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獣人総合スレ 避難所

1名無しさん@避難中:2009/03/17(火) 20:14:12 ID:/1EMMOvM0
獣人ものの一次創作からアニメ、ゲーム等の二次創作までなんでもどうぞ。
ケモキャラ主体のSSや絵、造形物ならなんでもありありです。
なんでもかんでもごった煮なスレ!自重せずどんどん自分の創作物を投下していきましょう!
ただし耳尻尾オンリーは禁止の方向で。
エロはエロの聖地エロパロ板で思う存分に。

獣人スレwiki(自由に編集可能)http://www19.atwiki.jp/jujin
あぷろだ http://www6.uploader.jp/home/sousaku/

獣人総合スレ 5もふもふ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1236878746/

【過去スレ】
1:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220293834/
2:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1224335168/
3:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1227489989/
4:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1231750837/

662ババアとローラーブレード ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:30:54 ID:SqTnCTAA0

 体育の時間が苦手なコレッタが、ローラーブレードを履いて颯爽と滑っていった。
 かけっこをすればいつもビリなのに、誰にも負けない速さで風を切る。
 逆上がりも出来ないのに、くるりとUターンを決めてみせる。
 
 「気持ちいいニャ」

 池を囲む遊歩道、人々が集う公園、白い子ネコは足元のローラーを滑走させて秋の妖精となる。
 長い金色の髪をなびかせて、白い毛並みを風に晒して、コレッタは懸命に前へ前へと足を交互に動かした。
 がらがらと路面を転がる小さな車輪の音はぎこちなく聞こえるかもしれないが、いま一番早く走っているんだと、
コレッタを自信付けるには申し分ない応援歌であることは間違いない。両手をぶんぶぶんぶと振りながらコレッタは進む。

 「上手い上手い」
 「ヒカルくん!ちょっとはうまくなったかニャ?」
 「うん。すごく上手いよ」

 脚をハの字に開いてゆっくりと止まる。遊歩道の傍らのベンチには、犬上ヒカルが座っていた。
 コレッタはヒカルに近づくと、早く誰かに話したくてしようがなかったのか右手で拳を上げて目を輝かせた。

 「これでクロたちと競争に勝てるかニャ?」
 「うん」
 「わーい!ニャ」

 コレッタはぎこちなく尻尾でバランスを取りながら、ローラーブレードの足元で立っている。その姿を目の前にしたヒカルの顔には、
ほんの少しばかりの笑みが。コレッタが履いている淡いピンク色のローラーブレードは小さな傷がちらほらと目立っていた。

 二人をそっと木の陰から見つめるのは、そう。二人ともよく知る人物だった。崖っぷち感漂う三十路の女の白ネコは、
コレッタと同じようにローラーブレードで足元を固めていた。見てくれだけは立派なものだった。

 「コレッタに追い越されてしまった」

   #

 秋晴れの気持ちよい日の放課後、コレッタは保健室にいた。
 クラスメイトのミケに「牛乳を飲むと、速く滑れるようになるにゃ」と、そそのかされて、苦手な牛乳を飲んでいたのだった。
 事の顛末を聞いた白先生は目を白黒させながら呆れて薬を飲ませるとコレッタを休ませた。
 何が速くなるのか?とコレッタに尋ねると、恥ずかしそうに答えた。

 「ローラーブレードニャよ」

 どうやらクラスメイトのクロとミケに自慢されたのに本気になって、ローラーブレードでのかけっこ勝負を挑まれたらしい。
 どうやらコレッタが滑れないことをクロとミケが知って、その勝負を挑んできたらしい。

 「どうしたらうまくなるニャねえ」
 「沢山練習するしかないんじゃないのか」

663ババアとローラーブレード ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:31:46 ID:SqTnCTAA0
 サイフォンから垂れ落ちるコーヒーの一滴をじっと見ていると、時の流れを早く感じる。保健室にあふれるコーヒーの香りが
何となくそれに歯向かって時間を止める。保健室独特の香りはこの部屋に限っては異なっていた。
 
 「わたしはローラーブレードをやったことないけど、上手く滑れたら気持ちいいんだろうな」
 「うん……ニャ」
 「そうか。ま、がんばれ」
 「白先生もやってみるニャ?」
 「ふっ。わたしなんか……晴れた休日は机でコーヒーの香りに惑わされるだけでいいよ」

 白先生はマグカップ片手にゆっくり首を横に振った。

 その日の仕事を終えた白先生、自宅に帰るとわき目も振らずに電源を入れ、PCのキーボードをまるで腕の立つピアニストのように
激しく鳴らしていた。通販で大人用のローラーブレードを注文しようとしていた。とにかく、早く手に入れたい一心だった。

 「わたしはコレッタの王子さまになるんだっ」
 


 とあるお城にコレッタというお姫さまがいました。
 お姫さまはローラーブレードが滑れなくて困っていました。
 そこに現れたのは白王子、白馬に跨りマントを翻し駆けつけて来たのです。
  
 「よしっ。わたしと一緒に練習するんだ」
 
 お姫さまと王子は一緒にローラーブレードの練習をしました。
 そして、お姫さまはついにすいすいと滑ることが出来るようになったのでした。

 めでたし、めでたし。



 白先生は生徒に見せてしまったら、末代までの恥になるような顔をして『即日配送』のボタンを連打していた。

 コレッタはというと学校が終わるとすぐに公園へ走り、一人で上手に滑る練習をしている。
 いつもの公園の遊歩道、目の前をジョギングする人々が通り過ぎる。池の向こう側には流れる雲。ほとりの親水広場では
小さな子たちがきゃっきゃと裸足になって、汚れない太ももを濡れしていた。茂る草木がまだまだ深い。
 ベンチに腰掛けて普段履いているズックを恐る恐る脱いで、パステルカラーのローラーブレードに履き替える。 
硬いプラスチックの靴の中、指をもぞもぞと動かしてなんとなくむず痒い。バックルを留めるとかかとで地面を叩いてみた。
ガラガラとローラーが廻る音が聞こえる。ただ、それだけでもコレッタは「上手に滑れるニャ」と皮算用をしちゃう自信があふれる。
 両肘、両膝にプロテクターをマジックテープでかっちりと固めると、大層なことではないが儀式のようなものを感じる。
ローラーブレードとおそろいなピンクのプロテクターがあざやかに緑の中に映える。

664ババアとローラーブレード ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:32:20 ID:SqTnCTAA0
 「ニャ!」

 脚がハの字に広がって両手が空中をかき乱す。尻尾がピンと立ち、コレッタはしりもち付いた。痛いというより恥ずかしい。
よくよく周りを見れば自分と同い年ぐらいの子がすいすいとローラーブレードを履いて気持ちよさそうに滑走しているではないか。
それどころか明らかに年下の子の姿も見える。コレッタはしりもちの状態そのままから立ち上がろうとして、再びしりもちついた。
 どうしてあんな見栄を張ったんだろうニャ。にひひと笑うクロとミケの顔がぼんやりとコレッタの目に浮かぶ。

 コレッタは自分のことを笑われているわけではないのに、周りの子たちの笑い声が気になって気になってぶんぶんと首を振った。
いっそのことあの子たちにネコじゃらしをぽいーっと投げつけちゃえニャ!と爪を立てる。その子たちに混じってぽつんと大きな影が。

 「……今、わたしが手を出すのは得策ではないな」

 はやる気持ちを抑えて、揺れる尻尾を我慢して。
 三十路のネコが木陰からこぶしを握っていた。普段は保健室のおば……おねえさんの白先生を押し込める。

 しかし、デジカメでも持って来ればよかったかなと、ちょっぴり後悔する。
 いや。そんなよこしまな考えはよくない。いっしょにコレッタと公園の周りで風になるんだ。
 白先生は注文していたローラーブレードが届くのを首を長くして待っていたのだった。

 コレッタが転んでは膝で立ち上がり……を繰り返していた。

 翌日、コレッタは学園の廊下でもローラーブレードを履いたつもりになっていた。
 両手をぶんぶんと振って歩く姿は奇妙だった。それをからかうクロやミケに、コレッタはぷいーっと尻尾を膨らませる。
 
 コレッタが二人をしかとして奇妙な行進を続けていると、目の前にゆらゆらと揺れる白くて大きなネコじゃらしが現れた。
 あまりにも気持ちよさそうに揺れるので、コレッタは我を忘れて飛びついた。だが、それはネコじゃらしではないぞ、尻尾だ。

 「ご、ごめんなさいニャ!」
 「……」
 「ヒカルくんの尻尾が」

 白いイヌの高等部の少年、犬上ヒカル。イヌの大きな尻尾を見紛って、本気で飛びついたことを謝るコレッタは
尻尾の持ち主の少年にことの成り行きを話した。彼はちょっと考えた末、コレッタの頭をぽんと撫でる。
 
 「じゃあ、一緒に練習する?」

665ババアとローラーブレード ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:32:52 ID:SqTnCTAA0
   #

 午後の公園では、コレッタがローラーブレードを履いて芝生の上を歩いていた。
 ヒカルが言うには歩くことから慣れるのがよいらしい。なるべく両手を振らず、しっかりと前に進む。

 「ほら、尻尾でバランスをとりながら」
 「うん。わかったニャ」

 転ばずにローラーブレードを履いて前に進んでいる感覚がコレッタには力になる。先導をするようにヒカルはゆっくりと
歩いてゆくと、コレッタがヒカルの尻尾を追いかける。学校での廊下を思い出しながら。

 きょうも公園に来ていた白先生はブランコを揺らしながらコレッタとヒカルに見つからないように見守っていた。白先生の元には
未だ商品が届かない。一人暮らしだから、不在時到着のビラが待ち遠しい。しかし、一人でオトナが公園のブランコに乗っている
なんてまるで昭和時代の映画のワンシーンを思い出すではないか。空は晴れているけれど、悲壮感さえ漂う。

 何日か芝生の上での練習を繰り返すうちに、コレッタはこつを掴んできた。そのうち硬い遊歩道の上でも滑れるようになってきた。

 「ヒカルくん!ちょっと滑れるようになったニャ!」

 しかし、コレッタの声が明るければ明るいほど、ヒカルは一抹の不安をぬぐい捨てることができなかった。

 (クロやミケの方がコレッタよりレベルを上げているんじゃなかろうか)

 嫌な予感ほど良く当たる。よちよちと滑るというより転がすと言った方が近いコレッタのスケーティングを横目に
クロとミケが風のように滑走していったのだ。コレッタと色違いの物を足に固めたクロの姿がコレッタの瞳を潤ませる。

 コレッタとヒカルが帰ったので、白先生も帰宅すると自宅マンションの扉に『不在時到着のお知らせ』のビラが挟まっているのを
発見した。白先生は思わずにやけながら目に留まらぬぐらいの携帯のキータッチで、担当ドライバーへ在宅してますの一報を伝えた。

 やった!遂に手に入れた!
 明日はローラーブレードデビューの日。とりあえず、体を休めるようと白先生は床に就いた。
 枕元には届いたばかりの通販の箱がそっと置かれていた。

    #

 両肘、両膝、手のひらにプロテクターを付けて、足元は新品のローラーブレード。多少値の張る大人用だ。
このくらいの贅沢は……。いかにも『かたちから入る素人』を絵に描いたような白先生の姿は、どう見てもへっぴり腰だった。
せっかくのローラーブレードデビュー。仕事が終わるのを待ちわびて、これから遊歩道の風になるんだと、白先生は息巻いていた。が。

 「どうした?コレッタ?何できょうは滑らないんだ」

 コレッタはローラーブレードを履いていなかった。

 「これじゃ、わたしがおばかさんみたいじゃないか!」
 
 白先生は立ち木にしがみつき爪を立てて、ずるずるとローラーで滑り行く体を必死に立て直そうとしていた。

666ババアとローラーブレード ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:33:20 ID:SqTnCTAA0
 ベンチにちょこんと座り、ミケやクロが気持ちよさそうに滑走している姿を眺めていたコレッタは、ペタン!ペタン!と、
尻尾を大きく上下に動かしてベンチを叩いていた。同じベンチには間を空けてヒカルが文庫本を読んでいる。ふと見上げると、
空にはうろこ雲で埋め尽くされて遠くまで続いていた。まるで氷漬けの水面を底から見上げているような色合いだったが、
ヒカルはコレッタに空のことでお話しするようなことはしなかった。コレッタをそっとして置きたかったからだ。
 コレッタの尻尾がヒカルの大きな尻尾を叩くので、ヒカルは気になって仕方がなかったが、コレッタをそっとしてあげたかった。
あまり応援しようとすると逆効果になるかもしれないと、ヒカルは悟ったからである。結局その日はコレッタは帰ってしまった。

    #

 悔しくて、悔しくて。
 コレッタはその晩、きょうは一度も履かなかったローラーブレードを両腕で抱きかかえ、自室のベッドの隅っこで
縮こまり、涙を溜めていた。ピカピカだったピンクのローラーブレードも、いつも間にやら細かい傷が増えていた。

 「もっと早く滑れるようになりたいニャ」

 惨めで、惨めで。
 白先生はその晩、きょう初めて履いたローラーブレードを両足にはめて、公園の遊歩道の隅っこでしりもちつきながら
涙を溜めていた。つや消しブラックの膝当ても、たった半日で細かい傷が増えていた。

 「コレッタに……教えてやるんだ。いてててて」

    #

 ヒカルとコレッタが公園に来始めてから一週間。
 コレッタはしっかりとローラーブレードを履いて公園のベンチに座っていた。

 「滑らないの?」
 「うん……ニャ」

 元気の無い会話をヒカルは続け、コレッタの前に立った。
 後ろ手を組んで、俯き加減のコレッタをじっと見つめているとヒカルの背後からねこじゃらしがゆっくり顔を出してきた。
気づかれないように、気づかれないように……かっちえりと固めた脚をぶらぶらとさせているコレッタはヒカルに胸のうちを開ける。

 「コレッタね。きのうのよる一人で考えてたんだニャ。ミケやクロに追い抜かされてくやしいニャって。でもお母さんが
  『コレッタちゃんのできることだけやればいいのよ』って言うから、きょうは履いてみたニャね」

 ヒカルはコレッタの話を聞きながら、ゆっくり後ろ手でねこじゃらしをコレッタに見えるよう、見つからぬよう傾けた。

 「かけっこも逆上がりもコレッタは苦手だから、ちゃんとすべれるかわからなかったニャ。でも、ヒカルくんといっしょだから
  コレッタもすべれるようになったニャ。なのに……きょうはいまいち……ニャ?」

 コレッタがヒカルの背後から覗いていたねこじゃらしに気づくと不思議と一瞬で消えた。きょとんとするコレッタは目を丸くする。

 「なんだろう。一瞬ねこじゃらしが見えたような……。でね」

 ヒカルはコレッタの話を聞きながら、再びゆっくり後ろ手でねこじゃらしをコレッタに見えるよう、見つからぬよう傾けた。

 「ヒカルくんがおうえんしてくるから……ニャ?!」
 
 コレッタがヒカルの背後から覗いていたねこじゃらしに気づくとまたもや不思議と一瞬で消えた。コレッタは爪を見せ隠し。
 ヒカルが尻尾のようにねこじゃらしをぴくぴく背後で動かしているうちに、コレッタはおもわず飛びついてしまった。
まだ、滑ることが出来なかった頃のコレッタがヒカルの尻尾に飛びついたときの再現のように。

667ババアとローラーブレード ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:33:51 ID:SqTnCTAA0
 「滑れるね、うん」
 「うん……。滑れるニャ」
 「よしっ」

 たった一言ヒカルがかけた言葉がコレッタには救いになった。

 コレッタとローラーブレードを滑りたい一身の白先生はというと、その日も公園にやって来ていた。
しかし、無様な格好を晒すぐらいなら一人で練習してみせると、自分にはっぱをかけて何度も転んで起き上がっていた。
 
 「わたしはコレッタの王子さまに……なるんだっ」
 

 とあるお城にコレッタというお姫さまがいました。
 お姫さまはローラーブレードが滑れなくて困っていました。
 そこに現れたのは白王子、白馬に跨りマントを翻し駆けつけて来たのです……が。
  
 「きもちいいニャ!」
 
 お姫さまの背中から真っ白い羽根が生えて、青い空を飛び回っているではありませんか。
 王子さまを見下ろしながら、お姫さまはどこかへと飛んでいってしまいました。

 めでたし、めでたし。
 

 風のように滑ってゆくコレッタと側を歩くヒカルは、行く先に白先生がローラーブレードで滑っているのを目撃した。
 滑るというより、しゃがんだまま両手と尻尾でバランスを取りながら、白先生はローラーブレードを乗せられてころころとやって来た。
それ以前に体中が痛いらしい。三十路の手習いの厳しさを身をもって知った白先生に近づくのは、今は危険。コレッタは
くるりと長い金色の髪をなびかせてUターンを白先生に見せ付けた。遠くで誰も乗っていないブランコが揺れている。

 「白先生……」
 「い、いいや!違うんだ、犬上。ホントは上手く滑れるんだ!ちょっと立てなくなっただけだ!久しぶりだから……」

 傷だらけのローラーブレードとプロテクターの割には、ちょっと新しくも見える。ヒカルは敢えてスルーした。
 後姿で振り返るコレッタは尻尾でバランスを上手く取りながら、白先生へ微笑みの激励を贈る。 

 「興味ないって言ってたのに……やっぱり白先生も滑りたかったニャね!コレッタがすべり方を教えてあげるニャ!」

 白先生はにこりと笑うコレッタを及び腰のまま、見上げるだけだった。


   おしまい。

668わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:35:19 ID:SqTnCTAA0
かわいいババア大好きだ!投下おしまい!

