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あと3話で完結ロワスレ
1
:
FLASHの人
:2012/12/09(日) 21:32:05
ルール等詳細は
>>2
を参照
お前が、このロワを、完結させるんだ……!
201
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/17(木) 20:39:26
【ロワ名】謎ロワ
【生存者6名】
・教会育ちのKさん@寺生まれのTさんシリーズ
・鎌田吾作@本格的 ガチムチパンツレスリング
・モナー@アスキーアート
・阿部高和@くそみそテクニック【右腕使用不可】
・ジョニー@メタルギアソリッド(MGS)4【フラッシュバックによる無力化の可能性】
・スペランカー先生@スペランカー先生【(残機的な意味で)限界寸前】
【主催者】母胎@SIREN2(消滅)、岸猿伊右衛門@かまいたちの夜2
【主催者の目的】生き残った者を利用し、死んだ者を生贄として邪神を蘇らせる
【補足】
・参加者達がいるのは離島線四号基鉄塔(SIREN2)。頂上に特異点
・首輪の代わりの呪いが全員にかけられていたが、現在は緩んでいる(解呪はされていない)
・あと2時間で全てが赤い海の底に沈み、虚無へと還る
・寺生まれの力が阿部高和に受け継がれている
・鉄塔の周りは赤い海に変化
・母胎が消滅している事を参加者は知らない
二の足を踏んでいる内に終わってしまわないように、テンプレを。本編は後日に。
202
:
名無しロワイアル
:2013/01/17(木) 23:57:14
>>201
濃いよ、とんでもなく参戦作が濃いよ!w
203
:
名無しロワイアル
:2013/01/18(金) 11:40:58
>>200
対消滅!?
手ブラジーンズ先輩のかっこよさと反転院さんの激しさ
西尾節というかめだか節なスキル
あと1話しかないのにこの展開
どれをとっても素晴らしい!
めだかボックスのロワで作られたスキルがロワイヤルボックスってのもすっごい「それっぽさ」で
終始固唾を呑みつつニヤニヤできるのがいいなぁ
最終話、楽しみに待ってます!
204
:
◆9n1Os0Si9I
:2013/01/21(月) 22:58:29
やろうか悩んだけど始めます。
【ロワ名】やきうロワ
【生存者6名】
1.小笠原@日本ハム【対主催:体中ボロボロ】
2.浅尾@中日【マーダー:右目失明】
3.新井@阪神【脱出派:全身に裂傷】
4.西口@西武【マーダー:健康】
5.斉藤@日ハム【優勝狙い:最強の24歳状態】
6.内川@SB【優勝狙い:チック、アゴが更に長くなっている】
【主催者】大松@ロッテ、NPB
【主催者の目的】NPBのスターを創り出す
カオス系ロワですが、よろしくお願いします。
なんとか今月末に間に合わせたい……!
205
:
名無しロワイアル
:2013/01/23(水) 20:30:30
ドラッキー「やきう!?」
206
:
◆9n1Os0Si9I
:2013/01/24(木) 19:59:53
>>205
日ハム小笠原「そうだぞ」
と言うことでちょっとスタンス変更だったりしたついでに名簿作ったんで投下
【ロワ名】やきうロワ
【生存者6名】
1.日ハム小笠原@日本ハム【対主催:体中ボロボロ】
2.浅尾@中日ジョイナススレ【無差別マーダー:右目失明】
3.新井悪@阪神【脱出派:全身に裂傷】
4.西口@西部の中継ぎ【対主催:健康】
5.さいてょ@日ハム【優勝狙い:最強の24歳状態】
6.内川@SB【優勝狙い:畜生度上昇】
【主催者】大松@ロッテ、NPB
【主催者の目的】NPBのスター選手を決める
9/9【巨人】
村田 / 内海 / ボウカー / マシソン / 長野 / 加藤 / 澤村 / 菅野 / 杉内
10/10【中日】
吉見 / ソト / 浅尾 / 山井 / 雄大 / 岩瀬 / 荒木 / 森野 / 和田 / 堂上直
9/9【阪神】
能見 / マートン / 鳥谷 / 新井悪 / 新井弟 / 福留 / 西岡 / 安藤 / 日高
7/7【ヤクルト】
館山 / 石川 / 由規 / ミレッジ / バレンティン / 畠山 / 相川
8/8【広島】
前田健 / 野村 / 大竹 / 今村 / バリントン / 石原 / 東出 / 堂林
10/10【DeNA】
三浦 / 藤井 / 高崎 / 須田 / 細山田 / 筒香 / 中村紀 / ラミレス / 森本 / 多村
8/8【日ハム】
斉藤 / 吉川 / 中村勝 / 武田勝 / 武田久 / 多田野 / 中田翔 / 稲葉
9/9【オリックス】
東野 / 金子千 / 小松 / 井川 / 西 / 後藤 / 坂口 / T-岡田 / 糸井
10/10【ソフトバンク】
新垣 / 巽 / 大隣 / 摂津 / 田上 / 細川 / 松田 / 本田 / 内川 / 吉村
7/7【ロッテ】
成瀬 / 里崎 / 福浦 / 荻野 / G.G.佐藤 / 神戸 / 南
5/5【楽天】
田中 / 永井 / 嶋 / 松井 / 鉄平
8/8【西武】
岸 / 西口 / 涌井 / 長田 / 岡本篤 / 十亀 / 大石 / 野上
100/100
明日短いですが288話投下します!(予告)
207
:
◆9n1Os0Si9I
:2013/01/25(金) 23:32:10
やきうロワ288話を投下します。
208
:
やきうロワ288話
◆9n1Os0Si9I
:2013/01/25(金) 23:32:39
「クッ……もうこれだけしか生存者がいないというのか……!」
北の侍、日ハム小笠原は怒りのままに壁を殴りつけた。
放送が流れ終わり、今の生存者が6人だと知らされた。
何故かタイムスリップをして2012年に来たと思えばこれだ。
とてつもない怒りが彼からこみあげる。
「何としてでも、この殺し合いを止めなくてはならない……!
本部のビルまであと少しだ……待っていろ!」
小笠原はバットを片手に再び走り出した。
【日ハム小笠原@日ハム】
[状態]体中ボロボロ
[スタンス]対主催
[装備]基本支給品、バット
◆ ◆
「ウッ……なんてことだ、田島君まで……!」
本部の中に入っていた浅尾は放送を聞き悲しみに暮れていた。
吉見や荒木、さらには尊敬する岩瀬までもいなくなってしまい、挙句の果てには田島まで。
もう彼に味方はいなかった。
いや、岩瀬が死亡してこの殺し合いに乗った時点でもう彼の周りには敵しかいなかった。
「もう、止まることはできない……この殺し合い、生き残ってやる!」
途中、他人の支給品から奪った拳銃を持ち、浅尾は立ち上がる。
あと5人殺せば終了なのだ。
出来ないことがあるはずがない。
それに自分はすでに4人も殺しているのだ。
「――――キミは、中日の浅尾君じゃないか!」
と、その中背後から声が聞こえる。
そこに立っていたのは生存者の一人――――西武の西口だった。
体に傷などは全くなく、悠然とこちらに近づいてくる。
「……どうも、西口さん」
「浅尾君、その右目は……」
「えぇ、もう見えないんですよ……ピッチングもできるかわからない」
「いいや、君は大丈夫だ! 怪我を乗り越えた君ならきっと!」
「それに――――田島君だって吉見も、岩瀬さんももうこの世には……」
「大丈夫だ、君なら乗り越えられる! だから――――」
「生還して西武ライオンズで、一緒に優勝を目指そうじゃないか!」
その西口さんの言葉はとても心に響いた。
ユニフォームを血に濡らした僕を見捨てないでいてくれるのか。
209
:
やきうロワ288話
◆9n1Os0Si9I
:2013/01/25(金) 23:33:08
でも、僕はその思いにこたえることはできない。
バン、という無機質な音が響いた。
それが何の音か説明するまでもない。
西口さんのユニフォームの腹部から赤い染みが広がっていく。
「あ、浅尾君……」
「すみません――――でも、僕はもう元に戻ろうなんて、考えられないんです」
岩瀬さんにつなぐために、今までに努力した。
その思い出を汚してまで犯した殺人と言う罪は、重かった。
それを消すのは、今までの思い出を消すのと同じだ。
だから、僕は西口さんの手を取ることはできない。
「――――そうか、残念だよ……ゴホッ!」
「憎むのなら憎んでくださって結構です、僕がしたのは……それだけの悪行ですから」
十中八九、罵詈雑言に近いものを浴びせられると思っていた。
今までの人もそうだったから。
プロ野球選手と言う、夢を与える職業として僕は、失格なのだ。
「いや……浅尾君は悪くないよ、悪いのはこんなことを考え出したNPBなんだ」
だが、予想を大きく反した。
西口さんは僕を責めるどころが、僕を悪くないといった。
その瞬間、僕の中で何かが吹っ切れたような気がした。
「ッ、うわああああああああああああああああああああああああああ!!」
ただ、叫ぶことしかできなかった。
【西口@西武 死亡】
【残り5名】
【浅尾@中日】
[状態]精神不安定、右目失明
[スタンス]無差別マーダー
[装備]基本支給品、拳銃(残り?発)
210
:
やきうロワ288話
◆9n1Os0Si9I
:2013/01/25(金) 23:33:24
◆ ◆
「――――今のは……?」
その叫び声を聞いていたのは新井だった。
浅尾のいる階の1階上の会議室で身を隠していた。
「まさかまただれか死んでしまったのか……辛いです」
悔やんでも、今の彼には何もできない。
殺し合いから逃げ続け、戦うだけの力はもうない。
彼が持っているのはにぃにこと金本のサイン色紙だけだった。
「――――とにかく、仲間になってくれそうな人……はもういないか?」
生存者はもう6人になったと言っていた。
きっとその中にはこの殺し合いに乗った人だっているはずだ。
その人を避けてどうやって味方になってくれそうな人と合流するか。
「とりあえず、ここから出なければ……だな」
意を決して、ドアの方に向かう。
とりあえず物陰に隠れて移動していけば気付かれない……だろう、多分だが。
そう思いながらドアを開ける。
「フハハハ! 見つけましたよ……!」
そこに立っていたのは、斉藤佑樹だった。
だが、雰囲気は前に彼と対戦した時と大違いだ。
「斉藤君、まさか君はこの殺し合いに……!」
「フハハハ! 僕はもうピエロなんかじゃないんですよ……!
僕にはもう吉川も田中も勝てないんですよ! 僕は最強なのですよ! フハハハハ!!」
一瞬で斉藤は俺の懐に入っていた。
何とか避けようとするが、それも構わず俺の腹にナイフが刺さった。
「グ、ハッ……!」
「フハハハハハハハハ! もう誰も僕を止めることはできませんよ!!」
ナイフが腹から引き抜かれ、体が地面へと崩れ落ちる。
生きて帰ることはできそうにない。
にぃにに、まだお礼を言っていなかったのに。
ずっと追いかけて、頑張ったのに。
「辛い、です……」
意識は、闇の中へと堕ちて行った。
【新井悪@阪神 死亡】
【残り 4名】
◆ ◆
「フハハハ! こんなもんですよ!!」
斉藤佑樹――――いや、最強の24歳となった彼は新井の死体を踏みつけた。
自分が最強なのだ。 もう誰にもピエロなどと言わせない。
「フハハハ、今まで僕をピエロだなんて言った奴を見返してやりますよ!」
彼はもう、ハンカチ王子などと言われた斉藤佑樹ではない。
ただ己が最強と証明するために殺人を続ける、殺人鬼≪ピエロ≫だった。
【斉藤@日ハム】
[状態]最強の24歳
[スタンス]優勝狙い
[装備]基本支給品、ナイフ
211
:
◆9n1Os0Si9I
:2013/01/25(金) 23:35:18
投下終了です。
名簿の日ハムの欄を 中村勝→小笠原 へと変更です。
とりあえずカオスなごちゃごちゃした完結を目標とします。
212
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:10:05
>>211
カオス上等! お互い完結目指して頑張りましょう。
剣士ロワ、第299話の投下を開始します。
ゼロガンダムのレジェンドBB発売記念に間に合わんかった……orz
213
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:11:42
蛇鉄封神丸が、轟音と共に振るわれる。その一撃でまたも洛陽宮殿の一角が崩壊したが、その刃はトゥバンに届かない。
「おおっ!」
裂帛の気合と共に、トゥバンの手の中で白き龍の聖剣“イルランザー”が翻り、タクティモンの胴を狙う。だが、タクティモンはマントでその一撃をかわすまでも無く防ぎ切った。
トゥバン・サノオの渾身の力を込めた一撃を、マントとは到底思えぬ、森守の鎧と同等以上の強度の障壁によって阻まれた。これはディアブラスから委ねられたカガクの剣ではない。折れたか、毀れたか、或いは罅が――という不安から、タクティモンが態勢を僅かに崩している隙に一時間合いを取る。
イルランザーの刀身を見遣り、トゥバンは嘆息を漏らした。罅も刃毀れも無い、万全の状態のままだったのだ。これに、トゥバンは歓喜した。
トゥバンは旅の中で2度、これは、という名剣を名工から授かる機会があった。だが、1振りは土武者との戦いで、もう1振りはディアブラスとの戦いでボロボロになってしまった。たった1度の戦いで、トゥバン・サノオの本気に耐えられなかったのだ。例外は、古のカガクの業を用いて作られた剣のみだった。
この殺し合いの舞台でも、それは同様。木刀を含めて7振りの剣を手にしたが、どれもがトゥバンの力に耐えられず、途中で折れて毀れて曲がって朽ちて果てた。ニホントウにも善し悪しがあるのだと学べた点は貴重だったともいえるが、不満は募るのみ。
漸く手に入れた、折れず毀れず曲がらずの剣であった虎錠刀も、トゥバンとの相性は悪かった。だが、決戦に臨む少し前に出会ったオキクルミと、虎錠刀と引き換えに手に入れたこの剣――イルランザーは素晴らしかった。
刀身はやや長いが、トゥバンが最も扱い慣れた両刃剣であり、剣の強度も切れ味も申し分ない。何よりも、トゥバン・サノオの全力を受け止め、そして応えてくれるだけの名剣に巡り合えた。それが何よりの実感として、イルランザーを握る両手に宿っている。持ち手の傷を少しずつ癒す力もあるらしいが、そんなものはオマケのようなものだろう。
剣の状態を気に掛ける必要も無く、目の前の人外の魔人を斬ることに全神経を集中させることができる。これほどに喜ばしいことは無い。
離れた間合いのまま、タクティモンが構えを変えた。あの体勢は突きかと予想した直後、タクティモンは5メード以上離れていた間合いを一歩で詰めて来た。
「壱の太刀・鬼神突」
高速で放たれた打突だが、それだけではない。蛇鉄封神丸に闇の瘴気が暗黒の大蛇の姿となって纏わりついたのだ。これは、森守の放った光条と同じ。触れたら不味い。しかし、これは森守の光条に比べれば、遅い。
トゥバンはタクティモンの神速の踏み込みに対応し、蛇鉄封神丸にイルランザーを打ち込み、その切っ先をずらし、軌道を逸らした。だが、闇の瘴気が僅かに身体を掠めた。
森守の吐いた光条の余波とも違う、まるで身体を咀嚼されるような痛みを感じたが、それは一瞬で和らいだ。どういうことかと、咄嗟にイルランザーを見た。
まさか、これがイルランザーの持つ癒しの力だと言うのか。だとすれば、願っても無い。タクティモンと戦う上で最良の剣を手にしていた幸運を実感し、顔に浮かぶ笑みを深める。
タクティモンは一の太刀が凌がれたことにさして動揺も見せず、すぐさま次の一手を見せた。蛇鉄封神丸を振り上げ、そのままトゥバンにではなく床に――大地に叩きつけた。トゥバンは最小限の動きでそれをかわしたが、直後、本能に任せて更に後ろに跳んだ。
「参の太刀・天守閣」
大地が、突如として隆起した。タクティモンは大地を操る力をも持ち合わせていたのかと、恐怖が全身を刺激する。自然と、笑みも深くなる。
10メードほどで大地の隆起は収まり、すぐに崩落を始めた。足場崩しと攻撃を一体化させた、あまりにもスケールの大きい技だ。だが、大剣の切っ先を大地に突き刺すという大きな予備動作が必要な以上、そう簡単にはくらうまい。
否。そろそろ受けるのはやめて、こちらからも仕掛けようか。
▽
214
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:13:31
タクティモンが着地すると同時、トゥバンの剣の一閃が迫った。蛇鉄封神丸の刃で受け、そのまま弾き返すように剣を振るう。トゥバンは僅かに身をかわしたが、完全には間に合わず掠り傷を負わせた。しかしその程度で怯むようなことは無く、トゥバンは剣を振るい続けた。
タクティモンはトゥバンの剣を、鎧やマント、蛇鉄封神丸で幾度となく受け止めた。鎧やマントには幾つか薄い切り傷ができていたが、破壊されるに至ることも無く、蛇鉄封神丸に至っては全くの無傷だ。
対して、トゥバン・サノオは見切りを損なってばかりで深手は負わずとも全身が傷だらけになっていた。イルランザーの癒しの力も蛇鉄封神丸の瘴気によって効力を封殺されており、傷口から流れ出た血が衣服を赤く染め、動く度に飛沫となって巻き散らされている。
だというのに。その顔には、笑みが浮かんでいた。恐怖で引き攣ったような、それでいて、子供のような無邪気さが混じった、不可思議な笑みだった。
それを見ている内に、タクティモンはふるえた。恐怖に震えたのか、歓喜に奮えたのか、或いは両方なのか。
必殺技は大振りでトゥバン・サノオには見切られてしまうだろうと感じていたが、己の内の猛りに任せるまま、鬼神突を放つ。しかし、今度は回避も防御も間に合わなかったのか、瘴気だけでなく蛇鉄封神丸の刃がトゥバンの肉を僅かに抉った。
次の瞬間、タクティモンは戦慄した。
215
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:13:52
トゥバンは鬼神突を受けながらも踏み込み、タクティモンの胴に強烈な一撃を叩きこんで来たのだ。
「ぐぅ……!?」
痛烈な一撃に、口から息が勝手に漏れ出す。クロンデジゾイドにも匹敵する強度を誇る鎧にも、鋭い切り傷が刻まれる。
次いで、顔面目掛けて振るわれた剣を辛うじてかわすが、仮面の端を斬られ、砕かれた。遮二無二、右手を蛇鉄封神丸の柄から放して乱雑に振るう。
しかし、既にトゥバンはタクティモンの間合いの外に離れていた。タクティモンが振り払おうとしたのは、残像だったのだ。
全身に、怖気が走る。
タクティモンの眼力を以ってしても、残像を残す巧みな体捌き、そして純粋な速さ。それなのに、何故先程までは、タクティモンの剣をかわせなかったのか。その意味は、先程の剛剣と、トゥバンの表情を見て理解した。
かわせなかったのではなく、かわさなかったのだ。
かわせばその分体勢が乱れ、踏み込みも浅くなってしまう。それではタクティモンを斬れない。だから、掠る程度にしかかわしていなかった。
理屈は分かる。しかし、それを実行に移そうという心胆、そして実現できる技量は、最早、人のそれではない。
魔人を震わせるものなど、鬼か修羅しかありえまい。
「く、くくく……ははははは……」
自然と、タクティモンの口から笑い声が漏れた。
砕けた仮面からはタクティモンの本体――1つの存在として練り固められた、数万年来溜まり続けた武人デジモン達の怨霊体が瘴気と共に噴き出ていたが、それは些細なことだった。タクティモンにとっても、トゥバンにとっても。
正直、タクティモンはトゥバンをどこか侮っていた。剣の腕こそ評価に値するが、所詮は人間であり、その身体能力はデジモンには遠く及ばないものだと。
しかし、違ったのだ。目の前に立つ男は、聖騎士オメガモン以来の――ある意味では彼以上の強敵だったのだ。
身体が奮える。今まで感じたことの無い歓喜に、魂が沸き立つ。
トゥバンは、剣を構え、笑みを浮かべたまま動かない。タクティモンが態勢を整えるのを待っているのだ。
求めているのは単純な勝利ではなく、十全の状態の相手を斬り伏せた上での、真の勝利。
それは、タクティモンも同じだった。戦略的な完璧な勝利からは程遠い、個人の自己満足とも言えるもの。それを、今はタクティモンも渇望していた。
数万年来彷徨い続けた武人達の無念の魂が、真に一丸となって咆哮する。
――目の前の修羅に剣で以って勝ってこそ、我ら戦士の本懐なり!!――
それを自覚すると同時に、タクティモンは主君であるバグラモンに詫びた。
我らが無念を汲み取り、最強の剣と共に刃に最期の振り下ろし場所を与えて下さった我が君よ。御許し下さい。貴方の御心からも、貴方へ捧げた我が士道からも外れ、ただただ歓喜に打ち震えるだけの私を。これも武人の我が儘と……諦めて下さい。
最後の未練を打ち払うと同時、タクティモンは蛇鉄封神丸を掲げ、改めて名乗りを上げる。
「我はタクティモン。蛇鉄封神丸を振るい、神を殺し世界を分断する為に造られた器なり。磨き抜いた魂、鍛え抜いた技……我が存在を成す全てを懸けて。トゥバン・サノオ……貴殿を斬る」
これを聞いて、タクティモンの言に疑問など一切持たず、剣を持つ修羅も即座に応える。
「わしが名はトゥバン・サノオ。大した肩書も持たぬ……ただ、強いものと戦いたいだけの大馬鹿よ。誉れ高き武人、タクティモンよ……おぬしを斬る」
互いが名乗りを終えると、両者は同時に踏み出した。
剣戟は更に激しく、苛烈なものへとなって行く。
それでも、2人の恐怖と喜びだけは、変わらない。
▽
216
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:15:39
逞鍛は天井近くまで跳躍し、すぐさま空中で反転し急降下。すれ違いざまに斬り付けられたが、ゼロはそれを力の盾で防いだ。だが、僅かに反応が遅れ髪の毛の先端が斬り落とされた。
衛有吾と比べて全く遜色ない速く鋭い一閃。もしも衛有吾の剣を見ていなければ、盾での防御も間に合わなかったか。
「気に食わんな、貴様は……貴様らレプリロイドは」
両手に握る二刀を自在に操りながら、逞鍛はゼロに対して怒りと嫌悪の言葉を叩きつける。だが、その声色には全く感情がこもっておらず、響きは虚ろなままだ。
右手の剣と左手の盾で二刀を捌きながら、ゼロは逞鍛に問い掛ける。
「以前、お前は心を排除したレプリロイド……鉄機武者とやらを使って、自分の国を征服しようとしていたらしいな。それと関係があるのか?」
衛有吾から聞いた話によれば、逞鍛は邪悪武者軍団という敵対勢力に、軍事の最高責任者の1人という立場でありながら自国の軍備の重要情報を漏洩して自国を窮地に追い込み、一大反攻作戦の実行段階で離反し自国軍を崩壊させ、邪悪武者軍団に自国を制圧させた。
その数年後には何食わぬ顔で邪悪武者軍団との再度の決戦に参加して自国軍を勝利に導いたが、それも全ては逞鍛自身の野望の為だった。それこそが、レプリロイドと極めて近い存在である鉄機武者軍団による自国の征服だったと、衛有吾は語った。
先程の言葉と、衛有吾から聞かされた逞鍛のかつての野望。そこに、何かのヒントがあるような気がして、ゼロは敢えて反撃に出ず、防御に徹して逞鍛の言葉を待ち続けた。
やがて、逞鍛が口を開いた。
「何故だ。何故、貴様らは心を持つ。本来、貴様らはカラクリ人形と、心を持たぬ道具存在と同じだというのに」
「何だと?」
「何故、貴様らの創造主たるあの2人は貴様らに心を持たせた? 貴様も人間にいいように利用され、同族殺しを強要されているというのに……何故、心を持ち続けている?」
僅かに、逞鍛の二刀に込められた力が増し、打ち込みが激しくなる。一方、ゼロは一瞬、息を呑んだ。
逞鍛は知っているのだ、ゼロ自身も忘れてしまった、ゼロの出自の秘密を。恐らくは、この殺し合いに連れて来る段階で時空を超える技術を用いて調べ上げたのだろう。
もしもそのことだけを告げられていたら、ゼロは同様から一気に切り崩されていたことだろう。
だが、続いて投げかけられた言葉が、オーバーヒート気味だった頭部に冷却水を浴びせたようになり、ゼロは一瞬で平素の冷静さを取り戻した。
「……俺達を作った人間の意図など知らん、本人達に聞け。そして、俺達が心を持ち続けているのは、お前と同じだ」
言うと同時に一層の力を込めて炎の剣を振るい、逞鍛の二刀を斬り払う。
「決して捨てられない感情が、想いが、この心の中にある。それだけだ」
剣を握ったまま、右手で自分の胸を叩く。
記憶回路や思考回路、感情システムなどは全て頭部にあるのだが、そこを指すことこそが当然だと、ゼロは無意識にそのように示した。
「違うな。感情など、オレはとうの昔に捨て去った。我が心も、既に無に等しき暗黒の闇……そのもの」
逞鍛はゼロの言葉を、静かに否定した。だが、揺れる瞳の奥底に一瞬だけ垣間見えたもの。それを、ゼロは見逃さなかった。
「ならば、俺を気に食わんと毛嫌い、執着するのは何故だ? それは、お前の感情じゃないのか?」
ゼロからの追及を受け、逞鍛は顔を俯け、両腕を脱力してだらりと下げた。そのまま、逞鍛は無言で佇んだ。ゼロも口を真一文字に結んで、待ち構える。
217
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:16:57
やがて、逞鍛の肩がわなわなと震え――顔を上げると同時、噴火するように逞鍛の感情が爆発した。
「黙れ、人形風情が! 己の本来の存在意義すらも忘れた欠陥品が!! 正義の虚しさも知らずに……正義の力などとほざくガラクタが!!!」
噴出される感情をそのまま載せたかのような、嵐の如く荒れ狂う二刀の剣戟を、ゼロは炎の剣と力の盾で防ぎながら、決して聞き捨てならない言葉を聞き返す。
「正義の虚しさだと?!」
先程の言葉が、どうしても聴覚センサから消えないような錯覚に陥る。その言葉にゼロ自身も思うところがあるだけに、冷静ではいられなかった。
かつて、自分の信じる正義を貫き通した果てに、友を殺め、愛する者を狂わせ死に至らしめ、涙も流せなかった。その時の悲しみが、ゼロの胸に蘇った。
ゼロの問いに応えるべく、逞鍛は力の盾を踏み台にして跳躍し、宙を舞って間合いを離した。そして、ゆっくりと語り始めた。
「かつて、己が信じた正義に殉じ、祖国の未来と平和の為に戦い散った男がいた。彼の死から間もなく戦いは終わり、彼が望んだ平和は訪れ、未来は拓かれたのだ。……なのに、なのにっ、なのにっ!!」
過去を思い出す内にその時の感情までも蘇ったのか、逞鍛は迸る激情を抑えようともせず、声を荒げた。
「戦いが終わって、平和が続いてみればどうだ! 民たちは時が経つと共に平和のありがたみを忘れ、やがてお互いの富を奪い合い、争いを繰り返すようになった! 兄者の死は無駄になったのだ!! 愚かな……己の欲を、感情を、心を制御できぬ愚か者たちのせいで!! 兄者が命を懸けて守った、国を、成す民達が……! 兄者を! 兄者の信じた正義を裏切ったのだ!!」
最後の言葉を言い切ると同時に振るわれた一撃の力強さは、正しく剛剣。防御も間に合わぬ速さの鋭き“縦一閃”がゼロの頬を斬り裂いた。
切断面からはオイルが血液のように流れ出たが、しかし、ゼロは臆することなく逞鍛を見詰め続けた。
「その絶望の中で、オレは悟ったのだ。こんな、腐りきった世界に必要なのは光ではなく、闇なのだと。邪悪蔓延る世界に、差す光など必要ない。闇に呑まれて消え去ることこそが相応しいと……!」
逞鍛の表情は、暗く、黒く、濁っていた。嘗ては光の中で生きていたからこそ、希望を信じていたからこそ、逞鍛の絶望は深く、重い。
その姿に、ゼロは友の姿を重ねていた。
――もしも俺が、イレギュラー化してしまったら――
ああ、そうか。お前は、自分がこんな風になってしまうのではないかと恐れていたんだな。
戦いを悲しむあまり、大切な者が失われる痛みに耐えられなくなって、自分の力を間違った方向に使ってしまうことを。
そして、衛有吾。お前は逞鍛が本当はどういうやつか、ちゃんと知っていて、理解していたから、こんな事に巻き込まれても奴を救おうとしていたんだな。
最大の友の苦悩と、そしてこの殺し合いの舞台で出会った友の願いを理解し、ゼロは無意識のうちの僅かな迷いすらも完全に打ち消した。
炎の剣を握る右手で、頬の傷口を拭う。
218
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:18:57
「くだらんな」
「なんだと?」
「くだらんと言った」
逞鍛の語った過去、それ故の絶望と怒りを理解した上で、ゼロはばっさりと切って捨てた。そして、毅然と逞鍛を睨み返す。
「お前の言っていることはよく分かる。俺のダチにも、昔のお前と同じような悩みを抱えている奴がいるからな。あいつはいつも、長く続かない平和を、何度終わらせても繰り返し引き起こされる戦いを、いつも悩んでいる。どうやったら戦いを終わらせることができるのか、どうやったら平和を守り続けることができるのか……とな。だからこそ断言できる。お前の絶望とやらはくだらないと!」
「人形風情が、減らず口を!!」
逞鍛が怒号を吐くが、怯みなどしない。絶対に負けられない理由と、勝たなければならない理由が増えた以上、これ以上守勢になど回らない。
逞鍛の二刀とゼロの炎の剣がぶつかり合い、激しく火花を散らす。
衛有吾や兄と同じ天翔狩人の称号を持つだけあり、逞鍛の空戦能力は極めて高い。
地上で待ち受け、落鳳破等の対空迎撃技によるカウンターを狙うのが上策だが、ゼロは敢えて飛燕脚と壁蹴りを用いて空戦に応じた。
逞鍛は刃斬武の姿の時に纏っていた鎧を追加武装として纏った高速戦闘形態となり、超高速の連撃でゼロを襲う。
だが逞鍛の攻撃は力の盾と霞の鎧の堅牢な守りによって悉く防がれ、足を狙った攻撃は壁蹴りと氷烈刃を駆使してかわされる。
そして、業を煮やした逞鍛が放った乾坤一擲の一撃に、ゼロは空円斬を合わせて迎え討つ。
縦一閃と縦回転の斬撃がぶつかり合い、ほぼ同等の力の相殺によって生じた反動の衝撃に合わせて、2人は宙を舞って距離を置く。
呼吸を整える間もおかず、ゼロは逞鍛へと問い掛ける。
「お前は民達が兄を裏切ったと、それが許せないと言ったな。なら、お前自身はどうだ」
「何を……!」
ゼロの問いに、逞鍛は明らかに動揺を露わした。怒りと、ほんの僅かな戸惑い。それを見抜いて、ゼロは更に問いを重ねる。
「今お前がやろうとしていることを知って、お前の兄貴は喜ぶのか!? お前は、今の自分自身を兄貴に誇れるのか!? お前自身が、誰よりも兄貴を裏切っているんじゃないのか!!」
まず返って来たのは刀だ。だが明らかに精彩を欠いた一撃をかわすのは容易であった。
二度、三度と繰り返し、たったそれだけで逞鍛は息を乱し、大きく肩を上下させていた。
本人は認めようとしないだろうが、何の事は無い。逞鍛もまた、下らないものだと切り捨てたはずの感情を捨て切れず、それを制御できずに暴走させてしまっていたのだ。
逞鍛は両腕をわなわなと震わせながら、しかし決して刀を手放そうとは、二刀の構えを崩そうとはしなかった。
「それでも、オレは……この道を突き進むと決めたのだ! 情を棄て、力を得て、戦いの終わらない世界を変える……戦いの無い世界に生まれ変わらせるのだと!」
逞鍛の双眸から、黒い涙が滂沱の如く溢れだす。体を伝う黒い涙は闇となり、逞鍛の体と二刀に絡みつく。
その体を震わせているのは、怒りなのか、憎しみなのか、悲しみなのか、ゼロには分からない。
涙を流せないものに、涙を流すほどの激情の如何なるかなど、分かるはずが無かった。
219
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:20:16
「非情こそ我が正義! オレは……この道を、オレの正義を貫く!!」
どんな力を手にしてでも、自分の信じた正義を貫こうとする。その力がたとえ、敵だけでなく自分自身さえも滅ぼしてしまうものであっても。
そんなことが、正しいことのはずがない。そんなことの為に、自分達の力と心はあるのではない。
それに、さっさと気付け――!
