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ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです

1名無しさん:2020/10/14(水) 17:28:46 ID:YvZFQxxU0

         タクシー
      (゚」゚)ノ
    ノ|ミ|
     」L
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        _/ ̄ ̄\_
       └-○--○-┘=3

2名無しさん:2020/10/14(水) 17:29:36 ID:YvZFQxxU0

≪1≫


 大なり小なり事件はあるが、とにかく世界は平和である。
 どこかで何かは起こっているけど、私の周りはすごく平和だ。

 そんな平和でありがちな日々の中、私は今日も学校に向かっている。
 市立VIP高校で、すごく平和な日常を送るために――


.

3名無しさん:2020/10/14(水) 17:31:08 ID:YvZFQxxU0


ξ;゚⊿゚)ξ「ぢごぐぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」 ダダダダダ!

 しかし時刻はマジでヤバイ。午前8時を大きく過ぎている。
 ぶっちゃけ遅刻寸前なので独白なんかしてる場合ではなかった。

 私はとにかく爆走していた。全力で走るためカバンも家に置いてきた。
 身一つで疾走してる自分に若干の疑問もなくはないが、ともかく今は遅刻しない事が肝心なのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「セーフ!」ガラガラッ

 かくして私は遅刻を免れ、教室に辿り着いた。

( ´∀`)「いいえ遅刻です」

ξ゚⊿゚)ξ「はい」

 なるほどアウトらしい。
 私は教室に着くなり速やかに着席し、そして手を上げ自白した。

ξ゚⊿゚)ξ「先生、教科書忘れました」

( ´∀`)「うーん見るからに手ぶらだったもんね。
      ツンさん、せめて教科書は持ってきてほしいモナ」

ξ゚⊿゚)ξ「はい先生」

 私は涼しげに返事をしてから隣の席に一瞥を送った。
 教科書ないから見せて、という意味のアイコンタクトである。

.

4名無しさん:2020/10/14(水) 17:34:19 ID:YvZFQxxU0

ξ゚⊿゚)ξ チラッ

('A`)

ξ゚⊿゚)ξ

(;'A`)「……なんか言えよバカ」

 バカって言う方がバカ理論で言うところのバカである隣席の生徒、ドクオ。
 ドクオは机をこちらに寄せ、ようやく素直に教科書を見せてくれた。
 バカなりに自分の仕事は分かっているようだった。

ξ゚⊿゚)ξ「なんも言わないわよ。授業中に喋っちゃダメでしょ」

(;'A`)「……お前、形だけは優等生ぶるよな」

ξ゚⊿゚)ξ「失礼ね、私はいつでも優等生なのだわ。ちょっと愛嬌強めなだけで」

('A`)「愛嬌で済まねぇレベルの問題児だよ」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな事より授業に集中しなさい。
       今どこやってるのよ、教えなさいよ」

('A`)「いやもう終わりだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ」 キーンコーンカーンコーン

 勉学に向けて意気込んだ矢先、授業終了のチャイムが鳴り響く。
 おかしい、いくらなんでも終わるのが早すぎる。これは異常事態に違いなかった。

ξ;゚⊿゚)ξ「ありえない、授業がもう終わって――!?」

('A`)「お前が入ってきた時点で9割終わってたからなぁ」

( ´∀`)「はいじゃあここまでモナ。解散!」

 解散の合図と同時にクラスの雰囲気が軽くなる。
 私も早速席を立った。次の授業のためにも教科書が必要である。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえドクオ、次の授業ってなに?」

('A`)「は? もう昼飯だよ」

ξ゚⊿゚)ξ

 なるほどね、と心で呟く。
 もう午前8時もクソもなかったな。
 帰ったら時計の針を直しておこう。
.

5名無しさん:2020/10/14(水) 17:39:17 ID:YvZFQxxU0


〜〜〜〜〜


 昼の間に教科書を持ってこいと言われたので、私は一旦家に帰った。
 ついでに自宅で昼食を済ませた。おいしかった。

('A`)

ξ゚⊿゚)ξ「ドクオはずっと1人ね」

('A`)「無駄に動かないだけだ」

 かくして学校に戻った私は席に着き、1人暇そうにしているドクオに声をかけた。
 これは単なる事実なのだが、ドクオには友達が居ない。

('A`)「それより、ちゃんと教科書持ってきたんだろうな」

ξ゚⊿゚)ξ「当然じゃない。私を誰だと心得てるの?」

(;'A`)「……分かってるよ。お嬢様だろ、お嬢様」

ξ-⊿-)ξ「そうなのだわ。分かってるじゃない」髪ファサ…

 やれやれこれだからドクオはドクオなのだ。
 私は自慢の金髪ドリルを払い上げ、自信たっぷりに威厳をアピって見せた。

 かくいう私――『魔王城ツン』にはとんでもねえ秘密があった。
 ぶっちゃけ私は魔王の娘である。魔界出身のガチ魔物、マジモンのお嬢様なのだ。
 平々凡々とした日常パートなんて今だけだ。蓋を開ければ色々とすごいのである。

ξ゚⊿゚)ξ「フフフ……みんな私の正体も知らず……」

('A`)「人格と素行の問題だと思うよ」

.

6名無しさん:2020/10/14(水) 17:41:00 ID:P3yxYjEo0
復活マジ?

7名無しさん:2020/10/14(水) 17:41:54 ID:YvZFQxxU0

( 'A`)「……さておき、今朝テストの返却があったんだが」 ペラッ

ξ;゚⊿゚)ξ「ゔッ!!」

 テストアレルギーなので即死級の阿鼻が爆発してしまった。
 ドクオは自分の解答用紙を机に出し、お前も見せろと言わんばかりに細い目を向けてきた。
 やめてほしい、テストアレルギーなので。

('A`)「隠しても無駄だからな」

ξ;゚⊿゚)ξ「……いや、コレが意外と結果よかったりするのよ」

('A`)「いいから出せ」

ξ;゚⊿゚)ξ「うち意外とやれる子やけん、そげん悪かことには……」ガサゴソ

 私は机の中を探り、そこにあった嫌な手応えを取り出した。

ξ゚⊿゚)ξ
 つ[ ]と

 長方形の紙切れ、それはまさしく解答用紙。
 その名前欄の隣には、私の体重くらいの点数がしっかりと書き出されていた。
 ちなみに私の体重は42キロである。ちょっと痩せすぎかな?(笑)

('A`)「27点ですね」

ξ゚⊿゚)ξ「はい」

('A`)

('A`)「27点って、お前……」

 ドクオはただ静かに目を伏せ、眉間を抑えて肩を震わせた。

('A`)「バカじゃん……」

ξ;゚⊿゚)ξ「……復習、頑張るし……」

('A`)「人間界の勉強、流石にもう少しマシになろうぜ……」

ξ;´⊿`)ξ「……はい……」

.

8名無しさん:2020/10/14(水) 17:47:51 ID:YvZFQxxU0

(;'A`)「……それで、この有り様でもまだ『アレ』やるんだよな」

ξ;´⊿`)ξ「へえ、帰ったら物理の授業がありんす」

 ちなみに物理の授業とは 『物理戦闘の特訓をする』 という意味の隠語である。
 帰宅後の特訓は正直めちゃくちゃつらい。やりたくない。
 しかし私は魔王城ツン、逃亡なんて許されないのである。

('A`)

('A`)「もう諦めてスケジュール考え直せよ。身の程に合わせようぜ」

Σξ;゚⊿゚)ξ「そこまで言う!?」

 とはいえ、ドクオの言い分もまた正論だった。

 今の私は当然の期待に応えるのが精一杯で、魔王の重責を負えるほどの実力は無い。
 魔王だなんだは形式だけ。肩書きだけの誇張表現、生まれに基づくただの設定。
 今の私を言い表すなら、もういっそ『出来損ない』とか『期待外れ』で済ませた方が正確なのだ。

 ……そんな私に出来ることは、今あるものを裏切らないこと。
 ただそれだけを徹底し、私は今を生きているのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「――ええい黙らっしゃい! な〜にが身の程じゃい!」

('A`)

ξ;゚⊿゚)ξ「私は魔王の娘なのよ! 意地のひとつもあるのだわ!」

('A`)「いや、だからそれが空回ってるんだよって」

ξ;゚⊿゚)ξ「なによ! 逃げて放り出すよりマシなのだわ!」

(;'A`)「計画を練り直そうって話だろ……」

ξ;゚⊿゚)ξ「ぐぬ……この屁理屈ボケカスモンスターちぢめてボケカスが……」

( ´∀`)「はーい、もう授業始まるモナー」 ガラガラッ

 そうこうしてる間に予鈴が鳴り響く。
 つらくきびしい地理の授業が幕を開けようとしていた。

.

9名無しさん:2020/10/14(水) 17:49:44 ID:YvZFQxxU0


 〜放課後〜


 授業が終わり、部活が終わり、学校が終わり。
 1日を終えた学生達も思い思いに動き出し、校舎にはささやかな静寂が広がっていく。

 そんなよくある学校生活、終わりの風景。
 私は今日の名残りを眺めるように教室に居残り、ドクオが部活から戻るのを待っていた。


ξ゚⊿゚)ξ「それでドクオがね、急に爆発して死ぬの」

 「そうなんだ、すごいね!」

ξ゚⊿゚)ξ「死ぬのよ」

 もちろん一人ではない。ちゃんと話し相手も居る。
 話し相手はクラスメイトのまゆちゃん(モブ生徒)だ。AAは無い。
 今日も随分と話し込んだ気がする。時計を見ても、そろそろお開きのようだった。

ξ゚⊿゚)ξ「……さて、今日もウソばっかり話してしまったわね」

 「うん、何一つとして真実を語らなかったね! 逆に凄いよ!」

ξ゚ー゚)ξ「ふふ、何があっても私が魔王だなんて信じちゃダメよ。
      女子高生でも流石にキツい」

 私とまゆちゃんはマジでどうでもいい事で時間を潰せるタイプで、心底気が合う間柄だった。
 下敷き卓球、鳥類観察、ひたすらウソを言い合うなど、そのクソどうでもよさは校内随一を自負している。
 そんな私達の様子は大体まんがタイムきららなので各位そのように想像してほしい。

('A`)「ヴァー」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、ドクオが来たのだわ」

 かくしているとドクオが戻ってきた。
 彼は教室の入り口に突っ立ったまま、「帰ろうず」の意である呻き声を上げていた。

.

10名無しさん:2020/10/14(水) 17:54:52 ID:YvZFQxxU0

ξ゚⊿゚)ξ「それじゃあまゆちゃん、続きはまた今度」

 「うん! またね、魔王城さん!」

('A`) ヴァー

 支度を済ませて教室を出て、まゆちゃんに最後の挨拶をしてから帰路に着く。
 私の日常はこれでおしまい。少なくとも、普通の人間としての日常は完全に終わった。

 ここから先はもう一つの日常。
 一介の魔物として、魔王の娘として過ごす夜の時間である。

ξ゚⊿゚)ξ「……ドクオ、せめてまゆちゃん相手には普通に話しなさいよ」テクテク

('A`)「馴れ合いは好きじゃないから……」トボトボ

ξ゚⊿゚)ξ「誤解されてもしょうがない……」

通りすがりのブルーハーツ「それでも僕は君のこと〜〜」

 人と魔物の二重生活を切り替える通学路は、私にとって大きく意味のあるものだった。
 朝は寝坊しちゃうのであんまり意味がない。

ξ゚⊿゚)ξ「とにかく、まゆちゃんに失礼な態度は取らないでよね。
      めちゃくちゃ貴重な友達なんだから……」

('A`)「分かってるよ。だから関わらないようにしてるんだろ……」

 私が人間として振る舞える時間は極僅かだ。
 魔物の寿命を鑑みれば、それこそ『今』は一瞬の出来事として記録されてしまうだろう。

 そんなエモい感情を区切り、胸にしまうための帰り道。
 せいぜい20分程度の道行きを、私はゆっくりと歩いていく。

('A`)「コンビニ寄るけど」

ξ゚⊿゚)ξ「私も」

 肉まん買って帰った。

.

11名無しさん:2020/10/14(水) 17:57:53 ID:YvZFQxxU0


 〜ツンちゃんの家〜


ξ゚⊿゚)ξ「ただいま〜」

('A`)「おじゃまします」


ミセ*゚ー゚)リ「おかえりなさい、遅かったですね」トテトテ

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。友達と話し込んじゃって」

ミセ*゚ー゚)リ「また?」

ξ゚⊿゚)ξ「……学校生活には関知しない決まりでしょ」

 家に帰ると、同居人&お世話係の餓狼峰ミセリさんが玄関まで出てきてくれた。
 奥のリビングからは美味しそうな夕飯の匂いが漂ってくる。
 ミセリさんのエプロン姿も相まってか、この時ばかりは日常的な感慨を覚えてしまう。

ミセ*゚ー゚)リ「普通に心配してるんですよ。連絡もしてくれないし」

ξ゚⊿゚)ξ「既読なら付けてるじゃない」

ミセ;*゚ー゚)リ「返信が欲しいって話ですよ!」

ξ゚⊿゚)ξ「うるさいのだわ。そんなんだから独身なのだわ」

ミセ*゚ー゚)リ「いささか高潔なだけです」

 そもそも魔物には独身もクソも無いのだが、確かにそれはその通りだ。
 私も高潔なのでよく分かる。高潔なのは大変である。

ξ゚⊿゚)ξ(高潔なのは、高町なのはみたいで良いわね……)

('A`)「……じゃあ俺はこれで」

ミセ*゚ー゚)リ「あれ、今日も夕飯いいの?」

('A`)「適当に済ませるんで」

 私の友達、という体での護衛を終えたドクオは気だるげに踵を返す。
 今日も何事もなく終われたと、彼は長い溜息を吐きながら家を出ていった。

ミセ*゚ー゚)リ「そっけない。食べてけばいいのに……」

ξ゚⊿゚)ξ「シリアス遠慮マン」
.

12名無しさん:2020/10/14(水) 18:02:37 ID:YvZFQxxU0


ミセ*゚ー゚)リ「……さて。では『お嬢様』、この後はどうされますか?」

 エプロンを脱ぎながら、ミセリさんはやや固い口調で言った。
 ここから先はもう殴り合いの時間なので、私の心も少しだけ強張ってしまう。

ミセ*゚ー゚)リ「お風呂にするか、ご飯にするか、それとも」

ξ;゚⊿゚)ξ「……特訓が先よ。でなきゃ風呂もご飯も無駄になるじゃない」

ミセ*゚ー゚)リ「無駄に『してる』だけですよ。こけたり吐いたりしなければいいんです」

ξ;-⊿-)ξ「……分かってるのだわ。用意するから先に行ってて」

ミセ*゚ー゚)リ「はい、ごゆるりと」

 ――私はミセリさんを横切って家に上がり、努めて遅い足取りで2階の自室に入っていった。
 自室に荷物を置き、制服からジャージに着替え、軽いストレッチまでを終わらせる。

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

 時刻は午後7時を回ったところ。
 私はここから8時間、特訓用の異空間でひたすら特訓をし続ける。
 しかもその異空間は精神と時の部屋なので、特訓後でも現実では1時間しか経過していない。

 これが私にとっての『夜』。
 毎日欠かさず行われる、日常に対するもうひとつの日常だった。

 地上ボケ防止とはいえ、人間社会に合わせた体で30時間以上も活動するのは結構しんどい。
 ましてやそこに物理特訓(スパルタ)が入ってくれば尚更で、つまりつらい。

ξ;゚⊿゚)ξ

 しかしそれでも続けるしかない。
 なぜなら私は魔王城ツン。やらねば名前がすたるのだ。

ξ;-⊿-)ξ「……行くか」

 色々考え込んだ後、大きく一息ついて胸をなでおろす。
 私は渋々動き出し、自分の部屋を後にした。


.