669名無しさん@避難中:2011/10/08(土) 05:25:00 ID:COhxFUPg0
かわいいババァとな

670名無しさん@避難中:2011/10/10(月) 03:27:21 ID:6G8mOgM6O
ババアの年齢でローラーブレードは厳しいなw

671名無しさん@避難中:2011/10/12(水) 22:57:27 ID:K9lk6qEw0
ババァとローラーブレードを滑れる権利。
何万でも積んでも買う!   え?

672名無しさん@避難中:2011/12/29(木) 01:49:22 ID:nt/mxIAwC
age

673名無しさん@避難中:2012/02/23(木) 23:36:49 ID:UJJp59ys0
ちこくですが。ぬこぽ
http://loda.jp/mitemite/?id=2822.png

674名無しさん@避難中:2012/02/24(金) 00:01:38 ID:0.6OOYz.0
にゃっ

可愛い!

675名無しさん@避難中:2012/02/26(日) 14:42:40 ID:.yk3YoV2O
ケモ小トリオかわええええ
撫でくりまわしたい

676名無しさん@避難中:2012/02/26(日) 16:29:16 ID:RIK3zB5w0
かわええ…!

677わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:12:27 ID:NPwG9r.Y0
原案:a氏。

678言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:13:16 ID:NPwG9r.Y0

 例えば、勇者が姫を救うとしよう。

 薄暗い牢に幽閉されて、自由の翼をもがれた若い姫。輝くブロンドの髪も時間と孤独でくすみ、白い肌も煤けてしまった。
 姫の命は邪悪なるドラゴンの手の平。ヤツが牙を剥けば姫の命は吹き消され、勇者がヤツに剣を薙げば姫の命は吹き返す。

 しかし、運命は数奇なもの。ドラゴンの正体が勇者が幼い頃から恋焦がれた、初恋の人だったらどうするか。
それは、永遠の憧れ。どんな山奥、海底に挑んでも見つけることの出来ないような、大事な大事な勇者だけへのかけがえのない想い。

 勇者は悩む。
 勇者とて悩む。

 悩みの無い者なんぞ、信用など出来ぬ。

 三十路の独身写真家、淺川・トランジット・シャルヒャーという男は、この勇者の気持ちが十分に理解できるはずだ。

     #

 「女の子にごちそうするのは楽しいでしょう。ね」
 「だから、おれが決めた人は、杉本さんだけだからな」
 「だーれ?」
 「おれがこの街でお世話になってるバイク屋さんの娘。プロフェッショナルなんだぜ」

 成り行きとはいえ、ハルコを部屋に上げた時点で間違いの始まりだったかもしれない。
 そんな男を尻目にハルコは、淺川が買い溜めしていた缶ビールを心底美味しそうに飲み干す。

 誰が呼んだか、小悪魔ハルコ。

 「女子の仕事は男子を困らせること。男子の仕事は女子を楽しませること……なんてね」

 ハルコの酔いが大分深くなってきた。不肖・淺川も一介の男子、小娘のほしいままにされたくはない。おれにはミナさんが
いるではないか。一目惚れも腐れ縁も、結局は同じなのだろうか。たまたま、ミナとの出会いが一目惚れだっただけし。
そして、まだまだ長い一方通行を通り抜けてないだけ。淺川もただの男子じゃないか……と、ビールを一口。
 虚ろな瞳を潤ませたハルコは、淺川の缶を引ったくり、コンと自分の缶と並べて置いた。奥のつまみを取ろうとハルコが手を
伸ばすと、不注意に缶を倒してしまった。淺川はぶつぶつと大量のティッシュでビール塗れのテーブルを拭くが、何枚も使ううちに
とうとう紙切れになってしまった。慌てることの無いハルコは丸くなったティッシュの束を掴む淺川の指先をじっと見ていた。

 「トランジット。爪が伸びてるねえ」
 「切る暇が無いんだよ」
 「今すぐ、切る?」
 「夜爪はやめとく」
 「インターネットの時代に迷信ですかあ?口笛吹こうかなあ?」
 「おいこらやめろ」

 夜は更けて、朝が参る。

 付き合っているという訳ではないが、他人という訳でもない。
 見知らぬ娘だという訳ではないが、そんなに深くは知っていない。
 振り回されてはいないけど、突き放すつもりはない。

 誰かと誰かがいつの間にかに互いに関わって、街を育て、地球を回す。
 それを思えば、ちょっとしたきっかけで出会ったハルコとの関係は、不思議ではないじゃないか。

 そして、一晩。色気ない夜空を共有してしまった。ティッシュの箱は淺川が使って空のまま、部屋で静かに腰を下ろす。

679言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:13:54 ID:NPwG9r.Y0

 ハルコという娘は淺川からすれば飼い猫に近い。人懐こい猫だ。にゃーにゃーと猫撫で声で三十路男をたぶらかすハルコは、
淺川のキッチンの冷蔵庫を勝手に開けて、じっと中腰で眺めていた。ひんやりとした冷気が逃げてゆく姿をみすみす許す。
 ただし、温まって困るものはなし。両者ねぼけまなこで、誰しもが過ごす夜を忘れようとしていた。

 「ろくなものがありません」
 「久し振りにここに帰ってきたばかりだからな。ってか、勝手に開けんな」
 「ホントにろくなものがありませんね」
 「お前のせいでもあるけどな」
 「トランジットと飲んだビール、わたしには苦い思い出になるのでしょうか。トランジットと食べたキュウリの鷹の爪炒め、
  わたしには辛い過去として刻まれてしまうのでしょうか。オトナになるって、心がずきずきします」

 ぱたりと軽い冷蔵庫の扉を閉めると、ハルコの顔は暗く陰になった。明るい髪のハルコには似合わない暗さだった。

 「お腹が減りました」
 「口減らず」

 とにかく朝を迎えてしまった。開いたビールの缶の中、何度も何度も水道ですすぎ続ける淺川も腹の中だけはハルコと同じだ。
 ひとつ、またひとつ缶をすすぎ続け、水をきる。缶を台に置く音は独り者の淺川には聞き慣れたもの。ただ、水がシンクを打つ音は、
いつまでたっても寂しさを演出するものだと、淺川は耳を塞ぎたくなった。ハルコのわがままのほかに耳にしたく無いものがあるとは。
 減らず口の娘が大人しくなったと淺川が振り向くと、ハルコはストッキングを履き始めていた。開けたばかりの黒いストッキングは
すらりとなまめかしい脚線美を淺川の部屋に描き、ハルコを少しずつ娘から女に塗りかえてゆく。

 「モーニング、行こうよ」

 最近淺川の自宅近くに出来た喫茶店。名古屋方式のモーニングセットが自慢だとか。分厚いトーストと小倉餡が合うらしい。
値段のわりのサービス振りが人気を呼んでいるらしい。ハルコの琴線に触ったのか、やたらとそこに行きたがる。

 「あ……。ハルコ。悪りい、来客?」
 「うそばっか」

 踵を返した淺川は、ハルコをリビングに置き去りにして、玄関を飛び出した。頬を膨らませながら
ハルコはともに一夜を過ごしたハンドバッグをひょいと拾うと、ぶっきらぼうにぶらぶらと揺らしていた。

 淺川は来客者のいない玄関にて、バイク屋の娘・杉本ミナと通話していた。
ミナからの着信はいきなりだ。だから女の子は……、と深いため息。寸分の隙をハルコに嗅ぎ取られたくはない。
 決してやましいことはないはずだけど、淺川のミナへの想いをハルコに掻き乱されたくはないから。
 ミナからの話は「頼まれていたバイクのタイヤ交換が終わった」という、実に事務的なもの。
淺川には彩りが乏しいと見えたのか、色彩あふれるトークの花畑へとミナを誘った。淺川はそういう男。

 「いやあ。この街に帰ってから初めて電話をよこしてくれた子が杉本さんだとは嬉しい限り!」
 「うそばっかり」
 「いやいや!淺川の口にはそれは似合わぬ!それにこの街に帰ってきたのは、杉本さんに会うためって言っても過言ではありませぬぞ」
 「お変わりなく、安心しました」
 「それはそうと、今度春の陽気に誘われたことを言い訳にツーリングにでも……」
 「はいはい。考えとくね」
 
 台所でハルコが携帯を弄る姿が暖簾越しにシルエットとなる。
 気付かれないように玄関の扉を開けて、こっそり履き潰しかけた靴に足を入れ、マンションの廊下で通話を続ける。

680言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:14:26 ID:NPwG9r.Y0

 「夕方、店まで取りに行く」と淺川がぼそぼそ声でミナに断りを入れて電話を切った。リビングに戻るとで淺川を待つハルコは
自分の髪を消えたテレビに映しながら弄っていた。従者に待たされたわがまま姫はひとつあくびをした。

 「お客さんは?」

 淺川にハルコは上目遣いで絡んでくる。淺川はぶっきらぼうに「マンションの自治会。うるさくて返した」と、とぼけ返して、
再び途中やめのビールの缶洗いを始めた。水道の水がシンクを叩く音が二人を邪魔する。 

 「トランジットくん、教えてあげよっか……新しい街のこと」
 「生意気に」

 しばらくこの街を離れていた淺川は、久し振りに街と顔をあわせることにした。ビールの缶を洗い終えると、ハルコも
同時に出掛ける支度を終えていた。短いパンツからすらりと若い足が伸び、店じまい間近いダウンジャケットを羽織るハルコは、
朝の景色には何故か眩しい。一介の男子、女子のお願いはとりあえず叶えることに。

 「淺川くんのバイクで行かない?ニケツしたいな」
 「おれのバイクは今、修理に出してるし」

 外に出られる程度の身支度をして、淺川は適当な返事を返した。適当な返事の罰か、午前の光が目に厳しかった。

 ハルコはハルコでピカピカのハンドバッグ片手でブーツの踵を鳴らし、淺川は淺川で財布を擦り切れたGパンのポケットに
突っ込んだだけのお気楽スタイルでスニーカーで後を追う。ハルコのバッグは自分自身のバイト代で手に入れた、最近流行りの
ブランド物。ハルコの手には正直眩しすぎる。揃ってマンションの玄関を潜る休日の午前の光。

     #

 ばかでかいバイクをトラックの荷台に乗せる手間が省けたと、ミナはにやにやと淺川の愛車に腰掛けて缶コーヒーを飲んでいた。
 淺川のバイクはでかい。排気量だって、並の乗用車程だ。ミナにはさすがに扱えないが、こんな城のような黒馬に跨がるだけでも、
淺川と同じ気持ちを感じることができるじゃないかと気をよくしていた。
 残ったコーヒーを一気に飲み干すとミナはバイクからぴょこんと飛び降りた。たった数センチでも空を飛んだ気分。
空を飛ぶこと、バイクで道を駆け抜けることはなんだか似ている感じがミナをちょっとくすぐった。
 真新しいタイヤを履いた淺川のバイクはガレージの中で休みながら、今か今かと外を走るときを待っていた。
まるで、新しい靴を買ってもらったこどものように。

 「そういえば、学校で新しい靴を履いてきた子って、必ず誰かから靴を踏まれてたよねー」

 にやりと歯を見せたミナは、つま先が擦り切れたエンジニアブーツで、泥さえ付いてもいない前輪のタイヤをぽんと蹴った。

 ミナの家はバイク屋だ。だから店先は油の匂いがする。お年頃の女の子が飛び込むには、ちょっと不釣合いと思われるかもしれないが
それを物ともせずにすすんで油塗れになれるミナ。根っから店先に並んだ鉄の馬たちが好きなんだろう。
 この店を訪ねてきた少年は、そう思っていた。

 「どうする?お昼過ぎには終わると思うけど」 
 「それでは、お昼過ぎ頃伺います」

 修理が必要になった自転車をミナが店先で預かると、自転車の持ち主である少年は軽く会釈した。
 少年はトートバッグを肩に掛けると、重さでよろめきがかった。くすっとミナは白い歯を見せる。

 「重い?」

 ミナの問いかけに少年は頬を赤らめる。

 「本なんです。全部」
 「そりゃ、重いね」

681言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:14:55 ID:NPwG9r.Y0

 いくら本好きでも、持ち帰るのに閉口してしまう本の束。
 大分古い本だからか、ハードカバーのものばかり。バイク屋にいるはずなのに、何故か古書店へと迷い込んだような匂い。

 「こうして母から怒られるんです」
 「ヒカルくんが?」
 「父がです」

 あぶく銭が出来たので、馴染みの店に頼んで古本をたくさん取り寄せてもらった。だが、所用で受け取りに行けないので、
息子にそれを頼んだ。こどものような父親にヒカルは一肌脱いで、古本を受けとって自転車で帰宅していた途中のこと。

 「嫌なときにパンクしちゃったね」
 「自転車は直るから……。でも、父の無駄遣いの性格は治らないかも」

 ヒカルはミナに促されて店に並んだバイクに腰掛けると、タンクの上に本いっぱいのバッグを下ろした。
一冊取り出してページをめくる。時代を越えた独特の匂いが紙と紙との間からした。

 「そして、母に言い訳するんですよ。『ほら!ぼくの使ったお金で、誰かが潤うし』とか『お金を本に変えないと、
  他のことに使っちゃうし』とか。オトナのくせにコドモじゃないですか」

 ヒカルは本を大切そうに、また一ページめくる。
 ミナはもしかして、ヒカルのページを捲る癖は父親譲りなのではないのかと、余計な邪推をしていた。

 「何言っても母から『無駄遣いばっかりして、ウチを図書館にするつもり?』って怒られるだけなのに。杉本さん……」
 「ミナでいいよ!」
 「……ミナさん。どうして、すぐオトナは言い訳しちゃうんですか?」

 とある男子高校生の質問に、ミナはしばらく考えるふりをした。
 誰かと付き合ったことが無いわけでないから、何度かそんな状況に出会ったし、ヒカルの質問にも納得がいく。
デートの遅刻、分かりやすいウソ。そして、裏切られたときのこと……。いちいち丸く治めようとするからそうなるのだ。
だから……いっそ、壊してしまえ。分かりやすいじゃないの。ミナは少年の前では言葉にはしなかった。

 その代わり、「どうしてだろうね?」と、一言でヒカルの疑問をなだめた。

 昼過ぎに店に来ることを約束してヒカルが店を出ると、ミナは重そうにトートバッグを肩に掛ける少年を呼び止めた。

 「送ってこか?」
 「近いし、大丈夫ですよ」

 恐縮するヒカルは迷惑をかけたくないと、徒歩で帰宅することを選んだ。

 ヒカルが去った店内は、不思議と油の匂いが戻ってくる。
 バイク屋だから当たり前だけど、ヒカルがいたときは油の匂いを忘れていたような勘違い。
 ミナは思い出したかのように、ブーツのつま先が擦れているのに気付いた。

 だって、自分はバイク乗り。女の子したいけど、バイク乗りの性格がついつい、言い訳。

     #

 「お出かけ辞めましょう。ここにチョコがあるのを見つけました」

 玄関ではなく、何故かリビング。ハルコはお出かけ着のままチョコ粒のお菓子を手にして目を輝かせていた。
 甘いものさえあれば、それでいい。わがまま姫は従者を振り回すのがお仕事。タバコ箱大のお菓子はきれいにビニルに包まれたまま。
パッケージの鳥の絵が淺川が幼いころのときから変わらずに描かれている安定感。ハルコが箱を振ると中でチョコがぶつかる音が聞こえる。

 「ったく……。出ねーの?出んの?」
 「それより、これ頂戴」

 ややこしいことになるのは勘弁。淺川としてはこのまま外出して、うやむやにしながらハルコを家に帰し、ミナの元へとバイクを
引き取りに行きたい寸法だ。だが、自分が買ってきておいたとはいえハルコがトラップに引っかかってしまったのは、想定の範囲外。
 とりあえず、淺川はすんあんりとチョコのお菓子をハルコにあげることにした。

682言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:15:31 ID:NPwG9r.Y0

 「呑んだ後の甘いものは、デートの後のキスみたいなものだね」
 「さっさと食えよ」
 「いただきまっす」

 ビニルを破り、箱の小さな明け口を開けるところころとチョコの粒が転がる。手の平にニ、三個、茶色い球体が楕円を描く。
ひょいよ口に含み奥歯で甘みと苦味を噛み締めているハルコは今までと打って変わって大人しい。淺川にもお菓子を勧める。

 「おれはいいよ」
 「おいしいですけど」
 
 ハルコがダウンを羽織ったまま、ソファーに腰掛けてハンドバッグをクッションに投げると淺川は肩を落とした。

 「わたし、お昼からバイトがあるんだよね」
 「じゃあ、帰れよ」
 「腹が減ってはなんとやら」

 ぼりぼりとチョコを食べ続けるハルコはすらりと脚を真っ直ぐに伸ばした。足の指先が気持ちよさそうに反り返る。
 冷蔵庫から麦茶の容器を取り出した淺川は一人でコップに注いでいた。

 「食わざるもの、働くべからず」
 「なんだよ、それ。間違ってねーか?」

 ハルコは箱を持つ手を止めて目を見開いた。箱の明け口が鳥のくちばしのようにデザインされて、飛び出たその部分には
きらりと光るもの。ハルコの視線を奪ったのはソイツだ。

 「あたりです」
 「だからさ……。『働かざるもの、食うべからず』じゃね?普通」
 「だから、あたりです。トランジット。お出かけしましょう」
 「え?なんで?」
 「ですから『あたり』です。なんか……当たっちゃったみたいなの。これをもっていけば、もう一つお菓子がもらえるんだよねー」

 自慢するようにハルコは『あたり』の文字を淺川にかざすと、ソファーからすっと立ち上がりハンドバックを再び手にした。
 だから、わがまま姫は!
 麦茶を吹いてシャツを濡らしてしまう大失態。

 「わたし、先に出てるからねー。マンションの玄関で待ってる」

 姫のお出かけだ。従者は後を守るようについて行け。ほら、玄関のスチール製の扉が閉まる音がしたぞ。
 だが……。折角のシャツ、びしょびしょにしてしまい、淺川、しょんぼり。 

