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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】
1
:
名無しさん
:2004/11/27(土) 03:12
コソーリ書いてはみたものの、様々な理由により途中放棄された小説を投下するスレ。
ストーリーなどが矛盾してしまった・話が途切れ途切れで繋がらない・
気づけば文が危ない方向へ・もうとにかく続きが書けない…等。
捨ててしまうのはもったいない気がする。しかし本スレに投下するのはチョト気が引ける。
そんな人のためのスレッドです。
・もしかしたら続きを書くかも、修正してうpするかもという人はその旨を
・使いたい!または使えそう!なネタが捨ててあったら交渉してみよう。
・人によって嫌悪感を起こさせるようなものは前もって警告すること。
397
:
◆vGygSyUEuw
:2006/04/15(土) 19:01:09
終わりです。
井戸田さんに甘くねえよって言わせたかっただけw
398
:
名無しさん
:2006/04/15(土) 23:44:55
>397
文の雰囲気大輔。
399
:
◆vGygSyUEuw
:2006/04/19(水) 16:01:18
>>398
嬉しい…。ありがとうございます。
400
:
名無しさん
:2006/04/30(日) 21:53:37
山本軍団の話を書いたのですが、本編に沿っているのかいないのか、方向性が微妙になってしまったのでこちらに投下。
401
:
最弱同盟 1/6
:2006/04/30(日) 21:54:54
仕事帰りの会社員で賑わい始めた居酒屋の、その一番奥の個室で、二人の男が酒を飲み交わしていた。一人はひょろりと背が高く、もう一人は黒縁の眼鏡を掛けている。
共通するのは痩せて貧弱な体型であること、そして芸人であるということ。
先に口を開いたのは黒縁眼鏡の方、ドランクドラゴンの鈴木だった。
「そっか、じゃあアンガールズの二人も持ってるんだ、あの石」
「はい」
頷いたアンガールズの田中は、いつになく真剣な表情をしている。
彼が自分の石に宿る奇妙な力に気付いたのは、つい先日のことだった。
どうやら他の芸人たちも同じように力の宿った石を手にしているらしいこと、そしてその石を巡って争う者までいるらしいことは、たまたま耳に入ってきた情報から知ることが出来た。
しかしそれ以上の話を聞き出そうとすることは、自らその争いに首を突っ込むことになりそうで、気が引けた。そこにタイミングよく、芸人の中でも親しい間柄である鈴木から、飲みに行こうとの誘いがあったのだ。
もう一人、ロバートの山本もこの場にいるはずだったのだが、つい先程仕事で遅れるという内容のメールが来た。少し手持ち無沙汰になったところで、田中は思い切って鈴木に相談を持ち掛けた。
「どうすればいいんですかねー、これから。ていうか、鈴木さんはどっちなんですか?」
「どっちって……白か黒か、ってこと?」
「そうです」
その質問に、鈴木は少し考える素振りを見せた。
「特にどっちって意識したことないんだけど……まあ、どっちかって言ったら白なんじゃねえの? 事務所の先輩に白の人が多いから、その人たちに言われて協力したりもしてるからさ」
実際のところ、白につくか黒につくかという問題は、鈴木にしてみればどうでもいいことだった。今白側にいるのは、その方が面倒がないと考えたからであって、要は、戦いを避けられればそれでいいのだ。
「それにさー、黒なんて相当強い人じゃなきゃ無理そうじゃん。ほら、俺なんて、あいつにも反抗出来ないくらいだからさ」
「……ああ」
“あいつ”という言葉が指しているであろう人物を頭に思い浮かべて、田中は納得する。それはつまり、もうすぐここを訪れるはずの人物のことなのだが。
噂をすればなんとやらで、それから五分もしない内に彼は姿を現した。
402
:
最弱同盟 2/6
:2006/04/30(日) 21:56:07
「どうもお待たせしましたー」
少しテンションの高い山本に曖昧に返事をしながら、田中は視線を彼の足元に移す。ジーンズの裾に隠れて少し見えにくいが、確かに鈴木と同じ場所にそれはあった。芸人に不思議な力を与えるパワーストーン。
「あの、山本さん――」
彼にも同じような相談をしようとした田中の言葉を山本が遮った。
「ねえ二人ともこの後時間あるんでしょ? 折角だから、もっと静かな店で飲みましょうよ。俺、いい店教えてもらったんですよ」
「え」
遅れて来ておいて何言ってるんだ、という思いが二人の胸中を過ぎる。しかし、それをストレートに口に出したりはしなかった。代わりに鈴木が、かなり遠回しな表現でその申し出を断ろうとする。
「あ、あのさ、山本君仕事長引いて疲れてるでしょ? 俺達も腰を落ち着けたところだしさ、このまま――」
「何言ってんすか、どうせ飲むならいい所の方が疲れ取れるに決まってるじゃないですか」
ああやっぱり。
三人の中で一番の年下でありながら、何故か一番の傍若無人っぷりを発揮する山本に、田中も鈴木も逆らうことが出来ないのだ。この三人組が「山本軍団」と呼ばれる所以である。
そこでふと、何かを思いついたように鈴木が田中に視線を送る。田中も鈴木の言わんとするところをすぐに理解した。こんなことに力を使うのは気が引けるが、確かにそれが一番手っ取り早い。
左手にこっそり握り締めた石に意識を集中しながら、右手で山本の肩をポンポンと叩く。
「まあまあまあまあ、そのいい店には今度行けばいいでしょう?」
「だーかーらー、行きたい時に行かないと意味ないんだって!」
山本はバシッと田中の手をはたき落とした。
「……あれ?」
おかしい、力の使い方は間違っていなかったはず……ということはまさか、自分の力は山本にすら効かないってことでは!?
力の反動も相俟って、田中の気分は一瞬にしてどん底にまで落ちた。
「わかってくれた?」
「あー、はい」
どうでもよくなってしまった田中は、項垂れながらそう答える。
「田中君は納得してくれましたよ。鈴木さんはどうなんですか」
勝ち誇った様子の山本に仕方なく頷きながら、鈴木は声に出さずに「使えねー」と呟いた。
403
:
最弱同盟 3/6
:2006/04/30(日) 21:56:50
都会の喧騒が少しずつ遠ざかっていく。前を歩く山本の足取りに迷いは見えないが、あまりに人通りのない場所へ進んでいることに、田中と鈴木は不安を覚えていた。
「本当にこの道で合ってる?」
堪り兼ねたように鈴木が訊ねたが、山本は自信満々に「合ってますよ」と答えるだけだった。
「でも、いくらなんでも人がいなさ過ぎじゃないですか?」
先程の失敗からどうにか回復した田中も山本に問うが、
「静かな所だって言っただろ。ほら、隠れ家的な名店っていうの? そういう感じの所」
やはり取り合ってはもらえなかった。
実際のところ、二人が懸念しているのは店に辿り着けるかどうかということではない。この状況は、明らかに危険なのだ。石を狙われている人間にとっては。
薄暗く、静まり返った通りの向こうから、少しずつ近付いてくる気配を感じる。ただの通行人ではあり得ない、明らかにこちらに敵意を持った気配。
それはゆっくりと速度を上げ、3人が彼らを視認出来た時には、既に全員が全力で疾走していた。
「逃げろ!」
誰かの号令で一斉に走り出す。しかし黒い欠片の影響か、限界を無視した速度で走り続ける集団に、三人はあっという間に追いつかれてしまう。
どうやらこの場を乗り切るには、力を使うしかないらしい。
そう判断した鈴木は、足首に微かに触れている石へと意識を集中する。それは少しずつ熱量を増し、鈴木の精神力を己の力へと変換していく。
そして集団の先頭を駆ける若者の手が鈴木に触れた瞬間、彼とその周囲の空間は、重力から解放された。
先頭の若者は、地面を踏み締められずに前のめりになり、そのままふわりと浮き上がる。鈴木が彼を後方へと軽く押すと、若者は“領域”の外へと弾き出されて尻餅を着いた。
「鈴木さーん! びっくりしたじゃないですか、力使うなら先に言ってくださいよ」
山本の文句に、咄嗟のことだから仕方ないと思いつつも「ゴメン」と謝る。
404
:
最弱同盟 4/6
:2006/04/30(日) 21:57:34
「とりあえず、このまま逃げよう」
鈴木は手近な電柱に手を掛けると後方へ押しやるようにした。反動で体は前方へと進む。
田中と山本もそれに倣うことにしたが、この空間にある程度馴れている鈴木と違い、彼らの空中遊泳はかなり危なっかしい。障害物に気をつけるのは勿論、力に巻き込まれて浮かび上がった小石にも気を遣わないと怪我をする羽目になるのだ。
それでもどうにか、走るより若干速いくらいの速度を出すことが出来た。
追手の集団はどうやら下っ端らしく、特殊な能力は使わずに直接掴み掛かってくる。しかし無重力空間では、徒手空拳はほとんどその威力を発揮しない。前列の若者達を軽くあしらっているうちに、少しずつ黒の集団との距離は開いていく。
「このまま振り切れれば……」
鈴木は、普段ならばほとんどかかない汗を拭い、力の源にもう一度意識を集中した。
意識的に広げた“領域”は、その分だけ体力の消耗を早めている。限界に達するまで、持ってあと一分。力を解けばあとは自分の足で逃げるしかないのだが、力を使い果たした鈴木に、果たしてそれだけの体力が残っているのか。
幸いなことに、集団は既に闇へ紛れる程度まで後退していた。今なら力を解いても大丈夫だろう、そう思ったその時、消耗しきったはずの集団から飛び出してくる者がいた。疲れを見せない、どころか短距離選手並の速度で、再び三人との距離を詰めてくる。
「まさかあれ、石の力なんじゃ」
下っ端ばかりの集団だと思っていたが、中には能力者が紛れ込んでいたのだ。その若手は無重力の“領域”相手に自分の能力で戦う方法を編み出していた。
身体能力の強化、それもかなりの下位クラスではあるが、今は彼らに追いつけるだけの脚力があればいい。そして彼の石はその目的を充分に果たした。
彼は3人と着かず離れずの距離を保ちながら、冷静に“領域”の範囲を見極める。そしてそのぎりぎり、体にまだ重力の残る地点で、彼は思いっ切り地面を踏み切った。
重力加速度の消えた“領域”内で、その男は前方斜め前へとそのままの速度で上昇する。その前方には、不慣れな無重力空間で不自由そうな山本がいた。
鈴木自身を“領域”の外へ出す事は出来ない、だからこそ必死に“領域”内へ留まろうとしているはずの山本を、そこから引き摺り出そうとしたのだ。
振り向いた山本は、慌てた様子で逃げようとする。しかし踏ん張りの利かない無重力空間では、高速で接近する物体を避けるのは難しい。男は山本の腕を掴み、“領域”の外側へ向け、強制的に加速させた。
しかし彼のこの目論見は、思わぬ展開を呼ぶ。
405
:
最弱同盟 5/6
:2006/04/30(日) 21:58:35
「山本さん! 後ろ!」
田中が悲鳴のような裏返った声を上げた。後方に振り向いた山本の後ろ、つまり進行方向には、電柱がひっそりと聳え立っている。田中と鈴木は咄嗟に手を伸ばすが、山本と電柱の接近速度はそれを超えていた。
田中は思わず目を覆う。石を巡る争いによって、数少ない友人の一人が犠牲になるかもしれないことが、田中には耐えられなかった。
しかしそこに、閉じた瞼を透かすように、光が差し込んできた。薄目を開けて見ると、淡く黄色味がかった光が山本の腕を覆っている。その腕は電柱に激突する手前で、山本の体を支えていた。
「山本君」
「山本さん……」
田中と鈴木は揃って安堵の声を上げた。
山本は無重力空間でためていた“重力に逆らって立つ力”を腕力として放出し、激突の衝撃を吸収したのだった。
鈴木は小さく息を吐くと、限界の迫っていた能力を解いた。体がストンと地面に落ち、慣れ親しんだ重力の感覚が戻ってくる。
「うわ、は、離せって!」
山本の声にそちらを向くと、黒の若手が尚も諦めずに山本に掴み掛かっていた。今こそ自分の出番と察した田中は、ポケットから自らの石を取り出し握り締める。今度こそ失敗しないよう、いつもより余計に集中して。
「まあまあ、もう諦めようよ。仲間もみんなついてきてないみたいだしさ」
田中の言葉に、若手の男は攻撃をやめて大人しくなった。山本に全力の一撃を止められたことで、既に心が折れ掛けていたのかもしれない。しかし力がちゃんと使えたという事実に、田中は深く安堵していた。
