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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双
1
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:37:04 ID:w.OycBSI0
お久しぶりです。2年ほど放置してしまいました。すみません。
VIPはすぐ落ちるとのことなので、こちらをお借りさせていただきます。
今回は最終話一つ前の第7話です。遅かったくせにすみません。
ご存じない方は、下記URLを参考ください。
ブーン文丸新聞 様
第一部 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire/retire.htm
第二部完結編 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire2/retire2.htm
では、開始します。
2
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:38:24 ID:w.OycBSI0
/ ,' 3「…来たかい、ロマネスク君」
( ФωФ)「ハッ!」
王都『NEET』
VIP大陸の中枢にして、最堅の城塞都市だ。
都市の周りは高い城壁で囲まれており、空中にも結界が張り巡らされている。
唯一出入りの出来る門は、選りすぐりの小隊が守っておりセキュリティ面でも万全。
街並みは古きよき文化の伝統を受け継いだままだが、所々で魔法による影響により発達した文明が頭角を現している。
手紙のやり取りは伝書鳩ではなく、文面そのものを相手の家へ送信する『電報魔法』の普及によりスピーディとなり
火炎魔法と物質変換魔法の応用によって、都市の内部の移動は『鉄道』で出来るようになった。
魔法が使える者も、そうでないものも皆平等にその利便さを満喫できるよう、文化革命が起こっている。
その中心にあるのが、この王都NEETなのだ。
さて、
そんな都市のど真ん中に、高くそびえる城がある。
ステンドグラスやコリントの装飾が施されている柱。
ピラミッドを作るように土台から最上階まで面積が狭くなるつくりの古代式の城
そこがこの大陸の最高権力者、スカルチノフ王が住むNEET城である。
3
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:39:52 ID:w.OycBSI0
急な電報魔法を受けたロマネスクは、遠く離れた王都へ馬車を走らせ一日かけてたどり着いた。
そして今、謁見の間にて膝をつき頭を垂れて王と対峙しているのだ。
/ ,' 3「急ですまないね。
聖騎士でもあり、養成学校の教官でもある君を呼び出すのは忍びないことだったのじゃが…」
( ФωФ)「いえ、王の命より大事なことはございません。
して、私に一体何の用でございましょうか…?」
/ ,' 3「うむ。一年ほど前からかの。彼を感じるのじゃよ」
( ФωФ)「彼…?」
/ ,' 3「あれほどの魔力、そして独特の波動を持つ人間は二人とおるまい」
ロマネスク王は蓄えられた髭を撫でながら、小さな悪戯でもするかのように勿体ぶってから言った。
/ ,' 3「モララー=レンデセイバーの魔法の発動を感じるのじゃ」
(; ФωФ)「モララー殿のっ!?」
思わず立ち上がって驚いてしまうロマネスク。
慌ててその愚行に気づき、再び跪くが、スカルチノフは立ち上がることを許す。
今日は近衛騎士や魔術師も傍に置いていない。
戦前からよく目をつけられ、年齢差はあれども『友』として認められていたからこその対応だ。
故にスカルチノフは、ロマネスクを何度も近衛騎士へと昇格させようとしたが、ロマネスク自身がそれを拒否した。
常に戦線の最先端へ、そして街にも目を張り巡らせるためには近衛騎士ではなく聖騎士で十分なのだ。
破格の給与、栄誉が与えられるというのに、それを蹴り大陸のことを思った心身ともに立派な騎士の考えを無下には出来ない。
そう考え、スカルチノフも彼の意思を重んじ聖騎士のまま、それでありこれからも友人であることを約束させ戦後の措置を行ったのだった。
4
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:41:07 ID:w.OycBSI0
/ ,' 3「近衛魔術師ぐらいしか使えぬ空間転移魔法の発動。
一度きりじゃったが、物質認識転移魔法も感じた。あれは彼オリジナルの魔法じゃ、間違えるはずもない」
/ ,' 3「そして、つい先日のことじゃ。大魔法の発動を感じたよ」
( ФωФ)「大魔法の…?」
/ ,' 3「あぁ。ワシでもまだ上手く扱えない大魔法を軽々と使っておったみたいじゃよ…。それも連発での」
( ФωФ)「……して、王様。私を呼び出した理由とは?」
/ ,' 3「うむ。話が長くなってすまんの」
今度は、真摯に真面目にロマネスクは共へ頼みごとをした。
/ ,' 3「簡単な理由じゃよ。ワシと一緒に、とある場所へ来て欲しいのじゃ」
( ФωФ)「とある場所…?」
―――
―――――
―――――――
5
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:41:55 ID:w.OycBSI0
(; ∀ )「……」
秋風の吹く山間の開拓地。
一年間かけて、ただの荒野を畑へと変貌させたその土地で彼は今日も畑仕事に精を出す。
流れる汗も、身体にまとわりつくシャツも、振り上げられる鍬もいつも通り。
ただ一つ、違う所がある。
いつだって絶やさなかったその笑顔が……そこにはないのだ。
すぐ側にはトソンが同じように手伝っている。
誰かが居るとき、彼は決して自分の心の内を顔には出さなかった。
