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機動戦士ガンダム0.5
1
:
きんけ
:2008/10/27(月) 01:05:17
武力平和の続く世界
地球連邦政府は軍部に掌握されつつあった
大衆の意見が届かず、あらぬ方向に動こうとする未来
そんな世界に警鐘を鳴らす者がいた
反連邦軍組織プレイオス
「弾圧と圧政からの解放」を目標に彼らは勝利なき戦いに身を捧げる…
機動戦士ガンダム0.5
人間らしく
2
:
きんけ
:2008/11/01(土) 07:11:41
「勘弁してください!今日だけでも三回目ですよ!?」
耳にインカムを装着した官制員がマイクに向かって叫んでいる。
《こちらにも都合というものがあるんだ、そちらの言い分を聞いている暇はない》
「それは協定違反です!ここ『ククルス』は中立都市なんですよ!」
《緊急事態なんだよ!いいからさっさとハッチを開けろ!こんなちっぽけな月面都市なんてな連邦軍にかかれば、制圧なんて容易いんだぞ!》
脅しとも取れる言葉に官制員は頭を抱えた。
他の官制員も、みな諦めや悩んだ顔をしている。
月面都市ククルスの官制室の空気はどんよりと重くなっていた。
人々は生活圏を宇宙にまで広げると、さらなる人類の躍進を目指すために地球連邦を組織した。
加盟国190ヶ国以上から成る、この連邦組織は政治・軍隊の統一化により各国の危機に対して一丸となって取り組めるようになった。
しかし、蓋を開けてみると、そこには異なる現実が待っていた。
治安維持、平和維持の大義名分の下に弾圧や虐殺を繰り返し、非加盟国に対してはMS(モビルスーツ)の侵攻や大規模な爆撃を行っていた。
そして、ここ−−−月面都市ククルスでも、地球連邦の傲慢な態度に頭を悩ませていた。
中立を宣言しているククルスであるが、地理的に連邦の月面基地間の中間に位置しており、休憩や整備のために停泊を強行している連邦艦が後を断たない。
一応、連邦との間に「停泊は1日1回のみ」と協定を結んではいるのだが、彼らが守ろうとしているとは思えない。
ククルスの官制室とは一方的に、どこか締まらない空気の連邦艦トーマスの艦橋。
「これ以上、頑固な態度をとったらMSでハッチを開けると向こうの官制員に伝えろ」
艦長がオペレーターに指示を送る。
「まったく、サイド4の反連邦気運が高まっているというのに、こんなところで時間をとるわけにはいかんのだ」
苛立ちながら、艦長が愚痴をこぼした。
もともと、この航行は予定に入っていなかった。サイド4で始まった反連邦のデモの処理のために出発を指示されたのだ。
それゆえ連邦艦の態度はいつにも増して大きい。
官制員と通信を行っていない別のオペレーターが不意にレーダーに映る、何かに反応した。
「艦長、我が艦に接近してくるモノがあります」
「何ぃ?宇宙船か?」
「いえ…この速度は…」
言葉が途絶えたことに苛立つ艦長が叫んだ。
「何だ!はっきりと報告しろ!」
「この速度は…モビルスーツです!」
月面の地表を滑るように飛行していく、一つの機影。
「連邦艦を確認した。これより目標を叩く」
バイザーの先に覗かせた、力強い瞳が連邦艦を見据える。
「行くぞ、エヴンス」
機動戦士ガンダム0.5
1話 世界が動く日
3
:
きんけ
:2008/11/02(日) 16:22:13
≪接近してくる所属不明のMSは1機のみですが、データーに該当しない機体です≫
オペレーターの状況説明もほどほどに聞きながら、アンドレは慣れた手つきで機体に火を入れる。
≪何を仕掛けてくるか分かりません。お気をつけて≫
説明を終えるとオペレーターが映っていたサブモニターは暗転し、頭部カメラによって映し出された映像がコクピットの正面に広がった。
メインモニターにはMSの視点からの格納庫が映っており、まさに自分がMSそのものになったような錯覚に陥る。
一歩。また一歩と何かを確かめるようにゆっくりと前進していく。
―俺はモビルスーツだ……―
格納庫の先。カタパルトハッチに到着すると、射出機を足に装着し出撃に備えて身構える。
―俺が……―
カタパルトハッチに備えられたランプが赤から緑に変わると、射出機がぐうんと音をたてながら撃ちだされた。
「俺がマキスだっ!」
宇宙空間に躍り出たMSが華麗にポーズを決めた。
宇宙方面軍の主力MSであるマキスとなりきったアンドレの後に2機のマキスが続いた。
4
:
きんけ
:2008/11/05(水) 08:01:33
ビームライフルを構える三機のマキス。
その銃口の先にはアンノウンが、スピードを緩めることなく連邦艦トーマスに迫る。
「射撃勧告など…必要ない!」
三条の光が宙を灼いた
5
:
きんけ
:2008/11/12(水) 07:50:02
射撃と同時に敵機は跳躍。
光条がアンノウンを碧く照らし出すも、その装甲に直撃することはなく、やはり連邦艦トーマスを目指す。
再度、アンドレらがビールを放つも、アンノウンはテールノズルの尾を引きながらその場を後にする。
「俺達には興味が無いということか…!」
トリガーを引く手に思わず力がこもっていく。
しかし、どんなに撃とうが敵機を捉えることができない。
業を煮やしたひとりのパイロットが
《少尉!接近戦を仕掛けてみます!》
言うや否や、ビームサーベルを握りしめると先駆。
「待て!!敵の武装すら分かってないんだぞ!」
遅れてアンドレが彼の後を追う。
マキスはアンドレの静止も聞かず、さらにテールブースターの出力を上げた。
《やります!やってやります!》
敵MS(モビルスーツ)が単独で飛び出した。
距離をとってのビーム射撃は、有効ではないと判断したのか、それとも…
ロイスは自機であるエヴンスの速度を緩めると、迫ってくるマキスとの距離を詰めていく。
まさに目と鼻の先。マキスがサーベルを振り上げたのか碧い粒子が迸るのが確認できた。
マキスの斬撃を喰らう直前、エヴンスの各所ブースターが忙しく噴出し、機体が反転。左腕に装備した攻防兼用防盾の刃がスライドすると、光刃を受け止めた。
「エヴンスならさ!」
余った右腕にも同様の攻防兼用防盾が装備されており、これまた同様の刃が顔を覗かせるとマキスに向けて、すぐさま一振り。
切り結んでいたマキスの右腕は易々と切断され、自由になったエヴンスの左腕の刃がマキスを襲った。
刃はマキスの頭部を仕留めたが、それでは足りずに腹部を一刺し。
「マキスの装甲ぐらい!」
さらにロイスは、刃を突き刺した部分へと胸部バルカンを撃ち込んだ。弾丸を起爆剤に腹部は小規模な誘爆が発生。
その爆発はコクピットをも襲い、マキスは黒煙に包まれながら、月面へと落下していった。
「ただ我慢弱いだけのパイロットだったか」
がっかりしたように呟くロイス。
連邦艦の相手は後回し。今はMSの対処が優先だ。
残りの敵機はニ機。
「行くぞ」
6
:
きんけ
:2008/11/14(金) 08:02:22
「あの機動性は脅威だ固まるのは得策ではない、散開して対処するぞ。敵は接近戦に特化している!レンジを詰めるのは最終手段だと思え!」
《了解》の声のもと、部隊員のマキスが散開する。
自機と距離を空けていくマキスがサブモニターに映る。それを見ながら不意にアンドレが顔をしかめた。
侮ってはいなかった。警戒して距離をとっていた。マキスの能力を過大評価してはいなかった。部隊員の無謀にも静止をかけた。
だが、予想を越えていた。
アンノウンは、奴は強い!
少尉殿の機体が敵機と接触する。
俺の目から見てもアンノウンの戦闘能力は大したものだ。
その戦闘能力は機体性能から来るものなのか、それとも搭乗している者によって引き出されるのか…しかし、それを判断できる眼はない。
だが、アンドレ少尉殿の操縦センスは確かだ。それは俺にだって分かる。
だからさあ、負けるわけがないんだよ。
断定した直後、彼の目に映ったのは、アンノウンに一蹴されるアンドレのマキスだった。
正面モニターから敵機が消えた瞬後。
激しい振動が機体を襲い、僅かな間だけ意識が飛んだ。
「…!!」
気が付いたときにはモニターに敵機の姿はなく、もう一機のマキスへと肉迫していた。
7
:
きんけ
:2008/11/16(日) 13:49:58
東芝からの大事なお知らせ。
>>5
における「ビールを放つ」という表現は不適切だったことを訂正してお詫びします。
ここは戦場で、ビールかけをしている場合ではありません。
OLT
8
:
きんけ
:2008/11/16(日) 20:53:34
アンドレ少尉のマキスを踏み台に、こちらにアンノウン。
臆するかよ、確実に当ててやるッ!
「狙いは定まった!」
放たれる光。しかしアンノウンはひらりと避けると、加速。
あっという間に眼前へと移動する敵機。
振り下ろされた刃がマキスのビームライフルを真っ二つに切断する。
「っ!」
回避行動をとる暇さえなかった。
こいつの速さは本物だ。ならば、このまま接近戦で!
≪マキスのサーベル収納部は背部のバックパック・・・≫
ノイズ混じりに聞こえた声。
MSとMSが触れているのか接触回線からアンノウンのパイロットの声が聞こえる。
≪核融合エンジンからのバックパックを介しての強力なエネルギー供給ができるが≫
こいつは何を言っているんだ!?
サーベルの柄へと伸びる右腕。不意に脇を閉めて構えたアンノウン。
≪抜刀までの時間が長いっ!!≫
電光石火。
力を一挙に解放すると両腕の刃が、これまで以上に鋭く激しくマキスを切り刻む。
サーベルを求めていた右腕は吹き飛び、胸部のダクトは叩きつけられ機能を失った。
接触回線から聞こえてくるであろう悲痛な叫び声に動じず、コクピット部へと突き刺した刃を静かに抜き取るとエヴンスは、その場から離脱する。
直後、切り刻まれたマキスの内部から核融合エンジンが爆発し装甲が周囲に飛んだ。
核融合の爆発は強力だ。コロニー内の低高度で爆発させようものなら内壁は穿ち、最悪の場合は百数メートルもの厚さを誇る壁をぶち破って穴を空けることもある。
「最後の一機だ、すぐにやる!」
ロイスは機体を転針。
こちらを見つめている最後のマキスへと刃を向け、接近。
敵機はビームサーベルを両手で持ち、身構えていた。
しかし、関係ない。マキスのビームサーベルの出力などに負けはしない!
激突する光刃と刃だが、切り結ぶこともせず強引に刃を首元へと突き立てた。
マキスの頭部そのものには影響ないが、回路を損傷し映像が一瞬でもカットされれば、こちらの勝ちだ。
ロイスの思惑通り、マキスの動きが僅かの間だけだが停止。すかさず、刃がマキスの右腕、左腕、右脚、左脚と切断していく。
「一方的な暴力とは、まさにこの事だ」
剣舞を止めるエヴンス。
胸部などに内蔵武器を持たないマキスにとって、四肢を失うことは戦闘能力を失うことと等しい。
それでなくとも、MSにとって四肢は無くてはならない存在であるが。
刃をスライドさせ攻防兼用防盾に収納すると、おもむろにマキスを蹴った。
四肢のない今のマキスでは、宙間での姿勢制御に難があり、くるくると回転しながら月面へと落下していった。
俺はマキスだ。
マキスは大破して月面へと落下している。
つまり、俺は負けたのだ。
どこの誰とも知らない機体とパイロットに、俺は完膚なきまでに負けた。
この屈辱は忘れない・・・絶対に!
「畜生ぉ!」
叫びと共にアンドレはモニターに映るアンノウンを殴った。
「MS隊が全滅した!?いったい何なんだ、あの機体は・・・」
驚愕のあまり、口をぽかりと開けてその場に佇む連邦艦トーマスの艦長。
艦橋にいる他のクルーに似たように驚きの表情を浮かべていた。
所属不明の一機のMSに正規軍である三機のマキスが易とも容易く全滅するなど、誰も予想できなかった。
静まり返った艦橋。不意にオペレーターが遠慮そうに声を発した。
「アンノウンより通信来ました・・・」
バッと振り向いた艦長。
オペレーターがすぐさま内容を読み上げた。
「『中立都市であるククルスへの横暴をこれ以上繰り返すのであれば、戦艦への攻撃を開始する。』」
最終勧告といったところか、それを聞いた艦長の表情が焦りに変わった。
これまでの戦闘を見れば、その戦闘能力の高さは一目瞭然である。たとえ、数多くの対空砲や迎撃ミサイルを構える本艦であろうと撃沈される可能性は否めない。
考える時間は不要だった。
「艦の進路をガガーリ月面基地へと変更し。アンドレ少尉の回収後、本宙域から離脱する・・・」
新たに一機のMSが連邦艦より発進した。
しかし武装はしていない。パイロットの回収斑だろう。
戦艦からの砲門も静かで、あちらに戦闘の意思はないようだ。
ならば、俺の任務は終わりだ。
「戦闘は終了。エヴンスはこれより帰還する」
推進力を爆発させ、一気に加速。
鬼神の如く、その力を見せつけた機体は流星となって姿を消した。
9
:
きんけ
:2008/11/17(月) 20:31:26
ククルス宙域の所属不明機による連邦艦襲撃事件は連邦のみならず、全世界に衝撃を与えた。
連邦政府は「所属不明機はククルスが秘密裏に開発したモビルスーツだ」として、情報開示を求めた。
ククルス側は所属不明機との関与を当然ながら否定。この対応に不満をもった連邦政府は宇宙軍艦隊によるククルス侵攻を決定する。
「いいか?全ては連邦政府の計画通りだったんだよ!」
ある昼休みの学校の屋上。少年Aが突如、力強く言い放った。
昼食をともにしていた少年Bと少年Cは何のことだが分からずに疑問を抱いた。
どうやら、ここ―――月面都市ククルスの宙域で先日発生した騒ぎのことらしい。
彼の見解はこうだ。
ククルスは連邦の月面基地と基地の間に位置し、中継ポイントとして地理的にちょうどよい。
連邦の管理下、自治区としたいのだが中立のククルスにそんなことすれば、いろんなコロニーからの反感を買ってしまう。
だから、連邦が演技してククルスのせいにすれば侵攻の理由もあるし反感だって、それほど買わなくてすむ。
「だからって、あそこまでマキスをボロボロにする必要はないと思うけど・・・」
「あの所属不明機は連邦の新型MSなんだよ、『俺たちは、こんなスゴイ機体を造ってますよー』って反連邦組織への牽制の意味も含まれているんだ」
「うーん・・・」
納得がいかない少年Bに代わって少年Cが口を開く。
「マキスは新型MSの性能を披露するための踏み台?」
「そういうことだよ!」
「でもさ、ニュース映像とかでは三機目のマキスが落とされた後に非武装のMSが三機目のマキスを回収したよね」
「うん」
静かに風がそよいでいる。
「爆発した二機目のマキスはともかくさ、一機目のマキスも回収する必要があるんじゃない?一機目と三機目の違いって何だと思う?」
「そ、それは・・・」
「コクピットをやられたか、そうでないか。一機目はコクピット部が爆発したよね、でも三機目は手足を斬られたとはいえコクピット部への損傷はなかった」
思わずたじろぐ少年A。
正直な話、彼は回収する場面の映像を見ておらず、反論などできるわけがなかった。
「三機目だけを回収したのはパイロットが乗っていたからだよ。それ以外に理由なんてないよ」
少年Cは連邦やらせ説をきっぱりと否定した。
「あれは連邦軍の新型なんかじゃない。あれは所属不明機なんだ!」
機動戦士ガンダム0.5
2話 反旗
コロニー郡サイド4に程近い暗礁宙域「エイデン」
かつての戦争で生まれた数多くの残骸が集まって出来たデブリ宙域。
MSの墓場とも呼ばれており、誰も寄り付かない場所となっていた。
そんな暗闇と破片が支配する世界に奔る一条の光。
10
:
きんけ
:2008/11/23(日) 09:29:06
光は二つ、三つと増えていき、最終的に十数もの数に及ぶと、月へと向かっていった。
「本艦隊はトーマス級二隻とクラーク級三隻で編成され、のべ22機のモビルスーツを搭載している」
ミーティングが進んでいる。
全艦ほぼ同時に開始された、それは月面都市ククルス侵攻作戦のものだった。
艦長および各部署の隊長が作戦説明を行っている。説明もほどほどにミーティングルームの隅の座席でオノディーラが人知れず闘志を燃やしていた。
実戦は今日で二度目だ。初実戦ではトリガーを引くことも出来なかったが、今回は違う!