「この……馬鹿野郎!!」
2人の戦いの決着は、交差と同時に放たれた鋭き一閃。
縦一文字の紫電が落ちるよりも速く、横一文字の一閃が駆け抜けた。
一閃により鎧を斬り裂かれ、逞鍛が膝を着く。
「バ……バカなッ……! 今のは……衛有吾の、横一閃……!?」
振り返ることすらせず、逞鍛は顔を俯けたまま驚愕に目を瞠り、誰に問うたわけでもなく言葉を漏らした。
ありえないはずだと、誰より逞鍛が理解していたのだ。
ゼロの持つラーニング能力であろうと、一朝一夕で天翔狩人の一族に伝わる秘剣をここまで再現できるはずがないと。
「俺のラーニング能力……だけじゃ、ないのかもな。衛有吾が力を貸してくれた……そんな気がする」
ゼロ自身もそのことを承知しているかのように、静かに呟いた。
事実、あの瞬間にゼロは自分以外の何かの力を感じたのだ。或いは、秘められた三種の神器の真の力の片鱗だったのかもしれない。
だが、深き情愛で繋がった兄弟の過ちを止める為に、亡き友が力を貸してくれたのだと、ゼロはそう思わずにはいられなかった。
「オレは……間違っていたのか? 戦いの無い世界以上の平和など……あるはずがないのに……。オレの正義の、何が……お前に劣っていたというのだ」
逞鍛は膝を着いて俯いたまま、呆然と呟いた。ゼロは振り返り、逞鍛の背中を見詰めながら、静かに言葉を紡いだ。
「その答えは、自分で見つけ出せ。ただな、お前のような“力の正義”に溺れちまった奴にこそ……俺達は“正義の力”を見せなきゃならないんだ」
ゼロの言葉に、逞鍛は何も言い返さなかった。ゼロも今は、これ以上何も言おうとしなかった。
逞鍛の暴走は止めた。後は、衛有吾の願いの通り、彼を救うだけだ。“力の正義”ではない、自分達の“正義の力”を示し、闇を覆すことで。
ゼロが逞鍛から視線を外そうとした、その時だった。ゼロの傍らに、弾き飛ばされて来た剣が突き刺さったのだ。
その剣は、オキクルミが持っているはずの虎錠刀だった。
▽
220
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:21:08
2人の剣士の戦いは、先刻までとは異なる様相を呈していた。
タクティモンが一切の大技を封じ、ただ純粋に蛇鉄封神丸を己が技量でのみ振るうようになったのだ。
トゥバンが敢えてそれらしい隙を作って誘っても、決して迂闊には踏み込まない。下手を打てば、今度は首が落ちると分かっているからだ。
大蛇を模った大剣が、たった1人の人間を呑みこもうと迫る。だが、その牙は決してトゥバン・サノオには届かず、僅かに肉を掠めるばかり。
牙から滴る闇の猛毒も、白き龍の聖剣の力によって相殺されてしまっている。
だが、それこそが良かった。今更、剣の力だけで勝ってしまうなどと、そんな物は両者にとって無粋の極みだった。
この男を斬るのは、自分自身の力で無くてはならぬ。そうでなければ、この飢えと渇きは到底満たせるものではない。
トゥバンは自らの血で全身を赤く染めながら、タクティモンは鎧に剣戟による斬り傷を無数に刻みながら、笑っていた。
声には出さずとも、2人は、笑っていた。
何もかもを忘れて、ただ、この瞬間にのみ没頭していた。
▽
221
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:23:22
ゼロガンダムとオキクルミとスプラウトは、最初、司馬懿との戦いを優位に進めていた。
自らを“天を熾す鵬”と称する司馬懿の力はその言葉に遜色せず、剣の腕前も一流の域にあった。だが、この3人を押し留めるには些か足りない。
司馬懿の闇の呪縛をスプラウトの力によって振り払い、放たれた闇の閃光を狼の姿に転身しゼロガンダムを背に乗せたオキクルミが掻い潜り、ゼロガンダムが両手に構えた2振りの雷の剣を振るう。
司馬懿は冥黒の牙と煉獄扇でそれを受け止めようとしたが、剣士としての力量差は如何ともし難くゼロガンダムによって易々と弾かれ、両方ともがそのまま天上に突き刺さってしまった。
これを勝機と見て3人は一斉に斬りかかった。だが、司馬懿は余裕の表情を崩さなかった。
3人の刃が司馬懿を捉えようとした、その瞬間。
司馬懿の内から莫大な闇の瘴気が溢れ出て、同時に発生した衝撃波が3人を吹き飛ばした。
3人は即座に体勢を立て直したが、そこへ10個の小さな暗黒の球体が出現し、縦横無尽に飛び回りながら闇の閃光を放ち、3人を撹乱する。
やがて、闇の瘴気が晴れると――否、冥黒の牙と煉獄扇が一体化した黒金の牙翼が、暗黒瘴気を吸収しその刀身に宿らせていたのだ。
異様な光景だった。暗黒瘴気を纏った黒金の牙翼は、正しく闇だった。黒金の牙翼のあるはずのそこは、一切の光が届か暗黒の空間と化していたのだ。
「天冥獄鳳斬!」
それこそは、あらゆる光を飲み干し消滅させる闇の究極奥義。光によってその存在を現世に確立させるあらゆる物体・物質は、悉く無へと帰す。
謂わば、斬撃の形へと凝縮された暗黒星雲【ブラックホール】そのものだ。
3人は辛うじて直撃を免れたが、その余波だけで甚大なダメージを負ってしまった。
その様子を、闇の神の力を具現化させ自らと一体化させ、異形の姿へと変化した司馬懿は睥睨する。
「見事。流石、この儀式を勝ち抜き生き残った類稀なる剣士達である。その心胆、技量、体術、全てが称賛に値しよう。よもや、早々に獄鳳の姿を晒すことになろうとは」
ゆったりと、余裕を持った動作で3人を見回しながら、司馬懿は賛辞の言葉を贈る。その間にも、ファンネルによる追撃を容赦なく浴びせ、3人から反撃の芽を摘み取る。
すっ、と左手を翳し、暗黒瘴気を迸らせる。再び闇の呪縛により、ゼロガンダムの動きを封じたのだ。
「ぐ……ぬ、ぐ……!」
ゼロガンダムは闇の掌中で必死にもがくが、桁外れの闇の力を腕力だけで振り解くことは不可能だった。
司馬懿は呪縛を更に締め上げ、ゼロガンダムから指一つ動かす自由さえも奪い取る。
「中でも一際に目を引くのは……貴様だ、雷龍剣の末裔よ。スダ・ドアカ十二神の一柱の力を継ぐだけのことはあるが、何より貴様は、忌まわしき黄金神からの加護を受け、時空を超越し闇と対峙する光の騎士団の称号までも賜わされようとしている」
儀式の中で、仮初の世界を覆う闇の結界が一度だけ破られたことがある。烈火武者頑駄無が爆心の鎧を纏い命の全てを燃やして放った、爆界天衝によるものだ。
お陰でよく育っていた闇の苗床や、闇の盟主として迎え入れようとしていた者達まで諸共に消滅させられてしまった。
その時に結界に生じた一瞬の綻びを突いて、黄金神がこの儀式に対して干渉を行った。それこそが、ゼロガンダムのシャッフル騎士団への叙任に他ならない。
常闇の皇により叙任の完遂は防げているが、黄金神の加護が未だにこの場に存在している事実は消えない。
黄金神の力の欠片、黄金魂を自覚し発揮するよりも先に始末をしなければならない。
222
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:25:16
「謂わば貴様こそ、闇の宿敵にして闇の怨敵……その象徴である。故に、その肉体と精神に留まらず、魂魄の一片までも蹂躙し尽くした上で葬ろう! そして貴様の断末魔と絶望によって至上の闇を生み、常闇の皇へと捧げよう!!」
まず両腕を斬り落とし、続いて両足、次いで鎧。片目を抉り出し、首を斬り落とした上で延命の術を施し、最後には眼前で雷龍剣を砕く。
シャッフル騎士団の一角の崩落は光と闇の決戦の趨勢を暗黒へと導き、そしてゼロガンダムの惨死はこの場で宿命に抗う愚者達を絶望の底へと落とし、その魂を暗黒に染め上げることであろう。
だが、それを遮る者がいた。
「させぬわぁ!!」
裂帛の気合と共に打ち込まれたのは、イヴォワールという世界で伝わる最高峰の広域攻撃剣術、真・飛天無双斬。
空中へと高々と跳躍し、空中で反転、足の裏から魔力をジェット噴射のように放出し、重力加速も組み込んだ超加速の突進斬撃だ。
オキクルミの誘導によりその間合いに収まった暗黒球体を全て粉砕し、勢いを留めず司馬懿にまで迫る。
それを、司馬懿は黒金の牙翼で受け止めようとして、気付いた。スプラウトの狙いは司馬懿自身ではなく、ゼロガンダムを捕える闇の呪縛だ。
スプラウトはドラゴンころしを以って闇の呪縛を断ち切り、そこへすかさずオキクルミが狼の姿で駆け付け、ゼロガンダムを背に乗せて一度距離を取る。
「助かった……ありがとう、スプラウト殿、オキクルミ」
「礼には及ばぬ」
「気を抜くな、ゼロ」
3人は再び司馬懿と対峙する。しかし司馬懿の視線は、先程とは別の人物に注がれている。
「ただの鉄塊で、我が闇の呪縛を振り払うとは……。否、それ以前にだ、大剣士スプラウトよ。貴様の肉体は闇の力に染まりきり、人外の存在へと変容すらしているはず。何故、貴様は我が闇に恭順せず、その力を常闇の皇に奉らぬ」
大剣士スプラウト。かつては輝ける聖剣と謳われながら、闇の勢力の一角である破壊神サルファーの姦計により、愛する者を無残に殺された憤怒と憎悪から闇へと堕ち、闇を蓄え育む苗床と化した者。
本来であれば、常闇の皇の威光を受けた司馬懿の力に、闇の眷属は抗えないはず。だが、スプラウトは司馬懿の命に抗うばかりでなく、闇の瘴気に中てられ正気を失わず、闇の力を暴走させることすら無い。
司馬懿からの問い掛けに、スプラウトは道具入れからボロボロになったマラカスと薔薇を取り出し、静かに答えた。
223
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:29:06
「確かに、わしは肉体のみならず心までもが闇に染まり、蝕まれておった。闇を喰らったが故では無く、己が裡より溢れ出た心の闇に溺れてな。……だが、お人好しの聖騎士が、我が心に僅かな光を灯してくれた。ただ、それだけのことよ」
歌と踊りが誰より得意な、陽気で明るい好青年だった。騎士というよりも踊子か旅芸人の方がしっくりくると言ってしまえば、本人は嘆くだろうか。
スプラウトがこの殺し合いの舞台で“鬼”と見紛う剣士との戦いの後に出会ったのが、そんな愉快な聖騎士――カイだった。
カイは、スプラウトが殺し合いに乗っているにも拘わらず、手当てをして動けるようになるまでの護衛まで買って出たのだ。
何故こんなことをするのかと問うても、へらへらと笑いながら、のらりくらりとかわされるのみ。
その後も成り行きで、カイの言動に流されるまま行動を共にするようになった。
カイの真意を聞くことができたのは、彼の死の間際だった。
スプラウトを庇い、カイは致命傷を負ってしまった。
何故、殺人者の自分を庇ったのだとスプラウトが問うと、カイはこう答えた。
スプラウトの目が、泣いているようにしか見えなかった。
振るう剣も、大切な人を失った悲しみとやり場の無い怒りを、目の前の敵に叩きつけるようにしか見えなかった。
昔、初陣の折に大勢の僚友を失った、自分と重なって見えた。
そんな悲しいおじいさんを、放っておくことなどできなかった……と。
言い終えると、即死を免れたのが奇跡としか言いようの無い重傷を負いながら、カイはマラカスを握ったままバラを取り出す手品をスプラウトに見せた。
そして、スプラウトの反応を見ると、穏やかに微笑んで――そのまま、逝ってしまった。
スプラウトは、泣いた。半世紀ぶりに、最愛の家族を失った時以来に、紅く染まった双眸から透き通る涙を流し続けた。
やがて、まるでその涙がスプラウトの心を洗い流したかのように、泣きやんだスプラウトの心からはサルファーへの憎悪と復讐衝動が消えていた。
胸に残ったものは、サルファーに奪われたとばかり思っていた温もり。
今まで自分が持っていた、それなのに忘れてしまっていた、大事なもの。
そうだ、あの気が狂う程の悲しみは、自分がそれまでどれほど大切なものを持っていたのか、共にいられたのか、その証だったのだとスプラウトは悟った。
ブリアンの為にするべきは復讐では無く、彼女の為に心の底から泣いて悲しむ。ただそれだけのことで良かったのだ。
そして、カイがスプラウトにくれた優しさも、今もこの胸に共に在る。
心に確かな光を宿した――取り戻した今、スプラウトが闇に屈することなどあり得ない。
今の彼こそ、イヴォワール最強の剣士“輝ける聖剣”スプラウトなのだ。
「……そうか。紅の瞳を保ったままであるが故に見落としていたが……抜かったわ。よもや、天の刃が後天的に生まれようとはな」
司馬懿はスプラウトの話を聞き終えると、忌々しげに呟いた。
光の戦士の他に存在する、もう1つの闇の宿敵。
闇の力を宿して生まれながら、その闇の力を御して闇を斬り裂く者――天の宿命に刃向かう、闇の裏切り者。
「天の刃……?」
スプラウトはその言葉を不思議そうな表情で繰り返す。
自分の存在が更なる変質を遂げたことに、本人すらも気付いていなかったのだ。
「闇であって、闇にあらざるもの。宿命を知らず、運命を解さず、天命を心得ず、天の意志に刃向かう逆賊よ。死ぬがよい」
224
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:32:28
言葉を終えると同時、司馬懿は黒金の牙翼を振るう。かざした掌からは、闇の閃光が迸る。
それらをかわし、3人はそれぞれに司馬懿に仕掛ける。だが、司馬懿が手を翳し闇の波動を放つだけで吹き飛ばされてしまう。
しかし、オキクルミは四足の獣ならではの身軽さですぐさま体勢を立て直し、再び司馬懿へと襲いかかる。
だが、牙と爪、背負った剣も司馬懿には届かない。
それでもオキクルミの闘志は些かも衰えず、攻撃の合間に司馬懿へと言葉をぶつける。
「光の戦士と天の刃。その2つが揃って初めて、大いなる闇に対抗できる。……そうだな、司馬懿」
「宿命に抗う愚者の総称に過ぎぬ。……若虎から聞いていたか」
司馬懿の推察に、オキクルミは無言の肯定を返す。
孫権が死の間際に伝えてくれた、彼の世界に限らず、多くの世界で古から続く光と闇の宿命の戦い。
それを聞かされた時から、オキクルミは光の戦士よりも尚稀有であるという天の刃の捜索に奔走したが、遂に見つけられずにいたと、そう思い込んでいた。
だが、違ったのだ。オキクルミも気付かぬ内に、大いなる闇と戦う為の戦士達は集っていたのだ。
例外は、外で戦っているトゥバンと、オキクルミぐらいのものだ。
「ならば俺の使命は、こいつらを無事に真の敵の下まで送り届けることだ」
そうだ、強大な闇の力を振るう司馬懿との戦いですら前哨でしかない。
この後に待ち受けているという闇の根源との戦いには、オキクルミ以外の3人の力は必要不可欠だ。
故にオキクルミは、孫権たちを殺した自分がこの時まで生き延びたのはこの命の全てを懸けて、仲間達を決戦の舞台に送り届ける為だと考えていた。
「……愚かな」
オキクルミの決死の覚悟を、嘲笑すらせず、司馬懿は冷酷に踏み躙る。
再度放たれた天冥獄鳳斬は、溜めが無い為に威力が大幅に減少していたが、それでも人を殺すには十分な殺傷力を持ち、何よりも技の出が速かった。
距離を取っていたゼロガンダムとスプラウトは辛うじて攻撃をかわしたが、オキクルミだけは避け損ねてしまい、痛烈な一撃を受けてしまった。
「オキクルミ!」
高々と天井までかち上げられ、激突と同時に狼への変化も解けてしまう。オイナ族の仮面も、目元近くを残して砕け散った。クトネシリカは背に残ったが、虎錠刀だけは弾き飛ばされてしまう。
司馬懿は闇の呪縛によりオキクルミを強引に引きずり降ろし、肉の盾とするかのようにゼロガンダムとスプラウトの前に突き出す。
オキクルミは意識が朦朧としたまま、声を出すことも抵抗することもできない。
2人が躊躇により動きを止めた一瞬を見逃さず、司馬懿は黒金の牙翼を握る手に力を込める。
「貴様如き地を這いずり回る犬畜生に、煉獄を往く鳳は落とせぬ」
分も弁えず神々の戦いに関わった報いだと、そう言わんばかりに、黒金の牙翼がオキクルミの左手足を斬り落とした。
オキクルミが苦痛の叫びを上げることすら許さず、司馬懿はついで右手足も斬り落そうとして、オキクルミのクトネシリカによって阻まれた。
手足を失った痛みよりも、犬畜生呼ばわりされたまま犬死することだけは許せなかった。
命ある限り戦い続けると誓っておきながら、無駄死にどころか、自らの死で仲間達を絶望に落として堪るものか。
しかし、司馬懿はオキクルミが未だに抵抗する力を残していると見るや、宙から地面に叩き落とし、オキクルミが剣を振るえぬ状態でトドメを刺すことに切り替えた。
225
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:35:12
それを即座に察したゼロガンダムとスプラウトが駆けつけようにもこの距離では、あと一歩、間に合わない。
オキクルミは自分の命が途絶えることを悟りながら、せめて一矢を報いようと――仲間達が司馬懿を倒す為の一手を打とうと、最後の力を振り絞る。
その力の源泉は、大切なものを守るため。仲間達を、今は遠い故郷を、離れてしまった一族の皆を、友が遺したものを、ただ一心に守りたいという想い。
オキクルミの持つ本当の強さ――自分の力を自分の為では無く、誰かの為に使おうとする、その心。
其れ即ち、真の勇気。
その勇気が、今、光り輝く。
クトネシリカが青鈍色に輝き、そして虎錠刀もまた青白き輝きを放つ――。
▽
司馬懿がオキクルミの首目掛けて振り下ろした黒金の牙翼を、何者かが遮った。
それはその勢いのまま、司馬懿に強烈な一撃浴びせて壁際にまで押し出した。
オキクルミは、自分の目の前を駆けて行った神々しき四足獣の姿を見て、幽門扉を超えた先で出会ったコロポックル宿しの白い狼を連想した。
しかし、オキクルミの顔を覗き込んで来たのは白い狼では無く、碧眼の白虎だった。
「……孫権?」
白虎の紺碧の瞳を見て、オキクルミは何故か、孫権の名を呼んでいた。孫権とは似ても似つかぬ獣だというのに。
孫権の名で呼ばれた白虎は、何故だかとても嬉しげに喉を鳴らした。
「バカなッ、虎燐魄だと!? 虎暁の魂を継ぐ者亡き今に、何ゆえ……!?」
白虎の姿を見て、司馬懿が目を血走らせて叫んだ。その狼狽ぶりは、今までの余裕を保った姿からは想像できないものだった。
白虎がそれだけの存在だと気付くと、そこへゼロガンダムとスプラウトが駆けつけてくれた。
「オキクルミ! 待っていろ、すぐに手当を……!」
スプラウトが司馬懿との間に立ち塞がり、ゼロガンダムはオキクルミの傷を手当てしようと治療道具を探っている。
だが、自分達の持ち物の中には、手足の欠損をどうにかできるような物が無いことを、オキクルミは既に理解していた。
しかし、不思議と焦燥も不安は無く、それよりも、もっと別の事が気にかかっていた。
「いや……いい。それよりも、肩を、貸してくれないか。1人では、体も起こせそうにない」
ゼロガンダムは一瞬、手の動きを止めてオキクルミの顔を覗き込んだ。
目元は仮面に隠れているが、決して捨て鉢になったわけではないことは伝わったのか、ゼロガンダムは怪訝そうな表情ではあったが肩を貸して体を起こしてくれた。
右手足の傷口からは大量の血が流れ出ていて、衣服も血まみれになってしまっていたが、少しも気にならなかった。
オキクルミは改めて、白虎の姿を具に見た。そして、その腹に収められている剣を――月のように青白く輝く、真の姿となった虎錠刀を目にして、驚愕に目を瞠った。
それを待っていたかのように、白虎は雄叫びを上げると眩い光に包まれ、そのままオキクルミを包みこんだ。
――友よ、君が心に真の勇気を宿す限り、我が魂は、君と共に在り続ける。
聞こえた声は、決して、幻などでは無い。
「孫権! 本当に、お前なのか……」
返事は無かった。代わりに、オキクルミは輝く衣と水晶のように透き通る青い鎧を身に纏い、砕けた狼の仮面は白虎の仮面へと変化して再生した。
切断されたはずの手足は繋がれ、両の手にはそれぞれの輝きを放つクトネシリカと虎錠刀が握られていた。
自らの過ちにより殺めてしまった友に、許されたのみならず、二度までも救われた。
オキクルミは喜びの涙を堪えることができず、頬を一筋の涙が伝った。
▽
226
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:37:16
「オキクルミ、ゼロ、スプラウト! どうやら、3人とも無事のようだな」
虎錠刀から現れた虎がオキクルミを助けて融合するまでの過程に目を奪われていたゼロだったが、オキクルミが助かったのだと気付くと、すぐに3人の下へ駆けつけた。
4人はそれぞれ顔を見合わせると、何も言わずに互いに頷き合い、新たなる光の戦士の誕生に激怒する闇の使徒に対峙する。
「天翔狩人、イセアデュッオの聖騎士、そして轟大帝! 貴様ら、神ならぬ人の身で……死して尚、宿命に抗うというのか!!」
この場にいないはずの、とうに死んだ者達の名を呼び、司馬懿は怒声を巻き散らす。
黄金神の加護を受けるゼロガンダムならばいざ知らず、死んだただの人間が生きる者に力を与え光となるなど、言語道断。
この世の全てを司る真理の一つ、生者必滅の理に背くことなど、ただの人間に、しかも死人に許されるはずがないのだ。
だが現実に、死なせてしまった友たちの想いを胸に、4人の剣士はこの場に集った。光と闇の宿命によってではなく、友との誓いを果たす為に。この悲劇を終わらせる為に。
両者が視線を交錯させた直後、戦いの幕を下ろす剣戟が走った。
司馬懿が剣を振るう暇すら与えず、ゼロの横一閃が黒金の牙翼を握る司馬懿の右腕を斬り落とし、スプラウトの豪剣が司馬懿を覆い守護していた闇を払い、碧眼の獣神へと転身したオキクルミの振るう2連撃が司馬懿の鎧を砕く。
そして、ゼロガンダムが両手に握った雷の剣の力を最大限に発揮させて放った×の字の斬撃が、司馬懿の肉体を斬り裂いた。
「名付けて……“重ね雷龍衝【ドラゴンインパルスX】”」
闇を祓う天の刃の力、そして強い光の力に体を砕かれた司馬懿は、もはや再生することも叶わない。
だが、それでも、その瞳に宿る狂気は失われていない。
「ならば、我は…………死して尚……宿命に殉じよう」
その言葉を遺して、司馬懿の魂は闇へと還った。
常闇の皇へと奉ずる、最後の生贄として。
【司馬懿サザビー@BB戦士三国伝 死亡確認】
▽
227
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:38:19
「なんだ!?」
司馬懿という強敵を打ち破った感慨に浸る間もなく、洛陽宮殿を激しい揺れが襲った。
ゼロガンダムは、ドゥーム・ハイロウの起動時にも似た禍々しい気配に、司馬懿と戦っていた先程よりも緊張を高めた。
それは他の3人も同様であり、一様に玉座の間の奥、今までとは比べ物にならないほどの闇の力を感じる方角を睨んだ。
そこへ、覚束ない足取りで1人の男が歩み寄って来た。
「……この儀式の最終段階は、勝ち残った者達を我らの手で絶望の底に落とし、暗黒の闇へと堕ちた魂を“常闇の皇”に捧げることだった。だが……司馬懿はお前達の代わりに、自分自身の魂を捧げたのだ」
殺し合いの主催者の1人として、全ての真相を知る最後の男――逞鍛が、虚ろな声でゼロたちに今の状況を解説した。
しかし改心して味方になったわけではないことは、顔を見ずとも声色だけで分かる。
ゼロは敢えて何も言わず、代わってスプラウトが逞鍛を問い質す。
「常闇の皇……。それが、お前達が目覚めさせようとしていた“大いなる闇”の正体か」
逞鍛は頷いて、崩落する玉座の間の奥から現れるものを見詰めながら、言葉を紡ぐ。
「そうだ。……オレが修復した、時空を破壊する最凶兵器『ジェネラルジオング』という機械の器と共にな。そして常闇の皇とは称号にして畏称。その真の名を……幻影の千年魔獣【ムーンミレニアモン】」
【ゼロガンダム@新SDガンダム外伝ナイトガンダム物語】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、龍機の召喚不可能
[装備]:雷龍剣@SDガンダム外伝、天叢雲剣@大神、竜騎士の鎧@SDガンダム外伝
[道具]:基本支給品一式
[思考]:常闇の皇を倒し、全ての決着を付ける。トゥバンが敗れた時は自分の手でタクティモンを倒す。
【ゼロ@ロックマンXシリーズ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)、三種の神器のフル装備による反動が発動中
[装備]:炎の剣@SDガンダム外伝、力の盾@SDガンダム外伝、霞の鎧@SDガンダム外伝
[道具]:基本支給品一式
[思考]:正義の力を示して闇に打ち勝ち、逞鍛を救う。
【オキクルミ@大神】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、虎燐魄と融合
[装備]: クトネシリカ@大神、虎錠刀@BB戦士三国伝、虎燐魄@BB戦士三国伝
[道具]:基本支給品一式、赤いマフラー@BB戦士三国伝
[思考]: 常闇の皇を倒し、全ての決着を付ける。
【スプラウト@ファントム・ブレイブ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、鎧全体に細かな罅、天の刃に覚醒
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク、黒い鎧@ファントム・ブレイブ
[道具]:基本支給品一式、バラとマラカス@幻想大陸
[思考]: 常闇の皇を倒し、全ての決着を付ける。
【逞鍛(ティターン)@武者烈伝武化舞可編】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、呆然自失
[装備]:天刃・空刃@武者烈伝武化舞可編、天翔狩人の鎧@武者烈伝武化舞可編
[道具]:基本支給品一式
[思考]:常闇の皇の降臨を見守る……?
