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あと3話で完結ロワスレ

1FLASHの人:2012/12/09(日) 21:32:05
ルール等詳細は>>2を参照
お前が、このロワを、完結させるんだ……!

177それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:43:08
 言ってほしくない、名前だった。
 一瞬、カズマの脳が空っぽになる。トトリの言動が、即座に理解できなかった。 
 紙に墨が浸透するように、その意味がじわりじわりと沁み込んでいく。
 感情が、沸騰した。
 体が勝手に動く。足裏は床を叩き右手は拳を形作り前へ跳ぶ。
 揺れるほどに強烈な踏み込みの音が、やけに大きくアトリエへ響き渡った。 
「やめなさいッ!」
 ヴァージニアに羽交い締めにされる。勢いは強引に削ぎ落とされるが、それでも止まらない。
 だがその拳はトトリへと到達しなかった。
 彼女の前に、クマが立ちはだかっていたからだ。
 カズマの拳が、クマのギリギリ前で停止する。
「どけッ! 離せッ! こいつは、あの女を――殊子をッ!! なんで、なんで止めやがるッ!?」
「いいから落ち付いて! 今、トトリを殴っても何にもならないからッ! こんなことをしたって、何にもならないからッ!」
 耳元でヴァージニアの叫びが聞こえる。
 その叫びに、湿り気が交じっていることにカズマは気付いた。 
「トトチャンの代わりに、クマが殴られるクマッ!!」
 カズマの拳を前に、クマは揺るがない。その瞳には不屈の意志が宿っていた。
 振り払うのは簡単だった。殴り飛ばしてやることだってできた。
 歯を食いしばり拳を握り締める。奥歯が音を立て爪が掌に食い込む。
 持て余された拳が、ゆっくりと降りた。
「お前ら、知ってたのか」
 ヴァージニアの腕から抜け出し、尋ねる。
 だがクマも、ヴァージニアも、黙って首を横に振るだけだった。
 苛立ち紛れに舌打ちを一つ落とし、カズマは床にどかりと腰掛ける。
 せめてと言わんばかりに、トトリを睨みつけた。
「どうして、ですか……?」
 顔を上げるトトリの顔には、困惑が広がっていた。
「どうしてクマさんが代わりになるんですか? 悪いのは、ぜんぶわたしなのに」
「……クマが、約束を守れなかったから。ツェツィチャンを、護れなかったから。
 だから、トトチャンがいっぱいいっぱい傷ついて、それで、そのせいで……」

 耐え切れないかのように、倒れそうなほどの勢いで、今度はクマが頭を下げたのだった。

「だからごめん、ごめんなさい! ごめんなさいッ!!」
「わわ、ちょっと、ちょっと待ってください。頭、上げてくださいっ」

 沈痛そうに頭を垂れ、謝罪を繰り返すクマを慌てて止めて、トトリは不思議そうに首を傾げる。
 
「ツェツィ……って、おねえちゃん、ですよね? その、わたし……」

 そして、本気で分からないというように、全員を見回して、

「おねえちゃんのこと、あんまり覚えてなくて。えっと、おねえちゃんがいたのは確かなんですけど」

 寂しそうに眉尻を下げて、

「おねえちゃんと一緒に過ごした時間って、全然なくて。なんだか、肉親って感じがしなくて。
 だからだと思うんですけど、おねえちゃんが死んじゃっても、その……」

 零すのだった。

「あんまり、悲しくないん、ですよ。
 ですから、クマさんがおねえちゃんと何かがあったとしても、わたしがやってしまったことには、関係がないと思うんです」

178それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:43:54
 ◆◆

 ヴァージニアがトトリと過ごした時間というのは、ほとんどなかった。
 なので、ヴァージニアは元々のトトゥーリア・ヘルモルトという人物を知らない。
 彼女が知るトトリというのは、速水殊子を姉と慕うトトリと、真実を知り壊れてしまったトトリだけだ。
 そして今、目の前のいるトトリもまた、元々の彼女ではないのだろうなとヴァージニアは想う。
 姉や友人や仲間のことを、トトリは記憶している。殊子のことも、クマのことも、ヴァージニアのことも、カズマのことも覚えている。
 この悪夢のことも、確かに覚えているようだった。
 ただ、その記憶はクマの持つ『想い出』との食い違いがいくつかあり、疎らになっていた。
 トトリの異変はそれだけではない。
 会話を通し、ヴァージニアは気付いたのだ。
 トトリの話しぶりから、これまで関わってきた人物に対する強い強い気持ちが感じられないということに、だ。
 これは、異常だった。
 トトリの精神が崩壊した原因とは、だいすきでたいせつな人たちの死に心が耐え切れなかったからである。
 仮に、これほどまでに他人に対する執着が希薄であるならば、彼女の精神が壊れることはなかったはずだ。
 今のトトリの振舞いは、これまでたいせつな人などいたことがないかのように、感じられた。
 そして。
 その様子は、あまりにも自然すぎた。
 今のトトリは、ヴァージニアが知るどのトトリよりも、普通に見えたのだ。
 機械からいくつか部品を抜き取って組み直したにも関わらず、正常に動いてしまったかのような違和が、今のトトリからは感じられるのだった。

 ――悪化、しちゃったのかな……。

 最初に出会ったこともあって、もともと、殊子とトトリは仲が良かったはずだ。
 その殊子を手に掛けてしまったせいで、心が更に壊れてしまったのかもしれないと、ヴァージニアは想う。
 あのとき、殊子を残していったのは間違いだったのだろうか。
 殊子の意志を無視し、無理にでも誰かが残っていれば。
 首を横に振り目尻を拭い、涙を呑み込んだ。
 未来予知ができるわけではない。無数の選択肢から、自分にとっての最善を選んでここにいる。
 殊子だってそうだ。彼女もまた、彼女にとっての最善を選び出したはずなのだ。
 だから悔やんではならない。後悔なんてしたくない。
 それよりも、これからどうすべきかを考えるべきだ。

「……聞かせろ」
 片膝を立てて座るカズマから、鋭い声が飛ぶ。
「殊子が逝ったときのことを、教えろ。アイツはなんて言っていた? どんな顔をして、逝った?」
 それは、トトリが負った心の傷に触れる、無遠慮な問いだった。
「ちょっとカズマ! あなた、もうちょっとトトリの気持ちを――」
 止めようとするヴァージニアを、カズマの言葉はぴしゃりと遮断した。
「殴るのはやめてもいい。だが、アイツを俺の『想い出』に刻むために、これだけは聞いとかなきゃならねェ」
「……それは、わかるけど……ッ」
 ヴァージニアは、唇を噛んで言葉を止める。
 そのカズマの想いを、否定はできない。
 彼の気持ちは、ヴァージニアにもよく理解ができたからだ。
「だからって、そんな、そんな不躾な言い方をしなくてもッ!」
「心配、ありがとうございます。お話しさせてください」
 ヴァージニアの心配とは裏腹に、トトリの声色は落ち着いていた。
 そしてそのまま、トトリは語るのだ。
 抱き締めてくれた温もりを。
 掛けて貰った言の葉を。
 悲しそうな目で、少しだけ嬉しそうにはにかんで。
 トトリは、語る。

179それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:44:50
「笑って、いました」

 眉をハの字にし、目尻に涙を浮かべ、それでも笑って、

「最期のその瞬間、殊子さんは、わたしに笑いかけてくれていたんです」

 死に瀕した殊子の気持ちを再現するために、

「たいせつな人なんていないって、大好きな人なんていないって、そんなの、言われなくても分かってるんです」

 笑うべきだというようにして、

「ずっとずっとずっと、わたしにはそんな人いなかったんだから。言われなくても、誰よりも自分がよく知ってます」

 必死で笑顔を保とうとして、

「でも、なんだか、そうやって言われたら、ああ、そうかって、納得できた気がして。心が落ち着いた気がして。
 それで、それで……ッ」
 ぽたり、と。
 トトリは、笑顔のままで、大粒の涙を溢れさせる。
 一度零れ落ちてしまえば、涙は止まらなかった。
「わたし、何言って、るんだろ。あの、あれ、えと、ごめん、ごめんなさ、ごめんなさい……ッ」
 自分を制御できず持て余しているようのその様は、ヴァージニアは胸を痛ませた。
 笑おうとすればするほど、雫はぼろぼろと落ちて、トトリの頬を濡れそぼらせる。
 その雫を、拭いとるものがあった。
 クマの、手だった。
「トトチャン、頑張って笑わなくて、いいクマ。トトチャンは、トトチャンなんだから」
 着ぐるみの手に、トトリの涙がじんわりと沁み込んでいく。 
「今のトトチャンの気持ちを、大事にしてほしいって、クマは思うクマよ」
「今の、わたし……。今の、わたしは……ッ」
 トトリの声は滲んで、震えている。
 その姿は、たった一人、荒野に放り出されてしまった雛鳥のように見えたのだった。
 そんなトトリの髪に、ヴァージニアはそっと触れる。
「無理、しないで。明日笑う為に、今日泣いたっていいじゃない」
「そんな、わたしは……殊子さんを、殊子さんの……」
 なおも首を振るトトリに、言葉が差し込まれる。
「殊子のことは分かった。サンキュな。あんがとよ」
 それは、カズマの言葉だった。
「だからもういい。もう、我慢すンな。苦しいんだったら吐き出せ。辛いんだったら泣けよ」
 ぶっきらぼうで愛想の悪い、言葉が差し出される。
「泣けるってのは、案外悪いことじゃねェさ」
 その一撃は、トトリの顔をくしゃりと歪ませるには十分だった。
 しゃくり上げ、えずき、濡れた吐息を吐き出して。
 トトリの感情が、決壊する。
 クマの身に縋りついて、トトリは泣きじゃくる。
 その涙はクマ毛を伝い、クマの感情にまで届いたらしい。
 みるみるうちに、クマの瞳にも大粒の雫が浮かび上がった。
「トトチャン……! ツェツィチャン、コトチャン……! ごめんなさい、ごめんなさいクマぁ……ッ!」
 滝のような涙を流し始める。
 慟哭は重なり合い溢れだし、アトリエをいっぱいに満たす。
 ヴァージニアはそんな二人を抱きよせ、その身をそっと撫でた。
「優しい言葉、言えるのね」
 そうして、ヴァージニアはカズマに微笑みかける。
 対し、カズマは白々しい溜息を鼻から吐き出し、ヴァージニアから目を逸らす。
「アイツが笑ってたんだろ。だったら、責める気なんてねェよ」
 カズマの視線が、宙に向けられる。
 その目が見ているのは、速水殊子か舞鶴蜜か。
 ヴァージニアは蜜のことを知らない。それでも、両方だったらいいなと、そう思う。
 そうだね、とだけ呟いて、ヴァージニアは、トトリとクマを強く抱きしめる。
 強く、抱きしめるのだった。

180それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:48:38
 ◆◆
 
 波が引いてゆくように。雪が解けてゆくように。アトリエから、涙の色が薄れていく。
 ヴァージニアが二人から手を離すと、トトリとクマは揃って目をごしごしやっていた。
「もう、大丈夫かな?」
 問うと、頷きが返ってきた。
「すみません、もう、大丈夫です」
「クマも、ダイジョウブよ」
 おどけるように、クマはくるりと回転する。
「トトチャンとヴァニチャンのハグがー、クマに元気をくれたクマぁ」
 とりあえず叩いておいた。
「さてそれじゃあ、聞いてもいいかな」
 ごほん、と咳払いをして、ヴァージニアはトトリを見る。
「ナイトメアキャッスルが崩れて、電界25次元に放り出されたわたしたちを、トトリが助けてくれた。っていう認識でいいのかしら?」
「わたしは何もしてないです。このアトリエを拵えただけですから。
 お二人が助かったのは、皆さんが夢に溶けない強さを持っていたことと、クマさんがアトリエから皆さんを呼んだからだと思います」
 
 クマに、視線が集中する。クマは腰に手を当て、得意げに胸を張っていた。
「夢の世界は、クマがいた世界とおんなじクマ。だからクマは、目隠ししてでもここを歩けるクマよー」
 と、言葉を切って、クマが突然もじもじとし始めた。
「そしたらー、トトチャンの匂いがしたからー、それを辿ってトトチャンハウスにお宅訪問しちゃったクマー!」
 クマは膨らんだベッドや鉱石の詰まった棚、巨大な釜を興味深そうな視線で見つめる。
「に、匂い……。わたし、匂うのかな……そりゃあ、調合の時にクサい素材使ったりするけど……。
 って、わわ、恥ずかしいから見ないでっ!」
 慌てるトトリは妙に可愛いなと思いながらも、ヴァージニアはクマをもう一発叩いておいた。
「女の子の部屋をじろじろ見ないの。もう、せっかく呼んでくれたことのお礼を言おうと思ったのに台無しだわ」
 それにしても、クマを叩いたときに返ってくる弾力はえらく小気味よい。クセになるかもとヴァージニアは思う。
「アトリエとか部屋とか言ってッけど、だいたいここは何なんだよ? おかしいだろこれ。なんで家が浮かんでんだよ?」
「おお、カズマがまともなことを言っとるクマ……!」
「カズマー、殴っていいわよー」
 クマの背中を押し、カズマへとシュートする。カズマ自慢の拳がクマにめり込んだ。
「ぐぼッ!」
 座ったまま繰り出された拳でも、力はそれなりに乗っていたらしい。
 クマの身が、アトリエをごろごろと転がった。
「おぉ、なかなか殴り応えがあるぞ……!」
「でしょー。いい手応えしてるわよね」
「しどいッ! ときどきヴァニチャンが鬼に見えるクマッ!」
「あのー……」
「あ、ごめんね。話の腰折っちゃって」
 三人を見回すトトリに謝罪すると、彼女は慌てて首を横に振った。
「いえ、その、わたしも叩いてみたいなーと、ちょっと思っただけで」
「ト、トトチャン……。ぷりちーなお顔から飛び出るキレのあるお言葉に、もうクマは、たまりませんッ!」
 ヴァージニアは拳を作り、叩き下ろすジェスチャーをトトリに見せた。
 その真似をするように、ぐっ、と拳を作り、トトリはクマを叩く。ぽくっ、と、可愛らしい音がした。
「よっし、それじゃあ真面目な話の続きをしましょうか。このアトリエが何なのか、教えてもらっていいかしら?」
 はい、と頷き、トトリは口を開くのだった。

「これは、わたしがずっと過ごしてきたアトリエです。夢じゃない、現実のアトリエなんです」

 三人の目が、点になった。
 理解ができない。意味が、よく分からなかった。
「え、えーっと。それも、錬金術?」
 呆然としながら尋ねると、トトリは首を横に振り、
「まさか、違いますよー」
 そして、更に驚くべき発言をするのだった。
「わたし……固定剤<リターダ>になっちゃったみたいなんです」

 沈黙が、アトリエに落ちて広がった。
 
「……へ?」
「固定剤<リターダ>って……」
「舞鶴や殊子と同じヤツ、なのか……?」

 理解が追い付かないままの三人に、トトリは、はい、と頷いたのだった。 
 昨日の夕飯を思い出すかのような気軽さで、訥々と語り出す。

181それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:49:48
「さっきのお城が急に揺れ出して崩れ始めたそのとき、目の奥にふわふわした――ぼんやりした雲みたいなものを感じて。
 わたしの中に、世界が入ってきたんです」

 トトリはこう言うのだ。
 誰かが望んだ虚ろな世界がナイトメアキャッスルの崩壊と同時に滅び、それが彼女の精神に根を張り、巣食い、寄生したのだ、と。
 虚軸<キャスト>の定着。
 それによりトトリの人格には世界が固定され、彼女は虚ろなる世界とひとつになる。
 結果、トトリは虚軸<キャスト>にまつわる知識を得た。同時に、その世界を支配していた法則を、力として行使できるようになった。
 ああ、そうなのか、とヴァージニアは得心する。
 殊子は言っていた。
 虚軸<キャスト>を身に宿すということは、欠落を抱えるということだ、と。
 トトリは壊れたのではない。世界と引き換えに何かを失ってしまったのだろう。 
 それは、決して幸福ではないのかもしれない。 
 だがヴァージニアには、不幸だと断じることはできなかった。
 何故ならば。
 今トトリは、生きているのだ。
 数多くの犠牲と悲しみの果てで、トトリは確かに、ここにいるのだ。
 それを不幸だと言ってしまったら、トトリの命と、最期にトトリへと微笑みかけた殊子の意志を否定することになってしまう。
 そう、思うのだ。
「このアトリエは、わたしに宿った虚軸<キャスト>の力です。この虚軸<キャスト>は、夢と現実の境界を曖昧にできるんです」
 トトリが、両手を浅く広げる。
「ここは、夢の世界でもあり、わたしが知っている現実でもあります。でも――」
 と、トトリはアトリエの天井を見上げ、呟いた。
「わたしは、夢の世界の住人じゃないから。夢の中に、現実は定着させられません」
 トトリの視線を追う。
 天井の輪郭が曖昧になっており、今にも消えてしまいそうになっていた。 
「もうすぐ、このアトリエは現実へ――アーランドへ、還ります」
 アーランド。
 それはトトリが生まれ生きてきた世界。
 ファルガイアでも、ロストグラウンドでも、稲羽市でもない、トトリが帰るべき場所。
「このままだと、俺らもそこへ行っちまう、ってことか?」
「はい。アーランドに戻った後でも、もう一度力を使えば夢の世界には来れると思います。
 けど、ここから皆さんを、それぞれの世界に送り届けることはできないんです……」 

 申し訳なさそうに縮こまって首肯するトトリ。その手を、クマがぽんぽんと叩いた。
「だいじょぶクマ! ちゃあんと帰る方法は用意してあるクマよー」
 クマが、ぐっ、と親指を立ててみせた。
「え、そうなんですか? さすがクマさん!」
 トトリがぱちぱちと手を叩く。純真な瞳に見つめられて、クマは少し後ずさった。
「ほ、本来はクマテレビで皆さんをお送りしたいところなのですが? その、あれはその、今はお休み中でして?」 
 露骨に目を逸らし、口笛を吹くべく口を尖らせる。ひゅーひゅーと、空しく吐息が漏れた。
 そんなクマにくすくすと笑い掛け、ヴァージニアはポーチからペンダントを取り出した。
 それは、傷ついた天使からユルヤナの老師へと託され、アニエス・オブリージュへ手渡されたペンダント。並行して存在するルクセンダルクを繋いだ、ペンダントだ。
 これこそが鍵だった。
 無数の並行世界を繋いだように。
 この鍵で、夢の世界からあらゆる現実へ繋がる扉を開けるのだ。
 眩い光を湛えたそれを、クマへと差し出す。
「お願い、クマ。あなたに任せるわ」
「クマが、やっていいクマ?」
 ええ、とヴァージニアが頷く。任せるぜ、とカズマが首を縦に振る。
 応じるように、クマも強く頷き返し、その手でペンダントを受け取った。
「よーし! やったるクマァッ!」 
 クマは、力こぶしを作ってみせ、
「そいやぁッ!」
 宙へ、ペンダントをぶん投げた。
「開けぇー、クマッ!」
 ペンダントはまるで意志を持つかのように宙を飛び、アーランドへ還りつつある扉の前で制止する。
 光が、解き放たれる。
 外へ。
 外へ。
 光は回廊を形作る。
 長い長い回廊を、形作る。
 曖昧となっていくアトリエを起点とし、集合無意識の沃野を貫くその回廊は、何よりも煌々と輝いていた。

182それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:50:21
 夢から現実へと通ずるそれは、目覚めの輝きだった。
 夢の時間は、もう終わる。
「よっ、と」
 カズマが、立ち上がった。
 回廊は一本道だ。だが、一度足を踏み出せば、きっとそれぞれの帰る場所へと道は分岐するだろう。
 だから。
 このまどろみの時が、別れの時間なのだ。
「カズマ」
 呼ぶ。
「クマ」
 呼ぶ。
「トトリ」
 呼ぶ。
 三人の瞳を順に見つめ、胸に焼き付ける。
「この夢は、確かに悪夢だった。ひょっとしたら、わたしたちは出逢わずにいられた方がよかったかもしれない」
 そして、ヴァージニアは脳裏に思い描く。
 散った人々のことを、彼らと過ごした時間を、深く強く想い描く。
「それでもわたしは、あなたたちと――みんなと、出逢えてよかったって言うわ。何度だって、何度だってそう言うわ」
 両手を重ね、胸に強く押し当てる。
 そして、精一杯の笑顔を三人へ向けるのだ。
「だって、いっぱいにもらった『想い出』を、わたしは否定したくないもの」
 ああ、と返答し、カズマは拳を突き出した。
「逝った奴がいる。亡くしたモンがある。けど、全部背負って刻んで進んでやる」
 そう思えるのならば。
「重てェよ。重てェけど、背負っていたいと思うものを掴めたんだ。だからこいつは、ただ悪いだけの悪夢じゃねェ。悪いだけじゃあ、ねェのさ」
 カズマの拳に、クマが手を打ち付ける。
「我が命は、君たちの『想い出』と共に、クマ! クマは皆のことを忘れない! ゼッタイ、ゼッタイ忘れない!」
 続いてヴァージニアも、拳に手を打ち付けた。手の甲で感じられる温もりも『想い出』となるのだろうとヴァージニアは思う。
「ほら、そんなところで突っ立ってないで。トトリも早く」
 ヴァージニアが促すと、少し距離を置いて佇んでいたトトリが、つぶらな瞳を丸くした。
「え? わたしも、ですか?」
 自分を指差し、小首を傾げる。
 否定する者など、いやしなかった。
「たりめェだろ」
「もっちろんクマ!」
 トトリは迷うようにヴァージニアを見て、戸惑うようにクマに視線を移し、躊躇うようにカズマを眺める。
 そして、惑うようにあたりを見回してから、おずおずと近づいてくる。
 こつん、と。
 遠慮がちに打ち合わせられた手も、また温かい。
 簡単に忘れられないくらいには、温かい。その温かさが在るから、現実を生きていける。
 トトリもそうであるといい。そうであるといいなと、ヴァージニアは思うのだ。
「それじゃあ、行くか」
 カズマが扉を開け放つ。
「ええ。そろそろ、起きましょう」
 ヴァージニアが隣に立つ。
「トトチャンは、どうするクマ?」 
 クマが尋ねると、トトリは、思い切り目を擦った後のように薄ぼんやりとするアトリエをぐるりと見回した。
「わたしは、このままアトリエと一緒に還ります」
 そっか、と頷いて、クマはトトリの隣へ行く。とてとてと足音を立て、背伸びしてトトリを見上げる。

「トトチャン。クマは、トトチャンの力になりたいクマ。トトチャンが元気でいる力に。トトチャンが明日を歩いていく力に、なりたいクマ。
 そして、伝えたいことが、たくさん、たくさん、たくさんあるクマよ」
 
 だから、と言葉を切り、言いにくそうにしながら、
 
「もしトトチャンさえよければ、クマの世界へ、ご一緒、しませんクマ……?」
 
 クマは、そう告げたのだった。

183それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:51:06
 ◆◆

 トトリの力になりたい。
 ツェツィを大好きなトトリに戻ってもらうために、できることをやりたい。
 それは紛れもないクマの本心だった。  
 ツェツィのことをしっかり伝えたい。
 たとえば、どれだけトトリを愛していたか。たとえば、どれだけトトリを想っていたか。
 たくさん、たくさん、たくさん伝えたい。
 それは心底からの、クマの望みだった。
 けれど、それを叶える為の時間は限りなく少ないのだ。
 ならば、共に在れれば。
 同じ場所で同じ時間を過ごせれば、トトリの力になれる。ツェツィのことを伝えられる。
 アーランドへ行くことはできない。きっと今も、菜々子が稲羽市で、悠たちを待っている。
 だから、もしも。
 もしもトトリが稲羽市に行くことを望んでくれれば、あるいは。
「ありがとう、クマさん。気持ちは、とってもうれしい。誘ってくれて、本当にうれしい」
 トトリがはにかみ、目を細める。それは確かな笑みではあった。
 けれども、その瞳は潤んでいた。潤んだ瞳に宿っている感情を、クマは見る。
 その感情は、郷愁だ。

「でもわたしは、アーランドへ帰るよ。アーランドへ、帰りたい」

 その言葉に、クマはさみしさと。それを遥かに超える安堵を、覚えた。 
 たとえ何かを失くしても。
 たいせつなものを失ったとしても。
 帰りたいと思えるだけの、世界が在るのならば。
 それはきっと、とてもしあわせなことなのだ。
 だからこくりと、大きく頷く。
「トトチャンの――みんなの幸せを、祈ってる。ずっとずっと、祈ってる」
 それでいいと思えた。
 それがきっと、クマにできる最善だ。

 クマは振り仰ぐ。
 ヴァージニアとカズマを、振り仰ぎ、隣に並ぶ。
 別れの時だ。
 この悪夢にも、よかったことだってあったと思う為に。
 クマは笑う。
 ヴァージニアも、カズマも、トトリも。
 笑って、くれたのだった。
「じゃあ。みんな、元気で! みんなとの『想い出』は、ずっと抱き締めて行くからッ!」
「あばよ、お前らッ!」
「みんなは、いつまでもいつまでも、クマの仲間クマッ!」
 手を振って。
 まどろみの回廊へと足を踏み出す。
「皆さん、ありがとうございましたッ! どうか、どうかお元気でッ!」
 トトリの見送りを背で聴いて。
 クマは、ヴァージニアは、カズマは。
 振り返ることなく、歩いて行く。
 立ち止まることなく、歩いて行く。
 手にした『想い出』を胸に。
 目覚めの道を、その足で踏み締めて歩いて行くのだった。

