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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

597 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/14(水) 18:55:51
キューティーサーキット……とまでは行きませんでしたが
フク達なりのやり方で必殺技を編み出そうとするつもりですね。
実際に実現できるかはさておき。

598名無し募集中。。。:2015/10/14(水) 20:03:50
彼女達なりのQ期ーサーキットな訳ね

さてどんな必殺技&技名になるのか楽しみw

599 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/17(土) 12:53:25
次の更新は早くて日曜夜になりそうです、、、

600 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/19(月) 12:59:19
フクがモモコに必殺技に関するアドバイスを受け取っていたころ、
天気組団のアユミン、マーチャン、ハルの3人は番長らのいる病室に訪ねていた。
こちらの目的も、同様に必殺技について教わることだった。

「君は!!!!!」

最愛の人であるハルの登場に舞い上がったアヤチョは、
大怪我であるのもお構いなしにベッドから立ち上がっていく。
そして、ハルの登場に驚いたのはアヤチョだけではなかった。

「あーーー!この人ですよ!メイがアヤチョ王とお見合いさせようとした人はこの人です!」
「え!そうなの!」
「そうです!二人が主演の舞台を想像したら素敵だと思って……」
「メイは良い子だね……脚本はお願いするね。」

勝手に盛り上がるアヤチョとメイを前に、アユミンは呆然としてしまった。
アヤチョ王もハルも女なのに結婚だなんて、この人たちは何を言っているんだと思っている。
そんなアユミンとは対照的にハルは理解と対応が早いらしく
この流れを逆手にとるように、アヤチョに対して壁ドンを決めだした。

「ボクも愛してるよアヤチョ、だから頼みを聞いてくれないか?」
「ひゃああーーーなになに!?」

目の前の光景をもう見てられないと思ったのか、カナナンとタケはうつむいてしまった。
メイはパチパチと拍手しているし、リナプーは必死で笑いを堪えている。
そんな周りの反応も気にせずハルは言葉を続けていく。

「ボク達に必殺技を教えてくれよ。1か月でね。
 フクさん達に勝ってハルナンを国王にするにはそれが必要なんだ。」

さっきまでは浮かれていたアヤチョだったが、頼みを聞いてからの表情は真剣そのものだった。
そして目の前のハル、アユミン、マーチャンの顔を見ては、思ったままのことを言い放つ。

「全員に教えるのは無理だね。見込みがあるのは君だけ……そういえば名前はなんて言うの?」
「ボク?……ハル・チェ・ドゥーだよ。」
「ドゥーって言うんだ。アヤが頑張って教えても、必殺技を覚えられるのはドゥーだけだよ。」

その言葉にアユミンはショックを受けた。
自分は今まで必死に頑張ってきたのに、バッサリと切り捨てられたのがとても悲しいのだ。
そんなアユミンにフォローを入れるわけではないが、黙っていたマロが口を開いた。

「またアヤチョ、好みで選んでるんじゃないの?」
「違うよ!ドゥーの戦いを一瞬だけ見たけどアヤの雷神の構えに似てるの。
 あのスピードだったら未完成の技を扱えるかなって思って……」
「ふーん、そういうことにしとくわ」
「カノンちゃん、さっき(クマイチャンがいたとき)と比べてテンション低すぎじゃない!?
 そんなこと言うんだったらカノンちゃんが他の子に必殺技を教えてあげたらいいでしょ!」
「その子たちハルナンの部下なんでしょ?モチベーション上がるわけないじゃない」

結局自分は必殺技を覚えられないのだと知ったアユミンは気が重くなってくる。
同じ状況であるマーチャンもそう感じたと思ったのか、声をかける。

「マーチャン残念だね。私たち選外だってさ。」
「いいよ別に。あのひとに教わる気なかったもん。」
「え、じゃあ誰に教わるの?」
「アユミンには教えない。」
「えー!?」

601名無し募集中。。。:2015/10/19(月) 16:16:49
マーチャンが頼る人っていったらあの人以外考えられないけど…さて?w

602 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/20(火) 08:25:55
天気組団の面々が番長らの病室にいる一方で、
団長であるハルナンは今まさに帰還せんとする食卓の騎士を訪ねていた。
身体の痛みを無理矢理にでも抑えながら、ハルナンは声を掛ける。

「皆様!どうか私の話を聞いてもらえませんか!」

そう言った瞬間から、ハルナンの身体に異常が起こる。
まるで天高くから伸びる巨大な手で押し付けられたかのように身体が重いし、
全身を流れる血液がすべて凍りついたと思うくらいに寒気がするし、
突如発生した暴風雨に叩きつけられたと錯覚する程に息が苦しくなってくる。
これらの現象は食卓の騎士の3人が発したプレッシャーによるもの。
自分たちを利用したハルナンに怒っているのだ。

(やっぱり相手にしてもらえないか……でも!)

ハルナンは超攻撃的な視線を受け入れながら、自らその場に倒れこむ。
そして額を地へと強く擦り付け、伝説の英雄たちに懇願するのだった。

「お願いします……私の罪を、償わせてください……」

すぐに土下座だなんて安いプライドの持ち主だな、とモモコは思った。
ところが他の二人はそうは思っていなかったようで
マイミはそこまでするハルナンに興味を持ち始めていた。

「償い、と言ったが具体的に何をするつもりだ?」

ハルナンはこれをチャンスだと思った。
これから起こりうることを想像すれば非常に苦痛だし、今から吐き気もしてくるが
やり遂げなくてはならないという強い意志を持って返答する。

「これから一ヶ月間、マイミ様のお側に置いてください。
 雑務でもなんでもお申し付けください。すべて対応致します。
 決して逃げたりはしません。一ヶ月間、誠心誠意を持ってマイミ様に尽くします。
 それが私の償いです。」

ハルナンの言葉に一同は驚いた。
仮にもフクと並んで帝国No.2ともあろう者が自ら奴隷同然の扱いを買って出るなんて尋常ではない。
そもそもそんなことが簡単に許されないことをモモコは理解していた。

「あなたねぇ、もう良い大人なんだから立場ってものを……」
「許可なら、得ています。」
「ん?」
「サユ王には皆様にちゃんと謝っておけと言われています。
 そして、これが私の精一杯の謝罪です。
 皆様さえ良ければ、私は全力でマイミ様に尽くすつもりです。」

全力という言葉にマイミは弱かった。
正直ハルナンが何を企んでいるのかは分からないが
謝りたい、という思いにはこちらも全力で応えたいと考えている。

「良いだろう。そこまで言うなら付いて来い。
 ただし殺気は緩めないぞ。一秒たりとも油断はしないつもりだ。」
「願ったり叶ったりです!その嵐なようなオーラを常に私に向けてください!!」

603名無し募集中。。。:2015/10/20(火) 12:53:42
どんな裏があるのか…ゾクゾクするねぇ

604名無し募集中。。。:2015/10/20(火) 13:24:51
ハルナンMだからむしろご褒美のような?w

605 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/20(火) 21:21:41
各々が自分に合った鍛錬法を見つけた日から数えて、ちょうど一ヶ月。
モーニング帝国城には3名の客人が招き入れられていた。
いや、客人と言うよりは来賓と呼ぶのがより適切かもしれない。
何しろ彼女らが廊下を歩くだけで、みなが勧んでこうべを垂れるのだから。

「マノエリナ、今日も付き合わせてしまって申し訳ないとゆいたい。
 私が外出する時はいつもいつも迷惑をかける。」
「別に。予定も何もない干物女なんで気にしないでくださーい。
 それにマーサー王、もしも何か有った時に止めるのが私の役目なんですからね。」
「あはははは。あの事件以降、何か有ったことなんて無かったじゃないか。」
「油断大敵って言うじゃないですか!マイミさんはまったく……」

その3人はマーサー王国の重鎮も重鎮。
食卓の騎士に2名存在する戦士団長の一人であるマイミ。
国王直属の親衛隊長であるマノエリナ。
そしてマーサー王国を束ねる若き女王、マーサー王その人であった。
彼女らがモーニング帝国まで訪ねてきた理由は、わざわざ説明するまでもないだろう。

「王、ここが決闘の場ですよ!」

マイミが訓練場の扉をバン!と開けると、
そこには辺り一面ガレキだらけの光景が広がっていた。

「ははは……ここがクマイチャンが暴れたという訓練場か……これはひどい。」
「弁償しなきゃですね。クマイチャンさんのお給料から出しておきましょう。」

マーサー王の言葉は誇張などではなく、訓練場は本当にひどい有様だった。
床はガタガタになっていて、腰の位置まで突き出る木材も珍しくはないし
本来は屋根があるはずの天井を見上げれば、お天道様が顔を出している。
要するに、この施設は訓練場としての体をなしていないし
ましてや決闘なんて出来るような場所には到底見えないのだ。

「そこをあえて決着の場に選んだということは……彼女らの覚悟、並ではないのだな。」

マーサー王は視線を前へと移した。
そこには深く頭を下げる9名の剣士と、
おじぎ15度くらいしか頭を下げていない美女が待ち構えている。

「マーサー王、ご機嫌麗しゅう〜」
「サユ王!こうして出会えたのは久しぶりだなとゆいたい。」

606名無し募集中。。。:2015/10/20(火) 22:57:43
ついにマーサー王登場!だとゆいたい。

この口調を聞くと「マーサー王」って感じがするねw

607名無し募集中。。。:2015/10/21(水) 08:29:32
前作からしてタイトルにあっても当のマーサー王が出てくるシーンめちゃ少ないけどねw

608 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/21(水) 08:38:22
マーサー王を前にした帝国剣士達は、全身が痺れるような思いだった。
その理由は王が煌びやかな装飾を身につけてるからでも、立派なマントをまとってるからでもない。
その存在感の大きさに押し潰されそうになっているのだ。
食卓の騎士であるマイミの台風のような圧も相当だが、
マーサー王は人当たりの良さそうな外見の内に、とんでもない化け物を仕舞い込んでいそうな迫力があるため
帝国剣士らは恐ろしく感じていたのである。
そんなマーサー王やマイミと共に現れたマノエリナなる人物も油断ならない。
放つプレッシャーが具現化して他者に襲い掛かる……と言ったレベルまでは達していないが
アヤチョやマロと対峙した時と同じくらいの緊張感は常に感じさせていた。
そんな傑物3名が、これからの戦いを見届けるために所定の位置についていく。

「ところでマイミ、マノエリナ」
「「はい!」」
「帝国剣士たちは我々を前に萎縮しているようだが、それでも二本の足でしっかり立っている。
 まだサユが現役だった頃の彼女らと比べると、かなり成長したように見えるとゆいたい。
 成る程たしかにサユを継いで帝王の座を勝ち取ってもおかしくない人物ばかりだ。
 そこでだ、二人は勝負の行き先をどのように見る?」

マーサー王には先祖の血が流れているせいか、少しばかり好戦的な性格をしていた。
とは言え戦争をするつもりは一切ない。ちょっとしたゲームを好む程度の"好戦的"だ。
そんな王の興味に、マノエリナはちょっとだけ付き合うことにした。

「下馬評通りならフク・アパトゥーマ率いるQ期団が勝利するでしょうね。
 個々の戦闘能力が高いし、それにフクはあのアヤチョ王も打ち破ったとか……
 今回の相手にアヤチョ王以上の実力者はいなさそうですし、確定と言ってもいいと思いますよ。」

マノエリナの予想を聞いたマーサー王は、そうかそうかと頷く。
確かに順当にいけばその通りになるだろう。
ところが、マイミはそうは思っていないようだった。

「マノちゃん、お前はハルナンを知らないな。」
「ハルナン?あぁ、最近マイミさんの周りにいたあの子ですか。
 いかにも貧弱そうだなぁと思いましたが、それが何か?」
「確かに身体は貧相だ。だがその小さな胸の奥に宿る執念は並ではないぞ。
 なんせこの一ヶ月間、私のトレーニングや防衛任務にすべて付いてきたのだからな。」
「「!?」」
「この勝負、どうなるのか全く先が読めないぞ。
 下馬評を覆すことだって十分にありえる!」

609 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/21(水) 08:39:23
確かにマーサー王登場まで半年かかりましたねw
この先も出番はあまり多くないかも………

610名無し募集中。。。:2015/10/21(水) 11:12:29
貧相…小さな胸…マイミ誉めてるんだかけなしてるのやらw

マーサー王は例え出番少なくとも存在する事で充分…

611名無し募集中。。。:2015/10/21(水) 11:51:45
マーサー王は存在感!

今後出てくるであろうみんなの必殺技とかも楽しみだ

サユとオダもどうなるかな?

612 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/21(水) 18:09:51
「メインイベントも良いけど、今はエキシビジョンマッチに注目してほしいな〜」

マーサー王たちにそう言い放ったのは、いつの間にか訓練場の中央辺りまで移動していたサユだった。
いつもの豪華なものとは異なった、動きやすい訓練着を着用しており
その両手には鏡のように美しく磨かれたレイピアとマンゴーシュが握られていた。
対戦相手であるオダ・プロジドリを負かすために、一時的に剣士に戻ったのである。
この極めて希少な光景に帝国剣士一同は湧き上がったが、
ここで、余計なことが頭をよぎってしまった。

「ねぇみんな……ちょっと思ったんだけど……」
「カノンちゃんも思ったと?……ぶっちゃけサユ王って……オーラ薄いよね。」

エリポンは決してサユに聞こえないくらいの小さな声でカノンに返した。
本来ならば一国の王に対してオーラが薄いなどとは到底言えないはずなのだが
フクもサヤシもそれに対して非難することなく、コクリと頷いてしまった。

「サユ王だってあの時代を戦い抜けた伝説の戦士のはず。
 でも、マーサー王様やマイミ様と比べると……」

帝国剣士らは食卓の騎士の放つプレッシャーの凄さを知ってしまっている。
時には身体を重くしたり、時には血を凍らせたり、時には嵐を起こしたりと
凄腕の戦士から滲み出るオーラは天変地異のようなビジョンを見せてくれていた。
ところが、サユにはそれが無いのだ。
もちろんサユにだって威圧感はある。だがそれは良いとこアヤチョやマロ、マノエリナ程度。
食卓の騎士には遠く及ばない。
では戦士を退いたブランクでそうなったのかとも思ったが
そもそも戦士では無いマーサー王があれだけ尊いオーラを纏ってるのだから、言い訳にもならない。
これまで尊敬していたサユ王が大したこと無いのかも……と思い始めた帝国剣士たちの心境は複雑だった。

「ひょっとしてオダちゃんにも負けたりして」
「エリポン!そんなバカなこと言っちゃダメ!」

言葉ではそう言うフクだったが、心から固く信じることは出来なかった。
決闘前にこんなに心を乱しては良く無いと思い
首をブンブン振ってから、改めて中心へと目をやった。

「あれ、そう言えばオダちゃんはどこにいるんだろう……」

もうエキシビジョンマッチが始まる時間だというのに、中央にはサユ王しかいなかった。
マーサー王に礼する時は確かにいたのに、いったいどこに消えたのだろうか?

「ちょっとオダー? あなたが戦いたいってい言い出したんだからさぁ……」

サユは呆れたような顔をして、剣を持つ腕をダラリと下げた。
せっかくこの日のために用意をしてきたのに、遅刻で無効試合だなんて締まらない。

「あと1分で約束の時間じゃない……本当にどこに行ったのあの子。」

決闘の場にサユだけ立っている、といった時間がしばらく続いた。
開始時間まで残り10秒といったところでもそれは変わらない。
残り3秒
残り2秒
残り1秒

約束の時が来た、まさにその時。
サユ王の右ももから間欠泉のように血が吹き出していく。

「……え?」

613名無し募集中。。。:2015/10/21(水) 20:12:15
エキシビションキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

614名無し募集中。。。:2015/10/21(水) 21:24:03
サユの白く美しい太ももがー!!!
これじゃあサユの華麗な剣技が見れない…

615名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 00:13:04
サユ王は闘いそのものより精神面とかで引っ張ってきたんだろうね

616名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 00:27:17
今回サユ覚醒後はどうなるのかな〜

617名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 06:42:54
ちゃゆううううううううううううう

618 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/22(木) 08:22:45
「オダか……!!」

サユは何もないところから攻撃されたのではない。
非常に見え難くなっていたオダに、開始時刻きっかりに斬られたのである。
ではこんな開けた場所のどこにオダは隠れていたというのか?
その答えに、サユは辿り着いていた。

「太陽の光に隠れてたってこと?その剣を使って。」
「ご名答です。」

右ももを抑えながら苦痛の顔をするサユにオダは追撃を仕掛けなかった。
攻めと退きのタイミングを見極めることで、確実に王を仕留めるつもりなのだろう。
このようなヒットアンドアウェイを可能にするのがオダのブロードソード「レフ」だ。

「その鏡のような剣で光を屈折させることで、外から見え難くさせてる……ってところかしら。」

この訓練場の天井は、クマイチャンの必殺技によって大きな穴が開けられている。
つまり、オダの好む太陽光が直に注がれているのだ。
しかもあらゆる瓦礫が滅茶苦茶に散らばっていることから、
通常の人間では把握できないレベルで乱反射している。
これら全ての光を把握し、しかも自在に操ることのできる者は
光の当たり方を極めたプロであるオダ以外には数名しか存在しないだろう。

「オダ、あなたは正統派と聞いていたんだけど?」

溢れる血を無理矢理に抑え込んだ結果、手が真っ赤に染まったサユは
なんとかペースを掴もうとしてオダに質問する。
だが覚悟を決めてきたオダはその程度では流されなかった。

「黙っていてすいませんでした。 だって私は天気組団の……」

天気組団は全員が一つずつの天気に対応した戦い方を得意としている。
雨の剣士ハルナンは敵の肉を削ぐことで血の雨を降らせる。
雪の剣士アユミンは地面を慣らして敵を滑りやすくする。
曇の剣士マーチャンは火煙を起こして一酸化炭素中毒を狙う。
雷の剣士ハルは雷速の如き猛攻を得意とし、感情という名の電気信号も操る。
そしてオダは……

「晴の剣士、ですから。」

そう言うとオダはまた光の中にすうっと消えていった。
また見え難い位置からサユを攻撃するつもりなのだろう。
このような戦い方をするオダに対して、ハルはつい声を荒げてしまう。

「オダちゃんズルいぞ!光に隠れるのはともかく、不意打ちで王に切り掛かるなんて……」

確かにハルの言う通り、オダの初撃は卑怯ととられても仕方のないものだった。
決闘前から姿を見せずにいきなり喰らわす攻撃は、口が裂けても正々堂々とは言えない。
ところが、普段はオダに対してキツく当たるアユミン・トルベント・トランワライは
今回の戦法に理解を示していた。

「やめなよハル。」
「アユミン!お前は何も思わないのかよ!」
「オダは自分が卑怯だってことを全部理解している。そういうヤツだよ。
 凄いのは恥だと理解した上で実行しちゃうところなんだ。
 私は負けたくない一心でエリポンさんとサヤシさんから逃げたことがあるけど
 あれはとても恥ずかしかった……本当に辛かった。」
「アユミン……」
「なのにオダはすました顔をしながらあんな事を平気でしてる。本当にムカつくヤツだよ……」

アユミンの言葉に、隣で座っていたマーチャンも続けていく。

「オダベチカは卑怯じゃないよ。」
((オダベチカってなんだ……?))
「だってミチョシゲさんすっごく強いもん。だからオダベチカが何をやっても卑怯じゃないよ。」

619名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 08:32:50
ここにきてオダベチカw
もしかしてハルナンはオダの「晴れ」の能力も計算して訓練場を選んだんじゃないかと疑いたくなるなw
本当は観客席から目くらましとかの援護させる予定だったとか…

620名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 09:18:37
朝から更新キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
続きwktk

621 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/22(木) 19:45:18
オダが光に隠れたということは、またすぐにでも仕掛けてくるはず。
ところが狙われる側のサユはその場から動かなかった。
何か策でもあるのかと一同は思ったが、苦悶の表情がそれを物語ってはいない。
サユ王は動けないんだ、と皆が理解した。

「嘘じゃろ?……たった一撃もらっただけなのに……」

サユがこれまでに受けたのは右ももに受けた初撃のみ。
だというのに彼女はそこから動けなくなるほどに苦しんでいる。
いくらブランクが有るとは言っても、完全な棒立ちになるのはあまりに酷い。
仕掛け人のオダもコトがうまく運び過ぎているので少し不審に思ったが、
サユ王が歯を強く食いしばりながら耐えているのを見て、好機は本物であることを悟りだす。

(よく分からないけどこれは二度とないチャンス。
 ここで攻めきれなければ絶対に後悔する!)

オダは急ぎながらも、且つ物音を立てぬようゆっくりとサユに接近していく。
光の強く当たる部分を縫うように突き進み、
少し手を伸ばせば敵を切れるところにまで到達した。

(勝てる!私は王に勝てるんだ!)

オダは、自分が帝国一の剣士になったのかもしれないと思った。
まさに有頂天だった。
凶刃が目の前にまで突き出されるまでは。

「キャッ!?」

たった一瞬。まばたき一つくらいの隙を突いて
サユのレイピアはオダの眼球を貫こうと飛び出していた。
見えているわけのない相手からの攻撃に反応できるはずもなく
オダはその場に突っ立ったまま、回避行動をとれなかった。
しかし何か様子がおかしい。
あんなに勢いよく放たれた刃が、オダの目に当たる直前で停止していたのである。
脅しにしては鋭すぎた斬撃に、オダは何が何なのか分からなくなってしまう。
そして、その斬撃を放ったはずのサユを見て、オダは更に混乱していく。

「あなたは大人しくしてなさいよ……」
「!?」

混乱の原因は、右手のレイピアではない方の剣。
つまりは左手に握られたマンゴーシュの行き先にあった。

「え?そんな、サユ王……いったい何をしてるんですか」
「大人しくしてなさいって言ってるでしょ!!」
「ヒィッ!」

なんとサユは、左手のマンゴーシュで自身の右腕を刺していたのだ。
これでオダの目を貫く寸前で刃が止まった理由は分かった。
自身を痛めつけることでオダへの攻撃を強制的に止めたというワケである。
だが、こんな異常行動をとる理由まではまったくもって分からない。
オダだけでなく、他の帝国剣士らもパニックに陥ってしまう。

「なんだなんだ、サユは帝国剣士たちに秘密を打ち明けていないのか。」

辺りをキョロキョロ見回しながら呟いたのはマイミだった。
マイミに並んで、マーサー王とマノエリナも冷静な顔をしている。

「そりゃそうだとゆいたい。
 身体の中に化け物を飼っていることを知られたくない気持ちは、痛いほどよく分かる。」

622名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 21:01:16
王になったらアレを使わずに戦う方法を身につけてるかと思ったが…そうもいかないか

623名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 21:18:34
サユは愚直で不器用で変態だからなぁ〜

624 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/23(金) 08:41:32
サユの秘密。
それは多重人格者であることだった。
彼女の器の中には「マリコ」という人格が同居していて、
数年前からはそのマリコとも対話できるようになっていたのだ。
しかしこのマリコ、非常に幼稚な性格をしており
気に入らないものを捻り潰すまで暴れることも珍しくはない。
美しく戦うことを信条とするサユとはまったくの大違い。
共通点といえば自分を好きなことだけ。
そのためサユはマリコを外に出さぬよう常に尽力していたのだ。
今もこうしてサユとマリコとで自問自答をしている。

(マリコ!大人しくしなさいってば!)
『やなの!やなの!あいつ生意気だから〆てやるの!』
(あなたが出たら本当に殺しちゃうでしょ……)
『それの何がダメなの?あいつはマリコの脚を斬ったの。万死なの。』
(帝国剣士は私の可愛い後輩たちなのよ。それを傷つけるなら例え自分でも許さない!)
『うるさいの。さっさと肉体よこせなの。』
(そっちがその気ならこっちにだって手が有るわ。)
『なんなの?』
(あなたがオダの命を奪ったら、私は自害する。)
『え?……』
(マリコ、あなたの活動時間はそう長くはないはずよ。
 肉体が私に返ってきたらすぐに心臓に刃を入れてやるわ。)
『なんでなの!?そんなことしたらマリコもサユも消えちゃうの!
 頭がおかしくなっちゃったの!?』
(嫌なら大人しく眠ってなさい。少なくともあの子たちの決闘が終わるまではね。)
『むぅ……最近表に出てないから暴れ足りないの。』
(それなら安心して。きっと大暴れできる日は近いはずよ。)
『そうなの?』
(もうすぐで帝王のお仕事はおしまい。そしたらエリチンやレイニャ達と毎日遊びましょう。
 だからちょっとの間だけ我慢して。)

ふぅ、と息を吐いてサユは腕に刺さったマンゴーシュを抜いていった。
かなりの損傷だというのに、今の彼女はもう苦悶していない。
とても晴れやかな表情をしている。

「失礼。それじゃ続きを始めましょう。」

凶悪な感じがすべて抜け切ったはずのサユだったが
オダはそんな彼女を見て、さっき以上に恐怖を感じてしまう。
そしてそれはオダだけではなく、他の帝国剣士たちも同様だった。

「サユ王の身体から……光が出てる……」

625名無し募集中。。。:2015/10/23(金) 09:24:09
マリコと対話出来るようになったって…かなり凄い事だと思う
サユ王は光のオーラなのかな?

626名無し募集中。。。:2015/10/23(金) 19:49:39
更新頻度が高いから続き読むのが益々楽しみ

627 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/23(金) 21:25:49
サユから発せられる光は、後光と言ったレベルを遥かに凌駕していた。
明らかにサユの身体そのものが発光しているのだ。
人体がこうもまばゆく輝くことなんて本来ありえないため、
それがサユの放つプレッシャーが具現化したものだということは、すぐに分かった。

「凄いっちゃん……食卓の騎士に全然負けとらん……」

普段サユは、力の半分をマリコを抑え込むために費やしている。
つまり、マリコを説得して引っ込めた時だけは全力を発揮できるようになるのだ。
その時やっと、王は歴戦の戦士として相応しいオーラを纏っていく。

「オダ、どうせなら万全な私と戦いたかったでしょ?」
「……!」

より強い者を倒したいという思いは確かにオダも持っていたが
ここまでクッキリと視認できる形で威圧されたら敵わない。
しかもサユが見せるビジョンはよりにもよって「光」。
太陽光と複雑に入り混ざって、どれが本物の光なのか分かりにくくなっていた。

(でも!私には分かる!)

オダはブロードソードをぎゅっと握り直し、改めてサユに斬りかかった。
そして長年の経験を元にサユの光と太陽光を区別し、
本物の光だけをブロードソード「レフ」で反射させた。
とは言っても此の期に及んで光の下に隠れようとは思っていない。
狙いは「モーニングラボ」でマーチャンを撃破した時にやってみせた「回避不可能の一撃」だ。
あの時は真っ暗な室内で、炎の灯りをマーチャンの目に反射させることで目を潰したが
今回は本当の太陽光をサユの目に送り込もうとしているのだ。
いくらサユが光を纏う戦士だとしても、日光を目で受けて平気でいられる訳がない。
眩しさで苦しむうちに攻撃を仕掛ければ、サユは回避できずに斬られるはずだ。

(王が格上なのは認めるけど、この勝負だけは私が勝つ!)

この状況でも冷静さを保っていられたオダは、見事にサユの方へと光を飛ばすことが出来た。
残りは目の潰れたサユをゆっくり斬るだけで終わりのはずだった。
しかし、全力を取り戻したサユにはそれすらも通用しなかった。
右手のレイピアをピッと上げて、オダの放った光をどこかにはね返しててしまう。

「えっ!?」

あっさりと容易く対処したサユをみて、オダは信じられないといった顔をする。
サユのとった行動が超のつくほどの高等技術であることを彼女は知っていたのだ。
留まる光を反射するならともかく、飛んできた光を返したのだからその腕前は人間離れしている。

「残念だけど、鏡と光の扱いに関しては年期が違うのよね。」

ショックで一瞬止まったオダに対して反撃するため、サユは一歩踏み込んだ。
そして鏡のように綺麗なレイピアをオダの左ももに突き刺し、こう言ってのける。

「これが私の必殺技。 ヘビーロード"派生・レイ(一筋)"。」

628 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/23(金) 21:26:39
最近の更新頻度をどこまで保てるかは分かりませんが……w
とにかく、やれるだけはやってみます。

629名無し募集中。。。:2015/10/23(金) 21:40:28
戦闘シーンは更新頻度高い方が熱が冷めにくくてありがたいです
でも無理はなさらずにご自身の更新ペースで

630名無し募集中。。。:2015/10/24(土) 00:37:17
早くも更新が!テンポよく読めてありがたいわー

『ヘビーロード"派生・レイ』って名前格好いいなと思ったら『道重一筋』かwこのパターンだと派生いくつもありそう(誕生日の数だけ?)ww

631 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/24(土) 11:47:25
レイピアは一筋の光のように鋭く、オダの脚の中へと侵入していった。
ところが剣の切っ先は長く刺さることはなく、
すぐにサユの側へと引き戻されてしまう。
つまりは細い針がたった一瞬突き刺さっただけのこと。
健康診断で注射を受けるのと同程度の痛みしかない必殺技に、オダはまたも困惑する。

(これが必殺技って……サユ王、いったい何を考えてるの?)

