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あと3話で完結ロワスレ
1
:
FLASHの人
:2012/12/09(日) 21:32:05
ルール等詳細は
>>2
を参照
お前が、このロワを、完結させるんだ……!
569
:
298話
◆9n1Os0Si9I
:2013/06/28(金) 19:36:19
<Chapter6 元『超高校級の絶望』が??という『??』を掴んだ理由>
【超高校級のメカニックとその相棒の永遠的な別れ】
『うぷぷぷぷ……オマエラ、絶望してるぅ〜?』
俺はただその声を聴いていた。
ただ茫然と、感情をどこかへやってしまったかのように。
前の放送からすでに6時間が経っていた。
俺はただ目の前で目を閉じている奴を見る。
安らかに眠っている。
寝息も立てずに、ただ眠っている。
『かれこれ前の放送から6時間たっちゃったねぇ〜、コロシアイの方も順調でいい感じだね!
うぷぷぷ……それじゃあこの6時間で死んじゃった人の発表と行きましょうか!
棗恭介
風大左衛門
ウェルキン・ギュンター
バーナビー・ブルックスJr.
川田章吾
日向創
以上6人でーす! うぷぷぷ……残りの生存者も言っておいた方がいいかなぁ?
鏑木・T・虎徹
左右田和一
江迎怒江
天野雪輝
玄野計
羊飼士狼
残りも6人だね! もうすぐこのコロシアイも終焉って所だね……。
あ、言っておくけどボクを倒して脱出できるなんて思ってないよね?
無理無理無理! 無駄無駄無駄! そんな考えは甘いんだよ!
それじゃあ、ほどほどに頑張ってね!
禁止エリアについては、もう言わなくていいや!
オマエラは全員、同じエリアにいるんだからさ!
それじゃーねー!』
放送は終わった、だが目を覚まさない。
先ほどからずっと揺すってるのに、目を覚まさない。
「なぁ、目を覚ませよ」
「嘘だよな、嘘だと言ってくれよ」
「さっきまで、動いてたじゃねぇか」
いつの間にか、自分の目から液体が流れていることに気が付いた。
何故俺は泣いているんだ。
泣く理由なんてねぇだろうがよ。
ソニアさんが死んだ時、あの時もう涙は枯れたはずなんだ。
それにコイツは、日向はまだ生きてるんだ。
死んでなんかない、すぐに目を覚ますはずなんだ。
「起きろよ、寝たふりで俺を驚かせようなんてオメェらしくねぇぞ」
「なぁ、何とか言えよ」
日向、そういわれた少年は重力に負けて横たわる形となって落ちた。
彼の背中からは、大量の出血の跡。
誰が見ても死んでいるとわかるような状態であった。
「何とか言えよ、日向あああああああああああああああああああああああ!!」
その悲痛な叫びは、もう日向に届かなくなっていた。
日向創の『ココロ』はもう二度と、『ロンパ』できない。
◆ ◆
570
:
298話
◆9n1Os0Si9I
:2013/06/28(金) 19:36:44
【ヒーローとして】
何をやっているんだ、そう思いながら俺は唇を噛んだ。
ヒーローなんて言って、結局は守れなかったんだ。
バニーとの約束も、守れなかった。
「――――なーにやってんだかな」
自分を嘲笑いたくなる。
これ以上誰も殺させはしない。
その約束はもう守ることはできないのだ。
日向創、そういわれた少年と遭遇し、永遠に分かれることになった。
羊飼士狼――――奴に俺は負けたんだ。
「こんなんじゃ、ヒーロー失格だよな」
かつて、Mr.レジェンドに助けてもらったとき、彼は被害を出しただろうか。
レジェンド――――彼はどんな時でもヒーローだった。
それに比べて自分はどうだろうか。
バニーも助けられず、日向という少年も救えなかった。
それ以前にどれだけの人間を見捨ててしまったのか。
「――――クソッ」
結局はすべて自分の無力さが招いた結果だった。
100人いたこの殺し合いも6人しか生きていない。
バニーもカリーナもキースもあの裁判官さんだって死んでしまった。
ヒーローの奴らは全員、最後までヒーローらしく動いたのだろう。
「――――なぁ、虎徹さん」
そこで、左右田が俺に話しかけてきた。
目は宙を見ているようであった。
焦点が俺に会っていない。
まるで、絶望に染まった景色でも見ているかのように。
「……なんだ」
「日向が目覚めないんだよ、どうしてなんだ?」
「…………」
もう、左右田は精神的にボロボロになっているのだとわかった。
何を言ってやればいいのかわからない自分にさらに苛立ちを覚える。
下手をすれば、完全に左右田は廃人のようになってしまうだろう。
こういう状況に陥るなんて、よほどの人間じゃなければ正気は保てない。
左右田は機会にめっぽう強いらしいが、言ってしまえば弱いただの一般人だ。
いや、逆にここまで精神を保ててるだけ左右田は強いのだろう。
しかし友人が全員死んでしまった今、もう彼の支えがない。
だから今、このようになってしまっているのだ。
「なぁ、虎徹さん――――どうしてなんだよ」
「左右田、俺は今からお前を信じて言わせてもらうぞ」
「は?」
「現実を見ろ、日向創はもう死んでいるんだ。
さっきの放送でも、もう死んだって言われた。
バニーだって死んだのを確認した、そして呼ばれた。
あの放送に嘘はないはずだ、だから日向創はもうこの世にはいない」
「何言ってんだよ、そんなわけねぇだろ!! さっきまで、俺と話して、俺を守ってくれて……」
「もう、いないんだよ……目の前でお前を守って死んだんだぞ、ソイツは……!
お前はその死を侮辱するつもりかよ!」
「違う! 日向が、死んでるわけねー!」
「現実を見やがれ、このわからず屋がッ!!」
ぱぁん、と気味のいい音が耳に触れる。
おれの手は、いつの間にか左右田の頬を叩いていた。
あの時――――バニーに対しやった時と同じように。
571
:
298話
◆9n1Os0Si9I
:2013/06/28(金) 19:37:17
「――――わかってんだよ、それくらい……日向はもういねーんだって。
終里だって、あの狛枝だって……ソニアさんだって、もういねーんだよ」
「左右田……」
「……くそ、なんでこんなことになってんだよ……! アレで、あの殺し合い修学旅行で終わったんじゃねーのかよ……!」
殺し合い修学旅行、左右田が経験した悪夢の日々のことだ。
彼はそこから、命からがら生還した。
その時の一番の立役者が、日向創――――今、目の前に死体となっている彼だ。
左右田にとって、そんな彼は心の支えだったに違いない。
自分にとっての……Mr.レジェンドと同じだ。
「――――」
この時から、崩壊と言う名の【絶望】は始まっていたのだ。
【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
[状態]NEXT能力使用可能、体中にダメージ
[装備]ワイルドタイガー用ヒーロースーツ(かなりボロボロ)
[道具]ヒーローのブロマイド(ワイルドタイガーとバーナビー・ブルックスJr.)@TIGER&BUNNY
[思考]
1:ヒーローとして、バニーの相棒として主催を倒す
2:……左右田
3:能力がいつまで持つのか……
[備考]
※NEXT能力が減退して行っています。 現在は3分強くらいしか続きません
【左右田和一@スーパーダンガンロンパ2-さよなら絶望学園-】
[状態]精神が不安定
[装備]なし
[道具]サバイバルナイフ@ダンガンロンパ-希望の学園と絶望の高校生-
[思考]
1:……
◆ ◆
【君と僕が壊れた世界】
少なくとも、もう6人しか生きていないらしい。
あれだけたくさんいた中で、僕が生きている。
これは、あくまで決まっていたことなのだ。
この『未来日記』の通りでは、僕はまだ死なないと決まっていた。
「――――ねぇ、由乃」
由乃、僕の大事な存在となった女の子だ。
サバイバルゲームを終えて、一緒にHAPPYENDを掴み取ったはずの相手だ。
だが、そのHAPPYENDは消えてしまった。
その掴み取ったものが消えたとき、僕は絶望したのだろう。
だけれども、今は違う。
この殺し合いで優勝し、もう一度……4周目に行けばいい。
4周目に行けば変わってしまうのだろう。
だけれども、僕の中で由乃はそれほど大事な人なのだ。
たとえこの世が壊れたとしても、由乃と居れるのならば僕はそれも甘んじて受け入れれる。
それほどに――――僕の中で、彼女は大きかった。
「こんな、由乃が死ぬなんていうふざけた結末も……無かった世界に行けるんだ」
――――それはとっても、幸せなことに違いない。
だからこそ、彼女を追いかけ続ける。
その、はるか遠い幻影(我妻由乃)までも。
たとえそれが異端であり、この世を敵に回す行為なのだとしても。
僕はそれほどに――――彼女を愛しているのだから。
【天野雪輝@未来日記】
[状態]脇腹に銃創
[装備]無差別日記@未来日記、ガリアン-4(5/5)@戦場のヴァルキュリア
[道具]ガリアン-4の弾丸(30)、雪輝日記@未来日記
[思考]
1:殺し合いに優勝し、4周目の世界に行く
2:間違っているかもしれないけれど……それでも……
[備考]
※無差別日記は制限がかかっていて少し先の未来しか見えなくなっています
572
:
298話
◆9n1Os0Si9I
:2013/06/28(金) 19:37:38
◆ ◆
【私と貴方が壊した世界】
あと6人だそうですね。
ねぇ、球磨川さん。
貴方が死んでしまってから、私は頑張ったんですよ?
もう、体だってボロボロになって。
右目なんかも見えなくなっちゃったんですよ。
でも私は諦めません……あなたを再び生き返らせるために。
この殺し合いに、勝利しなくてはならないのだから。
貴方がいなければ、マイナス十三組はどうなるのですか。
この私の愛を受け止めてくれる人は、いないんですよ。
貴方が――――球磨川さんがいなければ。
プラスもマイナスもない、0とも言えない様な最高に最悪な状況です。
「ふふ、ふふふふふ待っててください球磨川さん。
私は絶対にこの殺し合いで優勝して貴方をよみがえらせます。
そしてマイナス十三組全員で箱庭学園を……!」
球磨川さんを殺すほどの化け物が、ここにはいる。
死んでいるかもしれないし、今も生きているかもしれない。
だけれども私は……止まるわけにはいかない。
この『愛』のために、絶対に止まれない。
【江迎怒江@めだかボックス】
[状態]右目が潰されている、全身に裂傷
[装備]万能包丁×2@現地調達品
[道具]なし
[思考]
1:殺し合いに優勝して球磨川さんを生き返らせる
[備考]
※荒廃した腐花が進化しています
◆ ◆
【わるいおおかみにごようじん】
「――――くくくっ、ああ……なんて滑稽なんだろうね」
白い清楚な制服に身を纏う男はただただ笑っていた。
彼の名前は羊飼士狼、鬼ヶ島高校の生徒会長にして生徒達の頭を張る男。
そして――――この殺し合いのトップマーダーである。
鏑木・T・虎徹と左右田和一を襲撃し、日向創を殺した張本人でもある。
「まぁ、今ここで彼らに接触する意味はない……このままいけば、もっと彼らは崩れてくれる」
そして、彼は物陰から虎徹と左右田を見ていた。
接触しようと思えばすぐにでもできたが、彼はそれを良しとしなかった。
もっともっともっと、彼らが崩れるのを見たかったからだ。
彼はただの殺人者ではない。
面白い風になるように動く、それが羊飼のスタンスだ。
573
:
298話
◆9n1Os0Si9I
:2013/06/28(金) 19:37:48
「でも、結局涼子ちゃんには会えなかったね。 本当は壊れていく彼女を見たかったんだけどなぁ……」
大神涼子――――羊飼が壊したいと思った少女だ。
彼女を強くしたのは羊飼であり、弱くしたのも羊飼である。
そして、彼女を知らずの場所で絶望させたのも――――彼だ。
森野亮士という大神涼子が好意を寄せた男を、彼が殺したからだ。
彼にとって本来歩むべき未来にて倒される相手を、羊飼は殺したのだ。
自分の未来を消し、書き換えた。
「――――まぁ、どうせそういう運命だったんだ。 今はとりあえず、このつまらなくなってきたゲームを終わらせなきゃね」
その場から離れる――――と思ったその時だった。
左ポケットからナイフを取り出し茂みに放つ。
それと同時に茂みから何かが飛び出してきた。
「ッ――――なぜわかった」
「バレバレだよ……気付かれてないとでも思ったの?」
「……そうかよ」
黒いスーツを身にまとった男――――玄野計は羊飼の前に立つ。
この殺し合いを止めようと動いていた彼は、先ほどまで潜んでいたのだ。
自分の親友であった、加藤勝を殺した張本人を殺した羊飼を殺すために。
「絶対ぇ――――殺す!」
「見せてやるよ、格の違いって奴をさ」
二人の人間の対決が、ここに始まる。
【羊飼士狼@オオカミさんと七人の仲間たち】
[状態]左頬に切り傷、右足に銃創
[装備]投げナイフ@現実、安綱@おまもりひまり
[道具]支給品の一部
[思考]
1:この殺し合いに優勝し、主催も殺す
2:まずは目の前の奴(玄野)の対処
【玄野計@GANTZ】
[状態]左肩脱臼
[装備]GANTZスーツ@GANTZ(オシャカ)、GANTZソード@GANTZ
[道具]なし
[思考]
1:死んだ皆の分まで、生きぬく
2:加藤を殺したコイツ(羊飼)は許せねぇ……!
574
:
◆9n1Os0Si9I
:2013/06/28(金) 19:38:53
投下終了ですん。
前回のカオス系と違って、ちょっと考えたりしないといけないので、さすがに前回よりは投下ペースが落ちる(確信)
575
:
◆Q0VzZxV5ys
:2013/06/30(日) 13:41:14
遅れながらNARUTOロワ一回目投下させていただきます
576
:
意志を継ぐ者/繋げる者
◆Q0VzZxV5ys
:2013/06/30(日) 13:45:00
「あの小僧……霧隠れの鬼人の底力ですか」
地図に存在している建物は全て消えている。
草原もその姿を消し視界に広がるのは荒々しい大地が彼方まで続く。
大地の中央に存在感を放ち君臨するは再不斬の愛刀首切り包丁一本のみ。
彼が死に際に放った斬撃は会場を覆う邪悪を断罪した。
四代目火影波風ミナトが己のチャクラと体を犠牲にして瞬身の術を発動し会場を飛び回る。
その役目は各地にある幻術の札を破壊するためであり故に10分の間に7つのエリアを巡回。
札は8つあった事をミナトは知らない。
8つ目を破壊したのは大蛇丸。
無論知っていたとしても大蛇丸が協力したなど信じられる話ではないし、大蛇丸も協力した訳ではないようだ。
しかしそれが会場を騙る幻術を破壊するのに繋がった。
札を破壊したことにより幻術が解け会場がただの荒地に戻る。
そこは第四次忍界大戦が行われた場所である。
大きなチャクラの反応――それは始まりの仮面の男。
奴のせいで多くの人間が死に、多くの悲劇が生まれ、多くの憎しみが生まれた。
ミナトは酷使し過ぎた反動により一矢報いるチャクラも命も残っていなかった。
破壊に協力したガイ、キラービーもチャクラが残っていなく絶命寸前。
唯一の生き残りである再不斬を他にオビトと戦える者は残っていない――
三人は状況が理解できないほど頭が回らない訳ではない。
常に最善の方法を尽くす忍。
ならば可能性が高い方に賭けるのが筋であり故に全てのチャクラを再不斬に捧げる。
木の葉の気高き碧い猛獣、八尾の人柱力、四代目火影、そして己の生命を一本の愛刀に宿し根城を斬り裂く。
結果として四代目の瞬身の助けもありオビトと激突を起こし命を取る事はなかったが傷を負わし仮面を割る。
仮面が割れたことによりそのチャクラに気付く生き残った忍達は主催を目指す。
霧隠れの鬼人桃地再不斬が切り開いた可能性を目指して――
577
:
意志を継ぐ者/繋げる者
◆Q0VzZxV5ys
:2013/06/30(日) 13:47:12
「イタチさんも死んでしまい残る暁は私だけですか」
唯一の暁生き残りとなった干柿鬼鮫
彼の動向は定まっていない。
この場に来てからも慣れ合うことはしなかった。
時に人を殺せば時に悪者を斬り付け人の命を奪うにも様々な形で行なってきた。
始まりの仮面の男であるトビ――オビトの計画である月の眼計画が生き残りの参加者に知れ渡った。
無論干柿鬼鮫は最初から全てを知っていた、参加自体には何の説明も無かったが。
イタチの死に際の際に語られたうちは一族の真実。
そして今もこの会場に存在しているイタチの弟であるうちはサスケ。
会場で遭遇している生存者は伝説の三忍の一人である自来也、木の葉の奈良一族の忍そして風影の側近の三人。
出会ってはいないがかつての裏切り者大蛇丸、そして自分を含めた計六人。
外道魔像がまだ発動できる状態とは思えない。
九尾の人柱力であるうずまきナルトのチャクラ反応がまだ残っているため儀式前だろう。
再不斬の一撃は魔像に直撃しているためもしかしたら発動が出来ない状態かもしれない。
無論、条件を無視してマダラの口寄せが可能のため主催の戦力は十分高いものと予想できる。
生存戦力を考えた場合己を含め全員が万全な状態とは呼べないはずだ。
それに鬼鮫自身暁の一員であるためオビトと対立する必要がない。
そう必要がない――――――
「私の処分に来ましたか……ゼツ」
578
:
意志を継ぐ者/繋げる者
◆Q0VzZxV5ys
:2013/06/30(日) 13:48:13
前方に広がるのは大量の暁の一員であるゼツ。
その数十万ををも超える。
「やぁ鬼鮫久し振りだね」
「邪魔者は全て消す……私もデイダラもサソリもペインもイタチさんも邪魔者でしたか」
「ごめんねぇもう君たちは要らないみたいだ」
何故殺し合いを画策したかは一切不明であるが月の眼計画に必要なのだろう。
死人の魂やチャクラが必要だったのかも知れない。
暁の構成員も元の大蛇丸を含め複数死人を出しているので形として計画に協力していたかもしれない。
だとしたら、だとしたらだ。
終盤とも言えるこの状況なら必要と仮定する魂やチャクラは集まった。
ならもう出先の者は用済みで後はその生命を粛清するだけだとしたら――鬼鮫はもう必要ない。
「ククク……私もイタチさんも随分と馬鹿にされたみたいですね」
「まあそうゆうことだからごめんね!」
一斉に飛びかかる大量のゼツ
「水遁・大瀑布の術!!」
鮫肌に大量の水を己のチャクラを宿し腰を落とした体制で前方を見つめる。
そこから放たれる一閃は豪快に水流を飛ばし迫るゼツを孤高の彼方へと押し流す。
それでもゼツの数は減らず依然として視界に映る景色はゼツ一色。
『もし機会があるのなら……サスケを頼む』
「イタチさん……あなたは最後にとても面倒な事を頼みましたねえ――
ですがあなたの頼みなら断れませんねぇまったく!!」
【干柿鬼鮫@NARUTO】
[状態]左目失明、疲労(中)、チャクラ消費(小)、腹部損傷、左腕に裂傷
[装備]鮫肌
[道具]バック、クナイ、手裏剣、起爆札、各×10、ガイの額当て、イタチの指輪、ヒナタの左目
[思考]基本:イタチの頼みに従う
1:ゼツを殺す
2:イタチの遺言通りサスケを助ける
3:碧い猛獣……覚えておきますよ
[備考]
※うちは一族の真実を知りました。
※鮫肌はもう裏切ることはありません。
579
:
意志を継ぐ者/繋げる者
◆Q0VzZxV5ys
:2013/06/30(日) 13:50:34
「シカマル!!」
叫ぶ
そう、叫んでしまう
お前は今何処に行こうとしている
何故私を置いていこうとするのだ
我愛羅もカンクロウも皆、みんな死んでしまった
「もう私を一人に――――」
■
「俺は今からあいつの首を取る」
崖から見下ろすこの景色に思い出はない。
イタチにも会えずに彼は死んでしまった。
ナルトのチャクラの反応が消えた。
カカシもサクラもリーもネジもテンテンもチョウジもいのもキバもシノもヒナタもみんな死んでしまった。
「俺は木の葉に帰る」
聞かされたうちはの真実。
もうあんな悲劇は二度と繰り返さない。
「俺の復讐に終止符を撃つ――!!」
【うちはサスケ@NARUTO】
[状態]疲労(中)、チャクラ消費(中)、万華鏡写輪眼開眼可能
[装備]草薙の剣
[道具]バック、忍具一式
[思考]基本:木の葉に帰り一族の悲劇を繰り返さないため火影になる
1:仮面の男を殺す
2:もう人を殺す気はない
3:ナルト……
[備考]
※うちは一族の真実を知りました。
580
:
意志を継ぐ者/繋げる者
◆Q0VzZxV5ys
:2013/06/30(日) 13:52:32
「こいつ……魘されてるのか?」
限界寸前で気絶しているテマリの傍にいるシカマルが呟く。
無理もないこの会場に来てから常に死との隣合わせの状況で時間が過ぎている。
そして我愛羅が自分を守り抜いて目の前で絶命した――気絶するのも仕方がない。
このまま一人で残しておくのは大変危険である。
それに知り合いを見捨てる程腐っている男ではない。
生存者も一桁となりこの先には辛い戦いしか待ち受けていないだろう。
ならば少しでも休息を取るのが最善の策といえる。
生き残れる保証など最初から存在していない。
少しでも可能性を上げるためにチャクラを温存し体力を回復するのが今行うべき行動。
少しでも長く術を発動できるように、少しでも勝てる可能性を上げるために――――――。
「みんな……みんなが切り開いた道を無駄にはしたくねえ」
数々のドラマが、色が生まれた殺し合い。
それは悲劇の繰り返しであり行わない方が良いに決まっている。
終わり良ければ全て良しなど存在しない、そんな事なら始めからやる必要がない。
でも死んだ命を無駄にすることは許されない。
残った希望を生存者は導く必要が、義務がある。
弱い消極的な意思は捨てろ、理不尽な世界に反逆しろ、ここは諦める場面何かじゃない。
受け継いだ希望の意思をその胸に宿し例えその身が砕けようとも貢献しろ。
根性、この言葉がよく似合う。
「これじゃあナルトみてぇだな……まぁたまにはいいかもな」
世の中数字だけでは測れない事が多数に存在している。
今思えばサスケ奪還任務の時だって同じだ。
テマリ達が助けに来てくれなければ自分を含めキバとリーが死んでいただろう。
無論その助けなど知らず計算の内に入っていなかった。
「『絶対』何て言葉は通用しない……残された奴は次の世代に全てを繋ぐ……そうだろアスマ」
581
:
意志を継ぐ者/繋げる者
◆Q0VzZxV5ys
:2013/06/30(日) 13:54:32
「――やっぱタバコは合わないわ」
空を見上げる。
幻術が解け大地は荒々しくなったが空は色褪せることは無かった。
美しい蒼に邪魔することなく存在している白い雲。
思い返せば自分は昔雲に憧れていた。
何物に縛られない自由な存在に憧れていた時代を思い出す。
「たしかにめんどくせぇ事ばっかだ」
出来る事ならゆっくり風を感じながら寝ていたい。
縛るものなど存在しない世界でゆっくり気が赴くままに事を成し遂げたい。
「でもそんな事言ってる暇があったら……」
感じるチャクラ反応。
噂に聞く暁の一人干柿鬼鮫。
以前とは変わったがそれでも懐かしさを感じるうちはサスケ。
全ての元凶でもあるアスマやカカシ先生の同期らしい男うちはオビト。
邪悪さは相変わらずの禍々しいチャクラ大蛇丸。
今この場で倒れている何かと縁のある女テマリ。
そして木の葉が誇る伝説の三忍の一人自来也。
三桁もあった参加者も気づけば指で数えられるような所まで減ってしまった。
それでもシカマルは前を見続ける――この遥か先に感じるオビトのチャクラから。
所謂次が最終戦――――――
【奈良シカマル@NARUTO】
[状態]疲労(大)、チャクラ消費(中)、固い決意
[装備]忍具一式、チャクラ刀
[道具]バック、忍具一式
[思考]基本:全てを背負い任務を行う
1:テマリを守る
2:オビトを倒し木の葉に帰る
3:悲しむのは全てが終わった後
[備考]
※我愛羅からテマリを任されました
【テマリ@NARUTO】
[状態]疲労(大)、チャクラ消費(大)、全身消耗
[装備]忍具一式、巨大扇子
[道具]バック、忍具一式
[思考]基本:気絶中
582
:
意志を継ぐ者/繋げる者
◆Q0VzZxV5ys
:2013/06/30(日) 13:55:17
四代目火影波風ミナト。
正義の具現者としてその最後は自らの犠牲を顧みずその身と引き換えに幻術破壊に貢献する。
三代目火影猿飛ヒルゼン。