【ヴァージニア・マックスウェル@WILD ARMS Advanced 3rd ファルガイアへと生還】
【カズマ@スクライド ロストグラウンドへと生還】
【クマ@ペルソナ4 ザ・ゴールデン 稲羽市へと生還】

184それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:51:55
 ◆◆

 見えなくなる。
 三つの背中が、夢の世界から消えていく。
 その後ろ姿を忘れないと誓おう。他でもない自分自身に、誓おうと思う。
「さって、と」
 振り返る。
 もはやアトリエの輪郭はほとんど見えず色は落ちている。アーランドへ還るのは時間の問題だ。
 だが、そんなアトリエの中で、くっきりとカタチを保つものがあった。
 子ども一人分の大きさに膨らんだ、ベッドだ。
 夢の世界に残ろうとするかのように、それは明確な色を持っていた。
 端に、腰掛ける。
 布団の柔らかさも、スプリングの感触も、現実にあるトトリのベッドと同じだった。
 夢の世界に建ったこのアトリエの、一番最初の訪問者が、ここにいる。
 クマよりも夢の世界を熟知し、クマよりもずっと早く夢の世界を歩ける、夢の世界の住人。
 故に誰よりも早くここに到達し、故にこのベッドを夢に定着させることを可能とする。
 布団から少しだけ、長い黒髪が覗いていた。
 それを、トトリはそっと撫でる。何の反応もないのは、まだ眠っているからだろう。
 無理もない。
 ここに来た時、彼女はボロボロだったのだ。入ってきた瞬間、彼女はすぐに倒れ込んでしまった。
 片腕を失った傷だらけの身と、ぐしゃぐしゃに泣き腫らしたその顔は、とても痛ましいものだった。
 寝かせてあげよう。
 この髪に触れていれば、きっとアトリエだけが還ってしまい、夢の世界に取り残されるだろう。
 そのときはまた、アトリエと夢の境界を曖昧にしてやればいい。
 だから、大丈夫。
 そう思い、トトリは、黒髪を撫で続けるのだった。

185それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:52:58
 ◆◆

 青い。
 壁も、天井も、床も、テーブルも、ソファも。
 その部屋は、ただひたすらに青かった。
 青のソファに、礼装を纏った老人が腰かけていた。
 ぎょろりとした瞳に尖った耳、長い鷲鼻のその老人が、面を上げる。

「――ようこそ……我がベルベットルームへ。お初にお目に掛かります。とはいえ、貴方様は私めのことも。この場所のことも、ご存じでしょうな」
 
 そう、知っている。
 ここは夢と現実、精神と物質の狭間の場所。

「……知っているわ、イゴール。貴方も、わたしのことを知っているんでしょう?」
「然り。貴方様が行ったことも、貴方様が夢見たことも。すべて、存じ上げております」

 ぎりっ、と、奥歯から音がした。その音で、歯噛みを堪えられなかったことに気が付いた。

「今更、何の真似? わたしを嘲笑いうために呼び寄せたの? わたしを否定するために呼び付けたの?」
 卑屈になっている自分に嫌気を覚えながら詰問する。すると老人――イゴールは、ゆっくりと頭を振ってみせた。
「この部屋は本来、何かの形で“契約”を果たされた方のみが訪れる部屋。ですが、今回はイレギュラーな出来事が多発致しております」
 イゴールが、窓の外に目を向ける。そこには、一件の木造家屋が建っていた。
「あの建物もまた、夢と現実、精神と物質の狭間に存在しております。
 夢の中で眠る貴方様の無意識が、現実へ還ろうとするあの建物に引っ張られ、ここの扉に手を掛けたのでしょう」
「……わたしは、こんなところに来たかったわけじゃない」
 吐き捨てる。
 こんな場所を願っていたわけではない。こんな虚ろな世界を望んだわけではない。
 欲しかったのは、もっと確かなものだった。
「それもまた存じ上げております。ですが、ここで見えたのも何かの御縁。僭越ながら、貴方様が御気付きでない事柄を御伝えいたしましょう」
 イゴールの大きな瞳が、こちらに向けられる。
「貴方様は見事、創世を成功なされた。虚ろなる軸だとしても、貴方様が望まれた世界は仮想の観測を経て産声を上げたのです。
 実なる軸ではなく、夢なる軸から分岐した新世界を、貴方様は産み出された」

 わたしの強い願いを苗床にして、産み出された虚軸<キャスト>がある。
 その言葉を聞き、意味を理解しても、心は動かなかった。どうでもいいとしか思えなかった。
 それすらも、所詮は虚ろな世界なのだ。

「そしてその世界は、貴方様の居城と共に滅んでしまいました。ですがその世界は、今際の瞬間、とある御方に馴染み――固定されたのです。
 彼の方が既に欠落を抱えていたが故に、虚ろな軸の固定は急速に果たされた」

 それもまた、イレギュラーだった。
 そもそも、実軸<ランナ>とは異なる世界から枝分かれした虚軸<キャスト>という存在自体がイレギュラーなのだ。
「ともすれば、貴方様の悲願が叶う時が来ているのやもしれませんな」
 イゴールが、今一度外を見る。外の建物は狭間を越え、現実へと戻ろうとしている。
 その建物は、無人だった。それは、未だ夢に残っているものがあるという証だった。
 わたしの世界は――まだ、夢の中にいる。
「わたしの……悲願……」
 どくり、と、胸の奥が疼いた。喉の奥が、何かを求めていた。鼻の奥が、くっと詰まった。瞳の奥が、じんわりと熱かった。
 もしも世界が在るのなら。
 望む世界に手を触れられるなら。
 それならば、わたしは――。

「願いを叶えた果てに、幸福があるとは限らない。望んだものを得たが故に、耐え切れぬ苦しみや悔恨に捉われることもある。
 定めとは、誠にままならぬもの。故に私、貴方様を見守りましょう。この御縁が、良きものとなりますように」

 じわじわと、青の部屋が意識から薄れていく。
 視界が狭くなり、世界が夢色に濡れていく。手足が感覚を取り戻す。
 夢の世界へ、戻るときの感覚だった。
 狭間の時間には留まれない。
 在るべき世界へ、意識が還っていく。

「……御礼を、言っておくわ。ありがとう、イゴール」
「フフ、それには及びません」

 ベルベットルームが遠ざかったとき、聴覚がその声を拾い上げる。

「行ってらっしゃいませ――夢魔、ベアトリーチェ様」

186それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:53:49
 ◆◆

 夢の世界に、ベッドが一つ浮かんでいる。
 アトリエは完全に現実へと還った。それでも周りにいる夢の世界の化物どもは、何故か襲ってこない。
 だから、ベッドの端に座ったトトリは、黒髪を撫で続けていた。
 やがてトトリの掌の下で、ベアトリーチェが動く気配があった。
 手を離すと、すぐに起き上がる。
 痛ましい傷はほとんど治っていたが、顔に残る涙の跡はそのままだった。
「おはよう、ベアちゃん。みんな、行ったよ」
「……どうして、わたしを匿ったの。どうして、帰らなかったの」
 頬を膨らませ、口を尖らせ、上目遣いで睨みつけてくる。
 その不貞腐れているような様子は、普通の子どもと変わらなくて、少し微笑ましかった。
「放って、おけなかったから」
「……どうして」
 どうして、どうしてと問うのも子どもみたいだなと、トトリは思う。
 その不服そうな顔の裏にあるのは不満ではない。
 ベアトリーチェが抱えているのは、不安なのだ。
「ベアちゃんの気持ちが分かったから、かな。ベアちゃんが願ったこと――わたしの中にあるから」
 だから手を伸ばす。
 たとえ拒否されても。拒絶されても。
 抱き締めるつもりで、トトリは手を伸ばす。
 それでも、ベアトリーチェからの抵抗は、なかった。

「寂しかったんだよね」

 右腕に力を込める。

「永い、永い間、独りぼっちだったから」

 左腕に力を込める。

「『想い出』が欲しかったんだよね」

 全身で、ベアトリーチェを包み込む。

「他の人たちの『想い出』を、たくさん、たくさん、たくさん見てきたから」

 腕の中で、胸の中で。

「『想い出』にして欲しかったんだよね」

 ベアトリーチェを感じ取る。

「みんな――『想い出』を大切にしているから」

 ぎゅーっとされる、その感覚をトトリは知っている。
 してもらった『想い出』はないのに、心のどこかで、知っている気がするのだ。

「独りぼっちは、イヤ……。寂しいのは、キライ……ッ」

 温もりが、凝り固まった心を溶かしていく。
 震えが伝わってくる。涙が伝わってくる。
 確かめるように、ベアトリーチェが吐き出す。

「『想い出』が、欲しいのッ!」

 ベアトリーチェが、抱き締め返してくる。その腕はか細く、その身は小さかった。

「『想い出』に残りたいのッ!」

「うん……うん。わたしも、おんなじ。おんなじ、だよ」

 ベアトリーチェの願いは、今やトトリの願いでもある。トトリは、ベアトリーチェが切望する願いの結晶を抱えているのだ。

187それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:55:03
「わたしには――たいせつな人がいないから。大好きな人が、いないから」

 殊子が言ってくれた、その事実。
 それを認識する瞬間、心の奥から何かが突き上がってくる。
 正体の分からない何かは、トトリの意識へと浮かび上がり、分からないままに弾け飛ぶ。
 両目から、雫が溢れる。その理由も、やはり分かりはしない。
 けれどトトリは、それを拭わない。
 拭わない方が、きっといいような気がしたのだ。

「だから、つくろうよ。一緒に、つくろうよ」
 息を呑み、ベアトリーチェが見上げてくる。
 貰えないと諦めていた誕生日プレゼントを差し出された子どものような表情で、見上げてくる。
「つくれるの……? わたしも、つくれるの……?」
 髪を撫で、頷く。
 何度も、何度も、トトリは頷く。

「できる。できるよ。だって――」

 トトリは涙を流しながら、心に宿る世界へアクセスする。
 それは、ベアトリーチェの願いが生んだ世界。

「だってわたしは、あなたが望む世界なんだから」

 虚軸<キャスト>に触れ、願いを受け取る。

「虚軸<キャスト>……『夢現渡り鳥<アローン・ザ・ワールド>』」

 ひとりぼっちの世界から飛び立ちたい。
 そんな願いを根源とする世界が、トトリの裡から溢れ出る。
 夢と現実の境界が薄れていく。
 夢が曖昧になり、現実がカタチになる。
 床が、壁が、天井が、棚が、ソファが、大釜が顕現し――現実に在るトトリのアトリエが、夢の中に再度現れる。

「ほら、ここは夢の中だけど現実なんだよ。だから現実に戻っても、わたしたちは一緒にいられる」
 夢に浮かぶ、現実で。
 トトリは、ベアトリーチェを抱き締める。
「ねぇ、ベアちゃん。わたしと、『想い出』を見つけに行こうよ。一緒にアーランドを旅をして、色んな『想い出』を作ろうよ!」

 アーランドへ戻れば、何処へだって行ける。
 いつだったか、どうしてか取った冒険者免許と。
 父が残してくれた、船がある。
 だから。
 荒野に羽ばたく渡り鳥のように。
 何処へだって、さがしに行けるのだ。

「いきたい……」

 腕の中から届いたのは、希求だった。

「わたしも、いっしょに、いきたい……ッ!」

 幼い外見にそぐう泣き声が、トトリの耳朶を打つ。 

「いっしょに、『想い出』、つくりたいッ!」

 より強く、抱き締めた。
 更に強く、抱き締め返された。
 トトリは離さない。
 ベアトリーチェも離さない。
 何故ならこれは、二人の最初の『想い出』なのだ。 
 始まりを乗せて、アトリエは輪郭を失っていく。現実へ還るべく、色を落としていく。
 アトリエが、アーランドへ還っていく。
 二つの泣き声を乗せて、抱きあう強さを連れて、感じる温もりを抱いて。
 夢を越えて、現実へと還っていく。
 その先に在る『想い出』を夢見て。
 血塗られた悪夢は、今、終わりを告げるのだった。

【トトゥーリア・ヘルモルト@トトリのアトリエ〜アーランドの錬金術士2〜 アーランドへと生還】
【ベアトリーチェ@WILD ARMS Advanced 3rd アーランドへと出立】

188それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:56:28
 ◆◆

 そうして。
 すべての悪夢は終焉を迎え、『想い出』をなくした少女と、『想い出』を知らない夢魔の物語が、幕を開ける。
 もしも少女が『想い出』を取り戻すことがあるとすれば、塞いだ傷がもう一度開くことになるかもしれない。
 もしも夢魔が『想い出』を手に入れたのならば、犯した罪の重さを自覚して苦しむことになるかもしれない。
 けれど、そうなったとしても。
『想い出』がある限り、彼女らの物語は、きっと、宝物のように輝くに違いない。
 
 そう、その物語は。
 
 ――それはきっと、いつか『想い出』になる物語。

189 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 22:01:45
以上、投下終了です。

次回、『ベアトリーチェのアトリエ〜アーランドのペルソナ使い〜』に続きます!
嘘です!

これにて、『それはきっと、いつか『想い出』になるロワ』完結です。
好きな作品をぶっこみ、楽しんで参加できました。
1話からここに来るまでの話を妄想するのも楽しかったです。
私の投下はこれにて終了となりますが、これからも投下される多くの完結作品を楽しみにしております。

主催者の方、読んで下さった方、ありがとうございましたッ!

190名無しロワイアル:2013/01/14(月) 18:20:23
執筆と投下、お疲れ様でした!
そして、完結もおめでとうございます!
ああ……ここでアリューゼのアレを出してくるのは嬉しいなぁ。
ここにかぎらず、原作のファンがみたいなと思う場面を、的確に拾ってくださった作品でした。
二話目でベアトリーチェが「時間圧縮」……騎士のいない(騎士が欲しかったかもしれない)
魔女の技を使ってなおも、そこに触れられず倒されてしまったときは多少の引っ掛かりを
覚えていたのですが、そういえばトトリも『世界でひとりぼっち』になってたんだもんなあ、と!
この結末を見て、一話一話を見ても非常によくまとまっているのに、その間にも
しっかり「リレー」していたことがよく分かりました。
ベアトリーチェが、いつか自分のしてきたことの痛みを知っても、トトリが、いつか
自分の記憶を取り戻しても、彼女たちはそれもまた想い出に出来るまで歩いていける。
彼女たちなら、自分自身で想い出を作っていくことが出来る。
たった三話で終わる物語でも、そうと信じることの出来る物語でした。
読んでいる時間が本当に幸せで、これを読むことが出来て良かったです。

191 ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:14:10
6X氏完結乙ですー!
Mobius氏も投下乙です!
自分は作品把握率低いのであれですが、いずれ読ませていただきますー

298話への感想もありがとうございました。
すごい励みになります。
では、「第297話までは『なかったこと』になりました」299話を投下します。

192299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:16:32
 

 ――風は吹いてはいなかった。
 今や箱庭学園で一番高い場所である時計台の頂上からは、
 風音すらない、静まり返った学園の姿を見渡すことができるだけとなっていた。

『みんな死んでしまったね。安心院さんも。もう、すっかり死者の数のほうが多くなった。
 死んだらどこに行くんだろうね。天国? 地獄?
 もしかしたら、僕もよく逝くあの教室とかかな。
 死者は死者で集まって、けっこう楽しくやってたとしたら。少数派の僕らは負け組なのかもしれないな』

 ――ねえ、そう思わない?
 球磨川禊は目線を空に向けたまま、白々しく問いかけるポーズをとる。
 時計塔の屋上には二人の人間が生きていた。
 死んでいる安心院なじみの身体を挟むように対角線上、
 球磨川禊の向かい側で、彼に背を向け「≠」のマークを見せている男がまだ、生きていた。

『なあ――安心院さんは死んだぜ。こっちを向けよ、背景野郎』
「……」

 男は球磨川の言葉に反応し、ゆっくりと振り向く――↓
 。るせさ転反度081を体身―←――←――←――←
 その瞬間、役割も反転する。
 安心院なじみの死体はどうしようもなく背景へと消え去り。
 不知火半纏の眼光が、「主催者」として球磨川禊を射抜く。
 その端麗な顔は憎悪に歪んでいた。眉間には何本もの筋が浮かび、
 歯は深く食いしばられ万力のようにみしみしと震えていた。
 数秒後、「もうひとりの悪平等」――不知火半纏は、そんな口を開き言葉を発した。
 
「どうしてこんなことをした」

 まるで殺人事件の犯人に動機を問う探偵のような、突き放した口調で。


◆◇◆◇


 第299話「すべてが0になる」


◇◆◇◆

 
『え? おいおい、僕に理由を聞くつもり?』

 どうしてこんなことをした。
 不知火半纏のそんな問いに対して、球磨川はおどけながら左手に螺子を出現させる。

『それがどれだけ徒労なことか、知らない人はいないと思ってたんだけどなあ』

 安心院なじみの「影武者」にして「ただそこにいるだけの人外」――。
 スキルを創るスキルを持つ不知火半纏は球磨川禊と対極のなんでもありキャラクターだ。
 いつどこで、どこからどう殺されるか分からない。
 《大嘘吐き(オールフィクション)》による警戒をしておくのは当然と言えた。
 しかし半纏は、彼に攻撃を加えるそぶりは見せない。
 ただ、怒っている――汚物を見るような目をして球磨川禊を見ている。

193299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:17:53
 
「理由もなしにやったのならばさらに最悪だと言っておこう。
 お前のせいでなじみは死んだ。お前がすべてを台無しにしたせいで」

 いっそう鋭く瞳をとがらせ、不知火半纏は球磨川禊の方へ一歩足を踏み出す。
 彼の周りの大気がびりびりと震えている。
 それが裁きのスキル《地震雷雷雷(サードサンダー)》の発動の前触れであることを知る者はいない。
 不知火半纏がたったさっき作ったばかりのスキルだからだ。

「なじみはお前を信じてたんだ、球磨川禊。
 大嘘吐き(オールフィクション)を弱体化させずとも、お前はここではそれを使わないだろうと。
 使うとしても目的なしにだと――こんなに大々的に物語を壊すような真似はしないと言っていた」
『へぇ、そうなんだ。僕みたいなのを信じるだなんて、安心院さんも耄碌したものだね』
「まったくだな。俺も何度も忠告したのになじみは聞かなかったよ。
 おかげでめちゃくちゃだ、何もかも崩れて、歪んで、治らない――壊れたルービックキューブだ」
『詩的な言い回しをするじゃないか。でもどうやらその口ぶりだと、分かってないみたいだね』
「なにをだ」
『安心院さんが死んだのは君の所為だってことを、さ』

 不知火半纏は――球磨川禊に手を翳した。

「《地震雷雷雷(サードサンダー)》!」

 ――彼が作成したスキル《地震雷雷雷(サードサンダー)》は裁きのスキルである。
 その効力は至極単純、「罪悪感を操る」ただそれだけだ。
 人の心に生まれた罪悪感を増幅させ、心を揺らし、雷を落とし、落とし、落とすスキル。
 球磨川禊に対して使うスキルとしては一見最悪の選択に思える。
 だが、だからこその裁き(ジャッジメント)だ。

(ひたすらバトルロワイアルを邪魔し続け。死者から傷を奪い全てをうやむやにし、
 挙句の果てになじみの死を俺のせいにするという所業。
 悪意のもとにやったのであれば。それにどうしても付随する罪悪感、無限に増幅して心を壊す。
 悪しき心無しに――無邪気にやったのであれば。
 その純粋悪な精神、どちらにせよ生かしてはおかない。他のスキルで叩き潰す)

 球磨川禊はよく言う。格好つけた言葉、括弧つけた言葉で、
 『僕は悪くない』と。
 不知火半纏にとって《地震雷雷雷(サードサンダー)》はそんな球磨川の精神を量るスキルだった。
 行動の理由を強制的に測るスキルだった。
 神になったつもりではないが、不知火半纏は球磨川禊の真意が知りたかったのだ。
 嘘に嘘を重ねて、本当のことはめったに口走らない。
 あえてそう振る舞っているともとれる彼の、真意。どうしてこんなことをした?

「どうして――どうしてこんなことをしたんだ!」
『どうして?』

 不知火半纏の手から放たれた裁きの雷を前に微動だにせず。
 球磨川禊はカッコつけた表情で、彼の問いに答える。

『しょうがないなあ、教えてあげるよ――。
 僕がやったことは全部。悪意でも、無邪気でもない。――良心からだ。よかれと思って、やったのさ」

 雷が球磨川禊を打った。
 球磨川禊は、倒れなかった。

194299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:19:23
 
「――良心から、だと?」

 不知火半纏は自らの耳を疑った。ぽかんと空いた口を閉じることを忘れた。
 《地震雷雷雷(サードサンダー)》は不発。
 発動を『なかったこと』にはされていない――いやできないはずだ。
 《大嘘憑き(オールフィクション)》は後だしスキル、一撃目は喰らわざるを得ないはず。
 つまり、罪悪感は球磨川禊に一切ない。そして彼自身もそれを認めた。
 しかし。無邪気ですらないと。良心だと。よかれと思って、物語を壊したのだと。

「お前は――お前はなにを言っているんだ」
「素直な言葉を言ってるだけさ、半纏くん」

 いまだボロボロの状態で対岸に立ち尽くす球磨川は「素直な言葉」でそれに答える。
 表情はうって変わって、ゼロだった。
 無表情、無感動、そんな言葉が陳腐化するしかないほど何もない、
 ゼロの表情で彼は語り始める。彼にとっての。球磨川禊にとってのバトルロワイアルを。

「僕たちはさ……詰んでたんだよ、最初から。
 最初の最初。安心院さんがこの首輪で、見せしめに不知火袴を爆殺したところから。
 僕たちの負けは確定してしまっていた。
 何故って? だってそうだろ? “犠牲者が出てしまった”んだぜ?
 死んだ不知火袴だけじゃない。それを見た全員、全員が犠牲者さ。
 見せしめとして死んだ老人。その死の瞬間を見たみんな。
 そして主催として、人殺しをしてしまった安心院さんと君――。
 誰一人としてもう“元には戻れなくなった”。楽しい学園生活には戻れなくなった。
 壊れてしまったんだ。
 殺し合いが始まって、いくらかの登場人物は安心院さんを倒して、平和を取り戻そうとした。
 でもそれはあまりにも――あまりにも遅すぎるんだよ、半纏くん。
 遅きに失している。僕からすれば滑稽だ。完成不可能なパズルの前で唸り続ける子供みたいに」

 絶対に取り戻せると、駄々をこねているだけだ。
 そう、球磨川禊は断じる。

「長く続けば続くほど。
 殺し合いが進めば進むほど、その登場人物はいろんなものを背負う。
 僕だってほら、傷だらけで、痛々しいだろ?
 これらを僕だけは『なかったこと』にできるけど、みんなは違う――背負い続けなきゃいけない。
 人の死を、人を殺した事実を、人を助けた経験を、大切な人の言葉を、
 ナイフを振り上げたときの心情を、拳銃の重みを、戦うことへの疑問とか、愛とか欲とか、
 極限状態の中で生まれた清濁入り混じった感情は、経験は、全てが終わっても残ってしまう。
 何年経っても何十年経っても、きっとゼロにはならないだろう。
 そんな――そんな想いは、重すぎやしないか? ううん、重すぎるんだよ。
 重すぎるんだ。漫画の中の登場人物ならともかく――現実の人間が、耐え切れるわけがない。
 それこそ“開始直後から終了間際までずっと眠っていて、何が起きたのか分からない”
 くらいじゃないと――例え生き残ったって呪われ続けるだけだ」

 絶望だけじゃなく、希望にもね。球磨川禊はそう続けた。
 不知火半纏は普通の人間ではないが、その言葉の意味を想像することは出来た。
 確かに、
 誰かを殺して生き残れば、殺した事実に苛まれ続けるだろう。
 そして――誰も殺さず生き残ろうとも、他に死者が生まれてしまった以上。
 生き残った者には死んだ者を弔う義務が発生する。
 ○○のぶんまで生きなければならなくなる。
 大量の命を背負って長い人生を生き続けなければならない。
 もとには戻れない――そんな壊れた人生を送る。壊れなければ、いけなくなる。
 誰かは必ずその役割を負わなければならないというなら――確かに初手から手詰まりだ。

195299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:21:32
 
「だからあの五人を開始直後から眠らせたと言うのか。
 だから――殺し合いを邪魔し続け、すべてを『なかったこと』にしたと言うのか」
「そうだね。彼女たちは鰐塚ちゃん以外、学内との人間のかかわりも最近できたばかりだ。
 彼女たちなら、100人近い人間が死んだ事実を、ある程度遠いところから見ることができる。
 いつかそうなったかもしれないくらいの――現実的な重荷を背負ってくれる。
 って思ってたんだけどね。僕も完璧じゃない。もうそろそろ彼女たちは起きてしまうだろう。
 計画は失敗、僕はまた負けたわけさ。エピローグで起きてもらうのが理想だった」