 明るく長い髪がガラス扉に映り、ぼんやりと浮かび上がる姿をハルコは結構気に入っていた。
 まもなくおさらばする早春の装い。手元のハンドバッグもぴかぴかに、足元のブーツもかっちりと。すらりと伸びた
黒ストッキングの脚は街の誰しも釘付けに出来る自信はあるんだよ、とハルコは頬を赤らめて明るい髪を気にしていた。
 ふと、一台のバイクが玄関先に止まる。ちょっと昔っぽいデザイン。跨がっているのは、ハルコより少し年上の女性。
ヘルメットを脱いでタンクの上に置くと、彼女は真っ先に髪の乱れを気にしていた。

683言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:16:05 ID:NPwG9r.Y0

 (確か、ここのマンションって淺川くん)

 ちょっと綺麗な玄関先で若い娘が立っているのは絵になるな……。ミナは名の知らぬ娘をじっと見ていた。

 彼女を呼び止めるようにマンションの中から飛び出してきた男の声は誰だ。バイクの女性は、思わずにんまりと頬を緩める。

 「ハルコ、待たせた!!」
 「ごちそうさまーっす。トランジット」

 シャツを着替えてジャケットを羽織った淺川は姫の待つマンションの玄関へと走った。
 無邪気に敬礼をするハルコの背後に杉本ミナを発見した淺川は、ミナの朝焼けにも似た笑顔が怖かった。

 人生に『モテ期』があるのなら、何かと引き換えにしなければならない。ただほど高いものは無いのだから。

     #

 「ちょうど、淺川くんとお話がしたかったんだよね」
 「さいですか……」
 「それに、わたしもこのお店に行ってみたかったんだよね」
 「はあ」
 「木目がきれいだよね」

 最近出来た喫茶店。
 名古屋方式のモーニングが自慢。
 安く、がっつりと朝食を頂ける喫茶店。分厚いトーストは気前良し、あっさり小倉餡は品が良し。
 古風なインテリアが客を落ち着いた空間へと惑わせる。

 ハルコもミナも行ってみたいというから、淺川はただそのお供をしただけだ。

 しかし、淺川にはここが陪審員が囲み、二人の怒れるケモノたちが牙を剥く法廷にしか思えなかった。

 「ハルコ、変なことしゃべるなよ」

 天井から吊り下げられた品のよい電灯をじっと見つめるハルコは、淺川の願い事を上の空にいるかのように聞いて片手を挙げた。
 気まずそうな顔をして、ウェイトレスが注文したモーニングを持ってくるので、淺川は「ありがとう」と彼女に小さく呟いた。
名札には『研修中』の言い訳じみた三文字が並ぶ。淺川はそんな世間を知らぬ若葉ちゃんにはめっぽう弱かったのだ。
 淺川の言動にミナは、出されたばかりのコーヒーを飲むふりをして抑えた。

 さて、お話はこれから。

 この場面をどう説明しようものか、どうやって乗り切ろうものか淺川は崖っぷち。
 
 勇者ならどうする。
 剣を振るのか。
 盾で身を固めるのか。

 血で体を汚す覚悟は出来ているのか。

 それとも……何もかもなぎ捨てて、ドラゴンにひれ伏すのか。

 果たして……淺川は勇者なのか。

 言葉。

 知恵。

 守るべきもの。

684言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:16:34 ID:NPwG9r.Y0

 そして、誰も傷つけたくないという思い。

 それが淺川を動かした。

 「見ていてあんまりかわいそうだったから、ぼくが手を差し延べただけでやましい気持ちなど一切ない!ほらほらほら!
  気持ちがぼくを駆り立てたんだ!だって、女の子一人きりで夜中を歩かせらんないし!そこに現れたのがおれだっつーの!
  小さい頃、見たり読んだりしていたヒーローだね!この世に生きとし生ける男子らに埋もれ密かに潜在するという
  『ぼくが救わなきゃ、この子泣いちゃうからなんとかしなきゃ』的な王子様的な指命を与えられて遂行していたんだけだし!
  英雄譚をぼくらは受け継いで行かなきゃならないんだと思うんだ!」
 「何も聞いてないのに」

 ハルコはコーヒーを口に含みながら、淺川の横で淺川の返事をふんふんと聞いていた。
 土壇場に追い詰められた演説を聞きながら、机に両肘付いて両方の人差し指をくるくると絡めながらミナは淺川に話をさせる隙を与える。

 「ミナさんをびっくりさせたのは、悪かったっす。でもでもでもでもでも、なんにもなかったんだからんですからね!
  いや、疑われしは罰せず、と言うし。言わなければ、おれを侮蔑の言葉でがんじがらめにしちゃっても構いませんし!」
 「そこまで言ってないよー」
 「なあ!なあ!ハルコ!何もなかったよな!頼む!何か言ってくれ!」

 コーヒーを飲みながらハルコは淺川の約束を守り続けた末に、コーヒーのカップを空にする自由奔放を絵にしたような子だ。
 淺川にはそれを許す余裕さえないのだというのだ。

 「言いたいことは終わりましたか」

 ミナはこどもに諭すような声で淺川に優しいパンチをお見舞い。重い一言に立ち上がる元気も出ないまま、非情のテンカウント。
 何故、言い訳などまくし立ててしまったんだ。もしかして、ありのまま、素直に話せば、それだけで済んだかもしれない。
 
 例えば、ちょっとえっちな本を買うのならば、人目を気にしてもじもじするよりも、爽やかにすっと一冊レジに差し出す。
 例えば、街で外国人に話し掛けられたならば、義務教育程度だけの英語力で答えるよりも、「ごめんなさい」と日本語で断る。
 肝心なときにミスチョイス。研修中のウェイトレスが「あのー。コーヒーのおかわりは……」などと、恐る恐る話し掛けてきたが、
淺川が今必要としているものは……時間を戻せる時計だよ、と頭を抱えていた。

 研修中のウェイトレスが開いたハルコのコーヒーカップを淺川の席から引くと、不器用にも床へと墜落させてしまった。
儚くも散る陶器の華。潔い散り際を淺川の目に焼き付けた。「申し訳ございません!」と若いウェイトレスは慌てて頭を下げていた。

 (いいから、早く片付けてくれよ……)

 そんな店の緊急事態にも関わらず、マイペースなハルコはバイトがあるからと淺川とミナのもとから去ってしまった。
 「マイペース過ぎ!」という突っ込みなど尻目に、そして、もちろん「ごちそうーっす」の敬礼付きで。

 散った陶器を片付けた研修中のウェイトレスは店長の目の前で震えながら、何かをしゃべり続けていた。身振り手振り、明らかに
動揺している。彼女がしゃべればしゃべる程、事態は大きくなっているかのように見えるのだが。店長は客前だからと、彼女と共に
スタッフオンリーな店内奥へと姿を消した。まわりの客がざわつくことで、彼女にとって恥ずかしめの矢が突き刺さり続けた。

685言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:17:25 ID:NPwG9r.Y0

 (どうして、みんな言い訳するんだろう。このおれにも分からない)

 さっきまでの自分を見るようで、淺川はお茶を楽しむ余裕なく、そして刻々と時間が過ぎてゆくことに奥歯を噛み締めていた。
それを察したのかどうかは分からないが、ミナが淺川の前に立ち申し訳なさそうな顔をする。 

 「ごめんね。午後までに済ませなきゃいけない仕事があるから、お先に失礼するね」
 「あいー。杉本さんもプロフェッショナルですからね」
 「何言ってるの?写真家・淺川くんもだよ。コーヒー、ごちそうさまーっす」

 ハルコを真似てミナは全く同じ敬礼をしていた。

 勇者、ここに散る。
 剣も折れ、援軍も来ず。そして、その名を継ぐ語り部もおらず。

 一人席に取り残された淺川は、残された自分のコーヒーに口をつけた。舌を焼くような……でもない温度。

 「コーヒーよ。お前も杉本さんのように冷えきってしまったのかよ……」

 ただ、どうしようもないときこそ光差す。
 淺川のテーブルにはハルコが出掛けに食べていたチョコの空箱がわざとらしく置かれていた。

     #

 淺川を置いていった喫茶店からの帰り道、バイクが風きる音がいくらか澄んで聞こえた。
 いつも通り慣れた道なのに、ミナは不思議に感じずにいられなかった。
 今頃、地球のどこかで言い訳説明会が開かれているんだ、きっと。古本を大量に買い込んだ言い訳説明会とか……。

 どっちに転ぶか分かりきっているのにね、と記憶を掻き消すようにバイクのエンジンを吹かした。

 「そうだ。淺川くんに誘われたツーリング。計画早く立てなきゃね……」

 赤信号でバイクを止める。風を失った車体は当たり前だがミナの足で支えられた。ふと、ミナにはまくし立てていたときの淺川の姿と、
自分が跨がっているバイクが重なって見えた。

     #

 いくら約束とはいえ、自分のバイクを引き取りに行くのがちょっと怖かった。
 淺川が夕方にミナの店にやってきたときには、一人っきりの自由さと寂しさが一気にはちきれそうだった。
 ここまでの足取りがどんなに遠かったことか。下りエスカレーターを逆に登りで歩くような感覚に近い。

686言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:17:58 ID:NPwG9r.Y0

 「来たね。淺川くん」
 「来ました。では……」

 ぶらぶらと灰色のヘルメットを片手にぶら下げて、まだまだ明るい夕方に光を受ける淺川。引き取りに来るのを待っている
何台かのバイクや自転車がガレージで休む。バイクだけ引き取って家に帰ろうとすると、ミナは引き止めようとしてポンと肩を叩く。

 驚いたのは淺川の方だった。

 「ねえ。あの子」
 「ハルコのことですか。もう……いいんですよ」
 「あの子、かわいいね」
 「そうですか」
 「ホントに昨日の晩のあの子と淺川くん、何にも無い関係だったんだから……あの子を優しくしてあげてね」

 何にも無い関係?何故にその言葉を。
 ガレージからバイクを押して出して、跨りながら淺川はミナの方へと振り返ると、ミナは淺川のバイクのタイヤを蹴っていた。
 灰色のヘルメットを被り、皮製のグローブをはめようとしたときと合わせるようにミナは言葉を続けた。

 「だって、淺川くん。爪切ってないじゃないの。ね」

 指先を見る。昨晩ハルコに指摘されたように、爪が伸びっぱなしだった。確かに、伸びっぱなしの爪では……。ないな。
 夜爪をしなくて……、救われた。のかと、淺川はグローブをはめて指先を隠し、エンジンをかけた。
 久し振りに聞く相棒の快音は腹から痺れるように効く。スロットルを回すごとに、重低音が響き渡る瞬間が淺川は好きだ。
 
 「ごめんなさい!遅くなりました!」

 二人に割って飛び込んできたの少年が息を切らしてミナの元へとやって来た。
 午前中、パンク修理を依頼していたヒカルだった。申し訳なさそうな顔をして、何度も何度も頭を下げるヒカルをミナはなだめていた。
ミナは「そのくらい、いいよ。保管料はサービスだから」と春一番のように笑顔を見せた。

 「あのー。えっと……父が買ってきた古本を読んでたら、つい……止まらなく……」
 「こらっ」

 ミナは子供のように、にこにことヒカルの足をブーツで意地悪く踏んだ。ヒカルは驚いていたが、淺川には懐かしいものを
見たようでにんまりと頬が緩んでしまい、二人のためにエンジンの音を緩めた。ヒカルの靴は真新しかったのだ。

 「まあまあ。少年よ、これで堪忍な。おれも男子だからさ……何となく分かるって」

 ただ同然で手に入れたチョコのお菓子の小箱を淺川はヒカルに投げ渡した。


    おしまい。

687わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:18:36 ID:NPwG9r.Y0
投下おしまいです。

688名無しさん@避難中:2012/03/26(月) 13:20:38 ID:FZTmX/GQ0
>>687
投下乙です。ほっこりしました

689わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:44:09 ID:yj1R3LVs0
書きたかったから、書きました!

ちょっと前のネタだけど、どうして使いたかったーのだ。

元ネタ
http://www.felissimo.co.jp/kraso/v14/cfm/products_detail001.cfm?GCD=412333&GWK=79690

はじまるよ!

690ネコ足靴下 ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:44:50 ID:yj1R3LVs0

 「目上の人に靴下贈っちゃいけないんだよね」

 電車の中で向かいの席に腰掛ける女子高生の会話を小耳に挟んだ芹沢タスク、彼は肝を潰した。
 揃えられた脚を包む春の日差しを浴びた紺のハイソックスが並び、中学生であるタスクのウブな視線を掴んで離さない。
 はちきれそうな脚にぴったりと締め付ける紺ハイ。靴下との境目からはみ出るふくらはぎがタスクの青い妄想を掻き立てて、
一人もやもやとありもしない『優しい年上のお姉さん』を作りたてていた。現実なんか、クソ食らえ……と。短い電停までの
長く感じた時間が、タスクの座るシートにいばらが伸びて尻尾、脚、そして首筋をゆっくり包み込むように思えた。

 この間、姉とすったもんだの喧嘩をした。原因は言いたくない。あまりにもくだらな過ぎるからだ。口にするのも憚るものだ。
それ以降、姉と口をきくことはなくなった。もちろんタスクとして、姉との最後の言葉を「姉ちゃんの大根脚!」になんてしたくない。
 だから仲直りの印しに、姉が欲しがっていた物を買ってきた。

 忘れもしない、あの日。「まじ?ヤバすぎ!」と、姉が息巻きながら、とあるサイトをまじまじと閲覧していたのを思い出した。
 横からすっとのぞき見したときに、嗅ぎ慣れない新しいシャンプーの香りがしたのを思い出した、忘れもしない、あの日。

 「ちょーかわいくね?これ?」

 ふかふかな生地にトラ柄、そして足の裏にはネコの肉球がぷっくりとあしらえられている。
 『ネコ足靴下』はイヌの二人のハートを掴んだ。姉が座っているクッションから尻尾が伸びるように生え、
まるで噴水のようにゆらゆらと揺れるさまを横目で見ながらタスクは立ち去ったことを覚えていたからだ。
 意外とたやすく手に入れられたのはいいとして、渡すタイミングを案じていたときの出来事だった。

 「タスク。あんた、わたしより偉くなった?生涯の下僕がなにほざいてるの?」
 「知ってるよねー。そのくらい」
 「まじ、なの?」
 「蹴るよ」

 そして、姉の名の元に執行される、愛のムチ。
 弟。
 それは、姉のおもちゃでもあって。初めて出会う男子でもある。

 「って、言うか。アンタの贈り物」

 はっきりとタスクの耳には脳内再生され、モエの氷よりも冷たい言の葉が鼓膜をえぐった。
 買ったばかりのファンシーなネコ足靴下、それが入った袋をを中学生男子特有のかすれ具合よろしい通学バックにいれたまま、
タスクを知らず知らずにぐさりと突き刺した女子高生とともに人が多い電停で降りて深呼吸した。空気が美味しい。

 「どうしよっかな。女の子用だし、見つかったら……めんどーくさー!」

 多分「なにっ?彼女?会わせなさい!会わせないとひどいぞ」と自分の首を真綿で絞めることになるのは分かりきっている。
ふと、考え事をしながらリアル世界上の空で歩道を歩いていると赤信号に捕まった。すんの所で気が付いて歩道の端で
立ち止まっていると、向かいの歩道に一人の少女がランドセルの中を焦るようにまさぐっている姿を見た。
 それだけなら気にはしない。少女の面影が、何となく姉を思い出させるのだった。目の前を通り過ぎる車でたびたび遮られて、
よく見えないのがもどかしい。落ち着かないタスクはズボンのポケットに手を入れて家の合い鍵を確認した。
 イヌのキーホルダー。姉が見立ててくれたものだ。

691ネコ足靴下 ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:45:23 ID:yj1R3LVs0

 姉のベージュのカーディガン姿は見慣れたもの。短いスカートから伸びる脚は大根ではなく、小学生らしい華奢なもの。
これからこの脚もむちむちとした大根へと成長するのか、そして弟がいれば他にもならない強力な武器となるのか、と思うと
いっそう姉に見えてきた。信号が変わり、横断歩道を渡り、ランドセルをまさぐる少女の側を横切ると後方から聞き覚えのある声が
追い掛けてきた。

 「タスク!わたしの『さくさくぱんだ』たべたね!」

 え?ぼくの名前?

