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仮投下スレ

1偽ひろゆき★:2012/09/25(火) 02:28:45 ID:???0
仮投下スレです
ちょっと不安……とか冒険しました! なSSは一度ここに通しておくといいかもしれません。

218 ◆i7XcZU0oTM:2013/04/23(火) 00:00:29 ID:gVjzmJeM0


2 名前: ひろゆき :20XX/09/01(月) 06:00:00 ID:???

 こんにちわ、ひろゆきです。

 ゲームスタートから6時間が経過しました。
 皆さんいかがお過ごしですか?
 ちゃんと、この書き込みを確認していますか?
 してないと、後で困りますよ。


 以下が、残念ながら死んでしまった方の名前です。


 MSKK
 ショボーン
 オエー
 ウララー
 エルメス
 寺生まれのTさん
 一等自営業
 モッピー
 レベル男
 エルメェス
 原住民
 ドクオ
 麦茶ばあちゃん
 壁殴り代行
 ゆうすけ


 ……以上が、今までに死亡した方です。
 次に、とても重要な禁止エリアのお話です。

219 ◆i7XcZU0oTM:2013/04/23(火) 00:00:50 ID:gVjzmJeM0


 禁止エリアは、
 A-6
 F-3
 C-1
 B-2
 D-1
 E-2

 以上の6エリアが、一時間ごとに、上から順に禁止エリアになります。

 とても重要ですから、忘れないで下さいね。
 禁止エリアで死んでも、面白くないですから。
 次レスに、FOX君からのお知らせもあるので、そちらも見逃さないで下さいね。



 嘘を嘘と見抜ける人でないと(バトルロワイアルを生き残るのは)難しい。
 それでは、また6時間後……12時の定時カキコで会いましょう。


3 名前: FOX★ :20XX/09/01(月) 06:00:30 ID:???

 どうも。
 "プロキシ"を確認するために、殺害者の名前の公表は後から行います。
 こちらからの通知などは一切致しませんので、自分で確認してください。
 それでは。

220 ◆i7XcZU0oTM:2013/04/23(火) 00:01:00 ID:gVjzmJeM0










 何処かも分からない場所で、パソコンの前に座り作業を行うFOXと……ひろゆき。
 グイーン……と小さな稼働音を立てる鯖を背に、2人はモニターに向かっていた。

「……まあ、こんな物でしょうね」
「ええ」

 短い会話は、すぐに終わった。
 ……喋る事など、何もない。今はただ、粛々と進行するのみだ。



【不明/一日目・朝】
【ひろゆき】
[状態]:健康、血塗れ
[思考]
基本:バトルロワイアルを完遂する。

【FOX】
[状態]:健康
[思考]
基本:ひろゆきの補佐、書き込みの管理

221 ◆i7XcZU0oTM:2013/04/23(火) 00:01:12 ID:gVjzmJeM0
仮投下終了です。

222 ◆i7XcZU0oTM:2013/04/23(火) 00:02:22 ID:gVjzmJeM0
あ、ひろゆきの状態表から「血塗れ」の表記を削除します

223 ◆m8iVFhkTec:2013/04/24(水) 01:12:40 ID:SPi6doXU0
私も定時更新案を仮投下致します。

224 ◆m8iVFhkTec:2013/04/24(水) 01:13:33 ID:SPi6doXU0
2 名前: ひろゆき :20XX/09/01(月) 06:00:00 ID:??????
 生存者のみなさん、おはようございます。
 第一回定時更新の時間となりました。
 まずはこの6時間での脱落者の発表です。
  MSKK
  ショボーン
  オエー
  ウララー
  エルメス
  寺生まれのTさん
  一頭自営業
  モッピー
  レベル男
  エルメェス
  原住民
  ドクオ
  麦茶ばあちゃん
  壁殴り代行
  ゆうすけ
 以上の16名です。知り合いが亡くなった方はご愁傷様です。
 優勝さえすれば彼らを生き返らせる事も出来ますので、バンバン殺し合いに参加しちゃってください。

 そして殺害者と、Lv:01以上の忍法帖のオーナー名を発表します。

  殺害者名・・・被害者、被害者etc...
 【Lv=03】 
  やきうのお兄ちゃん・・・一頭自営業、エルメェス、原住民
  モララー・・・モララー MSKK、レベル男、ゆうすけ

 【Lv=02】
  クマー・・・エルメス、寺生まれのTさん
  クタタン・・・ドクオ、麦茶ばあちゃん
  お断りします・・・ショボーン、壁殴り代行

 【Lv=01】
  川越達也・・・オエー
  カーチャン・・・ウララー
  一条三位・・・モッピー

 ちなみに忍法帖のプロキシを使うことで、
 この殺害者名を隠すことが出来ますので、ご利用ください。


3 名前: ひろゆき :20XX/09/01(月) 06:00:07 ID:??????
 そして最後に禁止エリアの発表です。
  7時  D-1
  8時  F-1
  9時  D-5
  10時 E-6
  11時 F-4
  12時 D-6

 時間になってもエリアにずっと留まっていると、首輪が爆発してそのまま脱落となります。
 なお、海上にも禁止エリアが設けられますが、
 一応渡し船の上にさえいればセーフです。その辺りはご安心ください。

 あと、今から忍法帖の「書き込み代行」が解禁になりますよ。
 何かの告知などに使っていただければいいと思います。
 なお、「書き込み代行」を使用して質問されても、おいらから一切返信はしませんのでご了承ください。

 とりあえず、伝えるべき事は以上ですー。
 それでは、皆さんのご活躍に期待しております。。。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

225 ◆m8iVFhkTec:2013/04/24(水) 01:13:44 ID:SPi6doXU0

「……よし、書き込み完了」
「はい、お疲れ様です、ひろゆきさん」

椅子の背もたれにひろゆきは思いきりもたれ掛かった。
その隣でモニターをじっと見つめる中年の男が一人、労りの言葉をかける。
男の名はFOX。2ちゃんねるの鯖を管理人する存在。彼もバトルロワイヤルに関わっていた。

「いやぁ、お疲れ様はFOXさんの方ですよ。僕ギリギリまで寝てましたからね。
 ……それで、夜のうちに面白い参加者いました?」
「そうだねぇ、個人的にはいわっちが気になりますね。どうやら我々に『停戦』を持ちかけようとしてますね」
「へぇ、停戦……。直接は殺し合いを止めるんじゃなくて、停戦ですか。ほー……」

ひろゆきは興味深そうに、仕切りに頷く。
停戦……言わば『一時的な中断』であり、完全な和解ではない。
故に考えられる目的は『時間稼ぎ』。彼は一時的にでも猶予を求めているという事。
では、我々がその時間を与えたとして、いわっちは何をしようと言うのだろうか。
FOXもひろゆきも、その点については注目に値すると考えた。

「今後彼が実際に我々に交渉を持ち掛けてきたら、ひろゆきさんは乗ります?」
「うーん……いやぁ、どうかな」

FOXの問いに、含ませたような曖昧な返答で返した。

「それは置いといて、他だと、何か面白い参加者っています?」
「そうですねぇ……ZUNがとんでもなく勘が鋭いですね。推測だけで盗聴器に気付きましたから。
 あとはやきうのお兄ちゃん。開始早々暴れた挙句、エルメェス菌に感染しました」
「うっわぁ……」

これまた優秀なのからカオスなのまで色々居るもんですねぇ、とひろゆきは苦笑した。
やはりメンツがメンツだ、これから想定外の出来事も起こりうる可能性は高い。

「うん、じゃあ今から僕も監視の方に入るんで、FOXさん忍法帖担当なんで、そちらメインでお願いしますね」
「わかってますよ。そろそろ使用者が増えてくる時間だと思いますし、忙しくなりそうです」
「そうですかねぇ? 案外みんな慎重になりそうですけどね」
「それなら私も監視に回りますよ。ひろゆきさんだと絶対監視先が偏ると思うので」
「あ、はい。じゃあその時はその時で」

その言葉を最後に会話が途切れた。
二人はそれぞれヘッドホンを付け、コンピュータのモニターに視線を向けた。



……こうして、バトルロワイヤルの第二幕が開始される―――

226 ◆m8iVFhkTec:2013/04/24(水) 01:20:49 ID:SPi6doXU0
以上です。
私の場合、定時更新前にプロキシが使用されている事前提になってます。

一応案は二つ目になりますが、いいとこ取りとかでもいいと思います。
あと、意見などがあれば言ってくだされば修正します。

227 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:03:06 ID:izeT9O/s0
予約分を仮投下します

228 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:03:22 ID:izeT9O/s0


 やる夫とやきうのお兄ちゃんの2人で、気絶したままのグンマーを、民家の中に運ぶ。
 それを尻目に、ダイニングの机に腰掛け、PDAをチェックするマッマ。
 何故このような事をしているのか?答えは、案外単純である。
 そろそろ定時更新の時間だと言う事で、安全な場所でPDAをチェックしようと、マッマが提案したのだ。
 その為に、手頃な民家に入り、万が一のために、見張りとしてチハを外に置いておくと言う算段だ。
 最初は渋っていたチハだったが、マッマの説得で、渋々見張り役を引き受けたのだ。

「……」

 神妙な面持ちのまま、ジッとPDAを見つめる。
 ……やがて、その表情が悲しげな物へと変化して行く。

(6時間の間に、15人も殺されてるなんて……信じられない)

 だが……これは、紛れも無い事実。
 先程見かけた、3体の遺体同様に、どこかで、誰かが殺されている……。
 その事実が、マッマの胸を締め付ける。

「ちょ、ちょっと見せてほしいお……」
「しょうがないね…………ほら、アンタの名前、ここに載ってるわ」
「ホンマや」

 まさか本当に載るとは、と言った感じで、やきうのお兄ちゃんが驚く。

「ホンマや、じゃないわよ。これがどういうことか、アンタ分かってんの? 他に名前が出てる奴と共に、
 "危険人物"と、まあ十中八九思われるでしょうね」
「ふーん」
「もしかしたら、アンタが殺した人の知り合いが……アンタに復讐しに来るかもね」
「……ま、まあ誰が来ても返り討ちに……ぐえっ!?」

 その言葉を言い終わる前に……。
 マッマの鉄拳が、やきうのお兄ちゃんの腹に叩き込まれた。

「アンタはつくづく救いようのない馬鹿だね。これ以上罪を重ねるつもりかい?」
「そんなん言うても……ワイに復讐しようとする奴が相手でも、殺したらアカンとでも言うんか?
 そんなんワイは絶対に御免や。そもそも、れっきとした正当防衛になるやろ!」
「さっきも言ったけど、アンタに選択権なんて無いの。無駄口すら叩けなくしてあげようか?」
「くっ……」

229 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:03:37 ID:izeT9O/s0

 いくら身体的に勝ろうと、精神的に負けていてはどうしようも無い。
 口では強がっていても、やはりやきうのお兄ちゃんにとってマッマは恐ろしいのだ。
 マッマの畜生発言を見れば、恐れる気持ちも良く理解できるであろう。
 まあ、大抵の畜生発言が放たれる原因は、やきうのお兄ちゃんの方にあるのだが。

「…………全く、無駄な時間を使っちゃったよ。ほら、この禁止エリアを覚えておくんだよ」
「分かってるお。流石に、そんなので死にたくないお」
「この近くで禁止エリアになるんは……D-1か。まあ、あんま関係ないわ。ここは、D-1ちゃうしな」
「……」


 2人が反応を示す中、マッマは一人考えていた。


 ……人がいなさそうな場所から禁止エリアになっている。
 と言う事は、徐々に逃げ場をなくして、嫌が応でも戦わせようと言う意図だろう。
 だとしたら、ひろゆきは随分と酷い事をするものだ……。
 ここに連れてこられている者全てが、戦えるほど強い訳ではないのに。
 もしくは、深い理由なぞなく、適当に選んだだけなのか。


 それと同時に、これからの事もぼんやりと考えていた。


 殺し合いに乗っている奴の名前が出た。即ち、全員が警戒心を強める事に繋がる。
 ……出会う相手が、名前が出ていた殺人者ではないか。それとも、そうじゃないのか。
 これを見た誰もが、そう思うかもしれない。だが、この情報は……参加者全員が閲覧できる。
 つまり、名前の出ている殺人者自身も、これを見れるのだ。
 当然、自身がこれから警戒されることも、十分なほど分かるだろう。
 となると……やはり、そうそう姿を現さなくなるかもしれない。
 だとすると、危なくておちおち外も歩けない。だからって、別に諦めはしないけど。


「マッマ、どうしたんや。さっきからずっと黙っとるけど」
「アンタと違って、私はいろいろ考えてるのよ。とりあえず……アンタ達、ちょっとこの家調べてきなさい」




〜〜〜〜

230 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:03:58 ID:izeT9O/s0




「……15もの命が奪われていたなんて……」
「……」

 PDAを見ながら、悲しげな表情を浮かべるいわっち。
 だが、それ以上に悲しげで、かつ恐れた目でPDAを覗くしぃ。

「それなのに、私と来たら……情けないものです」

 肩を竦め、溜息を突く。
 いわっちの言う通り、あれから……ギコ猫と別れてから、誰にも出会えていない。
 時折、何処かから銃声のようなものも聞こえて気はしたが、それ以外は、何も無い。
 ただ、人がいないかどうか確かめながら、ここまで歩いてきたが、結果はこの有様であった。
 誰にも出会う事はなく、ただここまで辿り着いたのみ。
 だがこれは、同時に危険人物にも出会わなかったと言う事にもなる。
 その点では、ある意味幸運だったのかもしれない。
 しかし、情報を訊きたいと思っているいわっちにとっては、あまり好ましいことではなかった。

(…………それに)

 "異世界"の可能性……。
 本当に異世界から人が招かれていたり、自身の知らぬ世界から物が持って来られているのか。
 ……それを感じさせる事象に何度も遭遇はしているが、未だ半信半疑な状態だ。
 それを完全に裏付け出来る程の"何か"が、現時点では欠けている……。
 "停戦"を持ちかける前に、できればそれもはっきりさせたい……。
 そんな考えが、いわっちの頭の中に変わらず有った。

「……?」

 どうしたのだろう、と言った目線で、いわっちの顔を見るしぃ。

「あっ、いいえ、何でもありませんよ。少々、考え事をしていただけですよ」

 ……こんなところで、思い悩んでも仕方が無い。
 今は、立てた目標目指して、進むしか無いのだ。
 緩みかけた意思を再度引き締め、いわっちは歩き出した。

(……)

231 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:04:14 ID:izeT9O/s0

 辺りも明るくなるころだと言うのに、いわっちの心には、重苦しい暗雲が居座っていた。
 ……人である以上、恐怖からは逃れられない。
 未知の事態への、自身の死への、自身の計画の成否への、恐怖。
 それが、じわりといわっちの心に影響を及ぼして行く。
 微小なウイルスが、徐々に人の体を蝕むように。静かだが、確実に……。



「あッ」

 不意に、しぃが声を上げる。

「どうしました?」
「あれ……もしかしテ……」
「ん……!?」

 少々離れた民家の前の道路。そこには……戦車らしき物が、停まっている。
 ――――何故戦車がこんな所に。まさか、誰かの支給品?
 何となく危険な気がしたので、いわっちはしぃを抱えて物陰から様子を窺う。

(あれって絶対……戦車、だよネ?)
(間違い無く、戦車です…………)

 小声で、会話を交わす。
 それと同時に、いわっちの頭脳が、急に回転しだす。

 何故こんな所に?と言うか、そもそも何故戦車があるのだろうか。
 こんな状況自体が普通じゃないが……あえて普通に考えるならば、誰かに支給された物だろう。
 そして、支給された戦車に乗ってここまで来た、と言った所だろうか。
 だが……今の所、戦車に人が乗っているような気配はない。なら、どこにいるのか?
 流石に、戦車を乗り捨ててはいないだろう。壊れてもいない戦車を、捨てて行く理由はない。
 なら……近くにいる、と考えるのが自然だろう。

(私の考えが正しいならば、戦車に乗っていた人物は近くにいるはずです)
(どうして分かるノ?)

232 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:04:35 ID:izeT9O/s0

 先程の考えと結論を、しぃに小声で伝えるいわっち。
 説得力があるような結論に、ただただしぃは感心するばかりだった。

(そこで……少々危険ですが、近づいて調べてみようかと思います)
(ええッ!?)
(勿論、しぃさんを危険な目に遭わせたりはしません。私の後ろに隠れていれば、大丈夫ですよ)

 そう言って、つかつかと停まっている戦車まで歩いて行こうとすると……!

(あっ! ……お姉さーん! 誰か来たよー!)








「で、あなたがいわっち、そっちの子がしぃ、ね……」
「そうです」
「渾名みたいな名前ね……まぁ、私も人の事は言えないけど」

 民家の中。
 いわっちとしぃ、それとマッマは、ダイニングで向かいあって座っていた。
 簡単に自己紹介を済ませ、2人は一息ついていた。
 ……やきうのお兄ちゃんとやる夫には、別室で未だ気絶したままのグンマーと共に待機させている。
 あの2人がいると、話がややこしくなると考えたマッマの措置だ。

「あなた、目標はあるの?」

 マッマがそう言うと、いわっちは地図を取り出し、森林公園を指差しながら言った。

「まず……一緒に来ていただける方を、この公園に集めるつもりです。その後……」
「それで?」

 ススッと指先をテレビ局の所まで持って行き、話を続ける。

「できれば12時までには、テレビ局にて、停戦の意思を伝えるつもりです」
「停戦?」

 その単語に、マッマは怪訝そうな顔をする。

233 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:04:47 ID:izeT9O/s0

「ええ。ひろゆきに、テレビ局を通じて停戦の意思を伝えます」
「それ…………問題ありまくりよ」
「な、何故ですか!?」

 一呼吸置いた後、マッマは話しだした。

「まず、幾ら停戦しようと訴えた所で、相手が乗らなきゃ意味が無いじゃない。私たちをこんな所に連れてきて、
 なおかつ殺し合いさせるような奴が、そんな誘いに乗ると思う? まず、無視されるか突っぱねられるでしょ」
「……」
「第一、テレビ局からあいつらに何か言う事って出来るの?」
「おそらく、出来るのではないかと。テレビ局から映像を流せば、あちらの目にも停まるでしょうし」
「まあ、その可能性はあるでしょうけど。あっちだって、私たちが逃げ出さないように見張ってるだろうしね。
 でも、その問題を乗り越えても、まだ大きな問題が残ってるわ」

 ふう、と一息つき、なおも喋り続けるマッマ。
 その声には、幾分かいわっちに対する呆れと怒りが籠っていたかもしれない。

「もし停戦が受け入れられたとして、その後はどうするのよ?」
「……その後?」
「そうよ、その後よ。停戦が運良く受け入れられたとして、その後はどうすんの?」
「その後は……」

 さっきとは打って変って、黙りこんでしまったいわっち。
 そこを突くように、マッマはさらに踏み込んでいく。

「それも考えずに、今までやってたの? ……私としては、その案を実行に移すのはやめた方が良いと思うけど」
「……で、ですが」
「言いたい事は良く分かるし、あなたを責めるつもりもないわ。でも、考えてみてよ。さっきも言ったけど、
 こんな所に無理矢理連れて来てるような奴が、こっちの言う事なんてまともに取りあう訳がないわ」

 ……何とも言えない、気まずい空気が、部屋を包んでいる。

「……ごめんなさいね、しぃちゃん。さっきから私が喋ってばかりで。怖かったでしょう」

 そう言いつつ、今までにない優しい目線を、しぃに向ける。

「大丈夫……。怖く、なかったヨ」
「ならよかったわ」

 ほんの少しだけ、空気が変わった時だった。

234 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:05:06 ID:izeT9O/s0





「うわあああああぁぁぁっ!?」





 ――――叫び声が、その空気を打ち破った。





〜〜〜〜





 マッマといわっち達が、別室で会話していた頃。
 やきうのお兄ちゃんとやる夫は、別の部屋でグンマーと共に待機していた。

「くそ、何でこんな仕打ち受けなアカンのや……」
「全くだお……」

 ハァ、と2人が同時に溜息をつく。
 殺し合いの最中だと言うのに、何故かここだけ妙にダラけた雰囲気に包まれていた。
 それもそのはず、畳敷きの床に寝転がり、ダラダラと過ごしていたのだから……。

「この家を調べた結果も、つまらん結果に終わっただけやしなあ」

 そう言ってボヤくやきうのお兄ちゃんに、やる夫が話を振る。

「そう言えば、少し気になってたことがあるお。さっき、何でお前はこいつの言う事が分かったんだお?」

 ……少し頭を捻ったあと、やきうのお兄ちゃんは言った。

「なんでやろな? 何か、何となく言うてることが分かったんや。不思議な事にな。何でやろな?」
「そんなの知らないお。あいつに聞けお」

 それで、会話は終わった。……また、何とも言えない倦怠感を含んだ空気が、部屋を包む。
 ……お互い、会話はほぼない。
 話すこともないし、特に話題が噛みあうようなことも無い以上、仕方の無い事である。

(何で、やる夫がこんな目に遭わなきゃならないんだお……)

235 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:05:26 ID:izeT9O/s0

 一人、心の中でグチグチと文句ばかり垂れるやる夫。

(思えば、ここに来て良い事なんて1つも無かったお! 初っ端から痛い目に遭わされたりしたし、
 滅茶苦茶グロい光景を見てしまったし、今だって、こんな訳の分からない奴の弾除けにされてるし。
 お先真っ暗だお……)

 いっそのこと、こっそり抜け出してしまおうか。

(トイレに行くフリして、こっそり外に出れば……でも、荷物持ってトイレに行くのは怪しまれるお。
 でも、何も持たずに外に出るのはどう考えても自殺行為だお…………一体、どうすればいいんだお)
「……ちょっとトイレ行ってくるわ。その間、お前あいつ見張っとけや」

 思い悩んでいるやる夫に、やきうのお兄ちゃんが唐突に声をかけた。

「えっ!? ちょ……」

 有無を言わさず、サッと部屋を出るやきうのお兄ちゃん。
 そんな態度に、一人やる夫は愚痴をこぼす。

「何なんだお」

 あまりの苛立ちに、不貞寝でもしてやろうかと思った、その時だった。
 ……ある物が、やる夫の目に入った。

(あいつ……鞄を置いて行ってるお! まあ、おかしくはないお。トイレに持って行っても……)

 そう……やきうのお兄ちゃんの鞄である。

(……そう言えば、あいつ鞄の中にいいモノ入れてたお! そいつをやる夫が手に入れれば……!)