13名無しさん:2020/10/14(水) 18:04:01 ID:YvZFQxxU0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ――特訓用のスペースは、魔術的に構築された異空間内に用意されている。
 その広さは東京ドームくらいで、岩場や崖の多い立体的な地形をしていた。

 草木の類を一切排除した人工的な荒野。
 私とミセリさんはそこに立ち、特訓開始に向けたあれこれを云々していた。

ミセ*゚ー゚)リ「お嬢様、今日の調子は?」

 ジャージ姿のミセリさんが伸び伸びとストレッチをしながら問いかけてくる。
 ここで「絶好調!^p^」なんて答えると死んでしまうので、私はわざとらしく顔色を悪くして答えた。

ξ;´⊿`)ξ「もーだめ、疲れすぎてて動きたくない……」

ミセ*゚ー゚)リ「であれば肉体の限界を超えるチャンスですね! 頑張りましょう!」

ξ゚⊿゚)ξ「違うそうじゃない」

 ミセリさんは大体いつもこんな感じだった。
 多分あんまり人の話を聞いてないんだと思う。

.

14名無しさん:2020/10/14(水) 18:08:31 ID:YvZFQxxU0

ミセ*゚ー゚)リ「じゃあとりあえず魔力生成から始めましょうか。
      お嬢様は出力を抑えつつ、扱える分だけ生成してくださいね」

ξ゚⊿゚)ξ「ウス」

 さて、いよいよ特訓開始である。

 魔力=やる気みたいなものなので、ここで魔力を作り過ぎると色々と危ない。
 私は魔力生成だけは普通に出来るのだが、その魔力をコントロールするのがとにかく下手だった。

 だから魔力生成は程々で済ませ、コントロールできる範囲で次の段階に移行する。
 生成された魔力は固有の色を獲得し、所謂オーラ的なものとして現れるのが特徴だ。

ξ-⊿-)ξ「……ん、できた」

ミセ*゚ー゚)リ「はい。今日はそのまま、もう少し」

 時間をかけてゆっくりと練り上げた魔力が、少しずつ真紅に色付いて像を結ぶ。
 制御限界もあるので大した変化は見られないが、然るべきアレが良い感じになっている。
 傍から見ると界王拳の趣もあると思う。魔力に集中すると語彙力が無くなって困る。

ミセ*゚ー゚)リ「……にしても普通ですね」

ξ;-⊿-)ξ「……やる気なくなるから言わないでほしいのだわ」

 魔力の感覚を呼吸に重ね、自然体へと推移させる。
 ここまでやって、これでようやく及第点だ。魔力の扱いは本当に大変である。

ミセ*゚ー゚)リ「それじゃあ私も用意しますね」 スッ

 私の所作を見届けると、程なくミセリさんも魔力を発揮。
 同時にハンターハンター(旧アニメ)みたいな効果音が空に唸り、僅かに空気が震えだした。

ξ;゚⊿゚)ξ !

 ――その鳴動と共に現れ、ミセリさんの身体を包むコバルトグリーンの魔力。
 前述の例えに合わせるならば、その趣は完全にブロリーであった。

ミセ*゚ー゚)リ「……はい、こちらも済みました」

ξ;゚⊿゚)ξ「……ウス」

 魔力の基本は生成、制御、成形の3段階。
 そして、ミセリさんはその全てを高いレベルで習得していた。
 魔力の質も総量も、私が生成したものとは比べ物にならないほどだ。

.

15名無しさん:2020/10/14(水) 18:14:04 ID:YvZFQxxU0

ミセ*゚ー゚)リ「少しずつではありますが、お嬢様にも上達は見られます。
      とにかく基本は大切に。毎回言ってますが、疎かにしないよう」

ξ;゚⊿゚)ξ「わ、分かってるのだわ」

ミセ*゚ー゚)リ「それはなにより。では次、成形の練習を始めましょうか」

ξ;゚⊿゚)ξ「ゔッ! ……はい」

 魔力を生成し、コントロールし、意図したものに成形する基本の3段階。
 この内、私がまともに出来るのは魔力生成だけである。
 出力を抑えまくればコントロールもギリ出来るのだが、問題は最後の『魔力成形』――。

ξ;゚⊿゚)ξ「そいやぁぁぁぁぁ! 魔力成形!」
 つ魔と

ミセ*゚ー゚)リ

ξ;゚⊿゚)ξ「あああああ魔力が逆流する!! うおおお魔力成形!!」
 つ魔と

ミセ*゚ー゚)リ(このアホっぽい掛け声、直すべきかな……)

 魔力は生成だけでも身体機能を大きく向上させてくれる。
 が、それだけでは魔力の全性質を引き出せているとはとても言えない。

 生成段階ではオーラのように無形の魔力。
 それを身体強化や魔術などに発展させる最後の工程こそが魔力成形。
 ただでさえ魔力コントロールがヘタクソな私には、これがもうマジで無理で死にたい。

 しかし、立派な魔物を目指すなら魔力成形は必修科目。
 だからこそ、私も簡単なものでいいから成功させてみたいのだが、

.   _ ∩
  レヘヽ| | テテーン
    (・x・)
   c( uu}

ξ;´⊿`)ξ「ウサちゃんになった……」

ミセ*゚ー゚)リ「どうして……」

 私の魔力はウサちゃんにしかならない。
 もうヘタクソとかいう次元ですらなかった。

.

16名無しさん:2020/10/14(水) 18:16:52 ID:YvZFQxxU0

ミセ;*´ー`)リ「……なんというか、これはこれで面白いですよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「面目ない……」

ミセ;*゚ー゚)リ「構いません。今に始まった事じゃないですし、魔王化まで先は長いですから。
       最初はもっと簡単なイメージからいきましょう。小物とか布とか……」

ξ;´⊿`)ξ「ウサちゃんイメージしてる訳じゃないのに……」

ミセ;*゚ー゚)リ「おかしいですね、あれが原点だったりするんでしょうか……」

 前述のとおり、私はもう魔力成形というヤツが苦手で苦手で最悪だった。
 それ抜きにしても私は弱いので、一旦今は基本を固める感じて特訓メニューが組まれている。

 つまりは物理の時間、物理戦闘の特訓となる。
 かくして身体強化全開のパワフル脳筋特訓が幕を開け――

ミセ*゚ー゚)リ

ミセ*゚ー゚)リ「……これは、本当にやるしかなさそうですね」ボソッ

ξ゚⊿゚)ξ ?

 ……と、思ったのだが。
 ミセリさんは口元に手を当てたまま踵を返し、独りごちつつ考え事を始めてしまった。
 それから少しして考えがまとまったのか、ミセリさんはまたこちらを向き、普段の調子に戻った。

ミセ*゚ー゚)リ「お嬢様、すみませんがちょっと外に出てきますね。
      いくつか連絡を済ませておきたいので。ちょっと自主練してて下さい」

ξ*゚⊿゚)ξ「えっ、サボってもいいの!?」

ミセ*゚ー゚)リ「自主練と言いました。具体的にメニュー出しましょうか?」

ξ゚⊿゚)ξ「岩盤ベンチプレスは勘弁してください」

ミセ*゚ー゚)リ「よろしい。でもまぁすぐ戻ってくるので気にしないで下さい。
      むしろ不意打ちを仕掛けますから気を抜いちゃダメですよ?」

Σξ;゚⊿゚)ξ「不意打ちはもっと勘弁してください!!」

 このあと不意打ちされてボコボコにされ、いつもの物理特訓が8時間続いた。
 なお特訓風景はほぼ暴力シーンで構成されており、作品健全化のため全カットされるのだった。

.

17名無しさん:2020/10/14(水) 18:20:54 ID:YvZFQxxU0

≪2≫


 ――……あくる日の学校、昼食の時間。


ξ゚⊿゚)ξ「しんどい」

('A`)「……そりゃ分かるけど」

 昨日の特訓、一昨日の特訓、更にその前の特訓。
 魔王になるべく続く日々は、それはもう凄まじい筋肉痛を私にもたらしていた。

 現在、私の全身は筋肉痛でバッキバキ。
 矯正ギプスを付けてるレベルで動きが拙く、昼食を食べることすら正直つらい。

 「はい魔王城さん、あーん」

ξ゚⊿゚)ξ「すまぬ……すまぬ……」 パクパクモグモグ

 なのでクラスメイトのまゆちゃんにあーん(はぁと)で食べさせてもらっている。
 とても楽なのでずっとこれがいい。
 かくして私はまゆちゃんのヒモ女になった。ここ薄い本が出るところです。

('A`)「とりあえず今日と明日は休みなんだろ? それで十分休んどけよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「……まぁ連休は嬉しいんだけど、それはそれよ」

 ――そうなのである、突然だが休日なのである。
 近頃の私を見かねたのか、あのミセリさんが珍しく連休をくれたのである。
 まったく、特訓なしで過ごせる日なんていつ以来だろうか。

ξ;-⊿-)ξ「……たった2日じゃ今ある疲労を取れるかも怪しいのだわ。
        魔力はともかく、体力と気力の回復には1週間は欲しいものね」

(;'A`)「そこは諦めろよ。ミセリさん脳筋で人の気持ち分かんねえんだから」

ξ゚⊿゚)ξ(けっこう酷いこと言うなコイツ)

 ちなみにいつものミセリさんは

【 ミセ*゚ー゚)リ「今日はご帰宅が早かった事ですし、もう8時間いきましょう!」 】

【 ミセ*゚-゚)リ「たまには数日ブッ通しで鍛えるか……(気分)」 】

 といった調子なので、連休なんてものはマジで発生しない。
 ゆえに今回の休暇は極めて貴重なものなのである。大事にしていきたい。

.

18名無しさん:2020/10/14(水) 18:26:24 ID:YvZFQxxU0

('A`)「実際、今のお前じゃミセリさんの特訓にもついてけねえだろ」

ξ;゚⊿゚)ξ「それは……」

(;'A`)σ「……相手が相手だ。ぶっちゃけ俺でもやりたくないレベルなんだぞ。
     何度も言うけど絶対に非効率だ。身の程に合わせるべきだ」

 ドクオは強く言いきり、私の反論を拒むようにコンビニ弁当にがっついた。
 1回くらい肩パンしたい気持ちになったが、納得する部分もあるので無下にはできなかった。

ξ;-⊿-)ξ「……何度も言うけど、私は自分の意思で今の生活をしてるの。
        文句も愚痴もその一部よ。向こうが愛想尽かさない限り、私は続ける」

('A`)「でもその愛想を尽かされたんじゃねえの」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ」

('A`)「急に連休だし」

ξ゚⊿゚)ξ

( 'A`)「魔王候補も今日までか。案外早かったな」

ξ;゚⊿゚)ξ

 「……2人とも、ウソ・トークが迫真だね……!」

ξ;゚⊿゚)ξ パクパクモグモグ

 確かに今回の休暇はいきなりステーキめいている。
 そこに一切の不安が無いとは私自身も言い切れない。いきなりステーキの話していい?

.

19名無しさん:2020/10/14(水) 18:28:45 ID:YvZFQxxU0

ξ゚⊿゚)ξ「そういえばいきなりステーキの話なんだけど」

('A`)「なんだろ、ミセリさんも上からなんか言われてんのかな。
    特訓の成果とかまったく出てねえしな……」

ξ゚⊿゚)ξ「いきなりステーキ……」

 話題を無視された肉マイレージカードが泣いていた。


 「……いきなりステーキ? 行きたいの?」

ξ゚⊿゚)ξ !

 「じゃあ今度行こっか! 私行ったことないんだよね」

ξ゚⊿゚)ξ「すまぬ……すまぬ……」パクパクモグモグ

 まゆちゃんは全ての話題を拾ってくれるのですごい。


('A`)「……ほんと、お前なんで死ぬほど弱いんだろうな。
    魔界の血統書で言えば超スペシャルだってのに……」

('A`)「人間社会にもやたら馴染んでるし、むしろ今の生活のが合ってるんじゃ……」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「――ハァ!? そんな訳ないじゃない!
       ちょっとドクオ、あんまり私を見くびらないでほしいのだわ!」

(;'A`)「でもよ、今のお前じゃ魔界に居ることすら出来ないんだぞ。
    なんで地上で日常系作品みたいな生活してるか考えろよ……」

ξ;゚⊿゚)ξ「ぐぬォ……!」

 痛い所を突かれ、思わずガッシュ・ベルみたいな阿鼻が漏れてしまう。

 確かに私くらいのヴィジュアルがあればまんがタイムきららでの連載も可能だ。
 しかし私は魔王城ツン、魔王の娘で純粋バトル系の生まれなのだ。
 それをなんだこのドクオは。肉マイレージカードで殴るぞ。

.

20名無しさん:2020/10/14(水) 18:31:02 ID:YvZFQxxU0

(;'A`)「魔界に居ても血筋のせいで狙われるし、自分で自分を守れねえし。
    ほぼ魔王の厄介払いみたいな成り行きで地上に来てんだぞ。忘れんなよな」

ξ゚⊿゚)ξ

('A`)「身の程を弁えろよな」

ξ゚⊿゚)ξ「ストレスでハゲそう」

 ああ、こんな惨めな気持ちになるのなら異世界転生主人公になりたかった。
 私だって最強主人公で主題歌LiSAでアニメ化されたかった。
 それをなんだこのドクオは。肉マイレージカードでボコボコにするぞ。

ξ;゚⊿゚)ξ「――ふん! もういいわよ、今更そんなの余計なお世話なのだわ!
       アニメ化してもドクオの出番は無いんだからね!」

('A`)(アニメ化?)

ξ゚⊿゚)ξ「ちなみに私は萌え声女声優でアニメ化されて解釈違いで荒れまくるのが夢なの」

 「そうなんだ、すごいね!」

ξ゚⊿゚)ξ「キャラソンが原作無視してて最悪とか言われたいのよ……」

 「そうなんだ、すごいね!」

 まゆちゃんは必ず反応してくれるのですごい。

.

21名無しさん:2020/10/14(水) 18:31:38 ID:YvZFQxxU0

 キーンコーンカーンコーン!!!!!!!!!!!!!!!
 突然だがチャイムが鳴り響いて昼が終わった。よくある急転直下である。

Σξ;゚⊿゚)ξ「アアーー!! 宿題まだやってないのだわ!!」

('A`)「どうして……」

 「丸写しする?」

ξ;´⊿`)ξ「する……」

('A`)(ダメ女……)

.