訓練場を一撃で壊滅状態にしたクマイチャンの必殺に比べると、サユのヘビーロード"派生・レイ(一筋)"はあまりにも弱すぎる。
だがオダはもうサユの実力が劣ってるなどとは思わなかった。
必ず何かある。そう信じて一旦退くことに決めたのだ。
元気をとり戻したとはいえ、サユの脚からはまだ血が流れ続けている。
あの状態で瓦礫の山を移動するのは困難であるはずなので、
逃げ回りながら戦う作戦へのシフトを考えていた。
しかし、サユの必殺技はそれをさせなかった。

「えっ!?脚が重い……」

少し段の高いところに上がろうとしたオダだったが
急に脚が重くなったために中断せざるを得なくなってしまった。
原因は疑うまでもない。さっき喰らったサユの必殺技に決まっている。
そう思ってサユの側を振り向こうとした時には、既にふくらはぎを3回刺されていた。

「!?」
「重いでしょ?もっと重くしてあげる。
 ヘビーロード"派生・アフターオール(結局)"。」

このまま喰らい続けるのはまずいと考えたオダは必死で逃走しようとする。
すると意外にも彼女の脚は高くまで上がることが出来ていた。
これならばサユと距離を取ることも出来るかもと思ったが、
3、4歩ほど歩いたところで転倒してしまう。
結局、脚の重さには勝てなかったのだ。

「!?……なんで、なんで動けない……」
「オダ、あなたのことだからきっと毎日のように瓦礫の上を走る訓練をしてたんでしょ。」
「なんでそれを……!」
「疲れてるのよ、その脚。 針の感触から全部わかる。
 そんな脚ならね、ちょっといじめてやるだけで十分潰せるの。」
「!!」

サユの細いレイピアには二つの役割がある。
一つは相手の脚の状態を把握するための触診としての役割。
そしてもう一つは筋細胞を潰すための攻撃手段としての役割だ。
すぐに相手を殺せるような即効性は持ち合わせてはいないが
じわじわと相手をなぶるような、えげつない戦法を得意としている。

632名無し募集中。。。:2015/10/24(土) 22:36:08
圧倒的だな

633 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/25(日) 13:50:06
「脚がダメなら!」

オダは転倒したままの姿勢で、その辺に散らばる木片を拾い上げた。
サユに一度も針を入れられていない上半身の力で投げれば通用すると考えたのだ。
だがオダは剣士としての技能こそ優れているものの、パワーそのものは帝国剣士の中でも中位程度。
半端な力で投げつけた破片はサユのマンゴーシュによって簡単に弾かれてしまう。

「私はその気になれば銃弾も防げるのよ?もっと考えて戦いなさい。」
「くっ……」

うまく機能しない脚部を無理やり動かそうとするオダだったが、
それよりも速くサユは接近し、右脚と左脚のそれぞれにレイピアを数回突き刺していく。
赤い斑点が高速でポツポツと発生していく様はとても痛々しい。

「あっ……!!」
「今のはヘビロード"派生・スティール(今尚)"と"派生・トゥーレイト(今更)"。
 何かしようと考えて動き出そうとしたんだろうけど、ごめんね、きっと無駄になるよ。
 足取りの重さは今尚続いているし、今更すべてが手遅れ。」

オダの脚は生まれたての小鹿のようにプルプル小刻みに震えている。
こんな状態では例え立ち上がれたとしても、もう歩きまわることは出来ないだろう。
唯一の勝機と言えばサユが近くにいる今のうちに斬撃を当てることくらいだったが
それを見越していた王はすでにオダから距離をとっていた。
すました顔ですたすた歩くサユ王を見て、マノエリナは小さな声で呟いた。

「本当にペテンですよね、あの人。 派生がどうのこうの言ってるけど全部同じじゃないですか。
 マイミさんの動体視力で見ても違いなんか無いでしょう?」
「そうだなマノちゃん。全部脚を斬るだけの同じ技だ。」
「わざわざ名前を変えることで相手を惑わせる……っていう効果は認められますけどね。
 特にオダ・プロジドリのような頭で考えるタイプには必要以上に効いちゃうのかも……
 あ、じゃあマイミさんには通用しないのかな。」
「あははは、私の脚は鋼鉄製だからな。確かに通用しないだろう。」
「や、そういう意味じゃなくてですね。」

634名無し募集中。。。:2015/10/25(日) 15:11:23
バカダナーw

635名無し募集中。。。:2015/10/25(日) 15:50:12
マノちゃん酷いよ…w

636名無し募集中。。。:2015/10/25(日) 17:54:00
うむ、さすがマイミだw

637 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/26(月) 12:50:44
サユとの差を見せつけられたオダの心は完全に折れかけていた。
いま思えばサユに宣戦布告した時のことがとても恥ずかしくなってくる。
可能であればこのまま消滅してしまいたいくらいだ。
ハルのような性格をしていれば黒歴史に気づかず平気な顔を出来るのかもしれないが、
それなりに周りの空気の読めるオダはそうもいかなかったのだ。
そうなった時のオダは大抵、開き直っている。
「自分は空気の読めない子ですよ〜」と言った態度を示すことで、羞恥心を軽減させてきたのである。
今回もサユ王に勝てなかったのは悔しいが、
「いやぁ、やっぱりまだまだでした。」とでも言えばなんとかプライドを傷つけずに場を収められるかもしれない。
だが、今のオダにはそう振舞うことは許されていなかった。

(先輩方の前座なのよね、これ。)

エキシビジョンが始まれば、お次は次期帝王を決める決闘が始まる。
絶対に勝利を手にするために努力してきた先輩たちを前にして、
「勝てそうもないので降参します。」なんてどの口が言えるだろうか。
最後の最後まで死闘をつくさねば、次へとバトンを渡すことなど出来やしない。

「サユ王、お気をつけて。」
「ん?」
「私の気持ち、まだ切れてませんから。」

オダはマーチャンとの戦いを思い出していた。
苦しい状況下で歯を喰いしばらねばならないのはあの時と一緒だ。
常に斬新な攻撃法を編み出さねばならないのもあの時と一緒だ。
そう、シチュエーションは大して変わらないのである。
あの時自分はどうやって勝ったのか、オダはそれを思い出しながら最後の一撃をぶちまける。

638名無し募集中。。。:2015/10/26(月) 13:27:51
オダが覚悟を決めた最後の攻撃はどうなるんだろ?まだ使われてない・・・とかがくるんだろうか?w

639名無し募集中。。。:2015/10/26(月) 18:30:31
ハルナンが帝王になる世界があってもええねんで
http://livedoor.sp.blogimg.jp/halopos/imgs/8/8/88ee6a19.jpg

640 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/27(火) 09:09:11
オダがマーチャンに勝つ時の決め手になったのは、
棍棒のように重く巨大な両手剣を投げつけた行為だった。
それが今回も有効だと考えたオダは、自身のブロードソードを這ったままブン投げる。
確かに瓦礫を放るよりは効き目が有りそうではあるが、
それがサユに通用するかどうかは疑問だ。
ハルとアユミンもつい言葉に出してしまう。

「ヤキが回ったか!?……あんなの簡単に弾かれるだろ……」
「しかもこれで自分の武器を失い形になる。オダは終わりだよ。マーチャンもそう思うでしょ?」
「うん、ミチョシゲさんには通用しない。」
「だよね。」
「でも……アイツには効く。」

この時サユは、オダの期待ハズレな行動に少しガッカリしていた。
最後まで諦めなかったのは評価できるが、いかんせん行動が幼稚すぎる。
さっき「銃弾も防げる」と言ったばかりだというのに、その銃弾よりもずっと遅い攻撃じゃ意味がないのだ。
もうこれ以上の成果は見込めないと思ったサユは、飛ぶ剣をさっさと撃ち落として、決着をつけようとする。

(あれ?……この軌道は。)

ここでサユは初めて気づいた。
剣はただ闇雲に投げられたのではなく、サユの顔に向けられていたことを。
確かに人間は顔面への攻撃を恐れるし、場合によってはパニックを起こす場合も考えられる。
オダはそれを狙ったのかもしれない、とサユは考えた。
もっとも、冷静なサユにはそんな攻撃は通用しない。
自分の顔面に迫る攻撃だろうと、顔色ひとつ変えず跳ね除ける自信がある。
だが、サユではない存在はそうもいかないようだった。

「やなのっ!!!」

サユ王は耳をつんざくような大声をあげながら、レイピアを飛んできたブロードソードに叩きつけた。
いや、これはサユではない。マリコだ。
他の何よりも大切な自分の顔が傷つくのを恐れて、前面に出てきてしまったのである。
そんな状態で出てきた訳なのだから、当然マリコは怒っている。

「お前……絶対に許さないの!!」

マリコは一心不乱にオダの元へと向かい、倒れ込んでいるオダに右手の剣を振り下ろした。
その憎しみと殺意がたっぷりと籠められた剣で斬られたら今度こそオダの命は失われてしまうだろう。
だからこそ、サユは必死で抵抗する。
暴走するマリコの刃を止めようと、左手の剣を右手の甲にぶっ刺したのだ。
もちろん激痛。だがこのまま後輩を失うよりはずっとマシ。
サユ王は苦しみの中でそう思っていた。

「いやぁ、やっぱりまだまだでした。」
「……?」

自分の命が危険に晒されていたのを知ってか知らずか、
ほとんど寝たままの姿勢でオダがそんなことを言うのだから、サユは不思議に思う。
しかもその言葉は、オダが自信のプライドを守るために用意された「開き直り用」の言葉だ。
もっとも、今回に限っては開き直りとしては使われていない。

「私の実力じゃサユ王には絶対に勝てないと思いました。
 ですので、王を傷つけるために王を利用させてもらいましたけど、いかがでした?
 よく分からないけど、王の中にはもう一人の王がいるんですよね?」

敗北確定の状況にもかかわらずニヤニヤと笑うオダを見て、サユはゾッとした。
そして、同時に嬉しくもあった。
最後まで戦い抜くだけではなく、ちゃんと敵を倒すために頭をフル回転……即ちブレインストーミングしたのが嬉しかったのだ。

「立派ねオダ。だから私も敬意を持って応えるわ。
 最強の技と最後の技、両方同時に味あわせてあげる。」

641名無し募集中。。。:2015/10/27(火) 11:38:14
もう見抜いたかオダ!さすがだな


サユ「『マリコは抑える』『部下も守る』
『両方』やらなくっちゃあならないってのが『帝王』のつらいところなの」

642 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/28(水) 18:28:16
もう少しで決着ではありますが、
次の更新は明日になりそうです、、、

>>641
サユラティですかw

643 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/29(木) 12:59:21
サユは秒間に十数回もの速さでオダの両脚を滅多刺しにした。
ここまで来るともう痛みや重さを感じるレベルを超越しており、
まるで脚そのものが無くなってしまったと錯覚するくらいに力が入らなくなる。
擬似的な下半身消失の影響はギリギリのところで起き上がらせていた上半身にも及び、
全身が床に吸い寄せられたかのようにうつ伏せてしまう。
即ちオダは地に依存せざるを得ない身体になったのだ。
これまで何回か抵抗してきたが、今度こそ本当に限界。

「ヘビーロード"派生・ディペンデンス(依存)"。
 そしてヘビーロード"派生・リミット(限界)"。
 これを受けて立ち上がった人間は1人も存在しないわ。
 よく頑張ってくれたけれど、これで決着ね。」

サユは喋る気力すら失ったオダを、そっと抱きかかえた。
このままお姫様抱っこの形で立ち会いの席に連れて行こうとしているのだ。
こうなると、オダの脚から吹き出る血液がサユ王の身体にベッタリと貼り付いてしまうので
フクやハルナン達が代わりにオダを運ぼうと慌てて立ち上がった。
ところが、サユ王はそれを良しとはしなかったようだ。

「何してるの?オダは私が運ぶのよ。あなた達は次の準備をしていなさい。」
「で、でも王にそんなことをさせる訳には……」
「フクちゃん!」
「う、うす!」

急に怒鳴られたので、フクは今までしたことの無いような返事をしてしまった。
それだけサユの怒号の迫力が凄まじかったのだ。

「オダは次の決闘を汚さないために最後まで諦めずに考え抜いたのよ。
 なのにここであなた達に負担がかかったら全て台無しになるじゃない!
 オダは私が運んで、私が応急処置をするの!ちゃんとメモっとけよハルナン!」
「はい!」

メモなんて持ち合わせていないのにハルナンはハイと言ってしまった。
そう言わざるを得なかった。

「分かったら宜しい。すぐに次期帝王を決めるチーム戦の準備を始めなさい。」

644名無し募集中。。。:2015/10/29(木) 18:35:17
シャバダバドゥを織り込んできたかw

645名無し募集中。。。:2015/10/29(木) 22:44:06
サヤシが・・・涙
まだ1部も完結してないのに…
現実の出来事を作品に反映させる事の多いマーサー王の場合マロ以上に修正が大変そう

646名無し募集中。。。:2015/10/29(木) 22:51:28
帝国に激震走る

647名無し募集中。。。:2015/10/30(金) 00:35:10
今回のは急過ぎだろう

648 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/30(金) 07:37:33
今回の件には驚きました。
サヤシは二部の内容に大きく関わってくるので
うたちゃんのように出番自体が無くなることはありませんが、
何かしら影響される可能性はあるかもしれませんね。

649名無し募集中。。。:2015/10/30(金) 08:47:33
卒業しても出したら良いじゃないかと思うんだが

650 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/30(金) 12:32:48
その時に私がどう書きたいかによりますね、、、

サヤシの必殺技は絶対に出したいと考えているのでそこまでは書きますが
その後どうなるかは、アイデア次第だと思ってます。

651 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/30(金) 12:56:49
サユがオダの脚に包帯を巻いている一方で、
Q期と天気組らは模擬刀の準備を行っていた。
1ヶ月前は真剣で斬り合った彼女達ではあるが
平和な時代であるために、どちらかと言えば訓練用のこの剣の方がよく手に馴染んでいる。
切れぬ剣ではあるが、力を示して相手を制圧するにはこれで事足りる。
特に、Q期の側にはそれをするのに十分すぎる程の技能が備わっていた。

「結局私たちの中で必殺技を習得できたのはフクちゃんとサヤシの2人だけだったね。
 でも、フクちゃんの技が決まれば戦況は大きく変わると信じてるよ。」
「うん。頑張る。 サヤシの技も使えたら良かったんだけど……」
「ウチの必殺技は真剣用じゃけぇ、今日は使えん。」
「なんでそんな技をイメージしたと?模擬刀を使うって決まっとったやん。」
「それは分かっちゃる、じゃけど、いくら頭を使っても居合術しか思いつかなくて……」
「ま、必殺技を覚えられなかったエリが言えることじゃないっちゃけどね。
 使えんなら使えんなりに工夫して戦おう。
 カノンちゃんも言うとったけどフクの技次第で勝ち目は大きく変わりよる。
 いかに必殺技を繰り出すチャンスを作りあげるか……それを意識して動くしかない。」

サヤシもカノンもエリポンの言葉に強く頷いた。
彼女らがフクの必殺技に対して絶対の信頼を寄せていることがよく分かる。
そして、それは天気組らも同じ。

「ハル、身体はもう大丈夫?」
「バッチリだよハルナン。もうアヤチョにやられた傷は痛くない。」
「文字通り死ぬ気で覚えた必殺技だもんね。」
「ああ、ここで決めなきゃ男が廃るってもんだ。」
「ドゥーは女の子だよ。」
「マーチャンちょっと黙ってよう。」

652名無し募集中。。。:2015/10/30(金) 13:49:23
>>650
どんな結末になっても受け入れる覚悟は出来てますw

サヤシの必殺技は「真剣用」って事は御披露目はまだ先か…

653 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/31(土) 12:54:01
これから始まる戦いの配置につくために
Q期団は訓練場の西側へ、そして天気組団は東側へと移動した。
緊張感の漂っている彼女らの表情を見るに、開戦がすぐそこまで迫っていることがよく分かる。
立ち合い人という重要な立場であるはずのマーサー王も相当興奮しているようだった。

「なぁ二人とも、彼女らはまずどう動くと思う?」

王の問いかけに先に答えたのはマノエリナだ。
自分がQ期団あるいは天気組団の一員になったと想像し、最善策を予測する。

「リーダーを守るための陣形を組むでしょうね。
 "次期帝王候補"であるそれぞれの団長が今回の鍵となることは間違いありません。
 守り切れなかった時の士気の低下は想像に難くないでしょうから、両団必死に守りぬくはずです。」
「なるほどマノエリナはそう思うか、ではマイミは?」
「Q期団は確かにそうでしょう。」
「ん?……では天気組団はどうすると?」
「それと全く逆のことをすると思いますよ。ハルナンはそういう奴です。」

マーサー王らがそうこう言っているうちに、帝国剣士らは動き出した。
そしてその初動はマイミが予言した通りになっている。

「へぇ……天気組団ってなかなか元気者なんですね。」

リーダーを守るべきというセオリーに反して、天気組団はハルナン自ら前に走りだしていた。
団員のアユミン・トルベント・トランワライとハル・チェ・ドゥーも同じくハルナンに続いていっている。
ガレキの上をそこそこのスピードで移動しているのは、そういう特訓をしたということで納得できるが、
戦闘に特化したタイプではないハルナンが真っ先に前に出たことにQ期団の面々は驚愕していた。

「なに?……何か策があるっていうの?……」

Q期らは基本通りに防御をガチガチに固めていた。
防御の要であるカノンがフクの前に立ちはだかり、その横からエリポンとサヤシが叩くという陣を組んでいる。
そう簡単には崩されないと自負してはいるが、敵の考えが分からないため多少の不安は拭えない。

「一番分からんのはマーチャンやけん。なんでマーチャンだけ動かんと?……」

勢いよく飛び出したハルナン、アユミン、ハルに対して、マーチャン・エコーチームは初期配置に留まっていた。
つまらなさそうな顔をしながら、Q期たちをただただじっと見つめている。

654 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/02(月) 03:14:08
とは言え、遠くにいるマーチャンを気にしている場合ではない。
今しがた迫ってきているハルナン、アユミン、ハルに早急に対応することの方がよっぽど大事。
脚の故障が治りきっていないフクはダッシュやバックステップで敵から逃げることが出来ないので、
エリポン、サヤシ、カノンの3人がリーダーを守るための盾となる必要がある。
そして、その中でも特に防御の要と言えるのがカノン・トイ・レマーネだ。

「何か仕掛けてくるよ、でもやることは変わらないからね。」
「「うん!」」

カノンが何か呟くだけでエリポンとサヤシの顔つきが変わったことにハルナンは気づいていた。
体格に恵まれているだけでなく考え方まで慎重なカノンが指示を出すのであれば、Q期の守りは鉄壁なのだろう。
となれば考えなしにぶつかるだけでは突破出来ないに違いない。

(だったら、予測できないくらいトリッキーな技を決めてあげる。)

アユミンより少し先を走っていたハルナンとハルは、もう少しで敵の元へと到着するといったところで足を止める。
そして互いに向き合って、相手の両方の肩に手を置いたのだった。
これはまさにヤグラ。超のつくほど簡易的ではあるが、長身の2人からなるだけあってなかなかの高度が保たれている。
そして、走る勢いそのままにヤグラを駆け上がっていくのはアユミンだ。
最高点に達すると同時に、互いの肩に伸びた二人の腕を蹴り上げることによってアユミンは飛翔する。

「私は黄金の鷲になる!」

アユミンの故郷で盛んな「チア」と呼ばれる舞踏をイメージして編み出されたこの連携技は
ただ大きくジャンプして相手を驚かせるだけでは決してなかった。
空中には移動を妨げるガレキなど存在しないために、走るよりも速く前進することが出来るのだ。
そして鳥のように飛ぶアユミンの高さは、壁となっていたカノンらの身長を遥かに超えていた。
そこから導き出される天気組団の狙いは、ズバリ敵将への直接攻撃。
邪魔な壁をすべて乗り越えて、フクを叩こうとしているのである。
だが、帝国剣士一の慎重派とも言えるカノンがこの程度の奇策についていけないはずがなかった。

「エリちゃん、分かってるよね?」
「もちろん!あっちがイーグルならこっちはアルバトロスやけんね!」
(ホークスじゃないんけぇ……)

655名無し募集中。。。:2015/11/02(月) 08:11:19
走るより速い空中移動!

656 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/03(火) 12:55:09
次更新は夜になります。
というのも、こぶしとチャオベッラの公開収録に来てまして、、、

657名無し募集中。。。:2015/11/03(火) 14:55:48
楽しんで来て下さい夜の更新楽しみにしています

658名無し募集中。。。:2015/11/03(火) 21:03:40
おー作者さん、僕も行きましたよー
はまちゃん大佐可愛かった

お話楽しみにしてます

659名無し募集中。。。:2015/11/03(火) 23:02:12
アルバトロス=アホウドリってかっこつかない
さすがエリポンw

660 ◆JVrUn/uxnk:2015/11/03(火) 23:08:23
イーグルって聞いたからスコア的にアルバトロスなんだろなww

661 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/03(火) 23:29:56
エリポンはその場で垂直に飛び上がった。
ただの一跳びでアユミンのヤグラ込みの高度にまで到達し、模擬刀を思いっきり叩きつける。

「近道はさせんよ!」
「ぎゃあ!」

下方向への力を加えられたアユミンはいとも簡単に床へと落とされてしまう。
自軍の将に危害を与えんとする敵は決して容赦しないというエリポンの覚悟がうかがえる。
今回このようにして飛翔と攻撃と同時に行ったのは、バレーボールをモチーフにしたエリポンの魔法によるもの。
彼女の強靭な脚力と背筋力が助走なしのジャンピングスマッシュを可能にしたのだ。
これには大物であるサユ王やマーサー王ですら舌を巻く。

「あら、エリポンったらあんなことも出来たのね。」
「あの跳躍力ならば我らがクマイチャンにもダメージを与えられるだろうか?……いや、まだ全然低いか。」

派手な特攻に対する派手な迎撃。否が応にも注目は空中での攻防に集まっていた。
傑物揃いの立ち合い人たちだってその範疇からは外れていない。
人間の目はどうしても目立ったイベントに行きがちなのだ。
それを理解しているハルナンは、今回のヤグラ特攻を二段構えの策としていた。

(ハル!鍵は貴方なのよ!)

誰もが空中での出来事に視線を移している隙に、ハル・チェ・ドゥーはエリポンの跳ぶ下をくぐっていた。
実はアユミンは完全なるオトリ。打ち上げロケットのように見せかけて、切り離し燃料タンク程度の役割しか担っていない。
真の特攻は目立たぬ場所を走り抜けるハルによるものだったのだ。

(エリポンさん側の守りはガラ空きだぜ!そこからフクさんを直接叩いてやる!!
 もう非力な剣士なんて言わせない……ハルには必殺技があるんだ!!)

従来のハルならば、例えフクと対峙したとしても決定打を与えることは出来なかっただろう。
フクとアヤチョの戦いに乱入した際に、簡単にあしらわれてしまったことからもそれが分かる。
だが今のハルには、そのアヤチョから伝授した必殺技が備わっていた。
一度殺して死ななければ二度殺す。
死にもの狂いの特訓で習得した技が決まれば相手がフク・アパトゥーマだろうと撃破可能だ。

「近道はさせんってエリポンが言うとるじゃろが」
「!?」

跳ぶエリポンの側を通ればそこにはフクしかいないはずだった。
ところが、ハルの目の前にはサヤシ・カレサスが立ちはだかっている。
空中戦でアユミンと叩き落したエリポンと同じように、
地上ではハルをぶちのめそうと待ち構えていたのだ。

「なんでだ……なんでハルの動きに気づけたんだ……」
「カノンちゃんの防衛策が優れてるからに決まっちょる。ハルナンの奇策よりもな!」

662 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/03(火) 23:35:51
だいぶ遅くなりました。
明日からはなんとか一日二回更新のペースに戻したいですね。

しかし、このスレに今日の公開収録に行った方がいるとは……w
席が最前近いということもあって、内容は大満足でした。
ドスコイ!ケンキョにダイタンが見れなかったのは残念ですが、
念には念とラーメンを大迫力で見れたのは嬉しかったですね。
早くこぶしファクトリーのメンバーを作中に出したいです。

ただ、トーク・パフォーマンス共にチャオベッラの方が圧巻でした。
特に他ヲタまで全員巻き込んで盛り上げてしまうロビンは凄いですね。
今回参戦できて、本当によかったです。

663名無し募集中。。。:2015/11/04(水) 00:47:47
楽しまれたようで良かったですね
CBCはメディア露出ほとんどない状態からライブだけでのし上がってきた歴戦のライブ番長ですからw

更新は無理せずマイペースでどうぞ

664名無し募集中。。。:2015/11/04(水) 08:34:12
頑張れハル!
昨日は最前右端にいましたよー
はまちゃんはまちゃん
早く見たい

665 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/04(水) 12:57:49
少し離れたところからハル達を見ていたハルナンは、自身がフクにずっと見られていたことに気づきだす。
要するに、フクとサヤシは一度も空を見ることなくハルナンとハルの方に目をやり続けていたのだ。
エリポンがミスをすれば自身に危害が及ぶというのに、どれほど厚く信頼してたというのだろうか。

(そうか、カノンさんの防衛策はつまり・・・)

ハルのゲリラ特攻が簡単にサヤシに見抜かれた理由について、ハルナンはなんとなくだが分かり始めていた。
Q期のメンバーの一人一人が、ターゲットとして定められた相手を監視することによって
例え奇怪な行動を取られたとしても即時対応できるように構えていたのである。
視線の方向から察するに、フクはハルナン、エリポンはアユミン、サヤシはハルをマークしているように見える。
これらは全て一ヶ月前の選挙戦にてマッチアップした組み合わせの通りだ。
極限状態に取りうる行動を身をもって体験したからこそ、監視も上手くいくだろうと考えての割振りなのだろう。
そして、これらの策を考えたカノン本人だって監視役の一角を担っている。

(うぅ……カノンさん、しっかりとマーチャンを見てるじゃない……)

カノンは全体に目をやりつつも、初期配置から一歩も動いていないマーチャンにも気を配っていた。
何を考えているのかまったく分からない相手なだけに、一瞬たりとも警戒を外すことは出来ないと考えているのだ。
これはとてもやりにくい。
改めてカノンを筆頭としたQ期の鉄壁ぶりを痛感したハルナンは、既に特攻したアユミンとハルに指示を出す。

「二人とも退いて!」

地に落ちて肘を痛めたアユミンも、サヤシを前にビビっていたハルも
撤退命令を聞くや否やすぐさまその場から離れていった。
陣形を守ることを重視するため深追いをしないQ期から逃れるのは意外にも簡単であり、
すぐに安全圏へと退避することが出来た。
だが、ここからいったいどう攻めれば良いのだろうか。

「ハルナン気づいてるんでしょ?私たちの壁を突破することなんて出来ないって。」
「はい、カノンさん。近道を通るのは難しそうです。」
「ん……正攻法なら崩せるとでも?」
「そうですね!ガチンコでいってみましょうか!」

666 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/04(水) 23:31:54
ハルナン、アユミン、ハルといった戦力でQ期に対してガチンコ勝負だなんてにわかには信じられなかった。
元々の地力が違うというのもあるが、
そもそも彼女らは今の状況下で己の真価を発揮することが出来ないのだ。
雨の剣士ハルナンは肉をえぐる剣で血の雨を降らせて、意気消沈させる戦いを得意とするが
今の模擬刀ではえぐるどころか刺さりもしない。
雪の剣士アユミンは地面を均して氷面のように滑りやすくすることが出来るが、
瓦礫の山を真っ平らにすることなんて出来やしない。
雷の剣士ハルは一般兵らを従えて自在に操るカリスマ性を備えるが、
Q期団vs天気組団という条件ではそれは役立たない。
ついでに言えばマーチャンだって燃える木刀から発せられる煙によって相手を苦しめるが、
手に持つのは鉄製の模擬刀なので、火をつけることも出来ない。
つまり、特殊戦法頼りな天気組にとってガチンコ勝負は不利も不利なのである。
何故このようなルールをハルナンが推し進めたのか、フク達には分からないが
とにかく相手が白兵戦を望むのであれば好都合だ。

「フクちゃん、マークを変えよう。私はハルナンの相手をする。」
「うん、じゃあマーチャンを見ておくね。」
「エリポンとサヤシはさっき言った通り!相手がどう出ようが、やる事は変わらないよ!」

エリポン、サヤシ、カノンの3人でがフクを必死に守ろうとすることは想像に難くない。
となればわざわざその姿勢を崩す必要もないとハルナンは考える。
真の目的には、なんら影響しないのだから。

「アユミン、ハル、ここは全力でいきましょう。
 すべては最終的な勝利のために。」

667名無し募集中。。。:2015/11/04(水) 23:42:57
Q期の実力か天気の奇策か勝負の行方が分からなくなってきたな

668 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/05(木) 13:00:20
敵将を討てばかなり有利になるこの状況において、
ハルナン自らガチンコ勝負に来てくれたのはQ期にとって大きなチャンスだった。
出来ればフクも含めた四人がかりで仕留めてしまいたいところだが
アユミンとハルは片手間で相手出来るほど弱くない。
それに、何をするか読めないハルナンの凶刃がフクに当たるのは何があっても避けたいため
ここはカノン一人で応対することにした。
とは言ってもカノン・トイ・レマーネは果実の国のトモとカリンの二人を終盤まで圧倒した実力者だ。
戦闘特化型ではないハルナンには簡単に負けないと自負している。

「来なよハルナン。私が立ってる限りはフクちゃんに触れさせないよ。」
「はい、では胸を借りるつもりで……えい!」

そう言うとハルナンはカノンの顔面目掛けて模擬刀を突き出した。
顔への攻撃がとても有効なのはサユとオダが戦ったときのことを思い返してみても明らかだ。
カノンはサユほど自身の顔に執着しているわけではないが
それでも人体急所が集中している部位であるために、避けるにこしたことはない。

(なにそれ?狙いが見え見えだよ!)

肉体の打たれ強さだけではなく、そもそも攻撃を貰わないための回避法を常に考えているカノンは
少し膝を曲げて体勢を低くするだけで、顔への刃を空振らせることに成功した。
カリンの飛ばした血液のような液体ならともかく、
はっきりと形の見える固体としての攻撃ならまず避けられるのである。
これには相対したいるハルナンも思わず感心する。

「流石の回避ですね、カノンさん。」
「こんな時まで太鼓持ち!?油断はしないからね!」

カノンは体勢を元に戻すのと同時に、強く握った拳をハルナンの鳩尾にぶつけていった。
重量級のパンチはハルナンの細身にはとても効いたらしく
たった一撃で吐き気を起こさせてしまう。

「くぁっ……」
「これくらい避けられないようじゃ話にならないよ?……王になりたいんでしょ?」
「……なりますよ、だから今は耐えるんです。」
「なに?どういうこと?」

669名無し募集中。。。:2015/11/05(木) 15:15:05
wkwk

670名無し募集中。。。:2015/11/05(木) 22:42:30
カントリー新メンバー…うたちゃん・まろ・サヤシとことごとく作者さんの構想を崩す展開w
モモコの気苦労も増えそうww

671 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/06(金) 09:01:36
カノンがハルナンに善戦している一方で、サヤシはやや苦戦していた。
ハルによる斬撃の乱れ打ちに対して、防戦一方になっていたのだ。
本来ならば剣の達人であるサヤシがハルに押されるなんて有ってはならない話だが、
当のサヤシは今回のルールを聞いた時からこうなることを予測していた。

(くっ……ウチの良さを完全に殺されちょる。)

武器は模擬刀。
この一点が最も大きく響くのは真剣による剣術を得意とするサヤシであり、
逆に大して影響を受けないのは普段から「切れない剣」である竹刀を愛用するハルだった。
真剣勝負の実戦では二人の差は途方も無いほどに広がるが、
訓練用の模擬刀ルールであれば、拮抗とまでは行かなくてもハルはそこそこ食らいつけるのだ。
そう言えば、とサヤシは思い出した。
ハルは研修生の中でも優れた逸材として鳴り物入りで帝国剣士に加入してきたのだが
いざ実戦に投入してみると呆気なくやられて泣いて帰ってきたことがあった。
その時は「何故こんな弱い奴が帝国剣士に?」とも思ったが、
つまりは模擬刀によるレッスン主体の研修生の中では天下無双だったという訳だ。
ならば今こうしてサヤシに匹敵した剣技を見せているのも納得できる。
そして、今回ハルが強い理由はそれだけではなかった。

「死線……どれだけくぐってきた?」

ハルによる乱打を剣で受け止めながら、サヤシは呟いた。
基本的には緊張したり、ビビったりしているハルの方から
時たま並々ならぬ殺気が発せられることに気づいたのだ。

「死線?それならめっちゃくぐってきましたよ。この一ヶ月で50回はくだらないんじゃないんですか!」

ハルは止められた剣を引き、そこから更に鋭い一閃を飛ばしていく。
ただの速攻ではなく、殺意まで込められた一撃は並の剣士では防ぎきれないことだろう。
だがサヤシだって一ヶ月前の選挙戦で死を目の前にしたことがある。
ハルの死線がどういったものかは知らないが、覚悟はサヤシも負けていない。

「ウチはサヤシ・カレサス。帝国最速の剣士……これくらい簡単に防げるんじゃ。」

苦戦しているとは書いたが、
サヤシはこれまで全ての攻撃を刀身で受け切っている。
フクを守るために、完全な防御体勢にシフトしているのだ。
今回もこうして刀をしっかりと止めていた。

(問題ない。殺気こそ有っても捌けないほどじゃない。
 じゃけど、何かがおかしく感じられよる……)

これだけ焦らせば、精神が不安定気味なハルはじきに崩れると思っていたが
その顔はいつの彼女と比べてずっとクールだった。
まるで今の状況を想定していたように見える。

「これも防がれるか……やっぱサヤシさん凄いな。」

672 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/06(金) 09:05:19
カントリーガールズに梁川奈々美と船木結
いやぁ驚きました。 ハロプロの情勢は目まぐるしく変わりますね。

ただ、今回の加入は話には影響ないと思います。
研修生のことは診断テストに毎年行くくらいにはチェックしてきているのでw

673 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/07(土) 08:36:16
カノンとサヤシの感じる違和感を、エリポンも同様に感じていた。
天気組の中では比較的正統派なアユミンの攻撃をいなすために
数多のスポーツから使えそうな技術……もとい魔法を使おうとしたのだが、
足場の悪さゆえに上手く動けないことも多々あった。
その時のエリポンは当然隙だらけなので、アユミンとしても攻めの好機なはずなのだが、
敵はあえて攻めの手を緩め、エリポンが体勢を整える時間を与えたのだ。
はじめはエリポンを舐めきっているのかもと思ったが、
それ以外の剣のキレや立ち回りは全力に見えるため、本気であることは間違いないらしい。

(なんなん?……気味が悪い)

ギリギリのところで生かされているような感覚。
それは決して心地の良いものではなかった。
アユミンが何を考えているのかは分からないが、
エリポンはフクを守るために全力で己の身体能力と魔法を活かす以外に道はない。
なのでチャンスさえあればすかさず胸、腹、肩へと模擬刀をぶつけていく。

(此の期に及んでその表情……ほんっとイラつく。
 ひょっとしてイラつかせるのが狙い?)

クリーンヒットを貰ったとしても、アユミンは冷静さを欠かなかった。
普段はオーバーリアクションなアユミンだからこそ
絶対何か策を隠していることが逆にバレバレになっている。
肝心な策の内容までは分からないが。

674 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/08(日) 07:37:02
護られながら一歩退いたところで全体を見ているフクも、この異常さに気づいていた。
形勢自体はQ期側の優勢。
天気組への攻撃はいくらかヒットしているし、
このままガチンコ勝負を続けても負ける見込みは殆どない。
そしてそれには天気組も気づいているはず。
なのに彼女らは依然として通用しない攻撃を続けているし、
仮に効いたとしても攻め切らずにいた。
全くもってその意図が掴めない。

(なんだと言うの?まるで決闘を無理矢理にでも長引かせたいように見える。
 あるいは、Q期の実力を測っている?……あ!)