強い力と圧倒的経験を活かし戦いだけではなく精神的支柱にもなっていた。
その最後は薬師カブトに敗れるもその後の勝利へと繋げた。
五代目火影綱手。
治療術を活かして数々の負傷者を救ったがその最後はデイダラに爆破された。
そして伝説の三忍の生き残りである――
「大蛇丸か……」
「あら気付いていたのね自来也」
再び相まみえる両雄。
方や正義方や悪を名乗るに相応しいかつての仲間がこの地で再び出会う。
その瞳に映る影はどちらも――昔から変わらない姿だけ。
交わす言葉も必要ない、自来也からすれば語りたいことはたくさん存在する。
だが、それでもだ。
言葉で解決するほど簡単な物ならとっくに物事は解決しているだろう。
止めれるなら既に止めている――ナルトとサスケのように。
「綱手の仇を取ってくれたらしいのう」
「デイダラと綱手を天秤に掛けただけよ……」
それは大蛇丸が変わったわけではない、いや、変わっている。
だが彼の本質的な、根本的な事に影響している訳ではない。
形成されている全てが人一人の死で変わるのなら争いなんて起きない。
それこそ月の眼計画何て必要ない。
「お前はオビトの策に乗るのかのう?」
「うちはオビト……カカシの同期であったうちは一族……興味ないわねえ」
「ならお前はどうするんだ?――これから」
「他人の起こした戦争に興味はないのよ……だからと言って」
583
:
意志を継ぐ者/繋げる者
◆Q0VzZxV5ys
:2013/06/30(日) 13:56:39
大蛇丸は言わずとも【悪】の位置に存在する生物である。
その性格、構成ともに常人とはかけ離れ酷く歪んでいる存在。
故に数多の人間を殺し闇と向かい合ってきた忍者。
それは表舞台に立つことを二度と許されない闇の役者。
「私は帰るわ……失った右腕もヤマトの、初代の細胞を手に入れることが出来たしね」
「今どうするかを聽いているんだがのう」
「愚問ね自来也……これまでと変わることなんてない……あなたも分かっているでしょう?」
そうだ。
人間には、忍には己の意地がある。
アイデンティティが簡単に崩壊している様じゃ真っ当な忍は務まらないし邪魔なだけ。
強い意志を持っていないものは成長どころか戦場に立つことを許されない。
他人に流される人間が忍を、人の命を奪う忍を語る上で己の強さを認識しろ。
責任を持てない人間に忍を語る資格はない。
「火遁――――――!!」
己の意思とは己の忍道
簡単に曲げる柔な意思では伝説の三忍は務まらない。
火遁と火遁のぶつかり合いは互い譲らず大きな爆発を起こす。
距離を取る両者――こんな事で命が取れるなど全く思っていない、目の前の男が簡単に死ぬはずがない。
煙が晴れて自来也が前方を見るも大蛇丸の姿を捉えられない。
大蛇丸は足にチャクラを集中させ岩場に張り付いている――チャクラの簡単な応用。
そこから右腕を伸ばし蛇を、初代の細胞によって更に木遁も追加し自来也に放つ。
クナイを投げつけ撃墜を試みる自来也だが大蛇丸の意志によって行動するため避けられてしまう。
木遁と蛇が螺旋を組み自来也に襲いかかるが伝説の三忍の戦いは終わらない。
「忍法・針地蔵!!」
584
:
意志を継ぐ者/繋げる者
◆Q0VzZxV5ys
:2013/06/30(日) 13:58:21
長い髪を己に纏わせチャクラを流して硬化させ針のように身を守る自来也の忍術。
蛇と木遁は髪に捕まり自来也に衝撃を与え後退させる。
ジリジリと大地を引き摺るが損傷は一切与えられずその術を大蛇丸は解く。
岩場を離れその手にクナイを握り自来也に急接近、そこから格闘戦に映る。
大蛇丸が自来也の首元を斬りつけようとするが自来也もクナイで応戦、これを防ぐ。
自来也の上を飛び越し踵落としを脳天に叩きこむも両腕を交差させその攻撃に耐える。
腕を大蛇丸ごと払い上げ接近し腹に拳を叩きこむ。
しかし変わり身で背後を取られ大蛇丸が逆にその体を貫く。
だがこれは分身――本物の自来也は後方に居る。
「火遁・火龍炎弾!!」
「水遁・水龍弾の術!!」
どちらも引かない蒼炎の龍は大きく跡を残しこの世を去る。
自来也と大蛇丸――その意志は違えど最終的な行動は同じである。
チャクラを温存しておかないとうちはオビトに勝利するのが断然難しくなる。
だが。
目の前の相手は手を抜いて勝てる程弱い男なのだろうか?
答えは違う。
因縁の、昔の仲間に、友達に手を抜ける筈がない。
「相変わらずの力ね自来也」
「お前は劣ることを知らんのか大蛇丸」
再び対峙する二人に冷たい空気が張り詰める。
元より無傷で勝てるなど思っていない。
互いが互いを知りその強さも、その忍道も全てをしっているのだから。
585
:
意志を継ぐ者/繋げる者
◆Q0VzZxV5ys
:2013/06/30(日) 14:00:00
「風遁・大突破!!」
荒々しく吹き荒れる暴風。
大地に残る僅かな緑をも毟り取り自来也目掛けて螺旋を描く。
「土遁・土流壁!!」
自来也を守るべく厚い肉壁が大地から出現する。
風遁は土流壁を抉り取りながらも破壊までには至らない。
風は貫く事を諦め次の段階に移る。
大きく上空に吹き荒れる暴風は土流壁を遥か彼方に吹き飛ばす。
「やるのう……だが!」
「こんな簡単に終わるとは思っていないわ……!」
術の応酬を繰り返すかつての友。
その実力は生存者の中でも間違いなく上位を争う屈強なき力。
それこそ生存者、いや参加者全体の中でもトップクラスの激突である。
もしこの二人が手を組んだら。
所詮甘い妄想である。
幼稚な妄想に取り憑かれるほど弱い人間ではない。
傷つくことを恐れる忍は成長が……大切な存在を守ることも出来ない。
潜り抜けてきた場数は並の忍と並ぶ事なかれ――此処に君臨するは木の葉が誇る伝説の三忍。
その器量、その度胸どれも一級品。
小さい瞳を開眼させ拝んでおくがいい。
「「口寄せの術!!」」
事実上の最終決戦を――――――
【自来也@NARUTO】
[状態]疲労(大)、チャクラ消費(中)、全身にダメージ、右肋骨骨折
[装備]忍具一式、
[道具]バック、忍具一式
[思考]基本:火の意志を次の世代に受け渡す
1:大蛇丸を止める――倒す
2:受け継いだ火の意志を次の世代に受け渡す
3:ナルト……お前は今何処にいる?
【備考】
※は一族の真実をしりました
【大蛇丸@NARUTO】
[状態]疲労(中)、チャクラ消費(中)、ヤマトの右腕
[装備]忍具一式、草薙の剣
[道具]バック、忍具一式
[思考]基本:???
1:自来也と戦う
2:他人の戦争に興味はない
[備考]
※うちは一族の真実を知りました
586
:
◆Q0VzZxV5ys
:2013/06/30(日) 14:03:56
以上で投下終了です
トリップが違いますが同じ人です(前のトリは忘れてしまいました)
これからよろしくお願いします
587
:
◆uuKOks8/KA
:2013/07/03(水) 13:18:42
遅くなりましたが
>>551
幻想水滸ロワ投下します。
588
:
Ep.322「最後の分岐点」1
◆uuKOks8/KA
:2013/07/03(水) 13:21:57
軽い足音が去って数刻。
ぱきり、と何かが割れた音がした。
その直後、激戦を物語る砕け荒れ果てた石畳の上に横たわっていた遺体の片割れがのそりと起きあがる。
「(―――)」
彼は酷く汚れた金の髪を指で払うことなく、ただぼんやりと虚空を見つめる。
男は死んだ、死んでいた、…死んだ筈だった。
太陽の王子が差し違いに放った一突きは心臓を確実に貫いていたし、その妹姫の弾丸は眉間の真ん中に芸術的とも思えるくらいに綺麗に吸い込まれていったのだ、生きている方がおかしい。
それでも男が死ななかったのは幸運が幾つも重なっていたからだろう。
例えば夜の紋章による吸血鬼化―それに伴う身体能力の上昇、例えば真の紋章が所有者を守るため自動的に貼られた結界、例えば星辰剣での斬撃が結界により急所に当たらなかったこと…そして『身代わり地蔵』の所持。
ひとつでも欠けていたら男は冥府に降っていた。
しかし最早この殺戮以前の面影はくすんだ金の髪だけだったとしても男は今なお生きている。
代償に彼の思考回路は完全に麻痺し、ただひとつの想い以外は獣の如く理性がない状態になっていたが。
そんな男の虚ろにさ迷う視界に映ったのは一度自分を殺した銀の王子。
既に冷たくなっている青年の遺体を見ても憎しみも恨みも抱くことはない。ただ、浮かんできたのは
『美味そう』
黒く変わりつつあるがまだ新鮮な血も、固いだろうが若く瑞々しいであろう身体も、満足とはいえないだろうが乾いた喉を空腹の胃を満たしてくれるだろう。
彼の本能がそう告げる。微かに鼻に届いた血の匂いに餓えは膨れ上がる。
『ああ、待っていてください、全てを終わらせて必ずや皆さんの待つ家に帰ります』
唯一残った己の『願い』を叶えるべく、男は不自由な身体を這いつくばわせ…そして餌に覆い被さると食らい始めた
589
:
Ep.322「最後の分岐点」1
◆uuKOks8/KA
:2013/07/03(水) 13:24:05
癒やしの光が身体を包み込み、刻まれた傷を塞いでいく。
この5日間ですっかり慣れてしまった感覚を受けながらユーラムは魔法を行使している少女を、光の射さない瞳を向けてただ見つめていた。
少女は涙を見せることも嘆くことも縋ることもせず、リオウの意見に賛同し惨劇の場を離れた。
信頼していた男が側から離れ、目の前で最愛の兄を亡くし。
一度は感情が麻痺してしまったのかと不安になったが、そうではないのだろう。
リムスレーアという少女は強すぎた。
だから悲しみを誰にも見せず、ただ耐えているのだ。
悲しいはずだ、だって彼女の周りの空気はずっと僅かに震えている。
この時、ユーラムは初めて視力を喪っていることに感謝した。そのお陰で姫君の隠された本音を知れたのだ。
ユーラムは何も聞かない。悲しいのは当たり前で、慰める言葉も見つからない。
その代わり、震える手を両手でそっと包み込みたった一言だけ彼女に伝える。揺るぐことない決意と、想いを。
――ほら。目が見えないのも悪くはない。
強がりな姫君の涙を、見ない振りできるから。
590
:
Ep.322「最後の分岐点」1
◆uuKOks8/KA
:2013/07/03(水) 13:25:57
○
「ん、休憩終わったようだね」
リオウがふたりの元に戻ってきたのはそれから数分も経たない内だった。
少年はリムスレーアが先程よりも青い顔をして俯いていることやユーラムの役割を果たすことのない瞳が薄く濁っていることにも気付いていたが、それに対して何かを言うつもりはなかった。
とりあえず、とリオウはリムスレーアに数枚の札を渡す。《癒やしの雫》の込められた札が一枚、《氷の息吹》は三枚。グレミオの懐を漁ったら出てきたものだ。
支給品に回復アイテムはない、と言っていた主催者を信じるならば恐らくは誰かに作らせたものだろう。
「(水の紋章が残っていた方が良かったのにな)」
もう過ぎたことだが思わずにはいられない。
札と引き替えに消失してしまった水の紋章…特に傷口を全て癒やす強力な回復魔法《癒やしの雫》はこれからの決戦にかなり有利に働いただろうに。
「(愚痴言っても仕方ないか)」
ユーラムにはかなりの量の封印球と華美な装飾のついた杖を袋ごと渡す。
残りのメンバーを合わせても、唯一まだ紋章術を使っていない青年はある意味で最終兵器だった。
「ユーラムは適性が合いそうな紋章宿しておいて」
「はい」
既に真の土の紋章を宿してしまっている彼には不要かもしれないが、リオウには副作用があるかもしれない強大な力を持つ真の紋章を多用させるつもりはなかった。
しかし結局ユーラムが宿せる紋章は見つからなかった。
というより彼が宿しているもうひとつの紋章―音の紋章がこれ以上紋章を宿すのを拒絶したのだ。
その紋章を外せば彼は歩くこともままならないだろうから打つ手はなく。
「仕方ないなぁ。ユーラムには後方支援を任せるね」
情報が確かならばルックのしもべたちは宙に浮いている筈だ。土の紋章による攻撃魔法は無効化される可能性が高い。
それに、いくら勝ちたいと願っていても盲目の人を前線に立たせるような人でなしにはなりたくない、というのも本音ではあった。
「いいえ、私も前に出て戦います」
しかしユーラムは自らその提案を蹴った。
光ない瞳には強い決意の中に僅かに諦めと虚無が混じっているような気さえするが考えすぎだろうか。
「そうすればリオウ君たちへ攻撃が行く可能性が減ります」
「…わらわからも頼む」
しかも驚いたことにリムスレーアも賛同している…その可愛らしい表情に陰りはあるが。
少年は困ったなぁ、とばかりに頭を掻いた。
「(アラニスちゃんやテンガアールなら強い調子で駄目って言ってただろうな。
ルカやキカさんは足手まといだってはっきり言ってくれただろうし)」
押しが弱い少年にとって彼らのそういうところは素直にうらやましく感じられた。
「分かった。ただし無理はしないように」
無茶とは思ったが言わずにはいれなかった。しかし頷いてはいたのだけどユーラムがそれを承諾したようには思えない。
「(リムちゃんが心配そうにあなたを見つめてるよ、とでも言えば別なんだろうけど…人間関係って複雑だからなぁ)」
やれやれと心中で溜め息を吐きつつリオウは二人を先へ促す。
…その時、上空から5日間で何度も聞いた、あの声が場に響いた。
591
:
Ep.322「最後の分岐点」1
◆uuKOks8/KA
:2013/07/03(水) 13:29:58
【五日目夕方/放送直前:シンダル遺跡第三層東】
[リオウ@幻想水滸伝Ⅱ主人公]
[状態]HP3/5 常時HP回復 微かな吐き気 ルカに対する信頼 テンガアールへの罪悪感
[回数]1/1/2/1
[紋章]○始まりの紋章、○破魔の紋章(半減)、○大地の紋章(半減)、●獅子の紋章
[装備]星辰剣(会話不可能)+友情の紋章、玄武の服、たいようのバッチ
[道具]ボナパルト、ムクムクのマント、支給品(ムクムク、ジョウイ)、瞬きの手鏡
[思考]……はぁ、何かめんどくさいな…もう
[基本方針]対主催、戦いを終わらせる
[第一目的]誰も死なせない
[第ニ目的]全てが終わったらルカと戦って殺す約束を果たす
[備考]紋章の宿しすぎによる体調の異変を起こしています。
参戦時期:ベストエンド後
[リムスレーア@幻想水滸伝Ⅴ]
[状態]HP全快 全身に打ち身 グレミオに対する恐怖心 ルカへの信頼と依存 ユーラムに対する微かな慕情 兄の死による衝撃と死への恐怖
[回数]1/3/4/2
[紋章]○黎明の紋章、○黄昏の紋章、太陽の紋章
[装備]シュトルム、白銀のローブ
[道具]札セット(凍える息吹*3、優しき雫)、疾風の封印球
[思考]兄上…わらわは泣かぬのじゃ…
[基本方針]対主催、戦いを終わらせる
[第一目的]元の時代に帰り家族が望んだ国を築き上げる
[備考]太陽の紋章の力により黎明と黄昏の合体魔法を1人で使うことができます。
また、順番通りに紋章を宿した為、太陽の紋章の力は黎明と黄昏の紋章により抑えられています。
参戦時期:騎士長エンド後
[ユーラム・バロウズ@幻想水滸伝Ⅴ]
[状態]HP4/5 盲目(暗闇) 右肩に弾痕 右足捻挫 感覚機敏 ルカへ対する尊敬と信頼 リムスレーアを護る決意
[回数]8/6/4/2
[紋章]○真の土の紋章、○音の紋章
[装備]クリスタルロッド、羽根付帽子、黄色いスカーフ
[道具]各種装備と封印球(話には出てきません)
[思考]姫様…
[基本方針]対主催、リムスレーアに従う
[第一目的]姫様を護り彼女と仲間は死なせない
[第ニ目的]できるならばもう1度、姫様のお顔を見たい
[備考]音の紋章が目の役割を補っています。敵意や殺気、空気の震えなどには敏感ですがそれ以外には鈍いです。
真の紋章使用時1/5の確率で暴走します。また、複数回連続で使用することでデメリットが発生します(目安は10回)。
きれいなユーラムです。
参戦時期:騎士長エンド後
【共通:シンダル遺跡第三層東→第四層】
592
:
Ep.322「最後の分岐点」1
◆uuKOks8/KA
:2013/07/03(水) 13:31:24
○
ルカ・ブライトは自分の前で必死に穴を掘っている娘を、特に何も感じることなく視界の中に映していた。
死体など朽ちるに任せろ、死した者に情を向けても無駄だ―それは「狂った」今でなおルカの中に染み付いた持論である。
テンガアールもそれに薄々と気付いているようで手伝いを強制することはなかった。
ルカは目を閉じると、身体を休めるべく眠りにつく。
放送が始まったのは日が暮れて…テンガアールがやっと、3つめの穴を掘り終え、埋葬をすませた頃だ。
その頃にはルカも休息を終えて、放送を聞き逃さないように集中していた。
放送前は13人生存者がいた―死んだと確認したのは、リオウと協力して殺した青い奴がひとり。
此処に転がる遺体はテンガアールの仲間が3人にマーダーの黒ずくめ。
リオウたちが斧使いと不気味な笑みを浮かべていた女を殺しているのならば残り人数は6人になる。
視線を移すとテンガアールは天井を仰ぎ見ている。ルック、と掠れた声が耳に届いた。
《こんばんは。
今から死者を発表する》
ただ、淡々と事務的に届けられる年の割には高い声。
ウィンディと名乗った魔女とは対照的に必要なことだけを参加者に伝えていく。
《最終日、無残に死んでいったのは
フリック
アラニス
レツオウ
キカ
ユーバー
ソニア・シューレン
ファルス
グレミオ
以上の8人だ。
これにて放送を終了する》
あっけなく放送が終わる。
テンガアールの半ばで焦げ落ちたお下げが跳ねるのを見ながらルカは今、呼ばれた内のひとりを脳裏に浮かべる。
ファルス…リムスレーアの兄、人格者で何があっても諦めず立ち向かった青年。
妹思いの優しい性格をしていて、彼と合流してからリムスレーアの笑顔が増えていたことはルカも気付いていた。
戦力的にも武術に優れ、紋章の扱いも上手い。生きていてほしい人員だった。
それにあの面子の中で死ぬなら盲目な上に戦闘能力もそんなにないユーラムの方だとばかり思っていたから、衝撃を受けなかったといえば嘘になる。
「(それほどあの斧使いは強かったのか…貴様は妹を残し、どんな死を迎えた?)」
しかし、ルカはすぐにファルス王子のことを脳内より切り捨てる。そしてへたり座っている娘を立たせた。
「早く行くぞ、小娘」
「………行けないよ」
テンガアールは泣いていた。
「ボク、リムちゃんに酷いこと言ったんだ。
『きみの大切な人も死んじゃえ!』って」
別行動する前、少女2人が何かを話していたが、リオウが想像していたようなふわふわとした内容ではなかった、と本人から聞かされる。
「ヒックスがいなくなったからって、リムちゃんに八つ当たりして…ボクは酷い奴だ。
リムちゃんに合わせる顔がなあよ」
恐らく娘はファルスの死に責任を感じているのだろう。
本来ならここで慰めるべきなのだろうが、記憶喪失時の「爽やかなルカ」ならともかく今の彼にはその選択肢は浮かんでこない。
代わりにルカはテンガアールを片手で器用に担ぎ、歩き出す。そして抵抗しようとキーキーと暴れる娘に
「懺悔や謝罪はリムスレーアにしろ、それに今の貴様は猿のようだ」
「………」
途端に静かになるテンガアール。少し歩くとありがと、と小さな声が耳に届いた。
しかし何故礼を言われたのかが分からないルカはああ、と彼にしては間の抜けた返答をするに留まった。
593
:
Ep.322「最後の分岐点」1
◆uuKOks8/KA
:2013/07/03(水) 13:32:10
○
ルカに担がれながらテンガアールは死んでいった仲間たちを、友人を想っていた。
アラニス。
大切な人を喪ったのは自分と同じなのに嘆くことなく、最期までまっすぐに立ち向かっていた女の子。
キカ。
初めて会った時から自分の傍にいてくれて、ずっと誇りを失うことのなかった強い女性。
レツオウ。
娘のもとに帰りたいとずっと言っていたのに、出会って間もない少女たちを庇って散ったお父さん。
もう会うことのできない、大切な人たち。
愛しい人を喪った娘が、それでも生きることを諦めなかったのは彼女たちがいてくれて、それぞれの生き様を示してくれたからだ。
大丈夫?とアラニスが聞いてくる。
大丈夫さ、とキカが応える。
大丈夫だろう、とレツオウが声をかけてくる。
それはテンガアールの心の中だけで見える光景だけど、もしかしたら心配した3人が様子を見に来たのかもしれない。
そうだ、そっちの方がいい。
「(……大丈夫。ボクは、)」
まず、合流したらリムスレーアに謝ろう。そしてルックを止めて、みんなで帰る。それまでは
「(立ち止まらないから)
594
:
Ep.322「最後の分岐点」1
◆uuKOks8/KA
:2013/07/03(水) 13:33:05
【五日目夕方/放送直後:シンダル遺跡第三層西】
[ルカ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ]
[状態]HP4/5 「狂っている」 右腕切断 リムスレーアを護る決意 リオウに対する僅かな信頼 ユーラムへ対する信頼と尊敬
[回数]0/0/3/1
[紋章]○烈火の紋章、○はやぶさの紋章、○ドレインの紋章
[装備]天命双牙、アタックリング
[道具]ピリカのぬいぐるみ、木彫りの御守り、支給品*5、首輪(ソロン・ジー)、折れた剣
[思考]今は戦いのことだけを考える
[基本方針]対主催、リムスレーアに従う
[第一目的]このふざけた宴を終わらせる
[第ニ目的]全てが終わったらリオウと戦い、果てる
[備考]ソロン・ジーの生首を見たときに記憶喪失は治っています。
自分のことを「狂った」と認識していましたが現在は変化を受け入れています。尚、他人への感情は表に出していません。
参戦時期:本編死亡後
[テンガアール@幻想水滸伝Ⅱ]
[状態]HP3/4 フラッシュバックにより戦闘不能に陥る可能性 右目欠損 刃物恐怖症 リムスレーアに罪悪感
[回数]4/1/1/2
[紋章]○流水の紋章、○雷鳴の紋章、魔吸いの紋章
[装備]チュニック
[道具]力の石、赤のペンキ
[思考]リムちゃんに謝ろう
[基本方針]対主催
[第一目的]ルックを止める
[第ニ目的]ヒックス(の死体)を捜して一緒に帰りたい
[備考]ヒックスの死を直視した影響で「金髪」の「剣士」に対してトラウマを受けています
参戦時期:ベストエンド後
【共通:シンダル遺跡第三層西→シンダル遺跡第四層】
595
:
Ep.322「最後の分岐点」1
◆uuKOks8/KA
:2013/07/03(水) 13:34:05
○
首を締める忌々しい枷は取って、粉砕した。身体は重いが、ちゃんと動く。
……ああ、どうしたことか。
あんなに満たしたはずなのに血の渇きを感じる。
それならばまずは、満たすことにしよう。
男が去り静寂が戻る。
ただ一切れその場に残った赤色の布は、風にさらわれどこかに消えた。
【五日目夕方/放送直後:シンダル遺跡第ニ層】
[グレミオ@幻想水滸伝]
[状態]HP1/50 瀕死(極限状態) 沈黙 首輪なし 全身に大火傷 首に深い斬り傷 左手の指全切断 右腕欠損 精神崩壊 錯乱 吸血鬼化とそれに伴う不老不死 首輪なし
[回数]0/0/0/0
[紋章]○ソウルイーター、真の炎の紋章、夜の紋章、真の水の紋章、雷の紋章
[装備]誓いの斧@幻想水滸伝
[道具]なし
[思考]渇きを満たす
[基本方針]無差別、坊ちゃんたちの待つ家に帰る
[最終目的]坊ちゃんの為に皆殺し
[備考]真の紋章を多数宿し使用した結果、精神崩壊を起こしています。
この世界で出会ったティルのことを偽物だと信じ込んでいます。
星辰剣以外ではとどめをさせません。
※身代わり地蔵が発動しました
※首輪は首はねぽーんで取りました。
参戦時期:ソビエール監獄での死後
【シンダル遺跡第ニ層東→???】
596
:
◆uuKOks8/KA
:2013/07/03(水) 13:35:24
以上で投下終了です。
597
:
名無しロワイアル
:2013/07/03(水) 23:45:56
NARUTO・幻水・希望と立て続けに新シリーズが始まって、
あと3話で完結ロワ・第2期開始って感じだな…
ところで、twitterの3話ロワbotって今も少しづつコメントが追加されてったりします?