406
:
最弱同盟 6/6
:2006/04/30(日) 21:59:11
山本の言葉に嘘はなかったようで、その後すぐに三人は目的の店に辿り着くことが出来た。隠れ家の名に相応しく、普通ならなかなか立ち寄らないような場所にひっそりと立っている店だ。
それぞれの席に腰を落ち着け、注文した料理と酒が運ばれてきたところで、鈴木が小言を言い始めた。
「山本君が無茶苦茶言ったせいで襲われる羽目になったんだからなー、ちょっとは反省してよ」
「いいじゃないですか、体動かした後の酒は美味いって言うでしょう」
「そういう問題じゃないだろー」
鈴木と山本の間に不穏な空気が流れる。田中はほんの少し逡巡したが、結局石はポケットに収めたままにした。この後の展開を、田中は知っているからだ。
「まあ……確かに美味しいけどね、ここの店」
仕方ないな、という表情で折れる鈴木。しかし、眼鏡の奥の瞳は少しだけ笑っていて、それが決して不快ではないことを示していた。
それから三人は、共通の趣味などについて、お開きの時間が来るまで取り留めもなく話した。石についての話は誰もしようとしなかったし、田中も敢えて口に出そうとは思わなかった。
自分達のような脇役が、白につくか黒につくかなんて、この争い全体から見れば、とても些細なことなのだろう。
もしも自分に果たすべき役割があるとしたら、それは争いを厭うこと。戦いたくないと思い続けること。
それはきっと、最弱の人間だけに許された特権なのだから。
407
:
名無しさん
:2006/05/01(月) 17:35:12
乙!面白かったです。
ちゃんとキャラつかんでてすごいなあ。
408
:
名無しさん
:2006/05/19(金) 23:21:56
カンニング竹山と土田の話、落とします。
設定とかちょっと微妙かもしれません。
409
:
アンバランス 1/5
:2006/05/19(金) 23:24:16
真夜中の闇の空間に、一筋の亀裂が走っていた。
――目の前に現れた男について竹山は考える。
仲間、だったはずだ。
同じようなポジションにいて。
同じ先輩を慕っていて。
番組で共演した時は、二人で協力して場を盛り上げた事さえある。
しかし今、緑色のゲートの向こうから現れた彼は。
左手に宿る黒い光を、まるで見せつけているようで。
「……土田、さん」
その名を呟いた声は、微かに震えている。
対する土田は、まるでテレビ局の廊下で擦れ違ったかのような気安さで、片手を挙げて「よう」と言った。
しかし彼の出現は偶然ではあり得ない。何故なら彼は、石の力を使ったのだから。
竹山は挨拶を返さず、ただ、短く問う。
「どういう事……ですか」
「どういう、って?」
土田は口角を僅かに持ち上げ、笑みを作って答える。
「理由を訊かれても困るよ。……黒だから、じゃ駄目なの?」
竹山は息を呑む。脳裏に蘇るのは、黒の欠片に憎しみを増幅させられ、自分に襲い掛かってきた相方の姿。
“黒”は土田まで巻き込んだのか――その思いは怒りとなり、胸元の石が熱を帯び始める。
止めなくては、と思う。それは、彼と近しい自分の役目なのだと。
410
:
アンバランス 2/5
:2006/05/19(金) 23:25:38
眼前に出現した炎が、夜の闇を紅く切り裂きながら土田へと飛ぶ。しかしその炎が体を焦がす前に、土田は自らの作り出したゲートの向こうへと消えた。目標を失った炎が、空間へと拡散する。
「どこやっ!」
焦りで思わず敬語を忘れ、竹山は叫ぶ。
答える声は、背後から聞こえた。
「――こういう何もない空間には、その力は向いてないよね」
振り返っても土田の姿は見えない。ただ、闇の向こうから、少しずつ近付く足音がする。
「かといって狭い場所で使うのも危険だ。炎が燃え広がったりしたら、敵どころか自分まで、命を失う危険性がある」
ゆったりとした足取りで迫る土田。僅かな石の光に照らされたその姿は、まるで闇から浮かび上がるかのように見えた。
「ルビーが本来の力を発揮するには、サファイアの補助が不可欠なんだ。でも、そのサファイアの使い手は今はいない。という事は――この状況で狙われたら、竹山君は圧倒的に不利って事だ」
こつ、と最後の足音を響かせて、土田は竹山から三歩の距離で足を止める。
「黒に入らないかい、竹山君」
笑みを浮かべたまま、土田は言った。そして拒絶の暇すら与えずに続ける。
「なにも竹山君一人のためにそう言ってるんじゃない。俺は、この石を巡る争いを止めるために言ってるんだ」
訝しむ表情の竹山。しかし土田は、そうなる事を予測して台詞を用意している。
「“白”と“黒”っていう二つの勢力があって、しかもその二つは、ほぼ均衡している――だから戦いが起こってるんだ、とは思わない?」
竹山は答えなかった。満足そうにひとつ頷いて、土田は続ける。
「ここで強力な石を持った竹山君が黒に入る。するとこのバランスは大きく黒に傾く。黒が有利と見て、白を離れて黒に入る芸人もいるだろう。そうすれば更に黒の勢力が大きくなる。同じ事が続いていけば――ほら、戦う事なく争いが収まるじゃないか」
411
:
アンバランス 3/5
:2006/05/19(金) 23:27:05
竹山は、どこか力のない視線で土田を見詰めていた。ややあって、普段の彼らしくもない掠れた口調で呟く。
「全ての芸人が……黒に?」
「そう」
「皆、あの黒い欠片を植えつけられるって事ですか?」
「そうなるだろうね」
土田は当然のように言い切った。あの黒い欠片がどのような影響を及ぼすか、知らないはずがないのに――その表情には、迷いも恐れも見えない。
竹山は目を伏せ、ゆっくりと息を吐いた。この石を手に入れてから起こった様々な出来事――仲間だった者や敵だった者、それから何より大切な相方の事を思う。
しばらくして竹山は顔を上げた。その視線はある決意を込めて、土田を見据えている。
「俺は……黒の力が、許せん」
別段驚いた様子もなく、土田は視線を返す。
「中島を苦しめたあの欠片が許せん……」
怒りに呼応して、ルビーが眩い光を放った。迷いを振り切るように握り締めた拳を、炎の熱が覆っていく。
「土田さんにそんな事言わす、黒の欠片が許せないんや!」
竹山は地面を蹴り、拳を振り上げた。ゲートが開いてから閉じるまで、数瞬のタイムラグがある。そこに一撃を捻じ込むのは、不可能ではないはずだ。
対する土田は――動かない。ただ、シルバーリングをはめた左の拳を、竹山の拳に合わせるように持ち上げただけだ。
二つの拳が激突する。硬い衝撃と共に、火の粉が飛び散り空気を焦がした。
立ち込めた熱気を、風がゆっくりと吹き散らしていく。竹山は、戸惑いの表情で土田を見ながら拳を下ろし――そして目を見開いた。
412
:
アンバランス 4/5
:2006/05/19(金) 23:28:38
「残念だけど――ルビーの力でも、浄化は無理だよ」
土田の左手に輝くブラックオパール。その黒い光に衰えはない。
「そもそも俺は操られているんじゃない。協力してるんだ、自らの意志で」
その言葉に同意するかのように、ブラックオパールは小さく瞬いた。それがまるで闇に潜む魔物の眼のように見えて、竹山は怯んだように一歩後退する。
しかし土田は、竹山を追撃せずに拳を解いた。
「だから“俺の意志”で、今日の所は矛を納めておく。別に倒しに来た訳じゃないからね」
土田は左手を、ちら、と一瞥して下ろす。その視線を追った竹山が小さく声を上げた。ブラックオパールには全く通用しなかった竹山の炎だが、生身である土田の拳には、はっきりと火傷の痕を残していた。
敵であるはずの自分を気遣うような竹山の表情に、土田は苦笑する。
「俺の心配はいらないよ、いざとなったら回復の能力者に頼むから。それより、自分の心配したら?」
強すぎる己の力によって、竹山もまた火傷を負っていた。余り戦闘向きの能力ではない土田との戦いですらこうなのだ。弱点を突かれたり、不利な状況での戦いとなれば、このダメージは少なからず響く事になるだろう。
「これは警告だよ。その内黒の組織としても、本気でルビーを狙ってくるだろうからね」
土田は個人的な理由としても、非常にルビーの力を欲しているのだけど、それは口には出さない。出来れば竹山に、自身で黒に入る事を決めて欲しいと思っているからだ。
“土田の意志”は、今でも派閥とは関係なく、竹山を仲間だと思っている。だから、無理強いはしたくない。
「じゃあ……お大事に」
土田は再び片手を挙げて、軽い別れの言葉を告げる。同時に土田の背後の空間が裂け、赤色のゲートが出現する。
「今度会うときは、味方になっている事を願っておくよ」
最後まで飄々とした笑みを崩さないまま、土田はゲートの向こう側へと去っていった。
413
:
アンバランス 5/5
:2006/05/19(金) 23:29:33
竹山は暫くの間、呆然と土田の消えた空間を見詰めていた。信じられない、という思いが頭の中に渦巻いていて、思考がそこから先へと進まない。
しかし一方で、全て事実なのだと認めている自分もいる。あの石を手に入れた時から、緩やかに変化してきた日常の、これが一つの到達点なのだろう。
何もない所では無力な火種も、一度火薬庫の中に放り込めば、たちまち全てを焼き尽くす炎となる。そう――火種を落とした者すら巻き込む程の。
浅い痛みを発し続ける右手を左手でそっと覆いながら、何かで冷やさなくてはな、と思う。
彼の中の火種を消してくれるはずの中島は、しかし今、彼の隣にはいないのだった。
414
:
名無しさん
:2006/05/20(土) 10:10:06
乙!面白かったです。
ガンガレ竹山…。
415
:
名無しさん
:2006/05/20(土) 12:33:40
本スレに投下しても大丈夫とオモ。
416
:
◆PUfWk5Q3u6
:2006/05/20(土) 16:31:46
>>415
ありがとうございます。
上のも合わせて、保守ついでに投下してきます。
417
:
◆tr.t4dJfuU
:2006/07/02(日) 23:40:16
ある日、出演前の楽屋で俺が台本に目を通していると、
ふと、背後に座っていた庄司が話しかけてきた。
「・・・品川さん」
「ん?」
「もし俺が いなくなったらどうする?」
「そりゃもちろん、ピンの仕事が増えるかな。特に雛壇。
椅子に限りがあるなら二人より一人のほうが呼ばれやすいだろ」
「何それ。困んねぇの?」
「困るのは番組関係者。安心しろ俺がお前の分のレギュラー代わりにやってやるよ」
「お前それやりたいだけじゃん!」
「俺は一つでも多くレギュラーが欲しい!」
貪欲だなぁ、と言って庄司が笑った。
庄司が笑うと、いつだって空気は柔らかく和む。
よしウケた、と俺はほくそ笑んで満足していた。
それからすこし間があって、何かが背中にもたれかかってくる感触がした。静かに、ゆっくりと。
「・・・・庄司?」
背中合わせに、その背を預けるように寄せて来ている。後頭部に庄司の髪が触れた。
振り返ろうとしたが、身体がずれるとそのまま倒れこんできそうで、身体を動かすことが出来ない。
「おい」
少し心配になって声を掛けた。
「重い?」
「・・・・いや。すげえ気持ち悪い。何?何か言いたいことあんの?」
――お前普段こんなことしないだろ?と言う言葉は、驚きとともに飲み込んだ。
「・・・・一人でももう大丈夫・・・」
「は?」
「・・・何でもない」
嘘だ。と品川は直感的に思った。何かを隠してる。何か訴えたいことがある。
でも言いたくない。こういうとき八つ当たるより黙り込む癖が彼にはあった。
問いただしてやろうと口を開いたその時──静かな規則正しい呼吸が耳元で聞こえた
・・・寝てやがる
怒りのあまり張り倒しそうになる衝動を抑えて、ゆっくりと身体をずらし、
出来るだけ衝撃にならないよう身体を支えて、畳敷きの床の上に横にならせた。
上着を身体に掛けてやり───ふと、手が止まる。目を閉じて子供のように眠る庄司の顔色は少し悪かった。
・・・こいつこんな顔だったっけ。
前髪を少し上げて顔を見た。庄司の顔だ。剣のない、優しげな。
けれどどこか、いつもと違う、影が──その面に色濃く出ている。ぬぐいきれない違和感と共に。
──疲れてるのかな。
本番までまだ時間がある。静かにさせて30分前には起こしに来ようと、
品川は立ち上がって楽屋を出て行こうとした。
戸を開けたとき、遠くで庄司が微かに呻いたのが聞こえた。
「・・・・・・・けて・・・」
何と言ったのかは分からなかったけれど。
