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ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです
1
:
名無しさん
:2020/10/14(水) 17:28:46 ID:YvZFQxxU0
タクシー
(゚」゚)ノ
ノ|ミ|
」L
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
_/ ̄ ̄\_
└-○--○-┘=3
101
:
名無しさん
:2020/10/23(金) 23:52:23 ID:6PRhN.nU0
ミセ*゚ー゚)リ「そんなことより特訓の準備は済んでるの?
先にドクオが来てたはずだけど……」
从 ゚∀从「もちろん準備万端だ。ウチで暴れる分にはまったく問題ねえ。
さっきテストで暴れてみたんだが、魔術ってのはやっぱすげえな!」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「……あの、今日は体力テストなのよね?」
私としては暴れる予定が無かったので、ハインさんの口振りに若干の不安を覚えてしまう。
これでミセリさんみたいな脳筋特訓が始まったら泣いて転がろうと思う。
从 ゚∀从「安心しなって、俺が面倒見るのは対人間のあれこれだけだ。
今回はあくまで人間が目安。今のツンちゃんには軽い相手だと思うぜ」
ξ*゚⊿゚)ξ「……え、ほんと!?」
なんだかやる気が湧いてきちゃったな。
そうだぞ私は魔王城ツンだぞ。実力さえ発揮できれば私は強いのだ。
やっぱり良い指導者からは良い影響を受けられるのだ。私はしみじみ思った。
从 ゚∀从「ミセリみたいな脳筋特訓は今回ナシだ。
ツンちゃん自体のスペックは足りてるし、戦い方さえ覚えれば今は十分だろうよ」
ミセ*゚ー゚)リ「脳筋ではなく効率的な特訓です」
从 ゚∀从「てことで今日はツンちゃんの戦い方をチェックする。
組手とかスパーリングとか、なんかそんな感じの体力テストってわけ」
ξ゚⊿゚)ξ「なるなる」
从 ゚∀从「そんな感じだから貞子に頼んで結界とか色々やってもらったのよ。
今なら庭で大爆発しても近所迷惑にならないぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「ハピなる」
すごいなぁ。
.
102
:
名無しさん
:2020/10/23(金) 23:53:40 ID:6PRhN.nU0
〜ハインの屋敷 デカい庭〜
从 ゚∀从「よーし準備できたな」
ξ゚⊿゚)ξ「できてしまったようね」
ジャージに着替えて云々した私=魔王城ツン。
庭に敷き詰められた玉砂利をジャリジャリしつつ、私はハインさんの指示を待っていた。
从 ゚∀从 〜♪
とはいえ、当のハインさんは縁側に腰を下ろしたまま動こうともしない。
てっきり彼が相手をするのだと思っていたが、どうやら相手は他に居るらしかった。
ミセ*゚ー゚)リ「お気をつけてー」
ξ゚⊿゚)ξ「うーっす」
とりあえずミセリさんが相手じゃなければ何でもいい。
ハインさんと同じく、彼女もまた縁側で観戦モードだった。まずは一安心である。
从 ゚∀从「……おー来た来た! おっせーよブーン!」
ξ゚⊿゚)ξ !
そんなこんなしてたらスパーリング相手が現れたっぽい。
ハインさんが手を振るその方向に目をやると、そこには、覚えのある人影があった。
(; ^ω^)「……人使いの荒いジジイめ……」
屋敷の裏手から現れたるニコヤカ仏頂面。
それはまさしく昨日の転校生・内藤ホライゾンであり、私はビックリした。
(;'A`)「……ハァ……」
しかも更に驚くことに、内藤くんの後ろにはドクオの姿まであった。
更に更に驚くことに2人は揃って満身創痍。ボロボロの姿でこちらに近付いてきていた。
.
103
:
名無しさん
:2020/10/23(金) 23:55:41 ID:6PRhN.nU0
ξ;゚⊿゚)ξ「え、なんで2人が?」キョロキョロ
ハインさんとドクオ達をそれぞれ一瞥する私。
内藤くんが居て、なぜかドクオと一緒で、しかもボロボロになっている。
そんなよく分からん状況に戸惑っていると、事を察したハインさんが内藤くんの紹介をしてくれた。
从 ゚∀从「そいつは内藤ホライゾン。あだ名はブーンだ。
ツンちゃんの良い刺激になると思ってな、ちょっと前に呼んでたんだよ」
ミセ*゚ー゚)リ「ちなみに私の根回しの結果です。十分に労うように」
ξ゚⊿゚)ξ「そんな周到な」
ミセリさんは一体いつから話を動かしていたのか。
人知れず気を配ってくれるのはいいけど若干怖い。ちゃんと言ってほしい。
( ^ω^)「――と、聞いての通りだ」
途端、冷たく端的な一言が私を射抜く。
私は今一度彼らの方を向いて、やたら傷付いているその姿を訝しんだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「……関係者っていうのは本当だったのね。
にしても、なんでそんなボロ雑巾みたいになってるの?」
(;'A`)「うるせえ、ハインリッヒにやられたんだよ。
結界の防音性能をテストするとかでさ……」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「――それで負けたの!? 2人とも!?」
(;'A`)「言っとくけど全然本気出してないからな。
下見で先に来てたら巻き込まれたんだよ……」
ぶつぶつ言いながら恨めしそうにハインさんを見遣るドクオ。
この様子だと単純に腕試しをされたようだが、結果はまぁ微妙だったらしい。ワロタ。
.
104
:
名無しさん
:2020/10/23(金) 23:57:10 ID:6PRhN.nU0
(;'A`)「だからお前も気をつけろよ。
あいつらの激化薬、バカにできねぇぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「……激化薬、って」
――激化薬。
あの女が使っていた正体不明の薬物。
あれが人間にどういう効果をもたらすかは、正直言って想像に難くない。
つまりは人間が魔物に勝つためのドーピング。
その効力も、私は身をもって理解している。
从 ゚∀从「さて、そんじゃあ軽く授業開始だ」
从 ゚∀从「ツンちゃんは勇者軍のことを何も知らないんだよな?
特に『激化薬』を知らないのはマジでマズい。正直どうかしてるぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ「え、アレそんな重要アイテムなの?」チラッ
ミセ;*゚ー゚)リ「……情報規制などありまして。
でも私だって実物見たのは初めてですよ」
ξ;´⊿`)ξ「……今日は秘密ばっかりなのだわ……」
現魔戦争の終結後は基本的には平和主義。
戦いの火種になりそうな情報は議会やらなんやらが握り潰してきたのだろう。つまりそういう事だ。
まったく大人というのは秘密ばかりである。振り回される身にもなって欲しい。
.
105
:
名無しさん
:2020/10/23(金) 23:59:23 ID:6PRhN.nU0
从 ゚∀从「知ってのとおり、勇者軍ってのは勇者と超能力者の集まりだった。
だが戦争終結後に勇者は失踪、能力者達も異能を失っていった」
ξ゚⊿゚)ξ(あ、宿題でやったとこなのだわ!)
出てしまったようだな勉学の成果が。
从 ゚∀从「そんで勇者軍は自然消滅。初期の面子は完全に居なくなった。
俺もあっちを抜けて魔王軍に取り入ったし、まぁ世代交代ってヤツだな」
ξ゚⊿゚)ξ「……でも、それじゃあ世代が交代しても中身が無いのだわ。
勇者も能力者も居ないんでしょ? 目的だって無いだろうし……」
本来、勇者軍とは義勇兵の集まりである。
彼らの目的は魔王軍の撃退&魔王討伐であり、一応その目的は果たされていた筈。
ならば世代交代をする意味が無い。まして、戦うための力も無いなら尚更だ。
けれどハインさんの話にはまだ続きがあるようで、彼は私の言い分に頷いてから話を再開した。
从 ゚∀从「ツンちゃん、中身が無いってのは言いえて妙だぜ。
中身を失った勇者軍には、確かによくない輩が集まっちまったからな」
从 ゚∀从「次世代の勇者軍――あいつらの目的は単純だ。
『超常時代』の産物を解明して利用する。
勇者も魔物も能力者も、みんな研究材料にしてな」
ξ;゚⊿゚)ξ「利用……?」
从 ゚∀从「そう、軍事利用だ。そして金にする。あれは利口なハイエナなんだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「……それ完全に悪者なのだわ。勇者軍の肩書きとは……」
从 ゚∀从「残りの話はまぁ省くが、『激化薬』ってのはそういう経緯で生まれた商品の1つだ。
単純に説明すると、こいつを飲むと超能力が使える。正式名は『激化能力』」
(´・_ゝ・`)「時系列に並べると以下の通りだ」
ξ゚⊿゚)ξ「なんて親切な」
〜よくわかる経緯〜
1 戦争終結! そして世代交代
2 次世代の勇者軍、超能力とかの研究開発を開始
3 その結果、超能力とかを生み出す『激化薬』が爆誕
4 勇者軍、色々とヤバい集団になっていく
.
106
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:01:24 ID:zhu3Oamw0
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「なるほど」
完全に理解した私、魔王城ツン。
つまり私は激化薬――激化能力とやらに勝たなくてはならないのだ。
ハインさんのおかげで敵のスタンスも分かったし、『相手はただの人間だ』という油断も薄れてきた。
これでようやく、私も話のスタートラインに立てた気がする。
从 ゚∀从「で、今の勇者軍はこの『激化薬』のブラッシュアップにご執心でな。
そこで欲しいもんと言えば新しい研究材料なんだが――」
ξ;゚⊿゚)ξ「……そこで私、でごわすか」
从 ゚∀从「その通り。だからよ、ツンちゃんはもう強くなるしかないんだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ ゴクリ(お茶を飲む音)
从 ゚∀从「地上で生活する限り、敵はいつまでもツンちゃんを狙う。
今のままでも逃げ隠れはできるだろうが、居を構えて安定してってのは無理だろうな」
ξ;゚⊿゚)ξ「……なんちゅう最悪な……」
分かってはいたが、この試験に合格しても勇者軍という不安要素が消える訳ではないのだ。
大変なのはむしろ合格後。勇者軍からの攻撃を前提とした日々の方だ。
次第によっては今ある生活を手放す必要もあるだろうし、学校にだって通えなくなると思う。
だから、私はいつか選ばなくてはならないのだ。
勇者軍から逃げるか、戦うか。
今はまだ杞憂でも、その選択は必ずやってくる。
.
107
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:03:29 ID:zhu3Oamw0
从 ゚∀从「――さておき、まずは試験突破だ。
今の話で戦う理由、敵の目的は理解できたよな?」
ξ゚⊿゚)ξ「当然なのだわ。すこぶる理解してしまったのよ」
从 ゚∀从「オッケーならもう授業は終わりだ。
あとはブーンに任せるぜ。まぁ適当に戦ってみてくれよ、見てるから」
ハインさんは足を胡座に組み直すと、それ以上なにも語ろうとはしなかった。
あとはブーンにということは、私の相手は内藤くんがやるのだろうか……
( ^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ
……でもなんも言わんぞ。
こっち見たまま微動だにしないぞ。
('A`)「……んじゃ、俺も見物に回るんで」テクテク
そして気怠げに去っていくドクオ。
まぁ知らないところでドクオも頑張っていたのだろう。
ツンちゃん襲撃のあらすじでは一切触れなかったが、ドクオだって敵の襲撃を受けているのだ。
この状況も色々複雑だし、近い内にまた話をしておこう。
ξ;゚⊿゚)ξ「うん、おつかれ……」
( 'A`)「ったく、疲れまくりだよ……」
ドクオを見送りながら声を掛ける。
やがて私が視線を戻すと、そこでようやく、内藤くんが口を開いてくれた。
.
108
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:08:01 ID:zhu3Oamw0
( ^ω^)「僕が敵なら、今のタイミングで攻撃してたお」
ξ゚⊿゚)ξ「……物騒なのね。自己紹介も省くのかしら」
( ^ω^)「それなら学校で済ませたお」
ξ;゚⊿゚)ξ「……まぁ、そうだけど」
かなり最悪な初対面だったが、あれでいいなら強いることもない。
きっと内藤くんはクールキャラになりたいのだ。察してあげるのも優しさである。
( ^ω^)「なら早く準備しろ。僕も疲れてるんだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「しかもせっかちだし……」
( ^ω^)「……難しいな」
ξ゚⊿゚)ξ ?
(´・_ゝ・`)「戦闘準備だ! いくぞツンちゃん!」
ξ゚⊿゚)ξ「了解! 魔力生成!」 ブォォォォン
つ魔と
私は頑張って魔力を作った。
赤いオーラがあれしてすごい。
.
109
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:09:33 ID:zhu3Oamw0
从 ゚∀从「ミセリ、ツンちゃんの魔力はどんなもんなんだ?」
ミセ*゚ー゚)リ「……とにかくコントロールが壊滅的ですね。
量があって質もいいだけに、ピーキー過ぎて今のお嬢様には……」
从 ゚∀从「あー、そんなんだから出力を制限して安定させた感じか。
それでも人間相手なら十分そうだけどな」
ミセ*゚ー゚)リ「はい。なので勇者軍の尖兵ごときに遅れを取ったのは折檻対象というか」
ミセ*゚ー゚)リ ブチッ
ミセ*゚ー゚)リ「ありえないんですよね」
从;゚∀从「……キレるなよ。その折檻も試験後にしてくれ。
今は人間基準でやってるんだから……」
ミセ*゚ー゚)リ「…………」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「よぉーし頑張るのだわ!!!!!」
ヤバいミセリさんがブチギレている。
そらもう十分過ぎるくらい心配してくれたもんな、そろそろ別の感情が湧いても仕方が怖い。
せめて折檻が甘くなるよう戦闘シーンを頑張ろうと思った。頑張っていくぞ!
.
