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異界大戦記のようです
20
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:53:42 ID:mfVt/ZZU0
だがもう一人の男、ワカッテマスの顔は険しいものであった。
( <●><●>)(ガラス......か?これは)
小屋の窓にあたる部分。
透明な何かが光り、そして手前の草木を写している。
ガラスは決して作るのが難しいものではない。
だがそれは魔法を使えばの話である。
そもそも使わずに作れるものなのか?
そしてここまで透明度の高いガラスが小さな小屋に使われている。
それがどうしても解せない。
少なくとも過去に制圧してきた人間たちの土地にはなかったはずである。
そもそも言語を持っているかすら怪しい猿たちが支配していたという話すら聞いたことがある。
( <●><●>)「......」
だとすればこれはなんなのだ?
どうやってこれを作った?
そんな疑問が沸き上がる。
21
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:54:24 ID:mfVt/ZZU0
『ほ、報告!』
( <●><●>)「......ん?」
そのとき船に備え付けられた通信用の魔法石が震えた。
『何かがこちらに飛んできています!』
( <●><●>)「なにか?なにかとはなんだ?」
『わ、わかりません』
(#,,゚Д゚)「はぁ?なんだそれは?ふざけているのか!?」
『違います、ほ、本当にわからないんです!ただ......』
( <●><●>)「ただ、なんだ?」
『生き物には、見えません......鳥、いえワイバーンに近いようにも見えますが......と、とにかくかなり大きいです。恐らくは30mは超えるかと......』
(,,゚Д゚)「はぁ?」
いきなり突拍子もない報告に思わず声が出てしまう。
生き物に見えないということは何らかの魔道具ということだろう。
22
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:55:05 ID:mfVt/ZZU0
しかしそんな大きなものを飛行させる魔法は存在しない。
正確には技術的に出来なくはないが人程度の軽いものならまだしも大きいものを浮かせるのは出力の問題でかなり難しい。
(,,゚Д゚)「なんだ?酒でも呑んでいるのか?」
( <●><●>)「まぁ待てギコ殿。それだけ大きいのであれば我々も目視できるのではないか?」
(,,゚Д゚)「む、そうですな......それで?方角は?」
『南東です。見ていただければ......』
( <●><●>)「南東、進行方向だな。どれ......」
(;,,゚Д゚)「......なっ!?」
報告に従い、遠視の魔道具を用いて外を見る。
するとそこには見たことの無いものが遠くの空に飛んでいるのが見えた。
23
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:56:14 ID:mfVt/ZZU0
確かに生き物ではない。
細長く白っぽいそれは前方に大きな、そして後方に小さな翼を持っていた。
だが翼のようなものを持っているのに、羽ばたかないで飛んでいるのだ。
明らかに生き物の飛び方ではないし、なぜ飛べているかも理解不能である。
さらにその翼の下には明らかに飛行の邪魔になりそうな円柱状のなにかがくっついており、その異様さが際立っている。
あれは、一体なんなのか。
説明できるものは誰もいない。
( <●><●>)「なんなんだ......あれは」
(;,,゚Д゚)「こちらに、来ていますな」
( <●><●>)「......準備だ」
(,,゚Д゚)「は?」
( <●><●>)「聞こえなかったか?迎撃準備をしろ」
あれがなにか、わかるものはここにはいない。
だがこちらに向かってきている。
そして生き物には到底見えない。
となればあれは、何らかの魔道具である。
さらにそんな魔道具をこちらに向けて飛ばしてくるなど、敵対行動と言っても過言ではない。
24
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:56:58 ID:mfVt/ZZU0
( <●><●>)(だが......どこのだ?我が国では見たことがない。小国がこのようなものを作れるとは思えない......そもそもこちらを刺激するようなことをするはずがない)
兵たちが慌ただしく走り回り、準備を進めるなか、ワカッテマスは思考を巡らせる。
( <●><●>)(となると......やはりソーサクか?鎖国しているため技術体系が違うと聞いたこともある。だが何のために?)
(,,゚Д゚)「司令、魔法陣の形成が完了いたしました。魔石への充填も完了、いつでも迎撃可能です」
( <●><●>)「ほう、早いな。流石はギコ殿だ」
(,,゚Д゚)「道具も良い物ばかりですからな。これくらいできなければ艦の魔法担当は勤まりませぬ」
( <●><●>)「心強いかぎりだ。さて」
改めて空飛ぶ物体を睨む。
信じられない事にどうやら遠くに見えていたはずのそれはもうすぐそこまで、艦隊の周りを飛んでいた。
攻撃をしてくる様子はなく、またこちらを監視するようであった。
またなんの意味があるかは不明ではあるが、チカチカと光をこちらに向けていた。
25
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:58:05 ID:mfVt/ZZU0
( <●><●>)(攻撃はしてこない、か。なるほど、あれは偵察用のワイバーン......のようなものか?クソ、簡単な蛮地制圧と思っていたのにこんなやつが現れるとは)
ただでさえ訓練不足の部隊に、明らかに異常な敵。
なんともいえない不穏な空気が艦隊に漂っていた。
( <●><●>)「偵察ならばさっさと落とすべきか......ギコ殿、一撃であれを落とせるかな?」
(,,゚Д゚)「ふむ、ワイバーンですら一撃で葬ることが可能ですからむしろ落とすなと言う方が難しいですな」
( <●><●>)「よし......では攻撃せよ」
(,,゚Д゚)「はっ!」
合図と共に、魔方陣の周りに兵たちが立ち、魔力を送り込む。
中心に置かれた魔石が輝きを増し、一つの塊となる。
(,,-Д-)「εδɤζφ......」
(#,,゚Д゚)「ёжЭагЯ!」
呪文を唱え終わった瞬間、集まった光から浮かぶ物体に対して、一直線に線が伸びる。
圧縮された炎のエネルギーが解き放たれ、高速で空に向かっていく。
その速度は凄まじく、ワイバーンであれば確実に直撃していたであろう。
26
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:58:36 ID:mfVt/ZZU0
(; <●><●>)「なっ!」
しかし空飛ぶ物体はワイバーンでは考えられない速度で攻撃を避ける。
空の王者とも呼べるようなワイバーンよりも早いとは一体どう言うことなのか。
他の船からも光の線が空に向かっていくが敵の飛ぶ高度が高く、距離もあるせいか未だに命中はしていない。
(#,,゚Д゚)「くっ、まだまだぁ!ёаЯжЭ!」
避けられたことに気づいたギコは素早く手を振り下ろし、呪文を唱える。
それは操作魔法。
まっすぐ伸びていたはずの光の線が手の動きに合わせるように曲がり出す。
その動きが予測できなかったのだろう。
奇跡的に一つの光の線が、翼のような部分に突き刺さる。
その直後、圧縮された炎が解放され、一気に爆発した。
(;,,゚Д゚)「はぁ......はぁ......」
攻撃魔法に操作魔法の併用という高等技術。
帝国でもこの魔法を一人で使えるものはギコを含めても数人だけだろう。
そんな達人レベルの魔法使いが、最新鋭の艦の魔方陣を使用し、尽力して一撃だけしか直撃できなかった。
だが、確実に直撃はしたのだ。
距離が遠いもののワイバーンであれば確実に仕留められる一撃であった。
27
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:59:13 ID:mfVt/ZZU0
しかし。
(; <●><●>)「......バカな」
確かに攻撃はあたったはずである。
事実、飛行物体は翼のような部分から煙を上げている。
しかし、それだけであった。
フラフラとした挙動ながらそれは墜ちずに、こちらから逃げるように飛んでいく。
(; <●><●>)「そんな......一体なんなんだあれは」
(;,,゚Д゚)「くっ......つ、追撃の準備を」
(; <●><●>)「いや、もう遅い」
魔力を再度、練り直すには遠すぎた。
もう攻撃はここからでは届かないだろう。
攻撃があたったというのに信じられない速度である。
( <●><●>)「......」
周りの兵達は高速の飛行物体をとらえた、高度な魔術にざわめき、また退けた事に沸いていた。
ギコもその言葉に少し、浮かれているように見える。
先ほどまでの空気が一気に払拭されていた。
28
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:59:39 ID:mfVt/ZZU0
しかし、一方でワカッテマスの胸中に何ともいえない不安が沸き上がっていた。
あれは、一体どこの国のものなのか。
最新鋭の艦を含むこの帝国艦隊、旧式の艦が多く練度は足りないものの敵はいないと考えていた。
どんな敵であろうとも勝てると。
最大の敵であるソーサクの主力艦隊ですら苦戦はするものの相手にできると考えていた。
だが、たった一つの謎の飛行物体すら撃墜できず、逃してしまった。
あれがもし、攻撃してきたのなら。
そしてあれが予想通り、偵察なのであれば、このあとに待つものは―――
( <●><●>)「......召喚艦に連絡。上空に偵察用のワイバーンを召喚、またあれが逃げた方向にも偵察隊を飛ばし、警戒せよ」
通信魔石でそう通信し、飛行物体が逃げた方角をキッと睨む。
沸き上がる不安を押さえ込み、表情に出さないが考えはどうしてもつきない。
29
:
名無しさん
:2023/04/02(日) 00:00:10 ID:D4VYmSQ60
簡単な任務であるはずだった。
主力が到着するまでに上陸地点確保をするだけであり、相手になるようなものはなにもない。
蛮族相手に帝国の力を一方的に見せつけるだけ。
それだけ、のはずだったのに。
( <●><●>)「一体、何が起こっているんだ......」
そう呟かずにはいられなかった。
敵が分からない。
素性も、数も、兵器群も。
なにも、分からない。
だが特に被害を受けたわけでもなく、命令を中止するわけにはいかない。
不安はあるものの、止まるわけにはいかないのだ。
30
:
名無しさん
:2023/04/02(日) 00:00:53 ID:D4VYmSQ60
先ほどまでが嘘のように静かな海を進む。
複数のワイバーンが上空を飛び回り、またその視界を共有した景色が水晶に映され、最大限の警戒している。
何かあればすぐに分かる。
先ほどだってなにか被害を受けたわけではない。
そしてこれほどまでの艦隊のため、どんな敵であっても対処は可能なはずである。
だからなにも、不安になる必要など無いはずなのだ。
しかし、どうしても嫌な予感が拭えない。
( <●><●>)「......ん?」
そして、そのときであった。
水晶に映る、遠方の偵察をしていたワイバーンの視界に光る何かが見えた気がした。
それがなにかと注目しようとした瞬間。
急になにも映らなくなり、ただの水晶に戻ってしまった。
( <●><●>)「なんだ?魔法の範囲外にでも出たのか?」
(;,,゚Д゚)「......いえ、これはっ!?」
( <●><●>)「ん?」
(;,,゚Д゚)「こ、これを!他の水晶も次々と消えています!」
(; <●><●>)「なっ!?なにが......魔法が暴走でもしたのか!?」
(;,,゚Д゚)「複数の魔法が一気に暴走するとは考えられません......ワイバーンに何かがあったかと」
(; <●><●>)「それこそ......あり得んだろう。広範囲に広げていたワイバーンが一気に何かがあったなど」
(,,゚Д゚)「それは......」
31
:
名無しさん
:2023/04/02(日) 00:01:41 ID:D4VYmSQ60
確かに、と言おうとしたその瞬間であった。
シュン......ズバアァァァン!!
突如、艦隊内で猛烈な爆発音が響きわたる。
(; <●><●>)「こ、今度はなんだ!?」
『ほ、報告!複数の船が爆発!少なくとも10隻以上に被害!』
(;,,゚Д゚)「なんだとぉ!?」
信じられない事態が急激に連発する。
厳重な警戒体制を強いていたというのに、なぜ誰も異変に気づけなかったのか。
(; <●><●>)「原因は何だ!攻撃か!?事故か!?」
『ふ、不明!調査中です!で、ですが我々以外の少なくとも魔力の反応はありません!』
(; <●><●>)「ぐ......艦隊上空を警戒しているワイバーンどもはなにをして」
突如としてはじけるような炸裂音が鳴り響く。
その音は先ほどの爆発音に近い。
だが今度は空から、である。
その音につられ、上空を見上げると晴れているはずなのに、液体が降り注ぐ。
その液体は新しい船体を、赤く染め、汚していく。
(; <●><●>)「なっ......なっ......」
悠々と飛んでいたはずの、空の王者であるはずのワイバーンはそこにはいなかった。
代わりに海に、そして船にバラバラとなった血肉が降り注ぐ。
32
:
名無しさん
:2023/04/02(日) 00:02:04 ID:D4VYmSQ60
一瞬である。
あの爆発音がした瞬間に、全てが死に絶えた。
常識から考えて、あり得ないことである。
だが、どれだけ否定したくても現実はなにも変わらない。
地獄のような現実は、まだ続いているのだ。
(;,,゚Д゚)「な、なんだあれは!?」
(; <●><●>)「っ!?」
ギコが叫び、見つめる先に視線を移す。
そこには、何かがあった。
波に隠れて見づらいが、何かが急速な勢いで近づいていた。
見つけられたのは奇跡と言ってもいいだろう。
しかし、見つけたところでそれがなんであるか。
分からない。
だが、恐怖を覚えるほどの速度で近づいてくるそれに、本能が先ほどまでの船とワイバーンを攻撃してきたものだと理解する。
(; <●><●>)「げ、げいげ......」
急ぎ指令を出そうとしたその瞬間、それはホップアップした。
空に舞い上がり、そして、光る点となる。
その光の点はまるで飛び込んでくるかのように近づき。
そして、うちに秘めた力を解き放った。
33
:
名無しさん
:2023/04/02(日) 00:02:46 ID:D4VYmSQ60
続く
34
:
名無しさん
:2023/04/02(日) 00:18:35 ID:RzLI9oX60
乙乙!
続き楽しみ
35
:
名無しさん
:2023/04/02(日) 13:07:41 ID:jmZuwHEo0
乙乙
これはまた読みごたえがありそうな作品が来たな!
36
:
名無しさん
:2023/04/02(日) 13:31:54 ID:JG4GfPMk0
きたい
37
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 00:16:36 ID:6lcB9i4E0
壮大なスケールのお話で続きが楽しみです
38
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:36:52 ID:FcjfjRsY0
ルナイファ 中央魔法学園
1463年6月31日
('、`*川「皆さんも知っての通り、魔法は魔石に含まれる魔力を操ることにより発動するものです」
多くの生徒が集まる講堂にて、教師であるペニサスの声と宙に浮く羽ペンが紙に文字を書く音が響く。
('、`*川「魔石が無くては魔法は使えません。これが基本。そして、理論上では魔石さえあれば我々はどんな魔法でも使うことができると言われています」
もちろん理論上ですが、と小さく笑い彼女は指を鳴らす。
その音に反応して動いていた羽ペンは彼女の手の中に引き戻される。
39
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:38:09 ID:FcjfjRsY0
('、`*川「今私が使った魔法は浮遊の魔術と引力の魔術。ではどんなものでも浮かべることができるし引き寄せることができるかと言うとそんなことはありません」
今度は生徒に向かって再び指を鳴らす。
するとその生徒の頭の髪の毛がペニサスに引き寄せられるように逆立ち、その様子に皆が笑う。
('、`*;川「あら、ごめんなさいね。本当はその後ろの置物に使おうとしたのだけど......と、このように大きな力を使おうとすると狙いが定まりにくく、またそもそも今のようにそこまで大きな力を発揮することもできません」
まあ私が下手なだけ、というのもありますがとペニサスは小さく笑い、続ける。
('、`*川「では、なぜ様々な魔法が使えるのか。それは魔方陣、魔道具の存在です」
再び、羽ペンが宙に浮き、紙に大きな円を描く。
そしてその中央に簡単な模様が敷き詰められていき、全てが書き終わるのを確認すると、ペニサスは右手でそれに触れる。
その瞬間、インクで黒かったはずのそれが青白く輝きだした。
40
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:39:00 ID:FcjfjRsY0
('、`*川「即席ですが、発光の魔方陣です。明るいでしょう?ではなにも使わないで発光の魔法を使うとどうなるか」
左手を開き、魔力を込める。
すると、その手を包むように弱い光が現れる。
明らかに魔方陣が放つそれよりも小さな光であった。
('、`*川「と、このように魔方陣は我々の魔法を補助し、より強力な魔法を使いやすくしてくれます。そして......」
再び指を鳴らすと今度は狙いが逸れなかったのか、生徒の後ろのものが宙に浮きペニサスの手元まで飛んでくる。
('、`*川「このように複雑な魔方陣や魔法石を組み込み、複合的な魔法の補助を行う道具を魔道具といいます」
そして手の中に収まったそれは、魔力を込められると教室を包み込むような虹色の光を放つ。
その美しい光に多くの生徒が息を飲む。
41
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:39:26 ID:FcjfjRsY0
('、`*川「このように小さな光を作れない私でも、魔道具さえあればこのようなことができるようになるのです。とはいえ......んんっ!」
七色の光に生徒の意識が向いていることに気がつき、小さく咳き込む。
道具について分かりやすく話すために持ってきたのだが、ちゃんと生徒が話を聞いてくれているだろうかと心配になりながらも、彼女は話を続ける。
('、`*川「あくまで魔道具にできるのも補助まで、です。難易度がベリーハードなものをハードにする程度、と思ってください。難しい魔法を使うには、才能が必要なのです」
そう、魔法も万能ではないのだ。
むしろ、個人差が極端に出てしまう。
魔道具により、ある程度は誰でも魔法を使えるものの、その効力に差は出てしまうし、一定以上の魔法を発動するにはどうしても才能は避けて通れない問題なのだ。
こんな話は皆が知っていることだろう。
だからこそ、基礎の基礎のようなこの授業は退屈で仕方無いことはペニサス自身わかっている。
だがそんな才能を持てなかったものとして、皆にちゃんと知って欲しいからこそ教師になったのだ。
42
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:39:46 ID:FcjfjRsY0
('、`*川「それこそ、最近使用された遺物に関しても、高度な魔道具ですが秘められた魔法もとんでもない難易度だったとか。国随一の大魔導師であるロマネスク様が使用したらしいですが......それでも奇跡的な成功であったとか」
古の国が作り出した、現在の我々では真似できない魔道具ですら、誰でも使えるものを産み出すことは夢のまた夢であった。
誰もが平等に魔法を使えたらどれだけ良い世界になるのだろうか。
そんな、あり得ない世界をペニサスは思い描きながら、授業は続いた。
43
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:41:26 ID:FcjfjRsY0
カーンカーンカーン......
(; ^ω^)「やーっと、終わったおー」
学園の鐘がなり、授業の終わりを告げる。
先ほどまで静かであった講堂が一気に話し声で溢れ、皆がこれこら何をしようかと盛り上がる。
(´・ω・`)「疲れたねぇ」
ξ゚⊿゚)ξ「ホント......今日の授業、なんて言うか当たり前のことばっかでつまらないし」
(´・ω・`)「ね。もっといろいろな事を学びたかったんだけどなぁ」
( ^ω^)「まぁまぁ、終わったんだしいいじゃないかお。それよりこれからどうするお?どこか遊びに行くかお?」
(´・ω・`)「あー、ごめん。僕これから教員室にいかなきゃ」
( ^ω^)「お?なんでだお?」
(´・ω・`)「ほら、これだよ」
サッと一枚の紙を取りだし、二人に見せる。
その紙には召喚地制圧に向けた学徒動員に関する募集用紙であった。
ルナイファでは基本的に後方支援のために学生を呼び込んでいる。
人間の奴隷なども使ってはいるのだがやはり魔法が使えるものもいなくては効率が悪い。
そして後方であれば最強の国家であるルナイファからしてみれば敵が弱いこともあり安全と言っても過言ではない。
ボランティア活動と同じような捉え方をされており、就職などに有利になることもしばしば。
またこの活動を通じて実際に自国の強さを再認識させるプロパガンダの側面も存在している。
44
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:42:02 ID:FcjfjRsY0
(; ^ω^)「げっ、まじ?これ行くのかお?」
(´・ω・`)「まぁ、いい経験になるし今後に色々役立つらしいからね」
(; ^ω^)「まー確かにそういう話はよく聞くけど」
ξ゚⊿゚)ξ「あら、ショボンも申し込むのね」
(; ^ω^)「えっ!?ツンもかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「えぇ、ちょうどいい機会だしね」
(; ^ω^)「おーん......」
(´・ω・`)「ブーンは?」
( ´ω`)「カーちゃんから反対されてるから止めておくお」
とはいえブーンの親のように、反対する人も少なくはない。
何しろ後方とはいえ戦争にいくのだ。
戦争することが常になっているこの国でも、嫌と思う人は少なからずいる。
このような光景は、ルナイファでは日常茶飯事なのである。
(; ^ω^)「おーん......しばらくひとりぼっちかお......」
(´・ω・`)「そうだよね......ま、魔信か何かで連絡するからさ」
(; ^ω^)「絶対、絶対だお!」
ξ゚⊿゚)ξ「はいはい、全く......子供なんだから」
(; ^ω^)「おー」
三人の学生はそんな話をしながら、別れていく。
この日はまだ、よくあるルナイファの日常の1日であった。
45
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:43:54 ID:FcjfjRsY0
ムー国 統治局
1463年7月6日
ルナイファが存在する大陸から南に遠く離れたそこには大陸と呼ぶには小さい、2つの島からなるムーと呼ばれる国がある。
この国は遥か昔にルナイファによって「チキュウ」なる異界より召喚され、植民地として支配されている。
ここにもともと暮らしていた人間はある程度の文明は持っていたものの、今ではその面影はなく、全てが移り住んできたエルフに塗り替えられ、人間はただひたすら奴隷として生活することを強いられている。
そんな人間を管理するために設置された統治局。
ここに住んでいる人間はもう牙を抜かれたものばかりであること、またムーは島国のため他国と隣接しておらず、また周辺に驚異となるような国がないことからほとんど仕事がない状態であった。
やることといえば本島で盛んな農業の生産物の管理と、もう一つの島に眠る大量の鉱物の採掘管理くらいなものである。
しかしここ最近、珍しいことに統治局内が騒がしくなっていた。
それは数日前に起きた、とある国からの使者が来たことに起因する。
46
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:44:28 ID:FcjfjRsY0
( "ゞ)「まさか召喚地から使者がくるとはなぁ」
そう、新たに召喚した国から使者が来たのだ。
確かにこの国までなら、召喚された国のおおよその位置から考えるにここまで来ることは不可能ではないだろう。
しかしそれはあくまで魔法を使える前提の話だ。
魔法を使えないとなれば、船で進むために使えるものは風か潮の流れ程度のもの。
あとは力業で何とかすることも考えられるが距離から考えてそれは無謀もいいところであろう。
それにも関わらず、彼らは海を越えてこちらまでやってきたのだ。
それも召喚を行った日から考えてごく短い間に、である。
さらに臨検を行った部隊からはかなりの大きさの船であったとの報告もあった。
( "ゞ)「人間にしては、なかなか優れていたようなんだがなぁ」
47
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:45:16 ID:FcjfjRsY0
そう、ポツリと言葉をこぼす。
ただの独り言であったが、それが聞こえたのか、同室の同僚であるアサピーが眉をひそめた。
(-@∀@)「あくまで、人間にしてはですよ。過剰な評価はしない方がいい」
( "ゞ)「あぁ、アサピーさん。えぇまぁ、分かってはいるんですがね」
(-@∀@)「そもそも我々の慈悲も理解できない輩ですよ。そこまで思い悩むことですか?」
( "ゞ)「それはそうなんだけど......理解してくれなかったからこそというか」
ここまで来ることが出来た、そんな船を作ることができる人間にしては優秀な者たち。
ここのムーの人間と同じようにただ使い潰すには惜しい。
さらに言うならこれから行われる制圧で多くの血が流れるだろう。
それを防ぐために、あの使者たちに従属を迫った。
しっかりと我々の力を教え、そしてその力の結晶たる帝国艦隊が既に向かっていること。
だがそれから救われる方法を、ここまで来ることが出来たこの人間たちに慈悲として与えたのである。
無駄な死人を増やさないために、我々に召喚された奴隷として服従せよと。
48
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:46:11 ID:FcjfjRsY0
(-@∀@)「しかし慈悲を理解できないどころかこちらを罵倒までしてくるとは......本当に蛮族のことは理解できませんな」
だが全て断られた。
これだけ懇切丁寧に説明したというのに、理解が出来なかったのだろう。
そして、我々が本気であるということも。
だがそれだけであればまだ許せた。
人間ゆえの愚かさなのだろうと。
しかし、彼らは召喚したことに対する謝罪と、対等な国交とやらを求めてきたのである。
まるで対等な立場にいると言わんばかりの暴挙としか言い様のないその態度はもはや、我々に対する侮辱であり、つまり大罪である。
その外交官達はすぐさま、処刑となった。
そしてその死体はこの国に来ていた船員であろうもの達に叩き返してやったのだ。
これで少しは我々が本気であるということが理解できるだろうと。
( "ゞ)「あの者たちが国に帰る頃には既に上陸は開始しているだろうな。無事に帰れるほどの力があるか分からんが......早く理解してくれるといいんだがな」
(-@∀@)「まあ、無理でしょう。処刑の直前まで罪を理解できずに喚いてるような連中ですからな」
( "ゞ)「そうだな......はぁ」
49
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:46:40 ID:FcjfjRsY0
だからといってデルタは納得しきれなかった。
いくら劣等種といえども、魔法を使えば言葉が通じ、話すことができる者たちにほんの微かにだが同情をしてしまう。
それゆえになぜ、あのとき頭を縦に振ってくれなかったのかが分からない。
そこまで意地になって、死んでしまっては意味がないというのに。
『......』
( "ゞ)「ん?」
『..キコ....カ?』
( "ゞ)「なんだ?通信魔石から......」
(-@∀@)「随分粗いな。魔方陣がどこかおかしくなっているのか?」
( "ゞ)「いや、こっちは......うん、問題ないな。恐らく向こうだ」
(-@∀@)「はて?どこから?」
50
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:47:33 ID:FcjfjRsY0
『...ニュウコ......ガイス......』
( "ゞ)「......ん?これは」
そのとき使用されている魔法の波長からその送り主が判明する。
それはここにいるはずのない者たちからのものであった。
( "ゞ)「先遣隊、だと?」
召喚された土地を制圧に向かったはずの部隊からの通信。
なぜそれがムーに連絡をしてくるのか。
そもそも時期からして上陸地点の確保に向けた作戦中のはずである。
(-@∀@)「はて?なぜ連絡が......それにこの魔力の反応を見るに、近くに来てるのか?」
( "ゞ)「そのようだが......うーん?」
魔力の反応はますます近づいてきている。
相変わらず通信魔石の音は悪く、まともに内容は聞くことが出来ない。
一体なにが起こっているのか分からず、ただひたすら首をかしげることしかできなかった。
51
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:48:33 ID:FcjfjRsY0
ルナイファ帝国 帝城
同日、ルナイファ帝城。
この国のトップである皇帝であるアラマキは、彼から絶大な信頼を誇る大魔導士であるロマネスクからの報告を受けていた。
( ФωФ)「陛下、アリベシへの介入の件、順調に進んでおります。このままいけば今年中にヴィップの複数の都市を攻め落とせるかと」
/ ,' 3「ほぅ、当然のこととはいえそれは良い知らせであるな。それで?ソーサクの方はどうなっておる?」
( ФωФ)「はっ、そちらも情報府の工作員が彼の国へ潜入し、いくつかの州の有力な貴族を我々の味方にすることに成功しております」
/ ,' 3「ふむ......」
( ФωФ)「ただ......まだ一部であること、またあちらもこちらの動きに気づいているような兆候が見られます。これ以上の活動は難しいやも知れません」
/ ,' 3「よいよい、むしろあの国相手によくここまで潜り込めたと褒めるべきであろう」
褒章を考えなくてはな、と顎のひげを撫でながら満足そうに頷く。
その様子に安堵しながら、ロマネスクは報告を続ける。
52
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:49:22 ID:FcjfjRsY0
( ФωФ)「またムーからの報告なのですが」
/ ,' 3「ムーからだと?何かあったのか?」
( ФωФ)「それが、召喚された国の者が使者を送ってきたと」
/ ,' 3「ほう?」
( ФωФ)「どうやらこちらの進軍をやめることと対等な立場での国交を求めてきたようです」
/ ,' 3「物を知らぬ猿とはいえ......不敬であるな」
( ФωФ)「えぇ、ですので外交官は全て処刑したとのこと。それを見て残りの生き残りは慌てて帰ったとのことです」
/ ,' 3「はっはっは!それはよい!猿に相応しい末路......いや、まだこれからか」
( ФωФ)「は?と、言いますと」
/ ,' 3「それだけでは手ぬるいということだ。ちょうどそろそろ上陸して制圧を始める頃であろう。しっかりと教育するよう、伝えておけ」
( ФωФ)「はっ!かしこまりました」
ロマネスクが頭を垂れ、退室をしようとしてそのときであった。
彼の部下である一人が部屋にノックをし、入室してくる。
その顔にはなにやら困惑と焦りの様子が見られた。
53
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:49:52 ID:FcjfjRsY0
二人が何事かと見ていると、そのままロマネスクに近づき耳打ちをする。
ポツポツと伝えられるその内容。
初めのうちは何事かと不思議そうな顔であったロマネスクであったが、飛び込んでくるその情報に思わず驚愕が汗と共に吹き出してくる。
(; ФωФ)「なっ!?た、確か、なのか?」
/ ,' 3「ロマネスク?なにがあった?報告せよ」
(; ФωФ)「へ、陛下......それが、その......」
流れ出る汗を拭いながら、彼は先ほど聞いた報告を簡潔にまとめ、口にする。
(; ФωФ)「せ、先遣部隊が、敗走......ムーへ、撤退した、とのこと」
/ ,' 3「......なんだと!?」
54
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:50:36 ID:FcjfjRsY0
ソーサク連邦 情報戦略室
('A`)「では今回得られたこの記録について、報告したいと思います」
数日前に念写の石板が捉えたとある画像。
その解析、精査のために複数の専門家が情報戦略室に集められていた。
('A`)「こちらの記録については、ルナイファから召喚地へ向かった部隊のものと思われるものが写っておりました。そして......」
ドクオは空中をなぞるように指を動かす。
すると魔石が反応し空中に、件の石板によって捉えられた景色が写し出される。
写し出されたそれに皆が驚愕と困惑の声を上げ、ざわざわと部屋が騒がしくなる。
('A`)「困惑するのはわかりますが、お静かにお願いします。こちらは艦の大きさ、および使用されている魔方陣からこの部隊の旗艦、つまり試験的に運用されていたルナイファの最新鋭艦であると思われます」
(; ´∀`)「うむ、確かに間違えなさそうではあるが......それがなぜ、こんな」
(;'A`)「はい、我々もまだ原因は分かっていませんが......見ての通り、燃えながら沈んでおります」
55
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:51:21 ID:FcjfjRsY0
そこには燃え盛り沈んでいく巨大な先進的な艦が沈んでいく様子が写っていた。
それも一隻だけではない。
周りの旧式の艦も同様に沈み、地獄絵図となっている。
にわかには信じがたい、恐ろしい光景であった。
(; ´∀`)「......試験的運用と言う情報もあったが、事故かね?」
(;'A`)「いえ、我々もその可能性は考えましたがもし事故であるとすると、ここに写っている他の艦が同じように沈んでいる理由が説明できません」
(; ´∀`)「むぅ......ちなみに、この艦のスペックについては?」
川 ゚ -゚)「解析の結果、大きさは150mクラス、使用できる魔法としては遠隔魔炎に複数のワイバーンと連携した偵察魔法。また強度は不明ですが単艦で魔壁についても使用可能であり、まさに要塞と呼べるものであると思われます」
その報告にまた部屋が騒がしくなる。
技術では勝っていると言う誇りを持っている、ソーサクの人々にとって信じがたい言葉であった。
(; ´∀`)「我が国でも主力クラスの艦ではないか」
('A`)「ただ、使われている魔方陣から速度、射程、またエネルギー効率において若干ではありますが我が国が優位かと」
(; ´∀`)「だが若干、なのだろう?」
('A`)「......はい」
56
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:52:31 ID:FcjfjRsY0
( ´∀`)「それが事故ではなく沈んだとするなら......一体どこが」
川 ゚ -゚)「それについては、今だ不明です。少なくとも我が国ではありません」
( ´∀`)「他にこの艦を沈められそうな国は?」
('A`)「あの海域周辺には......そもそも我が国以外にあの艦に匹敵する艦を持つ国は列強ですらないため、大部隊が必要と思われます」
( ´∀`)「そんな大部隊が動いたと言う情報は?」
川 ゚ -゚)「ありません。そして、我が国がそれを見逃すとも思えません」
情報を重視するソーサク。
そんな国が小さな部隊であるならばまだしも大部隊を見逃す可能性など、0に等しい。
( ´∀`)「にもかかわらず、現にルナイファは大打撃を受けているわけか。ふーむ......」
('A`)「旧式が多く混ざっていたとはいえ最新鋭艦を含む大艦隊です。まあ練度は低いとの情報がありますが......とにかく相手がどの程度の損害をおったかは不明ですが、これほどまでに被害を与えるとなると我が国にとっても非常に驚異です」
( ´∀`)「そうだな......どんな方法でどんな規模の魔法を使ったのか、何もかもが不足しているな」
('A`)「はい。ですので引き続き調査が必要かと」
57
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:53:23 ID:FcjfjRsY0
( ´∀`)「そうだな......クー君」
川 ゚ -゚)「はい、なんでしょうか」
( ´∀`)「君、ムーへ向かってくれないか」
川 ゚ -゚)「ムー、ですか?」
( ´∀`)「うむ。戦闘のあった海域で一番近い国がムーだ。なにかしら調査のために動きがあるだろう。それを調べてきてくれ」
川 ゚ -゚)「なるほど、潜入ですか」
( ´∀`)「うむ、変装魔法を使える君にしかできないことだ。転移魔法については準備はしてあるから安心してくれ。まぁ、資源と術師の関係で片道分しかないが」
川; ゚ -゚)「はぁ、分かりました。まあいつものことなのでもう慣れましたよ」
ハハハとモナーが笑い、その声を合図に会議は終了した。
クーが苦笑いをしながら、書類をまとめ、そんな様子を見て、ドクオもつられて笑う。
58
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:54:11 ID:FcjfjRsY0
('A`)「大変だな、クー」
川 ゚ -゚)「そう思うなら変わってくれ」
('A`)「無茶言うなよ。変装魔法も魔法偽装もできないのに」
川 ゚ -゚)「しかし、転移魔法か......便利だがもっと気軽に使えるようにならんかね」
('A`)「それこそ無茶だろ。あんな複雑な魔法を使えるようになったことが奇跡みたいなもんなんだぞ?モナーさんがいなくなったらすぐさまロストテクノロジーだ」
川 ゚ -゚)「分かってはいるんだがな」
('A`)「ま、気を付けてな」
川 ゚ -゚)「あぁ、ありがとう」
ドクオに礼を言いつつ、クーは部屋を出る。
潜入のために、必要なことを頭に詰め込まなくてはとまとめた資料に目を通す。
数枚にまとめられた人物の情報。
魔法により強化された記憶力を用いて一言一句正確に記憶していく。
魔写に写された顔を脳内に思い浮かべ、魔法により作り替えていく。
そうして、完璧に準備が出来た頃、一人の女がムーへと向かうため、光の柱に飛び込んでいった。
59
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 11:54:34 ID:FcjfjRsY0
続く
60
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 13:23:54 ID:nujN5nsg0
乙です
61
:
名無しさん
:2023/04/08(土) 17:10:58 ID:JUn0xYxs0
乙乙
そりゃあいきなり異世界に呼び出されて隷属しろとか言われれば誰だって怒るでしょうが
62
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:02:14 ID:N5F9bWIA0
アリベシ法書国 紛争地帯
1463年7月4日
アリベシ法書国。
遥か昔に書かれたとされる魔導書を多く保管するこの国は世界の図書館と呼ばれている。
その魔導書のうち法書と呼ばれる、魔力を込めることにより神からお告げをもたらすという数冊の本が世界の絶対であると言う考えのもと生まれた国家である。
そのため、これらの本を守ることが神から与えられた使命であり、世界の平穏を守ることであると考えている。
その考えが原因でヴィップが信仰する宗教と対立しており昔から争いが続いている。
そして現在もヴィップからの侵略を防ぐため、大陸の至るところで紛争が起こっていた。
そんな紛争地帯の一つで、また戦いが始まろうとしていた。
( ・∀・)「......すんげぇなぁ」
アリベシの勢力は、ニータと仲良く最下位争いをする程度の力しかない。
一方でヴィップはというとルナイファやソーサクには劣るもののそれに次ぐ力を持つ大国である。
このためアリベシはこれまでの紛争、つまり大規模な戦闘はなかったもののその全てで劣勢か敗北を続けてきた。
信じる神からのお告げにより国民の士気は高いものの、国力の差をどうしても埋めることができなかったのだ。
63
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:03:04 ID:N5F9bWIA0
それが、なんということだろうか。
現在、彼の目の前には自国では決して作れないような兵器、ゴーレムが目の前に並んでいる。
( ・∀・)「これがルナイファの兵器......」
そう、秘密裏に結ばれた同盟によりルナイファより兵器が送られてきたのだ。
恐らくルナイファからすれば旧式なのかもしれないが、アリベシからすれば最新鋭ともいえるほど、高度な魔法陣が組み込まれている。
これが最強の国家なのかと、モララーは身震いをする。
これならば、ヴィップに負けるはずがない。
そんな確信に似た思いが、彼の心を満たしていた。
ゴーレム達が動き出すと、その気持ちはさらに強くなる。
ゴーレムと言えばヴィップでも使われており、低速でしか動けないことが弱点と言われていた。
だがそれでも強固な装甲と強力な攻撃手段を持つそれは、非常に強力であり1体倒すだけでもどれだけの部隊を消費してきたことか。
64
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:03:50 ID:N5F9bWIA0
では一方のルナイファ製のそれはどうかというと装甲や攻撃手段をそのままに時速30km近い快速。
最早、弱点はないと言っても過言ではないだろう。
( ・∀・)「......」
心強いそのゴーレム達の後を追うように、モララーを含む歩兵が隊列を組み、進みだす。
ついに戦闘が始まるのだ。
いつもは不安になる時間であるが、目に写る岩の兵隊達がその不安を打ち消す。
絶対に勝てる。
その思いと共に、モララーは戦場へと向かう。
150人ほどからなる隊列。
奏でられる軍楽にあわせ行進する。
皆が緊張した面持ちで歩みを合わせ、進む。
この歩みのリズムを間違えた時、何が起こるかを皆が理解しているからである。
65
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:04:36 ID:N5F9bWIA0
ギュオオオオン!!
(; ・∀・)「っ!?」
その時、前方の敵陣地の方角から凄まじい鳴き声が、戦場に響きわたる。
4騎のワイバーンが、こちらに向かって来ていた。
そのどれもが、口に魔力を集め、圧縮された炎が輝いているのが見える。
背筋が凍るような感覚。
だが、それでも歩みを止めることなく、ワイバーンに向かって進んでいく。
そして、距離が近づいたその瞬間、ワイバーンが隊列を凪ぎ払うように炎を叩きつける。
炎は全てを燃やし尽くすかのごとく、そこにいたものを包み込む。
が、しかし。
(; ・∀・)「はっ......はっ......はっ......」
乱れることなく作られた、魔壁用の魔方陣として働く隊列により、大部分が防がれていた。
しかし、強烈な攻撃を防ぐために使った魔法による消耗、そして目の前に広がる死の恐怖による精神的な消耗により決して無事とは言えないだろう。
66
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:05:18 ID:N5F9bWIA0
だが、もしこれで歩みを止めたらそれこそ次で死んでしまうのだ。
震える足を叩き、まだ、歩かなくてはいけないのだ。
より深く、戦場の奥地へと。
進めば進むほど、攻撃の密度は増していく。
ワイバーンの火炎だけでなく、敵のゴーレムであろう、巨大な岩石を何発も打ち込まれ、それが魔壁へと吸い込まれていく。
時折、過負荷により魔壁を貫通した攻撃や過度な魔法の使用により動けなくなる兵が出始めてくる。
その度に隊列を組み直し、そして人が減ったことにより弱くなっていく。
それでも魔壁を信じて、ただひたすらに前進を続けていた。
その時、軍楽の曲が変わる。
攻撃用の魔方陣への、組み替えの合図である。
(; ・∀・)「っ......!」
一歩間違えれば死ぬ戦場にて、守りを捨てなくてはならないこの恐怖!
だがそれにより、列を崩すことを許されないのだ。
67
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:06:04 ID:N5F9bWIA0
(; ・∀・)「......ってぇ!!」
そして、兵の整列が終わったその瞬間、作られた魔方陣により増幅された魔力が、複数の光の針を産み出された。
それらは敵ゴーレムに向かって、高速に飛んでいく。
人が走る程度の速度も出せないそれは、避けることもできず、当たりどころの悪かった数発が魔壁と岩石の装甲を貫き、轟音と共に爆散した。
(; ・∀・)「よっし......っ?!」
敵ゴーレムを撃破したのもつかの間、別のゴーレムがこちらに向けて、攻撃の準備をしているのが目にはいる。
今からではもう、防御陣形に戻ることはできないだろう。
そんな状態で、ゴーレムの攻撃を防ぐことは不可能―――
(; ・∀・)「......あっ」
死んだ、そう思ったとき敵のゴーレムが、いや正確には敵陣地が爆発する。
味方のゴーレムからの強力な攻撃、そして。
( ・∀・)「あの爆発......地中からか!」
噂に聞く、ルナイファから送られてきた秘密兵器。
その攻撃に敵はなすすべなく、やられている。
散り散りとなった敵はもはや、軍としての体裁は保てず、ただ逃げ出すことしかできなくなっていた。
ルナイファからの兵器を使用したとはいえまさかここまでとは。
そんな驚きと共に、確信をする。
これならば、勝てる。
我が国は、救われるのだと。
そして、奪われた土地を、取り返せるだろうと。
もはや一方的な虐殺ともいえるその光景に、思わずそう感じずにはいられなかった。
68
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:06:52 ID:N5F9bWIA0
ムー国 統治局
1463年7月9日
( "ゞ)「......それで、撤退してきた兵士達の様子は?」
謎の魔信が入ってから数日後。
またムーの統治局は騒がしくなっていた。
原因は先遣隊が謎の攻撃を受けて敗走、このムーの港まで逃げてきたというのだ。
50近い船がいたはずの艦隊は港に着いたときは4隻しか残っていないという悲惨な状態であった。
そんな異常事態により急遽調査を行うこととなったのだが、周囲に敵がおらずまともな軍が駐在していないムーでは軍のみでの調査が出来ない。
そこで統治局がその原因の調査を行うこととなり、現在の多忙へと繋がっている。
(-_-)「兵のほとんどが極限まで魔法を使ったようで入院中ですね」
(-@∀@)「一応何人かは話が出来たみたいだが......どうやら錯乱してるようだ」
( "ゞ)「錯乱?」
69
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:07:24 ID:N5F9bWIA0
(-_-)「えぇと証言ですが......『ワイバーンよりも早く、大きい謎の飛行物体が現れた』『敵が見当たらないのに高速の光が襲ってきた』『魔壁でも耐えきれずほとんどの艦が一瞬で沈んでいた』......とのこと」
( "ゞ)「なんだそれは?」
(-@∀@)「さっぱりだね。どう考えてもあり得んことばっかりだ。恐らく被害が被害だ。責任を逃れるために隠しているんだろう」
(-_-)「まぁそうでしょうね。攻撃魔法の効果範囲は目視できる距離、理論上20km前後と言われてますし......最大距離だとしても見えないはずはないですね。そんな攻撃がそんな遠くから撃てるとは思えませんし、そもそも当たるはずがありません」
( "ゞ)「まぁ艦隊のほとんどが沈むほどだ。近距離からの大規模な攻撃魔法によるものと見ていいだろう......しかし一体どこの国が?」
(#-@∀@)「考えるまでもない。こんなことができるのはソーサクだけだろう!」
(-_-)「っ」
ダンッ、と机を叩きアサピーは怒りを露にする。
70
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:08:21 ID:N5F9bWIA0
(#-@∀@)「全く忌々しい!不意打ちとは、とんだ卑怯もの達だ!」
(-_-)「......決めつけるにはまだ早いのでは?」
(#-@∀@)「何を言う!戦闘があったと思われる海域はこの国の東!そして東の海域でもっとも近い敵対国はソーサクのみ!」
( "ゞ)「確かに可能性として一番有力ですね。技術力から考えてもまともに敵となるとすればソーサクくらいですから」
(-_-)「......しかし、近いと言っても距離が」
( "ゞ)「そうなんですよね......まああくまでも可能性の話です。我々に真っ正面から対抗してくる国なんてソーサクくらいですし、ほぼ間違いないとは思いますが」
(#-@∀@)「そうだ!奴ら、こちらがなにもしないからと調子に乗っているんだろう!すぐにでも奴らを滅ぼすべきだ!そうだろう、デルタ!」
( "ゞ)「ふむぅ......」
怒りが収まらないアサピーに対し、デルタは難しい顔をしながら顎を擦る。
そしてなにかを考え、答える。
( "ゞ)「確かに、国の面子を考えればそうすべきだし気持ちも分かるが......現実的な話をするなら敵は我らに次ぐ列強だぞ。準備がなくてはこちらの被害もバカにならない」
(#-@∀@)「だからといって引くのか!?」
71
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:08:52 ID:N5F9bWIA0
( "ゞ)「まあ聞け。もしソーサクの仕業なのだとしたら、向こう側はもう準備万端だってことだ。物量でいずれ押しきれるだろうが......それでは被害が出すぎてしまう」
(;-@∀@)「ぐ......」
( "ゞ)「それにまだ、可能性の話だ。ここは様子見......敵の出方を見つつ、守りを固めるべきだろう。攻めるより守る方が簡単だしな。特にソーサクに関しては技術は目を見張るものはあるものの数が少ないんだ。焦る必要は無いだろう」
(#-@∀@)「なっ!?ん、ぐぅ......」
攻撃を受けたと言うのに、反撃をするどころか敵からの更なる攻撃を待つべきと言う言葉にアサピーは更なる怒りが沸き起こる。
がしかし、それに対する反論が見つからなかったのか、言葉につまり、怒りに震えたまま床を見つめる。
( "ゞ)「まあなんにせよ、それは僕たちが決めることじゃない。本国が決めることさ。とりあえず今回の調査結果と先ほどの考えを本国に伝えようと思う。また、ムーにおいても警戒体制を敷くよう、軍部へ連絡をしよう。異論は?」
(-@∀@)「......ないよ、デルタ」
(-_-)「それでは、そのように軍部に伝えて参ります」
( "ゞ)「あぁ、頼んだ」
ヒッキーは一礼をし、部屋を出る。
そうしてふうと一息つき、汗をぬぐう。
(;-_-)(......なにかあるかと潜入したが、まさかこんなことになるとはね)
72
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:09:18 ID:N5F9bWIA0
ヒッキー、いや正確にいえばヒッキーに変装をしたクーはそんな思いであった。
それもそのはず。
先日、この統治局の人員に化け、潜入を開始したところにいきなりこの騒ぎである。
知りたかった情報のオンパレード。
潜入の成果としては万々歳であるが、そうとも言っていられない。
先ほどのアサピーの発言。
とんでもない勘違いがこの国で生まれようとしていることを察知してしまったのである。
(;-_-)(考えてみれば当たり前のことだが......くそ、まさか本当に我が国のせいだなんて勘違いするなんてことはない、よな?)
そんなことになれば、大変なことになる。
ソーサクは攻め込む準備どころか戦争の準備など、それもルナイファと全面戦争をするだけの準備などできているはずもない。
(-_-)「国に......伝えなくては」
そう誰にも聞こえないよう呟き、廊下を歩く。
そうして彼女は持ち込んだ魔信を使用して、国に聞いた話を全て伝えるため、話だした。
73
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:09:44 ID:N5F9bWIA0
ルナイファ帝国 軍務省
(# ^Д^)「くそっ、訳立たずどもが!」
ガンと机を叩きつける音が聞こえる。
机を怒りと共に叩きつけた男、プギャーはルナイファにおける軍の長官である。
最強の軍のトップである彼は特別優秀、というわけでもなくむしろ無能に近い、プライドだけは一人前の男である。
だが、普段であればそんな男がトップでも問題はなかった。
この国が軍を動かすと言えば他国は恐れおののき、それだけで済んでしまうことが大半だったからである。
しかし、現在。
召喚地制圧に向かった部隊から入ったとんでもない報告に、彼は怒り狂っていた。
その様子を数人の部下が真っ青な顔になりながら見ていた。
確かに絶対成功するはずであった召喚地への派遣が失敗したことも彼が怒り狂っている原因のひとつではある。
だが彼がここまで荒れている原因はもう一つ、ある提案をしたことであった。
それは最新鋭の艦のテストを今回の召喚地制圧に使用すると言う案。
74
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:10:08 ID:N5F9bWIA0
実践形式での運用テストが行え、かつ周辺国に自国の力を見せつけることができる。
それにより、うまくすれば他の列強勢力である国家をこちらの陣営に引き入れることができるという皮算用のもと生まれた案であった。
資源の無駄、まともに訓練すら出来ていない状態で遠方かつ味方が少ない海域への出撃は危険すぎるとの反対意見も多くあったが、自らの考えが正しいのだと信じ、自分の地位を利用してごり押しで行われたものであり、成功さえすれば全て自分の成果として称えられるはずであった。
それがどうしたことか。
話によると力を見せつけるどころか、まともに仕事すらできずに海に消えたというではないか!
自分の提案のせいで最新鋭艦を沈ませた。
その事実が彼には耐えられなかったのである。
(# ^Д^)「くそっくそっ!何故だ!報告はないのか!!」
(;*゚ー゚)「い、一応、ムーから報告が来ております。どうやら生き残りの船員達は責任の重さから精神異常を起こしているようでまともな証言は得られなかったとのこと」
(# ^Д^)「......そうか」
75
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:10:48 ID:N5F9bWIA0
苛立ちを込めながら小さく一言だけ返事をし、黙り込む。
明らかに苛立った様子のまま、沈黙を続けたことで部屋の空気はこれ以上ないほどに重苦しいものであった。
( ^Д^)「......召喚地を制圧のために準備していた本隊は?」
そうして、そんな空気のまま数分がたった頃にようやくプギャーが口を開いた。
(*゚ー゚)「え?」
( ^Д^)「本隊だ。先遣隊が上陸地点を確保後に出撃を予定していただろう。今どうしている」
(;*゚ー゚)「え、あ、は、はい!それは、現在、中継地のトウキュで補給、待機をしています。先遣隊が召喚地の正確な位置を特定された後に向かう予定でしたので」
( ^Д^)「そうか......では出撃を急ぐように伝えろ。さっさと制圧し、汚名を挽回しろとな!」
(;*゚ー゚)「え!?し、しかし、正確な位置が分からないというのに本隊を向かわせるのは危険すぎるのでは......今回の事態も原因が分からない訳ですからここは......」
(# ^Д^)「言い訳は聞きたくない!いいから早くしろ!いいなっ!?」
(;*゚ー゚)「は、はい!了解いたしました!」
(; ^Д^)「......くそっ」
76
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:11:12 ID:N5F9bWIA0
ただでさえ、最新鋭艦を潰すと言う大失態をしているのだ。
それに加え、楽勝であるはずの召喚地制圧までも予定が狂ってしまっている。
明らかに軍の失態である。
たが事態が事態。
責任云々よりも、何故こんな異常事態が発生したかを追求すべきだろう。
(; ^Д^)(召喚地はこれでどうにかなるはず......さっさと事態を納めねば......)
だがしかし。
どうにか責任を免れる方法はないか。
早く事態を納めて、うやむやにしなくては。
彼の頭の中にはそんなバカみたいな考えしかなかった。
77
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:11:34 ID:N5F9bWIA0
ムー国 統治軍基地 監視塔
1463年7月13日
ムー本島の東にある、この国一の港。
そこにこの国を統治するために設置された基地が存在する。
普段であれば周囲に驚異がないため、反乱が起きないように監視したり不審な船がないか見回る程度の仕事しかなかったが、現在、基地始まって以来の警戒体制であった。
統治局からもたらされたルナイファに次ぐ強国であるソーサクが攻めてくるかもしれないという情報。
ニータ程度であれば、何とかなるであろうが相手はルナイファに次ぐ強国である。
事の重大さを皆が理解し、警戒の目を光らせていた。
そして現在、ようやく太陽が上り始め、だんだんと明るくなってきた頃。
まだ多くの人が眠る中、基地に設置された監視塔ではムー国周辺を飛び回るワイバーンからの視界情報が共有され、それを睨むようにミルナは見つめていた。
78
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:11:57 ID:N5F9bWIA0
( ゚Д゚)「......」
どの視界も青い、青い海が写る。
この警戒体制に入ってから数日が経っている。
その間、ずっと同じような景色を見続けていた。
この任務が重要なことはわかっている。
現に、先遣隊の船がやられて帰ってきているのを見ている。
だがしかし、ここまで変化がないとほんの僅かだが、心のどこかに油断が生まれてくる。
警戒のしすぎなのではないかと。
そしてひとつ、あくびをしたそのときであった。
( ゚Д゚)「......ん?」
青い海にポツンと。
黒い、シミのようなものが写った気がした。
緩むかけていた心を引き締め、改めて視界の写る水晶を凝視する。
79
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:12:21 ID:N5F9bWIA0
それは、見ていると複数のシミとなり。
そしてそれは、どんどんと大きくなる。
大きくなるそれは、だんだんと輪郭をはっきりとさせ。
それがなんなのか、判別できるようになると、一気に彼の背から汗が吹き出す。
(; ゚Д゚)「......艦!?」
見たことの無い、艦であった。
帆のない、のっぺりとした黒い奇妙な艦であった。
そんな艦が複数、こちらに向かってきている。
それがこちらに対し、何らかの悪意をもって近づいてきていると、本能で理解した。
だからこそ、慌てて報告しようと魔信に手を伸ばし、叫ぶ。
(; ゚Д゚)「ほ、報告!東の海上に謎の艦隊がせっき......っ!?」
チカッ!
ミルナの叫びを遮るように、水晶に写る艦が光輝く。
そしてそれに呼応するように、水晶はなにも写さなくなる。
それが何を意味するのか。
彼は理解し、さらに汗が吹き出した。
(; ゚Д゚)「げ、撃墜!?」
そんな彼の思わずでた声が、魔信を通じ、広まる。
それが、この戦いの始まりの合図となった。
80
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:12:46 ID:N5F9bWIA0
ムー国 統治軍基地 軍港
(# `ー´)「すぐに出撃する!急げ!」
ワイバーンの撃墜が知らされてすぐに、出撃命令が出された。
基地内にいるものたちの脳内に直接、緊急事態を伝える特殊な魔信が響きわたる。
寝ていた者たちも跳ね起き、事態に向けて動き出す。
だが、その動きは遅い。
これまで前線にたったことの無い、また戦いから遠く無縁のこの地。
兵の練度が足りておらず、明らかに初動が遅れていた。
そしてそれが、最悪の事態を引き起こしてしまった。
(# `ー´)「兵舎への連絡を!早くしろと伝えろ!一分もおし......ん?」
想定よりも遅い兵の動きに再度、伝令を送ろうとしたそのときであった。
キィン、と甲高い聞いたことの無い音が聞こえた。
そして、その音はどんどんと大きくなる。
81
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:13:13 ID:N5F9bWIA0
( `ー´)「なにが......」
近づいているのかと、音のする方に顔を向ける。
そこには、見たことの無い、巨大ななにかが飛んでいた。
それも一つだけでない。
複数の影が、迫ってきていた。
( `ー´)「......は?」
空を飛ぶものと言えば、ワイバーンである。
空の王者、支配者と言ってもいい。
他に飛ぶものと言ったら、鳥くらいなもの。
だとすればあれは何なのか。
その答えを、彼は持ち合わせていない。
(; `ー´)「......」
信じられない速度で飛ぶそれは、港を通りすぎ、基地へと向かう。
ワイバーンは何をしてるのかと叫びたくなるが、それと同時にあれほど速いものにワイバーンでどうにかなるはずがないと感じていた。
82
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:14:00 ID:N5F9bWIA0
そしてそれは現実のものとなる。
3騎のワイバーンが、基地から飛び立ち、空の怪物へと向かっていく。
その姿は勇ましく、少し前の彼であれば心強く感じていただろう。
だが、先ほどのあれを見たあとだと何とも頼りなく、無謀な挑戦をしているようにしか見えない。
それほどまでに、速度だけではあるが、隔絶していた。
高速であったはずのワイバーンの飛行がよたよた飛ぶ老人のように感じられる。
だがそれでも何とか風に乗り、戦闘体制が整おうとしたその瞬間。
一騎のワイバーンが炎を包まれる。
上空に爆発音がなり響き、血の雨を降らせる。
ずっとその様子をネーノは見ていたはずである。
だがなにがあったか、まるで理解が出来なかった。
83
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:14:23 ID:N5F9bWIA0
(; `ー´)「なんだ、これは......」
一騎、そしてまた一騎とワイバーンが爆発し、なにもできぬまま消えていく。
空には守るはずものはいなくなり、代わりに謎の飛行物体が支配する。
そしてそれらは、赤い雨のお次と言わんばかりに、新たなものを降らせる。
それは、黒い複数の塊。
(; `ー´)「なんなんだ、これはぁ!!?」
黒い雨は、基地に降り注ぐ。
それは、凄まじい轟音と共に基地を炎で包み込んだ。
84
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:14:46 ID:N5F9bWIA0
続く
85
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 12:48:42 ID:cbpHkiFw0
乙
この量でこの更新ペースは凄い
召還された人達はどう思ってるのか気になるところ
86
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 20:54:21 ID:GZf6d6AE0
乙です
87
:
名無しさん
:2023/04/17(月) 00:06:53 ID:rJ3Au5B60
期待!
88
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:46:32 ID:6dVV0mEQ0
アリベシ法書国 旧国境付近
1463年7月13日
進軍は、滞りなく進んでいた。
これまでの苦戦が嘘かのようである。
ルナイファから送られてくる兵器の数々と大量の物資。
これによりアリベシは息を吹き返したかのように前線を押し上げていた。
これまで奪われる立場であったはずが気がつけば過去に奪われた土地を全て奪い返し、逆に奪い取らんとするほどの勢いである。
( ・∀・)「まさか、ここが取り返せるなんてな」
そう独り言を呟く。
戦火によりほとんどの面影は残っていないがそこは、彼にとって故郷であった。
それを、自らの手で取り返したのだ。
まさに歴史的に残る偉業であろうそれを、成し遂げたのだ。
その事実が彼を充実感で満たしていく。
89
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:48:00 ID:6dVV0mEQ0
ルナイファには感謝してもしきれないだろう。
同じ列強と呼ばれていたこともあり、これまでは多少はあれどそこまでの差は無いのではないかと考えていた。
それがどうだ。
彼の国はとんでもない量、そして技術の物資をこちらへ送り込んできた。
その国力、にわかには信じがたい。
ただでさえニータと睨みあっていること、また弱敵とはいえ海を越えた先、召喚地への出兵もあるのだ。
それにも関わらず戦況を一変させるほどのものを簡単に送り込んできている。
今食べている、この携帯食料もそうである。
これまでのアリベシにおける携帯食料と言えば干し肉や燻製などが主であった。
だがルナイファから送られてきたそれは、保存魔法によりどんな環境でも半年という長期の間、腐らずに持ち運べるという調理済みの食べ物。
大量に生産しなくてはいけない食料に、魔法を使うことのできるその国力。
そして長期保存を可能にする高度な魔法。
自国では決して真似できないだろう。
90
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:48:25 ID:6dVV0mEQ0
心強いを通り越し、恐怖すら覚えるほどの、異次元の味方である。
もはや、勝負の行方は決まったのではないかとすら思えるほどだ。
( ・∀・)「だけど、まだ終わりじゃないんだよなぁ」
だが、まだ戦いは終わらない。
むしろこれからと言ってもいいだろう。
ルナイファからの物資がある今ならば、法書で示された道標を辿ることができる。
法書の示す道、大陸統一へと。
そのとき、鐘の音が鳴り響いた。
休憩を終わり、進撃を再開する合図である。
( ・∀・)「......さて」
その音を聞き、まだ食べかけであった食料を腹に詰め込み、立ち上がる。
そうして、睨むように地平線を眺める。
まだまだこの土地の果ては見えそうもない。
だがしかし。
不安はない。
自分たちの後ろには神のごとき強さを誇る、味方がいるのだから。
モララーは希望共に、敵国へと足を踏み入れた。
91
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:49:33 ID:6dVV0mEQ0
ムー国 統治局
1463年7月13日
最悪の目覚めである。
この日のデルタの目覚めはそうとしか言いようがなかった。
最近頻発した異常事態により、珍しく統治局に泊まり込みで仕事をしていたのが昨日のこと。
仕事が区切りがつき、仮眠を取ろうと少し寝ていたのが数時間前。
そして。
たった今、謎の爆発音により彼は目を覚ましたのである。
( "ゞ)「なっ......はっ?......え?」
いったい何事だと飛び起きた彼の目には信じられない光景が広がっていた。
窓の外に見えるのは燃え盛る、建物の崩れた基地であった。
倉庫も、兵舎も、ワイバーンを召喚する召喚陣地も。
全てが壊され、がらくたと化していた。
92
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:50:18 ID:6dVV0mEQ0
ムーに駐在する軍はそこまで強力な軍ではない。
だがしかし、そこにいるのは世界最強のルナイファの兵であることには代わりはないのだ。
辺境の基地とはいえ、下位の列強とも張り合える力はあると、少なくともデルタは考えていた。
だが、その力は。
更なる圧倒的な力により、ねじ伏せられた。
(; "ゞ)「......」
だんだんと頭が冴え始め、これが夢ではないと理解すると身体中から汗が吹き出した。
あまりにも現実離れした光景に、受け入れるのにかなりの時間がかかっていた。
だが、ようやく現実を理解する。
死がそこまで、迫っているのだと。
(; "ゞ)「に、逃げ、ないと......」
有事の際の対処マニュアルがあったことは覚えている。
だが、そんなものを思いだし、実行できるほどの余裕が彼にはなかった。
ただひたすらに燃える炎から逃げるように彼は走り出した。
93
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:50:43 ID:6dVV0mEQ0
そんなデルタが逃げようと走り出した頃。
川; ゚ -゚)「はっ......はっ......はっ......」
彼女、ソーサクの潜入諜報員であるクーは恐怖を押し殺すように短い呼吸を繰り返し、物陰に隠れていた。
そのすぐ近くでは猛烈な爆発音がなり響いている。
彼女が今いる場所。
それは基地の近くであった。
撤退してきた先遣隊の情報を得ようと、基地への潜入を試みていたのだ。
普段であれば簡単に潜り込めたはずであった。
しかし、最近の事情から警戒を強めていた基地に潜入するのはなかなかに困難であり、内部まで入り込めていなかった。
そしてそれが、彼女にとって幸運なことに、この地獄のような攻撃から逃れることができたのである。
とはいえ無傷ではない。
至るところで発生している火事で火傷を、そして衝撃で飛んできたガラスの破片が腕に突き刺さり、出血をしていた。
94
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:51:27 ID:6dVV0mEQ0
だがもし、潜入が上手くいっていたならば。
こんな傷では済むはずがない。
すぐそこに転がる死体が、自分の姿であっただろう。
そんな嫌な考えが頭から離れず、火傷と傷の痛みと戦場特有の極度の緊張感から息が乱れ、変装魔法を使うどころではなくなってしまっている状態である。
さらには逃げなくてはと、頭では考えてはいても体が動かない。
ただただ呼吸をし、理解できない現実を眺めることしかできない。
そうしていると、気がつけば彼女は通信用の魔石を握りしめていた。
定時の報告に使うそれを、なぜ取り出したのか、いつ取り出したのか分からない。
だがそれに気がつくと彼女は、一人の男の顔を思いだし、すがるように魔石に魔力を込めた。
95
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:52:01 ID:6dVV0mEQ0
『......んぁ?なんだこんな時間に......ふあ......』
すると、そこからは自分の望んだものの声が聞こえた。
自分の同僚であり、心を許すことのできる唯一無二の親友の声。
川; ゚ -゚)「ど......くお......」
震える声で彼女は彼の名前を呼んだ。
その声に、魔石の向こうの彼はなにかを感じたのだろう。
すぐに返事が返ってくる。
『......クー?どうした?なにがあった?』
川; ゚ -゚)「分からない......分からないんだ......」
『おいおい、落ち着けよ。な?落ち着いて話を』
川; ゚ -゚)「し、死にたくない。死にたくないよ、ドクオ......」
『く、クー!?お、落ち着け。一旦今の状況を教えてくれ。死ぬってなんだ?まさか......潜入がばれたのか!?』
川; ゚ -゚)「ちが......」
96
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:52:32 ID:6dVV0mEQ0
ドクオの言葉を否定しようとしたとき、その声を遮るように再び、爆発音が辺りを包み込む。
どうやら音の方角から、基地の次は港にある施設や艦が狙われているようである。
『クー!なんだ今の音!?そっちでなにが起こっているんだ!?』
川; ゚ -゚)「あ、あ......」
伝えようにも言葉になら無い。
そもそも見ている彼女にも、なにが起こっているのか理解出来ていないのだから。
『くそっ、クー!なにがあったかわからんが逃げれるならそこから早く逃げろ!さっきの音はヤバい!逃げるんだ!』
川; ゚ -゚)「っ!」
だが、彼の逃げろと言う言葉だけは理解できた。
混乱していた頭に、まっすぐと向けられた命令は意外なほどすんなりと体が受け入れ、これまで動かなかった体が嘘のように動き出す。
そうして彼女もデルタと同じように、生き残るため、逃げるために走り出した。
97
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:54:03 ID:6dVV0mEQ0
ムー国 統治軍基地 軍港
(; `ー´)「ぐっ......」
猛烈な攻撃であった。
基地が攻撃を受け、呆気にとられていたところに追撃とばかりにあの謎の飛行物体が襲ってきたのだ。
だが自分が死んでおらず、周りも全滅していないのは港を攻撃してきた敵が基地を攻撃したそれよりも少ない数であったからだろう。
改めて被害を確認するため、辺りを見渡すと停泊していたいくつもの艦は燃え盛り、敵が上陸しようと接近してきた場合を想定して用意していた魔方陣も叩き潰されている。
これが一瞬にして引き起こされたのだ。
絶望的な被害である。
悪魔か神かのごとき、攻撃。
こんな攻撃ができる存在は、そのどちらかしかないとネーノは感じていた。
そんな奴らが、なぜ我々の敵として現れたのか。
突如現れた強大な敵に恐怖を感じ、震えを抑えることができない。
98
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:55:29 ID:6dVV0mEQ0
(# `ー´)「......くそっ!残った兵を集めろ!艦を出し、敵を迎え撃つぞ!何としても上陸を防ぐんだ!」
だがしかし、彼は軍人である。
どんな敵であろうと、立ち向かわなくてはならないのだ。
必死に指示をだし、人員を集める。
何とか生き残るために必死に行動をする。
だが、集まった人員は明らかに少ない。
これでは艦を出そうにも出せる数は少なそうである。
もっとも、先の攻撃で艦自体の数がかなり減っているのだが。
とはいえ、魔法は各個人の才能に左右され、それを補うには数が必要である。
ただでさえ練度が高くないのにさらに数まで少なければ出来ることは少ない。
敵が強大である以上、それなりの数を揃えなければ抵抗すら出来ない可能性すらあるのだ。
99
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:56:28 ID:6dVV0mEQ0
(; `ー´)(兵舎がやられたのが痛すぎる......あれのせいで兵が足りん。くそ、初動の遅れがこんなにも響くとは。だがだからといって一般人を集めたところで役には......)
(; `ー´)「......いや、待てよ?確か撤退してきた先遣隊の艦は別のところに停泊していたはず。それにそこの兵士も病院......」
そこではっと気がつく。
先ほどの二回の攻撃、そのどちらも基地や港と軍施設のみへの攻撃であった。
街への攻撃はなく、そして被害は無いように思われる。
であるならば、病院はまだ無事であり少なくとも撤退してきた4隻分の戦力は残っているはずである。
精神異常とのことだがそんなことを気にしている余裕はない。
(# `ー´)「病院にいる先遣隊員を召集!出撃するように連絡しろ!」
戦場は、動き続ける。
100
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:57:06 ID:6dVV0mEQ0
ムー国 東沿岸
(,,//Д゚)「......」
まさかこんなにも早く、再び海に出ることになるとは考えてもなかった。
ほんの少し前に味わった死の恐怖。
あの恐怖に再び立ち向かわなくてはならなくなるとは。
包帯を巻いた右目を手で押さえ、海を睨む。
あのとき、海から現れたあの高速のなにか。
あれが突き刺さった艦は抵抗することすら出来ずに、沈んだ。
唯一、魔壁を使用した艦のみ生き残ったが、それも数発耐えたのみで完全に防ぎきることは出来なかった。
あのとき、攻撃を受け沈んだ艦から自分が助けられたのはほんの偶然であった。
旗艦であるギコが乗っていた艦は真っ先に叩き潰され、その後に続く攻撃の嵐に艦隊はもはや崩壊していたと言ってもいい状態であった。
101
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:58:06 ID:6dVV0mEQ0
最早出来ることは撤退のみとなり、必死に逃げようとしていた一隻にたまたま拾われ生き延びることができた。
他にも何人かは助かったが、多くはあの海に沈んだのだろう。
(,,//Д )「......」
あの海戦、いや虐殺で死んだ仲間の顔を思い出す。
今彼が、ここに立っていられるのも彼らの死の復讐、無念を晴らしたいという感情からである。
もし、それがなければこの恐怖に耐えられなかった。
事実、命令により無理やり出撃させられた兵たちのなかには、先の攻撃からあの海で見た攻撃と同じものだと理解しており、すなわちこれから死地に向かうのだと発狂してしまうものもいた。
このままでは戦う前に、崩壊してしまう。
102
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 11:59:14 ID:6dVV0mEQ0
(,,//Д゚)「......いや、すでにか」
そうギコは自嘲気味に呟く。
辺りを見渡せば先遣隊の生き残り4隻とムー国で運よく攻撃に当たらなかった18隻の計22隻が進んでいる。
艦隊としての連携の練度は即席であるためお察しの程度だが、艦数だけで言えば大部隊である。
だがこれを大きく上回る、そして運用法についての訓練は足りなかったものの最新鋭艦までいた艦隊が一方的にやられたのだ。
どうなるか、ギコたちには分かりきってしまっていた。
もう奴らの、どんなやつでどこの国のやつかは分からないが、攻撃を受けた時点で崩壊していたのだ。
103
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 12:01:52 ID:6dVV0mEQ0
(,,//Д゚)「だが......」
それでもギコはキッと海を睨む。
敵がいるであろう方角を、強く。
ただではやられない。
せめて敵に一泡吹かせなくては死んでも死にきれない。
我々は最強のルナイファ帝国なのだから。
(,,//Д゚)「先に話した通り、4隻のみだが艦隊で防御陣を組み、突撃する」
『......よろしいのですか?』
他の艦から、確認の魔信が届く。
ワカッテマスがいなくなった今、4隻の艦隊についての指揮はギコが執っていた。
そして彼は先の戦い、虐殺から執れる限りの対策を行おうとしていた。
(,,//Д゚)「速度、射程、威力、燃費その他......すべて性能が落ちるがかまわん。魔壁に可能な限り魔力を回し、敵の遠距離攻撃を防ぎ、接近する。敵に近づかなくては話にならないからな」
『いえ、それはその通りだと思います。そうではなく......他の、ムーの艦についてです』
(,,//Д-)「......仕方ないだろう。信じてもらえなかったんだ。我らだけでも、やれることをやろう」
『......了解、いたしました。すぐに準備いたします』
(,,//Д゚)「あぁ」
104
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 12:03:38 ID:6dVV0mEQ0
そうして、22隻の艦隊から4隻が離れていく。
その様子に驚いたのはムー国の艦隊である。
一緒に戦うはずが急に陣形を変えたかと思うと突然守りの体制に入り、さらにそのまま突撃しだしたのだから。
( `ー´)「何やっているんだ奴らは?」
これには思わず首を捻ってしまう。
敵からの攻撃が複数来ているであれば、守りを固めつつ進軍する必要があるため、あのような陣形になることも分かる。
だが、敵が見えないうちに守りの体制に入るとは何事か。
何もないところで急に防御を始め、まるで怯えるように進む4隻はあまりにみっともなく目に映る。
そうこうしているうちに4隻の艦はどんどんと離れていき、艦隊は二つへと別れていく。
( `ー´)「......くそっ、やはり精神病の奴らに頼るのは間違いだったか?」
確かに奴らは、敵は見えない距離から攻撃できるだの意味不明なことは言っていた。
だが、そんなことはあり得ない。
見えない位置まで攻撃を飛ばすなんてそんな魔法はないし、もしそんなものを飛ばせてもどうやって当てるというのか。
見えないものを当てるなど、不可能である。
105
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 12:04:23 ID:6dVV0mEQ0
現に、今回攻撃してきた奴らは確かに信じられない速度ではあったが、すべて目視出来ていた。
単に早すぎて見落としていただけなのを奴らは考えすぎているのだ。
そして見落としについては召喚艦により、新たにワイバーンを召喚することが出来ており、上空の警戒も出来ていることからこの問題は解決できている。
( `ー´)「強敵ではあるが、見えるならば何とでもなるはずだ」
さらに運よく、生き残った艦には対ワイバーンに特化した艦が複数ある。
これさえあれば高速の飛行物体を攻撃しつつ、敵が見え次第に他の艦で魔壁を貼り、攻撃を軽減することで優位にことを進められるはずであると考えていたのだ。
そうして二つの艦隊は、海を進む。
その二つの艦隊を見つめる影が近づいていることに気づかないまま。
106
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 12:04:47 ID:6dVV0mEQ0
続く
107
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 14:35:11 ID:QLmRpcNw0
乙です
108
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 23:17:12 ID:/jdv75Vs0
わくわく
109
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:45:40 ID:Z3EUAgNQ0
雑な世界地図
https://i.imgur.com/W457DcP.jpg
110
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:46:20 ID:Z3EUAgNQ0
ソーサク連邦 情報戦略室
1463年7月13日
一人の男が手に魔信を握りしめ、必死に叫んでいた。
(;'A`)「クー!返事をしろ!クー!!」
『......』
(;'A`)「......くそっ!」
だが、返事はない。
爆発音がした後、急に音が聞こえなくなった。
それが魔信の乱れなのか、もしくは。
死にたくない。
そう言ったクーの声が思い出される。
不吉な考えが頭を支配し、彼を苦しめる。
111
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:47:04 ID:Z3EUAgNQ0
(;'A`)「......どうする?どうすればいい?」
何も情報などない。
あるのは、クーの周りでなにかとんでもないことが起きたであろうということと、何かしらの大爆発が発生したということ。
それが人為的なものなのか、自然的なものなのか。
助けようにもこれではどうにもならない。
(;'A`)「......そうだ!念写なら!」
ふと、以前クーが持ち込んだ念写の石板を思い出す。
あれならば座標を指定すれば現在の状況を写し出せるはずである。
とはいえ、距離が距離。
念写に優れた魔法使いでなければ写すことはできないだろう。
(;'A`)「早くしないと!」
何が起きているかはわからない。
だが、だからこそ行動しなくてはいけないのだ。
こうして彼も、何の偶然かクーと時を同じくして走り出したのであった。
112
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:48:55 ID:Z3EUAgNQ0
ムー国 東沖
艦隊が二つに別れた後、ネーノ率いる18隻が対ワイバーン用に滞空陣形を構築する。
これにより、遠隔にて操作可能な火炎弾を複数打ち上げることができ、また艦隊全体を覆うように薄くではあるが魔壁を構築することができる、対ワイバーンにもっとも強力な布陣を敷いていた。
( `ー´)「割り振りは魔壁に2隻、火炎弾を10隻、残りは遠隔操作補助だ。リンクの準備は?」
『完了しております』
( `ー´)「よろしい」
そうネーノは言いつつ、心の中で舌打ちをする。
ムーにいる魔術師、さらに寄せ集めの艦隊では一隻の魔方陣だけで火炎弾を生成し、さらにそれを操作することはできない。
火炎弾と操作魔法の役割を分担し、補助のための艦を用意しなくてはならなかったのだ。
ただでさえ少ない艦を、このような形で使わざるを得ない状況にネーノは苛ついていた。
113
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:49:21 ID:Z3EUAgNQ0
だが、話を聞けばあの狂った兵の中にいるギコという男はそんな大魔法を一人で行える凄腕だというではないか。
もし彼が狂わずにいたらそれだけで強力な味方となったというのに。
それがどうだ、いくら強大な敵だからといって敵に怯え、国ではなく自分たちを守るためだけに防御陣を組み、無駄な魔力を消耗している。
はっきり言って、デコイ程度の役割しか果たせないだろう。
( `ー´)「......くそっ」
しかし無い物ねだりをしても現実は変わらない。
彼らもルナイファの兵士なのだ。
精々国のために役立ってくれよと、囮ぐらいにはなればいいと考え、艦隊を進める。
114
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:49:53 ID:Z3EUAgNQ0
不思議なほど、穏やかな海である。
先ほどまでの攻撃が嘘のように敵は見当たらない。
あの高速の飛行物体もどこかに消えてしまっていた。
( `ー´)(......どこからくる?)
ワイバーンが撃墜されたとき、艦隊を見たと報告があった。
敵の上陸はまず間違いないはず。
だが正確な距離は聞いていなかったため、どの程度接近されたかは不明なままであった。
また数も不明であり、相変わらず敵の情報は何もない。
( `ー´)(......)
耳を澄ませ、あの飛行物体が発していた音が聞こえないかとも思ったが聞こえるのは海を進む艦の音のみ。
115
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:50:24 ID:Z3EUAgNQ0
てっきり艦に向かって奴らがくるのではないかと考えていたがまるで近づいてくる様子がない。
( `ー´)「不気味だな、一体なにをしてくるのか」
影すら掴めないその敵。
だが、掴めていないのは彼らのみであった。
ガアアァァァン!!
突如爆発、そして魔壁が叩き割られる音が響く。
驚いて音のした方角を見ると一隻の艦が燃え、沈もうとしていた。
(; `ー´)「なにっ!?」
警戒をし、魔壁を展開していたはずである。
防御に特化したときのものと比較すると、微弱ながらもワイバーンの火炎弾をある程度耐えるほどの効力はあるはずであった。
事実、これまで多くの戦場にて効果を発揮してきたのだ。
だが、全くと言っていいほど防げていない。
理解不能の、圧倒的な暴力。
116
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:50:53 ID:Z3EUAgNQ0
そして、何より理解できないのは辺りを見渡してもその攻撃した主が見つからないことであった。
(; `ー´)「こ、今度の敵は透明だとでもいうのか!?」
必死に頭を捻り、一つの可能性として透明な敵が思い当たる。
だがもしそれが本当なのだとすればとんでもないことだ。
艦隊全体を隠すほどの魔法など、ギコの魔法技術とは比較にならない。
一体どれだけの凄腕な魔術師と魔石、そして巨大で複雑な魔方陣が必要になるか想像もつかない。
そもそもそんなことが可能な魔法使いを見たこともなければ聞いたことすらないのだ。
(; `ー´)「ぐ、ぐぅ......陣形を組み換え、魔壁を強化しろ!また周囲を警戒!近くにいるはずだ!魔力の痕跡と航跡波を探せ!」
だがもし透明でも艦が通ったあと、航跡波は隠せないはず。
またそれを偽装しようとすれば魔力の痕跡が残るはず。
その考えのもと、彼は艦隊に警戒と策敵をよびかける。
117
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:51:38 ID:Z3EUAgNQ0
しかし。
(; `ー´)「まだ見つからないのか!?」
いくら探せども、目的のものは見つからない。
その間にも攻撃は続き、守りを固めようともがいている間にもはや戦力のほとんどを沈められている。
全く理解できない現実を前に彼は、ただただ絶望することしかできない。
そしてそんな犠牲が続く中で、彼は見た。
遥か彼方から迫る、光を。
ようやく、彼は一つの可能性に至る。
見えない位置からの長距離攻撃。
先遣隊の兵たちは狂ってなどいなかったのではないか、と。
だがもしそうなのだとしたら。
(; `ー´)「勝てるわけが......」
ない、そう呟く前に艦隊は炎に包まれる。
そうして何が起きたかもわからないまま。
18隻の艦はムーの海に消えた。
118
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:52:37 ID:Z3EUAgNQ0
一方でギコたち4隻の艦はまだ、海の上に浮かんでいた。
(;,,//Д゚)「ぐ、ごぉ......」
こちらも凄まじい爆発に包まれるが、その攻撃を防ぎきることに成功していた。
防御に魔力を全部回していたこと、また残っていた4隻の艦が魔壁に特化した魔防艦であり、うち一隻は最新鋭艦であったこと。
そしてなにより優秀な魔術師であるギコがいたことで、少数の艦ながらも攻撃に耐えることに成功していた。
(;,,//Д゚)「こ、これほどなのか......敵は!!」
しかし、ギコの顔色はよくはない。
むしろ悪いと言ってもいいだろう。
ここまでギコの考え通り、攻撃を防ぎつつ、艦隊を進めることはできてはいる。
『ま、魔石の消耗が激しすぎます!このままでは!』
『魔方陣が衝撃により一部で不具合が発生!このままだと暴走する恐れが!!』
『魔術師が耐えきれません!!すでに複数名が魔法の使用限界により倒れています!』
(;,,//Д゚)「......」
119
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:53:10 ID:Z3EUAgNQ0
相次ぐ絶望的な報告。
そして、ギコ自身もこれ以上の攻撃は長く耐えられないことが分かっていた。
しかし、だからと言ってどうすれば良いのか。
もう引くことはできない。
敵も逃がしてはくれないだろう。
だが、まだ見えぬ敵に接近し攻撃を叩き込めるとも思えない。
ならばどうするか。
(,,//Д゚)「......通信術士。本国、及び本隊へ連絡しろ」
『は......は!なにをでしょうか』
(,,//Д゚)「全てだ。今起きていること、我々が相手にしている敵のこと、分かる限りでいい。伝えるんだ」
『しかし、信じてもらえるとは......』
120
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:54:33 ID:Z3EUAgNQ0
(,,//Д゚)「だろうな。だが、記憶の片隅にでもあれば、なにかが変わるかもしれん。ルナイファの軍人として、最後まで、国のために働こうではないか。未来を繋ぐために!」
『っ!りょ、了解しました!』
(,,//Д゚)「......さて」
次々と襲い来る爆発の雨。
あとどれだけ持ちこたえられるのか。
(#,,//Д゚)「ルナイファ帝国を舐めるなよ、化け物どもめ!」
これから数分後には自分達はこの世にいないだろう。
だがそれでも進む。
彼らは、軍人なのだ。
国から進めと言われたのならば、そこに道がなく、死に至ると知っていても進まねばならない。
(#,,//Д゚)「があああぁぁぁぁ!!!」
一際魔壁が強く光輝き、艦隊を包む。
ギコの意地、魔術師の誇りをかけた最後の魔法。
そんな魔法を嘲笑うかのごとく、高速で迫る十数発の光の点が流星のように降り注ぐ。
いくつかは防ぐものの、いつしかその数と威力の前にあっさりと叩き潰され。
そして、考える暇もなく。
彼らはこの世から去ることとなった。
121
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:54:56 ID:Z3EUAgNQ0
トウキュ王国 港
ルナイファ帝国の南、そしてムーの北、ちょうど中間辺りに存在する小さな島国、トウキュ。
ムーのようにルナイファからの影響が大きい属国ではあるが人間国家ではなく、エルフの国である。
この国の特徴としてはルナイファとムーとの航路上にあることから、ムーで取れる様々な物品を運ぶための中継地として利用されている。
この他にも周辺の国家からルナイファへ向かう船が立ち寄る場所として利用されており、ルナイファの属国の中でも重要度が高い。
またルナイファの南方港に近い位置にあることから、防衛的にも非常に重要な拠点として扱われている国家であった。
そんなトウキュ、普段であれば港にいる人々は、様々な国から入る色とりどりの特産物に笑顔を浮かべるだろう。
事実、多くの人が商談などで盛り上がっている。
122
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:55:33 ID:Z3EUAgNQ0
だが、そんななかで一際険しい顔を浮かべる集団があった。
从 ゚∀从「さっきの魔信......何だったんだ?」
( ´ー`)「知らねーよ、って言いたいが......そうも言ってられんなこりゃ」
二人揃って眉間に皺を寄せあい、話す軍服の男女。
彼らは召喚地制圧に向けて派遣された本隊一員であり、補給としてここに訪れていた。
何事もなければすぐにでも準備を進め、この国を離れるはずであったが、そうもいかない事態が起きたようである。
その話の中心は先ほど届けられた魔信からのメッセージであった。
( ´ー`)「ギコ様クラスの魔法ですら耐えきれない猛攻、恐ろしい速度で迎撃不能、さらには敵が見当たらないと来た......幻覚魔法か?」
从 ゚∀从「だとしてもそれはそれでやべぇぞ。艦隊全員が幻覚見るなんてとんでもないことだろ」
123
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:55:55 ID:Z3EUAgNQ0
( ´ー`)「だよなぁ......妄言って可能性は」
从 ゚∀从「ないだろ。もしそうなら、今頃連絡があるはずだ」
そういい、彼女、ハインはそばに置いてある魔信を叩く。
从 ゚∀从「さっきから何度も連絡してるが艦隊から何一つ反応がねぇ。それどころかムーの国からもだ」
( ´ー`)「攻撃を受けている、って連絡はあったよな?」
从 ゚∀从「あぁ」
( ´ー`)「......まさか、全滅?」
从 ゚∀从「いやいや......まぁ、突然の奇襲だし、何らかのトラブルだろ」
( ´ー`)「まぁ......だな」
从 ゚∀从「......」
連絡がないことに、一つの可能性として浮かび上がったのはとても信じられるものではなかった。
だがしかし、否定できるものが何一つないのもまた事実であるのだ。
124
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:56:25 ID:Z3EUAgNQ0
从 ゚∀从「とりあえず、だ」
( ´ー`)「うん?」
从 ゚∀从「本国に連絡しよう。召喚地への旅行は一旦保留ってな」
( ´ー`)「正気か?」
从 ゚∀从「勿論。むしろこの状況で進軍するとか正気の沙汰じゃねーぞ」
( ´ー`)「その正気じゃないやつが、俺たちのトップなんだぞ?」
もしこの発言が他人に聞かれていたら即刻、処罰されるであろう発言である。
だがこれもまた、事実なのだ。
その事を思い出したからか、ハインは再び眉間に皺を寄せる。
( ´ー`)「先遣隊が消滅、そしてムーすら攻撃を受けたとの報告。だというのにさっさとしろとの命令が届いてるぞ」
从; ゚∀从「マジかよ......俺たち揚陸艦がメインだぞ?もともと海岸沿いと制海権を抑えていることを前提とした作戦だったし。なのに艦隊を消滅させたやつがいるかもしれねぇ海域に向かうって......どうしろってんだ?」
( ´ー`)「艦種なんて知らねーんだろ。艦数が多いから何とかなると思ったんじゃねーの?」
从; ��刈椀此屬佑Г�......と言いきれねぇな」
( ´ー`)「まぁ揚陸艦なら魔壁を強めに張れるし......切り込みとかで何とかするしかねーな」
从; ゚∀从「おいおい」
125
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:57:05 ID:Z3EUAgNQ0
ケラケラと笑いながら話すシラネーヨに対して冗談じゃねーぞと思いつつも、このままでは本当にそれをやるしかなくなる。
太古の昔に廃れたはずの攻撃を真面目に検討する羽目になるかもしれないのだ。
从 ゚∀从「ほんと、とんでもないことになったな」
( ´ー`)「だな......まぁ、なんだかんだ言ったがあれだ」
从 ゚∀从「うん?」
( ´ー`)「俺も責任は取る。情報を集めるため、理由をつけてできる限り出撃を遅らせよう。補給や何やでな」
从 ゚∀从「......助かる。はぁ、減給だけで済むかね?」
( ´ー`)「どうかな。下手すりゃ反逆者扱いか?」
从; ゚∀从「あり得るのがなぁ......ん?」
『......こえてるのか!?おい!』
从 ゚∀从「......っあー」
先ほどまで静かだった魔信が、急にうるさくなる。
その苛立ちを持って叫ぶ、その人物が分かるとシラネーヨとハインはお互いに顔を見合せ、さらに皺を深くした。
126
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:57:32 ID:Z3EUAgNQ0
『おいっ!!どうした!?返事は!?』
从 ゚∀从「......はいプギャー閣下、申し訳ございません。現在立て混んでおり、反応に遅れました」
( ´ー`)「ご用件は何でしょうか」
『何でしょうか、だと!?ふざけてるのか貴様ら!どこまで無能なんだ!!』
( ´ー`)「申し訳ございません、閣下」
『ふん......まあいい。それで?制圧はいつになる?』
从 ゚∀从「現在、補給が手間取っております。艦数が多くまだしばらくかかるかと」
『バカな!一体どれだけの時間を掛ければ気がすむんだ貴様らは!』
( ´ー`)「まだ一週間はかかるかと」
『......』
沈黙。
だが言葉は無くても遠くで話すその人物が怒りに溢れていることが伝わってくる。
だが、そんなものに臆して無能の言うことを聞くなんてことをハインはしない。
なにも気づかないかのように、話を続ける。
127
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:58:02 ID:Z3EUAgNQ0
从 ゚∀从「それに閣下もお聞きかと思いますがムーでの出来事が気になります。このまま進めば我々も相応の被害を受ける可能性が」
『それがどうした?』
从 ゚∀从「は?」
『それがどうしたというんだ!!勝てば良いだろう!!それがお前らの仕事だろうが!!最新鋭の艦まで渡したんだ!!どうにかしろ!!』
从 ゚∀从「......微力ながら尽力いたします」
『そんな言葉はどうでもいい。結果を出せ!いいなっ!?』
こちらの返事を待たず、魔信が切られる。
それと同時に大きなため息が出る。
なんでプギャーのような男が自分たちのトップなのか。
( ´ー`)「改めて、やべぇな」
从 ゚∀从「あぁ......」
ただでさえ、未知の敵という不安な要素があるというのにそれ以上の不安が身内にあるのだ。
そんな状況に、二人の顔がしばらく晴れることはなかった。
128
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:58:25 ID:Z3EUAgNQ0
続く
129
:
修正
:2023/04/29(土) 11:00:11 ID:Z3EUAgNQ0
>>124
从 ゚∀从「とりあえず、だ」
( ´ー`)「うん?」
从 ゚∀从「本国に連絡しよう。召喚地への旅行は一旦保留ってな」
( ´ー`)「正気か?」
从 ゚∀从「勿論。むしろこの状況で進軍するとか正気の沙汰じゃねーぞ」
( ´ー`)「その正気じゃないやつが、俺たちのトップなんだぞ?」
もしこの発言が他人に聞かれていたら即刻、処罰されるであろう発言である。
だがこれもまた、事実なのだ。
その事を思い出したからか、ハインは再び眉間に皺を寄せる。
( ´ー`)「先遣隊が消滅、そしてムーすら攻撃を受けたとの報告。だというのにさっさとしろとの命令が届いてるぞ」
从; ゚∀从「マジかよ......俺たち揚陸艦がメインだぞ?もともと海岸沿いと制海権を抑えていることを前提とした作戦だったし。なのに艦隊を消滅させたやつがいるかもしれねぇ海域に向かうって......どうしろってんだ?」
( ´ー`)「艦種なんて知らねーんだろ。艦数が多いから何とかなると思ったんじゃねーの?」
从; -∀从Гねぇよ......と言いきれねぇな」
( ´ー`)「まぁ揚陸艦なら魔壁を強めに張れるし......切り込みとかで何とかするしかねーな」
从; ゚∀从「おいおい」
130
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 11:20:28 ID:KmHknZic0
乙
131
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 12:58:45 ID:gMdTjAqc0
乙
現場を理解しようとしない無能が上に立つと苦労するよね…
132
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:31:43 ID:lPdbZp660
ムー国 基地跡
1463年7月13日
凄まじい爆発の跡。
元々基地があった場所にはもはや、瓦礫以外なにも残っていないと言ってもいい状態であった。
ムーを支配し、また守るために作られた大規模基地。
この国の守る全ての力を集結した、力の結晶であったはずであった。
だが、それはすべて破壊された。
一日前まで多くの人が働いていたとは到底思えない、まさに地獄である。
そんな瓦礫の中、ガラリと何かが動く影が一つ。
(; ゚д゚ )「ぐ......ぅ」
傷だらけになった一人の男、監視塔にいたミルナであった。
133
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:32:36 ID:lPdbZp660
出血によりふらつく頭を抑えながら辺りを見渡し、改めて状況を把握する。
(; ゚д゚ )「酷すぎる......」
敵の攻撃を事前に察知できていたはずであった。
なのにこの被害。
もはやなにも抵抗できずに一方的にやられたといって間違いないだろう。
なぜ、これほどまでにやられたのか。
攻撃の詳細を思い出そうにもなにも思い出せない。
最初の爆発で頭を打ち、気絶していたようである。
なにも思い出せず、また理解できない現実にただ呆然としていると、彼の耳がある音を捉えた。
バタバタという、不思議な音。
その音はどんどんと近付いてきており、気がつけば不快なまでに大きな音となる。
134
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:33:20 ID:lPdbZp660
(; ゚д゚ )「なに......が......ぁ?」
その音の正体。
確かに見た。
だがそれが、なんなのか、分からない。
それは、空飛ぶ箱であった。
箱の上には何かが高速で回っているのだろう、残像で円形に見える何かが付いている。
そんな、謎の物体がふわりと、基地の上空を監視するように飛び交っていた。
(; ゚д゚ )「......敵、なのか?」
ワイバーンより少し遅い程度で飛ぶそれ。
やつが、こんな惨状を産み出したのか?
なにも思い出せない彼にはそんな恐怖と共にただそれを眺める。
そう、ただなにも出来ずにぼんやりと眺めていると地上に動く影が見えた。
(; ゚д゚ )「っ!!」
―生き残り!
思わず声を出し、呼び掛けようとしたそのとき。
その影は基地に残されていたのであろう魔道具を用いて、光る電撃の槍を空に放つ。
135
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:34:17 ID:lPdbZp660
だが、たった一人で放つそれは弱々しく、また速度のある飛行物体には当たらない。
そして。
ババババッ!!
お返しとばかりに、轟音と共にそれは降り注ぐ。
光の雨のようだと、ミルナは感じた。
そしてそれは、地上に降り注ぐと大地を削り、肉を細切れにする。
(; ゚д゚ )「......」
見たことのない魔法であった。
一体、どれほど高名な魔術師であればあれほどの魔法を放てるのだろうか。
少なくともミルナと、あれを比べるとするならばドラゴンに蟻が挑むようなものだ。
とても、勝てる相手ではない。
気がつくと股の部分が温かいもので湿っていることに気がつく。
だが、そんなものを気にする余裕はない。
恐怖のあまり、ただ空中に浮かぶ死神を眺めることしか出来ない。
136
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:35:14 ID:lPdbZp660
遠くでまた、爆発音や光の雨が降り注ぐ音がする。
その音に生き残りがまた一人、また一人と消えていくのだ。
もう逃げるしかない。
(; ゚д゚ )「っ!?......ぁ?」
そう、思ったときに初めて気がつく。
足が瓦礫に埋もれ、動くことが出来ない。
抵抗にしようにも魔法陣も魔石もないこの状況では、文字通り手も足も出ない。
つまり、このままだと、次は―――
(; д )「......嫌だ!イヤだぁ!!」
口から泡を吹き、狂ったように叫ぶ。
耳にはバタバタと、うるさい死神の羽音が鳴り響く。
塞いでも、聞こえてくる。
まるで付きまとう死神の足音のように。
どんどんと、どんどんと近づいてくるかのようだ。
(; д )「あぁぁあああああ!!」
その声は、爆音に掻き消され。
誰の耳にも届くことはなかった。
―そして、この爆音と共に。
ムー国統治軍はたったの一日で壊滅したのだった。
137
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:36:02 ID:lPdbZp660
ルナイファ帝国 南方港
1463年7月19日
(;´・ω・`)「ふぅ......」
ルナイファの南に位置するこの港では、多くのエルフや奴隷である人間が働いていた。
通常であればムーなどから入る物資を運ぶところであるが今は多くの軍艦が並び、そこに物資を運び、整備が進められていた。
学徒動員で連れてこられたショボンも魔石などの物資を運んだり、魔法の補助をしたりと夏真っ盛りの中、多く走り回り汗だくになっていた。
辺りを見渡すと屈強な軍人たちも多くの汗を流し、そして奴隷たちの多くは顔色が悪く、さらに何人もが倒れている。
(;´・ω・`)「うーん......」
今回初めての学徒動員であるショボンにはこれが普通の光景なのか、判断ができなかった。
だがもしこれが普通であり、今後も続くのだとすれば自分の選択したことに後悔しそうになる。
138
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:36:35 ID:lPdbZp660
(;´・ω・`)「......はぁ」
そして、同じく学徒動員に申し込んだツンを思い浮かべる。
彼女は一足先に、艦でこの国を離れていた。
なんでも、治癒魔法が使えることからその補佐役として向かうらしい。
初めは戦地近くまで向かうなんてついてないと考えていたが、今なら変わってほしいとすら思ってしまう。
それほどまでに、目を回しそうになるほど忙しい。
(;´・ω・`)「......ん?」
そうしてどうにか一段落、というか勝手に区切りをつけて休んでいると、港の端で軍人と、黒いローブのようなものを身につけた男がこそこそと話し合っているに気がつく。
どこかで見たことがある気もするその姿、だが誰なのか思い出せない。
はて、何をしているかと改めて見るとそこには海が広がって―――
「おい、そこ!休むな!」
(;´・ω・`)「ひぇぅ!は、はい!すみません!!」
急に遠くから、怒声が投げ掛けられ、思考が遮断される。
(;´・ω・`)(......うーん?)
