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これを魔女の九九というようです
1
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 09:59:57 ID:SOhsxYKs0
汝、会得せよ。
.
2
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:00:40 ID:SOhsxYKs0
一を十と成せ
.
3
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:01:35 ID:SOhsxYKs0
じぃじく、じぃじくと切れかけの白い照明が悲鳴をあげる。
小煩いその声は、真夜中のトンネル内に静かに響いた。
ほんの百数メートルほどの短いトンネル。
車がやっと二台すれ違えるほどの狭いトンネル。
ああ、息苦しい。
思わず僕は溜め息を吐きたくなった。
トンネルの上はちょっとした小山になっていて、都市部へと通じる電鉄の線路が張り巡らされている。
山ばかりのこの町に、初めてまともな交通機関が出来た時には皆大喜びでそれを祝ったという。
しかし間もなくしてそれは苦情へと変わっていった。
一日に通る電車の本数が多すぎたのだ。
今まで電車がなかった町、交通機関といえば市営バスに自家用車、それから自転車と徒歩くらいなもの。
結果開かずの踏み切りによってあちこちの道が隔たれ、大渋滞が発生してしまった。
こうなると開通祝いなどと言ってられず、電鉄は慌てて線路の立体化に励んだのだという。
そして唯一踏み切りもなく反対側に通れる道がこのトンネルだったというわけだ。
若者の肝試しくらいにしか使われていないトンネルにも、役に立った時代はあったのだ。
で、さっきからどうしてこんな話をしているのかというと僕はここから動けないのであった。
いきなり轢き逃げされたのだ。
背後から、ドンと一息に。
おかげさまで手足はあらぬ方向に折れ曲がり、首はそっぽを向いていた。
よれよれのスーツは血を吸ってさぞかし重くなっているだろう。
まったくもって馬鹿らしい話だが、きっとこうだ。
季節外れの肝試しに来た誰かが、僕を幽霊と勘違いしたのだろう。
残業帰りで疲れきっている僕を、わざわざアクセル全開で!
悪意しか感じられない仕業である。
馬鹿だ、本当に馬鹿だ。
オカルトなど信じない主義の僕からすると、よく見てから轢けと言いたくなるくらいの馬鹿だ。
ああまったく、腹に据えかねる。
4
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:02:37 ID:SOhsxYKs0
(´・_ゝ・`)「…………」
側溝に積もった落ち葉しか眺めるものがないというのは実に退屈であった。
いったい何時間こうしているのだろう。
朝になるまで誰にも見つけてもらえないんだろうか。
昼間ですら人通りが少ないのに?
いやでもきっと誰かが見つけてくれるだろう、ほら多分犬の散歩してる人とか。
……待てよ、一昨日から近所で工事の看板を見かけたな。
トンネルを抜けてすぐそこで、水道管だかガス管の工事とかなんとか。
もしかして皆さん、迂回してここのトンネルを通らないんじゃないか?
出勤するにしろ帰ってくるにしろ、工事してる場面を見たことがなかったもんだからすっかり失念していた。
なんてこったい、ずっとこのままだっていうのか?
たしか工事が終わるの二ヶ月後だったぞ。
二ヶ月もこんなところで腐っていられるかよ。
物理的にも、精神的にも。
じぃじく、じぃじく。
ああ、この点滅している照明が鬱陶しい。
というかなぜ僕は成仏しないんだ。
そんなに日頃の行いが悪かったのか?
いつも駅前のスーパーで見切り品の弁当を買っているからか?
あまつさえ見切り品のシールが貼られていない弁当を差し出して、貼ってくれと店員に催促したのがいけないのか?
というか今日の弁当はカキフライだったんだぞ。
給料日だから奮発したっていうのにどうして一口も食べられぬまま轢き逃げになんかあうんだ。
なんでだ。
ふつふつと怒りが湧いてくる。
どうしてこんなことになってしまったのだろう、そればかりが頭の中を駆け巡った。
5
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:03:56 ID:SOhsxYKs0
なんて、理不尽なのだろう。
理不尽だ!と叫びたくなったその時であった。
「見つけた」
不釣り合いな少女の声がした。
僕が死んでいる事などまったくどうでも良さそうな、冷徹で気まぐれさを孕んだ声だった。
それを聞き、はたと冷静になった。
こんな時間にいったい誰が、ここに?
さり、さり、と歩く音。
少女は問う。
「これ、あなたのお夕飯だったの?」
そうだ、カキフライを食べながらビールでも飲もうとしたんだ。
糖質控えめの発泡酒だけれども。
口がきけたなら、僕はそう返していただろう。
しかし生憎それはできない話であった。
「首、折れちゃってるのね」
視界が少し揺れた。
どうやら少女がしゃがみこみ、僕の首を触ったようだった。
おそらく血塗れであろうに、触るのに抵抗はないらしい。
肝っ玉が据わっているなと思った。
6
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:04:44 ID:SOhsxYKs0
再び視界が揺れ、少女の手は僕の体から離れていったようだった。
しかし代わりに今度はボソボソとした声が聞こえてきた。
「 、 、 」
一体何を話しているのだろうか。
聞き取ろうとしたが、それは無理だった。
耳から脳へと介す過程で、霧散してしまうような感じがしたのだ。
(´・_ゝ・`)「……………」
ひんやりとした熱が足首を包んでいた。
今までなんの感覚もなかったというのに。
そのうち、ひくりと、喉がなった。
喉を通り、水が胃へと落ちていく。
(´・_ゝ・`)「あ……?」
声が出た!
(´・_ゝ・`)「えっ、えぇ?」
掠れた声と息が口から漏れていく。
「で、できた……!」
安心したような、驚くような声。
状況が飲み込めなかった。
無意識に僕はねじ切れそうになっていた首を動かし、その声の主を探した。
7
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:05:44 ID:SOhsxYKs0
(´・_ゝ・`)「うわ、」
動いてしまった。
まるで生きているかのように。
さっきまで死んでいたというのに!
ものすごい衝撃であった。
僕は混乱しつつ、思い出したかのように瞬きをした。
乾きつつあった眼球に、ほんの少し潤いが戻る。
ひどく目がしばしばする。
思わず目薬が欲しくなりつつも、何度も瞬きをするうちにそれは和らいでいった。
さて、ようやく起き上がった僕はようやく少女と対面することができた。
彼女はなぜか僕の足首を握りしめ、じっとこちらの様子を伺っていた。
年は十六才くらいだろうか。
長い黒髪に混ざる赤い髪の毛は、わざと染めたものなのだろうか。
血のように赤いそれは、不思議と似合っていた。
('、`*川「こんばんは、死体さん」
(´・_ゝ・`)「死体じゃないよ。いや、死んでたけどさ」
自分でも訳のわからないことを口走りながら、僕は息を吸った。
意識して呼吸をしないと、忘れてしまうような気がしたのだ。
現に少し息苦しくて、少し噎せてしまった。
('、`*川「大丈夫?」
(´・_ゝ・`)「お気遣いなく」
咳払いを一つして、ようやくそれは治まった。
8
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:07:11 ID:SOhsxYKs0
(´・_ゝ・`)「いったいどんな魔法を使ったんだ?」
からかうように言うと、少女の眉がつり上がった。
驚いたようだった。
('、`*川「どうして魔法だとわかったの?」
(´・_ゝ・`)「え?冗談だったんだけど」
ほんの一瞬、間が空く。
肯定された気持ちになり、僕はどう反応しようか思案した。
今度は少女が咳払いをした。
('、`*川「自己紹介がまだだったわね」
(´・_ゝ・`)「名前よりも気になることが多すぎるんだけど」
('、`*川「それは順を追って説明するわ。わたしは魔女のペニサス」
(´・_ゝ・`)「魔女」
いきなりファンタジーな言葉が出てきた。
面食らう僕に構わずペニサスこと魔女は滔々と喋り出した。
曰く彼女は魔女であるが、あまりにも未熟で師匠に半人前以下の扱いをされていること。
どうにか認めてもらうために独学でまほうの勉強をしていること。
箔をつけるために使い魔を作ろうと思ったこと。
使い魔を探すために眠い目をこすって夜な夜な街に繰り出していたこと。
今日、どこかで人が死ぬ予感がしたこと。
それを信じ、探していたら死んでいた僕を見つけたこと。
9
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:08:06 ID:SOhsxYKs0
('、`*川「……というわけなんだけど、わたしの使い魔にならない?死体さん」
(´・_ゝ・`)「死体さんっていうの止めてくれないかなぁ」
などと返しながら、僕はペニサスの話を反芻した。
とんでもない事に巻き込まれてしまった、というのが正直な感想であった。
普通ならありえないこととして一蹴しているが、現に僕は蘇っている。
やはりこれは彼女の言う通り魔法のおかげなのであろう。
しかし生き返ったところでどうするのだろう。
僕は途方に暮れていた。
そもそも僕は生前の仕事にも人間関係にも、疲れ切っていた。
毎日同じことの繰り返しで、うんざりしながら生きていた。
カキフライが食べられなかったくらいしか未練がないような人間だ。
生き返ったところで楽しみを見出せるような希望もなにもない。
ならもう一度死んでしまっても、別にいいんじゃなかろうか。
そう結論付けて、断ろうとした時だった。
('、`*川「使い魔になるの、嫌かしら?」
(´・_ゝ・`)「嫌というか、なんというかねえ」
('、`*川「あなた見るからにおじさんだもの、こんな若い娘にパシられるの癪に触るんでしょ?」
(´・_ゝ・`)「癪に触るんじゃなくて……」
('、`*川「うーんじゃあこうしましょ。そうしたらわたしがあなたを殺そうとした犯人を見つけるわ!復讐の協力もする!」
(´・_ゝ・`)「いやそんな復讐なんて、」
と断りかけて気付く。
10
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:10:11 ID:SOhsxYKs0
僕を殺そうとした犯人……?