110
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:11:12 ID:zhu3Oamw0
ξ ⊿゚)ξ「――――ッ」
私は、練り上げた魔力に赤マフラーのイメージを重ねた。
昨日は運良く成功してくれた魔力成形。
その感覚をなぞるように、私は魔力の出力を上げていく。
(;'A`)「あの魔力量、いつもの上限を超えてねーか!?」
从 ゚∀从「流石は魔王の娘ってワケかよ。冗談じゃねえ……」
ξ; ⊿゚)ξ(露骨に持ち上げるな、シリアスが崩れる――!)
赤熱した魔力が周囲に火花を散らす。
やがて私の首元には赤マフラーが実体化、魔力成形の工程が完了する。
かなり真面目にやってはみたが、とりあえず無事に完成してくれてよかった。
伝承いわく、魔力成形の最終地点は生命の誕生。
それを思えば赤マフラーなど些細な代物だが、私にとっては大事な処女作。
なにより自動防御っぽい機能もあるし伸び代はある……と個人的には思いたい。
.
111
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:14:55 ID:zhu3Oamw0
ξ ⊿゚)ξ「……私はこれで準備完了だけど。そっちは?」
( ^ω^)「これでいい。始めるお」
ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ、いいの?
激化薬は? 使う、のよね……?」
( ^ω^)
発する言葉は必要最小。
身構えもせず立ち尽くす内藤くんは、その姿のまま本当に私の攻撃を待っていた。
しかも、事もあろうに生身のまま。
激化薬すらない、普通の人間のまま。
ξ;゚⊿゚)ξ(……始めろ、って……)スッ
とりあえず私も拳を作って見せるが、それを振るう気はまったく湧いてこない。
人と魔物の基本スペックの差は歴然。私とて普通の人間に負けない程度のパワーはある。
ξ;゚⊿゚)ξ
戦えば、私は彼に大怪我を負わせてしまう。
想像に難くない必然の結末。
その結末に立っている自分を想像すると、私は――……
.
112
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:23:31 ID:zhu3Oamw0
( ^ω^)「激化薬を飲まれる前に、倒す」 ゴソゴソ
ξ;゚⊿゚)ξ「……あっ」
気がつけば、内藤くんはポケットから円筒状のケースを取り出していた。
トーマスのラムネのやつだった。
彼はそのケースを振って錠剤――激化薬を取り出し、間髪入れずに飲み下した。
まったく、結局飲むなら最初から飲んでよかろうなのだ。
ξ;゚ー゚)ξ ホッ
从 ゚∀从「……」
( ^ω^)「……それができなければ、能力発動までの猶予で先手を取る」
ξ;-⊿゚)ξ「ならもう待つわよ。普通に戦った方がテストにな――」
るんだし、と言葉を続けていく最中。
⊂( ^ω^)「なら遠慮なく」ガシッ
内藤くんは中空に手を差し出し、そこにある『何か』の幻影を掴み取った。
実体なき実物――それを手にして大きく振り上げ、彼はその手で静かに空を薙いだ。
その瞬間、堰を切ったように旋風が吹き荒れた。
ξ;゚⊿゚)ξ「――――ッ!?」
屋敷の草木が音を立ててざわめき、地面の玉砂利が波を打つ。
一挙動にあるまじきその衝撃は戦慄に余りある。
私はただ、風に吹かれて言葉を失うばかりだった。
( ^ω^)「……テストだから言っとくけど、僕の激化能力は『復元』だお」
風が止んだ時、『何か』を持っていた彼の手には一振りの剣が実体化していた。
無から湧き出た無骨な剣。
内藤くんはそれを両手に持ち直し、改めて私に相対した。
.
113
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:24:54 ID:zhu3Oamw0
ξ;゚⊿゚)ξ(激化能力、復元――)
あの能力、『無形から有形を作り出す』という点で魔力成形に酷似している。
即ち、たった1粒の薬が、人間を魔物の領域に踏み入らせたということ。
――敵が激化薬に頼るのも当然だ。
これさえあれば、人と魔物の戦いは成立するのだから。
( ^ω^)
ξ;゚⊿゚)ξ(激化薬、確かにヤバいアイテムなのだわ)ジリジリ
( ^ω^)
ξ;゚⊿゚)ξ(昨日の女にも何か能力があったのかしら?
今思うと、あの戦い方はかなり不用心だったのね……)ザッ
( ^ω^)
( ^ω^)「おい」
ξ;゚⊿゚)ξ「……?」ピタリ
おずおずと間合いを見ていた私に内藤くんが声を掛けてくる。
彼は構えた剣を下ろして脱力すると、しばし言葉を選んでから、溜息交じりに言葉を繋げた。
.
114
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:26:33 ID:zhu3Oamw0
( ^ω^)「お前、いつまで考え込んでるつもりなんだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ?」
( ^ω^)「もう始めていいって何度も言ってるお」
ξ;゚⊿゚)ξ「……いや、様子を見てるのよ」
( ^ω^)「さっきから隙だらけにしてやってるだろう。
お前、これ以上なにを見せれば動いてくれるんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ#゚⊿゚)ξ「なッ――!」
……いや、これは煽りだ。
私が冷静な判断をせず突っ込んでくるよう、誘導しているのだ。
ここは様子見が正解だ。
事実、昨日の私はそれを怠って致命傷を――
( ^ω^) チッ
ξ;゚⊿゚)ξ
.
115
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:33:13 ID:zhu3Oamw0
――冷めた空気に小さな舌打ち。
その途端、内藤くんは激化能力で作った剣を手放してしまった。
剣はすぐさま形を失い、光になって空に散る。
( ^ω^)「環境に甘やかされ続けた結果がそのザマか。
1人になったら何もできず、そもそも初めから『戦いたくない』と思っている」
ξ;゚⊿゚)ξ「……え、それはちが――」
( ^ω^)「敵の方から攻撃してくれないと何もできない。
誰かが助けてくれなきゃ話にもついていけない」
ξ;゚⊿゚)ξ
( ^ω^)「戦わなくていい口実があればそれに縋る。
こうして他愛なく話しているのが良い証拠だ。だから隙を晒す」
ξ;゚⊿゚)ξ「それは、……ただ、正々堂々と……」
_,
( ^ω^)「正々堂々? この状況のどこに卑怯が残ってるんだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「う、……」
圧が凄い。
これもうパワハラなのでは?
( ^ω^)「……後出しの正論で身を守り、都合のいい立場から戦場を愚弄する。
野蛮な闘争を忌避しながらも、しかし正義や勝ち組といったものには属していたい――」
( ^ω^)「いやまったく現代的な姿勢だよ。
意図してやってるなら傑物と言わざるをえない。堪えきれなかった僕の負けだ」
ξ;゚⊿゚)ξ「違う、私は……!」
( ^ω^)「だったらもう早くしてくれ。
これはテストだ、お前が攻撃しなければ始まらない」
ξ;゚⊿゚)ξ「……でも……」
( ^ω^)「始まらないんだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ
.
116
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:39:59 ID:zhu3Oamw0
( ^ω^)「……これは、テスト以前の問題だお。
そういうものを戦場に持ち込みたいなら、結論はひとつしかない」
そう言い、内藤くんは踵を返した。
私に背中を向けて歩き出す。
ξ;゚⊿゚)ξ「……待っ」
( ^ω^)「待てば戦うのか?」ザッ
私の声と同時、足を止めて振り返る内藤くん。
彼の視線が私を捉える。
彼はただ沈黙し、私の答えを待ってくれた。
だからこそ、だから、私はすぐに答えを考えた。
ξ;゚⊿゚)ξ
( ^ω^)
考えて、答えを……
.
117
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:41:10 ID:zhu3Oamw0
〜30秒後〜
ξ゚⊿゚)ξ ポツン
从;゚∀从「……相手を逃がして終了。
まさか戦闘にもならねぇとは……」
ミセ*゚ー゚)リ
('A`)
ξ゚⊿゚)ξ(視線が痛いのだわ)
試験まで残り半月。
どうやら私の問題は、強いとか弱いとか、そういう話ではないようだった。
ξ゚⊿゚)ξ
从;゚∀从「お前どういう教育を……」ヒソヒソ
ミセ;*゚ー゚)リ「いやスイッチが入れば……」ヒソヒソ
ξ゚⊿゚)ξ
特訓初日の成果は特になし。
体力テストもままならず、私は、貴重な1日を失っていた。
.
118
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 00:45:56 ID:zhu3Oamw0
#1
>>2-65
#2
>>74-117
後編の投下は来週末です
4話目で一区切りなので、そこまでは年内に投下します
よろしくお願いします
>>73
ニュアンスを伝えるのが難しいのですが、
前スレに投下した分は+αの概念として隔離してもらって、
興味ある人はどうぞ〜くらいの扱いにしてもらえたら嬉しいです
119
:
名無しさん
:2020/10/24(土) 15:59:27 ID:myHqyUGs0
otsu
120
:
名無しさん
:2020/10/25(日) 22:24:42 ID:6gV6UI/A0
おもろ
121
:
名無しさん
:2020/10/28(水) 22:08:16 ID:MdsDbKKk0
待ってた!!そして待ってる!!
122
:
◆gFPbblEHlQ
:2020/10/30(金) 06:09:51 ID:F.8o84Nk0
#03 ノン・パーフェクトな魔王城(後編)
.
123
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:11:53 ID:F.8o84Nk0
≪1≫
――お話にすらならなかった体力テストの翌日。
私こと魔王城ツンは普通に学校へ行き、普段通りの生活を送っていた。
今日は柄にもなく早い登校をして、普通に宿題をやって、普通に授業を受けた。
なんてことない日常風景。当たり障りのない時間が過ぎて、今は昼休みの真っ只中である。
ξ゚⊿゚)ξ
私は昼飯を食べ終えてボーッとしていた。
それ以上でも以下でもなかった。
(;'A`)「……おいツン、お前どうしちまったんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ ポケー
どうしたも何も、私はただ模範的な学校生活に準じているだけだ。
決して昨日の体力テストが残念過ぎて落ち込んでるとかそういう事は無いのだ。
(;'A`)「……やっぱ昨日言われたこと気にしてんのか?
気にすんなって、あれはハインさんの人選ミスだよ」
言いながら余所を一瞥するドクオ。
彼の視線は後ろの席――直截に言うと内藤くんの席に向けられていた。
('A`)「……ありゃどー考えてもあいつが悪い。特訓ってもんを理解してねぇんだ」
( ^ω^)” モグモグ
('A`)
(#'A`)「野郎、こっちガン見しながら弁当食ってやがる……!」
ξ゚⊿゚)ξ「あらあらうふふ」
.
124
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:14:08 ID:F.8o84Nk0
ξ゚⊿゚)ξ
『――環境に甘やかされ続けた結果がそのザマだ』
『1人になったら何もできず、そもそも初めから――』
ξ゚⊿゚)ξ(戦いたくないと、思っている……)
……昨日のあれは効いた。
めちゃくちゃ効いて今も引きずっている。
甘やかされてる自覚は多少あったが、ああも直球で指摘されたのは初めての事だった。
しかも私はまったく反論できなかった。十分な猶予を与えられても、何も……。
結果的に、私は今まで続けてきたミセリさんとの特訓を無駄にしてしまったのだ。
毎日あれだけ続けてきた努力の結果は0点。
戦うべき時に戦えなかった――その事実を、私はしかと受け止めている。
ξ゚⊿゚)ξ
受け止めすぎて灰になりそうだった。
なっちゃっていいかな、灰に。
('A`)「……なぁツン。昨日のアレ、お前はそんなに間違ってねえよ」
ξ゚⊿゚)ξ
('A`)「様子見しすぎて状況が悪くなることはある。
でもそれは実戦での話だ。あれはテスト、自分のペースでやって当然だ」
ξ゚⊿゚)ξ「……私だって、そう思うけど……」
そう、べつに私も昨日の戦い方を間違いだとは思わない。
自分のペースで戦うのは当然だし、戦闘放棄はむしろ内藤くんの方。それも理解している。
それでも、間違っていたのは私なのだ。
私には『覚悟』が欠けていた。戦いに臨もうという決意も甘かった。
呆れられても仕方がない。ここばっかりは、私は認めざるを得ないのだ。
.
125
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:15:38 ID:F.8o84Nk0
ξ゚⊿゚)ξ「……私、こないだ勇者軍に襲われた時、迷ってしまったの」
ξ゚⊿゚)ξ「迷っちゃいけない、躊躇しちゃいけない。
そう思わなきゃ戦えない時点で、私は場違いだったのかもね」
('A`)
ξ-⊿-)ξ「それで心臓に一撃。呆気ないものよ」
('A`)「……そりゃ迷うだろ。誰もそこまでの覚悟は求めてねぇよ」
ξ゚⊿゚)ξ「……必要なのよ。私が、そう思ってる」
言い切って、私は机に項垂れた。
ξ-⊿-)ξ「ちょっと人間に慣れ過ぎたのかもね。
殺し殺され、それが社会のルールなのに……」
('A`)「……あんまり急いで考えるな。
お前は変に思い切りがいいんだから、まずはゆっくり休んどけ」
ξ゚ー゚)ξ「……そうね」
――と、儚げなヒロインスマイルを浮かべた瞬間。
( ^ω^)「そうはいかん」バサッ
つミ□
ξ;゚⊿゚)ξ !
突然内藤くんが傍に来て、机に謎の紙束を放り投げてきた。
イジメか!? と反射的に思ったが違うっぽい。
私は紙束の表紙に目を向け、そこに書かれていた表題を読み上げた。
.
126
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:17:22 ID:F.8o84Nk0
ξ゚⊿゚)ξ「アリクイの赤ちゃんでもわかる……戦いの基本……?」
つ□と
( ^ω^)「今のお前に必要そうな情報をまとめておいた。
主に心構えや自己啓発の話になっているが、最低限のセオリーも書いてあるお」
ξ゚⊿゚)ξ(こいつ、まさか私をアリクイの赤ちゃんと同レベルに……?)