何かが引っ掛かる。
だがそれがなにか。
ショボンにそれを考える余裕はなく。
この日はただひたすらに働き続けた。
139
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:38:07 ID:lPdbZp660
そんなショボンのすぐそばの物陰に、二人の人影があった。
( ФωФ)「案内を頼んで済まなかったであるな......それで、準備のほどは?」
黒いローブに身を包む男、ロマネスクは軍人たちを連れて港を見て回っていた。
この国、いやもしかすれば世界の中でもトップかもしれない魔術師。
そんな男の前に、本来ならば話す機会もなかったであろう兵士が緊張に上ずりながらも報告をする。
爪;'ー`)「は、はいぃ!!準備は順調でありまぁす!!」
(; ФωФ)「そ、そうであるか。まあそれならばいいのだが......そんなに緊張する必要はないぞ?」
爪;'ー`)「は、ハ、は......はぃぃいい!!」
ビシィッ、と効果音がしそうな敬礼を繰り返す彼に、思わず苦笑いを浮かべながらも改めて周囲を見る。
140
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:38:49 ID:lPdbZp660
急ピッチで進めた準備のおかげか、確かに報告通り順調なようであった。
辺りにはその準備のための人で溢れており、ものすごい活気である。
( ФωФ)「ふむ、まあこの程度の人数なら何とかなるか」
そんな人々を見てそうポツリと呟き、改めてフォックスへと向き直る。
( ФωФ)「フォックス君、よいかね?」
爪;'ー`)「な、なな、な......何なりとおぉォおお!!」
( ФωФ)「うむ、これから少し作業を行うのでな。一人にしてくれないかね?良いかな?」
爪;'ー`)「......は、はぁ......えっと、な、なぜ......」
( ФωФ)「詳しくは聞かん方が良い。まぁ......聞いてもよいが」
爪;'ー`)「よ、よいが......?」
( ФωФ)「記憶は消させてもらうことになるね。慣れんからどこまで消えるかは君次第だ」
爪;'ー`)「な、なにも聞きませぇん!!すぐに失礼いたしますぅ!!」
( ФωФ)「そうか、頼んだ」
141
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:41:11 ID:lPdbZp660
フォックスは慌てた様子ですぐさま踵を返し、走り去る。
そんな様子を眺めながら改めてやれやれとロマネスクは首をふり、息を吐く。
( ФωФ)「難儀なものだ。我が儘は通るがここまで萎縮されるとな......まあいいが」
辺りに誰もいないことを確認して、港の倉庫に仕舞われていた大がかりな魔方陣を起動し、山のように積み上げられた魔法石が空気に溶け、消えていく。
すると、光の線が宙を舞い、そして模様を描き出す。
複雑で細かに刻まれたそれは、強い光を産み出し、巨大な複数の艦が海に現れるたかと思うとすぐさま溶け消え、その先には『何もない海のみ』が見える。
だがその景色に誰も違和感を抱くことはない。
複雑に辺り一面に敷き詰められた魔方陣が、その違和感を覚えることすら許さない。
142
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:42:06 ID:lPdbZp660
(; ФωФ)「......ふぅ、さすがにこの量の艦隊を召喚し、隠すのは堪えるな。全く陛下も無茶なことを要求するである」
(; ФωФ)(しかし......陛下直轄の特殊艦隊を動かすことになるとは)
彼がここに来たのは皇帝からの極秘命令のためであった。
謎の勢力からの侵攻、それによる甚大な被害が発生したとの報告。
具体的な被害はまだ判明していないものの、これまで侵略する側であった彼らにとってそれはあまりに予想外な出来事であった。
多少の反抗ならまだしも、ここまでの大規模な攻撃を受けることを想定すらしたことがなかったのだ。
そこで急遽、対策として考えられたのが国で最強の艦隊である特殊艦隊を、最悪の場合に備えて国の南に配置することであった。
これまでの被害は油断していたこと、また最新鋭艦がいるものの蛮地制圧のための練度の低い艦隊や弱小の防衛力しかない属国かつ守りが甘いところへの不意打ちのようなものであった。
たまたま、こちらの弱点を突くような形になったというのが敗因である、そう結論付けられていたのだ。
143
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:43:17 ID:lPdbZp660
しかし、これ以上の被害は到底容認できるものではない。
油断で許される段階を越えていたのだ。
そのためあり得ないことではあるが、万が一のために本土への侵攻を何が起こったとしても防げるよう、過剰とも言える今回の策が実行されたのである。
今回ここに配置された特殊艦隊、これはこの国でも機密とされている。
今後戦うことになるであろうソーサク。
情報収集を得意とする相手に、手の内を全て把握された状態で戦うことは避けたい。
そんな考えから存在自体が知られないよう、停泊中は姿が見えないよう偽装魔法を使い、配置転換については移動してる最中に見つからないよう召喚魔法が使われいる。
最も、何処かの馬鹿がその考えを理解せずに行動をしたせいで最新鋭艦を他国に見せつけ、かつ沈めるという失態を犯してしまったわけだが。
余談はさておき、今回も例に漏れず、ロマネスクがその任務を任されていたのだ。
( ФωФ)「何事もなければよいが」
次に戦いに出るのは、この国の主力。
それも、動員される数からこの世界で防ぐことの出来る国など存在しないはずである。
つまり普通に考えれば、すぐにも敵を葬りされる。
144
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:44:28 ID:lPdbZp660
だが、思い出されるムーの様子を写した念写が警告を鳴らす。
あの破壊の痕跡、まるで自分のような魔術師が数えきれないほど襲いかかってきたのではないかとすら思える被害であった。
さらには、自分の後を継ぐはずであった優秀な魔術師であるギコも、この戦いにより消息を絶っている。
明らかに異様なこの状況、なのにこれを理解しているのは自分の他にどれだけこの国にいるのか。
( ФωФ)「陛下は動いてくださったが......末端は現状すら知らんのだろうな」
今回の被害については、全て現場の練度不足と油断として片付けられている。
また士気に関わるとしてこの情報自体が規制され、国のトップ以外は誰も知らないのである。
それが何を引き起こすか、それはまだ分からない。
だが、なんとも言えない不安が心の奥底に生まれ、かき消すことができない。
( ФωФ)「杞憂......であればいいんだが」
そう小さく呟き、仕事を終えた男もまた、魔法に包まれ、姿を消す。
そこに残されたのはいつもの港の風景のみであった。
145
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:45:29 ID:lPdbZp660
ムー国 牢獄
1463年7月21日
一体、どこで何を間違えたのか。
もし悪夢ならばすぐに覚めてほしい。
あの日、爆音と共に目を覚ましたあの日から悪夢が終わらない。
あの悪魔どもは最初、空からやって来た。
黒い雨を国に降らし、爆発と破壊の限りを尽くした。
そしてそれが終われば次は海からであった。
見たことがないほどの巨大な艦が近づいてきたかと思えば、その艦についた奇妙な筒のようなものが、猛烈な爆音を国中に鳴り響かせ、その数だけ破滅をもたらしたのだ。
いつしか抵抗できる力も、気力も尽きたそのとき、やつらはこの国へと足を踏み入れた。
薄汚れたような可笑しな服を着たそいつらが、初めはなんなのかは分からなかった。
どこの列強のものか、または夢物語に聞く悪魔や怪物か。
146
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:46:23 ID:lPdbZp660
分からないまま、ただ捕まっては殺されると逃げ回っていた。
だが、いつしか空を轟音と共に飛ぶ奇妙な箱に見つかり、そこから降りてきた者たちに捉えられた。
そこで、初めて知ったのだ。
その奇妙な箱についた紋様。
そして、奇妙な服を纏うその兵士たち。
それが人間であり、それも我らが呼び出した者たちだということを。
( "ゞ)「......」
そして気がつけば、デルタは牢獄に放り込まれていた。
ここは反抗的な人間を叩き込む場所であったはず。
それがエルフであるはずの自分が人間により放り込まれるなど何という皮肉か。
それも、自分たちが奴隷にするために呼び出した存在に、だ。
147
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:46:58 ID:lPdbZp660
( "ゞ)「......はは」
気が狂い始めたのか、現実を受け入れられないせいかは分からないが、デルタは笑った。
何もかもが、可笑しすぎる。
何をどうすればこんな未来を予測できうるか。
どれだけ考えても浮かぶことはないだろう。
今ですら信じられないものをどう予測しろというのか。
いや、そもそも。
神はなぜ、このような事を許すのか。
我々は、神にこの地を統べよと託されたはずではないのか。
( "ゞ)「......ははは」
また、可笑しくなり、笑う。
自分が狂っているのではない。
世界が狂っているのだ。
それを笑わずして、何を笑うのか。
148
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:48:36 ID:lPdbZp660
そして、何よりおかしいのは人間たちであった。
彼らは翻訳魔法がないために言葉は通じないものの、拷問をしないどころか食事などを提供してくるのだ。
敵を捕らえ、なにもせず放置するならまだしもここまで手厚くするのは一体なぜなのか。
それも国の重要人物である人間だけでなく、降伏した一般の兵士たちも同様であった。
今さらエルフに歯向かう愚かさに気がついたのかとも思ったがそれならばなぜ捕らえられたままなのか。
( "ゞ)「......」
ひたすらに、不気味である。
別の生き物であることは理解していたつもりであった。
それでも、考えが分からないというのはここまで恐怖を産み出すのか。
それも、自分の命を握っているとなるとなおさらである。
鉄格子の外、そこにいる異界の者たち。
薄暗い牢獄では彼らの顔を見ることは叶わない。
それがさらに薄気味悪さを増幅させる。
果たして自分は生きてここから出ることができるのだろうか?
そんな思いと共に、デルタは目を閉じ、眠りについた。
149
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:48:59 ID:lPdbZp660
続く
150
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 15:29:05 ID:QUAohh2Q0
めちゃくちゃすげー!しえん
151
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 16:33:21 ID:YX4Th3nk0
オツ
152
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 23:47:19 ID:1RK2HBIU0
ギコ生㌔
153
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:26:37 ID:aqAXcc1k0
トウキュ王国
1463年7月24日
从 ゚∀从「うーむ......」
( ´ー`)「どうした?」
从 ゚∀从「いや、本当に出撃がなくなるとはな。予想外だ」
つい一週間ほど前、あれだけ出撃させようとしていたのに、それが一転、待機するよう命令が出されたのだ。
突然の方向転換、猪突猛進のあのトップがこのような判断をするとは普通では考えられないことである。
( ´ー`)「まぁ......それほどムーでのことがヤバかったということだろ?」
从 ゚∀从「......やっぱりそういうことだよな?」
( ´ー`)「それしかないだろ。戦況に関する情報も回ってこなくなったとなると......まぁやべぇことが起こって隠蔽ってところかね。噂では本国が大慌てみたいだしな」
154
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:29:49 ID:aqAXcc1k0
从 ゚∀从「そうか。そうなると......ここも危ないかもな」
( ´ー`)「かも、というより確実にやべぇだろ。本国に攻め込むなら距離と物資的にもここを潰さない理由がない」
从 ゚∀从「あぁ、物資......確かにそうか」
ルナイファ帝国は大国。
それは支配する面積的にもそうであるし、そこに住む数も他国を圧倒している。
つまり、それだけの物資が必要なのだ。
他国から様々な物資を運ぶ船、その中継地点であるこの場所が取られれば、安全な航路が確保できず、実質南方の交易がなくなることに等しい。
ただでさえムーという農産物と鉱物の生産拠点が潰されているのだ。
それに加えて他国からの物資も減ってしまえばどのような恐ろしいことになるか。
考えるまでもなく、その未来は暗いものであろう。
155
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:30:59 ID:aqAXcc1k0
从 ゚∀从「とはいえ......ここにいるトウキュの軍で足りると思うか?質が悪いとはいえムーが連絡できなくなるほど被害を受けたんだろ?援軍が来るまで耐えられるのか?」
( ´ー`)「俺たちがいるだろ」
从 ゚∀从「なんだ?すでに陸にいる揚陸部隊がどうしろって?切り込みでもやれってか?」
( ´ー`)「分かってるじゃねーか」
よほどその冗談が気に入っていたのか、いつしかと同じようなことをいい、シラネーヨはクツクツと笑う。
そんな様子に呆れつつも、ハインは今後のことを考え、話を続ける。
从 ゚∀从「こうなると、無理にでも出港した方が良かったかもしれないな。召喚地にたどり着いてりゃ安全だったわけだし......このままだと周辺が戦闘海域になって身動きが取れなくなって巻き込まれるぞ」
( ´ー`)「......いやもう手遅れじゃねーか?南はもちろん敵だし、北にいるお偉いさんはある意味、より厄介な敵だぞ?」
从; -∀从「おまっ、いつかしょっぴかれても知らんぞ」
156
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:32:02 ID:aqAXcc1k0
( ´ー`)「どうせ誰も聞いてねーし、事実だろ。なにもせず帰ってみろ。それこそ比喩じゃなく首が飛びかねない」
从; ゚∀从「......」
( ´ー`)「ま、そういうわけだ。少なくとも戦況が変わらない限りは俺たちは動けんよこれ。幸い、無茶な出兵はしなくてよくなったんだ。言葉に甘えてここに留まるしかないだろ」
从 ゚∀从「はぁ......だな」
未だに先が見えない。
そして身動きを取ろうにも取れないこのもどかしさ。
从 ゚∀从「一体どうなることやら」
( ´ー`)「さぁな......とりあえず、あれだ」
从 ゚∀从「ん?」
( ´ー`)「ヤバいと言うことくらいしか分からん」
从 ゚∀从「だよな......はぁ」
彼らのため息が尽きることは、暫く無さそうである。
157
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:32:31 ID:aqAXcc1k0
ソーサク連邦 情報戦略室
1463年7月25日
(;'A`)「......」
数日前にムーの念写を行うよう上申してから約二週間。
無事に念写は実行され、ムーの様子を押さえることに成功した。
ここまでは良かった。
だが。
(; ´∀`)「いくらなんでも酷すぎるぞこれは」
思わずモナーの口から言葉に、ドクオも同じ思いを抱かずにはいられなかった。
基地のあったはずの座標を写した念写には、もはやそこに何があったか分からないほどの残骸と破壊痕しか残されていない。
攻撃を受けていたと予測はしていたがこれほどまでとは誰もが予想し得なかった。
というよりも自分たちの知る戦争からかけ離れた被害であった。
これがごく短時間で起こったとはどうにも信じがたい。
158
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:33:16 ID:aqAXcc1k0
(; ´∀`)「......海上なら艦で大規模な魔方陣や魔道具を移動させることも可能だろうがこれほどとなると難しいはず。さらに陸上でこれほどの威力を出すためには......一体なにをすれば」
('A`)「大量の魔術師による連続的な攻撃か......もしくは歴史に名を残すほどの魔術師であればある程度の魔方陣でも可能、でしょうか?」
(; ´∀`)「うむぅ、微妙だな......あとは艦から異様に射程が長ければといったところか?だがそんな魔法......」
('A`)「......モナーさんでも、これほどは不可能ですか?」
( ´∀`)「......不可能、とは言わんがやるには相当な下準備が必要だな。あと一人では不可能だ。少なくとも数人は必要だろう」
('A`)「......」
この国でもトップクラスの魔術師ですら困難と言うほどの被害。
そんな中、死ぬかもしれないと伝えてきた彼女は、無事なのか。
頭に次々と嫌な想像が浮かんで来て、ドクオは思わず顔が暗くなる。
159
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:33:54 ID:aqAXcc1k0
('A`)「......ムーへ、行くことは出来ないのでしょうか」
( ´∀`)「行って、どうする気だ?はっきり言わせてもらうが今、君一人行ったところで、なにもできることはない」
('A`)「......分かってます、けど」
(; ´∀`)「気持ちは分かるがね......そもそも、転移魔法を使おうにもあちら側の魔方陣が壊れてしまった以上、行けるとしたら海路だ。どうやったって一月近くかかるぞ」
('A`)「つまり......なにもできることはない、ということですか?」
( ´∀`)「そうは言っていない。君はこの情報室の職員だ。とにかく、調べたまえ。そうすればおのずと、やるべきことが分かるはずだ」
('A`)「......」
160
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:35:42 ID:aqAXcc1k0
結局、どうすることもできないということではないか―
そんな思いが沸き上がるのと同時に、一つの音が室内に響く。
『......えるか?』
('A`)「え?」
二人しかいないはずの室内。
そこに、いるはずのない人物の声が聞こえた。
それは、女性の声。
そして、聞き覚えのある声である。
『聞こ......か?』
(; ´∀`)「......く、クー君か!?」
モナーもその声に気がつき、またその声の主に驚愕する。
魔法の調子が悪いのか、ノイズが混じり声が非常に聞き取りにくいが、間違えるはずがない。
その声はまさに今、話をしていた女性、クーのものであったのだ。
161
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:36:42 ID:aqAXcc1k0
(;'A`)「も、モナーさん!こ、これ......どうにかもう少し聞きやすくは」
(; ´∀`)「向こうの環境の問題だから難しいが......どうにかして、魔法陣を安定化させてみよう」
魔石を片手で覆い、モナーが魔力を籠める。
そして空いたもう片方の手で、空中を指でなぞるように模様を描き、魔法陣を作り出す。
即席で作られたそれは、何もなかった空中に、淡い光を作り出し、通信魔石と光の線を繋げる。
『この声......ドクオ?それに、モナーさん、か?』
(;'A`)「クー!やっぱり、クーなんだな!?」
(; ´∀`)「よ、よし......何とか安定したか」
『あぁ......良かった。有り合わせのものでの通信で繋がるか心配だったが、モナーさんがいてくれて良かった。これでようやく話せます』
その線が繋がると同時に、魔信から聞こえる声がはっきりと聞こえるようになる。
急にこんな芸当が出来る者は、この世界広しといえどもそうそういない。
そんな幸運に恵まれた魔信の先の声の主、クーの安堵したような声が伝わってくる。
162
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:37:25 ID:aqAXcc1k0
(; ´∀`)「そういってもらえるとありがたいが長くは持たんぞ。かなり無理やり繋いでいる状態だからな」
『なるほど、分かりました。では手短に』
('A`)「それでクー!今お前はどうしてるんだ!?」
『それは......ムーで、保護されているよ』
( ´∀`)「保護?それは、ルナイファにということか?」
『いえ。ムーに攻め込んできた軍勢に、です』
(;'A`)「それは......だ、大丈夫なのか?」
『あぁ。怪我をしていたが治療......もしてくれている。今のところ、問題はなさそうだ』
('A`)「そうか......」
とりあえずは一安心だと、ほっと息をつく。
だが、これで全て解決したわけではない。
むしろ、新たな疑問が生まれていた。
( ´∀`)「ふむ、保護......ということはその勢力と接触しているわけだな?」
『はい、実際に会話もしています』
( ´∀`)「なるほど。では、教えてくれ。そいつらは、一体何者なんだ?」
『......』
163
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:38:21 ID:aqAXcc1k0
ごく短期間に国を攻め滅ぼすほどの力を持つ勢力。
だというのに、その動きも正体も悟らせない謎に満ちた存在。
それは、一体何なのか。
緊張の面持ちで、モナーは魔信に問いかける。
( ´∀`)「何処の国の者なんだ?ニータか?ヴィップか?はたまたルナイファの内乱なのか?」
『いえ、そのどの国でもありません』
( ´∀`)「なに?では一体どこが?」
『......そもそも、エルフではありません』
('A`)「ん?どういうことだ?」
『そのままの意味、だ。エルフじゃないんだ、彼らは』
('A`)「......はぁ?じゃあなんだ?悪魔か、はたまた神様の仕業だとでも言うのか?」
確かに悪魔か神様かの所業に感じるほどの被害ではあったがまさかそんなことはないだろう。
よく分からない回答にドクオは思わず首をかしげる。
164
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:38:47 ID:aqAXcc1k0
だがクーから得られた回答に、さらにドクオたちは困惑することとなった。
『人間、です』
( ´∀`)「......は?」
『ですから、人間なんです。彼らは』
(;'A`)「人間、て、はぁ?」
『ムーを滅ぼしたのも、私を保護しているのも、人間です』
(; ´∀`)「え、と、これは、何の冗談だ?」
『冗談ではありません。本当のことなんです』
『彼らは、ルナイファが新たに召喚した、人間たちなんです』
(;'A`)「......はぁぁあ??」
脳が、理解を拒んだ。
165
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:40:27 ID:aqAXcc1k0
ムー国 仮設治療施設
信じられない事態が続いていた。
通信を終えた魔信を傍らに置き、自身に起きたことを思い返す。
あの攻撃を生き延びた後。
彼女、クーは攻め込んできた勢力に保護されたらしい。
らしい、というのは逃げ回っている内に気絶をしていたようで、気がついたときにはここ、仮設された治療施設にて治療を受けていた。
人間による治療、ということで魔法による治療はなく、よく分からない針やらを打ち込まれ、傷を縫うという非常に野蛮なものであった。
だがそれでも体の調子が回復していることから、それなりに効果のあるもの、なのだろう。
というよりもそうであると思い込もうとしていた。
そうでなくては、もう慣れてしまった今では問題ないが、少し前までならただでさえ人間に体を自由に弄られているという摩訶不思議な現実に耐えられそうになかった。
166
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:42:48 ID:aqAXcc1k0
川 ゚ -゚)「......」
ただ、目が覚めてから数日。
人間たちを見ていて気づいたことがある。
それは少なくともクーの知る、いや世界の常識たる人間のイメージと、ここにいる人間はかけ離れた存在であるということであった。
人間とは粗雑で常識がなく、野蛮。
魔法が使えず、そもそも魔法というものを理解すらできない愚か者。
それが、人間であるはずだった。
だがここにいる人間たちはどうか。
クーを初めとして複数のエルフに―信じられない方法ではあるものの―治療を行い、また暴力やレイプといった戦地で当たり前にあるものが、彼女が認識できる範囲では明らかに少なく、さらには拷問をするわけでもなく、敵を保護する。
野蛮とはまるで異なるように感じられる。
その姿勢はこの世界の常識に当てはめるならば緩いといわざる負えない。
その事を人間達に聞き、要約すれば『恨みはあるができる限り早く、戦いを辞めたいため。また虐殺等はなるべくしたくない』とのことであった。
167
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:44:11 ID:aqAXcc1k0
よくは分からないがつまりは人質を取り、有利に話を進める為の材料にしよう、と言うことであろうとクーは納得した。
上手く行くかは別として、この話を聞いたときはなるほど、そういう考え方もあるのかと感心したものである。
召喚という前代未聞の災害にあっておきながらこのようなある意味、敵側を気に掛けるような作戦に出るとは何とも不思議な国である、がその一方でなるべく被害を少なくしようという、野蛮とは真逆のなんとも理性的だという事実に驚愕に近い感情が生まれていた。
( °д゚ )「あぅぅ......ぁ......」
彼らが野蛮ではない証拠に、兵士の生き残りであろう、どこか目の焦点の合わない、虚ろな目をした男が保護されている。
明らかにおかしいその兵士すら、彼らはしっかりと保護しているのだ。
話を聞くと、『しぇるしょっく』というもので、人間達が持つ武器で引き起こされたらしい。
川 ゚ -゚)(よく分からないが恐らくは洗脳魔法に近いものだろう。しかし、強力な威力の武器だけでなく、あのような精神汚染を起こせるとは。精神防護魔法でどうにかなるのだろうか......)
情報を集めれば集めるほど、人間達のことが分からなくなってくる。
知っていた人間と、違いすぎるのだ。
168
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:45:33 ID:aqAXcc1k0
そしてなにより。
川 ゚ -゚)「......あれが、『くるま』」
施設の外に見える、動く箱。
多くの物や人を載せて、ゴーレムとは比較にならないほど高速で動くことのできるという、化け物である。
これを初めて見たときは我々が発見したことのない遺物を彼らが見つけ、それにより身を過ぎる力を人間が手にしたのかと考えた。
しかし翻訳魔法を使い話を聞いてみるとこれらは人間が作った、魔法を使っていない道具だという。
ではこれは、どんな無茶をして作り出した物なのかと思えば彼らの国では誰でも持てるような物だという―
川 ゚ -゚)「......あれが、『ひこうき』」
そして、その『くるま』なる動く箱よりも速く飛ぶ、『ひこうき』なる乗り物。
これもまた、人間達の手で作り出された道具だという。
この世ならざる速度で飛び回るそれは、この世界に捉えられるものはいないのではないか。
169
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:46:36 ID:aqAXcc1k0
ガラガラという音をたて、常識が崩壊していく。
だが、あまりに現実離れしたそれに逆に頭は冷静になっている。
川 ゚ -゚)「なんて......素晴らしい力なんだ」
そうして、彼女は魅了された。
その力。
何度も何度も、忘れようとしても脳内にこびりついたかのように思い返されるそれに、気がつけば完全に心が奪われていた。
目をつぶれば思い出す、あの圧倒的な破壊。
それをもたらすものに。
何としてでも、どんな手を使ってでも手に入れたいと。
だからこそ、伝えなくてはと彼女は慌てて本国へ連絡をしたのだが。
川 ゚ -゚)「やはり、伝わらなかったか」
魔信の向こうから伝わってくるのは困惑。
そして、気遣われるような声から恐らく気が狂ったとでも思われたのだろう。
あまりに予想通り過ぎる反応に思わずクーは笑ってしまう。
だが、笑って終わらせることもできない。
現実はここにあるのだ。
理解しなくては、この現実にいつ犯されてもおかしくはないのだ。
170
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:47:33 ID:aqAXcc1k0
川 ゚ -゚)「......まあ、そのうち分かるか」
この戦いが続けば嫌でも分かるだろう。
世界の常識が、世界の縮図が変わるということを。
恐らくは、ルナイファの敗北で―
川 ゚ -゚)「あぁ......そういえば」
そこでふと、彼女は思い出す。
翻訳魔法を使えるからと人間たちから頼まれた仕事があったのだ。
だからこそ、ここまで待遇も良かった、という面もあるのかもしれない。
川 ゚ -゚)「......うまくいくとは思えんけどな」
そう思いつつも保護をされ、さらには魔信が使えるよう配慮もしてもらっているのだ。
もう、侮りはないもののやはり心のどこかで人間に借りを作るのは癪であると感じてしまう。
だからこそ、借りを返すためにも頼まれた仕事はやろうと、彼女は再び魔信に向き合った。
171
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:47:56 ID:aqAXcc1k0
続く
172
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 17:09:55 ID:5.4Vo2eM0
乙
何だかんだ言って人間を御せると思ってるあたりクーはまだ人間を舐めてると思う
173
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 17:51:25 ID:H23.OGfE0
乙です
174
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 17:53:49 ID:YtdzC0fQ0
おつ!
175
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:44:31 ID:iPNrCCQg0
ルナイファ帝国 軍務省
1463年7月24日
(# ^Д^)「一体どういうことだこれはぁ!!」
ガンッ、と机の叩く音が響きわたる。
最近ではこの音が鳴り響くのはもはや日常茶飯事になりつつある。
彼が怒り狂うだけの理由は勿論ある。
始まりは先遣隊の全滅。
それだけですらとんでもない事態である。
だが本隊を召喚地へ送り込み、遅れを取り戻し全て丸く収まるはずであった。
そしてもう、そのようなことは起こらないはずであった。
だが、本隊が出撃する前にムーへの攻撃の報告が入る。
再びの謎の攻撃報告。
さらには敵を追い返すどころか、かなりの被害が出ているとの報告であった。
そしてそれを最後に、連絡は途切れる。
もはや失態どころの騒ぎではない。
ムーを守るどころか、状況すらまともに把握できなくなってしまったのだ。
176
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:45:21 ID:iPNrCCQg0
それと同時に彼の怒りはピークに達し、部屋中ありとあらゆるものに当たり続けた。
そんな彼を見つめる職員たちはどうにかこの嵐が過ぎ去るよう、祈ることしか出来なかった。
そんな日々が数日過ぎた今日。
ようやく待ちに待ったムーからの連絡が入る。
やっと敵を追い返し、連絡できるようになったのかと話をしてみるとその相手は自国の者ではなかった。
(# ^Д^)「......それで?やつらは、なんと?」
(;*゚ー゚)「は、はい......わ、我々に対して講和を求めると......またその条件として召喚したことに対する謝罪と賠償。また外交官を処刑したことに対する賠償と責任者、及び実行者の引き渡しを要求......」
(# ^Д^)「っざけるなぁ!!」
(;* ー )「ひっ!!」
177
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:46:06 ID:iPNrCCQg0
再び、木の机に拳が振り下ろされる。
怒号と共に凄まじい音が鳴り響き、周りの者たちを萎縮させる。
(# ^Д^)「なんだそれは!召喚された奴隷どもが我らに要求だと!?いや、そもそも、そもそもだ!!」
(# ^Д^)「なぜ、なぜ人間ごときに我々が敗れた!!」
(;*゚ー゚)「そ、それは......現在調査中、です」
(# ^Д^)「このっ、無能どもが!!何度俺を怒らせれば気が済むんだ!!くそっ!くそっ!」
(;*゚ー゚)「申し訳ありません......」
(# ^Д^)「それで?」
(;*゚ー゚)「は、はい?」
(# ^Д^)「他には何かあるのか?奴らからの要求とやらは」
(;*゚ー゚)「あ、そちらについては、その、どうやら話し合いの用意があるため、その、会談の機会を設けたいと」
(# ^Д^)「なめくさりやがって......人間ごときが我々と話し合いたいだと!?知能もないくせに我々の真似事のつもりか?くそっ!!」
178
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:48:51 ID:iPNrCCQg0
(;*゚ー゚)「それで今後のことですが......ていあ」
(# ^Д^)「聞くまでもないだろう!即刻拒否だ!!」
報告が途中で、ついに彼の我慢が限界を迎えたのだろう。
怒りのままにプギャーは吐き捨てる。
(;*゚ー゚)「え、あ、あの」
(# ^Д^)「聞こえなかったか!!ここまでこけにされた以上、生かしておけん!!奴らを殲滅する!!すぐに軍を動かせ!」
(;*゚ー゚)「お、お待ちください!!」
(# ^Д^)「......なんだ?」
(*゚ー゚)「提案があるのです。ここは、一旦返事を遅らせてはどうでしょうか」
( ^Д^)「なに?」
その言葉に、プギャーは片眉を上げる。
彼が不機嫌な時の癖の一つである。
だがそんな様子に気づかないのか、シィはそのまま話を続けた。
179
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:49:39 ID:iPNrCCQg0
(*゚ー゚)「現在、南方に艦隊を集めておりますがまだ準備が完了していません。わざわざ相手が待つと言っているのです。これを利用しない手はないでしょう」
(# ^Д^)「人間ごときにそこまでする必要があると?このルナイファが!?」
(;*゚ー゚)「いえ、人間だけであれば問題ないと思います......が」
( ^Д^)「が、なんだ?」
(*゚ー゚)「問題は今回送られてきた魔信の送り主です。使われている魔法の形式から恐らくはソーサク製のものが使われていました」
( ^Д^)「なんだと?」
(*゚ー゚)「そもそも、人間には使えないはずの魔信での連絡です。無理やり従わされている可能性がないわけではありませんが、少なくとも敵側にエルフがいるのは間違いありません」
( ^Д^)「っ!」
ソーサクが関与するかもしれないという話に、怒り狂っていたプギャーも思わず正気に戻る。
確かに可能性としては考えられたことではあったがそのような兆候はなく、杞憂であろうと考えていたからである。
180
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:50:56 ID:iPNrCCQg0
だが、その証拠となり得るものが見つかったとなれば、話は別である。
流石に無能と呼ばれる彼でもこの事の重大さは理解しており、話を続けるように促す。
(*゚ー゚)「また今回の被害なども考えると......やはりソーサクが裏にいると見るべきではないでしょうか?それならば色々と説明がつきます」
( ^Д^)「......確かにその可能性はあるとは考えられていたが、断定は出来ないだろう?」
(*゚ー゚)「はい。先ほどお話しした通り、被害の原因についてはまだ調査中のため確定ではありません。が、可能性がある以上、それを想定するべきかと」
( ^Д^)「ふん、それで?ソーサクが裏にいると仮定するとして、今後はどのように動く?」
(*゚ー゚)「はい、出来る限り返事を送らせるべきです。時間さえあればトウキュへの艦隊の派遣も行えます。これが完了すれば召喚地へ向かわせる予定であった揚陸部隊もありますため、ソーサク相手でもムー奪還をスムーズに行えるかと」
( ^Д^)「......」
いつも本能のままに意見する彼が珍しく口を手で覆い、静かに考える。
その結果、艦隊の派遣、物資の輸送などを考えるとこの手を使わない理由が見つからなかったのだろう、大袈裟に頷き、提案を受け入れる。
( ^Д^)「......ふん、まぁいいだろう。俺から陛下に話を通しておこう」
(*゚ー゚)「は、はい。ありがとうございます」
こうして突如始まった人間との戦争は一月も経たずに一時的に休戦となる。
だがそれは平和に繋がるものではなく。
再び地獄が訪れるまでの、短い休息であった。
181
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:52:27 ID:iPNrCCQg0
ルナイファ帝国 帝城
プギャーからの報告を受け、帝城ではアラマキとロマネスク、そしてこの国の海軍将であるデミタスが会話をしていた。
この世界の国々であるならば、彼らが望むだけで滅ぼすことが可能であるといっても過言ではない面子である。
そんな三人が、当面の敵になるであろう、召喚地に関してどうするべきかを決めていた。
/ ,' 3「ふむ、返事を引き延ばして準備をする、か」
( ФωФ)「あの男の提案にしてはまともなものかと」
(´・_ゝ・`)「大方、部下の提案だと思うがな」
( ФωФ)「あぁ......なるほど」
/ ,' 3「だがこれは良い案であるな。至急お前達も対応をしてくれ」
( ФωФ)「はっ、承知いたしました」
(´・_ゝ・`)「私もムー奪還に向けて艦隊の準備を進めております。どんな国が出てこようとも押し潰せることでしょう」
182
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:53:39 ID:iPNrCCQg0
/ ,' 3「ふむ、攻めるのはそれで良いとして防衛はどうだ?特殊艦隊は動かしたが......他は必要と思うか?」
( ФωФ)「それは......なんともですな。このあと、奴らがどう動くか」
/ ,' 3「ふむ。ソーサクも裏にいるかもしれないとの話もあるが?」
( ФωФ)「確かにそうですが、ソーサクからの諜報員からなにも情報が入ってこないのです」
(´・_ゝ・`)「......不気味だな」
今回の被害はあまりに大きすぎるため、軍だけでなくアラマキ自らロマネスク等に命じ、独自に調査を進めていた。
先のムーから寄せられた情報と状況から真っ先にソーサクが関与しているのではないかと現地の諜報員に探りを入れさせていたのだ。
183
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:54:51 ID:iPNrCCQg0
/ ,' 3「つまり、全く動きがないと?」
( ФωФ)「いえ、こちらを探るような動きは見られますが軍が動く気配はなかったと......彼の国からムーまでの距離を考えるとかなりの物資が必要なため動きが見られるはずだと考えますが」
/ ,' 3「それがないと言うわけだな。つまりソーサクは関与していないと?」
(´・_ゝ・`)「そうとは言い切れないかと、陛下。元々閉鎖的な国ですので完全には潜り込めない以上、どうしても見落とすこともあるでしょう」
( ФωФ)「そうであるな。さらに我々が関知できていない基地などから支援をしている可能性もあります。現時点で言えるのは少なくとも大規模な支援はない、ということかと」
/ ,' 3「ふむ。しかしソーサクとの戦争、まだ先になると予測していたがこんなにも早く現実になるとはな」
(´・_ゝ・`)「えぇ。まだ可能性の段階ですが判明してからでは遅すぎます。今から準備を進めるべきかと」
/ ,' 3「分かった。では各ギルドへの戦争物資増産に関する勅命を出そう。減った艦も作らせるとしよう」
( ФωФ)「しかし......ムーを盗られたのが痛いですな。資源について何とか北部から南部に運ばせていますがやはり限界があるかと」
184
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:55:51 ID:iPNrCCQg0
現在、ルナイファではムーから搾取していた物資が完全にストップし、また他国の貿易船も近くで戦闘があったからと数を減らしていた。
この影響で国内の物流が混乱しており、無理やり北部からのルートで物資を南部へ送ってはいるものの、広大すぎる支配地域が悪影響し、完全にカバーすることが出来ていない。
(´・_ゝ・`)「どうにか今回の敗戦は隠せていますが、そのせいでこれ以上物資の輸送が滞ると国民に不安が出てしまうかもしれませんな」
/ ,' 3「あぁ、それならばもう手をうってある」
( ФωФ)「そうなのですか?」
/ ,' 3「アリベシへの物資を減らし、こちらに回す。これで物資も輸送する手段も足りるだろう」
(´・_ゝ・`)「なるほど......アリベシからの反応はどうでしょうか?」
/ ,' 3「奴らが我々に意見する力など既にない。法書とやらも抑えておるからな」
その言葉にデミタスは目を見開く。
それが本当ならこの世界の大国の一つを、事実上支配しているといっても過言ではないのだ。
185
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:57:48 ID:iPNrCCQg0
(;´・_ゝ・`)「なんと......そうだったのですか」
( ФωФ)「では......当面は召喚地との戦いに専念できる、というわけですか」
/ ,' 3「そうなる......が」
( ФωФ)「?」
アラマキは話を一旦止め、空を仰ぐ。
そしてポツリと、呟くように思いを吐露する。
/ ,' 3「資源を増やし、より確実に他国を潰せるだけの力を手にいれるはずが、こんなことになるとはな......」
(´・_ゝ・`)「......」
( ФωФ)「......」
沈黙。
だが、皆が同じ思いであった。
すぐにでも、片手間で終わるはずであった戦いが気がつけば国を挙げての戦時体制への移行を余儀なくされている。
世界を征服するべく進んで行けば、いずれはその時が来るだろうと覚悟はしていたが、まさかこんなに早く来るとは誰もが考えていなかった。
/ ,' 3「......だが、たかが人間ごときにここまでやられて引き下がる訳にはいかん。調子に乗った奴らに現実というものを教えてやれ。徹底的にだ。いいな?」
(´・_ゝ・`)「はっ」
( ФωФ)「了解いたしました、陛下」
思い描いていた輝かしい未来はとうに消え、先の見えない未来へ彼らは歩みを進める。
その先に待ち受けるものが何なのかはまだ誰も分からなかった。
186
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:58:37 ID:iPNrCCQg0
トウキュ王国
1463年8月18日
从 ゚∀从「ふむ......」
この日、ハインはルナイファから魔信により送られてきた指令書を眺めていた。
そこに書かれていたのは援軍が送られてくるということ。
そして。
从 ゚∀从「援軍と共にムーの奪還、か......本当にムーが奪われていたとはな」
予測はしていたものの、やはり衝撃はある。
敵がいないと思っていた南方で、ここまで短期間に攻め落とされると誰が予測できるか。
从 ゚∀从「しっかし、事態が事態とはいえ......もっと早く伝えてほしいものだなこりゃ」
( ´ー`)「まぁ、まともな情報と指令が来ただけ、良しとしよう。これなら切り込みでの無駄死にをしなくて良さそうだ」
从 ゚∀从「まぁな。それに見ろよこの編成情報。送られてくる戦闘艦だけで400を超えるぞ」
( ´ー`)「さらに属国軍まで出てくるのか。俺たちも加わること考えるととんでもない規模だなこりゃ。しかしトウキュの物資、足りるのか?」
从 ゚∀从「何とかってところだな。余裕があるわけでもない」
( ´ー`)「うーむ、心もとないな。攻めきれないと物資が尽きてどうしようもないわけか」
187
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 11:00:35 ID:iPNrCCQg0
从 ゚∀从「学徒動員で来てる奴らもいるから人員は余裕があるんだがな。むしろ......そのせいで食料がってのもある」
ようやく本国が敵に対し、対策を進め始めていたが、現場ではなかなか問題が尽きない。
この小さな島国トウキュは資源供給元を絶たれた影響で多くの兵士を支える物資が問題となっていた。
どうにか備蓄の徴発により支えられてはいるがこのままでは民からの不満が爆発しかねない。
しかし本国にいくら物資があろうとも、輸送には時間とコストがかかる。
すぐに解決することは難しいだろう。
从 ゚∀从「まぁ......出来ることはないか?」
( ´ー`)「いや、あるぞ」
从 ゚∀从「あん?」
( ´ー`)「ほれ、これを持て」
从 ゚∀从「......なんだこれ、棒?ってこれ」
188
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 11:01:30 ID:iPNrCCQg0
( ´ー`)「食料を取りに海行くぞ、海」
从; ゚∀从「......あ?まさか魚取りに行くのか?」
( ´ー`)「人員と時間は大量にあるんだ。有効活用しないとな」
从; -∀从「あー、そうだな。ったく」
他にやることもない。
だが待つだけでも腹は減るのだ。
从 ゚∀从「何が釣れるかねぇ......」
なぜ戦いに来たはずが、釣りをすることになったのやら。
ここに来てから何度目か分からないため息をつきつつ、ハインはシラネーヨの後ろを歩き、海へ向かっていった。
そんなハイン達の後ろ姿を一人の少女が眺めていた。
ξ゚⊿゚)ξ「あら?あれって......兵隊さん?」
海へ向かう兵の姿をよく見ると、どうやら魚を取りに行くようである。
なにやら出撃が取り止めになったという話を聞いていたが、海に遊びに行くほど暇なのだろうか。
189
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 11:02:04 ID:iPNrCCQg0
ξ゚⊿゚)ξ「はぁ、いいわね。こっちはまだ仕事あるのに」
なんて能天気なのだろうか。
いくら相手が弱小の蛮族だからといってここまで緩いのか。
あまりに想像していた戦争と異なる現実に軽い衝撃を受ける。
ξ゚⊿゚)ξ「まぁ、いいんだけど」
だが、それだけ平和ということであり、それだけ安全なんだと自分を納得させ、仕事に戻る。
同じく学徒動員で集められた生徒達は皆、元気に明るく働いている。
改めて、戦地とは思えない光景である。
ξ゚⊿゚)ξ「こんなものなのね。そりゃ、親も反対しないわね」
そんな様子に苦笑いしつつ、一人の友人を思い出す。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンも参加できれば良かったのに」
仕事は大変だが、それだけである。
決して無茶なことはやらされない。
そんなただのお手伝いのような感覚で参加するだけで将来が有利になるのだ。
これに参加しない理由などないだろう。
ただ一つ、問題があるとすれば。
ξ゚⊿゚)ξ「一体いつになったら終わるのかしら」
この戦争が終わるのがいつになるのか、誰も分からないということだろう。
190
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 11:02:27 ID:iPNrCCQg0
続く
191
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 15:04:04 ID:gdNx0GnM0
乙
192
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 16:55:30 ID:BMhBh5DQ0
乙
まだ余裕で人間を叩きのめせるって考えてるのは現実を見ていないのか、ただの楽観主義か
193
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 12:58:39 ID:VpsdaqYg0
ニータ王国 王城
1463年8月24 日
( ´W`)「ルナイファで妙な動き?」
(‘_L’)「はい、そのようです」
この日、ニータ王城ではルナイファに潜入している諜報員からの報告が届けられていた。
ニータ王国にとってルナイファの動きはこの国の未来に直結していると言ってもいいだろう。
( ´W`)「それで?その動きというのは?」
(‘_L’)「は、どうやら彼の国の艦隊が大規模な軍事行動を取っているようです」
( ´W`)「ふむ?それは......召喚地制圧のためか?」
(‘_L’)「恐らくは。ただ問題なのがその規模です」
( ´W`)「ほう?」
(‘_L’)「報告によると、所有する艦数の約3分の1が使用されるのではないかとのことです」
( ´W`)「なに?それは......いくらなんでも過剰ではないか?」
(‘_L’)「はい、その通りなのです。国防には十分な艦数が残っているとはいえ、召喚地を相手にするには多すぎると思われます」
194
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 12:59:26 ID:VpsdaqYg0
( ´W`)「理由については......分かっていないのか?」
(‘_L’)「残念ながら......」
しかし力を入れて情報収集を行ってはいるのだが、その成果はあまり芳しくないものであった。
特に魔法により防護されている機密情報などは、技術力に差があるため全くといっていいほど手に入れられない。
手に入るのは目で直接見える範囲だけであり、これでようやくつかめたのが様々な基地から艦が動き、大規模な艦隊が動くであろうと言うことだけであった。
( ´W`)「うーむ......そうか」
(‘_L’)「現在、可能性として高いのがルナイファの予想していた規模より大きな召喚地であったということではないか、との報告です」
( ´W`)「なるほど。確かにそれならば筋は通る、のか?」
(‘_L’)「微妙なところかと思われます。規模としてはソーサクを侵略出来るほどと思われますから......」
(; ´W`)「......過剰過ぎる、というよりも本気過ぎないか?」
(‘_L’)「えぇ、そうなのです。ですので精査は必要かと。ただ仮定が事実な場合、ルナイファはとんでもなく大きく成長することとなってしまいます」
195
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:00:43 ID:VpsdaqYg0
( ´W`)「うーむ......とはいえ、それだけ広大な土地を制圧するためには多くの兵が必要だろう?どうにかその隙は突けないのか?」
(‘_L’)「不可能です。仮に彼の国の兵が半分以下になったとしても我が国単体では技術力の差で押しきれません」
(; ´W`)「そ、そこまでなのか......」
自国がルナイファと比べ劣っていることは分かっていた。
しかしここまではっきり言われ、改めて差を実感する。
そして、そのどうしようもない国力の差に頭痛が増してくる。
(; ´W`)「はぁ......どうにか寿命は伸びているが、もうどうしようもないなこれは」
(;‘_L’)「へ、陛下。そのようなことを仰らないでください」
(; ´W`)「ではなんだ?この現状を覆す妙案があるか?」
(;‘_L’)「一応、各ギルドでの物資の増産や技術開発に資金を回しております。これで今まで以上に差を縮めることが」
(; ´W`)「それは知っておる。それで、なんとかなると?」
(;‘_L’)「......」
( ´W`)「はぁ......やはり、そうか」
196
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:01:26 ID:VpsdaqYg0
さらに頭痛が増してきたのか、シラヒーゲは頭を抱える。
このままいけば、自国の民を不幸にする。
それこそ、戦えるものを全て戦地に送らねばならない事態になりかねない。
そのような総力戦、もし侵攻を耐えきったとしても国はボロボロになり、立ち行かなくなる。
もはや、詰んでいるのではないかとすら思えるほど、未来は暗い。
( ´W`)「奴らを倒せるなら悪魔にだって頼りたいところだ......いっそのこと、こちらから下るべきなのかもしれんな」
(;‘_L’)「へ、陛下それは!!」
( ´W`)「この首一つで民を守れるならば、だがな......」
自分の首にそこまでの価値があるのだろうか。
そもそも、ルナイファはお世辞にも外交が上手い国ではない。
ただひたすらに脅迫し、その力で押し潰すことが常である。
まともに交渉になるとは思えない。
そんな不安に遂には心身ともに限界を迎え、シラヒーゲは数日間、部屋に籠ることとなるのであった。
197
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:02:26 ID:VpsdaqYg0
ムー国 市街地
1463年8月24 日
圧倒的な力により、一日にして敗れたムー。
だが、攻撃がよほど正確だったのであろう市街地の建物はあのような地獄があったとは信じられないほどに無事であった。
そんな街を眺めながらクーは歩いていた。
といっても堂々と歩いているわけではなく、変装魔法を駆使し、人間に化けて周りに溶け込むようにである。
川 ゚ -゚)「......ふーむ」
街の中は数は少ないが何人かの人間が歩いていた。
ムーの人間たちもいるが目立つのはやはり、妙な斑模様の服を着た奇妙な集団であろう。
川 ゚ -゚)「召喚地の兵士、か。見れば見るほど我々の兵士と違うな」
それは召喚地から来た人間の兵士であった。
魔術的な要素は微塵も見られないその格好。
まさに異界の兵士と呼ぶにふさわしい、彼女の常識からしたら異常としか言い様のない格好である。
198
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:03:39 ID:VpsdaqYg0
だが。
川 ゚ -゚)「『じゅう』......あれがあれば我々も」
その力が本物であり、そして圧倒的であることを知っている。
力の根元は集団が持つ、黒いなにか。
杖とも違う、異界の武器。
それが使われた瞬間を見たときは、『くるま』や『ひこうき』程ではないが驚愕した。
なにせ、たった一人の兵から光弾が連続で放たれるのである。
威力は彼らが持つ力の中では程ほどではあるが、貫通力が高く、また全ての兵が同じものを持っているのを見ると、どの兵でも同じようなことができるのだろう。
才能が大きく関わる魔法との、大きな違いである。
199
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:04:13 ID:VpsdaqYg0
川 ゚ -゚)「......とはいえ、無敵ではない」
だが、それと同時に兵士毎に大きく力の差がないと言うことである。
魔法であれば、才能あるものならばあの攻撃より、強い魔法を放つことが可能である。
精鋭部隊であれば相手ができ、勝てるかも知れない。
そしてなによりの弱点。
『〜〜!!??』
なにやら騒がしい声が聞こえたかと思うと、唐突に兵士の集団めがけて、建物から火の玉が襲いかかる。
直撃した兵士は一瞬で燃え上がり、地に伏せる。
『〜〜!!』
その炎の出所に向かって兵士達が『じゅう』を向け、叫ぶ。
翻訳魔法を使っていないため、何を言っているかは分からないが恐らくは攻撃のための合図かなにかなのであろう。
200
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:04:40 ID:VpsdaqYg0
ババババッ!!
リズミカルな音と共に、光の弾が建物へと吸い込まれていく。
(;-@∀@)「はぁ......はぁ......くそっ!!ガッ!!」
そこには統治軍の生き残りかその関係者だろう男がいた。
必死に魔壁を貼るが、貫通力のある複数の光弾を防ぎきることは出来ず、幾つかが貫通し、体を赤く染める。
何度見ても恐ろしい攻撃である。
さて、唐突に始まったこの戦闘であるが、最早この国において追われる立場となったルナイファの生き残りは、今のように建物に籠り、不意討ちを行うことが続いており、今回も恐らくはそれであろう。
そして、人間の兵士達はこれを潰すために周回をしているようである。
201
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:05:31 ID:VpsdaqYg0
そんな様子を数日前から彼女、クーは見ていたのだが、そこから魔術師の兵と決定的に違う点が見つかった。
それは、魔壁の存在。
言ってしまえば人間達の兵は防御力が極端に低いのである。
あれほどの火力を誇る彼らなのに、なぜこのような武力の進化を遂げたかは分からない。
だがもし、実現してほしくはないが今後、敵対することがあれば役に立つ情報であろう。
もしくは。
川 ゚ -゚)「我々があの力を身に付けることが出来れば......」
出来るかどうかは不明であるがもしあの武器を自分達の力にすることが出来れば。
守りは魔壁、そして攻撃はあの武器を使う。
攻守において、完璧と言えるであろう。
ソーサクは間違いなく、成長できる。
それも、この世界の強者として。
202
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:06:01 ID:VpsdaqYg0
(;-@∀@)「ご......ばっ」
気付けば魔法を放っていた男は、体に複数の穴を開け、血を吐き地に伏せていた。
あの様子を見るに、もう手遅れであろう。
川 ゚ -゚)「......ん?」
そこでようやく、クーはどこかで見たような顔だと気がついた。
遠くであったため、よく分からなかったがあの特徴的な眼鏡。
それが目に入り、思い出す。
川 ゚ -゚)(あぁ、統治局の......)
正直、まだ生きていたのかという感想と、よくもまあ軍人でもないのに襲いかかったものだと感心半分、あきれ半分といったところである。
だが、思い返してみればアサピーの性格からして人間に支配されるなど耐えきれなかったのだろう。
それゆえにあのような無謀な行動に出たのだと。
勝てるはずもないのに馬鹿なことだと彼女は笑う。
203
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:06:42 ID:VpsdaqYg0
川 ゚ -゚)「まあ、どっちにしろ変わらないか」
だが思い返せばあの男が命じて人間の国の使者を殺したとのことであったはず。
かなり温情な対応をする人間達とはいえ、あの男が許される未来はなかったであろう。
そう考えれば一人を道連れにして、死んだあの男はある意味正しかったのではないかとすら思えた。
川 ゚ -゚)「......馬鹿馬鹿しいな」
そんな馬鹿げた考えに自分で笑い、クーは来た道を引き返す。
彼女は自分のできることをやろうと、集めた情報を送るため、そしてどうすれば信じてもらえるかを考えながら彼女は誰にも気付かれないよう人の中に紛れ、街に消えた。
204
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:07:24 ID:VpsdaqYg0
ソーサク連邦 情報戦略室
1463年8月29日
クーからの驚くべき、いや気が狂ったとしか思えない情報が届いてから約一ヶ月。
あれからもクーからは似たような情報が次々と届けられていた。
誰もがもう、彼女は狂ってしまったのだと信じていなかったが新たに撮られた念写と、他の諜報員からも似た情報が届けられたことにより、事態は急変した。
未だに多くの者があり得ないと信じてはいないが、ドクオは違った。
次々と入る情報を整理し、ついに現実を見ることとなったのだ。
('A`)「......ということで、どうやらルナイファは召喚地の外交官を一方的に処刑したことで相当の怨みを買い、今回の事態となったようです」
(; ´∀`)「なんだそれは。本当にあの国は外交が下手すぎるな。やつら圧力と暴力しか知らないんじゃないか?」
('A`)「とはいえ、相手は人間、それも自分たちが呼び出した奴隷、という認識だったからと思われますから」
( ´∀`)「まあ確かにな。だがあの国は小国相手なら同じことをしてるし、下手なのは事実......っと、これは関係無いな。すまない、続きを頼む」
205
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:08:32 ID:VpsdaqYg0
('A`)「あ、はい。えー、今回の被害は完全にルナイファ側の不手際としか言いようがありませんね。どうやら会談の際に脅しのためにいろいろと情報を出したようで......折角の情報アドバンテージをわざわざ相手に伝えたせいで、派遣した部隊を潰され、そして逆に攻撃を受けた、という流れのようです」
( ´∀`)「ふむ......」
クーなどから届けられた情報を聞き、モナーは深く考える。
とはいえ、ドクオとは違い完全に信じているわけではなく、人間への偏見はそのままに、である。
人間達が強力である可能性については、以前の念写により把握している。
だがどうしても先入観が優り、信じきれない。
さらに優秀な魔術師であるというプライドもあり、人一倍魔法に対してプライドが高いのだ。
そんな彼が、魔法よりも優れたものがあるかもしれず、それを人間が生み出し所有するなどということは簡単に受け入れられることではない。
206
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:09:12 ID:VpsdaqYg0
だが、伝えられた情報を無闇に否定せずに考える。
彼もこの仕事を続けてきて情報の重要性は分かっているからである。
ただし、信じがたいことについてはあくまで可能性の一つとして考える程度、という注釈が付くのだが。
そうしてしばらく考えていたかと思うと、彼は何かに納得したのか小さく頷いた。
( ´∀`)「なるほど、人間どもが妙に対応が早かった理由はそれか。召喚という大災害と言ってもいい事態にこれほどまで早く対応できることになにかおかしいとは思っていたが......ルナイファの自爆だったと」
('A`)「そのようです」
( ´∀`)「ふーむ、そして外交官を殺されて報復にムー強襲......流れとしては自然だな。とはいえ、それがルナイファ相手に成功するとは信じられんが、余程慢心してたのか......それで?これからの動きについてはなにか分かっているのか?」
('A`)「はい。人間側ですが、早期の講和を望んでいるようです。なおルナイファは全く応じる様子はなく、むしろ再攻撃に向けて準備が進められていると、ルナイファに潜伏中のイヨウさんからの報告があります」
( ´∀`)「ほぅ?それはまた......あれほど一方的であったのだからこのまま攻め込むものだと思ったが......そんな理性があるとはな」
('A`)「恐らくですが召喚の影響で国内が混乱しているのでしょう。ですので他国のことより自国に専念したい......この様なところではないかと」
( ´∀`)「まぁ......当然と言えば当然か。しかし、片や外交下手、もう片方は人間では、互いにまともな交渉など出来るとは思えんな」
207
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:10:01 ID:VpsdaqYg0
召喚などされれば、他国との繋がりが絶たれるのだ。
国際的に完全に孤立した国家でなければ、どんな国でも他国との繋がりはあるものだ。
物資はもちろんのこと、技術などに関しても他国を頼ることは珍しいことではない。
そんな繋がりがいきなり、無くなる。
それにより生まれる混乱がどれだけ大きいかは想像を絶するだろう。
そんな国が内部の事を放置して、様々なものを消耗する戦争を行うことに本来無理があるのだ。
恐らくはそのような理由で彼らは戦争を辞めたいのだろうとドクオは予測する。
('A`)「また召喚地の動きとして、ムーに関しては完全に自国に引き入れる動きが見られます」
( ´∀`)「食料と資源が狙いか?」
('A`)「ええ、間違いなくそうでしょう。が、ここで気になることがありまして......」
( ´∀`)「ん?なんだ?」
208
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:12:27 ID:VpsdaqYg0
('A`)「運び出されている物資に、黒い燃える水があるとのことです」
( ´∀`)「なに?それは......」
('A`)「はい、我が国でも見られるあれです」
( ´∀`)「そんなものを一体なにに?あんなものがあっても害しかないだろう?」
('A`)「不明ですが......その、クーからの情報では人間達にとって最も重要なものだとかで」
( ´∀`)「あんなものが?おかしなやつらだな......しかし魔法を使えんとそんなものに頼らなくてはならないとは、多少力はあるようだが哀れなものだ」
(;'A`)「......えっと、その」
( ´∀`)「ん?なにかあったのか?」
(;'A`)「......いえ、何でもありません」
( ´∀`)「......まぁ、いいが」
急にドクオの報告が口ごもる。
先ほどまではあれほどまでにスムーズだったのに、この変わり様である。
明らかに何かを隠しているかの反応である。
だが、モナーはあえて追求はしなかった。
( ´∀`)「ただ、今後に必要なことなら、時期を見て話してくれ。そうでないならいい。それでいいかな?」
('A`)「......はい」
209
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:12:54 ID:VpsdaqYg0
ドクオは信頼する部下である。
言えないのも、何かしらの理由があり、必要になれば言ってくれるだろう。
そんな信頼のもと、彼らの会話は終わった。
('A`)「......はぁ」
そして、一人部屋に残されたドクオは深くため息をついて、纏められた報告書を手に取る。
理由は先ほど、言えなかった報告に関係している。
(;'A`)「やっぱり、無理だよクー......あんな提案」
その報告書には、クーからの報告を纏めたものであった。
人間達の兵器の恐ろしさや事の経緯などの情報の数々。
そんな報告書には、彼女からの提案が書かれていた。
『召喚地との同盟』
初め見たときはやはり頭がおかしくなったのかと思った。
だが、そのあとに続く内容を読み、理解する。
これは、彼女が本気で考えたことなのだ、と。
210
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:14:19 ID:VpsdaqYg0
報告書の内容はこのように続いていた。
『彼の国の資源となるのは燃える水である。我が国で湧き出るものと同一のものと思われる。つまり、もし我が国が同技術を手に入れることが出来ればこれまで資源がなく苦しんできたのが一変し、資源産出国となることができる。』
『彼の国は魔法を知らない。そして魔法を使う相手と戦争をしている今、魔法の情報を最も欲している状態である。さらに彼の国は仲間がいないため、仲間も必要としているはずである。だからこそ技術情報を交渉材料に彼の国との同盟に関して交渉を行えば、大きなアドバンテージを得られる。交渉にて彼らを御することも可能かもしれない。』
『彼の国と敵対するべきではない。こと戦争においては勝ち目はほぼなく、敵対すれば無駄に命を散らすだけである。また仮に敵の多さに彼の国が対応しきれなくなった場合、ルナイファに彼の国の兵器が鹵獲され、技術を手にしてしまえばそれこそ手に負えなくなる。これだけは防がなくてはならない』
『彼の国の技術は才能に頼ることがない。この違いは国力の違いに直結するであろう。そして、これからの世界を変えることになる。従って我々も魔法のみの依存をやめ、彼の国の技術との共存を目指すべきである。』
そう、結論付けられ報告書は終わっていた。
211
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:16:03 ID:VpsdaqYg0
('A`)「......」
話は理解できる。
だが、だからといっておいそれと受け入れられるものではない。
彼ら、ドクオ達の価値観は魔法が主軸であり、それが当たり前のことなのだ。
つまりは才能による格差が当たり前である。
魔法を使えるからこそエルフは神に選ばれた存在であり、その他の存在を支配し管理するに至ったと信じている。
魔法こそが、彼らエルフの存在を支える精神の柱なのだ。
だが、これは。
魔法を才能に依らない技術は。
それを根底から覆す。
これまで自分たちがトップであった、決して崩れることのない足場の上で安心をしていたのに、それが格下と思っていた存在に崩される。
そんなことを、当たり前のように、簡単に受け入れられるわけがない。
212
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:17:21 ID:VpsdaqYg0
(;'A`)「......」
しかし、この報告書は理解できる。
数多くの情報を処理し、現実を受け止めようとしてきた彼には理解できるのだ。
だからこそ、彼の心の中は決して受け入れることのできない考えと彼の中の常識がぶつかり合い、脳内をぐちゃぐちゃに掻き乱す。
認めてしまえば彼のアイデンティティーを否定し、世界の中で至高の存在であったはずのエルフを否定することになる。
だが、いくら目をつむっていても現実は変わることはない。
むしろ、これから人間達によってエルフの聖域が壊されていくのだろう。
そのときになっても、目を瞑っていることはできるのだろうか。
この戦争は世界を狂わせる。
世界が彼の国の狂気、異界の常識に染まるのは、恐らくは遠くない。
いつまで自分は正気でいられるか、いや、そもそも正気でいるべきなのか。
こうして彼は眠れない夜を過ごすこととなるのであった。
213
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:17:56 ID:VpsdaqYg0
続く
214
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 18:11:44 ID:DvMnVAgU0
乙!石油か!そして銃は強いね!
215
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 20:19:41 ID:G99Jd3U60
乙です
216
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:14:49 ID:kXBs2RV20
ヴィップ共和国 最前線
1463年9月1日
おかしい。
そうモララーが感じたのはついこの間のことである。
あれだけ進んでいた前線が気がつけば膠着していた。
いや、それどころか押し返され始めている。
なぜこんなことに、といえばすぐに答えは分かる。
ルナイファからの物資が全くと言っていいほど届かなくなったのだ。
ただその理由は分からない。
だが、それが致命的なことは誰もが分かることであった。
元々、ヴィップと比べれば格下のアリベシ。
それがここまで前線を押し上げることが出来たのはルナイファからの支援があったからである。
217
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:15:15 ID:kXBs2RV20
兵器の供与もそうだが、それを動かすための魔石自体足りず、また補修もできないため次々と瓦礫と化していく。
そして食料もあれだけ美味であったルナイファの保存食はもうなく、ただただしょっぱいだけの自国で作られた干し肉くらいしかない。
それも、満足に食べることができないほど、枯渇している。
(; ・∀・)「......どうなってるんだ」
ただでさえ、勢いに任せて前進してしまい、その結果、突出してしまったため部隊は孤立しつつある。
後方が絶たれれば、このわずかな補給すら絶望的になるであろう。
218
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:15:39 ID:kXBs2RV20
絶対に勝てると確信したはずにのに、いつの間にか死と隣り合わせになっている。
これが、戦場なのかとモララーは身体を震わせる。
怖い。
見知らぬ土地で、もし今攻められればこれまで自分が殺してきた敵兵の如く、自分も死ぬことになるだろう。
一体どうすればよいのか、分からない。
(; ・∀・)「......」
この先になにがあるのか、彼には分からない。
そもそも前に進むべきなのか、戻るべきなのか。
それすらも分からない。
ただただ、国の流れ、命令に乗ることしかできなかった。
219
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:16:19 ID:kXBs2RV20
南方海域 トウキュ沖
1463 年10月28日
トウキュから少し離れた海域。
そこに大艦隊が進んでいた。
それらの艦はルナイファの国旗を意気揚々と掲げ、進んでいく。
彼らはムーに攻め込んできた『侵略者』を叩きのめすため、ムーを目指していた。
从 ゚∀从「っあー......くそ」
( ´ー`)「どうかしたのか?」
そんな艦隊の揚陸部隊として、トウキュに停泊していたハイン達がルナイファから出撃してきた艦隊と合流していた。
そのハインが、浮かない顔をしているのを見て、シラネーヨがそれを気にかけ話しかけてくる。
从 ゚∀从「どうもこうもねぇ、本国から来たやつらにムーの敵について何か知らないか聞かれたんだけどよ」
( ´ー`)「ふむ」
从 ゚∀从「ギコ様から聞いた話を馬鹿正直に全部話したらキチガイ扱いされたわ。マタンキとかいうあの糞野郎、ぜってぇ許さねぇ......プギャーお気に入りのエリートだか知らんがいつか絶対ぶん殴ってやる」
(; ´ー`)「あー、なるほど......まあ、落ち着けや」
从 ゚∀从「まぁ、俺もおかしいとは思うんだけどよ」
220
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:16:42 ID:kXBs2RV20
ギコから聞いた話、見えないほど遠方からの攻撃、そして魔壁でも耐えきれないというもの。
魔法の常識から考えて、あり得ないと言い切れるその報告に、本国の兵士達も全く信じるつもりはないようであった。
从 ゚∀从「でもよ、本当に聞いたことなんだがなぁ。はぁ、嫌になる」
( ´ー`)「仕方ないっちゃないんだが......ん?いや、待てよ?そもそもだ」
从 ゚∀从「うん?」
( ´ー`)「何で本国の連中も敵のことを知らないんだ?」
从 ゚∀从「......あ」
( ´ー`)「こんだけ準備期間があったっていうのに......どういうことだ?」
シラネーヨの疑問は最もなことであった。
これほどの大艦隊を動かしているにもかかわらず、敵のことがまともに伝えられていないのである。
221
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:17:51 ID:kXBs2RV20
从 ゚∀从「一応、ソーサクが関与してるから注意しろとは言われたが......規模なんかの話はなかったな」
(; ´ー`)「いやそれ、もうほとんど情報無いようなもんじゃねーか?せめて敵の規模とか使われてる兵器の情報はないのか?」
从 ゚∀从「......ねぇな」
事実、ルナイファでは情報の規制が行われていた。
まさか、敵が人間だなんて言えるはずがない。
そんなことを伝えれば敵をなめてかかり、ムーの二の舞になる恐れがあったからである。
また人間に負けただなんて伝われば軍全体の士気にも関わる。
そのため、ソーサクが関与している可能性があるということのみを伝え、敵はソーサクであるとしていたのだ。
(; ´ー`)「全く......鬼が出るか蛇が出るか、どうなるかね」
从; ゚∀从「......」
何かがおかしい。
そう分かっていてももう、引き返すこともできない。
そんな権力を彼女等は持ち合わせていないのだ。
222
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:18:23 ID:kXBs2RV20
出来ることは、進み、生き残ること。
从 ゚∀从「......俺達だけでも警戒しておくか」
( ´ー`)「それがいい。まだ死にたくないしな。ソーサク本隊を相手にすることを想定して戦術を練るとしよう」
从 ゚∀从「そう、だな」
( ´ー`)「とはいえ、やはり南方の僻地だ。敵の数は多くないはずだし、この規模の艦隊だ。数の優位は取れている」
从 ゚∀从「だが敵がソーサクとなると、向こうの方が技術力に優れているって話だろ?あまり差はないと聞くが、実際は分からん。下手すると遠隔操作の精度の差と魔壁の差で被害が大きくなりかねないぞ」
( ´ー`)「ふむ、ならば数の利点を生かし、艦同士の距離を大きく開けて複数艦にて敵に接近、だな」
从 ゚∀从「......なるほど。数を生かし、確実に相手に攻撃を与える布陣を組むわけか」
( ´ー`)「あぁ。それで魔壁については......あれだな。魔炎でどうにもならなかったら雷槍を使おう」
从 ゚∀从「雷槍、ねぇ......まぁ、あれなら当たれば絶対沈められるか。当たればだが......」
( ´ー`)「まあこれは敵に攻撃が効かなかった場合の最悪の場合だ。何にせよ、敵に近づくことを想定して魔壁に多く魔力を回すようにしよう」
从 ゚∀从「だな。それで他には......」
二人は出来る限りのことはしようとその会議は夜遅くまで続くこととなる。
戦いの時は、一刻一刻と迫っていた。
223
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:18:56 ID:kXBs2RV20
ルナイファ帝国 軍務省
1463年11月19日
この日、ルナイファの軍務省に一つの通信が入っていた。
(*゚ー゚)「......ということで、引き延ばしも限界と思われます」
( ^Д^)「ふん、そうか」
召喚地からの連絡、講和に向けた話し合いについて、返事を求める連絡であった。
これまでも何度か連絡は入っていたが、今回はその中でも特に相手が強い言葉でこちらに話をしてきており、恐らくは相手も引き延ばしに気がついているのだろう。
( ^Д^)「艦隊はどうなっている?」
(*゚ー゚)「はい、大部分がすでにムーの近くまで到達していますので、すぐにでも行動に移れます。あれほどの艦隊がここまで近づければ、敵がこれから対策をしようとしても、最早手遅れと思われます」
( ^Д^)「ソーサクはどうなっている?以前、関係があるかもしれないと言う話だったが」
(*゚ー゚)「そちらについてはほとんど動きがありませんでした。こちらの艦隊の規模を見て、見捨てたのかもしれません。なんにせよ、チャンスです。これで敵はほぼ人間のみになったと言えるでしょう」
( ^Д^)「よし。ならば、返答してやれ。宣戦布告だ。貴様らを殲滅してやるとな」
224
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:19:35 ID:kXBs2RV20
(;*゚ー゚)「え?わ、わざわざこちらから言う必要は......」
( ^Д^)「くくっ、奴らがどんな風に慌てるか見物だな。ん?おい、どうした?準備をしろ」
(;*゚ー゚)「わ、わかり、ました」
(# ^Д^)「しかし、こちらの作戦とはいえ......奴らのこのような暴言を見過ごさなくてはならないのは非常に腹立たしかったが、ようやく終わるのか」
(;*゚ー゚)「......」
この一月以上、どうにか交渉という名の引き延ばしにより、人間に対して見かけ上だけでも対等な交渉をするという非常に耐え難い心労が貯まっていた。
そもそも話をすることすら本来あり得ない相手に、それも自分たちをまぐれとはいえ負かした相手にである。
感情が入り乱れ、罵声を浴びせ、殺してやりたい気持ちを抑え、どうにか今日までたどり着くことが出来たのだ。
これで、ようやく自分の悩みが解消されるのだと考え、プギャーはフッと息をつく。
225
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:19:57 ID:kXBs2RV20
なお、彼がまるでなにかをやりきったかのように振る舞っているが実際に交渉したのは彼の部下であるし、艦隊の調整も別の部下である。
詰まるところなにもしていない、むしろ入ってくる人間達の情報をあり得ない、もし信じるものがいて本当に講話などすることになったらやり返すことが出来なくなると規制を掛けて握り潰し、周りの判断をおかしくしていた。
そんな勝手な仕事をして、勝手にストレスを溜めていただけなのだが、それに触れる者はここにはいない。
ここでは彼の機嫌を取ることも、仕事の一つなのだ。
( ^Д^)「さて、散々おかしな事を宣った奴らからいつ、許しを乞う連絡がくるか......くく、楽しみだな」
久しぶりに上機嫌な彼を見て、部下達は胸をなで下ろす。
あぁ、ようやく、仕事が一段落するのだと。
そうしてこの日、一本の連絡がムーへと送り返された。
『宣戦布告』
これにより、止まっていた時は再び動きだし、世界はまた変化の時を迎えるのであった。
226
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:20:43 ID:kXBs2RV20
ムー国 召喚地軍基地付近
ムー国の元々基地があった跡地。
多くの瓦礫があったそこには、今では幾つかの簡易的な建物のようなものがあり、人間達が基地として利用していた。
その近くには平らに整備された土地があり、『ひこうき』なるものが見えている。
そんな異界のもの達を一目見ようと、ムーの住人が遠巻きに眺めていた。
それもそうであろう。
自分たちと同じ人間。
それもエルフを一方的に葬る力を持つ、強力な人間である。
彼らにとって、久しく忘れていた希望と言っても過言ではない存在であろう。
そんな人間達に紛れ、今日も今日とて異界の存在の情報を探るべく、クーが人間に変装しながら様子を伺っていた。
この基地らしいものが出来てからは何度もここを見に来ているが、改めて彼らの力強さを認識されられる。
そもそも、魔法を使わずにこれほどまで短期間に土地を整備し、基地として利用できる能力は信じがたいものである。
227
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:21:22 ID:kXBs2RV20
川 ゚ -゚)「やはり、何としてでもこの力を......」
もう彼女は、とり憑かれたとといってもいいかもしれない。
それほどまでに、魅了されていた。
あの圧倒的な力に。
川 ゚ -゚)「取り入るためにはやはり......女であることを使うのがいいか?」
そのためには自分の身体を使うことすら躊躇いがなくなっていた。
本来であればエルフが人間となどあり得ないどころか、禁忌とすら言える。
だが、それすらも些細なことに思えるほどになってしまっていた。
川 ゚ -゚)「......ん?」
そして、そんな彼女だからこそ、気がつく。
いつもと基地の様子が異なると。
何人もの兵が慌ただしく走り回り、そして『ひこうき』が飛びたっていく。
228
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:21:45 ID:kXBs2RV20
川* ゚ -゚)「おぉ......」
その美しい姿に彼女は思わず見惚れてしまった。
過去にはワイバーンが飛びたつところを見て、似たような事を感じたこともあったが、今見た光景に比べれば何とみすぼらしいことか。
あの一つの『ひこうき』だけで、一体いくつの命を燃やし尽くすのか。
想像をするだけで、恐ろしくなると同時に高揚する。
そしてなぜいつもと違うのか、それが分かった。
また、あの力が振るわれる時が来たのだ。
その力を使う必要が来たのだ。
川* ゚ -゚)「また......見せてくれよ」
そうして彼女は、まるで人間達を応援するかのごとく、遠くの空に消える『ひこうき』に、何度も何度も手を振っていた。
229
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:22:54 ID:kXBs2RV20
南方海域 ムー近海
从 ゚∀从「......そろそろ、ムーか」
穏やかな海を順調に進んできた艦隊は、もうムーの間近までに迫っていた。
ここまで敵に出会っていなかったのは幸運なのか、それとも何かの作戦なのか。
そろそろムー間近だというのになぜ敵が出てこないのか。
全く読めない敵の行動、分からないということはこれほどまでに恐怖を生むのかとハインは身震いする。
( ´ー`)「......」
そしてそれはシラネーヨも同じ思いであった。
軍に入ったときから死ぬ覚悟は出来ていた。
だが、自国はルナイファであり、負けることなどあり得ないとも思っていた。
だというのに、ムーから聞こえる話は一方的な敗北。
これから敵対するのは明らかに強力であり、かつ未知の敵ときた。
死ぬかもしれない、という恐怖に加えて全く分からない敵に向かうというのは、覚悟があるとはいえ恐怖を覚える。
230
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:23:42 ID:kXBs2RV20
勿論、彼らが戦争を知らずに恐怖しているわけではない。
むしろ多くの国を侵略してきたルナイファの戦争経験は豊富であるといえる。
だが、彼らの知る戦争とは自国より劣る、弱小な敵を一方的に葬ることなのだ。
詰まるところ、彼ら、いやルナイファは真の意味で戦争を知らない、だからこその恐怖であった。
ぶるりとひとつ、シラネーヨは身震いをする。
从 ゚∀从「はは、震えてるな......武者震いか?」
( ´ー`)「お前こそ海風で冷えたか?」
从 ゚∀从「かもな」
ぎこちなく笑いあい、どうにか恐怖を誤魔化そうと普段通りの会話をしようとする。
だが、心のどこかで違和感が生まれ、ぎこちない。
そのまま心は全く落ち着くことはなく、だが、艦隊は順調に進んでしまう。
231
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:24:16 ID:kXBs2RV20
从 ゚∀从「......なぁ」
( ´ー`)「うん?」
从 ゚∀从「敵は......どこからくると思う?」
( ´ー`)「......定石通り、まずは偵察のワイバーンがくるだろうな。そして攻撃用のワイバーンで魔壁を削り、艦隊決戦、ってところだろ」
从 ゚∀从「教科書通りだな」
( ´ー`)「この他にどうしろと?」
从 ゚∀从「......切り込み?」
( ´ー`)「はっ。お前も気に入ったか?」
从 ゚∀从「まぁな」
未だ、敵は見えず。
何もないのではないかと錯覚するほど。
このまま、何もなければいい。
これほどの大艦隊である。
敵が見れば、戦わずに引くかもしれない―
232
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:24:38 ID:kXBs2RV20
そんな、僅かな望みともいえないようなあり得ない願望が生まれた時であった。
『......報告!何かが海中から何かが飛んでっ......!?』
外縁を進む艦から、魔信が届く。
その声が艦を響きわたると同時に。
魔壁を叩きつける、業火が艦隊に降り注いだ。
从; ゚∀从「なっ!?」
(; ´ー`)「っ!!」
遠くの艦のことであるのにビリビリとした衝撃が、ここまで伝わってくるかのような威力であった。
その衝撃に、先ほどまでの甘い考えが全て吹き飛ぶ。
そう、ここは戦場であり、自分たちは生き死にを賭けてここにいるのだ。
233
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:25:44 ID:kXBs2RV20
从# ゚∀从「被害はどうなってる!!」
『こちらに被害なし!!ただし、一撃でかなりの魔力を持っていかれました!魔方陣にも影響が出ております!!』
( ´ー`)「......被害は軽微か。対策が効いたか?」
从 ゚∀从「あぁ、みたいだな。魔壁を厚くしとけば耐えられるってことだ」
( ´ー`)「......正確じゃないな。分かってるんだろ?」
从 ゚∀从「......あぁ、くそったれ」
そうハインは舌打ちをしながら顔をしかめる。
嫌にベタつく汗を拭い、どうにか動揺する心を抑え、話す。
从; ゚∀从「さっきの攻撃......ギコ様からの報告の通りのものだった。見えない敵からの攻撃、魔壁が通じない程の大火力......」
(; ´ー`)「と、なれば残りの迎撃不能、というのも本当のことだろうな。事実、発見から直撃までの時間が短すぎる」
从; ゚∀从「......そんなの、どうすればいいんだよ!」
(; ´ー`)「ソーサクと俺達に大きな技術力の差はないと聞いてたが......くそったれ、真っ赤な嘘じゃねーか!!」
ガンと壁を殴り、頭を抱える。
多少の勘違いはあるものの、二人は現実をよく捉えていた。
234
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:26:07 ID:kXBs2RV20
何とか一撃は耐えたもののこの攻撃が続けば長くは持たないであろう、と。
特に旧式の艦や属国の艦などは魔壁が脆い。
それらは一撃すら耐えられるか、分からないのである。
たったの一撃で艦が沈み、数千が死ぬ。
ギコからの情報から最悪のパターンを想定して、準備はしていた。
だが、現実はそれを上回る。
だが、今さら考える時間もない。
『報告!先ほどと同じものが複数こちらに向かってきています!!』
再度、敵の攻撃。
从; ゚∀从「ぐっ......魔壁強化!!衝撃に備えろぉおおお!」
当たらないことを、沈まないことを願い、身を屈め衝撃に備える。
そしてその瞬間、艦隊は再度、爆発に包まれる。
先ほどとは異なり、複数の攻撃が一気に艦隊へと降り注ぎ、凄まじい衝撃が生じる。
235
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:26:50 ID:kXBs2RV20
そして。
まるでガラスが割れるかのような音と共に、いくつの艦が爆発に呑まれ、沈む。
まだ第二波だというのに、もう魔壁を突破された艦が現れたのである。
从; ゚∀从「バカな......そんな......」
呆然とするハイン。
だが、それとはシラネーヨはその様子を眺め、なんとか冷静に戦況を整理しようとしていた。
(; ´ー`)「あれは属国軍か......他が沈んでない事を見ると、やはり艦種によっては数発なら耐えられるかもしれんな。ギコ様レベルの魔術師はいなくても艦数でカバーは可能だ」
从; ゚∀从「そうだな。くそっ、これが敵の秘密兵器で、数がないなら......」
(; ´ー`)「......ん?数?......そうか、それならありうるな」
从; ゚∀从「あん?」
(; ´ー`)「お前の言う通り、数だ。あの攻撃、あれほどの威力だ。そうそう多くは揃えられないだろうし、使える魔術師なんて多くても数人。長く続くはずがない」
从; ゚∀从「......確かに言う通りだとは思うが」
(; ´ー`)「合わせてここは南方の僻地で占領されてから時間もそれほど経っていない。ソーサクから魔道具を持ち込むにも遠い。つまり量もある程度、なはずだ。現に攻撃密度が低い」
从; ゚∀从「......おい待て、まさかお前」
そこてなにかに気が付いたのか、ハインが顔色を変える。
もし彼女の考えが正しいのであればこれから行われるのは、あまりにも無謀な作戦である。
236
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:27:22 ID:kXBs2RV20
だがそれと同時に、他に出来ることもないということもわかっていた。
(; ´ー`)「陣形を完全に魔壁特化に切り替えよう。あれだけ早いとなるとどうせ対空は当たらん。魔石の無駄だ......というより、耐えるためには捨てるしかない」
从; ゚∀从「......」
(; ´ー`)「そして......」
意を決したように海を睨むと同時に、敵の攻撃と思わしき光が艦隊に迫る。
見たことのない速度で近づくそれに、恐怖を覚える。
だが、それでも怯まず前へ。
(; ´ー`)「こっちには数はいるんだ!!敵の攻撃を耐えきり、突撃するぞ!!」
敵の攻撃資源の枯渇したところへの攻撃。
もしくは迎撃漏れによる敵地への上陸。
どちらを狙うにせよ、やることは変わらない。
物量に任せた突撃。
それが、彼らに出来る唯一の作戦であった。
237
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:27:45 ID:kXBs2RV20
続く
238
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 19:24:17 ID:eIEvw8Eo0
乙
確かに兵糧攻めはかなり効果がありそうだ。
現場組は死んで欲しくないなぁ
239
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 20:22:43 ID:8A2cyMiU0
乙です
240
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:48:08 ID:YJk7.jqU0
ルナイファ帝国 帝都
1463 年11月20日
('、`*川「最近変ねぇ」
この日、ペニサスは買い物をしていた。
たまには良いものを買おうと、帝都の中心地まで来ていたのだがその品揃えに首をかしげる。
('、`*川「これも売り切れ?......そんなに人気なのかしら?」
いつもであれば沢山のもの陳列がされているであろう棚にはスペースが見られ、お気に入りの南方の果物を使った菓子を売る出店は閉じていた。
とはいえ、全く何もないわけではない。
むしろ多くのものが並んでおり、見るものの目を楽しませる。
('、`*川「うーん......」
だがその分、いつもならあるはずのものがないのが目立っている。
特になくて困るものではないのだが、何となく気になるのだ。
そしてなにより、ここにない理由。
ペニサスもそれとなく店員に聞いてはみたものの、何ともはっきりしない答えであり、分かったのは原材料がなぜか手に入らないということだけであった。
241
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:49:04 ID:YJk7.jqU0
('、`*川「まあいいか。今日はこっちのものを試してみようかしら」
しかし、無いものは仕方ない。
気持ちを入れ替え、折角だからといつもと違うものを買ってみる。
近くにあったベンチに座り、早速一口、食べてみる。
初めて食べる味わいだが、流石は帝都、良いものを使っているのだろう。
これもまた良いものであり、思わず笑みが溢れた。
そんな風に休日を満喫しながら、ふと生徒たちのことを思い浮かべる。
思えば今、この国は戦争、と呼べるかは敵が弱すぎて怪しいが、それでも争い事に出向いている子がいる。
彼らは、今頃何をしているのだろうか。
そろそろ終わりそうなものだが、いつ帰ってくるのだろうか。
そして、帰ってきたらどんな授業をしてあげようか。
そんな思考に耽りながら、少しだけ違和感はあるものの、楽しい帝都の1日を過ごしていた。
242
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:49:50 ID:YJk7.jqU0
南方海域 ムー近海
青い海に、爆発の花が咲き乱れる。
そんな中を、艦隊は進んでいた。
シラネーヨが具申した作戦が採用され、数に頼った突撃が始まっていた。
素早く隊列を組み換え、厚く張られた魔壁はその爆発を遮り、艦は進軍を続ける。
時折、衝撃に耐えきれず、艦が多くの命と共に散っていくが、それを気に留める余裕もない。
余りの爆発音に耳がおかしくなりそうになりながらも必死に檄を飛ばし、恐怖をひた隠し、進んでいく。
もう、どれだけの被害が出ているかは把握できていない。
情報が混乱しすぎ、まともに把握できない状態になっていた。
だがそれも仕方ないだろう。
次々に飛んでくる攻撃は確かに防げている。
だが、次は防げるかは分からないのだ。
魔力はどんどんと消費されており、また術者の体力の消耗も激しい。
決して万全とはいえない状態で、あとどれだけ耐えれば良いか分からないという恐怖。
そんな状況で攻撃に向かって進むなど、一体どれだけの者が正気でいられるのか。
243
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:51:17 ID:YJk7.jqU0
从; ゚∀从「......」
ハインもまた、どうにかそんな恐怖を押さえ込み、必死に敵がいるであろう方角を睨んでいた。
それで現況をどうにか出来るはずもなかったが、一分一秒でも敵を早く見つけ出したい一心であった。
だが、一向にそれらしき影は見当たらない。
ある程度、進んできたと言うのになぜまだ敵が見えないのか。
偽装魔法も考えたが、あれは動かない、停止している状態のものしか隠すことができない。
であれば攻撃など出来ないはずであるため、可能性はないはず。
そうなるとなぜここまで見当たらないのか。
从; ゚∀从「......どうなってやがる」
いくら考えても答は出ない。
可能性は思い付くが、そんなことを可能な魔法があるとは思えないのだ。
244
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:51:46 ID:YJk7.jqU0
(; ´ー`)「......」
ハインが頭を悩ます一方、シラネーヨも苦悩していた。
突撃をするとは言ったものの、やはりこれほどまでの攻撃を目の当たりにすると無謀だったのではないかと感じてしまう。
しかし確かに攻撃は全てではないものの防げており、またここで引けばそれこそ沈んでいった仲間たちの命が無駄になる。
そんな考えがぐるぐると巡り、一種の混乱状態に陥ってしまっていた。
(; ´ー`)「なぜだ......」
そう彼が呟くと同時にまた、複数の光が艦隊に突き刺さる。
その攻撃はもう何回目か分からない。
しかし、数えきれないほどの艦が沈められたのは事実である。
その現実に彼はますます混乱する。
これほどまでに強力な魔法を、こうも大規模に連発できるなど信じがたいのだ。
そもそもの話、一発ですらルナイファの常識からしたら異常とも言えるのである。
245
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:53:22 ID:YJk7.jqU0
それが、何発も飛んでくる。
元々、この攻撃が少数であることを前提にして作戦を立案したというのに、その前提が根底から覆されているのだ。
こんな現実など、あり得るはずがない、魔法でもこんなことが出来る筈がない。
だがそんな彼女らなど知ったことではないと、もう何度目か分からない攻撃がやってくる。
周期的に飛んでくるそれは、まるで突然現れたかのように飛んできては、艦の前でポップアップし、天より突き刺さる。
凄まじい破壊の力を、何とか魔壁で抑え込んではいるが、もしこれが直撃したら助かる道理はないだろう。
魔壁を貼る魔術師たちは乱れる心を落ち着かせ、魔法を唱え続ける。
そうしなければ、死んでしまう。
だが唱え続ければ、死なない。
そう信じ、進むことしかできない。
246
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:55:08 ID:YJk7.jqU0
だが確かに、進むことはできているのだ。
このまま進めば、そうすれば、敵さえ見つけることができれば反撃ができる。
そう信じて進み続けるしかない―
ドゥン......
不意に、今までにない音が艦隊に響く。
これまでの魔壁を叩く爆音とは異なる音であった。
从; ゚∀从「な......に?」
音に釣られ、その方角を見ると巨大な水柱が立っていた。
そして、その水柱の中には一隻の艦。
強力な魔壁を貼るその艦は、通常であれば攻撃を防げているはずである。
(; ´ー`)「......割れ、てる......」
だが船はまるで下から、船の底から突き上げられたかのように中央から真っ二つに割れ、沈んでいく。
何が、起きたのか。
あの空飛ぶ攻撃は防げる、だからこその作戦であったはず。
247
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:56:24 ID:YJk7.jqU0
では、今のは一体何なのか。
从; ゚∀从「っ!また!!」
再び、同じ音が響く。
今度は、複数である。
遠くで複数の柱が上がり、その数だけ艦が沈んでいく。
そしてそれらの艦も、万全な魔壁を用意していたはずである。
なのに、沈む。
(; ´ー`)「なぜ......なぜだ......」
あまりの衝撃にそんな言葉をうわ言のように呟く。
まだ十分に艦数はいるものの、魔壁すら通用しない攻撃を持っているのならば、甚大な被害は免れない。
ただでさえ、少数しかないと推測していた攻撃は何度もこちらに降り注いでいるのだ。
それだけですら恐ろしい被害が出ているというのに、他にも敵はこちらを沈める手段を持っている。
それも、防ぐことが出来ないという恐ろしい攻撃を、である。
そんな状態で果たして上陸することが可能なのか。
自分の立てた作戦の愚かさを、今更になって嘆く。
248
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:58:36 ID:YJk7.jqU0
だがもう、遅い。
失われたものを、取り戻すことは出来ない。
(; ´ー`)「......撤退を」
从; ゚∀从「え?」
(; ´ー`)「撤退を、本隊に具申しよう」
从; ゚∀从「......そう、だな」
だが、まだ生きている命を救うことは出来る。
そんな思いから、彼が唯一出来ることを口に出す。
その言葉を、誰も止めることはなかった。
誰もが死にたくないし、どうしようもないことを理解していた。
『......許可は出来ない。作戦は続行する』
だが、その願いは通らなかった。
魔信から絶望の言葉が響き渡る。
何度、説得しようとしてもその答が変わることはなかった。
(; ´ー`)「何故ですか!?このままでは全員、無駄死にをするだけです!!ですから、ここは一時的でも撤退をすべきです!!」
『敵の攻撃は確かに強力だが、空からのものは防げる!防げない攻撃もあるがそれは少数!作戦通り、数で押しきれる!ここで引けば艦数を減らした今、再度ここまで近づくことなど不可能だ!!』
249
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:59:41 ID:YJk7.jqU0
(; ´ー`)「ですが......」
『ここで撤退などすれば、それこそこれまで沈んでいった仲間たちが、報われない......無駄死にではないか!!』
从; ゚∀从「......」
『それに......それにだ......いや』
より一層、忌々しそうな声。
だが、その言葉は最後まで紡がれることはなく。
『とにかく、撤退は許可できない。以上だ』
一方的に魔信は切られ、望みが絶たれる。
もう残る出来るのは、ただひたすら攻撃を耐えきり、また防御不可の謎の攻撃が来ないことを祈るのみ。
(; ´ー`)「......俺の、せいだ」
またどこかで爆発音がなり響く。
その音と共にまた、いくつもの命が散っているのだろう。
もし自分がこんな無茶な作戦を言わなければ―
そんな考えが頭から離れず、ただ艦隊を包む炎を眺めることしか、出来なかった。
250
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:00:47 ID:YJk7.jqU0
シラネーヨがそのような苦悩をしている一方、先ほどの魔信の相手、本艦隊の指揮官であるマタンキもまた、苦悩していた。
(#・∀ ・)「撤退......いや、敗北など、認められるわけがない!!」
怒りに染まり、もはや正気を失いつつある状態であるが、それにも理由がある。
彼は、知っているのだ。
(#・∀ ・)(人間に......劣等種に、なにも出来ずに負けたなど!!)