怒っている時だって、嘆いている時だって
彼は薄ら笑みを浮かべで、そのすべてを達観するようにして立っていた。
先日撃退した、ラウンジ大陸最強の武士、毒田ドクオとの激戦以降
モララーの中から『余裕』という言葉が消えてしまったのだった……。
第7話『少年の悩み』
6
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:43:24 ID:w.OycBSI0
(゚、゚;トソン「ふぅ…そろそろ休憩にしませんか?」
軍手をつけたまま、首にかけたタオルで顔を拭きながらトソンが問う。
涼しくなってきたとはいえ、農業のような重労働をすれば汗は自ずと垂れてくる。
この一年で季節ごとの太陽の動きを覚えていたトソンはお昼時だと判断し、お腹の虫との決議も経てその提案をモララーにしたのだった。
(; ∀ )「…あぁ、そうだね。僕はもうちょっとやれそうだから、先に休んでくれてていいよ」
(゚、゚;トソン「……そうですか」
言葉通りにトソンは行動を開始する。
農具は一度その場に置き、軍手を外して小屋の方へと歩いていく。
(゚、゚トソン(最近、どうも一人になりたがってるみたいなんですよね…)
現在では、一番近しい者だからこそ気づく違和感。
食事も極力一緒に取りたがらず、行動は同じでも言葉で交わろうとしてくれない。
( 、 トソン(何か嫌われるようなことをしてしまったのでしょうか…)
別段、おかしなことをした記憶は無い。
大事な物や記憶に触れたり、無神経な台詞を投げかけたこともない。
明確にわかっていることは、自分が熱を出した期間からこうなってしまったことだ。
もしかすると…寝言で素性をバラしてしまったのか?
疑問は更なる疑問を生む。
結局は、答案を見なければ悩み続けるだけだというのだが…その勇気はまだ持てない。
理由は単純。
今の関係が壊れてしまうのが怖いから。
7
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:44:21 ID:w.OycBSI0
自分は彼の傍に居たいし、離れるつもりもない。
記憶喪失したまま、ただのラウンジ大陸民という設定でこれからも付き合っていきたいと心から願っている。
たとえ心の広いモララーといえども、自分を目標にした暗殺者が傍にいてのうのうと暮らしている、と知ったら拒絶することは必至だろう。
それが嫌だから、トソンはいつまでも記憶が戻っていないフリを続けていた。
(゚、゚トソン「……」
でも、こうなってからは薄々思ってしまう。
彼は優しい人だ。
発熱時、自分が素性を話してしまったとしてもすぐには言ってこないだろう。
何よりもっと単純に。彼は至高の魔法使いだ。
気になって魔法を使えば、武士である自分には全く気付かれず全てを知ることなんて簡単なことだろう。
一人になりたがるのは、そのことに対して悩んでいるからだろうか…。
ふと、視界に入っている森の奥が青白く光る。
そういえば今日は休日だっけ。
朝早くではなく、お昼頃にわざわざ来るのは彼らなりの気遣いなのだろうか。
( ^ω^)「こんにちはーだお」
いつものように、声の大きいブーンが一番前に立ち大きく手を振って歩いてくる。
後ろにはツンとショボン。珍しくツーも今日は来ていた。
8
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:45:21 ID:w.OycBSI0
(゚、゚トソン「いらっしゃい。モララーさんもすぐ来るから、入って待ってて」
ニコリと笑顔を浮かべてトソンは小屋へと子供たちを案内した。
ガチャリ。戸の開ける音を立てて、モララーは静かに小屋へ入ってきた。
( ^ω^)「あ、モララーさん! こんにちはだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「こんにちは。お邪魔してます」
(*゚∀゚)「よーモララー兄ちゃん!」
(´・ω・`)「今日は随分と精が出ていたみたいですね」
(; ∀ )「……」
みんなの言葉をモララーは無言で受け止める。
そして、彼はそれに対して何か反応をすることなく、入ってきた時のように静かに屋根裏へと足を進めた。
余りの今までとの反応の違いに、子ども達はしばし放心する。
ブーンはツンと見つめあってから首をかしげ、
ツーは食べかけのお茶菓子をフォークに突き刺したまま停止、
ショボンはそんな彼らを見て、自分なりに何かわからないかと分析しようとしていた。
(゚、゚トソン「……あの、もしかして体調でも悪いんですか?」
心配になったトソンは、汗のついた服も変えずにベッドに身を投げ出していたモララーを気遣った。
( ∀ )「……いや、そんなことはないよ。心配をかけてごめんね」
9
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:46:19 ID:w.OycBSI0
腕で目を覆いながら、モララーは若干のラグを作ってから問いに答える。
そして、再び間を置いてから言葉を紡いだ。
( ∀ )「本当に申し訳ないんだけど……ちょっとだけ静かにしていて欲しいんだ」
(゚、゚トソン「……わかりました」
トソンは少し考えてから、階下に降りていく。
その言葉の意味を理解し、トソンは優しく子どもたちにお願いをした。
(゚、゚トソン「ごめんね、モララーさんちょっとだけ疲れてるみたいなの。
少し休めば回復するみたいだから、今日は外でピクニックでもしましょうか」
(*゚∀゚)「おー! いいな、それ!」
ξ゚⊿゚)ξ「疲れてるって……本当に大丈夫なんですか? モララーさん」
(゚、゚トソン「心配はいらないから、行こうか。今日はお天気もいいし!」
(´・ω・`)「まぁ、外はびっくりするくらいの曇天ですけどね」
(^、^;トソン「と、とにかく行こう!」
( ^ω^)(……大魔法を使ったから疲れたのかお?