('、`*川「あなた、殺されたのよ。これは事故じゃないわ」
ペニサスの視線と言葉が僕を貫く。
おそらく今の僕はひどく間抜けな顔をしているだろう。
('、`*川「よく思い出して、轢かれた時のことを」
(´・_ゝ・`)「……………………」
閑静なトンネルを歩く僕。
背後からうなるようなエンジンの音がする。
こんな時間に車が通るだなんて珍しいと思っていた。
音はどんどん近付いてくる。
一度も速度を落とさずに、むしろより加速をした。
僕を狙うように。
そして––––。
('、`*川「そもそもふつー幽霊だったとしても、それを轢こうとする人なんかいると思う?」
(´・_ゝ・`)「いないかな?」
('、`*川「轢いたら祟られそうじゃない、それこそ」
(´・_ゝ・`)「一理ある」
('、`*川「というか今は春だし」
11
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:11:45 ID:SOhsxYKs0
肝試しには早すぎるわ、などと言いながらペニサスはカーディガンのポケットを探った。
そこから出てきたのは個包の飴だった。
('、`*川「食べる?」
(´・_ゝ・`)「ああ、うん」
ぼんやりと返事をして、僕は飴を受け取った。
白い不透明な包みにくるまったそれは、なんだか怪しいものに見えた。
ちらりとペニサスを伺い見ると、彼女は器用に片手と口でそれを広げ、中の飴を頬張った。
(´・_ゝ・`)「両手を使えばいいのに」
未だ掴まれている僕の足首を眺めながら、僕もそれを頬張った。
ひどい酸味と苦味がして、思いっきり眉間に皺が寄る。
はっきり言ってまずかった。
('、`*川「こうして直接触ってないと、魔法が消えちゃうんだもの」
つまり彼女が手放せば、もう一回死んでしまうということだ。
(´・_ゝ・`)「じゃあ僕は君に触れられていないとこれからは生きていけないのか?」
('、`*川「使い魔になると魔女と精神的な結びつきが強くなるから、それで魔法が継続して掛かるようになるらしいわよ」
たぶん、と語尾に付け加えると同時に、ペニサスは飴を噛み砕いた。
僕の飴は一向に口の中で溶けず、苦々しい気持ちになった。
12
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:13:42 ID:SOhsxYKs0
(´・_ゝ・`)「……君は魔女になってどうしたいの?」
面接官のような言葉を思わず投げ掛ける。
('、`*川「どうもなにも、魔女になりたいの」
(´・_ゝ・`)「なるのが夢なの?」
('、`*川「そうねえ、そうなんだと思うわ」
(´・_ゝ・`)「魔女になった後のことって考えてないのか」
('、`*川「そんな先のこと、わかんないわよ」
案外無鉄砲であった、幼かった。
しかし同時に、そこまで夢中になれるものがある彼女が眩しく見えた。
ペニサスは、どこへ行くのだろうか。
(´・_ゝ・`)「なってもいいよ」
('、`*川「え?」
(´・_ゝ・`)「使い魔になってもいい、復讐とかはどうでもいいけど」
('、`*川「……犯人とか気にならないの?多分頑張って魔法使えば分かるわよ!」
(´・_ゝ・`)「ふむ」
もし仮に、本当に殺されたとするならば、と僕は考える。
別にやりたいことがあったわけでもなく、失ってもなにも惜しいと思うもののない人生であった。
しかし、そんな人生を送ってきた僕に明確な殺意を抱く人物って、一体どんな奴なのだろうか。
こう言うのもあれだが、本当に当たり障りのない、凪いだ人生だった。
恨みなんぞ抱かれるとは思っていなかったから、気になって仕方がなかった。
13
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:14:47 ID:SOhsxYKs0
(´・_ゝ・`)「では犯人探しだけは手伝ってくれ」
するとペニサスはニヤリと笑って、こう言った。
('、`*川「契約成立ね」
足首から手を離し、ペニサスは問う。
('、`*川「あなた、名前は?」
(´・_ゝ・`)「盛岡だ」
すると少し怪訝そうな顔をした。
('、`*川「下の名前は?」
(´・_ゝ・`)「ああ……、デミタス。デミタスって言うんだ」
下の名前を言うのはずいぶん久しぶりであった。
会社では苗字か部長としか呼ばれないし、友人などいなかった。
('、`*川「よろしくね、デミタス」
(´・_ゝ・`)「よろしく、ペニサス君」
('、`*川「……そこって様付けとかじゃないの?」
(´・_ゝ・`)「様付けしたほうがおかしいんじゃないかな」
('、`*川「どーせ半人前以下ですよ」
14
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:15:48 ID:SOhsxYKs0
くるりと背を向け、ペニサスは歩き出した。
慌てて立ち上がり、僕は後を追う。
('、`*川「もう少ししたら夜が明けちゃうわね」
欠伸をし、ペニサスはまた飴を口に放り込んだ。
('、`*川「家に帰ったらまず寝なきゃ……」
(´・_ゝ・`)「家までどれくらい掛かるんだ?」
('、`*川「んー、ゆっくり漕いだら小一時間かかるかしら」
(´・_ゝ・`)「漕いだら?」
('、`*川「ん」
とろんとした目つきのペニサスが指差した先には、ママチャリが一台停まっていた。
(´・_ゝ・`)「箒じゃないのか……」
('、`*川「まだ飛べないんだもの」
自転車の鍵を突き出し、彼女は悔しそうにそう言った。
(´・_ゝ・`)「それで、何処まで行けばいいんだい?」
解錠し、スタンドをあげてサドルに跨った。
彼女は眠そうに目を擦りながら荷台に座り、こういった。
15
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:16:41 ID:SOhsxYKs0
('、`*川「とりあえず日府の図書館まで行って」
それきり黙ってしまい、すうすうと寝息が聞こえてきた。
(´・_ゝ・`)「やれやれ」
思わずそう漏らし、僕は自転車を漕ぎ始めた。
自転車に乗るのは久しぶりであった。
腰に回された手が緩みはしないかと気が気で仕方なかったが、案外しっかりそれは結ばれているようだった。
(´・_ゝ・`)(日府の図書館に着いたら起こそう)
それまで人とすれ違わないといいが、と僕は心配した。
空の彼方は微かに白み始めていた。
16
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:17:32 ID:SOhsxYKs0
一を十と成せ 了
.
17
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:18:23 ID:SOhsxYKs0
登場人物紹介
(´・_ゝ・`) 盛岡 デミタス
一応部長さん。死因は頚椎骨折
('、`*川 ペニサス
一応魔女さん。カキフライは嫌い
カキフライ
デミタスの好物。福神漬け入りのマヨネーズと中濃ソースをかけて食べると美味
18
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 10:49:37 ID:Uh3c9lwA0
乙
期待してる
19
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 11:09:29 ID:FOjWt1fcO
乙!
面白いな。続きも期待!
20
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 11:19:53 ID:yv9dV3a60
乙、なにこれおもしろい
21
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 11:46:16 ID:JGTR3MQw0
この文体好き
22
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 12:13:39 ID:Dh96t07.0
乙、カキフライ食べたくなってきた
23
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 18:01:22 ID:H.1twdY20
これは期待
乙乙
24
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 19:51:13 ID:jNiUVDNE0
乙カキフライ
25
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 23:13:11 ID:6tkjfzTs0
乙
26
:
名も無きAAのようです
:2015/04/29(水) 05:33:15 ID:gqgV7.Q.0
いいんでないの?
27
:
名も無きAAのようです
:2015/04/29(水) 10:43:48 ID:KVKQJUaE0
乙乙、この気だるげな雰囲気がええなぁ!
ひんやりした熱って表現にセンス感じた。
次回も楽しみにしてる
28
:
名も無きAAのようです
:2015/04/29(水) 11:22:15 ID:BM7x6hGY0
福神漬け入りのマヨネーズが気になるカキフライ食いたい乙
29
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:06:34 ID:q9TyRmLg0
二を去るにまかせよ
.
30
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:08:29 ID:q9TyRmLg0
案外人というものは何処でも眠れるものだな、と僕は初めて知った。
何度か立ち止まり、道を聞くたびにペニサスは億劫そうにその目を開けた。
そうしてむにゃむにゃと寝言まじりに次の到達点を告げ、僕は放り出されたそのパズルを解くのに必死になっていた。
要するに、ずいぶん時間が掛かったということだ。
着いた頃には小一時間どころかその倍の時間は経ってしまっていた。
彼女の家、もとい正しくは師匠の家は高級ベッドタウンの一角にあった。
日当たり良好、二階建ての一軒家。
ただし外観はさっぱりわからなかった。
家を取り囲むように藤の木がぐるりと天然物の塀を作り出していて、要塞のような威圧感を放っていた。
枝垂れた紫は、どこか毒々しいものに見えて心穏やかになることを許してくれなかった。
そして、その壁の向こうに見える家もなんだかよくわからない植物に覆われていた。
家ではなく怪物の住処に来た気分だった。
(´・_ゝ・`)「ペニサス君」
勝手に入るのもまずいだろうと僕は彼女をたたき起こした。
('、`*川「ん……」
とろんとした眼は何回かの瞬きを経て、はっきりとした光を得た。
('、`*川「ついたのね」
ありがとう、と言いながらペニサスは慣れた手つきで門扉を開けた。
(´・_ゝ・`)「自転車は?」
('、`*川「そのまま持ち上げて庭に持って来ちゃって」
31
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:09:53 ID:q9TyRmLg0
短い階段をとんとんと駆け上りながら、ペニサスは言う。
そんなに重いものではなかったが、わざわざこの階段を上り下りするのは不便だったに違いない。
何度かペダルに脛を蹴られながら、僕はそう思った。
中に入ると、ますます家の異様さが際立った。
家に絡みついていたのは、木香薔薇と羽衣素馨であった。
柔らかいクリーム色の花と、強い芳香を放つ薄桃色の花が押し合いへし合い咲く様は浮世離れしていた。
ところどころ庭に落ちた影は、侵略痕のように感ぜられた。
彼らは家だけでは飽き足らず、庭にまで手を伸ばしているのだ。
('、`*川「なにしてるの?」
ペニサスはきょとんとした様子で、僕を見ていた。
(´・_ゝ・`)「あ、いや……。見事な花だなと思って」
当たり障りのないようにそう返すと、ペニサスは嬉しそうに笑った。
('、`*川「師匠が全部植えたのよ」
(´・_ゝ・`)「お師匠さんの趣味か」
('、`*川「たくさんお花を植えると、そのエネルギーを分けてもらえるんですって」
にこにこと笑いつつ、ペニサスは足元に咲き誇る花を踏み潰しながら、僕のそばによってきた。
パンジーだのポピーだの、色とりどりのそれはくちゃくちゃに丸められた紙屑のようになってしまった。
少し気の毒になった。
32
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:11:08 ID:q9TyRmLg0
('、`*川「自転車はこっち」
右手側の隅っこに、これまた花に覆われたガレージがあった。
('、`*川「今度からはデミタスが運転してね」
(´・_ゝ・`)「はいはい」
ふと思い立ったように、彼女は上着のポケットを漁った。
('、`*川「飴食べる?」
(´・_ゝ・`)「いや要らない」
ペニサスは、そう、と返してまた例の飴を頬張った。
見ているだけであの味が舌に蘇ってきて、僕は少し眉間に皺をよせた。
あれだけの植物に覆われていたのだから、中は閉塞感がすごいだろうと僕は身構えていた。
しかしどういうわけか、不思議と清々しい空気に満ちていた。
僕は一足踏み入れただけで、この家をすっかり気に入ってしまった。
('、`*川「靴は棚の空いてるところならどこでも入れていいから」
靴を箱に収めながら、ペニサスはそう言った。
(´・_ゝ・`)「ちょっといいかな」
('、`*川「なに?」
(´・_ゝ・`)「君の靴、変じゃないか?」
今更気づいたが、彼女の靴はちぐはぐであった。
片方は金色、もう片方は銀色のラメが輝くバレエシューズ。
なにか意味はあるんだろうか?