▽
228
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:41:12
▽
魔人と修羅の戦いは、佳境を迎えていた。
両者は互いに一歩も譲らず、トゥバンは刃を掠めさせても決して肉を切らせず、タクティモンも防御を鎧とマントに任せて攻撃に専念することで、確実にトゥバンの神速を捉えつつあった。
だが、両者は極限の集中の持続による精神疲労と、数十分以上も全力で動き続けていることによる肉体疲労で、ほんの僅か、息が乱れ始めていた。
息の乱れは全ての乱れに通じる。超一流の戦士ともなればどれだけ疲労しようとも息は乱さぬように心掛けるものだが、2人はそれを保つこともできないほどに疲労が蓄積しつつあった。
逃げ出したいほどの恐怖と、この瞬間を永劫に味わいたい程の歓喜が、2人の奥底から湧き上がり、突き動かす。
この瞬間に至って、2人は感謝した。このような戦場で、異世界の類稀なる剣士と巡り会えたことに。
2人は視線を交え、ほんの一瞬だけ穏やかな笑みを浮かべて、すぐに鬼神の表情へと戻り、剣を構える。
駆け出したのは同時、先に剣を振るったのは間合いの利を持つタクティモン。
蛇鉄封神丸を袈裟に振り下ろし、かわされたと見るや剣の勢いを殺さず、そのまま刃を返し逆袈裟に斬り上げる。
超高速の連撃、しかも一度かわした直後の下からの急襲。この必殺の連携に必勝を期したタクティモンは、瞠目した。
逆袈裟の斬り上げは、どうしても片手になってしまう。なにより重力のベクトルに従うのではなく逆らう方向に振るうことになる為、両手で振り下ろすよりも遅くなってしまう。
加えて、蛇鉄封神丸の刀身は巨大で、その分質量も大きく加速がつきにくい。
それらを加味したとして――高速で振るわれた剣を足場として跳躍する剣士がいようなどと、誰が思えようか。
人の持つ、底知れぬ可能性。今より前を、今より先を、今より上を目指す、飽くなき志。
その結晶を目の当たりにしたタクティモンは、トゥバンの剣に目を奪われた。
「うおおおっ!!」
全身全霊の気魄を込めた、乾坤一擲の一撃はタクティモンの仮面のみならず兜をも打ち砕いた。
加えて破邪の力を宿す聖剣の刃を直接に受けた、怨霊体であるタクティモンの本体は大きなダメージを負った、
だが、まだだ。まだ、倒れはしない。
崩れ落ちそうになった膝を踏ん張り、一瞬俯けた顔を即座に上げる。手放しそうになった蛇鉄封神丸を、強く力を込めて構え直す。
トゥバン・サノオは、剣を構えたまま動かない。それでこそだと、タクティモンは歓喜に打ち震える。
229
:
剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:43:32
そこで、タクティモンは違和感を覚えた。
おかしい。何故、追撃を仕掛けて来なかったのだ?
互いの剣技は、既に存分に見せ合い、最早如何なる時に決着が着こうとも悔いがない――その心意気は、トゥバン・サノオも同じだったはず。
ならば、何故――私の首を、落としに来なかった?
何故今も、息一つ乱さず、指一つ動かない?
「まさか……」
構えを解いて、タクティモンはトゥバンに歩み寄る。トゥバンは動かない。
タクティモンの間合いが過ぎ、トゥバンの間合いに入る。やはり、トゥバンは動かない。
眼前でタクティモンが立ち止まったが、トゥバンはもう、動かない。
トゥバン・サノオは、全身を己の血で染めて、両の足で立ち、両の手で剣を構え――死んでいた。
タクティモンは、呆然と、トゥバンを見詰め続けた。
暫くして、ぽつり、ぽつり、と、言葉を漏らす。
「……天晴れ、見事。トゥバン・サノオよ、貴殿の剣、その技の冴えの鋭きこと、正に閃光。……しかし、しかし……!!」
蛇鉄封神丸を手から落とし、タクティモンはトゥバンの前に膝から崩れ落ちた。
「その肉体、その志に比して、あまりにも脆し……! その生命、あまりにも……儚し……!」
何故だ。何故、このような決着が訪れてしまったのだ。
勝敗は、戦った両者の生死で決まるものなのか? 生き残ったタクティモンが勝者であり、死んだトゥバンが敗者なのか?
否だ。そんなことは、断じてあり得ない。
真の勝敗とは、生死でも、第三者の判定や規定によるものでもない。
戦った両者の心が、それを認めた時に初めて決着となるのだ。
タクティモンにはまだ、戦う意志があった。目を奪われるほどの人の可能性を見せつけられたからこそ、ならば次は自分こそがと息巻いていた。
だが、現実は……こうだ。
「何故だ……トゥバン・サノオよ……何故だ……!」
タクティモンは、戦場で無念の敗北と死を遂げた、万を超える武人デジモン達の無念の残留魂魄のデータを練り固められ、創り上げられた。
そんなタクティモンが知る中で、武人として最も悔いの残る、無念という言葉ですら言い表せないほどの虚しき最期だったというのに……!
確固たる信念の下に鍛え抜き磨き抜いた力と技の比べ合いが、生まれ落ちた種族の違いなどというもので終わらされてしまったというのに……!
「何故、お前は……! 笑ったまま、逝ったのだ……! トゥバン、サノオ……ッ」
トゥバン・サノオは、鬼神の如き形相でも、阿修羅の如き笑みでも無く、憑き物が落ちたような表情で――穏やかな笑みを浮かべたまま、死んでいた。
タクティモンは、押さえ付ける枷の無くなった怨霊体を露出させながらも、その意志は一つに纏まったままだった。
数多の武人達の無念は、誉れ高くあるべき無類の剣士の虚しき最期を悲しみ、涙を流し続けた。
【トゥバン・サノオ@海皇紀 死亡確認】
【タクティモン@デジモンクロスウォーズ(漫画版)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、兜損失、深い悲しみ
[装備]:蛇鉄封神丸@デジモンクロスウォーズ(漫画版)
[道具]:無し
[思考]:………………
230
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/01/27(日) 00:45:38
以上で投下終了です。
次の最終話をリレーしたい人がいたら、
遠慮なくリレーしてくれていいんだぜ……!
231
:
名無しロワイアル
:2013/01/27(日) 02:43:49
>>229
トゥバン・サノオ、その生き様はまさに修羅ッッ!!
そして、次でラストバトル!…なのか?
目が離せねえ!!
232
:
名無しロワイアル
:2013/01/27(日) 07:45:15
執筆と投下、お疲れ様です。
把握している作品はほぼないのですが、分からないなりに読んでいって、
「面白いな」「すごいなぁ」などと思わせて頂いています。とてもありがたいことです。
理屈っぽく読んでしまうせいか、カオス系のそれには感想をつけられないので割愛しますが、
それでも読ませては頂いてます。それだけは伝わってくださいませ。
>第297話までは『なかったこと』になりました
ある種のロワ書き手にとっては、これは非常に痛い話。
なんだけどなあ、「安易に美談にさせてなるものか」と言ってしまう球磨川……これを言う
自分をも美談にさせまいと言葉を重ねる『道具』の姿に胸を衝かれる。
こういう物語を書いていく以上どうしても道具は要る。要るんだけど、ここを描いてしまうと
書き手がしんどくなってしまいかねないし、キリが無くなる題材でもあるんだよなあ。
それを『めだかボックス』をもとにして書いていった◆YO氏のバランス感覚、ヘタを打つと
書き手の自虐から自殺になるような話の語り方がすごいなと改めて感じました。
内省している書き手の姿が前に出るのでもなく、あくまで『めだかボックス』してるのも素晴らしいところ。
あと一話でどういった結論を出していくのか。どんな魔球でも楽しむ覚悟完了です!
>剣士ロワ
ああ……すげえ、熱かった……。
タイトルに恥じない、おのが全力を賭しての闘いに惹き込まれました。
龍で聖剣、ってところでイルランザー@クロノ・クロスが出てきたところで個人的に
熱くなったり、ロボロワとはまた違ったゼロの姿を見られて感慨を噛み締めたり。
素直にバトルを繰り広げる筋であるからこそ、「正義の虚しさも知らずに……」からの
『力の正義』『正義の力』には、こちらも素直に乗って、氏の物語の味に浸っていけました。
このあたり、一話目の投下と同じく、いい意味で文章や話にてらいがないところも魅力だなあと感じます。
そして、これはどの作者さんにも言えることですが、ホントに好きなものを楽しんで書いているのが
伝わる。だからこそ、読後感がすごく良い。気持ちよく浸ることが出来るんじゃないかなあ、とも。
読後、今回はタクティモンの悲嘆が非常に良かったのですが、これがどう繋がるのか。
リレーもいいんですが、自分は氏の書く話を、文章をもう一話分読みたいですね!w
233
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/27(日) 20:09:15
謎ロワ投下いたします
234
:
298:Final Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/27(日) 20:09:47
――――11:00:00
――――鉄塔:頂上直前
「……やっと到着したモナ」
「ええ……やっぱり、これだけ歩くと疲れますね……あ、あれを見て下さい」
Kさんの指差す先に、空間の歪みが……。
時折見えるすきまから、向こうが見える。
そこは……いわゆる、"特異点"と呼ばれる場所であった。
今まで集めた情報から察するに、奴ら――――岸猿伊右衛門と母胎は、必ずそこにいるはずだ。
しかし、それを目前にして、突入しないのは何故か。
……答えは単純明快である。
「――――阿部さんたちは、まだ着いてないようだ」
まだ、全員揃っていないのだ。
特異点に突入すれば、過酷な戦いは避けられないだろう。
その為には、今残っている5人の力を合わせる必要があったのだ。
だが……ここにいるのは3人。
残りの2人、阿部高和とスペランカー先生が、まだ到着していない。
「私たちとは別のタイミングで突入しましたからね……ですが、阿部さん達も、きっとここに向かっているはずです。
今は、待つしかありませんよ」
そう言い終わると、Kさんはその場に座り込む。
「…………申し訳ありませんが、少し休ませていただけませんか。元々、体力がないもので」
そう言うKさんの顔には、疲労の色が浮かんでいる。
それもそうだ、元々あまり体力がないのに、今まで会場中を歩き回っていたのだ。
その上、幾度か戦闘も繰り返し、疲弊していた所に、この鉄塔だ。
……途中で、何度か休憩は挟んだものの、やはり疲れは抜けない。
235
:
298:Final Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/27(日) 20:10:10
「……大丈夫モナ。心配しなくても、僕がついてるモナ」
「心強いです……それでは、失礼して……」
最後まで言い終わる事無く、Kさんは寝息を立て始める。
「僕も、少し休ませてもらうモナ……」
誰に言うとも無くそう呟いて、モナーもその場に腰を下ろす。
流石に眠る訳にはいかないけれど、こうやって休んでいるだけでも、体力は回復するはずだ。
少しでも回復してくれれば、ありがたい。
……迫る戦いの為にも、体調を整えなければならない……。
そんな思いが、モナーの頭の中を駆け巡っていた。
……多分、Kさんの頭にも、同じ考えが浮かんでいる筈だ。眠ってるけど。
【離島線四号基鉄塔・蜘蛛糸・最上層/午前】
【教会育ちのKさん@寺生まれのTさんシリーズ】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(中)、全身に切り傷、教会育ちの力(残り45%)、睡眠中
[装備]:ストック@かまいたちの夜、Thor.45-70(1/1)@MGS4、阿部高和のツナギ@くそみそテクニック
[所持品]:基本支給品、空気砲@ドラえもん、ダンボール@MGS3、タバコ@地獄の使者たち、
180円@かまいたちの夜、兄者のノートPC@アスキーアート、茄子@VIPRPG、
救急箱@現実、ライフ回復剤@MGS3、パトリオット(破損)@MGS3、四次元ポケット@ドラえもん、
ボーイスカウト編のギター@本格的 ガチムチパンツレスリング
[思考]
基本:悲しみの連鎖を立ち切る
1:阿部さんが到着するまで休憩しておきましょう……
※呪いが緩んだ事により、教会育ちの力が少し元に戻りました
※屍人、闇人の対処法を知りました
【モナー@アスキーアート】
[状態]:疲労(小)、脇腹・頭部に切り傷(処置済み)
[装備]:アクアブレイカー@Nightmarecity、蓮家の青龍刀@龍が如く4、ソリッド・アイ(バッテリー微量)@MGS4
[所持品]:支給品一式、闇那其・痕(彎角)@SIREN2、コエカタマリン(1回分)@ドラえもん、
ボウガン(0/1)@現実、ボウガンの矢×3、車のおもちゃと遺影@かまいたちの夜2、
サーフボード@寺生まれのTさんシリーズ、発煙筒@現実、0点のテスト@ドラえもん
[思考]
基本:全てを終わらせるモナ……!
1:阿部さん達を待つモナ
236
:
298:Final Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/27(日) 20:10:28
(メリル……俺は、どうすれば……)
心の中で、渦巻く感情。
…………死ぬ間際に、"生きて"、と言われた。
けれども、愛した人を失ったまま、生きて行くなんて。
…………いっそ、あの時死んでいれば。
(…………)
答えが出るのは――――もしかしたら、そう遠く無いかもしれない。
【ジョニー@メタルギアソリッド4】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(大)
[装備]:FN ファイブセブン(8/20)@MGS4
[所持品]:基本支給品、今惹湯@忌火起草、黒い女の絵@忌火起草、サブマシンガン(残り0%)@現実
レザー男の服@男狩り、ネイルハンマー@SIREN、ライター@現地調達、
かたづけラッカー@ドラえもん
[思考]
基本:生きる……?
1:メリル……
※様々な情報を聞きましたが、それどころではなかったようです
237
:
298:Final Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/27(日) 20:10:51
――――11:06:00
――――鉄塔:上層付近
とにかく、最上層へ。
登って行かなければ、ならない。
『蜘蛛の糸』の如く……。
登り切れば、偽の天国が。
堕ちてしまえば、本物の地獄が待っている……。
「ずいぶんと入り組んでるじゃないの。それじゃ、とことん登ってやるからな」
時には段差をよじ登り。
時には階段を駆け上がり。
時にはあえて下に降り。
そんな事をくり返して、3人は鉄塔内部を進んでいた。
……悠長に歩いて進む余裕はない。
だが、下手に急いでも体力を余計に消費する。
そんな、中途半端な状況が、どれだけ続いただろうか。
少し、開けた場所に出た。
「上を見てみなよ」
「?」
阿部さんに言われるがまま、全員が上を見上げる。
……鉄骨やら足場やらの密度が、明らかに低くなっている。
と言う事は……そろそろ、最上層に着くかもしれない、と言う事だろう。
それは、喜ばしい事でもあったが……同時に、懸念材料でもあった。
とはいえ、別に歩けない程疲弊している訳でも、瀕死の重症を負っている訳でもない。
阿部さんだけは、右腕が完全に消滅し、使用不能状態ではあるが……問題はそこではない。
238
:
298:Final Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/27(日) 20:11:12
「俺よりも、先生の残機が心配だな。いくら強くなったとは言え、足を踏み外せば……」
「……まだ、大丈夫ですよ」
「嘘はいけないな。……もう、残機は0なんだろう?」
幾度と無く戦いをくり返した彼の残機は、もう底をついていた。
それと引き換えに、幾分かは強くなったものの……元が元なので、やはり、打たれ弱いのだ。
「……ええ。いつ死んでもおかしくないです」
「馬鹿野郎、あんたみたいないい男を死なせてたまるかってんだ。ポジティブに行こうぜ。
ここまで来たからには、必ず生きて帰るんだ」
「…………」
気まずい沈黙。
それを破ったのは……2人のものではない、声だった。
「Mrマルチメディア? 蟹になりたいね?」
声がした方に、2人が振り向くと。
「――――お前……何故」
239
:
298:Final Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/27(日) 20:11:33
変わり果てた姿で立ち尽くす、鎌田吾作の姿があった。
【離島線四号基鉄塔・蜘蛛糸・上層付近/午前】
【阿部高和@くそみそテクニック】
[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中)、超いい男、寺生まれの力(残り57%)
[装備]:名刀電光丸(バッテリー残り10%)@ドラえもん、ツナギ(白)@現地調達
[所持品]:支給品一式、くりまんじゅう@ドラえもん、葉巻@MGS3、火掻き棒@SIREN、
きせかえカメラ@ドラえもん、兄貴のジーンズ@本格的 ガチムチパンツレスリング、
フォトンブレードPG@龍が如く4、釘バット@SIREN2、コート@かまいたちの夜3
[思考]
基本:全てを終わらせる
1:……!?
※寺生まれの力を受け継いでいます
※フェアリーナイトメアを習得しました
【スペランカー先生@スペランカー先生】
[状態]:ボロボロ、残機:0
[装備]:シングルアクションアーミー(2/6)@MGS3
[所持品]:支給品一式、ステルス迷彩(残り使用時間:36秒)@MGS3、がんじょう(残り1個)@ドラえもん
[思考]
基本:死なないように、生きて帰る
1:一体、何が……!?
※闇人の対処法を知りました
240
:
298:Final Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/27(日) 20:11:48
蟹になりたい……。
その思いを抱き、殺し合いを生き抜いてきた吾作。
だが無情にも、志半ばで倒れてしまった。
物言わぬ骸に成り果てた姿は、一度、阿部さん達も目撃している。
一度死んでしまえば、もう、生き返ることはできない。
それは、当然の理である。
だと言うのに、何故こうして、3人の前に姿を現したのか?
答えは簡単である。……闇人と化して、再度立ち上がったのだ。
しかし、魂は既に消滅している。
だが、死の間際まで考えていたことが、吾作の魂を、肉体に僅かばかり引き留めた。
――――蟹になりたい、蟹になりたいね?