22名無しさん:2020/10/14(水) 18:33:29 ID:YvZFQxxU0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 この世界の歴史に大きな区切りをつけるとすれば、
 誰であれ、『勇者と魔王と超能力』への言及だけは避けられないだろう。


 ――およそ50年前に起こった正義と悪の戦争。
 終戦までに半年を要したそれは『現魔戦争』と呼ばれ、
 『超常時代』の終わりを決定付ける『歴史の特異点』として広く認知されていた。

       カキカキ
ξ゚⊿゚)ξφ....

 なお、これは世界史の宿題を丸写ししながら地の文を展開するという荒業であった。
 『』で囲まれてる部分がテストに出やすいとのこと。


 戦争以前、この世界は『超能力』による問題や不安を数多く抱えていた。
 それらは世界情勢を脅かすようなものには(なぜか)発展しなかったが、
 超能力の存在が銃社会のようなストレスを生んでいたのもまた事実だった。

 ここらへんの色々を上手くまとめたのが『超常時代』。
 超能力ありきの現代社会、みたいな感じのアレが、つまりそういうことなのだった。

ξ゚⊿゚)ξ(うーんよくわからん)

 まぁ多分こんな感じの認識で合ってるだろう。
 なんでもいいや、今は宿題を終わらせるのが大事だ。先に進もう。

.

23名無しさん:2020/10/14(水) 18:36:31 ID:YvZFQxxU0


 人と社会と超能力とが共存していた時代。
 長らく続いたその時代は、しかし、ある出来事を節目に終息へと向かい始める。

 その出来事とは『勇者と魔王の出現』。
 超能力者みたいな埒外の存在が、同時期に複数現れちゃったのだ。


 ほどなく魔王は無数の魔物からなる魔王軍を率いて世界各地へと侵攻。
 勇者は魔王軍を追って戦場に現れ、現地の超能力者と協力して魔王軍を撃退していった。

 そんな一進一退の果て。
 勇者に与する者達は『勇者軍』を自称し始め、戦況は『魔王軍VS勇者軍』の構図に収束。
 かくして戦いは『現魔戦争』へと発展し、あとまぁそれっぽい事が色々起こった。

【 Q.戦争の結末は? 】

 ……というと、その辺のアレはかなり曖昧で、表向きにも大分なあなあにされてる部分だった。
 ぶっちゃけ戦争後期には勇者も魔王もクソもなく、みんなそんなのどうでもよくなっていたのだ。

 そしたらみんな結末を見逃してしまった。
 アーカイブにも残らなかった。

 気がついたら勇者も魔王も消えていて、流れで戦争も終わっちゃったのである。
 あとは『みんな』が表向きの歴史を取り繕い、私がこうして勉強してる感じ。
 この辺の機微は大人の事情という感じがすごい。あんまり言及するのも薮蛇というものだ。

 ……とはいえ、実際の歴史はもうちょっとハッキリしている。

 これについては魔界のみんなも大声では言わないのだが、
 私は「王様の耳はロバの耳!」をやるタイプなので大声で言ってしまう。

.

24名無しさん:2020/10/14(水) 18:39:53 ID:YvZFQxxU0


 ――勇者と魔王の勝ち負けについては、とりあえず明確な決着がついていた。

 決戦の場は魔界。
 その結末をざっくり言うと、勇者のギリギリ判定勝ちだった。


 決戦後、辛うじて動けた勇者は魔王軍から逃げて地上に脱出。
 以降完全に姿を消し、今なお捜索の手掛かりすら見つかっていない。
 一方で魔王もギリギリ生きてはいたが、今なお植物状態で意識を取り戻していない。

 勇者は立てて、魔王は立ち上がれなかった。
 そんな感じの結末なので、強いて言うなら勇者の判定勝ちという感じになる。
 個人的には判定勝ちどころか完全に勇者winなのだが、そこは身内贔屓だ。

 しかし魔王の負けは魔界全体の負けみたいなもの。
 そりゃ歴史の闇に葬られるし、みんな大声では語らない。

 そもそも判定者が居なければ判定勝ちも成立しないのだから黙殺がベスト。
 結果、創作された『勇者と魔王が消えて戦争終結』という言説が好都合で、今に至る。


『 / ,' 3 』

 ちなみにこっちが魔王スカルチノフ。私のおじいちゃんだ。
 身内だが戦争首謀者なので苦手意識が強い。ぶっちゃけこいつ戦犯なのでは?
 それでも、いつか目覚めてくれたら色々話してみたいとは思っている。

『 ( ・□・) 』

 そしてこっちは勇者ブーン。
 彼の行方は今も捜索され続けているが、まぁ死んでるよね! というのが魔王軍の見解だった。
 まぁ死んでるよね! 私もそう思う。

.

25名無しさん:2020/10/14(水) 18:45:47 ID:YvZFQxxU0


 ――しかし戦争終結後、地上では更なる異変が起こっていた。

 それは『超能力の消失』。
 これがぶっちゃけ原因不明で、なぜ発生したかも分からなかったらしい。

 対策しようにも超能力自体が理外の概念。
 人の知恵ではとても対処しきれず、超能力者はすごい速さで減っていった。
 人間達、コロナは殺せてもこっちは無理だったらしい。

 かくして50年。
 理外のものが幅を利かせた『超常時代』は幕を下ろし、世界は平和そのものになった。
 激ヤバの戦争を終えた人類は改めて手を取り合い、銀河の歴史がまた1ページ――


 ……という所までが、またしても表向きの歴史。
 実はこの50年間で魔物は人間界への進出を果たしており、人間社会にガッツリ入り込んでいた。
 つまり、超常時代はまったく幕を下ろしていないのである。

 しかしその進出は侵略目的ではなく、人間との共存を模索する偵察のようなものだった。
 今更なんで急に共存とか言い出したのかというと、次代の魔王が平和主義者だったからである。

『 ( ФωФ) 』

 スカルチノフ亡きあと、魔王の座を継承したロマネスク(私のパパ。つよい)。
 彼は極めて温厚な性格をしており、先代魔王のような侵略行為を一切許さなかった。

 魔王ロマネスクが目指すところは魔界の平和的統治。
 人間界を参考に、魔界に理性的な社会構造を作り出すことだった。

 そしてそれは50年でおおよそ実現され、今の魔界はかなり平和的な感じに治められている。
 スカルチノフ世代の老害も多少なり残ってはいるが、それはパパが物理的に説得している。
 やはり政治は物理なのだ。パパの所業を聞くたびに、私は物理の凄さを実感するのだ。

 争うな! 殴るぞ! を地で行くので理不尽と言えば理不尽である。

.

26名無しさん:2020/10/14(水) 18:49:16 ID:YvZFQxxU0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



ξ;´⊿`)ξ「写し終わったーーーーーー!!」


 余談が多くなってしまったが、つまり大体そういうことなのだ。
 魔物の私やドクオが地上で暮らしていられるのも、つまりそういう歴史があったからなのだ。

 『勇者と魔王の出現』、そして『現魔戦争』から『超能力の消失』の流れ。
 これが『超常時代』の終わりであり、今回私が丸写しで済ませた宿題の内容だった。
 歴史は大事だなぁ。私は心からそう思った。


ξ;゚⊿゚)ξ「まゆちゃん本当にありがとう! 今度お礼するから!」

 私は急いでまゆちゃんに宿題を返して次の授業に備えた。

ξ゚⊿゚)ξ(あっ教科書が無い)

 ダメだった。


( ´∀`)「みんな席に着くモナ〜」ガラガラッ

 間髪入れずにモナー先生が教室に入ってくる。
 さらに先生の後ろには見慣れない生徒が1人、カバンを抱えてついて来ていた。

( ^ω^)

ξ゚⊿゚)ξ「……?(誰よアイツ……見ない顔ね……)」

.

27名無しさん:2020/10/14(水) 18:50:10 ID:YvZFQxxU0

( ´∀`)「えーと、突然だけど転校生を紹介するモナ」

 教壇に立ったモナー先生は教室を見渡し、声を張って注目を集めた。
 転校生の一言にどよめく教室。
 それが落ち着いてきた頃合いで、モナー先生はまた口を開いた。

( ´∀`)「それじゃあ内藤くん、自己紹介をお願いするモナ」

( ^ω^)

( ^ω^)「……内藤ホライゾン。よろしく」

 ニコヤカ仏頂面で手短に名乗る転校生。
 彼は教室内を一望し、なぜか私のところで視線を止めた。
 一目惚れか? やれやれ参ったな。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえドクオ、あの転校生こっち見てない?」ヒソヒソ

('A`)「バッチリ見てるな。……ヤな感じだ」

ξ゚⊿゚)ξ「いや多分あれ一目惚れよ。してしまったのよ恋を、私に」

(;'A`)「えっ、いや違うぞ」


( ´∀`)「はい、じゃあ内藤くんも席に着くモナ。
      一番後ろの席にしといたモナ。あとはよろしく」

( ^ω^)「分かってるお」

 着席を促された転校生、もとい内藤ホライゾンがこちらに向かって歩いてくる。
 わざわざ私の隣を通って行こうだなんて可愛い奴め。
 どれ、いっちょ声を掛けてやるとするか。この美少女ヒロイン魔王城ツンが。

.

28名無しさん:2020/10/14(水) 18:53:01 ID:YvZFQxxU0


( ^ω^)

ξ-⊿゚)ξ「よろしく、内藤くん」髪ファサ…

 すれ違いざま、小さな声で話しかける美少女=魔王城ツン。
 私は自慢のツインドリルを翻し、ギャルゲのイベントCGばりにキラキラを発生させた。

 しかし、その途端。

('A`)「――っと、」 ガタッ

 突然ドクオが席を立ち、恐ろしく速い手際で転校生の腕を掴み取った。
 このとき、ドクオは確実に『魔物』としての力を発揮していた。

ξ;゚⊿゚)ξ「ど、ドクオ!? 何やってるの!?」

 人間以上のスピードとパワー。それを人間相手に使うことは、私の立場的にも看過できない。
 ふざけている場合ではない。キラキラなんて発生させてる場合ではない。
 私はドクオの足を蹴りまくり、彼の動きを全力で咎めまくった。

( ^ω^)「……どうした、握手でもしたいのか」

('A`)「握手したがってんのはお前だろ。
    そこの金髪アホドリルは気付いてねぇがな」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっとドクオ! いくらコミュ障でも限度ってものが……!」

 この一挙手に遅れて気付き、次第にざわつく教室内。
 そして互いを睨みつけて動かないドクオと内藤くん。
 私の声は、彼らには少しも届いていなかった。

ξ;゚⊿゚)ξ「――ちょっと、やめなさいってば!」

 私はことさら語気を強めて立ち上がり、2人の間に割り込んだ。
 ドクオの片手を力尽くで取り外し、2人をぐっと押しのける。

.

29名無しさん:2020/10/14(水) 18:54:29 ID:YvZFQxxU0

ξ;゚⊿゚)ξ「てやんでい! 急にどうしたのよドクオ!」

('A`)(てやんでい?)

('A`)

( 'A`)「……なんでもねえよ」

( ^ω^)「ああ、なんでもないお」スッ

 そう言って鼻で笑うと、内藤くんはさっさと自分の席に着いてしまった。
 ドクオはその姿をじっと睨み続け、クラスの注目も無視して立ち尽くした。

( ´∀`)「――はいはい、みんな落ち着くモナ! 先生は見てたモナ!
      今のは内藤くんが転びかけたのをドクオくんが止めただけモナ!」

 不意に、先生の一喝が教室内の空気を塗り変える。
 先生はわざと音を立てながら教材を広げ、全生徒にざっと一瞥を送った。

ξ;-⊿-)ξ「……ドクオ、あとで話を聞くわ」

('A`)「……」

 気まずいながら私達が席に着くと、それからすぐに授業が始まる。

 しかしその後、今日一日、放課後に至るまで。
 ドクオはずっと警戒心を露わにしたまま、私のそばを離れようとしなかった。
 トイレにもついてこようとした。流石に真顔で嫌がった。

.

30名無しさん:2020/10/14(水) 18:55:18 ID:YvZFQxxU0

≪3≫


 放課後になりました。


ξ゚⊿゚)ξ


 魔王城ツンです。

.

31名無しさん:2020/10/14(水) 18:57:15 ID:YvZFQxxU0


( ^ω^)「――おい」

('A`)「……なんだよ、俺に言ったのか?」

 ホームルームが終わってすぐ、それは起こった。
 授業を終えて活気立つクラスの中、件の内藤くんがドクオに声をかけたのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ(うわ面倒臭そうな……)

 何事もなく今日を終えようと思っていたのに先を越されてしまった。
 ドクオは既に、凄まじく反抗的な態度で内藤くんを敵視していた。

ξ;゚⊿゚)ξ「……ぅ……」

 そんな様子を眺めながら、私はコミュ障を発揮してなんもできなかった。
 もしもドクオが本気でキレた場合、私の力ではどうにもできない。
 立場だけなら私が上だが、あんまり刺激するのも逆効果な気がして、つまりコミュ障になった。

( ^ω^)「ああ、ひとまず誤解を解きたくてな。
      これからずっと警戒され続けるのも気分が悪い」

('A`)「……『あれ』が誤解だと?」

 ドクオは静かに向き直り、ゆっくりと内藤くんの胸ぐらを掴み上げた。
 僅かに足を浮かせた内藤くんは、しかしそれでも顔色を変えない。

( ^ω^)「僕はハインリッヒ高岡の関係者だお。
      それにしても、この様子じゃ本当に何も聞かされてないみたいだな」

ξ゚⊿゚)ξ「……えっ、ハインさんの?」

('A`)「なん……だと……?」

 ――ハインリッヒ高岡。
 その名前が出るくる事を、私達は少しも予想していなかった。

.

32名無しさん:2020/10/14(水) 18:58:42 ID:YvZFQxxU0


『 从 ゚∀从 』

 ――ハインさんは、人間でありながら魔王軍と関わりのある珍しい人物だった。

 彼については還暦を過ぎたイケオジと言えば簡単だが、その実態はほぼ謎に包まれている。
 私が知っているのは『元勇者軍』という素性だけ。
 その他の経歴は本人からも、魔界の誰からも聞き出せなかった。

 そんなハインさんの仕事は人と魔物の仲介役。
 魔物の地上進出をサポートし、必要なものを用意するのが彼の役割だ。

 私もこっちに来た時にはお世話になったし、今でもずっと良くしてもらっている。
 ぶっちゃけ私より強いので特訓の愚痴を言ったりアドバイスを貰うことも多い。
 ミセリさんより話が通じるしイケオジだし、私がもう少しロリなら確実にホの字(死語)だったと思う。


('A`)「あいつの関係者? 俺は何も聞かされてないぞ」

( ^ω^)「……なるほど。魔王の娘が箱入りというのは本当らしい。
      側近にすら話が通っていないとは、筋金入りの日和見だな」

 内藤くんはそう言って深く溜息を吐き、私を一瞥した。
 箱入り――そういう扱いには慣れているが、面と向かって言われたのは何年ぶりだろう。

( ^ω^)「魔王城ツン、とりあえず謝罪を言っておく。すまなかった」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「……あの、そもそもこれって何の話?
       あんまり分かってないんだけど……」

('A`)「お前こいつに『攻撃』されてたんだよ。俺が止めなきゃ確実に食らってたぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「……えっ?」

 ――攻撃?
 まさか、あんなすれ違いの一瞬で?