今日の俺には覚悟がある。
誰かを殺して、その誰かの分まで強く生きるという覚悟を!
「モビルスーツの出撃は1400時。それが作戦開始の合図だ」
ミーティングの最後。艦長はそう言って締めくくった。
11
:
きんけ
:2008/11/24(月) 22:31:06
月面都市はコロニーと同様に天気があらかじめ決められており、週の初めにその一週間の天気予報が様々な形で発表される。
天候や気温すらも管理できる環境。
それゆえに地球の暑さ、寒さ、空気に慣れない宇宙生まれ宇宙育ちの人々の地球適応能力は減少傾向にある。
そんな中の一人である月面都市ククルス生まれククルス育ちである少年Dは昼過ぎの河原にいた。
沿道からはガードレールが設置され、自分のいる場所は死角になるだろうと踏んだ。
だから、ここを選んだ。ここでなら、誰にも見つからないと思って。
自己発電―――自己処理と言ったほうが適切なのだろうか、河原に寝そべり、少年Dは独りの世界に入っている。
散歩で立ち寄ったコンビニの本棚に陳列されている数々が目についたのが原因だった。そこからは、もう勢いである。
のどかな休日の午後。雨が降り始めるまでには、まだ時間がある。少年Dの自己処理は続く…
まさに絶頂を迎えようとしている少年Dとは対照的にククルスの管制室は地獄の底に突き落とされていた。
「本宙域に接近する艦隊を捕捉・・・来ました、連邦宇宙軍の艦隊です!」
不安な顔を浮かべたり、険しくしたりと管制員の反応はそれぞれだ。
ここで焦ってはいけない。司令官としての技量を発揮しなければ!
その心構えのもと、あくまで落ち着いて状況を確認してみせる司令官。
「都市の民間人の避難状況はどうか?」
「現在、確認できている範囲では8割の住民の避難が完了しています」
「上出来だ、日ごろのシミュレーションが生きたな!」
「う、宇宙軍艦隊からモビルスーツの発進を確認!」
うわずった声で叫ぶ管制員。
「勧告なしに攻撃するつもりなのかよ!」
「なんてやつらだ!俺達を殺す気じゃないだろうな!?」
「畜生っ!連邦の糞野郎ども!!」
これまでの連邦に対する不満が爆発したかのように弱音や怒涛が飛び交う。
無理もない、軍属ではない彼らにとって戦闘の恐怖など未体験だ。
「落ち着け、まだ攻撃されているわけではない!モーラスⅡを出撃させろ!」
モーラスⅡは無人機のモビルスーツである。
前世紀の戦争では無人の戦闘機や戦車が実戦投入されていたが、宇宙という新たな戦場とモビルスーツという新兵器の登場により
それまでの思考ルーチンやCPUでは対応できなくなり、無人機は戦場から姿を消した。
「周辺の月面都市やコロニーの反応は分かるか?」
「ヴェテロイレン、レーニンズなどの月面都市は中立を宣言。サイド4は沈黙を保っています」
「分かっていたとはいえ…援軍はなしか」
こんなチンケな月面都市相手にして連邦との関係を悪化させることは出来ないというわけか…
≪ククルスよりモーラスⅡの発進を確認。A小隊が撃破のために先行します≫
≪トーマス級一番艦、モビルスーツ全機発進を完了。続いて二番艦よりモビルスーツを順次発進≫
≪位置につきました。次の指示まで待機します≫
無線が行き交っている。この忙しなく混線する無線が戦場の臨場感をさらに引き出してくれる。
前の機体がカタパルトから撃ち出されていく、次は俺の番だ。
この戦場の主役の出番である。エンディア大尉に次ぐ宇宙軍のエースパイロットとして名を知らしめるであろうオノディーラが、この戦場を駆け抜けてやる!
カタパルトが加速し、急激なGが体にかかる。
さあ、見るがよい!このオノディーラが美しく踊り出る姿を!
ぐわりと射出機から離れ、その姿が戦場に踊り出ると思われた刹那。
彼の視界は黒から緑の閃光に支配され、意識はそこで途絶えた。
何が起こったか理解する前に彼は蒸発した。オノディーラのマキスは緑の光条に貫かれ、爆散したのだ。
(一話分なげぇ・・・)
12
:
きんけ
:2008/11/27(木) 22:06:57
え?
何かが光った。何かがとてつもない音を立てながら艦が揺れた。
不意に爆散したマキスに皆、虚を突かれたような表情をした。
ククルス側からの大きな軍事展開がなかったために油断していたため判断が遅れたのだ。
「何が起きた!?観測班!」
≪マキスが爆発したんだ!≫
「爆発!?攻撃か、襲撃なのか?」
≪―――分からん。レーダーには何も映らなかった≫
くそっと艦長が心の中で罵った。
観測班がこれではどうにもならないじゃないか!
「艦長、カタパルトデッキがビームがマキスを貫いたのを見たと言っています!」
「我が艦を狙った長距離射撃だとでもいうのか…」
この宙域にビーム砲が配備されているという情報は聞いたことがない…もし、この攻撃がククルス側の兵器だとしたら平和主義を謳う中立都市の名が泣くぞ。
「レーダーから目を離すなよ、警戒態勢を厳にするんだ!」
「了解。全艦に伝えます」
「ノーマルスーツを着けていない者には着用を指示しろ!」
マキスの破片が流れているのが見える。
あみだ被りの帽子をきゅっとかぶり直すと一息。
まったく…先日のアンノウンといい、この宙域には怪物でも潜んでいるのか?
「怪物はエイデンの墓場にでも引きこもっていればいい」
艦長の呟きが聞こえた。
カタパルトハッチでは出撃と併用したマキスの破片の撤去作業が行われていた。
混乱と不安が入り混じりながら光の尾が宙へと伸びていく。
連邦の艦隊よりも高い高度。
戦艦の形をわずかに認識できるほどの宙域に彼はいた。
ただの鉄くずになり下がった、かつてのモビルスーツの装甲を陰に暗緑色の人型が一機。
両腕で握りしめ、月光を浴びて鈍く反射している、それはスコープを装着した狙撃仕様のライフルだった。
オノディーラを射たのも、この狙撃銃である。
「センターに入った!」
そして、一射。
不気味なまでも正確な光の矢が放たれた。
「少尉のマキスが撃たれた!!上からビームがっ!!」
爆風から逃げるように後退しながら軍曹のマキスが力の限りに叫んだ。
戦場で恋人の話などするものじゃなかった。
あれは噂でも前世紀の年季の入った都市伝説でもない。
少尉が三度目のデートに行った時のことを俺に話してたら、彼の機体にビームが直撃して爆発した。
あれは…死亡フラグは本物だ!
ならば!!かつての彼女とよりを戻そうとしていると少尉に相談した俺は―――
「三機目もやられた!観測班、上だぞ。上からビームが来ている!」
≪怒鳴らないで、今度こそ見つけました。艦隊の頭上にいます!≫
観測班が伏兵の姿を見つけると艦橋のメインモニターに映し出される。
破片から身を晒し出すと銃口をこちらに向けているモビルスーツの姿がそこにあった。
「モビルスーツだったのか…!?」
銃口から閃光が放たれたと思った瞬後。その光は自分たちを灼いていた。
艦橋が吹き飛ぶ。しかし、それでは足りずにさらに三射の光条が艦に直撃。
悲鳴にも聞こえる轟音と黒煙を吐きながらトーマス級二番艦は、その役目を終えた。
沈黙に包まれた一番艦の艦橋。
混乱状態にあるクラーク級一番艦の艦橋。
神に祈りをささげているクラーク級二番艦の艦橋。
己の生きる意味を再確認しているクラーク級三番艦の艦橋。
様々な状況にある艦橋に水を差してきた、多数の熱源反応。
艦隊の周辺に散乱していた無数の破片から跳び出してきたモビルスーツ群。
「こちらシラナミ。プレイオスとしては初めての作戦だ。心してかかろう」
多数≪了解≫の声と共にモビルスーツが散開していく。
それこそが世界が変えるための第一歩。
変革を求める者達の最初の反撃の狼煙である。
13
:
きんけ
:2008/11/29(土) 11:44:07
「モーラスⅡの能力など前世紀の無人戦闘機にも及ばない。高い工業能力を持っているククルスでも無人モビルスーツの開発は完璧じゃないんだよ」
先行していたA小隊がモーラスⅡを捉える。
マキスがビームを放つよりも先にモーラスⅡの無反動バズーカが彼らに襲いかかる。
しかし実弾、ましてやバズーカを避けることなど容易いこと。三機のマキスがひょいと回避運動を実行する。
「砲台代わりにはなるだろうが、この数じゃあ…」
ライフルを構えると、次々と撃ち抜いていく。
同様に小隊員のマキスも的当てのようにモーラスⅡを落としていった。
会戦から数十秒。連邦軍の勝利は決定的なものとなった。
我々の敗北は決定的だ。
「予測できたとはいえ、強烈だな…」
これ以上、モーラスⅡを投入しても結果は同じだ。所詮は無人モビルスーツだったというわけか…
中立都市ククルスが消える日。
こうやって地球連邦政府は勢力図を増やしていくつもりだろう。
都市への被害を出すわけにはいかない。
「連邦艦へ通信を繋いでくれ。停戦を―――」
「待ってください。何か…何かが高速で…」
「どうした?」
「レーダーがかすかに反応したんです。高速で迫る何かを…」
ククルス側からモラースⅡの追加投入の気配が見られない。
まさか、もう降伏準備でもしているんじゃないだろうな?
「まあ、いい。後退するぞ」
機体を転針。
硝煙が漂い、モーラスⅡの残骸が漂う戦場跡を尻目に三機のマキスが母艦へと帰っていく。
―――違う。テールブースターを吹かす直前、僚機が何かの直撃を受けて爆散した。
「!?っ」
振り向いた小隊長の目に映ったのはモーラスⅡとは違うモビルスーツの姿だった。
両腕に装備された巨大な刃は暗闇の中でも異質なほどの存在感を放っていた。
機動戦士ガンダム0.5
3話 解放への戦火
モビルスーツ「セーメイ」は残骸に紛れて連邦艦隊を取り囲むように出現した。
対応に遅れたマキスはセーメイの連携攻撃に圧倒され、次々と落ちていく。
「僚機との連携はしっかり決めるんだぞ。相手のほうが戦力は上なんだから!」
腰部の収納部より抜き放った光刃がマキスのコクピット部へと突き刺さった。
14
:
きんけ
:2008/11/30(日) 15:49:40
機能停止した敵機の背後より、さらにもう一機のマキス。
すでに放たれていたビームを辛うじてシールドで受け止めると、大破したそれを放棄。
頭部に装備されたバルカンで牽制をかけるも、射線をかいくぐり側面へと回り込もうとする。
テールブースターを吹かし一気に距離を詰めようとするマキス、それに対して正面から受け止めるべくサーベルを構えたセーメイ。
サーベルのレンジに入る直前。マキスが突如介入してきた光の矢に貫かれ四散した。
「援護するのはいいが、味方への誤射だってあるんだから気をつけろ!これはゲームじゃないんだぞドラウロ!」
上を見上げて、パイロットは味方のスナイパーを叱咤した。
≪シラナミ隊長≫
「ん?何かあったか」
≪敵艦の応戦が思ってたよりも厚くて、破壊に時間をとられています≫
「ならば、上のドラウロにでも援護射撃してもらえ」
≪了解≫と短く返答された後に回線が切断された。
「対艦兵器を最低限装備しての対艦戦闘か…」
隠密性を高めるためにはやむ得ない事とはいえ、あまりにも強引すぎる。
味方艦からの援護は一切なしに、遠距離のたった一機のモビルスーツの狙撃援護ありきな作戦だ。
「コロニー独立のためには、その身を滅ぼす勢いで戦うしかないのか!」
そう叫ばずにはいられないシラナミ。
彼を先頭に騎兵隊がトーマス級へと迫っていった。
何だ?
連邦軍のモビルスーツが我々のモビルスーツを撃破したと思ったら、謎のモビルスーツが連邦軍のモビルスーツを撃破した。
「思考がまったく追いつかない…」
何だよ謎のモビルスーツって、訳が分からない。
これは夢であって欲しい。もう私は疲れた。
わずかな目まいを覚えて、椅子に座りこむ司令。
「司令…強制的に割り込んでくる映像回線があります」
「ああ、もう何が来ても驚くものか」
今度は、どこの連中が来たんだ?ククルスには怪しい奴らが集まるほど重要な場所なのか?
しかし、その映像はククルスだけでなく全世界のありとあらゆる施設へと発信されていた。
15
:
きんけ
:2008/12/03(水) 19:18:14
「地球に宇宙に住む人々よ、こんにちはこんばんは初めまして。先日、そして今現在ククルス宙域で地球連邦軍と交戦しているのは
我々、反地球連邦軍組織プレイオスのモビルスーツ部隊です。連邦軍は以前より中立を宣言していたククルスを、まるで我が物顔
で利用してはククルス市民、関係者を不安にさせていました。これは、その裁きの鉄槌と言ってもいいでしょう。そして我々、プ
レイオスはこれを皮切りに独裁と圧政からの地球、宇宙の解放のために地球連邦軍に対して宣戦を布告します。人が人らしく生き
ていける世界を実現させるためにも、我々は―――
会議中のモニター。昼下がりの点けっぱなしのテレビの液晶。ネットゲーム中のパソコンのディスプレイ。あらゆるモニターというモニターに生え際が後退してきている初老のナイスガイが突如として映し出された。
画面越しのファーストコンタクトは様々だ。ある者は訝しげに彼を睨みつけ、ある者は彼の顔を見た直後から笑いが止まらず、ある者は彼に怒りの限りをぶちまけてキーボードを机上に激しく叩きつけていた。
ククルス宙域でも疑問符が連邦軍兵士を支配していた。
「誰だが知らないけど、なんかやべえこと言ってる!」交戦中のマキスパイロットが、力の限りで叫んでいる。
よし、敵は混乱している。
戦闘中に宣戦布告の演説なんて聞いても混乱するだけだ、演説の詳しい内容は戦闘後に確認しやがれ!
