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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

621 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/22(木) 19:45:18
オダが光に隠れたということは、またすぐにでも仕掛けてくるはず。
ところが狙われる側のサユはその場から動かなかった。
何か策でもあるのかと一同は思ったが、苦悶の表情がそれを物語ってはいない。
サユ王は動けないんだ、と皆が理解した。

「嘘じゃろ?……たった一撃もらっただけなのに……」

サユがこれまでに受けたのは右ももに受けた初撃のみ。
だというのに彼女はそこから動けなくなるほどに苦しんでいる。
いくらブランクが有るとは言っても、完全な棒立ちになるのはあまりに酷い。
仕掛け人のオダもコトがうまく運び過ぎているので少し不審に思ったが、
サユ王が歯を強く食いしばりながら耐えているのを見て、好機は本物であることを悟りだす。

(よく分からないけどこれは二度とないチャンス。
 ここで攻めきれなければ絶対に後悔する!)

オダは急ぎながらも、且つ物音を立てぬようゆっくりとサユに接近していく。
光の強く当たる部分を縫うように突き進み、
少し手を伸ばせば敵を切れるところにまで到達した。

(勝てる!私は王に勝てるんだ!)

オダは、自分が帝国一の剣士になったのかもしれないと思った。
まさに有頂天だった。
凶刃が目の前にまで突き出されるまでは。

「キャッ!?」

たった一瞬。まばたき一つくらいの隙を突いて
サユのレイピアはオダの眼球を貫こうと飛び出していた。
見えているわけのない相手からの攻撃に反応できるはずもなく
オダはその場に突っ立ったまま、回避行動をとれなかった。
しかし何か様子がおかしい。
あんなに勢いよく放たれた刃が、オダの目に当たる直前で停止していたのである。
脅しにしては鋭すぎた斬撃に、オダは何が何なのか分からなくなってしまう。
そして、その斬撃を放ったはずのサユを見て、オダは更に混乱していく。

「あなたは大人しくしてなさいよ……」
「!?」

混乱の原因は、右手のレイピアではない方の剣。
つまりは左手に握られたマンゴーシュの行き先にあった。

「え?そんな、サユ王……いったい何をしてるんですか」
「大人しくしてなさいって言ってるでしょ!!」
「ヒィッ!」

なんとサユは、左手のマンゴーシュで自身の右腕を刺していたのだ。
これでオダの目を貫く寸前で刃が止まった理由は分かった。
自身を痛めつけることでオダへの攻撃を強制的に止めたというワケである。
だが、こんな異常行動をとる理由まではまったくもって分からない。
オダだけでなく、他の帝国剣士らもパニックに陥ってしまう。

「なんだなんだ、サユは帝国剣士たちに秘密を打ち明けていないのか。」

辺りをキョロキョロ見回しながら呟いたのはマイミだった。
マイミに並んで、マーサー王とマノエリナも冷静な顔をしている。

「そりゃそうだとゆいたい。
 身体の中に化け物を飼っていることを知られたくない気持ちは、痛いほどよく分かる。」


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