 ――でもまあ、ベストじゃないけどベターかな。
 球磨川禊は左手で大きな螺子を弄びながら自らを賞賛するように胸を張った。

「少なくとも、ここまでのすべてを100とするなら、
 そのうち99は『なかったこと』になった。
 彼女たちが背負わなければいけない重みは百分の一だ。
 ほんの少し――酷い悪夢くらいの重みに。実感の湧かないレベルの重みになったはずさ」
「――なっ」

 と。球磨川禊は左手の螺子を投擲した。
 直線軌道で飛んだそれは、綺麗に背景へと突き刺さる。
 安心院なじみの自殺体へと突き刺さり、その傷を『なかったこと』にする。

「また――お前は」
「人の死に。ドラマがあるから重みは生まれる。
 その現場に居合わせなくても。どうやって死んだのかが推測できてしまったら、
 物語が生まれてしまう。――語り継がれてしまう。
 ――こんな最悪な物語は語られるべきじゃないんだよ、半纏くん。
 あの子が強く生きたことも、あの男が成長したことも、
 あの人が狂ってしまったことも、あの少女が絶望してしまったことも、
 誰が笑って死んだのか、いつ何を思ってたか、ぜんぶぜんぶ――、
 僕は美談にしてほしくないんだ。
 人の死を、かんたんに楽しんでもらいたくないんだ。
 誰かの死にざまは見世物じゃない。ただそこにあるだけで、留めておくべきだ」
「なじみを……なじみの死をそこにあっただけで受け止めろと言うのか」
「そうだよ。それが君の罪だ、
 不知火半纏――未来読書のスキルを作ってしまった君のね』

 冷たく。
 本音を抑え、いつもの格好つけた調子に戻りながら、
 球磨川禊が放った最後のフレーズが、不知火半纏の心に刺さる。

「未来読書の、スキル」

 未来読書のスキル《土曜の夜に感想(ネタバレセンチメント)》。
 不知火半纏はそのスキルを、その存在を覚えていた。
 忘れもしない、百年ほど前に安心院なじみの要請で彼が初めて作ったスキルだ。

「まさか。まさか――なじみは使えたのか。あれを」
『そうとしか考えられない。
 予知スキルをいくつも持つ安心院さんだけど、君の作ったあのスキルはそれとは一線を画す』
「そう、そうだ。《土曜の夜に感想(ネタバレセンチメント)》が予知するのは、
 “今後の展開”だ。この現実を週刊少年ジャンプに例えるならば、
 一年先までの未来のジャンプを読むことが出来る――そういう能力を、作った」

196299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:23:10
 
 安心院なじみは全能に近い能力を有する。
 自分が漫画の中の登場人物にすぎないと錯覚してしまうくらいになんでもできてしまう。
 よって当然のように未来を予知する能力も複数所持しているが、彼女の持つこれらのうち多くは、
 少し行動を起こせば変えることができる不確定な未来を予知するものだ。
 しかし、不知火半纏の作った《土曜の夜に感想(ネタバレセンチメント)》は違う。
 すでに確定している未来を読む――何故か作れてしまった矛盾テーマのスキル。
 使えないはずのスキル。

『きっと、ほんの一兆分の一の気まぐれだったんだろうね』

 球磨川禊は懐から一冊の本を取り出す。
 それこそが彼の初期支給品にして、彼がすべてを知った原因。
 安心院なじみが《土曜の夜に感想(ネタバレセンチメント)》で先読みし、
 心の中を印刷するスキル《心色印刷機(テンプリンテーション)》で製本した、
 彼女たちにとって幾週間後のジャンプ――安心院なじみの敗北回。

『安心院さんは――読んでしまったんだ。未来のジャンプを自分の目で。
 黒神めだかにほだされて、自殺を諦めて。
 自らの考えを病気と断定されて、現実を学ぶために一年十三組に編入される。
 ――そんな結末が確実に未来にあることを知ってしまった』
「……」
『そして思ったんだろう。
 本当の本当に、いよいよもってこの世界が漫画でしかないなんてことを。
 もう、現在の登場人物も、過去の登場人物も、
 未来の登場人物も、外伝やアニメや小説のオリキャラもないまぜにして混ぜて、
 ぐちゃぐちゃのバトルロワイアルでお茶を濁して――すべてを0にするしかないだなんて』

 誰にも相談せずに、ひとりで決めてしまったんだ。
 ほんの少し物悲しそうに下を向き、優しい顔で斃れる安心院なじみを見ながら、
 球磨川禊はぽつりそう呟いて、次の瞬間、けろりとした顔で。

『――なぁんて、このジャンプはそこの購買で普通に売ってたやつで、
 そんな展開はこれっぽっちも、ほんの少しも書かれてなかったんだけどさ!』

 ジャンプを宙に放り投げ、螺子で物理的に貫きながら。
 括弧のついた言葉で、言いきった。
 はらはらと舞い散るジャンプの再生紙のはしきれと、球磨川禊のしてやったりな笑顔。

「球磨川禊。お前は、まさか、
 バトルロワイアルを上手くいかせずに『なかったこと』にすることで、
 なじみを止めようと――ん? なんだと?」
『えぇ? 違う違う。結局僕が場をかき乱したのはただの私怨さ。
 安心院さんの思惑(推測でしかないけど!)通りにいくのが嫌だったから、
 それっぽく理由をでっちあげてひたすら邪魔しただけだよ。
 括弧つけてないからって嘘ついてないとは限らないぜ、ばかだなあ。
 思えば、死者の服装を全員スク水にする暇がなかったのが唯一の心残りかな――』

 球磨川はそのまま不知火半纏を挑発するような態度をとる。
 へらへらと笑いながらべらべらとくっちゃべって、相手の心に不快感を与えていく。
 不知火半纏は球磨川のそんな姿に、静かに誘導される。
 心に風が吹く――怒り、憎しみ、恨みつらみ。自分の感情が指針を失う。

197299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:25:47
 
「ふざけ――ふざけるなよ、球磨川禊!」

 怒髪天を突くようにして。不知火半纏はわけもわからず、
 おそらく彼の思惑通りに両手になんらかのオーラを発生させる。
 名称不明、安心院なじみの影武者として半纏が会得した「スキルを作るスキル」のお出ましだ。

「そうだ。嘘に決まっている。
 なぜならば、その行動指針であれば、お前はあまりにも失敗しすぎている!
 すでに94人死んだ。黒神めだかも獅子目言彦もだ。
 本当になじみを納得させたいのなら、彼女が思い通りにできない/できなかったこの二人を、
 死んでも生き残らせなければならないはずだ!
 そうして、ほら思い通りにいかないだろうと笑ってやるべきだった!
 なのに二人は死に! なじみも死に――お前は図々しく生き残っている!
 結局は、自分が可愛いだけなんだろう! 醜く生き残りたかっただけなんだろう!」
『――そうさ。僕は球磨川禊だからね。大失敗の負け続けさ。
 ホントは全員生き残らせるつもりだったのに、たった五人しか救えなかった無能人間だ。
 いつまで経ってもやりたいことが出来ずに、それを自分のせいにも出来ない、失格人間だ。
 それでもとりあえず、ベストじゃないけど、ベターだよ。今の状況はね』
「もういい。お前の戯言を聞くのはもういい――なじみへの弔いにもならない。
 “ここに来た”ということは。最初からこういうつもりだったんだろう、球磨川!」

 地面を蹴って不知火半纏は駆ける。
 光るオーラを放つ両手を――スキルを作るスキルを球磨川禊に当てるために。

『ああ、不知火半纏。僕は最初からそのつもりだったんだ。
 ――君を倒してバトルロワイアルから逃げ切るつもりだったのさ。うん、それだそれだ。
 しかし難しいだろうなあ。
 君の「スキルを作るスキル」は矛盾しないテーマのスキルであれば何であろうと実現する。
 言い換えれば僕の正反対だ。『なかったことにする』に対する、「あったことにできる」スキル』
「……今からお前の身体にこれを当てる!
 そして球磨川禊、“お前を殺すスキル”を作り出す!
 『なかったこと』にできるならしてみるがいい。俺はそうさせないスキルを作る。可能性はゼロだ」
『っははは、可能性はゼロ、か。
 僕はゼロよりマイナスのほうが好きだぜ、影武者君。
 ん、じゃあ僕はその0パーセントをマイナス100パーセントにしてみせよう。
 かかってきな、不知火半纏。――――――――後悔しないように、全力でさ』

 不知火半纏の「あったことにできる」スキル。+の∞。
 球磨川禊の『なかったことにする』マイナス。−の∞。
 誰が意図したのか。どうしてそうなってしまうのか。
 無風の時計塔の頂上、最終局面の最期に行われたのは、あまりにも簡単でかつ大規模な足し算だった。

「――――がああああああああ!!」
『――――あはははははははは!!』

 ∞+(−∞)=0。

 そしてすべてが、ゼロになった。


【マーダー・球磨川禊――消滅】
【主催者・不知火半纏――消滅】


 かくしてバトルロワイアルの真実を知る者は全員消えて。
 全ては、『なかったことに』――――――なった、の、だが。

198299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:27:37
 

◆◇◆◇


「これは――嘘、でありましょう?」

 ワンテンポ遅れて。
 鰐塚処理たちが女子中学生の全力を駆使して辿り着いた時計塔の屋上には、何もなかった。
 球磨川禊も、不知火半纏も――それどころか安心院なじみの死体すら。

「ノゾミちゃん、どういうこと? 確かにここに安心院さんと裸エプロン先輩がいるってさっき」
「え、ええ、言いました、ツギハ。でも今は反応がありまセン。
 ただ、たったさっき――なんらかのエネルギー反応を二つ、観測しました。
 その二つは、今から十数秒とコンマ数秒前。私たちがこのドアを開ける直前に消滅しました」
「消滅した? 安心院さんと裸エプロン先輩が?」
「&strike(){意味分かんねえよ!}そんな――どういうことなの!?」

 動揺する候補生たちは、彼女たちの中でブレイン的役割を担っているアンドロイド少女、
 希望が丘水晶に事態の説明を求める。しかし芳しい答えは返ってこなかった。
 そして――事態はさらに悪化する。
 おそらく球磨川禊も、不知火半纏も、
 死んでいった数多の参加者たちも誰も予想できなかった展開へと。――物語は、進んでいく。

「つまりは――私たちがこの箱庭学園から出られる可能性は、
 生き延びることが出来る可能性は、ただ今をもってゼロになったということです」
「「「「――え」」」」

 希望が丘水晶は、四人に無慈悲かつ機械的に宣告する。
 ――彼女たちの首には参加者として、今も首輪が巻かれている。
 そしてこの首輪が外れる条件はただ一つ。主催が倒された場合に限られる【ルール2参照】。
 安心院なじみは、自殺した。
 不知火半纏は、球磨川禊と対消滅した。
 誰も主催を倒していない――ルール外の展開だ。
 つまり、首輪はもう外れない。外すこともできない。そしてさらに。

「どうやら。安心院さんが使った“学園を現実世界から切り離す”スキルは、
 安心院さんが居なくなった今も――死んだであろう今も残るタイプのものだったらしいのデス。
 まだ効力は続いています。スキルだけは消えていません。私たちは、出られない」
「……まじで?」

199299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:29:13
 
 ――安心院なじみが殺し合いの舞台に選んだ箱庭学園にはスキルが施されている。
 学園の外から風が吹かないように。
 学園の中から風を吹かせないように。
 彼女は自らの持つスキルを駆使して学園を外部と完全に遮断した。

 閉鎖空間のスキル《他閉症(シャットダウンカットアップ)》。
 死後も呪うマイナス《此処個々心残り(インテステイトハート)》。
 これらを合成して創られたミックススキル、
 《怨匣(ロワイアルボックス)》は安心院なじみの死後すら消えることなくこの学園を閉鎖し続ける。

 禁止エリア制度も健在だ。残り2時間で時計塔のエリアは禁止区域になる。
 箱庭学園《怨匣(ロワイアルボックス)》仕様は7×7マス、
 49のエリアに分けられており、現在18の区域が侵入禁止エリアに指定されている。
 《怨匣(ロワイアルボックス)》のプログラム内に組み込まれているこれをどうにかすることも、不可能。

「え、と、じゃあ――残るエリアは約30でしょ。
 ……2時間に1エリアが禁止エリアになるってことは」

 五人の中で計算が二番目に(機械である水晶の次に)得意な喜々津嬉々が、
 冷静に空中でそろばんをはじく。いや、こんな簡単な計算にそんなポーズをとる時点で、
 すでに冷静さは失っているのかもしれない。
 現に、彼女が答えを出す前に、隣で上の空を見つめていた与次郎次葉が小さくつぶやいた。

「60時間。わ、わたしたちに残された時間は――60時間しかない」
「&strike(){正確には61時間半ってとこか}そ、そんな……」
「誰も死ななければ、そうでありますね」
「「「「!?」」」」

 次いで――ごくりと唾を呑みながら。
 絶望に顔色を失いかけた少女四人を追い討つように、鰐塚処理は残酷な真実を提示した。
 デイパックに入っていたルールの紙を見えるようにかざす。
 その首輪の項に描かれている、このバトルロワイアルのみの追加ルールを見せる。

【 生存者が残りひとり以下になった時点で 】
【 首輪の爆発機能と、学園の内外部遮断スキルは停止する 】
 
 これまで眠りに守られていた少女たちに、このとき改めて、現実が突き刺さった。
 薄っぺらいその紙は告げていた。
 生き残りたいのであれば、他の四人を殺せ、……と。

 
【第300話へつづく】

200 ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:31:21
投下終了です。
めだかっぽいスキル名でっちあげが何より難しかった。次回で完結です

201 ◆rjzjCkbSOc:2013/01/17(木) 20:39:26
【ロワ名】謎ロワ
【生存者6名】
・教会育ちのKさん@寺生まれのTさんシリーズ
・鎌田吾作@本格的 ガチムチパンツレスリング
・モナー@アスキーアート
・阿部高和@くそみそテクニック【右腕使用不可】
・ジョニー@メタルギアソリッド(MGS)4【フラッシュバックによる無力化の可能性】
・スペランカー先生@スペランカー先生【(残機的な意味で)限界寸前】

【主催者】母胎@SIREN2(消滅)、岸猿伊右衛門@かまいたちの夜2
【主催者の目的】生き残った者を利用し、死んだ者を生贄として邪神を蘇らせる
【補足】
・参加者達がいるのは離島線四号基鉄塔(SIREN2)。頂上に特異点
・首輪の代わりの呪いが全員にかけられていたが、現在は緩んでいる(解呪はされていない)
・あと2時間で全てが赤い海の底に沈み、虚無へと還る
・寺生まれの力が阿部高和に受け継がれている
・鉄塔の周りは赤い海に変化
・母胎が消滅している事を参加者は知らない

二の足を踏んでいる内に終わってしまわないように、テンプレを。本編は後日に。

202名無しロワイアル:2013/01/17(木) 23:57:14
>>201
濃いよ、とんでもなく参戦作が濃いよ!w

203名無しロワイアル:2013/01/18(金) 11:40:58
>>200
対消滅!?
手ブラジーンズ先輩のかっこよさと反転院さんの激しさ
西尾節というかめだか節なスキル
あと1話しかないのにこの展開
どれをとっても素晴らしい!
めだかボックスのロワで作られたスキルがロワイヤルボックスってのもすっごい「それっぽさ」で
終始固唾を呑みつつニヤニヤできるのがいいなぁ
最終話、楽しみに待ってます!

204 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/21(月) 22:58:29
やろうか悩んだけど始めます。

【ロワ名】やきうロワ
【生存者6名】
1.小笠原@日本ハム【対主催:体中ボロボロ】
2.浅尾@中日【マーダー:右目失明】
3.新井@阪神【脱出派:全身に裂傷】
4.西口@西武【マーダー:健康】
5.斉藤@日ハム【優勝狙い:最強の24歳状態】
6.内川@SB【優勝狙い:チック、アゴが更に長くなっている】
【主催者】大松@ロッテ、NPB
【主催者の目的】NPBのスターを創り出す

カオス系ロワですが、よろしくお願いします。
なんとか今月末に間に合わせたい……!

205名無しロワイアル:2013/01/23(水) 20:30:30
ドラッキー「やきう!?」

206 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/24(木) 19:59:53
>>205 日ハム小笠原「そうだぞ」

と言うことでちょっとスタンス変更だったりしたついでに名簿作ったんで投下
【ロワ名】やきうロワ
【生存者6名】
1.日ハム小笠原@日本ハム【対主催:体中ボロボロ】
2.浅尾@中日ジョイナススレ【無差別マーダー:右目失明】
3.新井悪@阪神【脱出派:全身に裂傷】
4.西口@西部の中継ぎ【対主催:健康】
5.さいてょ@日ハム【優勝狙い:最強の24歳状態】
6.内川@SB【優勝狙い:畜生度上昇】
【主催者】大松@ロッテ、NPB
【主催者の目的】NPBのスター選手を決める

9/9【巨人】
村田 / 内海 / ボウカー / マシソン / 長野 / 加藤 / 澤村 / 菅野 / 杉内
10/10【中日】
吉見 / ソト / 浅尾 / 山井 / 雄大 / 岩瀬 / 荒木 / 森野 / 和田 / 堂上直
9/9【阪神】
能見 / マートン / 鳥谷 / 新井悪 / 新井弟 / 福留 / 西岡 / 安藤 / 日高
7/7【ヤクルト】
館山 / 石川 / 由規 / ミレッジ / バレンティン / 畠山 / 相川
8/8【広島】
前田健 / 野村 / 大竹 / 今村 / バリントン / 石原 / 東出 / 堂林
10/10【DeNA】
三浦 / 藤井 / 高崎 / 須田 / 細山田 / 筒香 / 中村紀 / ラミレス / 森本 / 多村
8/8【日ハム】
斉藤 / 吉川 / 中村勝 / 武田勝 / 武田久 / 多田野 / 中田翔 / 稲葉
9/9【オリックス】
東野 / 金子千 / 小松 / 井川 / 西 / 後藤 / 坂口 / T-岡田 / 糸井
10/10【ソフトバンク】
新垣 / 巽 / 大隣 / 摂津 / 田上 / 細川 / 松田 / 本田 / 内川 / 吉村
7/7【ロッテ】
成瀬 / 里崎 / 福浦 / 荻野 / G.G.佐藤 / 神戸 / 南
5/5【楽天】
田中 / 永井 / 嶋 / 松井 / 鉄平
8/8【西武】
岸 / 西口 / 涌井 / 長田 / 岡本篤 / 十亀 / 大石 / 野上
100/100

明日短いですが288話投下します!(予告)

207 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/25(金) 23:32:10
やきうロワ288話を投下します。

208やきうロワ288話 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/25(金) 23:32:39
「クッ……もうこれだけしか生存者がいないというのか……!」

北の侍、日ハム小笠原は怒りのままに壁を殴りつけた。
放送が流れ終わり、今の生存者が6人だと知らされた。
何故かタイムスリップをして2012年に来たと思えばこれだ。
とてつもない怒りが彼からこみあげる。

「何としてでも、この殺し合いを止めなくてはならない……!
 本部のビルまであと少しだ……待っていろ!」

小笠原はバットを片手に再び走り出した。


【日ハム小笠原@日ハム】
[状態]体中ボロボロ
[スタンス]対主催
[装備]基本支給品、バット



◆             ◆




「ウッ……なんてことだ、田島君まで……!」

本部の中に入っていた浅尾は放送を聞き悲しみに暮れていた。
吉見や荒木、さらには尊敬する岩瀬までもいなくなってしまい、挙句の果てには田島まで。
もう彼に味方はいなかった。
いや、岩瀬が死亡してこの殺し合いに乗った時点でもう彼の周りには敵しかいなかった。

「もう、止まることはできない……この殺し合い、生き残ってやる!」

途中、他人の支給品から奪った拳銃を持ち、浅尾は立ち上がる。
あと5人殺せば終了なのだ。
出来ないことがあるはずがない。
それに自分はすでに4人も殺しているのだ。


「――――キミは、中日の浅尾君じゃないか!」


と、その中背後から声が聞こえる。
そこに立っていたのは生存者の一人――――西武の西口だった。
体に傷などは全くなく、悠然とこちらに近づいてくる。

「……どうも、西口さん」
「浅尾君、その右目は……」
「えぇ、もう見えないんですよ……ピッチングもできるかわからない」
「いいや、君は大丈夫だ! 怪我を乗り越えた君ならきっと!」
「それに――――田島君だって吉見も、岩瀬さんももうこの世には……」
「大丈夫だ、君なら乗り越えられる! だから――――」




「生還して西武ライオンズで、一緒に優勝を目指そうじゃないか!」




その西口さんの言葉はとても心に響いた。
ユニフォームを血に濡らした僕を見捨てないでいてくれるのか。

209やきうロワ288話 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/25(金) 23:33:08



でも、僕はその思いにこたえることはできない。





バン、という無機質な音が響いた。
それが何の音か説明するまでもない。
西口さんのユニフォームの腹部から赤い染みが広がっていく。

「あ、浅尾君……」
「すみません――――でも、僕はもう元に戻ろうなんて、考えられないんです」

岩瀬さんにつなぐために、今までに努力した。
その思い出を汚してまで犯した殺人と言う罪は、重かった。
それを消すのは、今までの思い出を消すのと同じだ。
だから、僕は西口さんの手を取ることはできない。

「――――そうか、残念だよ……ゴホッ!」
「憎むのなら憎んでくださって結構です、僕がしたのは……それだけの悪行ですから」

十中八九、罵詈雑言に近いものを浴びせられると思っていた。
今までの人もそうだったから。
プロ野球選手と言う、夢を与える職業として僕は、失格なのだ。



「いや……浅尾君は悪くないよ、悪いのはこんなことを考え出したNPBなんだ」



だが、予想を大きく反した。
西口さんは僕を責めるどころが、僕を悪くないといった。
その瞬間、僕の中で何かが吹っ切れたような気がした。



「ッ、うわああああああああああああああああああああああああああ!!」



ただ、叫ぶことしかできなかった。

【西口@西武 死亡】
【残り5名】

【浅尾@中日】
[状態]精神不安定、右目失明
[スタンス]無差別マーダー
[装備]基本支給品、拳銃(残り?発)

210やきうロワ288話 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/25(金) 23:33:24



◆                ◆



「――――今のは……?」

その叫び声を聞いていたのは新井だった。
浅尾のいる階の1階上の会議室で身を隠していた。

「まさかまただれか死んでしまったのか……辛いです」

悔やんでも、今の彼には何もできない。
殺し合いから逃げ続け、戦うだけの力はもうない。
彼が持っているのはにぃにこと金本のサイン色紙だけだった。

「――――とにかく、仲間になってくれそうな人……はもういないか?」

生存者はもう6人になったと言っていた。
きっとその中にはこの殺し合いに乗った人だっているはずだ。
その人を避けてどうやって味方になってくれそうな人と合流するか。


「とりあえず、ここから出なければ……だな」


意を決して、ドアの方に向かう。
とりあえず物陰に隠れて移動していけば気付かれない……だろう、多分だが。
そう思いながらドアを開ける。





「フハハハ! 見つけましたよ……!」





そこに立っていたのは、斉藤佑樹だった。
だが、雰囲気は前に彼と対戦した時と大違いだ。

「斉藤君、まさか君はこの殺し合いに……!」
「フハハハ! 僕はもうピエロなんかじゃないんですよ……!
 僕にはもう吉川も田中も勝てないんですよ! 僕は最強なのですよ! フハハハハ!!」

一瞬で斉藤は俺の懐に入っていた。
何とか避けようとするが、それも構わず俺の腹にナイフが刺さった。

「グ、ハッ……!」
「フハハハハハハハハ! もう誰も僕を止めることはできませんよ!!」

ナイフが腹から引き抜かれ、体が地面へと崩れ落ちる。
生きて帰ることはできそうにない。
にぃにに、まだお礼を言っていなかったのに。
ずっと追いかけて、頑張ったのに。



「辛い、です……」



意識は、闇の中へと堕ちて行った。


【新井悪@阪神 死亡】
【残り 4名】


◆                ◆



「フハハハ! こんなもんですよ!!」

斉藤佑樹――――いや、最強の24歳となった彼は新井の死体を踏みつけた。
自分が最強なのだ。 もう誰にもピエロなどと言わせない。

「フハハハ、今まで僕をピエロだなんて言った奴を見返してやりますよ!」

彼はもう、ハンカチ王子などと言われた斉藤佑樹ではない。
ただ己が最強と証明するために殺人を続ける、殺人鬼≪ピエロ≫だった。


【斉藤@日ハム】
[状態]最強の24歳
[スタンス]優勝狙い
[装備]基本支給品、ナイフ

211 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/25(金) 23:35:18
投下終了です。
名簿の日ハムの欄を 中村勝→小笠原 へと変更です。
とりあえずカオスなごちゃごちゃした完結を目標とします。

212 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:10:05
>>211
カオス上等! お互い完結目指して頑張りましょう。