33
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:12:34 ID:q9TyRmLg0
('、`*川「魔女は境界線に立つことを意識しなきゃいけないの」
(´・_ゝ・`)「境界線?」
('、`*川「そ、境界線。魔女はそれを跨ぐ存在なの」
死と生、朝と夜、赤と青、日常と非日常……。
世の中にはたくさんの境界線が張り巡らされているが、人々はそれを意識することなく暮らしている。
それを意識し、越えようとしたり跨いだり見つめたりすることが修行の一環なのだという。
把握する境界線が多ければ多いほど、魔女の自分と人間の自分を分断する要素が増えていく。
人格の乖離こそが、魔力の要なのだそうだ。
('、`*川「だからこれも一つのおまじない」
魔法を使う時と使わない時とで身につける物を変えることで、細かく境界線を増やしているのだ、とペニサスは教えてくれた。
('、`*川「とは言っても、それで増える魔力なんてたかが知れてるけど」
大事そうに箱を閉じ、ペニサスは棚の中にそれを仕舞った。
魔女というものを、僕はまだまだ理解しきれていない。
しかしその断片は、とても魅力的でどこか危うさを感じさせるものだった。
もしも人間であった時の自分があまりにも遠くに行ってしまったら。
忘れてしまったら、その魔女はどうなってしまうのだろうか。
34
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:13:28 ID:q9TyRmLg0
('、`*川「まずお風呂に入らなきゃね」
(´・_ゝ・`)「え?ああ、うん」
生返事をしながら、僕はペニサスの後をついていく。
('、`*川「スーツ、捨てちゃってもいいよね」
(´・_ゝ・`)「お願いするよ」
それなりの値段はしたが、どう見てももう着れそうになかった。
というかよくこんな格好で自転車を漕いでて職質されなかったなと僕は唸った。
早朝で人通りが少なかったとはいえ、血みどろのスーツを着た男が少女を連れ回していたら怪しいにもほどがあっただろうに。
('、`*川「そこがお風呂、石鹸とかは好きに使っていいから。お湯も溜めていいわ。これタオルね」
手際よくカゴから引っ張り出されたタオルは、次々僕の手に渡された。
('、`*川「スーツはこの袋に入れてね。着替えは今探してくるから」
(´・_ゝ・`)「……すまないね」
これではどっちが従者なのやら。
と思っているのが伝わったのかはわからないが、ペニサスは少し拗ねたように言った。
('、`*川「今日だけよ、お客さん扱いするのは」
明日からはわたしがパシるんだからー!などと言いながら、彼女は脱衣所のカーテンを勢いよく閉めていった。
僕は若干途方に暮れながら、ようやく服を脱ぐことにした。
35
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:14:42 ID:q9TyRmLg0
風呂場は思ったよりも大きく、立派であった。
(´・_ゝ・`)「猫足のバスタブなんか初めて見たな」
思わず口に出しながら、僕は蛇口をひねって湯を溜めた。
その間に体を洗うことにした。
しかしやたらボトルが多く、どれを使えばいいのか僕はさっぱり見当がつかなかった。
好きに使っていいと言われたが、こうも選択肢が多いと選び辛かった。
(´・_ゝ・`)「おお」
と、ここで僕は見慣れたものを発見した。
牛乳石鹸。
これさえあればとりあえず頭でも体でも洗ってもいいだろうという謎の安心感がある石鹸。
子供の頃にかじってあまりの苦さに涙目で吐き出した覚えもあった。
牛乳で出来てるならきっとおいしいだろうと僕は思ったのである。
そんなはずはないのに。
適当にしゃかしゃかと泡立てて、頭に乗せる。
ところどころじんわりと痛む箇所やかさかさに乾いた血がべろりと剥がれるような感触がした。
さっきまで死んでいたという証拠が、少しずつ消え失せていく。
思ったより、死ぬというのはなんともないものだったな、と僕は考える。
ほぼ即死だったせいか、痛みに苦しむ間もなかった。
ただあのままどうすることも出来ずに、寝転がっていたのはどうにも落ち着かない気分であった。
一本の映画が終わり、エンドロールも流れ切ってしまったのに、照明がつかない映画館に一人取り残されたらああいう気分になるのかもしれなかった。
どうするんだ、僕はどうしたらいいんだ。
このまま待てばいいのか、それとも動くべきなのか。
しかし真っ暗な映画館で立ち上がるのは、なんとなく気が引けてずっと座らざるを得ない。
結果そのまま一人でゆらゆらと揺れる「Fin」の文字を見つめ続ける羽目になるのだ。
36
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:16:00 ID:q9TyRmLg0
(´・_ゝ・`)「あちっ」
どうやら設定温度を間違えたらしい。
少しお湯が温かったからといって、適当にいじりすぎたのだろう。
しかし火傷するほどの温度でもなかった。
僕は手探りでかちかちとダイヤルをまわした。
(´・_ゝ・`)「え」
丁度いい、と感じたその水温は、五十三度。
結構熱いはずなのに、僕はそれを心地いいとすら感じていた。
(´・_ゝ・`)「……火傷もしてない」
普通だったらヒリヒリしてたまらないだろうに、それもなく、僕はやはり死んでいるのだなと実感した。
きっと死んでいるから、生身とは勝手が違うのだろう。
呆然としながらも、僕はタオルを手に取りまた泡立て始めた。
今ならこの石鹸を齧っても、苦くないかもしれなかった。
37
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:17:02 ID:q9TyRmLg0
風呂から上がると、着替えと思しき服が置いてあった。
が、しかし。
(´・_ゝ・`)「貴族のコスプレかな……? これは……」
まず一番最初に目に付いたのは、胸元にフリルがついたシャツと朱色のネクタイ。
その次に置かれていたのはダークチョコレート色のベスト。
唯一平常心で履けそうなのは真っ黒なスラックスくらいであった。
フリル付きのシャツが一番着るのに抵抗があったが、仕方ない。
出されたものに文句を言うのは少し図々しい気がしたのだ。
僕は諦めて袖を通すことにした。
いったいどんなセンスをしているんだか……。
僕はペニサスが少し恐ろしくなった。
しかし案外着てみると、不思議なことにそれはしっくりと僕の体に馴染んでしまった。
まるでそれが当たり前だったように。
(´・_ゝ・`)「ペニサス君」
少し心細くなり、僕は彼女を探した。
彼女は、居間と思しき部屋にいた。
(´・_ゝ・`)「寝ちゃってるよ……」
ソファーで横たわる彼女はどこからどう見ても熟睡していた。
ロココ調の白家具とリラックマの着ぐるみを着た魔女。
なんともいえない組み合わせである。
(´・_ゝ・`)「風邪ひくよ」
揺さぶるものの、ペニサスは起きない。
僕は途方にくれながら、せめて毛布でも探そうと家の中を探すことにした。
38
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:21:10 ID:q9TyRmLg0
居間のすぐ隣はキッチンであった。
綺麗に整頓されていて、生活感はあまり感じられなかった。
間違ってショールームにでも来てしまったかのような気分になった。
ペニサスは、ちゃんと食事をとっているのだろうか。
料理出来ない四十路手前の男は考える。
もし料理を作ってくれと言われたらどうしようか。
インスタント食品と惣菜が主食の僕は、目玉焼き一個作るのがやっとなのだ。
(´・_ゝ・`)「ん……?」
と、僕は奇妙なものを発見した。
洗いカゴの中に放置されているそれは、実験室で見たことがあるものだった。
ビーカー、乳鉢、乳棒。
料理するのに使うものとは到底思えなかった。
一体何をしているんだろうか、ペニサスは。
後で聞いてみようと思いつつ、僕はキッチンを後にした。
廊下をうろうろしていると、二階へ続く階段のスペースを利用した物置を見つけた。
もしかするとその中に毛布があるかもしれない。
そう思い扉を開けようとしたが、鍵がかかっていた。
見られたくないものが入っているのかもしれない。
仕方なくそのまま二階へ上がることにした。
39
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:22:15 ID:q9TyRmLg0
階段は狭く、かなり急勾配であった。
手すりに掴まっていないと上がるのは難しく、壁か何かを登っている気分になった。
(´・_ゝ・`)「つ、疲れるなこの家は……」
上りきった頃には息が切れ、運動不足を実感することとなった。
さて二階には三つ部屋があった。
一つは書斎だったが、本棚に収まりきらなかった本が床に雪崩れているのを見て僕は中に入るのを止めてしまった。
もう一つは鍵がかかっていたので、中の様子は分からなかった。
書斎のすぐ隣にあったので、もしかするとペニサスの師匠の部屋なのかもしれないと僕は考えた。
最後の部屋は、ペニサスの部屋であった。
天蓋付きのベッドに、小振りなシャンデリア。
メープル色の机には、鬼灯を模したランプ。
チェストの上には小振りの釜と黒曜石の鏡が僕の顔を映していた。
白を基調とした壁には、青紫色のテッセンの絵が直接描かれていた。
小さな部屋なのに様々な情報が凝縮されている気がして、思わず目眩がした。
(´・_ゝ・`)「毛布を……」
無意識に一言漏らし、ベッドに近付く。
薄い掛け布団を手に取り、僕は逃げるようにしてその部屋から去った。
そしてソファーで眠るペニサスにそれを被せた後、僕の意識はぷっつりと途切れてしまった。
40
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:23:01 ID:q9TyRmLg0
起きた頃にはとっぷりと日が暮れていて、僕の体はあちこち軋んで悲鳴をあげていた。
('、`*川「床でなんか寝るからよ」
先ほどまでうたた寝していたソファーに腰掛けるペニサスは、憎たらしくそう言った。
僕は少しカチンとしながら、その隣に座った。
(´・_ゝ・`)「起こしたら君が怒るかと思って」
('、`*川「うぐ」
言葉に詰まったペニサスは、やおらその傍に置いてあった紙袋を差し出した。
('、`*川「ドーナツ食べる?」
(´・_ゝ・`)「もらおうか」
紙袋を覗くと、ピンクのチョコレートやしゃりしゃりしたグレーズのかかったドーナツが見えた。
それよりも僕はオーソドックスなオールドファッションが好きなのだが、残念なことにそれは今ペニサスの口に収まってしまった。
仕方ないのでもちもちした食感が売りのドーナツを食べることにした。
('、`*川「一個でいいの?」
(´・_ゝ・`)「食べたら考える」
('、`*川「じゃあイチゴのはもらっちゃうから」
細い指がピンク色のそれをつまみ上げる。
人工的な色合いをした食べ物が苦手な僕には、ありがたい選択であった。
41
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:24:24 ID:q9TyRmLg0
('、`*川「これ食べたら、轢き逃げ犯を探すわ」
(´・_ゝ・`)「あ、ああうん」
急に聞こえてきた物騒な単語に、僕は少し面食らった。
(´・_ゝ・`)「どうやって探すんだい?」
('、`*川「スクライングするの」
(´・_ゝ・`)「スク……なんだって?」
ごくんと最後のひとかけらを飲み込み、ペニサスはどこか誇らしげに説明し始めた。
とはいえ例の寝間着のままなので格好はつかないのだが。
('、`*川「占いとかでよく水晶玉とか覗いて予言したりするでしょう?あれやるのよ!」
(´・_ゝ・`)「あー……」
紫色のベールで顔を隠した怪しげな老婆が巨大な水晶玉相手に手で覆う様を思い浮かべ、僕は頷いた。
('、`*川「わたしの部屋から黒い鏡持ってきて」
入ったから分かるでしょ、とペニサスは畳んだ掛け布団を僕に託した。
(´・_ゝ・`)「ついでにこれも戻して来いと」
('、`*川「話が早くて助かるわ」
早速僕はペニサスの部屋へ向かった。
いよいよ犯人が分かる。
自然と気分が高揚し、僕は滑るように階段を駆け上がった。
そしてあの真っ黒い鏡を手にして、慎重に階段を降りた。
黒曜石は言ってみれば天然のガラスである。
落としたらきっと粉々に砕けてしまうだろう。
42
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:25:35 ID:q9TyRmLg0
しかし本当にこんなもので分かるのだろうか?