236 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:05:48 ID:izeT9O/s0




『ああっ、"それ"ってワイのやないか!』
『油断してたお前が悪いんだお! これからは、お前がやる夫の弾除けになるんだお!!』
『ぐうっ……流石に"それ"相手やったら勝てへんわ……』
『やる夫を馬鹿にしてたからこうなるんだお……!』




 やる夫の脳内に、都合のいい妄想世界が広がる。

「ヒヒヒ……それじゃあ、早速頂くお!」

 こういう時だけは、行動力が高いのがやる夫である。
 素早く鞄を引き寄せ、手早く必要なモノを取り出す! ……はずだった。
 あの"良いもの"が、なかなか出てこない。どうでもいい物は、すぐ出るのに。
 そんな物たちより、あの"良いもの"を。

(早くしないと、あいつが帰って来るお……!)

 ……やきうのお兄ちゃんの、下品な足音が近づいてくる。
 それに同調するように、やる夫の鼓動も早まっていく!

(何でこいつ、鞄の中身片づけてないんだお……!)

 やきうのお兄ちゃんの手が、襖にかかったのと同時に。
 やる夫の手が、"良いもの"を掴んだ……!

「……!」
「へへへ……これで、やる夫の勝ちだお」

 勝ち誇った様に笑うやる夫と、対象的に静かに怒るやきうのお兄ちゃん。
 ……やきうのお兄ちゃんは恐れていた。"ええの"が、やる夫の手に渡ったのだから。

237 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:06:01 ID:izeT9O/s0

「ワイのモン盗りやがって……お前、死ぬ覚悟はできとるんやろな……?」
「それはこっちの台詞だお。拳銃で、ショットガンに勝てると思ってるのかお?」


 やる夫の持つ銃であり、かつてやきうのお兄ちゃんの"ええの"であった物。
 それは――――立派な、散弾銃だった。


「やる夫の言いなりになるなら、殺しはしないお。とっととその銃も捨てて、やる夫の言いなりになれお!」
「フン、調子乗ってると痛い目に遭うで?」
「それはこっちの台詞だおwwwwwwこの状況で何言ってるおwwwwww」

 この状態……広くない部屋で、お互い銃を向けあっている状態。
 普通ならば、まずやる夫の方が有利であろう。
 だが、1つだけやきうのお兄ちゃんが勝っている部分がある。それは……人を殺した経験だ。
 どれだけいい武器で威嚇しようが、そこから先に進むのは、また別の事だ。
 その点では……既に3人手にかけているやきうのお兄ちゃんの方が、上だった。
 しかし、それでも拳銃と散弾銃の差は大きい。

「……撃たへんのか?」
「そっちこそ、とっとと降伏した方がいいお……」

 お互いがお互いに狙いを定めたまま、じわじわと時が流れて行く。
 それを、打ち破ったのは。




「ザケンナ、コラ――――ッ!!」
「なっ、うわあああああぁぁぁっ!?」

238 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:06:17 ID:izeT9O/s0

 3人目の男――――グンマーだった。
 全く警戒していなかった相手からの攻撃で、やる夫はなす術もなく殴り飛ばされる。

「チイッ……目覚めとったんか!?」

 少し呆然としていたやきうのお兄ちゃんもハッと我に帰り、拳銃をぶっ放す。
 ……だが、大して狙わずに撃ったせいで、グンマーにはかすりもせずに、空中を貫くばかり。

「……お……ぐ……」

 腹部を思いっきり殴られ、ピクリとも動かずに気絶するやる夫。
 その手から、散弾銃がもぎ取られる。

「コイツハイマカラオレノモンダ。ヨビノタマトカネェノカ?(この武器は俺が頂く。予備の弾はないのか)」
「……」

 グンマーの問いかけに答えず、拳銃を構えたまま動かないやきうのお兄ちゃん。
 ……この騒ぎを聞きつけて、マッマ達も来た。

「死にたないなら、こっち来いひん方がええで」

 散弾銃の銃口をやきうのお兄ちゃんから逸らさずに、近くの鞄を探るグンマー。
 ……そこから弾倉のような物を取り出し、懐に仕舞う。

 (お前、他にも仲間がいただろう? だとすると、相手するには多勢に無勢だな)
「オマエ、ホカニモナカマイタダロ? アイテスルニャチトオオスギルゼ!」

 相手するには数が多すぎると判断したグンマーは、踵を返し、全速力で……。

「コンドアッタラ、ブッコロスカラナ!(次に出会った時は……容赦しない!)」

 窓を突き破り、外へと飛び出して行った。

239 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:06:33 ID:izeT9O/s0



 ……壊れた窓と、ぐちゃぐちゃに乱れた部屋の中を交互に見ながら、マッマは

「一体何があったのか、教えてもらおうじゃない」
「……教える事なんかあらへんわ。これ見れば十分やろ」

 明らかに苛立った口調で、やきうのお兄ちゃんが返す。

「アンタねぇ……!」
「ちょうどええタイミングやし……ワイはワイのやりたいようにやらせて貰うわ」

 そう言って、自分の鞄を拾い上げ、家を出ようとするやきうのお兄ちゃん。
 だが、その肩を掴み止めるのは……マッマだ。

「どこ行くのよ!」

 その答えの代わりに……やきうのお兄ちゃんはマッマの額に拳銃を突き付けた。

「……ッ」
「ワイはアンタの持ち物やない。……これからはワイの好きにやらせてもらうで」

 そう言って、やきうのお兄ちゃんも出ていった。




〜〜〜〜




「大丈夫かお?」
「私は大丈夫よ。そういうあんたはどうなのよ。気絶してたじゃない」
「……少々記憶が飛んでるけど、まあ大丈夫だお……」

 あの後。
 気絶していたやる夫を叩き起こし、全員で何とかチハに乗り込んでいた。

「……あいつの事は、もういいのかお」
「ええ。本人も言ってる通り、もうアイツとは"赤の他人"よ。でも、人殺しを放っておく訳にはいかないから、
 チハに乗ってあいつを追いかける。……向かった方向は確かに見たのよね?」
(うん……北東に向かってたみたいだよ)

 どれだけ畜生な発言をしていても、親は親。やはり、子供は大事なのだ。
 ……とは言え、さっきの事でその気持ちは80%程無くなってしまったのだが。

240 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:06:58 ID:izeT9O/s0

(あの2人は、放っておいて良かったんですか?)
「……ま、あれだけ言っておけば、作戦を良く考えるいい機会になるでしょ」

 ――――とにかく、"停戦"を持ちかける前に、それが本当に有効か考えてみて。
 家の前で別れる際に、マッマはしつこい程にいわっちに念を押しておいた。
 ……とは言え、最終的にどうなるかはいわっち次第なのだが。

「とにかく……できるだけ急いでよ。取り返しが付かなくなる前に、あの馬鹿をとっつかまえないとね」
(……とりあえず、無理のない程度で速度出すよ)



【D-2/一日目・朝】
【やる夫@ニュー速VIP】
[状態]:負傷(中程度)、血が付着、テンションsage、擬似賢者モード
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜2(確認済み)、しょうゆ一㍑(1/4消費)@現実
[思考・状況]
基本:性欲喪失。とりあえず今は生き延びる
1:アイツ(やきうのお兄ちゃん)は怖いけど……でもマッマの言う通りにする
2:チハからは離れたくないけど、畜生マッマから離れたい。今のとこ出来そうにないけど
3:やらない夫がちょっと心配。でもやっぱりおにゃのこには会いたい
※擬似賢者モードによりテンションが下がり、冷静になってます。性欲が回復すれば再び暴走するかもしれません。

【畜生マッマ@なんでも実況J】
[状態]:健康
[装備]:ぬるぽハンマー@AA
[道具]:基本支給品一式×2、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜1(治療に使えそうなものは無いようです)、ハイヒール一足@現実
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める
1:あのバカを追いかける。
2:とりあえず、やる夫を戦闘要員兼弾除けにする
3:グンマーはどうしようか。行方が分かれば……
4:やる夫の友達のやらない夫に親近感

【チハ@軍事】
[状態]:損傷無し、燃料残り83%、内部が少し醤油臭い
[装備]:一式四十七耗戦車砲(残弾無し)、九七式車載重機関銃(7.7mm口径)×2(0/20)
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品1〜3(治療に使えそうなものは無いようです)
[思考・状況]
基本:死にたくない
1:マッマの言う通りにする
2:殺し合いに乗った人には会いたくない
3:やきう兄に強い警戒。グンマーは……
※チハは大戦中に改良が施された、所謂「新砲塔チハ」での参戦です。
※チハは自分の武器の弾薬が無い事にまだ気づいていません。

※D-2の民家の中に、窓の大破した民家があります。どの辺りにあるかは不明

241 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:07:11 ID:izeT9O/s0




〜〜〜〜




「……」

 誰もいなくなったリビングで、ただ考えるいわっち。

(確かに、私は無条件にテレビ局から停戦を持ちかけられると思っていた……それに、その後の事も、
 具体的な事までは考えていなかった……ですが……)
「落ち込まないデ、いわっちサン……」
「大丈夫です、落ち込んでなどいませんよ……早い段階で欠点に気付けたのは、幸運でしたしね」

 ……そう。ここで、計画の欠点を知れたのだから、無駄ではない。
 あくまでも前向きに、いわっちはそう考えることにしたのだ。

「……テレビ局に、向かいましょう」
「? どうしテ?」
「やはり気になるのです。テレビ局を使えば、本当に停戦を持ちかけられるのかが。ですから、
 先にテレビ局を調べようかと思います。幸い、ここからだとそう遠くはありませんし」
「……デモ、途中で怖い人たちに出会ったラ……」
「……私がついていますから、大丈夫ですよ」

 誰が見ても強がりだと分かるその発言。
 だが、それでも。
 しぃの心を幾らか安心させる事はできる。

(……できれば、身を護れる何かがあればいいのですが……)

 一抹の不安を抱え、2人はテレビ局を目指して歩き出した。

242 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:07:23 ID:izeT9O/s0


【D-2・民家/一日目・朝】
【しぃ@AA】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:皆死んじゃうのはイヤ
1:ギコ君、大丈夫カナ……?
2:いわっちサンと一緒にテレビ局に行く
3:カイブツ(ネメア)がコワイ……できればもう遭いたくない

【いわっち@ゲームハード】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、モデルガン@サバゲ、救急箱@現実、不明支給品(0〜1・本人確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いをやめさせる
1:本当にテレビ局からダイレクトができるか確かめに行く
2:情報や人を集めたい。"異世界"の事も調べたい……
3:手はずが整い次第、停戦を持ちかけたいが……




〜〜〜〜




(よし……)

 チハに乗って走っていくマッマ達を尻目に、やきうのお兄ちゃんは路地を歩いて行く。

(拳銃の弾、あんま残っとらんなぁ……弾切れしたら、どないしよ……)

 野球場で荷物を検めた時には、拳銃の予備弾のような物は見当たらなかった。
 つまり、装填されている弾を撃ち切ってしまえば、それまでなのだ。
 ……武器になる物は他にもあるが、拳銃程の利便さはない。
 銃と言う物は、この場において大きな力となるのだ。

(一応武器になるモンはあるけど……正直、銃の方がええわ。こんな状況じゃ贅沢言ってられへんけど)

 そう考えると、やはりあの銃を奪われたのは残念なことだった。

(探し出して奪い返そうにも……武装したアイツには、勝てるかどうか分からへんしなあ。というか、
 どこにおるんかも分からへんしなぁ……)

 はぁ、と大きな溜息をついて、トボトボと歩き続ける。

243 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:07:51 ID:izeT9O/s0





(そういやさっきから、少し頭痛いんやが……何でやろか……?)

 ――――自身を蝕むモノに、気付かないまま。



【D-2/一日目・朝】
【やきうのお兄ちゃん@なんJ】
[状態]:健康、エルメェス菌浸食中(程度不明)
[装備]:H&K USP@現実(6/16)
[道具]:基本支給品一式×3、PDA(忍法帖【Lv=03】)、PSP@現実、木製のバット@現実、釘バット@現実、
    ひかりのこな@ポケットモンスター、台風コロッケ(残り11個)@現実、不明支給品×1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本:生き残る
1:何とかして、銃を手に入れたい
2:もうマッマに会う気はない。次に出会ったら……
※エルメェス菌に感染しました。どのような影響があるのかは不明です
※やきうのお兄ちゃんがどこに向かったのかは、後続の書き手さんにお任せします




〜〜〜〜




「ヘヘッ、コレガアリャアイッキニラクニナルワ(これで、戦いが楽になる……)」

 少々足は痛むが、まだ戦える。……完全ではないが、足の傷も少し治った。
 一層、優勝への欲望を増して、路地裏を駆け抜けるグンマー。

「ダケド……サスガニ、コノアシデバンバンタタカウノハキツイワ(だが……この足では、戦いに支障が出てしまう)」

 自分には、村を護る使命がある。
 だからこそ、ここでやられるわけには行かないのだ。
 そのためにも、体調を整えねばならない。

244 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:08:05 ID:izeT9O/s0

「ドッカニカクレテ、ナオルノマツカ……? イヤ……(どこかに隠れて、傷の回復を待つか? だが……)」

 幸いにも、ここは住宅街。
 隠れる場所は、幾らでもある。

「……ベツニ、ビビッテニゲテルワケジャネエシ……(……これは、敵前逃亡などではない……)」

 長々と、考えている余裕などない。
 戦場では、その隙が命取りになるのだから。
 グンマーは……それを、言葉では無く心で知っていた。
 だからこそ、素早い決断を下した。

「シャーネー、シバラクカクレッカ。ダガ、コッカラハナレタホウガイイワ」
(仕方無い、暫く身を隠そう。だが……ここからは離れた方がよさそうだ)

 そう呟いて、グンマーは走るスピードを上げた。



【グンマー@まちBBS】
[状態]:健康、首筋に血を吸われた痕、足負傷(中程度・回復中)
[装備]:熱光学迷彩服(所々破れている)@攻殻機動隊、サイガ12(8/8)@現実
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、洗顔クリーム、予備マガジン
[思考・状況]
基本:優勝して、村を守る戦士になる
1:今は何処かに隠れて傷の回復を待つ。
2:頃合いを見て、戦場に赴く
※チハが喋ることを半信半疑に思っています
※やる夫を自分と同様に成人の儀を受けているグンマー出身者だと思っています


≪支給品紹介≫
【サイガ12@現実】
90年代に開発された、セミオート式散弾銃。装弾数8発。
ある程度の連射も効くので使いこなせば恐ろしい武器になる。

245 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 21:08:28 ID:izeT9O/s0
仮投下終了です。
指摘点などあったら、よろしくお願いします

246ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/05/05(日) 21:40:20 ID:B/2Ya2Zg0
仮投下お疲れ様です
問題無いと思いますよ

247 ◆i7XcZU0oTM:2013/05/05(日) 22:05:21 ID:izeT9O/s0
意見ありがとうございました。
本スレに投下いたしました

248 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:18:38 ID:eKluyms.0
規制がかかっていたのでこちらに投下します
どなたか代理投下をよろしくお願いいたします

タイトル「涙の中にかすかな灯りがともったら」

249 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:19:04 ID:eKluyms.0
嗚咽が、噛み殺したような鳴き声が、うらぶれた雑居ビルの間に響き渡った。
吹き抜けるそよ風は、錆びついた鉄の匂いを帯びており、空虚な雰囲気に拍車をかける。
そんな錆びついた非常階段には三つの人影が並んでいた。
二人の女に見下ろされるような格好で、二頭身の黒服男――クラウドさんがむせび泣いている。

「……くっ……うぅっ……」

涙はこぼすまいと努めるも、そんな理性を上回るほどにクラウドさんの心中は無念さに支配されていた。
それをオロオロと見つめるばかりの日本鬼子に、少しばかりの苛立ち交じりに見つめるのは鬼女だ。

三人が出会ってものの数十分。
その間に転機となるべき定時カキコが行われた。
進入禁止となるエリアの発表に加え、行われたのがここ六時間での死者の発表だった。

既にその目の前でMSKKの死を見届けたクラウドさんが、最もその生命を案じていた男。
レベル男の名を、居並ぶ死者の中に見つけたその瞬間、クラウドさんは膝からガクッと崩れ落ちた。
そのまま鉄サビなど意に介することもなく突っ伏して、声を殺して泣き続けた。

ほんの僅かの間とはいえ、生死を共にした男の死。
それはクラウドさんに言いようのない悲しみと、自信に対する慙愧の念を同時にぶつけてきた。
「例え悪い結果だとしても気を落とさないこと」、これは先刻鬼女が発した言葉だ。
それはクラウドさんとて重々承知はしている……しているが、事実として自分が護れなかったことはそんな言葉も吹き飛ばしてしまった。



「あ、あの……クラウ……」

見るに見かねた鬼子が言葉を絞り出そうとしたその時だった。

「いつまでクヨクヨしてんのよっ!!」

怒号を叩きつけながら、鬼女が首根っこを掴むようにしてクラウドさんを引き起こす。
クラウドさんのその小さな体に合わせるように、片膝を突いて鬼女が真っ直ぐクラウドさんを見据えた。
対するクラウドさんは、涙を浮かべながらも決してその視線を外そうとはしなかった。

「私言ったわよね!? 殺されちゃった時はもうどうしようもないって!
 卑屈になるのは間違いだって!! 悪いのは全部……全部殺した人なんだって!!!」

一つ言葉を並べるごとに、鬼女はその語調を強めていく。
決してそれはクラウドさんにだけ叩きつけられたものではない。
この忌むべき殺し合いに乗った連中に向けてぶつけられたようなものだった。
それは目の前のクラウドさんも、そして傍らの鬼子も分かっていた……だからこそ、二人とも言葉を挟むことは出来なかった。

「アンタは……アンタはどうせこう思ってるんでしょ……!
 『ボクが護れなかったから、あの人は殺されちゃったんだ』、って……!」

クラウドさんがコクリと小さく頷く。
事実、鬼女の言葉は図星であったからだ。

「正義の味方気取ってるけど、所詮一人だけの力でやれることなんて限られてるのよ!
 アンタがどれだけ力を持っていたとしても、一人だけで全員を護れるだなんてのは思い上がりもいいとこよ!」
「そんなの……そんなの分かってるよ!」

ついにクラウドさんもせき止めていた感情を爆発させるかのように口を開いた。

250 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:19:22 ID:eKluyms.0
「だけど、自分の力で出来るだけのことをやろうと思うことの何が悪いっていうの!?
 ボクは、ボクの力で出来るだけの人を護りたかった……それが出来なかった自分を責めることぐらい……」
「それが現実だって言うのよ!」
「現実……?」

鬼女も一歩も引かない。
ここでクラウドさんの精神が崩壊するようでは、戦闘能力に乏しい自分たちの危機をも意味するからだ。

(冗談じゃないわよ……! 荒療治かもしれないけど、この子にはシャンとしてもらわないと困るのよ……!)