 身におぼえのない濡れ衣に袖を通しながら振り向くと、姉のような少女がランドセルを揺らしながら追い掛けてきた。
 両腕を振って人を縫うように走る。足音と少女の声で周りの物音が掻き消された。

 「え?なに?なに?」
 「わたしの『さくさくぱんだ』を返せ!」

 訳の分からぬまま街を追い掛けられて、息を切らしてなんとか巻いて、自宅に着くと合い鍵が見つからない。
 両親は今、外出している。焦れば焦るほど探し物は姿をくらまし、タスクを嫌でも追い詰める。駄目元でドアノブを回すと……。

 「開いた?」

 なんだ、姉が先に帰っていたのかと納得しようとするも、姉の靴が見当たらない。ただあるのは小さな子供靴だった。
 不思議に思いつつ、鍵をかけ忘れるなんてなんて親だと頭の中で毒づきながら居間に足を入れると。

 「かぎまで落として、バカ兄貴!」の声とともに、横断歩道の少女がソファーの上に魔王のように立ち、真っ赤なランドセルを
鎖鎌のように振りかざしてきた。咄嗟に身を縮めたタスクの脇腹を的確にランドセルはとらえ、悶絶のご褒美が進呈された。
 ソファーに顔を埋めて苦悶するタスクの頭に少女は飛び乗る。後頭部は生暖かな体温でタスクを支配していた。

 「近道ルートはいくらでもしってるんだから。小学生の下校スキル、マジヤバだしー」
 「単語の意味、わかんない。習ってないし、辞書載ってないし。ってか。きみ、誰?」

 足をじたばたとさせながらタスクは頭の上の少女に尋ねると、当たり前のような口調で返された。

 「タスクはかわいい妹からそんなにおしおきされたいんだね」

 ひらがなの台詞回しがタスクを精神的な屈辱感を与えた。それに妹なんて知らん!し。
 ようやく姉(に似た妹と名乗る少女)から解放されると、カーペットに転がっているランドセルを拾い上げ、
ぱんぱんと優しくイヌの毛を掃っている姿が見えた。

 (なんか、見覚えがあるんだけどなあ……)

692ネコ足靴下 ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:45:49 ID:yj1R3LVs0

 タスクは不思議な思いを巡らせながら自分の部屋へ入って制服から着替えた。

 目の前のものから現実逃避を試みようと友人から借りたマンガを読み出す。しかし、頭が回らないから入らない。
やがてマンガにも飽きて読むのをやめてうつ伏せに布団に沈む。自然と腰が疼き尻尾が動きに合わせて前後に動く。
 頭で考えても答えなんか出ない。そんなときゃ、体動かせ。誰の言葉か知らないけれど、タスクはベッドに転がって
友人から借りたマンガを読むよりも、外の空気を吸うことを選んだ。

 自分の部屋から出ると隣には確かに『モエの部屋』と小さな看板が添えられている。
 訝しい気持ちで居間を覗くと、制服姿の少女がソファーの上で丸くなって居眠りをしていた。カーペットに伏した
ランドセルの上にはタスクが無くしたと思っていた合い鍵が乗っており、拾い上げてポケットへと無造作に入れた。

 「姉ちゃんの、大根。大根脚……って、また言いたいな」

 イヌのキーホルダーが付いていたから……間違えはないんだよ、と。

 「タスク……ケーキ、買ってきてよお。コンビニすいーつってやつ」

 少女の寝言にびくっとタスクは肝を冷やした。

     #

 「解せない!解せない!解せない!」

 呪文のように唱えながらタスクは街に出たけども、面白くないぐらい変化が無いことに少し苛立ちを感じた。
 自分がこの世界からつまはじきされたのかと、後ろ向きな思考がタスクの尻尾を引っ張る。だが、絶望は希望にも変わることは
世の常だ。姉の友人二人組がオープンカフェでカフェオレを嗜んでいる姿を見つけたのだ。女神はいた。しかも二人。

 「あ、あの!」

 リボンを付けたネコとメガネのウサギの少女に話し掛けると、まるで自分のことを知らないような顔をされたことに不安を過ぎらせた。

 「因幡さんに……、ハルカさん」
 「なんでわたしたちの名前、知ってんの?」

 メガネの少女はタンブラーを机に置くと、ぱちくりと瞬きをしていた。一方、リボンのネコ少女はにこにこと笑っていた。

 「リオさぁ、もしかして。わたしたち、誘われてるとか?」
 「あの!ウチの姉……芹沢モエなんですが」
 「誰?その子?ハルカ、知らないよね。そんな子」

 タスクの胸をえぐったメガネのウサギの言葉。女子高生二人組はそれぞれカバンを持つと、ネコの子は優しく手を振って、
ウサギのメガネはこそこそと避けるようにその場を去っていった。「もしかして、リオ狙いだったり」「それ無い無い」と声がする。
 短めのスカート揺れる二人の後ろ姿はモエのことをいっそう募らせた。

 二人の女神は羽を散らしながら本屋へと入っていった。

693ネコ足靴下 ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:46:16 ID:yj1R3LVs0

 タスクはクラスの友人たちに電話をかけまくった。とにかく、姉のことをわずかでいいから知りたい。
知っている者に出会いたい。しかし、タスクがしていることは渓流でマグロを釣り上げようとしていることに等しかった。
笑われればいいじゃん。と……。覚悟。なんか、できるもんかと、必死に姉を探す。友人に連絡を取る。
 悲しいかな。「そういえばさ、この間貸したアレ返せ」と今は忘れていたい催促をさせる仕打ちを受けた。
 なんの手掛かりも掴めぬまま家路につく。夕暮れ近いそらがこんなに切なく見えるのは自分が大人に近付いたせいなのか。
 
 「仕方ない。って、諦められないよ。姉ちゃん」

 姉の電気アンマを思い出しながら、タスクはコンビニに立ち寄りチーズケーキを買った。
 コンビニの洋菓子は何故か美味いらしい。嘘か誠か、あまり縁のないジャンルだけに、タスクは不安を抱いた。

     # 

 帰り道途中の公園で姉に似た少女が制服姿で一人ブランコに乗っている姿を見た。
 近寄ると少女は逃げもせず、襲い掛かりもせず、ただブランコを細い脚で揺らしていた。

 「わたしをおいて、どこいってたの」
 「姉ちゃん、探しに」
 「いるわけないでしょ。タスクとわたし、ふたり兄妹だし」
 「それより、鍵かけたの?」

 少女は小さく頷いた。カーディガンのポケットから合い鍵のキーホルダーを覗かせて、ブランコに乗っかる。
 見ている姿はあどけない少女。
 公園で、情けなくなるまで遊んでおいで。
 と、言いかけたい。……ぐらい。と、間をおいたなんてちょっとね。と、タスクは笑う。

 「あのさ。おしてくんない?ブランコ」

 タスクは少女の背後に周り、小さな肩に手をかけると少女の脆さを実感した。がさっとコンビニの袋の中で音がする。
 優しく扱わなきゃ、大切にしなきゃ、と、ゆっくり背中を押すと少女の髪が揺れて、シャンプーの香りがした。

 (同じ香りだ……)

 「タスクにあやまんなきゃいけないの、わたし」

 少女は歳に見合わぬ大人しめな口調で話しはじめた。
 猪口才なと、タスクは感情を普段どおり押し込めた。

 「『さくさくぱんだ』のこと。ランドセルの中にかくしてたつもりだったけど、本当は入れ忘れていたの」

 しおらしい……というか、本当にどうでも良い話。
 タスクは揺らす力を弱めて、少女の話しに耳を傾けた。手にぶら下げたコンビニの袋も落ち着いて声を潜めている。

 「なんだろうな。タスク、タスクっていつも言ってるけど、こんな妹に一生つきあってくれること。まじ、ヤバいぐらいうれしいし」

 拙いくらい幼い声。危ういくらいの言葉使い。それに惹かれた訳ではないが、タスクはブランコをといきなり止めた。

 「モエ!行くぞ!」

694ネコ足靴下 ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:46:38 ID:yj1R3LVs0

 何かのスイッチが入ったようにタスクは少女をブランコから下ろすと、手を引いて家に向かって走った。
 少女は嫌がるどころか、むしろ幸せそうな顔をしてタスクの手を握っていた。

 今だに両親帰らぬ自宅に着くや否や、タスクは少女を居間のソファーに座らせて、しばし待つように命じた。
カーペットの上にはランドセルがそのまま沈黙を守る。しばらくすると、どたどたと足音立てながらタスクは
紙袋を携えて少女のもとに帰ってきた。テーブルの上には未開封の『さくさくぱんだ』の姿があった。

 「これ、受け取って下さい!っつか、受け取ってくれ!」
 「え?ってか、マジで受けるんですけど?」
 「いいから!受け取れ!」

 少女がタスクの紙袋を手にして封を開けると、一足のふわふわした靴下が顔を出した。
 トラ柄で足の底にはぷっくりとネコの肉球があしらえられている『ネコ足靴下』だった。

 「なにいいい?まじ、ヤバすぎない?」
 「……」
 「ねえ!ヤバくねえ?」

 無言は銀。雄弁はしらん、雄弁なんかそれ以下じゃい!
 言葉だけでは伝えられぬ、少女の瞳がびしびしとタスクに伝わった。初めてモエが『ネコ足靴下』を目にしたときと
同じ反応にタスクは安心した。やがて少女はタスクの反応を見て、おっとりと大人しくなった。

 「はいてみて、いい?」

 少女は履いていた靴下からネコ足靴下に履き変えるとソファーの上に立ち、モデルのようなポーズを決めてみた。
少しぶかぶかなのは当たり前。タスクは姉へと買ってきたのだから。ずり落ちた靴下は少女の足元を彩っていた。

 「なんだか、ルーソみたいで女子高生って感じ?」
 「う、うん。喜んでくれて嬉しいな、おれ……いや、兄ちゃんはね」
 「わたし、イヌなのににゃんこになったみたい。にゃー!にゃー!」

 ソファーの上を歩くと少女は靴下に付いた肉球の感触を楽しみながら、ちょっとしたネコ気分を味わっていた。

 幼い響きで「まじ、ネコキックすんよ。まじで」というセリフがタスクに向かって飛び出すのかどうかは
チーズケーキの味をモエが気に入るかどうか次第だった。


   おしまい。

695わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:48:06 ID:yj1R3LVs0
以上、芹沢定食でした。

696名無しさん@避難中:2012/04/28(土) 15:56:39 ID:0BU9huvw0
投下乙です

思わず読み返してから納得してしまったwww

697 ヘ ノ: ヘ ノ
ヘ ノ

698わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 23:37:08 ID:ktblaAvo0
ケモノのいない、ケモスレ。とか。
投下します。

699引っくるめて好きだし ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 23:38:03 ID:ktblaAvo0

 「わたしほど花が似合わない女の子なんていませんよ」と花屋の中で翔子が卑下するので、
花屋で働くルルは微笑み返しをするしかなかった。明るいショートカットの翔子は自分の男っぽさを自覚していたからだ。

 翔子はギターを背負ったまま学校からの帰り道、小さな花屋に立ち寄った。用があるから立ち寄った。始めは咲き誇る花々の園に
立ち入ることに躊躇いを感じたが、店内にいたルルの笑顔に引き寄せられるように足を踏み入れた。お互い同じ空気を感じたのか、
二人の間には『初対面』の壁は見られなかったし、花が二人を取り持っていたので翔子も気を置けなく話すことができた。

 働くルルは長い髪をシュシュでまとめ、あちこちと歩き回るたび店内に彩を添えていた。
 よく働く娘だ。本当によく働く。掃除に飾りつけ、レジの管理……。働くこと自体を楽しみに変えることは一種の才能だ。
仕事に勤しむ腕まくりをしたルルの二の腕は細く白い。水を扱う花屋でその腕を酷使しているようには見えなかった。
 繁忙のときが過ぎたので一休みついでにルルは来客者を弄ぶ。

 「お探しだよね」
 「はい。お世話になってる先生に贈り物として」
 「軽音楽部とか?」
 「んー。じゃないけど、そういうもんです」

 背中のギターが手掛かりに翔子の目的を見破ったルルは店員として上出来。黒いギターカバーからぶら下がる
ショッキングピンクが眩しいハート型のキーホルダーがワンポイントでルルの目をひいた。ルルの二の腕を翔子が見つめていると、
お返しばかりと翔子はルルのわずかなお時間拝借とばかり、尻尾を立てたネコのように擦り寄ってきた。

 「もしかして、お姉さん。ネコの人と付き合っている、もしくは一緒に住んでいる。とか」

 バラの束を抱えてルルは動きを止めた。そして、小さく頷きながら「そうよ」と、翔子の為に頬を赤らめてくれた。
 新聞紙が広げられた机の上にバラの花束を置くと、すたすたと洗面台へ向かい、白く艶やかな指先を石鹸で洗った。
翔子はルルの次なる言葉を期待していたが、ルルは玉となってルルの手の平を滑る水滴を掃うのに夢中だった。

 確かにわたしたちは『ケモノ』と暮らしている。昔から、その昔からのことだから疑問なんか感じなかった。
 しかし。翔子もルルも同じ、ケモ耳も尻尾も持たぬ人間同士、少しでも共通点さえあれば自然と口数増える。
ましてや、お互い女の子。だから、翔子はルルと些細なことであってもどうにかつながりたかったのだ。

 「痛っ……沁みたっ」
 「大丈夫ですか!お姉さん」
 「うん。大丈夫」

700引っくるめて好きだし ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 23:38:26 ID:ktblaAvo0

 片手を上げて顔を歪めるルルに翔子の方が驚いた。しばらく動きを止めて、平常心に戻ると再びルルは手を洗いはじめた。

 「それ、引っ掻き傷ですよね」
 「うん、分かるんだ」

 冷静な分析に対しても冷静に返すルルは、落ち着いた口調で一生の想い人のことを語った。

 「今日、朝ね。先生とケンカしちゃって。100対0で先生がいけないんだけど、お願い聞いてくれたから許しちゃった」
 「先生?」
 「あ。ウチの相方、先生してるからね。クセになっちゃった」

 タオルで手を拭きながら頬を染めたルルは翔子の目からはどの花よりも高値に見えた。
 ガラスケースに写り込む翔子の姿を見ていると、自分の良く言ってさばさば、悪く言ってがさつな性格が意志を持たない
透明な板にさえも見透かされてしまっているのではないのかと、何となく感じてしまった。

 「で、どんなお願いしたんですか」

 と、翔子の問いかけを無視するように、翔子の携帯が鳴った。
 恐縮して一言頭を下げて翔子は電話に出ると、くるりと踵を返した。背中のギターがルルの目の前に現れていた。

 「え?丈?何ーっ!貸しスタジオの予約忘れただと?てめぇ……、丈、ど……どんまい」

 声のトーンを落とし、会話を手短に終わらせて制服のポケットに押し込めるように携帯を仕舞った。背中のギターがやけに重く感じる。
もしかして、ガラスケースどころかルルにまで自分の隠していた女の子の牙を晒してしまったのではないのか。
 ゆっくりと翔子が振り返ると、ルルはエプロンを摘んで翔子だけへのエールを送っているように見えた。

 「お友達?」
 「みたいなもんです」
 「じゃあ、彼……」
 「違いますっ」

 ルルは翔子の慌てっぷりがおかしくて、おかしくて、くすりと声を出した。
 店内で騒ぎ立てたことを翔子は詫びてギターを担ぐ肩紐をぎゅうっと握り締めた。自分を諌めるため太ももをに抓るように。

 「わたし、見ての通りバンドやってるんです。今の電話、ベースの丈からなんですが。アイツ、図体がでかいオオカミのくせして
  大人しいし。なのに、わたしアイツに期待しちゃうんです。オオカミならもっと、さ、がおーって!しろって」
 「ふふっ。で、あなたがお世話焼いちゃうとか」
 「そんなんじゃないです!」

701引っくるめて好きだし ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 23:38:45 ID:ktblaAvo0
 机に並べられたバラの束。茎には小さな刺がちくちくと散りばめられていた。ルルは一茎つまみ上げて、くんくんと花の香りを
翔子の目の前で独り占めしてみた。こめかみに汗する翔子にルルが持っていたバラを一茎渡し、虎……いや、小ネコのように
両手に軽くこぶしを作り両腕を軽く上げてポーズを決めてみた。

 「女の子だって、牙むいちゃうぞ」
 「……」
 「わたしが先生にしたお願いごと。の仕返し」

 目を丸くして携帯をポケットに仕舞う翔子がルルには愛しすぎて、くるりとちょっと早めの向日葵のような顔をして

 「なんてね」
 「え?」
 「あなた、他人って思えない」

 と、ルルは付け加えた。

      #

 仕事を終えて帰宅するルルの足取りは雲の階段を登って行くような心地良さだった。半袖と長袖が入り混じる街、ルルは人間、
迷わず長袖。大分日が落ちたとはいえ、日差しはまだ強い。日に焼けることはちょっと、嫌かな、と。

 「先生にお願いごと!ここでキスしてよ」

 今朝、ルルが出掛けに掲げたお願いごと。
 先生は少し戸惑っていたが、目の前の若い芯の強い視線を見ていると、断ろうと言葉を選んでいるうちにルルの両腕は先生を囲み、
色つやのよい唇が先生のざらつく舌を挟んでいた。自宅だというのに先生は恥じらって、ルルの両腕を解き放つとルルの両手首を掴んだ。
微かになぞるネコの爪がルルの薄い肌に白い線をひいた。

 痛いかも。痛いかも。

 だけど、息が掛かるほどに近く、甘く、息苦しく。たった、くちびるを交わすだけなのに、相手のことが言葉無くても通じる不思議。
ルルは帆崎の舌に思うがままになじられて、牙を舌に這わして、そして仕返しされて。傷ついて。
 そんな下敷きあって、若い娘のちっぽけな言葉に説得力を増す。先生に爪とか、牙があってよかった……と。

 「そんなこと引っくるめて、好きだし」

      #

 「翔子ちゃん。分かるかな」
 「うーん。オトナって分かりません」

 庇った傷跡がルルの気持ちを確かなものにしていた。
   

   おしまい。

702わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 23:40:13 ID:ktblaAvo0
翔子もルルも動かしていて楽しいっす。

投下おしまい。

703名無しさん@避難中:2012/05/24(木) 00:37:22 ID:57Nw75H20
丈と翔子ってそういうあれなのか!
あれなのか!