正直半信半疑であった。
(´・_ゝ・`)「おっと」
部屋に戻ると、ペニサスは真っ黒なコルセットスカートと格闘していた。
いつ用意したのだろうか。
('、`*川「あ、ちょうどよかった」
これつけてくれない?とペニサスはペンダントを差し出した。
血のように赤い石がついていて、その中には細い針のような黒がいくつか入っていた。
(´・_ゝ・`)「はい」
('、`*川「ありがと」
そう言うペニサスは、すっかりさっきとは違う面持ちであった。
(´・_ゝ・`)「着替えるのも境界線を増やすためかい?」
('、`*川「そうよ。さっきの着ぐるみもほんとは着たくないんだけど、メリハリをつけたほうがいいって友達が言うから……」
(´・_ゝ・`)「君、友達いたの?」
思わずそう言うとペニサスはあからさまに機嫌が悪くなった。
('、`*川「いるわよ」
(´・_ゝ・`)「てっきり学校に行ってなさそうだからいないのかと」
慌てて弁解するも、彼女の唇はとがりっぱなしだった。
43
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:26:15 ID:q9TyRmLg0
('、`*川「魔女には魔女なりのネットワークがあるんですぅー」
そう言って、彼女はテーブルに置かれた鏡と対峙した。
('、`*川「…… 、 、…………。 」
微かな声が僅かに部屋に響く。
相変わらず僕には何を言っているのか理解できなかった。
歌うようなその呪文は延々と長く続き、麻痺した時間が淀むように部屋を支配していった。
しかし終わりは唐突にやってきた。
('、`*川「……見えない」
焦ったようにペニサスは言った。
(´・_ゝ・`)「見えない?出来ないじゃなくて?」
('、`*川「今まではちゃんと出来たもん!」
むすっとした表情でペニサスは食ってかかった。
('、`*川「ちょっとした探し物とか占いとか……。それこそデミタスが死んだこともスクライングしなかったらわたし知らなかったもの!」
(´・_ゝ・`)「それは、その……。すまなかった」
少し傷付いたような表情は、僕の良心をちくりと抉っていった。
しかしできなかったのは事実なのだ。
僕は少しペニサスの能力を疑い始めていた。
('、`*川「もう一回やってみる」
そう言って鏡と向き合ったが、結局それを三回繰り返して彼女は諦めた。
44
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:27:22 ID:q9TyRmLg0
(´・_ゝ・`)「たまたま調子が悪かったのかもしれないよ」
('、`*川「そんなのなんの慰めにもならないわよ……。基礎中の基礎なのに」
聞けばこんなことが起きたのは初めてなのだという。
ペニサス自身も戸惑っているのだろう。
僕はどう励ませばいいのかすっかり困っていた。
(´・_ゝ・`)「とりあえず……」
うーん、と考えて、僕は思い出す。
(´・_ゝ・`)「お菓子でも食べようよ」
('、`*川「今からコンビニ行くの?」
キョトンとした顔でペニサスは問う。
(´・_ゝ・`)「会社に私物のお菓子が随分残ってるのを思い出したんだよ」
('、`*川「え、会社に行くの?デミタスの?」
(´・_ゝ・`)「うん」
('、`*川「……これから?」
(´・_ゝ・`)「これから」
45
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:28:19 ID:q9TyRmLg0
('、`*川「大丈夫なの?」
(´・_ゝ・`)「今日はノー残業デーだから誰もいないと思う。それにある程度私物の整理もしたいしね」
('、`*川「警備の人は……」
(´・_ゝ・`)「忘れ物したから取りに来ました、この子は姪っ子です、でごり押しする」
('、`*川「…………デミタスってさ」
(´・_ゝ・`)「うん?」
('、`*川「結構ぶっ飛んでるよね」
そう言いながらも、ペニサスは玄関へと向かっていった。
僕はそのうち自分の家にも行かなきゃなぁなどと考えていた。
どうせ僕が死んだことに誰も気付いていないだろう。
なんせ死体がこうして歩き回ってしまっているのだから。
46
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:29:28 ID:q9TyRmLg0
そもそも会社に行こうと思ったのは、朝ペニサスの家へ向かう時にその近くを通ったからであった。
三十分あれば会社へ着く距離に、まさか魔女がいるなんて。
まさに日常と非日常の境界線に立っているような気分になった。
別に魔女だの魔法だのに嫌悪感があるわけでもない。
ただ、僕はまだ自分の死を受け入れきれていなかった。
本当はすべて夢で、気付いたら会社と家の往復をするいつもの暮らしに戻れてしまうのではと思っていたりもする。
けれども僕は確かに死んでいるのだ。
痛覚は以前より鈍く、耳を澄ませても鼓動は聞こえない。
飲食はするし、汗や涙などは出てもやはりどこか違うのだという感覚は拭えなかった。
少しずつ、生前の僕を回収しなければ。
誰にも迷惑をかけないように、後腐れのないように。
(´・_ゝ・`)「ここだよ」
自転車をビルの隅に寄せ、僕は裏口へと案内した。
('、`*川「鍵はあるの?」
(´・_ゝ・`)「一応ね」
鍵穴に差し込み、回そうとする。
が、手応えはなかった。
(´・_ゝ・`)「……開いてる?」
('、`*川「ノー残業デーとかいう日じゃなかったの?」
(´・_ゝ・`)「そのはずなんだけどなぁ」
少し待つようにペニサスに言って、僕は先に中へ入った。
47
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:31:16 ID:q9TyRmLg0
緑色の非常灯に照らされた廊下には人の気配はない。
そろりそろりと静かに僕は歩みを進める。
二階の隅にある部屋が僕の職場であった。
が、その部屋は煌々と電気がついていた。
誰がいるんだろうか。
胃のあたりが少しきゅっと締まる感じがした。
ゆっくりと近付きながら、僕は落ち着くように何度も念じた。
部屋には、僕の部下であるギコがいた。
彼は机に突っ伏して眠ってしまっていた。
起こそうかどうしようか迷った末、僕は結局起こす事にした。
(´・_ゝ・`)「ギコくん、ギコくん」
うーん、と寝ぼけたような声が聞こえる。
(´・_ゝ・`)「風邪ひくよ」
ジリッジリッ、と蛍光灯が明滅する。
僕はもう少し強く彼の体を揺すった。
(,,゚Д゚)「んー……」
ギコは緩やかに目を覚ました。
そして僕の顔を見て、飛び上がった。
(,,゚Д゚)「ぶっ、ぶちょっ、ぶちょー!?」
(´・_ゝ・`)「おはようギコくん。こんなところで何してるんだい?」
(,,゚Д゚)「そんなの俺が聞きたいっすよ!というか部長どうしてここにっ……。今日、会社来なかったじゃないですか!なんで!」
48
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:32:39 ID:q9TyRmLg0
混乱しているのかめちゃくちゃになった日本語を叫びつつ、彼は頰に伝っていたよだれを拭った。
(´・_ゝ・`)「いやまあ、色々あってね」
言葉を濁しつつ、僕は自分のデスクへと移動した。
引き出しを開けるとお気に入りの万年筆や様々な形をしたゼムクリップが入っていた。
それをスラックスのポケットに突っ込み、また違う引き出しを開けた。
その中にはお菓子が山ほど入っているのだ。
小腹が空いた時にはもちろん、仕事がうまく進まなくてイライラしている子やうまく書類を作った子にあげるためのものだった。
それを折りたたみ式のバッグに片っ端から入れていった。
あとはもう別に欲しいものはなかった。
長居をしてもしょうがないので、僕はすぐ帰ることにした。
(,,゚Д゚)「部長、何を…………」
まさかお菓子だけ取りに来たんじゃないんだろうな?と彼の目は訴えていた。
本当にそれだけであった。
しかしそれでは格好がつかないので、僕は咳払いをして大仰にこう言った。
(´・_ゝ・`)「ギコくん」
(,,゚Д゚)「は、はい」
(´・_ゝ・`)「こんな時間になるまで残業するほど仕事熱心なのは感心するが、きちんと家に帰って休むんだよ」
(,,゚Д゚)「え、あ、はい」
キョトンとする彼は、どうして僕がこんなことを言うのか分かっていないようだった。
まあ分かるわけもないだろう。
僕にだって分からないのだから。
49
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:34:17 ID:q9TyRmLg0
(´・_ゝ・`)「それにしても君は残業するのが嫌いじゃなかったのかね?」
僕の記憶では、皆が会社に残っていても真っ先に定時で帰っていたはずだった。
その彼がこんな風に一人で会社に残っているのを見るのは、初めてであった。
(,,゚Д゚)「いやぁ、ちょっと昨日眠れなくて……」
零点のテストを母親に見つけ出された子供のような顔をして、彼は言った。
(,,゚Д゚)「それで寝不足で仕事してたら全然進まなくて、少し残ろうと思ったらいつの間にか寝ちゃって……」
(´・_ゝ・`)「なにか心配事でもあるのかい?」
(,,゚Д゚)「ええ、まあ……」
(´・_ゝ・`)「そうか……」
もし僕が生きていたら、飲みに誘って話でも聞いてあげられたのに。
そんなことを思いながら、僕はギコを見つめた。
(,,゚Д゚)「部長、まだこの時間って電車ありますよね」
午後十一時半過ぎ。
かなり本数は少ないが、まだまだ終電には程遠い。
(´・_ゝ・`)「あるけど、君車通勤だったろう」
(,,゚Д゚)「いやぁ、その……車が調子悪かったもんで」
(´・_ゝ・`)「そうなのか。車は維持費がかかって仕方がないよな」
(,,゚Д゚)「ええ、そうっすね……」
彼の目は忙しなく、天井の蛍光灯と僕を行き来してきた。
いつもの彼はやる気がなく常にかったるそうにしているのに、どうも今日は様子が変だった。
50
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:36:41 ID:q9TyRmLg0
(´・_ゝ・`)「切れかけの蛍光灯ってどうにも落ち着かないよね、不気味でさ」
(,,゚Д゚)「そ、そうっすよね」
(´・_ゝ・`)「僕の近所にもこれよりもっとひどい状態の街灯があってさー」
(,,゚Д゚)「あー、あのトンネルは雰囲気ありますよね」
ははは、と僕らは笑い合い、固まった。
僕は気付いてはいけないことに気付いてしまった。
ギコは言ってはいけないことを言ってしまった。
(´・_ゝ・`)「ギコくん、」
(,,゚Д゚)「…………」
沈黙ののち、ギコは僕に向かってハサミを投げつけた。
(´・_ゝ・`)「あぶなっ」
い、という言葉と同時にドスンという衝撃。
ふー、ふー、という荒い息が目前で聞こえる。
(,,゚Д゚)「なんでだ」
僕の腹に突き立てられたカッターナイフが抉るように震えた。
(,,゚Д゚)「なんっっっで死なねえんだよおおおおおお!!!!!???」
蹴り飛ばされ、僕は床に転がった。
全然痛くないものだから、僕は悠長に殴られ続けた。
(,,゚Д゚)「昨日!!!確かに殺しただろおおおがよぉぉぉぉぉ!!!!!」
(´・_ゝ・`)「ギコくんだったのか」
改めて、僕は犯人と対峙する。
夜叉のような顔つきになったギコくんは、憎々しげに叫ぶ。
(,,゚Д゚)「死ね!死ね!!死ねェェェェェ!!!!!!」
ごめん、もう死んでるんだ。死んでるけどうごいちゃってるんだよ。
なんて言ったら、彼はますます取り乱すだろう。
僕は代わりに問う。
(´・_ゝ・`)「僕、君に何かしたっけ」
51
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:39:12 ID:q9TyRmLg0
