2nMT7N0s0
追われたところで顔を知られているわけでもないため、リスクはない。
バイクも乗り捨てればいい。
確かに車と比べれば安定感は向こうの方が圧倒的に高いが、カーブでの速度はこちらの方が優れている。
すぐに追いつかれることはないが、いらぬプレッシャーをここで与えられても良い気がしない。
それほどの脅威ではないが、邪魔なことに変わりはない。
(´・ω・`)「……“目”、今僕らの後ろにいるパトカーが見えるか?!」
『見える。 だがスコープを破壊されたせいで狙いが付けられない。
あの女、俺のスコープを撃ち壊しやがったんだ』
世界最高の狙撃手の隙を突き、狙撃銃の要を破壊するとは、やはり油断ならない女だ。
他人の夢を踏み躙って己の目的を達成しようとするデレシアは、悪魔の様な性格をしている。
スコープを壊すことが出来たなら、カラマロスの頭を吹き飛ばせたはずだ。
わざと生かしたのだ。
泳がせ、大きな魚を釣るために。
狙撃手に生き恥をかかせるために。
人の夢や希望、そういったものを何だと思っているのか。
仮にデレシアの作戦が失敗し、仲間が死ぬことになろうとも、眉一つ動かすことなくそれを受け入れることだろう。
しかしながら、ショボン達は違う。
仲間を見捨てることはしない。
彼らは同じ一つの大樹。
仲間を失う事はその体の一部を失う事なのだ。
(´・ω・`)「仕方ない、僕がやる。
デミタス、デレシアを任せてもいいか?」
デミタスは返事の代わりに更にアクセルを捻り、加速させた。
この天候の中で速度を上げるのはかなり危険な状態だが、そうでもしなければ追いつけない。
彼の勇気にショボンは内心で称賛を送ると同時に、彼を引き入れる事を提案した人間に感謝した。
人選は正解だった。
ショボンは背後から迫るパトカーに向け、グロック18をフルオートで発砲した。
軽量の強化ポリマーを主な素材として作られたグロックは軽く、片手で持つことが出来る。
ロングマガジンを使えば短機関銃と同じ装弾数を維持しつつも、フルオート射撃が可能だ。
その分反動を受けやすいが、使い慣れたグロックであれば問題はない。
当たり前の話だが、車は車幅がバイクよりも広い。
つまり、被弾する面積が広いという事だ。
二、三発刻みで発砲を続けるとパトカーは路肩に駐車していたトラックに突っ込み、クラクションが鳴り響く。
そのまま追ってくることはなく、ショボンも速度を上げてデミタスを追った。
すると、ショットガン独特の大きな銃声が二発連続して聞こえた。
音の聞こえた方向に顔を向け、車体を傾けてカーブを曲がる。
目抜き通りをまっすぐに走り、直線勝負。
距離は明らかに縮んでおり、カーブでの加速が生きたことが証明された。
628
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:26:33 ID:2nMT7N0s0
それが分かっているからこそ、相手はこの直線路を選んだに違いない。
直線路ではあるが、それでもこちらが有利なことに変わりはない。
思い上がりではなく、状況がそれを示している。
ショボンは弾倉を交換し、赤いテールランプに照準を合わせて銃爪を引く。
途端にテールランプが左右に揺れ、速度が低下する。
このまま無理やりにでも傾けさせて転倒させれば、無事では済まない。
倒れたところを轢殺すれば、一件落着だ。
遠回りをしたが、デレシアはまんまとヒートのいる場所に近づいているため、これ以上の接近は作戦が破綻する可能性が高まる。
今は分散してるからこそ、デレシアを狙えているのだ。
執念深く二人は弾丸を放ち続けるが、一発もバイクに当たらない。
豪雨と防風と言う最悪の環境ではあるが、後ろに目でもついているかのようにバイクが左右に動き、弾丸を悉く避けてしまう。
そして、曲がり角に差し掛かった時にそれは起きた。
嵐の間にある、一瞬だけの静寂。
凪ぎ、雨だけが降り注ぐ一瞬。
その瞬間、ショボンはデレシアの姿に強烈な違和感を覚え、その違和感は確信へと変わり、確信は驚愕へ、驚愕は怒りへと変化した。
(;´・ω・`)「嘘だろおい!?」
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\ 丶 \ ヾ 丶丶\、 丶丶ヽ \ \丶 ヽ \/ /| _,.-r'| | 册册
ヾ丶\ 丶 ヽ丶 丶 \ヾ \ヽ \ \丶 ヽ/ / ,..| | | | | | 册册
ヽ 、ヾ \ 丶 ヾ丶\ \ \ ヽ\\丶ヽ/'~T.,./|川 j_l,.r-'¨ 卅卅i_,.
ヽ \ \丶 ヽ \ \ヾ丶 丶丶丶 /,.T¨il i l l l川__,,... -‐ ¬¨
\ 丶 \ ヾ 丶丶\、 ヽ \ \. ‥…━━ August 11th PM00:31 ━━…‥
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全てのバイクの理想形として設計された“アイディール”には、当時の技術の全てが組み込まれていた。
バイクの開発の歴史は、鋼鉄の塊であるバイクが如何にして人馬一体となれるか、に挑む歴史でもあった。
二輪と言う不安定な乗り物は人間の手を借りなければ自立できない存在で、馬とはかけ離れたものだった。
それは構造上の問題であり、物理的な問題でもあった。
しかしながら、長年の間仕方がない、で片付けられていた問題を打破した企業があった。
その企業は二輪バイクの自立を可能にする技術を確立したが、別の企業が更にそれを進化させた。
内蔵された高性能なジャイロセンサーがバイクの自立を可能にし、更に全方位の衝撃に対しても抵抗力を持つことに成功した。
やがて、それを狂気じみた執念によって改修した企業が現れ、そのセンサーは完成した。
完成に至らしめたその最大の要因は、開発者及び開発企業が利害の一致で行動したのではなく、目的の一致のために惜しみなく技術を提供し合ったことなのは間違いない。
こうして完成したジャイロセンサーはバイクが急激に傾いても体勢を立て直し、急バンクでも転倒することの無い支援システムとしてアイディールに搭載された。
開発者たちはそれでも満足はしなかった。
求めたのは理想形。
629
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:31:23 ID:2nMT7N0s0
理想の形とは即ち鋼鉄の馬の再現。
馬は自ら考え、自ら走る生き物だ。
絆のある馬であれば、四肢を失った人間を乗せてもそれに合わせて走ることは証明されている。
そこに到達することが開発者の夢であり、アイディール計画の始まりでもあった。
乗り手を選ばないバイク。
低身長の人間でも、足を失った人間でも乗りこなせるバイク。
初心者でも、目が見えない人間でも乗りこなせるバイク。
そこで開発者が目を付けたのが既存の技術、オートクルーズ機能だった。
一定の速度で走り続けることのできる機能を進化させれば、自動で速度を変化させ、ギアを変化させられる。
彼らはエンジンを一から設計し始めた。
エンジン開発に着手してから三年後、自動可変機構を搭載したエンジンが出来上がり、操縦者に合わせた自動走行機能も実現した。
それらを統括する人工知能は更に一層の進化を遂げ、乗り手を識別してその人に合わせた走行を記憶するようになっていた。
それから多くの試行錯誤と改善と改良を経て、アイディールが世に生み出された。
今、ティンカーベルの島を疾走する“ディ”と名付けられたアイディールが乗せているのは、決して、歴戦のバイク乗りではなかった。
バイクの操縦などしたことの無い、一人の少年だった。
少年には犬の耳と尻尾があったが、それは今、ヘルメットとローブによって完全に隠されていた。
(∪;´ω`)「……っ」
必至にハンドルを握るブーンは、自分に与えられた役目を果たすべくディから落ちないよう、両足でしっかりとタンクを挟んでいた。
背後から迫ってくる人間の声がブーンの耳に届いた。
ここに至るまで全く気付かず、ブーンをデレシアと勘違いして追ってきた間抜けの声だ。
(#´・ω・`)「糞耳付きの糞肥溜め野郎がどうして糞運転出来ているんだ!!
糞っ!!」
流石に、気付かれたようだ。
デレシアの作戦に従い、ブーンはディに乗って街中を走ることになっていた。
撃たれる危険性は指摘されており、それを承知したうえで、ブーンは自らの意志でディに乗る事を志願した。
(#´・ω・`)「デミタス!! はめられた!!
デレシアは別の場所からヒートのところに行くつもりだ!!
こいつは餌、囮、捨て駒だ!!」
(;´・_ゝ・`)「ちっ!! そのガキはどうする?!」
(#´・ω・`)「見るのも悍ましい!!