音もなく戸が閉められたあと、庄司は眠ったまま何かを求めるようにして手を伸ばした。
ゆっくりと広げられた手のひらの中に──赤い光を帯びた石は喰らいついたまま熱を帯びて
今一度、鈍い光を、放った。
418
:
◆tr.t4dJfuU
:2006/07/02(日) 23:43:40
本編の品庄の話と、このスレの
>>110
さんのお話を読んで触発されて書きましたー
庄司が石に取り込まれる一日前のイメージです。
本スレに落とすほどのものでないので、ここで消化させてください。
419
:
名無しさん
:2006/07/09(日) 21:34:10
間違えたこっちだ。
新しい話を書き込んでもいいでしょうか
420
:
名無しさん
:2006/07/09(日) 21:34:47
というか、上げてしまったすみません・・・・・
421
:
名無しさん
:2006/07/09(日) 22:46:50
どぞ
422
:
名無しさん
:2006/07/10(月) 22:23:26
すみませんやっぱちょっと書き直します・・・・
423
:
名無しさん
:2006/08/09(水) 12:31:21
内容が意味不明になっている番外編の小説を投下します。
インパルス板倉がメインです。一応。
人物の性格崩壊が激しい?ので、それが嫌な人は気を付けてください。
口調もよく分からないので少々おかしいかと。
ちなみにオールギャグ。
424
:
423
:2006/08/09(水) 12:32:05
【maid in Japan】
「板倉さーん」
「…何」
相方・堤下に名前を呼ばれ、不機嫌そうに答える板倉。
最近、彼は慢性的な寝不足なのだ――もちろん、“黒”のおかげで。
「不機嫌ですね」
「不機嫌だよ! 毎日毎日襲われて、しかも普段は普通の芸人…もう疲れた」
「疲れているところ悪いけど、今日は白ユニットの集会だから」
「ああ、分かってるよ…って、はあ?!」
前回の集会は、確か何もまとまらなかったはずだ。
あの時には、石の争いがここまで激しくなるなんて、誰も気づいていなかったけれど。
今回はさすがに真面目な討論になるんだろうな…と板倉が言うと、堤下はあやふやに返す。
「質問の答えはハイかイイエだろ? なんだよその『ああ…うん』ってのは」
「まあ、感じ方は人それぞれってことで」
それを聞いた板倉は疑いの眼差しで堤下を見たが、どうやら集会は嘘ではなさそうだ。
その証拠に、たった今板倉のケータイにもメールが入ったのだ。
それですっかり信用してしまったのか、カクタスが警戒するようにちかっと輝いたのには気づかなかった。
2人は普段どおりテレビに出演し――そして普段どおり黒の下っ端に襲われながらも、無事に“仕事”を終えた。
425
:
423
:2006/08/09(水) 12:32:29
「またここかよ? みんな好きだよなー、ここ」
真夜中、2時。
インパルスの2人がやってきたのは、前回も集会を開いた和食店。
「料理が美味しいんだとさ」
「今回も話し合いがまとまらないに100円賭けるわ、俺」
100円かよ。
ついツッコミを入れてしまった堤下の声は、板倉までは届かなかった。
「とりあえず潜入…って、なんで俺たちはこんなところで立ち止まっていたんだろうな」
「何が!?」
「いらっしゃいませ。板倉様と堤下様ですね?」
何時ぞやの時と同じように、明るい笑みを見せる和食店の仲居。
彼女が去ってから、板倉がぽつりと言った。
「前回の時はまだまだ平和だったのにな…」
「そうだな…今は色々な奴が“石”を手に入れてさあ…スパイとかも出てきてるみたいだし」
「このまま行くと、芸人全員が手に入れちゃうかもな、石」
「まあな…なんか嫌だな、そういうの。めんどいし」
戦いを“めんどい”の4文字で済ませてしまう相方を見て、堤下は苦笑する。
「思考が浅くて悪かったな」
「そんなんじゃなくてさあ…」
――板倉には随分助けられてるよ、俺。
その言葉は心の奥にしまっておいて、堤下は不機嫌になった相方を引っ張って奥へと向かった。
426
:
423
:2006/08/09(水) 12:32:49
襖を開けると、それはもう大騒ぎだった。
「2人とも遅いですよ」
「な…こっちはさっきまで石持ち芸人に襲われてたんだよ! お前らが豪華な料理を囲んでいる間に!」
最初に始まるのは、細身の男2人――アンガールズの山根と、板倉のケンカ。
「人にはビビりとか弱いとか散々言っておいてこのザマですか」
「なんだと! ちょっと能力の相性が悪かっただけだ!」
「まあまあ…今日の集会は、板倉さんの話が中心ですから、落ち着かないと始まりませんよ」
同じく細身の男、アンガールズの山根が止めに入る。
板倉はまだ右掌に電気を溜めながら、怪訝そうな顔で山根を見た。
「俺が中心? …どういうことだよ」
「それは私、上田晋也が説明致します」
どこから沸いて出たのか、くりいむしちゅーの上田が板倉の真後ろに立つ。
板倉は一瞬「うわっ」と言いかけたが、上田だと気づくとほっと胸を撫で下ろした。
「立ち話もいいけど、早いとこ上がれよー!」
そう言ったのはくりぃむしちゅーの有田。
インパルスの2人は「失礼します」と言いながら、座敷の上に上がった。
427
:
423
:2006/08/09(水) 12:33:08
「で、俺中心って言うのはどういう事ですかね」
料理を皿に取りながら、板倉が言った。
それを見て上田がちょっと苦い表情をする。
「今で謝るわ。ごめん」
「な、何がですか?」
寒気がとまらない。
猛烈に嫌な予感がする。
そして、その嫌な予感は現実となる。
「じゃーん! お忙しい貴方にプレゼント」
「……!」
彼は持っていた皿を手から落とした。
それもそのはず、無駄にハイテンションなアンタッチャブル山崎が持っていたのは――メイド服。
どこの馬鹿がこんなものもらって喜ぶか、としらけた顔で言う板倉だったが、むしろ逆効果。
「別に喜んでもらうためじゃないですよー。これを着てもらってお仕事をしてもらうだけです」
「…コントでもしろと?」
「そうじゃなくて…まあ簡単に言うと、これを着てスパイをやってもらおうかと」
「スパ…はあ!?」
板倉はもう一度山崎を見る。
彼が持っているのは、どこからどう考えてもメイド服。
はねトび辺りで使うような、わざとらしいもの。
「…これでスパイやったら、目立つだろ」
「大丈夫! 一応、普通のスカートとかも準備してあるから!」
「…………」
怒っている。板倉は明らかに怒っている。
それは誰もが分かった。無言の圧力を放っているし、後ろのコンセントが蒼い火花を散らしているから。
「…何故、俺なんですか」
彼は声を絞り出して、やっとそれだけ言った。
「いやー、街中でアンケートをとったら、君が一番女装が似合うって」
「あ、ちなみにその他にもいたけど、“白”だったのはただ一人――」
「もう、いいです」
板倉は諦めたようにはあ、とため息をつく。
「あー、そうそう」
上田が思い出したように言う。
「一ヶ月くらいやってもらおうと思ってるから。」
その日、街は停電のため暗闇に包まれた。
428
:
423
:2006/08/09(水) 12:33:28
その頃、ロンドンブーツ1号2号の田村 淳は、板倉の考えていることを読み取っている最中だった。
淳は「板倉のことはよく分からない」と言ったのだが、設楽に言われて強制的にやっている。
今時はネットで何でも調べられるのだと。
便利な反面、迷惑極まりない――淳は密かにそう思った。
「お、来た」
件名、“板倉俊之”。彼の考えていることが、文章となって淳に届いた。
「ええと、何々…」
淳は自身の目を疑った。
『なにが“メイド服”だよ! そんなもんプレゼントされたって、嬉しくも何とも無いわ!
山崎、頼むからそれ仕舞え! 俺はそんな趣味ないんだって! あれはコントだ!』
そんな類の文章が、長々と綴られているメールの文面。
「め、メイド服…? 彼、そっち系じゃないよね…?」
板倉とは親しくも無いが、そっち系でないことを祈らずにはいられなかった。
この事が原因で、“黒”の人物たちは板倉を避けるようになった。
「なんか俺、やらかしたかなあ?」
「いいんじゃないの? 襲われる回数も減ったし」
――何も知らない2人は、ただ暢気だった。
429
:
423
:2006/08/09(水) 12:37:48
話が意味不明の上時間軸が謎になってしまいました。
完全番外で、歌唄い様の「午前三時のハイテンション」のかなり後という設定。
誰か約一名が翻弄される小説が書きたかっただけです。
430
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 18:59:55
ユニット進行会議スレで相談した話を投下させてください
設楽さんの過去話ですが番外編なので本編には関係しません
「なにこれは?」
セッティングを終えていない潰れた髪を撫でた設楽は呟いた。最愛の娘の手の平には、雲掛った
濃い空のような、宇宙から見た地球のような、宝石一歩手前の石がある。聞けば、友達と遊んでい
たときに公園の砂場で見付けたとのこと。
何か価値があるものなのかもしれない。妻に相談するために立ち上がりかけるが、娘が設楽のジ
ーンズを引っ張った。娘は子供とは思えない大人びた無表情で言う。
「これはわたしのじゃない」
小さな手は設楽の方へ伸びた。
最近はテレビ出演が増えた。テレビ出演には慣れていなかったが、知っている芸人が数多くいる
せいもあって、ようやく自分達らしさを出せるようになってきた。日村という存在をいかに世の中
に知らせるかを根拠として活動している設楽にとっては有り難い話だ。
バナナマン単独の楽屋で設楽は腕を組む。四畳半の小さな楽屋はトイレでじっと考えているとき
と同じような安心感がある。厚めの唇を小さく突き出した後、ポケットにいれたままだった石を取
り出した。
娘からのプレゼントということになるのだろうか。そういった暖かい雰囲気は無かったが、とに
かく託された側としては捨てるわけにもいかない。一応調べてみたところ、ソーダライトというパ
ワーストーンではないか、という過程に行き着くことが出来た。しかしそれだけで、結局は一番に
信頼している日村に相談してみよう、そういう結論に至る。
431
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:00:38
ピンで仕事をしている日村を待つ。戯れに石を空中に浮かばせてからキャッチする動作を繰り返す。
数分経ってから急にドアが開き、驚いた設楽の手もとが狂った。石が畳の上に転がる。
「お疲れ、日村さん」
相手が発言するより早く設楽が口を開いた。日村は戯けた表情で首を振ってから、設楽と同じよ
うに脱力しきった体勢で座りこもうとした。不幸にも転がった石の上で、痛みを感じた日村が大げ
さに尻を抑えて飛び上がる。設楽はただ笑う。
「設楽さん、またそういうこと……を」
楽しそうに咎める日村の表情は一転し、言葉は途切れた。痛みの原因である石を見て固まってし
まっている。元より人の変化を悟りやすい設楽は、その明らかな異常をすかさず感じとった。そし
て軽く尋ねる。
「どしたの?」
こうすれば全てを教えてくれる。今まで過ごしてきた中で知った法則だった。バナナマンの中で
強いのは設楽であり、日村に嘘は付けないからだ。
「いや、あの、この石どうしたの?」
案の定日村の口調は途切れ途切れで、冷静になろうとしているのが明らかだった。設楽は太い眉
を一瞬だけ寄せてから朝にあった娘との出来事を話す。
「……で、どうしようかっていう話なんだけど」
畳に転がったままだった石を一瞥した。黙って聞いていた日村が石を拾い上げる。何かを確かめ
るように凝視してから意見を述べた。
「売っちゃえば?」
432
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:01:26
日村にしては珍しい否定的な意見。設楽の警戒心は更に強くなる。さすがの日村もそれを悟った
が、焦れば焦るほどに支離滅裂な意見が増える。娘に返せ、砂場に埋め直せ、強度を確かめるため
にトンカチで叩いてみろ、話題が変わってしまった。
設楽は状況を一転させるための決定的な言葉を探す。勝手に捲し立てる日村の意見は念仏のよう
に聞き流して考え事に浸る。第一声を発するために口を開いた瞬間、青くて深い光が目の前に広がっ
た間隔があった。
何を隠してるの?