( ^ω^)「恐ろしく速いだけの手刀だ。威力は無いし、当たっても気絶で済んだ」

('A`)「上手く当てればな。お前のは下手だった」

( ^ω^)「……ああ、それも悪かったよ。想像以上に的が脆そうでな、手先がブレた」

('A`)「言葉は慎重に選べよ。ハインの名前は免罪符にはならねえぞ」

.

33名無しさん:2020/10/14(水) 19:01:07 ID:YvZFQxxU0


( ^ω^)「――だったら続きは場所を変えるお。
      主人の手前、ここじゃあ何かと気を遣うだろう」

(#'A`)「……チッ。分かったよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ちょっと……」

 私を置いてどんどん話を進めていく2人。
 内藤くんは足早に教室を出ていき、ドクオも彼に続いていこうとした。

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「ま、待って」

('A`)「……あ?」

 ――私は、咄嗟にドクオを呼び止めてしまった。
 今この状況を理解していないのは私とドクオだけ。
 それでドクオだけが事情を聞くというのは、なんというか心細くて、つい足を引っ張ってしまった。

ξ;゚⊿゚)ξ

 そこから先の言葉などないのに。
 私が邪魔だからと場所を変えていく人達に、言えることなど何もなかった。

('A`)「……気にすんなって。話が済んだらすぐ戻る。
    今日はハインのとこに寄って、それから帰ろう」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、……うん」

( 'A`)「行ってくるわ」

 そう言ったドクオの後ろ姿はすぐ放課後の人混みに消え、結局、私だけが教室に残された。

.

34名無しさん:2020/10/14(水) 19:02:36 ID:YvZFQxxU0


ξ゚⊿゚)ξ


 こういう事は、たまにある。

 私が魔界に居られない理由。特訓の成果が出ない理由。
 ハインさんの素性を教えてもらえない理由。色んな話に混ぜてもらえない理由。

 ……なにもかも、私が弱いせいだ。
 ドクオもミセリさんも、親しい人達はみんな私を庇って問題を遠ざけようとする。
 そして、私にはその優しさを拒むだけの実力が無い。

 だから私には何もできないし、何かを期待されることもない。
 こういう時、私には『何もしないこと』だけが望まれている。

 誰かに箱入りと揶揄されても何も言い返せない。
 だって、それは単なる事実なのだから。


ξ゚⊿゚)ξ ポツン


 ストレスと疎外感でハゲそうだった。
 しかして私は魔王城ツン、ハゲるわけにはいかなかった。

.

35名無しさん:2020/10/14(水) 19:04:17 ID:YvZFQxxU0


 「――魔王城さん、どうかした?」

 そのとき、まゆちゃん(モブ)が私に声をかけてきた。
 私は取り繕って振り返り、彼女の顔を見返した。

ξ゚⊿゚)ξ「なんでもないのだわ。まゆちゃんは今日も暇なの?」

 「あー……それなんだけど、今日はちょっと用事があって」

 まゆちゃんは困り顔で言い、帰り支度を済ませたカバンを掲げて見せた。
 どうやら今日はまんがタイムきららが出来ないらしい。
 私もなんだか気乗りしないし、丁度よかったかもしれない。

 「魔王城さんは帰らないの? よければ一緒にって思ったんだけど……」

ξ゚⊿゚)ξ「……あー……」

 「今日もドクオくん待ち? いつも一緒に帰ってるもんね」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「……ううん。ちょっと寄るとこあるけど、そこまでなら」

 私は不意に思いつき、まゆちゃんの誘いにまんまと乗っかってみた。

 寄るとこ、というのはハインさんの屋敷のことだ。
 1人で帰るとミセリさんにかなり怒られるのだが、そこまでだったら遠くないし、友達も一緒だし。
 屋敷でドクオを待てば口裏も合わせられるし、これくらいは自己責任の範疇だ。

 「ほんと!? 一緒に帰るの初めてだよね!」

ξ゚ー゚)ξ「ええ。すぐに支度するのだわ」

 通学だって朝は1人の方が多い。ドクオにも連絡を入れとけば大丈夫。
 かくいう私も魔王城ツン。たまには勝手もしたいのである。
 反抗期と言われればその通りだった。

ξ゚⊿゚)ξ「おうちに帰るのだわ」

 「やった〜!」

 私達は学校を後にした。


.

36名無しさん:2020/10/14(水) 19:06:02 ID:YvZFQxxU0


 〜ハインの屋敷〜


ξ゚⊿゚)ξ「着いたのだわ」

 「ばいばい、魔王城さん!」

 ハインさんの屋敷に着いたのでまゆちゃんとはお別れ。
 私はまゆちゃんの背中をしばし見送ってから、当の屋敷を大きく見上げた。

ξ゚⊿゚)ξ(ふん、これくらい余裕なのだわ)

 そうだそうだ、私だって1人行動するくらいできるのだ。
 騙して悪いが反抗期なんでな。
 もう守られてばかりの魔王城ツンではないのである。思い知るがいい。

ξ゚⊿゚)ξ(さて、早速ハインさんから事情を聞くのだわ。
      これでアホのドクオを出し抜いて、マウント取ってやるのだわ)

 私は意気揚々と屋敷に乗り込んだ。
 チャイムを押しても玄関を叩いても反応は無かったが、まぁ私なら無断で入っても許されるだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「お邪魔しま〜〜す」ガラガラ

.

37名無しさん:2020/10/14(水) 19:06:48 ID:YvZFQxxU0


 ――ハインリッヒ高岡、通称ハインさんはけっこう立派な邸宅に暮らしている。
 平屋の巨大母屋に加え、その敷地内には洋風の別邸と物置小屋が一軒ずつ。
 これだけの建物があってなお庭先は広々としており、なんかもう金持ちの家という感じが凄かった。

ξ゚⊿゚)ξ「居ないのだわ」

 だが、どこを探してもハインさんの姿は見当たらない。
 これは本当に不在なのかもしれないと、私は居間に戻ってお茶を淹れ、一息ついた。

ξ゚⊿゚)ξ「やれやれなのだわ」 ゴクゴク
 つ凵と

 あのイケオジが家を空けるのは珍しいことだった。
 私が来る時は大体いつも居るし、今日はなにか用事でもあったのだろうか。

ξ゚⊿゚)ξ(……内藤くんが来たのと関係あるのかしら。
       なんだか、今日は普段通りじゃない事が多いわね……)

 とりあえずドクオに連絡を入れ、私はハインさんの帰りを待つことにした。
 時刻は午後6時になったりならなかったりする時間帯。
 夕飯もある、ハインさんの帰りもそんなに遅くはならな――


.

38名無しさん:2020/10/14(水) 19:08:41 ID:YvZFQxxU0


 〜2時間後〜


ξ゚⊿゚)ξ

 ――と思っていたら2時間経っていた。
 夕方のアニメを見て、勝手に夕飯(置いてあったカレー)を食べてたらこうなっていた。

ξ゚⊿゚)ξ(やっちまった)

 時刻は午後8時。
 窓の外はすっかり夜だし、ハインさんは帰ってこないし、ドクオは未だに返信してこないし。
 うちに門限は無いけど1人で帰ると怒られるので動けないし、これはマズい。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ(……ミ、ミセリさんに迎えに来てもらおうかしら)

 ハインさんの家に居る、とだけ言えばミセリさんも怒らないはず。
 他人の家で1人で過ごしている孤独感に負け、私は急いでミセリさんに電話を掛けた。


『お掛けになった番号は――』

 が、しかし。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ(あ、これ地上に居ないやつだ)

 そうだ、そういえば今日と明日はお休みなのだ。
 ならばミセリさんも用事で出掛けている可能性が高い。
 しかも電話に出ないなら確実に魔界に戻っているということで、これはマジでマズい。

ξ゚⊿゚)ξ

 ツンちゃんショック! まさに報連相の欠如が生んだ悲劇である。
 ドクオにもミセリさんにも連絡がつかない完全な孤立、私にはつらかった。
 孤独とか自己責任とか、それらを自覚するとなおさら不安が募っていく。

 完全にやってしまった。
 単なる夜、いつもの夜が、ただそれだけで私を急かし始める。

.

39名無しさん:2020/10/14(水) 19:11:10 ID:YvZFQxxU0


 ピロピロピロピロゴーウィwwwゴーウィwwwヒカ

ξ゚⊿゚)ξ !

 しかし、そんな不安も束の間のこと。
 両手に握っていたスマホがゲーミングPCめいた光を放ち、着信を報せる鳴動を轟かせた。

ξ゚⊿゚)ξ(あ、忘れてた)

 電話の相手はハインさん。
 そういやドクオ達には連絡したけどハインさんには連絡しなかったな。家主なのに。
 とにかく私は電話に出た。

ξ゚⊿゚)ξ「もしもし、ツンちゃんです」

 『――おおツンちゃん! 今どこに居る!? 無事か!?』

 電話口から慌てた声が響いてくる。
 私はちょっとスマホを遠ざけてから、恐る恐るハインさんの問いかけに答えた。

ξ;゚⊿゚)ξ「ぶ、無事だけど、どうかしたのかしら」

 『ああ、無事ならまぁいい! アホっぽい感じも普段通りで安心した!』

 『そんで今どこだ! あとで向かうから教えてくれ!』

ξ゚⊿゚)ξ「え? えっと、ハインさんの家でくつろいでるけど……」

 『……え、オレの家? マジで?』

ξ゚⊿゚)ξ「マジどす」

 『どーりで見つかんねえわけだよ!! なるほど了解!!』

 向こうから膝を打つ音が聞こえてくる。
 なんか大変そうだな。そう思った。


.

40名無しさん:2020/10/14(水) 19:12:10 ID:YvZFQxxU0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


从;゚∀从「――いいかツンちゃん、そこから動くなよ」

从;゚∀从「今は俺の屋敷だけが安全だ。そこなら敵も気付けない」

 電話をしながら、ハインは『敵』への視線を決して逸らさなかった。

 夜の都会。
 ビル屋上にて敵を迎える彼の手には、血に濡れた刀剣が力強く握られていた。

从;゚∀从「説明は今度する。ちょっと状況がマズくてな、色々とバレちまった」

从;゚∀从「……誰にって、そりゃ魔王の娘を狙ってる敵にバレたんだよ。
      こっちも色々手を打とうとしてたんだが、その隙をつかれて最悪になった。もう最悪だ」

从;゚∀从「とにかく動くな、警戒してくれ。
      ミセリもそろそろ戻るはずだ。もうちょい時間稼げばギリギリ間に合ッ」

 ――言葉の際、敵の攻撃がハインの手元を掠めていく。
 目にも留まらぬ光弾ひとつ。その一撃で通話は途切れ、スマホ自体も上半分が消えていた。

从 ゚∀从

从 ゚∀从「……途中だろ。急かすんじゃねえよ」

爪'ー`)y-~「悪いね」

 スマホの残骸を捨てて呟き、刀の切っ先を持ち上げるハイン。
 笑みを浮かべて煙草をくゆらせ、彼の敵意を煽る敵――フォックス。

 両者はしばし見合った後、再び夜に戦火を奔らせた。

.

41名無しさん:2020/10/14(水) 19:14:09 ID:YvZFQxxU0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ξ;゚⊿゚)ξ

 ……敵、という言葉を久し振りに聞いてしまった。


 魔界で何度も経験してきた奇襲闇討ちの類。
 それと同じことが起こったのは、ハインさんの感じからすぐに理解できた。

 動くな、というハインさんの指示はもっともだ。
 味方が誰も居ない今、私が安全で居られる場所はどこにもない。
 この屋敷だっていつ敵に見つかるか分からない。これは完全にヤバい状況だった。

ξ;゚⊿゚)ξ(みんな、こうなるのが分かってたのかな……)

 ミセリさんも、ハインさんも、そして今日転校してきた内藤くんも。
 私がまんがタイムきららをしている一方で、みんな敵襲に備えていたのかもしれない。

 しかしそれでも間に合わなかった。
 そして恐らく、事態を早めた原因は私にある。

 ……私が勝手に動いたせいだ。
 だから私はここに居て、みんなは外で戦っている。

ξ;゚⊿゚)ξ

 屋敷の静けさがとても息苦しい。
 時計の音すら耳障りだった。自責が加速してしまう。

.

42名無しさん:2020/10/14(水) 19:15:17 ID:YvZFQxxU0


ξ;゚⊿゚)ξ「……と、とにかく今は安全なんだし、必要なことをするのだわ」

 私は独り言をほざいて孤独を紛らわした。
 居間でくつろいでても仕方ない。今ここでやれる事は済ませておこう。

ξ;゚⊿゚)ξ「魔力は多めに生成するとして、……魔力成形よね」

 ともあれ、敵が来るならまず武器だ。
 私は魔力成形のイロハを思い出し、試しに魔力を練り上げてみた。

ξ;゚⊿゚)ξ「うおおお!! なんか良い感じの武器になれ!!」 (魔力をこねる音)
 つ魔と

 私の頑張りに応じて形を得ていく魔力の像。
 そして次の瞬間――!


.   _ ∩
  レヘヽ| | テテーン
    (・x・)
   c( uu}


ξ;´⊿`)ξ「ウサちゃんになった……」

 どうして……

.

43名無しさん:2020/10/14(水) 19:16:45 ID:YvZFQxxU0

ξ;゚⊿゚)ξ「どうしたもんか……」

ξ゚⊿゚)ξ「……あっ」

 腕組みしながら悩んでいると、ふと私の脳裏にミセリさんの言葉が浮かび上がった。
 次はもっと簡単なイメージでとか、確かそんな事を言ってた気がする。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ(なんだっけ、布だっけ。
       よく分からないけど簡単なのかしら……)

 半信半疑もやむなきところ。
 私はもう一度頑張って魔力を用意し、魔力成形に挑戦した。

ξ;゚⊿゚)ξ「ぬぉぉぉぉ魔力成形!! なんか布になれ!!」
 つ魔と

 そして次の瞬間――!

ξ゚⊿゚)ξ「意外とできたのだわ」
 つ布と

 私の手には、モコモコとした赤いマフラーが実体化していた。

.

44名無しさん:2020/10/14(水) 19:18:33 ID:YvZFQxxU0

 ――しかもそれは単なる赤マフラーではない。
 純度100%、私の魔力だけで作られた特別製だ。
 なにぶん初めてなので性能は分からないが、多分それなりに頑丈&パワフルなはずである。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「……ついに、芽吹いてしまったか」

 やれやれ来てしまったな『覚醒』の時が。
 私は早速赤マフラーを首に巻き、スマホのカメラを起動した。

ξ*゚⊿゚)ξ「……え、すごい似合ってる気がする……」パシャッ

 そりゃ初めて成功したのだから嬉しい。緊急時でも自撮りくらいさせてほしい。
 しかしまぁ金髪に赤マフラーが映えまくりだった。素材がいいもんな。
 我ながら最高の一品を作り上げてしまったな……。

ξ゚⊿゚)ξ+ キラーン


ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ(あとでみんなに自慢するのだわ)

.