放っておけ、駄犬を追う趣味はない!!」
その時、嵐の空に小さいながらも強烈な光を放つ赤い物体が現れた。
知っている。
あれは信号弾と呼ばれる物で、自らの状況や位置を示すための道具だった。
これもデレシアの話していた通り。
悪天候の中無線機以外を用いた大多数に連絡を取るのならば、あれがかなり有効な道具だと教わった。
嵐の中で信号弾を打ち上げても風にあおられるだろうが、無線で位置を伝えるよりも遥かに分かり易い。
あの周囲に行けば、兎にも角にも目的の何かがいるのだから。
630
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:34:18 ID:2nMT7N0s0
(∪;´ω`)「……お」
バックミラーに映っていたライトが反転し、遠ざかっていく。
信号弾に呼ばれ、ブーンへの追跡を辞めたのだ。
(∪;´ω`)「……ふゅー」
一先ず、危機は去った。
問題なのはあの信号弾が何を意味しているのか、と言う事だ。
信号弾の色の持つ意味はそれを使う人間の仲間だけが知り得る情報。
あくまでも場所を示すための道具であり、色が持つ意味は事前の打ち合わせが無ければ意味のない光点でしかない。
光点の詳細な意味をブーンは知らないが、この状況下で放たれた信号弾がどのような事を意味するのかは分かる。
デレシアの能力を考えれば、デレシアが敵に発見されたと考えるのが自然。
予定通りだとは言っても、デレシアは大丈夫なのだろうかと心配する気持ちは捨てきれない。
いくら先を読める人間だとは言っても、物事には限度がある。
人間である以上、無敵ではない。
弾が当たれば血も出るし、怪我もする。
当たり所が悪ければ死ぬ。
それが人間だ。
人が死ぬのを目の当たりにするのには慣れている。
飢えて死んだ人間も、殴られて死んだ人間も、撃たれて死んだ人間も見てきた。
しかしそれは他人が死んだ場合の話で、ブーンに関わってきた人間が死ぬのを見たのは一度しかない。
“魔女”と恐れられた過去を持つブーンの恩師、ペニサス・ノースフェイス。
彼女は魔法のように狙撃を行う力を持っており、その佇まいは巨大な老木のように静かで威厳に満ちている物だった。
呆気なく人が死ぬことを知っていたが、ペニサスが目の前で息を引き取り、遺体を土に埋めた時にブーンはようやく知ることになった。
知人を失う悲しさを。
唐突に訪れる別れを体験したブーンは、もう二度と、同じ気持ちを味わいたくはなかった。
いつまでも無力ではいたくない。
オアシズで海に投げ捨てられ、あのまま死んでいてもおかしくなかった自分を鍛えてくれたロウガ・ウォルフスキンに学び、ブーンは変わった。
護られ続け、戦いを傍観するだけの存在ではなく、自分の事を大切に想ってくれる人のために戦える力を求め、常に努力をするようになった。
その努力の答え合わせがされる時が、今だ。
戦闘力はないが、デレシアやヒートの助けになることは出来るとデレシアは言ってくれた。
これまでに見てきた人間の中でもデレシアの強さは圧倒的だ。
彼女の言葉の持つ説得力も、その行動力と強さが裏打ちしている。
それでも、デレシアが人間である以上、死なないという事はない。
まだ見たことも想像することも出来ないが、デレシアにとっての天敵がこの世界にはいるはずだ。
彼女にこれ以上負担がかからないようにするためにも、ブーンは目的を果たさなければならない。
何より、自分がどこまで出来るのか、それを確かめたかった。
覚悟を決め、ブーンはディのハンドルを強く握った。
631
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:35:22 ID:2nMT7N0s0
ブーンにはまだやるべきことがある。
やらなければならないこと。
やらなければ一生後悔すること。
その瞬間までは気を抜くことはできない。
――ディは何も喋らなかった。
彼女はバイクであり、喋るようには設計されていなかった。
だがもし、彼女に言葉を発する機能が備わっていたならば、ブーンの決意に対して称賛を送っていた事だろう。
だが彼女は喋ることはなかった。
ブーンを乗せたディは、事前に入力された場所に向けて静かに、だが迅速に移動を続けた。
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信号弾が打ち上げられたその真下には二人の人間がいた。
二人がいるのは古びた商店街。
勿論、この嵐と空気の中で店を広げている剛の者はいない。
一人はカーキ色のローブを見に纏い、頭から被ったフードの下に豪奢な金髪と宝石のような空色の碧眼を持つ女性。
この島で多くの人間を巻き込む嵐の中心。
デレシアは豪雨の中でもはっきりと耳に届く澄み切った声で、対峙する男に言葉を送った。
ζ(゚ー゚*ζ「貴方がいると聞いていたけど、流石ね。
ジョルジュ・マグナーニ」
フルネームで名前を呼ばれたジョルジュはと言えば、黒のポンチョを被り、その鳶色の瞳はギラギラと輝いている。
馳走を前にした野犬のようだった。
_
( ゚∀゚)「……久しぶりだな、えぇ、おい」
その言葉は再会を喜ぶというには、あまりにも愛想が無く、残忍な響きに満ちていた。
何より、ジョルジュの目がデレシアを視線だけで射殺さんばかりに鋭い輝きを放ち、言葉以上の殺意を向けていた。
大の大人であっても射竦めるというその視線だが、デレシアにとっては蚊が刺す程のものにも感じることはない。
涼しげにその声と視線を流し、あくまでも自分のペースで話を続ける。
ζ(゚ー゚*ζ「そうね、えぇ、本当に久しぶりね。
警察を辞めたそうね、貴方は」
ジョルジュは警察官として、何度もデレシアの前に現れたことがあった。
当時の彼は正義感に満ち溢れ、そして、その正義の執行の仕方が今のジュスティア警察とは対照的に暴力的な人物だった。
彼なりの正義を果たし続けることで多くの汚れ仕事を引き受けることとなり、付いた渾名は“汚れ人”。
しかし、彼が汚れなければ生き延びて多くの人間に危害を加えた犯罪者がいたのも事実であり、その存在は警察の中でも暗黙の内に受け入れられていた。
632
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:36:43 ID:2nMT7N0s0
誰かが汚れなければならないのならば、自分が喜んで汚れる。
それが、口には出さないがジョルジュの信念だった。
汚れることを恐れて何もしない警察官が横行している中、ジョルジュの姿勢は好ましい物だった。
風の噂でジョルジュが警官を辞めたという事を耳に挟んだ時、デレシアは落胆した。
彼の行動に対してではなく、彼を繋ぎ留めなかった警察に対しての落胆だった。
_
( ゚∀゚)「あぁ、そうだ」
当の本人は辞めたことに対して後悔の念はなさそうだ。
本人の意志、才能、そして職が食い違う事は稀にあるが、ジョルジュの場合はそういった相性の問題で辞めたわけではないのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「退職金は出たの?」
_
( ゚∀゚)「まぁな、だが、手前も知ってるだろうが俺は一言多い人間なんでな。
大分減っちまったよ」
ζ(゚ー゚*ζ「貴方らしいわね。
辞めたのは方向性の不一致?」
_
( ゚∀゚)「へっ、知ってるだろうが。
……手前を追うためだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
知っている。
ジョルジュは現役時代、デレシアを執拗に追ってきた。
何度も追いかけ、何度も逮捕しようと試みた。
その努力は認めるが、その努力が実った事は今日まで一度もない。
二人が出会ったきっかけは些細なことだった。
旅の途中でデレシアが撃ち殺した犯罪者が偶然にもジョルジュが狙っていた犯罪者であり、獲物を横取りされたジョルジュが事情を聴くためにデレシアを追ってきたのが始まりだ。
無論、デレシアは旅を続ける人間であり、どこか一か所に長い間滞在することもせず、ましてや刑務所に行く趣味はなかった。
故に、デレシアは半ば楽しみながらジョルジュの追跡を振り払い続けた。
必死に追いかけてくるジョルジュは、次第に気づいてしまったことだろう。
デレシアの名を追いかければ自ずと入ってくる情報と、それが生み出す多くの謎に。
_
( ゚∀゚)「デレシアって名前は、ジュスティアの歴史では偉人にも匹敵する存在だ。
同時に、イルトリアの歴史にも出てくる。
それだけじゃねぇ。
セントラス、オアシズ、ティンカーベル、エライジャクレグ、ヴィンス、ストーンウォール、恐らくは世界中の歴史のどこかに手前がいやがる。
ま る で 手 前 が 一 人 じ ゃ ね ぇ み た い に な」
ζ(゚ー゚*ζ「……それで?」
633
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:37:50 ID:2nMT7N0s0
そう。
調べるだけならば誰にでも出来る。
事実、ジュスティアにいる一部の人間はデレシアの名を文献で知っているし、オアシズの乗客名簿にも航行開始日から名前が残っている。
だがそこまで。
そこから先を知ることが出来るか否かが問題なのである。
_
( ゚∀゚)「デレシア、俺は手前の正体を掴む。
世界がどうなろうと俺の知ったこっちゃねぇ。
俺が知りてぇのは手前の事だ。
いや、手前等、かもしれねぇな」
ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、まるで三十路の若造がするような青臭い告白ね。
警察を辞める必要がどこにあるのかしら?
人を退職の理由に使わないでほしいわね。
それに、私の事を知ったところで何もいいことはないわよ」
正体については別に秘密にしているわけではないため、誰かに知られたところでデレシアとしては全く困ることはない。
第一、秘密にするようなことではない。
こんなつまらないことのためにジョルジュは魅力を捨てたというのだから、あまりにも馬鹿げた話だ。
本当に、馬鹿げた話だ。
デレシアの秘密と言う心底どうでもいい事象、それこそ、神の実在を証明するかのような愚行のためにティンバーランドに下ったのだ。
無い物を追って、己がかつて憎んでいた悪に染まったのだ。
汚れ人ではなく、汚れその物になったのだ。
残念極まりない。
知り合いがこうして堕落してしまうのは、何度見ても慣れない。
_
( ゚∀゚)「手前の正体を知りてぇってのは、俺の知識欲の話だ。
その目的を達するためには警察なんて組織、俺の肌には合わねぇんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「そうかしら?
猪突猛進な貴方にはぴったりだと思うわよ。
私、貴方の事結構高く評価していたのよ。
なのに、ティンバーランドなんかに入るなんてね」
これは本心だ。
彼は優秀な警官だった。
極めて優秀な警官だったのだ。
権力ではなく、ルールを順守する全ての人間を守るための力として、彼は粉骨砕身の努力を続けてきたのだ。
_
( ゚∀゚)「……黙れよ。
手前が見てるのはもっと別の事だろ。
俺はそれが知りてぇ。
その為だったらティンバーランドだって利用してやるさ」
634
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:39:04 ID:2nMT7N0s0
もう、この問答を続けていることがデレシアは悲しかった。
彼女の知るジョルジュが別の物へと変わってしまったことを実感してしまう。
今すぐにその頭を吹き飛ばして殺すことも厭わないが、彼には最後まで踊ってもらいたいという気持ちが強かった。
それが知り合いとしてかけてやれる、せめてもの慈悲だった。
ζ(゚ー゚*ζ「気持ちは嬉しいんだけど、残念。
私、今の貴方にはとてもじゃないけど興味を持てないの。
理由や目的はさておいて、ティンバーランドなんかに墜ちた貴方は魅力に欠けるわ。
本当に残念。 えぇ、本当に」
_
( ゚∀゚)「残念に思われようが何だろうが、俺は俺のやりたいことをやるだけだ。
俺の正義に殉じる、それが俺の生き方なんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「同じ考えのトラギコの方が、まだ筋が通っているわね。
あの子、まるで昔の貴方にそっくり。
後輩を見習ったらどうかしら、“汚れ人”のジョルジュ・マグナーニ」
若かりし頃のジョルジュを彷彿とさせる、トラギコ・マウンテンライト。
彼は彼なりに正義を貫こうとしている。
ティンバーランドに堕ちることなく、デレシアを追ってきている。
自らの努力と実力でデレシアの正体を調べ、見つけ出せるかもしれない人間として、彼女はトラギコの行動を温かく見守ることにしていた。
墜ちたジョルジュとは違う進み方を、デレシアは期待していた。
少なくとも、今のジョルジュよりもよほど期待できる人間だった。
_
( ゚∀゚)「はっ、知ったこっちゃねぇ。
それに、汚れるのは俺の特技なんでな。
お前の秘密、教えてもらうぞ、デレシア」
ζ(゚ー゚*ζ「女の秘密を暴こうなんて、無粋な人ね」
ローブの下ではすでに銃把に手が伸びていた。
ジョルジュ相手に油断はできない。
彼を評価していたのは何も、その信念と在り方だけではない。
_
( ゚∀゚)「無粋も俺の特技の一つなんだよ。
……手足の1、2本は覚悟してもらうぞ」
ζ(゚ー゚*ζ「魅力のなくなった貴方に、もう興味はないの。
そこを退きなさい。
それとも、力づくで退かされたいのかしら?」
そして。
ジョルジュは口にする。
戦いの口上。
必殺の決意を。
_ Go ahead. Make my day.