704名無しさん@避難中:2012/05/25(金) 00:20:46 ID:QlzBzbaE0
丈「違うよ」
翔子「そんな訳ねえだろ!」
丈「『なんな訳』って…」
翔子「草食オオカミのどこがいいんだよ?っつーか、マジ無理」

丈(…だから、翔子は無理だって)

705名無しさん@避難中:2012/07/02(月) 19:47:46 ID:xjfUSUIw0
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3156068.jpg

706名無しさん@避難中:2012/07/02(月) 19:55:14 ID:CbJmL7LE0
うほっ

707名無しさん@避難中:2012/07/02(月) 23:31:10 ID:jHIyFUPU0
よくわからないけど和んだw

708名無しさん@避難中:2012/07/04(水) 01:43:00 ID:h6BcPc6gO
リオ耳だけwww

709わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:00:43 ID:DHj3On2.0
ちょっと季節は過ぎたけど、投下します。

710キツネとブルマと風紀委員長 ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:02:09 ID:DHj3On2.0

 逆光が差し込む踊り場、大人の色香漂うティーンエイジ。銀色の髪は落ち着いて、つんと伸びる尖った耳が迷いの森へと誘う。
 
 彼女はキツネ。ふっくらと焼きたてのパンに負けない柔らかさを匂い漂わせる尻尾が彼女が腰掛ける手摺りを伝わって
清流のように流れる。すらりと、そしてむっちりと伸びた若々しさを隠しきれないお御脚を組み直していると、背後から足音が、
聞こえてきた。下の階から誰かがやって来たようだが、キツネの娘は手摺りから下りようとはしなかった。上履きの音からして
同級生の生徒、そして男子だと判断した。

 「あっ……」

 キツネの耳は聞き逃すことが大嫌い。
 空気が僅かに揺れる程度の声さえ彼女に届き、次の一手を繰り出す楽しみを与えてしまう。

 彼女は制服のブラウスのボタンを一つ一つ外しはじめ、シルエットとして映えるようにわざと大きく孤を描くように脱いだ。
竜の如く天を昇るブラウスはやがて徳をえた仙人が地上に舞い降りるかのようにはらりと階段に落ちた。
 やって来た足音が少年のものだと睨んだ上の行動だ。実際、彼女がふんだどおり。少年がブラウスに気を取られて視線を再び
キツネの娘に戻すと、逆光の中に豊満な二つの胸が露となって横向きの姿としてしななかな曲線を学び舎の窓ガラスを銀幕にして
映し出していた。髪を掻き分けて脚を戻すと短いスカートのホックを外す。焦らすように腰から太もも、太ももから膝、膝から
ふくらはぎ、ふくらはぎから足。そして、つま先を潜る。

 娘が前屈みになると豊かな胸がはち切れるような太ももに挟まれる。こぼれ落ちそうな胸はほお張ったシュークリームから
はみ出るクリームを連想させた。またもキツネの娘はスカートを高く投げ捨てると、またも一度脚を組んで左手でこぼれそうな胸を
なぞっていた。手摺りは彼女に下敷きになりつつ息苦しそうに軋んでいた。

 軽い身のこなしで踊り場に降り立つと、散らしたスカートを拾い上げた。まだまだ高くなる夏の日差しが眩しくて、
キツネの娘・小野悠里のスク水姿は女性の柔らかさと少女のイノセントの双方を一目で言い表していた。

 「もうすぐ水泳の補習の時間ね。急がなくっちゃ」

 ブラウスと制服を小脇に抱えて悠里が階段を降りようと一段一段と歩く度に、熟した果実のような胸と吸い込まれそうな
尻尾を揺らしていた。キツネ色と紺色の配色艶やかな女神が青い空の元へと降り立つ。

 季節はもうすぐプールと別れを惜しむころ。


     #

711キツネとブルマと風紀委員長 ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:02:33 ID:DHj3On2.0

 「ルイカ、ごめんね。待たせて」
 「……今、いいとこなんだけど」
 「ごめん」

 生徒会室は涼しい。蒸し暑さ残る季節、この部屋で暇を持て余すことを正当化するにはもってこいの理由。生徒会の手伝いで
リオは男手を必要としていた。しかし、今日に限って誰も捕まらない。唯一助太刀に応じたルイカは本を読みながら語る。

 「どうせアイツら水泳の補習にすすんで出てんだろ。受けなくていいヤツもな」
 「どうして?」
 「知るか」

 リオは書類をめくりながらルイカを横目で睨んだ。
 書類廃棄の手伝いだ。どうしても男手が要る。今日じゃなくてもいいけど、早めに片付けたい。何故なら「お仕事もできる
気が利く子を演じてみたかった」から。先生に褒められたかったから。「やってみせます」と胸張った。暇そうだったからルイカを呼んだ。
だけども、男手とは言え、ルイカ一人だけなのでまだまだ心もとないから助っ人も根回しした。
 風紀委員の後輩が来ることになっているが、ただいま部活の真っ最中。なぎなた部に所属する大柄なミサミサが来てくれれば
十万馬力は確実だ。椅子に体操座りをしていたルイカがやきもきしているリオを無視してまた本をめくる。目は真剣だ。
 机の上には一台のビデオカメラがあった。風紀委員のかわいい後輩が「なぎなた部のかかり稽古で自身の姿を確かめたい」と日頃
呟いていたので、リオがこっそり風紀委員から持ってきた物だった。気の利く先輩だって褒められたかったから、こっそりと。
 カメラマン気取りでリオがレンズをルイカに向けるとしかめっ面で怒られた。

 「あ、あのさ。もうすぐしたらミサミサが来るから、そしたら作業を始めるね」
 
 ビデオカメラを目にしたミサミサが「先輩!ありがとうございます!」と凛々しい声で感謝するシーンをリオはよからぬ妄想していたが、
罰を与えるように次第にビデオカメラを持つ手が重くなってきた。随分と軽量化されたとは言え、メカの塊はまだまだ人には重く感じる。

 「……」
 「怒ってる?」
 「ん」
 「その本、生徒会のブログで紹介されてた本だよね」
 「……あっそ。知ってるけど」

 各委員会が生徒会のブログで個人的でも何でもいいから気になるものを紹介している。文章とか写真とか動画と駆使して
なんだか生徒会、マジ進んでるじゃーん?と、リオはブログの更新を楽しみにしていた。

 「図書委員のチョイス嫌いじゃないな。ちょっと、ヲタっぽい本だけど……それ、面白い?」

 ルイカは本を閉じて立ち上がり、まるで獲物にとどめを刺すが如くリオを見下ろした。

712キツネとブルマと風紀委員長 ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:02:55 ID:DHj3On2.0

 「つまんない!つまらな過ぎて続きが気になる!早く続きを読ませろ」
 「ごめん」

 『図書委員が紹介した』というのは偽りだ。リオが図書委員を言いくるめて、自分が気になる本を紹介したのだ。
 一般向けでもあり、ヲタ向けでもある本だから、いろんな人に読んで欲しい。だから図書委員の名前の後光を拝借した。
 本を紹介した主として、ルイカが読んでいる本の評価が非常に気になっていた。全力で、覚悟を決めて勧めた本だからこそ、
ルイカが夢中になって、夢の中に飛び込んで読んでいることにリオはヲタ冥利に尽きているところだった。そんなときに飛び込んだ、
ルイカの怒号だ。リオは体を小さくして痛みに耐えながら心の中で小さくガッツポーズを決めていた。
 
 外は快晴だった。篭って本を読むには最も相応しくない天気だろう。なのに、ルイカは本を読んでいた。耳を澄ませば、青いプールから
補習を受ける生徒たちの弾けるような歓声と水しぶきが聞こえてきそうだ。耳かっぽじいても、リオもルイカもそんな声お構いなし。
 
 「なあ。因幡」

 ルイカの声にリオは書類を整理する手を止めた。

 「おれ。見たんだけど」
 「何?」
 「階段で水着姿の女子を」

 目を赤くしたリオは息を飲んだ。

 「すんげー、なんっつーか。エロい体つきしててさあ、『お前、男を誘うしか能がねーの?』ってぐれえ」
 「誰?それ」
 「確か、小野ってヤツ。聞くけど、同じ女としてどう思う?」

 羨ましい!
 羨ましい!
 羨ましい!
 ちょっと、嫉妬。
 でも、羨ましい!

 真面目のまー子で通すリオは返答に困り、沈黙を続けていた。いっそ、正直になってしまうのうも手の内だけど、風紀委員長が許さない。
 妄想が!妄想が!悠里の水着姿の妄想がリオを悩ませていた。例えば、口に牛乳を含んだとしよう。その状態で悠里の水着姿をそっと
頭の中で想像しようか。ごっくんするもよし、抑えきれない興奮に耐えかねてだらりと口元を汚すもよし、相手目掛けてぶっかけるもよし。

713キツネとブルマと風紀委員長 ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:03:18 ID:DHj3On2.0

 「けしからんと思います!」
 
 言葉は選んだから、リオには後悔はない。
 するとリオの携帯がけたたましく鳴る。慌てているときに限って意地悪するなんて、携帯は意志を持っているのではなかろうか。
ビデオカメラを置いておぼつかない手を動かして受信すると、聞きなれた後輩の申し訳なさそうな声がずきずきと飛び込んできた。

 「もしもし、あ!ミサミサ?ええ?来れない?なぎなた部の練習で先輩に付き合わないといけないからって?ちょ、ちょっと!
  これだから真面目のまー子は!!ちょっとぐらいインチキできないの?ミサミサ!!……うえーん。ミサミサぁ」
 「おれ、帰る。拘束される理由なくなったし」
 「ちょ!ま、待ってよお!!ルイカー!二人でやろうよ!」

 目を吊り上げてルイカは本を手にして生徒会室の扉を開けた。リオの手には剣も盾もない。今日の作業は諦めなければならないと、
リオは机を蹴るとビデオカメラはぐらぐらと揺れる。壊しては風紀委員長生命一巻の終わりと脳内に電気が走り片手で奪い取る。

 「もう!ルイカー!かんばーっく!」

 廊下の先ではルイカが振り返えることなく生徒会室から去って行く姿……さえ見えなかった。
 わたし一人でやるの?やだやだ!先生に「やってみせます!」と胸張ったことを後悔しろとでも?やだやだ!

 ルイカを探せ!

 リオは校内手当たり次第に駆けた。夢中だったのでビデオカメラを手にしていることさえ忘れていた。
 あれだけ賑やかだったプールも静けさの水面を取り戻し、きらきらとさざなみを輝かせる鏡と姿を変えていた。
 秋の始まりの感傷に浸ることを惜しみ、リオは必至にルイカを探していたると、さっきまで手にしてた本を携えていたルイカを
ちらと見かけた。ニアミスだ。リオはルイカの名前を呼んだが、尖った耳には届かなかった。

 遠くから男子の歓声が聞こえてくる。くんくんと世の中の女子たちが尻尾を振ってきゅんとなるような性質の声ではないが、
一瞬の青い春を謳歌する声には憧れや回顧にも似た脆さを感じる。時の流れを否定する歓喜の声は切ない。
 男子の声が明るければ明るいほどリオは孤独の寂しさに苛まれていた。そんなにプールが楽しいか。

 「もうやだ……。メアド聞いときゃよかった」

 骨折り損のくたびれもうけというのかルイカはその後、姿を見せなかった。ルイカはこのあたりでも見かけない種族だ。
短刀のごとく尖った耳、けっして優しいと言えない目つき。一目見えれば忘れられないカルカラの少年だ。平凡なウサギは校内を駆ける。
 図書館、校庭、保健室、はたまた生徒会室か。そして、最後に辿り着いた静かなる和室にて、リオは諦めかけて折れそうになった心が
息吹き返すことに気付いた。いや、いろんな意味で。

714キツネとブルマと風紀委員長 ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:03:41 ID:DHj3On2.0

 (むはっ!悠里?)

 茶道部が使う和室は開いているときには誰でも入れる。だから、小野悠里は水泳の補習で疲れた体を休めていた。彼女の傍らには
上がったばかりなのだろうか、濡れて紺色が元よりも色濃くなったスク水が入った透明なバッグが淫らに投げ出されていた。
 風呂上り、ならぬプール上がりの悠里からは塩素と女子の香りが入り混じって、茶色な和室を桃色淫靡な空間に塗り替えている。
 畳の上で横になって、紺色のブルマからはみ出るキツネ色の太ももを剥き出しにして、出来たてのマシュマロのように柔らかな尻で
ブルマを丸く描かせて、ふかふかの尻尾は触りたくなる欲を掻きたたせざる得ないような禁断の誘惑を醸し出していた。
 余す所なく悠里の胸の曲線を露にする体操着から、むんむんと桃色の花びらが散って、胸のゼッケンの『小野』の文字が歪む。
 女の子の体は見ているうちに、不埒ながらも突付いてみたくなる。指で、指で、そして××で。揺らぐこともなくはちきれそうな
若い肢体が無防備にも畳の上で横になっている。しかも、禁断な制服のおまけつき。リオは鼻息を荒くして深呼吸をしていた。

 (うらやましいぜ!悠里たん!いや、悠里ねえさん!寝返ってくれ!正面を向いてくれ!)
 「あぅん」
 (え?マジで?ふんは!)

 唱え続ければ願いが叶う言霊が存在するかのように、ごろりと悠里は言葉どおり寝返った。
 背中で見えなかった二つの胸がはちきれそうなぐらい体操着越しに主張して、丸みを帯び熟れ始めた体でリオを誘った。
蕩けそうな二つの果実がうずうずと想像の世界にて見えそうで見えないもどかしさ。むしろ、そっちの方が萌えるんだと言いたげであった。
 知らず知らずのうちに、リオはABCの歌を口ずさんで右手でビデオカメラ持って指折り、左手で自分の胸に手を当てながら悠里の
ハニートラップの餌食になっていた。意味、違うかもしれないけれどこの際関係ない。

 「えっと……Eはないな。F?G?いやいやもしやHとか」

 アルファベットを数える度に、桃色の風船がだんだんと膨らんでゆく。
 リオが邪な妄想繰り広げているなか、悠里は夢の中でゆらゆらと尻尾を躍らせ、ブルマのゴムひもを指で弾いた。

 「あんっん」
 (ひんっ!)
 「火照っちゃう……」
 (……寝言だよね、寝言)
 
 悠里の甘くて、決して触れてはいけないリンゴの実がゆらゆらとリオの目の前で揺れていた。それと同じくしてリオの携帯も震えた。
発信主はミサミサだった。「今、終わりましたので馳せ参じます」との内容だった。美しい日本語にリオは心打たれ、状況を悔いた。
 そうだ。ルイカだ。ルイカはどこだ。わたしはルイカを探していたんだと、我に返ったリオは和室を後にしようと踵を返そうとした矢先。

715キツネとブルマと風紀委員長 ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:04:02 ID:DHj3On2.0

 「因幡、何してんだ?」

 背後から忍び寄る声。唾を吐き捨てるような軽蔑にも似た目線。リオが振り返ったときには既にルイカの顔は引き攣っていた。
ルイカの目線がリオの手元に向いていたことで、この場面をどうルイカに説明するかという困難に直面した。

 ビデオカメラ、持って来ちゃった……。

 リオが手にしている文明の利器は行き場は失われ、ただ風紀委員長を辱めに追いやる為だけの小道具に成り果てた。
 こっそり撮ってましただなんて言えません!むしろ、堂々と……。ウソです!この状態でどんな言い訳をしても、
怪しさの上塗りにしかならないし、どんな口の立つ弁護士でも陪審員の心情によって逆転無罪は勝ち取れないであろう。

 「風紀委員は生徒会のブログにけしからん動画でも載せる気なのか?」
 「違う!違うんだよお!ミサミサのところにこれを持って行こうとね!」

 ビデオカメラ片手に涙を目に浮かべるリオを置いて和室から去ろうとしていたルイカの手にはさっきまでの本は既になかった。
 尖った耳は決して優しくはないが、人が嫌いではない。一人ぼっちの女子の声をしかと受け止めて、そして足を止める。

 「因幡さ。それ、ミサミサ……ってやつに届けるんだろ?いつまでもガキみてーに泣いてるんじゃねえよ。先輩の示しが付くのかよ?」
 「……うん」
 「それにさ、小野が起きるだろ」
 
 音を立てないようにふすまを閉めると、悠里の寝姿が日差しに照らされシルエットとなって浮かび上がっていた。
影ながらに緩急のあるスタイルは健在。名残惜しそうにリオは悠里の影絵を見つめていた。

 「ったく、生徒会室戻ったらウマのデカ女が起立して待ってるし、本の続き借りようとしたら貸し出し中だし」
 「え?」

 同じ高校生なのに、どうしてルイカの背中が広く見えるのだろう。ルイカの不器用な声がほんのりとリオを包む。
 もう、泣かない。だって、こんなヤツからバカにされたくないから。

 「図書委員もあんな本紹介すんな!ほら、行くぞ!」
 「何?何なの!?」
 「ったく。気が利かねぇなあ!風紀委員長!」

 リオは小さな胸に誓いを立てるとニの腕を力強く引っ張る暖かさを感じた。塩素の香り残り流れゆく廊下を背景にルイカの背中を
見ながら、二人してミサミサの待つ生徒会室に向かっていることをリオはまだ知る由もなかった。

 ビデオカメラはもう重くない。


   おしまい。

716わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:04:58 ID:DHj3On2.0
悠里さんはいいものだ。
投下おしまい。

717名無しさん@避難中:2012/11/01(木) 01:02:33 ID:fr367Da60
ttp://dl10.getuploader.com/g/sousaku_2/84/furry519.jpg

718名無しさん@避難中:2012/11/01(木) 06:04:16 ID:yh3vIHew0
かぼちゃ

719名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 01:40:00 ID:BbpTgDys0
規制されてるので

ししみや先生やっぱいいキャラしてるわー

>>797
wiki編集お疲れ様です。
非常にありがたいです。
自分も時間をみつけて編集したいとおもいます。
学校の部活動やら周辺施設やらでまとめてwikiらしくしていきたいですね。



ババドン
ttp://dl10.getuploader.com/g/sousaku_2/87/kabe.jpg

720名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 03:15:59 ID:TTKBsAQg0
ワロタw

721名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 14:43:52 ID:GC8rKIg60
こわいわw

722名無しさん@避難中:2012/11/08(木) 11:46:32 ID:7Z6bkVSE0
どういうことなの…

723名無しさん@避難中:2012/11/08(木) 16:02:38 ID:h3YxQFNk0
ババァ脚長いな

724名無しさん@避難中:2012/11/10(土) 21:07:20 ID:adF1ugHYO
ドン!