今まで見なかったツイートがちょくちょく出てきて、非常に嬉しい(KONMAI感)
598
:
名無しロワイアル
:2013/07/04(木) 05:25:22
執筆や投下、お疲れさまでした。
簡単にですが、新たに始まったロワへの感想など。
希望ロワ。前作もそうでしたが、とにかく真っ直ぐにロワしてるなあ。
どの企画も最初の一話はそんな印象ですが、ひねたところがなく、最終戦への土台を固めつつ
それぞれの掘り下げを行うターンが好みでたまらない。
ひねたところがない、だけでは後に残らない可能性も出るんですが、「もう二度と、『ロンパ』できない」を
はじめとした光る表現に引きつけられてしまう。
原作の把握率は非常に低いですが、素直にロワを楽しんでいる、その姿勢だけでまぶしいです。
続いてのNARUTOロワは、とくに否定形の強い文章に惚れ惚れしたなぁ……。
「死んだ命を〜」あたりは文章自体も小気味良くて、気持ちよく読みを進めていけました。
戦闘パートでも、おもにダッシュによる間が適宜入って叙情的なものを滲ませる文章がじつにいい。
原作は中忍試験くらいで止まってたのですが、三忍が揃って戦うヒキも少年漫画らしくて熱かったです。
中忍試験あたりの展開だとシカマル好きだったんで、アイツがどうなるか、生きるも死ぬも見届けたいなと思ったり!
幻想水滸ロワ、ルカ様とテンガアールなんてぇコンビがなんだか面白いw
歴史の流れ、流転するもののなかで、それでも受け継がれるものがあるのだ、というように
解釈している原作ゲームの描写が大好きなんですが、愛する者の生き様を見せてもらったから
諦めないって心理描写の流れがとくにらしいなあ、いいなぁと感じることしきりでした。
そういう意味では、受け継ぐことは出来るけれど「エンドユーザー」になってしまいがちな
吸血鬼になっちまったグレミオがどうなるか、なんだよなあ……。
状態表でも紋章の残り回数なんかにワクワクしたり、楽しませていただいてます。
リテイクなどに悩まされる側としては、書き直しで遅くなるのにも心当たりがありすぎるんですが、
泣いても笑っても三話、どの書き手さんも存分に楽しんでいただければと思いますー。
>>597
楽しみにしていただいて、どうもありがとうございます。
botのツイート、おっしゃるとおり少しずつ追加してますね。本文以外には、完結したロワのタイトルや
六代目さんのまとめサイトにある良い言葉・面白いと感じたルールとかも入れたりしてます。
なにがTLに出るかは完璧にランダムなんですが、ここ最近で新たに始まった企画から
新規のツイートも入れてみてるので、のんびり楽しんでいただければ幸いです!
599
:
名無しロワイアル
:2013/07/04(木) 23:53:38
新鮮なあと3話のスタート3連打ぁ!
どのロワも良き完結を期待しております。
>>598
自ロワのタイトル出る度に
「なんで俺にはネーミングセンスが無いんだ」と悶絶しております。
600
:
FLASHの人
:2013/07/10(水) 09:21:51
くそう!
読んでるよ!
新作ラッシュに目頭がバーニングだよ!
でも忙しくてまとめも感想もおいつかねえよウワァーーーン!
もうちょい、もうちょいしたらドバッとやりますゆ
何卒、なぁにぃとぉぞぉー(蛇に呑まれながら
601
:
◆r7Zqk/D9pg
:2013/07/17(水) 01:59:14
始めさせて頂きます。
D(どうしようもないよ)Q(くぉいつら)ロワ
【生存者】
○女戦士【両腕欠損】【限界寸前】【フラッシュバックによる無力化の可能性】【頭が悪い】
○男武闘家【頭が悪い】
○女賢者【それほど賢くはないし、むしろ頭が悪い】
○女僧侶【頭が悪い】
○女武闘家【頭が悪い】
○バラモス【マーダー】【頭が悪い】【ジョーカー】
【主催者】
○ゾーマ【頭が悪くない】
○子どもテリー【性格が悪い】
【主催者の目的】
未だ不明
【前回までのあらすじ】
参加者の抵抗むなしく、とうとう主催の本拠地であるヘルクラウド城は宇宙へと向けて射出された。
ヘルクラウド城の城壁にGに耐えながら懸命にしがみつく主催の手先バラモスの姿を見ながら、
参加者達は天馬の塔の最上階で時間切れによる死を待つだけなのか!?
勇者の遺言である雨雲と太陽が重なる時、虹の橋が掛かるとはいったいどういう意味なのか!?
今、戦いは最終局面を迎える!!
(ただし、DQロワ書き手の方の苦情が入った場合は最終局面ではなく最終回を迎えたことになります)
602
:
虹の架け橋
◆r7Zqk/D9pg
:2013/07/17(水) 01:59:59
「どうしようもない……」
前回のピサロもじゃとの戦いで両腕を失った上に一生消えないトラウマを植え付けられ、
それに加えて、全力で戦うと死ぬ所まで追い詰められた女戦士は弱々しく呟いた。
「やっぱり……駄目だったんだ!!私達じゃ……勝てないよ!!」
「諦めるな!!」
そんな女戦士に活を入れるべく、男武闘家は女戦士の頬を引っぱたいた。
女戦士は死んだ。
【女戦士@DQ3 死亡】
「女戦士!!」
「てめぇよくも女戦士を!!」
「絶対にゆるさないぞ男武闘家!!!」
突如与えられた理不尽な死、それを前に冷静でいられるほど生き残った参加者達は冷血ではなかった。
男武闘家許すまじ、満場一致でそういう感じだった。
「待て!!」
男武闘家が叫ぶ。
「死ぬ前の遺言かこの野郎!!」
「聞いてやろう!!なるべくゆっくり大きい声で言えよなこの野郎!!」
「そして死ね!!」
突如発せられた男武闘家の言葉、それを遺言であると察した参加者達は、その言葉を止めるほどに冷血ではなかった。
「俺の拳で殴られて女戦士が死んだのはなんでだと思う!?」
「もしや……理由があるのか!?」
「アイツは……ピサロもじゃとの戦いで限界を迎えていたんだ!!じゃあなんで限界を迎えていたんだと思う!?」
「それにも理由があるのか!!」
「理由を求め続けると無限連鎖になる……なんかすごいな!!」
「こんな殺し合いに参加せられたから、アイツは限界を迎えていたんだ!!
つまりこの殺し合いを開いた奴が悪い!!トドメを刺したのは俺だけど……俺だってトドメを刺したかったわけじゃない!!この殺し合いを開いた奴が悪い!!」
「……言われてみればそうだ!!」
「この殺し合いを開いた奴が悪い!!」
「男武闘家はそんなに悪くない!!」
「確かに自分でも惚れぼれする程の会心の一撃で女戦士を仕留めたが、
それはそれとして絶対にこの殺し合いを開いた奴を殺して女戦士の仇を取ろう!」
「で……でもさぁ、天馬の塔の屋上に突き刺さっていたヘルクラウド城はもう射出されちまったんだ……どうやって追えばいいんだよ!!」
「雨雲と太陽が重なる時、虹の橋が掛かる……この言葉を覚えているか!?」
「それは……勇者の遺言!!」
「死に際に頭おかしくなって言った言葉じゃないのか!?」
「違う……アイツの言葉には、意味があったんだ!!これを見ろ!!」
そう言って男武闘家は、自分のふくろから太陽の石と雨雲の杖を取り出した。
「こ、これは……」
「わかるだろう?こいつらの名前は太陽の石と雨雲の杖……つまり!」
「こいつらを重ねるわけだな!!」
603
:
虹の架け橋
◆r7Zqk/D9pg
:2013/07/17(水) 02:00:30
「ああ……生まれろ!!虹よ!!!」
 ̄ ̄ ̄ ̄-----________ \ | / -- ̄
--------------------------------- 。 ←太陽の石
_______----------- ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧ ∧ / / | \ イ
( ) / ./ | \ /
_ / )/ / | /|
ぅ/ / // / | / |
ノ ,/ /' / |│ /|
_____ ,./ // | / .─┼─ |
(_____二二二二) ノ ( (. | / ┼┐─┼─
^^^' ヽ, | | / .││ .│
↑雨雲の杖
太陽の石は大気圏を突き抜け、ヘルクラウド城の動力源を破壊し再び天馬の塔の屋上に叩きつけた。
そう、太陽と雨雲が重なることで、虹が生まれたのだ!!
【次回に続く】
604
:
◆r7Zqk/D9pg
:2013/07/17(水) 02:01:55
投下終了します。
雨雲の杖で太陽の石を打つというアイディアを書くために、
288話も一人だけで書いてきたこのロワもあと2話で最終回です。
605
:
名無しロワイアル
:2013/07/17(水) 22:53:51
>>604
投下乙です。
288話まではどこで読めますか?w
606
:
◆r7Zqk/D9pg
:2013/07/17(水) 23:53:34
>>605
前々から防ごうとしていたのですが、
とうとう287話で公安の方が動いたため、投下していた板及びwikiは完全に消滅しました。
それでも最終回までは書きたかったので、当スレをお借りしています。
607
:
605
:2013/07/18(木) 20:58:33
>>606
返答ありがとうございます。
そうですか、公安……。
このスレが公安に見つかる前に私も何とか最終回を書き上げたいものです。では!
608
:
◆MobiusZmZg
:2013/07/25(木) 22:30:51
すみません、いつもお世話になっております。
けれども心が折れたので、自分の三話ロワ、ここでやめさせてください。
話は固まっていて、三話目へのタメなど作っていましたが、「果たして、自分には
この文章で他の誰かに伝えられることがあるだろうか」と考えていたらもう駄目でした。
巧くはまとまりませんが、理由はそれだけです。
botのほうは……どうにかするためにはこのスレに目を通さなければならないので、
心労が溜まっている現在、それが出来る保証もないので月末をめどに削除します。
以上です。
609
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/07/28(日) 19:24:19
>>608
とても残念です。感想書くのが苦手で書けていませんでしたが、いつも楽しく読ませて頂いておりました。
ロワじゃないですけど、自分も似た理由で絶筆してしまった作品があるので、その気持ちは本当によくわかります……。
お疲れ様でした。またどこかで、あなたの作品が読める日が来ることを楽しみにしております。
不謹慎かもしれませんが、皆様にちょっと質問です。
エピローグ投下とかありですかね?
610
:
名無しロワイアル
:2013/07/28(日) 23:31:11
>>608
ここにわざわざ書き込んで中止宣言をして下さったということは、
相当悩んだ末の結論なのだろうと思います。
お疲れ様でした。
>>609
あると思います。
死者スレもありますし。
611
:
FLASHの人
:2013/07/29(月) 02:44:23
>>608
このスレは来る者拒まず去るもの追わず
どっかの投下にありましたが、物語はすべて
完結させたいときにさせるべきだと思いますので
そこでやめるという判断もまた、物語に対する一つの
真摯な向き合い方だと思います
ご苦労様でした、いつか貴方が望むなら、完結することを願っています
>>609
知ってるかい?
エピローグって本編じゃないから、三話には含まれないんだよ?
このスレは完結に至る三話以外については一切の制限がないんだ
じゃあどうしたらいいかわかるよね?
612
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/07/30(火) 19:08:06
>>610-611
ありがとうございます! 発起人からのお墨付きも頂いた!
差し当たっては、序文となるようなものを投下させて頂きます。
崩落する仮初の世界、無へと還る殺戮の舞台。
そこに大神の筆しらべが走り、異空へと繋がる幽門が開かれる。
黄金神と大神の導きを受け、戦いの中で散って逝った数多の剣士達の魂は、還るべき世界へ還っていった。
それは、彼らの振るった幾多の剣も同じ――。
エピローグ 剣の還る場所
※頓挫する可能性も十分にあります。
613
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:04:28
>>301
第98話
>>331
第99話
に続き、虫ロワ第100話を投下します。
614
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:05:16
最上階付近が震源と見られる、アリ塚全体を揺るがした巨大な振動。
その後、微かに聞こえたユピーの絶叫。
階上で大規模な戦闘があったのか?
主催者の罠か?
ユピーと、姫の生死は?
ティンとヤマメの両名は、ユピーの残した足跡を頼りにアリ塚を駆け上がっていた。
既に階下は腐海の瘴気に満ち、巨大菌類が発芽を始めている。後退は不可能だ。
この先に何が待っていようと、生き残るために、二人は上を目指すことしか出来ない。
二人が目指す先に待つのは、太陽輝く外界の光か、その身を焼き尽くす炎なのか?
もはやヒトとも虫ともつかぬ姿の二人だったが、
その現在の立場においていえば、正体も知らぬ光に引き寄せられる夜の虫そのものであった。
二人はアリ塚を登っていくにつれて、
壁や床の損傷が激しくなっていることに気づいていた。
最初は髪の毛のように細い筋が何本か走っているのが辛うじて見える程度だったのが、
次第に遠目でも判るほど太く、深いひび割れになっていった。
そろそろ最上階に近づいた辺りだろうか。
階段を上り切った先には、一際損傷の激しい大広間があった。
「これは……!」
ティンが見回すと、ある一点を中心にクレーターのように床が抉れている。
床だけではない。壁も、天井も、その中心から発生した巨大な衝撃を受けたようだ。
土造りのアリ塚がどうして崩壊せずにいるのか、不思議な程にボロボロである。
「う……何、この臭い?」
ヤマメは部屋に立ち込める異臭に、思わず左手で口元を覆った。
生臭いような、金気臭いような、鼻に刺さるような刺激臭……だが……何故か馴染み深いとも感じる。
すぐに判った。虫の体液の臭いだ。
臭気の源は……部屋の奥。
そこにあったのは黒い土山。発酵中の堆肥のようにホカホカと白い湯気を上げている。
よく見ると、それは山と積み上げられた蟲……シアン・シンジョーネの依り代だったものであった。
615
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:05:53
階上……屍体の山向こうの上り階段からヒヅメの足音が降りてくる。
仲間意識の薄い「彼」らしからぬ行為だが、ティンとヤマメを出迎えてくれるのか?
少しだけ安堵した表情で二人は部屋向こうを見やる。(ティンは表情を作ることが出来ないが)
足音が大きくなるにつれ、その音から多少の違和感を覚える。何だか重量感が足りない。
歩き方がおかしいのか?もしかしてケガを?
二人の表情が少し曇る。(ティンは表情を作ることが出来ないが)
ゆっくりと降りてくる足音の源が穴からチラリと覗いた。
それから発せられる妖気を感じてまずヤマメが、それに一瞬遅れてティンが、違和感の原因を悟った。
二人は部屋に入って来ようとする者を睨みつけ、身構えた。
表情には、怒りと、憎しみと、悲しみと……恐怖がこもっていた。
(もちろん、今のティンに表情を作ることが出来ない……だが、その様子は、表情なしでもハッキリと判る)
「それ」の姿が少しずつあらわになる。
下半身の馬がユピー「だった」頃より一回り、いや、二回り小さい。
上半身は、彼らの知る筋骨逞しい姿ではない、腕を組んだ美しい女性の上半身、そして、
赤毛のポニーテールの美貌……現れたのはユピーではない……シアン・シンジョーネだ!