( ゚∀゚)『……お も し れ ぇ 、 や っ て み ろ』
635
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:41:42 ID:2nMT7N0s0
ポンチョの下で装着されるのは対強化外骨格用の拳銃を扱う、“ダーティ・ハリー”。
トラギコの持つ“ブリッツ”とは対極にある棺桶だ。
だがそれだけではない。
ジョルジュが使うのはスミス&ウェッソンの44マグナム。
装着を終え、コンテナがポンチョの中から地面に落ちる。
ダーティ・ハリーの弾を生身の人間が受ければ血煙と化すだろう。
強化外骨格に対して使用される銃弾の中でも抜群の破壊力を追求したその弾は、ただの人間相手に使うには過ぎた代物だ。
ζ(゚ー゚*ζ「残念ね、本当に」
次の瞬間。
絶え間なく降り注ぐ雨の合間。
暴風の吹き荒ぶ風の隙間。
魔法の様な静寂の瞬間に、二人はほぼ同時に銃を抜き放ち、その銃腔を相手に向けていた。
撃鉄はすでに起きていた。
銃爪に指はかかり、そして、同時に銃爪を引いた。
初弾、ジョルジュが放ったのは一発の銃声に対して三発の高速射撃。
ダーティ・ハリー本体は使わず、スミス&ウェッソンを使って連射力を重視したのだ。
デレシアの読み通りの動き。
対するデレシアは両手のデザートイーグルから二発ずつ、合計四発の発砲。
空中で三発の銃弾が正面からぶつかり、相殺し合う。
威力で言えばデレシアの銃の方が上だったが、狙った場所に放たれた銃弾はあらぬ方向に逸れるか、地面に落ちて意味をなさなかった。
また、ジョルジュが撃ち漏らした一発はすでにその場から横跳びに移動した彼のポンチョの裾に穴をあけるだけとなり、ダメージを与えられなかった。
もしも相手が常人であれば、この撃ち合いで勝負は決し、新たな弾丸が放たれることはなかった事だろう。
しかし。
相手はジョルジュ。
――ジュスティア警察があらゆる汚れ仕事を請け負わせた影の英雄、ジョルジュ・マグナーニその人なのだ。
この程度では終わらない。
終わるはずがない。
デレシアも素早くその場所から移動し、ジョルジュが身を潜めた商店のガラス戸に向けて銃弾を撃ち込む。
ガラス戸は勿論の事、その奥にあった木製の棚は無残にも砕け散り、その合間にジョルジュが撃ち返してくる。
それを避けつつ、デレシアも物陰に身を潜めた。
弾倉を交換し、銃弾が飛んでくる場所に向けて発砲する。
互いの弾は遮蔽物を破壊、貫通する威力を持っているため、商品棚では防御の役割を果たすことはない。
二人の銃撃戦がこれ以上加熱すれば、流石に民間人にも実害が出かねない。
あまり気乗りはしないが、ジョルジュに近接戦闘を仕掛けるのがいいだろう。
そう思って身を乗り出しかけた時、バイクのエンジン音が近付いてくるのに気付いた。
ζ(゚、゚*ζ「……来たわね」
636
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:44:20 ID:2nMT7N0s0
デレシアの声に合わせるかのようにして、二台のバイクが商店街に姿を現した。
運転していた内の一人がバイクの上に立ち、もう一人は車体を寝かせて急制動をかける。
急制動をかけたものの、濡れた路面の上をバイクは滑るようにスライドして止まることはない。
派手な演出の中、デレシアの耳は二種類の言葉を聞き取っていた。
(´・ω・`)『英雄の報酬は、銃弾を撃ち込まれることだ!』
これはバイクの上に立った男、ショボン・パドローネの声。
勇ましく口にしたのは“ダイ・ハード”の起動コード。
高速機動戦闘に特化した棺桶で、その脚部に備わった高周波装置を内蔵した一対の可変式の楯は攻守を両立するための武器だ。
同クラスの棺桶を蹴りで破壊することのできる数少ない棺桶だ。
(´・_ゝ・`)『姿は見えないが殺意は見える!』
そしてこれは、バイクをスライドさせて死角を作ろうとした男の声。
カメラと肉眼の両方で透明人間となる事の出来る“インビジブル”の起動コードだ。
本命はこの男、つまり、デミタス・エドワードグリーンだろう。
視界を支配すればデレシアを討てると信じている、浅はかな馬鹿の考えそうなことだ。
(::[-=-])『これで終わりだ、糞女!』
バイクからショボンが飛び上がる。
陽動目的なのがまる分かりである。
その証拠に、デミタスは早くも光学迷彩を起動させて姿を風景に溶け込ませている。
インビジブルが雨の日に弱いことも知らずに、実に健気なことだ。
デレシアは突然現れた二人の増援に対して動揺を見せることもなく、最初の狙いを哀れなデミタスに定めた。
だが、思わぬところから聞こえた銃声がその場を凍り付かせた。
着地と同時に攻撃態勢に入ろうとしていたショボンの足元にジョルジュが発砲したのだ。
_
(#゚∀゚)「……手を出すなよ、ショボン」
抜き放たれているのはスミス&ウェッソンではない。
強化外骨格の堅牢な装甲を貫通可能な大口径拳銃。
60口径の超大型回転式拳銃“オートマチック・ツェリザカ”。
その威力は、分厚い装甲で24時間使用者を守り通すという設計をされた“トゥエンティー・フォー”の装甲を難なく貫通する。
フルオート射撃にも対応し、装弾数は六発。
必殺の弾がそれだけあれば、ダイ・ハードなどいともたやすく行動不能に陥らせることが出来る。
(::[-=-])『……何かあると思ったら、やっぱりそうか。
ジョルジュ、君はデレシアと面識があるんだな?』
_
(#゚∀゚)「うるせえ、すっこんでろ。
禿野郎が」
この性格は昔から変わっていない。
ジョルジュは縄張り意識、獲物意識が非常に強い男だ。
デレシアを追うきっかけになったのもその性格が原因であり、今こうしてデレシアの前に現れている原因でもある。
この絶好の機会に仲間割れをするとは、流石ティンバーランド。
637
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:46:22 ID:2nMT7N0s0
ジョルジュの性格をよく分かっていれば、この場面で邪魔をすることはなかったはずだ。
我先にと彼らの言う大義を果たさんとするために動くことを良しとしているため、こうなるのだ。
そして、仲 間 割 れ を 即 興 で 演 じ る と い う や り 口 は 、 あ ま り に も 使 い ま わ さ れ た 手 だ っ た 。
ζ(゚ー゚*ζ「はい、残念」
デレシアは銃爪を引き、人影も何もない空間に発砲した。
直後、それまで姿を消していたデミタスが膝を突いた姿で現れた。
(;´・_ゝ・`)「……くそっ!! どうして!!」
対人用の銃弾は膝頭を掠め、薄手の強化外骨格の装甲と肉を抉り取っていた。
ベーコン・シリーズのインビジブルは装甲とは言い難い薄い素材で作られ、僅かばかりの戦闘補助、そして全身を不可視化する能力を得ている。
全方位型のカメラで周囲の情景を取り込み、それを特殊な繊維に反映させることで光学迷彩としての機能を果たしているが、欠点もある。
バッテリーが小型であることと映像処理に使用する装置の相性が悪く、不可視化するのは最大で三十秒。
そして、武器を使用する際には武器は透過処理することができず、小型のポーチに収納できる武器しか携行が出来ない。
そのため、使用する武器は基本的に高周波発生装置の備わったナイフか、小型の拳銃――四十五口径が好ましい――に限られる。
何より、インビジブルに限った話ではないが、ベーコン・シリーズが抱えている問題があった。
斬新な技術をいち早く実用化するが故に、細かな不具合がどうしてもついて回ってしまうのだ。
先駆者の悩み。
インビジブルについて言えば、跫音を減らすための工夫が靴底にされていないこと、そして付着した雨の投下処理の甘さが挙げられる。
音に頼らずともデレシアはインビジブルの使用者の位置を正確に知る事が出来るが、デミタスはあまりにも無知過ぎるため、初歩的な部分が出来ていなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「自分の使う棺桶の弱点ぐらい調べておきなさい。
でないと、それがそのまま本当の棺桶代わりになるわよ」
(;´・_ゝ・`)「ちっ!!」
_
(#゚∀゚)「どいつもこいつも使えねぇ……
いいか、その女は生け捕りにしろよ。
お前らなんかが束になっても相手にならねぇんだよ、そいつは!!」
(::[-=-])『殺すのが僕らの任務だろう。
少しは利害を考えてくれ、ジョル――』
刹那。
ダイ・ハードの姿が掻き消えたかと思うと、デレシアの目の前にその巨大な脚部が現れていた。
(::[-=-])『――ジュ!!』
ζ(゚ー゚*ζ「……」
飛び蹴りの一閃。
デレシアの首を刈り取らんと放たれた横凪の一蹴を、僅かに腰を曲げて回避し、代わりに、鎌鼬のように洗練されたハイキックを見舞った。
その一撃は中空で回避行動のとれないショボンを的確に捉え、膝を突いて休んでいたデミタスの上に叩き落とした。
(::[-=-])『ぐぉっ?!』
638
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:48:13 ID:2nMT7N0s0
(;´・_ゝ・`)「ぬっ!?」
デミタスは辛うじて両腕を眼前で交差させ、頭部がダイ・ハードの重量で潰されるのを防いだ。
しかし、好きを窺っていたデミタスはダイ・ハードの下敷きとなった。
_
(#゚∀゚)「言わんこっちゃねぇ!!」
ジョルジュの警告は的確だったが、味方が無知過ぎた。
殺そうと迫ってくる相手であれば、その行動は手に取るように分かる。
生け捕り、もしくは殺害の両方が選択肢にあれば行動の幅は広がってくる。
その点、ジョルジュはデレシアとの戦い方を少しは分かっていた。
ζ(゚ー゚*ζ「さ、どうする?