外側には発せられなかった言葉のはずが伝わる。日村の思考の中に入ったような、周りが全て黒
い空気に満たされたような、説得だけの空間がそこにはあった。急な変化に対応出来なかった設楽
は息を飲む。日村の手から、記憶に新しい色の光がもれているのが分かった。
「設楽さん」
設楽以上に驚いた日村が弱い声色で名前を呼ぶ。それはひどく辛そうな顔で、何かを悟っている
ようだった。話を続けなければならない、意を決した設楽は次の言葉を探す。
「バナナマンさん、出番です」
違う方向から第三者の声がした。ハッとした設楽が声を追えば出演番組のADが息を切らしてい
た。しめた、と言わんばかりに目線を変えた日村はADに対して真面目過ぎる返答をした後に設楽
を促す。そんなことに構っている暇はない、そんな意味が込められている。
設楽はというと、ただ混在した疑問を整理するため考え込んでいた。先程の空間はイメージだけ
であったとしても、なぜそのようなイメージを一瞬にして作り出したのか。そして言葉を言ってい
ないにも関わらず日村に疑問が伝わった理由は。急に輝いた濃い青の光は何だったのか。恐らく答
えは全て日村が知っているのだろう。仕事が終わったらすぐにでも問いたださなければならない。
433
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:01:58
日村と並んで撮影場所に向かう。日村は石とは関係ない話題を次々に提供してくる。適当に対応
して笑いつつも歩き続ける。
仕事自体はとても楽しかった。共演者におぎやはぎがいるからかもしれない。和気あいあいと撮
影は進んだおかげで早く終了した。与えられた予想外の空き時間は疑問を追求するには十分過ぎる
長さだ。
少し用がある、と無理やりな口実を作って消えた日村を待つために楽屋に座り込んでいた。石は
日村に持たせているままなので観察出来ない。
壁にもたれているうちに楽屋のドアが開く。上半身に力を入れて話をする体勢に入った、が、そ
こにいたのは日村だけではなく。
「矢作さん?」
少々疲れ気味の矢作が軽く笑っていた。歯が零れる癖は相変わらずだが、少しだけ様子が違って
いる。罪悪感を隠しているのが分かる。
「どうしたの?」
設楽がいつかと同じ疑問符を投げかけるが答えは無かった。矢作は日村と目線を合わせ、小さく
頷いてから、何かを握っている右手を前に出し、下手な関西弁で言う。
「石のことなんて、どうでもよくなるんやー!」
何かが光った気がしたが、対したことではないのだろう。重力に逆らった髪をいじってから仕事
について考えた。余計なことを考えている暇はない、明日は確かネタ見せ番組がある。
「日村さん、明日のことなんだけど」
急な話題変換のせいで目の前の二人は面食らってしまっていた。数秒してからため息をついた日
村が笑いながら設楽の話に乗ってくる。送れて矢作もちょっかいを出してきた。設楽は笑いながら
咎める。頭の混乱が無くなったせいか話は軽く進んでいく。
434
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:02:54
設楽がポケットに手を入れた。小銭を確認するためだったのだが、先程まであった存在が消えて
いることにも気づいた。そして一連の流れを思いだす。
「あ、日村さん、石返してよ」
一瞬だけ空気が止まった。気づかなかった設楽は言葉を続けた。
「一応持ってないとさ」
娘から貰ったものだ、無くしたといったら泣かれてしまうかもしれない。続けなくとも日村なら
悟ってくれるはずだ。予想通り、少しためらったようだったが、石は設楽のポケットに戻った。小
銭と一緒に小さな音を作っていた。
仕事も仕事の後の付き合いも終えて帰宅する。既に深夜になってしまっていたので娘は寝ている
はずだったのだが、夜更かしをしているので叱って欲しいという妻の願いが待ちかまえていた。
疲れてはいたが親としての義務だ。テレビに齧り付く娘の横に座る。
娘はすぐに体の向きを変えた。奇妙な素直さだった。女の子の考えることは分からないなあ、設
楽は脳内でぼやく。
素直なのは最初だけだった。相手が不貞腐れているせいで中々話は終わらない。さすがは自分の
娘というべきか、幼いにしても受け流すのが上手くて説得する糸口が見つからないのだ。
大人相手の状況にシフトするために思考をまとめた。ポケットの辺りが暖かくなった気がした。
娘と視線を合わせれば二人だけの空間が広がったような感覚がある。
「いいか?」
「うん」
435
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:03:20
子どもは早く寝なきゃいけないんだ」
「うん」
「もうちょっと大きくなったら嫌でも眠れなくなるから」
「うん」
「そのときまで、待とうよ」
返事は無くなり頷くだけになった。空間が流れ落ちていつもの家が戻ってくる。設楽だけが辺り
を見回し、娘は囚われた目をこすった。眠たいのだろう。
ふらふら歩く娘が夜の夢に消えるまえに振り返った。大人にしては幼い驚き顔でいた設楽は表情
を正した。娘は呟く。
「石は?」
「ん、ああ、ここにあるよ。ほら」
「たいせつにしないといけないんだよ」
「……え?」
「そんな気がするの」
立ち尽くす設楽を放って娘は消えていく。家事を終えた妻が設楽のいる部屋に入ってくる。我を
取り戻した設楽は石をポケットに入れ直した。どうでもいい存在ではあったが、ひょっとしたら何
かあるのかもしれない。はぐらかされたから日村以外の誰かに尋ねてみようか、小さく頭に留めた。
前日に入念な打ち合わせをしたおかげでネタ番組は上手く行った。打ち上げの準備があるらしく
暇が出来る。日村は不在だ、ぶらつくついでに誰かに石について尋ねることにした。
436
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:03:44
廊下は遠くまで続いていて不気味なくらいに人がいなかった。普段ならスタッフが飛び回ってい
るはずなのに足音すらない。
壁に貼られたポスターを眺めながら進んだ。何か他のことに集中したかったからかもしれない。
プロが作ったポスターは様々な個性に満ちており、見知った芸人の冠番組のポスターもあった。嫉
妬するでもなく喜ぶ。
誰かと肩がぶつかった。ふらついた設楽は宜しくない目つきで相手を確かめた。年下に見える相
手はひどく疲れた顔をしていて、設楽と数秒間目を合わせてから思いついたように指を鳴らした。
「打ち上げの準備終わったらしいっすよ」
どうやらスタッフか誰かだったらしい。そうですか、小さく設楽が呟く前に相手が遮った。
「でもその前に何かあるって……ついてきて貰えますか?」
駄目だしかもしれない。少し調子に乗りすぎたか。気まずそうに頭を撫でる設楽は素直に応じる。
人のいない廊下を互いに無言で進んだ、空気に喉を詰まらせないため、設楽はまたポスターを見続
けた。
イラストが途切れる。いつの間にか来たことがない場所にいた。サプライズ企画があるのかも、
気楽に捕らえようにもおかしな雰囲気がある。
第六感が逃げろと告げた。ドッキリとかとは違う冷たさが根拠だった。歩を止めて様子を伺えば
相手が振り返り柔和な表情で微笑んでくる。
設楽が一歩後ろに下がった。何も考えない逃走本能だったが仇になる。相手が何かを察して手を
伸ばしてきたのだ。逃げるために振り返ったが仲間と思われる男がいる。廊下は一本道だ、部屋に
逃げ込もうにも左右に扉はない。
437
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:04:09
あっと言う間に捕まって口を抑えられた。全力で振りきろうにも一対二では答えは見えていた。
数秒間身動きが出来なくなったかと思うと、首の後ろに容赦ない衝撃が走る。気は失わなかった
ものの目眩で抵抗出来なくなってしまう。
ぐったりと項垂れて引きずられるままにされた先は使われていないスタジオだった。埃にまみれ
たカメラが様子を伺っている。
二人組が設楽を投げつけるようにした。背中を壁に打ちつけ大きな咳が出て、荒い呼吸で訳も分
からず二人を見上げた。最初の一人が眉を寄せる。
「もう分かるでしょう?」
悟らせるような口調。設楽には何も分からない。もう一人が吐き捨てる。
「知らないふりは無しですよ」
本当に知らないのに答えられるはずもない。困惑を浮かべたが済みそうになかった。鳩尾を蹴飛
ばされて息が止まる。最初の一人が手を伸ばした。
「石をください」
ソーダライトのことだろうか。ポケットから取り出す。
「やっぱり分かってるじゃないですか」
正解のようだ。石を渡せば全てが終わるのだろう。どうでもいい存在だからあっさり渡していい
はずなのにためらった。娘の言葉が頭に響く。
「早くしてください」
急かされても右手を開かなかった。内蔵が痛かったが無理やり立ち上がって相手を殴りつけた。
力は入らず形勢は逆転しない。立っているだけでも何かを吐き出しそうだ。
438
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:04:29
逆上した相手の手の平から光が零れる。悪いことの予兆であることは既に学習している。しかし
一歩下がる力もなかった、相手が一人ならば何とかなったのかもしれない。光が宙に舞う。
「あどでー、ぼぐでー」
場に適わない物真似が聞こえた。光のきらめきすら静止する。
「パパみだいだ力士になりだいど!」
思わず苦笑した設楽の横から見知った姿が出現した。猪突猛進と呼ぶにふさわしい姿であったが、
瞬きした後には光を止めていた相手を投げ飛ばしていた。ひどく滑稽だが設楽にとってはヒーロー
である。艶々の髪を揺らして日村は振り返る。
ヒーロー見参の言葉は無かった。忘れられていたもう一人が何かを振りかぶっていた。設楽は無
心で立ち上がる。
庇うはずの手は宙を切った。重い衝撃音が暗い部屋に響いた。日村の体がゆっくり落ちていく、
設楽は何もせずに立ち尽くす。
人が倒れる音。嫌な音。うつ伏せに倒れた体は動かない。加害者は青ざめた顔をしていた。観察
出来たのは頭がやたらと冷たくなっているからだった。異様な目線で相手を貫く、手にしていた石
が部屋全体を青黒く照らす。設楽は視線の合わない目で口を開く。
どうして?
言葉にはならなかったが、いつかと同じように相手には伝わっているようだった。相手は怯えて
いる。設楽は機械よりも正しく続ける。
俺達は何もしてないだろ?
「石が必要だったんです、俺は悪くない!」
相手が捲し立てるようになった。設楽は自分のすべきことを悟った。相手を説得しなければなら
ない。
439
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:05:02
石って何?
「芸人が持ってる石です、それを持っていればその人しかない力を持つことが出来る」
それだけのために俺らを襲ったんだ。
「集めなきゃいけないんです。これがあれば仕事が増えるかもしれない、有名になれるかもしれない」
相手が頭を抱えた。怯えきった目は設楽から逸らされなかった。設楽自身も相手から目を逸らさ
なかった。話をしているときは目を合わせなければならない。
「俺は悪くないんです! もう解放してください! 早く!」
懇願する相手に対して無表情を返した。そして呟く。
「償ってからね」
小さな間が空いた。相手は脱力し、立っているのがやっとになった。設楽はまた意志だけを飛ばす。
そっちは石で何が出来るの?
「手の平で触ったものを数秒間止めることが出来ます」
なら胸に手を当てなよ。
「え?」
心臓の動きを止めればいい。
「そんな、嫌だ、死にたくない!」
数秒なら死なない。それにほら、償う必要があるんだから。日村さんを見てみなよ。
「俺じゃない。俺がやったんじゃない」
でも協力した。
「確かに相方だけど、違う」
相方のやったことは償わないと。
440
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:05:28
「つぐなう」
出来ないなら、日村さんを直せよ。
「……うわぁー!」
相手が胸に手を翳した。石の光りが漏れて時間の流れが止まり、青黒い空間の中で相手は前のめ
りに倒れた。先程と同じだが小さい音が響く。設楽はソーダライトの光も忘れて日村の元に進む。
立てなかったので這うようにした。
「日村さん」
倒れてはいるが肩は上下している。だが頭を叩かれたのだ、安心は出来ない。助けを呼ぼうにも
歩く力がなく叫ぶしかなかった。肺が痛いから大音量は望めないにしても。
「もう助けは呼んである」
知った声だった。正体を探すために辺りを見渡しても姿はなかった。しかし近くにいるのは分か
る、大道具の影に潜んでいるのだろうか。
彼がそこにいる理由が分からなかった。ここはテレビ局だ、彼はテレビ出演を断り続けている。
ここは使われていないスタジオだ、ただの芸人である彼がここを知っているわけがない。答えは
相手が述べた。
「俺がやったんだ」
設楽が理解する前に相手の話が始まる。
「俺は最悪の事態を回避するシナリオを書くことが出来る。バナナマンのシナリオを書いた、そう
したらこうするしか方法がなかった」
紙を捲るような音がする。コントのような声色であるせいか、台本のイメージが浮かぶ。
「でも最良の方法ではない、だから許してくれなくてもいい。本当はもっと残酷だったから」
息継ぎの間が空く。
「本当は日村さんがその人達みたいにならないといけなかったから」
設楽は倒れている二人組を見渡し、最後に日村を凝視した。驚くくらいに冷静な頭で考えて言葉
を探した。石が未だに光っているせいかもしれない。
441
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:05:50
「俺が元凶ってこと?」
相手は答えない。肯定の無言として捕らえてから独り言をこぼした。
「アドリブすればいいじゃん」
普段の設楽なら考えないことをすればいい。すぐに答えは出た。この面倒くさいことに積極的に
関わればいい。全ての石を操ってしまえばいいのだ。
「俺は一番偉い人になる」
「偉い人?」
「小林くんも協力してくれるよね」
ソーダライトが光る。
「お互いを守るために」
また答えがない。肯定しているのだろう、設楽は小さく笑い、しなければいけないことを探して
二つ見付けた。まずは日村の肩を揺り、開いた弱々しい目と視線を合わせた。
「日村さん、今日あったことは忘れよう」
弱っているせいか反応は小さいが拒絶しているようだった。設楽は意識を集中させて石の力を強
めた。後の大仕事のために力を残すためだった。
「そのほうがいーよヒムケン」
日村が目を見開く。酷く悲しそうな顔をして、しかし小さく頷き、ゆっくり目を閉じた。残る仕
事を終えるために声を張り上げる。どこかに隠れているシナリオライターに問いかけるためだ。
「人が来るのは何分後?」
「……約五分です」
「わかった」
442
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:06:56
相手が敬語である訳は聞かない。設楽には説得するべき相手が残っている、構っている暇はない
のだ。これ以上ない位に集中し、すでに慣れてしまった暗い感覚を得た。目の前に相手はいない。
説得すべきは自分自身。
やろうとしていることは血を洗うようなものだ、そうしなければシナリオ通りになってしまう。
先陣を切って行動することは自らの身を危険にさらすことになる、けれどシナリオを打破しなけれ
ばいけない。争いに巻き込まれたら日村も危険だ、かといって行動しなければ最悪の事態が待って
いる。目的を遂げたあとが見えない、目的を遂げた後に確かめればいい。仲の良い芸人を手にかけ
ることになるかもしれない、こちらが正しいことをしていると証明すればいい。自分自身は納得し
ているのか、自分自身が納得しなければならない。多少は強引な手を使っても、シナリオから逃れ
なければならない。
意識が遠くなる。身体的にも精神的にもぼろぼろになった設楽の体は座っているにも関わらずふ
らつく。やがて日村の横に倒れ込んだ。遅れて襲ってきた吐き気のせいでなかなか意識を手放せな
かった。嫌に規則正しい、誰かの足音が近づいてくる。
「ごめん」
聞き取れはしなかった。
目を醒ませば白い天井がある。寝ているのはごつごつした床ではなく柔らかいベッド。鼻に付く
臭いから病院だと理解した。ふと辺りを見渡せば泣きそうな妻と。
駆け寄ってきた娘が設楽に飛びつく。蹴られた辺りが酷く痛かったが我慢した。しかし衝撃のせ
いで持っていた何かを落としてしまう。白い床に、嵐の前の雨雲のような、大気汚染で汚れた地球
のような、青黒い石が転がった。拾い上げた娘は悲しそうに問う。
「石、こわれちゃったの?」
設楽は口もとだけで微笑んで、娘の頭に手を置いた。
End.