蟹になりたかっただけなのに。ただ、蟹になりたかっただけなのに……。
理性では抑えがたいほどに膨らむ願望。
……本来ならば、ここまでの欲望にはならないはずだったのだ。
せめて、最初に出会ったのが、あの"VAN様"でなかったら。
せめて、そこでダークサイドに堕ちなければ。
こうはならなかったかも、しれない。
だが、闇人として彷徨う内に、その欲望も薄れて。
今では、僅かばかりの意思を元に動いている、人形でしかなかった。
241
:
298:Final Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/27(日) 20:12:03
――――だらしねぇな。
どこかで、兄貴の声が聞こえた気がした……。
【鎌田吾作@本格的 ガチムチパンツレスリング】
[状態]:全身ボロボロ、闇人化
[装備]:焔薙@SIREN2、ジーンズとTシャツ@現実
[所持品]:なし
[思考]
基本:蟹に、なりたいね……
242
:
298:Final Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/27(日) 20:12:17
投下終了です。
243
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:12:40
ドーモ、ライター=サン。投下乙です。
私もこの企画に参加させていただきたいと思います。
まずは名簿と各種情報、続けて1話(298話)を投下させていただきます。
244
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:16:14
【ロワ名】ニンジャスレイヤーロワ
【生存者6名】ニンジャスレイヤー【フラッシュバックによる無力化の可能性】、シルバーキー【右腕使用不可】、アースクエイク
サラマンダー、ディプロマット【限界寸前】、デスドレイン【マーダー】
【主催者】フィリップ・N・モーゼズ
【主催者の目的】イクサとカラテを楽しむ
【補足】会場はネオサイタマとキョートを模して作られた空間です。重金属酸性雨は降っていません。また、主催者による首輪の爆破はありません。
【名簿】6/100
○ニンジャスレイヤー/●ディテクティヴ/●ナンシー・リー/○シルバーキー/●ヤモト・コキ/●ネザークイーン/●デッドムーン/●ドラゴン・ゲンドーソー/●ドラゴン・ユカノ/●ダークニンジャ
●ジェノサイド/●ブラックヘイズ/●フォレスト・サワタリ/●ラオモト・カン/●ヒュージシュリケン/○アースクエイク/●バンディット/●ビホルダー/●ソニックブーム/●ヘルカイト
●レイザーエッジ/●インターラプター/●サボター/●クイックシルヴァー/●フロストバイト/●アゴニィ/●レオパルド/●ガントレット/●ヴィトリオール/●ミニットマン
●イクエイション/●テンカウント/●オブリヴィオン/●ビーハイヴ/●バジリスク/●シルバーカラス/●ロード・オブ・ザイバツ/●ダークドメイン/●イグゾーション/●ニーズヘグ
●パラゴン/●スローハンド/○サラマンダー/●パーガトリー/●ヴィジランス/●ブラックドラゴン/●アイボリーイーグル/●レッドゴリラ/●パープルタコ/●アンバサダー
○ディプロマット/●ガラハッド/●ジルコニア/●ミラーシェード/●トゥールビヨン/●メンタリスト/●ワイルドハント/●チェインボルト/●サンバーン/●ブルーオーブ/●ジャバウォック
●ディヴァーラー/●アノマロカリス/●インペイルメイト/●イグナイト/●ガンスリンガー/●コンジャラー●ソルヴェント/●メイガス/●ファランクス/●センチュリオン
●プリンセプス/●ペインキラー/●ボーツカイ/●モスキート/●アガメムノン/●ネヴァーモア/●シズケサ/●シャドウドラゴン/●ドラゴンベイン/●スパルタカス
●スワッシュバックラー/●ミョルニール/●セントール/●フロッグマン/●ノトーリアス/●キャバリアー/●ナックラヴィー/○デスドレイン/●ランペイジ/●シーワーラット
●アコライト/●マニプル/●アナイアレイター/●スーサイド/●フィルギア/●アサイラム/●ネブカドネザル/●ニンジャキラー/●ケジメニンジャ/●イヴォルヴァー
245
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:19:21
「エンド・オブ・ニンジャ・ロワイアル」#1
重金属酸性雨が降っておらず、慰霊碑が既に撤去されていようとも。それが精巧なイミテーションでしかなかったとしても。
フジキド・ケンジにとって、マルノウチ・スゴイタカイビルとは特別な場所だ。妻子を失い、ナラクをその身に宿し、ニンジャスレイヤーとなった場所。
ネオサイタマの死神。ベイン・オブ・ソウカイヤ。暗黒非合法探偵。ニンジャスレイヤーとそれに付随する様々な憶測、伝説、事実。その全ての物語の、始まりの場所。
脳裏に浮かびかけたあの日の光景を、ニンジャスレイヤーは首を振って頭から追い出す。あの悪夢を忘れたいわけではない。あの絶望から逃げたいわけでもない。
今は悪夢も絶望も必要ない。今はただ、カラテを。やり遂げる力を。「……大丈夫か?」隣に立つシルバーキーが声をかける。
「怖い顔してたぜ。……なぁ、そう難しく考えるなよ。気楽に行こうぜ、気楽にさ。ああ、もちろん気を抜けって言ってるわけじゃあないぞ?そう気負うなってことさ」
そう言って笑うシルバーキーの右腕は見るも無残な有様だ。マニプルの古代ローマカラテにより、骨が完全に粉砕されてしまっているのだ。
ニンジャスレイヤーはシルバーキーの顔を見た。「そう、単純なことだ。ここを終わりの地とする。この悪趣味なイクサと、モーゼズというニンジャのな」
ニンジャスレイヤーは天井を見上げた。シルバーキーもつられて見上げた。倒すべき敵が待つであろう屋上を、外からでは雲に、中からでは天井に阻まれ見ること叶わぬその場所を、見据えた。
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「ふん、まさか元とはいえザイバツのニンジャを背負う羽目になるとはな」マルノウチ・スゴイタカイビル三階。その廊下を三人のニンジャが歩いていた。
とはいえ、実際に歩いているのは二人である。一人は気絶し、別のニンジャに背負われているのだから。
「言っておくが、俺は代わってやらんぞ。カラテが振るえなくなるからな」気絶したディプロマットを背負うアースクエイクにサラマンダーが尊大に告げる。
「わかっている。元よりそのつもりもない……ん?」アースクエイクが立ち止まる。当然、サラマンダーも。
あなたがニンジャ聴力の持ち主なら、たしかに上階でサツバツとしたカラテシャウトとヤクザスラングが響いているのがわかるだろう。
……そして、ここにいる二人のような優れたニンジャ第六感を持つ者なら、さらにその上の階層に存在する、邪悪なニンジャソウルをも知覚しているはずだ。
「ニンジャスレイヤー=サンめ、さっそく始めよったか。それにこれは……奴か」「我が不甲斐なき弟弟子がいつ些細なミスをするとも限らん。さっさと行くとしよう」
「ニンジャスレイヤー=サンが心配か?元ザイバツのグランドマスターともあろう男が過保護なものだ」
「ドラゴン・ドージョーにクローンヤクザ程度に遅れをとるようなサンシタがいるとでも思うたか?」
「ふん、どうだかな。俺がドージョーを襲撃したときは、状況判断さえまともに出来ぬニュービーがゴロゴロしていたが。まあ、それはどうでもいい。……行くぞ」「言われるまでもない」
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246
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:21:34
マルノウチ・スゴイタカイビル七階!そこでは、サツバツとした殺戮が繰り広げられていた!「「「ザッケンナコラー!」」」「イヤーッ!」「「「アバーッ!?」」」
ニンジャスレイヤーのスリケンがクローンヤクザを三人まとめて貫通!クローンヤクザはその場に折り重なり倒れる!
すると廊下の角を曲がって、四人のクローンヤクザが新たに現れる!「「「「スッゾコラー!」」」」
倒れたクローンヤクザの死体を踏みしめ、新手のクローンヤクザ達はニンジャスレイヤーとシルバーキーに迫る!「イヤーッ!」「「「「アバーッ!」」」」スリケンがクローンヤクザの頭部を貫通!四重殺!
「おいおいおい!いったいどれだけいるんだよ!」シルバーキーが叫ぶ。彼らは数分前からこの主催者が配置したであろうクローンヤクザ達の猛攻を受けているのだ。
一人ひとりは弱くとも、どこからともなく大量に現れるクローンヤクザには、さしものニンジャスレイヤーも手を焼いていた。
「わからぬ。だが、どれだけいようと殲滅するのみ」スリケンを構え、敵の到来に備えながらニンジャスレイヤーが答える。
「俺のジツじゃだめなのか?」シルバーキーのユメミル・ジツはニューロンを焼くことができる。同じDNAから作られたクローンヤクザは同じニューロンを持っており、故にジツで一掃することができるのだ。
「まだだ。今使ってもこの階層にいるクローンヤクザを全滅させられるかはわからん。全てのクローンヤクザを集め、まとめて殺す……イヤーッ!」
曲がり角から顔を出したクローンヤクザの額にスリケンが突き刺さる!「とは言ってもよぉ……このままじゃ」シルバーキーは不安げに呟く。
そう、いくらチャドー呼吸による回復が可能なニンジャスレイヤーといえど、その体力は無限ではない。敵がどれだけいるかわからぬ以上、このままではジリー・プアー(徐々に不利)だ!
「イヤーッ!」そのとき、突如床に大穴が開いた!そしてそこからエントリーしてくるバーガンディ装束のニンジャ!その背には別のニンジャが背負われている!
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン」「ドーモ、サラマンダー=サン。……アースクエイク=サンは?」ニンジャスレイヤーがエントリーしてきたニンジャ――サラマンダーに問いかける。
「イヤーッ!……あやつなら下でクローンヤクザと戯れている。すぐに合流するだろう。あやつ……結局こいつを俺に押し付けていきよった」
サラマンダーは背中のディプロマットを顎で示した。「それより上だ。デスドレインがこの上にいるようだ。イヤーッ!……動きがないことを見ると、おそらくは待ち構えているのだろうな」
「……デスドレイン」ニンジャスレイヤーの問に答えながら、サラマンダーは時折片腕でスリケンを投擲しクローンヤクザを殺害していく。
デスドレインの所在がわかった今、彼らにとってクローンヤクザはもっとも注意を払うべき問題ではなくなった。アースクエイクの働きによるものか、襲来するクローンヤクザの数が減っているとくれば尚更だ。
「この先妙な動きをされては困る。早急に討つべきだと俺は思うがな……イヤーッ!」
「しかし、このクローンヤクザ達を放置するわけにも……イヤーッ! ……いくまい」「……俺だ。俺に任せてくれ」
その時、それまで黙っていたシルバーキーが口を開いた。「オヌシが?」ニンジャスレイヤーがシルバーキーの顔を怪訝そうに見る。
ニンジャスレイヤーはシルバーキーのジツをよく知っている。その未熟なカラテのワザマエもまた、同様に。
「ああ、俺だ!俺だってニンジャだ、あいつらよりもカラテはできる。それにいざとなったらジツで一網打尽!な?任せてくれよ。……俺なら、大丈夫だからさ」
247
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:22:42
シルバーキーはまっすぐニンジャスレイヤーを見つめ返す。二人の間を沈黙が支配する。サラマンダーは無造作にスリケンを投げ、クローンヤクザを殺害している。
「……いいだろう」そして、ニンジャスレイヤーが折れた。シルバーキーは顔を綻ばせた。
「決まったか。それでは行くぞ、ニンジャスレイヤー=サン」サラマンダーが上階へと向かう。ニンジャスレイヤーもまた、シルバーキーに背を向け走りだした。
シルバーキーはそれを見送った。ニンジャスレイヤーは階段を登り切る寸前にちらりとシルバーキーを振り返り、上階に消えていった。
「「ザッケンナコラー!」」この階層のどこかからヤクザスラングが聞こえてくる。排除対象を、シルバーキーを探しているのだ。
「へっ、いいぜ。そんなに俺を見つけたいのなら、俺から場所を教えてやるよ。お前たちを倒すのは――」
シルバーキーはニンジャ肺活量を活かし、大きく息を吸い込む。そしてニンジャ声量の限りに、全力で叫んだ!
「――俺だぁぁぁああっ!」「「「「「「ザッケンナコラー!!!!」」」」」」廊下に雪崩れ込むクローンヤクザ!シルバーキーがカラテを構える!未熟ながらも強い意志を秘めた、カラテを!
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八階に上がったニンジャスレイヤーとサラマンダーが見たものは、大量のクローンヤクザの死体だった。
床や壁に残った黒いヘドロや体をあべこべに拗られたクローンヤクザ達の死に様が、それらがデスドレインの仕業であることを如実に語っている。
「あそこか」「そのようだな」ニンジャスレイヤーが指し示したのは、階層の四分の一もの広さを持つ宴会場の入り口だ。
カチグミ・サラリマンが利用することが多いマルノウチ・スゴイタカイビルにおいて、宴会場が巨大なものとなるのは当然のことだ。
宴会とは出世と昇進における重要なファクターであり、宴会芸と呼ばれる古典的芸能が脈々と受け継がれていることからもそれは察することができる。
平安時代のサラリマン達は、自らの宴会芸を高め、またそれを派手なものにするべく広い宴会場を欲したのだ。
つまるところ、宴会場は実際広い。それこそ、ニンジャのイクサですら不自由なく行える程度には。
「ディプロマット=サンはどうする」「外に置いておいてはクローンヤクザに殺される可能性がないとは言い切れん。連れて行くしかなかろう。中ならまだ護ることもできる」
「了解した……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがフスマをトビゲリで破壊し、宴会場へとエントリーする。
続けてサラマンダーが宴会場へと足を踏み入れ、ディプロマットを壁にもたれかからせる。そこは、乱れに乱れていた。美しい墨絵が描かれていたであろうフスマは黒く染まり、壁にかかったカケジクは半ばで破られている。
その下手人は誰か。考えるまでもない。ニンジャスレイヤー達が侵入した位置とは正反対に立つ男。デスドレイン。
「ドーモ、デスドレイン=サン。ニンジャスレイヤーです」「サラマンダーです」圧倒的な邪悪を前にして進み出る、二人のニンジャ戦闘者。その意志は揺るぎなく、カラテの冴えに陰りなし。
248
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:25:28
臆す事なくアイサツを決めたドラゴンニンジャ・クランのニンジャ達は、油断無くカラテを構える。
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、サラマンダー=サン。……アァン?二人だけか?まったく舐め腐ってくれるなァおい。それとも……」アイサツを終えたコンマ1秒後、デスドレインが動く!
「……そのお仲間は動けねぇのかァ!?」囚人メンポから吐き出された暗黒ヘドロが一斉に湧き上がり、数多の筋となって飛翔する。
その狙いはニンジャスレイヤーやサラマンダーではなく、後方の壁にもたれかかるディプロマットだ!彼は度重なるイクサとポータル・ジツの行使によって気絶し、当然回避など不可能!
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのスリケンが、サラマンダーのチョップが、ディプロマットへと向かうアンコクトンを叩き落とす!
だが、足りない!撃墜を免れた一筋のアンコクトンが、ディプロマットへと接近する!
おお、ナムサン!このままディプロマットはアンコクトンにより拗られ、潰され、惨たらしく殺されてしまうというのか!?
「イヤーッ!」答えは否!見よ、ディプロマットの前に回転ジャンプで降り立った巨漢のニンジャを!「スマン、遅れたな。……イヤーッ!」
そのニンジャが繰り出した裏拳は正確にアンコクトンを打ち、壁へと吹き飛ばした!ゴウランガ!
これこそがビッグニンジャ・クランのソウルを憑依させたニンジャのニンジャ筋力のなせる技であり、シックスゲイツが一人、アースクエイクのカラテのワザマエなのだ!
「ふん、俺はお守りではないのだがな……。ドーモ、デスドレイン=サン。アースクエイクです」未だ横たわるディプロマットを横目で見ながら、アースクエイクはアイサツした。
そしてそのまま、その場でのカラテ警戒へと移行する。その視線が、一瞬ニンジャスレイヤーとかち合った。両者は無言で頷いた。
「あー、ドーモ、アースクエイク=サン。デスドレインです。……なンだよ、つまらねぇなァ」デスドレインは苛立ちを隠そうともせず、オジギした。
その周囲には弾かれたアンコクトンが集まり、煮えた重油めいて泡立っている。「まぁいいや。どうせ全員殺すんだからよォ!」デスドレインが叫ぶ。その言葉を皮切りにアンコクトンが、爆ぜた!
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(……感謝する)無言で頷きながら、ニンジャスレイヤーは心の中でオジギした。何に?アースクエイクに。
動けぬディプロマットのために護衛を買ってでた、かつての怨敵に。不思議なものだ、とニンジャスレイヤーは思う。
センセイと共に自らの手で殺害したかのソウカイニンジャとこうして共闘することになるとは、ニンジャスレイヤーもアースクエイクも、おそらくはブッダさえも予想していなかっただろう。
しかし、一度イクサで直接カラテを交え、そのワザマエを知っているからこそ、ニンジャスレイヤーは迷いなくディプロマットの護衛をアースクエイクに託すことができる。
まさにサイオー・ホース。そしてそれは、隣に立つサラマンダーにも言えることだ。サラマンダーがこの殺し合いの中で何を経験し、どのような心境の変化があったのかはわからない。
ただ一つ言えることは、ロードの死によりキョジツテンカンホー・ジツを脱したサラマンダーが、センセイとのイクサの果てにドラゴン・ドージョーを継いだということだ。
249
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:27:18
ニンジャスレイヤーは彼らのイクサを見届けた。サラマンダーのチョップがセンセイを両断するその瞬間を、見届けた。
おそらくはイクサの最中に何らかのインストラクションが行われたのだろう。センセイとのイクサを終えたサラマンダーは、ザイバツ・シャドーギルドのグランドマスターではなく、ドラゴン・ドージョーの後継者としてそこに存在していた。
「来るぞ、ニンジャスレイヤー=サン。ぬかるなよ」「無論だ」サラマンダーの声に、ニンジャスレイヤーが答える。
短い、ごく短いやり取りだ。しかし、その中にある信頼はどれほどのものであろうか。同じ師を持ち、同じカラテを学び、同じインストラクションを授かった。だが、一度は道を違え、イクサの果てに一方が勝利し、一方が敗れた。
そんな二人が師の遺志を継いで、意志を同じくして、共に並び立っている。敵はデスドレイン。邪悪なニンジャだ。
強力なジツも備えている。だが、それがどうしたというのだ。兄弟子と弟弟子、カラテにカラテをかけて100倍。越えられぬ壁など、討てぬ敵など、あるはずもない!
「まぁいいや。どうせ全員殺すんだからよォ!」デスドレインの叫びと共に殺到するアンコクトン!
ニンジャ動体視力をもってしても数えるのに難儀するほどに枝分かれしたアンコクトン、その全てが四方八方からニンジャスレイヤーとサラマンダーに襲いかかる!
「イヤーッ!」対するサラマンダーは地を叩き、周囲のタタミを浮き上がらせた!タタミで何をしようというのか!?答えはもちろん、カラテだ!
「「イヤーッ!」」唱和する二人のカラテシャウト!浮き上がったタタミに渾身のダーカイ掌打だ!SPAAAAAM!奇妙な衝撃音と共に、前方のアンコクトンが全て弾け飛ぶ!
ゴウランガ!これはまさにマスタータタミことソガ・ニンジャが、そしてロード・オブ・ザイバツが得意とした衝撃伝達カラテの再現!
前方のアンコクトンが消え去り、道が開ける!デスドレインへと繋がる、その道が!ニンジャスレイヤーは、サラマンダーは駆ける!
側面から襲い来るアンコクトンを弾き、躱し、少しずつ、しかし確実に距離を詰めていく!
「イヤーッ!」そしてついに、サラマンダーが背後に回ったアンコクトンを蹴り、反動を推進力に変えて前方へと跳んだ!その先には当然デスドレイン!「大人しく死んどけよ、なぁ!」
デスドレインはアンコクトンを盾めいて凝縮!オミヤゲストリートでのダークニンジャとのイクサで見せたアンコクトンによる防御体勢をもって、サラマンダーのカラテに備える!
一方のサラマンダーは空中で極限まで身を捻る!上体がほとんど真後ろを向き、右腕が異様な緊張状態と化す!
ゴウランガ!これはまさしくタタミ・ケンではないか!?そう、我々は知っている。インターラプターの切り札であるこのカラテを。
サラマンダーがかつてインターラプターの絶対防御カラダチを使ってみせたことを、知っている!ならば、サラマンダーがこのカラテを使えぬ道理など、ない!
「ハイーッ!」サラマンダーが叫ぶ!サラマンダーの全ニンジャ筋力をもって放たれたタタミ・ケンが、アンコクトンの盾へと振りぬかれる!
「「グワーッ!?」」悲鳴が……二つ!?いったい何が起こったというのか!?仰け反り、たたらを踏むデスドレイン。その周囲に盾となっていたアンコクトンは存在しない。
サラマンダーのタタミ・ケンにより、形を保つことさえ許されず四散したのだ!では、サラマンダーは?……おお、ナムサン!地に臥し吐血しているではないか!
サラマンダーのタタミ・ケンはたしかに強固なるアンコクトンの盾を破った。だがそれと同時に、サラマンダーは頭上から襲いかかったアンコクトンにより、地へと叩きつけられていたのだ!
250
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:29:07
デスドレインはオミヤゲストリートのイクサにて、アンコクトンが絶対無敵ではないことを知った。アンコクトンの守りは、研ぎ澄まされたカラテの前には屈するのだと知った。
だからこそのクロスカウンター。カラテを受けきったのちの反撃ではなく、防御を薄くしててでも同時攻撃を選んだのだ!
デスドレインとてニンジャだ。そのニンジャ判断力は実際見事!「へへッ!まず一人ィ!」……そう、これが一対一のイクサであったならば!
赤黒の風が、疾る。その接近に気づいたデスドレインが迎撃のアンコクトンを練り上げるよりも早く。サラマンダーを叩きつけたアンコクトンが彼をカイシャクするよりも早く。
ニンジャスレイヤーは、兄弟子が切り開いた道へと風の如き疾さで駆け込んだ。「……ふざけンな」デスドレインが鍛錬すらしたことのないカラテで迎撃を試みる。
遅い。そして弱い。「ふざけンなよ」鈍化した時間の中で、ニンジャスレイヤーはデスドレインのヤバレカバレなチョップをいとも簡単に回避する。
「……何なんだよ!お前――」パァン。四重一音の打撃音が響く。両手を広げ着地するニンジャスレイヤー。崩れ落ちるデスドレイン。力を失い分解されるアンコクトン。
チャドー暗殺拳奥義、アラシノケン。完全な体勢から完璧なタイミングで放たれたそれは、デスドレインの体内を尽く破壊し……ワッザ!?
----------------------------------
「まぁいいや。どうせ全員殺すんだからよォ!」デスドレインの声が響く。こうして護衛に来たはいいが、おそらくもうデスドレインがディプロマットに攻撃を仕掛けることはないだろう。
そうアースクエイクは黙考する。アンコクトンをけしかけた所でアースクエイクがそれを弾くのはわかりきっているし、何よりあの二人がそのような暇をデスドレインに与えるはずもない。
シルバーキーがこの場にいないことは気がかりだが、下階のクローンヤクザの死体を見る限りではおそらく下に留まっているのだろう。
ならば今は気にしてもしょうがないことだ。「そんな風に寝ておらずに、アグラでもしたらどうだ。目は覚めているのだろう」
黙考しながらもカラテ警戒の構えだけは崩さずに、アースクエイクはディプロマットに声をかける。
「……ん」力なく横たわっていたディプロマットが、難儀そうに体を持ち上げる。
「このイクサにどれほどの時間が掛かるかはわからんが、少なくともこれで終わりではない。少しでもカラテを回復させておけ。お前の出番は必ずやってくる」
「……ああ、そうだな」ディプロマットはアグラした。彼が担うべき仕事――彼の最期の仕事に、思いを馳せながら。
----------------------------------
251
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:31:05
「アバッ……アバッ……」デスドレインが、起きる。起き上がる。体のいたるところから血とアンコクトンを吹き出しながらも、ゆっくりと、しかし確実に体を起こしていく。
そして、立ち上がった。チャドー奥義アラシノケンは、完全成功時に相手の体内の尽くを破壊する。
四度の打撃によるカラテ衝撃力が体内で衝突し、内的爆発によってズタズタに破壊するのだ。故に、必殺。ロード・オブ・ザイバツですら即死と行かぬまでも数分で絶命するところまで追い込んだ、奥義の中の奥義。
ニンジャスレイヤーが持ちうるカラテの中でも最強最大の殺傷力を持つそれを受けてなお、デスドレインは立ち上がった。
デスドレインの体の大半が連戦によってアンコクトンに置き換わっているというのも理由の一つだろう。
デスドレインが攻撃を受けたその瞬間に本能的に体の一部のアンコクトンを流失させ、完全な形の内的爆発を避けたというのもそうだ。だがしかし、それらはあくまで理由の一部分でしかない。
真にデスドレインを生き長らえさせたもの。それはあまりにも強い生への執着。
無数のモータルとニンジャを何の良心の呵責も無く殺しておきながら、自らは死にたくないと臆面もなく叫ぶ、身勝手極まりない生きることへの渇望。それをニンジャ生命力が後押しし、必殺を受けてなお死なずその体を動かし続ける。
「ガイオン……ショージャノ……カネノオト……」デスドレインが、あるいはダイコク・ニンジャが呪詛を吐く。生きようと、死ぬまいと、必死の抵抗を試みる。
その身からアンコクトンを染み出させる。だがしかし、それだけだ。必殺を受けて死なないということは、必ずしもこの場を切り抜けられるということを意味しない。
「サラマンダー=サン!無事か!」「当然だ」ニンジャスレイヤーの呼びかけに答え、サラマンダーもまた立ち上がる。
そして、二人のドラゴン・ドージョーの戦士は目を閉じる。「「スゥー……ハァー……」」それは厳かな、そして神聖なチャドー呼吸のユニゾン。
『チャドー。フーリンカザン。そしてチャドー』センセイのインストラクションが、弟子たちの脳裏に、心に響く。「ショッギョ……ムッジョノ……ヒビキアリ……」
アンコクトンが動き出す。それ自体が意志を持っているかのように、ニンジャスレイヤーを、サラマンダーを狙う。
ニンジャスレイヤーは目を開いた。そして駆け出した。デスドレインの周りを、高速で旋回する。では、サラマンダーは?
……見るまでもない。既に彼らの心はセンセイの教えと、そしてカラテで繋がっている。強い絆を持つテニスの達人たちが窮地において同調するように、お互いの意図など、なすべきことなど、既に理解している!
「オゴレルモノ……ヒサシカラズ……」アンコクトンが獲物を追う。だが、捉えられない。避けられるわけでも、弾かれるわけでもない。
ただ、二人のニンジャがハヤイ!ハヤイすぎるのだ!アンコクトンを置き去りにし、旋回を終え、デスドレインに向かって走る二人の……否!二匹のドラゴンが今、天を駆ける!
かつてはセンセイと二人で。その後は一人で。そして今は、兄弟子とともに!ドラゴン・トビゲリ!
「「イイイイイヤアアアアアアアーッ!!」」「グワーッ!」トビゲリがデスドレインの頭部を捉え……その首を捻り切る!宙を舞うデスドレインの頭部!さしものデスドレインもこれで終わりか!?
……いや、まだだ!未だ地に立つデスドレインの肉体、その首の断面からアンコクトンが伸び、空中のデスドレインの頭部と繋がる!コワイ!
まだ生き足りないと、殺し足りないというのか!なんという、なんという執念か!そしてトビゲリを終えた直後のニンジャスレイヤーとサラマンダーは、これを阻止することができないのだ!
252
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:32:32
アンコクトンが頭部を引き寄せる!デスドレインが復活するのを、黙ってみていることしかできないというのか!「イヤーッ!」その時、飛来した物体がアンコクトンを断ち切った!アースクエイクが投擲した相棒の、ヒュージシュリケンの巨大スリケンだ!
そして再度宙に浮いた頭部に向かって飛び込んできたのは……アグラによりカラテを回復したディプロマット!万全には程遠いカラテを振り絞って両手をかざす!「イヤーッ!」デスドレインの頭部が展開されたポータルに飲み込まれ、消えた!そのままディプロマットは残されたデスドレインの体を蹴り、バク転して着地する。
デスドレインの体がゆっくりと倒れる。そして、アンコクトンを撒き散らしながら爆発四散!これが邪悪なる大量殺戮ニンジャ、罪を罪とも思わず、自らの欲求を満たし続ける犯罪者、デスドレイン――ゴトー・ボリスの最後だ!驕れる者は久しからず!インガオホー!インガオッホー!
----------------------------------
その後、彼らはクローンヤクザを殲滅し終えたシルバーキーが帰還するまで、暫くの休息をとった。白い壁に黒いアンコクトンが付着した邪悪でありながらもゼンめいた空間で、彼らはザゼンした。サラマンダーの背中の傷はチャドー呼吸により癒えるが、ディプロマットの方はそうもいくまい。
タイムリミットが迫りつつあるこのイクサにおいて、その休息の時間は侵されざるべき貴重なものだった。「……すまない」シルバーキーが帰還した数分後、ニンジャスレイヤーが突如口を開いた。ディプロマットへと向けた言葉だ。「すまない。このような役目を、オヌシに背負わせることになってしまった」
「……いいさ、そんな気はしていた。もとよりキョート城で捨てたのをあんたに拾われた生命だ。今更惜しみはしないさ」ディプロマットは笑った。「……それに、俺がそばに居てやらないと、弟が悲しむだろうからな。さあ、もう時間に余裕もない。……始めよう」
その場にいた全員が立ち上がる。ディプロマットは全員の顔を見回した。ニューロンに、心に刻み付けるように。「さらばだ、ニンジャスレイヤー=サン。サラマンダー=サン。アースクエイク=サン。シルバーキー=サン。……イヤーッ!」ニン010101レ0101010101オ10101010101010101010101
010101010101010101010101010101010101010101010101001101001100010100101010100コ10101空0010100010100101100100101001010010101010010100101010101010101010101010101010101イ010010ター101010101010101010101001010100101010100101010101010010101010101010010101010101010101010101010010101
【デスド0101ン 死亡】
【ニ01ジ0101レ01ヤ01 0101】
【01ラ010101ー 0101】
【0101スク0101ク 0101】
【シルバーキー 0101】
【バトルロワイアル 終了】
【優勝者 ディプロマット】
「エンド・オブ・ニンジャ・ロワイアル」#1 終わり #2 に続く
253
:
◆tSD.e54zss
:2013/01/27(日) 22:32:57
以上で投下は終了です
254
:
名無しロワイアル
:2013/01/27(日) 23:49:09
>>253
アイエエエエ!?