三人がかりで来てもいいわよ、別に」
ローブの下に隠したデザートイーグルの弾倉を対強化外骨格用の強装弾入りの物に交換し、準備を整える。
攻撃をいなすのは容易だが、棺桶の中にいる人間を殺すのは少しだけ手間がかかる。
デミタスとジョルジュは問題ないが、ダイ・ハードは脚部の装甲が楯としてデレシアの弾丸を防いでしまう。
となると、いつでも殺せるようになったデミタスは放置して、面倒なショボンから始末するのが得策だろう。
(::[-=-])『思い上がるなよ、糞女!』
_
(#゚∀゚)「……手前、禿野郎。 俺の話を聞いてねぇのか。
その女はそんな簡単には潰せねぇんだよ」
殺意と敵意を一身に向けられるデレシアの耳に、再びエンジン音が届いた。
台数は一台。
遅れてきた増援だろう。
lw´‐ _‐ノv『この歌が聞こえるか? 怒れる者たちの歌が聞こえるか? これは二度と囚われぬ者たちの歌』
シュール・ディンケラッカーの声で述べられた珍しい棺桶の起動コードが聞こえ、思わずデレシアは苦笑した。
想像を絶するセンスによって想像を絶するカラーリングを施された、コンセプト・シリーズのコードだ。
“レ・ミゼラブル”。
音を武器として取り入れた珍しいタイプの物で、ベーコン・シリーズの“フットルース”から色濃く影響を受けた棺桶だ。
フットルースが戦意高揚を行うのに対して、レ・ミゼラブルは戦意喪失を目的として作成され、暴徒の鎮圧などに使われる予定だった。
だがカラーリングが奇抜すぎたことと、多数を相手にする実戦では短機関銃と比べて制圧力が低いことから配備が見送られた機体である。
曲がり角から現れた時には、すでに装着が済んだ状態の姿だった。
√[:::|::]レ『……そいつが標的?』
(::[-=-])『そうだ』
直後、独特の音域で奏でる不協和音がデレシアに向けて流された。
躊躇いの無さは決意の固さを表している。
しかし、決意だけで世の中は回っていない。
ζ(゚、゚*ζ「煩い、近所迷惑でしょ」
639
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:50:09 ID:2nMT7N0s0
√[:::|::]レ『?!』
銃声を二つ。
二発の銃弾は正確にレ・ミゼラブルの両肩に装着されたスピーカーを破壊し、その機能を無効化した。
これがレ・ミゼラブルの弱点。
スピーカーを失えば、ただの目立つ的でしかなくなるのだ。
前線に立つよりも後方の安全な場所から使うべき棺桶なのに、どうしてかこうして前に出てきた。
トラギコ相手に優位に立ったことから調子に乗っているのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「で、終わり?」
いがみ合っていたはずのジョルジュとショボンが息を合わせて動いた。
44マグナムでジョルジュが牽制射撃を加えながら、ショボンが再度近接戦闘を挑んでくる。
デレシアは冷静に、かつ正確に狙いを定め、ダイ・ハードに50口径の弾丸を撃ち込みつつ、店の中に続くシャッターを後ろ蹴りで破壊し、退路を確保する。
一撃で破壊されたシャッターはまるで暖簾のように頼りのない物となったが、目隠しの効果が期待できた。
(::[-=-])『らぁっ!!』
地を這うように低い疾走。
そして薙ぎ払うような蹴りが放たれ、デレシアは攻撃が完全な物になる前にショボンの上半身に向けて発砲した。
両脚の楯が瞬時に展開し、ショボンを凶弾から守る。
その為、ショボンは銃弾を防ぐために一瞬だけ動きを止めざるを得なくなった。
接近を防ぎつつ、デレシアはシャッターを背中で押して退けて店内に入った。
店内に並ぶショーケースに展示されている商品を見ると、どうやら置物などの土産を取り扱っている店の様だ。
武器になりそうな物が無いとみると、デレシアは両腕をローブの下に隠した。
(::[-=-])『援護を!!』
シャッターの向こうでショボンが叫ぶ。
頼りなさげに風に揺れていたシャッターが外側に向けて引き千切られ、そこに楯を展開した状態のショボンが現れた。
(::[-=-])『ここで死ね!!』
ζ(゚ー゚*ζ「いやよ」
電光石火の速度で構えたのは水平二連式ソード・オフ・ショットガン。
装填されているのは対強化外骨格用の強装弾で、その大きさ故に衝撃と破壊力は抜群だ。
ショボンが現れた瞬間、四つの銃腔が火を噴いた。
先ほどと同じようにして楯を展開し、弾を防ごうとする。
だが、高周波装置を起動しなかったのは失敗だ。
先ほどもデザートイーグルの弾をそのままの状態で防いでいたことから、デレシアは次も同様に防ぐだろうと予想をしていた。
結果は大当たり。
予想以上の衝撃によって楯は弾かれ、過負荷のかかった関節が逆に曲がって折れた。
(::[-=-])『なっ?!』
ζ(゚ー゚*ζ「出し惜しみするような余裕があるのかしらね?」
640
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:52:10 ID:2nMT7N0s0
四枚ある楯の全てが無力化された今、ダイ・ハードは肉弾戦以外に戦う術を持たない。
コンセプト・シリーズの持つジレンマ。
特化している部分を取り除かれれば、残るのは絞り粕のような機体だけ。
汎用型ではないため、残された能力だけで立ち向かわなければならない。
今、デレシアは目の前に現れた三体のコンセプト・シリーズをほぼ無力化した。
それは彼らが棺桶の能力に頼り切ったことが招いた失態であり、当然の結果だった。
唯一、ジョルジュだけは別だ。
彼は己の棺桶の性能を理解した上でデレシアとの戦いに挑んでいた。
ζ(゚ー゚*ζ「さ、どうする?」
四つの薬莢を廃莢し、目にもとまらぬ速さで再装填を行う。
そして得物をデザートイーグルに持ち替え、弾種をINF(In the Name of Father)から対強化外骨格用の物に完全に入れ替えた。
この間、一秒にも満たない早業だった。
(::[-=-])『糞っ!!』
ここで突撃してくる者があれば、それは底なしの無能であることを証明する何よりの振る舞いとなる。
デレシアに対して策謀を巡らせるだけあって、ショボンは潔くその場を退いた。
賢い選択だった。
ショボンの撤退を援護するように、ジョルジュの射撃がシャッターを貫通してきた。
相変わらず的確な対処だ。
嗚呼。
残念で仕方がない。
ティンバーランドにはもったいない男だというのに、こんな形で堕ちてしまうとは。
√[:::|::]レ『……やって!!』
(:::○山○)『燃やすアル!』
新たな声。
それは、オアシズにいた餃子屋の男の声だった。
確か名前は、シナー・クラークス。
ブーンの教育に役立ってくれた人間だ。
とても残念な知らせばかりが続く。
彼の宣言を証明するように、赤い焔がシャッターを染め上げた。
その炎は瞬く間にシャッターを融かした。
ζ(゚、゚*ζ「……“ファイヤ・ウィズ・ファイヤ”ね」
炎には炎をもって戦わせよ、の名前を冠せられたコンセプト・シリーズだ。
火炎放射兵装を備えた棺桶の中でもトップクラスの耐熱性、そして粘度の高い科学化合物の使用による安定した燃料の供給。
全ての炎を制圧することに特化して作られた棺桶。
耐熱に優れた装甲は自らの炎で焼かれることもなく、マグマの中でさえ問題なく活動することが出来る。
ζ(゚ー゚*ζ「でもね……」
641
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:54:44 ID:2nMT7N0s0
熱に強くても、炎以外に対する特性があるわけではない。
それこそがコンセプト・シリーズ。
デザートイーグルの銃腔を炎の向こうに向け、銃弾の雨を降らせる。
一発一発が必殺の弾丸。
(:::○山○)『ぐっ!!』
シャッターの向こうに見えていた黒影が飛び退く。
その姿は間違いなく、ファイヤ・ウィズ・ファイヤだった。
特徴的な細い脚、そして骸骨の様な顔。
丸みを帯びた装甲を楯にして弾丸を弾き、難を凌いだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ほら、燃やして御覧なさい」
燃え尽きたシャッターが地面に落ち、降り注ぐ雨で急速に冷却されて悲鳴にも似た音を上げた。
弾倉を交換。
続けて銃弾を放ち、店から距離を取らせる。
閃光に照らされた道の上に、先ほどまで倒れていたデミタスの姿はなかった。
デレシアは優雅に表に出て、そこに並ぶ敵を一睨した。
上半身から湯気を立てるのはシナー。
その傍でショボンは膝を突き、デミタスがその陰でショットガンを構えていた。
ジョルジュの姿は無く、だが、物陰からデレシアを睨んでいることはよく分かった。
ζ(゚ー゚*ζ「あら、その散弾でどうするつもりなの?」
(;´・_ゝ・`)「殺してやる!!」
宣言通りの発砲。
それを掲げたローブで防ぎ、デレシアは容赦なくデミタスの膝頭を撃った。
その銃弾はデミタスの左膝から先を分離させた。
(;´・_ゝ・`)「ああっ?!」
√[:::|::]レ『この女っ!!』
負傷したデミタスを素早くシュールが庇う。
音響兵器を失ったレ・ミゼラブルに出来る事と言えば、それぐらいしかない。
ζ(゚ー゚*ζ「それはマナー違反でしょう、デミタス。
ジョルジュ、後でよく教育しておきなさい」
雷鳴が轟く。
風にあおられた鐘が、不気味な音色を奏でる。
島中に響き渡るのは風の音と鐘の音。
今、嵐の中心は間違いなくデレシアのいるこの場所にこそあった。
ζ(゚ー゚*ζ「黄金の大樹を名乗る大馬鹿がこれだけ雁首を揃えて何も出来ないとは、情けない話ね」
642
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:56:34 ID:2nMT7N0s0
(::[-=-])『……見え透いた挑発をよくも言えたもんだ。
お前が仕向けた囮は無駄だったというのに、勝った気になっているとはな』
ζ(゚ー゚*ζ「囮?」
その言葉に、笑いが漏れ出そうになるのをどうにか堪える。
(::[-=-])『糞耳付きの糞ガキだよ。
それとも、囮ですらなかったってことか?