いや、モララーさんがそれくらいで疲れるわけないおね)
ξ゚⊿゚)ξ(じゃあ、もっと別の……?)
(´・ω・`)(何にせよ、そっとしておくのが守られた側の礼儀だろうね)
トソンに背中を押されながら、先日の死闘を見ていた子ども達は各々理由を探しながら外へ出た。
何も知らないツーだけが、年相応らしく外へと駆け出して行ったのだった……。
(゚、゚トソン(……)
その時、子どもの背を押しているトソン自身は――――
10
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:47:20 ID:w.OycBSI0
( ∀ )(……僕は……)
扉の閉まる音が聞こえると、静寂が訪れた。
少しの間、子ども達の喧騒も聞こえていたが数分もすればそれも無くなる。
風の音すら聞こえない、完全な無音空間。
いつ以来だろう。一人になるのは……。
戦争を終えてから、数ヶ月。ここを見つけて、僕は居住を始めた。
それから約10年。ただひたすら孤独だった。
実際は、ツーちゃんの所に行ったりして交流自体はあったが……家に帰れば一人だった。
そもそも、何で僕は独りを望んだんだっけ?
名誉を受け、お城で豪華絢爛な生活もあり得た。
そうでなくとも、十分な賞与をもらってどこかに自分の街を造ることだって可能だったはずだ。
それでも、それすらも蹴って僕は何故独りを願ったんだ?
人付き合いが苦手だから? お金が嫌いだから? 富も名誉も必要ないから?
――――――違う。
11
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:48:39 ID:w.OycBSI0
怖いんだ。
怖かったんだ。
僕は、戦争の功績者だ。しかし、それを裏返せば、ラウンジ大陸にとって最高の仇敵でもある。
つまり、常に命を狙われる立場なんだ。それは決して敵対大陸だけの問題じゃない。
シャキンさんのような野心家だって、たくさん見て来た。
僕の立場を利用する人だってたくさん出てくるだろう。
齢15で戦線に立った僕は、政(まつりごと)にそこまで詳しいわけじゃない。
下手をすれば、知らずにとんでもない殺戮に手を貸すかもしれない。反乱だってありうる。
人の世は、結局は醜悪だったんだ。それは、あの戦争を一番前で見て来た僕が一番知っているじゃないか。
だからこそ、たかが一人の若造である僕が知った、わずかな世界の知識を元に出した結論が……
独りになることだったんだ。
何でそうなるかなんて、当たり前だ。
僕は、まだ若い。いや、正しくは青いんだ。
魔術に関する知識は長けていても、人間社会の知識は一般人未満だ。
力ばかり持っている自分が、何かを手元に置いてそれを守りきれるだろうか。
膨大な力に惹かれた人間を前にして、僕はちゃんと守りたいものを守れるのだろうか。
―――――――無理だ。無理なんだ。
そこまで僕は出来た人間じゃない。全然完成されていない。
ケツロン
だから、出した甘っちょろい幻想が孤独だったんだ。
どうして、それを僕は忘れてしまったのだろう。
なんで、一年以上も僕は考えなしに彼らを受け入れてしまったのだろう。
――――――今も、トソンさんと同じ屋根の下で共に暮らしている理由は何なんだろう……。
12
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:49:32 ID:w.OycBSI0
わからない?