自分達の敵が、何であるのかを。
艦隊の兵士のほとんどは、その事を知らない。
ソーサクが相手であると勘違いをしている中、彼だけは正確に自分達の敵が何であるかを知っており、だからこそ敗北を認めることが出来ない状態となっていた。
だがその一方でこの被害である。
いくら彼が敗北を否定しようにも、これほどの被害は決して無視できるようなものではない。
しかしその無視できない被害が相まってさらに彼は引くという選択肢を選べなくなってしまっていた。
251
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:02:08 ID:YJk7.jqU0
敵が強大であることは理解できている。
そのせいで尋常ではない被害が出ていることも把握している。
だが相手が人間であるから、負けるはずがない、そんな相手に尻尾を巻いて逃げることは許されるはずがない。
そんな考えが頭の中をぐるぐると巡る。
完全な、錯乱状態である。
(#・∀ ・)(......落ち着け、落ち着くんだ。まだ艦数は十分、敵の攻撃は防げる......行ける、大丈夫なんだ)
自分に言い聞かせるように、大丈夫だと何度も繰り返す。
周りから見れば完全な狂人である。
もう、既に多くの艦が帰らぬものとなっているのだ。
だが彼の現状把握についてはある程度は正しい。
確かに、敵の攻撃は続いているものの、空からのものは多数は無理でも少数であれば魔石の魔力が尽きない限り、防げている。
謎の防げない攻撃は続いているが、それは数が少なくまた間隔も長い、攻撃の密度がそこまで高くないのだ。
252
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:02:46 ID:YJk7.jqU0
防御不可の攻撃を放つ敵は明らかに少数であり、このままのペースであればムーへの上陸は可能であるはず。
なおそれが出来たところで、敵の戦力分析がまともに出来ない現在、ムーを取り返すどころか海岸線を維持できるほどの戦力が残るか、不明な状況なのだが。
(#・∀ ・)「怯むなぁ!進めぇ!!」
それが分かっていない訳ではないが、彼にはそれを、受け入れられるほどの余裕はない。
例えそれが自身の命をかける必要があろうとも。
彼のプライド、いやエルフの種としてのプライドが許すことが出来ない。
『報告!!』
そのとき、魔信が震える。
響く声にマタンキはまたなにかおかしな報告が来るのかと身構える。
(#・∀ ・)「くそっ、今度はなんだ!!」
『ぜ、前方に敵艦隊を発見しました!!』
(・∀ ・)「っ!!」
だが、聞こえてきたものは全くの別のものであった。
その無謀な挑戦が奇跡を生んだ。
ついに、ついに待ち焦がれた報告がやってきたのだ。
(・∀ ・)「よ、よし!!では総員、攻撃準備だ!!急げ!」
『はっ!!』
(#・∀ ・)「これまでやられた分......きっちりやり返してやれ!!」
253
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:03:16 ID:YJk7.jqU0
ムー国 海岸
無数の艦の影が、近づいていた。
その艦隊をもし他国が見れば、その数、また掲げる国旗の威光の前に屈するであろう。
だが、現在。
この国、ムーに近づいているそれは満身創痍と言っても過言ではない状態である。
何度も繰り出された攻撃により、未だ海の上に浮かぶ艦も魔石を消耗仕切っており、また魔石が残っていても魔方陣が不具合を起こし、本来の力を発揮できないような状態になっている。
これにより、初めのうちは防げていた攻撃も、時間の経過と共に防げなくなり、沈む艦がどんどんと増えていく。
川 ゚ -゚)「なんと......これだけの攻撃になるのか」
その様子を遠くから魔法で眺めていたクーは、改めて人間たちが持つ力の強大さに感服していた。
254
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:03:37 ID:YJk7.jqU0
ムーの基地に振るわれたあの爆発攻撃、てっきり動くものには当たらないと思っていたが実際はどうか。
いくら的が多いとはいえ、あそこまで正確に艦に遠距離から当てられるとは。
魔法を越えて、奇跡ともいえる所業に感じられる。
魔法による攻撃も、操作が出来るため個人の技量によっては確実に当てることが可能であろう。
だが、あれほど大規模な攻撃をするためには―
川 ゚ -゚)「無理だな」
可能性は0ではないが、現実的に不可能であろう。
少なくとも現時点でそんなことが出来る国は存在しない。
255
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:04:00 ID:YJk7.jqU0
川 ゚ -゚)「しかし......ルナイファも流石だな」
その一方でルナイファの持つ、圧倒的な物量には感心を通り越して呆れてしまう。
ここまで近づいてくるために、一体どれほどの艦を沈め、資源を消費したのか。
これほどの攻撃を耐えきり、近づくことの出来る底力はとんでもないことである。
明らかに力量の異なる相手に、数という単純な力だけで押しきろうとしているのだ。
そして一方的な展開に見えるが、人間達には余裕はない。
聞く話ではようやくこの国の整備が整いつつあり、それによりムーからの資源供給が始まり、唯一の生命線となったばかりだと言う。
もしこの軍勢に対処しきれなければ、そのか細い生命線は簡単に途絶え、下手すればこれだけ圧倒的だと言うのに滅びるのは彼らになるかもしれないのだ。
とはいえ、それが分かるのは彼らに深く接触している彼女だけであり、ルナイファからすればそんなことは分からないはずである。
にもかかわらず、多数の犠牲を出してでも進軍する彼らは一体どのような覚悟をしてきているのか、クーには分からなかった。
256
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:04:45 ID:YJk7.jqU0
川 ゚ -゚)「まぁ、それしか出来ないのだろうが......いやそれが実行できるのがおかしいか。む?」
艦隊から目を移すと、多くの人間が上陸に備えてだろう、準備を進めていた。
中には『くるま』に似た、平たい箱に筒を付けたような奇妙なものが動いていた。
更には艦までまだまだ距離があるというのに、陸上からあの光る爆発物を飛ばし艦隊へ攻撃を加えている。
大規模攻撃の前に、流石のルナイファ艦隊も大きく数を減らしていく。
川 ゚ -゚)「......ほう?」
だが、そこであることに気がつく。
艦隊が2つに割れている。
一つは人間の艦隊に、もう一つは陸に。
すぐにその考えは理解できる。
川 ゚ -゚)「上陸狙いか」
恐らくは人間の艦隊に囮を張り付かせ、その間に上陸すると言ったところか。
多数の光を翔ばす、圧倒的な射程を持つ人間の艦を相手にするより上陸を狙うのは正しいことだろう。
そして彼らには分からないだろうがそれが成功し、一時的でもムーの一部を制圧すれば、人間達に多大な影響を与えうる。
今後の運命を左右する、戦いが始まろうとしているのだ。
川 ゚ -゚)「さて、海での戦い方は分かったが陸上はどうなるかな?」
ここまで追い詰められれば人間達もさらに必死になるであろう。
そうなればまた新たな力を見せてくれるかもしれない―
そんな期待に彼女は目を爛々と輝かせ。
ルナイファ艦隊の上陸を今か今かと待ちわびていた。
257
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:06:28 ID:YJk7.jqU0
ムー国 沿岸部
(#・∀ ・)「......」
ついに、敵の艦隊と相対する。
これまで、いや今現在も自分達には不可能な攻撃を一方的に繰り出し、彼らはただ耐えることしかできなかった。
だがこれでようやくやり返すことが出来る。
揚陸部隊は陸地に向かわせ、敵艦の攻撃を引き付けつつ決着をつけるために艦隊を進めていく。
その間にも沈み行く仲間が現れるがそれを気にすることはない。
敵が、目の前にいるのだから。
ただひたすらに前進するのみ。
そしてついに、射程距離に入る。
(#・∀ ・)「目標、敵艦隊!魔炎準備!」
『炎魔法、発動準備完了!操作魔法、リンク完了!!』
指令の声に呼応するように、魔方陣が激しく光輝く。
強力な炎が圧縮された、一つの球体が産み出される。
258
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:07:15 ID:YJk7.jqU0
(#・∀ ・)「発動しろぉおお!!」
今の艦に残る魔力の大部分が詰め込まれたそれは、敵を殲滅するべく天高く舞い上がる。
美しい炎の軌跡、それが敵に向かって行く。
だが、敵もそれが届くまで待ってくれるはずもない。
再び、大破壊の鉄槌が空より襲い掛かる。
これまでであれば、被害は出ても魔壁により軽減できていた。
しかし攻撃のために陣形を組み換え、また魔力を消耗してしまった今、あれほどの威力をまともに耐える方法などありはしなかった。
(;・∀ ・)「ぐぅ!?......ひ、被害報告!!」
『ひ、被害が多すぎて把握できません!!』
『操作魔法陣をやられました!本艦の攻撃に影響が出ております!!』
(;・∀ ・)「ぐっ!ぬ、ぅ......だが」
だが全滅していない。
ならば問題ない。
攻撃は既に、済んでいる。
あとは奴らが沈むまで、耐えきれば良いのだ。
(;・∀ ・)「......む?」
あと少しで攻撃が届くか、というところで敵艦が光り、煙に包まれる。
攻撃が直撃したと、一瞬艦内が沸き上がりそうになるが実際はまだ攻撃は届いていない。
では事故か、とも思えばそれも違っていた。
259
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:08:31 ID:YJk7.jqU0
(;・∀ ・)「っ!!あの光!!」
それは、自分達を苦しめた光であった。
あの艦から放っていたのかと敵の凶悪すぎる艦の性能に驚愕すると共に、また攻撃がくるという恐怖―
既に攻撃を何発も耐えられるほどの余力は残っていない。
差し違いか―
(;・∀ ・)「......え?」
死を覚悟し、道連れに奴らもと考えていたそのときである。
空中で大きな爆発が巻き起こる。
一体何が、とその光景を眺め、理解すると一気に背筋が冷たくなる。
(;・∀ ・)「こ、こちらの攻撃に当てて......防いで、いるのか?」
敵艦から放たれた光がこちらの攻撃に飛び込んでいっては、爆発する。
その衝撃に魔力をとどめておけなくなった攻撃はどんどんと霧散していく。
260
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:10:29 ID:YJk7.jqU0
(#・∀ ・)「ぐっ......攻撃を操作し、回避行動を!!」
攻撃に回避行動を取らせるというおかしな指令だが、操作魔法であれば不可能ではない。
あの迎撃から逃れることが出来ればまだ、希望はあるのだ。
『ダメです!操作魔法、魔方陣の不具合により精密な動きが出来ません!回避不能!!』
(;・∀ ・)「あ、ぁ......あぁぁあ!!!」
だが先の攻撃の影響により、複雑な操作が出来なくなっていた。
また無事であった艦の攻撃も、不規則に動かし迎撃から逃れようとしてもその光はまるでそれを感知したかのように追ってくる。
そもそも、速度が違いすぎる。
いくら逃れようとしても、逃れることができず、ようやく回避したとしてもさらに追撃が加わり、全てが希望と共に空に消えた。
『攻撃......す、全て迎撃されました......』
(;・∀ ・)「......」
沈黙。
艦全体の空気が凍ったかと錯覚するような静けさで包まれる。
ようやく、誰もが敵の恐ろしさを完全に理解したのだ。
差し違える覚悟をしてもなお、届かないという絶望。
まだ全艦が万全であれば敵も迎撃しきれなかったかもしれない。
だがもう、そんなことを言っても遅い。
それらの可能性は全て、海の底に沈んでいってしまった。
261
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:11:14 ID:YJk7.jqU0
今さらになって、撤退を考え始めたその時であった。
(;・∀ ・)「......む?」
敵の追撃が無いことに気がつく。
先ほどの大規模攻撃を最後に、追撃が無い。
さらに艦隊がこちらの進路を塞ぐようにしてはいるものの、明らかにこちらから逃げるような動きである。
(・∀ ・)「......まさか」
その事実に、彼は一つの可能性が思い当たる。
敵の、攻撃資源が無くなったのではないか、という可能性。
もしそうならば、千載一遇のチャンスである。
上陸も上手くいくであろうし、あの凶悪な敵艦を沈めるまたとない機会である。
262
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:12:54 ID:YJk7.jqU0
だが。
(・∀ ・)「こちらの攻撃は、防がれる......」
確かに、攻撃はない。
だが、敵はこちらの攻撃を防ぐことが可能なのだ。
無闇に攻撃したところで敵に届くことはなく、こちらの魔力が尽きるだろう。
それならば敵艦隊を無視し、上陸した部隊の支援攻撃を行うという選択もある。
それならば確実に一定の成果が見込めるはずである。
しかし、会談に向けた準備をすると引き延ばしている間に敵に接近するという不意討ちに近いことをして、かつ敵の攻撃を耐えきれるほどの大艦隊がいたからこそここまで近づけたのだ。
ここで敵艦を逃せばもうそのような条件が揃うことはなく、つまり二度とこちらの攻撃は届かないだろう。
(・∀ ・)「どうすればいい......」
彼は熟考する。
人間たちに思い知らせなくてはならない。
エルフの偉大さ。
そして、強さを。
そのためには、敵に攻撃を与えるにはあの光の迎撃を突破しなければならない。
あの光は、こちらの攻撃に反応して爆発し、攻撃を打ち消していると思われる。
つまり、敵が対処しきれないような大量の攻撃か、迎撃不能な高速の一撃、爆発に耐えきる固さを持つ攻撃が必要―
263
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:14:31 ID:YJk7.jqU0
思考を巡らせ、数瞬の沈黙の後。
マタンキはハッと顔を上げる。
(・∀ ・)「そうか......雷槍だ」
一つだけ、敵に通用しうる魔法が思い当たったのだ。
『は、は?』
(#・∀ ・)「雷槍を使う。準備をしろ!!」
『っ、しかしっ!あれは近距離にて魔壁貫通に使用する魔法です!!』
(#・∀ ・)「そんなことは知っている!だが、あの攻撃なら、撃墜されない可能性がある!あの攻撃であれば奴らに届くのだ!!」
『ですが、この距離......そして操作も出来ないため、当たる確率は......』
(#・∀ ・)「では、どうするというんだ!通常の攻撃であれば奴らは防げる!つまり、当たる確率は0だ!ならば、例え低くても当たる可能性のある攻撃に賭けず、どうするというのだ!!」
『っ......了解しました!雷槍準備!雷魔法、構築始め!』
『発動確認!続いて土魔法、発動!槍を形成!』
数少ない生き残りたちが最後の希望を懸けて、正真正銘最後の魔法を発動する。
バチバチと音を立て、雷を纏った槍状の物体が艦上に形成される。
まるで空中に流れるように走る電流は一筋の線となり、道となる。
魔力で出来たそれには、勿論摩擦などない。
理想的なレールである。
264
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:15:55 ID:YJk7.jqU0
『発動準備、完了!!』
その魔法は、土の魔法で形成した物体を、雷魔法で包み込み、魔力で形成した道で加速させて打ち出すというもの。
土は雷の力を得て金属に錬成され、魔力が持つ間は金剛不壊となる。
本来この世に存在し得ない、最硬の魔法金属である。
(#・∀ ・)「全魔力を攻撃に集中!!放てぇえええ!!!」
魔法で作られた雷の道を通る、摩訶不思議な金属は凄まじい勢いで加速する。
彼らが持つ中で、最速最硬の攻撃。
その姿に似た兵器は、ある世界ではこう呼ばれる。
レールガン。
未来の兵器とも呼ばれるその兵器。
その攻撃に不完全ながらも近い一撃が、異界の艦隊に向けて打ち込まれた。
265
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:16:17 ID:YJk7.jqU0
続く
266
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 17:23:24 ID:lr6u.Z3A0
乙
偶然とはいえレールガンを作り出すとはあなどれないねぇ
ここからは陸上での戦いがメインになりそうだ
267
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 17:52:08 ID:h0etebTQ0
乙です
268
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:44:48 ID:e2rDsERI0
ムー国 沿岸部
1463 年11月20日
从; ゚∀从「いいかっ!上陸したら土魔法で防壁を作り、陣地を構築!陣形は密集陣、魔壁を強化して安全を確保しろ!」
『了解!!』
ハイン達は遂に、上陸を成し遂げようとしていた。
不可能と思われたこの挑戦。
だが無謀とも言えるごり押しと、数の暴力、そして魔壁の効果により艦数を残したまま、陸まであとわずかのところまで来ていた。
艦隊が2つに別れた後、ハイン達に対する攻撃の密度は少ない。
というよりも、ほとんど無いと言ってもいい状態である。
理由は分からないが、推測するに敵の攻撃資源の枯渇か、もしくは何らかのトラブル等だろうか。
(; ´ー`)「あっちはどれだけ持つか......」
とにかく上陸出来る艦数は最早、囮と化したもう一つの艦隊がどの程度生き延びれるかにかかっていた。
269
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:45:58 ID:e2rDsERI0
そして肝心のその戦いについては膠着状態に近い。
こちらからの攻撃は防がれ、敵の攻撃も魔壁で防げなくはないものの既にガス欠気味の艦隊ではそれも多くは望めない。
とはいえ、敵もガス欠気味なのか攻撃の手が緩んでいる。
若干の敵の有利だろうが、数はまだこちらが勝っており、お互いに打つ手が無くなるのも時間の問題か―
そして、そんなときであった。
バチィッ!!
電撃の音が、戦場に響きわたる。
从; ゚∀从「あ?」
その音に、聞き覚えはある。
雷槍。
魔力により産み出された強靭な魔法金属を、高速に打ち出し、その貫通力で魔壁を突破するというものだ。
だが跳ばすために魔力で道を作るが打ち出される際の衝撃が強く、狙った場所に飛ばせない。
そもそも形成される槍の形状が安定せず、その影響で発射後もブレるため、狙った方角に発射できても真っ直ぐ飛ばすことはほぼ不可能である。
270
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:46:37 ID:e2rDsERI0
理論上、長距離を飛ばすことはできる。
だがほんの少しの角度が違うだけで遠距離の敵には当たらないため、近距離での使用が普通である。
つまり、明らかに異常な判断により、攻撃が実施されたということであった。
从; ゚∀从「......」
だがなぜ、とは考えない。
マタンキがなぜ、その判断をしたのかを瞬時に理解できたのだ。
通常の攻撃では届かない。
ならばもう祈るしかない。
当たり前ではダメなのだ。
あり得ない、奇跡の一撃を。
271
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:47:45 ID:e2rDsERI0
放たれたそれは、多くがあらぬ方角へ飛んでいく。
しかし、一発。
たったの一発だけだが、敵艦隊へと真っ直ぐに向かい、飛ぶ。
从; ゚∀从「あっ」
そしてそれに敵も気が付いたのか、煙に包まれ、光が現れる。
不可避の、光。
そして、あっさりと。
希望の槍は爆発に包まれる。
(; ´ー`)「......」
从; ゚∀从「......」
彼らは、その様子を唖然として見ていることしかできなかった。
敵はこちらの最速の攻撃ですら、当てることが出来る。
つまり、どんな相手であっても攻撃を当てることが出来るのだろう。
とてつもない、敵である。
272
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:49:04 ID:e2rDsERI0
从; ゚∀从「......あ」
(; ´ー`)「うそ......だろ」
だが、無敵ではない。
無敵では、なかったのだ。
从; ゚∀从「お、おおおおぉぉおおお!!!」
爆風を、何事もなかったかのように突っ切る希望の槍。
慌てたように敵艦は再度、迎撃を試みた時には既に遅く。
最早何者にも止められず、奇跡、神の加護としか言い様のない幸運によりそれは。
―敵の艦をあっさりと貫いた。
煙を吹き出し、燃える敵艦。
その光景に、ハイン、いや艦隊全員が沸き上がる。
希望を、思い出す。
そうまだ、負けていない。
敵は目の前。
手に届く距離にいるのだ。
四肢をもがれ、傷だらけになり、満身創痍になりながらもルナイファという怪物はまだ、死んでいない。
もがき、足掻き続けた結果、その牙がようやく敵に届いたのであった。
273
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:49:31 ID:e2rDsERI0
ムー国 海岸
死に物狂いで進軍してきた艦艇が、次々に海岸へとたどり着く。
艦から現れた魔方陣が光輝き、そこから多くの兵達やゴーレムが瞬時に現れる。
凄まじい雄叫びが、彼らの出現と共に響きわたった。
それは死の恐怖を打ち消すためと同時に、これまでやられるしかなかった彼らがようやく敵に攻撃をやり返すことが出来るという歓喜から来るものでもあった。
海岸に現れた兵達は素早く、魔方陣を起動し、砂を盛り上げ、壁を構築する。
さらにその後ろに隊列を組むことで魔壁を形成し、磐石の守りを固める。
これにより、上陸時の隙を潰し、被害を減らせるはずであった。
274
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:50:24 ID:e2rDsERI0
だが。
从; ゚∀从「はぁ......はぁ......はぁ......ぐっ!?」
凄まじい爆発音。
後方を見れば、自分達が乗ってきた艦やこれから上陸を行おうとしていた艦が次々に沈んでいく。
そして、それだけではない。
从; ゚∀从「なっ!!」
陣地を構築している、仲間も吹き飛ばされる。
散々海で見た、あの強烈な爆発ような攻撃がこの地上においても吹き荒れる。
その様子を見て、ハインは自分の作戦の愚かさを今更になって後悔する。
从; ゚∀从(敵の攻撃は動く攻撃魔法にも当てられるんだ。地上の俺達に当てられねぇわけがないじゃないか!!)
艦ならまだしも、少数の兵が作る魔壁であのような攻撃が耐えられる訳がない。
詰まるところ、陣を構築するために密集している今、それは敵にとってはただの的であり楽な処分対象でしかない―
275
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:51:15 ID:e2rDsERI0
从# ゚∀从「散開だ......散開しろ!!猶予がない!散開して突撃するんだっ!!」
(; ´ー`)「なっ!正気か?そんなことすれば攻撃を耐えら―」
从# ゚∀从「魔壁があっても変わらない!なら!少しでも密度を低くして、敵の攻撃を分散するんだ!そうすれば奴らも対処しきれない!!」
(# ´ー`)「......くそっ!ここまで来てもまた、犠牲覚悟の突撃かよ!!」
ギリッと、歯が砕けそうなほどに食いしばりながらも、シラネーヨも納得するしかなかった。
現にまた、味方の陣地が吹き飛ばされているのだ。
通常であれば土の防壁に魔壁があればある程度の時間は稼げるというのにまるでそこになにもないかのようにやられていく。
(# ´ー`)「だがもう、後には退けない!!俺達が生き残るには、進むしかない!!進め、進めぇぇぇええ!!」
シラネーヨの号令と共に、生き残り達は走り出す。
そしてその号令を合図にしたかのように。
進行方向より、何かが無数に飛んでくる。
276
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:52:34 ID:e2rDsERI0
ヒュンヒュンと音を立て、飛んでいくそれは個人が作る魔壁では数発も持たない。
次々と兵達の身体に穴が開いては倒れていく。
脳髄を撒き散らし、死んでいくのだ。
从;# ゚∀从「地獄か......ここはっ!」
ようやく、敵地にたどり着いたと思えば何ということか。
一方的に味方がやられ、見るも無惨な姿に変わり果てていく。
地獄。
これまでの戦場でも見たことのないほど悲惨な光景に、思わずそう言わずにはいられない。
切り札とも言えるゴーレムは、謎の礫を耐えてはいるものの、優先的に爆発する攻撃に狙われ、破壊されていく。
壁としての役割も果たせたかわからぬまま、土へと還る。
こんなことが、あっていいのか。
そんな考えが頭を埋め尽くす。
先ほど、敵艦に一撃を加えたあの歓喜はどこへ行ったのか。
雄叫びはいつしか悲痛な叫びに変わり、死の恐怖を必死に忘れようと前へ走る。
その先に待つものが何なのかを理解しながらも、前へ、前へ。
飛び交う礫と血飛沫。
部隊が散会し、どうにか敵の攻撃を散らすことに成功しているがそれでも敵の攻撃は苛烈を極める。
爆発は少なくなったものの、やはり連続する礫の嵐は簡単に防ぎきれるものではない。
277
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:53:46 ID:e2rDsERI0
だが、やられっぱなしという訳ではなかった。
数の暴力と土魔法による簡易的な壁の形成でじりじりと前線を押し上げる。
(# ´ー`)「こちらからも攻撃しろぉ!!敵を減らすんだっ!!」
敵の礫とは異なる、色鮮やかな光が敵陣地へと襲いかかる。
どうやら敵は穴を掘り、身を隠しているようであるが、頭上がお粗末にも空いているのだ。
敵は強力ではあるが、間抜けのようである。
こちらの攻撃が当たらないと舐めているのか魔壁を使っていないのだ。
从# ゚∀从「頭上がお留守だ!!身体に教え込んでやれ!!」
操作し、曲げられる魔法であれば穴の中に隠れていることなど問題にもならない。
爆発、雷撃、氷結。
様々な魔法が炸裂する。
その様子に敵も何やら慌てたように動き出す。
それは、後退するような動きにも見えた。
278
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:54:50 ID:e2rDsERI0
確かに、敵は強力。
だがやはり、無敵ではない。
多くはないが少なくない被害を、与えている。
行ける。
そう、ハインは確信する。
部隊を散開させているのが効いていた。
攻撃の密度が低く、明らかにこちらの数に対処しきれていない。
特に高火力な攻撃はゴーレムに集中しているため、その間に兵はどんどんと進むことができていた。
ゴーレムが時間稼ぎにしかならないのは想定外という他ないが、このまま押し込めれば、この敵陣までたどり着けるであろう。
しかも敵はたったこれだけで退く、なんとも軟弱な輩。
兵士の差で、勝てる。
力では負けていても、精神ならば、負けていない。
―実際はそう考えていなければ、精神が持ちそうにもない、というのが正解なのだが。
心を強く持ち、進み続ける。
それさえ、それさえ出来れば良いのだ。
気が付けば敵陣地目前までに到達していた。
被害の数はこちらの方が圧倒的多いものの、確実に前へと進み、前線を押し上げていた。
このままいけば、海岸線を奪還できるはずである。
279
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:55:46 ID:e2rDsERI0
从; ゚∀从「よし......よし......」
そうして気がつけば完全に敵は後退を開始しており、内陸へと追い込んでいた。
ここまでに多くの命を消耗しているが、敵を後退させ沿岸部を抑えつつある現状を見れば確かに作戦は成功していると言える。
ただでさえ困難である上陸作戦を、あの強力な敵を相手に成し遂げているのだ。
まだ戦いは続いており、あの強力な攻撃も時折飛んで来てはいるものの、皆の士気が上がっていくのを感じる。
(; ´ー`)「......」
だがそんな中、シラネーヨの顔は浮かないものであった。
強烈な違和感。
それを、どうしても拭うことが出来ないのである。
なぜこれほどまでにあっさりと敵は退いたのか。
こちらが散開し、数で攻めたことにより敵が対処しきれなくなったというのは確かにあるだろう。
280
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:56:47 ID:e2rDsERI0
しかしだからといってこれほどまでに簡単に後退するものなのか。
(; ´ー`)(考えろ......敵は、何を狙っている?)
簡易的に作られた土壁に隠れ、思考する。
敵の立場になり、もし自分ならばどうするか。
それを考えていく。
(; ´ー`)(いくら前線を押し上げていたとはいえ、こちらの被害は馬鹿にならない状態......何故体勢を整えられる時間を与える?)
(; ´ー`)「いや......そもそも、だ。なぜ、俺は生きている?」
そして、行き着いたのは自分が生きていることへの疑問であった。
敵はこちらからすれば信じられないような攻撃を連発できる化物である。
あの威力、それが満遍なく戦場に降り注げばこちらは間違いなく全滅する。
だが敵はそれをしない。
それは何故か。
( ´ー`)「前提は......合っていたんだ」
そもそもの作戦の前提。
敵の攻撃物資には限りがあり、多くはないという予想。
思い返せば敵艦の攻撃も、あの大規模な攻撃は途中から無くなっていたのだ。
予測を遥かに上回る物量ではあったが、作戦通り敵の攻撃用の物資が尽きた、ようにシラネーヨには見えた。
281
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:57:58 ID:e2rDsERI0
そうなればひとつ、可能性が浮かんでくる。
敵の陸上部隊も物資が不足しているのではないか、ということ。
( ´ー`)「そうなると......狙うなら」
もし、自分が敵の立場ならばどうするか。
シラネーヨは再び考える。
なるべく少ない攻撃回数で、こちらを迎撃するにはどうするか。
その答えは簡単に思い付くものであった。
(; ´ー`)「こちらが体勢を立て直す間に補給を済ませ、高火力のあの攻撃を、再度密集したところに撃ち込む......」
そうしてハッと気がつく。
ここから先を進軍するとなると、辺りが崖に囲まれた道となっており、どうしても密集しなくてはならない箇所があるのである。
もし敵がそこに新たな陣を構築した場合、一体どのような結末になるか―
(; ´ー`)(......敵は一時的に退き体勢を整え、こちらがまとまって進軍してきたところをあの大火力で一網打尽にしようとしているっ!そんなことになれば制海権もない以上、前進も後退も出来なくなって全滅しかない!)
从; ゚∀从「よし、一旦ここで体制を整え......」
(; ´ー`)「ダメだ!ここで止まるなっ!敵から離れるわけにはいかない!!混戦に持ち込むぞ!!」
从; ゚∀从「はぁ!?」
282
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:59:25 ID:e2rDsERI0
(; ´ー`)「敵に猶予を与えれば、こちらが不利になるぞ!敵の補給能力が不明な以上、少しでも猶予を与えれば再度、大規模攻撃が行われる可能性がある!そうなったら勝ち目がない!!」
从; ゚∀从「っ!だ、だがこちらに、もう既に余裕が......」
(; ´ー`)「それにだ!敵と接近し混戦になればあんな攻撃は出来ない!となれば、一番安全なのがどこなのか、分かるだろ!?」
从; ゚∀从「......あぁ、なるほど。確かにその通りだな。くそったれ」
混戦となれば、一方的にやられることはないがどれだけ酷い被害が出るか、分からないわけではない。
それでも結局のところ、他に手がない以上、命を懸けて敵に突撃を繰り返すことしかできないのだ。
それを理解した上でハインは仲間たちに死ねと命じなければならないことに顔を歪ませながらも、先陣を走り、叫ぶ。
283
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:00:28 ID:e2rDsERI0
从# ゚∀从「総員!突撃!突撃ぃ!!」
その言葉に誰もが顔をひきつらせる
だが、その足は次なる戦場に向けて駆け出す。
皆が言葉にならない叫び声を上げ、撤退する敵に追撃へと走る。
その動きはあまりに無謀なものである。
ただでさえ、上陸作戦という無理な作戦を実行し、多大な犠牲を出しているところに休む間も、陣形を整える間もなく再度突撃を行うのだ。
通常であれば、自殺行為としか言い様がない。
だが、その無謀な作戦が功を奏した。
(; ´ー`)(......敵の迎撃が鈍い!)
敵もこちらの被害の多さ、また海岸線の奪還に成功していたことから進軍を止めると考えていたのだろう。
その攻撃は敵の意表を突き、前線を一気に押し上げる。
284
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:01:22 ID:e2rDsERI0
そもそも敵の攻撃物資が不足している事もシラネーヨ達にとって幸運であった。
広く展開した彼らを相手に出来るほどの余裕が敵には無いのか、あれほど強力な攻撃を持ちながらもこちらに対処しきれていない。
気がつけば最前線は敵味方が入り乱れる地獄絵図になりつつある。
完全な混戦状態。
もうこうなれば火力の差など役には立たない。
ただひたすらに先に相手を殺したものが勝ちである。
从# ゚∀从「はははっ!」
戦場特有の高揚感のせいか、はたまたこれまで一方的にやられてきた怨みを晴らせる時が来たからなのか。
ハインは笑いながら、返り血で赤く染まっていた。
次々に打ち込まれる魔法の数々に敵が伏していく。
味方も多数死んでいくが、精神を麻痺させただ目の前の敵のみを見ていた。
いつ自分が死ぬか分からない恐怖から目を反らすように。
ただひたすらに、攻撃を繰り返していく。
285
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:02:17 ID:e2rDsERI0
从 ゚∀从「はは、は......あん?」
そうしてまた、倒れる敵にハインは違和感を覚える。
その敵は、見たことのない格好をしていた。
改めて見てみると、魔術的な効果を一切感じられない妙な装備である。
从; ゚∀从(......これだけの魔法を使えるのに?)
密集していた彼女達を襲った強烈な爆発。
そして今なお飛び交うこの礫の攻撃。
魔法としか考えられない現象だというのに、そんな魔法に欠かせないはずの魔方陣らしきものが一切見られないのだ。
从; ゚∀从「一体......」
自分達は何と、戦っているのか。
そんな疑問が再度沸き上がる。
相手はソーサクであり、技術力は違えど同じ魔法使いを相手にしているはずであった。
少なくとも彼女の中ではそうなっていた。
それが、これは一体何なのか。
全く自分の常識が通用しない存在。
今になって、自分達が全くの未知と対峙していることに気が付いたのである。
286
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:03:08 ID:e2rDsERI0
―化け物。
もう何度目か分からないその感想が、敵に対して思い浮かぶ。
だが今回は比喩でも何でもなく、本当に同じ生き物なのか、という恐怖からくるものであった。
先ほどまでの高揚感が嘘のように、冷たいものが背筋に走る。
从; ゚∀从「くっ......あぁっ!!」
その恐怖から、化物から自分を遠ざけるように目の前の敵に攻撃を叩きつけ、吹き飛ばす。
近距離から叩き込まれる爆炎に、耐えられるはずもない。
その身体を焼き尽くすように炎が包み、また衝撃に吹き飛ばされる。
その衝撃に、頭を覆うように被られていた装備も吹き飛んでいく。
そして、彼女は見た。
从; ゚∀从「あ?」
その倒れゆくものが、何なのか。
从; ゚∀从「にんげ、ん?」
287
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:03:55 ID:e2rDsERI0
何故、ここに人間がいるのか。
そんな疑問が頭に浮かんだその瞬間であった。
从; ゚∀从「......あ?」
刹那、反転。
世界がぐるりと、廻る。
地を着いていたはずの足は宙を舞う。
どちらが上で、どちらが下か。
どちらが天で、どちらが地か。
グニャリと歪んだ世界。
一瞬、すっと血の気が引いたように寒気がし、意識が遠くなったかと思えば、ドン、と強い衝撃に引き戻される。
ぼやける意識の中、必死に状況を整理しようとぐちゃぐちゃになる頭を回し、考える。
土の味。
血の匂い。
顔面を流れる、何か。
身体が地面を感じていることで、ようやく自分が地に伏しているのだと、ハインは気がつく。
288
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:05:14 ID:e2rDsERI0
だから、立ち上がろうとするもおかしい。
立ち上がれない。
立たなければ、死んでしまう。
早く、立たなければ。
足を動かさなくては。
だが、おかしい。
足の感覚がない。
ちゃんと足はある。
ちゃんと目の前に。
千切れた彼女の、血塗れの足が。
从; ∀从「......」
一体、敵はどんな魔法を使っているのか。
あれだけの広範囲にいたはずの兵士達全てを覆うような爆発。
多くの命が土と混ざりあう。
先ほどまでの光景を地獄というのなら、今シラネーヨの目前に広がる光景は何と呼べばよいのか。
あれほど勢いのあった味方は一瞬で、虫の息である。
もう何度目か分からない、受け入れがたい現実が、そこにある。
289
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:06:56 ID:e2rDsERI0
上空を見れば、先ほどの攻撃の主であろう、異常な速さで飛ぶ何かがあった。
恐らくは、敵の援軍。
尽きていたと思われる爆発攻撃が再開され、地上、そして海上の生き残り達に攻撃が加えられていく。
(; ´ー`)「......まさか、こんなことが」
逃げていたのではなく、援軍を待つための時間稼ぎ。
さらにこちらを陣地内に誘いこんで、殺到したところを一網打尽にする作戦。
確かにシラネーヨが想定していた敵の作戦、と言えるものである。
とはいえ、まさか自分の陣地ごと、数は多くはないとはいえ味方諸共吹き飛ばすとは想像出来るはずもなかった。
明らかに捨て身の作戦。
だが、その効果は絶大である。
敵は火力だけではない、戦い慣れている、兵士であった。
それも、自分の命を掛けることのできる勇敢なものであった。
敵が圧倒的な火力を持つことは分かっていたはずである。
その上で突撃という作戦を考え、それが最善であるはずであった。
290
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:09:03 ID:e2rDsERI0
だが自身の経験と知識、そして常識からこのような攻撃を想定していなかった。
出来るはずがなかった。
あれほどまでに強力な敵が、ここまでするほどに追い込まれていたとは考えられるはずもなく、そしてここまで命をかけてくるなど。
まるで国家の危機に追い込まれたかのように敵が捨て身になるなど、このような僻地の戦場で起こるなど誰が予想できようか。
( ´ー`)「その報いが、これか......」
まさか敵を知らないことが、こんなことになるとは。
そんな悔しさに血が出るほど手を握りしめ、悔やむ。
だがもう遅い。
既に終わってしまったのだ。
最早進むことも、戻ることもできない。
数少ない生き残りも、さらに無事と呼べるレベルのものがあとどれだけいるのかといった状態。
自身がまだ、自分の足で立つことの出来ることはまさに奇跡的とも言えるが、それが幸運とは言い難い。
むしろ、この惨状を見せつけられ自身のせいで多くの命が無為に散ったのだとまざまざと見せつけられたかのような気分である。
これならば、あっさりとなにも知ることなく土に混ざって消えていった彼らのように死ねた方が何と幸福であったか。
291
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:11:02 ID:e2rDsERI0
( ´ー`)「ハイン......」
血にまみれた友の名を呼び、彼女を抱き寄せる。
微かに聞こえる呼吸音。
絶望し、歩みを止めそうになる彼であっだが、その音に最後の決心を固める。
( ´ー`)「......せめて」
せめてもの、罪滅ぼしをしなくては。
彼は、死んでも死にきれない。
死んだ仲間達の血を、手で掬う。
そうして、赤に染まった手で顔を、身体を汚し、模様を描く。
禍々しいそれは、怪しく輝くと彼の周りに黒い靄が生まれる。
(# ´ー`)「おおおおおっ!!」
彼は叫んだ。
自分はここにいるぞと。
まだ生きていると証明するかのように。
(# ´ー`)「俺を殺せぇ!!さぁ!!逃げも隠れもせんぞぉぉおおお!!」
その魔法は、死の呪い。
自らが持つ魔法の才を代償に発動するそれは、自分を殺したものを呪う、禁断の魔術の一つである。
292
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:11:31 ID:e2rDsERI0
どうあがいても勝てない。
ならば、これほどの攻撃を生む、大魔術師の一人でも良いから道連れにする。
この魔法を使えばもう二度と、魔法を使うことができなくなるがどうせ死ぬのならば変わらない。
それが、彼に出来る最期のことであった。
(# ´ー`)「さぁ来い!化物共!!」
辺りに散らばる死体の山の中、彼は吠え、駆け出す。
たった一人の突撃。
これがムーにおける、ルナイファ最期の攻撃となった。
293
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:12:00 ID:e2rDsERI0
続く
294
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 22:25:09 ID:gdcH8vsU0
乙
295
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 22:59:50 ID:oh2rS/dQ0
乙
296
:
名無しさん
:2023/06/18(日) 19:13:40 ID:GW7g0PUQ0
乙
ああ…二人とも…
297
:
名無しさん
:2023/06/19(月) 13:17:53 ID:7EjT/o6s0
おつおつ
前線の兵はかわいそうだけど正直人間側応援してしまう
298
:
名無しさん
:2023/06/20(火) 01:46:25 ID:jlOMxIag0
シラネーヨ、熱い漢だ
299
:
名無しさん
:2023/06/23(金) 13:31:32 ID:6CLW389s0
乙乙
ルナイファでも現場は応援したいんだが、上がね……
300
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:03:44 ID:BT2yeVcI0
ルナイファ帝国 会議室
1463 年11月29日
(;´・_ゝ・`)「それでは、現時点で判明していることを説明いたします」
重苦しい空気の中、デミタスはそう切り出した。
会議に参加しているのは軍務省や軍人のトップクラス、また有力な魔術師ばかりである。
錚々たる顔ぶれであり普段であればその力の大きさから誰もが自信に満ちた顔をしていたものだが、現在その顔のほとんどが青を通り越して死人のように真っ白である。
(;´・_ゝ・`)「なお、本会議に関する情報は外部に決して漏らさぬよう、お願い致します。また、お配りした記録魔石に関しても会議終了と共に全て記録が破棄されます」
震える手でデミタスはこれまでに集められた情報の詰まっている記録用魔石を弄る。
すると空中に文字と地図が浮かび上がった。
301
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:04:47 ID:BT2yeVcI0
(;´・_ゝ・`)「では説明を始めさせていただきます。まず去る11月19日、この日に我が国はムーを占拠する敵勢力に対し、正式な宣戦布告をし、同日近海まで近づいていた部隊にムー奪還を指示しました」
デミタスは浮かび上がった地図を指差し、艦隊の動きを説明する。
ここまでに関しては現在、この会議室に誰もが知っていることである。
そう、ここまでは問題ではないのだ。
(;´・_ゝ・`)「そして、20日。ムー間近まで近づいた艦隊に対し、敵の攻撃が放たれます」
( ФωФ)「......攻撃の規模は?」
(;´・_ゝ・`)「密度は薄いものの......威力、速力ともに凄まじいものであり......属国軍程度の魔壁では一撃すら耐えられないものとのことです」
(*゚ー゚)「あの、すみません。魔壁で耐えられない攻撃となるとそれは雷槍、ということですか?」
(;´・_ゝ・`)「いえ......異なるもののようです。操作魔法がかかったかのように追尾してくるのに雷槍のごとく早い光、による攻撃であったとのことです」
その言葉に、会議室が一気に騒がしくなる。
魔壁を突破するとなると、通常は命中率を高めて複数の攻撃により魔力を地道に削るか、雷槍のように命中率を捨てて一点特化した兵器を用いて貫通するかの二択である。
302
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:05:47 ID:BT2yeVcI0
だが敵は、それとは違う第三の選択肢を取ってきたのだ。
そしてそれは、攻撃力、そして命中率共に高いという反則レベルの代物。
聞いた情報が正しければ自分達の知るどの攻撃魔法よりも優れている。
それも、遥かにである。
自国を最強と信じるもの達にとって、これほどの力の差があるということを受け入れるのは、非常に難しいことであった。
(;´・_ゝ・`)「報告を続けさせていただきます。敵の攻撃の前にこちらは成す術がなかったとのこと......そもそも敵を見つけることが出来なかった、との報告があり、常識を超えた射程を持っている可能性が高いです」
(; ФωФ)「......うーむ。報告を読むと本隊の魔壁でも防げない攻撃があったとあるがこれは?」
(;´・_ゝ・`)「はい......多くの攻撃は爆発前に光が見えた、と証言があったのですが、その光すら見えない攻撃であり、予測すらも出来ない、との、ことです......」
(; ФωФ)「なんという......」
303
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:06:43 ID:BT2yeVcI0
さらには常識を遥かに超える超兵器まで、敵は実用化している。
重苦しい空気であった会議室内の空気はさらに、重く冷たいものとなる。
もしこれが本当なのだとしたら。
防ぐ手段がないどころか、攻撃方法も不明のため、対策を考えることすら出来ないのだ。
すなわち、今後海で行動するにあたってとてつもないリスクと恐怖を負わなくてはならなくなる。
安全な航路をどうやっても確保できず、実質的に制海権を確保することが不可能ということになる。
広大な土地を持ち、それに伴い広範囲に広がる領海を支配する、また海を挟んでの植民地を持つルナイファにとってそれは、致命的と言えた。
304
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:07:39 ID:BT2yeVcI0
(;´・_ゝ・`)「そして......最終的には派遣した艦隊はとてつもない被害が出ており、現時点で無事が確認できているものは撤退した38隻のみ、となっております」
(; ´_ゝ`)「失礼。その......その他は?」
一人の軍人、アニジャが手を挙げ質問した。
その質問にデミタスはさらに汗を流し、答える。
(;´・_ゝ・`)「敵の攻撃の前に沈むか......もしくは航行不能となったと見られます。また撤退してきた艦も完全に無事というわけでなく、多くがもう戦線に戻すことはできないような状態です」
(; ´_ゝ`)「......」
(;*゚ー゚)「......」
(; ФωФ)「......」
唖然。
あまりの被害の大きさに声を出すことが出来ない。
そんな中、アニジャの弟であるオトジャが続けて質問をする。
(´<_` ;)「......それで、敵の損害は?」
(;´・_ゝ・`)「まず海戦については、正確な数は不明です。情報が混乱しており現在精査中ですので......ただ、報告では全く被害を与えていない、というものから数隻に被害を与えた、というものまでありますが......」
(; ФωФ)「?」
305
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:08:33 ID:BT2yeVcI0
(;´・_ゝ・`)「......多くの情報を纏めると恐らく全く被害を与えられていない、と思われます。多くても数隻、最悪一隻も沈めることが出来なかった、と......大敗したと見て、間違いないでしょう」
(;*゚ー゚)「そんな......」
(;´・_ゝ・`)「ただし、陸ではある程度の損害を与えたと思われます。ですがこちらも、敵の捨て身覚悟の攻撃により、上陸部隊は全滅。ムーの奪還どころか、上陸地点の維持も出来なかったことから、戦略的に敗北と言えるでしょう」
既にルナイファは国家の1/3以上の艦を動かしている。
それが、敵を撃滅するどころかこの世から消え去ったというのだ。
さらに送り込んだ陸上部隊も叩き潰され、反撃の糸口も失われた。
そして何より、個人の才が重要な魔法において多くの人材を失うことの被害の大きさは計り知れない。
お伽噺に出てくる、悪魔が可愛く見えるほどの大惨事である。
これほどの被害を一度に受けるなど、国家の危機と言い換えても良いほどの被害であった。
306
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:09:43 ID:BT2yeVcI0
( ^Д^)「......それで?」
(;´・_ゝ・`)「は?」
だが、そんな現実を理解できない者も、少なからず存在していた。
信じられないことに、という注釈が付くが。
(# ^Д^)「は、ではない!それで、どうするというのだ!!奴ら、人間にやられ、雁首揃えて項垂れて......それでも貴様ら、ルナイファのエルフか!!敵は人間!!すぐにでも再攻撃を行い、敵を叩き潰す!ただそれだけであろう!!簡単なことではないか!!」
(;´・_ゝ・`)「それは......」
開いた口が塞がらないとはまさにことことか。
あまりの現実の見えて無さに、デミタスは頭痛を覚えるほどである。
そしてなにより、こんなバカげた発言に同調し、頷くものが何人もいるのだ。
人間に負ける、それが信じられずまた受け入れることが簡単に出来ないことはデミタスも理解は出来る。
だが、だからといってここまでバカげた妄想を続けることが出来るとは―
307
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:10:23 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「プギャー閣下。はっきりと、申し上げます」
( ^Д^)「......なんだ?」
(´・_ゝ・`)「我が国は、既にムーを奪い返す力はありません。もうその段階にはないのです。今出来るのは、いかに被害を抑え、負けないか、ということです」
(# ^Д^)「なっ......そ、そんなことあり得るわけないだろう!!まだ、艦隊は多数残っているではないか!!それを使えば良いだろう!!」
(´・_ゝ・`)「確かに......残ってはいます。しかし、我が国の本土の防衛を考えるとそう多くは出せません。敵は強大であり、かなりの数の艦がなければ妨害にすらならないと思われます。さらに東方海域については、今回の件に関わっている可能性があり、またそうでなくても敵対関係にあるソーサクが存在しています。こちらからの戦力抽出はほぼ不可能です」
(# ^Д^)「......」
308
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:11:23 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「そしてその他、西からの戦力を抽出したとしても......今回派遣した戦力以下のものしか用意できません。今回ですら被害を与えられなかったというのにそれ以下の戦力では、同じ結末になる可能性が高く、敵の資源を消費させることしかできません」
( ´_ゝ`)「そもそも再度大規模攻撃を行うには部隊の再編のため最低でも数ヶ月、準備が必要でしょうから......そうなると敵も準備をするでしょうし、敵が資源が豊富なムーで補給が可能となった今、資源の枯渇も望めないかもしれません」
(´<_` )「付け加えるなら、魔術師についても問題ですね。艦を動かせる優秀な魔術師が多く失われた今、簡単に補充出来ません。どう足掻いても戦力は低下してしまいます。そんな状況ではどうやっても勝てますまい」
(# ^Д^)「......ぐ」
ここぞとばかりにアニジャ達が追撃をする。
彼等、軍人にとって今後戦うかもしれない敵は、強大すぎるのだ。
そんなものに誤った知識のまま無駄に突撃させられては堪らないと言葉をぶつける。
そんな突然の口撃に、流石のプギャーも言葉を詰まらせる。
309
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:12:37 ID:BT2yeVcI0
その様子をデミタスは見て、内心助かったと感じながら話を続ける。
(´・_ゝ・`)「さらに言うなら、今回の派遣で属国軍が持つ戦力を削られたのが痛すぎました。既に南方の属国で派遣できる戦力は残っておらず......また敗戦により他の国でも我が国への不信感が高まっており、今後の要請に影響が出る恐れがあります。未確認ですが既に離反するような動きが見られる国家もある、と」
( ФωФ)「そうか......周辺国から数を揃えて敵にぶつけ、時間を稼ぐことも難しい、というわけか」
あまりに厳しい現状にロマネスクは顔を歪める。
元々、力により多くの国を支配してきたルナイファにとって、敗北の影響はあまりに大きい。
力が大きすぎたが故の適当な外交、という名の暴力に頼ってきたツケが回ってきてしまったのだ。
(´・_ゝ・`)「そうなります。とはいえ、なにもしない訳にはいかないでしょう」
( ´_ゝ`)「......策があるということですか?」
310
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:13:23 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「はい。まず、前提として敵はムーを占拠し、食料などの物資を運び出し、また逆に武器と思われるものなどが運び込まれているとの情報があります」
( ФωФ)「ふむ......」
(´・_ゝ・`)「この際、大型の船舶が用いられているとのこと。技術体系が異なるため確定ではありませんが、やはり海を挟んでの土地のため物資の輸送が必要なようです。そこでこれを狙います」
( ФωФ)「通商破壊を仕掛けるのか」
(´・_ゝ・`)「はい、敵の輸送を止めることができればまだ巻き返すことが可能かと」
(;*゚ー゚)「......本当に、可能なのでしょうか?あの、海戦で勝てるとは......その」
恐る恐る、といった雰囲気でシイは質問をする。
先ほどの話で、ルナイファが敵に対して海にて優位性は全くといっていいほどないのだ。
海上で戦いを仕掛け、勝てる見込みがあるとは思えなかったのである。
311
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:14:06 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「えぇ、私も同感です。まず、勝てないでしょう」
そして、それをあっさりとデミタスも同意した。
その言葉に皆、ぽかんとした顔となる。
(; ФωФ)「......ど、どういうことであるか?」
(´・_ゝ・`)「あくまでも、敵船舶に攻撃が出来れば御の字、ということです」
(´<_` )「......撃沈が目的ではない、ということでしょうか?」
(´・_ゝ・`)「その通りです」
デミタスは大きく頷き、話を続ける。
(´・_ゝ・`)「こちらから攻撃を仕掛ければ、敵は輸送船舶の安全ために護送船団......つまり、護衛をつけるようになるはずです」
( ФωФ)「それは分かるが......それが?」
312
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:15:03 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「つまり、輸送コストが増える、ということです。召喚という災害を受けた今、資源問題は奴らにとって痛い問題であるはず。敵の保有艦数によっては輸送量に制限が掛けられるかもしれません」
( ФωФ)「なるほど、な......だが、つまり......敵の資源の消費を増やすために、艦と命をかける、と」
(´・_ゝ・`)「......はい。ただし少数でも定期的に仕掛ければ、再度の攻撃を警戒をするはずです。そうなれば、攻撃を仕掛けなくても輸送に護衛を付けざるをえなくなります」
(; ФωФ)「......やらないよりかは、マシ、と言ったところか」
( ´_ゝ`)「ですが、敵をフリーハンドにするわけにもいかないと考えると......」
(´<_` )「やらないといけない、といった方がいいかもしれませんね」
命を賭けてもその程度しか得ることが出来ない。
コストに対してリターンが少なすぎる。
だが、現在この案以上にリターンが得られる画期的な作戦も思い付かない。
313
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:16:01 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「えぇ。幸い、こちらには艦はまだあります。それも、旧式の退役予定のもが。これを使い、少しでも時間を稼ぎつつ、守りを固め、敵の情報を集める......この方針で進めるのが良いかと」
(# ^Д^)「......ふざけるな!!やり返すどころか、守りを固める!?さらにはそのような屈辱的な作戦を......」
(´・_ゝ・`)「お気持ちは分かります。ですが、他にすぐ出来ることもないのです」
(# ^Д^)「......」
(´・_ゝ・`)「攻めるよりは守る方が、簡単です。数さえ揃えれば、本土を守りきれるはずです」
(; ФωФ)「......本土が、危ないというのか」
(´・_ゝ・`)「宣戦布告をし、こちらから攻撃をした以上......反撃がない方がおかしいかと思われます。可能性としては非常に高いかと。とはいえ少なからず、敵にもダメージは与えられています。若干の猶予はあるのではないか、と思いますが」
本土という言葉に、また会議室が騒がしくなる。
これまで敵に侵略を受けることのなかった自国の土地に、危機が迫っている。
それも人間の土足により、踏み荒らされそうとなっているというのだ。
現実が見れていない者たちも、その言葉にようやく顔を青くし始める。
314
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:16:39 ID:BT2yeVcI0
(# ^Д^)「......ふん」
ただ、それでも納得をしていなかった男もいた。
デミタスを睨み付けてもなにも変わらないというのに、怒りのままに視線を向ける。
そんな視線をまるで気づかないかのように、無視しデミタスは話を続ける。
(´・_ゝ・`)「また、この守りを固めるに当たってですがトウキュにいる学徒を本土まで引き上げさせる予定です。彼らへ被害が出た場合、国全体の士気に関わります」
( ФωФ)「確かに学徒は引き上げた方が良いとは思うが......人員を減らして大丈夫なのであるか?トウキュの防衛はどうなる?」
(´・_ゝ・`)「防衛に関して言えば学徒がいなくなっても影響はないでしょう。またトウキュ防衛は援軍を送ろうにも、国を守りきれるほどの大部隊は間に合いませんし、そもそもそんなものを送り込む余裕はありません。そして、今いる部隊では守りきることは不可能と思われます。敵の攻撃はムーに行われたものから考えて、広範囲を吹き飛ばすことが可能なようです。ムーと同じくトウキュの基地は1箇所に集中した大規模基地のみですから、ここに同様の攻撃が加わるだけで防衛は崩壊します」
( ФωФ)「とはいえ、今から配置を変えることは......」
(´・_ゝ・`)「えぇ、時間が足りません。基地は動かせませんから。出来ることとしたら、人員を各地に散らしてのゲリラ戦くらいでしょうか」
時間稼ぎにしかならないでしょうが、とデミタスは続ける。
打つ手がないと同じ意味の言葉を話す彼に、多くの者がうつむき、頭を抱える。
だがそれでも、何とか現状が打破できないかと考える。
315
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:17:34 ID:BT2yeVcI0
(*゚ー゚)「......あの、基地の防衛なのですが魔壁でどうにか、ならないでしょうか。その、基地を覆うようにできる、はずですよね?」
(´・_ゝ・`)「確かに対ワイバーン用にその様な魔法陣は存在します。ですが、ワイバーンを想定しているため、あの規模の攻撃はかなり厳しいです。発動できれば多少は耐えることが可能でしょうが、不意打ちで初撃を加えられた場合はどうしようもないですね。常に魔壁を使用することも資源の都合上、できませんから」
(*゚ー゚)「なるほど......確かに、そうですね。失礼しました」
(´・_ゝ・`)「いえ、このような状況です。これまでの戦い方では勝てません。様々な意見を検討する必要があります。このため、他の方も何か思い付いた場合はご意見をお願いいたします」
( ФωФ)「では、我輩から。先日より行っていることであるが、敵に対抗すべく新魔法の開発を......」
( ^Д^)「......」
その後も、夜遅くまで会議は続いたが現状を打破できるような案は出てこない。
ただただ会議は躍り、無為に時間だけが進んでいく。
そうして結局、何人かの不満を残したままデミタスの案が採用されることとなったのだった。
316
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:18:57 ID:BT2yeVcI0
ルナイファ帝国 帝城 寝室
会議室で多くのものが話し合う中、アラマキは一人寝室でベッドに腰掛け、頭を抱えていた。
普段であれば最強の国に相応しい堂々たる雰囲気を纏わせている彼であるが、今はどこにでもいるような老人のような弱々しさであった。
/ ,' 3「......」
なぜ、こんなことに。
そんな思いに体を震わせる。
全て上手くいくはずであった。
異界から国を呼び出し、それを制圧することでより強固な国を作り上げる。
そうしてこの世界の覇者として、これまで通り進んでいく。
そう、なるはずであった。
当然、成功するはずだったのだ。
317
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:19:38 ID:BT2yeVcI0
だが、蓋を開けてみれば敗北に次ぐ敗北。
何もかもが上手くいっていない。
間違いなく最強であった自国がこのようなことになるなど、いったい誰が想像できようか。
そしてもし、そんなことが分かっていたら異界から国など呼び出さなかったというのに―
そんな今更どうしようもないような後悔が、拭っても拭っても沸き上がる。
/ ,' 3「......いや」
だがしかしと、冷静に考えてみればそもそも初めに軍が負けたとき、あのときにしっかりと考えていればこんなことにならなかったのではないか、とこれまた今更な考えが浮かぶ。
考えてみれば当たり前のことのように感じられるが、あの当時のアラマキに言ったところで聞くことはなかったであろう。
318
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:20:12 ID:BT2yeVcI0
アラマキは自国に油断も隙もあったことは知っていた。
王として国を纏めあげるため、多くのもの達を見てきている。
だからこそ、この国に腐りつつある者達がいることも分かっていた。
しかし、その者達は貴族などの有力なコネであったりなにかしらの影響力があるため、無闇に突っぱねることもできなかった。
いい例がプギャーである。
彼自身は無能ではあるものの、非常に多くのコネクションを持っており、そしてそれを動かせる影響力を持っている。
ゆえに、彼が離反などすればそれこそ悪影響なためにどうすることもできなくなっていた。
とはいえ、そんな無能がいても国は回るほどに力があったため、そこまで問題視はしていなかった。
慢心。
まさにその通りであろう。
319
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:21:08 ID:BT2yeVcI0
だからこそ、初めの敗北はその慢心をつかれたものと考えていた。
そのしっぺ返しが遂に来てしまったのだと自分の愚かさに嘆きながらも、まだこちらは本気ではなかったために、何とかなるだろうと確信していた。
何故ならルナイファはこの世界で最強なのだから、最強の国が負けるはずなどないのだから、人間相手に本気になれば絶対に勝てるのだから、と。
考えなくてはいけないことから、逃げる理由が見つかってしまったがゆえに、可能性を見落とした。
とんでもない、見落としである。
敵が自分達よりも強いかもしれないという、至極単純な可能性を、見落としてしまったのだから。
/ ,' 3「とはいえ、どうすればよいのだ......」
単純に考えるならば、講和が望ましいだろう。
力で負けている以上、このまま戦えば多くの被害が出てしまう。
更に軍人という、ある程度若くそして魔法の才あるものが多く失われれば、近い将来に暗いものを残すことになる。
320
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:21:51 ID:BT2yeVcI0
とはいえ、こちらは一度敵の提案を断るどころか、宣戦布告までしてしまっている。
更に敵から見ればこちらは国家を召喚した憎むべき相手。
そして圧倒的ともいえるこの戦況から考えるならば、講和しようにもとんでもない条件をつけられるか、そもそも鼻で笑い飛ばされ、国を滅ぼしにくるかのどちらかだろう。
そんな話を纏められるほどの人材が、果たして自国にいるのだろうか。
外交を蔑ろにしてきたことによる圧倒的な外交官のスキル不足。
それが、ここで大きくのしかかってくる。
またもし、講和が出来たとしても召喚された人間達をよく知らない周辺国からすれば、人間に頭を下げる国として心証を悪くすることは目に見えている。
あれほど強くても、未だ当事者であるルナイファの中にも現実を見れていないものが多くいるのだ。
遠くの無関係の他国であれば、尚更であろう。
321
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:22:56 ID:BT2yeVcI0
ただでさえ敵を作りすぎているのに、そのようなことになれば疲弊した国へ新たな敵が雪崩れ込んできてもおかしくない。
そんなことになっても負けはしないだろうが、多くのものを失いすぎた今だと国家として崩壊しかねない。
/ ,' 3「......」
そうなると、やはり考えるのは勝利。
とはいえ、高望みはしない。
局地戦だけでもいいのだ。
どこかで敵を退け、戦線が膠着したところで話し合いになれば、まだ良い条件を引き出すことが出来る可能性が高い。
―退けられる可能性が高いかは、また別の話なのだが。
そんなことはアラマキにも分かっているし、だからこそ頭を抱えることしか出来ない。
/ ,' 3「......どうすれば」
もうどうすれば良いか分からないと、頭を掻きむしり、ベッドにうずくまる。
こんな姿、決して誰かに見せることはできない。
そしてこの悩みも、打ち明けることなどできない。
弱々しい姿を見せるわけにはいかないのだ。
彼はこの国、最強の国ルナイファの、帝王なのだから。
322
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:23:50 ID:BT2yeVcI0
トウキュ王国
1463年12月1日
ξ゚⊿゚)ξ「......」
この日、トウキュから離れるいくつかの船があった。
その船には多くの子供が載せられていた。
ξ゚⊿゚)ξ「......はぁ」
そのうちの一人であるツンは、小さくため息をつく。
思い出すのはつい先ほどのこと。
学徒動員にて集められた子供達が、広場に集められたかと思うと、一人の兵がこう述べたのだ。
『君たちは本国の部隊に配置転換となった。急だがこれより、移動を開始してもらう』
いきなりの発表に、集められた皆がざわついていた。
それもそのはずである。
元々本国に人が足りるからとこちらに来ていたはずなのだ。
これから制圧する地域の安全が確保できたら向かう、それが当初の予定であったはずなのだ。
323
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:24:37 ID:BT2yeVcI0
それが、急に国へ帰る?
突然の方向転換に皆、戸惑いを隠せない。
そもそも最近の軍の動きがおかしいと、何人かの学徒は感じていた。
通常ではあり得ない規模の艦隊が動き、またそれに伴い、多くの兵が走り回っていた。
何かがあったのではないか、とまことしやかに囁かれ、若干の不安が生まれ初めていたところに、今回のこの発表。
多くの学徒は本国に帰れると喜んでいたが、ツンはそうではなかった。
何かおかしい。
それが何かは、彼女にはわからなかったが決して消せない小さな不安が生まれていたのだ。
324
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:25:09 ID:BT2yeVcI0
ξ゚⊿゚)ξ「......まあ、いいか」
とはいえ、自分が何を悩んでも変わらない。
だから気分を入れ替え、帰れることを喜ぼう。
そう彼女は考え、離れていくトウキュを眺める。
小さくぼやけていくその島国は、いい場所であった。
港の活気もただそこにいるだけで楽しかったし、海も綺麗であり、夕日の沈む景色はまさに絶景。
次に訪れるとしたら、このような仕事ではなく、皆との旅行で来たい―
本国にいる、友人達の顔を思い浮かべ、小さく笑う。
折角帰れるのだから時間を見つけて、皆と会いたい、そして今の話をしようか。
そんな小さな楽しみで胸を膨らませ、気がつけば不安は消えていたのだった。
325
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:25:32 ID:BT2yeVcI0
続く
326
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 16:07:34 ID:pLAY8uzA0
乙
327
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 17:12:13 ID:.pjEkWbM0
乙乙
いつまでも戦争してないで落とし所を探したいってのはわかる
328
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:03:16 ID:0AQH8Zu20
ルナイファ帝国 軍務省
1463 年12月12日
この日もプギャーは一人、苛立ちを隠せずにいた。
思い出すのは数日前に行われた会議。
この国の行く末を決めるそれは、終始無能な輩の弱気どころか売国とも言える行為で幕を閉じた―
少なくとも彼の中ではそうなっている。
(# ^Д^)「奴らめ......人間ごときに!!エルフの、ルナイファの誇りは何処へ行ったんだ!!」
世界を征服し、一つにまとめ、全てを統率するためにルナイファは存在しているのだ。
それが、どういうことか。
奴らは弱小とも言える人間に怯え、不遜にも我々に反逆をしたと言うのにやり返すどころか、亀のように引きこもると言い始めたのだ!!
もうこの国にまともなのは、自分だけなのではないか。
そんな不安が、プギャーの脳裏によぎる。
329
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:04:21 ID:0AQH8Zu20
( ^Д^)「......しかし、まだ良かった方か」
そう呟き、机の上に置かれた魔信を手に取る。
会議の前日、この魔信に一つの連絡が入った。
その送り元は、ムー。
以前にもあった、講和に関する連絡が再度届けられたのだ。
そして、何たる幸運か。
それを聞いたのは自分だけだった。
もし奴らが、あの無能で臆病で態度だけがでかく、ろくな作戦も建てられない奴らがこれを聞いていたら。
考えただけでもプギャーは恐ろしくなる。
下手をすれば、我が国は世界の頂点に立つどころか、人間に頭を垂れ平伏することになっていたかもしれないのだ。
それを防いだ自分は、この国の救世主と言えるだろう。
330
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:05:20 ID:0AQH8Zu20
( ^Д^)「とりあえずこれは握り潰すとして......こちらでも動かなくてはな」
この連絡については、国のために握り潰す。
誰にも聞かせてはならないと心に決め、彼は行動を開始する。
周りの無能には任せられない。
自分が国を救うのだと。
愛するこの国、ルナイファのために。
幸い、彼は優秀な人脈を持っている。
その人脈のお陰でこの立場にあるといっても過言ではない。
だから、動くことすら出来ない無能とは彼は違う。
彼は、動くことが出来るのだ。
( ^Д^)「まずは......こいつらか」
そうして彼は連絡をする。
彼の信頼する、国を愛する仲間達に。
彼は彼の考える、彼の愛する国のために、動き始めたのだった。
331
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:05:49 ID:0AQH8Zu20
アリベシ法書国 旧国境付近
1463 年12月16日
どうして、こんなことに。
一人の男がそんな思いを抱きつつ、森の中を走る。
自分が何処にいるかも分かっていない。
だが、今止まれば死んでしまうのではないか―
そんな強迫観念にかられ、もう息があがり、足がボロボロになっても止まることができなかった。
少し前まで、無敵であったはずの我が軍。
それが敵国ヴィップへ侵攻し、順調に領土を広げていたはずであった。
それが、何時からか。
敗北に次ぐ敗北。
まるで、ルナイファの支援が始まる前の自国に戻ったかのようであった。
332
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:06:10 ID:0AQH8Zu20
いや、実際はそれよりも酷いだろう。
あれだけあった大量の物資や兵器は気がつけば送られてこなくなり、広範囲に進軍していたアリベシの軍勢は補給が追い付かなくなっていた。
そうして、ただそこにいるだけの案山子と化したモララー達は当然のことのように敵軍にやられ、逃げることしかできなくなったのだ。
快進撃の仕返しと言わんばかりの敵の攻撃に、進軍したとき以上の速度で領土が奪い返されていく。
気付けばまた、モララーの故郷であったこの土地まで押し返されている。
そしてここにももう、敵と戦う力は残されていない。
(; ・∀・)「なんで......なんで......」
その疑問に答える者は誰もいない。
否、正確にはモララーの周りにもう誰もいないのだ。
皆、死ぬかはぐれてしまい、軍としての体面すら保てていない状態である。
(; ・∀・)「......助けて......」
そう、ポツリと彼は祈るように呟いた。
それが神に対してか、もしくはルナイファに対してかは彼にも分からなかった。
333
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:06:47 ID:0AQH8Zu20
ルナイファ帝国 南方港
1464年1月18日
爪'ー`)「またずいぶん増えてきたなぁ」
彼、フォックスは港の艦を眺めつつそう呟く。
ほんの少し前も、出撃のためにと多くの艦がひしめきあっていた。
それがいなくなりしばらく寂しくなるかと思いきやこの様子である。
前回の出撃も合わせるとこの国の大半の艦がここ、南方に集まってるのでは?
そんな風に感じられるほどの量である。
爪'ー`)「しかし、なんでだ?」
確かに、南方に召喚地が現れたのは知っている。
だが、その他に敵となるような国はない。
だというのに、ここまでの軍を用意する理由は何なのか。
334
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:07:36 ID:0AQH8Zu20
特に最近の軍の動きについての情報は少ない。
召喚地についてもどんな土地か、どのくらいの広さなのかなどもわからずじまいである。
出元の怪しい噂ならいくつもあるが、『神の国が現れた』だの『悪魔が現れたらしい』だの最早検討する価値もないようなものまで出回っている。
(゚、゚トソン「暇なの?フォックス」
そんなことをぼんやり考えていると、急に背後から声をかけられる。
気さくに話しかけてくる彼女に、彼は見覚えがあった。
爪'ー`)「ん?あぁ、トソンさん。そうか、こっちに来てたんですね」
(゚、゚トソン「えぇ、急に南方の警備にあたることになってね。それでボーッとなにしてるの?暇なの?」
爪'ー`)「あー暇、ちゃあ暇かな?」
(゚、゚トソン「なにそれ?」
335
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:08:07 ID:0AQH8Zu20
爪'ー`)「いやほら、今度は何のため艦隊が来たんだろうなぁ、って考え事しててさ。ある意味では忙しい、考え続けたせいで頭がボーッとしてあくひが止まらない」
(゚、゚トソン「暇なんじゃない」
爪'ー`)「まぁ......でも、さ。普通じゃないだろ、これ」
(゚、゚トソン「それは確かにね」
爪'ー`)「なにか聞いたりは?」
(゚、゚トソン「全くね。上に聞いても、なにも答えてくれない......というより、知らないようだし。今回の任務も防衛のためとしか聞いてない、期限も不明だもの」
爪;'ー`)「マジか......そりゃ、俺の耳に入らないわけだ。うーむ」
(゚、゚トソン「それで?眺めてて何か分かったの?」
爪'ー`)「なにも分からないことは分かったぞ」
(゚、゚;トソン「あほくさ......」
爪'ー`)「あ、でも......あれだ。今回の任務がめちゃくちゃ大切なことなのは分かるぞ」
(゚、゚トソン「ん?なんでよ」
爪'ー`)「そりゃ......あー」
336
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:08:53 ID:0AQH8Zu20
ふと思い出した、ロマネスクとのやりとりを口にしようとし、止める。
あの大魔術師が来るほど、今回の事象は大切なことであり、また口止めもされているのだ。
そのためフォックスは口に出そうになった言葉を飲み込み、適当にはぐらかす。
爪'ー`)「勘、かなぁ」
(゚、゚トソン「期待して損したわ」
爪;'ー`)「ひ、ひどいなぁ」
(゚、゚トソン「でも、まぁ......大切だってことは間違えなさそうよ」
爪'ー`)「ん?」
(゚、゚トソン「私達の他に、サスガ兄弟とか有名どころが動くみたいよ。デミタス様も動いているって噂もあるし」
爪;'ー`)「マジか?全部マジならそりゃ......ヤバいな」
(゚、゚トソン「そうよねぇ」
337
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:09:28 ID:0AQH8Zu20
有名な魔術師に加え軍のトップまで動いている。
敵などいないはずであった南方にここまでするなど本来あり得ない。
これまでも多くの艦や魔術師がここに集まり出撃していったのに、まだ足りないということなのか。
そんな敵が、いるというのか。
爪;'ー`)「......この国の主力ほとんどが集まってくるんじゃないか?」
(゚、゚トソン「それだけヤバいなにか、がいるってことじゃない?」
爪;'ー`)「......トソン」
(゚、゚トソン「なに?」
爪;'ー`)「死ぬなよ」
(゚、゚トソン「......」
急に膨れ上がった不安に、フォックスは思わずその様な言葉がもれる。
それに対し、トソンは何も答えなかった。
ただただ黙り、フォックスを見つめる。
沈黙が、続いていく。
338
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:09:58 ID:0AQH8Zu20
爪'ー`)「......トソン?」
(゚、゚トソン「......フォックス」
爪'ー`)「え?」
(゚、゚トソン「煙草」
爪'ー`)「は?」
(゚、゚トソン「持ってるでしょ?一本頂戴」
爪;'ー`)「え、あ、あぁ......ほら」
-y(゚、゚トソン「ありがと。あんたも吸いなさい。禁煙してるわけじゃないんでしょ?」
爪;'ー`)y‐「あ、あぁ......」
慌てて、煙草を口に加えて炎を灯す。
二つの煙草からゆらゆらと煙が上がり、それを加えた口は再び沈黙する。
何度か、煙をまるで深呼吸をする火のように吸い込み、吐き出す。
339
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:10:34 ID:0AQH8Zu20
それを何度かフォックスが繰り返していると、気がつけばトソンが小さく笑っていることに気がついた。
爪;'ー`)y‐「な、なんだよ」
-y(゚、゚トソン「ちょっとは落ち着いた?」
爪;'ー`)y‐「......」
-y(゚、゚トソン「ま、心配しなくても死ぬ気は無いわよ。それに、あんたに心配されるほど、ヤワなつもりもないわ」
爪'ー`)y‐「......そう、だな」
-y(゚、゚トソン「はい、というわけでこの話は終了ね。ほら、お金」
爪'ー`)y‐「え?あ、煙草代か?払ってくれるのか?」
-y(゚、゚トソン「んなわけないでしょ。相談料」
爪;'ー`)y‐「えぇー......煙草あげたじゃん。というか、これ単にタバコで落ち着いただけなような......」
-y(゚、゚トソン「ちっ。まあ、いいけどね」
舌打ちをしながらも楽しげに笑うトソン。
そんな様子にフォックスは苦笑いしながらも先ほどまでの不安が嘘のようになくなり、また煙を大きく吸い込んだ。
340
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:11:58 ID:0AQH8Zu20
ソーサク連邦 情報戦略室
('A`)「......以上が、現時点までに分かっているムーでの戦いの情報です」
ルナイファがムーでの衝撃で大きく混乱している中、ソーサクでも大きな混乱が生まれていた。
ムーでの衝突前に行われた度重なる情報の精査の結果では、今回の大規模派遣でムーの勢力は叩き潰されるとの予測がされていた。
ドクオを始めとして、何人かが敵の情報から痛みわけや拮抗、もしくはルナイファが撃退されるのではないかという予測をしていたが、人間にルナイファが負けるはずがないと笑って流された。
だが現実はドクオの予想の通り、いや予想以上に一方的にルナイファが敗北したのだ。
たとえ自国、ソーサクが全力で立ち向かっても大損害は免れないその戦力を相手にたったの一度の衝突で全滅に近い被害を与えたのだ。
信じがたく、また理解しがたい。
そんな現象が起きたこともそうだが、それ以上に人間が、人間ごときがその様なことを起こせるということを、信じたくなかった。
341
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:13:42 ID:0AQH8Zu20
ルナイファの敗北は、エルフの根幹とも言える魔法が敗北したと言い換えてもいいかもしれない。
種としてのプライドが、それを許せるはずがない。
(# ´∀`)「......」
特に、ソーサクでは魔法を研究を最も力を入れてきていたのだ。
その魔法技術力の高さがこの国の誇りであるのだ。
魔法に対するプライドの高さはルナイファを越えている。
前の敗北はまだ油断があったから、と無理やり納得できた。
だが今回は言い訳のしようがない。
真っ正面から、いや宣戦布告を引き延ばし、艦隊をムー近くまで寄せてるといつ不意討ちに近いことまでしたのに、負けたのだ。
342
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:14:33 ID:0AQH8Zu20
(# ´∀`)「あり得ない......あり得るわけがない!!」
声を荒げ、怒りに震える。
この国でも上位に位置する魔術師であるモナー。
彼がこれまでの人生で魔法に注ぎ込んできた時間は計り知れないほど。
魔法がこの世の全て、この世の中心であると信じてきたからできたことである。
だからこそ、彼は簡単には現実を受け入れることが出来なかった。
(;'A`)「モナーさん......」
(# ´∀`)「人間が......魔法が使えないものが、これほどっ!こんな、あり得るわけないだろう!!」
(;'A`)「ですが......事実です」
(# ´∀`)「く......まぁ......いい。奴らの情報について何か分かっているのか?」
(;'A`)「はい。どうやら今回の戦い、一方的に見えて人間側もかなり追い込まれていたようです。ムーにおける兵器関連の物資がかなり、枯渇しかけていたとの情報があります」
( ´∀`)「......なに?」
343
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:15:32 ID:0AQH8Zu20
クーからの情報により、ルナイファもかなりの善戦をしていたことが伝えられていた。
確かに冷静になって考えればあのような攻撃が可能な軍勢が、物資が潤沢であるならば敵の上陸など許すはずがない。
さらに言うなら射程外から全て叩き潰せるのだから被害など有りはしないはずであった。
だが、被害が出たという事実。
その事実は非常に大きいものである。
モナーもそれに気が付いたのか、先ほどまでの様子から打って変わり、静かに落ち着いた様子で報告を聞き、先を促す。
('A`)「事実、自陣に誘い込んでの自爆覚悟の攻撃までしていますから。ムーは召喚地にとって資源の供給源であり、一時的にも奪われるわけにはいかなかったため仕方なく、ということと思われます。このような方法をとらざる負えなくなるほどには追い詰められていたようです。ただ、実際どの程度まで追いつめられていたのかは......根本的に技術が異なるため正確に測る方法がなく不明です」
( ´∀`)「ふむ......なるほど」
(;'A`)「また人間達の兵器がどのくらいの時間でどのくらいの量を作ることができ、また輸送できる量も不明なため、今後の予測についても出来ません。概念が異なりすぎて想像すらできません」
344
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:16:54 ID:0AQH8Zu20
魔法であれば、艦などの製造には時間がかかるが、魔法を使うだけならば最悪魔石さえあれば使用者の技量によっては問題なく使用できるため、加工の手間暇など存在しない。
だが、聞けば人間の攻撃には資源があっても何かしらの手を加えなければいけないという情報がこれまたクーより入ってきている。
魔法が常識の彼らにすると何とも不思議な感覚になるが、そういうものなのだろうと納得するしかない。
( ´∀`)「そうか......良い情報だ。物資の件は奴らと戦う際に役に立つな」
(;'A`)「......は?」
信じられない言葉が聞こえ、ドクオは思わず聞き返してしまう。
聞き間違いであることを願いつつ、ドクオは質問を続ける。
(;'A`)「敵、とは?まさか、奴らと、召喚地の人間と戦うと?」
( ´∀`)「当たり前だろう。奴らは、我らエルフ、そして神に仇なす連中だ。いつかは戦わなくてはならない。奴らは世界の敵だ」
(;'A`)「......」
345
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:17:44 ID:0AQH8Zu20
あり得ない。
自国より強い、ルナイファですら勝つことの出来ない国に、なぜ戦いを挑もうと言うのか。
プライドのために、国を滅ぼすというのか―
そんな考えが、ドクオの頭の中をぐるぐると巡る。
そして思い出されるのは、クーからの提案。
人間たちとの同盟。
前まではあり得ないと思っていたが、ルナイファとの戦いを聞き、今ではドクオもその選択が正しいのではないかとも考え始めていた。
だが、目の前の現実に改めて不可能なことなのかもしれないと感じてしまう。
( ´∀`)「......ドクオ、お前の考えていることもわかる」
(;'A`)「え?」
( ´∀`)「確かに、奴ら、異界の人間どもの力は強大だ。悔しいが、現時点で奴らと戦ったところで勝ち目は無いだろう」
('A`)「っ!」
346
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:18:17 ID:0AQH8Zu20
何故それがわかっているのに、敵対しようというのか―
思わずそう叫びたくなる気持ちを抑え、話の続きを促す。
( ´∀`)「だが、奴らは世界の敵なのだ。我々、エルフと相容れるものではない。いつかは、戦う運命にあるのだよ。奴らと......人間とエルフが分かり合うことなど、不可能だ」
('A`)「それは......」
人間と分かり合うことは出来ない。
確かに、それもまた事実なのではないかとドクオも感じる。
そもそも根底にしている技術や住む世界が違い過ぎるがため、常識も全く異なるはずである。
さらにそれらはこちらの命を一方的に奪うことが可能な力を持つのだ。
そんなもの達と、それも国同士で信頼し合うことが出来るのか。
そう聞かれてしまうと、ドクオも簡単に頷くことは出来なかった。
だからと言って、敵対することに納得できるかと言えば、別問題である。
347
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:18:41 ID:0AQH8Zu20
('A`)「......いつかとは、何時になるのでしょうか」
( ´∀`)「少なくともまだまだ先だろうな。それに、戦うと言っても真っ正面から戦うわけではない。工作や情報戦......やりようはある」
('A`)「......」
だが、結局はそんなことをしていてはいつかは正面から敵対することに変わりはない。
確かにいつかは追い付ける日が来るかもしれない。
だが、そこまでして得られるものは何なのか。
ドクオには分からなかった。
( ´∀`)「さらに、ルナイファの雷槍で奴らを倒せることも分かっているんだ。ルナイファを超える、我らの技術でこの魔法の研究を進めていけば、奴らなど......」
モナーの話は続く。
如何に奴らを倒すか、夢物語を。
だが、ただでさえ敵との差がある現状。
その差が簡単には埋められるはずがない。
348
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:19:01 ID:0AQH8Zu20
確かに、簡単に信用できる相手ではない事は理解できる。
ドクオ達、エルフがやってきた事をいつやり返されてもおかしくないのだから不安も大きいだろう。
だからこそ同盟等以ての外で、強力な力を持つ人間達を抑え込むことが自国の平和に繋がるというのは考えとして分からなくもない。
ドクオもそうだが、根底にある不安をそうでもしなければ拭いきれないのだ。
だがルナイファですら勝てない相手に、自国のみではまず間違いなく滅びの道を辿るのみ。
そんな悪夢なようなことが始まろうとしているのではないか。
その事実にドクオはただ、絶望することしか出来なかった。
349
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:19:25 ID:0AQH8Zu20
続く
350
:
訂正
:2023/07/01(土) 14:22:23 ID:0AQH8Zu20
>>344
訂正前
( ´∀`)「当たり前だろう。奴らは、我らエルフ、そして神に仇なす連中だ。いつかは戦わなくてはならない。奴らは世界の敵だ」
訂正後
( ´∀`)「当たり前だろう。我らはエルフであり、奴らは人間、神に仇なす連中だ。いつかは戦わなくてはならない。奴らは世界の敵だ」
351
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 16:11:58 ID:PVvgyI6U0
乙
352
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 17:15:00 ID:BeLF1mRU0
乙
本当に自分勝手な種族だねえ
自分達がしょうかんして
353
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 17:16:53 ID:BeLF1mRU0
ごめん途中で送信しちゃった
召還して奴隷化しようとしなきゃこんなことも起こんなかっただろうに
354
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:32:26 ID:mNrFmToc0
ニータ王国 王城
1464年1月23日
シラヒーゲはこの頃、慢性的に続く頭痛と腹痛に悩まされていた。
原因は分かっている。
ルナイファである。
いずれ来るであろう、彼の国との争い。
それを乗り越えるか、回避するかの方法を模索していたが一向にいい案が見つからない。
ただただ無為に時間だけが過ぎていく。
ルナイファが召喚地に取り組んでいる間にどうにか出来なければこの国の未来はない。
そもそもやろうと思えばあの国であれば、人間との戦争程度は朝飯前みたいなもの。
人間達を征服しつつ、片手間にニータと戦争することも問題なく出来る筈である。
つまり、もういつ攻めいられてもおかしくないはずなのだ。
355
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:33:05 ID:mNrFmToc0
だというのに、全くの無策。
ソーサクとの同盟は予想通り進んでおらず、アリベシとヴィップは互いの争いで手一杯。
周辺の小国家などを巻き込むことは出来そうではあるが、それらが加わったところで焼け石に水であろう。
ルナイファの攻撃性から考えるに集められた同盟国連合も緩衝地帯としての働きも期待できそうもない。
そんなこんなで頭をいくら働かせても全く明るくならない未来に遂にはシラヒーゲの身体が限界を迎えていたのだ。
すっかり弱々しくなった顔に、配下たちも国の行く末を感じ、さらに王城は暗い雰囲気に包まれていた。
そんな王城にて、一つの足音が響きわたる。
ドタドタと慌てるようなその音。
その音が近づいてきたかと思えば、バタンと大きな音と共に扉が開き、一人の男が部屋に入ってくる。
(;‘_L’)「し、失礼します!!陛下!!」
( ´W`)「フィレンクト?どうしたそんなに慌てて、お前らしくない」
356
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:33:48 ID:mNrFmToc0
(;‘_L’)「え、あ!も、申し訳ございません。とんだ失礼を!!」
( ´W`)「いや、構わんよ。それほど慌てているのだろう?気にせず続けてくれ」
(‘_L’)「は、はい......」
荒れる息を整えるように小さく深呼吸し、フィレンクトは話出す。
(‘_L’)「陛下、以前報告していたルナイファの大規模な軍事行動について、その後が判明しました」
( ´W`)「......その件か」
ついに来たか、とシラヒーゲは襟元を正す。
いずれ来るであろうと覚悟はしていたが、まだルナイファへの対策は影も形もない。
いや、まだというのは正しくないかもしれない。
そんな方法は、存在しないかもしれないのだから。
357
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:34:11 ID:mNrFmToc0
( ´W`)「遂に、奴らの侵攻が完了したということかな?それで?奴らはいつ、こちらに」
(;‘_L’)「ち、違うのです、陛下」
( ´W`)「ん?何がだ?」
(;‘_L’)「負けたのです」
( ´W`)「負けた?何がだ?」
(;‘_L’)「ルナイファが、です」
( ´W`)「ん?んん?」
いまいち、フィレンクトが何を言っているかが分からないシラヒーゲはついおかしな声を出してしまう。
どういうことかと、そのまま頭で整理をしようとする。
だが、言葉の意味を理解してもどういうことなのかが余計に理解できない。
358
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:35:18 ID:mNrFmToc0
( ´W`)「どういうことだ?負けたとは」
(;‘_L’)「そのままの意味です。あの大規模な艦隊が......負けたのです」
(; ´W`)「......いや、馬鹿な。そんなことがあり得るわけが......」
(;‘_L’)「私も信じられません。ですが、事実のようです」
(; ´W`)「あ、あの規模の軍勢だぞ?あの、ソーサクが相手でも痛みわけならまだしも敗北などあり得ないだろう?」
(;‘_L’)「繰り返しになりますが、確実に敗北した、とのことです」
(; ´W`)「......なぜ、そう言い切れるのだ」
(;‘_L’)「はい、それは南方海域の国々に潜んでいる諜報員からの情報を精査した結果......あの大規模艦隊がほぼ、全滅したと思われるからです」
(; ´W`)「全滅だと!?」
凄まじい驚愕が、シラヒーゲを襲う。
確かに、情報では属国から集めた艦など寄せ集めの艦もあった。
それらが全滅した、という一部分の部隊が、というのならば理解できる。
だが、ルナイファの圧倒的な力を集約した主力を含む艦隊が全滅など、どうすれば出来るというのか。
想像の世界でもシラヒーゲにはそれを作り出すことが出来ないというのにそれが現実で引き起こされたというのだ。
359
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:36:02 ID:mNrFmToc0
(;‘_L’)「生き残りも確認されていますが、出撃した艦数から考えればごく一分であったとのことです」
(; ´W`)「本当、なのか?」
(‘_L’)「はい。複数の情報筋から同様の内容が来ており、確実かと」
(; ´W`)「なんという......」
(‘_L’)「また、この大規模艦隊についてなのですが」
( ´W`)「まだ何かあるのか?」
(‘_L’)「はい、どうやら攻撃目標は、ムーであったとのこと」
( ´W`)「......ん?ムーは奴らの属国だろう?なぜそこを......」
(‘_L’)「どうやらムーを制圧した謎の勢力があり......奪還のため、攻撃しようとしたとのことです」
(; ´W`)「......待て待て、ムーが制圧されただと?一体いつ......」
(‘_L’)「少なくとも7月の末には制圧されたとのことです」
(; ´W`)「その情報、なぜ今まで入って来てないのだ?」
(;‘_L’)「それなのですが......入ってきてはいたようなのです」
( ´W`)「それならばなぜ報告がない?」
(;‘_L’)「その情報が荒唐無稽であり、『一日と掛からずムーが制圧された』、とのことであり得ないと切り捨てられていたようです」
(; ´W`)「それは......う、うーむ......確かに信じられんが、せめて一言共有してほしいものだな」
360
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:36:37 ID:mNrFmToc0
(;‘_L’)「ええ、今回の情報からこれも事実であった可能性が非常に高いと考えられます。そもそも、今回の大規模派遣についても理由が不明でしたが、ムーを一日で制圧するほど強力な勢力を潰すため、と考えれば納得がいきます」
( ´W`)「なるほど、な」
確かに、フィレンクトの言う通りに考えれば納得が出来る。
そしてムーを一日で制圧するほどの力を持つ勢力ならば、あの艦隊を叩き潰すことも可能なのかもしれない。
そして、シラヒーゲはある一つの可能性を思い付く。
ルナイファを圧倒する力を持ち、かつルナイファと敵対する国家。
それはまさに、自国が求めていたものではないだろうか?
( ´W`)「......フィレンクト」
(‘_L’)「は、なんでしょうか」
( ´W`)「して、その勢力、ムーを占領した国家はどこなのだ?」
(‘_L’)「それなのですが......現時点では不明です」
フィレンクトの言う通り現在、ニータの諜報員から上がってくる情報のなかには謎の勢力を特定できるようなものはなかった。
とはいえ、いくつか『あり得ない』情報はあるのだが、精査が完了しておらず、そんな状態ではとてもではないが陛下に言えるはずもなかった。
361
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:37:07 ID:mNrFmToc0
( ´W`)「そうか......ならば全諜報員に通達せよ。この謎の勢力を調べ、接触せよ、と」
(‘_L’)「はっ、畏まりました」
( ´W`)「いいか?決して無礼のないようにとも付け加えてくれ。彼らは我が国の救世主になるやもしれんのだ」
(‘_L’)「......なるほど。間違いなくお伝えします」
( ´W`)「頼んだぞ」
そう言い、シラヒーゲはフッと息をつく。
気がつけば久しぶりに頭痛と腹痛が無くなっている。
思いもしないところから生まれた希望。
自国の救いの道が現れたのだ。
この道を踏み外せば、どうなるかは分かりきっている。
謎の勢力がどんな国か、まだ分からない。
だが、既に覚悟は決まっている。
例え悪魔の国でも構わない。
ルナイファを圧倒できる相手なのだ。
最悪の場合、服従を迫られるかもしれないが、それでもルナイファに滅ぼされるか支配されるよりは断然に良い結果になるはずである。
自国の民もルナイファを倒すためだと言えば、ある程度の納得をするであろう。
それほどにこの国のルナイファへの印象は最悪なのだ。
全てはこの国の存続のため。
シラヒーゲは王として、この国を守ることを決意した。
362
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:37:49 ID:mNrFmToc0
ルナイファ帝国 海軍本部
1464 年2月8日
デミタスも、どこかの国の王と同じく頭痛と腹痛に悩まされていた。
さらには元から薄くなり始めていた頭部も、抜け毛が増えており、ストレスが加速している。
そんな彼の耳に入る情報はどれも良いものとは言いがたい。
また本土の防衛を行うとは言ってたものの、射程が大きく異なると思われる相手にどう戦えば良いかが全く思い浮かばない。
魔壁に頼った捨て身の特効による接近か、数に任せたごり押し。
あと出来ることとすれば大規模な魔方陣により、偽装魔法を使って艦を隠しての不意討ちくらいなものか。
どれも多少のダメージは与えられたとしても戦況を決めるようなものになるとは考えづらい。
363
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:38:27 ID:mNrFmToc0
(;´・_ゝ・`)「はぁ......」
もう何度目か分からないため息をつきつつも、必死に頭を働かせる。
認めたくはないが、デミタスははっきりと敵の強さを理解している。
自国を上回り、単純な戦いでは勝ち目がないということも。
そんな相手に勝つためには、敵の戦意を挫くか、敵の慢心を誘うこと。
もしくは敵の物資枯渇を狙い、広大な土地を利用した焦土作戦か。
(´・_ゝ・`)「敵は一国なのだから我が国の領海、領土を制圧しきることは実質的に不可能なはず......敵を誘いこんで......だがそのためにはやはり、南部を捨てる必要があるか」
なんにせよ、敵の息切れを待つことが最も得策のように感じられる。
そのためにこれからどれだけの犠牲を払えば良いか。
そもそもこちらがそんなに体力が持つのか。
耐えきれたとして、国として立ち直れる余力を残すことが出来るのか。
考えるだけで頭痛が増してくる。
とはいえ、なにもしないわけにもいかない。
364
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:38:53 ID:mNrFmToc0
どうしたものか―
そんな答えのでない考えを巡らせていると、不意に扉のノックする音が聞こえた。
(´・_ゝ・`)「ん?どうぞ」
( ФωФ)「すまんな、忙しいところ」
(´・_ゝ・`)「ロマネスク殿、どうかしましたか」
( ФωФ)「いやなに。ちょっとした報告と様子を見に......大丈夫であるか?」
(´・_ゝ・`)「え?」
( ФωФ)「顔色が優れんようだが」
(´・_ゝ・`)「良くは、ありませんな。朝から、いえ、もうずっとですね。嫌な情報ばかりで」
( ФωФ)「......そんなに悪いのか、戦況は」
(´・_ゝ・`)「......えぇ」
その言葉に、ロマネスクの表情も暗いものとなる。
ある程度、予測してはいたのだろうが一向に改善する気配のない現状に彼もまた、危機感を覚えているのだ。
365
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:39:26 ID:mNrFmToc0
( ФωФ)「詳しく聞いても?」
(´・_ゝ・`)「......そうですね。口外しないということであれば」
( ФωФ)「約束しよう」
(´・_ゝ・`)「そうですか......では。まず、先月よりトウキュからの連絡が途絶えました」
(; ФωФ)「なっ!?」
(´・_ゝ・`)「恐らくですが、召喚地からの攻撃を受けたものと思われます」
(; ФωФ)「......全滅した、ということか?」
(´・_ゝ・`)「えぇ、念写にて確認したところ、全滅と言ってもいい状態でした。状況を見るに、敵への損害は与えられていないでしょう」
(; ФωФ)「それは、不味すぎるな。トウキュが攻撃を受けたというなら次は確実に我が国だ」
(´・_ゝ・`)「私もそう思います。南方の海域を全て掌握されたと言っても過言ではありませんから......あぁ、さらに南方についてですが」
(; ФωФ)「なんであるか」
366
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:40:33 ID:mNrFmToc0
(´・_ゝ・`)「ムー南西にある我が国の支配下にあった国家群ですが、全て事実上の降伏をしております」
(; ФωФ)「......」
(´・_ゝ・`)「先の出撃で属国軍と共に参戦していましたが、全滅。さらにトウキュへの攻撃を見て、人間側に交渉を持ち掛けたようです」
(; ФωФ)「受け入れられたのか?」
(´・_ゝ・`)「そのようですね」
敵は理性的です、とデミタスは呟くように言う。
その心中では、自国ももしかすると交渉次第でなんとかなるのではないかと言う淡い期待があった。
もし交渉ができたとしても、それを受け入れられる自国の民はどれだけいるかが問題なのだが。
( ФωФ)「......降伏するにしても、一撃を与えんとどうにもならんだろう」
そんな心を見透かしたように、ロマネスクは言った。
彼自身もこのままいけば国がどうなるか、案じている。
だが、このまま降伏するとなればどんなことを要求されるか分かったものではない。
そんな状況で降伏するのは誰も納得などしないだろう。
367
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:41:21 ID:mNrFmToc0
そもそも先の戦いに入る前に敵側からの要請を一方的に突っぱねるどころか不意打ち紛いのことまでしてしまったのだ。
敵が交渉のテーブルについてくれるかすら不明である。
そうなるとせめてなにか、敵を交渉の席に向かわせる、譲歩させるような材料がいるのだ。
―なお彼らが知らないだけで、プギャーの元には講和に向けた要請が届けられているのだが。
(´・_ゝ・`)「一撃なら......もう与えたでしょう。ムーにて、ダメージは与えています」
( ФωФ)「分かっている。が、その程度では厳しいであろう。せめて、局地的にでも勝利を納めなければ」
(´・_ゝ・`)「確かにそうですが......現実的に、何ができますかね?」
(; ФωФ)「......その事で、報告があったのだ」
(´・_ゝ・`)「え?あぁ、そういえば報告があると言ってましたね。それで、報告とは?」
( ФωФ)「あぁ。敵に対抗するための新魔法の開発を進めていた件である。まだ試作段階ではあるが使用できる形にはまとまった」
(´・_ゝ・`)「っ!し、新魔法、ですか!完成したのですか!?」
その言葉に、デミタスの顔は若干明るいものとなる。
戦争と技術革新は関係が深い。
敵に対して技術的優位を保つ必要があり、そのためには技術の発展が不可避だからである。
368
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:42:32 ID:mNrFmToc0
そして特に今回に関しては、全くの思想も技術も違う相手、それもこれまでの戦いから察するに格上の相手である。
そんな相手を想定した場合、これまでとは全く異なる魔法が必要となることから急ピッチで開発が進められていたのだ。
それが出来上がったと言うならばもしかすればこの状況を覆すことも可能かもしれないのである。
(´・_ゝ・`)「そ、それでその新魔法というのは!?一体どのような......」
(; ФωФ)「......ここに纏めてある」
そう渡された書類にデミタスはすぐに目を通す。
だが、この局面である。
勘違いはしてはならないと、一言一句しっかりと脳内に叩き込んでいく。
そうして読み進めるうちに一変、段々と顔が暗いものとなっていた。
(;´・_ゝ・`)「......これは」
(; ФωФ)「すまぬ......それが、限界であった」
(;´・_ゝ・`)「そう、ですか」
互いにため息をつく。
確かに、この新魔法であれば敵に遠方から一方的にやられることなくこちらからも一撃、与えられるかもしれないものではある。
だが、それだけであった。
369
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:43:01 ID:mNrFmToc0
戦況を覆しうる、彼の期待したものとは、かけ離れたものであったのだ。
つまり、もう手詰まりということか―
そんな考えにデミタスは思わずうつむきそうになったその時、ロマネスクの手にまだ書類が残されていたことに気がつく。
(´・_ゝ・`)「......それは?」
( ФωФ)「む?あぁ......これか」
デミタスの言葉にロマネスクは何か困ったように眉を寄せる。
その様子にデミタスは首をかしげつつ、言葉を続けた。
(´・_ゝ・`)「あぁ、いえ。別に無理に見せてほしいというわけではないんです。ただそれも、新魔法に関わるものかと思ったので」
(; ФωФ)「いや......うーむ、その、であるな、一応は......新魔法の、書類なのであるが......」
(´・_ゝ・`)「?」
370
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:44:05 ID:mNrFmToc0
その答えにますますデミタスは頭に疑問符を浮かべる。
この局面、新魔法に関わることはどんなことでも共有するべきであろう。
それなのに見せようとしないロマネスクの態度は実に不可思議であった。
(´・_ゝ・`)「えっと、なにか、見せられない理由でも?」
(; ФωФ)「......いや、うむ。すまない。貴殿なら、問題ないであろう。これを」
(´・_ゝ・`)「はぁ......ん?召喚魔法の、応用?はて......」
一体何なのかと、デミタスは再び資料に目を落とす。
そうして読み進めていくうちに、資料を握る手が震え出す。
(;´・_ゝ・`)「こ、れは......」
―狂ってる。
それが、最初に浮かんできた感想であった。
ここに書かれていることが全て本当なのだとしたら、その効力は他のどんな魔法よりも恐ろしいことになる。
371
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:44:56 ID:mNrFmToc0
(;´・_ゝ・`)「これは、本当、なのですか?」
(; ФωФ)「うむ......また開発者から即時の使用を促されている」
(;´・_ゝ・`)「馬鹿なっ!こ、こんな、こんな魔法を使ったら......」
(; ФωФ)「......敵だけでなく、我が国......いや、世界が崩壊しかねん。この魔法の開発者も、それは理解していた」
(;´・_ゝ・`)「そこまでわかっていてなぜこんな魔法を......」
( ФωФ)「我が国には......それだけ......世界が滅びようとも敵を滅ぼすことを選ぶものたちがいる、ということらしい」
(;´・_ゝ・`)「......」
絶句。
その事実は何と恐ろしいことか。
ただのプライドにより国だけでなく、世界までも滅ぼすことを厭わない。
それが国の上層部にいるとなれば、簡単に国の歯車は狂い、暴走する。
その暴走の先に待つものは破滅のみ。
それも、張本人だけでなく周りのもの全てが巻き添えとなるのだ。
372
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:45:43 ID:mNrFmToc0
(;´・_ゝ・`)「こんな魔法を......使わないよう、どうにかしなくてはいけませんね」
(; ФωФ)「そう言ってもらえ安心したである。もし使用すると言われたら......」
(´・_ゝ・`)「あぁ......そういうことでしたか」
なるほどとデミタスは納得する。
この国の軍で海においてはトップである彼がこの魔法を使うなど言い出せば簡単に国は動いてしまう。
だからこそ、信頼する相手でもどうしてもこの魔法を伝えるのに躊躇ってしまっていたのだ。
(´・_ゝ・`)「......まぁ確かに、こんな魔法に頼らなくては最早戦況は覆せないとは思いますがね」
(; ФωФ)「っ!」
(´・_ゝ・`)「......すみません、冗談になりませんね。聞かなかったことにしてください」
( ФωФ)「......うむ」
(´・_ゝ・`)「ですが、少なくとも海では本当に手がないというのは冗談ではないんですよね......敵の数が少ないことを祈ることくらいしか出来ることがない」
( ФωФ)「あの、前に話していた通商破壊は?」
(;´・_ゝ・`)「むしろこっちがやられています。件の見えない攻撃によりどんな船も紙屑のごとく沈められます......ただ敵の輸送船舶に護衛を付けさせ、行動を制限することは成功しているようですが」
(; ФωФ)「......持久戦でも、不味いことになりそうだな」
373
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:46:22 ID:mNrFmToc0
(;´・_ゝ・`)「ええ。ただでさえ冬で厳しいところに南方の属国を失ったわけですから物資がとてつもなく厳しい状況です。一方、敵はムーだけでなく南方国家からの補給ルートを確保したわけですから、もしかすると資源の余裕がないのは我が国だけになった可能性もあります」
(; ФωФ)「......」
(´・_ゝ・`)「そもそも......この戦いが長引けば、国内の不穏な連中が一体何をしでかすやら分かったものじゃありません」
(; ФωФ)「......確かにな」
(´・_ゝ・`)「私は海軍の人間なので海のことしか分かりませんが......我々の未来は明るくないでしょうな」
静かに首を横に振るデミタス。
窓の外をみると、夕日が沈もうとしている。
どんどんと暗くなるその景色はまるで、今の我々のようではないか―
遠くではまた艦が沈んでいるのであろう。
それらの艦は、ルナイファのものか、それに属するもの。
敵のものは恐らくない。
今はまだ、遠くで済んでいる。
だからこそ、まだルナイファの多くのものはその脅威に気付いていない。
だが奴らは一歩一歩、着実に近づいてきている。
南方の海域はもう、敵の手に落ちた。
となれば次の目標はここ、ルナイファ本土しかないだろう。
国に迫る影は、もうすぐそこまで、来ていた。
374
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 10:46:46 ID:mNrFmToc0
続く
375
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 12:09:46 ID:8baPWU0k0
乙
同盟が来る気配
世界が壊れる新魔法はやっぱ核かな?