そりゃそうだろうな、耳付きのガキなんて――』
流石に我慢の限界だった。
利口ぶった馬鹿の姿は見ていて滑稽極まりない。
ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、馬鹿丸出しね。
囮なら目の前にいるじゃない、ほら」
(::[-=-])『……は?』
ζ(゚ー゚*ζ「私が囮よ。
残念ね、早とちりよ」
そう。
囮は最初から最後までデレシアなのだ。
相手が求める存在が動いて初めて、囮は意味を成す。
その点、デレシアはこの島にいる誰よりも適任だった。
ティンバーランドの人間はデレシアを何としても探し出し、殺したいだろう。
その望みをちらつかせれば食いついてくると思い、デレシアは一計を講じることにした。
ブーンをディに乗せ、ヒートの迎えに寄越したのだ。
彼を囮と勘違いしたショボン達はデレシアへと狙いを変え、こちらの思惑通りに動いてくれた。
(::[-=-])『何を言っている、お前は』
_
(;゚∀゚)「……手前、やりやがったな!!」
気付いたのはジョルジュだった。
彼もまた、デレシアに利用された人間だった。
声だけでも彼が焦り、苛立っているのがよく分かる。
_
(;゚∀゚)「信号弾は駄目押しか……」
(::[-=-])『何?! ジョルジュ、あれは君が撃ったんじゃ!!』
タイミングを見計らって放った信号弾は、デレシアからブーンへの合図。
深い意味のない、ただの合図だった。
それはデレシアが何らかの動きをすることを示す合図であり、作戦が順調に進んでいることを表す合図でもあった。
そして、状況からその信号弾を都合のいいものに解釈した人間がやってくる、誘蛾灯のような物だ。
狙い通りに誘われて来たというのに、自慢げに語るショボンの姿は実にみじめな物だった。
643
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 21:58:09 ID:2nMT7N0s0
_
(;゚∀゚)「目的は最初から最後までヒートか……!!」
ζ(゚ー゚*ζ「さぁ? ヒントはここまで。
後はどうぞゆっくりと考えておいて」
一つの合図が一つの意味しか持たない、とは限らない。
同時に、囮の目的も一つとは限らないのだ。
_
(;゚∀゚)「っ?!」
屋上から降り立った二人も、デレシアの答えの一つ。
二つの影はデレシアを背にし、その視線をショボン達に向けた。
ζ(゚ー゚*ζ「さ、後はどうぞお好きに」
ショボン達と対峙する形で現れたのは、二人の騎士だった。
円卓十二騎士のダニー・エクストプラズマンとショーン・コネリ。
匿名の情報を信じ、思った通りに踊ってくれた優秀な駒。
ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『……ここまでシナリオ通りとはな』
<::[-::::,|,:::]『癪だが、認めるしかあるまい』
この二人が最優先で望んでいるのは島での騒動を治め、脱獄犯の始末をつけること。
情報が無く、藁にも縋る思いになっていた彼らに向けて送ったデレシアのメッセージはかなりの効果があった。
デレシアが行ったのはオアシズの市長、リッチー・マニーからジュスティアに情報を流すという行為。
信頼の無い人間から伝えられる情報よりも、信頼できる人間からの情報であれば信じざるを得ない状況がデレシアにとっては好都合だった。
<::[-::::,|,:::]『ここで悪を切り伏せる』
“アーティクト・ナイン”を装着したショーンが対強化外骨格用に設計された高周波刀を抜刀する。
ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『……最終ラウンドだ』
両腕の高周波発生装置を起動させ、エクストの腕は蒸気のように細かく飛び散った水によって白く染まった。
損傷したコンセプト・シリーズでは太刀打ちできないだろう。
こういった事態の訓練を積んでいれば話は別だが、急造チームの彼らにそれは無理な話だ。
一人を除いて。
_
(#゚∀゚)「嘗めるなよ、おい」
立ちはだかるのはジョルジュ・マグナーニ。
物陰から姿を現し、ツェリザカを二人の騎士に向ける。
一方で、スミス&ウェッソンの銃腔はデレシアに向けられていた。
<::[-::::,|,:::]『……驚いた、ジョルジュ・マグナーニか。
あの、ジョルジュ・“ダーティ”・マグナーニか!!』
644
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 22:01:26 ID:2nMT7N0s0
_
( ゚∀゚)「ショボン、そいつらを連れて引き揚げろ。
時間稼ぎをしてやる。
文句も質問も、その後だ」
ショボン達は忌々しげにデレシア達を一瞥し、その場から駆け出した。
逃げ去っていく背中を追うことなく、二人の騎士は同郷の裏切り者に殺意を向けていた。
騎士が許せないのは不義、不正、そして傲慢な悪。
ジョルジュはその全てに該当していた。
<::[-::::,|,:::]『一人で我々を相手にすると?
あまつさえ、時間を稼ぐと?』
_
( ゚∀゚)「呆れたか?
それとも、俺との勝負は怖くて出来ねぇか」
<::[-::::,|,:::]『逆だ、ジョルジュ。
その気概が無ければ、ただ切り倒しても意味がない。
良いだろう、その勝負乗った』
_
( ゚∀゚)「いいぞ、男の子。
それと、勘違いが一つある。
相手をするのは俺だけじゃねぇ」
<::[-::::,|,:::]『何?』
_
( ゚∀゚)「俺と、こいつらさ」
両手の中にある銃の撃鉄をこれ見よがしに起こし、ジョルジュは皮肉気な笑顔を浮かべた。
完全な、言い訳の余地もない挑発だった。
<::[-::::,|,:::]『はははっ、ジョークが上手い――なっ!!』
ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『しっ!!』
駆け抜けたのは騎士二人。
ダーティ・ハリーの領域である中距離ではなく、二人の得意な距離である近距離を選択したことは自然なことだ。
誰だってそうする。
そう、 誰 で も そ う す る だ ろ う 。
_
( ゚∀゚)「嘗めるなって言っただろ!!」
急速に接近するためには、駆け出した瞬間に最も無防備な瞬間が生まれる。
初動の起こりに合わせる事が出来れば、敵は攻撃を受けざるを得なくなる。
しかしそれは目にも止まらぬ速度、反射神経で補うにはあまりにも速すぎる領域。
凡人には捉えることのできない刹那の時間。
645
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 22:03:20 ID:2nMT7N0s0
ジョルジュはその刹那の時間に介入することのできる人間だった。
二方向に分かれての移動に対して、ジョルジュはスミス&ウェッソンを手放してツェリザカを持つ右腕を閃めかせた。
スミス&ウェッソンが地面に落ちるよりも前に、銃声が一つ。
それは正に閃光の技だった。
多くの悪党を前に独り立ち向かった男が身に付けた、ジュスティア最速の技。
銃弾を弾こうとしたエクストはすぐにその失態に気付き、バク転で緊急回避を試みる。
もしもそのまま拳で受け止めていれば、弾丸自体は粉砕できたかもしれないが、運動エネルギーによって関節が破壊されていた事だろう。
高周波振動する装甲を掠める程の距離で銃弾を回避することに成功し、エクストは辛うじて体勢を立て直すも駆け出しの瞬間が持つ加速力は完全に失われた。
ショーンは高周波刀を水平に振い、銃弾を切り裂いた。
刀は衝撃で撓んだが、折れることはなかった。
切りかかる勢いとタイミングがずらされたことにより、彼の狙っていた攻撃は霧散した。
再度攻撃を仕掛ける方法を練り直さなければならない。
こうして、それぞれの方法で二人とも銃弾を防いだ。
一発目の銃弾は、だが。
あの一閃の中で、ジョルジュは四発の銃弾を撃ち込んでいたのだ。
よほど注意深く彼の銃声を聞いていても、それが四つに聞こえた人間は極めて稀だろう。
追撃の銃弾は二人の騎士の得物、拳と刀を弾き飛ばした。
_
( ゚∀゚)「どうしたよ、騎士様よ」
そして一瞬でリロード。
流石、ジョルジュだ。
強化外骨格を相手にどう戦えばいいのかを心得ている。
後は、騎士相手にどこまで粘れるのか。
<::[-::::,|,:::]『……やるな』
ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『デミタスたちはどうする?』
<::[-::::,|,:::]『あの傷だ。 行く場所は限られる。
おまけにこの嵐ならヘリコプターは出せないだろう。
こいつを倒す。
……久しぶりに倒し甲斐のある敵が出てきた!!』
デレシアに彼らの勝負の結末を見届ける気はなく、静かにその場を立ち去ることにした。
そんなデレシアに視線を向けはしなかったが、ジョルジュが決意を込めた低い声で言葉を投げかけた。
_
( ゚∀゚)「……次に会った時は、必ず捕まえてやる。
それまでは勝手に死ぬなよ」
ζ(゚ー゚*ζ「……やっぱり貴方、警官の方が向いているわよ」
646
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 22:06:08 ID:2nMT7N0s0
そして、デレシアは豪雨の中に姿を消した。
銃声が背後で鳴り響き、島の嵐はより一層激しさを増していた。
この先、嵐の中で何がどう変わっていくのだろうか。
デレシアは変化の果てに何が待つのかを想像し、心を躍らせた。
――この時、ティンカーベルの島民を含め、世界中の街に別の嵐が訪れていたことを、デレシアはまだ知らなかった。
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647
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名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 22:07:38 ID:2nMT7N0s0
嵐の中心地は、世界最大の企業内藤財団の本部ビルにあった。
世界経済の中心地として名高い街、ニョルロック。
ここでは世界中のあらゆる商品が取引され、あらゆる街の人間が集まる、正に経済都市だ。
内藤財団が統べる街の中央に聳え立つビルの一室、会見用の部屋には鋭い眼光を放つ女性が複数のマイクと複数のカメラを前に、堂々とした姿で座っていた。
スーツ姿の女性は社交辞令的な言葉を幾つか述べ、新商品である格安ラジオの発表を行った後、集めた記者たちに向けてゆっくりと、一言ずつ言葉を発した。
それは記者に対して発せられたというよりも、その先にいる人間。
報道を聞く、世界中の人間に対して向けられているような口調だった。
ξ゚⊿゚)ξ「……さて、本日は内藤財団副社長、西川・ツンディエレ・ホライゾンが内藤財団を代表して、皆さまに発表があります。
ご存じのように、我々内藤財団は今や世界中に広がる大企業となりました。
その歴史は古く、我々の名前を知らない世代は今やこの時代にはいないでしょう。
多くの街、町、村、集落に至るまで、我々の生み出した多くの製品が浸透しております。
ラジオ、新聞、雑誌などの各種媒体に必要不可欠な製品の提供は勿論、医療機器にまで我々の製品が使用されています。
そんな中、我々はあることに疑問を持っていました。
現在、我々人類が使用している言語、貨幣単位は一種類です。
それは世界を繋ぎとめるための重要な鍵であり、潤滑油のようなものです。
つまり、我々の言葉は同一規格なのです。
故にコミュニケーションに齟齬が出ることなく、今日までの発展がありました。
しかし。
同一規格でない物があります」
記者の中には質問好きで知られる者も大勢紛れ込んでいたが、彼女の言葉の持つ魔力によってこの時ばかりは口を閉ざしたまま、一言一句聞き逃すまいと速記していた。
十分に自分の言葉が周囲に伝わったことを確かめ、ツンディエレは力強く述べた。
648
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 22:11:10 ID:2nMT7N0s0
ξ゚⊿゚)ξ「それは、“単位”です。
長さ、重さを示すヤード・ポンド法と呼ばれるこの規格は今でこそ常識ですが、その不便さはかねてから問題視されていました。
より細かな数字を現す時、状況が異なる時には別の単位で表したり、計算が面倒になったりと実に厄介な物です。
インチ、フィート、ヤード、チェーン、ハロン、マイル、オンス、ポンド、例を挙げればきりがありません。
これはあまりにも非効率なのです。
そう、非効率。
非効率とは即ち進化の妨げであり、取り除かなければならない不具合なのです。
皆さん、覚えはありませんか?