ヒカル「…」

クロ「はやくクロのものになるニャ!」

ヒカル「なにそれ」

クロ「『かべドン』ニャ。ヒカルくんはクロのものニャ」

(壁ドンしているクロを遠くから眺めているリオ)

リオ(うっ…。羨ましいぞ!クロからあんなこと言われたら、何されてもいいよ!)

悠里「因幡ちゃん、犬上くんを遠巻きに眺めて、実は狙ってるとか?」

リオ「ゆ、悠里!わたしは決してそんなことは」

悠里「……」

リオ「初等部の子でもないっ」

悠里「……(そんなこと言ってないのに)」

リオ「……」

悠里「そうだ。因幡ちゃん、お裁縫出来ないかな?カーディガンのボタンが綻びそうなんだ」

リオ「(そりゃ、あんなはみ出そうなおっぱいしてたらなあ…)わたしが?」

悠里「(出来ないことないけど、針がちくちくするのが怖いの)みんなの委員長は頑張る子だよね」

リオ「やります。やらせて下さい!」

悠里「かわいいなぁ。じゃ、カーディガン脱ぐね」

ぬぎぬぎ。

リオ「うっ。悠里さ、ブラウスのボタンも綻んでるんだけど」

悠里「あら。いやだなあ」

胸を片手で撫で上げる悠里。

ぶちん!ぶちん!ぶちん!

リオ「わー!?ブラウスのボタンが飛んだ!」

ドン!!

ヒカル「二人とも何してんの?」

リオ「犬上?これは決して壁ドンでなくて、飛んだボタンを捕まえようとしてたら、つんのめりながら片手が壁にドン!ってなった訳で…」

クロ「かべドンニャ」

リオ「悠里!動かないでよ!動くと犬上に見えちゃう!今、わたしの腕がいい具合に悠里のブラ…を隠してるんだから!ってなんでもない!」

ヒカル(そこで止めるのかよ)

クロ「なにしてるニャよ。ヒカルくんはクロのものになったんだから、はやくワッフルごちそうするニャよ」

すたすたすた…。クロ、先に出て行く。

ヒカル「う、うん。今、行く。…あっ」

チャリン…。ころころ。

100円玉がリオ、悠里の足元に転がってゆく。

リオ「犬上!来るな!」

犬上「行かないって」

悠里「ふふっ。わたしが取ってあげよっか?」

リオ「」

725名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:49:30 ID:CxvsrES20
続きの裏展開はどこで見れますか

726名無しさん@避難中:2012/11/15(木) 00:04:07 ID:Iit19PZg0

 モエ「タスク!何してんの?」

 タスク「ゲーム」

 モエ「ゲームじゃ分からん!細かく教えなさい!」

 タスク(面倒くさいな…)

 ちら、画面を見せる。

 モエ「『とびだせ どうぶつの森』?」

 タスク「そうだよ。村長になって村を興すゲームだよ」

 モエ「タスクが村長ならば、わたしは県知事になって支配してやんよ!」

 タスク「そんな殺伐なゲームじゃないし。それに、ほら。秘書のしずえさん」

 モエ「なに、この子」

 タスク「姉ちゃんと同じイヌっ娘なのにねえ。ほら」


 しずえ「そうそう、今日は新築のお祝いにかべがみを持ってきました!」


 タスク「『タスク!新築祝いにかべがみ持ってきたんだけど、自分で貼りなよ!メンドクサイから!」

 モエ(ぎぎぎ…)


 しずえ「それで、ついでに貝がらをひとつ、お土産に拾っていきてただけたらうれしいなぁー…」

 
 タスク「『ついでにさ!貝がらひとつ、お土産に拾ってきてくんない?ってか、死ぬ気で拾ってきなさい!拾うまで帰ってくんな!』」

 モエ(ゴゴゴ…)


 しずえ「あっ!お誕生日、わたしと同じですーぅ!すごい、偶然ですねーっ!!」


 タスク「『マジ?誕生日同じとか?超無理なんだけどー!!』」

 モエ(びきびき…)


 数日後。高等部・教室にて。


 リオ「モエ。何してんの」

 モエ「ゲーム」

 リオ「ゲームじゃ分かりません!」

 モエ「タスク村を合併吸収してやんよ」


 そのころ、中等部・教室にて。


 タスク「村がのっとられたー!!」

 アキラ「……」

727名無しさん@避難中:2012/12/04(火) 02:17:47 ID:vXyMWevgO
アキラ「クリスマスが近いのに彼女も居ないなんてヤバくね?」

タスク「アキラだって彼女なんか居ないじゃん」

ナガレ「…(稽古初め何時だっけ)」

アキラ「クリスマスってアレじゃん、聖なる夜に性なるナニかに発展できそうじゃん!」

タスク「彼女が居れば、だろ。ろくすっぽチューもしたことねーっての」

アキラ「だ、か、ら、彼女が欲しいんじゃないか!なー、ナガレだって、性なることやチュー、彼女としたいだろ?!」

ナガレ「ん?お前らまだなの?」

アキラ「」

タスク「」

ナガレ「わりっ、俺稽古あるから行くわ。じゃーな」

アキラ「……ほ、本当だろうか」

タスク「わからん。わからんが…有り得そうで怖い」

ナガレ「(あるわけねーだろ)」

728わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:48:19 ID:liN.ac4Y0
クリスマスには早いけどこんなお話。

729 ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:51:06 ID:liN.ac4Y0

 この世にサキュバスが居るのなら、居るで良い。
 でも、ねぼすけなサキュバスが居るとしたら……どうだろう。
 夢の中から追い出され、日が昇る街に舞い降りた淫魔を受け入れてもばちはあたりはしないだろう。

 クリスマスの朝、早く目覚めた犬上ヒカルはちょっと早目に補習へ行こうと玄関を出た矢先、雪のようなダウンジャケット姿の
小野悠里と出会った。ダウンの裾からはちらりと短めスカートが顔を見せ、健康的な太ももがヒカルの視線を奪った。
 学校は冬休み、そして冬季補習の始まりだ。

 「犬上くん、補習?」
 「……」
 「いっしょに、行こ」

 灰色の朝に舞い降りた銀髪の妖魔に唆されて男子高校生のヒカルは袖を引っ張られる。途中、坂の下のコンビニで買い物し、
まだ閑散とした学園を仰いだ。無防備なな学び舎を見ることなんて、滅多にないことだ。まだまだ薄暗い空にそびえる楼へ足を伸ばす。

 朝っぱらから寝ぼけまなこの学校の目を盗んで、二人はいっしょにコンビニで買った即席カップのうどんを朝食にした。
 うどんの真っ白な麺が無彩色のコンクリを明るくし、油揚げが池を彩る一枚の落葉のように汁の中に浮かぶ。立ち上る湯気は
誰もの心を安らげる温泉のようだ。うどんに心奪われる悠里という子はそんな畳の香りが似合うキツネの子。

 「雪、降らなかったね」
 「……うん」
 「わたしの家じゃ、降ろうが降りまいが関係なしだけどね」

 古いお寺の娘だから。キツネの小野悠里は制服の上から纏ったダウンジャケットで衿元を寒風から防いで白い息を吐いた。
 渡り廊下に腰掛けて頂く即席のカップうどんは妙に美味い。元々口数の少ない犬上ヒカルも更に口数が減っていることが、
ただのカップうどんも星三つのグルメに変貌したことが伺える。

 悠里は口にくわえたお湯少なめ、時間控えめで出来上がった硬めな即席的太い麺に感触に喜びを感じていた。
 この時間、幸いながらも職員室でお湯を頂けたことに感謝しつつ、悠里とヒカルは舌鼓を打った。

 桃色の舌に絡ませながら吸い込むと、じゅるりと音を立てて透明な汁で口元を濡らす。微かに飛んだ雫が悠里の薄い手を汚した。
 前に垂れた銀色の髪の毛を掻き上げて、ゆっくりと顔を近付け「あんっ」と、耳を立てなければ聴こえない程の悠里の声をあげる、
様は彼女なりの相手への愛情表現なのだろう。一口一口を恋人との大切な時間を過ごすように、丁寧に口をすぼめ温もりを感じる。
ここでしか味わえない秘密の味にまた、じゅるりと音が響かせる。

 体が徐々にほてってきたのか、悠里はカーディガンのボタンを緩め、襟元を開く。すると二つのたわわで淫靡なる丘の膨らみが
やゆんと露になり、悠里の右手の動きに合わせてよゆんと揺れ動く。ただでさえ制服の上からでも張りが顕著に見える悠里の胸は、
ちらりと一部を見せ付けるだけでも容易に彼女のグラマラスな雰囲気を漂わせていた。肩までかかるウェーブの銀色の髪の毛は、
彼女の年齢よりも大人びて妖艶なる花の蜜を演出する。

 「うぅん……。はぁ、美味しい。もっと……もっと」

 初めて口にしたときはいつだっただろう。そんなことさえも覚えていない。
 虜になってしまった故に一人占めできる幸福感、ほしいままに魅了されてしまう服従感、そして一気に汁を飲み干す征服感。
後生忘れませんと、誓った出会い。一回限りの出会いでは物足りなくて、また会いたくなってしまう背徳感。
 きっとまた、会うんだろう。悠里はキツネの尻尾を揺らして、エクスタシーにも似た感情を露にした。

 最後の一滴、最後の一滴まで。
 全てを飲み干す。

 不覚にも悠里の口から白いものがたらりと零れ、キツネ色のてのひらへだらりと垂らした。
 いけない。こんがりとトーストのようなキツネのてのひらの毛を濡らしてしまった。

 そう。小野悠里という子は青年誌の巻頭グラビアから飛び出したような子だ。汚れを知らぬ少年が隣り合わせになったなら、
少年の鼓動と瞬きが加速するかもしれない。体全体から滲み出る色香が無垢なるキャンバスを桃色に染める。悠里自身も決して
無垢な少年をたぶらかす自分が嫌いではないどころか、自分のアイデンティティとして武器にしているので嬉々として隙あらば
オフェンスを仕掛けて征服欲を満たすのであった。

730 ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:51:49 ID:liN.ac4Y0
 
 「……」
 「犬上くん!」
 
 ヒカルがうどんに一途になれなかったのは隣り合わせでキツネ色の太股をちらつかせる悠里のお陰だった。
 意識無くとも自然に目に入る曲線美は上質なパンプキンスープの舌触りを思い起こさせる。美味は体に毒だと目線を逸らすと
やゆんな二つの丘がヒカルの眼を悪戯に弄ぶ。ダウンジャケットの隙間から覗く制服のカーディガンは破壊的に豊かな胸を包み切れず、
ボタンが一つ手を休めていた。大きく胸元を見せ付ける開襟シャツからは男子禁制なる桃の園が門にて罠を仕掛けていた。

 「……あの」

 空になったカップを脇に置いた悠里が次に手を付けたのはヒカルだった。ヒカルが油断した隙に悠里は腕を絡ませて、
箸持つ手を休ませて、ヒカルの二の腕を自らの胸に押し当てていた。俗に言う……。

 「あててんのよ」

 温かなダウンジャケット越しだからか柔和なる感触は二割増し、ヒカルも「当たってない、当たってない」と言い訳することで
自分の純情を守ろうとしていた。
 風吹き抜ける寒い筈の渡り廊下も悠里の仕業で夏のプールの気分と相成った。ヒカルは悠里の持つ思春期男子を包み込むような体温と
ミステリアスな銀色の髪の冷気で揺り動かされるしかなかった。
 ヒカルの理性が限界に達するかはいざ知らず、巧みなさじ加減で絡ませた腕をゆっくりと動かし、当たるか当たらないかの綱渡りで
ヒカルの眼を泳がせていた悠里はいきなりその腕を離し、すくと短いスカートを翻しながら立ち上がり体育館の方へと駆け出した。

 「犬上くん!」

 幸か不幸かヒカルは鳴りやまない胸の鼓動を手の平で確かめつつ悠里の後を追った。

 明々と明かりの点いた体育館は霜が溶けそうなぐらい熱気と気勢に包まれていた。裸足の足が床を叩き、竹と竹がぶつかり、
文字通り鎬を削る様が悠里とヒカルの前で広がっていた。
 一際目立つ一組がいた。一人は男子、一人は少女の打ち合いだった。

 「めぇええん!!」
 「まだまだ!夜月野!脇が甘いぞ!」
 「はい!刻城先輩!どぉおおお!!」
 「めぇえん!」

 小柄な少女は頭を降りかかる一刀をかわし、竹刀が面をかすって響く音を辺りに残していた。
 見ているヒカル側からしても手に汗握る光景で、うどんで緩んだ瞼も意識せずとも見開く闘いだ。

 「朝練、すごいよね。やっぱり袴姿って見てるとわたし、なんだか疼いちゃうし」
 「いつも剣道部の練習見てんの?」
 「ときどきね。ほら!あっち見て。つばぜり合いしている男子って燃えるね」

 体育館の出入口にもたれ掛かる悠里はカーディガンの衿元を指先で弄りながら、若きもののふたちの稽古を眺めていた。
 さっきまでヒカルに寄りかかり、道を外しかねない誘いをしていた娘も乙女の心を忘れていなかった。

 「世間はクリスマスってのに、そんなことを忘れ武道に打ち込む姿って」

 激しい打ち合いの末、一瞬の隙を狙い篭手と見せかけて小柄な体の不意をつく。またしても素早い足裁きで我が身を庇う。

 「どぉおおお!!」
 「……思う?」

 答えることを忘れたヒカルは小柄な少女剣士が余裕釈釈の身構えな先輩相手へ果敢に打ち込む姿を自分の言い訳にした。
 そして打ち合いは激しさを増し、そしてお互い攻めの体勢で剣を打ち鳴らす。

 「お互いに隙を見せないね。だから真剣な眼差しに痺れちゃうし、どちらか隙を見せる瞬間も……」
 「うっ!」

 右脇を手で抑えたヒカルをローファー一足片手に悠里はにまにまと眺めていた。

 「今度は左脇、いっとく?隙だらけの犬上くん」

 ヒカルは一本取られないように脇を固めた。

 日が昇ったとは言え、足元が寒いので、朝練に未練を残したヒカルと悠里は自分たちの教室に入った。
 ヒカルは本を相手に、悠里は携帯片手に何かのサイトと相手をしていた。

 「へぇ。うどんに牛蒡の天ぷら、そしてかしわご飯だって」

 書の世界に没頭した隙だらけのヒカルのお陰で悠里の独り言に終わった。冬季補習の時間までまだまだ。

 「なんだか、昨日の夜は特別な夜だってね。佐村井さんやはせやんも言ってた。わたしにとっては毎晩特別な夜かもね」

731 ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:52:22 ID:liN.ac4Y0

 多少気にしつつ、ヒカルは悠里の言葉に耳傾けながら本をめくっていた。教壇に腰掛け、劣情を煽り立てるように
脚を組んだ悠里は言葉を続けたが、目の前のヒカルは隙を見せまいとじっと活字を目で追っていた。

 「小さい頃から檀家さん見てたからかもしれないけど、何事も毎日の積み重ねだよね。信心も本も武道の鍛練……
  そして、ついつい誰かの気を引いちゃうことも。だから、昨日の夜だけを特別にしたくないなって」
 「お祭りみたいなものだけど」
 「そうね」

 否定も肯定もしない悠里からはオトナの香りがした。
 そんな折、ヒカルたちの教室に朝練で果敢にも先輩に打ち込んでいた少女剣士が訪問してきた。
 袴姿に防具を付け、ジャージを羽織ったネコの少女だった。悠里は何事も無かったように脚を組み替えた。

 「……あのー。さっきまでわたしたちの朝練、見学されていた方ですよ……ね?」
 「……うん」
 「おにぎり、お呼ばれしませんか?沢庵も美味しいです!」

 本をめくる手を止めたヒカルと悠里は時間が止まったかのように裸足の少女をずっと見ていた。夜月野と名乗る少女は
悠里とヒカルの関係、そして起きようとしている状況に自分自身の納得出来る説明が出来ず、寒い中で額に汗を垂らした。
 防具の垂には力強く『佳望・夜月野』の毛筆の文字が書かれていた。それを見つけたヒカルは名前を呼んで夜月野の背筋を凍らせた。

 「名前を呼ばれるとは思いませんでした!」

 夜月野は耳を立てて肝を潰した。
 武道に励む者として、見せてはならぬ態度。そう思いつつ夜月野は見振り手振りで話を続けた。

 「あ、あの!わたしたち!」
 「ってか、どうして、ここがわかったの?」
 「こ、ここだけ明かりが点いてたから刻城先輩が……」
 「お気持ちありがとう。ごめんなさいね。わたしたち見てただけだから頂けないね」

 大人の対応の悠里に対して、慇懃にお辞儀をしたネコの少女は裸足の足音を残して教室から去った。

 「だろうね」

 教室での出来事と他者に説明するにはハードルが高い。悠里はカーディガンのボタンを弄り、ぴょんと教壇から降りた。
大きな尻尾が弧を描いて、ヒカルの目の前を横切っていった。

 「さて。わたしは帰るね。学生の本分、果たすんだよ!犬上くん!」
 「え?小野、補習は?」
 「そんなこと言ってないし」

 そういえば、悠里は一言も「補習を受ける」とは言っていなかったのをヒカルは思い出し、額に汗を流した。

 ダウンジャケットを羽織り、大きな尻尾と銀色の髪、そしてたわわな胸を揺らして悠里は教室にヒカルを残して消えた。
 ヒカルは朝の僅かな時間だが、キツネにつままれていたのではないのかと腕を抓ってみた。腕の痛みはすぐに忘れたかったが、
腕で感じた悠里のあだっぽい柔らかさを忘れることが出来ずに本をめくるスピードが落ちた。