ナンデ?ニンジャナンデ!?
ニンジャスレイヤーの狂った言語センスをそのまま再現するとはw
255
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:12:35
謎ロワ299話投下します
256
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:13:03
――――11:06:01
――――鉄塔:上層付近
「何故、生きてるんだ……?」
意味が分からない、と言った口調で、阿部さんが呟く。
死んだと思っていた人間が、目の前に立っていれば、誰だって混乱するだろう。
「まさか、死んでなかったのか……?」
そんなはずはない。
数時間前、阿部さんは吾作の遺体を目撃したのだ。
その際、生死も確認した。
……その際、"本当に"死んでいる事も、確認した。
だが、そんな吾作が、立ち上がってここに来ている。
阿部さんと先生、2人の頭には、1つのワードが浮かんでいた。
――――どういうことなの……。
そんなことを考えている内に、吾作は刀を抜く。
その刀はかつて闇人をも斬り倒した事のある刀、"焔薙"であった。
それを、闇人と化した吾作が振るうとは……。
257
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:13:22
「……どうやら、やる気満々のようだな。こっちも、ヤる気で行かないとヤバいぜ!」
「ええ……分かってます!」
先生は、未だ慣れない手つきで銃を構える。
阿部さんは、ツナギのチャックをギリギリの所まで下ろす。
ジリジリと、お互いがお互いの出方を窺っている。
……下手に動けば、やられる。
阿部さん、そして先生は今までの戦いの中で得た"経験"から。
吾作は、未だ微かに残る、パンツレスラーであった頃の"経験"から。
その答えを、導き出していた。
「……!」
それを、荒々しく破ったのは、吾作だった。
大胆にも刀を上段に構え、一気に振り抜く。
だが、阿部さんの持つ"電光丸"が、自動的に攻撃を防ぐ……!
……だが、攻撃を防いだせいで、微量に残っていたバッテリーが、底を尽きた。
「そんなもの振り回しちゃあ……危ないだろうッ!」
役に立たない電光丸を放り投げ、怒りの籠った鉄拳を、的確にお見舞いする。
……忘れられがちではあるが、阿部さんの本職は、自動車整備工だ。
連日、ハードワーク(意味深)をこなしていたお陰で、体は、自然と鍛え上げられていたのである!
そんな、とてつもない肉体から繰り出されるパンチは、やはりとてつもないものであった。
元パンツレスラーであった吾作も、この打撃の嵐には、なす術もなく打ちのめされるばかり。
……だが、それはあくまで表面上の事。
幾ら強いとは言え、所詮は拳での殴打。倒すまでには、至らない。
それは、阿部さんも十分分かっていた。
「阿部さん……!」
「分かってる。これからが本番だ! ――――破アッー!」
気合いの入った声と共に――――阿部さんの股間から青白い光弾が!
258
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:13:45
「――――ッ!!」
いろんな意味で予想外だったのだろう。
高速で飛来する光弾に、吾作は何も出来ずにただ食らってしまった。
あまりの威力に少し後ずさるも、すぐに体勢を立て直す。
……光弾の当たった場所からは、シュウシュウと煙のような物が上がっている。
だが、大した痛手にはなってはないようだ。
現に、吾作の顔は、依然生きていた時のような笑顔を浮かべている。
「これで終わりじゃないぜ?」
しかし、阿部さんは怯まない。
それどころか、この状況を楽しんでいるようにさえ見える。
「……!?」
「良かったのか、ホイホイ勝負を仕掛けて」
気がつけば、吾作の背後には阿部さんが。
残った片腕で、吾作のズボンを下ろす。
「俺は、闇人だって構わないで食っちまう人間なんだぜ?」
吾作の下半身は、既に無防備。
それを確認してから、阿部さんのツナギのチャックが下まで下ろされる。
……こうなってしまった以上、もう、吾作の運命は決まったようなものである。
――――そして、運命の瞬間が訪れた。
259
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:14:14
「 あ お お ー っ ! ! 」
吾作の叫び声が、辺りに響く。
色々な意味で言葉に出来ない光景に、先生は思わず目を背ける。
「別に、苦しめたい訳じゃないからな。すぐに終わらせてやる……」
そう言い終わるか終わらないかの内に……阿部さんの腰辺りに、力が集まっていく。
……一撃で、終わる。
お互いが、それを実感していた。
「しっかり、ケツの穴を締めておけよ?」
阿部さんの手に、力が籠る。
がっしりと腰を掴んで、逃がさないように。
最初から、手加減する気はない。
下手に手加減すれば、余計に苦しませるだけだから。
「破アッ――――!!」
260
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:14:51
――――迸る光。そして、そこに溶けてゆく、吾作。
「か、に…………アッ――――!!」
吾作は見た。
いつも変わらない笑顔で、自分を待ってくれる兄貴を……。
――――吾作、だらしねぇな。もう一度、俺とレスリングだ。
そして、吾作は……笑顔のまま、消滅した。
【鎌田吾作@本格的 ガチムチパンツレスリング 消滅】
261
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:15:33
終わった。
かつて吾作のいた場所には、焔薙が、ただ残されているだけ。
それを、阿部さんは拾い上げる。
「……そろそろ行かねえとな」
空を見上げて、2人は歩き出す。
――――全てを、終わらせる為に。
【離島線四号基鉄塔・蜘蛛糸・上層付近/午前】
【阿部高和@くそみそテクニック】
[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中の上)、いい男、寺生まれの力(残り57%)
[装備]:TDNアーマー@本格的 ガチムチパンツレスリング、焔薙@SIREN2
[所持品]:支給品一式、くりまんじゅう@ドラえもん、葉巻@MGS3、火掻き棒@SIREN、
きせかえカメラ@ドラえもん、兄貴のジーンズ@本格的 ガチムチパンツレスリング、
フォトンブレードPG@龍が如く4、釘バット@SIREN2、コート@かまいたちの夜3
[思考]
基本:"ウホッ!いいエンド"で全てを終わらせる
1:Kさん達の所に行こう
※寺生まれの力を受け継いでいます
※フェアリーナイトメアを習得しました
【スペランカー先生@スペランカー先生】
[状態]:ボロボロ、残機:0
[装備]:シングルアクションアーミー(2/6)@MGS3
[所持品]:支給品一式、ステルス迷彩(残り使用時間:36秒)@MGS3、がんじょう(残り1個)@ドラえもん
[思考]
基本:死なないように、生きて帰る
1:Kさん達の所に、行きましょう
※闇人の対処法を知りました
262
:
299:EXTRA Stage
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:15:44
投下終了です
263
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/01/30(水) 00:21:48
状態表にミスがありました
[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中の上)、いい男、寺生まれの力(残り57%)
を
[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中の上)、いい男、寺生まれの力(残り42%)
に修正します
264
:
◆uPLvM1/uq6
:2013/01/30(水) 18:03:27
とりあえずテンプレだけ投下しておきます。
【ロワ名】変態ロワ
【生存者6名】
・クマ吉@ギャグ漫画日和
・亀仙人@ドラゴンボール【右腕使用不可】
・ふんどし仮面@銀魂【限界寸前】
・マクシーム・キシン@悪魔城ドラキュラ
・安錠春樹@新米婦警キルコさん
・ムッツリーニ@バカとテストと召喚獣【フラッシュバックによる無力化の可能性】
【主催】裁判長@逆転裁判【洗脳されている】
【主催者の目的】変態共に死刑を執行する
【補足】
・会場は悪魔城の中、裁判長は悪魔城の最上部にいます。
・キシンはマーダー。それ以外は対主催です
265
:
◆xo3yisTuUY
:2013/01/30(水) 21:18:16
はじめまして。
今日はテンプレだけということでご勘弁を。
【ロワ名】「日常の境界ロワ」
【生存者6名】1.阿部高和(くそみそテクニック)【限界寸前】
2.漆原るか(STEINS;GATE)【フラッシュバックによる無力化の可能性】
3.藤堂晴香(寄生ジョーカー)【右腕使用不可】
4.真紅(ローゼンメイデントロイメント)
5.水瀬伊織(アイドルマスター)
6.鯨(グラスホッパー)
【主催者】藤堂奈津子(寄生ジョーカー)
【主催者の目的】最終優勝者(最も過酷な生存に適する者)を苗床とした寄生生命体の創造。
【補足】首輪のかわりに、参加者の体内に72時間で発現する寄生体の核が投与されており、それが実質的なタイムリミットとなっている。
優勝者への褒賞は、賞金のほか、ただひとつしかないその抗体とされている。
まっすぐで、凝りすぎないロワという感じで行こうかと思います。
266
:
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:52:19
「日常の境界ロワ」 298話投下します。
267
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:54:09
決着は、一瞬だった。
それも当然、といえばそうかもしれない。
方や、満身創痍の身体に鞭打ち、欠けたナイフと己の身体を弾丸にして挑んだ男。
方や、数々の修羅場を潜り抜けて来た、ライフル装備の大男。
銃撃を受けきってでも相手に切り込む覚悟だったというのに、その銃撃さえ無くても、前者の渾身の一撃は、後者には届かない。
勢い込んだその腹に、鋭く膝を蹴りこまれて、男は無残に地面に転がった。
――交錯は、一瞬だったのだ。
敗北、か。仰向けに倒れたまま、男は宙を見上げた。ビルの無機質な天井が、随分と遠く見える。
彼――阿部高和の身体は、限界をとうに超えていた。
ほぼ三日間の不眠不休に加え、幾度も繰り返された強敵との死闘は、彼の命を確実に削ってきていた。
身体は磨耗し、精神は磨り減り、それでも倒れることなく進み続け――
――つい先ほど、友の命と自身の身体を犠牲にして、このゲームの最悪の“切り札”を沈めたばかりなのだ。
青いツナギは血の斑に染められ、身体中痛くないところが無いというほどに怪我だらけだ。
立ち上がることもできず、自慢の息子もピクリとも勃ち上がらない。
――なるほど。これが俺の死か。
阿部は、どこか冷静に、それを受け入れていた。
あいつを――伊織を逃がすために、こいつに単身挑んだときから、覚悟はできていたのだ。
勝ち目など無かった。そんなことは、出会ったときから知っていた。
だが悔しさは無い。これだけの時間が稼げれば、あいつは上まで上れただろう。
その先に何が待っているかはわからないが、今のあいつなら、それを乗り越えることができるだろう。
『いいこと、死ぬなんて許さないから。死んだりなんかしたら殺すわよ!』
脳裏に彼女の声が浮かんで、くく、と阿部は笑う。
彼女の声は厳しい言葉でも甘ったるく、ひどく脳裏にこびりつく声だ。だがまさか死に際にまで、脳内で聞こえてくるとは思わなかった。
あれは相当のじゃじゃ馬だが、確かにいい女だ。男を手玉に取るには、些か幼なすぎるが――。
あれの未来を、少しだけでも見てはみたかったが。
そんな感傷は俺には不似合いだろうけどな、と阿部はまた笑った。
あいつの言葉を裏切ってしまうのは、漢の美学に反するが――だが、それもまた仕方のないことだ。
今まで思っていたよりもずっと、死は心地いい。
やりきった感情すらある。イッた後のように、精神も清んでいる。
性欲に任せた人生でもあったが、ここらで幕引きなのもまた運命だろう。
あとはあいつらの無事を祈りながら、走馬灯に意識を委ねるのも、悪くないかもしれない――。
そう、思っていた。
268
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:54:56
そんな阿部の顔を、鯨が覗き込んできた。
卵が孵化するのを待ち侘びるかのように。阿部の死を見届けるためだろうか。
黒いシルエットのように、彼の顔は照明の影となっていて表情が見えない。
だがそれは、まるで深淵に覗き込まれているかのような――
突如、阿部の脳内に流れ込んでくる、走馬灯とは違う映像。
心地よい回想が突如として濁っていく。視界までもそれに侵されていく。
泥のようなものに塗りつぶされていくように、思考がそれに支配されていく。
それは怨念であったり、憎悪であったり、恐怖、嫉妬、――絶望。
自身の人生から、幸福だけを取り除いた出涸らしのように、無造作で無機質な負の感情の塊。
自分の前で死んでいった者たち。自分が殺した者たち。自分の手が届かなかったものたち。
そういったものの、見えるはずもない感情が形を持って渦巻いて、曖昧ながらも明確に、色を持ち、脳内から心へと押し寄せる。
亡者たちが、地獄の底から手を伸ばし、自分を絡め取り引き摺り落とそうとしているような。
それは、生きようとすらしていない自分を、さらに死へと駆り立てるような。
現実で感じるすべての感情を否定し、死という安楽へ逃げ込みたくなるような。
「――人は誰でも、死にたがっている」
感情が、生存本能へ反乱を起こしているかのような――。
「これ、か」
阿部は、呻いた。
「雪歩をやったのは、これか」
脳内の映像を掻き消そうともがきながら、呻くように言葉を搾り出す。
閉じかけていた目を見開き、自分を見下ろす男に、憎悪の篭った視線を遣る。
確信があった。あの時、あの僅かな時間に、あの臆病な少女に自らの死を選ばせたのは、きっと、この感情に他ならない。
それを駆り立てているのは、間違いなく、この男なのだという、確信が。
「雪歩という者は知らない。だが俺の前で命を絶った、雪の似合いそうな女はいたな」
阿部を見下ろす鯨は、こともなげに答えた。
特に感慨も無く、その死に思い入れも無い、そういった口ぶりだった。
「――そうか」
阿部は、再度呻いた。語尾が震えた。
「俺は、お前を探していたぞ」
倒れたままの、阿部の声が一段と低くなる。
唸るような、目の前の敵を噛み殺してやりたいとでも言いたげな、野獣の声になっていた。
269
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:55:30
「俺が離れたわずかのうちに、雪歩を自殺に追い込んだ奴をな。
あの臆病な子に、自分を殺すなどと出来る筈も無いだろうよ。
殺すこと、死ぬことだけでなく、人を傷つける事すら恐れていた、ただの少女にそんなことがな。
俺は探していたんだぜ。直接手を下さず、人を自殺に追い込むことができる能力者ってやつをなぁッ!」
阿部が感情を剥き出しにして吼える。
押寄せる絶望の波に打ち勝つように、ただひたすら目の前の存在に対しての憎悪を顕にする。
身体が動いたのならば、一切の箍を外してでも、目の前の男を殴っていただろう。
雪歩の無残な死体を抱いて慟哭した、あの時の誓いを無かった事にするなど、できるものか。
「俺には確かに、もうお前を殺すだけの力は残っていない――。
だが同時に、自らを殺すだけの力も無い。だからこの、お前の能力は俺には無意味だ。
むしろ俺は感謝したいぐらいさ。こんな感情を蒸し返してくれてよ。
この生きた怒りって感情をな……」
入らない力を無理やりに込めて、拳を握る。
先ほどまでの、緩やかな死を望んでいたことがただの気の迷いであったと、自分に言いたかった。
そんな恥があってたまるか。
こいつを目の前にして諦める事は、それこそ、こいつの能力の結果で自殺することと何も変わらない。
俺の人生のケツが、そんなシマりの悪いことでたまるものか。
「――俺はゲイだぜ」
唐突に、宣言した。
「生産的じゃない存在さ、殺し屋のお前と同じじゃないの」
鯨の表情は変わらない。だが、お前と一緒にされたくはないという感情はあるはずだ、と阿部は感じていた。
満身創痍、喋るだけの体力も気力も無いはずなのに、言葉だけは次々に溢れてくる。
この期に及んでも俺は絶倫ってことかい。阿部はまた一人で嗤った。
「異端者だぜ。虐げられもしたさ。だが俺は強く生きたぞ。薔薇の魂を持ってな。
知ってるかい。のばらってのは、束縛への反乱の象徴でもあるってね」
綺麗な薔薇――とは言えないが、薔薇に象徴される、阿部の人生はそういうものだった。
薔薇色とも言い難いが、決して不幸な人生ではなかった。
「俺の薔薇はここで枯れちまうかもしれないね……だが枯れない薔薇だって、俺は知っているんだぜ」
鯨が、相も変らぬ醒めた表情で阿部を見下ろしている。阿部は、皮肉めいた笑みを彼に見せた。
鯨がそれでも阿部を殺そうとしないのは、彼が自殺を見慣れすぎているからだろうと思う。
死を前にした人間が饒舌なのは、彼が一番よく知っている。喋るのをやめたとき、自分が死んでしまうと思い込んでいるのだと。
270
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:57:03
「薔薇の誇りは、そう簡単に、傷つけさせられるものじゃないぜ――!」
阿部の声が一際大きくなった。
刹那、鯨の表情が僅かに歪み、突然身を捻るように仰け反る。
一瞬遅れて、その場を疾風のような刃が掠めた。
鮮血が飛ぶ。鯨の巨体の肩口に、鋭く斬跡が入る。
「ちっ……見破られたか」
阿部が呻く。
彼が喋り続けていたのは、それから意識を逸らさせるためであった。
だがこの相手は、プロだ。だから、それに気付いたのだろう。
紅い人形が、僅かに血の光沢の残った刀を翻して、鯨に迫る。
鯨はライフルを大きく後ろ手から回し、素早い動作で人形に照準を合わせた。
ハッと身体を固くしたその人形の一瞬の隙に、鯨は銃撃を加えることなく、大きく飛び退いた。
奇襲を受けた時は、迎撃に徹するのではなく、その場を放棄して退却し、態勢を整えるのが、殺しを生業とする者達の鉄則だ。
鯨は、その巨体に似合わぬ素早い動作で、階段へ続く通路へと身体を翻した。
紅の人形――真紅は、それを追い大地を蹴る。
「追うな、やつはプロだ」
阿部の一声に、真紅は足を止めた。阿部に振り向きはせず、背中を見せたまま、鯨の消えた通路を睨んでいる。
「そうね。ただ私も、ある意味プロなのだけど?」
「奴は――戦いのプロというよりは、殺しのプロだ。いや、死のプロ、か。
逸っても、いいことは無いぜ」
倒れたままで説教とは情けないがね、と阿部はぼやくように言った。
真紅は嘆息する。
「まぁ、あの子を置いてもいけないし、貴方の言うとおりだわ。
るか! 大丈夫よ、来なさい」
真紅が声をかけると、下の階段から、漆原るかが恐る恐ると顔を出す。
奇襲を仕掛ける以上、身軽な自分が一人で戦ったほうがいい。真紅はるかを、そう諭して待たせてあったのだ。
尤も、彼女自身の実力はともかく――彼女が武器と言って憚らない、あのレプリカの刀では戦力とも言い難いというのが、本心のところであったのだが。
「あいつはどうやら次の階へ逃げたみたい。待ち伏せしているのかもしれないから、油断はならないわね」
阿部に背中を向けたまま、真紅は階段の向こうから視線を外さない。
「逃げた、とは極めて主観的だが――まぁこの階から消えたのは間違いなさそうだな。
だが、その先に水瀬伊織が――行っている。すまないが、追いつかれる前に、頼む」
「――伊織。ああ、容姿は、人から、聞いているわ。了解よ」
「ひとつ、気をつけてくれ。あいつに意識を傾けすぎるな。奴の目の前では、死に――駆り立てられる」
「自殺させる能力者、だったかしら。それも、他の子から聞いたわ。
死の色が、あまりに濃すぎる人。傍にいるだけで、『死に近くなる』って――。
でも――。大丈夫。それに引き摺り込まれたりしないわ」
271
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:57:42
ようやく阿部の傍に辿り着いたるかが、阿部の身体の無残な怪我に思わず息を呑み、眼を逸らす。
生きているのも不思議に見えるというのに、どうして彼は喋り続けることができるのだろう。
僕を見て、どうして目を輝かせたりしたんだろう、などと考えていた。
――知らぬが仏、である。
「あの、ええと……大丈夫、なんですか」
「阿部、だ」
阿部は、深く溜息をつく。
「だが大丈夫じゃ、ないな」
「悪いけど、手の施しようも無いわ」
阿部に同調するように、真紅も容赦なくも思える一言を呟いた。
「そんな……なんとかならないんでしょうか。
僕はもう、誰にも死んでほしくなんて、ないんです」
るかは、既に目に涙を溜めている。
喪失は、何度味わっても、辛い。ひとつの命が終わるということを受け入れる経験は、人間の心に重く沈む。
それが続いたとしても、決して一つ一つが軽くなることはない。
はじめから、喪い続けた彼にとっても、それは同じことだ。
「へぇ、うれしいこと言ってくれるじゃないの。
でもな、るか。俺はここが人生のケツだ。もう自分の墓穴すら掘れないってのは残念だがね。
……そうだな、お前にこれをヤろう。俺が今までずっと使ってきたナイフだ。
お前に戦えとは言わない。だが……そいつは、俺をずっと守ってきた、お守りみたいなもんだと思ってくれ。
万一戦うときが来たならば……やや欠けてはいるが、ブスリとやれば挿入(ささ)るだろう」
「は、はいっ」
るかは、阿部の視線の動きに合わせ、もう上がらない阿部の腕を取ると、その手に握ったナイフを、阿部の指を一本ずつ離しながら、優しく持ち上げた。
「名前は」
「漆原るか、です」
「……そうか、いい名前だ」
るかの頬を、涙が伝う。
阿部は、少し悲しい顔をした。腕が上がらない。涙を拭いてやることのできない身体が、少しだけ悔しかった。
「――真紅。あとは頼んだぞ。薔薇族の魂は君に託そうじゃないの」
「勝手に、私をその薔薇族とやらの一味に加えないでもらえるかしら」
阿部の言葉に、背を向けたままの真紅の冷静な返事。
ほんの二日前、戦場で出会い、僅かに言葉を交わしたときから、二人の関係はずっとそういうものであった。
「いいじゃないか。お互い薔薇同士、仲良くやらないか」
「――貴方が言うと、薔薇も随分と俗な花に思えてくるわね」
本人は――少なくとも真紅は――否定するだろうが、お互いに心を許している。そういう関係だ。
「そうかい。だが真紅、あんたは気高く、綺麗だ。俺が認めるんだから、相当なもんだぜ」
阿部の、レディに言うには余りにガサツな――しかし、本心からの褒め言葉。
「――ありがとう、阿部。でも減らず口はその辺にして、もう休みなさい。
あとは私に任せればいいわ。伊織のことも、るかのことも、この歪んだアリスゲームのことも」
それを減らず口とすら評した真紅を、阿部は楽しいやつだと笑った。
「そうかい、安心した。頼んだぜ、薔薇乙女」
「安心して逝きなさい。頼まれたわ、薔薇漢」
272
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:58:08
真紅が、歩き出す。彼女は、一度も振り向かなかった。
その後ろを、るかが阿部を何度か見遣りながら続く。
それを、頭が動かないために視線だけで見送り、阿部はまた視線を天井に移した。
俺としたことが、ずいぶん喋っちまったな。
お喋りな奴は嫌いなのだが――。
こんな死にかけだというのに、言葉は途切れることなく口から溢れていった。
不思議なもんだ。死ぬその間際まで話ができるなんて、思いもしなかった。
――まぁ、いいか。
阿部は、ゆっくりと目を閉じた。
最期なんだ、そんなロマンが、あってもいいじゃないか。
今は、薔薇の散るように、ゆるやかで安らかな気分だ。
死を受け入れていた、恥じるべき先程の気持ちとはまた違う。
これは死ではない。花が散ることは、季節の巡りと同義なのだ。
次の種が芽吹けば、それでいい。子種は随分と無駄にしたが、心は引き継がれたのだから、それでいい。
伊織、すまん。俺は死ぬ。お前との約束は、守れなかった。
雪歩を守れなかった。お前を最後まで守り続けることもできなかった。不甲斐ない男だと笑ってくれ。
だが、俺の魂は、俺ののばらの精神は、お前や、真紅や、るかに託した。
死ぬなよ。魂を、こぼすなよ。生きて、帰れよ。
――俺の墓には、似合わないだろうが、薔薇でも供えておいてくれよ。
【コントロールタワー17階・深夜】
【真紅@ローゼンメイデントロイメント】
[状態]:疲労(中) 能力使用不可
[装備]:日本刀(一部欠損)@現実
[道具]:見崎鳴の左目@Another 人形お着替えセット@ローゼンメイデン 基本支給品×2
[思考]:このアリスゲームを終わらせる。
【漆原るか@STEINS;GATE】
[状態]:疲労(小) 全身に掠り傷 轟音に対する強い恐怖
[装備]:妖刀・五月雨@STEINS;GATE 蝉のナイフ(先端破損)@グラスホッパー
[道具]:殺虫剤@寄生ジョーカー 基本支給品×1
[思考]:真紅に従う。生き残る。
【コントロールタワー18階・深夜】
【鯨@グラスホッパー】
[状態]:疲労(中) 左肩口に斬り傷
[装備]:ライフル銃(残弾5/8)@寄生ジョーカー
[道具]:ライフル銃弾×14@寄生ジョーカー 『罪と罰』@グラスホッパー 基本支給品×3
[思考]:過去を“清算”する。
【阿部高和 死亡 残り5名】
273
:
【298話:それはのばらのように】
◆xo3yisTuUY
:2013/01/31(木) 23:58:48
以上です。
274
:
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:08:41
『Splendid Little B.R.』、第二話の第一章を投下します。
TRPGのリプレイに、たまについてる予告漫画を見るのが好きなので、ちょっと作りました。
閲覧しなくとも本編を読むにあたって問題はありませんが、登場人物の見た目など知りたい方はどうぞ。
ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/comic_02.html
275
:
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:09:33
……違う、URLはそれじゃない!w
正しくは下記になります。削っても見られるんですが、いきなりつまずいて申し訳ない。
ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/etc_comic02.html
276
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:10:17
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)まことの騎士
Scene 01 ◆ 白の鳥・まるで玩具のような
幼子の、遊びですね。
雪によって滅ぶ箱庭の維持を使命とする鳥は、玲瓏な声でそう言った。
なにものにも染まらず、染めようとするものも退ける、響きは凍てて耳朶を灼く。
だが、優美な韻律を含ませてさえずる鳥――齢三十にも満たぬ見目をした女の、双眸はひどく茫洋としていた。
初夏の陽にきらめく緑を宿した瞳には空疎と超然が混淆して、硝子玉のように透き通っている。
彼女が黙してかぶりを振れば日覆いの絹から薄香の髪が溢れ、口許を隠すように添えられる手をいろどった。
粛然たる居住まいは世界を俯瞰しているのか傍観しているのか、あるいは諦観しているのかさえ余人に悟らせない。
この箱庭にある鳥よ。
あなたも、『そう』なのですか。
ただひとつ、歌う言葉の自嘲だけが周囲の空気をふるわせる。
◆◆
分かりません。
いえ。貴方のなさっていることは、私には分かりたくありません。
もとより初めから主によって創られ、箱庭を見守る私に、これだけは分かりようもない。
だからでしょうか。私の紡いでいるこの言葉さえ、貴方に届くことなどありません。
この箱庭に在る私は、外なる果てで戯れに浮かべられた『夢』の欠片でしかないのですから。
そして、ある意味では貴方も……正しくあの方と相似した視点をもって、この箱庭を眺めつつある。
これだけは分かります。
分かりましたから、もう、やめておしまいなさい。
すでに滅びも近いとはいえ、創世主の真似事をして、貴方は何を得られるのです。
まるで玩具のような為様で弄んでいるの箱庭に想いを寄せて、貴方はこんなに憔悴しているではありませんか。
今にも泣き出しそうになりながら、中座するのもこらえ、おぼつかぬ指と四肢をふるわせて――。
急き立てられるように、貴方は、形の合わない小片を押し込み繋いで間隙を埋めようとしつづける。
いちど歪めてしまったものを壊し切ることも出来ず、別の物を創ってしまうことも出来ずに、ずっと。
ずっとその掌で温めたなら、いつか、別の箱庭の小片が馴染むかもしれないとでも思っているのですか。
愚かしい。ほんとうに、惨めで、哀れで見苦しいものですね。
これ以上に付け加えるものもないだろう、これに、どうして別の小片が馴染むのです。
綻び解けるものを無理に繋いで疵を押し隠す。その行いに、どれほどの価値があるのですか。
なにより、貴方自身が己の行いを愚かしいと思っている。箱庭の維持にも繋がらないと解している。
そうと分かってなお突き進んだのが、同じ鳥としてある貴方の、最も救いようのないところです。
無様にしがみついている、これが、貴方になにをしてくれました?