いや、わかってる。
知ってるんだ。
悪辣な世の中であっても、パンドラの箱のように一握りの希望がある。
僕はあの戦争で、醜さと一緒に人の温かさを知ったんだ。
ロマネスクさん、デレさん、ミルナさん、他にもたくさんたくさん……
あぁ、特に僕のことを、多分……誰よりも欲し、誰よりも好くしてくれたのは、他でもないスカルチノフ国王だった。
全てを持っているのに国王は、僕を一人の孫のように扱ってくれた。
だからこそ、独りになりたいという僕の言葉を、少し悲しそうに、けど喜んで聞いてくれた。
本当に嬉しかった。国をあげてでも引き止められる、くらいの覚悟はしていたのに……本当に、ありがたい。
そうなんだ。結局はそうなんだよ。
禁断の果実を口にした原初の人間のように、知ってしまったら抗えない。
僕は、人付き合いが怖くて嫌いな癖に……大好きなんだ。
( ∀ )「……はは」
乾いた笑いが思わず零れる。
なんだそれ。矛盾してる。怖くて嫌いな癖に好きなのかよ。
どうかしてるよ。
(゚、゚トソン「……あの」
(; ・∀・)「うわっ!?」
13
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:50:37 ID:w.OycBSI0
突然声をかけられたモララーは、普段ならあり得ないような声を出して飛びのいた。
いつの間にか、目の前にはトソンが立っていたのだ。
(; ・∀・)「ど、どうしたの? みんなは?」
(゚、゚トソン「忘れ物を取りに、と言って一旦戻ってきただけです。すぐに戻りますよ
あ、あと勝手に入ったわけではなく、ノックもしましたし何度か声はかけていたんですが……」
(; ・∀・)「そうなんだ……気づかなくてゴメン」
(゚、゚トソン「いえ……」
(; ・∀・)「……」
(゚、゚トソン「……」
沈黙が訪れる。
忘れ物を取りに来たなら、さっさとそれを取って戻ればいいじゃないか。
……と無粋なことを考えてしまうが、モララーはその言い訳が本心でないことはとっくに気づいている。
そもそも、外へ出て行ったのですら大した理由もないピクニックなんだ。
何を忘れるものがあるのだ。
トソンは、モララーに何かを言いに戻ってきた。それぐらいは、鈍感であるモララーだってわかっていた。
しかし、中々口を開かないトソンに対してモララーは出方を窺う以外に対処法がなかったのだ。
ただ、ベッドに腰をかけたまま俯いて固まるだけ。
(゚、゚トソン「あの、隣、良いですか?」
( ・∀・)「……どうぞ」
腰を少しズラして、座るスペースをモララーは作る。
その行動に対し、トソンは軽くお礼を言ってから、失礼しますと小さく言いモララーの横へ移動した。
14
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:51:21 ID:w.OycBSI0
(゚、゚トソン「……」
( ・∀・)「……」
時計の音すら聞こえない。彼の家に時計はないから。
ただただ、重い静寂だけが屋内を満たしている。
こんな空間を作っているのは果たして誰なのか。
モララーが勝手にそうしているのか。トソンが知らずに作っているのか。
考えを張り巡らせようとしたその時、トソンがゆっくり口を開いた。
(゚、゚トソン「……私が寝込んでいた時のことですけど」
( ・∀・)「……うん」
(゚、゚トソン「実は、何が起こっていたのか、ブーン君たちに聞きました」
( ・∀・)「……そっか」
(゚、゚トソン「ただ寝ていただけで、何も出来ませんでしたけど……
何をしてもらったかは、わかってます」
トソンはそう言うと、膝の上で固く結ばれていたモララーの拳に手を乗せた。
そして、優しく包み込むように握る。
行動の唐突さに、少し動揺したモララーがトソンを見る。
それに対し、トソンは微笑みながら心を込めて、ずっと前から言いたかった言葉をモララーに伝えた。
(-、-トソン「私を助けてくれて、ありがとうございました」
15
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:52:22 ID:w.OycBSI0
( ∀ )「……!」
(゚、゚トソン「何をどうやって、どうしてそうなったか何てものは知りません。あえて言います、知りたくないです。
それでも、モララーさんが私を、子ども達を、その身を呈して命がけで守ってくれたこと、それだけは事実です」
(゚、゚トソン「今回だけではないです。
初めて会った時も、しっかりお礼を言っていなかったので……随分遅くなってしまいましたが
本当に本当に感謝しているんです。私に生きる道を与えてくれて……」
( ∀ )「……トソンさん」
(゚、゚トソン「はい」
( ∀ )「僕は、そんな立派な人間じゃないよ。生きる道を与えたなんて、そんなことはしてない。
それはキミ自身が持ってる強さだよ。僕は、何もしてなんかいない」
いつになく、いつもより……いや、本当はいつだって。
モララーは弱弱しく言った。
自分は立派な人間じゃない。
ただの殺戮人形だってことを、誰よりも一番コンプレックスにしているからこそ。
志も、祈りも、それは、そんな自分を遠ざけないでくれ、という彼の心の叫びだったんだ。
( ・∀・)「助かったのは、キミの力だよ、トソンさん」
(゚、゚トソン「…………いいえ」
( ・∀・)「え?」
(゚、゚トソン「違います。まぎれもなく、あなたは私を、私たちを救いました。
それは事実です。あなたがそれを否定しても、その倍、私は肯定します」
( ・∀・)「トソンさん……」