もし、自分の言葉に打ちのめされてしまうようならば、それまでの人間だった……鬼女はそう割り切ろうとしていた。

「そう、アンタ一人じゃ、全員を護りきれっこない……それが現実よ……
 そして、それをアンタは受け入れなきゃいけないのよ!」
「だからって……! それを認めちゃったら、ボクがボクである存在意義が……!」
「人の話は最後まで聞きなさいよ!!」

クラウドさんの言葉を遮って、鬼女がもう一度ジッと見つめた。
まるで吸い込まれそうな瞳に、思わずクラウドさんも言葉を詰まらせた。

「どうして一人でなんでもかんでも抱え込もうとするのよ! そんなに私や鬼子ちゃんが信用できないの!?」
「だ、だって……」
「そりゃ、私たちはアンタみたいにあの猫妖怪を正面から撃退できるだけの力は無いわよ……
 でも、それが出来るアンタだって、結局殺しまくってるクズたちの前じゃ私たちと五十歩百歩よ!
 何も出来ていないってことにかけては、アンタと私たちに大した違いは無いわよ!」
「そんな……」

自分のアイデンティティを真っ向から否定されたクラウドさんは、もう心が折れそうになっていた。
ただでさえ痛感していた自分の無力さを、ここまで容赦なく突きつけられることなど、今までに経験していなかったのだ。
レベル男を喪った悔しさから流した涙と、別の種類の涙がうっすらとその瞳に浮かび始めた。

「……だからさ」

それを押し留めたのは、先ほどまで忌憚ない言葉を浴びせていた鬼女だった。

「一人じゃどうにもならないんだったら……みんなでなんとかするしかないでしょ!?」
「みんな……で?」
「そうよ……"みんなで"、よ」

自分が皆を護るという意識の強いクラウドさんからすれば、皆で手を取り合って立ち向かうという発想はすっぽりと抜け落ちていた。
浮かびかけた涙もすぅっと引いて、キョトンとした目で鬼女を見据えた。

一方で、鬼女からすればそれこそが当然の思考であった。
所詮は一介の市民に過ぎない鬼女は、それ単体の力だけを見れば大したことは無い。
だが、時として皆を戦慄させる"鬼女ネットワーク"を駆使し、彼女たちなりに巨悪へと日々立ち向かっているのだ。
時にそれが行き過ぎになるきらいこそあるものの、一人一人ではとても出来ないことを皆で手を取り合えば出来ることを鬼女は誰よりも知っている。

「……いい? 誰かに頼るなんてことは別に恥ずかしいことじゃないのよ?
 人には誰にだって得手不得手ってものがあるんだから……自分一人でなんでも出来るなんてのはただの思い上がりよ」
「思い上がり……か」
「誰かを支えて、そして誰かに支えられて生きている……それが社会の理ってもんなのよ。
 猫野郎みたいな殺し合いに乗ったクズはそんな簡単な事さえ忘れちゃってる奴なの。
 そんなクズに鉄槌を下すならね……そんな社会の道理ってもんを叩きつけてやりゃいいのよ!」

クラウドさんにとって、このバトルロワイアルは今までの自分というものを粉々に粉砕するだけのイベントだった。
自分は誰かを護れるほどじゃないという現実を突き付けられ、それに思い悩んだりもした。
だが、ここにきて新たな考えを示してくれるようなそんな人物との邂逅を果たすことが出来た。
それは、今までなら単に護る対象でしかなかったような、そんな人物。

251 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:19:56 ID:eKluyms.0
「ボクにも……出来るのかな?」
「アンタ一人じゃ無理よ……だからこう考えなさい」

そこまで言った鬼女が、初めてその口元にうっすらと微笑を浮かべた。

「"みんなで"やれば、何でも出来るって」

すると、鬼女の勢いに乗せられたかのように、今度はこれまで沈黙を守っていた鬼子が一歩前に進み出た。

「クラウドさん……もう忘れちゃったかもしれませんがもう一度言わせてくださいね」

そして自分の手をそっとクラウドさんの手と重ねた。

「私も協力出来ることがあれば協力します……だから、一緒に頑張りましょう……ね?」

そう言って重ねた手をギュッと握りしめた。
クラウドさんは思わず赤面すると同時に、コクリと頷くことしか出来なかった。
そんな二人の様子を見て、やれやれと言わんばかりに鬼女は小さくため息をついた。

「ありがとね、鬼子ちゃん……途中で止められたらどうしよう、って思ってたわよ」
「私も鬼女さんの文字通り鬼気迫る態度にはビックリしちゃいましたけど……」

すると、鬼子は鬼女に顔を向けて柔和な笑顔を見せた。

「別に鬼女さんはクラウドさんのことをただ単に責めてたわけじゃないってことは……なんとなく分かりましたから」
「……へぇ」

思わず鬼女が感心したような表情を見せる。

「鬼女さんと会ってからまだそんなに経ってませんけど……そんなことする人じゃないってことはなんとなく分かります。
 人の心に棲む鬼と対峙してきた私には、それがなんとなく分かるんです」
「さっきは、鬼気迫るって言ってたじゃない」
「人は時に、心を鬼にしてでも事を為さねばなりませんから……それが今だった、というだけのことですよ」
「鬼子ちゃんには敵わないや」

そう言って二人は思わず笑い合った。
つられるようにして、クラウドさんもまた涙の跡の残る顔にうっすらと笑顔を浮かべたのだった。
未だに涙で滲むその瞳に、新しい光が微かに灯った、そんな瞬間だった。





 *      *      *





「……それにしても本当にふざけてるわね」

PDAを手に鬼女が吐き捨てた。
画面には定時カキコの情報が映し出されている。
この六時間で脱落……即ち命を落とした参加者十五人の名前が煌々と映し出されている。
だが、その名前のどれもが凡そ人の名前とは思えないものばかりだったのだから。

252 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:20:16 ID:eKluyms.0
「ゆうすけ、ってのはまだギリギリ分かるわよ……でも他の連中はどれもこれもそうとは思えないじゃない」
「……ということは、鬼女さんみたいに自分の名前を忘れさせられてるということですか?」
「その可能性はあるわね……」

そこまで思考を巡らせ、鬼女はチラリとクラウドさんへと視線を向けた。
クラウドさんは鬼子に抱きかかえられるようにして、鬼女のPDAを覗き込んでいた。
時々鬼子が顔をほころばせながら「……もふもふ」と呟いては、それを「やめなよ」と窘める様子が見られた。
段々鬼女としても止めるのが面倒になって来たので、もうそれをそのままにしてある。

だが、よくよく考えてみれば、二足歩行とはいえこんな大きさで動き回って人間と意思疎通をする動物を鬼女は見たことがない。
それはクラウドさんだけじゃなく、鬼子に関してもそうであったのだがひとまずそのことは思考の片隅に留めておくことにした。
鬼女がここまで出会ってきたのは鬼子にモララーというクズ猫(名前はPDAで把握した)、そしてこのクラウドさんの三人。
その全員が自分のような人間――ホモ・サピエンスとはまるで姿形の異なる生き物なのだ。

しかし、鬼女は見ている。
あのひろゆきがこのバトル・ロワイヤルの開幕を高らかに告げた会場には自分以外にももっと多くの人間がいたはずだと。
そんな人間と、未知なる生物をごった煮にして殺し合わせるのはどういうことだろう……鬼女はそう考えていた。

「……ねぇ」
「何?」

たまらず鬼女はクラウドさんに問いかけた。

「さっきあなたが言ってたモノウルッテレ……なんだっけ、まぁいいわ。
 それってここに載ってるレベル男、って人の事でいいのかしら?」
「多分……そうだと思うよ」

レベル男はMSKKと同じようにモララーの手にかかっていたことが読み取れた。
あの時自分が相手を無力化しておけば、とクラウドさんはまた自分を責めそうになるのをグッとこらえた。

「その人は……その人間だったの? 私みたいな」
「……え? そうだったけど」
「じゃあ、最初に殺されちゃった、っていうMSKKって人は……」
「う〜ん……身長はお姉さんの半分くらいかな。お饅頭に胴体と手足が付いて歩いてるようなそんな感じの人だったよ」
「何よそれ……」

思わず鬼女は呆れ顔に変わる。
目の前の鬼子が「お饅頭……」と目を輝かせるその暢気さもまた呆れを加速させた。
何はともあれ、この殺し合いに招かれた者たちの姿形はまるで統一感のないものであることを鬼女は痛感したのだった。

「……なんにせよ、あのクズ猫みたいなのが他にもいるわけだからね……
 たとえ相手が人間に見えなくたって、注意するに越したことは無いわね」
「そうですね、どうやらクラウドさんのおっしゃってたお二人以外にも、あのモララーという猫は別に一人手にかけたようですし」

クラウドさんを弄る手を止めずに、それでいて真剣な表情で鬼子も鬼女に続いて発言した。
定時カキコではここまでの殺害者も公開されていた。
十五人の命を奪った参加者の数はしめて八人。
鬼女たちからすれば、それは当面注意しなければならない者たちの名前でもある。

「でも、裏を返せばこの八人さえなんとかしちゃえば当分は安心かしらね」
「……そうだといいんだけどなぁ」
「どういうことよ」

思わずポツリと呟くクラウドさんの言葉に鬼女がすかさず反応する。

「だって、あの猫みたいに自分から仕掛けてくるようなのばかりとは限らないじゃない。
 もしかしたら、ある程度人数が減るまでは力を温存するために殺し合いに反対するフリをしている人だって……」
「待ちなさいよ、もしかして私たちがそうなんじゃないか、って言いたいの?」
「いや、二人がそういう人じゃないだろう、ってのは分かるけど……」
「……でも」

鬼女が噛みつくところを割って入ったのは鬼子の言葉だった。

「クラウドさんの言うことも分かるんです……
 心に巣食う鬼を巧みに言葉や態度で包み隠しながら、その牙を研いでいるような人がこの世には確かにいるのです。
 ましてや、今は状況が状況です……そんな人がいるかもしれないと心に留めておくだけでも危険はかなり回避できるのではないでしょうか」
「鬼子ちゃんの言うことも一理あるんだろうけどさ……そんなの注意しようがないじゃない」
「そのあたりは私にお任せくだされば」
「……鬼子ちゃんなら、そんな奴を見破れるってこと?」
「……たぶん」

縋るにはずいぶんとか細すぎる蜘蛛の糸を前にし、鬼女は再びため息をつく。
それでも、ここでいつまでも立ち止まっているわけにはいかなかった。
立ち上がって、尻のあたりを軽く叩きながら、二人を鼓舞するように鬼女は言う。

253 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:20:34 ID:eKluyms.0
「……とにかく私たちがあの猫野郎のようなクズに立ち向かうにはもっと仲間が必要よ。
 きっと三人でもまだ手に余ると思うもの」
「では、誰と接触するかは私にお任せできますか?」
「そうね……そこまで言うなら鬼子ちゃんに任せてもいいかもね。
 そこから相手の本音を探るのは私の役目かしら」

クラウドさんとの接触を決めたのも(半ば可愛さに目が眩んだとはいえ)鬼子の意思によるものが大きかったということもある。
それ故に、結局は鬼女も鬼子の進言を容れることとなった。
その相手の真意を見極めるのは、物怖じせずに言葉をやり取りできる鬼女自身が手を挙げた。

「それじゃあ、ボクは何か危ないことがあったら真っ先に立ち向かう役目、かな?」
「……でも、捨て石になろうだなんて考えないでちょうだいよ?
 死んじゃったらどうにもならないの、最悪の場合は逃げの一手を選んだって誰も責めやしないわよ」
「……分かってるよ」

そして、結局護衛役には一番腕の立つクラウドさんがなし崩し的に収まることとなった。
護ることに強いこだわりを持つクラウドさんに、鬼女は一抹の不安を感じてはいた。
だが、それ以外の役目をこれといって思いつかなかったばかりに、これも受け容れざるを得なかった。


「とにかく、モララー以外の七人のクズの情報を集めるためにも、人を選んでどんどん接触しないとね」
「そうですね……きっと私たち以外にも同じように集団で行動を共にする人もいるはずです」
「そんな人たちに会えたらいいのかな」

思い思いの考えを口にしながら、三人が短くも濃密な時間を過ごした雑居ビルを出たその時だった。





――見るも無残な左手をした、直垂に袴姿、烏帽子を被った男が倒れているのを見つけたのは。





 *      *      *





ズルズルと、足を引きずるようにして一条三位は夜明けの街中を彷徨い歩いていた。
彼からすれば、見るもの全てが新鮮なこの街を楽しみながらも、ただ無為にふらついているわけではなかった。

「……ひとまずはあの高い塔のようなものを目指すとするかの」

視線の先にあったのは、周囲のビル群より一際存在感を放っていた建物――近鉄百貨店であった。
彼の住まう都では決して存在し得なかったほどの高さで聳え立つ建物に、一条三位はとりわけ心魅かれていた。

「あれだけ大きい建物ならば……籠城できる場所などごまんとあるはずでおじゃる」

実際、その内部は幾度かの抗争により滅茶苦茶になっていることを、一条三位が知る由もない。
ただただ、まるで火に吸い寄せられる夏の虫の如く、一心不乱に一条三位は近鉄百貨店を目指した。

……だが、レベル男とモッピーとの戦いで一条三位が受けたダメージは甚大なものであった。
とりわけ、イオナズンによるダメージは急所こそ外れていたとはいえ、本来ならば行動不能に陥ってもおかしくないものだ。
それでも、勝利への意志……即ち生還しzipの桃源郷を創るという強い意志と、見ず知らずの街並みに対する強い憧憬。
その強い精神力で今の一条三位はどうにか体を動かすことが出来るという状態だった。
必然的にその歩みはのっそりとした重苦しいものへとなっていく。

254 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:20:55 ID:eKluyms.0

愛用の日本刀を杖代わりにしてゆっくり、ゆっくりとその歩を一条三位は進める。
ゲームキューブを切りつけ、モッピーを突き刺した日本刀は確実にその切れ味を失っていた。
さらに、イオナズンの爆破の衝撃で、左腰に挿していた鞘はその用を成さぬほどにボロボロになってしまっていた。
その結果、抜身の刀を知らずとはいえアスファルトに突き立てながら歩くものだから、刃こぼれはさらに加速する。
目指す近鉄百貨店が徐々にその姿を大きくする頃にはすっかり日本刀はなまくらと化してしまった。
しかし、一条三位はそのことに気付かない。

気付かない、といえばもう一つ。
一条三位は時刻が六時を過ぎたにもかかわらず、未だに定時カキコを見ていなかった。
zip蒐集を生業とする彼がPDAの扱いを知らぬというわけはない。
ただ単純に、時間も忘れて近鉄百貨店を目指していたばかりに、大事な情報が流れているのにも気づいていなかった。
これが、後からでも見返すことのできる"定時カキコ"というスタイルであることが一条三位にとっては幸いしてはいる。
が、自らの所業が晒されているということには、今の一条三位は完全に無自覚であった。

「ま、まだでおじゃるか……?」

当の一条三位は、いつまで足を動かしても近鉄百貨店に辿りつけないことに苛立ちを感じつつあった。
確かに見る景色に心を奪われたりすることはあったものの、寄り道の出来るような身体ではない。
一直線に近鉄百貨店を目指していたはずだが、一向に目的地に近づいているような感覚が無かった。
それはつまり、本人の想像を超えて体力が失われていることの証左でもあるのだが。

「まったく……麿が何故に歩かねばならぬでおじゃるか……
 普段ならば従者に牛車でも引かせて雅に動くところで……」

少しずつ愚痴も漏れ始めたその時だった。



「……でクヨクヨしてんのよっ!!」
「!?」

ビル街に響き渡る女の怒声に、思わず一条三位は辺りを見回した。
声の発信源は遠くない……むしろすぐ近くであるように思えた。

「……むふふ、場も弁えずに大声を張り上げる間抜けがおるようじゃな……
 ちょうどよい、この刀の錆にしてくれようか……それとも先程手にしたあの南蛮風の槍で……」

屍を築き続けることが、zipの桃源郷を創る最短ルートと信じて疑わない一条三位は、思わぬ獲物の出現に顔を醜く歪ませた。
ひとまずは声のする方へそろり、そろりと忍び寄ろうとして……



そこで体力の限界が訪れた。



裏路地にその体を滑り込ませたその時に、何でもない段差に一条三位が躓く。

「うおっ!?」

膝から崩れ落ちるように地面を舐めた一条三位は、すぐさま体を起こそうとする。
……が、身体に力が入らない。

「ど……どういうことで……おじゃるか……?」

左手の一部を吹き飛ばされただけではない。
イオナズンの爆発による衝撃は身体全体にもダメージを与えていた。
そんな身体で、アスファルトを歩くにはお世辞にも適したとは言えない靴で数時間も歩き続けたのだ。
最早、精神力で肉体をカバーするには足りないほどに、一条三位は消耗しきってしまっていた。

「こ……こんなところで……!」

最後の気力を振り絞って数m這いずるが、それが精一杯だった。
目標とする雑居ビルを目の前にしたところで……一度一条三位はその意識を手放したのだった。





 *      *      *





「ちょ、ちょっとどういうこと!?」
「だ、大丈夫ですか!?」

変わり果てた姿で倒れる男を目の前にし、思わず鬼女と鬼子が驚きの声を上げる。
鬼子に至ってはすぐさま駆け寄って助け起こそうとしたその時だった。

255 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:21:22 ID:eKluyms.0

「……ちょっと待って!」

二人に出会ってから、一番大きな声を張り上げて制したのはクラウドさんだった。
地に伏せる一条三位に駆け寄っていた鬼子もピタリとその足を止めて振り返った。
勿論、鬼女も同様に傍らのクラウドさんを見下ろすような格好で視線を向ける。

「待って、って一体なんのつもりよ……」
「そうですよ、早く手当をすればまだなんとかなるかも……」

鬼子が焦りの色を濃くする。
先刻、この雑居ビルに入る時にこの男は倒れていなかった。
とすれば、ここ数十分の間にこの男はここに現れてそして倒れたのだということは容易に推測できた。
つまり、今ならまだ手を尽くせば助かるかもしれない、そう鬼子は考えていた。

「よく見てよ……その人が持ってる刀」

クラウドさんが指さす先には、一条三位が杖代わりに握っていた日本刀があった。
すっかりモッピーの血は乾いており、まるで赤錆のように刀身にまとわりついている。
それを見て鬼女は思わず目を丸くし、鬼子は小さくひっ、と悲鳴を上げた。

「な、なによ……じゃあこいつも人殺しのクズってこと……?」
「分からないよ……?
 モララーって猫妖怪みたいな人と会って、交戦せざるを得なくなったけど大ダメージを追って逃げてきたのかもしれないし」
「で、ですがこのまま放っておくわけには……」

思わずオロオロとする鬼子に対し、鬼女は意を決したかのようによし、と呟く。

「それじゃあ、そいつのPDAを見させてもらいましょ。
 確か、本人の名前が出るはずよね……それでそいつの名前があの八人の中にあればクロ、ってことじゃない」
「それはそうですが……もしクロだとしたらその時はどうするんですか……?」
「決まってるじゃない、その時は……」

鬼女が口を開こうとしたその時だった。



『ひろゆき討伐PT募集Lv70以上@5まず後衛優先、とるあえず近鉄百貨店集合、詳細きぼうhさ、参加希望者はテルしてくあさい』



「「「!?」」」

突如として響き渡る男の声に、三人は思わず辺りをキョロキョロと見回す。
気絶した一条三位はそれでもなお、目を覚ます気配さえなかった。

「ちょ、ちょっと何!?」
「ぼ、ボクに聞かれても……」
「な、何か拡声器のようなものでも使っているんでしょうか?」

三人の狼狽えなど知る由もなく、声の主はさらに三度同じ言葉を発した。
合計で四度その声を聞けば、さすがに発信源はある程度特定することが出来た。
雑居ビルからほど近いところに聳え立つ近鉄百貨店……その屋上だ。