376
:
名無しさん
:2023/07/08(土) 14:04:26 ID:rgCxujVA0
おつです
377
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:44:52 ID:O.NHrrJk0
ルナイファ帝国 帝都
1464年2月12日
世界で最も栄えた場所であり、世界の全てが揃うとまで言われた帝都。
そんなこの地に異変が現れだしてから数ヶ月。
この異変は収まるどころか拡大を続けている。
流石の帝国の民も、何かがおかしいと感じるものが増えつつあった。
とはいえ、何があったかを知るものはいない。
若干の混乱はありつつも、なんとか普段と変わらない生活を送ろうとしていた。
378
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:45:37 ID:O.NHrrJk0
( ^ω^)「おー......」
そんな人々の中を、ブーンは歩いていた。
友が皆、学徒動員でこの帝都を離れ、その寂しさを紛らわせようと人通りの多く賑やかなこの街を散歩することが日課となっていたのだ。
( ^ω^)「......」
だからこそ、彼は気づく。
街から段々と物がなくなっていることに。
初めは色とりどりのものに目移りし、様々な匂いに腹を空かせた物だ。
あれはツンに似合いそうだとか、この味ならショボンも好きだろうなとかそんなことを考えながら過ごす日々は寂しいながらも楽しいものであった。
だが、それが日を追う毎に少なくなっている。
多くの人は変わらずに生活をしているが、だからこそ違和感が出てくる。
沢山あったはずの屋台も気付けば何店も閉じている。
379
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:47:04 ID:O.NHrrJk0
ブーンは商売のことが分からなかった。
だから、なぜこのようなことが起きているのか、皆目検討もついていない。
だが、妙な胸騒ぎがしてくるのだ。
楽しく胸が躍る散歩はいつしか、不安に胸が締め付けられるものに変わりつつあった。
( ^ω^)「......皆、どうしてるんだろう」
今どこで、何をしているか分からない友の姿を思い浮かべ、ポツリと呟く。
不安そうな彼の声は、辺りの楽しげな喧騒が掻き消す。
だが普段と比べれば小さくどこか寂しいそれは、彼の胸のうちの不安を消すには至らなかった。
380
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:47:52 ID:O.NHrrJk0
ムー国 旧統治局
1464年2月24日
川 ゚ -゚)「......ふぅ」
かつてはこの国の人間を統治するために作られた統治局。
今では召喚地の人間達が、この国、また周囲の国とやり取りを行うための場となっていた。
その一室でクーは疲れたように息を吐く。
つい先ほどまで、召喚地とムー周辺国の会談のため、翻訳魔法を使用し、また人間達のフォローをしていたためだ。
彼女自身、政治に精通しているわけでもないためかなりの心労であったが、人間たちに恩を売りたい、という気持ち―
というよりも最早人間達の一員として彼女は仕事をし始めていた。
381
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:48:36 ID:O.NHrrJk0
本国に帰る目処は立っておらず、さらには自分の報告も聞いてくれてはいるが、方針として友好的に関わろうとしていないことをドクオから聞いている。
確かに人間に対する不信感やあまりに違いすぎる技術ゆえに近づくことへの危険性がないわけではない。
だがそれでも自身の考えと違う国の立場を受け入れられるかと言えば別問題である。
それならばと、帰らずここで自分の知りたいことを知るために動いた方がいいのではないかと考え始めていたのだ。
川 ゚ -゚)「いっそのこと、亡命をしてもいいかもしれないな」
なんとなく呟いた独り言であったがいざ言葉にするとどうだろう。
物凄く素晴らしく、また正しい選択とすら思えてきていた。
382
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:49:27 ID:O.NHrrJk0
少なくともソーサクは、よほどのことがない限り人間達との友好関係を築くことはないだろう。
なぜ、と思うと同時にやはりとも感じてしまう。
下手なプライドは身を滅ぼすだけと思いつつも、彼女もソーサクの民である。
その思いは理解できるものでもあった。
彼女もあの戦場にいなければ、こうも簡単に考えは変わらなかったであろう。
だからこそ、ほんの少し残念な気持ちもあるがこれはもうしょうがないのだという諦めの感情も生まれ始めていた。
川 ゚ -゚)「しかし......まさか、弱小国の方が正しい判断をするとはな」
ムー南西に位置する国家群。
ルナイファの属国や友好国であったが、一方的な敗北と制海権を失ったことにより、人間たちへの侮りの態度から一転し、許しを乞うように平伏した。
条件は色々と付けられたものの、全て受け入れられ、講和が成立することとなった。
手痛いダメージは負ってはいるものの、なんとも羨ましい限りであるとクーは考える。
383
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:51:27 ID:O.NHrrJk0
仲間のいない、彼の国と初めてこの世界で国としての繋がりを持つことができたのだ。
出会いは最悪だが、そのアドバンテージは大きい。
属国になるにしろ、植民地になるにしろあれほどの力を持つ国が行うとなれば今とは比べ物にならないほど発展することだろう。
事実、既に資源の運び出しが始まっており、それに伴う港の改造など、発展に向けた動きが見られている。
その先に待つ未来、そこでも我が国は果たして列強と呼ばれているのか。
召喚地と敵対しなくても、彼らの持つ技術を受け入れるか受け入れないかで未来は大きく変わってくる。
そして、ソーサクがそれを受け入れられるかと言えば微妙なところである。
魔法を捨てることとなれば国の柱を失うようなものであり、簡単に捨てられるはずがないということはクーもよくわかっている。
もし捨てることになれば旧来の技術を元に仕事をしてきた者達は職を失い、国内の産業に混乱が訪れることは避けようがないだろう。
まさか強みであったはずの魔法のせいで、技術を受け入れづらい状況になるとは考えたこともなかった事態である。
384
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:52:22 ID:O.NHrrJk0
川 ゚ -゚)「......うーむ」
あまり政治に詳しくない自分でも冷静になって考えてみると事がそう簡単ではないということがなんとなく分かり始めていた。
そうなると本気で亡命もありなのではないかと考えつつ窓の外を眺める。
遂に始まる本格的なルナイファへの反撃の準備が進められている眼前の基地には多くの人間が慌ただしく動いていた。
これまでに見たことのないほどの『ひこうき』が並ぶ姿に、彼等の本気度合いが伺える。
川 ゚ -゚)「......回答期限まで、あと少しか」
そんな破壊の化身が向かう先、ルナイファへは何度も講和に向けた話し合いの提案が行われていた。
だが、一切の回答はなくこちらが設定した期日に迫っている。
385
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:52:59 ID:O.NHrrJk0
川 ゚ -゚)「ふむ、大国ゆえに動けず、か」
降伏した国々と相反するように、強気な姿勢を見せるルナイファにクーは若干呆れてしまう。
彼等はソーサクと違い、現に追い詰められているというのに動くことをしないのだ。
それがプライドのためなのか何なのかは分からないが、その先にあるものが分からないほどあの国は愚かなのか―
プルルル......
そんなとき、部屋の中に聞きなれない音が響きわたる。
川 ゚ -゚)「おっ、と......」
部屋に備え付けられ、なり響くそれは人間が作った魔力を使わない魔信、『でんわ』であった。
魔力を用いず、遠くのものと話せるというなんとも不思議な道具であり、初めて見たときは何度もいじくり回したものだが、如何せん話す相手もおらず実際に使われることはほとんどなかった。
それが、急に鳴り始めたのだ。
386
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:53:28 ID:O.NHrrJk0
川 ゚ -゚)「はて?」
何事だろうと、受話器を手に取り、なれない手つきで耳に当てる。
川 ゚ -゚)「......うん?はい、えぇ......んん?見たことのない国章のエルフが、接触してきた、ですか?」
新たな国が接触してきたという報告と翻訳のために同席してほしいという依頼の連絡であった。
恐らく、また賢い国が一つ増えたのだろう。
はてさて、どんな国なのか。
だが近くにまだ、接触していない国はあっただろうか―
彼女はそんなことをぼんやり考えつつ、席から立ち上がり、仕事に向かった。
387
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:54:22 ID:O.NHrrJk0
ルナイファ帝国 海軍本部
戦いに向けた準備が着々と進められる中、デミタスはあらんかぎりの知恵を絞り対策を練ろうとしていた。
そんな彼を助けようと、再び部屋を訪れていたロマネスクと共に寝る間も惜しんで話し合いが続けられていた。
( ФωФ)「やはり、南方から侵攻してくるとなるとこの港付近だろうな。敵からすれば真っ先に潰したい場所でもある。周辺から上陸することはほぼ不可能なはず」
(´・_ゝ・`)「えぇ。ですのでここに戦力を集中し......海岸線を氷魔法で凍結させることで艦を近づかせず、接岸を防ぐ。この方針でいこうかと」
( ФωФ)「港を凍らせるとなると......かなりの魔石が必要となるな」
(´・_ゝ・`)「はい。ですが温存して勝てる相手ではありません。この一戦に全てをぶつける必要があります」
( ФωФ)「この一戦で敵を叩き返し、陛下に講和を進言する......ということか」
(´・_ゝ・`)「そういうことです。敵も上陸が困難と分かれば交渉の席に呼び出すことができるはずです」
( ФωФ)「上手くいくだろうか......」
388
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:55:46 ID:O.NHrrJk0
(´・_ゝ・`)「一戦だけであれば何とかなる、と思いたいですね。それだけの準備はしております。そもそも上手くいかなければ国が滅びかねません。どうにかするしかないでしょう」
( ФωФ)「......そうだな」
もしルナイファの者が彼らを見れば、弱気であり、また国に負けを認めろという敗北主義者と思われたであろう。
下手をすれば反逆罪として裁かれる可能性すらある。
だが、それでも彼らは今自分たちがしていることが正しく、真に国を守ることに繋がるのだと信じ、行動する。
( ФωФ)「仮にこの守りが突破されたらどうする?」
(´・_ゝ・`)「それについては......こちらの艦隊を使います」
そういい、デミタスは地図の一点を指差す。
その場所に最初ロマネスクは不思議そうな顔をしたが、以前に自分が赴き、何をし、そして今、そこに何があるかを思いだしなるほどと頷く。
389
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:56:29 ID:O.NHrrJk0
( ФωФ)「そうか、特殊艦隊か!偽装魔法により隠された艦隊なら敵も流石に見つけられないはず......上手くすれば不意打ちの形になるやもしれんな」
(´・_ゝ・`)「えぇ。ただし偽装魔法を使用する関係上、こちらからは動けませんので敵が近づいてきてくれることが前提となりますが」
( ФωФ)「ふむ、射程の差が厳しい、というわけか。新魔法があるとはいえやはり、射程の差が最大の脅威であるな」
(´・_ゝ・`)「いえ、それは若干違いますね」
( ФωФ)「む?違うとは?」
(´・_ゝ・`)「敵で最も恐ろしいのは攻撃の射程ではない、ということです。仮に我々が敵と射程の魔法があったとしても勝てないでしょう」
( ФωФ)「なに?」
(´・_ゝ・`)「敵で最も恐ろしいのは、その射程を活かすことのできる能力です」
( ФωФ)「......うん?」
390
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:57:32 ID:O.NHrrJk0
今一ピンと来ないロマネスクは小さく首をかしげる。
その様子にデミタスは小さく笑いながら話を続けた。
(´・_ゝ・`)「えぇとですね、敵の攻撃の射程は確かに長い。ですが、その長さが異常なのです」
( ФωФ)「ああ、目視の範囲外からと聞いているな」
(´・_ゝ・`)「そう、そこです」
( ФωФ)「む?」
(´・_ゝ・`)「つまりは、敵は目視出来ない範囲の対象を何かしらの方法で見つけだし、攻撃を加えている、というわけです」
(; ФωФ)「っ!それは」
(´・_ゝ・`)「はい、すなわち我々が敵が近くにいるか分からない間にも敵はこちらを発見しているのです」
(; ФωФ)「そうか......異様なのは射程だけでなく策敵範囲も、というわけだな」
(´・_ゝ・`)「えぇ、そういうことです。敵の位置情報という作戦を実施する上でこの上ないアドバンテージが敵にあるわけですから......勝てないのも道理でしょう」
391
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:57:49 ID:.0GGiu5o0
おお!初遭遇!
乙です
392
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:58:39 ID:O.NHrrJk0
戦場において、敵を如何に早く見つけるか。
それは古来より多くの戦いの結末を決定してきたものである。
作戦を立てることに役立つことはもちろんのこと、敵の作戦も位置から読み取ることができるのだから、当然のことである。
そんな策敵能力において、想像もつかないほど差があるというのだ。
未だに敵の規模も動向もまともに分からないまま、机上の空論を語るしかない自分達を見たら、敵はきっと笑うだろう―
(´・_ゝ・`)「さて、というわけで見えない敵を想像して作戦を立てることしか出来ないわけですが......」
( ФωФ)「......魔写はどうだ?あれなら超遠距離でも」
(´・_ゝ・`)「この広大な海の一区画だけを写してもどうにもなりませんから......とはいえ、予測される海路については定期的な魔写を行ってはいます。あとのカバー出来ない部分については近海のみですがワイバーンの物量でカバーですね」
( ФωФ)「ワイバーンか。敵はあっさりと墜とすことが可能と聞いたが」
(´・_ゝ・`)「えぇ、ですので撃墜された場所から敵を特定します」
(; ФωФ)「......」
393
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:59:40 ID:DNP/yWuY0
リアタイ支援
394
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 16:59:50 ID:O.NHrrJk0
あっけらかんと犠牲を前提に作戦を語るデミタスに思わず言葉が詰まる。
ワイバーンは遠隔操作が可能なため人的被害はないが、かといってただではない。
むしろ長期間の育成と調教が必要であり、コストは相当なものである。
( ФωФ)「......温存しては、勝てぬ、か」
(´・_ゝ・`)「えぇ、そういうことです」
先の会話で、全てをぶつけると言ったのが、嘘ではないということがひしひしと感じられる。
改めて、自国が急に追い詰められつつあるのだと再確認させられる。
まだ自国のほとんどのものが知らないかもしれないというのに―
( ФωФ)「なるほど、な。して、現場の指揮は?」
(´・_ゝ・`)「サスガ兄弟に任せています。能力に問題ないと思われます。敵への油断もありません。先程の策敵方法に関してもアニジャからの献策であり、また状況についても把握できております」
(; ФωФ)「あぁ、敵への油断......そうか。そこから心配せんといかんのか......」
395
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 17:01:02 ID:O.NHrrJk0
(;´・_ゝ・`)「えぇ。それで、彼らについてはここの司令部から......」
そう地図を指差すデミタス。
海から少し離れた場所であり、手前には小さな港街が広がっている。
そこはルナイファでも有数の施設の揃う基地が存在していた。
巨大なその基地は、複雑な魔法陣が張り巡らされ、もし攻撃されてもある程度耐えることが期待されていた。
さらに大規模に物資の運び込みを行っていたために長期戦になったとしても戦えるように準備がされている。
また万が一、敵に上陸された際の事を考え、港街も入り組んだ構造となっており、遮蔽物が多く敵の迎撃するのに最適な場所と考えられていた。
だがそこで、デミタスは何かに気がついたかのように言葉が途中で止まり、ふと思考に耽る。
396
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 17:02:28 ID:O.NHrrJk0
( ФωФ)「......どうした?」
(;´・_ゝ・`)「......っ!!不味い!!なぜ気がつかなかったんだ!!」
突然、ハッと顔を上げたかと思えば急に汗をかき始めた。
そして、慌てたように魔信に駆け寄り、叫びつける。
(;´・_ゝ・`)「緊急指令だ!!サスガ兄弟に繋いでくれ!!」
(; ФωФ)「一体なにを......」
(;´・_ゝ・`)「司令部を移す!」
(; ФωФ)「なっ!?いきなり何故......」
(;´・_ゝ・`)「敵の索敵能力、そして射程の長さを最も活かすとすれば......それは後方への攻撃!真っ先に後方を、頭と物資を潰すこと!」
(; ФωФ)「っ!」
(;´・_ゝ・`)「敵にこちらの配置が筒抜けである可能性がある以上、こんな目立つ位置に司令部を置いていては真っ先に狙われる!!」
(; ФωФ)「それは......だが、バレていない可能性もあるのではないか?」
(;´・_ゝ・`)「その可能性もあり得なくはありません。ですが大規模に物資の運び込みをしてしまった以上、敵の索敵能力を考えれば気付かない方が不自然と考えた方がいいはずです!」
(; ФωФ)「......なるほど」
397
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 17:03:34 ID:O.NHrrJk0
確かに、その言葉は正しい。
もし敵の配置が全て分かり、かつそれを正確に遠方から攻撃できるとしてまず間違いなく基地が攻撃されるだろう。
現にこれまでの戦いの中で、ムーでは初撃で基地施設が襲われ、大打撃を受けて敗北している。
この世界に召喚されて間もないというのに、こちらの急所を確実に狙ってくるほどの能力を持っているのだ。
その事実を考えれば、決してあり得ない話ではない。
むしろなぜ、今までその可能性に気が付かなかったのかと二人は頭を抱える。
長距離攻撃などない、後方は安全であるという固定概念。
この世界の常識に未だ囚われていたのだと、このときになってようやく気が付くこととなったのだ。
とはいえ、二人が無能と言うわけではない。
むしろ、気がついただけ優秀と言えるかもしれない。
それほどまでに常識と言うものはときに思考の妨げとなり、どれだけ優秀なものでも殺しうるものとなるのだ。
398
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 17:04:04 ID:O.NHrrJk0
とはいえ、気付けたからといって今から司令部を動かすには時間が足りなすぎる。
周囲にあの基地より優れた場所などあっただろうか。
そんな疑問を浮かべるロマネスクを他所にデミタスは叫び続ける。
万全ではないものの戦いの準備は進められ、激突の時が近づいていた。
399
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 17:04:31 ID:O.NHrrJk0
続く
支援ありがとうございます
400
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 17:44:25 ID:DNP/yWuY0
乙!現行でこれが一番好き
続きも楽しみにしてる!
401
:
名無しさん
:2023/07/15(土) 19:26:57 ID:xaC8J/1w0
乙
さてニータの使者っぽい人が来たけどどうなるのかな?
402
:
名無しさん
:2023/07/16(日) 03:12:48 ID:xIDVszl.0
乙です
403
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 16:47:15 ID:iscSnTVA0
ルナイファ帝国 南方港
1464年3月1日
その日は、いつもと変わらない一日が始まるはずであった。
少し前から始まった防衛任務により、多くのもので溢れ返るこの港。
その多くが程よい緊張感を持って、防衛に当たっていた。
なぜ急に緊張感を持つようになったのか。
それは、ここまでの軍を動かすのに遂に情報を留めておくことが出来なくなったのだ。
さらに敵の本土侵攻が現実的となった今、適当に任務をこなされるのも不味いという考えもある。
そのような理由で自国に危機が迫っているということが末端まで知れ渡り、多大な衝撃を与える共に、強い責任感が生まれ、歴史上類を見ないほどの厳重な警戒体制となっていた。
404
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 16:48:53 ID:iscSnTVA0
しかし、彼らがちゃんと現状を全て把握しているとは言いがたい。
南方の被害についてはムーのことだけが伝えられ、その他の国が攻撃を受けて降伏したことは知らないし、そもそも攻撃してきた国はソーサクであると伝えられているのだ。
まさか敵が、エルフではなく人間だとは夢にも思わないだろう。
だが逆に、敵が何であるかを知らないがゆえ、また敵が自国に次いで強いとされるソーサクであると勘違いしていることでより警戒感が増しているのは確かではある。
物資や兵器類についても万全の体制が整えられ、どんな敵が現れようとも打ち倒せる、そんな自信に満ち溢れていた。
事実、この港に集められた大戦力と上陸しようと近づいてきた場合に備え、港を封鎖できるように張り巡らされた氷魔法の陣、さらに陸上には多数のゴーレムと遠距離攻撃用の固定式魔法陣が隙間なく準備されている。
捨て身の特攻で上陸しようものなら、地に足がつく前に叩き潰せる体制である。
そして空には多数のワイバーン。
空中支援は勿論のこと、その数と圧倒的な範囲から敵を見落とすことはあり得ない。
405
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 16:50:20 ID:iscSnTVA0
まさに磐石、まさに完璧、まさに最強。
ルナイファの総力と言っても過言ではない程の力が一箇所に集まっている。
もし、こんな場所に馬鹿正直に攻めてくる奴がいるならば、それは正真正銘の馬鹿だろう―
そう誰もが、同じ思いであった。
だから敵が見当たらない今、皆が予測していなかった。
いや、できるはずもなかった。
遥か天高く。
ワイバーンが飛ぶ高度の遥か上空。
そこに、敵が既にいることを。
雲よりも高く飛ぶそれ。
ルナイファ、いやこの世界のものでそんな高空を飛べる、存在できるものがあるということを、誰も知らなかった。
ゆえに、警戒など出来るはずがなかった。
406
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 16:51:35 ID:iscSnTVA0
この世界の歴史上で最も厳重であったはずの守り、それはあっさりと意識の外、そして異界の常識によって、打ち破られる。
そして、その代償は大きい。
高速の光が降り注ぐ。
正確に港の施設、そして基地の施設へと。
複数の爆発が前線の遥か後方であるはずの基地に襲う。
突然の大破壊。
当然、守りなど間に合うはずもなく。
基地が壊滅する音と共に、戦いの火蓋は切られた。
407
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 16:52:31 ID:iscSnTVA0
ルナイファ帝国 港町
開いた口が塞がらないとはこの事か。
確かに今、ショボンは何が起きたかを見ていた。
だというのに、一体何がどうして起きたのか、全く理解できなかった。
数分前まで、いつもと同じように慌ただしく軍人たちと働いていた。
近頃、何故か妙な緊張感が張り詰めており、違和感はあったものの、特に気にすることなく過ごしていた。
そう、いつも通りであったはずであった。
それが、どうか。
聞いたことがないほどの轟音と共に、基地が燃え盛り、崩れ落ちる。
多くの命が、何が起きたかを自覚する暇もなく散っていく。
明らかな異常。
日常から一変し、地獄。
戦争に参加していることは理解していた。
だが、こんな。
こんなことになるだなんて、聞いていない。
408
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 16:53:56 ID:iscSnTVA0
周りの学徒も同じようで、パニックに陥り、泣き叫び逃げ回るか、足がすくんだのか動けなくなっている。
そしてそんな学徒達と同じく、ショボンも同様に理解できない現実に震え、もはや自分がなにを考えているかすら、分からなくなっていた。
爪;'ー`)「落ち着けぇ!!」
そんな時に、一喝する声が響く。
混乱する学徒とは対照的に、フォックスは兵士として職務を果たそうとしていた。
とはいえ、彼も内心はパニック寸前である。
だが、この場で自分以外に目の前の学徒達を救えるものはいないという責任が、彼を何とか支えていたのだ。
爪;'ー`)「いいかっ!これより、避難を開始する!落ち着いて、速やかに行動するように!!」
(;´・ω・`)「っ」
409
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 16:54:56 ID:iscSnTVA0
避難。
その言葉に、その場にいる学徒の皆が反応し、救いを求めるように、早く助けてくれと言わんばかりに大勢が一気に駆け寄ってくる。
爪;'ー`)「あ、慌てるな!!落ち着け!!」
必死に宥めようにも、うまくいくはずもない。
ここにいるのは訓練を受けていない一般人、それもまだ子供なのだから。
逃げようにも、混乱のせいで無駄な時間が過ぎていく。
その間にもどんどんと死が近づいてくるような感覚―
果たして、自分は生き残ることが出来るのか。
そんな不安がフォックスの脳裏を横切ると同時に。
爪;'ー`)「トソン......」
既に海に出ている友は無事なのか。
脳裏には大丈夫と笑っていた彼女の姿。
だが、そんな言葉を簡単に否定するかのような攻撃が目の前で行われたのだ。
不安にならずにはいられない。
410
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 16:55:41 ID:iscSnTVA0
そしてなにより。
爪;'ー`)「この国は......どうなるんだ」
南方の守りの要であり、今回の作戦において司令部のあった基地が真っ先に攻撃されるという、異例中の異例が起こってしまったのだ。
一目見ただけでも分かる、強大な敵。
それに対して、真っ先に頭が潰されていたならば―
何一つ、明るい未来など見えない。
だが、今、出来るのは。
ただひたすらに生き残ること。
どうにか学徒をまとめた彼は、町を離れ後方へと避難を開始した。
411
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 16:56:21 ID:iscSnTVA0
ルナイファ帝国 南方沿岸部
多数の艦が浮かぶ沿岸部。
その中の一隻の上でトソンもまた、フォックス達と同じように唖然とした表情を浮かべていた。
(゚、゚;トソン「うっそでしょ......」
戦争の常識として、戦いは前線でのぶつかり合いであり、それを押しきったものが勝つ。
つまり死ぬのは前からであり、だからこそ比較的安全な後方に指揮するための陣地、司令部を作って軍を動かす。
確かに、奇襲や伏兵による後方への襲撃はないことはないが、司令部だって守りがないわけではない。
だからこそ歴史上それがうまくいくことなど多くはなく、成功した戦いは名を残すのだ。
412
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 16:57:54 ID:iscSnTVA0
だが、今起こったことはその常識を簡単に覆す。
真っ先に大火力を後方の基地、司令部に打ち込み、頭を潰す。
言うのは簡単であるし、その効果も実現できれば確かに絶大ではあるが、そんなことは出来るはずもないし、考えたこともない。
そうだというのに、敵はさも当然かのようにそれを実現してきたのだ。
『な、なにが起こったか報告を!!』
『不明です!!敵影は確認されていません!!』
『お、俺は見たぞ!!光だっ!光が襲ってきていた!!』
(゚、゚;トソン「......」
当然、艦隊全体が混乱していた。
報告なのか、何なのかわからない叫び声が響きわたる。
413
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 16:59:07 ID:iscSnTVA0
たった一瞬にして、最強を誇るはずの自軍がこうも情けない姿に変わるとは―
『......全部隊に連絡』
(゚、゚トソン「......え?」
そんな混乱する雑音の中、一際冷静な声が響く。
トソン以外にも聞こえたのか、全員が騒ぐのをやめ、先ほどまでの騒がしさが嘘のように静まる。
そうして、視線の先は一つに、声がした魔信に集まっていた。
『こちら、司令部。繰り返す、こちらは司令部だ』
(゚、゚;トソン「っ!!」
『先ほど、基地に奇襲を受けたが......奇跡的に司令部は無事だ。神の御加護というやつであろう。今後の指揮にも問題ない。よって引き続き指揮については我々が行う』
―あれだけの攻撃に、まさか無事とは何たる幸運か!!
艦隊全体が、先ほどとは異なる騒がしさに包まれる。
414
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 17:01:30 ID:iscSnTVA0
『さて、これより戦いが始まるが......皆、安心したまえ。神は我々の味方だ!事実、我々は神の加護により守られている!神が、我々に勝てと言っているのだ!この戦い、必ず勝てる!!』
敵の強大さに恐れが生まれていたが、このような幸運に守られるとは、本当に神の加護があるとしか思えない。
その加護が、我々にある。
『皆、恐れるな!!敵は強い!確かに、認めなくてはならない!!だが、我々はルナイファ帝国!!神にこの世界を任された存在なのだ!!』
(゚、゚;トソン「......ぉぉ」
『敵は神に逆らう反逆者だ!!我らが正義であり、神の意思なのだ!!さあ、皆のもの、戦いを、いや、聖戦を始めようじゃないか!!』
「「「おおおおおぉぉぉおおおおお!!!」」」
多数の艦から、雄叫びが上がる。
皆の心の中に、光が灯る。
希望という名の光。
我々には神がついている。
つまり、正義である我々が負ける道理などないのだ―
希望と共に、彼らは海を進む。
敵影、未だ見えず。
415
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 17:02:19 ID:iscSnTVA0
ルナイファ帝国 地下司令部
様々な物が焼け焦げる匂いが包み込む、崩壊した基地。
その地下には簡易的ではあるがいくつかの施設が存在していた。
元々、ワイバーンの大規模襲撃に備えて作られたものであり、かなりの堅牢性を誇る。
事実、今回の攻撃に関してもかなりの揺れはあったものの、崩壊することなく機能していた。
そんな地下深くの一室の中に先ほどまでの演説をしていた男である、アニジャがいた。
海図や様々な書類に囲まれたその男は、魔信を握りしめ、会話をしていた。
『......さっきの魔信はなんなんだ、アニジャ』
( ´_ゝ`)「なんだオトジャ、分からなかったか?これから戦地へ向かうものへの激励だよ」
416
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 17:03:29 ID:iscSnTVA0
『いや、それは分かる。だが神の加護って......デミタス様の指示で地上から地下に慌てて場所を移しただけなのが、まるで奇跡的に攻撃が外れたみたいに......』
( ´_ゝ`)「いやいや、デミタス様は俺達からしたら雲の上、神様みたいなもんじゃないか。その神様の加護のおかげで俺は生き残れた。奇跡的な発想のおかげだ。なにも嘘は言っちゃいないよ」
『......まぁ、それで士気が上がるならいいんだがな。上手い手をやるもんだよ、本当に』
( ´_ゝ`)「そうだろう?」
この地下施設に司令部を移したのはつい先日のこと。
緊急連絡として慌てたような声で直接、デミタスより連絡があったのだ。
敵の策敵能力と長距離攻撃を想定した場合、もっとも効果的な使用方法はなにか。
それは敵後方を潰すことである、と。
これを聞いたアニジャは急いで行動を起こした。
周囲からは疑問に満ちた目で見られたもののそれを気にすることはない。
彼もこの連絡を聞いた瞬間、その危険性に気が付いたのだ。
417
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 17:04:23 ID:iscSnTVA0
そして今日。
その判断を感謝することとなった。
もしあのとき、指令に反していたらどうなっていたかなど、地上の様子を見れば考えるまでもないだろう。
デミタスの気付きという幸運に、救われた形となったのだ。
だが、そんな幸運を素直に喜んでいられるほど、状況は良くない。
( ´_ゝ`)「......しかし、本当にここに攻撃を仕掛けてくるとはな」
『事前に話を聞いていたとはいえ、本当に信じられんな。想定以上の化け物と思った方がいいかもしれん』
( ´_ゝ`)「全くだ。攻撃の正体は分からないが......長距離攻撃で正確にここを攻撃してきた可能性がある以上、やはりこちらの陣形は全て筒抜けと考えた方が良さそうだ。さらに言うなら、それを防ぐ手立てがないことも敵は分かってるのだろうな」
『それは......不味いな。下手な奇襲は不可能、というわけか』
( ´_ゝ`)「あぁ。こうなると艦隊は分けず、密集させて数による圧死を狙うしかないだろうな」
『あぁ、それしかないだろう。しかし、敵の位置は分かるのか?遠距離攻撃で敵の位置が分からないまま......なんてのは御免だぞ』
( ´_ゝ`)「問題ない。特定できるよう、作戦は立ててある」
『そうか......となると、我々、特殊艦隊も動いた方がいいのか?』
( ´_ゝ`)「......」
418
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 17:05:22 ID:iscSnTVA0
オトジャのその言葉に、アニジャは顎に手を当て、思考に耽る。
この国でもっとも強力な艦隊と言える特殊艦隊。
確かに、一隻でも多くの艦があった方が敵に圧を掛けられる。
それも特殊艦隊の魔壁ならば、先程の基地への攻撃と同様のものであっても数発を余裕で耐えられるはずである。
非常に強力な味方。
確かに、他の艦隊と共に動けば敵にかなりの負荷を与えられるはずである。
( ´_ゝ`)「......いや、ダメだ。そのまま偽装魔法で隠れたまま、待機だ」
だが、アニジャは艦隊を動かさない選択をする。
『理由を聞いても?』
( ´_ゝ`)「敵までの距離が分からん以上、数発耐えられても辿り着く前に沈む可能性がある。なら、敵が近づいてきてくれるまで待った方がいい」
『あぁ、なるほどな。では、敵が射程距離内に入り次第、行動することにしよう。それまでは偽装に徹する』
( ´_ゝ`)「そうしてくれ。それに港周りについてはこれより、氷魔法で封鎖するしな。今から出港ではどちらにせよ間に合わん」
419
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 17:06:00 ID:iscSnTVA0
『確かにそれもそうか。しかし......そうなると逃げようにも逃げられないし、固定式魔方陣と変わらんな』
( ´_ゝ`)「いや、その艦隊を呼び寄せたときのように、転送陣がある。それで無理せず離脱してくれ。特殊艦隊が沈められたら、それこそ後がなくなってしまう」
『敵を前に、退けと?』
( ´_ゝ`)「まあ聞け。敵の立場になって考えてみろ。敵からしてみたら魔法は未知の技術だ。となると、今回の不意討ちも成功する確率が高い」
『ふむ、そうだろうな』
( ´_ゝ`)「そして、不意討ちを慣行してきた艦隊がもし逃げたのならば、また行われる可能性がどうしても敵からしたら捨てきれないだろう?それに......」
『それに?』
( ´_ゝ`)「オトジャ、今回の作戦で一番大切なことはなにか、分かるか?」
『何だ突然......上陸されないことか?』
( ´_ゝ`)「違う、いかにいい負け方をするか、だ」
『......は?』
420
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 17:07:45 ID:iscSnTVA0
オトジャはその言葉を理解できなかったのだろう。
思わず、といった雰囲気でその言葉が漏れでた。
だがそんな様子を気にすることもなく、アニジャは話を続ける。
( ´_ゝ`)「この連絡は俺達しか聞こえてないからはっきり言おう。どう転ぼうともこの戦いも、この戦争も被害の大小は違えど最終的には負ける。これは、確実だ。オトジャもそう感じているだろう?」
『......否定はしない』
( ´_ゝ`)「ではありがたく肯定として受け取ろう。と、なるとだ。我々は戦後、敗戦国となるわけだが、周辺国は敵しかいないわけだ。するとどうなるか、分かるな?」
『......』
( ´_ゝ`)「ではそんな今後のためにどうする必要があるか。答えは一つ、周囲に対する抑止力が必要だ。だが我が国の海軍は今回の戦いで多大な消耗をすることになるだろう。その上で、抑止力を保つにはどうすれば良いか?」
『少数でも強力な......主力を残す。それが、いい負け方と言いたいわけか?』
( ´_ゝ`)「ああ。さらに付け加えるならこの戦争で兵を減らしすぎている。そこに主力艦隊に配属されている優秀な兵まで失ったら海軍として保つことすら不可能になる」
『......なるほど、な』
421
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 17:09:20 ID:iscSnTVA0
( ´_ゝ`)「だからこそひとつ。オトジャ、お前に指令がある。なに、簡単だしたったひとつだけだ」
『なんだ?』
( ´_ゝ`)「死ぬな、以上だ」
『......尽力しよう』
そう答えると、魔信が途切れる。
それを確認したアニジャは一つ息を吐き、再び思考に耽る。
( ´_ゝ`)(基地が攻撃を受けたせいで地上戦力は激減、か。港の周囲を凍らせ、艦が侵入できないようにすることで上陸は防げるはずだが全て防げるかは不明だ......残りをどう配置すべきか)
( ´_ゝ`)(あの長距離攻撃を、下手に陣地を作れば察知され、打ち込んでくるだろう。だからといって分散させては守りきれん)
( ´_ゝ`)(そもそも、司令部を移すにも時間が無さすぎた。最低限のものしかない状況、か......)
( ´_ゝ`)「......やれやれ、一体何人を生き残らせることができるかね」
422
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 17:09:44 ID:iscSnTVA0
背もたれに体を預け、空を仰ぐ。
地下であるため空など見えるはずもなく、そこにあるのは薄汚れた天井のみ。
強者であったはずの自分達が気付けば地下に逃げかくれなければならないのだと、嫌でも自覚させられる。
そんな光景に小さくため息をついて一言。
( ´_ゝ`)「ここでは......死にたくねぇなぁ」
そう、ポツリと呟いたのだった。
423
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 17:10:08 ID:iscSnTVA0
続く
424
:
名無しさん
:2023/07/22(土) 19:03:21 ID:uK28qdIw0
乙です
425
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:23:47 ID:MIIfyG.M0
ソーサク連邦 ドクオ自宅
1464年3月1日
('A`)「......それで、報告は本当なのか?」
その日、ドクオは自宅で一人、魔信を用いて連絡をしていた。
その相手は現在、ルナイファに潜伏中の諜報員の一人である。
『ほんとだよぅ。奴ら、遂に本国への攻撃を開始したんだ』
('A`)「......イヨウさんは、大丈夫なんですか?」
『なんとか無事だけど、やっぱり奴らは、とんでもない奴らだよぅ』
('A`)「と、いうと?」
『初撃でルナイファの基地が壊滅、って言えば分かる?』
(;'A`)「......分かりたくないですね」
『俺も同じ気持ちだよぅ』
426
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:25:42 ID:MIIfyG.M0
あれだけ強力な国の、さらに守りを固めているところへ攻撃をできる能力ですら恐ろしいというのに、瞬時に壊滅させる能力まで持っている。
何度聞いても驚かされる召喚地の戦力に、底知れない恐ろしさを感じる。
('A`)「他の人への連絡は......」
『勿論、報告は済んでるよぅ。だけど、これから言うのはドクオだけだ』
('A`)「......」
『本国で、非戦派を集めてほしいんだよぅ。このまま行くと、あんな化け物と戦うことになりかねない......そんなの、ごめんだよぅ』
('A`)「それは......同意しますが」
『クーにも聞いてるだろう?あんな国と戦えば良くても国家がめちゃくちゃに』
('A`)「分かってはいるんです。ですが」
『......上は、やっぱりダメかよぅ』
('A`)「えぇ......」
427
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:27:48 ID:MIIfyG.M0
これまでに多くの情報が集められ、一部ではルナイファ以上に召喚地の事を理解しつつある現在、ソーサクでは二つの派閥が出来つつある。
一つは魔法至上主義を掲げ、異物である召喚地の力を封じるべきという、すなわち敵対派。
もう一つは召喚地の力を認め、敵対しないよう刺激しない、もしくは友好的な関係を築こうという非戦派。
なお二つの派閥があるとはいえ、勢力の規模は全く異なるものであり敵対派が圧倒的に多数である。
もしこれがソーサクでなく他国であれば、召喚地の力への恐怖や魔法へのこだわりが比較的に小さいことから違っていたであろう。
だが、ここソーサクでは列強で最強クラスという自負と魔法技術で世界最高であるという、魔法の力を信じ築いてきた国家なのだ。
当然、そこに住むものは皆、魔法へのプライドも高く、魔法が価値観の基本であるため召喚地を簡単に受け入れられるはずもなかった。
428
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:30:08 ID:MIIfyG.M0
また国で権力を持つものは、魔法により権力を得てきたものなのだ。
そこに魔法と異なる力などが入ってくるなど、それも下手をすれば魔法を超えるかもしれないともなれば、現在の権力層からすれば自らの立場を脅かすものになりうる。
そのため自分の立場を守るためにもどうにかして人間達を封じ込めたいと考えるのもある意味当然であったかもしれない。
さらに相手は人間であり話など通じるはずもなく、またどんな野蛮な行為に出るか分からないという先入観による恐怖もあることも、それに拍車をかけている。
それでも非戦派がいるのは、情報というソーサクのもう一つの武器を信じる者たちがいたからである。
非戦派の中にも魔法へのプライドから召喚地の情報に心が壊れるのではないかというほどの屈辱感を持つものもいた。
だがそれと同時に、その情報が持つ意味から目を反らさず、現実を見ることの重要性を理解することが出来たのだ。
しかし少数であるということに代わりはなく、また勢力を拡大できる見込みもない。
だからこそドクオは胃を痛めつつも、どうにかクーに提案された内容そのままでは到底受け入れられないということを遠回しながら伝え、なんとかいい着地点はないかと手探りながらも探している最中であった。
―なお、それを理解しつつある彼女が国のための選択肢を探すどころか亡命しようかと考えていることをまだ彼は知らないのだが、これはまた別の話である。
429
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:31:52 ID:MIIfyG.M0
『情報は、武器だよう。それも我が国の重要な、武器。それを捨てようとする国は止めないと大変なことになるよぅ』
('A`)「そう、ですね......いや」
『?』
('A`)「もう、なってるかもしれません」
そう言いながらドクオの顔は暗いものとなる。
ドクオが自宅でこんな連絡をしている理由。
それは非戦派が異端者扱いされ、直接的ではないものの排除が行われているのだ。
理由は非戦派が人間達に国を売り飛ばそうとしている等という怪情報が出回ったことに起因する。
これを流したのは自分達の利権を守りたい権力層、すなわち敵対派ではないかと言われているが事実は不明であり、出所の怪しい情報であった。
しかし出所が不確定なことがむしろこの噂の効力を強くし、権力層から嫌われないため、捨てられないためには敵対するしかないという風潮が出来ていた。
これにより非戦派の意見は封じられていたのだ。
そもそも敵対しない態度自体が売国行為だと罵られる始末である。
反戦派が一般層に多いのに対し、敵対派が権力層であるため、単純に力の差が出ている構図となっているのだ。
430
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:34:04 ID:MIIfyG.M0
さらにその混乱に乗じるようにルナイファと共闘して人間達を滅ぼすべきという意見が出始めていた。
これについては元から国内にいたルナイファとの同盟を進めたい一部の勢力、及び諜報員の工作とドクオは考えており、これまでと同様に大事にはならないと見ていたのだが、驚くべきことに受け入れる者も少数ではあるがいるのだ。
それほどまでに人間が受け入れられないのかと、その事実にドクオは強い衝撃を受けることとなった。
人間が持つ力を理解できていないわけではない。
むしろ集められた情報からそれを理解し、恐怖している者の方が多く、情報を頭から信じないで否定する者は比較的に少ない。
だからこそ真っ正面から戦おうと言うような、馬鹿丸出しな事を言うものはいない。
工作や、抑止力的な魔法の開発により召喚国家の行動を制限する。
そうして国家として動きを封じ込め、弱らせ、潰す。
勿論最悪の場合、直接戦うことも考慮はしているがルナイファの二の舞にはならないようにと、ちゃんと考えてはいるのだ。
431
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:35:46 ID:MIIfyG.M0
まともに戦っても勝てない相手になぜ戦いを挑もうとするのかと、第三者から見れば酷く愚かに見えるであろう。
だが滅ぼされるかもしれないという恐怖。
捨てられない魔法と利権とエルフのプライド。
また人間に話が通じるわけがないという、この世界の常識。
これらによりたどり着く答えはひとつ。
―分かり合えないのだから、いつかは戦うしかないのだ、と。
最も重要な情報、真っ先に目を向けなければならなかったが常識であったがゆえに気づけなかった可能性、人間とは話し合えるのだということを見落としてしまったままの結論であった。
『そんなことに、なってるのかよぅ。予測はしていたけど、最悪だ......』
愕然としているのが、声だけで伝わってくる。
これまで情報を集め、正しく処理することを仕事にしてきただけにこうもおかしな考えに結び付いている現状が受け入れがたいのだろう。
432
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:37:31 ID:MIIfyG.M0
('A`)「やはり......無理にでも動いて先に国同士の繋がりを作るべきでしょうか?」
『......それについてなんだけど、人間たちとの交流が我が国にとって有益かは分からないよぅ?鎖国の影響で我が国はお世辞にも外交がうまくないし......』
(;'A`)「交渉がうまくいかないと?」
『そうだよぅ。それにあれだけの力を持つ国となると国力も凄まじいだろうから、下手すると経済的に飲まれる可能性だってあるよぅ』
('A`)「......なるほど、確かに。そうなるととにかく動く、というのは悪手かもしれませんね」
『そうだよぅ。だけどそれ以上に少なくとも対立だけは避けないと』
(;'A`)「分かっては......いるんですが」
『こうなると、クーの誘いに乗るのも......考えなくちゃかもな』
('A`)「え?」
433
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:39:18 ID:MIIfyG.M0
それはなんのことか―
そう聞こうとした瞬間、向こうの物音が騒がしくなる。
『っ!すまない、また避難しないと不味そうだよぅ!』
('A`)「あっ」
なにか返事をする前に、魔信は途切れる。
すっかり静かになった部屋のなか、ドクオは一人、考える。
同盟か、対立か、はたまた無関係を貫くのか。
これからのことを、どうするか。
そんな考え事をしているうちに疲れが溜まっていたのだろう、気付けば彼は眠りに落ちていた。
434
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:41:15 ID:MIIfyG.M0
ルナイファ帝国 南方沖
海上に、多数の黒い点が現れる。
それらはまるで隙間なく敷き詰められたかのように密集し、進んでいた。
そしてその艦よりも多く、空にも黒い点、ワイバーンが広範囲に渡って飛び交っている。
今ここにある戦力だけで一体どれだけの国を滅ぼせるだろうか。
それほどの大戦力。
それがたった一国相手に向かおうとしていた。
(゚、゚トソン「......」
そんな艦隊から、敵を探そうとトソンは監視をしていた。
先程の基地への攻撃の件もあり、艦隊への攻撃も予測されたことから皆緊張感を持って仕事にあたっている。
だが、その誰もが顔に自信が満ち溢れていた。
先の激励が彼らの心を奮い起たせ、愛する国を守る重要な使命に燃えていたのだ。
さらに、この最強とも言える艦隊の規模。
その強さに疑問を持つものなどいるはずもなく、必ずや敵を討ち倒せると信じていたのだ。
絶対的な、自信であった。
435
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:47:56 ID:MIIfyG.M0
(゚、゚トソン「......?」
だが不意に、空を飛んでいたワイバーン達が不規則に乱れ出す。
さらに遠くからはドンドンという、不穏な音が聞こえたかと思えば、遠くの空にいたはずの黒い塊に見紛うほどにいたはずのワイバーン達は気づけば姿を消している。
たった一瞬、視線を外しただけであったはず。
それにも関わらず、いくつもの艦隊を滅ぼしてきたはずのそれらが、強力な味方がいなくなったのだ。
なにかトラブルか―
『......全艦隊に告ぐ』
(゚、゚トソン「っ!」
心の奥底に隠していたはずの恐怖が溢れそうになった、そのときであった。
再び司令部からの連絡が入る。
『敵の位置を特定した。これより言う座標の位置へ向かえ』
(゚、゚トソン「......」
遂に、戦闘が始まる。
世界最強の力を見せつけるときが来たのだ。
恐怖を再度封印し、読み上げられた敵がいる座標の方角を睨み、呟く。
―今に見てろ、侵略者共め。
436
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:51:11 ID:MIIfyG.M0
ルナイファ帝国 地下司令部
( ´_ゝ`)「......ふむ、ここまでは作戦通りか」
次々に入ってくる情報を元に、机に置かれた海図の上の模型がひとりでに動く。
それらの動きを見て、アニジャは小さく頷いた。
( ´_ゝ`)「幾つか最悪の想定をしていたが、その中でも本当に最悪なやつだなこれは。まあ想定内なだけまだマシな方か......」
彼は今回の戦いに当たり、様々な想定をして望んでいた。
それはこれまでに集められた様々な情報をどこまで信頼するかから始まった。
信じられない情報が数多くあり、多くの者が欺瞞情報であるとし切り捨てていたが、彼にはそれが出来なかった。
ギコやハインといった、先の戦いに参加し、行方が分からなくなった者たちから上げられていた情報が、彼の脳内に残り続けていたのだ。
普通に考えればあり得ないことばかりではあったものの、現状がそもそもあり得ないことの連続である。
だからこそ彼はあり得ない情報を全て受け入れると同時に、そんな相手と戦うにはあり得ない発想が必要であると結論を出したのだ。
437
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:53:33 ID:MIIfyG.M0
( ´_ゝ`)「ワイバーンは......この位置だな。ここから撃墜が始まったわけだ」
ボロボロと崩れたワイバーン型の模型、それが存在する海域に印を付けていく。
最早形すら分からなくなったその模型が示すことは、既に動きを連動する相手が同じように砕け散ったこと。
ワイバーンを広範囲に突撃させ、その撃墜された位置から敵の位置の特定を試みる。
彼が考えた、苦肉の作戦であった。
本来であれば勿論、あり得ない作戦である。
ワイバーンが潤沢にいるルナイファといえども、貴重な生物であることに変わりはない。
一度失えば、再び戦場で飛び回れるようなものを育てるまでに長い月日が必要になる。
さらに戦力として考えるならば訓練も必要になるのだ。
そうして育て上げたとしても、個体差によっては望むようなワイバーンが得られない場合もある。
このような理由と唯一と言ってもよい航空戦力なため、どの国においても重要な資源として数えられている。
438
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:54:47 ID:MIIfyG.M0
だが、それを使い捨ての駒として扱う選択をしたのだ。
力と技術と時間、そして資金を費やし産み出されたそれをである。
被害を受けることを前提とした屈辱的な判断。
だがしかし。
その判断が敵の進行ルートを明らかにする。
これまで捉えることの出来なかった敵を、おおよそではあるが捉えることに成功したのだ。
( ´_ゝ`)「......うむ。やはり、このルートか。となると......全魔術師に連絡。敵の予測される侵攻ルートを共有する。このルートを防ぐよう、港の凍結封鎖を急げ」
( ´_ゝ`)(しかし、撃墜ペースが異常すぎるな。やはり、敵はこちらの動きを把握しているとしか思えない。本当にとんでもない策敵能力だなこりゃ)
そして、敵を捕捉したからこそ分かる、敵の異常性。
こちらは犠牲覚悟でどうにか位置の当たりをつけるのに精一杯だというのに、敵は一定距離に近づいたものを次々と攻撃しているようである。
439
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:56:01 ID:MIIfyG.M0
( ´_ゝ`)「それにこの距離は、こちらの射程距離に気付いてる可能性が高いな......」
さらに敵から撃墜地点までの距離を推定するに、明らかにこちらの射程範囲を超えるように行動していることがわかる。
つまり敵は、こちらの戦力の分析を行っており慢心はない、と言えるだろう。
だが逆にいえばそれは、敵はこれまでのこちらの情報を知らないことを意味している。
つまり、この国に生まれた二つの新しい魔法であれば、通用するかもしれないのだ。
( ´_ゝ`)(......まあそのうちの一つがあんな魔法じゃ、結局残された手札は一つだけと変わらんな。まぁ、まだ手があるだけマシと考えるべきか)
( ´_ゝ`)「やれやれ......油断してくれてれば、他にもやりようがあったんだがな」
作戦通りに進行しているとはいえ、決して良いとは言えない戦況である。
さらにこれから行う作戦についても、敵には通用しないかもしれないのだ。
440
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:57:45 ID:MIIfyG.M0
自信を持って指示できるほどの、作戦等ないのに、それに命を懸けろと言わざる負えないという苦痛―
だがこの任務を請け負った以上、その責任は全て背負わなくてはならないのだ。
彼は決意し、指令を出す。
( ´_ゝ`)「......念写艦は今から言う地点を3分後より等間隔で念写してくれ。その他の艦については」
そこで一呼吸をおき、告げる。
( ´_ゝ`)「新魔法を使用する。魔法陣の構築準備を進めろ」
441
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:59:05 ID:MIIfyG.M0
ルナイファ帝国 南方沖
『新魔法を使用する。魔法陣の構築準備を進めろ』
その言葉が艦内に響くと、多くの者が驚愕する。
新魔法と言えば、つい先日にロマネスクをはじめとした著名な魔術師が集まり作り出したと言うこれまでにない攻撃であるとのことだったはずである。
まだ試作段階という話ではあったが、間違いなく切り札となるものである。
それを真っ先に使うことになるとは―
だが同時に、敵の命運はここで尽きることを意味するであろう。
そう考えた者たちは敵を少しだけ憐れむ。
これから敵は、何が起こったかも分からぬままに死ぬのだから。
442
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 17:00:59 ID:MIIfyG.M0
(゚、゚トソン「......まぁ、これも報いよ」
しかし、敵はこちらを一方的に侵略してきた憎むべき者たち、我々の宿敵であるソーサクという話であり、さらに現在もワイバーンに被害を与えているという。
罪としては充分どころか、もはや死を与えるだけでは物足りないとすらトソンは考える。
だからこれから行うことに、罪悪感などはありはしない。
『敵部隊、ポイントを通過した!!魔法陣を起動しろ!!』
(゚、゚トソン「......っ」
司令部より、再び指令が入る。
それは敵を念写で捉えたという報告。
すなわち、敵の位置を完全に捉えたということである。
ならば、どうするか。
答えは簡単である。
―敵がやってきたように、こちらも遠距離から攻撃を叩き込むのだ。
443
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 17:02:16 ID:MIIfyG.M0
艦上の魔法陣が紅く輝き、一つの光となる。
その光は爛々と輝く焔。
魔力が籠められる度に、大きく、力強く輝くそれは艦の船員を照らす光となる。
救いの光だ―
そう、トソンは感じた。
敵からの攻撃以降、陰りが見えていたルナイファに救いをもたらす奇跡の光。
まだどこかで敵の強大さに怯えていた自分がいた。
だがこの光を見て、確信する。
(゚、゚トソン「約束は、守れそうね」
『攻撃、開始っ!!』
トソンの小さな呟きは、号令にかき消される。
救いの光はその号令と共に、天高く舞い上がり、真っ直ぐ進んでいく。
無数の光が、敵に向けて放たれた。
444
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 17:02:39 ID:MIIfyG.M0
続く
445
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 19:26:42 ID:rOKWiwr20
乙
イヨウも亡命しようとしてる…
ドクオも一緒に逃げちゃえばいいのに
446
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 22:14:06 ID:rV035ctI0
流石兄弟が流石すぎる
447
:
名無しさん
:2023/07/31(月) 15:20:19 ID:pdau8Cns0
乙です
448
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:08:10 ID:STw8idWQ0
ルナイファ帝国 地下司令部
1464年3月1日
『発動完了!!異常は見られず、敵に向けて、飛翔中!!』
艦隊より、新魔法が不具合なく発動した報告が入ってくる。
その報告にひとまずアニジャは胸を撫で下ろす。
テストすらままならず、急な実践配備となり、そのまま使用することになったのだ。
下手をすれば暴走し、自滅していた未来もあり得たかもしれない。
だが、少なくともそれは回避された。
となれば、残りの願いはあと一つ。
この攻撃が敵に通用することを願うだけ。
449
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:08:47 ID:STw8idWQ0
( ´_ゝ`)「頼むぞ......」
人間達との戦いにおいて様々な問題があったが、その中の一つに射程がある。
元より魔法は操作魔法により如何に命中率よく敵に当てるかが重視されており、このためこの操作魔法の範囲、すなわち目視圏内での戦いが常識であった。
目視圏外からの攻撃などあり得るはずもなく、もしそれを実行したところで操作魔法がない、無誘導の攻撃など当たるはずもなく、それが当然であった。
しかし、その世界の常識は異界の常識により打ち破られる。
目視圏外から、ほぼ必中の攻撃を打ち込む。
あり得てはいけないほどの、高性能の攻撃。
これまでの戦い方では犠牲覚悟の突撃しか、出来ることはなかった。
450
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:10:18 ID:STw8idWQ0
( ´_ゝ`)「長距離制圧魔法、これが通じなければ......」
そこで新たに作られたのが、新魔法。
―長距離制圧魔法。
そう名付けられた魔法は名前の通り、これまでの魔法の常識を打ち破る射程を持つ。
ただひたすら遠くに飛ばすことのみに着目され作り出されたそれは、優れた術者が使えばおよそ80kmにも及ぶ長射程を実現することに成功していた。
さらに距離の問題により操作魔法よる誘導が出来ず、そもそも見えない敵に対して誘導する方法など無いことから、少しでも命中率を上げようと空中にて複数の火炎球に分離し、広範囲に拡散、攻撃ができるように調整がされている。
だがこれで敵に対抗できるかと言えば問題は山積みであった。
まずは策敵能力。
射程を活かすためにはまず敵を見つけなければならないが、ワイバーン位しかまともに敵を探す術がないこと。
次にそもそも攻撃が行えたところで、拡散しある程度の範囲の攻撃が可能とはいえ無誘導で攻撃を当てることなどほぼ不可能に近い。
451
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:12:00 ID:STw8idWQ0
―では、どうするか。
答えは単純であり、二つの課題両方とも同じ方法での解決を試みた。
答えは、物量。
ルナイファ最大の武器を用いたのである。
ワイバーンの大量投入による範囲のカバーと撃墜覚悟で、その位置からの推定による策敵。
一撃では当たらなくても大量の艦から一定範囲を同時攻撃することで命中率をカバー。
勿論、これで完璧だとはアニジャは考えていない。
むしろ、問題しかない。
被害が大きすぎる上に、広範囲を完全にカバーしきることなど不可能。
結局のところ、勝算が全くないわけではないが当たるかは運に任せるしかないというわけである。
だが現状でこれ以上に良い方法は思い付かなかったのだ。
452
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:14:02 ID:STw8idWQ0
そしてこの作戦は、まだワイバーンも艦も大量にあり、かつ敵がこちらの射程を短く考えている今くらいしか、通用しないだろう。
最初の攻撃だが、これほどの条件が揃うのは、敵に大打撃を与えられるのはこれがラストチャンスに近いのだ。
だから、彼は祈った。
この状況を変えるような、何かが起こることを。
『効果確認念写カウント、5、4、3、2、1......』
( ´_ゝ`)「......」
『......っ!こ、これ、は......』
魔信の向こうから驚愕の声が響く。
その声にアニジャは固唾を呑む。
453
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:15:32 ID:STw8idWQ0
それから暫しの沈黙の後、報告が入る。
『敵艦隊を念写に成功......敵、健在。被害、認められず......』
( ´_ゝ`)「そう、か......くそっ」
その報告は、攻撃の失敗を意味するものであった。
うまくいく可能性は高くはないと分かっていたはずである。
だが、チャンスではあったはずなのだ。
当たる可能性だって0ではなかったはず。
しかし敵が避けたか、防いだか、そもそも外れたのか分からないが、失敗した。
そして少なくとももう、敵が無警戒ということはあり得ないだろう。
何らかの対策をとってくる可能性が高い。
454
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:16:31 ID:STw8idWQ0
( ´_ゝ`)(......だが、まだ可能性は)
ある、そうアニジャは考える。
確かに初撃ほどの好条件ではないものの敵は艦であり陣形を組み換え対応するにしても射程から逃れようとするにしても時間はある程度かかる。
そして念写にて艦隊を捉えることに成功している今なら、再度の攻撃を行えるはずであり、当たらなくても一定のプレッシャーを与えることは出来る―
( ´_ゝ`)「艦隊に連絡。再度、魔法陣のこうち......」
魔信に向かって指示を伝えようとしたその瞬間であった。
バラバラと、海図の上にあった艦の模型が崩れ去る。
それも、複数である。
455
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:19:32 ID:STw8idWQ0
(; ´_ゝ`)「なっ......」
一定間隔で崩れていくそれはまるで、そういったオモチャなのかと錯覚させられるようである。
だが現実は一つが崩れる度にとてつもない命が失われているのだ。
―敵からの反撃!
そう気が付いたときには既に多くの艦が沈んだことが示されていた。
(; ´_ゝ`)「......」
繋がったままの魔信を握りしめたまま、海図を呆然と眺める。
異常なまでの早さで砕けていく味方。
そして、魔信の先からは悲鳴に似た叫び声が響きわたる。
藪をつついて蛇を出す。
下手に攻撃をしたせいで敵の攻撃優先対象の範囲が広がったということだろう。
こちらの反撃の芽が、どんどんと摘みとられていく。
456
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:21:00 ID:STw8idWQ0
さらにその被害から明らかになる最悪の事実。
沈みゆく艦と敵の予測される位置、その距離は優に100kmを越える。
導き出される結論は一つ。
敵はこちらよりもさらに長い射程を持つということ。
新魔法ですら無茶をしているというのにそれでもまだ届かないというのだ。
一体どれほど敵との差はあるのか、アニジャには分からない。
そんな力量の離れた相手に出来ること。
残る手段はもう、一つしかない。
(; ´_ゝ`)「全軍、密集陣形にて魔壁を張り突撃するしか......」
ムーでの戦闘の二の舞である。
但し、その時よりも離れた距離を進む必要がある。
絶望どころの話ではない。
それはもう、不可能と言っても良い。
だが逃げようにも敵が見逃してくれるとは限らず、また国の目前まで迫る敵をそのまま通すわけにもいかないのだ。
457
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:22:05 ID:STw8idWQ0
期待できることとすれば敵の攻撃漏れか、燃料切れといったところであろう。
しかし敵国まで攻めてくる者達が、その程度のことを考えずに攻め込んでくるとは考えにくく、期待は出来ない、というよりしない方がよいだろう。
(; ´_ゝ`)「......せめて上陸だけでも防がなくては」
港近くの海は既に氷で封鎖されている。
さらにここに、これまで沈められてきた艦の残骸も加わり、無理に陸に近づこうとすれば座礁することに疑いはない。
常識で考えれば艦が近づけない以上、上陸はないはずなのだ。
敵に遠距離攻撃能力がある以上、沿岸設備は攻撃で破壊されるだろうが仕方ないと割りきるしかない。
だが問題は敵がさらに常識を越えてきたら。
上陸を難なくこなしてきたとしたら―
アニジャは部隊の再編を急ぐ。
458
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:22:44 ID:STw8idWQ0
ルナイファ帝国 南方沖
失敗した―
そう魔信から連絡が入ると艦にいた誰もが驚愕の声を上げる。
失敗をするなど、誰が予測しただろうか。
ルナイファで最高の魔術師であるロマネスクが作り上げた常識を打ち破るような魔法。
それを、最高練度を誇るルナイファの主力が使用したのだ。
この世界で最も強力な魔法攻撃と言っても過言ではないとトソンをはじめとした誰もが考えていた。
それが、効果がないという理解しがたい報告。
何かの間違いではないかと口々に言うがそれで現状が変わるはずもなく、無為な時間だけが過ぎる。
459
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:23:24 ID:STw8idWQ0
そうしてようやく、次の攻撃に備えて準備をするべきではないか。
そう誰かが発言したそのときであった。
『艦隊に連絡。再度、魔法陣のこうち......』
ズガアァン!!
(゚、゚トソン「ひっ!?」
凄まじい轟音が複数箇所から魔信を遮るように響きわたる。
そのあまりのすさまじさに思わずトソンは悲鳴をあげてしまった。
そして何事かと辺りを見回し、それを目にする。
(゚、゚;トソン「え?え?」
威風堂々と、ルナイファの力を誇るように海上に浮かんでいたはずの艦、それが姿形なく消え去っている。
代わりに燃えながら沈む無惨なオブジェ、もしくは砕け散ったかのように残骸が散乱し廃材と化していた。
460
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:24:03 ID:STw8idWQ0
トソンがそれを目にしたとき、一体どうしてこんなことが起こったのか、理解できなかった。
そしてそれはトソンだけでなく他の艦にいた者たちも同様であった。
あまりの現実感のない現実に、思考が追い付かなかったのだ。
だが、そんな彼女達を待ってくれるはずもなく。
また新たな大破壊が始まる。
(゚、゚;トソン「きゃっ!?」
近くで航行していた艦にも何かが、襲いかかる。
魔壁を展開する余裕も無かったのだろう。
抵抗すら出来ぬまま、艦は爆発し、海上から姿を消していく。
461
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:24:36 ID:STw8idWQ0
あまりに呆気なく、消えていく。
艦が、命が。
そして。
絶対に勝てるという自信、心の支えが。
気が付けばトソンは震えていた。
神の加護など、無かった。
現に皆が、どの艦もなにも出来ずに沈んでいく。
まるでお前たちは無力であると、言われてるかのようである。
事実、今の自分たちに何ができるというのか。
敵の的となり、資源を消費させる以外に何も出来ないであろう。
462
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:25:08 ID:STw8idWQ0
(゚、゚;トソン「......光」
そうしてもう、どれだけの艦が沈んだろうか。
ようやく、何が自分たちを襲っているかを認識する。
それは、光であった。
その光はまるで、自分たちが放った新魔法、あの救いの光のようであった。
最も、迫りくるそれは救いなどではなく破滅をもたらす。
こちらの命を刈り取るものである。
次々に光が飛来する。
だが気づいたところで高速に迫りくるそれに、対抗する術など持ち合わせていない。
ただ耐え凌ぐ、いやもはや耐えるどころではなく数に任せて自分が狙われず、事が過ぎることを祈ることしか出来ない。
463
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:25:39 ID:STw8idWQ0
様々な悲鳴と怒号が飛び交う。
生き残りが集まり、何とか陣形を組み直し魔壁を展開しようとするが敵はそれを待ってくれるはずもなく、叩き潰される。
『こっちに向かってくるぞ!』
(゚、゚トソン「っ!!」
そして、彼女も見逃されるはずがなかった。
どうにか魔壁を展開はできたものの、時間もなく作られたそれは弱々しい。
そうして一つの光が艦の後方に飛び込んでくる。
耳をつんざくような爆音。
意識を失いそうになるほどの衝撃にふらつきながらも、その耳に残る不快感に自分がまだ生きているのだとトソンは安堵する。
464
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:26:24 ID:STw8idWQ0
『か、艦後方が......消滅!!』
(゚、゚;トソン「は?」
だがそんな安堵などすぐさまかき消されるような報告が耳に届く。
被害、どころの話ではない。
消滅など一体どういうことなのか。
しかし彼女に今どうなっているかを確認する時間など残されていなかった。
(゚、゚;トソン「ふ、艦が、傾いてっ!?」
『そ、総員退艦!!総員退艦!!』
(゚、゚;トソン「っ!」
退艦。
その言葉に皆がハッと気がついたかのように走り出す。
加速度的に傾きつつある艦。
このままいけばどうなるかなど誰でも分かる。
理解しがたい現実の連続ではあるが、そんなことに頭を悩ませる暇などない。
死にたくない気持ちは誰もが同じなのだから。
465
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:27:20 ID:STw8idWQ0
どうにか艦から海へと飛び込み、トソンは流れてきた艦の瓦礫らしきものにしがみつく。
そうして、海に浮かびながら辺りを見渡し、その惨状を見る。
(゚、゚;トソン「酷い......なんなのよ、これは」
目に写る艦で無事なものなど無かった。
どれもが破壊され、沈んでいる。
そしてその多くが最早、避難する暇もなく沈むか、沈む前に艦内のすべての命が刈り取られていた。
そうして、彼女は気がつく。
こんな地獄のような現状ではあるが、生き残れた。
それが如何に幸運であるということかを。
(゚、゚;トソン「......」
だがそれを喜べるほど、彼女に余裕など有りはしない。
ただ海上で波に揺られながら、静かに目の前で沈んでいく艦を眺めることしかできなかった。
466
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:28:12 ID:STw8idWQ0
ルナイファ帝国 軍港
(´<_` ;)「......なんという」
魔信から入ってくる報告に、オトジャは動揺を隠せなかった。
敵が強く、こちらを上回ることは理解していたつもりであった。
だがそれでも、敵に何ら痛打を与えられないとは考えもしなかった。
新魔法もそうである。
敵がこちらに侵攻してくるとなるとかなりの数が戦いに参加すると考えられていた。
つまり、的が多くなることを意味しており多数の攻撃を拡散させれば必然的に命中する確率は上がり、何かしらの被害を与えられ、少しの猶予は稼げると考えていた。
だが現実は手も足も出なかった。
その戦力、今回の被害から推測するならばルナイファが万全の状態であったとしても勝てはしないだろう―
467
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:29:26 ID:STw8idWQ0
(´<_` )「......敵がこちらに気がついている様子はあるか?」
『いえ、今のところそのような様子は見られません』
(´<_` )「よし、ならば作戦通り攻撃準備だ」
しかし、たった今。
敵がこちらに気が付いていないこの状況であれば話は別である。
油断した敵の脇腹に、攻撃を突き刺すのみならば、可能なはずなのだ。
(´<_` )「雷槍を準備、敵が射程距離内......いや」
そこでオトジャは思案する。
敵が気が付いていないならば、無理に最大距離で攻撃する必要はないのではないかと。
特殊艦隊に配備されている高性能な魔方陣により、どの魔法も通常の艦隊に比べ威力、命中率共に上回ってはいる。
しかしそもそも雷槍は命中率が低い攻撃である。
敵に大きくダメージを与えるためにはやはり、接近するしかない。
468
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:31:12 ID:STw8idWQ0
(´<_` )「......ここは待機だ。敵の動きを見て、再接近時に攻撃を行う。警戒は怠るな。妙な動きがあればすぐに知らせろ」
『了解しました』
(´<_` )「さて、どうなるか......」
オトジャ達、特殊艦隊は待機を選択するがこの選択にリスクが無いわけではない。
現在は魔法により隠れているとはいえ、敵の攻撃が施設に当たり、その魔法が解ければ全てが水の泡である。
さらに自分たちに近づくということはそれだけ国へ敵の接近を許すことに等しいのだ。
敵の攻撃の射程と威力を考えれば、少し陸に近づくだけでも、沿岸部への被害は凄まじいものになってしまうであろう。
だが、救いもある。
すでに海は凍結され、また艦の残骸が積み重なり、上陸地点になると思われる箇所の周囲を覆うように封鎖されている。
これでは艦は港内に侵入できないし、また艦が陸まで近づけない以上、兵を陸に揚げることも出来ない。
そうして陸に近づけず、ここから離れようとしたところを不意討つ。
それがオトジャの思い描いた、作戦であった。
469
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:32:20 ID:STw8idWQ0
『ほ、報告!!』
(´<_` )「ん?」
『て、敵艦より、小型の船、らしきものが現れました!!』
(´<_` )「なんだそれは?」
敵のよく分からない行動にオトジャは首を捻る。
この局面で小型船を使う理由が、分からないのだ。
そもそも、らしきものとはなんなのか。
目の前にあるのは氷で封鎖された海。
大型船で氷を砕き、進行しようとするならまだしも、小型の船で何ができるというのか―
『そ、その船なのですが......』
(´<_` )「ん?どうかしたのか?」
『こ、氷や艦の残骸の上を......進んでいます......』
(´<_` ;)「......は?」
470
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:33:45 ID:STw8idWQ0
何度目か分からない理解しがたい現実。
想定出来る筈もない、常識外からの攻撃である。
聞けば船底にバルーンのようなものが付いたような見た目の、船と呼んでよいのか分からないものが氷の上をまるで滑るように進んでいるという。
話を聞いてもオトジャにはそれがいったい何なのか、そしていくら小型船とはいえどうして座礁せず、氷の上を進めるのかが理解できなかった。
だから当然、こんなことを想定した作戦など有りはしない。
頼りになる兄も、今は近くにはおらず自ら判断し、行動しなくてはならない。
(´<_` ;)「......ならば」
出来ることを、するまで。
覚悟を決め、彼は立ち上がり、命令をする。
(´<_` ;)「総員、我々は偽装を解き、攻撃を開始する。魔法陣を起動せよ」
海戦の、終わりは近い。
471
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:34:08 ID:STw8idWQ0
続く
472
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 22:27:30 ID:NhMZT.qI0
乙
砕氷船が出てくるかなって思ったけどホバーかな?出たのは
473
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 23:10:38 ID:UtISylbg0
おつおつ
ルナイファ流石にかわいそうになってきた
召喚地ってどのくらいの規模で召喚されたんだろう
国単位?大陸丸ごと?
474
:
名無しさん
:2023/08/06(日) 15:53:38 ID:l08aGs7o0
乙です
475
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:31:20 ID:BHcrJwo20
ルナイファ帝国 地下司令部
1463年3月1日
(; ´_ゝ`)「船が氷の上を走る、か。本当に魔法を使えないとは思えんなこりゃ」
その信じられないような報告を前に、アニジャはもう驚愕を通り越して感心してしまう。
何と敵の手札の多いことか、と。
ルナイファの戦争と言えば、数と技術力にものを言わせ圧倒することである。
それに対し敵のそれは相手に合わせて適切な手段をとるという、洗練された動きである。
( ´_ゝ`)「経験の差、かもしれんな」
これまでこの世界では大国同士の本格的な戦争は無かった。
その矛先は小国や、それこそ召喚された国々に向かうことがほとんどであり、同等クラスと戦う想定など、ほとんどされてこなかったのだ。
476
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:31:58 ID:BHcrJwo20
ようやく、他の列強との戦いに向けて準備を進めようとしていたところで、それ以上の敵が現れる。
同等の敵ですらほとんど想定されていないのに、格上の敵など考えたこともない。
そんな状態であるため、まともに戦いになるはずがない。
何もかもが、足りていない。
戦略も、技術力もだ。
( ´_ゝ`)「とはいえ、だ」
ふぅとため息をつきながらも彼は考える。
諦めたところで敵が帰ってくれる筈もない。
少しでも敵にダメージを与えるためには、思考を止める暇など無いのだ。
477
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:33:04 ID:BHcrJwo20
( ´_ゝ`)「もう上陸は止められんな」
『では、部隊を海岸線沿いへ......』
( ´_ゝ`)「いや、後ろに下げろ」
『はい?』
( ´_ゝ`)「港町まで後退だ。敵も家屋に紛れた奴らまでは把握できないだろう」
『......ま、町への被害が』
( ´_ゝ`)「そんなもの、気にしている場合か。なにもしなければ一帯が火の海になるかもしれんぞ」
『......了解、しました』
( ´_ゝ`)「よろしい。また、ここの基地の生き残りも向かわせろ。少しでも敵の足を止めるぞ。ただ無茶はするなとは伝えておけ」
『はっ......』
ムーへの上陸作戦の結果を見るに、敵は陸上でも強力である。
そもそも、敵艦が近づけないとはいえあの射程である。
沿岸にわざわざ陣地を作ればこれ幸いと遠距離攻撃で潰しにくるであろう。
478
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:35:24 ID:BHcrJwo20
そうなると真っ正面から防ぐことは難しい。
では出来ることはと言えば、敵が町へ侵攻してきたところへの不意討ち、詰まるところゲリラ戦である。
勿論そんなことをすれば建物だけでなく、逃げ遅れた住人たちへの被害も少なからず出る。
そんなことはアニジャも分かっている。
だが、これ以上の作戦をアニジャは思い付くことが出来なかった。
( ´_ゝ`)「やれやれ、将来の歴史書では敗戦した無能の将として載ってしまうかもしれんな」
『ほ、報告!』
( ´_ゝ`)「なんだ?」
そんなどうしようもない状況に頭を抱えていたところへさらに追撃の報告が入ってくる。
『な、謎の飛行物体を発見!超上空です!』
( ´_ゝ`)「超上空、とは?」
『とにかく、すごい高度を飛んでいます!ワイバーンの飛行限界を優に超えており......攻撃も届きません!!』
479
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:36:50 ID:BHcrJwo20
( ´_ゝ`)「敵からの攻撃は?」
『それが、ないのです。ただ、上空を飛んでいるだけのようで......』
( ´_ゝ`)「......なるほどなぁ」
その報告に、アニジャは点と点が繋がったと頷く。
これまで、敵がどうやってこちらの情報を手に入れていたか不思議であった。
だが、分かってしまえば単純なことであった。
ただ高空からこちらを覗いていたのだろうと、アニジャは推察する。
とはいえ、それを潰す手段を持ち合わせていないため、分かったところでどうしようもない。
( ´_ゝ`)「空は敵に支配された、か」
そうポツリとこぼし、改めて海図に目を落とす。
至るところに山のように積み上げられた塵がそこにはあった。
それらは大量にいたはずの味方は既に消えていることを、そして最早敵を止めることなど出来ないことを示していた。
480
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:38:15 ID:BHcrJwo20
( ´_ゝ`)「ワイバーンは残っているのか?」
『既にほとんどが撃墜されており......また基地がやられ、召喚用の魔方陣が機能しません。復旧も、すぐには......』
( ´_ゝ`)「そう、か」
『まともに残っているのは敵の上陸に備え、後方に控えていた陸上部隊のみ、です』
( ´_ゝ`)「......」
空からの支援も望めず、敵にぶつかることしか出来ない。
手詰まりと言っても間違いではないはずであり、どうしようもない絶望感が狭い司令室を包み込む。
かつて自国に滅ぼされた敵たちも、このような苦悩をしていたのだろうか―
481
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:38:52 ID:BHcrJwo20
とはいえ、切り札が全く無いわけではない。
特殊艦隊。
未だ敵に感づかれず、一撃与えられる位置にまで接近しているはずである。
( ´_ゝ`)「......オトジャ」
弟の名を呼び、願う。
ただその願いは敵に一撃与えることではなく。
彼の無事を願うためのものであった。
( ´_ゝ`)「......っ!」
そしてその時、海図に変化が現れる。
これまで動かなかった駒、特殊艦隊が動いたのだった。
482
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:39:44 ID:BHcrJwo20
ルナイファ帝国 軍港
(´<_` )「目標敵上陸部隊!」
敵の上陸を目指す部隊はこちらに迫り、目前に迫ってきていた。
その数は多く、これを見逃せば敵にこの港を奪われるだろう。
しかし、敵の上陸艦は何とも無防備な姿である。
さらにこちらに気がついていないならば、間違いなく叩き潰せる。
『敵艦を叩かず、狙いは上陸部隊のみでよろしいのですか?』
(´<_` )「......うむ」
敵艦を攻撃しようにも雷槍では命中率が悪く、魔炎では防がれるという情報がある。
さらに、防げるはずであった上陸が実現しようとしている今、優先すべきは上陸の阻止であろうとオトジャは判断していた。
483
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:40:27 ID:BHcrJwo20
とはいえ、ある意味ではチャンスかもしれないのだ。
敵はもうこちらに上陸を妨げる手段がないと、油断しているのだろう。
明らかに守りが弱いあの氷上を進む小舟ならば、間違いなく沈められる。
(´<_` #)「一隻でも多くに当てるんだ!いいなっ!!」
『はっ!』
一気に込められた魔力により、魔方陣が大きく煌めく。
そしてその余波に当てられ、空間が揺らめいたかと思うと偽装魔法で包まれていた艦隊が海上に姿を表す。
恐らく、敵もこちらを認識したであろう。
だが、それはもう遅い。
484
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:41:21 ID:BHcrJwo20
『魔方陣!起動完了!いつでもいけます!!』
(´<_` #)「よし!!......ってぇ!!」
あらんかぎりの声で叫び、攻撃を指示する。
その声に呼応するように、赤く燃える炎の塊が全艦より宙を舞う。
赤い軌跡を残し、天を駆けるそれは、真っ直ぐと港へ向かう部隊へと向かっていく。
予想通り、まともな対抗手段を持っていないのか、どうにか回避しようとするような動きが見られた。
485
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:42:30 ID:BHcrJwo20
だが。
(´<_` #)「そんな動きで避けられると思うなよ!!」
不意打ちのため上手く回避が出来ていないのか、もしくはそもそも旋回能力が低いのか分からないが曲がろうとするその動きは、ひどくゆったりしたものに見えた。
こちらは選び抜かれた魔術師を総員した特殊艦隊。
魔法の操作精度も、他より抜きん出ている。
心血を注ぎ魔法に打ち込み、そして血反吐を吐くほどの努力を積み重ねてきた。
だからこそ、この選ばれた艦隊に所属できている。
その結晶たるこの魔法を、そんな動きで防げる道理などあるはずがない。
放たれた魔法はまるで、それが当たり前かのように全て敵へと飛び込んでいく。
486
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:43:03 ID:BHcrJwo20
業火。
凍った海に、火柱が立ち昇り、砕けた氷が空に舞う。
キラキラの煌めくその光景は美しく、恐ろしいものであった。
(´<_` #)「っ、どうだっ!!」
迎撃も、魔壁のような防御もなく、火炎弾が突き刺さる。
そして、それに呼応するようにいくつもの爆音が響きわたる。
それは、火炎弾だけのものではない。
(´<_` )「こ、れは......!」
敵の小舟、そしてそれに乗っていたであろう、兵器が燃え上がる。
あれだけ、無敵を誇った敵たちが呆気なく沈んでいく。
攻撃が当たれば沈む。
そんな当たり前なことだというのに、敵の強大さから久しくその事を忘れていた。
487
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:43:53 ID:BHcrJwo20
だが、今。
彼らは思い出したのだ。
敵は無敵でも何でもなく、殺せるのだと。
艦全体が沸き上がる。
無理もない。
多くのものが何も出来ずに、この海に消えたのだ。
そして自分たちもそれに続くのだと、誰もが考えていた。
だが、どうか。
自分達は、あの強大なる邪悪な敵を打ち倒し、その鼻っ柱をへし折ったのだ―
(´<_` #)「呆けるな!!今しかないんだぞ!!ありったけ叩き込め!」
だが、オトジャはそんな事に感動している余裕など無いと言わんばかりに指令を飛ばす。
その言葉に数瞬、時が止まっていたものもハッと気がついたかのように動き出す。
488
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:44:39 ID:BHcrJwo20
そう、一瞬たりとも無駄にすることは許されない。
ここで如何に敵に攻撃を与えられるか、それはこの国の命運を握っているとも言えるかも知れないのだ。
少しでも敵を削ることができれば、敵が海岸線を維持することが出来ず、押し返すことも不可能ではないはずである。
『命中!全魔法、命中しました!』
『効果、絶大!』
(´<_` )「よしっ!追撃だ!さらに敵をおいこ」
『......っ!敵より、高速の光がこちらに向かってきています!』
(´<_` ;)「なっ!」
その報告に、オトジャは思わず心の中で舌打ちをする。
敵の行動が速い。
確かに何も抵抗なく攻撃させてくれるとは考えていなかったが、まさかここまで早く、対応されるとは考えていなかったのだ。
489
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:45:14 ID:BHcrJwo20
『ダメです!魔壁の出力最大には間に合いません!!』
『げ、迎撃不能!直撃します!!』
(´<_` ;)「総員、何かに掴まれ!!」
その言葉を合図に、再び海に業火が現れる。
凄まじい爆風が魔壁を叩き、そして砕ける。
(´<_` ;)「ぐおぉ!?」
ドゴン、と嫌な衝撃が艦を襲う。
その揺れにゾワリと嫌なものを感じながらも未だ沈む気配の無い艦に若干の安堵を覚える。
490
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:46:13 ID:BHcrJwo20
(´<_` ;)「被害報告しろ!どうなった!!」
『こちら魔法陣室、今の衝撃で魔力が霧散。機能は無事ですが充填に時間がかかるため再度攻撃が来た場合、防げるかは不明!!』
『四番艦、艦上部が爆風にやられました!沈む恐れはないものの魔法制御に影響する恐れがあります!!』
(´<_` ;)「むっ......」
流石に沈む艦はなかったものの、少なからず被害の報告が入る。
正面からの殴りあいでは敵わないと予測はしていたものの、こちらは最強の艦隊、少しは勝負になるとも無意識のうちに考えていた。
だが、その根拠の無い考えは一瞬にして吹き飛ぶ。
多少は耐えられるものの、決して無視できる被害ではない。
491
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:48:32 ID:BHcrJwo20
とはいえ、やはり敵も対処できる数には限りがあるのだろう。
先ほどの攻撃を無尽蔵に放つことができるならば既にオトジャ達はこの世にいないはずである。
それがまだ、生存できており思考できているのだ。
(´<_` ;)「......数さえあれば」
もし、ムー奪還に向かう際の戦力をもっと多く、国の限界まで出していれば勝てたかもしれない。
そんな今更ながら仮定に思い当たり彼は顔を歪ませる。
現実はもう既に戦力を使い潰してしまっており、敵に唯一対抗できたであろう数の暴力も、全て海の底である。
492
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:49:32 ID:BHcrJwo20
(´<_` ;)「......」
このとき、オトジャには2つの選択肢があった。
一つ目は最後までここで戦うこと。
敵艦隊に接近できている今なら、少しでも敵を減らすことが出来るかもしれない。
ただし、こちらは全滅無いしはそれに近い被害を受けるだろう。
もう一つの選択肢は撤退。
アニジャから聞いた通り、ここには転送用の魔方陣がある。
幸運なことにまだ施設は壊れていないため、機能するはずである。
だが敵を目の前に、さらに上陸しようという敵から逃げるなど許されるのか。
周りのものたちもこの国の守りの要、そして最後の砦とも言える最強の艦隊に所属しているという信念からか、逃げることなく最後まで戦おうという意思を感じられる。
ー脳から溢れ出る物質が恐怖を、そして理性を殺し、死んでも戦おうとする一種の暴走状態に陥りつつあったのだ。
493
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:53:32 ID:BHcrJwo20
(´<_` )「......魔方陣を起動せよ」
『っ......はっ!では攻撃準備を』
(´<_` )「違う、転送陣だ」
『え?』
しかし、オトジャは退くことを選択する。
その言葉に少なからず周りのものが動揺しているのが、伝わってくる。
『で、ですが......』
(´<_` )「ここでもう、我々ができることはない。だが、我々は負けたわけではない。生きていれば、負けていないんだ。そして、最後に勝てばいいんだ。今は、悔しいが奴らに勝てない。ならば、退こう」
『......了解、いたしました』
心の底から悔しさが滲み出るような声。
しかし反発はなく、受け入れられた。
その声の主も分かっているのだろう。
このまま戦っても、勝てないということを。
この国の最強の艦隊を持ってしても、まともな戦闘にならない。
この国の技術とプライドを結集しても、勝てない。
494
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:54:12 ID:BHcrJwo20
だがオトジャは言った。
今は、と。
その言葉に、ほんの少しだけ皆の心が救われる。
受け入れがたい現実ではあるが、まだ負けていない。
生きていれば、いつかは奴らを倒す機会がある。
そんなか細い可能性にどうにか皆が納得し、生き残ることを決意する。
当然の結論と言えるだろう。
今は戦地という興奮から麻痺しているが、本音で言えば皆死にたくはないし、あんな凶悪な敵と対峙などしたくないのだ。
495
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:56:05 ID:BHcrJwo20
『敵、追撃来ます!!』
(´<_` ;)「なんだとっ!?」
そして、その決意と同時に敵の追撃。
その報告に敵を見れば、艦から煙を吹き出し、多数の光が空に伸びる。
先ほどとは比べ物にならない量の攻撃がこちらに向かってきていることを示していた。
(´<_` ;)「転移陣の準備は!?」
『ま、まもなく完了します!!』
(´<_` ;)「発動急げ!」
敵の攻撃はこちらに届くまで10秒もかからないだろう。
先ほどの威力から考え、あんな攻撃を喰らえば壊滅的な被害を受けることになる。
敵の対応の早さは分かっていたはずであった。
だがそんな中で、一瞬ではあるが撤退するか、戦うかを考えてしまった。
それが、命取りになるかもしれないというのに。
自身の判断の遅さを呪うしかない。
(´<_` ;)「間に合ってくれ......っ!!」
祈るようにその言葉を叫んだその瞬間、オトジャ達は光に包まれたのだった。
496
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:56:31 ID:BHcrJwo20
続く
497
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 17:13:50 ID:Tx3IVBiw0
乙
オトジャたちは逃げ切れたのか…
ゲリラ戦まで始まりそうとは泥沼化してきたかな
498
:
名無しさん
:2023/08/13(日) 03:10:46 ID:7ZQ2mgCg0
乙です
499
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:15:34 ID:f0uftMbQ0
ムー近海
1463年3月1日
ルナイファと対立する未知の国家と接触すべく、一月近くフィレンクトは船に揺られていた。
この日は快晴。
春の訪れを感じるような暖かな日であった。
そんなある日の昼下がり、フィレンクトは船の上で穏やかな波に揺られ、欠伸をしながら資料を眺めていた。
(‘_L’)「......うむぅ」
彼が読んでいるのは、ムーに潜伏している諜報員から送られてきていた報告書であった。
あまりに荒唐無稽な内容に出所の怪しい情報として多くのものから忘れ去られ、過去には廃棄されそうにすらなっていたものである。
だがルナイファのムーにおける敗北が確実となった今、どんな情報でもほしいと廃棄寸前であったその資料を見つけたフィレンクトが持ち帰り、今に至る。
500
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:16:50 ID:f0uftMbQ0
そして今日、改めて内容を確認してみると確かに怪情報としか思えないものばかりが出てくる。
やれ召喚された人間が魔法を越える何かを扱うだの、ルナイファを越える超大国が現れただの、砦のような巨大な艦を運用しているだの薬か何かをやったのではないかと思える内容ばかりであった。
(‘_L’)「......筋は通る、か」
だがしかし、そうと言えるのは半年前までである。
改めて現状と照らし合わせると信じられないことであるが全て矛盾なく辻褄が合う。
さらにムーにて、現地の調査員がルナイファと敵対する勢力と接触を行ったところ、相手から渡されたと言う品々についての報告書が魔信によって届けられていた。
その中にあるものを一つ取り上げるならば一定のリズムで時を刻む小さな針が付けられた円盤について書かれたものがあった。
501
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:18:53 ID:f0uftMbQ0
時間を示す道具とのことであるが、その小ささには驚きを禁じ得ないし、何より魔法であれば魔力の操作や魔石の補充などが必要になるというのに、この道具は光さえ当てておけば半永久的に動くと言う。
一体どんな原理が使われているのか、全く分からない。
どうにか原理を調べようとしたらしいが、分かったことは二つだけ。
一つは現時点では分解すればもう二度と戻せないだろうと言うこと。
そしてもう一つは魔法ではないなにかが使われていると言うこと。
最早何も分からないのとほぼ変わらない。
だが言い換えればとんでもない技術を持つ国がルナイファと敵対していることである。
この国がニータを救う一筋の光であることは、間違いないであろう。
502
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:20:48 ID:f0uftMbQ0
(‘_L’)「しかし......」
再び手元の資料に目を戻す。
そこに綴られているのは何度読んでも信じられない報告ばかりである。
その最たる一文はやはり、これらが人間の国家により引き起こされたということだろう。
これまでの常識が邪魔をし、これほどまでに常軌を逸した内容となるとやはり文字の情報だけでは信じようにも信じきれない。
そもそもエルフのなり損ないの劣等種族くらいに思っていた輩が、急に自分達を越えるものを生み出し、世界最強の国家を叩きのめしているなど、作り話であればもう少しうまく作るだろうと思えるほどである。
(‘_L’)「......確かめなくてはな」
だが確かに現実に起こっていることであると報告があり、証拠もある。
そしてそれが自国の運命を左右すると言うならば、これを切り捨てることなどできるはずがない。
503
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:22:29 ID:f0uftMbQ0
どうにか召喚された国との交渉の場を設けることには成功した。
後はその交渉をどうにかするのみ。
それが、フィレンクトがここにいる理由である。
―果たして、自分は一体この目で何を見ることになるのか。
様々な不安と、微かに感じる希望を胸に、彼は未知の国家との接触を目指す。
504
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:24:29 ID:f0uftMbQ0
ルナイファ帝国 地下司令部
海戦が終わった。
その事を示すように、先ほどまで海図の上で動いていた駒達は全て消え、そのほとんどが塵と化していた。
もう味方を示すものはなにもなく、海上で敵を止められるものは誰もいない。
それが何を示すのか分からないほどアニジャは愚かではない。
海での戦いは完全なる敗北であり、敵に支配された。
さらに付け加えるならば、ワイバーンも撃墜され、こちらからの攻撃が届かない遥か上空を押さえられた以上、空も敵のものといえるであろう。
すなわち残るは陸のみであり、完全に追い込まれていた。
505
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:25:40 ID:f0uftMbQ0
(; ´_ゝ`)「......とはいえ、だ」
だが、何も出来なかったわけではない。
オトジャ達、特殊艦隊の活躍により敵の上陸部隊に攻撃を加えることに成功しており、上陸地点近くには元からいた部隊に加え、基地の生き残りの部隊も出している。
敵の先制攻撃により、陸上の部隊に大きな被害が出ていたとはいえ、数が武器のルナイファ、今回の戦いに向けてかなり無茶をして戦力を集めただけあり、まだまだ大部隊が陸に残っていると言える。
一方で敵は強力だが、複数とはいえ小舟を利用した上陸部隊。
さらに一部の迎撃に成功していることから数は多くないはずであり、こちらを制圧しきるにはそもそも数が足りないであろう。
つまり、このままいけば多大な被害が出たとはいえ、この地を敵に奪われない以上、防衛という面では成功と言える。
506
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:27:41 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「......」
だが、それがアニジャには腑に落ちなかった。
敵がその事に気づかないとは考えられなかったからである。
アニジャであれば、不意討ちがあった時点で上陸を諦め、作戦目標を港施設への攻撃による破壊のみに切り替え、撤退する。
それだけで十分な戦果であるし、そもそも無理に進めたところで上陸地点を確保できない以上、無駄に命と資源を消費するだけになる。
だが、敵はそれをしてきたのだ。
これまでの戦況から考えれば敵の目標たるこの港はほぼ壊滅と言ってもいい被害を受け、さらに後方のこの基地も壊滅しており、上陸は無理でも十分すぎる戦果といえるはずである。
どう考えても無理に上陸を進める局面ではなく、それこそ万全の状態で再度侵攻するだけで良いはずなのだ。
ではなぜ、そんなことをするのか―
507
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:35:50 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「......焦っているのか?それで無茶な命令が出ている?」
そして、ふとそんな考えに行き着く。
突然の思い付きだが、案外しっくりくるものであった。
思えば敵は召喚され、資源的に余裕がない可能性がある。
そんな状態で戦争に巻き込まれたためにルナイファに対して凄まじい恨みを持ち、また国の近さから脅威であるため、敵からすればルナイファをすぐにでも滅ぼしたいはずである。
故に、敵の本土を出来る限り早く上陸を完了させて滅ぼすことが望まれ、無茶な命令に繋がってしまったのではないか。
一つの可能性、単なる思い付きに過ぎないが、あり得ない話ではない。
敵も軍人である以上、国からの意思と命令には逆らえず、無理な作戦をさせられることもあるであろう。
508
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:36:27 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「案外異世界の人間達も、我々と同じなのかもしれんな」
世界も種族も違うのに不思議なものだと、小さく笑う。
その言葉の通り、上からの指令に逆らえないのはルナイファも同じと言えるだろう。
自国に下れと脅し、従わなければ実際に国土を奪い取り、交渉という名の命令を行う。
そのための手段として軍人達がこれまで一体どれだけ命令され、無理に動かされてきたか。
改めて酷いものだと、今更になって感じてしまう。
そしてこれは、その報いなのかもしれないとも感じてしまうのだ。
昔はそうではなかったらしいが今では上層部はコネが重視され無能ばかり。
それでも成果が出てしまうほどに強大な力を持ってしまっていたことがさらにこの国の腐敗を進めてしまっていた。
509
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:37:18 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「......その尻拭いが、これか」
そのために一体いくつの命を支払えばよいのだと、アニジャはため息をつく。
流石に本土にこれほどまでの攻撃を受けたのだから、多くのものが目覚めてくれると信じたい。
だが、相手はあのプギャーを始めとしたルナイファの狂信者と言えるものたち。
ルナイファが最強であり、神に等しいとまで考えてそうな彼らがこれでも現実を受け止められない可能性があるということだけでも頭が壊れそうなほどに痛む。
510
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:37:48 ID:f0uftMbQ0
『報告っ!!』
(; ´_ゝ`)「っ!」
そしてそんな痛む頭に突き刺さるかのように、大声の連絡が魔信から鳴り響いた。
あまりに慌てたような、悲鳴に近い声に驚き、痛む頭を押さえつつアニジャは応答する。
(; ´_ゝ`)「どうした?何があった」
『て、敵が、そ、空から!!』
( ´_ゝ`)「っ、空襲か。制空権がない以上、どうしようもないな。だが陸上部隊は空から見えないよう隠れているのだろう?」
『いえ、ち、違うんです!あ、いえ、確かに陸上部隊にも攻撃が行われていますが......』
( ´_ゝ`)「報告ははっきりしろ。何が言いたいのかさっぱりだ」
511
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:38:31 ID:f0uftMbQ0
『す、すみません!そ、その、て、敵が、基地上空より、侵入してきています!!』
( ´_ゝ`)「......?それは、件の高速に飛ぶという飛行物体が再度、基地上空に侵入してきた、ということか?」
『それも、ありますが......空から、敵兵が基地に降ってきており、侵入してきているのです!!』
(; ´_ゝ`)「......なんだと?」
それはもう何度度目か分からない、アニジャの常識を超えた報告であった。
確かにこの世界にはワイバーンという航空戦力がいる。
だがワイバーンはその飛行の繊細さからものを持たせたり、騎乗したりなどが出来ず、空の移動として使うことが出来ない。
それゆえに空からの攻撃と言えばワイバーンのブレスくらいなものであった。
しかし、敵は空から兵を送り込むという反則とも言えることをしてきたのだ。
前線を回避し、敵の後方に回り込めるその機動性は戦い方そのものが変わってしまうほどのものである。
512
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:40:06 ID:f0uftMbQ0
(; ´_ゝ`)「......ここに残っている兵は?」
『わずか一部隊のみであり、魔道具もわずか......魔石も最初の攻撃でほとんどが吹き飛ばされました』
(; ´_ゝ`)「......」
『最早......我々に抵抗できる力はありません』
基地は崩壊した時点で司令部と最低限の兵のみを残し、他は全て迎撃部隊へ合流させていた。
そんな戦力では報告の通り、抵抗など出来るはずもない。
そして、もしここを敵に制圧されたとすれば。
迎撃部隊は敵の上陸部隊とここの制圧した部隊で囲まれ、完全に孤立することとなる。
他の基地から援軍を呼ぶにしても、そもそも今回の迎撃のために付近の戦力の多くが集められたため、すぐに動かせるものはない。
513
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:42:00 ID:f0uftMbQ0
(; ´_ゝ`)「やられた......」
完全に、敵にしてやられた。
上陸の強行も決して無謀な作戦などではなく、こちらの戦力を引き付けさせる立派な作戦だったのだと悟る。
多数いる陸上戦力は後方と分断されてしまったのだ。
また海だけでなく空から兵を送れるとなれば、数による優位も保てるか怪しい。
この一手で敵を迎え撃つ立場から、狩られる獲物と化してしまっていた。
そしてそれは彼ら、アニジャ達も同様であった。
『司令......ご決断を』
魔信から聞こえたその声は、覚悟を決めたものであった。
その意味が分からないわけではない。
こんな状況で最後に決断することなど、一つしかない。
514
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:42:53 ID:f0uftMbQ0
『皆、覚悟は出来ておりますっ!どうか、命令を!』
( ´_ゝ`)「......そうか」
そう言い、アニジャは目を閉じる。
皆の覚悟を受け止めると言うことは、その命を背負うことに他ならない。
彼もまた、その覚悟が必要だったのだ。
そうして数瞬の後、覚悟を決め、アニジャはカッと目を開き、言葉を発した。
( ´_ゝ`)「では、皆に最後の命令をする。抗命は許さん」
『っ!』
もう後戻りは出来ない―
それを意味する言葉、つまり今日この日に命を散らす。
いくら覚悟をしていても動揺は隠せない。
515
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:44:24 ID:f0uftMbQ0
死を間近にしたもの達のみが味合う、極度の緊張感の中、アニジャは言葉を続けた。
( ´_ゝ`)「全軍、抵抗を禁ずる。我々は敵に、降伏する」
『......なっ!?』
その言葉は、誰もが予測し得なかったものであった。
先ほどまで張り詰めていた緊張感から一転、困惑が広がる。
そしてその困惑はいつしか、アニジャへの怒りへと変わりつつあった。
『て、敵に降伏すると!?そう仰られるのですか!?』
( ´_ゝ`)「そうだ」
だがそんな怒りに対してアニジャは態度を変えず、至って冷静に言葉を返す。
516
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:45:25 ID:f0uftMbQ0
『こうして、我々の国を侵略されているのですよ!?軍人として、この国のエルフとして、最後まで戦わせてくれないのですか!?』
『それだけでも屈辱的だというのに......聞けば敵は人間と言うではありませんか!!人間の捕虜になるなど、生き恥以外の何物でもありません!』
『ただでさえ捕虜など扱いが酷いものなのに加えて敵は野蛮な種族!一体どのような扱いをされるか―』
( ´_ゝ`)「皆、聞け」
響き渡る怒りの声を遮るように、アニジャは言葉を発した。
その声は決して荒げた声ではなかったが力強く、興奮していた者達が皆、ぴたりと言葉を止める。
それこそ、魔法にかかったかのようにしんと静まり、アニジャの次の言葉を待った。
517
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:46:07 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「......ルナイファは強い」
『......?』
( ´_ゝ`)「皆も、知っているだろう。我らが祖国、ルナイファは世界で最も優れた国家である。我が国は強い。違うか?」
『......』
( ´_ゝ`)「そう、我が国は強いのだ。これは間違いない。だが......今日、我々は負けた。これも、間違いない」
( ´_ゝ`)「だが......今日の敗北は、決してルナイファが負けたことを意味していない。我が国は、決して負けていないのだ!!」
『っ!!』
( ´_ゝ`)「我が国は、決して滅びることはない!皆も知っているだろう!我が国の、強大さを!!戦いはまだ続くのだ!!その戦いから、皆は逃げるというのか?今ここで、無駄に死ぬというのか!?これから続く戦いを、我が国で残された本来守るべき者達、君たちの家族や友人に託し、無駄に死のうと言うのか!?」
『......』
518
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:47:02 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「そう、我々は生き延びねばならない!!我々は軍人だ!戦いがあるのならば、その時まで戦おうではないか!皆を守るために!!決してそれが泥水をすするような、生き恥を晒すようなことになろうとも、だ!」
( ´_ゝ`)「我々は、生き残らなければならないのだ!二度と、そう、もう二度とこのような失態を起こさないために!!今日、この日、あの凶悪なる敵を知った我々は生き残り、生き証人として!!国を、ルナイファを守るために!!」
『っ!!......ぅ......ぅ』
気が付けば魔信から聞こえるのは嗚咽に変わっていた。
自国を踏み荒らされる屈辱、そして野蛮な種族と見下していた者達に敗北したという受け入れがたい現実。
プライドというプライドを破壊され、誰もが涙を流す。
519
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:48:54 ID:f0uftMbQ0
そしてそれと同時に皆が理解していた。
そんなプライドがあったところで、この状況をどうすることも出来ないのだと。
( ´_ゝ`)「......皆、良いな?もう一度、命令する。敵に降伏する。そして追加で命令だ。決して死ぬな、自決も許さん」
『了解、しました......』
無念である。
その声はそう言っているようにアニジャは聞こえた。
そしてそれは気のせいではないのだろう。
だが皆、ここで無茶に玉砕するような蛮勇など持ち合わせていなかったのだ。
そんな様子にアニジャは安堵し、小さくため息をつく。
(; ´_ゝ`)(やれやれ。降伏するのにも一苦労だな。後は敵さんが受け入れてくれるか、だが......俺達は恨みを買いすぎた。一人でも多く生き残ることが出来れば良いが、どうなることやら)
こうしてアニジャ達は無抵抗で降伏を決断。
これによりルナイファは本土防衛に失敗、建国後初めて本土の領土を失うこととなったのだった。
520
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:49:23 ID:f0uftMbQ0
続く
521
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 22:59:28 ID:oefSvpLU0
おつ!