剣士ロワ、第299話の投下を開始します。
ゼロガンダムのレジェンドBB発売記念に間に合わんかった……orz

213剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:11:42
 蛇鉄封神丸が、轟音と共に振るわれる。その一撃でまたも洛陽宮殿の一角が崩壊したが、その刃はトゥバンに届かない。
「おおっ!」
 裂帛の気合と共に、トゥバンの手の中で白き龍の聖剣“イルランザー”が翻り、タクティモンの胴を狙う。だが、タクティモンはマントでその一撃をかわすまでも無く防ぎ切った。
 トゥバン・サノオの渾身の力を込めた一撃を、マントとは到底思えぬ、森守の鎧と同等以上の強度の障壁によって阻まれた。これはディアブラスから委ねられたカガクの剣ではない。折れたか、毀れたか、或いは罅が――という不安から、タクティモンが態勢を僅かに崩している隙に一時間合いを取る。
 イルランザーの刀身を見遣り、トゥバンは嘆息を漏らした。罅も刃毀れも無い、万全の状態のままだったのだ。これに、トゥバンは歓喜した。
 トゥバンは旅の中で2度、これは、という名剣を名工から授かる機会があった。だが、1振りは土武者との戦いで、もう1振りはディアブラスとの戦いでボロボロになってしまった。たった1度の戦いで、トゥバン・サノオの本気に耐えられなかったのだ。例外は、古のカガクの業を用いて作られた剣のみだった。
 この殺し合いの舞台でも、それは同様。木刀を含めて7振りの剣を手にしたが、どれもがトゥバンの力に耐えられず、途中で折れて毀れて曲がって朽ちて果てた。ニホントウにも善し悪しがあるのだと学べた点は貴重だったともいえるが、不満は募るのみ。
 漸く手に入れた、折れず毀れず曲がらずの剣であった虎錠刀も、トゥバンとの相性は悪かった。だが、決戦に臨む少し前に出会ったオキクルミと、虎錠刀と引き換えに手に入れたこの剣――イルランザーは素晴らしかった。
 刀身はやや長いが、トゥバンが最も扱い慣れた両刃剣であり、剣の強度も切れ味も申し分ない。何よりも、トゥバン・サノオの全力を受け止め、そして応えてくれるだけの名剣に巡り合えた。それが何よりの実感として、イルランザーを握る両手に宿っている。持ち手の傷を少しずつ癒す力もあるらしいが、そんなものはオマケのようなものだろう。
 剣の状態を気に掛ける必要も無く、目の前の人外の魔人を斬ることに全神経を集中させることができる。これほどに喜ばしいことは無い。
 離れた間合いのまま、タクティモンが構えを変えた。あの体勢は突きかと予想した直後、タクティモンは5メード以上離れていた間合いを一歩で詰めて来た。
「壱の太刀・鬼神突」
 高速で放たれた打突だが、それだけではない。蛇鉄封神丸に闇の瘴気が暗黒の大蛇の姿となって纏わりついたのだ。これは、森守の放った光条と同じ。触れたら不味い。しかし、これは森守の光条に比べれば、遅い。
 トゥバンはタクティモンの神速の踏み込みに対応し、蛇鉄封神丸にイルランザーを打ち込み、その切っ先をずらし、軌道を逸らした。だが、闇の瘴気が僅かに身体を掠めた。
 森守の吐いた光条の余波とも違う、まるで身体を咀嚼されるような痛みを感じたが、それは一瞬で和らいだ。どういうことかと、咄嗟にイルランザーを見た。
 まさか、これがイルランザーの持つ癒しの力だと言うのか。だとすれば、願っても無い。タクティモンと戦う上で最良の剣を手にしていた幸運を実感し、顔に浮かぶ笑みを深める。
 タクティモンは一の太刀が凌がれたことにさして動揺も見せず、すぐさま次の一手を見せた。蛇鉄封神丸を振り上げ、そのままトゥバンにではなく床に――大地に叩きつけた。トゥバンは最小限の動きでそれをかわしたが、直後、本能に任せて更に後ろに跳んだ。
「参の太刀・天守閣」
 大地が、突如として隆起した。タクティモンは大地を操る力をも持ち合わせていたのかと、恐怖が全身を刺激する。自然と、笑みも深くなる。
 10メードほどで大地の隆起は収まり、すぐに崩落を始めた。足場崩しと攻撃を一体化させた、あまりにもスケールの大きい技だ。だが、大剣の切っ先を大地に突き刺すという大きな予備動作が必要な以上、そう簡単にはくらうまい。
 否。そろそろ受けるのはやめて、こちらからも仕掛けようか。



214剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:13:31

 タクティモンが着地すると同時、トゥバンの剣の一閃が迫った。蛇鉄封神丸の刃で受け、そのまま弾き返すように剣を振るう。トゥバンは僅かに身をかわしたが、完全には間に合わず掠り傷を負わせた。しかしその程度で怯むようなことは無く、トゥバンは剣を振るい続けた。
 タクティモンはトゥバンの剣を、鎧やマント、蛇鉄封神丸で幾度となく受け止めた。鎧やマントには幾つか薄い切り傷ができていたが、破壊されるに至ることも無く、蛇鉄封神丸に至っては全くの無傷だ。
 対して、トゥバン・サノオは見切りを損なってばかりで深手は負わずとも全身が傷だらけになっていた。イルランザーの癒しの力も蛇鉄封神丸の瘴気によって効力を封殺されており、傷口から流れ出た血が衣服を赤く染め、動く度に飛沫となって巻き散らされている。
 だというのに。その顔には、笑みが浮かんでいた。恐怖で引き攣ったような、それでいて、子供のような無邪気さが混じった、不可思議な笑みだった。
 それを見ている内に、タクティモンはふるえた。恐怖に震えたのか、歓喜に奮えたのか、或いは両方なのか。
 必殺技は大振りでトゥバン・サノオには見切られてしまうだろうと感じていたが、己の内の猛りに任せるまま、鬼神突を放つ。しかし、今度は回避も防御も間に合わなかったのか、瘴気だけでなく蛇鉄封神丸の刃がトゥバンの肉を僅かに抉った。
 次の瞬間、タクティモンは戦慄した。

215剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:13:52
 トゥバンは鬼神突を受けながらも踏み込み、タクティモンの胴に強烈な一撃を叩きこんで来たのだ。
「ぐぅ……!?」
 痛烈な一撃に、口から息が勝手に漏れ出す。クロンデジゾイドにも匹敵する強度を誇る鎧にも、鋭い切り傷が刻まれる。
 次いで、顔面目掛けて振るわれた剣を辛うじてかわすが、仮面の端を斬られ、砕かれた。遮二無二、右手を蛇鉄封神丸の柄から放して乱雑に振るう。
 しかし、既にトゥバンはタクティモンの間合いの外に離れていた。タクティモンが振り払おうとしたのは、残像だったのだ。
 全身に、怖気が走る。
 タクティモンの眼力を以ってしても、残像を残す巧みな体捌き、そして純粋な速さ。それなのに、何故先程までは、タクティモンの剣をかわせなかったのか。その意味は、先程の剛剣と、トゥバンの表情を見て理解した。
 かわせなかったのではなく、かわさなかったのだ。
 かわせばその分体勢が乱れ、踏み込みも浅くなってしまう。それではタクティモンを斬れない。だから、掠る程度にしかかわしていなかった。
 理屈は分かる。しかし、それを実行に移そうという心胆、そして実現できる技量は、最早、人のそれではない。
 魔人を震わせるものなど、鬼か修羅しかありえまい。
「く、くくく……ははははは……」
 自然と、タクティモンの口から笑い声が漏れた。
 砕けた仮面からはタクティモンの本体――1つの存在として練り固められた、数万年来溜まり続けた武人デジモン達の怨霊体が瘴気と共に噴き出ていたが、それは些細なことだった。タクティモンにとっても、トゥバンにとっても。
 正直、タクティモンはトゥバンをどこか侮っていた。剣の腕こそ評価に値するが、所詮は人間であり、その身体能力はデジモンには遠く及ばないものだと。
 しかし、違ったのだ。目の前に立つ男は、聖騎士オメガモン以来の――ある意味では彼以上の強敵だったのだ。
 身体が奮える。今まで感じたことの無い歓喜に、魂が沸き立つ。
 トゥバンは、剣を構え、笑みを浮かべたまま動かない。タクティモンが態勢を整えるのを待っているのだ。
 求めているのは単純な勝利ではなく、十全の状態の相手を斬り伏せた上での、真の勝利。
 それは、タクティモンも同じだった。戦略的な完璧な勝利からは程遠い、個人の自己満足とも言えるもの。それを、今はタクティモンも渇望していた。
 数万年来彷徨い続けた武人達の無念の魂が、真に一丸となって咆哮する。
 ――目の前の修羅に剣で以って勝ってこそ、我ら戦士の本懐なり!!――
 それを自覚すると同時に、タクティモンは主君であるバグラモンに詫びた。
 我らが無念を汲み取り、最強の剣と共に刃に最期の振り下ろし場所を与えて下さった我が君よ。御許し下さい。貴方の御心からも、貴方へ捧げた我が士道からも外れ、ただただ歓喜に打ち震えるだけの私を。これも武人の我が儘と……諦めて下さい。
 最後の未練を打ち払うと同時、タクティモンは蛇鉄封神丸を掲げ、改めて名乗りを上げる。
「我はタクティモン。蛇鉄封神丸を振るい、神を殺し世界を分断する為に造られた器なり。磨き抜いた魂、鍛え抜いた技……我が存在を成す全てを懸けて。トゥバン・サノオ……貴殿を斬る」
 これを聞いて、タクティモンの言に疑問など一切持たず、剣を持つ修羅も即座に応える。
「わしが名はトゥバン・サノオ。大した肩書も持たぬ……ただ、強いものと戦いたいだけの大馬鹿よ。誉れ高き武人、タクティモンよ……おぬしを斬る」
 互いが名乗りを終えると、両者は同時に踏み出した。
 剣戟は更に激しく、苛烈なものへとなって行く。
 それでも、2人の恐怖と喜びだけは、変わらない。






216剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:15:39




 逞鍛は天井近くまで跳躍し、すぐさま空中で反転し急降下。すれ違いざまに斬り付けられたが、ゼロはそれを力の盾で防いだ。だが、僅かに反応が遅れ髪の毛の先端が斬り落とされた。
 衛有吾と比べて全く遜色ない速く鋭い一閃。もしも衛有吾の剣を見ていなければ、盾での防御も間に合わなかったか。
「気に食わんな、貴様は……貴様らレプリロイドは」
 両手に握る二刀を自在に操りながら、逞鍛はゼロに対して怒りと嫌悪の言葉を叩きつける。だが、その声色には全く感情がこもっておらず、響きは虚ろなままだ。
 右手の剣と左手の盾で二刀を捌きながら、ゼロは逞鍛に問い掛ける。
「以前、お前は心を排除したレプリロイド……鉄機武者とやらを使って、自分の国を征服しようとしていたらしいな。それと関係があるのか?」
 衛有吾から聞いた話によれば、逞鍛は邪悪武者軍団という敵対勢力に、軍事の最高責任者の1人という立場でありながら自国の軍備の重要情報を漏洩して自国を窮地に追い込み、一大反攻作戦の実行段階で離反し自国軍を崩壊させ、邪悪武者軍団に自国を制圧させた。
 その数年後には何食わぬ顔で邪悪武者軍団との再度の決戦に参加して自国軍を勝利に導いたが、それも全ては逞鍛自身の野望の為だった。それこそが、レプリロイドと極めて近い存在である鉄機武者軍団による自国の征服だったと、衛有吾は語った。
 先程の言葉と、衛有吾から聞かされた逞鍛のかつての野望。そこに、何かのヒントがあるような気がして、ゼロは敢えて反撃に出ず、防御に徹して逞鍛の言葉を待ち続けた。
 やがて、逞鍛が口を開いた。
「何故だ。何故、貴様らは心を持つ。本来、貴様らはカラクリ人形と、心を持たぬ道具存在と同じだというのに」
「何だと?」
「何故、貴様らの創造主たるあの2人は貴様らに心を持たせた? 貴様も人間にいいように利用され、同族殺しを強要されているというのに……何故、心を持ち続けている?」
 僅かに、逞鍛の二刀に込められた力が増し、打ち込みが激しくなる。一方、ゼロは一瞬、息を呑んだ。
 逞鍛は知っているのだ、ゼロ自身も忘れてしまった、ゼロの出自の秘密を。恐らくは、この殺し合いに連れて来る段階で時空を超える技術を用いて調べ上げたのだろう。
 もしもそのことだけを告げられていたら、ゼロは同様から一気に切り崩されていたことだろう。
 だが、続いて投げかけられた言葉が、オーバーヒート気味だった頭部に冷却水を浴びせたようになり、ゼロは一瞬で平素の冷静さを取り戻した。
「……俺達を作った人間の意図など知らん、本人達に聞け。そして、俺達が心を持ち続けているのは、お前と同じだ」
 言うと同時に一層の力を込めて炎の剣を振るい、逞鍛の二刀を斬り払う。
「決して捨てられない感情が、想いが、この心の中にある。それだけだ」
 剣を握ったまま、右手で自分の胸を叩く。
 記憶回路や思考回路、感情システムなどは全て頭部にあるのだが、そこを指すことこそが当然だと、ゼロは無意識にそのように示した。
「違うな。感情など、オレはとうの昔に捨て去った。我が心も、既に無に等しき暗黒の闇……そのもの」
 逞鍛はゼロの言葉を、静かに否定した。だが、揺れる瞳の奥底に一瞬だけ垣間見えたもの。それを、ゼロは見逃さなかった。
「ならば、俺を気に食わんと毛嫌い、執着するのは何故だ? それは、お前の感情じゃないのか?」
 ゼロからの追及を受け、逞鍛は顔を俯け、両腕を脱力してだらりと下げた。そのまま、逞鍛は無言で佇んだ。ゼロも口を真一文字に結んで、待ち構える。

217剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:16:57
 やがて、逞鍛の肩がわなわなと震え――顔を上げると同時、噴火するように逞鍛の感情が爆発した。
「黙れ、人形風情が! 己の本来の存在意義すらも忘れた欠陥品が!! 正義の虚しさも知らずに……正義の力などとほざくガラクタが!!!」
 噴出される感情をそのまま載せたかのような、嵐の如く荒れ狂う二刀の剣戟を、ゼロは炎の剣と力の盾で防ぎながら、決して聞き捨てならない言葉を聞き返す。
「正義の虚しさだと?!」
 先程の言葉が、どうしても聴覚センサから消えないような錯覚に陥る。その言葉にゼロ自身も思うところがあるだけに、冷静ではいられなかった。
 かつて、自分の信じる正義を貫き通した果てに、友を殺め、愛する者を狂わせ死に至らしめ、涙も流せなかった。その時の悲しみが、ゼロの胸に蘇った。
 ゼロの問いに応えるべく、逞鍛は力の盾を踏み台にして跳躍し、宙を舞って間合いを離した。そして、ゆっくりと語り始めた。
「かつて、己が信じた正義に殉じ、祖国の未来と平和の為に戦い散った男がいた。彼の死から間もなく戦いは終わり、彼が望んだ平和は訪れ、未来は拓かれたのだ。……なのに、なのにっ、なのにっ!!」
 過去を思い出す内にその時の感情までも蘇ったのか、逞鍛は迸る激情を抑えようともせず、声を荒げた。
「戦いが終わって、平和が続いてみればどうだ! 民たちは時が経つと共に平和のありがたみを忘れ、やがてお互いの富を奪い合い、争いを繰り返すようになった! 兄者の死は無駄になったのだ!! 愚かな……己の欲を、感情を、心を制御できぬ愚か者たちのせいで!! 兄者が命を懸けて守った、国を、成す民達が……! 兄者を! 兄者の信じた正義を裏切ったのだ!!」
 最後の言葉を言い切ると同時に振るわれた一撃の力強さは、正しく剛剣。防御も間に合わぬ速さの鋭き“縦一閃”がゼロの頬を斬り裂いた。
 切断面からはオイルが血液のように流れ出たが、しかし、ゼロは臆することなく逞鍛を見詰め続けた。
「その絶望の中で、オレは悟ったのだ。こんな、腐りきった世界に必要なのは光ではなく、闇なのだと。邪悪蔓延る世界に、差す光など必要ない。闇に呑まれて消え去ることこそが相応しいと……!」
 逞鍛の表情は、暗く、黒く、濁っていた。嘗ては光の中で生きていたからこそ、希望を信じていたからこそ、逞鍛の絶望は深く、重い。
 その姿に、ゼロは友の姿を重ねていた。
 ――もしも俺が、イレギュラー化してしまったら――
 ああ、そうか。お前は、自分がこんな風になってしまうのではないかと恐れていたんだな。
 戦いを悲しむあまり、大切な者が失われる痛みに耐えられなくなって、自分の力を間違った方向に使ってしまうことを。
 そして、衛有吾。お前は逞鍛が本当はどういうやつか、ちゃんと知っていて、理解していたから、こんな事に巻き込まれても奴を救おうとしていたんだな。
 最大の友の苦悩と、そしてこの殺し合いの舞台で出会った友の願いを理解し、ゼロは無意識のうちの僅かな迷いすらも完全に打ち消した。
 炎の剣を握る右手で、頬の傷口を拭う。

218剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:18:57
「くだらんな」
「なんだと?」
「くだらんと言った」
 逞鍛の語った過去、それ故の絶望と怒りを理解した上で、ゼロはばっさりと切って捨てた。そして、毅然と逞鍛を睨み返す。
「お前の言っていることはよく分かる。俺のダチにも、昔のお前と同じような悩みを抱えている奴がいるからな。あいつはいつも、長く続かない平和を、何度終わらせても繰り返し引き起こされる戦いを、いつも悩んでいる。どうやったら戦いを終わらせることができるのか、どうやったら平和を守り続けることができるのか……とな。だからこそ断言できる。お前の絶望とやらはくだらないと!」
「人形風情が、減らず口を!!」
 逞鍛が怒号を吐くが、怯みなどしない。絶対に負けられない理由と、勝たなければならない理由が増えた以上、これ以上守勢になど回らない。
 逞鍛の二刀とゼロの炎の剣がぶつかり合い、激しく火花を散らす。
 衛有吾や兄と同じ天翔狩人の称号を持つだけあり、逞鍛の空戦能力は極めて高い。
 地上で待ち受け、落鳳破等の対空迎撃技によるカウンターを狙うのが上策だが、ゼロは敢えて飛燕脚と壁蹴りを用いて空戦に応じた。
 逞鍛は刃斬武の姿の時に纏っていた鎧を追加武装として纏った高速戦闘形態となり、超高速の連撃でゼロを襲う。
 だが逞鍛の攻撃は力の盾と霞の鎧の堅牢な守りによって悉く防がれ、足を狙った攻撃は壁蹴りと氷烈刃を駆使してかわされる。
 そして、業を煮やした逞鍛が放った乾坤一擲の一撃に、ゼロは空円斬を合わせて迎え討つ。
 縦一閃と縦回転の斬撃がぶつかり合い、ほぼ同等の力の相殺によって生じた反動の衝撃に合わせて、2人は宙を舞って距離を置く。
 呼吸を整える間もおかず、ゼロは逞鍛へと問い掛ける。
「お前は民達が兄を裏切ったと、それが許せないと言ったな。なら、お前自身はどうだ」
「何を……!」
 ゼロの問いに、逞鍛は明らかに動揺を露わした。怒りと、ほんの僅かな戸惑い。それを見抜いて、ゼロは更に問いを重ねる。
「今お前がやろうとしていることを知って、お前の兄貴は喜ぶのか!? お前は、今の自分自身を兄貴に誇れるのか!? お前自身が、誰よりも兄貴を裏切っているんじゃないのか!!」
 まず返って来たのは刀だ。だが明らかに精彩を欠いた一撃をかわすのは容易であった。
 二度、三度と繰り返し、たったそれだけで逞鍛は息を乱し、大きく肩を上下させていた。
 本人は認めようとしないだろうが、何の事は無い。逞鍛もまた、下らないものだと切り捨てたはずの感情を捨て切れず、それを制御できずに暴走させてしまっていたのだ。
 逞鍛は両腕をわなわなと震わせながら、しかし決して刀を手放そうとは、二刀の構えを崩そうとはしなかった。
「それでも、オレは……この道を突き進むと決めたのだ! 情を棄て、力を得て、戦いの終わらない世界を変える……戦いの無い世界に生まれ変わらせるのだと!」
 逞鍛の双眸から、黒い涙が滂沱の如く溢れだす。体を伝う黒い涙は闇となり、逞鍛の体と二刀に絡みつく。
 その体を震わせているのは、怒りなのか、憎しみなのか、悲しみなのか、ゼロには分からない。
 涙を流せないものに、涙を流すほどの激情の如何なるかなど、分かるはずが無かった。

219剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:20:16
「非情こそ我が正義! オレは……この道を、オレの正義を貫く!!」
 どんな力を手にしてでも、自分の信じた正義を貫こうとする。その力がたとえ、敵だけでなく自分自身さえも滅ぼしてしまうものであっても。
 そんなことが、正しいことのはずがない。そんなことの為に、自分達の力と心はあるのではない。
 それに、さっさと気付け――!
「この……馬鹿野郎!!」
 2人の戦いの決着は、交差と同時に放たれた鋭き一閃。
 縦一文字の紫電が落ちるよりも速く、横一文字の一閃が駆け抜けた。
 一閃により鎧を斬り裂かれ、逞鍛が膝を着く。
「バ……バカなッ……! 今のは……衛有吾の、横一閃……!?」
 振り返ることすらせず、逞鍛は顔を俯けたまま驚愕に目を瞠り、誰に問うたわけでもなく言葉を漏らした。
 ありえないはずだと、誰より逞鍛が理解していたのだ。
 ゼロの持つラーニング能力であろうと、一朝一夕で天翔狩人の一族に伝わる秘剣をここまで再現できるはずがないと。
「俺のラーニング能力……だけじゃ、ないのかもな。衛有吾が力を貸してくれた……そんな気がする」
 ゼロ自身もそのことを承知しているかのように、静かに呟いた。
 事実、あの瞬間にゼロは自分以外の何かの力を感じたのだ。或いは、秘められた三種の神器の真の力の片鱗だったのかもしれない。
 だが、深き情愛で繋がった兄弟の過ちを止める為に、亡き友が力を貸してくれたのだと、ゼロはそう思わずにはいられなかった。
「オレは……間違っていたのか? 戦いの無い世界以上の平和など……あるはずがないのに……。オレの正義の、何が……お前に劣っていたというのだ」
 逞鍛は膝を着いて俯いたまま、呆然と呟いた。ゼロは振り返り、逞鍛の背中を見詰めながら、静かに言葉を紡いだ。
「その答えは、自分で見つけ出せ。ただな、お前のような“力の正義”に溺れちまった奴にこそ……俺達は“正義の力”を見せなきゃならないんだ」
 ゼロの言葉に、逞鍛は何も言い返さなかった。ゼロも今は、これ以上何も言おうとしなかった。
 逞鍛の暴走は止めた。後は、衛有吾の願いの通り、彼を救うだけだ。“力の正義”ではない、自分達の“正義の力”を示し、闇を覆すことで。
 ゼロが逞鍛から視線を外そうとした、その時だった。ゼロの傍らに、弾き飛ばされて来た剣が突き刺さったのだ。
 その剣は、オキクルミが持っているはずの虎錠刀だった。






220剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:21:08




 2人の剣士の戦いは、先刻までとは異なる様相を呈していた。
 タクティモンが一切の大技を封じ、ただ純粋に蛇鉄封神丸を己が技量でのみ振るうようになったのだ。
 トゥバンが敢えてそれらしい隙を作って誘っても、決して迂闊には踏み込まない。下手を打てば、今度は首が落ちると分かっているからだ。
 大蛇を模った大剣が、たった1人の人間を呑みこもうと迫る。だが、その牙は決してトゥバン・サノオには届かず、僅かに肉を掠めるばかり。
 牙から滴る闇の猛毒も、白き龍の聖剣の力によって相殺されてしまっている。
 だが、それこそが良かった。今更、剣の力だけで勝ってしまうなどと、そんな物は両者にとって無粋の極みだった。
 この男を斬るのは、自分自身の力で無くてはならぬ。そうでなければ、この飢えと渇きは到底満たせるものではない。
 トゥバンは自らの血で全身を赤く染めながら、タクティモンは鎧に剣戟による斬り傷を無数に刻みながら、笑っていた。
 声には出さずとも、2人は、笑っていた。
 何もかもを忘れて、ただ、この瞬間にのみ没頭していた。






221剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:23:22




 ゼロガンダムとオキクルミとスプラウトは、最初、司馬懿との戦いを優位に進めていた。
 自らを“天を熾す鵬”と称する司馬懿の力はその言葉に遜色せず、剣の腕前も一流の域にあった。だが、この3人を押し留めるには些か足りない。
 司馬懿の闇の呪縛をスプラウトの力によって振り払い、放たれた闇の閃光を狼の姿に転身しゼロガンダムを背に乗せたオキクルミが掻い潜り、ゼロガンダムが両手に構えた2振りの雷の剣を振るう。
 司馬懿は冥黒の牙と煉獄扇でそれを受け止めようとしたが、剣士としての力量差は如何ともし難くゼロガンダムによって易々と弾かれ、両方ともがそのまま天上に突き刺さってしまった。
 これを勝機と見て3人は一斉に斬りかかった。だが、司馬懿は余裕の表情を崩さなかった。
 3人の刃が司馬懿を捉えようとした、その瞬間。
 司馬懿の内から莫大な闇の瘴気が溢れ出て、同時に発生した衝撃波が3人を吹き飛ばした。
 3人は即座に体勢を立て直したが、そこへ10個の小さな暗黒の球体が出現し、縦横無尽に飛び回りながら闇の閃光を放ち、3人を撹乱する。
 やがて、闇の瘴気が晴れると――否、冥黒の牙と煉獄扇が一体化した黒金の牙翼が、暗黒瘴気を吸収しその刀身に宿らせていたのだ。
 異様な光景だった。暗黒瘴気を纏った黒金の牙翼は、正しく闇だった。黒金の牙翼のあるはずのそこは、一切の光が届か暗黒の空間と化していたのだ。
「天冥獄鳳斬!」
 それこそは、あらゆる光を飲み干し消滅させる闇の究極奥義。光によってその存在を現世に確立させるあらゆる物体・物質は、悉く無へと帰す。
 謂わば、斬撃の形へと凝縮された暗黒星雲【ブラックホール】そのものだ。
 3人は辛うじて直撃を免れたが、その余波だけで甚大なダメージを負ってしまった。
 その様子を、闇の神の力を具現化させ自らと一体化させ、異形の姿へと変化した司馬懿は睥睨する。
「見事。流石、この儀式を勝ち抜き生き残った類稀なる剣士達である。その心胆、技量、体術、全てが称賛に値しよう。よもや、早々に獄鳳の姿を晒すことになろうとは」
 ゆったりと、余裕を持った動作で3人を見回しながら、司馬懿は賛辞の言葉を贈る。その間にも、ファンネルによる追撃を容赦なく浴びせ、3人から反撃の芽を摘み取る。
 すっ、と左手を翳し、暗黒瘴気を迸らせる。再び闇の呪縛により、ゼロガンダムの動きを封じたのだ。
「ぐ……ぬ、ぐ……!」
 ゼロガンダムは闇の掌中で必死にもがくが、桁外れの闇の力を腕力だけで振り解くことは不可能だった。
 司馬懿は呪縛を更に締め上げ、ゼロガンダムから指一つ動かす自由さえも奪い取る。
「中でも一際に目を引くのは……貴様だ、雷龍剣の末裔よ。スダ・ドアカ十二神の一柱の力を継ぐだけのことはあるが、何より貴様は、忌まわしき黄金神からの加護を受け、時空を超越し闇と対峙する光の騎士団の称号までも賜わされようとしている」
 儀式の中で、仮初の世界を覆う闇の結界が一度だけ破られたことがある。烈火武者頑駄無が爆心の鎧を纏い命の全てを燃やして放った、爆界天衝によるものだ。
 お陰でよく育っていた闇の苗床や、闇の盟主として迎え入れようとしていた者達まで諸共に消滅させられてしまった。
 その時に結界に生じた一瞬の綻びを突いて、黄金神がこの儀式に対して干渉を行った。それこそが、ゼロガンダムのシャッフル騎士団への叙任に他ならない。
 常闇の皇により叙任の完遂は防げているが、黄金神の加護が未だにこの場に存在している事実は消えない。
 黄金神の力の欠片、黄金魂を自覚し発揮するよりも先に始末をしなければならない。

222剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:25:16
「謂わば貴様こそ、闇の宿敵にして闇の怨敵……その象徴である。故に、その肉体と精神に留まらず、魂魄の一片までも蹂躙し尽くした上で葬ろう! そして貴様の断末魔と絶望によって至上の闇を生み、常闇の皇へと捧げよう!!」
 まず両腕を斬り落とし、続いて両足、次いで鎧。片目を抉り出し、首を斬り落とした上で延命の術を施し、最後には眼前で雷龍剣を砕く。
 シャッフル騎士団の一角の崩落は光と闇の決戦の趨勢を暗黒へと導き、そしてゼロガンダムの惨死はこの場で宿命に抗う愚者達を絶望の底へと落とし、その魂を暗黒に染め上げることであろう。
 だが、それを遮る者がいた。
「させぬわぁ!!」
 裂帛の気合と共に打ち込まれたのは、イヴォワールという世界で伝わる最高峰の広域攻撃剣術、真・飛天無双斬。
 空中へと高々と跳躍し、空中で反転、足の裏から魔力をジェット噴射のように放出し、重力加速も組み込んだ超加速の突進斬撃だ。
 オキクルミの誘導によりその間合いに収まった暗黒球体を全て粉砕し、勢いを留めず司馬懿にまで迫る。
 それを、司馬懿は黒金の牙翼で受け止めようとして、気付いた。スプラウトの狙いは司馬懿自身ではなく、ゼロガンダムを捕える闇の呪縛だ。
 スプラウトはドラゴンころしを以って闇の呪縛を断ち切り、そこへすかさずオキクルミが狼の姿で駆け付け、ゼロガンダムを背に乗せて一度距離を取る。
「助かった……ありがとう、スプラウト殿、オキクルミ」
「礼には及ばぬ」
「気を抜くな、ゼロ」
 3人は再び司馬懿と対峙する。しかし司馬懿の視線は、先程とは別の人物に注がれている。
「ただの鉄塊で、我が闇の呪縛を振り払うとは……。否、それ以前にだ、大剣士スプラウトよ。貴様の肉体は闇の力に染まりきり、人外の存在へと変容すらしているはず。何故、貴様は我が闇に恭順せず、その力を常闇の皇に奉らぬ」
 大剣士スプラウト。かつては輝ける聖剣と謳われながら、闇の勢力の一角である破壊神サルファーの姦計により、愛する者を無残に殺された憤怒と憎悪から闇へと堕ち、闇を蓄え育む苗床と化した者。
 本来であれば、常闇の皇の威光を受けた司馬懿の力に、闇の眷属は抗えないはず。だが、スプラウトは司馬懿の命に抗うばかりでなく、闇の瘴気に中てられ正気を失わず、闇の力を暴走させることすら無い。
 司馬懿からの問い掛けに、スプラウトは道具入れからボロボロになったマラカスと薔薇を取り出し、静かに答えた。

223剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:29:06
「確かに、わしは肉体のみならず心までもが闇に染まり、蝕まれておった。闇を喰らったが故では無く、己が裡より溢れ出た心の闇に溺れてな。……だが、お人好しの聖騎士が、我が心に僅かな光を灯してくれた。ただ、それだけのことよ」
 歌と踊りが誰より得意な、陽気で明るい好青年だった。騎士というよりも踊子か旅芸人の方がしっくりくると言ってしまえば、本人は嘆くだろうか。
 スプラウトがこの殺し合いの舞台で“鬼”と見紛う剣士との戦いの後に出会ったのが、そんな愉快な聖騎士――カイだった。
 カイは、スプラウトが殺し合いに乗っているにも拘わらず、手当てをして動けるようになるまでの護衛まで買って出たのだ。
 何故こんなことをするのかと問うても、へらへらと笑いながら、のらりくらりとかわされるのみ。
 その後も成り行きで、カイの言動に流されるまま行動を共にするようになった。
 カイの真意を聞くことができたのは、彼の死の間際だった。
 スプラウトを庇い、カイは致命傷を負ってしまった。
 何故、殺人者の自分を庇ったのだとスプラウトが問うと、カイはこう答えた。
 スプラウトの目が、泣いているようにしか見えなかった。
 振るう剣も、大切な人を失った悲しみとやり場の無い怒りを、目の前の敵に叩きつけるようにしか見えなかった。
 昔、初陣の折に大勢の僚友を失った、自分と重なって見えた。
 そんな悲しいおじいさんを、放っておくことなどできなかった……と。
 言い終えると、即死を免れたのが奇跡としか言いようの無い重傷を負いながら、カイはマラカスを握ったままバラを取り出す手品をスプラウトに見せた。
 そして、スプラウトの反応を見ると、穏やかに微笑んで――そのまま、逝ってしまった。
 スプラウトは、泣いた。半世紀ぶりに、最愛の家族を失った時以来に、紅く染まった双眸から透き通る涙を流し続けた。
 やがて、まるでその涙がスプラウトの心を洗い流したかのように、泣きやんだスプラウトの心からはサルファーへの憎悪と復讐衝動が消えていた。
 胸に残ったものは、サルファーに奪われたとばかり思っていた温もり。
 今まで自分が持っていた、それなのに忘れてしまっていた、大事なもの。
 そうだ、あの気が狂う程の悲しみは、自分がそれまでどれほど大切なものを持っていたのか、共にいられたのか、その証だったのだとスプラウトは悟った。
 ブリアンの為にするべきは復讐では無く、彼女の為に心の底から泣いて悲しむ。ただそれだけのことで良かったのだ。
 そして、カイがスプラウトにくれた優しさも、今もこの胸に共に在る。
 心に確かな光を宿した――取り戻した今、スプラウトが闇に屈することなどあり得ない。
 今の彼こそ、イヴォワール最強の剣士“輝ける聖剣”スプラウトなのだ。
「……そうか。紅の瞳を保ったままであるが故に見落としていたが……抜かったわ。よもや、天の刃が後天的に生まれようとはな」
 司馬懿はスプラウトの話を聞き終えると、忌々しげに呟いた。
 光の戦士の他に存在する、もう1つの闇の宿敵。
 闇の力を宿して生まれながら、その闇の力を御して闇を斬り裂く者――天の宿命に刃向かう、闇の裏切り者。
「天の刃……?」
 スプラウトはその言葉を不思議そうな表情で繰り返す。
 自分の存在が更なる変質を遂げたことに、本人すらも気付いていなかったのだ。
「闇であって、闇にあらざるもの。宿命を知らず、運命を解さず、天命を心得ず、天の意志に刃向かう逆賊よ。死ぬがよい」

224剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:32:28
 言葉を終えると同時、司馬懿は黒金の牙翼を振るう。かざした掌からは、闇の閃光が迸る。
 それらをかわし、3人はそれぞれに司馬懿に仕掛ける。だが、司馬懿が手を翳し闇の波動を放つだけで吹き飛ばされてしまう。
 しかし、オキクルミは四足の獣ならではの身軽さですぐさま体勢を立て直し、再び司馬懿へと襲いかかる。
 だが、牙と爪、背負った剣も司馬懿には届かない。
 それでもオキクルミの闘志は些かも衰えず、攻撃の合間に司馬懿へと言葉をぶつける。
「光の戦士と天の刃。その2つが揃って初めて、大いなる闇に対抗できる。……そうだな、司馬懿」
「宿命に抗う愚者の総称に過ぎぬ。……若虎から聞いていたか」
 司馬懿の推察に、オキクルミは無言の肯定を返す。
 孫権が死の間際に伝えてくれた、彼の世界に限らず、多くの世界で古から続く光と闇の宿命の戦い。
 それを聞かされた時から、オキクルミは光の戦士よりも尚稀有であるという天の刃の捜索に奔走したが、遂に見つけられずにいたと、そう思い込んでいた。
 だが、違ったのだ。オキクルミも気付かぬ内に、大いなる闇と戦う為の戦士達は集っていたのだ。
 例外は、外で戦っているトゥバンと、オキクルミぐらいのものだ。
「ならば俺の使命は、こいつらを無事に真の敵の下まで送り届けることだ」
 そうだ、強大な闇の力を振るう司馬懿との戦いですら前哨でしかない。
 この後に待ち受けているという闇の根源との戦いには、オキクルミ以外の3人の力は必要不可欠だ。
 故にオキクルミは、孫権たちを殺した自分がこの時まで生き延びたのはこの命の全てを懸けて、仲間達を決戦の舞台に送り届ける為だと考えていた。
「……愚かな」
 オキクルミの決死の覚悟を、嘲笑すらせず、司馬懿は冷酷に踏み躙る。
 再度放たれた天冥獄鳳斬は、溜めが無い為に威力が大幅に減少していたが、それでも人を殺すには十分な殺傷力を持ち、何よりも技の出が速かった。
 距離を取っていたゼロガンダムとスプラウトは辛うじて攻撃をかわしたが、オキクルミだけは避け損ねてしまい、痛烈な一撃を受けてしまった。
「オキクルミ!」
 高々と天井までかち上げられ、激突と同時に狼への変化も解けてしまう。オイナ族の仮面も、目元近くを残して砕け散った。クトネシリカは背に残ったが、虎錠刀だけは弾き飛ばされてしまう。
 司馬懿は闇の呪縛によりオキクルミを強引に引きずり降ろし、肉の盾とするかのようにゼロガンダムとスプラウトの前に突き出す。
 オキクルミは意識が朦朧としたまま、声を出すことも抵抗することもできない。
 2人が躊躇により動きを止めた一瞬を見逃さず、司馬懿は黒金の牙翼を握る手に力を込める。
「貴様如き地を這いずり回る犬畜生に、煉獄を往く鳳は落とせぬ」
 分も弁えず神々の戦いに関わった報いだと、そう言わんばかりに、黒金の牙翼がオキクルミの左手足を斬り落とした。
 オキクルミが苦痛の叫びを上げることすら許さず、司馬懿はついで右手足も斬り落そうとして、オキクルミのクトネシリカによって阻まれた。
 手足を失った痛みよりも、犬畜生呼ばわりされたまま犬死することだけは許せなかった。
 命ある限り戦い続けると誓っておきながら、無駄死にどころか、自らの死で仲間達を絶望に落として堪るものか。
 しかし、司馬懿はオキクルミが未だに抵抗する力を残していると見るや、宙から地面に叩き落とし、オキクルミが剣を振るえぬ状態でトドメを刺すことに切り替えた。

225剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:35:12
 それを即座に察したゼロガンダムとスプラウトが駆けつけようにもこの距離では、あと一歩、間に合わない。
 オキクルミは自分の命が途絶えることを悟りながら、せめて一矢を報いようと――仲間達が司馬懿を倒す為の一手を打とうと、最後の力を振り絞る。
 その力の源泉は、大切なものを守るため。仲間達を、今は遠い故郷を、離れてしまった一族の皆を、友が遺したものを、ただ一心に守りたいという想い。
 オキクルミの持つ本当の強さ――自分の力を自分の為では無く、誰かの為に使おうとする、その心。
 其れ即ち、真の勇気。
 その勇気が、今、光り輝く。
 クトネシリカが青鈍色に輝き、そして虎錠刀もまた青白き輝きを放つ――。



 司馬懿がオキクルミの首目掛けて振り下ろした黒金の牙翼を、何者かが遮った。
 それはその勢いのまま、司馬懿に強烈な一撃浴びせて壁際にまで押し出した。
 オキクルミは、自分の目の前を駆けて行った神々しき四足獣の姿を見て、幽門扉を超えた先で出会ったコロポックル宿しの白い狼を連想した。
 しかし、オキクルミの顔を覗き込んで来たのは白い狼では無く、碧眼の白虎だった。
「……孫権?」
 白虎の紺碧の瞳を見て、オキクルミは何故か、孫権の名を呼んでいた。孫権とは似ても似つかぬ獣だというのに。
 孫権の名で呼ばれた白虎は、何故だかとても嬉しげに喉を鳴らした。
「バカなッ、虎燐魄だと!? 虎暁の魂を継ぐ者亡き今に、何ゆえ……!?」
 白虎の姿を見て、司馬懿が目を血走らせて叫んだ。その狼狽ぶりは、今までの余裕を保った姿からは想像できないものだった。
 白虎がそれだけの存在だと気付くと、そこへゼロガンダムとスプラウトが駆けつけてくれた。
「オキクルミ! 待っていろ、すぐに手当を……!」
 スプラウトが司馬懿との間に立ち塞がり、ゼロガンダムはオキクルミの傷を手当てしようと治療道具を探っている。
 だが、自分達の持ち物の中には、手足の欠損をどうにかできるような物が無いことを、オキクルミは既に理解していた。
 しかし、不思議と焦燥も不安は無く、それよりも、もっと別の事が気にかかっていた。
「いや……いい。それよりも、肩を、貸してくれないか。1人では、体も起こせそうにない」
 ゼロガンダムは一瞬、手の動きを止めてオキクルミの顔を覗き込んだ。
 目元は仮面に隠れているが、決して捨て鉢になったわけではないことは伝わったのか、ゼロガンダムは怪訝そうな表情ではあったが肩を貸して体を起こしてくれた。
 右手足の傷口からは大量の血が流れ出ていて、衣服も血まみれになってしまっていたが、少しも気にならなかった。
 オキクルミは改めて、白虎の姿を具に見た。そして、その腹に収められている剣を――月のように青白く輝く、真の姿となった虎錠刀を目にして、驚愕に目を瞠った。
 それを待っていたかのように、白虎は雄叫びを上げると眩い光に包まれ、そのままオキクルミを包みこんだ。
 ――友よ、君が心に真の勇気を宿す限り、我が魂は、君と共に在り続ける。
 聞こえた声は、決して、幻などでは無い。
「孫権! 本当に、お前なのか……」
 返事は無かった。代わりに、オキクルミは輝く衣と水晶のように透き通る青い鎧を身に纏い、砕けた狼の仮面は白虎の仮面へと変化して再生した。
 切断されたはずの手足は繋がれ、両の手にはそれぞれの輝きを放つクトネシリカと虎錠刀が握られていた。
 自らの過ちにより殺めてしまった友に、許されたのみならず、二度までも救われた。
 オキクルミは喜びの涙を堪えることができず、頬を一筋の涙が伝った。




226剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:37:16


「オキクルミ、ゼロ、スプラウト! どうやら、3人とも無事のようだな」
 虎錠刀から現れた虎がオキクルミを助けて融合するまでの過程に目を奪われていたゼロだったが、オキクルミが助かったのだと気付くと、すぐに3人の下へ駆けつけた。
 4人はそれぞれ顔を見合わせると、何も言わずに互いに頷き合い、新たなる光の戦士の誕生に激怒する闇の使徒に対峙する。
「天翔狩人、イセアデュッオの聖騎士、そして轟大帝! 貴様ら、神ならぬ人の身で……死して尚、宿命に抗うというのか!!」
 この場にいないはずの、とうに死んだ者達の名を呼び、司馬懿は怒声を巻き散らす。
 黄金神の加護を受けるゼロガンダムならばいざ知らず、死んだただの人間が生きる者に力を与え光となるなど、言語道断。
 この世の全てを司る真理の一つ、生者必滅の理に背くことなど、ただの人間に、しかも死人に許されるはずがないのだ。
 だが現実に、死なせてしまった友たちの想いを胸に、4人の剣士はこの場に集った。光と闇の宿命によってではなく、友との誓いを果たす為に。この悲劇を終わらせる為に。
 両者が視線を交錯させた直後、戦いの幕を下ろす剣戟が走った。
 司馬懿が剣を振るう暇すら与えず、ゼロの横一閃が黒金の牙翼を握る司馬懿の右腕を斬り落とし、スプラウトの豪剣が司馬懿を覆い守護していた闇を払い、碧眼の獣神へと転身したオキクルミの振るう2連撃が司馬懿の鎧を砕く。
 そして、ゼロガンダムが両手に握った雷の剣の力を最大限に発揮させて放った×の字の斬撃が、司馬懿の肉体を斬り裂いた。
「名付けて……“重ね雷龍衝【ドラゴンインパルスX】”」
 闇を祓う天の刃の力、そして強い光の力に体を砕かれた司馬懿は、もはや再生することも叶わない。
 だが、それでも、その瞳に宿る狂気は失われていない。
「ならば、我は…………死して尚……宿命に殉じよう」
 その言葉を遺して、司馬懿の魂は闇へと還った。
 常闇の皇へと奉ずる、最後の生贄として。


【司馬懿サザビー@BB戦士三国伝 死亡確認】




227剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:38:19

「なんだ!?」
 司馬懿という強敵を打ち破った感慨に浸る間もなく、洛陽宮殿を激しい揺れが襲った。
 ゼロガンダムは、ドゥーム・ハイロウの起動時にも似た禍々しい気配に、司馬懿と戦っていた先程よりも緊張を高めた。
 それは他の3人も同様であり、一様に玉座の間の奥、今までとは比べ物にならないほどの闇の力を感じる方角を睨んだ。
 そこへ、覚束ない足取りで1人の男が歩み寄って来た。
「……この儀式の最終段階は、勝ち残った者達を我らの手で絶望の底に落とし、暗黒の闇へと堕ちた魂を“常闇の皇”に捧げることだった。だが……司馬懿はお前達の代わりに、自分自身の魂を捧げたのだ」
 殺し合いの主催者の1人として、全ての真相を知る最後の男――逞鍛が、虚ろな声でゼロたちに今の状況を解説した。
 しかし改心して味方になったわけではないことは、顔を見ずとも声色だけで分かる。
 ゼロは敢えて何も言わず、代わってスプラウトが逞鍛を問い質す。
「常闇の皇……。それが、お前達が目覚めさせようとしていた“大いなる闇”の正体か」
 逞鍛は頷いて、崩落する玉座の間の奥から現れるものを見詰めながら、言葉を紡ぐ。
「そうだ。……オレが修復した、時空を破壊する最凶兵器『ジェネラルジオング』という機械の器と共にな。そして常闇の皇とは称号にして畏称。その真の名を……幻影の千年魔獣【ムーンミレニアモン】」


【ゼロガンダム@新SDガンダム外伝ナイトガンダム物語】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、龍機の召喚不可能
[装備]:雷龍剣@SDガンダム外伝、天叢雲剣@大神、竜騎士の鎧@SDガンダム外伝
[道具]:基本支給品一式
[思考]:常闇の皇を倒し、全ての決着を付ける。トゥバンが敗れた時は自分の手でタクティモンを倒す。

【ゼロ@ロックマンXシリーズ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)、三種の神器のフル装備による反動が発動中
[装備]:炎の剣@SDガンダム外伝、力の盾@SDガンダム外伝、霞の鎧@SDガンダム外伝
[道具]:基本支給品一式
[思考]:正義の力を示して闇に打ち勝ち、逞鍛を救う。

【オキクルミ@大神】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、虎燐魄と融合
[装備]: クトネシリカ@大神、虎錠刀@BB戦士三国伝、虎燐魄@BB戦士三国伝
[道具]:基本支給品一式、赤いマフラー@BB戦士三国伝
[思考]: 常闇の皇を倒し、全ての決着を付ける。

【スプラウト@ファントム・ブレイブ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、鎧全体に細かな罅、天の刃に覚醒
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク、黒い鎧@ファントム・ブレイブ
[道具]:基本支給品一式、バラとマラカス@幻想大陸
[思考]: 常闇の皇を倒し、全ての決着を付ける。

【逞鍛(ティターン)@武者烈伝武化舞可編】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、呆然自失
[装備]:天刃・空刃@武者烈伝武化舞可編、天翔狩人の鎧@武者烈伝武化舞可編
[道具]:基本支給品一式
[思考]:常闇の皇の降臨を見守る……?







228剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:41:12






 魔人と修羅の戦いは、佳境を迎えていた。
 両者は互いに一歩も譲らず、トゥバンは刃を掠めさせても決して肉を切らせず、タクティモンも防御を鎧とマントに任せて攻撃に専念することで、確実にトゥバンの神速を捉えつつあった。
 だが、両者は極限の集中の持続による精神疲労と、数十分以上も全力で動き続けていることによる肉体疲労で、ほんの僅か、息が乱れ始めていた。
 息の乱れは全ての乱れに通じる。超一流の戦士ともなればどれだけ疲労しようとも息は乱さぬように心掛けるものだが、2人はそれを保つこともできないほどに疲労が蓄積しつつあった。
 逃げ出したいほどの恐怖と、この瞬間を永劫に味わいたい程の歓喜が、2人の奥底から湧き上がり、突き動かす。
 この瞬間に至って、2人は感謝した。このような戦場で、異世界の類稀なる剣士と巡り会えたことに。
 2人は視線を交え、ほんの一瞬だけ穏やかな笑みを浮かべて、すぐに鬼神の表情へと戻り、剣を構える。
 駆け出したのは同時、先に剣を振るったのは間合いの利を持つタクティモン。
 蛇鉄封神丸を袈裟に振り下ろし、かわされたと見るや剣の勢いを殺さず、そのまま刃を返し逆袈裟に斬り上げる。
 超高速の連撃、しかも一度かわした直後の下からの急襲。この必殺の連携に必勝を期したタクティモンは、瞠目した。
 逆袈裟の斬り上げは、どうしても片手になってしまう。なにより重力のベクトルに従うのではなく逆らう方向に振るうことになる為、両手で振り下ろすよりも遅くなってしまう。
 加えて、蛇鉄封神丸の刀身は巨大で、その分質量も大きく加速がつきにくい。
 それらを加味したとして――高速で振るわれた剣を足場として跳躍する剣士がいようなどと、誰が思えようか。
 人の持つ、底知れぬ可能性。今より前を、今より先を、今より上を目指す、飽くなき志。
 その結晶を目の当たりにしたタクティモンは、トゥバンの剣に目を奪われた。
「うおおおっ!!」
 全身全霊の気魄を込めた、乾坤一擲の一撃はタクティモンの仮面のみならず兜をも打ち砕いた。
 加えて破邪の力を宿す聖剣の刃を直接に受けた、怨霊体であるタクティモンの本体は大きなダメージを負った、
 だが、まだだ。まだ、倒れはしない。
 崩れ落ちそうになった膝を踏ん張り、一瞬俯けた顔を即座に上げる。手放しそうになった蛇鉄封神丸を、強く力を込めて構え直す。
 トゥバン・サノオは、剣を構えたまま動かない。それでこそだと、タクティモンは歓喜に打ち震える。

229剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:43:32
 そこで、タクティモンは違和感を覚えた。
 おかしい。何故、追撃を仕掛けて来なかったのだ?
 互いの剣技は、既に存分に見せ合い、最早如何なる時に決着が着こうとも悔いがない――その心意気は、トゥバン・サノオも同じだったはず。
 ならば、何故――私の首を、落としに来なかった?
 何故今も、息一つ乱さず、指一つ動かない?
「まさか……」
 構えを解いて、タクティモンはトゥバンに歩み寄る。トゥバンは動かない。
 タクティモンの間合いが過ぎ、トゥバンの間合いに入る。やはり、トゥバンは動かない。
 眼前でタクティモンが立ち止まったが、トゥバンはもう、動かない。
 トゥバン・サノオは、全身を己の血で染めて、両の足で立ち、両の手で剣を構え――死んでいた。
 タクティモンは、呆然と、トゥバンを見詰め続けた。
 暫くして、ぽつり、ぽつり、と、言葉を漏らす。
「……天晴れ、見事。トゥバン・サノオよ、貴殿の剣、その技の冴えの鋭きこと、正に閃光。……しかし、しかし……!!」
 蛇鉄封神丸を手から落とし、タクティモンはトゥバンの前に膝から崩れ落ちた。
「その肉体、その志に比して、あまりにも脆し……! その生命、あまりにも……儚し……!」
 何故だ。何故、このような決着が訪れてしまったのだ。
 勝敗は、戦った両者の生死で決まるものなのか? 生き残ったタクティモンが勝者であり、死んだトゥバンが敗者なのか?
 否だ。そんなことは、断じてあり得ない。
 真の勝敗とは、生死でも、第三者の判定や規定によるものでもない。
 戦った両者の心が、それを認めた時に初めて決着となるのだ。
 タクティモンにはまだ、戦う意志があった。目を奪われるほどの人の可能性を見せつけられたからこそ、ならば次は自分こそがと息巻いていた。
 だが、現実は……こうだ。
「何故だ……トゥバン・サノオよ……何故だ……!」
 タクティモンは、戦場で無念の敗北と死を遂げた、万を超える武人デジモン達の無念の残留魂魄のデータを練り固められ、創り上げられた。
 そんなタクティモンが知る中で、武人として最も悔いの残る、無念という言葉ですら言い表せないほどの虚しき最期だったというのに……!
 確固たる信念の下に鍛え抜き磨き抜いた力と技の比べ合いが、生まれ落ちた種族の違いなどというもので終わらされてしまったというのに……!
「何故、お前は……! 笑ったまま、逝ったのだ……! トゥバン、サノオ……ッ」
 トゥバン・サノオは、鬼神の如き形相でも、阿修羅の如き笑みでも無く、憑き物が落ちたような表情で――穏やかな笑みを浮かべたまま、死んでいた。
 タクティモンは、押さえ付ける枷の無くなった怨霊体を露出させながらも、その意志は一つに纏まったままだった。
 数多の武人達の無念は、誉れ高くあるべき無類の剣士の虚しき最期を悲しみ、涙を流し続けた。


【トゥバン・サノオ@海皇紀 死亡確認】


【タクティモン@デジモンクロスウォーズ(漫画版)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、兜損失、深い悲しみ
[装備]:蛇鉄封神丸@デジモンクロスウォーズ(漫画版)
[道具]:無し
[思考]:………………

230 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:45:38
以上で投下終了です。
次の最終話をリレーしたい人がいたら、
遠慮なくリレーしてくれていいんだぜ……!

231名無しロワイアル:2013/01/27(日) 02:43:49
>>229
トゥバン・サノオ、その生き様はまさに修羅ッッ!!
そして、次でラストバトル!…なのか?
目が離せねえ!!

232名無しロワイアル:2013/01/27(日) 07:45:15
執筆と投下、お疲れ様です。
把握している作品はほぼないのですが、分からないなりに読んでいって、
「面白いな」「すごいなぁ」などと思わせて頂いています。とてもありがたいことです。
理屈っぽく読んでしまうせいか、カオス系のそれには感想をつけられないので割愛しますが、
それでも読ませては頂いてます。それだけは伝わってくださいませ。

>第297話までは『なかったこと』になりました
ある種のロワ書き手にとっては、これは非常に痛い話。
なんだけどなあ、「安易に美談にさせてなるものか」と言ってしまう球磨川……これを言う
自分をも美談にさせまいと言葉を重ねる『道具』の姿に胸を衝かれる。
こういう物語を書いていく以上どうしても道具は要る。要るんだけど、ここを描いてしまうと
書き手がしんどくなってしまいかねないし、キリが無くなる題材でもあるんだよなあ。
それを『めだかボックス』をもとにして書いていった◆YO氏のバランス感覚、ヘタを打つと
書き手の自虐から自殺になるような話の語り方がすごいなと改めて感じました。
内省している書き手の姿が前に出るのでもなく、あくまで『めだかボックス』してるのも素晴らしいところ。
あと一話でどういった結論を出していくのか。どんな魔球でも楽しむ覚悟完了です!

>剣士ロワ
ああ……すげえ、熱かった……。
タイトルに恥じない、おのが全力を賭しての闘いに惹き込まれました。
龍で聖剣、ってところでイルランザー@クロノ・クロスが出てきたところで個人的に
熱くなったり、ロボロワとはまた違ったゼロの姿を見られて感慨を噛み締めたり。
素直にバトルを繰り広げる筋であるからこそ、「正義の虚しさも知らずに……」からの
『力の正義』『正義の力』には、こちらも素直に乗って、氏の物語の味に浸っていけました。
このあたり、一話目の投下と同じく、いい意味で文章や話にてらいがないところも魅力だなあと感じます。
そして、これはどの作者さんにも言えることですが、ホントに好きなものを楽しんで書いているのが
伝わる。だからこそ、読後感がすごく良い。気持ちよく浸ることが出来るんじゃないかなあ、とも。
読後、今回はタクティモンの悲嘆が非常に良かったのですが、これがどう繋がるのか。
リレーもいいんですが、自分は氏の書く話を、文章をもう一話分読みたいですね!w

233 ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:09:15
謎ロワ投下いたします

234298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:09:47


――――11:00:00
――――鉄塔:頂上直前



「……やっと到着したモナ」
「ええ……やっぱり、これだけ歩くと疲れますね……あ、あれを見て下さい」

 Kさんの指差す先に、空間の歪みが……。
 時折見えるすきまから、向こうが見える。
 そこは……いわゆる、"特異点"と呼ばれる場所であった。
 今まで集めた情報から察するに、奴ら――――岸猿伊右衛門と母胎は、必ずそこにいるはずだ。
 しかし、それを目前にして、突入しないのは何故か。
 ……答えは単純明快である。

「――――阿部さんたちは、まだ着いてないようだ」

 まだ、全員揃っていないのだ。
 特異点に突入すれば、過酷な戦いは避けられないだろう。
 その為には、今残っている5人の力を合わせる必要があったのだ。
 だが……ここにいるのは3人。
 残りの2人、阿部高和とスペランカー先生が、まだ到着していない。

「私たちとは別のタイミングで突入しましたからね……ですが、阿部さん達も、きっとここに向かっているはずです。
 今は、待つしかありませんよ」

 そう言い終わると、Kさんはその場に座り込む。

「…………申し訳ありませんが、少し休ませていただけませんか。元々、体力がないもので」

 そう言うKさんの顔には、疲労の色が浮かんでいる。
 それもそうだ、元々あまり体力がないのに、今まで会場中を歩き回っていたのだ。
 その上、幾度か戦闘も繰り返し、疲弊していた所に、この鉄塔だ。
 ……途中で、何度か休憩は挟んだものの、やはり疲れは抜けない。

235298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:10:10

「……大丈夫モナ。心配しなくても、僕がついてるモナ」
「心強いです……それでは、失礼して……」

 最後まで言い終わる事無く、Kさんは寝息を立て始める。

「僕も、少し休ませてもらうモナ……」

 誰に言うとも無くそう呟いて、モナーもその場に腰を下ろす。
 流石に眠る訳にはいかないけれど、こうやって休んでいるだけでも、体力は回復するはずだ。
 少しでも回復してくれれば、ありがたい。
 ……迫る戦いの為にも、体調を整えなければならない……。
 そんな思いが、モナーの頭の中を駆け巡っていた。
 ……多分、Kさんの頭にも、同じ考えが浮かんでいる筈だ。眠ってるけど。




【離島線四号基鉄塔・蜘蛛糸・最上層/午前】
【教会育ちのKさん@寺生まれのTさんシリーズ】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(中)、全身に切り傷、教会育ちの力(残り45%)、睡眠中
[装備]:ストック@かまいたちの夜、Thor.45-70(1/1)@MGS4、阿部高和のツナギ@くそみそテクニック
[所持品]:基本支給品、空気砲@ドラえもん、ダンボール@MGS3、タバコ@地獄の使者たち、
     180円@かまいたちの夜、兄者のノートPC@アスキーアート、茄子@VIPRPG、
     救急箱@現実、ライフ回復剤@MGS3、パトリオット(破損)@MGS3、四次元ポケット@ドラえもん、
     ボーイスカウト編のギター@本格的 ガチムチパンツレスリング
[思考]
基本:悲しみの連鎖を立ち切る
1:阿部さんが到着するまで休憩しておきましょう……
※呪いが緩んだ事により、教会育ちの力が少し元に戻りました
※屍人、闇人の対処法を知りました

【モナー@アスキーアート】
[状態]:疲労(小)、脇腹・頭部に切り傷(処置済み)
[装備]:アクアブレイカー@Nightmarecity、蓮家の青龍刀@龍が如く4、ソリッド・アイ(バッテリー微量)@MGS4
[所持品]:支給品一式、闇那其・痕(彎角)@SIREN2、コエカタマリン(1回分)@ドラえもん、
     ボウガン(0/1)@現実、ボウガンの矢×3、車のおもちゃと遺影@かまいたちの夜2、
     サーフボード@寺生まれのTさんシリーズ、発煙筒@現実、0点のテスト@ドラえもん
[思考]
基本:全てを終わらせるモナ……!
1:阿部さん達を待つモナ

236298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:10:28







(メリル……俺は、どうすれば……)

 心の中で、渦巻く感情。



 …………死ぬ間際に、"生きて"、と言われた。


 けれども、愛した人を失ったまま、生きて行くなんて。


 …………いっそ、あの時死んでいれば。



(…………)


 答えが出るのは――――もしかしたら、そう遠く無いかもしれない。




【ジョニー@メタルギアソリッド4】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(大)
[装備]:FN ファイブセブン(8/20)@MGS4
[所持品]:基本支給品、今惹湯@忌火起草、黒い女の絵@忌火起草、サブマシンガン(残り0%)@現実
     レザー男の服@男狩り、ネイルハンマー@SIREN、ライター@現地調達、
     かたづけラッカー@ドラえもん
[思考]
基本:生きる……?
1:メリル……
※様々な情報を聞きましたが、それどころではなかったようです

237298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:10:51



――――11:06:00
――――鉄塔:上層付近





 とにかく、最上層へ。
 登って行かなければ、ならない。
 『蜘蛛の糸』の如く……。
 登り切れば、偽の天国が。
 堕ちてしまえば、本物の地獄が待っている……。

「ずいぶんと入り組んでるじゃないの。それじゃ、とことん登ってやるからな」

 時には段差をよじ登り。
 時には階段を駆け上がり。
 時にはあえて下に降り。
 そんな事をくり返して、3人は鉄塔内部を進んでいた。
 ……悠長に歩いて進む余裕はない。
 だが、下手に急いでも体力を余計に消費する。
 そんな、中途半端な状況が、どれだけ続いただろうか。
 少し、開けた場所に出た。

「上を見てみなよ」
「?」

 阿部さんに言われるがまま、全員が上を見上げる。
 ……鉄骨やら足場やらの密度が、明らかに低くなっている。
 と言う事は……そろそろ、最上層に着くかもしれない、と言う事だろう。
 それは、喜ばしい事でもあったが……同時に、懸念材料でもあった。
 とはいえ、別に歩けない程疲弊している訳でも、瀕死の重症を負っている訳でもない。
 阿部さんだけは、右腕が完全に消滅し、使用不能状態ではあるが……問題はそこではない。

238298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:11:12

「俺よりも、先生の残機が心配だな。いくら強くなったとは言え、足を踏み外せば……」
「……まだ、大丈夫ですよ」
「嘘はいけないな。……もう、残機は0なんだろう?」

 幾度と無く戦いをくり返した彼の残機は、もう底をついていた。
 それと引き換えに、幾分かは強くなったものの……元が元なので、やはり、打たれ弱いのだ。

「……ええ。いつ死んでもおかしくないです」
「馬鹿野郎、あんたみたいないい男を死なせてたまるかってんだ。ポジティブに行こうぜ。
 ここまで来たからには、必ず生きて帰るんだ」
「…………」

 気まずい沈黙。
 それを破ったのは……2人のものではない、声だった。




「Mrマルチメディア? 蟹になりたいね?」




 声がした方に、2人が振り向くと。

「――――お前……何故」

239298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:11:33




 変わり果てた姿で立ち尽くす、鎌田吾作の姿があった。





【離島線四号基鉄塔・蜘蛛糸・上層付近/午前】
【阿部高和@くそみそテクニック】
[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中)、超いい男、寺生まれの力(残り57%)
[装備]:名刀電光丸(バッテリー残り10%)@ドラえもん、ツナギ(白)@現地調達
[所持品]:支給品一式、くりまんじゅう@ドラえもん、葉巻@MGS3、火掻き棒@SIREN、
     きせかえカメラ@ドラえもん、兄貴のジーンズ@本格的 ガチムチパンツレスリング、
     フォトンブレードPG@龍が如く4、釘バット@SIREN2、コート@かまいたちの夜3
[思考]
基本:全てを終わらせる
1:……!?
※寺生まれの力を受け継いでいます
※フェアリーナイトメアを習得しました

【スペランカー先生@スペランカー先生】
[状態]:ボロボロ、残機:0
[装備]:シングルアクションアーミー(2/6)@MGS3
[所持品]:支給品一式、ステルス迷彩(残り使用時間:36秒)@MGS3、がんじょう(残り1個)@ドラえもん
[思考]
基本:死なないように、生きて帰る
1:一体、何が……!?
※闇人の対処法を知りました

240298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:11:48




 蟹になりたい……。
 その思いを抱き、殺し合いを生き抜いてきた吾作。
 だが無情にも、志半ばで倒れてしまった。
 物言わぬ骸に成り果てた姿は、一度、阿部さん達も目撃している。
 一度死んでしまえば、もう、生き返ることはできない。
 それは、当然の理である。
 だと言うのに、何故こうして、3人の前に姿を現したのか?
 答えは簡単である。……闇人と化して、再度立ち上がったのだ。
 しかし、魂は既に消滅している。
 だが、死の間際まで考えていたことが、吾作の魂を、肉体に僅かばかり引き留めた。


 ――――蟹になりたい、蟹になりたいね?


 蟹になりたかっただけなのに。ただ、蟹になりたかっただけなのに……。
 理性では抑えがたいほどに膨らむ願望。
 ……本来ならば、ここまでの欲望にはならないはずだったのだ。
 せめて、最初に出会ったのが、あの"VAN様"でなかったら。
 せめて、そこでダークサイドに堕ちなければ。
 こうはならなかったかも、しれない。
 だが、闇人として彷徨う内に、その欲望も薄れて。
 今では、僅かばかりの意思を元に動いている、人形でしかなかった。

241298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:12:03






 ――――だらしねぇな。






 どこかで、兄貴の声が聞こえた気がした……。







【鎌田吾作@本格的 ガチムチパンツレスリング】
[状態]:全身ボロボロ、闇人化
[装備]:焔薙@SIREN2、ジーンズとTシャツ@現実
[所持品]:なし
[思考]
基本:蟹に、なりたいね……

242298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:12:17
投下終了です。

243 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:12:40
ドーモ、ライター=サン。投下乙です。
私もこの企画に参加させていただきたいと思います。
まずは名簿と各種情報、続けて1話(298話)を投下させていただきます。

244 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:16:14
【ロワ名】ニンジャスレイヤーロワ
【生存者6名】ニンジャスレイヤー【フラッシュバックによる無力化の可能性】、シルバーキー【右腕使用不可】、アースクエイク
        サラマンダー、ディプロマット【限界寸前】、デスドレイン【マーダー】
【主催者】フィリップ・N・モーゼズ
【主催者の目的】イクサとカラテを楽しむ
【補足】会場はネオサイタマとキョートを模して作られた空間です。重金属酸性雨は降っていません。また、主催者による首輪の爆破はありません。

【名簿】6/100
○ニンジャスレイヤー/●ディテクティヴ/●ナンシー・リー/○シルバーキー/●ヤモト・コキ/●ネザークイーン/●デッドムーン/●ドラゴン・ゲンドーソー/●ドラゴン・ユカノ/●ダークニンジャ

●ジェノサイド/●ブラックヘイズ/●フォレスト・サワタリ/●ラオモト・カン/●ヒュージシュリケン/○アースクエイク/●バンディット/●ビホルダー/●ソニックブーム/●ヘルカイト

●レイザーエッジ/●インターラプター/●サボター/●クイックシルヴァー/●フロストバイト/●アゴニィ/●レオパルド/●ガントレット/●ヴィトリオール/●ミニットマン

●イクエイション/●テンカウント/●オブリヴィオン/●ビーハイヴ/●バジリスク/●シルバーカラス/●ロード・オブ・ザイバツ/●ダークドメイン/●イグゾーション/●ニーズヘグ

●パラゴン/●スローハンド/○サラマンダー/●パーガトリー/●ヴィジランス/●ブラックドラゴン/●アイボリーイーグル/●レッドゴリラ/●パープルタコ/●アンバサダー

○ディプロマット/●ガラハッド/●ジルコニア/●ミラーシェード/●トゥールビヨン/●メンタリスト/●ワイルドハント/●チェインボルト/●サンバーン/●ブルーオーブ/●ジャバウォック

●ディヴァーラー/●アノマロカリス/●インペイルメイト/●イグナイト/●ガンスリンガー/●コンジャラー●ソルヴェント/●メイガス/●ファランクス/●センチュリオン

●プリンセプス/●ペインキラー/●ボーツカイ/●モスキート/●アガメムノン/●ネヴァーモア/●シズケサ/●シャドウドラゴン/●ドラゴンベイン/●スパルタカス

●スワッシュバックラー/●ミョルニール/●セントール/●フロッグマン/●ノトーリアス/●キャバリアー/●ナックラヴィー/○デスドレイン/●ランペイジ/●シーワーラット

●アコライト/●マニプル/●アナイアレイター/●スーサイド/●フィルギア/●アサイラム/●ネブカドネザル/●ニンジャキラー/●ケジメニンジャ/●イヴォルヴァー

245 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:19:21
「エンド・オブ・ニンジャ・ロワイアル」#1

重金属酸性雨が降っておらず、慰霊碑が既に撤去されていようとも。それが精巧なイミテーションでしかなかったとしても。
フジキド・ケンジにとって、マルノウチ・スゴイタカイビルとは特別な場所だ。妻子を失い、ナラクをその身に宿し、ニンジャスレイヤーとなった場所。

ネオサイタマの死神。ベイン・オブ・ソウカイヤ。暗黒非合法探偵。ニンジャスレイヤーとそれに付随する様々な憶測、伝説、事実。その全ての物語の、始まりの場所。
脳裏に浮かびかけたあの日の光景を、ニンジャスレイヤーは首を振って頭から追い出す。あの悪夢を忘れたいわけではない。あの絶望から逃げたいわけでもない。

今は悪夢も絶望も必要ない。今はただ、カラテを。やり遂げる力を。「……大丈夫か?」隣に立つシルバーキーが声をかける。
「怖い顔してたぜ。……なぁ、そう難しく考えるなよ。気楽に行こうぜ、気楽にさ。ああ、もちろん気を抜けって言ってるわけじゃあないぞ?そう気負うなってことさ」

そう言って笑うシルバーキーの右腕は見るも無残な有様だ。マニプルの古代ローマカラテにより、骨が完全に粉砕されてしまっているのだ。
ニンジャスレイヤーはシルバーキーの顔を見た。「そう、単純なことだ。ここを終わりの地とする。この悪趣味なイクサと、モーゼズというニンジャのな」

ニンジャスレイヤーは天井を見上げた。シルバーキーもつられて見上げた。倒すべき敵が待つであろう屋上を、外からでは雲に、中からでは天井に阻まれ見ること叶わぬその場所を、見据えた。

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「ふん、まさか元とはいえザイバツのニンジャを背負う羽目になるとはな」マルノウチ・スゴイタカイビル三階。その廊下を三人のニンジャが歩いていた。
とはいえ、実際に歩いているのは二人である。一人は気絶し、別のニンジャに背負われているのだから。

「言っておくが、俺は代わってやらんぞ。カラテが振るえなくなるからな」気絶したディプロマットを背負うアースクエイクにサラマンダーが尊大に告げる。
「わかっている。元よりそのつもりもない……ん?」アースクエイクが立ち止まる。当然、サラマンダーも。

あなたがニンジャ聴力の持ち主なら、たしかに上階でサツバツとしたカラテシャウトとヤクザスラングが響いているのがわかるだろう。
……そして、ここにいる二人のような優れたニンジャ第六感を持つ者なら、さらにその上の階層に存在する、邪悪なニンジャソウルをも知覚しているはずだ。

「ニンジャスレイヤー=サンめ、さっそく始めよったか。それにこれは……奴か」「我が不甲斐なき弟弟子がいつ些細なミスをするとも限らん。さっさと行くとしよう」
「ニンジャスレイヤー=サンが心配か?元ザイバツのグランドマスターともあろう男が過保護なものだ」

「ドラゴン・ドージョーにクローンヤクザ程度に遅れをとるようなサンシタがいるとでも思うたか?」
「ふん、どうだかな。俺がドージョーを襲撃したときは、状況判断さえまともに出来ぬニュービーがゴロゴロしていたが。まあ、それはどうでもいい。……行くぞ」「言われるまでもない」

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246 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:21:34
マルノウチ・スゴイタカイビル七階!そこでは、サツバツとした殺戮が繰り広げられていた!「「「ザッケンナコラー!」」」「イヤーッ!」「「「アバーッ!?」」」
ニンジャスレイヤーのスリケンがクローンヤクザを三人まとめて貫通!クローンヤクザはその場に折り重なり倒れる!

すると廊下の角を曲がって、四人のクローンヤクザが新たに現れる!「「「「スッゾコラー!」」」」
倒れたクローンヤクザの死体を踏みしめ、新手のクローンヤクザ達はニンジャスレイヤーとシルバーキーに迫る!「イヤーッ!」「「「「アバーッ!」」」」スリケンがクローンヤクザの頭部を貫通!四重殺!

「おいおいおい!いったいどれだけいるんだよ!」シルバーキーが叫ぶ。彼らは数分前からこの主催者が配置したであろうクローンヤクザ達の猛攻を受けているのだ。
一人ひとりは弱くとも、どこからともなく大量に現れるクローンヤクザには、さしものニンジャスレイヤーも手を焼いていた。

「わからぬ。だが、どれだけいようと殲滅するのみ」スリケンを構え、敵の到来に備えながらニンジャスレイヤーが答える。
「俺のジツじゃだめなのか?」シルバーキーのユメミル・ジツはニューロンを焼くことができる。同じDNAから作られたクローンヤクザは同じニューロンを持っており、故にジツで一掃することができるのだ。

「まだだ。今使ってもこの階層にいるクローンヤクザを全滅させられるかはわからん。全てのクローンヤクザを集め、まとめて殺す……イヤーッ!」
曲がり角から顔を出したクローンヤクザの額にスリケンが突き刺さる!「とは言ってもよぉ……このままじゃ」シルバーキーは不安げに呟く。

そう、いくらチャドー呼吸による回復が可能なニンジャスレイヤーといえど、その体力は無限ではない。敵がどれだけいるかわからぬ以上、このままではジリー・プアー(徐々に不利)だ!
「イヤーッ!」そのとき、突如床に大穴が開いた!そしてそこからエントリーしてくるバーガンディ装束のニンジャ!その背には別のニンジャが背負われている!

