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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:35:24 ID:F94asbco0
前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1369565073/

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701名も無きAAのようです:2017/05/06(土) 22:07:51 ID:77/nppew0
>>699
(’e’)「こんなこともあろうかと改良を加えておったのじゃ」
http://blog-imgs-101.fc2.com/a/m/m/ammore/20170506220539a93.jpg

702人妻出会い掲示板:2017/05/07(日) 06:31:43 ID:vqAO1WyE0
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703名も無きAAのようです:2017/05/07(日) 18:26:54 ID:ZHuc3QKU0
やはり天才か…

704名も無きAAのようです:2017/05/07(日) 21:59:45 ID:f6cWj.uI0
>>703
(’e’)「ほほう、違いが分かるようだね」
http://blog-imgs-101.fc2.com/a/m/m/ammore/20170507215818614.jpg

705名も無きAAのようです:2017/05/08(月) 08:39:11 ID:wN8ArsCE0
顔が想像よりMADで怖かった

706人妻出会い掲示板:2017/05/09(火) 07:29:52 ID:9Quw/NDk0
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707名も無きAAのようです:2017/05/13(土) 18:47:01 ID:s/PBTxZI0
(∪´ω`)φ″「ひとづま、せふれ、じゅくじょ。

         おー……ふりん?

         けいじばんで、であいせっくす……お?」

708人妻出会い掲示板:2017/05/15(月) 05:20:13 ID:C9avMoxg0
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709名も無きAAのようです:2017/06/11(日) 18:33:44 ID:gfJLzDVA0
今夜VIPでお会いしましょう

710名も無きAAのようです:2017/06/11(日) 20:11:21 ID:b7qTW8Ck0
かっこいいこと言いやがって

711名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:27:56 ID:cylVOJUg0
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彼に盗めぬものはない。
その技は芸術。
その姿は概念。
そう、彼こそは世紀の大怪盗。

アルセーヌ三世(アルセーヌ・ザ・サード)。

――ファンキー・モンキー・キック著:【アルセーヌ三世】冒頭部より。

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船上都市オアシズの高級ラウンジには黒雲から降り注ぐ大粒の雨と大木を揺らす風を堪能する客が訪れ、嵐を肴に美酒を堪能する客が卓を囲んで話に花を咲かせていた。
ラウンジ内にはジャズの演奏がほどよい音量で流れ、照明は自然の明かりを最大限取り入れることで、まるで白夜の様だった。
客の間で交わされる話は主に、停泊中の島で起こっている騒動についてだった。
島にある監獄から二人の囚人が脱獄し、島に逃げ込み、深刻な問題を起こした。

そしてジュスティア警察、軍が介入したことによって状況が激変し、島はそれまで満ちていた平和を失い、今や戦場と化してしまっている。
先日まで同じ状況に陥っていた客たちは同情半分、好奇心半分で事態が収束するのを期待していた。
他人の不幸は蜜の味。
己の安全さを痛感することに快感を覚えるのは彼らが金持ちだからか、それとも、人間が持つ欲望に魅せられてしまったからなのか。

正常とは言い難い経験の後では彼らの思考が錯乱するのも無理はない。
帰還兵の中にも平和に耐え兼ね、次の戦場を捜し歩く人間がいるぐらいだ。
イルトリアの前市長、ロマネスク・O・スモークジャンパーはグレープフルーツジュースを一口飲んで、それからショートケーキを口に運んだ。
威圧的な効果を与える黒いスーツと黒いワイシャツ、そして筋骨隆々とした肉体とその食事の組み合わせは、どこか奇妙だった。

( ФωФ)「ふむ」

彼は甘いケーキを静かに味わいつつ、物思いに耽っていた。
その目は静かに閉じられ、まるで、瞑想をしているかのようだ。
瞼の上に負っている深い傷を見れば分かる通り、彼の視力は大分悪く、目を見開いたところでその黄金瞳が捉えるのは滲んだ景色だけ。
だが見えないからこそ分かることもある。

生物は失った器官を別の物で補う習性があり、視力に頼ることの減ったロマネスクが得たのは、より優れた聴力と嗅覚だった。
物音や匂いで周囲の状況を判断する力は前から持っていたが、それが更に研ぎ澄まされた彼には、普通以上の情報が入ってくることとなる。
時にそれは視覚以上の情報を彼にもたらした。

( ФωФ)「……そろそろか」

最後のひとかけらとなっていたケーキを平らげ、ジュースを飲み干す。
紙ナプキンで口元を拭い、ロマネスクはゆっくりと立ち上がった。
ラウンジのざわめきを背に、彼は静かな足取りで自室へと向かう。
その歩みは自信に満ち、迷うことなく通路を進んでゆく。

712名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:28:46 ID:cylVOJUg0
すれ違う人々とぶつかりそうになることも無く、ロマネスクはただ、風のように静かに進む。
彼が独り言のように口を開いて言葉を紡いだのは、果たして、何がきっかけだったのだろうか。
鼻歌を歌うような気軽さで、ロマネスクは真後ろに控えていた人物に話しかけた。

( ФωФ)「吾輩に用か?
       変装までしてご丁寧なことだ」

よほど観察力の優れた人間でなければ、彼が話しかけたかどうかさえ分からなかっただろう。
あまりにも自然すぎるその動作に対して応じた男の反応もまた、自然極まりない物だった。
故に、二人が会話をしていることに気付いた人間は皆無だった。

¥・八・¥「……お気づきでしたか」

背後にいた髭の男、オアシズ市長リッチー・マニーはその姿のままロマネスクの横に並んで歩いた。
オアシズを取り仕切るその男の立ち振る舞いは優雅さを決して失わず、それでいて自然体を保っている。
ある意味では、マニーは優れた役者だった。
己の心境を決して表に出さず、やるべきことにだけ目を向ける姿は、正に一つの役割を演じ切らんとする役者そのものだ。

( ФωФ)「何と言ってきた?」

¥・八・¥「“残火の処理を”、との事です」

皺の刻まれたロマネスクの口元が、僅かに笑みを形作る。
そしてほとんど見えていない黄金瞳をマニーへと向ける。

( ФωФ)「なるほど。
       お前は?」

¥・八・¥「予定通りに」

( ФωФ)「うむ」

何事もなかったかのように、二人はそれぞれ別の道を選んで別れた。
二人が会話をした時間は三秒程。
その声量は絞られ、嵐の音と船内に流れる緩やかな音楽、そして人々の喧騒によって周囲には聞こえていない。
そう、ただの人間には、決して聞き取ることが出来なかった。

( ФωФ)「……任せる」

独り言のようにつぶやかれたロマネスクの言葉は、果たして誰の耳に届いたのだろうか。
返答らしい返答はない。
それでも、彼は意に介した様子もなく、静かに歩き続けるだけだった。

713名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:29:40 ID:cylVOJUg0
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.        /  ̄/ /   /| |    _ ⌒\  ミ   \}
..   ー-- …''゛ /___,. ''゛ ノ | 斗''`ィ''"⌒  ミ  ト   \
      `¨¨¨¨´ {/⌒''ニニ x / ⌒ィ'代万⌒   ト 人 `'ト---
       {    {  代辷ソッ/ /               j/ ヽ| | August 11th PM02:15
       八  !     //|            〈^ | |
        丶  丶   __/   |                 ノ 八|
         \  \      l:::.、            r /
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オアシズは五つのブロックに分けて統治され、そのブロックごとに責任者が定められていた。
責任者は誰もが優れた能力を有する者で、己の力を正しく判断していた。
市長室に集めた得手不得手を知る五人のブロック長を前に、リッチー・マニーは最優先でやるべきことを告げた。

¥・∀・¥「医療室を確保、腕が確かで口の堅い船医を用意できるか」

('゚l'゚)「私が請け負います。
    ドクター・クルウにも協力を依頼します」

市長が最初に発した命令に対し、第一ブロック長、ライトン・ブリックマンが真っ先に挙手した。
マニーが頷き、ライトンへとその一件は一任される。
誰も異議を唱える者はいなかった。
一礼し、ライトンは足早にその場から移動した。

残った四人に視線を戻して、マニーが話を続ける。

¥・∀・¥「アイディールの整備を担当していたのは?」

マト#>Д<)メ「私のブロックにおります。
       腕も、口の堅さも保証できます」

市長の求める状況を把握したその人物は、第五ブロック長マトリクス・マトリョーシカ。
その目はまっすぐにマニーを見据え、ただ一言を待つ。
期待に反せず、マニーはその言葉を放った。

¥・∀・¥「すぐに用意を」

短く首肯し、彼女は走って部屋を後にした。
遠ざかる跫音だけで彼女がどれだけ真剣に事態を受け止めているのか、マニーにはよく分かった。

¥・∀・¥「医療室、およびアイディールの整備を行う部屋を警護してもらいたい。
      ジュスティアの人間ではなく、先の騒動の際、我々のために戦ってくれた信頼の出来る人間に限る」

誰よりも早く、第四ブロック長クサギコ・フォースカインドが手を挙げた。
事前にその言葉が来ることを予期していなければ、ここまで素早くは動けなかっただろう。

W,,゚Д゚W「お任せください」

714名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:31:46 ID:cylVOJUg0
彼の言葉には力がこもっていた。
絶対の信頼を置ける人間に心当たりがあることは何よりも強みとなる。
クサギコの頭の中にはマニーの要望を満たすことのできる人間が複数人浮かんでおり、有事の際にはすぐに行動できるように常に密な連絡を取る仲だ。
事態に合わせて彼は絶対の信頼を置く部下の名前を記憶しており、今回の様な護衛任務に適任とされる人間は特に強く印象に残っている。

クサギコは駆け足で部屋を出て行き、残ったブロック長は二人。

¥・∀・¥「これから乗船する客が二人くる。
      その迎え入れ、および適所への誘導を」

ノリパ .゚)「承ります」

静かに、だが有無を言わせぬ口調で第三ブロック長ノリハ・サークルコンマが名乗りを上げた。
マニーは無言で頷き、ノリハはすぐに無線の電源を入れて行動を開始した。
情報がまるで蜘蛛の巣のように広がり、ノリハへと集約される。
これにより、離れていたとしても情報が逐一共有されるため、ノリハは素早く的確な指示を出すことが出来る。

¥・∀・¥「ロミス、君には事後処理をお願いしたい。
      いくつ出るか分からないが、また死体が増える。
      それを秘密裏に処理できるか?」

最後に残った男は、自分の役割を心得ていた。

£°ゞ°)「船上での事故はよくあることですので、お任せください」

仔細を聞かずとも、第二ブロック長オットー・リロースミスが市長の依頼を引き受けたのは、市長の決断に対して疑念を持っていないからである。
彼らは皆、オアシズと言う船を守るためであればその手を汚すことも厭わない。
“オアシズの厄日”と呼ばれる一連の事件を経てから、彼らの連帯感は強くなっていた。
同一の目的を達するためにはそれぞれの役割を果たし、共通の敵を排除することが最優先だとようやく理解したのだ。

全てのブロック長がそれぞれの能力を生かし、市長の指示に従う姿は軍隊を彷彿とさせる。
市長の指示は即ち、彼らが選んだ代表者の意志。
緊急時に下されるその決断に過ちはない。

¥・∀・¥「さぁ、ここからが忙しくなるぞ」

ネクタイを締め直し、マニーは無線で入ってきた内藤財団のニュースを文字化した資料に目を通し始めた。
この忙しい事態の中で発表されたのは、世界共通の単位。
それはあまりにも魅力的な提案であり、画期的な発案だった。
長さや重さに関する単位の煩わしさは彼も感じており、どうにか統一できない物かと考えたこともあった。

世界最大の企業がその提案をするという事は、遅かれ早かれ他の企業もそれに追従することになる。
しかもそれが浸透するためにラジオを無償配布するという方法も大企業だからこそ実現できるもので、利益を度外視した物だった。
ラジオは新聞よりも早く、そして識字について考えなくて済む情報媒体。
声と電波さえあればどこまでもほぼ同じタイミングで同じ情報を流せるだけでなく、会話まですることのできる太古の技術。

ラジオによって発せられる広告は新聞やチラシよりも明確に人々に伝わり、そして伝播する。
巨大な広告市場を自ら開拓し、大きな損をして大きな得を取る戦術に出たのは大胆な発想だが、効果的だ。
オアシズにもラジオは当然あるが、それは客室で客たちが自由に聞くことのできる設備としてあるため、船内中に流してはいない。
地上の喧騒を忘れるために穏やかな曲を流し、客に極上の船旅を楽しんでもらうのがオアシズの方針であり、よほど緊急性の高いニュース以外は放送されなかった。

715名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:33:25 ID:cylVOJUg0
マニーが考えていたのは、この情報を流すかどうかだった。
明日の朝刊には間違いなくこの発表が一面に載るだろう。
だがこれは内藤財団独自の発表であり、客に知らせるのはマニーの責任でも仕事でもない。
これをどうするべきか、マニーは悩んでいた。

一つの問題にだけ頭を悩ませられればいいのだが、今は島の問題と船の問題、そしてこのニュースの問題があった。
世界を大きく変える可能性のあるニュースは、客にとっては有益な情報だ。
だが果たして、この情報は本当に客に伝えるべきなのだろうか。
余計なことに意識を向けてもいいのだろうか。

島で起きている問題を解決するためには、デレシアの力なくしては不可能だろうし、彼女のためならマニーはあらゆる協力を惜しまない。
最優先事項はデレシアとの連携。
そう考えれば、今、余計なことに意識を向けることはやはり愚行としか言えないだろう。
もし彼女の予定が狂い、一時的にティンカーベルからオアシズへ戻ってくるとなれば、それに即応する必要がある。

万が一の話であり、その可能性は極めて低いことをマニーは分かっていた。
彼女は自分の力と知恵で最悪の状況を打破することに長けており、マニーの手を借りずともこの急場を脱することだろう。
ジュスティアが介入したことによって島の状況は刻一刻と悪い方向へと流れている。
だがこれはデレシアの予想の範疇。

彼女はこうなる事を見越して、マニーに連絡を入れていた。
アサピー・ポストマンの保護は予定外だったが、それでも、それはすぐに作戦に組み込まれた。
そして今、事態を変えるための第一段階が終了したとの連絡があり、第二段階への移行が始まった。
オアシズが助力できるのはここからだ。

この島の中で唯一の安全な場所としての役割を果たす。
言わば箱舟。
その役割を果たすためには、今少しやるべきことがある。
それは残念ながらオアシズの人間だけの力では解決できないため、イルトリアの前市長の力を借りることとなっている。

勿論、その橋渡しをしてくれたのはデレシアだ。
彼女のおかげで事態はまとまりつつあり、対応しやすくなってはいるが、マニーには今の状況でも正直厳しい。
だが困難こそが人を成長させる最上の素材。
マニーが今一歩、市長として必要な資質を身につけるためには越えなければならない壁なのだ。

単位統一のニュースは一度棚に上げ、欲張らずに事態終息に助力することに決めた。
今はデレシアの指示を全力で補助する。
それからでもニュースを伝えるのは決して遅くはないだろうし、客同士の間で噂が広がってマニーが手を出す必要がなくなる可能性もある。
書類入れに紙を放り入れ、マニーは己の迷いを恥じ入った。

――ほどなくして、オアシズを目指して疾走してくる一台のバイクが現れたのを、ノリハ一行は船外で目視した。
追手が来ていたとしても迎撃できるよう、彼女達は全員が銃器と共に強化外骨格を装備していた。

ノリパ .゚)「来ました、急ぎ確保……を……」

指示を出すノリハの声が尻すぼみとなり、その目に映る光景を理解しかねていることが周囲に伝わる。
周囲も同じ気持ちだった。
バイクにまたがるのは二人。
一人は強化外骨格に身を包んだ人物。

716名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:35:35 ID:cylVOJUg0
そして、ハンドルを握るのは――

(<:: ´ω::>)

――どう見ても、子供だった。

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              Ammo→Re!!のようです Ammo for Reknit!!編

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戦闘続行よりも戦略的に迅速な撤収を選択したのはイーディン・S・ジョーンズだった。
ジョーンズの判断に従い、奇襲の優位性を完全に失っていたジョーンズの仲間達は皆、どうにか撤収することが出来た。
それはあまりにもみじめな撤収だった。
奇襲と言う有利な立場だったにも関わらず、必殺を誓った奇襲だったにも関わらず、彼らは失敗したのだ。

結果論になるが、彼らの矜持が失われた代わりに彼らは命を失わずに済んだ。
少しでも撤収の合図が遅れていたら、彼らの中に死者が出ていた可能性は極めて高かった。
また、彼らの撤退は嵐という天候にも恵まれ、合図から十分以内に姿をくらますことは難しくはなかった。
そういった意味では、かなりの幸運に恵まれていた。

日は沈み、嵐は次第にその勢力を失い、ティンカーベルには静かな夜が訪れていた。
ただし、主を失った教会に集まる人間の間に漂う空気は刻一刻と険悪なものになっていた。

(’e’)「おいおい、そろそろこの空気をどうにか止めてくれないかな。
   まるで子供同士の喧嘩じゃないか」

湯気の立つコーヒーを飲みつつ、ジョーンズは五度目となるその提案をした。
一度目は一堂に黙殺され、二度目は数人から舌打ち、三度目はほぼ全員から溜息、そして四度目は誰かに机を蹴られた。
人を殺せそうなほどの眼力で彼を睨みつけたのは、ショボン・パドローネだった。

(´・ω・`)「博士、貴方の考えは大いに分かる。
     だが、ここで手を引いてしまえばあのデレシアを仕留めることは不可能になることも理解してもらいたい」

ジョーンズが決定した撤退について、全ての人間が納得しているわけではない。
彼らは自分達が有利な立場にありながらもそれを生かしきれず、あまつさえ、対象に逃げられるという失態を犯していた。
その失態を一分一秒でも取り戻したいと考えるのは、それだけ彼らが真剣に取り組んでいる何よりの証明だ。
全員の真剣さは理解しているつもりだけに、ジョーンズは嘆かわしそうに答えた。

(’e’)「はぁ、そうは言うけど君ねぇ、あれは無理だよ。
    ジョルジュ君。 君からも言ってあげてくれたまえよ。
    デレシアをどうこうするのは、我々だけでは無理だと」

話を振られたジョルジュ・マグナーニは缶ビールを一口飲んでから深い溜息を吐き、つまみのポテトチップスに手を伸ばした。
もぐもぐとポテトチップスを食べ、それをビールで流し込んだジョルジュは小さくげっぷをし、短く答えた。
  _
( ゚∀゚)「あぁ、無理だな」

717名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:36:37 ID:cylVOJUg0
そうしてまたビールで喉を潤す姿には、真剣さはまるで見えない。
だがジョルジュはそう答えるしかなかった。
それが事実なのだ。
嵐に対抗するのが不可能なように、今はまだ、デレシアには対抗しようがない事を彼は良く知っていた。

(´・ω・`)「なぁ同志ジョルジュ。 どうしてあの女の事を知っていたのに黙っていたんだ?
     情報があれば殺せていたかもしれないんだぞ!!」

かつての同僚に、ショボンが憤りを露わにした。
情報を意図的に隠していたジョルジュの行いは、作戦の成功を左右するだけのものだったに違いない。
終わったことに対して文句を言うのはショボンの流儀ではないが、それでも、ジョルジュの行いは許しがたい物だったろう。
今回の作戦指揮を執っていたのは他ならぬショボンだったのだから、無理もない。

彼は作戦を成功させるために緻密な計画を練る性格をしており、些細な情報でも仕入れておきたかった。
例えば、デレシアの行動パターン。
この空間に集う人間で唯一、デレシアの行動を先読みして動いていたのはジョルジュだった。
それが彼一人ではなく、ショボン達全員だったとしたら、デレシアに勝っていたかもしれなかったのだ。

勝てなかったとしても、一矢報いるぐらいは出来たかもしれない。
  _
( ゚∀゚)「だから、話を聞けよ。
    いいか、デレシアを相手にして今生きていることを感謝するんならまだしも、文句を言われる筋合いはねぇよ。
    第一、先読みして全員で動いてみろ。
    これからパーティーをやるって相手に伝えてるようなものだぞ」