(゚、゚トソン「卑下しないでください。弱気にならないでください。後悔しないでください。
例え、間違ったことがあったとしても、結果的に私たちは救われているんです。」
(゚、゚トソン「だから、そんなに自分を拒絶しないでください。
モララーさんは、自分で思っているより、ずっと、ずっと」
(^、^トソン「ずーっと、素敵な人なんですよ」
16
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:53:15 ID:w.OycBSI0
( ∀ )「トソン……さん……」
優しい笑顔をモララーは凝視できなかった。
眩しすぎた。いや、そんな崇高な理由じゃない。
単純だ。
嬉しかったんだ。ありがかったんだ。
『知らない』とはいえ、彼女はラウンジ大陸の人。
そんな人に、こうやって心から感謝される日が来るなんて思ってなかったから。
何よりも。
他人が、他人が、と遠ざけていたのは……自分だったのだ。
怖いから、嫌いになって欲しくないから。その気持ちが、逆に働いていた。
なんて滑稽なことなのだろう。自分を殴りつけたくなる衝動をモララーは抑える。
……それに、いつまで虚勢を張ってるんだ。
モララーは、やっと本心に気づく。
ツーに、ブーンに、ツンに、ショボンに、ロマネスクに、デレに、ミランに
誰に言われるのでもない。
都村トソン、という女性にそう言われたのが何より嬉しいんだ。
モララーは、拳をほどくと、農業によって少し日焼けをしているその小さな手を握る。
17
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:54:21 ID:w.OycBSI0
( ・∀・)「トソンさん」
(゚、゚トソン「はい」
( ・∀・)「ありがとう。未熟で、薄弱な僕だけど……」
( ・∀・)「これからも、そういって貰える人を、一人でも増やすため僕は、頑張るよ」
(゚、゚トソン「えぇ」
(: ∀ )「……だから、その」
(゚、゚トソン「はい」
( ・∀・)「こ――――」
その先の言葉をモララーは紡げなかった。
遮られたのだ。扉を叩く音によって。
(゚、゚トソン「……誰でしょう?」
余りに無粋なタイミングだったが、すぐに現実に戻ったトソンが至極当然の疑問を口にする。
子ども達だろうか? だったら、すぐさま声をかければいい。
だが、言葉は聞こえてこない。
代わりに、規則的な音が小屋内に響いている。
それだけで、何か物が当たったわけではないことがわかった。
間違いなく、そこに人が居る。知らない誰かが。
( ・∀・)「……トソンさん。そこを動かないようにね」
(゚、゚トソン「はい」
18
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:56:23 ID:w.OycBSI0
モララーは立ち上がり、扉へ近づく。
ノックをする、ということはラウンジの人間ではないことはわかっている。
彼らには扉を叩く風習がない。
扉……彼らの場合は、戸の前に立ち、いきなり声をあげて自分の所在を知らせるのだ。
と、すればやはり以前のようにラウンジの人間が来たわけではないだろう。
子ども達でもない、ラウンジの人間でもない。
つまり、VIP大陸の何者かがここに来たのだ。
ブーンのように漂流人だろうか?
何にせよ警戒を怠ってはいけないだろう。
( ´∀`) =3 ポンッ!
モララーは最も得意な人へ、変化の呪文をかけた。
体格も人相も、全てが他人。
初老の男性、モナーへと変化した彼は、そっとドアノブに手をかけようとした。
その時だった。
「ほっほっほ。やはり、キミだったか」
19
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:58:00 ID:w.OycBSI0
(: ´∀`)「!」
こちらから出る前に、入り口にいる人間から声をかけてきた。
モナーのように、皺枯れた男性の声。
声だけ聴けば、何の変哲もない声だったろう。
しかし、それでもモナー、いやモララーには体中に電撃が走るほどの衝撃だった。
(: ・∀・) =3(まさか……!?)
慌てて変化の魔法を解きながら、モララーは勢いよく扉を開けた。
/ ,' 3「久しぶりじゃね、モララーくん」
(: ・∀・)「スカルチノフ……国王……!」
最終話へつづく……
20
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:58:54 ID:w.OycBSI0
時間を置いたわりに短くてすみません。
最終話は今月中にはあげるので、よろしくお願いします。
普通にVIPであげた方が良かったかもですね。
21
:
名も無きAAのようです
:2012/07/12(木) 23:27:45 ID:EOwA7npU0
嘘だろ・・・続きが読める日がくるとは・・・お帰り!
22
:
名も無きAAのようです
:2012/07/12(木) 23:38:21 ID:BUR6wMUkO
続き待ってた!乙
23
:
名も無きAAのようです
:2012/07/12(木) 23:39:19 ID:qjnFtbgE0
お帰り
乙
24
:
名も無きAAのようです
:2012/07/12(木) 23:50:28 ID:NmtzNv0E0
正直、諦めていた…
戻ってきてくれて有難う、有難う
25
:
名も無きAAのようです
:2012/07/13(金) 00:40:47 ID:1PYxIUCkO
乙だが、ミランって誰?ミルナの誤字?