45名無しさん:2020/10/14(水) 19:19:18 ID:YvZFQxxU0


 ピーーーーーーーン

         ポーーーーーーーン!


ξ゚⊿゚)ξ !

 そのとき、やたらデカい呼び鈴の音が響き渡った。

ξ゚⊿゚)ξ

 私はビックリして死んだ。
 不意打ち大音量による動悸で心臓が爆発…死んだのだ。

 死(SEKIRO)


.

46名無しさん:2020/10/14(水) 19:23:04 ID:YvZFQxxU0


ξ;゚⊿゚)ξ(――……って、一息入れてる暇は無さそうね)

 こんな時に現れるのは大抵ろくでもない相手である。
 敵の思惑は明らかにこちらを上回っているし、この来訪を警戒するのは当然だった。

ξ;゚⊿゚)ξ(急いで裏口から逃げるのだわ)

 靴は玄関にあるが仕方ない。
 私は着の身着のまま立ち上がり、赤マフラーだけを持って裏口に向かった。

    |┃三 
    |┃ ≡         
____.|ミ\____ξ゚⊿゚)ξ
    |┃=___     \  
    |┃ ≡   )   人 \ ガラッ

(´・_ゝ・`)「こんばんは」

ξ゚⊿゚)ξ「は?」

 ――そして、不審者に出会ってしまった。
 そいつは何食わぬ顔で裏庭に待ち構えていて、私を見るなり普通に挨拶をかましてきた。

ξ;゚⊿゚)ξ「……だっ、誰!? 敵なら容赦しないのだわ!」

(´・_ゝ・`)「いや盛岡デミタスだけど」

ξ゚⊿゚)ξ「そっか」

 黒いスーツ姿の、言ってしまえば普通な感じの成人男性。
 彼との間合いは3メートルほど。
 威圧感などは微塵も感じないが、なぜか、彼の姿には見覚えがある気がした。

(´・_ゝ・`)「……しかしまぁ、弱いな」

(´・_ゝ・`)「■■■■■■は未所持、代わりはあっても性能はガタ落ち」

(´・_ゝ・`)「とても万全とはいえないが……」


ξ;゚⊿゚)ξ「――いいからちゃんと答えなさい!
       怪しい事したら即攻撃するわよ!」

 私は身構え、臨戦態勢になって威嚇を試みた。
 しかし男は微動だにしない。私の顔を見つめたまま、意味不明なことを呟き続けている。

.

47名無しさん:2020/10/14(水) 19:23:53 ID:YvZFQxxU0

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`)「まあいっか、負けたしな」

 途端、男は居直って背筋を正す。
 そうしてすぐ、彼は露骨な作り笑いで私に話しかけてきた。

(´・_ゝ・`)「『忘れたのか? 俺は魔王軍の者だよ』」

ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ?」

(´・_ゝ・`)「『だからお前の味方だよ。覚えてるだろ?』」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「あ〜〜」

 あー確かに盛岡デミタスは関係者だった。そうだったな。
 彼は私の特訓のため魔界から派遣されてきた特別講師だ。
 ミセリさんから重々聞かされていたのにすっかり存在を忘れていた。

(´・_ゝ・`)「忘れるなんてひどいなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「そうだなぁ」

 そうだなぁと思った。

.

48名無しさん:2020/10/14(水) 19:24:44 ID:YvZFQxxU0

ξ;゚⊿゚)ξ「……にしてもよかった、すぐに味方と合流できて。
       ひとまず状況を教えてくれない? あんまり分かってなくて……」

(´・_ゝ・`)「ああ。勇者軍――ひいては王座の九人が動き出したんだ。
      敵の狙いは魔王城ツン。しかもこっちの情報は筒抜けときた」

ξ;゚⊿゚)ξ「筒抜け!? そんな事って……」

(´・_ゝ・`)「誰かが裏で糸を引いたんだろうな。
      いやほんと最悪だよ裏切りなんて。
      味方を売るとか最悪過ぎる。俺には無理だ」

ξ゚⊿゚)ξ

(´・_ゝ・`)「無理だって言ってんだろ」

(´・_ゝ・`)「とにかく移動だ。ここじゃ埒が明かない」

(´・_ゝ・`)「ひとまず俺が先行して安全を確認してくる。お前が動くのはその後だ」

ξ゚⊿゚)ξ「うん」

 会話が乱暴だなと思った。

.

49名無しさん:2020/10/14(水) 19:26:31 ID:YvZFQxxU0

(´・_ゝ・`)「さて、それじゃあ今は何時かなっと」

 露骨に言いながら袖を捲くり、盛岡は腕時計を確認した。
 ひぃふぅみぃと数を数え、よく分からんタイミングを計っている。

(´・_ゝ・`)「……えっと、7分と40秒後だな。そこで屋敷を出てくれ。
      ちゃんとマフラー巻いて靴も履いとけよ。初期装備はキッチリな」

ξ゚⊿゚)ξ「ほーん」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「ん?」

 いや待て、ほーんではない。盛岡の指示はかなり滅茶苦茶だぞ。
 あの口振りでは結局私が1人で動く感じである。
 それっておかしくねえ? だって、いま単独行動するの絶対に危ないじゃん……。

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、あの、それ要するに私だけで行動するって事よね?
       あなたが1人で先行したあと、私も1人で外に出るのよね?」

(´・_ゝ・`)「そうだが?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……あの、だったらもう一緒に動いた方が安全なんじゃない?」

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`)「一生のお願い」

ξ゚⊿゚)ξ「それはずるい」

 一生のお願いなら仕方ない。
 私は盛岡の指示を聞くことにした。

(´・_ゝ・`)「残り7分くらいだ。まぁとにかくそんな感じで頼む」

ξ゚⊿゚)ξ「任せておいて」

(´・_ゝ・`)「あとは流れでお願いします。じゃあまた後ほど」

ξ゚⊿゚)ξ「うむ」

 かくして私は放置され、盛岡はどっか行った。


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50名無しさん:2020/10/14(水) 19:26:52 ID:YvZFQxxU0


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51名無しさん:2020/10/14(水) 19:29:42 ID:YvZFQxxU0







          #'01 整合世界、決定論、Cosmos new version






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52名無しさん:2020/10/14(水) 19:32:15 ID:YvZFQxxU0

≪?≫


 言われたとおりの時間が来るまで、私は1人で暗闇に立っていた。
 残り8分と20秒。屋敷の中で待とうかとも思ったが、万が一に備えて外に居ることにした。
 次の来客がまた味方だとは限らないし、今更気を抜いたって仕方がない。

ξ;-⊿-)ξ(……寒いのだわ)

 夏を済ませた季節柄、夜の空気はやけに肌寒い。
 不安とか緊張で汗ばんだ肌にはなおさら夜風が染み込んできて、つらい。

 今は戦力的にも体温的にも赤マフラーだけが頼りだ。
 私は赤マフラーをしっかりと首に巻き、体を冷やさないよう準備運動を始めてみた。
 特訓前にいつもやってる準備運動。
 慣れ親しんだルーチンは体を温めるだけでなく、気休めとしての効果も十分に発揮してくれた。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ(……私、もう地上に居られないのかしら)

 ――現魔王ロマネスクの明確な弱点である私は、ただ魔界に居るだけで迷惑になってしまう。
 だから魔界よりは安全に過ごせる地上に送られたのだが、その安全も遂に瓦解した。
 敵は勇者軍。魔王の宿敵に見つかってしまった以上、父はまた対応を考えるはずだ。

 ありそうなのは魔界に送還、からの軟禁。
 特訓すらないニート生活を強いられ、私は毎日フリフリの服を着せられるのだ。
 即ちそれは完全なる箱入り娘。籠の鳥としての生活である。

 ロリ時代ならそれでも大丈夫だったが、今の私には絶対に無理。
 今の私――弱いままの私では、魔界はただ不自由なだけの居場所なのだ。
 だから私も示さなくてはならない。
 魔界の自由は荷が重くとも、ここでの自由くらいは自力で守れるのだと。

ξ゚⊿゚)ξ(いい機会なのだわ。ここで華麗に敵を倒して、私への認識を改めさせるのだわ)

 残り1分――制御限界いっぱいに魔力を生成し、身体機能を底上げする。
 最大限の準備は済んだ。あとはこの好機を逃さないよう立ち回るだけ――残り20秒。

ξ;゚⊿゚)ξ …

 やがて時間が来る。
 私は屋敷の門をくぐり、闇夜の路上に足を踏み入れた。



.

53名無しさん:2020/10/14(水) 19:33:31 ID:YvZFQxxU0



 ――そうして最初に感じたものは、あまりにも異様な静寂だった。



ξ;゚⊿゚)ξ「……」

 夜とはいえ住宅地のど真ん中。
 多少なり人の気配があって当然なのに、路上には一切の音が無い。
 生活音、車の音、風の音すら何もなく、不気味な耳鳴りだけが妙に際立って聞こえてくる。

 明らかな異常。
 世界そのものが途絶したような感覚。
 なんらかの領域に入ってしまったという直感。

ξ;゚⊿゚)ξ(これ、マズいんじゃ……)ジリッ

 屋敷を一歩出ただけで理解できてしまった。
 敵はただ待っていたのだ。
 私が勝手に屋敷から出てきて、この罠に引っかかるのを。

ξ;-⊿-)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ(……だとしても、敵が来るのは狙い通り。
       気を引き締めるのだわ……)

 ごくり、と音を立てて固唾を飲む。
 悪戯めいた小さな笑い声が聞こえてきたのは、その次の瞬間――。

.

54名無しさん:2020/10/14(水) 19:36:19 ID:YvZFQxxU0


 「――くすくす」


ξ;゚⊿゚)ξ !

 咄嗟に振り向き、人影を捉える。
 いくつか先の街路灯の下。そこに、私の敵は立っていた。

ζ(゚ー゚*ζ

 オーバーサイズのコートを羽織り、その片手には抜身の長ドス。
 はっきり私を見据える双眸は微動だにせず、敵は、ふらりと前に躍り出る。

ζ(゚ー゚*ζ「……情報通り、本当に出てきた」

ζ(゚ー゚*ζ「一石二鳥にもう一羽だなんて、今日はつくづく運がいい」

 余裕を誇示するように語る女。
 そのハツラツとした声は容易に静寂を破り、私の警戒心を強く逆撫でた。

ξ;゚⊿゚)ξ「勇者軍の残党、でいいのよね」

 尋ねてから、ゆっくりと敵対の姿勢を取って見せる。
 これで少しは足を止めるかと思ったが、しかし女は気にも留めない。
 ドスを持ったまま、一直線に距離を詰めてくる。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、分かってるのね」スッ

 言いながら、女はラムネでも入ってそうなケースをポケットから取り出した。
 それを口元に寄せて、軽く一振り。
 中から出てきた白い錠剤を飲み下すと、女は満足気に一息ついて足取りを軽くした。

ξ゚⊿゚)ξ(今の、何かの薬……?)

 なんて、不意の疑問に気を取られてしまった瞬間。
 女の姿が視界から消え、


ξ゚⊿゚)ξ

ζ(゚ー゚*ζ「――これで死ぬかしら」


 あってはならない囁きが、既に私の背後にあった。


.

55名無しさん:2020/10/14(水) 19:39:13 ID:YvZFQxxU0

ξ;゚⊿゚)ξ(――――ッ!)

 死ぬ。
 そういう明確な直感が安全装置を吹き飛ばし、一瞬にして思考を置き去りにする。
 私の体は無意識のままに翻り、女の動きに辛うじて追従していた。

ξ;゚⊿゚)ξ(避け――)

 回避。と同時に目の前を過ぎていくドスの刃。
 私はすかさずその刃を追い、女の手を打ち長ドスを弾き飛ばした。

 背後からの奇襲はこれで終着。
 しかし女は揺らぎもせず、早くも次の攻撃を始めていた。
 追撃は腹部への膝蹴り。
 ギリギリ目視は間に合ったが、防御の手だけが僅かに届かない。

ξ; ⊿゚)ξ(避けッ――きれな――)

 臓物を守るべく反射的に収縮する腹部筋肉群。
 直後、私のお腹に凄絶な衝撃が――

.

56名無しさん:2020/10/14(水) 19:41:31 ID:YvZFQxxU0


ζ(゚-゚*ζ「……ちッ」

 ――直後、何も起こらない。

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「……え?」

 衝撃なんて少しもなく、咄嗟の緊張も的を外れ、敵の攻撃が消えたかのような錯覚を覚える。
 当の女は不服そうに眉をひそめて足を引き、追撃を止めて大きく飛び退いていった。

 この隙に自分のお腹を見直してみて、そこでようやく合点がいく。
 私のお腹を守ったもの――それは、首に巻いた赤マフラーの両端であった。

ξ;゚⊿゚)ξ「お、おお……!」

 バツ印のように端を交差させ、ふわりと浮かぶお手製の赤マフラー。
 膝蹴りを受けたっぽい箇所は煙を上げて凹んでいたが、反面それ以上の損耗も見当たらなかった。

ξ;゚⊿゚)ξ(……自動防御? 守ってくれたのかしら……)

 直撃を肩代わりし、更に衝撃までも吸収しきった防御性能には感嘆を禁じえない。
 恐らくは今の私――魔力で強化した私の肉体よりも頑丈で靭やかだ。すごい。
 本体こっちかもしれんな。

 しかし、そう思案している内に赤マフラーは脱力し、ただの布地に戻ってしまった。
 私の魔力から作ったこのアイテムは、今の挙動で魔力切れを起こしていたのだ。

ξ゚⊿゚)ξ(嘘じゃろ)

 ここで上手いこと魔力を再装填できれば問題は解決するのだが、正直やり方が分からない。
 ましてや今は交戦中。戦いながら魔力を生成し、再装填を試みるなんて私には無理だ。
 予習くらいしとけばよかったな、と強めの後悔を噛み締めてしまう。

.

57名無しさん:2020/10/14(水) 19:43:46 ID:YvZFQxxU0

ξ;゚⊿゚)ξ(ちくしょう、使う前に性能を把握しとくべきだったわね……)

 口惜しいが、赤マフラーの再起は諦めるしかない。

 次に憂慮すべきは目の前の事実。
 ただの普通の人間が、こちらの魔力的防御を一撃で機能不全にした事実だ。

 ――どれだけ強い人間であろうと、人と魔物では根本的なステージが違う。
 魔物は素の状態でも人間より強いし、魔力を使えばその差は更に大きくなる。

 なので、そもそもありえないのだ。
 私の視界から消えるように動くとか、単なる膝蹴りが魔力的防御に匹敵するとか。
 それらの事実は絶対に、人間の力では不可能なのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ(魔物の敵は勇者か超能力者――だけどどっちも絶滅危惧種!
       よしんば居ても全盛期ほどじゃない、っていうのが通説、だけど……!)

ζ(゚ー゚*ζ

 目の前に居るものが、その通説を否定する。
 明らかに人間の性能を超えている敵。
 そして、最低でも互角以上の敵。

ξ;゚⊿゚)ξ

 事ここに至って確信せざるをえない。
 私は、ハインさんの言いつけを守るべきだった。

.