後者の考えが浮かんだ時、フクはあることに気づいた。
Q期がどのような攻撃をするのか、どのような防御をするのか
それをこの場でしっかりと確認することによって
圧倒的優位に運ぶことの出来る手段が天気組には存在することを思い出したのだ。
フクは慌ててQ期達に退くように命ずる。

「みんな!ちょっと待……」
「あーもうダメだ!キツい!退却するよ!!」

フクが言い終わるより早く、ハルの方から対戦相手であるサヤシのもとを離れていった。
体中にできた青アザを見るに、サヤシから手痛い攻撃を何回か喰らったことが想像できる。
そして戦線離脱したのはハルだけでなく、
ハルナンとアユミンも一瞬アイコンタクトを交わしては、自陣へと逃げていく。
急な変わり身にエリポン、サヤシ、カノンの3人は不思議に思ったが
フクだけは青ざめた顔をしていた。

「どうしよう……遅すぎたんだ……」

フクの落胆の理由、そして天気組の撤退の真相はすぐに分かる。
ハルナン達は自らの誇りや負傷と引き換えに、あるものを完成させたのだ。
言うならばそれは、この状況下を完全に支配するバトルマシーン。

「マーチャン!出番よ!」
「はぁ、マーチャン疲れちゃったよ……でももう全部覚えた。」

675名無し募集中。。。:2015/11/08(日) 13:41:44
チート来たかw

676 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/09(月) 12:58:24
マーチャン・エコーチーム。
天気組の曇の剣士であり、技術開発部の最高責任者としての肩書きも持つ。
だが、彼女の真の恐ろしさは火煙を扱う戦法でも、次々と最新武器を作り出す技能でもなかった。

「超学習能力……それがあの子を帝国剣士にした決め手なの。」

サユ王がマーサー王らに説明した通り、マーチャンは異常なまでの学習能力を備えている。
一度食らった技であれば完全に覚えて対処法まで編み出してしまうため、
マーチャンを倒すには毎回違った攻撃手段を用いなくてはならない。
そして、そんなマーチャンが決闘の前半は戦いを見ることだけに徹していたのだ。
自分が直接受けるのと比べるとさすがに学習の精度は落ちるが、
それでも十分なほどにエリポン、サヤシ、カノンの動きを頭に入れている。
ガレキの上というマーチャンも経験の無い情報をインプット出来たという成果と比べれば、
それまでの過程で負ったハルナン、アユミン、ハルの怪我なんて安いものだ。

「マーチャン!飛べ!」

そう言うとハルはハルナンと向かい合って、肩を掴んでいった。
アユミンを鷲のように飛ばした時みたいに、ヤグラを作ったのだ。
その動きも学習していたマーチャンは、アユミンと遜色ないスピードで駆け上がっていく。

「あれを止めるのはエリしかおらん!」

本来アユミンのマークに付いているはずのエリポンが、
フクの前に立ちはだかって、天高くへと飛び上がった。
ヤグラによる高さからの攻撃に対処できるのは自身のジャンプ力しか無いとの判断だ。
フクに危害が有ってはまずいと思って慌ててジャンプした。
ところが、マーチャンの様子がおかしい。
なんとヤグラに上がるだけ上がって、そこに留まっていたのだ。
これにはエリポンも驚かされる。

「なっ!……」
「うふふふっ!引っかかってる。」

最高点に達したエリポンが今から落下せんとするタイミングで、マーチャンはようやく飛翔する。
誰もいない空を、水鳥みたいに飛び立っていく。

677名無し募集中。。。:2015/11/09(月) 18:04:55
水鳥 みたいにね そう 飛び立とう♪

マーチャンの『超学習能力』があったか!マーチャンを倒すには一撃必殺技が必要なのか…

678 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/10(火) 13:00:28
マーチャンがシュパッと着地したところのすぐ先には、フク・アパトゥーマが立っていた。
これまで天気組団が苦労しても突破出来なかった壁を簡単に飛び越えてしまったのだ。
これでマーチャンの剣先はフクの喉元に届くようになった。
もちろんフク自身も強いためそう簡単にはやられないだろうが、
マーチャンだってその他大勢として数えて良いような戦士では決してなかった。

「フク濡らさん、ごめんね。」

謝罪をしているとは思えぬ程の笑顔でマーチャンは模擬刀を振るう。
一見してただの剣のように見えるその振りには、マーチャンがこれまで積んできたノウハウが詰まっている。
ガレキの上の戦いではどこを狙えば避けにくいのかというデータを収集し、分析した上での攻撃なのだ。
それを意識的ではなく無自覚にやってしまうのがマーチャンの恐ろしいところなのである。
だがその恐ろしさについては敵であるQ期もよく理解していた。

「危ない!」

マーチャンの刃を、フクの陰にいたサヤシが受け止める。
ハルのマークについていたはずのサヤシだったが、
エリポンがミスをするといち早く気づき、勝手にマークの対象を変更したのである。
せっかく作ってくれたカノンの策を無視する行為ではあるが、おかげでフクを守ることが出来た。

「サヤシすん!……うふふふっ、来てくれたんだ。」

マーチャンは一ヶ月前から対決を望んでいたサヤシが来てくれたことに喜んでいた。
そして、目の前の敵を越えるために力強く剣を押し出していく。
だがサヤシだって負けるためにここに来たわけではない。
ちゃんとマーチャン対策を理解した上でフクを守りに来たのだ。

「マーチャン、遊ぶのはまた今度じゃ。」
「えっ?」

サヤシは足元のガレキを蹴り上げ、鍔迫り合いをしている自分とマーちゃんへの顔へと飛ばしていく。
小さな破片が互いの目元へと容赦なく突っ込んでいくため、マーチャンは目を閉じざるを得なかった。

「げぇ!なんだこれ!」
「いくら学習能力が凄くても見えなきゃ覚えられんじゃろ……いくぞ!」

目にゴミが入って苦しむマーチャンに対し、サヤシはいつものように平気に振舞っていた。
しじみのように小さな彼女の目にはゴミなど入る余地がなかったのだ。
剣を一旦自分の側へと引いては、マーチャンへの斬撃を繰り出していく。

679 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/10(火) 13:07:59
マーチャンの攻略法がバレかけている……w

680名無し募集中。。。:2015/11/10(火) 17:08:42
破片より小さいしじみ目w

681 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/11(水) 12:56:41
サヤシが剣を振る直前、マーチャンは一歩だけ後退した。
目をやられたのも関係なく一定の距離をサヤシからとっていく。
この距離はサヤシの剣の射程とピッタリ一致。まるで機具を用いて測ったかのような正確さだ。
ゆえに、斬撃は当たるべき対象には届かず空を切る。

「……!!」

サヤシの攻撃を完全に避けたこともそうだが、
それを眼を使わずやってのけたことに立会い人マイミは驚いた。

「学習能力とか言うからアイリのような眼を持つと思ったが……驚いたな。
 あれは眼とか関係ない、生まれ持った才能なのか。」

アーリー・ザマシランの「相手の動きを見切る眼」のようなものを備えているのではなく、
マーチャンは全身の感覚をフル稼働させて新たなことを学習している。
ゆえに目が見えない状況下でも変わらず対応することが出来るのだ。

「サヤシすんひどいなー、やっと見えるようになったよ。」
「くっ!……じゃったら!」

目を封じても超学習能力は機能するということは分かったが、
そもそも目を潰されてパフォーマンスの落ちない人間なんてのは存在しない。
なのでサヤシはまたも地面を蹴って、マーチャンの目に破片を飛ばそうとした。
それが悪手であることも忘れるくらい、必死に。

「サヤシ駄目!憶えられてる!」

フクの声が聞こえるころには、マーチャンはサヤシの側へと踏み込んでいた。
そして極限まで接近しては、蹴りの軸足となる左足をギュウッと踏んづける。
マーチャンは決して重いほうではないが、全体重を一本の足にかけられて痛くない訳がない。

「あぁっ!」

激痛でサヤシが天を仰いでいる隙に、マーチャンはサヤシの腹に模擬刀をぶつけていく。
以前、ハルの武器は竹刀であるために模擬刀に持ち替えても弱体化しないという話をしたが、
このマーチャンだって、普段は木刀を愛用していた。
切れぬ剣という意味ではまったく同じだ。
普段と変わらぬ剣威でぶちまけられる斬撃は、並の精神力では耐えられないものだった。

682名無し募集中。。。:2015/11/11(水) 18:30:24
がんばれまーちゃん
ハルナンに王の座を!
アンジュ王国に新人が!

683名無し募集中。。。:2015/11/11(水) 19:27:42
番長(初期・二期)→舎弟(三期)だから四期は何だろう?パシり?w

684 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/12(木) 08:38:09
久々に一般からの加入でしたね。
キャラを掴むまではなかなか時間がかかりそう……
舎弟になるのか、それとも別の呼び方になるのかは全くの未定ですw

685 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/12(木) 12:58:53
「これくらい……まだまだじゃ。」

並の精神力では耐えられぬ一撃ではあったが、
フクを守るという命題を抱えたサヤシの強さは並ではなかった。
腹への激痛を押し殺しながらマーチャンを睨みつける。
それを見てマーチャンは一瞬ビックリした顔をするが
すぐに笑顔を取り戻し、サヤシへの第二撃を放たんとする。
ところが、アユミンの声によってそれは制されることになる。

「サヤシさんに構うな!フクさんのところに行って!」

アユミンはハルナンと共にエリポンを地に押さえつけながら、指示を出した。
いくら耐えられたとは言え、サヤシへの攻撃は確かに効いている。
実際、膝がプルプルと震えているのがその証拠だ。
ならばそれを無視して敵の総大将を叩くのが良いと考えたのだ。
マーチャンはサヤシを倒せないことがちょっぴり残念ではあったが、
怒った時のアユミンは怖いことをよく知っているため渋々従う。

「しょーがないな。じゃあフク濡らさん倒すね!」

進行方向を変えたマーチャンを見て、カノンは焦りを加速させる。
サヤシとエリポンが動けぬ今、フクを守るべきは自分しか居ないのだが、
ここでどう動くべきか判断に迷ってしまったのだ。
一つはマーチャンと戦う案。もう一つはエリポンを助けにいく案。
前者をとればフクを直接守ることが出来るが、マーチャンを長く足止めすることは難しいだろう。
なんせ敵はサヤシをも圧倒した存在だ。一騎打ちで勝てる見込みは限りなく薄い。
後者の案ならエリポンと協力してマーチャンに対抗できる。
しかしその間はフクを放っておく形になるし、ハルナンとアユミンだって無視できない。
どちらも案も一長一短。よりリスクの少ない方を選択するのに時間をかけてしまった。
そしてその隙がカノンにとって命取り。
すぐ背後まで迫っていた雷への対応が遅れてしまう。

「カノンさん、ハルのこと忘れてない?」
「!!!」
「もう遅いよ!喰らえ!」

686名無し募集中。。。:2015/11/12(木) 14:50:46
天気組の策略にwktk

687 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/13(金) 13:00:32
ハル・チェ・ドゥーは数週間前からアンジュ王国に渡り、
アヤチョ王直々の特訓を受けていた。
その特訓方法は一言で言えば「殺し合い」。
アヤチョが本気の殺意を込めて斬りかかってくるので、ハルも殺す気で対抗するというものだった。
とは言っても相手はアンジュの頂点に立つアヤチョだ。まともにやって勝てるわけがない。
ゆえに特訓時にはタケやカナナンら四番長が常に待機しており、
アヤチョ王がやりすぎないよう、いざという時には静止する役割を任されていた。
ハルとアヤチョの実力差は思っていた通りに大きく開いており、
Q期との決着を一週間後に控えた日も番長らは大忙しだった。
ここではその時のことを回想する。

「ドゥー。トドメだよ。」
「「「わー!待って待って!!」」

一撃目がいきなりトドメだというのもしょっちゅうなので、
番長らは慌ててアヤチョ王の身体にしがみつく。
少しでも止めるのが遅ければ今ごろアヤチョの七支刀はハルの腹を突き破っていたことだろう。
青ざめた顔でペタンと座り込むハルを見るに、余程の殺気を当てられたのだろうことが理解できる。

「こ、こわすぎる……」

涙目になっているハルをだらしないとは誰も思わなかった。
何故なら自分が同じ境遇だったとして、気丈に振る舞える自信が無いからだ。
雷神の構えをとったアヤチョはそれほど恐ろしいのである。

「ドゥー……もう時間がないよ。何か掴めた?」
「一つ、分かったことがあります。」
「え、なになに!?」
「殺意のある攻撃って、普通の攻撃よりずっと威圧感があるんですね。
 身体がビリビリ痺れて全然動けなくなります……
 ハルもそんな攻撃が出来たら必殺技に近づけるのかな……」

ハルの考えを聞いたアヤチョはニコッと微笑むと、七支刀を地に落とした。
そして両手を開き、無防備な態勢をとる。

「ねぇドゥー!竹刀でアヤを叩いて!絶対避けないから。」
「ええ!?」
「もちろん殺す気でだよ。分かってるよね?」

冷たく言い放つアヤチョに、ハルはゾクっとした。
もはやここで日和る訳にはいかない。殺意を放つのは今なのだ。
ハルナンを王にするために……いや、自身が剣士として強くなるために、
殺す気の一撃を打ち込まなくてはならない。

「はぁっ!!」

アヤチョの胸に、ピシャン!と言った竹刀による炸裂音がぶつけられた。
とても聴き心地の良い音であり、クリーンヒットしたことが誰にも分かる。
ところが、アヤチョの顔からは苦しさの一つも感じ取れなかった。

「どうしよう……全然痛くない。」
「えぇー!?本気で打ちましたよ!」
「うん、気合とフォームは良かったよ。でもね、そのね。」
「ハルが非力だからっすか……」
「うーん……なんか、ごめんね。」
「いえ、ハルが未熟なんです……」

結局その日は必殺技は完成しなかった。
いくら殺意が十分でも破壊力が無ければ必殺技とは呼べないのである。
そして現在、ハルはカノンの背中にピシャリと良い一撃を打ち込むことが出来たが、
アヤチョとの特訓と同じように仕留めるまではいかなかった。

(痛っ……ハルったらこんな強い攻撃を出来るようになってたんだ。
 でも、この私にはそんなの通用しないよ。
 誰よりも厚いこの身体。たかが模擬刀が通るほどヤワじゃないからね!)

688 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/14(土) 14:48:23
カノンの背中に向けたハルの一撃は、紛れもなく十分な殺意の込められたものだった。
しかし、いかんせん威力が足りなさすぎる。
やはりハルの細腕ではカノンという壁をぶち破ることは出来なかったのだ。
一ヶ月とは、技を一つ覚えるには十分な期間だったかもしれないが、
そもそもの身体能力を強化するにはあまりに短すぎていた。
よって、ハルは一振りで必ず殺すような一撃必殺は習得できなかったのである。
このままではカノンはすぐに体勢を整えて、反撃してくることだろう。
ただでさえサヤシとのガチンコで消耗しているというのに、
そこにカノンのヘビーな攻撃を受けてしまったらひとたまりもない。
それを知っていたハルは、だからこそ体勢を整える暇を与えなかった。
敵がそうするよりも速く、カノンの後頭部に激痛を与える。

「!?」

ハルがやったのは、ただ背中と後頭部を連続で叩いただけのことだった。
普通の二連撃と異なるのは、一撃と一撃の間隔を限りなく小さくしたという点。
最初の一撃をもらった時点でカノンは無意識のうちに、背中を守ることに全神経を集中させていたのだが、
そのすぐ直後に後頭部への一撃を喰らったために
覚悟も身構えも何も出来ず、攻撃の100%すべてをダメージとして受け止めてしまったのである。
しかもカノンは一ヶ月前の戦いでカリンに後頭部を強くやられている。
その古傷が完全には治りかけていなかったというのも効いていた。
いくら頑強な肉体を持つカノンであろうと、
人類皆等しく肉のつきにくい箇所に対するダイレクトアタックまでは防げなかったらしく、
合計たった二撃で意識を飛ばし倒れ込んでしまう。
そう、ハルの必殺技は一撃必殺ではなく二撃必殺だったのだ。

「勝った……ハルの必殺技が効いたんだ……」

この必殺技はアヤチョが教えたものではあるが、アヤチョ本人は使いこなすことが出来ていなかった。
この技を完成させる鍵は連切りの早さにあったというのがその理由だ。
アヤチョも超スピードを誇る超人ではあり、その突っ走りは誰も付いていけないほどに速いが、
基本的には一途であるために二箇所同時に攻めるということが困難だ。
それに対して、ハルは異常までに手が速かった。
複数同時に攻めることにおいては右に出るものはいない。
一撃で殺せないようならもう一度、もう一度、何回でも連続で切ってみせる。
だからこそハルはアヤチョも使えぬ必殺技「再殺歌劇」を体現することが出来たのである。

689名無し募集中。。。:2015/11/14(土) 14:50:57
二重の極みw

690名無し募集中。。。:2015/11/14(土) 16:31:22
再殺…相変わらず名前付けるの上手いなw

691名無し募集中。。。:2015/11/15(日) 01:54:56
拾ってきた…もしオダがサユ王に勝っていたらこんな未来になっていたのかw

http://pbs.twimg.com/media/CTxLBSdUcAAIaOv.png

692名無し募集中。。。:2015/11/15(日) 09:27:37
有りやなw

693 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/16(月) 12:33:55
二重の極みに似てはいますが、異なる箇所を攻撃する点で違った技ということにしてください><

>>691
このイラストはいったい……
それにしてもかなりの風格ですねw

694 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/16(月) 12:56:52
守りの要であるカノン・トイ・レマーネが倒れたことは、Q期たちに大きな衝撃を与えた。
これからはカノンの指示なしにハルナンら天気組の策に対抗せねばならない。
それに、単純に頭数が減ったことで人数的に不利になったという問題もある。

「ハル!マーチャン!ここが攻め時だよ!」

アユミンは押さえつけていたエリポンをハルナンに任せて、フクの方へと歩みだした。
名を呼ばれたハルとマーチャンだってターゲット目掛けてすぐさま前進していく。
現在の彼女らにはマークは付いていない。言わばフリーの状態なのだ。
誰にも邪魔されることなくフクへと接近する。

「フク!」「フクちゃん!」

エリポンとサヤシは悲痛な声しか上げることが出来なかった。
エリポンはハルナンに羽交い締めにされているし、サヤシは早く歩けるほど回復しきっていない。
ゆえにフクを守りにいくことが出来ないのである。
それならそれでフクに逃げろとでも言えば良い気もするが、2人はそうしなかった。
アユミンはその点から察し、ある事実に気づいていく。

「ははっ、フクさんひょっとして歩けないんじゃないですか?」

Q期一同はギクリとした。
誰よりも強いはずのフクを過剰に守っていた理由がまさにそれだったのだ。
日常生活において歩く分には問題ないが、
真剣勝負の場で、しかも足場の悪い状況下で満足に動けるまでには至ってないのである。
天気組はフク・ダッシュやフク・バックステップが出来ない程度の怪我だと思っていたが、
これは思わぬ好都合だ。

「よし!フクさんにも再殺歌劇を決めてやるぜ!」
「ドゥーずるい!マーチャンがトドメさすんだからね!」
「ちょっと喧嘩しないでよ!ここは3人同時に行こう!」

695名無し募集中。。。:2015/11/16(月) 13:00:08
>>693
元ネタはこれネズミの国に行った時の写真らしい
http://stat.ameba.jp/user_images/20151004/20/morningmusume-10ki/da/8f/j/o0480064113444293221.jpg

反乱が失敗し地下に送られる写真w
http://i7.wimg.jp/coordinate/3yj9v8/20151004094139229/20151004094139229_1000.jpg

696名無し募集中。。。:2015/11/16(月) 20:47:11
ところでイクタ外伝の人はどうしちゃったのかな

697 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/17(火) 12:33:34
>>695
その件に関わってたんですね!
てっきり舞台かSSに関連しているかとw

>>696
長らく更新がないようですね( ; ; )
復活を期待しています。

698 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/17(火) 12:57:37
天気組の3人に同時に襲われるという危機的状況にもかかわらず、
Q期のリーダー、フクは意外にも冷静な顔をしていた。
まるでこの事態を予め想定していたかのような落ち着きっぷりだ。

「さっきのハル凄かったなぁ……私にもあんな殺気、出せるかな?」

独り言を呟き終えるのと同じタイミングで、マーチャンがフクの正面にやってきた。
もともと近い位置に来ていたために、3人の中で一番に到着したのである。
もちろんマーチャンは他の2人を待つ気などさらさら無く、早速攻撃を開始する。

「フク濡らさん!アユミンやドゥーが来る前に倒すからね!」

今日のマーチャンはまだフクの動きを見てはいなかったが、
日々の訓練から得た記憶を頼りに、避けにくい攻撃を何発も繰り出すことが出来ていた。
フクも模擬刀で必至に防御するが、その防御さえもあらたにマーチャンに覚えられてしまう。
次々とUpdatedされるマーチャンの剣技を捌ききれず、身体のあちこちに剣をぶつけられていく。
このままマーチャンと対峙し続けるのは分が悪い。
ならばとっておきをここで使ってしまおうとも思ったが、そうもいかなかった。

(まだダメ……今だったら一人しか殺せない。)

"必殺技を使うには殺人者であれ。"
フクは甘々な自分を戒めるために、そう強く思っていた。
だが自身を殺人者にするのはまだ早すぎる。
今のままでは、"Killer 1 "だ。
たった一人に対する殺人者では状況を変えることなどできやしない。
フクが目指すべきは、複数に対する殺人者なのである。

699名無し募集中。。。:2015/11/17(火) 20:17:35
なかなか物騒な考えだなwフクの必殺技がどんななのか楽しみだww

700 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/18(水) 12:59:17
動けぬフクとマーチャンがやり合っているところにアユミンも合流する。
本当は3人揃ってから仕掛けたいと考えていたアユミンだったが、
既にマーチャンが交戦を開始しているため、もはやハルの到着を待ってられなくなっていた。
アユミンはフクから見て右方向から攻め込み、模擬刀で切りかかってくる。

「あ、アユミンきちゃった……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!ほらマーチャンいくよ!」

アユミンの手数は(ハルほどではないが)多かった。
一撃一撃の威力は微弱ではあるものの、こうも乱打されるとフクは受けるだけで精一杯になってくる。
そんな状況でマーチャンの攻撃まで防ぐことは難しい。
ゆえにフクはアユミンが来る前よりずっと多くの攻撃を身体で受けてしまう。

「フクちゃん!今助けに……」

少しは動けるようになったサヤシが、アユミンとマーチャンに袋叩きにされているフクを守るため前進を開始した。
ダッシュもバックステップも使えないフクにすぐさま助太刀しなくては、全てが終わってしまうと考えたのだ。
ところが、フクはそんなサヤシの助けを必要としていなかった。
無理して攻撃を受け続けながらも、カッと目を見開きサヤシを制止する。
それに対してサヤシは少し驚いたが、すぐに意図を理解して動きを止めた。

(フクちゃん……アレを使うんじゃな。)

フクの狙いは自身の編み出した必殺技を繰り出すことだった。
だが今はまだ時期が早すぎる。
マーチャン一人の時の"Killer 1"よりはアユミンも加わった今の"Killer 2"の方が効果的かもしれないが、
それでもまだなのだ。
すぐにやってくる彼女までも巻き込んでこそ、フクは殺人者としての真価を発揮することが出来る。

「お待たせアユミン!マーチャン!」

時は来た、とフクは感じた。
残りの一人であるハル・チェ・ドゥーがフクから見て左側から攻撃を仕掛けようとしている。
おそらくはさっきカノンを仕留めた必殺技である「再殺歌劇」を見せてくることだろう。
だが今来たばかりなので準備は整っていないはずだ。
それに対して、フクはしっかりと準備が出来ている。
この決闘が始まるずっとずっと前から、この瞬間をイメージしてきたのだ。

(モモコ様、私、必ず殺せる殺人者になります。)

ハルもやってきたので相手は計3名になった。
ではフクの必殺技は3人殺せる、言わば"Killer 3"を実現する技だったのか?
いや違う。
フクは相手が多ければ多いほど良いと思って技に命名している。
一人や二人や三人ではなく、N人。つまりは複数名を同時に殺す技という意味を込めて、
"Killer N"、と名付けていた。

701 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/18(水) 13:00:25
技名からか確かに物騒な考えになっちゃいましたね。
まぁ、それだけ本気だったということでお願いしますw

702名無し募集中。。。:2015/11/18(水) 14:14:52
それかw

703名無し募集中。。。:2015/11/18(水) 17:42:00
"Killer N"・・・やばいひさしぶりに元ネタが分からんwちょっと悔しい

704名無し募集中。。。:2015/11/18(水) 17:46:22
ブログでよく見るキラーン☆じゃないのか

705名無し募集中。。。:2015/11/18(水) 19:12:34
なるほど!
スッキリしたありがとうw

706名無し募集中。。。:2015/11/19(木) 02:27:47
ネーミングうまいなあ

707 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/20(金) 14:17:00
はい、確かに元ネタはキラーン☆です。
多少苦しかったかもしれませんがw

708 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/22(日) 13:15:09
諸事情により今日も続きを書けません><
今夜遅くか、明日の昼ごろに更新予定です。

709名無し募集中。。。:2015/11/22(日) 22:05:40
まさかこぶし富山行ったとか言わないよね?
僕昼行って楽しかった
早く大佐をこのスレで見たい

710 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/23(月) 02:43:58
こぶしイベは行ってませんでしたね。完全に私用でした。
でも来週はアンジュルム武道館に行きますよ!卒業見てきます^^

711 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/23(月) 04:50:53
フクは左手に握った模擬刀を、今まさに必殺技を放たんとするハルの脇腹にぶつけていく。
攻撃のみに集中しているハルに強打を当てるのはあまりにも簡単で、
線の細い彼女のアバラはただそれだけでバキバキに折れてしまうだろう。

「……ッ!!!!!」

普段ハルはアバラが二、三本折れてもヘッチャラみたいなことをよく口にするが
実際にそれを受けたら息も出来ぬほどに苦しいことが再確認できたに違いない。
これでハルは数分程度の戦線離脱は余儀なくされ、しばらくの無力化が約束された訳なのだが
フクはその程度でよしとはしなかった。

("甘さ"を捨てるのよフク・アパトゥーマ!殺す気で振り抜くの!)

アユミンとマーチャンによる攻撃を右腕ですべて受け止め、
さらに下半身にグッと力を入れてその場から仰け反らぬよう踏ん張った。
すべてはハルに当てた模擬刀を全力で最後まで振り切るため。
受け止めた右腕が壊れようとも、動かぬ脚が更に悪化しようとも構わない。
これから勝ち取る成果を考えればその程度の代償は払って当然なのだから。

「マーチャン!避け……」

位置関係からして、アユミンにはフクの狙いが見えていた。
だがここで気づいたとしてももう何もかもが遅い。
フクがハルに当てた斬撃を振り切ることにより、ハルの身体そのものが吹き飛ばれていく。
その先にいるのはフクの正面にいたマーチャンだ。
至近距離から相方の身体が飛んできた経験なんて、マーチャンはこれまでにしたことがない。
未経験には滅法弱いマーチャンは無抵抗でハルにぶつかってしまう。

「ぐぇっ!」

いくらハルが軽いとは言っても人と人が衝突して無事で済むはずがない。
しかも頭と頭もぶつかったので軽度の脳震盪まで引き起こしている。
これではマーチャンもすぐには起き上がることが出来なくなるだろう。
ここまで来ればもう十分かと思いきや、フクの振り切りは留まらなかった。
そう、アユミンを巻き込むまでこの技は止まらないのである。

「や、やめて」

アユミンの嘆願も虚しく、フクの左腕はハルとマーチャンごと模擬刀を押し込んだ。
先ほどハルがマーチャンに衝突した時のように、今度はマーチャンの身体を最右端にいるアユミンにぶつけたのだ。
人間二人分の重量が飛んできたのだからその衝撃の凄まじさは想像に難くない。
アユミンの体重でそれらを耐えきれる訳もなく、ガレキの床へと転げ落ちてしまった。
つまりアユミンは硬い地面に叩きつけられた上に二人にのしかかられ、
マーチャンはクッション性皆無の2人に挟み潰され、
ハルは最後までフクの強打を受け続けたことになる。
まさにどれもが致命傷。3人の誰もがその場にうずくまってしまう。
模擬刀ルールでなければ全員死んでもおかしくない程のダメージであったに違いない。
これこそがフクの必殺技「Killer N」の力なのだ。
見事な成果を見せたフクに対して、サヤシは歓喜の声をあげる。

「フクちゃん凄い!!3人も倒すなんて!!」

歩くことも困難なフクがピンチを大きなチャンスへと変えたのはとても素晴らしい。
立ち合い人だってこの光景に舌を巻いているのだから大したものだ。
ところが、当のフクはどこか浮かない顔をしていた。

「だめ……倒しきれなかった。」
「?」

フクは己の必殺技の弱点をよく知っていたのだ。
この技の仕組みならば2人は確実に倒すことが出来るのだろうが、1人の安否だけは不確定だ。
そしてその憂いが現実のものとなってしまった。

「ケホ、ケホ……ひどいことするなぁ……でももう覚えたよ。」

712名無し募集中。。。:2015/11/23(月) 08:15:06
うわぁ…マーチャン討ち漏らしたのか…

713名無し募集中。。。:2015/11/23(月) 11:13:05
クッション性皆無w

714名無し募集中。。。:2015/11/23(月) 12:48:40
クッション性大事

715 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/24(火) 02:12:19
フクの必殺技「Killer N」を受けても立ち上がれたのはマーチャン・エコーチームだった。
未経験の攻撃を回避する術を持たぬ彼女は当然のように直撃を喰らった訳ではあるが
斬撃を身体で受けたハルや、地に叩きつけられたアユミンと比べるとまだ軽症で済んでいたのである。
頭はクラクラするし、体中の骨がひどく痛むけれども、なんとか立つことは出来ていた。
このように押せば簡単に倒れてしまいそうな相手を前にして、フクは恐怖する。

(まずい……とっておきを覚えられちゃった)

マーチャンの異常なまでの超学習能力。それをフクは恐れていた。
一度体験した技であれば次からは完全に対応してしまうマーチャンには、もう「Killer N」は通用しないだろう。
ならばそれ以外の技を繰り出そうにも、今のフクの身体は必殺技の代償でひどく痛んでいる。
攻撃を受け続けて骨折した右腕はもう上がらないし、もともと完治していなかった脚も動きそうにない。
この状況でどうやってマーチャンを止めろと言うのか。
おそらくはいくらあがいてもフクには倒すことなど出来ないのかもしれない。
味方の力を一切借りない、という条件付きではあるが。

「喰らえっ!」

フクを窮地から救うために、サヤシ・カレサスがマーチャンの後頭部めがけて模擬刀を振り上げた。
近いところに位置していたのでいち早く援護することが出来たのだ。
フラフラなマーチャンに対する不意打ちは傍からは卑怯に見えるかもしれないが、サヤシは恥じてはいなかった。
"本当に誰かを守りたけりゃ他人の目なんて気になんない"ってやつだ。
この一撃でフクを守ることが出来るのであれば何がどうなってもいいと考えていたのである。
しかしこの攻撃は、マーチャンを倒すにはあまりにも単調すぎていた。

「当たらないよっ!」

マーチャンはしゃがみこむことで体勢を低くし、コサックダンスでもするかのようにサヤシの右足を蹴っ飛ばした。
これまでの実践や訓練の経験から、急所攻撃への対処法は特にしっかりと学習してきていたのだ。
ゆえに頭がちゃんと回っていない時であろうと行動に移すことが出来る。
攻撃のほとんどが急所に対する一撃狙いなサヤシにとって、マーチャンという相手は分が悪すぎるのである。

(くっ、どうしたらええんじゃ……)

それでもサヤシは歯を食いしばって立ち向かおうとした。
攻撃が通用するまでストイックに攻撃し続けようという思いなのだ。
ところが、そんなサヤシの気が急に変わり始める。
そこまで無理する必要は無いと、考えを改めていく。
その理由は、マーチャンのすぐ背後まで迫っていた頼れる存在にあった。

「スマーーーッシュ!!」
「!?」

マーチャンの後頭部を強く叩いたその人物は、さっきまでハルナンに押さえつけられていたエリポンだ。
突然の不意打ちをもらったマーチャンは、鼻血を吹き出しながらひどく困惑する。
急所攻撃には完全に対応する自分の身体が、エリポンの攻撃には反応しないのである。

「え!?え!?なんでエリポンさん!?ハルナンはどうしたの!?」

基本的にニヤニヤと笑いながら戦っているマーチャンが、今は普段見ないほどに狼狽している。
というのも、マーチャンは日ごろからエリポンを怖いと思っていたのだ。
フクの攻撃も、サヤシの攻撃も、カノンも攻撃も、同期やオダの攻撃だってすべて学習できるのに
目の前に現れたエリポンの攻撃だけは何故か覚えることが出来ない。
言わばマーチャン・エコーチーム唯一の天敵なのである。

「マーチャン!これ以上好きにはさせんよ!」
「うわ〜〜〜エリポンさんホント嫌だ……」

716 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/25(水) 12:59:54
「マーチャンはエリポンの行動だけは覚えることは出来ない」と書いたが
実際はちゃんと学習可能であるし、一度見た技であれば問題なく対応することが出来る。
ヤグラから水鳥のように飛んだ時にエリポンの跳躍を軽々とかわしたことからもそれが分かるだろう。
それでは何故マーチャンはエリポンの攻撃を回避できなかったのか。
その理由は、エリポンの使う魔法の多彩さにあった。