443
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/20(日) 19:11:35
以上です、読んでくださった方有り難うございました。
444
:
名無しさん
:2006/08/20(日) 22:03:58
乙!一気に読んじゃった。
うまい言葉が出てこないが、設楽、悲しいな。
小林は、設楽が腹を括ったと悟った瞬間から彼に従うと決めたんだな。
それまでの小林はどうだったんだろう。
自分の能力を面白がってたのかな。
445
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/21(月) 11:53:24
>>444
感想ありがとうございます
本当は小林視点の話も書くつもりだったので固まってはいるのですが
番外編なので読み手が混乱すると思ってやめました
ところで実際、この二人は敬語が普通なのでしょうか
本編では小林のみ敬語のようなので
446
:
名無しさん
:2006/08/21(月) 20:04:49
>>445
ラーの方がバナナより芸暦が下なので、確かほとんど敬語だったような
447
:
◆2dC8hbcvNA
:2006/08/21(月) 20:27:39
>>446
把握しました、感謝します
ということは上の話はおかしいですね。勉強不足で申しわけない
名無しに戻ります
448
:
名無しさん
:2006/08/21(月) 23:43:37
うーんおもしろかった。
番外とはいえやっぱ単なる悪者じゃないんだねぇ
設楽は頭よさそうなキャラなのに、何で黒やってんのかなぁとか思ってたけど納得です。
能力とか精神力とかメチャクチャ強い(強杉w)けど、何か悲しい奴ですね。
日村とか白ガンバって感じでした。
良い話ありがとう。乙です。
449
:
名無しさん
:2006/08/29(火) 13:37:48
乙です!GJです!
話に引き込まれました。
450
:
名無しさん
:2006/08/29(火) 23:37:48
乙!よかったです。個人的にこれは本スレでもみたいw
小林視点もあるってことだから
設楽と小林のお互いの考えを比べあわせてみてみたいな。
機会があればお願いします。
451
:
名無しさん
:2006/12/08(金) 03:06:20
―― SONY TIMER
「…うわっ。」
それは、11月の初めの事。
暖房なのか、人が集まった事による熱気なのかはわからないけれど、それなりに過ごしやすい室温に
保たれていた建物から一歩外に出るなり、身体を包み込んでくる季節相応の冷たい空気に
彼らは揃ってぶるりと身を震わせた。
3連休の最終日の、しかも夕方にも関わらず。建物…ラフォーレ原宿の周辺は流行のファッションに身を包んだ
多くの若者達でにぎわっていて。
そんな中で30代の半ばという彼らの姿は、表参道を職場とするビジネスマンのようなスーツ姿でもない事も
手伝って、多少違和感もあるかも知れないけれど。
それぞれ程度の差こそあれ、安堵の色を浮かべた彼らにはそんな事など気にならないようだった。
何せ、彼らはこの建物の最上階のホールで今もなお行われているM-1グランプリの2回戦を戦い終えたばかりなのだから。
「しっかし、まぁ、ねぇ。どうなる事かと思いましたよ。」
一緒に、というよりも行き先が同じだから仕方なく、といった案配で原宿駅の方へ歩き出しながら、
焦げ茶めいた茶髪の方の男が傍らの黒髪の男へと話しかける。
「ネタはちょこっと被るし誰かさんは台詞トチるし。」
『さべけ』って何なんですか…ま、ウケてたんで結果オーライですけど。
本来なら『叫べ』と言うべき箇所で発せられた謎の単語を持ち出して、からかうような弾む口調で告げる
茶髪の男に対し、黒髪の男の表情は自然と憮然とした物になる。
「…言っとくけど、お前だって、細かいトコ、色々アレだったからね。」
辛うじてそう言い返す黒髪の男の子供っぽい対抗意識に、茶髪の男は軽やかに笑ってみせて。
「ここからが正念場ですからね…去年みたいに噛み噛みにならへんよう、次はお願いしますよ。」
まだエントリーされた全組のネタが終わっていないため、結果はわからないけれど。
間違いなく3回戦には進めただろう、という確信が故にそう言葉を紡ぎ、手のひらで黒髪の男の背をぽむぽむと叩く。
そういえば去年の3回戦のネタ中で、緊張のあまりに台詞を噛み倒した末に、自ら緊張していると
自己申告した事もあっただろうか。
忘れようとしていた記憶が無理矢理引き出され、更に不機嫌そうな表情になる黒髪の男の背中で。
茶髪の男の手と、その手首に揺れるブレスレットにあしらわれた石が、パッと淡い緑色の光を放った。
452
:
名無しさん
:2006/12/08(金) 03:07:19
「………っ!?」
光は茶髪の男の手のひらから黒髪の男の背中に伝わり、波紋が広がっては収縮していくかのように
瞬時に彼の全身を走ると、元の茶髪の男の手のひらへと戻っていく。
周囲には多くの人が行き来していたけれど、一瞬の出来事だったからか、それともまだ日が出ていて
明るいために緑色の光が目立たなかったからか、特にこの現象について驚かれたりされる事はなかったけども。
誰よりもまず茶髪の男自身が驚いたようで、元々大粒の目を一層丸く見開いた。
もっとも、緑色の発光に関しては、実は普段から見慣れている物だったために彼としても驚く事ではない。
ただ、光の発生源である彼のブレスレットの石……持ち主の意思に応じて不思議な力を発揮する石が
彼の意図しないタイミングで勝手に光った事。
もう一つ、彼の手のひらに黒髪の男の身体を駆けめぐった緑色の光が戻ってきた直後に、
ピリッという痺れを指先に感じた事。
……何なんだ、一体。
そう茶髪の男が内心で呟くのと同時に、軽く痺れを感じた指先から鈍い痛みが襲い来て。
頭をどこかにぶつけでもしたかのような衝撃に思わず息が詰まり、男はその場に立ち止まった。
「くっ……。」
不思議な力を持つ石は、それぞれの力を発揮する事に何かしらの代償をもたらす物であるが、
彼の持つ石の場合は、触れて緑の光を走らせた相手に自分の出す指示…願いに従うよう促す事が出来る力に対して
その代償は、指示の実行の妨げになる相手の疲労や傷の痛みを指示の難易度に応じて引き受けてしまう事。
それを考えれば、光が発されて茶髪の男が痛みに襲われるのは、一連の正しい流れかも知れないけども。
これだけ露骨な痛みは、石を持つ者同士の戦いで傷ついた相手に、起きあがるよう促した時のそれに等しくて。
「一体…何やったんやろ。緊張が解けて誤作動してもーたンやろか。」
何とか痛みのピークを耐え抜き、男はぼそりと呟きを漏らす。
今はM-1という戦いの最中にあるけども、それは痛みとは無縁の戦いの筈で。
そして彼が相手に投げかけた言葉に指示にあたる言葉があったとしても、それは重い代償に値するほど
難しい内容ではなかった筈。
「……………。」
幾つか脳裏に浮かぶ疑問を投げかけたくとも、先を歩く黒髪の男の背中はいつの間にか人混みに紛れて
どこにも見つけられなくなっていて。
とはいえ完全に引ききらない痛みのせいでわざわざ捜そうという意欲も起こらず、茶髪の男ははぁ…とため息をついた。
後でそれとなく聞いてみればいいか。
結果、そんな結論に辿り着いてふらふらと再び歩き出す茶髪の男の手首では。
ブレスレットにあしらわれた石が、どこか悲鳴にも似た光の瞬きを繰り返していた。
それはまだ、11月の初めの事。
453
:
名無しさん
:2006/12/08(金) 16:25:07
乙です。
454
:
名無しさん
:2006/12/08(金) 23:07:24
乙です。
これはもしや…
455
:
名無しさん
:2006/12/08(金) 23:36:25
お〜、新作乙です!タイムリーで意味深っぽいタイトルが良い。
456
:
名無しさん
:2006/12/09(土) 16:05:26
乙です。
457
:
451-452
:2006/12/09(土) 18:02:36
>>453-456
レスありがとうございます。
お察しの通りの彼らで、石の力は能力スレの方の物を使わせていただきました。
改めて見返してみると文章が所々変ですね;
すみません。ありがとうございました。
458
:
名無しさん
:2007/01/29(月) 00:57:11
「ぐぅっ!」
普段は非力なくせに、みぞおちにくらった蹴りが想像以上に重い。
その勢いで壁に叩きつけられるなんて本来なら絶対にありえない。
「はははっ!いつまで抵抗続けるん?さっさと石渡したら楽になれるで」
蹴りをくらわせた張本人、その長身を白の上下に身を包んだ俺の相方は
泣き出しそうな顔をして笑っている。
知っとるよ、それが本来のお前やないって事を
俺がガキみたいな好奇心で白と黒の戦いに首を突っ込んで
その結果お前が黒い欠片に飲み込まれてしまった。
ならばいっそ黒に入ろうかとも思ったけれど
それは永遠に黒の欠片に相方が囚われ続ける事になる。
ただでさえ虚弱なくせに黒い欠片はその体をさらに蝕んでいくだろう…最悪の場合は死。
「石田ぁぁぁっ!!」
握り締める石が熱くなって黄色い光を放つ。
「今すぐ助けたるから待っとけよ!」
石田の手の中にある白い石がひどくくすんでいたはずなのに
放つ光が本来の色を取り戻そうとしている。
あいつも戦ってるんや。
俺相手やなく自分の中で…
全部俺のせいだから、そういう風に言う事はおこがましいのかもしれないけれど
ピンチの時にやってくるのがヒーローやから
窮地の時ほど力を発揮するのがヒーローやから
「正義の味方、ここに参上」
能力スレ532です。
こんな感じでノンスタ編を考えてました。
時間があればもっときちんとした物を書き上げたいです。
459
:
名無しさん
:2007/02/10(土) 03:42:49
遅ればせながら ◆2dC8hbcvNA様、ぜひとも430−442の話は本スレに投下していただきたいです。
名無しに戻られるのはもったいない。
もうすでに、私の中では設楽の過去はこれがデフォになってしまった。
ぜひとも小林視点の方ともあわせて、投下願います。是非に。
460
:
名無しさん
:2007/04/07(土) 06:45:30
ノンスタイル話投下であります。
>>458
氏の作品と思いっきり矛盾しますが……。
井上、が黒い存在に立っていると、本人自身からの砂のような呆気ないカミングアウトによって知った。スーツの色と同じような色だからという考えなしの理由からだというが、もっともそれは強がりで、芸人間でまことしやかに噂される黒い欠片の汚染、と依存からくるなしくずしさなのかもしれないが。大事そうにまごまごと攫んでいた黄色い石も、その彼の源なるものらしい。「力を見せて」と石田は言ったが、井上に飛び跳ねられて終わりだった。
それを聞いた昨日、何か引き寄せられるように石田もへんな石を拾ってしまった。つまりが、争いは石田をも巻き込むつもりらしい。
「……このこと考えるのやめよ」
石田は一言つぶやいて、思考をバラバラと薄いプラに分解させ停止させた。いつ起こるとも知れぬ争いよりも、目先の仕事だ。今日は共々東京へ来ており、井上ももうすぐこの楽屋に到着するはずだ。石田は最近買ってバッグに常駐させている文庫本を探り、栞を抜き取ったページから読み始めた。
「……あれ? このページ読んだ、っけ……? 読んでないっけ……」
初読なので如何とも言いがたい。石田はおとなしくそのページから、黙々と字面を見つめ始めた。
「イッシダー」
「うわぁ!」
本を少し読み始めて突然背後から声がし、それがすぐに井上のものだとは理解したが、反射的な声は止まらずこれほどの反応を見越していなかった井上の肩が跳ねた。
「びっくりしたー!」
「う、うわー、何なん、俺のほうがびっくりしてんけど」
後ろでびくつく井上。
「なんでやねん」
「お前が大声出すから……」
彼にとっては軽い嫌がらせだったらしい。思った以上におびえた反応をする井上に、石田がつぶやきのつもりの感嘆を吐き出した。
「物音立てんかったり昨日は飛び跳ねたり、天使みたいやなー! お前」
「……へんな喩え」
一瞬井上の表情がくすぶった、ような気がした。石田はそれに気づきながら、何か気分が悪いことを言ったのかだとか、何か気に入らない行動があったのかとかを思索していた。
ええい、直接聞くほうが。
「……どうしたん?」
「なんでもないけど、そんなこと聞く石田のほうがどうしたん?」
黙りこむ石田。続く少しの沈黙。
「あはは、石田くん」
井上が微笑んだ。
覇気のない発音と緩い笑顔を発した本人は目の前に在る。
彼が黒い立場に存在すると知った所で、石田にとっての井上は警戒すべき人物でもあるが、それでも今暢気の極みを向け語り返る井上のすべてを、全て否定することはできなかったのだ。
井上――彼は問いかけを繰り返す。それは世界の無邪気を孕んだように、それはすべての情愛をもってしているような。未だ邪気を見せない微笑、黒い欠片よりも、一四年の情愛が勝つと信じて。
ああ、考えないつもりだったのに。そう思いながら石田は、力んで発声した。
「井う……」
そしてそれは遮られた。それは遮られた。
それは遮られた。
「石ちょおだい」
声全て発する前に、先ほどと一ミリも狂わない無邪気な声で封じられた。それは石田にとって今一番恐ろしい言葉を伴って。思えば天使のようと石田自身が比ゆしたそれも、伏線だったのか、この状況となっては井上本人に聞けることでもないが、それよりも暫く時間が止まって欲しい。……真面目な判断力が追いつかない。
その願いかなわず、判断するまもなく紛れもなく突きつけられた真実……井上から石田への敵意……に、ただ井上のむき出しの敵意に、今現在もその幼馴染を敵として見つめられないまま、石田は心身ともに静かに後ずさるしか術はなかった。
――背中をくすぐられるような寒気がしたのは身体の調子のせいであって欲しい。
461
:
名無しさん
:2007/04/07(土) 06:46:07
すみません、sage忘れてた……
462
:
名無しさん
:2007/04/16(月) 23:35:28
<<460おお、けっこう良いと思います!