「な、何を言ってんだか半分くらいよく分からなかったけど……」

屋上の声の主の独特の言語センスに加え、やれレベルだの後衛だのという言葉を並べられては鬼女には成す術もない。
それはまた鬼子も同じ事であった。

256 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:21:50 ID:eKluyms.0

「と、とりあえず『ひろゆき討伐』とか言ってたよね……?」
「はい……ということはこの人は味方、でしょうか?」

クラウドさんと鬼子が顔を見合わせながら呟くが、鬼女はそれを一蹴した。

「バッカじゃない!? あんなの罠に決まってるじゃない、罠よ!」
「わ、罠……ですか?」
「そうよ! あんなことしたら確かに人は集まってくるかもしれないわよ……
 でも、それで集まってくるのは私たちみたいにひろゆきを何とかしようって人たちだけとは限らないのよ!?
 モララーみたいなハイエナが獲物が集まってくるところを狙ってくるかもしれないのよ!?」
「それは分かりますが……」

思わず表情を曇らせる鬼子などお構いなしに、鬼女はさらに言葉を並べる。
わざわざ裏路地を選んでまで慎重な仲間を集めようとしただけあって、鬼女は警戒心を緩めない。

「仮にアレが言ってるひろゆき討伐が本当の事だとしてもよ……?
 私はそんな後先考えられないバカと行動するなんて真っ平御免よ!」
「う〜ん……何だかあの声の人に、ボクと似たような匂いを感じるんだけどなぁ……」
「だとしたらなおのことよ……」

クラウドさんの嗅覚までも一顧だにせずに、鬼女はいそいそと荷物をまとめ始めた。

「ホラ、二人とも急いで! さっさとこんな危ないとこ離れるわよ!」
「え……それじゃああの人はどうなっちゃうの?」
「だから言ってるでしょ! なんでもかんでも護れる、ってわけじゃないのよ!
 自分でバカやってる奴なんて自己責任よ! そんな奴護るくらいなら、もっと別のまともな人護るのに力使いなさい!!」
「あ、あの鬼女さん……」
「何よっ!?」

焦りからついつい鬼女は語気を荒げてしまう。

「この人はどうしましょうか……」

鬼子の指さす先には、倒れたまま目覚める様子のない男がいて、思わず鬼女も言葉を詰まらせた。
そもそも、まだ生きているかどうかさえ確認出来ていないその男は、殺人の禁忌を犯したかもしれないわけで、鬼女にとってはお荷物でしかない。
だが、目の前で倒れている男をそのまま捨ておくことは流石の鬼女とて出来なかった。
もし何かあったとしても、相手は傷だらけだし、こちらには腕の立つクラウドさんがいるということも鬼女の判断を変えさせた。

「……仕方ないわね、そいつは私とクラウドさんが交代で担いでいくわよ。
 鬼子ちゃんは、そいつの荷物を持ってて。もしコイツが人殺しのクズだとしても、こんなボロボロで武器も奪われたら何も出来ないでしょ」
「分かりました」
「あなたも、それでいいわね?」
「分かったよ」

まず鬼子が、続いてクラウドさんが小さく頷く。

そこからの行動は迅速だった。
鬼子が、一条三位の傍らに転がったデイパックを拾い上げ、周りに零れた基本支給品をかき集めた。
鬼女とクラウドさんは倒れた一条三位がまだ生きていることを確認すると、二人で協力して鬼女の背中へと担ぎ上げた。

257 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:22:10 ID:eKluyms.0

「準備はいいわね? 一刻も早くここから離れるわよ。
 もし途中でこっちに向かってくるような善良な参加者がいれば、なんとかして止めるんだからね」
「うん」
「分かりました」

互いに頷きあって、三人は傷だらけの男を抱えて足早に雑居ビルを後にした。
その男の正体が白日の下に晒された時、果たして三人はどういった道を選ぶのだろうか。



【B-4・雑居ビル周辺/1日目・朝】

【鬼女@既婚女性】
[状態]:健康、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜2、閃光手榴弾@現実×3
[思考・状況]
基本:殺し合いを打破する
1:鬼子とクラウドさんを信頼、協力する。
2:クラウドさんのやたら責任を抱え込む性格をなんとかしたい
3:殺し合い打倒派の協力者を集める(バカは願い下げ)
4:殺し合いに乗ったクズに会ったらその時は……
5:屋上の男から一刻も早く離れる
※自分の本名がわからないため、仮名として『鬼女(おにめ)』と名乗ることにしました


【日本鬼子@創作発表】
[状態]:健康、疲労(中)
[装備]:グラットンソード@FF11
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ミキプルーンの苗木@ミキプルーンコピペ、一条三位のデイパック
[思考・状況]
基本:殺し合いを打破する
1:鬼女さん、クラウドさんと協力する
2:クラウドさん可愛い
3:倒れていた男(一条三位)が心配


【クラウドさん@ゲームハード】
[状態]:健康、疲労(小)、悲しみ
[装備]:バールのような物@現実
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、エルメスのティーカップ@電車男、大盛りねぎだくギョク@吉野家コピペ
[思考・状況]
基本:みんなと協力して、殺し合いから脱出する
1:鬼女と鬼子と行動。助け合いながら二人を護る
2:誰にも死んで欲しくない
3:モララーと男(一条三位)を警戒
4:屋上の男が気になる


【一条三位@AA】
[状態]:気絶、全身にダメージ(大)、左腕機能停止、ススだらけ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:優勝して、全てのzipが手に入る桃源郷を創る
1:ある程度回復するまでどこかに身を隠す
2:見た事のないこの町に興味
3:やっぱりzipが欲しい
【備考】
※イオナズンを習得しました


※一条三位の持ち物(日本刀@現実、基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=01】)、グングニル@FLASH「グングニル」、きゅうり×10@なんJ、イオナズンの巻物@FLASH「イオナズン」 、ライター@現実、不明支給品×0〜2)は日本鬼子が回収しました。
 中身の分配に関しては次の書き手の方にお任せします。
※一条三位がモッピーとレベル男のPDAを回収したかどうかも次の書き手の方にお任せします。
※一条三位の持っていた日本刀@現実は鞘がイオナズンで破壊され、刀身もボロボロのなまくらになりました。

※鬼女、日本鬼子、クラウドさんはブロントさんの呼びかけを聞きました。
※一条三位はまだ定時カキコを見ていません。

258 ◆shCEdpbZWw:2013/05/21(火) 11:22:33 ID:eKluyms.0
仮投下は以上です それではまた

259 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:08:29 ID:UCoTApuQ0
仮投下します

260 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:08:40 ID:UCoTApuQ0



 静かな街中を、たった一人で歩き続ける。
 夜の闇は既に消えて、辺りを朝の光が包んでいる。
 レストランから離れて、そんなに経ってはないはずだけど。
 何故だか、長い時間が経過しているように感じる。

「……もう、6時過ぎなのか……」

 もうそんなに経っているのか、とも思う反面。
 まだそれだけしか経っていないのか、とも思ってしまう。
 これまで、いつもの生活じゃ有り得ないような事ばかりだったけれど。
 それでもまだ、僕は生きている。でも……別の場所では、誰かが殺されているんだ。
 さっき確認した、定時更新に、殺された人の名前が載っていたから……。
 そして、誰かを殺めた人のリストの中には、やっぱり川越さんの名前が……。

(……)

 悶々とした気持ちのまま、僕は図書館に辿り着いた。重い足取りで、図書館へ入る。
 ひんやりとした空気と、図書館特有の本の匂いが、僕を迎えた。

「……確か、キバヤシさんのいた所はこっちだったはずだけど」

 朝だと言うのに、どことなく薄暗い通路を通り、キバヤシさんのいる所……資料室に向かう。
 資料室の扉を開き、キバヤシさんの姿を確認した時。

「ただいま戻り……って、えぇ!?」
「アッ、ナンダオマエ! オイキバヤシ、ヒトガキタゾ!」

 何だか小っちゃい生命体(?)がぽよんぽよんと跳ねながらキバヤシさんに向かっていく。

「む……ああ、バイク君。戻ってきたのか。随分と時間がかかったようだが……?」
「え、ああ、ちょっと」
「?」

261 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:08:56 ID:UCoTApuQ0

 どうやらキバヤシさんは、まだ定時更新を見ていないようだ……。
 ここで僕が、川越さんのことを黙っていても、頭の良いキバヤシさんなら、じきに気づく。
 なら、ここで話してしまったほうがいい……。

「……実は……」



〜〜〜



「まさか、そんな事があったとはな」
「ええ……」
「まあ……話を聞く限り、川越は料理を貶されでもしない限り自分から人に攻撃することはないようだな。
 どうしたものか……」

 そう言うと、キバヤシさんは腕を組みつつ考える。

「ソンナアブナイヤツ、ホットケバイイダロ?」
「そうは言うが……」

 ……確かに、川越さんをこのまま放置しておいていいのかどうか、分からない。
 もしあのレストランに誰も来なかったなら、何も起こらずに済むだろう。
 だが、誰かが来たら?
 そして、さっきのような事態になってしまったら?
 今度は、どうなるか分からない。

「……説得を試みるか? いや……だが……」

 なにやらブツブツと呟きながら、思案を巡らせるキバヤシさん。
 ……正直、僕にもどうすればいいのか分からない。
 常識的に考えるならば、まかりなりにも参加者を殺した人を放置しておくのは考えられない事だ。
 だが、川越さんが人まで手にかけてしまう、とは言い切れない。
 キバヤシさんも言ったが、料理を貶されでもしなければ、自分からは仕掛けないはずだ。
 なら放っておいても、あまり問題は無いのではないか……?
 だけど、何かあってから行動を起こすのでは……。

(どうすれば……どうすればいいんだろう……?)

 僕では、正しい判断が下せそうにない。
 困ってキバヤシさんの方を見ると、キバヤシさんもまた悩んでいた。

「……」

 お互い黙ったまま、ただ、時が流れた。

262 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:09:07 ID:UCoTApuQ0









 (…………)

 6時は、もうとっくに過ぎている。
 ……結局、私は。名前を定時更新で晒す事になってしまった。
 PDAを探ろうにも、イーノックの視線があった故に、行動が起こせなかった。
 そのせいで――――結局、名前が隠せなかった。

「ここをこうして……ほら、こうですよ」
「ありがとう……」

 そして、今。
 イーノックの方から、PDAを見ようと提案された所だ。
 ……断るのもおかしいし、結局応じるしかなかった。
 ひと足先に、内容に目を通す。

(…………やっぱり……載ってる)

 私の、今の名前が、しっかりと、載っている。

「……16人も殺されて……ここに載ってる奴には、気を付けないと……あなたも、気を付けて下さい。
 これに載ってる奴らがどこにいるか……!? あ、ちょ、ちょっと停めてくれ!」
「アイヨー」

 そう言うと、ゆっくりと速度を落として、路肩に寄ったままタクシーは停まった。
 一体、どうしたのだろうか。やはり、私の素性がバレてしまった!?
 喉元へ、スウッと刃物が突き付けられたかのような、恐怖が心にのしかかる。

 もしバレてしまったのならば、次に起こるのは……私への追求と非難。
 ……止めさせないと。その事実を――――言わせちゃいけない。
 言われてしまえば、私の今までやって来た事が、無駄になってしまいそうだから……。
 でも、放たれた言葉は、私の想像していたものとは全く違う物だった。

「ちょっと通り過ぎちゃいましたけど……図書館がありましたよね」
「え? ……いえ、よく見てませんでした……」
「ああ……ほら、あそこ」

263 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:09:26 ID:UCoTApuQ0

 そう言ってイーノックが指差す先には、確かに図書館があった。
 ……別に大した事じゃなかった。何だが、グッと寿命が縮んだ気がする。
 額に浮かぶ汗を手の甲で拭い、安堵の息をこぼす。
 でも。何故、私を責めないの?気付いたはずなのに……私が、人を殺した者だと言う事に。
 さっきとはまた違う恐怖が、私の心にのしかかる。
 ――――まさか、気付いた上で何も言わないの?もしそうなら、何のために?
 そんな事をする理由なんて、在る訳がない。

「図書館か。誰かいるんなら、接触を……いや、そもそも誰かいるんだろうか?」

 私が心底動揺しているのに、まるで気がついていないようだ。
 ああ、何だか全てが私を疑っている様な気さえして来た。
 いつから、私はこうなってしまったのだろうか?
 タケシを護ると決めた時から?それとも、初めて人を手にかけてしまった時?
 もしかしたら……ここに来た時点で、どこかおかしくなっていたのかもしれないけど。

「……行ってみない事には始まらないな。よし、Uターンして図書館の前に停めてくれ」
「アイヨー」





 ――――これから出会うであろう4人(と1体?)。
 果たして、それがどのような結果をもたらすのか……?

264 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:09:37 ID:UCoTApuQ0

【D-3・図書館/一日目・朝】
【マウンテンバイク@オカルト】
[状態]:健康、精神疲労(小)、川越への恐れ、苦悩
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、不明支給品×1〜3、治療用具一式@現実
[思考・状況]
基本:殺し合う気はない
1:川越さんを……どうすればいいんだろう?
2:レストランには、あまり戻りたくない……
3:"スタンド使い"って何だろうか?

【キバヤシ@AA】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、Vやねん!タイガース×36@なんでも実況J
[思考・状況]
基本:バトルロワイヤルの謎を解明する
1:川越をどうするべきか……
2:図書館以外の場所も調査したいが、今は……
3:バトロワは鮫島事件と何か関係がある……? だが、諸説が多すぎて現時点ではどうしようもない

【ジサクジエン@AA】
[状態]:(・∀・)イイ!
[思考・状況]
基本:キバヤシに従う
1:……ドースンダ?
2:ニンポーチョーニ、クワシクナッタヨ

265 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:09:48 ID:UCoTApuQ0


【D-3・図書館付近/一日目・朝】
【カーチャン@ニュー速VIP】
[状態]:健康、強いストレス、精神疲労(大)
[装備]:アロハ調館内着@現地調達
[道具]:基本支給品一式×2、PDA(忍法帖【Lv=01】)、不明支給品(武器無し)×1〜2、防弾ベスト@現実、
    壁殴り代行のチラシ@ニュー速VIP、匕首@現実、ベレッタM92(15/15)@現実
[思考・状況]
基本:必ずタケシを生き残らせる
1:……何が何だか分からなくなりそう
2:イーノックが使えるかどうか見極める。ダメなら……
3:タケシの害になりそうな参加者を、命を賭けて排除する
※竹安佐和記の名前をイーノックだと思っています
※タクシー@AAに乗っています

【竹安佐和記@ゲームサロン】
[状態]:健康、現実逃避、疲労(小)
[装備]:一番いい装備@エルシャダイ、ナックルダスター@現実
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、不明支給品(1〜2)
[思考・状況]
基本:"イーノック"として生き、全てを救う
1:図書館を調べてみよう……
2:A-10神を倒す方法が見つかり次第、A-10神を倒す
3:――――現実は見たくないけど、いつかは……
※自身をイーノックと思いこむ事で、運動能力が向上するようです。それを疑うと力が無くなります。
 ファヌソの力による物かは不明。
※タクシー@AAに乗っています

266 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:10:08 ID:UCoTApuQ0
仮投下終了です
指摘点などあればよろしくお願いします

267ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/06/15(土) 21:16:19 ID:WiEj7ZLk0
投下お疲れ様です
問題は特にありませんよー

268 ◆i7XcZU0oTM:2013/06/15(土) 21:17:42 ID:UCoTApuQ0
ありがとうございます
それでは本投下して参ります

269 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 22:45:55 ID:3NVYLIzY0
規制で投下が出来なかったので、こちらに仮投下したいと思います
ちょっと回線が不調なので時間かかると思いますが、よろしくお願いします

タイトル 「神々の戦い」

270 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 22:47:34 ID:3NVYLIzY0
ゴトン、と音がして牛乳瓶が滑り落ちてきた。
しゃがみ込んで取り出し口に手を伸ばし、慣れた手つきで蓋を取る。
そして、腰に左手を当てると、右手で瓶を握りしめて中身を一気に喉へと流し込んだ。
ごく、ごく、と数回喉が鳴る。

「……ぷはぁっ! やっぱり銭湯には牛乳に限りますねぇっ!」

朝から陽気に髪の子ファヌソが呟く。
今の今まで朝風呂を満喫していた彼が、火照った体を冷やすかのように牛乳を一気飲みする。
うっすらと白くなった口角を左手で拭うと、チラリと脱衣所にかかる大時計に目を遣った。
長針が間もなく天辺へと達し、短針は文字盤の「6」を指そうとしていた。

「ふむ……そろそろ時間のようですね。
 哀れな仔羊の命など私には興味などありませんが、情報として把握しておくに越したことはないでしょう」

万全の状態であれば、自分以外全員の命を小一時間もあれば奪うことなど容易い……それだけファヌソは自分の力に自信があった。
首に巻かれた忌々しい枷と、それが原因と見られる力の不調を除けば、自分を縛るものは何もない……ファヌソはそう考えている。
高みの見物としゃれ込み、時に場をかき回ししつつも最後はひろゆきも含めて神の力を見せつける、その方針に揺らぎはない。
それでも、本来ならば一顧だにしない他の参加者の生死の情報をファヌソが得ようとしたのには訳があった。

「十五人、ですか……決して悪くないペースでしょうかね。
 そして、殺しに乗ったのはしめて八人……この八人はまだ全員生存しているようで」

ファヌソはPDAを弄りながらしみじみと呟いた。
少なくとも、この八人ならしばらくは放っておいても場をかき乱してくれるだろう、ファヌソはそう考える。
勿論、自分に火の粉がかかるようならばその時は……とファヌソは気を緩めない。

「そして……フッ、やはりまだ生きているようですね、竹安佐和記よ」

ファヌソが最もその安否を知りたかった男、数刻前に自らの力(といっても支給品の力だが)で殺し合いの舞台に無理やり引き戻した男。
その竹安佐和記の生存を確認したところで、ファヌソはニヤリ、と口元に笑みを浮かべた。

「さすがにこれだけではあの男がどう立ち回ったのかは分かりませんが……まぁ、生さえあれば何かしらのことはするでしょう。
 命あっての物種、という言葉もあることですし……フフッ」

全てを救え、そう命じた男がとりあえずはその手を血に汚していないことが定時カキコからは読み取れた。
ここまでは全てが自分の思惑通り、この殺戮の舞台でさえ自分の手のひらの中の事であることを改めてファヌソは確信する。

271 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 22:50:36 ID:3NVYLIzY0
「それにしても……」

ただし、そんなファヌソでもままならぬことがある。
死者と下手人の発表に続いて発表された禁止エリアがそれだ。

「渡し船とやらにいれば無効化はされるようですが……恐らくは私のヘリは対象外でしょうねぇ。
 折角の機動力も今後行動範囲を歪に狭められれば使いづらくなることは間違いないでしょうし……」

ファヌソは先だって台場を調べておいた自分の判断を正しいものだったと再確認する。
台場を取り囲むようにして三つものエリアが禁止エリアに指定されていたからだ。
決して小回りが利くとは言えないヘリコプターでは、風向きの具合一つで禁止エリアに抵触する可能性は否めない。
かと言って、定時カキコで存在が示唆された渡し船が台場に泊まるという保障はどこにもなかった。
少なくとも、台場を探索した時に船を横付けできるような場所は見かけなかったはず、とファヌソは改めて思い返した。

「……さて、あまりグズグズしているのもいけません。そろそろ行かねば……
 何せ、私の力にひれ伏した仔羊はまだ竹安一人だけ……彼一人では八人もの殺人者から全てを救うのは荷が重すぎるというもの。
 なれば、また仔羊を探し出して私が導いてやらねばなりませんしねぇ」

手のかかる子供を相手にしているかのような苦笑をファヌソが見せた。
そして、自らに気合を入れるかのように自分の尻をバチィン、と一発引っ叩いた。
生まれたままの姿で定時カキコを確認していたファヌソが、悠然と白衣を着込む。
そして、颯爽と外に飛び出すと、銭湯に横付けしてあったヘリコプターへと優雅に乗り込む。
けたたましくプロペラが風切り音を立て、神の子が空へと飛び立った。
哀れな仔羊を探し求めて。





 *      *      *





「クソッ……クソッ……クソがぁっ……!!」

思い通りにいかない。
そんな苛立ちがA-10神を支配していた。

先刻はパシリに出来そうな輩をみすみす逃がしてしまった。
苛立ちからぶっ放した貴重な弾薬も使い切ってしまい、イライラを発散できない。
おまけに、自分の武器を探すよう命じた二人のパシリも戻ってくる気配が無い。
いつしか、太陽はずいぶんと昇っており、A-10のその胴体をジリジリと照らしつける。
空はまさに日本晴れ、そんな中を雄大に飛び回ることが出来れば、その苛立ちも少しは抑えられたかもしれない……が。