「ほら!まだ終わらんけんね!」

エリポンはマーチャンの頭を鷲掴みにしては、グルリと腕を一回転させてぶん投げる。
これはソフトボールのウインドミルと言われる投球法に近い動きだ。
ソフトボールと言うスポーツ一つとっても、複数のピッチング法が存在する。
そしてこの球技には投げるだけではなく、効果的に打ったり走ったりする手段も確立されている。
一つのスポーツでそれだけの動作があるのだから、
あらゆる競技を極めたエリポンは何千何万種類もの技を扱えることになるのだろう。
相手が普通の戦士であれば、いくら多数の技を持とうとも、似た動きを一まとめにして対策されてしまうのかもしれないが、
マーチャンには少しでも動作の違った技はまったく異なる動きに見えてしまっていた。
ゆえにエリポンの攻撃は毎回毎回が未経験。
これこそがマーチャンがエリポンを天敵だとみなす理由だったのである。

「ハルナンどこ!はやくエリポンさんを止めてよぉ!」

頭の中でグワングワンと鳴り響く音に悩まされながら、マーチャンはハルナンの名を呼びあげる。
アユミンとハルが倒れた今、ハルナンしか頼る人物はいないと考えているのだ。
しかしそのハルナンから返事は返ってこない。
マーチャンには見えていないかもしれないが、ハルナンはすぐ側に倒れていたのだ。
全身にひどい打撲を負いながら、血だらけで。

「あの負傷は……ひょっとしてエリポンが!?」

気づかぬうちに敵将が倒れていたので、サヤシは両手を挙げて歓喜した。
思えばエリポンはあのアーリーでさえも力負するほどの戦士だ。
貧弱なハルナンに抑えられるわけがなかったのである。

「勝ちじゃ!マーチャンさえ倒せばウチらの勝利じゃ!!」

717名無し募集中。。。:2015/11/25(水) 18:22:29
血まみれのハルナン…嫌な予感しかしないなw

718名無し募集中。。。:2015/11/25(水) 18:35:14
ハルナン…ゾクゾクするねぇ

719 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/27(金) 12:57:42
マーチャン撃破という最終目標のためにエリポンに加勢しようとするサヤシだったが、
当のエリポンにそれを制されてしまった。

「サヤシとフクは休んでて。ここはエリだけでやる。」
「どうして!?今は全力でマーチャンを倒すべきじゃろが……」
「マーチャンを倒しても終わらんから言ってる。」
「あ……!」

エリポンの言葉の意味をサヤシはすぐに理解した。
無駄かもしれないが、敵側に気づかれないように小声で確認を取る。

「ハルナンは死んだふりをしちょる……ってこと?」

勝利のためならなんでもやるハルナンのことだから、死んだふりくらいは十分やりかねない。
一ヶ月前にフクと直接対決した時もその通りだったので、確証が無い限りは戦闘不能と決めつけるべきではないのだろう。
それによく見てみればエリポンの身体は思っていた以上のダメージを負っている。
おそらくハルナンの押さえつけから逃れる際にいくらか抵抗されたのだろうが
その負傷のどれもが出血や打撲を伴った痛々しいものとなっていた。
あと少しで気絶するくらい弱っていた者がこれだけの強い斬撃を放つことが出来るだろうか?
ハルナンの生存確率をあげるには十分すぎる材料だ。

「そういうこと。だから油断せんと、備えないかんよ。」

死んだふりに関しては、エリポンには苦い思い出があった。
アーリー戦で油断したばっかりに、勝てる勝負を落としたことを今でも悔いていたのだ。
だからもう決して相手の生き死にを決めつけたりはしない。
ましてや勝敗が仲間の進退に直結するのであれば尚更だ。

「マーチャン!そろそろ倒れてもらうけんね!」
「う〜〜……ヤだよ。マーチャン負けたくないもん。」

マーチャンは近くで横たわっていたハルの剣を拾い上げては、利き腕ではない方の右手で掴んんでいく。
元々所持していた模擬刀と合わせて、現在の得物の数は計2本。
即ち、二刀流だ。

「エリポンさんの攻撃は避けられないから、もう避けない。
 マーはずっとずっと攻撃だけするから。」

720 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/27(金) 12:58:36
ハルナンの気絶はやっぱり信じてもらえないみたいですねw

721 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/28(土) 18:57:32
以前からモーニング帝国ではすべての兵に模擬刀が支給されていたのだが、
その模擬刀を今の形状に改良して、より使いやすくしたのがマーチャンだった。
従来の模擬刀は個人の用途によって刀身の長さや重量が異なる"半オーダーメイド型"だったため、
一般兵や研修生が憧れの帝国剣士と同じスタイルの戦闘法をとるのには適していた。
しかしその反面、他の帝国剣士に心変わりした際には剣を一から作り直さなくてはならないため難儀したという。
(この現象を彼ら彼女らは推し変と呼んでいる。)
そこでマーチャンはどんなスタイルにも対応可能な扱いやすい剣を開発し、
汎用的な模擬刀として兵士たちに配布することを決めたのだ。
これによって兵士らは好きな時に好きなだけ戦闘スタイルの色を変更できるようになった。
これが現代の最新型の模擬刀なのである。
そんなマーチャンが作った模擬刀なのだから、性能を最大限に引き出すことが出来る。
二刀流がいかに効果的に相手を痛めつけることが出来るというのも、"覚え"済みだ。

「やぁーーー!!」

マーチャンは両腕をグルグルと回し、エリポンに斬りかかる。
子供が泣いた時に見せるグルグルパンチのような技ではあるが、これがなかなかに避けにくい。
だがそこは帝国剣士一の怪力を誇るエリポンだ。
二本の腕でマーチャンの両方の剣を白刃取り、完全に動きを止めてしまう。

(痛っったぁ……掌の骨がグチャグチャになっとる……でもここで気張らんと!)

激痛ではあるが耐えられない程ではない。
これでマーチャンを無効化出来たのだと思えば活力も湧いてくるものだ。
しかしそう思ってたところで、マーチャンは予想外の行動を取り出した。

「それあげます」
「えっ?」

なんとマーチャンは剣士の命とも言える剣を簡単に捨てては、
白刃取りをした時点で満足したエリポンの腹に目掛けて突進したのだ。
言うならばこれは無刀流。
武器に精通しているマーチャンは武器を失った時の戦い方も覚えていたのである。

「うぐっ……」

鳩尾にマーチャンの肩を打ち込まれたので、エリポンはひどく苦しんだ。
これまでの疲労やハルナンにやられた怪我も相まって、意識が飛びそうになってくる。

722名無し募集中。。。:2015/11/28(土) 20:27:59
そりゃハルナンだもの誰も信じないってwてか推し変ってww

723 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/29(日) 17:27:23
武道館待機中。。。
公演開始までに更新しようと思ってましたが難しそうです……

724名無し募集中。。。:2015/11/29(日) 21:58:41
マロ卒業おめ
作者さんは武道館行ってたんだね〜自分はLVで見てました

725 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/30(月) 02:32:52
卒コンは最高でした。福田花音という人の偉大さを再認識した日でしたね。
ライブ中盤の特殊なメドレーはこれまでのハローで(たぶん)見たことのない取り組みだし、
それを息切れもせずに普通にやってのけたのが凄かったです。

あと、関係者席にいる鞘師が開演前に転倒したのはちゃんと目撃しました。
あれもこれまでのハローにない取り組みでしたねw

726名無し募集中。。。:2015/11/30(月) 06:30:43
言葉ではなく歌の継承って感じがして娘。とはまた違った卒コンだったね

鞘師転倒は取り組みじゃねーw
LVだから見れなかったんだよな…

727 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/01(火) 12:29:08
次回更新遅れます。。。深夜頃の予定です。

728 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/02(水) 02:59:13
マーチャンは攻めの手を緩めなかった。
地団駄を踏むようにエリポンの足を何度も何度も連続的に踏みつけることによって
掌の骨だけでなく、足の甲の骨までも砕いていく。

「〜〜〜〜〜!!」

あまりにも非情な仕打ちを受けた結果、エリポンは声にならない声をあげることしか出来なかった
これではもうエリポンの手足は使い物にはならないため、今後はそれらを封じながら戦うこととなる。
しかし、手足を使わないスポーツなんて存在するのだろうか?
手が使えなければどんな器具も持つことが出来なくなる。
足が使えなければ走ることも跳ぶことも出来なくなる。
結論から言えば、こんな状況を覆すような魔法をエリポンは備えていない。
ひょっとしたらこの広い世界には手足を使わないスポーツも存在するのかもしれないが、
流石のエリポンもそこまではカバー仕切れていなかったのである。
だが、これで手も足も出ないと決めつけられるのはエリポンも心外に思っていた。
手も足も出ないならば、他のところを出せばいいのだ。

(頭突きならどうだ!)

エリポンがとった行動は、ただ頭を振り下ろすだけの行為だった。
折れた足では自重を支えることも跳躍することもままならないため、サッカーのヘディングとは大きく異なるが
フクやエリポンの強力な攻撃を受け続けてもうヘロヘロになっているマーチャンにとっては
とても効果的な攻撃手段に見えた。
ただ一撃だけでも良いので、エリポンの頭とマーチャンの頭を衝突させることが出来ればそれで十分なのだ。
エリポンの狙いは相打ち。
自らを犠牲にしてでもここでマーチャンを仕留めることが出来れば、戦況はかなり有利になる。
死んだふりをせざるを得ないほど切羽詰まっているハルナンを、フクとサヤシの二人がかりで倒せば良いのだから
ここでマーチャンを倒すことがどれだけ重要なのかはよく分かるだろう。
ところが、そんなエリポンの思いはあと一歩のところで届かなかった。

「それ、知ってるよ」

マーチャンはただ半歩だけ後退した。
それだけでエリポンの頭突きの軌道から外れることを、これまでの経験で知っていたのである。
エリポンがマーチャンに対してアドバンテージを持てていたのは「魔法」を使っていたからだ。
その「魔法」が封じられたのであれば、もはやマーチャンの敵では無いのである。
エリポンの頭突きは虚しくも回避されることとなる。

729 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/03(木) 12:57:59
頭突きが外れたと自覚したとき、エリポンはひどく絶望した。
もう彼女には体勢を整えるだけの余裕も残されていないので
後はマーチャンにやられるだけだと思ったのだ。
ところが、勝機は完全には途絶えていなかった。
自身の頭が地に落ちる直前、エリポンは股の間から後方を見ることが出来たのだが、
そこから希望とも呼べる存在が迫ってくることを確認したのだ。

「エリポン!そのまま持ちこたえて!」
「サヤシ!?」

すぐそこまで接近してきていたのは、Q期の味方サヤシ・カレサスだった。
ハルナン戦に備えて休めと念押ししたというのに、友だちを助けるため駆けつけてきたのである。
色々と思うことはあるが、エリポンはここでは素直に喜んだ。
そして、サヤシの出した指示に全力で応えようとする。

(そのまま持ちこたえる?……この体勢のままでいろってこと?)

頭突きを避けられて頭が地まで下りたその姿は、奇しくも馬跳びの馬の形に似ていた。
サヤシの声が無ければこのまま倒れこむところだったが、
エリポンは必死に馬の形をキープする。
この体勢こそがマーチャンに勝利する鍵なのである。

「エリポンごめん!ウチ跳ぶけぇ!」
「いっ!?」

サヤシは駆けつけた勢いのままエリポンの背中を強く叩き、その反動で跳躍した。
先ほど天気組が見せたヤグラと比べるとあまりにも低いが、
"馬跳びからの斬撃"という珍しい攻撃を敵に見せる目的は十分に果たしていた。
こんな攻撃、マーチャンにとってはもちろん初体験。
少しの回避行動もとることが出来ず、サヤシの模擬刀を脳天で受けてしまう。

「ぎゃあ!!」

フクの必殺技をはじめとして何度も強打を受け続けていたマーチャンには
今回の攻撃まで受けきることの出来る体力は残っていなかった。
アユミンやハルと同じように、床へと倒れていく。
そして気を失ったのはマーチャンだけではなく、エリポンも同様だった。
サヤシに背中を叩かれたのが決定打になったのか、頭から床にぶっ倒れてしまう。

「あぁ……エリポンがやられてしまった……」

サヤシはエリポンに軽く頭を下げると、ハルナンの方へと目線を移す。
現状は天気組全員が床に伏せる形となっているが
これで終わりだとは少しも考えていなかったのだ。

「ハルナン起きとるんじゃろ?……決着つけよう。」

730名無し募集中。。。:2015/12/03(木) 17:08:05
エリポンwww

731名無し募集中。。。:2015/12/03(木) 17:57:29
ドラマチックきた!!でもちょっとエリポン残念だなw

732 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/04(金) 13:00:19
この場に立っている者はフクとサヤシの2名のみ。
他の帝国剣士はオダも含めてみな倒れてしまっている訳だが、
その内のハルナンが死んだフリをしているという事実は、見届け人たちにもバレていた。
いくら気を失った風を装っても、勝利に対する執念までは隠せなかったのである。

「なかなかの胆力ですね。普通は私たちのような大物に見届けられたら、最後まで堂々と戦い抜くものですけど。」

マノエリナの声は皮肉のように聞こえるが、これは心からの褒め言葉だった。
どんな状況でも勝利のためなら泥を平気でかぶる精神を評価しているのだ。
その反面、厳しい意見も同じように飛び出していた。

「でも、ここからの逆転劇は期待できなさそうですよね。」

マノエリナの意見はもっともだった。
Q期側も満身創痍とはいえ、まだサヤシには普通に戦えるだけの余裕がある。
フクが動けないことを考慮に入れても俄然有利だろう。

「マノちゃん、まだ分からないじゃないか!ここから気合を入れて超パワーで相手を投げ飛ばせば……」
「それはマイミさんだから出来るんです。彼女には無理です。」
「う……」
「断言しますよ。天変地異でも起きない限り、天気組の勝利はあり得ません。 命を賭けてもいいです。」
「そんなに言うかぁ……」

マノエリナの言うことは極論ではあったが、マーサー王とサユ王も概ね同じことを感じていた。
そして、Q期が勝利に近いことはフクとサヤシも理解していたし、
何と言ってもハルナン自身がそうとしか思えていなかった。
全身から滝のような汗を流しながら、ハルナンは思考する。

(どうすれば……どうすれば私は王になれるの!?)

此の期に及んで、ハルナンには勝利するビジョンが描けていなかった。
ここで立ち上がろうとも、このまま死んだフリを続けようとも
サヤシに捕まって終わるイメージしか出来ていないのだ。
とは言え全くの無策という訳ではない。
ただ、「それ」が叶うための事象が発生する確率が限りなく低いのである。
決闘前、作戦を練る段階では「それ」はほぼ確定的に起こりうるものだと信じていたのだが、
ここまで来てもまだ来ないために、ハルナンの焦りが加速していく。

(どうして!?どうして来ないの!?……絶対に来るって信じていたのに……)

絶望に打ちひしがれたハルナンは、死んだフリの最中だというのにもかかわらず、天を仰いでしまった。
もうどうとでもなれと、ヤケになったのかもしれない。
ところがその時、ハルナンの頬へと朗報が舞い降りてくる。

「きた!!!!!」

突然ガバッと立ち上がったハルナンを見て、一同は驚いた。
戦闘中とは思えぬ喜びように、何が何だか分からなくなってくる。
そんな周囲の反応も構わず
ハルナンはフクを指さし、見栄を切る。

「やっと来ました。王の座、もらいます。」

733名無し募集中。。。:2015/12/04(金) 18:22:29
何が来たの?

734名無し募集中。。。:2015/12/04(金) 20:51:24
マイミが居ると言うことは荒れしかない←

735名無し募集中。。。:2015/12/05(土) 11:33:05
頑張れハルナン!

736名無し募集中。。。:2015/12/05(土) 12:43:33
マーサー王国の世界で作って欲しいな

三國志ツクールが発売されるのでハロプロ三國志のアイデアください [無断転載禁止]���2ch.net
http://hello.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1449236618/

737 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/07(月) 13:00:25
ポツリ、またポツリと水滴が落ちてくる。
それが雨粒だと気づくのには時間は要らなかった。
何故ならば、天候は10秒も経たぬうちに集中豪雨へと変わっていったのだから。

「な、なんなんだこの雨はっ!」

雨どころか強風も伴う暴風雨に打たれたことにサヤシは驚きを隠せなかった。
この訓練場の天井は以前クマイチャンがぶっ壊したために、雨風を防ぐ機能が失われていたことは知っていたが
こうも急に天気が変わるなんて異常にも程がある。
よりによって大事な決闘の時にこんな悪天候に見舞われるなんてとんだ災難だとも思ったが、
Q期の将、フク・アパトゥーマはこれが必然であったことに気付き始めていた。

「……そうか!なんで今まで忘れていたんだろう。」
「フクちゃん!?」
「サヤシ気をつけて!この雨は仕組まれている!!」

フクが叫ぶ位置から少し離れたところ、
見届け人の席ではマイミとマノエリナがバツの悪そうな顔をしながら俯いていた。
サユは自身の上着を動けぬオダに被せると、2人に対してチクリと言い放つ。

「この雨、あなた達のせいでしょ。」
「あぁ……」「おそらくそうかと……」

サヤシは知らなかったようだが、マーサー王国のマイミとマノエリナと言えば超のつくほどの雨女として有名だった。
それは迷信や噂話といったレベルを遥かに超えており、
催し物を延期させたり、移動の足を止めたりすることはしょっちゅうだ。
そんな雨女の2人が見届け人としてやってきたのだから、本日の天気が豪雨になることは決定付けられていたのである。

「そして、あなた達ふたりを見届け人にするよう扇動したのは……」

そう、こうなるように仕向けたのは他でもないハルナンだったのだ。
敵に対して有利に振る舞うには「地の利」を生かすことが鉄則ではあるが
決闘場が誰もが知る訓練場であるためにそれを有効活用することは難しい。
ゆえにハルナンは「地の利」ではなく「天の利」を生かすことを考えたのである。
今こうして雨が降ることはハルナンのみが知っていた。
これからハルナンは誰よりも有利に立ち振る舞えるのだ。

「でもっ!この雨の中じゃあハルナンだって上手く戦えんじゃろっ!」

息も出来ないほどの豪雨。しかも足場も悪いので少し歩くだけでも転倒しかねない。
普通の戦士であれば剣を振るうことすら困難なはずだ。
しかし、ハルナンには自分だけがただ一人動くことの出来る確固たる自信が備わっていた。

「私を誰だと思ってるんですかね……天気組の『雨の剣士』ですよ?」

738名無し募集中。。。:2015/12/07(月) 13:18:47
最初なんでマノチャンが?って思ったけどそう言うことだったのか!?ハルナンオソロシイ…w

739 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/07(月) 13:18:54
>736
こんなのがあるのですね。
手を出してみたいが、時間が無いので断念しますw
続きを書く方に専念せねば、、、

740名無し募集中。。。:2015/12/07(月) 20:34:34
たまんねー!頑張れハルナン!

741名無し募集中。。。:2015/12/07(月) 23:51:56
マーサー王完結したら期待してますw

742 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/08(火) 13:23:04
雨の剣士という通り名は、決して雨天に強いからという理由で付けられたわけでは無い。
敵の身体部位を機能停止させるほどに斬りまくった結果、
そこから発生する血の雨に由来していたのだ。
なのでハルナンも他の剣士同様に荒天ではパフォーマンスが落ちるはずなのだが、
今日の彼女の動きからはそれを全く感じさせなかった。

「サヤシさん、あなたさえ倒せば実質的な勝利なんですよ!」

大雨で足元の悪い中、ハルナンはまったく滑ることなくスイスイと前進していっている。
ただでさえ瓦礫の上は動きにくいというのに、そこに雨水も加わった状況でこうもスムーズに動けるのは異常だ。
訓練とかでどうこう出来るレベルを超えている。
まるで特殊能力者のように振る舞うハルナンを前にして、サヤシは焦らずにはいられなかった。
だが、それでサヤシが圧倒的に不利だと決めつけるのは早計だ。
何故ならサヤシとハルナンの実力には大きな開きがあったからだ。

「ウチは負けない……ハルナンの攻撃の威力はだいたい分かっちょる……
 ガチンコでやったら負けるはずがないんじゃあ!!」

サヤシは己を鼓舞するかのように叫びだした。
この足元の悪さではもはや一歩も動くことは出来ないが、
幸いにも敵であるハルナンの方からこちらにやってきていた。
ならばやるべきは模擬刀と模擬刀のぶつかり合い。
となればいくら雨が降っていようと、剣術に長けているサヤシが有利に違いない。
非力なハルナンの斬撃を受けながら、強烈な一撃をぶっ放せば良いのだ。
サヤシは、そう思っていた。

「まだ分からないんですか?サヤシさん。」
「!?」
「私の繰り出す攻撃は、全てが必殺技級の威力に変わるんですよ。」

ハルナンはサヤシの左肩を、コン、と軽く小突いた。
普通であればなんともない攻撃だ。
むしろ攻撃とすらみなされない行為かもしれない。
しかし、今は状況が異なっていた。
雨水で踏ん張ることの出来ないサヤシはただそれだけでバランスを崩してしまい
大袈裟に転倒し、顔面から地面に落ちてしまった。
それもただの地面ではない。尖ったものがたくさん転がる瓦礫の山にだ。
こうなれば、サヤシの顔は血まみれのグシャグシャになってしまう。

「あ……ああ……」
「女性の顔を潰すのは心苦しいですね。だからサヤシさん、そのまま寝転がることをオススメしますよ。」

743 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/08(火) 13:24:00
三部まで完結するのは来年末とかになってそうですねw

744名無し募集中。。。:2015/12/08(火) 14:15:45
乙女を顔をもぐしゃぐしゃに痛めつける作者はSだなw

745名無し募集中。。。:2015/12/08(火) 17:14:26
S描写には定評のある作者さんだからな

746 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/09(水) 12:58:11
転倒による顔面への強打は痛いなんてものではなかった。
出血量も尋常ではなく、雨水で流される暇もなく溢れかえっている。
ただ肩を軽く叩かれただけでこれだけの大怪我を負わされたため、当然サヤシはパニックに陥る。
ハルナンはその狼狽っぷりを見て満足したのか
くるりとフクの方を向いて歩きだしてしまった。
おそらくはサヤシにやったように、フクも滑らして転ばすつもりなのだろう。

(今のフクちゃんが転ばされたら……もう起き上がることは出来ない!)

サヤシはパニック状態にあるものの、仲間の危機についてはなんとか察知することが出来た。
先ほどハルナンは「寝ててください」などと言っていたが、そんなこと出来るはずもない。
例え自分の顔が傷つこうとも、血液を大量に失おうとも
フク・アパトゥーマの刀として働く使命だけは果たさねばならないのだ。

(背後からやるしかない!ハルナンを斬るんじゃ!)

サヤシは上半身を起こし、この場を去ろうとするハルナンには向かって斬りかかった。
不意打ちではあるが、真剣勝負に卑怯もへったくれもない。
悪いのは相手の状態もろくに確認しないまま背を向けたハルナンの方なのだから。
……と、サヤシは思っていたが
このすぐ後の行動でその認識を改めることとなる。

「やっぱりそう来ますよね。」

なんとハルナンはサヤシの方へと身体の向きを戻し、
低い体勢から攻撃を仕掛けるサヤシの額を強く踏みつけたのだ。

「がっ!!……」
「寝てるわけないですもんね。サヤシさんのストイックさ、本当に感服します。」

『サヤシは必ず起き上がって奇襲をかけてくる』
ハルナンはそう予想していたからこそ、このような行動を取れていた。
サヤシは逆境に立てば必ず死に物狂いで立ち向かってくると、心から信じていたのである。
そして、この時ハルナンが見せた凄技は行動予測のみではなかった。
この滑りやすい環境で、一時的とはいえ蹴りのために片足で立っていたことが既に妙技なのだ。
これにはマノエリナも不思議がる。

「あのバランス感覚はいったい?……まるで雨天の戦いに慣れきっているような……」

マノエリナの発言がヒントになったのか、サユ王は何かに気づき始めた。
そしてマイミの方を向き、自身の考えを述べていく。

「ハルナンはこの一ヶ月間のほとんど、マイミと行動を共にしてたのよね?」
「その通り。訓練中も防衛任務中もずっとついてきていたな。」
「その期間のマーサー王国……いや、マイミ周辺の天気はどうだったの?」
「……言わなくてはダメか?」
「言って。」
「毎日が雨天の連続だ。」
「やっぱり。」

747 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/09(水) 12:59:32
描写は前作比では抑えめにしてるつもりですw

748名無し募集中。。。:2015/12/09(水) 18:05:50
ハルナンスゲー

勝っちゃうんじゃね?
ハルナン王のモーニング帝国も見てみたい

749名無し募集中。。。:2015/12/09(水) 19:58:47
ハルナン王か…勝手なイメージだけどハルナンには参謀がよく似合うw
それか三国志の司馬懿のように国を乗っ取って自らが王となるような…w

750名無し募集中。。。:2015/12/09(水) 20:40:02
>>749
すごく分かるわ

751名無し募集中。。。:2015/12/09(水) 22:01:34
いや俺マジでここのハルナンのファンになって現実の飯窪春菜も推すようになってしまった

勝利の為には手段を選ばず我が身も省みず全力なところはどこか飯窪さんらしいジョジョのキャラっぽくもあって
作者さんの動かし方には感心させられますわ

752 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/10(木) 12:53:37
私の書く飯窪さんモチーフキャラは何故か黒くなりがちなんですけども
好評のようで安心しました。
このまま第一部の終わりまで突っ走っていきます。

あ、今日の更新は夜になります> <

753名無し募集中。。。:2015/12/10(木) 13:08:57
なんか完結する頃にはホントはるなんハロプロリーダーとか就任してそうだよなw

754 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/11(金) 02:49:43
名目上では、ハルナンは罪を償うためにマイミの側につくということになっていたが、
彼女の本当の狙いは「雨に慣れる」ことであった。
超がつくほどの雨女であるマイミの近くにいれば、必ず豪雨に見舞われる。
戦闘中だろうと、食事中だろうと、睡眠中だろうと、雨女パワーが弱まることは無いのだ。
そうすることによってハルナンは雨水にも耐えうるバランス感覚を身に着けようとしたのである。
……とは言っても、四六時中すべてが雨という訳には流石にいかなかった。
今日この日だってハルナンを焦らせる程度には晴れ続けていただろう。
いくらマイミが雨女でも、せいぜい降水確率を大幅に上げることくらいしか出来ないのだ。
ところが、ハルナンは晴れの日にだって雨の経験を積む作戦を練っていた。
それは「マイミの台風のようなプレッシャー」を浴び続けることだった。
マイミが臨戦態勢に入るとき、まるで暴風雨の如き重圧を発することは
アンジュ王国の番長タケやカナナンが身をもって経験している。
特にマイミはハルナンのことを自分を騙した敵だとみなしていたために、
瞬間最大風速計測不能級の台風のようなプレッシャーを絶え間なく放ち続けていた。
それを至近距離で常に浴び続けたのだから、そんじょそこいらの雨に当たるより良い経験になったろう。
正直言って、負傷した身体で緊張し続けることは吐くほど辛かったし、
キュート戦士団の他の4名それぞれから受けたプレッシャーも苦痛だった。
気が狂いそうになった。逃げ出したい衝動に何度も駆られた。
だが、ハルナンはなんとか耐えきったのだ。信念だけは貫き通したのだ。
最終的には、あれほど敵意を抱いていたマイミから認められた程だ。

「雨が降り続ける限り、私は帝国剣士最強です。これは傲慢でもなんでも有りません。事実です。
 サヤシさんよりも……そして、フクさんよりも強いんですからね!!」

ハルナンはフクをキッと睨みつける。
豪雨が邪魔をしてその時のフクの表情はうまく読み取れなかったが、
相当に焦っているということは容易く理解できた。

「動けないんですよね?そこで黙って見ててください。
 サヤシさんにトドメを刺したらすぐに向かいますから。」

755名無し募集中。。。:2015/12/11(金) 06:36:52
キュート戦士団の四人はどんなプレッシャーなのか…そういやアイリも雨の日に強くなるんだよな

756名無し募集中。。。:2015/12/13(日) 01:51:27
>>594
自ら敵陣に乗り込んで、辛さに堪え忍ぶくらいの気概

ハルナンのことか

757 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/14(月) 12:32:06
>>753
残りのベリキューのプレッシャーについては考えています。
前作ネタだったり、いまの活躍を参考にしたものだったりと様々ですが……

>>754
!!
とりあえずノーコメントでw

758 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/14(月) 12:33:07
あ、アンカー間違えてました。
それぞれ>>755 >>756 に対するレスです。

759 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/14(月) 12:59:48
またか、とサヤシは思った。
格下扱いしていた相手に出し抜かれるという構図は、
一ヶ月前にハル・チェ・ドゥーにやられたのと全く同じ。
自分があまりにも成長していないため、落ち込みかけてしまう。

(いや、今は落ち込んでる場合じゃない!)

サヤシが思う通り、ここで落胆しても何も始まらなかった。
もしも諦めればハルナンはフクのところに行くだろう。
このハルナン圧倒的有利の環境で一対一の状況を作るのはまずい。
悔しいが、そうなればフクは長くは持たないだろう。
だからサヤシはここでハルナンを止めるしかないのだ。

(仕留める……までは出来んじゃろな。
 ハルナンは強い。ウチはまだ未熟……ちゃんと認めよう。
 じゃけど、削ることなら出来るはず!!)

サヤシは己の額を自ら地面に叩きつけ、
破片だらけの床であることもお構いなしにグリグリと擦り付けていく。
出血する傷口を更に痛めつけるのには理由があった。

「ウチの十八番は居合いだけじゃない!ダンスもじゃ!!」

サヤシは接地したおでこを起点にして、逆立ちするように両脚を上げていった。
これはヘッドスピンと言われるダンスの技。
本来は平らな床の上で行われるものではあるが、頭部を軸にして高速の回転力を発生させることが出来るのだ。
サヤシは自らが負傷するほどのリスクを負う代わりに、ハルナンに蹴りをぶつけようとしたのである。
ハルナンもサヤシが何かするとは思っていたが、それがダンスの技とまでは想像していなかったので
至近距離でサヤシの回転を受けてしまう。

「ああっ!!」

人間一人分が勢い付けてぶつかってきたので、ハルナンは耐えきれず転倒してしまう。
いくらハルナンが豪雨の中でも転倒しないバランス感覚を身につけたとは言え、
蹴りを受けても転ばない訓練をしてきた訳ではないので、当然の結果とも言える。

760 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/15(火) 12:54:45
転倒した結果、ハルナンは背中を強く打った。
それだけで呼吸が困難になるほどに苦しいし
その上、細かな破片が突き刺さったのか、あちこち出血していることも分かる。
自らが仕掛けた瓦礫だらけの戦場で、自分が傷つくとは皮肉なものだ。
なんとか意識を保ってはいられたが、もう少しサヤシの攻撃が重かったら正直言って危なかっただろう。
サヤシが小柄で細いのが幸いした。
今よりもう少しウェイトがあって、ポッチャリしてたら勝負は決していたのかもしれない。
それだけハルナンはギリギリだったのだ。
だが、そんなハルナンにもそれなりの成果は得られたようだった。

「あれ、サヤシさん……ひょっとして気を失ってます?」

ハルナンの目の前には、頭部から多量に血を流したサヤシが横たわっていた。
おそらくは出血多量と激痛に耐えきれず、気絶してしまったのだろう。
最後の強敵と思っていたサヤシがこうもあっけなく倒れたので、ハルナンはにやけそうになるが
ここは気を引き締めて、冷静に対処することにした。

「ちょっと分からないので、確認させてもらいますね!」

ハルナンはわざと大きな声を出しては
立ちあがって、サヤシの横っ腹を強く踏みつけた。

「念のためもう一発!」

一発と言っておきながら、ハルナンは二発、三発、四発もサヤシを蹴飛ばした。
この行為にはサヤシの安否を確かめるという理由の他に、
Q期最後の生き残りであるフク・アパトゥーマを刺激するという意味も込められていた。

(私の知っているフクさんは仲間を足蹴にされて黙っていられる人じゃないはず!
 さぁ!そのズタボロの脚でここまで来てみてください!!)

761名無し募集中。。。:2015/12/15(火) 15:27:44
ハルナンおっかねえよw

762名無し募集中。。。:2015/12/15(火) 19:20:08
心臓の音を聞くんじゃないのか
確認させてもらいます でDIOを期待したのにw

763名無し募集中。。。:2015/12/16(水) 02:39:39
ハルナン…ゾクゾクするねぇ

764 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/16(水) 10:57:21
激昂したフクが瓦礫と豪雨に手こずっているところを叩くのがハルナンの勝ち筋だった。
味方であるサヤシがこんなにも酷い仕打ちを受けたのだから、
仲間思いのフクならいてもたってもいられなくなるだろうと考えていたのだ。
ところが、フクはハルナンの思った通りには動かなかった。
サヤシを幾度と踏みつけても、彼女は元の位置を離れようとはしない。

(おかしい……いつものフクさんじゃない?)