616
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:07:15
「シアン、随分と人間離れしたな……!」
「ユピーを、『喰った』のね……!」
先刻の闘いで、蟲毒の儀式により増幅されていたシアンの魔力は、遂にユピーの膨大なオーラ量をも超越した。
そしてユピーとの力関係が逆転した瞬間、彼女はユピーに対して『同化の法』を試みたのだ。
『同化の法』、それは他者の肉体を術者と融合・支配する、七英雄・ワグナスの開発した術……。
シアンは主催サイドを通じて習得した異界の術『同化の法』で、ユピーの肉体を取り込んだのである。
かつて地底で同様の事態に遭遇したヤマメは、シアンに起こった異変を『ほぼ』正確に見抜いていた。
だが……
「あの羽根……ユピーの羽根じゃないのか……」
ばさり、とシアンの背中に広げられた一対の大きな翼。
ティンが指摘したように、ユピーが飛行の際に生やしていたそれとは、明らかに様子が違う。
金色をベースに、風切羽は虹のように彩られ、シアンの背後で後光の様に輝いている。
「あ、あいつは、一体何者に『なっている』の……?!」
時間にすればほんの数秒のことだったが、ヤマメは一歩も動くことが出来なかった。
神の御使かと見紛うシアンの姿に、戦慄していたからか。
遺伝子に刻まれた本能が、眼前の天敵の両翼に立ち向かう事をためらわせていたからか。
いや、最大の理由は、シアンから発せられる力が、黄泉還り者(レブナント)でも、
キメラアントの生命エネルギーでもない、何か別の畏るべきものになりつつあることを感じ取ってしまったからである。
617
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:07:47
「悪いが…先手必勝でやらせてもらう!」
ヤマメが立ち竦むのをよそに、シアンの緩慢な動作を見たティンが飛び出していた。
口を衝いて出たのは、戦友であるゴッド・リーの言葉。
このバトル・ロワイアルのオープニングで真っ先に主催者への反抗の意志を示した、
ミイデラゴミムシのバグズ手術被験者である。
彼は、その言葉と共に司会者である皇兄ナムリスの首をその能力で灼き斬ると同時に、
全身を突き破って生長する巨大キノコにまみれて死んだ。
リーはこのバトルロワイアルに逆らった者がどうなるか、最初の見せしめにされたのだ。
ティンがこの場でその勇気ある戦友の言葉を借りたのは、殆ど無意識下の事であった。
「……――!……駄目ッ!!」
我に返ったヤマメがティンを制止する。
迫り来るティンにゆっくりと顔を向けたシアン、その双眸に急速に妖力が収束している。
次の瞬間、シアンの両目から一瞬だけ鋭い閃光が煌き、ティンの全身を包みこんだ。
『王の怒り』と呼ばれる凄まじい熱線。
シアンがその存在を賭して求めた存在、『魔王』の術である。
蟲毒の儀式を経て得た膨大な魔力、妖力、オーラ、そして何より、
失意のうちに死んでいった蟲たちの怨念……呪いを一身に集めたシアンは、
最早『魔王』に限りなく近い存在になりつつあったのだ。
「ティン!!」
1秒置いて、『王の怒り』の余波でティンの周囲の床・壁が爆裂した。
アリ塚の土壁が瞬く間に沸騰する程の熱量。
タンパク質と水で出来た身体など、灰を吹くように蒸発してしまう。
続けてシアンからこちらに向かって、山なりに何かが大量に飛来してきた。
無数の七色の羽根。『ふりそそぐ羽』の弾幕だ。
今まで見てきたどの弾幕よりも殺意の篭った弾幕……かわせない!
618
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:08:36
「網だ!網を出せ!」
たった今霧散したかと思われたティンの声。
ティンは『王の怒り』を浴びる瞬間に咄嗟に蹴り足を戻し、
両腕・両脚の防具でシアンの視線から全身を覆い隠していたのだ。
お陰で両脚を守る『クイックシルバー』を失いながらも、辛うじて『王の怒り』をしのぐことができていた。
そうだ、かわせない弾幕には……
「スペルカード、罠符『キャプチャーウェブ』!!」
ヤマメは左腕のブレスレットと、右手改め右前肢から網を生成し、羽根を片っ端から絡めとる。
その時焼きたてピザの様に煮え立つ床を、びちゃりと踏む音が聞こえた。
ティンが駆け出している。
それを迎え討つシアン、形の整った乳房を惜しげもなく露わにして突き出した両腕、
それが……ところてんのように、裂けた!……触手だ!
一瞬の間に10発は繰り出されようかという触手の鞭打ち、
それは『本来の世界』でも魔王に挑む戦士達を最も苦しめていたであろう、魔王最大の攻撃。
そのおぞましきうねりがティンの行く手を阻む。
(あたしが、盾になって道を空ける……!)
ヤマメが『メタルキングの盾』をデイパックから取り出そうとする……
その一瞬の隙を、魔王は見逃さなかった。尻尾より生成された一本の触手がティンを迂回し、ヤマメに迫る。
「あ、卵……!」
大きな円軌道を描き、一際加速をつけてしなった触手が、超音速でヤマメの身体を切り裂いた。
下半身を階下に弾き飛ばされ、ボトリと床に落ちるヤマメの上半身。
デイパックを盾にすれば防ぐことが出来たかも知れない一撃。
だが、我が子の収められたカバンを盾にすることなど、彼女にできはしなかった。
619
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:09:24
「網だ!網を出せ!」
たった今霧散したかと思われたティンの声。
ティンは『王の怒り』を浴びる瞬間に咄嗟に蹴り足を戻し、
両腕・両脚の防具でシアンの視線から全身を覆い隠していたのだ。
お陰で両脚を守る『クイックシルバー』を失いながらも、辛うじて『王の怒り』をしのぐことができていた。
そうだ、かわせない弾幕には……
「スペルカード、罠符『キャプチャーウェブ』!!」
ヤマメは左腕のブレスレットと、右手改め右前肢から網を生成し、羽根を片っ端から絡めとる。
その時焼きたてピザの様に煮え立つ床を、びちゃりと踏む音が聞こえた。
ティンが駆け出している。
それを迎え討つシアン、形の整った乳房を惜しげもなく露わにして突き出した両腕、
それが……ところてんのように、裂けた!……触手だ!
一瞬の間に10発は繰り出されようかという触手の鞭打ち、
それは『本来の世界』でも魔王に挑む戦士達を最も苦しめていたであろう、魔王最大の攻撃。
そのおぞましきうねりがティンの行く手を阻む。
(あたしが、盾になって道を空ける……!)
ヤマメが『メタルキングの盾』をデイパックから取り出そうとする……
その一瞬の隙を、魔王は見逃さなかった。尻尾より生成された一本の触手がティンを迂回し、ヤマメに迫る。
「あ、卵……!」
大きな円軌道を描き、一際加速をつけてしなった触手が、超音速でヤマメの身体を切り裂いた。
下半身を階下に弾き飛ばされ、ボトリと床に落ちるヤマメの上半身。
デイパックを盾にすれば防ぐことが出来たかも知れない一撃。
だが、我が子の収められたカバンを盾にすることなど、彼女にできはしなかった。
620
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:09:52
「シッ!!」
ティンが小さな掛け声と共にシアンの傍を駆け抜けると同時、刃と化した右肘が煌めき、
吸引の負圧を生み出さんとして動き出したシアンのノドをバッサリ切断した。
シアンの生首は30cm垂直に飛び上がり、時計回りに90度回転して元の場所に着地。
だが、新たな接合面となったシアンの左頬が一瞬にして首と癒着し、食道と気管はすぐさま再構築された。
吸引作業は、ケースに挿し込まれたままのストローから、当初の予定通り開始された。
ずじゅっ、ずごごごっ
プラスチックケースの不快な振動音が部屋に小さく響く。
粘度の高い液体が吸引される音だ。
俺の、俺たちの子が。確かに首を落としたはず。
この、バケモノが。次こそ、仕留める。
振り返ったティンが見たのは、横倒しの頭から垂直に串刺しにされたシアンの姿……
左手の剣をシアンの耳孔にねじ込む、ヤマメの上半身だった。
「返せ……あたしの子ども、返セッ……!」
毒符「樺黄小町」。ヤマメは上半身を斬り落とされた瞬間にそのスペルカードの効果で身を隠し、
糸を飛ばしてシアンの真上に回りこんでいたのだ。
「殺す、殺してやるっ……殺ス、殺スコロスコロス……」
ヤマメはかすれた声でひたすら呪言を繰り返している。
憎悪に歪むその表情はまさしく悪鬼羅刹のそれだ。
『断面』から自らの血肉がこぼれ落ちるのも厭わない。
ヤマメはシアンの肩に右前肢を掛け……
左手でシアンに根元まで刺さった『メタルキングの剣』の柄を掴み……
全力で引き倒した。
みしっ、ばきばきめき、ぶしゃっ。
621
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:10:18
シアンの身体が頭からへそまで左右に分かれ、『開き』となった。
重力の作用のままに、それらはバラバラの向きにグニャリとしなだれてゆく。
力を使い果たし、ボトリと倒れかかるヤマメ。シアンの下半身に『騎乗』する格好だ。
だが、当のシアンの四つ足は……未だに床をしっかり踏みしめている!
『開き』はすぐに動き出し、背中のヤマメにバクリと食らいついた!
「くそおっ!」
間近まで間合いを詰めていたティンは、シアンの『新たなアゴ』の付け根に会心のミドルキックを叩き込んだ。
……はずだった。脚がシアンの身体を通り抜けている!?
違う!蹴りによって切り裂かれたそばから、傷が癒えている!
めりめり、ぼきぼき、ばきっ。ぐじゅっ、じゅうじゅう。
ヤマメに食らいついた『アゴ』が激しく蠕動し、咀嚼する。
ヤマメは……もはやミンチだろう。一目で判るほど無慈悲な蠢きだ。
シアンは『アゴ』からヤマメの肉体を『しぼりとる』ことによって、回復力を増しているのだ。
「返せよ……ヤマメをっ、子どもを返せっつってんだろうがああああ!」
ティンが渾身の打撃をいくら叩きこもうとも、シアンにダメージは残らない。
シアンはティンのことなどもはや眼中に無く、反撃も防御もせずに、
ひたすらヤマメの身体と妖力を貪っている。
622
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:10:42
「ハアッ……バケモノが……!シュッ!シッ!ハッ!」
そしてシアンに叩きこまれた打撃が200を超える頃の事だ。
今まで一心不乱に、怒りのままに攻撃を続けていたティンが、異変に気付いた。
なぜだ。疲労を推して今まで闘って来て、体力は限界に近づいてきているはずなのに……
技のキレが増してきている。シアンに傷が、少しずつ残り始めている。
傷の治りが、攻撃に追いつかなくなってきている。
……そうだ、怒りだ。あの信じられない脚力を生んだのは、怒りの感情だ。
もっと怒りを。
ティンは、ヤマメが『アゴ』に食われる瞬間の映像を脳裏に浮かべながら、膝蹴りを繰り出した。
シアンの脇腹が削り取られ、初めてシアンの四足がぐらついた。
怒れ。
ゴッド・リーの全身を突き破ってキノコが生長する音を思い出しながら、逆側に回り込み、肘鉄を叩き込んだ。
煙を上げてシアンの肉が削げ、白い背骨が露出した。
もっとだ。
礼拝堂で庇い合うように死んでいた、ヤマメの知り合いの少年と背中に蝶の羽根を持つ少女を埋葬した時の感触を思い出しながら、
シアンの後ろ脚をローキックで斬り落とした。
怒れっ。
突然「逃げろ」と叫んだ瞬間、産まれ出たリアルクィーンに体内を食い破られた本郷の最期をフラッシュバックさせながら、
腹を蹴り上げる。宙を舞うシアン。
怒りだ!
小吉が偽神・オルゴ・デミーラと壮絶な相討ちを遂げた瞬間を目撃した時の無念・後悔を反芻しながら
浮き上がったシアンに追撃を加えた。
怒りしか無い!!
デイヴス艦長、一郎、菜々緒ちゃん、ヴィクトリア、再会を果たすこと無くこの場で死んでいったバグズ2号の仲間達を思い出す。
怒涛の連撃とともにシアンの周囲を旋回するティンは、いつしか黒い竜巻となっていた。
狙った相手を削り取り尽くす、呪われし竜巻である。
シアンは竜巻の中を木の葉のように舞い、
ミキサーに掛けられたトマトのように撹拌、粉砕され、血と肉片の赤い雨となった。
623
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:11:11
ティンは体力を使い果たし、赤い雨に打たれるままに床に突っ伏していた。
これでまた、俺は独りぼっちか……。
……休もう。腐海の瘴気もここまでは届いていない。
新手が来ないということは、主催者の手の者はもうこの場を放棄したのだろう。
少し休んで動けるようになったら、姫と合流して脱出の方法を探そう。
うまく隠れていてくれればいいが。
それにしてもこの顔、不便だな。まぶたが無いから寝る時も目を閉じられない。
あの昆虫ケースが……嫌でも目に入っちまう。
……思い出してみれば変な女だった。
どう見てもただの人間なのに、蜘蛛の化物……ツチグモだったか?を自称していて、
ああ、こんな異常な状況でおかしくなっちまったんだな、こんな若い娘が……って最初は同情したんだよな、確か。
確かに腕っ節は強かったし、糸を出したりもしたから、俺や本郷さんみたいに改造手術を受けたクチかと思ったんだが……
まさか、タマゴ産むとはな……。本当に人と根本から違うイキモノだとは思わなかったぜ……。
……でも、それでも……あの卵、俺の子でもあったんだよな……。
本郷さんが死んで、半分ヤケになってた時に作ったとはいえ、
「だいじょぶ、ダイジョーブ、人と妖怪なんだし、そうそう当たるもんじゃないって!」
と誘われるがままに作ったとはいえ、あれは俺の子どもなんだよな……。
畜生、見たかったな、あの卵からどんな子どもが産まれてくるか。
……ん?よく見たら残っている!卵が、ケースの中に!!
あの時シアンは、卵をすすっていなかったのか?
シアンがすすっていたのは、ケースを満たしていた、王蟲の漿液だった?
卵をすするフリをしていただけなのか?それとも、卵ではなく、漿液の方が目的だったのか?
……でも、ああ、良かった。俺はまだ、独りじゃない。
血溜りを這いずりながらティンは卵の入ったケースにたどり着いた。
卵は生きている。その鼓動が確かであることを手で触れて確認すると、
それを大事に抱きかかえ、しばしの休息についた。
624
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:11:38
ティンは目を覚ましたのは、それからしばらくしてからのことだった。
5分だったか、1時間だったか、どれくらいの時間が流れたか分からない。
少し体を休めるつもりだったのが、すっかり熟睡してしまっていた。
姫のことが心配だ。早くここを出る方法を探そう。
それにしても……俺の目の前にいる女は……誰なんだいったい!?
あの金髪はヤマメか……いや違う。だがどこか見慣れた顔立ち、そして額には1対の触覚……そうだ、俺だ!
俺と、ヤマメの子か!抱えていた卵か殻だけになっている。
卵が孵った!?いくらなんでも成長が早すぎる。妖怪の子だからか?
「おはよう、ティン、いいえ……お父さん」
「……お、おう」
もう言葉を話している。ああ、声は母似だ……。
「いや、こういう時はもっと的確なセリフがあったね。
金髪の少女の顔が、『シアン・シンジョーネ』の顔に変化した。声も、口調もだ。
部屋中に散らばっていた肉片と血液が、目の前の誰かに吸引されてゆく!
まさか、おまえは……!
625
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:12:06
「そうだ、確か……『先帝の無念を晴らす!』……だ。
魔王だから正しくは『先王』、か。フフフ。」
「!?」
俺は、悪い夢を見ているのか!?卵は……やはり殻だけ!
動けない、手足が縛られている、『蜘蛛の糸』で!!
「では、頂くか。」
「う、うあああああああああああああ、がは」
お前は、何だ。何者なんだ。
『シアンの姿をした何者か』は、真っ先に喉笛を噛み砕いてきた。叫ぶこともできない。
それから脇腹を噛み砕き、生暖かい唇を押し当てて、はらわたをズルズルと吸い出してきた。
痛みは殆ど感じない、手足は床にベッタリはりつけられている、やはりびくともしない、
腹から先刻の命を救ってくれた核鉄が覗いている、ヤマメの形見だ、俺はまだ死ねないんだ、
にもかかわらず頭が妙に落ち着いてきた、もう一度さっきの力を、視界が暗い、寒い、脇腹の唇だけが温かい、冷たい体を吸い出して、
この喉越しは俺のはらわたか、横たわる俺が見える、動けよ俺の体、俺のはらわたをすするの奴の顔が見える、
これで『計画』は完成する、計画、なぜ俺がシアンの目的を知っている、
そうか、そうだったのか、バトルロワイアルとは、蟲毒とは、正しき統治、くそっ気をしっかり持つんだ、
やめろ、迎えに来たなんて、ああ、一郎、小吉、本郷さん、ヤマメ、……皆……
ただいま。
【モントゥトゥユピー@HUNTER×HUNTER】死亡
【黒谷ヤマメ@東方project】死亡
【ティン@テラフォーマーズ】死亡
626
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:12:30
本人にその頃の記憶はないが、シアン・シンジョーネは元はただの村娘であった。
彼女は結婚式の日に理不尽な理由で新郎、家族、村人を皆殺しにされ、
自身も身動きひとつ取れなくなる程の重傷を負った。
だが、彼女はすぐには死ななかった。
チャペルに累々と積み上げられた死体の中……シアンは数日に渡り生き続けていた。
死肉に群がる蟲に、生きたまま食われ続けながら……
自分をこのような仕打ちに遭わせた世界を呪い続けながら……。
そんな彼女の怨念は彼女の肉を喰らった蟲に宿り、一体の魔族を生んだ。
無数の蟲を依り代としたレブナント……シアン・シンジョーネである。
レブナントとして生まれ変わったシアンには、その存在を賭けてでも実現したい目的があった。
世界を正しく統治する絶対的な存在、魔王の誕生である。
正しい統治が民を救う。正しい為政者は、世にはびこる不幸を駆逐する。
その信念は、彼女の居た世界から突然研究に連れ出され、
それが済んで用済みなった後に『虫ロワ』(正式名称:バグズ・バトルロワイアル)
という名の悪趣味な催しが開かれることを知っても揺るぐことは無く、一層強固なものとなった。
だが魔王の誕生には、シアンが体内に内蔵していた『魔王の魂』と莫大な量の魔力が必要である。
彼女が元居た世界では、大地に走る何本ものマナの導線『マナライン』から長期に渡って魔力を集め、
さらにシアン自身を含む多数の蟲の魔力を『コドク』の儀式によって収束させることで、やっと魔王を誕生させることができた。
虫ロワの参加者の魔力を、『コドク』で集めれば魔王を産むに足りる力を集めることができるか?