ましてやアングラでしか知名度のないプレイオスの指導者だ。世間的には抜け毛に悩んでいそうなオジサンが電波なこと言ってるようにしか聞こえない。
「よし。撤退するぞ!対艦砲は全弾ぶち込んでやれ!」
シラナミの指示に呼応するかのように味方のセーメイが敵艦の側面へと回り込もうと弧を描くように宙を走っていく。
敵の残存艦は二隻。マキスだってドラウロの狙撃で着実に数が減っている、勝ちは見えてきた。
スナイパーライフルの接眼用モニターを覗きこみ、遠方でちょこまかと動き回るマキスを目で追いかけていた。
逃げるんじゃないぞぉ…外すとシラナミ隊長殿がうるさいからな。
一瞬の隙。マキスが動きを止めると、すぐさまポインタを敵機に重ね合わせると一射。
光はマキスの頭部を吹き飛ばすも撃墜には至らず、マキスはその場からの緊急離脱を図った。
「ヘッドショットだぞ、堕ちろよ!」
何とも滑稽である。
悔しがるドラウロのもとに撤退の旨を伝える通信が入った。
「はいはいはい。やっとかよ…」
歯噛みしながらも、どこか安堵の表情を見せる。
スナイパーライフルを肩のジョイント部に装着すると、そそくさと帰路へとつこうとしていた。
ヘルメットを放ると、シートにもたれかかり目蓋を閉じた。
「まったく…」
オールバックには似つかない不精髭が生えた顔には疲労の色が見えた。
連邦艦隊を全滅させたプレイオスのモビルスーツ隊はククルス宙域から離脱していた。
「ドラウロのアルガとロイスのエヴンスはいるんだろうな?」
≪ええ。エヴンスは後方にアルガは…かなり先行していますね≫
その報告にシラナミがムッとした。
「まったく、本来はドラウロがしんがりに着くべきなんだがな…」
あのゲームジャンキーの考えることは分からない。
シラナミがメガネのフレームを指で持ち上げようとしたが、ヘルメットをしていることを忘れて中指がバイザーに拒まれた。
思わず苦笑するシラナミ。
戦闘からの緊張に開放され、やけに気持ちが緩んでしまっているな…
操縦桿から離した手が震えていた。これは怖さで震えているのではない握り疲れただけだと自分に言い聞かせた。
16
:
きんけ
:2008/12/03(水) 20:24:28
機動戦士ドーナツ0.5
4話 ドーナツ
ドーナツが支配する世界。
そこはドーナツが人々を従えて社会が成り立っていた。
くるくるとドーナツが人類の頭上を飛び交い、通称「天の声」が、どこからともなく声が聞こえる―――
「エンディア大尉ですよね?」
イチノセ少尉がなぜだか不安そうに私に声をかけている。
肩を揺らされ、垂れていた頭がふと起き上がり、眠気が吹き飛んだ。
「あぁ…私だ。ミーティング中に寝てしまい、すまない」
「無理もない。ここ数日は激務が続いていた」
イチノセ少尉が声を発するよりも先、艦長が言った。
周りを見渡してみると、ミーティングに参加している者の視線が全て私に向けられている。
「…本当にすまない」
ややうつむきながら、エンディアが再度謝罪した。
機動戦士ガンダム0.5
4話 天秤
プレイオスによる宣戦布告から数日後。
世界の反応は早い。
地球連邦政府はククルス宙域における横暴を認めると、以後ククルスへの停泊をしないことを発表。
それと同時にプレイオスの奇襲に怒りを示すと彼らに徹底抗戦の意思を示す。
サイド4ではククルス宣戦布告に合わせてクーデターが勃発。
もともと反連邦意識の根強かったサイド4からは連邦軍は追い出され、反連邦組織の拠点として使われることとなる。
月にほど近いサイド4を一日の内に失った連邦は、スペースラインの防衛強化やサイド4の監視部隊の設立など、とにかく忙しかった。
特にサイド4に次いで月との距離が近いサイド6では新たなスペースラインの敷き直しに手を焼いていた。
17
:
きんけ
:2008/12/05(金) 01:44:29
月基地とサイド6、その他のコロニーサイドの軍関係者との協議を重ねるが正式なスペースラインが敷かれるには至らなかった。
「サイド4の恩恵にあやかりすぎたな」
そうなのだ。
これまで連邦軍は月とコロニーの兵站をサイド4に任せきりだった。
協議を重ねること十数回目。
ようやく仮にではあるが新たなスペースラインが敷かれることになった。
そのスペースライン上の安全確認や偵察をサイド6所属の第一宇宙軍艦隊が担当することとなったのだ。
「エンディア大尉にはイチノセ少尉を連れてモビルスーツでのライン上の偵察を頼む」
「了解です」
チラリとイチノセを見る。
「お、お願いします…」
視線に気づき、イチノセは遠慮がちに頭を下げた。
「うむ」 と一瞥。
暗礁宙域エイデン。
そこにプレイオスの旗艦であるリンドヴルムはいた。
ククルスへの進攻艦隊を全滅させた彼らであるが、その後は大きなアクションを起こしておらず、次の出撃機会まで羽を休めていた。
呼び出しを受けて、艦橋に上がったロイスにシラナミから新たな任務を言い渡された。
「エヴンスの機動テスト?」
「ああ。バルカン以外に射撃武器を持っていないエヴンスは機動力が命だ。今後の戦いに備えてジェットユニットの使用データが欲しい」
「テストを行う場所は?」
「さすがに、この墓場内じゃあ出来ないからな。エイデンを抜けた先でやる予定だ」
端末機の画面に情報を入力すると、それをロイスに見せた。
パイロットスーツに着替えたエンディアがパイロット待機室に入った。
そこには彼より先にイチノセがイスに座って出撃を待っていた。
「あ…」
ぎこちなさそうにイチノセが笑みを作る。
薄紅色のパイロットスーツを着込んだ彼女の姿はどこか扇情的な気持ちを抱いてしまう。
いかん、いかん。
「緊張しているのか?」
私は雑念を振り払おうと口を開いた。
「え…いえ、あの…」
「大丈夫か?」
彼女は普段からハッキリしない性格だが、今日は異常だ。まるで何かに怯えているかのような雰囲気である。
「変な事、聞きますけど…笑わないでくださいね?」
「ん…ああ、大丈夫だよ」
恐る恐る口を開いた。うつむいているのは私と視線を合わせないようにしているのだろうか?
「墓場には…エイデンの近くには…幽霊なんて出ませんよね!?」
紅潮した頬。
どうやら緊張していたわけではなかったらしい。
「で、出ないと思うぞ…」
たじろぎながらも返答するエンディア。
それを聞いて、安心したのかイチノセの表情が少しであるが柔らかくなった。
ああ…イチノセ・ユウナ。あなたは乙女だ…
18
:
きんけ
:2008/12/05(金) 20:37:28
ドリンクパックを求める旅に出たドラウロは無重力で自由な体を遊びながら、休憩室へと向かっていた。
見れば、前方からパイロットスーツを着込んだシラナミが来るではないか。
「出撃か?」
「ああ。エヴンスのジェットユニットの機動テストだ」
「あんたは隊長なんだろ?ロイスの付き添いなんて他の隊員にでも…」
「時間がない。失礼する」
ドラウロの言葉を遮ると、そそくさと格納庫へと向かう。
大あくびをするドラウロを尻目に、能天気な彼の態度に苛立っていた。
「何故、彼にアルダなどを…」
それからほどなく、エヴンスとセーメイがプレイオスを発った。
暗礁宙域をぬけたロイスとシラナミ。
エヴンスの背部には、これまで装備されていなかったジェットユニットが確認できた。
その二門のジェットユニットより、これまで以上の大きな光芒がこぼれた。
白と青の機体は太陽光をはね返して、輝きを放っている。その輝きはテールノズルの尾をひきながら、まさに流星となって闇を駆け抜けていった。
その機動力に、思わずシラナミも驚嘆の声を漏らす。
≪機体も思ってたより安定してる。これならすぐにでも自分の手足のように!≫
やけにロイスの気合が入っているな、それにしても回線を開いて叫ぶことないだろうに…
しかし、シラナミはロイスのそういうところに好感をもっていた。
まあ、どこぞのゲームジャンキーとは言わないが、本気かどうかも分からない奴とは一緒に戦いたくはない。
連邦軍との戦いは非常に厳しいものになることが予想される。これからはロイスのような熱意ある者が必要なんだ。
「よし、ジェットユニットの様子は良好のようだな。次はダミーを…」
言うや否や、レーダーが接近してくる機影を捉え、電子音がコクピット内に響いた。
このレーダーの機影は…機体認識番号が表示されない。
しばらくの思考の後、エンディアは心を躍らせた。
「ははっ!こんな場所で出会うなんて私は運がないな」
突然、笑い出したエンディア。
「イチノセ少尉」
≪は、はい≫
「このレーダーの機体がプレイオスのモビルスーツだとしたら、君はどうする?」
≪…逃げます≫
素直な感想だ…
「私もそうしたいが、この近距離。下手に後退すればトーマス級の位置を晒しかねない」
≪それは、つまり≫
「戦いしかあるまい」
不敵な笑みを浮かべるエンディア。
その余裕をもった表情には、最初から撤退という考えなどなかったかのように思えた。
≪一機のマキスが先行している!≫
それは俺だって同じだ。
「エヴンスで相手する」
≪しかし、ジェットユニットをつけての戦闘経験はないんだろ!?≫
「戦ってみたいんだ。この力を生本番でどこまで使えるか」
敵だって、こっちのことをレーダーで捕捉している。それでもなお戦おうとしている敵は馬鹿か腕の立つ奴に違いない!
おもむろに両腕の刃をスライドさせ、戦闘態勢に入る。
19
:
きんけ
:2008/12/05(金) 22:55:54
メインカメラが敵機を捉えた。
間違いなく、プレイオスのモビルスーツだ。
ククルス宙域での襲撃事件で三機のマキスを軽く片づけた映像は私も見た。
「あの刃は脅威だ。現行のモビルスーツが装備している近接武器の中でもずば抜けての斬り味があると判断できる」
それにしても予想以上の速度で接近してきている。
不意に襲われたら、とてもじゃないが対処できないな。
「インファイトにもつれ込む前に終わらせる!」
断言した後、マキスのジェットユニットに装備されていたミサイルがエヴンスへと放たれた。
ミサイルの接近にも動じることなくブースターを吹かしているエヴンス。あわや直撃かというところでエヴンスの胸部バルカンが唸った。
「避けないつもりなのか!?」
無数の弾丸が宙を滑り、ミサイルの接近を拒んでいる。
三発のミサイルがすべて爆発すると、その黒煙の先から刃を煌めかせて二つ目のモビルスーツが接近してくる。
すぐさまビームライフルを連射。狙いなど定まらなくてもいい。
しかし敵機はわずかな横滑りをする程度で大きな回避行動をする素振りを見せない。
「そこまでして勢いを殺したくないのかっ!」
あまりの無鉄砲な戦い方に意表を突かれたエンディア。
クラスターを吹かして距離をとろうとするが、もう遅い。
バウッとさらに加速したエヴンスは、そのままの勢いで右腕の刃を降り下ろした。得物はビームライフルの銃先を捉えると切断。
一回転し、その力を利用しながら左腕の刃も凪ぐも、間一髪で抜刀したビームサーベルに防がれる。
「この機体に乗っているのは、機体性能に依存している大馬鹿者だ!」
叫ぶや否や、マキスの蹴りが炸裂。
敵機には損傷を与えることはできないが、斬り結び状態から逃げるには十分な隙は作れる。
エヴンスは再度、距離を詰めようと加速。
しかし、相手は宇宙軍一のモビルスーツパイロットと呼び声高い男である。そう単純にはいかない。
「機動力の高さが武器だが、機動力だけではな!」
横滑りで瞬時にエヴンスの横に回り込むと、くるりと機体を側転させながらミサイルを斉射。
この位置からの攻撃では胸部のバルカンは使えず、シールドを使いながら回避行動を余儀なくされる。刃はシールドと兼用であり、防御時には斬撃に移れない。それをこの武器の欠点だと信じて、エンディアは攻勢に出た。
ミサイルがエヴンスに直撃する前に突撃をかけるマキス。両手に抜きはなった光刃が揺らめいている。
20
:
きんけ
:2008/12/06(土) 23:33:00
ミサイル接近の警告音。
シールドで防ぎたいところだが、意地でも避ける!
各所のクラスターがこれでもかと噴出。瞬時のうちにマキスと向き合う形になる。
すぐさまバルカンのトリガーを引いたが、満足に弾幕も張れないうちに砲塔が空回り。
一発を撃ち落とすも以前、二発のミサイルがさらにその後ろからはマキスが迫る。
「装甲を殺してまで、機動力を上げたんだ!」
エヴンスの二門のジェットユニットから光芒が広がると爆発。
頭部の前で両腕を交差させると、その状態のままマキスへと突撃していく。
苦肉の策だった。
エヴンスの装甲はマキス以上に脆い。ミサイルの直撃など喰らえば、簡単に吹き飛ぶ。
シールドにミサイルが当たることを願うしかない、もはや賭けである。
激しい震動をコクピットを襲い、煙で視界が奪われた。
機体に異常はない、シールドが見事に防いでくれたのだ。
「いけええええ!」
煙が晴れた瞬間、そこには眼前にまで迫っていたマキスがいた。
速い!
振り上げたビームサーベルであったが、敵機に懐へと飛び込まれて光刃は空を斬った。
手首を回転させてビームを腰部へと突き刺そうとするも、力任せに突き放される。
予測できない敵機の動きに歯噛みしながらも、それに対応しようとするエンディア。
「ジェット!」
直後、敵機から投げ付けられた光の輪がマキスの右腕を吹き飛ばした。
なにっ!?射撃ではない飛び道具を?
肩先から抜き放った何かを、返す力でこちらへと投げてくる。
すぐさま反応してみせると光の輪を辛うじて回避。
「そこまで射撃武器を嫌うか、面白いぞプレイオス!」
ここまで型にはまらない戦い方をするパイロットは、これまで見たことない。是非とも顔を拝んでみたいな!
劣勢なはずのエンディアだが、彼は眼を輝かせていた。
敵機が棒立ちのまま、動かない。
誘っているのか?―――ならば!
まさにジェットを吹かそうとペダルを踏み込む直前、イチノセからの通信が入った。
≪エンディア大尉、後退してください!≫
少尉が悲痛そうな叫び声が聞こえた。
そうだ。今の私に使用できる武器はビームサーベル一本のみ。
敵との戦闘に夢中になって、冷静さを失っていたような気がする。
「本心ではないが、後退するしかないな」
≪援護します!≫
敵を見つめたまま、上昇すると距離をとっていく。
追撃を仕掛ける様子もない。相手も疲労がたまったのだろうか?
レーダーが後方からのミサイルを捉えた。イチノセ少尉が放ったミサイルだろう。
自機を反転させて加速。ミサイルとすれ違いながら、その場から離れていった。
「再会を望むぞ。プレイオスの無鉄砲」
またいつか、この広い戦場で巡り合わせる時を待って…
イチノセ少尉のマキスを視認。
≪エ、エンディア大尉…≫
エンディア機の無事をその目で確認したのか、イチノセの様子はいつも通りになっていた。
≪い、命は大事にしてください≫
「まさか君から、説教されるとは思わなかったな」
≪説教なんて、そんなつもりじゃ…≫
オドオドし始めたイチノセ。やはり彼女はこうでなくては、私も見ていても面白い。
エンディアが笑った。それは不敵でもなんでもない晴れ渡った笑顔だった。
敵を見送ったロイス。
自分の負けだった…
機体性能に頼った強引な戦い方と手詰まりな戦法。
この機体でなければ負けていた。
「しかし…」
悔しさが生まれない、この清々しさはいったい?
殺陣を楽しんでいたんだ。あんなに見事な格闘戦は初めてだ。
「俺は、あの人のように…」
なれるのだろうか?