272 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 22:54:45 ID:3NVYLIzY0

「大体が、こんな狭っ苦しいところに俺を押し込めやがって……これじゃ、飛ぶにも飛べねえじゃねえか!!」

病院の駐車場は、ビル群に囲まれた周囲からすれば多少は開けた場所だ。
とはいえ、その程度のスペースでは軍用機たるA-10神が飛び立つにはまだまだ足りないというのが実情である。
武器もぶっ放せない、かといって自分でどこかに行こうにも飛ぶのは厳しく、走るにも狭いのでスピードを出し切れない。
夜神月とダディクールが収穫を得て帰って来ない限りは、八方塞りであった。

「奴らは何をしてやがる……! たかが武器探しに何時間かけてると思ってんだ!!」

怒りの矛先は未だ帰らぬ二人へと向けられた。
だが、矛先を向けたところでその場にいないわけだから如何ともし難い。
これがイーノック(こと竹安佐和記)やひろゆきをはじめとする主催者連中へと順々に矛先を向けるが結局は同じ事。
それがまた月とダディへと向けられ……A-10神の中では怒りが無限ループに陥っていたのだった。

A-10神も直情的ではあるが決して脳筋の愚か者ではない。
冷静になってこの閉塞感に満ちた状況を打破する方法を色々と模索するが……結局はそれも見つけられない。
彼が人の姿を取っていたのならば、まず間違いなく地団駄を踏んでいたであろう。
憤懣やるかたない、そんな思いをA-10神が抱いたその時だった。

「……ん?」

ふと、A-10神が何かの気配を感じ取った。
澄み渡った青空、その向こうから豆粒のような影がこちらへと近づいてくる。
それとともに、少しずつプロペラ音も辺りに轟き始めた。

「……チッ、なんなんだいったい……奴らが武器でも見つけて帰って来たんならいいんだがな」

僅かばかりの期待を込めて、A-10神は徐々に近づいてくるヘリコプターを認識する。
何の迷いもなくこちらに一直線に向かってくるあたり、間違いなく自分の存在を把握しているであろうことをA-10神は理解した。

「あのヘリは間違いなく俺に用があるんだろう……だが臭うな」

戦場を駆け巡ったA-10神の勘が、ついさっき抱いた期待を否定する。
傍から見ればただの戦闘機にしか見えない自分だ、その躰目当てに近づいてくる者だろう、A-10神はそう推測する。
そいつを体のいいパシリにでも出来ればいいが、先程から出会う連中の事を思えば素直な輩の方が少ないだろうと考えた。

273 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 22:59:13 ID:3NVYLIzY0

「……ちょうどいい、俺のイライラの捌け口にでもさせてもらうとするか」

溜まりに溜まった鬱憤を晴らすための餌がホイホイやって来たとA-10神は考えることにした。
ヘリコプターが駐車場に降り立つのをA-10神はただジッと待ち構える。
まるで感情を爆発させるために、グッと溜めを作るかのように。





 *      *      *





夜の空中散歩も趣があるが、東から昇る朝日を背に受けてのフライトもまた趣があるものだ。
ファヌソはそんなことを一人ごちながら、ヘリコプターを一路自らのスタート地点の方角へと向けていた。
遥か眼下に広がる街並みを見下ろすと、改めて自分が神であるという自覚をファヌソに持たせた。
耳をつんざくプロペラ音がいささか邪魔ではあったが、その程度で心を乱すほどファヌソは狭量な心の持ち主ではなかった。

ヘリコプターは海を渡り、工場地帯を横切る。
ファヌソがふと横を見れば、竹安と出会い、その命を強制的に引き戻した近鉄百貨店が聳え立っていた。
あの哀れな男は今どこで何をしているのやら、と他人事のようにファヌソは呟く。
そして、視線をちらと下に落としたその時、思わずファヌソは目を丸くした。

「ほぉ、戦闘機……ですかね」

周囲の建物からはぽっかりと空いた空間は恐らく駐車場であろうとファヌソは当たりをつけた。
そこに横たわる飛行機はあまりにも無骨な外観を露わにしていた。
少なくとも旅客機の類でないことはファヌソにも容易に想像がついたのである。

274 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:02:05 ID:3NVYLIzY0

「誰の支給品か知りませんが持て余してしまったんでしょうかね……ちょうどいい、アレも私が貰っていくとしましょう」

ファヌソがここまで出会ったのは、人間・竹安佐和記と死体となって見つかったウララーだけ。
故に、眼下に停まっているA-10神が参加者であるなどとは夢にも思っていなかった。
ウララーの造形自体が既にヒトのものではないが、それでも少なくともウララーは生物のような形態をとっていた。
まさか無生物である飛行機が参加者ではないだろうという考え、そしてヘリコプターという大型の支給品が割り当てられたという事実。
その二点がファヌソの判断を誤らせた。



開けた場所とはいえ、ヘリコプターを周囲の建物に接触させないように着陸させるのには神経を使う。
万一の事があろうと、自分が助かる自信があるファヌソではあるが、貴重な移動手段が奪われる可能性は否めない。
慎重に慎重を期してゆっくりとヘリコプターを駐車場へと着陸させた。
プロペラがゆっくりとその回る速度を落としていく。
キュゥン、とエンジンが沈黙する音を確認してから、ファヌソは白衣をなびかせて駐車場に降り立つ。
……次の瞬間、耳に響き渡る声にファヌソは思わず目を丸くした。



「……なんだァ? そのふざけた格好は!?」

不意に敵意をぶつけられるような格好となり、ファヌソは思わず辺りをキョロキョロと見回す。
どこから誰かが自分を見下ろして言葉を放ったのだと考えたが、誰かの気配を感じることは出来ない。

「なにをキョロキョロしてやがる! テメエだよ! そこの白衣着込んだテメエだ!!」
「……まさか」

ファヌソが声のする方に目を向けると、そこには自分が鹵獲しようと目をつけていた戦闘機――A-10神が鎮座していた。
理解の早いファヌソは、この戦闘機もまた参加者の一人(ヒトであるかどうかは置いておくとして)であることを受け入れる。

「いつまでも帰って来ないもやし野郎や猫耳野郎といい、さっきの妙な格好した野郎といい……ここにはロクな奴がいやしねえ!!」
「ぎゃんぎゃん五月蝿いですねぇ、子供じゃあるまいし」
「んだとぉ!?」

自分の力に絶大な自信があるファヌソは、たとえ泣く子も黙るA-10神に凄まれようと怯まない。
そして自らの力に絶大な自信があるのはA-10神もまた同じである。
自分が元いた世界で自分に忠実だった部下はもちろんのこと、ここに来てからも自分に対してここまで不遜な態度に出る者はいなかったのだ。

275 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:06:16 ID:3NVYLIzY0
「キサマ、初対面の相手……それも目上の相手に対する口の聞き方も分からんようだな」
「あなたこそ、初対面の相手にずいぶんな物言いでは? 一度鏡でもご覧になればよろしいのでは?」

A-10神が凄んでみても暖簾に腕押し、ファヌソはどこ吹く風である。
自らの怒りをさらりと受け流すかのようなファヌソの態度に、A-10神も我慢の限界を迎えようとしていた。
……だが、怒りに身を任せてみたところで、今のA-10神には何も出来なかった。
自慢のアヴェンジャーはひろゆきによって弾を奪われている。
本当なら使いたくもないチンケな(あくまでA-10神の基準である)MINIMIも先刻イーノックこと竹安佐和記を巡るいざこざで打ち尽くしてしまった。
いくら戦場で数々の輝かしい功績を打ち立てたA-10神と言えど、弾薬なしではただの飛行機である。
燃料があるだけ、まだマシであるとも言えるのだが。

「……フン、見た目によらず度胸だけはいいようだな」
「それはどうも」

忸怩たる思いでA-10神は矛を収めようとした。
下手に出るつもりなど毛頭無いが、それでもこの目の前の白衣男もパシリにして弾薬を捜させねば未来は無いことをA-10神は自覚している。

「口の聞き方についてはこれから叩き込まねばならんが、そのぐらい気骨のあるやつでないと俺の命令にはついてこれんだろうな」
「はぁ……命令?」
「そうだ、俺はあのたらこ唇のクソッタレをブチ殺してやるつもりでいる」
「それはそれは」

話半分にファヌソは聞き流す。
それはA-10神も悟っていることではあるが、構わずに持論を並べ立てる。

「それに向けて、今は忠実な下僕二人に奴を跡形も無く吹っ飛ばせるような武器を探させている」
「武器って……あなた、自分の立派な武器をお持ちではないので?」
「ケッ! 兵装は全部剥ぎ取られてんだ! 兵装の無い戦闘機なんて最早戦闘機じゃねえ!」

兵装が無い。
その言葉を耳にしてファヌソが少しばかり口角を上げ、にんまりとした笑みを浮かべる。

「戦闘機のプライドをズタズタにされてんだよ……これは最早宣戦布告以外の何物でも……おい、何だその笑顔は」
「あぁ、いえ、すみませんすみません。あまりにもあなたと私が似すぎていまして」
「はぁ?」

ファヌソは余裕綽々と言わんばかりに両の手を広げてみせる。

「実は私もちょっとした力を持っていましてね……それがあのひろゆきによって些か封じられてしまいまして」
「力だぁ? 言っとくが、俺はオカルトだのファンタジーだの、そんなのは信じねえからな」
「あなたが信じるかどうかはともかく、とにかく私もあの男には宣戦布告されたようなものだと思っていましてね。
 一泡吹かせる……いや、それでは足りませんね、奴を地獄に叩き落してやろうと考えてはいるのです」
「ほぉ、そいつはいい心がけだ」
「そこで、です」

276 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:09:31 ID:3NVYLIzY0
そこまで言って、ファヌソがずい、と一歩前に踏み出る。
ファヌソとA-10神の距離、およそ十数メートル。

「あなたがお探しの、ひろゆきを跡形も無く吹っ飛ばせるような武器……心当たりがありましてね」
「なにぃ!?」

もし、A-10神に表情というものがあるのならば、まさしく目を丸くしていただろう。
概ね想像通りの反応が返ってきたことで、ファヌソはますますその笑みを濃くしていく。

「よーし、キサマの話は分かった。それではさっさとその武器とやらを……」
「おっと、その前に」

身を乗り出すようにわずかに車輪を前に進ませたA-10神をファヌソが手で制する。
そして、次に放った言葉が二人が決して手と手を取り合うような関係でないことを浮き彫りにした。



「誰かに物を頼む態度というものを示していただけませんかねぇ?」



ファヌソとしてはA-10神の軍門に下る気などさらさらない。
むしろ、A-10神を自分が乗り回して、この下らぬ催しにさっさとピリオドを打ってしまってもいいと思っていた。
しかし、神の子としてのプライドにかけて軍門に下るどころか、対等な関係すらも拒絶する。
ファヌソからしてみれば、自分以外の参加者はすべからく自分の意のままに動くものと考えている。

神の子ファヌソとA-10神。
互いに神の名を冠する者同士は、似た者同士である故に激しく反発しあう。
まるで磁石の同じ極を近づけた時のように。



「……ふざけるなよ」

A-10神はその怒りの限界をついに突破した。

「この俺に頭を下げろだと? 俺がいなければ戦場で戦えない人間風情が!? 舐めるなッッ!!」
「この私を人間風情と同列に扱うとは、戦闘機風情が大した度胸ですね。
 所詮弾薬の尽きたあなたは鉄屑に片足突っ込んでるようなものだというのに……」
「鉄屑……!? キサマ、許さんぞ……上官命令に背いたものに命があるとでも思ったか!!」
「自分の立場もわきまえずに命令などと……しかるべき罰を加えてやる必要がありそうですねえ」

277 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:12:51 ID:3NVYLIzY0
前哨戦となる舌戦が幕を閉じる。
最初に動いたのは……兵装の無いA-10神だった。

「ミンチにしてやらあっ!!」

その巨躯を以って、一直線にファヌソへと突っ込んでいく。
アヴェンジャーもMINIMIも使えないA-10神に唯一残されたのは己が体だけである。

「おぉ、危ない危ない」

しかし、決して小回りが効くとは言えない。
おまけにほぼ停止した状態からの発進である。
ファヌソがこれを易々とかわしたのも当然の帰結であった。

「ちっ、どいつもこいつもちょこまかと……!!」

怒りに身を任せるA-10神はすぐさま方向転換を仕掛ける。
その速度は、ファヌソが想定していたよりもずっと速いものであった。
再び突っ込んでくるA-10神の前に、ファヌソの顔から余裕の色が若干失われた。
今度は機敏な動きで横に飛んでその突進を避ける……が、それをA-10神は織り込み済みだった。

「この俺から逃げられるとでも思ったか!!」

ファヌソが避けたかどうかというタイミングで、既にA-10神は方向転換の動作に入っていた。
180度回転をかける拍子に、その胴体も大きな弧を描いてファヌソに追撃をかける。

「おぉっと!」

素早く屈んでファヌソがこの攻撃もかわす。
しかし、立ち上がる前にA-10神が次の攻撃態勢に入る。

「しゃらくせえっ!!」

三度、突進を仕掛けるA-10神に対し、ファヌソの取った行動は……

「はっ!!」
「んだとぉ!?」

まっすぐ後方にジャンプして距離を取る事であった。
普通に考えれば無理な体勢であるが、神通力を使えば造作も無いこと。
風の流れを作り出し、それに身を任せる形でA-10神から離れる。

278 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:17:13 ID:3NVYLIzY0

「ケッ、そんなことをしたところで、キサマの死ぬのがちょっとだけ延びただけだ!!」

それでもA-10神は怯まない、止まらない。
ますます速度を上げ、ファヌソに迫る。
そのファヌソはというと、病院の壁を背負うような格好であった。

「死ねやぁっ!!」

これまでの最高速に達したA-10神の巨躯。
それをファヌソはギリギリまで引き付け……そして再び風の流れに乗って横へと飛び去った。
さながら、猛牛を相手にする闘牛士のごとく、猛るA-10神をあしらってみせる。

もうA-10神は止まらない。
そのまま一直線に病院の壁へと突っ込み……



ドカーン!



轟音を上げて病院の壁の一部が崩れた。
コンクリートの破片が、ガラスの破片も交えて辺りに飛び散る。
それを冷静にファヌソは避けていった。

「やれやれ、まったくたいしたじゃじゃ馬です。これで少しは大人しくなってくれれば……」

呆れた笑いを浮かべながら、ファヌソがゆっくりとA-10神へと歩み寄ろうとしたその時だった。

「逃がさねえぞ、このオカマ野郎がっ!!!」

声とともに沈黙したはずのA-10神の機体が動き始める。
周りの壁が崩れるのもお構いなしに、その期待をぐるん、と一回転させて再びファヌソと正対する。

「!?」

さすがのファヌソも驚愕の表情へと変わる。
なにせ、目の前のA-10神の機体は、ぶつけた所の塗装があちこち剥がれていたり、少し凹んでいるとはいえ、普通に動いているのだ。
どうしてか意思の疎通が図れるとはいえ、ここまで目の前の戦闘機をただの戦闘機としてしか見ていなかったからだ。
コンクリートの壁に突っ込みさえすれば機能を停止させる、そこで神通力をもってして自らの忠実な僕へと変える。
その手はずだったところで、わずかに計画に狂いが生じる……そこでファヌソの顔に一筋の汗が伝う。

「テメエも、さっきのクソ野郎もそうだ!! ちょこまかと逃げることだけは出来るようだがな……」
「さっきのクソ野郎?」

ファヌソが聞き返すと、A-10神は矢継ぎ早に言葉を返す。

279 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:19:54 ID:3NVYLIzY0
ファヌソが聞き返すと、A-10神は矢継ぎ早に言葉を返す。

「白い服にジーパンを着込んだ妙な野郎だ! 奴も口だけは回る奴だが、俺をどうこうすることは出来なかったがな!!」

A-10神が忌々しそうに先刻の出来事を思い出す。
……だが、それを聞いてファヌソの顔に再び笑みが戻った。
そのまま腹を抱えて笑い転げそうになる。

「……おい、キサマ何のつもりだ」

いきなり目の前で笑い出したファヌソを前に、さすがのA-10神も気味悪さを感じずにはいられなかった。
一方、ファヌソは愉快で愉快で仕方ない。
白い服にジーパンを着込んだ……こんな妙ちくりんな格好をした男はそう何人もいるわけではない。

(そうですか、そうですか、竹安佐和記……お前もコイツと出会っていたのですね!!)

全てを救えと命じた男が、この猛々しい戦闘機と出会っていた。
そればかりか、激昂させるような行動を取っていたという。
恐らくは、竹安もまた安易にこの戦闘機の軍門には下らなかったのだろう、ファヌソはそう推測する。

(全てを救うには強大な覚悟が必要、少なくともこのような野卑な戦闘機の言うことなど聞いている時間などありません!)

竹安が自分の意のままに動いているということを、この戦闘機を通じて知ることが出来た。
それがファヌソには愉快で愉快で仕方なかったのだ。

一方で、その反応からA-10神も目の前の優男と先刻の男に何らかの繋がりがあるであろうことを察した。

「キサマ……まさかさっきのクソ野郎の知り合いじゃねえだろうなぁ!?」
「そうだ、と言ったらどうします?」
「知れたこと!!」

結果として、日に油を注ぐような格好となった。
車輪から土埃を巻き上げ、A-10神が再び突進を仕掛ける。
鬼ごっこ第2ラウンドの開幕である。

しかし、戦況は変わらない。
追いかけるA-10神をヒラリヒラリとかわし続けるファヌソであるが、ファヌソにもまた攻め手は無い。

(しかし弱りましたね……私の神通力も少なからず封じられています。
 下手な攻撃ではあの戦闘機に傷を負わすことは出来ないでしょう……むしろその際の隙を突かれかねません)

ファヌソの手元にあるのはお医者さんカバンと、幾ばくかの弾薬だけ。
その弾薬も、仔羊に与えてやるためのもので、ファヌソ自身にそれを打ち出す手段は無い。
神通力もあるにはあるが、戦闘機に通じるとは考えづらかった。

(かと言って、ここでそのまま逃げるのは私のプライドが許しません……なにより)

それまでの柔らかな表情に、一瞬だけファヌソは真剣味を込めた。

280 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:24:27 ID:3NVYLIzY0
(哀れな仔羊が頑張っているのならば、少しだけ手を差し伸べてやろうではありませんか)

ファヌソは、A-10神を手なずけることを諦めた。
それならば、後々の憂いをここで絶ってしまおうと決めたのだ。
相手が見た目は無生物であるということも、ファヌソにその道を選ばせる一因となった。
……もっとも、この遊びに飽きたらファヌソも全員を手にかけるだけの意思はあったのだが。



ファヌソが再び風の流れに乗って距離を取る。
それを舌打ち混じりにA-10神が見据える……が、様子がおかしい。

「……何のつもりだ?」

目の前のファヌソは何やらロープのようなものを手にしていた。
これまで避けることだけしかしていなかったファヌソが初めて見せた行動である。

「そんなチンケな縄なんかで俺が止められるかよっ!!!」

構わずに突っ込むA-10神。
それを避けながら、ファヌソがロープの一端をA-10神に投げつける。
が、それは胴体にかすることも無かった。

「ハッ! このヘタクソが! 西部のカウボーイの方がもっとマシな……」

一笑に付そうとして、A-10神は違和感を覚えた。
その脚部に僅かに重さを感じたのだった。

「まさか……」

UターンしたA-10神の目に映ったのは、自分の脚からロープが一直線にファヌソへと伸びていたことだった。
だが、A-10神は怯まない。

「それがどうした!! その程度で俺が止められるとでも……」

再び前進しようとしたその瞬間だった。
ファヌソが再び風に乗ってまっすぐ後方へと飛ぶ。
もう何度も見てきた光景だった。

「馬鹿の一つ覚えみたいにそれしか出来ねえのかよっ!!」

突進ひとつしか出来ない自分を棚に上げ、A-10神が再び攻撃態勢に移ろうとする。
その瞬間、ファヌソの手にしたロープが、ピン、と張り詰めた。

281 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:26:29 ID:3NVYLIzY0





次の瞬間だった。





ブーッ! ブーッ! ブーッ!