確かに彼らの中には非常に強力な力を有する者も複数存在した。
だが、それだけでは足りない、魔王を産むにはほんの少し足りない。
その少しを埋めるものは何か?怨念だ。魔力とは精神の力。
惨劇の種を振りまき、この場を阿鼻叫喚で埋め尽くそう。
その時生まれる怒り、憎しみ、苦しみ……それらが参加者の魔力を増幅させる。
そう……今しがたシアンが喰らった飛蝗の男が、魔族、いや、ヨウカイとしての力に目覚めたように。
それは皮肉にも、レブナント・シアンを産んだ状況と酷似していた。
627
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:12:52
(奴らが私を『ジョーカー』とやらに選んだのは、その為かもな……さぞ楽しめたことだろう)
血の雨降り注ぐ死闘から十数分後、そこには膨れた腹をさすりながら、独り佇むシアンの姿があった。
生物学的には、彼女は『半妖の卵』から生まれた子なのであるが
何も知らぬ白紙の状態の赤子に、アバロンに伝わる秘術『伝承法』によってシアンの人格と魔力が乗り移ってきたのだ。
彼女は間違いなく『シアン・シンジョーネ』であろう。
シアンは沈黙し、立ち尽くしていた。最後に残った蟲……このアリ塚に突入した王蟲の生命が尽きるのを待っていたのだ……
が、それだけではない。彼女は黙祷に耽っていた。
恋人の片割れを目の前で殺害し、生き残った方も生きたまま喰らうという自らの所業に、わずかながら罪悪感を覚えていたのだ。
(そうか、私が……ヒトの心など蟲に喰われた時に失せたと思っていた、私の心が痛むとは……)
そういえば、蜘蛛の女を挑発する為にすするふりをした卵も、何故か実際に口を付ける気にはなれなかった。
もちろん『伝承法』で乗り移るための保険を掛けていたから、あえて食べるフリだけにしたのだが、
例え状況が許したとしてもアレは食べられなかっただろう。
人間の子供は容赦なく魔族に変え、成人の魔族は容赦なく利用し見捨てるシアンだが、
何故か魔の者の子供には甘かった。
(私は、子供に、そして、子を育む男女に、つい今しがた私が完膚なきまでに踏みにじったものに
……未来の希望を見ていたのかも知れん。)
(だが、私は謝らない。……代わりに約束する。
この世の、ありとあらゆる不幸は……お前たちで最後にすると。)
(たった今息絶えた蟲の王の魂によって、『コドク』は完成した。)
628
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:13:22
「魔王『シアン・シンジョーネ』の誕生だ……!」
誰にともなく、天を仰いでシアン・シンジョーネは宣言した。
背中には、以前にも増して眩いばかりの虹色の鳥の翼が広がった。
「私は誓う。魔王として得た力で、……全世界の、あらゆる平行世界の、あまねく不幸を尽く駆逐すると。」
シアンの頭上に、黄金色に輝く魔法陣が展開された。
大気が震え、空中放電が産まれる程の、凄まじいエネルギー。
バダンに伝わる『時空魔法陣』だ。
バダンの怪人には月面と地球を繋ぐのが関の山だったが、
今のシアンに掛かれば並行世界の壁すら容易に破ることができる。
「来たか、『虫愛づる姫君』。最後まで生き延びた褒美だ。
このシアンの為すことを、傍らで見守っていて欲しい。
……最早こうして言葉を交わす必要もないだろうが。」
そう言うとシアンは姫の手を取り、魔法陣の中央、闇の中に飛び込んでいった。
魔力の源を失った魔法陣はすぐにその機能を停止し、収縮して消滅した。
大広間には、静寂だけが残された。
【王蟲@風の谷のナウシカ】死亡
【シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編】脱出
【虫愛づる姫@堤中納言物語「虫愛づる姫君」】脱出
629
:
虫ロワ 第100話「完全変態、そして」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:13:50
☆参加者名簿
【サバイビー】(0/13)
●バズー/●ライバー/●デブリン/●赤目/●イップ/●ギロ/●エンゾ/●デッド/●ボガド/●キム/●ラム/●ブレイズ/●マシュー
【HUNTER×HUNTER】(0/13)
●ポンズ/●キメラ=アントの女王/●コルト/●ラモット/●レイナ/●メルエム/●ネフェルピトー/●シャアウプフ/●モントゥトゥユピー/
●レオル/●ブロヴーダ/●ウェルフィン/●メレオロン/●イカルゴ/●ヂートゥ/●ザザン/●パイク/●ヒナ
【仮面ライダーspirits】(0/11)
●本郷猛/●一文字隼人/●風見志郎/●フレイ・ボーヒネン/●アスラ/●グィン将軍/●ジゴクロイド/●カマキロイド/●カニロイド/●ムシビト/
●ビクトル・ハーリン
【虫姫さま】(0/11)
●レコ/●アキ/●キンイロ/●ギガスゾォム/●ザゾライザ/●ベニホノォガーダー/●キュリオネス・ヘッド/
●ヤミィロシマーボウ/●ダマルリガ/●ルリイゴホォン・クリス/●アッカ
【テラフォーマーズ(バグズ2号編)】(0/11)
●小町小吉/●ドナテロ・K・デイヴス/●蛭間一郎/●秋田菜々緒/●ティン/●ゴッド・リー/●ヴィクトリア・ウッド/
●テラフォーマー(第1話・菜々緒の首を折った個体)/●テラフォーマー(第2話・ゴッド・リーの高熱ガスを受けた個体)/
●テラフォーマー(第3話・テジャスの頭をもいだ個体)/●次世代型テラフォーマー(額に川の字)
【風の谷のナウシカ】(0/6)
●ナウシカ/●セルム/●王蟲(6巻・ナウシカを漿で包んだ個体)/●王蟲・幼体(2巻・トルメキア軍に囮として利用された個体)/●地蟲/●ヘビトンボ
【地球防衛軍2】(0/6)
●巨大甲殻虫/●赤色甲殻虫/●凶虫バゥ/●バウ・ロード/●ドラゴン・センチピード/●ストーム1
【ドラゴンクエスト7】(0/5)
●チビィ/●シーブル/●ヘルワーム/●チョッキンガー/●オルゴ・デ・ミーラ
【ロマンシング・サガ2】(0/4)
●ワグナス/●クィーン/●マンターム/●タームソルジャー
【パワポケ12秘密結社編】(1/4)
○シアン・シンジョーネ/●ソネ・ミューラー/●ハキム/●ヘルモンド
【東方project】(0/3)
●西行寺幽々子/●リグル・ナイトバグ/●黒谷ヤマメ
【武装錬金】(0/2)
●パピヨン/●ドクトル・バタフライ
【堤中納言物語「虫愛づる姫君」】(1/1)
○虫愛づる姫
【スパイダーマン(東映版)】(0/1)
●山城拓也
【現実】(0/2)
●ジャン・アンリ・ファーブル/●下妻市のシモンちゃん
計2/93
虫ロワ(バグズ・バトルロワイアル)終了
630
:
虫ロワ エピローグ「胡蝶の夢」
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 10:14:40
途方も無い魔力を蓄え、真なる魔王と化したシアン・シンジョーネが、地球に『降臨』した。
北極点付近で撮影されたその姿は、太陽のようにまばゆく輝く黄金の鳥の様だったという。
その輝きは波紋のように大気圏内を巡り、地球上全ての生命体を覆い尽くした。
同時に、彼らはその輝きの正体を知る。
何か偉大で、温かい力を持つものが入り込んでくる。
それを中心に、全ての生命体の精神がつながり合っていく。
同化の法。テレパシー。蟲や死霊を操る能力。
蟲毒によって集めた参加者の魂からこれらの能力を獲得したシアンが行ったのは、地球上の全生命体の意識の統合。
食うものが食われることの痛みを知り、食われるものが食うことの苦しみを知る世界。
シアンの目的は自ら大地にあまねく五虫を束ね、調和させる鳥となることだった。
その光の津波は、社会と生命のあり方を根本から覆した。
今まさに戦闘中だった敵兵同士が、突如として武器を投げ捨てた。
自力の呼吸すらできなくなった母親の真意を知り、静かに呼吸器を外す息子がいた。
職を求めるという行為が意味を失い、人々は皆自然と最も適する役割を担った。
役割が無いと悟った者は静かに土や海へと還っていった。
市場経済は自然消滅し、政府は大幅にその機能を縮小した。
屠殺業者は自責の念から自殺を試みたが、家畜たちに制止された。
恋愛はその意味を失い、婚姻ははより優れた子孫を残すための品種改良の手段となった。
生きとし生けるものがお互いの全てを知り、競争を止め協力をする世界。
地球の生命は、初めて一つの『真の社会』となった。
生存競争というエネルギーのロスが消え、文明が急速に発展した。
やがて並行世界の壁をも超えて統合された地球の生命は宇宙にまで版図を広げ、
末永く繁栄を謳歌することとなる……。
631
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:32:39
……今、わらわが見ていたのは何だったのじゃろう。
確か、やっとの思いで隠れることができた所までは覚えておる。
傍にいるだけでどうにかなってしまいそうなゆぴいの『怒りの感情』じゃった。
隠れた後、わらわは……気を失っておったのじゃろう。
長い、永い、幾百年、幾千年もの間を夢見ていたようじゃ。
ゆぴいに、やまめに、てぃんは、どうしたのじゃろう。
(死ンダ。……アノマツロワヌ魂……しあんノ贄トナッタ。)
虫愛づる姫君が仲間の安否を案じると、階下から話しかけてくる心の声が聞こえてきた。
体全体を震わすように重々しく、それでいてどこか安らぎを感じるその声は……王蟲。
姫を含む4人を、捨て身でこの蟻塚まで運んでくれた仲間。
既に事切れたかに思えた彼女だったが、まだ息があった。
現在も姫の右腕の腕輪を介して、王蟲と心が通じ合っているのが何よりの証拠だ。
だが今は、そんなことよりも……
(3人とも死んだ、じゃと?)
(オマエモ見タハズダ。今見テイタノハ、紛レモナク現実ニ『起キテイタ』コト。
ヨリ正確ニハ……今、マサニ『起コッテイル』コト、ナノダ。
オマエガ左手ニ握リ締メテイル、ソノ『珠』ガ我々ニ見セタ光景ハ……。)
(この珠が……?)
632
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:33:13
いつの間にか姫が握り締めていたのは、オレンジ色に淡く輝く宝珠・『未来視の珠』。
その名の通り説明書きには『未来が見えるといわれる魔法の珠』とだけ記されていたが、
何をしてもその効力を発揮することがなく、支給された彼女自身その存在を忘れてしまっていたシロモノだ。
(では、今見たまぼろしが本当に『起コッテイル』コトとして、
どこまで『起コッテイル』のじゃ?判るか?王蟲よ)
(ダカラソレハ……今教エタ通リ、ダ。)
(死んだのか!?ゆぴいも、やまめも、てぃんも!おお……なんということじゃ)
(ダガ……案ズル事ハ無イ。
オ前ハ恐ラク、最後マデ生キ残ル。ソノ珠ガ見セル通リニ事ガ運ベバナ。
ソレニ……ソノ『珠』ノオカゲデ初メテしあんの真意ヲ知ルコトガデキタ。
コノ地デ斃レタ蟲タチノ魂ヲ糧ニ、しあんハ『救イ』ヲモタラソウトシテイルノダ。)
(『救い』、じゃと……?)
(私モモウ助カラナイガ……私ガ死ンダ時、ソノ魂ヲ以ツテしあんノ『救イ』ハ完成スル。
ダカラ、オ前ハ何モ案ズル事ハ無イ、心配ハ要ラナイ。
我々ノ戦イハ……モウ、終ワッタノダ。)
既に我々にはシアンと戦う理由がない。
そう告げられた姫は咄嗟に王蟲に何か言い返そうとしたが、上手く言葉にできなかった。
だが、数十秒の沈黙の後、ポツリと一言、口にした。
633
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:33:59
「……嫌じゃ。」
(……)
「そんな世界、嫌じゃ。
産まれた時からこの世の生き物のこと全て知り尽くしておる世界など、わらわは嫌じゃ。
そんな世界、『救い』でも何でもない。」
(………)
「わらわは……毛虫が蛹になって、蝶になるのを見るのが好きなのじゃ。
初めて見る毛虫が、どんな蛹にこもって、どんな蝶になるのか……
成長する過程、そして、わらわがそれを知っていく過程が好きなのじゃ」
(…………)
「じゃから……シアンのこれからやろうとしていることは、
とても『救い』であるとは思えん。わらわが、わらわでなくなってしまう。
……のう、どうにかしてしあんを止めることはできぬか?」
(……オ前ハ、ワガママダ。
貴人ノ娘トシテ何一ツ不自由ナク生キテキタカラ、ソンナコトガ言エルノダ。
全テノ生キ物ガ心ヲ通ジ合ワスコトガ出来レバ、
人間ドモガツマラヌ争イデ苦シムコトハナクナルノダ。
餓エテ死ヌ子ラモ大勢救ウコトガデキルノダ。)
「……駄目なのか?……ならば、わらわだけでも行く。行かせてたもれ。」
(イヤ……待ッテイタゾ、ソノ言葉ヲ。『しあんヲ止メル』トイウ、ソノ言葉ヲ。
オ互イ殺シ合イ、喰ライ合イ、餓エテ倒レ……ソレデモ生キテユクノガ、人間ナノダ。
生命ナノダ。ダカラ……『コノ者タチ』ト共ニ、チカラヲ貸ソウ、『虫愛ヅル姫君』ヨ。)
いつの間にか姫の周りには、喰われずに残っていた魂が集まっていた。
シアンに『触媒』として集められ、蟲毒の足しにならぬからと捨て置かれていた、ただの人間の魂。
姿は視えないが、確かにそこにいる。会ったことがある者も、顔も見ることも無く死んでしまった者も。
そして、魂を喰われて尚、子の為に戦わんとする土蜘蛛の半身も、そこにいた。
彼らが護ってくれている。姫は武器を手に、立ち上がった。
(君ならできるよ)
「そうとも、わらわたちなら……できる!」
これが最後の闘いだ。
634
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:35:08
血の雨降り注ぐ死闘からおよそ十分後、そこには膨れた腹をさすりながら、独り佇むシアンの姿があった。
生物学的には、彼女は『半妖の卵』から生まれた子なのであるが
何も知らぬ白紙の状態の赤子に、アバロンに伝わる秘術『伝承法』によってシアンの人格と魔力が乗り移ってきたのだ。
彼女は間違いなく『シアン・シンジョーネ』であろう。
シアンは沈黙し、立ち尽くしていた。最後に残った蟲……このアリ塚に突入した王蟲の生命が尽きるのを待っていたのだ……
が、その時シアンの胸に、赤い呪力の槍が突き刺さった。
これは、シアンもよく知る攻撃魔術の一つ……『ブラッドランス』!
「『虫愛づる姫君』……!そのまま大人しく寝ていれば、『新世界』の誕生に立ち会えたものを!」
シアンが振り向いた先には、『賢者の青き衣』を纏った黒髪の少女がいた。
右腕に大型のプラズマ銃、左手には今しがた初めて『本来の用途』で使われた未来視の珠。
そして、下半身は……先程階段に叩き落としたツチグモの胴体と融合している!
「既にお前達の仲間は全滅している!
それでも、あくまで私を邪魔するというなら、消え失せろッ!」
「……右っ!」
以前にも増して強力な熱線『王の怒り』を、姫は蜘蛛の肢で横跳びし回避。
姫のもう一つの支給品は、一枚の紙切れ。
破り捨てることで一時間だけ『念能力』を得ることができる、てのひらに収まる大きさの、小さな紙切れだ。
彼女に支給されていたのは……『死体と遊ぶな子供達(リビングデッドドールズ)』が封じられた券。
それは、死体に取り付き、我が身のように操る念能力だ!
(よもやわらわがこうして、土蜘蛛と一つになって戦うことになるとはな……)
635
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:35:35
感慨に浸る暇はない!
シアンは再び背中に翼を、そして両腕を無数の触手を生み出している!
姫の正面から『ふりそそぐ羽根』が、周囲からは回りこむように『触手』が、
怒涛のように襲い掛かってくる!
「敏捷性強化(くいっくねす)……!」
未来視の珠に封じられたもう一つの術、『クイックネス』で加速した姫は、
なんとシアンに向かって真正面から突貫した!
無数の毒羽根の発射地点に、最も弾幕密度の高い地点に向かって!だが、当たらない!
身を翻し、首を反らし、電光のように隙間を縫いながらかわす、かわす、かわす!
「この動き!術で強化された程度でこれだけ動けるはずが……!まさか……!」
シアンが驚愕する一瞬の間に、既に姫は目前に到達していた!
既に癒えつつあった胸の傷に右腕のプラズマ銃をねじ込みながら!
「そこじゃああああああ!」
636
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:36:16
そして、レイピアGスラストの引き金が引かれ、シアンの体内に押し込まれた銃口から
エメラルドグリーンの閃光が放たれた!
巨大昆虫さえ一瞬で焼き殺す無数のプラズマアーク刃が、ゼロ距離、いや、マイナス距離からシアンを襲う!
「がああぁああああぁああぁあぁあ!」
全身を痙攣させ、苦悶の叫びを上げるシアン!
炭化する肉体は魔王の驚異的な回復力で次々修復されてゆくが、追いつかない!
徐々にシアンの胸に穴が穿たれてゆき、そしてついに鼓動する心臓が露出した!
「これでえぇ!終わりじゃああああああ!」
姫はエネルギーの切れた銃を投げ捨て、
右手をシアンの心臓に……『魔王の魂』の宿る処に押し当て、スペルカードを宣言した!
今や姫の半身となった『黒谷ヤマメ』の、スペルカードを!
「細網『犍陀多之縄(カンダタロープ)』!……皆、還って来いっ!」
掌から放たれる黄金色のレーザーが露出したシアンの心臓を更に灼き貫く!
……いや、貫けない!
シアンの肉体の回復が追いつき始めている!破壊力が、足りない!
そして、ついにスペルカードの効力が終了した!
シアンの傷は姫の右腕を閉じ込めたまま、完全に回復してしまった……!
637
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:36:46
「ハァッ、ハーッ……どうした、これで打ち止めか」
「はあっ、はぁっ……」
「……惜しかったな。私の攻撃を掻い潜り、間近まで詰め寄ったあの動き。
蟲毒の材料として使われず漂っていた『人間』達の意識を借りていたのだろう?
私が真の魔王となれば、更に多くの者……全世界の生命と繋がることも可能だ。
お互いがお互いの全てを知り尽くし、争いもなく協力して生きていく。
悪しき迷信に囚われること無く、全ての者が正しい知識を生まれつき共有している。
……そんな世界を創ることができるのだ。
……もう一度だけチャンスをやろう。私と共に来い。世界を救おう。二人で、共に」
「……じゃ。」
「ん?」
「わらわの……わらわたちの勝ちじゃ」
「何を言って……まさか、これは!!」
(ほらね?迎えは絶対来るって)
シアンの胸の中から声が聞こえてくる。
(しかし、こんな細い糸で大丈夫なのか?)
正確には胸の中、心臓と一体化した魔王の魂からだ。
(どっかのお釈迦様の気まぐれとは一緒にしないでほしいわね。
この糸は百人ぶら下がってもダイジョーブ!)
(カメラで撮られたりしない限りね!)
(うっさい!)
この声は……蟲毒によって魔王の魂の中に封じられた、死んだ蟲たちの声!
638
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:37:16
「待てっ、お前は何を「おおおおおおおおお!!」
姫がシアンの体内に埋まった右腕を力の限り引き抜くと、その手には金色に輝く細い糸が握られている!
糸には数匹の蜜蜂や、ケラ、甲虫、コオロギ、隻眼のオオスズメバチ……何匹もの小さな虫たちの……魂が掴まっている!
「まさかお前は!……やめろ、やめてくれえええええ!」
シアンはその時初めて姫の真の目的を知った!
魔王の魂に撃ち込まれた『カンダタロープ』の真の目的を!
「皆の者、手伝ってたもれ!」
『人間』たちの魂が、力を合わせて金色の糸を引く!
魔王の魂に封じられた、蟲達の魂が続々引きずり出されて来る!
ヒトと心を通じ合わせた、あるいは通じ合わすことのなかった虫の魔物たちが、
異星からの尖兵たちが、火星で異常な進化を遂げた黒き悪魔たちが、ヒトを喰らいヒトの姿と知性を得た蟻たちが、
ヒトの身に蟲を組み込んだヒト達が、善悪なく、その魂の聖邪にかかわらず、一筋の蜘蛛の糸を手繰り魔王の魂を脱出する!
(姫と、王蟲たちに……あのワグナスって奴には感謝しないといけないな)
(そうね……ユピー、アンタはどうするの?
要らないっていうんなら、あたしがアンタの分までもらってくわよ?)
「……王蟲よ、頼む!」
(心得タ)
639
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:37:48
金色の糸の延びる先には、既に朽ち果てた肉体を脱した王蟲がいた!
彼女もまた綱引きの錨(アンカー)となって、糸を引いている!
蟲達の魂はなおも列を為し、続々と抜け出てくる!
シアンの同志だった者たちも、森を護っていた巨大な蟲たちも、
かつて世界を救い英雄と呼ばれた復讐者も、世界を切り取り闇の中に封じようとした偽神も、
蟻の王とその忠実な下僕たち、そしてその母君も……!
(ピトー、プフ、そして、母上……迎えが来た、共に行こうぞ)
(ははっ)
(仰せのままに)
(王!私も、このモントゥトゥユピーもお供します!)
(ならぬ)
(!?……何故です、王!)
(余は既に王ではない)
(王、いえ、メルエム様は既にその役目を終えられた……ただそれだけの事)
(これで、今度こそコムギ様の元へ行けますね、メルエム様)
(モントゥトゥユピー、今まであの子に、メルエムによく仕えてくれました。
ですが、肉体の滅びた私たちは行かなければなりません。あの巨きな蟲の導く先へ。
この地で我らが種族もその殆どが斃れてしまいました。貴方だけは、まだ……)
(母上の言う通りだ。余からも、頼む。……キメラアントの未来をお主に託す)
(……メルエム様)
(ユピー!どーすんのー!?)
(早く決めないと、ヤバいぞー!)
640
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:38:40
既に蜘蛛の糸は姫の手を離れていた。
王蟲を先頭に、ヒトと、蟲と、それ以外の何かの魂が、蜘蛛の糸に連なり天へと還ってゆく。
生前の姿を模していた魂の像が、次第にぼやけ、薄くなり、遠く何処かへ離れてゆく。
文字通り魂の抜け殻となり、仰向けに倒れたシアン・シンジョーネ。
首の裏から一瞬、焼けるような痛みが走った。『呪印』が解かれたのだ。
もはやこの蜘蛛の体も必要ない。持ち主に還そう。姫は念能力を解除し、ヤマメの半身との融合を解いた。
シアンの胸からは依然、天に向かって延びてゆく蜘蛛の糸が……糸を掴んだ手が湧き出てくる!
実体のある、手が!シアンの胸から!腕が!肩が!身体が!バリバリと肉を裂きながら!
「お、お主ら……!……何者じゃ!?
ええと、『やまめ』に、『ゆぴい』に、その『飛蝗頭』は本当に何者じゃあ!?」
「ティンよ。なかなか美味しそうな顔でしょ?」
「……やまめよ、それは無いのう。して、なぜお主がゆぴいの胴体を!?」
「だってあたし、出てきても足が無いし」
「だからって俺の身体奪う奴があるか!?」
「ゆぴいが縮んでおるのはそのためか……でも、良かった。3人とも無事だったのじゃな」
「4人よ」
「ああ」
蜘蛛の糸を手繰り、魔王の魂から最後に脱出を果たしたのは、
ユピー、ティン、ヤマメと、彼女が左手に持つ卵の『4名』であった。
魂のみならず、肉体をもシアンに奪われた彼らは
魔王の魂の中でワグナスより教わった術・同化の法でシアンから肉体を奪い返すことにより、生還を果たしたのだ。
……ユピーが迷う間にヤマメが余分に身体を同化してしまうというイレギュラーは発生してしまったが。
641
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:39:02
「俺の身体返せよ、テメェ!」
「やだよ、同化の法で身体は治せても、痛いモノは痛いもん!」
「じゃあ、あの人間の女に貸してた、胴体を寄越せ!」
「それもダメ!……あたしを食べて良いのは、ティンだけだもん!」
「……おい、ティン!……あの胴体、喰って良いか?もしダメなら、お前の下半身をもらう」
「俺に振るな俺に!」
(あやつら、生き返ったばかりなのに元気じゃのう。
……そうか。そうでなければ困る、か。そうじゃな、戦いはまだ終わってはおらぬ。
そして、この戦いが終わってもまた新たな戦いがやってくる……か。
……王蟲よ。達者でな)
「あー、痛かった……今日は3回も胴を斬られた……厄日だわ」
「少なくとも1回は自業自得だろうが、ケッ!」
「そういう時は逆に考えるんじゃ。
1日に3回も胴体を斬られて生きておるなんて、なかなかできん経験じゃぞ?
普通1回で死ぬ。お主は幸運じゃ」
『ア゛ァア゛ア゛ア゛ア゛――――――――――――――――!!!』
ユピーが『元の姿』に戻り、ヤマメが蜘蛛の下半身を取り戻した時、
部屋中にけたたましいモーターサイレンの大音響が鳴り響いた。
642
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:39:35
「この音は!」
「『警告音』だ!……主催者の手に負えなくなった俺たちを、アリ塚ごと始末する気だ!
核爆弾か、殺虫剤のような兵器で!」
「姫!主催者の、ナムリスの居所は判るか!」
「この上……階段を登った先じゃ!」
一行が階段を駆け上がり、鉄の扉を突き破ると、
そこは無数のモニターが床から天井から並ぶ……航空管制室とでも表現すべき部屋に行き着いた。
部屋の中央の机には、マイクスタンドと兜をかぶった生首があった。
バトルロワイアル司会進行役の、皇兄ナムリスだ。
「おい、そこの生首!わらわ達が帰る方法を教えろ!」
「あ゛ぁ!?」
モニターを見張っていたナムリスは、ぴょんぴょん飛び跳ねて一行の方を向いた。
「脱出の方法を教えろって言ってんのよ、このゆっくり亜種!」
「ああん!?ねえよ、そんなもん!」
「何だと……!」
「しらばっくれたら為にならねぇぞ。頭を開いて脳味噌に直接『質問』させてもらう。
俺はピトー程器用でないから、余計に苦しませることになるかもしれん。覚悟しろよ」
「そんなことしても何も判らねえぜ?『廃棄』されたんだよ!お前らも、俺も!!
脱出方法なんざ無え!あと10分でこの会場の最深部、腐海の底にセットされた水素爆弾が爆発する!