(;'A`)「……うわっ、意外と執拗に理詰めしててキモい……」 ペラッ
( ^ω^)「感情はブレーキにもアクセルにもなる不安定なものだお。
理詰めだろうがなんだろうが、制御できて困るものではない」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「え、ええー……」
なんだこのツンデレ。いやツンデレは私だが。
昨日あれだけ言っておいて翌日これは反応に困るぞ。
ここから更に「勘違いするなよ」とか言い出したら私のアイデンティティが
( ^ω^)「勘違いするなよ、これはハインに言われてやった事だ」
ξ゚⊿゚)ξ 〜サカナクション:アイデンティティ〜
( ^ω^)「お前を戦えるようにするのが僕達の仕事。
すぐに読破しておけ。お前にはそれが必要だ」
ξ;゚⊿゚)ξ「ぐぬぬ、分かったのだわ……」
悔しいが言うことを聞くしかない。
アイデンティティ的には
『 ξ#゚⊿゚)ξ「ふざけないで頂戴! あんたの力なんて借りないんだからねっ!」 』
と言いたいところだが、私はこれでも魔王城ツン。
身から出た錆くらい自力でそそがねばならぬのだ。
ええい止めるな。これが魔王城のプライドなのである。
ξ゚⊿゚)ξ「うぉぉがんばるのだわ」
(^ω^)「ツンちゃんがんばるお!」
ξ゚⊿゚)ξ !?
.
127
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:19:20 ID:F.8o84Nk0
≪2≫
〜ハインの屋敷 客間 夕方〜
(´・_ゝ・`)「――ああ、こっちは順調な滑り出しだ。
分かってるよ。負けたんだ、俺はもう知らん」
(´・_ゝ・`)「大渋滞は承知の上だろ。……はいはい、そんじゃ」
ピッ、と通話の切れる音。
盛岡デミタスはスマホをしまって振り返り、こちらに視線を注ぐ各人を一望した。
(´・_ゝ・`)「……定期連絡だよ。気にしないでくれ」
从 ゚∀从「ほんとかァ? そーいう口調には聞こえなかったけどな」ニヤニヤ
(´・_ゝ・`)「ははは、じゃあ彼女ってことにしていいよ」
ミセ*゚ー゚)リ「それはそれでキレそう」
(´・_ゝ・`)「身持ちが固い奴は大変だよな、っと……」
縁側から客間に戻り、盛岡もちゃぶ台の面々に加わっていく。
今日の議題は現状確認。参加者は盛岡、ハイン、ミセリの3人だった。
貞子は見回りに出ているので居ない。
.
128
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:23:56 ID:F.8o84Nk0
从 ゚∀从「さて、とりあえず情報共有といこうぜ。
どうにも今回はキナ臭い部分が多いからな」
ミセ*´ー`)リ「とは言っても、この短期間じゃ成果も高が知れて」
(´・_ゝ・`)「あるぜ」 パサッ
つミ□
ミセリの言葉を遮ると、盛岡は20枚近い写真をちゃぶ台に放り投げた。
ミセ;*゚ー゚)リ「――あるの!?」
(´・_ゝ・`)「俺は働き者だからな」
ミセ;*゚ー゚)リ「度が過ぎるのでは……」
从 ゚∀从「おう、どれどれ……」
駅のホーム、路地裏の壁面、ミスドの客席など。
卓上に提示された数々の写真には、一見どれにも変哲が見当たらない。
从 ゚∀从「……こりゃあ、上手く撮ったもんだな」
ミセ*゚-゚)リ
しかし、彼らの目には明らかな違和が写り込んでいた。
たとえば路地裏の壁面には暗号の痕跡。駅のホーム、ミスドの客席には怪しげな人影。
更にその人影は他の写真にも姿があり、ある1枚には決定的な場面も収められていた。
――――――――――――
(´・ω・`) ζ(゚ー゚*ζ
つ” οと
____________
決定的な場面、それは激化薬らしきものの取引現場だった。
片方は先日の女、もう片方は太眉の男。
取引場所は丸亀製麺。彼らは完全に昼食中で、そのついでに取引をしているようだった。
.
129
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:25:35 ID:F.8o84Nk0
从 ゚∀从
从;゚∀从「いやこれ、もう完全に街に居着いてやがるぞ。
動いてたとかってレベルじゃねえよ。ただの住民だよ」
ミセ*゚-゚)リ「……これ、写真撮って終わりですか? 敵のアジトは?」
(´・_ゝ・`)「それは危険が危なくて追えなかったよ。俺もバレないよう必死で」
ミセ*゚-゚)リ「……だったら次は連絡して下さい。私がやりますから」
冷たい殺気を放ちながら盛岡に釘を刺すミセリ。
ツンの前では少しも零さないが、彼女が敵に向けている怒りは誰よりも強かった。
お嬢様を殺そうとした。だから殺す。
そんな短絡的かつ強靭な意思は無言であろうと伝わってくる。
それが普通に怖かったので、ハインと盛岡は彼女の殺気が収まるまで沈黙を貫いた。
.
130
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:27:52 ID:F.8o84Nk0
(´・_ゝ・`)「……とりあえず、こっち女が街から出てくのは確認した」トンッ
盛岡が取引現場の写真に指を立てる。
そこに便乗し、続いてハインが質問を投げかけた。
从 ゚∀从「男の方はどうだ? 街に潜伏してそうだが」
(´・_ゝ・`)「十中八九、街のどっかに居るだろうな」
从 ゚∀从「……勇者軍は一度無くなった組織だ。頭数はそう多くねえ。
敵は少数、手掛かりも少ない。追えるんだったら追いたいが……」
(´・_ゝ・`)「ああ、それは多分無理」
淡い期待をばっさり切り捨てる盛岡。
ハインは頭を振って応え、小さく息を吐いた。
ミセ*゚ー゚)リ「この街は既に探知結界で覆われてます。
異常があればすぐ分かるんですけど、それでも?」
(´・_ゝ・`)「それでも難しいと言わざるをえない。
男の仕事は恐らく情報収集、大して強くもないはずだ」
(´・_ゝ・`)「つまり危険は回避する、異常は起こさない。
見つけ出すには地道にやるしかない、はずだ。知らねぇよ俺も」
ミセ;*゚ー゚)リ「ぐ、ぬぬ……」
从 ゚∀从「まぁそれでも探知結界の存在はデカいぜ。
女だけでも街から追い出せてる辺り、敵も簡単には攻めて来ねぇよ」
ミセ;*´ー`)リ「……それ、だったら次は本気で来るって事ですよ」
从;゚∀从「……まぁな」
(´・_ゝ・`)「特徴的な太眉、まゆ、一体何者なんだ……」
.
131
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:30:46 ID:F.8o84Nk0
从 ゚∀从「いかんともしがたく、やむなく膠着状態か……」
そう言いながら姿勢を崩すハイン。
彼は懐から煙草を取り出し、余裕ぶってそれに火を点けた。
ふわりと白煙が立ち上り、正気を疑うレベルの甘い香りが客間に広がる。
从 ゚∀从y=~ 「……まぁツンちゃんを鍛えてる時間はありそうで安心したぜ。
敵がすぐに動かねぇだけ、俺としては十分だ」
ミセ;*゚ー゚)リ「そんな悠長な! 男の方はまだ街に居るんですよ!?」
从 ゚∀从y=~ 「そうか? 情報なんて元々向こうに筒抜けだったんだ。
今更そんな身構えたってしょうがねえよ」
从 ゚∀从y=~ 「大体、太眉の男だって強いかどうか怪しいんだろ?
こないだの奇襲にもそいつは居なかったし、戦力じゃねえんだよ」
ミセ;*゚ー゚)リ「そんなの推測だけじゃないですか……」
(´・_ゝ・`)「まぁまぁ、それよりもっと大事な話があるだろ」
从 ゚∀从y=~ 「……大事な話?」
(´・_ゝ・`)「そうそう。情報が筒抜けって辺りにも関係するんだが」
盛岡は卓上で手を組み、ハインの目をじっと見ながら言った。
(´・_ゝ・`)「――裏切り者の件だよ」
从 ゚∀从y=~
一瞬の間。
ハインは手近にあった灰皿で煙草を潰し、盛岡の目を見返した。
从 ゚∀从「なる、ほど」
从 ゚∀从「それは確かに大事だ」
ミセ*゚ー゚)リ「……誰かがこっちの情報を流してた、って話ですよね?」
(´・_ゝ・`)「その通り。この問題を解決しなきゃ不安で朝も起きらんねえ」
ミセ*゚ー゚)リ「低血圧は別問題ですよ」
.
132
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:34:21 ID:F.8o84Nk0
(´・_ゝ・`)「……ミセリが居ないタイミングで正確に動き出し、
ハインやドクオを確実に足止めし、1人になったツンを襲撃する」
(´・_ゝ・`)「これは何者かの手引きがあったとしか思えない。
複数の展開を無理矢理まとめたような性急っぷり、明らかに異常だ」
(´・_ゝ・`)「俺はこの犯人を許さねえ。絶対にだ。
見つけ出してボコボコにしてやるからな」
从 ゚∀从
ミセ*゚ー゚)リ
雑だなぁ、と2人は思った。
(´・_ゝ・`)「ついては俺にも考えがある。
せいぜい尻尾を出さないよう、裏切り者には忠告を言いたいくらいだ」
ミセ*゚ー゚)リ「……まあ、頼もしい限りですけど」
从;゚∀从「さっきの写真の男が情報を流してたって線もあるだろ。
あんまり派手な事して刺激すんなよ」
(´・_ゝ・`)「ボロが出るから?」
从 ゚∀从「……そうだ。こっちは情報量でも負けてんだ、下手なマネはするな」
ミセ;*´ー`)リ「それよりお嬢様の特訓ですよ!
どうするんですかもう! やっぱり私が!」
(´・_ゝ・`)「それは絶対に無い」
从 ゚∀从「無いな」
ミセ;*゚Д゚)リ「そんなに!?」
満場一致である。
ミセ;*゚ー゚)リ「いや皆さんお嬢様を低く見すぎですって! 私の特訓は適切ですよ!」
ミセ;*゚ー゚)リ「そりゃ少しやりすぎなのは分かってますけど……でも私だって心を鬼にですね!」
声を張り上げて抗議するも2人の耳には届かない。
限界になったミセリは「あぁお嬢様! これは不当人事でございます……」と天に祈りを捧げ始めた。
物理で解決できない事柄に対するストレスは、確実に彼女を幼児退行させていた。
.
133
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:35:23 ID:F.8o84Nk0
从 ゚∀从「――まぁ今は俺に任せとけって。
俺だってツンちゃんには強くなってほしいんだ」
(´・_ゝ・`)「なんで?」
从 ゚∀从
从 ゚∀从「はは、そりゃお前――」
と、ハインが軽口を始めた途端、屋敷のどこかから着信音が鳴り響いてきた。
その音にいち早く反応したのはハイン。
彼は跳ねるように驚いてみせると、すぐさま重い腰を上げて着信音の方に駆けていった。
从;゚∀从「いけねー、俺も電話があるんだったわ……」ドテドテドテドテ
ミセ;*゚ー゚)リ「お早く済ませてくださいね! 大事な報告会なんですから!」
(´・_ゝ・`)
.
134
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:36:14 ID:F.8o84Nk0
≪3≫
ξ゚⊿゚)ξ
魔王城ツンです。
放課後です。
.
135
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:37:35 ID:F.8o84Nk0
ξ゚⊿゚)ξ「――……それでね、ドクオが大爆発して死ぬの」
「そうなんだ、すごいね!」
ξ゚⊿゚)ξ「跡形も残らないのだわ」
然るべき学校生活とそれに付随する日常的会話シーンを終えた私は魔王城ツン。
現在、私はいわゆるBパートに相当する放課後の夕暮れを満喫していた。
もちろんそこにはクラスメイトのまゆちゃん(モブ)の姿もあり諸般平和的である。
極めて申し分ない穏やかな時間。もはやEMOTIONALすら禁じ得ない所存だった。
ξ゚⊿゚)ξ「教室でホコリが散ってキラキラしてて髪なびいてるだけで良い感じになるわよね」
「謎の白い光が所構わず差し込んでたら更に良い感じのやつ!」
ξ゚⊿゚)ξ「魚眼+俯瞰でちょい不思議系の雰囲気出てたら10点確定なのだわ」
「……それ長門有希の話してる?」
ξ゚⊿゚)ξ !
.
136
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:40:17 ID:F.8o84Nk0
これは本筋に微塵も関与しない情報だがまゆちゃんは絵を描くオタクだった。
なので時折絵のモデルを頼まれたり頼まれなかったりする。今日は頼まれたりする日だった。
窓際でなんかエモい感じのポーズを取っているだけの簡単なお仕事。報酬は飴玉である。
ξ゚⊿゚)ξ「まゆちゃん絵が上手」
「そりゃあモデルがいいからね!」
ξ゚⊿゚)ξ「フフッヒ」
やれやれ私は美少女だからな。
しかも魔王城だしな、困ったものだ。
「よし、描けた描けた〜!」
ξ゚⊿゚)ξ「見せておくれ」
「サイン描くから待っておくれ」
絵の片隅に『(´・ω・`)』みたいなサインを残し、ノートの1ページを切り離してくれるまゆちゃん。
そのページにはエモい感じの美少女こと魔王城ツン=私の姿がバッチリ描かれている。
胸部が若干盛られているのは私の注文だった。寛大なキュビズムである。
ξ゚⊿゚)ξ「オイオイオイ参っちまうなオイ」
「猛るな猛るな」
いつか魔王になったら肖像画はまゆちゃんに頼みたい。
しかし画像ファイルを出力する魔術とかあるのだろうか。なければ作ってもらおう貞子さんに。
|┃三 _________
|┃ /
|┃ ≡ < あれ、まだ帰ってないモナー?