58名無しさん:2020/10/14(水) 19:49:51 ID:YvZFQxxU0

ζ(゚ー゚*ζ「……初心で世間知らず。これも情報通り」

ξ;゚⊿゚)ξ

ζ(゚ー゚*ζ「さっきは驚かされたけど、2度目はなさそうね」

 悠々と語ると、女は新しい武器として折り畳みのナイフを取り出した。

 弱音は終わりだ。もうやるしかない。
 私は再び魔力を練り上げ、肉体機能の補強に努めた。

ξ; ⊿゚)ξ(制御限界まで、出し切る……!)

 ――魔力に呼応し、僅かに赤熱する肉体。
 真紅の魔力が像を成し、オーラのように体表をゆらめく。
 反射神経との同調は十全。本来なら人間相手に使うわけがない全力を、私はここで全開にした。

ζ(゚ー゚*ζ

 しかし、それでも敵は余裕の笑みを浮かべたまま。
 続く言葉をもってして、私の全力を虚仮にした。

.

59名無しさん:2020/10/14(水) 19:54:39 ID:YvZFQxxU0


ζ(゚ー゚*ζ「……まさか、そんなので戦うつもり?」


ξ#゚⊿゚)ξ「――ッ!」

 その嘲笑と同時に地面を蹴る。
 間合い3メートルを2度の跳躍で詰め切り、必殺の拳を握り固める。

 対人間における魔物の攻撃は全てが必殺だ。
 防御も回避も焼け石に水。掠るだけでも血肉をこそぎ、直撃すれば絶命は必至。

 しかしこの女は例外だ。
 躊躇なく、殺すつもりで掛からなければ話にならない。
 どういうわけか知らないが、こいつは私の知る『人間の性能』をしていないのだから。

ζ(゚ー゚*ζ

 女の視線が私の拳を追っている。間に合わせては駄目だ。
 私はその視線を振り切るように懐に飛び込み、敵の命を奪わんと全力で拳を打ち出した。


ξ゚⊿゚)ξ


 で、私は不意に思ってしまった。
 咄嗟の思考に気を取られ、言葉足らずにも、『本当に?』と思ってしまった。

 ――本当に?

 たったそれだけの、最低限の意味すら示さない小さな言葉。
 それが、私の心に急ブレーキを掛けてしまった。

 そして体は心に従い、そこに、致命的な隙が生まれてしまった。

.

60名無しさん:2020/10/14(水) 19:59:02 ID:YvZFQxxU0


ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「……え、?」

 やがて、心と体の認識が一致した頃。
 私の胸の温もりには、なにか、冷たいものが突き立てられていた。
 アイスを急いで食べた時みたいな感覚が、私の胸を締め付けている。


ζ(゚ー゚*ζ「ほら、やっぱり話にならない」


ξ;゚⊿゚)ξ「…………?」

 心臓の熱を否定する冷気。鼓動を邪魔する鉄の刃。
 私は胸元を抑えて身じろぎ、その感覚の正体に目を奪われた。

 ――敵のナイフが私の胸に、心臓に突き刺さっている。

 上手く言葉を選べない。
 私の思考は崩壊していて、悲鳴を上げることすらできなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「ごめんなさいね。なんにも知らない子供相手に」

 そして、女の声がまた背後に回っている。
 さっき放った私の拳は、中空に浮いたまま何も捉えていなかった。

.

61名無しさん:2020/10/14(水) 20:02:26 ID:YvZFQxxU0


ζ(゚ー゚*ζ「……ああ、本当にかわいそう」

ζ(゚ー゚*ζ「私が使った『激化薬』の事も、どうせ秘密にされてたんでしょう?」

 くすくすと笑う声。それすらも耳朶に響く。
 反射的に怒りを覚えようにも、その感情さえ上手く組み立てられなかった。

ξ; ⊿ )ξ「あ、ぐ……」

 腑抜けた体が夜風に煽られ、辛うじて女の方を振り向く。
 女の手にあるケースの中身。
 あれが『激化薬』なのだとすれば――そんなもの、私は、知らない。

ζ(゚ー゚*ζ

ζ(゚-゚*ζ「……出来損ない。これなら生け捕りで……」

 どこか遠くに聞こえる声には嘲笑の意図すらなく。
 女の瞳はただ冷淡に、今の私をモノとして見つめていた。

ξ; ⊿ )ξ(わたし、まさか……)

 意識が遠のく。死の実感が五体の感覚を薄めていく。
 視界がボヤけて暗闇が滲む。
 いつしか、私の体は地面に横たわっていた。

 そして、私は――……




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62名無しさん:2020/10/14(水) 20:02:55 ID:YvZFQxxU0


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63名無しさん:2020/10/14(水) 20:03:55 ID:YvZFQxxU0


      ___________________________
  ━━√━━━━━━━━━━━━━━━━━#━━━━━━#━━
   ̄ ̄
            ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです

                【Aルート 王座の九人編】

                  Meaning:Apostrophe
                                    ______
  ━━━#━━━━━#━━━━━━━━━━#━━━√━━━━━
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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64名無しさん:2020/10/14(水) 20:04:40 ID:YvZFQxxU0







          #01 矛盾世界、素朴実在論、Day After Day






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65名無しさん:2020/10/14(水) 20:05:45 ID:YvZFQxxU0


ξ; ⊿ )ξ

ζ(゚ー゚*ζ


从;゚∀从「――……間に合った、とは言いづれぇな」

ミセ*゚-゚)リ「いえ、辛うじて」


 私は、薄れゆく意識の中に、聞き慣れた声を聞いていた。

.

66 ◆gFPbblEHlQ:2020/10/14(水) 20:09:09 ID:YvZFQxxU0

#1 >>2-65


このスレは4年前にエタったものの続きです
続きですが、いわゆる周回ループものなので実質最初からです
古いインターネットです。よろしくお願いします

前スレ
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1444420985/887

67名無しさん:2020/10/14(水) 20:39:24 ID:5NEU5mF60
otsu

68名無しさん:2020/10/14(水) 21:53:01 ID:uPx9U7IY0
おつ!
ツンちゃん弱くなってらぁ

69名無しさん:2020/10/15(木) 02:02:00 ID:mfVsfma60
まってたぞ

70名無しさん:2020/10/16(金) 08:03:04 ID:ymcgu2zU0
ずっと待ってた うれしい 乙

71名無しさん:2020/10/16(金) 19:01:19 ID:qYVQEQXY0
すげーおもしろい!

72名無しさん:2020/10/18(日) 18:29:32 ID:TtG1cBRU0
おもろ

73名無しさん:2020/10/19(月) 21:11:04 ID:tlGWvQHU0
クールライターです。まとめさせていただきました。
http://coollighter.blog.fc2.com/blog-entry-439.html

何が伏線になるか未知の作品だと思ったので、事務連絡っぽいもの以外はできるだけ拾って、
例えばハトサブレのAAとかも含めてまとめさせてもらってます。
もし気に入らないようでしたらツイッターDMで申し立ててもらえればご対応いたします。

(感想)ツンちゃんかわいい!応援してます!

74 ◆gFPbblEHlQ:2020/10/23(金) 22:55:57 ID:6PRhN.nU0

≪1≫




从;゚∀从「――……間に合った、か?」


ミセ*゚-゚)リ「ギリギリ間に合いましたよ」





(´・_ゝ・`)「……だってさ、キマってる登場だよ」

ξ; ⊿ )ξ

 なんか聞き慣れない余計な声がある。

(´・_ゝ・`)「悪い悪い、これもお前の為なんだ」

(´・_ゝ・`)「まぁ死んでないし勘弁な。心臓ブチ抜かれてるけどさ」

ξ; ⊿ )ξ「――ぁ、……」

(´・_ゝ・`)「いいから寝とけって。今回は説明ばっかだから」

 その適当極まりない言葉を最後に聞いて、私の意識はプツンと切れてしまった。


.

75名無しさん:2020/10/23(金) 22:56:24 ID:6PRhN.nU0



          #02 ノン・パーフェクトな魔王城(前編)


.

76名無しさん:2020/10/23(金) 22:58:14 ID:6PRhN.nU0



ξ-⊿-)ξ


ξ゚⊿゚)ξ パチッ(目が覚める音)


 ――……私が目を覚ました時、私の周囲には何も無かった。
 それは比喩でも嘘でもなく、私の目には、ただそう言わざるをえない景色が広がっていた。

(::::::⊿)

 完全なる真っ暗闇。

 地面はあるけどもちろん見えないし、上下左右に手を伸ばしても虚を撫でるだけ。
 立ち上がって周囲を一望。それでも状況は変わりなく、私の周りは闇に満たされている。


ξ;゚⊿゚)ξ …ハッ!

 そういえば、と私は胸元に手を当てる。
 敵にナイフを突き立てられた傷は――無くなっている。
 ただでさえ未発達な胸部脂肪部位も完治だ。揉み応えもバッチリ据え置きである。

ξ゚⊿゚)ξ(私の夢が叶ってない……ここ現実か?)

 乳の揉み応えで状況確認するのめちゃくちゃ苦痛だな。
 とりあえず死後の世界ではないようだし、服もちゃんと着てるし、生きてるっぽいし。
 私は万全の五体を軽く動かしつつ、暗闇に向かって大声で呼び掛けてみた。

.

77名無しさん:2020/10/23(金) 22:59:45 ID:6PRhN.nU0


ξ゚⊿゚)ξ「すいませーーん! 生きてるんですけどーー!」

ξ゚⊿゚)ξ「ぬるぽ」

ξ゚⊿゚)ξ「あのーーーー! ねぇーーーーーー!」

 暗闇にこだまする声。
 そうして程なく、暗闇のどこかで慌ただしい物音が鳴り響いた。
 どんがらがっしゃんドテドテごろんごろん。ドジっ子用の擬音がこれでもかとブチ上がる。

 「――お嬢様! いま、いま電気点けますから!!」

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「ゆっくりでいーよー!」

 聞こえてきたのはミセリさんの大声。
 切羽詰まったような、マジで今飛び起きてきたという感じの声色だ。

ξ゚⊿゚)ξ(……あ、思ったよりキてる)

 そして彼女の声を聞いた途端、安心感がめちゃくちゃ大爆発してしまった。

 心臓の鼓動が強く高鳴っている。生きているのを強く実感する。
 死の感覚を覚えていて、フラッシュバックが鮮明すぎて泣けてくる。

ξ゚⊿゚)ξ

 ちくしょう、死ぬのめちゃくちゃ怖かったな。


.

78名無しさん:2020/10/23(金) 23:03:40 ID:6PRhN.nU0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ミセ;*´ー`)リ「かくかくしかじか……」

ξ゚⊿゚)ξ「なるほど」

 完全に理解した。



 ミセリさんが言うに、前回ほぼ死んだ私は最速で自宅に担ぎ込まれ、そこで応急処置を受けたらしい。

『 (´・_ゝ・`)←担ぎ込んだ人 』

『 川д川←応急処置をした人 』

 しかしそれでも激ヤバだったので本格的なマジ治療が開始。
 私は特訓用の異空間に担ぎ込まれ、そこで大規模な再生魔術を施されていたらしい。

 その期間、なんと異空間内で丸1週間。
 私が起きた時には現実時間でもざっくり1日が経過していた。

『 川д川←再生魔術を丸1週間やり続けた人 』

『 ミセ*゚ー゚)リ←魔力供給タンクと化していた人 』


 昨夜は色々と複雑な状況だったらしく、とりあえずみんな私が起きるの待ちだったらしい。
 なので各方には私の起床を連絡済み。もうすぐみんなウチに来るとのこと。

※ミセリと貞子を人と呼んでいますが便宜上の表現です。

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79名無しさん:2020/10/23(金) 23:04:37 ID:6PRhN.nU0


ξ゚⊿゚)ξモグモグモグモグ

 かくしてしかじかである。
 バッチリ目覚めた私はミセリさんに連行され、自宅リビングで次の展開に突入していた。


ミセ;*゚ー゚)リ「――とにかく食べて! 食べまくってください!
      死ぬほど食べて元気になれ! 元気になぁれっ!」(料理を作る音)

ξ゚⊿゚)ξ(死ぬほど胃に入るな……)パクパクモグモグ

 リビングの食卓には山盛り料理が勢揃い。
 目覚めた私の最初の使命は、ここにある料理をとにかく食べ進めていくことだった。
 物理的だなぁと思った。

ミセ;*゚ー゚)リ「もうちょっとしたらみんな揃うので!
      それまでに少しでも元気になっておきましょう! 絶対しょんぼりするので!」

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり怒られる?」

ミセ;*゚ー゚)リ「……ちょっと話を整理してからですね、その辺は!」

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80名無しさん:2020/10/23(金) 23:06:25 ID:6PRhN.nU0

 作って食べてをすごい速さで繰り返す私達。
 そしてそのまま2時間くらいが経過、流石に私も限界を迎える。

ミセ;*゚ー゚)リ「もっと食べてください!」

ξ゚⊿゚)ξ「しぬ」

 しかしミセリさんはマジで私を殺す気なのか、私のギブアップを無視してメシを作り続けた。
 本当に人の話を聞かないんだなと思った。


 かくして累計3時間が経過。
 そこで呼び鈴が鳴ってようやくミセリさんの手が止まり、私も過食で死なずに済んだ。
 程なく玄関の方から慌ただしい足音が近付いてくる。胃に響いてつらい。

(;'A`)「――ツン!」 ガチャッ

 その大声と共にリビングに飛び込んできたのはドクオであった。
 彼は私を見るなり柄にもない笑みを浮かべ、過食嘔吐寸前の私に勢いよく飛びついてきた。

(;'∀`)「ツン、お前マジで心配したんだぞ!?」ガシッ(熱い抱擁)

ξ゚⊿゚)ξ「あちょっと今マジ揺らさないで吐くから」

(;'∀`)「お前の独断行動は流石に見逃せねぇけ(ここで限界になって吐いた)ど、
    昨日はそれで正解だったからまぁとにかく帳消しだ! とにかく生きててよかった!」

ξ゚⊿゚)ξ「人のセリフ中にめちゃくちゃに吐いてしまった」

ミセ;*゚Д゚)リ「オオァーーーーー!! 食べ直してください!!」

.