デレシアの動きによってショボンの思い描いていた作戦は破綻し、ジュスティアにデレシア達こそが悪の元凶だと思わせる目的は達成できなかった。
それだけではない。
デレシアはショボン達の対処をジュスティアに自然な流れで引き継がせ、自分は早々にその場から姿をくらまし、今もどこかに消えたのだ。
絡ませた糸が元に戻され、挙句、隠れ潜んでいたショボン達の存在が世界最大の正義信奉者に察知されてしまった。

まだ存在を隠し通す術はあるが、手間を考えると大打撃だった。
残ったのは面倒事と自分達の命だけだ。
これならいっそ、デレシアに攻撃を仕掛けるべきではなかったとさえ思える。

(#´・ω・`)「あぁ、糞!!」

从'ー'从「煩いハゲは嫌われるわよぉ」

ソファに寝そべって赤ワインをボトルから直に飲み、ワタナベ・ビルケンシュトックはチーズを几帳面にクラッカーに乗せて口に運ぶ。
教会に保管されていたその赤ワインは二十年近くも寝かされていた貴重な一本だったが、彼女は全くそれを気にする様子もなく、香りを楽しむ風もなかった。
彼女にとってワインの良しあしなど関係なく、アルコールが体に沁み渡るか否かだけが重要なのだ。

从'ー'从「負けは負け、そうでしょ?」

(#´・ω・`)「第一、お前もお前だ、同志ワタナベ!!
      もう少し真面目に任務を果たそうとは思わないのか!!
      同志キュートの推薦が無ければ、今すぐお前を殺しているところだ!!」

从'ー'从「はいはい、次はどうにかするからぁ」

718名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:39:35 ID:cylVOJUg0
これまた貴重なチーズに外皮ごと直接齧り付き、ワタナベはそれを咀嚼した。
再びワインを乱暴に飲み、チーズの欠片を胃袋へと落とした。
ショボンには視線を向けさえしなかった。

川 ゚ -゚)「なぁ、同志ワタナベ」

紅茶を飲んでいたクール・オロラ・レッドウィングは冷ややかな視線をワタナベに向けたまま、氷の刃じみた声で言葉を紡いだ。

川 ゚ -゚)「どうしてあの刑事に固執する?」

ワインで最後のチーズを飲み下し、ワタナベは挑発的な視線をクールに向ける。
口元は嘲笑するような三日月形に歪み、口の端についたワインがまるで血のように輝く。

从'ー'从「あらぁ、何の話かしらぁ?」

( ・∀・)「意図的にチャンスを与え、あまつさえ生き延びるように仕向けた理由を聞かせてもらいたいのですよ、我々は」

カソックに身を包み、愁いを帯びた視線をワタナベに向けるのはマドラス・モララー。
穏やかな声をしてはいるが、彼の心情が穏やかでないのは確かだ。

( ・∀・)「トラギコ・マウンテンライト、あの男に大分御熱心なようで」

机の上で組んだモララーの掌に力がこもっていくが、ワタナベの瞳にも攻撃的な光が宿っていく。

从'ー'从「うふふ、よく分からないわねぇ」

lw´‐ _‐ノv「前に私の邪魔をしたときも、その刑事が絡んでいた」

シュール・ディンケラッカーが口を挟んだ。
細められた目が訴えるのは、数々の愚行が産んだ結果に対する納得のいく言葉だった。
謝罪だけでは足りない。
この場に居合わせる人間でジョーンズ以外が、皆ワタナベの行動に対して不満を募らせていた。

lw´‐ _‐ノv「もういっそ、あの刑事は別の人間が殺した方がいい」

不信感を露わに、シュールは冷淡にそう言い放った。
作戦失敗の影にちらつくワタナベの存在に業を煮やした者の心情を代弁するような言葉。
対して、ワタナベは恐ろしいほど静かで、感情を感じさせない平坦な声で答えた。

从'-'从「……やってみろよ。
     私に喧嘩を売って楽に死ねると思ってるんなら、今すぐここで全員に試してやろうか」

( `ハ´)「それは面白いアル。
     疫病の根源は火炙りにされる、これは決まり事アル」

部屋の壁を背にしたシナー・クラークスは腕を組んだまま、細い目を僅かに開いてワタナベを睨めつける。
オールバックにして後頭部で三つ編みにした黒髪はまるで黒いビロードの様。
ゆったりとした服の下に見える肌には傷が無数に見え隠れし、彼が武器や兵器に頼りきる人間ではない事がうかがい知れる。
生身であろうとも、彼の戦闘力は衰えない。

719名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:42:10 ID:cylVOJUg0
从'ー'从「じゃあ死ねよ」

ワタナベがその言葉を言い終わる前に、ジョーンズを除くその場の全員が動いていた。
最も早かったのは手刀を放つ体制を取ったシナーだった。
次に拳銃を掴んだショボン、そしてシュール、モララーは共に手が拳銃の銃把に伸びている。
ジョルジュは視線を向けつつも、その腕はいつでもスミス&ウェッソンが抜けるように脱力されていた。

唯一、静かに立ち上がったデミタス・エドワードグリーンがいなければ、ワタナベの両手に煌くバリスティック・ナイフがこの部屋を血色に染め上げていた事だろう。
その切っ先はシナーの手刀、そしてショボンを向いていた。

(´・_ゝ・`)「……止めろよ。
      判断はどうあれ、結果として俺達は助かったんだ」

無精髭の伸びた彼の顔は薄暗く影っていたが、落ちくぼんだ眼窩に埋もれた両の目は病的なまでにぎらつき、脂汗の浮かぶ顔には血の気が無かった。
まるで幽鬼の様な彼の左足は、膝から先がなく、代わりに合金製の義足が付いている。
手術を終えたばかりの体は弱り、立っているだけでも相当な負荷がかかっているはずだ。
だが彼はそれを強じんな精神力で補い、力を失わない眼光を周囲に向けていた。

(´・_ゝ・`)「なぁ、ジョーンズ博士。
      俺達が今、この島でデレシアに勝てる確率はあるのか?」

(’e’)「ないね、皆無だと言っていい。 歴代のデレシアと遜色ないと言ってもいいだろうね。
    そうだろう、ジョルジュ君」
  _
( ゚∀゚)「あぁ」

ジョルジュは短く返事をし、ショボンから向けられている強烈な眼光を意に介した様子を一向に見せない。
まるでその視線をそよ風程度にしか思っていないのだろうか。
流石に業を煮やしたショボンは、会話を中断させた。

(#´・ω・`)「博士、貴方も情報を隠すのは止めていただきたい。
      あのデレシアに関して分かっている情報を、まずは我々に共有してください」

面倒くさそうに髪を掻き毟り、ジョーンズはわざとらしく溜息を吐いた。
その視線をジョルジュへと向け、眉を吊り上げて尋ねた。

(’e’)「あー、そうだな。
    どこから話した物かね、ジョルジュ君」
  _
( ゚∀゚)「さてね、説明は俺の専門外だ。
    ほら、博士。
    仕事だぞ」

(’e’)「と、言われてもねぇ。
    僕も不確かな情報は人に話すのは専門外でね、悪いね」

話はこれで終わりとばかりに、ジョーンズは肩をすくめて見せる。
そしてそんなジョーンズの性格を知っているショボンはやり場のない憤りを覚え、拳を握りしめて耐えた。

(#´・ω・`)「……くっそ!!」

720名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:45:03 ID:cylVOJUg0
(´・_ゝ・`)「落ち着けよ、ショボン。
      詳細はさておいて、俺達はデレシアに勝てないのは事実なんだ。
      なら、この島にいつまでもいる理由はない、そうだろう?」

(#´・ω・`)「腹立たしいがその通りだ。
      それで、そんな分かり切った事を訊いてどうするつもりだ?」

(´・_ゝ・`)「俺に考えがある。
      なぁ、手を貸してくれないか?」

誰もが怪我人の妄言、ショック状態の人間が口にする戯言だと思った。
しかし、それからデミタスが語り始めた提案は決してそうではないとすぐに分かった。
それまでの殺伐とした、一触即発の空気が変わり、デミタスの提案を全体がどう受け止めるかを真剣に考える場となった。

(´・ω・`)「それは本気で言っているのかな?」

プロらしく憤りを抑え込んだショボンは、まずはデミタスの正気を確認した。

(´・_ゝ・`)「本気だ。 だがそのためには協力が必要なんだ」

( `ハ´)「その考え自体には反対はないアルが、結果として我々にどう利益が出るのかを考えた方がいいアル」

(’e’)「出てきた結果をどう利益につなげるか、を考えた方がいいね。
    ふぅむ……」

珍しくジョーンズが考え込む様子を見せ、意見を求めるようにジョルジュを見た。
その視線を無視しようとしたが、ジョーンズはそれを許さなかった。

(’e’)「ジョルジュ君。 君の意見はどうかな?」
  _
( ゚∀゚)「何で俺なんだよ。 ジュスティア警察にいたのならショボンも同じだろ。
    それに、そいつの案件に俺は触れたこともねぇよ」

(’e’)「上層部の反応に関しては君の方が詳しいだろう。
    本気にすると思うか?」
  _
( ゚∀゚)「そのままだと難しいだろうな。
    だが、そのための人間がいるだろう。
    そいつ次第だな」

(´・ω・`)「同志ビロードはきっと上手くやってくれるだろうが、下準備が必要だ。
      片足が無いんじゃ、誤魔化しきれないぞ」

ジョーンズは指を一本立てて、嬉々とした表情で話を始めた。

(’e’)「それなら大丈夫。
   ここは棺桶の宝箱みたいなところでね、復元中の一機があるんだ。
   コンセプト・シリーズのCクラスだ」

721名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:47:10 ID:cylVOJUg0
(´・ω・`)「でも、復元中でしょう?
      使えるんですか?」

(’e’)「メインの機能は完全に復元できていないが、まぁ、補助装置としてなら使えるよ。
   先の大戦で大分破損したみたいだが、なぁに、動く程度には修理できる」

コンセプト・シリーズの棺桶は何かしらの目的に特化して設計されているため、その目的を果たすための機能が使えないとなると、通常の棺桶よりも戦闘力は落ちてしまう。
だが補助装置としての機能であれば、それは棺桶の最低限の目的として組み込まれているため使う事は出来る。
長所を失った棺桶。
それは、役に立つよりも文字通りの棺桶と化すことの方が確立としては高い存在だ。

(’e’)「決行するとしたら、いつかな?」

(´・_ゝ・`)「明日の夜だ。
      予告状は今日中に出す」

八月十一日。
その日は後に、脱獄した大怪盗“ザ・サード”がジュスティア警察に向けて予告状を送った日として記録されることになる。
大胆不敵にも警察当てに送られた予告状。
そこで盗むと予告されたのは――

(´・_ゝ・`)「ライダル・ヅーの命は、必ず俺が盗んでみせる」

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Ammo→Re!!のようです Ammo for Reknit!!編
         第七章【housebreaker-怪盗-】

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八月十一日、午後6時37分。
予告状を送り付けられたライダル・ヅーは鼻でそれを笑い飛ばそうとしたが、出来なかった。
その日、彼女を含むジュスティア警察・軍関係者は臨時の作戦室として徴収したエラルテ記念病院に集まり、今後の対策を話し合っていた。
主な議題となっていたのはその日の午後に行われた大規模な戦闘と、犯罪者を全員取り逃がしてしまったことに対する会議だった。

会議はジュスティア人らしく、淡々と進められた。
議論は平行線だった。
厄介だったのは彼らの目的が一致していながらも、その手段が全く別の方向を向いていることにあった。
ヅーの考えでは、まずは相手を見定めることに専念すべきと言う意見があった。

対して、ジュスティアから派遣された円卓十二騎士の二人は首を横に振り、脱獄犯を捕える必要があると一歩も譲らなかった。
声帯を失っているダニー・エクストプラズマンに代わって、ショーン・コネリが理由を述べる。

(´・_・`)「それも重要だが、何より、脱獄犯を然るべき形で処さなければ示しがつかない。
     これが陽動だとしても、これを見逃せばジュスティアに対する信頼は地に落ちる」

瓜//-゚)「今は体裁よりも重んじることがあるはずですが」

722名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:50:01 ID:cylVOJUg0
(´・_・`)「……いいかい、秘書殿。
    オアシズで我々は海軍の優秀な兵隊を多数失っているんだ。
    そしてセカンドロックの脱獄に関わり、この島で暴れまわっている人間がオアシズで暗躍した下郎と同一人物、元ジュスティア警察の人間。
    そんな下種を放っておけと?」

彼の言葉はまるで迷いというものがなく、自信に溢れている。
確かにそれは正論だった。
しかし、正論が常に正しいとは限らない。
時にそれは本当に正しいことを見失わせ、人を盲目にさえしてしまう言葉となる。

瓜//-゚)「予告状はその下種を逃がすための目くらましであるとは考えないのですか」

(´・_・`)「無論、考えているさ。
    だが脱出の手段は極めて限られているし、逃がすつもりもない。
    何より、悪を前に引き下がる道理がない。
    二手に分かれて行動すれば問題はないだろう」

瓜//-゚)「ですから……!」

ヅーが苛立ちを声に表した時、トラギコ・マウンテンライトが口を挟んだ。
その声は冷静沈着であったが、どこか、相手を嗤うような含みがあった。

(=゚д゚)「騎士が二人がかりで仕留められなかった人間がいたらしいが、その辺はどう考えているラギ?」

(´・_・`)「……何?」

(=゚д゚)「ジョルジュ・マグナーニに足止めされてショボン・パドローネを逃がしたのはどこのどいつだって言えば分かるラギか?」

今度はショーンが感情的になる番だった。
机を拳で叩き、大きな音を立ててトラギコに対して威嚇をする。
訓練を積んだ軍人でさえたじろぐその剣幕に対して、ヅーは表情を変えなかったが僅かに身を震わせた。

(´・_・`)「貴様っ!! いい加減にしろよ、たかが刑事の分際で!!」

腹から出された怒声は部屋の窓を震わせるほどの大きさだった。
トラギコはショーンを睨み、その威嚇行為に対する返答とした。

(=゚д゚)「うるせぇ、いちいち怒鳴るなよ。
    天下の騎士殿が翻弄されて体裁が悪いのは分かっているラギ。
    だけどな、認めないといけない事があるラギよ。
    あいつらは、これまでにジュスティアが相手にしたどこの誰よりも厄介ラギ」

(´・_・`)「だからどうした。
    それがどうした。
    ジュスティア人は悪に屈しない、これは常識だ!!」

(=゚д゚)「心意気はいいがな、プライドを捨てるぐらいの事をしたらどうラギ?
    片手間で相手に出来る連中じゃない事は分かっただろ。
    これはお前らも分かってる通りの餌ラギ。
    だけどな、俺達がどっちか片方しか選べないようにしてある餌なんだよ。

723名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:52:25 ID:cylVOJUg0
(=゚д゚)「両方を取ろうとすればやられる。
    選ぶなら片方だ。
    片方を全力で対処しないとどっちも取り逃すラギよ」

彼の意見は決して消極的なものではなく、冷静に状況を判断しての物だった。
デミタス・エドワードグリーンの輝かしい犯罪歴はジュスティア警察を翻弄し続け、その警備体制の不備を明らかにした歴史でもある。
怪盗を名乗るだけあり、彼には秀でた才能があった。
人の死角を盗む才能だ。

(´・_・`)「なら――」

( ><)「――なら、デミタスを逮捕することを優先してもらうんです」

突如として口を挟んできたのはジュスティア警察の報道担当官、ベルベット・オールスター。
ティンカーベルに派遣された警察の一人で、若くして情報統制をおこなうための全権を与えられた男だ。
彼は情報を集約し、そして、それを体よく報じる力が見込まれて対マスコミ用の重要な人間として知られている。
トラギコがこれまでに行ってきた暴力的な捜査が大きく報じられなかった背景には、彼の力が影響していた。

その発言力は大きく、彼よりもキャリアのある警察高官でさえその言葉に従わざるを得ない。
彼は情報を支配する力を持ち、その気になれば人一人の人生を終わらせることなど造作もないのだ。

( ><)「デミタスはマスコミ各社にも予告状を送っているんです。
      優先するのはデミタスの逮捕なんです。
      島での諸々の事件については別の犯人をでっちあげればいいんです」

(´・_・`)「ショボンはどうするつもりだ?」

そんなことは分かっているとばかりに、ベルベットは肩をすくめた。

( ><)「放っておけばいいんです。
      今必要なのは島が平和になった、ということです。
      全ての原因であったデミタスは我々の手で捕まえ、それ以外の人間については射殺したとでもしておけばいいんです」

(;=゚д゚)「そりゃいくらなんでも無茶苦茶ラギ。
    目撃者も山のようにいるんだぞ」

ショーンの怒気を前にしてもたじろがなかったトラギコが、今度ばかりはそうもいかなかった。
ベルベットの言っていることはあまりにも暴論だった。
デミタスを捕まえる代わりにショボン達から目を背けておきながら、体裁上は見事任務を果たしたかのように振る舞う。
対外的には良く見せるだけの、プライド先行型の方法だ。

( ><)「だから、それを納得させるためにもデミタスには踊ってもらうんです。
      あいつが大々的に動けば人の意識はそっちに行くんです。
      後は、そうですね……
      何やら金髪碧眼の不審者がいたらしいですから、その人間を代わりに指名手配すればいいんです」

それがデレシアの事だと分かり、思わず声に出る。

(;=゚д゚)「……何?」

724名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:53:50 ID:cylVOJUg0
( ><)「ジュスティア警察官だった男達はこの事件には一切関係していない、とするんです。
     それとも、関係していたと発表することで何か得られるメリットがあるんですか?」

淡々と述べるベルベットの言う事は正論だった。
だが、それはあくまでもジュスティアが正義として在り続けるための正論であり、実際に事件を解決するという点ではまるで意味がない。
表面上の解決を演じるという彼の言葉の真意がトラギコには分からなかった。
警官であれば事件解決を最優先にするはずだが、この男は別の物を見据えている気がしてならない。

デレシアの素性を知らないで言っているのであれば、ベルベットは一般人を犯人に仕立て上げようとしている。
それはジュスティア的ではない。
正義を信仰しているはずの警官の行いとしては、不自然極まりない。
それともこれがこの男の本性なのか。

(´・_・`)「ないな」

瓜//-゚)「ですが、それはあまりにも乱暴な話ではないでしょうか、ベルベット」

このままでは話が固まると判断し、ヅーがベルベットに意見した。
彼女は常に天秤の目盛りを気にする性格をしており、今回の事があまりにも極端であると判断しての発言だった。

( ><)「正義を遂行するためには幾ばくかの犠牲が必要なんです。
     まさかこの事件が無傷で解決できると思っているんですか?
     これは早急に終わらせてしまわなければならない、非常に重要度の高い事件なんですよ」

(=゚д゚)「見せかけだけの解決に意味があるのかよ」

( ><)「見せかけではありません。
      今すぐに解決しないだけで、後ほど皆さんが解決するだけです。
      言っての通り、まずはデミタスを捕えてください」

(´・_・`)「さっきから捕えろと言っているが、奴は死刑囚だ。
    殺した方が早い」

ショーンの言う通りだ。
死刑の手間と捕獲する手間を省く分、その方が効率的だ。
早急に終わればショボン達の追跡に時間を費やせる。

( ><)「ただ殺しても宣伝効果が薄いんです。
      捕えて晒して、それからです」

(=゚д゚)「出来れば、の話で聞いておくラギ」

( ><)「それでは困るんです。
      これは命令です。
      それに、トラギコさんには出頭命令が出ていますね。
      部下を用意しているので、早急にジュスティアに行ってください。

      これは、貴方達以外の人間に関係のある話です」

725名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:55:31 ID:cylVOJUg0
冷たい視線をトラギコに向け、これ以上会話にトラギコが参加するのを良しとしない空気を作り出す。
だがそんな空気はトラギコには関係ない。