これ以上サヤシをいたぶるのが無駄だと感じたハルナンはすぐに攻撃を停止する。
サヤシが戦闘不能だというのは十分すぎるほど確認できたので、
黙りを決め込んでいるフクの方へと自ら向かうことにする。

「リスクを冒さないと利は得られないってことですね…
 分かりました。長い長い戦いに決着をつけに行きましょう。」

降りしきる大雨の中、ハルナンは敵将フク・アパトゥーマの元に一歩、また一歩と歩みを進めていく。

765 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/16(水) 10:58:07
ちょっと短めの更新ですが、、、


DIOネタは思いつかなかったですw

766名無し募集中。。。:2015/12/16(水) 12:40:03
静かなるフクが恐ろしい…w

767名無し募集中。。。:2015/12/16(水) 17:25:07
いかに帝国剣士と言えどスタンドなしで心臓止めるのは厳しいやろw

768 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/18(金) 10:49:31
視覚的な情報が雨で遮られていたため、ハルナンは黙するフクを脅威に思っていた。
ところが実際は恐れることなど何もなく、
当のフクはただただ泣きそうな顔で絶望に打ちひしがれているだけだった。
まさに杞憂も杞憂。
限界を迎えた脚が本当に言うことを聞かないため、フクは動きたくても動くことが出来ないのである。
その上、必殺技Killer Nを放つ時に天気組三人から受けた傷が痛むので上半身も満足に動かない。
即ちフクはこれ以上ない程の満身創痍。
二発目の必殺技を繰り出すどころか、這って移動することすらままならないのだろう。
しかも雨風は継続して容赦なく降り注いでいる。
冷たく身にしみる雨粒は体力と熱量を次々と奪っていくため、
フクはあと数分も経過したら立てなくなるくらいに衰弱していた。
空が晴れれば少しは体力も回復するのかもしれないが、それがあり得ないことはフクが一番よく知っている。
食卓の騎士を尊敬しているだけに、マイミの雨女パワーの弱化を想像することすら出来ないのだ。
マイミとマノエリナを凌ぐほどの晴れ女が突然現れることなんてそう有り得た話ではないため、
そこに関してはフクも諦めていた。
だが、この場で立ち続けることだけは決して諦めてはいない。
歯を食いしばり、意識が飛びそうになるのを堪えて、気を引き締める。
もしもここで倒れてしまったらエリポンの、サヤシの、カノンの犠牲が無駄になることを分かっているからこそ
フクは恐ろしい強敵の前でも立つことが出来るのだ。
しかし、裏を返せばフクを支えるモチベーションはたったのそれだけ。
普段は応援という形で勇気を貰うのだが、今のこの状況ではそれが全くと言って良いほど期待できない。
唯一の仲間であるQ期はみな倒れているし、
立会い人は中立であるため、声に出してフクにエールを送ることはない。
つまりこの広い訓練場でフクはひとりぼっちなのである。
応援といった後押しもなく、弱った身体でハルナンに対抗するのは至難の技に違いない。
そうして困窮するフクに向かって、ハルナンがまた一歩近づいてくる。

769名無し募集中。。。:2015/12/18(金) 12:24:58
まさかもう何も打つ手が無かったとは・・・
雨女二人を覆す位の晴れ女なんて彼女達位しかいないけど…

770 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/19(土) 15:04:05
ハルナンがフクの元に到達したちょうどその時、
本来ならばありえないはずのことが起き始めた。

「晴れ……た?」

先ほどまで訓練場を局所的に叩きつけていた豪雨が、嘘のように消え去ったのだ。
黒々とした雨雲も、吹き飛ばされそうなくらいの強風も、今はもう何もない。
唯一存在するのは暖かな日差しのみ。

「ど、どういうこと!?ありえない!」

当然のようにハルナンはパニックに陥る。
マイミとマノエリナといった盤石の布陣を築き上げてきたはずだったので
こうも簡単に雨が止んだ事実を受け入れられていないのだ。
信じられないような顔をしているのはフクも同じ。
だが、フクは知っていた。
雨女二人のパワーをも覆すことの出来る晴れ女集団がマーサー王国に存在することを。

「来てくれたんですね……皆さんお揃いで。」

フクが感激の涙を流すのと同じタイミングで、マイミとマノエリナは互いに顔を見合わせる。

「なるほど!あいつら近くに来ているんだな。」
「はい、この感じからすると6人全員いるに違いありません。」

一連の光景を目にしたマーサー王は、大きな声をあげて笑い飛ばした。
結末が全くと言っていいほど予想のつかない決闘に、心から満足しているようだった。

「フク・アパトゥーマも、ハルナン・シスター・ドラムホールドも
 どちらも勝利のために食卓の騎士の力を利用するとは……なかなか面白いじゃあないか。
 この勝負、どちらが勝つのかいよいよ分からなくなってきたとゆいたい。」

771 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/19(土) 15:05:05
>>769
正解ですw

772名無し募集中。。。:2015/12/19(土) 15:47:00
>>27
マーサ…6人…ハッ!?

松か?松なのか!?

773名無し募集中。。。:2015/12/19(土) 15:47:45
安価ミス

774名無し募集中。。。:2015/12/19(土) 18:40:17
>>771
当たっちゃった…って王国ほったらかしで何してるんだかw

775名無し募集中。。。:2015/12/19(土) 23:48:13
食卓の騎士4人いれば十分なほど強くなっているってことなのだろう

776名無し募集中。。。:2015/12/20(日) 21:46:12
文化番長メイメイがまさかの卒業・・・マーサー王始まってからすでに3人(幻の4人)卒業だなんて…変化激しくて構想狂いまくってそうw

777名無し募集中。。。:2015/12/20(日) 21:47:30
>>775
お留守番のキュート戦士団…今は4人か6人かも気になるな…

778 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/21(月) 13:26:36
モーニング帝国城の城門。
現在そこにはマーサー王国から来たとされる6名の騎士が居座っており、
帝国の門番や、警備研修の真っ只中にある研修生らを震え上がらせていた。

「モモ!本当に私たち全員がここまで来る必要あったのか!?」

モモ、と呼ばれる女性に対して怒鳴り声をあげたのは
鋭い目付き(と顎)が特徴的な女性だった。
怪物のようなオーラを放つ集団の中でも彼女のそれは特に殺人的であり、
兵士らはみな、全身の四肢が鋭利な刃物によって輪切りにされたかのような錯覚に陥っていた。
人体の「普段は見られない裏側」をオープンに晒す感覚は、イメージとは言え恐ろしい。

「あら、ミヤはマーサー王に何かあっても良いって言いたいの?
 私たち全員で帰路を護衛するべきだと思わなかった?」
「マイミとマノエリナがついてるじゃないか!どう考えても十分すぎる。」
「"あの時"みたいなことが無いとも言えないでしょ?」
「うっ……」

通称モモも、ミヤと呼ばれる女性に負けず劣らずの存在感を持っていた。
彼女が発するのは冷気。
戦士として位の低いものはすぐにでも凍死してしまうほどの寒気を感じてしまう。

「ちょっと二人とも!喧嘩はしないの!」
「ほんとだよ!マーサー王を護る私たちが仲間割れしちゃ意味が無いよ!」

二人の仲裁に入ったのは、「色黒の長身」と、「長身の域を超えた巨人」だった。
色黒はとても明るくて、戦いとは無縁のように見えたが
その太陽のような明るさが突出しすぎるあまり、兵士らは業火の如き熱に炙られる。
肌が焼けて真っ黒コゲになる苦痛は並大抵ではなかった。
そして巨人は巨人で、天空から押さえつけてくるかのような重力を発生させている。
門番と研修生の全員がここから逃げ出したいと思っているのに、
それが叶わないのはこのプレッシャーのせいだったのだ。
もう一人、さっきから退屈そうにしている美女もいるが
その美女のオーラも例外なく凶悪。
ゆえに一般兵らは5種類の殺人級オーラをグッチャグチャに浴び続けなくてはならなかった。

「よし分かった!モモの言い分を少しは認めよう!護衛の強化は必要だった。」
「少し?何よその引っかかる言い方は。」
「副団長である私ならびに、ベリーズの構成員4名が王を護るのは認める。
 でも、お忙しい団長のお手を煩わせる必要はなかったんじゃないか!?
 ですよね?シミハム団長!」

視線の先にいたのは、目を閉じて座禅を組んでいる小柄な女性だった。
派手な怪物集団の団長と言うにはあまりにも地味で、弱々しくも見える。
そして不思議なことに、その団長からは全くと言って良いほどオーラが感じららなかった。
他のメンバーが天変地異を起こしているのに対して、彼女は"無"そのものなのだ。
一見して弱き者だというのに、化け物らみなが注視してる。
目をパチリと開いた団長が首をちょっと横に振るだけで、大袈裟に反応をする。

「団長!……団長がそう言うのであれば……」
「ほら〜私の方がシミハムの気持ちを分かってたでしょ?」
「う、うるさい!」

779 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/21(月) 13:28:14
芽実の件も驚きましたね、、、
でも二部の内容にはほとんど影響ありません。
まだ固まって無い三部の内容は揺れてますけどねw

キュートの人数はまた今度に。

780名無し募集中。。。:2015/12/21(月) 16:40:28
オーラやべぇw
兵士達は失神して漏らすレベル

781名無し募集中。。。:2015/12/21(月) 20:50:02
団長のプレッシャーは『沈黙』かな?そうか…シミハムの声はもう。。。涙

そっか取り敢えずメイメイは話に影響ないのか〜

キュートはまだひっぱるのねw

782 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/22(火) 12:55:03
フク・アパトゥーマは、自身の身体が軽くなるのを確かに感じた。
体力を奪いつつあった豪雨が止んだというのもあるが
それ以上に「憧れのベリーズ戦士団が来てくれた」という事実が疲れを吹っ飛ばしてくれている。
しかもフクは、ベリーズが自分を応援してくれているということを微塵も疑っていない。

(有難う御座います!私、勝ちます!)

Q期の期待に応えるという使命感に加えて、歴戦の戦士らの応援パワーも加わったのだからフクはもう無敵だ。
激痛で動かせなかった腕だって、今なら動く。
これまでにない希望に満ちた一撃を、ハルナンへとぶつけていく。

(どうして!?こんなのありえない!!)

フクとは対照的に、ハルナンは絶望の奥底に立たされていた。
さっきまでの勝ちムードが180°ひっくり返されたので、動揺も半端ではない。

(フクさんはこれを狙っていたというの?……それとも全くの偶然?)

これまで豪雨でフクの表情が見えなかったため、ハルナンは相手の真意を掴めずにいた。
天候を晴れにする手段を握りながらハルナンを躍らせていたのかもしれないし、
あるいは何も考えずこうなることだけを信じて待っていたのかもしれない。
前者であればハルナンをも越える策略家となるし、
後者であれば神に愛された存在だと認めなくてはならない。
どっちにしろ、今のパニック状態にあるハルナンが相手するには強大すぎていた。

「う、うわああああ!」

ハルナンは模擬刀を構え、フクの放つ斬撃に力いっぱい当てていった。
もはや、それくらいしか出来なかったのだ。

783名無し募集中。。。:2015/12/22(火) 14:59:40
ハルナン策士の割には詰めが甘かったな
こんな形成逆転の一手を許すとは

784名無し募集中。。。:2015/12/22(火) 17:54:06
策士策に溺れる…ハルナンらしいなw

785 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/23(水) 12:59:11
フク・アパトゥーマとハルナン・シスター・ドラムホールド。
この時点でどちらがより負傷しているかと聞けば、誰もがフクを指さすだろう。
いくら元の膂力に差があるとは言っても、
この状況で普通に斬り合えばハルナンが勝利するはず。
しかし、精神の疲弊が段違いだった。
地から天に上がったばかりの者と、天から地に落とされたばかりの者とでは、勢いか違うのだ。
そして奇跡はまたもフクを味方する。

(えっ?……剣が何色にも輝いて……)

フクの剣が七色に輝くのを目撃したハルナンは、
いよいよ神の所業であることを疑わなくなってしまった。
普段フクが持つ装飾剣よりも煌びやかに輝く模擬刀を前に、
対抗せんとする意志さえも奪われたのだ。
もっとも、フクの剣が輝いた現象は神や仏の仕業とはまったく関係ない。
ただの光の反射。単なる物理現象である。
オダ・プロジドリやサユ王がやってみせたような刀身による反射がたまたま決まっただけのこと。
唯一違う点といえば、雨上がりの太陽光を跳ね返したために
その光が虹色に輝いたことくらい。
マーチャン・エコーチームが製作したこの模擬刀は、汎用的なためどんな色にも変えることが出来る。
サヤシにつけばサヤシの色に、アユミンにつけばアユミンの色に、
要するに推し変がとてもし易い仕様になっている、というのは以前説明した通りだろう。
だがいくら変えられるとは言っても、フクは単推し程度では満足出来なかったのかもしれない。
彼女の剣は7色の剣。
つまりは箱推し。
尊敬する人物を一人に絞るなんてナンセンス。
まったくもって勿体なさすぎるのだ。

「たあああああ!!」

その一撃は確かに弱々しかったかもしれない。
それでも、同期の思いを乗せて、尊敬する戦士らの応援を力にして、なんとか放つことができた。
だからこそ、考えすぎた結果として恐怖に飲まれたハルナンを打ち破れたのだ。
すべての結末を見届けたサユ王が立ち上がり、宣言する。

「勝者はフク!次期モーニング帝国帝王はフク・アパトゥーマであることを認める!」

勝利をおさめたフクは安心しきって、その場に倒れてしまう。
今はホッとしているが、これからが大変だろう。
なんせ、今後は七色では収まらない程の光を背負い続けなくてはならないのだから。

786 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/23(水) 13:01:21
決着はつきましたが、一部はあとちょっとだけ続きます。

現在はハロショで娘。の握手待ち。。。
参加メンバーは鞘師に加えて譜久村、飯窪、あかねちんです^^

787名無し募集中。。。:2015/12/23(水) 13:35:52
ついに決着!新フク王万歳!ハルナンも頑張った!

そしてリアルに握手会に参加する作者さん…取り敢えず譜久村と飯窪さんに謝っとけwまた創作意欲湧くこと祈ってます

788名無し募集中。。。:2015/12/23(水) 18:36:44
なんか最後の最後でハルナン情けないなあ

789 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/24(木) 12:56:00
決着から数ヶ月後。
モーニング城では新たな帝王の就任式が始まるとして、たいへん賑わっていた。
この日の主役はもちろん、例の決闘で勝利したフク・アパトゥーマだ。
数時間後の就任スピーチに備えて、控え室で身体を休めている。

「フク王様、脚の方の調子はもう宜しいのですか?」
「うん、ハルナン。もうすっかり歩けるようになったよ。」

この控え室の中にはフク王の他にもう一名。
モーニング帝国に2人存在する帝国剣士団長のうちの1人であるハルナンが立っていた。
これから大舞台へと羽ばたくフクのサポートを務めているのだ。
もう1人の帝国剣士団長は部屋の外の警備に当たっているため、ここには2人しかいない。

「それにしてもフク王様。」
「なに?どうしたの?」
「やっぱりフク王様こそ前線で戦い続けるべきだと今でも思うんですよねぇ……
 王座は、戦闘の役に立たない私に譲ってみませんか?」
「ちょっと!まだ言ってるの!?」
「うふふふ、冗談ですよ。 緊張をほぐすためのギャグです。」
「笑い事じゃないよもう……それにね、ハルナン。」
「はい?」
「私はね、ハルナンの方がずっと前線向きだと思ってるよ。」
「……それはギャグですか?」
「ううん。冗談なんかじゃない。
 ハルナンの策で帝国剣士全員を動かしたら凄いことが起こるはず。
 ううん、モーニング帝国剣士だけじゃもったいない。
 アンジュの番長、果実の国のKAST達とも協力しよう。
 個性の強い戦士達をまとめる総指揮は、ハルナンにしか取れないんだよ。」
「お言葉は嬉しいですけど……結局、私が前線に立つのとは関係ないのでは……」
「ある。」
「ありますか?」
「ハルナンはいつも最後には自ら敵に立ち向かってるよね。
 その自己犠牲の精神があるからこそ、天気組のみんなは従ってきたんじゃないかな。」
「あはは、じゃあそう受け止めておきます。
 ただ、一つだけいいですか?」
「なに?」
「総指揮に立つってことはQ期さんも自由に使っていいんですよね?
 後輩の私から命令するのは難しいので、王の方から新任帝国剣士団長さんに言付けしてもらえませんか?」
「うん。言っておく。」
「それはどうも。」

790 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/24(木) 12:59:07
マーチャンがやられた時点でハルナンには豪雨の中での戦いしか残されていなかったので、
雨が止むことでパニックになり、冷静さを欠いたということになっています。
ベリーズ全員がやって来るというのは、想定外だったんですね。

握手会行ってきました!みんな可愛かったです。
一瞬で終わったので謝罪は無理でしたw

791名無し募集中。。。:2015/12/24(木) 20:39:30
まぁベリーズが総出来るなんてそりゃ想定外だわなw
握手会楽しんで来たようで何より

792 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 12:43:13
式典が行われる会場には数え切れないほど多くの人々が収容されていた。
城に仕える者だけではなく、新たな王を一目見たいと望む国民たちも集っている。
おかげ様で一階席、二階席、アリーナ席のどれもが満席。満員御礼だ。
そして、関係者席には特に重要なVIPらが着席していた。
アンジュ王国のアヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー王ならびに8名の番長や、
果実の国のユカニャ・アザート・コマテンテ王と4名のKASTらも十分大物ではあるのだが、
特に来場客らからの視線を集めていたのはマーサー王と11名の食卓の騎士だった。
祝いの場なのでいつもの天変地異の如き殺人オーラを最小限に抑えてはいるが、
それでも彼女らはそこに居るだけで周囲を緊張させる。
この数ヶ月で大きく成長したモーニング帝国剣士らも、ベリーズ&キュートの放つプレッシャーだけはまだまだ苦手なようだった。
あの自由奔放なマーチャンでさえも、本能で危険を感じ取ったのか、大人しくなっている。
そんな中でビビっていないのはQ期団のサヤシ・カレサスくらいのものだ。
とは言っても、決してサヤシのメンタルが強くなったという訳ではない。
今は別件で頭がいっぱいなのである。

「認めない認めない認めない……」
「ちょっと、まだ落ち込んでるの?」
「カノンちゃん……ウチはもうダメなんじゃ。Q期としてやってく自信が無い……」
「気持ちは分かるけど決まったものはしょうがないでしょ。
 ほらお菓子あげる。ストレスは甘い物で吹き飛ばせばいいんだよ。」
「ありがとう……」
「まだたくさん残ってるからね。」

793 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 12:43:43
夜ごろにまた更新出来そうです。

794名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 15:51:05
やはり食卓の騎士は『11名』なのか…

夜の更新も楽しみにしてます

795名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 19:09:41
悪魔の誘惑やめーやw

796 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 19:16:31
トントン、と扉がノックされる音をフクとハルナンは耳にした。
警備を担当する新帝国剣士団長、兼新Q期団長には誰も通すなと伝えていたので
2人は少しだけ怪訝そうな顔をしたが、
部屋に入る客人の正体を知るや否やすぐに納得する。

「へぇ〜フクちゃんなかなか可愛く着飾ってるじゃないの。」
「「サユ王様!!」」
「王じゃないでしょ、もう。」
「いえ、私たちにとってはいつまでもサユ王です。」

フクを訪ねてきたのはモーニング帝国の先代の王、サユだった。
わざわざこうして訪ねてきてくれたのだから、現王フクはたいへん嬉しくなってくる。

「でもいったい何の御用で……ひょっとしてスピーチのアドバイスとか……」

サユは名演説家として他国にも有名だったので、
人前で話すのが苦手なフクはありがたい助言を期待していた。
ところが、サユの目的はそれではなかったようだ。

「ううん、初スピーチは自力でなんとかなさい。」
「ではいったい何用で…」
「私はね、自分の考えの正しさを確認しに来たの。
 いや〜我ながら完璧完璧」
「???」

フクにはサユの言葉の意味がまるで分からなかったが
ハルナンはすぐに気づいたようで、クスクス笑っていた。

「ふふふふ……スパルタにも程がありますよ。本当に。」
「え?え?ハルナンは何か知ってるの?」
「はい。サユ様は私たち帝国剣士に一人前になって欲しいがために引退を決意したんですよ。」
「ええ〜〜!?」

そこからサユはこれまでの選挙戦の裏で行われた、
数々の暗躍を白状していった。
わざと全員が血を流すように誘導したこと、
ハルナンが上手い具合に盛り上げてくれたこと、
そして最終的に素晴らしき新王と、立派な帝国剣士たちが誕生したことを告げていく。

「……ってワケ。なかなか満足いく結果だったわよ。」
「あ、有難う御座います!そんなに良くしてくれてたなんて……
 でも、ハルナンはこのことを初めから知ってたの?
 じゃあ今までのは全部演技……」
「違いますね。」
「!」
「演技なんかじゃありません。本気で帝王の座を勝ち取ろうとしてました。
 この期間、嘘をつくことはあっても手を抜いたことは一度とたりとも有りません。
 ですが、残念なことにフクさん達のほうが一歩上を行ってたのですよねぇ……」
「そ、そっか。」
「でもいいんです。おかげで"ファクトリー"に対抗できるかもしれない大戦力の指揮権を得ることが出来ました。
 いつまでも脅威に怯えるより、近々こちらから仕掛けていきましょう!!」
「「"ファクトリー"……!」

797 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 19:18:51
>>794
はい。ベリーズ6名+キュート5名の計11名となっています。
マノエリナは食卓の騎士には含まれません。念のため。

>>795
サヤシが誘惑に勝てたかどうかは二部以降をご確認くださいw

チャンスがあれば深夜にもう一回更新します。

798名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 19:49:47
やはりウメサン・メグ・マイハはいないんだな・・・分かっちゃいたが寂しいな

次回はついにファクトリーの謎が明らかになるのかな?サユ王も知らない感じだったけど…?

799名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 23:57:05
考えたらスケート靴とか忍刀の使い手が入るより先に王が代わるんだな

800 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/26(土) 04:41:55
ハルナンは、王と剣士団長クラスの者にはファクトリーに関する情報を共有していた。
モーニング帝国に危険を及ぼすかもしれない存在ではあるが
その力が強大すぎるため、いたずらに恐怖を植え付けないよう公開範囲を狭めていたのである。

「ユカニャ王が"悪意なき悪"、"バイ菌"といった言葉で形容するファクトリーですが
 つい最近、マーサー王国の領土にて8名固まって行動しているのが確認されたみたいですね。」
「知ってる!確かベリーズの皆さんが対処したって聞いたよ。」
「はい。フク王様の言う通りです。」
「でも、シミハム様、ミヤビ様、モモコ様の力を合わせても追い払うのが精一杯だったらしいね……」
「はい。それもフク王様の言う通りです。」

あの怪物のように強い食卓の騎士3人の力を合わせても倒しきれなかったという事実は、
絶望を感じるには十分すぎるほどの情報だった。
そんな凶悪な存在が最低8人も周辺国をうろついていると考えると、王としては気が気でない。

「ハルナン。ファクトリーを倒す策はあるの?」
「……100%とは言えません。まだ足りていないんです。」
「足りていない、ってのは?」
「味方の伸びしろに関する情報ですね。特に新人が……」

完全に作戦会議モードに入るある室内に、外にいる新任剣士団長の声が飛び込んでくる。

「ちょっとちょっとー!そろそろ式が始まるけんねー急いで急いでー!」

はっとしたフクは時間を確認し、もう本番まで時間が無いことを理解する。

「あわわわっ、ほんとだ。急がなきゃ!」

フクとハルナンは急いで残りの支度を終わらせていく。
そんな慌ただしいフクに向かって、サユはくつろぎながら声をかけ始める。

「あ、そうだフクちゃん。」
「な、な、なんですか!?」
「合宿は全カリキュラム修了したから。」
「!!……それで、合否の方は……」
「安心していいよ。4人全員合格。」
「本当ですか!……ということは、残るは最終試験のみですね。」

801 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/26(土) 04:43:20
>>799
ちゃんと忘れていませんよw
タイミング的にはほぼ同時ってとこですね。

802名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 08:27:51
ついに12期参戦か!寺合宿のシーンは描いてくれるのかな?

803名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 08:55:04
周辺国をうろちょろしてるってファクトリーは野盗かよw

804 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/26(土) 17:33:43
舞台に主役が登場することで、会場は一気に静まり返る。
純白のドレスと、金色に輝くティアラで彩られた新王フク・アパトゥーマに目を奪われているのだ。
普段は軍服や訓練着ばかり着ているイメージが強いため、誰もがその美しさに息を飲む。
だが、しばらく経つと来場客はまたざわつき始めた。
フクではなく、その三歩後ろについている帝国剣士団長に注目している。
関係者席にいるサヤシも、その事実が公に晒されてしまったことにガックリきていた。

「はぁ〜……なんでエリポンなんかが剣士団長になってしまったんじゃ……」

王の後ろの帝国剣士団長は、新任のエリポン・ノーリーダーと、従来通りのハルナン・シスター・ドラムホールドの2名だった。
今後はそれぞれがQ期団と天気組団の団長をも兼ねることになる。
この時のエリポンの表情はドヤ顔にも程があり、
今すぐにでも「これが現実です。」と言いたそうな雰囲気を醸し出している。
このまま放っておけば会場はいつまでもざわついていたのだろうが、
フク王が拡声器に手を伸ばすことでそれもピタリと止む。
やはり主役はフク。みな彼女の演説を聞きに来たのだ。
最重要同盟国であるマーサー王国の面々もこれは見逃せない。

「ほらフクちゃんのスピーチが始まるよ。 あの時モモが晴れさせたおかげで王になれたんだよね。」
「え?クマイチャン何言ってるの?意味が分からないんだけど……」
「またまたぁ。」

誰もが新王フクの力強いスピーチを期待したのかもしれない。
先代サユがやってみせたように、人の心を鷲掴みにする話術を見たいと思うのは当然だろう。
だが、残念ながらフクにはそんなトークなどできやしない。
弱々しいかもしれないし、文量もサユと比べてずっと短いが、
フクは自分の思いの全てを言葉に詰め込んでいた。

「モーニング帝国史上、最も頼りない帝王だと思われてしまうかもしれません。
 でも、タカーシャイさん、ガキさん、レイニャさん、アイカさん、
 そしてサユさんに教わったことには誰よりも自信があります。
 サユさんのように背中で語ることは出来ないと思いますが、
 みんなで頑張っていくことは出来ると思うので、精一杯頑張りますので、
 これからのモーニング帝国をよろしくお願いします。」

本心を言葉にしたフクに対する反応は、文句無しの拍手喝采だった。
立ち上がりながら手を叩く人たちまで視界に入ってくる。
確かにサユのような名演説とは言えないかもしれないが、
この場にいる人々の心を掴むには十分すぎたのだ。

「さて、それでは仕上げですね。」

ハルナンが重厚そうな剣を取り出し、フク王に膝をついて手渡した。
王が剣を取り、力強く掲げることが恒例の儀式となっているのだ。
フクは宝石が贅沢に散りばめられた剣を見て、
剣士時代愛用していた装飾剣「サイリウム」のことを思い出した。

(懐かしいなぁ、確かにアヤチョ王に折られちゃったんだっけ……
 剣士だった私を支えてくれてありがとう。
 そして王となる私をこれからも支え続けて欲しい。」

フクは鞘から剣を引き抜くと、雲ひとつない天空へと突き上げた。
その剣は装飾剣「サイリウム」のようにピンク色単色には輝かない。
決闘の日の模擬刀のように虹色の7色にも輝かない。
新たなる剣は太陽に照らされることで13色に輝くのだ。
王が握るに相応しき装飾剣、その名も「キングブレード」。
その剣が放つPRISMのGRADATIONは、この国の全ての「かがやき」を表現している。

805名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 18:21:13
いいネタの盛込みだね

806名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 19:20:08
キンブレwついに『ミズキングダム』建国か…某スレのように変態王国にならないことを祈ろうw

807 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/27(日) 14:56:01
式も終わり、各国の重鎮への挨拶も済んだところで
フク王はやっと帝国剣士らに会うことが出来た。
Q期団はもちろんのこと、天気組団も式の感想を言い合う場を設けたいと考えていたのだが
フク王にはそれよりももっと見て欲しいものがあったようだ。

「みんな、今日のイベントはまだ終わりじゃないよ。」
「え?」「それはどういう……」
「新しい帝国剣士のお披露目会が開催されるから、今すぐみんな広場に来て!」
「「「!!!」」」

フク、ハルナン、エリポンの3名に連れられた先にある大広場には
サユ前王が召集した500名の一般兵らがズラリと並んでいた。
それを見て、サヤシがごくりと唾を飲む。

「入団当時を思い出す……最終試験が行われるんじゃな。」

モーニング帝国剣士の最終試験。それはお披露目の場で500人斬りを達成することだった。
帝国剣士の新人は特殊な場合を除き、基本的には若き少女から選ばれるため、
屈強な男性兵達に舐められないように実力を示さねばならないのだ。
同期の力を合わせて500もの男を納得させる。
それが出来ねば帝国剣士としての資格はない。

「うわぁ〜アレ大変なんだよねぇ……」
「アユミンさん達は苦戦したんですか?私は1人で500人斬りを達成しましたが。」
「うるさいぞオダァ!!」

この試験、期にどんなタイプの戦士が揃っているのかによって難易度が大きく上下する。
Q期のような純粋な戦闘タイプなら楽勝なのだが、
天気組みたいに特殊戦法を使うようではなかなか難しいのかもしれない。
それでも、この試験は必ず乗り越えねばならない。
一切の言い訳は許されない。

「それでは新たな帝国剣士たち!前に!」

フクの号令とともに新メンバー4人が登場する。
4人の少女はさすが合宿を乗り越えただけあって、一癖も二癖もあるように見えるが
その中でも最も小柄な新人は、帝国剣士らの視線を多く集めていた。

「あれ?あの子は確か……」
「サユ様のお付きの……」

一同が質問を投げかける暇もなく、最終試験の時刻が迫ってくる。
フク王の呼びかけに応えることでお披露目は始まるのだ。

「ハーチン・キャストマスター!」
「はい!」
「ノナカ・チェルシー・マキコマレル!」
「はい!」
「マリア・ハムス・アルトイネ!」
「はい!」
「アカネチン・クールトーン!」
「はい!」
「今こそ力を合わせて、帝国剣士としての威厳を示すのだ!!」

808 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/27(日) 14:56:37
ようやくここまで来たかーって感じです。

809名無し募集中。。。:2015/12/27(日) 15:45:41
おお!いよいよですね…1部で一スレまるまる消費って感じですね

810名無し募集中。。。:2015/12/27(日) 23:33:16
マキコマレルw

811名無し募集中。。。:2015/12/27(日) 23:57:14
>>810に先を越された

812 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/28(月) 02:16:04
「じゃあウチから行くわ。ノルマは100人なんやろ。余裕のよっちゃんやで。」

他の3人に先駆けて前に出たのは、新人の中では最年長であるハーチン・キャストマスターだった。
雪のように真っ白な肌と、折れてしまいそうなくらいに細い腕が特徴的な女性だ。
彼女ら新メンバーは最終試験を攻略するための作戦会議を事前に行っており、
各自が順番に100人ずつ計400人を撃破して、残る100人を4人のコンビネーションで始末しようと決めていたのだ。
ところが、先陣を切るはずのハーチンの両手には剣が握られていなかった。
帝国剣士は文字通り「剣士」であるため誰もが剣を武器にするのが道理だし、ハーチンもその例からは漏れていない。
そう。彼女の剣は手ではなく足に装備されているのである。

「あ!あれは……!!」

オダにはハーチンの履いている靴に見覚えがあった。
それは以前マーチャンがラボで試作品として使用していた刃付きの特注シューズだったのだ。
靴底にエッジが取り付けられたその見た目はまさに「スケート靴」そのもの。
おそらくはスケートの要領で滑りつつ、蹴り技で相手を斬りつけるための武器だと想像できる。

「でも、陸地じゃ滑れんっちゃろ?」

エリポンがそのような疑問を抱くのは至極当然のこと。
スケート靴は氷の上を移動するための道具。地上では満足に滑ることが出来ないはずだ。
だが、スケート靴の製作者であるマーチャンはそのことも折り込み済みだった。

「エリポンさん遅れてるなー」
「なん!?」
「ローラースケートですよ、あの子が履いてるのは。」
「!」

ハーチンはマーチャンの記述した説明書の通りに、かかと部分をコンと強く叩く。
それがギミックの起動スイッチとなり、靴内部に収納されていた車輪が外へと飛び出していく。
このスケート靴「アクセル」はアイススケートとローラースケートを切り替えることによって氷上と陸上の両方に対応可能なのである。
さっそくハーチンはローラーによる加速で敵の集団が固まっているところへと突撃する。

「ほらほら〜行くで〜!」

そこからはハーチンのオンステージだった。
高速移動からの勢いで繰り出される蹴り、すなわち斬撃を避けられる兵はそうそういなかった。
スケート競技の経験で培った柔軟性のおかげで彼女の脚は高くまで上がるため、
剣を手に持つ剣士と比べてまったく見劣りしない射程をもカバーしている。
そして特筆すべきは、攻撃にしょっちゅう組み込まれているスピンの回転力の凄まじさだ。
ハーチンはその細腕細足ゆえに一見して非力な戦士のように見えるのだが、
一っ跳びでダブル回転、トリプル回転くらいは簡単にしてしまうので、その回転力がスケート靴のブレードの破壊力をより一層高めてくれる。
ゆえに硬い装甲であっても簡単に切り崩すことが出来るのだ。
スケート技術を取り入れた戦法を巧みに操るため、ハーチン・キャストマスターは西部地方で「氷上の魔術師」と呼ばれていた。
だが、そんな彼女にも直すべき欠点はある。