81名無しさん:2020/10/23(金) 23:08:46 ID:6PRhN.nU0



(;´-_ゝ・`)「――やれやれ、騒がしい。入る家を間違えたかな」 フゥ


 我が嘔吐に続いて現れたのは盛岡デミタス。
 盛岡は作為全開の気障な素振りで取り繕っていて、正直キツかった。
 きな臭いスーツ姿も相まって、胡散臭さが限界だった。

ξ゚⊿゚)ξ「いやでも嘔吐は不可っ(ここで嗚咽)不可抗力なのだわ」

(´・_ゝ・`)「話が進まねえって言ってんだよ。
      そりゃ作為全開で割り込むわ。むしろ助け舟だぞ」

ξ;゚⊿゚)ξ「好きで吐いてるわけじゃ……それより何か用?」

ミセ;*゚ー゚)リ←吐瀉物の清掃中

('A`)←吐瀉物を浴びて冷静になった

 盛岡は器用に吐瀉物を避けてリビングを進み、食卓の椅子に腰を下ろした。
 しかもわざわざ私の隣に座りおった。来客なら対面に座るもんじゃないのか。友達かよ。

(´・_ゝ・`)「もちろん大いに話がある。昨日の夜はマジで色々あったからな。
      俺や貞子が地上に来た理由とか、勇者軍とかなんとか」

(´・_ゝ・`)「今日は長話に次ぐ長話をしに来たんだよ。お前も気になってるだろ?」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「そう、だけど……」

 それを一度に聞き入れる余裕も、今は無い。

 あの夜に味わった胸の感覚を思い出すとそれだけで気が滅入る。
 正直言って自信も失くしている。
 少しは戦えると思っていたのに、結局私は……。

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82名無しさん:2020/10/23(金) 23:09:28 ID:6PRhN.nU0

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`)「なるほど自信が無いのか」

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ」

 ふと、私の心中を見事に言い当ててきた盛岡。
 察してくる感じがなんか気持ち悪い。
 私も思春期なので馴れ馴れしいオッサンには厳しいものがあった。

(´・_ゝ・`)「でもまぁ『だからこそ』って話もある。
      だったらまずは例の件から始めるか」

 そう言うと、盛岡は身を捩ってミセリさんを一瞥した。
 なにかを意図した目配せ。
 吐瀉物掃除の手を止めて、ミセリさんは小さく頷いて見せる。

(´・_ゝ・`)「俺の自己紹介は貞子が来てからするとして」

(´・_ゝ・`)「俺達が来た理由、その目的だけ最初にズバリ言っておく」

ξ;゚⊿゚)ξ ゴクリ・・・

(´・_ゝ・`)「俺達の目的は――」



(´・_ゝ・`)「――魔王城ツンを強くして、魔界への送還を阻止することだ」


.

83名無しさん:2020/10/23(金) 23:10:30 ID:6PRhN.nU0


ξ゚⊿゚)ξ

 魔界への送還。
 それは、いずれあるだろうと思っていた展開のひとつだった。

ξ゚⊿゚)ξ「……やっぱり、そういう話が出てくるわよね」

 要するに時間切れ。
 無意味な特訓をやめてウチに帰りなさい、という普通の対応だ。

 そして更には昨夜の襲撃、私の惨敗。
 私なりには色々頑張っていたつもりだが、こう結果が伴わなくては黙るしかない。

(´・_ゝ・`)「ああ、この強制送還は当然の判断だ。
      地上で暮らす一番の理由、『安全性』が損なわれたんだからな」

(´・_ゝ・`)「そしてこれも秘密にしてた事だが、お前は元から勇者軍に狙われてたんだ。
      もちろん俺達も情報操作とかでお前を匿ってたんだが」

ξ゚⊿゚)ξ「……バレて、さっそく襲われた」

(´・_ゝ・`)「そう、敵に居場所がバレちまった。困ったもんだよ」

 盛岡は白々しく言い、さてと話を進めていった。

.

84名無しさん:2020/10/23(金) 23:12:09 ID:6PRhN.nU0


(´・_ゝ・`)「とはいえ敵の襲撃自体はそんなに関係なくてな。
      魔王ロマネスクは、どのみち今月一杯でお前を連れ戻すつもりだったらしい」

ξ;゚⊿゚)ξ「――今月!? そんな急に!?」

(´・_ゝ・`)「だからゴネまくったんだよ。俺と貞子、特にミセリが反対してな。
      わざわざ魔界に戻って直談判までしてよ」

(´・_ゝ・`)「それが昨日の……襲撃前の話だな。
      時系列を整理すると以下の通りだ」

ξ゚⊿゚)ξ「親切設計」


〜ツンちゃん襲撃のあらすじ〜

1 ミセリ、ツンに連休を言い渡す
2 ミセリ、その間に魔界へ出張。魔王に直談判
3 ツン、勝手に1人で行動。ハインの屋敷へ
4 ミセリ、なんとか話をまとめて地上に戻る
5 ハイン、ドクオ&ブーン、敵の襲撃を受ける
6 ツン、敵の襲撃を受ける
7 ミセリ&ハイン、危機に間に合う


ξ゚⊿゚)ξ「……」
  _,
ξ;゚⊿゚)ξ「……あれ、でもなんか抜けてない?
       私、襲撃される前に誰かと会ったような……」

(´・_ゝ・`)「気のせいだよ。ショックで記憶が混濁してるんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そうだなぁ」

 そうだなぁと思った。

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85名無しさん:2020/10/23(金) 23:14:13 ID:6PRhN.nU0

ミセ;*゚ー゚)リ「すみません、敵がここまで機敏に動くとは……」

(;'A`)「……俺も、お前から目を離すべきじゃなかった」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、べつに……私も勝手に動いちゃったし……」

 怒られるだろうと高を括っていた手前、こう揃って謝られると居心地が悪い。
 私を諌める言葉が全然出てこないのが逆にもどかしくて、不平等な感じがした。

ξ;-⊿-)ξ

 ……つまりは子供扱いだ。

 けれど、やっぱり言い返す言葉がない。
 昨日の私の行動はどれをとっても軽率だった。
 なのにこうして言動を見逃されているのは――つまり、私が未熟だからだ。

(´・_ゝ・`)「まぁまぁ襲撃は終わったんだからいいだろ。
      ツンも生きてることだし、『試験』を思えば悪くない経験のはずだ」

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……試験?」

(´・_ゝ・`)「それも話すが、でもちょっと待て。
      あと20秒したら貞子が来るから話を区切るぞ」

 〜20秒後〜

(´・_ゝ・`)「来た。時間ピッタリだ」

 そう言いながら窓の向こうを見る盛岡。
 ウチの庭には誰も居ないが――と視線を泳がせる私は魔王城ツンである。

('A`)「透過と気配遮断の魔術だ。ツンにはまだ見破れねえよ」

ξ゚⊿゚)ξ「そんなん分からん」

 ほどなく窓がひとりでに開き、閉じ。
 恐らく貞子さんのものであろう足跡が、カーペットに確かな証拠を残しながら私に近付いてきた。

.

86名無しさん:2020/10/23(金) 23:16:35 ID:6PRhN.nU0


 「……お嬢様、どれくらい見えてないですか?」


ξ゚⊿゚)ξ …?

 突然、声だけが聞こえてくる。
 足跡を見るに対面の席辺りに貞子さんが居るはずだが、正直そこには何も見えなかった。

ミセ;゚ー゚)リ「貞子、まだそこまで教えてないから」

ξ;´⊿`)ξ「ごめんなさい、なんにも見えてないです……」

 情けなく答える私。その後、僅かに聞こえる溜息の音。

 やがて空中に魔力の粒子が湧き上がり、ふわりと風を起こして渦を巻いた。
 その中に少しずつ実像を現していったのは、もちろん件の貞子さんだ。

川д川「……もう確信した。ミセリの教育が間違ってる」

ミセ*゚ー゚)リ「そんな事ないです」

川д川「お嬢様、お久し振りです。
     治療中に会ってはいますが、生きて再会できて嬉しいです」

ξ゚⊿゚)ξ(なんて真っ当な対応なんだ)

 ちなみに私と貞子さんには面識があった。
 貞子さんは私がまだ小さかった頃の遊び相手で、近所の優しいお姉さんという感じのアレだった。
 そして私は貞子さんの胸を見て育ち、確固たるデカパイ願望を抱くようになったのだ。

川д川「致命傷の再生には膨大な時間と魔力が必要なものですが、流石はお嬢様。
     たった1週間で完治されたのは凄いことですよ。よく頑張りましたね」

ξ゚⊿゚)ξ

 しかも普通に常識人なので尊敬に値してしまう。
 こんな丁寧な褒め言葉めちゃくちゃ久し振りに聞いたな……

.

87名無しさん:2020/10/23(金) 23:17:31 ID:6PRhN.nU0


(´・_ゝ・`)「――貞子、ハイン達の準備は済んだのか?」

川д川「もちろん。いつでも来ていいって」

(´・_ゝ・`)「分かった。ならドクオ、お前は先にハインの家に行っといてくれ」

('A`)「ん。ツンもまた後でな」

ξ゚⊿゚)ξ ?

 そう軽く言い残すと、ドクオは足早に家を出ていった。

ξ゚⊿゚)ξ

 まーーた私を置いて話を進めてやがる。急にサクサク進めるな。
 もうほんといい加減にしてほしい。疎外感で病みそうだった。

(´・_ゝ・`)「分かってる分かってる、置いてかれて寂しいんだよな。
      順を追って説明するから落ち着いてくれ」

ξ;゚⊿゚)ξ「……べつに寂しくはないけど、説明はしてほしいのだわ」

 こほん、ゴッゲホッ、ン゙ン゙ッ!ヌァ と咳払いをしてから、盛岡は話を戻した。

.

88名無しさん:2020/10/23(金) 23:18:15 ID:6PRhN.nU0


(´・_ゝ・`)「まずミセリの直談判の結果だが、
      魔王城ツンの強制送還は、ひとまず延期になった」

ξ゚⊿゚)ξ !

(´・_ゝ・`)「ただし、代わりに『試験』を受けてもらう。
      最低限の自衛が出来るかどうか、その実力を問われるってワケだ」

ξ;゚⊿゚)ξ「……その試験っていつ?」

 質問しながら、私は昨夜の戦いを鮮明に思い返した。


『 ζ(゚ー゚*ζ 』

 人間でありながら魔物の領域に立ち入る敵、勇者軍。
 もしも試験があのレベルを想定したものであれば、今の私ではほぼ勝ち目が無い。
 せめて対策を練る時間くらいは欲しいところだが……。


(´・_ゝ・`)「ああ、試験は1年後」

ξ;゚ー゚)ξ(1年! だったらまだ――!)

(´・_ゝ・`)「から半月後に変更になった」

ξ゚⊿゚)ξ

 上げて落としやがった。

(´・_ゝ・`)「いやぁ、お前が死んでる間に話が変わってな。
      勇者軍には襲撃され、そしてお前は敵に殺され。
      そんな有様で猶予あると思うか? 無理だろ」

ξ;゚⊿゚)ξ「……そうね、まぁ、そうだけど……」

 だったら、試験そのものが消えて当然のはず。

 きっとまたミセリさん達が話をしてくれて、私に最後のチャンスを残してくれたのだろう。
 半月後。まとまった時間があるだけマシだが、それでも余りに性急すぎる。

(´・_ゝ・`)「とにかく『試験』は半月後、実戦を想定して行われる。
      そこで受かればヨシ、負ければ終わり。話は簡単だろ?」

ξ;´⊿`)ξ「そりゃ話だけならね……」

.

89名無しさん:2020/10/23(金) 23:20:32 ID:6PRhN.nU0


(´・_ゝ・`)「――で、ここまで話してようやく俺達に出番が来る」

(´・_ゝ・`)「『もう話は通ってると思うが』、形式的に自己紹介させてくれ」

 盛岡がミセリさんに視線を送る。
 ミセリさんは私の傍に来て、盛岡と貞子さんの2人を私に紹介した。


ミセ*゚ー゚)リ「先日ちょっと話していた、特別講師の盛岡デミタスさんです。
      試験対策とか諸々込みで、助っ人として魔界から来てもらいました」

 盛岡は席から立ってスーツを整え、改まって私に会釈をして見せる。
 形式的という言葉の通り、彼は丁寧に名刺まで持ち出してきて、それからゆっくりと名乗り始めた。


(´・_ゝ・`)「――魔王軍、政治戦略議会所属の盛岡です。
      主な仕事は魔界統治に向けた各種計画の立案、実行など」

(´・_ゝ・`)「今回は議会の総意を代表して馳せ参じました。
      我々全会一致の上、お嬢様の試験突破を最大限サポートさせて頂きます」
  _,
ξ;゚⊿゚)ξ

(´・_ゝ・`)「……政治戦略議会。知らない? まぁ初出だもんな」
  _,
ξ;゚⊿゚)ξ「知ってるけど、アレの総意っていうのがなんとも……」


 ――そもそも、私が地上で暮らすようになった理由は『厄介払い』である。

 弱い私が魔界に居ると、ただそれだけで政治的な謀反が起こりやすくなってしまう。
 私だって何度も誘拐未遂を経験しているし、その辺の事情は身に染みて理解している。

 だからこそ私は地上への移住を自分の意思で決めたのだが、
 その顛末において終始私を援護してくれたのが、他ならぬ『政治戦略議会』なのだ。

 議会の仕事は魔界の厄介事を減らすこと。
 そんな彼らからすれば私の存在は邪魔も邪魔、ただ居るだけで問題を起こす火種でしかない。

 しかし、それが自ら魔界を出て行ってくれるというのだから議会は大喜び。
 かくして私は議会後援のもと地上に引っ越し、議会は全くの無傷で厄介払いを達成したのである。

.

90名無しさん:2020/10/23(金) 23:22:56 ID:6PRhN.nU0


 ――これが私と議会の関係性。
 利害の一致で手を取り合った、敵というほどでもない、なんか生々しいヤツだ。

 とにかくアレは扱いが難しく、毒気が強い。
 味方になってくれたからといって、素直に喜べる相手ではないのだった。

(´・_ゝ・`)「そう言うなって、総意だけにな」

ξ゚⊿゚)ξ

(´・_ゝ・`)「えっ?」

 恐らく議会は今回の試験内容にも口出ししてくるだろう。
 今の私でも合格できるよう、試験を簡単なものに変えてしまうかもしれない。
 ある意味それは好都合でもあるが――こと今回に限っては余計なお世話だ。

 私はただ地上に居たいのではない。認められた上で自立したいのだ。
 今のままでは周りに迷惑を掛けるだけ。昨夜のように殺されるだけ。
 それでは少しも意味がないし、あんな無様をまた晒すくらいなら、私は素直に言うことを聞く。

 議会もそこら辺を弁えているといいのだが、向こうも一枚岩ではないので流石に杞憂が……。


(´・_ゝ・`)「……一応言っておくと、今回の試験はかなり異例だ。
      試験の詳細はウチにも回っってきてないし、介入は難しいな」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、ほんと?」

(´・_ゝ・`)「そんなんだから手をこまねいて、俺みたいなのが派遣された」

 気の抜けた声で言い、盛岡は他人事のように鼻で笑った。

(´・_ゝ・`)「ともあれ今回、魔王は本気でお前を連れ戻すつもりなんだよ。
      それを察したから俺達も動いた。この試験、割りとガチンコだぞ」


(´・_ゝ・`)「……と、そういう認識で合ってるよな?」

 その問いかけは貞子さんに向けられたもの。
 貞子さんは小さく頷き、盛岡の話を引き継いだ。

.