(=゚д゚)「そんなのこれが終わってからでいいだろ」

( ><)「駄目なんです」

(#=゚д゚)「人手が足りねぇんだろ?」

( ><)「それとこれとは別問題なんです」

指を鳴らすと、扉の外に控えていた屈強な三人の男がトラギコをすぐに取り囲んだ。
手錠とテーザー銃を持つ彼らは軍人、もしくは警官のどちらかだろうが、こういった仕事に慣れている様子だった。
抵抗すれば撃たれるとよく分かる。

(#=゚д゚)「……これが上の方針かよ」

( ><)「すぐに連れて行くんです」

( ''づ)「後ろで手を組んで」

三対一では分が悪い。
従う他ない。

(#=゚д゚)「その前に、そこのベルベットに渡すものがあるラギ」

( ''づ)「妙な真似はしないでくださいよ」

(#=゚д゚)「分かってるラギ」

ジャケットの懐に手を入れ、トラギコは中指を立てた手を取り出してみせた。

(#=゚д゚)凸「ほら、これラギ」

( ><)「……連れて行くんです」

そしてトラギコは後ろで手を組み、そこに座る人間達に一瞥向けてから部屋を出て行った。
部屋に静寂が訪れる。
この場を支配する力を持つ人間が誰なのか、全員が分かった。

( ><)「さ、手順の話をするんです。
      天下の大怪盗だった男とどう劇的な対決をするか、考えましょう」

(´・_・`)「対決?」

( ><)「これは絶好の宣伝になります。
      ジュスティアに逆らう人間がどうなるのか、どれだけ努力したとしてもそれを我々の力でねじ伏せる姿を世界中に知らしめるんです」

726名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:57:15 ID:cylVOJUg0
瓜//-゚)「馬鹿なことを。
      エンタテインメントのつもりですか?
      事態がどれだけ厄介なことになっているのか、分かっていないようですね」

( ><)「ヅーさん、例え長官の秘書だとしても、現場の動きに口出しは控えてもらいたいんです。
      僕はジュスティアがどうすればこの状況で信頼を勝ち取る事が出来るか、それを考えているんです。
      貴女に恨みを持つ死刑囚がわざわざやってくるというのですから、これを利用しない手はないんです。
      ラジオでも報じられ始めていることを考えれば、今、世界中で最も注目されている事件とも言えるんです。

      それを劇的に終わらせ、非常事態宣言を解除すればこの事件は誰にとってもいい形で終わらせられるんです」

瓜//-゚)「劇的に終わらせる……
      まさかとは思いますが、わざわざ場所をあつらえるつもりですか、私を餌にして」

拍手。
ベルベットは、ヅーの発言に深く頷きながら拍手を送った。

( ><)「その通り!
      然るべき相手には然るべき場所を!
      報道関係者も呼んで出迎える予定ですので、結末はリアルタイムで世界に届けられるんです」

(´・_・`)「おい、さっきから大分勝手がすぎるぞ。
     本当に事態の深刻さを分かっているのか?」

( ><)「分かってますよ。
      ただ分からないのは、どうしてあなた方は僕の話に対して否定気味なのかと言う事なんです」

(´・_・`)「何?」

( ><)「失敗したのは誰ですか?
      それぞれが独立して動かず、連携していればこんなことにはならなかったのでは?」

辛辣な言葉が並べられ、情報を操る人間にありがちな妄想――情報を操る人間の力は暴力に勝る――に捉われているのだと、ヅーは思わずにはいられなかった。
確かに情報も力だ。
この世の中は力が全てを変える。
力には力を。

情報の力と暴力が正面からぶつかれば勝るのは暴力だ。
ここでヅーがベルベットを殴り、黙らせることで彼の立案した作戦をなかったことに出来る。
最悪の場合、事故を装って二度と口をきけなくさせる事も出来た。

瓜//-゚)「随分と饒舌ですね。
      一応聞かせてもらいますが、どこを舞台にするつもりだというのですか?」

( ><)「それは勿論、この病院を――」

瓜//-゚)「却下です。
      味 方 の 狙 撃 手 に 撃 た れ た く は あ り ま せ ん か ら」

( ><)「……」

727名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 20:58:23 ID:cylVOJUg0
(´・_・`)「それはカラマロス・ロングディスタンスの事を言っているのか?
     彼は確かな家の出だ。
     腕も抜群なことは知っているだろう」

同じ軍人のフォローが入ることは予想していた。
確かに、“鷹の目”の腕はジュスティアで最高だ。
最高の腕があったとしても、ヅーには彼を信頼できない理由があった。

瓜//-゚)「えぇ。 ですが、捕えるはずのトラギコさんが危うく殺されかけたことを忘れたとは言わせませんよ。
      彼の腕を完全に信じることは不可能です。
      どんな人間でもミスはするものです。
      ただ、それがミスの許されない場で、となると話は別問題です」

予定ではトラギコの動きを封じるだけだったのだが、彼の放った銃弾はトラギコに重傷を負わせた。
偶然か、それとも故意だったのかは分からない。
カラマロスは単独行動が許可されており、今どこにいるのかは分かっていない。
そして何より、トラギコは彼を信じていなかった。

エラルテ記念病院でトラギコの代わりに撃たれたカール・クリンプトン殺害の犯人はカラマロスだと、トラギコは断言していた。
その証拠を収める為にマスコミであるアサピー・ポストマンと協力し、その瞬間を撮影させた。
ヅーもその現場を目撃していたため、後は証拠の写真を見れば疑いは確信へと変わり、すぐにでもカラマロスを敵と認識できる。
今、写真を手に入れたアサピーはどこにいるのだろうか。

( ><)「じゃあ他にどの場所があるというんですか?
      この島で奴を万全の状態で待ちかまえられるところなんて……」

瓜//-゚)「あるじゃないですか。
      相手が来る方向が絞られて、尚且つ、犯罪者相手に相応しい場所が」

最初に気付いたのは言葉を発することはないと思われていたエクストだった。
人工声帯を喉に当て、掠れた電子の音に乗せて、答えを口にした。

<_プー゚)フ『ジェイル島だな』

( ><)「ですが、あそこは突破されて……」

瓜//-゚)「だからこそ、ですよ。
      突破されたのは天井部、そして地上の部分ですよね。
      その修復が済み、すでに再開しているのも事実、そうですね」

( ><)「えぇ、そうですが」

瓜//-゚)「地下にまで侵入はされていない、という情報も合っていますか?」

ベルベットの口が噤まれたままの状態で固まった。
ジェイル島にあるセカンドロック刑務所は地上にばかり注目されているが、地下にも多くの独房や特殊な房がある。
一切の光を遮断する独房はそこに収容された人間が発狂し、そして死に至る場所として知られている。
その悪評を聞いたジュスティア市民たちの中から非人道的であるとの声が上がり、その地下独房は封鎖され、セメントによって塗り潰された。

728名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:01:03 ID:cylVOJUg0
あくまでもそれは表向きの話であることぐらい、ヅーは知っていた。
その計画に携わったのだから、知っていて当然だ。

瓜//-゚)「無言は肯定と捉えます。
     さて、私はセカンドロック刑務所の地下監獄でならこの挑戦を受けます」

( ><)「……それにはリスクが多すぎるんです。
      オアシズも選択肢の中に入れるべきでは?
      あそこなら侵入も困難だし、何より――」

瓜//-゚)「何より、大迷惑をかけるだけでなく事件解決後のオアシズに面倒事を持ち込んでジュスティアとの問題に発展させたいと?
     それでも報道担当官ですか?
     見せかけることは得意かもしれませんが、中身がありませんね。
     オアシズは世界を旅する巨大な街。

     ただの客船ではないのですよ」

報道担当者として、ベルベットは確かに若輩ながら能力のある人間だ。
だが人間性としてはまだ幼さが残り、ヅーのように感情を完全にコントロールすることはまだ出来ない。
ヅーの言葉にベルベットは拳を握り固め、精いっぱいの笑みを浮かべた。

( ><)「これは申し訳ありません。
      まだ若輩故の過ちとしてご容赦を」

瓜//-゚)「いつまで若輩気取りなのかは知りませんが、話が分かったのならばすぐに動きます。
      ジェイル島に行き、準備をします。
      くれぐれもこの件は報道しないように。
      マスコミに邪魔をされたくないので。

      例え好意にしているマスコミ関係者だとしても、私はそれを発見次第射殺します」

( ><)「しかしそれではデミタスに居場所を伝えられないんです」

瓜//-゚)「要は、失敗させればいいのでしょう?
      ならマスコミたちには真逆の方向を伝えてください。
      そこに別働隊を用意して、やって来たデミタスを捕縛すれば終わりです。
      結果は変わらず、そして何よりこちらが失敗するリスクが低くて済みます」

( ><)「対決はしないと?」

瓜//-゚)「誰に見せる必要があるのですか?
      いちいち犯罪者の言葉に合わせて動いてやる必要はありません」

彼女の言葉は正論であり、反論する余地もなかった。
ただ、ジュスティア的ではないという一点を除けば。
正義の都として知られるジュスティアの人間が相手を騙すような真似をするのは、半ばタブー視されている事だった。
特に決闘や公の目がある場となると、その傾向はより強くなる。

( ><)「そう仰るのならば、その通りにするんです。
      警備は何人ほどお付けいたしましょうか?」

729名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:02:39 ID:cylVOJUg0
瓜//-゚)「円卓十二騎士の二人がいれば十分です。
      貴方が気にするのは二人の棺桶を充電することです」

( ><)「警官や兵士を随伴させないのですか?」

瓜//-゚)「えぇ、当たり前です。
      万が一デミタスが潜り込んでくるとしたら得意の変装を使うでしょう。
      ですので、その人数が増えるリスクを減らして尚且つ信頼に足る二人を選ぶのは当然です」

音もなくヅーは立ち上がり、ベルベットを見下ろした。
氷のように冷たい目線に、ベルベットの体が僅かに震える。

瓜//-゚)「大好きな宣伝はお任せしますが、くれぐれも、足を引っ張らないように」

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         八:::::::::::::iく斧;::::/⌒ ー   ´   V:::/: }! r‐く::::′August 11th PM9:09
          ハ:::::::::::;ゝ /::イ           V::::::: .'  \___
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陽が水平線の向こうに沈み、幸運の印とされる緑色の光を僅かに放った直後、紫色の夜が訪れる。
燃えるような水平線が徐々に群青に飲み込まれ、そして、消えた。
星が夜空に姿を現す頃には、巨大な月が世界をおぼろげな光で照らしている。
月光に照らされた世界最大の豪華客船にして世界最大の船上都市オアシズの巨体は、まるで巨大な雪山のように海上に浮かんでいた。

オアシズに潜伏していた五人の同盟者たちは、暗号を用いて密かに集まり、船の外で起きている事態について話し合いを行っていた。
怪しまれないよう、人の集まるショッピングモールの中に設けられた喫茶店を利用し、ビジネスマンを装うためにスーツを着てメモを取りながら話を進めた。
五人の中でもベテランのオーベン・ユーリカは溜息を吐くように、自然に話題を振った。

( 0"ゞ0)「内藤財団の発表についてだが――」

そう言いつつ、紙上に走らせる文字はこれから先の計画についての意見を求める内容だった。
彼らはオアシズの厄日の際、船に乗り込んだ賊の生き残りで、当初の予定通りにこの船に撒かれた種子の一部。
本来はオアシズの厄日後、船の動きを監視するための役割を持っていたのだが、ここに来てそれが変更となった。
彼らに与えられた新たな使命は、島で孤立してしまった同志達を招き入れるための下準備を整えることだった。

ここから先、どのようにしてこの船に同志達を迎え入れるのかを考えなければならなかった。
幸いなことに、ジュスティアの注目は別の人間が一身に受けることとなり、後は船内の警備体制の穴を見つけ出すだけでよかったのだが、それが問題だった。
島で起きている事件に巻き込まれないよう、船から島に降りることも、島から船に乗り入ることも容易ではなくなっている。
そのため、彼らはいくつもアイディアを募って明日の夜に警備の目を別の場所に向けさせる必要があった。

730名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:04:45 ID:cylVOJUg0
口と手が別の事を形にするのは少しの訓練で可能になる。
男達は皆、内藤財団がその日の昼に発表した単位統一に関する話をしつつ、いくつもの案を紙の上に書きだしていた。
最も有効そうだったのは火災騒ぎを起こし、その隙に海から同志達を招き入れる作戦だった。
後はどのようにしてそれを実行するかが問題だった。

オアシズはブロックごとに分厚い隔壁を持ち、火災が起きてもそのブロックを遮断することで火災の被害を最小限に抑えることが出来る。
それに、どうやって火災に気付かせるかも問題の一つだ。
小さな火事を起こしても気付かれなければ陽動にはならない。
民間人が多く集まる場所を利用し、そこで火を起こせばどうだろうか。

火が燃え広がり、人々が恐怖する場所。
ショッピングモールにある小型の移動用車輌のバッテリーに細工すれば、発火させることは可能だ。
炎に対して過剰反応を示しやすい女子供であれば、煙だけでも簡単にパニックになる。
細工をするのは簡単だ。

利用者を装って車輌を手に入れ、細工し、戻すだけ。
そうすればショッピングモールはパニックになり、船に散った警備担当者達はそれを鎮静化させるために一か所に集中するだろう。
後は、手薄となった海中から船内へと同志を引き揚げ、客室に匿えば万事解決。
男達は皆満足そうに頷き、用紙を丸めて灰皿の上に置き、ライターで燃やした。

消炭と化した紙を煙草で押し潰し、証拠を抹消する。
頼んでいた飲み物を飲み、別の話をして周囲に同化する。
会話を終えた一行は、最後の確認をするために店を出てショッピングモールに向かうことにした。
表向きは買い物をするためだが、当然、本当の目的は下見である。

会計を済ませて店を後にし、極めて自然にブロックの移動を行う。
モールに到着するまでは五分とかからなかった。

从´_ゝ从「あれ?」

最初に異変に気付いたのは、ポプリ・パマーゾだった。
自分を含めて五人いたはずのメンバーが、四人に減っていたのだ。
いなくなっていたのはオーベンだった。
彼はリーダー格としての人格が出来ている人間であるため、無断でどこかに消えることはない。

となると、仕方のない理由で離れてしまったのだろう。
問題はなそうだと判断し、四人は駐車されている車輌を探した。
買い物に利用している人間が多くおり、放置しているのか、それとも駐車しているだけなのか判断するのは難しい。
そこで四人は貸し出しを行っている場所に行くことになり、再び三分ほどかけて移動をした。

そして、そこでまたしても一人減っていることにポプリが気付いた。

从´_ゝ从「ベッシは?」

ベッシ・カローラは大食漢で温厚な性格をしており、自分勝手な行動をすることが時折あった。
それでもその戦闘力は抜群で、格闘戦はこの五人の中でも最高の腕を持つ。

(-゚ぺ-)「トイレじゃないか?
     さっきコーヒーをしこたま飲んでたからな」

731名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:07:03 ID:cylVOJUg0
陽気な性格のペリー・ボランが肩をすくめてそう言った。
確かに、彼は先ほどの喫茶店でコーヒーを五杯は飲んでいた。
誰も彼を見ていないのかと、もう一人のベネッセ・スィンケンにも目を向けた。

(,,゚,_ア゚)「俺も見てねぇから、多分トイレだろうな」

从´_ゝ从「そうか」

合流場所さえ分かっていれば問題はない。
三人で一台に乗り込み、ポプリがハンドルを握る。
発車させて間もなく、タイヤがパンクしている嫌な音が聞こえてきた。

从´_ゝ从「あぁ、くそ」

車を路肩に停めて、タイヤを見る。
釘でも踏んだのか、空気が抜けて後輪が無残にも潰れていた。
車を変えてもらわなければならないと判断し、車内にいる二人に声をかけようとした。

从;´_ゝ从「え?」

車内には誰もいなかった。
驚きの声を上げた彼は、すぐに周囲を見渡した。
だがどこにもいない。
ほんの数秒目を離した間に音もなく消えた仲間。

ようやく事態の異常さに気付き、ポプリは焦りを覚えた。
それが彼の最後の感情だった。
首に走った激痛が彼の最後の感触だった。
後は、視界が黒に染まって意識が消えるだけ。

――五つの黒いごみ袋を積んだ大きなカートを押し歩く清掃員姿の女性がその場を去ったが、当然、誰かの記憶に残っているはずもなかった。

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          . イィ:/:.//:::::::::ヽ}:::ノ/:::::: :∨ .))        August 12th PM08:30
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日付が変わり、嵐から抜け出たティンカーベルはどこまでも突き抜けるような晴天に恵まれ、昨日起こった戦闘行動はあまり噂されていなかった。
それよりも噂されているのが、ラジオで放送された内藤財団による大規模な革命の宣言だった。
宣言はただちに実行に移された。
予め契約を結んでいた家電製品の小売店の店主たちはラジオを街中に配置し、新聞社は号外を配って回った。

これらの費用は全て内藤財団が負担する為、客の限られている地域でも在庫が瞬く間に消えて行った。
そして島にラジオが溢れ、情報が満ちた。
世界情勢が流れ込み、今夜予定されているジュスティアと大怪盗との対決に島中が注目していた。
隣接するジュスティアが対決を受け、正面から戦うのだと返答の声明を発表したのは午前九時。

732名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:07:57 ID:cylVOJUg0
それから異例のピッチで進められたエラルテ記念病院を取り囲む厳戒態勢は、ジュスティアが普段訓練を怠らずに行っている証となった。
予告されたのは夜九時だったが、準備が終わったのは午前十一時の事。
完全武装の警官、軍人が付近の道路を全て封鎖し、建物の屋上も制圧した。
実包の装填されたライフルを携える軍人の姿に市民は怯えを見せたが、同時に、興奮もした。

自分達に仇なす災厄と正義の味方が対決するのだ。
見届けたくもなろう。
彼らはジュスティア人。
正義を武器にあらゆる巨悪と対決してきた、世界の天秤たらんとする存在なのだ。

すっかり日も暮れ、夜空の月が昨夜同様の輝きを放つ夜八時半ともなると、空気はより一層重みを増した。
その重々しい空気はラジオを通じて、世界中の人間の耳に届けられた。

【占|○】『こちらぁ、極道ラジオFM893ですぅ。
     皆さぁん、先日脱獄したあの大怪盗ザ・サードがジュスティアに予告状を送ったのは知っていますよねぇ。
     予告されている時間は十時ですのでぇ、まだ余裕がありますけどぉ。
     本日はぁ、放送内容を少し変えてその様子を放送しちゃいますぅ――』

世界的な人気を誇るラジオ番組では現地にいる協力者を使い、現地の様子をリアルタイムで放送していた。
島にいた各新聞社の記者たちはこれを一世一代の出世のチャンスと考え、埃を被っていた機材を持ち出して現場へと急いだ。
ある者は質に入れていたカメラを買戻し、またある者は借金をして高性能なカメラを購入した。
狙うのは世紀の大怪盗が現れる瞬間と、決着がつくその時。

封鎖されているだけに、その写真が持つ価値はかなり貴重な物だ。
撮影できるのは一握りの人間。
現れるのは義賊として一部の市民から絶大な支持を得ていたデミタス・エドワードグリーン。

(-゚ぺ-)「しかし、すごいな、この警備は」

川_ゝ川「あぁ、この島でこんな警備態勢、見たことねぇ」

カメラを手にエラルテ記念病院を囲むマスコミ関係者の間からは、異口同音にその警備の厳重さを述べた。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕

近距離戦闘を想定しているのか、短機関銃MP45を装備したジョン・ドゥが敷地から離れた場所に立ち、その後ろに同じくM4カービンライフルを構えるジョン・ドゥがいた。
更に、敷地内には追加装甲で全身を灰色にし、ミニガンをいつでも撃てるように待機するジョン・ドゥがいた。
恐らくは屋内にも同様に棺桶持ち――強化外骨格を使用する人間の俗称――が待機していることだろう。
軍人と警察の連携作戦はジュスティアの犯罪史でもかなり珍しいものだが、ここまでの警備体制は前代未聞かも知れない。