26
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/13(金) 00:49:39 ID:nBcM8dA60
>>25
誤字ですね。ミルナ、と書くべきところでした。
設定上ですが、ミルナの本名がミランです。すみません。
そして、3年も経ってまだ覚えていてくださる方々がいて嬉しいです。
あと一話だけですが、頑張ります。ありがとうございます。
27
:
名も無きAAのようです
:2012/07/13(金) 00:52:59 ID:q5jVELg.0
乙!
復活してくれて嬉しい
28
:
名も無きAAのようです
:2012/07/13(金) 01:43:48 ID:KzLmjJs2O
帰ってくるとは…
最終話も楽しみにしてる
29
:
名も無きAAのようです
:2012/07/13(金) 11:33:35 ID:hDLBQLEYO
ちょうどこの前読み返したばかりだった
乙
30
:
名も無きAAのようです
:2012/07/13(金) 13:30:34 ID:GnRk7CWE0
まじでかよ
スレ覧で衝撃受けた
乙
31
:
名も無きAAのようです
:2012/07/13(金) 15:24:03 ID:pbsZ5HSMO
タイトルは知ってたけど読んでなかった
前作から読んできたよ
32
:
名も無きAAのようです
:2012/07/13(金) 18:12:28 ID:KE6afMLMO
ブログ更新しないのか
33
:
名も無きAAのようです
:2012/07/14(土) 05:34:28 ID:Rh1S/2rUO
懐かしすぎワロタ
おかえり
34
:
名も無きAAのようです
:2012/07/14(土) 08:08:24 ID:N6thy2two
貴様ァァ
何回戻ってきて欲しいスレに書いたと思ってんだ!
俺は嬉しいぞ!
乙
35
:
名も無きAAのようです
:2012/07/14(土) 21:00:11 ID:4OtYrMxc0
おかえりぃぃぃぃ!!!
乙です
36
:
名も無きAAのようです
:2012/07/15(日) 04:15:51 ID:0Duv4Uds0
まじか!おかえりいいいいいいい!
37
:
名も無きAAのようです
:2012/07/16(月) 19:24:54 ID:52tJgaj.0
うほ
38
:
名も無きAAのようです
:2012/07/17(火) 06:01:10 ID:78hjOusw0
素晴らしい
39
:
名も無きAAのようです
:2012/07/17(火) 07:02:50 ID:kzCrd4TIO
そういやAll for one〜はどうすんのアレ完結してないよね?
40
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/17(火) 13:08:42 ID:yA095mk60
>>39
そちらも勿論書いていきます。再開までは、ちょっと時間がかかるかもしれませんが……。投げっぱなしはしたくないので。
もともと、長い一話を投下する作品ではないので、波に乗れば更新頻度は早くいけると思います。
41
:
名も無きAAのようです
:2012/07/17(火) 21:51:16 ID:kzCrd4TIO
>>40
うおーマジか
楽しみにしてる
42
:
名も無きAAのようです
:2012/07/18(水) 00:11:19 ID:S2wU4SkgO
おかえりー!
待ってたー
43
:
名も無きAAのようです
:2012/07/18(水) 00:15:30 ID:2h.uvt.oO
Afoofの人だったのか!!
あの作品ずっと待ってるんだから更新してくれ!!
もちろんツンルートで
44
:
名も無きAAのようです
:2012/07/20(金) 00:15:30 ID:bKGRityQ0
待ってたぜ!乙!
45
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:31:38 ID:VC0QHqzQ0
私のミスで、新しくスレを立ててしまいました。
こちらで投下しますので、ご注意ください。
では、最終話いきます。
46
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:33:04 ID:VC0QHqzQ0
/ ,' 3「久方ぶりじゃのう、モララーくん」
枯れた喉から発されたのは、柔らかくも気高さを感じさせる言葉。
懐旧のこもったその言葉にはどこか優しさも覚える。
(; ・∀・)「何故……こちらが……?」