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン」「ドーモ、サラマンダー=サン。……アースクエイク=サンは?」ニンジャスレイヤーがエントリーしてきたニンジャ――サラマンダーに問いかける。
「イヤーッ!……あやつなら下でクローンヤクザと戯れている。すぐに合流するだろう。あやつ……結局こいつを俺に押し付けていきよった」

サラマンダーは背中のディプロマットを顎で示した。「それより上だ。デスドレインがこの上にいるようだ。イヤーッ!……動きがないことを見ると、おそらくは待ち構えているのだろうな」
「……デスドレイン」ニンジャスレイヤーの問に答えながら、サラマンダーは時折片腕でスリケンを投擲しクローンヤクザを殺害していく。

デスドレインの所在がわかった今、彼らにとってクローンヤクザはもっとも注意を払うべき問題ではなくなった。アースクエイクの働きによるものか、襲来するクローンヤクザの数が減っているとくれば尚更だ。
「この先妙な動きをされては困る。早急に討つべきだと俺は思うがな……イヤーッ!」

「しかし、このクローンヤクザ達を放置するわけにも……イヤーッ! ……いくまい」「……俺だ。俺に任せてくれ」
その時、それまで黙っていたシルバーキーが口を開いた。「オヌシが?」ニンジャスレイヤーがシルバーキーの顔を怪訝そうに見る。

ニンジャスレイヤーはシルバーキーのジツをよく知っている。その未熟なカラテのワザマエもまた、同様に。
「ああ、俺だ!俺だってニンジャだ、あいつらよりもカラテはできる。それにいざとなったらジツで一網打尽!な?任せてくれよ。……俺なら、大丈夫だからさ」

247 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:22:42
シルバーキーはまっすぐニンジャスレイヤーを見つめ返す。二人の間を沈黙が支配する。サラマンダーは無造作にスリケンを投げ、クローンヤクザを殺害している。
「……いいだろう」そして、ニンジャスレイヤーが折れた。シルバーキーは顔を綻ばせた。

「決まったか。それでは行くぞ、ニンジャスレイヤー=サン」サラマンダーが上階へと向かう。ニンジャスレイヤーもまた、シルバーキーに背を向け走りだした。
シルバーキーはそれを見送った。ニンジャスレイヤーは階段を登り切る寸前にちらりとシルバーキーを振り返り、上階に消えていった。

「「ザッケンナコラー!」」この階層のどこかからヤクザスラングが聞こえてくる。排除対象を、シルバーキーを探しているのだ。
「へっ、いいぜ。そんなに俺を見つけたいのなら、俺から場所を教えてやるよ。お前たちを倒すのは――」

シルバーキーはニンジャ肺活量を活かし、大きく息を吸い込む。そしてニンジャ声量の限りに、全力で叫んだ!
「――俺だぁぁぁああっ!」「「「「「「ザッケンナコラー!!!!」」」」」」廊下に雪崩れ込むクローンヤクザ!シルバーキーがカラテを構える!未熟ながらも強い意志を秘めた、カラテを!

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八階に上がったニンジャスレイヤーとサラマンダーが見たものは、大量のクローンヤクザの死体だった。
床や壁に残った黒いヘドロや体をあべこべに拗られたクローンヤクザ達の死に様が、それらがデスドレインの仕業であることを如実に語っている。

「あそこか」「そのようだな」ニンジャスレイヤーが指し示したのは、階層の四分の一もの広さを持つ宴会場の入り口だ。
カチグミ・サラリマンが利用することが多いマルノウチ・スゴイタカイビルにおいて、宴会場が巨大なものとなるのは当然のことだ。

宴会とは出世と昇進における重要なファクターであり、宴会芸と呼ばれる古典的芸能が脈々と受け継がれていることからもそれは察することができる。
平安時代のサラリマン達は、自らの宴会芸を高め、またそれを派手なものにするべく広い宴会場を欲したのだ。

つまるところ、宴会場は実際広い。それこそ、ニンジャのイクサですら不自由なく行える程度には。
「ディプロマット=サンはどうする」「外に置いておいてはクローンヤクザに殺される可能性がないとは言い切れん。連れて行くしかなかろう。中ならまだ護ることもできる」

「了解した……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがフスマをトビゲリで破壊し、宴会場へとエントリーする。
続けてサラマンダーが宴会場へと足を踏み入れ、ディプロマットを壁にもたれかからせる。そこは、乱れに乱れていた。美しい墨絵が描かれていたであろうフスマは黒く染まり、壁にかかったカケジクは半ばで破られている。

その下手人は誰か。考えるまでもない。ニンジャスレイヤー達が侵入した位置とは正反対に立つ男。デスドレイン。
「ドーモ、デスドレイン=サン。ニンジャスレイヤーです」「サラマンダーです」圧倒的な邪悪を前にして進み出る、二人のニンジャ戦闘者。その意志は揺るぎなく、カラテの冴えに陰りなし。

248 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:25:28
臆す事なくアイサツを決めたドラゴンニンジャ・クランのニンジャ達は、油断無くカラテを構える。
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、サラマンダー=サン。……アァン?二人だけか?まったく舐め腐ってくれるなァおい。それとも……」アイサツを終えたコンマ1秒後、デスドレインが動く!

「……そのお仲間は動けねぇのかァ!?」囚人メンポから吐き出された暗黒ヘドロが一斉に湧き上がり、数多の筋となって飛翔する。
その狙いはニンジャスレイヤーやサラマンダーではなく、後方の壁にもたれかかるディプロマットだ!彼は度重なるイクサとポータル・ジツの行使によって気絶し、当然回避など不可能!

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのスリケンが、サラマンダーのチョップが、ディプロマットへと向かうアンコクトンを叩き落とす!
だが、足りない!撃墜を免れた一筋のアンコクトンが、ディプロマットへと接近する!

おお、ナムサン!このままディプロマットはアンコクトンにより拗られ、潰され、惨たらしく殺されてしまうというのか!?
「イヤーッ!」答えは否!見よ、ディプロマットの前に回転ジャンプで降り立った巨漢のニンジャを!「スマン、遅れたな。……イヤーッ!」

そのニンジャが繰り出した裏拳は正確にアンコクトンを打ち、壁へと吹き飛ばした!ゴウランガ!
これこそがビッグニンジャ・クランのソウルを憑依させたニンジャのニンジャ筋力のなせる技であり、シックスゲイツが一人、アースクエイクのカラテのワザマエなのだ!

「ふん、俺はお守りではないのだがな……。ドーモ、デスドレイン=サン。アースクエイクです」未だ横たわるディプロマットを横目で見ながら、アースクエイクはアイサツした。
そしてそのまま、その場でのカラテ警戒へと移行する。その視線が、一瞬ニンジャスレイヤーとかち合った。両者は無言で頷いた。

「あー、ドーモ、アースクエイク=サン。デスドレインです。……なンだよ、つまらねぇなァ」デスドレインは苛立ちを隠そうともせず、オジギした。
その周囲には弾かれたアンコクトンが集まり、煮えた重油めいて泡立っている。「まぁいいや。どうせ全員殺すんだからよォ!」デスドレインが叫ぶ。その言葉を皮切りにアンコクトンが、爆ぜた!

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(……感謝する)無言で頷きながら、ニンジャスレイヤーは心の中でオジギした。何に?アースクエイクに。
動けぬディプロマットのために護衛を買ってでた、かつての怨敵に。不思議なものだ、とニンジャスレイヤーは思う。

センセイと共に自らの手で殺害したかのソウカイニンジャとこうして共闘することになるとは、ニンジャスレイヤーもアースクエイクも、おそらくはブッダさえも予想していなかっただろう。
しかし、一度イクサで直接カラテを交え、そのワザマエを知っているからこそ、ニンジャスレイヤーは迷いなくディプロマットの護衛をアースクエイクに託すことができる。

まさにサイオー・ホース。そしてそれは、隣に立つサラマンダーにも言えることだ。サラマンダーがこの殺し合いの中で何を経験し、どのような心境の変化があったのかはわからない。
ただ一つ言えることは、ロードの死によりキョジツテンカンホー・ジツを脱したサラマンダーが、センセイとのイクサの果てにドラゴン・ドージョーを継いだということだ。

249 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:27:18
ニンジャスレイヤーは彼らのイクサを見届けた。サラマンダーのチョップがセンセイを両断するその瞬間を、見届けた。
おそらくはイクサの最中に何らかのインストラクションが行われたのだろう。センセイとのイクサを終えたサラマンダーは、ザイバツ・シャドーギルドのグランドマスターではなく、ドラゴン・ドージョーの後継者としてそこに存在していた。

「来るぞ、ニンジャスレイヤー=サン。ぬかるなよ」「無論だ」サラマンダーの声に、ニンジャスレイヤーが答える。
短い、ごく短いやり取りだ。しかし、その中にある信頼はどれほどのものであろうか。同じ師を持ち、同じカラテを学び、同じインストラクションを授かった。だが、一度は道を違え、イクサの果てに一方が勝利し、一方が敗れた。

そんな二人が師の遺志を継いで、意志を同じくして、共に並び立っている。敵はデスドレイン。邪悪なニンジャだ。
強力なジツも備えている。だが、それがどうしたというのだ。兄弟子と弟弟子、カラテにカラテをかけて100倍。越えられぬ壁など、討てぬ敵など、あるはずもない!

「まぁいいや。どうせ全員殺すんだからよォ!」デスドレインの叫びと共に殺到するアンコクトン!
ニンジャ動体視力をもってしても数えるのに難儀するほどに枝分かれしたアンコクトン、その全てが四方八方からニンジャスレイヤーとサラマンダーに襲いかかる!

「イヤーッ!」対するサラマンダーは地を叩き、周囲のタタミを浮き上がらせた!タタミで何をしようというのか!?答えはもちろん、カラテだ!
「「イヤーッ!」」唱和する二人のカラテシャウト!浮き上がったタタミに渾身のダーカイ掌打だ!SPAAAAAM!奇妙な衝撃音と共に、前方のアンコクトンが全て弾け飛ぶ!

ゴウランガ!これはまさにマスタータタミことソガ・ニンジャが、そしてロード・オブ・ザイバツが得意とした衝撃伝達カラテの再現!
前方のアンコクトンが消え去り、道が開ける!デスドレインへと繋がる、その道が!ニンジャスレイヤーは、サラマンダーは駆ける!

側面から襲い来るアンコクトンを弾き、躱し、少しずつ、しかし確実に距離を詰めていく!
「イヤーッ!」そしてついに、サラマンダーが背後に回ったアンコクトンを蹴り、反動を推進力に変えて前方へと跳んだ!その先には当然デスドレイン!「大人しく死んどけよ、なぁ!」

デスドレインはアンコクトンを盾めいて凝縮!オミヤゲストリートでのダークニンジャとのイクサで見せたアンコクトンによる防御体勢をもって、サラマンダーのカラテに備える!
一方のサラマンダーは空中で極限まで身を捻る!上体がほとんど真後ろを向き、右腕が異様な緊張状態と化す!

ゴウランガ!これはまさしくタタミ・ケンではないか!?そう、我々は知っている。インターラプターの切り札であるこのカラテを。
サラマンダーがかつてインターラプターの絶対防御カラダチを使ってみせたことを、知っている!ならば、サラマンダーがこのカラテを使えぬ道理など、ない!

「ハイーッ!」サラマンダーが叫ぶ!サラマンダーの全ニンジャ筋力をもって放たれたタタミ・ケンが、アンコクトンの盾へと振りぬかれる!
「「グワーッ!?」」悲鳴が……二つ!?いったい何が起こったというのか!?仰け反り、たたらを踏むデスドレイン。その周囲に盾となっていたアンコクトンは存在しない。

サラマンダーのタタミ・ケンにより、形を保つことさえ許されず四散したのだ!では、サラマンダーは?……おお、ナムサン!地に臥し吐血しているではないか!
サラマンダーのタタミ・ケンはたしかに強固なるアンコクトンの盾を破った。だがそれと同時に、サラマンダーは頭上から襲いかかったアンコクトンにより、地へと叩きつけられていたのだ!

250 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:29:07
デスドレインはオミヤゲストリートのイクサにて、アンコクトンが絶対無敵ではないことを知った。アンコクトンの守りは、研ぎ澄まされたカラテの前には屈するのだと知った。
だからこそのクロスカウンター。カラテを受けきったのちの反撃ではなく、防御を薄くしててでも同時攻撃を選んだのだ!

デスドレインとてニンジャだ。そのニンジャ判断力は実際見事!「へへッ!まず一人ィ!」……そう、これが一対一のイクサであったならば!
赤黒の風が、疾る。その接近に気づいたデスドレインが迎撃のアンコクトンを練り上げるよりも早く。サラマンダーを叩きつけたアンコクトンが彼をカイシャクするよりも早く。

ニンジャスレイヤーは、兄弟子が切り開いた道へと風の如き疾さで駆け込んだ。「……ふざけンな」デスドレインが鍛錬すらしたことのないカラテで迎撃を試みる。
遅い。そして弱い。「ふざけンなよ」鈍化した時間の中で、ニンジャスレイヤーはデスドレインのヤバレカバレなチョップをいとも簡単に回避する。

「……何なんだよ!お前――」パァン。四重一音の打撃音が響く。両手を広げ着地するニンジャスレイヤー。崩れ落ちるデスドレイン。力を失い分解されるアンコクトン。
チャドー暗殺拳奥義、アラシノケン。完全な体勢から完璧なタイミングで放たれたそれは、デスドレインの体内を尽く破壊し……ワッザ!?


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「まぁいいや。どうせ全員殺すんだからよォ!」デスドレインの声が響く。こうして護衛に来たはいいが、おそらくもうデスドレインがディプロマットに攻撃を仕掛けることはないだろう。
そうアースクエイクは黙考する。アンコクトンをけしかけた所でアースクエイクがそれを弾くのはわかりきっているし、何よりあの二人がそのような暇をデスドレインに与えるはずもない。

シルバーキーがこの場にいないことは気がかりだが、下階のクローンヤクザの死体を見る限りではおそらく下に留まっているのだろう。
ならば今は気にしてもしょうがないことだ。「そんな風に寝ておらずに、アグラでもしたらどうだ。目は覚めているのだろう」

黙考しながらもカラテ警戒の構えだけは崩さずに、アースクエイクはディプロマットに声をかける。
「……ん」力なく横たわっていたディプロマットが、難儀そうに体を持ち上げる。

「このイクサにどれほどの時間が掛かるかはわからんが、少なくともこれで終わりではない。少しでもカラテを回復させておけ。お前の出番は必ずやってくる」
「……ああ、そうだな」ディプロマットはアグラした。彼が担うべき仕事――彼の最期の仕事に、思いを馳せながら。

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251 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:31:05
「アバッ……アバッ……」デスドレインが、起きる。起き上がる。体のいたるところから血とアンコクトンを吹き出しながらも、ゆっくりと、しかし確実に体を起こしていく。
そして、立ち上がった。チャドー奥義アラシノケンは、完全成功時に相手の体内の尽くを破壊する。

四度の打撃によるカラテ衝撃力が体内で衝突し、内的爆発によってズタズタに破壊するのだ。故に、必殺。ロード・オブ・ザイバツですら即死と行かぬまでも数分で絶命するところまで追い込んだ、奥義の中の奥義。
ニンジャスレイヤーが持ちうるカラテの中でも最強最大の殺傷力を持つそれを受けてなお、デスドレインは立ち上がった。

デスドレインの体の大半が連戦によってアンコクトンに置き換わっているというのも理由の一つだろう。
デスドレインが攻撃を受けたその瞬間に本能的に体の一部のアンコクトンを流失させ、完全な形の内的爆発を避けたというのもそうだ。だがしかし、それらはあくまで理由の一部分でしかない。

真にデスドレインを生き長らえさせたもの。それはあまりにも強い生への執着。
無数のモータルとニンジャを何の良心の呵責も無く殺しておきながら、自らは死にたくないと臆面もなく叫ぶ、身勝手極まりない生きることへの渇望。それをニンジャ生命力が後押しし、必殺を受けてなお死なずその体を動かし続ける。

「ガイオン……ショージャノ……カネノオト……」デスドレインが、あるいはダイコク・ニンジャが呪詛を吐く。生きようと、死ぬまいと、必死の抵抗を試みる。
その身からアンコクトンを染み出させる。だがしかし、それだけだ。必殺を受けて死なないということは、必ずしもこの場を切り抜けられるということを意味しない。

「サラマンダー=サン!無事か!」「当然だ」ニンジャスレイヤーの呼びかけに答え、サラマンダーもまた立ち上がる。
そして、二人のドラゴン・ドージョーの戦士は目を閉じる。「「スゥー……ハァー……」」それは厳かな、そして神聖なチャドー呼吸のユニゾン。

『チャドー。フーリンカザン。そしてチャドー』センセイのインストラクションが、弟子たちの脳裏に、心に響く。「ショッギョ……ムッジョノ……ヒビキアリ……」
アンコクトンが動き出す。それ自体が意志を持っているかのように、ニンジャスレイヤーを、サラマンダーを狙う。

ニンジャスレイヤーは目を開いた。そして駆け出した。デスドレインの周りを、高速で旋回する。では、サラマンダーは?
……見るまでもない。既に彼らの心はセンセイの教えと、そしてカラテで繋がっている。強い絆を持つテニスの達人たちが窮地において同調するように、お互いの意図など、なすべきことなど、既に理解している!

「オゴレルモノ……ヒサシカラズ……」アンコクトンが獲物を追う。だが、捉えられない。避けられるわけでも、弾かれるわけでもない。
ただ、二人のニンジャがハヤイ!ハヤイすぎるのだ!アンコクトンを置き去りにし、旋回を終え、デスドレインに向かって走る二人の……否!二匹のドラゴンが今、天を駆ける!

かつてはセンセイと二人で。その後は一人で。そして今は、兄弟子とともに!ドラゴン・トビゲリ!
「「イイイイイヤアアアアアアアーッ!!」」「グワーッ!」トビゲリがデスドレインの頭部を捉え……その首を捻り切る!宙を舞うデスドレインの頭部!さしものデスドレインもこれで終わりか!?

……いや、まだだ!未だ地に立つデスドレインの肉体、その首の断面からアンコクトンが伸び、空中のデスドレインの頭部と繋がる!コワイ!
まだ生き足りないと、殺し足りないというのか!なんという、なんという執念か!そしてトビゲリを終えた直後のニンジャスレイヤーとサラマンダーは、これを阻止することができないのだ!

252 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:32:32
アンコクトンが頭部を引き寄せる!デスドレインが復活するのを、黙ってみていることしかできないというのか!「イヤーッ!」その時、飛来した物体がアンコクトンを断ち切った!アースクエイクが投擲した相棒の、ヒュージシュリケンの巨大スリケンだ!

そして再度宙に浮いた頭部に向かって飛び込んできたのは……アグラによりカラテを回復したディプロマット!万全には程遠いカラテを振り絞って両手をかざす!「イヤーッ!」デスドレインの頭部が展開されたポータルに飲み込まれ、消えた!そのままディプロマットは残されたデスドレインの体を蹴り、バク転して着地する。

デスドレインの体がゆっくりと倒れる。そして、アンコクトンを撒き散らしながら爆発四散!これが邪悪なる大量殺戮ニンジャ、罪を罪とも思わず、自らの欲求を満たし続ける犯罪者、デスドレイン――ゴトー・ボリスの最後だ!驕れる者は久しからず!インガオホー!インガオッホー!

----------------------------------

その後、彼らはクローンヤクザを殲滅し終えたシルバーキーが帰還するまで、暫くの休息をとった。白い壁に黒いアンコクトンが付着した邪悪でありながらもゼンめいた空間で、彼らはザゼンした。サラマンダーの背中の傷はチャドー呼吸により癒えるが、ディプロマットの方はそうもいくまい。

タイムリミットが迫りつつあるこのイクサにおいて、その休息の時間は侵されざるべき貴重なものだった。「……すまない」シルバーキーが帰還した数分後、ニンジャスレイヤーが突如口を開いた。ディプロマットへと向けた言葉だ。「すまない。このような役目を、オヌシに背負わせることになってしまった」

「……いいさ、そんな気はしていた。もとよりキョート城で捨てたのをあんたに拾われた生命だ。今更惜しみはしないさ」ディプロマットは笑った。「……それに、俺がそばに居てやらないと、弟が悲しむだろうからな。さあ、もう時間に余裕もない。……始めよう」

その場にいた全員が立ち上がる。ディプロマットは全員の顔を見回した。ニューロンに、心に刻み付けるように。「さらばだ、ニンジャスレイヤー=サン。サラマンダー=サン。アースクエイク=サン。シルバーキー=サン。……イヤーッ!」ニン010101レ0101010101オ10101010101010101010101

010101010101010101010101010101010101010101010101001101001100010100101010100コ10101空0010100010100101100100101001010010101010010100101010101010101010101010101010101イ010010ター101010101010101010101001010100101010100101010101010010101010101010010101010101010101010101010010101


【デスド0101ン 死亡】
【ニ01ジ0101レ01ヤ01 0101】
【01ラ010101ー 0101】
【0101スク0101ク 0101】
【シルバーキー 0101】

【バトルロワイアル 終了】


【優勝者 ディプロマット】

「エンド・オブ・ニンジャ・ロワイアル」#1 終わり #2 に続く

253 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:32:57
以上で投下は終了です

254名無しロワイアル:2013/01/27(日) 23:49:09
>>253
アイエエエエ!?
ナンデ?ニンジャナンデ!?

ニンジャスレイヤーの狂った言語センスをそのまま再現するとはw

255 ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:12:35
謎ロワ299話投下します

256299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:13:03



――――11:06:01
――――鉄塔:上層付近





「何故、生きてるんだ……?」

 意味が分からない、と言った口調で、阿部さんが呟く。
 死んだと思っていた人間が、目の前に立っていれば、誰だって混乱するだろう。

「まさか、死んでなかったのか……?」

 そんなはずはない。
 数時間前、阿部さんは吾作の遺体を目撃したのだ。
 その際、生死も確認した。
 ……その際、"本当に"死んでいる事も、確認した。
 だが、そんな吾作が、立ち上がってここに来ている。
 阿部さんと先生、2人の頭には、1つのワードが浮かんでいた。




 ――――どういうことなの……。




 そんなことを考えている内に、吾作は刀を抜く。
 その刀はかつて闇人をも斬り倒した事のある刀、"焔薙"であった。
 それを、闇人と化した吾作が振るうとは……。

257299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:13:22

「……どうやら、やる気満々のようだな。こっちも、ヤる気で行かないとヤバいぜ!」
「ええ……分かってます!」

 先生は、未だ慣れない手つきで銃を構える。
 阿部さんは、ツナギのチャックをギリギリの所まで下ろす。
 ジリジリと、お互いがお互いの出方を窺っている。
 ……下手に動けば、やられる。
 阿部さん、そして先生は今までの戦いの中で得た"経験"から。
 吾作は、未だ微かに残る、パンツレスラーであった頃の"経験"から。
 その答えを、導き出していた。

「……!」

 それを、荒々しく破ったのは、吾作だった。
 大胆にも刀を上段に構え、一気に振り抜く。
 だが、阿部さんの持つ"電光丸"が、自動的に攻撃を防ぐ……!
 ……だが、攻撃を防いだせいで、微量に残っていたバッテリーが、底を尽きた。

「そんなもの振り回しちゃあ……危ないだろうッ!」

 役に立たない電光丸を放り投げ、怒りの籠った鉄拳を、的確にお見舞いする。
 ……忘れられがちではあるが、阿部さんの本職は、自動車整備工だ。
 連日、ハードワーク(意味深)をこなしていたお陰で、体は、自然と鍛え上げられていたのである!
 そんな、とてつもない肉体から繰り出されるパンチは、やはりとてつもないものであった。
 元パンツレスラーであった吾作も、この打撃の嵐には、なす術もなく打ちのめされるばかり。
 ……だが、それはあくまで表面上の事。
 幾ら強いとは言え、所詮は拳での殴打。倒すまでには、至らない。
 それは、阿部さんも十分分かっていた。

「阿部さん……!」
「分かってる。これからが本番だ! ――――破アッー!」

 気合いの入った声と共に――――阿部さんの股間から青白い光弾が!