裏を返せば、これに、貴方はなにかをしてやれると仰るのですか?
愛を叫んだところで、ここより先にはもう何もない。貴方が、すべて壊してしまったから。
何かを憎もうにも、ここから遡ってももう何もない。貴方が、すべて消してしまったから。
世界を切り取り抱き締めて、二度と手に入らないものを求めている事実さえも知っていて、
そこまで行ったというのなら、もう、やめてしまえば楽になれるでしょうに。
それでも許せないのですか。
それでも手離せないのですか。
それでも諦められないのですか。
それでも、忘れられないのですか。
荒らげた息を吸って、ならばと白の鳥は続ける。
言葉が胸で凍って砕け、そのたびに彼女自身を傷つけてなおも口を開く。
ならば……せめて、終わらせてしまいなさい。
終わってしまえば、夢だったとでも思えるでしょう。
いつかあの方の仰っていたように、忘却が精算にはならないのだとしても。
◆◆
.
277
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:10:51
Scene 02 ◆ 合咲の間・開幕『剣劇(ブレイド・オペラ)』
乱れて舞い散る、雪が迷宮を満たしていた。
『合咲の間』と名付けられた一室の、天地左右も見え分かぬほどに氷の花があまぎって鳴る。
空がない百万迷宮を照らす星の欠片の、ひどく澄んだ一片さえ、これほどさやけく瞬きはしないだろう。
そして、本来なら命の危険をもたらす冷気からは、ひとに対する敵意や殺意の欠片も感じられない。心を奪われれば
盲目のうちに果てると知れていてもなお、冬の朝を思わせて蒼く締まった空気を恐ろしいものとは思えなかった。
空気。くうき、空(くう)――から、『そら』。
迷宮の天階にあると聞く『空』も、この雪のように美しく鮮烈なものなのだろうか。
肌を刺す寒気を裏切るように、虚ろに澄んだ六ツ花が輪郭は心もとなく、淡い。
穢れない白に、白く重なる影へと認識が吸い寄せられ、胸の拍動さえ潰れて聴こえなくなる。
永遠を思わせて降り積もる、この雪に埋もれ解け敢えるのなら、
現し世に在るいかなものどもも、眠るように終われるのではないだろうか。
ひどく危うい感傷に衝かれて、テトリスは強くかぶりを振った。
世界の滅びを。いいや。自身の死をすら受け容れる心地を受けた足が、止まっている。
受容とも諦観ともいうべき思いが、胸にともった希望や気力を消すものが、自身のどこから沸き起こったものか
判断がつかなかった。生を希求して脈打つ胸は主の思いに揺り戻しをかけるように激しく高鳴っている。
死ぬわけにはいかない。
花白に向けて宣誓し、国にある者の意気を上げる【突撃】を行わんとしていた体が動かない。
もとより先手を取るにあたって、自身の機転や才知には期待していなかった。
だが、騎士の核たる武勇を支える精神が揺らされてしまえば、肉体もそれに引きずられてしまう。
足を止めたまま、動かない自身の呼吸が。早鐘を打つ心音がうるさい。
やまぬ動悸はテトリスの胸中で焦燥と認識され、そのまま、本能的な恐怖に取って代わろうとする。
致命に至る自失を払うべく、ほつれた雪に濡れて束をなした髪を跳ね上げて一刹那、
「ホントに……きみは、アカツキのことを心配しないんだね」
猫と同じかたちをした耳に、どすのきいた声がもつれる。
「【決闘場】だったっけ。
大事な仲間とはぐれる罠にも慣れっこなのかな、百万迷宮の騎士ってヤツは!」
心中の憤懣を堪えかねてか。地の底をすべる苛烈が天の氷雪を割り裂いた。
その声に追随するように、騎士を嫌う救世主は無造作な足取りでもって間合を詰めていく。
花白。天から降る花の名をもつ少年が振るった剣の、太刀筋はひどく感覚に拠っている。しかし、逆落しの一閃でもって
武をおのが道と定めるテトリスの体幹を揺らし得た事実は、彼の有する感覚が正しいことの証左となった。
身体の延長を思わせて馴染んでいる刃に剣を噛み合わせた騎士の、腕に重たくしびれが残る。
「先手、っていうか。このまま全部もらおっかな」
雪をものともせずに踏み足へ力を込める花白は、女性的な面立ちに獰猛な笑みを刻んだ。
「ふざけるな」冷気でひりついていたテトリスの頬に、瞬間べつの赤みが宿る。「国のために仲間を信じ、力を合わせる。
それがランドメイカーだ。民はボクらの姿を見て、胸に芽生えた《希望》を育てていく」
迷宮では、ひとの思いが力になる。
胸に湧いた義憤を、このとき確かな力として、テトリスは四肢に力を込めた。
取り回しに難がある両手剣の切っ先を、ほんのわずかに自身の胸へと引き寄せ、花白の剣を絡めとる。
他者に血を流させることしか出来ぬとうそぶいた救世主の、縦の軌道を刻む刃が、峰をすべって頭を垂らした。
「アカツキが何を思ってるかは知らないが、仲間だって《民》のひとりなんだ。
アイツがボクに託すというなら、こちらは『災厄王』の末裔たる誇りをもってそれに応える!」
278
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:11:18
初手の斬撃を受け流して刃を返すテトリスの言葉から、迷いというべきは払われていた。
六花がもたらす困惑と自失を払って、はじめてそれが『白の力』――救世主の異能と思い至る。
なんだ、ボクはホントに『散漫』としてたんじゃないか。白の力で剣圧を増幅させた一閃を、自身が傷を負う未来を
厭わず捌ききる。被害を最小限に留めることだけに意識を集中させていた騎士は、引いたあごに戸惑いを隠した。
自身の異変。始まりも終わりも分からなかった白いパズルに、ピースがはまって確かな形をなしていく。
「……そうかい」
失望と妬心を隠そうともしないため息が、雪に抗って立つ耳を突き刺した。
剣をいなされて重心を崩したまま、ゆらりと巡らせた花白の瞳に、先ほどまでの思い切りのよさはない。
魔物ならば呪詛や術理の構築が必須となる【困惑】のスキルを、迷宮支配者のもつはずの迷核へ干渉して顕してみせた
規格外。世界を手玉に取るほどの力を有する者の気勢と戦意は、相手を選ばず、相手の顔を認識せぬがゆえにあった
気負いのなさを喪い、テトリス個人への《敵意》に変貌していた。
「テトリス。僕はお前らみたいな莫迦が一番嫌いだ。さっきお前の言ってたとおりに」
硝子の質感を有する血濡れた剣を手にする、彼は星の欠片の輝きを受けて傲然と立っていた。
線の細い身体にくすんだ白さの衣装を纏う、彼は世界へ貧弱でみすぼらしい姿を晒していた。
箱庭と呼ばれた世界を救って――自身の好ましく思った魔王を手にかけたことで一度死に、この迷宮においては
魔王としての価値を無くした玄冬を殺して二度死んだ少年は、しかして今なお、ここに在る。
「託した? 違う。お前らが勝手に擦り寄ったんじゃないか。お前らが押し付けていったんじゃないか」
自身の正しさを疑いながらも相手を信じ、ひととしての間違いを正せと言えるもの。
テトリスの向こうにある何者かの影が去来するのを、花白は呼気を押し出して否定した。
ふるえる膝を冷笑で隠し、ひりつく二の腕に力を込め、折れそうな心を守るために言葉を操る。
「矜持、じゃあないな」それに応じるテトリスの声は、彼の耳朶をも冷たく打った。「意地か。それが、お前の」
「本音は『逆上だ』って言いたい? でも、……逆上だとしてもお前らのせいだ」
騎士の纏ったサーコートの襟が、吹き上がった風に巻きあげられて乾いた音をたてる。
いかにして――いかに思って打ち込んだものか掴みきれず、テトリスの得物も身体の脇にと流された。
王のもとにあった救世主と、国王を目指す騎士が演じる剣劇(ブレイド・オペラ)。
壮麗たる剣の舞踏、救世主の魂として箱庭の創世主に選ばれた少年と、百万迷宮が創世主たる神の血を引く
『災厄の王子』の決戦は、その序幕を終えぬうちに化けの皮を剥がされていた。
大舞台が瓦解した後に残るのは安いつくりの三文芝居。玄冬以外のなにものも信じまいとする花白と、《民の声》が
生み出す希望を信じるテトリスの、みじめたらしい綱引きだ。いいや。双方の主張が平行線上にあり、『影弥勒』の側が
【分断】のエニグマで殲滅戦を規定している現状、これは、そんなものでは終わらない。
相手が折れて剣を手放すまで、我慢比べを続けるか、
敵と定めてしまったものを殺して、
命を、奪っていくだけの、
「はな、しろ」
騎士のついた吐息が、子供のような響きをなした。
縁のない眼鏡の下では、無愛想な瞳がはっきりと見開かれている。
「へぇ。大食らいの莫迦は血の巡りも悪いんだ。普段は胃にでも集まってるんじゃない?」
思考の死角を衝かれた者に特有の反応を見もせずに、花白はあっけらかんとした声で笑ってみせた。
ぼぉん。古い柱時計の鳴らすような音の、どこか間の抜けた響きがテトリスの耳に届く。
その音が空間そのものをゆがめていくさまを察知すれば、その事実が彼の心をも乱していく。
279
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SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:12:05
「花白ッ! お前……お前はッ!!」
「『きみ』が、僕に何か言う権利はないと思うんだ」騎士に掴まれた左の腕を、花白はもう片方の手で掴み返した。
「あの結界を張ったのが『影弥勒』なら、当然、その仕組みも知ってるはずだろ?」
頑是無い子供に言い聞かせるような声音の、ひとを憐れむ態度が、テトリスにひとりの男を連想させる。
帝国陸軍武官ムラクモ。流派や忍者であるなしを超えた血盟である『影弥勒』に属するものは、すでに亡き乙女より
命を受けて血盟に潜んだ騎士の「誰から落とす」という問いに対して、何を臆するということもなく告げていた。
――命の器が壊れかけているいま、世界の嘆きも最大限に高まっているはずだ。
命の器。
死んだものの命を計上し、それが満ちれば世界が滅んでしまうもの。
そうして、それはこの迷宮に仕掛けられていたエニグマ、【封鎖結界】の外見(そとみ)であった。
【封鎖結界】。儀式忍法『新神宮殿』と、その主であるムラクモに何者も近づけなくする仕掛け。
深人が<黒真珠砦>にも似た森の要害を砦跡に変えた『スプレンディッド・ビッグ・ウォー』によって解除を行い、
真理を得て不死となったものとの最終決戦<クライマックスフェイズ>に至る道――すなわち『真の忍神』を生む
儀式を壊して、相手の抱く野望を潰えさせる道を、拓いた――はずの。
「ふん。ムラクモってヤツも、けっこう頭がいいんだね」
どっちかっていうと、頭のいい莫迦だけど。
棘に満ちた言葉をこぼして、救世主であった少年は騎士に視線を合わさせた。
戦慄と呆然が相半ばしている相手の腕を払って下がり、澄んだ剣の切っ先でもって胸を指す。
「命の器を【結界】にしたなら、それを壊さなきゃアイツと戦って終われない。
命の器を壊したいなら、器を命で満たさなきゃいけない。殺しあわなきゃ終わりにも行き着けない」
テトリスを敵と定めた花白の声は、沁み入るように優しい響きを有していた。
ともに死のうと言われたときのことを追想していた瞬間と同じ、噛み締めるような微笑みはひどく穏やかだ。
すべてを受容し諦観したがゆえに満たされた、それは日常の点景をただ綺麗だと眺めるものの顔つきにも似ている。
本来ならば、そうした表情を浮かべるものの《希望》となることこそ人類が弱者となった迷宮に挑んでゆく道を決めた
ランドメイカーの――パジトノフ公爵テトリス九世の責務だが、違う。これだけは違う。
彼が浮かべる安らぎの背景だけは、けして認めてはならないと生命が叫んでいる。
嬉しかった。ホントに、嬉しかったんだよ。
だってここに来るまでは、みんな僕にだけ殺させてたんだもの。
こうした言葉が、ほんとうに聴こえたのかどうかはテトリスの側にも判らない。
だが、判らなくとも関係はないと思えるほどに、花白の瞳に浮かんだ色は終わっている。
「分かるんだ。もう、この箱庭も限界に近いって」
雪。花白や玄冬の箱庭では、けして降り止むことがなかった滅びの証左。
ひどく静かな終わりをもたらすものを美しいと眺める、少年はどこにもたどり着かぬ空疎を体現している。
「……ひとが、死にすぎたからか」
しわがれた騎士の声を、空疎はかるく頷いて肯定した。
「救世主や玄冬じゃないきみにも、せかいの嘆きが、歪みが『聞こえた』んだろ?
なら殺すのをやめても無駄さ。このまませかいは雪に埋もれる。玄冬を殺して滅びを避けたってときに溢れたら
意味が無いから、救世主が殺したものだけは命の器に計上されないけど――」
もはや『花白』をさえ捨てたとみえる少年は、影ひとつない笑みを嗜虐的にゆがめて締めくくる。
「ここには、自分が犠牲になって箱庭を続けさせる玄冬<魔王>も、かれを殺せる救世主もいない」
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280
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SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:12:30
ひとを嘲り踏みにじる意志に応じないのが、テトリスに出来る最大限の努力だった。
「つまり」それでも、黒い猫耳がひくつくことだけは止められない。「この世界が雪に埋もれる『時間切れ』を待つか、
相手方と死合って積極的に世界を滅ぼすか。ボクらには、そのどちらかを選べというわけだな」
「そ。でももう、時計の針がふた回りするまでに終わっちゃうと思うな」
花白が剣を振るわない理由を知って、耳の内側に生えた白い毛までもがざわついた。
時間切れ。
世界が終わってしまうまでの猶予は1クォーター(約六時間)の、三分の一。
常ならば迷宮の、ひとつの部屋への移動や罠などの探索、戦闘や休憩にかける時間にさえ満たない。
「……解ったんなら諦めなよ」
残された時間と人数。遡行不可能な過去の出来事。
誰も救わぬと決めたものは、みっつの要素を味方につけて「諦めたら楽になれるよ」と続けた。
甘くすらある言葉でもって相手の戦意を雪に解かさんとする、彼はテトリスにかける憐憫の情を惜しまない。
「僕を終わらせるのは、絶対に、お前なんかじゃない」
ただひとつ譲れなかったものだけを、自身のすべてで守りながら。
玄冬によって終われずに在り続けている花白は、ゆえに空疎として雪の中たたずむ。
一方で、答えられたはずの謎は答えられたために厳然たる真実となって、民なき者へと迫り来ていた。
◆◆
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SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:13:11
Scene 03 ◆ 時の極光・願い飢えたその果てに
災厄王は三界の主を喚び出し、「ただいまより世界はひとつとなれ」と命じた。
すると天階と地上、地階はみるみる合わさり、世界はひとつとなった。
災厄王おおいに喜び世界を我が物にせんとしたが、三位一体となった世界の主はかれに告げた。
「人の身で世界を我が物にしようとは傲岸不遜、その命果つるまで、汝を幽閉せん」
災厄王の足許から迷宮が広がり、彼が秘術を尽くして逃げようとも、牢獄の壁は虜囚とすべきに追いすがった。
そのとき、世界は終わり、新たな世界が始まった。
ひとの知る土地のすべては、ひとつの迷宮となったのである。
――――名も知れぬ迷宮職人<ダイダリスト>、タカラ・マルコキアスの序文を借りて
◆◆
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SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:13:33
「……こんなこと、分からなきゃ良かった?」
剣劇が言葉に断ち切られての第二幕は、ひそやかな声にて始められた。
しずかに壊れてゆくものを眺めて息をつく花白の、テトリスに問う声は恍惚としてさえいる。
世界が滅んで黙したそのとき、彼は、はじめて世界を抱き締められるとでもいいたげに睫毛を伏せる。
もはや双方剣を構えず、会話も成立しない局面を迎えて、騎士は大剣を杖がわりにして身体を支えていた。
剣の一閃によって決着をつけられぬ間にも刻一刻と、世界は終わりに近づいていく。
なにも為さぬまま、滅びを告げる雪に消え敢えるか、最終決戦で積極的に世界を滅ぼすか。
【困惑】にさえ昇華され得ぬくるめきを覚える選択を前にすれば思考も止まる。この世界は必ず終わる。
騎士では、いけない。積み上げた武勲では、目の前にある『空疎』を殺した先に進んでいくこともかなわない。
笑うしかない状況だと、テトリスの脳漿は告げている。
笑ってしまえば、少なくとも肉体は弛緩を得られることも経験していた。
それでも吐息に色はつかず、肩を揺らすたび白く凍ったものが緩んで溶けてほどけていく。
「黙ってるって、ことはさ」
声がかけられたという事実に対して目を上げれば、伏せられた空疎の睫毛に銀花の欠片が舞い降りた。
「きみは、自分が潔白だなんて思わないんだ。血に汚れた手で何かを掴めるなんて思えないんだ」
「汚れのない身で、なけりゃあ……」
幸せにはなれないかというくだりを、テトリスは胸中に呑んで殺した。
「自分が潔白である――なんて。そんな根拠のないこと、よく思えたもんだよね」
やはりと、言うべきなのだろうか。
かつての救世主であり、花白という名を持っていた空の少年は、自分に対して言葉を発していない。
「だってひとは……ヒトビトは、どれだけ同類を殺してきたの?
どれだけ、玄冬と救世主に犠牲を強いてきたの? あの人やバカトリに無理をさせたの。
争いのない世界を望んでたっていうなら、どうして、かみさまはあんなふうに作っちゃったのかな」
先刻の繰り返しとなる言を、今度はテトリスも止めなかった。
止めても無駄だと感じたのではない。滅びまでの空白を、音で埋めたいと思ったわけでもない。
「今までヒトビトを殺して、傷つけて、せかいの滅びに手を貸してきたくせに。
いざせかいが滅ぶとなったら『救世主と玄冬によって救われる』だなんて、道理が通らないよ」
花白の言を聴く少年は、自身の才知が不足に逃げることなく黙考することを選んでいた。
騎士では、いけない。世界を呪う彼を剣によって殺すことでは、ここより先にある何処にも向かえない。
そのすべてが真実であったとして、そうであるからなんだというのだ。
何処にも行けぬからといって、ここまでの道で覚え掴んだ《希望》を投げ出す道理はない。
ランドメイカーだからではなく、異能があるからでもなく、まず、自身がテトリス・パジトノフであるために。
ただひとりの乙女と交わした誓いに、乙女のもとを離れる自分をさえ受け容れた彼女に応えるために――。
ここでも、約束は守っていく。あの雪の日に交わした約束を、守り続けていく。
――約束する。必ず、君にふさわしい王になってここに帰ってくる。
この言を聞いて、乙女――「七不思議の」リジィは、騎士でもいいのにと首を傾げた。
だが、そこだけはテトリスにも譲れはしなかった。騎士であるなら、リジィを守ることは出来る。しかし騎士では
王国を拓けない。王の傍らにあって輝くことはかなっても、みずから希望の炎をともすことはかなわぬがゆえに。
ある意味では、暗黒不思議学園の国王たるリジィと袂を分かちかねない選択を、しかして彼女は許していった。
友好国との事情はあれども、ほんのすこし寂しげに、けれども、この気性ゆえにこそと言いたげに。
リジィが命を落としたいま、かりに彼女と交わした約束を破ったとしても、その事実にはきっと誰も気付かない。
だが、彼女に向けて世界をもっと良くすると宣誓したテトリス自身だけは、約束を破った事実を絶対に忘れない。
忘れられるものか。凛と紅い瞳。ときおり林檎の朱がさすなめらかな頬。リジィが好きだから帰ってくるわけじゃない。
よく通る声。雪に流れた金の髪。素直に伝えて行けなかったことは、すべてくちづけに込めたのだ。
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283
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:14:02
黙示録の乙女。理想を胸に学園を打ち立てた女王が、足を折ってひざまずく。
災厄の王子。王になるとの誓いをたてた騎士が、乙女のあごにと手を添える。
さよならは言わないわ。決然としたリジィの言葉に、テトリスも胸中で同意していた。
さよならの言葉は、いつかこの手が冷たくなろうと、あの日荒野を目指した心が凍りつくまで要らない。
誓いの、あるいは道を征く覚悟を表明した接吻は、熱に解けた雪の苦みを舌に刻んでいる。
叙事詩的な光景に影を落とす苦みこそが、騎士としてありつづけていたテトリスに飛躍を促した。
王のため、勇者のごとくに斃れること。それが騎士に出来る最後の誓いの表明だとして、自分は、そこにいかな意味も
見出さない。それを実行したところで忠誠を誓うべき王はすでになく、世界の滅びも止められはしない。
まぶしいものを見たかのように、風雨に立ち向かうように。少年は瑠璃のしずむ双眸をすがめた。
「どうして」
口をついた言葉の調子はひどく静謐で、選ばれた単語は滑稽なほど朴訥だった。
だが、その単語にこそ空疎な少年はいっとき花白となって、意識をテトリスの側にと向ける。
「どうしてなんだと、お前は言う。
世界に、神とやらに、そしてボクらに――花白。お前は問いをかけてばかりだ」
無慈悲な吹雪を、刹那、そよと吹いた風が払った。
雪雷さえ寄せ付けぬ、それは初夏の緑を思わせて爽やかなものをふたりの間に残していく。
「だからなんだっていうんだ。僕に殺せと強いたせかいを、そこに住むものを恨んで、憎んで呪って何が悪い……!」
花白の、雪に映える薄紅の髪より深い瞳の紅を、テトリスは真っ向から見つめ返した。
双方『睨んでいる』との形容が至当な、視線には切迫したものがある。身を震わせるほどの切迫と焦燥とに苛まれて
なお見出したいものがある。信じたいものがある。殉じたい、重なりたい、愛したいものが確かにある。
少なくとも、いまこのときのテトリス・パジトノフは『それ』ゆえに渇き餓えている。
その気持ちが花白の側にあると明言しないのが、ある意味では、この少年の示す誇りの最たるものであった。
「違うだろう。質問ってのは審問じゃない。それは、相手を痛めつけるために行うものじゃない。質問ってのは」
「答えを求めて行うものだなんて、お前なんかが言えるわけ?」
ただ、素っ気ないと思われがちな物言いだけは、この場で直せるようなものでもない。
理合いの勝って、いささか教条的な印象さえ残す物言いに、花白が噛み付くのも当然だと思えた。
噛み付いてもらえるだけで、十分だった。
「じゃあ、どうしてお前はボクに問いかけた?」
噛み付いてくれた少年を受け止めた災厄の王子は、そのまま、彼の手筋を崩しにかかる。
「お前が『影弥勒』だから。騎士で貴族で、僕の嫌いな軍人っぽいヤツだからに決まってるじゃない」
「銀朱隊長、か? そういう人間でいいんなら、ムラクモやアカツキも変わらないさ」
敵だから、軍人だから貴族だから騎士だから。記号の力を、他者との相似でもっていちどきに打ち払う。
「この戦場に向かうのを選んだのはお前自身だ。その時点で、お前は問いかけるべきをボクらだと定めている」
処刑人としてもあった友の、あるいは抗魔式にて相手を無力化する仲間の手筋を思い出しながら、
「自意識、過剰すぎ。僕は、お前らじゃなくてアカツキと一緒にいたんだよ」
テトリスは、花白の隠していたのだろう本音をここで引き出し、たしかに掴み取った。
「同じことだ。さっき『救世主が殺したものだけは、命の器が計上しない』と言っただろう。
ずるい言い草だが――本当に世界の滅びを望んだとして、ボクがお前だったら、あそこで加賀十也を殺さない」
息を呑んだ花白の、細い身体を風が揺らしていく。
飛雪は花と見まごうものから、ざらざらと振りかかる氷塊にと成り代わっている。
ぴんと立った耳のなかに入り込もうとする雪を、テトリスはかぶりを振って追い払った。
284
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SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:14:23
「お前だけは命の器を無視出来る。それで世界を滅ぼしたいなら、他のヤツらに殺し合わせるだろうさ。
そして答えが要らないなら、相手の苦しむ姿も見ないなら、自分以外のものに問いをかける必要だってない。
なにより――神を憎んでいようと、玄冬を信じられるなら。お前だって、『真の忍神』に何かを願えるはずなんだ」
神に願いたいことはない。
花白の言に恨みつらみ以上のなにかを感じたがゆえに、テトリスは質問の手を緩めない。
「ボクにかみさまのことは分からない。だが、ここにはソイツと関係ない『神の死体』なんざ腐るほどある」
相手に痛い問いを放てば、自身も心に痛みをおぼえることを体感しながら。
『新神宮殿』。死んだものにさえ使い道を見つけるような人間が、神へと願う権利を手にする儀式忍法。
さながら戦時にある騎士団や軍隊と同じか、それ以上に理想や概念、機能といったものだけが肥大したものの手によって
世界が生まれかねない構図に生理的な忌避感を覚えた少年の瞳は、希望喰いどもに襲われたかのように渇き餓えていく。
「やめろよ……」
しいて言うなら情に餓えた心を潤すは、花白の漏らした声であった。
「やめろ。もういいじゃないか。僕は、そんな話は聞きたくなんか、ッ、ない!」
創世主があることの意味を知る『もと救世主』は、そのとき、完全に空疎の影を払った。
剽げた部分の影もなく震え、嵐を受けたざわめく胸で砕かれた言葉に何ひとつとして嘘はない。
機転のきかないテトリスでさえ、激情の発露をもう少し誤魔化せたのではないかと感ぜられるほどに、彼は揺らいでいる。
きつく目を閉じ、剣を持たぬ側の手を胸にと添えて歯を食いしばっている姿を隠そうともしない。
それでも、この少年はテトリスの言葉を耳をふさぐことだけは選ばなかった。
「なにがいいんだ。このままじゃ、ボクだってお前に何も答えられない」
相手の情を喰らうような言葉を放ったテトリスもまた、相手の無様には言及しない。
皮肉の棘や諧謔の牙を振り捨てて求めたものに手を伸ばすものを、無様だとは思わない。
「答えなんか要らない。だって、僕が諦めて、玄冬を忘れてしまったら!