____.|ミ\___(´∀` )_ \
|┃=___ \  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|┃ ≡ ) 人 \ ガラッ
ξ゚⊿゚)ξ !
そんな時、突然現れたのは我らが担任モナー先生だった。
時計を見ると確かにヤバい時間、夕陽も沈んで夜が近い。
久々のまんがタイムきららタイムとはいえ、また随分と無為を楽しんでしまったようだ。
.
137
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:42:23 ID:F.8o84Nk0
( ´∀`)「ほらもう帰宅部、2人とも下校の準備するモナ」
ξ;゚⊿゚)ξ「そ、そんぬぁ」
先生にモナモナと下校を促される私達。
しかし私はまだ帰れない。どうしても帰れないのである。
その理由については以下の回想を参照してほしい。
〜回想〜
('A`)「学校に探知結界のすごい版を仕込んでくるNE」
('A`)「俺が戻るまで動かないでね」
ξ゚⊿゚)ξ「うむ」
('A`)「おい内藤、ツンの護衛を」
(^ω^ )「嫌だお」テクテクテク
('A`)
('A`)「まゆちゃん頼む、ツンを見ててくれ」
「いいよー!」
ξ゚⊿゚)ξ「なるほどお留守番というわけね」
〜回想おわり〜
かくしてそういう事なのである。
先日のこともあるし、私の単独行動はかなりご法度なのである。
流石にもうワガママは言えない。ドクオの言いつけは守りたいが、さて……
【分岐1→まゆちゃんと帰る】
【分岐2→1人で教室に残る】
(´・_ゝ・`)
⊃分岐1⊂
(´・_ゝ・`)
≡⊃⊂≡
グシャア
ξ゚⊿゚)ξ(うむ、断固として教室に残るのだわ)
.
138
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:44:17 ID:F.8o84Nk0
ξ;゚⊿゚)ξ「いーじゃん先生! もうちょっとだけお願いなのだわ!」
( ´∀`)「えーどうしよ。態度次第かも」
ξ゚⊿゚)ξ「反応が俗物すぎる」
「そうです先生! 私達はドクオ君を待ってるだけなんです!」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなのだわそうなのだわ」
正直まゆちゃんのが優良生徒なので私は援護射撃に回った。
それから数分間ひたすらゴネ続けるまゆちゃん、そうなのだわロボと化す私。
(; ´∀`)「……はいはい分かった、もう分かったモナ」
やがてがっくりと肩を落とし、モナモナと頭を振る先生。
女子高生2人に寄ってたかって大声出されるのは流石にキツかったらしい。たぶん私でもキツい。
(; ´∀`)「じゃあもう少しだけ、ツンさんだけなら学校に居ていいモナ……」
ξ゚⊿゚)ξ !
かくしてゴネ得を成し遂げる。
残念ながらまゆちゃんはダメっぽいが、まぁ私が許されているならまぁいいだろう。
時には必要な犠牲もある。今回、それはまゆちゃんだったのだ。
.
139
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:46:18 ID:F.8o84Nk0
ξ゚⊿゚)ξ「というわけでまゆちゃんバイバイまた明日なのだわ」
「……え、えっ!? どうしてですか先生、なんで私だけ!?」
( ´∀`)「え、だって男女の待ち合わせモナ?
だったら“そういうこと”なんだから毛利さんも気を遣ったりするモナ」
突然だがまゆちゃんの名字は毛利である。特に意味はない。
「うう、まさかこんな形で友達の不純異性交遊に加担させられるとは……」
ξ゚⊿゚)ξ「すまんな」
「……いいえ、それでも断固拒否です! 私もツンちゃんと一緒に――!」
と、まゆちゃんが再度ゴネ始めた途端。
彼女のポケットにあるスマホがクソデカい着信音をブチ上げ、教室中に鳴り響いた。
彼女は跳ねるように驚いてみせると、すぐさまスマホを手にして教室の隅に行き、電話に出た。
「――……はい、はい」
ξ゚⊿゚)ξ「……言っときますけど先生、さっきの発言はセクハラですよ」
( ´∀`)「そうモナ? でも清い生徒像なんて今日び期待もしてないから……」
ξ゚⊿゚)ξ「おっぴろげが過ぎる」
「試験――……資格? いや、それは知らな――……」
断片的に聞こえてくるまゆちゃんの話し声。
多分あれは試験対策の一環で資格をゲットしようという感じのアレだろう。
まゆちゃんは育ちがいいから親の期待とかで勉学が大変なのだ。とてもえらい。
ξ゚⊿゚)ξ(とてもえらいなぁ)
.
140
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:47:29 ID:F.8o84Nk0
「――ごめんね、やっぱり私帰るね!」
ξ゚⊿゚)ξ「え、マジ?」
電話を終えて戻ってきたまゆちゃんは、その時すでに掌を返していた。
彼女はそそくさと帰り支度を済ませると、それからすぐに廊下に出ていった。
「またね魔王城さん! ドクオくんとしっぽり頑張ってね!」
( ´∀`)「じゃあ先生も職員室に戻るモナ。あんまり教室を汚さないように」ガラッ
ξ゚⊿゚)ξ「両名の発言にセクハラの意図を感じてしまうわけだが」
品位に傷がつくのでやめて頂きたいものなのだわ。
.
141
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:50:41 ID:F.8o84Nk0
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ(一気に暇になったのだわ)
ということで1人になった私は魔王城ツン。
結局また1人になってしまったが、まぁ教室でじっとしてる分には問題も無いだろう。
その後、窓辺に寄りかかって黄昏れてみたり、意味もなく髪をファサァ…してみたり。
ドクオがいつ戻ってくるのか考えてみたり、ひたすら無の時間を浪費していく。
ξ´⊿`)ξ(……何もしなくていい時間、最高なのだわ……)
放課後、教室、独りぼっちというシチュでめちゃくちゃ気が抜けてしまう。
魔王っぽい話はさておいて、やっぱり私は学校という場所に愛着があるのだ。
学校はいい。魔界と違って血生臭くないし、荒っぽくないし、あと単純に娯楽が多くてよい。
学食、あれも大変よいものだ。やったねという気持ちでいっぱいになれる。
ξ゚⊿゚)ξ(魔界はテレビもないしネットもないし、文化レベルが低いのだわ)
おらあんな魔界いやだ。東京へ出るだ。
つまりそういう事なのである。そろそろ暇が限界だった。
.
142
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:52:02 ID:F.8o84Nk0
「――単身、人気の無い場所で考え事とはな」
ξ゚⊿゚)ξ !?
吉幾三が脳裏を掠めたその途端、廊下の方から声が聞こえてきた。
扉のガラス越しに動く影――程なくそれは、ゆっくりと扉を開け放った。
川 ゚ -゚)
ξ゚⊿゚)ξ「……あなた、誰?」
現れたるは1人の女生徒。
高校生にしてはやや大人びているような、見たこともない黒髪美女だった。
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ(……いや、これは)
しかし気になる点が2つ。
1つ、着ている制服が明らかに安っぽい。多分あれドンキだ。
2つ、その手に持っている日本刀はなんだ。ビー玉のストラップまで付いてるし。
――そう。
その女生徒は確かに美女だったが、全体的にコスプレ感が強かったのだ。
川 ゚ -゚)
ξ;゚⊿゚)ξ
イコール、対処に困る。
私は女生徒の姿をじろじろ見るばかりで、それ以上の反応ができなかった。
上級生? 他校の生徒? あるいは――
ξ;゚⊿゚)ξ(……敵?)
.
143
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:55:45 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)「悪いが1秒だ」
川 ゚ -゚)「説明もしない。仕事なんでな」
途端、コスプレ女生徒が抜刀して鞘を捨てる。
そうして刀を私に向け――なんて、悠長に考えている場合ではなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「――な、」
コスプレ女生徒の刀は今、私の右耳あたりの空間に深く突き刺さっていた。
言葉を挟む余地もなく、彼女は既に斬撃を放っていたのだ。
思考も言語化も間に合わなかった完全な初見殺し。
反射神経のままに頭を振っていなければ、私は今頃――
川 ゚ -゚)「……避けたのか。1秒もたないと聞いていたが」
――この女は紛うことなき敵。
だったら対処は2つに1つ。逃げるか、ここで今すぐ戦うか。
ξ; ⊿ )ξ
ξ; ⊿゚)ξ(――ここで、戦う)
決めつけて、そこで思考を停止する。
考え込むほど私は弱い。
言葉を選んで体裁を整え――それでは私は弱くなるばかりだ。
だからなんにも考えず、ついぞ魔王城ツンとしてのプライドさえ忘れ去る。
私はただ、目の前の敵意に即答する。
.
144
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:59:22 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)「……これなら、話が変わるな」クルッ
そう言いながら刀を引き、呆気なく背中を向ける。
彼女は10歩ほど戻って鞘を拾い上げ、そこに紐付けられたビー玉のストラップを指でつまんだ。
そしてそのまま力を込めると、そのビー玉は容易く2つに割れてしまった。
ξ;゚⊿゚)ξ !
――と同時、割れたビー玉から異様な波動が迸る。
肌を伝わるこの感覚は間違いなく魔力、人間には無縁のそれだった。
なぜ魔力が人間の手に――ましてビー玉なんかに収納されていたかは分からない。
しかも、目先の現象はそれだけに留まらなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ(これ、まさか……!)
魔力の奔流は一瞬にして教室に飽和。
術式を描き、教室という空間そのものを再定義する。
――これは魔術。内外を隔て、世界の色彩を濁らせる『結界』の魔術だ。
色褪せた夕陽。動かない時計。肌に張り付くような空気。
私の日常だった教室は、ほんの数秒で現実世界から隔離されていた。
.
145
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:00:06 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)「――準備完了。この方が好都合だろう、互いにな」
川 ゚ -゚)「私の名前は素直クール。
素直四天王の名義でも絶賛活動中だ」
最後に、憐れむように名を名乗る。
素直クールは刀を構え、その刀身をふっと沈めた。
川 ゚ -゚)「行くぞ」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ# ⊿゚)ξ
――こっちの台詞だ。
私の心がアクセルを踏み込む。
3度目の正直。私は、言葉を後回しにした。
.
146
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:01:27 ID:F.8o84Nk0
≪4≫
経緯、目的、一切不明のまま始まった素直クールとの戦闘。
この純然たる危機の中、魔王城ツンは努めて冷静に敵の攻撃を避け続けていた。
ξ# ⊿゚)ξ「――――!」
戦闘開始から早4分。
防戦一方という形ではあるものの、ツンは素直クールの動きに慣れ始めていた。
それもそのはず。素直クールは人間のまま、肝心要の『激化薬』を使っていなかったのだ。
であれば必然、人と魔物のスペック差は埋まらない。
素直クールの戦闘能力は確かに超人的だったが、この差を覆すにはまだ足りない。
ゆえに、戦いに集中したツンが人間相手に遅れを取ることはまず有り得なかった。
.
147
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:06:17 ID:F.8o84Nk0
ξ# ⊿゚)ξ(避けるだけなら――!)
徒手空拳にて白刃を捌き、死線を絶っては前に出る。
その不敵極まる振る舞いは、やがて素直クールの心に大きな動揺をもたらした。
川;゚ -゚)(この魔物、いつまで受け続けるつもりだ!?)
ξ#゚⊿゚)ξ(――ッ!)ダッ
一瞬揺らいだ太刀筋を突破し、ツンは一気に間合いを詰めた。
狙いを定める余裕は無い。次の斬撃が頭上に迫っている。ここで遅れる訳にはいかなかった。
ξ# ⊿ )ξ(間に合わせるッ!)
ツンは即座に拳を固め、なりふり構わずそれを放った。
そこから更に魔力で後押し――ツンの拳が、素直クールの斬撃速度を僅かに上回る。
川; -゚)(――こいつッ!)
そして、その一撃は素直クールの肩部に直撃した。
弾けるような衝撃に体を浮かされ、彼女は教室内の机椅子を巻き込んで吹き飛ばされる。
壁にブチ当たったそれらがとんでもねぇ音をブチ上げてヤバい。
備品の山の中に埋もれた彼女は微動だにせず、しばらくの間、立ち上がる気配すら見せなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ「ハァ……ハァ……」
ξ;゚⊿゚)ξ(……ギリギリ当たった、けど……)
当たりはしたが、大袈裟に見えるだけ。
ダメージ自体は微々たるもので、ツン自身にもそれは手応えとして伝わっていた。
戦いは続く。ツンは今一度拳を作り、集中を切らさないよう大きく息をした。
.
148
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:08:43 ID:F.8o84Nk0
川; - )「……」
川; -゚)「……どうにも、話が違うな……」
――教室の備品に埋もれたままボヤく素直クール。
今回彼女が受けた依頼は魔王城ツンの殺害、もとい討伐。
本来それは極めて簡単な仕事であり、目算通りなら既に片付けに入っている時間だった。
しかし、魔王城ツンの戦闘能力が想定を大きく上回っている。
依頼主の情報が間違っていたのか、あるいは情報そのものを誤魔化されたか。
彼女はしばし逡巡したが、それが有意義な結論に至ることはなかった。
川; -゚)(……よくある事だ。加減した私が悪い)
仕方なく溜飲を下げ、山を崩して立ち直る。
肩へのダメージは軽微。脱臼もなく、腕の動きにもさしたる影響はない。
川 ゚ -゚)「……ふぅ」
この魔物、やはりまだ未熟だ。受けは上手いが攻撃が乱雑すぎる。
情報に間違いはあるとはいえ、これなら討伐可能範囲に収まっている。
一瞬の思慮を終え、素直クールが刀を構え直す。
第二ラウンドの開幕。先に動いたのは素直クールだった。
川#゚ -゚)「八刀剣撃――」ダッ
ξ;゚⊿゚)ξ !