流石兄弟めっちゃ優秀だな
しかし上層部がめちゃくちゃにしそう
522
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 23:24:13 ID:rOUqMBAw0
兄者、名将すぎんか?
523
:
名無しさん
:2023/08/20(日) 09:12:57 ID:VOonrgkg0
乙
524
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 11:58:33 ID:udmqBVI.0
ルナイファ帝国 帝城
1463年3月4日
(;´-_ゝ-`)「申し訳、ございません。全て私の責任です」
大粒の汗をかき、死人のような顔で頭を下げる男の姿がそこにあった。
原因はもちろん、本土防衛の失敗である。
一会戦は耐えきれるようにと、回せるだけの戦力を回していたはずであった。
確かに敵が強力であり、多大な被害、それこそ全滅に近い被害が出ることは予測していた。
それでも敵の上陸だけは防げるはずであった。
それだけの戦力はあったはずであり、準備を進めてきたはずであった。
/ ,' 3「......」
(;´-_ゝ-`)「どのような罰も、受ける覚悟です」
525
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 11:59:14 ID:udmqBVI.0
しかし敵の作戦により、それは呆気なく崩壊した。
力だけでなく、戦術でも後れを取っていたのだ。
これによりまともに戦うことも出来ずに消えていった戦力も少なくない。
その責任の重さから、デミタスは今日、死ぬ覚悟でここに来ている。
/ ,' 3「......ロマネスクよ」
そんなデミタスの様子を眺めながら、口を閉ざしていたアラマキがようやく言葉を発する。
その声は、至って冷静そのものであった。
( ФωФ)「はっ、何でしょうか」
/ ,' 3「此度の敵を、貴様はどう見る?」
( ФωФ)「......どう、とは?」
526
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:00:39 ID:udmqBVI.0
/ ,' 3「奴等は......噂では我が国よりも遥かに強力と聞く。貴様から見ても、間違いないのか?」
( ФωФ)「えぇ、間違いございません」
ロマネスクはアラマキの問いかけに対して即答する。
力強く、間違いないと。
そして、続けた。
( ФωФ)「我々が召喚した人間達は、怪物です。世界最強であると断言できます」
/ ,' 3「何故そう言いきれる?」
( ФωФ)「初めは、確かに我々は彼等を侮っていましたが、ムー奪還作戦、そして今回の本土防衛戦、そのどちらも間違いなく本気でした。それでも勝てないのです。世界最強と吟われた我らが全力を尽くしても、です。この事実のみで、十分なのではないですか?」
/ ,' 3「......ふむ」
527
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:01:10 ID:udmqBVI.0
そうしてまた、暫くの沈黙が辺りを包み込む。
アラマキは手を口元にあて、深く考え込むような仕草をする。
その体勢のまま、再びの質問を投げ掛けた。
/ ,' 3「では質問を変えよう。我々は奴らに勝てるのか?」
( ФωФ)「......勝つ、という定義によりますな」
/ ,' 3「......そうか」
その言葉だけで、何かに納得したのだろう。
アラマキは深くため息をつき、頭を抱える。
/ ,' 3「我々は世界で間違いなく最強であったはず......それを自ら異界から呼び出したもの達によって崩すことになるとはな」
( ФωФ)「......陛下」
528
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:01:59 ID:udmqBVI.0
/ ,' 3「デミタスよ」
(;´・_ゝ・`)「は、はっ!」
/ ,' 3「頭を上げよ。今回の件は、貴様のみの責任ではない。不問とする」
(;´・_ゝ・`)「ですが......」
/ ,' 3「ロマネスクよ、聞くところによると今回の敗戦で海軍は壊滅状態と聞くが真か」
( ФωФ)「はい。南方は壊滅。他の地方についても今回の迎撃のために多くの艦が引き抜かれ、大幅な弱体化。これまでの敗戦により予備戦力も少なくないため、領海をカバーしきれません」
/ ,' 3「なるほどな。では再建のために、優秀な人材を失うわけにはいかんな」
(;´・_ゝ・`)「陛下......」
/ ,' 3「とはいえ、次はないと思え。間違いなく、成し遂げてみせよ」
(;´-_ゝ-`)「ははっ!」
529
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:02:50 ID:udmqBVI.0
/ ,' 3「とはいえ敵はこちらを待ってはくれまい......そこでだ。重要なのは、ここからだ。二人ともに、意見を聞きたい」
( ФωФ)「は、何でありましょうか?」
/ ,' 3「......この状況、最早和平の道を探すしかないと考えるが、どうかね?」
(;´・_ゝ・`)「っ!?」
(; ФωФ)「なっ!?」
その言葉に二人は息を飲む。
和平の道を探す、つまりは敗けを認め、降伏すると言っているのに等しいことである。
そんな言葉がまさか、陛下の口から飛び出すなど予想もしていなかったのだ。
530
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:03:22 ID:udmqBVI.0
(; ФωФ)「和平、ですか......」
/ ,' 3「意外か?」
(; ФωФ)「いえ......いや、そう、でありますな」
/ ,' 3「そうであろうな。だが......このまま我が国が突き進んだ先に何があるか、貴様らにも分かるだろう?」
(´・_ゝ・`)「......えぇ」
/ ,' 3「そしてそれは、余も分かっている。何としても防がねばならないのだ」
( ФωФ)「陛下......」
/ ,' 3「此度の事態、元を辿れば奴らを呼び出し戦うことを決めた、そして国の至るところが腐りつつあることに気付きながらも、それを見てみぬふりをしてきた余の責任である。その責任は、果たさねばならぬ」
アラマキとてプギャーを初めとした無能な者達に気づいていないわけではない。
だがそんな無能達でも成果を上げられるほどにルナイファという国は強大であり、それで問題なく国家として成り立ってしまっていた。
ゆえに、それを問題として見ていなかった。
やはりそのツケが返ってきたのだと、アラマキは確信する。
531
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:05:11 ID:udmqBVI.0
アラマキ自身、自分が優秀などとは思ったことはない。
もし歴史に名を残すのならば愚王としてだろうと考えるほどであり、事実、現時点の事態を考えればそれも妥当だろうとも感じていた。
だが、それを理由に王の職務を放棄するほど愚かではない。
/ ,' 3「民や貴族からの反発はあるだろう。さらに我等は一度、敵からの申し出を断るどころか、不意打ちに近いことまでしてしまっている。信頼など、されないかもしれぬ......問題が山積みなことは、理解している」
(´・_ゝ・`)「......」
/ ,' 3「だが......どうにか、和平の道を見つけてくれ。この国のために、そして、民のために」
( ФωФ)「......了解、いたしました」
(´・_ゝ・`)「全力を、尽くします」
/ ,' 3「すまぬな。ではまずは国内をまとめることから始めるとしようか」
532
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:06:16 ID:udmqBVI.0
こうして、ルナイファは和平の道を探り出すことになる。
だが和平への道程はあまりにも険しい。
まず国内をまとめる必要があるという点である。
ここまで戦況が悪いというのにプライドからか、現実が見えていないのか、または自身の保身か利益のためか、継戦を叫ぶものたちが多くいる。
それも国内で力を持つものたちが多いのだ。
こんな状況で下手に降伏を押し進めてしまえば、反感は免れない。
つまり王への不信に繋がることとなるのだ。
さらに絶対的な存在であるはずの帝王が敗北を認めるとなれば、それも事実がどうあれ人間相手に負けたともなれば力が弱まることは避けられない。
帝王を中心とするはずのこの国でそれが意味するのは崩壊である。
これを防ぐためにも時間をかけてでもある程度根回しを行い、味方を作らなくては降伏は出来ないであろう。
533
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:06:56 ID:udmqBVI.0
そしてもう一つの問題は敵との関係。
これまでルナイファのやってきたことで敵からの心証は最悪と言ってもいい。
そんな状態で交渉の場に呼び出すことがどれだけ難しいか。
それもまともな外交ルートどころか連絡手段すらない状態である。
このような状況からこの場にいる三人全員、この件に関しても長い時間が必要だろうと考えていた。
ーだが彼等は知らなかった。
講和に向けた話し合いの呼び掛けは今この時にも来ており、しかしそれはたった一人の男によって握り潰されていたということを。
その呼び掛けに答えるだけで、この問題は簡単に解決できたであろうことを。
そうとは知らず、直接連絡する手段がない、それもこちらの印象は最悪どころではない相手にどう講和を持ちかけるのか、そしてそれが成立するまでどのように国を守るのか。
そんな無理難題に頭を悩ませることになるのであった。
534
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:07:37 ID:udmqBVI.0
ルナイファ帝国 軍務省
( ^Д^)「全く......あの無能共が......」
同日、部屋の中で一人、プギャーは最早恒例行事のように怒りに震えていた。
またしても人間達に自国の軍は敗れ、あろうことか敵の本土への侵攻を許してしまったのだ。
この現実に怒りを覚えず、平然としていられるものなどいないだろう。
そしてさらにこの事に敵は調子に乗り高飛車な要求を突き付けてくるかもしれない。
自分が握り潰しているとはいえ、再三送られてくる敵からの連絡、それがまた来るかと思うとそれだけでも怒りで血管が切れそうになる。
535
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:08:52 ID:udmqBVI.0
( ^Д^)「......だからあのとき、こちらから攻撃を仕掛けていれば良かったものを!!」
―あの無能どもめ!
そうプギャーは心の中で叫ぶ。
自分の提案を退け、万全の体制で望んだはずの防衛戦。
最強であるはずの我が国がただひたすらに守りに入るという耐え難い屈辱。
そしてそれでまだ勝つならまだしも、敗北したというのだ。
―これを無能と呼ばずに何と呼ぶのか!
536
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:09:48 ID:udmqBVI.0
( ^Д^)「やはり、進めておいて正解だったな」
そう呟き、机の上に積み上げられた書類を眺める。
そこには彼の考える、自国を救うための作戦関する情報がところ狭しと詰められていた。
もしものためにと考えていたが、この状況。
そして噂によれば、陛下まで腑抜けになったという話まであるのだ。
(# ^Д^)「腐ったものは周りも腐らせるというが......デミタス、ロマネスク......あいつ等が陛下をっ!!」
間違いなく、奴らの影響でおかしくなったのだと、プギャーは確信する。
思えば自国がここまで負けることがそもそもおかしいのだ。
537
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:10:15 ID:udmqBVI.0
では、その原因は何なのか。
奴らのような、腐ったもの達が国のトップに君臨しているから悪いのだ。
そう、全ては奴らの責任なのだ―
( ^Д^)「......成功させなければな」
彼の瞳に炎が灯る。
それは決意の灯火。
( ^Д^)「まずは......国民からだ」
自らの行動が国を救うと信じ、彼は動き続ける。
538
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:11:23 ID:udmqBVI.0
ムー国 捕虜収容所
1463年3月25日
( ´_ゝ`)「......これから、どうなるものやら」
降伏の後、ルナイファ内では捕虜を置いておけないと遥々ムーへと移管されてきた。
その間も何時拷問されるか、またイタズラに殺されるのかと身構えてはいたものの何事もないまま船旅は終わりを迎えた。
そしてたどり着いた先はおそらく牢獄を利用したであろう建物であった。
ただ一般的に思い浮かべる牢獄に比べ、色々と手を加えられているのか劣悪というほど酷いものではない。
1パーセントでもいいから生き残れる可能性をと考えていたアニジャにとってそれは非常に有り難いものの、なぜここまでと理解に苦しむ程にこの世界の常識からしたら高待遇と呼べるものであった。
それゆえこれからどんなことをされるか、言葉も常識も違う彼等人間が望むのか分からない今、どれだけ冷静を装うとも恐怖を完全に消すことはできなかった。
539
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:12:40 ID:udmqBVI.0
だが、そんな恐怖を忘れるほどの衝撃が走る。
(; ´_ゝ`)「む、ムー奪還部隊の生き残りがいるだと!?」
まさか生き残りがいるとは、考えもしなかった。
だがその事実にほんの少しだけ、安心をする。
生き残りを殺すことなく生かしているということは、敵の人間達は無闇にこちらを処刑するということはない、ということだろう。
その事実に胸を撫で下ろしつつ、アニジャは牢獄の中を見渡す。
大部屋となっているそこには複数のエルフが囚われていた。
その多くが自分と同じく、ルナイファにて降伏してきた者であったが、一人だけ見知らぬ男がいた。
( ´_ゝ`)「失礼、あなたは......ムーの生き残りか?」
( ´ー`)「......ぁ?」
540
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:14:12 ID:udmqBVI.0
その男は声に反応し、顔を上げる。
特に興味が無さそうな反応と共にアニジャを見つめる。
だがしばらくアニジャの顔を眺めた後に、生気のない顔が驚愕した顔へと変貌する。
(; ´ー`)「あ、アニジャ、様?な、なぜ、ここに......」
( ´_ゝ`)「恐らく君と同じだ。人間に敗れ、捕虜としてここに来たのだ」
(; ´ー`)「......敗れ......一体、どこで......」
( ´_ゝ`)「......本国だ」
(; ´ー`)「っ!?」
その男、シラネーヨは更に驚愕する。
敵が強いことは彼も知っていた。
文字通り、身をもって知っている。
だが、だからと言ってまさか本国にまで攻めいられているとは夢にも思っていなかったのである。
それゆえ彼の身体に雷に打たれたかごとく、凄まじい衝撃が走る。
541
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:15:25 ID:udmqBVI.0
(; ´ー`)「本国で、敗れた?まさ、か、そんなっ!!」
( ´_ゝ`)「そうだ。すまない、君達が戦い、敵に多くの損害を与えたことは知っている。だが、それを俺は活かすことが出来なかった」
(; ´ー`)「それは......いや、俺は、何も、出来なかったんです......」
( ´_ゝ`)「ムーでの戦いは伝え聞いている。勇敢な作戦を立案し、前線を駆け抜け、戦い抜き、そこを生き抜いたと。胸を張って、誇っていい。君は立派な戦士だ」
(; ´ー`)「ちが......俺は、俺は......」
(; ´ー`)(......俺は)
一体、何をしているのか。
あのとき、死の呪いを使い突撃を行ったあの瞬間。
シラネーヨは死ぬはずであった。
その覚悟はしていたし、何より確かに敵の攻撃を喰らい、意識を手離していた。
そのまま死ぬのだと、確信していた。
542
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:16:41 ID:udmqBVI.0
だが、それがどういうことか。
目が覚めれば見知らぬ白い部屋で治療され、生き残ってしまっていた。
国を守るため、敵を一人でも道連れにしようとしたにも関わらず、それを失敗したどころか敵に助けられたのだ。
そうして敵を殺すことも、死ぬこともできずに、ただ無為に時間を過ごすことしか出来ないでいる。
守るべき国は今、その敵により窮地に立たされているというのに、だ。
―嗚呼、神よ。何故俺をあそこで殺してくれなかったのか。
そう、思わずにはいられない。
決して自分一人の命だけで戦況を変えることなど出来はしなかっただろう。
だがこんな思いをするくらいならば、皆と、そしてハインと共に死にたかったと思わずにはいられない。
そうして敵を一人、道連れに出来れば誇りとものに死ぬことが出来たはずなのだ。
全てを知らないまま、国の誇りを胸に死ねれば、まだ幸福であったはずなのである。
543
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:17:16 ID:udmqBVI.0
しかし現実はどうか。
自分の魔法の才を、全て捨てて得られたものが、これなのか。
あまりに、あまりに残酷過ぎるのではないか。
( ´ー`)「......」
( ´_ゝ`)「だが......良かった。我々以外にも生き残りがいてくれたとは。それも、君のような戦士が生きていてくれたことを誇りに思う。今後、国の建て直しには一人でも多くの者がいる。そしてなにより、あの人間達のことを知るものが多いのは今後のためになる筈だ」
アニジャはシラネーヨの様子には気付かないまま、話を続ける。
その話は、国の未来を見たものであった。
だがその話はシラネーヨの心を動かすことはない。
いや、むしろその逆であった。
もう、彼にとって未来はどうでも良いことなのだ。
未来を見るということは、この残酷なまでの現実を全て受け入れろということに他ならない。
彼に、そんな余裕などあるはずがないというのに。
544
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:17:39 ID:udmqBVI.0
その言葉は心を殺しきるのに、十分すぎるものであった。
( ´ー`)(......もう、何でもいい。知らねぇよ、何もかも)
再びシラネーヨの顔から生気が失われていく。
そしてそれはもう、二度と戻らないであろう。
(; ´_ゝ`)「......む?へ、平気か?」
ようやくシラネーヨの異変に気が付き、声をかけるがもう彼は反応しない。
彼は確かに生きている。
身体の傷は癒えている。
だが心はもう、死んでいたのだ。
(; ´_ゝ`)「何が......」
何が起こったか分からないまま、アニジャは呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
545
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:17:59 ID:udmqBVI.0
続く
546
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:40:22 ID:8oyDBu3o0
乙乙
これはこれからのプギャーさんの大活躍に期待しなければ
547
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 22:47:31 ID:4WPHmhds0
戦犯プギャー大元帥爆誕しそう
548
:
名無しさん
:2023/08/27(日) 21:33:38 ID:.SqKyfwE0
乙
549
:
名無しさん
:2023/08/28(月) 19:30:18 ID:6QvLqXLs0
おつ!
プギャーさんか自分なりに考えて動いてるのが意外だったロクなことにならんだろうけど
アラマキはまともだったのになぁ…
550
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:09:41 ID:HBIJijrw0
ルナイファ帝国 南方都市テタレス
1463年3月12日
帝都の南、そして南方港の北、その中間辺りに存在する都市テタレス。
この国の帝都の次に栄えている場所と言われており、本来であれば多くのエルフが集まる場所である。
だが現在。
少しでも早くこの都市から脱出しようとするものたちで溢れかえり、混乱を極めていた。
帝都が怒りで震える一方で、こちらは恐怖で皆が震えているのだ。
敵を倒すために出兵していったものたちは、皆死ぬかボロボロとなり帰ってくる。
空は守護者であるはずのワイバーンは全て肉塊と化し、代わりに謎の高速飛行物体が飛ぶ。
明らかにこちらに敵意がある者たち、それも圧倒的な力を持つ者たちが目前まで迫っていると知ったのだ。
551
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:10:33 ID:HBIJijrw0
これまで戦争は遠方の地の出来事であり、かつこちらが圧倒的であったから誰もが賛成していた。
そこには負けないという、大前提があったからこそである。
だがそれが覆り、なおかつ自分に危害があるかもしれないとなれば話は別である。
帝都のようにまだ距離があり、直接敵を見ていない者はまだ強気に出れるであろう。
だが自分を殺しうるものがすぐそこにいるというのは、これまで真の戦争の恐ろしさを知らなかったルナイファの民にとってとてつもない恐怖であり、このテタレスでは急激に厭戦思想が広がっていた。
脅威が直前に迫るまでは、あまりに現実感がないことから、妄想をそのまま言葉にし、行動することが出来た。
だが実際に脅威を、そして圧倒的な力の差を目にしたならば話は別である。
誰もが死ぬのは御免なのだ。
552
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:11:13 ID:HBIJijrw0
そして皆が少しでも敵から遠ざかろうと北に向かおうとするが、移動用のゴーレムの数もまた動かすための魔石も足りず、かといって馬車も足りない。
さらに多くの者が一気に動こうとするために街道は渋滞を起こし、慌てたものが事故を起こしては更なる移動の停滞を引き起こす。
そこに北方からの兵の大規模な移動も加わり、さらにそれが優先されてしまうことから、民は逃げれない絶望感を前に完全な混乱状態であった。
そもそも簡単にこの地から動けるようなものばかりではなく、どうか明日も何事も起きない事を祈り、震える事しか出来ないものも多くいる。
そこに世界最強のプライド等というものはなく、教会にはただひたすらに戦いが終わることを願う者で溢れていた。
553
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:12:20 ID:HBIJijrw0
爪;'ー`)「......くそっ、これじゃあ動けねぇ」
そんな中、多くの子供を連れ避難を進めるフォックスもこの混乱に巻き込まれ、身動きが取れなくなっていた。
彼一人ならば逃げ出すことも可能だろうがそんなことは出来るはずもない。
しかし、子供も連れて移動するとなるとかなりの物資と移動手段が必要である。
そんな大規模な移動となればこの混乱に巻き込まれるのは必須である。
爪;'ー`)(どうする?もう移動用のゴーレムを動かそうにも魔石が限界......だが徒歩はあり得ねぇ。この街に留まるのも危険すぎる)
子供を守れるのはここにいる自分だけ。
そうだというのに、まともな手段は思い付かず、無為に時間だけが過ぎていく。
敵の強さを鑑みるにいつここに攻め込んできてもおかしくはない。
むしろ、未だ敵の本格的な侵攻がないのは奇跡であろう。
爪'ー`)(普通に考えるなら......大規模な攻勢の準備、か?一気にこちらを攻め落とす算段......となると)
敵の思考を何とか読もうと考える。
そうして浮かんだ可能性から、やはり出来る限り遠くまで行く必要があるとフォックスは結論付ける。
554
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:13:02 ID:HBIJijrw0
ただの一般兵であるフォックスと、多数の戦闘経験などない子供がいたところで戦況が変わるはずもない。
このままだと、何も出来ぬままに死体になるのみなのだ。
その命運を自分が握っていると考えるだけでフォックスは嫌な汗が止まらなかった。
(;´・ω・`)「......僕たち、どうなるんだろ」
そして、そんな様子を見た子供たちの不安は増すばかりである。
誰もがフォックスのように震え、そして中には泣き出すものも少なくなかった。
そんな子供の一人であるショボンも大粒の汗を流しつつ、友の心配をする。
自分と同じくこの戦争に参加してしまった、女の子であるツン。
彼女はショボンとは異なる配属のため、今この場にはいない。
かつては彼女の配属を羨む事もあったが、今考えればより前線に近いところに配属となっていた彼女は自分よりも危険と言えるだろう。
555
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:13:58 ID:HBIJijrw0
そしてもう一人は帝都に残っているはずのブーン。
彼はこの戦争には参加していないはずであるため問題ないとは思うが、魔信から流れるニュースを聞けば、志願兵の募集が様々な都市で行われていると言う。
もし彼がそれに巻き込まれでもしたら―
(;´・ω・`)「......何事も、ありませんように」
二人とも、叶うことならばこの戦争とは無縁の場所にいますように、と。
他のテタレスの民と同じように、彼もまた必死に何かに対して祈りを捧げていた。
556
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:15:06 ID:HBIJijrw0
ルナイファ帝国 軍務省
1463年3月18日
( ^Д^)「......はぁ」
この日、プギャーは珍しく怒りではなく、落胆した表情を浮かべていた。
手元には自分の信頼する部下に命じて調べさせた報告書があった。
そこに書かれていたのは、秘密裏に行われていたアラマキ達の会話の記録であった。
( ^Д^)「まさか......陛下まで奴らに洗脳されてしまうとは......」
その記録ではこの国が降伏に向けて動き出しているという彼にとって信じがたい内容であった。
それも、帝王であるアラマキが反対するどころかそれを推し進めているというではないか。
陛下ならばこの国の事を考え、正しい道を進んでくれるとプギャーは考えていた。
だがアラマキが選んだ道は、プギャーが信じる正しい道と正反対のものである。
陛下だけはまともであると信じていたプギャーにとってそれは、これまで信じてきた国に裏切られたに等しい出来事であった。
557
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:17:08 ID:HBIJijrw0
( ^Д^)「くそっ、民の声も操作したというのにっ!」
忌々しいと舌打ちをしながらも、プギャーはどこか寂しげにそう呟く。
そう、現在ルナイファで民衆の間に流れている怪情報に近い煽動はプギャーが主導したものであった。
これにより臆病者達を民衆の声で潰し、国を継戦へと傾けようとしていたのだ。
全ては国のため、つまりは陛下のためであった。
彼の善意からの行動だったのだ。
それほどまでに彼はこの国を愛していたはずであった。
( ^Д^)「だが......」
道を違えるのならば、仕方ない。
彼は覚悟を決め、前を見つめる。
( ^Д^)「幸い、現地の偵察隊からの報告から考えるに敵の大規模侵攻はまだ先のはず......それまでに北方の兵の移動が完了すれば良いが」
558
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:18:34 ID:HBIJijrw0
計画には多数の兵が必要となるし、そもそも南方の敵を迎撃するためにも多くの兵が必要がある。
しかし既に南方の主力は殆どが潰され、まともに戦える状態ではない。
そのための大規模な配置転換が行われているのだ。
北方等遠く離れた場所からも可能な限り戦力を引き抜き、全てを南方に向かわせている。
さらには民衆が沸き立っている今、多くの志願兵を集めている。
プギャーとて南方にいるものたちがどれほどの力を持っているのか、分からないわけではない。
だからこそ彼は考え、ある計画を建てたのだ。
この国の運命を変えるそれは、着実に進行している。
( ^Д^)「さて、計画が奴らにバレるわけにはいかんからな。邪魔をされては困る......となると、奴が邪魔になるな」
その計画の先に待つ未来は、まだ誰にも分からない。
559
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:19:56 ID:HBIJijrw0
ソーサク連邦 モナー宅
(; ´∀`)「......クソッ!!」
その日、モナーは自宅で頭を抱えていた。
思い返されるのはおよそ二ヶ月前にドクオとした話。
人間達と戦うと大見得を切ったあの日からそのための研究を進めてきた。
敵の強さは理解しており、その上で勝ち目はあると考えていたからこそ、出た言葉であった。
だが研究を進めれば進めるほど、敵の強大さが明らかになっていき、どうすれば良いのか分からなくなってしまっていた。
そのいい例が人間達への有効手段として考えられていた雷槍である。
初めは敵との力の差はあれど、敵に届きうる力はあるのだから部分的ではあるもののすぐにでも追い付けると考えていた。
だがいざ研究を始めてみても簡単に改良など出来るはずもない。
またもし敵に届きうる攻撃まで改良できたと仮定した場合に必要な魔法の技術を試算してみると、この世で誰も扱うことが出来ないと思われるようなものとなってしまうのだ。
560
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:21:19 ID:HBIJijrw0
そもそも雷槍が敵に当たった経緯を調べてみれば、とんでもなく低い確率、それこそ奇跡とも呼ぶべき現象であったのだ。
その事実を知ったときは遠くても背中が見えていたと思っていたが、それがとんでもない勘違いであるということを嫌というほど思い知らされた。
そうして研究は完全に暗礁に乗り上げ、敵に追い付くどころか追う手段すら分からなくなったその時、一つの連絡が入る。
それは、雷槍を改良に非常に役立つ情報であった。
だが、その情報を知ったときモナーは喜ぶどころかこの世の終わりかのような表情を浮かべていた。
(; ´∀`)「『れーるがん』、か」
何故ならその情報の元が、人間達の技術から来たものであったからである。
561
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:22:29 ID:HBIJijrw0
これまで数多くのこちらを凌駕するようなものを繰り出してきた人間達。
だがこの雷槍だけは魔法が人間達を凌駕し、それゆえに敵へ届きうる刃になったのだと考えていた。
しかし、それは違った。
人間達は同じようなものを作り出していたというのだ。
それでも始めは実用化はまだ先だという話から似たような技術はあってもこちらがまだ優位なのだと考えていた。
しかしよくよく聞けば、こちらのスペックを遥かに超えるものを作り出し、研究レベルとはいえ使用しているという。
ただ単にこちらが考える実用に足るレベルと人間達が考えるそれが違うだけという事実に、魔術師として、技術者として完全なる敗北感を味わうこととなったのだ。
562
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:24:46 ID:HBIJijrw0
(; ´∀`)「勝てないのか?......魔法では、奴らの技術に......」
そうしていつしか、彼の心は折れかけていた。
どんなものを作り出しても、人間達がそれを上回るのではないかという感覚に陥り、完全に意気消沈してしまったのだ。
人間達を上回るために必死に考えてきた魔法も、それらですら人間達の技術であれば出来てしまうのではないか。
そんなことになれば、いつまで経っても人間達に追い付くことなど不可能ではないか。
どんな魔法も、人間達の技術で作り出せるのだとしたらー
(; ´∀`)「......うん?」
しかしそうしてしばらく考え込んでいたとき、ふと自分の考えに妙な引っ掛かりを覚える。
563
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:27:54 ID:HBIJijrw0
魔法を人間達の技術で再現出来る。
現に雷槍は『れーるがん』という名で人間達の手で作り出されている。
この事実から人間達の技術であれば、魔法を別の何かの力にて作り出せるということなのだろう。
だが、それは逆に言えば。
ーもしかすれば人間達の技術を、魔法で再現出来るということなのではないか?
( ´∀`)「......もう、手段は選んではいられない、か」
その閃きは、魔法を絶対とする彼にとってかなり屈辱的なものであった。
だがそれでも他に道はないのだと、彼に新たな道を決意させる。
( ´∀`)「まだ、負けたわけではない。魔法が、負けるはずがない......これが可能ならば奴らと戦う力を得ることができるはずだ」
そう呟き、彼はあるものの試作に取り組むのであった。
564
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:28:45 ID:HBIJijrw0
ソーサク連邦 新魔法開発研究室
1463年3月21日
新魔法開発研究室。
その名前の通り、新たな魔法を開発することを目的としたその一室にこの日ドクオは訪れていた。
情報室の職員として働く彼にとって、魔法の開発は遠いことではない。
この国がいくら魔法に優れていると言っても何でも出来るわけではなく、他国の魔法の中にはこの国にない発想から産まれるものもある。
そのためそのような魔法が生まれればその情報を得ては、自国の技術にしようとすることも珍しくない。
だが今日、彼、ドクオはそのような新しい魔法に関する情報など特に持ち合わせていない。
というのに呼び出されたことに首を捻りつつも、仕事だからと出向いていた。
565
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:29:45 ID:HBIJijrw0
そしてこの部屋にはもう一人、見慣れた人物がいた。
( ´∀`)「さて、ドクオ君。見て欲しいのはこの魔道具なのだよ」
自分の上司であり、凄腕の魔法使いでもあるモナーであった。
だがそんな彼がわざわざここに呼び出すなど一体何事かとさらにドクオは首を捻る。
('A`)「魔道具、ですか。えっと、どんなもので......ん?なんですか?その金属の筒と......粒?なんか、団栗?のような形ですが」
( ´∀`)「まあ見ていたまえ」
そういうと、モナーは掌にそれらを魔方陣が描かれた筒にいれ、離れた的に向ける。
一体何事かと目を凝らしたその瞬間。
パンッ!!
一瞬の出来事であった。
大きな破裂音が鳴り響くと共に、的が穴が開く。
その光景は、ドクオの見たことのないものであった。
そしてこの光景に似た魔法すら聞いたことがないものである。
566
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:30:20 ID:HBIJijrw0
だが、知らないわけではない。
むしろ最近よく話を聞き、よく知っている。
何度も、何度もクーから聞いたものだ。
それは魔法ではなく。
(;'A`)「じゅ、『じゅう』!?」
人間の技術。
本物を見たことがあるわけではない。
だがその特徴である、音と共に対象を穴だらけにするという金属の嵐。
まさにその通りの光景が、目の前で再現されたのだ。
( ´∀`)「......なるほど、話には聞いていたが実際に目にすると中々に興味深いなこれは」
ドクオが驚愕に身を固めている一方で、モナーもその自身が産み出した光景に唸っていた。
彼もまた、報告に恐ろしさを聞かされていたが、実際に再現したものを目にしたことで再認識させられたのだ。
567
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:31:01 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「予めの加工と輸送面は問題だが、使用する際の魔石は火や雷を産み出し操るよりは効率的......なによりこの安定性と貫通力だ。何故こんな形のものが安定して飛ぶのか分からんが......本物はより高威力で高精度かつ連続で金属を撃ち出すというが一体どんな仕組みなのか......」
(;'A`)「な、なぜこんな......」
( ´∀`)「......君も分かっているだろう。現時点であの人間たちの力は我々を越えている。そして、なにより未知の力だ」
(;'A`)「......」
( ´∀`)「未知......そう、我々は知らない。追いつくため、追い越すためにもまずは奴らを知らなくてはならない」
('A`)「っ!」
( ´∀`)「悔しいが、奴らの技術は本物だ。魔法に匹敵するものであり......それを知らない我々は学ぶ必要がある。だがそのまま、奴らの技術を取り入れることは難しい。私もだが、この国は魔法により成り立つ国であり、皆が魔法に対してプライドを持っているのだから」
淡々と語るモナーではあったが、その言葉の端々からは悔しさが滲み出ていた。
しかしついこの間まで魔法以外を認めず、人間を頑なに認めようとしなかった彼から考えればその姿は劇的に変わったと言えるであろう。
それほどに人間の技術は彼にとって衝撃的なものであり、それを知らずに、否、気付きつつもプライドからそれを見えないフリをし、下手な事を進めようとしていた自分とそして国に焦りを感じていたのだ。
568
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:32:16 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「では、どうすれば我が国でもあの力を取り入れることが出来るか......ここまで言えばわかるかな?」
('A`)「......それが、この、魔法による人間達の技術の再現、というわけですか」
( ´∀`)「そうだ。これならば、魔法として取り込むことが出来る。そうしていけばいつかは奴らに追い付ける......奴らに、勝つことが出来るはずだ」
魔法に対するプライドはある。
だが現状、人間の技術は魔法を超える現象を引き起こすのだ。
伝え聞くその技術が全て本当ならば、これからの世界に変化を与えていくであろうことに疑いはない。
その変化の流れに置いていかれれば、技術を根幹に成長してきたこの国は世界から取り残されることになるであろう。
しかし人間の技術をそのまま取り入れるわけにも、国内の事情から簡単にはいかない。
だからこそ人間の技術を魔法で再現、もしくは改良することで魔法技術として取り入れ、発展させる。
それがモナーのたどり着いた答えであった。
569
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:33:17 ID:HBIJijrw0
('A`)「......なるほど」
その考えはドクオも悪くないのではないかと考えていた。
確かにこの方法であれば、人間の技術をそのまま受け入れた場合に生じる、技術の違いによる衝突は少なくなるであろう。
そして形はどうであれ自国の知らない技術を手に入れることは、直接自国の発展に繋がるのだ。
その先で目指すものが戦いなのを除けば、彼も両手を挙げて賛同していただろう。
ドクオは非戦派であり、エルフと人間の対立に拘らず、戦わない道を進むことが理想である。
とはいえ、ただ戦わずに近づければ良いという考え方とは異なる。
その理由はふたつあり、ひとつは国の多くのものが人間国家と仲良く出来るはずがないと考えている現状、無理に近づこうとすればトラブルになるであろうということ。
初めはどうにか架け橋になれないか等、色々と作戦を考えていたが、あまりのストレスにすぐに限界を迎えてしまい、早々に諦めてしまった。
それほどまでに現在この国で人間たちとの友好関係を結ぶことは難しいのだ。
570
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:34:07 ID:HBIJijrw0
そしてもう一つの理由は、今のまま近づきすぎれば国として危険であるからである。
技術のレベルの差があまりにも大きすぎるまま近づくことになれば、その技術により現在の技術は下手をすれば淘汰されてしまう。
そうなれば多くのものが仕事を失い、国は混乱するし、なによりその技術を支えられるのは技術を提供した相手となる。
それは国の根幹が技術力に支えられているソーサクでは致命的といえる。
言い換えれば、国を支える根幹を敵に握られるに等しい状態になりかねないのだ。
もしそうなれば、二度と相手から逃れることもできなければ逆らうことも出来ない。
表向きは良くても経済的な植民地となりかねないのだ。
ではどうすれば良いか。
彼が出した答えは一つ。
人間たちの国に並びたつ国となり、互いに敵対したくならないような力を持ち合いそれを理解し合う、言わば均衡した状態となること。
そうなればお互い手を出しにくくなる、抑止力になるはずである。
そうしてようやく、真に平等の関係を築くことが出来る。
そんな奇跡ともいえるようなバランスによる平和が、彼の望みであった。
571
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:35:19 ID:HBIJijrw0
そのために独自に敵の持つ力の中で、最も抑止力となり得るものを独自に調査を進めていた。
その力が手に入れば、人間達も無理に敵対することはなくなり、万事が解決するはずであると考えたのだ。
しかしその成果はあまり芳しいものではなく、そもそも情報が手に入ったところで実物を得られるわけではない。
人間の技術を情報のみから作り上げることも不可能に近いため、理想が叶うことは無いと諦めかけていた。
だが目の前にある光景は、その問題を解決しうるものであり、まさにその理想的な未来への第一歩と言える。
確かに魔法へのプライドが高いこの国の者たちが、そのまま人間の技術を受け入れるとは考えづらかった。
だがそれを魔法で置き換えることが可能ならば、話は別である。
魔法としてならば、自国の民も素直に受け入れることが可能であろう。
人間の技術を我が国の技術としつつ、国の根幹である魔法を守り、そして発展することができる。
そうしていけばいつしか、抑止力となりうる力を魔法として作り上げ、人間達と並びたつ日が来るであろう。
理想的な、ドクオの望む世界である。
572
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:35:50 ID:HBIJijrw0
('A`)(......とはいえ)
現状、ルナイファで手一杯であるからこそ特にこちらへの手出しはないが、将来もし技術を無断に模倣していることを知られれば、相手にいい印象は与えないはずである。
流石に直接手を出してくるとは思えないが、少なくとも信用はなくなるだろう。
そしてその信頼を回復しようにも、鎖国に近い体制のせいで外交が弱いため、現在の力関係から考えるに交渉による解決は全く期待できない。
敵対までいくかは不明であるが、関係を下手に悪化させたくないドクオにとってそれは喜ばしいことではない。
そもそも、形だけは見よう見まねで真似できたとしてもその根幹の技術を理解できるとは言い難く、それらを自分達の力に出来るまでにはとてつもない時間が必要となるであろう。
見た目だけならば並びたつ日も近いかもしれないが、そんなハリボテに騙されるほど相手は馬鹿ではない。
573
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:36:29 ID:HBIJijrw0
さらに理論上再現可能でも、その魔法を使える魔術師をどれほど産み出せるかという問題もあるのだ。
魔法は個人の才能がものをいうのだ。
それは良くも悪くも個人に左右されてしまうため、運が悪ければ魔法は作れたが誰一人として使うことが出来ないなどということもあり得なくない。
なんにせよ他の選択肢よりは若干マシとはいえ、まだまだ国が安泰といえる日は遠いという結論に辿り着き、小さくため息をつく。
そもそも大きく力が離れている相手に追い付こうとすることが困難なのだから仕方のない部分はあるのだが、それでも明るい未来が見えないというのは非常に心にくるものがあるのだ。
だが、少なくともこの国の中でも力を持つモナーが無理な敵対はしない方向に進むであろうことに、突然の心境の変化に驚きを感じつつも若干の安心感が生まれていた。
( ´∀`)「......さて、ドクオ君。本題に入ろう」
('A`)「本題、ですか?これを見せるためではなかったのですか?」
( ´∀`)「勿論それも目的ではあるが、これはあくまでも説明のためだ」
('A`)「......説明?」
574
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:37:05 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「先ほどので、人間の技術は我々の魔法で再現可能ということがわかっただろう?」
('A`)「えぇ、それは確かにそうですが......それが?」
( ´∀`)「では、君が再現するとしたら、何を再現するかな?仮に何でも再現できるとするならば、だ」
('A`)「それは......」
本当に何でも再現できるとするならば。
その仮定に一つの考えが頭をよぎる。
人間の国との力を拮抗させるために必要な力。
すなわち、人間でも恐れるものを再現できたとすれば。
その先に待つものは、ドクオが思い描いた世界に限りなく近づくのではないか―
('A`)「そう、ですね。人間が持つ、彼らがもっとも恐れる兵器、でしょうか」
( ´∀`)「......やはり、見込んだ通りだ。優秀な男だよ、君は」
('A`)「え?」
575
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:37:35 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「他のものに同じ質問をしてもこれまでに手に入った情報の中にあった兵器や道具を挙げるばかりであったが......君は違う。ちゃんと、あの国のことを考え、理解できている」
('A`)「......」
( ´∀`)「ドクオ君、君が反戦派なことは知っている。どうにかして、対立しない道を探しているのだろう?」
(;'A`)「っ!?そ、それは......」
( ´∀`)「ああいや、別に排除しようというわけではない。君は優秀だし......利害も一致しているわけだからね」
(;'A`)「どういう......」
意味ですかと聞く前に、モナーはドクオへ一つの魔道具を取り出す。
通信用の魔道具に似たそれは、簡易的な記録用媒体であり、ペアとなる魔石に記録したものを瞬時に共有することのできるものであった。
('A`)「......これは?」
( ´∀`)「ドクオ君、君に任務を与える。任務はただ一つ、君がさっき言っていたものを、探すのだ。人間がもっとも恐れる兵器の情報を」
(;'A`)「な!?」
576
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:38:22 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「それをこれに記録してくれ。そうすればその情報は私に伝わり......いつの日か、それを再現、もしくは対抗するものを作り出して見せよう」
(;'A`)「......」
( ´∀`)「君はこの国に他国を牽制できる力が欲しい、そして私は人間たちを滅ぼせる力が欲しい......そのどちらも満たすことができる。どうかね?」
(;'A`)「......なぜ、それを」
( ´∀`)「それくらい、君のあの答えを聞けばすぐに分かるさ。まあ、すぐに回答が欲しいわけではないから安心したまえ」
敵対することを前提に考えている者に、そんなものを渡せるはずがないー
そう叫びたいドクオであったが、その言葉でる前にモナーもその事が分かっているのか、ニヤリと笑いつつ言葉を続けた。
( ´∀`)「ただ......よく考えたまえよ?もし人間たちの兵器に関する情報が手に入ったところで君では作れないし、だからといって兵器そのものを手に入れるのは不可能なことくらい、君も分かっているんだろう?自分達が恐れるものを他国に渡すほど奴らは馬鹿ではない。つまり、情報を手に入れた上でそれを自国で再現できる技術を持つ仲間が必要だ。違うかな?そんな味方が君にいるのかね?」
(;'A`)「ぐっ......ぅ」
577
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:38:53 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「まあ君もこの国の世論は知っているだろう?いくら私でも、もしもの事があれば、庇いきれないかもしれないからな」
そう耳元で囁かれたのち、魔石をドクオの胸ポケットに滑り込ませ、そのまま部屋から出ていく。
一人取り残されたドクオは自身がとんでもない状況におかれていることを今更になって知り、絶望する。
彼自身はただの職員であったはずなのだ。
それが何の因果なのか、気づけば国を動かすような重大な無理難題ばかり押し付けられている。
(;'A`)「......何で俺ばっかり、こんな目に......」
様々なものたちから板挟みのような状態になり、また自身の考える理想からも押し潰されそうな現状。
最早動くことすらできないほどの重圧に、ドクオは何度も嘔吐した。
578
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 17:39:17 ID:HBIJijrw0
続く
579
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:23:52 ID:HBIJijrw0
>>550-577
投下する話を間違えました・・・最悪すぎる
後程本日投下予定であった話を投下します
580
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:42:50 ID:HBIJijrw0
話の順番としてはこれから投下する話→
>>550-577
の流れになります
分かりにくいですが脳内補完をお願いします
581
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:43:46 ID:HBIJijrw0
ルナイファ帝国 帝都
1463年3月5日
その日、帝都に激震が走った。
理由は様々な放送をする魔信より流れた、一つのニュースである。
―帝国本土に、侵略者現る。
帝国に歯向かう者がいるだけでも驚きだというのに、まさか本土に侵攻し、それを成功させたというのだ。
これまで数多くの驚くべきニュースを聞いてきたものも、このニュースには驚愕を隠せない。
そして、詳しく聞くと誰もが怒りに震えた。
曰く、その正体は我々が召喚した人間であると。
曰く、慈悲深く譲歩したにも関わらずその手を振り払うどころかこのような事態を引き起こしていると。
曰く、エルフの神に歯向かう悪魔の力を借りている世界の敵であると。
582
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:44:12 ID:HBIJijrw0
もはや噂なのか何なのか、ニュースと呼んでもよいか分からないものも含まれていたが、厄介なことにこの世界では皆、神も悪魔も信じられている。
そのためそれを聞いた帝国民の心は一つとなる。
―奴らを滅ぼせ、神に仇なす者達に鉄槌を!
燃え盛るかのごとく、その怒りの炎は伝播していき、皆が敵を倒せ、人間を滅ぼせと叫ぶ。
時折、冷静なものが悪魔の力を持つような相手と戦い勝つことが出来るのか、そもそも本当に悪魔が現れたのかと疑問を持つものもいたが、既に怒りの炎を消すには遅く、そのもの達の声が逆に消されていった。
583
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:45:20 ID:HBIJijrw0
(;=゚ω゚)ノ「異常すぎるよぅ......」
そしてそんな様子を、ソーサクの諜報員、イヨウが潜伏先の家より見ていた。
デモのように多くの帝国民が列を成し、兵を集めろ、武器を作れ、奴らを殺せと唾を撒き散らす。
その声を聞いたものがまた一人、また一人と列に増えていき、もはやそこに参加しないものは非国民とも言えるような、明らかに異常な空気が生まれていた。
(;=゚ω゚)ノ「......ルナイファは、滅ぶつもりなのか?」
原因ははっきりしている。
この放送である。
敗北したという事実を、嘘で脚色し自らの正当性を訴え続けるそれは、情報を知るイヨウにとっては怪情報以外の何物でもない。
だが何も知らない者達にとってはどうか。
それも自分達に絶対の自信と高いプライドを持ち、国からの情報を嘘と疑わない帝国民であったとしたら。
答えは、目の前の光景である。
584
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:45:56 ID:HBIJijrw0
与えられた情報が彼等の中で真実となり、それ以外の情報を与えられても決して受け入れることはないだろう。
それも自分達に不都合な情報だとすれば、例え真実であったとしてもそれを拒むことは容易に想像できる。
狂った歯車は歪んだまま回り続け、そして更に歪み、もう元には戻らない。
その先に待つものは一つ。
ただ、破滅に突き進むのみ。
(;=゚ω゚)ノ「このタイミングでプロパガンダ......ということはもう、講和する気はない?正気とは思えないよぅ」
そう、正気の沙汰とは思えない。
帝国民は確かに敵を知らない。
だからこそ、敵を倒せと叫ぶことが出来る。
絶対に勝てると信じているからだ。
585
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:46:27 ID:HBIJijrw0
だが、国はどうか。
もう十分すぎるほど敵の驚異をわかっているはずである。
なのに国民の怒りを増幅させ、退路を絶つ理由が分からない。
この状態ではいくら国が降伏しようとしても国民が許すことはなく、暴走を続けるだろう。
もはや自分から滅びに行っているのではないかとすらイヨウには感じられてしまう。
そうなるともう一つ、考えられる可能性が浮かび上がる。
(=゚ω゚)ノ「どこかの......工作員の仕事?」
だとしたらとてつもなく上手い手である。
自らの国は何もせず、他国だけで勝手に争わせ、暴走させ、疲弊させる。
理想的ともいえる手段である。
(=゚ω゚)ノ「だとしたら一体何処が......」
もしかしたら自国以外にも動いているかもしれない。
十分に、気を付けなければ。
そう気を引き締め、彼は再び仕事へと戻っていった。
ー最も、放送の元がこの国のとある阿呆によるものと知ることになり、拍子抜けすることになるのだがそれはまだもう少し先の事であった。
586
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:46:56 ID:HBIJijrw0
ムー大陸 迎賓館
1463年3月6日
今、自分は現実を見ているのだろうか。
フィレンクトはそんな感覚に陥っていた。
ムーに訪れた際に目にしたのは異様とも言える光景であった。
まだまだ戦火の跡が目立つ中、一際目立つ摩訶不思議な物達。
まず目に入ったのは国に入国する際に港に泊まっていた巨大な艦。
基本的に船は大きければ大きいほど強力である。
その大きさの分だけ魔方陣を積むことが出来るのだから当然の常識とも言える。
だからこそ、150mという巨大な艦を作れるルナイファやソーサクは強大な国家として名前が挙げられるのだ。
大きな艦を持つと言うこと、そしてその大きさはそのまま国家の力の大きさを表し、それに比例すると言っても過言ではない。
587
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:47:39 ID:HBIJijrw0
それが、どういうことか。
この南方の僻地とも言えるこの国にはその倍近いと思われる艦が泊まっていたのだ。
単純に考えれば、ルナイファやソーサクの倍の力を持つと言うことかとあまりの現実感の無さに笑ってしまうほどであった。
更にその艦が載せている物も問題であった。
到底生き物には見えない、翼を持つ金属の塊。
何かのオブジェクトかと思えば、『ひこうき』なる空を飛ぶ物という。
あのようなものが空を飛ぶのかと驚愕したが、更なる衝撃がすぐにフィレンクトを襲うこととなる。
それは、その『ひこうき』が飛ぶ瞬間を見たときであった。
この世ならざる速度で飛び出すそれは、一目だけでこの世界の空を支配することに疑いはない。
事実、フィレンクトはあの『ひこうき』を落とすどころか、追い付く手段すら想像の世界ですら作り出すことが出来なかったのだから。
588
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:48:18 ID:HBIJijrw0
(;‘_L’)「ルナイファめ、とんでもない国を呼び出してくれたな......」
滴る汗を拭いながら、ルナイファに対して悪態をつく。
どう考えてもこれから自分が相対するのは、怪物である。
それも、異界の怪物。
一体どう話をすれば良いのか、分かるはずもない。
そしてなにより、頭を悩ませていること。
それは、相手のエルフへの偏見。
いや、ルナイファがしでかした事を考えれば偏見といって良いかは分からないが少なくとも好印象はないであろう。
彼らからすればエルフはこの世界に勝手に連れてきては服従を要求し、断れば戦争を仕掛けてくる存在である。
どう考えても、まともにこちらの話を聞いてもらえるとは思えない。
(;‘_L’)「くそ......ルナイファめ」
それもこれも元を辿れば全て、元凶はルナイファである。
だからこそ、先ほどから何度も何度も繰り返し、フィレンクトはルナイファへの悪態をつく。
589
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:48:52 ID:HBIJijrw0
とはいえ、そんなものを繰り返したところでなにも変わらない。
もうここまで来てしまったのだから、何としてでも話をつけなければならない。
例え、どんな対価を支払うことになったとしても。
勿論、手札は用意している。
相手が欲しがるであろうものを予測し、揃えては来ている。
だが相手は異界の民なのだ。
どこまでこちらの常識が通じるか。
そしてどれほどこちらに怨みを持っているのか。
それに、全てがかかっている。
とてつもない、プレッシャーであった。
(;‘_L’)「......せめて」
せめてルナイファよりは、話が通じますように。
そんな儚い希望を抱きつつ、彼は異界の民との交渉に向かうのだった。
590
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:49:53 ID:HBIJijrw0
アリベシ法書国 北方基地
『我が国はヴィップと和解し、共にこの大陸を発展させると共により良い未来を―』
静かな基地内に、魔信から流れる放送が響きわたる。
その内容に多くの者が涙を流す。
色々と話は続いてはいるものの、結局それが表すものは、敗戦。
そう、今日この日、アリベシは負けたことを認め、ヴィップに屈することとなったのである。
( ・∀・)「......」
そして、その放送をモララーは無表情に聞いていた。
だがその胸の内はぐちゃぐちゃであった。
戦争で死ぬかもしれない思いをし、それを運よく生き残り、そしてもう戦わなくて良いという喜び。
因縁の相手に負け、多くの仲間達を殺され、これからは敗戦国として生きていかなければならないという悲しみ。
そしてなにより、神の御告げである法書の導きであったにも関わらず、この無惨な現実は何なのか。
591
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:50:28 ID:HBIJijrw0
法書は国を導き、モララー達を幸せへと導くものだと、そう信じていたからこそ彼らはどんなに無茶な御告げにも従ってきたのだ。
それが一体何故、こんなことになってしまったのか。
モララーはいくら考えても、その答えが分からないのだ。
( ・∀・)「......」
いや、本当は一つの可能性に気が付いている。
だが、その可能性を無理矢理封じ込めているのだ。
本当は法書、神の御告げなどはまやかしであり、自分達の信じる神などいないのではないか―
592
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:50:57 ID:HBIJijrw0
そんな自国を否定する考えなど、ただでさえ追い詰められた彼らが出来るはずがない。
否、そのような考えに至ったものもいたが、その考えに耐えきれずに命を自ら絶っていた。
彼らにとって神は絶対であり、全てなのだ。
( ・∀・)「......どうして」
もう、この呟きも何度目か分からない。
だが、呟いてしまう。
この沸き上がる感情をどうすれば、何処にぶつければ良いのか分からない。
だから、教えてくれと。
何故こうなったのか、そしてこの感情のぶつけ先を。
放送は続き、泣き声も途切れることはない。
導きを失った彼らは、今はただ泣くことしか出来ないのだから。
593
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:52:33 ID:HBIJijrw0
ルナイファ帝国 東方基地
1463年3月9日
(´<_` )「......アニジャ達の安否は、未だ不明、か」
ルナイファ帝国の東側、対ソーサクを考えられ作られたその基地にオトジャはいた。
あの南方での戦いの際、攻撃に直撃するギリギリでなんとか転移魔法が発動し、飛ばされた先がここであった。
ここに飛んできたのには勿論理由がある。
東の強敵、対ソーサクを意識して作られているため、艦の修理や補給を行うための設備がルナイファのなかでも特に優れていること、また南方が敵に奪われた根性、召喚地方面へ再度出撃が必要となった場合に最も動きやすいことが理由として挙げられる。
とはいえ、艦への被害が酷いものも多いためすぐには動けそうもなければ、あんな化け物ともう戦いたくないと精神を病んでしまう兵士まで出ているのだ。
先の戦いの際、次はと言ったものの誰もが本音ではもうあんな戦いは御免であった。
594
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:53:50 ID:HBIJijrw0
無論、オトジャもあんな敵と再度戦うことは避けたい限りではあるが、敵が侵攻してきてこちらが兵士である以上、なにもしないわけにもいかないだろう。
そしてもし、アニジャが敵に討たれているのだとしたら―
(´<_` )「......ここで、止まれるわけがない」
決して怒りに身を任せるようなことをするつもりはない。
だが、それでも全て受け入れられるはずもない。
もしもの時、その時の覚悟は出来ている。
とはいえ、そんなときが来なければ、アニジャが無事でいてくれればと祈るばかりである。
(・∀ ・)「......少し、よろしいですか?」
その時、不意に声を掛けられる。
はっと顔を上げるとそこにはマタンキがいた。
彼もまた、あの敵にやられここに撤退してきたものの一人である。
ムー奪還作戦の際に敵に一撃を与えて動揺した隙に撤退出来た、数少ない生き残り。
同じ敵を知るもの同士と何かと話をする、不思議な縁が出来つつあるような関係であった。
595
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:54:30 ID:HBIJijrw0
(´<_` )「あぁ、マタンキさん。えっと、なんでしょうか」
(・∀ ・)「いえ、艦のことで相談がありまして。実は私にプギャー様からの命令が入ったのです」
(´<_` )「プギャー様から?」
その言葉にオトジャは猛烈に嫌な予感がする。
そんなオトジャの様子に気づかないのか、マタンキは話を続けた。
(・∀ ・)「えぇ、近々艦が多数、必要になるやもしれないのです。それも、召喚艦が」
(´<_` )「召喚艦?......ワイバーンでどうにかなる相手ではないと思いますが」
(・∀ ・)「プギャー様からの命令ですのでそこについては私は知りませんな」
(´<_` )「......そうですか」
596
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:55:21 ID:HBIJijrw0
マタンキは言ってしまえば、ある意味でこの国の最も軍人らしい考え方を持つ者ともいえるであろう。
エルフのプライド、そしてルナイファのプライドを第一に考えつつ、自らの利益のために動く一方で国を守るためという考えなど持ち合わせていない。
事実彼は、ムーではプライド第一に無理な特攻を仕掛けたくせに、自身だけは一撃を与えてプライドを守ることに成功したからと上陸した味方の支援もせず撤退してきたのだ。
今回についても恐らくはプギャーから何かしらの報奨や裏金を貰っているのであろう。
だからこそあんな無能の命令をこんな大惨事ともいえる事態に陥った今でも、特に反対や意見をすることもなく行おうとしている。
あんな無能を祭り上げてどうするんだとオトジャは心の中で呟きつつも、それは決して表に出さずに小さく頷く。
(´<_` )「上からの指示ならば、仕方ありませんな。艦の整備を優先させてほしいと言うことでしょう?」
(・∀ ・)「えぇ、そうなります」
597
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:56:04 ID:HBIJijrw0
(´<_` )「分かりました。まあ元より、こちらは再度出撃できる見通しは立っておりませんから問題ありません」
(・∀ ・)「そうでしたか。ならば良かった」
では、そういうことでとマタンキは整備順の指示に向かうのだろう、オトジャから離れていく。
その後ろ姿を眺めつつ、オトジャは考える。
―この指示、一体何が目的なのか。
海戦で敵に勝つことはほぼ不可能であると、流石のプギャーも分かっているはずである。
だがそれでも多数のコストがかかる召喚艦の整備を、それも至急取り掛からせるとは何を狙っているのか全く分からない。
598
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:56:34 ID:HBIJijrw0
そもそも海軍として崩壊寸前のところだというのに、これ以上、何をしろと言うのか。
拭えない嫌な予感。
それは決して消えることない。
(´<_` )「アニジャなら......分かるのだろうな」
自分より優秀な兄。
今何処に、そして無事かも分からないその名を呼ぶ。
何時もならば、問いかければすぐに答えてくれる彼は、今はいない。
何一つ明るい兆しがないのである。
それがオトジャの、そしてルナイファの現在であった。
599
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 19:01:39 ID:HBIJijrw0
本日投下予定であった話がこちらです
この後に
>>550-577
が続く形となります
今回の話は私のミスで非常に分かりにくい形となってしまいましたが今後も読んでくださると嬉しいです
書き溜めが死にましたが頑張ります
600
:
名無しさん
:2023/09/03(日) 08:19:44 ID:qVLILsAk0
おつおつ!
こちらとしては2話分読めたから得でしかない
モナー怖いけど天才だな…
601
:
名無しさん
:2023/09/03(日) 16:57:13 ID:1cmrFcs20
乙津
602
:
名無しさん
:2023/09/03(日) 19:34:18 ID:m1AK2STU0
乙乙
ドクオの胃がついに限界を……
プギャー様の事を阿呆扱いする輩は許されませんねぇ
603
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:25:05 ID:TsDhJ0GQ0
ルナイファ帝国 帝都
1463年3月22日
―天に仇なす人間を滅ぼせ。
そんなスローガンのもと、多くの志願兵が帝都に集まってきていた。
誰もが愛する国を守るため、侵略してきた野蛮な輩を叩き潰すと決意をし、ここに来ている。
その顔は誰もが怒りに満ち溢れ、すぐにでも戦いに出向こうとするものも少なくない。
さてそんな殺気に溢れる志願兵だが、その年齢層はとても広い。
かなりの年配のものからまだ学生であろう子供まで集まっているのだ。
通常であれば、兵が十分にいたルナイファでは不要な存在である。
ましてや魔法は個人の才能に左右されるのだ。
むやみやたらに集めたところで兵として役に立つものなど一握りだけであるため、試験などで不要なものは弾かれるのが普通である。
才能のないものも受け入れてしまうと、その分増えるコストを考えれば割に合わない。
604
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:26:25 ID:TsDhJ0GQ0
しかし今は一人でも兵が欲しいのか、志願したもの全てが受け入れられる勢いである。
それほどまでに追い詰められている、ということなのだがそれに気付くものはいないのか、誰も気にする様子もなく、戦いに向けて訓練をし、来る日に備えていた。
そうして訓練を続けるものを見たものが、また一人と志願し兵が増え、またその志願したものに近いものが、まだ志願していないものを非国民だと後ろ指をさし噂することで、耐えきれなくなったものがまた一人として志願する。
そんな国家としてもはや末期に近い状態になりつつあるなか、また今日も一人の男が志願兵として、この帝都に現れていた。
( ^ω^)「......」
その男、ブーンは友が皆戦場に行き消息を絶ってしまった現在、彼の周りも、また彼自身もなぜ彼だけ戦いに赴いていないのかと考えていた。
605
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:28:47 ID:TsDhJ0GQ0
元々戦場に行くことを反対していた親は相変わらず反対していた。
そのため本来であれば戦争などに参加せずに生活を送ることは不可能ではなかったはずである。
しかし彼自身が周りからの圧力、そして自分の考えに耐えきれなくなり、自分も戦うのだと、友のように国を救うために働くのだと家を飛び出しここに来たのだ。
( ^ω^)「......皆、見ててお」
これから、何をするのかは分からない。
だがこれでようやく、友に顔向けできる。
そんな安堵と共に、友を殺したかもしれない敵への怒りが沸々と沸き上がる。
―絶対に、殺してやる。
そんな黒い決意を胸に、ブーンは訓練の輪のなかに消えていった。
606
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:29:34 ID:TsDhJ0GQ0
ムー国 迎賓館
1463年3月25日
交渉は、呆気ないほどスムーズに進行した。
あまりの拍子抜け具合にフィレンクトは逆になにか罠なのではないかと感じたほどであった。
確かに初めて人間たちと顔を合わせた際は丁寧な対応をされたものの、そこに隠れていた敵意に近い、恨みのような感情が空気で伝わってきていた。
それに対しフィレンクトは、ルナイファとは関係無いとは言え、同じエルフとして謝罪し、頭を下げた。
その行動が良かったのか、頭を下げた瞬間、険悪であった空気が一気に変わっていた。
エルフにもこんなにも話ができるものがいるのか―
そう暗に言われているようにも感じられ、フィレンクトはあまりの恥ずかしさ、そして情けなさに顔から火が吹き出るのではないかという思いであった。
607
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:30:51 ID:TsDhJ0GQ0
野蛮だ、蛮族だと言っていた相手に対し、こちらがそのように思われおり、またそれにも関わらずこの人間たちはこちらを丁寧に扱おうとしてくれていたのだ。
このようにするのが文明のある、知性のある生物だと言わんばかりのその姿に悔しいがフィレンクトは相手の方が優れた考え方を持っていると認めざるを得なかった。
さらに付け加えるならば、まともな外交を出来たことも衝撃的であると同時にまたもや情けない気分にさせた。
この世界の国々の大国を見れば、暴君であり交渉の手段を戦争と脅迫しかしらないようなルナイファ、鎖国し築き上げた魔法技術の高さに比例するようなプライドを持つためにまともに話ができないソーサク、法書なるもののお告げならば自国より強い国とすら戦争をするような狂人の集まりのアリベシ。
まともな大国と言えばヴィップ位のものであり、対等でまともな交渉ができるのもこの国くらいのものである。
そんな中、自国よりも明らかに強力であり、かつこちらに恨みがあるであろう人間達は対等な立場での外交を望んだのだ。
608
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:31:26 ID:TsDhJ0GQ0
勿論、互いに譲れないものなどでの牽制等もあったが、これこそまともな外交だとフィレンクトは歓喜した。
持ちあったカードを切り合い、相手の要求、そして妥協点を見極め、より良い条件を引き出し合う。
力ではなく、頭脳と言葉による戦争。
本来あるべき世界の姿がここにあるとすら、フィレンクトは感じていた。
(‘_L’)「......良かった」
気づけばフィレンクトはそうポツリと呟いていた。
それはまちがいなく本心であった。
シラヒーゲがこの国と接触し、また友好的に交流しようとしたこともそうであるし、このようにまともでかつ優秀な者と互いに言葉を尽くし合えたことが幸せであった。
自分の力を遺憾なく発揮できる機会に、ようやく巡り合うことが出来たのだ。
609
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:32:19 ID:TsDhJ0GQ0
とはいえ、懸念点もある。
今回の交渉を通じて理解したが、相手はフィレンクトよりも遥かに経験が上であるということ。
このような対等な立場での交渉に長けているのだ。
対しフィレンクトはというと、そもそも交渉できるような相手がいないのだから経験の積みようがない。
そのため交渉はスムーズに進んだのはいいものの、相手にほぼ常にイニシアチブを握られていたのだ。
一応、納得できるような条件を引き出せてはいたものの、今後の事を考えればこのまま主導権を奪われることは好ましくない。
だからこそ、フィレンクトは最後のカードを切った。
彼が考えうる限りで最も人間たちが欲しがっているであろう、そのカードを。
610
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:33:33 ID:TsDhJ0GQ0
(‘_L’)「......陛下」
そうして彼は魔信をかける。
全ての交渉がまとまったこと、そうして決まった事を伝えるために。
(‘_L’)「予想通りの結果となりました。相手も恐らく、想定していたのでしょう。また『えいせい』なるものでこちらの動きも見られていたらしく、かなり行動が早かったです。えぇ......予想以上に、手強いです」
その報告に魔信の先のシラヒーゲも喜びの声を挙げる。
全て、自分達の理想通りの展開となっているのだから、当然だろう。
(‘_L’)「ですが......彼等は味方となってくれました。そして我が国は、事前にお伝えしたとおりに......」
世界は、更なる変化の時を迎えていた。
611
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:34:12 ID:TsDhJ0GQ0
アリベシ法書国 北方難民キャンプ
1463年3月28日
(# ・∀・)「悪魔が逃げたぞっ!追えっ!!」
民たちの怒りが、限界を迎えてしまった。
絶対であるはずの神の御告げを聞き、その意思に従ってきたはずであった。
全ては正しい道を進んできたはずなのだ。
それが一体どこで間違えたのか、幸福になるどころか国は疲弊し、多くのものを失ってしまったのだ。
しかし、神が示す道がこのような結末を迎えるはずがない。
神は完璧であり、そして示される道もまた完璧なのだから。
612
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:35:22 ID:TsDhJ0GQ0
ではなぜ、こんなことになったのか。
様々な考えが生まれては、耐えられない考えは切り捨てるか、はたまた本当に耐えきれなくなり自殺するものも現れ、そうしてようやくひとつの考えにまとまろうとしていた。
―何者かが、神の意思を妨害したのだと。
アリベシの民はその考えに至ると、何故こんな簡単なことに気付かなかったのかと狼狽した。
神は完璧なのだから、もし間違いが起きたのだとしたらそれは間違いなく、それを阻止しようとしたもの達がいたのだと。
そうなると次の疑問が浮かんでくる。
一体誰が、どうやって自分達を妨害したのか。
その問に対する、アリベシの民の答えはひどく単純で、そして酷いものであった。
自分達の中に神へ反逆する者たちがいる。
そしてそれらは自分達を邪魔する、悪魔の手先なのだ、と。
613
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:36:52 ID:TsDhJ0GQ0
(# ・∀・)「見つけたぞ!異端者だっ!!」
そうして始まったのは、異端審問。
少しでも疑わしいものがいれば、どれだけ親しい仲であっても、戦争で苦楽を共にした相手でも迷わず捕らえる。
国民皆がお互いに疑い合い、捕まえ合い、そして―
(# ・∀・)「吊るせっ!吊るせっ!こいつらのせいで、国が、神が冒涜されたんだっ!!」
命を、奪い合っていた。
もはや国は暴走状態に、いや国として呼べるか分からないほどの無法地帯となり、荒れていた。
だがそんな状態でも皆の心は不思議とひとつであった。
それは、神への忠誠心。
誰もが神のため、正しい事をしていると信じて疑わない。
だからこそ誰も止まるはずもなく、いるかも分からない悪魔を探すため、異端審問は続いていく。
614
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:38:13 ID:TsDhJ0GQ0
戦勝国であるヴィップも、ここまで荒れ狂った国の面倒を見きれるはずもない。
またアリベシが大国であったために物理的にも支配しきることが不可能であり、さらに得られるリターンが少なすぎるため、勝手に自滅し再び攻め込んでこなくなるならとそのまま放置する方針で固まりつつあった。
とはいえ、今後完全に国として崩壊したときに大陸の情勢を考えればなにかしらの対策はしなくてはと頭を抱えることになっているのだが、簡単に解決できることでなく、そして現時点でなにもできないことに変わりはない。
ゆえにもう彼らを止められるものはなにもなく、狂気はさらに増していく。
そして怒りは未だ収まる様子はなく、それどころか加速度的に増幅されているようにも感じられる。
狂った者達は、もう止まれないところまで来てしまっていた。
615
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:39:40 ID:TsDhJ0GQ0
『......なぁ、あの噂、知ってるか?』
( ・∀・)「......うん?」
『法書についての噂なんだがな』
( ・∀・)「なんだそれ?」
そんなところに、見知らぬ者たちからのとある噂が飛び込んでくる。
情報源すら怪しい情報。
しかしそれすら、もう誰も疑うことなく、理性ではなく感情で突き進んでいく。
狂気は、さらに加速する。
616
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:40:14 ID:TsDhJ0GQ0
ルナイファ帝国 デミタス宅
この日、デミタスは自宅で仕事をしていた。
陛下から任された任を果たすべく、もう何日も部屋に引きこもり、仕事を続けている。
誰にも邪魔はされたくないと、わざわざ一人になれる自宅に籠って作業を進めていた。
そんな彼が今やっているのは多大な被害を受けた海軍の情報を改めて整理し、今後どのように動くべきかを再検討するため、見たことないほどに積み上がった書類に目を通し、熟考することであった。
それらを読めば読むほどいかに無謀な戦いをしてきたかを再認識させられる。
一体どれだけの金と時間をつぎ込めば元の状態に戻せるのか分からなくなるほどの酷い有り様であった。
617
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:41:24 ID:TsDhJ0GQ0
(;´・_ゝ・`)「......うーむ」
そうして問題になるのは、今後海軍を復興である。
広大すぎる自国を守るには、大量の艦が必要不可欠。
だがそんなものを急に用意できるはずもない。
さらにはそんな資金も無から沸いてくるはずもない。
むしろ降伏のために多額の賠償として資源やらを渡すことになるであろうことから再建への道は厳しいと言わざるを得ない。
また相手側がこちらを危険と考え、軍事力に規制を掛けてくることも十分に考えられる。
流石に国として崩壊することになればルナイファが存在するこの大陸どころか世界全てが混乱することとなり、賠償どころではなくなる。
そのため、混乱を防ぐためにも自国を最低限統治できるだけの力は持たせてはくれるだろう。
しかしその程度の戦力だけでも準備するのには時間はかかるし、なによりこれまでの政策上、周囲に敵国が多すぎるため最低限の戦力では不安は潰えない。
618
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:43:12 ID:TsDhJ0GQ0
(´・_ゝ・`)「やはり......土地を渡して奴らの軍を、我が国に入れるしかないか」
他国の軍を、自国に入れる。
それはもはや土地を明け渡し、居座るのを容認することに等しい。
下手をすれば永久にその土地を他国に明け渡すことになり、かつこの大陸への足掛かりとなるため、常に首元に武器を突き付けられるようなものである。
基地を作ることになれば恐らく治外法権や軍事費の負担などを認めることになることも予測され、自国にとって相当苦しいものとなることは間違いない。
だがその代わりに、あれほどの力を持つ戦力がこの国にあると示すことができるため、むやみやたらに攻め込まれることもないであろう。
苦渋の選択とはいえ、ただでさえ混乱が予測される戦後、自国の外のことなど考える余裕がないであろうことから他に選択肢等ないのだ。
619
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:44:29 ID:TsDhJ0GQ0
(´・_ゝ・`)「......」
もう何度目か分からないため息をつきつつ、再度資料に視線を戻す。
考えても考えても、明るい未来など見えることがない。
だが、目を閉じてもその未来が変わることない。
ならば目を反らすわけにはいかないのだと、資料を黙々と読み進めていく。
(´・_ゝ・`)「......うん?」
そうしてかなりの時間が経った頃、ある資料でピタリと手が止まる。
それは最近の艦隊の動きに関する報告であった。
(´・_ゝ・`)「召喚艦が、なぜ東方に集められている?」
そんな指示を出した覚えはない。
勿論、現場の兵が勝手に動かすにしても規模が大きすぎるため、その可能性もないだろう。
620
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:45:29 ID:TsDhJ0GQ0
そうなれば可能性は一つ。
艦隊を動かせるほどの力を持つものが、自分の知らないところで動いている。
(´・_ゝ・`)(......プギャーか?)
そしてその条件に合うもので心当たりと言えばプギャー、ただ一人である。
軍のトップでかつ多くのコネを持つプギャーであれば、不可能ではない。
だがそうなると、問題が一つ浮かんでくる。
―なぜ、隠してまでこんな行動をしている?
明らかに何かを狙った行動。
目的がないということは、まずあり得ない。
では一体なぜ、召喚艦などを使うのか。
プギャーとて、ワイバーンをいくら召喚したところで人間達に勝てないことくらいは分かっているはずである。
これまでの戦いで一切、役に立っていないのだ。
今更、どんな価値を見出だしたというのか。
621
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:46:14 ID:TsDhJ0GQ0
(´・_ゝ・`)(......む?)
そうしてしばらく考えていると、ふとなにかが引っ掛かる。
召喚。
その言葉に、記憶の中でなにかが警告をならしていた。
それは、一体何故なのか。
(´・_ゝ・`)(......)
考える。
深く、深く。
記憶の奥底を探る。
そうして何度も、何度も繰り返し召喚に関わる物事の全てを思い出そうとしていた。
(;´・_ゝ・`)「......あっ!?」
そうして、ひとつだけ。
可能性が頭によぎる。
召喚を用いた、ある魔法。
ロマネスクから教えられた、新魔法ー
622
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:48:29 ID:TsDhJ0GQ0
その考えが頭に浮かんだ瞬間、デミタスの額に一瞬で汗が吹き出す。
あり得ない、あり得てはいけないとその考えを否定しようとしても、あのプギャーならばやりかねないのではという考えに、否定しきることができない。
(;´・_ゝ・`)「すぐにでも、止めなければ―」
ガタッ―
(;´・_ゝ・`)「......え?」
椅子から立ち上がった、その瞬間であった。
部屋に物が動く音が、二つ響く。
一つは勿論、椅子の音。
勢いよく立ち上がったのだから、当然であろう。
623
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:49:51 ID:TsDhJ0GQ0
では、もう一つは何か。
その音は、デミタスの背後からであった。
だがそれは椅子の動く音ではない。
しかし他に動くものなど、あるはずがない。
今、この家にはデミタス一人だけであり、他にものが動くことなど、あり得るはずがないのだ。
では一体、何が―
そんな疑問を頭に浮かべ、振り返る。
(;´・_ゝ・`)「なー」
刹那、黒いローブを着た何者かが眼前まで迫ってきていた。
何者なのか、そして一体何事なのか。
そんな疑問を口にする暇もなく。
首元に冷たい何かが触れた、そう感じたのを最後に。
部屋は、朱に染まっていた。
624
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 12:51:16 ID:TsDhJ0GQ0
続く
625
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 20:26:45 ID:buw2gsg20
プギャー!なんてことを!
626
:
名無しさん
:2023/09/10(日) 08:16:58 ID:ySnZZUEI0
おつ
プギャーさん思ったよりもとんでもないこと仕出かしそうだな…
協議すらせず仲間暗殺する(推定)とかイカれてんな
627
:
名無しさん
:2023/09/11(月) 16:21:16 ID:2UYCnCiw0
乙です
628
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:19:57 ID:FLHtAlFk0
アリベシ法書国 国立図書館
1463年3月29日
狂気にのまれた者たちがこの国の中心ともいえる場所に足を踏み入れようとしていた。
この国の未来を指し示す法書が眠るとされるここ、国立図書館には多くの者で溢れていた。
ここに集まった理由はただひとつ。
とある可能性が皆の頭によぎったからである。
法書の内容は読み手と呼ばれる者がおり、その読み手が法書の御告げを読み解き、それを皆に伝えられる。
そう、読み手以外誰も法書の正しい内容を直接知るものはいないのだ。
だからこそ、皆は考えたのだ。
今回のこの惨事の原因は、この読み手が神の御告げをねじ曲げたか、読み解き間違えたからなのではないかと。
629
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:20:50 ID:FLHtAlFk0
誰が最初に言い始めたかは定かではない。
根拠なんてまるでない、ただのふとした思い付きであったかもしれない。
だがいつしかそれは真実として広まり、このような事態を引き起こしたのだ。
それでも最初は、図書館の周囲に集まり言葉とは思えないような雑音を叫び、喚き散らすのみであった。
誰もがこの法書のある場所は神聖なものであり、無闇に荒らすことが憚られたからである。
しかし、それも時間の問題であった。
どうにか暴徒とかした者たちを帰らせようとしていた図書館の者が軽く押し返したのだ。
ほんの、軽くである。
だが不意をつかれたのか押されたものはそのまま後ろに倒れ込み、周囲の者に支えられる。
そしてそれを見ていた誰かがこういった。
―遂に手を出してきやがった!
630
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:22:11 ID:FLHtAlFk0
それをどう解釈したのか、聞いたもの達はやり返そうとばかりに前に出て暴力を振るい出す。
そしてそれを見たものも暴力を振るい出し、止めようとするために暴力を振るわれ、やり返すためにさらに暴力を振るう。
一度始まったら、もう止まらない。
暴力は伝播し、神聖であったその土地は血で汚されていく。
いつしか魔法すら使うものも出始め、その光景は戦場のようであった。
死人まで出るほどの騒ぎになり、最早終息は不可能になったと思われたその瞬間であった。
辺りに絶叫が響きわたる。
その声の主はいつの間にか図書館の中にまでなだれ込んでいた一人のエルフ。
これまでも数えきれないほどの悲鳴はあったため、特別有名でもないその存在の声を多くの者は気にしていなかった。
だが、それに続く言葉を耳にし愕然とすることとなる。
―法書が、書き換えられている!!
631
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:22:44 ID:FLHtAlFk0
ルナイファ帝国 テタレス南方平野
1463年3月30日
ルナイファ帝国第二の都市であるテタレスの南方には平坦な平野が広がっている。
遮るものがなにもなく、一面に広がる緑の光景はこの国の中でも有数の絶景と言えるスポットである。
だがそんな平野には今、多くの兵や兵器で埋め尽くされていた。
簡易的な拠点として立てられたテントの中ではこれから始まるであろう戦いに備え、話し合いが進められている。
だがその顔はまだ戦いの前だというのに皆一様に暗いものであった。
( ^ν^)「それで、どうすんだこれ」
(; ,,^Д^)「どうするもこうするも......全軍で突撃するしか手はないのでは?」
(# ^ν^)「そんなことしたって俺達が死ぬだけじゃねぇか!!」
632
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:23:51 ID:FLHtAlFk0
ダンッという、鈍い音がテントの中に響く。
机に叩きつけられた拳は赤く染まり、血が滲んでいた。
だがそんなことを気にする様子もなく、話を続けていく。
(# ^ν^)「くそっ......ここを死守しろってどうすればいいんだ!勝てねぇ相手に!!」
(; ,,^Д^)「お、落ち着いてください!周りに聞かれれば下手すれば反逆者になりますよ!?」
( ^ν^)「はっ、むしろ聞かせた方がいいんじゃないか?」
(; ,,^Д^)「は?」
( ^ν^)「今ここにいるやつがどんな状況か分かってるのか?元々テタレスにいたやつらは敵の強さに怯え、使い物にならない。使えるのと言ったら現状を全く理解できてない北方から援軍としてきたバカ共と、ろくに訓練もしてない無駄にやる気だけある一般のバカだ」
(; ,,^Д^)「......現実を理解していないものが多いことは承知しています。ですが、そんな言い方は」
( ^ν^)「おいおい、てめぇ本当に分かってるのか?自分の命が、そんな奴らにかかってるんだぞ?俺は御免だね」
(; ,,^Д^)「それは......」
633
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:24:25 ID:FLHtAlFk0
(`・ω・´)「そこまでにしておけ。今は、目の前の問題をどうするか、だ」
これまで黙っていた一人の男が口を開き、二人の会話を遮る。
その男の声に二人共、どこか険悪な雰囲気は残しつつも口を閉じる。
そんな二人の様子にため息をつきつつもその男、シャキンは話を続けた。
(`・ω・´)「敵は空からの攻撃が可能であり、その威力は基地を壊滅させるほど。さらに空から兵を送り込むことも可能だという」
( ,,^Д^)「......凄まじい攻撃能力と機動力を持つ、というわけですか」
(`・ω・´)「そうだ。そして我々は根本的にそれを封じる策は持っていない」
( ^ν^)「とは言っても結局地上を侵略するなら陸上戦力は欠かせない。ってなると空は捨て、それらを狙うしかないでしょ」
(# ,,^Д^)「おいニュッ!お前上官にそんな口調でっ!」
(`・ω・´)「いい。時間もない、いちいちこんなことで仲間を失うわけにもいかん......それにこんなやつだと言うことは元から分かっていたことだろう」
( ^ν^)「......」
(# ,,^Д^)「......っち!」
634
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:25:23 ID:FLHtAlFk0
(;`・ω・´)「ふぅ......続けるぞ?作戦についてはニュッの言う通り、陸上戦力を狙い、敵の侵攻を防ぐ、いや敵の足を止めさせることだ」
そう言いつつ、シャキンは机の上に地図を広げる。
そのうちの一ヶ所を指差し、なぞりつつ言葉を続ける。
(`・ω・´)「皆もわかっていると思うが、ここの平野はテタレスに通じ、またそのまま北上すればいずれ帝都に辿り着く」
( ,,^Д^)「簡単に敵に渡すわけにはいかない、と言うわけですね」
(`・ω・´)「そうだ。少なくとも現在進められている北方戦力から帝都南方の要塞周辺への戦力移動が済むまでは時間を稼ぐ必要がある」
( ^ν^)「......時間稼ぎ、ねぇ」
(`・ω・´)「なんだ?」
( ^ν^)「いや、確かに時間さえあれば数は集まるかもしれないけどさ、それで勝てんの?って話よね」
(`・ω・´)「......」
(# ,,^Д^)「おいっ、だからいい加減にっ!」
(`・ω・´)「......勝てんだろうな」
(; ,,^Д^)「っ!?」
635
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:26:04 ID:FLHtAlFk0
怒りの言葉を放とうとしたところに、信じられない言葉が聞こえ、思わず言葉に詰まる。
思わず、といった雰囲気でその言葉の主を見つめ、固まってしまう。
タカラには一体どう言うことなのか、瞬時に理解できなかったのだ。
( ^ν^)「......なら本音で話そうぜ。ここには俺らしかいねぇんだ。時間稼ぎしたいのは分かった。だが勝てないのにやる意味はねぇ。だとすれば何のためだ?」
(`・ω・´)「......ふむ、そうだな。分かった。話そう。勿論、ここだけの話にしてくれ」
(; ,,^Д^)「シャキン様?」
(`・ω・´)「現在、陛下やロマネスク様が降伏に向けて動いている」
(; ,,^Д^)「なっ!!?ど、どう......むぐぅ!?」
( ^ν^)「声がでけぇ。ここだけの話って聞こえなかったのか?」
(; ,,^Д^)「む、ぐぅ......」
636
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:27:47 ID:FLHtAlFk0
タカラの口を押さえ、ジロリと睨み付ける。
そしてタカラがその言葉に大人しくなった事を確認するとニュッは手を放し、シャキンに向き直る。
( ^ν^)「なるほどね。相手さんと話が出来るまでの時間稼ぎ、ってわけか。帝都が落ちたら話し合いも糞もないもんな」
(`・ω・´)「そういうことだ」
( ^ν^)「なるほど、納得した。それならまぁ、仕方ねぇか」
(; ,,^Д^)「......」
( ^ν^)「なんだ?お前は納得してないのか?」
(; ,,^Д^)「納得は......分かりません。ですが、やるしかないのでしょう?」
(`・ω・´)「そうだ。ここを死守せよ、という命令もあるわけだしな」
( ,,^Д^)「命令......了解、いたしました」
637
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:29:46 ID:ePN3KLfM0
(`・ω・´)「うむ。では二人には奇襲部隊として動いて貰うことになる」
( ,,^Д^)「奇襲、ですか?ここには隠れる場所もなければ、隠蔽魔法を使うための陣の用意も出来ていませんが......」
(`・ω・´)「そうではない。攻撃は地中からだ。君達はこの地点で.....」
そうして作戦に向けた準備が進められていく。
気づけばもう夜遅く、辺りが闇で支配されていた。
そろそろ休もうかと、三人が考え出したその時、静寂を切り裂くように声が響きわたった。
『っ!ほ、報告!!』
(`・ω・´)「む?」
『斥候部隊より魔信あり!敵が、遂に行動を開始しました!!』
(`・ω・´)「......来たか」
それは、戦いがすぐそこまで迫ってきていることを意味していた。
638
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:30:28 ID:ePN3KLfM0
ルナイファ帝国 軍務省
( ^Д^)「そうか!上手くいったか!」
その日、プギャーは部下からの報告を受け上機嫌であった。
かねてより考えていた計画。
憎き召喚された人間達を滅ぼすためのものであったが、これを実行するためにはどうしても障害があったのだ。
それは軍を動かす都合上、降伏派であるデミタスがそれを察知し、妨害することであった。
そのためこの障害を取り除くことが何よりも最優先されていたのである。
そんなときに都合よく、デミタスは自宅へ引きこもり仕事をしているという。
これならば存在を消してもすぐには気付かれず、計画を実行するまでに問題は起こらないだろうと、暗殺を命じていたのだ。
639
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:31:23 ID:ePN3KLfM0
( ^Д^)「これでもう、邪魔者はいなくなった。後は、実行するのみか」
そう呟くと、プギャーは魔信を握りしめ、会話を始める。
その相手は、この国の東方にある軍港であった。
( ^Д^)「マタンキか。そちらの準備はどうだ?」
『プギャー様!はっ、こちらの整備は完了しいつでも行動できます!』
( ^Д^)「そうかっ!ふふふ......ではすぐにでも出港せよ。いいな?」
『はっ!畏まりました!......それで、あの、約束の件は......』
( ^Д^)「分かっているとも。戦う必要はないが危険な任務だ。君には特別な報奨を与えることを約束しよう」
『あっ、ありがたき幸せ!!』
( ^Д^)「よし。では確実に成功させよ。その艦の魔法を発動させるだけで良いからな」
『それは......分かりましたが、この魔法は一体?見たことのない魔法陣で......新魔法というのは、派遣されてきた魔術師から聞いているのですが』
( ^Д^)「......それを知る必要はない。いいな?貴様の任務はただ一つ、確実にその魔法を発動させよ。以上だ」
その言葉を最後に、一方的に通信を終了する。
魔信の向こうから何かを言いたげな雰囲気はあったもののそれを無視し、プギャーは一人、ほくそ笑む。
640
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:31:51 ID:ePN3KLfM0
( ^Д^)(よし、よし!全てが順調だ。これで、あの調子に乗った人間共を滅ぼせる!我々、エルフの勝利だ!!ルナイファは未来永劫、奴らを滅ぼした偉大な国として讃えられることになるだろう!!)
全て、自分の思い通りに進んでいることにこれまでの鬱憤全てが晴れたかのような清々しい気分であった。
敗北に敗北を重ね、信じた国からは裏切られたのだ。
だがそれも遂に報われるときが来た。
それも、自分の手で引き寄せたと思えばなんと誇らしいことか。
この国難、否世界の危機を、自らの手で救い出したという達成感。
まだ成し遂げたとは言えないものの、それでも確かな手応えに彼はもう全てを成功させたかのように笑っていた。
そうして祝杯でも挙げようかと、秘蔵の酒を棚から取り出そうと棚を漁ろうとしていると、何やら慌てたような足音が聞こえ出す。
その音に思わずプギャーは顔をしかめた。
641
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:32:20 ID:ePN3KLfM0
この戦争が始まってからこの足音が聞こえてから報告されることに、良いことなど一つもなかったからである。
どうかこちらに来るなと念ずるものの、その願いは儚く散り、すぐさま部屋の扉が大きな音と共に開け放たれた。
(;*゚ー゚)「プギャー様!一大事です!!」
(# ^Д^)「......なんだ!?全くっ」
先ほどまでの気分が嘘のように、苛立った声でプギャーは返事をする。
だが部屋に飛び込んできたシィはそれに気付いていないのか、もしくはもうとっくに慣れてしまったのか、気にする様子はない。
(;*゚ー゚)「南方の前線から、報告がはいりました!」
(# ^Д^)「前線から?......なるほど」
その言葉で、プギャーも理解する。
遂に敵が動き出したのだと。
642
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:32:57 ID:ePN3KLfM0
これまで人間側は侵攻の準備と合わせて再度の降伏勧告を行っていたからか少しの間、大規模な侵攻はなく、あっても偵察や小規模の衝突程度の動きであった。
そのためこのまま回答を引き延ばし、こちらの作戦が終わるまで静かにしていることが最も望ましい状況であったが、どうやらそこまで上手く事は運ばないようだと小さく舌打ちする。
(# ^Д^)「遂にやつらが動き出した、というわけだな?」
(;*゚ー゚)「は、はい。最前線は既に敵の攻勢を前に壊滅状態とのことで......部隊は後退し、どうにか立て直しを図っているとのこと」
(# ^Д^)「なっ!?ぐ、むぅ......」
だが事が上手く運ばないどころではないということが伝えられ、流石にプギャーも動揺する。
いくら計画があろうとも、国が持ちこたえられなければその時点で全てが無に帰すのだ。
どうにか、少しでも時間を稼がなければ本当にこの国は終わってしまう。
643
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:34:20 ID:ePN3KLfM0
(# ^Д^)「まだ部隊はあるのだろう?わざわざ北方から戦力を引き抜いて集めたのだ!まさか戦えないとは言わないだろう!?」
(;*゚ー゚)「は、はい!それは勿論です!まだ被害も最前線のみであり、部隊としては十分控えています......しかし、それだけではないのです!」
( ^Д^)「......なんだ?」
まるでこれからが本番と言わんばかりに声を張り上げるシィに、プギャーも思わず冷静になる。
だがただでさえひどい報告だというのに、これ以上あるわけないというのが本音なのだが、シィの口から出た報告は、簡単にこれまでの報告を上回る衝撃をプギャーに与える。
(;*゚ー゚)「ニータ及びニータ周辺国家が我が国に対し、宣戦布告......北方への侵攻を、開始しました!」
( ^Д^)「は?」
(;*゚ー゚)「戦力を南部へ移した影響で戦況は既に絶望的とのこと!」
(; ^Д^)「......なんだとぉお!!?」
プギャーに、ルナイファに、そして世界に。
衝撃が走る。
644
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 08:34:54 ID:ePN3KLfM0
続く
お祭り頑張る
645
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 09:55:58 ID:g11EFGPQ0
乙乙
ルイナファ苦境が続くな
祭りに参加するのか!楽しみ!!