サーチライトが夜空を照らし、緊急車両があらゆる路地を封鎖した。
病院を中心に一マイル圏内は全てジュスティアの監視下に置かれた。
こうしてカメラを持つ彼らの周囲は現職の警官、もしくは軍人によって囲まれているため、不審な動きは一切できない。
厳重な警備の中に集まるマスコミ関係者の姿は、大物の取材会見さながらの様子だった。

これまでにデミタスが盗んできた多くの芸術品は、どれも高価な物でそのほとんどが闇市場に流れ、二度と日の目を見ることはなくなってしまった。
今回彼が出した予告状に書かれていたのは、これまでに彼が一度も予告をしなかった
彼は泥棒であり、暗殺者ではないのだ。
何もかもが異例の中、予告された時間が刻一刻と迫っている。

733名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:08:39 ID:cylVOJUg0
――予告まで残り、三十分。

腕時計から目を離したライダル・ヅーは静かに息を吐いた。
彼女は今、ジェイル島のセカンドロック刑務所の地下でその時が来るのを待っていた。
島にいるのは僅かに三人。
ヅーと円卓十二騎士の二人――ショーン・コネリとダニー・エクストプラズマン――だけのはずだった。

それ以外の警備員も一切認めず、彼女は頑なにこの三人以外の人間が島に入る事を拒んだ。
理由はいくつかあるが、最大の理由は変装の達人であるショボン・パドローネが入り込む機会を与えることを防ぐことだった。
デミタスとショボンが協力関係にある以上、どちらかがヅーの命を狙ってきても不思議ではない。
ショボンがデミタスの姿に変装してヅーを殺せば、それで予告は果たしたことになるのだ。

そして次に、内部の裏切り者が特定できていないことによる予防策だ。
元警察官が二人も敵にいるのであれば、現役の人間が裏切っている可能性は十分に考えられる。
それは現場の警官かもしれないし、高官かもしれない。
敵の正体が分からない以上、全てを疑ってかかるべきだとヅーは考えた。

結果、円卓十二騎士の二名を残し、他の人間は全てエラルテ記念病院に配置することとなった。
入院患者には悪いが、少しの間は我慢をしてもらわなければならない。
嵐の日に対峙した強力な敵。
トラギコ・マウンテンライトの言葉を信じるならば、その強大さは今のジュスティアでは対処しきれない。

潤沢な資金と豊富な人材を持つ秘密結社。
相手にとって不足はない。
ジュスティア人が望んでやまない巨悪だ。
昔は、そう思っていた。

この島に来てから、ヅーの考えは少しずつ変わり始めていた。
これまでに信仰してきた正義の在り方と、その実現を阻む者の存在。
決してデータだけでは分からない多くの情報を得たヅーは、今一度、ジュスティアに戻り次第秘密裏の調査が必要だと考えた。
また、ヅーは万が一に備えての保険もこの行動にかけていた。

もしもデミタスがこの場に現れたら、裏切り者はあのメンバーの中にいたことになる。
円卓十二騎士の二人、ベルベット・オールスター、そしてトラギコ。
四人の内二人を手元に置いたのは、その戦闘力の高さと忠誠心の高さを知っているからだ。
彼らがジュスティアを裏切るとは考えにくい。

裏切るとしたら、ベルベットだ。
若くて野心的な彼ならば、ジュスティアを欺いていたとしても不思議ではない。
時計を確認し、長針がじわじわと予定の時間を示そうとしているのを見た。
落ち着きが徐々になくなっていく感覚を精神力で抑え込み、ヅーは背負った棺桶の重みを確かめるようにして、それを背負いなおした。

イージー・ライダーの改修は済み、屋内での戦闘に必要な改造が済ませてある。
肉弾戦を早々に諦め、ドラムマガジンを装着したAA12ショットガンが二挺、コンテナ内に収納されていた。
近接戦闘は騎士たちに任せ、ヅーは中距離から散弾を撃ち続けることで接近を防ぐ。
他にもこの空間に多くの仕込みをしており、例え何かしらの方法で侵入されても対処できるようになっていた。

734名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:09:56 ID:cylVOJUg0
だから怯える必要はない。
命を狙われることは初めてではない。
何度も狙われ、何度も襲われた。
その度に撃退し、その度に生き延びた。

悪に屈しない心がヅーの恐怖心を麻痺させ、今日まで命の危険を感じたことはなかった。
感じていたとしても、それを自覚することはなかった。
だが今、ヅーは初めて己の気持ちだけで悪と向き合うことになっていた。
悪を自らの価値観で判断し、己の力で敵対する。

それは秘書という肩書を得た彼女にとって、全く経験のない事だった。
与えられた仕事をこなし、与えられた命令の通りに果たす。
それだけの人生のはずだった。
生まれてからこれまで、ずっとそうだった。

英才教育を施され、警察官僚になるための勉強をし続けた。
友人はいなかった。
いたのは、ライバルだけだった。
そのライバルですら、ヅーにとっては己を高めるための燃料程度にしか見ていなかった。

歴代最優秀の秘書として採用された時、彼女が感じたのは無だった。
こうなるために生きてきたのであり、こうなることは当然の結果だったからだ。
レールの上を歩き続け、そのままジュスティアの街を統治する重役へとなり上がる。
そう、思っていた。

レールに石を置いたのはトラギコだった。
彼は常にヅーの進路を妨害し続け、常に惑わせてきた。
その生き方はやがて、ヅーの中に小さな憧れとなった。
自ら定めた方針に従って生きるその自由さは、彼女にはないものだった。

CAL21号事件の判決が下った際の彼の声は、今も耳に残って離れない。
あれを慟哭と言うのだろう。
人間が腹の底から吐き出す激怒の声だったのだろう。
その姿を見た時、声を聞いた時、ヅーは羨望を覚えた。

彼は自分で生きている。
彼はレールを破壊して生きている。
その自由奔放なまでの生き方に、正義を通している。
正に、生きた獣の正義。

トラギコはジュスティア警察の在り方について文句を言いはするが、警官であり続けているのは、正義を貫きたいからに他ならない。
己の手で事件を解決したいからこそ昇進のチャンスを全て意図的に蹴り落とし、今の階級に甘んじている事をヅーは良く知っている。
最前線で事件と戦い続けるトラギコの姿は、かつて一瞬だけヅーが憧れた正義の味方によく似ていた。
唯一の違いは、ヅーの知る正義の味方には大勢の仲間がいる事だが、トラギコの仲間は極めて少ない点だ。

腕時計から聞こえてくる秒針の音に、ヅーは意識を現実に向けなおした。

瓜//-゚)「……センサーに反応は?」

(´・_・`)「ない。 小動物の反応すらない」

735名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:11:43 ID:cylVOJUg0
セカンドロック刑務所は今や、鉄壁の要塞と化していた。
全ての出入り口、通気口や下水の入り口にモーションセンサー、熱感知機、果ては音響感知機を設置し、何か異変があればすぐに反応するようになっている。
ボタン一つで異変のあった区画に毒ガスを流し込み、そこを死の空間に変えることも可能だ。
そのスイッチを握るのはヅーだけ。

デミタスを逮捕するなど、ヅーの頭にはなかった。
ベルベットと本部の意向など知った事ではない。
生け捕りにして得られるメリットなどたかが知れているし、この程度でジュスティアの信頼が回復するとはとても思えない。
すでにいくつもの醜態をさらしている以上、たった一人の犯罪者を劇的に捕えたところで意味などないのだ。

――予告まで残り、七分。

夜空に浮かぶ月を背に、黒い影がティンカーベル上空に現れたのは、予告された時間の七分前だった。
それに気付いたのは、エラルテ記念病院の近くにあるアパートの屋上に陣取っていた報道陣だった。
彼らの持つカメラのフラッシュが花火のように眩い光を放ち、歓声が夜の静寂を引き裂いた。
ラジオで流れるレポーターの声は興奮し、周囲の熱気を電波に乗せて世界中に届けた。

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【占|○】『現れました!! ザ・サードです!!
     世界最高の大怪盗が、今!! 月夜を背に現れました!!』

デミタス出現の報告は島に散った全てのジュスティア人の持つ無線機に届き、銃を持つ人間の視線を一斉に空へと向けさせた。
浮かぶ黒影。
それは優雅ささえ感じさせるほどの速力で、夜空を飛行していた。
まるで眼下に並ぶ大勢の人間をじらすようにして、円を描いて空を舞う。

軍人も警官も、皆構えた銃の銃爪に指をかけはするものの、そこに力を込めはしなかった。
彼らは命令を待っていた。
デミタスから攻撃を仕掛けられ、それに対する反撃の許可を待っている。
それまでは例え警告だとしても発砲は許可されていない。

抗戦許可なくしては、誰も攻撃できない。
その異様な光景は様々な構図で撮影され、銃腔の先に浮かぶデミタスがあたかも神聖な存在であるかのように思わせた。
警官の中には、デミタスのせいで降格させられた者や自殺に追い込まれた同僚を持つ者がいた。
脱獄犯を前にして何もできないことに、その全員が歯噛みしていた。

736名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:13:32 ID:cylVOJUg0
誰でもいい。
誰でもいいから、交戦規定を破ってあの男を撃ち落してほしい。
第一射さえあれば、後は続くだけでいい。
規律を破る人間が出現することを、警官たちは望んでいた。

だがこの時、誰一人として規律に背いた行動をすることはなかった。
彼らはジュスティア人。
世界で最も規律を重んじることを誇りとする街の人間なのだ。
そのような破天荒な人間は、この場には居合わせていない。

――予告まで残り、三分。

デミタス出現の情報は、地下で待機するジュスティア人たちにも届いていた。
誰一人、そのことに安堵する者はいなかった。
むしろ、全員が棺桶をいつでも起動できる状態になっていた。
否。

一人はすでに起動コードの入力を行っていた。

瓜//-゚)『自由を求めるのだろうが、そんなものはどこにもない』

その起動コードは正に、彼女の生き方そのものだった。
彼女に自由は無く、あったのは定められた道だけ。
その道に沿って生きてきた彼女にとって、これは道を外れた初めての一歩。
意志に従い、この世界へとようやく踏み出すための一言。

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(::[ Y])

――予告まで残り、二分。

感情を持たない機械はセカンドロック刑務所に現れた来訪者に対して、何一つ疑問を抱くことはなかった。
機械の感覚では感知できない存在は、いないのと同じなのだ。
開かれた扉はダミーの電気信号を受け入れ、開いていない状態にあると錯覚をした。
モーションセンサーはその足取りを無視するように命令され、熱探知機、音響感知器も同様に来訪者を無条件で受け入れた。

その跫音は、地下にいる三人のジュスティア人に届くことはなかった。
巨大な影が今、殺意を胸に地下を目指して移動を開始していた。

737名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:15:31 ID:cylVOJUg0
――予告まで残り、一分。

遂に、頭上の影が病院を目指して降下を始めた。
稲妻のようにフラッシュが焚かれ、急降下してくる影を、その顔を写真に収めようとする。
ジュスティア海軍に所属する狙撃手達は、そのフラッシュが照らし出した影を高倍率の光学照準器で目視し、驚愕した。
真相を目撃した人間が一斉に無線機に向け、報告をする。

『あれはデミタスじゃない!!
あれは人形だ!!』

――予告まで残り、0秒。

(_::゚゚[_|_]゚゚)

何の前触れもなく開いた扉の向こうから現れたのは、身の丈六フィートほどの棺桶だった。
墨色の装甲には傷が多数刻まれ、陥没している個所もあった。
朽ち果てた銅像を思わせるその姿、大きさは、間違いなくCクラスの棺桶。
だが青く光るその四つのカメラは少しの曇りもなく、間違いなくヅーを睨みつけていた。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『盗みに来たぞ、その命』

(::[ Y])『そうですか、さようなら』

ヅーは問答の途中でショットガンの銃爪を引いた。
散弾程度では目くらましにすらならないことは百も承知だった。
必要だったのは、時間を稼ぐことだった。
二人の騎士が棺桶を身に着けるまでに必要な時間は十秒弱。

それだけ稼げれば、こちらの勝ちだ。

(´・_・`)『我らは巌。 我らは礎。 我らは第九の誓いを守護する者也!!』

そして二人が棺桶の装着を始める。
瞬く間にドラムマガジン二つ分の散弾を撃ち尽くしたヅーはショットガンを捨て、素性の分からないデミタスの棺桶から距離を取る。
距離を取り、安全な場所へと逃げると思わせ、その実、ヅーは柱の裏に隠していた重機関銃を取りに動いていたのであった。
対強化外骨格用の徹甲弾が装填された重機関銃であれば、散弾よりかは相手をけん制できる。

Cクラス相手であれば効果は薄いだろうが、カメラを貫通させることぐらいは出来る。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『逃げるか、正義が!』

(::[ Y])『……』

奇妙な話だ。
何故、デミタスは攻撃を仕掛けてこない。
本気でこちらを殺すつもりであれば、それなりの武器を所有してきていて然るべきだ。
それは確信だった。

738名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:17:27 ID:cylVOJUg0
この場所をどのようにしてデミタスが探り得たのか、それは後で考えればいい。
ヅー以外の何者かが情報を流しただけの話だ。
情報の流出が行われたと考えれば、当然、ヅーの装備も分かっているだろう。
ならば、銃器があるはずなのだ。

少なくとも、無手はあり得ない。
三対一で武器なしなど、自殺願望があるにしても理に適っていない。
理に適わないという事は、別の理由がある。
氷上を滑るスケーターの様に素早く柱を楯にしつつ、その裏に隠していたHK121を掴みとり、即座に構えて発砲した。

毎分700発以上という驚異的な発射速度で放たれた徹甲弾は光の尾を引いて、まっすぐにデミタスを目指した。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『そんな弾が効くと思うか!!』

両腕で顔を覆い隠し、デミタスが突進してくる。
すでに装甲が弱っていたのか、銃弾を受けた装甲が歪み、剥離し、穴が開いた。
銃弾が肘関節を貫き、汚れた潤滑油と赤黒い血液が噴出した。
それでも彼の勢いは止まらない。

狙いは特攻か。
それも理に適っていない。
では一体、何が目的なのか。
命を懸けて、何をするつもりなのか。

刹那の時間で彼の言葉に違和感を覚えた時、異変が起きた。

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August 12th PM10:02
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彼、デミタス・エドワードグリーンにとって正義とはもっとも理解しがたい存在だった。
生まれてから何度もその意味について考えてきたが、分からないままだった。
代わりに幼少期に惹かれたのは、正義を名乗る人間を翻弄する義賊の物語だった。
大胆不敵に警察を翻弄し、金の亡者たちから金品を巻き上げ、貧しい人間に配って回る。

生き残るためにパンを盗み、それを同じように飢えている子供に分け与えたのは、間違いなくその物語が影響していた。
デミタスは幼くして両親に捨てられ、一時的に孤児院に入って幸せな日々を過ごしたが、長くは続かなかった。
食事すら満足に出せないほどの経営難だった施設は遂に潰れ、デミタスは施設を出て行かざるを得なかった。
同じような境遇の子供たちと共に生きる道を選ばざるを得なかったが、それは自然な流れだった。

739名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:19:37 ID:cylVOJUg0
飢える者同士、十分な稼ぎを得られない子供であれば、共同体として集まり、助け合わなければ生きられない。
彼の生まれた街では、そういった子供たちをストリートチルドレンと呼び、救済措置は一切行われなかった。
代わりにあったのは、ストリートチルドレンを取締り、街の清浄化を図る事だった。
警察はそのために雇われ、不法労働をする子供たちが次々に捕まり、施設に投獄された。

施設は子供たちを救うための場所ではなく、商品としての選別を行う場所だと、子供たちの間では有名だった。
実際、施設から逃げ出した多くの子供がそこで行われている選別作業を目の当たりにしていた。
女は娼館や金持ちの家に売られ、男は炭鉱やごみ処理施設に送られ、それ以外は慰み者として施設で飼い殺しにされた。
恐れるべきは捕まる事だと、子供たちはストリートチルドレンと化した時から教えられた。

やがて理解したのは、警察は正義の味方ではないという事だった。
正義はきっと、子供たちのところには現れないのだと諦めたのは割と早い段階でのこと。
大人たちの間に正義はあり、子供であるが故に正義の恩恵が受けられないと考えるようになった。
そして、正義の味方は金持ちの味方であることを知ったのは、彼が十歳になった時だった。

いつもと同じ要領でパンを盗み、逃げていた時の事だった。
運悪く鉢合わせた警官に捕まり、デミタスは死ぬほど殴られた。
逮捕こそ見逃されたが、その日、デミタスはゴミ屑のように地面に横たわって体力の回復を待つしかなかった。
夜が明け、下水道に作っていた彼らの家に戻ると、そこには誰もいなかった。

代わりにあったのは、打ち壊された家の残骸だけだった。
後に目撃していた人間から聞いた話では、深夜に警察の一斉捜査が行われ、下水道を住処にしていたストリートチルドレンが大勢施設に連れていかれたとの事だった。
パンを盗みに行っていたデミタスは命拾いをしたのだ。
だが、自分よりも幼い子供たちは逃げることなどできようはずもなく、投獄されてしまった。

彼らに待っている結末を想像しただけで怖気が走ったが、どうすることも出来ない事をよく理解していた。
彼には力がなかった。
何かを変えるための力がなかったのだ。
月日が流れ、デミタスは力をつけるようになった。

ケチな盗みから強盗に仕事を変え、路上強盗や押し込み強盗にも手を出した。
売春の斡旋にも手を染めたが、薬物には手を出さなかった。
女が金を稼ぐ最も簡単な方法は売春で、それは年齢が若ければ若いほど高額になった。
デミタスが行ったのは子供相手に性をぶつけたい変態を見つけ、未払いで逃げられることを防ぐために客の選別を行い、少年たちをボディーガードとして雇う事だった。

取り分は女たちと決めた分だけもらい、後は体を売った彼女達に支払われた。
十歳にも満たない女でも安全に体を売ることが出来る為、彼の商売は右肩上がりとなった。
様々な会社の重役や高官が客として来ることも珍しくなく、それを弱みとして握り、警察に圧力をかけて子供たちに手出しをさせないようにした。
だがまだ足りなかった。

彼は子供たちに売春や危険な仕事などさせず、もっと多くの子供を救いたかった。
そして、決意した。
怪盗となり、盗んだ金品を売り払おうと。
道具を揃え、少しずつ下積みをしていった。

彼は十件目の盗みを終えた時に気付いた。
自分には盗みの才能があると。
盗みは芸術性を重視するようになり、より優雅に、より華麗に盗むことを目指すようになった。
予告状を出し、警察を翻弄し、その無能さを世間に知らしめた。

740名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:21:24 ID:cylVOJUg0
彼なりの復讐は、確かな効果があった。
街の警官たちは以前までのように威張らなくなり、少しずつだがストリートチルドレンの数も減ってきた。
彼は匿名で孤児院を設立し、それまでの劣悪な施設ではなく、その孤児院に子供たちが入るように尽力した。
孤児院を出ていく頃には、子供たちは世の中で生きていくのに必要最低限の学を身に着け、危険ではない仕事に従事することが決まっていた。

次にデミタスは美術品のついでに様々な書類も盗むようになった。
子供たちを金で買い、ペットのように扱う変態を世間に知らしめようとしたのだ。
それが大物たちの怒りを買い、多くの警官が導入された末にデミタスは捕えられることとなった。
事情を説明しても警察はデミタスの話を聞かず、死刑にされても構わないから子供たちを助けてほしいと懇願しても、それは黙殺された。

死刑が確定し、デミタスはセカンドロック刑務所に送られた。
資金を得られなくなった孤児院は潰れ、子供たちは売られ、デミタスは親しい友人からの情報でその末路を独房内で知ることになった。
誰が悪かったのか、それを考えるのは無駄だ。
ただ、変えたかった正義があったのだろう。