床を蹴った素直クールが真正面からツンに向かう。
ツンも応じて両手を構え、2度目の防戦に全神経を集中した。
ξ;゚⊿゚)ξ(――あ、)
しかし、その瞬間に訪れたのは『負の直感』。
明確な死のイメージ。安全装置が吹き飛ぶ感覚。
ギリギリの回避ではダメだ。もっと大きく逃げ――
.
149
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:12:00 ID:F.8o84Nk0
川# -゚)「――八重小太刀」
言葉の後、空を奔るは8つの銀閃。
五体を刻むに余りあるその斬撃は、嵐のような風を率いてツンの体を駆け巡った。
ξ;゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚)
一刀八斬。
ツンはまだ、自分が斬られた事に気付いていなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ; ⊿ )ξ「……ッ!?」フラッ
刹那の時が過ぎ、一気に吹き出す血の飛沫。
予期せぬ攻撃を受けたツンはあえなく脱力し、その場に膝から崩れ落ちた。
川 ゚ -゚)(……殺すつもりが肉一片すら削げんとは。
やはり魔物は丈夫にできてる。斬り方を変えなければ……)
残心めいて刀を一振り。
素直クールは切っ先を下げ、ツンが立ち上がるのを静かに待ち構えた。
魔物を斬るなら必殺あるのみ。
当然その気で放った技は、しかし魔王城ツンの命を取ってはいなかった。
ξ; ⊿ )ξ(……あ、)
ξ; ⊿゚)ξ(危なかった……!)
――必殺を成し得なかった理由は見るに明白。
空中を漂う赤い糸。それは程なくマフラーの形を成し、ツンの首にゆっくりと巻きついていった。
.
150
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:18:48 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)(……話にあったマフラーだな。戦いながら作っていたか)
ξ; ⊿゚)ξ(なんとか、ギリギリ間に合った……!)
その赤マフラーはツンの魔力で編み上げられた特別製。
戦いながらの成形には凄まじく手こずったが、限界寸前のタイミングで形にはできた。
それでも、急ごしらえの代償は決して看過できるものではない。
死ぬか否かの瀬戸際で、ツンは諸刃の剣を抜かざるをえなかったのだ。
ξ; ⊿゚)ξ(……不味い、魔力を作り過ぎた)
魔力の3段階――生成、制御、成形。
これらは基本的にバランスよく身につくのだが、たまに凄まじく極端な魔物が居る。
というかそれがツンちゃんだった。
ツンの魔力技術に点数をつけると以下の通り。
生成1000000点、制御10点、成形30点。
これが意味する感じを要約すると、ブレーキ弱いからスピード出すとヤバイよという感じだった。
――しかし先程、ツンは咄嗟に全力を出してしまった。
おかげで赤マフラーの成形は間に合ったが、その余力でさえ制御限界の数十倍はある。
一瞬とはいえフルスロットル。そのスピードを落とすにも、相応の時間が必要だった。
対症療法は1つ。ひたすら魔力を使い続け、自分という器を魔力で満たさないこと。
しかしツンには魔術が使えない。魔力成形も赤マフラーだけだし、魔力消費には限界がある。
残る希望は身体強化による消費だが、ここにはミセリのように物理で長時間戦える相手も居ない。
川 ゚ -゚)
ξ;゚⊿゚)ξ
――いや、居なくはない。
居なくはないが、素直クールをその相手にするのは不本意だった。
そもそもこれは半暴走状態。これから何が起こるにせよ、そこに魔王城ツンの納得は存在しない。
かといって、魔力の行き場を作れなければ状況は更に悪化し、最終的には自滅するだけ。
ただでさえ人間を殺したくないツンにとって、この状況はあまりに度し難いものだった。
.
151
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:23:06 ID:F.8o84Nk0
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ(あ、止まった)
またしても戦いの中で立ち止まる魔王城ツン。
密室に閉じ込められ、命を狙われ、手傷を負ってなお躊躇する。
戦闘における致命的な欠陥――あまりにも度しがたい、『優しさ』という名の正常性。
これは、アリクイの赤ちゃんレベルの自己啓発で改善するものではなかった。
思考の為に足が止まる。優しさ為に選択そのものを放棄する。
魔王城ツンの人格では、これ以上なにも考えずに戦うのは不可能だった。
川 ゚ -゚)「……次は斬る」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ま、待って……!」グッ
よろけながらも急いで立ち上がり、ツンは素直クールに手のひらを向けた。
ちょい待ち、たんまという意味のアレ。
戦場を白けさせるその動作は、しかし意外と効果があった。
ξ;゚⊿゚)ξ「……あなたが強いのは分かる。
でも仕事なのよね? 悪いがって言ってたし……」
ξ;゚⊿゚)ξ「ハッキリ言って私は殺し合いなんてしたくないのだわ。
できれば、穏便にこの場を収めたいんだけど……」
川 ゚ -゚)
ξ;゚⊿゚)ξ(やっぱり駄目かしら)
川 ゚ -゚)「できるぞ」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「――えっ、本当!?」
川 ゚ -゚)「私を諦めさせればいい」スッ
腰を落とし、素直クールは刀を鞘に戻した。
抜刀術による迎撃の構え。先程までとは打って変わり、今度は彼女が受けに回る。
.
152
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:25:51 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)「一身上の都合で魔力の感じには覚えがあってな。
お前が今、すごい魔力を纏っているのは何となく分かる」
ξ;゚⊿゚)ξ !!
川 ゚ -゚)「仕事というのもその通りだ。そして仕事で死ぬのは最悪だ。
今回はどうも情報に不備があるようだし、撤退も悪い案ではない」
ξ;゚⊿゚)ξ !!!
川 ゚ -゚)「――結論、次の技で決める事にした。
七刀剣撃はカウンター技だし、諸般見定めるには丁度いい」
川 ゚ -゚)「それでもお前を殺せないなら、依頼料がまるで足りていない」
素直クールは不満げに独りごち、露骨に長い溜息を吐いた。
そして同時に戦意十分。いつでも来いと言わんばかりに、ツンの瞳をしかと見据える。
ξ;゚⊿゚)ξ(……やっと話が通じた)
ξ;゚⊿゚)ξ(でも、今の状態で人間と戦ったら……)ジリ
一歩退き、この状況に迷いを見せる魔王城ツン。
しかしてすぐに一歩踏み込み、彼女は強引に自分を否定した。
ξ; ⊿ )ξ(――ダメだ、ここで退いたら何も変わらない!)
現状、魔王城ツンの最大の弱点は『偏見』だった。
人間はみんな私より弱くて、本気を出せば今の私でもボコボコにできる。
だから程々の力で適当にやって、なぁなぁにして事なきを得よう――。
今まで彼女を敗北――自滅に追いやってきた原因は、まさにそういう思い上がりであった。
実力もなく相手を見下し、油断を晒してまだ過ちに気付けない。
そんな馬鹿げた状態で戦えばどうなるか、彼女はもう十分に分からされている。
.
153
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:29:03 ID:F.8o84Nk0
ξ;゚⊿゚)ξ(やるしかない、やるしかないのだわ……!)
今後も戦いが続く以上、彼女はそういった思い上がりの数々を振り切らなければならなかった。
共に傷付き、戦っていけない思いなど戦場には不要なのだ。
相手が死闘を望んでいるなら尚のこと、彼女は優しさという的外れな独善を忘れる必要があった。
ξ;゚⊿゚)ξ(……いつも通り、ミセリさん相手にやってるように、全力で。
でもマフラーをブレーキに使って、当てた瞬間に止めて、終わらせる……)
彼女の思いが全て間違っているわけではない。
たとえそれが偏見に根ざしたものであろうと、他者を殺したくないという思いは至極当然だ。
しかし、敗北に優しさを添える権利は勝者にしかありえない。
たとえ戦いたくなくても、制御不能でも、不本意でも、納得できなくても。
それでも戦場に『当然』を持ち込みたいなら、彼女は全ての言い訳を捨てて戦うしかなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ(……あとは、やるだけ)
防戦一方ながら対等に戦い、辛うじて話し合いの余地を作り、運良く引き出せたこの落とし所。
あとは自分が上手くやるだけ。偏見を忘れ、ただ目の前の相手に勝利するだけ。
魔王城ツンはゆっくりと前進し、やがて、素直クールの斬撃射程圏内に足を踏み入れた。
.
154
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:30:47 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)「……そこ、もう斬れるぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ「……カウンター技なんでしょ。手を出さなきゃ安全よ」
川 ゚ -゚)「確かにそうだが、……なんというか、よくそれで生きてこれたな」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「……運がいいのよ」
ツンはそう言い、赤マフラーに口元をうずめた。
魔力の堰はとうに限界。
あり余る魔力が真紅に揺らぎ、空を歪め、着火を急かすように火花を散らす。
ξ; ⊿゚)ξ「――ッ」
途端、魔力の波が痛覚を駆け巡った。
暴走同然の肉体強化、それを自分の意思で実行するのは苦行でしかない。
痛くて怖くて嫌なこと――だとしても、ここに退路は存在しない。
あとはやるだけ。この状況を作り出し、前進したのは彼女自身だ。
ξ; ⊿ )ξ「……それじゃあ、いくのだわ」
ならば魔力は全開あるのみ。
ツンは拳を作って吐息を漏らし、そしてもう、魔力制御を放棄していた。
.
155
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:33:08 ID:F.8o84Nk0
ξ; ⊿ )ξ「――――お、」
(^ω^)「おっ?」
ξ#゚⊿゚)ξ「――オオオオオオッ!」
誰だ今の、そして同時に爆裂する真紅の風。
ビリビリと打ち震える空気を感じながら、素直クールは彼女の威風に目を見張った。
川;゚ -゚)(私の間合いでこの圧力、殺しの依頼もさもありなんか……!)
ξ#゚⊿゚)ξ「行くぞ、素直クール!」
言葉の後、ツンは遂に拳を打ち出した。
真紅の尾を引く剛拳一撃。
力に任せたその拳は、大きな弧を描いて素直クールに急迫する。
川 -゚)「――――ッ」
対するクールは静のまま、脱力をもってツンに応えた。
明鏡止水の体現が、この激動の渦中に一瞬の静寂を作り出す。
.
156
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:39:32 ID:F.8o84Nk0
川 - )
やがて拳が頬に触れ、直撃した瞬間に抜刀を開始。
ツンは攻撃を当てた時点で勝利を確信していたが、それはあまりに性急な判断だった。
川 -゚)(――七刀剣撃)
拳に合わせて身を翻し、軽やかな回転と共にツンの懐をすり抜ける。
そうして呆気なくツンの背後を取った素直クールは、そのとき、既に攻撃を終えていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「――……そん、」
川 ゚ -゚)「迎撃完了、糸桜」
空に残った7つの流線。
それはゆっくりとツンの血肉に沈み、絡みつき、容易く彼女の体を切断した。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ; ⊿ )ξ「……な゙……ッ!」
川 ゚ -゚)「私の勝ちだ」
振り返って軽く決めポーズ。
素直クールは刀を納め、そこで戦いを切り上げた。
.
157
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:45:01 ID:F.8o84Nk0
≪5≫
川 ゚ -゚)「――さて、これで決着だが」
役目を終えた結界魔術が消失し、世界は正常な色彩に戻っていく。
素直クールは髪や服など身なりを整えてから、辛うじて直立を維持する私に視線を戻した。
ξ; ⊿゚)ξ「…………」
川 ゚ -゚)「……やっぱり死ななかったな。一応、骨には届いたようだが」
素直クールは、困ったように言葉を付け足した。
確かに私はまだ死んでいないが、全身をズタズタに斬られていて、生きた心地はしていない。
ブレーキに使ったせいで赤マフラーも間に合わず、先の斬撃はほぼ直撃。
私が攻撃を終えた瞬間に攻撃を始め、そこから一気に追い抜いて斬撃を決める。
彼女の技量は、とてもじゃないが私の手に負えるものではなかった。
川 ゚ -゚)「なので帰る。片付けよろしく」
ξ; ⊿゚)ξ「……ま゙、って」
颯爽と歩き出す彼女を息絶え絶えに呼び止める。
私はそこで限界になって、床にすとんと座り込んだ。
そんな私の傍らに立ち止まる素直クール。
彼女は私を見下ろし、興味なさげに応えた。
.
158
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:45:58 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)「続きはしないぞ。金にならんからな」
川 ゚ -゚)「というか早く帰って治療してくれ。
これで死なれても金にならないんだ」
ξ; ⊿゚)ξ「……ぞれは……分がってるけど……」
未だに直視はしていないが、恐らく私の体にはとんでもない致命傷が入っている。
中でも一番ヤバいのはお腹の傷だ。たぶん脇腹からへそにかけて10cmくらいばっさりいっている。
呼吸器系も明らかに異常を起こしているし、要するにヤバい。今すぐ治さないと死ぬ。
魔力の身体強化が切れた時点でプツンと逝ってしまう確信がある。
傷口から臓物がでろでろ出てきたら気を失うかもしれない。
川 ゚ -゚)「依頼主なら教えないぞ。手掛かりひとつ教えない」
川 ゚ -゚)「なので帰る。お前も早く帰れ。モツ見えてるぞ」
ξ; ⊿゚)ξ
そして、しまいには聞きたい事すらばっさり切り捨てられてしまう。
そりゃ負けた手前なにを聞く権利があるのかという感じだが、
ξ゚⊿゚)ξ
……あ、ちょっと意識が朦朧としてきた
.
159
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:47:37 ID:F.8o84Nk0
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ(……あ、えっと、……誰かに連絡、を……)
わたしの意識が限界なので一人称もげんかいになってきた。
それどころか、手で抑えていた流血も指の隙間からどんどん溢れ出てくる。
あ
駄目だ、このまま気を失ったら本当に……
「――寝るんじゃねえ! 起きろ! 頑張れ!」
途端、脳裏に響く誰かの声。
それが夢か現かは分からなかったが、
_ ∩
( ゚∀゚)彡
( ⊂彡
| |
し ⌒J
ξ゚⊿゚)ξ …?