646
:
名無しさん
:2023/09/16(土) 12:47:06 ID:9RCIgxkc0
乙です
647
:
名無しさん
:2023/09/18(月) 15:29:08 ID:86WHYXWg0
おつ!
これもうプギャーの首一つじゃ足りんだろ…
こうなったら人間ももうルナイファとは講和しないのかな
648
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:13:47 ID:5kmg6OdI0
ニータ王国 王城
1463年4月1日
ニータ王国、及びその周辺国による宣戦布告。
世界は未だに動揺を隠しきれていない。
それもそのはずである。
この世界の列強と言われる国が、人間達と手を組んだのだ。
これまで人間の独立国家など、この世界になかった。
人間の国と言えばムーのように全てが属国であり、エルフの奴隷であった。
世界の常識ともいえるこの当たり前を、覆したのだ。
それもこの世界で影響力の大きい列強と呼ばれる国が、である。
ニータも各国に独立国家と認めるように働きかけも開始しており、列強が独立国家と認めた以上、その動きに戸惑いつつもつき従うものは多い。
649
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:14:25 ID:5kmg6OdI0
そして極めつけは世界最強の国家への宣戦布告。
確かに多くの国がルナイファがダメージを受けていることは知っていた。
しかしそれでも世界最強の看板の効力は強く、逆らう事を考える国などありはしなかった。
だが、それをニータはしたのだ。
その動きから、人間達との繋がりがかなり強固であると言うのは誰の目から見ても明らかであった。
列強であるニータが、これほどまでに手を組みたがる相手とは一体どんな国なのか。
これまで怪情報として切り捨てられてきた人間達に関する情報がまさか本当のことなのではないか。
たった一日の出来事であるにも関わらず、混乱は世界中に広まっていく。
650
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:14:59 ID:5kmg6OdI0
そして今日、さらに世界に衝撃を与える情報がニータにて生まれようとしていた。
( ´W`)「ほぅ!我が軍の勝利か!!」
シラヒーゲが歓喜の声を挙げ、その情報を聞いていた。
局地戦とはいえ、ニータ軍がルナイファとの戦闘を制し、国境近くの小さな街をひとつ、攻め落とすことに成功したのである。
ルナイファとニータには同じ列強といえども戦力の差は大きく、まともにやりあえば勝ち目などないというのが世界の認識である。
だが、それがどうか。
ただの一日のうちに、ルナイファの街を攻め落としたというのだ。
異常としか言い様がない。
651
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:15:33 ID:5kmg6OdI0
こんなことになったのには理由がある。
その理由は勿論、ルナイファの南方に強大すぎる敵がいるからである。
その敵に対抗するために戦力が引き抜かれたために、北方の守りが甘くなっていたのである。
ルナイファとてその可能性を考えなかったわけではなかったが、自国の持つ最強という看板と周囲がこちらを畏怖しており牙などすっかり抜け落ちていると考えていた。
完全な、誤算であった。
対してニータは全てが上手くいきつつある。
これまでルナイファに一方的に苦しめられてきたことにより、今回の侵攻は大義名分があり、国際的にも心証は悪くない状態で堂々と領土の拡大を行える。
さらにいくら弱っているからと言っても敵は世界最強には変わりない。
その国に勝ったというのはとてつもなく大きな力を持つことになる。
そしてなによりこの戦いにより、人間達に恩を売ることができるのだ。
これが何よりも大きい。
いくら戦力差があるとはいえ、ルナイファは巨大過ぎるがゆえに一国のみで対処しきるのには無理がある。
そこにニータが介入することにより、彼の国を救う。
それも国難ともいえる状況で、手を貸すのだ。
652
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:15:59 ID:5kmg6OdI0
見返りについては勿論、事前に話がついてはいるが助けたという事実は今後一生残り続ける。
彼の国の国民たちへの心証は確実によくなるであろう。
それは確実に将来、必ず役に立つ。
民同士の交流が生まれた時、この事実がこの国の発展へとつながっていく。
そう、シラヒーゲは確信する。
少し前まで全く見えなかった未来が、今ではこんなに明るく、色鮮やかに思い浮かべることが出来るようになるなど、奇跡としか言いようがない。
( ´W`)「ルナイファにとっては悪魔の化身なのだろうが......我らにとっては救いの神だな」
そしてそれをルナイファが呼び出したというのだから、世の中何が起こるかわからないものだと、シラヒーゲは小さく笑っていた。
653
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:18:15 ID:5kmg6OdI0
ルナイファ帝国 テタレス南方平野
1463年4月2日
敵が進軍を始めてから三日。
そう、たったの三日である。
そうだというのに既に複数の街が落ちたという報告が飛び込んできたかと思えば、既に敵はもう目前まで迫っているという情報まで入ってきていた。
あまりの侵攻速度に皆が驚愕する。
街を攻め落とす速度もそうだが、単純に軍の移動する速度が自分達が知るそれを遥かに上回っている。
( ,,^Д^)「一週間はかかると思いましたが......まさかここまでとは」
( ^ν^)「それもこちらに集中してでもなく、周囲をやりつつとか......本当にこれ、時間稼ぎも出来るか、怪しいところだな」
(; ,,^Д^)「......命令された以上、やるしかないでしょう」
( ^ν^)「思考停止すんな馬鹿」
(; ,,^Д^)「なっ!」
654
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:19:14 ID:5kmg6OdI0
( ^ν^)「命令されたからなんだ?ただ突撃するのか?命令は、時間稼ぎだろ。なにも考えず戦ってもその命令は果たせないぞ」
( ,,^Д^)「......なにか良い作戦があると?」
( ^ν^)「とりあえず、動くな、だ。少しでも奇襲の成功率を上げるためにも、こちらが気付かれる要因を減らしたい。外に出るのも禁止だ」
( ,,^Д^)「なる、ほど......ですがそれでうまく、行くでしょうか?敵はこちらを全て上回っていると聞きますが。探知能力も高ければ我々は......」
( ^ν^)「だからこそ、作戦を考えるんだろうが。可能性をわずかでも上げるために」
( ,,^Д^)「む」
( ^ν^)「まぁ、本音を言えば間違いなく撤退が一番現実的なんだがな......」
お通夜のような空気の中、ニュッの言葉にタカラは何かを言おうとするが言葉にならなかった。
タカラとて本音では同じ気持ちなのだ。
このままいけば自分達は死ぬことになるのだと、嫌でも理解出来てしまっているのだ。
655
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:19:51 ID:5kmg6OdI0
( ,,^Д^)「......シャキン様は?」
( ^ν^)「後方の部隊に後退の許可を進言してるとよ。帝都前には要塞もあるし、そこまで部隊を下げてくれってな」
( ,,^Д^)「なるほど......それで、成果は?」
( ^ν^)「あったら俺達はここにいねぇ。そもそも時間稼ぎの部隊が後ろに下げられるわけないだろ」
( ,,^Д^)「そう、ですよね」
敵の進軍速度、またその強力さからこのままでは無為に戦力を潰すだけだと後退を進言したものの、答えは変わらず敵の部隊を引き留めろという無理難題であった。
後方の守りの準備が完璧ではないことも理由にあるのだろうが、それでもこの命令は明らかに現実を見ていないとしか前線の者たちには思えなかった。
最早士気は最悪であり、脱走兵も少なくない。
そこには自国を守るための誇り高き戦士などおらず、死刑宣告を待つ死刑囚のようである。
どうにかこの場に留まれているのも、これが運命なのだという、半ば諦めに近い感情によるものであった。
656
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:21:06 ID:5kmg6OdI0
( ,,^Д^)「もうこうなれば、やれるだけやるしか......」
そう言いかけたその時、魔信から悲鳴のような声が届く。
『こ、こちら第三ゴーレム部隊!部隊は壊滅状態!!支援を、支援をぉ!!』
(; ,,^Д^)「なっ!?も、もうそんなところまで進軍を!?」
その報告の主はもうすぐそこと言える距離の部隊からであった。
敵の進軍スピードが異常であることは伝わっており、それをもとに何度も予測は修正してきたはずである。
にもかかわらず予想を遥かに超えるスピードで、敵はここに至ろうとしていることにタカラは愕然とする。
(; ^ν^)「......あー、覚悟をする暇もなさそうだな」
(; ,,^Д^)「部隊の位置と敵の速度からしてからして......時間はなさそうですね。どんなに遅くとも明日には、ここが死地になってしまう」
657
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:21:35 ID:5kmg6OdI0
お通夜であった空気はさらに冷え込み、皆が身体を震わせる。
その報告を皮切りに近くの部隊から、多くの被害報告と救援要請が飛び込んでくる。
―死神。
誰かがそう呟くが、その表現は的を得ているように皆が感じられた。
奴らが訪れたところは、皆が死ぬ。
これを死神と呼ばず、何と呼ぶのか。
そして、そんな神にも等しい存在と敵対する自分達は何と愚かなんだとニュッは乾いた笑みを浮かべる。
勿論、それらに対して自分達に出来ることは何もない。
助けを求める声を聞いたところで助けられるはずもなく、ただ死にゆく仲間の最後の声が響く。
そんな地獄のような状況の中でただ、震えるしか出来ないのだ。
( ^ν^)「......戦闘準備だ。急げ」
そのニュッの言葉に皆がようやく動き出す。
死神の足音は、すぐそこまで迫っていた。
658
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:21:57 ID:5kmg6OdI0
ソーサク連邦 ドクオ自宅
(;'A`)「はぁ......」
自宅で一人、ドクオは大きなため息をつく。
最早日課になりつつあるその行動は最近の心労によるものであった。
心労の凄さは彼の見た目に如実に現れており、目の周りには隈ができ、頬は痩せこけていた。
まるで死人のような姿になってしまっている彼だが、その理由は今後のことについてである。
彼自身はただの一般職員であり、情報局という重要な職についてはいるものの、国家をどうこうするような話とは無縁であったはずである。
だが気が付けば彼は、その中心にまで引きずり出され、選択を迫られていた。
659
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:22:20 ID:5kmg6OdI0
国家の命運すら決めかねないその選択肢、簡単に決められるはずもなく、今に至るまで選ぶことができていない。
現在、彼の選べる選択肢は3つである。
一つ目はモナーに協力し、人間の情報や技術を秘密裏に集めて国家を強化し、人間達と敵対する道。
二つ目は人間達とは敵対せず、適切な距離感で接することで彼らの技術を国家に取り入れ、発展を目指す道。
三つ目は国を捨て、亡命を目指す道。
はっきり言って、どの選択肢も問題がある。
まず一つ目は言わずもがな、人間と敵対するという点である。
確かに人間の力を認め、すぐには直接的に敵対しないように行動するわけだが、それでもいずれ敵対することに変わらず、現時点での力の差を考える限りその結果は悲惨なものになりかねない。
660
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:22:48 ID:5kmg6OdI0
そもそも、人間達も自分達の技術の重要性はわかっているはずである。
そんな技術に探りを入れようとすることなど彼らも警戒するであろうしこちらが勝手に技術を盗み、取り入れていることを知ればその時点で完全に敵対することになってもおかしくない。
相手がこちらが成長しきるまで待つなど、理想論でしかないのだ。
全てが奇跡的に噛み合い、上手くいけば彼の国を抑え込み、確かにソーサクがこの世界の新たな覇者となるだろうが現実はそう上手く行くことはないであろう。
では二つ目はどうかと言えばこれも問題だらけである。
ある程度の交流がある状態であれば、表立って大きな行動をしなければクーから伝え聞く限り、彼の国もこちらを一方的に攻め落とすようなことはないだろう。
ゆえに適切な交流を行えれば下手な争いを避けつつ、彼の国の技術を堂々と手に入れることができるのだ。
そうして技術を磨いていけばいつしか、人間達と並び立てる日がくるはずである。
661
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:23:16 ID:5kmg6OdI0
だがその日が来るまでにはかなりの年月が必要であるし、彼の国も最新技術をこちらに渡すことはないだろう。
そしてそれを解決するためには外交でどうにかするしかないわけだが、残念ながらソーサクは鎖国国家であり、外交官の経験は少なく、育っていないため期待が出来ない。
またそもそも人間の技術をそのまま取り入れようとすれば国内からの反発も凄まじい。
モナーが提案するように魔法に代替すれば受け入れも進むであろうが、全てそれでは意味がないのだ。
何故なら、人間の技術は魔法と異なり才能が要らない点が何よりも重要であるからである。
言い換えれば誰でも使うことのできる技術ということ。
使うものが少ないものであれば魔法で問題ないが、国民が皆必要とするような部分では魔法では解決しにくい。
それを解決できるということは国全体の国力を底上げ出来るのだ。
だからこそドクオは可能な限りそのまま技術を取り入れたいわけなのだが、そこでやはり国内の反発の問題が出てきてしまう。
さらにこのプランを進めようにも国を動かそうとする以上、味方がある程度揃っていないといけないわけだが、近い考えの者たちは人間をよく思わない権力者により潰されているのだ。
既に出鼻を挫かれているといっていい状態であった。
662
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:23:54 ID:5kmg6OdI0
そして最後の選択肢である、亡命。
これはクーから突然の連絡により涌いて出た選択肢であった。
当初、国同士を繋げるべきだもいうクーのあまりに無茶な主張に、それとなく現実が分かるように伝え、考えを自分のものに近づけようとしていた。
全てを受け入れることは難しいということは分かって貰えていたようであったため、いつかは彼女の考えも少しずつでも変わってくれることを願っていたが、まさかこんな明後日の方向に転換するなど考えてもいなかった。
そもそも国を捨てる選択肢を取るなど、可能性すら考えていなかった。
これまで情報室という国の発展のために情報を集める仕事をこなしてきたのだ。
国のために働くという、少なからずの愛国心はあったはずなのである。
それにも関わらず、彼女は国を簡単に捨てるというのだ。
ドクオからすれば、信じられないし信じたくないものである。
663
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:24:19 ID:5kmg6OdI0
彼はこれまで情報室で働き、国のために生き、国をより良いものにしたいという一心でこれまで働いてきたのだ。
これまで育ってきた愛着とまた自国への誇りという、誰もが持つであろう愛国心によるものである。
だからこそ様々な無茶にも国のためにと耐えてこられたのだ。
身体も精神的もボロボロになろうとも、それでもどうにかしたいという強い思いは決して消えることがない。
それほど、この国を愛しているのだ。
だからこそ、こんなにも苦しく悩むのだ。
もしクーのように全てを捨てることが出来ればどんなに楽になれるだろうか。
ドクオもその事実は分かっているし、その選択肢を心のどこかで望んでいた。
だがそれでも選べないのだ。
664
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:25:48 ID:5kmg6OdI0
もしここで亡命を選べば、もう引き留めるものがいなくなり国は敵対へと進んでいくかもしれない。
その先の未来は確定ではないが、明るいものではないはずである。
勿論、彼だけの力で未来が変わるとも限らないしドクオ以外の誰かが国を救うかもしれない。
それこそモナーが理想通りに物事を進め、人間たちを完全に封じ込める未来だってあり得ないわけではない。
だが、それは自分がなにもしなくていい理由には出来ないのだ。
('A`)「......俺は国のために、何が出来るんだろう」
そう呟きながら、モナーから渡された魔石を握りしめる。
自分に出来ること、それは間違いなく情報の収集である。
これまでもそうしてきたし、これからもそうすることしか出来ないだろう。
ではどのような情報が必要なのかを考えると、答えはやはり人間達の持つ技術に関するものであるだろう。
665
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:26:20 ID:5kmg6OdI0
この魔石に、人間の技術に関する情報を集めれば国は間違いなく発展するであろう。
さらに情報を集めていけば、その強大さからモナーを初めとして多くの者が考えを改める可能性もある。
また人間達に対抗しうる力を得ることだってあり得ない話ではない。
そう考えれば、自身への負担に目をつぶればただ逃げるよりかは幾分かはマシではないだろうか。
('A`)「それに......」
人間達が、本当に暴走しない保証などどこにもないのだ。
それこそ第二のルナイファとなってもおかしくはない。
むしろ彼らの持つ力とこの世界の力関係を考えれば、世界征服も夢ではないはずであり、そう考えれば侵略する方が当然と言えるかもしれない。
さらに彼らはこの世界に無理矢理連れて来られたのだ。
その怒りも加味すれば可能性は非常に高いように感じられる。
それを考えればやはり、対抗できる国力、すなわち抑止力は必要不可欠なのだ。
そのためにも人間の持つ兵器、もしくはそれを再現できるだけの情報を手に入れる必要がある。
666
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:26:52 ID:5kmg6OdI0
(;'A`)「......ぐっ」
キリキリと胃が痛み、頭痛がする。
言うのは簡単であるが、それを成し遂げることは非常に困難であり、そもそも実現可能かどうかも怪しいのだ。
(;'A`)「それでも、この道しか、ないんだ......」
そう呟き、彼は魔信を握りしめる。
そもそもモナーからの脅しもあり、人間達と融和的な解決法を目指すことは難しい。
そして国外に逃亡することは、この国を見捨てることであり、あり得ないとするならばもう選択肢は一つしか残っていないのだ。
その道がどんなに棘に道であったとしても。
その道が自身の破滅に繋がろうとも。
この国の未来がそこにあると信じ、進むしかないー
その道の行く末はまだ、誰も知らない。
667
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 11:27:20 ID:5kmg6OdI0
続く
668
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 23:09:32 ID:X/DGhQXo0
乙です
669
:
名無しさん
:2023/09/23(土) 23:11:20 ID:Wo.XIDaU0
おつおつ
どんな結末になるか全く予想できん
ドクオは幸せになって…
670
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:36:21 ID:1NZKDZBI0
ルナイファ帝国 東方沖
1463年4月2日
プギャーからの指令を受け、ルナイファの東にある東方基地より艦隊が海を進んでいた。
多くの艦が沈められたルナイファであったが、未だ艦隊を出撃させる体力があるという点だけを見れば、かなりの無茶をしているとはいえ世界最強の名は伊達ではない。
(・∀ ・)「うむぅ......」
そんな艦隊の司令を任されたマタンキは一人、首をかしげていた。
今回の任務がプギャーからの指令であり、人間達の国へ何らかの打撃を与える作戦だとは聞いている。
だがその詳しい内容については聞かされていなかったのだ。
知っているのは、召喚艦にて召喚の魔法を使えということだけ。
671
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:36:52 ID:1NZKDZBI0
人間との戦闘はもう二度と御免ではあったが、ただ召喚するだけならばと作戦を実行しているわけだがその真意が分からないのだ。
ただワイバーンを遠くから召喚したくらいでどうにかなる相手ではないことは、もう誰しもが知っていることであろう。
そうであるにも関わらず、この局面で召喚艦を動かすことに何の意味があるのか。
(・∀ ・)「分からないことといえば......」
ちらり、と目の前に描かれた魔方陣を眺める。
そこに描かれ構築された魔方陣は、少なくともマタンキは初めてみるものであった。
これでも長く軍におり、艦に乗ってきたと自負している彼でも知らないものだったのである。
少なくともワイバーンをただ召喚するためのものではないことは確かだろう。
伝え聞く話では何でも新魔法とのことであるが、それにも彼は思わず首を捻ってしまう。
新魔法といえば、南方の戦線で使われた遠距離攻撃用の魔法という話であったはずである。
その他に作成された魔法など、聞いたことがない。
672
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:37:38 ID:1NZKDZBI0
またそんな魔法を急に使用する事に不安が無いわけではない。
魔法というものは扱いを誤り、下手すれば暴走し、それこそこの船ごと爆発してしまうことだって可能性として0ではないのだ。
流石にプギャーもその事くらいは分かっており、ちゃんとした魔方陣とそれを扱える魔法使いを準備しているとは思うが、とはいえ危険がないかと言えばそうではない。
それにも関わらず強引に進められるこの任務は一体何なのか。
正体不明、理解不能。
それが、彼が今行っている任務である。
(・∀ ・)「ま、いいさ。これだけで昇進できるんだ。プギャー様々だな......敗戦の将の汚名を返上できるだろう」
だがそんなものは魅力的な報奨の前には無価値であり、無意味であった。
ただこなせばいい。
ただそれだけでいいのだ。
そう、何も問題などないのだから。
艦隊は、静かに海を進んでいた。
673
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:38:32 ID:1NZKDZBI0
ルナイファ帝国 南方要塞
テタレスと帝都の間に建造されたその要塞は、南方からの最後の守りとして難攻不落と呼ばれる、世界最大規模の要塞が存在していた。
地上部だけでなく、地下にも及ぶ巨大な要塞であるにも関わらず至るところに魔方陣が敷き詰められ、あらゆる攻撃を耐えつつ、圧倒的な火力にて敵を葬れるように設計されていた。
そして現在、ここには巨大な空間を埋め尽くすように多くの兵が集められていた。
理由は勿論、南方から襲いくる脅威に対して、必ずここで食い止め、そして押し返すためである。
これまでの戦いで多くの兵を失うだけでなく、上陸してきた敵に対し南方へ多くの兵を送っているルナイファであるが、そんな様子を微塵も感じさせないほどの兵数であり、その姿は一見、世界最強に偽りなしと言えるだろう。
674
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:39:03 ID:1NZKDZBI0
(=゚ω゚)「......ハリボテだよう」
だが、その様子を遠視の魔法にて覗き見ていたイヨウはそう呟いた。
確かに数だけを見れば立派なものである。
しかしそれらをよくよく見てみれば兵として鍛えられたものは少なく、その多くを占めているのは急遽集められた志願兵ばかりである。
動きからしてド素人と分かるような有り様な者が視界に多く写り込むのだ。
これをハリボテと呼ばずして何と呼ぶのか。
そもそも、魔法というのは才能が不可欠なのだ。
このように多くのものを集めたところでそんな才能溢れるものが集まるはずもなく、その多くが平均以下であろう。
そんなものたちがろくな訓練も受けていないのだから出来ることなどたかが知れている。
一人で遠くまで飛ばせるような火球など作れないし、強力な魔壁も作れない。
だからといって複数人共同でそれらを行えるような訓練などしてないため、本当に何も出来ないのだ。
675
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:39:35 ID:1NZKDZBI0
では何をするかといえば雑務か、敵に突撃し時間を稼ぐための捨て駒である。
現に、彼らが持つ武器は木で出来た長槍なのだ。
まともな魔法を使えないものたちに与えられる武器など急に用意出来るはずもなく、またまともな武器も魔法の才が必要とされるものが多いことから、誰でも使えそこらの素材を加工するだけで作れる木の槍が選ばれたのだろう。
だがそれにしても追い詰められた国はこんなものに頼るしかないのかとイヨウは愕然としてしまう。
勿論、それらの槍は簡易的な魔方陣が書き込まれており、鉄槍をも上回る力を持つし、それこそ一度振るえば小さな残撃のようなものが飛び出し、近くのものを切り裂くことが出来る。
だがそれらを必死に振り回し訓練をしているが、そんなことをしても敵は遥か遠くから彼らを鉄の礫で襲えるし、天高くから破滅へ導く爆発をプレゼント出来るのだ。
一体その手の武器で何と戦うつもりなのか―
676
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:40:04 ID:1NZKDZBI0
(=゚ω゚)「馬鹿らしいよぅ」
それなのに彼等は本当に国を守るつもりで今もなおその木の棒を振るい続け、訓練をした気になっているのだ。
呆れを通り越して哀れにすら思えてしまう。
これが、本当にあの最強であった国の姿なのか。
それも、恐らくこれが最期と呼べるかもしれない時なのだ。
あのルナイファの最期の姿がこんなにも、惨めでみっともない姿になるなど、誰が予測できようか―
(=゚ω゚)「......まぁ」
哀れなるこの国を、せめて最期まで見届けてやろう。
イヨウは近く訪れるであろう終結を静かに待っていた。
677
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:41:00 ID:1NZKDZBI0
ルナイファ帝国 テタレス陣地
部隊の指示のため、シャキンは陣地にいた。
その表情は決して良いものではない。
その原因は勿論、戦況にある。
部隊の詳細を知るため、ワイバーンの視界を共有し送られてくる映像を見ていたが、そこには地獄が広がっていた。
そこには先ほどまで数万という、エルフがいたはずであった。
だが気がつけばそこにあるのはただの肉塊である。
一体いつ、どんな攻撃をされたのかこの陣地の誰にも分からなかった。
映像に映る彼らはただ訓練の通りに戦列を組み、魔壁を貼り敵へと前進していたはずであった。
戦法として間違ったことなどしておらず、むしろ定石とも言える行動である。
何も、彼らは間違った行動はしていなかったのだ。
678
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:41:25 ID:1NZKDZBI0
さらにルナイファの最大の武器とも言える、数の暴力もそこには確かにあった。
数万からなる魔壁は強固であり、この世界でそれを貫くには大規模な魔方陣による魔法が必要なほどであり、言い換えれば陸上を進軍してくるような者たちがそのような魔方陣を運べるはずもないため、無敵とまでは言えないものの圧倒的な力を持つはずであった。
しかしそれはあくまでも、この世界の常識である。
敵が異界の者であり、こちらの常識を超える存在と言うことはシャキンも理解していたし、ゆえにこの規模の軍勢であっても足止めが出来るかどうかであろうと見ていた。
679
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:42:21 ID:1NZKDZBI0
だが。
『あ、ああぁああぁあああっ!!!』
ガガガアァァン!!
凄まじい悲鳴と、そしてそれをかき消す程の爆音が魔信と共に届けられる。
轟音と爆炎が味方達を包み込み、殺戮されていく。
あまりに呆気なく散っていく命。
足止めが出来るかどうかどころではない、その異常な光景。
これまでいくつもの戦場を見てきたが、これほどまでに背筋を凍らせる状況をシャキンは見たことがなかった。
(;`・ω・´)「こんなもの......戦争なんかじゃあない......虐殺、いやただの殺処分ではないかっ!」
殺処分という言葉は、何ともこの状況を適切に表現していた。
効率的にこちらを処理していくその攻撃。
まるでこちらの存在価値などないかのように土に還していくそれは、処分という表現以外に表すものがなかった。
その光景を見るものは皆、震え、嘔吐し、そして泣いた。
なぜ彼らがこんな目に合わなければならないのだと。
そして、次はなぜ自分たちの番なのかと。
680
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:42:58 ID:1NZKDZBI0
(;`・ω・´)「......っ!」
そんな絶望の中、爆炎を突き進む数体のゴーレムと生き残りの歩兵が映る。
強力であるはずのゴーレムを盾に進むその兵達。
これもまた、普通であれば強力であるはずである。
誰もが心強いと考えるであろう。
だがこの場では皆が同じ気持ちであった。
無茶だ、もう逃げてくれと。
だがその言葉は届くことなく、彼らはさらに敵に近づいていく。
気付けば敵の兵器らしきものが見える距離まで接近していた。
(;`・ω・´)「......なんだあれは」
それは、動く箱であった。
そういえば何とも弱そうな響きだが、実際は違う。
あれは化け物だと、本能でシャキンは察する。
生物としての第六感が、警告を鳴らし続けるほどである。
681
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:43:32 ID:1NZKDZBI0
(;`・ω・´)「もういいっ、逃げろっ!逃げてくれっ!!」
必死に魔信に向かって叫ぶものの、その声は届かない。
彼らはもう、死地に向かってしまったのだ。
(;`・ω・´)「っ!」
そしてその時は訪れる。
箱についた筒が光る。
何かが爆発したー
そう感じた瞬間、味方のゴーレムが弾け散る。
(;`・ω・´)「......」
もう、言葉すら出なかった。
陸上にて最硬であるゴーレムが、呆気なく砕けたのだ。
それも圧倒的な射程をもってである。
数がどうとか作戦がどうだとかそんな次元の話ではない。
こちらにできるのはもう、どう死ぬかだけではないかー
682
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:44:05 ID:1NZKDZBI0
(;`・ω・´)「......あ」
その時、数に任せてどうにか接近したのであろう兵が、反撃とばかりに箱に向かって魔法を放つ。
ーこれで、一矢報いれる。
言葉はないが、彼らからそんな思いが伝わってくる。
誇り高き戦士として、彼らは死ぬことを選んだのだ。
輝きを放ち向かっていくその魔法は、血と爆風に埋め尽くされたこの戦場には何とも似つかわしくないものであると同時に、ようやく自分の知る戦場の光景であった。
魔法に包まれる箱を見つつ、どこか少し心が軽くなり、シャキンは少しだけ表情が和らいでいた。
683
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:44:33 ID:1NZKDZBI0
が、その顔はすぐに曇ることとなる。
(;`・ω・´)「......馬鹿な」
確かに攻撃は命中したはずであった。
だがそこには、何事もなかったかのような化物がいたのだ。
その化物はお返しと言わんばかりに、何倍返しか分からない大火力にて勇敢なる戦士達を肉塊、いやもはやそれすら残さないほどの細切れに変えていく。
そこに名誉などなく、ただ無惨なまでに虐殺されたのだ。
そしていつしか味方で動くものはなにもなく。
化物達が、こちらへと向かってくる姿のみが写されていた。
(;`・ω・´)「......」
敵の位置を考えれば、次に戦うのはニュッ達であろうか。
嫌なところもあるが、自分の愛する部下である。
どうにか逃がしてやりたい気持ちでいっぱいであった。
684
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:44:56 ID:1NZKDZBI0
だがそんなことを本国が許してくれるはずもなく、またもう時間もないため敵も許してはくれないだろう。
(;`・ω・´)「すまない......」
気付けば口からは謝罪の言葉がもれていた。
それは死地へ部下を向かわせなくてはならないことに。
そしてなにもしてやれない自分の無力さに。
だがそんな言葉で何も変わるはずもなく。
敵はまた、こちらに近づいてきていた。
685
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:45:22 ID:1NZKDZBI0
ルナイファ帝国 南方戦線 野戦病院
('、`*;川「......ひどい」
そう思わず口から漏れ出すほど、ペニサスの視界に写るものは凄惨なものであった。
辺り一面に赤黒いものや吐瀉物が散乱しているのは当たり前。
治療を受けているものたちは身体のどこか一部の部位が欠損しているのが普通であり、大きな傷を負っていたとしても五体満足であれば幸運であるといえるほどに皆が満身創痍であった。
聞けばそもそも身体が残っているだけでもいい方だという話まであるのだ。
敵の猛烈なる爆発攻撃を前に、身体が蒸発していくという噂がまことしやかに囁かれている
('、`*;川「ぅ、おぇ......」
鉄錆びた嫌な匂いと、悪夢のような現実を前に強烈な吐き気が襲ってくる。
なぜ、自分がこんな場所にと思わずにはいられなかった。
686
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:46:46 ID:1NZKDZBI0
勿論、こんな場所に望んで来ているわけではない。
ただ国の雰囲気として、戦わないものは非国民であるかのような異様な空気を前にして自分は戦いとは無関係であると言い続けることが難しかった。
さらに自らが教える子供たちが戦場へ向かったのに、教師であり大人であるお前は戦場には向かわないのかという圧力の前に、屈してしまったのだ。
そうして気がつけば周りに流される形でここにたどり着いてしまった。
('、`*;川「ぅう......」
後悔を胃の中のものと一緒に何度も吐き出すことで、少しだけ落ち着いてきたのか、改めて辺りを見渡す余裕が出来てきていた。
そうして見た光景は先ほどと変わらず、そこには多くの負傷者で溢れ返り、ろくな治療も、そしてろくな清掃も出来ていないという酷い有り様である。
687
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:47:24 ID:1NZKDZBI0
('、`*;川「......私も、仕事しないと」
そんな光景を眺め、ようやく頭の整理が追い付き始め、ただでさえ人手が足りていないこの状況でなにもしないわけにはいかないと我に返る。
一体どれくらいの時間立ち尽くしていたのか彼女には分からないが、この間にも多くのものが苦しみ治療を待っているのだと、慌てて負傷者のもとへ駆け寄っていく。
途中、ぐちゃりと嫌な音がするものを踏んだ気がしたが、足元の暗い洞窟であり、それが何なのか確認はできなかった。
―そもそも、確認する勇気も持ち合わせてなどいないのだが。
('、`*;川「......うっ」
そうして改めて負傷者の前に立つと、ぼんやりとしか見えていなかったその傷の具合がはっきりと見えてくる。
赤黒く変色した部分をよく見れば、まるで何かが突き刺さったかのような穴が空いているのだ。
その傷が一体どのようにして出来たのか、ペニサスにはわからなかったがとにかく治療をしなければならないということだけは彼女にもはっきりと分かった。
688
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:47:58 ID:1NZKDZBI0
('、`*;川「えっと、まずは傷を塞いで」
「ダメッ、待って!!」
('、`*川「え!?」
そうしていざ治療をしようと、魔法の準備を始めようとしたところで、それを遮るように声がかかる。
その声にペニサスは驚愕し、思わず動きが止まってしまう。
いきなり声を掛けられたから、というのもそうであるが、その声があまりに幼い子供の声であったからである。
まさかこんな地獄のような場所に子供がいるなんてと信じられない気持ちで、その声の主へと振り返る。
そこには、更なる驚愕が待ち構えていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「え?ぺ、ペニサス先生?」
('、`*;川「ツンさん!?」
敵から身を隠しているということを忘れ、思わず大きな声が出てしまう。
それほどの衝撃であった。
まさか自分の生徒とこのような場所で会うことなど、考えもしなかった。
689
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:48:24 ID:1NZKDZBI0
('、`*;川「どうしてツンさんがこんなところに......」
ξ゚⊿゚)ξ「......先生、色々とお話はあると思いますが、今は仕事をしましょう」
('、`*;川「っ......え、えぇ、そう、ね」
だがそんなペニサスに対し、彼女の生徒であるツンは至って冷静なものであった。
その姿にペニサスは更なる衝撃を受けてしまう。
ついこの間まで、目の前にいる生徒はまだまだ目が話せないような、確かに子供であったはずなのだ。
だがそれが、どうか。
今ペニサスの目の前にいる女性は、この地獄の中、努めて冷静であろうとし、仕事に取り組もうと言うのだ。
泣き言一つ言わず、それどころか大人であるはずの彼女を落ち着かせようと言葉を発する。
その精神はもう、子供のそれとは間違っても言えない。
690
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:49:04 ID:1NZKDZBI0
しかし、目に映るその姿は確かに子供のそれなのだ。
その不自然なアンバランスさ。
子供は確かに成長するものではあり、喜ばしいものであるが、これはなにかが違う。
これには空恐ろしいなにかを感じてしまうのだ。
('、`*;川「......」
ξ゚⊿゚)ξ「先生、いいですか?このような傷なのですが身体の反対まで傷が達していない場合、体内に金属の塊が残っています」
そして、そんなペニサスの様子に気付かないのかツンは淡々と話を進めていく。
その姿にさらに嫌なものを感じながらも、それを飲み込む。
('、`*川「金属?」
ξ゚⊿゚)ξ「はい。どうやら話では金属を飛ばす事で攻撃してくるとかで......そのままにすると腐り落ちる可能性があるらしいです。だから......」
('、`*;川「ひっ!?」
ξ゚⊿゚)ξ「こんな風に、一度傷口を広げて取り出してからじゃないと、ダメなんです」
('、`*;川「そう、なのね」
あまりのことに、そう言葉を紡ぎ、ただ頷くことしかできなかった。
まるでただの作業のように肉を切り裂き、血で手を汚し、金属を取り出す。
そんなことを子供が、それも自分の教え子がやっているという現実に、思わず目眩がしてしまう。
691
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:49:34 ID:1NZKDZBI0
そしてそんな自分を目の前にいる、自分と比べてしまい、なんとも情けない気持ちになるのだ。
彼女が出来ていることを、ただこんな風に喚き、狼狽えることしか出来ないことも勿論理由の一つではある。
だがそれ以上に大人であり先生でもある立場のものとして、子供にこんな重荷を背負わせ、かつ心を蝕んでいるという現実に耐えきれないのだ。
('、`*;川「......」
どうしてこんなことになってしまったのか。
ルナイファはまちがいなく豊かで、優れた国であったはずであった。
それが、一体何時から狂ってしまったのか。
どこで、間違えてしまったというのか。
そしてそれは、自分達の責任であり、こんな目に合わなければならないことを、自分達はしてしまったというのか―
692
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:50:22 ID:1NZKDZBI0
('、`*;川「......ありがとう、ツンさん。理解できたわ。後は、自分で出来るわ。疲れているでしょう?私がやっておくから少し休んでなさい」
ξ゚⊿゚)ξ「そう、ですか。分かりました」
脳内がぐちゃぐちゃになりながらも、そう何とか言葉を絞り出す。
少しでも大人として、先生として目の前の子供を救いたかったのだ。
大人であるはずのペニサスですら、ここまで追い詰められてしまうほどの環境なのだ。
たったのこれだけでどうにかなるほど、簡単なことではないとペニサスも分かっているが、それでも何かをしてあげなくては、壊れてしまうのではないかという恐怖。
おかしな話ではあるが、恐ろしい現実を前に立ちすくんでいた彼女であったが、そのツンが壊れてしまうかもしれないという恐怖が彼女の支えとなり、現実に立ち向かう勇気を与えていたのだ。
('、`*;川「ぅ......ふっ、ふっ」
そうしてどうにか、教えてもらったように作業を進めていくが、進めるごとにまるで精神をすりつぶされているかのような錯覚に陥る。
693
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:50:50 ID:1NZKDZBI0
それほどまでに今目の前で起きていることは非現実的であり、まともな精神で受け止められるものではなかった。
手から伝わる嫌な感触、鉄錆びた匂い、様々な叫び声と悲鳴、そして遠くから聞こえる爆発音―
('、`*;川(こんなことを子供に......なんて、なんてことを......)
その全てが精神を、そして命を削りとっていく。
ほんの少ししか働いていないはずだというのに身体中が水で濡れたかのように嫌な汗をかいている。
それほどまでに、耐え難いものであったのだ。
('、`*川「......あら?」
ξ -⊿)ξ「......すー、すー」
('、`*川「......よほど、疲れていたのね」
そうして仕事を進めていき、ふと目線を上げてみると、気づけばツンは静かに寝息を立てていた。
それも仕方ないであろう。
今、ペニサス自身も倒れてもおかしくないほどに疲労を感じているのだ。
むしろ、今の今まで倒れずに仕事が出来ていたことがおかしいのだから。
('、`*川「ゆっくり、休みなさい」
そう、優しく頭を撫でて小さく微笑む。
―せめて、夢の中だけでもこの地獄を忘れられますように、と。
694
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 12:51:14 ID:1NZKDZBI0
続く
695
:
名無しさん
:2023/09/30(土) 13:01:47 ID:R6sWjzIE0
乙
おおツン生きてたのか。
シャキン達の部隊はどうなってしまうのか…
696
:
名無しさん
:2023/10/01(日) 20:52:58 ID:wEy0QnmY0
乙です
697
:
名無しさん
:2023/10/03(火) 19:39:34 ID:H4wn7v7E0
おつ
高火力高耐久で訓練すれば誰でも使えるとかほんとチート以外の何者でもないな
ニュッたちは何か変化を与えられるのだろうか
698
:
名無しさん
:2023/10/05(木) 23:05:20 ID:kwOF5UXw0
乙
ひたすらに悲壮感が漂ってるな…
699
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:30:31 ID:O2mR.r2o0
ムー国 捕虜収容所
1463年4月2日
アニジャがこの収容所に連れてこられてしばらく経ったが、不思議なほど何事もなく生活していた。
本当に自身が捕虜なのか疑いたくなるような扱いである。
勿論食事などは最低限なものであり、決して良いものとはいえない。
だがそれでも彼の知る捕虜の扱いより数段良いものであり、あのときの決断は間違いでなかったのだと過去の自分に感謝していた。
そんな捕虜の生活を続けていく中、アニジャが何をしていたかと言えば。
( ´_ゝ`)「やはり、この『センシャ』という兵器は凄まじいな......なぜこんな質量のあるものを動かせるのか」
何故か置かれていた人間の持つ兵器についての本から情報収集をしていた。
恐らく自分達の持つ力を理解させようという狙いなのだろう。
700
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:31:55 ID:O2mR.r2o0
しかしこんなことをしなくても、少なくともあの地獄を生き残り、今この場にいるものは皆わかっており、不要であった。
とはいえ、この世界で知るものが少ない貴重な情報を与えられているのだ。
いくら学んでも足りないくらいであろうと、何度も何度も繰り返し読み、情報を頭に叩き込んでいく。
( ´_ゝ`)「魔法ではなく音の速さすら超えるとはどういう原理なんだ?そもそも音に速さという概念が良く分からんのだが」
だが時々どうしても根本的な部分の違い故に、理解しきれない部分が出てくる。
そのときも繰り返し読むが、結局理解は出来なかった。
とはいえ、それもう仕方のないことなのだと割りきりつつ、アニジャは思考に耽る。
( ´_ゝ`)(改めて敵の戦力を知ったわけだが......まあやはりと言うべきか、とんでもない相手だな。もう二度と戦いたくないものだが、もし仮に現時点で戦うとするならば......)
手に入れた情報を元に、何度も脳内でシミュレーションを繰り返す。
負けた今もまだ、戦いの事を考えているなど、つくづく自分は軍人なのだなと苦笑していた。
701
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:33:06 ID:O2mR.r2o0
( ´_ゝ`)(しかし......無謀としか言い様がないな)
そうして繰り返したシミュレーションでは、当然敗戦を繰り返した。
良くて与えられるのは軽微な損害と金銭的なダメージ程度であろう。
コストに見合う戦果を挙げることなど、妄想の中ですら厳しいと言わざるを得ない。
( ´_ゝ`)(......いや、待てよ?)
だがその中でふと、ある可能性に気がつき、本を捲る手が止まる。
確かに敵は海も、空も、陸上も無敵と思える強さを持つ。
つまり海も、空も、陸上でも勝つことは不可能とも言えるだろう。
ーならば、それ以外ならどうなのだろうか?
702
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:34:12 ID:O2mR.r2o0
( ´_ゝ`)(アリベシに送られていたあれなら......いや)
頭に浮かんだ可能性に、ほんの少しだけ妄想はしやすくなった。
だがあくまでもほんの少しだけであるし、それが妄想であることには変わらない。
大局で見ればどんな奇跡を積み重ねても現時点では勝てないという結論に辿り着くのには変わらないのだ。
( ´_ゝ`)「......まぁ、まだ可能性があるだけましだな」
アニジャはそう呟き、疲れたように一度息をはく。
その無意識な行動に、ようやく自分が考え過ぎて疲れていることに気がつき、今日はもうここまでだと本を閉じる。
そうして改めて本の表紙を眺めていると、ふとした疑問が沸いてきた。
( ´_ゝ`)(そういえば......この本、わざわざ翻訳されていたがどうやったんだ?魔法が使えない以上、翻訳魔法ではないはずだがムーで出た捕虜の誰かが協力したのか?)
今更ながらの疑問だが、考えてみればこれもまたおかしなことだと、アニジャは首をひねる。
そうして考えるのをやめようとしていたのにも関わらず、再び思考の海に沈みそうになったその時、背後に近づく複数の足音に意識が呼び戻された。
703
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:34:42 ID:O2mR.r2o0
一体なんだと振り返って見てみると、そこにいたのは自分の着る粗末な服ではなく、全員統一されたしっかりとした服装の者達。
―この施設の人間か。
そう頭に浮かび、何事かと人影をよく見て驚愕する。
川 ゚ -゚)「......貴様がアニジャだな、立て」
その影の正体が、自分と同じエルフだったからである。
周りのエルフと同じ格好をしているということは彼らの仲間であることは間違いないのであろう。
( ´_ゝ`)「その訛り......ソーサクの者か?」
川 ゚ -゚)「......もう一度言おう、立て」
( ´_ゝ`)「っと、分かった分かった。従うよ」
704
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:35:24 ID:O2mR.r2o0
何とか探りを入れようとするが、ここでは無理かと命令に従う。
とはいえ、思考を止めることはない。
( ´_ゝ`)(今の反応は、当たりか?だがそうなると、国として繋がっているか、個人的なものかで大分話が変わってくるな)
もし個人的な繋がりならば、問題ない。
現時点で脅威となるのは、人間のみとなるためである。
だがもし、国同士の繋がりがあった場合。
( ´_ゝ`)(世界が敵と言っても過言じゃなくなる......自分達は生き延びれても、国はなくなるかもしれんな)
最悪の想定が頭によぎりつつも、それを顔には出さずにアニジャはクーの後をついていく。
そうしてある部屋に入るように促され、それに素直に従う。
( ´_ゝ`)「ここは、取調室か何かか?」
川 ゚ -゚)「そうだ。君に少し、話があるものでな」
705
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:35:52 ID:O2mR.r2o0
( ´_ゝ`)「話?軍に関わる情報か?もしそうであるならば、俺も軍人としての誇りがある。今なお国のために戦う仲間のためにも話すことは出来ない。拷問されようとも、だ」
川 ゚ -゚)「あぁ、いや、そういうことではないし......話というよりも、これは頼み事と言える」
( ´_ゝ`)「......頼み事?」
その言葉をうまく理解しきれないのか、アニジャは頭に疑問符を浮かべる。
捕虜の身になったものに、命令ではなく頼み事をするということは勿論のことだが、それ以上に一体自分に何を頼もうかが分からないのだ。
軍のことを聞きたいというのならば理解できるがそうではないと既に言われている。
では他にこのように呼び出してまでする頼みとは何なのか、全く思い当たらない。
706
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:37:25 ID:O2mR.r2o0
( ´_ゝ`)「頼み......頼み、か。すまないがどういうことだろうか?一体何を頼もうと言うんだ?」
川 ゚ -゚)「ふむ、まぁ頼み事は簡単に言えば一つだ」
そう言いつつ、クーは一つの魔信をアニジャに差し出す。
いよいよもってそんなもので何をしろと言うのか分からないアニジャは黙ったまま話の続きを促した。
川 ゚ -゚)「君の国、まぁルナイファにだな、降伏するよう促してほしい」
(; ´_ゝ`)「なに?」
そうして飛び出た言葉に、アニジャは言葉を漏らす。
それもそうであろう。
ルナイファで考えられていることとして、敵への降伏は難しいと思われていたのだ。
敵の侵攻は全く防ぐことができず、一方的である以上、敵がここでルナイファの降伏を受け入れるメリットは少ない。
そもそもこちらは敵に対して恨みを買いすぎており、話をすることすら難しいのではないかと言われていたのだ。
707
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:38:01 ID:O2mR.r2o0
(; ´_ゝ`)「降伏を、認めると?」
川 ゚ -゚)「認めるも何も、こちら側が望んでいることだ」
(; ´_ゝ`)「あぁ、うむ......そうなのだが」
そのような背景から、いきなり降伏を受け入れると言われても戸惑いしかない。
確かに部隊レベルの降伏であれば、敵将次第ではあるが、ある程度の温情はあるのだろうとは考えていた。
だが国レベルでそれは不可能ではないかと思い込んでいた。
川 ゚ -゚)「......いや、何を驚いている?」
(; ´_ゝ`)「驚きもするさ。何せ、こちらは色々やらかしていると言うのに、降伏を受け入れると言われたんだからな」
川 ゚ -゚)「?何を言っている。降伏勧告など、ずっと前から何度もしているではないか。それこそ貴様等が戦う前にも降伏勧告は行っている」
( ´_ゝ`)「......は?」
708
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:38:41 ID:O2mR.r2o0
その言葉に再度驚愕する。
まとまらない頭の中を、どうにか整理し、話を続ける。
( ´_ゝ`)「その、すまない。俺達が戦う前とは?」
川 ゚ -゚)「言葉のままだが」
( ´_ゝ`)「あぁ、いやその、つまり、なんだ?戦いと言うのは......ルナイファ本土への攻撃のことを言っているのか?その前に降伏勧告を?」
川 ゚ -゚)「あぁ、そうだ。何度もな。詳しい回数は覚えていないがな」
(; ´_ゝ`)「っ!!」
その言葉に思わず、アニジャは拳を机に叩きつける。
ダンッ、という大きな音と共に、手には血が滲むが、そんなことを気にする様子もなく、アニジャは怒りに震えていた。
ー一体何のために自分達は戦ったというのか!!
そんな思いで心中は埋め尽くされる。
もし上が、この勧告をまともに受け取り交渉していれば本土に攻め込まれることもなく、またあんなにも多くの死者を出すこともなかったのだ。
709
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:40:32 ID:O2mR.r2o0
明らかに上の者達の傲慢さと無能により、あのような惨劇は引き起こされたと言える。
そしてなにより、自分にこのような話が来たということは未だにそいつ等は自国の土地を失ってもその事を認めずにいるということ。
あまりの事実に砕けんばかりに歯を食いしばる。
川 ゚ -゚)「......平気か?」
(# ´_ゝ`)「平気なものか、くそったれめ」
川 ゚ -゚)「その様子を見るに、まさか知らなかったのか?」
(# ´_ゝ`)「......あぁ。その通りだ。それで魔信の相手の糞野郎は......まあ、答えんでも分かる。プギャーだろ?」
川; ゚ -゚)「あ、あぁそうだが......仮にも軍務省のトップだろう?他の連中ではないのか?国の将来に関わることを握り潰すなど」
(# ´_ゝ`)「糞野郎の考えることは知らんが、奴ならやりかねん」
川; ゚ -゚)「冗談、ではないんだよな。そこまでなのか......」
互いに頭を抱えてしまう出来事である。
これがもし、少しでも違えばもっとマシな未来があったかもしれないのだ。
それをたった一人によって潰された。
どうしてこんなことにと、考えずにはいられない。
710
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:41:01 ID:O2mR.r2o0
川; ゚ -゚)「まぁ、なんだ?君と話せて良かった。これでようやく、少しはまともに交渉できる未来が見えるかもしれん」
( ´_ゝ`)「......その件なんだが」
川 ゚ -゚)「なんだ?」
( ´_ゝ`)「連絡する宛はあるのか?」
川 ゚ -゚)「......君頼りだな」
( ´_ゝ`)「そうか、ならちょうどいい。こちらからも提案したいと考えていたところだ」
川 ゚ -゚)「ほう?して、相手は?信頼できる相手なのか?」
( ´_ゝ`)「安心してくれ、そいつ経由ならば、おそらく陛下まで伝えることも出来るだろう」
川 ゚ -゚)「そうか、それで?そいつは誰だ?」
そう言いつつ、机に置かれていた魔信を拾い上げ、アニジャに手渡す。
アニジャはそれを受け取りつつ、笑って答えた。
( ´_ゝ`)「俺が世界一、信頼できる男だよ」
711
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:41:42 ID:O2mR.r2o0
ルナイファ帝国 東方基地
南方にて地獄が繰り広げられる一方で、この東方基地では比較的に平和であった。
敵からの標的にされていないのは勿論のことだが、その理由はここにいる兵達の士気が著しく低いことが影響していた。
比較的血気盛んなものたちは慌ただしく整備が進められていたマタンキ等の艦隊と共に出撃済みであり、ここに残されているのはあの南方沖での戦いに生き残りばかりである。
それゆえにここにいるものは皆、敵の強さは身に染みて理解している。
さらにあんな相手に未だに真正面から戦おうとする無策な国に対して強い不信感が生まれていた。
それゆえにもう二度と戦うことはごめんだと言う空気が基地中に蔓延しており、それは行動にも現れ始めていた。
もはや半ストライキ状態とも言える状態になりつつある。
そして敵から見ればあまりに驚異度が低いため、南方への戦線への影響はないであろうと無視されていたのだ。
守るべき者達の士気が低いことにより、守らなくてよくなると言うなんとも不思議な状況であった。
712
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:42:12 ID:O2mR.r2o0
(´<_` )「......ふぅ」
そんな基地にてオトジャは一人、ため息をついていた。
国が窮地に立たされてはいるものの、現状ここで出来ることは何もなく、手持ちぶさたなのだ。
それゆえ考えるのは自分の兄が無事であるかと言うこと。
未だに安否が不明なままであり、どうにも気持ちが落ち着かないのだ。
(´<_` )「......うん?」
そんなときであった。
不意に自身が持つ魔信が反応し、誰かが連絡を取ろうとしてきたことに気がつく。
まさか出兵かと頭によぎり、今ここにいるもの達にどう説明したものかと頭を抱えそうになるがそれも一瞬だけであった。
713
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:42:36 ID:O2mR.r2o0
(´<_` )「これは、発信元はムー?どういうことだ?」
既に奪われたはずの土地からの連絡。
それが、ある程度の地位があるものとはいえ一兵士である自身宛に一体誰がどんな用事でしようと考えるのか、オトジャには全く分からなかった。
(´<_` )「......誰だ?一体何のようだ?」
その疑問を直接ぶつけるように、オトジャは魔信の先にいるものにそう問いかけた。
『く、くくっ......』
問に対する答は、笑い声であった。
何かを堪えるようなその声に、今だ正体も目的も分からない相手に、オトジャは若干の苛立ちを感じつつ、さらに語気を強めた。
714
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:43:02 ID:O2mR.r2o0
(´<_` )「もう一度聞くぞ。貴様は誰だ?」
『......あっはっはっはっ!』
(´<_` ;)「あ?」
再度、返ってきたものは再びの笑い声。
だがそれは先ほどと異なる、高笑いであった。
そしてそれは、どこか聞き覚えのある、懐かしさがあった。
『おい、貴様。自分の立場を忘れたわけではないよな?あまりに勝手な行動をするならば......』
『ああいや、すまない。あまりに警戒しているものだから、ついな』
『......まあいい。では本題を』
(´<_` ;)「ま、待て。おい!な、な」
魔信の先から聞こえるのは二つの声。
一人は男で、もう一人は女のものである。
女の方は聞き覚えはないが、男は違う。
何度も、何度も、それこそ嫌となるほど聞いた声。
そして今一番、聞きたかった声であったのだ。
715
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:43:37 ID:O2mR.r2o0
(´<_` ;)「あ、アニジャ!アニジャなのか!?生きていたのか!?」
『なんだ、やはり今気付いたのか。もう少し、早くに気づいて欲しかったんだがな』
(´<_` ;)「そんなことはどうでもいい!今どういう状況なんだ!ちゃんと説明してくれ!」
『ふむ、まあそうだな。っと、これはどこまで説明していいのかな?』
『全て話して問題ないと聞いている。好きに話せ』
『強者の余裕、というよりも情報を全て渡してでもちゃんと力の差を分かって貰いたい、というところかな?理解した』
(´<_` ;)「......」
『というわけで説明するが......簡潔に言えば今、捕虜としてムーにいる』
(´<_` ;)「捕虜だと!?......それは、なんと......」
716
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:44:18 ID:O2mR.r2o0
『驚く気持ちも分かる。ここはすごいぞ。これまでの戦いで降伏してきた奴らが皆集められている。ある程度の生活を保証されてな。無茶苦茶な拷問もない』
(´<_` )「......信じられんな」
『全くだ。つくづく世界が違うということを痛感させられる』
何とも言えない気持ちになりながら、オトジャは顔をしかめる。
アニジャが生きており、またその身が保証されていることは喜ばしいことである。
だが自分達から見て野蛮だといい続けてきた相手がそのような紳士的とも言える行為を行っているという事実。
そんな相手から見た自分達は一体どのように映るのだろうかという考えが頭をよぎり、高度文明人としての誇りにヒビが入る。
とはいえ、そんなことを気にしている暇などないと頭を強く振り、その考えを捨て、再度魔信に向き合う。
(´<_` )「それで?わざわざ俺に連絡とはどういうことだ?俺を安心させるため、というわけじゃないんだろう?」
『まぁ、そうだな。では、簡潔に伝えるぞ』
(´<_` )「あぁ」
『陛下に降伏するよう、進言してくれ』
(´<_` ;)「......は?」
717
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:45:51 ID:O2mR.r2o0
その後も説明が続いたが、あまりに予想外すぎるその言葉に、オトジャの思考が止まる。
確かに捕虜であるはずの者からの連絡なのだから何かしら重要な話ではないかとは思っていた。
だが、それにしても限度がある。
(´<_` ;)「......すまない、整理させてくれ。つまり召喚地がこちらに降伏するよう動いており、それを陛下に伝えてほしいと?」
『あぁ、そういうことだ』
(´<_` ;)「......」
降伏が認められるのか、一体どんな条件がつけられるのか、それはすぐに可能なのか。
色々と聞きたいことが沸いてくる。
(´<_` ;)「なぜ、俺に?」
だが口から出てきた疑問は、そんな問いであった。
そもそもなぜ、自分になのか。
降伏勧告を行うにも、国に対して行うのならば、もっと位の高いものにするのではないのか。
718
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:46:19 ID:O2mR.r2o0
そんな問に対し、魔信の向こうでは一つのため息の後に、返答があった。
『理由は幾つかある』
(´<_` )「......聞こう」
『まず一つ目はお前が陛下直轄の艦隊のトップだからだ。お前ならば陛下に話を通すことも不可能じゃない』
(´<_` )「それは、そうだな。それは納得できるが他には?」
『二つ目はお前が多くの部下を持つ艦隊のトップだからだ。この情報を下まで共有できる』
(´<_` )「......その言い方だとまるで上の奴らだと握り潰されるかのように聞こえるが」
『そう言っている、残念ながらな』
(´<_` ;)「っ!?」
その言葉に、オトジャもようやく現状を理解し始める。
つまりはもう既に、握り潰された後なのだと。
だから連絡相手が自分であったのだと。
719
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:47:34 ID:O2mR.r2o0
(´<_` ;)「ようやく理解した......そういうことか。クソッ、既に握り潰された、というわけか。それで、俺に」
『あぁ、それも一つの理由だ』
(´<_` ;)「?まだ、理由があるのか?」
『ある。三つ目、それはお前が部下を持ち、兵に命令できる立場だからだ。それも敵の強さを理解した者達を、だ』
(´<_` ;)「......すまんがそれがなぜ理由になるか、さっぱりなんだが」
『......上は既に情報の握り潰しをしている勢力がいる。そして今回の情報も、下手すれば受け入れられないかもしれない』
(´<_` ;)「考えたくないが、ありうるな」
『そうなった場合、国を守るために行動する必要がある。その場合、降伏に賛同している兵、それも練度の高い者達がある程度いるであろうお前の部隊が役に立つ。正規兵を複数相手にしなければ、護衛程度ならば海兵のお前達でも十分制圧可能なはずだ。武器を突き付けてやれば嫌でも首を縦に振らせることが出来るだろう』
(´<_` ;)「......おい、ちょっと待ってくれ。その行動ってまさか」
720
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:48:30 ID:O2mR.r2o0
魔信の先の兄が言わんとすることをようやく理解し、顔を青くする。
予想が正しければアニジャはとんでもないことを自分に押し付けようとしていることに気がついたのだ。
それこそ、下手をすれば反逆者として殺されかねない。
だが、それと同時にその行動が国を救うことも理解していたー
『陛下が降伏を受け入れない場合、または周囲の反対により降伏が出来ない状態となった場合は......そいつらを黙らせろ。クーデターを起こし、無理矢理にでも降伏をしてくれ』
国の命運をかけた、あまりにも重すぎるバトン。
受け取ったオトジャは勿論、困惑の表情を浮かべるものの、その目には決意の光が宿っていた。
721
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 15:50:19 ID:O2mR.r2o0
続く
お祭り頑張りました
722
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 19:27:50 ID:ljk/sa0A0
乙
祭りお疲れ
さてバトンを受け取ったオトジャは大丈夫なのか
723
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 20:19:02 ID:z5Uay1xc0
おつ
決断迫られて吐くドクオと即決意する弟者の違いよ
流石兄弟かっけえと思ってたけど重要な役割持つことになるのかな
724
:
名無しさん
:2023/10/08(日) 08:55:06 ID:txU7qNLk0
乙
725
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:05:49 ID:BXGDdQXE0
ルナイファ帝国 テタレス南方平野
1463年4月3日
地中の奥深く。
奇襲のため潜む彼らのいる空間は、沈黙が支配していた。
誰もが口を閉ざし、うつむく。
その顔はどれも皆、一様に暗い。
それも当然であろう。
これからここにいるものが皆、死地に向かうことになるのだから。
南方より進軍してくる、敵軍の圧倒的な強さはもう嫌と言うほど報告が来ている。
それらは例えば、一瞬で隊列を組んでいた部隊が消滅しただの、圧倒的な堅さを誇るゴーレムが一撃で塵と化しただの、何とか一撃を与えても敵の動く箱には全くもって通じないだのという普通であれば信じられないような話ばかりであった。
だがそれらが全て本当であり、そしてそんな相手と戦わなくてはならないという絶望感に誰もが死を悟っていた。
誰もが狂って叫び出し、逃げ出したいのを必死に堪え、ただただ無言でいることしか出来ない。
ー死にたくない。
そんな叫び声が、音がないはずなのに聞こえてくるかのようである。
726
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:06:35 ID:BXGDdQXE0
(; ,,^Д^)「......」
(; ^ν^)「......撤退は、無理か」
(; ,,^Д^)「はい。それにもう、敵は目前です。敵の速度を考えれば逃げきれません」
(; ^ν^)「......くそっ」
最後の望みとも言える、撤退も許されることはなかった。
生き残るには戦い、そして勝つ。
もしくは。
(; ^ν^)「......いっそのこと、降伏するか?」
一切戦わずに全面降伏。
本来軍人としてあるまじき選択肢が、頭をよぎる。
(; ,,^Д^)「ですが......敵はこちらの降伏を認めないと噂されているじゃないですか。良くて、拷問だと......」
(; ^ν^)「......」
だがそれも敵が認めてくれなければ成り立たない。
伝わってくる話では降伏しても攻撃されるか、もしくは遊びで拷問され殺されるという。
自国も部隊によってはそれに近しいことを行う者たちがいること、またこれまでルナイファがしてきたことを考えれば、噂とはいえそれを否定しきることが出来ず、降伏を決断するに至れなかった。
727
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:07:36 ID:BXGDdQXE0
なおこの噂は勿論嘘であり、プギャーをはじめとした徹底抗戦を主張、もしくはそれにより利益を得る者たちが、前線での降伏を防ごうと流した噂であった。
そして今、その効力が存分に発揮されニュッ達の部隊は完全に退くことも進むことも出来ない状態となってしまっていたのだ。
出来ることはただ、敵を待つことのみ。
それも、その時が来ないことを祈りながら。
『......っ、て、偵察部隊より連絡!!敵、ここより10km地点を通過しました!!』
(; ,,^Д^)「遂に、来ましたか」
『敵の数、多数......噂の動く箱が、大小差はあれど20は超えると......』
(; ^ν^)「おいおい、一ついるだけでも敵わんのにそんなにいるのかよ......くそったれ」
だがその祈りも虚しく、戦いの時はすぐそこまで迫ってきていた。
周囲の部隊は既に崩壊しており、戦える者は自分達のみである。
つまりここまで敵は何も障害なく侵攻してくるというわけであり、万全な状態の敵部隊を迎え撃たなくてはならないのである。
728
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:08:35 ID:BXGDdQXE0
『......無理だろ、こんなの』
誰かがポツリと溢したその言葉は皆の気持ちを代弁していた。
それでも今、この場にいるもの達は軍人としてここにいるのだ。
不可能でもやれと言われれば、やらねばならない。
それが、軍人であるのだ。
(; ^ν^)「......全部隊、潜伏体勢をとれ。敵が近づいてくるのを、待つんだ」
自分達の力がどれほど通じるかなど、誰にも分からない。
敵が常識の通じない攻撃を繰り出してくることも知っている。
戦い方も、使う兵器も、そもそも根本の技術から異界の物であり、理解不能の代物なのだ。
どう戦えば良いか、正解など分かるはずがない。
だが彼等には訓練でしたこと以上のことなど出来る筈もなく、最早定石とも言える様な作戦で敵を迎え撃とうとしていた。
その行動に誰も口に出さないが、今さらあの敵に教科書通りの攻撃など、通じないのではないかという不安が脳裏をよぎる。
729
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:09:32 ID:BXGDdQXE0
(; ,,^Д^)「......」
それでも、彼等は行動を続ける。
それしか、方法を知らないのだから。
『敵、5km地点を通過しました......平原を一直線に進んでいます』
(; ^ν^)「余程、自信があるのか......」
ここ、テタレス南方の平野は平坦で大きな岩もなければ、木々もない。
低い草が生い茂るのみで、地上に隠れられる場所はおろか、攻撃を受けても逃げられる場所は何処にもない。
そんな場所を堂々と進むということは、こちらなど敵ではないということであろうとニュッは考え、震える。
そうこうしている間にも敵はさらに接近してくる。
その速度は彼等の常識からしたら考えられない速度であり、異常であった。
730
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:10:16 ID:BXGDdQXE0
交戦距離まで、もう時間はない。
さらに敵の射程を考えれば、いつ攻撃がきてもおかしくないはずである。
(; ^ν^)「敵の様子は!?」
『敵、速度変わらず接近中!こちらに向かってきています!』
そうしてもうすぐそこまで、敵は迫ってきていた。
とてつもない速度で彼等は近付いてきていた。
一切速度を変えずに、まるでこちらを気にすることがないかのように。
(; ,,^Д^)「ぐぅ、速度変わらず、ですか......やはり、戦うしかない、というわけですね」
(; ^ν^)「......あ?」
その時、ニュッは猛烈な違和感に襲われていた。
敵の速度は、異常である。
恐らく徒歩での移動をすることなく、ゴーレムを超えるなにかしらの高速の移動手段を持っているのだろう。
731
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:10:45 ID:BXGDdQXE0
だが問題なのはそこではない。
問題なのは、敵の速度が全く速度が変わらないということ。
それは、おかしいのではないか。
これまで敵はこちらに姿すら見せずに圧倒的な射程を持って撃滅してきたのだ。
それが敵の戦い方であり、事実接近することによるリスクはあるはずであり、遠方から敵を一方的に叩けるならばそれに越したことはないはずである。
それがなぜこうも堂々と姿を晒し、軍を進めてくるというのか。
敵が近くにいると気が付いたのならば、何かしらの行動があるべきなのではないか。
それらがないということ、それはまるで。
ーまるで、こちらの存在に気付いていないかのようではないか。
732
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:12:12 ID:BXGDdQXE0
(; ^ν^)「っ!」
雷に打たれたかのような衝撃が身体中を駆け巡る。
ニュッにとってその閃きはそれほどまでに凄まじいものであった。
それは神からの天啓と言っても良いかもしれない。
その閃きに、救いの道を見出だしたのだ。
(; ,,^Д^)「やはりここはもう、突撃し先制攻撃を......」
(# ^ν^)「待てっ、全軍動くな!限界まで、敵が近づくまで待機だ!!」
(; ,,^Д^)「なっ!?ど、どういうことですか!?これ以上の接近は無茶ですっ!!」
(# ^ν^)「いいから言う通りにしろ!!」
(; ,,^Д^)「っ!」
敵はその間にも近づいてくる。
その距離は既に、こちらの攻撃範囲に入っている。
噂に聞く敵の射程を考えれば、もういつ攻撃されてもおかしくない。
733
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:14:50 ID:BXGDdQXE0
(; ,,^Д^)「......え?」
そこでタカラも、いや部隊全体が気が付く。
射程を活かすことを考えれば最早攻撃されてもおかしくないどころか、攻撃されないとおかしい距離にまで敵は迫っていた。
こちらの攻撃可能な範囲にまで、わざわざ敵は近づいてきたのだ。
噂で伝え聞くような目視の範囲外からこちらに攻撃が可能ならば、わざわざそこまで近づいてくる理由がないはずである。
それでも近づいてくる理由があるとするならば。
それは敵がこちらに、気がついていないということなのではないか。
さらに、その状態であるにもかかわらずまるでこちらのことを気にすることがないかのように進軍を進めている。
まるで攻撃される可能性に気がついていない、いやそもそもそんな可能性があることすら知らないのではないのか。
734
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:15:48 ID:BXGDdQXE0
ーそれは、つまり。
( ,,^Д^)「まさか奴らは......地中からの攻撃を......潜地艦を知らないのか?」
地中を進み、潜み、敵に奇襲をする。
この世界での戦いを、知らないのではないか、と。
ーそう、異世界の人間達の戦いを知らなかったエルフと同じく、人間達もまたエルフの戦いを知らないのではないか、と。
その気づきと、敵が頭上に到達するのはほぼ、同時であった。
(# ^ν^)「全部隊、一斉攻撃!!」
その叫びと共に、地上に向けて攻撃が吹き荒れる。
暗い地中からでは外は見えない。
だが、確かに伝わってくる大地の揺れに、攻撃の成功を確信させた。
735
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:16:36 ID:BXGDdQXE0
( ,,^Д^)「お、おおおっ!!」
つい先刻までの雰囲気が嘘のように、皆が沸いていた。
これまで一方的にやられてきたことを、今度はこちらからやり返せているのだ。
そしてそれを、自分達が成し遂げたのだと、恐怖から打って変わって喜びに身体を震わせていた。
( ^ν^)「本当に、敵は知らんようだな」
敵からの反撃は、一切ない。
反撃どころか逃げ惑っていると、地上の様子の報告があったことからまさに予想外の攻撃であり、また対処法も知らないと見える。
そもそも、こちらの位置を掴んでいるとも言いがたいようである。
まさに、一方的。
これまでルナイファがやられてきたことをそのままやり返しているかのようであった。
736
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:17:42 ID:BXGDdQXE0
( ,,^Д^)「そのようですな。しかし無敵とも思えた敵兵器の弱点がまさか、下からの攻撃とは......」
どんな攻撃も受け付けずに弾き返す、無敵の敵兵器。
誰一人撃破したものなどいなかったそれに、何台も撃破していく。
それも一方的にだ。
そんな状況に、沸かないわけがない。
そうして皆が歓喜の声を挙げる。
勝てる、勝てるのだ、と。
ズゥウウッン!!
(; ^ν^)「ぐおっ!?」
だがその歓喜を遮るように激しい揺れが、艦内を襲う。
しかもそれは一度だけではない。
何度も、何度も続く。
その揺れ、また嫌な音に歓喜の声は一瞬で止み、変わりに皆が汗を流す。
737
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:19:07 ID:BXGDdQXE0
(; ^ν^)「この揺れは何だっ!?被害はっ!!」
『敵の攻撃です!!地表に向かって攻撃を行った模様!!地表に凄まじい痕跡が見られますっ!!また被害については地表近くで攻撃していた艦が小破、またそれ以外の艦も衝撃により、一部計器の異常が見られますっ!ですが全艦撃沈の恐れは無いと思われますっ!!』
(; ,,^Д^)「......ふぅ。焦りましたが、本当に敵に打つ手は無いようですな。地表付近は危険ですが、地中に退避すればもう攻撃は届かないでしょう」
(; ^ν^)「......」
安心するタカラの一方、ニュッは汗が止まらなかった。
確かに現在対峙している敵はこちらに対する有効的な兵器は持ち合わせていないのであろう。
地表に攻撃した敵の兵器は、明らかに地中のものを意識したものではないことからもその事実に間違いはない。
738
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:20:32 ID:BXGDdQXE0
だがそうであるにも関わらず、ここまで影響を及ぼしうる威力の攻撃を敵は持っているのだ。
異常ともいえる威力により、ここまで一方的な状況になりつつもこちらに被害を与えられる力を持つ。
その事実に改めて、自分達がどんな敵と対峙し、そして現在がどれほど恵まれているのかを自覚する。
(; ^ν^)(そりゃあんな攻撃を持つ相手に、地上で勝てるわけがねぇわな。だが地中からで勝てるかと言えば、もうこちらの手の内を知ったんだ、警戒されるし対策も取られる......こりゃ次はないな)
『っ、敵が撤退を開始しました!』
( ,,^Д^)「なに?では、追撃を......」
( ^ν^)「......待て、あくまで俺たちの任務はここの死守だ。追撃のためとはいえここを離れて守りを無くすわけにはいかん。俺達がここにいれば少なくとも今は、そう、今は守れるんだ。そもそも潜地艦の速度がとてつもなく遅いのに加えて、あの敵の速度だ。追い付けんだろ」
『......はい、敵、既に攻撃範囲外に逃亡。潜地艦では、追い付けません』
( ,,^Д^)「......そうですか」
739
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:21:02 ID:BXGDdQXE0
( ^ν^)「そう残念そうな顔をするな。今回の成果だけでも出来すぎな位なんだ。生き残れただけでも、喜ぶべきだろ」
( ,,^Д^)「それは......そうですね」
( ^ν^)「ましてや、俺たちは勝ったんだぞ」
( ,,^Д^)「勝った......そう、勝った、んですよね?私たちは」
( ^ν^)「......あぁ、信じられんがな」
この日、ここテタレスにおいて一つの歴史が生まれた。
それはルナイファが初めて、局地戦とはいえ召喚地との戦争で勝利したと言うこと。
誰一人、それこそ戦いに参加した本人達ですら信じられないその現実が、実現したのだった。
740
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:21:26 ID:BXGDdQXE0
ルナイファ帝国 軍務省
(; ^Д^)「くそっ、なんでこうも、うまくいかない!!」
この日もプギャーは何時ものように荒れていた。
この国のためにと行動を始めて暫く経つが、思うようにことが進んでいないためである。
国が降伏などしないよう国民を煽動し、自分の行動が漏れでないようデミタスを始末したところまでは良かったはずである。
だが、肝心の召喚地を潰す作戦が全く上手くいっていないのだ。
流石のプギャーも敵の強さを理解していたが、まさか全力を尽くしても勝てないどころかまともな足止めにすらならないとは思ってもいなかった。
彼が考える作戦には、時間がかかる。
そのための時間をどうにか作り出そうと考えていたと言うのに、現状は悲惨なものであった。
741
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:23:05 ID:BXGDdQXE0
さらにそこにニータの宣戦布告。
これまで安全であった北方が一気に危険となり、またそれを守る余力もあまりなく、こちらも戦況は悪い。
とはいえ召喚地との戦いほど一方的なことにはなっておらず、体勢さえ整えば負けはしないだろう。
しかし逆に言えばそれは、勝つことも難しいということであり、通常では一方的に勝てるはずの相手に苦戦をしていることは事実なのだ。
そしてそんな戦いを長く続けられるほどの余裕などあるはずがない。
このままでは本当に全てが終わってしまうのではないかと言う恐怖が彼の心を埋め尽くしていた。
また国民を煽動したことについても、未だにプギャーが主導したことの証拠こそ握られてはいないものの、少なからず疑いの目を向けられており、これもまたリスクとなりつつある。
とはいえ現時点ではプギャーを捕らえれる心配は少ないであろう。
人間達に屈することを望まない彼のシンパや国が戦争することにより利潤を得るものが数多くいるため、プギャーを証拠もなく無理に捕らえれば国が安定するどころかシンパ達の暴走を誘発しかねないのだ。
742
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:24:25 ID:BXGDdQXE0
だがもしその疑いが事実と知られれば捕縛で済めばまだ良いが、下手をすればデミタスにそうしたように暗殺される可能性もあり得ない話ではない。
道半ばで死ぬかもしれないという恐怖に、彼は自身の持つ権力をフルに使い、本来戦場へ持っていくべきである強力な魔壁を仕込んだ兵士用の最高級鎧を奪い取り、着込んでいた。
目の前で強力な魔法を使用され直撃したとしても耐えうるほどの一品である。
国を救うためと言いながら、我が身可愛さから本当に国のために戦地で戦っている者から物資を奪い取り、安全であるはずの戦地から離れた帝都で怯えて震える彼の姿は何とも情けなく、そしてそれを自身でも感じ、怒りと屈辱に震えていた。
743
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:25:00 ID:BXGDdQXE0
そうして様々な考えや感情にぐちゃぐちゃにかき乱されているところにまた嫌な音が彼の耳に入る。
ドタドタという足音が近づくのを感じ、彼は一層顔を歪ませた。
戦争が始まって以来、この足音のあとに伝えられる報告にいいものなど一つたりともなかったのだ。
もう何一つ聞きたくないと耳を塞ぎたい気持ちに駆られるが、そんなことはしったことないというように足音はどんどんと大きくなり、それは部屋の前で止まる。
ああまたかとため息をつくと共に、部屋の扉が慌ただしく開かれ、足音の主が飛び込んでくる。
(;*゚ー゚)「ぷ、プギャー様!!」
(# ^Д^)「ああもぅ、今度は何だ!?どこが負けた!!」
もう何度聞いたか分からない質問。
いつもと同じように怒りと共に訪問者であるシイに投げかける。
(;*゚ー゚)「プギャー様、ち、違うのです!!」
(; ^Д^)「......あ?違うとはなんだ?」
744
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:26:03 ID:BXGDdQXE0
いつもと同じ敗戦の報告に対して身構えていたプギャーであったが、この日はいつもとは違っていた。
シイの態度はいつもと同じように、慌てたものであったが、その表情がよくよく見てみれば違う。
いつも青白い顔であったのが、今日は生気に満ちているのだ。
重苦しい空気はなく、それどころかどこか喜ばしい事があるのではないかという空気を感じるほどである。
ここ最近、感じたことのない雰囲気にプギャーは若干困惑してしまう。
(;*゚ー゚)「勝った......勝ったのです!」
( ^Д^)「勝った......とは?」
(;*゚ー゚)「は、はい!ですから、勝ったのです!!テタレス南方の前線にて、陸上部隊に多大な被害が出たものの、潜地艦による奇襲部隊が敵を撃滅、後退させることに成功しました!!」
( ^Д^)「......」
ぽかんと口を開けて、その報告を聞いていた。
待ちに待った報告であったはずであるが、これまでの戦歴からいつの間にかプギャーですら無意識のうちに勝つことは出来ないのではないかと思ってしまっていたのであろう。
745
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:26:48 ID:BXGDdQXE0
その報告を聞き、脳が理解するまでに時間を要した。
だが、その報告を理解すると同時にプギャーは身体を震わせる。
それはいつもの怒りによるものではなく、歓喜によるものである。
( ^Д^)「勝った、我々の、勝利というわけだな!!その報告、間違いないか!!」
(*゚ー゚)「はい!現地から複数報告が上がっており、間違いないかと。また報告によれば敵は潜地艦というものを知らない可能性があるとの事」
( ^Д^)「なに?それは......」
(*゚ー゚)「おそらく世界の違いによるものだと思われます。これから敵も対策をとってくるとは思われますが、有効な手段を得るまでは時間が必要であり、敵の大規模な侵攻はしばらくなくなるのではないかと」
( ^Д^)「......そうか、そうかっ!!」
プギャーはその報告に何度も頷く。
敵が潜地艦を知らない。
これはとてつもなく大きなアドバンテージといえる。
存在を知らなければその対処法も知らないし、またそのための道具なども発達していないであろう。
つまり潜地艦は少なくともしばらくは無敵と言っても過言ではない。
そしてそんな敵がいる状況で進軍など出来るはずがない。
これにより欲しかった時間的余裕が産まれたのだ。
746
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:27:37 ID:BXGDdQXE0
ようやく自分の望んだ形で物事が進み始めたことに、神は自分を見捨てておらず、またこの道を進めと後押ししてくれているのだと彼は確信する。
(*゚ー゚)「また一つ報告なのですが」
( ^Д^)「ん?なんだ?」
(*゚ー゚)「こちら......東方の海域より、魔信が届いております。用件は『後数日で目的地へ到着する。任務に支障なし』とのことですが......」
( ^Д^)「っ!!」
そして更に吉報が重なる。
もはやこれは天啓ではないのか。
ここに来て、プギャーの思い描く通りに物事が一気に進み始めたのだ。
( ^Д^)「く、くはははっ!!」
遂に奴らを滅ぼす時が来たのだと、彼は高笑いをする。
長きを耐え、遂にこの時が来たのだと。
(;*゚ー゚)「ぷ、プギャー様?」
( ^Д^)「シィよ、これでようやく準備が整った!奴らを、人間どもを滅ぼす準備がなっ!」
終焉が、すぐそこまで来たのだ。
747
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 21:28:02 ID:BXGDdQXE0
続く
748
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 22:11:48 ID:VotaCmLg0
乙です
749
:
名無しさん
:2023/10/14(土) 22:50:12 ID:mxM0drWM0
おつおつ
一矢報いれたのは凄いな!
バンカーバスターとかで終わりそうだけど…
750
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:44:35 ID:wVsEMc.M0
ルナイファ帝国 帝城
1463年4月10日
/ ,' 3「......根回しの状況はどうなっている?」
( ФωФ)「はっ。有力な貴族を味方につけることが出来ております。一部は未だに反発をしておりますが......」
/ ,' 3「まだ足りぬか?」
( ФωФ)「いえ、少なくとも南方の敵を知る者達は皆、講和を求めておりますため、議会では混乱はあると思われますが、数で押しきれます。ただあの放送により、民が継戦派に傾いてしまったのが痛いところですな。領民からの反発を恐れて降伏をしたくても出来ないという者もおります」
/ ,' 3「そうか......」
( ФωФ)「また継戦派は数は減っているものの......血気盛んな兵はまだ多く、声高々に継戦を叫んでおります」
/ ,' 3「うむぅ」
この日もアラマキ達は帝城にて頭を抱えていた。
降伏に向けて動き始めて既にかなりの日数が経っており、着実に進んではいるものの良い状況とはお世辞にもいえないであろう。
751
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:46:10 ID:wVsEMc.M0
理由は先ほどの会話の通り、国内で意見が割れてしまっていることが影響している。
また敵との交渉を行おうとロマネスクが奮闘していたが、まともな外交ルートを持たない現時点では難しい。
何とか敵に降伏した旧属国を通じて話をしようと働きかけてはいるものの、そちらについても芳しくないため、これもロマネスクの頭を痛める要因となっていた。
/ ,' 3「......やはり、勅令として無理にでも押し通すべきか?」
(; ФωФ)「最悪の場合はそうするしかないかもしれません。ここまで話が通じない者が多いとは予想外でした」
/ ,' 3「そう、だな。全く、煽動した輩もそうだが一体何を考えているのか......」
(; ФωФ)「自分の利益か......もしくはなにも考えていないのかもしれません。それこそ、負けることすら」
/ ,' 3「......あり得ん話ではないのが、恐ろしいな」
752
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:47:43 ID:wVsEMc.M0
そもそも国民の煽動も、彼らからすれば予想外であったのだ。
降伏に向けて動こうとした瞬間にあのようなことを起こす輩がいるほど、国は暴走しているのかと頭を抱えてしまった。
その後、何とか魔信を流していた者達は潰すことは出来たものの、民衆を沈めようにも一度出た話を消せるはずもなく、帝都周辺では未だに好戦的な雰囲気であり、何とも悩ましい問題となっていた。
/ ,' 3「......して、煽動をした輩の大元は?」
( ФωФ)「残念ながら、決定的な証拠はなく、尻尾を掴ませません。かなり計画的な行動です。それも、大掛かりな」
/ ,' 3「そうか。おそらく、継戦派の中でもかなりの力を持つものであるであろうから、潰しておきたかったが......難しいか?」
(; ФωФ)「......確かに、候補は限られていますが、仮に奴に対して下手に手を出せば、かなりの者から反発を生むでしょう」
753
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:48:46 ID:wVsEMc.M0
/ ,' 3「混乱を生むだけ、か。それならば議会の場で数の力で合意を取る方が良いというわけか」
( ФωФ)「その通りかと。それにこちらから仕掛ければ反撃をする口実を与えてしまいます。確固たる証拠もない現状では下手な行動は逆効果になるため、何も出来ないと考えた方が良いかと。デミタスの手が空いていれば、まだなんとかなったかもしれませんが......」
/ ,' 3「奴は海軍の事で手一杯であろう?」
(; ФωФ)「えぇ、そのようで最近は家にこもりっぱなしで顔もろくに見れていません」
/ ,' 3「そうなるとやはり、我々だけでどうにかするしかないわけか」
あまりよくない現状に互いにため息をつく。
力のあるもので動けるものが味方に少ないのが大きい。
さらに有力な仲間であるデミタスも今は動かすことが出来ないためにこれ以上の好転も望むことが難しいだろう。
ーそして彼らはまだ知らないが、デミタスがもう力になりたくてもなれなくなっており、最悪ともいえる状態である。
もしそれを知っていれば彼らはあまりの現実の悪さにため息どころではなかったであろう。
754
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:49:30 ID:wVsEMc.M0
( ФωФ)「はい、その通りかと。降伏に向けてについても予想通り、召喚地との交渉については目処が......」
/ ,' 3「あぁ、その件に関しては問題ない」
(; ФωФ)「......え?も、問題ないとは?」
/ ,' 3「その言葉の通りだ」
そう軽く笑うアラマキを見て、ロマネスクは頭の上に疑問符を浮かべる。
先ほどまでとは打って変わって明るい雰囲気に一体どういう事なのかと、思考が追い付かなかったのだ。
だが数瞬の後、言葉の意味を理解し、ハッと顔を上げる。
(; ФωФ)「まさか......話がついたのですか!?」
はやる気持ちを抑えきれないまま、質問を投げ掛ける。
その問に満足するかのようにアラマキは笑うと、部屋の一室に声をかけた。
755
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:50:04 ID:wVsEMc.M0
おそらくこの時のために待機していたのであろう、一人の男がその声に呼応し部屋に入ってくる。
(´<_` )「失礼いたします」
( ФωФ)「......貴殿は確か軍人の、オトジャ殿、であったか?」
その男にロマネスクは見覚えがあった。
前に行った本土防衛の際の会議でも顔を合わせたことがある、軍人の一人であったかと、記憶を呼び覚ます。
だが、確かに優秀な人物であることには変わりないが何故この場に呼び出されたのかと疑問を抱かずにはいられなかった。
/ ,' 3「はっはっは、ロマネスク。お前の気持ちはよく分かる。なぜこの場にこの男を呼ぶのか、分からぬという顔をしておるな」
(; ФωФ)「......えぇ、まあ」
/ ,' 3「その事については......オトジャよ、貴様から話せ」
756
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:50:44 ID:wVsEMc.M0
(´<_` )「御意。ではロマネスク殿、僭越ながら私から説明させていただきます」
( ФωФ)「......」
(´<_` )「ただ説明と言っても単純な事なので、あまり説明することもないのですが......簡潔に言ってしまえば、私宛に召喚地より講和交渉の打診がありました」
(; ФωФ)「なっ!?」
その言葉はロマネスクを驚愕させるのに十分すぎる威力を有していた。
まさか、敵側から話が来ることなど予測もしていなかったのだから当然の事である。
驚愕に、そして国が滅ぼされる前に救われる道があるかもしれないという希望に身体を震わせながら、ロマネスクは次の言葉をまった。
(´<_` )「この交渉についてはかなり厳しい条件がつけられる可能性がありますが、少なくとも会話が出来ると思われます」
(; ФωФ)「その程度であれば、些細なことであるな」
(´<_` )「......ええ、私もそう思います」
757
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:51:30 ID:wVsEMc.M0
ロマネスクの呟きに、オトジャもそう呟き安堵する。
(´<_` ;)(いざというときは覚悟していたが......何事もなくて本当に良かった。アニジャ、これでこの国はまだ、建て直せるぞ)
つい先日、兄からの連絡により国の運命を背負わされたと言っても間違いではない状況になっていたのだ。
いくら覚悟を決めたところでその重責には変わりなく、とてつもない心労が溜まっていた。
さらに下手をすればこれまで自分が従ってきた、絶対の忠誠を誓った相手に刃を向けなくてはならないところまで来ていたという事実。
またそれにも関わらず、戦力が十分に集まらなかったことも彼にダメージを与えていた。
オトジャ達は元々、少数精鋭の秘匿部隊であり数は多くなく、さらにその中から反乱の情報を漏らすことがないと信頼でき、かつ国のためにと反逆者になるというリスクを省みず動ける者達ともなれば数が少なくなるのも仕方ないであろう。
だが国と自身の運命を懸けた戦いに向けて、決して十分とは言えない戦力を割りきることなどできるはずもなく、不安は尽きることが無かった。
この数日だけで何年も歳をとったのではないかと錯覚するほどである。
758
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:52:27 ID:wVsEMc.M0
そうしていざ陛下に伝えてみればどういう事か、あっさりと降伏に向けて動くことを受け入れられるどころか、よくその話を持ってきてくれたと、涙ながらに感謝されたのだ。
既に戦う覚悟をしていたのが、予想と違う展開に思わず困惑してしまったものだ。
だがなんにせよ、目的は達せられたのだ。
その事実を理解すると同時に、オトジャの困惑もどこかへ消え、気付けばアラマキと二人、涙を流していた。
(´<_` )(......陛下も、ロマネスク様も、そして話を聞く限り多くの貴族も降伏に向けて動いている。降伏すれば捕虜、アニジャも......)