(,,゚Д゚)「しまくりだよこのクソ上司が!!!!!!!!!!いつもいつも女ばっかり贔屓して仕事回さないせいで俺んところに仕事がくるんすよ!!!!?????女には残業させないで男には会社残れってどんな女尊男卑ですか最低っすよ!!!!!!これで同じ賃金だから笑っちゃいますよねえええええ!!!!!女どもは仕事しねえから忙しくなってもクソの役にも立たねえしその分また仕事がこっちに流れてくるしでほんとあたまおかしい!!!いかれてるわ!!!!!!それで残業するのが嫌だから早く帰ればあからさまにイラっとするし、イラっとしたいのはこっちの方だってんだよクソッタレが!!!!!!!贔屓したケツ持ちはてめえ一人でやれや!!!!!!!あ、あとなんでマイカー通勤してるか知ってますぅ!!!!???せっかく定時に上がってもてめえが飲みに誘って来るからだよ!!!!!!!!俺が酒飲めないって言いましたよね?さっさと職場から離れて家帰って好きなことして一人で充実したいんですよ!!!!それなのにあんたは!!!飲みニケーションとかふざけたことを言いやがる!!!知らねえよ!!!俺の酒が飲めねえのかって飲めねえよ!!!!!!!!飲みたくもねえよ!!!!!!!!なにか悩み事でもあるのかい?一杯引っ掛けながら話を聞いてやろう?お心遣いありがとうございます今からとっとと舌噛んで死んでくれってずーーーーーーーーーーーっと思ってましたよ、俺!!!!!!!!!悩みの種は今目の前で面倒見のいい上司を演じてるクソ野郎だってことをクソ野郎は理解できないんだからほんと困っちゃいますよね!!!!死ね!!!!死ねェ〜〜〜〜!!!!死んじま」
ごいん、と物騒な音が響いた。
同時に馬乗りになって叫び続けていたギコは、バッタリと倒れてしまった。
52
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:40:53 ID:q9TyRmLg0
('、`*川「うるさいんだけど」
消火器を抱えたペニサスは、冷たく言い放った。
('、`*川「あんまり遅いから様子見に来ちゃった。犯人、見つかったのね」
(´・_ゝ・`)「そのようだね」
僕は納得していなかった。
そんな風に僕は見られていたのだろうか。
女子社員を優遇しているつもりはなかった。
最近は物騒な世の中になったから、女子社員に残業させるのは危ないと思っていた。
男は力があるし、体力もある。
何も危ないことはないし、僕もよく昔は会社に泊まっていた。
お菓子を上げるのはたしかに女子社員ばっかりだったが、女性は甘いものが好きで男は酒の方が好きだろうと思っていたからであった。
それに僕が若い時なんかは、上司から飲みに誘われたら断るのはもってのほかであったし、お金は全部払ってもらえるのだからかえって有り難かった。
僕は、自分のことを善良な人間だと思っていた。
そうだと信じ込んでいた。
('、`*川「とにかく、気付かれないうちに帰りましょ」
ゴトンと床に消火器を転がして、ペニサスは催促した。
(´・_ゝ・`)「ああ、うん」
('、`*川「もー、せっかくの服が台無しね……」
(´・_ゝ・`)「すまなかった」
と言いつつも、僕はこのフリル付きのシャツから解放されるのが嬉しかった。
53
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:42:58 ID:q9TyRmLg0
('、`*川「いいわよ、まだ同じ服がたくさんあるから」
(´・_ゝ・`)「…………」
どうやら喜ぶのにはまだ早かったらしい。
僕は頭を抱えたくなった。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん」
('、`*川「ん?傷口なら塞がってるみたいだから大丈夫よ」
(´・_ゝ・`)「そうじゃなくて」
と答えながら僕は腹の刺し傷を探った。
あれだけ刺されたというのに、いつの間にかそれは跡形もなく消え去っていた。
(´・_ゝ・`)「僕は、殺されるほど悪い人間だったんだろうか」
('、`*川「知らないわよ」
ペニサスは振り返らずに進む。
('、`*川「だって会って一日しか経ってないもの」
緑色の明かりが彼女の背を照らす。
それはやけに印象的に映り、僕の脳裏に焼き付いた。
('、`*川「そんなことより、早く家に帰ってお菓子食べましょ」
(´・_ゝ・`)「……はいはい」
もう二度と、ここには来ないだろう。
背後で閉まる扉の音は、やけに重々しかった。
54
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:43:42 ID:q9TyRmLg0
二を去るにまかせよ 了
.
55
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:44:57 ID:q9TyRmLg0
登場人物紹介
(´・_ゝ・`) 盛岡 デミタス
善意が裏目に出るタイプ。ドーナツにはブラックコーヒー派
('、`*川 ペニサス
憧れと同化したいタイプ。ドーナツには冷たい牛乳派
(,,゚Д゚) ギコ
本音を溜め込むタイプ。ドーナツにはラムネ派
ドーナツ
何故か掃除屋さんが経営しているドーナツショップで買える
ペニサスは百円セールの時にしか買わない
56
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 17:47:51 ID:jLErJS8M0
乙! 案外早く犯人見つかったね。サクサク進んでいい感じ
やっぱりあのドーナツはミス(ここでコメントは途切れている)
57
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 19:17:33 ID:1P3sibrY0
乙
俺がデミタスだったら多分泣いてる
58
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 19:54:00 ID:3WPqng8g0
乙ー デミ気の毒やな
59
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 20:16:52 ID:O7U1osKk0
おつおつ!ギコ怖すぎ
60
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 20:48:50 ID:TQG1Etms0
乙 ドーナツはあんまり食べないなぁ…
61
:
名も無きAAのようです
:2015/04/30(木) 23:35:29 ID:BpyhuTcE0
乙
こういう例ってたくさんあるんだろうな……殺すまで行かなくても
62
:
名も無きAAのようです
:2015/05/01(金) 23:01:32 ID:Etf3RU7U0
乙乙
次からはどう話すすめてくのか気になる
63
:
名も無きAAのようです
:2015/05/02(土) 02:52:14 ID:eMiqRTtU0
どっちの気持ちもわかる
でも、殺すまではいかねえわ
64
:
名も無きAAのようです
:2015/05/03(日) 23:02:20 ID:Wm/G2n7U0
続き期待
支援
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1695.jpg
65
:
名も無きAAのようです
:2015/05/03(日) 23:05:10 ID:R8XDixlI0
かわいいなぁ
66
:
名も無きAAのようです
:2015/05/03(日) 23:32:19 ID:lJMP/z4A0
ペニサスがもろ俺のイメージ通りだ
乙
67
:
名も無きAAのようです
:2015/05/06(水) 00:56:50 ID:GDzZS9p60
乙乙
ギコは実力行使せずに、思っていたことを正直に話してればこのデミタスなら分かってくれただろうにと思うと悲しい
でもデミタスも独りよがりっぽいとこあるみたいだから人間関係って難しいね
文章から情景が想像しやすくて面白いなあ
ペニサスと同じく牛乳派です
>>64
かわいい
68
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:01:28 ID:v1Qmnnm20
三をただちに作れ、しからば汝は富まん
.
69
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:02:41 ID:v1Qmnnm20
僕が使い魔になって一週間が経とうとしていた。
魔女の使いっ走りらしい仕事は意外な程少なかった。
せいぜいそれらしいことといえば庭から花を摘み取ってペニサスに渡すくらい。
普段は料理以外の家事ばかりを任されていた。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん」
('、`*川「なによ」
バウムクーヘンから目を離さず彼女は返事をした。
今は一枚ずつ生地を剥がす作業に夢中になっているらしかった。
ちなみに棒に巻きついている側からちまちまと剥がして食べていた。
(´・_ゝ・`)「行儀悪いよ」
('、`*川「え、バウムクーヘンってこうやって食べないの?」
(´・_ゝ・`)「食べないよ」
フォークで一口サイズに切って食べる様を見て、ペニサスはつまらなさそうな顔をした。
('、`*川「人生の半分は損してると思う」
(´・_ゝ・`)「そんなことで損するなんて君の人生どうなってるんだい」
('、`*川「これが楽しいんじゃないのー」
とうとう薄っぺらになったそれは、ぱたんと倒れてしまった。
ぶすりとフォークが突き刺さり、それは一口でペニサスの口へと吸い込まれていった。
ああ、本当に行儀が悪い。
僕は溜め息を吐いた。
70
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:03:31 ID:v1Qmnnm20
(´・_ゝ・`)「おかわりは?」
('、`*川「もういいわ。これ以上食べると夕飯食べれなくなっちゃう」
(´・_ゝ・`)「そうか」
切り分けたまま放ってあったバウムクーヘンに、僕はラップをかける。
そしてほとんど中身の入っていない冷蔵庫の中に仕舞った。
('、`*川「夕飯は内藤屋のメンチカツがいいなー」
紅茶を飲みながら言われた言葉に、僕は眉を顰めた。
内藤屋は恰幅の良い男がやっている総菜屋だ。
少し味付けは濃いが、大抵のものはうまい。
僕もあそこで作られた人参のきんぴらは絶賛したいくらい好きだった。
問題はメンチカツである。
あそこで取り扱っているメンチカツは二種類あるのだ。
一つはオーソドックスなメンチカツ。
細かく刻まれたキャベツと甘辛くにつけたひじきが入っていて、ソース無しでも食べられる自慢の逸品だ。
もう一つはチョコレート入りのメンチカツだ。
語るに恐ろしい一品だ。
一口だけ食べたことがあるが、あの甘ったるさとジューシーな肉汁が混ざったあの味はお世辞にも美味いと言えるものではなかった。
もちろん自ら食べたわけではない。
ペニサスの好物だから、無理矢理勧められて食べる羽目になったのだ。
はっきり言って、ペニサスは味オンチであった。
('、`*川「どうしたの?」
不思議そうな顔でペニサスは問う。
71
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:04:11 ID:v1Qmnnm20
(´・_ゝ・`)「いいや別に」
('、`*川「うそつき。主人に歯向かうのね」
(´・_ゝ・`)「それよりご飯はいくつ炊けばいいのかな」
('、`*川「二合」
(´・_ゝ・`)「わかった」
('、`*川「あっ」
待ちなさいこらー!などという言葉を背に浴びながら、僕はキッチンへと逃げ込んだ。
違う話を振るとすぐそれに乗せられてしまうから、彼女のあしらい方はかなり雑であった。
楽でいいのだが。
('、`*川「ちょっと!」
(´・_ゝ・`)「あれ?」
楽じゃなかったようである。
('、`*川「最近わたしの扱い雑じゃない?」
(´・_ゝ・`)「気の所為だよ」
('、`*川「気の所為じゃない」
真っ直ぐな視線が僕を射抜く。
ああ、このままでは負ける。
なぜかとっさにそう思い、僕も見つめ返した。
72
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:04:57 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「やっぱり年下にこき使われるのが嫌なの?」
(´・_ゝ・`)「その言葉を使われるほど忙しかったためしはないね」
仕事をしていた時の方がよっぽど忙しかった、と僕は振り返る。