決意。疑念。不安。さまざまな想いをその胸に秘めて、機体を反転させた。
21
:
きんけ
:2008/12/07(日) 19:10:55
サイド6コロニー「クエサー」
コロニーの中心部の大通りに人が数キロにも及ぶ列を成していた。
人々はプラカード、旗、メガホンなどそれぞれ思い思いの物を手にして行進している。
彼らが目指すのは、ただ一つ。連邦政府の議会堂である。
ロイスはその光景を、少し離れた丘の上から眺めていた。
息は呼吸をするたびに白く上がり、風は肌を突き刺すように寒く、空からは人工雪が降っていた。
ここまで寒いコロニーも初めてだな…
かじかんだ指にハァと息を吐きかけながらロイスは思った。
気候を管理できるコロニーでは比較的、過ごしやすい気温や天候に設定することが多く。地上の寒帯や熱帯のような気候には滅多にならない。
「それにしても、この中から探せというのか?」
アナログ式の双眼鏡を視界から外し、デモに参加している行列の全容を掴もうとした。
おそらく数万人規模が参加しているはずだ、その中からたった一人を…
途方もない作業にロイスは一瞬、めまいを覚えた。
事の発端は数日前のミーティングだった。
「『PGP』の新型を載せた偽装船が連邦軍に押さえつけられた」
その日のミーティングはシラナミのその言葉から始まった。
彼によるとサイド6のクエサーに数日の停泊の後にサイド4で新型の譲渡を行うはずだったのだが、これまでの俺達プレイオスの活動によって比較的穏やかだったクエイサーの反連邦気運が激化。
大規模なデモの開催も予定され、連邦は一時的に港を封鎖してしまったのだ。
おまけに情報規制もかかってしまい、盗聴や傍受を考慮して合流予定だった新型のパイロットとも連絡が取れないという最悪な状況だった。
「俺達の行動も考えものだな」とドラウロはマイペースに笑っていたが、笑いごとではない。
解決策も酷い物だった。
アルダに相乗りしてクエサーまで接近後、ロイスが単独でコロニー内に侵入。
コロニー市民に紛れながら、パイロットを探し出して合流。合流後はアルダに合図を送って、隙を作ってもらい、その間に新型を起動させて脱出。
人を人して見てないような内容の作戦だ。
一番簡単なのはモビルスーツでの強襲なのだが、世論からの反感を買いたくないのだろう。
宣戦布告から二ヶ月が経った。ようやく賛同を公言する者も現れ始めたのだ、こんなところで己の足場を崩したくはない。
本心ではないが、遂行するしかない。
そうやって割り切りながら、ロイスはクエサーへと侵入した。
機動戦士ガンダム0.5
5話 邂逅
クエサーの宇宙港外。一隻のトーマス級がクエサーを背に滞空していた。
トーマス級のカタパルトより放たれる一条の光。
「こちらイーサン・ウェバー。クエサー外部の哨戒任務に就く」
後続に続くマキスが二機。
このような反政府ムードが高まっているときは気をつけたほうがよい。プレイオス宣戦布告時のサイド4が良い例だ。
あのときはあまりにも政府の対応が緩すぎたために、あれほどのクーデターを許したんだ。
「まったく、嫌な時期に姿を現したよプレイオスは」
反射鏡の下を潜り抜けた三機。無機質な外壁から突如、視界が開ける。
ガラスの先からも、わずかだが黒点が大通りを占拠しているのが見えた。
しかし、これが人々の意思か…
目に見える現実にイーサンは奥歯をかみしめて顔をしかめた。
「クエサーから連邦の撤退を!」
「連邦至上主義は消えろ!」
さまざまな怒号が空へと向けて発せられる。
雪は止むことを知らず、徐々に地面に降り積もっていった。
それでもデモ行進は依然、連邦議会堂へと歩を進めていく。
その光景を窓越し、暖炉の前でくつろぎながら見守る一人の青年。
「ハーワン、君はデモに参加しなくていいの?」
柔和な表情で青年はカウンターのもう一人の青年ハーワンに声をかけた。
「反連邦組織だからって参加する義理はないさ。それに…」
真っ白いカップに真っ黒のドリップを注ぐと、暖炉の前の青年に渡す。
「ガキ共の面倒も見なくちゃいけないしな」
「相変わらず面倒見がいいんだね」
ドリップを口へと運ぶが、その苦みに思わず眉間にしわを寄せた。
「反連邦組織なのはお前も同じじゃないかプレイオス所属のジョシュア」
ふふっとほほ笑むが何も言わないジョシュア。再度、ドリップを口に運んだ。
「ハーワン」
「ん、どうした?」
「砂糖とミルクをくれないか?僕にブラックはまだ無理だったみたいだ」
思わず苦笑しながら、カップをハーワンへと差し出した。
22
:
きんけ
:2008/12/07(日) 21:54:56
僕とハーワンは所属している組織こそ違うけど、同じ反連邦思想でそれ以上にかけがえのない友人だ。
ハーワンの表向きな仕事は喫茶店を経営している、気の良いマスターだ。
彼の店には、いつも賑やかな声が絶えない。四人の子供が代わりばんこで店内を駆けずり回っている。
今も僕の足をねこじゃらしのようにして一人の男の子が遊んでいる。
この子たちはハーワンが引き取った子供たちだ。
「イナクト君…足を噛むのは痛いよ」
無邪気にはしゃぐイナクト少年。
ハーワンは砂糖とミルクをたっぷり入れたカップをジョシュアに渡すとイナクトをひょいと持ち上げてカウンターへと戻っていく。
みんな、戦争孤児だったんだ。それを率先して引き取りに名を上げた。
こんな甲斐性なしにすら、優しく接してくれるんだから彼には頭が上がらないよ、まったく。
それにしても、プレイオスからの連絡がない…
情報漏洩を防ぐために僕の情報を偽装船側に送っていない。偽装船側の詳細な情報も知らされていない。
連絡が来ない限りは合流なんて不可能だ。
もし宇宙港に船が停泊していたとして僕が足を運んでも、どれが偽装船なのか分からないし奇跡的に偽装船を見つけても向こう側が僕を信用しないだろう。
「だから僕は行かないよ。こんな寒い中、外を歩くなんて…」
ジュショアの独り言に「なにー?」と興味を示した女の子。
「いや…君は何も知らなくていいんだよ。マリーちゃん」
マリーの頭を撫でながら、ほほ笑む。それに感応するようにマリーも輝かしい笑顔を見せた。
ずっと、ここにいたい。
温かさを感じながら、ジョシュアは心から思った。
身体が寒い。心も寒い。
自動販売機でホットコーヒーを買ってみたが、手だけがジンジンと温まる。
仕方がないので古着店に入って、寒さをしのげるような真緑色の適当なマフラーを買った。
まだまだ寒いが、幾分かはマシになったといえる。
丘から下りて、市街へと入ったロイス。
デモに参加している人達の顔を肉眼でも確認できる距離まで来てみたがいいが、老若男女様々な顔から目的の男を見つけることはできなかった。
「たしか名前は…」
ポケットから情報端末を取り出すと、その情報を表示させた。
ジョシュア。ジョシュア・ラングリア…
顔写真を見る限りでは、とても優しそうな青年だ。
こんな人がモビルスーツを操縦するのか?
ジョシュアの純粋そうな瞳に、ロイスは情報を少し信じ難かった。
デモ行進の参加者から探すのは不可能だ、どうにかして反連邦組織に―――
考え込むロイスの思考を遮ったのは、彼を呼ぶ柔らかい声だった。
「ロイス?」
不意に呼ばれ、えっ?とすぐさま振り返った。
手前は女性、奥には男性がそこにいた。どちらも連邦軍の軍服を着ている。
まずい!ばれたか?
しかし、女性軍人はロイスの顔を見るや嬉しそうに声を上げた。
「やっぱり、ロイス・ナウサン!」
ロングの黒髪が嬉しそうに揺れた。
黒髪美人の軍人…そんな!
記憶の中から、ふと思い出したのかロイスはパッと顔をあげた。
「君はメリア・グリース!」
「そうよ、メリアよ!」
互いに顔を見つめて、再会に驚いていた。
「グリース少尉。そちらは?」
やや戸惑いながら、メリアの後ろにいた長身の男性が問う。
取り乱したメリアが、やや照れながらロイスと男性軍人の間で双方の紹介をする。
「こちらはユワン・シラディ大尉、私の今の部隊の隊長です。そして、こちらがロイス・ナウサン。私の元同僚です」
長身で銀色の髪をしたユワンがにっと笑うとロイスと握手を交わす。
「君は元連邦軍人だったのかい?」
「は、はい」
質問にやや俯きながら答える。
そんな彼の雰囲気を感じ取ったのか、ユワンは時計を確認すると回れ右。
「グリース少尉、十五分後に集合しよう」
「!―――了解っ」
メリアの返答を聞くと、ユワンは振り返らずにそのまま歩いて行く。
互いに話したいことはあるだろう。彼女だって軍人である以前に女性なのだから。
「私といるときは、あんな笑顔見せたことなかったのに…」
少し寂しく呟いたユワンだった。
23
:
きんけ
:2008/12/08(月) 00:22:01
橙色の光が暖炉の中で揺らめいている。
まぶたが徐々に下がっていき、意識が薄れていく。
「ジョシュア、俺の夢覚えてるか?」
眠気に負けないように、答えた
「ああ、もちろんだよ」
いつか地球のヨーロッパに家を建てて、そこで暮らす。
君がしきりに話してくるんだ、忘れるわけないじゃないか。
「お前や子供たち、それに組織のメンバーたちと朝から晩まで一緒に過ごすんだ。連邦の監視なんてない世界で」
「それは楽しそうだね」
「ああ、楽しいさ。楽しいに決まってる!」
きっと彼の頭の中には、もうすでに僕たちと共に平和に生活している風景が事細かに再現されているに違いない。
店内の壁に飾られた、一枚のログハウスの絵。それこそがハーワンが夢見ている家の完成図だった。
「叶うといいね」
「何を言ってるんだ、そのためにもお前には期待しているんだからな」
意外な言葉に目を丸くして
「え、僕に?」
「正直、俺みたいな力のないやつが頑張っても無意味に近い。だが、お前は違う力を持っている。お前にはモビルスーツを操れるという力で世界を動かせることだって出来る!」
「そんな僕には…」
「だから約束してくれないか。この暗く厳しい世の中を変えて、穏やかに生活できる世界を創って欲しい」
ハーワンは本気だった。
彼は本気でこの世界を変えたいと思っている。
正直、このモビルスーツの操縦技術を彼にあげたいくらいだ。しかし、そんなことは出来るわけがない。
「なあ、約束してくれ!」
僕はこれまでひたすらハーワンに頼ってきた。
モビルスーツの操縦は僕の数少ない特技だ。もし、それでこの世界を変えることができるなら…
「分かったよ。約束する」
僕はハーワンへのお返しをしたい。
世界を変えることが彼へのお返しになるなら、僕は戦おうと思う。
「ありがとう…」
ハーワンから感謝の言葉をもらった。
しかし感謝しなければいけないのは本当は僕なのかもしれない。
きっと、そうなのだろうと何故だかそんなふうに思った。
人影もまばらな公園のベンチに二人。
「ロイスが除隊してから四年が経ったのね…」
「ああ。時間の流れは早いな」
「軍を抜けた後は、何を?」
メリアがロイスの顔をのぞき込むようにして尋ねる。さらりと流れる黒髪が綺麗だ。
「こんなふうに戦場を転々としているんだ」
「ジャーナリストにでも参加しているの?」
「いや…ほんとに戦場を見て歩いているだけだよ。東欧、東アジア、中東、南米…」
24
:
きんけ
:2008/12/08(月) 20:50:34
ロイスはあごに手を当てて、これまで訪れた地域を羅列していく。
嘘ではない。プレイオスに参加する以前は、多くの紛争地域へと足を運んでいた。
メリアからの返答はない。ロイスが続けて聞いた。
「メリアは、まだ連邦軍に?」
「ええ。あなたが除隊した後に転属を希望して後方の部隊に移っていたの。一年前に今の部隊に配属されたわ、これでも二番機パイロットなのよ?」
「君が!?」
思わず変な声を出してしまった。
その反応が気に入らないのか、メリアがムスっと不満そうにロイスを睨みつけた。
驚くのも無理はない。四年前の当時の彼女の操縦技術はヒドイものだった。
彼の反応が気に入らなかったのか一呼吸置いて、メリアが話題を変えた。
「ねえ…連邦軍に戻ってこない?」
連邦軍に戻ってこない?
その言葉に反応を示したロイスは無言でベンチを立ちあがった。
「今の連邦軍は戦力も充実しているし、あの時のようなことには…」
二、三歩歩きだしたロイスの背中にメリアの声。
冷え切った缶コーヒーを飲み干すと、ロイスが「俺は、もうあそこには戻らない」
「どうして?なら、隊長に掛けあって私と同じ部隊に…」
「そうじゃないよ」
小声ながらも威圧感をひめた台詞に、メリアが思わず押し黙る。
「連邦のしたこと忘れたのかよ、あいつらは俺達を駒のようコキを使った挙句に見捨てたんだっ!!」
過去の記憶が走馬灯のようによみがえって、拳にぐッと力が入っていく。
「メリアだって同じように体験しただろ!―――それなのに何故、まだ…」
「それでも、わ、私は連邦軍内でも自分にできることがあると思って残っているのよ!」
「できることって―――」
「なら、あなたはどうなのよ!そうやって文句だけ言って、あなたは何をしているって言うの!?」
思わず、言葉が詰まってしまったロイス。
プレイオスのモビルスーツパイロットだ。と言えるだろうか?
彼女は連邦軍人である、目の前のかつての同僚が反連邦組織の主戦力だと知ったらどうする?
おそらく、拘束するだろう。しかし、俺はこんな処で捕まるわけにはいかない。
「俺だって戦っている…!」
もどかしい思い。
メリアには聞こえないほどの声量で、彼は言い放った。
クエサー宙域。
たしかスウェーデンはスカンジナビア半島のスウェーデンの下だよなあ…
デブリの裏に身を潜めているアルダ。そのコクピット内でドラウロは物想いにふけていた。
不意に反応したレーダーにドラウロはクエサーへと視線を向けた。
「マキスだ…」
クエサー周辺を哨戒している三機のマキスとは別に灰色で塗装された二機のマキスがハッチを開放してコロニー内へと入る。
モニターの映像を拡大。マキスはビームライフルではなく手首に小型のミサイルポッドを装備していた。
「あれは!」
その武器の正体に気づいたドラウロであったが、灰色のマキスは既に宇宙港へと姿を消していた。
あれはミサイルなんかじゃない…あれは―――
二機のマキスの進入に真っ先に気づいたのはロイスだった。
「マキス!」
隣にいたメリアも「何故、マキスが」と疑問の声を上げていた。
すぐさまアナログ式の双眼鏡を覗きこんで、マキスの様子を探った。
灰色の塗装。手首の兵装ポッド。
「あきらかに通常の武装とは異なる…」
「あれは…そんな!」
メリアがマキスの姿に驚いていた。
彼女には、あのマキスの正体が分かったようだ。
「メリア。灰色マキスはどこの部隊の機体だ?」
「軍属じゃないわ。特殊警察のマキスよ!」
振り返ってロイスがメリアを見やった。
「そして、あれは催涙弾の兵装ポッドよ…」
ふざけるな!大規模とはいえ、デモをモビルスーツで鎮圧させるのか!?