何インチが一フィートで、何フィートが一ヤードなのか、と。
瞬時に計算することはとても難しいでしょう。
これが変われば、より円滑な計算が可能になるのではないか、と考えたことは?
円滑な計算は経済を加速させ、経済の加速は文明の進化を促します。
内藤財団では、この単位というものについて、長らく疑問を抱き続けてきました。
更に効率のいいものがあるのではないか。
より多くの世代の人間が、学習の深度に関わらずすぐに計算することが出来る単位があるのではないか、と。
そして、ようやくその答えが出せる日が来ました。
世界中に内藤財団の製品が広まった今日こそが、その日なのです。
製品を発明し続けた我々ですが、次に発明した物、それは単位です。
実は、内藤財団創設以来、内藤財団ではその単位を基に製品を製造し続けてきました。
つまり、すぐにでも切り替えられるよう準備をさせていただいていたのです」
彼女の言葉に、その場にいた記者全員が首を縦に振った。
重さと長さを表す単位は遥か昔からヤード・ポンド法、と呼ばれる物を使ってきているが、計算が厄介であり、どうにか一つの物になればと誰もが思っていた。
昔なじみの単位ではあるが、厄介な物だった。
異なる単位に変換する際、計算間違いをしなかった人間はいないだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「我々が新たに発明した単位、その名は“メートル法”。
これは十進法で長さ、重さなどを表すための単位です。
長さはメートル、重さはグラム。
これが基準となり、後は同じ基準でそれぞれ次の大きさの単位を使用することになります。
そう、世界が単位を通じて一つになるのです。
内藤財団は創設時から常に世界がよりよくなることを願い、その実現に貢献してきました。
詳しい計算方法については明日、全ての地域に無料で配布する新聞をご覧ください。
ラジオではただいまからコマーシャルの一部として告知が始まります。
また、全ての企業、小売業の方。
このメートル法に賛同し、導入してくださるのであれば、内藤財団の製品を通常の四割引きの価格でご提供させていただきます。
全ての製品が対象となります。
大型の重機、電子機器、食品に至るまで、一切の例外はありません。
今日は記念すべき日。
改めて、世界中の全ての皆様にお伝えいたします。
世界を繋ぐ新たな絆、単位を 内 藤 財 団 が 発 明 、 発 表 い た し ま し た」
649
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 22:12:31 ID:2nMT7N0s0
単位の発明。
これは世界を変え得る発明だった。
物ではなく、概念の発明を行った企業は十数世紀の間一社もなかった。
思いもよらぬ発表に、カメラのフラッシュが絶え間なくたかれ、写真が撮影される。
同時にラジオでもこの中継が行われ、世界中の街に情報が流された。
ξ゚ー゚)ξ「そしてもう一つ。
この発表に伴い、内藤財団が先ほど発表した格安ラジオを全ての街に寄贈させていただきます。
一つの例外なく、全ての街に設置できる公共ラジオとしてお使いいただけるよう、街の規模に応じて最大で一〇〇台のラジオを寄贈いたします」
ラジオの値段を破壊するような商品の発表が行われた直後、それを寄贈すると発表した瞬間、記者たちの我慢がついに限界を超えた。
一斉に質問の嵐が吹き荒れ、絶賛する言葉と共に、その真意を問いただす言葉も飛び交った。
ツンディエレは眉一つ動かさず、ましてや驕るような様子も見せずに質問に答えていった。
すでにニョルロックでは号外が配られ、街の人間は皆内藤財団の気風の良さに驚き、それを称賛した。
――今、世界が一歩大きな変化を遂げようとしていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
/ / / / /≠=ナメ、 {:{| .} l .l iヽヽ,
r r' | | /''゙゙゙゙゙゙゙゙'ヽ, `ト|. ,ノハ. | l l ト、ヽ、
l | _ l ./ . | ./ヾ《::Q::〉 ! l| ./ノ=.i ト }i |ハ l `ー
{ /| /ム.| { /|./ 〃=- ‐ ' | ./r'⌒`、l | .} l l リ
l| .{ { { |. | r' /イ .{!:Q::) }}.l ! l| } 「そう。 我々は世界を――」
_| ||↑| l | ヽ、`''‐=' l / ハ .l
‐=ニ l ハ.ゝ ! | .:::/ l.レ ./ }/
Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reknit!!編 第五章【lure-囮-】 了
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
650
:
名も無きAAのようです
:2017/03/28(火) 22:15:20 ID:2nMT7N0s0
これにて第五章は終了となります
質問、指摘、感想などあれば幸いです。
651
:
名も無きAAのようです
:2017/03/29(水) 16:45:58 ID:WtgaQte20
乙
お約束とはいえ大佐のAAの可愛さと地の文の格好良さのギャップが妙な笑いを誘う
なにやら新たな展開のにおいもしてきたし…どうなる
652
:
名も無きAAのようです
:2017/03/30(木) 01:54:04 ID:0EMcrYXw0
おつ
アイディールすげぇなぁ
カワサキならなんとかしてくれるよね
653
:
人妻
:2017/04/04(火) 12:58:14 ID:hqi8NjeA0
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654
:
名も無きAAのようです
:2017/04/05(水) 00:32:35 ID:pZUIjuSs0
原作の丸パクリ?
655
:
名も無きAAのようです
:2017/04/05(水) 20:22:34 ID:lmhZZ/GE0
>>654
The Ammo→Re!!は作者の脳内にある妄想小説でございますので、あまりお気になさらないでください。
656
:
名も無きAAのようです
:2017/04/08(土) 21:08:31 ID:OwrVHCn.0
一番最初で戦闘機モノなのかと思って今まで読まなかったけど読み始めたら面白くて一気に追いついちまったわ
続き楽しみにしてます
657
:
名も無きAAのようです
:2017/04/13(木) 09:22:38 ID:3cgZ3.hY0
乙
デレシア無双が気持ちええな
658
:
人妻
:2017/04/14(金) 11:33:14 ID:tRAn3.Ro0
生意気なギャルビッチとヤリたい!黒ギャル人妻出会い
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659
:
名も無きAAのようです
:2017/04/15(土) 22:36:00 ID:TAwpNWCg0
http://ammore.blog.fc2.com/
まだ途中までですが、今後はこちらのサイトにもAmmo→Re!!のようですをまとめていきます。
明日には第五章までのものが全て載せられると思いますので、
よろしければご利用ください。
660
:
人妻
:2017/04/16(日) 10:35:30 ID:QbnGuBvM0
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名も無きAAのようです
:2017/04/27(木) 19:45:10 ID:7ONswBNU0
ショボンの有能感好き
デレが何度も組織叩き潰したこと知ってるみたいだしどういう立場になってくるんだろうなぁ
662
:
名も無きAAのようです
:2017/05/03(水) 16:36:58 ID:N80WR3D60
明日の夜VIPでお会いしましょう
663
:
名も無きAAのようです
:2017/05/03(水) 18:12:30 ID:DlhAWLVc0
わーい!