こうして、ようやく仇を討てる瞬間に巡り合えて、よく分かる。
デミタスの夢。
それは、悪になる事でも、子供たちを救う事でもなかった。
もっとシンプルな、子供の様な夢。

――正義の味方に、なりたかったのだ。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『死ね!!』

(::[ Y])『?!』

飛び蹴りを重機関銃で防いだが、ヅーの体はまるで放り投げられた人形のように宙を舞い、鉄格子に激突した。
コンテナに入ったまま円卓十二騎士が出てこないことに、ヅーは気付いたことだろう。

(::[ Y])『盗んだのですね、電源を……!!』

流石は聡明な秘書だ。
こちらの仕掛けたトリックに気付いたようだ。
だがもう遅い。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『あぁ、そうだ。
      充電されなければ、棺桶はただのコンテナ。
      充電ケーブルを繋げば充電されるなんて考えをする奴が馬鹿なんだ。
      そんな馬鹿に充電を頼んだ奴は、もっと馬鹿と言うわけだ』

エラルテ記念病院を本部に、ヅー達が集う事は分かっていた。
几帳面なジュスティア人であれば棺桶の充電を行うための部屋を用意すると考え、デミタスは充電を行う部屋の位置を割り出した。
そして、その部屋の電源に細工をして充電ではなく放電をするようにしたのだ。
電力を消耗した状態の棺桶を装着すれば、途中で必ずその力を失うことになる。

円卓十二騎士を二人相手にすることなど、デミタスには出来ない。
無力化するための手段として最も有効な手を使い、それは今、最高のタイミングで形となった。
だが、ヅーは棺桶の充電を誰かに任せることをしなかったため、放電の難を逃れた。
それだけが唯一、デミタスの用意した下準備での誤算だった。

741名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:23:19 ID:cylVOJUg0
(_::゚゚[_|_]゚゚)『今度こそ、殺す』

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(::[ ◎])『嘗めないでもらいましょうか』

有利なのはどちらでもない。
どちらも戦闘は不慣れな人間だ。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『……』

(::[ ◎])『……』

静かに。
どちらともなく。
次の一手に向けて、動き出した。
デミタスが選んだ一手とヅーの選んだ一手は同じだった。

それは偶然ではない。
ヅーがこの空間に様々な武器を隠していることは知っていた。
腕力や格闘で戦えない彼女は、必ず武器に頼る。
武器の隠し場所さえ分かれば、デミタスは自ら武器を持参せずとも武器を手にすることが出来るのだ。

互いに物陰から武器を手に現れ、銃撃戦が始まった。
デミタスが手にしたのはフランキ・スパス12と呼ばれるオートマチック式のショットガンだった。
対してヅーが手にしたのは、M4カービンライフル。
デミタスはほくそ笑んだ。

互いに装填されているのは対強化外骨格用の弾だろうが、口径が違う。
口径が違えば威力が違う。
勝つのはより口径の大きなこちらだ。
高速で移動しつつ、ヅーはデミタスに正確に弾を当ててきた。

肩の装甲が完全に剥がれ落ち、その下にある筋力補助装置のケーブルが切断された。
ショットガンを使えなくてもいい。
少しの間だけ、相手が可能性を忘れてくれればいいのだ。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『うおおお!!』

742名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:26:17 ID:cylVOJUg0
絶叫。
咆哮。
デミタスは声を上げ、ヅーを目指して駆け出した。
カービンライフルの銃身下に装着されていたグレネードランチャーが火を噴き、榴弾がデミタスの顔を捉えた。

(;´・_ゝ・`)「ぬっおおお!!」

だが止まらない。
ヘルメットが吹き飛び頭を深く傷つけたが、デミタスの頭部は健在。
ライフルの弾が尽き、ヅーがそれを投げ捨てる。
このまま逃げるか、それとも向かってくるか。

もしも逃げられたら、デミタスが追いつくことは不可能だ。
だが、この突撃をヅーが見逃すとは思えなかった。
わざわざ人体最大の急所を晒しているのだから、これを好機と捉えない人間はいない。

(::[ ◎])『しっ!!』

急制動、急転回、そして高周波ナイフを鞘から抜き放つ。
ヅーは覚悟を決め、ここでデミタスを切り伏せることを選んだ。
それでいい。
そう来なければ、ジュスティア人ではない。

勝敗が決するまで、残り数秒。
デミタスは抜き放たれた高周波ナイフの切っ先を凝視し、そして――

(;´ _ゝ `)。゚ ・ ゚

切っ先が、デミタスの肺を捉え――

(::[ ◎])『?!』

――デミタスの両腕が、ヅーの体を掴んだ。

(;´・_ゝ・`)「つ……か……まえ……」

(::[ ◎])『しまっ……!!』

ようやく狙いに気付いたのだろうが、もう遅い。
デミタスは奥歯に隠したスイッチを噛み砕いた。
その瞬間、膨大な量の情報がデミタスの脳裏に甦った。
それはかつて彼が過ごしてきた孤児院の記憶であり、路地裏の記憶であり、怪盗の記憶だった。

幾億もの声が響く中、人生の全てが一枚の写真のように連続する光景にデミタスは圧倒された。
何と美しい光景なのだろう。
何と醜い光景なのだろう。
なんと優しい光景なのだろう。

743名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:28:02 ID:cylVOJUg0
彼が助けたかった子供たちの笑い声が遠くから聞こえる。
懐かしい声だった。
もう二度と聞く事が出来ないと思った笑い声だった。
嗚呼。

(´・_ゝ・`)「……はは」

これでいい。
これがいい。
もう誰も苦しむ姿を見ないで済む。
永遠の平和が、永劫の平穏が待っている。

世界が白く染まる。
声だけが大きく聞こえる。
自分を呼んでいる。
懐かしい、あの声が。

(´・_ゝ・`)「皆、俺は――」

そして、彼の意識は体と共にこの世界から消え去った。

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ヅーはその可能性を考慮しなかったわけではなかった。
だが、理に適わない、という理由だけでその可能性を頭から消し去っていた。
それこそが彼女の最大の過ちだった。
人間は理に適わない生き物なのは、トラギコが生き様で語っていたというのに。

744名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:29:27 ID:cylVOJUg0
時間稼ぎだと思っていた。
場を混乱させ、自らは逃げるのだと思っていた。
デミタスは違った。
彼は、最初から死ぬつもりだったのだ。

死ぬことが狙いの人間を殺そうとしていたのであれば、ヅーはとんだ愚か者だ。
至近距離でさく裂した高性能プラスチック爆弾の閃光が、彼女の視界を白く染め上げた――

瓜; - )

――思えば、自分はいつもそうだった。
大切な物に自分だけでは気付く事が出来ず、誰かの力や存在を経てようやく理解できる。
器用な人間ではないのだ。
器用を振る舞い、不器用に生きていただけ。

誰かの期待に応えるために奮闘し、自分自身に期待することは一度もなかった。
決められたレールの上で物事は動き、その物事を管理する内、見落とすことが増えて行った。
それにさえ気付けなかった。
例えば、自爆の道を選んだこの男もそうだ。

デミタスは孤児たちのために美術品を売り払っていた。
それは事実であり、彼が救った子供たちは多くいる。
その資金供給を断ったのはヅーだった。
それが規則だからだ。

規則に従い、孤児院に流れる金の一切を遮断した。
万が一、その孤児院が違法ビジネスに使われていたら取り返しがつかなくなると考えた警察の判断だった。
彼女はそれに従った。
結果、大勢の子供が路頭に迷い、体を売り、そして肉片と化した者もいた。

心は痛まなかった。
彼女には直接関係ない事だったし、それは、彼女の判断ではなかったからだ。

瓜; - )「ぐ……ぁ」

気が付けば、ヅーは地面に倒れていた。
爆音のせいで鼓膜は両方とも破れ、全身には無数の破片が突き刺さり、両目は硝子によって潰れていた。
痛みは感じなかった。
四肢の感覚は無くなっていた。

赤黒い色以外、何も見えない。
耳鳴り以外、何も聞こえない。
寒さ以外、何も感じない。
今、自分は生きているのだろうか。

分からない。
誰かに教えてもらわなければ、何も分からない。
酸素が足りない。
いくら息をしても、まるで、どこかに穴が開いているかのように抜けていく感じがした。

745名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:30:16 ID:cylVOJUg0
寒い。
痛い。
苦しい。
恐い。

一気に多くの情報がヅーの頭に流れ込み、その苦痛にもがき苦しんだ。
声を出しているのかもわからない中、ヅーは体をよじって痛みに苦しんだ。

瓜; - )「あああ゛あ゛っ!!」

恥も外聞もなく、ヅーは悲鳴を上げながらとにかく痛みから逃げる事だけを考えた。
誰か、助けて。
そう、声に出したかった。
出したい言葉は、彼女の口から出ることはなかった。

意識が遠のく事だけが救いになるのだが、体に突き刺さった金属片がそれを許さない。

(:::::::::::)「……」

何かが、ヅーの頬に優しく触れた。
それは人の手だった。
ごつごつとした、不器用そうな人間の手だった。
誰が触れているのか、ヅーは見たかった。

その手が触れている間、ヅーの痛覚は遮断され、全ての意識が不器用そうな手に注がれた。

(:::::::::::)「……」

誰の手なのか。
姿を見ようとしても、もう、彼女の目が何かを見つめることはない。

(:::::::::::)「……」

声が聞きたい。
声を聞こうにも、もう、彼女の耳は音を捉えられない。

(:::::::::::)「……」

瓜; - )「あ……あ゛……」

伝えたい。

(:::::::::::)「……」

何を?

(:::::::::::)「……」

誰に?

746名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:30:59 ID:cylVOJUg0
(:::::::::::)「……」

どうして?

(:::::::::::)「……」

でも。
もしもこの手が、彼の手だったならば。
それは、とても幸せなのかもしれない。
この地獄のような苦しみの中で差し込む希望。

ジュスティアに向けて連行され、この場にいるはずのないトラギコがいてくれたならば。
彼の手がどんなものなのか、調べておくべきだった。
いや、調べていたらこうして願う事さえ出来ないだろう。
知らない幸せも、世の中にはあるのだ。

なら、この時はせめてその幸せに身を委ねてみよう。

瓜; - )「と……ら……ぎこ……」

声は上手に出せているだろうか。
みっともなくないだろうか。

瓜; - )「わた……し……じょ……うずに……」

手が、ヅーの頭を撫でた。
その意味は、言葉が無くても分かる。
褒められているのだ。
自分は今、褒められているのだ。

こうして奮闘したことを認められた。
認めてもらえたのだ。
結果は悪いが、努力を認めてもらえた。
生まれて初めての経験だった。

瓜; - )「あ゛……あぁ……」

涙があふれ出した。
激痛に際しても流れなかった涙が流れた。
あまりにも嬉しかった。
誰かにこうして認められるのが、たまらなく嬉しかった。

こんな状況にありながら、ヅーは今、幸せを感じていた。

瓜; - )「あ……り……」

感謝の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
黒く染まった視界。
全身から消え去る感覚。
まるで、炎が消えるかのように。

747名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:31:45 ID:cylVOJUg0



誰かの手の温もりも感じられなくなり、そして、ヅーの心臓はその活動を停止した。


瓜 - )


(=゚д゚)「……」


息絶えたヅーの傍を離れたトラギコは、静かに歩き始めた。
無表情のままだったが、強く握られた彼の両手の拳からは血が滴り落ちていた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
               }ヘ      ヽ、_ヽ 、
              }             i
              |           ,  }
                  ',}         /ノ¦
                  '|   ; ',      }勹!
               | i  ; }  ',     i }
                    、 ', i {   ヽ_  /
               ヽ- 、_,-- -/ ̄
Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reknit!!編 第七章【housebreaker-怪盗-】 了
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

748名も無きAAのようです:2017/06/12(月) 21:33:20 ID:cylVOJUg0
これにて第七章は終了です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

749名も無きAAのようです:2017/06/13(火) 10:34:54 ID:hKQGD1oY0
おつ
ヅーもデミタスもこんなにあっさり退場するとは...

750名も無きAAのようです:2017/06/13(火) 11:54:41 ID:MMTDGiVEO
乙。
確立× 確率○ な。

751名も無きAAのようです:2017/06/13(火) 20:08:17 ID:c0tA6uXA0

退場者が増えてくると辛いものがあるな

752名も無きAAのようです:2017/06/13(火) 20:18:35 ID:WqE.04EE0
>>750
ご指摘ありがとうございます

早速修正した最新話は↓で読めますのでぜひ
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753名も無きAAのようです:2017/06/13(火) 20:53:05 ID:juuzTotY0

棺桶に閉じ込められた円卓なんとかさんたち相当気まずいねこれ
何言ってきても「放電」つったら黙るしかないもんね

754名も無きAAのようです:2017/06/13(火) 21:19:10 ID:MzWMtGtg0
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755名も無きAAのようです:2017/06/13(火) 21:21:01 ID:oHvrOAdA0
まじかづー死ぬのかよつらい
ちょっと円卓さんたち無能すぎません?

756名も無きAAのようです:2017/06/13(火) 21:37:25 ID:WqE.04EE0
http://blog-imgs-106.fc2.com/g/u/r/guruguruhaguruma/20170613213200761.jpg
https://www.youtube.com/watch?v=I2nWJixqXF4
今回活躍した(´・_ゝ・`)の棺桶(完全な姿)になります

まぁ爆発四散したのでもう出てこないんですけどね!

757名も無きAAのようです:2017/06/14(水) 01:41:09 ID:Xo3kKizY0
というかこれヅーの棺桶も放電されててコンテナの中から出られなかったらどうしたんだ?デミタスに殺せる装備はあったんだろうか

758名も無きAAのようです:2017/06/14(水) 04:24:58 ID:0/1Sd7kg0
>>757
>>741
武器の隠し場所さえ分かれば、デミタスは自ら武器を持参せずとも武器を手にすることが出来るのだ。

互いに物陰から武器を手に現れ、銃撃戦が始まった。
デミタスが手にしたのはフランキ・スパス12と呼ばれるオートマチック式のショットガンだった。
対してヅーが手にしたのは、M4カービンライフル。
デミタスはほくそ笑んだ。

互いに装填されているのは対強化外骨格用の弾だろうが、口径が違う。
口径が違えば威力が違う。
勝つのはより口径の大きなこちらだ。

759名も無きAAのようです:2017/06/14(水) 18:21:20 ID:wwTbG8hU0
>>757
>>758さんが指摘されている通り、武器があの場には沢山あるということもありますし、
いざとなれば彼女達が仕掛けたガス使う、もしくは海にポイーで終わります。
が、デミタスはヅーの棺桶だけがちゃんと充電されていた事を>>740でもある通り知っていました。
なので行き当たりばったり、ではありませんでした。

ではどうしてデミタスはそれを知っていたのか、については
あちらこちらにヒントが散りばめてありますのでよろしければ探してもらえるとより一層楽しめるかと思います。
第八章でその辺りについては触れますので、今しばしお待ちください

760名も無きAAのようです:2017/06/14(水) 20:34:20 ID:Vd8QBM960
デミタスかっこよかったなぁ

761名も無きAAのようです:2017/06/15(木) 13:11:49 ID:vxL7mKIE0

如何なる方法でトラギコが駆けつけたのかも気になるが
間に合わなかったか…

762セフレ人妻出会い掲示板:2017/06/18(日) 11:08:25 ID:qgpasSk.0
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ワープです!

767名も無きAAのようです:2017/07/15(土) 23:21:16 ID:vGS2cGqg0
デレ以外のキャラはほんと魅力が凄いな
づー生きててほしかった

768名も無きAAのようです:2017/07/16(日) 18:09:23 ID:Ru2bTNxE0
デレが負ける所が歯車のヒート以上に想像できない

769名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 09:27:58 ID:JL/.WovA0
今夜VIPでお会いしましょう!

770名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 10:46:20 ID:SWVkkkDE0
おっ

771名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 20:48:24 ID:s.K.qiF.0
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                 騎士道は 滅することと 見つけたり

                              ――円卓十二騎士誓いの言葉より抜粋

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

八月十一日。
怪盗、デミタス・エドワードグリーンからの挑戦状がジュスティア警察に送り付けられ、現場が大忙しで対応をしている頃。
一人の刑事が、黒塗りのセダンに乗せられてグルーバー島にあるホテルへと連行されていた。
車のガラスは全て防弾のスモークグラスとなっており、誰が乗せられているのか、誰が運転しているのかを外から確認する術はない。

運転手とその横に座る男は二人とも若々しさが残る三十代前半で、スーツを下から押し上げる程の筋肉の鎧は彼らが厳しい訓練、もしくは現場を潜り抜けてきた証だった。
懐の不自然な膨らみはそこに収められた拳銃の存在を物語り、鋭い眼光は場数の多さとその激しさを如実に表している。
時折バックミラーに向けられる視線は、周囲を見渡す時よりも一層鋭さを増した。
その視線の先にいる男は、“虎”と呼ばれる刑事だった。

エラルテ記念病院から連れ出された時、男は激怒して怒鳴り散らしていたが、今は嘘のように静まり返っている。
だがその目はこの状況を受け入れているようには思えない。
隙あらば襲い掛かり、噛み付き、殺そうとする獰猛な獣を彷彿とさせる目をしていた。

(=゚д゚)

人でありながらも獣を思わせる眼力を持つ男の名は、トラギコ・マウンテンライト。
正義の都として知られるジュスティアの人間であり、ベテランの警察官だった。
その性格は凶暴でありながらも抜け目なく、犯人の逮捕率と暴行による始末書の数は現役警官の中で最も多いと言われている。
それ故に警察署内には彼を警官として認めるべきではないとする人間と、犯罪に対する特効薬としての実力を認める人間がいた。

直接ではないが、ミラー越しに視線を向けていた男はハンドルを握る手が震えているのを悟られないよう、視線を前に向けなおした。
自分達に向けられる敵意の塊のような視線に耐えかねての行動だったが、それでも精いっぱいの行動だった。
手錠で動きは封じているはずなのに、何故か、トラギコの敵意は本物のナイフを突きつけているかのような感覚に陥らせる。
緊張のあまり、男達は二人揃って喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

何も恐れる必要はない。
虎は捕えられ、こうして手錠を嵌めて後部座席で静かに座っている。
視線に気づいたのか、それとも空気の微細な変化を感知したのか。
沈黙を守っていたトラギコが地鳴りを思わせる声を発した。

(=゚д゚)「……どこに連れて行く気ラギ?」

答えない。
返答は許可されていないし、この男は少ない手がかりで何かの答えに辿り着く様な厄介者だ。
迂闊に答えて自分達の首を絞めるような真似は回避したい。
明日中にはトラギコをジュスティアに向けて移送するため、明朝にはこのグルーバー島の西に位置するバンブー島に移動しなければならない。

772名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 20:50:40 ID:s.K.qiF.0
それまでの間にトラギコが何もしないとは思えない。
ならば、余計な行動に繋がることは断じて避けなければならなかった。
この男が真実に辿り着くとは思えないが、その真実を可能性の一つに入れて行動したとしたら、かなり手荒な手段を講じなければならなくなる。
計画が大きく変更されることも考えられる。

ここは、沈黙こそが正解だ。

(=゚д゚)「んだよ、無視か」

まずは、トラギコをホテルに連れて行き、そこで薬物などを使った下準備をしなければならない。
早急に計画を実行に移すのが彼らにとって得策なのだが、それは余計な疑念を生む可能性があり、決して焦ってはならないと計画者に念押しされていた。
彼らはトラギコをジュスティアに移送するように命令を受けているが、その実、その命令は実行されることはない。
別命を受けた彼らが実行するのはトラギコの殺害。

事件になる他殺ではなく、納得のいく自殺を偽装しなければならない。
そのためにトラギコの殺害は今日ではなく、一日明けた明日である必要があった。
それに、今夜は騒ぎを起こしてはならない。
今夜と明日の夜に起こる騒ぎはすでに決まっているため、ここで新たものを付け加えるのはそれ以外の予定の変更につながる。