この『箱庭』にいる僕には、もう、なにも好きになれるものが無くなる――ッ」
「それが、お前の核というわけか」
わめきが示した花白は、滑稽で頑是無い子供だった。
小児的な激情をぶつけ返されたテトリスも、自身に可能なかぎりにおいてそれを聴く。
「アカツキとともにいたのは、玄冬を忘れない命を繋ぐために、アイツを好きになろうとしたから。
十也を殺したのは、アカツキと生きていけそうな自分に耐えられなくなったから。……下衆の勘ぐりだけどな」
なにかを好きになりたいという気持ちは、《希望》を抱くうえで何より大事なものだと知っているから。
「いいよ、それで」ぞんざいな響きを投げた子供が、鼻をすすりあげた。「でも、だから僕は、ずっと笑っててやる」
皮肉も剽げた笑みもなくした彼からは、消極的な滅びに向かわんとしていた空疎も失せている。
理解しても共感してはならない存在が理解も共感も可能な人間に変わったからこそ、テトリスの側も彼を直視することを
拒めない。ただ溢れるがためだけに横溢すると言わんばかりに、花白はなにものも救わぬ力を発散させている。
「どこに行っても僕だけは、他の誰かを殺さないと終われないから。
だから加害者の顔をして、僕たちだけにこんなものを押し付けた世界を踏みにじってやるのさ」
怒りも憤りも通り越して、哀れみにも似た色が、テトリスを射抜く紅の瞳に差した。
【人類の敵】がひとりは、この言葉をもって、終わった自身が未だ戦場に立つ意義を定める。
《希望》を拒み《好意》をはねのけて、ひとと衝突するしかない《敵意》でもってかろうじて現し世と繋がる少年の双眸には、
しかして空疎を気取っていた頃には見られなかった色がある。
玄冬以外のものとあれると信じれば、そこで終わるしかない彼が全力をもって守り、しがみついてさえいる「不信」は
いま、間違えようもなく「落下ダメージの」テトリス・パジトノフにと向けられている。
285
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SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:15:09
「……それでも、お前の心は耐えられなかったじゃないか。
世界を憎んでいたって、自分の行いが悪いんだと思えて、苦しむことが出来ていたんじゃないか」
だが、先刻と同じ《敵意》を前にしても、テトリスはもはや恐れなかった。
滅びに対する恐怖――より正確には、穏やかな心持ちで滅びを受け容れかけた自身に対する恐怖はある。
しかして目の前にある花白は、テトリス個人に感情を抱いて立ち向かう人間だ。その苛烈や救いようがないほどの潔癖に
神経を引きちぎられる思いをしようと、《民》になれぬ人類の敵であろうと、騎士の武で殺し得ぬ者であろうと、
「だったら! その涙を知らずに征く者は、ひとに審判だけを下せる者は『まことの騎士』じゃないッ!」
相手が強い思いを抱くに至ったことに、敬意を払うことは出来る。
世界すべてを敵に回してまでも果てを目指した相手の、名誉を守ることは出来る。
「ボクはいずれ、騎士を率いる王になるんだ。それが国を滅ぼすような【暗黒騎士】を目指すもんか」
そして、王を目指して荒野を征く道を選んだ少年は、ゆえにこそ騎士としてある今の自身を否定はしない。
まことの騎士。《民の声》に応えられるのならば真贋など関係ないとも感じはするが、それでも、胸には銀のロケットがある。
騎士を送り出した乙女の肖像画と、その遺髪を収めた、忠誠と愛情をそそぐべきものが確かにあるのだ。
冒険を経て技量を上げ、成長したことで心持ちが変わろうとも、注いだ情愛は少年の道に光を灯し続けていく。
「それならッ!」
叫びを斬り裂く風の、曲歌が、迷宮の一室を掻き回した。
世界のすべてを葬る雪は、このとき、テトリスと花白の間にわたって光源を隠す。
戦場にある二人の、いずれの道行きに影が伸びているのか。いずれの背にこそ光があるのか分からなくなる。
――ぼぉん。
間の抜けた時計の音が、ふたたび鳴ったのはそのときだ。
砕けてもなお輝く星の欠片が、薄闇にたたずむ花白の姿を浮き立たせる。
「……それなら。すべてあいして――ゆるしてみせろよ」
口の中で、紡ぎ出される響きを惜しむかのような言葉。
それを耳にし、それが生み出すものを感じた、テトリスの表情が凍りつく。
「星術? ……三大魔道(オーソドックス)まで行使するだとッ!?」
「知らないよ、そんなの。僕は、ただ……ほんのすこし願っただけだ」
だが、硝子の剣を構えるでもなく微笑む少年の――魔法を操る言素(ロギオン)と念素(ポエトン)を、ただのひと言で
呼び寄せ操り得たものの声に鬼気などない。
林檎のように赤くなっていたはずの頬が、いま、このときは青ざめて果敢なく。
まるで今にも泣きそうだというテトリスの感想は、雪と星の生み出す白の光に飲み込まれた。
.
286
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:15:34
◆◆
【星術まじない:時の極光/Light of the Past】
過去の出来事を映し出す魔法。
アイテムひとつか、現在いる部屋を選ぶ。選んだ対象にまつわる過去に起こった重要な出来事を映し出す。
特に重要な出来事がない場合、その道具や部屋が生まれたときのことが分かる。
対象:――――
効果:わずかな効果(まじないの使用者にとり、わずかに状況が良くなる)
難易度:9 使用者・花白の〔魅力〕:4
状況:重要な出来事が起きたときと天候が同じ(+1修正)、対象には使用者も干渉している(同左)
代償:まじないの使用者が、代償として《HP》を1D6点減らす(+1修正)
逆効果:まじないに絶対成功した場合、花白はテトリスに対して「愛情」を1点得る(−2修正)
判定:〔魅力〕 ―― 2D6+4+1>=9
(2D6+4+1>=9) > 11[6,5]+4+1 > 16 > 成功
◆◆
.
287
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:16:08
Scene 04 ◆ 災厄の王子・誇りのままにその慈悲を与えよ
閉じていた目を開いてみれば、ひろがるものに胸をうたれた。
冷たい空気の、抜けていく果てにたゆとう闇を区切る天井がこの場所にはない。
それに気づく前から、二の腕のひりつくような開放感があった。頭上に分厚い雲があろうと、その合間より銀花が
降り来たろうと変わらない。震えがくるほど鮮やかな空気は、そこにあるものの認識を打ち据えたいのか、穏やかに
解かしたいのか掴めない。掴めないまま雪風巻に吹かれてしまえば、掴めぬままでよいのだと無条件に思えてしまう。
(……これが『空』というものなのか)
百万迷宮が飲み込み、砕いてしまったものに抱かれるテトリスの、思いは自問にすらならなかった。
迷宮――『牢獄』が起源となるものに囚われたすべての魂が『海』や『虹』、『月』や『太陽』などとともに存在を
知らずして焦がれ、心の慰みとするもののひとつが、目の前にある。種族的な記憶がそうと叫んでいる。
言葉を奪われたテトリスの纏う外套が、風によるものでなく輪郭を変えていた。
普段は動きを抑えている猫の尻尾は、いまや垂直に持ち上がり、あるじの覚えた歓喜を表してやまない。
だが、「尻尾が動いた」という感覚があっても、彼には、指の一本も動かせなかった。
空の下に一歩を踏み出して、周囲の景色が変わらない。雪のひとひらを捕まえようと伸ばした指も応えない。
(こいつは星術士が伝えるどの術でもない。なら、まずもって『まじない』だろう)
「ほんのすこし願っただけ」。
花白の言葉と系統だった星術にない効果をたどれば、答えはおのずと導かれた。
たとえば、これが迷宮の壁のひとつに向けて映像を映し出す【幻燈】ならば自分の身体は動く。加えて、迷宮の他の壁が
健在なら自分がどこにいるのか自失することも出来ない。失ったものを探す【導きの灯】では空間を超えられず、また、
実体の無いもの――この場合は、テトリスのなかにある空の記憶――を探し出すこともかなわない。
そして【時の極光】は、過去の重要な出来事を映し出す。
まじないという言葉に反して、いまテトリスの「立っている」場所の現実感は魔法のように強いものだ。
だが、それも記憶を封じ、あるいは目覚めさせるという『白の力』や状況、代償といった要素も手伝えば、けして不可能
ではない。まじないとは体系化された魔法にない効果の幅広さと、再現性の低さを備えた簡素な術であるから。
立ち上がった尻尾を鎮めるかたわら、適度に可能性を潰した少年は、潰したものを土台に気を落ち着けた。
尻尾と同じに空ばかり見ていた視線を落とせば、高層建築物のくすんだねずみ色が視界を満たす。瀝青。列強の一たる
ダイナマイト帝国の『船』にも使われたという素材が、これほどに多用される場所は百万迷宮のどこにもない。
(ここは、十也や修羅ノ介……ムラクモやアカツキたちの世界。この迷宮が、生まれた場所だ――)
戦慄と納得に満ちた脳漿から、思考の末端がほどけて溢れた。
【決闘場】の罠――《マグネットムーブ》と言ったか、雷使いの能力者が操ってみせた磁力によってテトリスが誘われかけた
場所もまた、まじないを使った花白のいる『合咲の間』だ。
ならば左京やアカツキの所持する物品も、「術者が位置する部屋にあるもの」という条件を満たす。
そして、ここまで強力に過去を写し込んでいる結果もかんがみれば、『これ』に花白自身も干渉していた事実がまじないの
効果を高めている可能性は十分に考えられた。
(それならこれは、迷核の。あるいは……迷核となかば同化している、迷宮支配者の過去なのか)
そこに考えの至った瞬間、テトリスは真に過去の光景へ溶け込んだ。
自分の肉体に由来する五感が極限まで削られ、主観のなかに客観が混淆する。
映し出されている過去の持ち主の視点と、すでに結晶化した記憶をためつすがめつするときの、あの感覚――過去のあるじすら
持ち得ぬ角度からカメラが当てられるときの視点とが、ひどく澄んだ思考のなかだけで両立していく。
先刻の剣劇とは比べ物にならない出来ばえの舞台においても、雪は、絶えることなく舞い遊んでいた。
高層建築の一面に流れる映像の予報によれば、あすもあさっても雪。現在時刻は十九時五十二分、
(な……こいつ、が……憎い?)
三十五秒を回った瞬間、掲示板の流す映像に、ひとりの人間が現れた。
288
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:16:38
同時に、テトリスの脳は、写り込んだ過去にこめられた感情でもって直截に揺らされる。
白い部屋の壇上にあがった男の、秀麗な顔立ちを引き立てるプラチナブロンド。許容や妥協の一切見受けられぬ峻厳な双眸。
胸の、ざわつくものの源を眺めないという選択を下すことも許されない少年は、必死で思いの源を探った。
憎い。思い自体は強く烈しいが、そうではない。憤懣に近いものや、さらに未消化な衝撃は街の様々なモニタへいちどきに
映る男にも向いているが、何よりまず、この思いを感じた者と、それを追憶するテトリス自身にこそ牙を剥く。
(なぜだ。なぜ――? 疑問、を……叩きつけたいと思っているのか、こいつは)
おそらく、事態を受けたものがあまりに無力であったから。
思いがひどく強いのは、ここにどうしても噛み砕けないものがあって、何度も思い出していたから。
そうした理解は自身のおぼえる負担の軽減には一切繋がらないことを痛感しながら、それでも過去が物語を作る。
(イスカリオテ……反逆の、聖人とやらに)
アルフレッド・J・コードウェル博士。
複数の画面で男が名乗ると同時に、彼の二つ名<コードネーム>が脳裡にひらめいた。
記憶のあるじが知る年齢に比して若い肉体の、喉から紡ぎ出される声はテトリスの想像を外れない。深みはあるが厳しい、
男性性のかたまりだとすら形容出来る声音は、ひどく計算された抑揚をもって聴衆の耳朶を打つ。
彫りの深く端正な顔の、鼻梁に渡したブリッジで支えられたモノクルもそうだ。緑色の瞳の片方を彩るレンズと、頬に下がる
銀の鎖の繊細をもってしても、視線のするどさはいささかも減じなかった。
「あなた方の日常は、すでに壊れている」
酷薄なまでのひと言で、瞬間、テトリスは理解に至った。
様々なものの伝聞によって知った世界に関する知識の点が、線を通り越して面となる。
(『レネゲイドウィルス』。ひとを超人たらしめる与える代わりに、彼らの理性を奪うもの。
発見したものは、この、コードウェル博士。人類の多くがこれに感染したことと、ウィルスの侵蝕に耐え切れないものは
心を失い、ひとでない『ジャーム』になること。その怪物が世界を壊していることを、各国政府へ警告した……)
儀式忍法の土台となった世界の背景を自分に話した者は、加賀十也。
『探求の獣(クエスティングビースト)』のコードネームをもつ少年であった。
自身が一度死んだことで超人としての能力に目覚めた彼の、気怠げにしている眼に、あのときばかりは血が入っていたことを
覚えている。怪力を得るとともに、肉体の一部が獣のそれに変化する「キュマイラ」のシンドロームに覚醒したと知れると同時に、
自分が決定的に日常へ馴染めなくなったと理解した、彼は、それでも何かに焦がれる心までは喪っていなかった。
――いつか、この手でアイツを殺す――
たとえ、それがひどく昏いものであったとしてもだ。
アカツキのような年長者に属し、幾度となく鉄火場を乗り越えたものが、だからこそ沈黙した瞬間もよく覚えている。
同じ世界に生きていたという十也の話があったからこそ、あの技官は左京との戦いを選んだのかもしれない。
(……だが、これは……これが、ボク自身の気持ちか)
魔戦が行われた世界について、テトリスは伝聞によって得たことしか知らない。
一説には百万迷宮のいずこかから到達出来るともいうこの世界は、どれだけ終わっているか。どれだけ救いがないのか、
どれだけ苦しいのか生きづらいのか、それでも目指したいものが、見たい景色が、夢や希望があるのか。
血盟に与するか否かに関わらず、どこの世界にもあるような『人間』の話は、抱えきれぬほど聞いてきた。
その、ばらばらにほどけた欠片を繋いだものが、十也たちによる世界そのものの話だったのだ。
289
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:16:58
たとえば、十也も助力していたという『日常の盾』――UGN(ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク)。
コードウェル博士らが設立した、人類と超人<オーヴァード>の共存を目指す組織の背景も思い出せる。
人間以上の力を持つが、人間よりも人間性を喪いやすい超人。ヒトでなくなった者たちを世界に認め受け入れさせることを
目的にしたUGNは、博士の事故死をきっかけに治安維持の機能に重点を置いたものになったのだという。
レネゲイドが関連する事件の解決や情報の隠蔽を行う一方で、力の扱い方を知らぬ者を保護し、ウィルスがもたらす衝動を
制御する方法を教えて協力者を増やす。そうして時間を稼ぎながらウィルスを研究し――。
「UGNは、その意義を失った」
最終的には超人をヒトに戻すことを目的としていた組織を、設立者であった男があっさりと切り捨てた。
そればかりか、博士は人類の盾としてあった者たちすべてをこの夜を機に裏切った。オーヴァードの力を犯罪やテロに
扱う『人類の敵』に与し、みずからの手で複数のUGN支部を壊滅させたというのだ。
記憶操作や機械への干渉をもって博士の帰還を一般社会から隠すことには成功したが、それも無駄に終わったと聞いている。
完全者を名乗る魔女が立ち上げた『完全教団』の擁する騎士どもが、ウィルスや忍神の血といった異能に目覚めぬ「旧人類」の
肉体を破壊することで、かれらの霊的な救済を行うと全世界に向けて宣言し、実行したがゆえに。
「新たな世界のため、すべてを破壊しなければならんのだ」
すでに途切れた映像に映っていた男の名残が、追想する過去にあった。
コードウェル博士はUGNに向けたものと同じ調子で、自身の住まっていた世界そのものを捨てて征く。
「恐れることはない……悪しき肉体は滅び霊魂は救われる。新たなる器の完成をもって、人は次の階段を上るのだ」
いくつか断線した映像や音声の、原因を作り出した魔女が、高らかに笑う気配もあった。
プネウマ計画。愛を意味する語を冠したものが人々にもたらしたのは飢えに疫病、暴動、凍死というところだった。
「人間に価値は無い――殺してでも減らすべきだ。もう誰も『人口調節審議会』を止めることは出来ないのだよ」
政府の側からコードウェル博士の帰還に助力した帝国陸軍の武官が、黒く艶消しした刀を突きつけた。
人減らしが目的だと口にすることの出来る、彼は自分自身の手によってさえ組織を止めようとは思わない。
(浄化。滅ぼす。破壊する。……ほとんどは詩的で綺麗な表現だが、要は『皆殺しにする』ってことだろう)
情報を、統制するためだろうか。
ただ砂嵐を流すようになっていたモニタのひとつが、ノイズのような歌を流した。
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290
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:17:21
◆◆
――――全てを壊しー、それから創るー。
◆◆
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291
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:17:39
「……どうして」
はじめて自身の思考が肉声をなしたと感じた、その瞬間に『戻って』いた。
雪の吹き乱れる情景こそ変化はないが、空気の流れ方で分かる。分かってしまう。
「やあ、おかえり」
壁と天井でもって仕切られた空間で花白と直面せざるを得ないことを理解した、テトリスは片膝を折っていた。
迷核に込められていたであろう過去が、脳漿を圧迫し、花白の声の穏やかさが、彼の求めるものを思い起こさせる。
「頑張ってみたんだけど、ちゃんとした魔法はダメだったよ」
息を荒らげる騎士の背景を知ってか知らずか、花白は気楽そうな声で言った。きみが過去を見てる……過去と重なってるって
ことを理由にして、【刻騙し】の魔法が使えないかと思ったんだ。
でも、いっときでも滅びの時を止めるなんてどだい無理な話だったね。
そんな力が使えたら、僕だってもとの箱庭で……力が及ぶかぎり、ずっと使ってたと思うから。
「そんな――魔法を。いつ使ったんだ」
「いま」いたずらを自分からばらした子供の顔で、花白は星の欠片から手を離す。「『どうして』って、いま言ったじゃない。
そのとき、僕の力がちょっとだけ強まった気がしたんだ」
協調行動。思い浮かんだランドメイカーとしての用語を、テトリスは水筒の水で飲み込んだ。
相手に対して抱いた《好意》を、この場合は無意識に花白自身の糧として使われたということだろうか。
じかに手合わせした剣のみならず、救世主がもつ『白の力』も感覚的に操っていたと聞いたものだが、なるほどたしかに、
この少年にはひどく嗅覚のするどいところがある。
「結論を言うまでに、ひとつ問おう。お前の言う――『すべて』ってのは、一体どこまでのものを指すんだ」
だからこそ、先手を打って問いかけなければならなかった。
自身へ問いかけた花白に満足される必要はない。まして愛される必要もない。
だが、これだけは譲れなかった。ここで一歩でも譲ってしまえば、少年は自身が騎士でさえあれないと確信した。
「なんだ。それって最初に訊くべきところじゃない?」
「そこだけ聞けば正論だが、訊くまでにあれを見せたのはお前だ」
「それでも、おかしいよ」そして、花白は最も痛いところを晒した言葉を的確に拾って、ため息をついてみせる。
「すべては『すべて』さ。でも、そういうふうに訊くってことは、弾かなきゃいけないと思うものとか見ちゃった?」
「……そのとおりだ。民草――お前の言う『ヒトビト』か? ソイツらに審判だけを下せるヤツが、あそこにもいた」
アルフレッド・J・コードウェルの、あるいは完全者の、ムラクモの――。
三者三様に世界を壊すと言い放ったものたちの浮かべる表情は、おぞましいと形容しても足りなかった。
「理想もいい。ときには鬼になることだって必要だろう。そういう気持ちはボクにだってある」
理合いに秀でてひどく冷たく、しかして、双眸にだけは憎しみとも怒りとも取れる熱のさし続ける顔。顔。顔。
「だが……絆や命の途切れた瞬間で止まって、自分の力にまつわる衝動でしか動けない怪物となると話はべつだ」
方向こそ違えど『新世界』を求めて行動した彼らは、三者とも同じような顔つきをしていたのだ。
いちど死んだはずの人間は、これ以上死なない。
生まれ直すこともなければ、精神の変容がなされることもない。
ひとと繋がる理由もないというのに、変わりようのないがゆえに相対するものに変化を強要し続けるさまは、テトリスの
目から見れば屍霊術師の手によって立ち上がり、生者を憎む死霊のそれとなんら変わりはなかった。
「ふぅん。それだけ聞くと、きみが見てきたヤツは『ジャーム』ってのに似てるね」
わずかな間だが、アカツキとともにいた十也と行動した花白もオーヴァードを知っている。
極光によって過去に至る、それまでに聞いた言葉がなければ、テトリスは彼もジャームに近いものだと認識しただろう。
292
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:18:00
「ヤツらだけは許されないと感じたボクが正しいかどうかは、この際どうでもいい。
理想、目的――あるいは概念そのものになって、自分で自分を満たすやり方も忘れた輩だけは認められない」
「ギリギリで成り立ってる日常を壊して、整理して、水際立ったところから助けてくれるかもしれなくても?」
「整理や救済って言葉の裏には何がある。もと救世主。その『裏』に堪えられなかったのがお前なんじゃなかったか」
「……それだってウソじゃないけど、なんか落第したみたいに聞こえちゃうなぁ」
「いいさ。手前勝手にひとを神にする『新神宮殿』と同じに、こんなもの、本当は出来なくていい」
もっとも、王と王を守る騎士だけは、最後まで逃げてはならないのだが。
それゆえに、テトリスは花白よりも先に征くために心を燃やす。人類の敵となった者を超えるために口を開く。
「一番怖いと思ったのは、な。戻りぎわに耳に入った、子供の歌う声だったよ。
『全てを壊し、それから創る』……活劇の主題歌のようにも聴こえたんだが、ボクには裏にある意味が分かった。
そして、そんなものの意味が分からない子供の姿を、一瞬……ほんの一瞬であっても、想像がつかなくなったのさ」
「冗談とか夢物語で流せないくらいに、この箱庭も終わってたのかい?」
「終わっているかどうかは知らない。だが、どうしても分からない。どうして」
どうして。
答えようのない問いの、否定の一節こそが、テトリスの胸を衝き上げる。
「その歌も、ムラクモや完全者たちも、ヤツらの編んだ『新神宮殿』も同じだ。
どうして壊してから創るんだ。壊してからじゃないと創れないのか、全部壊していく必要は本当にあるのか。
風雨やなにかのように『ままならない』と思えるものも認めて、そいつを残しながら創ることは選べなかったのか」
続いた言葉は、問いの形さえなさないものだった。
血盟『影弥勒』の一員として儀式忍法に近い立ち位置にあった少年は、この問いに答えを望まない。
この世界にあるものを全て壊していくと、絆や歴史、伝統や生を振りほどいて応えられる者がいることをこそ望まない。
「それ、出来るんなら誰かがとっくにやってると思うんだ。僕らのせかいの、かみさまとかが」
「知るか。ボクはかみさまなんか見てない。いや――生き神様とか『不思議さま』には会ったけど、あれは」
「あれは?」
「いや、いい。かみさまが出来ないか、やらなかったことなら、それは人が努力していけることだ。
ボクにはわずかな《民》に《希望》を宿すことしか出来ないが、だからって最初から最後の手段に頼ってどうする」
「……羨ましいな、そういうコト、素直に言えるの。かみさまになれば楽かもしれないのに」
「楽じゃない」生き神様を知る少年は、その言葉だけは明確に否定した。「ひとの信仰に応えるってのは、楽なもんじゃない」
信仰者を獲得すれば、ひとは神になれる。
信仰もまた思いである以上、神は信仰を糧にして奇跡を起こす。
それが、百万迷宮における生き神様のあり方だ。
ではなにゆえに、ひとはこの世界における生き神様となる『真の忍神』を信ずるか。
おそらくは神鏡で未来を見透し、世界の終わりさえ分かってもなお、夢を諦めずに進む姿を信じるのだろう。
理想の見た夢を目指して神にまで至り、不滅の存在となろうとも色褪せぬ存在を前にした人々は、
胸に《希望》を、宿せようものか。
改めて、そうとだけ吐き捨ててしまいたくなる心地だった。
いまも発動し続ける『新神宮殿』の構造そのものは、筋が通っているとすら言えるものだ。
神の死体。それに神器「神鏡」と部品「理想の見る夢」を宿し、現人神や救世主たちの性質を作り変える。
あるいは「理想の見る夢」とやらを抱くことがかなった人物の篤信が、かれの信じる者を生き神様として蘇らせる。
『新神宮殿』のもととなった『棄神宮殿』は、力に溺れた「偽りの忍神」を異世界に隔離するためのものであると
言うのだから、このような場に喚ばれた者は等しく生き神様となりうる資格を有するのかもしれない。
だが、そうして生まれ直した世界にはきっと何も残らない。
理想や夢が膨らんだ結果として生まれる、世界には《希望》を抱くべき未来がない。
293
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SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:18:28
理想や夢を貫くために、ひとの、屍の使い道さえ見つけたもの――ひとを、もののように扱うひとの開闢していく
世界があるとして、「落下ダメージの」パジトノフ公爵テトリス九世は、そのような世界の誕生を認めない。
そんな場所には神がいようと、善人も悪人も悪役も、凡人や俗人さえもが等しくいないだろう。
大義があって理由のない世界では、そのような者は存在していたとしても認識がされないだろう。
思いが力になろうとなるまいと、ひとに対する《好意》も《敵意》も、敬意も名誉もない世界だけは認められない。
「そんな世界を望むようなヤツだけは、ボクは愛してなんかやれない。
出来ることといえば、ソイツらをボク自身の心にとどめて、一生をかけて考えていくくらいだ」
「なんだ。中途半端っていうか、きみもけっこう純粋なとこ、あるんだね」
気分を入れ替えるように、花白は空いていた手で背中を叩いた。
そのままひとつ伸びをして――硝子の刀身をもつ剣を纏った上着の裾で拭い、青眼に構え直す。
「愛せないなら、愛することが出来るようになるまで噛み砕く。でも、それってけっこう残酷だよ?」
「赦すにあたっては、納得がないと始まらない……」いかんなと続けたテトリスの声は、年齢以上に落ち着いていた。
「それも壊すうちに入るなら、ボクも、結局は壊して創ることしか出来ん。
だけど、壊したもののことは忘れない。ものを壊すに至ったきっかけが別の死や滅びであったとして、もう何も言えなくなった
ものを免罪符にすることはパジトノフ公爵家の。いや。『落下ダメージの』テトリスが流儀ではないな」
災厄王。罪なきものを百万迷宮に放り込んだ大罪人であると同時に、創造主にして偉大なる魔術の使い手。
テトリスはそうした存在の血を引いていることを誇りにしてきたが――脈々と受け継がれてきたものを誇りに思い、道を征くに
あたって心の支えにすることと、自身が正義を行うために死者の口を借りて何かを言わせることとは違う。
「決闘は……まぁ、男で国賓の保護を受けている者が相手ならよかろう。
どのみちノー・クォーターなんだし、ボクはまず、戦い終わった者を迎えてやらねばならんのだから」
心を脈打たせて溢れ出さんとする思いを、ゆえに少年は他人へ示さない。
これは無責任な同情や称賛で満たされていいものではないと、自身の裡で定義しているがゆえに。
代わりにというべきか、決闘を挑むために必要な白手袋を探すふりをすることが、彼の誇りに沿うやり方であった。
「じゃ、それが答えでいいんだね?」
「ああ。今のボクの全力がこれだ。何年か経てば変わるだろうが、さすがにそれは許してもらう」
といって、大剣を構えて打ち込めば、それで命の器が壊れかねない。
降伏勧告を行うことは可能だが、それでこの少年が無力化されるとも思えない。
そうして悩んでいるがゆえに、テトリスには、花白が浮かべていた表情の意味に気づけなかった。
「国賓……彩国の国賓預言師のこと、知ってたの?」
「ああ。直接は会っちゃいないが銀朱から聞いた。白梟という名の女性だったらしいな」
花白の、薄紅をした瞳の揺らぎは、その意味を探る前にかき消された。
今にも壊れてしまいそうなものに触れたかのような惑いは、瞑目したまぶたが隠してこぼさない。
同じ瞑目であっても話を聞きたくないと叫んだときとは真逆に、少年は青ざめた頬へ安らいだものを浮かべた。
「気難しいっていうか頑固だけど、悪い人じゃないんだよ。
玄冬を殺した僕は、救世主じゃなくなったのに……それでも風邪を、引かないようにしてくれてた」
「母親がわりのようなもの、だったのか」
母も、父というべきも、すでにないからだろうか。
花白が恐れながらも抱きしめている安らぎが、テトリスには分かれない。
「う……ん。分かんないな。いつだって、僕と『白の鳥』との距離は遠かったように思うから」
安らぎに翳をさす疲れが、いったい彼の何に由来しているのか、見当がつかない。
「だから。僕が他の誰かを殺さず終わる方法とか、ここで終わる僕を活かす方法は、これしかないと思えたよ」
「――ッあ!?」
白光が思考の死角をついて、テトリスの得物を跳ねあげた。
武勇を支える全力をもって敵を仕留める大剣。最も手に馴染んだ武器のひとつが、あっさりと手から離れた事実に
驚くまでに、騎士の身体は腰を落として、肩口から迷宮の床に転がる。
294
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:19:05
無理矢理に間合いを離して、舌に土の苦味をおぼえながら立ち上がれば、花白はすでに剣を構えていた。
ただ、玉壺の氷がごとくに透き通った刃の向かう先はテトリスなどではなく、
「お前、死ぬ気か? あそこまでしておいて……!」
「言ってたんだよ、玄冬が。殺すのは俺で最後にしろって」
そうと口にしてすぐに、花白はゆるゆるとかぶりをふった。
何もかも玄冬のせいにしちゃいけないや。僕だって本当は殺したくなんかないもの。
続いた言葉は、自身の骨を晒すものだった。そして、それを聞いた者を突こうとするものではなかった。
「莫迦野郎。それじゃ、そんなじゃお前は、何のためにッ」
「僕は、きみの答えに満足した。……それじゃダメ?