_
( ゚∀゚)「俺も頑張ってるぞ!」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ; ⊿ )ξ(いや誰……)ガクッ
突然現れた謎イメージへのツッコミを最後に、私の意識は闇に呑まれてしまった。
.
160
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:50:35 ID:F.8o84Nk0
(::::::⊿)
――霞んだ瞳を静かに閉じて、力なく倒れる魔王城ツン。
■はそれを静かに受け止め、彼女の傷に応急処置を施した。
魔力による肉体の再構成、赤マフラーを流用した擬似的な治癒。
未だ彼女の一部でしかない■にはこれが精一杯。
あとは、彼女の友人が間に合うのを祈るしかない。
川 ゚ -゚) ジー
(::::::⊿)
素直クールが■を見ている。
あまり見ないでほしい。
川 ゚ -゚)「……次から次へと色々出てきて、いっそ面白い女だな」
川 ゚ -゚)「だがまぁいい。これも話して依頼料を釣り上げよう」スタスタ
素直クールが歩き去っていく。どうやら事なきを得たらしい。
そしてこちらも時間切れだ。
心苦しいが、今の■は幻影程度の実体ですら満足に保てないのだ。
……しかしそれでも待つしかない。
今はただ、彼女自身の成長を心待ちにするばかりである。
|┃三 _________
|┃ /
|┃ ≡ < SOSキコエタ〜♪(鼻歌)(微熱S.O.S!!)
____.|ミ\____('A`)_ \
|┃=___ \  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|┃ ≡ ) 人 \ ガラッ
Σ(;'A`) !?
〜おわり〜
.
161
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:55:18 ID:F.8o84Nk0
#1
>>2-65
#2
>>74-117
#3
>>122-160
次回投下は12月です
162
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 14:27:12 ID:HVI8EGGc0
おつです
163
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 15:09:39 ID:ZoVREk7U0
まゆちゃん……好きだったのに
164
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 19:31:53 ID:jmi509tA0
しえん
165
:
名無しさん
:2020/11/01(日) 18:21:44 ID:6Qn4IUTY0
乙おつ
166
:
名無しさん
:2020/11/01(日) 21:40:09 ID:UH94/sVs0
3周目特典が逃亡で全部潰されて4周目に突入させられた感じ?
167
:
名無しさん
:2020/11/29(日) 13:33:44 ID:yc/COwTA0
すごい好きな作品!!!またみれて嬉しい〜〜
168
:
名無しさん
:2020/12/03(木) 22:33:43 ID:JklxZjKM0
相変わらずシリアスに混じるカオスが子気味いいなあ
169
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:25:35 ID:9P.ObFjI0
≪1≫
〜学校〜
【これまでのあらすじ】
・魔王城ツンはすごい! wikiに書いてある
・ツンちゃん心臓をブチ抜かれる
・ツンちゃん腹部を大切断される
ξ゚⊿゚)ξ「とんでもない近状なのだわ」
最近の生活を振り返り、その熾烈っぷりに逆に落ち着いてしまう私は魔王城ツン。
勇者軍の女、内藤くん、素直クールと、気持ち的にもほぼ3連敗というこの有様。
諸般のやる気はまだあるものの、流石に今だけはしょんぼり感情を禁じえなかった。
('A`)「それだけ敵が本気ってことだよ。
特に内通者の件は油断ならねぇしな」
ξ゚⊿゚)ξ「ぬぬぬ」
大変すぎるぞ私の日常。まんがタイムきららは一体どうした
展開が忙しすぎる。これではシリアスバトル一直線ではないか。
やっぱり少し休暇が欲しい。あとちょっとエッチな水着回も欲しい。世界は難しい。
.
170
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:27:39 ID:9P.ObFjI0
――かくして云々、素直クールにお腹をバッサリされた翌日。
あれだけボコボコにされたというのに、私はやっぱり学校に来ていた。
登校はもはや意地である。即日治してくれた貞子さんには心底有難を禁じえない。
ξ゚⊿゚)ξ
しかし、これはこれでブラックなのでは?
私は訝しんだ。
_,
ξ゚⊿゚)ξ「……にしても教室が綺麗よね。誰が片付けたのかしら」
('A`)「ああ、それは俺も気になってたんだ。貞子さんでもねぇらしいし……」
ところで教室が綺麗なのである。
昨日めちゃくちゃに戦い荒らしまくった教室が、日を跨いだらすっかり元通りになっていたのだ。
モナー先生に聞いた限りじゃ学校側は何もしてないらしいし、問題にすらなっていないとのこと。
ξ゚⊿゚)ξ
分からん。
ギャグ補正かもしれない。
私は考えるのをやめた。
('A`)「とにかく今は警戒あるのみだ。お前、もう1人で動くなよ」
ξ゚⊿゚)ξ「トイレは?」
('A`)「行くな」
ξ゚⊿゚)ξ
モラルハラスメント(仏: harcelement moral、英: mobbing)とは、
モラル(道徳)による精神的な暴力、嫌がらせのこと。
俗語としてモラハラと略すこともある。 -wikipediaより
.
171
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:28:56 ID:9P.ObFjI0
( ^ω^)「――おい」
ξ゚⊿゚)ξ !
This is 内藤ホライゾン。
そういう私は魔王城ツン。
( ^ω^)「今日から僕も護衛につくお。
あと特訓メニューも作ってきたから順次やれお」
ξ;゚⊿゚)ξ「ええ……流石にちょっと休みたいのだけど……」
( ^ω^)「やれ」 ドシャァ
つミ□
突然やってきた内藤くんがまたしても机に紙束を投げる。
しかも今度の表題は『かえるくん、東京を救う』であり、完全に村上春樹だった。
ξ゚⊿゚)ξ(なんなんだよ……)
やれやれ私は普通に困った。
いい加減まともなコミュニケーションを取りたいものである。
(;'A`)「うわっ、なぜかツンのスペックを考慮しまくっててキモい……」 ペラッ
ξ;゚⊿゚)ξ「えーと、これもハインさんに言われて作ったの?」
( ^ω^)「そうだお。でなきゃやらないお」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚ー゚)ξ「そ、そうなのね〜……」
ところで私は無難な会話が死ぬほど苦手である。
いわゆる常識とか世俗みたいなものと縁遠かった為、常に緊張しがち。
内藤くんはなぜか私に(あるいはみんなに)冷たいので尚更しんどい。
みんなまゆちゃんみたいに優しくフワフワしてればいいのにな、つらいな人間社会。
.
172
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:33:35 ID:9P.ObFjI0
( ^ω^)「それと伝言、今日の特訓は無くなったお。
素直クールとの戦闘だけで十分特訓になってる、だとか」
ξ;゚⊿゚)ξ「……あ、昨日のやつ特訓扱いになったんだ。
かなり死闘だったんだけどな……」
昨日の戦闘については既に情報を共有してある。
素直クールと素直四天王、そして彼女らを差し向けてきた依頼人の存在など。
貞子さんの予想では勇者軍とも違う勢力っぽいが、なにぶん情報が無いので実態は不明。
とりあえずハッキリ分かる事といえば、私達が後手に回っているという事実だけ。
あんまり考えないようにしていたが、どう考えても私はピンチなのだった。
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ(……いいえ、腑抜けてる場合じゃないのだわ)
アホになりたい気分を抑え、ギリギリ踏み止まって我に帰る。
私は第1話同様に自慢の金髪ドリルを払い上げ、威厳をアピった。
私自身が私を諦め、私の望みを捨てない限り、この戦いに終わりはないのだ。
たとえ心臓をブチ抜かれても、ハラキリでモツが出たとしても。
やるしかないと思う以上、私はもう、前進する事でしか感情を誤魔化せなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「それなら今日は遊びに行かない?
ついでに1回くらい情報整理をしたいのだわ」
('A`)「いいよ」
(^ω^)「いいよ!」
ξ゚⊿゚)ξ「よーし!」
快諾!
かくして放課後、私達は最寄りのイオンに向かうのであった。
.
173
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:36:18 ID:9P.ObFjI0
≪2≫
〜イオン フードコート〜
ξ゚⊿゚)ξ「久々に遊んでしまったのだわ」モグモグ
40レスくらいかけてイオンで遊び尽くした後、私達はフードコートで軽食にありついていた。
放課後、イオン、フードコート、そしてハンバーガー(モス)と、青春濃度はかなり高めである。
夕飯前の小うるせえ人混みも風情というヤツだ。この愛すべき人間社会がよ……。
ξ゚⊿゚)ξ「ええいボウリングもやりたいのだわ」
もうなんだかテンション上がってきたな。
そろそろやっちまうか青春群像劇を。主題歌やなぎなぎで。
('A`)「馬鹿言うな、ここで駄弁って終わりだよ。時間も時間なんだぞ」
Σξ;゚⊿゚)ξ !?
('A`)「お前の1人遊びに付き合ってる俺達の身にもなってくれ」
ξ;゚⊿゚)ξ「1人遊び!?」
('A`)「そうだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「まさか私の荷物持ちが楽しくなかったとでも……」
('A`)「楽しくはなかった」
ξ゚⊿゚)ξ
そんな断言しなくても。
.
174
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:37:25 ID:9P.ObFjI0
(;'A`)「……もういいだろ。情報整理、さっさと済ませようぜ」
('A` )「内藤もそれでいいよな?」チラッ
(^ω^)「えー嫌だおブーンもボウリングしたいお!」
ξ゚⊿゚)ξ !?
('A`)「つっても整理する情報自体が少ねえんだよな。
まぁとりあえず書き出してくか……」
ドクオはそう言いながらノートを広げ、そこに諸般の情報を書き始めた。
ジー
ξ゚⊿゚)ξ ( ^ω^)
その一方、私は内藤くんの顔色をじっと伺っていた。
気のせいならばいいのだが、今なんか言動がバグっていたような……。
ξ゚⊿゚)ξ「……内藤くん、本当にボウリングしたいの?」
( ^ω^)「そんなわけないだろ」
ξ゚⊿゚)ξ
そりゃそうじゃ。
.
175
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:42:11 ID:9P.ObFjI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
('A`)「……今ある問題は、ざっとこんなモンか」
ドクオが手を止め、シャーペンの先でノートを小突く。
さしもの私も気分を切り替え、此度の説明パートに全力で乗っかった。
ξ゚⊿゚)ξ「ふむふむ」
ドクオのノートに書き出されていた項目は以下の3つ。
・特訓と試験
・勇者軍とかからの攻撃
・内通者が居るっぽい
端的かつパーフェクトにまとめられた諸般の問題は、やはり私の手には余るものだった。
特訓&試験についてはギリギリ頑張りますと言えるものの、他2つは如何ともしがたい。
勇者軍や素直四天王との戦闘はもはや必然。
向こうが私を狙う限り、この危険性は絶対に排除しきれない。
このイオンですら安全と言い切れない以上、気をつけますとしか言えないんだなこれが。
――そして3つ目の内通者だが、私は、これを積極的に解決する必要は無いと考えていた。
これまでの手口からして、敵は小規模な戦闘で事を済ませたがっている印象がある。
ここでもし内通者を炙り出せば敵もやり方を変えてきて、多分そっちのが危険が危ない。
打算的にも今は放置! それが正しい答えなのだと、私は自信をもって確信していた。
('A`)「まぁどれも簡単にはいかねぇわな。
今やれる事と言えば、内通者に目星をつける程度か……」
ξ゚⊿゚)ξ(愚かな。そこは放置が正解だというのに……)
しかしドクオと私の考え方は違う。
長い付き合いだからこそ、そういう違いを私は知っているのだ。
とはいえ事なかれ主義VS正論バカは泥沼化が必然なので、私はお口をチャックした。
.
176
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:44:51 ID:9P.ObFjI0
('A`)「おい内藤、お前の方でなんか情報無いのかよ」
( ^ω^)「あれば共有している」
('A`)「……そうかよ。聞いて損した」
ξ゚⊿゚)ξ モグモグ
今のやり取り、ドクオなら「お前が内通者なんだろ?」くらい言うかと思ったが、意外に素直だった。
そりゃ腹の底では疑っているだろうけど、ここで口論が起きないのはマジでありがたい。
このイオン回は我々の親睦を兼ねたもの。喧嘩は面倒、なるべく回避したいのである。
( ^ω^)「でも使えそうなものは持ってるお」 ポイッ
つミ□
ξ゚⊿゚)ξ !
直後、テーブルに物投げるマンと化した内藤くんがまたしても物を投げた。なぜ執拗に物を投げるんだ。
今度のは小さなメモ帳。やたらボロく、死ぬほど使い込まれているのが見て取れる。
内藤くんはメモ帳の中ほどを開き、走り書きの小汚い文字を指して言った。
( ^ω^)「ここに書いてあるのは僕やハインを含めた関係者達の情報だお。
ハインから色々聞いてメモしておいた。参考程度に使ってくれ」
ξ゚⊿゚)ξ「つまりキャラ紹介なのだわ」
(^ω^)「そうだお!」
.
177
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:46:25 ID:9P.ObFjI0
(;'A`)「……うわぁ、また変に情報が細かいな。
これお前の体重まで書いてあるぞ。62キロって」
ξ゚⊿゚)ξ「は?」
('A`)「いや62キロって。実際そんくらいだろ?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「なるほど一気に信憑性が欠けたようだな」
第1話を読んでいれば分かる事だが私の体重は41キロぴったりである。
それを62キロだなんて適当もいいところ。これだから人間は信用できないのだ。
となれば内通者にも察しがつく。そういえば内通と内藤で字面が似ているな……。
( ^ω^)「いや事実だ。でなきゃ情報としての意味が無い」
ξ゚⊿゚)ξ「でもプライバシーへの配慮も必要だと思うのよ昨今は特にねモラルが」
(;'A`)「いいから早くしようぜ。さっさと帰りてぇんだよ俺は……」
( ^ω^)「正直ここで話す必要も無いがな。情報漏洩の危険は否めない」
ξ゚⊿゚)ξ「無視もよくない」
('A`)「正論だな。ならもうメモの確認だけして帰るか」
( ^ω^)「それでいいお」
ξ゚⊿゚)ξ
.