今はもう流石に涙は流さないものの、それでも彼は歓喜していた。
このままであれば、全て上手く行く。
そうなればこの国も、そしてアニジャも救われるはずなのだ。
/ ,' 3「そういうわけだ。この話を、皆にも伝える。次の議会で、全てを終わらせよう。二人とも、力を貸してくれ」
( ФωФ)「......了解、いたしました」
(´<_` )「御意のとおりに」
挑むのは数日後の議会。
そこで全てを終わらせるために、彼らは動き続ける。
759
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:53:19 ID:wVsEMc.M0
召喚地北西沖 海上
(・∀ ・)「......ようやく、作戦地点か」
ルナイファの東から遥々海を渡り、辿り着いたのは召喚地から北西に位置する海である。
過去の先遣隊からの情報から察するに敵本土まではまだかなり離れていると思われるが、それでも敵の射程は未知数。
この世界の常識から考えれば安全であると思われるこの距離も、恐怖は拭えない。
とはいえ、召喚艦を多数用意しているが部隊の規模で言えば小規模であり敵に見つかることは稀であるはずと何とか自らを納得させ、安心を得ようとする。
(・∀ ・)「ただ、魔法を発動するだけでいいんだ。それだけで、いいんだ」
自分に言い聞かせるようにそう何度も呟く。
そう、今回の任務では魔法を発動するだけで彼は昇進することが約束されている。
国の状況は良くないとしか言いようがなく、エルフの、そしてルナイファの者としてのプライドはそれを許すことは出来ない。
だがそれと同時にあんな敵とまた合間見えることなどもう二度とごめんである。
彼は国を守ることよりも、自分のことの方が大切なのだ。
760
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:54:03 ID:wVsEMc.M0
(・∀ ・)「......魔方陣の準備は?」
『万端です。いつでも発動可能です......しかし』
(・∀ ・)「なんだ?」
『この魔方陣、召喚魔法のようですが......一体何を召喚するつもりなのでしょうか?』
(・∀ ・)「さぁ、な」
魔方陣の整備士から準備完了の報告と共に、疑問が届けられる。
だがマタンキ自身もその疑問についての答えは持ち合わせておらず、また同じ疑問を持っていた。
新魔法と聞いていたが一体この魔法で何をするというのか。
召喚地が比較的に近い位置から発動させようとするのだから、なにかしらの攻撃か妨害かなのだとは察することは出来る。
だがワイバーンすら通用しない相手に何を呼び出せば勝つことが出来るというのだろうか。
761
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:54:55 ID:wVsEMc.M0
(・∀ ・)「分からんが、命令は命令だ。ただ、こなせばいい」
『......そうですね、了解いたしました』
とはいえ、そんなことで命令の主であるプギャーに意見をしようとは思わない。
こんなにも割の良い仕事なのだ。
下手に意見し、この話が無かったことになれば大惨事である。
プギャーが優秀ではないことは知ってはいるが、それが自身のためになるのだから何も言う必要などありはしないのだ。
『それでは、魔法を発動させます』
(・∀ ・)「あぁ」
その報告と同時に、魔法陣が激しく輝き出す。
複数の魔術師により、魔力が流し込まれ、またそれぞれの熟練の技でそれを制御する。
それにより複雑な魔法は形となり、この世に奇跡をもたらすのだ。
762
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:55:36 ID:wVsEMc.M0
そしてまたここに、一つの奇跡が産み出される。
激しい光はいつしか収縮し、さらに凝縮される。
小さな、それでいて凄まじい光の玉が魔方陣の上に作られたかと思えば、それはたちまち弾け飛び、辺りを光で包み込む。
(;・∀ ・)「ぐっ!?」
そしてその光の中に、影を見た。
その影は翼を持ち、宙を舞う。
何事かと光の中で目を凝らせば、それは複数の影であった。
数十、いや数百か。
少なくとも一瞬では数えきれない影が目の前に現れたかと思えば、翼を動かし天へと登っていく。
(・∀ ・)「......あれは」
その影が天に近づくにつれて、光は収まっていき、いつしか穏やかな海の光景が辺りに戻っていた。
そうしてその中を飛ぶ、それは。
(・∀ ・)「......鳥?」
763
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:57:46 ID:wVsEMc.M0
白い翼を持つ、複数の鳥であった。
特に特別な力があるような種類ではなく、この世界ではどこにでもいるような普通の鳥。
大陸間を飛ぶことの出来る能力と繁殖能力が高いが、ただそれだけの鳥なのだ。
敵に被害を与えるための任務と思い、発動したところにこれである。
強いて言うならば、あれらが召喚地にたどり着けば何でも食べる雑食性による農作物への被害と辺りに糞を撒き散らすことくらいの被害は与えるかもしれない。
特に糞に関しては自身が乗る艦にも既にされているほどであり、不快感を与えてくる。
たが本当に嫌がらせ程度のしか被害を見込めないのだ。
誰もがぽかんとした顔で、その様子を眺めていた。
『これは、一体どういうことなんでしょうか?』
(・∀ ・)「......さぁ、な」
自身のためになるからと任務をこなしていたマタンキもまさかこんなことのために動かされたのかと考えると、何とも言えない気持ちになり、顔をしかめる。
あんなバカに従う自分までバカなのではないかと感じてしまうのだ。
764
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:58:14 ID:wVsEMc.M0
とはいえ、任務は終了したのだ。
もうここですべきことはない。
(・∀ ・)「とにかく今は、帰還準備をしろ。あとは、プギャー様に報告を......」
『マタンキ様。その件ですが、ちょうどプギャー様より魔信が来ております』
(・∀ ・)「そうか、ちょうどいい。こちらに回してくれ」
『了解しました』
まるで見計らったかのようなタイミングの魔信。
先ほどの謎の召喚魔法の件もあり、若干の引っ掛かりを覚えつつも、彼はその魔信に応答する。
『マタンキ、聞こえているな?』
(・∀ ・)「はっ、プギャー様。聞こえております」
『うむ、それで?任務はどうなった?』
(・∀ ・)「任務の件ですが、つい先ほど無事に完了いたしました」
『ほぅ!そうかそうか!!それは朗報だ!!』
765
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:58:36 ID:wVsEMc.M0
まるで戦いに勝利したかのように歓喜する声を聞いて、マタンキはますます混乱する。
一体、これはどういうことなのか。
何がそこまで喜ばしいのかが理解できないのだ。
(・∀ ・)「......プギャー様、その、魔法の件なのですが」
『ん?何かあったのか?......まさか、今さら魔法の発動は失敗だったとは言わんだろうな?』
(;・∀ ・)「い、いえ!!確かに魔法は発動しました!問題なくです!!ただ、その......召喚されたものが、鳥、なのですが......」
『......あぁ、そういうことか。まあ、貴様らには分からんか』
(;・∀ ・)「は、はぁ......」
様子から察するに、やはり魔法自体は成功しており、あの鳥を呼び出すことが目的であったのだろう。
そうなるとますます訳が分からない。
それこそ敵に勝てないと分かり、気が狂ったのではないかとすら考えてしまう。
766
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:59:10 ID:wVsEMc.M0
そんな何とも言えない雰囲気に艦が包まれる一方で、魔信の向こうのプギャーはそれに気づかないのか、愉快そうな雰囲気で話を続けた。
『なぜ鳥なんかを呼び出したのか、それが分からず混乱しているようだが、これが奴らを、召喚地の奴らを滅ぼす一手となるのだ』
(;・∀ ・)「はぁ......」
『あれらは......そう、届け物を持っているのだよ』
(・∀ ・)「届け物、ですか?」
その言葉にマタンキはさらに首を捻る。
どう見ても先ほどの鳥たちは何も持ってなどいなかった。
もしかしたら目に見えないほど小さな何かを持っていたのかもしれないが、そんなものでどうにかなるほど敵は甘くない。
一体プギャーがどこを目指していると言うのか検討もつかない。
767
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 20:59:43 ID:wVsEMc.M0
『ところでマタンキよ。貴様はなぜ、多くの遺物を産み出した太古の国......我らよりも遥かに優れた偉大な国家が滅びたか、知っているか?』
(;・∀ ・)「はっ?あ、いえ......」
そして突然、訳の分からないことまで問始めたとなれば、もう気が狂ってしまったのだと考えるしかなくなってしまった。
これでは約束の報奨もまともに貰えるか怪しく、とんでもない貧乏くじを引いてしまったのだとプギャーに聞こえないように舌打ちする。
とはいえ、相手は軍のトップである。
雑に対応することも出来ず、何とか受け答えを続けようと言葉を絞り出す。
(・∀ ・)「......そう、ですね。詳しくは、知りませんな」
『ほう、そうか。まあどうやらいくつも説があるようだからな』
(・∀ ・)「そうなのですか。それは、知りませんでしたな」
768
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:00:13 ID:wVsEMc.M0
『そう、それでだ。その中の一つに、病によるものと言う話がある。ある病について研究し、軍事利用できないかとしていたときに、それが漏れだしたという話だ』
(・∀ ・)「......病、ですか?」
『そうだ。知ってのとおり、彼の国は我が国と同じく、異界より奴隷たる人間を土地ごと呼び出し、支配することで豊かな国を作り出していた。現在の我々よりも数段、豊かで優れた技術を持っていたという』
(・∀ ・)「えぇ、そのように私も聞いています」
『ではそんな国がなぜ滅びたのか』
(・∀ ・)「......それが病だと?」
『そうだ。その病は一度かかれば、治療魔法を使わなくてはほぼまちがいなく死ぬ病であり、とてつもない速度で感染するものであったという』
(・∀ ・)「それは......恐ろしいですな」
『黒い斑点が身体に現れたら最期、もう助からない......呪いのような病であり、黒呪病と呼ばれたそうだ』
(・∀ ・)「はぁ」
769
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:01:15 ID:wVsEMc.M0
一体この話は何処に向かっているのか。
ただ歴史に関する話をして何をしたいのか分からず、どうにも曖昧な相槌しかうてない。
だがプギャーはそれを気にすることなく、話は続く。
『勿論、偉大な彼の国はこの病を直す術を持っていた。治癒魔法も、我々よりも優れていたという』
(・∀ ・)「......?それならなぜ、滅んだのですか?」
『単純な話だ。使える術者が足りなかったのだよ。高度な魔術があったとしてもそれを扱える者が限られるというのは、今も昔も変わらんらしい』
それは魔法の弱点ともいうべきもの。
魔法を使うには個人の力量、つまり才能が関わるということ。
理論上、様々な奇跡ともいえることを行える魔法を作り出せたとしても、結局使えるかどうかは術者次第なのだ。
『あまりの感染速度に治療は間に合わず、いつしか術者も患い、死んでいった。そうして、滅んだのだ......あくまで一つの説だがな』
(・∀ ・)「......」
770
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:02:00 ID:wVsEMc.M0
それで結局、この話は何だったというのか。
何とか口に出さず堪えるものの、他の言葉も同じく飲み込んでしまい、沈黙が走る。
『なんだ、ここまで話してもまだ分からんのか?』
そしてその沈黙にようやくマタンキが何も理解していないことに気が付いたのか、プギャーは笑いながらそう尋ねてくる。
その笑い声に思わず舌打ちをしてしまいたくなる気持ちをどうにか落ち着ける。
(・∀ ・)「えぇ、申し訳ございません」
『まぁいい。なに、簡単なことなんだがな』
(・∀ ・)「......」
『先ほどの病の話に戻るがね。あの病は研究により、軍事利用出来るように本来の感染ルートの他にある生き物からも感染するように改造されていてね。いやはや愚かな失敗をしたとはいえ、本当に恐ろしい技術力だ』
(;・∀ ・)「......生き物?」
その言葉を聞いた瞬間に、ゾワリと背筋に嫌な感覚が走る。
ここまでどういうつもりでこの話をしてきたか分からなかったマタンキであったが、この瞬間にある可能性が脳裏をよぎったのだ。
病を運ぶ、生き物。
それが、なんなのかが。
771
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:02:47 ID:wVsEMc.M0
『その生き物は食物を食い荒し、糞を撒き散らせ、汚染する。その糞が原因で病が拡がったという話なのだが......ここまで言えば、分かるかね?』
(;・∀ ・)「......っ!!」
その言葉に周囲を見渡す。
そこには糞で汚れた甲板が広がっていた。
一気に血の気が引いていき、震える手で何とか魔信を握りしめながら、言葉を紡ぐ。
(;・∀ ・)「その、生き物、とは......」
『分かっているだろう?......君たちが召喚した鳥達だ』
(;・∀ ・)「なっ!?」
最悪な想像が当たってしまったことを知った瞬間であった。
この任務について貧乏くじだなんだと考えていたがそれどころの話ではない。
とんでもない厄災に巻き込まれたと言い換えてもいい事態である。
『くくく、遺物の発掘の際に過去の魔術師が研究するために残していたのだろうな。この病に関する資料とサンプルを見つけたのだ。そしてそれを元に、病を持つ鳥を召喚させる魔方陣を構築したのだよ。我らを超える太古の大国すら滅ぼす病、人間ごときに防げるはずがない』
(;・∀ ・)「ま、待ってください!!先ほどの話が全て本当なんだとしたら、こ、こ、こんなものを、世界に解き放ったら、我々も、いや、世界がー」
『それがどうした?』
(;・∀ ・)「......は?」
772
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:03:14 ID:wVsEMc.M0
先ほどまでと違う意味で、プギャーの言葉が理解できなかった。
この男は世界の脅威となり得るものを放ち、なぜ冷静にいられるのか。
それも自身すらも殺しかねない物をである。
だがまるでさもこの行動が正常であり、当たり前のことであるかのようなその声にマタンキは空恐ろしい気持ちになった。
(;・∀ ・)「な、なにを......」
『奴らを滅ぼす、それ以上に重要なことなどありはしない。この世界は、神が我々エルフに与えたものなのだ。その世界の理を乱す奴らは滅ぼさなくてはならない』
(;・∀ ・)「馬鹿な......」
狂っている。
そうとしか言い様がない。
ようやく、このときになって自分が付き従ってきた者が何者であったかを理解する。
こいつはただの阿呆なんかではない。
真の世界の敵、悪魔なのだとー
773
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:03:44 ID:wVsEMc.M0
(;・∀ ・)「......総員、直ぐに甲板の清掃を行い、帰還するぞ!!急げ!」
だが気付くのが遅すぎた。
既に魔法は発動完了してしまい、破滅を運ぶ鳥は既に空に消えた。
そしてその破滅はこの艦にも降り注いでおり、下手をすればもう手遅れかもしれないのだ。
ー否、もう手遅れであった。
ボォオン!!
(;・∀ ・)「......は?」
凄まじい轟音と共に、艦が爆発する。
それも一度だけではない。
次々とその爆発は連鎖するように続いていく。
(;・∀ ・)「まさかっ!こんなところにまで敵が......!」
こんなときに敵襲かと、脳裏によぎるがそれは間違いであることに直ぐに気がついた。
774
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:04:27 ID:wVsEMc.M0
その理由は単純であった。
目の前で、魔方陣が爆発を起こしたのだから。
(; ∀ )「がぁあああっ!!」
身体を吹き飛ばされ、壁に打ち付けられながらも何とか意識を保つ。
そうして思考する。
なぜ、魔方陣が爆発したのか。
まず考えられるのは、魔法の暴走。
魔法は便利だが上手くコントロールできなければその魔力のエネルギーはそのまま暴走し、爆発へと変換されるのだ。
ゆえにこの爆発も魔法の暴走かと考えたが、魔法の暴走とはすなわち魔力を目的への魔法へと変換できない、魔力のコントロールが出来ないから発生するのだ。
だが今回は召喚には成功した以上、魔力を魔法へと変換できていることからその可能性は低いであろう。
そもそも召喚を完了してからかなりの間が空いている。
魔法自体が完了している、つまり魔法への変換は完了しているのに、そこから暴走を起こすことなどあり得ないことである。
誰かが魔力をコントロールせずに垂れ流していれば起こりうるが、そんなことをすれば自分もろとも吹き飛ばされることは子供でも知っていることである。
そんな自殺行為を行うような者はまずいる筈ない。
775
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:05:11 ID:wVsEMc.M0
ではなぜ、こんなことが起こっているのか。
マンタキの脳裏に一つの可能性が頭に浮かぶ。
ーこの爆発自体が、魔法として組み込まれていたのではないか、と。
(;#・∀ ・)「プ、プギャー......貴様!!」
『非常に残念だ。君達のような勇敢な戦士が自らを犠牲にし、敵を滅ぼすために魔法を完遂するとは。ただ、命令もしていないのに勝手にそのような魔法を使うとはいただけないがな』
(;#・∀ ・)「なっ!?」
すなわち、人為的な工作。
これはマタンキ等を確実に殺すための魔法なのだ。
なぜそんなことをするかなど考えるまでもない。
世界を破滅させるような魔法を使った責任をマタンキ達に擦り付け、口封じをする共に、感染源になりうる自分達を抹殺しようとしているのだ。
776
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:05:36 ID:wVsEMc.M0
(;・∀ ・)「ふ、ふざけー」
『ただ、約束通り報奨は与えよう。君の望んでいた昇進だ。自らの死を持って敵を滅ぼそうという君の姿勢に免じて、二階級特進を適用しよう』
(;・∀ ・)「くそっ、くそっ、糞がぁああ!!!」
始めからこの悪魔はこうするつもりであったのだ。
沸き上がる怒りのまま、叫ぶがそれがもう届くことはない。
再度の、爆発。
灼熱の炎が全てを包み込み、海上から万物を消し去る。
その炎に包まれる直前、マタンキは笑い声を聞いた。
それは、間違いなく世界を滅ぼす悪魔の声であった。
777
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:05:59 ID:wVsEMc.M0
続く
778
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:47:22 ID:kxZhN/eo0
おつ!
気づいたらプギャーがラスボス級のことしてた
流石の人間も病気には勝てんかな…昨今の情勢的に
779
:
名無しさん
:2023/10/22(日) 03:58:20 ID:4XFVPjAQ0
乙
780
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:39:22 ID:SslklFAQ0
アリベシ法書国 牢獄
1463年4月15日
肉の潰れる音がなり響く。
その音に遅れてくぐもった叫びが狭い牢獄の中に木霊する。
その音の中心には鎖で繋がれ、血塗れになった一人のエルフがいた。
そのエルフはつい先日までこのアリベシにて法書と呼ばれる物を管理し、またその法書に記された神からの神託を民へ伝えるというこの国で最も重要な役割を担う、高貴な立場にいたはずであった。
だがそれが今ではカビ臭いこの狭い牢獄に繋がれ、拷問が繰り返し行われている。
どうしてこんなことにと涙を流すが、理由が分からないわけではない。
(# ・∀・)「さぁ吐け!!神に仇なす悪魔の仲間が何処にいるかをっ!!」
工作員であるそのエルフは、この国を実質的に支配できるようにと指令を受け、神の絶対の言葉とされる法書の内容をねじ曲げて伝え、国を操作していたのだ。
国が窮地へと追い詰めた原因の張本人であると同時に彼等の信じる神を汚してしまったのだ。
許されるはずが、ない。
781
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:40:04 ID:SslklFAQ0
凄惨なる拷問はもう、どれほど続いただろうか。
狭い牢獄が赤く染まり、様々な部位が欠損してもなお、止まることはない。
そしてそのまま、まだ死ねれば救いがあると言えたかもしれない。
(# ・∀・)「......おい、そろそろ治療してやれ」
一度きり落とされた部位も、魔法により再生されていく。
身体の再生など、とてつもない技術と魔石が必要な魔法であるというのにそれを拷問に彼等はつぎ込んでいる。
それほどまでに彼等の怒りは強いのだ。
そしてその怒りは燃え尽きることがないであろう。
つまりこの地獄が永遠に続くということである。
絶望以外の何物でもない。
782
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:41:14 ID:SslklFAQ0
( ・∀・)「よし、では続きを......ん?」
そのエルフにもプライドがあった。
このアリベシに潜入し、国を操るというとてつもないことを成し遂げたのだから、当然ともいえる。
そしてそれは全て祖国であるルナイファの為であった。
だからこそ、ルナイファに仇なすことなど出来るはずがない、はずであった。
しかしこの地獄を乗り越えるためには、それだけでは足りなかった。
否、足りるはずがないと言った方がいいかもしれない。
それほどまでにこの空間には狂気が満ちていた。
(; ・∀・)「......なんだと?ルナイファが!?」
そしてその狂気は、新たな矛先を見つけるのであった。
783
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:41:55 ID:SslklFAQ0
ムー国 捕虜収容所
(゚、゚トソン「そ、そのお話は本当なのですか!?」
( ´_ゝ`)「あぁ、陛下は講和に動くらしい」
その言葉に捕虜たちは一斉にざわつき始める。
そのざわめきは喜びと困惑、そして悲しみが入り乱れたものであった。
もうあんな凶悪な敵と戦う必要も、そして国に残された家族たちも危険にさらす必要がなくなるという喜び。
これまでの政策から陛下が本当に講和を選ぶとは信じられないという困惑。
そして世界最強と信じてきた祖国が、本当に負けたのだという悲しみ。
本当に様々な感情が沸き上がり、心がぐちゃぐちゃにかき乱される。
だが皆どこかでこの結末を望んでいたのだろうか。
ざわめきは段々と歓喜へと変わりつつあった。
784
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:42:36 ID:SslklFAQ0
( ´_ゝ`)「......ふむ」
その様子を眺めつつ、アニジャは若干の安堵を覚えていた。
降伏を受け入れられないもの、それこそ徹底抗戦を唱えるようなものが出てくれば混乱は免れない。
それどころか下手に暴れでもすれば危険と見なされ、容赦なく殺されてもおかしくない立場なのだ。
だがここにいる兵たちは降伏を受け入れ、そしてそれを素直に歓喜出来るものばかりである。
ルナイファの現状を考えれば非常に幸運であると言えるであろう。
そしてそれはアニジャも理解しており、負けたことを喜ぶ者が多くて良かったと感じるという、何ともおかしな自身の状況に苦笑していた
785
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:43:34 ID:SslklFAQ0
(゚、゚トソン「それでその、アニジャ様。我々についてはどうなるのでしょうか?」
( ´_ゝ`)「その件か。それは今後の交渉次第とのことだ」
(゚、゚トソン「交渉......」
その言葉に、トソンの顔が一気に引き締まる。
交渉と言えば聞こえは良いが、要は人質と言うことであろうと考えたからであった。
いくら負けたからとはいえ、自身の命により国が不利になるというのは一兵士として耐え難いことである。
( ´_ゝ`)「ん?......あぁ、何か勘違いしているな」
(゚、゚トソン「は、勘違い、ですか?」
( ´_ゝ`)「別に俺達を使って脅しをしようってわけではないようだ。そもそもそんな価値は俺達になかろう」
(゚、゚;トソン「......」
その言葉に誰も何も言わないが心は一つであった。
ーアニジャにはその価値が十分すぎるほどにあるのではないか、と。
786
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:44:46 ID:SslklFAQ0
そしてそれは、アニジャ自身も分かっていた。
アニジャを交渉材料にすれば、かなりの効力があるであろう。
さらにそれは、人間達も分かっていることも知っていた。
だがそれでも、彼は自身がそのような状況に陥ることはないと、特に心配はしていなかった。
( ´_ゝ`)(未だに人間に対する不安は消えず、か。今後ためにも、皆の人間に対する考えを改めなくてはならないな......)
ここで暮らし、そしてクーを通じて得た情報からおおよそではあるが召喚地の人間達が何を望み、どのように考え、行動しているかに察しがついていたのだ。
そしてその彼らの考え方、つまり倫理観を知り、その倫理の上に高度な文化を築いてきたことを知ったのだ。
国と共に、民も成長する。
言われてみれば当たり前のように感じられることではある。
だがルナイファは確かに大国ではあるが、その国の成長と共に倫理観が成長してきたかと問われれば、アニジャは首を捻るであろう。
そんな当たり前のことすら出来ていなかったのだ。
この戦争が仮に無かったとしてもいずれ、国としてまとまらなくなり、崩壊の時は訪れていたであろう。
787
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:45:45 ID:SslklFAQ0
( ´_ゝ`)「国のため......彼らに学ばなくてはならないな」
(゚、゚トソン「は?アニジャ様、どうかされましたか?」
( ´_ゝ`)「あぁ、いや。一人言だよ」
そして歪に成長を続けてきた母国は今、土台から崩れ落ちようとしている。
それは確かに悲しむことではあるが、今までが異常であったのだと、アニジャは考えていた。
この戦争の敗北により、全ては一度、リセットされる。
それにより新たな国を作り上げる際には、もう二度と間違いを起こさぬよう、これまでに学んだことを注ぎ込むことができるだろう。
そうしていつかは、より良い国を作っていけるはずなのだ。
そう、これはそのための一歩なのである。
より良い国へ近づくための、非常に遠回りであったが、必要な一歩なのだ。
ーそう考えなくては、この戦争により散っていた命に顔向けが出来ない。
( ´_ゝ`)「......いや、流石にこれは言い訳だな」
そう呟き、アニジャは苦笑する。
多くのものを失った戦争であったが、今この手には未来がまだ残されている。
そう確信しアニジャはその希望を胸に、未来を思い描くのであった。
788
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:46:19 ID:SslklFAQ0
ルナイファ帝国 帝国議事堂
1463年4月18日
(# ^Д^)「奴らが怯んだ今!!我々は攻めに転ずるべきなのだっ!!」
多くのものが集まった議事堂に、プギャーの声が響きわたる。
勇ましく叫ぶその言葉に何人ものエルフが賛同の声を挙げ、敵を倒せと叫び、熱量が上がっていく。
しかし一方で、声を挙げなかったエルフ達は絶対零度にまで冷えきっているのではないかというほど、冷たい視線を彼らに送っていた。
その視線には未だに現実を理解していないのかという呆れと侮蔑の感情が含まれていたが、それに気付く様子もなく、加熱された輩達は意気揚々と自らの主張を吠え続けていた。
789
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:47:14 ID:SslklFAQ0
/ ,' 3「我から話がある......皆、静まれ」
しかし、そのアラマキの声は全ての雑音をかき消し、空間に静寂を取り戻す。
頭に血が昇っていた者達も、一応の冷静さを取り戻し、アラマキに対して頭を垂れる。
そうしてようやく話が出来る空気になったのを確認して、彼は一つ小さく頷き、話を始めた。
/ ,' 3「今日、ここに皆に集まって貰ったのはこの国の今後を決めるためである。皆が知っての通り、我が国は今、窮地に陥っていると言っても良いであろう」
ざわっと、静まり返っていた空間に音が産まれる。
アラマキの言葉は自国の劣勢を認めるどころか、追い詰められていると認めているのだ。
ここにいる多くのものも、それは理解していたが改めてそれを陛下が認め、そして口にするなどと考えていなかったのである。
790
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:48:42 ID:SslklFAQ0
圧倒的な強者としてこれまで振る舞ってきた王が、自ら弱さを認める。
それは強さを武器とし、他国を支配してきたこの国にとってあり得ない姿であり、そんな姿を見せなくてはならないほどになっているということを示していることに他ならないのだ。
/ ,' 3「では、これから我等はどうするべきか。オトジャよ、貴様から提案があると聞いた。ここで述べよ」
(´<_` )「御意」
そうして静まり返り、異様な空気が漂う中、その中心にオトジャが歩み出す。
心音がこの静かな空間に聞こえるのではないかというほど凄まじい鼓動を感じながらも、それをどうにか表に出さぬよう堂々とした姿をなんとか作り出す。
これから発する言葉、一つ一つが国を動かしかねないのだ。
下手に弱い姿を見せ、ここで主張を通せなければ国が滅ぶ事に等しいであろう。
何せこの空間には先ほどまで妄想を語り、それを絶賛していたものがいるのだから。
弱みは見せられないと一度、強く目をつぶり、覚悟する。
ーアニジャ、俺に力を貸してくれ。
口の回る兄の姿を思い浮かべ、そう祈り目を開く。
その目は、覚悟を決めた男の目であった。
791
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:50:02 ID:SslklFAQ0
(´<_` )「では私から提案を述べさせていただく前に、一度、現状を皆に共有させていただきたい。陛下、よろしいか」
/ ,' 3「うむ、許可しよう」
(´<_` )「感謝致します。さて、これまでこと、つまり我々が呼び出した人間のと戦いについてですが、まず最初に接触したは召喚地に送り込んだ先遣隊です」
/ ,' 3「昨年の、召喚直後のことであるな」
(´<_` )「その通りでございます。そして彼らの証言によれば、謎の飛行物体と接触し、攻撃に成功するも撃墜に至らず、その後に謎の攻撃により逆に部隊が壊滅。作戦は失敗し、撤退いたしました」
/ ,' 3「......」
(´<_` )「そしてその後、召喚地は我々の攻撃、及び強制的に召喚したこと、また外交官を処刑したことに対する報復として、ムーを強襲。結果は防衛に失敗し、わずか一日で陥落いたしました」
淡々と語られる敗北の歴史。
皆すでに知っていることとはいえ、最強と吟われた国の民なのだ。
その話を改めて聞いて決していい気分になるものなどいるはずがなく、皆が顔をしかめる。
792
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:51:08 ID:SslklFAQ0
オトジャもそれは同じだが、それでも話を止めることはない。
ただ、淡々と話を続けていく。
(´<_` )「これを受け、我が国は召喚地との戦争を本格的に開始することを決断。また軍務省の判断により宣戦布告がされました」
( ^Д^)「......ふんっ」
(´<_` )「そしてムー奪還に向け、主力とも言える軍を多数派遣、また属国からも兵を集め、歴史上類を見ないほどの大戦力にて戦いを挑みました。我が国が全力で戦いを挑んだと言ってもいいでしょう」
( ФωФ)「......」
(´<_` )「ですが、結果は皆も知っての通り、敗北いたしました。言い訳のしようがないほどの、大敗北です」
話が続くごとに、多くの者の顔がより暗いものへと変わっていく。
改めて言葉で聞き、そうして正しく現実を見つめ直すことにより、現実がどれほど追い詰められているのかを嫌でも認識させられるのだから。
793
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:52:38 ID:SslklFAQ0
(´<_` )「この敗北により敵の圧倒的な強さが共通の認識となった、そうここにいる皆様も間違いなく、ご理解いただけていると考えております。また多数の艦を一気に喪失したことにより、ムー奪還は実質不可能となりましたため、我が国は防衛に全力を尽くすこととなりました」
( ^Д^)「......」
オトジャが共通の認識と述べた際、わざと強調して話をする。
その言葉に継戦派のものたちは苦虫を噛み潰したかのような顔を浮かべるが、唸るのみで反論はなかった。
否、反論できなかったという方が正しい。
何故なら敗北は事実なのだから。
だが唯一、プギャーのみ涼しい顔のままその言葉を聞き流していた。
その様子に若干の不気味さを感じつつも、話を続けていく。
(´<_` )「ですがこの防衛も失敗に終わり、敵の上陸を許しました。もう海では打つ手がないと言える状態となったため、陸戦でどうにか巻き返しをと考えておりましたが......そこでニータから宣戦布告をされました」
/ ,' 3「......ふむ」
(´<_` )「兵が足りない北方は勿論ニータに対し劣勢であり、圧倒的な力を持つ人間達を相手に南方もまた敗北を重ねました。最早どの戦線においても我々は苦境に立たされているといえます」
( ^Д^)「......だが、勝ったではないか!!我々は、人間にっ!!」
(´<_` )「っ」
794
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:55:18 ID:SslklFAQ0
まるで待っていたかのように言葉を放つプギャーにオトジャは内心舌打ちをする。
ただただ黙っていることはないとは考えていたものの、それでも最後まで黙って聞けないのかー
勿論内心でそう思うだけであり、言葉にはしない。
ただし視線ではそう伝えようと睨み付けるものの伝わる様子もなく、黙るどころかさらに畳み掛けようとしていた。
( ^Д^)「どうやらどうしても我が国が負けるといいたいらしいな、この敗北主義者が」
(´<_` )「......初めに述べた通り、事実を羅列しているだけです。それともなにか、異なるところがありましたか?」
( ^Д^)「まぁ、これまでは苦戦をしていたことは認めよう。だがしかしだ、こと南方の戦線について今語るべきは苦境などではなく我々が勝ち得た、勝利についてであろう!!」
(´<_` )「それについては、これから話をしようと......」
( ^Д^)「なぜあとにする必要があるというのだ!!現状を共有するというならば、南方は我々が勝利したという事実を伝えるだけで十分ではないか!!貴様はこの勝利の事実を無視し、我が国をあろうことか敗戦へと導こうとしているのかっ!!」
(´<_` #)(こいつ......!!)
沸き上がる怒りに歯が砕けんばかりに食いしばる。
よくもまあこのような場でいけしゃあしゃあとそこまで馬鹿げた妄言を披露し、そして相手を侮辱できるものだと逆に感心してしまうほどである。
795
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:55:59 ID:SslklFAQ0
さらに付け加えるならば、彼の取り巻きもそうであろう。
先ほどで御通夜のように沈んでいた彼等が、まるで水を得た魚のように息を吹き返し騒ぎ始めているのだ。
つい先ほどまで少しでも現状を理解できていた頭は一体どこに消えたというのか。
(´<_` ;)(相手にしてられんぞ、こんな奴ら......)
ただでさえ国が追い詰められているというのに、なぜこんなもの達のために時間を割かねばならないのか。
その思いはこの場にいる多くの者が持つ思いであったのだろう。
オトジャに向けられる視線の多くは同情の視線であった。
(´<_` )「......プギャー様」
( ^Д^)「なんだね?ようやく、自分の過ちにでも気が付いたか?」
(´<_` )「ここでの共有する事実についてですが、南方は潜地艦により勝利を納めた......こちらで問題はありませんね?」
( ^Д^)「......」
796
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:57:20 ID:SslklFAQ0
プギャーの言葉など、無意味だと切り捨て強い口調で言葉を叩きつける。
流石のプギャーもその姿に面食らったのか、騒ぎ続けていた口も言葉に詰まっていた。
(´<_` )「問題ないようですので続けて質問致します。この勝利が、何だというのですか?」
( ^Д^)「......どういう意味だ?」
(´<_` )「確かに我々は南方の一部にて勝利を納めました。間違いなく、勝利です」
( ^Д^)「そうだ、だからこそ今度は我々から攻めて奴らを」
(´<_` )「どうやって勝つと言うのですか?潜地艦では、この戦いに勝てませんが」
( ^Д^)「......は?」
余程その言葉が意外であったのだろう。
先ほどまでの勢いはどこへ消えたのか、オトジャのその発言にプギャーはぽかんとした表情を浮かべていた。
797
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:58:35 ID:SslklFAQ0
そんな様子のプギャーに攻め時と言わんばかりに言葉を畳み掛ける。
(´<_` )「まず大前提として陸で敵に勝つためには土地を奪還するだけでなく、確保できる力が必要となります」
( ^Д^)「それが何だと」
(´<_` )「ですが潜地艦は敵への奇襲は可能ですが、これのみで戦況を決めることなど出来ません。一時的な奪還は可能かもしれませんが、先ほど述べた通り、確保するためには他の戦力が必要となります。そのための戦力比がどれほどなのかはこれまでの説明でご理解いただけていると思います」
( ^Д^)「......む」
(´<_` )「それに先の戦いは敵が潜地艦を知らないがゆえに我々が勝利を納めましたが、もう二度も同じ手は通用しないでしょう」
(# ^Д^)「通用しないだと?それは貴様の想像に過ぎんだろう!奴らに潜地艦を対処する方法など、ありはしない!!」
(´<_` )「......確かに直接対処する方法は持っていないかもしれませんが、そんなことをする必要もないでしょう」
/ ,' 3「それは、どういうことか?」
(´<_` )「単純な話です。潜地艦は確かに地に潜っている間は無敵かもしれません。先の戦いを見るに、こちらを探知することが出来ていない可能性もあり、地中に潜む間は敵も対処できないかもしれません。しかし常に地の中に潜ることは不可能。艦も、また乗員も補給が必要ですから」
/ ,' 3「......あぁ、なるほどな」
798
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:01:13 ID:SslklFAQ0
その言葉だけでアラマキは理解したのであろう、納得したと深く頷く。
だが周りは、特にプギャー達については理解も納得もしていないのか、未だ怒りを込めた視線をオトジャに送っていた。
(´<_` )「敵は『ひこうき』なる高速で空を飛び、また凄まじい攻撃が可能な兵器を持っております。これまで手に入った情報から行動半径も恐ろしく広いと考えられ」
(# ^Д^)「それがなんだというんだ?」
(´<_` )「......えー、つまりですね。潜地艦が行動できる範囲は敵が攻撃可能な範囲であると言えます。こうなると敵は空から基地をあらかじめ潰しておけば潜地艦は補給も整備もできなくなります。これを防ぐ手段を我々は持っていませんので。その後に陸上を侵攻するのみで潜地艦の対処が事実上可能となる、というわけです」
( ^Д^)「なっ......」
(´<_` )「そもそも敵の機動力を考えれば、潜地艦は地中を進む関係上、凄まじく速度が遅いために敵の攻撃を防ぎきることは困難でしょう。地上戦力では足止めも出来ないようですので部隊の展開が間に合いません。しかし奇襲をしようと、各地に潜伏させようにも潜地艦の数、また乗員となれる魔法使いの数からして、この広大な土地の全てを守りきれるほどありません」
( ^Д^)「......」
(´<_` )「確かに我々は敵に一撃を与える手段を持っています。ですが、あくまでも一撃なのです。この戦況を覆せるものではないことを、皆に理解していただきたい」
799
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:02:44 ID:SslklFAQ0
オトジャの発言に、ようやく継戦派達も理解したのか、先ほどまで自信満々という表情であった顔がみるみる青くなっていく。
その様子に、オトジャもようやく一息つくことが出来た。
(´<_` )「......さて、では本題に入ります。私から一つ、提案をさせていただきます」
だがまだ気を抜くわけにはいかない。
ここからが、本番なのだ。
(´<_` )「提案は単純な話です。先日私のもとへ召喚地より講和に向けた話し合いの申し入れがありました」
(; ^Д^)「なっ!?」
(´<_` )「私はこの提案を受け入れ、講和......和平の道を探るべきと考えます」
大きなざわめきと共に議会が揺れる。
この場にいる多くの者が考えつつも言葉にすることができなかった降伏を提案したのだから当然であろう。
800
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:03:42 ID:SslklFAQ0
(; ^Д^)(まさか別ルートで降伏勧告をしていたというのかっ!?クソッ、面倒なことをしおって......)
だが一人の男だけは別の理由で動揺をしていた。
自らが握り潰すことで、どうにか降伏の道から遠ざけたかったというのに、これではその努力も無駄になってしまうのだ。
(´<_` )「現状、潜地艦による勝利のおかげで、敵もこれ以上の侵攻は避けられるならば避けたいと考えているでしょう。交渉次第では譲歩を狙えます......今以上に好機はない、と考えます」
(# ^Д^)「ふざけるなっ!!降伏など、認められるわけなかろうっ!!」
(´<_` )「ふざけてなどいません。むしろ、このまま戦い続ける方がふざけた考えだと思いますが」
(# ^Д^)「なっ、き、貴様っ!」
(´<_` )「では、お聞きしますが敵に勝つ算段があるというのですか?海と空は既に敵の手に落ち、陸上も守ることすらままならない我々が、どうやって敵に勝てというのですか。奪われた領土を取り返す方法など、有りはしないでしょう?」
801
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:04:16 ID:SslklFAQ0
そのオトジャの言葉に皆がなにも言うことが出来なかった。
これまでの戦いで戦力比は明らかであり、まともに戦って勝てる未来を想像すらできないのだ。
敵に唯一抵抗できる手段は潜地艦のみ。
だがそれだけでこの戦争が勝てることなどあり得ない。
それならば潜地艦を脅威だと敵が認識しているうちに交渉を行い、少しでも良い条件を引き出す。
現状で最も良い選択肢であると理解したのだろう、継戦を叫んでいたもの達も悔しそうな顔を浮かべながらも何事も反論できずにうつむいていた。
そうして静まり返り、全てはここに決着した。
(# ^Д^)「手ならば、ある!!」
ーはずだった。
802
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:04:57 ID:SslklFAQ0
(´<_` )「......なんですと?」
( ^Д^)「手ならばある、そう言ったのだ」
/ ,' 3「な......」
プギャーの発言に、空間にざわめきが蘇る。
そして継戦派も再度顔を上げ、期待に満ちた視線をプギャーに送っていた。
確かに先ほどまでの話で全てが決着がつくはずであった。
だがプギャーのその一言によって全て変わってしまったのだ。
/ ,' 3「プギャーよ。今の発言、この国の未来を左右するものとなることが分かっての発言か?確かに、存在すると?」
( ^Д^)「えぇ、存在します。我々は、奴らを滅ぼすことができるのです!!」
(´<_` )「......そんな手があるわけが」
/ ,' 3「よい、オトジャよ。プギャー、ではその貴様の考えを話してみよ」
( ^Д^)「はっ!」
多くの視線がプギャーに送られる。
一体この状況で何を言うつもりなのか、そしてこんな現状を覆しうるものなど本当にあるというのかー
皆が同じ思いを持ち、言葉を待つ。
803
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:05:42 ID:SslklFAQ0
( ^Д^)「手は、数だ。数の力で、奴らを潰す」
(´<_` )「......はぁ」
そうして出てきた回答は、何とも呆れさせるものであった。
数で敵を圧死させる狙いなどこの戦いが始まって何度も行っている。
さらにその全てで負けているのだ。
今更そんな手で国の方針が変えられるはずもない。
(´<_` )「確かに敵兵は我々よりも少ない......いえ、少なかったというべきでしょう。敵の総数は少ないものの、既に我々は兵を削られ過ぎました。数では勝てません」
( ^Д^)「何のために徴兵をしていると思っているのだ?志願兵も数多くいる。まだ、我々の方が優位だろう」
(´<_` )「一般人など、魔法の才が乏しいものがほとんどで、さらに訓練も積んでいないのです。正規兵が束になっても叶わない相手に、どう戦おうと言うのです?」
( ^Д^)「戦う必要などない。ただ突撃すればよい。それで奴らは終わりだ」
(´<_` )「何を言ってるのですか?そんなことをしても、ただ無駄死にをー」
( ^Д^)「死の呪い」
(´<_` ;)「......なに?」
804
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:06:52 ID:SslklFAQ0
( ^Д^)「知らんわけではないだろう?殺したものに、死を与える魔法があるではないか」
(´<_` ;)「なっ!?」
瞬時、皆が絶句する。
敵を殺すために、国を守るために国民を特攻させる。
そんな、倫理観の欠片もないような作戦をこの男は堂々と言い放ったのだ。
確かに確実に敵を減らすことはできるであろう。
だが降伏派は勿論のこと、継戦派も非人道的過ぎるその考えには動揺を隠せなかった。
(´<_` ;)「そ、そんなことが許されるはずがないだろう!!」
( ^Д^)「許されるか許されないかという話ならば、人間に下ることの方が許されざることだ」
(´<_` ;)「......貴様とは、一生考えが合わんようだな」
( ^Д^)「ふん......貴様が理解する必要などない。全ては陛下が認めてくだされば、丸く収まるのだからな」
そんなこと認めるわけないだろうー
アラマキとオトジャを初めとして多くの者の思いが一致する。
805
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:07:33 ID:SslklFAQ0
こんな提案がもし仮に実現し、敵を殲滅出来たとしてもその後に残るのは焦土のみ。
プライドを保つために民も富も全てを費やすことなど、馬鹿げているとしか言い様ない。
そんな状態で国として保てるはずがないのだ。
(´<_` )「......まあいいでしょう。もし、もし仮にですが認められたとして、その作戦ではこの国から敵を撤退させるに留まるでしょう。それだけでは勝ったとは言えませんが、どうするおつもりか?」
( ^Д^)「その件に関しても問題ない。どうやら私の部下が『勝手に』行動していたようでな。おかげで奴らが滅びるのも時間の問題だ」
(´<_` )「......なんですかそれは」
既に、嫌な予感がしていた。
先ほどの提案ですら最悪だというのに、まだなにかあるというのだ。
自信満々に語るその姿に比例するかのように、不安は増していく。
806
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:09:32 ID:SslklFAQ0
( ^Д^)「なに、新魔法を使っただけだ」
/ ,' 3「......新魔法?確か......遠距離攻撃魔法と聞いたがそれでどうにかできる相手ではなかろう」
( ^Д^)「いえ、陛下。その魔法ではありません。別の、新魔法です」
/ ,' 3「別?別とは......」
(; ФωФ)「なんだとっ!?まさか、き、貴様!!あれを使ったというのかっ!!」
( ^Д^)「使った?話はちゃんと、聞いてほしいものですなぁ。先ほど言った通り、部下が『勝手に』使ってしまったのですよ」
(# ФωФ)「ふざけるなっ!!あれは極秘事項だっ!!そんなこと......あるわけがっ」
( ^Д^)「いえいえ、あるんですよ。どうやらデミタスから情報が漏れてしまったようでしてね」
(; ФωФ)「っ!やつが、そんなバカな......いや、そうだ、デミタス!!召喚艦を動かせば、あの男が気付かないはずがない!!そもそも奴から漏れるはずが......っ!貴様、デミタスをどうした!!」
( ^Д^)「ですからちゃんと、話は聞いてほしいですな。奴なら、新魔法の情報を流出させた上に止められなかった責任から『自殺』しましたよ。遺書も残ってましてね」
(; ФωФ)「なっ!?」
807
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:10:17 ID:SslklFAQ0
その言葉、そして薄ら笑いを浮かべるその男にロマネスクは確信する。
デミタスがこの男に消され、そしてあの魔法を使用させたのだと。
この国を、そしてこの世界を崩壊に導くといってもよい、最悪な事態である。
だがその事に今、気づいているものは少ない。
ほとんどの者が新魔法のことを知らず、話についていけていないのである。
/ ,' 3「ロマネスク、新魔法とはなんだ!?詳しく説明せよっ!!」
(; ФωФ)「......はっ。新魔法は以前お伝えしていた遠距離攻撃、長距離制圧魔法とほぼ同時に開発されたものになります」
/ ,' 3「......なに?そんなものがあるなど、聞いておらんぞっ!なぜ報告をしなかった!!」
(; ФωФ)「申し訳ございません。この魔法は、一度発動すれば世界を滅ぼしかねない魔法ゆえ......誰にも知られることなく、葬るつもりだったのです。ですが、隠していたのは事実。どのような罰も、受ける所存です」
808
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:11:37 ID:SslklFAQ0
/ ,' 3「......待て、世界を滅ぼしかねないとは、一体どういうことだ?どんな魔法なのだ、それはっ!」
(; ФωФ)「......簡単に言えば、疫病を運ぶ海鳥を召喚し、敵地へ差し向ける魔法です。この疫病は古の大国を滅ぼしたと言われるもので、その致死率は一説では九割近くにも及びます。治療魔法も難易度が高いゆえ、現在の我が国で使えるものは......ほとんどおらぬでしょう」
/ ,' 3「な......なんだ、それは......」
(´<_` ;)「ろ、ロマネスク殿。海鳥が疫病を運ぶ、そうおっしゃいましたか?」
(; ФωФ)「うむ、そうだ。察しの通りであろう。召喚直後はある程度、進行方向は操れるため、敵国へ差し向けることが可能。だがその後は......」
(´<_` ;)「操作などできるはずもなく鳥たちは海を渡り、病は世界中に広まる......鳥の侵入を防ぐことなど、実質的に不可能だっ!」
皆が瞬時に顔を青ざめる。
今、この世界にとんでもないものが解き放たれてしまったのだ。
世界中を飛び回る、疫病。
もうこの世界に安息の地などなくなったと言えるかもしれない。
戦争と異なり、自分のいる場所、そして役職に関わらず皆に平等に死が降り注ぐ。
これまで安全な場所から命令するだけで良かったここにいる者たちも、いつ死んでもおかしくない世界へと変貌してしまったのだ。
809
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:14:05 ID:SslklFAQ0
( ^Д^)「これでわかったでしょうか?奴らは既に戦争どころではない。これでこの大陸から奴らを消せば、それだけで我々の勝利となるのです。そして奴らをこの大陸から消すために、ここに国家総動員法を提案するっ!敵は少数!確実に勝利ができるのだっ!!」
(´<_` #)「貴様は馬鹿かっ!!我々にも、戦争などしている余裕なぞ、あるわけないだろう!対策にリソースを回さねば、将来どうなるかくらいわかるだろう!!それも、国家総動員法だと!?そんなことをすればたとえ敵を滅ぼしたところで、我々も滅びるのみだっ!!」
( ^Д^)「馬鹿は貴様だ。国家総動員法は、むしろ好都合なのだよ。考えてもみろ、病を治療できるものは少数なのだ。数が多くては感染源を増やすのみであろう?だがただ死ねと言うわけではない。エルフの、そして我が国ルナイファを守るという名誉ある死だ。そうして残された者たちにより、ルナイファは未来永劫、続いていくのだ。滅びることはない」
(´<_` #)「ふざけるなっ!!そんなことが、許されるはずがないだろうっ!」
(# ^Д^)「許されないだと?許されないのは貴様の言うようにエルフの誇りを捨て、人間の奴隷になることだろうがっ!我々はこの世界を神から与えられた、誇り高きエルフなのだっ!そんなことが許されるはずがないだろうっ!!奴らを滅ぼせるのは今しかないのだっ!まず必要なのは奴らを滅ぼすこと、ただそれのみ!その結果、どんな姿になろうともこの世界を守る、それが神から与えられた我々の使命であり、誇り高き我が国の正しい姿なのだっ!!」
(´<_` #)「っ!狂人がっ!!」
/# ,' 3「もうよいっ!!」
二人の会話に割ってはいる怒声。
その声に誰もが黙り込み、そして息を飲む。
この国の行く末を決めるのは、陛下なのだ。
もし仮に陛下が誤った道を進むというならば、それに従うしかないのだ。
それが例え、狂人が決めた道であり滅びに繋がる道だとしても。
810
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:16:19 ID:SslklFAQ0
そう、陛下の一声で全てが決まってしまうのだ。
だから誰も声には出さないが、思いは一つであった。
ーどうか、正しい道を選んでくれ。
/ ,' 3「......オトジャよ」
(´<_` )「はっ」
/ ,' 3「人間達への連絡を頼む。我が国は、講和を望む......いや、降伏するとな」
( ^Д^)「っ!」
その言葉に、皆が安堵のため息をついた。
少なくとも、現時点で選べる最善の選択がなされたのだと。
問題は山積みであり、決して将来が明るいとは言えないが、少なくとも今の時点では、全てが終わったのだ。
そう考えていたのだ。
ーただ、一人を除いて。
( ^Д^)「......陛下、それが貴方の選択ですか」
/ ,' 3「そうだ」
( ^Д^)「そうですか、非常に残念です。陛下だけは、私の考えを分かってくれると信じていたのですがね」
811
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:17:00 ID:SslklFAQ0
(# ФωФ)「陛下っ、この男はすぐに拘束すべきです!!命令をっ!」
( ^Д^)「一体なんの罪で拘束しようというのかね?先ほどから述べている通り、私はなにもしていないのだ。証拠だってないのだろう?」
(# ФωФ)「......」
( ^Д^)「まぁ、よい。なんにせよ、拘束などできるはずがない」
/ ,' 3「......どういう意味だ?」
( ^Д^)「簡単な理由ですよ」
そう言い、プギャーは右手を挙げる。
そしてそれを合図にし、議事堂の扉が強く開け放たれ、何十人もの兵士が雪崩れ込んでくる。
(; ФωФ)「なっ!?」
( ^Д^)「拘束されるのは、貴様らだからだ......全員、動かないでもらおうか。動けば、命はないと思え」
終わりの、始まりである。
812
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:17:22 ID:SslklFAQ0
続く
813
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 20:03:04 ID:i0291jOg0
乙!!
814
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 21:41:07 ID:xBK4yX9c0
乙!プギャーお前はマジでどうしようもないな……。
815
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 22:09:53 ID:Y2NgILtc0
王様迂闊すぎるぅ
816
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 22:15:07 ID:95rpDSU60
おつ!
プギャーがここまで追い詰めてくるとは思わなかった…
817
:
名無しさん
:2023/10/29(日) 08:50:38 ID:rvaNCerQ0
乙です
818
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:07:49 ID:e9mBbMOc0
ルナイファ帝国 帝国議事堂
1463年4月18日
/ ,' 3「これは、一体どういうつもりだ?」
多数の兵に取り囲まれつつも、アラマキは取り乱すことなく、静かにそう問う。
そう静かに、まるで氷のように冷たい声が響く。
通常であれば、彼のそのような声を聞いたこの国の者は誰しもが震え上がり、許しを乞うであろう。
だがプギャーを初めとして兵も誰一人として態度すら変えず、それどころか睨み返していた。
その目は明らかに正気のものとはいえず、狂気に染まっていた。
/ ,' 3「......狂ったか、貴様ら」
( ^Д^)「狂っているのは貴様らの方だ。あろうことかエルフの誇りを捨て、自ら召喚した奴隷に許しを乞うなど......それも、奴らを滅ぼす力がありながら」
/ ,' 3「その結果、何が得られるというのだ。何も、残らぬではないか」
( ^Д^)「何も残らない?それどころか、我々の輝かしい勝利が得られるではないか。むしろ、何も得られぬのはそちらの方だ。奴らに何もかも、奪い取られる......そんなことが、許されるはずがない」
/ ,' 3「......例え、死んだとしてもか」
819
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:09:26 ID:e9mBbMOc0
言葉は同じであるはず。
だがまるで話が通じていない。
まるで異なる言葉を話しているのではないかとすら感じてしまう。
これならば、異界の人間の方が話が通じるであろう。
今目の前にいる男は同じ国の民であり、同じ種族であるはずだというのに。
そして、そんなものに権力を与えてしまっていたのだ。
/ ,' 3「つくづく、我は王として失格だな......」
( ^Д^)「今更、何を後悔しているか知らんが......あんたにはまだ、利用価値がある。おい、捕らえろ」
その合図に、複数の兵がアラマキを捕らえようと踏み出す。
そして、それと同時にその兵達を包むように光が現れた。
820
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:10:28 ID:e9mBbMOc0
一瞬何事かと、皆が呆気にとられた、その刹那。
光は爆発し、兵達のみを吹き飛ばす。
まるでアラマキを守るかのように、その他一切に影響を与えず、である。
( ^Д^)「......ロマネスクか」
(# ФωФ)「貴様ら、陛下に手を挙げて無事で済むと思うなよ......」
( ^Д^)「ふん、流石だな。神業とも言えるような魔法だ。どうだ?今からでも遅くない、こちらにつく気はないかな?」
(# ФωФ)「あるわけがなかろう!」
( ^Д^)「それは残念だな。貴様ほどの魔法使いがいれば、多くの民を救うことが出来たろうに」
(# ФωФ)「っ!!」
民が死ぬ原因を作り出そうとしているは目の前にいるこの男のはずである。
そんな男の口から民を救うなどという言葉が出てきたことにロマネスクは思わず絶句する。
思考のさらに底、何かが根本的に異なっているのだ。
見た目は確かにエルフであるはず。
だがそこにいるのは、間違いなく道を外れた化け物である。
821
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:12:21 ID:e9mBbMOc0
( ^Д^)「まあいい。それならば予定通りに進めるのみだ。しかしロマネスクよ。貴様がいくら凄腕だろうがこの数に勝てると思っているのか?魔石も多くは持ってないのだろう?」
(# ФωФ)「......」
( ^Д^)「ふん......やれ」
返答がないことに、心底つまらなさそうな顔をしつつ、簡潔に指示を出す。
複数のエルフが色とりどりの魔法を練り上げられる。
陛下を守れるものは、この場にはロマネスクとあとはオトジャくらいであろう。
他にいる者たちは皆、魔法こそ使えど戦闘用の訓練など受けているはずもなく、兵士相手に戦えるようなものなどいるはずがない。
対して相手は数十という軍人。
圧倒的な戦力比であり、またそれを狙ってプギャーはこの場を襲ったのだ。
仮にも軍のトップに立つ男である。
その才をこのような場で遺憾無く発揮し、全てがこの一瞬で片が付くー
822
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:13:28 ID:e9mBbMOc0
(´<_` #)「全部隊、反撃しろぉっ!!」
はずであった。
オトジャのその掛け声と共に、議事堂に潜んでいた彼の部下が一斉に飛び出していく。
それは完全なる不意討ちとなった。
攻撃をしようとしていた者たちは攻撃を放つことも、そして自分等に襲い来る敵に対処することも出来ず、ただ固まってしまっていた。
そんな隙を許すはずもなく一気に雪崩れ込む。
(; ^Д^)「なっ!?こ、これは......ど、どういうことだっ!」
多少の抵抗こそあれどこちらは正規の兵であり、まともに対処できる相手などいないと想定してプギャーらは今回の作戦を練っていた。
しかし一体どういうわけなのか、明らかに敵の護衛に飛び出してきた者たちもまた正規の兵であり、なおかつ練度も高い。
軍の動きをある程度、把握しているはずの自分がなぜこれほどの兵たちの動きを察知できなかったのか。
プギャーには理解できなかった。
823
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:14:55 ID:e9mBbMOc0
(;# ^Д^)「クソッ!一体どこから湧きやがった!!」
(´<_` ;)(まさか、本当に必要になるとはな......)
プギャーが動揺する一方で、オトジャも動揺を隠すことができなかった。
アニジャからの命で、もしものことがあればクーデターを起こしてでも国を動かせるようにと部下の兵は集めていた。
だが陛下であるアラマキの方針からその必要はなくなり、全ては丸く収まるであろうとどこか考えていた。
ただ何人かの反発をする恐れがあったため、その制圧のために兵はある程度の数を備えていたが、まさか逆にクーデターを起こされ、それを制圧することになるなど、全く想定していなかった。
しかしその準備が出来ていなかったことが逆に功を奏していた。
兵の規模が極端に小さいため、動きがバレにくくなっていたのだ。
そしてなによりオトジャを含む部下は全員、陛下直轄の特殊艦隊の兵士である。
国内でも秘匿とされる部隊に所属しているために、いくらプギャーであったとしてもその動きを見つけ出すことも困難となっていたのだ。
824
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:15:56 ID:e9mBbMOc0
(# ^Д^)「くそっ、何をしている!!数はこちらの方が多いのだぞっ!!」
そしてなにより、彼らは選ばれしエリートの集まりなのだ。
少数精鋭という言葉を体現するかのごとく、圧倒的な数の差を才能の差により埋めていく。
さらにそこに世界でも有数の魔法使いであるロマネスクも加わり、戦況は一気に均衡していく。
(´<_` ;)「ぐ......」
ーそう、均衡しているのだ。
敵の不意をついた形となり、明らかに敵は動揺し多大なダメージを与えたはずであった。
しかし、それでも最悪の状況は脱すれど敵を押しきれるほどの力は無かったのだ。
いくら優れたものが揃っているとはいえ多勢に無勢。
さらにオトジャを初めとして集まっている兵は本来、特殊艦隊の配属、つまり海兵なのだ。
本来とは違う戦いにすぐに適用できるかと言われれば、そう簡単にいくはずもない。
825
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:17:17 ID:e9mBbMOc0
またロマネスクも魔法の腕はこの場でもっとも優れているとはいえ、兵としての訓練など受けたことがない。
研究などが本分であるために、慣れない戦いでその力を存分に発揮できているかと言えば怪しいものがあるのだ。
(; ФωФ)(くそ、ここまで敵味方が入り乱れては思うように魔法が使えんっ!!)
さらにそんな状況でアラマキを守らなくてはならないというのだ。
むやみやたらに高威力の魔法を使えば巻き添えになりかねない。
それこそロマネスクが先ほどやったように魔法を巧みに操り、攻撃の衝撃を敵のみに与えることができれば全て解決する。
だがそんなことを皆が皆、出来るはずもなければ、繊細なコントロールの必要な魔法をこんな混戦の中、さらに入念な戦闘準備もしていないこの状況で行えるはずがない。
さらに魔法のコントロールを誤れば、魔法が暴走する恐れもある。
その被害が自身だけならばまだしも、この場には陛下もおり、巻き込みかねないということが、心理的に足枷となっていた。
ゆえに強力な魔法が使えずに敵を一気に制圧することが困難になっていた。
826
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:19:04 ID:e9mBbMOc0
一方でプギャー側はといえば確かにアラマキは生きていれば利用価値があるものの、それは絶対条件ではない。
つまり攻撃を行い、生きていれば御の字といった風に何も気にすることないということである。
さらに彼らは狂気に陥っているのだ。
死すら恐れないその狂気に、オトジャ達は圧倒されていく。
(´<_` ;)「......不味いぞ、ロマネスク殿。このままでは押しきられるっ!兵の体力も、魔石ももうもたんぞ!」
(; ФωФ)「っ!ぐ、む、ぅ......」
ゆえに一旦均衡を保ったとはいえ、それは瞬時に破られる。
オトジャの部下達も、今のところは何とか持ちこたえているものの、形勢は悪化する一方である。
さらにそこに追い討ちをかけるように魔法の元ともいえる魔石が枯渇しかけていた。
魔石がなければどんな凄腕な魔法つかいも、魔法を使えず人間と何も変わらない。
むしろ魔法に依存していた分、それにすら劣るかもしれないのだ。
そのため魔石がなくなればどうなるかなど考える必要もないだろう。
さらに多くの兵が、その魔法を使うための体力も尽きかけていた。
最早精密なコントロールどころか、通常の魔法すら操れるか怪しいところまで到達しつつある。
827
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:19:43 ID:e9mBbMOc0
元々反対派の者達を拘束する程度を考えており、大規模な戦闘など考慮していなかった。
そのため準備不足であったことは仕方のないことではあるが自分の命、そして国の運命がかかっているこの状況でそれを仕方ないと割りきれるはずもない。
だがどうすることもできないという絶望感に、ロマネスクもオトジャは顔を歪ませる。
(; ФωФ)(オトジャ殿の言う通り、こちらの兵力で敵を倒しきるのは無理だ。このままでは、陛下を守りきれん。そうなれば、この国は......)
(´<_` ;)「くそっ!!せめて、陛下だけでも逃げる隙だけでも作れれば......」
(; ФωФ)「......っ!!」
その言葉に、かつて自身が受け持った任務が脳裏をよぎる。
そして一つの可能性が、生まれた。
かなりの無茶をすることになるが、現状よりも遥かにマシであろう、その可能性。
それに全てをかける覚悟を、ロマネスクは固める。
ー少なくともそれならば、陛下のみは助けられるのだ。
828
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:24:32 ID:e9mBbMOc0
(; ФωФ)「そうか、倒さずともそれならばっ......オトジャ殿っ!」
(´<_` ;)「っ!なにかっ!」
(; ФωФ)「すまぬ、説明している時間はない!皆が敵を押さえている今しか、魔法を構築する時間がないのだっ!早く陛下の側へっ!それと、持てるだけ魔石をっ!」
(´<_` ;)「何を......」
(; ФωФ)「オトジャ殿、後は任せましたぞ!」
一体何をするつもりなのかと、オトジャが口を開き尋ねようとしたのを遮るように、ロマネスクは自らのローブを脱ぎ、それをオトジャに渡した。
幾重にも魔方陣が書き込まれたそのローブに時間をかけ、魔力が込められていく。
暫くすると淡い輝きを放ち、魔法を使える者であればそこに注ぎ込まれた力のすさまじさを感じることであろう。
現に受け取ったオトジャもその肌から伝わるこれまで感じたことのないような凄まじい魔力に思わず身震いをしそうになるほどである。
829
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:28:29 ID:e9mBbMOc0
/ ,' 3「これは......一体、どういう」
(; ФωФ)「っ!準備が出来たっ!!陛下、あとはこのオトジャに全てを託します。彼と共に、離脱をっ!」
困惑する二人を他所に、ロマネスクは魔法を完成させる。
ローブの淡い光は集まり、強い光となる。
その光もまた、集まり、束なりそして、光の柱となる。
(; ^Д^)「転移魔法っ!?」
それは、対象を任意の座標へ送る転移。
ようやく時間をかけ、何をやっているか気づいたもの達が妨害しようとするものの、その努力も空しくオトジャの部下達に押さえ込まれていた。
そして邪魔をすることすらできぬまま、オトジャとアラマキの二人を光が包みこみ、そして消える。
光も、二人の姿もである。
たった、一瞬の出来事であった。
その場にいた者のほとんどがただ呆然とその様子を眺めていることしかできなかった。
そもそも転移魔法など、いくら小規模でも超高等魔法なのだ。
通常であれば、大規模な魔方陣や複数の優秀な魔法使いがいてようやく使えるかどうかというレベルのもの。
それをたった一人の男がこの混沌とした戦いの中で発動させたというのだ。
830
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:29:41 ID:e9mBbMOc0
( ^Д^)「全く、本当に信じられんな。流石は世界一の魔法使いというべきか。まさか逃げられるとは想定外だ......それも、二人もとは」
(; ФωФ)「はぁ......はぁ......」
( ^Д^)「大分無茶をしたようだな。しかしなぜだ?なぜお前ではなく、オトジャなどを生き残らせた?」
(; ФωФ)「......ふん、簡単な話だ。魔力がほとんど切れた我輩が陛下の側にいても守ることはできない。陛下を救うためには最善手が、これだ」
( ^Д^)「はん、なるほどな。しかし、これがあのロマネスクの最期とはな。魔力が尽き、魔法使いでありながら魔法も使えずに惨めに死ぬことになるとは何とも情けない最期だ。まあ安心しろ。すぐに殺しはせん。死の呪いを使われてはたまらんからな」
(; ФωФ)「ふ......」
( ^Д^)「......なにがおかしい?魔法もまともに制御出来ない状態のくせに」
(; ФωФ)「いや、貴様の言う通り、確かに我輩にはまともな魔法を使う力など残されておらん。転移魔法で限界が来ておる......まともな魔法は、確かに使えぬ。だが、知っているか?もう、巻き込む心配などしなくて良くなったのだ......もはや制御など、要らぬよ」
( ^Д^)「あ?」
831
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:30:32 ID:e9mBbMOc0
(; ФωФ)「制御など、要らぬのだっ!!貴様を殺すだけならば、魔法を暴走させるだけで、事足りる!!」
( ^Д^)「なにをー」
(; ФωФ)「全員、覚悟は出来ておるなっ!!息のあるものよ、我輩に続けっ!!敵を、道連れにするのだっ!!制御など不要っ、ただ残った魔力を垂れ流すだけでよいっ!命を削り、ありったけの魔力を込めろっ!!こいつらをここで止めねば国が、いや、世界が滅ぶっ!」
(; ^Д^)「っ、ま、まさかっ!貴様っ!」
プギャーがハッと周りを見渡せば、先ほどまで追い詰めていたはずのオトジャの部下達の目が明らかに変わっている。
それは、覚悟を決めたものの目であった。
命懸けで、こちらを殺すという、絶対的な覚悟ー
832
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:31:10 ID:e9mBbMOc0
(; ^Д^)「やめろっ!ふざけるなっ!!そんなことをして何になる!!やめっー」
(; ФωФ)「さらばだっ!!」
ロマネスクを先頭に複数の影が、プギャー達へと最後の力を振り絞り、飛び込んでいく。
そしてその瞬間、カッ、という目映い光が放たれた。
制御など考えない魔力の奔流。
通常ではあり得ない、制御を失った魔法の力の渦が産み出される。
(; ФωФ)(デミタス......これで少しは貴様に顔向け出来るであろうか)
死の寸前、その時思い浮かんだのは、友の顔であった。
まさしくこの国を支えてきたといえるであろう偉大な友の顔。
対して自分はといえば世界一の魔法使いと言えば聞こえは良いが、結局何を残せたというのか。
少なくとも今回の戦いにおいてはまるでなにも出来ることはなく、むしろ自身が関わった魔法の開発により、世界が危機に陥ろうとしている。
さらに今ですらその力を満足に発揮できずに命を散らそうと言うのだ。
833
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:31:44 ID:e9mBbMOc0
無念としか言いようがない。
だがそれでもアラマキを守りきり、そしてこの場から離脱させることに成功し、またこの国の暴走の根元を道連れにする。
( ФωФ)(貴様ならもっと上手くやれたのかもしれんが、我輩にはこれが限界である)
だが、自分にしては上手くやった方であろうー
そんな妙な満足感を得たのと同時に。
激しい爆発が、ロマネスクを包み込んだ。
834
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:32:09 ID:e9mBbMOc0
ルナイファ帝国 帝都近郊
(´<_` ;)「へ、陛下っ!ご無事ですかっ!!」
/ ,' 3「ああ、平気だ......だが、ここは?」
(´<_` ;)「どうやら、帝都の外れに転移されたようですね」
/ ,' 3「......我らのみ、か」
(´<_` )「......えぇ、そのようです」
/ ,' 3「......」
それが意味することは理解できる。
ただ、理解したくなどないのだ。
自分達の命を救うために、多くの命を犠牲にしたなど。
835
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:32:56 ID:e9mBbMOc0
(´<_` )「陛下、行きましょう。ここはまだ、帝都に近い。下手をすれば奴らの追手にやられるかもしれません。一刻も早く、移動すべきです」
しかしそれを嘆いたところでどうにもならない。
この状況を打破することができなければそれこそ命が無駄となってしまう。
アラマキもそれが分かっているのだろう、オトジャの言葉に頷き、同意を示す。
/ ,' 3「......うむ、そうだな。しかし、宛はあるのか?」
(´<_` )「テタレスに参りましょう。距離を考えると、そこしかありませぬ」
/ ,' 3「そうか。しかし、テタレスとなると前線が近い。敵からの攻撃があるのではないか?」
(´<_` )「予め講和に向けて、秘密裏にですが交渉を進めており、テタレスへの侵攻は行わない旨を確認しております。そこは問題ありません。むしろ問題なのは」
/ ,' 3「講和することを前提に交渉をしていたのにも関わらず、国がこのような状況になってしまったこと、か」
(´<_` )「......はい」
836
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:33:57 ID:e9mBbMOc0
相手からすれば堪ったものではないだろう。
降伏するために内政をまとめる時間が欲しいと要求を受け、それを容認し遂に終戦かと思えばクーデターにより国家が混乱状態になったと言うのだから。
(´<_` )「こちらがもう交渉できないものと判断され......殲滅されてもおかしくないでしょう」
/ ,' 3「......うむ」
ルナイファは最早国家ではなく、制御不能の武装集団と見られてもおかしくない。
ただ怒りやプライド、自身の思想のためだけに他国を脅かすその危険性、またルナイファの他国からの印象から考えれば、殲滅も国際的に容認はされないかもしれないが、批判もされないだろう。
さらに追い討ちとして、使用した新魔法を考えれば、ルナイファは世界の敵になりうる立ち位置にいる。
状況は、限りなく最悪に近い。
(´<_` )「これから、一体どうすれば良いのやら......」
/ ,' 3「......いや、案外、どうにかなるやもしれぬ」
(´<_` )「え?」
837
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:34:47 ID:e9mBbMOc0
/ ,' 3「確かにルナイファは愚かな輩により、政権が奪われた。戦いを望む愚か者にな。だが、民はどうか?」
(´<_` )「それは......北方はともかく、南方であれば降伏を望む声が大きいですが」
/ ,' 3「そうだ。つまり、我が声を挙げれば少なくとも南方は帝王である我に続くであろう。いや、恐らくは国の半分は我に続くはず。それをまとめ上げればそれを武器に十分に講和に向けて話はできる」
(´<_` )「......確かに降伏派のものをまとめ上げることは可能と思いますが、それだけの材料で交渉が上手く行くとはー」
/ ,' 3「上手くいくであろうよ」
そう、アラマキが断言する。
あまりにきっぱりと断言するその姿にオトジャは驚きを隠せなかった。
(´<_` ;)「そ、それは一体どういうことでしょう?」
/ ,' 3「まず前提として、人間達はこちらとの講和を望んでいる。これは分かるな?」
(´<_` )「えぇ。あちらからの働きかけがありますから、そこは間違いないかと」
838
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:35:35 ID:e9mBbMOc0
/ ,' 3「そうだ。しかし、講和するにも相手が必要だろう。ゆえに国を纏められる力のあるもの、それも降伏に前向きともなればはあちらからすれば非常に重要。むしろ状況的には我の価値が上がったと見るべきかもしれんな」
(´<_` )「......確かに混乱した国を、それも我が国の広大な土地全てを殲滅し、統治して混乱を治めることは困難。それならば一部でも国を纏められる者を立てた方がコストも少なく済みますし、なによりスムーズに進む、というわけですか」
/ ,' 3「そうだ、あちらからしてもメリットが大きい。確かに我々の罪は相手からすれば非常に大きいだろうが、下手に断罪などすれば、それこそ国はさらに荒れ、制御出来なくなる。ゆえに、大きくは手を出せんはずだ」
(´<_` ;)「理屈は分かりましたが......相手の感情の問題もあります。上手くいくでしょうか?」
/ ,' 3「確かに全ての罪が許されることはないだろうが、多くは問題なかろう。なにせ、分かりやすい敵が出てきてくれたからな」
(´<_` ;)「っ!ぷ、プギャーに全ての罪を被せるおつもりですか?」
/ ,' 3「そうだ。この戦争の全てを、奴に被せる。奴が望んだ戦争なのだ、本望だろう」
839
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:37:24 ID:e9mBbMOc0
(´<_` )「確かにそれができれば、なんとかなるやもしれませんが流石に、無茶があるのでは......」
/ ,' 3「そこは交渉次第であろうが、現実として奴らに政権を奪われているのだ。決してあり得ないことではない。それに、そういうことにした方が人間達も都合が良いだろう」
(´<_` )「......なるほど」
/ ,' 3「勿論、それで全て無罪放免となるとは考えていない。果たすべき責務は全て果たすつもりだ......それに、だ。これが帝王としての、最後の勤めだ。必ずや国民をまとめ上げ、話し合いを成功させると約束しよう。国を、民を守るためにな」
(´<_` ;)「!へ、陛下」
/ ,' 3「ゆくぞ、オトジャよ」
(´<_` )「......はっ!」
こうしてアラマキ達は歩き出す。
全てを、終わらせるために。
840
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:37:47 ID:e9mBbMOc0
続く
841
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 18:12:49 ID:0pcX8xDU0
乙・・・・・・!
842
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:15:16 ID:ziesvxk.0
ルナイファ帝国 帝国議事堂
1463年4月18日
室内に砂煙が舞う。
凄まじい爆発の跡が、そこには残されていた。
その爆風に巻き込まれたのであろう、赤黒いものが辺りに散乱する。
世界最強の国家、その国の中枢であったとは思えないほどに、凄惨な光景がそこに広がっていた。
そしてその光景を眺めるもの達、この国の貴族や議員、そして生き残ったプギャーの兵士達は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
突如プギャーを初めとした徹底抗戦を叫ぶ者達にこの場を制圧されたかと思えば、オトジャとロマネスクが率いる兵により戦場と化すという異常事態。
理解が追い付くはずもなく、またどうすることも出来ずにその様子を眺めていれば、ロマネスクが陛下を逃がし、そして最後の力を振り絞り、自爆した。
843
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:15:51 ID:ziesvxk.0
到底短時間で起こった出来事とは思えず、全てが終わった今ですら理解が追い付かないほどに衝撃的な出来事の連続であった。
自国の事実上の敗北、それを認められない者達の暴走、世界に迫る病の恐怖、そして偉大な魔法使いの死。
どれをとってもとてつもないニュースなのだ。
それも受け入れがたいものばかりである。
だがそれでもまだ救いはある。
暴走の根元たるプギャーもあの爆発に巻き込まれたのだ。
失ったものは大きすぎるものの、それでもまだ、何とかなるかもしれない。
問題は山積みではあるものの、問題の発生源は潰せたのだからー
爆風により、巻き上げられた砂埃。
それもいつしか収まり、ようやく室内の全貌が明らかになっていく。
844
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:16:29 ID:ziesvxk.0
(; ^Д^)「......は、はっ、はっ!」
ーそうして現れた光景に、誰もが声を失った。
砂埃から現れたのは、傷つきながらも確かに息をし、立ち上がる一人の男。
今、この眼前に広がる光景の原因たるその男である。
ーなぜ、生きている!?
混乱する頭の中で、皆の考えが一致する。
あってはならない光景のはずである。
あのロマネスクが命を懸け、最期に道連れにしたはずではなかったのか、と。
だがいくら目を擦ろうが、頬をつねろうが見えるものに変化はない。
確かな絶望が、広がっていた。
845
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:17:08 ID:ziesvxk.0
(; ^Д^)「くそっ、バカがっ!!くそっ、くそぉっ!!この俺を、殺そうとしやがって!くそがぁっ!!」
そんな周りを無視し、プギャーは荒れ狂う。
自分の足元に広がる、無惨な死体。
自身を殺そうとした、その亡骸を足で踏み荒していく。
怒りのままにぐちゃり、ぐちゃりと冒涜する。
(; ^Д^)「はぁ、はぁ......はっ!見たかっ!ただの無駄死にだっ!愚か者の末路に、相応しい結末だなっ!!」
そのおぞましい光景を、誰も信じられなかった。
だが一つ、確実なことを皆が理解し始めていた。
この悪夢はまだ終わることなく、この男により続くのだと。
846
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:18:03 ID:ziesvxk.0
(; ^Д^)(......こいつが役に立つとはな)
プギャーの命を救ったもの、それは彼が着込んでいた最高級品の鎧。
その役目を十二分に果たして魔壁により完全に爆風を防ぎきり、本来戦場で兵士の命を守るはずであったそれは、プギャーの命を救った。
流石のプギャーも臆病過ぎるのではないかと、自身に怒りを感じたこともあったが、その臆病さに感謝することになったのだ。
( ^Д^)「く、ははっ!」
そしてそれは、まさに天啓と言えるであろう。
天が自身を生き残らせようとしており、そして使命を成し遂げろと言っているのだと確信する。
そしてもう、彼を止める存在はここにはいない。
(# ^Д^)「聞け!!皆の者!!今、この時を持って悪しき王は、そしてエルフのプライドを捨てた愚か者達はこの国から消えたっ!!ここに残るは真のエルフのみであり、我々は真のルナイファ帝国を勝ち得たのだっ!!」
ゆえに、もう止まるはずがない。
847
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:19:10 ID:ziesvxk.0
(# ^Д^)「では我らは何を成し遂げねばならないかっ、それは皆も分かるであろう!!そう、我々は戦い、勝たねばならないのだっ!!誇り高き、エルフとしてっ!!」
そのプギャーの演説に、議会を制圧した兵士達が歓声を挙げる。
この国は、これから彼の望む道を進むことになる。
彼らは信じている。
その道がきっと正しい道であり、その道の先に、未来に栄光が待っているのだと。
ー未来どころか、現在すらまともに見ないままに決めた道だというのに。
この後もプギャーの演説は続いていた。
後の歴史書において、『悪魔の演説』と呼ばれるそれは世界にも魔信により流され、各国に衝撃を与えるのであった。
848
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:19:52 ID:ziesvxk.0
ルナイファ帝国 南方都市テタレス
1463年4月19日
魔信から流れるその演説は、まるで皆を洗脳するかのようにひたすらに繰り返し流されていた。
その放送にこの都市の多くの者が困惑し、そして強い怒りを感じていた。
まさか自国の崇めるべき陛下から政権を奪い取ったどころか、未だに敗けを認めず、さらには国家総動員で敵を滅ぼすと言い出したのだ。
今この放送を聞いている自分たちも戦地に送られかねないという事実に、それもあんな恐ろしい敵を相手に戦うなど最早処刑宣告に等しいとすら感じられる。
爪;'ー`)(おいおいおいおいっ!!どうなってんだこれっ!!)
その放送を聞いていたフォックスもまた、困惑していた。
当然であろう、まさか自分の信じてきた国がとんでもない暴走を起こし、崩壊が始まったとも言える状況なのだ。
849
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:23:13 ID:ziesvxk.0
だがそんな状況であるにもかかわらず同時に若干の安堵もあった。
それはこのテタレスにまだ自身がいたことである。
避難のために帝都に向かおうと考えていたものの、準備が一向に進まず、テタレスで足止めを食らっていたところでこの放送である。
もし準備が間に合って帝都にたどり着いてしまっていたらどうなっていたか。
(;´・ω・`)「ぼ、僕達......どうなるんですか?」
爪'ー`)「......大丈夫だ、安心しろ。とりあえず今は休んどけ」
(;´・ω・`)「......はい」
爪'ー`)(俺だけじゃなくて......こいつらも、下手したら戦地に狩り出されたかもしれん)
国家総動員とは、そういうことなのだ。
子供であろうと関係ない。
むしろ怪我や病気もなく動ける子供こそ、必要とされるであろう。
安全な場所に向かうはずがむしろ、死地に向かわせることになったかもしれないのだ。
その点、ここテタレスは敵こそ近いが、それゆえにこの都市の民衆の多くが徴兵に対して、というよりも戦闘を継続することに強く反発している。
これを押さえ込まねば徴兵などろくに出来ない状態となっているため、少なくとも現時点では、すぐに戦地に向かわされることはないはずである。
850
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:23:46 ID:ziesvxk.0
ただの偶然とはいえ、自身の判断をこれほど良かったと思えるのもそうないであろう。
爪'ー`)「でも、どうなるんだ......これから」
だがあくまでも現時点での話である。
この都市の多くの者が反対しているとはいえ、ここもルナイファなのだ。
本格的に国が動くことになれば、この場所も狂気ともいえるその流れに飲み込まれるかもしれない。
いや、その前に眼前まで迫っているであろう敵にここが潰されるのが先かー
多くの不安を抱えながらも、彼は生き残るため、そして子供達を守るために動き続ける。
851
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:24:37 ID:ziesvxk.0
ルナイファ帝国 テタレス南方平野
(;`・ω・´)「......なんだ、これは」
テタレスの民たちが放送に困惑する中、その南方の平野で陣を構えるシャキン達もまた困惑していた。
降伏のために国が動いていると聞いていたはずなのに、陛下が帝都から追い出され、プギャーを始めとする暴走したもの達が国の主権を乗っ取り、そして人間達との無謀ともいえる戦いを続けると言い出したのだから。
理解できないし、したくもない。
あまりに酷すぎる現実に誰もが口を閉ざす。
奇跡ともいえる勝利を得て、死を乗り越え全てが終わったはずであった。
それがまた、あの死地に向かえと言われたのだ。
二度も奇跡が起こるほど、戦場は甘くはない。
つまり十中八九、死ぬ。
その事実に皆、一様にうつむき恐怖に身体を震わせていた。
852
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:25:28 ID:ziesvxk.0
(; ,,^Д^)「シャキン様、軍務省より命令が届いております」
(;`・ω・´)「......読んでくれ」
(; ,,^Д^)「はっ。『テタレスの全戦力を持って敵を撃滅せよ。ルナイファ帝国民は皆、誇り高きエルフであると同時に、敵に屈することない神の尖兵である。ゆえにテタレスにある全てのエルフは最後の一兵までルナイファ帝国の、そして神の誇り高き軍人として戦い抜くことを願う。貴君等の活躍はエルフの繁栄と安寧により報いられ、未来永劫、英霊として栄誉ある歴史として語られるであろう』」
(;`・ω・´)「......我らに、死ねと言うのか」
(; ,,^Д^)「シャキン様......」
(;`・ω・´)「しかも民にも死ねと言うのか!?こんな、こんなふざけたものを命令と言うつもりなのか、奴らはっ!!」
どんなに言葉を取り繕っても、そこに書かれたものは今、ここにいるもの全てに死ねと言っていることに変わりない。
それも本来守るべき民すらも死地に追いやり、命を散らせと言うのだ。
そんなものに、従えるはずがない。
853
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:27:46 ID:ziesvxk.0
(; ,,^Д^)「ですが、命令に逆らえばどうなるか」
(;`・ω・´)「......今の国ならば首が飛ぶ、か。だが......」
( ^ν^)「......なら命令に従えばいいじゃねーか。命令通り、敵を倒しましょうや」
(;`・ω・´)「なっ!?」
それまで言葉を発してこなかったニュッから信じられない言葉が飛び出す。
誰もが信じられないと言った視線を向け、驚愕の表情を浮かべ、視線を送る。
こんな命令に従おうというものがいるということ、そしてまさかニュッがその様な事を言い出すなど予測し得なかったのだ。
(;`・ω・´)「ニュッ、貴様っ!!何を言っているのか分かっているのか!?」
( ^ν^)「分かってますよ。うつむいててもどうにもならないし、命令されちまったもんは仕方ないでしょ。大人しく、敵を殲滅しましょう」
(; ,,^Д^)「そんなこと、出来るわけー」
( ^ν^)「南のは無理だが、北のは出来るかもしれねーぞ」
(; ,,^Д^)「......北の、敵?」
(;`・ω・´)「っ!」
854
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:29:01 ID:ziesvxk.0
その言葉にまた、場がざわつく。
これまで敵は南方にしかいなかったはず。
否、正確には遠い北の果て、ニータとの国境近くには敵はいるがいくらなんでも遠すぎるため戦うことすらできないであろう。
一体何の事を言っているのか分からず皆が困惑する中、シャキンだけがその言葉の真意に気がつく。
北にあるのはこの国の中枢、帝都。
国に仇なす者達、すなわち敵と呼べる者達によって占拠された帝都が。
(;`・ω・´)「......国と、戦うつもりか?」
(# ^ν^)「むしろ戦わないつもりなのか!?奴らは陛下を、俺達の国をめちゃくちゃにしているんだぞっ!!俺達はなんだ!?国を守る軍人じゃねぇのか!?今、戦わずして何と戦うってんだっ!!」
(`・ω・´)「......」
(; ,,^Д^)「......ま、待ってください。く、国と戦うってまさか......プギャー様達と」
(# ^ν^)「おい、あいつは敵だぞ。様なんてつけんじゃねぇ」
(; ,,^Д^)「本気ですかっ!?そんなことすれば、国家反逆罪ー」
(# ^ν^)「んなもん、奴らが先だろうが!!」
(; ,,^Д^)「それは、そうですが......」
(`・ω・´)「......」
855
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:31:34 ID:ziesvxk.0
ようやく、皆がニュッの真意に気がつく。
そして言われてようやく、気が付いたのだ。
敵は、確かに北にいる。
自分たちが愛し、そして守ると忠誠を誓った国を害する者達が。
(# ^ν^)「お前らは、許せるのかよ。俺達の守るべき国が、あんな奴らに乗っ取られてよ。こんな命令を送ってくるやつらにだぞっ!!許せるのかよ!?」
(; ,,^Д^)「......それは」
(# ^ν^)「俺は戦うぞ。糞ったれな野郎どもをぶっ潰さなきゃ気が済まねーからな。命令通り、敵をぶっ潰す」
(`・ω・´)「待て、ニュッ」
( ^ν^)「......なんすか」
(`・ω・´)「いくら貴様でも勝手な行動は許さん。命令だ」
(# ^ν^)「っ!じゃあ黙ってろって言うのかっ!?」
(`・ω・´)「落ち着け。もはや貴様一人でどうこうなる問題ではない。それに我々は貴様の言う通り、軍人なのだ。その責務は、一人にかかるものではないということくらい、分かるだろう」
856
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:33:29 ID:ziesvxk.0
怒りの抑えられないニュッから送られる視線を無視するかのように、シャキンは静かに語る。
そう、現実問題として軍は組織であり、たった一人の問題行動であったとしても集団として罰を受けることになるだろう。
それが軽い罪ならばまだしも、国家に立ち向かうとなるならばそれはもうたった一人の問題に収まるはずがないのだ。
( ^ν^)「......なら、ここで軍を辞めてやりますよ。それなら文句はないだろ」
(`・ω・´)「ふむ、それも一つの手だが......その前にやることがあるだろう。折角の名案なんだ。上官を置いて勝手に暴走するには勿体無かろう」
( ^ν^)「え?」
(`・ω・´)「今この場にいるもの、全員に聞く。この阿呆共からの命令に逆らい、反逆者としてでも国を救う覚悟が出来ている者はいるか?無い者は無理に従えとは言わん。むしろその方が賢い選択だろう。だが、格好つけたい馬鹿は私とニュッに続いてくれ」
( ^ν^)「っ!」
(; ,,^Д^)「っ!」
だからこそ、シャキンは皆で立ち向かうことを選択する。
彼もまた、国を守る軍人として最後まで戦うことを決意したのだ。
857
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:35:38 ID:ziesvxk.0
そして、その決意は伝播する。
一人、また一人と決意の炎を燃やし、戦うことを覚悟する。
( ^ν^)「......タカラ、てめーはどうするんだ?」
(; ,,^Д^)「え?自分は......」
(`・ω・´)「何度も言うがこれは命令ではない。選択は自分自身で決めろ」
(; ,,^Д^)「......あぁもう!何かこれで戦うと言ってもまるで強制されたみたいじゃないですかっ!!」
(;`・ω・´)「いや、そんなつもりは無いのだが......」
(; ,,^Д^)「勿論戦いますっ!自分も、ルナイファを愛する、軍人ですからっ!!」
そうして皆の心は一つとなる。
ここにいる全員が、戦う道を選んだのだ。
(`・ω・´)「......ではニュッ。最初の任務だ」
( ^ν^)「はい?なんすか?」
(`・ω・´)「頭のおかしい命令を送ってきた阿呆共に返信してやれ。とびっきりのメッセージを頼む」
( ^ν^)「......任せてくれ。得意分野だ。ちゃんと馬鹿にも分かるようにしておくよ」
そう互いにニヤリと笑いあう。
そうして送られたメッセージは、シンプルに一言であった。
『くたばれ糞野郎』
858
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:36:21 ID:ziesvxk.0
続く
859
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 20:28:18 ID:E1p4bfdQ0
おつ!
やべぇニュッとシャキン最高にかっこいい
最高級鎧の性能えぐいな
860
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 21:46:36 ID:7g/RYAbw0
乙です
861
:
名無しさん
:2023/11/12(日) 15:01:27 ID:.5pChRN20
乙!シャキンとニュッかっこいいわ!
862
:
名無しさん
:2023/11/12(日) 18:06:00 ID:Zgc9d90A0
乙!
しかし陛下の人望が凄いな
余程の名君なのかそういう風習なのかが気になる
863
:
名無しさん
:2023/11/12(日) 21:51:19 ID:DT8J7Hpo0
ニュッ株ストップ高
864
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:35:09 ID:2EGBW4kM0
ルナイファ帝国 南方要塞
1463年4月20日
要塞は異様な空気に包まれていた。
つい先日起きた軍によるクーデター。
それによりこの国の王が失脚したという大事件は、ルナイファに留まらず世界中を驚愕させた。
ルナイファの民達も勿論動揺したがそれも束の間、政権を握った軍による放送は彼らを更なる戦いへと駆り立てた。
軍から流される情報の多くは、いかに敵が愚かであり、卑劣であるかということ。
そしてそんな敵に対し、誇りを捨て頭を垂れ、服従を選んだという帝王がいかに愚かであったかということ。
ルナイファのエルフがどれだけ優秀であり、そして世界で選ばれた民であるということである。
繰り返し流されるそれは、何も知らない民達のプライドを刺激する。
そうして生まれるのは更なる戦いを求める民の声であった。
865
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:36:08 ID:2EGBW4kM0
勿論、この放送に違和感を覚える者や真実を知り、戦いに反対するものもいた。
だがそれらは兵により弾圧され、強制的にその声は無くなっていた。
完全なる軍による、力による統治。
既にブレーキは壊れ、もう止まることはない。
行くところまで行き、崩壊するまで止まれない暴走状態であった。
『我々は、ルナイファの民!真に神より選ばれた民である!!皆で戦うのだ!あの、卑劣なる悪魔の手先の人間を、滅ぼすのだっ!!』
(# ^ω^)「そうだおっ!奴らを滅ぼすんだおっ!!」
『そして、神は我らに味方している!奴ら、不浄の民である人間共は今、病に苦しめられている!!そう、これは天が我らを助けるため、奴らに与えた神罰なのだっ!!天は今こそ、奴らを滅ぼせと言っておられる!!さあ立ち上がるのだっ!誇り高きルナイファの戦士たちよっ!!』
(# ^ω^)「おおぉおおぉおおおお!!!」
866
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:36:45 ID:2EGBW4kM0
そしてその異様な空気に当てられた者達は、自らが暴走していることにも気づかないまま雄叫びを挙げる。
なぜ戦うのか、どうしてこんなことになっているのか、国や世界の動きがどうなっているのか。
それらのことなど何も知らないし、知ったことではない。
ただ皆が怒り、そして自身に沸き上がるその感情のままに声を挙げ、闘争を求める。
子供も、老人も関係ない。
そこに高度な文明を営む生物はおらず、いるのは理性をなくした獣のみ。
獣は吠える。
吠え続ける。
手足を失い、満身創痍ということにも気づかないまま。
867
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:38:06 ID:2EGBW4kM0
だがまだ、牙は折られていない。
数だけで言えばこの要塞の戦力は凄まじく、普通に攻め落とすのには多くのものと時間が必要となるであろう。
確かな力が、ここにあるのだ。
ーその事実が、そしてそこからくる自信がさらに彼ら自身を狂わせているのだが。
とはいえ、強力な戦力があるのは事実なのだ。
(# ^ω^)「滅ぼせっ!滅ぼせっ!滅ぼせっ!」
暴走する獣達。
そんな彼らこそ、この戦いを左右すると言っても過言ではないルナイファに残された最後であり、最大の力であった。
868
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:38:51 ID:2EGBW4kM0
ムー国 捕虜収容所
1463年4月23日
( ´_ゝ`)「一体何なんだ......」
その日はいつもと同じように始まったはずであった。
特に暴れたりも、危険な行動などもしていない。
極めて模範的な捕虜として皆が行動していたはずであった。
事実、アニジャからの呼び掛けにより祖国であるルナイファが降伏に向けて動くはずという言葉を聞き、ようやくこの無謀な戦争が終わるのかと皆が歓喜し、少しでも相手に悪印象を与えないように行動しようという話になっていたはずである。
それが急に今日、人間達の行動が慌ただしくなったかと思えば一人ずつ別室に連れていかれては、何かをされているようなのだ。
今までにないその行動に、終戦前にこれまでの恨みを晴らすため、遂に自分達の処刑が始まったのではないかと一部では混乱が起こるほどであった。
それほどまでに、人間達の行動は急であったのだ。
869
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:39:24 ID:2EGBW4kM0
極めつけはその格好である。
今までは軍服のような格好か、全身黒くきっちりとした服装に身を包んだ者がほとんどであったのに、今日現れたのは白い服に全身を覆われた、それも顔まで覆われているという異様な、見たことのない格好の者だったのだ。
(; ´_ゝ`)「......」
恐らくはその格好と今回の出来事に何かしらの関連があるのだろうと、アニジャは推測する。
だが流石に人間の、それも異界の民の風習など知るわけがない。
ただ彼らが行動しなくてはならない『なにか』があったのだろうということだけははっきりしていた。
そしてその『なにか』、その中で一番最悪な事に思い当たり、アニジャは顔を青くする。
(; ´_ゝ`)(......まさか、降伏させることに失敗したのかっ!?)
人間達の慌てたような行動から、ただならぬことであることは確かである。
とするならば、その可能性が全くあり得ない話ではないことなのもまた、確かであった。
870
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:42:59 ID:2EGBW4kM0
(゚、゚;トソン「一体......何事なんでしょうか」
(; ´_ゝ`)「......」
とはいえ、そんなことを周りに言えるはずがない。
そんなことを言えば、更なる混乱を招くだけだからである。
またあくまでも可能性の話なのだ。
普通に考えれば降伏以外の選択肢など、ルナイファに残されていないはずなのだ。
(; ´_ゝ`)「......」
戦おうにも、敵に対して有効な手段などあるはずがない。
あのプギャーでも勝てないことくらいは把握しているはずである。
またもしそれを理解しながら降伏が出来ない阿呆であったとしても、オトジャという保険があるのだ。
だからこそこの話はそこで終わるはず、なのだが。
(; ´_ゝ`)(本当に、大丈夫なのだろうか)
思わずそう考えてしまう。
人間達の行動にアニジャもまた、どこか怯えに近い感情を抱え、それゆえに考えが負の方向へと向かっていた。
871
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:43:25 ID:2EGBW4kM0
(゚、゚トソン「......アニジャ様?大丈夫ですか?」
( ´_ゝ`)「あ、あぁ。平気だ」
そんな様子を心配してか、トソンからそう声をかけられる。
その声にアニジャは考えを止め、返事をした。
もう、考えても仕方ないのだと。
考えようにも、ピースが足りないのだ。
そんな状態で真実になどたどり着けるはずもなく、得られるのは不安のみなのだと。
そう、自身に言い聞かせ浮かぶ悪い想像を振り払う。
( ´_ゝ`)「そう、大丈夫......な、はずなんだ」
(゚、゚トソン「......?」
そう自分に言い聞かせるように、アニジャは呟いたのだった。
872
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:44:16 ID:2EGBW4kM0
ルナイファ帝国 軍務省
(;*゚ー゚)(どうしてこんなことに......)
国が軍に奪われて数日。
シィは変わらずここ、軍務省にて仕事をしていた。
だが望んでその仕事をしているわけではなかった。
それも当然であろう。
自国の国を混乱に貶めている張本人に手を貸すことになるのだから。
自身はこれまで国のためにとあの愚か者の下でどんな叱責を受けようとも我慢し、どうにか支えてきた。
そう、自国のために仕事をしてきたのだ。
それが気付けば国は軍に支配され、とんでもないことになってしまった。
逃げようにも、戦争に反対しようにも非国民と弾圧される恐ろしい国に、既に変わってしまっていたのだ。
873
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:45:04 ID:2EGBW4kM0
それゆえシィは逃げ出すことも出来なければ、国を混乱に陥れている国賊達の下で働かなくてはならない状況となってしまったのだ。
現に反発した同僚は何処かへ連れていかれ、帰らぬ者となっている。
相手は軍なのだ。
反乱しようにも力で勝てるはずもなく、また何も知らない民は怒りを煽られ、戦争に肯定的なのだ。
こんな状態で一体何が出来るというのか。
(;*゚ー゚)「それでも......こんな仕事」
だからといって、そんな国に害をなす者達に従って仕事をする自分に、何とも言えない感情が沸き上がる。
怒りや悲しみ、そして悔しさ。
それらがぐちゃぐちゃになりながらも、どこかもうどうすることも出来ないのだという諦めに近い感情があった。
874
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:46:04 ID:2EGBW4kM0
(*゚ー゚)「......失礼します」
そんな考えに頭を悩ませているうちに、気付けば彼女はプギャーのいる執務室の目の前まで来ていた。
国賊の主犯とも言える相手に、怒りが沸くもののどうにかそれを抑え、部屋に入る。
ここで下手なことをすれば自分がどうなるかは、彼女は嫌と言うほど分かっており、そんなことをできる勇気など持ち合わせていなかったのだ。
( ^Д^)「おお、来たか。何があった?」
(*゚ー゚)「......はい。まず帝都の民ですが、混乱の鎮圧に成功しました。反発していたもの達もいましたが、それらは全て捕縛された模様です」
( ^Д^)「そうか。ふん、バカな奴らだ」
(*゚ー゚)「っ」
( ^Д^)「......なんだ?何か言いたいことでもあるのか?」
(*゚ー゚)「......いえ」
875
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:47:58 ID:2EGBW4kM0
本音で言えば、今すぐにでもバカはお前だと言いたい気持ちを必死に抑える。
そうしなくては、死んでしまうのだから。
(*゚ー゚)「......報告を続けます。現時点でこの帝都周辺、および北方は命令に従う姿勢をみせています。しかしテタレスを始めとして南方では反発をするものが多く見られます」
( ^Д^)「ちっ、面倒な」
(*゚ー゚)「やはり、テタレスにいた部隊が離反したことが周辺をざわつかせているようで......あのメッセージも影響が大きいようです」
(# ^Д^)「......」
その言葉にプギャーは青筋を立てる。
ニュッから送られたメッセージである『くたばれ糞野郎』。
その言葉はプギャーを苛つかせると同時に、テタレス周辺の者達を勇気づけていた。
多くの者がプギャーの恐怖政治に屈するなか、皆が思っていたことを堂々と言い放った姿は力強く映り、それに続こうと言うもの達が現れた。
自分達も戦おうと、自分達も奴らに『くたばれ糞野郎』と言ってやろうじゃないかと、瞬く間にその言葉はスローガンのように広まっていったのだ。
876
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:50:03 ID:2EGBW4kM0
その事実にもさらにプギャーは苛立ちを隠せない。
子供の悪口のような言葉に、ここまで自分をこけにされ、さらにはそれにより反発する勢力が勢いを増しているという情けない現実が、彼に確実にダメージを与えていた。
(# ^Д^)「くそっ!あの、ニュッとか言ったか!!奴は確実に殺してやるっ!!それもただでは殺さんっ!この俺をバカにした事を後悔させてやるっ!」
(;*゚ー゚)「......」
(# ^Д^)「......まぁ、いい。その事は後だ。それで?これ以上、拡がらんように対策はとっているんだろうな?」
(;*゚ー゚)「え?あ、は、はいっ!既に情報統制により、管理下にある地域では情報が入らないよう遮断されています」
(# ^Д^)「ふん、まぁそれならばいい。とはいえ、厄介だな......奴らを鎮圧出来るか?」
(*゚ー゚)「難しいかと......治安維持、及び防衛で手一杯になっていますから」
(# ^Д^)「くそっ!人間共を後回しに出来ない以上、仕方ないとはいえ......腹立たしい。せめてこれ以上、勢力が大きくならないようにはしなくては。おい、アラマキの行方はどうなっている?」
(*゚ー゚)「は、はい。転移魔法の痕跡から南方に向かったと思われますが......現時点では見つかっておりません」
(# ^Д^)「あの無能共が。おい、なんとしてでも見つけ出せ。南方の馬鹿共と接触でもすれば、奴らがさらに勢い付くことになるからな。捕らえることが出来なければ、うーむ、そうだな。最前線の部隊の隊長に昇進させてやるとでも伝えておけ」
(;*゚ー゚)「は、はい......」
877
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:51:27 ID:2EGBW4kM0
( ^Д^)「まあ奴らもいずれ、戦いが終わる頃には誰が正しかったか分かるだろう。全く、手間をかけさせやがって......」
(*゚ー゚)「......」
本当にこの男が何を言っているのか、シィは理解に苦しむ。
本気で目の前の男は国の、そして世界のために行動しているつもりなのだ。
自身の行動は全て正しく、そして報われるのだと。
なぜこうも世界が歪み、異なるように見えてしまうのか。
少し見渡せば如何に愚かな選択をしているか分かりそうなものだが、彼はその光景を見てもなお、何も変わらないのだ。
( ^Д^)「それにこの戦いももうすぐ終わる。人間共は既に病で阿鼻叫喚だろうからな。今更、神に自分達の過ちを許してもらえるよう祈ってるかもしれんが......無駄だ。この俺が、神に代わり奴らを裁くのだからな」
狂気と恐怖が支配するこの国で、プギャーは笑う。
彼は心から、本気で喜んでいるのだ。
神の敵である人間達を、自身の手で葬ることを。
それがどんな犠牲を払うことになろうともである。
878
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:52:18 ID:2EGBW4kM0
( ^Д^)「ではシィよ。作戦の準備を進めろ。まずは死の呪いを使い、奴らを、人間どもをこの大陸から追い出すのだ......あぁ病の対策として、我々の北方への移動の準備も忘れずにな」
(;*゚ー゚)(......狂ってる)
プギャーも、そして彼が導くこの国も正気で生きていける場所ではなくなってしまった。
そんな場所に取り残されたという絶望に、心が壊れそうになる。
ーいや、いっそのこと壊れてしまった方が楽なのかもしれない。
そうすれば、この狂気に身を任せるだけで生きていけるのだから。
879
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:52:47 ID:2EGBW4kM0
続く
880
:
名無しさん
:2023/11/19(日) 09:52:10 ID:YNF3P0f20
乙
881
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:53:51 ID:37zc6a1M0
ニータ王国 王城
1463年4月24日
(; ´W`)「まさか、こんなことになるとは......」
そうポツリと呟き、シラヒーゲは頭を抱えていた。
全ては順調に進んでいるはずであった。
人間達と手を組み、ルナイファに宣戦布告をし、領地を奪い取ることで圧力をかけ、無理矢理にでも交渉の席に座らせる。
そうなるはずであった。
だが、現実はどうか。
領地は確かに奪えたものの、ルナイファは怯むどころか制御不能なまでに暴走を始めたのだ。
(; ´W`)「......うーむ」
それにより当初想定していたよりも長く、ルナイファとの戦いが続くことになってしまっていた。
882
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:55:11 ID:37zc6a1M0
敵に圧力をかけるためには、兵を退かせるわけにはいかない。
だがニータの力を考えればいくらルナイファが弱体化しているとはいえ、格上相手との戦いを続ければ相当な被害が出てしまう。
人間達のように圧倒的に勝てるのならば問題はないが、残念ながらこの国にそんな力はない。
勝利のためには少なくない犠牲を出さなければならないのが現実なのだ。
( ´W`)「......」
終わりの見えないこの戦い。
それこそ本当に行くところまで行かなければ最早、ルナイファは止まらないのではないかと感じてしまう。
そんな総力戦に付き合っていられるほど、ニータに余裕はない。
だが今更人間達との同盟を切ることもあり得ないだろう。
いくら相手が人間の国とはいえ、国同士の約束事をこんなにも早く簡単に反故にすれば、ニータの信頼は一気に失われるだろう。
883
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:55:53 ID:37zc6a1M0
そもそも報復に何をされるか分かったものではない。
ルナイファ以上に人間の国と敵対などしたくはないし、もしそんなことになればルナイファのように粘ることも出来ずに滅びるのみだろう。
( ´W`)「選択は、間違えていないはずだ。となれば後は......進むしかあるまい」
つまり選択肢は既に選んだ後であり、もう引き返せる場所ではないのだ。
だからこそ、シラヒーゲは何度も不安を吐露しながらも自分達は正しい選択をしているのだと言い聞かせるように繰り返す。
世界中が混乱する今、誰一人正解など分かるはずがない。
それでもどうにか自分を安心させようと理由を作っては、自身に言い聞かせ、歩みを止めないように奮い立たせているのだ。
一度は見えたはずの明るい未来。
それを探し求め、ニータは動き続ける。
884
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:56:52 ID:37zc6a1M0
ルナイファ帝国 テタレス北方森林
1463年4月25日
『いたぞっ、追えっ!!』
(´<_` ;)「ぐっ、ここまで来て......陛下っ、こちらへっ!!」
テタレスから少し北へ向かった場所にに広がる、小さな森林。
普段であれば誰も寄り付かず、静かなそこに怒号が飛び交っていた。
そして、その怒号から逃げる二人の影。
帝都より逃げる、アラマキとオトジャの二人である。
どうにか自身達の味方になってくれる可能性のあるテタレスに逃げようと、回り道をしつつ、近くの森林までたどり着けたものの、遂に追っ手に見つかってしまったのだ。
森林の中ということもあり、具体的な位置までは特定されていないのか、未だに捕まることはないがそれでも周囲を包囲するように兵が走り回り、捕まるのは最早、時間の問題と言える状況である。
885
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:58:34 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3「オトジャよ......どうにかできるか?」
(´<_` ;)「......この命に変えても、どうにかしましょう」
アラマキのその問に、オトジャはそう答えることしかできなかった。
本音を言えば、もう詰んでいるのではないかという気持ちで一杯である。
何せずっと逃亡生活を続けてきたのだ。
体力も限界であるし、魔法を使おうにもこの状態ではろくなものは使えない。
また敵の数はどう見積もっても10は軽く超えるのに対し、こちらで戦えるのはオトジャ1人のみである。
いくら彼が優秀な兵であったとしても、ここから挽回できる道はないであろう。
(´<_` ;)(......ここまでか)
陛下の手前、弱音など吐くことが出来るはずもないが、大見得を切ったはいいもののそれでどうにかなるはずがない。
むしろもうどうにもならないのだと、諦めに近い感情がオトジャの心を支配していた。
どんな運命になるにせよ、自分はここで死ぬのだと。
886
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:00:45 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)(それならばいっそのこと死の呪いで......)