デミタスの予告を阻止するためにジュスティア警察と軍には全力を注いでもらい、それ以外のことについては意識を向けさせてはならない。
最高の舞台を用意し、彼らにはそれだけを見てもらわなければならないのだ。
今夜中には各要所に警官や軍人が配備され、エラルテ記念病院周囲は要塞と化す予定となっている。
それが完了するまでは、少なくともトラギコには何一つ騒ぎを起こさせてはならない。

大人しくホテルに連行され、そして、薬物によって意識と体の自由を奪われるまでは油断禁物。
時間にすれば一時間にも満たない僅かな作業だが、重要度は極めて高かった。
何もかも万事順調に進行して明日になれば、各方面の同志達が一斉に動き始める。
それに合わせて、彼らもトラギコを連れてジュスティアに移動を開始し、その道中でトラギコを殺すことになっていた。

本来は何人たりとも島の行き来は禁じられていたが、彼らの車だけは特例として許可が出されていた。
騒ぎを隠すのならば、騒ぎの中、と言うわけだ。

(=゚д゚)「この方向だと……なるほど、ホテルか。
    大方、どこかのホテルを貸し切ったんだろうな。
    で、朝方に出かけるって感じラギね。
    晩飯と朝飯ぐらい選ばせてくれるんだろうな」

この一言で、プランの変更が決定された。
方向感覚を狂わせるために街中を無意味に走っていたが、それは無意味だったようだ。
短期間の内にトラギコは街の様子を把握しており、彼らが試みた工作は失敗に終わった。
トラギコを明日の移送まで生かしておけば、必ず何か行動を起こす。

その前に殺さなければならない。
ホテルに行く前にトラギコを始末しなければ、必ずや災いをもたらすだろう。

( ''づ)「……」

(-゚ぺ-)「……」

773名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 20:53:10 ID:s.K.qiF.0
二人は互いに目線を合わせ、小さく頷いた。
ホテルに向かっていた進路を変更し、車は山の奥へと向かい始めた。
街の明かりが遠ざかり、街灯すらない山中に停まった時にはすでに日付が変わっていた。
エンジンを切ると、車内の明かりが一斉に消えた。

柔らかな月光が照らし出す車内に、うめき声の様なトラギコの低い声が響いた。

(=゚д゚)「……シナリオは?」

流石は刑事だ。
これから何が起きるのか、自分の身に何が起ころうとしているのかを察している。
だがもう、遅い。
野生の虎ではなく、檻の中に閉じ込めた虎であれば殺すことは容易だ。

(-゚ぺ-)「これまでの失敗と屈辱に耐えかね、自殺。
     そういう流れになっているので、抵抗はお止めください」

男は黒皮の手袋をはめ、ダッシュボードからベレッタM8000を取り出した。
それは間違いなく、トラギコの銃だった。
車に乗せる際にトラギコから没収し、そこに入れておいたものだ。
トラギコ自らに遊底を引かせ、薬室に入っていた弾も、弾倉の弾も取り出させており、その部品の全てに指紋が付いている。

当然、銃から検出されるのはトラギコの指紋だけ。
自殺に見せかけてトラギコを殺すことも、トラギコの仕業に見せかけて誰かを殺すことも可能だ。

(=゚д゚)「そんなこったろうと思ってたラギ。
    お前ら、警官じゃねぇだろ」

妙に余裕のある言葉を聞きつつ、男は弾倉に弾を込めて、それを装填してから遊底を引いた。
狙いをトラギコの脚に定める、銃爪に指をかける。
一発で頭を撃ち抜いて自殺しては、あまりにもリアリティに欠けてしまう。
自殺しようとするトラギコを制止しようと試みたが、取り押さえようとする過程でトラギコが自らの足を撃ち抜き、最後は心臓を撃ち抜いて自殺したとするシナリオが用意されていた。

本来は混沌状態にあるトラギコに施す処置だったが、意識があろうがなかろうが、この状況からの逆転は不可能だ。

( ''づ)「……我々が警官でないと考えた理由を、今後の参考までに聞かせてもらえますか?」

(=゚д゚)「当たり前だろ。
    理由は二つだ」

トラギコはもったいぶるようにして言った。
その言葉が力を持っているかのように、月に雲がかかって車内が薄暗くなる。

(=゚д゚)「一つは、俺をこうして捕まえたこと。
    んでもってもう一つは、 尾 行 車 に 気 付 け て い な い っ て こ と ラ ギ 」

トラギコの言葉を裏付けるように、眩い閃光が車内を照らし出した。
それはカメラの生み出す閃光。
勘のいいマスコミの犬が尾行していたのか。
後続車はいなかったはずだから、先回りされたという事だ。

774名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 20:54:34 ID:s.K.qiF.0
どれだけ疑問や仮定を思い浮かべても答えは出てこない。
逃げられる前にマスコミの人間を排除しなければならない。
車内で拳銃を構える男とトラギコの姿が世に出回れば、このシナリオは破たんする。
助手席の男は舌打ちをしつつ懐からコルトを抜いて遊底を引き、それからドアを開けようとした。

正にその時、起きてはならないことが起きてしまった。

(=゚д゚)「玩具は俺が預かるラギ」

一瞬の内にトラギコの手が後部座席から伸び、コルトを奪い取ったのだ。
彼の左手首には手錠がぶら下がり、右手とは繋がっていなかった。
コルトの銃腔はM8000を持つ男ではなく、ドアに手を伸ばしたままの姿で固まる男に向けられていた。

(-゚ぺ-)「いつの間に手錠を……!!」

トラギコの腕を拘束していたのは錠が無ければ決して開ける事の出来ない物で、その硬度はただの金属製の手錠よりも高い。
力で破壊することは無理だ。
ならば、別の手段で錠をこじ開けたのだろう。
しかし道具を手に入れるタイミングなどなかったはず。

(=゚д゚)「護送する人間に手錠をするんなら、ちゃんと体の前で手錠をかけるのは常識ラギ。
    でねぇと、俺みたいに手癖の悪い人間に逃げられるラギよ」

その言葉で、助手席の男は手錠を抜けるための道具をトラギコがどのように入手したのかに気付いた。

( ''づ)「懐に手を入れた時か!!」

あの時。
ベルベット・オールスターに中指を立てるために懐に手を入れたのは演出で、実際は道具を手中に隠すための演技。
気付いた時にはもう遅く、こうしてトラギコに多くの情報を与えた上に銃を持たせてしまった。
捕えていたと思っていたのは彼らだけで、その実、虎は虎視眈々と機会を窺っていたのだ。

獲物が勝利を確信し、隙を見せるその刹那の瞬間を。

(=゚д゚)「お前ら、俺を知らな過ぎラギ。
    本当に警官だったら、俺の両手両足を拘束してるはずだ。
    雇い主はベルベットだな?」

これ以上はもう生かしておけない。
男は、一の犠牲で済むのであれば今はそうするべきだと独自の判断を下した。
トラギコの言葉に対して銃爪を引いて撃鉄が落ちる小さな音が鳴ったが、銃声は響かなかった。
ベレッタは銃弾を吐き出さぬまま、ただ、沈黙している。

間違った鍵で扉を開こうとしているかのように、何度銃爪を引いても意味はなかった。

(-゚ぺ-)「何っ?!」

思わず間の抜けた声が漏れ出た隙を、虎は決して見逃さない。

(=゚д゚)「馬鹿が」

775名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 20:55:37 ID:s.K.qiF.0
今度は、トラギコの番だった。
罵倒の言葉と同時にコルトの銃爪が引かれ、狭い車内に銃声が響き渡り、まばゆい光が男達の目を覆った。
ドアに手をかけたまま、脳漿の一部を失った男の死体がギアボックスの上に倒れ込んだ。
普通の警官ならば警告の一つもあったのだろうが、この男はトラギコ。

犯罪者に対する警告など、頭の中から欠落した男なのだ。

(=゚д゚)「さぁ、話の続きをするラギ」

硝煙の立ち上る銃腔を男に向け、その手から抵抗する間も与えずM8000を奪い取る。
それは赤子の手から物を奪い取るように素早く、そして恐ろしく自然な動作だった。
発砲が出来ない以上無駄な道具であると誤った判断を下したと気付いた時には、もう手遅れだった。
恐らくはこの銃も、トラギコが何らかの細工を加えたために発砲が出来なかったのだろう。

細工をしたのがトラギコであれば、それを解除し得るのもトラギコ。
この銃は少なくとも、トラギコにとっては価値のある武器なのだ。

(-゚ぺ-)「喋ると思いますか?」

(=゚д゚)「知るかよ、そんなもん」

男の左手がシートの下に伸び、そこに隠されていたナイフに指先が触れる。
ナイフの刃には猛毒が塗ってあり、掠り傷でも十分に人を死に至らしめる事が出来る。
どれだけ鍛え上げた体を持つ大人でも五秒とかからずに心臓を停止させ、安らかな死を与えられる緊急用の武器だ。
今が使い時だ。

(-゚ぺ-)「役割を終えた葉は、ただ散るだけです」

(=゚д゚)「あ?」

男は自らの指先を刃に押し当て、その毒を自らの体内に取り込んだ。
すぐに毒が全身に回り、男の心臓は停止した。
死体と化した男を見下ろし、トラギコは溜息を吐いた。

(=゚д゚)「……糞」

そうぼやきながらも二つの死体を探り、身分証など何かの手がかりになりそうな物を探す。
見つかったのは精巧に偽造された警察手帳、封筒に入った通行許可証と、数枚の金貨だった。
それらの品を懐にしまい込み、M8000の撃針に施していた細工を取り除く。
車を出たトラギコの体を、冷たい風が撫でる。

(=゚д゚)「お前なら絶対に来ると思ってたラギ」

月光の下に浮かぶ人影に向け、トラギコが声をかける。
車の前で全ての成り行きを見守っていた男が、トラギコの言葉にニヤリと笑みを浮かべた。
この男ならば必ずエラルテ記念病院に向かい、そこでトラギコを見つけ出して追いかけてくると信じていた。
何故ならこの男は、優秀なカメラマン。

分かり易いスクープではなく、本物のスクープを追う男なのだ。

776名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 20:56:42 ID:s.K.qiF.0
(-@∀@)「へへっ、ワンショット・ワンチャンスってね」

男の名前はアサピー・ポストマン。
ティンカーベルにいる全ての新聞記者の中で唯一、この事件の真相に近づいている人間である。

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           ‘ミ辷__Ammo for Reknit!!編 第八章【heroes-英雄-】
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                      ニ二ニ   _,.イ
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八月十二日。
トラギコにとってやるべきことは山積みだったが、取り急ぎ解決すべきは、ショボン・パドローネ達の脱出を阻止することだった。
デミタスの予告状は間違いなく陽動であり、それに翻弄される警察官たちは本当の意味で事件を解決することは出来ない。
だが、自由に動くことのできるトラギコだけは別だ。

デミタスはライダル・ヅー達に任せ、自分はショボン達を追う事が出来る。
ただし、警戒しなければならないことがある。
終ぞ白状しなかったが、トラギコを殺そうと動いたのは報道担当官のベルベット・オールスターで間違いなさそうだった。
つまり、警察の中でもかなりの上層部にショボン達の細胞が潜り込んでいることになり、ここでトラギコが迂闊に生きている姿を晒そうものなら別の手段で命を狙われるだろう。

大々的にトラギコを殺すことは出来ないだろうから、事故に見せかけて殺そうとするだろう。
となれば、その働きをしそうな男の動きを封じなければならない。
狙撃手、カラマロス・ロングディスタンス。
実際にトラギコを殺そうとしてきた男であり、トラギコの友人を殺した男でもある。

この男が狙撃をする瞬間をアサピーは写真に収めており、それを使って糾弾するつもりだった。
その予定はしばらく棚上げにしなければならないだろう。
今写真をジュスティアに提供しても、上層部に潜り込んだ人間によってその存在を抹消されるのがオチだ。
致し方ないが、いつもより乱暴な手段に出るしかない。

まずはどこか落ち着いた場所に隠れ、それから策を練る必要がある。
車内から二つの死体を引きずり出し、森の中に捨てた。
トランクから強化外骨格“ブリッツ”の入ったコンテナを取り出し、乱暴に閉める。

(=゚д゚)「街はどうなってるか分かるラギか?」

777名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 20:57:51 ID:s.K.qiF.0
車内から見つけたウェットティッシュをアサピーに投げてよこし、血と脳漿の飛び散った車内の清掃を任せた。
アサピーは流石に眉を顰めたが、トラギコに一睨みには逆らえなかった。
渋々掃除を始め、トラギコの質問に答えた。

(-@∀@)「エラルテ記念病院の周りが慌ただしいぐらいで、他は静かなもんですよ。
      ま、あんなフェイクに引っかかるようじゃマスコミとしちゃ三流ですね」

(=゚д゚)「じゃあお前は二流ってところか」

(;-@∀@)「一流ですよ!!」

(=゚д゚)「自分で言う内は二流なんだよ」

それから二人を乗せたセダンは山奥にあるキャンプ場に向かった。
元々無人のキャンプ場であるため、これと言って道具の貸し出しを行っているわけではない。
あるのは開けた空間だけ。
騒ぎの最中ということもあり、利用客はほとんどいなかった。

駐車場に車を停め、トラギコはシートを倒した。

(=゚д゚)「ジェイル島に行く道ってのは、船だけなんだろ?」

ジェイル島は島そのものを監獄化した孤島だ。
海、もしくは空からの接近以外で島に上陸する手立てはない。
逆を言えば、それ以外の手段で外の世界に逃げ出すことも出来ない。

(-@∀@)「あぁ、まぁ、そうですね」

(=゚д゚)「他にあるのか?」

(-@∀@)「聞いたことがある程度なんですが、昔、磯釣りをしていた人は船を使わずにあの島に行ったらしいですよ」

(=゚д゚)「泳いだんじゃねぇのか?」

(-@∀@)「歩いて行ったらしいです。
      でも、これは島のコラムを作る時に老人ホームの人に聞いたので分からないんですけどね」

アサピーもシートを倒して、寝入ろうとする。
が、トラギコはアサピーの発言を無視することは出来なかった。
思い当たる手段が一つだけある。

(=゚д゚)「……ぼけた老人ってのはな、話を誇張することはあっても手段を言い間違えることはまずねぇんだ。
    それが昔話なら尚更ラギ。
    歩いて行けるんだよ、あの島には」

(-@∀@)「はははっ、ご冗談を!!
      海の上を歩くって言うんですか?」

778名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 20:59:54 ID:s.K.qiF.0
そう。
歩くのだ。
だが正しくは海の上ではなく、海面に出た岩の上を飛び移って行くのである。
そして釣り人が動き始めるのは夜ではなく、朝方。

つまり、朝方になれば移動するための道が開け、夜になる頃にはその道が途絶えるという事。
途絶えたとしても、それは海面に出ていないだけであって、場所さえ分かっていればいつでも使えるはずだ。
問題は、その老人が使った道が今も使えるかという事だ。

(=゚д゚)「あぁ、そうだ。
    そのためには写真がいるラギ。
    おい、朝一で撮りに行くぞ」

(-@∀@)「と言っても、場所知らないですよ、僕」

(#=゚д゚)「探すんだよ、そんぐらい!!
     お前の得意分野だろうが!!」

それから二人は血と硝煙の匂いが残る車内で眠りにつくことにした。
寝心地は最悪だったが、眠らなければならない。
今ジタバタしたところで得られるものは何もないだろう。
ほどなくして、トラギコは眠りについた。

――自然に目が覚めたのは、朝の四時だった。

(=゚д゚)「……」

眠りながらトラギコが考えていたのは、デミタスの侵入経路だった。
この島からジェイル島に行くためにはいくつもの困難がある。
言わずもがな、その立地があらゆる経路の前提条件としてある。
陸から離れた場所にあり、船で行こうとするのであれば岩礁の位置を把握していなければならない。

ゴムボートで行こうものなら、その船底を鋭い岩肌で切り裂かれて沈むことだろう。
仮にその条件を突破しても、そもそも島全体が封鎖されている今、どのようにしてジェイル島に向けて近づくのかを考えなければならない。
単独でこれらの条件をクリアすることは不可能だ。
必ず内通者がいる。

例えば、ベルベット。
彼が協力すれば、ヅーの施したあらゆる措置が白日の下にさらされ、その効果は決して発揮されない。
恐らく、デミタスとヅーの対決は実現してしまうだろう。
それは最早回避できない問題として考えるべきだ。

万が一、助力が必要な事態になった時を考慮し、トラギコも島に侵入するための手段を考えることにした。
デミタスの事で島中が騒ぎ出している今であれば、どうにか出来るかもしれない。
騒動の中で相手の目を盗んで動くことはトラギコも得意だ。
場所が島である以上、海から行くしかないだろうが、用心深いヅーは島の周辺に各種センサーを設置している事だろう。

779名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:01:21 ID:s.K.qiF.0
人の目を騙して島に近づいても、センサーに感知されてしまえば意味がない。
時間が無い中で目立たないようにセンサーを仕掛けるとしたら、必ずや理論的に配置するはずだ。
アサピーの言う釣り場に至る道を使えば、或いは、センサーは仕掛けられていないかもしれない。
紛れもない賭けだが、理屈に対抗するには賭けが一番なのだ。

今の時間帯を利用して道を写真に収め、それを記憶しておかなければ万が一に備えられない。
写真を覚えるのは難しい話ではないが、必要な時に思い出せるようにするには反復練習が必要だ。
となると、善は急げ。
一刻も早く現場に向かうため、トラギコは車のエンジンをかけ、アクセルを一気に踏み込んだ。

タイヤが地面を抉る音と振動で目を覚ましたアサピーは、目の前に迫ってくる木々に悲鳴を上げた。

(;-@∀@)「きゃー!?」

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(=゚д゚)「うるせぇよ。
    ほれ、シートベルト締めろ」

トラギコが言い終わるよりも早く、アサピーはシートベルトを締めていた。
キャンプ場を通り抜け、下り道へと差し掛かる。
木の根を乗り越え、跳ねた小石が車体にぶつかり、大きな岩を踏み越える度に二人の体は猛牛に跨る闘牛士のように上下した。
目指すのは川だった。

川沿いに下って行けば、自ずと海に出る。
海岸にいる警備の目を潜り抜ければ、写真を撮影するのは他愛のない話だ。
目的は場所の把握であり、それを記憶することなのである。
潮の関係もあるため、出来るだけ早く現場に辿り着きたかった。

しかし、車輌がセダンと言う事もあって、そう上手くいくとは考えていない。
川に到着できなくても、途中までの道をショートカットできればそれでいい。
度重なる衝撃に耐えかねた前輪が吹き飛び、トラギコは咄嗟に車体を木にぶつけて停車させた。
ほんの一瞬、トラギコの意識が飛ぶ。

780名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:03:04 ID:s.K.qiF.0
意識が戻り、最初に聞こえたのは川のせせらぎだった。
自分の四肢が動くことを確認してから、車の状態を見る。
フロントガラスは失われ、エンジン部分から白煙が上がっている様子がよく見えた。
木にぶつけた後部座席は大きく凹み、板金屋でも修理は不可能だろう。

この車はもう使えないが、隠す手間が省けたのは間違いない。

(;=゚д゚)「……ふぅ。
     生きてるか?」

(;-@∀@)「もうやだ……」

僅か二十分足らずで川の近くに来たと考えれば、危険を冒した甲斐もある。
割れたフロントガラスから這い出て、トラギコは水音のする方向に向けて歩き出した。
陽は昇り始めているだろうが、鬱蒼と生い茂る木々の間には朝日は十分に差し込まないため、薄暗かった。
足元に注意しながら駆け足で森を抜け、川に辿り着くまで五分もかからなかった。