「Ummm……ハーチンまた悪い癖が出てる……」
「女の子があんな顔をするなんて、マリア、信じられません。」
「ハーチーーーン!顔!顔!」

ハーチンの欠点。それは戦闘の悦びに浸るあまり、ついつい変顔になってしまうことだった。
白目を剥いた変顔で敵をバッタバッタと薙ぎ払う様は、傍から見れば恐怖でしかない。
それが由来となって、ハーチンは西部地方で「表情の魔術師」とも呼ばれていたという。

813 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/28(月) 02:17:49
キャラ名や武器名はあとでまとめて由来を説明するつもりですが、
ノナカ・チェルシー・マキコマレルはそのまま「巻き込まれる」ですw

814名無し募集中。。。:2015/12/28(月) 07:58:57
氷上と表情w

815 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/29(火) 03:28:08
変顔はともかく、華麗に滑りながら攻撃する戦法はなかなか見事なものだ。
ハーチンのバランス感覚ならば、アユミンがツルツルに均した地面の上でも転倒せずに活躍出来るかもしれない。
先輩剣士と連携可能であれば技のバリエーションも増えるため、実戦が非情に楽しみになってくる。
そんなハーチンに続こうと、もう一人の新人剣士が準備をし始める。

「ハーチンの戦い方は本当にfabulousだなぁ……そろそろ私も行かなきゃ。
 あ、その前に先輩方にご挨拶か……」

二人目の新人は少しボーっとした、どこか田舎臭い雰囲気を残した少女だった。
彼女の名はノナカ・チェルシー・マキコマレル。異国での修行経験を誇りに思っている。
異国語を「覚えた」ことのあるマーチャンも、そこに興味を持ったようだ。

「外国の言葉話せるの?」
「Yes!」
「喋ってみて。」
「How are you doing? I am fine.
 I'm so happy to be a member of this team.
 Why don't we talk about the globalization of Moning empire's swordwoman together?
 I want to liven up the Military strength with you all!」
「What do you want? Is it necessary?」
「Oh! マーチャンさん、さすがです。」

異国語となると急に流暢に喋りだすノナカに、マーチャン以外の先輩剣士らは困惑してしまった。
その中でもエリポンだけはなんとか話に入ろうと頑張ってはみたものの、
語学力が足りないために「I am a pen!」としか言えなかった。
そうこうしているうちに、ハーチンがノルマの100人斬りを達成する。

「よっしゃ終わった!ノナカちゃん交代な〜……ってあれ?ノナカちゃんどこに消えた?」

もうすぐ出番だというのに、さっきまで先輩の前で自己紹介していたというのに、
ノナカは足音も無くその場から消え去ってしまっていた。
いや、正確には「足音が無い」というワケではない。非情に聞き取りにくいだけで有るには有るのだ。
帝国剣士の中でも特に優れた音感を備えたカノンとマーチャンだけが、一般兵の密集地帯へといち早く視線を向ける。

「あそこだ!ノナカちゃんはもう戦闘開始してるんだよ!」

カノンが叫んだころには既に、ノナカは柄の部分に紐のついた忍刀をぐるりと回して、周囲の敵をぶった切っていた。
音が鳴るよりも速く刀を投げつける芸当は、忍刀「勝抜(かちぬき/かつぬき)」がおもちゃのように軽いからこそ出来ることだ。
この「無音切り」を自身の代名詞としているノナカだが、彼女の特徴はそれだけではなかった。
次の行動が、特にエリポンを驚愕させる。

「アクロバットまでやりようと!?」

周りの兵をあらかた切り終えたノナカは、次の敵が集まるところへと前転で移動していた。。
他にもバク転や側宙など、エリポンを彷彿とさせるアクロバットで相手を翻弄する。
回転数や力強さなどは先駆者であるエリポンに軍配が上がるが、その代わりノナカの器械体操はとても静かだった。
音をほとんどたてずに縦横無尽に跳び回る様はまるで忍者のよう。
海外生活の長いノナカは、それが反動となって母国の文化に強い興味を持つようになっている。
その結果、はるか昔の暗殺者として実在したとされる忍者の戦闘スタイルを好んで取り入れたのだ。

「はぁ、やっぱりみんな西洋の鎧ばっかり着てるなぁ……忍者がいなくてちょっぴりSHOCK……」

816名無し募集中。。。:2015/12/29(火) 22:23:37
ノナカの謎の忍者推しは元ネタなんかあったっけ?まぁチェルのくのいちは似合うから良いけどw

817 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/30(水) 04:33:34
次々と実力を示していくハーチンとノナカに続いて、3人目マリア・ハムス・アルトイネが登場する。
彼女が立ち上がるなり、残った300名の一般兵らもピリッとし始めた。
マリアは研修生の出身であり、その中でも優れた逸材として有名だったのだ。

「大大大好きなサユ様にひみつのマリアちゃんな修行を見てもらって、マリア、とっても嬉しかったです。
 だからマリアはもう、ややチビマリアじゃなくておとなマリアなんです!」

言葉のセンスはあまりに個性的すぎるが、研修生のTOPまで登りつめた実力は本物だ。
その強さの秘密は両方の手に異なる剣を握った「二刀流」スタイルにある。
左手には投てき用途で使われる小型の投げナイフ「有」。
右手には敵を叩き潰すに十分な重量を誇る両手剣「翔」。
この「投げナイフと両手剣」の2つを同時に扱う怪物のような強さが兵士らを怯えさせているのだ。

「両手剣?あの子、両手剣を片手で持っちゃってるけど……」

アユミン自身も「振分髪政宗」と名付けられた大太刀を愛用するが、やはり両手で握るのが精いっぱいだった。
マリアはこれまでとても辛い自主トレーニングや春季キャンプ、秋季キャンプをこなしてきたため
右手一本で両手剣をも持ち上げてしまうくらいのパワーを手に入れていたのだ。
新メンバーの中で最も長身、すなわち体格に恵まれているとは言ってもかなりの細身なので一見して弱そうだが、
実際に超重量の武器を軽々と持ち上げているところを見るに、筋肉がギュッと凝縮されているのだろう。
この厳しい修行もすべて、サユ(元)王をお守りしたいという一心で乗り越えてきた。
それだけマリアはサユのことを尊敬していたのである。

「それじゃあ行きます!20勝目指すので見ててください!」
「マリアちゃん!20勝じゃあかんで!100勝せな!」
「そうでした。100勝します!」

スケート術やアクロバットで動き回った同期とは対照的に、マリアは初期位置から動かなかった。
そう、彼女は投げナイフをぶん投げることによって、マウンドから一歩も下りずに敵を倒せるのだ。
これよりマリア・ハムス・アルトイネの始球式が開始される。
大きく振りかぶって第一球。今投げられた。

「あーーーーーーーー!?」

誰もが見事な投球を期待したものだが、それに反してマリアの投げナイフは上空高くにふっとんでしまった。
その先に敵がいれば良かったかもしれないが、残念ながらモーニング帝国の一般兵に空を飛べる者は存在しない。
普段の訓練や合宿では滅多に制球を乱したりはしないのに、ここぞという時で手元が狂ったのである。
あまりにショックすぎたマリアは、ガクッと項垂れて、地に手と膝をついて落胆する。

「汗ですっぽ抜けちゃいまりあ……ハンカチでちゃんと拭いておけばよかったです……」

ひどく落ち込んでいるマリアを見て、兵士らは「今なら倒せるんじゃないか?」と思い始める。
帝国剣士となる最終審査というプレッシャーに押しつぶされたマリアなら怖くないと考えて、大勢で押し寄せたのだ。
だがマリアの得意とするスタイルはご存知二刀流。
投げナイフ「有」がダメでもまだ両手剣「翔」がある。選手交代だ。
これ以上ミスをしたら帝国剣士になれない、つまりはサユを守れないと考えたマリアは必死で両手剣を振りまくった。
この剣は刃こそ鈍いが、かなりの重量であるためにヒットした敵をホームランのごとく遠くまで飛ばすことが出来る。
結果としてマリアは、マウンドから一歩も下りることなく次々と押し寄せる100名の命知らずを迎撃してみせた。

「勝てたけどイメージと違う……不甲斐なくてごめんちゃいまりあ……」

818 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/30(水) 04:37:04
マリアは研修生TOPと書きましたが、
モーニング帝国の研修生のメンツは現実世界の研修生とは異なっています。
アンジュルム合格者がいない、カントリーがいない、こぶつばがいない、等々……ですね。
段原はいるかどうかは現実の動向次第ですねw

>>816
忍者推しに元ネタはありません!
音関連+器械体操=忍者っぽいというイメージだけで設定してますね。

819名無し募集中。。。:2015/12/30(水) 10:55:08
次はクールトーンちゃんか
どんな武器を使うんだろ

820 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/31(木) 08:09:49
ハーチン、ノナカ、マリアの3人が見事100人斬りを達成した今、
残る最後の一人であるアカネチン・クールトーンに注目が集められた。
戦闘向きには到底見えないその風貌に、ハル・チェ・ドゥーも心配しているようだった。

「クールトーンちゃんだっけ?……大丈夫?戦える?」
「ハルさん、これから私のことは名前で呼んでほしいです。」
「えっと……アカネチン?」
「はい!せいいっぱい頑張るので見ててくださいね!」

憧れの先輩に並ぶため、アカネチンは意気揚々と戦場に向かっていった。
もう彼女は研修生でも書記係りでもない。いっぱしの帝国剣士なのだ。
剣をその手に握り、同期と同じように100人の一般兵を倒さんとしている。

「えっ、あれがアカネチンの剣?」
「ペンのように見える……いや、彫刻刀じゃろうか?」

カノンとサヤシだけでなく、帝国剣士の誰もがアカネチンの持つ剣に驚きを隠せなかった。
それもそのはず。その剣はたった10cm強しかない筆のような形状をしていたのだ。
彫刻刀のようなナリをしたその剣の正体は"印刀"。本来は木や石を彫って印鑑を作るための道具だ。
その印は書をかいた後に己の名を判するときに用いられるため、書道には欠かせない。
印刀「若木」をアカネチンなりに扱うのが、彼女が合宿で習得した戦闘スタイルなのである。
しかしそれをもってしても、アカネチンは殆どの一般兵らに舐められているようだった。

「アカネチンって研修生にいた子だろ?……強かったか?」
「実力は中の下ってところかな。マリア様と違って恐れるに足りない。」
「だったら手柄を立てるチャンスじゃないか。仮にも帝国剣士。痛い目を見せて、俺たちの力を示してやろう!」

残りの200人のうち、考えの浅い者どもは一斉にアカネチンに襲い掛かった。
帝国剣士の最底辺が相手ならば自分たちも勝利を収めることが出来ると思ったのだろう。
だがアカネチンだってサユ元王に認められ、修行を積んできた戦士だ。
この程度の逆境を乗り越えられないはずがなかった。

「全部、見えてます!」

複数の兵士らによる剣や槍の雨あられをアカネチンはすべて避けきってしまった。
どちらかと言えばどん臭いイメージだったはずのアカネチンがとても見事な回避を決めたので、一同は驚愕する。
一見して超常的な進化のように見えるが、これまでの経験を思い返してみればこれくらいは出来て当然だ。
クマイチャンとモモコの本気の戦いを間近で見たり、合宿でサユによる殺気の込められた斬撃を避け続けた彼女にとって
一般兵の攻撃を見極めることなんて容易いのである。

821 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/31(木) 08:11:41
今日はあと一回更新をする予定です。
それで第一部は最終回となりますね。

こぶしファクトリーも最優秀新人賞をとったことですし、
登場を予定している第二部の準備を進めねば……

822名無し募集中。。。:2015/12/31(木) 09:16:20
アカネチンはやはり『眼』か…それにしても印刀とはマニアックなw
いよいよ一部も完結…約7ヶ月楽しい時間だった!二部も楽しみにしてます

823 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/01(金) 01:17:58
アカネチンの得意技は見切りのみではない。
サユの書記係だった時に見せた高速筆記だって立派な個性の一つだ。
「筆」を「印刀」に、「紙」を「相手の肉体」に置き換えれば、特技は戦闘スキルへと変化する。

「うわあああああ!!」
「い、痛い……!」

相手の肉を掘るという行為は、アカネチンの可愛らしい見た目とはウラハラにあまりにもえげつなかった。
剣で四肢を斬りつけるのと比較するとダメージ量は明らかに少ないはずなのだが、
日常のそばにあるリアルな痛みという理由から、周囲にいる敵兵らの戦意を喪失させていく

(よし!この戦い方なら勝てる!)

戦士としての手応えを感じ始めたアカネチンは、恐怖で動きの鈍った相手を引き続き削り取ろうとする。
しかし、つい最近まで並程度の実力だった彼女がこんな戦い方を長く続けられる訳もなかった。
敵の肉をえぐる感触は己の手に直接伝わってくるし、悲痛な叫び声だって間近で耳にしなくてはならない。
おまけに今回のノルマを達成するには100回も同じ行為を繰り返す必要があるので、
まだ幼いアカネチンは精神的にも肉体的にもひどく苦しめられることになった。

「はぁ……はぁ……でも、ここで頑張らないといけないんだ……」

結果だけ書けば、アカネチン・クールトーンは100人切りを見事達成することができた。
だが先に述べた理由から疲労困憊になり、条件をクリアーするや否や地面に倒れこんでしまった。
心も体も限界なので、ここから先はもう戦うことなど出来ないだろう。
帝国剣士のほとんどが、ここまでよくやったとアカネチンを温かい目で見守ったが、
唯一ハルナンだけがあえて厳しい言葉を投げかけていた。

「あれ?たしか最後の100人は4人のコンビネーションで戦うんじゃなかったっけ?
 アカネチンがこんな状態なら、3人で戦うしか無いのね。」

同期の力を合わせて500人を倒す、という最終試験の条件自体を満たすことは出来るだろう。
しかし、それでは有言実行にならない。計画倒れとみなされてしまう。
実際の戦場では不測の事態などいくらでも起こりうるため、せめて試験や訓練の場ではトラブルなくこなさねばならないのだ。
それを新メンバーに知ってもらいたいため、ハルナンはあえて言葉にした。
ところが、ハーチンら3名はまったく落胆をしていないように見える。

「ハルナンさん、アカネチンは戦いながらこれを書いてたんですよ。見てやってください。」
「このメモは……!!」

ハーチンに手渡された紙には、残る100名の敵兵の特徴がびっしり記述されていた。それも血文字でだ。
アカネチンは持ち前の洞察力で戦況を見張り続け、同期に情報を共有する目的でメモを残したのである。
兵士の血液をインク代わりに印刀で書いた文章はとても読みやすく、
一目見るだけでハーチン、ノナカ、マリアの3人は残る100名の弱点を理解することが出来た。
嘘みたいに簡単に頭に入ってくるのである。
そして3人は自分たちが一人で戦うよりも圧倒的に早いスピードで残党を制圧するのに成功する。

「やったー!アカネチンのおかげやで!」
「Yes! やっと帝国剣士として認められるんだね。」
「嬉しいこと&楽しいこと、いっぱいあるといいね。」

とても嬉しそうに喜ぶ新メンバーから少し離れたところで、フク王がハルナンに声をかける。

「私はあれもコンビネーションの一つの形だと思ってるけど、ハルナンはどう思う?」
「王がそうおっしゃるのなら私が言うことは何もありませんよ。それに……」
「それに?」
「アカネチンの能力は非常に有用です。本人はまだ気づいていないのかもしれませんけどね。」
「そうなの?じゃあハルナンが新メンバーの教育係としてちゃんと教えてあげてね。」
「えっ?」

すべての帝国剣士が新たな仲間を受け入れたところで、この物語は完結する。
そして、新たな物語が始まる。

New Start
Morning Empire's Swordwoman。'15

第一部:sayu-side 完

824 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/01(金) 01:20:40
昨日中に更新するつもりが新年になっちゃいましたね……
何はともあれ、これで第一部は終了です。

第二部はすぐには始めず、当分はおまけ更新が続くと思います。
それにしても一部は七か月もかかってたんですねw
すべて終わるのはいつになるやら……

825名無し募集中。。。:2016/01/01(金) 09:05:43
確かにアカネチン能力は使いようによっては強力だな
第一部完了お疲れ様でした
おまけも楽しみにしてます

826名無し募集中。。。:2016/01/02(土) 22:49:58
まさかの13期ww

827 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 03:50:34
13期。来るとは思ってましたが本当に来ましたねw
加入までには2部まで終わってるといいなぁ

さて、だいぶ空きましたがおまけ更新を行います。
まずはキャラ名+武器名+必殺技名の元ネタから。

828 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 03:50:53
■モーニング帝国剣士

フク・アパトゥーマ :団地妻
装飾剣「サイリウム」 :そのままサイリウム
装飾剣「キングブレード」 :複数色切り替え可能なサイリウム+王の剣
必殺技「Killer N」 :( ̄ー+ ̄*)キラーン

エリポン・ノーリーダー :空気読めない+リーダーではない+仮面ノリダー
打刀「一瞬」 :前作のガキの武器から。新垣里沙の写真集のタイトル

サヤシ・カレサス :植物を枯れさす
居合刀「赤鯉」 :広島カープのイメージ

カノン・トイ・レマーネ :トイレのモノマネ
出刃包丁「血抜」 :食事のイメージ

ハルナン・シスター・ドラムホールド :いもうと+太鼓持ちアイドル
フランベルジュ「ウェーブヘアー」 :ファッションのイメージ

アユミン・トルベント・トランワライ :れいなの好きな弁当を先にとったエピソード+すべりキャラ
大太刀「振分髪政宗」 :伊達政宗の愛刀+振分親方

マーチャン・エコーチーム :ヤッホータイ
木刀「カツオブシ」 :前作のレイニャの武器から。れいなの猫イメージ

ハル・チェ・ドゥー :ハルーチェ+どぅー
竹刀「タケゴロシ」 :タケちゃんとの因縁(やっちまったな等)
必殺技「再殺歌劇」 :ステーシーズ 少女再殺歌劇

オダ・プロジドリ :自撮りのプロ
ブロードソード「レフ」 :レフ板

ハーチン・キャストマスター :素人時代にツイキャスのキャス主
スケート靴「アクセル」 :トリプルアクセル

ノナカ・チェルシー・マキコマレル :チェル+巻き込まれる
忍刀「勝抜(かちぬき/かつぬき)」 :好物のカツ丼を我慢

マリア・ハムス・アルトイネ :ハー娘。+明日も嬉しいこと&楽しいこと、いっぱいあるといいね
投げナイフ「有」 :元日ハム投手のダルビッシュ有
両手剣「翔」 :日ハム打者の中田翔。有と翔でユウショウ=優勝

アカネチン・クールトーン :クルトンが好き
印刀「若木」 :あかねちんがブログに載せた習字

829名無し募集中。。。:2016/01/04(月) 05:00:19
エコーチームってそれだったのかwww
包帯の印象だったから全然分かんなかった

830名無し募集中。。。:2016/01/04(月) 12:45:23
「勝抜」ってカツ丼のことだったのか!w

831 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 12:56:08
■アンジュ王国の番長

アヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー:捨て犬+シューティングスター+唐揚げを投げたエピソード
七支刀「神の宿る剣」:博物館に飾ってそうな武器

マロ・テスク:そのままマロテスク
小型銃「ベビーカノン」:前作のカノンの武器から。

カナナン・サイタチープ:埼玉は安いイメージと発言したエピソード
ソロバン「ゴダン」:中西香菜がそろばん5段

タケ・ガキダナー:親戚マイミのキャラ名+子供っぽい
鉄球「ブイナイン」:巨人が黄金時代にV9達成

リナプー・コワオールド:ブログで昭和時代の人の名前に「子」が多いと発言
愛犬「ププ」:勝田里奈の愛犬
愛犬「クラン」:勝田里奈の愛犬

メイ・オールウェイズ・コーダー:スマイレージはいつもこうだ
ガラスの仮面「キタジマヤヤ」:ガラスの仮面に登場する北島マヤ+しゅごキャラミュージカルで芽実が演じた結木やや


■果実の国のK(Y)AST

ユカニャ・アザート・コマテンテ:あざとい+困り顔+石川県の方言「〜てんて」
※武器未登場

トモ・フェアリークォーツ:フェアリーズのファン+ローズクォーツ
ボウ「デコピン」:佳林にデコピンをよくする

サユキ・サルベ:さるべぇ
ヌンチャク「シュガースポット」:バナナの甘い箇所

カリン・ダンソラブ・シャーミン:男装好き+wonderful worldの時の髪型が社民党党首っぽい
※武器未登場

アーリー・ザマシラン:ハーモニーホール座間での公演に遅刻
トンファー「トジファー」:植村の育ててたトマトの名前

832 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 12:56:50
ヤッホータイはまーちゃん曰く「ヤッホー隊」らしいですよw

833 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 18:55:29
アンジュの必殺技を忘れていました。
以下に追記します。

アヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー
必殺技「聖戦歌劇」:我らジャンヌ 少女聖戦歌劇

マロ・テスク
必殺技「爆弾ツブログ」:前作のカノンの必殺技から。いちごのツブログ。

834名無し募集中。。。:2016/01/04(月) 21:18:36
未発表の武器&技が気になる
そう言えば前に『フクのサイリウムの名前には秘密がある』って言ってたけど結局なんだったんだろう?

835 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 02:16:30
最後は前作キャラの元ネタです。
特別なことが無い限りは、今作では苗字と武器名を出すことはないと思います。


■食卓の騎士+サユ王

クマイチャン
武器は長刀
必殺技「ロングライトニングポール」:電柱
必殺技「ロングライトニングポール"派生・シューティングスター"」:流星ボーイ
オーラ「重力」:高い所から下へと押さえつけるイメージ

モモコ
武器は暗器
必殺技「ツグナガ拳法」:ツグナガ憲法
必殺技「ツグナガ拳法"派生・謝の構え"」:許してにゃん
オーラ「冷気」:血の通ってないアイドルサイボーグのイメージ

マイミ
オーラ「嵐」:雨女のイメージ

ミヤと呼ばれた女性
オーラ「斬撃」:尖った顎のイメージ+普段は見られない裏側を見せるGreen Room

色黒の長身
オーラ「太陽」:明るいキャラのイメージ+日焼け

シミハム
オーラ「?」:?

サユ
武器はレイピアとマンゴーシュ
必殺技「ヘビーロード」:道重
必殺技「ヘビーロード"派生・レイ(一筋)"」:道重一筋
必殺技「ヘビーロード"派生・アフターオール(結局)"」:結局道重
必殺技「ヘビーロード"派生・スティール(今尚)"」:今尚道重
必殺技「ヘビーロード"派生・トゥーレイト(今更)"」:今更道重
必殺技「ヘビーロード"派生・ディペンデンス(依存)"」:道重依存
必殺技「ヘビーロード"派生・リミット(限界)"」:限界道重
オーラ「光」:鏡をよく見るイメージ

836 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 02:18:49
>>834
後の武器が「キングブレード」になる、というのが秘密でした。
サイリウム持ちのフクがいずれ王になることを暗に示してたんですね。

837名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 06:14:19
>>836
なるほど!何故気付かなかったんだorz
ミヤの「裏側」ってそっちかーてっきり表裏が分からない意味かと…w

838 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 12:38:26
おまけ更新「Q期のお披露目」

タカーシャイ王「うーん……エリポン、サヤシ、カノンのヤツら、最終試験だってのに相当緊張してるなぁ」

ガキ「実力は有るんですけどね。いかんせん実戦経験に乏しい……」

タカーシャイ王「よし!じゃあ経験豊富な子を追加しよう!」

ガキ「研修生からですか?」

タカーシャイ王「もちろん!フクちゃん降りといで!」

フク「ええええええええ!?」

839 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 12:43:11
おまけ更新「天気組のお披露目」

アユミン「大変だよハルナン!ハルが気絶した!」

ハルナン「ええっ!?ケンカ強いって自慢してたから前線に配置したのに!」

アユミン「ぶっちゃけ私もヤバいかも……ごめん、後は頑張って……」

ハルナン「そんなあ!まだ敵兵は200体以上も残ってるのよ?どうすれば……」

マーチャン「ねえねえハルナン」

ハルナン「なに!?今は話をしてる場合じゃ……」

マーチャン「マーチャンね、全部覚えたよ。」

840 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 12:44:49
おまけ更新「オダのお披露目」

オダ「最終試験って出来レースみたいなものですよね。あれで苦戦する人いるのかなぁ……」

アユミン「てめぇ……」

841名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 12:52:03
フクちゃんいきなりかよwって確かに合宿してないんだよなぁ…それで王になるとは

842名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 23:29:43
オダぁ!w

843名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 23:54:41
マーサー王の世界でやってみたいわ

ハロプロ三国志のゲーム作ってみたんだけど [無断転載禁止]���2ch.net
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1451441803/

844 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/08(金) 07:44:44
明日には二部に入れると思います。

845名無し募集中。。。:2016/01/09(土) 19:06:35
2部まだかな
ドキドキ

846 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/09(土) 21:33:28
SSスレ「マーサー王物語-ベリーズと拳士たち」第二部
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20619/1452342496/

次スレを立てました。
続きはそこで進めていきますので、移動をお願いします。

こっちのスレもおまけ更新は続けるつもりです。
たまにで良いので覗いてみてくださいね。

847名無し募集中。。。:2016/01/09(土) 21:35:11
>>846
乙です

848名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:18:11

『外伝:もう一人のA』

849名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:19:14
 
「みんな、頑張って。そして死んではなりません。必ず生きて帰ってきて。これは命令です」

たった一人で見送りにきた果実の国国王、ユカニャ・アザート・コマテンテはいつもの困り顔の眉根を更に寄せ、そう告げた。

「心配すんなよ。あれだけ特訓を重ねたんだ。もう今までのKASTじゃねえよ」
「そうそう。それにあたしたちにはまだやることが沢山ある。夢にまで見た『例大祭』だって控えてるんだし」
「だからあたしらが帰るまでこの国のこと頼むで、ユカニャ王」
「うんうん。みんな、絶対勝とうね!」

『例大祭』というのは、ある程度以上の国力をもつ国にのみ開催が許される大掛かりで神聖な行事で、
最近ようやくこの国でもそれを取り行う許可が下りたのである。
これは王、KASTのみならず国民全員の夢でもあった。

死出の旅になる可能性もあるのに、帰ってきてからのことをもう考えている。
ユカニャ王は少し安心した。

捕らわれた隣国の王と元帝王を救うため。
強大な敵を倒すため。

それらもひいてはこの愛する自国の未来のため。

彼女たちは壮絶な闘いへと身を投じる。

その日、黒蝶の戦闘装束を纏った4人の少女たちは誰にも知られぬよう静かに国を出た。

850名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:20:13
果実の国を出て間もなく、4人は道で一人の旅人とすれ違う。
背格好からするに彼女たちと同世代の少女のようだが、その深くかぶったフードの奥の顔を見ることはできない。

「どうした、カリン?」

そのまま歩を進める一同だったが、
先頭のトモが振り返ると、カリンが立ち止まってその旅人の後姿を見つめていた。

「・・・今の子・・・?」
「ん?あの旅人がどうかしたのか?」
「みんなは気付かなかった?なんか、うまく言えないんだけど、あの子・・・」
「おいおい、合同作戦会議に遅れるわけにはいかないんだぞ?小さなことには構わず急げ!」
「う、うん、そうだね、ごめん」

カリンは自分の中の胸騒ぎを振り払うようにして再び歩き出した。

このカリンの予感は的中するのだが、
彼女たちKASTがそれを知るのはこれよりずっと後のことである。

フードの奥でニヤリと歪む旅人の口元を見た者は誰もいない。

851名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:21:33
果実の国は新興国である。
地理的に穏やかな気候で肥沃な大地を有しており、自給率100%を越える食料で他国と貿易関係を持つことで独立を保っている。
農業が盛んだった地域の領主たちをまとめ上げ、ひとつの国として形作らせたのはひとえにユカニャ王の功績だ。
戦士としての技量や科学者としての実績はもとより、特に政治的な手腕に長けていることがユカニャ王が王たる所以である。
「あざとい」とまで揶揄される彼女のロビイ活動により、
政治家だけでなく多くの資産家、投資家、そしてイイジマ氏やイシイ氏といった強大な荘園領主たちを味方に引き入れ、国を興すことができたのだ。

だが経済的に順調な一方、軍事力においてはまだ心許ないのが正直なところでもある。
元々が農民の多かった地域性もあり、人々は自分たちをファミリーのように思っており、平穏無事に暮らすことを一番に考えている。
実際、果実の国の兵士たちは他国に比べ平均年齢が高いという指摘もある。
食料に溢れていながら兵力の弱い国…そんなものは悪党たちの格好の獲物でしかない。

だからユカニャ王はジュースを使い、力を失うほどに自らの戦闘に力を入れてきたのだ。
果実の国において、軍事力の要となるKASTは欠かせないのである。

しかし今やKASTは3国合同作戦のために旅立ってしまい、いつ帰るともわからない。
こうなると今の果実の国はいつ攻め込まれてもおかしくない状態であるため、王の判断によりKAST不在の情報はトップシークレットとされた。
そのため4人は密かに出立したのである。

とはいえいつまでも隠し通すことはできないだろう。
侵略者がこの情報を掴んで攻めて来る前に防衛策を立てねばならない。
モーニング帝国の新王から屈強な防衛隊を派遣してもらう段取りにはなっているが、まだ数日かかるらしい。
帝国兵がいれば大きな抑止力となるはずだが、それまでの数日間の空白期間がユカニャ王には大きな懸念事項であった。

「急いで…今は一刻も早く…!」

4人を極秘で見送って帰ってきたユカニャ王の不安と焦燥感はつのるばかりであった。

852名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:22:27

だが王が帰城して間もなく、執務室の扉が音もなく開いた。

焦る気持ちで国内の防衛対策資料に目を通すユカニャ王は気付かない。

ひとつの影が忍び寄る。

ユカニャ王が資料から目を上げたとき、その人物は目の前の椅子にゆったりと腰掛けていた。

「!!!!何者!!??」

ユカニャ王は恐怖した。

果実の国とはいえ、一国の王である自分の部屋までこうも簡単に警備を突破して来ている時点で只者ではない。
王の部屋に部外者が侵入する目的はひとつしかない。
暗殺だ。

戦う術を持たぬユカニャ王は硬直している。
KASTを見送ってすぐにこんな事態になるとは。
死の匂いと王の責任は硬直するユカニャの体中を冷や汗となって覆った。

「おいおい、ずいぶんとご挨拶だな」

座った人物のフードの奥から聞こえた声に、ユカニャ王は聞き覚えがあった。

いや、覚えがある所ではない。
忘れようとしても忘れられぬ声。
まさか。

「オレだよ」

そう言ってゆっくりとフードを脱ぐ。

ユカニャ王が予感した通りの人物がそこにいた。

かつてKASTがKYASTだった頃。
本当のKYASTはKYAASTだった。

戦士は、「6人」いた。
そう、「A」はもう一人いたのだ。


「久しぶりだな、ユカニャ王」


アイナ・ツカポン・アグリーメントは、そう言ってニヤリと笑った。

853名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 06:30:08
おお外伝来てた!