664
:
名も無きAAのようです
:2017/05/03(水) 19:20:19 ID:TqCco6Vs0
ペース早いなありがてぇ
楽しみに待ってる
665
:
名も無きAAのようです
:2017/05/04(木) 00:18:55 ID:wM0LixR60
やったぜ。
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:2017/05/04(木) 17:24:31 ID:RhFCBFSg0
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667
:
名も無きAAのようです
:2017/05/05(金) 08:15:00 ID:NjkwanZg0
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嵐の中で孤立したのならば、流れに乗るのが上策だ。
そうすれば、少なくとも嵐に刃向う心配はなくなる。
だがもし、嵐に刃向うのであればその者は嵐の運び手となり得るだろう。
そしてその運び手は、嵐を新たな場所へと誘う災厄となるのだ。
――シンディー・バートン:著 【嵐の中】へ、より抜粋。
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避暑地として、また、手つかずの豊かな自然が多く残る街として有名なティンカーベルにはあまり知られていない観光名所があった。
それは遺跡だ。
だがそれは非文明的な人間達が暮らした時代の名残ではなく、現代に生きる人間よりも優れた技術を持つ時代に生きていた人間が残した未来の残滓。
そこから発掘された多くの遺産が分析、修復されることで現代文明を驚異的な速度で発展させてきた。
太古の遺産は最新の機材として世界に広まり、今やなくてはならない物となっていた。
修復されたもの以外にも設計図を基に再現された物もあり、当時使われていた材料を代用することで大量生産が可能となった。
発明品を生み出したと喜んでいた者も、設計図やその発明品の上位互換品が発掘されたことによって鼻を折られ、次第に発明家は姿を消していった。
現代の人間が過去の人間の模倣をする時代ではあるが、それが彼ら人類にとって何か不都合かと問われれば、答えは否。
考える時間が省略され、代わりに、人類が最も反映していたとされる時代を取り戻しているのだから、好都合極まりない話だ。
方法や形態はどうあれ、進化は生物にとって都合のいいことなのだから。
結果として行き過ぎた進歩が人類に終焉をもたらしたが、それを手痛い教訓として人々が覚えることはなかった。
進化を止めることは誰にもできないのだ。
終焉を迎える前に、人間は多くの娯楽を機械経由で得ていた。
映像や文字、音楽などの情報は人間の手によって生み出され、そして機械を通じて人々へと送り届けられた時代。
その時代の名残であるラジオは現代では高級品だが、多くの家庭が購入する家電であり、娯楽を家に届ける数少ない道具だった。
ラジオが届けるのは娯楽だけではなかった。
小さなラジオから流れてくるのは流行の音楽や、軽快な口調でリスナーから送られてきた手紙を読み上げる声だけではなく、集約された世界情勢も流れてくる。
世界の情報もそうだが、ラジオの利点はそれだけではない。
専用の周波数に合わせることで、その地域に限定した情報が流れてくるのだ。
伝令よりも早く、警鐘よりも正確に情報の伝達が出来るラジオは、今や世界中どこの街にも必ず一台はある。
だがそれはあくまでも娯楽方面の進化。
人類が進化する上で産まれた、いわば副産物だ。
人類史を語る上で最重要項目に挙げられる道具は別にある。
それは兵器。
戦争のために作られた道具であり、動物の中でも人間だけが幾度となく繰り返す愚行の象徴。
兵器の進化こそが、人類の中でも重要な位置にあることは議論の余地もない。
開発過程で産まれた多くの副産物が人の幸福につながるという皮肉な側面も踏まえて、正に、兵器は人類進化の何よりの証と言えるだろう。
争いがなければ人の進化はなかったはずだ。
668
:
名も無きAAのようです
:2017/05/05(金) 08:19:41 ID:NjkwanZg0
人類が開発した兵器の中でも最高傑作と言われるのが軍用強化外骨格、通称“棺桶”だ。
人間を殺し、兵器に対抗するための兵器。
無人機が人間にとって代わると言われた時代もあったが、それは結局幻想のまま終わった。
結局、手段はどうあっても人を殺すのは人だったのだ。
無人機同士での破壊は所詮、互いの財政を圧迫するだけで大した効果は得られなかったのである。
経済的な圧迫が戦争終結に結び付くこともあるが、憎しみが増大し、それまで市民だった人間がテロリストに転じる事が増えた。
テロリストと化した人間は難民として世界中に散り、そして、神の偉大さやその他諸々の言葉を口にして凶行に走った。
その時、無人機は全く意味を成さず、人々は命だけでなく他者に対する信頼までも失う結果となった。
失った物はあまりにも大きすぎた。
そして理解した。
恐れるべきは無人機などではなく、やはり人間なのだと。
無人機は生産するのに時間と金、手間と材料がかかるが人間は日に日に増え続け、更に機械では実行不可能な臨機応変な行動をすることが出来る。
勿論、そんなことは無人機開発の段階で分かっていた。
機械が人間を殺しても、人間は機械に対する信頼を失わない。
人工知能を恐れて人が暴動を起こすこともないが、同じ人間が殺しをしたとなれば、それは信頼問題に発展する。
移民の全てをテロリスト予備軍と恐れるようになった人間は暴動を起こすようになったが、国内に長らく潜伏していたテロリスト細胞の努力によってその暴動は内戦へと昇華された。
無人機を作る事の出来ない貧困国では、子供をある程度の年齢まで育てたら爆弾の運び手として様々な場所に移動させることで、大国の無人機に対抗することに注力した。
それが無人機戦争にとどめを刺した。
どのような機械でも、人の心の中身、爆弾を将来的に抱いて死ぬ人間を見つけ出すことは不可能だ。
子供たちはまるで無人機のように世界中に散らばり、死んでいった。
近所に越してきた移民たちを住民達は恐れ、排除し、それを差別と声高に叫ぶ人間達との間に決して埋まることの無い亀裂が生まれた。
やがて時が流れ、大きな時代の分水嶺が訪れ、無人機は無用の長物となった。
戦争は一周し、人同士の殺し合いへと戻ってきた。
こうして戦争の花形は無人機から人へ、そして、人が操る兵器へと移行していった。
人間が自己判断で動ける上に、装甲を身に纏う事から安全性を確保し、更には個人携行が可能になった事は戦場に大きな変化をもたらした。
それまで陸上最強だった戦車に対して、歩兵が正面から立ち向かう異様な構図が生まれたのだ。
正に、これこそが強化外骨格の本質だった。
新兵を猛者以上の存在へと変えるそれは、人と人との殺し合いをより激化させた。
訓練はほぼ無用であり、必要なのは、俊敏さと応用力、そして無慈悲な決断力。
強化外骨格、“棺桶”を身に付けられたならば、例えそれが十歳にも満たない少年であっても、兵士を素手で殺すことが出来る。
必要なのは人間だけであり、経験は機械が補ってくれるのだ。
世界が戦場と化し、戦場はやがて地獄と化し、そして焦土と化した。
時は流れ、現代になってもその姿は維持され続け、強化外骨格は最高の殺し道具として存在している。
常識で考えるならば、強化外骨格を身に纏っている人間と生身の人間では殺し合いに発展すらしない。
一方的な殺し。
それが一般的だ。
棺桶を破壊する武器があっても、使う人間の技量と度量、そして経験値が無ければその武器は通常の武器と何ら変わりのない物でしかない。
鎧の有無は殺し合いに於いてはかなり重要な意味を持ち、鎧を持たない人間は常に死と隣り合わせの状況を味合わなければならない。
そのため、小型であるAクラスの棺桶は少しでも使用者が戦闘で生き残れるようにと、対棺桶戦闘に特化した設計をしている。
設計者の考えと執念がよく表れているのがAクラスの特徴でもある。
669
:
名も無きAAのようです
:2017/05/05(金) 08:20:58 ID:NjkwanZg0
両者が強化外骨格を使用したならば、それは大規模戦闘にも匹敵する殺し合いになる。
拳が砲弾並の威力を発揮する物も開発されており、それは、使用者の筋量を無視した殺し合いが可能であることを意味している。
例えば。
八月十一日のティンカーベルにある路地では、性別や体格差を無視した戦闘が行われていた。
从'ー'从「あれぇ? 皆向こうに行っちゃったけど、あんたは行かないのぉ?」
棺桶は大きく三種類に分類される。
最小のAクラス、中型のBクラス、そして大型のCクラス。
ワタナベ・ビルケンシュトックが装着するのはAクラスの“エドワード・シザーハンズ”。
軽量、そして必要最小限の力で棺桶を相手に出来るように設計された“コンセプト・シリーズ”の一つだ。
両腕に筋力補助を兼ねた籠手、そして十指を彩るのは淑女の繊手めいた鉤爪。
その十本全てが高周波発生装置を備えた棺桶殺しの武器。
正に、機能美の集大成。
実際、名匠として名高い設計者のT.バートンは自身が掲げた“決して優雅さを失わず、戦場に於いて洗練された姿を保つ”の目的を見事に達成した一作品を仕上げて見せた。
( ・曲・)『とは言っても、僕らは機動力補助が無いですからね。
あちらはあちらに任せて、こちらはこちらで楽しみましょう』
ワタナベの隣に立つキャソック姿の男は、聖職者じみた口調でそう言った。
無知故の思い上がりか、それとも戦闘慣れした人間が持つ余裕なのか。
男の口調、立ち振る舞いからは何も分からない。
相対する者の分析を困難にしているのは、男の装備だ。
使用できる棺桶は一人一つ、というわけではない。
もしも装備できるのであれば、複数の棺桶を身に着けて戦う事は出来る。
例えば補強部位の異なるAクラスの棺桶であれば、同時にその特性を我が物にすることが出来る。
棺桶一つの金額が膨大であるが故に、ほとんどの人間がそうしないだけだ。
キャソックの男が“マハトマ”と“ハンニバル”を装着していたとしても、潤沢な資金源と資材が背景にある事を考えれば不自然でも不思議でもない。
だが棺桶を二つ装着しているから強いとは限らない。
ただ物珍しいだけで、そんな人間との戦闘が一般的な人間にとっては稀なだけだ。
そう、稀というのはつまり、未経験に近い物がある。
未経験での戦闘行為の恐ろしさは、戦闘経験が多い人間であるほど分かっている。
特に棺桶の戦闘では、相手の棺桶の正体を知らないだけで命取りになる。
可能であれば戦闘行為を避けるべきだが、それは対峙する人間の事情による。
男とワタナベに向けて殺意を放つ女が眼前の男を敵と見ているのか、それとも獲物として見ているのか。
ヘッドマウントディスプレイに覆われた瞳からは、何も読み取れない。
ノハ<、:::|::,》『……で、あんたらはどうするんだ?』
その場でただならぬ殺気を放つヒート・オロラ・レッドウィングは、奇妙な組み合わせの二人に向けてその言葉を送った。
彼女の装着する棺桶、“レオン”はAクラスでありながら全身を覆い、尚且つ対強化外骨格用の強化外骨格と言う、兵器界の食物連鎖の頂点に位置する物。
例え棺桶を装着した人間が二人相手でも、後れを取るような設計はされていない。
右手の杭打機は装甲を貫き、そして悪魔じみた造形をした巨大な左手の五指は棺桶の動きを奪うための武装だ。
670
:
名も無きAAのようです
:2017/05/05(金) 08:23:07 ID:NjkwanZg0
ゼロ距離で放つことを前提とされた左手の電撃は豪雨の中でも威力を損なう事はなく、確実に対象のバッテリー、電子機器を破壊することで動きを奪う。
それのみならず、高周波振動の武器に対する耐性も備えており、薄い装甲を守るほぼ唯一の楯としての機能も備えている。
電撃で身動きが取れなくなったところを杭打機が貫き、操る人間――棺桶持ち――を屠り去るという、単純かつ明確な運用設計はコンセプト・シリーズにこそ相応しい。