遅れて到着したアサピーは肩で息をしながら、額に浮かんだ汗を拭いとった。
トラギコはそんなアサピーの肩に手を乗せ、川下を親指で指さした。

(=゚д゚)「さ、お前は写真を撮りに行ってくるラギ。
    俺はここで二度寝してるから、さっさと行ってさっさと帰ってくるラギよ」

(;-@∀@)「はい?!
      僕一人で行けと?!」

(=゚д゚)「ガキじゃねぇんだから、やれるだろ」

(;-@∀@)「えぇ…… 一緒に来てくれないんですかい?」

(=゚д゚)「俺は眠いラギ。
    それに、今は間違っても警官に見られたくねぇんだ。
    ほれ、行って来い」

アサピーは肩を落としてふらつきながらも走って海を目指し、その背を見送ってからトラギコは手ごろな岩の上に座って考えを巡らせることにした。
これはトラギコにとって、これはいわば保険だ。
決して使用されることの無い、そうであってほしい保険。
だから本腰を入れる必要はないのだが、どうにも胸騒ぎが収まらないのだ。

円卓十二騎士が二人いたとしても、決して拭いきれない不安。
その原因は、トラギコがこれまで多くの事件に関わってきたことによる経験則と、それに伴う勘だった。
デミタスの輝かしい犯罪歴は、彼の持つ才能の結晶だ。
あの男はこれまでに多くの美術品を盗んできたが、人の命を対象とした盗みはしなかったはずだ。

負傷しながらも不慣れなことに挑戦しようとしているということは、その命を捨ててでも成し遂げたいことなのだろう。
馬鹿な。
命がけの特攻を進んで買って出るなど、不自然でしかない。
不自然極まりなく、紛れもなく、本命は別にあると考える他ない動きだった。

781名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:04:03 ID:s.K.qiF.0
命を賭すという事は、それに足る何かが必要な状況ということ。
生還は最初から予定にない人間の狙いなど、一つしかない。
その遺志を継ぐ人間へのバトンパスだ。
それがショボン達の時間稼ぎなのか、それとも、本当にヅーを殺したい一心なのかは分からない。

両方かも知れないし、どちらでもないかもしれない。
それでもトラギコが今追うべきはショボンであり、デミタスの様な小悪党にかまっている時でない事は断言できる。
それは間違いない。
何度も訪れることの無い分岐点で道を間違える訳にはいかない。

何故、トラギコがヅーのために目の前にある獲物を逃がさなければならないのか。
ようやく警察官らしい振る舞いの出来るようになったばかりの青二才を気遣う道理など、どこにもない。
私情を仕事に持ち込む時期は終わっている。
最悪、ヅーが襲われて重傷を負おうがトラギコの知った事ではない。

それよりも気にしなければならないのは、ショボン達が使用したとされるヘリコプターの存在だった。
彼らは空を飛んで逃げるという手段を持ちながら、まだこの土地に居座っている。
何かが原因で、彼らはその手段を使えないのか、あるいは使わないだろう。
やはり、デレシアが関係していると考えた方が賢明だ。

デレシアを殺さんがため、彼らは危険を冒して島に滞在しているのだ。
だがそれも、デミタスの行動から察するに変更されることになったのだろう。
折角手に入れた死刑囚を生贄にするという事がその証明だ。
ショボン達が当初の目的を捨て、島を脱出しようとするのは間違いなさそうだ。

問題はそのタイミング。

(=゚д゚)「結局、あの女に行き着くのか……」

鍵を握るのは正体不明の旅人、デレシア。
トラギコの命を救い、この島で起きていた事件をあるべき形に戻した女。
単独、そして生身で棺桶を相手取って立ち回り、圧倒するほどの力の持ち主。
円卓十二騎士が束になっても勝てるかどうか、トラギコには分かりかねた。

デレシアは約束を果たした。
たった一人の力で状況を変えてしまった女は今、どこで何をしているのだろうか。
あの女がいれば、ショボン達を一網打尽にすることも出来るだろうに。
この手でデレシアを逮捕できればという気持ちは、増々強くなる一方だ。

島の事件を終わらせ、早急に元の道に戻るためにも、今は休む必要がある。
瞼を降ろし、トラギコは少し仮眠をとることにした。
連日の騒ぎでろくに休めていない。
休息を怠ればより大きな代償を払うことになると知るトラギコは、静かに眠りにつこうとした。

心地よい眠りの波に体が持って行かれそうな感覚が訪れ、呼吸が落ち着き始める。

(;-@∀@)「へへっ、撮ってきました!!」

だが、瞼を降ろしてすぐにトラギコの眠りはアサピーの誇らしげな声によって妨げられた。
驚きと苛立ちを半分ずつ抱き、トラギコは起き上がった。

782名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:05:44 ID:s.K.qiF.0
(=゚д゚)「早いな」

(;-@∀@)「すぐそこから望遠で撮影できたんですよ、ラッキーなことに。
       で、結論から言うと十分渡れそうです。
       後は現像してやらないと」

(=゚д゚)「じゃ、街に行くしかねぇな」

(;-@∀@)「えぇ、一緒に行きましょう」

(=゚д゚)「は? お前が行くに決まってるラギ。
    俺が行ったら警察が捕まえに来るだろ」

一応、トラギコは輸送中ということになっているため、目立たないに越したことはない。
少しの間だけでもそれを隠し通せれば、トラギコはマークされずに済む。
そうすればショボンの裏をかけるかもしれない。

(=゚д゚)「飯と移動手段を手に入れてここに戻ってくるラギ。
    金ならほら、たっぷりやるラギ」

死体から預かった金貨の内、二枚をアサピーに投げてよこす。
金貨二枚もあれば、中古車と十分な食料が手に入る。
お釣りで新しいカメラも買えるだろう。

(-@∀@)「……お釣りはもらっても?」

(=゚д゚)「やるよ、そんぐらい」

ここから街までは、徒歩で一時間以上かかる。
その間にトラギコが冒すことになる危険を考えれば安い物だ。
何より自分の金ではないため、トラギコは何一つ損をしない。

(-@∀@)「ご飯は何がいいですか?」

(=゚д゚)「肉ラギ。 後はお前に任せるが、合流はここに正午ラギ。
    それさえ守れば後は自由にするラギ。
    だけど、くれぐれも捕まったり尾行されたりするなよ」

(-@∀@)「へへっ、了解です。
      その前にトラギコさん、これを渡しておきますね」

そう言ってアサピーは黒いケースに入ったフィルムを差し出した。

(=゚д゚)「例の写真が入ってるやつか?」

(-@∀@)「えぇ。 僕が途中で殺されてもそれがあれば大丈夫、ですよね?」

初めて、トラギコはアサピーの言動で感心した。
この男は分かっているのだ。
トラギコの天秤で重視されているのが己の命ではなく、このフィルムであることを。

783名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:07:22 ID:s.K.qiF.0
(=゚д゚)「……そうだ。
    分かってるじゃねぇか」

(-@∀@)「どんなカメラマンもそうですよ。
      命よりも、命を懸けた物の方が大切なんです。
      僕にとってはそのフィルムが正にそれなんです」

(=゚д゚)「お前、意外と根性座ってるラギね。
    正直見直したラギ」

(;-@∀@)「これだけ巻き込まれたら、嫌でも根性尽きますよ!!
      ま、この騒動が終わったら僕も有名人になれると思えば安い物です」

(=゚д゚)「世界一有名なカメラマンになれるラギよ、お前なら」

(-@∀@)「へへっ、そうなりますよ」

アサピーは気恥かしそうに笑みを浮かべて、それを誤魔化すようにして山道を戻って行った。
運が良ければヒッチハイクで安全に街まで戻れるだろう。
その間、トラギコはショボン達の動向を予想し、先手を打たなければならない。
街に逃げ込んでいることは間違いないだろうが、それ以外の手がかりはなく、こちらに有利な点もない。

何かしらの手がかりがあれば状況は変化するかもしれないが、今はそれも贅沢と言うもの。
時計を見れば、まだ五時間は余裕があった。
カラマロスの動きを阻害するのは放棄し、ショボンの動きに集中した方がいい。

(=゚д゚)「……寝るか」

だが今は動こうにも、こちらの装備が不足している。
情報の獲得のためとはいえ、足となるセダンは潰したのは手痛い。
今はただ、寝るしかない。
トラギコは岩の上に寝転がり、空を見上げた。

雲が流れていくのを眺めながら、トラギコは考えを巡らせた。
ショボン達が逃げるとしたら、デミタスが現れ、場が混乱している正にその時だろう。
そうなると、船で逃げるに違いない。
ふとそこで思い至ったのが、死体から奪った通行許可証だった。

(;=゚д゚)「待てよ……?」

ジュスティアは書類関係についてかなり細かな規定を持っており、このような緊急時における通行許可証の発行には必ず上層部の承認が必要になるはずだ。
上層部の承認が得られない時には現場の中で責任者が承認することになっており、その際には市長へ連絡した後に責任者が捺印することになっている。
ショボンの組織の人間がジュスティア内に紛れ込んでいるとしたら、そういった許可証を発行することは容易であるはずだ。
だが発行の偽造はかなり難しく、不可能と考えてもいい。

あの市長が、正義を頑なに信仰する石頭のフォックス・ジャラン・スリウァヤがショボンの一派であれば、とうの昔にジュスティアはその組織に組み込まれているはずだからだ。
ならば、責任者こそが内通者であると考えてるのが自然。
懐から書類の入った封筒を取り出し、開く。

(#=゚д゚)「……やっぱり、ベルベットだったか!!」

784名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:09:37 ID:s.K.qiF.0
責任者の欄に直筆で記載されていたのは、ベルベット・オールスターの名前。
そして捺印も、彼の持つそれだった。
これを持っているという事は、トラギコを殺害しようとした男達はベルベットに依頼されたという事だ。
少なくとも無関係と言う事はあり得ない。

となると、ヅーの作戦は全て筒抜けになっているのは間違いない。
最大限の疑念だったものが、揺るがない確信となった。
彼女の棺桶についても、円卓十二騎士についても、デミタスは十分すぎる程の情報を手に入れることになる。
罠を仕掛けていたとしても、それが彼女の手によって直接仕掛けられたものでない限り知られるに違いない。

用意した道具の種類を教えることぐらいは出来るだろうし、その道具に統一された解除コードを仕込んでいれば装置はデミタスを一切関知しない。
報道担当官の持つ影響力は強く、仮にヅーが数人の部下達に銘じて罠を張ろうものなら、それはベルベットの耳に入るという事。
今夜、間違いなくデミタスはヅーの元に現れる。
それも、万全の状態で。

円卓十二騎士が手を貸せばあるいは撃退は可能かもしれないが、果たして、事がどう動くかは今の段階では分からない。
断言できるのは戦いの場が設けられ、ヅー達がデミタスと相対することだけ。
今、ベルベットを裏切り者と糾弾しても意味はないだろう。
はみ出し者の刑事と、優秀な報道担当官では発言力が違う。

ましてや、上層部はトラギコを嫌っている。
最終的にどちらの発言を聞き入れるかは明らかだった。
悔しい話だが、今は動いてはいけない。
感情に身を任せて動けば、以降全ての手がかりを失いかねない。

ベルベットやデミタスよりも、今はショボン達の動きを読んで先手を打つことが先決なのだと堪える。
怪盗一人と長官専属の秘書。
これを手放す代わりにショボン達の内誰かを生け捕りに出来るなら、トラギコは迷わずにショボン達を選ぶ。
それに、デミタスがどのような棺桶を使おうが、円卓十二騎士を二人相手にして勝てるとは思えない。

――トラギコはそう自らに言い聞かせ、アサピーの帰還を待つことにした。

アサピーの持ってきた小型自動車を使って島中を散策したが、結局、トラギコはショボン達に関して何も情報を得られなかった。
陽が落ち、予告時間まで残り三十分ほどとなった今も、その状況は変わらなかった。
ショボン達は相当慎重に姿を隠し、機会を窺っているのだろう。
無能なのか、或いは愚直な才能と言うべきなのかはこの際不明だが、ジュスティア警察はショボン達を無視してでもデミタスを追う事を決めた為、追加情報は期待できない。

黒幕を逃がして表に出た灰汁を掬い取る事で勝どきを上げ、偽りの終焉を描き出そうとする未来の為とはいえ、愚かな判断だ。
結局は病巣を取り逃し、再び別の形で病を発現するだろう。
それも、より厄介な形となって。
すでに逃げた可能性もあるが、それは限りなく有り得ないと断言出来た。

そう確信したのは、二人が山奥の駐車場でインスタントラーメンを啜っている時に現れた女の存在が何よりの証拠だったからだ。
跫音はしなかったが、ねっとりとした視線がトラギコの背中に注がれ、 そ ち ら の 方 を 向 か さ れ た。

785名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:10:35 ID:s.K.qiF.0
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   .: : //゙i :i : : :iL|二,,__`ヽ  ∨i/|/斗八‐ ∧ : : : 「 \: : : : \
  ,:′/,:': :i :i:.: :小弋:._㌻ヾ     /二,,__ Ⅵ∧: :i八: : : : : :\: :\
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从'ー'从「はぁい、刑事さん。
     あらぁ? 誰かと思えばぁ、有名人のカメラマンさんじゃなぁい。
     元気ぃ?」

ワタナベ・ビルケンシュトック。
糖蜜のように甘い声を響かせ現れた彼女を前に、トラギコはアタッシュケースを左手に瞬時に立ちあがり、右手を懐にあるベレッタの銃把に伸ばしていた。

(#=゚д゚)「……また手前かよ。
    今度は何の用ラギ?」

トラギコは指先が触れていたM8000を取り出し、ワタナベの心臓に銃腔を向けた。
度重ねてのトラギコへの接触。
その真意は常に不明であり、このタイミングで現れるという事は、また何かがある。
ろくでもない何かが。

从'ー'从「あらぁ、私はただここを通り抜けようとしただけよぉ。
     パーティーに遅れちゃったら後が大変だからねぇ。
     ただの、ショートカットよぉ」

(#=゚д゚)「パーティー?」

从'ー'从「うふふっ、これ以上は話せないわぁ。
     だってぇ、私はただここを通り抜けるだけぇ。
     お話をしに来たんじゃないわぁ」

この一瞬で、トラギコは強化外骨格“ブリッツ”の使用を決意した。
足を切り落とせば、嫌でも話すはず。
最悪、ショボンを捕えるのに失敗したとしてもワタナベを捕まえれば何かしらの情報を得られるだろう。

(#=゚д゚)「だったら話したくなるようにしてやるラギ!!
     これが俺の天職だ!!」

だが。
だがしかし。
コンテナは、反応しなかった。
そして、アタッシュケース型のコンテナに赤いランプが点滅し、それがすぐに消えたのを目視した。

(;=゚д゚)「馬鹿な……!!」

786名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:12:01 ID:s.K.qiF.0
从'ー'从「残念ねぇ、電池切れみたいねぇ。
     それも、完全にぃ」

致命的なタイミングで棺桶の充電が切れていることに気付いたトラギコは、この一瞬で膨大な量の疑念を抱いた。
ブリッツは長時間の使用にも耐えられるだけのバッテリーを詰んでいるため、そう簡単に切れる事はない。
エラルテ記念病院でも充電をしておいたため、過充電を防ぐための装置を使って放電をされたとしか思えない。
だが、そのような装置を使った記憶もなければ、警察がわざわざ放電のための装置を要した上に誤用するなど、有り得ない。

(;=゚д゚)「……待てよ、おい」

(-@∀@)「へ?」

(;=゚д゚)「昨日の夜、マスコミに対して警察は何か検査をしてたラギか?」

(-@∀@)「一部民間人も交じっていたので、無理ですよ」

そして、トラギコは察した。
デミタスは予告状を出してから動いたのではない。
予告状と同時に動いていたのだ。

(;=゚д゚)「デミタスの野郎、盗みやがった……!!」

(-@∀@)「予告時間前ですよ?
      盗むって何を……」

(;=゚д゚)「電力ラギ!! あの野郎、棺桶の電力を盗んだラギ!!」

棺桶がどれだけ強力な物だとしても、バッテリーが無ければ全く意味がない。
また、起動前にバッテリーが切れていればいいのだが、絶妙な量の電力が残されている場合は例外だ。
電力が不足している状態で使用者をコンテナに収め、装甲を装着する間に電力が空になり、文字通りの棺桶と化してしまう。
外部からの助力なしではこの状態から脱出することは構造上不可能であり、どれだけの猛者であっても、全身を装甲に包まれていれば動きようがない。

幸運なことに、トラギコの棺桶は単一の目的に特化して設計されたコンセプト・シリーズ。
彼の棺桶が“緊急時に於ける対強化外骨格戦闘”に特化されていなければ、トラギコの腕はただの錘と化した籠手に包まれていた事だろう。

从'ー'从「うふふぅ、どうするぅ?
     私と遊ぶぅ?」

(#=゚д゚)「……また今度だ!!
     アサピー、ジェイル島に行くラギ!!」

デミタスが仕掛けた騎士封じの一手。
これが成功すれば、デミタスは労せず目的を達成した挙句円卓十二騎士を二人殺すことが出来る。
情報は全てベルベットによって筒抜けとなっている事を考え、対抗手段は意味を持たない。
つまり、ヅーは確実に殺されてしまう。

カップ麺を放り出し、トラギコとアサピーは車に乗り込んだ。
そして、保険のはずだった道を使い、アサピーの運転でジェイル島を目指した。
島へと向かう道を最速で駆ける中、トラギコは車内のソケットを使ってブリッツの充電を始めた。

787名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:13:07 ID:s.K.qiF.0
(;-@∀@)「ちょっ!! バッテリーなくなったら、街まで帰れなくなっちゃいますよ!!」

(#=゚д゚)「うるせえ!! 車は片道切符でいいんだよ!!
     徒歩だ、徒歩!!」

五分だけでも使えることが出来れば、十分な時間稼ぎになる。
それをどのタイミングで使うのかが問題だが、デミタスをヅー達から遠ざけ、仕切り直しが出来ればそれでいい。
デミタスはデレシアに足を吹き飛ばされていることから、何かしらの棺桶を持ち出さなければ戦闘が出来ない事が確定している。
Aクラス相手であればM8000でも対処できるが、Bクラス以上になれば何も出来なくなってしまう。

足を失った人間を補助する棺桶はまずBクラス以上であると考えるべきだろう。
となれば、拳銃の弾は威嚇にもならない。
例え、対強化外骨格用の強装弾を装填していても、高速で戦闘行為をしてくる相手に対して適切な場所に当てなければ意味がない。
勝算で言えば薄いが、生き残る可能性を今は考えた方がいい。

一時撤退、もしくは別の手段を用いての迎撃が最善。
間違ってもデミタスを逮捕、もしくは殺害できるものと考えてはいけない。
そのための装備が欠落しているこちらとしては、生き延びられれば上出来なのだ。
どのような罵詈雑言が待っていたとしても、生きさえすればいい。

アスファルトの道にタイヤの跡を残し、二人を乗せた車は急停車した。
トラギコはアタッシュケースを片手に車を飛び出し、写真にあった足場へと走った。
暗闇の中でも、トラギコの目はしっかりと目の前の風景を認識していた。
大小様々な岩の転がる海岸は、一度誤った場所に落ちれば全身を強打することは避けられない。

(=゚д゚)「おい、お前は先に安全な場所に逃げてろ!!
    後は俺が始末をつけるラギ!!」

振り返らずに、トラギコはアサピーに指示を出した。

(;-@∀@)「分かりましたけど、スクープの約束は忘れないでくださいね!!」

(=゚д゚)「わかってるラギ!!
    さっさと行け!!」

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海面下にある足場を目視するのは不可能だった。
星明かりと月光下であっても、見えるのは黒い水面だけ。
記憶の中にある鋭い岩の位置を思い出し、トラギコは躊躇なく海へと跳躍した。
靴底が踏みしめる鋭利な突起。

788名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:15:00 ID:s.K.qiF.0
踏み外せば肉を抉るであろうその存在に、だがしかし、トラギコは恐れを抱くことはなかった。
靴の中に入ってくる海水は、確実にトラギコの動きを鈍らせるが、それもまたトラギコの意志の外の話だ。
今は、ヅーと円卓十二騎士をデミタスに奪われることだけが恐ろしかった。
一度に三人もの重要人物を失えば、ジュスティアの信頼に大きな影響を及ぼす。