良いよ良いよ楽しみ増えて

854 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/19(木) 08:47:34
外伝を書いてくれて有難うございます!
どこかで見たことあるような人たちが多数登場してますねw(いーいしさんとか)
例大祭は、今年の11月開催のアレにかかってるんでしょうか。

アイナの武器や戦闘スタイルが気になります。

855名無し募集中。。。:2016/05/22(日) 12:29:13
ツカポンきたー!握手会にしれっとファンとして紛れ込むくらいスムーズに入ってきたなw

856名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 01:07:12
 
「ア、アイナ・・・なぜここへ・・・?」

ユカニャ王は侵入者が思いもよらぬ相手だったことに驚き、困惑していた。

「王に直接話しに来たんだよ。その方が早いからな」

かつて突然KYASTの前から姿を消したアイナ。
その一件は果実の国に大きな混乱と失望をもたらし、果実の国の発展が遅れる一因ともなった。
そのアイナが、今ここに再び戻ってきた。
数年ぶりに会うアイナのショートカットは長い金髪になり、
平民の出で両親の愛に乏しかったことを跳ね返すように品性を磨いていたはずの言葉遣いはまるで男のものになっている。

「アイナ・・・ずいぶんと粗野になったのね」

「フン・・・色々あったんでね」

こちらも見ずにそう言うアイナは以前とは違ったオーラをまとっているように感じる。
かつて日差しを浴びる元気なフルーツのようだったオーラは今やどこか禍々しい。

「単刀直入に言うぜ。王の力でオレをこの国の…」

アイナの言葉が終わる前にユカニャ王は叫んでいた。

「ムリだよ!いくら謝ったって、もうムリ!」
「あの時、国民のことを考えなかったの?KYAASTの支援者のこととか、部下たちのこととか、全然考えなかったの?」
「一言もなく突然消えて…大切な『原液』まで持ち出して…あれからの研究がどれだけ遅れたか!」
「この国に貴女の居場所はないから!すぐに出て行って!!」

ユカニャ王はアイナから目を離さずに言い切った。
アイナは脱走者であり、犯罪者。いくら実力があっても、もう一度この国に関わらせるわけにはいかなかった。
それは王として、今ここでいくら謝られても許すことはできなかった。

だが、アイナの意図は王が思ったものとは違っていた。

「フッ…ハハハ…アッハッハッハ!そうだな、確かに『ユカニャ王の下では』そうなるわな」
「謝る?冗談はよせよ。話は最後まで聞きな、王様。オレが言いたかったのはな」
「『王の力でオレをこの国の王にしろ』ってことだよ」

「な、なんですって!!??」

「言葉の通りさ。オレがこの国の王になる。あんたは王位を譲って降りるんだ」

857名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 01:08:17

ユカニャ王はこの突拍子もない言い分…つまり『脅迫』に再び驚き、恐怖した。
そのタヌキのような垂れ目は大きく見開かれたままだ。

「オレの軍団はもう蜂起の準備をしている。断ればあんたも含め、現体制に関わる者は全員殺す」
「昔のよしみだ。今、王位を譲るんなら誰の血も流さないことを約束してやる」
「どうだ?イエスかノー、シンプルな答えだぜ」

旧友は国を裏切っただけでなく、王を脅迫し王位の強奪まで図る侵略者だった。
不敵に笑うアイナ。その袖から覗くジャマダハルの切っ先はこれが本気であることを示していた。
アイナの実力はユカニャ王が一番よく知っている。

「こんなことをしてどうなるかわかっているの?いくら貴女でもKAST全員を相手にして勝てるとでも?」

ごくりと生唾を飲む音が聞こえてしまわないか注意しながら、ユカニャ王は恐怖を押し殺して精一杯のブラフを仕掛ける。
本来このようなことがあればKASTが許すはずはない。

「フッ…無駄な抵抗はやめろ、ユカニャ王。オレがなぜ『このタイミングで』来たと思う?」

・・・バレている。
アイナはKASTが不在なことを知っている。そしてモーニング帝国の防衛隊がまだ来ていないことも知っている!
いったいどこから漏れた情報なのか、だが今はそれどころではない。
この状況、絶体絶命だ。

「・・・嫌だと言ったら・・?」
「いま、ここで…殺すの、私を…?」

「それが返事か?」

アイナはユカニャ王を見ずにスッと立ち上がると袖をめくり、自慢のジャマダハルを晒す。
次の瞬間にはその刃はユカニャ王の首に触れていた。

858名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 01:09:23

冷たい、それはそれは冷たい感触がその黒めの肌に伝わってくる。
ジャマダハル…ユカニャ王はかつてアイナが最も尊敬する戦士の武器を模して作ったものだと話してくれたことを思い出した。
共闘していた頃には何度も助けられた刃が、今やその首を切り裂かんとしている。
ユカニャ王は目を閉じた。

「・・・・・・フン」


ふいに首筋に感じる抵抗が消えた。

「やはりこれではつまらん。考え直すチャンスをやる」
「明日の正午にもう一度来る。準備をしておけ」
「よーく考えろよ?こっちも王になったはいいが兵士が全滅してますじゃあ困るからなあ!」

捨て台詞を残してアイナは執務室の窓から風のように消えていた。
侵入の手口を見るに追っても無駄だろう。

ユカニャ王はガクリとへたり込んで大きく息をついた。

自らの命の危機は脱した。だが国は大きな危機に陥っている。
たった数分の出来事なれど、事態は大きく変わってしまった。

KASTもいない、モーニング帝国の援軍もないこの状況で、
国を守るため、侵略者・アイナ軍団と戦わねばならない。

果たして勝てるのだろうか?もし負けたら果実の国はどうなる?

震える手をギュッと握り締め、ユカニャ王は立ち上がる。

すぐに側近を呼んで指示を出す。

決戦まではもう24時間を切っていた。

859名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 13:52:07
軍団って例の大塚軍団かw
外伝だと味方の使える駒が限られてるからユカニャ王がどう巻き返すのか楽しみ

860 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/24(火) 01:18:32
ユカニャ王がアイナに向かって叫ぶシーンを見て、
武道館最終話でつるりんが愛子に怒鳴るシーンを思い出しましたw

861名無し募集中。。。:2016/05/25(水) 01:19:31
正午。

アイナ軍団は城門に集っていた。兵士崩れや山賊崩れの荒くれ者たちが約1000人。
皆、血に飢えたような目をしている。

閉ざされた城門はアイナへの返答を意味していた。

「ま、こうでなきゃあ面白くねえからな。よし、てめえら、突っ込め!!」

大きな柱で強引に城門をこじ開け、アイナ軍団は城内へとなだれ込む。
果実の国攻略戦が始まった。

862名無し募集中。。。:2016/05/25(水) 01:22:46

一時間ほど経っただろうか。
アイナ軍団はようやく城内の大規模アトリウムへとたどり着く。

そこにはユカニャ王を守るように、果実の国の精鋭ばかりが1000人、命知らずが2000人、待ち構えていた。

あえて城内に敵を誘い込み、狭い通路での落とし穴や射撃窓からの矢攻撃などのトラップの雨あられで、
可能な限り自軍の戦力を温存しつつ敵戦力を削ぐ。
そして最後はバックアタックやサイドアタックされない部屋内で隊列を組んで迎え撃つ。
これがユカニャ王の作戦だった。

おかげでアトリウムまで来れたアイナ軍団は800人程度しかおらず、皆一様に疲弊していた。

「ここまでは上出来…ここからが正念場ですね…!」

最後にアイナが姿を現すとアトリウム内の空気がピシッと張り詰めた。

「ユカニャめ、せこいマネしやがって…オレたち相手にこの人数で勝てると思ってんのか?」

「貴女たちのような侵略者に屈する果実の国ではありません!」

「いいぜ、どれだけ無意味なことしてるのか教えてやる!かかれ!!」
「国王、ユカニャ・アザート・コマテンテの名において命じます!全軍、侵略者を撃滅せよ!!」

「「オオオオオーーーーー!!!」」

ドカーンという衝撃音とともに、アイナ軍団と果実の国軍は激突した。


数で勝る果実の国軍だが、地力はアイナ軍団に軍配が上がる。
陣形を組んで戦うも、果実の国軍は少しずつ押され始めていく。
ユカニャ王が後方からエールを送ることで、軍は何とか耐えていた。

「みんな、何とか持ちこたえて!」
「あともう少し頑張れば、強力な援軍が来てくれます!」

「おいおい、いつまで頑張るつもりだ?帝国の援軍ならあと2日は来ねえぞ〜」

アイナはそう言って嘲笑う。
ユカニャ王はそれを唇を噛みしめて睨みつけた。

(みんな、私を信じて…信じて今は耐えるのです…)


(そして…お願い、一秒でも早く来てこの国を救って…『2人とも』!)

863名無し募集中。。。:2016/05/25(水) 06:20:02
そうか!あの『二人』かいたね!!ユカニャ王やローズクォーツとの関係を考えるとピッタリな助っ人だわ

864名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 00:18:18

このままでは守りきれない。
ユカニャ王の言葉を信じて戦う果実の国軍だったが、
敵と直に刀を交え、一人また一人と倒れていく味方を見る度に、兵士たちの心は少しずつ弱気に傾いていく。

「ハハッ!どうしたどうした果実の国よぉ?てめーらの兵士はもう残り半分だぞ?」

最後方で腕を組んでニヤニヤと戦況を見つめるアイナ。

兵士たちの心の炎が消えかかる。
悔しいがこのまま押し切られてしまうのか。
この平和な国がこのような邪悪な侵略者に…

その時、突然アイナは何かを感じて顔を上げる。

「!?」


アトリウムの天窓がバリンと割れ、二つの影が舞い降りる。

「ぐえっ」「ぐはぁっ」

落ちてくる影はクルクルと回転したかと思うと落下の勢いそのままにアイナ軍団を蹴り倒し、
反動で再びクルクルと回って綺麗に着地した。

「き、来た!!」

苦境に心底困り顔だったユカニャ王の顔は一気に光を取り戻す。
来た。来てくれた。ついに来てくれたのだ。

「な、なんだてめえらは!?」

突然の乱入者にアイナ軍団はひどく混乱している。

「おまたせ、ユカ!」
「ごめんねぇ、遅くなっちゃった〜」

865名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 00:22:55
二つの影は二人の乙女だった。
ユカニャ王をユカなどと馴れ馴れしく呼ぶこの二人はいったい何者なのか。

「も〜、この子が途中で道を間違えちゃうからさぁ〜」
「あわわわ、それは誰にもナイショって言ったじゃん〜」

一人は茶髪のショートボブで全身黒の衣装を身に着けている。
もう一人は黒髪のロングヘアーの毛先をゆるく巻いて、対照的な全身真っ白の衣装。
まるでこの世界の幼女たちが大好きなおとぎ話に出てくる伝説の戦士のようだ。

「来る途中に兵隊さんに聞いたし事情はわかったよ。あとは任せて」
「待たせちゃった分はここから取り返すから!」

「二人とも…よく来てくれたね、ありがとう、ありがとう…」

最大のピンチに助けに来てくれた親友たち。
二人を見つめるユカニャ王の目から涙がこぼれる。

乱入者に驚いたのは敵だけではない。
果実の国軍兵たちもこの二人にびっくりして動きが止まってしまっている。

「あら、完全アウェーだね、この状況?」
「それじゃあいつもの、いこう!」

二人は並んでスッと前に出ると、この戦場全体に対して大見得を切った。

「ガレリア所属!天空を満たす静かなる月輪!モエミー・レルヒ・マーキュリー!」
「同じくガレリア所属!大地を照らす燃え立つ日輪!アサヒ・シオン!」

「果実の国を狙う悪党ども!」
「この輝きを恐れぬなら、かかってきなさい!」

866名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 00:27:31
名乗り終わるとともに一分の隙もない構えを取る二人。
二人の纏う闘気が只者でないことはこの場にいる全員が感じていた。
ユカニャ王が頼りにしていた強力な援軍がこの二人であることは疑いようがなかった。

気圧されるアイナ軍団の何人かが、ここまできてようやく気付く。

「ガレリアのモエミー?アサヒ?…ま、まさか!?」
「通った後には何も残らないって話の、ガレリア1のダーティペア、あのビ、ビ、ビ??」
「ビター・スウィート!?」

「ちょっとちょっとぉ!ひどいこと言わないでよね、失礼しちゃう」
「そうだよぉ、私たちは任務を確実にこなしてるだけなんだから」

『ガレリア』とは、某財団が設立したこの大陸最大のミュージアムである。
どこの国からも独立を保ち、この世界全ての歴史的文化的遺産を保管することを使命としている。

モエミーとアサヒはそのガレリア所属のエージェント。
世界を股に掛け、秘宝を探し保護したり、盗掘者や悪質な美術品シンジケートを叩き潰すのが仕事だ。
だが真面目で正義感に溢れるこの二人は、特にその秀でた武力でやりすぎてしまうことも少なくない。
だから盗賊や密輸などの裏世界にいた者にはこの二人の悪名は轟いているのである。

美人の見た目だけで『甘く』見てかかり、結果、死ぬほどキツイ『苦い』思いをさせられる。
転じて『ビター・スウィート』というのが彼女たちの通り名なのだ。

「チッ…厄介な連中が来てくれたな。だが構うな、数で押し潰せ!!」

引き気味の軍団だったがアイナが一喝するとすぐに正気を取り戻して襲い掛かってくる。
国盗りをするのに輝きを恐れてはいられない。

「じゃあ私は右ね、アサヒちゃん」
「左行くね、モエミーちゃん」

向かってくる数百の大群相手に2人が左右に別れると、あっという間に敵が吹っ飛ばされ始める。
アウトロー組織に乗り込んで壊滅させるのが仕事の2人には数の暴力などお手の物。
使いこなす強力な武器に悲鳴が上がる。

「な、なんだあっちは…どうやったらあんなに色々な倒し方ができるんだ…?」
「こ、こっちは…なんだ?何が起きてるのかわかんねえぞ??」

果実の国軍の逆襲が始まった。

867名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 06:36:42
B&S予想あったったー…けど予想の斜め前いく設定wまさかプリキュアとダーティーペアぶっこんでくるとはww
確かに『萌』『あさひ』で月と太陽ピッタリ

868 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/26(木) 13:22:18
ビタスイ!
大塚さんもそうですが、絶妙に本編に出てこない人たちが多数登場しますね。
このまま果実の国軍優勢で終わるのか、それとも……

869名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 14:13:10
本編作者さん、いつもレス下さる方も本当にありがとうございます

870名無し募集中。。。:2016/05/27(金) 23:55:34
続きはまだかな〜気長に待ってますけどね

871名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 02:43:32

「ガレリアから来たなら昨日からたった一日で間に合うはずがない…」
「ユカニャめ、事前に手を回していやがったな…」

アイナはユカニャ王にしてやられたことに歯噛みした。
その通り、あざといユカニャ王はモーニング帝国からの援軍がKASTの出立に間に合わないと知り、
国防手段として2人を呼び寄せる手をアイナが宣戦布告に来訪する前から打っていたのだ。
ユカニャ王が待っていたのは始めからビター・スウィートだったのである。

もちろん通常ならこのような手続きには時間がかかるし、
何より独立を保つガレリアがそう簡単にエージェントを貸し出すはずもない。
そこを乗り越えて最短で助けに来たのは、ユカニャ王と2人が旧知の仲であったからに他ならない。

ユカニャ、モエミー、アサヒの3人はかつて大志を抱いてそれぞれ上京してきた新人同士だった。
モエミーとユカニャは隣国の出身で出生年月日が同じという縁があったり、ユカニャとアサヒは当時は雰囲気が似ていてよく間違われたものだ。
「森の泡戸」という冒険者ギルドで出会った3人はすぐに仲良くなり、
共に訓練したり、いつか大国に仕官して出世することを夢見て毎晩語らった同期であったのだ。

別の道に進んではいるが、当時の絆は今も変わっていない。
それにアサヒはKASTのトモ・フェアリークォーツの数少ない友人の一人でもある。
2人は果実の国のためならば、と全てを差し置いて駆けつけて来たのだ。

872名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 02:48:26

「Don't stop me now!私を止めてみな!」

モエミーが振り回す長柄の武器の前に、被害者たちが見る見るうちに積み上げられていく。
先端に付いた鋭い刃で矛のように斬り、槍のように突き、
両側に左右対称に付く「月牙」と呼ばれる三日月状の刃で斧のように叩き、大鎌のように薙ぎ、引っ掛けて投げ、足を払う。

これがモエミーが「九印」と名付けて愛用する武器、『方天戟(ほうてんげき)』である。
元々は別の大陸のもので、かつてモーニング帝国に来た大陸剣士が持参した物の一つと言われている。

複数の用法があってオールマイティーに戦えるが、それ故に常人にはその性能を完全には活かしきれぬ武器。
モエミーは敵の戦闘スタイルや弱点に合わせて、その全ての用法を使いこなす。
斬られ、突かれ、潰され、投げられ地に伏す敗者たちを見て、果実の国軍兵が驚くのも無理はなかった。


「火傷しても知らないから!その心の闇、私の光で照らしてみせる!」

こちらの果実の国軍兵も目を丸くした。
道に迷ったとか言う話だし、どちらかというと大人しく地味に見えるアサヒ。その手は空、剣や槍は持っていない。
だがアサヒに飛び掛っていくアイナ軍団はどういうわけか一瞬で体勢を崩し、床に叩きつけられたり、投げ飛ばされている。
そうかと思えば離れた敵は間合いを詰められ、拳や足刀を叩き込まれて一瞬で倒される。
これらはアサヒが使用する異国の格闘技「合気道」と「空手道」によるもの。そう、こう見えてアサヒは武術家なのだ。

この世界にいる徒手空拳で戦う戦士たちは、その多くが力に任せたファイトスタイル。
だがアサヒの武術は相手の力を利用したり、どうしたら効率的に倒せるかを極限まで突き詰めたもの。
荒々しいはずの徒手空拳でありながら、洗練された動きで的確に急所を突き、相手を倒すアサヒは珍しく映るのだ。

本来は徒手空拳相手に武器を使えば絶対的に有利なはず。
だが敵が振るう剣や槍はアサヒの両腕に備わった、肘まである金属製の白い籠手のようなもので防がれ、流される。
「特殊手甲・桜花」。自身の拳への負担も減らしつつ敵への攻撃力も高める、アサヒの防具であり武器だ。
オープンフィンガーのこの手甲のおかげで、アサヒは敵の武器を気にせず「打」「投」「極」の全てを相手に仕掛けられるのである。

873名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 02:50:40

「ひ、ひぃぃ…」「く、くそっ…」

気付けば敵全員が距離を取って逃げ腰になっていた。
アイナ軍団でまだ立っている者はもう300人にも満たない。形勢は逆転である。
妙な槍に近付けば訳もわからず切り伏せられ、徒手空拳には武器が全く役に立たずに殴られ投げられる。
まさにビター・スウィート。たった2人相手に、屈強な賊たちは完全に震え上がっていた。

尚も敵を睨みつけ、最後まで止める気配のないモエミーとアサヒ。
ユカニャ王と果実の国軍兵たちは勝ちムードを感じ始めていた。

「いける、いけるぞ…!」「これなら…!」


だが荒くれ者たちを率い、一国を獲ろうとするアイナがそう甘いはずがなかった。

「しょうがねえな…お前ら、アレを使え」

指示を聞いた残存アイナ軍団たちは、一斉に懐からアンプルを取り出し、ビキッと割って橙色の液体を飲み干す。

その光景を見たユカニャ王の表情が一気に強張った。

「…いけない!あれは『オレンジジュース』!!」

874名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 13:38:03

「これは!?」「どういうこと!?」

モエミーとアサヒは驚愕した。
さっきまで腰の引けていたアイナ軍団たちからおびただしい量の殺気が発せられていたからである。

「ククク…きたきたきたぁ…」「こっからはオレらのターンだぜぇ…」

血走った目でこちらを睨み返してくるアイナ軍団。一歩、また一歩と2人への距離を縮め出す。
ユカニャ王は必死に叫んだ。

「モエミー!アサヒちゃん!今のその人たちは危険すぎる!!」

875名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 13:40:18

ユカニャ王が開発した、人間の潜在能力を引き起こす不思議なジュース。

現存するジュースは、リンゴ、レモン、グレープ、メロン、そしてピーチの5種類。

だがそれらを開発するにあたって、ユカニャ王が最初に作り上げたプロトタイプのジュースがあった。
つまり全てのジュースの原点、それが「オレンジ」である。

オレンジは画期的だった。
動物実験の段階でも各能力を飛躍的に増大させ、果実の国の未来を担うものと期待された。

しかしオレンジは絶大なる力をもたらすものの、当然ながら身体への負担が大きすぎた。
そこでユカニャ王は総合的な能力アップよりも、負担を減らし各能力に特化させることへと運用方法を変更する。
オレンジの複合的な能力を5つに分散することにしたのである。
それが今の5種類のジュースなのだ。

そしてそこに至るまでの検証において、自ら治験に志願した者がいた。
それがKYAASTだったアイナ・ツカポン・アグリーメントだ。

アイナもかつては合同育成プログラムで優秀な成績を残した者の一人。
当時はカリン、サユキと並ぶKYAASTのもう一人のA(エース)。戦場での活躍はめざましいものがあった。

だがアイナは更なる力を求めた。国を、皆を守れるもっと強い力を得てもっと強い自分になる。
そのために躊躇するユカニャを押し切って、少々危険なオレンジを飲んだ。
もちろん戦績は連戦連勝。彼女のおかげで果実の国は独立を勝ち取ることができたといっても過言ではない。
全てがうまくいっているように見えた。

しかしあの日、アイナは突然姿を消した。
同時にオレンジの原液も保管庫から消えていた。

876名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 13:42:45


あれから数年。
ユカニャ王はこんな形でオレンジと再会することになるとは思いもしなかった。

「くっ!いったい何が…?」「つ、強くなった…!?」

一方的にやられるだけだったアイナ軍団は今やビター・スウィート相手に十分渡り合っている。
当然だ、軍団全員がオレンジの爆発的な効果を享受しているのだから。
一太刀、また一太刀と徐々に攻撃を受け出す2人。こうなれば戦力差は目に見えている。

形勢は再逆転した。

かつて果実の国を救ったオレンジは、今や最悪な災厄の劇薬となって果実の国に帰ってきたのである。

877名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 21:05:22
本作を上手く掘り下げてるなぁ〜次も楽しみに待ってるとゆいたいです

878名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 22:12:35
オレンジジュース…別名つかポンジュースw本編の設定を受け継ぎつつも独自の発想盛り込んでくるの上手いなぁ

879 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/30(月) 08:54:21
「森の泡戸」ってなんだろうと思いましたが
フォレストアワードだったんですねw

880名無し募集中。。。:2016/05/31(火) 23:41:51

「な、なんなんだこいつらは!」「うわああーーーーー!!」

あちこちから果実の国軍兵の悲鳴が上がる。
剣は避けられ矢も当たらず、斬っても斬っても立ち向かってくる超人と化したアイナ軍団。
集中力と動体視力が増大し、恐怖心も重力さえも感じない、リミッターの外れた荒くれ者たちに適うはずがない。
あっという間に果実の国軍の数は減り、後は100人程度がユカニャ王を必死で護衛するのみになってしまった。
このまま壊滅してユカニャ王の首が獲られてしまうのも時間の問題だ。

だがビター・スウィートもこの状況を黙って見過ごすつもりはない。

「モエミーちゃん、こっちもアレをやるしかないね」
「しょうがない…またダーティペアって言われちゃうけど、背に腹は代えられない!」

2人は構えを解いて印を結び、目を閉じる。
周りの空気が大きく対流していく。
ガレリアで異文化の高僧より教えを受けた「月と太陽の呼吸法」。
朝日と月光をイメージしながら行う呼吸法で、腹部の丹田を意識して呼吸をすることにより、
身体・細胞のすべてに太陽と月のエネルギーが満ちていく。
呼吸は深くなり、脳内にα波が発生し、2人の秘められた力が解放されていくのだ。

カッと目を見開いたとき、2人の表情は別人のように変わる。

燃える太陽の暗示を持つアサヒは激情を伴って瞳に炎を宿し、
静かなる月の暗示を持つモエミーの目は据わり瞳に狂気が宿る。

リミッターの外れた連中に遠慮はしていられない。
全力の本気で一度で意識を断つのだ。

「いくよ、まずはドラゴン」

モエミーがそうつぶやくと、一瞬にして九印でアイナ軍団たちの肩を貫く。
血飛沫が間欠泉のように大きく、高く噴出する。激しく燃え盛る火花のようでもある。
敵はあっという間にバタバタと倒れていく。

「続いてナイアガラ」

今度は大きく振りかぶって、並んだアイナ軍団たちの上半身を横一列に薙ぎ払う。
噴き出した血がまるで横長の滝のように噴き出した。

「そしてスターマイン」

九印の切っ先にフックされた敵が上空へと投げ上げられる。
モエミーは高速で移動しながら槍を捌いて敵を逃がさない。
それは次々と放り上げられ、空中で激突していく。
アトリウムにドカンドカンと轟音が鳴り響く。

モエミーの必殺技「大花火」。
人間を使った、あまりに衝撃的なショーである。
これはモエミーが誇りとする、自らの出身地の祭典になぞらえたものだ。

西方では満月は狂気を増大させると言い伝えられている。
このような衝撃的な仕打ちをモエミーが表情一つ変えずに行うのは、彼女が月の力を持つからに他ならない。
アトリウムに血の雨が降る。

「怯まないか…なら続けるしかない」

大花火は多勢向けの技であり、恐怖心で敵を圧倒する意味合いも大きいのだが、オレンジを飲んで恐怖心のないアイナ軍団にそれは通用しない。
いかに非情な技であろうとも、向かってくる限りはモエミーは人間花火を打ち上げ続ける。

881名無し募集中。。。:2016/05/31(火) 23:43:14

「はぁぁぁ〜〜〜〜…!」

一方のアサヒは大軍を前にして、両手の指をしっかり畳んでギュッと拳を固め、力を溜める。
すると白かった手甲の桜花が見る見るうちに赤くなっていき、まさに桜色に染まる。

「たあっ!」

そして向かってきた最初の敵の腹に溜めた正拳突きを叩き込む。
するとどうだ、爆発音とともに敵は十数メートルも吹っ飛んでしまった。
鎧は破壊され、何人か巻き込まれた者も同様に意識を飛ばされている。

「なンだそれは…?」

先程までとは桁違いの威力になった正拳に足が止まるアイナ軍団。
でもそれがまた命取りになる。

「隙あり!」

またもや爆発音とともに数人が吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。
明らかに異常な攻撃力である。
近接単体攻撃だけだったアサヒが複数を巻き込めるようになったのだ。

これはアサヒの桜花がガレリア秘蔵のオーパーツ金属を使った手甲であることの表れである。
桜花はアサヒの燃え上がる太陽エネルギーを吸収し、拳で解放するという機能を持つ。
これにより、太陽の力を使ったアサヒの正拳は、それだけで大砲一撃分とも言われる衝撃を放つことができる。
アサヒの両手が真っ赤に燃えて、敵を倒せと轟き叫ぶのだ。


力を解放して多人数攻撃を仕掛けるビター・スウィート。
だがオレンジを飲んで異常な力を得たアイナ軍団との戦闘をいつまでも続けるわけにはいかない。

「モエミーちゃん、残りをお願い!私がヤツを引き受ける!」

そう叫ぶとアサヒは眼前の敵を一気に飛び越し、奥のアイナへとダッシュする。
多人数戦にはリーチも長く攻撃範囲が広いモエミーが有利なのは事実。
よって疲労してしまう前に、単体戦向きの自分が首魁を仕留めようというのがアサヒの考えであった。

「おっと…もうオレと1対1をやろうってのか?」

腕組みしながら嘲笑う金髪のアイナ。ゆっくりとジャマダハルを装着する。

邪魔する軍団員を吹き飛ばし、スルリスルリと駆け抜け、ついにアイナの元へと到達したアサヒ。
ダッシュの勢いのまま飛び上がり、全てに決着をつけんと拳を振り上げる。

「痛いよ!覚悟しなさい!」
「フン!やってみろ!」

ガキィンという金属音と共に、両雄の剣と拳が交わった。

・・・かに見えた。

「・・・・っ!」

膝をついて悔しそうに胸を押さえるアサヒ。その手の隙間から流血が見える。
しかし一方のアイナのジャマダハルには血は付いていなかった。

アイナとアサヒの数メートル先に、5本の爪に付いた血を眺める異民族の女がひとり。
彼女が一瞬で飛び込んで、アサヒの薄い胸を切り裂いたのである。

「おう、外の掃除は終わったのか?カ・カよ」

アイナ軍団の隠し玉。
辺境の地から来た異民族の戦士。
野趣溢れる顔立ちのその女は、カ・カといった。

882名無し募集中。。。:2016/06/01(水) 00:43:43
長岡花火wそしてまさかのカ・カww茂木だっけ?ふーちゃんは無事アイナ軍団から逃れられたのか

883 ◆V9ncA8v9YI:2016/06/01(水) 23:10:24
茂木が出る予感はしてましたw
桜に月に、ビタスイ楽曲(田﨑名義含む)の歌詞がよく登場しますね。

884名無し募集中。。。:2016/06/02(木) 00:12:09

「アサヒちゃん!大丈夫!?」

モエミーが方天戟で敵を斬り上げながら声をかける。

「大丈夫…まだ…やれる!」

アサヒは立ち上がると胸の痛みを堪えながら構えを取った。

そんなアサヒを横目で見ながらアイナはユカニャ王に残念なお知らせを伝える。

「おい、外に隠してた残りの兵はみんなこいつが片付けてくれたそうだぜ」
「当てが外れて悪かったなユカニャ!ハッハッハッハ」

ユカニャ王は下唇を噛んだ。
アトリウムで迎え撃ちつつ、後半戦で隠していた兵を投入して奇襲を仕掛ける予定を見抜かれ、阻止されてしまったのだ。
カ・カを既に外に放っていたことからして、ビター・スウィート乱入以外のユカニャ王の作戦は読まれていたのだろう。
悔しいがアイナの方が一枚上手だった。

王の作戦が阻止されたのならば、後はモエミーとアサヒに全てが託されていることになる。
アサヒは自分を急襲したこのカ・カと呼ばれた女を必ず倒さねばならないと理解した。

構えを取って対峙すると、アサヒはカ・カを観察する。
先程の両手の爪は鋭く発達していてまるで獣のよう。
さっき使わなかったことから武器は持っていない、これはスピードや身体能力で肉弾戦を挑むタイプと見た。
つまりは自分と似たタイプ。
ならば尚のこと自分が倒すべき相手だ。そして最短で倒す道は見えた。

既にオレンジを飲んだ軍団兵にやられたりカ・カにやられた傷で、白い服も桜色に染まり出しているアサヒ。
一方、両の爪をこちらに向けて威嚇してくるカ・カ。
お互いにジリジリと少しずつ間合いを詰めていく。

床の土煙がパッと上がって、飛び出した2人の間でバシバシと激しい連打の攻防が展開された。
アサヒの的確な急所への拳撃を、カ・カも同様の攻撃で相殺する。
カ・カの攻撃は系統立っていないナチュラルなものであったが、それゆえに軌道が読みにくく、次第にアサヒも防御に回っていく。
そしてカ・カは自分が優勢と見るや更に手数を増やして連撃を加えてくる。
アサヒの腕や腹が少しずつカ・カの爪によってダメージを受けていく。このまま押し切られてしまいそうだ。

885名無し募集中。。。:2016/06/02(木) 00:15:31

だがアサヒはあきらめていなかった。防御の型・「蕾」で自らの急所はガッチリと守りつつ、ある一瞬を狙っている。
上段への攻撃を蕾で逸らしたアサヒはついにカ・カの右手を取った。

「!!??」

アサヒはそのままカ・カの後ろに回り込み、その回転を利用して手首を反し、取った手を振り下ろして後ろに引き倒す。
合気道の片手取り四方投げである。急に後方に身体を倒されるこの技に対応するのは困難。
もちろん、異民族でそのような「技術」を知らないカ・カには効果覿面だった。
驚き、訳もわからず受身も取れずに後頭部を床に強打するカ・カ。
そこを逃さず、アサヒは顔面に向かって拳を打ち下ろした。

ドゴォ、という破壊音がアトリウムに響く。
見守る果実の国軍兵たちはカ・カの顔が潰れた音だと思った。

だが破壊されたのは床のブロックだけ。
カ・カはすんでのところで思い切り顔を背け、直撃を避けたのである。

「は、外した…?」

アサヒは驚いていた。これまで四方投げを初めて喰らって混乱しない人間など一人もいなかった。
しかも確実に後頭部を床に叩きつけたのに追い討ちの拳すらかわすなんて…。
先程カ・カの実力を見立てた時に、ここまでやれば対応もできず、拳の初撃でKOできると踏んでいた。
だが実際は仕留め切れず、特殊手甲・桜花による一撃必殺の爆圧の存在すら知られてしまった。

戸惑うアサヒを跳ね飛ばし、カ・カが飛び上がって起き上がり距離をとる。
後頭部を打ったダメージはあるようだが、アサヒの拳を警戒する目つきで睨みつける。

非常にやりにくくなってしまった。
アサヒは果たしてこのタフで獣人のようなカ・カをどう攻略したら良いのだろうか。

886名無し募集中。。。:2016/06/04(土) 22:40:51
一瞬でも隙を見せるとカ・カは飛び上がって手刀で斬りつけてくる。
アサヒが辛くもかわすと後ろの壁に一筋の裂け目が入る。
お互いが一撃必殺、クリーンヒットした時点で勝負が決まるのだ。

こうなるとアサヒの狙いは一つしかなかった。
だがそれに向けての布石を打つのも、カ・カの止まぬ攻撃を避けながらでは並大抵なことではない。

上下左右から、袈裟懸けに爪で切り裂いてくるカ・カ。
桜花で防いだり受け流して正拳に繋げても、勢いのあるカ・カ相手に拳は空を切った。
前蹴りで間合いを広げつつ応戦するも有効打が出ない。

ナイフのように突いてくるカ・カの手を取って引っ張り、体勢を崩させる。
そこに顔面へ向けて渾身の手刀を振り入れる。
だがそれでもカ・カは後ろに仰け反って避けてしまう。
空振ったアサヒにはわき腹に貫手を入れられ、足を払われて倒される。
次の瞬間、カ・カの鋭い爪は寝た状態のアサヒの顔をかすめて床に穴を開けた。
すぐに転身して脱するアサヒ。頬から一筋の血が流れ落ちる。

ダッシュで間合いを詰めて攻撃を再開するカ・カ。
無言で静かに、だが激しく攻めてくる。まさに殺し屋といったところか。
前進しながら連撃を止めないカ・カ。受けながら下がりつつ機会を伺うアサヒ。