258299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:13:45

「――――ッ!!」

 いろんな意味で予想外だったのだろう。
 高速で飛来する光弾に、吾作は何も出来ずにただ食らってしまった。
 あまりの威力に少し後ずさるも、すぐに体勢を立て直す。
 ……光弾の当たった場所からは、シュウシュウと煙のような物が上がっている。
 だが、大した痛手にはなってはないようだ。
 現に、吾作の顔は、依然生きていた時のような笑顔を浮かべている。

「これで終わりじゃないぜ?」

 しかし、阿部さんは怯まない。
 それどころか、この状況を楽しんでいるようにさえ見える。

「……!?」
「良かったのか、ホイホイ勝負を仕掛けて」

 気がつけば、吾作の背後には阿部さんが。
 残った片腕で、吾作のズボンを下ろす。

「俺は、闇人だって構わないで食っちまう人間なんだぜ?」

 吾作の下半身は、既に無防備。
 それを確認してから、阿部さんのツナギのチャックが下まで下ろされる。
 ……こうなってしまった以上、もう、吾作の運命は決まったようなものである。
 ――――そして、運命の瞬間が訪れた。

259299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:14:14





「  あ  お  お  ー  っ  !  !  」





 吾作の叫び声が、辺りに響く。
 色々な意味で言葉に出来ない光景に、先生は思わず目を背ける。

「別に、苦しめたい訳じゃないからな。すぐに終わらせてやる……」

 そう言い終わるか終わらないかの内に……阿部さんの腰辺りに、力が集まっていく。
 ……一撃で、終わる。
 お互いが、それを実感していた。

「しっかり、ケツの穴を締めておけよ?」

 阿部さんの手に、力が籠る。
 がっしりと腰を掴んで、逃がさないように。
 最初から、手加減する気はない。
 下手に手加減すれば、余計に苦しませるだけだから。





「破アッ――――!!」

260299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:14:51





 ――――迸る光。そして、そこに溶けてゆく、吾作。





「か、に…………アッ――――!!」





 吾作は見た。
 いつも変わらない笑顔で、自分を待ってくれる兄貴を……。
 ――――吾作、だらしねぇな。もう一度、俺とレスリングだ。
 そして、吾作は……笑顔のまま、消滅した。






【鎌田吾作@本格的 ガチムチパンツレスリング 消滅】

261299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:15:33







 終わった。
 かつて吾作のいた場所には、焔薙が、ただ残されているだけ。
 それを、阿部さんは拾い上げる。

「……そろそろ行かねえとな」

 空を見上げて、2人は歩き出す。
 ――――全てを、終わらせる為に。





【離島線四号基鉄塔・蜘蛛糸・上層付近/午前】
【阿部高和@くそみそテクニック】
[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中の上)、いい男、寺生まれの力(残り57%)
[装備]:TDNアーマー@本格的 ガチムチパンツレスリング、焔薙@SIREN2
[所持品]:支給品一式、くりまんじゅう@ドラえもん、葉巻@MGS3、火掻き棒@SIREN、
     きせかえカメラ@ドラえもん、兄貴のジーンズ@本格的 ガチムチパンツレスリング、
     フォトンブレードPG@龍が如く4、釘バット@SIREN2、コート@かまいたちの夜3
[思考]
基本:"ウホッ!いいエンド"で全てを終わらせる
1:Kさん達の所に行こう
※寺生まれの力を受け継いでいます
※フェアリーナイトメアを習得しました

【スペランカー先生@スペランカー先生】
[状態]:ボロボロ、残機:0
[装備]:シングルアクションアーミー(2/6)@MGS3
[所持品]:支給品一式、ステルス迷彩(残り使用時間:36秒)@MGS3、がんじょう(残り1個)@ドラえもん
[思考]
基本:死なないように、生きて帰る
1:Kさん達の所に、行きましょう
※闇人の対処法を知りました

262299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:15:44
投下終了です

263 ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:21:48
状態表にミスがありました

[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中の上)、いい男、寺生まれの力(残り57%)



[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中の上)、いい男、寺生まれの力(残り42%)

に修正します

264 ◆uPLvM1/uq6:2013/01/30(水) 18:03:27
とりあえずテンプレだけ投下しておきます。

【ロワ名】変態ロワ
【生存者6名】
・クマ吉@ギャグ漫画日和
・亀仙人@ドラゴンボール【右腕使用不可】
・ふんどし仮面@銀魂【限界寸前】
・マクシーム・キシン@悪魔城ドラキュラ
・安錠春樹@新米婦警キルコさん
・ムッツリーニ@バカとテストと召喚獣【フラッシュバックによる無力化の可能性】
【主催】裁判長@逆転裁判【洗脳されている】
【主催者の目的】変態共に死刑を執行する
【補足】
・会場は悪魔城の中、裁判長は悪魔城の最上部にいます。
・キシンはマーダー。それ以外は対主催です

265 ◆xo3yisTuUY:2013/01/30(水) 21:18:16
はじめまして。
今日はテンプレだけということでご勘弁を。

【ロワ名】「日常の境界ロワ」

【生存者6名】1.阿部高和(くそみそテクニック)【限界寸前】 
       2.漆原るか(STEINS;GATE)【フラッシュバックによる無力化の可能性】
       3.藤堂晴香(寄生ジョーカー)【右腕使用不可】 
       4.真紅(ローゼンメイデントロイメント) 
       5.水瀬伊織(アイドルマスター) 
       6.鯨(グラスホッパー)
【主催者】藤堂奈津子(寄生ジョーカー)
【主催者の目的】最終優勝者(最も過酷な生存に適する者)を苗床とした寄生生命体の創造。
【補足】首輪のかわりに、参加者の体内に72時間で発現する寄生体の核が投与されており、それが実質的なタイムリミットとなっている。
    優勝者への褒賞は、賞金のほか、ただひとつしかないその抗体とされている。


まっすぐで、凝りすぎないロワという感じで行こうかと思います。

266 ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:52:19
「日常の境界ロワ」 298話投下します。

267【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:54:09


 決着は、一瞬だった。
 それも当然、といえばそうかもしれない。
 方や、満身創痍の身体に鞭打ち、欠けたナイフと己の身体を弾丸にして挑んだ男。
 方や、数々の修羅場を潜り抜けて来た、ライフル装備の大男。 
 銃撃を受けきってでも相手に切り込む覚悟だったというのに、その銃撃さえ無くても、前者の渾身の一撃は、後者には届かない。
 勢い込んだその腹に、鋭く膝を蹴りこまれて、男は無残に地面に転がった。
 ――交錯は、一瞬だったのだ。

 敗北、か。仰向けに倒れたまま、男は宙を見上げた。ビルの無機質な天井が、随分と遠く見える。
 彼――阿部高和の身体は、限界をとうに超えていた。
 ほぼ三日間の不眠不休に加え、幾度も繰り返された強敵との死闘は、彼の命を確実に削ってきていた。
 身体は磨耗し、精神は磨り減り、それでも倒れることなく進み続け――
 ――つい先ほど、友の命と自身の身体を犠牲にして、このゲームの最悪の“切り札”を沈めたばかりなのだ。
 
 青いツナギは血の斑に染められ、身体中痛くないところが無いというほどに怪我だらけだ。
 立ち上がることもできず、自慢の息子もピクリとも勃ち上がらない。
 ――なるほど。これが俺の死か。
 阿部は、どこか冷静に、それを受け入れていた。
 あいつを――伊織を逃がすために、こいつに単身挑んだときから、覚悟はできていたのだ。
 勝ち目など無かった。そんなことは、出会ったときから知っていた。
 だが悔しさは無い。これだけの時間が稼げれば、あいつは上まで上れただろう。
 その先に何が待っているかはわからないが、今のあいつなら、それを乗り越えることができるだろう。

『いいこと、死ぬなんて許さないから。死んだりなんかしたら殺すわよ!』

 脳裏に彼女の声が浮かんで、くく、と阿部は笑う。
 彼女の声は厳しい言葉でも甘ったるく、ひどく脳裏にこびりつく声だ。だがまさか死に際にまで、脳内で聞こえてくるとは思わなかった。
 あれは相当のじゃじゃ馬だが、確かにいい女だ。男を手玉に取るには、些か幼なすぎるが――。
 あれの未来を、少しだけでも見てはみたかったが。
 そんな感傷は俺には不似合いだろうけどな、と阿部はまた笑った。

 あいつの言葉を裏切ってしまうのは、漢の美学に反するが――だが、それもまた仕方のないことだ。
 今まで思っていたよりもずっと、死は心地いい。
 やりきった感情すらある。イッた後のように、精神も清んでいる。
 性欲に任せた人生でもあったが、ここらで幕引きなのもまた運命だろう。
 あとはあいつらの無事を祈りながら、走馬灯に意識を委ねるのも、悪くないかもしれない――。

 そう、思っていた。

268【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:54:56

 そんな阿部の顔を、鯨が覗き込んできた。
 卵が孵化するのを待ち侘びるかのように。阿部の死を見届けるためだろうか。
 黒いシルエットのように、彼の顔は照明の影となっていて表情が見えない。
 だがそれは、まるで深淵に覗き込まれているかのような――
 
 突如、阿部の脳内に流れ込んでくる、走馬灯とは違う映像。
 心地よい回想が突如として濁っていく。視界までもそれに侵されていく。
 泥のようなものに塗りつぶされていくように、思考がそれに支配されていく。
 それは怨念であったり、憎悪であったり、恐怖、嫉妬、――絶望。
 自身の人生から、幸福だけを取り除いた出涸らしのように、無造作で無機質な負の感情の塊。
 自分の前で死んでいった者たち。自分が殺した者たち。自分の手が届かなかったものたち。
 そういったものの、見えるはずもない感情が形を持って渦巻いて、曖昧ながらも明確に、色を持ち、脳内から心へと押し寄せる。
 亡者たちが、地獄の底から手を伸ばし、自分を絡め取り引き摺り落とそうとしているような。
 それは、生きようとすらしていない自分を、さらに死へと駆り立てるような。
 現実で感じるすべての感情を否定し、死という安楽へ逃げ込みたくなるような。
「――人は誰でも、死にたがっている」
 感情が、生存本能へ反乱を起こしているかのような――。

「これ、か」
 阿部は、呻いた。
「雪歩をやったのは、これか」
 脳内の映像を掻き消そうともがきながら、呻くように言葉を搾り出す。
 閉じかけていた目を見開き、自分を見下ろす男に、憎悪の篭った視線を遣る。
 確信があった。あの時、あの僅かな時間に、あの臆病な少女に自らの死を選ばせたのは、きっと、この感情に他ならない。
 それを駆り立てているのは、間違いなく、この男なのだという、確信が。

「雪歩という者は知らない。だが俺の前で命を絶った、雪の似合いそうな女はいたな」
 阿部を見下ろす鯨は、こともなげに答えた。
 特に感慨も無く、その死に思い入れも無い、そういった口ぶりだった。
「――そうか」
 阿部は、再度呻いた。語尾が震えた。

「俺は、お前を探していたぞ」
 倒れたままの、阿部の声が一段と低くなる。
 唸るような、目の前の敵を噛み殺してやりたいとでも言いたげな、野獣の声になっていた。

269【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:55:30

「俺が離れたわずかのうちに、雪歩を自殺に追い込んだ奴をな。
 あの臆病な子に、自分を殺すなどと出来る筈も無いだろうよ。
 殺すこと、死ぬことだけでなく、人を傷つける事すら恐れていた、ただの少女にそんなことがな。
 俺は探していたんだぜ。直接手を下さず、人を自殺に追い込むことができる能力者ってやつをなぁッ!」
 阿部が感情を剥き出しにして吼える。
 押寄せる絶望の波に打ち勝つように、ただひたすら目の前の存在に対しての憎悪を顕にする。
 身体が動いたのならば、一切の箍を外してでも、目の前の男を殴っていただろう。
 雪歩の無残な死体を抱いて慟哭した、あの時の誓いを無かった事にするなど、できるものか。

「俺には確かに、もうお前を殺すだけの力は残っていない――。
 だが同時に、自らを殺すだけの力も無い。だからこの、お前の能力は俺には無意味だ。
 むしろ俺は感謝したいぐらいさ。こんな感情を蒸し返してくれてよ。
 この生きた怒りって感情をな……」
 入らない力を無理やりに込めて、拳を握る。
 先ほどまでの、緩やかな死を望んでいたことがただの気の迷いであったと、自分に言いたかった。
 そんな恥があってたまるか。
 こいつを目の前にして諦める事は、それこそ、こいつの能力の結果で自殺することと何も変わらない。
 俺の人生のケツが、そんなシマりの悪いことでたまるものか。
 
「――俺はゲイだぜ」

 唐突に、宣言した。

「生産的じゃない存在さ、殺し屋のお前と同じじゃないの」
 鯨の表情は変わらない。だが、お前と一緒にされたくはないという感情はあるはずだ、と阿部は感じていた。
 満身創痍、喋るだけの体力も気力も無いはずなのに、言葉だけは次々に溢れてくる。
 この期に及んでも俺は絶倫ってことかい。阿部はまた一人で嗤った。

「異端者だぜ。虐げられもしたさ。だが俺は強く生きたぞ。薔薇の魂を持ってな。
 知ってるかい。のばらってのは、束縛への反乱の象徴でもあるってね」
 綺麗な薔薇――とは言えないが、薔薇に象徴される、阿部の人生はそういうものだった。
 薔薇色とも言い難いが、決して不幸な人生ではなかった。

「俺の薔薇はここで枯れちまうかもしれないね……だが枯れない薔薇だって、俺は知っているんだぜ」
 鯨が、相も変らぬ醒めた表情で阿部を見下ろしている。阿部は、皮肉めいた笑みを彼に見せた。
 鯨がそれでも阿部を殺そうとしないのは、彼が自殺を見慣れすぎているからだろうと思う。
 死を前にした人間が饒舌なのは、彼が一番よく知っている。喋るのをやめたとき、自分が死んでしまうと思い込んでいるのだと。

270【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:57:03

「薔薇の誇りは、そう簡単に、傷つけさせられるものじゃないぜ――!」

 阿部の声が一際大きくなった。
 刹那、鯨の表情が僅かに歪み、突然身を捻るように仰け反る。
 一瞬遅れて、その場を疾風のような刃が掠めた。
 鮮血が飛ぶ。鯨の巨体の肩口に、鋭く斬跡が入る。

「ちっ……見破られたか」
 阿部が呻く。
 彼が喋り続けていたのは、それから意識を逸らさせるためであった。
 だがこの相手は、プロだ。だから、それに気付いたのだろう。

 紅い人形が、僅かに血の光沢の残った刀を翻して、鯨に迫る。
 鯨はライフルを大きく後ろ手から回し、素早い動作で人形に照準を合わせた。
 ハッと身体を固くしたその人形の一瞬の隙に、鯨は銃撃を加えることなく、大きく飛び退いた。
 奇襲を受けた時は、迎撃に徹するのではなく、その場を放棄して退却し、態勢を整えるのが、殺しを生業とする者達の鉄則だ。
 鯨は、その巨体に似合わぬ素早い動作で、階段へ続く通路へと身体を翻した。

 紅の人形――真紅は、それを追い大地を蹴る。
「追うな、やつはプロだ」
 阿部の一声に、真紅は足を止めた。阿部に振り向きはせず、背中を見せたまま、鯨の消えた通路を睨んでいる。
「そうね。ただ私も、ある意味プロなのだけど?」
「奴は――戦いのプロというよりは、殺しのプロだ。いや、死のプロ、か。
 逸っても、いいことは無いぜ」
 
 倒れたままで説教とは情けないがね、と阿部はぼやくように言った。
 真紅は嘆息する。

「まぁ、あの子を置いてもいけないし、貴方の言うとおりだわ。
 るか! 大丈夫よ、来なさい」

 真紅が声をかけると、下の階段から、漆原るかが恐る恐ると顔を出す。
 奇襲を仕掛ける以上、身軽な自分が一人で戦ったほうがいい。真紅はるかを、そう諭して待たせてあったのだ。
 尤も、彼女自身の実力はともかく――彼女が武器と言って憚らない、あのレプリカの刀では戦力とも言い難いというのが、本心のところであったのだが。

「あいつはどうやら次の階へ逃げたみたい。待ち伏せしているのかもしれないから、油断はならないわね」
 阿部に背中を向けたまま、真紅は階段の向こうから視線を外さない。
「逃げた、とは極めて主観的だが――まぁこの階から消えたのは間違いなさそうだな。
 だが、その先に水瀬伊織が――行っている。すまないが、追いつかれる前に、頼む」
「――伊織。ああ、容姿は、人から、聞いているわ。了解よ」
「ひとつ、気をつけてくれ。あいつに意識を傾けすぎるな。奴の目の前では、死に――駆り立てられる」
「自殺させる能力者、だったかしら。それも、他の子から聞いたわ。
 死の色が、あまりに濃すぎる人。傍にいるだけで、『死に近くなる』って――。
 でも――。大丈夫。それに引き摺り込まれたりしないわ」

271【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:57:42

 ようやく阿部の傍に辿り着いたるかが、阿部の身体の無残な怪我に思わず息を呑み、眼を逸らす。
 生きているのも不思議に見えるというのに、どうして彼は喋り続けることができるのだろう。
 僕を見て、どうして目を輝かせたりしたんだろう、などと考えていた。
 ――知らぬが仏、である。

「あの、ええと……大丈夫、なんですか」
「阿部、だ」
 阿部は、深く溜息をつく。
「だが大丈夫じゃ、ないな」
「悪いけど、手の施しようも無いわ」
 阿部に同調するように、真紅も容赦なくも思える一言を呟いた。 

「そんな……なんとかならないんでしょうか。
 僕はもう、誰にも死んでほしくなんて、ないんです」
 るかは、既に目に涙を溜めている。
 喪失は、何度味わっても、辛い。ひとつの命が終わるということを受け入れる経験は、人間の心に重く沈む。
 それが続いたとしても、決して一つ一つが軽くなることはない。
 はじめから、喪い続けた彼にとっても、それは同じことだ。

「へぇ、うれしいこと言ってくれるじゃないの。
 でもな、るか。俺はここが人生のケツだ。もう自分の墓穴すら掘れないってのは残念だがね。
 ……そうだな、お前にこれをヤろう。俺が今までずっと使ってきたナイフだ。
 お前に戦えとは言わない。だが……そいつは、俺をずっと守ってきた、お守りみたいなもんだと思ってくれ。
 万一戦うときが来たならば……やや欠けてはいるが、ブスリとやれば挿入(ささ)るだろう」
「は、はいっ」
 るかは、阿部の視線の動きに合わせ、もう上がらない阿部の腕を取ると、その手に握ったナイフを、阿部の指を一本ずつ離しながら、優しく持ち上げた。
「名前は」
「漆原るか、です」
「……そうか、いい名前だ」

 るかの頬を、涙が伝う。
 阿部は、少し悲しい顔をした。腕が上がらない。涙を拭いてやることのできない身体が、少しだけ悔しかった。

「――真紅。あとは頼んだぞ。薔薇族の魂は君に託そうじゃないの」
「勝手に、私をその薔薇族とやらの一味に加えないでもらえるかしら」
 阿部の言葉に、背を向けたままの真紅の冷静な返事。
 ほんの二日前、戦場で出会い、僅かに言葉を交わしたときから、二人の関係はずっとそういうものであった。
「いいじゃないか。お互い薔薇同士、仲良くやらないか」
「――貴方が言うと、薔薇も随分と俗な花に思えてくるわね」
 本人は――少なくとも真紅は――否定するだろうが、お互いに心を許している。そういう関係だ。
「そうかい。だが真紅、あんたは気高く、綺麗だ。俺が認めるんだから、相当なもんだぜ」
 阿部の、レディに言うには余りにガサツな――しかし、本心からの褒め言葉。
「――ありがとう、阿部。でも減らず口はその辺にして、もう休みなさい。
 あとは私に任せればいいわ。伊織のことも、るかのことも、この歪んだアリスゲームのことも」
 それを減らず口とすら評した真紅を、阿部は楽しいやつだと笑った。

「そうかい、安心した。頼んだぜ、薔薇乙女」
「安心して逝きなさい。頼まれたわ、薔薇漢」

272【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:58:08

 真紅が、歩き出す。彼女は、一度も振り向かなかった。
 その後ろを、るかが阿部を何度か見遣りながら続く。

 それを、頭が動かないために視線だけで見送り、阿部はまた視線を天井に移した。

 俺としたことが、ずいぶん喋っちまったな。
 お喋りな奴は嫌いなのだが――。
 こんな死にかけだというのに、言葉は途切れることなく口から溢れていった。
 不思議なもんだ。死ぬその間際まで話ができるなんて、思いもしなかった。

 ――まぁ、いいか。

 阿部は、ゆっくりと目を閉じた。

 最期なんだ、そんなロマンが、あってもいいじゃないか。
 今は、薔薇の散るように、ゆるやかで安らかな気分だ。
 
 死を受け入れていた、恥じるべき先程の気持ちとはまた違う。
 これは死ではない。花が散ることは、季節の巡りと同義なのだ。
 次の種が芽吹けば、それでいい。子種は随分と無駄にしたが、心は引き継がれたのだから、それでいい。

 伊織、すまん。俺は死ぬ。お前との約束は、守れなかった。
 雪歩を守れなかった。お前を最後まで守り続けることもできなかった。不甲斐ない男だと笑ってくれ。
 だが、俺の魂は、俺ののばらの精神は、お前や、真紅や、るかに託した。
 死ぬなよ。魂を、こぼすなよ。生きて、帰れよ。

 ――俺の墓には、似合わないだろうが、薔薇でも供えておいてくれよ。


【コントロールタワー17階・深夜】

【真紅@ローゼンメイデントロイメント】
[状態]:疲労(中) 能力使用不可
[装備]:日本刀(一部欠損)@現実
[道具]:見崎鳴の左目@Another 人形お着替えセット@ローゼンメイデン 基本支給品×2
[思考]:このアリスゲームを終わらせる。

【漆原るか@STEINS;GATE】
[状態]:疲労(小) 全身に掠り傷 轟音に対する強い恐怖
[装備]:妖刀・五月雨@STEINS;GATE 蝉のナイフ(先端破損)@グラスホッパー
[道具]:殺虫剤@寄生ジョーカー 基本支給品×1
[思考]:真紅に従う。生き残る。


【コントロールタワー18階・深夜】

【鯨@グラスホッパー】
[状態]:疲労(中) 左肩口に斬り傷
[装備]:ライフル銃(残弾5/8)@寄生ジョーカー
[道具]:ライフル銃弾×14@寄生ジョーカー 『罪と罰』@グラスホッパー 基本支給品×3
[思考]:過去を“清算”する。


【阿部高和 死亡  残り5名】

273【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:58:48
以上です。

274 ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:08:41
『Splendid Little B.R.』、第二話の第一章を投下します。
TRPGのリプレイに、たまについてる予告漫画を見るのが好きなので、ちょっと作りました。
閲覧しなくとも本編を読むにあたって問題はありませんが、登場人物の見た目など知りたい方はどうぞ。

 ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/comic_02.html

275 ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:09:33
……違う、URLはそれじゃない!w
正しくは下記になります。削っても見られるんですが、いきなりつまずいて申し訳ない。

ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/etc_comic02.html

276SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:10:17
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)まことの騎士

Scene 01 ◆ 白の鳥・まるで玩具のような


 幼子の、遊びですね。

 雪によって滅ぶ箱庭の維持を使命とする鳥は、玲瓏な声でそう言った。
 なにものにも染まらず、染めようとするものも退ける、響きは凍てて耳朶を灼く。
 だが、優美な韻律を含ませてさえずる鳥――齢三十にも満たぬ見目をした女の、双眸はひどく茫洋としていた。
 初夏の陽にきらめく緑を宿した瞳には空疎と超然が混淆して、硝子玉のように透き通っている。
 彼女が黙してかぶりを振れば日覆いの絹から薄香の髪が溢れ、口許を隠すように添えられる手をいろどった。
 粛然たる居住まいは世界を俯瞰しているのか傍観しているのか、あるいは諦観しているのかさえ余人に悟らせない。

 この箱庭にある鳥よ。
 あなたも、『そう』なのですか。

 ただひとつ、歌う言葉の自嘲だけが周囲の空気をふるわせる。



 ◆◆



 分かりません。
 いえ。貴方のなさっていることは、私には分かりたくありません。
 もとより初めから主によって創られ、箱庭を見守る私に、これだけは分かりようもない。
 だからでしょうか。私の紡いでいるこの言葉さえ、貴方に届くことなどありません。
 この箱庭に在る私は、外なる果てで戯れに浮かべられた『夢』の欠片でしかないのですから。

 そして、ある意味では貴方も……正しくあの方と相似した視点をもって、この箱庭を眺めつつある。

 これだけは分かります。
 分かりましたから、もう、やめておしまいなさい。
 すでに滅びも近いとはいえ、創世主の真似事をして、貴方は何を得られるのです。
 まるで玩具のような為様で弄んでいるの箱庭に想いを寄せて、貴方はこんなに憔悴しているではありませんか。
 今にも泣き出しそうになりながら、中座するのもこらえ、おぼつかぬ指と四肢をふるわせて――。
 急き立てられるように、貴方は、形の合わない小片を押し込み繋いで間隙を埋めようとしつづける。
 いちど歪めてしまったものを壊し切ることも出来ず、別の物を創ってしまうことも出来ずに、ずっと。
 ずっとその掌で温めたなら、いつか、別の箱庭の小片が馴染むかもしれないとでも思っているのですか。

 愚かしい。ほんとうに、惨めで、哀れで見苦しいものですね。
 これ以上に付け加えるものもないだろう、これに、どうして別の小片が馴染むのです。
 綻び解けるものを無理に繋いで疵を押し隠す。その行いに、どれほどの価値があるのですか。
 なにより、貴方自身が己の行いを愚かしいと思っている。箱庭の維持にも繋がらないと解している。
 そうと分かってなお突き進んだのが、同じ鳥としてある貴方の、最も救いようのないところです。

 無様にしがみついている、これが、貴方になにをしてくれました?
 裏を返せば、これに、貴方はなにかをしてやれると仰るのですか?

 愛を叫んだところで、ここより先にはもう何もない。貴方が、すべて壊してしまったから。
 何かを憎もうにも、ここから遡ってももう何もない。貴方が、すべて消してしまったから。
 世界を切り取り抱き締めて、二度と手に入らないものを求めている事実さえも知っていて、

 そこまで行ったというのなら、もう、やめてしまえば楽になれるでしょうに。

 それでも許せないのですか。
 それでも手離せないのですか。
 それでも諦められないのですか。
 それでも、忘れられないのですか。


  荒らげた息を吸って、ならばと白の鳥は続ける。
  言葉が胸で凍って砕け、そのたびに彼女自身を傷つけてなおも口を開く。


 ならば……せめて、終わらせてしまいなさい。
 終わってしまえば、夢だったとでも思えるでしょう。

 いつかあの方の仰っていたように、忘却が精算にはならないのだとしても。



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