せいぜいゆっくりして逝きやがれ!ヒヒヒヒヒヒ、ヒ、ヒ……ヒ!?」
一行が詰め寄ろうとすると、一つ目をあしらったナムリスの兜の『瞳』に、剣が突き刺さっていた。
大広間に置き忘れてきた、『メタルキングの剣』だ!
投げつけたのは……
643
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:40:07
「シアン・シンジョーネ!」
「生きてやがったのか……」
ユピー、ティン、ヤマメの3名は、部屋の入り口で息を切らすシアンに敵意の篭った眼差しを向けた。
「その男の言う事は……事実だ。脱出方法など最初から用意していない」
「このアマ……!」
「よせ、ゆぴいよ……しあん、お主が」
「ああ、脱出方法は、これから私が作る」
「信用するとでも思っているのか?」
「それはお前たちの勝手だ。私は為すべきことをするだけだ」
「てぃん……わらわも保証する。しあんにもはや、敵意はない」
「……方法は?」
「『時空魔法陣』を開く。『コドク』の儀式は魂の解放によりお前たちに破られたが……
『コドク』により集められた魔力はまだいくらか残っている。
お前たちを元のところに帰すくらいなら、何とかなるだろう」
「……では、わらわは屋敷に送ってたもれ」
最初に行き先を告げたのは、虫愛づる姫君だった。
彼女だけは、予知で『時空魔法陣』を見ていた。
シアンが目を閉じ空中に手をかざすと、スパークと共に空中に魔法陣のリングが出現。
それは拡大を続け、シアンの身長ほどのサイズで静止した。姫が予知で見たものと同じ魔法陣だ。
リングの内側には、夜の水面のように波打つ膜の向こうに……うっすらと大きな木造の邸宅が見える。
「ここを通り抜ければ帰れる……別に時速600キロを出す必要はないからな」
「? ともかく、向こうに見えるのは、間違いなくわらわの家じゃ。信じてやっても良いと思うぞ」
3人は実際に出現した魔法陣と姫の言葉に、幾分警戒を和らげた様子だった。
「本当に信じて良いのね?あたしとこの子は、幻想郷の地底の入り口へ頼むわ。ねえ……」
ヤマメがぶつけた質問は、参加者の立場からすればごく当然の質問だった。
644
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:40:37
「シアン、あんた敵だったのに……なぜそこまでしてくれるの?」
「同じだからだ。私も、お前たちも……人間以外の関係者は全て生体データ採取の為に集められたサンプルなのだ。
この場でバトル・ロワイアルが開かれたのも、サンプル処分を兼ねた余興に過ぎん。
『コドク』を完成させようとしたのも……いや、よそう。今は時間が惜しい。早く次の者の行き先を教えろ」
シアンがこのバトル・ロワイアルの開催の経緯を参加者に告げたのは、その時が初めてだった。
「俺は……そのサンプルとやらを集めた連中の元に送ってくれ。ぶん殴りに行く」
……そして、それを知ったユピーの反応は実に彼らしい反応であった。
「ユピー、アンタ王様とお母さんの最期の言葉忘れたの!?『キメラアントの未来を頼む』って!
復讐なんてやってる場合!?」
「ヤマメの言うとおりだ。奴らに楯突く事は……あまりオススメできんな。
私たちの反乱など想定の範囲内だろう。対策は何重にも打っているはずだ。
例え関係者全員を皆殺しにして復讐を果たしたとしても
いずれ代わりの組織が現れて同じ事をするだろうしな」
「それでもやるんだよ。俺たちをこんな穴蔵に閉じ込めて、こんな殺し合いをさせて、
それを肴に一杯やる連中の事、許せる訳がねぇ!ありえねぇよ!
その連中とやらには一発、痛い目見せてやらなきゃならねぇ!
でねぇと、またすぐに同じことやるぜ……!俺たちや、俺達の子孫を無理矢理呼び出してな!」
「なるほど、ユピーは『私と同じ』でいいな」
「シアン、てめぇ……」
シアンの手により、新たに2つの魔法陣が開かれた。
645
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:41:00
「残るはてぃんだけじゃな。てぃん、お主はどうするのじゃ?」
「俺は……」
「あたし達と一緒に行こう!幻想郷で一緒に暮らそうよ!」
「……すまない。俺もユピー達と共に行く」
「え……?」
「俺たちの子を守るためだ、分かってくれ……全部片付いたら、必ずそっちに行くから」
「…………ティン、頭下げて」
そう言うや否や、ヤマメはティンの頭を右前肢で自分の顔まで引き寄せ……
「そういえば、ちゃんとキスしたの初めてたったね……」
本来緑のはずのバッタの頭が、赤く染まった瞬間であった。
「ティン、待ってるから!じゃあね、みんな!」
「ああ、必ずそっちに行くからな!」
照れくささを隠し切れない様子で、まずヤマメが幻想郷へと繋がる魔法陣に飛び込んだ。
もちろん、左手には卵を抱えて。
646
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:41:37
「おおう、あやつら熱いのう……」
「ケッ、バカップルが」
「では、わらわも行くとするか。あやつらを見ておると、急に右馬佐の奴に会いとうなってきた。
……ゆぴいに、てぃんよ。お主らも急ぐが良いぞ。では、さらばじゃ」
別れの言葉もそこそこに、虫愛づる姫君もそそくさと魔法陣を通り抜けていった。
と同時に、ユピーとティンは異変に気付く。
「う、うむむむむ……」(ぷしゅ〜っ)
「シアンの奴、湯気吐いてるぞ!」
「オイッ、シアン!目ェ回して、ゆでダコみたいになってんじゃねぇ!
魔法陣消えかけてんぞ!気を確かに持てっ!どんだけウブなんだよ、オイッ!
ティン!早く来いっ!!魔法陣がやべぇ!」
ティンと、シアンを担いだユピーが、駆け足で魔法陣を駆け抜けていった。
彼らの戦いはまだ終わってはいない。
【王蟲@風の谷のナウシカ】死亡
【黒谷ヤマメ@東方project】脱出
【虫愛づる姫@堤中納言物語「虫愛づる姫君」】脱出
【モントゥトゥユピー@HUNTER×HUNTER】脱出
【シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編】脱出
【ティン@テラフォーマーズ】脱出
647
:
虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:42:07
☆参加者名簿
【サバイビー】(0/13)
●バズー/●ライバー/●デブリン/●赤目/●イップ/●ギロ/●エンゾ/●デッド/●ボガド/●キム/●ラム/●ブレイズ/●マシュー
【HUNTER×HUNTER】(1/13)
●ポンズ/●キメラ=アントの女王/●コルト/●ラモット/●レイナ/●メルエム/●ネフェルピトー/●シャアウプフ/○モントゥトゥユピー/
●レオル/●ブロヴーダ/●ウェルフィン/●メレオロン/●イカルゴ/●ヂートゥ/●ザザン/●パイク/●ヒナ
【仮面ライダーspirits】(0/11)
●本郷猛/●一文字隼人/●風見志郎/●フレイ・ボーヒネン/●アスラ/●グィン将軍/●ジゴクロイド/●カマキロイド/●カニロイド/●ムシビト/
●ビクトル・ハーリン
【虫姫さま】(0/11)
●レコ/●アキ/●キンイロ/●ギガスゾォム/●ザゾライザ/●ベニホノォガーダー/●キュリオネス・ヘッド/
●ヤミィロシマーボウ/●ダマルリガ/●ルリイゴホォン・クリス/●アッカ
【テラフォーマーズ(バグズ2号編)】(1/11)
●小町小吉/●ドナテロ・K・デイヴス/●蛭間一郎/●秋田菜々緒/○ティン/●ゴッド・リー/●ヴィクトリア・ウッド/
●テラフォーマー(第1話・菜々緒の首を折った個体)/●テラフォーマー(第2話・ゴッド・リーの高熱ガスを受けた個体)/
●テラフォーマー(第3話・テジャスの頭をもいだ個体)/●次世代型テラフォーマー(額に川の字)
【風の谷のナウシカ】(0/6)
●ナウシカ/●セルム/●王蟲(6巻・ナウシカを漿で包んだ個体)/●王蟲・幼体(2巻・トルメキア軍に囮として利用された個体)/●地蟲/●ヘビトンボ
【地球防衛軍2】(0/6)
●巨大甲殻虫/●赤色甲殻虫/●凶虫バゥ/●バウ・ロード/●ドラゴン・センチピード/●ストーム1
【ドラゴンクエスト7】(0/5)
●チビィ/●シーブル/●ヘルワーム/●チョッキンガー/●オルゴ・デ・ミーラ
【ロマンシング・サガ2】(0/4)
●ワグナス/●クィーン/●マンターム/●タームソルジャー
【パワポケ12秘密結社編】(1/4)
○シアン・シンジョーネ/●ソネ・ミューラー/●ハキム/●ヘルモンド
【東方project】(1/3)
●西行寺幽々子/●リグル・ナイトバグ/○黒谷ヤマメ
【武装錬金】(0/2)
●パピヨン/●ドクトル・バタフライ
【堤中納言物語「虫愛づる姫君」】(1/1)
○虫愛づる姫
【スパイダーマン(東映版)】(0/1)
●山城拓也
【現実】(0/2)
●ジャン・アンリ・ファーブル/●下妻市のシモンちゃん
計5/93
虫ロワ(バグズ・バトルロワイアル)終了
648
:
虫ロワ
◆XksB4AwhxU
:2013/08/05(月) 13:42:36
以上で投下を終了します。
649
:
名無しロワイアル
:2013/08/12(月) 19:55:30
これで完結したのは……
8作品目?
650
:
名無しロワイアル
:2013/08/12(月) 21:17:23
虫ロワ完結おめでとうございます。
エピローグまで流れて、事実上の全滅で終わるかと思いきや、
まさか虫愛づる姫がヤマメの力を借りて、蜘蛛の糸の寓話の再現というか、
仲間達を死の淵から現世に呼び戻す荒業! また俺の想像力が足りなかった……
ティンたちの戦いはこれからのようですが、続きはあるんですかね?(期待)
651
:
◆XksB4AwhxU
:2013/08/13(火) 21:22:02
>>650
感想ありがとうございます。
参戦発表時は2話目までのプロットまでしか考えてなかったのでどうなることかと思っていましたが、
何とか完結できました。
行き当たりバッタリなのは毎度のことですが、エピローグはまたそのうちに……ということで。
それにしても……今思い返すと普段のパロロワじゃあ生き残りそうに無いメンツだなぁw
ティン:1巻で壮絶な死を迎える主人公の親友ポジ
ヤマメ:1面ボス
ユピー:敵組織幹部の脳筋担当
シアン:敵組織幹部のリーダー、ただし原作ではハーゴンに近い立場
王蟲:名無しキャラ、見た目からして完全に人外
虫愛づる姫君:古文の短編が出典の一般人、ていうかほぼオリキャラ
652
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/08/13(火) 21:47:02
>>651
そもそもテラフォの参戦キャラ(死亡済みですが)からして無理矢理感がw
バグズテラフォーマーですらないのにじょうじい過ぎですよw
けどそうやって自分の好き放題やれるのが、そしてそれを見せてもらえるのがあと3話の醍醐味。
あとティンは死に様も生き様も最高に熱い男なので、二次創作でこそ生き残って欲しいと思う自分には最高でした。
自分の場合、2話目でノリ過ぎて初期プロットが完全にひっくり返ってしまいました。
本当はもっと1話辺りの文量を少なく、さっくり全滅ENDの予定だったのに……
実はオキクルミはパワーアップせずに死ぬ予定でした。というかそれを思いついたがためにああなりました。
653
:
名無しロワイアル
:2013/08/19(月) 21:47:28
よーし、お兄ちゃん新しく来たヒトの為に
>>317
の続き作っちゃうぞーw
◆Wue.BM1z3Y氏
DQFFロワイアルS XIII 完結
>>17
から3話連続
◆eVB8arcato氏
まったくやる気がございませんロワイアル
テンプレ、298話
>>33
◆nucQuP5m3Y氏
リ・サンデーロワ 未完(だけど完結)
テンプレ
>>44
298話
>>59
299話
>>122
300話
>>366
◆6XQgLQ9rNg氏
それはきっと、いつか『想い出』になるロワ 完結
テンプレ、298話
>>46
299話
>>97
300話
>>174
◆9DPBcJuJ5Q氏
剣士ロワ 完結
テンプレ
>>66
298話
>>137
299話
>>212
300話
>>385
死者スレラジオ
>>539
◆MobiusZmZg氏
素晴らしき小さなバトルロワイアル
テンプレ、288話
>>68
289話・序幕
>>161
289話・第一章
>>276
289話・第二章
>>494
◆c92qFeyVpE氏
絶望汚染ロワ
テンプレ、288話
>>84
289話
>>344
◆YOtBuxuP4U氏
第297話までは『なかったこと』になりました(めだかボックスロワ) なかったことになりました(完結)
テンプレ、298話
>>149
299話
>>192
死者スレ
>>353
300話
>>438
◆rjzjCkbSOc氏
謎ロワ 完結(プロローグが)
テンプレ
>>201
298話
>>234
299話
>>255
300話
>>467
◆9n1Os0Si9I氏
やきうロワ 完結
テンプレ、288話
>>206
289話、300話
>>322
希望ロワ
テンプレ、298話
>>568
◆tSD.e54zss氏
ニンジャスレイヤーロワ
テンプレ、288話
>>244
◆uPLvM1/uq6氏
変態ロワ
テンプレ
>>264
158話
>>517
◆xo3yisTuUY氏
日常の境界ロワ
テンプレ、298話
>>265
◆XksB4AwhxU氏
虫ロワ 完結
テンプレ
>>67
98話
>>301
99話
>>332
100話
>>613
◆Air.3Tf2aA氏
現代ジャンプバトルロワイアル
テンプレ
>>350
◆ULaI/Y8Xtg氏
ダンガンロンパ―もういっかい! リピート絶望学園♪―(ダンガンロンパロワ)
テンプレ
>>379
◆uuKOks8/KA氏
幻想水滸ロワイヤル
テンプレ
>>551
322話
>>587
◆loZDXIX6eU氏=◆Q0VzZxV5ys氏
NARUTOロワ
テンプレ
>>563
一回目
>>575
◆LO34IBmVw2氏
孤独ロワイアル
テンプレ
>>567
◆r7Zqk/D9pg氏
D(どうしようもないよ)Q(くぉいつら)ロワ(ドラクエロワ)
テンプレ、288話
>>601
654
:
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 00:58:07
投下します、と言いたいですがテンプレ生存者七人おるやん、ってことでまずはテンプレ変更します。
【ロワ名】
『孤独ロワイアル』
【生存者6名】
岩倉玲音(serial experiments lain)
佐藤達広(NHKにようこそ!)
桐敷沙子(屍鬼)【限界寸前】【右腕使用不可】
引企谷八幡(やはり俺の青春ラブコメは間違っている。)
鈴木英雄(アイアムアヒーロー)【フラッシュバックによる無力化の可能性】
ピノ(Ergo Proxy)
【主催者】
球磨川禊(めだかボックス)
【主催者の目的】『暇つぶし』『強いて言うなら』
『パロロワってやつを開催してみたくてね』
【補足】『優勝したら元にいた世界に返してあげるけど』『願いは叶えないよ』
『だってどんな願いも叶えるだなんて』『人間にできるわけないだろう(笑)』
【参加作品】
・エルフェンリート
・serial experiments lain
・NHKにようこそ!
・屍鬼
・やはり俺の青春ラブコメは間違っている。
・Ergo Proxy
・めだかボックス
・GUNSLINGER GIRL
・僕は友達が少ない
・今、そこにいる僕
・ぼくらの
・BRIGADOON まりんとメラン
・灰羽連盟
・アイアムアヒーロー
・烈火の炎
・おやすみプンプン
以上テンプレです。では投下しますー。
655
:
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:19:17
昨日はテンプレ透過した瞬間メンテでした、すみません。
ちと修正があったので再び改めてテンプレから。
【ロワ名】
『孤独ロワイアル』
【生存者6名】
岩倉玲音(serial experiments lain)
佐藤達広(NHKにようこそ!)
桐敷沙子(屍鬼)【限界寸前】【右腕使用不可】
引企谷八幡(やはり俺の青春ラブコメは間違っている。)
鈴木英雄(アイアムアヒーロー)【フラッシュバックによる無力化の可能性】
ピノ(Ergo Proxy)
【主催者】
球磨川禊(めだかボックス)
【主催者の目的】『暇つぶし』『強いて言うなら』
『パロロワってやつを開催してみたくてね』
【補足】『優勝したら元にいた世界に返してあげるけど』『願いは叶えないよ』
『だってどんな願いも叶えるだなんて』『人間にできるわけないだろう(笑)』
【参加作品】
・エルフェンリート
・serial experiments lain
・NHKにようこそ!
・屍鬼
・やはり俺の青春ラブコメは間違っている。
・Ergo Proxy
・めだかボックス
・GUNSLINGER GIRL
・僕は友達が少ない
・ローゼンメイデン
・私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!
・ぼくらの
・BRIGADOON まりんとメラン
・灰羽連盟
・アイアムアヒーロー
・烈火の炎
・おやすみプンプン
以上テンプレです。では投下しますー。
656
:
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:23:36
『みんなおはよう!』『はじめまして!』
『ここはいいところだよね』『折角好き勝手出来る世界だし』『2chと違って』『規制もないしね!』
『こんな機会めったにないから』『パロロワってやつをやってみたよ!』
『簡単にルールを説明するから』『よく聞いてね』『ちょっと複雑で』『馬鹿にはわかんねーと思うから!』
『孤独ロワ開催の為に安心院さんから借りたスキルは』『たったの五つ』
『参加者のみんなにはこれをあらかじめかけてあるから』『強制的に守ってもらう事になるよ』
『縛りプレイってやつさ!』
『一つ目のスキル』
『重い愛(エクスキュートコミュニケート)』
『人を孤独にさせるスキル』
『仲間が出来る』『誰かの為に戦う』『身体が接触する』『マーダー殺害』『恋をする』『などなど』
『他人と関わる事や自分以外の為に動く事で発動する』『発動すれば徐々に肉体のステータスが劣化していく』
『当事者のみならず、関わった人間もステータスは劣化する』
『でも』『安心して!』
『マーダー化とか』『自殺とか』『孤独になろうとすれば関わった人間の能力劣化は一斉解除されるよ』『すごく優しいよね!』
『二つ目のスキル』
『苦労する支配(デッドナイト)』
『クロスオーバーのスキル』
『各参加者の作品固有能力はその才能に関わらず条件を満たせばクロスオーバー出来る様になり』
『また全ての能力・武器は普通(ノーマル)が回避、防御可能になるか』『普通(ノーマル)の常識の範囲内まで』
『威力・性能が劣化する』
『チート能力とか』『瞬殺とか』『そんなオカルト』『有り得ません。』
『あ』『忘れてたけど』
『劣化却本作り(マイナスブックメーカー)』
『これも一応使ってるぜ』『ま』『このスキルで更に劣化してるけど』
『参加者は初期肉体的ステータスに限り僕と同等となる』『効力は普通(ノーマル)ですら一週間』
『たったの一週間だぜ?』『最早弱過ぎて』『笑っちまうよな』
『さて』『あとの三つは会場とかを作ったものだし』『大したものじゃないから』『さらっと流すよ』
『三つ目のスキル』
『列島生(ネックレス)』
『人に首輪つけて島に閉じ込めるスキルなんだって!』
『最早こじつけだし』『スキルですらないような気がするけど』
『残念ながら』『ーーー僕は悪くない。』
『四つ目のスキル』
『復路工事(ラックアンロック)』
『僕が用意した袋を持った者に脱出を禁止するスキル』
『この説明をしたあと』『支給品袋を受け取らなかった主人公達もいたけど』
『彼等はもう死んだから』『描写もないし』『するつもりもないから』
『関係ないや。』
『五つ目のスキル』
『楽監視(メタルピクト)』
『一度に大勢を監視するスキル』
『こうでもしなきゃ』『一人で全員分把握出来るわけがないからね』
『全く』『一人でやってのける他ロワの主催はどうかしてるぜ』『人間業じゃないよな』
『僕みたいな普通の人間には無理だよ。』
『以上、球磨川禊でした』『じゃっ』『また1レス後!』
657
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:26:24
『放送の前に一つだけ言ってもいいかな?』
予定には無かったはずの放送で、先ず球磨川はそう切り出した。
『このロワが終わったら、僕』
すう、と小さくブレスが入る。
『死んだ女の子達の全開パーカーで週刊少年ジャンプのセンターカラーを飾るんだ!』
最終日。残り六人、あと二時間、ビルの中。暗い地下室。血の臭い。響くハウリング。
スピーカーから流れてきたのは、およそ考えつく限りこの世で最も成就されそうにない、戯けた死亡フラグだった。
<ep.298-------------------主人公はもう居ない>
ぺちぺち、とやる気のない拍手の音が部屋の中を反響する。
わざとらしく設置されたBOSEのスピーカー、MB12WRは無駄に音だけは良く、生き残りの大半はその感情の籠らない拍手に顔を顰める。
『あはは』『みんなよく生き残ったね!』『すごいすごーい!』
球磨川は続けた。こちらの様子は監視カメラで把握しているだろうに、言動はそれに構う素振りさえ見せない。
そういう人間なのだと分かっていても、やはり癪に触るものだ。
『いやぁ』『感動したよ』『おめでとう!』
腹が立つ声だ、と思った。何がと言われれば思い付かないが、ただただ不快な声だった。
理由などありはしない。ただ純粋に、俺は球磨川が嫌いだった。個人的な怨みを抜きにして、このバトルロワイヤルの主催という事も関係なく。
比企谷八幡という人間は、球磨川禊が嫌いだ。
嫌われている俺が言えた事じゃなあないが、人が人を好きになる理由が無い様にーーー人が人を嫌いになる理由なんか、無くたって良いのだ。
一目惚れという言葉があるように、一目嫌いという言葉もあって然るべきだと俺は思う。
感情は、常に他人に対して冷酷で理不尽なのである。
『誇ったっていい』『君達みたいななんの取り柄も無い親負孝者が』『ここまで頑張って強者達を倒してきたんだ』
倒してきた? その言葉に俺は自問した。俺は誰を、倒してきた?