「!?」

けたたましいアラーム音が鳴り響く。
それも、A-10神の足元からだった。
前を見ると、してやったり、といった表情でファヌソがこちらを見ていた。

「き、キサマ何をしやがった!!」

種明かし、とばかりにファヌソが口を開く。

「何、って分かりませんかねぇ、首輪ですよ、く・び・わ。
 もっとも、あなたの場合は首……機首ではなく脚の付け根にかかっているようですがね」

その一言でA-10神は何が起こったのか、そして何が起ころうとしているのかを察する。

「私が神通力で生み出したこのロープの先端には強力な磁石を付けています。
 本当なら首輪にロープを巻きつけて引っ張れればよかったんですけどねぇ、そんな隙間はありませんでしたし」

何度も何度も自分のすぐ近くを通り過ぎるA-10神の機体。
その脚に付けられていた首輪に、ファヌソは目を付けたのだった。

「確か、無理やり外そうとすれば爆発するんでしたっけ?
 いくらあなたの機体が頑丈でも……」

ファヌソの演説が続く。
だが、A-10神の耳には決して届かない。

(この俺が……爆破だとぉ? ハッ、そんなこと出来るわきゃねえだろ!!)

こんなちっぽけな首輪ひとつで自分を破壊できるなど露とも感じていない。
それは、神の名を冠するが故の驕りだったのかもしれない。

282 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:28:55 ID:3NVYLIzY0
けたたましくアラームが鳴り響くが、それがどうしたと言わんばかりに、悠然とA-10神は佇む。
それは、ファヌソの浅知恵などその体で打ち砕いてみせようという意思の表れ。



……だが。
バトルロワイアルの鉄則は、たとえ神が相手でも容赦なく牙を向く。



三十秒間にわたり、アラームが鳴り響いたその果てに、一つの轟音が駐車場に轟いた。
その爆発は、A-10神を呆気なく飲み込むほどの強さであった。



【A-10神 死亡】
【残り 47人】



 *      *      *





轟音とともに爆風が駐車場を包む。
もっとも、それそのものはファヌソにとって決して脅威ではない。
A-10神の攻撃をあしらうために何度も風の流れを作り出したのと同じ。
自分の周囲には決して累が及ばないように神通力を使ったのだ。

……だが。
ファヌソは肩を押さえ、息を荒げていた。
爆風の衝撃も、熱風も、飛び散ったA-10神の残骸さえも受けていないのに、どうして?

「……どういうことです?」

ファヌソは怪訝そうな表情で、自分の手を見つめる。
その手のひらからは自分の生み出したロープが伸びている。
そして、すぐ数メートル先で焼け落ちて跡形もなくなっていた。

「……まさか」

一つの仮説をファヌソは立てた。
そして、再び神通力で新たな物体を生み出す。



それは小さな小さなシャボン玉。
吹けばすぐに飛んで行ってしまいそうな小さなシャボン玉を、ファヌソはおもむろに指で突いてみる。
パチン、と音を立ててシャボン玉が割れたその瞬間だった。
ファヌソはなにか引っぱたかれるような感触を覚えた。

「……おのれひろゆき」

これまで余裕の表情だったファヌソが憤怒の表情へと変わる。
制限されているとはいえ、苦も無く使えると思っていた自らの神通力。
当然、何を生み出しても問題なく使えるだろうと考えていた……それもまた、神の名を冠するが故の驕りであった。
神の力を制限できている時点で、もう少しファヌソはひろゆきを警戒すべきであった。
他の参加者と同じく、ひろゆきを過小評価していたツケが回ってきたのである。

283 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:30:41 ID:3NVYLIzY0
神通力にも制限がかけられていた。
それは強力な力の行使が出来ないというだけのことではなかった。
先刻、竹安に行ったような装備の製作が可能であれば、無尽蔵に兵器を生み出すということに等しい行いである。

しかし、A-10神との戦い、そして今の実験。
これを通じてファヌソは悟る。



"神通力で生み出したものが損傷を受けると、生み出した自分もまたダメージを受ける"



ファヌソの背中を冷や汗が伝う。
なにせ、ロープと磁石が吹き飛んだだけで肩に痛みを覚えるほどだ。
そこでファヌソは嫌な予感を感じ取る。



「……もし、竹安の身に何かあったならばどうなります?
 身を覆う装備の全てが崩されたその時……私の命に保障はあるのでしょうか?」

ここにきて六時間あまり。
ファヌソが初めて焦りの色を前面に見せる。
目の前で燃え上がるA-10神の機体が、その焦りを加速させる。
明日はわが身、これを目の前で見せられているのだ。

「こうしてはいられません……!」

痛む肩を押さえてファヌソが駆け出す。
こうなった以上目的はただ一つ。



「竹安を早く見つけて保護せねば……! 最悪、装備にかけた神通力だけでも解き放ってしまえば私に怖いものなど……!」

並の参加者が自分に襲い掛かってもどうにかできるだけの自身がファヌソにはある。
だが、竹安ならどうかと問われた時に、全幅の信頼を置けるほどではなかった。
今や、ファヌソと竹安は一蓮托生、そんな存在へと自分が誘ってしまったのである。

284 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:32:21 ID:3NVYLIzY0
ファヌソはヘリコプターをすぐさまデイパックへと仕舞い込んだ。
空からはA-10神のような存在は見つけられても、人一人を見つけ出すのは困難である。



朝焼けに染まる街をファヌソが駆け出す。
全てを救え、そう命じた男を自分が救わねばならない。
そんな皮肉な運命を自らに課すような形で。



【C-3 病院・駐車場/1日目・朝】

【髪の子ファヌソ@ゲームサロン】
[状態]:肩に痛み、疲労感(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=01】)、お医者さんカバン(4/5)@ドラえもん、ヘリコプター@現実
    12.7mm弾×25、25mm弾×5
[思考・状況]
基本:気まぐれに行動する
1:竹安を探し出して保護する
2:ひろゆきをゆくゆくは地獄に落とす
3:手に入れた弾薬は、相応しい仔羊に与える
4:『裏ワザ』(死体やヘリをデイパックに収納できること)を誰かにひけらかしたい

※神通力が制限されています。自分が生み出したものが損傷を受けると、ファヌソにもダメージが及びます。
 竹安の装備が損傷を受けた際のダメージの程度については次以降の書き手の方にお任せします。

※ファヌソが立ち寄った小さな公園の中に、弾薬箱とわさび@オラサイトが放置されています。
 ファヌソが入手した物以外にも弾薬はあるようですが、種類と量は不明です。
※デイパックに参加者の亡骸を入れて持ち運べることを知りました。生者にそれが適応するかは次の書き手の方にお任せします。

※C-3の病院を発信源とする爆音が響き渡りました。

285 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:34:07 ID:3NVYLIzY0
仮投下は以上となります
どなたか代理投下をいただければ幸いです

しばらくは参加できないかと思いますが、そのうち必ず戻ってきますので では

286ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/06/18(火) 00:20:07 ID:tkjzUYCk0
仮投下お疲れ様です
問題は無いと思います
それでは代理投下を承ります

287 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:31:31 ID:Lxg7rqi60
予約分を仮投下します

288 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:31:48 ID:Lxg7rqi60

(……"私に任せろ"と孔明は言ったが、さて、どのような手を用いるのか……)

 表情一つ変えずに良策を練る孔明を、スターリンは黙ったまま観察していた。
 孔明は――――使える男なのかどうか。それとも、役に立たぬ者であるのか。
 それを見極めんと、目の前の獣……サバンナを如何にして配下に加えるかを観察していた。
 しかし孔明は、時折むむむと唸るだけで、今の所、行動を起こしてはいなかった。
 だが、そんな孔明に対して、スターリンは何も言わずに、ただ見ているだけであった。

(しかし……つくづく不可解な事ばかリだ……)

 自身の知らぬ物ばかりに触れて来たせいか、スターリンの思考対象が孔明から少し離れる。
 ……今まで、見たこともないような街並みに、建造物群。
 本来ならば、こんな所にいるはずでも、いるべきでもない猛獣。
 改めて考えてみれば、奇妙なものだ。

(ライオンはまだ分からなくもない。動物園からでも連れてくれば良いだけのこと。だが……この建物はどうだ?
 これほどの物を建築するにはかなりの時間と労働力、それと相当な量の金を要するだろう。
 果たして、それらはどこから調達してきたのか? 見る限り、あの男にそれらを調達する力は無さそうだが……)

 しかし、それらの事よりも、不可解な事がスターリンにはあった。

(――――とうの昔に死んでいるはずの孔明が、何故生きている? あの本の記述が正しいのならば、
 孔明は1500年以上前の人物と言う事になる……。そのような人間が、現代まで生きているはずもない。
 ならば、奴は"孔明"の名を騙る偽物か?)

 もしそうならば、スターリンは迷わずトカレフの引き金を引くだろう。
 だが……それをやるにはいささか早いとも思っていた。
 目の前にいる孔明が偽物なのか本物なのか、判別できない以上は……。

「……まだ掛かりそうなのか」
「もう少しお待ち下さい」

 表情を崩す事なく、孔明は返した。

289 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:32:07 ID:Lxg7rqi60

「……ならば、その身に付けている奇怪な物を少々私に貸してみろ。暇を潰すのには役に立ちそうだからな」
「分かりました」

 孔明からiPodと説明書を受け取り、説明書通りに操作してみる。
 曲のタイトルに1つづつ目を通してみるが、どれもスターリンの記憶にはない曲であった。
 それもそうだ、入っている曲はどれもスターリンの生きていた時代にはなかった曲なのだから……。
 だが、そんな中でも、少しだけスターリンの興味を引いたタイトルがあった。
 それは……。

(……"巫女みこナース・愛のテーマ"?)

 音楽である以上、聴いてみなければどんな物かは分からない。
 誘われるように、スターリンの指が、再生ボタンを押した。
 それと同時に、曲が再生されて……。




 "皆さーん、元気ですかー!?それではさっそく行ってみよー!"




「――――!? これはッ……!?」





 今まで聴いたことのないようなメロディーが、スターリンの耳を、そして心を刺激する。
 誰なのかも分からぬ声で歌われる、そこはかとないいやらしさも感じさせる歌詞。
 何もかもが初体験の中、スターリンは暫し呆然としながらもその曲を聴いていた。


(ズキズキ恋煩い……きっと変われる素敵な私……愛のリハビリ……セクシャルバイオレット……)


 気がつけば、心の中でいくつかのフレーズを、スターリンはくり返していた。
 何故なのかは、本人にしか分からない。
 だが、気がついた時にはそうしていた。
 もしかしたら、存外この曲を気に入ったのかもしれない。
 それとも、ただ単に珍しい歌詞を反復しているだけなのか。
 そこの所は、やはり本人にしか分からないのだ。

(…………ふむ、なかなか悪くない曲だ……他には何があるのか……)

290 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:32:24 ID:Lxg7rqi60

 適当にリスト内に目を通すスターリン。
 幾つものタイトルが流れて行く中、スターリンの目に留まったのは。

("Southern Cross"……南十字星か。何故このタイトルなのか分からないが、聴いてみるとしよう)

 ――――再生ボタンを押すと、先程の曲とはうってかわって力強い曲調が、スターリンの耳に。
 早口故に、先程の曲と違い歌詞をはっきり聞き取れなかったが……。
 (別段何かを恐れているわけではないが)スターリンの心に"勇ましさ"を注入してくれた。

(たまには、音楽に耳を傾けるのも悪くはない……さて、そろそろ準備も出来た頃であろう)
「孔明、用意は出来たか」
「ええ」

 少し緩んでいたスターリンの目元が、一瞬の内に鋭くなる。
 ――――孔明の力量を……いや、本人なのかどうか、見極めようとしているのだ。

「やる前に、内容を聴かせて貰おうか」
「分かりました。それでは、説明いたします」


 孔明の計画は、こうだ。
 ……まず、眠っているライオンに近づく。もちろん、警戒を怠らずに。
 そして、先程手に入れた"黒の教科書に掲載されている毒物"を使う……。


「……その、"黒の教科書に記載されている毒物"とやらは一体何だ」
「仔細は不明ですが、おそらくこれは、嗅いだ者を気絶させるような効能を持つのではないかと思われます
 ……それで、この薬を用いてライオンを気絶させるのです」
「ふむ……それで、どうする」
「ここに、紐があります。スターリン殿が音楽を聴いている間に、あそこの机より拝借しました。
 これで……手足を縛るのです。目覚めた時には……自分の置かれている状況を見て、
 "力"の差を理解するでしょう」



 ……少しの沈黙の後、スターリンが口を開いた。

291 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:32:45 ID:Lxg7rqi60
「なるほどな。"支配する者"と"される者"を教えてやろうと言うのか……悪くない。ところで、縄はどこだ?
 見た所、持っているようには見えないが」
「私の鞄の中に入っております……それでは、さっそく」
「ああ……」



(さて、これからが本番だ……。お前の力を見せてみろ、"孔明"よ……)

 瓶を片手に、足音を立てずに。
 依然小さないびきをたてて、眠ったままのライオンに近づく孔明。
 ……もちろん、いつ目覚めても良いように、もう片方の手には、武器が握られている。
 外から入るおぼろげな光が、その刀身を光らせる。

「……」

 瓶の口を、ライオンの鼻の近くまで近づける孔明。
 そして……一気に、鼻のすぐ下まで近づける!
 丁度鼻から息を吸う時であったライオンは……グーッと一気に、空気ごと吸い込んで。






「……エンッ!!」






〜〜〜〜

292 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:33:24 ID:Lxg7rqi60




「うが……」

 ……俺が目を覚ました時には、手足がひものようなもので縛られていた。
 おい、これじゃ動けねえじゃねえか。

「しかし、まさかこのライオンにまでこの首輪が嵌められているとは、驚きでしたな」
「うむ。……もしや、このライオンも"参加者"の一人かも知れぬな」

 誰だ、こいつら。人間が2人か。
 何か俺の方を見て、ベラベラ喋ってるな。

「……スターリン殿、ここに鞄がありますが……」
「ああ、おそらくこやつの物だろう。……役に立つ物があるかもしれんな。調べてみるか」

 クソッ、そいつの中にはあの旨そうな肉が入ってるんだ。
 勝手に他人の鞄の中身を検めるなんて、非常識だぜ!

「他人の鞄、勝手に開けるとかマジないわー」

 ……俺がそう言った途端、2人の人間は鳩が豆鉄砲食らったような顔して、急に黙ってしまった。

「お前ら常識ってもんがねぇのかよ……これだから人間は駄目だわー」
「喋るライオンか……孔明、聴いたことはあるか?」
「まさか」

 だが、人間2人はすぐに落ち着きを取り戻した。
 ……案外、肝が据わってるわ、こいつら。

「言葉が話せるのか、ならば知能も……よし」

 そう言うと、ちょびヒゲの男は、何かを取り出した。
 黒光りするそれは……間違いねえ、拳銃だ。
 それが、俺の頭に……ゆっくりと、迷う事無く突き付けられた。

293 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:33:40 ID:Lxg7rqi60

「――――私に従うか、ここで斃れるか。話せる程の知能があるならば、"正しい"判断が下せるはずだな」
「……ッ!!」

 やべーわ。
 ……手足が縛られてなけりゃ……いや、縛られてなくても、この状況じゃキツいわ。
 先にこの銃をもった奴を仕留めるにしても、その隙にもう片方の奴にやられるかもしれねえし。逆も然り。
 ……流石に、まだまだ死ぬ気はないぜ。
 易々と頭下げるのは、俺のプライドが許さねえが……。
 手段を選んでちゃ、サバンナじゃ生き延びられねえからな!

「……滅茶苦茶気に食わねーけど、従ってやるよ」
「ならば良し。孔明、こやつの鞄の中身をそこの机の上に出せ」
「かしこまりました」

 結局、こいつらに俺の荷物は取られるのか。
 まあ、まだ信用しきっていない相手に、武器になりそうな物を持たせるはずもないよな。

「……それは銃か? ライオンには過ぎた物だ」
「この生肉はいかがいたしましょうか」
「おそらく、こやつの食糧か何かだろう。持っていけ。あと、その銃は私が使う……こまごました物は捨てて構わん」




〜〜〜〜




(思いもよらぬ収穫だったな。新しい武器も手に入ったしな)

 先頭にサバンナを立たせ、校舎を出る一行。
 ……サバンナの背には、スターリンの持つUZIの銃口が向いている。
 もしサバンナが妙な行動を起こそうとすれば、その瞬間に……。
 それが分かっているからこそ、サバンナも下手な行動を取れずにいたのだ。
 もっとも、未だに腕は縛られたままなので、普通の行動すら取りにくくなっているのだが。

(……そう言えば、孔明の力量を上手く図り損ねてしまったな。惜しい事をした)

 だが、少なくともただの凡人では無い事だけは分かった。
 ……いつ目覚めるかも分からぬライオンに近づいた度胸は、確認できたのだから。

294 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:33:52 ID:Lxg7rqi60

「孔明、今は何時か分かるか?」

 不意に、スターリンが孔明に声をかける。
 その声に反応するように、手早く鞄からPDAを取り出し、時間を確認する孔明。

「丁度、6時でございます」

 その返事に、分かったとだけ返事をし、黙ってしまったスターリン。
 打倒ファシストを目指すスターリン、それに付き沿う孔明。
 そして、嫌々ながらも生きる為に従わされているサバンナ……。



 何とも言い難い組み合わせの一行が、何処に向かうのかは……分からない。



【A-1・学校/一日目・朝】
【孔明@三国志・戦国】
[状態]:健康
[装備]:脇差@現実
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、黒の教科書の毒物@コピペ(現地調達)、ビニール紐@現地調達
    ぞぬの肉@AA
[思考・状況]
基本:蜀に帰る
1:スターリンに従い、対主催の策を練る。
※共産主義の素晴らしさを刷り込まれつつあります。

【スターリン@軍事】
[状態]:健康
[装備]:UZI@現実(32/32)、iPod@現実
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品1〜2、トカレフTT-33(7/8)、UZIの予備マガジン
[思考・状況]
基本:ファシストを倒す集団のトップに立つ
1:疑わしきものは粛清する。
2:喋るライオンか……暫くは警戒を解かないようにせねばな
3:孔明が本物なのかを見極めたい
※1942年初めあたりの参戦です。日本人はファシストとみなされる可能性があります。
※図書室で三国志@現実を読みました。孔明の出自をある程度把握しましたが、誇張もあるかもしれないと考えています。
※死んだはずの人間が生きている事に疑念を抱いているようです。

295 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:34:04 ID:Lxg7rqi60

【サバンナ@AA】
[状態]:健康、屈辱感、手を縛られている
[装備]:なし
[道具]:なし
基本:生き残る
1:悔しいが、今は従うしか無いわ
2:とっととこいつらから逃げ出したいけど……今は無理だわー


※サバンナの鞄(基本支給品、サバンナのPDA)が、学校の給食室に放置されています



≪支給品・現地調達品紹介≫
【脇差@現実】
特に変哲のない、ただの脇差。
切れ味はまあまあある。
少なくとも、多少乱暴に扱っても壊れない程の強度はある。

【ビニール紐@現地調達】
普通のビニール紐。
キツく縛れば、解くのは容易な事ではない。

296 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:34:30 ID:Lxg7rqi60
仮投下終了です
指摘点などあったら指摘お願いいたします

297ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/07/09(火) 22:52:31 ID:1ZHX164k0
仮投下お疲れ様です
特に問題点などは無いと思います

298 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:50:23 ID:7kSsahpA0
仮投下致します

299 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:50:39 ID:7kSsahpA0
あぁ……マッマの元を飛び出してからしばらく経ったんやけど、どうも頭がズキズキと痛むわぁ。
痛い。割とホンマに痛い。頭痛ってレベルじゃないでホンマ。矢でも刺さってるような感じやで。
いや、実際に刺さったこと無いからわからへんけど多分このくらい痛いと思う。痛い。

謎の痛みに頭を抑えながらヨロヨロとやきうのお兄ちゃんは歩いていた。
もう冗談抜きで痛い。頭痛が痛い。本気で矢が刺さってるようなアレ。
いや、本当には矢なんて刺さってないよ。さっききのこが乗っかってただけ。それも既に抜いた。
仮に刺さってたら触れば気付くから。そこまでアホじゃないよ。
心当たりはあるか。ある。
チハであの軍人を懲らしめた時にマッマがハンマーでガッと殴ってきた。
もしかしてその反動で脳に異常が起きたのかもしれない。ファッキューマッマ。

「血ィ出てる様子も無いけど、怪我してるかもしれへん……。
 鏡かなんかで見たほうがええな……うぅ……」




           ¶¶¶¶¶
         (。)(。) ¶¶¶
        ノ    ) ¶¶
       <__   l¶¶¶
        ___)  l¶¶
       <__ノ  /¶
「うわあああぁぁぁぁなんやこれええぇぇぇぇ」