鎧を纏った二足歩行獣のような風貌のレオンに対して、洗練された車両の様な造形をした棺桶が豪雨の中身じろぎ一つせずに返答した。
深紅の装甲は雨に濡れていながらも、溶鉱炉のような赤々とした輝きを放っていた。
カバーに覆われたモノアイの光が雨粒に反射し、輝きがまるで火花のように散っている。
(::[ Y])『先ほども言った通り、私は私の目で正義を判断します。
少なくとも今、私の目の前には悪が二人。 そして、どちらでもない貴女が一人。
排除するに値するのは悪のみと、私は決めています』
舗装路を高速で移動することに特化して設計されたコンセプト・シリーズの“イージー・ライダー”を駆るのは、ジュスティア警察に所属するライダル・ヅー。
警察の最高責任者の傍らで静かに策謀を巡らせ、冷静沈着に行動する冷血な秘書。
これまでの彼女は感情で動くという愚は犯さず、命令には絶対服従する機械の様な人間だった。
鉄血の女秘書と陰で囁かれ、人間味を欠如したまま育った機械人形と恐れられた女。
法律に従って死刑宣告を下し、一切の慈悲なく電気椅子のスイッチを入れ、自らの手で絞首刑を執行することもあった女。
全ては定められたものに対しての絶対的な服従から来る行動であり、規律を重んじる組織からすれば理想的な人間だった。
彼女と仕事を共にした人間は皆口を揃えて彼女の事を冷徹な機械だと評するだろうが、今や彼女の言動は従順な機械とは明らかに異なり、人間的な物となっていた。
恐らくは彼女の人生で初めて、上官の命令に対して異議を唱えたのである。
正義とは何かを判断するのは自分自身の目であり、誰かの命令ではない。
そのため、判断は自分で下す、と。
かつての彼女を知る人間が聞いたら間違いなくその正気を疑う言葉だった。
衝撃的な言葉の直後、上空に現れた赤い信号弾に呼び寄せられるようにして敵が一人去り、彼女に命令を下した二人の上官はそれを追って消えた。
円卓十二騎士と呼ばれるジュスティアの最高戦力に属するショーン・コネリとダニー・エクストプラズマンの目的は眼前にいる罪人ではなく、脱獄犯の逮捕もしくは処刑だった。
信号弾が上がった理由についての説明を一切受けていなかったが、彼女からしたら命令違反で咎められる面倒が省ける幸運に恵まれた。
そして残された彼女は文字通り、自分で下した判断を実行し、その後処理をすることにした。
彼女に抱えられたままの男は不機嫌そうな視線を彼女に送り、そして次に皮肉めいた言葉を送った。
(=゚д゚)「そうかい、それは良いんだが。
俺を降ろすってことを忘れるなよ」
トラギコ・マウンテンライトはそう言って、厚い装甲に覆われたヅーの胸を拳で叩いた。
彼のぎらついた眼は豪雨の中でもはっきりと分かる程に殺意に満ちていた。
その殺意は、茂みに隠れる飢えた虎から放たれるそれ。
戦いの瞬間を待ち、いつでも襲い掛かる事の出来る状態だ。
(=゚д゚)「そいつらは、お前の手に余るラギ」
大きな水たまりの上にゆっくりと降ろされ、トラギコは鼻の頭についた水滴を鋼鉄の籠手で覆われた親指で拭った。
降り注ぐ雨が再び彼の鼻を濡らしてしまうため、その行為自体に意味はない。
全くの無意味極まりない行為だ。
だがそれだけで、トラギコの顔つきが変わったのは事実。
覚悟を決める動作など、ほんの些細な、それこそ無意味と思われるような物でいいのだ。
優れたスポーツ選手が試合前にする動作と同じく、心を落ち着けるための一動作。
吐き出した溜息には熱がこもっており、その心臓はエンジンの様に激しい鼓動を刻んでいる。
671
:
名も無きAAのようです
:2017/05/05(金) 08:24:57 ID:NjkwanZg0
(=゚д゚)「でも、手は貸してもらうラギよ」
(::[ Y])『……背中ではなくてですか?』
トラギコは如何にも驚いた風に眉を吊り上げ、意味ありげな笑みを浮かべた。
あの分からず屋の石頭であるヅーが、トラギコの意図を理解していたとは驚きだったのだ。
何も言わずとも最善の手を考えたとは、実にいい兆候だった。
指示をする手間が省けて助かる。
(=゚д゚)「分かってんじゃねぇか」
(::[ ◎])『貴方の考えそうなことですから』
より広角の映像を処理する為に頭部のレンズカバーを展開したヅーは肉食動物を思わせる四足歩行に切り替え、その背にトラギコが乗った。
騎乗する旧世代の騎士を思わせる姿は、あまりにも不恰好。
槍であれば格好も付いただろうが、彼が持つのは山刀に近い剣。
騎馬戦ではまず使用されない武器だ。
しかし彼が乗るのは機械仕掛けの獣。
理性と知性、そして破壊力を備えた正義の信仰者。
どの位置に相手がいようとも、確実にトラギコの刃を届かせる。
(=゚д゚)「動きは手前に任せるラギ。
さて……」
高周波刀、“ブリッツ”を肩に乗せてトラギコはその視線をまっすぐ目の前の敵に向けた。
そして彼は。
まるで。
虎のように――
(=゚д゚)「やるぞ!!」
――吠えた。
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reknit!!編 第六章【bringer-運び手-】
. /二|=||=マニ二/_ ̄ ̄ ̄_マニ二/ニl|=|____
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August 11th PM13:01
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名も無きAAのようです
:2017/05/05(金) 08:44:54 ID:NjkwanZg0
イージー・ライダーは両手両足に備わった車輪によって、爆発的な加速力と機動力によって物資の運搬や追跡を目的に設計されたコンセプト・シリーズである。
秀でた武器があるとしたら、舗装路に於けるその機動力だけ。
それだけに特化したイージー・ライダーがその四肢を使って奔るという事は、攻撃性を捨てて安定性と速度を獲得した戦闘行為に備える事を意味する。
無論、舗装路に於けるその速力は他の強化外骨格を遥かに凌ぐ。
ただの人間であれば、その速度に翻弄されて詳細な姿を見る事さえ敵わないまま轢殺されるだろう。
例えば、部分的に補強をするだけのAクラスの棺桶であれば、その速度に追いつくことは非常に難しい。
( ・曲・)『あーあ、面倒なことになってしまいましたね』
神父と呼ばれていた男の呟きにはさほどの緊張感も感じられない。
十指を擦り合わせて不気味な残響音を雨音に忍び込ませたワタナベもまた、緊張感を欠いた様子で男を見た。
从'ー'从「あらぁ? 強気な女は好きじゃないのぉ?」
( ・曲・)『大好きですよ、そりゃあねぇ。
だけど、暴力的な人間と強気な人間は別物で――』
(=゚д゚)「お喋りも結構だがな!!」
男が瞬きを一度した隙をヅーは見逃さなかった。
当然それはトラギコも狙っていた好機。
豪雨と言う環境が誘発する瞬きは生物である以上、止められない。
“マハトマ”を装着する男はその両腕を無造作に持ち上げた。
マハトマはレリジョン・シリーズ――宗教関係の人間が設計、開発した棺桶の事――の代表格であり、非戦闘向きの棺桶の筆頭に挙げられる。
あくまでも筋力補助を目的に設計されており、マハトマは戦闘には向かない。
ただし、過酷な環境での使用が想定されているだけあってその頑強さは確かだが、今回は相手が悪かった。
ただの無銘の刀であれば防げるだろうが、トラギコが持つのはブリッツ。
緊急時に強化外骨格を切り捨てるため作られた、ただ一つの目的に特化したコンセプト・シリーズ。
高周波振動の武器を防ぐには、同じ機構を持つ物が必要不可欠だ。
マハトマの装甲など問題ではない。
(=゚д゚)「マハトマなんぞが!!」
速度を乗せたその一斬はマハトマを両断し得る威力が十二分にあったが、直前にそれを防いだエドワード・シザーハンズの五指までは切り落とせなかった。
同じ高周波振動発生装置を備えた武器同士では、よほどの違いが無ければ互いを破壊することは出来ない。
加速しての一撃だったが、ワタナベは指を揃えて一つの柔軟な刃を作り上げ、トラギコの攻撃を受け流したのである。
人間の反射速度の成す技ではない。
見てから行動したのでは間に合わない。
つまり、見る前から動いていたのである。
ワタナベは男の瞬きにトラギコが攻撃を合わせてくることを予期した上で、手を出したのだ。
一瞬の攻防でその技量を理解したヅーは悪戯に追撃をせず、距離を空けて再びワタナベたちに向き合った。
本格的な戦闘に慣れていないヅーに関しては、この女に対して臆病なぐらいがちょうどいい。
673
:
名も無きAAのようです
:2017/05/05(金) 08:50:15 ID:NjkwanZg0
从'-'从「ったく、マドラス・モララー。
自分の事は自分でやってよぉ」
( ・曲・)『これはどうも。 いやはや、貴女が異常者でなければ惚れているところでしたよ。
ところで何でフルネームを――』
ノハ<、:::|::,》『手前の相手はこっちだよ!!』
ワタナベの後ろにいたモララーの顔を悪魔の手が捕えたかと思うと、黒い腕は彼をそのまま力任せに投げ飛ばした。
頑強な素材で作られた建物の壁面に頭から激突したが、両腕を使って防御していたのをその場にいた全員は見逃さなかった。
へらへらしていても、戦闘経験はそこそこあるようだ。
口元を覆う奇妙な棺桶がどのような能力を持つのか、ヒートはまだ知らなかった。
量産されていないコンセプト・シリーズに対する最善の対抗策は、相手の能力を見極めることにある。
何に特化し、何が苦手なのかが分かって初めて攻略の糸口が見えてくる。
それまでは迂闊な攻撃を避けるべきだろうが、今は悠長なことを言っている時間はない。
彼女はティンバーランドの人間から聞き出さなければならない情報があった。
一度ならず二度までも、遠隔操作の棺桶を使ってヒートとの直接的な戦闘を避け続けている母親の情報。
弟と父の敵であるクール・オロラ・レッドウィングは今、どこにいるのか。
本当の仇を見つけた今、ヒートの目的は復讐を完遂させることだけだった。
島の行く末などに興味はなく、ただ、純粋な殺戮衝動があった。
こうしている間に隠れられたら見つけ出すのは至難の業だ。
そうなる前に居場所を聞き出し、逃げられる前に殺さなければ次の機会がいつになるのか分からない。
機会が失われる可能性すらあるのだから、焦るのも無理はない。
一見してモララーに対しての攻撃はやりすぎに見えたかもしれないが、頭さえ残っていれば人は喋る事が出来る。
彼女は経験上、どの程度痛めつければ人が死ぬのかは理解していた。
それに、彼の顔は棺桶で護られているのだ。
多少の無理をしても壊れることはそうないだろう。
咄嗟の事にも拘らず防御を成功させたモララーだったが、体勢を整える前に電光石火その速度で現れたヒートに後頭部を再び掴まれ、タイルで覆われた壁に向けて投げ飛ばされた。
壁にモララーの背中が触れるよりも早く、ヒートは飛び蹴りを放っていた。
(;・曲・)『ちょっ!!』
防御の姿勢を取ったモララーの素早さは称賛に値したが、その防御は大した意味をなさなかった。
モララーを蹴り飛ばしただけでなく、ヒートの飛び蹴りは背後にあった壁を易々と破壊したのだ。
二人の姿は壊れた壁の向こうに消え、そこから再び金属と金属をぶつけ合う音が響いてきた。
一方で、一瞬の内に味方を目の前から失ったワタナベは涼しげな表情をしていた。
从'ー'从「じゃあねぇ」
(=゚д゚)「よそ見してんじゃねぇぞ!!」
首狙った一閃をワタナベは上半身を仰け反らせることで回避し、そのままバク転で距離を取った。
高々と水飛沫を上げ、イージー・ライダーは建物に激突する前に急制動をかけ、素早く方向転換した。
車輌には厳しい地形の狭い路地だが、四肢を自在に動かすことのできる四輪走行ならば問題はない。
速度と装備の有利を持つトラギコ達の攻撃を捌くワタナベは、一体どれだけの死地を潜り抜けてきたのだろう。
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