/ ,' 3「まぁ、それは追々話すとしよう。立ち話もなんじゃ、キミさえよければ上がらせて頂きたいのじゃが」
ドアノブを手にしたまま、半身になってモララーは対応していた。
その余りの不敬さに、モララーは自分を恥じると同時に謝罪の言葉を紡ぐ。
(; ・∀・)「し、失礼しました。どうぞ、何分窮屈な場所でございますが……」
/ ,' 3「そこまでかしこまらなくて結構じゃよ。
ワシはキミに、国王と匹敵するほどの位、大魔術師の称号を捧げたつもりじゃ。
昔のように、盟友(とも)として接してくれればよいぞ」
ほっほっほっ、とスカルチノフ国王は、嫌味さを感じさせない笑いでモララーを許した。
いや、元より不敬などとは、彼は思ってもいない。
立場上、その厳しさを見せることはあれ、平時の彼は王ではなく一人の老人なのだ。
( ・∀・)「……ありがとうございます。では、改めて。いらっしゃいませ」
/ ,' 3「うむ。お、そうじゃ。ロマネスクくん、キミも入りなさい」
( ФωФ)「ハッ!」
キレのある返事と共に、扉の影からヌッと大男が出てきた。
黒騎士に与えられる、金の装飾が入った墨色の全身鎧を着こんでいる。背にはVIP大陸の紋章が刻まれたマントも着用していた。
背中には身の丈ほどもある大剣を携えた彼は、有事のロマネスク・ホライゾネルに他ならない。
47
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:34:44 ID:VC0QHqzQ0
王衣も羽織らず、動きやすい普段着のスカルチノフに対し、彼の格好はとんでもなく場違いにさえ見えた。
しかし、ここまでの道のりや他の護衛がない以上は、それくらいの準備は当然のこと。スカルチノフもそれを踏まえて、彼に重曹をさせた。
裏を返せば、彼一人で一個師団ほどの実力があると信頼をしてのこと。
実際に近衛の位を預かっている騎士より動かしやすく、それでいて匹敵する屈強さを備えているロマネスクを、スカルチノフは非常に気に入っていた。
( ・∀・)「ロマネスク団長まで……。お久しぶりでございます」
と、礼節を持って接そうとしたモララーが頭を下げるより早く
ロマネスクはモララーの前に跪き、深々と頭を垂れた。
( ФωФ)「こちらこそ。お懐かしゅうございます。大魔術師、モララー=レンデセイバー殿」
(; ・∀・)「ちょっ……!? ロ、ロマネスクさん!?」
突然の対応にモララーは焦る。
年下であろうと、敬意を払うべき者には徹底的に。
それを地で行くロマネスクだが、ここまでの行為は今まで見たことがなかった。
以前のような、フランクなやり取りを望んでいたモララーとしては、経年劣化のように、ロマネスクが遠い人になってしまったようで寂しさも覚えた。
( ФωФ)「……というのは、冗談である」
(; ・∀・)「え?」
顔をあげ、少しいじわるそうな笑顔を見せたロマネスクは、重量のある金属鎧を纏ってるにも関わらず
衣服でも着込んでいるかのように、軽々と身体を持ち上げてモララーに手を差し出した。
( ФωФ)「とはいえ、本来階級上ではこれくらいの行為は当然なのである。
お主が知らないだけで、吾輩は常に、お主のことをこれぐらいの気持ちで接していたことだけは、知って欲しかったのである」
( ・∀・)「ロマネスクさん……」
( ФωФ)「堅苦しい挨拶はここまでである。モララー殿、本当に久しぶりである。会えて嬉しいのである」
( ・∀・)「こちらこそ。僕も会えて嬉しいです」
かつての戦友(とも)達は、かつてのようにがっちりと熱い握手を交わした。
48
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:35:33 ID:VC0QHqzQ0
フタ
最終話「双つの肩」
49
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:38:16 ID:VC0QHqzQ0
( ・∀・)「お待たせいたしました」
/ ,' 3「おぉ、すまないね」
この大陸で最も大きく、産業も農業も全てが主要である王都NEETの主の前に、シルムの紅茶が置かれた。
柑橘系の、甘くも酸味を含んだ空気をその鼻腔へと吸入する。香りを楽しんだ後、王はゆっくりとカップに口をつけて茶を嚥下した。
たったそれだけの動作なのだが、その中に気品さ優雅さを感じさせる空気が、彼から発せられていた。
( ・∀・)「お口に合うか自信がありませんが……」
/ ,' 3「良いのじゃ。キミがもてなしの心を込めて振る舞ってくれたものを、何故美味い不味いの範疇で語るのじゃ?