鏡に映る自分の姿を見て思わず悲鳴を上げた。
後頭部にフサフサと生えていたはずの髪(?)は全て、さっき抜いたはずのエノキのような気持ち悪いものでビッシリ覆われていたのだから。
やきう兄はクッソ気持ち悪い毛を掴み、思い切り引っこ抜く。
しかし、どうしたことか抜いても抜いてもキリがない。次から次へと¶が生えてくる。

「ひいいぃぃぃぃ」

¶を引き抜いた手の平にも、¶が次々と根付き、瞬く間に腕を¶に侵食されていく。
足からも、腹部からも、背中からも、¶¶¶¶で埋め尽くされる。
やがて¶きう¶お兄¶¶んの目の前が¶¶¶¶¶¶¶¶¶に……。

「ンアーッ!!!」






―――数分後、そこにあったのは¶の塊だった。


    ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
   ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
  ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
  ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
 ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
 ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
 ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
 ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
  ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
  ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
   ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
 ¶   ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶  ¶¶

   ¶¶   ¶ ¶¶ ¶   ¶



 ◆

「すっかり夜も明けちまったなァ…。夜通しで歩いたり走ったり、流石にクタクタだぜ」

300 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:50:51 ID:7kSsahpA0
ぼやきながらも足を止めず、オフィス街を歩くポルナレフ。
レストランを飛び出してから2時間、誰かしら他の参加者に会えないか期待して片っ端から探索をしていた。
他者にもスタンド使いにもスタンドが見えるかどうか知りたかったのと、承太郎たちの誰かを見つけたかったのがその理由だ。
しかし結局、路地裏やコンビニ、果ては公衆トイレに至るまで回っても、誰かがいる様子は無かった。

「チッ… 太陽が出る前に誰かに会えりゃ良かったんだがな…。
 まぁ仕方あるまい。おれ一人でも吸血鬼の相手くらいなら何とかなるだろう」

吸血鬼のいるであろう工場へと戻るべきかと考えた。
しかし、その前に少し気になっている施設に立ち寄っておきたかった。

「これがテレビ局か…。この目立つ外観、地図に書いてあるだけのことはあるな」

鏡のように磨かれたガラス張り、近未来的な形状、屋上から空へ伸びる電波塔。
他のオフィスビルとは一線を画くような巨大な建造物。
あれだけのデカさなら、きっと誰かしらいるに違いない。
彼は数秒ほど悩んだ末に、先にそこへ向かうことにした。



ぐるりと囲まれたフェンスに沿って歩き、空いている入口があったのでそこから敷地内に入る。
さらにそこから階段を上り、正面玄関から中へと入る。

ロビー。
受付があり、革製のソファと小さなガラステーブルが並び、観葉植物が置かれている。
壁には番組の宣伝ポスターがいくつも掛けられており、いくつかのテレビモニターが設置されてるところにテレビ局らしさを感じる。
モニターには番組が放送されておらず、誰もいないニューススタジオのみが映っていた。
電灯は全て消えており、何故か周囲全てのカーテンが閉められているため非常に薄暗い。
テレビや非常灯は点いているため、おそらく電気は通っているだろう。
ポルナレフはキョロキョロと周囲を見回し、歩きつつ声を張り上げる。

「おい、誰かいないのか!?」

案の定返答はどこからも来ない。声は虚しく響き渡るだけ。
よく見ればガラスが粉々に割れている箇所がある。
誰かいるのは間違いない。どこかに潜んでいるのだ。

「フン! ま、これだけの広さだ。地道に探っていくしかねぇ…」

そう言って1階をうろうろと歩き回る。
受付の裏側……パソコンや書類が積まれている事務所のようなもの。誰もいない。
社員食堂……木製の座席が多数。調理場の冷蔵庫には食料が保管されている。
そして窓ガラスが一枚、破壊されていた。少なくとも闘争があったことが裏付けられる。
守衛室……彼は扉に手をかけた。

するとその瞬間、バンッと勢いよく扉が開いた。

「うおぉっ!?」

吸血鬼田代は素早い身のこなしで逃走を図る。
一瞬呆気に取られたポルナレフだが吸血鬼の姿を見るやいなや、すぐさま追いかける。

「てめー、待ちやがれッ!!」

田代は吹き抜けとなっているロビーの2階まで飛び上がる。
あいにくポルナレフにそこまでの身体能力は無く、エスカレーターを駆け上がるしかなかった。

「逃げやがって! チクショー」

舌打ちをする。
テレビ局ならおそらく誰かいるとは思ったが、まさかあの吸血鬼が逃げ込んでいたとはな。
建物内のカーテンが片っ端から閉められているのはコイツの仕業だろう。
ならば、吸血鬼を倒す術は決まっている。

『シルバー……』

銀の鎧を纏いし騎士が姿を現す。
騎士は風を切り裂くかの如くレイピアを振り回し。

『チャリオッツ!!』

カーテンを次々と貫いていく!
紙のように容易き引きちぎられ、朝の日差しが差し込んでいく。
これで吸血鬼は1階ロビーに立ち入ることは出来ない。
そう、このままじわじわと追い詰めてやればいい!!

301 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:51:01 ID:7kSsahpA0
「さぁどうした? かかってこい吸血鬼!
 逃げれば逃げるほど、てめーを殺す聖域は広がっていくぜ」

吸血鬼を追い、2階の廊下へと走る。
一部屋ずつしらみ潰しに立ち入り、窓を開けてやる!
ポルナレフは撮影スタジオへの扉を開けた。



           、、、、
            | | | |
           _|_|_|_|
          〈〈〈〈 ヽ
          〈⊃  }
   ∩___∩  |   |
   |        ヽ/   ! クマアアアアァァァァ!!!
  /  ○   ○ |  /
  |    ( _●_)  ミ/
 彡、   |∪|  /
/ __  ヽノ /
(___)   /

                ムヾ 川 /////〃〃/// /
              タ´`ヾリ////〃〃// .彡 /
             タ   `"""´´´`ミ ニ 彡彡/
            /   〃    J ミ ニ彡彡/
            { __{(( .._   ミ ニ 彡 /
            }どo ゞ‐`ヱo~ゞ ヾミ彳う)   うわあああぁぁぁぁぁぁ
            ,'   /   ```     りノ    嘘だろ!? 何故ここにクマがッ!?
            !  ({ 、       ├タ<
         /|  ィニ‐-、      /〃リ
        r'´}! }   __ ',      / r'")
      ,r==、Zノ| レ三‐ -フ   / <ノ
    /  ハ {      ̄  /    |リ
  _../ ヲ /_ ノ) \ -‐-       リ
/´/ 〉ー "/ー‐ ヽ |`==‐ '"     ト、


そりゃビックリするよ。突然グリズリー並のデカさの熊が目の前にいたんだから。
身の丈2.5メートル程、それも敵意むき出し。これが恐れずにいられるか!?
クマは直立状態から、体重のこもったテレフォンパンチを叩き込んできた。
間一髪、横に転がって回避する。
ドガンッ、という音と共にコンクリートの壁にヒビが入る。

「な、なんて…怪力なヤローだ…」

302 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:51:16 ID:7kSsahpA0
コンクリにヒビは流石に怪力過ぎるのでは? と思う方もいるかもしれない。
しかし、体重93kgのヘビー級ボクサーの平均的パンチ力は約454kgと言われている。(ソース:yahoo!知恵袋)
さらにごく一般的なヘビィゲーマーがパンチングマシンで測っても、100とか普通に出すのだ。(ソース:ネ実板)
クマーの体重は推定300kg! それだけの体重を持ち、かつ鍛え抜かれた筋肉から放たれる威力はどれほどのものか。
もはや諸君の想像に難くないだろう。エルメスの首がパンチ一発でぶち抜かれるのも頷ける。

「たかだか森のクマさん如きに負けるかよ! 軽く突き殺してやる!」

レイピアを振るい、クマーの肉体に突き刺すッ!
腹部、胸部、腕、物体を切り裂く手応えを感じる……だが……。

「クマアアアァァァァァッッ!!!」
「なっ…ほとんど効いていないだとッーっ!?」

コンクリートを殴っても腕が破壊されない程の筋力、そして骨格ッ!!
殺し合いにおいて能力制限が掛かってないのが明らかにおかしいレベル!
逆に制限の掛けられたチャリオッツのパワーとスピードでは、簡単には致命傷に持ち込めない!

クマーは床を蹴り、甲胄の騎士へと飛びかかる。
すぐさま回避行動を取るも、スピードが少しだけ足りない……!
チャリオッツの足を思いきり掴まれ、強靭な顎、そして牙により噛み付かれる。

「うわあああああ!!」

ポルナレフの右足に穴が空き、噴水のように血が吹き出す。
続いて『ゴキッ』という鈍い音が走る。骨を砕かれたのだ。

「ぐああああああああーーーッ!!」

痛みのあまりにポルナレフは絶叫、その場に転倒した。
クマーには一切の容赦無い。倒れ込んだポルナレフに飛びかかり、重傷を負った右足に食らいつく。
左手でしっかりとポルナレフを押さえることで、身をよじって逃げることも許さない。
そのままバリバリ、グチャグチャと音を立ててポルナレフのふくらはぎを咀嚼する。

(ぐっ…マズイ、マズイ…!!)

そこで問題だ!このえぐられた足でどうやって打開するか?
3択―ひとつだけ選びなさい
答え①ハンサムのポルナレフはチャリオッツで反撃を図る。
答え②仲間がきて助けてくれる。
答え③打開出来ない。現実は非情である。

(やはり答えは……………①しかねぇようだ!)

レイピアを構え、クマーの尻に思いっきり突き刺すッ!!
体勢上正確な位置はつかめないが、その卓越した技術は見事尻を捉える!

「グマアァァァァッ!!?」

悲鳴をあげるクマー、そして放たれるカウンター!
 ___
(     ヽ∩___∩
  ̄ ̄\ | #\   /ヽ
      /  ○   ○ |
      |    ( _●_)  ミ
     彡、   |∪|  、` ‐- _
     /    .ヽノ   .)  \ \
    /      /   /  \|   |
   /     /    /   ヽ|   |
  /    _/     |    |  / |
    ∠//:::/::::::|:::l:i    /  / |
      |/;;;;/;;;;;;;/;;;|,,|   /  /  |
      //|/::::/|//  / /|  /|
    ./  // /    // / / .|
      /      /  // | /
                /  /
「うっ…うああああああああ!!」

チャリオッツが思いきり吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
ポルナレフの肉体にも衝撃が走る!

(肋骨が…………折られた……!! ダメだ、歯が立たねぇッ……クソッ)

303 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:51:32 ID:7kSsahpA0



―――答え:③
            _
【ポルナレフ@AA タヒ亡】























―――それが望んだ結末なのか―――

【ポルナレフ@AA 生存確認】

彼の主観的目線により、本当に死んだと錯覚した。
しかし、それは現実とは異なっていたのだ。

プシュウウウウウゥゥゥゥ!!! という音と共に視界が白い煙に包まれる。

「ゲホッ、ゲホッ、な、なんだこりゃあ……!」
「クッマアアァァァァ!!」

クマーは顔を手で覆い、のたうち回っている。
この隙ならどうにか抜け出せる……!

「こちらです! さぁ早く逃げましょう!」

眼鏡をかけた初老の男性が現れ、ポルナレフに肩を貸した。
そばに転がっているのは栓の抜かれた消火器。
おそらくこの男性が消火器をクマの顔に発射して助太刀をしてくれたのだろう。
抉られた右足を引きずりながら、どうにかその場を逃れる。
エレベーター前に猫が一匹待機しており、あらかじめ2階に来ていたため、すぐさま階を移動することが出来た。

「すまない、助かった…!」
「いえ、当然の事をしたまでですよ。……やはりあの熊を野放しにしてはいけませんね……」


 ◆


――5階。比較的広めの撮影用スタジオへと入った。

「俺の名はジャン・ピエール・ポルナレフだ」
「申し遅れました。私は、いわっちと申します」
「そのあんたの後ろに隠れている子猫は、あんたのペットか?
 さっきエレベーター止めておいてくれてたみたいだが、随分と賢いんだな…」
「いいえ、彼女も参加者です。名前をしぃさんと言います」
「コ、コンニチハ……」
「こいつ…喋れるのかッ!?」
「ええ、彼女は普通の猫とは違うみたいです、そして彼女以外にも言葉を話す猫がこの殺し合いに参加しています。
 ……ところで、先ほど鎧を着た方がいたと思うんですが、あなたのお連れでしょうか?」
「鎧を着た方………こいつのことか?」

そういってポルナレフは、自分の背後にシルバーチャリオッツの姿を現した。
いわっち、そしてしぃはそれを見て驚いていた。
(やはり"スタンド使い"以外にもチャリオッツの姿が見えているようだ…………)
ポルナレフは確信した。この驚き方は演技とは思えない。
念のためスタンドについて知っているか尋ねてみた。
案の定、答えはNOだった。

304 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:52:12 ID:7kSsahpA0
ポルナレフはスタンドについての知識をいわっちに説明する。
意外にもいわっちはその話に驚くことなく、すんなりと信じ、理解した。
突飛なことへの適応力が高いのか、人を疑わない性格なのか……おそらく前者だと推測する。

「剣が使える……それもかなりの実力を伴っているというのは非常に心強く思います。
 お願いがあります、あの熊を押さえ込むのに協力していただけないでしょうか?」
「助けてくれた礼だ、俺に出来ることなら力を貸すぜ。……だが一つだけ理解出来ねぇな。
 何故いわっちサンはそうまでして、テレビ局に居座りたいんだ?
 そりゃ外には殺し合いに乗ってるヤツがいるかもしれねぇが、ここにいるよりはマシじゃねーの?」
「ええ、それについては今から説明します。簡単に言えば、主催者との交渉を、そしてバトルロワイヤルの停戦を持ちかけるつもりなのです」
「バトルロワイヤルの停戦…!? ど、どうやってやるつもりなんだ?」

いわっちはひと呼吸置き、ポルナレフの質問に対し丁寧に解説を始めた。

「1階ロビーのテレビモニターは目にしていただいたと思います。
 あの映像はこのテレビ局のどこかのスタジオ……おそらく報道フロアの隣、ニューススタジオじゃないかと予測しています。
 あそこから映像を発信することで不特定多数の参加者、そして主催者にメッセージを送れるんです。
 私は殺し合いの停止を呼びかけると同時に、主催者と対話を試みるつもりです。
 このバトルロワイヤルの目的、思惑、それらを知る事が出来れば我々から解決の糸口を提示することも出来るかもしれません」
「な、なるほど……。でもよ、主催者が対話に応じなかったとしたらどうするんだ?
 俺はDIOってやつとの戦闘中に連れてこられた、つまり主催者が持つ能力は生半可なもんじゃねぇ…
 そういう大物…少なくとも自分を大物と思っているヤツが、あんたのような一般人の話に耳を傾けるかと言われれば……」
「ええ、決して一筋縄ではいかない、それは勿論わかっています。
 しかし、このテレビ放送は参加者たちにも殺し合いを止めるよう訴える事も目的としています。
 少しでも被害を縮小するきっかけになれば、決して無駄な行為では無い、私はそう考えています」

いわっちはそこまで話すとひと呼吸を置いてから、ポルナレフに尋ねた。

「この案にはきっと、まだ改善の余地があるのは否めません。
 しかし、私にこの作戦の指揮を任せて欲しい。協力してくれますか?」
「…………俺はよ、ここに飛ばされてからゴタゴタ続きで、何もわからないまま闇雲に進んできた。
 目の前の敵をどうするか、そして主催者に必ず報いをくれてやる、考えていたのはただそれだけ…。
 だが、あんたのおかげである程度、この現状に対する理解がついた。
 そう、俺はきめたぜ。このバトルロワイヤルの間、あんたに協力しよう。
 この殺し合いのを停戦、そして……不本意だが和解を目指す。
 それが俺の倒すべき真の相手、DIOにたどり着けるのであれば、その道を選ぶッ!」
「……ありがとうございます。共に力を合わせましょう」

いわっちとポルナレフは握手をかわす。
彼らの同盟関係がここに結ばれたのだ。

「さて、まずは熊の始末か……自然に出て行ってくれりゃあいいんだがな」
「いいえ、贅沢な事ではありますが、あの熊を外へ出してしまえば、犠牲者の数が増える一方です。
 だから私としてはどこかに隔離してやりたいのですが……この際殺すのもやむを得ないかもしれません」
「あぁ、殺す方が楽だ。………だが、この殺し合いに来てからどうにもスタンドが全力を発揮出来ないんだ。
 おかげであんな野生の熊ですら、倒せやしない。いっそ猟銃でもぶっぱなした方がいいと思うんだが……」
「そうですか……。しかし、私の持ち物にもしぃさんの持ち物にも、武器と言えるようなものはありませんでした」

しぃの支給品は『トランシーバー』『https://www.hellowork.go.jp/』である。
トランシーバーは通信可能なように二つセット。ハローワークの方はなんなのか不明だが、とりあえず叩きつけやすい形状だった。

「チッ…確かにこれで熊をどうにか出来るとは思えねーな……。
 さっきみたいに消火器とかで目潰しをして、その間に猛攻撃を繰り出すのがいいんじゃねーの?」
「フン……あの背丈の熊の目を狙って攻撃か? そう簡単にはうまくいかんだろうよ」

その時、上の方から低い声がした。
天井からぶら下がる照明、そこに掴まっていたのは吸血鬼、田代まさし。

305 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:52:27 ID:7kSsahpA0
「なッ……てめー! 出やがったな吸血鬼! 降りてこいッ!」

ポルナレフはすぐさまシルバーチャリオッツを出現させ、戦闘態勢に移る。
しかし田代は両手を上げ、敵意を持っていないことを示した。
彼の右腕は、肘より先のあたりでブッツリと切り落とされていた。

「待ってくれ、降参だ。私はあの熊に右腕をやられた。お前と戦っても勝ち目は無い。
 それに日が差している間は外へ逃げることも出来ない。言わば私の詰み状態だ」
「あぁ、ロビーに落ちていた右腕はあなたのものでしたか……」
「生き残るためだ、しばらくの間お前たちに協力させてくれないか? あの熊をどうにかしたいんだろう?」
「協力だァ? おれたちに吸血鬼を信用しろってのかよ」
「吸血鬼は本能的な行動がより強く出るからな……自分が生き残るためであればお前らを裏切るようなマネはせんよ。
 まずは熊だ、熊を処理さえ出来れば、あとは私に戦いを挑むなりなんなりするのは自由、どうだ?」

冷静な口調で田代はそう語った。
ポルナレフは苛立ちを露わにする。

「わかりました。でしたら、私の指示に従ってください」
「おい、いわっちさん!」
「日光のある場所にさえいれば彼は手を出せません。それに熊を捕まえる、または倒すことが今優先されるべきです」
「クッ…わかったよ」
「話がわかる者がいて助かるな」
「あ?」

揉め事が勃発する寸前にいわっちが間に入る。

「それでは私から行動指針を提示致します。まず熊を3階にあるプールまでおびき寄せます。
 プールは閉鎖空間であり、壁も分厚いコンクリートで覆われているため、閉じ込めるのに有効です。
 お二人は3階の入口で待ち構えていただくため、熊をそこまで誘導する役割は私が担います。
 プールまで誘導する戦い方はこちらから口出ししません。プールも3階から4階にかけて吹き抜けとなっております。
 私は4階の見物席からはしごを下ろしますので、プールの入口を塞いで閉じ込めたらはしごから離脱を図ってください。
 これで熊を封印することが出来ると思います。これでいいでしょうか」

二人は了承する。
すぐにいわっちの作戦は実行に移される。

306 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:52:39 ID:7kSsahpA0



     \ピシッ……/
    ¶¶¶¶¶¶   ¶¶¶¶¶
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   ¶¶   ¶ ¶¶ ¶   ¶




―――ピシピシッ、ピシッ……




                    パカッ!!
                   .....:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:.....
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   ` ∴',+:; . , .:;:;:;:;:.:.:.:... .                . ..:.:.:.:;:;:;:;:.    , +: ∵
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         000◯◯0 _,,,,, ▼,,,≡0◯
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         ¶¶¶¶ ¶ ¶   〈 (・)》 ((・)〉|     
         ¶¶¶¶ ¶ ¶  "" ̄≡|≡≡|     「いったいあたしの身に何が起こっているんだ!?」
         ¶¶¶¶ ¶ ¶≡ / ... |||≡≡|  
         ¶¶¶¶ ¶ ¶ 《    .ヽ 〉 ≡| 
         ¶¶¶¶ ¶ ¶  ゛ γ⌒〜≡/
         ¶¶¶¶ ¶ ¶    ..L_」≡/
          ¶¶¶ ¶ |   .┗━┛ |
          ¶¶¶ ¶ \   _≡/ 
              ¶¶ノ    ー、¶
              /   ¶¶人 `i
             ¶ ,ソ.   / ) |
            ¶ / |¶¶  / (メ
 ___    ¶¶/  / ⌒ 、ヽ¶
(___二二二)ミリ ( <   ¶¶ヾ )
           ⊂_)  ⊂_)

おめでとう! やきうのおにいちゃん は エルメェス に しんかした!