最初こそ慣れない家事に翻弄され、ペニサスに怒られたこともある。
しかし効率よくこなすコツさえ見つけてしまえば、のんびりする時間はいくらでも出来た。
つまり、暇を持て余していた。
('、`*川「むー……」
我に返ると、なにやらペニサスは唸っていた。
どうやらずっと考え事をしていたらしかった。
そしてくるりと背を向け、キッチンを出て行ってしまった。
いまいち何を考えているのか掴めない子である。
とりあえず米を研いでしまおうと、僕が炊飯釜を取り出した時だった。
とたとたと走る音とともに彼女は戻ってきたのだ。
('、`*川「決めた!」
(´・_ゝ・`)「何をだい?」
('、`*川「明日サバトに行く!」
(´・_ゝ・`)「鯖都?」
思わず新鮮な鯖が歩き回る街を思い浮かべる僕に、ペニサスは呆れたような顔をした。
('、`*川「サバトよサバト!魔女の集まり!夜会!」
(´・_ゝ・`)「井戸端会議みたいなものかね」
('、`*川「もっと高尚なものよ!」
73
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:05:49 ID:v1Qmnnm20
ふん、と鼻を鳴らし、それからこう付け加えた。
('、`*川「たぶん」
(´・_ゝ・`)「行ったことないのか」
('、`*川「師匠がダメっていうから……」
(´・_ゝ・`)「怒られるんじゃないのかそれ」
しばしペニサスは考え、真面目な顔をしてこう言った。
('、`*川「バレなきゃ平気よ」
(´・_ゝ・`)「不良だ」
('、`*川「好きに言ってなさい」
ふん、とペニサスは拗ねたように鼻を鳴らした。
(´・_ゝ・`)「君のお師匠さんはさ」
('、`*川「ん?」
(´・_ゝ・`)「どうして君が魔女になることに反対しているんだろうね」
ずっと疑問に思っていたことを僕は口に出した。
ペニサスは一瞬狼狽えたような顔をして、それからこう答えた。
('、`*川「知らないわ」
(´・_ゝ・`)「教えてくれないのか」
('、`*川「うん」
74
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:07:45 ID:v1Qmnnm20
でもね、と言葉は続く。
('、`*川「わたしはあの人の助けになりたいの」
(´・_ゝ・`)「助けか」
('、`*川「……って言ったって、師匠からは絶対魔法のことなんか教えてくれないし。教えてくれる友達もいるけど、その人もたまにしか帰ってこないし」
はあ、とため息が一つ漏れる。
それでも彼女の瞳は力強く光を宿していた。
('、`*川「でもわたしはあきらめない」
(´・_ゝ・`)「…………」
魔女のなにが彼女をそこまで魅了するのだろう。
そこまでの影響を与えた師匠はどんな人物なのだろう。
僕の興味はますます掻き立てられていった。
('、`*川「あー、そうだ」
ふと思い出したようにペニサスは言う。
('、`*川「あとで薬作らなきゃ」
(´・_ゝ・`)「薬?何の?」
('、`*川「いつも持ち歩いてる飴あるでしょ」
ああ、あの不味い飴ね、という言葉は飲み込む。
その代わりに頷いてみせた。
('、`*川「あれ眠気覚ましの薬なの」
(´・_ゝ・`)「へえ」
75
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:08:44 ID:v1Qmnnm20
あれを食べてもなお眠そうに目をこするペニサスの姿を僕は思い出す。
オーバードーズしそうな勢いで貪っても結局うたた寝してしまうのだから、効いているとは到底思えなかった。
('、`*川「あれがないと夜更かしできないのよ。そうしたら、サバトに行けなくなっちゃうでしょう?」
(´・_ゝ・`)「……ペニサスくん」
('、`*川「なあに?」
(´・_ゝ・`)「君はつくづく魔女に向いていないよね」
('、`*川「お黙りっ」
つかつかと詰め寄り、背伸びした彼女は僕の鼻を思いっきりつまんだ。
案外痛くて、僕は思わず声を漏らしてしまった。
(´・_ゝ・`)「悪かったよ」
('、`*川「デミタスなんか嫌い。嫌いったら嫌いよ」
ぶつぶつと呟きながら、彼女は出て行った。
(´・_ゝ・`)「まったく……」
すると再び足音が聞こえてきた。
('、`*川「これ、材料だからあとで棚から出して測っといて」
今度こそ、ペニサスはキッチンから去っていった。
走り書きのメモには、乾燥した馬酔木の花やヒヨスの根など植物の部位が記されていた。
そして僕は気付く。
(´・_ゝ・`)「ごめんペニサスくん、お米いくつ炊くんだっけ」
76
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:09:34 ID:v1Qmnnm20
ペニサスにどやされながら頼まれた用事を終えた僕は、薬作りを見学させてもらうこととなった。
真っ黒な服に身を包んだ彼女の表情は、真剣そのものであった。
('、`*川「わたしがいいって言うまで喋らないで」
分かったという代わりに、僕は頷いた。
手始めにペニサスはちりちりと小さなベルを鳴らした。
それを鳴らし終えると、次は乳鉢にいくつかの種を入れた。
ごりごりと種がすり潰される音がキッチンに響く。
手際よく作業は進み、次に小さな釜の中に潰した種や葉っぱや黒い塊などを入れ始めた。
なにやら小さなボトルをポケットから取り出し、それも加えてしまった。
ボトルの中に入っていたのはとろりとした液体であったが、正体はまったく分からなかった。
ボトルと入れ替わりに、今度は鞘に収まったナイフが出てきた。
凝った装飾が施されたそれで空を切りながら、ペニサスは言葉を紡ぎ出した。
なにを詠っているのか僕にはやはりわからない。
でも鼓膜を心地よく揺らすそれは、非常に穏やかで嫌いではなかった。
ペニサスはナイフをしまい、小さな釜を持ち上げた。
釜が向かった先はコンロだった。
歌は緩やかに、蛇行する川のように遅くなる。
と同時に火がつけられた。
('、`*川「 、 、 ……。 …………」
ちりん、ちりん。
ぐつり、ぐつり。
呪文は止み、ベルの音と釜が煮えかける音がキッチンを支配する。
僕は夢から醒めたような、不思議な気分になった。
('、`*川「もう喋ってもいいわ」
(´・_ゝ・`)「お疲れ様」
77
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:10:18 ID:v1Qmnnm20
労いの言葉に、ペニサスは一瞬驚いたような顔をした。
そして照れ臭そうに、短く礼を言った。
(´・_ゝ・`)「ところでさ」
('、`*川「うん?」
(´・_ゝ・`)「どうして魔女の言葉というのは、聞き取りにくいのかね」
僕の質問にペニサスは、しばし考え込んだ。
どうやって説明しようかを悩んでいるようだった。
('、`*川「呪文って実は祈りの言葉なの」
(´・_ゝ・`)「祈りか。誰に向けて願うんだい?」
('、`*川「力を貸してもらえそうなありとあらゆるものによ」
祈りというのは髪の毛よりも細い糸のようなものだと彼女は言う。
人一人が紡ぐそれは非常に脆い。
しかしあらゆる万物や現象に語りかけることで、その祈りの数を増やしていくのだという。
('、`*川「あらゆる境界線を知れば、その分わたしたちが認識できる他物は増えていく。知らなければそれに語りかけることはできないの」
(´・_ゝ・`)「知らなければいないのと一緒というわけか」
('、`*川「そういうこと」
(´・_ゝ・`)「じゃあ僕の時はなんて祈ってたんだい?」
するとペニサスは苦笑した。
78
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:11:04 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「教えられないわ」
(´・_ゝ・`)「どうして?」
('、`*川「相手に知られてしまうとどんなに強い魔女でもその魔法を解くことは出来なくなるの」
(´・_ゝ・`)「まるで呪いだな」
('、`*川「まじないものろいも本質は同じよ」
多数の祈りが少数を飲み込むのなんてわけのない事だという。
その間に魔女が入ることで祈りを淘汰し、効きすぎないようにセーブするのだそうだ。
(´・_ゝ・`)「なるほど」
('、`*川「わかった?」
(´・_ゝ・`)「大体はね」
それよりも僕は気になることがあった。
(´・_ゝ・`)「ところでペニサスくん」
('、`*川「なに?」
(´・_ゝ・`)「これ本当に大丈夫なのかい」
79
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:11:44 ID:v1Qmnnm20
思わず釜を指差してしまった。
ありえない色合いの泡を噴き出しながら煮えるそれは、まさしく毒物であった。
('、`*川「大丈夫よ」
なんだそんなことかと言わんばかりのペニサスに、
(´・_ゝ・`)「あ、そう」
としか返せなかった。
一度はこの液体が凝り固まった物体を食べてしまったんだよな、と僕は暗い気持ちになった。
('、`*川「どうしたの?」
(´・_ゝ・`)「どうもしないよ」
もう二度とペニサスの勧めるものは食べるまいと僕は心に決めたのだった。
80
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:13:01 ID:v1Qmnnm20
薬が完成した後、慌ただしく食事と入浴を済ませてペニサスは床に就いた。
明日のサバトに備えてなるべく多く寝ようという魂胆であった。
一方僕はまったく眠れず、こまめに寝返りをうっていた。
生きていた頃は睡眠時間が全くとれず、四時間寝れば十分といった暮らしぶりだった。
しかし今は日付が変わる前に寝る体制が整ってしまう。
くわえてそれほど忙しくもないので、全く疲れなかった。
眠くなるわけがなかった。
(´・_ゝ・`)「はあ」
時刻は九時半過ぎ。
いつもならペニサスと一緒に風呂上がりのアイスをつつく頃合いだ。
特に会話もしないが、誰かがそばに居るだけでなんとなく安心感があった。
こういう時に限って、どうしてか人恋しく思っていた。
今まで一人で暮らしていたというのに、なぜ。
ごろんと再び寝返りを打つ。
衣擦れの音がやけに響く。
カチカチと時計の針が進む。
時間を無為にしているような気がした。
体が空虚に感じられる。
急き立てられるような気配によって胸の奥が焦土と化す。
僕はまた寝返りを打った。
私物が入った段ボール箱が目に入る。
住んでいた部屋から持ってきたものだ。
しかしこれといって、持っていきたいと思うものは少なかった。
まさか一箱で済んでしまうとは僕も思っていなかったのだが。
(´・_ゝ・`)「ああ」
81
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:13:56 ID:v1Qmnnm20
思わず声が漏れる。
カーテンを引いているのに、蔓に覆われているのに、窓から月光が射してくる。
白く、柔らかく、全てを暴くような月光。
こんなにも月は明るいものだっただろうか。
昔からそうだったのだろうか。
僕は全く、知らなかった。
ちなみに僕の寝床は居間である。
ペニサスが簡易ベッドを空いているスペースに設置してくれたのだ。
白家具で統一された部屋に、黒い鉄パイプベッド。
せっかく綺麗に誂えてあったのに、台無しであった。
かといってまさかペニサスの部屋に泊まりに行くわけにも行かないのだが。
(´・_ゝ・`)「…………」
軽く目を瞑る。
全てを遮断しようと試みた。
真っ暗だ。
何も見えない。
かつかつと靴音が聞こえる。
反射し、響いて、何人も歩いているような錯覚。
でも錯覚なのだ。
僕はこの音をよく知っている。
あのトンネルの中を歩いているとこんな風な音がするのだ。
僕は一人だ。
一人で歩いている。
エンジン音が遠くからやってくる。
加速してやってくる。
僕を殺しに、やってくる。
82
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:14:44 ID:v1Qmnnm20
あっという間にその時は訪れた。
僕の体は宙に舞い、壁へと激突した。
骨が折れる。
血が垂れる。
息を吐き切ったきり、吸うことができない。
息苦しい。
僕はまた死んだのか?