誰か一人を道連れにし、その包囲の隙間を縫って陛下を逃がすのが最善なのではないかー
ただ死ぬのならば、どんなに可能性が低くても救える可能性に賭けるべきなのではと、覚悟を決めようとしていた。
/ ,' 3「......待て、オトジャよ」
(´<_` ;)「陛下?」
/ ,' 3「もう、よい。無駄に貴様の命を捨てるな」
(´<_` ;)「っ、で、ですが!」
/ ,' 3「奴らの狙いは我のみだろう。ならば、死ぬのは一人だけで良かろう」
(´<_` ;)「っ!!」
だがその様子にアラマキもまた、覚悟を決めていたのだ。
こちらが完全に捕捉されていない現状、確かにアラマキが捕まれば、ただの護衛であるオトジャをわざわざ捕らえる理由はないため、逃がすことは可能かもしれない。
敵の目的はあくまでもアラマキのみなのだ。
命が助かる確率だけで言えば、その選択は最善ともいえるだろう。
887
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:01:55 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)「そんなこと、出来るわけがありませんっ!私はこの国を、つまりあなたを守るのが任務であり、使命なのですっ!それなのに自分だけ逃げることなど、それも陛下を見捨てて......命令であっても、それだけは聞けませぬ!」
だが懸かっている命の重さに差があるのだ。
一人はただの一兵士に対して、もう一人はこの国をまとめることの出来る力を持つ王である。
命に差がないなどと、綺麗事をいくら並べようともその事実の前には明らかに差がある。
そうである以上、最優先されるべきはアラマキの命であり、そうでなくてはならないとオトジャは考えていた。
(´<_` ;)「ここで陛下を失えば、この国は本当に終わってしまうのですっ!!どうか、再考をっ!!」
/ ,' 3「......貴様のようなものが、この国にはいるのだ。真に国のために考えるもの達が」
(´<_` ;)「なにを......」
/ ,' 3「確かにルナイファという国は終わってしまうかもしれん。いや、もう終わっているのかもしれんな。どちらにせよ、貴様のように国を愛する者達がいるのだ。我がいなくても必ずや国を良い方向へと導いてくれると信じておる。そんな未来を託せる者を、こんな場所で死なせるわけにはいかん」
(´<_` ;)「......」
888
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:03:14 ID:37zc6a1M0
無責任にも聞こえるその言葉。
それは未来を自分達に託し、自らの命を捨てるという宣言に他ならない。
そしてそこに感じる確かな意思に、最早自分の言葉は届かないのだという、陛下が目の前にいるにもかかわらず、守ることすらできないどころか死ぬところを見送らなくてはならないと言う絶望がオトジャの心を蝕む。
気づけば頬には涙が流れ落ちていた。
戦いに負け、アニジャから託された任務もプギャーの反乱により遂行できず、最後には陛下を守りきることが出来なかった。
あまりの自身の不甲斐なさに、そしてどうすることも出来なかった運命にただただオトジャは涙を流す。
(<_ ;)「......申し訳、ございません」
そうして口から出た言葉は、謝罪。
己の無力さを嘆き、どうしようもない自分への謝罪を、口にするのがやっとであった。
889
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:03:50 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3「貴様のせいではあるまい。むしろ、貴様はようやってくれた。オトジャよ、これからのルナイファを任せたぞ」
(<_ ;)「っ!!......御意のままにっ」
一体どうすれば良かったと言うのか。
もし運命を変えられるとしたらば、それは一体いつのことだったのか。
オトジャには全く分からない。
ただ目の前の現実が最悪であることだけは間違いない。
だがこんな運命を辿るほどに自分は何かを間違えたと言うのかー
あまりに理不尽で、絶望的な現実に再びオトジャは涙を流していた。
/ ,' 3「......」
そんなオトジャをしり目に、アラマキは踏み出す。
その一歩一歩が自身の死を近づけるものであると分かっていながらも、その足取りは力強い。
/ ,' 3「......我は帝王なり」
そう、彼はこの国の帝王なのだ。
それは死ぬときまで、否、死んでも変わることはない。
ならば今このときも帝王として生きることが自分の宿命なのだと、彼は進む。
890
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:04:23 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3(最期に守れた民は、一人のみか。この戦争で多くの者を死なせた罪滅ぼしには、いささか足りなすぎるな)
走馬灯のように、さまざまな出来事が思い返される。
この国に王として産まれ、そして栄華を極めたと言われたこの国を、さらに絶対的なものにしようと決意したのは一体いつのことだっただろうか。
それがまさか、国を滅ぼし自身を殺すことになるなど一体誰が予測してるだろうか。
/ ,' 3(......地獄へ行くのは、我一人のみで良い)
だがこれは自分が、王に足る器ではなかっただけの話なのだ。
身を過ぎる栄光を求めたがゆえに、下った天罰なのだ。
ーそう考えなくては、この現実を受け入れるにはあまりにも辛すぎた。
891
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:05:12 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3「覚悟は、出来ておるっ!我は、ここにいる!!ルナイファ帝国の王、アラマキはここにいるぞっ!!」
そうしてアラマキは吠えた。
最期の王の役目として、堂々たるその声は森に響きわたり、周囲にいるものたちにその存在を知らしめる。
凛とし、威風堂々たるまさに王の風格。
暗い森の中であるにも関わらず、そこにいるものが皆、その存在に目を奪われる。
『っ!!......い、いたぞっ!捉えろっ!!』
ただ言葉を発し、存在を現したのみにも関わらず、追っ手達は一瞬怯んだかのように息をのむ。
それほどまでにその存在感は凄まじいものであり、アラマキ自身は王失格と考えているが、その姿は間違えなくこの国の、世界最強であった国の帝王であった。
/ ,' 3(......さらばだ)
そうして彼は、目を閉じる。
自分に出来ることはもうなにもない。
この世に、そして愛する民たちに別れを告げる。
892
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:06:07 ID:37zc6a1M0
足音は、すぐそこまで迫っていた。
だが目は開かない。
もし開いて見てしまえば、恐怖に負けて王としての最期を迎えられないかもしれない。
せめて最期だけでも立派な王でありたいと言う、アラマキのプライドであった。
ーこれが、こんなものが最期なのか。
そんなことが、アラマキの頭によぎった瞬間であった。
ドオオォォンッ!
ガガガッ!!
猛烈な轟音が、森に響き渡った。
(´<_` ;)「っ!?」
アラマキから離れた場所にいたオトジャはその音に驚愕する。
明らかにアラマキを捉えるのには過剰な攻撃音。
それは、明確な殺意を持った音であったのだ。
893
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:07:59 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)「馬鹿な......」
いくら追っ手が狂ったプギャーの手下とはいえ、まさか軍人でもない戦うことのできない者を相手に、そんな攻撃をしてくるというのか。
そもそも奴らからすれば陛下を生かして捉えるだけで得られるメリットは数多くあったはずである。
(´<_` ;)「奴ら、本当に狂ったのか!?」
ゆえに、あんな攻撃を繰り出す必要などあるはずがない。
だがその音が、可能性を否定する。
攻撃は確実に行われたのだと。
あの攻撃では、死体もまともに残ることはないのではないか。
そう思わせるほどの、轟音。
最期まで王であろうとするアラマキに対してそれは、あまりにも酷すぎるのではないかー
894
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:08:47 ID:37zc6a1M0
(<_ ;)「あ、あぁ、あああぁああぁっ!!!」
受け入れ難い現実の連続に、遂にオトジャは耐えきれなかった。
勿論、叫び声など上げれば自分の居場所を追っ手に知らせるようなものであり、そんな行動をするべきでないと言うことはちゃんと理解している。
それでも、その叫びは抑えられなかった。
これまで抑えていたものを全て吐き出すかのように。
その嘆きが続く間も、爆音は続いた。
何度も、何度も。
途切れることなく、続く攻撃の音。
そしてそれによる悲鳴が続いていた。
895
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:09:41 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)「......ひ、めい?」
その声に、オトジャは現実に引き戻される。
悲鳴は一つだけではなく、複数の者から発せられたものであった。
だが、それはおかしい。
追っ手の狙いはアラマキのみのはずであり、その他に攻撃をする対象などいないはずである。
そもそも、現時点でこの森にいるのはオトジャ自身を含め、アラマキとその追っ手くらいのもの。
(´<_` ;)「これは、一体......まさかっ!?」
ハッと、最悪の想像が頭に浮かぶ。
まさかこの森まで人間達が進軍してきたのではないか、と。
一気に血の気が引き、青ざめる。
人間達からすれば自分は勿論のこと、アラマキも追っ手も等しく敵であるのだ。
全てを巻き込み、あの戦場で見た業火をこの森に放ち、全てを葬ってもおかしくない。
896
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:10:21 ID:37zc6a1M0
一応、アラマキが非戦闘員ということを認識されれば攻撃されないかもしれないが、森の中という視界の通りにくい環境なのだ。
複数の非戦闘員がいるならまだしも、アラマキのみであれば気付かないままに、攻撃を受ける可能性の方が高いだろう。
(´<_` ;)「陛下ぁっ!!!」
もし想定が確かならば、オトジャがいたところでなにも変わることはない。
だが飛び出さずにはいられなかったのだ。
アラマキが向かった方面へ、爆音がなり響く方角へと走り出す。
薄暗く足場の悪い森の中、何度も転びそうになりながらも、歯を食い縛り必死に駆ける。
(´<_` ;)「っ!!」
そうして視界が捉えたのは、複数の影に囲まれる、アラマキの姿であった。
アラマキが生きているという喜びと共に、何者かに囲まれている陛下を助けなくてはという考えに頭が埋め尽くされ、オトジャはがむしゃらにその影の目の前へと躍り出る。
作戦などない。
そんなことを考える余裕など、ないのだ。
幸いにも、影達はオトジャに背を向けており、気づかれていないようであった。
そうならばと自身の力を全て込めた魔法を、眼前に写る影にぶつけようとしたとき、そこでオトジャは二つのことに気がつく。
一つはその影達が人間ではなく、エルフであったということ。
897
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:10:47 ID:37zc6a1M0
そしてもう一つは。
(# ^ν^)「陛下を御守りしろぉおお!!」
(#`・ω・´)「全軍、真にルナイファを愛する者達の力を、あの馬鹿どもに見せつけてやれっ!!」
(# ,,^Д^)「敵を逃すなっ!!突撃ぃいいいいい!!!」
それが自分たちを守り、そして救ってくれる強力な味方であるということであった。
898
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:11:18 ID:37zc6a1M0
続く
899
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 17:07:14 ID:z6JpC8160
乙
うおおおお!
900
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 21:49:56 ID:CFJ6rMiE0
【速報】シャキン部隊好感度ストップ高!!
901
:
名無しさん
:2023/11/26(日) 02:40:13 ID:s/A3LjaU0
か、かっこいい
902
:
名無しさん
:2023/11/26(日) 05:56:13 ID:kdB2swzM0
otsu
903
:
名無しさん
:2023/11/26(日) 15:26:29 ID:RdPT/kd60
おつ!
あっついなぁ陛下助けられそうでよかった!
ただ弟者は一度諦めたことで自責の念に駆られそうだな…
904
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:13:47 ID:7NYZFcVI0
ルナイファ帝国 テタレス北方森林
1463年4月25日
森に複数の爆音が響き渡る。
(# ^ν^)「魔方陣構築!属性炎っ!!距離30!!」
『復唱、属性炎、距離30了解っ!!構築開始っ!!』
目の前に広がる光景は間違いなく、戦場であった。
それも複数の魔法使いが隊列を組み、魔法を構築し敵を葬るという、久しく見たことない光景である。
人間による凄まじい攻撃で忘れていたが、本来戦場とはこういうものであったな、などという何とも場違いな感想を頭に浮かべながらオトジャはポカンと呆気に取られたかのようにその光景を眺めていた。
それほどまでに目の前の光景は奇跡ともいえる光景なのだ。
たまたまプギャー達に反感を抱き、反抗に出た者達に救われるという可能性が、一体どれだけあったのだろうか。
オトジャ達が逃げてきたルートは勿論誰にも知られていないはずであるため、この場で合流出来たこともただの偶然である。
905
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:15:27 ID:7NYZFcVI0
そもそもニュッ達はアラマキが生き延び、逃亡生活をしていたことも把握していなかった。
ただこの森に入るアラマキの追っ手達を見つけ、自分達の怒りをプギャーに付き従う者達に教えてやると攻撃を仕掛けようとしていただけなのだ。
あり得ないほどの偶然の積み重ね。
だがそれは目の前で確かに現実となり、そしてオトジャ達を救っていた。
(# ^ν^)「放てぇっ!!!」
そうして一際大きい号令と共に、猛烈な魔法が追っ手達に降り注ぐ。
ガガガガガガガッ!!!
再びの轟音。
だがその後に続く音はもう、ない。
先ほどから打って変わって辺りは静寂に包まれる。
攻撃の跡に残されたのは複数の死体と、森であった物。
確かなシャキン達の怒りが、そこに刻み込まれていた。
906
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:16:26 ID:7NYZFcVI0
(`・ω・´)「......目標の殲滅を確認。周囲の見回りを開始せよ」
( ,,^Д^)「はっ!」
(´<_` ;)「......」
戦闘が終わり、数名の兵を安全の確保のためであろう、見回りに向かわせた後、ようやくシャキンがアラマキ達に向き直る。
(`・ω・´)「さて......ご無事で何よりです、陛下。オトジャ殿」
/ ,' 3「あ、あぁ......いや、座ったままでは失礼だな......」
(;`・ω・´)「へ、陛下!無理をせず今は休んでください!」
先ほどまで死を覚悟していたところで始まった急な戦闘に頭が追い付かず、アラマキは曖昧な返事しかすることができなかった。
王が戦場に立つ時代ならまだしも、戦場に立つどころかまともに見ることもなかったアラマキにとって、その光景はあまりに刺激的すぎたのだ。
そんな状態であるにも関わらず、立ち上がろうとするアラマキに慌てて腰を下ろさせ、落ち着かせる。
907
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:17:39 ID:7NYZFcVI0
そうして何とか落ち着きを取り戻したところで、ようやくシャキンとオトジャの二人で向き合い、話を始めた。
(´<_` ;)「改めてシャキン殿。感謝する。貴殿のおかげで救われた......感謝してもしきれない」
(`・ω・´)「いえ、陛下に仕える兵士として、当然のことをしたまでです」
(´<_` ;)「そうだとしても、だ。本当に、感謝するっ......!」
(`・ω・´)「......自分には、勿体無いお言葉です」
二人は自然と敬礼を取っていた。
互いに兵士として敬意を払い、言葉は無くとも心は通じあう。
陛下を守り、そして国のために命を懸け、戦う覚悟をしている者として。
( ^ν^)「見回り部隊から連絡だ。この辺りにもう、敵はいないそうだ」
(`・ω・´)「そうか。ならばここは一度、テタレスへ退くことにしよう」
( ^ν^)「いいのか?北方への展開が今回の目的だったんだろ?ある程度の兵を残す手もあるだろ」
908
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:19:03 ID:7NYZFcVI0
(`・ω・´)「最優先すべきは陛下の安全だ。テタレスもプギャーに目をつけられている以上、安全とは言い難いし、人間達の攻撃がくればそれこそ崩壊しかねんのだ。一人でも多く、陛下を守れる者が近くにいる方がいい」
( ^ν^)「なるほど、了解した。全員、撤収だ。陛下を待たせるわけにはいかん、手早くやるぞ」
ニュッからの言葉が効いたのか、部隊の行動は早い。
あれほどの攻撃を展開するためには、かなりの部隊の規模が必要なはずであるがそれでもあっという間という言葉が相応しいほどに、準備が進んでいく。
(´<_` )「よく訓練されている。素晴らしい部隊だな」
(`・ω・´)「いえ、この程度のことくらい出来なければ。それにニュッの言った通り、陛下をお待たせするわけにはいきませんから」
(´<_` )「成る程。それでテタレスへ戻った後なのだが......」
(`・ω・´)「その件であれば、我が部隊が使用している施設でお休みください。物資もまだ十分にあります。まずは帝都からここまでの移動の疲れを癒してください」
(´<_` ;)「何から何まで申し訳ない。助かー」
/ ,' 3「いや、休むのは後で良い。それよりも先にやることがある」
909
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:20:24 ID:7NYZFcVI0
(´<_` ;)「陛下?」
不意に、オトジャの言葉を遮るようにアラマキが声を上げる。
声を遮られたこともそうであるが、オトジャにはアラマキが言う休むことよりも先にすべきことが何なのか、瞬時に理解できずに困惑していた。
そしてそれはシャキンも同様であった。
(;`・ω・´)「へ、陛下。やるべきこととは?あまり無茶をして身体を壊しては、それこそ元も子もありませぬ。まずは身体を休めること。それが何よりも先決かと......」
/ ,' 3「我一人の身体を壊すだけで済むならばそれで良い。だが、我が休めばそれだけ多くの民が傷付くであろう?」
(´<_` ;)「へ、陛下......」
/ ,' 3「シャキンよ。休む場所の用意は要らぬ。テタレスに戻り次第、代わりに魔信を用意せよ」
(`・ω・´)「魔信、ですか?」
/ ,' 3「世界各国に演説を流せる広域通信用のものと、講和に向けて話し合うための人間達に向けた魔信だ」
(;`・ω・´)「っ!!」
910
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:23:29 ID:7NYZFcVI0
/ ,' 3「王としての務めが残っている以上、まだ休むわけにはいかんのだ。よいな?」
(;`・ω・´)「はっ!了解致しました!」
/ ,' 3「......さて、どうなることやら。演説の、いや演技の練習をもっとしておくべきだったかな」
この日、テタレスから世界にアラマキの言葉が届けられた。
その言葉は世界に衝撃を与える。
ルナイファが分裂したこと。
人間達に事実上の降伏をすること。
そしてなにより。
ルナイファの軍の独断と暴走により、使用されたと言う魔法。
世界を滅ぼしかねないその魔法の話に皆が恐怖し、そして怒りを覚えた。
その怒りはつい先日まで人間達に向いていたはずであった。
世界を脅かす敵として。
アラマキが涙ながらに語った『物語』は皆の心を動かす。
あのルナイファの王が自らの無能と無策を悔いて謝罪するその姿に、暴走を止められなかったことに対する怒りを感じるものも多くいたが、それと同時に同情を誘う。
そうして皆の心に作り上げられていくのは、悪魔による暴走の物語。
いつしか怒りの矛先は、一人のエルフに向いていた。
911
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:23:54 ID:7NYZFcVI0
ソーサク連邦 情報戦略室
1463年4月25日
(# ´∀`)「急げっ!!奴らが放ったと言う病についての資料を徹底的に集めろ!!」
アラマキの演説はここ、ソーサクにも届いていた。
その内容に皆が顔を青くし、演説後から休む間もなく走り回っていた。
(; ´∀`)「くそ、ルナイファめ。とんでもない魔法を使いおって!いくら鎖国をしているとはいえ、鳥が運ぶ病までは防ぐことなぞ出来んぞ......」
そうして集められた情報にさらにモナーは頭を抱えてしまう。
大陸間を渡る鳥に病を運ばせる。
なるほど確かにこれならば絶対に防ぐことの出来ない攻撃であることは確かだろう。
だが制御が効かず、世界を揺るがすその攻撃は敵を減らすどころか関係ない国まで巻き込み、敵を増やしてしまう。
そんな簡単なことも分からないのかと嘆きたくなるが、もう事が起きた後にそんなことを言っても仕方ないのだ。
912
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:24:27 ID:7NYZFcVI0
(; ´∀`)「治療魔法の構築が必要だな。しかし......間に合うのか?」
いくらソーサクが魔法に優れているとはいえ、相手は未知の病。
さらにはかつての大国をも滅ぼしたと言う曰く付きなのだ。
もしそれが本当ならば自国よりも遥かに優れた国ですら対処が出来なかったものを、自国が成し遂げられるとはお世辞にも考えにくい。
(; ´∀`)「こんな......こんなことでっ!!」
考えたくもないが、頭によぎってしまう。
自国が滅びゆく姿が。
何度も、何度もである。
それほどまでにその未来は現実感があるのだ。
それこそ、自国に限らず他の国も同じく、滅びゆく姿が簡単に想像できる。
それほどまでに恐ろしいものがこの世界に今、解き放たれているのだ。
913
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:24:54 ID:7NYZFcVI0
(; ´∀`)「......」
だが不思議と一つの国のみ、滅ぶ姿が想像できなかった。
それは、召喚された人間の国。
モナーは認めたくなかったが、それでも彼が知る人間達は最強ともいえる力を誇り、無敵ともいえるほどの話をいくつも聞いて彼らの持つ力は理解してはいるのだ。
それゆえ、考えてしまう。
こんな絶望的な状況であるが、それでもまた何とかしてしまうのではないかー
そんな考えが、人間を敵対視している自分が思い浮かべてしまうことにモナーは嫌気が差す。
だがもし、この考えが本当になるならば。
感染を初期で封じ込める力が人間達にあるならば、もしかすれば自分達も助かるのではないか。
(; ´∀`)「......くそっ!」
そんな考えにまた嫌気が増し、舌打ちをしながらも彼はどこかでそうなることを望んでいた。
彼も理解しているのだ。
もしこの世界でこの混乱を押さえることができるものがいるならば、彼らなのだと。
914
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:25:17 ID:7NYZFcVI0
(; ´∀`)「......」
高い技術がこの国の誇りであった。
そしてその国のなかでもトップクラスの魔法使いであるモナーは、自身に対して高いプライドと、それに見合うほどの力を持っていた。
だがそんな自分が諦めたことを他人に、それもいくら力を認めたとはいえこれまで見下してきた人間に対して期待しているということは何とも耐え難いものであった。
そんな怒りに震えつつも、集まる絶望的な情報になにも出来ない自分にさらに絶望する。
だがそんな中で唯一の希望が残っているという幸運、そしてその幸運を素直に受けとることの出来ない現状、彼はどうすることも出来ない。
ただひたすらに怒りに、恐怖に震え、そしてそれらを振り払うかのように動き続けていた。
915
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:25:52 ID:7NYZFcVI0
ムー国 取調室
(; ´_ゝ`)「すまない......頭がまだ、混乱していて現実を受け止めきれない。少し時間を貰ってもいいか?」
川 ゚ -゚)「構わない。というよりも、私も同じ気持ちだよ」
どうしてこんなことになっているのか。
それが今、この場にいる二人の気持ちであった。
この施設の人間達の行動が慌ただしくなっていたことから何かしら不審なものを感じていたが、現実は予想を遥かに超える事が起きていたのだ。
思い返されるのは数日前の出来事。
白い服を来た人間達に別室へ連れていかれた時のこと。
あのときは急に身体を調べられ、さらには針を刺され、血を抜かれたことからついに拷問が始まったのかと青ざめていた。
最悪の事態が始まったのではないかと感じたものだ。
実際には治療行為、というよりも診察の一環とのことであったのだが。
916
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:26:39 ID:7NYZFcVI0
だが今になってみればあれが拷問であった方が、数倍マシであったかもしれない。
より恐ろしいものが世界に撒き散らされ、さらにはその主犯が自国だというのだ。
最早どう言い訳をしようが、世界の敵は誰かと聞かれれば全員がルナイファであると言うだろう。
ただでさえ世界からの印象がお世辞にも良くなかった国が、最低辺をつき抜ける勢いである。
川 ゚ -゚)「まぁまだ、南方の方は理性が残っていて良かったというべきか」
(; ´_ゝ`)「最早、全てが最悪過ぎて焼け石に水な気もするがな」
川; ゚ -゚)「う、む......だがとりあえず南方は実質的に降伏し、停戦に向かうだろう。その間にこの混乱が収まれば......」
(; ´_ゝ`)「それまであの北方のいかれ野郎共がおとなしくしていると思うか?こんな事態を起こしておいてなにもしないとは思えんぞ」
川; ゚ -゚)「......その件なんだがな」
(; ´_ゝ`)「......何だ?」
川; ゚ -゚)「北方の方も......何とかするらしい」
(; ´_ゝ`)「何とかって、どういうことだ?」
917
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:27:30 ID:7NYZFcVI0
クーのいきなりの言葉に、アニジャは思わず聞き返す。
伝え聞く話だけでも、北方の輩は情報統制などにより未だに継戦を求める声が強く、また国家総動員に近い体勢で兵を集めているというのだ。
兵は訓練を受けてない一般の市民であるため、一人一人は強力ではないものの陸戦において数は単純に驚異であるし、何より帝都の守りとして要塞が残っている。
人間達の持つ力は十分理解しているし、またこの施設で得た知識からより正確な予想が出来るようになってはいるが、どう考えても殲滅するにはかなりの戦力が必要となるはずである。
召喚地とルナイファ、そして帝都までの距離を考えればとてつもない戦力の大移動が必要であり、直ぐに対応することは難しいはずであるとアニジャは予測していた。
(; ´_ゝ`)「いや、何とか出来る力があることは知ってはいる。だが、まともに北方の相手をしている余裕があると?いくらなんでも、それは無茶だろう」
川 ゚ -゚)「......いや、次の攻撃で全てが終わるらしい」
(; ´_ゝ`)「......なに?」
918
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:28:26 ID:7NYZFcVI0
川 ゚ -゚)「人間達が言っていたよ。次の作戦で、敵の主力を殲滅して実質的に戦争を終わらせるとのことだ」
(; ´_ゝ`)「馬鹿なっ!!」
あまりに信じられないその言葉に、アニジャは驚愕する。
自分がどれだけ考えても、大戦力かつ防御力の高い要塞を瞬時に崩壊させることは難しいはずである。
だがそれを人間達はするというのだ。
人間達の過信によるものか、はたまた自分が何か勘違いしているのか。
ーもしくは。
(; ´_ゝ`)「まだ......上があるというのか?あれだけでも恐ろしい力だというのにっ!!」
その可能性はあまりにも恐怖であった。
要塞を瞬時に殲滅できる力。
大戦力を瞬時に殲滅できる力。
もし、本当にそんなものがあるのだとしたら。
(; ´_ゝ`)「......」
ーそれは世界を支配し、それこそ世界を滅ぼしうる力ではないか?
川 ゚ -゚)「作戦は数日後だということだ。どうなったかは、伝えるよ」
それだけを言い残し、クーは立ち去る。
一人残されたアニジャはこれからこの世界に訪れる未来に震えていた。
919
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:28:54 ID:7NYZFcVI0
続く
920
:
名無しさん
:2023/12/03(日) 11:01:15 ID:p1D4BltU0
乙乙
921
:
名無しさん
:2023/12/03(日) 18:56:31 ID:PCEM1aMY0
おつ!
流れが一気に変わってきたな
このまま突っ走ってほしい
922
:
名無しさん
:2023/12/07(木) 00:07:40 ID:i4QZ33F.0
追いついた!
難しそうと思い込んでいたけど、わかりやすくて一気読みしてしまった。
特定の人物に肩入れしない描写で、対立にも暴走にも納得できたから、勉強になると感じる。面白い。
923
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:21:20 ID:O1UU.x/.0
ルナイファ帝国 北方街道
1463年4月26日
帝都から北に伸びる大きな街道。
本来帝都へ向かうものが数多くいるはずのその道を通るものは少ない。
帝都にいる者達はこれからの戦いに向けて、皆で結束という名の同調圧力により逃げられなくなっていた。
またその逆にわざわざ戦場となるかもしれない帝都に向かうものは皆無である。
すっかり寂しくなってしまったその街道に、久しぶりに移動する集団がいた。
極めて劣悪な戦況により、すっかり貴重となってしまった移動用のゴーレムを使うその集団は、まるで闇夜に紛れ、誰にも気付かれないように進む。
(# ^Д^)「くそっ、アラマキめっ!」
その集団の中にプギャーがいた。
場所が変われどいつもと同じように憤怒する彼だが、その原因はアラマキの演説にある。
924
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:22:27 ID:O1UU.x/.0
アラマキを捕らえる、もしくは暗殺するため追っ手を出すことで南方の反乱はまとめ役のいないまま小規模で抑え、自身は北方に逃れることで比較的安全に事を進める計画であった。
しかし作戦は最初の時点で失敗してしまったのだ。
だがアラマキを逃したのみであればまだ許容できたのだが、問題はその後のアラマキの行動である。
あろうことかこの国の、そしてエルフの誇りを懸けて戦いを挑む自身をあたかも悪魔のように形容したのだ。
さらには演説中にアラマキは謝罪をしていたが、それはあくまでも軍の暴走を止められなかったことに対してであり、全ての諸悪の根元はプギャーにあると婉曲に伝えていた。
そしてそれらはアラマキへの同情と共に受け入れられつつあるというのだ。
ーというよりも、プギャーへの怒りが強すぎてアラマキやその他の事への感心は二の次になっているというのが正しいのだが。
なんにせよ結果としてプギャーが悪であると捉えられ、アラマキの謝罪と彼が語った『真実』が世界で受け入れられつつあるということには変わりない。
925
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:25:24 ID:O1UU.x/.0
(# ^Д^)「くそ、くそっ、糞ぉっ!!おい、シィ!!情報の統制は出来ているんだろうなっ!?」
(;*゚ー゚)「は、はい。現時点で我々が統治できている領地において、例の放送に関する情報は全て遮断されています」
( ^Д^)「......ふん、まあそれならば最低限は問題ないか。だが......この放送を聞いた馬鹿共がうるさくなりそうだな」
怒りに顔を歪ませながらも、プギャーは思考を続ける。
少なくとも現時点で分かっている限りでは南方のほとんどの属領や関係国家がこちらに反発する姿勢をとりつつある。
また人間達への全面的な降伏も先の放送で宣言していたことから、南方の守りはもうないといえるかもしれない。
つまり敵は距離があるとはいえ帝都まで、南方の領土のほとんどを障害なく通過が可能になるということである。
少しでも敵を消耗させたい今、この状況は非常に不味いと言える。
926
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:26:16 ID:O1UU.x/.0
( ^Д^)「......ふん、だがまだ兵も、要塞も残されている」
だがプギャーが独り言のように呟いたその言葉の通り、帝都に辿り着くためには要塞を突破しなくてはならない。
単純に多数の兵と強力な魔方陣をふんだんに使用された要塞は例えどんな敵であっても脅威となるであろう。
なにせ今持っているほぼ全ての力をそこにつぎ込んでいると言っても過言ではないのだ。
簡単に突破することなど、不可能。
そうして敵の動きが停滞すれば、敵本土へ放った病の牙がますます敵を苦しめ、さらには兵達による死の呪いを使用した突撃を行えばさらに効果的であろう。
( ^Д^)「まだ、これからだ」
そう、まだ戦いは続く。
否、戦いを続けさせる。
そうして戦況を泥沼化させ、敵を葬ることを彼は思い描いていた。
927
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:26:40 ID:O1UU.x/.0
ニータ王国 王城
1463年4月28日
世界が混乱する中、ニータもまた大きな混乱が起こっていた。
特にシラヒーゲは取り戻しつつあった精気が再び奪われ、顔を青くし頭を抱えていた。
(; ´W`)「なんという......何ということだ」
ルナイファの隣国ということもあり、彼の国の狂気は理解しているつもりであった。
だがまさかここまで暴走することなど、予想できるはずもない。
この暴走により、短期間で済む筈であった軍事行動によるルナイファへの圧力は長期化する恐れがあり、それだけでも国家の財政を圧迫するため、頭が痛くなる問題である。
だが問題はそれだけに収まらないのだ。
928
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:27:45 ID:O1UU.x/.0
(; ´W`)「まさか......負ける、などいうことはないだろうな......」
そう最も恐れる事態、召喚地が戦闘不能となり敗北する未来も可能性として出てきてしまったのだ。
もし使用された病が噂通り、偉大かつ強大であった古の大国をも滅ぼしたというものであるならばいくら強力な国であっても滅ぶ可能性は十分にあると言えるだろう。
そしてその脅威は自国にもいずれ向かってくることになるであろうが、その時に問題なるのはすでにニータは人間達の味方であると国として立場を表明してしまっていることである。
国際的に病が蔓延することを防ぐために各国協力の体制を取ることになるはずであるが、その際に人間達に手を貸した国として支援を受けることが出来ない可能性があるのだ。
人間への偏見、差別意識を考えれば間違えなく起こりうる。
そんなことになれば、いくらこの世界で上から数えた方が早いほどの力を持つ国であるニータであっても、たかが一国で世界的な脅威に立ち向かい、勝てる見込みなどあるはずもない。
あるのはただ、破滅の未来のみ。
929
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:28:13 ID:O1UU.x/.0
(; ´W`)「......信じるしか、ないというのか」
しかし今更出来ることなど何もない。
世界を変えうる力など、シラヒーゲもこの国も持っていないのだ。
変えうる力を持っているとすれば、召喚された人間達である。
彼らがそれこそ、この現状を吹き飛ばすような何かを持っていることを、祈るしかないのだ。
(; ´W`)「この作戦が......成功することを祈ろう」
かつてルナイファが自国に攻めてこないようにとしたように、彼は再び祈る。
全ては召喚された人間達が行うという、最後の作戦に託されたのだった。
930
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:28:47 ID:O1UU.x/.0
ルナイファ帝国 南方要塞
1463年5月1日
( ^ω^)「ふぅ......」
小さく息をつき、汗を拭う。
この南方要塞に来てからもう何度振るったか分からない槍を側に起き、腰かける。
多くの市民や兵が集められたこの要塞。
これから行われるであろう人間達との戦闘に向けて多くの者達が訓練をしている。
志願兵達はこれまで生きてきた中で武器など持ったことのないものが多いが、それでも皆士気は高い。
それも当然だろう。
誇り高き世界最強の、愛する国を守るためなのだから。
それもあろうことか、敵は人間なのだ。
劣等な蛮族にこのルナイファが侵略される、そんなことが許されていいはずがない。
ルナイファが正義であり、神の意思である。
それがこの世の理なのだ。
931
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:31:49 ID:O1UU.x/.0
( ^ω^)「......よし」
しばらく休んだ後、再び立ち上がり、訓練の輪に戻っていく。
かなり短い休憩であるが、休んでいる暇なのないのだと武器を振るう。
その考えはこの要塞にいるもののほとんどが同じ考えであった。
許しがたい世界の敵が、すぐそこまで迫っているというのだ。
世界の理を元に戻すため、それらを自らの手で葬り、人間達に分からせなければならない。
如何に愚かで浅慮なことをしでかしたのかと。
ただの市民であった者達が、眼前に迫る敵に対し逃げずに戦おうとするその姿は、一見勇気あるもののように見える。
ーだがそれは決して勇気からくる行動ではなく、恐怖の感情によるものである。
皆が気付かず、そして必死に隠してはいるものの、世界の理であるエルフ主義の考え方が壊され、そして世界最強という看板どころか、自国そのものが壊されてしまうのではないかという恐怖が根底にあるのだ。
932
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:33:37 ID:O1UU.x/.0
世界が変わってしまうことに耐えられるものが果たしてこの世にどれだけいるだろうか。
それも変わり果てた世界では、もしかすれば自分がこれまで虐げてきた者達と逆転してしまうかもしれないとするならば。
そんなものを望めるものなど、いるはずがない。
だからこそ、彼らは今日も武器を振るっている。
無駄な努力かもしれないということや勝てないかもしれないなどという無駄な可能性は考えない。
世界は変わるはずないのだという、根拠のない考えを自信に変え、自分達は絶対的な存在なのだと信じて、ただひたすらに目の前のことに打ち込むことが彼らに出来る最善であった。
『構えぇぇぇえええ!!突けぇぇぇえええ!!』
(# ^ω^)「やぁああああっ!!!」
ここにいる誰もが必死に、槍を振るう。
それが当たり前であり、同然のことなのだ。
933
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:34:29 ID:O1UU.x/.0
『いいかっ!!誇り高きエルフとして、選ばれしルナイファの民として、身命を賭して祖国を守ることこそ、我らの幸福なのだっ!!!』
その訓練の間、聞こえる言葉はいつも同じである。
何度も、何度も聞いた言葉が繰り返される。
『敵に、人間に背を向けることを恥と知れ!!例え命を賭けてでも敵を道連れにすることが、ルナイファの民としての義務である!!』
洗脳のように繰り返されたその言葉は、本当にこの場の常識となっていた。
ブーンもまた、それが当然であると考えているし、何一つ疑問など持っていない。
正確には疑問を持つ余裕もなく、また考えることを放棄しているというのが正しいのかもしれない。
だがそれでもその言葉に奮い起たされ、死を恐れない戦士、死兵が産み出されているのは確かである。
戦場において死兵ほど厄介なものはない。
降伏という選択肢を捨てて、最初から死ぬことを前提に戦うのだから敵からすれば堪ったものではない。
制圧するには文字通り殲滅しなくてはならなくなるため、あらゆるコストをかけなければならなくなるのだから。
934
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:35:07 ID:O1UU.x/.0
『例え死のうとも、死を恐れるなっ!!死の呪いで敵を葬るのだっ!!その先に我々の勝利が続いているのだっ!その道を司る英雄に、君達は選ばれた神の尖兵なのだっ!!』
そしてなにより、この世界における死兵の最も恐ろしいところがただの突撃でも確実に相手を死に至らしめる呪いを持っているところであろう。
勿論通常であれば自らの命をかけなければならないこの魔法は使われることはない。
だがこのような異常ともいえるこの空気のなかでは、その魔法を使うことこそ正しいことかのように皆がいい、そしてそれを皆が受け入れている。
狂気が、この場を支配しているとしか言いようがない。
(# ^ω^)「僕が、僕が守るんだおおぉぉおおおっ!!!」
敵は人間であり、如何に恐ろしく狡猾で野蛮であるかを聞いた今、それを疑う術のない者達は自らの心から生まれる狂気を抑えられない。
その狂気は正義という名の下に正当化され、疑いの余地など残っていないのだ。
935
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:35:50 ID:O1UU.x/.0
彼らもまた、ある意味で被害者とも言えるかもしれない。
少し前まではなにも知らない一般市民であり、罪という罪もない者が多い。
だがもう、救うことは難しいだろう。
彼らの中にある真実を覆せる言葉は、この世には恐らく存在しない。
彼らの知る真実に対して現実は、受け入れるにはあまりにも悲惨過ぎるのだ。
(; ^ω^)「ぜぇ、ぜぇ......」
そうして何回槍を振るっただろうか。
皆が汗を流し、息を切らしたところで訓練は終わった。
周りに目をやれば同じく訓練を終えた者達が続々と休みをとろうとしていていた。
その姿、その顔は確かに疲れは見えるものの毎日の訓練を乗り越えたからか、軍人に近いものになっていた。
覚悟を決めた顔である。
皆、どこかで感づいているのだ。
戦いが近いということを。
死ぬかもしれないその時が近づいてくるという恐怖を殺し、代わりに敵への怒りの炎を燃えたぎらせる。
そうすることで一刻一刻と近づくその時をあたかも待ち遠しい、待ち望んだ時間かのように錯覚させていた。
936
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:36:22 ID:O1UU.x/.0
( ^ω^)「勝てる......勝てるお、絶対」
それゆえ沸き上がるその勇気は、根拠のない蛮勇に等しいといえる。
事実、彼らが戦いに出たところで出来ることなど、殆どないであろう。
だがそれでもブーンは勝利を確信し、呟くほどに信じていた。
これだけの訓練を積み、これだけの国を愛する者が集まり、そしてこれだけ強大な国であるルナイファが全てをかけるのだ。
負けるはずがない。
負ける理由など、ありはしないのだ。
そうしてふと、空を見上げた。
特に理由はなかった。
ただの疲れからか、ぼんやりと空を見上げたのだ。
そこには雲一つない青空が広がっていた。
戦時とは思えないほどの、綺麗で平和な空。
( ^ω^)「......あれ?」
だがふと。
その青空に光るなにかが流れる。
937
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:38:10 ID:O1UU.x/.0
( ^ω^)「流れ星?」
空を流れる光るものといえば、流れ星位しか思い当たるものはない。
だがそれは昼間の、青空を流れるものだったろうか。
( ^ω^)「......え?」
そして流れ星とは、こうも消えないものだったろうか。
消えずに、流れ。
こちらにめがけて、落ちてくるものだったろうか。
( ^ω^)「あ」
何を思ったのか。
何を言おうとしたのか。
それはもう分からない。
それを知るものは一人もいない。
それもそのはずだろう。
彼も、そしてその周りにいた者達も一瞬で蒸発し、消えてしまったのだから。
938
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:39:47 ID:O1UU.x/.0
凄まじい爆音と共に、そこにいる全てが呑み込まれる。
そこにいたエルフも、そこにあった武器などの物資も、果てには要塞すら。
全ては蒸発し、消えた。
そこにはなにも残されていない。
否、残されたものはひとつだけあった。
残されたものそれは。
巨大な、キノコ雲であった。
939
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:40:11 ID:O1UU.x/.0
続く
940
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 21:19:32 ID:yG1UvMTg0
うわぁぁついに…
乙です…
941
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 23:02:25 ID:XKtd06Bg0
乙
942
:
名無しさん
:2023/12/11(月) 00:13:32 ID:0OVe5E/s0
乙
しぃのように逃げ損ねただけのエルフも大勢いたんだろうな……
この判断を下した人間サイドの人物像もきになる
943
:
名無しさん
:2023/12/11(月) 21:03:20 ID:mRx2ibhc0
おつ
人間の切り札って言ったらこうなるよな…
物語は着実に進んでいるんだけどどう着陸するか全くわからない
凄く面白い
944
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:14:26 ID:n/YrJHUw0
ルナイファ帝国 南方要塞跡地付近
1463年5月1日
雨が、降っていた。
黒い、見たことのない不吉な雨。
だがそんなものが気にならないほどに目に映るその光景は異常であった。
これほど目の前の現実が夢であってほしいと感じたのは、イヨウにとって生まれて初めてのことであった。
いつもと同じように帝都付近に陣取り、遠くから要塞を眺めていた。
近く何かしらの人間達の作戦が実施されると聞き、一体どのような地獄がこの地にもたらされるのかと若干の興味を惹かれつつ待っていた。
あの要塞を攻め落とすというのだから、あの強力無比な『ひこうき』やら『せんしゃ』やらを多数用意し、圧倒的な火力と数にて行われるものとばかり考えていた。
945
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:15:28 ID:n/YrJHUw0
だが、現実はどうか。
(;=゚ω゚)「......神よ」
そこに広がるのは地獄という表現すら生ぬるいのではないかという破壊の跡。
ただの一撃によるものとは、信じられないし、信じたくもない光景である。
あまりにも無慈悲な一撃。
万物全てを消滅させるその攻撃に、イヨウは天を仰ぐ。
遠く離れた自身ですら身体に火傷をおっており、中心近くにいたものは何も感じず、神に祈る暇すらないまま死に絶えたことだろう。
その事実だけですら恐ろしいが、何よりも恐ろしいのが人間達のこの攻撃が要塞に寸分の狂いもなく直撃したことである。
つまりあの神のごとき力を、人間達は完全にコントロールしており、好きな場所に叩き込むことが出来るということだろう。
(;=゚ω゚)「初めから......どうすることもできなかったということか」
もしそれが本当なのだとすれば、この世界に防げる国などあるはずがなく、どの国であっても一瞬で都市や重要施設を消滅させられる可能性があるということになる。
そんな相手に戦うことなど、無謀どころの話ではない。
それどころか下手に相手を刺激でもしてしまえば、報復としてあの攻撃を頭上に撃ち込んでくる可能性があるのだ。
交渉ですら、完全なイニシアチブを握られているに等しい。
946
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:16:01 ID:n/YrJHUw0
この攻撃がこの世界で行われた時を境に、これまでの世界のバランスは全て破壊されたと言っても過言ではないだろう。
(;=゚ω゚)「知らなくては......」
だが、だからといってただ平伏する訳にはいかない。
少しでも情報を集めて、力の差を埋めなければ自国の未来はないに等しい。
それは人間達と友好的接するか、敵対的に接するか関わらずである。
パワーバランスが崩れた今、この世界を生き残るには新たな力は不可欠になるはずなのだ。
(;=゚ω゚)「ごほっ、ごほっ......糞、身体が重い......早く、知らせなくてはならないのに......」
身体に負った火傷のせいか、身体中が不調の警告を鳴らしている。
だがこの緊急時に休んでいられるはずもない。
身体が渇きを抑えるため、異様なこの雨の雫を舐めてでも行動をしなくてはと、一秒でも早くこの情報を伝えようと魔信を震える手で取りだす。
947
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:17:02 ID:n/YrJHUw0
(;=゚ω゚)「ど、ドクオ......はぁはぁ......聞こえるか?」
そうしてどうにか魔力を込め、通信を開始する。
(;=゚ω゚)「頼む、出てくれよぅ!頼む......!」
『......イヨウさん?』
(;=゚ω゚)「っ!ど、ドクオっ!聞こえるかっ!?ごほっ、ごほっ!!」
『ど、どうしたんですか!?何かあった......』
(;=゚ω゚)「なにか、どころじゃ......ないんだよぅ!!攻撃、攻撃があったんだっ!!」
『っ!遂に人間達が再度行動を開始したんですかっ!?攻撃の規模はっ!?』
(;=゚ω゚)「......いや、もう、終わったんだよぅ」
『は?......え?』
魔信の向こうからでも驚愕が伝わってくる。
今話しているイヨウも、信じられない。
その反応は当然であり、冗談にしか聞こえないだろう。
948
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:17:32 ID:n/YrJHUw0
だがイヨウの焦りと火傷による苦しげな声が、その言葉が紛れもなく本当なのだと訴えてくるのだ。
『一体......なにがあったんですか?』
(;=゚ω゚)「......簡潔に言えば、要塞が消滅した」
『......』
絶句。
これまでも多くの理解不能な現象を引き起こしてきた人間達であったが、これはそれらを遥かに上回るほどの異常。
何も言えるはずがない。
(;=゚ω゚)「俺も、よく分からないんだよぅ。本当に一瞬で全部、吹き飛んだんだ。今、少しずつ近づいていってるけど、本当に全てが壊れてるよぅ......」
重たい身体を引きずり、少しでも情報を得ようと攻撃の中心地へと近づいていく。
そして改めて、その被害は酷いものであった。
建物も植物もエルフも全てが焼き付くされている。
そして極めつけは生き残り達であった。
全身の皮膚がまるで熔けたかのように垂れ下がり、苦しみうめいているのだ。
これならば痛みを感じずに死ねた方がマシだったのではないかとすら思えるほどである。
949
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:18:19 ID:n/YrJHUw0
(;=゚ω゚)「......うぐ」
あまりの酷さに頭痛と吐き気がしてくる。
いくら戦場に慣れているとはいえ、ここまで凄惨で異常な光景は初めてであった。
いやそもそも、この目の前に広がるこの光景は果たして戦場といえるのだろうかー
(;=゚ω゚)「ごほっ......ごぷっ!?......あ?」
止まらない吐き気に咳き込み続けていると、不意に口を押さえた手に生暖かいものを感じた。
何かと手を見てみると、黒い雨とはまた別の赤黒い液体がそこにはべったりとついていた。
(;= ω)「な......ゴボッ!?」
そしての液体は、口から止まることなく溢れ出る。
一体自身に何が起こったのか。
また一体ここでなにがあったのか。
理解出来ないまま、彼は地に伏し。
もう、二度と動くことはなかった。
まだ、黒い雨は降り続いていた。
950
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:19:33 ID:n/YrJHUw0
ソーサク連邦 情報戦略室
沈黙が、部屋を支配していた。
突如来たイヨウからの連絡はドクオの思考を停止させた。
確かにクーから人間達の行動が始まることは聞いていた。
勝敗で言えば間違いなく人間達が勝つだろうと予測はしていた。
特に今回はルナイファの悪魔的とも言える魔法により、流石の人間達も余裕はないだろうと考え、これまで以上に苛烈な攻勢が予測できていたはずであった。
だがしかし、それでも世界最強の国であったルナイファの、最強の護りとも言える要塞が一撃で消滅したなどというのはあまりに現実離れしている。
もし本当にそんな攻撃が実在し、そして自由に扱うことが出来るのならば、少なくともこの世界のどんな国でも滅ぼすことが可能だろう。
護りを固めた要塞に攻撃できるのだから都市を狙うことなど容易いはずである。
そして要塞よりも脆い都市が、同等の攻撃を受ければどうなるかなど、考えるまでもない。
狙われた都市の数だけ、地図から消滅することとなりそれだけで国家の機能は停止することになるだろう。
951
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:20:10 ID:n/YrJHUw0
『ひこうき』や『せんしゃ』といった兵器の数々もこの世界の戦争を変えうる力を持っていた。
だがこれはそれ以上の物であると間違いなく断言できる。
そして初めから使えば簡単にルナイファを滅ぼしうるものを持っていたのにも関わらず、ここまで使わなかった理由。
それはつまりー
('A`)(人間達の、奥の手......なのか?)
探し求めていたものかとしれないという考えが、脳裏によぎる。
本音を言えば、これ以上の物などあって欲しくないという彼の願望もあったもののその威力と使用された状況から考えても可能性は高いだろう。
自身の望む力による均衡、すなわち抑止力としては申し分ないどころかこれ以上ないものである。
ゆえにその力を欲すると共に、一抹の不安も沸き上がる。
あまりに、その力が強すぎるのだ。
確かに抑止力にはなるだろうが、万が一にその力を使うことになってしまったとすれば。
さらにそれが、互いに持ち合っているような状況だとすれば。
952
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:20:53 ID:n/YrJHUw0
(;'A`)「......」
考えたくもない。
だが考えるまでもなく、その先に待つものは破滅以外にない。
とはいえ現状、話を少し聞いた程度。
より詳しく知らなくてはと、ようやく脳内の混乱が落ち着いたところで違和感を覚える。
('A`)「......イヨウさん?」
先ほど、咳のような音がした後からイヨウの声が聞こえなくなっているのだ。
魔信の故障かと思えば、あちらで降っているのだろう雨の音が聞こえ、道具に異常が無いことを知らせていた。
(;'A`)「イヨウさん?イヨウさんっ!?」
そしてその音はつまり、道具ではなくイヨウの異常を知らせているのに等しいものである。
そのことに気が付き、必死に魔信の向こうに呼び掛ける。
だがその声に答えるものはなく、ただの沈黙のみが返ってくる。
953
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:21:23 ID:n/YrJHUw0
(;'A`)「......なにが」
一体、何があったというのか。
イヨウに、そしてルナイファの要塞に。
何も分からない。
ただ何かがあったことだけは、確かであろう。
ーつまりまだ、自分が理解していない恐ろしい何かが、秘められているということである。
(;'A`)「......」
底知れない人間達の力に、身を震わせながらも彼は決意する。
自身に出来ることはなんなのか。
それは一つしかないだろう。
(;'A`)「知らなくては......」
彼はここ、ソーサク連邦の情報戦略室の職員なのだ。
情報が武器であり、知ることが彼の使命である。
ならば、知らなくてはならない。
そうして彼は動き出す。
世界を変える、力を知るために。
954
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:22:05 ID:n/YrJHUw0
ルナイファ帝国 南方都市テタレス
/ ,' 3「作戦は、上手くいったようだな」
(;`・ω・´)「はい、全て人間達から事前に告知があった通りです。時間通りに、要塞が消滅しました」
/ ,' 3「......改めて、とんでもない者達を相手にしていたのだな。我々は」
アラマキはその報告を受け、大きくため息をつく。
知らなかったこととはいえ、この一年近くの自身の失態を改めて痛感する。
そしてその失態のツケは自国の多数の民の命により支払うこととなったという事実は、悔やんでも悔やみきれない。
/ ,' 3「それで、これからどうなると考える?」
(`・ω・´)「はっ。少なくとも北方の......北ルナイファと仮称しますが、奴らの戦力の大半が失われました。最早防衛すらままならない戦力しか残されていません。これ以上の継戦は不可能なため、実質的な終戦となるかと」
/ ,' 3「そうか......ではこれからは戦後の事を考えなくてはならないわけか」
955
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:23:24 ID:n/YrJHUw0
(`・ω・´)「そうなります。ですが......」
/ ,' 3「現在の我々では、独力での復興は難しいか」
(`・ω・´)「......はい。我々は多くを失いすぎました」
アラマキの言葉に、シャキンは力なく頷く。
これまでのルナイファの国の基盤は戦力とそれによる属国、植民地からの搾取で成り立っていた。
それが今回の戦争で全て失ったのだ。
今後の物資の不足は目に見えている。
また戦闘による港や街道への被害も激しいため、もし物資が手に入ったとしても国全体に行き渡らせることも難しいだろう。
/ ,' 3「そうなると......賠償の他に、やはり地下資源とやらの採掘権を渡して、復興の支援を頼むしかないか。人間達にとって重要なものと聞いた以上、出来れば価値を理解してから手札として使いたいところであったが......」
(´<_` ;)「仕方ないでしょう。現状を考えると余裕がありませんから。相手から提示された条件で頷くしかありません」
(`・ω・´)「そもそも手持ちの手札がない現状、我々にとって価値のないもので交渉が出来る、と前向きに捉えるべきでしょう」
956
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:24:59 ID:n/YrJHUw0
/ ,' 3「......なるほど、それもそうだな。しかし話し合いで国としての体裁は保たれることとなっているが......最早国と呼べるか怪しいところだな」
それゆえに、国を保つためには他国の力が必要であった。
だが他国との関係がお世辞にも良いとは言えないこの国を支援しようというものなど、ほとんどいない。
そんな中、戦勝国である人間達の国が支援に名乗りを挙げたのだ。
(`・ω・´)「表向きは確かに国として保てますが......本質的には傀儡、ですな。まあ我々が下手に滅びでもすればこの大陸は混乱を極めますから下手な扱いはないと、思いたいですが」
/ ,' 3「うむ。しかしアリベシという見本があって助かった......あの国の暴走ぶりと大陸の混乱がなければこの考えには至らなかったからな。交渉にならなかったかもしれん」
(;`・ω・´)「もしそうなっていたらとは......考えたくもありませんな」
/ ,' 3「あぁ。まあとにかく、北方の奴らに占領でもされれば人間達にとってまた厄介なことになる。我々にある程度の力を持たせて奴らを抑えたいだろう。それに期待するしかあるまい」
(´<_` )「えぇ。他に選択肢がない以上、そうするしかありませんな」
(`・ω・´)「ただ問題は......人間達にこちらを援助する余裕があるか、ということですね」
/ ,' 3「......はぁ」
957
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:25:41 ID:n/YrJHUw0
そう、通常であればここで話は終わっていたのだ。
だが現実はプギャーの放った魔法により世界中に混乱が訪れようとしているのだ。
もし人間達も多大な被害が出てしまえばいくらこちらが望んだところで復興の手助けなどする余裕はないだろう。
/ ,' 3「神頼み......いや、人間頼み、か。本当に我々は国として終わってしまったのだな」
(´<_` )「......ですがまだ、再起のチャンスは残されております」
(`・ω・´)「えぇ、我々も全力を尽くしますゆえ。必ずや我が国を建て直し、次こそは最高の国家としましょう」
/ ,' 3「......あぁ。そうだな。では今出来ることをやるとしようか」
(´<_` )「はっ!」
そうしてアラマキ達は改めて、世界中に向けて放送を行った。
その内容は人間達の行った攻撃の詳細について。
その凄まじいまでの被害を聞いたもの達は世界に訪れた危機で青くしていた顔をさらに青くし、大きく混乱することとなる。
だがそれと同時にルナイファの終焉を皆が悟るのだった。
958
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:26:37 ID:n/YrJHUw0
ルナイファ帝国 北方都市
(; ^Д^)「......馬鹿な」
部下からの報告、そして今も流れる忌々しいアラマキの演説を聞き、プギャーは思わずそう漏らした。
全ては上手く行くはずであった。
それがエルフの宿命であり、運命であるはずだったのだ。
だが複数挙がってくるその報告を前に、自身の描いた未来は完全に否定されてしまった。
全ては崩壊した、と言ってもよい状態であった。
(; ^Д^)「何故だ、どこで間違えたと言うのだ?何故、こんな......」
(;*゚ー゚)「......」
(; ^Д^)「くそっ、くそっ、クソがぁっ!!」
959
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:28:09 ID:n/YrJHUw0
正気を失ったかのように暴れまわり、辺りのものを壊し回る。
そうしてやり場のない怒りと今更ながら痛感した強大な敵への恐怖をぶつけていたのだ。
そんな様子をシィは静かに眺め、本当に全て終わったのだと悟っていた。
(;*゚ー゚)「プギャー様......最早軍は壊滅、自国の領土すらまともに守れる状態ではありません。それも、周囲の国家が相手であってもです。やはり、もうここは停戦を申し入れてー」
(# ^Д^)「......んぞ」
(;*゚ー゚)「え?」
(# ^Д^)「負けることなど、断じて認めんぞっ!!例え、どんな犠牲を払おうとも奴らを滅ぼさなければ!!」
(;*゚ー゚)「......」
(# ^Д^)「確かに今、軍は壊滅状態だ。ならば、軍を再建すればよい!まだ、民は残っているだろう!?他国からの傭兵も引き入れろ。自分で歩ける奴ならばどんなやつでもだっ!!そうすればまだ、戦えるのだっ!」
(;*゚ー゚)「そんな......」
(# ^Д^)「どれだけ時間が掛かろうとも、いつの日か、必ず、必ずや奴らを地獄へ送ってやる......いいなッ!?」
960
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:28:42 ID:n/YrJHUw0
この男はまだ、終わったことに気づけないのかー
そんな思いにシィはただ呆然と立ち尽くす。
確かに引き返せないところまで来ていると言える状況ではある。
もしこれで敵へ降伏することになれば、少なくともプギャーの首は差し出さなくてはならない。
だが、この男が国のために自身を差し出すことはないだろう。
相手が人間であるならば尚更である。
分かりきったことではあったのだがこの国は、別の意味でも終わってしまっていた。
(*゚ー゚)(......いっそのこと)
報告に聞く、人間達の攻撃がここに降り注げば良かったのにと、シィは心の底から思ってしまう。
例え自分が死ぬことになるとしても。
それで、この世界の敵は滅ぼされるのだから。
そんな自己犠牲も厭わない願いは叶うことはなく。
悪魔はまだ、この世界で生きていた。
961
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:29:39 ID:n/YrJHUw0
ルナイファ帝国 南方戦線 野戦病院
遠くに、大きな雲が見えた。
その雲は見たことないものであったが、その前に感じた遠く離れたこの場所まで伝わってきた衝撃に何が起こったのかを察していた。
('、`*川「......あぁ」
そしてそれを裏付けするかのように流れた陛下の演説に、ペニサスは祖国が敗北したのだと理解した。
だが、不思議と悲しさはなかった。
それどころかようやくこの悪夢のような時間を終えることが出来るのかと言う安堵の方が大きかった。
ξ゚⊿゚)ξ「......先生?泣いているの?」
('、`*川「え?」
そう隣にいるツンにそう声をかけられ、ようやく自分の頬が濡れていることに気が付く。
これまで抑えていたものが、戦いが終わったと言う安堵から溢れそうになっていたのだ。
962
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:30:09 ID:n/YrJHUw0
('、`*川「......えぇ、そうね。泣いて、いるわ。もう、我慢しなくて良くなったのよ」
そしてそれはもう、抑える必要がなくなったものであった。
これまでは戦う国の一員として、どれだけ苦しくても弱音を言うことなど、許されることはなかった。
だがそれはもう、終ったのだ。
だからこそ、ペニサスは涙を流し、ツンにそう語りかける。
優しく、ツンを抱き締めながら。
ξ゚⊿゚)ξ「せん、せい?」
('、`*川「終わったの。全部、もう終わったのよ......だから、もういいのよ。頑張らなくて」
ξ゚⊿゚)ξ「っ!」
そう、もう終わったのだ。
あの辛く苦しい、悪夢のような時間は。
だからもう、ただの子供に戻っても良いのだと。
963
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:31:14 ID:n/YrJHUw0
ξ゚⊿゚)ξ「せん、せい......」
('、`*川「いいの、いいのよ」
ξ ⊿)ξ「せ、んせ......ぅ、あ」
これまでどれほど辛い思いをこの子にさせてしまったのだろうか。
感情豊かであるはずの、普通の子供が感情を殺し、命に関わる責務を負わされるなど正気の沙汰ではない。
だが彼女はそれを、こなしていた。
こなせてしまっていたのだ。
それがどれだけ凄いことであり、そしてどれだけ彼女を苦しめたのだろうか。
その痛みと苦しみを全て理解し、癒すことはペニサスには出来ない。
ただの一教師にそんなことが出来るはずがない。
だがその痛みと苦しみを吐き出させ、ただの子供にしてあげることは出来るだろう。
それがペニサスの使命であり、教師であり、大人である自分だからこそ出来ることなのだと。
ξ ⊿)ξ「あああぁぁああああっ!!!」
そうしてその優しさに触れ、ツンは堰を切ったように涙を流した。
止めどなく溢れるその涙の量が、彼女のこれまでの辛さを物語っているかのようである。
その涙にペニサスはより一層、彼女を抱きしめ、決意する。
('、`*川「大丈夫、もう、大丈夫だから。我慢しなくていいからね。なにがあっても先生が、必ず、必ず守るからっ!!」
もう二度と、子供が苦しまないように必ず守ると。
この目で見て、感じてきたこと、戦争の凄惨さを皆に教え、如何に恐ろしいことかを広め、そして。
もう二度と戦いが無い、子供の苦しまない世界を、目指すのだ。
964
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:31:54 ID:n/YrJHUw0
(、*川「ぅ、うぅ......」
あぁ、なんて自分は愚かであったのだろうか。
ペニサスはそんな思いで胸中が一杯であった。
何故こんな簡単ことが戦争の前から分からなかったのか。
その結果が、このような結末を作ってしまったのだ。
とんでもない、過ちを自分達はおこしてしまったのだ。
そうでなければ、こんな目に合うはずがない。
ならば、どうするか。
次は、間違えない。
絶対に、間違えてはいけない。
だからこそ、伝えよう。
この今、見ていもの、聞いているもの、そして感じているもの全てを。
二人の泣き声が響く、この今を決して忘れない。
ー戦いが終わったこの日を、決して忘れてはいけないのだ。
965
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:32:17 ID:n/YrJHUw0
続く
次回かその次でひとまず完結予定です
966
:
名無しさん
:2023/12/17(日) 18:38:15 ID:MXEU8bDw0
つらいな…乙
967
:
名無しさん
:2023/12/18(月) 23:09:53 ID:t8qYvbak0
乙乙
968
:
名無しさん
:2023/12/19(火) 09:15:44 ID:S8x3EBik0
otsu
969
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:38:49 ID:RitR9poI0
ムー国 大使館
1463年10月3日
実質的な終戦を迎えてから、数ヶ月。
あの日が歴史の転換点であったと言えるほど、世界は変化を見せていた。
まず語るべきは、旧ルナイファ帝国だろう。
この世界において最強であったはずのその国は今では見る影もない。
属国や併合されていた国々は全て独立を宣言し、大きく領土を失うことになっていた。
その独立した国々も長い間の占領により、国境が曖昧になっていたことや王族の断絶などの様々な問題が浮き彫りになっており、安定には程遠い。
加えて敗戦国となればその国民が奴隷になると見てそれを手に入れようとする商人や孤児などを狙った誘拐犯、そして盗人も集まってきており治安も最悪の一言である。
さらには旧ルナイファは北ルナイファ帝国と南ルナイファ共和国の二つに分かれた。
そのうちの北ルナイファ帝国はあれだけの被害を負ったため流石に軍事行動こそないものの、未だに戦意を失ってはいない。
それゆえ周囲の緊張感を高めており大陸は混迷を極めていた。
970
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:39:54 ID:RitR9poI0
川 ゚ -゚)「人道的支援、か。確かに大陸の安定は国のためになるとはいえ......奴隷制がないことといい、学ぶことが多いな」
だがそこで待ったをかけたのが他でもない戦勝国である召喚された人間達であった。
敵対していた国を、それも敗戦国に対して支援を行う旨を発表した際は世界が驚き、偽の情報ではないかと皆が疑った。
だが実際に南ルナイファ共和国にて人間達の支援部隊や治安維持目的の軍が派遣されてくる姿を見て、それが本当なのだと分かったものの、その行動を理解できるものは少なかった。
なぜこれだけの力を持ちながら滅ぼすこともせず、さらには奴隷にするどころか支援をするのか。
そんな疑問符を頭に浮かべてはやはりまともに物を考えることも出来ない劣等種なのだと結論を出すものが多かった。
だがそんな彼らも人間達の持つ力の前に恐怖し、ここで暴れるのは無理だろうと人間の手が届く範囲に限られるが治安は日を追う毎に回復してきていた。
また中には人間達の行動を理解し、偏見を改めようとするものたちも数は少ないが現れ、国交樹立に向けた動きも見られていた。
971
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:40:35 ID:RitR9poI0
川 ゚ -゚)「世界は......本当に変わったな」
そう、世界は変化をしている。
ほんの一年前まで、人間達の独立国がこの世界に生まれ、そしてその国と国交を結ぶものたちが現れるなど欠片も考えたことはなかった。
川 ゚ -゚)「それが、最近では慌てたように国交を結ぼうとしているんだからな」
その言葉の通り、国交を結ぼうとしている国もまた少なくない。
理由は勿論色々とあるが一番大きいものはやはり、旧ルナイファ帝国が放った疫病を撒き散らす魔法だろう。
その恐ろしい病は噂通りの力を発揮していた。
凄まじい速度で感染し、かつ治療が困難なその病は、国力がなくまともな魔法使いのいない国にとってはまさに最悪の一言であった。
伝え聞くだけでも小国のいくつもが破綻しかけているという。
だからこそそんな病を、一番に差し向けられた人間達もまた、滅びゆく運命であろうと多くの者が予測していた。
それゆえ旧ルナイファ領へ介入しようとしていた者たちが多かった。
いくら力があろうが、自国のことで手一杯となり、ルナイファの内部にまで手出しは大きくは出来ないだろうと高を括っていたのだ。
川 ゚ -゚)「......国交を結びたい理由は、やはり薬だろうな」
だが現実はといえば、人間達はルナイファまで手を回す余裕があるように見える。
これは一体どういうことだと調べてみれば、皆が恐れる病を薬で簡単に治せるというのだ。
972
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:43:07 ID:RitR9poI0
多大な混乱を与えたものの、クー達エルフからすれば被害ともいえないような数百か数千程度の少数の死者のみであるという。
未だ押さえ込める未来の見えない他国からすればそれは神の所業である。
それゆえ皆がその力に救いを求めた。
そこにプライドなど挟める余裕などなく、病に脅かされている国々が一斉に国交を、そして救いを求め出したのだ。
川 ゚ -゚)「うーむ、とはいえ......」
しかしそれら全てを救えるかというと流石の人間達の国でも厳しいらしい。
救いの力、すなわち彼らの作る薬は確かに大量生産できると言う話だがそれでも限度があり、自国やここムー、トウキュといった戦争で実質的な支配下となっている近隣の国々に回す分を考える必要があるためである。
また物理的に距離が遠ければそれだけ輸送のコストがかかるため、優先度はそれに比例して下がってしまうのだ。
とはいえ多数の国と国交を結べるチャンスであり、かつ薬を大量に売ることが出来ることを考えれば経済の回復に多大な貢献をするだろう。
だが他にも彼らはやることが山積みなのだ。
973
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:44:04 ID:RitR9poI0
川 ゚ -゚)「中々に、難しいところだな......」
圧倒的な力で忘れかけていたが、人間達の国はこの世界に無理やり召喚され、経済面で考えればとてつもない被害を受けている。
そんな状態で約一年も戦争を続けて無事なはずがない。
今すぐにも経済の復興が必要となっているという。
特に軍需も戦争が終わった時点で無くなるため、これまで戦争のための働いていたもの達の新たな就職先を見つけなければ召喚の影響で多数生まれた失業者がさらに増えてしまい、国としての基盤が崩壊する可能性すらあると言う。
一応ルナイファとの交渉で得られた地下資源の採掘に向けて、多くの者達が送られる予定となっているため、失業率は若干の緩和が見込まれており、またそこから得られる資源を扱う仕事により、新たな雇用を生み出すとのことだが未だに予断が許されない状況である。
何とか戦争を乗り越えたものの、まだまだ彼らの国を賄うには必要なものが足りないのだ。
川 ゚ -゚)「......そう考えると、案外ルナイファは惜しかったのかもしれんな」
強大という言葉が相応しい人間達の国を、ここまで追い込んだのだ。
召喚による影響などもあるとはいえ、圧倒的な軍事力の差を埋めたルナイファの馬鹿げた国力は確かに世界最強と呼ぶに相応しい国であった。
ただし、元と付くわけだが。
974
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:45:58 ID:RitR9poI0
現在の世界最強はどこかと聞かれれば、その答えは間違いなく一つしかないだろう。
川* ゚ -゚)「ふふっ。私もその国の一員というのは何とも誇らしいな」
かつての母国を捨て、新たに属することを決めたその国。
その圧倒的な力に魅了され、この国に亡命したことは間違いではなかった。
自身がエルフということもあり、人間達からすればかなり印象は良くないが、それでもこちらの仕事を認め、そして一員と扱ってくれている。
そんなところからもこの世界の国家にはない、国としての余裕が感じられるのだ。
これから先、世界がいかに混乱したとしてもこの国を脅かすことなどあり得ないだろう。
それだけの力を、この国は持っているのだから。
つまり、未来の安泰は保証されているに等しいのだと彼女は確信している。
それゆえ、頭に思い描くものは輝かしい未来ばかり。
もう何も心配事などないのだ。
ただ考えるのは今後の幸せのことのみで、何も問題などないのだ、と。
川 ゚ -゚)「さて、と。そろそろちゃんと仕事をしないとな。えっと、まずは......あぁ、行方不明になった支援団体職員についてか」
そうして彼女は最近ようやく使いなれてきた『ぱそこん』に向き合う。
仕事には四苦八苦するものの、彼女の顔は明るい。
なぜなら彼女の眼前に広がるのは、明るく輝く未来の世界。
不安など、あるはずがない。
愛する新たな自国のために、よりよい国を目指すために、彼女は目の前の仕事と戦い始めたのだった。
975
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:46:54 ID:RitR9poI0
南ルナイファ共和国 南方港(旧軍港跡)
1463年10月4日
激しい攻撃を受け、壊滅していたここ、南方港。
復興に向けた資材等の受け入れに必須ということもあり、この世界では類を見ないほどのスピードで復興が進められていた。
今では軍港としての機能こそ戻ってはいないが、それ以外の通常の港としての能力はかつてのそれを上回るのではないかと言うほどである。
事実、『くれーん』なるものが作られ、これまで魔法で持ち運んでいた荷物の運搬性が格段に上昇していた。
こうして大量に物資を持ち込めるようになったことで、どうにか餓死者を減らせるようになりつつあるがそれでもまだ、国として再起できるラインとは言いがたい。
問題は物資のみだけではないからである。
今回の戦争により、ルナイファは多くの者を、それも魔法の才があり働き盛りな若者を多く戦場に送り、そして亡くした。
さらには国が二分した際、戦争に徴兵された一般市民も多くが北ルナイファ帝国の民になるか、あのキノコ雲の下で蒸発したかのどちらかである。
これによりまともに働ける人材が少なくなり、この国の人口ピラミッドは見るも無惨な姿となっている。
この事は将来に非常に暗い陰を残すと共に、今現在においても多大な枷となり、南ルナイファを苦しめていた。
976
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:47:29 ID:RitR9poI0
そんな一人でも多くの人材を欲する南ルナイファであるが今日、大きな朗報があった。
それはたった今、港に入港してきた大きな人間達の軍艦も関わっている。
(´<_` ;)「......改めて、こんな艦相手に戦っていたのだな」
爪;'ー`)「......」
(´・ω・`)「......凄い」
そんな艦を眺める者が数多くいるが、その反応は様々であった。
オトジャのようにかつて戦ったものはその恐ろしい記憶に身を震わせ。
フォックスのように戦いこそしなくてもその力を噂で聞いていた者はこんな化け物が本当に実在したのかと口を大きく開き唖然としていた。
その艦は自分達の友人や家族を殺した者達の兵器であり、恨みの籠った視線を送るものが多くいたが、それと同時に皆にあの戦争の悪夢を思い出させる、人間達の力を示す恐怖の象徴となりつつあったのだ。
ーだが中にはショボンのように、戦争と切り離してその艦を眺め、その雄大な姿に子供らしく目を輝かせるようなものも、少数ではあるものの存在していた。
そんな様々な感情を向けられる中、その艦が接岸する。
そして艦からルナイファの地へと降り立つ複数の影が、そこにはあった。
977
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:48:02 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「......まさか本当に生きてこの地に立てるとはな。それも、こんなに早くとは」
その影の正体は戦争の生き残り。
捕虜となっていたルナイファの兵達であった。
彼らの表情は皆、明るいものであった。
それも当然であろう。
これまで何度も自分達がいつ殺されてもおかしくない立場に居続けたのだ。
いくら口頭で殺すことはないと聞かされても、それを全て信じきることは難しい。
また捕虜の返還に関しても、国との交渉次第ではどんな扱いになるか分かったものではない。
もし仮に母国に見捨てられでもすれば、敵がわざわざ捕虜を確保しておく必要などないのだ。
ゆえに解放される今日この日まで、どんなに低い確率であったとしても処刑されるかもしれないという恐怖を消すことが出来なかった。
だがそれが今日、解放されたのだ。
それを喜ばないものなど、いない。
皆が歓喜し、そして涙を流し、自身が母国の地に再び自身の足で立つことが出来ていることを感謝していた。
978
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:49:58 ID:RitR9poI0
(゚、゚トソン「ほ、本当に、生きて、帰って......」
爪'ー`)「トソンっ!!」
(゚、゚トソン「っ!ふぉ、くす?」
そんなあまりの歓喜に頭が追い付かず、混乱していたトソンに懐かしい声が届く。
ハッと声がする方に向けば、そこには見知った顔があった。
笑いながら近づいてくるその彼を、彼女は知っている。
その笑顔を、知っているのだ。
懐かしい、その笑顔を。
見慣れたはずの、笑顔である。
特別な表情などではない。
だが、いや、だからこそか。
その笑顔は彼女を日常に連れ戻す。
どこかまだ落ち着かなかった心が、平穏を取り戻していくのを感じていた。
そして、その安堵からなのか。
(、 トソン「フォックスっ!!」
爪;'ー`)「うおっ、ちょ、と、トソン!?どうし......」
(、 トソン「う、うぅ......」
爪'ー`)「......おかえり、トソン」
気付けばフォックスに駆け寄り、泣きついていた。
これまで抑えていたものがすべて溢れだし、止めることが出来なかった。
そして、ようやく心の底から理解した。
ーようやく、終わったのだと。
979
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:50:38 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「......ふむ」
(´<_` ;)「アニジャっ!良かった......よく、無事に......って、なんだ?なぜ両手を広げている?」
( ´_ゝ`)「なんだ、折角の感動の再会なんだ。俺も抱き締めて帰りを祝福してくれてもいいじゃないか」
(´<_` ;)「......」
( ´_ゝ`)「冗談だからそんな顔をするな。流石に傷付くぞ......っと?」
(´<_` )「......これでいいか?」
( ´_ゝ`)「......悪くないな」
(´<_` )「おかえり、アニジャ」
( ´_ゝ`)「あぁ。色々と、すまなかったな」
(´<_` )「気にするな」
互いに笑い合い、再会を喜び合う。
それは敗戦し、窮地に追い込まれ、どこもかしこも暗い雰囲気が漂っていたこの国に久しぶりに現れた明るい一幕であった。
980
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:51:27 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「それで?国は、どんな状況なんだ?」
(´<_` )「帰ってきてまずそれか。相変わらずだな」
( ´_ゝ`)「むしろ見知った兄が帰ってきたと感じられていいだろう?」
(´<_` )「......はぁ。そういうことにしておこう。それで、そうだな。国か......何から説明すべきか」
そうポツリとこぼし、顎に手を当て少しオトジャは考える。
軽く説明するにしても今回の出来事は何から何まで大きすぎるのだ。
自分自身もまだ、混乱している部分もあるためどう言葉にすべきか分からないという部分もあった。
そんな理由でほんの少しだけ思考に耽っていたのだが、さていざ話そうかと顔を挙げると多くの者がこちらに視線を向けていることに気がつく。
そう、周りの者達も今この国に帰還したものやただの一般市民であり詳しく現状を知れていないものなどがこの場に集まっていたのだ。
それゆえ皆が気になることをこれから話すというのだからその興味が集まるのも仕方のないことだろう。
(´<_` ;)「......マジか」
爪;'ー`)「す、すみません。自分らも気になるもんで.....いい、ですか?.」
( ´_ゝ`)「ふむ......まぁ、いいじゃないか」
(´<_` ;)「そりゃ聞く方は気楽だからいいだろうが......はぁ、まあいいか。言っておくが俺も、全て把握している訳ではないし、伝聞がほとんどだから正確かは知らんぞ」
( ´_ゝ`)「構わんよ。何も知らんよりは、マシだろう」
981
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:52:49 ID:RitR9poI0
(´<_` )「分かった。では、まずそうだな。国の現状についてだが......北と南に分かれたことは?」
( ´_ゝ`)「流石に聞いているよ。まぁ、耳を疑ったがな」
(´<_` )「だろうな」
アニジャの言葉にオトジャも、そして周りで聞いていた者達も同意を示す。
アニジャを初めとして、捕虜となっていた者達は敗戦することはまず間違いないだろうと理解していた。
それゆえに国が他国から支配され、ルナイファという存在が消えてしまうことも覚悟をしていた。
それがどうなればルナイファが消えるどころか二つに分裂するというのか。
(´<_` )「未だに俺も、どうしてこうなったかが理解できてないよ」
( ´_ゝ`)「まぁ、理解できるとすればあの阿呆と同じ考えということになる。理解できん方がいいだろう」
(´<_` )「そうだな......それでだが国が分かれる際に多くの属国や併合していた国家が独立したことは?」
( ´_ゝ`)「聞いてはいなかったが、まぁ予想通りだ。今のこの国に、そして北の奴らにも支配を続ける力など残っとらんだろ」
(´<_` )「あぁ。面倒も見きれんということでこちらから独立を促していた部分もあるそうだ」
( ´_ゝ`)「あるそう、とは?」
(´<_` )「陛下......いや、元陛下よりそう聞いている」
( ´_ゝ`)「成る程な」
(゚、゚トソン「元、陛下......ですか」
982
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:54:08 ID:RitR9poI0
ポツリとトソンが漏らすその呟きに皆が一瞬、顔を曇らせる。
この国の力の象徴とも言える王であり、世界を征する力を持っていたといっても過言ではなかったはずの存在。
それが今では元という肩書きとなり、その力は全て失っている。
爪;'ー`)「あの、陛下はその、元首ではある、んですよね?自分は、よく分からないのですが......」
(´<_` )「ん?あぁ。そのようだ......一応な」
( ´_ゝ`)「......そうか」
その言葉に多くの者がホッと胸を撫で下ろす。
国として多くのものを失ってしまったが、形だけは何とか保つことが出来ているのだ。
力が無くなったとはいえ、自分達が信じ、崇めていた王はまだ、国のトップに立ち、導いてくれる。
その事実にどこか救われたような、ほんのわずかではあるものの心に希望が宿っていた。
皆がそうして小さな希望に顔を明るくする中、アニジャの顔は険しいものであった。
オトジャの『一応』という言葉に込められた意味に考えが至ったのだ。
それは元首という肩書きは本当に形だけのものであり、権力などはなく実質的な支配は他にあるだろうということ。
すなわち傀儡であり、陛下であるアラマキはこの国の民にその支配者達からの言葉を伝えるための道具となったのであろうと、考えたのだ。
983
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:54:44 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「まぁ、聞いた話から粗方予想はしていたが......混乱はないか?」
(´<_` )「あぁ。少なくとも民については反乱を起こそうという気運もない。むしろ皆、あれほどの敗戦とあって戦いに消極的だ。上手く、国はまとまってるよ」
( ´_ゝ`)「そうか。随分上手いこと、やるもんだな」
そうアニジャは呟き、周りを見る。
今の短い兄弟の会話を理解しているものは他にはいないようであり、皆国が独立を保てたこと、そして再び陛下の元で国を建て直すことを夢見ている。
誰も国が実質的に支配されていることに気付いておらず、アニジャの言葉の通り、恐ろしく上手く国が支配されたことをこの場にいる者達が示していた。
そんな様子にアニジャはルナイファの終焉を感じ、若干の寂しさを覚えていた。
だがもうどうすることも出来ないであろうことも分かっていた。
そうして改めて国が負けるとはこう言うことなのかとため息をつく。
( ´_ゝ`)「......本当に上手く、やられたな」
(´<_` )「何でも人間達のいた世界に、似たようなモデルケースがあったらしい」
( ´_ゝ`)「はぁ、成る程な。まあ下手なことをされて、滅ぼされるよりはマシと考えるべきか」
(´<_` )「あぁ、そう思うよ」
( ´_ゝ`)「それで?後は何か変わったことは?」
(´<_` )「そうだな......戦争の発端となった人間の外交官を処刑したこと等の責任については、捕らえられていたムー現地の統治局職員が戦争犯罪者として裁かれることになったようだ」
( ´_ゝ`)「戦争初期に捕らえられていた者達に罪を被せた、というわけか。それで陛下の罪を軽くして、元首としての立場を保たせる、か。本当にうまいことやるな」
(´<_` )「あぁ。後は何があったか......」
984
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:55:12 ID:RitR9poI0
(゚、゚トソン「あの、それでしたら......聞きたいことがあるのですが」
(´<_` )「む?なんだろうか?」
(゚、゚トソン「その、人間達の最後に放ったという攻撃について、です」
(´<_` )「......あぁ」
皆が気になることなのだろう。
一層オトジャに視線が集まる。
アニジャもまた、真剣さを増して聞く姿勢を取っていた。
(´<_` )「断っておくが俺も直接見たわけじゃない......そもそも詳しく調べようにも現地の調査は出来んからな」
( ´_ゝ`)「む?直接見るのは無理なのは分かるが......調査が出来ないとはどういうことだ?」
(´<_` )「その言葉の通りだ。今、攻撃の跡地に近づくことは出来ない。近づけば......死ぬことになる」
(; ´_ゝ`)「......何?」
(゚、゚;トソン「一体、どういう......」
オトジャのその言葉に皆がざわついた。
とてつもない攻撃があったことは知っていた。
だが攻撃が終わったはずの今ですら近づくことが出来ず、近づけば死ぬというのは一体どういうことなのか。
言葉は理解できるが意味が全く分からない。
985
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:55:44 ID:RitR9poI0
(´<_` )「これは、人間達から聞いた話だ。あの攻撃......『かく』による攻撃は辺り一帯を汚染するそうだ」
( ´_ゝ`)「......汚染?」
(´<_` )「あぁ。すぐに効果は出なくても長くその場にいると臓器がやられるそうだ」
爪;'ー`)「......それって、もしかして最近流行ってるっていう、流行り病、ですか?」
(´<_` )「恐らくはそうだろう」
(; ´_ゝ`)「なんと......」
副次的な効果ではあるだろうが、その恐ろしさにアニジャは身を震わせる。
攻撃が終わったあとも影響が残り続け、多くの者の命を脅かす。
そこに命の優劣などはなく、ただひたすら存在するものを無差別に殺していくという事実はなんと恐ろしいことか。
戦いが終わったはずのこの国は、まだ戦争の悪夢から抜け出せず、それどころかこれからも殺されていく者がいるというのだから。
(´<_` )「まぁこれでもまだ、良くなった方らしい。攻撃直後に近づいたものは......即死したらしいからな」
(; ´_ゝ`)「......」
(゚、゚;トソン「......」
986
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:56:20 ID:RitR9poI0
(´<_` )「とはいえ、今も汚染されていることには代わりないし、無法地帯になりつつある。誘拐やら強盗やらもあるから近づかん方がいいだろうってことだ。さて、ここまでが今現在の影響の話なわけで、本題はこれからだ」
(; ´_ゝ`)「......攻撃自体の威力、か。その影響は?」
(´<_` )「要塞が消滅した。一撃でな」
(; ´_ゝ`)「......」
(´<_` )「周囲もその余波で焼き尽くされ、そこにいた者達は勿論即死......近くで生き残ったものも、汚染により死んだ」
(゚、゚;トソン「......」
(´<_` )「現時点で分かってるだけでも......10万は軽く超える数が死亡している。まだ増えるだろうし......倍以上になるかもしれん」
言葉が出なかった。
あまりに、被害が桁違いすぎた。
そこにいた全てが焼き尽くされたといってもおかしくない被害。
そんな被害をもたらすものは、神が作り出す災害ですらないのではないかー
自分達が相対してきた者達の底知れない恐ろしさ、ようやく理解できてきたと思っていた敵の力が、まだ全く理解しきれていなかったのだと嫌でも痛感させられる。
(; ´_ゝ`)「とんでもない......被害だな」
(´<_` )「あぁ。特に無理な徴兵のせいで働き盛りな者達が文字通り消し飛んでしまったからな......これからどうなることやら」
( ´_ゝ`)「そうだな......」
ただでさえ国がボロボロだというのにその国を支える者も少ないという事実。
これから先の将来に暗いものを残すことは確実であった。
987
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:57:08 ID:RitR9poI0
(´<_` )「それに......まあこれは『かく』による問題だけではないが、孤児が大量に発生してしまったというのも問題になっている。それを狙った誘拐者も多くてな」
( ´_ゝ`)「孤児......」
その言葉に思わず、近くにいた子供、ショボンに視線が向いてしまう。
急に集まる視線に驚いたのか、ショボンはフォックスの背後に隠れる。
爪;'ー`)「っと、大丈夫か?」
(;´・ω・`)「え、あ、はい......」
( ´_ゝ`)「あぁ、すまない。急で驚かせてしまったな......君が保護を?」
爪'ー`)「あぁ、はい。そうですね。戦時中も自分が子供の避難誘導をしてまして......親が見つからない子達はそのまま、という感じです」
(゚、゚トソン「へぇ」
爪;'ー`)「な、なんだよ」
(゚、゚トソン「いや、立派だと思ってね。やるじゃない」
爪'ー`)「え、あ、お、おう」
(゚、゚トソン「でも、あんた一人でちゃんと子供の世話なんて出来るの?まぁ、あれね。もしあれなら私がてつ」
爪'ー`)「あぁ、それなら......あ、丁度戻ってきた。おーい」
(゚、゚トソン「え?」
トソンがなにかを言おうとしていたが、それを遮るようにフォックスは遠くに向かって手を振る。
その様子に気がついたのか、手を振られた相手らしき者が何人かの子供を引き連れて近づいてきていた。
爪'ー`)「紹介します。えっと、彼女は自分と一緒に子供達の世話をしているペニサスさんです。教師とのことで凄くお世話になっていまして」
('、`*川「ど、どうも、初めまして。ペニサスと申します。教師といっても大したものではありませんが......」
988
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:58:56 ID:RitR9poI0
(゚、゚トソン「......」
爪'ー`)「彼女も子供と共に戦地にいたらしく、その流れで互いに協力して子供達の面倒を見ている感じで」
(゚、゚トソン「ふんっ!」
爪;'ー`)「おぐぅ!?な、何で殴る!?」
(゚、゚トソン「ちょっとムカついたので」
爪;'ー`)「......なんで?」
殴られた脇腹を押さえつつ、何がなんだか分からないという顔を浮かべるフォックスに対して、皆が呆れたような顔を浮かべる。
とはいえそこに何か口を挟むような野暮な事をするものはいなかった。
コホン、とアニジャが咳払いをしどうにか話を戻す。
( ´_ゝ`)「えっと、それでフォックス殿とペニサス殿が子供を世話しているとのことだが......先ほどまでペニサス殿は何かされてたのか?」
('、`*川「あ、は、はい。実は、その、えっと......軍人さん達には、言いづらいことなのですが」
( ´_ゝ`)「......なんだろうか?」
('、`*川「その......もう二度と、戦争をしないようにって、子供達と平和運動に取り組んでいるんです」
ξ゚⊿゚)ξ「......」
( ´_ゝ`)「っ」
その言葉に、そして向けられる子供の真剣な眼差しにアニジャは思わず息を呑む。
軍人であるアニジャ達にとってその言葉は何とも耳が痛いものであった。
確かに多くの者が傷つき、多くの物を失った原因は戦争であり、それゆえ平和を望むことは無理もないだろう。
989
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:59:45 ID:RitR9poI0
だがほんの少し前まで、この国を支えてきたものは何かと聞かれれば確実に軍であり、軍人達が国を支えてきたのだ。
それが今はどうか。
平和を望む彼女達にとって自分達は邪魔とまでは言わないものの、いい印象もないはずである。
さらに今回の戦争の大きな原因は軍上層部の暴走であるとアラマキが放送していたことも大きい。
プギャーに罪を被せるためであったとはいえ、その言葉に民は軍に対して強い怒りを抱くことになったのだ。
そうなればこの戦争で平和の有り難さを噛み締めた民がどうなるか。
そもそもやり場のないこの怒りの矛先を何処に向ければいいと言うのか。
その答がアニジャ達の目の前に広がる光景であった。
( ´_ゝ`)(......とはいえ現状、軍を全て無くすことなど出来ない。周りに敵が多すぎる。そんな国の支えが憎悪の対象となる、か)
(´<_` ;)「アニジャ......」
( ´_ゝ`)「仕方のないことだろう。これまで我々がしてきたことの罪滅ぼしだとして、受け入れるしかあるまい」
(´<_` ;)「......」
( ´_ゝ`)「......そして、謝罪すべきだろうな。君達に辛い思いをさせてすまなかった」
そうしてアニジャは子供達に向かって頭を下げる。
謝罪されると思っていなかったのであろう、子供は勿論、大人達もまた困惑したような反応が返ってきていた。
('、`*;川「そ、そんなっ!頭を上げてください。あなたが悪いわけでは......」
ξ゚⊿゚)ξ「なら、約束して」
( ´_ゝ`)「うん?」
だがそんな慌てた反応の中、子供であるはずのツンのみ、冷静にアニジャに声をかける。
睨み付けているわけではないが、力強い、揺るぎない視線がアニジャに向いていた。
その視線に気がつき、アニジャも子供を相手にするような態度から一変する。
990
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 21:00:21 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「......なんだろうか」
ξ゚⊿゚)ξ「平和を......戦争のない国を、世界を作るって。もう二度と、あんな......皆が苦しむような世界を作らないって。私の、大切な友達が死なない世界を作るって、約束してっ!!」
( ´_ゝ`)「......っ」
なんと純真で無垢な願いだろうか。
その願いは皆が望むものであるのは、間違いないだろう。
それでもこの世界から戦いが無くならないのだ。
様々な信念や宗教、国の在り方、そしてこれからはエルフと人間という種族という壁がある。
そもそも生きるもの一人一人の知能が異なるため、考え方も世界の見え方も異なるのだ。
全てを受け入れあい、理解しあい、そして手を取り合えることがどれだけ難しいかはこれまでの歴史が物語っている。
991
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 21:01:29 ID:RitR9poI0
ー不可能。
そう、言い換えても言いかもしれない。
だがそうして平和を諦めることは、果たして正しいと言えるのだろうか。
この真剣な眼差しを否定することが、どうして正しいと言えるのだろうか。
( ´_ゝ`)「......約束しよう」
ξ゚⊿゚)ξ「っ」
( ´_ゝ`)「共に、皆で作ろう。平和な国を、争いの......戦争のない国を」
(´<_` )「アニジャ......」
( ´_ゝ`)「俺達の時代は、この戦いで終わったんだ。次の国を作るのは我々ではなく、彼女達......子供達だ。その彼女達が望むならば、俺達も尽力するのが勤めだろう?」
(´<_` )「......あぁ、そうだな」
その道は決して楽なものではない。
むしろ険しく、そして終わりの果てが見えない道である。
だがそれでも彼らはその道を選ぶ。
言葉の通り、子供の理想の国家を作るために。
こうして、かつて武力により力を得たルナイファはその力を捨てた。
そして彼等は平和を求めて、歩き出したのだった。
992
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 21:02:28 ID:RitR9poI0
続く
区切りがいいので次の最終話は次スレ建ててそこに投下します
993
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 23:53:48 ID:8zdsyTbs0
乙!
プギャーさんは当然として、
戦争の前後で何も変わっていないクーに対しても、考え直してみて欲しいと思ってしまうな
994
:
名無しさん
:2023/12/24(日) 14:52:54 ID:dJsSyoeI0
乙乙
最終回寂しいけど楽しみ
995
:
名無しさん
:2023/12/25(月) 00:24:01 ID:wfM92j4M0
素晴らしい
過去の国ごと転移作品はここまでが序章であり、そしてゴールを決めていないせいで数多の名作がエターナの闇に散った
円満完結となるとジャンル中見渡しても片手の指で足りてしまうのでは?
996
:
名無しさん
:2023/12/30(土) 03:50:56 ID:Y9E2DG9o0
ワクテカ
997
:
名無しさん
:2023/12/30(土) 11:04:58 ID:APqrRrVI0
次スレ
異界大戦記のようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1703901879/
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