『今まで培ってきた熱い友情』『血の滲む努力』『輝かしい勝利』『その賜物あっての結果だよね!』
隣から舌打ちが聞こえた。気持ちは分かるが、安い挑発に苛立つ事ほど無意味な事はない。
俺は溜息を吐いた。やれやれ、いつまでこの中身のない放送は続くんだ、と。
『生き残った人間に希望を託した、熱い最期』『鬱展開を砕く熱血』『受け継がれる想い』『淡い恋心』
馬鹿げている。俺は思った。
いや、或いはここまでつらつらと嘘八百を並べられるのは、一種の才能と呼ぶべきなのかもしれない。
少なくとも、俺には到底真似出来ない。憧れこそしないが、認めよう。確かにそれは球磨川禊の個性の一つなのだと。
『……眼福だったよ』『だってまるで週間少年ジャンプみたいじゃないか!』
『さぁみんな頑張れ!』『あとは僕を倒して感動のエンディングだ!』
球磨川禊は俺と少し似ている。それに気付いたのはいつだったろう。……いや、違うか。俺、ではない。皆、だ。
ここに居る奴等は皆、少なからず何かしらの“孤独”を抱えている。ならば誰しもが一度は思っているはずだった。
“自分と球磨川禊は似ている部分がある”。
『でも、流石に最弱の僕も一応ラスボスだからね』『残念だけど一筋縄じゃいかないかもしれない』
『だけれど』『そんな時の展開は昔から決まってるんだ』『ゲームも』『漫画も』『小説も』『映画も』『ドラマも』
『このロワを運営するにあたって2chやしたらばやwikiで読んだあらゆるパロロワでもそうだった』
無論、球磨川は俺達がそう思っている事も分かっているだろう。分かっていて、俺達をからかっているのだ。自分の事は勿論、棚上げして。
まったく以って始末が悪いが、球磨川はそれを悪いと思っていない。奴の言葉を借りるならまさに『僕は悪くない』だ。
相手が俺達だろうが、葉山みたいな奴だろうが、球磨川は同じ態度を取るだろう。球磨川は孤独や感情や事情に一切左右されない。
決定的な違いがあるとすればそこだった。奴の目と口は人をカテゴライズしたとしても、それを行為に出さないのだ。
そう、それは言わば。
平 等 。
658
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:31:24
『皆の想いを剣に乗せて』『皆の幻に背を押してもらって』『愛と奇跡と勇気と友情と』『突然の覚醒で』『敵は倒れる』
『どんなに力の差があっても』『どんなに死にかけでも』『どんなに馬鹿でも』『主人公補正と謎の浅知恵で逆転勝利』
『皆との繋がりアピールで孤独なラスボスを全否定』『鬱展開にするための偶然<奇跡>は荒れるくせに』『熱血展開にする奇跡<偶然>は決して荒れない!』
『キャラ崩壊<覚醒>は荒れるけど』『覚醒<キャラ崩壊>は荒れない』『そんな素晴らしい必殺魔法』『“御都合主義”!!』
『夢があって』『かっこいいよね!』
だから俺達は球磨川を嫌悪する。奴は嫌われ者で孤独であると同時に、苛めっ子で、リア充で、どこまでも平等だったからだ。
俺達の劣等性を持ったまま、けれども決して態度だけは劣等しない。言わば理想的で完璧な劣等生だった。
『うん』『どうかな?』『中々の感動ストーリーだと思うのだけれど』『でも少し難易度高いかな』
『……あっ、そうか!』『じゃあこうしよう』
俺達は怒りの矛先を失ったも同然だった。何故ならば今まで俺達を排斥してきた連中にないものを、球磨川が持っていたのだから。
それに気付いた奴等から、絶対的な拠り所を無くしていった。勝ち組の様な口を持つ球磨川は、あろうことか自分達の向こう側に立つ、負け組の頂点だったのだ。ベスト・オブ・ルーザー。キング・オブ・ルーザー。それが球磨川だった。
だけれど。いや、だからこそ。
『出血大サービスだ』
『 こ の 戦 い 、 僕 は わ ざ と 負 け て あ げ よ う ! 』
だからこそ、球磨川には足りないものがあると俺は思ったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーそれは人間性だ。
『だって』『そうすればハッピーエンドだ!』
『ほら』『終わり良ければすべて良しって、誰かも言っていたよね』
球磨川はそれを決して出さない。奴には表面しか存在しない。能面の様な顔。起伏の無い声。一貫しない意見。矛盾した態度。
どれをとってもそこに本質は無かった。だがそれはあり得ない。
..... ..........
そんな人間、この世に居ないからだ。
小説や創作の上では存在しても、現実にこんな異常な人間が居るわけない。しかも球磨川は精神病でもなく、異常殺人鬼でもなく、ただの人間なのだという。
常識的に考えて有り得ない。それでも、球磨川禊は存在してしまっている。わけが分からなかった。
マイナス十三組? 過負荷? 大嘘憑きにルビを振ってオールフィクション、だって? おいおい、寒すぎて鳥肌すら立たねぇよ。
材木座の創作小説の方がまだまともだったぞ。厨二病も大概にしとけって。いいか、よく聞けよ。
............
この世に魔法は存在しない。
正直に言おう。この世界も、球磨川も、気味が悪いと。
何故って、球磨川は、此処はまるでーーーーーーーインテリサブカルぶったオサレラノベ作者が考えた、二次創作のようだからだ。
だから、俺は考察もしないし、頑張らない。球磨川に憧れない。
完璧で究極で理想的で個性的で孤独で大変優れた劣等生は、けれども俺の常識の中ではニンゲンじゃあなかったからだ。
『うん! そうだよ。過去ばかり気にしてても仕方ないよね』
『僕を倒して』『脱出して』『君達に未来と希望を託して死んでいったオトモダチの分まで』『思う存分幸せになってくれよ』
『未来を見て生きるんだ、これからは』
『ああよかった』『これなら僕も安心して死ねるよ』『なんてったって輝かしい未来のためだもんね!』
『その犠牲だと思えば』『こんな極悪人の僕の命だなんて』『安い安い!』
球磨川禊の正体は、
クマガワミソギ界 クマガワミソギ門 クマガワミソギ綱 クマガワミソギ目 クマガワミソギ科 クマガワミソギ属 クマガワミソギ種 クマガワミソギ
という、ただの孤独な何かなのだ。
『だからもう』
『君達みたいな無力な人間が他人を蹴落として裏切って逃げて嘲笑って嘘をついてただ引きこもったり頼ったり守ってもらったりして
一度も戦わないまま目的も理想もなにも自殺する勇気すらもなくただただ無駄に生き延びて来て全部他人に押し付けて生存者になってしまった事も』
『何もかも全く全然ちっともすべからく全部まるで』『関係ないよね!!!』
659
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:34:42
人間じゃないものが何を言ったところで、少なくともその挑発は俺には通じない。
ああ。何度でもはっきり言ってやる。球磨川、お前ーーーーーーーーーーーーー気持ち悪いぜ。
『おめでとう、幸せ者(負幸せ)!』
『さて、残りあと6人』『首輪爆破までの時間は泣いても笑ってもあと120分』『マーダーは……教えるまでもないけど、君達の目の前に居るそいつ1人』
『頑張って頂上まできてくれよ』『流石に今週のジャンプももう読み飽きたんだ』『期待を裏切るんじゃないぜ?』
『テイルズシリーズみたく』『決戦前夜のくだらない会話でもして』『テンションをあげてくれ』
『ただ』『やりのこしたイベントを回収するような時間は』『生憎ともうないぜ』
『さてと』『じゃあ僕も君達がくる前までには』
『新しい戦闘用BGMと』
『ヌルヌル動く新規ムービーと』
『無駄に図体だけはでかい割に意外と弱い第二形態と』
『無駄に貰える経験値と』
『範囲が広くて高威力なくせに体力を1だけ残してくれる便利な秘奥義を作ったりとか』
『散々努力した挙句』
『それでも負けられる準備をして』
『首を洗って待ってるからね!』
もう一度言おう。クマガワミソギ。
『じゃあね、主人公(人殺し)。』
俺はお前がーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー嫌いだ。
だから、早く終わってしまえ。
俺も、お前も、このくだらないゲームも。
ファンタジーはもうたくさんだ。
なにもかも、もうどうでもいい。
660
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:37:53
【120:00】
生きていれば良い事はあるさ、とジョン=レノンは言った。
生きていればなんとかなる、ともののけ姫の登場人物は言った。
だがちょっと待って欲しい。それはなんて自己中心的で無責任な台詞だろう。
湯煙の中に舞う雪の様に、或いは霧の中で吹かす煙草の様にーーーその言葉はあまりにも茫漠としていやしないだろうか?
生きていれば良い事がある。なんとかなる。まぁ、確かにある意味ではそうである事を認めよう。
生きていたから、彼女が出来た。生きていたから、就職出来た。生きていたから、友達が出来た。
生きていたから、あの時仲直り出来たし、生きていたから、今こうして誰かと話せている。
生きていたから、生きていたから、、、生きていたから、、、、、、、
ただ、悲しいかな忘れてはいけない事がある。
その台詞を言うのは、決まって生きていれば良い事があったか、生きていればなんとかなった奴等だけだって事だ。
そしてその台詞に感動する事が出来るのもまた、良い事があった奴等だけなのだ。
世の中の名言といわれるものは大体がそうであると言って良い。
……そして断言しよう。名言とやらを生み出す人間は、そうなる事がわかっている側の人間である、と。
さぁ今から俺は良い事を言うぜと息巻き、自分の豊富な経験に基づくごもっともな高説を、さもこの世の真理の様に語る。
信者共や依存性が高いかまってちゃんは、その言葉に感動し、そして本人は雲の上から満足げにそいつらを見下すのだ。
そういった名言製造機を中心とした不毛なサイクルを経て、奴等のくだらない世界は出来ている。
妹が持っていた漫画の中に、ダサイクルという造語が出てきた。これほど言い得て妙な言葉がかつてあっただろうか。
間違いなく俺の中の上半期第一位。寧ろベストオブ八幡語録。
ダサイクル。
コミケだとかバンドだとかpixivだとか創作SSだとか2chだとかファッションだとかデザインだとかTwitterだとか、
そんな中でよく見られる現象だが、こうして名言のサイクルを考えれば、存外身近にあることがわかる。
勘違いしないで欲しいが、別に彼等の存在を否定する訳じゃないし、正しくないと言っている訳じゃない。
ただ、奴等は見えているのにこちらを向かない。俺はそれが気に入らない。
私だって辛いよ、とか、私だって孤独だったよ、とか、安い言葉を並べ立て、新たな名言を作り出し、その言葉に依存していくのだ。
そうして俺達を数と正義とリア充の暴力で黙らせ、聖母の様な微笑みで口を軒並み揃えてこう言うーーーーーーーー“僕達は一緒だよ”。
もうね、馬鹿かと。阿保かと。
これを善行だと信じ込んでいるのだから始末が悪い。奴等は問題の本質を、俺達を見ていない。
奴等が微笑みを向けているのは、自分とその周囲環境と未来的観測による利益だ。
そして奴等は、俺達がそれを分かっている事を知らない。その時点で底が知れたも同然だ。
奴等は俺達を莫迦か阿保だと勘違いしているが、敢えて言おう。それは間違っていると。
よく考えなくてもわかる。他人の顔を人一倍伺って生きてきた俺達が、単純思考のお前達の考えを見抜けないわけがないだろう?
それにお前達は俺達と逆なのだ。水と油。腐女子とオタク。ホモとレズ。磁石のS極とN極。そんな相入れない存在。
思考が真逆ならば、その通りにすれば良い。行動と思考を反対にすれば、お前達の中身なんて簡単に分かってしまう。
そもそもだ、前提の考え方からしてまず間違っているんだ。俺達は一緒なのだと慰めて欲しいんじゃない。
俺達が本当に望んでいるのはーーーーーー俺達はあんたらと違うっていう、決定的な証拠なのだ。
さて、生きていてもなんともならないし、生きていても良い事がなかった孤独な俺達へ。
だからこそ俺はその名言をただの言葉に置き換えて、こう表現しよう。
“死んだ方がマシだ”。
661
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:42:02
【119:50】
放送が終わった。球磨川の戯言について語る人間は一人もいない。今は口を挟む余地も、意味もなかった。
それよりも大切な現実が目の前にあったからだ。
120分。派手なアクションを起こすには些か足りず、赤の他人同士で結束するにも短過ぎ、寝るにも半端で、ただ黙っているには長過ぎる時間だった。
ただ一つだけ言えるのはーーーけれども弱った少女一人の命を奪うには、十分過ぎるという事だ。
「た、たすけっ……嫌っ……誰か……」
ひんやりとしたコンクリートの床は、灰色の身体を薔薇色のドレスで着飾っている。
かちかちと点滅するナトリウム灯は、流れ広がる鮮やかな紅を不規則に照らしていた。
部屋はそれなりに広くちょっとした公園や体育館程度の広さはあったが、家具や雑貨の類は無く、至って簡素な作りだった。
良く言えばシンプル。或いは悪く言えば味気ないとも言う。図体だけ大きく空っぽな部屋には、温かみの類など探すだけ無駄だった。
「…………ど、うして、こんなっ……わ、わた、しっ……なにもっ」
灯りは切れかけの裸電球一個。御世辞にも明るさが足りているとは言えない。
その暗さからなのか、地下室だからなのか。空気は薄気味悪いほど冷たかった。
吐いた息すらほんのり白かったが、湿気だけがいやに彼等の肌に纏わり付いて離れなかった。
飽和水蒸気量を超えた水分子達は、菜の花に群がる油虫の様に床や天井にびっしりと張り付いている。
部屋の隅は深緑の暗がりに飲まれ酷く不鮮明で、壁の気配は消えてしまっていた。
そのせいでどこまでも空間が続いている様な錯覚さえ感じられたが、スケルトン天井の異様な低さから閉鎖感を忘れる事だけは出来なかった。
よくよく見ると、壁は打ちっ放しのコンクリートである事がわかった。ただ遠目にも綺麗な施工とは言えず、欧州よりのそれだったが。
職人が外国人だったか、或いは時間と金がなかったかだろう。安藤忠雄だったら建物ごと殴り倒しているレベルだ。
空気は質量を持っているかの様にずっしりと重く、トンネルの中の様に酷く淀んでいた。
これ以上こんな場所に居たくない。
その場にいる全員がそう思っていたことだろう。
低い天井がだんだんと彼等に近付き、空気ごと肉を圧迫しているようで、得体の知れないその重圧は彼等の肌をぴりぴりと刺激していた。
辺りには噎せ返る様な血の臭いが満ちている。此処に来て彼等が覚えた臭いの一つだ。そこには明確な死の予感があった。
音は、少女の命乞いが一つ。はぁ、はぁ、と荒れた息遣いが、幾つか。
「たす……死に、く……なっ……わ、私、なにも、悪、ない、のにっ……」
嗚咽混じりの嗄れた声が少女から漏れた。その場に立っていた青年が、少女の胸倉を掴んで小さな身体を持ち上げる。その光景はどうにも奇妙だった。
「“何も悪くない?”」
青年ーー佐藤達広ーーは震える声で呟く。乾いた嘲笑が地下室に反響した。
「“何も悪くない”、だって?」
怯えた声色で悲鳴を上げる少女の後ろの暗がりに、不意にぼわりと灯りが浮かび上がる。支給品のランタンだった。
弧を描いた薄い飴色のガラスの内側で、何かを嘲笑う様に焔がぶわりと踊る。
その度に部屋に散らかる影はけたけたと輪郭を変えて、部屋の中を徒に駆け回った。
青年はランタンを灯した男を一瞥して、小さく舌を打つ。なんなんだ、と。
「さ、佐藤くん……お、落ち着こう、まずは」
鈴木英雄だった。
皮脂でずり落ちる眼鏡を上げながら、彼は続ける。
「相手はまだ子供だよっ。それにZQNですらないし。何もここまでする必要はないんじゃない……ですか」
ハン、と青年が呆れた様に笑った。
「正気っすか、鈴木さん。俺達が残ったのは、全部こいつらのせいだろ? 全部こいつらの陰謀だろ! 違うか!?
球磨川だって言ってただろ! こいつが最期のマーダーだって!!」
「それは……」
ランタンに照らされて、部屋の隅で腕を組む少年の不服そうな顔が浮かび上がった。比企谷八幡だった。
残念ながらそいつは違う、と少年は心の中で呟く。俺達がここまで残ってしまったのは、他でもない俺達自身のせいなのだ、と。
間違っても誰かのせいなんかではない。自分達には彼女を殺す権利はあっても、糾弾する権利は無い。
むしろトリエラが今際の際に語った彼女のしてきた事は、マーダーとして至極正当なものだった。
それが非人道的で褒められるものではないにせよーーー彼女のせいにするには驕りが過ぎるというものだ。
少年は口を閉ざしたまま、胸中で舌を打った。それを偉そうに言う権利もまた、自分にはないのだと自覚していたからだ。
662
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:44:57
「だとしても人殺しは刑法38条によって定められた立派な犯罪でっ! この場合過失致死にも該当しなさそうだし……。
あっ! でもこの場合バトロワっていう特殊環境下にあった事が考慮されるのか……?
いやいや、でも相手が幼女って言い訳厳しいだろうなぁ……今の世の中、ロリには厳しいし……猟銃や刃物だって持ってるし、それだけでも犯罪なのに。
なにより沙子ちゃんは右手折れてるから……。
それを分かってて五人掛かりで私刑か……うん、厳しいな。
それに殺人はやっぱりよくない……何故なら今日の日本社会において、そう法律で決められてるからでっ」
「こんな状況であんたはまだそんな悠長な事言ってんのか!」
「ひいっ!」
少女を乱暴に投げ捨て、青年は男の胸倉を掴んだ。ぴしりと空気が張り詰める。やれやれ、と少年は溜息を吐いた。
ランタンが男の手から弾かれて、派手な音を立てながら床を転がる。ごう、と炎が鈍い悲鳴を上げた。
「おいおい。喧嘩なら外でやってくださいよ。俺、プロレスとか嫌いなんで」
少年が肩を竦めて皮肉気に呟くと、青年は男をつっぱねて恨めしそうに睨む。
「……そういう比企谷はどう思うんだよ?」
妥当過ぎる意見に少年は一度だけ眉を潜めたが、やがて観念した様に溜息を零した。
そうして口を心底嫌そうな表情で開くのだ。こういう場で意見はらしくないが仕方無い、と。
「……答えなんて出てるだろ」
「何か言ったか?」
「いや……。正直、興味はないですけど……生かしておく必要、ないんじゃないですか?」
そう。こうなってしまったのは彼女のせいではない。だが、あくまでもそれは理屈である。
理屈で人は動かない。理屈で動くのは、プログラムと弁護士と、ごく一部の生真面目な変人くらいなものだ。
比企谷八幡は人間が出来ていなかった。理屈は好きだが、彼の理屈はやや利己的な方へ婉曲した……端的に言えばただの屁理屈なのだ。
故に少年は、糾弾こそしないがーーー決して少女を赦すつもりはなかった。
なにより実際問題、この件はそれ以外に解決方法が無いのだ。
彼女は残された最後の絶対悪であり、捌け口だった。彼女は彼等の為に死ななければならなかったのだ。
それは生き残った誰もが分かっている事だった。何よりも理不尽で、何よりも合理的。そして何よりも必要な犠牲だった。
嗚呼そうとも。断言しても良い。
桐敷沙子は今から、彼等の言い訳と、中身の無い復讐心と、自己満足の為だけに無様に死ぬ。
「起き上がりたいなら別ですけど、皆さん違うでしょう? まぁ、起き上がる為の時間もねーんですけどね。
でもこれ以上面倒を増やすくらいなら、ここで処理しておくのが余程合理的ですよ、多分」
僅かに間があったが、やがて青年が額に汗を浮かべながら笑った。張り付いた様な気味の悪い笑みだった。
男は眉間に皺を寄せて押し黙っている。青年はそれを見て笑みをぴたりと止め、唇を釣り上げながら男の肩をぽんと叩いた。
「決まりだぜ、鈴木のおっさん。三人のうち二人が殺すべきだって言ってる」
663
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:47:27
男は俯いたまま唇を噛んだ。本当は、誰だって解っているのだ。
誰かのせいにしなければ、この現実を受け入れられない。何かを差別して、殴らなければ、現実逃避できやしない。
悪の権化を磔にしたボロボロのサンドバッグ。それが目の前にあるのなら、殴らない人間は居なかった。
少なくとも、現実から目を背けてきた社会不適合者の彼等の中には、一人も。
「……分かった」
少しの沈黙のあと、男は額に手を宛てながら言った。重々しい声色は、床を滑り暗闇に沈んでゆく。
「でも、殺すとして」
しかし。だがしかし、その一言で彼等の時はぴたりと凍て付く。
先に行くには続けなければならなかったが、それは絶対に口にしてはいけない呪いの言葉だったからだ。
誰一人目を見て話さない彼等の視線が中空を彷徨って、不気味に混ざり蕩け合う。
行き場の無い声が、感情がーーー空気を石の様に凝固させ、息を詰まらせた。
床に転がる死に損ないの少女が、彼等の視界の隅にちらつく。いたいけな薄幸の少女が、その虚ろな双眸が、孤独な卑怯者共を畏怖の感情で射抜いていた。
わかっているのだ。そんな事は。わかってる。
あぁしかしなんという事だろう。
殺人鬼になり少女を裁こうとしている彼等の大半は、本当の殺意を以って人を殺した経験など、ましてやその勇気と覚悟さえありはしなかったのだ。
「……誰が彼女を殺せるんだ?」
責任も、献身も。少しの優しさすらもありはしない。嫌な役を擦り付け合い、現実からは目を背け、面倒事は避け続けてきた。
放送は聞かないフリ。悲鳴も聞かないフリ。禁止エリアだけを必死にメモして、ひたすら隠れて引き篭もる。
仲間が危機に瀕せば真っ先に見捨て、自分が危機に瀕せば真っ先に逃げた。
他力本願の屑人間。そのくせ責任転換と我儘だけは一人前の、底辺よりも底辺な最底ーーーーーそれが彼等、望まざる生き残りの、無様な正体だった。
「……鈴木さんがやって下さいよ」嫌な沈黙を最初に絶ったのは、少年だった。「知ってるんですよ? ここに来る前までZQN退治してたって」
ZQN、とその後ろで小さく青年が繰り返した。
この島で猛威を奮った要素の一つだ。ZQN、起き上がり、コギトウイルス。
その三つさえなければ、或いはこんな酷い結末はなかったのかもしれない。
「そうなのか、鈴木さん」
青年が尋ねたが、男は俯いたままかぶりをぶるぶると振った。
「い、嫌だっ……!」
嫌だ。男は素直にそう思った。こんないたいけな少女を、自分が、殺す?