 帰路の悠里はこっそりと体育館に近付き、おにぎりを囲む剣道部員たちを覗きにやって来た。さっきのネコ少女の夜月野も
仲間たちに囲まれ、朝練とは違った明るい声を上げていた。その中には夜月野曰く刻城先輩らしき姿もあった。彼は袴が良く似合う
ネコのメガネ男子だ。冷静かつ、礼儀正しい模範生だ。悠里的にはかなりポイントは高かろう、そんな男子こそ悠里の色仕掛けで
牙を抜いてみたくなるものだ。そして、悠里よりも年下で言っちゃ悪いが悠里より色気はない夜月野が落ち着き払った刻城先輩の隣で
恥じらうのを見ると、やはり悠里もちょっかいを出したくなるもんだ。

 「夜月野は背が小さいから面を取られ易い。瞬発力を鍛えて面を取られないようにしろ。足さばきな」
 「はい!」
 「そして守りに入るな。面を割る覚悟でな」

 目を輝かせている夜月野が刻城先輩の話に頷く姿に、悠里に潜む妖魔が羽根を伸ばし始めた。
 武道男子、そして袴男子が色香に崩れる姿は悠里にとっては大変なご褒美だ。

 「クリスマスに目もくれず、その存在さえ忘れ、ひたむきに武道を精進する刻城くん。覚えて損はない子ね」

 人差し指を口に当て、思案顔で眼を潤ませた悠里が踵を返して尻尾を揺らすと、体育館から夜月野の声が上がった。

 「それではちょっと遅れたけど、メリークリスマス!!」



   おしまい。

732わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:53:33 ID:liN.ac4Y0
『袴ときつね』

これでおしまいです!
投下おわり。

733わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:04:51 ID:l/gcxVvs0
投下しまっすわん。

734わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:05:16 ID:l/gcxVvs0

 雨降りだからバイクを降りよう。たまにはこんな日もあっても良かろう。
 一雨ごとに暖かくなるのは毎年のこと。さらば冬と言いつつも、今日はバイクには乗りません。

 市電で街を移動するのは久しぶりだとミナは言う。乗り慣れたエンジンの心地は足から伝わるモーターの振動に変わり、
流れる風景もガラス窓越し。バイクからの目線から見落としてたはずの物が目に見えてきて、どんよりとした灰色の空も
決して嫌いになれなかった。むしろ青空が持つ二つ目の顔を見せてくれいるようで、裏表のないいいヤツだとも感じる。
 周りに人が居る。誰も知り合いではないけれど、車内はすんの暇を共有する名もなき劇場か。
 長年暮らしてきた街の違う顔を垣間見るようで、ミナは生暖かい空気を楽しんでいた。

 「早速、冬クールの一番決めよっか?」
 「どれだろう。さくらが言ってたヤツ、三話目で脱落しちゃったし」
 「わたしもー。キャラデザが過去の呪縛から抜け切れてなくて萎えーってね」
 「このテイストで描いときゃいっかって保険かけてるのかなぁ?ねえねえ、違う絵描けないの?」
 「でも、再生回数伸びてるよね。男子には受けるんだ。あーいう古風な子」
 「男版『ウチら』だからね、アイツら」
 「それはさておき、春クールの青田刈りでもしよっか?豊作ですよ」

 話の内容はともかく、ミナは吊り革に捕まって自分たちの世界に浸る女子高生の会話を聞いていた。
遠い姪っ子たちが我が家の居間でだべっているようだった。何を話してるかは分からないが、それだけでいい。と。
ただ、二人は冬の終わりを惜しみつつ、春の訪れに喜びを感じているんだと、ミナには何となく分かってきた。
 一人はイヌっ娘、一人はネコっ娘。お互い制服は違うが共通点は眼鏡っ娘。ミナとは違う世界を生きる二人と共に
車窓を分かり合うことにミナは不思議に思えてきたし、それが市電の魔力なんだとも感じた。

 「さくらはイヌ耳キャラが出るだけでご飯三杯はいけるよね」
 「だからさ、もっちーもイヌ耳に萌えるべきだよ!」

 ふと、さりげないイヌっ娘の言葉にミナは聞き耳を立てた。

 「『もっちー』……」

 この子も『もっちー』なんだ、と。自分が知っている『もっちー』ではないな、だけどほんのちょっとだけ思い出した。

 「どうしてるかな」

 二人してはしゃぐイヌっ娘ネコっ娘たちの歳の頃を思い出していると、相変わらず降り続けてるのにも関わらず
いつの間にかガラス窓を叩く雨音が消えていた。ミナの鼓膜が雨音を聞くことを拒否しはじめたのだった。


    #


 ミナの知る『もっちー』は教室では借りてきたネコのように大人しいネコだった。
 それゆえクラスメイトの女子からは何となく浮いていた。
 そして、隙あらばもっちーのことを笑おうと、揚げ足を取ろうとクラスメイトの女子たちはもっちーに目をつけていたことが
ミナには面白くなかった。ただ、彼女は他の女子には無かったさくら色のような色香を兼ね備え、そして気丈にもミナの前では
笑顔を絶やすことをしない子だった。

 「何かあったら、わたしに言うんだよ」

 ミナはもっちーに対して口をすっぱくしていた。

 ある日、もっちーは普段見せない顔をしてトイレの手洗い場にいた。トイレのサンダルを履いたもっちーは誰かから見られることを
避けるよう、クラスメイトから逃れるよう、そっとしてくれと言わんばかりに静かにたたずんでいた。
 もっちーの後ろ姿を見かけたミナが鏡越しにもっちーを覗き込むと、蛇口をしめ、ハンカチを焦るように隠した。
ミナが立てたトイレのつっかけの音に反応して、いかにもばつの悪い反応を示したもっちーはミナに目を合わせようとしなかった。

735『もっちーのこと』 ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:06:00 ID:l/gcxVvs0
 「何かあったらって……言ったじゃない!」
 「いいんです。杉本さんには迷惑かけられないし」
 「わたしも迷惑してるから遠慮しないで!」

 ミナももっちーの態度を認め、そっともっちーの洗い立ての手首を握る。これでお互いひんやりだ。

 「もっちー。大丈夫。わたしがアイツらから守ってやるから」

 一言も話していないのにも関わらず、もっちーの行き場のない感情を受け止めたミナはトイレ脇の土間に投げ出された
片方だけのもっちーの上履きに誓いを立てた。所詮、ガキがやったことだから大人げなくて結構……そんな屁理屈は許せない。

 「隠すなんて、卑怯過ぎるし」

 口を閉ざしてしまったもっちーはミナの声を何様かと思い込んだか、わっと感情を解き放ち、再び自分の手を濡らした。

 あれから、高校を出て、お互いそれぞれ自分の道を歩みだし、風の便りさえ届かなくなってきた。

 そんなもっちーがミナの前に現れた。偶然の出会いだった。
 愛車に跨り冬の夜の風を走り、休憩に凍てつく手を缶コーヒーで温めていると、ふと明かりが恋しくなった。
 喜んで寒い中を走り回るのはイヌかバイク乗りぐらいだと、ミナは自虐的になっていたところに差し伸べられた暖かな光。
 誘ってないのに誘われたかのごとく、ミナは愛車に待てを命じて明かりの灯るレストランに近寄ってみた。ガラス張りの店内が
わいわいと人のぬくもりに唆されて、色恋沙汰の始まりが種蒔かれているようにミナには見えた。
 わたしになんか、関わりないかも。だって、缶コーヒー如きで喜んでいるような女だし。でも……誘われたら嬉しいかも。

 チーズの香り漂うレストランが小さな頃に憧れた二次元の世界に見えてきた頃、三次元のリアルなんだとミナは引き戻された。

 「もっちーだ」

 ミナが知る限りのもっちーは男の匂いなどしなかった。ミナが知る限りのもっちーは女の香りなどしなかった。
 たかが十年ちょっとだ。十年ちょっと会わなかっただけでこんなにも人は変わるのか。
 同年代の男女が一同小洒落たレストランのテーブルを囲み、チーズフォンデュを食している中で、ミナが知っている
もっちーが姿を現すことはなかった。言うならば……小悪魔もっちー。魔方陣の代わりに小さな鍋、契約の代わりにぶどう酒の杯を交わす。
 男どもがもっちーに明太子味のチーズフォンデュを勧めるなか、もっちーは目を細めながらパンを摘んでいた。
 ガーリック味もいいかもと男が張り切ると、男の腕を叩きながらもっちーは明太子味を選んでいた。そして、しっかりガーリック味も
堪能しているのをミナが見逃すはずはなかった。

 「なんだかなぁ」

 あまり見つめていると妬みに変わるを嫌ったミナは残りの冷え切ったコーヒーを飲んだ。

 もっちーは悪魔の契約を交わしました。
 真っ白な正義がくすんで見えてきました。
 魔界へ魂を売ったもっちーに乾杯。

 だって、ちやほやされるの羨ましいし。


    #


 「どうして、もっちーにみんなちやほやするのかなぁ」

 暇を貰ったミナのバイクがガレージで鈍い光を反射していた。ミナはタンクの光沢を肴にしながら北の方の地図を眺めて
もっちーの新たなる門出を嫉妬していた。
 バイクがミナをちやほやしてくれるわけでもないし、春だからコイツにつんつんしてみるか。
 

 おしまい。

736わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:06:28 ID:l/gcxVvs0
投下おしまいっす。

737名無しさん@避難中:2013/03/21(木) 20:40:15 ID:Ip.vqT4s0
怪盗シロ先生
http://imefix.info/20130321/611344/rare

738名無しさん@避難中:2013/03/21(木) 20:42:24 ID:jQevw4W20
ありがとうございます。ほんとに描くとはさすがw

739名無しさん@避難中:2013/03/21(木) 20:45:44 ID:3LIN.aG20
そこはかとなくエロい

740名無しさん@避難中:2013/03/21(木) 23:28:34 ID:N8fhMoOk0
混ざってる混ざってるw

741名無しさん@避難中:2013/03/22(金) 22:44:57 ID:XrLJbLaU0
>>737
コレッタ「か、かえすニャーーー!!」
怪盗シロ先生「……」
http://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/287/kaitou_shiro.jpg

742名無しさん@避難中:2013/03/22(金) 22:54:26 ID:XEhnZ1dk0
コレッタかわいいお

743名無しさん@避難中:2013/03/22(金) 23:03:39 ID:pmyEjx160
それを盗むかwww

744名無しさん@避難中:2013/03/23(土) 00:17:04 ID:QOI.Iae60
しかもすぐ捕まりそうなwww乙です。

745わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:07:42 ID:wr8SlciI0
本スレのお題「ぬいぐるみ」書きました!
ババアも出るよ!

746しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:08:29 ID:wr8SlciI0

 保健室のベッドに乱雑に置かれたサイフ、携帯、ハンカチ、手袋、マフラー……白先生の私物であった。
 ちょっとしたお値打ち品、オトナの女が持つような品ばかりだが、乱れ打つよう無様に並んだ姿を晒してる。
 ベッドの脇に跪き右手を鶴が首を伸ばすように突き出して、手首を下げる三十路のネコ一人。保健室の主だ。

 「この感覚。この感覚だぞ……。ここから左に……3秒!」

 まるで機械のように腕を水平移動させながら白先生はぶつくさ独り言。ぎこちなく腕の動きを止めると今度は下に動かし始めた。
そしてハンカチを鳥がくちばしで咥えるように掴むと再び一言発する。

 「よし!この感覚だぞ」

 さながら、ゲームセンターのクレーンゲームの真似事。腹痛でやってきた子ネコのコレッタが背後にやってきたことに
気づいた白先生はしらんぷりの態度を取って保健医の顔に戻り、がらがらっとカーテンを引っ張りベッドの上を隠した。


     #


 ここまで通い詰めれば、もはや常連客だ。寒い中、若いもん集まる街のゲーセンの一角、ひとり三十路のネコがいた。
 他のゲームに興味を持たず、真っ先にクレーンゲームに噛り付くこの客は遊ぶことを知らなかった。なぜなら、景品のぬいぐるみに
心奪われ、まるでストイックなアスリートのようにまっすぐに、ひたむきにガラスケースに向き合っていたからだ。
 
 「頼む、笑ってくれ。クレーンの女神よ、笑ってくれ……」

 クレーンゲームにへばり付き、めげることなくガラスのケースで重なり合うぬいぐるみを手に入れようと、白先生は右手にボタン、
左手に硬貨を携えて機械に運命を託していた。コレッタたちの笑顔を見たいから、一万二万は当たり前。百遍だめなら千遍だ。
ぐぐっと近付くアームがぬいぐるみを優しく抱き上げる。祈る気持ちで行方を見守るが、ガラスの壁は厚く思いは伝わらず、
アームの束縛を拒否したぬいぐるみは自由な世界へと戻っていった。白先生に宣告されたものは非情にも『ゲームオーバー』。
 白先生はぎゅっと左手の中の硬貨を握り締めた。仕事を終えたケースの中のクレーンは真面目にスタート位置へと戻っていった。

 ふと、白先生がガラスの中のぬいぐるみから目を背けると、明らかに場違いな自分が通りに晒されていることに気付いた。
人気者であるクレーンゲームのコーナーは一元さんでも気軽に入れるように一階にあることが大抵だからだ。
 月給切り詰め手に入れたちょっと品の良いダウンジャケットにブーツ姿の白先生は周りの若者だけが持つ金で買えない何かに嫉妬した。
たとえ、それが無意味なことであろうとも、せずにいられない三十路の悲しい性だった。

 「あっ」

 隣のケースは羽振りが良い。硬貨を入れて間もないと言うのにぬいぐるみをゲット。吸い込まれるようにぬいぐるみは
取り出し口へと転がっていった。プレイヤーは学園・高等部の生徒と歳はそんなに変わりはしない、ぱっつん前髪みどりの黒髪美しい
ウサギの少女だった。見覚えないので佳望の生徒ではないはず、しかし、彼女に興味を抱いた白先生はそっと近付き手元を覗き込んだ。
 少女は白先生を不審がることもせず、白先生の心の内を見透かすように明るく口を開いた。

 「不思議ですよね?どうしてそんなに上手いんだって?それにわたし、そんなに目を動かしてませんからね」

 ウサギの少女の声に白先生は息を止めた。

747しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:08:47 ID:wr8SlciI0
 「気配で分かるんです。わたし、勘だけはいいんです」
 「ほう……。しかし、それだけで」

 白先生が話し終える前、少女はまた一つぬいぐるみをゲット。彼女の視線に動きはなかった。

 「モーターの音やぬいぐるみを挟む音を頼りにしてるだけですよ。わたし、耳だけはいいんです」

 と、話しているうちにまたひとつゲット。
 白先生には聞こえなかった取り出し口にぬいぐるみが転がる音を聞いた少女はガッツポーズをする。
ふと、白先生のブーツのつま先を叩く感覚があった。足元には白い杖が転がり、少女は少し焦った顔をしてしゃがみ込み、
手探りで杖を探していた。冷たい少女の手が白先生の太ももを掴んだ。

 「す、すいません!」

 少女の白い杖を拾い上げた白先生は優しく声をかけた。
 純白の杖の先は赤く塗られ、使い込まれて出来た傷が少女との信頼関係として刻まれている。杖には彼女の名前と思われる
『YUKI』との文字が記されていた。

 「気をつけてな。『ゆき』。ほら、手を握るぞ」

 初めて会ったのに自分の名前を呼ばれた不意打ちに『ゆき』の手が止まった。
 白先生は「ああ、すまん。仕事柄、相手を名前で呼ぶ方が信頼を築けるから」と言う。
 
 「はい。先生」
 「……」
 「『雪妃』も名前で呼んでくれて嬉しいです」

 しっかりと両手で握らせた白先生は目を丸くした。
 初めて会ったのに自分が保健室の住人だと分かるとは。

 「オキシドールの匂いがしたんです。医者か学校の保健室の先生か。どちらも先生だなって」
 「……」
 「わたし、鼻だけはいいんです」
 「……」 
 「ほんのお返しですよ」


    #


 別の日、同じゲーセンにてクレーンゲームの興じていた白先生はオオカミの青年から「お姉さん」と呼び止められた。
 彼は先日会った雪妃よりも年上の印象を受ける物腰柔らかい青年だった。淀みのない目はおよそオオカミのものとは即座に
考えがたいぐらい、ガラス球のような光が周りの筺体から発する明かりで輝いて見えた。

 「お姉さん。ぬいぐるみ、取りたいんですよね」
 「……今、必死にやってるところだけどな」
 「ぼく、取って見せますよ。ノーミスで取りますから、じっとアームから目を離さないでくださいね」

 煙に巻かれたような気持ちで青年の言葉に乗せられた白先生は自分の顔が反射するガラスケースの中のアームに焦点をあわせていた。
それよりも、三十路を超えた自分を「お姉さん」と他人から、しかも見知らぬ他人から呼ばれたことに少々動揺していた。

 で、技のほうだ。
 アームが動く、掴む、あがる、投入口までぬいぐるみを運ぶ。そして、青年の元にぬいぐるみが……。鮮やかとしか言いようがない。
『天才という名は彼のためにあると言っても過言ではない』という言葉さえも陳腐に聞こえるボタン捌きであった。

 「お姉さん。差し上げますよ」
 「い、いいや。いいよ。自分で掴んでこそ、ゲームだ」

 青年は少し悔しそうな顔をしてぬいぐるみをお手玉のように軽く空中に上げながら、白先生との再会を誓う言葉を残して
ゲームセンターの出入り口へと去っていった。すれ違いに現れたのは白い杖の少女だった。先日のような笑顔はなく、寧ろ
青年に対して軽蔑の眼差しを向けていることに等しい態度を雪妃が取っていることに白先生は気づいていた。相手の心情に
気付くことは職業の性だと白先生は(自分ひとりで)言う。
 白い杖をかつかつと地面に当てながら雪妃は真っ直ぐとゲームセンターに入ってゆき、杖の先が白先生のブーツに当たると
ぜんまいの切れたロボットのようにぴたっと足を止めた。

748しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:09:08 ID:wr8SlciI0
 「ごめんなさい!先生ですよね。声が聞こえました」