463
:
名無しさん
:2007/06/16(土) 09:16:08
age
464
:
添削スレ561
:2007/08/22(水) 02:29:21
添削スレ561からの続き。
まだ麒麟を使用中の書き手さんがいるのと、今の状況で本編として続けていいものか微妙だったので、これは番外編乃至パラレルとして受け取っていただければ幸いです。
黒の上層部が関わってくるので、そりゃ困るという方、不快に思った方はコメください。
465
:
名無しさん
:2007/08/22(水) 02:32:50
添削スレ>561から続いております。
朝からの局での打ち合わせが終わり、やれやれと首を回す。正面口の自動ドアを抜けて携帯電話の画面を見るともう18時を過ぎたころだった。
隣りにいたタクシー好きの相方は、局を出るなり片手を上げて、滑るように入ってきた緑の車両にさっさと乗り込んでいった。
ほんまにタクシー好きやな…控える気ないんか、と少し呆れていると、タクシーの窓が空いて茶色い顔がこっちを見ていた。
「駅までやろ、川島も乗ってけば」
「いや、俺はいい」
「なんやねん、せっかく奢ったろうと思った…っておーい」
ぶつぶつ呟く田村を無視して、俺はさっさと歩き出していた。
この時間にもなると、昼のようなキツい暑さはなく、多少は涼しい風が吹いている。歩いて駅まで行くぐらいなら、きっとちょうどいい気温だろう。
そんなことをぼんやり考えていた俺の横を、田村を乗せたタクシーが通り抜けていった。
すれ違う瞬間、ちらりと田村と目が合う。「お先に」とでも言わん許りに、にやにやとした表情。
このスティックパンめ、と遠ざかっていく車に憎々しげに呟いた。涼しい車内で寛いでるだろうその相手に届くはずのないことを知りながら。
466
:
名無しさん
:2007/08/22(水) 02:33:43
沈みかけた太陽が作り出す長い影が足下に広がっている。
タクシーが見えなくなって、やっと歩きだそうとした。しかし自分の足が、自分自身の影の上にあることに気付き、少しだけ動きを止める。
石は光ってはおらず、力が発動してるわけがないのだから、何の問題もない。だが、いつも気になってしまう。
自分の影をぐりぐりと踏み付ける。痛くともなんともない。
そうしていると、小さい頃によく「影踏み鬼」をやったのを思い出した。
タッチすることで鬼がかわる鬼ごっことは違って、影を踏んで相手を捕まえる遊び。
…今やったら、影踏んだ瞬間に影の中にめり込んでしまうかもしれんなぁ。
我ながら馬鹿な考えだと思う。ちょっとだけ笑って、ここが人通りの多い道だったことを思い出して、慌てて口を結んだ。
日はもうすぐ沈もうとしている。
影は長く長く伸び、何も言わずに着いてきていた。
467
:
名無しさん
:2007/08/22(水) 02:34:38
すいませんsage忘れましたorz
携帯からの投稿ですのでお許しください…。
468
:
名無しさん
:2007/08/23(木) 00:25:54
期待
469
:
◆wftYYG5GqE
:2007/08/24(金) 06:22:48
こんにちは。ちょっと投下しに来ました。
靖史が黒に入った経緯の話です。
――black brother――
「ん?」
ある朝、靖史は、リビングのテーブルの上にある二つの石に気付いた。
一方は茶色で光沢があり、もう一方はピンク色のものである。
妻や息子のものだろうかと思い、尋ねてみたが、二人は「知らない」と答えた。
では、この石は一体誰のものなのだろうか。妙に気になり出した。
「……」
靖史は、ほとんど無意識に、その二つの石をポケットに入れた。
470
:
◆wftYYG5GqE
:2007/08/24(金) 06:23:08
その後靖史は、レギュラー番組の収録へと向かった。
収録は、特に何事も無く、いつも通りに行われた。
収録後、靖史はトイレで手を洗っていた。
靖史は、ふと、今朝家から持ってきた二つの石の事を思い出した。
なかなか綺麗な石だから、今度仲の良い芸人と遊んだときにでも見せてみようか…。
そう考えていたその時であった。
いきなり、目の前の鏡に映っていた靖史の顔が歪み出し、
その代わりに、今しがた彼が考えていた芸人の姿が映し出されたのである。
彼がいる場所までは分からなかったが、どうやらネタを披露しているようだった。
(何やこれ!? どないなっとるん?)
その直後、靖史は、石を入れたポケットが妙に熱い事に気付いた。
ポケットから二つの石を取り出してみると、茶色の石の方が、光と熱を帯びていた。
そして靖史は、今の光景が、この石の仕業であるという事を直感的に感じた。
(この石…めっちゃ面白いやん!)
翌日、靖史は自分の石の使い方をだいたい把握していた。
どうやら、靖史が様子が見たいと思った人物を、鏡に映し出すものらしかった。
他にも色々調べ、その力を持った茶色い石は「ブロンザイト」、
もう一方のピンク色の石は「チューライト」という名前である事も分かった。
ひょっとしたら、チューライトも、何かの力を秘めているのかもしれない。
靖史はそう考えたが、何故かチューライトが熱を帯びたり光ったりする事は無かった。
471
:
◆wftYYG5GqE
:2007/08/24(金) 06:23:28
その日の晩、靖史が近所のコンビニで買い物を終え、コンビニを出た直後の事である。
「千原兄弟の靖史さんですね? ちょっと話があるんで、そこまで来て貰えませんか?」
いきなり靖史の前に一人の若い男が現れ、彼に話しかけてきた。
靖史は反論をする間も無く、男に強引に腕を引っ張られ、人気の無い路地裏まで連れてこられた。
そこまで行くと男は、ようやく靖史を解放した。
「いきなり何すんねん!」
靖史は怒りをあらわにしたが、男は飄々とした様子であった。
「靖史さん石持ってますよね。僕に下さい」
男がそう話したが、靖史は訳が分からなくなり、叫んだ。
「はあ!? 何でやねん!」
「…渡さないなら、無理にでも奪いますよ!」
すると、男の右手の爪が急速に伸び出し、猫の爪のようになった。
「これ、僕の石の力なんです」
そしてそのまま、男は、靖史のほうへ突進してきた。
(…あれで引っ掻かれたらめっちゃ痛いやんけ!)
靖史は身の危険を感じすぐさま逃げ出した。
しかし、相手の男とは年齢的にも体力的にもだいぶ差がついているように思う。追いつかれるのは時間の問題であった。
応戦しようかとも考えたが、ブロンザイトではどう考えても戦う事はできない。
――精神を集中させろ!
不意に、靖史の耳にそのような声が届いた。
「誰やねん!?」
靖史は驚いて立ち止まり、辺りを見回した。相手の男も靖史の声に驚き、思わず立ち止まった。
――いいから!
靖史は、謎の声の言われるがままに、その場で精神を集中させた。
男はチャンスだとばかりに、右手を振り上げ、靖史を引っ掻こうとした。
しかし靖史は男の爪の猛攻を器用にかわし続けた。そして一瞬の隙を突いて男の胸ぐらを掴み、彼を投げ飛ばした。
もちろん、普段の靖史に、このような事ができるはずが無い。
今のは、完全に靖史の石――チューライトの力であった。
472
:
◆wftYYG5GqE
:2007/08/24(金) 06:23:55
「…くそっ。このまま帰るわけにはいかないんだ」
男は投げ飛ばされたにも関わらず、まだ靖史と戦おうとしていた。
その時、靖史の目の前に緑色のゲートが出現し、中から一人の人物が現れた。
その人物は、靖史が以前ある番組で共演した事のある芸人であった。
突如現れた芸人は、男に対し「もうそれぐらいにしておけ」と言い、その後少し言葉を交わした。
すると男は、諦めたように、しぶしぶ帰っていった。
「大丈夫でしたか?」
その芸人――土田晃之が靖史に話しかけてきた。
「…何がどうなっとるん?」
靖史は、ますます意味が分からなくなってしまった。
「今のも、お前の石の力なんか?