ベルベットの目的は恐らくはそれ。
デミタスとの死闘で三人を失い、そして、その全責任をデレシアに押し付ける。
実に狡猾なシナリオであり、世間受けするシナリオだった。
トラギコの見定めた、生涯最高の獲物を奪い取らんとするシナリオは断じて許容できない。

見えない岩から岩へと飛び移りつつ、腕時計で時間を確認する。
夜光液が映し出す時針が示すのは――

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                                 ,   、
                                     i|i_,...,j|}!
                                rj|i;;;::;:Vト、_ __ _
                              __ ,.イ ゞ=ゝ'゙,;:.::::;;:::;;::,.`ミ、
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: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :――予告時間まで、残り十一分。
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何度も海に転落しそうになりながらも、トラギコは何とかジェイル島へと辿り着く事が出来た。
下半身は水浸しで気持ちが悪かったが、彼は悪態を吐くこともなく、淡々と靴の中に入った海水を捨てた。
潮の香りで満たされた肺から息を吐き出し、再び酸素を取り込む。
目の前に浮かぶのは、断崖絶壁と言っても過言ではない切り立った崖。

登るにはあまりにも険しく、そして時間がなかった。
センサーを避ける必要も考え、この崖は道としては使えない。
トラギコは島の東側から別の進入路が無いかを探しつつ、回り込むことにした。
彼の頭の中にはジェイル島の地図が入っており、下水道の位置も忘れずに記憶されていた。

789名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:16:10 ID:s.K.qiF.0
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         > 、i    ;,      ' :..:... ;   ', :.'.. .'| ,'        ヽ  |
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  i   ;, '    |\::::::人      ` ヽ、 !  ,.| |//!-┴-‐_| ‐-
       _,., -―|: :.. ̄_.ノー- ‐ - ‐ !三三_ | |コ/=≡;/  \
 ,., '’: : : : : >'´ ̄- = ≡ = - ‐   ― - = ≡=/ ∨   .\
'’: : : : : >' ´≡ = -  ̄  ―  = ≡――予告時間まで、残り四分。
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センサーの位置はまるで不明だったが、セカンドロック刑務所の下水管を見つけ出すことに成功したトラギコは、そのまま枠を外して内部へと侵入した。
ヅー達は刑務所の地下にいるため、地上からの単純な侵入では必ず限界が来てしまう。
ならば、下水道を伝って最短のルートで内部へと侵入し、エアダクトを通じて地下を目指せばいい。
脱獄不可能な監獄ではあるが、弱点さえ把握できれば侵入は可能なのだ。

特に、トラギコはジュスティア警察でも脱走の常習犯として悪名高く、懲罰房は言うに及ばず厳重な警備下にある本部の独房からの脱走にも成功している。
基礎から応用までの脱獄の知識は持っていると自負するだけあり、実際、セカンドロックの構造的な弱点を見抜いていた。
セカンドロックは孤島にあるため、海路を用いて様々な物資の供給なしでは成り立たない。
島から出る方法が海路であるならば、その進入路もまた海路にある。

孤島であるが故に下水処理施設を刑務所内に設置しなければならず、それを海に捨てる際にはほぼ真水と同様に処理が済まされなければならない。
絶対に塞ぐことのできない下水道の出口は格好の入り口となるため、厳重な処理がされていた。
太く、熱にも強い合金を用いた鉄格子は専用の道具を用意しても破壊は困難であり、何か知らの外的接触が感知されたら即座にセンサーが反応。
自然を利用した凹凸の多い路面は素足で逃げる者の足裏を容赦なく切り裂き、雑菌による化膿は避けられない。

それらの僅かな死角を補う高性能なセンサーの数々は、表立って見える弱点を弱点とは思わせないための工夫だった。
道具なしでそこを通過するのは不可能であり、仮に道具があったとしても突破は非常に困難な作りになっている。
内側からの脱出は不可能だが、外側からの侵入については不可能と言うわけではなかった。
鉄格子についてはブリッツの高周波刀で切り落とし、路面は今履いている靴で十分に対処できる。

当たり前の話だが、鉄格子のセンサーは生きているし、その一撃に反応したはずだ。
だがトラギコは一切の躊躇もなくその道を駆け抜けていたのには、明確な理由があった。
センサーが異変を感知したとしても、ジュスティアの性格上、すぐに爆発や毒物による処理をすることはない。
設定されている目標が生け捕りである以上、必ず正体を確認してからそのスイッチを押すはずなのだ。

そして、センサーの管理をする人間はおそらくヅーだ。
彼女であれば、トラギコがやって来たことに対して驚きこそするだろうが、攻撃はしないはず。
ある意味での期待と信頼を抱いて、トラギコは暗闇を進んだ。
湿度の高い下水道を進み、やがて、非常灯が薄暗い緑色に照らし出す空間に辿り着いた。

天井に開いた大きな排水管の穴と、どこまでも続く暗い下水道。
ここがトラギコの予想通りの場所であれば、正しい道は一つだけ。
天井にある排水管を登るのは自殺行為であり、そこに多くの罠が仕掛けられていることは調べがついている。
では、先に進むのが正解だろうか。

790名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:18:50 ID:s.K.qiF.0
答えは否。
先に進んでもあるのは逃げ場のない天然の落とし穴だ。
長年の水の動きで突起を失った摩擦のほとんどない床に足を取られ、その先にある坩堝のような下水溜まりに落下し、死ぬまでそこに浮かび続けることになる。
時間が押しせまり、トラギコは道を選びそこなう余裕がない。

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;;;;;;;;;,         ?',?',       '?, ?i!、                  l_?/ ?,イ
;;;;;;;;;;;;,        ??',?',      ?'?,?', ?          _,... -‐'_j ??,イ
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嗚呼。
どうして、このような仕事ばかりなのだろうか。
平穏無事な世の中を望みながらも、どうして切望するのは困難ばかりなのだろうか。
つくづく思うのは、この仕事は――

(=゚д゚)『――これが俺の天職だ!!』

籠手を装着し、高周波刀のスイッチを入れて地面に突き立てた。
正確な場所に突き立てられた刀は、その下にある巧妙な偽装を施された人口の床を切り裂いた。
正しい道は下。
合金製の板であろうが、高周波振動の前にはただの金属でしかない。

――予告時間まで、残り二十三秒。

(#=゚д゚)「くっそ……!!」

円錐状にして地面を削り、切り崩した瓦礫を放り捨て、トラギコは地面を削り続けた。
ブリッツの残り電源次第では、この作戦自体が破綻し、トラギコの行動は全くの無意味と化す。
とにかく切り裂き、とにかく抉り、とにかく進んだ。
執念の宿った刃が床を崩落させたのは、直下から爆音と振動が届いたのとほぼ同時だった。

――予告時間、二分経過。

瓦礫と下水に交じってトラギコが落ちたのは、地下にある独房の中だった。
外から届く僅かな明かりが、扉の位置を示している。

(;=゚д゚)「おい!! ヅー!!
    来てやったラギ!!」

扉に刃を突きたて、錠を破壊したところでブリッツの電源が切れた。
コンテナに籠手と高周波刀をしまって、トラギコは全力で駆けだした。
焦げ臭い香りの漂う方向へと急ぎ、そして、言葉を失った。

791名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:20:54 ID:s.K.qiF.0
――予告時間、三分経過。

トラギコの目に映ったのは、爆心地と断言できるだけの大きなクレータの出来た地面と、その中心に残る黒い消炭のような跡。
そして、そこから離れた位置に転がる赤黒い肉塊。
視線を足元に移すと、そこには炭化した肉片があった。
これは、人間のどこの部位で、誰の肉片なのだろうか。

(;=゚д゚)「……」

心臓が鐘楼のように脈打ち、トラギコはコンテナを投げ捨てて肉塊へと駆け寄った。
それがデミタスであればと。
それがヅーではない事を切実に願いながら、トラギコは走った。
そして、聞いてしまった。

「あああ゛あ゛っ!!」

血と肉の塊から発せられた、悲痛な叫び声を。
痛みから逃げるための声だ。
救いを求める声だ。
これから消えゆく命の声だ。

それは、間違いなくライダル・ヅーの声だった。

(;=゚д゚)「……っ」

人間味を欠いたような女だったが、その声は、生きることにだけ向けられた命その物の声だった。
だがその声を発するのは、人間とは呼べないような姿をした肉の塊だ。
四肢は無く、肌は黒く焼けただれ、顔は血と傷で汚れて判別できない。
もごもごと動く肉の切れ目から出てくる蚊の羽音のようにか細い声だけが、トラギコの耳に届き、それがヅーであることを認識させる。

その傍に跪き、トラギコは言葉にならない言葉を発するヅーの頬に触れた。
感じたのは憐れみではなく、惜し気のない称賛だった。
この女は戦闘をまともに経験したこともないだろうに、それでも、文字通り死力を尽くした。
これを憐れむのはヅーに対する最大限の侮辱になる。

円卓十二騎士の助力なしに戦うことになったと分かった時、ヅーはどのような気持ちだったのだろうか。
恐かっただろう。
泣きたかっただろう。
逃げたかっただろう。

逃げ出しても良かったのだ。
戦闘慣れしていない人間が命を狙われていれば、そうするのが当たり前の判断だ。
犯罪者の言葉を受け止める必要もなく、広報担当の馬鹿の言葉に従わなくても良かったのだ。

(=゚д゚)「……よくやったラギ。
    お前も、やれば出来るラギね」

792名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:22:28 ID:s.K.qiF.0
声は聞こえていないだろう。
本来そこにあるはずの耳はなく、あるのは赤黒く変色した傷口にしか見えない穴。
目は見えていないだろう。
本来そこにあるはずのところからは血が流れ出し、砕けた鉄片が突き刺さっている。

(=゚д゚)「何だよ、お前の事見直したラギよ。
     次からはペンじゃなくて、銃を持って一緒に仕事をしてみるラギか?
     お前みたいな根性のある女、長官の秘書にしておくのは惜しいラギ」

聞こえていない事を承知で声をかける。
これは死にゆく同僚に向けての、手向けの言葉。
返答など期待していない、ただの独白だった。

「あ……あ゛……」

そのはずだったのに、ヅーの悲鳴が止み、何かを訴えかけるような声が聞こえてきた。
失われた腕を動かして、必死に何かを掴もうとしているが、何も掴むことはない。
彼女の手が何かを掴むことなど、もう二度と出来ない。
だが、掴むことが出来た物ならある。

(=゚д゚)「どうだ? 俺とお前が組めば、結構いいコンビになると思わねぇか?
    俺が実働で、お前がその後処理。
    なぁに、お前なら出来るラギ」

掴んだのは、トラギコの信頼だった。
これまで、トラギコは進んで誰か警官を相棒にすることはなかった。
警察官としての人生の中で、誰一人として、トラギコの信頼を勝ち取ることは出来なかったのだ。
どんな新人も、どんなベテランも。

結局は、トラギコを落胆させてしまうだけで終わるのだ。

「と……ら……ぎこ……」

だが。
この女は。
聴力も視力もない中で。
トラギコの名を呼んだ。

(=゚д゚)「おう、どうした?」

優しげな声で、トラギコは聞き返す。
ここに横たわるのは騎士よりも高潔な女。

(=゚д゚)「遠慮せずに言えよ」

「わた……し……じょ……うずに……」

793名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:24:12 ID:s.K.qiF.0
その言葉に、トラギコは呆れそうになった。
この期に及んで、ヅーが求めたのは評価だった。
だがそれは、彼女の心の奥底に潜んだ本音なのだろう。
誰かに認めてもらいたいという承認欲求。

子供のようなその夢が、ヅーの根底にあった最後の望み。

(=゚д゚)「あぁ、上手にやれたぞ。
    俺が言うんだ、間違いないラギ」

今際の際に望むことを拒む理由はどこにもない。
殆ど失われた毛髪が覆う彼女の頭に手を乗せ、いたわるように撫でた。
泣きじゃくる子供をあやすように、トラギコはヅーの頭を撫で続けた。
もう、余計な言葉はいらないだろう。

今のヅーには言葉ではなく、こうしてやることが一番通じるに違いない。

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        厶"´
          〃  ̄ ` ゛゙゙ ''''' 、
         " ゝ、 ____________, ,,,
          乂三三三三三三爻′
            ′`` ```````
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        厶"´
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         " ゝ、 ____________, ,,,
          乂三三三三三三爻′      「あ゛……あぁ……」
            ′`` ```````'ヽ,゛
                       .i:
                      .l:
                       .l:
                        ,l:
                          J
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ヅーの目がある場所から、失われたと思われた水が溢れ出てきた。
彼女は泣いていた。
トラギコはこれ以上ヅーにかける言葉はなかった。
後は彼女が判断し、受け止めるだけだ。

掌に込めるのは、同僚に対する労いと尊敬の念。

(=゚д゚)「ゆっくり休め、ヅー。
    後は俺がやっておくラギ」

794名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:26:41 ID:s.K.qiF.0
その言葉が届いたのか。
それとも、感じ取ったのか。
ヅーは絞り出すようにして、最期の言葉を口にした。

「あ……り……」

そして。
もう、ヅーは二度と言葉を発することはなかった。
目の前で同僚が死ぬことは何度もあった。
その度に涙を流していては、トラギコの体内から水分は全て失われていたことだろう。

涙を流すことなく、トラギコはヅーの亡骸を見下ろしていた。
そして血が出る程の力を込めて拳を握り、立ち上がった。

(=゚д゚)「……」

トラギコは地面に転がる二つのコンテナへと歩み寄り、その側面にある緊急用のスイッチを蹴り飛ばした。
これは内部にいる人間を外部から強制的に排出させるための装置で、本来はコンテナ内の死体などを取り出すための物だった。
最初にコンテナから出てきたのは、ショーン・コネリだった。
その次にダニー・エクストプラズマンが立ち上がるや否や、視線を四方に向けた。

(;´・_・`)「くそっ、デミタスはどこだ!!」

<_プー゚)フ

二人はデミタスを探し、そして、ヅーを見つけた。
正確には、ヅーだった物を。

(#´・_・`)「……おい、トラギコ。
     お前がどうしてここにいるのかはさておいて、何が起きたのか今すぐ説明しろ!!」

激昂するショーンの気持ちも分からないでもない。
だが怒ったところで事態が変わることもなく、真実も変わりはない。
故にトラギコは、己の知る真実を伝えた。

(=゚д゚)「デミタスもヅーも死んだ。
    俺が知ってるのはそれだけラギ」

(;´・_・`)「そんなのは見れば分かる!!」

(=゚д゚)「へぇ、そりゃすごい。
    後は間抜けな騎士二人が罠にかかって、棺桶の中に閉じ込められてたってことぐらいだろうな」

(#´・_・`)「言わせておけば!!」

無言のままだったエクストがトラギコに掴みかかる。
胸倉を掴まれたトラギコは、動揺することもせず、静かに彼の目を見つめた。
怒りに燃えるエクストは言葉を発さないが、言わんとすることは簡単に予想がつく。

(=゚д゚)「何だよ、怒ったところで事実は変わらねぇラギ」

795名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:30:39 ID:s.K.qiF.0
エクストの手首を掴み、トラギコは骨を砕くつもりで力を込めた。
爪がエクストの皮膚を切り裂く直前に、彼はトラギコを解放した。

(=゚д゚)「この後はどうするつもりラギ?」

(#´・_・`)「決まっている、我々を嵌めた奴を見つけ出して、必ず滅ぼす!!」

溜息を吐き、トラギコはブリッツのコンテナに向かって歩き出した。
騎士道精神は結局のところ、自分の心の在り様であり、誰かに従えることではない。
彼らが抱いているのは正義。
幼少期から植えつけられてきた、ジュスティア人としての信念だ。

コンテナを拾い上げてから、二人の騎士にトラギコは言葉を送ることにした。

(=゚д゚)「……なら、俺から一つアドバイスしてやるラギ。
    馬鹿なことは考えずに、この後に誰がどう動くのかをよく見ておくんだな。
    そうすりゃ、戦うべき相手が見えるはずラギ」

――だが事態はトラギコの思う以上に急速に、そして予想通りの形で進行しつつあった。

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ライダル・ヅーの死を知らせる連絡をショーン・コネリから受けたベルベット・オールスターは、激しい憤りを抑え込みつつ、決して動揺を表に出さないように努めた。
一人、優秀な仲間を失ってしまったことは悲しむべきことだ。
デミタス・エドワードグリーンは実に勇敢な男で、良き同志だった。
脱獄に成功して自由を謳歌するでもなく、彼は大きな信念のためにその命を懸けた。

( ><)「くっ……!!」

良い男だった。
惜しい男だった。
世界が黄金の大樹となるためには、是非ともいてほしい男だった。
だが彼は己の願いを成就したのだから、それを祝わなければならない。

796名も無きAAのようです:2017/07/17(月) 21:31:30 ID:s.K.qiF.0
そのために最大限を出来たことを誇りに思うべきだ。
ヅーの用意した武装や、各種センサーの無力化に必要なキーコードなどを教えることはリスクが高かったが、それでも成果としては最高の物となった。
これで下地は出来上がった。
後は仕上げの段階。

ベルベットとしてではなく、ティンバーランドに所属するビロード・コンバースとしての仕事を執り行う時間だ。

( ><)「最悪の結果になったんです……!!」

拳を机に叩き付け、憤りをアピールする。
その場に居合わせるのはジュスティア警察と軍関係者、そして、民間人が一人。
ベルベットはその視線を民間人へと向け、悲痛な面持ちを浮かべて、予め用意していた言葉を予め用意していた声色で告げた。

( ><)「済まない、民間人の君にこんなことを頼むのは気が引けるんです……
      だけど、君しかいないんです、千の声色を持つ君しか……!!」

この計画に於いて重要なのは、ヅーの死ではなく事態終息を偽ることにあった。
そのためにはどうしても欠かせない存在として、ヅーがいた。
彼女がこの島を厳重に封鎖し、そして、事態の収束を約束した張本人だからだ。
だがその本人がいなければ、誰も事態の終結を宣言できない。

デミタスの狙いを叶える為とはいえ、その存在を失ったことは果たして打撃だったのだろうか。
答えは否。
そのようなことを案じるぐらいであれば、最初からデミタスの要求は通らなかった。
逆に彼らにとってみればこれはチャンスだった。

ジュスティアに更なる根を下ろすための大きな足掛かりを得るチャンス。
鳥の巣のように乱れた金髪、そして灰色がかった碧眼を持つ小柄な女性。
その声色は千を越え、同性であればほぼ全ての声を真似ることが出来る、ラジオ界の女王。

o川*゚ー゚)o「私に出来る事であれば、任せてください!」

――秘密結社ティンバーランドのNo4、キュート・ウルヴァリンがジュスティアへ入り込むための切っ掛けとなるのだから。

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       ィ;;;;;;;;/:l;;;;;;;!: : : : : : : : : :i: : : /: /    |: : : / :!         !ヽ: : ',
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    Y;;;;;;;;;;;;;;/:/イ;;;;;;;i: :|: : : : : : :l: :/:〃      |:/            !: l i: : :!
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  _z彡⌒     !;;;;;;/: : : 人: V: : : : : : ',           _ _‐ニ /  人⌒Y: : i
         个 ̄: : : /: i: l: V: : : : : : ',     ー=≡ -‐ ´  〃/7  l: : :′
         }: : : : :/: :イ: : 人: : : : : 个s            イ////  !: /!
            Ammo for Reknit!!編 第八章【heroes-英雄-】 了
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797名も無きAAのようです:2017/07/18(火) 00:10:02 ID:zfiLBhSU0
投下乙

798名も無きAAのようです:2017/07/19(水) 14:28:41 ID:D3YcJF9M0

ここでキュート来るのか

799人妻出会い掲示板:2017/07/19(水) 17:16:53 ID:i.J5k2yw0
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800名も無きAAのようです:2017/07/19(水) 21:14:39 ID:.77Zgt1s0
すっかり忘れていましたが、これで第八章の投下は終了です

何か質問、指摘、感想などあれば幸いです

おまけ:o川*゚ー゚)o「私だよ!」
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