マキスがコロニーの中心部へと飛行していく。
「あそこにいるのは数万人という、とてつもない多くの人々だぞ、それにただの市民だって残っているじゃないか!」
特殊警察へ鎮圧命令を下したのはもちろん連邦だ。
ふつふつと湧き上がった彼らへの怒りがロイスの頭を支配していって。
人の意思は自由ではないのか?
「こんな事を平気しようとする世界ってのは間違っているんだよっ!」
バっとマフラーを翻してロイスは走り去っていく。
後ろからメリアの声が聞こえたような気もするが、今は振り返るわけにはいかなかった。
25
:
きんけ
:2008/12/08(月) 20:57:16
訂正だらけだ…
×スウェーデンの下→○ノルウェーの下
×「こんな事を平気しようと→○「こんな事を平気でしようと
26
:
きんけ
:2008/12/08(月) 21:55:03
デモの参加者もマキスの存在に気付き始めたのか、ざわざわとどよめき始めていた。
行列の先頭。議会堂前に到着した彼らの目の前に現れたのは黒い装甲車と、黒の戦闘服に身を包んでサブマシンガンを抱える特殊部隊だった。
向けられた銃口に恐れをなして歩を止めた人々。そんななか、一人の勇士が臆することなく彼らへと迫っていった。
残り五十メートルといったところ。パパパと乾いた銃声の直後、プラカードを持ったまま男はその場に倒れ込んだ。
仰向けに倒れて動かない男。間違いなく彼は撃たれたのだ。
何やら、外が騒がしい。
ハーワンも組織のメンバーに呼ばれてから、店に戻ってきていない。
僕の両側からマリーちゃんとレイちゃんがハーワンはどこへ言ったかとしきりに聞いてくる。
テーブルの上に座って、窓から外の様子を不安そうに覗いているティエレン君。
イナクト君は僕の足を掴んだまま寝てしまった。
さすがに、僕ひとりでは面倒見れない…
おろおろと当惑していた僕に、心強い男が店の裏口から入ってきた。
もちろんハーワンだ。
「よし、お前たち逃げる準備だ!」
「何があったの?」
てきぱきと荷物をまとめるハーワン。
「鎮圧用の特殊警察が出動したらしい。奴ら実弾を使用している」
「そんな…実弾だなんて」
反連邦思想には容赦ないってことか…
僕はようやく重い腰を上げて、イナクト君を抱きかかえた。
「殺されたくはないからね…」
「ガキ共は女に任せるぞ」
すやすやと寝息をたてるイナクト。
「そのほうが安心できるね」
裏口から組織のメンバーであろう数人の女性が顔を覗かせた。
準備をしているハーワンに代わってジョシュアが子供たちをまとめると女性へと引き渡す。
ティエレンが目に見えぬ恐怖に涙を浮かべている。それに気づいたジョシュアは彼の目線に並ぶようにして
「心配はいらない。君は強いんだ」
元気付ける様に微笑みかけた。
突如、すさまじい轟音がジョシュアたちの頭上を駆け抜けていった。
「灰色のマキス…急いだほうがいい」
視線を女性を向けた、女性はそれに答えるようにこくりと頷く。
そして、子どもたちを連れた女性メンバーが走り出した。
その後ろ姿にバイバイ。
「さて、行くか」
ハーワンはリュックを背負った。
「子供達に挨拶しなくて良かったの?」
「すぐ会えるさ」
「それも、そうだね」
こんな状況下でも、やはりジョシュアは笑った。
機動戦士ガンダム0.5
6話 神鳥の輝き
ドラウロは迷っていた。
どうする、姿を出すか?
だが、まだロイスからの合図が来ない。
哨戒中の敵は三機だ。しかし敵艦や付近のコロニーからの援軍が来る可能性だってある。
俺ひとりで慌ててはいけない。信用するんだ仲間を。
「いつでも攻撃の準備は出来ているんだからな…」
早く合図をくれ、ロイス!
大通りでは人々が逃げ惑っていた。
ビルとビルの間の小道から、逃げていく顔という顔を見ていく。
見つかるわけないだろ!
砂漠の中から一つの小石を探すようなものだ。この任務の困難さは、これまでの任務とはまったく違う次元をいっている。
展開する武装した鎮圧部隊に上からはマキスが迫ってきている。
「―――どこにいるんだよ、ジョシュア・ラングリアーーー!」
力の限り叫んだ。直後、全身の力がぬけそうになって膝が折れた。
だが、神はまだロイスを見捨ててはいなかった。
くいっ。
何かが彼のズボンを引っ張る。
半泣きのロイスが視線を下ろした、そこには同様に半泣きの少年がいた。
「そ、そなたは…」
幼い子供の登場に当惑するロイス。
迷子だと思ったが、少年の奥には数人の女性と同い年ほどの子供が立ち止まっていた。
「な、何用…?」
「いま、ジョシュ兄ちゃんの名前呼んでた…」
ジョシュ兄ちゃん…ジョシュア・ラングリアのことか!
「少年よ、ジョシュア・ラングリアを知っているのか!?」
無言でかぶりを振った少年。おもむろに右腕を水平にして指を差した。
どうやら、向こう側にジョシュ兄ちゃんがいるということらしい。きっと、そうだ。
「ありがとう、少年!」
「…ティエレン」
「そうか。ティエレン君か、またいつか会おう!」
ぽんとティエレンの頭に手を乗せて撫でると、ティエレンが示した道へと走って行った。
27
:
きんけ
:2008/12/10(水) 21:51:23
特殊警察の黒装束の部隊が目の前に広がる群衆を静かに眺めていた。
ヘルメットの中、左目に装着された眼帯のような情報機器から目標の人物の情報が送られてくる。
…いた。あそこの旗を持っている男だ。
目標を見つけるや、脇を閉めて銃を構える。
男は特殊部隊に背を向けて逃げており、サブマシンガンの狙いが自分に向けられているとは、最期まで知ることはなかった。
「目標をひとつ排除した」
男の沈黙を確認すると、隊員が報告。
≪ターゲットは広範囲に広がっている。予定通りに散開して対処する≫
「了解」
この最新鋭の戦闘服は非常に便利だ。傍受不可能な交信が腕に装備されたサポートキーで可能となる。
身軽で防弾仕様でおまけに防水、防塵とくれば活用しないわけがない。
この戦闘服なしで任務の遂行など、もはやありえないな。
≪いいか、忘れるなよ?あくまでも反連邦組織の主要メンバーのみの拘束および殺害だ≫
「ご承知の上ですよ」
さて、次の目標は?
サポートキーを操作して、情報を見ていく。
未だに排除されていない目標者の名前を見つけて、彼が無意識のうちに呟いた。
「ハ、ハーワン・ヨンフィ…?」
喫茶店の若いマスターの名前が、そこにはあった。
「地球では店は続けるのかい?」
「いや。ちょっと森に入ったところに家を建てたいんだ」
「自給自足だね」
大通りの騒ぎの音がかすめる裏通りを二人は走っていた。
ハーワンを先頭にして丘を目指していた。丘を越えた先の山の中でメンバーと合流する腹積もりらしい。
クエサーの土地勘はハーワンのほうがある。常に非常事態に備えてコロニー内の地図を頭に叩き込んでいたのだ。
あまり自発的に出歩かないジョシュアは、せいぜい繁華街か日頃、散歩に行く公園ぐらいしか覚えていない。
「朝は小鳥のさえずりで起きて、夜はフクロウの鳴き声を聴きながら眠るんだぜ」
「森林浴はできるの?」
娯楽の少ないジョシュアにとって公園の木々での森林浴は貴重な癒しの一つだ。
「ああ。一日中、浴び放題だ!」
「ホントに?」
ハーワンの頷きにジョシュアの胸が躍った。
ジョシュア自身はスピリチュアルパワーなどの胡散臭いものは信じてないが、自然のなかに囲まれること自体は人にとって良い物だと思っている。
反射鏡を通さずに直の太陽光と自然の空気と水と緑…ジョシュアの中の地球への憧れは膨らむ一方だった。
ジョシュアが不意に背後を振り向いた。上空には灰色のマキスが見下ろしていた。
議会堂へと戻ったユワンとメリアは軍用車両に乗り込むと、所属の艦に帰還するべく宇宙港を目指していた。
―――こんなことを平気でしようとする世界ってのは間違っているんだよっ!
ロイスの放った言葉がメリアの頭の中で何度もリピートされていた。
大衆の意見を力で押さえつけて、独裁的な政治を行う連邦至上主義の官僚。その圧倒的な戦力で増長する軍部。
たしかにあなたの言うとおりだわ…でも私は…
窓を覗き込むと、遠くに二機のマキスが中心街の頭上で滞空していた。
「催涙弾を使用するつもりだろう」
メリアと同様に外を眺めていたユワンは言う。
特殊警察の任務は反連邦組織の主要メンバーの排除だ。そのために任務遂行の邪魔となる群衆を催涙弾で大人しくさせるつもりなんだ。
28
:
きんけ
:2008/12/10(水) 22:24:49
あと数十メートルでビル裏を抜けて、丘へと続く道へと開けるところ。
「っ!?」
右折したハーワンの目に映ったのは、こちらへと歩いてくる特殊部隊の姿だった。
遅れて、右折しようとするジョシュアを強引に直進させて自身も、そのあとに続いた。
隊員がハーワンの姿を確認し、追いかけてきた。
「そこを右に!」
もう一度、右折しようとした時。ハーワンは腰に激痛を感じた。
その痛みに思わず、膝が折れた。転倒する直前、彼は最後の力でジョシュアの背中を思い切り押した。
「ハーワン!?」
彼の様子に気づいた、ジョシュアが止まろうとしたので
「走れ!とにかく走るんだ!」
後ろから足音が近づいてくる。
「約束だ」
叫ぶ。
「お前の力で世界を変えるんだよ!」
僅かの間、ジョシュアは立ち止ったが迷いながらも走って行った。
そうだよ…これで、いいんだよ。
走り去っていく、その背中姿を見送りながら微笑した。
どれくらい走ったのかな…
どこを走っていたのか記憶は定かではない。
ただ、感情に任せて疾走していた。
「僕は…どうすれば」
視界が潤んでいく。
いまの僕に何ができるの?僕に力があるというの?
―――違う、あるわけないじゃないか!
僕には…
「ハーワンの期待に応えることは出来ない…」
ぼろぼろと落ちていく大粒の涙。
結局、僕はこんな無力な人間なんだ。
こうやって惨めに泣いているほうが似合っているんだ…
彼の曇った視界に誰かが近づいてくる。
誰だろう、声も聞こえる。
―――あなたが
男は僕の顔を見ながら
「あなたがジョシュア・ラングリアですね?」
あなたは?
「俺はロイス・ナウサン。同じプレイオスのモビルスーツパイロットです」
合流に奇跡的に成功したロイスとジョシュアは、宇宙港へと急ぐ。
丘を目指していたのが功を奏したのか、港までの道のりは大したものではなかった。
港の入口が見えてきた。
そろそろ突破口を開くためにも、ドラウロに暴れてもらう必要があるな…
「合図を送るから、ちゃんと気づくんだよ、ドラウロ!」
きっと待ち呆けているであろう仲間へと呼び掛けた。
合図見えたぜ。
「まったく…待ち時間が長すぎて、操縦方法忘れるところだったろ」
接眼用モニターを覗きこみ、スナイパーライフルを構えた。
デブリから機体を離すと、その姿を敵機に晒す。
哨戒部隊に異変が見られる。おそらくこちらを、アルダをレーダーに捉えたのだろう。
「囮なのは気に食わないけど、好きにやらせてもらうかな…」
今日は芋虫スナイパーはお休みだ。
29
:
きんけ
:2008/12/13(土) 12:52:09
一射、二射、三射とトリガーを引くも、光は宙を散るだけで終わる。
出力を落として連射仕様にしたライフルであるが、得物の大きさゆえに、マキスなどのビームライフルなどと比較しても非常に扱いづらい物となっていた。
ポインタでマキスを追いかけるが、狙いは定まらずに敵機の姿がフェードアウトする。
「慣れない事には段階を踏む必要があるか」
距離を詰めてくるマキスに焦るドラウロ。
接眼用モニターから顔を離すと、他の射撃武器と同様にセミオートに切り替えた。
アルダの出現により、宇宙港は混乱していた。
ハッチを開放しろとひしめく人々。アルダ撃墜のために迎撃準備を進める軍関係者。ロイスが予測していたよりも凄まじい状況だ。
特殊警察の投入が影響しているな。
鎮圧部隊は、あくまでも反連邦組織の主要メンバーを目標にしていたが、あの大人数が走り回っていたのだ、流れ弾などにより負傷した人々は多い。
不謹慎ではあるが、このチャンスを利用しない手はない!
「この船に新型が積まれている!」
走りながら、一隻の輸送船を指差した。
なんてことのない民間企業が使用していそうな宇宙船だった。
「こんな小さな船にモビルスーツが積めるのかい?」
「俺も情報だけ渡されたので、さっぱりですよ」
ロイスがパネルを素早く操作して、船外ハッチを開くと内部へ。
操舵室に飛び込んできたロイスとジョシュアの姿に驚いた船長であったが、すぐさま状況を理解。
「やっと来たか、荷物は後部の格納庫だ!」
「パイロットを連れてきました、船は出せますか!?」
「だめだ。無理に出そうとすれば人を巻き込む」
ガラス越しに港の様子を見た。人がゴミのようだ。
「ならば、新型だけでも起動させます!」
「そうしてくれ、コンテナは開けておく」
操舵室を後にする二人。
格納庫は船の一番後ろである。迷うことなく到着する。
多数の資材とともに、積まれていたコンテナが、開き始める。
十メートル弱のコンテナからは、確かに一機のモビルスーツが搭載されていた。
黒を基調とした機体の背部には、これまでのモビルスーツには見慣れないほど翼状のフライトユニットが折りたたまれていた。
「これが僕のモビルスーツ…」
その姿に惚れぼれしながら声を漏らしたジョシュア。
そうだった、この機神を動かせるのが僕の力だ。
「動かすから、後ろに乗るのかい?」
「ええ。シートに掴まってますよ」
仰向けで寝かされているモビルスーツの上を歩きながら、コクピットへと近づく。
一目では分からないが、細かい部分はエヴンスに似ている。
30
:
きんけ
:2008/12/13(土) 13:58:23
コクピットに入ると、ロイスは言葉通りにシートに掴まっていた。
エンジンに火を入れると、ぐおおと唸りを上げて機体が目を覚まし始めた。
「この体勢に疲れたんだよ。何日も寝っぱなしじゃあ体も痛くなるし」
計器をいじりながらジョシュアは言うが、ロイスはもちろん否定。
「そんなことがあるわけないじゃないですか」
「思う気持ちだって大切だよ。ともに命をかける大切な相棒じゃないか」
ふふっと笑うジョシュアに、どう反応していいか分からず困るロイス。
機体を大切に扱うことは心掛けてはいるが、ジョシュアのように生き物に触れるようにしてモビルスーツに乗ったことはない。
あくまでモビルスーツは機械なのだ。機械は生きていない。
「この機体―――ガルーダって名前なんだね」
ディスプレイに羅列されていく機体情報を目で追う。
すごい機体だ。データ上の数値でならマキスに勝っている。
「時間がない。すぐ港から出てください」
「了解」
31
:
きんけ
:2008/12/21(日) 15:41:13
コクピット内に鳴り響く電子音に気づいてレーダーを見るイーサン。
クエサーの宇宙港から出てきた機影にはプレイオス所属の認識番号が表示されている。
「コロニー内に内通者でもいたのか!?」
港に停泊していた船にはモビルスーツなど積まれていないとの報告だったが…
認識番号は確かにプレイオスのものだ。どういう仕掛けだ?