…そもそも、石って何なん? さっきのヤツも狙っとったし」
「じゃあ、簡単に話しますね」と、土田による石の説明が始まった。
今、芸人たちの間で、不思議な力を持った石が広まっているという事。
その石を巡って、「白いユニット」と「黒いユニット」が争っているという事。
さっき靖史を襲った男は、黒いユニットであるという事。
彼にとっては初仕事だったらしいが、さすがに無茶をし過ぎだと感じ、土田が様子を見に行ったという事。
靖史は、ある事に気付いた。
「様子見に行ったって、それって…」
「そうです。俺も黒ユニットなんです」
土田は、あっさりと肯定した。
「それでなんですが、靖史さん……黒に、入りませんか?」
473
:
◆wftYYG5GqE
:2007/08/24(金) 06:24:16
土田からのいきなりの問いかけに、靖史は少し戸惑った。
「えーと…何で?」
「まあ、できる限り黒の勢力を広めておきたいからですね」
「でも、黒に入るっちゅう事は、白と戦わなあかんって事やろ? 何か面倒臭そうや」
「全員、先陣を切って戦うってわけではないですよ。補助系の能力持ったヤツとかもいますし。
黒側から襲撃される事はもちろん無くなりますし、むしろ楽になります」
靖史は、また少し考え込んだ。
「…もし、断る、って言うたら?」
「…早い話、ジュニアさんに何らかの危害が及ぶでしょうね。
例えば…もう二度と舞台に立てなくなるような事になるとか」
それを聞いた瞬間、靖史の顔が引きつった。
土田は冗談を言っている顔ではない。本気だ。
「…まさか、弟人質に取られるとは思わんかったわ」
「すいませんね。これも、黒のやり方なんで…」
「分かった。…黒に、入るわ」
靖史は、観念したように言った。
474
:
◆wftYYG5GqE
:2007/08/24(金) 06:24:59
「ところで、あいつの事は…」
「ジュニアさんも黒に引き入れたいってのが本音なんですが…。
靖史さんの好きにしてかまいませんよ。ジュニアさんを黒から遠ざけさす事もできますし」
それじゃあ失礼します、と言って土田は、赤いゲートの向こう側に消えていった。
路地裏は、靖史一人だけとなった。
(何かよう分からん事になってもうたけど…まあ、しゃーないか)
今更後戻りはできないため、靖史はそう割り切る事にした。
そして彼は、黒ユニットとは別の事を考え始めた。浩史の事である。
土田は、浩史を黒から遠ざける事もできると言っていたが、
そうするのは何となくだが違う気がする。
どうせなら、浩史も石の争いに思い切り巻き込んでしまおう。
浩史に石を渡して…いや、『貸して』、どこまで戦えるのかを見るのも悪くない。
我ながら酷な事をすると思う。それでも。
「…あいつなら上手い事やりよるやろ」
靖史は、ぽつりと呟いた。
それから二日後。
靖史は、仕事先の楽屋から人がいなくなった隙に、浩史の鞄にチューライトを忍び込ませる事となる。
475
:
◆wftYYG5GqE
:2007/08/24(金) 06:25:17
*****
「何やこれ?」
仕事先から帰ってきた浩史は、自分の鞄に一つの石が入っている事に気付いた。
浩史はそれを掌の上に乗せ、まじまじと見つめた。石は綺麗なピンク色をしている。
ここで彼は、ふと思い出した。
最近、近辺の芸人の間で囁かれている、不思議な石の話。
自分のような中堅芸人には、絶対に回ってくるはずは無い。そう思い込んでいた。
「…まさか、な」
掌にあった石が、浩史の意思にもかかわらず光りだした。
それは、これから避けられないであろう戦いを予感させるようだった。
476
:
◆wftYYG5GqE
:2007/08/24(金) 06:25:41
以上です。
靖史を襲った男
石:未定
能力:爪を伸ばし、相手を引っ掻いて攻撃する事ができる。
条件:一回に片方の手の爪しか伸ばせない。
使い終わった後は、爪を伸ばしたほうの手がつる。
ちなみに、本スレの「千原兄弟短編」より1ヶ月ほど前の話です。
黒幹部が登場する、靖史と土田の口調が分からないなどの理由から、こちらに落とさせて頂きました。
477
:
名無しさん
:2007/08/26(日) 23:58:44
>>464
文章に引き込まれた。展開が楽しみだ。
478
:
名無しさん
:2007/09/04(火) 14:47:08
>464-465続き
無意識のうちに、人通りの少ない道を選んで歩いていた。
局を出てからだいぶ時間が経っているが、まだ駅には着きそうにない。田村の言う通りタクシーに乗るべきだったか…、そんな考えがちらりと頭をかすめ、少し悔しい気持ちになった。
高い建物の間から見えていた夕日はもうとっくに沈んでしまっていた。
これでまた一日が終わる。
感傷的な気分とはまた違った不思議な充足感に、しばらく酔っていたかった。
479
:
名無しさん
:2007/09/04(火) 14:49:50
しかしそれは懐に起こった違和感に書き消された。
立ち止まって胸ポケットに手を入れると堅く冷たい感触が伝わってくる。黒水晶だ。
取り出すと、暗く静かな光が発せられていた。それは、他の石の存在が近いことを示している。
と同時に、ざわり、と得体の知れない感覚が身体に走った。ここまで強い力を感じたのは初めてに近い。
短く息を吐いて、石をまた同じ場所にしまう。
「麒麟の川島明」
不意に知らない声が自分の名前を呼んだ。弾かれたように振り向くと、ビルの非常階段、地上と2階をつなぐあたりの踊り場に男が立っている。
「麒麟の川島明君だね」
改めて名を呼んでくる男は、白いシャツに白いズボンという白づくめの格好をしていた。
こちらを見つめているその目は鋭く研ぎ澄まされているが、わずかに曇っているように見えるのは気のせいだろうか。
その顔には見覚えがあった。しかし名前が出てこずに、少し考える。
「…ラーメンズの、」
480
:
名無しさん
:2007/09/04(火) 14:51:44
思い出した。
正月の特番の時に、もじゃもじゃの髪の男が画面に映り、みんながその名前を連呼して話題にあがっていた。確かその相方だったはずだ。
ラーメンズはテレビに出ることはほとんどなく、大半は単独ライブのみで活動している。と記憶していた。だからこそ自分達との接点はない。
しかし今や彼は、芸人達の間で違う分野で有名になりつつあった。
その内容は、彼が黒、しかもだいぶ上位の位置にいるらしいということ。
「そう、ラーメンズのもじゃもじゃじゃない方。小林です」
おどけるわけでもなく、あくまで淡々と小林は話す。その口振りには余裕すら感じられ、嫌な汗が背中を伝った。
「何の用ですか」
そう言いつつ、さりげなく自分の足下を見た。充分な大きさの影があるのを確認して、そっと服の上から黒水晶に触れる。
「黒に来てもらいたい」
小林の言葉に、全身の血の気が引くのを感じた。
初めて聞く言葉ではない。襲撃してきた若手の芸人達(その半分ほどは操られていたが)から散々聞かされた言葉だ。
しかし今回は意味合いが違う。黒の、しかも「上」から改めて聞かされる言葉。
「…嫌です」
「そう言うと思ってた」
小林はちらと手元に目線を落とし、
「いや、そう言うとわかっていた」
と言い直した。
481
:
名無しさん
:2007/09/04(火) 14:55:29
―どうする、
読点の後は続かない。小林の能力が不明であるうちは、迂闊な行動を取れない。
「残念だけど、嫌だと言うなら、別の方法をとらなくてはいけない」
どんな方法かは、聞かずともわかっていた。少し高い位置の小林を睨み付け身構える。
それに対し小林は少し笑って言った。
「悪いけど、戦うのは僕じゃないんだ」
「川島、俺らやー」
背後から間延びした声がした。それが聞き覚えのある声であることを信じたくはなかった。
ゆっくりと振り返る。目に入る特徴的な姿が、見慣れたものであることを信じたくはなかった。
「哲夫さん…西田さん」
絶望とともに呟いた名前に、笑い飯の二人は律義にも頷いた。
信じざるをえなかった。
482
:
名無しさん
:2007/09/04(火) 15:00:10
以上です。廃棄スレということもあってだいぶ好き勝手やらせてもらっています。
何か間違いなどあったら教えていただけると幸いです。
早速間違いですが、>464-465じゃなくて>465-466が正しいですね。すみませんorz
>468さん、>477さん
どうもありがとうございます。これからもお付き合いいただけると幸いです。
483
:
名無しさん
:2007/09/06(木) 23:11:17
パラレルにしておくのがもったいないくらい面白いです
期待大
484
:
◆fO.ptHBC8M
:2007/09/07(金) 23:00:18
黒の幹部で書いてみたので投下。
**************
場所は都内。
若者の集まる街、渋谷。その一角にあるビルの地下へ小林は足を踏み入れた。
時間は既に午前3時を回ろうとしている。
地下に続く階段は進んでいく程に息苦しさを覚えるが果たして、実際に空調の関係で酸素が不足しているのを感じたからなのか、それとも地下に対するイメージからなのかは分からない。
しかし階段の先に現れた重厚な作りの扉を開いた瞬間、確かに小林は目の前の男に言い知れぬ空気を感じ取った。
「遅かったね『シナリオライター』」
男の名は設楽 統。
今や巨大な『黒』の中心人物、その人。
「この場所に来るのは…初めてですから」
「それは申し訳ない。まぁ、その辺に座りなよ」
シナリオライターと呼ばれた男…小林は近くにあった椅子に座ると踏み入れた地下室を見回した。
二つ三つ照明があるだけの薄暗い室内。少ない明かりのせいで広いのか狭いのか判別出来ないがバーカウンターとダーツボードが何台か見られる辺りダーツバーだったのだろうか。
内装は床、壁、テーブルや椅子に至るまで全て黒に統一されている。
まるでそれ以外の色を拒むかのような徹底ぶりは他の色を嫌悪しているのではなく、むしろ、恐怖を―「良い場所だろ?いつもの料亭も悪くはないけど」
余計な詮索をするなとばかりに設楽が問う。その表情は笑っているが視線は冷たい。
「えぇ、こういう場所も嫌いではないですよ」
「そりゃあ良かった」
小林の言葉に満足したのか設楽は大袈裟に喜ぶ仕草を見せると店内(この場合、店と呼んで良いかは分からないが)に置かれた中で一際目立つ、場違いを主張したかのような黒革の椅子に腰を下ろした。
横には唯一の白も使われているチェスボードが置かれたテーブル。
チェスは設楽が一人でやっているのか白と黒の騎士を形どられた駒が交戦していた。
しかし、ルールが分かる者なら首を傾げる戦いだろう。駒は明らかに黒が多く、失えば勝敗のつく白の『キング』の駒が既に基盤の外へ放り出されている。
一つ小さな溜息を吐くと設楽はキングに手を伸ばした。
それを指で転がし玩ぶと小林を見ずに口を開く。
「『彼』を仲間に引き込みたいんだ」
数秒、設楽の言葉に茫然としていた小林だったが意図を理解したのか驚愕の表情へと変わる。
「それは…失敗すればこちらの被害を、失う力の多くを、分かってのことですよね?」
「もちろん何も計画せずに行動するほど頭は悪くないつもりだよ」
「しかし…今はまだ確実な人員の確保を先行することに決めたばかりじゃないですか」
「そう、熱くなるなよ」
設楽のソーダライトが軽く光を帯びる。
「このチェスボードの意味が分かるだろ?『時期』は近付いている…ここで『彼』が手に入ればもう勝負はついたも同然だ」
必死に『説得』を拒否しようと小林が力強く首を左右に降る。
「確かに『時期』は近付いているかもしれない…でも、そんなことは…」
「無駄とでも?」
「……貴方は焦っているだけだ」
「……………」
設楽の顔が一瞬歪んだのを小林は見逃さなかった。
「結果を早急に求めすぎることのリスクが高いことも頭の良い貴方なら分かるでしょう?」
「……………」
数秒の沈黙が流れる。
設楽のこの命令に、しかも石を使い『説得』までしようとしたやり方に納得出来なかった。
そして、ここまでさせる焦燥の原因を小林は分かっていた。
「相方の…ことですね」
「……………」
また数秒の沈黙。
しかし、すぐにクスクスと笑い出したのは設楽だった。
そして「君には負けるよ」と視線を空に浮かせ呟くと、石の光も消えた。
485
:
◆fO.ptHBC8M
:2007/09/07(金) 23:11:16
戦いが激化していけば幾ら上の人間が圧力をかけた所で限界があった。
どれだけ思考を駆使し、良い『シナリオ』を書いて『説得』したところで完璧など無いのだ。
それは小林の相方である片桐に、小林が『黒』であることがバレたことからも安易に想像できる。
菊池の行動が予想範囲外だったことからしてもそうだ。
それ故に、設楽は多少の焦りを覚えてしまっている。そこから導き出された結論が良い物であるはずがない。
重い空気が室内に充満する。
そのとき、
「話し中に悪いな」
突然、現れた3人目に二人が視線を移す。
緑のゲートから現れた男は設楽と小林を確認すると小さい笑みを浮かべた。
「お前らの言い争いなんて珍しいな」
許可も得ずにどっかりと椅子に腰を下ろす男はやはり心なしか楽しそうに見える。
「覗いてたんですか?」
小林が苦笑いしながら訪ねると男は首を横に降る。
「どうにも長いこと『コイツ』と仲良くすると石の呼応がどんな感情から来てるかぐらいは分かっちまうみたいだ」
『コイツ』と呼ばれたそれも主人の意思を尊重するかのように淡く光る。
「それで?何を揉めてたんだよ」
男は煙草に火をつけると中途半端な興味を向けた。
「『彼』を仲間にしたいそうですよ」
「なんだ『彼』って?」
小林の視線の先には設楽の姿。男もそれをなぞり設楽へ視線を向ける。
「――――だよ」
低く篭った設楽の声が響いた。
闇の中でさえ存在を主張するかのようなブラックパールを手に男…土田はその名に苦い顔をする。
「確かに仲間に入れば強いな…今は…あの石も…アイツが所有している可能性が高いし…」
「だろ?シナリオライターには納得してもらえなかったんだが」
「悪いなプロデューサー…俺もシナリオライターと同じ意見だ」
予想を反した答えに設楽が驚く。
その顔は小さな子供が親に置いて行かれたような寂しく儚いもの。
しかしすぐに『黒』の顔へと戻る。眉間に皺を寄せ、普段の冷静さを欠いているのは一目で判断できた。
「…理由は?」
それでも幹部としての利己心から決して怒鳴りはせずに問う設楽。
そんな静かに苛立つ感情を直接受けても変わらず土田は続ける。
「他の芸人とは違うんだよ…お前の『説得』もアイツには効かない」
「まだ彼に『説得』をしていないのにか?」
「アイツはそういう奴だ。下手に力で強要したところで無駄骨になるっつてんだよ」
「何を根拠に」
「反発心」
そんな事も分からねぇのかと言いたげな土田にとうとう設楽も苦い顔をする。
「…確かに、強い拒絶は『説得』を跳ね返し、逆に『白』への誘導へと繋がる」
黙っていた小林も口を開いた。
二人から攻められる形になってしまった設楽は表情を歪めたまま。
らしくねぇと土田は舌打ち続きに吐き捨てた。
「説教臭くなるから言いたくねぇけど、あんまり自分達の力に驕るな」
吸っていた煙草を床に放り投げ、それを強く踏みゲートへと消えていく。
「足元すくわれるぞ」
その一言だけを二人に残して。
486
:
◆fO.ptHBC8M
:2007/09/07(金) 23:12:46
そんな『事件』があってから数日後。
太陽が高い位置で輝く。
事務所にある会議室ではバナナマンの二人がライヴのネタについて話し合っていた。
「設楽さん、このネタなんだけど」
「…あのさぁ」
「ん?何?」
「………………」
いつもの二人。いつもの会話。
「どうしたんだよ?」
「……もしかして」
「うん」
「太った?」
「…………はぁー!?なんだよっ!?なんか深刻な相談かと思ってドキドキしちゃっただろっ!」
「ドキドキしちゃったんだ」
「しちゃったよ!」
またドッキリでも仕掛けられたのかと思ったと愚痴る相方につい笑みがこぼれる。
「ワリィ、ワリィ。気になっちゃって」
「設楽さんがそんなこと言ってくるなんてスゲェ怪しい!カメラあんの!?」
キョロキョロあるはずのないカメラを探す日村をケラケラ笑いながら見ていたが、携帯の震動に気付いて着信相手を確認する。
「…………」
「ヤベェ!全部カメラに見えて来た!」
「日村さん」
「なっ、何!?」
「ちょっとコーヒー買ってきてよ」
「はぁ!?」
「お願い」
設楽の真剣な眼差しに渋々、日村が席を立つ。
ブツブツと文句を言いながらも部屋を出ていく日村にお礼を言うと携帯をそっと取り出した。
しかし、かけ直す様子はなく小さく呟くのだった。
「…ごめんな」
その声を言葉を表情を、誰が知ることなど出来ただろうか?