307 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:52:53 ID:7kSsahpA0
エルメェスは大混乱していた。
普通の混乱ではなく大混乱。

記憶が正しければグリーン・ドルフィン・ストリート刑務所でシールの効果に気がついて……。
収容所を出たら廊下じゃなくてひろゆきの前で……。

あと殺された。黄色い化物に銃で闇討ちされて、脳天をバキューンとやられた。
そう、彼女の記憶はそこからだった。

(ゆ、夢なのか…? いや、確かに私は殺され…た……いったいどうなって…………)

腹部からとめどなく流れる赤黒い鮮血、向けられた銃口、化物の歪んだ笑み、そして……。
エルメェスは全身に汗をかいていた。殺された恐怖が鮮明に蘇る。
そして、己の手のひらを見て彼女は愕然とした。

「あの、化物の……」

毒々しい黄色い肌、それが指の先、腕、胴体、足、肉体がそっくりそのままやきうのお兄ちゃんになっていた。

「うわぁあああああああああああああ!!!」

誰か…誰かどうなっているのか説明してくれ……!!

エルメェスは闇雲に走る。誰でもいい、誰かにあって自分の身に何があったのか聞きたい。
目の前にたちそびえる巨大な建物、彼女はその中へ駆けていく。

【やきうのお兄ちゃん@なんでも実況J 転生】
【エルメェス@エルメェス菌 降臨】




いわっちは2階降り、1階ロビーを見下ろして驚愕した。
何故なら異様に頭のでかいスパゲッティヘアーの女性が熊と戦っていたのだから。

「ふざけるな! ふざけるなぁあああああああ!! 意味不明な事ばかり起きやがってよォ〜〜〜〜!!
 この熊ヤローがァ!! こんなとこでおまえに食われて終わってたまるかよクソッタレが―――ッ!!!!」

女は何故かわからないが、ものすごい勢いでキレているようだった。
キレているというより、自暴自棄になっているのかもしれない。

「これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも!
 これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも!
 全部理不尽への八つ当たりだァアアアアアアアアア!!!」

その凄惨な運命に対する悲しみが、苦痛が、怒りが、熊の腹にパンチを叩き込む。
熊が押しつぶそうと倒れこむのをかわして、オラァッ! と言う掛け声と共に蹴り上げた。

『キッス!!』

手のひらを広げ、クマーを叩くと同時にシールを貼り付けた。

        ∩__  _∩
        | ノ    | |  ヽ
       /  ●  | |  ● |
        |    ( _| |●_)  ミ
       彡、    | | ||  、`\
      / __ ヽ| |ノ /´>  )
      (___) | | / (_/
       |□    | | /
   ペタッ |  /\| | \
       | /     )  )
       ∪    (  \
              \_)

     !?                !?
   ∩___∩三 ー_        ∩___∩
   |ノ      三-二     ー二三 ノ      ヽ
  /  (゚)   (゚)三二-  ̄   - 三   (゚)   (゚) |
  |    ( _●_)  ミ三二 - ー二三    ( _●_)  ミ
 彡、   |∪|  、` ̄ ̄三- 三  彡、   |∪|  ミ
/ __  ヽノ   Y ̄) 三 三   (/'    ヽノ_  |
(___) ∩___∩_ノ    ヽ/     (___)


クマーの肉体が二つに分裂ッ!!
さらに戸惑うクマーに飛び蹴りをぶつける。
なんなんだこの怒涛の攻撃は。
いわっちはその光景に唖然としていたが、やがて我に返った。

308 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:53:16 ID:7kSsahpA0
「やめなさい! 武器も一つも無しに危険です! こっちへ逃げてください!!」

先ほどからのエルメェスの徒手空拳は、ダメージとしては皆無に近かった。
クマーとの体格差の時点で既に人間の腕力では絶望的、それに加えて毛皮と筋肉の鎧を纏っているのだ。
そう、生身の人間に勝ち目なんて無い。

「武器ィ? 武器ってのは……」

混乱するクマーに張り付けられたシールを……。

「これの事かぁあああああああ!!!」

思いきり剥がすッ!!
こだまする衝撃音!! 二つのクマーの肉体が結合する!
そしてその結合は同時に、破壊を伴う……ッ!!

「グマアアアァァァァァッ!!」

胸部の皮膚が裂け、鮮血がはじけ飛んだ。

「ハァ…ハァ………って人ッ! 人いるじゃねーか!! な、なぁアンタ、一体ここは……」
「まだ! まだ死んでない!」
「ハッ!?」

シールによる一撃は、一瞬だけ怯ませただけに過ぎない。
すぐさま飛びかかるクマーに、エルメェスは押し倒される。
いわっちは咄嗟にリュックの中から『http://www.hellowork.go.jp/』を取り出し、クマーに投げつけた。
ベキッ、と音を立ててクマーの頭に直撃! 頭を抑えた隙にエルメェスはクマーから抜け出す。

「クソッ……これじゃ倒せねぇか……ッ!」
「その熊を地下駐車場へ誘導してください! 今援軍を呼んできます!」

エルメェスが無事なのを確認するといわっちはそう言って階段を駆け上がっていく。

「行っちまいやがった……ホントに来るのかよ援軍なんてよぉ!?」

あのメガネのおっさんがいなければ自分はやられてたに違いない。
しかし、どう見ても非力な見た目。援軍と言われて簡単に安心出来るはずもない。
何よりどうして地下なのだろうか、援軍がいるなら上に逃げて合流するという手もあるはずなのに。

「クマアアアァァァァァァァッッッッ!!!」

自分が熊から離れるためにアタシに地下へ誘導させようとしている可能性もある。
……あぁ、もう考えている時間は無い……!

エルメェスは地下へと階段を降りた。



「クッ……流石に疲れが……」

前半で死力を尽くしたエルメェスの体力に限界が訪れる。
熊の一撃をかいくぐって、シールを貼り付けて剥がす、そこまで出来る体力は無い。
故に彼女は柱を盾にぐるぐると逃げ回っていた。

「い、いつまでこれをやってれば……」

エルメェスがそうぼやいた時に、エレベーターの扉が開く。
天高くそびえ立つ銀髪の男、そして黒縁眼鏡の髭親父がそこにあった。

「やっと来たか……! って、なんだこの変な奴らはッ!!」
「このやろー……助太刀しに来たおれらになんてこと言いやがる!」

ポルナレフは怒鳴りながらもシルバーチャリオッツの姿を現した。

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!」

先陣を切って飛び出したのは田代。

「血管針攻撃!!」

309 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:53:30 ID:7kSsahpA0
クマーによって切り落とされた右腕の切断面を向ける。
そこから無数に発射される血管針ッ!
毛皮を突き抜け、皮膚に突き刺さり、そして血液を吸収する……!

しかし本来よりも弱体化された針は、クマーが暴れることで引き千切られる。

『チャリオッツッ!!』

ヒュンッ……と音を立ててレイピアは風を切り裂く。
その鍛え抜かれたスタンドの技術、高速の乱れ突きがクマーの肉体を次々に穴を穿つッ!
怪物のように強靭な力を携えて振り払われる腕、甲胄の騎士へと放たれる。

刹那―――シルバーチャリオッツの鎧が四散、その重量から解き放たれる。
羽の如く軽やかな動作で、その腕をスレスレで回避していくッ!

「目に焼き付けるがいい、吸血鬼の優れた肉体を、人間だった時のそれとは違うパワーをッ!!」

田代まさしの両腕、両足に切れ込みが入る。
人差し指と中指の間から、肩口に至るまで2つに割れる。

『奥義・細き八本足(ミニにタコ)ッ!!』

四肢が全て枝分かれすることにより、両腕、両足の手数を100%上昇させる技。
右腕が切り落とされた田代は、この能力により従来と同じ二つの道具を持つことが可能となる!
彼の手に握られるのはポルナレフのデイパックに入っていた支給品『トールの剛弓』、いわっちの支給品『モデルガン』。
"片腕"に二つの武器をそれぞれ握り……

それを思いきり叩きつけるッ―――!!

「クマァッ……!」

四本の足による踏み込みは、その一撃の重さをより強固なものとする……!
矢が無ければ無用の長物となるはずの弓も、吸血鬼の力をもってすれば武器へと変わるのだ。

クマーの鍛え抜かれた拳が振るわれ、田代へと叩きつけられようとする。
だが、インパクトの瞬間、クマーの視界がブレたッ!

「HEY!! シールにはこんな使い方もあるんだぜェェェェ!!」

貼り付けられたキッスのシールにより、クマーの肉体が分裂、そのため振り降ろされた位置は大幅にずれることとなる。
二度目と言えども不意を突かれたクマーには、状況を把握するための隙が生まれる。
そしてその瞬間を逃さぬチャリオッツによる連続攻撃ッ!!
甲胄の重量から開放されたその速度は、先ほどとは比にならぬほど上昇しているッ!
もう一つ、突きの威力はスピードと比例する。
つまり、上昇した速度から放たれるレイピアが、貧弱なものであるだろうか? いや、無いッ!

ここで攻撃はまだ止まない。エルメェスの手により、シールが剥がされる。

―――肉体の結合 それすなわち 肉体の損害

アンダーグラウンドの世界に、血の雨が降り注ぐ。

「グッ……マアアァァァァアアアァァァッ!!!」

クマーの咆哮が地下駐車場に響き渡る。
続けてその巨体が地面に倒れる音。
力の権化が、野生の災害が、今ここに倒れ伏したのだ……!

310 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:53:41 ID:7kSsahpA0


「……や、やったのか……ついに、倒したんだな……!」
「あぁ、そうだ。勝ったんだぜ俺たちはよ…!」
「アハハハハハッ…………勝利ィ――――ッッ!!!!!!」




ぐちゃり

「は…………?」

エルメェスの後頭部は、強靭な握力によりトマトのように潰される。
そうして彼女は力なく倒れる。

「お、おい………………あ、あんた………」

ポルナレフは突然倒れたエルメェスの名を呼ぼうとして、まだ名前を知らないことに気がつく。
そして呆然とした表情はすぐさま、エルメェスを殺した者への怒りに変わる。

「田代……てめぇ…………!」
「ククク、さっき言った通り、戦いと洒落こもうか? ポルナレフ君」

田代は血管針をエルメェスの頭に突き刺し、その血液を食す。

「あぁ、若い女の血だ……いい、いいぞ。素晴らしい!
 酒なんかよりもよっぽど美味だ! 力が溢れるようだ、気分が上昇していく!」
「絶対に、絶対に許さねぇ! やはりてめーは裏切るって最初からわかってたんだ」
「元々熊を倒すまでの話だ! それに私は初めから"若い女の血"を飲みたいと考えていたのだ!
 そのチャンスをここでおちおち逃すのはあまりにも勿体無い。
 ここには日光は差し込まん、さぁ正々堂々と戦おうじゃないか! ハハハハハh」

田代は笑い声を止めた。
己の肉体に異変を感じたのだ。
体の奥底を、何かに侵食されているような……。



        ¶


「な、なんだこれは!?」
     ¶   ¶
田代の体からエルメェスの髪の毛を構成していた『エルメェス菌』が生え始めた。
そう、血液を吸った時に彼女の体内にある菌をも取り込んでしまったのである。

「な………なんだ……? こいつ」
「くそおおぉぉ、ハメられたのか!? 何故私がこんな不可解な事にいいぃぃぃ!!」

¶¶¶¶¶を強引にむしり取る。しかし、その数は一向に減る様子が無い。
しかし、次の瞬間に二人のどちらも予測していなかった事が起きた。

「クマアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!」

311 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:54:09 ID:7kSsahpA0
悪魔が目を覚ましたのだ。
雄叫びとほぼ同時に、田代の首を軽く撥ね飛ばす。

「くそ……情けねぇ最後だ……これが人間をやめた者の末路か……畜生」

クマーは生首に齧り付き、肉を貪る。
滴り落ちる唾液、己の血と獲物の血で酷く赤黒く染まる毛。
ポルナレフはその様子を見て、底知れぬ恐怖を感じた。

階段を駆け下りる音、只ならぬ異変を聞き付け、1階で待機していたいわっちが顔を出す。

「いったいこれは……!? ポルナレフさん、田代さんとあの女性は……」
「死んだ……おい、もはやどうしたらアイツを殺せるんだ……?」
「に、逃げましょう……!」

いわっちは足を負傷したポルナレフに肩を貸し、逃げようとする。
しかし、そのあまりにも遅く、クマーによって容易く追いつかれてしまう。
クマーは目を光らせ、じわじわといわっちたちに距離を詰める。
そしてその鋭い爪で、無慈悲に二人を引き裂く……。


  エイチティーティーピーレーザー!!
      ∧∧
     (,,゚ー゚)//
   〜(__つhttps://llllllll.llllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll
        \

階段からしぃが青い光線を放ち、それはクマーの目に直撃した。

「クマアァッ!?」

クマーは視界を奪われたこと、予期せぬ痛みを受けたことにより驚いて撤退をする。
地上へとつながる駐車場の出口へと一目散に向かっていく。
逃げようとする怪物を止める術は、いわっちたちには無かった。



クマーの頭にぶつかったことで『https://www.hellowork.go.jp/』は割れてしまった。
しぃはその文字列『https://』を見て、かつて自分の仲間が行っていた技を思いついたのだった。

「……結局、二人も味方を殺してしまい、熊にも逃げられてしまいましたね……」
「いわっちサン……」
「あぁ……情けない限りです……」
「……いわっちサンよ、味方だったのは一人だけだぜ?
 それにあの熊はどっちにしろ簡単には殺せやしない。
 準備も不十分な俺らじゃどうしようもなかったんだよ」
「ポルナレフさん……」
「さぁ、どうする? 熊がいなくなってテレビ局に平穏が取り戻されたんだぞ?
 ここからがあんたの仕事だろ。さぁ、言ってくれよ。どうすればいいかを」

312 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:54:21 ID:7kSsahpA0
「……E-3エリアに市役所があります。そこで街全体に町内放送をかけるのです。
 今から2時間後、テレビを見るように、と」
「なぁ、そのまま町内放送では交渉出来ないのか?」
「あなたは得体のしれない声だけが『殺し合うな』と言われて信用出来ますか?」
「…………」
「姿を晒すことはリスクを伴います。 しかし私の姿をテレビ越しにダイレクトに見てもらうこと……。
 それは私の一挙一動、雰囲気、それら声だけではわかりえない私の情報をお届けすることが出来るのです。
 ですから、私はそこにこだわりたい。参加者にもひろゆきにも、私の全霊を"直 接"伝えることに意味があるのですから」

言わば、それは彼の誠意の現れである。
例えば拡声器を使って殺し合いの停止を呼びかけたところで、主催者は見向きもしないだろう。
なんの考えもない短絡的な、平和主義の訴え。そんなのは愚かなことに過ぎない。
テレビを使うことは違う。それも、本来であれば町内放送の機械で済むものを、あえて映像にこだわる事は、拡声器とは大きく違うのだ。
誠意を、こだわりを、意思の強さを、訴えかけなければきっと主催者は振り向かない。参加者も振り向かない。

それが、今この場で指揮を執るいわっちの持論である。
そして彼を信じるしぃも、ポルナレフも、その考えに対して反対をしない。

「し、しかしよ…おれは足が負傷しているぜ。誰が市役所へ向かうんだ?」
「そうですね……やはりここは私が走って……」
「いわっちサン、……ソノ……ワタシが行くヨ?」

少し不安げな顔を隠しきれていないが、しぃはそう言った。
思いがけぬ発言にいわっちは驚いた。

「い、いいのでしょうか? 外を単独で行動するのはかなり危険ですよ……?」
「ワタシ、いわっちサンに助けられてばかりデ、まだ何も出来てない……。
 だから、少しでも手伝いたいノ。怖いケド、なんとか上手くやるカラ……」
「しぃさん……」

常に戦いに怯えていわっちに守られていて、いわっちを慰めるくらいしか出来なかった。
そんなしぃの手伝いたいという想い、それを無下にするのは憚られた。
いわっちはしぃに片方のトランシーバーを手渡す。

「それで私といつでも通信が出来るます。いざという時はそれで私にいつでも知らせてください。
 クマーもまだ近くにいるかもしれません。なるべく隠れながら、襲われないようにしながら向かってください。いいですか?」
「ウン」
「泣かせるじゃねぇか子猫ちゃんよ……。足さえやられてなければ一緒に行ってやれたんだが……」
「イイノ。それじゃあ、行ってクル」

しぃはそう言って朝の柔らかな日差しが溢れる、戦場へと向かっていった。
先ほどのしぃよりも不安そうな顔を浮かべながら、いわっちはそれを見送る。

「私たちも行動しましょう。まずは救急箱でポルナレフさんの怪我の応急処置を、そうした報道フロアで機材の調整、放送の準備をしましょう」
「あぁ、わかった」

エレベーターに向かおうとした彼らの耳に、第三者の声が聞こえた。

「う、う〜ん……な、なんやもう……」

潰れたエルメェスの頭の中に、やきうのお兄ちゃんの頭がそっくりそのまま残っていた。
エルメェスの頭は気がつけば造形を失い、まるで¶¶¶で構成された被り物と化していた。

313 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:54:38 ID:7kSsahpA0
「なんで先ほどの息子さんがここに……」
「…とりあえず、こいつも上に運ぶしかねぇな……」
「背負うのは私しかいないのですが……」
「…あぁ、おれに肩を貸しながら背負うのは重労働だよな…置いていくか…」
「いえ、連れて行きましょうか……」


【エルメェス@エルメェス菌 死亡】
【田代まさし@ニュー速VIP 死亡】

【やきうのお兄ちゃん@なんでも実況J 復帰】


【E-2 テレビ局・地下駐車場/1日目・午前】

【いわっち@ゲームハード】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、モデルガン@サバゲ、救急箱@現実、不明支給品(0〜1・本人確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いをやめさせる
1:ポルナレフの応急処置
2:準備を整えて2時間後にテレビから"直接"停戦の意思を主張する
3:情報や人を集めたい。"異世界"の事も調べたい……


【ポルナレフ@AA】
[状態]:疲労(大)、首元に血を吸われた跡、足を重傷(骨折&噛みちぎられた肉)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品(0〜2・打撃武器は無し)、トールの剛弓@斬撃のレギンレイヴ
[思考・状況]
1:いわっちに協力する
2:承太郎たちがいれば合流を目指す


【やきうのお兄ちゃん@なんJ】
[状態]:健康、気絶
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本:生き残る
1:……
2:もうマッマに会う気はない。次に出会ったら……
※H&K USP@現実(6/16)、基本支給品一式×3、PDA(忍法帖【Lv=03】)、PSP@現実、木製のバット@現実、釘バット@現実、
 ひかりのこな@ポケットモンスター、台風コロッケ(残り11個)@現実、不明支給品×1〜3(確認済み)
エルメェス化して混乱していたため、これらの支給品をデイパックごと置き忘れました。


【E-2 テレビ局周辺/1日目・午前】

【しぃ@AA】
[状態]:健康
[装備]:httpレーザー@AA
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、トランシーバー@現実
[思考・状況]
基本:皆死んじゃうのはイヤ
1:E-3にある市役所の町内放送で、テレビを見るように呼びかける
2:ギコ君、大丈夫カナ……?
3:カイブツ(ネメア)がコワイ……できればもう遭いたくない


【クマー@AA】
[状態]:右腕骨折 、全身にダメージ(極大)、左目喪失
[装備]:鍛えぬかれた肉体
[道具]:無し
[思考・状況]
基本:野生の本能に従うクマー
1:ク
2:マ
3:|
4:!
※重傷を負ったので体を休めます。

314 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:55:00 ID:7kSsahpA0
仮投下は以上です
問題点、修正点、意見などがあればご指摘お願いします

315ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/08/05(月) 19:50:51 ID:oP4AepL20
仮投下乙です。
内容等は問題無いと思います。

316ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/08/07(水) 23:20:52 ID:b9ZinuNc0
仮投下から4日くらい経つのですが、大丈夫ですか?

317 ◆m8iVFhkTec:2013/08/07(水) 23:39:59 ID:r/lwWYic0
遅れてすみません。只今投下致しました。


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