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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

742 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/08(火) 13:23:04
雨の剣士という通り名は、決して雨天に強いからという理由で付けられたわけでは無い。
敵の身体部位を機能停止させるほどに斬りまくった結果、
そこから発生する血の雨に由来していたのだ。
なのでハルナンも他の剣士同様に荒天ではパフォーマンスが落ちるはずなのだが、
今日の彼女の動きからはそれを全く感じさせなかった。

「サヤシさん、あなたさえ倒せば実質的な勝利なんですよ!」

大雨で足元の悪い中、ハルナンはまったく滑ることなくスイスイと前進していっている。
ただでさえ瓦礫の上は動きにくいというのに、そこに雨水も加わった状況でこうもスムーズに動けるのは異常だ。
訓練とかでどうこう出来るレベルを超えている。
まるで特殊能力者のように振る舞うハルナンを前にして、サヤシは焦らずにはいられなかった。
だが、それでサヤシが圧倒的に不利だと決めつけるのは早計だ。
何故ならサヤシとハルナンの実力には大きな開きがあったからだ。

「ウチは負けない……ハルナンの攻撃の威力はだいたい分かっちょる……
 ガチンコでやったら負けるはずがないんじゃあ!!」

サヤシは己を鼓舞するかのように叫びだした。
この足元の悪さではもはや一歩も動くことは出来ないが、
幸いにも敵であるハルナンの方からこちらにやってきていた。
ならばやるべきは模擬刀と模擬刀のぶつかり合い。
となればいくら雨が降っていようと、剣術に長けているサヤシが有利に違いない。
非力なハルナンの斬撃を受けながら、強烈な一撃をぶっ放せば良いのだ。
サヤシは、そう思っていた。

「まだ分からないんですか?サヤシさん。」
「!?」
「私の繰り出す攻撃は、全てが必殺技級の威力に変わるんですよ。」

ハルナンはサヤシの左肩を、コン、と軽く小突いた。
普通であればなんともない攻撃だ。
むしろ攻撃とすらみなされない行為かもしれない。
しかし、今は状況が異なっていた。
雨水で踏ん張ることの出来ないサヤシはただそれだけでバランスを崩してしまい
大袈裟に転倒し、顔面から地面に落ちてしまった。
それもただの地面ではない。尖ったものがたくさん転がる瓦礫の山にだ。
こうなれば、サヤシの顔は血まみれのグシャグシャになってしまう。

「あ……ああ……」
「女性の顔を潰すのは心苦しいですね。だからサヤシさん、そのまま寝転がることをオススメしますよ。」


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