 白先生は首を縦に振ることで返事をしようとしたが、雪妃のために「ああ」と口に答えを出した。

 「あいつ、『イカサマ王子』です」

 確かに王子と名乗るにふさわしいほどの振る舞いだ。だが、雪妃は低い声で続けた。

 「筺体にコイン、入れてないんです。なんらかの小細工を使った方法で誤作動させてます。きっとコインの投入口に……。
  だって、コインを投入する音が聞こえなかったんです。わたし、耳だけはいいから分かるんです」
 「……証拠は。証拠がないとこちらも手を出せないぞ」
 「はい。立証は目撃者でも居ない限り難しいでしょう。先生、気をつけてくださいね。あいつ……年上好みですから」
 「……」
 「年上の女性に擦り寄ってぬいぐるみを贈る。いつも敬語ですし、気に入られやすいんです。
  イカサマはゲーム感覚でしょう。一瞬でもいいから、自分をチヤホヤしてくれるような女性を探しているんです」

 雪妃はゲームの神へ訴えるようにクレーンゲームにコインを投入し、次々とぬいぐるみを狩っていった。

 「この辺であいつの名と破廉恥な振る舞いを知らない者はいません。ただ、証拠があがらないんです。
  なのに……わたしにだけ証拠が聞こえるのに、証明できないって……悔しいじゃありませんかっ!!」


    #


 『イカサマ王子』がコレッタに近づいているのを白先生はゲームの最中に目撃した。

 年上好みと聞いていていたはずなのに。目をぱちくりしていると王子はコレッタに何かを話しかけ、以前白先生に求めた
ことと同じようにアームの先を見放さないようにコレッタに指示をしているのに気づいた。あろうことか、コレッタにだ。
 コレッタとイチャコラしているのを見るだけで、白先生は胸の奥が沸騰してくるような気がした。

 だから、というのは失礼かもしれないが……白先生は途中でゲームを放棄して王子に寄りつめた。
 王子は鬼気迫る形相の白先生に対して、なんとも紳士的な表情で迎え入れた。作法も知らぬ野武士が氷の面構えをした
貴公子に斬りかかる、と言うべきか。ただ、言えること。野武士は本気だ。

 「イ……王子さまだね」
 「そんな呼び名、されているんですかね。ぼく」
 「失礼覚悟で聞く。コインは入れたのか」

 白先生の問いかけを遮るように筺体のランプが灯りだし、いかにもせせら笑っているように見えてきた。
 そして、あれよと言う間にぬいぐるみが捕獲され、コレッタの元へと取り出し口に転がってきた。
 何も事情を知らないコレッタは不思議そうにぬいぐるみを眺め、そしていつのまにか手中に収まっていた。
 
 「否定しないな」
 「肯定もしていませんよ。コインは入ったのでしょうか?疑問ですね。なのに、ぬいぐるみが手に入った。お姉さん、質問は愚問です」
 「ちゃんと、ちゃんとコインの音がしないっていう証言もあるんだぞ」
 「お姉さん。冷静に考えてください。コインの音って聞こえますかね」
 「あの子……あの子には聞こえないんだ!」

 冷静になれ。落ち着け。感情に訴えるな。ババア。
 王子の嫌味なほどの爽やかさが白先生を煽り立てた。

 「コレッタ!近づくな!離れろ!こいつ、こいつはな!」
 「ニャ?」
 「店員さーん!ここでオバサンが暴れていますよー!」

 王子が手を振っているうちにわらわらと制服姿の店員が集まり始め、白先生は羽交い絞めにされながらクレーンゲームから
引きずりはなされていった。きらきらと輝き続ける電飾に照らされて、テンション上がる音ゲーのサウンドに囲まれて、
三十路を過ぎた一人の保健医は両手を振り乱しながらスタッフオンリーの札が掲げられた部屋に店員と共に吸い込まれていった。

 「王子!王子はいくらでも傷つけ!!でも、コレッタだけは傷つけるな!!わたしが許さん!!」という声を残して。

749しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:09:26 ID:wr8SlciI0

     #


 日の長くなった五月晴れの午後。
 
 白先生は市電の中で雪妃に再会した。手を伸ばせば気づく距離だが気づくことが無い雪妃を驚かせないように
声をかけながら肩を優しく叩くと、雪妃はにこりと花を咲かせた。もちろん、あの日と同じように白い杖を片手にしていた。
 初めて会ったときの冬服から制服から涼しげなワンピースに身を包んでいる雪妃の姿は白先生には新鮮だった。
雪妃の持つ白い杖にはケレーンゲームのぬいぐるみがぶら下がる。市電が加速をする度にゆらゆらと揺れるぬいぐるみを
白先生は目で追っていた。

 「先生、あれからゲーセン行ってますか?」
 「いや……全然」

 あの店に近づくのはやめた。
 なんだか自分が恥ずかしくなるからだ。法や世間が白先生を許しても、白先生が自分を許せなかったのだ。

 「それじゃ。わたしと一緒に行きましょうよ」
 「……」

 白先生が巻き込まれた店内での出来事を知らない雪妃は白先生がクレーンゲームに夢中になっている姿を想像してにやりと笑った。
 雪妃は白先生に再会の約束を交わし、途中市電を降りてかのゲームセンターへと杖に頼りながら向かった。歩きなれた道だから、
たどり着くまでがなんだか楽しい。にぎやかなサウンドが雪妃の耳にだんだんと聞こえてくるのがいやがうえにもテンションを上げる。

 店内に足を入れた雪妃は杖の動きを止めた。
 王子だ。あの王子、まだくたばり損ねていたのか。嫌でも鼓膜を響かせる王子の爽やかな声、そして折り重なるように幼い子供の声。

 「さあ。コレッタちゃんの好きなもの、取って見せようか」
 「ウチのコレッタがすいません!ほら、お礼は?コレッタちゃん」
 「ニャ」
 「もー!コレッタちゃんのご返事はいつも可愛いね。お母さん、萌えしびれちゃった」

 雪妃は膝打った。打ちまくりだった。
 イカサマ王子はコレッタではなく、コレッタの母親狙いだったことに。将を射んとせば、馬を狙え。
 年上好みの王子が取った謀にまんまと転がされる、コレッタの母はコレッタ以上に周りに花びらを散らせていた。
 王子と子供とちょっと子供っぽいオトナの声が三つ編みのように美しく輝きながら絡む。だが、美しいものにも消えるときが。

 「……おにいちゃん。右手で何してるニャ?」
 「ん?」

 たじろぎを隠す王子の手元をコレッタが覗き込むたびに、コレッタの母は首を傾げていた。

 「コレッタちゃん!な、何……ごめんなさいね!」
 「ニャ!お金入れてないのにうごきだしたニャ!!」
 「コレッタちゃん!」
 「どうしてニャ?どうしてうごかしたニャ!?」

 もはやこれまでか。王子は表情を変えずにいることに限界を感じ、脱兎の如くコレッタの元から店外へと駆け出すが、
刹那に脛に激痛を感じ地面にひれ伏した。悶絶に苦しみながら見上げる王子の視線の先には、聖剣のように白い杖を構える
雪妃の姿が逆光の中浮かんでいた。

 「わたし、勘だけはいいんです」

 白先生。また、ゲームセンターで会いましょう。
 雪も融けました。
 草木も萌え出でています。
 悪いオオカミはいなくなりました。

 ただ、美しすぎて、物足りません。雪妃は待ってます。


  おしまい。

750わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:11:58 ID:wr8SlciI0
「ぬいぐるみ」で描いた!
ババアもでるよ!のおまけまむが。

ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/412/dr_shiro_cyan.jpg


投下はおしまいです。

751名無しさん@避難中:2013/05/13(月) 20:43:39 ID:eRw7z.IEO
ぬこぽ

752名無しさん@避難中:2013/05/15(水) 13:29:38 ID:o4fSKqi20
>>751
ニャッ

753名無しさん@避難中:2013/05/30(木) 02:34:50 ID:35kl/ZvY0
白「児ポ規制が改正されるぞ。気をつけろよ因幡

リオ「はああー?私は児ポなんで一ミリも関係ないですよ?先生こそ大丈夫なんですか

白「ガキの身体に興味持ってたら先生なんかできんわい!

リオ「ええー?本当ですかー?コレッタちゃんの柔肌をニヤニヤ眺めたりしてませんかー?

白「腹の立つ奴だな。だが実は興味は無いが生徒の成長を知るためにある程度のデータは覚えてるぞ。お前の胸囲は○○cm。

リオ「ギャー!わ、忘れろ!忘れてください!

白「腹回りは○○だったか?メリハリが無いな。

リオ「ぬおおー!訴えるぞ!勝つ見込みはあるぞ!

白「胸が薄いと細身の服が似合って良いな。羨ましいよ。ははっ。

754名無しさん@避難中:2013/05/30(木) 03:03:30 ID:7Abex2kc0
なぜ把握しているw

755名無しさん@避難中:2013/06/01(土) 21:04:39 ID:0tG/YBXI0
お知恵拝借。
けも学の「映画研究会(創作系)」の子たちを描こうと思って、キャメラを
三台用意しました。 ひとりは黒柴犬チビ助眼鏡っ娘ってのを考えてますが、
のこりふたりの種族は何にしたら良いでしょうか? 私が考えると全部犬に
なりそうで…
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/445/furry529.jpg

756名無しさん@避難中:2013/06/01(土) 23:12:17 ID:/Nfxb2hU0
目がよさそうな鳥とか?

757名無しさん@避難中:2013/06/01(土) 23:56:48 ID:YdgHYWV60
背が高いから映画館では最後列に座るという気配りをする映画好きなキリンさん

758名無しさん@避難中:2013/06/02(日) 09:08:39 ID:zYQYgfFA0
アクション映画が大好きだけど意外と運動音痴で熱血馬鹿でなおかつ無駄に馬鹿力なライオンさんとかw
ミージカル映画が好きだけど臆病で自分が歌う事なんて絶対無理!な小鹿さんとかw

759わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/06/03(月) 23:33:23 ID:VejPUCRk0
>>755
書いてみた。どんなキャラかなぁ?この子。でも、書いてみた。

760「青い画」 ◆TC02kfS2Q2:2013/06/03(月) 23:34:00 ID:VejPUCRk0

 プールでイヌが溺れた。
 誰も疑うことは無かった。

 梅雨の一休みの中、さんさんと水無月の太陽に照らされるなんて、なんという贅沢。
 苦手な水泳が大手を振ってサボれるなんて、なんという贅沢。
 スク水姿の女子に囲まれるなんて、なんという贅沢。

 救い出されて尻尾を丸めた果報者のイヌは恥らいも無く無様な姿を披露していた。
 彼女……、そう。彼女はコンクリ打ちっぱなしのプールサイドにて仰向けに、濡れた紺色のスク水に身を包んで息も荒い。
 ここが安楽なる保健室のベッドでないことは我慢してくれればよいが、生憎ここは青空の元のプールだ。多少の犠牲はやむ得ない。
小さな体からはぁはぁと命の息吹が湯気を立たせて、ぽっこりお腹が上下に揺れる。空を流れる雲たちがやけに速い。

 「まったく……。お前、己を考えろよ」
 「はぁ……寝不足でした。眠いのを無理して……、だ、台本書いてました」
 「無理すんな」
 「助監督への道は厳しいんです。これしき……」

 保健医の白先生、脈を計り、彼女の容態が安定したことを確かめると、イヤミの無いお説教で彼女に愛の鞭をお見舞いしていた。
 ここで白衣姿なのは眩し過ぎるのでいそいそと白先生がプールサイドから退散すると、白衣の裾を引っ張る感覚がした。
無言で引っ張る力に対して、白先生は頷くことで「安心しろ」と伝えていた。程なくして裾は自由を得た。

 太陽の日差しが眩しく思ったか、コンクリと同化していた彼女が目を見開いて、きゃんと無駄吠えの声上げる。
 ちょっと太めの両脚を天高く突き上げ、勢い付けてむっくり起き上がると同時に、お互い打ち合わせをしたかのように
周りのスク水女子が一歩後ずさり。起き上がったチビっこイヌは滴る雫を拭いつつ、自身の健在をアピールしていた。
 山椒は小粒でも辛いんだぞと、言わんばかりに。

 「良い画が見えたんだよ!凄いんだったら!ゆらゆら揺れる画なんてプールの中じゃないと見られないんだから!」
 「……」
 「きれいな、画だったんだよ。あたしのファインダーに映ったんだよ」

 濡れた黒い毛並みがきらきらと、自信なさげな胸がおしとやかに、ちっぽけな体全身で奇跡の瞬間を伝えたくて 身振り手振りで
『全学年の生徒に見守られながらプールの底に沈む』屈辱を『神からの恩恵を授かる』名誉に仕立て上げる姿。それは彼女の癖だった。

 「おねえちゃん。何言ってるニャ?」
 「吸い込まれるような画だよ!青い画ってこんなに涼しくも、心惹かれるものなんて!」
 「ニャ?」

 彼女は未来の映画監督を夢見る少女。そんじょそこらの失敗なんぞ、未だ見ぬ銀幕への拍手に変わるのならばなんでも……と。

 「はやく……続きを撮らせてください!」
 「ニャ……?」

 あどけない瞳とネコ耳が溺れたイヌを捕らえる。
 そして、また一歩後ずさり。

 「とにかく、助かってよかったニャ」
 「……ありがとうございます」
 「年下に頭下げるのまだはやいニャよ」

 彼女は低学年のネコたちに敬語で気を使った。

 悟った。
 初等部……女子小学生たちに紛れて泳ぐのはもうやめようと。
 ちっちゃい頃を思い出すかもと思ったけれどとんだ大誤算。
 やっぱりJSは最高だぜ!だなんて、うそっぱちだ。JSの頃の記憶なんて、プールの底に沈んでしまえ。

 眠気が瞼にのしかかる。うとうとと、どっと疲れが彼女を襲い、再びプールサイドのコンクリへ体を沈め目を閉じた。

     #

761「青い画」 ◆TC02kfS2Q2:2013/06/03(月) 23:34:33 ID:VejPUCRk0

 彼女は『監督』と呼ばれていた。女子高生だけど『監督』だ。
 学園の映画研究会に所属する『監督』は事実、上に立つ立場だし、求心力も備えているし、映画監督を目指しているから異論は無い。

 事件が落ち着いた頃、目を覚ました誇り高き『監督』は一人ぼっちで更衣室で濡れた体をタオルで拭いていた。
 にぎやかだったプールは静寂を取り戻し、水面だけが自由な時間を弄ぶ。彼女の眼鏡が息で曇る。

 黒い毛並み美しく、ちっちゃい体はちょこまかと、そして眼鏡で光る瞳はどんな原石でも見分ける選球眼を携えていた。
 スペック高くても、所詮は女子高生。スク水姿で一人ぽつんと更衣室で姿見の前で突っ立ていた。肩に掛けたフェイスタオルから
しずくがぽたりと落っこちて、床を濃く湿らせる。時間が経つとともにその円は数を増やし、やがて不思議なサークルへと姿を変える。

 照明の消えた更衣室に差し込む光は四角四面な窓からの日光だけ。
 白く映える窓、床に落ちる影。『監督』はじっとその光を横っ面で受け止めていた。

 「元気になったニャか?」
 「さっき居た……」
 「ミケのこと?わたし、ミケっていうニャよ」
 
 更衣室の窓からひょこりと顔を出した子ネコが一人。さっきの事件を目の当たりにしていた子だった。
 夏みかんのような明るい色がさらさらとプールの風に揺れ、前髪をハートの髪留めで括った三毛猫の子ネコ。『監督』を案じて
わざわざここまでやって来た。ぐったりと仰向けになっていたときにはオトナに見えたミケは今となって小さく見える。

 「あたしがミケちゃんと同じぐらいの頃に見た映画を思い出してね」
 「そうなんだニャ」
 「あんな吸い込まれそうな空色の映画、あたしも撮ってみたいし」

 雫がつららと『監督』の毛並みを走り、紺色に染まるスク水は緩やかな丘を描く。草原を走る透明な羊の群れのようだ。
 優しい丘を登ったら、すらりと斜面を駆け下りる。そして粒は集い、『監督』の脚の付け根に淀む。
 『監督』はくすぐったくて、人差し指でスク水からむちっと映え出る脚の付け根をさすった。

 「絶対、撮ってやるんだから」

 小さい頃に見たんだ。
 まるで自分が魚になったように、青くきらめく空を自由に、銀幕の中にも空はあると。
 そして、空の向こうには紺青に染まる空の果て。散りばめられた瞬く星。その中をふわりふわりと浮かんでくるり。
 真っ暗な映画館に窓のように切り抜かれたスクリーン。
 リアルと妄想が混じり合う非現実的な空間。

 宇宙旅行はまだまだだけど、幻燈の前ではいつでもどうぞ。
 浮世をすっ飛ばしたいから、無敵の英雄に願いを託す。
 過ぎ去った日々は戻らないから、ちょっと指定席で現実逃避。

 ずっとこのまま騙されていたいと願いつつ、幼き日の『監督』は再び同じ夢を見る日を、そして誰かに分かち合う日を待ち続けていた。

 「おねえちゃんの映画を楽しみにするニャね。ミケは『かれし』といっしょに見に行くからニャ」
 「いるんだ。彼氏」
 「いないニャよ。これからさがすニャ」
 「じゃあ、ミケちゃんの彼氏が出来るまでにおねーさんは空色の映画、頑張って撮っちゃうぞ」
 「間に合わないかもニャね」

 夏の雲は流れが早く、映画に、青い色に取り付かれ、幼心を抱いたままの『監督』も、今では華のじょしこーせー。
 いつの日か『青い映画』を撮ってやるんだぞ。
 スク水脱いで、制服に着替えたばかりの『監督』からは塩素混じりの夏の匂いがした。


   おしまい。


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