まあ、何にせよ敵なら対処するしかない。
「増援は私がやる。二人は引き続き、緑のモビルスーツを」
隊員のマキスを尻目に新型へと機体を加速させた。
ズームで捉えた敵機の姿にイーサンはわずかな違和感を覚えた。
―――!?
意識を呑み込まれてしまいそうな、漆黒の機体。
ジェットユニットのミサイルを放つことはせずに距離を詰めていくと、ビームライフルを使用。
光は宙を切り裂いていくが、敵機は身軽そうにくるりと回避行動をとっていく。
「やはり、機体が小さい」
小型モビルスーツだ。たぶん全長は10メートル前後だろうな。
全長18メートルであるマキスと比べれば、その小ささは一目瞭然。
モビルスーツの小型化には課題が山積みである。機動性、パワー、機体の耐久性、一定数値維持できる出力。
それゆえに高水準のスペックを確保して、18メートルという全長に仕上げたマキスは傑作モビルスーツと言われている。
「小回りが効いただけではマキスには勝てないぞ!」
32
:
きんけ
:2008/12/23(火) 08:49:52
「来る!」
「分かってるよ」
ロイスとは対照的に落ち着き払っているジョシュア。
マキスがビームサーベルを抜き放つと接近してくる。こちらも減速することなく敵機に銃口を向けると発射。
無数の銃弾が放たれたので通常のアサルトライフルやマシンガンかと一考したロイスであったが、弾丸の色の緑に気づくと
「ビームマシンガンなのか」
「すごいね。地上では便利に使えそうだ」
コリオリを気にしなくてすむ。
かろうじて射線から離れたマキス。ビームマシンガンという見慣れない武器の存在に臆しながらも、黒の新型「ガルーダ」に食らいつこうとする。
上段にサーベルを構えたマキスの腰部から不意に小さな何かがパージされた。マキスから飛ばされた、それはガルーダの眼前で炸裂。
「クラッカーなの!?」
否。
直後、ガルーダの周りは白煙包まれると、視界が殺された。
「煙幕だったのか!」
「下がるよ」
ぐうんと前方にスラスターを吹かして、煙の世界から抜け出そうとする。
それこそが対処法であり、罠でもあった。
視界が開けた刹那。白を切り裂いて肉迫する赤の光刃。
「デモ鎮圧のための煙幕が、こんなところで役立つとはッ!」
伸びるマキスの右腕。もはやこれまでか。
「この機体には!」
ガルーダの胸部から強い光が発せられた。斬撃を受けたわけではない。
機体を逆上がりのように反転させると瞬後、下半身はぐるりと回転し背部の翼が展開。瞬く間にガルーダは両翼を広げた鳥となっていた。
「可変モビルスーツなのか、黒の新型は!?」
イーサンの攻撃は宙を凪ぐだけで終わり、ガルーダはその場から距離をとっていた。
「ガルーダ。こいつにピッタリな名前だ」
旋回しマキスへと襲いかかる。敵機は武器を持ち換えてビームを連射している。
それを軽々と避けると右腕に固定されたビームマシンガンが斉射。
降り注ぐ光の直撃を受けると、マキスの右脚が弾け飛んだ。
「ちょこまかと!」
すれ違いざま、マキスの背部よりミサイルが発射されたのが見えた。片翼に三発装備され計六発の、それが迫る。
「前世紀の戦闘機を参考にしているなら、この機体の後部に積まれているのは…」
垂直尾翼の下。わずかな収納部のハッチが開くと、内部より無数の機雷が後方に散布。次々と破裂していくと全弾のミサイルを粉砕した。
33
:
きんけ
:2008/12/29(月) 08:05:45
機雷散布後。変形を解除して今だとばかりにサーベルを抜刀してマキスを襲った。
迎撃に放った光条は小型のガルーダを捉えられず、宙を走っていく。
その間にも、ガルーダは接近。イーサンが素早く反応してみせるも、ビームサーベルはマキスの胸部を薙いだ。
「くそっ!まったくプレイオスめ!」
毒づいたイーサンであるが、躍起になって反撃に出ようとせずに、後退を選択。
「こちらも下がりましょう。援軍を呼ばれているかもしれませんし」とロイスが言うと、すぐさまドラウロに通信。
「ドラウロ、もう撤退だ」
《やっとかよ。散々待って、暴れ足りないね》
「別の機会に暴れろよ、あんたにはゲームだってあるんだし」
《はいはい。分かったよ》
無線の先の声は少しだけ名残惜しそうにも聞こえた。
腰だめに構えた砲身から弾幕を張っていき敵機の逃げ場を殺す。
腰部から抜いたサーベルを行動範囲を封じられたマキスへと投げた。
「役割が役割なだけに暴れることが出来ないんだよ、ロイス君」
隊長殿がいないということが、こんなにも自分にとって精神衛生上良いとは思いもいなかった。
34
:
きんけ
:2009/01/18(日) 21:11:19
母艦から出撃したユワンのモビルスーツ隊が、戦闘宙域へと急いでいた。
《敵機は二機だ、ククルス宙域で確認された狙撃タイプと、新型だ》
「狙撃タイプと新型…」復唱するかのようにメリアが呟いた。
イーサンのマキスが後退していくのを確認すると、それを好機としてドラウロのアルダとジョシュアとロイスのガルーダもクエサー宙域から離れていった。
《後方の連邦艦からモビルスーツ隊が出撃しているが、この位置なら追撃されることも無いだろ》
「毎回、そうやって殿に着いてくれると作戦がやりやすいんだけどなあ」
ドラウロからの返答はなく、ロイスがムッとして回線を閉じると、シートに座るジョシュアの様子を見た。
「母艦に行けばいいんだね?」視線に気付いたジョシュアが聞く。
「えぇ、この先の暗礁宙域まで行けば落ち着くでしょう」
シートにがっちりと掴まっていた手を離すと、首に巻いていたマフラーを解いた。
「ふぅ」と息を吐くと、座席の後ろの狭いスペースに足を折りながら窮屈そうにロイスが座り込んだ。
《ちっ…見事な引き際だプレイオス。これまでテロまがいの反攻作戦を繰り返してきただけある》
離れていく敵機に追撃を仕掛けられそうにもなく、歯噛みするユワン。
「イーサン中尉のマキス来ます」
前方から各所を損傷したマキスがやって来る。
《危ないところでしたね、中尉》
《新型は変形をするぞ。小型で動きも良い》
不意にイーサンが顔を俯かせると
《私はマキスに傷を負わせたばかりではなく、部下を二人も失ってしまった…》
《マキスの名マイスターと名高い中尉が苦戦する相手…ぜひ戦ってみたいものです》
ユワンは落ち込んでいるイーサンのことを気にもせず、そう言った。
35
:
きんけ
:2009/01/21(水) 15:54:40
百九十ヶ国以上の加盟国から成る地球連邦軍は、かつての三陣営の冷戦時代の名残で主要な軍事基地を三つに分けた。
中国、重慶。北米、ネヴァダ基地。イタリア南部、トレント基地。
いずれも連邦軍に欠かせない戦力であり、プレイオスには解決しなければいけない障害である。
機動戦士ガンダム0.5
7話 解放と粛清
クエサーの出来事から一週間ほどが経過した。
連邦政府に対して実施された大規模デモは特殊部隊と特殊警察のモビルスーツによって鎮圧されたが、公式にはプレイオスの奇襲による被害と発表。これにより鳴りを潜めていたプレイオスに対する抗議の声が再び上がることとなった。
クエサーの住民の証言は黙殺され、クエサーの騒動の様子を捉えた動画や画像は政府に厳しく検疫されてしまい、一部のアングラを除いては真実を知る者はいなかった。
「そして世論のプレイオスに対する声も後押しして、今回、連邦軍は欧州地区に点在する反連邦組織に対して中規模な一掃作戦を敢行することが決定した」
リンドヴルムのミーティングルームに集まる主要スタッフは皆、シラナミの言葉に耳を傾けていた。
照明を絞って薄暗い室内はモニターの光により暗緑に色づいている。
「しかし、世論の声が後押しというのは後付けの理由だろう。連邦軍は以前より軍事行動の準備を進めていました。クエサーの出来事は予想外でも作戦実施は予定調和であり、それらしい理由を付けるために、利用されましたね」
「天下の連邦政府様だってのに、やることは与党をバッシングする野党よりも汚いな」
「うむ」とシラナミが珍しくドラウロに同調すると
「増長した軍部の暴走は止まることはないだろう。恒久的な平和のための抑止力という素晴らしい理念は、こんなにまで落ちぶれてしまった。この状況を打破するには、彼らの目を覚まさせなければいけない。」
気迫のこもったシラナミの言葉に一様の顔が引き締まった。
ミーティングを終えると、各自がそれぞれの持ち場へと戻っていく。
ロイスもエヴンスの最終チェックのために格納庫へ…と思考していたがミーティングルームを出る直前、シラナミに声をかけられて足を止めた。
「何です?」
「ロイス・ナウサン。君に地球に降下した際のモビルスーツ隊の隊長を努めてもらう」
迷いを見せることもなく、彼は言った。
「俺が?」
「そうだ」
36
:
きんけ
:2009/01/23(金) 16:16:21
「モビルスーツ隊の最年長ならあなたを除けばドラウロですよ?」
ぴくりと眉を跳ねて反応するシラナミ。ロイスも彼の雰囲気を察すると、何も言わない。
「…ドラウロ・バーンに部隊をまとめられると思うのか?」
「そんなことは任せてみなくちゃ分からないじゃないですか」
シラナミの鋭い視線が突き刺さる。
「私達がやっているのは生死を分かつ戦いだ。彼に任せられるほど隊員の命は軽くない」
何故、シラナミがこれほどまでにドラウロのことを毛嫌いするのかがロイスには理解し難かった。
マイペースなドラウロのことが許せないのだろうか?
「了解です。やれるか分かりませんが最善を尽くします」
抗議など無意味だと悟ったのか諦めたようにロイスは答えた。
その言葉だけを待っていたシラナミは最後にロイスを一瞥するとミーティングルームを後にした。
まったく…みんな、自分ばかり考えて…。
淡々と廊下を進んでいくシラナミの背中姿に僅かながら顔をしかめていた。
ユワンは連邦軍の新造艦であるボクロスナに乗員していた。もちろん他のメリアを始めとする隊員も一緒だ。
トレント基地の軍事行動を察知したなら、プレイオスは宇宙からの降下作戦を実施すると予想したのだ。
「プレイオスに刺激を受けた反連邦組織は活動を開始している、それにプレイオスの地上部隊もあるはずだ。彼らは必ずこちらの作戦を妨害してくる」
そして、その予想は見事に的中した。
「…それにしてもよく、我が隊がこの作戦に参加できましたね」
まだ使われいない新造艦の内部の清潔に目を見開きながら、メリアが言った。
「軍上層部に私の叔父がいる。叔父の計らいで特別に部隊に編成させてもらったのだ。プレイオスとの戦闘は経験したほうがいいと思ってね」
何でもないように言うとユワンはコップの紅茶をすすった。
37
:
きんけ
:2009/01/24(土) 08:42:09
リンドヴルムを先頭に合計八隻の戦艦が、ゆっくりと航行している。艦隊の前方には母なる星である地球が視界いっぱいに広がっていた。
涙すら出そうになる、この美しさを持った地球で人々は時に己の私利私欲のため時に神のため時に大義のために戦いの歴史を繰り返してきた。今回の戦いもその一つに過ぎないというのだろうか…
リンドヴルムのパイロット待機室に次々と集結してくるモビルスーツパイロット達。ロイスとジョシュアは作戦内容の最終確認をしていた。
「トレント基地への降下のために地球へと近づきますが、引力に引かれて、次第にモビルスーツの機動力は落ちていきます」
黒のパイロットスーツ姿のジョシュアがロイスの言葉に静かに頷いている。
「この時や降下準備に入った機体は非常に敵機に狙われやすくて危険です」
「そこで僕のガルーダの出番だね」
「その通りです。ガルーダのモビルアーマー形態なら、どの機体よりも迅速に対応できます。」
「護衛部隊が退いた後は、僕ひとりで降下部隊を守らなきゃいけないのか…」
地上へと降下するモビルスーツは二十数機。ジョシュアが不安なのも無理なかった。そんなジョシュアを見かねて、隣に座っていたドラウロが
「いざとなったら俺が狙撃で加勢してやるよ」
携帯ゲーム機の液晶画面から目を離さずに何気なく呟いた。
その言葉に思わず驚いたロイスだが、しばらくして驚きは笑顔に変わった。
ボクロスナのレーダーがプレイオスの艦隊を捉えてから、艦内は戦闘準備に追われていた。
忙しく動き回る他の乗員とは対称的に、アンドレはコクピット内で静かに出撃の時を待っていた。
プレイオスが宣戦布告せずに連邦艦を奇襲した、言わば前哨戦で完璧なまでに打ち負かされたアンドレ。
そんな彼の心は人知れず怒りと復讐心で燃えていた。
「部下の仇はとらせてもらうぞ…プレイオス」
ぎゅっと拳を作って、決意を露わにした。色白で端正なアンドレの顔の表情はとても険しかった。
38
:
きんけ
:2009/01/27(火) 19:16:40
作戦開始時間が迫って、プレイオス艦隊より次々とモビルスーツが出撃していく。
《PGPの四機目が、この作戦に参加するって話しは本当なのか?》
カタパルトハッチの順番待ちの際にドラウロが聞いてきた。
「さあ…降下隊に参加するならリンドヴルムに乗っていると思うけど」
《本当だ》
通信に割り込んでくる、この抑揚のない声はシラナミだ。
《PGPの四機目は地上部隊に編成されている。そのほうが都合が良い》
「何故、俺達にそんな大事なことを伝えなかった?」
《PGPはプレイオスの要だ。安易に情報を流すことはできない》
それを最後にシラナミのセーメイが艦を発った。ロイスがエヴンスをカタパルトハッチへと急がせた。
《信用されてないんだな…》
「真面目なだけだよ、きっと」
規律を重んじて他言しなかったんだとロイスは納得しようとしていた。『仲間を信用できないから話していなかった』などと思いたくなかったからだ。
シラナミは隊員の命は軽くないと言った。俺達も命懸けで戦い、隊長であるシラナミの指示で動いているんだ。
「仲間を軽視なんてしてないよな…」
エヴンスが出撃に備える。眼下には青い青い地球。
「ロイス・ナウサン。エヴンス行きます!」
プレイオスとほぼ同時刻に連邦軍艦隊もモビルスーツの展開を始めていた。
プレイオスの降下作戦阻止に投入された戦力はトーマス級四隻とボクロスナの五隻で、投入されるモビルスーツは合計で三十四機とプレイオスとの戦力均衡は大差ない。
ボクロスナ両舷に構えた二つのカタパルトハッチより立て続けにマキスが放たれていく。無駄のないスムーズな動作は、やはり正規軍だけのことはある。
「正規軍がテロリストまがいに負けてたまるか」
テールブースターを吹かして先駆するアンドレ機。遅れて部下がそれに追従する。
《来た来た》
言うやドラウロはアルダのビームスナイパーライフルの接眼用モニターを覗く。射程の有効範囲の長さを利用しての先制攻撃だ。
撃ち放った閃光が敵陣へと伸びていくと巣穴をつついたかのように敵機が慌てて散開していく。
《命中なしか…まあ、いいや》減速し、狙いを定めるアルダを尻目に直進するモビルスーツ隊。
「引力に捕まる前に…!!」
エヴンスの両腕の刃が蒼く光り輝いている。この刃が敵機のオイルで汚れる作戦が始まった。
39
:
きんけ
:2009/01/30(金) 22:58:14
東の空が白み、新しい朝を迎えようとしている。