その時、振り下ろす爪の向こうでカ・カの口元が一瞬ニヤリと歪んだ。

「(何か来る!?)」

アサヒは前面からの攻撃への防御に意識を集中させる。
だが読みは合っていたが対策は外れていた。

「1対1とは言ってないよなあ?」

後ろからの声。
一筋の光と共に肉が切られる音がした。

「ッ・・・しまった・・・」

背中を大きく斬り裂かれ、膝から崩れるアサヒ。
背後でアイナのジャマダハルが血にまみれて嗤っていた。

カ・カは単にゴリ押し攻撃をしていたのではない。
気付かれぬようにアイナと挟み撃ちにできる位置へと誘導していたのだ。

アサヒを見下ろすカ・カとアイナ。
2人は仲良く右手を振り上げた。後は打ち下ろして終わりだ。
アイナのジャマダハルがキラリと光る。

「させるかぁーーーーー!!!!」

叫びと同時に方天戟が振り下ろされ、辺りの床ブロックが粉々に砕け散る。
アイナとカ・カは反射的に左右へと飛び退いた。
ようやく最後のアイナ軍団兵を打ち倒したモエミーが割って入ってきたのだ。

「アサヒちゃん!?」
「う、うん、、ごめん、ちょっとやられちゃったみたい・・・」
「こっちこそごめん!あいつらに手間取っちゃったから…」

即座にアサヒを守るように立ちはだかるモエミーの後ろで、よろよろとアサヒは立ち上がった。

「まだ立てるの・・・?」
「ふふ…モエミーちゃんを不利にはさせないよ・・・」
「アサヒちゃん…」
「モエミーちゃん、お願いがあるの」

887名無し募集中。。。:2016/06/04(土) 22:41:39

「フン…あいつらめ、オレンジ飲んだならもうちょい粘れるかと思ったのによ」

アイナはジャマダハルを撫でながら吐き捨てた。

「これで2対2、ようやくオレの出番ってワケだ。さっさとやろうぜぇ!」

言い終わらぬうちに飛び掛ってくるカ・カとアイナを、前に出たモエミーが九印を高速回転させて弾き飛ばす。
そしてすぐに離れたアイナに向かって突進しつつ刃を高速で突きまくる。

「おっ、おっ?オレとやろうってか?」

アイナも受けて立ち、飛び下がりつつキンキンと金属音を鳴り響かせながら刺突を捌く。

「ほぅ、なかなか鋭い攻撃だな!だがこれじゃあお前の負けだぜ?」
「えっ?」

アイナの言葉に反応したモエミー。その後ろで大きな影が飛んだ。

「やれ、カ・カ!」
「!!!!」

またもこの2人による挟み撃ちだった。
2対2なのだから、モエミーがアイナを攻めるならカ・カはアサヒに向かうと思っていた。
しかしそれは勝手な思い込みで、完全なミス。
重傷のアサヒなど後でゆっくり相手しても遅くはない。ならば動けるモエミーを先に潰すのは自明の理。
モエミーが乱入した時点でアイナとカ・カは考えを合わせていたのだ。


2対1ではモエミーに勝ち目はない。
上空から両爪で切り裂かんと迫るカ・カ。
背後の上空から、しかも予想外の攻撃なら普通は反応できるはずがない。

だが、モエミーは九印をひらりと翻すと上空のカ・カに向かって突き上げた。

「!?」

空中への予想外の反撃に、慌てて切っ先をかわすだけになるカ・カ。
しかしモエミーが相手ならそれだけでは済まない。
切っ先を回転させて、横の月牙をカ・カに引っ掛ける。

「てぇぇぇーーーーい!」

長柄をぐるりと回し、カ・カの勢いを利用して逆に上空に放り投げ返す。
方天戟ならではの反撃だった。

「なんだと!?」

一連の行為があまりにも流れるように行われたことにアイナは驚いた。
なぜここまでモエミーは綺麗に反撃できたのか。
それはカ・カのバックアタックがモエミーの罠だったからである。
カ・カは「仕掛けさせられた」のだ。

888名無し募集中。。。:2016/06/04(土) 22:42:35

この2人がアサヒより自分を優先してくることはモエミーにもわかっていた。
だからあえてアイナに攻撃を集中させて距離を取ることで背後に隙を作り、カ・カを飛びかからせたのである。
だが、突くことができたのになぜ斬らずに放り投げたのか。

それは「時間稼ぎ」だった。

上空に飛ばされたカ・カは懸命にバランスを取り、着地に備えようとしていた。
しかし放り投げられた先で、既に攻撃対象から外していたアサヒの姿が目に入る。

アサヒは腰を落とし、両肘を横腹につけて何か力を溜めている。
アサヒの周りの空間が、まるでプロミネンスのように激しいオーラで歪んでいるように見えた。

この時、初めてカ・カは自らの窮地を自覚した。
アサヒと自分の着地点には5mほど距離がある。近接攻撃のアサヒでは射程範囲外だ。
だが、アサヒはあの傷で何か大それたことを間違いなく企んでいる…。
そして空中にいる限り自分は避けることはできないし受身も取れない。
寒気がゾワッと全身を走った。

強敵、カ・カを倒すにはもうこれしかなかった。
この技は発動前に体内の気を練りに練って極限まで洗練しなければならないため、時間が必要なのである。
それは鍛錬を積んだアサヒには数秒に過ぎなかったが、殺し屋カ・カにはその数秒が命取り。
何とか自分でその隙を作ろうとしたがその前にやられてしまい、後は発動させるのが精一杯。
だからアサヒは代わりにモエミーにその数秒の時間を作ってくれるように頼んだのだ。

「アサヒちゃん、決めて!!」

モエミーはアサヒを信じて、その時間を作った。
アサヒはモエミーの信頼に応える。

カ・カは焦った。
早く、コンマ数秒でも早く、技の発動より早く着地できれば回避できる。
懸命に足を伸ばし、大地を求める。
早く、早く。

アサヒは落ち行くカ・カから目を離さず、左拳を前に突き出し、右拳を思い切り後ろに引き絞る。
そして最大級の気合を発し、右の正拳を打ち出した。


光。
大きな爆発。
それはまさに太陽フレア。


一瞬でカ・カは壁に激突し、大きくめり込んで動かなくなっていた。


自らの太陽エネルギーを最大限に高めて爆発させ、拳気にして放つ。
それは錬気なれば、目には見えず、離れた相手でも打ち砕く。
そこに在るのに見えない、雨夜の月。

アサヒの最終奥義『神手』が、見事に炸裂した。


「やったよ・・・ありがとう、モエミーちゃん・・・」

アサヒは力尽き、ばたりと倒れた。

889名無し募集中。。。:2016/06/05(日) 11:18:23
凄いバトルだ…読んでて鳥肌たった…

890名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 06:13:03

「・・・チッ」

カ・カが倒され、アイナ軍団も後は頭領のアイナひとりとなった。
ついに1対1、最後の闘いだ。

モエミーはアイナに対峙しながらアサヒの状況を伺う。
倒れたアサヒにはユカニャ王と残りの護衛がすぐに介抱にあたっていて、何とか大丈夫そうだ。

アイナは背後の倒れた自軍兵の山を見て、改めてモエミーに目をやる。
さすがのモエミーも、あれだけの数のオレンジ使用者を相手にした後では満身創痍。
至る所から出血があり、肩で大きく息をしている。
アイナは無傷の自分が負けるはずがないと思っていたが、念を入れることにする。

だがその懐に手を入れようとするのをモエミーは許さなかった。
あっという間に間合いを詰めた九印の刃がアイナの手に伸びる。

「させないっ!」
「おっと!?」

モエミーにはバレていた。アイナの懐には自分用のオレンジがあったのだ。
モエミーも今まで散々苦労させられたあの液体を今アイナに使われたらまずいと分かっている。
それだけは阻止しながら倒さなくてはならない。

突き、薙ぎ、叩く。モエミーは大きく器用に九印を振り回して、休まずアイナを攻める。
アイナはなかなかオレンジを手にできない。
足を薙ぐように九印を振り、ジャンプでかわしたところを斧のように上段から叩き切る。
アイナはたまらずジャマダハルでガードし、膝をつく。

すぐにモエミーは九印を引き、回転してアイナの顔に斬りつける。
アイナは前転でかわすがモエミーは逃がさず柄の部分を殴り当てた。

「くッ・・・」

怯んだアイナにモエミーの刺突連打が襲い掛かる。
だがアイナも伊達にKYAASTだったわけではない。

「懐に入ればオレの勝ちだろ?」

アイナの戦闘スタイルもカ・カ同様、いや尊敬する戦士と同様に、俊敏に立ち回り接近戦を手数で圧倒するタイプ。
突きをジャマダハルでずらしてダッキング、スッとモエミーの目の前に躍り出た。
こうなると方天戟のリーチがデメリットとなる。隙だらけのモエミーがそこにいた。

「終わりだッ!」
「そうはいかない!」
「なにっ!?」

確実に喉を突き刺したはずのジャマダハルが金属音と共に弾かれる。
アイナが目にしたのは柄の短い手槍を持つモエミーだった。
そのまま上段中段下段とコンビネーションで斬りつけてくる。
突然のモエミーの近接対応に不意を突かれたアイナはガード一辺倒。
何とかモエミーの一撃を強く叩いて飛び下がって距離を取る。

が、モエミーはそれも許さない。
下がるアイナめがけてぶんっとその手槍を振る。
すると当たらない距離に飛んだはずのアイナの太ももがズバッと血を噴いた。

「ぐうぅっ…なんだ…?」

アイナの足を斬ったのは、リーチの長い方天戟・九印だ。
なぜモエミーが2つの槍を使っているのか?

891名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 06:14:10

だがこれは簡単なことだった。
九印の柄には伸縮自在のスイッチが付いているのだ。
モエミーはこれで近接戦闘の際には柄を短くして手槍として使い、対応するのである。

「チッ、小賢しい真似をしやがって!」

再びリーチを取ったモエミーはさらにアイナを攻め立てる。
攻勢のモエミーにアイナは少しずつ圧され、生傷が増え始めていた。

アサヒの介抱は衛生兵に任せ、戦況を固唾を呑んで見守るユカニャ王。
ここまではモエミーがリードしている。
まだ安心はできないが少しずつまた勝ちの目が出てきた、そう感じ始めていた矢先。
ユカニャ王の視界の端を何者かが横切る。

「…え!? モエミー、危ない!!」

だがその声は遅かった。
モエミーの九印がアイナのガードを弾き、ついにその胸に刺さろうかというその瞬間。
ひとりの人物が間に飛んで入った。
九印はその人物に突き刺さり、動きが止まる。

「!!?? なんで・・・はッ!!??」

それはもう動けないはずのカ・カだった。
カ・カが最後の力を振り絞り、身を挺してアイナを守ったのだ。

だがこのカ・カの働きは単にアイナへの直撃を防いだだけではなかった。
これが今回のカ・カ最大のファインプレー。

「ありがとうよ、カ・カ…おかげでちゃんと『飲めた』ぜ」

カ・カの身体がずるりと崩れ落ちる。
モエミーの顔が凍りつく。

そこには空になったオレンジのアンプルを持ったアイナがいた。

892名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 20:27:51

「あ・・・あぁ・・・そんな・・・」

オレンジを飲んだアイナの強さをユカニャ王が知らぬはずがない。
またもや形勢は逆転してしまった。

「ぐはぁっ!」

反応もできずにモエミーの胸から血が噴出した。
今のアイナのジャマダハルより速く動ける者はこの場には存在しない。
モエミーの胸のサイズはアサヒより上ではあるが、ジャマダハルの斬撃をまともにくらえばひとたまりもないのだ。

「ぐ・・・がはぁっ・・・」
「モエミー!」

膝をつくモエミーの口から血がこぼれる。
ユカニャ王は震えながらも懸命に見守ることしかできない。

「フン・・・頑張ってくれたが、ここまでだな!」

モエミーの周囲にアイナの残像がババッと表れて消えると、更にモエミーの体中から鮮血が飛び散った。

「・・・くッ・・」

ここまでオレンジを飲んだ大軍を相手に立ち回って全滅させただけでも驚異的な粘りだというのに、
攻勢から一転、逆襲を受けたモエミーの体力も精神力も限界だった。

ここで自分が倒れたらユカニャ王の命が、果実の国が奪われてしまう。
しかし必死に意識を繋ぎ止めても、ボロボロの身体で振る方天戟には、威力も怖さも、もうない。
アイナはやれやれ、と言った表情で方天戟を受け止めると大きく遠くへ蹴り飛ばす。

「ここで見てな・・・果実の国の王位継承をな!」

そう言い放つとアイナは素早くモエミーの背後に回り、強烈な肘打ちを落とす。
モエミーは床面に叩きつけられ、もう立ち上がることはできなかった。

893 ◆V9ncA8v9YI:2016/06/06(月) 22:54:39
緊迫したシーンなのにアサヒより上という一文が気になってしまう……

894名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 23:52:07

希望は潰えた。
絶望へのカウントダウンが始まる。

震えるユカニャ王に向かって一歩、また一歩と金髪のアイナが近付いてくる。

「う、うわああああああああああ!!!」

最後の護衛兵などアイナの敵ではなかった。ましてやオレンジを飲んでいるのだ。
為す術もなく斬られ倒れていく護衛たち。
ユカニャ王を守る最後の壁はあっという間に消えていった。

するとアイナの前に出る影がひとつ。
ひとりの護衛兵がブルブル震えながらアイナに話しかける。

「アイナ様・・・私のことをお忘れですか・・・?」
「新兵の頃より貴女に従い、貴女に育てて頂いた者です・・!」

それはアイナがKYAASTだった頃の部下の一人だった。
アイナの強さに憧れ、果実の国とアイナのために尽くしてきた一介の兵だ。

「お願いです、もうお止めください、このようなことは・・・」
「まだ間に合います、もう一度あの頃を思い出してください・・・!」
「貴女はそんな女性ではなかったはず・・・私は信じています、貴女g」

「うるせえよ」

言い終わらぬ内に兵は無残に斬り捨てられた。
それは氷。どこまでも凍てつく氷のように冷たいアイナの眼。
もう誰もアイナを止めることはできない。
流血の水たまりに足を踏み入れるアイナの靴に、黒い血がピチャリと跳ねる。

最後の護衛もあっけなく斬られ、この場に立つ者はいよいよユカニャ王とアイナの2人だけとなった。

「やめなさい・・!」
「ん?何の真似だそれは」

ピーチジュースが無くとも、ユカニャ王は王であった。
ガタガタと震えながらも、隠し持っていた護身用の小型拳銃デリンジャーを構えている。
意地でも、このままタダではやられない。

「そんな生まれたての小鹿みたいに震えてて、弾丸が当てられるのか?ははは」
「やめて・・これ以上近付かないで・・私にこれを撃たせないで・・!」

「アイナ・・やめましょう、こんなこと・・」
「泣き落としか?さすがあざといなユカニャ。だがここまで来てやめられるわけねぇだろ!」
「それでも・・・私は・・・!」
「やってみろ!!オレンジを飲んだこのオレが、そんなヘナチョコ拳銃を避けられないとでも思ってるのか?」

ユカニャ王は覚悟した。
ぎゅっと目を瞑って思い切り引き金を引く。

ぱん。

だがその結果は大方の予想通り。
アイナは余裕でかわし、ついでにデリンジャーも手から叩き落としていた。

万策尽きたユカニャ王は、力なく床に膝をついた。
昨日同様に、王の首に冷たく当たるアイナのジャマダハル。
もはやユカニャ王の命と果実の国の命運は風前の灯。
その首筋には、震えすぎて刃に当たった皮膚から薄く血が垂れ始めていた。

アイナは大きく息をつく。

「ふぅ・・・招かれざるゲストが2人も来やがったから手間取っちまったが、ようやくオレの望みが叶うってわけだ」
「ユカニャ!さぁ国民どもと、てめぇの胴体にお別れしな!」

ユカニャ王は今度こそ最期を感じ、強く目を瞑る。
国民たち、そして遠く戦いに赴いたKASTのみんな・・・ごめん。

「ユカ・・・」「ユカちゃん・・・」
「ユカニャ王…」「王様…」

わずかに意識のある全ての戦士が、ことの成り行きを歯を食いしばって見つめていた。

アイナはジャマダハルを大きく振りかぶると、
ユカニャ王の首めがけて斬り落とした。

895名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 23:53:57


金属音。

それも強い意志のこもった、抵抗の刃の音。



ユカニャ王は恐る恐る目を開いた。
まだ自分は死んではいない。

見上げると、ローブを深くかぶった人物が、アイナのジャマダハルをギリギリで受け止めていた。

「な、なんだ!?」

最後の最後に、予想もしなかった乱入に驚くアイナ。
だが本当の驚きはこの後にやってくる。

「悪いな・・・招かれざるゲスト、3人目だ」

まさかまだ奥の手を残していたのかと、アイナはユカニャ王を見た。
だがユカニャ王も何がなんだかわかっていない顔をしている。

「誰だてめ・・・ハッ!!??」

アイナは気付いた。
ジャマダハルを受け止めるその刃。裾からのぞく腕。
そして醸し出すこの空気。
アイナの表情が一瞬で強張り、急いで飛び下がる。

「つれないことを言うな。私が誰だかわからないか?」
 

アイナの身体中から、冷や汗がじっとりとにじみ出る。

知らないわけが無かった。
まさか。こいつは。こいつだけは。

その人物がゆっくりとローブを外し、素顔を見せる。


そこにいた全員が声を失った。


果実の国軍も、アイナ軍団さえも。
言い尽くせぬ衝撃が一帯を貫いた。


「私は・・・お前だよ」


なぜなら、

ローブを脱いだその人物、

その人もまた、アイナ・ツカポン・アグリーメントだったのだから。

896名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 23:59:47
やばい…鳥肌がだった!いったいどういう事なんだ!?

てか本編作者さんどこ気にしてんのさw

897名無し募集中。。。:2016/06/07(火) 21:20:35
??
助けに来た方が本物のツカポン?全然先がよめない

898名無し募集中。。。:2016/06/07(火) 22:47:15

もう一人のA INA。

まったく同じ顔の2人のアイナ。


「て、てめぇは・・・!!」

飛び下がったアイナはようやく言葉を発した。

だがアイナ以外の人物たちは未だに状況が理解できていない。

なぜ同じ顔の人物が2人いるのか??
最初からいた方は金髪ロング、今来た方が黒髪ショート。かろうじて見分けは付く。

果実の国の国民たちが知っているかつてのアイナは黒髪ショートだった。
それにずっと共に戦ってきたユカニャ王だけは、黒髪の方からどこか懐かしい空気を感じていた。

となると、金髪の方が偽者のアイナなのだろうか??

「ど、どっちが本物なの…?」

先程まで生死の境目にいたユカニャ王が、止まらぬ震えを押さえながら聞く。

黒髪のアイナは落ち着いて答える。

「どちらも本物さ、ユカニャ王」

899名無し募集中。。。:2016/06/07(火) 22:53:47

一同はますますわからなくなってしまう。
だが混乱する皆を前に、黒髪のアイナがゆっくりと口を開いた。

「わからなくて当然だ、私だって今も信じられないのだから」

そして金髪アイナをけん制しつつ、淡々と語り出す。

「今こそ語ろう、あの日に何が起きたのか・・・」



アイナがKYAASTにいた頃。
オレンジを飲むことでアイナは無双の活躍をしていた。
新しい力。国を守る力。KYAASTの大黒柱とまで呼ばれた。
仲間でありライバルでもあった、サユキやカリンをも凌駕する力、そして自分。
アイナは幸せだった。何もかもがうまくいっていた。

だがオレンジの強大な力の影響は、少しずつアイナの身体を蝕んでいく。
普段の自分とオレンジを飲んだ自分。その乖離に悩み始めた。
自分はこのままでいいのか、本当の自分の実力が追いついていないまま、戦い続けていいのだろうかと。

オレンジによる各能力の飛躍的な増強は、肉体は耐えられても、常人では精神が耐えられない。
よって脳は自己防衛的に、本人の中にオレンジを制御するための、もうひとつの仮想人格を作る。
そのおかげでアイナは戦場でもオレンジの力をいかんなく発揮することができたのだ。

アイナが本来の自分との乖離に悩むうちに、少しずつ、仮想人格の力が強まってくる。
オレンジをうまく扱い、成功を手にし続ける攻撃的な人格。
それはアイナの中にいる、もうひとりのアイナ。Aina I N Aina。
アイナは徐々にその人格を抑え続けられなくなりつつあることに怯えていた。
だがオレンジなしで戦場に出れば元の自分のまま。苦しかったが飲まないわけにいかなかった。

そしてあの日。
アイナが目覚めた時、もう一人の自分が『現実世界に存在』していたのである。
それが今目の前にいる、金髪のアイナだったのだ。

とても信じられない現象だったが、猛烈に悪い予感がした。結果はその通りだった。
金髪のアイナはオレンジの原液を盗んで遁走し、黒髪のアイナは事態を収拾しようと単身で追いかけた。

そして国境山中の崖まで追い詰めたものの、オレンジを飲んだ金髪アイナに返り討ちにされ、突き落とされてしまう。
こうして黒髪アイナは滝に飲まれ、行方知れずとなったのだった。

900名無し募集中。。。:2016/06/07(火) 22:59:31

驚愕の真実。
誰もが一言も漏らさず、黒髪のアイナの言葉に耳を傾けた。
だがその内容を疑う者はひとりもいない。
現にこうして目の前に2人のアイナが存在しているのだから。


「それから河に流されて、気付いたときにはアンジュ国の外れにあるサナトリウムにいた」
「そこのフユカという女性に助けられ、傷を治して、今までずっと暗躍するそいつを追っていたんだ」

「アイナ・・・あなた・・・ずっと一人で・・・ずっと独りで戦っていたのね・・・」

全てを知ったユカニャ王は、溢れる涙を抑えられなかった。

「どうして、どうして話してくれなかったの・・もっと早くに知っていれば・・・うぅ」

誤解だった。不幸な出来事に襲われただけ。脱走者でも犯罪者でもない。
黒髪のアイナはKYAASTだったあの頃と何も変わっていなかったのだ。

「報告が遅くなってすまない、ユカニャ王」
「そしてたくさん迷惑をかけてすまなかった・・・いくら謝っても許されることではないが」
「私は責任を取らなくてはならない・・・!」

黒髪のアイナはそう言うと、改めて金髪のアイナの方に向き直った。

「やっと会えたな、もう一人の私。この日をどれだけ待ち焦がれたことか」
「今日でこの運命ともお別れだ!私は私を取り戻す!」

「まさか生きていたとはな…あの時に死体を確認しておくんだったぜ」
「だが昨日までと何も変わらねぇよ。あの日からもこれからも、アイナ・ツカポン・アグリーメントはずっとオレだけだ!」
「今度こそ完全に存在を消してやる!」

金髪のアイナがジャマダハルを構える。
同時に黒髪のアイナもジャマダハルをその右腕に装着する。

ユカニャ王の心は震えた。
この姿。あれから何年経っても、今も忘れぬこの雄姿。
戦場を駆け抜けた、あのアイナとジャマダハル「梅茶香」。
希望が、もう一度この国に帰ってきたのだ。

「アイナ・・・!」

ユカニャ王を見て、強く頷く黒髪のアイナ。

正真正銘の、最後の闘いが始まった。

901名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 06:52:10
あぁ・・・俺達のつかぽんが帰ってきた
しかもここでふーちゃんの名前が出てくるなんて…アンジュ国にまだいたんだね
「梅茶香」=ばいちゃーこかw1本づつのジャマダハル…前作のチサトとアスナの戦いを思い出す

902名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:27:36

金髪のアイナが素早く踏み込み、足を刈るように斬りつける。
バックステップでかわし、即座にダッシュで距離を詰める黒髪のアイナ。
ドシュドシュッと風を切る重い音がアトリウムに響く。
金髪のアイナも負けじとしゃがみこんで避け、アッパー気味に突き上げる。
背中を反らせて最小限の動きでかわした黒髪のアイナが右腕で突くと、金髪が数本、風に舞った。

「ケッ…ちったぁ鍛えたようだが、まだまだ十分『見える』ぜ」
「オレンジが欲しくなったんじゃねえのか?クックック」

「私はオレンジは使わない。私自身の力でお前に打ち勝ってみせる!」

「面白れぇ、やってみやがれ!」

そう言うと一気にギアを上げる金髪のアイナ。
そのスピードは先程モエミーを斬り刻んだ時のように残像が出るレベルである。
高速で黒髪のアイナの周囲を飛び回り、かく乱する金髪のアイナ。
一瞬でも隙ができれば斬撃が襲ってくる。

「ハァッ!」
「くッ!!」

キンキン、と刃が交錯する音がする。
だがそれすら、倒れている一般兵では目が追いつかない。

かろうじて見えているユカニャ王だったが、心境は穏やかでない。
幼少より蹴球で鍛えた強靭な脚力もアイナの武器の一つなのだが、
やはりオレンジを飲んだ金髪のアイナの方が、スピードも力も優勢なのだ。
元々の力に加えて、重力も感じずリミッターも外れているのだから当然である。

徐々に凶刃は黒髪のアイナの身体に届き始めた。
黒髪のアイナの攻撃はほとんど当たらず、当てても防がれていた。

意を決したように金髪のアイナの移動先を呼んで足払いを仕掛けるも、
直前で空中に逃げられ、一回転した金髪アイナに肩を斬られる。

意表をついた裏拳で急襲しても、金髪アイナには払い流され、腹に思い切り膝を入れられてしまう。

「ぐふっ…かはっ…」

黒髪のアイナは明らかに劣勢だった。希望に暗雲が立ちこめる。
やはりオレンジの力は圧倒的なのだ。今の金髪アイナに勝てる者などいるのだろうか。

黒髪のアイナは集中が切れたかのように、大振りで何度もジャマダハル「梅茶香」を振り下ろす。
もちろんそれらは全てかわされ、逆に落ち切った右手を蹴り上げられ、梅茶香は外れて地に落ちた。

武器すら失った、黒髪のアイナ。既に負傷箇所も多く、肩で息をしている。
金髪のアイナが動きを止めてゆっくりと近付いてくる。

「ここまでだな…ノコノコ出てこなければそのまま生きていけたのに、馬鹿な真似しやがって」
「もう終わりにしようや。お前はオレに勝てない。潔く死にな、もうひとりの自分の手に掛かってなぁ!」

金髪のアイナはジャマダハルを引き、腰を落としていく。
最大スピードで一気に駆け抜けながら斬る、いや構えからして心臓を貫くつもりだろう。

今度こそ終わりだ。
武器すらない黒髪のアイナに防ぐ手立てなど残されていない。
最後の希望が、目の前で消え行く・・・。

だがユカニャ王は気付く。
黒髪のアイナの瞳の光が、まだ消えていないことに。
ダメージでフラつく身体の、その瞳の奥に確かな闘志を見た。

黒髪のアイナは、丸腰でも何か考えている。
ユカニャ王はその瞳の光に殉じることにした。
指を組んで、祈る気持ちで最期の攻防を見届ける。

(アイナ・・・あなたを信じてる!)

903名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:29:15

ここからの出来事は全て一瞬だった。
見えたのは、2人のアイナとユカニャ王、倒れたビター・スウィートの2人だけ。

黒髪のアイナが軽く腕を上げて構えると、金髪のアイナの脚に力が入る。
力は足の親指から発して膝、大腿、腰で前進する力に変換され、爆発的なスピードが生まれる。

もう次の瞬間には金髪アイナのジャマダハルの切っ先は、黒髪アイナの左胸に到達していた。

胸当てを貫き、服の繊維を切り裂いて進むジャマダハル。
その切っ先は、服を抜けて肌に触れ、表層組織を掻き分ける。
毛細血管が破壊され、鮮血が外へと溢れ出す。

だがその刹那、黒髪のアイナの目がカッと見開かれる。

何年も待ちわびたこの瞬間。
忌まわしき運命を越えて、今アイナの闘志が燃え上がる。
 

両手で胸を刺すジャマダハルごと腕を取る。

切っ先を外し、そのまま飛びつくように地面を蹴る。

右足は大きく振り上げて踵落としを後頭部へ、

同時に下からは渾身の左蹴り上げが、顎を目がけて加速する。

全力で腕を取られた金髪のアイナに避けることは不可能。

天と地から迫りくる、殺気をはらんだ風圧と戦慄。

次の瞬間、金髪のアイナの頭部は上下同時に、最大級の衝撃と共に蹴り込まれた。

因縁も、運命も、思い出も、後悔も、執念も、責任も、全て乗せて、

まるで大顎を開けたワニの如く、強烈で残酷に頭蓋骨を噛み砕く。

そして両脚は頭部を挟んだまま、体重を預けて身体ごと地に落とす。

それは因縁を断ち切る、とどめのギロチンであった。



素手だからこそできた、一度きりの大技。

仕掛けられた相手は問答無用で夢の世界へと連れ去られ、二度と戻ることはない。

黒髪のアイナが研鑽に研鑽を重ね、この日、このチャンスのために、磨き抜いてきた秘奥義。

その名も「夢王」、ここに完了。

904名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:31:23


終わった。
長い戦いが、今終わった。

ユカニャ王は未だ信じられないといった表情で目を見開いている。
それは倒れたままのモエミーとアサヒも同じだった。

黒髪のアイナは、ずっと、ずっと、この一撃に賭けていた。

いくら鍛えても、常人がオレンジに長期戦を挑むのが不利なのは自分が良く分かっていた。
集中力と動体視力が増大し恐怖心もないのだから、一度外してしまえば最後、2度目は通用しない。
だからこそ、オレンジの隙をついて一撃で確実に葬り去る必要があった。

ユカニャ王が悲しい事件でその力を失ったように、
オレンジの弱点は恐怖心のなさと、その力への驕りにあるとアイナは考えた。
特に使い続けている金髪のアイナなら尚更だ。

だからあえて攻撃を受け、自分の方が強いと自覚させ、愛用の武器すらわざと捨てて丸腰になったのだ。
そうすれば金髪のアイナには必ず油断が出る。
だが、それは一度きり。そのチャンスに決めきらなければ自分の負けであり、死だった。

果たして、金髪のアイナはフェイクも入れずに全力で心臓を狙ってきた。
突進の狙いさえ分かれば、ベクトルをずらして一瞬なら隙を作ることができる。

そして一撃必殺の「夢王」を叩き込んだのだった。


それは怖ろしい賭け。まさに命懸けの作戦だった。
勝負が終わっても、未だに黒髪のアイナは全身から冷や汗が止まらず、荒い息を吐いている。

どんなに怖くても、あきらめない。

最期まで希望を捨てず、心で勝つ。

これが黒髪のアイナの、たったひとつの作戦だった。


倒れた金髪のアイナ。もう動くことはできない。
ユカニャ王が近付くと、その身体はサラサラと灰になって崩れてゆく。
アトリウムに一陣の風が吹くと、その灰も風に乗って散っていった。

こうして、数年前からの因縁の全てが終わったのだった。

905名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:35:02



「アイナはこれからどうするの・・・?」
「さあ、まだ何も決めていないな」
「もし、もし良かったら・・もう一度・・」
「いや、それはダメだよ、ユカニャ王」

ユカニャ王の申し出に、アイナは首を振ってきっぱりと断った。

「一連の事件の原因は全て私にある。迷惑をかけた責任は取らなくてはならない」
「・・・その気持ちだけ頂いておくよ、ありがとう」

そしてアイナはいずこかへと旅に出た。

ユカニャ王は忘れないだろう。
オレンジの運命に翻弄された一人の戦士のことを。
そして本当の実力を身につけ、オレンジの運命に打ち勝った、誇るべき友のことを。

さようなら。
そしてありがとう、アイナ。




全てを終えて、ユカニャ王は玉座で物思いに耽る。

今回の一連の事件のこと。
奇しくも、「ジュースへの決別」という同じ選択をしたアイナとKAST。
開発中の"NEXT YOU"。
そして宿敵"ファクトリー"。

KASTと、果実の国の未来のために、
王として取るべき選択は。

窓の外には曇り空が広がっている。

大きく息をつくと、ユカニャ王はゆっくりと目を閉じた。


(終)

906名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:38:37
以上です
お付き合い頂きましてありがとうございました

907名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 23:59:34
何故ユカニャ王は力を失ったのか?
開発中の"NEXT YOU"とは?
アイナと再び出会う事はあるの?

気になることは沢山あるけどまずは完結乙でした本編の物語が進めばまた新たな外伝も出てくるのかな?

908名無し募集中。。。:2016/06/09(木) 22:04:19
上二つは本編に記述がありますね
最後のはどうでしょうね



ちなみにつかぽんには「オレンジジュース」という持ち歌が本当にありますw

909 ◆V9ncA8v9YI:2016/06/10(金) 01:23:53
外伝さん、お疲れ様でした。
緊迫感のあるバトルシーンが楽しめただけでなく、
「KASTが居なくなったら国防はどうなるの?」という本編のツッコミ所を補っていただいたことについても嬉しく思ってます。

アイナやビタスイが本編に出る事は有りませんが、ユカニャ王は重要な役回りで再登場する予定です。
その際には今回のお話を意識してしまうかもしれませんね。


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