―戦いは、まだ、終わらない。
*************
廃棄スレってことでかなり自由にやってしまった(´・ω・)スマソ
反省はしてる
書く前に今までの小説とここのスレ全部読んだんだが今回落とした中で勝手に作った部分(3人がいたバーや話していた『時期』のこと、仲間にしたい『彼』、土田が言っていた「どんな感情で石が呼応しているか分かる」等)はスルーしてくれ
っていうより、他の書き手と一切相談無しで書いた物だから話自体をスルーで
ここまで読んでくれたネ申ありがとう。読み手に戻るわ
487
:
名無しさん
:2007/09/08(土) 07:53:19
>>486
おもしろかった!乙
「黒幹部の設楽」と「バナナマンの設楽」とか、うまいなーと思った
雰囲気もカコイイし、廃棄するには勿体ない気がするな
488
:
名無しさん
:2007/09/08(土) 09:23:43
>486
面白かったよー。
2対1の構図が意外だった。
仁さんにばれたことが回りまわって、菊地さんと小林さんっていうかラーメンズ?が
一戦交える結果を招いたわけだが、設楽さんは、黒同士の対立で
黒vs白の構図じゃなくなってしまいそうなのを避けたいのかな。
廃棄が勿体ないのは同意。
489
:
◆fO.ptHBC8M
:2007/09/10(月) 13:22:20
>>487
、
>>488
ありがとう
流石に流れ無視しすぎてるから本スレ投下して良いものか…
ただ、いくつか構想が思い浮かんだから完璧な番外編になるけど、
別視点の黒内部とかラー・片桐編とか君の席メンバー編、書けたら廃棄に落とすよ
490
:
名無しさん
:2007/09/13(木) 01:01:31
agr
491
:
名無しさん
:2007/09/23(日) 22:33:25
小説の中に歌詞の一節を入れても大丈夫?
もちろんちゃんと分かるようにして、何の歌詞かは小説の最後に書こうと思うんだが…
492
:
名無しさん
:2007/09/28(金) 23:32:53
>>491
個人的にはいいと思うよ。
493
:
−19歳
:2007/10/01(月) 01:12:45
「あなたに憧れていました」
そういって握手を求めるように手を出してきたのは見も知らぬ男だった。
ジュニアをためらわせたのは突然楽屋に知らない人間が入ってきたという現在の状況ではない。
まるで心酔するような、何か天の上を見るような信者のそれに似た輝きを
その男の瞳の中に感じたからだった。
・・・・帽子を目深に被り、白いシャツにGパンというどこにでもいるいでたちの
少しばかり細い、まだ歳若い男・・・
一歩引く。
ルミネの壁は薄い、叫べば必ず誰かに届く、
今でさえ、舞台の歓声はどよめきと振動をもって伝わってくる。
壁を隔てた、舞台と言う名の別世界から。
「逃げないでください」
絞り出すような声
「あなたに憧れていました
あなたのようになりたいと」
わぁっと言う歓声と拍手が津波のように響く
男の差し出された手の中には白い石。
とたんに爆発のような閃光。
それから後の事は
何も覚えていないと後々ジュニアは話した。
ドン、とぶつかった人がいた。
うつむき加減に歩いていた庄司は、その勢いに軽く跳ね飛ばされたが
ぶつかった男は振り返る様子も無く急ぎ足でルミネの外へと歩いていく
?失礼な奴だな。とは思ったが、元来物事を気にする性格ではない
楽屋の方にあるいていくと、そこには何故だか数人のひとだかり。
そのなかに見知った人間の後ろ頭を見つけた、ヒデさんだ。
「どうしたんですか?」
声を掛けると、少しおかしいような、信じられないというような、微妙な表情をしたまま振り返った
「おお、庄司おはよう」
「おはようございます、何か事故ですか?」
「いや、実はよくわからないんだが・・・」
ほら、と促されるように中を見ろというようなそぶり。
見やると幾人の頭の向こうには開け放されたままの楽屋内、
しきりに何かを話しかけている靖史さんの背中と、
話しかけられている相手は・・・まだ中学生ぐらいの少年。
ふとした拍子に顔を上げたその面差しに思わず息を呑む。
眼も鼻も口もあまりにある人物に似すぎていて。
「ジュニアさん!」
思わず声を上げてしまい、周囲の人間が一斉に振り返る。
慌ててヒデがすみませんというように頭を下げて人だかりの中から庄司をひっぱりだした。
「靖史さんがトイレから帰ってきたら、ジュニアさんがいなくなってあの少年がいたらしい」
「はぁ・・・・ジュニアさんは?」
「館内放送をかけたけど出てこない。」
「・・・・・・・・・結局、何なんですか?俺意味がよく分からないんですけど」
「俺もよくわからない。でもそれが今分かってるすべてで・・・
奇妙なことにあの少年は自分の名前を・・」
とそこまでいいかけたところで、楽屋の方から何かを叩き割る音、と壁に何かがぶつかる派手な破壊音がした。
そして関西なまりの怒声
「だからさっきから言っとうやろうが!!!俺の名前は千原浩史じゃあ!!!!」
すると人ごみの中から弾丸のように飛び出してきたものがある。少年だ。
「待たんかい!!」という靖史の声。
少年は反射的に立ちふさがって止めようとした庄司ともろにぶつかり、縺れ合うようにすっころんだ。
背中をしたたか打ちながらよく人とぶつかる日だと庄司は思った。
「そのまま捕えろ庄司!!」
言われるがままに少年の腰に手を回して動きを封じ捕獲する。
じたばたと逃れようとしながら睨みあげてくるその顔は、正しく若い頃のジュニアで
叩かれたり蹴られたりしながら、庄司はまじまじとその顔を見つめた。
「本当にジュニアさん?」
小首をかしげながら庄司が尋ねる。
「ハァ?」
吐き捨てるような返事。
そのやりとりに思わずヒデが噴出した。
「おいおい庄司・・・いくらなんでも」
「歳は?」
もう一度庄司が尋ねた。真っ直ぐな目で。
見てくれより頑丈そうな男にたじろいだのか、少しだけ少年はおさまり、
それからぶっきらぼうに呟いた
「・・・・・14歳。」
494
:
−19歳
:2007/10/01(月) 02:13:44
「絶対ジュニアさんの隠し子だと思いましたね。」
閉館後、暗いモニター室でヒデは言った。
話しかけられたのを聞こえているのかいないのか、靖史はモニターから流れる映像を凝視していた。
画面の光が青く白く靖史の顔を照らしながら点滅する。
部屋に残っているのは五人。
警備員と靖史とヒデと庄司と自分は千原浩史と名乗る少年。
「だって年齢的にできないことはないでしょう?
きっとこの子が会いにきて
びっくりしてジュニアさん逃げちゃったのかなぁ。あっはっは
・・・・くらいに思ってましたよ
多分、今日帰らされた芸人もそう思ってると思います。ちょっと笑ってましたもん」
あの後、結局閉館時刻になってもジュニアは現れなかった。
連絡も一切無い。
靖司の判断の元、ジュニアは『急病』ということにして
何が起こったか、少年は何者なのかを興味深げに知りたが者たちに
「何も見なかったことにしてとりあえず帰れ」という無茶な一喝をし
無理矢理帰らせた。それが一時間前のこと。
庄司もどちらかというと帰りたかったが、
少年が暴れたときに取り押さえる者が必要という理由の元、そのまま居残り命を出されて現在に至る。
一人では心細いという庄司にヒデが補助を名乗り出たが、こちらはただの興味本位だ。
ことがどうやらそれだけではないということが分かったのは、本当に少し前のこと
「ジュニアさんは、ルミネには来られましたが、出て行っていません」
モニターをチェックし終わった警備員が言った一言だった。
思わず三人は首を傾げた。言っている意味が分からない。
だが警備員も、顔色が悪いばかりで上手く説明できないのか
とりあえずこれを見てくださいと、モニター室に三人+捕獲された少年を招きいれた。
そこでようやく自体の大きさを把握する。
事件が起きたと思われる時刻以降のどのモニターにも、ジュニアは映っていなかったのだ。
入り口や出口だけではない、楽屋を出たなら映らないはずはない
廊下、階段に至るまで、どこにも映っていないのである。
ジュニアが消えた。
まさかそんなはずはと目を皿のようにして、繰り返し繰り返しモニターを見る靖史。
何度見ても。自分が楽屋を出てトイレに行き、帰るまでの間・・・・
誰も楽屋から出ていない。
ただ、不思議なことに、見たことも無い男が部屋の中に入り、一分とたたないうちに部屋を出ている。
帽子を目深に被り、白いシャツとGパンをはいた青年・・・。
芸人ではない、芸人ならどんな若手でもすぐわかる。
「俺。こいつと入り口でぶつかりましたよ」
庄司が言った。靖史が振り返った。
「顔は?」
「見ましたけど、一瞬ですから・・・なんとも」
そしてその目線はそのまま庄司の隣に座っている少年に移る。
ガンとこちらを睨みつけるその姿は、無理矢理首輪を付けられたものの懐く様子のない野犬のようで
それは確かに、14歳のときの彼であった。
「お前がルミネに入ったんも映ってない。どういうことや・・・」
「知らんわ!気付いたらここにおったんじゃ!!さっきからなんかいも言うとうやろう!!」
まだ声変わりしていない少年の声で唸る。
「・・・・・・・・もしお前が浩史なら、俺とお前しか知らんことをいうてみい」
「はぁ?」
上から下へねめつけるような少年の凝視。
フォローするようにヒデが言った。
「もし君が浩史君なら。彼は君のお兄さんだ」
「靖史はそんなにハゲとらんわ!」
間髪を入れない少年の返し。それもまた確かにジュニアを思わせる。
「ほくろの位置一緒でしょう?」
一応庄司もフォローを入れるが少年の表情にはますます困惑と怯えが広がるばかり。
「・・・・とりあえず・・・」
ヒデが出来るだけ冷静に言った。
「みんなで御飯を食べに行きましょう。
一旦頭を冷やして、それからどうするか考えませんか」
495
:
−19歳
:2007/10/01(月) 03:51:37
「本当に浩史かもしれへんな・・・」
煙草の煙と一緒に、何かを吐き出すように靖史が言った。
その目はテーブルの向かい側で肉を黙々と食べる少年の様子を、張り付いたように見つめている。
「何故です?」
ヒデが小さい声で訊ねた。
「・・・「帰りたい」って一言も言わへんやろ・・・?」
「・・・・・・ああ・・・・」
ヒデはわかったようなわからないような返事をした。
実際、なんと答えていいのか分からない。
「手の込んだドッキリかもしれませんよ
警備員もグルの
一番考えられるとしたらそれです
だとしたら、どこでバラすのかが問題ですけど」
こそこそと靖史に耳打ちする。
「悪趣味やな」
靖史が苦笑した。
そんな空気を他所に
「デザートも食べる?」
と庄司は隣の少年にメニューを開いて見せている。
黙ってプリンアラモードをを指差す少年を眺めながら、靖史はぐるぐると思考を巡らす。
もしこの少年が本当にジュニアなら
あの数分の間に何があったのか、(そんなことが在り得るのか?)
いや何があったにせよ・・・一体どうしたらいいのか
あの帽子の男は何なのか。
あるいはジュニアが何らかの手段で連れ去られ
この少年を置いていったなら、何の目的でそんなことを?
一体どうやって?犯人は?あの男?
何より、その場合ジュニアの身が無事なのかどうなのか、安否が気にかかる。
・・・・もしただのドッキリなら、
(こんな夜中まで14歳の少年を巻き込んだドッキリ?!)
よくこんなにそっくりな少年をつれてきたなと笑い飛ばしてやろう
「・・・・石。」
ぐるぐると巡る靖史の思考を、ヒデの呟きが止めた。
「なんや石て」
「・・・・いや、最近の噂ですよ。芸人の間で、いろんな石が出回ってるって
それを手にすると何でも不思議な力が手に入ったり、奇妙な現象が起きるとか何とか・・・」
自分でいいながらヒデは苦笑した。
「・・・ただの噂ですよ」
「石。持ってたわ」
と少年が口を開いた。
突然のことで一斉に三人の目線が少年に集中する。
「え?」
視線は斜め前を凝視したまま、少年が呟く。
「今思い出した。石持ってたわあのおっさん」
「誰のこと?」
庄司が尋ねる。
「あの知らん部屋で目が覚めたとき、目の前に白い石持ったオッサンが立っとった。
すぐ出てったけど。それからすぐあとに、こっちのオッサンが来た」
と靖史を指差す。
「最初のオジサンはモニターに映ってた人?」
「・・・・・たぶん・・・」
そこらへんの記憶は曖昧らしい。少年は困った顔でまた考え込んでしまった。
「『石』・・・」
思わず誰と無く呟く・・・石。
噂とはいえ奇妙に引っかかるキーワード。
石の噂。空白の数分。14歳の少年。ジュニア。パズルのように埋まってゆく何か。
一つだけハッキリしたこと。
あの『帽子の男』を探さなければ。
それがおそらく最後のピース。
「プリンアラモードお持ちしましたー!」
空気を読まない店員の声が
困惑の中を清清しく鳴り響いた。
496
:
名無しさん
:2007/10/01(月) 08:04:35
乙です。続きお願いします!
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