肌寒く、透き通るような風が寝ぼけ眼なユウの肌を撫でた。山岳にくり抜かれたように秘密裏に建造されたプレイオスのオーストリア支部はイタリア北部のトレント基地襲撃のための最終的な作業に追われていた。
秘密基地の最上部の屋上からは初秋の夜空が頭上に広がっており、格納庫の喧騒とは無縁な場所であった。
「見えた。戦闘の光だ」
仲間の言葉に振り返ったユウ。仲間からアナログ式の双眼鏡を受け取ると、指差す方向を見た。
そこには確かに戦闘により生まれる赤い光が広い夜空の僅かなスペースを色づけていた。
「…」
黙って、戦闘の光をその目に焼き付けようとしているユウ。眠気はすでに冷めていた。
機動戦士ガンダム0.5
8話 宇宙に降る星
モビルアーマー形態で出撃したガルーダが部隊の前に出る。アルダの断続的な射撃に連邦軍は陣形を大きく崩していた。
「この作戦にも大きな意味がある…!」
先駆しているアンドレのマキスへと銃口を向けたが、コクピット内に警告音が響いた。敵にロックオンされたのだ。
ロールして射線から離れると、今度こそトリガーを引いた。
しかし、マキスも見事な回避運動で攻撃を難なく避けた。
「二刀流とスナイパーがいる部隊だ、鳥のようなモビルアーマーが出て来ても驚きはしないぞ!」
その言葉通り、ガルーダの攻撃に対して冷静に処理していくアンドレ。対照的に焦りを隠せないのはジョシュアだ。
「スペック上でならマキスに勝っているのに」
アンドレ機とすれ違い、旋回した直後にビームがガルーダを掠めた。レーダーを見ればガルーダはアンドレ機を含めた三機のマキスに囲まれていた。
「しまった…!」
集団戦闘に慣れていないとはいえ迂闊だった。目の前の敵に固執しすぎたのは完全に落ち度だ。
ユワンのマキスが単機でプレイオスの主力モビルスーツであるセーメイに迫る。ビームライフルを放つも、大袈裟なモーションで避けられると反撃のビームカービンがマキスを狙う。
漂っていた軍艦の残骸の陰に隠れてやり過ごすが、すぐにセーメイはビームサーベルを抜き放ち肉迫。
光刃が残骸の装甲を切り裂く直前、不意に飛び出してきたユワンと交錯した。
「今だ」
ユワンが短く合図すると隠れていた部隊のマキスが身を晒して、ビームサーベルを握り締めてセーメイへと近づく。
切り結んでいるために身動きがとれず狼狽するセーメイ。最期は背後から青い刃を刺されると四散した。
40
:
きんけ
:2009/02/18(水) 07:51:26
ビームサーベルを上段に構えた直後、喧しい警告音がアンドレの耳に飛び込んできた。
条件反射で操縦桿を操作すると、その場で制止してみせる。するとマキスの眼前をビームが通過、何も無い宙域が緑の粒子に焼き払われた。
一瞬の判断を誤っていたら…とゾッとしながらもアンドレは改めて後方の狙撃型を脅威に感じていた。
アルダの援護に感謝しながら、マキスの包囲から脱却したジョシュアは距離を空けようとガルーダを加速。
「やらせるかっ!一機でも落とせば」
アンドレが叫ぶとガルーダへ食らいつこうとテールブースターを吹かした。しかし敵機の後ろに付いた直後、彼の機体に激しい衝撃が襲った。
「何!…」
突然、周囲が光ってアンドレの視界を殺した。
「この独特の光は−−−」
「機雷の威力が低くても、これなら!」
マキスの射線をかいくぐって、腰椎部からビームサーベルを抜き放つと一閃。
切断されたマキスの左腕は光の粒と共に地球の方へと流されていった。
「コクピットを斬られる直前に反応した!?」
振り下ろした剣を返すように振り上げるも光は宙を切り裂くだけに終わる。
「くっそ…何なんだこれは!」
なんとかガルーダの斬撃をやり過ごしたアンドレは弾幕を張りながら罵った。
41
:
きんけ
:2009/02/27(金) 21:09:05
幾筋のビームが獲物を捕らえることが出来ずに宙間を焼き払うと、青の粒子が地球の蒼を背に散って消える。
チャージが追い付かずに次弾発射の様子がないセーメイのビームカービンを確認すると、すかさずマキスが反撃に転じた。
撃ち放たれたビームをときにはシールドで受け止めながら回避していくが、それにも限界は来る。
激しい衝撃に一瞬、ブラックアウトしたパイロットだが、すぐさま状況を理解。
ビームに貫かれて吹き飛んだ右腕とビームカービンを尻目に、シールドの先端をマキスへと向けるとトリガーを一押し。
シールドが爆散したかのように白煙を上げると、煙の先からは餓えた獣のように荒々しく駆けていくミサイルが三発。
虚を突かれて、マキスは回避運動もままならずに破砕した。
目の前の敵を撃破し安堵したのもつかの間、レーダーに映る敵のモビルスーツ。
二機のマキスが五体満足の状態でセーメイへと接近してくる。敵影に歯噛みするとくるりと後方を向いてブースターを噴射。
戦力差で劣ることの多いプレイオスでは「用心深く行動しろ」と教わる。彼もその教えに則り戦線を離脱しようしていた。
しかし、そこは傑作モビルスーツ「マキス」である。素晴らしい加速で、じりじりとセーメイに迫るとついにビームライフルのレンジ内へと捉えたのだ。
機体をロックオンされたのか警告音が途切れることなくパイロットの耳に飛び込んでくる。無慈悲な電子音にパイロットの表情は焦りから恐怖へと変化していった。
だが、この戦場は孤独ではない。
音も無く静かに飛んできた緑の光輪はマキスの頭部へと吸い込まれるように直撃。ブーメランのような、くの字を形成していた光刃が爆発することも無くマキスのメインカメラを叩き壊していた。
経験したことのない攻撃に思わず動きを止める二機のマキス。一方のセーメイは援軍の正体に歓喜すると、モビルスーツの名を叫んだ。
「エヴンス!」
白と青の機体は、相変わらずの二刀流での登場である。
セーメイとすれ違いざま二門のブースターから光芒がこぼれる、その光こそがエヴンスの機動力の源である。
ビームをばら撒くマキスだが、一発の攻撃も避けると相対距離を計算しタイミング良く刃を薙いだ。
豆腐を切るかのように易々とマキスの装甲を切断すると、右腕を真っ二つにした。
42
:
きんけ
:2009/07/12(日) 15:24:37
エヴンスへと追いすがるようにビームを放つマキスであったが、エヴンスの機動力が相手ではどうすることも出来ずに光条は虚しく散っていく。
その間にも旋回をしたエヴンスがマキスへと接近。素早い対応も叶わずにマキスは巨大な刃の餌食となった。
コクピットから二つに切断されたマキスは、爆散することもなくその場に漂うだけの残骸となった。
「大丈夫か?」
《は、はい!援護感謝します》
少々上擦った返事。声から判断するにまだ二十代前半か。
「一人で母艦に帰れるな?」
《武器はサーベルだけですが、やってみせます!》
「馬鹿。艦に帰還しろ」
それでもパイロットは食い下がらない。
《いえ、戦わせてください!》
「黙れよ、ここは命を粗末に扱うような戦場じゃない!本当に世界を変えたいと思うなら生き残れ!」
《す、すみません…》
ロイスの怒号にパイロットが思わず萎縮した。
ロイス自身もバツの悪そうな顔をすると
「いや、怒鳴って悪かった…とにかく帰還するんだ。これは命令だからな」
言うや背部のブースターを噴かすと、その宙域を離れていった。
43
:
きんけ
:2010/09/24(金) 22:44:30
ビームカービンで眼前のマキスを焼き払うと、シラナミは低い高度にいるモビルスーツ隊へと視線を移した。既にモビルスーツの背部に搭載した大気圏突入用パラシュートが展開し、降下フェイズに移行している機体があった。
「シラナミより護衛部隊へ、降下が開始された。接近してくる敵機は全て撃墜しろ!」
ここからが本番だ、邪魔などさせるか!
マキスを撃ち抜くと、不意に機体の姿勢が崩れ、アルダのコクピット内に警告音が鳴り響いた。直後にパラシュートが展開され、機体が自動的に大気圏突入モードとなってしまった。
「射角が広く取れないが…一機でも撃墜する」
仰向け状態になり、身体が下へ下へと引っ張られるもドラウロは接眼用スコープを覗いた。
次々とモビルスーツが降下している光景にアンドレは焦りを感じていた。
「意気込んで出撃したんだぞ、これじゃあ格好つかないだろ…」
ブースターを吹かして上昇させようとペダルを踏み込んだが、機体はアンドレの予想以上に重くなっていた。地球の引力は既に彼を捕らえていたのだ。
ガルーダとの戦闘で自機の片腕を失ったが、決して帰還できない理由があった。
「アイツはどこだ!?」
目を凝らしてモニターに映る映像からアイツを探し出す。
ククルス宙域で邂逅し、部下を失い、完膚無きまでに叩きのめされたアイツを!
〈接近してくる敵機は全て撃墜しろ!〉
シラナミの無線に呼応するように護衛部隊が前線を押し上げて、敵部隊にプレッシャーをかけようとしていた。プレイオス・連邦軍共に地球の引力により機動性を落ちている中、高機動戦闘を主眼とするガルーダだけはポテンシャルを発揮させ、見事な働きをしていた。
地球へ降下したら、次は重力下での戦闘になる。ガルーダの単独飛行能力は大きな力になるかもしれない…
ロイスの思案を遮るかのように無線が入った。
〈こちらドラウロ。降下体勢に入った。これより援護射撃の要請に応えるのは難しくなる〉
ステルス能力に特化したアルダの援護射撃は強力だが、推進力はセーメイと同等程度でエヴンスやガルーダほど引力に対して抵抗できない。そのため、この作戦はアルダが降下を開始した後が正念場だとされている。
「降下部隊の殿を任せられたとは言っても、射撃武器のないエヴンスでは…」
瞬後、幾重の光条がエヴンスを掠めた。ロイスが声を発するよりも速く、レーダーが接近する敵影を捉えて警告音が鳴る。
機体を反転させ、すぐさまバーニアを吹かすロイス。前方からは片腕を失ったマキスが、こちらへと迫ってきていた。
「前線を突破してきたのか!?」
マキスの放ったビームを辛うじて避けたエヴンスだったが、敵機のショルダータックルにより体勢を大きく崩した。
「恥を偲んで回り込んだ甲斐があったというものだ!」
銃口が焼け落ちたビームライフルを破棄すると、背部からビームサーベルを抜刀。力の限りに刃を憎きアイツへと振り下ろす。体当たりで怯ませたが二刀流の敵機は素早く反応して、こちらの攻撃を防いだ。
「ここで…ここで落ちろ!」
アンドレはひたすらに叫び続けていた。
44
:
きんけ
:2010/10/13(水) 16:44:41
マキスよりも速く、エヴンスがクラスターを吹かして斬撃を回避。返す力で再度ビームサーベルを振るうも攻防兼用防盾がそれを防いだ。
「どうした?防戦一方かよ二刀流!」
接触回線からマキスのパイロットの声が聞こえる。
「これで勝ったつもりかよ…!」左腕の攻防兼用防盾から刃を展開させるとマキスへ一突き。アンドレがギリギリのところで反応し離れるも、刃は腰部を掠めて装甲に傷を負わせた。
「こんな掠り傷!」
「得物が大きすぎる…!」
刃を盾に収納すると、腰部からビームサーベルを抜刀。胸部バルカンを放ちながらマキスに襲いかかった。
バルカンが直撃し装甲が穿つも決して退かないマキスにロイスは嫌な予感がした。互いに激突し切り結ばれた光刃が迸る。
エヴンスのジェットを吹かすも、地球の引力に加えてマキスの重さで押し通す事が出来ない。むしろ、地球へと引っ張られていた。
「このままでは地球に落とされる!?」
「いくらコイツだって、摩擦熱には耐えられまい!!」
さらにブースターの出力を上げて押し込もうとするアンドレだが、水を差すようにコクピット内に警告音が響いた。
緑の弾丸が切り結ぶ二機の傍を駆け抜けた。咄嗟にエヴンスから離れるマキス。
MA形態のガルーダが弾幕を張りながら突撃。ビームマシンガンは周囲のモビルスーツの残骸を撃ち、花を咲かせた。
爆風の勢いに負け、マキスが地球の方へと飛ばされる。
「くっ…このテロリスト共が!」
降下用パラシュートがオートマチックで展開すると、マキスが仰向けとなり降下に突入する。
アンドレのマキスとエヴンスのと間の距離は、さほど離れていなかった。
エヴンスのメインカメラがマキスを捉えた。左腕を失い、各部の装甲が抉られているマキスの姿にロイスは思わず同情した。
エヴンスはビームサーベルを納刀すると、ブースターを目一杯に噴射。引力に苦戦しながらも、その場から離れた。
屈辱的な結末となり、アンドレがやり切れない感情を叫び声として放出した。
45
:
きんけ
:2010/10/15(金) 20:05:13
多数のモビルスーツがパラシュートを展開させ、流星の如く地球へと降下していく。
その光景は戦争とは思えないほど、芸術的であった。
ここまでか・・・
降下の様子を感嘆の声すらあげずに眺めたシラナミが口を開いた。
「全部隊の降下を確認した。護衛部隊は母艦へと帰還せよ!」
その命令とほぼ同時にプレイオス艦隊の艦砲射撃が始まった。
敵艦隊へと伸びていくビーム砲が護衛部隊の撤退を助ける。降下作戦は終盤に差し掛かっていた。
プレイオス艦隊からの砲撃が連邦軍艦隊の周辺宙域に降り注いだ。
直撃することはないが、その弾幕にモビルスーツ隊の動きが止まった。
「ちっ、まるで戦果をあげることが出来なかった・・・」
ユワンが眉をひそめる。
クエサーの時といい今回といい、まるでプレイオスの特別攻撃隊と剣を交えることが出来ず、ユワンは歯がゆい思いをしていた。
叔父に無理を言って今作戦に参加したというのに、これでは申し訳が立たない。
「隊長、敵部隊が後退しています」
ユワンのマキスに部下が接触回線を試みた。
「ここらが潮時のようだ。順次、後退しろ」
「了解」
地球を尻目にユワンの部隊が母艦であるボクロスナへと向かう。
同様に他のモビルスーツ部隊も各々の艦に帰還しようとしていた。
どうせなら、降下部隊に編成させてもらえば良かったな・・・
エヴンスやアルダといったプレイオスの特別攻撃隊は当然、降下部隊として今作戦に参加している。
こちらも降下部隊ならば地上でも戦うことになり、撃墜のチャンスは多くなっただろうとユワンは考えた。
しかし、今やそれは過ぎた事。降下部隊は既に大気圏内にいるのだ。
「私はもっと上を目指したい・・・もっと上を」
ユワンは大きな野望を小さく呟いた。
46
:
きんけ
:2013/08/01(木) 00:07:18
両陣営の数十ものモビルスーツが降下用パラシュートを展開し、大気圏突入を果たした。パラシュートの表面は摩擦熱で赤く染まり、まるで隕石のように地球へと落ちていく。
降下中は先の戦闘が嘘であるかのように静かであった。摩擦熱から守るためにパラシュートは展開すると機体を包み込むように強制的に仰向けの姿勢へと移る。その状態では射角も広く取れず戦闘には不向きである。そして、プレイオスと連邦軍どちらも同じパラシュートを展開しているため敵味方の識別は不可能であり、レーダーも大気圏突入の際はまともに機能しない。以上のことから同士討ちを恐れ、大気圏突入の際は戦闘を行わないのが不文律となっている。
パラシュートに包まれながらもガタガタと揺れるコクピット内でロイスは静かに目を閉じていた。仰向けのまま下を見ることが許されずに落ちていく感覚にロイスは形容しがたい恐怖を感じ身震いした。
――地獄にでも向かっているのか?