「ぐ、ぎ、じょ、冗談じゃない。そんなのまるで悪者だっ。法律でも、ひ、人を殺したら駄目って決まってらぁっ。
お、俺がなりたかったのは、そんな事をする大人じゃないっ。そんな為に銃を担いでいるんじゃないっ。
な、何の為に今まで犯罪せず生きてきたと、お、思ってるんだっ。俺は、本当はっ」
....
……本当は?
唾を飲む音が、地下室に響いた。少女 へ一度だけ視線を向けた後、男はこうべを垂れ、続ける。
「俺がなりたかったのは、したかった事は……っ。も、もっと、アレで……。
皆の、ソレの為に……そのっ、こんなんじゃ、俺が望んでたのは、い、生き残ったのは、こんな事の為じゃあ、こんなはずじゃ……」
ーーーこんなはずじゃ、なかった。
拳を握ったまま腹の底から絞り出す様に呟いた男に、けれども青年は追い打ちをかけんと口を開く。
「……悪いけど、年の功だろここは」
「年の功!?」男は諸手を前に差し出してかぶりを振った。「なんでそうなるんだっ」
青年の口から溜息が漏れる。
「いや、常識的に考えてそうだろ。若い奴にやらせるっておかしいしー」
「おかしいだろぉその常識っ。俺は反対してたんだから君達がやるのが筋だっ」
「筋だぁ!?」
青年は肩を竦めて嘲笑った。何が筋だ、と。
「冗談じゃないっすよ。アンタだって本当は分かってんでしょ?
分かってるくせに、体裁を気にして善人ぶってる! アンタは偽善者だ!」
「ち、違うっ。俺は、」
「人を殺したら駄目? 今日日いじめっ子の餓鬼だって知ってるぜ、それくらい!
自分だけいつまでも綺麗なままみたいな顔しやがって! もう目を覚ませよ! 現実はなぁ、腐ってんだよ!!」
青年の指が、無精髭だらけの男の顔をびしりと指した。
どの口が偽善者だと? 青年の心の奥で、誰かが飽きれた様に吐き捨てる。同族嫌悪も大概だ。
664
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:49:33
「だから……もう知ってるはずなんだぜ、おっさん。こいつを殺さなきゃ何も始まらない事くらい」
はじまる? 男が震える声で鸚鵡返しした。はじまる、だって?
地面に横たわるランタンの中で、炎が揺れた。わなわなと肩を揺らす男の顔に、深い影が落ちる。
「今更何が始まるってんだっ。俺達みたいな社会のゴミが集まったところで、何も始まるわけがないっ!」
男は叫んだ。腐っているのを知っているから、せめて綺麗で居たいのだと。
35年。夢を見る事も、生きる事すら、疲れきって諦めてしまうには十分な歳月だった。
成程ならばそれは確かに尤もな意見なのかもしれない。何故って彼等は自他が認める紛れもない屑なのだから。
幾ら烏が集い雲の上を目指しもがいたところで、ただ煩いだけなのだ。誰もが嫌というほど知っていた。
ただ天井が見える年齢になって、それを諦めるか諦めないか、たったそれだけの違いだった。
しかし、いやだからこそその一言は青年の琴線に触れた。分かっていて、それでも逃げてきたのだ。諦める事から目を背けてきたのだ。
同類にだけには、絶対に言われたくなかった台詞だった。
「ふざけんなよ……」
だから、青年は先ず最初に思った事を口に出した。ふざけんな、と。
「まだ負けたわけじゃねぇだろ……」
冗談じゃない。このまま終わるだなんて。全部無駄になるなんて。
「まだ終わったわけじゃねぇよ!」
「いいや終わってるねっ!!」
びくり、と青年の肩が揺れる。喉はからからに渇いていた。心臓がばくばくと、子供が叩く太鼓の様に鳴り止まない。
終わりなんかじゃない。自分に言い聞かせるその想いには、およそ自信と呼べるようなものが悉く欠落していた。
ならば、これから、少女を殺してどうすると?
心の底の波を荒立てるその鉛色の疑問に、青年は何も答える事が出来なかった。
途方に暮れるもう一人の自分の薄汚れた双眸の前には、救いの道など残されていなかったのだ。改めて問われるまでもない。
屑は何処までいこうが屑なのだから。
されど、だが、だけど、でも、しかし、けれど。だからと言ってーーー認めろというのか。
詰みきったこのどうしようもない現実を、未来を。受け入れろと、そう言うのか。
山崎も、柏先輩も、岬ちゃんも、委員長も、城ヶ崎さんも、皆、皆。
皆みんなみんなッ、無駄にしろって言うのか。
「……ふざけろ!!」
気付いた時には、青年の右手が男の胸倉を掴んでいた。青年は自分の行動に、しかし呆気にとられる。
何をしている? 青年は思った。自分は今、こいつに何を言いたいんだ?
ぎしり、と胸の奥が軋む様に痛んだ。
「勝手に俺まで終わらせんな! 何で! 何でそう言い切れるんだよッ!
まだ何もわからないだろ! 未来なんて!! 誰にも!!!」
どこかで聞いた様な台詞ばかりが、頭の中をごうごうと渦巻く。不意に、デジャビュという単語が浮かんだ。
それは漫画やアニメで、何度も見てきたシーンだった。目の前と重なり、繰り返す。作り物で、偽物で、馬鹿みたいな青春御伽噺。
主人公はいつだって現実に辟易としていながらも何もない日常をなんとなく生きていて、童貞で、幼馴染と妹がいて。
クラスにはエロい男友達が居て、委員長はツンデレで、教師は適当な人間で。理事長の娘は、決まってプライドが高い生徒会長。
主人公の性格は普通で、部活にも入ってなくて、奥手で難聴の癖して稀に無駄に熱くて、何故かは知らないがやたらとモテる。
演出と作画も良くて、BGMも良い。脚本は虚淵にでもすればなお良い。死人を出せば感動もカタルシスも出来るし満足だ。
寄せ集めテンプレ設定でも、それだけでゲームやアニメの台詞には中身があるように見えた。
ところが、現実はどうだ?
665
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:51:58
「まだこれからなんだよ!」
何がだ? いつだって、そうやって待ってて何かが起きたか? 変わったか?
「俺たちはまだ本気を出してないだけだ! 強い奴らが居たから! 仕方が無かった! 戦った事すらないんだから!」
本気なんて出した事が、一度だってあったか? 戦おうとしなかっただけじゃないのか?
あの時はどうだった? ヘンリエッタやビンセント、ルーシーを前に逃げたのは、誰だった? その結果、何人が死んだ?
「球磨川にだって、弱体化が少ない俺達なら敵うはずだ! 敵が居なくなった今なら、きっと!」
戦略はあるのか? 勝算は? 一人でもそれをやれるか? 答えは出てるだろ?
「今まで俺達が逃げてきちまった結果が今朝の事件だろ!?」
本当にそう思ってるのか? 仕方ないって、思ってねぇか? あいつらを見捨てて逃げたのは、何でだ? 罪悪感を言い訳にしてないか?
「またあれを繰り返すってのかよ!」
繰り返すよ。
そうやって卑怯に生きて来たんだろうが、お前は。なぁ、そうだろう? 言葉だけは毎回一人前だからな。それがお前だよ佐藤達広。
ーーー今更、生き方は変えられないよ。
青年の頭の中で、少女の形をした誰かが言った。
全部知ってるはずだよね? 本だって読んだ。ネットに情報はゴロゴロあった。近所にハローワークだってあった。
どうすれば、上手くいくのか。
どうすれば、仕事が出来るのか。
どうすれば、家から出られるか。
どうすれば、親に迷惑をかけずに済むのか。
どうすれば、嘘を吐かずに済むのか。
どうすれば、借金しないのか。
どうすれば、真面に生きていけるのか。
どうすれば、人を好きになれるのか。
どうすれば、脱法ドラッグを止められるのか。
どうすれば、ネズミ講に引っかからないのか。
どうすれば、童貞を捨てられたのか。
どうすれば……こうならずに済んだのか。
裸の少女が、間抜け顏の青年を抱き締める。耳元に少し湿った息が掛かって、青年は鼻息を荒くした。
ーーーね? 全部、知ってたんだよ、佐藤くんは。
........ .....
「だいじょうぶだよ おれたちは」
ーーーでも。分かっていても、どうにもならなかったから。だから佐藤くんは、引き篭ったんでしょ?
.. ......
「まだ やりなおせる」
寄せ集めた言葉。震える唇、閉じた拳。滲む脂汗。歪む視界。霞んだ感情。濁った未来。光の無い眼。
ごとりと重い何かが体の中で転がった。心臓が、ずっと喧しい。
そうして初めて理解るのだから、嗚呼。解っていたつもりだったが、存外自分って奴は馬鹿な生き物なのだ。
中身なんて、ありはしなかった。
餓鬼が喜ぶ紙風船の様にーーーー図体だけが、徒らに立派で。水で割れてしまうほど儚く、脆く、空気の様にどこまでも薄く、軽い。
「佐藤くんは、夢を見過ぎだ」
男は恨みを吐き捨てるように言った。青年は男を見る。眼鏡の奥の曇った瞳は、まるで自分の何もかもを見透しているようで、吐き気がした。
「ここは映画でも、漫画でも、ライトノベルの世界でもない」
男はぽつぽつと、言葉を零す。青年は黙ってそれを聞く事しか出来なかった。
666
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:54:40
「一番俺達がわかってるはずじゃないかっ。現実は、創作じゃないって。
青春や、起承転結や、奇跡や、ドラマなんてものは……自分の世界には無いんだって」
青年は少女を見た。横たわる少女の目は見開かれ、瞳孔は開き、焦点は合っていない。
彼女は死ぬ。放っておいても、どうせ死ぬ。苦しみながら死ぬ。痛がりながら死ぬ。無様に死ぬ。
虫螻蛄の様に。畜生の様に。ゴミ屑の様に。もうすぐ彼女は、人間でなくただの肉の塊になる。
引導を渡すのは、誰だ?
「主人公はいつも別に居て、成功も、金も、才能も、名声も、処女も、どうしようもないヤリチンが奪ってくんだっ、いつも、いつも!」
そうだ。現実はいつだって非情だった。それを一番知っているのは、生き残ってしまった俺達みたいな、どうしようもない底辺じゃないか。
だけど。
「だから、始まらないんだーーーーーーーーー俺達は産まれた時から、負けてる」
だけどさ。それでも諦めたくないのだと、勝ちたいんだと思う事は、罪なのか?
「あのさぁ……」
ーーー寝耳に水とは正にこの事だ。
青年と男はははっとして、声の主へ顔をがばりと向けた。傷だらけのコンクリートの床に、退屈そうに少年が胡座をかいている。
「……なんか面倒なんで、もう最初に言い出した佐藤さんがやればいいじゃないですか? 埒があかないですよ」
少年が目を逸らしながら、さらりと言った。肩を竦めて、やれやれと溜息を吐きながら。朝におはよう、夜におやすみと言う様に。
「な、な、ななっ」
青年の顔からみるみるうちに血の気が引いてゆく。当然だった。ここで少年が敵に回るとは毛ほども思っていなかったのだから。
「なんでだよ! お前だって殺せばとかなんとか言ってただろ! だったらお前がやれよ!」
「……いいぜ」
「ファッ!?」
思わず、青年がよろめく。少年は気怠そうに立ち上がると、口をあんぐりと開けた二人の元へ足を進め、そして言った。
「俺がやるって言ってんの」
少年は彼等に視線すら寄越さない。足も止めず、目もくれず。少年は地面に臥す少女だけを見ていた。
「お、おい引企谷……お前……」
「何だよ」
青年の問いに、背中を向けたまま少年が苛立った声で応える。
「い、いや……」
青年は助けを求める様に男を見た。男は目を逸らして、額の汗を拭うだけだった。
少年はゆっくりと歩く。コンバースのオールスターが、地面を擦る様に叩いていた。
かしゅっ、かしゅっ、と、ソールが擦れきった右踵が規則的に悲鳴をあげている。
「死……たく、ない……」
消えてしまいそうな声が、少年の耳を打った。桐敷沙子の声だった。けれども少年は表情一つ変えず、その命乞いの主へと足を運ぶ。
落ち着いた桔梗色の長髪に不釣合いなほど華奢な手足が、床に転がるランタンに照らされていた。
飴細工のように繊細そうな体躯は、触れると壊れてしまいそうだった。こうして見ると、ただのいたいけな少女なのだ。
尤も、利発そうな顔は涙と鼻水で台無しになっていたし、右足は捻じ曲がり、右手は砕けていたが。
それでも肌は雪の様に、或いは病的と言っても良いくらいに白く透き通っていたし、顔立ちはやはりフランス人形の様に端正過ぎた。
完璧過ぎる程に、彼女は完璧だった。怖いくらいに、引いてしまうくらいに。
身体は木の枝の様にすらりと細く可憐に伸び、薄紫のワンピースはキュプラ生地が上品でーーー惜しむらくはその全てが赤黒い血に染まっていた事だ。
ねぇ、と少女が震える声を投げ掛ける。ランタンの炎が再びぐらりと揺れて、影と光がぐにゃりと歪んだ。
少女の枕元に立つ少年の顔は、影で暗く、窺えない。
ーーーお願い。
か細い声が地下室の暗闇に消えてゆく。少女の懇願に応える者は一人も居ない。異様な光景だった。
数拍置いて、少年はくたばり損ないの少女を目線だけで見下し、口を開いた。
「……そう言っていた奴等を、お前は何人手に掛けてきた?」
黒神、神楽、行橋、三日月、不知火、アンジェリカ、宇白、レキ、来栖、リル、志熊、ナナ、山崎、志布志、ダイアナ、霧江、小金井、中田ーーーーー雪乃下。
ぽつぽつと、起伏の無い声が念仏を唱える様に犠牲になって来た者達の名前を呟く。
667
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:57:29
「あと何人だ?」声は震えていた。「どれだけ奪えば気が済む?」
口を開かぬ少女を見て、八幡は諦めた様に表情だけで笑った。懐から、獲物が抜かれる。
血で濡れた事は勿論無く、陽の目を見る事は愚か、その予定すらなかった刃。
魔道具、神慮伸刀。持ち主の意思を読み何処までも伸びる魔双刀の片割れ。
今は亡き不知火から受け取ったそれは、使う機会はあったものの使う勇気すら無く、逃げる様に隠したーーー死んだ切札だった。
「答えろ。桐敷」
けれどもそう問われても少女は。桐敷沙子は。
首筋に宛てられる刃を前にしてもなお、震えながらかぶりを降るのだ。私は悪くないと。信じてくれと。
「……わたし、は、やっ、て、ない……人が、人間……が……勝手に……死んだ……だけ、よ……私は、悪く、な……いっ……」
嗚呼、と世界を呪う様に唸る。少年は目を細めながら歯を軋ませた。
こういう手合いには何を言っても無駄だ。多分、死んでも治らない。
「私、がっ、何……を……なに……を、した……って、言う、の……ただ、とも、だち、を、作っ……た……だ、けじゃ……ない…… 」
「作ったのは死体の間違いだろ」
八幡が吐き捨てる様に言った。
「違うわ……私は誰も、殺してない……私は、ただ、人並みに……普通に……生きたかった、だけじゃない……。
それすら、認めない、の……ならっ……人じゃ、な、いの、は…………………お前達、の……ほう、よ……」
一瞬の静寂の後、部屋の中に哄笑が響いた。佐藤達広だった。
「そりゃそうだよな。俺達は所詮餌だ。いや、別に良いんだぜ。トリエラが言ってたよ。そういうものなんだろ、お前達は」
汚れたアディダスのシューズが、血だまりをぬるりと進む。ざらざらとした床に張り付いた固まりかけの血液が、ソールをねっとりと床に捕まえた。
虫の息の少女の側まで足を進めて、青年は腰から銃を、SIG SAUER P230 SLを抜く。
「佐藤さん……俺がやるって言ったじゃないですか」
少年が呟くと、青年は自嘲した。
「流石に全部丸投げってのはかっこ悪過ぎだからなぁ」
シワだらけのTシャツに色褪せたジーンズ、無精髭だらけのもやし体型の引きこもりと、真新しい拳銃は酷く不釣合いだった。
青年は震える手に力を入れ、少女を見た。哀れだと、決して思わないわけではない。
「……別にさ、俺はアンタが誰かを喰ったからキレてるんじゃねぇんだぜ」
安全装置を外して、トリガーに指をかけ、両手で銃を構える。この距離では外すわけもなかったが、なにせ彼には銃を撃った試しがなかった。
アニメや小説みたいに、可愛い女の子達でも銃を撃てるなんて事があるはずないのだ。
尤も、この島では義体という少女やオートレイヴとかいう奴等がオサレパンク雰囲気アニメよろしく銃火器で猛威を振るっていたらしい。
だが、奴達はほぼ全身が機械のような代物だったという。素人が下手に銃に触れば肩が外れると聞くのは嘘ではない筈だった。
そうだ。何度も言うが此処は決してアニメなんかじゃない。小説じゃない。ゲームじゃない。漫画じゃない。
紛れも無い、現実なのだ。
「それは構わねーんだ。別にお前が誰を喰おうが良かった。いや良くはねーけど、俺には関係無いからな。
他人がどうなろうが正直な話、ざまぁとしか思わねー」
つらつらとそう零す青年の背の向こう側で、男が間の抜けた表情で立ち尽くしている。
鈴木英雄。彼はただ二人の後輩の背を見ている事しか出来なかった。
背に下がるガリルMARは最早お飾りだ。大量の汗で滑るグリップを何時でも取り出せる様に握ってはいたが、その弾丸はZQNにしか向けられた事はなかった。
どうして、と男は呟く。化け物とは言え、少女。躊躇するには十分過ぎるはずだった。
なのに何故佐藤と比企谷は平気なのかと。
「ーーーでもな。めだかちゃんは、彼女だけはまずかった」
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:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:59:38
それを尻目に、青年は続ける。
銃口は震えていたし、膝はがたがたと笑っていた。それでも無様に、間抜けに強がって続けた。
「分かってたはずだろ、お前だって。めだかちゃんは対主催陣営の最後の希望だった。誰もあいつが負けるだなんて、疑わなかった。ちっとも。
こんなどうしようもない奴等が、夢を見ちまってたんだ。めだかちゃんなら勝てるって、何でも出来るって。信じてた。
めだかちゃんには皆をその気にさせる何かがあった。口を開けば説得力の方が後からついてきた。めだかちゃんは絶対の存在だった。
皆言わなかったけど分かってた。俺達がめだかちゃんで保ってたって事ぐらいは。でも言う必要すら無かった。
何故ってめだかちゃんが負けるだなんて誰も思わなかったからだ。だから心配する必要が無かった。
ヘンリエッタ・ビンセント・ルーシー戦で沢山の強ェ奴がくたばったけど、皆が諦めなかったのはだからなんだ。
めだかちゃんが居たから、生きていたから。何とかなるって信じてた。希望を見てた! 本気で!!
それにマーダーも本当ならヘンリエッタ達で最後だったからな。皆、浮かれてたんだ。
あとは首輪解除だけだった! それも改心した都城と玲音ちゃん達が居たからなんとかなるはずだった!
球磨川の『重い愛』の影響もあったけど、それでも乗り越えてきた様な強い奴等だったんだ!
俺達対主宰陣営の勝利は目前だった……なのに、なんでだよ! それを、何でだ!! 何で!!!」
「……めだかが……悪かっ、た、だけよ……」
少女はけれども血だらけになりながら首を降り、その一言で全てを終わらせる。
いっそ清々しい程の一貫性。ともすればそれが真実なのではないかと疑うほどの真っ直ぐさだった。
或いはそれは、少女の声色と容姿からその奥に純粋さを見ていたのかもしれなかった。
青年は、惑わされてはいけないと銃を握る力を強くする。
winnyを使って小学生の裸を集めた事も、通学路の茂みに隠れて児童を盗撮した事も確かにあった。自分は立派なロリコンだ。
ただ、目の前に居るのは諸悪の根元だった。幾ら純粋無垢な皮を被ろうが、その腐った性根は消えないはずだ。
「勝……手に、皆を……襲って、私……ねぇ、信じて……私は……めだかに、噛、み……付い、たり……してない…の…。
命、令だっ、てして、ない……めだか、は、私の、大切な……お友達だ……もの……人狼に、なんか……しな、い……わ……」
異様な光景である事は、誰もが理解していた。
血の涙を流しながら罪人でない事を説く少女に、大人が三人掛かりで言葉攻め。どう甘く見ても普通の状況ではなかった。
「私を、信じて」
ただ悲しいかな、彼女の言葉が真実であるか否かは、この場ではさしたる問題ではなくなってしまっていた。
彼等が望むのは、真実ではなく彼女の死そのものだったからだ。
それは自分達が役立たずではなかったのだと、仇を討ったのだと、自分に納得させる為。
あの時逃げたけど、でも今回は逃げなかったのだと、居もしない死者に許しを乞う為。
とことん下らない理由だったが、彼等はそれがないと生きていけなかった。逃げる事が出来なかった。
最後まで現実と立ち向かわない。腐り切った根性は、少女に罪を被せる事でしか、弱い心を守れなかったのだ。
桐敷沙子の正体や諸行は、やはりその為のただの口実に過ぎなかった。
「……もう黙れよ」少年が言う。「桐敷、お前は少しやり過ぎた」
少女は何も言わなかった。その変わりに首筋に当てられた刃を受け入れ死を享受する様に、瞳を閉じて涙を流した。
「返せよ、皆を。生き残ってなきゃいけなかったのは、あいつらだったんだ」
青年が銃口を向け直しながら言う。少女は肩を揺らしながら力無く笑った。自嘲に歪んだ唇は、酷く青白い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお前なんか、産まれてこなけりゃ良かったのに。
青年が呟いて、銃声が鳴る。
少女はそうしてただの肉片になった。
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