命の器は、こうしたら満ちない。それに世界がまた滅びに近づくまで、あの箱庭には救世主も生まれない」
そうすれば、ほんのすこしだけど、あの人が楽になれるんだ。
疲労と憔悴を手放そうとする、その表情が満ち足りていたこそ、テトリスは歳相応の怒りをあらわにした。
すべて良しとでも言わんばかりの顔は、言葉つきは、鮮烈なほどに白い少年も人類の敵も使うべきものではない。
人類の敵。ちくしょう。世界を愛そうとして愛せない花白は、たしかに希望を胸にして歩まんとするものどもとの共存は
出来ない。だが、どうしてそれなら最後まで、敬意を払える敵として、交わった道を歩んでいこうとしないのだ。
どうして土壇場になって、自身のすべてを賭して殉じようとしていた相手を変えて、しまえる――。
「……まさか」
「そういうこと。僕、ウソは下手なんだけど、なにを我慢してたかにまでは気づかれなかったな」
玄冬に殉じようとしていた花白の変心が分からない。
花白が玄冬に殉じることを前提に考えを巡らせていたテトリスに、分かれようはずもなかった。
あまつさえ、それが母親がわりのような存在のために死のうとしている、ということであるのなら。
「なんで……どうして、そこだけは間違わないんだ。なんで一貫させられるんだ、お前は」
命や人倫など振り捨てた選択をまえに、テトリスは身を起こそうとして、起こせない。
「ごめん。ホントは、あまり好きじゃない『力』なんだけどさ。ウソをついてごまかしたって、心は痛いままだから」
誰かを好きになるためにさえ、誰かに血を流させる必要がある。
花白のためにこそ聞き流すと決めていた言葉が、聞き流すと決めていたからこそ胸中に悔悟を呼び起こす。
何かを知っていることが美徳であるとは言わないが、知ろうとすることを放棄したのは、明らかな失策だった。
「だけど、きみは僕のこともゆるして――最期まで、見守ってくれるんだろ」
誰かを、好きになりたかった。
どうしようもなく審判や救済に向かない願いを抱いた救世主の出来損ないは、甘い声音でテトリスに乞う。
「違う! あれはそういう意味じゃな……ッ」
「言ったよね。『すべてあいして、ゆるしてみせろ』って」
最期まで見守ってくれという願いが『白の力』を伝わって、騎士の身体を石床に縛り続けていた。
王を目指すこの騎士の思いと、誇りの土台をなすのは愛したものに報いることと、情愛を注いで征くこと――。
願い乞うた花白と質を同じくするがゆえに、テトリスの誇りでは、白の呪縛をほどくことがかなわない。
同質の思いを抱いた二人のうち、片方が人ならざる『力』を有する事実が、ここにきて厳然たる差となって現れる。
「そして、きみは愛せないものも噛み砕くと誓った。……諦めずにたくさん考えて、ここで、決めてくれたんだ」
「こ、の……」
動かない身体に、《気力》を込めようとするテトリスの傍に花白はそっと近づいた。
花白。空より降り来たる雪を、その身と名とに纏った少年は、騎士の頬にあたたかな指先をすべらせる。
「だから、たとえば春に降る白い花。僕が持ってる綺麗なもの、あの人からもらったものを、きみにもあげる」
困ったような顔つきでそう言われれば、面食らうしかなかった。
――自分にとって大事なものを、口の中で噛み砕いて遊べる玩具をやるから大人しくしていてくれ。
子供が子供をあやすような言を受けたテトリスの緊張が、これでいちどきに切れてしまう。優れた力を持つがゆえに、人として
いびつになるものは数多くある。だが、花白の場合は言動と思考がどこまでも噛み合わないまま、ひとり死んでいくことが出来る。
そうであるからこの少年が、《民》とならない人類の敵たりうると分かってしまう。
295
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SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:19:25
どうしようもない。
諦観を全面に出した言葉は、苦い酸のようにテトリスの胸を灼いていく。
足りないのだ。どうしようもない人間を、どうしようもなくはない者にするには手数も時間も足りない。
そして、どうしようもない人間を、どうしようもないままで抱えていく考えを、よりによってこの自分が表明している。
いずれ世界が滅ぶなら、それを続けと願うなら。この戦いとて、ここで、終わっていくしかないのだ。
「春の花ってのは……この、白梅じゃあなく」
だから、せめてものこと、騎士は花白の名が持つ意味を問うた。
救世主として生まれたというのに人としてしかあれず、人としての玄冬や白梟、銀朱らをしか愛せずに――。
そうであったというのに、死に方だけは人のそれというには異常な少年を表すものが何なのかは知っておきたかった。
「桜だよ。救世主が玄冬を殺すと、せかいに降り積もった雪は、すべて春の花に変わるんだ」
誰の願いにも添えないまま逝く少年の笑みがおぞましいと思えても、知っておかねばならなかった。
その花白は自身の未熟にも無知にも気づかない様子で、自分が言った言葉に対してひどく素直な唸りを漏らす。
「まいったな。僕が死んだら、アカツキの記憶戻っちゃうや」
「『白の力』で、何かの記憶を封じているのか」
「そ。アイツは自分で自分の始末をつけようとしてた。首を斬るヤツも――腹を、切るようなヤツも同じだから」
自分の名前の意味と、ひとの死を同列に語れることの意味に、そのとき、テトリスも気づいた。
「だから、僕はきっと……僕みたいでさ。アイツのことも、好きじゃなかった」
「いいさ。べつにそれでも」
気づいて、しかし、触れなかった。
自分が何をしているか、どれだけ莫迦なことをしているかを、この少年は知っている。
だから最期に、花白はアカツキを嫌っていく。莫迦なことはこれで最後にしろと、間違ってはいないのに歪みがすぎて
届きもしない伝言を、届きもしないという程度では諦めることなく残していく。
「もうちょっと、まともに育てとは思うんだが」それなら、それで良かった。「とりあえず、お前はボクを信じたんだ。
その回りくどい伝言は、とりあえずヤツが生き残ってるかどうかを確かめてから伝えるさ」
ノー・クォーター、ノー・プロットの、どこにも繋がらない劇に、これ以上続けと願う趣味はテトリスにない。
それは、硝子の剣の刀身を返した花白も同じだった。
「……闘いはまだこれからだ。これからボクは王になる。
いつかも言ったが、王でなけりゃダメなんだ。王として、《民》が始めたこの魔戦を終わらせてやるには」
硝子の剣が、瞬間、輝きの質を変えた。
『白の力』を受けた刃は、よく練磨された鋼のように冴え渡った煌めきをのぞかせる。
あとに残ったものは、幼児のような首肯と、テトリスの周囲に纏い付く魔素。
災厄の王子を縛ってとどめた『白の力』の、成れの果てたる思いであった。
◆◆
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SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:19:47
Scene 05 ◆ 花白・君を殺して花を散らせて
春の花に息が止まった。
空から降る白い花に交ざって降るのは、救世主が生み出すという花。
ぼくの生まれた季節にして、玄冬の死んで迎える季節に咲いて舞い散る――。
雪に交じる花びらが狂い咲きの桜に見えたそのとき、左手はそれをたぐってつかんだ。
だけど、穴が空くほど見つめた萼は赤くて、指で透けるほど撫でた花びらも、切れ目なく丸いもので。
花びらが壊れてしまうほどに答えを探して納得して、僕は、やっと息を継ぐことが出来た。もう死んだほうがいいと
決めたときにも脈打つ鼓動が白々しいのに安らぎが体をめぐって、やっぱり未来に期待しているんだと思えた。
いま幸せになれなくても、幸せが一体なんなのかさえ分からなくてもだ。
未来に期待してるってことは、たぶん、僕は幸せになることをずっと夢見ている。
いま幸せになれなくても、幸せってものが、一体どんなものなのかさえ分からなくても。
ただ、きっと幸せってものは、あした生まれてくるきみと、あしたは剣を取らなかった僕とが巡り逢って、そして。
いずれ生まれてくるだろう、次の玄冬に、
僕の救わなきゃいけない、あのせかいを終わらせるものに、
最後には死に別れると分かっていても、それでも優しくされることだと思えた。
優しくされたいって言葉は死ぬほど薄っぺらくて、今からホントに死ぬヤツにはお似合いだった。
幸せ。
幸せを思えば浮かぶ、玄冬はけれど、ここでも死んだ。
こんな所でなければ願えない終わりのかたちを、僕こそが否定した。
そうしてこのまま元の箱庭に戻れたとして、あそこにはまだあの人が。箱庭を監視する鳥の片翼が変わらずにある。
救世主とされた僕の隣にあった、あの人は、なににも染まらない『白の鳥』だった。
ああ――ああ、きっと。
きっと、彩の国の城では僕の嫌いなあの人が。僕の好きになりたかった、あの人が。
もう変えることさえ出来ない、涼しそうな顔つきで、繰り返し永遠の冬に近づく世界を眺めている。
初夏の緑色をした目。普段は穏やかなのに、必要ならどこまでも酷薄になれるあの目は涙も流さない。
そのくせ、このごろは母親のような諦観をしずめた眼差しを、この僕に注ぎさえしている。
だから、それならやっぱり、僕のやることはひとつしかないと思えた。
誰からも忌まれる玄冬が好きで、かわいそうで、かわいそうだと感じたものを拠り所にして『正義』を為そうとした
僕と、創世主の帰還をしか信じ得ない白の鳥とは、目を逸らしたくなるほどの盲目だけはよく似ているとも思った。
管理者の塔で見た、怜悧な微笑み。
自分で玄冬を殺しに行くという僕の言葉を、嘘だと知っていたくせに。
子供そのものの癇癪をぶつけたときの、あの人の表情が浮かぶと同時に胸を刺す。
――……いいえ?
刺された胸が、絞られてたまらなくなる。
あの人は。他人行儀で張り詰めていて、ひどく近寄りがたいあの人は、
僕のことを……救世主が玄冬を殺して世界を救う未来を心から信じていた。
理屈や計算、どこかで理想さえ振り捨てた、およそあの人らしくないやり方で、
白の鳥たる白梟は、花白を信じてくれていた。
花白。
あの人が僕にくれた綺麗な名前を、あの人が歌えば、桜さえ美しく思える瞬間があった。
玄冬以外のものが救われたせかいに咲く花を認めるたび、僕からは冬が拭われた。
そうして日々を過ごしていれば、撥ね付けられても揺るがなかったあの人が棘を失うさまも見た。
これ以上甘えて寄りかかってしまえば、あの人が倒れてしまう。
直感としか言いようのない感覚を受けた僕からも、棘というべきは抜け落ちていった。
それは、でも、丸くなっただとか大人になったなんていうものじゃない。
救われたせかいがヒトビトにもたらした日々の安穏は、僕とあの人からじりじりと力を奪っていく。
――だから……終わらせてしまいなさい、花白。
終わってしまえば、夢だったとでも思えるでしょう。
あの塔で玄冬を斬って、僕は、ほんの少しだけ楽になれた。
だけど「次からの僕には優しくする」と約束したあの人は、どれだけ時代が巡ろうと終われない。
箱庭を維持することが白の鳥の役目だから、そもそも、箱庭にあるどんなものも途中で手放せはしない。
悲しいことを、つかの間の夢だったと思えるときは、あの人には最初から与えられてなんかいない。
297
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:21:06
季節が巡るうちに、あの人の顔をなす諸々の、ほんの一部でも目にしたからだろうか。
いつの間にか僕は、殺したいとさえ思っていて、それでも好きになりたかったあの人を憎めなくなっていた。
「貴方には、私がついています」。悠然と断言した約束を守ってしまえる、怜悧で強くて正しい、白の鳥。
そんなものでも悲しみや羨望や、諦観を覚えるものなのだと知ってしまったなら、救われるために傷つきたい僕は
あの人の胸奥に唇をつけて、わだかまる思いのいくばくかを吸いだしたいとさえ考える自分を四季の中に見つけていた。
きっと埒もないことと、あの人は笑うんだろう。
でも、僕はもうあの人を憎めない。約束を守るあの人を、要らないなんて思えない。
救世主の役目から開放して欲しいと思っていた僕を、あの人は玄冬を殺させることで開放してくれたから。
僕と約束したせいで、心に突き立つ楔をまたひとつ増やした、あの人がいとおしくなったから。
その気持ちが分かったのなら、今度は僕が、あの人を。
いいや。貴方……を。心がけずられるほど水際立った日常から、解放したい。
前の玄冬を斬って、ここでも『次』の玄冬を斬って、次も、この次もきっと、
僕は何度でも彼に出逢って、彼を知って、彼を斬って血に濡れて、赦されて心を痛める。
傷口を抉り続ける僕の思いを注げるものは、あの箱庭で微笑み続ける貴方しかいないと分かってしまったから。
だから……お願い、します。どんないろでもいいから、笑ってくれませんか。
玄冬を喪った自分の変節を僕自身が笑っても、どうしてか虚しくなってしまうのです。
虚しい、苦いと思いながら笑った頭に浮かんだのは、あのバカトリ。『黒の鳥』の剽げた顔だからかも。
悔しいけど、本当に、悔しいけど。最初の玄冬のために創世主から箱庭を譲ってもらい、二人目の彼のために箱庭さえ
滅ぼしかねなかった片翼と、玄冬から貴方に心を移しつつあった僕は、やっぱり同類だったのかもしれません。
ううん。あるいは「自分さえ死ねばすべてが終わる」と思い続けた玄冬と、いま、このときだけは。
そういうふうに思ってみると、愚かな僕はどうしようもなく、嬉しくなってしまう。
なのにお前も、死んだって莫迦なままでいるのか。
お願いだ、銀朱。めまいがするほど考えたはての選択にさえ「間違ってる」だなんて言うな。
僕が間違ったことをすれば、お前だけはいつも正してくれた。
覚えてるよ、彩国が第三兵団の隊長どの。でも、お前に言われなくたって今の状況の莫迦らしさは分かるさ。
こんな終わり方が美しいなら、こんな終わりを包んで続いていくせかいが綺麗だって言うんなら、こんなもの。
ああそうさ。せかいは、ときに綺麗で、せかいに生きるものの思いはときに美しいかもしれない。
けど『こんなもの』だよ。綺麗で美しいはずのものは、だって何度繰り返して続けてみたってあの人の、お前の、
僕や玄冬に――あの、トリの。黒鷹の心ひとつ救えないじゃないか。
だったらそれは、ほんとうに大切なものなのか。
僕と玄冬と鳥たちのたましいを、歪もうとも繋いできた想いを懸けて救うに足るものなのか。
雪消の日さえ信じられず、戦いの血で雪を溶かそうとしていた箱庭。かみさまに見放されたせかい。
綺麗で美しいものたちが、妙に薄っぺらく思えて、皮の一枚も剥がしてしまえば壊れてしまう書割のような代物は。
憎んだって、恨んだって呪ったって僕を生かしていく、とろとろとしたまどろみのように生ぬるい水の、ゆりかごは。
あんまりにも分からないから、べつに銀朱やネコミミじゃなくたって、いい。
答えろ。誰か、僕に、せかいのすべてに対して答えろ。せかいを好きになるために答えてみせろ。
あの莫迦や、あいつの大切な民草、玄冬と僕や鳥たちや他の箱庭をさえ、すべてあいして、ゆるしてみせろよ。
これは綺麗なものだって、これは愛すべきものなんだって、喰らったものの骨に突かれても笑って、みせてくれ。
は……イヤだな、ホント。なんでだよ。
銀朱なんて、とっくにムラクモに殺されちゃったくせに。
それでもアイツから教えるでもなく示してもらったものは、今も僕のなかでざわめいてる。
これを知ったから、きっと僕だってヒトビトじゃあない玄冬たちを好きになろうとしてしまったんだ。
せかいの嘆きを聴いて、嘆いても美しいせかいの矛盾を呪うほど、何もかもを好きになってしまいたかったんだ。
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SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:21:27
そんなふうに思うからこそ、このせかいは間違っていると言わなきゃいけないのに。
歪んでるんだって叫んで、嘆きに隠れたあかいものに気付いてもらわないといけない、のに。
どうしてそれなら、舞い降りてくる雪は綺麗なんだろう。粛然と滅びを受け容れるさまが、こんなに美しいんだ。嘘だ。
嘘だよ。滅びさえ諦めて受け容れるのが本当に美しいなら、そう思うのが本当の気持ちだっていうんならせかいは。
ほら、こうやってバラバラになるだけだから分かれよ。分かって――僕を、離せよ。
こんな僕に未来を託して、信じてくれたひとの気持ちに応えていくには、これしかないんだから。
お前だって先の救世主の血を引いてるんなら、こんなところでまで僕を叱っていくんじゃなくて、あの『鳥』の
空にも花を降らせて、ひとに近づいたあの人の心をなぐさめてくれ。それくらいはきっと、出来るだろ。
やけっぱちの恨みつらみには、きっと誰も気付けない。だけど、かたちにすれば少しだけ楽になれたよ。
それなら、いい。もういいんだ。だからこれで終わらせる。
白梟。
貴方がこのことを知らずとも、僕は構わない。
春に芽吹くような花なんかで、貴方の心が鎮まるとも思えない。
でも、どうせ貴方だって、勝手に僕のなにもかもを決めていったんですから。
これから僕は剣を振るう。そうして貴方を、白の鳥をいっとき籠から解き放していく。
せめて次の僕が生まれてくるときまでは、自由の身となった救世主を見ないでいいように。
僕や玄冬、黒鷹、ヒトビト。せかいからの絶えることない問いかけへ、ひととき応えずにすむように。
諦めるなんて赦さない。
自分の言ったことが守れないのはとても、とても痛いけど。
この時代にある白の鳥から離れると決めた、僕の自殺を貴方に捧げます。
不断に続く遠いあすで、いつかまた出逢うまで。殺すことでしか救えない僕が示せる優しさのひとしずくを。
【花白@花帰葬 死亡】
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299
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:21:57
【交錯迷宮・合咲の間 Side.B】
【「落下ダメージの」テトリス@シニカルポップ・ダンジョンシアター 迷宮キングダム】
[状態]:まことの騎士、災厄の王子、王になる決意
[クラス・ジョブスキル]:【武勲】【剣劇】 [スキル]:【乱舞】【突撃】【受け流し】【鉄腕】
[装備・所持品]:大剣@迷宮キングダム、希望の魔除け@ラストレムナント、幽命丹@シノビガミ、
救世主の剣@花帰葬、「魔素」の素材×10@迷宮キングダム
[思考]:玄冬<魔王>となって、この魔戦を終わらせる
[参戦時期]:『猫耳王子×三女怪(迷宮キングダム リプレイ 女王の帰還)』終了後
[備考]:レベルが3から4に上がっています。その際に「感情値のリセット」が発生しました。
血盟忍法【二人袴】を修得しています。
血盟「影弥勒」の誰かが【感情】を抱いたとき、自分も同じ対象に同種の【感情】を手にします。
[テトリスの修得スキル]
【武勲】:騎士のクラススキル。戦闘開始時に指定した者に対するダメージを上昇させる。
【剣劇】:武人のジョブスキル。自分と同じエリアにいるもの全員に対して命中判定を行える。
【乱舞】:肉弾系のアドバンスドスキル。命中判定のとき、ダイスをひとつ多く振って命中や絶対成功の確率を上げる。
【突撃】:同上。戦闘時の移動フェイズに前進すると、命中率と武器の威力が上昇する。
【受け流し】:同上。自分が攻撃されたときに割り込んで使用。
判定の達成値が相手の命中判定の達成値を上回れば、その攻撃のダメージを1にすることが出来る。
【鉄腕】:同上。自分の攻撃でダメージを与えたとき、相手を1マス後退させる。
※花白が命を落としたことにより、救世主の力たる「白の光」が途絶えました。
光が封じていたアカツキの記憶から【フラッシュバックによる無力化の可能性】が生まれます。
※箱庭
『Splendid Little B.R.』の舞台。
エヌアイン完全世界・ダブルクロス・シノビガミの世界観がクロスオーバーしている世界。
ある雪の日、人を超人に変えるが彼らから理性を奪う「レネゲイドウィルス」を発見した人物が
日常の崩壊を世界へと告げ、それとほぼ同時期に旧人狩りを目的とした新聖堂騎士団による世界規模の
無差別テロルが発生。地獄門が開いてのち、そこより現れた妖魔を軸に目的を達しようとしていた
忍者も、こうなればヒトビトとの争いや死合いを余儀なくされた。
日常の崩壊を示唆された放送こそ隠匿されたが、あの日から雪は止むことがない。
ヒトビトのうちの、ある者は旧人狩りの電光兵団が手にかかった。
ある者はオーヴァード同士の争いに巻き込まれ、あるいは彼らを利用しようとした結果として死んだ。
ある者は忍者の力を持つ「蛹」として目覚めながら、その力を制御することが出来ずに暴走し、果てた。
そうして散ったすべての命は、命の器に取り込まれている。
※命の器@花帰葬
最終決戦<クライマックスフェイズ>が発生しないようになるエニグマ【封鎖結界】@シノビガミ参の
偽装であったもの。
花帰葬の舞台となった箱庭(世界)では、喪われた命の数がこの器に計上されていた。
この器が満ちるまでに救世主が玄冬を殺さない場合、降り止まぬ雪に埋もれて世界は滅ぶ。
だが、花白が玄冬を殺してもなお、この箱庭の滅びはやまない。
現在エニグマは解除され、影弥勒たちとの決戦に移行しているが、解除条件は「二つの陣営の生き残りが
十人以下になる」こと。交錯迷宮――ひいては迷宮によって隔絶された外の世界にも降り続ける雪は、
迷宮化現象の起きた箱庭の滅びを暗喩したそれである。
300
:
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:24:41
以上で投下を終了します。
途中、必要だなと思ったところでダイスロールを行ない、ルールを参照することで話の筋を立てていたのですが、
これはTwitter上のダイスボットにリプライを送って、返ってきた出目を基準にしてました。
判定の結果は、下記のページに目標値や使用したスキルなどと一緒にまとめています。
ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/etc_afterplay01.html
次回は第二章。ムラクモ vs. 藤林修羅ノ介です。
ここの容量「も」膨れてたので、分割投下の回数が増えるのは許してやってください……。
そして、ある意味では企画の趣旨を理解していない、知られている原作もさほどないだろう話を、
それでも読んでくださっている方に感謝を。
他人様の話に感想をつけるときと違って、巧くは言えませんが、とてもありがたいです。
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