死の予感。この恐怖を感じるのはロイスにとって二度目であった。
黄色い砂塵、包囲網、コクピットから黒煙を吐き機能停止する味方モビルスーツ、二年前の出来事が脳裏にフラッシュバックし思わず瞼を開いた。自分よりも高い高度に複数のパラシュートが確認できた。あのパラシュートに包まれているのが敵なのか、味方なのかロイスには分からない。
大気圏突入からおよそ二時間、パラシュートを着脱し仰向け状態をやめると、モビルスーツのメインカメラの視界は天地逆転し、地上を映しだした。長靴のようなイタリア半島が見える。この長靴の付け根部分、地球連邦軍ヨーロッパ方面軍の最大規模を誇るトレント基地へと彼らは飛び込んだ。
47
:
きんけ
:2014/04/26(土) 23:36:18
宇宙より飛来してきたプレイオスのモビルスーツに対してトレント基地より対空砲火とミサイルによる手荒い歓迎が待っていた。戦闘を行いながらの地球降下という極限状況を乗り越えた彼らに休む暇はなく、降下中の姿勢制御と回避行動に追われた。
高度が下がっていくにつれ既に地上で戦闘が発生していることを確認することが出来た。それこそがプレイオス・オーストリア支部より出撃した地上部隊である。
機動戦士ガンダム0.5
9話 CrossFire
降下中のセーメイが対空砲の直撃を受けると四散。モビルアーマー形態で飛行するガルーダの傍で赤く弾けた。
その爆発の衝撃はガルーダのコクピット内にも伝わり、シートをビリビリと震わせた。
「うっ…!少しでもこちらに注意を引き付ければ…!」
ガルーダが高度を落とすと敵にロックオンされたことを示す警告音がコクピット内に響いた。その警告を後回しに対空砲へとビームマシンガンを斉射。破壊された対空砲と塹壕を横目に右旋回。背後から迫るミサイルを振り切ると機首に内蔵されたバルカンが炸裂し、敵陣地を薙いだ。
地上へと視線を下ろすジョシュア。彼の目に二機のマキスがこちらに銃口を向けているのが見えた。マキスがビームライフルを放つよりも速くジョシュアが反応すると、ガルーダは空中でモビルスーツ形態へと変形を遂げた。右腕にジョイントされたビームマシンガンがガルーダの真下に位置する二機のマキスへと一射。一機のマキスの撃墜を確認すると、残った一機へと狙いを定めた。
黒鳥を撃ち落とさんと連射されるビームを弧を描くように回避し距離を詰めると、腰椎部より抜き放ったビームサーベルで一閃。マキスが両断され、ほどなく爆散した。
ジョシュアが仰ぎ見る。いまだに連邦軍による対空砲火で空は騒がしいままであった。
火線を掻い潜りエヴンスはトレント基地の中心よりもやや南東にずれた商業地区へと降下した。プレイオスの降下部隊を待ち構えていたマキスがエヴンスを捉え攻撃を開始する。エヴンスは跳躍し、マキスのビームを回避。空中で肩部に装備されたビームスラッガーを敵機目掛けて投擲すると、ブースターを吹かして接近する。ビームスラッガーはマキスのビームライフルを切断させ、地面へと突き刺さる。その間に距離を詰めていたエヴンスが刃をマキスへ一突き。爆散することなくその巨体は倒れこんだ。さらにセーメイに気を取られていた別のマキスを刃で薙いだ。
マキスが戦闘不能になったのを確認するとロイスは周囲を見渡した。敵の自走砲や戦車は見当たらず僅かな数のマキスがこちらのセーメイに落とされているだけである。
「基地中心には降り損ねたか…」
降下地点がずれた原因は明白だった。降下直前の片腕を失ったマキスとの戦闘である。
「地上部隊との合流も急ぎたいが、滑走路も抑えたい…着いて来い!」
同じ場所に降り立った数機のセーメイを引き連れるとロイスは基地の中心へと歩を進めた。
48
:
きんけ
:2015/02/24(火) 03:15:03
降下部隊の中でも比較的早い段階で地上に降り立ったドラウロはトレントの北東に位置するモンテカリシオ山の稜線上に陣を取ると、アルダの索敵能力とビームスナイパーライフルの射撃性能を活かして定点射撃を敢行していた。トレント基地は山々に囲まれたアディジェ渓谷にあるため、ドラウロの位置からは基地中心部を見下ろす形となり絶好の狙撃ポイントであった。
ドラウロが息を吐きながら接眼スコープを覗くと、落ち着いて冷静に獲物を撃ち抜いていく。光条は長く細く伸びるとマキスの脇腹へと直撃。装甲は穿たれ核融合炉を貫通したのか瞬く間もなく、その場で火球となった。
一機、また一機と確実に無力化していくドラウロであったがこの働きは戦況に大きな影響を与えてはいなかった。彼が一つのターゲットを狙っている間にもトレント基地のモビルスーツ部隊がスクランブル。そして連邦宇宙軍の降下部隊が壁を作っていた。
プレイオスの降下部隊も基地中心部への侵攻を試みるが広範囲に散らばって降下してしまい一箇所に戦力を集中出来ていないこととプレイオス地上部隊の到着が遅れていることもあり、攻略できずにいた。
防衛線を破れずに倒されていくセーメイの姿に見かねてドラウロが接眼スコープから顔を話さず通信を開いた。
「こちらドラウロ。ロイスはどこにいった?」
<こちらロイス。予定降下ポイントよりも南に降りてしまった。もう少し待ってくれ>
「この状況を打破出来るなら、いくらでも待ちますとも…!」
とは言ったものの、これ以上トレント基地防衛線を突破出来ずに被害を出し続ければ先に瓦解するのはプレイオスである。座して待つような時間は大して残っていなかった。
とにかく今は一機でも多く落とす…!
ドラウロは不吉な考えを中断させると再び狙撃に集中した。
大気圏突入直前までエヴンスと戦闘を繰り広げていたアンドレのマキスであったが無事に基地の中心へと降下を果たした。しかし、その機体の状態はまさに満身創痍という言葉がピッタリであった。
「ぐうう!機体の調子せいだっ!」
逆噴射をかけながら着陸を試みるが減速しきれず機体が滑走路上を滑る。悪態をついてもマキスの勢いは止まらずついに機体は転倒。アンドレはコクピットの中で激しい衝撃に襲われながら200メートルほど滑走路をオーバーランするとようやく静止した。
モニターの半分以上は死んだマキスのコクピットからアンドレが倒れた機体の隙間を縫うように出てくると、共に地球へと降り立った機体を尻目に彼は全力疾走でその場から離れようとしていた。
「こっちに来るな!爆発する!」
アンドレを迎えよう駆け寄ってきた整備兵に対して叫ぶ。マキスの腰部から黒煙が吐出され、今にも爆発を待っているような状態であった。
アンドレと整備兵は最寄りの格納庫に駆け込む。ほどなくしてマキスの爆発による轟音と衝撃に格納庫の側壁全体が揺れた。
「よ、よくご無事で」
「無事?無事だって!?…俺の機体は!」
「ですが、アナタは無事に生きています」
「お、俺は!…いや…あぁ、機体は吹っ飛んだが俺は傷ひとつ負ってない。確かに無事だ…」
整備兵からの言葉にアンドレは徐々にであるが冷静さを取り戻し始めた。張り詰めていた緊張の糸が緩み、頭のなかがスーッとクリアになっていく。
49
:
きんけ
:2017/04/24(月) 13:38:03
整備兵の背後、格納庫内を見やる。ハンガーに仰向けで固定されたモビルスーツに気が付くと、アンドレが歩み寄っていく。橙色の巨人。連邦地球方面軍主力モビルスーツ「エレジア」である。
「借りるぞ」
言うが早いかアンドレがエレジアのコクピットへと飛び込んだ。整備兵の困惑する声が上げたが、コクピットハッチが閉まるとそれも聞こえなくなった。機体に火を入れるとグウウンと低い唸りと共にエンジンが起動。頭部のモノアイが光輝を放ち、コクピット内のモニターが格納庫の天井を映し出している。機体のサブモニターに目をやると、機体の武装を確認した。右腕にアタッチメントされた大型ビームライフルとバックパックに二本のビームサーベルが収納されている。オーソドックスな武器だが、不満はなかった。
「格納庫から出す。下がれ!」
外部スピーカーから響くアンドレの声に呼応するように格納庫内の整備兵がエレジアから離れた。機体を起こしてハンガーから立ち上がると滑走路へと歩を進める。全長二十三メートルとマキスを凌ぐ巨体であるが、コクピット周りはマキスと大きな違いもなく初めて乗り込んだアンドレでも違和感なく操縦できている。手元のレーダーに目を落とした。北側にプレイオスの部隊が降下したのか、多くの熱源反応が見られる。大気圏に突入した時、最後に二刀流のモビルスーツは俺に止めを刺さずにその場から離れた。地上に降りる直前、機体を包み込んでいたパラシュートがパージされた際に周囲を探してもあの二刀流は見当たらなかった。プレイオスの降下地点からズレている可能性はあるが、ヤツはプレイオスの中心部隊であることは間違いない。二刀流は必ず現れるはずだ。アンドレが操縦桿をぐっと押し込み、ブースターを全開にすると、戦場へと向かった。既に上空からの降下部隊の姿はなく、対空砲火は止んでいた。
ロイスが本来の降下予定ポイントに到着した時、戦線はギリギリ保たれているような状況であった。ほとんどのセーメイが損傷しており、大破し地面に倒れこんでいる機体も少なくなかった。地上の援軍はまだなのか!混線した通信から味方の悲痛な叫びが聞こえた。宇宙と地上での連戦は機体だけでなくパイロットの精神も追い詰めていた。
「損傷が激しい機体は無理をするな。ここはエヴンスがやる!」
両腕の攻防兼用防盾を前面に構えながら、マキスへと前進。幾条かのビームを全て受け止めると、そのままの勢いでマキスへと激突した。盾内部に収納されていた刃がスライド。鈍く光ると姿勢を崩したマキスへと一閃。右腕がバターのように切断され、持っておいたビームライフルと共に建物を巻き込みながら落下した。片腕を失ったマキスは仰向けに転倒。体勢を立て直すこともせずコクピットハッチが開くと中からパイロットが這い出てくるのが見えた。パイロットは振り返ることもせずに建物の影に敗走した。
ロイスは敵からの置き土産であるビームライフルを拾い上げると左手に握りしめて一射。一筋のビームがマキスの頭部を貫いた。エヴンスとマキスのマニピュレーター規格が一緒
50
:
きんけ
:2017/04/24(月) 13:46:01
なのか問題なく使用出来そうである。エヴンスが前屈みになるとホバー走行で市街地を進んでいく。数機のセーメイもエヴンスに続いた。
≪よう、来てくれたな。頼りにさせてもらうぜ≫
ドラウロからの通信が入る。声色にどこか安堵が混じっているような気もするが、ハッキリとは分からない。ロイスは眼前の戦車をビームライフルで薙ぎながら「分かった」と短く返答した。直後、後方から細くて速い針のようなビームが前方のマキスに着弾。火球へと変わったマキスを尻目にロイスはドラウロの射撃精度に感嘆した。上空、黒い神鳥が制空権を握っていた。ガルーダによる遊撃もドラウロの精密射撃に専念できる要因であった。
特攻隊三機の活躍もあって前線にも変化が見られた。面では抑え込まれていたプレイオスだが先駆するエヴンスとセーメイ部隊によって一点突破に成功。トレント基地中心部へと強引に入り込もうとする彼らに引っ張られるかのように連邦軍の前線がジリジリと下がっているのだ。河川を逆流する波のようにプレイオスのモビルスーツが細い隊列を成してジリジリと迫る。だが、彼らの前に大きな堤防が立ちふさがった。地球連邦方面軍主力モビルスーツ「エレジア」。マキスやセーメイと比較しても明らかに巨大なその機体はまさに壁となってプレイオスの行く手を阻んでいた。
ここまで来て、エレジア部隊の登場か…!歯噛みするロイスであるが、すぐさま思考を切り替えるとエヴンスを跳躍。エレジアの大型ビームライフルが何もいない空間を焼いた。
51
:
きんけ
:2017/05/20(土) 00:39:13
ビリビリとコクピット内が揺れる。マキスのビームライフルともセーメイのビームカービンとも比較出来ないほどの威力であることを肌で感じたロイスが顔をしかめた。
「ッ!?」
着地と同時にアラートが鳴る。一機のエレジアがビームサーベルを構えてエヴンスへと突撃。既のところで斬撃を避けるもモノアイの機体はさらにエヴンスへと迫った。
≪見つけたぞ、二刀流!≫
「またアンタかッ!」
大気圏突入の際に最後に交戦した男の声。機体こそ違えど戦い方は同じ。我武者羅でありながら明確な殺意をもってロイスを狙っていた。
≪俺の部下はお前に殺された!俺の目の前で…ククルス宙域で!≫
「戦争だぞ!」
≪だからお前は俺の手で殺してやるってんだァ!≫
「ここで、死ねるかッ…!」
肉薄する敵機を振り払いながら肩部のビームスラッガーを投擲。弧を描いた光輪だったが、ビームサーベルの一振りによって呆気なく破壊された。胸部バルカンをばら撒くも厚い装甲を擁するエレジアには効果が見えなかった。ロイスがアンドレのエレジアの気迫に押されている間にも周囲のセーメイはエレジアの壁を破ることが出来ずに次々と落とされていく。焦りを隠しきれず汗を滲ませるロイス。アンドレの射撃を右腕の盾で防ぐもその威力に盾上部が吹き飛ぶと、破片が光を反射させてキラキラと舞った。
「なっ…!」
思わず言葉を失うロイスと対照的にアンドレは勝利を目前に咆哮した。これまで辛酸を嘗めさせられてきた悪魔は眼前で体勢を崩して地面に倒れこもうとしている。ブースターを吹かして懐に飛び込もうとするアンドレ。エレジアのビームサーベルが振り下ろされるよりも速く、両腕の盾を前面に構えるとロイスはそれをブロックした。両機の腕部が激しく衝突し、金属が軋み、悲鳴を上げている。
≪ちぃ、しぶとい!≫
止めを何とか阻止したロイスだが、マウントポジションを取られて不利な状況であることには変わりなかった。
≪さよならだ、二刀流!≫
アンドレが叫ぶ。エレジアのビームサーベルが振り上げられたが、彼は自らの声と目の前の仇討ちに集中してしまい、コクピット内に響いているアラートに気づくことが出来なかったのだ。不意の衝撃がアンドレを襲い、意識が一瞬ブラックアウトする。吹き飛ばされそうになった身体をシートベルトがガチッと固定し、勢いよくシートに叩き戻された「うぅ…」と呻いたアンドレが頭を上げるとモニターの半分が死に、機体も横に吹き飛ばされていた。
無数のミサイルが北の空が降り注ぎ、基地施設へと着弾。連邦軍のモビルスーツを巻き込むように爆発し炎の渦へと変えた。ロイスがレーダーに視線を移した。ミサイルから飛来してきた北の方角から多数の友軍反応。間に合ってくれた…。思わず彼は呟いていた。
「プレイオス地上軍…!」
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