178
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:49:34 ID:9P.ObFjI0
〜みんなでメモ帳を見ようのコーナー〜
('A`)「どれどれ、最初はツンか」
( ^ω^)「最重要ターゲット、もとい僕らの仕事先だお」
≪ ξ゚⊿゚)ξ / 魔王城ツン ≫
【戦闘方法】 身体強化 魔力成形(自動防御マフラー)
【基礎能力】 [パワー:C] [スピード:C] [スタミナ:D] [コントロール:F]
【備考補足】 びっくりするほど弱い 奇行目立つ C〜D級魔物 体重62キロ
A=すごい B=ややすごい C=凡魔物
D=凡人 E=よわい F=論外 S〜SSS=すごすぎ
('A`)「大体合ってる」
( ^ω^)「これが内通者に利用される事はあると思うお。
でも、これ自体が内通者をやれるとは到底思えないお」
ξ゚⊿゚)ξ(この魔王城ツンが“これ”扱いだと……?)
('A`)「ツンが内通者なら全滅でいいよ。次だ次」
( ^ω^)「度し難い忠誠心だお」
.
179
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:56:24 ID:9P.ObFjI0
≪ ミセ*゚ー゚)リ / 餓狼峰ミセリ ≫
【戦闘方法】 魔獣化(恐らく狼)
【基礎能力】 [パワー:A] [スピード:B] [スタミナ:B] [コントロール:A]
【備考補足】 強い A〜B級魔物 魔王城ツンの世話係&特訓相手 物理◯
≪ 川д川 / 貞子 ≫
【戦闘方法】 魔術全般
【基礎能力】 [パワー:-] [スピード:-] [スタミナ:S] [コントロール:SS]
【備考補足】 強い S級魔物 魔術◎
('A`)「この2人もありえねぇ。というか2人が内通してたら終わりだよ」
( ^ω^)「呑気なものだな。この件に限って絶対は無いんだぞ。
前提として、全員に可能性があることは忘れるなお」
('A`)「そりゃ分かってるけど、怪しい情報収集やってる誰かさんに言われてもな」
( ^ω^)「……そっち側の情報はミセリからハインに伝わったものだお。
不審がるのは勝手だけど、根拠に乏しい言いがかりは反応に困る」
(;'A`)「……はいはい。悪かったよ」
.
180
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:58:02 ID:9P.ObFjI0
≪ 从 ゚∀从 / ハインリッヒ高岡 ≫
【戦闘方法】 激化薬(自動防御)
【基礎能力】 [パワー:D] [スピード:D] [スタミナ:C] [コントロール:B]
【備考補足】 元勇者軍 祖父 不透明な人脈あり 還暦過ぎ
≪ ( ^ω^) / 内藤ホライゾン ≫
【戦闘方法】 激化薬(復元)
【基礎能力】 [パワー:D] [スピード:D] [スタミナ:C] [コントロール:C]
【備考補足】
('A`)「……ここは情報が少ないな」
( ^ω^)
('A`)「まぁ言う事ねえわ。お前も答えないだろ」
( ^ω^)「ハインの人脈は僕でも把握しきれてないお。
僕の情報についても書くのを省いただけで、聞かれれば答えるお」
(;'A`)「いや、だからって取っ掛かりも無いんだよ。
こないだ降って湧いてきたような相手に何を聞けってんだ……」
( ^ω^)「お前が内通者だろ、など」
('A`)「それで済むなら聞いて回ってるよ……」
ξ゚⊿゚)ξ(意外と会話が弾んでいる……私を捨て置いて……)
.
181
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:00:26 ID:9P.ObFjI0
≪ ('A`) / 魔物部ドクオ ≫
【戦闘方法】 魔獣化(詳細不明)
【基礎能力】 [パワー:-] [スピード:-] [スタミナ:-] [コントロール:-]
【備考補足】 ほぼ不明 能力を隠している 言動がネチネチしている
( ^ω^)「だが情報の少なさで言えばお前も同じだ。
信用している上司とやらも、お前については詳しく話さなかったらしいが」
('A`)「そりゃ隠してるからな。俺のは目立つんだよ」
_,
( ^ω^)「目立つ……?」
ξ゚⊿゚)ξ「……えっ、内藤くんってドクオのアレ見てないの?
2回も共闘してるんだし、てっきり知ってるもんだと……」
( ^ω^)「共闘した覚えはない」
('A`)「ないな」
ξ;゚⊿゚)ξ「いやあるでしょ。勇者軍の時と、ハインさんの時とで2回……」
そうである、全カットされているが2人の戦闘シーンは既に存在しているのだ。
聞く機会もなかったので完全スルーしていたが、気になると言えば気になるところ。
そろそろ話に加わる為にも、私は改めて質問を投げてみた。
ξ゚⊿゚)ξ「そういえば最初、2人はどんな奴と戦ってたの?
あらすじ見たけど足止めされてたんでしょ?」
('A`)「あらすじ?」
ξ゚⊿゚)ξ「これの5よ」
〜ツンちゃん襲撃のあらすじ(再掲)〜
1 ミセリ、ツンに連休を言い渡す
2 ミセリ、その間に魔界へ出張。魔王に直談判
3 ツン、勝手に1人で行動。ハインの屋敷へ
4 ミセリ、なんとか話をまとめて地上に戻る
5 ハインとドクオ&ブーン、敵の襲撃を受ける ←ココ
6 ツン、敵の襲撃を受ける
7 ミセリ、デミタス貞子と共に地上へ。辛うじて危機に間に合う
.
182
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:06:34 ID:9P.ObFjI0
( ^ω^)「あの時に戦ったのは」
('A`)「――いや、べつに大した戦闘じゃなかった。
10人くらいで足止めされたけど、それだけだ」
( ^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ「……そうなの?」
('A`)「ああ、ハインに比べれば楽なもんだったよ。
あっちは敵の主力が相手だったらしいし、俺達は運がよかったな」
ξ;゚⊿゚)ξ「ハインさんの相手、王座の九人だっけ? なんか強いらしいけど……」
('A`)「ま、お前にはまだ早すぎる相手だよ。
こっちを変に心配するより、今は自分の事に集中しとけって」
('A`)「回り回って、結局それが俺達の助けになるんだから」
ξ゚ー゚)ξ「……それもそうね。やる事は変わらないのだわ」
('∀`)「そうそう。でなきゃ確実に試験ダメだしな」
ξ゚⊿゚)ξ「事実はやめなさい」
――と、話にオチがついた途端。
( ^ω^)「あの時に戦ったのは、たった10人の子供だったお」
内藤くんが語気を強めて話を戻し、ドクオに邪魔された言葉を改めて言い切った。
彼は呆れたように姿勢を崩すと、視線をテーブルに落とし、露骨に嘆息してみせる。
( ^ω^)「あれは勇者軍の最下層構成員。
要するに使い捨てで、見るに堪えない消耗品だお」
('A`)「……おい」
( ^ω^)「聞かれれば答えると言った。
お前の言い回しを悪だとは思わないが、こっちの主義は違う」
ドクオと内藤くんが互いを睨んで押し黙る。
そこに、私が割り込める余裕はなかった。
.
183
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:10:34 ID:9P.ObFjI0
( ^ω^)「もっとも、あれを『大した戦闘』ではなかったと言えるのはそいつだけだ。
あの時まともに戦ってたのは僕だけで、そいつは何もしなかったからな」
( ^ω^)「あれはそれなりに激しい戦闘だった。
殺さなければ殺される。あれは、そういう殺し合いだったお」
ξ;゚⊿゚)ξ …
( ^ω^)「10人中9人を僕が殺して、残る1人はそいつの前で無駄死にしたお。
詳しく知りたいなら、覚えている限りを話すが」
ξ;゚⊿゚)ξ「……殺した、っていうのは」
( ^ω^)「言葉の通りだ。嘘だと思うならハインに聞け。
死体の確認くらい、まだ出来るだろう」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「……そう。分かった」
私はドクオの顔を見直し、少し間を置いてから息を吐いた。
――これは十分にありえた事態。
敵味方、誰も死なずに済むなんて展開をマジで信じていた訳じゃない。
私は人間を殺したくないと思っているが、これは私の個人的な話であり、他のみんなは違うのだから。
ξ゚⊿゚)ξ「……お疲れさま。
でも、このくらい隠さなくていいのよ」
('A`)「……言う必要が無かっただけだ」
ドクオやミセリさんはあくまでも私の従者。
彼らからすれば主人の身を守るのは当然の業務であり、私はその恩恵ありきで命を繋いできた。
この関係はずっと同じ、魔界に居た頃からなにも変わらない。
私の代わりに誰かが手を汚して、それで「お疲れさま」だなんて本当は言いたくない。
しかし私には力が無い。彼らの仕事を余計なお世話だと断じる説得力も無い。
だから私は――本当なら、もっと急いで強くなるべきだったのだ。
でも、分かっているのにいつも間に合わない。
気がつけばいつもみんなが先回りしていて、着いた頃にはもうやる事がない。
それが本当に不甲斐なくて最悪で、自分自身がどうしようもなくて、最悪だった。
.
184
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:13:57 ID:9P.ObFjI0
……だとしても、私と彼らの関係は変わらない。
主人である私には、彼らの仕事に関わる義務があるのだ。
正直ここでドクオを咎めるのは簡単だし、それはそれで主人の威厳も保てるだろう。
後出しの正論で管を巻いて、感情的に立ち振る舞って、さもお嬢様という感じでキャラを立てる。
それはそれで間違っていないし、それはそれで分相応と言えなくもない。
……言えなくもないが、私がそれを望まないのだ。
だから私は義務を優先し、不甲斐ないまま「お疲れさま」を口にする。
私が望む魔王城ツンを、これ以上私から遠ざけないためにも。
ξ゚⊿゚)ξ「……内藤くん。今の話、もう少しだけ聞きたいのだわ」
( ^ω^)「分かった」
私の要求に短く答えると、内藤くんは実に呆気なく顛末を暴露してくれた。
――死んだ10人の身体的特徴。激化薬が彼らにもたらした能力。
殺害に用いた武器。最期の様子。死体を漁っても情報は得られなかったこと。
敵とこういう会話をした。この2人は連携が取れていた。この4人は感情的で隙だらけだった。
かくして内藤くんは淡々と言葉を並べ、結果、5分足らずで話を終わらせてしまった。
ξ゚⊿゚)ξ
顔も知らない誰かが死んだ、というだけの他人事があっさりと幕を下ろす。
これは義務。感情的な深入りはしないし、過分な語彙も使わない。
私の名前は魔王城ツン。一時の同情に駆られ、味方を間違えるような愚行はありえなかった。
( ^ω^)「で、最後の1人だが」
残った1人はドクオの前で無駄死にしたというその人だけ。
内藤くんは続けて話そうとしたが、途端、小さな挙手が彼を遮った。
('A`)ノ「すまん、ちょっといいか」
(^ω^)「いいよ!」
ξ゚⊿゚)ξ !?
その手はドクオが挙げたもの。
私達はすぐ彼の方を向いた。
.
185
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:15:24 ID:9P.ObFjI0
ξ゚⊿゚)ξ「ドクオ、急にどうしたの?」
('A`)「いや、今の話とはまったく関係ないんだが……」
ドクオは手を下げ、努めて静かに口火を切った。
('A`)「……魔力だ。微弱なのがある。そう遠くない」
そう言いながら何かを探り始めるドクオ。
私には魔力なんて感じられないが、ドクオの方が感知も上手いので恐らく事実だ。
ξ;゚⊿゚)ξ「え、誰の魔力? 知らないやつ? 貞子さんから連絡は?」
('A`)「知らないやつだし連絡も入ってない。
この魔力、そもそも探知結界に引っ掛かってないんだろうな」
( 'A`)「かなり希薄で断続的な魔力だ。
集中してなきゃすぐに見失うぞ……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……なら私から貞子さんに連絡するのだわ。
ドクオはそのまま集中してて」
スマホを取り出し、急いで自宅に電話をかける。
呼出音が鳴ること数度、間もなく向こうから声が返ってきた。
.
186
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:16:27 ID:9P.ObFjI0
『――はい、もしもし』
ξ゚⊿゚)ξ「もしもし、ツンちゃんです」
『なるほど分かりました』
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「えっ? 早くない?」
『今からイオン周辺を隔離しますので3人で迎撃に向かって下さい』
『ではまた』
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ ?
一方的に通話を切られてしまった。
よく分からないけどまた戦闘になりそうだった。ちくしょう帰って寝たい。
.
187
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:18:30 ID:9P.ObFjI0
( ^ω^)「……何がどうなった」
ξ゚⊿゚)ξ「彼女、迎撃してって言ったのだわ」
( ^ω^)「……は? 迎撃?」
(; ^ω^)「今の一瞬でそれを決めたのか? とんでもない即決だな……」
ξ゚⊿゚)ξ「そうだなぁ」
そうだなぁと思った。
ので、言われた通りに迎撃に行こうと思った。
(;'A`) (^ω^ ;)
しかしドクオと内藤くんはそうでもなかったらしく、
彼らは一度顔を見合わせてから、慎重に口を開いた。
(; ^ω^)「この状況で、どうして迎撃なんて話になるんだお?」
(;'A`)「……普通は撤退だろ。今の、本当に貞子さんだったのか?」
ξ゚⊿゚)ξ
えっ
.
188
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:19:04 ID:9P.ObFjI0
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
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.