「おい」
と声がする。
無様に転がる体が持ち上げられる。
(,,゚Д゚)「てめぇなんか死んじまえばよかったんだ」
ギコくん、と呼びかけようとした。
しかし喋ることはできない。
僕は死んでいるからだ。
(,,゚Д゚)「くたばれ」
くたばっているよ。
(,,゚Д゚)「死に損ないが」
そうだね。
(,,゚Д゚)「二度と俺を苦しませるな」
そんなつもりはなかったんだ。
83
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:15:37 ID:v1Qmnnm20
(,,゚Д゚)「死ね」
うん。
(,,゚Д゚)「偽善者が」
本当に、すまなかったよ。
(,,゚Д゚)「みんなてめぇを見下してんだよ、クソ野郎が」
そうかもしれないね。
僕は、どうしようもない人間だったんだ。
体にナイフが埋もれていく。
何本も何本も。
それが誰の手によるものなのかはわからない。
わからなくてもよかった。
ただ奇妙なことに、責められると楽だった。
善人であろうとするには相当な労力がいるのに、こうしているととても心地よく感じられた。
もうクズでもバカでもいいのかもしれない。
僕はもう––––。
……?
「…………、デミタス!」
と、その時声がした。
84
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:16:21 ID:v1Qmnnm20
(´・_ゝ・`)「……うん?」
浅い眠りから覚めると、ペニサスがそばにいた。
('、`*川「寝てた、よね……?」
(´・_ゝ・`)「いや、うとうとしてた」
あまり眠れなくて、と欠伸しながら答えるとペニサスは少しホッとしたような顔をした。
('、`*川「わたしも眠れないの」
(´・_ゝ・`)「夜更かしが苦手な君が?」
茶化すように言うと、
('、`*川「そうね」
と素っ気なく返事が返ってきた。
どうやら真面目に悩んでいるようだった。
(´・_ゝ・`)「それで、何をしに来たんだい」
('、`*川「眠くなるまで話をしていたいの」
(´・_ゝ・`)「ああそう」
僕は体を隅に寄せた。
あまり広くないベッドだが、まぁなんとか寝れなくはないだろう。
などと考えていたのだが、ペニサスはキョトンとした顔でそれを眺めていた。
85
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:18:23 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「え、一緒に寝るの?」
(´・_ゝ・`)「今はまだ暖かいけど段々これから冷えるから風邪ひくよ」
('、`*川「いいわよ、そんな……」
(´・_ゝ・`)「風邪引いたらサバトに行けなくなるかもしれないよ」
実際今日の彼女は薄手のTシャツであった。
ここ最近陽気が良かったので、あの着ぐるみは仕舞ってしまったのだろう。
ペニサスはしばし考え、体を動かした。
('、`*川「狭くない?」
(´・_ゝ・`)「僕は平気だけど、嫌なら床で寝るよ」
('、`*川「寝なくていい」
風邪引くといけないから。
背を向けて、小さく言葉が返ってきた。
僕もそれに習って背を向けることにした。
あまり他人の背中をじろじろ見るのも失礼だろう。
('、`*川「デミタス」
(´・_ゝ・`)「なんだい」
('、`*川「デミタスにも怖いものはあるの?」
86
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:19:13 ID:v1Qmnnm20
(´・_ゝ・`)「あるよ」
('、`*川「あるの?」
(´・_ゝ・`)「僕だって人間だよ。もう死んでるけどさ」
('、`*川「ふうん」
一瞬の沈黙。
ペニサスの呼吸だけが聞こえる。
浅く息を吸って吐く音だけが。
('、`*川「実は」
(´・_ゝ・`)「実は?」
('、`*川「……サバトに行くのが怖いの」
師匠と友達以外の魔女に会ったことがないのだとペニサスは言う。
彼女の知識は書庫にある本と師匠から聞いた一握の話だけ。
どんな魔女がいるのか、果たして師匠に認められなかった自分を彼らは受け入れてくれるのか。
('、`*川「今までは師匠に追いつこうとするのに必死で、そんなの考えたこともなかった」
ゆっくりと、息が吐き出される。
憂いを含んだそれは部屋に淀み、僕らを取り囲む。
僕はなんとなく片手を振り回した。
散り散りになって消えてしまえばいいと思った。
('、`*川「デミタス?」
(´・_ゝ・`)「いや、少し暑くなったような気がして」
87
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:21:56 ID:v1Qmnnm20
適当なことを言って誤魔化す。
納得したかどうかはわからない。
彼女はなにも言わないからだ。
('、`*川「…………デミタスが怖いと思うものって、なに?」
(´・_ゝ・`)「今度は僕か」
('、`*川「いつも飄々としてるし、なに考えてるかわからないもの」
(´・_ゝ・`)「…………」
そんな風に思われていたのか。
少しショックだったが、思い返すとそうだったかもしれない。
彼女の前で笑ったことも怒ったこともない。
ただペニサスに言いつけられた通りに仕事をして、決まった時間に食事を摂っていただけだった。
そこに会話はない。
僕もまたペニサスがなにを考えているのかわからなくて、なにもしなかった。
……いや違う。
怖かったのだ。
ちょっとした立ち振る舞いが、他人にどう受け止められるのかが。
優しくしたつもりが、相手にとって不服だったら?
または傷付けてしまったら?
他人が僕の挙動をどう見ているのか、考えているのか。
その恐怖はだんだんと僕の手足を拘束し、脳に染み込んでいった。
('、`*川「デミタス?」
魔女の声が聞こえる。
88
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:24:05 ID:v1Qmnnm20
(´・_ゝ・`)「僕は他人が怖いよ」
('、`*川「怖いの?」
(´・_ゝ・`)「僕の行動の一つ一つが他人にどう思われているのか、すごく怖いよ」
告白と共に、毒を吐瀉したような気分になった。
自覚すればするほどその毒は溢れ、僕の体はますます重くなった。
('、`*川「そんなこと考えてたの?」
そんなこと、と一蹴されてしまった。
君にとっては些細なのかもしれないけど、僕にとっては深手なんだよ。
と口から出掛けて飲み込んだ。
怒るかもしれないと思ったからだ。
('、`*川「あ、今なんか言いかけてやめたでしょ」
バレている。
(´・_ゝ・`)「何故、そう思ったんだい」
('、`*川「そういう時って臆病になるから」
がさごそともがく音。
寝返りを打ったのかもしれない。
僕は振り向けずにいた。
('、`*川「わたしが魔女になりたいと師匠に言った日、」
(´・_ゝ・`)「…………」
('、`*川「すごく怒られたわ」
89
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:25:30 ID:v1Qmnnm20
『どうしてそんなことを言うんだい。君は、ただ生きているだけでいいのに』
そう言われた瞬間、ペニサスは憧憬や願望を持つことが悪い事なのかと悩んだ。
どうして魔女になってはいけないかを問うても、師匠は口を噤むばかり。
けれどもどうしても助けたかった。
師匠は世界中の不幸を摘み取ろうとしているのだそうだ。
無数に散らばる全ての不幸を。
('、`*川「みんなに幸せでいてほしいって、師匠は言うけど。でも、帰ってくるとすごく疲れた顔をしてる時があるの」
(´・_ゝ・`)「つまり君はお師匠さんの幸せを願っているんだね」
('、`*川「うん」
(´・_ゝ・`)「いい子だね、ペニサスくんは」
('、`*川「でも魔女になることで師匠を不幸にするのかなとも思うの」
(´・_ゝ・`)「だけど君は師匠のためになにかしたいんだろう?」
('、`*川「そうね」
(´・_ゝ・`)「生きているだけでいいなんて、ずっとそのままそこで留まるのは無理だよ。ペニサスくんは若いんだし先があるんだから、やりたい事なんて幾らでも思いつくだろう」
そういえば、と僕は聞きそびれていたことを思い出した。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくんは一体いくつなんだい?」
('、`*川「…………」
ペニサスは黙してしまった。
もしかして聞いてはいけないことだったんだろうか。
背中をつぅっと冷や汗が流れた。
90
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:26:20 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「実は、わからないの」
(´・_ゝ・`)「え?」
予想外の返答に僕は戸惑う。
('、`*川「記憶喪失なの。師匠に拾われる前のことはさっぱり覚えてなくて」
(´・_ゝ・`)「ああ……。てっきり長生きしすぎて年がわからないとかそういうのかと」
('、`*川「勝手におばさんにしないでよ」
(´・_ゝ・`)「ぐぇっ」
背中を勢いよく蹴飛ばされ、思わず噎せる。
('、`*川「というか、他人が怖いって言う割には遠慮がないよね!」
(´・_ゝ・`)「いだだだ、痛いよペニサスくん」
先ほどよりは軽い蹴りが僕を襲う。
掛け布団がもみくちゃになり、ずれて、床へ吸い込まれていった。
かわりに凛と冷えた空気が落ちてきた。
(´・_ゝ・`)「ああもう、埃だらけになっちゃうよ」
('、`*川「じゃあ明日掃除してよ」
(´・_ゝ・`)「君が散らかしたのに」
('、`*川「でもあなたが使い魔なのよ?」
(´・_ゝ・`)「職権乱用だ」
91
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:27:09 ID:v1Qmnnm20
ふざけた会話をしていくうちに、僕は一つ気付いたことがあった。
ペニサスはとても素直だ。
建前もなにもなく、いつだって本音で僕にぶつかってくる。
だからどうしても、からかいたくなってしまうのかもしれない。
それがとても楽しくて仕方がなかったのだ。
(´・_ゝ・`)「やれやれ」
僕は落ちた布団を拾いに起き上がった。
気付けば月光はさらに青白さを増していた。
(´・_ゝ・`)「今日の満月はずいぶん大きいね」
思わず口に出すと、ペニサスが答える。
('、`*川「満月は明日よ。今日は小望月」
(´・_ゝ・`)「そうなの?」
('、`*川「サバトは満月の夜に開かれるんだって」
ベッドから降りて、ペニサスは窓へと近付いた。
鍵が外され、カラカラと窓が開かれる。
甘ったるい花の匂いが部屋に雪崩れ込んだ。
ペニサスはほんの少し蔦をどけて、手招いた。
('、`*川「ほら、見て。ほんの少しだけ欠けてるでしょ」
(´・_ゝ・`)「……わかんないな」
92
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:28:19 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「えー、わかんないの?」
(´・_ゝ・`)「うん」
('、`*川「老眼?」
(´・_ゝ・`)「老眼は近くが見えなくなるんだよ」
('、`*川「そうなの?」
(´・_ゝ・`)「きっと僕のは仕事でパソコンとにらめっこしてたから、目が悪くなったんだよ」
('、`*川「ふーん」
そのまま僕たちは、ずっと話をしていた。
真っ黒な空が瑠璃色に変わっても、月が薄ぼけても、ペニサスに眠気は訪れなかった。
結局、彼女が眠くなり始めたのはすっかり夜が明けてしまった頃だった。
('、`*川「夜の九時までには起こしてね……」
そう言い残して、ふらついた足取りでペニサスは部屋へと戻っていった。
僕もまた眠気に襲われ、ベッドに突っ伏した。
そして起きた頃には、夜の十時を少し過ぎていた。
93
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:30:17 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「デミタスのバカ」
(´・_ゝ・`)「すまなかった」
('、`*川「アホ」
(´・_ゝ・`)「まさか寝過ごすとは思わなくて」
('、`*川「オタンコナス」
(´・_ゝ・`)「だからごめんって」
('、`*川「ドテカボチャ」
(´・_ゝ・`)「ずいぶん懐かしい罵り言葉だねそれ」
('、`*川「うどんで首吊って死んじゃえ」
(´・_ゝ・`)「うどんが勿体無いよ」
ふざけているように見えるが、必死であった。
僕はきいきいと音を立てながら自転車を漕いでいるし、ペニサスは振り落とされまいと必死にしがみついていた。
そろそろ太ももが限界であった。
しかし漕ぐのを止めるわけにはいけなかった。
昨日の話を聞いてしまったら、彼女の決断をふいにするわけにもいかなかった。
('、`*川「次の角を右!」
吹き荒れる春風に、彼女の声が巻き上げられる。
僕はそれに従ったが、もはやどこをどう走っているのかわからなかった。
今まで何回も細かく角を曲がり続けていたからだ。
ただ何故か、人にも車にも出会うことはなかった。
路地にも大きな通りにも、だ。
一人くらい見かけても不思議ではないはずなのだが。
94
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:31:31 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「そのままずっとずっと真っ直ぐ走って!」
(´・_ゝ・`)「はいはい」
それなら楽である。
二人乗りしている自転車を倒さずスピードを落とさずに曲がるのは難しいのだ。
暗闇を煮詰めたような色のアスファルトは街灯に照らされていた。
ずっとずっとそれは続いていて、こんなに長い道があるんだろうか、と思い始めていた。
そういえば分岐も十字路もなにもない。
ふと顔を上げて、周りの家を見まわそうとした。
しかしそこには、灰色の塀が立ちはだかっていた。
天まで届きそうな高さのそれによって、空が切り取られている。
見たこともない大きさの月が、僕たちを見下ろしていた。
薄ら寒さを感じ、僕は真正面を見据えることにした。
(´・_ゝ・`)「うわ、」
強烈な風が駆け抜け、自転車が揺れる。
なんとか体勢を整える。
再び風が吹く。
今度は無数の紙を孕んだ紙だ。
極彩色の服に身を包んだマネキンのチラシ。
小さな硝子に根を生やす植物の絵。
こちらに笑いかける少女と「探しています」の文字。
箱に納められた箱の中から更に箱が納められている箱の写真。
様々な情報が僕の網膜を焼いていく。
(´・_ゝ・`)「っ!」
('、`*川「ひゃっ!」
ガタンと自転車が揺れる。
95
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:33:58 ID:v1Qmnnm20
いつの間にかアスファルトは消え去り、砂利道と化していた。
思わずパンクの心配をしてしまうほどの悪路は思ったより短く終わった。
でもまだその方がマシだったかもしれないと僕は思った。
いかにも滑りそうな、赤茶けた地面の下り坂が待ち受けていたのだ。
(´・_ゝ・`)「待て待て待て」
僕は、ジェットコースターが大っ嫌いである。
幼少期に親父に乗せられて以来、もう二度と乗るものかと誓ったのだ。
それがどうして、自転車で再現されなければいけないのか!