91名無しさん:2020/10/23(金) 23:24:27 ID:6PRhN.nU0

川д川「ええ、この試験は相当厳しいものになると思います。
     私も最大限の助力を約束します。一緒に頑張りましょう」

ミセ*゚ー゚)リ「……というわけで、貞子についてはよくご存知ですね。
      ちっちゃい頃のお世話係。こっちは魔術関連の助っ人です」

 貞子さんは美人なので見た目を描写をします。
 目元にかかった長い黒髪(シャンプーのCMかってくらい艶が出ている)。
 装備は上から【黙示録のイヤリング】【UNIQLOダウン】【しまむらジーンズ】。
 身長は180cmくらいあって体重は67kg(隠し武装含む)。
 アニメ化したら声は明坂聡美にやってもらおうと思っている。以上です。

川д川「もう一度改めまして、魔導宮廷から来た貞子です。
     先に言っておきますが、私の教えはミセリより厳しいですよ」

ξ゚⊿゚)ξ「デカパイ見てるので大丈夫です(お手柔らかにお願いします)」

川д川「合格できたら触ってもいいですよ」

ξ;゚⊿゚)ξ !

 重大な布石が打たれてしまったようだな。

.

92名無しさん:2020/10/23(金) 23:27:57 ID:6PRhN.nU0


ミセ*゚ー゚)リ「――で、私を含めた以上3名!
      お嬢様の試験突破に向けて、全身全霊頑張ります!」

 パチパチパチと拍手で盛り上げるミセリさん。
 なるほどこれで大体分かった。疎外感もちょっと解消された。

 つまり私が弱いので試験が実施される事となり、
 その話で揉めてる間に昨夜の襲撃が起こった、という感じだろう。

ξ;゚⊿゚)ξ ウーン…
( ∞(

 確かにこれは話が込み入っている。
 私の試験と勇者軍の襲撃、別々の話が不自然に絡まっている感じだ。
 まるで狙って話を拗らせたような――そんな作為すら感じてしまう。

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`)「残る問題は勇者軍だが、こっちはもう完全に手遅れだな」

(´・_ゝ・`)「ツンの居場所がバレた以上、次はもっと大きな戦いになると思う。
      向こうも本腰を入れてくる。対策はしたが、まぁ今後どうなるかは分からない」

ξ゚⊿゚)ξ「……でももう魔王軍が動いてるんじゃないの?
      私が言うのもアレだけど、この状況ってかなりピンチだし……」

.

93名無しさん:2020/10/23(金) 23:33:30 ID:6PRhN.nU0


ミセ;*´ー`)リ「あー……それなんですけど、今回魔王軍はあまり動いていないんです。
        貞子達にはその辺の働きも任せるんですけどね……」

ξ゚⊿゚)ξ「いや魔王軍が魔王の娘を守らないの組織として終わってるだろ」

(´・_ゝ・`)「魔王城ツンは地上でもやっていけます! って話の時に、
      でも不安なので守って下さい! なんて言えるか? 矛盾すんだろ」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「Oh……確かに……」

ミセ;´ー`)リ「ごめんなさい、こういう駆け引きは上手くなくて……」

ξ;゚⊿゚)ξ「いいのよ。私じゃ相手にもされなかっただろうし」

 思わずマジレスしてしまったが、盛岡の言い分はかなり的を射ている。
 パパンの目的は私を魔界に連れ戻すこと。
 そんな相手に『私を守って』とは確かに頼めない。こっちの立場が更に弱くなってしまう。

 ……いやもう、展開の噛み合わせが最悪過ぎる。
 試験は試験、勇者軍は勇者軍で対応できればまだマシだったのに……。


(´・_ゝ・`)「――だから魔王軍ではなく魔導宮廷に声を掛けた。
      あそこの動向には魔王も口出ししにくいしな。ツテがあってよかったよ」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね、そこは本当に助かったのだわ。
      貞子さんが居たら大体解決するもの。すげぇよ貞子さんは」

川д川「恐れ多くもその通りでございます。
     必要な仕事はすべてこなしていますので、ご安心を」

.

94名無しさん:2020/10/23(金) 23:36:12 ID:6PRhN.nU0

  _,
ξ゚⊿゚)ξ「……あれ? なら結局、私の特訓ってどうなるの?」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「貞子さん達は勇者軍対策とかもするのよね?
      そこに私の面倒まで入ったら忙しくないかしら……」

(´・_ゝ・`)「ご安心、そこも考えてある」

 盛岡が私の問いに即答する。

(´・_ゝ・`)「今回の試験は対人間がベースになるはずだ。
      となれば、先生役の適任はもっと別に居る」

ξ゚⊿゚)ξ …?

(´・_ゝ・`)「ハインリッヒ高岡だよ。
      お前の特訓は、基本あいつに任せる事にした」

ξ゚⊿゚)ξ !

(´・_ゝ・`)「勇者軍の詳しい話が知りたければ向こうから聞いてくれ。
      なにはともあれ、俺達の分担をまとめると以下の通りだ」

ξ゚⊿゚)ξ「ゆとりある表現」


  〜よくわかる組分け〜


・特訓組→ξ゚⊿゚)ξ 从 ゚∀从
└試験突破に向けて特訓! そして伝説へ……

・見回り組→ミセ*゚ー゚)リ 川д川 (´・_ゝ・`)
└勇者軍を見つけるぞ! そして殺す

・雑用→('A`) (^ω^)

.

95名無しさん:2020/10/23(金) 23:37:34 ID:6PRhN.nU0


(´・_ゝ・`)「はいはい、とりあえずこんなトコだな。
      みんなで一緒にがんばろう。俺達の戦いはこれからだ」

ξ゚⊿゚)ξ「無性に元気が湧いてきた」

 私は全てを理解して頷いた。
 つまりは魔王城ツン特訓編。そういうことなのだ。

(´・_ゝ・`)「そんじゃ俺は見回りに行ってくる。
      これでも仕事が多いんでな、失礼する」ガタッ

 淡白に言い切って席を立つ盛岡。
 彼はそのまま、誰を一瞥することもなく外に出てった。

ξ゚⊿゚)ξ(言うだけ言って消えたな……)

川д川「……では、私も一旦休憩させてもらいます。
     ミセリ、あまりお嬢様を困らせないようにね」

 次に動いた貞子さんも言葉少なにリビングを後にする。
 彼女の足取りはどこか軽く、既に疲れも限界のようだった。

ミセ*゚ー゚)リ「うん、色々ありがとうね。ゆっくり休んで」

ξ;゚⊿゚)ξ「おやすみなさい」

 話を聞いた限り、今回貞子さんの仕事はかなり多いはずだ。
 私が死んでた間にも死ぬほど作業をこなしていただろう。
 客間へと去っていく貞子さんを見送りながら、私は心中でお礼を言いまくった。

.

96名無しさん:2020/10/23(金) 23:41:44 ID:6PRhN.nU0


ミセ*´ー`)リ「……さて、それじゃあ私も働きますかね」ヨッコラセ

ξ゚⊿゚)ξ「……次は何?」

ミセ*゚ー゚)リ「とりあえず……家事? お皿洗ったりとか。
       お嬢様の世話してた分、色々溜まってますしね」


ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「ああ、……それもそうよね」

 まだネタが出てくるんじゃないかと探ってしまったが、これも杞憂だったらしい。
 しかし、杞憂なら杞憂でまた、急に手放しにされたような心細さもある。
 どこまでいっても心が落ち着かない。……落ち着かないのだ。

ミセ*゚ー゚)リ「暇ならお嬢様も手伝って下さい。
       しばらく大変になるんですし、貴重な日常ですよ」

ξ゚⊿゚)ξ「……分かっているのだわ」

 とはいえ、寝起き以降ずっと慌ただしかった流れもこれで一区切りだ。
 ミセリさんは食器の片付け、私はテーブルや床の掃除に取り掛かる。
 気になる事はまだあるが、日常的なそれらの作業はかなり気分を誤魔化してくれた。

ミセ*゚ー゚)リ「あ、これが済んだらハインさんとこ行きますからね。
      その前にお風呂入ったりします?」

ξ゚⊿゚)ξ「寝起きだし吐いた後だし絶対入るのだわ」

 一応断っておくと今の私はべつに不潔ではない。
 死んでる間もミセリさん達が世話をしてくれたのだろう。私の体は清潔そのものである。
 しかし事実として1週間は風呂に入っていないわけで、気持ち的にもこの入浴は即決だった。
 入浴シーンは無い。

.

97名無しさん:2020/10/23(金) 23:43:25 ID:6PRhN.nU0

ミセ*゚ー゚)リ「だったら急ぎますか!
      向こうはもう準備できてるみたいですし、善は急げです!」

ξ;゚⊿゚)ξ「……そうよね、半月しかないものね。休みも無さそうだし」

 即死級の傷を負った手前、1日くらいはゆっくりしたい気持ちが強かった。
 胸元には今でも違和感が残っている。これが消えるのもしばらく先になりそうだ。

 ……そしてやっぱり、私はまだ状況に追いつけていなかった。

 みんなが私の為に動いていたのは分かる。ただその1点だけは深く理解している。
 だから試験の話も簡単に聞き入れたのだが、その分、私自身の実感は乏しいまま。
 そういえば学校は? なんて考えが浮かぶくらいには気合い不十分。
 我ながら不安まみれだ。弱音をほざく暇もなかったら、もう転がり回るしかない。

ミセ*゚ー゚)リ「えーと、今日は体力テスト? みたいな事をするとか言ってました。
      本格的な特訓も早く始まるといいんですが……」

ξ;´⊿`)ξ「……上手くやれるかしら……」

ミセ*゚ー゚)リ「まー私との特訓よりは楽ですよ多分。
      対魔物ではなく対人間の訓練ですから、その分は」

 とはいっても、私はその人間相手にボロ負けしている。

 楽観している場合ではない。今まで以上に本気でやらねばマジでマズい。
 これは奇跡的に生まれたラストチャンスだ。ここを逃せば本当に後がない。
 取り計らってくれたミセリさん達の為にも、私は私にできる全てをやり切るしかないのだ。

ξ;-⊿-)ξ「……ハァ」

ξ゚⊿゚)ξ「ミセリさん、色々ありがとうなのだわ。
      大人の駆け引きはよく分からないけど、大変だったでしょう」

ミセ*゚ー゚)リ「――ええ、それはもちろん大変でしたよ。
      お嬢様の動きは色々影響ありますし、それなりに」

 ミセリさんはお皿を洗いながら軽く応える。
 その作られた軽薄さこそ私達の距離感。重たいものを持たせまいというミセリさんの心遣いだ。
 簡単に言えば大人と子供のそれ。今の私では、とても覆せない。

.

98名無しさん:2020/10/23(金) 23:44:47 ID:6PRhN.nU0

ミセ*゚ー゚)リ「でもまぁそれが従者の仕事なんですから。
      そうやって労ってくれるだけで十分ですよ」

ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう。その苦労、無駄にはしないのだわ」

ξ;゚⊿゚)ξ「……あんまり自信は無いけど」

ミセ*゚ー゚)リ「それでいいんですよ。お嬢様はいつか、私よりもっと強くなるんですから」

ξ゚⊿゚)ξ

Σξ;゚⊿゚)ξ「もっと!? いやそれは流石に……」

 私がミセリさんより強くなるのは現状かなり不可能だ。ていうか無理だ。
 魔力を筋力に例えるとミセリさんはドウェイン・ジョンソンくらいキマっている。
 励ましの言葉としては嬉しいけれど、今の私では冗談半分にしか受け取れなかった。

ξ;゚⊿゚)ξ

ξ;-⊿-)ξ「……それは流石に無理なのだわ。
        実力くらい分かるもの。あんまり無意味に期待されても……」

ミセ*゚ー゚)リ「いえいえ無理じゃないですって!
       お嬢様の自己評価が低いだけです! 私なんて中の上ですよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「それ結構強い……」

ミセ*゚ー゚)リ「これもお嬢様の素養を考えての期待なんです。
       無理も無意味も些細なこと! 強くなれます、絶対に!」

ミセ*゚ー゚)リ「なにより! それが私の望みでもあるんですから!」

ξ;´⊿`)ξ「育てのプレッシャーもすごい……」

.

99名無しさん:2020/10/23(金) 23:48:50 ID:6PRhN.nU0


ミセ*゚ー゚)リ「――でなきゃ特訓なんてしませんよ。無駄なんて少しもありません」

ミセ*゚ー゚)リ「ですから、いつか私を守れるくらい強くなってください。
       安直ですけど、やっぱりそういうのが一番嬉しいんです」


ξ゚⊿゚)ξ「……でも、もし強くなれなかったら?」

ミセ*゚ー゚)リ「普通にブチギレますね」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「えっ?」

ミセ*゚ー゚)リ「いや今までの苦労を台無しにされたら怒りますよ、当然」

ξ゚⊿゚)ξ

 情緒がブッ壊れて恐怖がブチ上がる。
 そこはなんかこう……生ぬるいセリフが出てくる所ではなかろうか。
 ブチギレ宣告、ほぼパワハラではなかろうか。


ミセ*´ー`)リ「……なんて、冗談です。
       お嬢様は望むがまま、自由にもたもたして下さい」

ξ゚⊿゚)ξ「もたもた願望は無い」

ミセ*゚ー゚)リ「まぁぶっちゃけ死ななきゃ何でもいいですよ。
       前進であれ自滅であれ、お嬢様が自由であるなら私は――」


ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「強くなれなくても?」

ミセ*゚ー゚)リ「いやそれは別件なのでキレます」

ξ゚⊿゚)ξ

 がんばろうとおもった。

.

100名無しさん:2020/10/23(金) 23:50:33 ID:6PRhN.nU0

≪2≫


 ――掃除やら入浴やらを済ませた夕方頃。
 私とミセリさんはテクテクとハインさんの屋敷に赴き、その客間で軽い歓迎を受けていた。
 座布団にちゃぶ台にお茶と銘菓。メトロン星人みたいなおもてなしだった。


从 ゚∀从「やーーーっと起きたなツンちゃん! 元気そうで嬉しいぜ」ワシャワシャ

ξ゚⊿゚)ξ「よせやい」

从 ゚∀从「傷の具合はどうよ。アレほぼ死んでたんだろ?」

ξ゚⊿゚)ξ「もう大丈夫。貞子さんが直してくれたから」

ミセ;*゚ー゚)リ「私も魔力を分けましたからね! そこお忘れなきよう!」

从;゚∀从「そりゃよかった、けど色々悪かったな。
      俺達……というか俺のせいでさ」

ξ゚⊿゚)ξ ?

从 ゚∀从「ああ、まだ聞いてないか? 勇者軍は俺を追って現れたんだよ。
      どっかから情報が漏れてたらしい。これも調べちゃいるんだが、どうにも……」

 言葉に詰まったハインさんは喉を鳴らしてお茶を飲んだ。
 私もお茶&銘菓を食らった。おいしい。

从 ゚∀从「ともかく、俺がツンちゃんを手伝うのはその辺の謝罪も含むってこった。
      魔物の試験はよく分からねぇが、稽古の相手にゃ困らせねえよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「謝罪なんていらないのだわ。私の方が助けてもらってるんだし……」

从 ゚∀从「まぁまぁ俺も立場が危ういんだ。媚びくらい売らせてくれって」

 そう言いながらヘラヘラ笑うハインさん。
 彼の子供扱いはミセリさん達の比ではないものの、相手がイケオジなので悪い気はしない。
 これで見た目が若かったら確実にホの字だった。運命の妙である。

.


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