189
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:21:26 ID:9P.ObFjI0
≪2≫
〜イオン フードコート〜
ξ゚⊿゚)ξ「久々に遊んでしまったのだわ」モグモグ
50レスくらいかけてイオンで遊び尽くした後、私達はフードコートで軽食にありついていた。
放課後、イオン、フードコート、そしてハンバーガー(バーキン)と、青春濃度はかなり高めの様相である。
夕飯前の小うるせえ雑踏も風情というヤツものだ。消費社会LOVE……。
ξ゚⊿゚)ξ「ええいボウリングよ、ボウリングもやりたいのだわ」
もうなんだかテンション上がってきちゃったな。
行くかカラオケ、それも悪くない。
(;'A`)「それはまた今度だよ。今日はもう遅いんだ、素直に帰っとこうぜ」
( ^ω^)「同意見だ。情報整理も済んだ事だしな」
ξ゚⊿゚)ξ「ええい現代シニシズムの体現者どもめ」
しかして時刻は午後7時。
帰ったあとの云々も考えると、そろそろ帰った方がよいのも事実だった。
今日の話し合いも内藤くんのおかげで捗ったし、これ以上遊ぶにはもう駄々をこねるしかなかった。
そして私が駄々をこねると副産物としてウサちゃんが爆誕してしまう。魔力とはそういうものだった。
(´・_ゝ・`)「……でもまぁいいんじゃないか、カラオケくらい」
ξ゚⊿゚)ξ !
と、思わぬ所から援護射撃が飛んでくる。
彼の名前は盛岡デミタス。今日はたまたま近くに居たらしく、気がつけば当然のように話に加わっていた。
それで別段なにか有益な情報を持ってきた訳でもないのだが、諸般の飲み食いを奢ってくれたので諸般ヨシである。
.
190
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:24:28 ID:9P.ObFjI0
(´・_ゝ・`)「ガキなんだから遊びも大切にしときな。思い出ボムの火力も上がるし」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなのだわそうなのだわ」
前回同様そうなのだわロボと化した私。
楽して勝つならこの手に限る。いいぞ盛岡もっと言うのだ。
(´・_ゝ・`)「俺はもう帰るし、保護者への言い訳も俺がしといてやるよ」
(;'A`)「おい盛岡、あんまりツンを甘やかすなって……」
(´・_ゝ・`)「かっ勘違いしないでよねっ。みんなには結構酷いことしてるんだからっ」
外堀を埋めながらスーツの懐に手を突っ込み、自前の長財布を取り出す盛岡。
彼は中から数枚の紙幣を抜き取ると、それだけをポケットに戻し、財布の方をテーブルに置いた。
(´・_ゝ・`)「あとこれ全部やる。好きに使えよ、すぐに要るし」
ξ゚⊿゚)ξ !?
(;'A`)「いやだから煽るなって盛岡! こいつバカなんだぞ!」
(´・_ゝ・`)「それカードの番号とかも全部メモ入ってるから」
(´・_ゝ・`)「平気で使えるぞ、1000万円」
ξ゚⊿゚)ξ
('A`)(あっこれダメだ)
私は盛岡の財布を手に取り、その中身を神妙に検めた。
ξ゚⊿゚)ξ
――これからは盛岡“さん”と表現していく。
私は固く誓った。
.
191
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:25:52 ID:9P.ObFjI0
('A`)「……よし分かった、これから今すぐカラオケとボーリングに行こう」
('A`)「ただしそれ以外は全部ダメだ。何一つとして許さん」
ξ゚⊿゚)ξ
. ゲーム
ξ ⊿゚)ξ「今夜、こいつの中身を何倍にもできる《遊戯》があるとしたら――」
('A`)「ダメです」
ξ;゚⊿゚)ξ「ええ〜!! 4倍までにするから!!」
('A`)「お願いだから落ち着いてほしい」
ξ;゚⊿゚)ξ「私こっちのが才覚あるんだけど!!」
('A`)「絶対にダメ」
ξ;´⊿`)ξ「どうせ泡銭なのに!?」
('A`)「そういう発想を止めてんだよ。あと1000万円は泡銭じゃねえ」
⊂( ^ω^)「よーし! それじゃあみんなでカラオケ行くお!」
( と)
/ >
ξ゚⊿゚)ξ !?
私達はカラオケに行くことになった。
とにかく金がいっぱいある。私は無敵だった。
.
192
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:29:30 ID:9P.ObFjI0
≪3≫
ξ゚⊿゚)ξ「それじゃあ盛岡さん、私達はこっち行くから」
(´・_ゝ・`)「ああ」
イオンを出た一行は近場の繁華街に向かい、そこで別々のルートを選択した。
カラオケに行く若人達とそれを見送る盛岡デミタス。
彼との別れを簡単に済ませた魔王城ツンは、早速スマホを取り出して声高に通話を始めた。
ξ゚⊿゚)ξ「――あ、もしもし!? まゆちゃん!? お金あるんだけど来ない!?」
('A`)「呼び出し方が最悪すぎる」
(^ω^)「そういう日もある」
(´・_ゝ・`)「気をつけてなー」
ξ゚⊿゚)ξ「はい盛岡さん! 行ってきます!」
.
193
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:39:41 ID:9P.ObFjI0
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「……やっと行ったか、っと」
歩道の端に寄り、往来を避けてツンを見送る。
彼女達の姿は十秒ちょっとで見えなくなったが、それでも盛岡はしばらくの間、彼女達の行き先を見つめ続けていた。
「すみません、お時間よろしいですか?」
――不意に、隣から声を掛けられる。
一旦無視を決め込むも、当てつけのように殺気立つ人影が視界の端に首を突っ込んでくる。
無視するなという圧力に負けた盛岡はやむをえず隣を見遣り、ちょっとだけ視線を下げた。
(´・_ゝ・`)「……こんばんは」
「はい。こんばんは」
彼の隣に現れたのは制服姿の女学生。
茶髪のサイドテールを指に巻きながら、どこか不機嫌そうに盛岡を見上げている。
(´・_ゝ・`)「出てきていいのかよ。盤外に徹するんじゃなかったのか」
「そのつもりでしたよ。あなたが想定通りであれば」
(´・_ゝ・`)
盛岡は応えなかった。死ぬほどノーリアクションだった。
制服の少女はしばし黙ってから、彼の変わりようの無さに頭を振る。
「とにかく来て下さい。ちょっと事情聴取をさせてもらいます」
(´・_ゝ・`)「へいへい……」
.
194
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:49:15 ID:9P.ObFjI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
話の続きをするにあたって、盛岡が連れて来られたのは小さなスタンドバーだった。
演出の為に作られた暗がりと、それを都合よく照らす間接照明の列。
天井に埋め込まれたスピーカーからぼそぼそと流れる洋楽は、『これ以上の声量で喋るな』という店側の牽制でもあった。
(´・_ゝ・`)「悪いな、視点を持ち込んで」
|(●), 、(●)、|「構わない。よくある店だ」
断りを入れてテーブルについた盛岡を、バーテンダーの男はくぐもった声で歓迎した。
その寛容への礼として、彼はサービスのテキーラを一気に飲み干して見せた。
「悪酔いしても知りませんよ」
(´・_ゝ・`)「モヒートくれ。ミント別皿で」
テーブルに諭吉が置かれ、バーテンダーがそれを回収する。
釣り銭のやり取りは無く、両者は暗黙のままに事を済ませる。
(´・_ゝ・`)「お前も好きなの飲めよ。奢るぞ」
「……ではオリジナルを」
程なく、盛岡のモヒートと一緒に店のオリジナルカクテルがテーブルに並んだ。
2人はすぐにそれを取り、情緒もクソもなくグビグビと飲み進めた。
おっさん&女学生が立ち並んで酒を飲む姿はかなり犯罪的だったが、それを咎める概念はこの店には立ち入れなかった。
.
195
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:51:33 ID:Qa5M7iYc0
ツンちゃん頑張って
196
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:52:34 ID:9P.ObFjI0
「……魔王城ツンの育成、魔王軍の軍備拡張、最序盤へのリソース集中」
グラスの中身を空にして、彼女は静かに話し始めた。
「これらを主軸とした『整合世界計画』については、既に合意を得たものと思っていましたが」
(´・_ゝ・`)
「文句があるなら言って下さい。あなたは、すでに何度も我々の計画に背いている」
元より烏合の衆。自分勝手は構いませんが、邪魔をするなら話は別です」
(´・_ゝ・`) …
盛岡は無言だった。モヒート別皿のミントをモサモサと食べている。
徹底して返答を拒否する構え――彼女は目を細め、真正面から食って掛かった。
「であれば先程のロールバックに話題を絞りましょう。
勝手に話を巻き戻して、一体どういうおつもりですか?」
(´・_ゝ・`)「いや、あれはお前のやり方が杜撰だったからフォローしたんだよ。
電話で誘導するなら口調寄せろよ。完全にバレるとこだったろ」
「……それは失礼。まぁ、その意味では助かったと言えるんですけど」
彼女は言葉を止め、盛岡の目を見てゆっくりと言った。
「こちらの『特権』による介入が、関係者以外にバレる筈がないんですよ」
(´・_ゝ・`)
「気付くような誰かが居たんですか? あの中に」
(´・_ゝ・`)
しばし目を見合う両者。
やがて根負けしたのは盛岡の方。彼はテーブルに腕を置き、言葉を選ぶ。
.
197
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:56:47 ID:9P.ObFjI0
(´・_ゝ・`)「俺は切り札を持ってる。その為に、少しだけ無理をした」
「……でしょうね」
彼女は極めて多くの含みをもって呟き、神の視点を一瞥した。
(´・_ゝ・`)「別に全部言ってもいいんだが、今じゃ意味が無い。
せっかくの切り札だし、役無しにはしたくないんだ」
「……少し考えます。一人称で」
バーテンダーに2杯目を注文し、それを飲みながら逡巡を始める彼女。
そこには一切の言葉がなく、特筆すべき情景も展開しなかった。
バックボーン
「……《個人世界》の容量限界、そっちは大丈夫なんですか?」
(´・_ゝ・`)「いやだから無理をしたんだってば」
「あぁ、そりゃそうですよね。そうか……」
断片的に、仲間内にしか伝わらないような言葉で会話する2人。
ここには顔見知りしか居ない筈だが、どうやら彼らは見えない何かに警戒しているようだった。
そして、彼らはその何かを意図して遠ざけようとしている。
彼らの言葉選びにはそういう作為が感じられた。
私がそう感じた。
「一応聞きますけど、ここは4周目ですね?」
(´・_ゝ・`)「それは、はい」
「助けは必要ですか?」
(´・_ゝ・`)「いらない」
「……整合世界は失敗する」
(´・_ゝ・`)「いいえ」
「……その上で計画を放棄し、独断に出たと」
彼女は長く息を吐き、アキネイターめいた問答をすっぱりと終わらせた。
盛岡の言動は少しも要領を得なかったが、残念ながら、彼女はここを引き際として溜飲を下げてしまった。
.
198
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:59:20 ID:9P.ObFjI0
「しかし参りましたね。この感じでは、裏切り者として始末するしかありません」
困った風に言いながら、彼女の指先がテーブルをなぞり上げる。
それと同時にピコンという起動音が鳴り、彼女の目先に3匹のクマのキャラクターが浮かび上がった。
しかし、彼女が呼び出したクマの立体映像は誰の目にも映っていない。
これは彼女の個人的な世界観に基づいた能力。
異なる世界観を生きる者達では、そもそも彼女の能力を認知する事ができなかった。
「すみません。分け与えた特権はすべて没収します。
現状、仲間を信頼してる余裕もないのでご容赦を」
(´・_ゝ・`)「全部は取るなよ。何も残らないんだから」
「全部取れれば苦労しないですよ。……始めます」
大中小のクマが順に転がるアニメーションが終わり、次に現れたのは無数のフォルダアイコン。
彼女はその中から『あ』と名付けられたフォルダを開き、迷わず『demitasse.exe』を実行した。
――彼女の視界にキャラクタークリエイトっぽい画面が広がり、盛岡デミタスに関する全てが表示される。
出生、来歴、人間関係、各種スキル、ステータス等々。
一個人をゲームキャラにデフォルメしたような情報の数々は、人為的情報収集の規模を明らかに逸脱していた。
(´・_ゝ・`)「急げ急げ」
「ミスるので黙って」
彼女は真っ先にスキル欄を開いて『特権』の記述を一掃、すぐにアプリケーションを終了した。
全行程は僅かに3秒。画面の文字列は一瞬で消え去り、その核心を読み取る事は出来なかった。
惜しい。
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199
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:00:41 ID:9P.ObFjI0
「間に合いましたかね。とりあえず、これで容量節約です」
一息つき、彼女はわざとらしく額を拭った。
(´・_ゝ・`)「……そういう意味でやったのか? 案外優しいのね」
「妥当なリスクヘッジです。勘違いしないように」
彼女は軽薄に笑い、2杯目のカクテルをあっさりと飲みきった。
盛岡デミタスという一個人が抱える秘密――その全てを放置して自己完結する醜態。
『説明の義務は無い』とでも言わんばかりだ。彼女達の言動は、極めて自閉的だった。
「それじゃあ帰ります。これ以上は会話が有意義になりそうですし」
(´・_ゝ・`)「なんだよ話し足りないぞ。もっと飲んでけって」
ふと、盛岡がグラスを持って乾杯を誘う。
彼女は仕方無げに頬を緩めたが、盛岡の誘いには乗らず、そのまま店を出ていった。
|(●), 、(●)、|「……フラれたな」
(´・_ゝ・`)「バカ言うな、本命じゃねえよ」
残されたのはおっさん2人。
特に意味のない沈黙が流れ、店内BGMが一層際立つ。
|(●), 、(●)、|「なにか話すか?」
(´・_ゝ・`)「……いや、このままやり過ごす」
以降、30時間ほど沈黙が流れまくった。
マジで意味がなかった。
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200
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:01:04 ID:9P.ObFjI0
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