(´・_ゝ・`)「……………………」
僕は悲鳴の一つも出せないまま、坂を下った。
なされるがままである。
後ろでペニサスがなにか叫んでいるような気がしたが、聞き取る余裕などなかった。
がっ、ごんっ!!!
勢いよく自転車が着地する。
君も大変だね、こんな目に遭うと思わなかっただろう。
なんてことを考えながら、無意識に自転車を漕ぐ。
気付けば道は消え失せていた。
その代わりに両側から現れた躑躅の木にはさまれていた。
鮮やかな桃色の花は、僕たちを押し潰さんばかりの勢いで咲き誇り、ギリギリまで迫る。
「……ヒータ パッサチーマ フィーラ フィーラ !」
「ヤッアヒータ パッサチーマ フィーラ フィーラ!!」
(´・_ゝ・`)「フィーラ、フィーラ?」
96
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:35:32 ID:v1Qmnnm20
終わりは唐突にやってきた。
躑躅の花が竜巻のように集まり、僕たちの前に立ちはだかった。
从 ∀从「上出来!上出来!!」
それはあっという間に人の形を成した。
緑がかった闇色の別珍で出来たドレスを纏ったその女は、にっこりと微笑んで見せた。
从 ゚∀从「ようこそ、サバトへ!」
躑躅と同じ色の瞳が僕を貫く。
目が合ったのはほんの一瞬だ。
しかしその僅かな時間で、人定めをしているのがわかった。
从 ゚∀从「随分デカい猫だね」
('、`*川「猫じゃないわ、死体なの」
自転車から降りたペニサスに、躑躅の魔女は桃色の髪を揺らした。
从 ゚∀从「ハッハー! ちょっとした言葉遊びだよお嬢ちゃん!」
彼女はペニサスの手を取ると、さっさと歩き始めた。
从 ゚∀从「よくここまで来たね。あんなの無鉄砲か馬鹿しか乗らないぜ」
97
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:36:16 ID:v1Qmnnm20
(´・_ゝ・`)「彼女は箒に乗れないんだよ」
从 ゚∀从「だろうな。アタシも乗れねえもん」
('、`*川「乗れないの?」
从 ゚∀从「向き不向きがあるんさね。アタシは盥が一番安定して遠くまで飛べるよ」
体育座りで盥の中に収まる様を想像して、僕は笑いそうになった。
まさか初対面の相手にそんな失礼なことをするわけにはいかないので、頰を噛んで凌いだが。
从 ゚∀从「ま、チャリはおよしよ。せっかく魔女になるんだったら人間の移動道具なんか使っちゃいけないよ」
('、`*川「知らなかったのよ、箒以外にも空を飛べる道具があるなんて」
从 ゚∀从「誰か教えてくれる奴はいないのか?」
('、`*川「いるけど、でも……」
さあ着いた、と躑躅の魔女はペニサスの手を離す。
そこはどうやら、教会のようだった。
すっかり朽ち果てているが、屋根の天辺についた十字架で僕はそう判断した。
潰れた教会が魔女の集まりになっているとは、なんとも皮肉であった。
〈::゚-゚〉「それが例の魔女かい?」
角ばった顔の魔女が、くぐもった声でしゃべった。
よく見ると顔は石で出来ていた。
いや、顔ばかりではなく体も石であった。
真っ黒なローブから見えた手はキラキラと輝きを放っていた。
どうも水晶かなにかで出来ているようだった。
从 ゚∀从「そうそ、さぁ自己紹介をどうぞ。お嬢さん」
98
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名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:38:21 ID:v1Qmnnm20
恭しく、滑稽な言い回しで躑躅の魔女は頭を下げた。
ペニサスは戸惑ったように一歩前へと出た。
('、`*川「ペニサス、です。彼はわたしの使い魔のデミタス」
軽く会釈をすると、石の魔女はじっと僕は見つめた。
〈::゚-゚〉「死体か」
(´・_ゝ・`)「轢き逃げされたところをペニサスくんに見つけてもらいましてね」
〈::゚-゚〉「そりゃおもしれえ」
石の魔女は目を細めてそう言った。
('、`*川「えっと、ほとんど独学で勉強してるのであんまり魔法は使えないです」
〈::゚-゚〉「師匠抜きで勉強してサバトに来れるなんて大した奴だね」
('、`*川「そんな、わたしなんて……」
从 ゚∀从「こいつなんて途中の道でビビって帰っちまったんだぜ」
〈::゚-゚〉「それを言うならお前だって行き方を間違えて三ヶ月は出そびれたじゃねえか」
('、`*川「あ、あの……」
从 ゚∀从「要するに一発で来れたペニサスはスゲーってことだよ」
躑躅の魔女の褒め言葉に、ペニサスは複雑そうな顔をした。
('、`*川「わたしはすごくないです。運転したのはデミタスだし……」
(´・_ゝ・`)「でも地図は君が持ってたじゃないか」
〈::゚-゚〉「地図?」
从 ゚∀从「んー? 独学だったんじゃねえの?
('、`*川「独学といっても、師匠の書庫から本を読んでて……」
99
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名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:39:49 ID:v1Qmnnm20
〈::゚-゚〉「その人に教えて貰えばいいのに」
('、`*川「師匠からは魔女にならなくていいって言われてて……」
从 ゚∀从「へえ、じゃあアタシから一発ガツンと言ってやるよ!」
その言葉にペニサスは慌てたように首を振った。
('、`*川「そんな、いいです!」
从 ゚∀从「よくねーよ」
〈::゚-゚〉「もしかしたらその才能に嫉妬してるのかもね」
('、`*川「で、でも」
〈::゚-゚〉「いいかいお嬢ちゃん」
石の魔女は優しく語りかける。
〈::゚-゚〉「実は今日、ここでのサバトはないんだ」
('、`*川「え」
从 ゚∀从「今日は何日?」
('、`*川「四月の、三十日」
〈::゚-゚〉「その日から明日にかけて、ドイツで大規模な祭があるのさ」
从 ゚∀从「ヴァルプルギスの夜ってやつだね」
('、`*川「ヴァルプルギスの夜……!」
100
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名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:41:24 ID:v1Qmnnm20
しまった、というような表情でペニサスは言った。
(´・_ゝ・`)「悪いんだけどもそのナントカの夜ってなんだい?」
('、`*川「春の訪れを祝うお祭よ……」
気の抜けたような声で、ペニサスは答える。
('、`*川「魔女にとっては大事なお祭だから、日本にいる魔女もみんなそこへ行くんだわ……」
从 ゚∀从「そーゆーコト」
(´・_ゝ・`)「でもなんで貴女がたはここに?」
〈::゚-゚〉「体そのものはドイツにいるんだけどもね、魔法でこちらに魂を投影させているのさ」
从 ゚∀从「こいつが占いで『偉大なる才能現る』って出したからな。抜け駆けしてこっちにきたってわけよ」
つまり大事な祭よりもペニサスのほうがよっぽど物珍しいということだ。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん、僕にはさっぱりわからないけど凄かったんだね君は」
('、`*川「そうなのかなぁ」
自信なさげにペニサスは返す。
いつもより元気がない。
師匠のことを考えているのだろうか。
从 ゚∀从「卑下すんなよ。普通一人じゃ猫一匹だって使い魔にできる魔女なんざいねえんだぜ?」
〈::゚-゚〉「だから教えておくれ。頑固な師匠を説得したくなるほどの力が君には秘められているんだよ」
('、`*川「…………」
101
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名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:42:19 ID:v1Qmnnm20
しばし考え、ペニサスは口を開いた。
('、`*川「ショボンさん」
从 ゚∀从「…………」
〈::゚-゚〉「…………」
サァッ、と風が吹いた。
先ほどまでの涼やかな風ではない。
生暖かく、ゆっくりとすべるような風だ。
〈::゚-゚〉「…………あいつか」
石の魔女がようやくそう呟いた。
その声はとても暗く、どこか敵意が込められていた。
从 ゚∀从「……なぁ、ペニサス。アタシんとこに来ないか? アタシだったら意地悪しないでいくらでも教えてやるよ!」
('、`*川「でも、」
从 ゚∀从「はっきり言うけど、あいつはお前が思ってるような奴じゃねえよ」
('、`*川「!!」
その瞬間、ペニサスは躑躅の魔女へと詰め寄った。
('、`*川「あの人のこと、そんな風に言わないで!!」
从 ゚∀从「で、でも」
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