どんなものでも、ワシは喜んで飲むよ」
( ・∀・)「国王……」
( ФωФ)「国王様。ゆっくりと歓談する時間は、私も望んでおります。
ですが余り長時間、国を留守にするのは……」
/ ,' 3「ほっほっほっ。わかっておるよ、ロマネスクくん、わかっておるよ。わかっておる」
少し乾いた笑いをあげてから、国王はカップをゆっくりと置いた。
そして、それから対面に座っているモララーの目を優しく、覗き込むように見据える。
/ ,' 3「本題に入る前に。まず、今キミが何をやっているのか、それを聞かせてほしい。
もちろん、差支えの無い程度で構わんよ。言いたいこと、言いたくないことは誰にだってあるじゃろう。
話せる範囲で、しかし出来るだけ伝わるように、お願いできるかな?」
( ・∀・)「…………わかりました」
モララーは、目をそらさずに答えた。
答えに少し時間を要したのは、拒否反応があったわけではない。
どれだけ話そうか、どれだけ話せるか。それを考えていただけ。
話さない、という選択肢はこの人の前では存在しえなかった。
50
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:40:45 ID:VC0QHqzQ0
( ・∀・)「まずは、王都を出てからのお話をしましょう」
と、結局モララーは洗いざらい話すことにした。
何故、どうして、を偶に省くことはあったけれど、事細かにこの空白の11年のことを話した。
しかし、内容自体は非常に簡潔だった。
役目が終わったから、城を出たこと。それから、この山中で暮らすことにしたこと。
そこから10年余りは、非常に無味乾燥な話だったのだ。
野菜を作ると決めたこと、城下町で売るようにしたこと。それだけを話すのに数分の所要時間で良かった。
そして一年前。
そう、ここから彼の生活は一気に色を帯びる。
あえて、モララーは誰と会ったのかまでは隠した。目の前にロマネスクが居たことによる配慮なのだろうか。
それでも、彼の語り口調は楽しげであった。
子どもの世界のこと、大人の世界のこと。未だに、悪を掲げる者がいること。
( ・∀・)「とりあえず、騒がれないように彼らはラウンジ大陸に返しておきました。
多分、もう二度と現れはしないでしょう」
と、あえて重い話は軽く話した。これは、先日の毒田ドクオとの死闘の後日談だ。
話し終えて、モララーは一息つく。話した。話せることは全て。
後は一つだけ。話すか、話すまいか。
/ ,' 3「それが大魔法の発生だったわけか……。
まったく、スペルキャンセラーを空間ごと張るなんぞキミにしか出来ん芸当じゃの」
( ФωФ)「しかし、大魔法を打ち消せるほどの具足とは……ラウンジ大陸も恐ろしい武具を発明したものである。
何より、使い手はあの毒田ドクオ……うむむ。うかうかしていられないのである」
51
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:43:35 ID:VC0QHqzQ0
かつて、戦い敗れたことのあるロマネスクは真剣に悩んだ。
今の自分で、果たして勝てるのだろうか。モララーが撃退してくれたのは嬉しい限りだが、果たして後継者などは存在するのか。
たった一つの戦闘から炙り出された心配事はたくさんあった。
/ ,' 3「なぁに。大丈夫じゃろう。その戦闘狂とやらも心が折れておる。特注の具足ということは、つまり高コストの製品じゃろう。
正直に言うが、ラウンジ大陸の文明力よりも我々VIP大陸の方が文明は栄えておる。
それほど高コストの製品を量産できるほど文明が発達しているとは到底思えぬよ」
( ФωФ)「……そうですね。少なく見積もっても、文明の差は10年以上は見受けられますから心配には及びませんね」
/ ,' 3「さて、続きはもうないのかね?」
ロマネスクと安否の話をしていたスカルチノフは、ふいにモララーへ話を振った。
モララーは一瞬のうちに、考える。
言うか、言わざるべきか。
――――ところで、彼が一体何を話していないのか、だが……。
それは、都村トソンのことだった。
何故話さないのか、といえば至極当然。
彼女はラウンジの人間だからだ。
記憶を失っているとはいえ……というところがある。
間違いなく、容姿を見せるだけで国王とロマネスクならば一発でわかるだろう。
この大陸の人間はない、と。
どんな反応を示すだろうか。無条件に忌み嫌っている人たちと違い、哀しき戦争の最前線に立った人たちだ。
少なくとも、拒否反応は示してくるはず。それをどう言いつくろえばいいのだろう。
そして、再び思うのだ。
例えば、話したとしよう。包み隠さずに。
……で、どうして欲しいのだろう。
52
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:45:32 ID:VC0QHqzQ0
そもそも、何で言いにくいんだ?
ラウンジの人だから? 記憶を失っているから、言い訳が難しいから?
……違う。そんなんじゃないはず。
じゃあ、どうして?
( ∀ )「…………」
/ ,' 3「……」
( ФωФ)「? どうしたのであるか、モララー殿?」
モララーは黙ってしまった。
本当は間髪入れずに、何かを話して適当に言いつくろうはずだったのに……言葉が出ない。
何でなんだろう。
何で話したくないんだろう?
……もし、この相手が、例えばシャキンさんだとしたら、多分僕は簡単にさらりと話したであろう。
他にも、あの人やあの人だったら話せるはずだ。
……うん、そうだ。
僕は相手がこの人たちだから話しにくいんだ。
仲がいいからこそ、何か話しにくいものがあるんだ。
でも、じゃあ、それはどうして?
/ ,' 3「モララーくん」
( ∀ )「……はい」
53
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:47:35 ID:VC0QHqzQ0
沈黙を先に破ったのはスカルチノフだった。
手で目を覆うようにしていたモララーは、そのまま答える。
/ ,' 3「あえて言わなかったのじゃが。やはり、どうしても気になることがあっての」
( ・∀・)「……なんでしょう」
/ ,' 3「二階に居る方はどちら様かの?」
(; ・∀・)「!!」
( ФωФ)「二階?」
ロマネスクは周りを一望する。確かに、このテーブルのすぐ脇に階段はある。
それは知っているが、そこの先に人影なんてない。少なくともこの角度からじゃ全く見えない。
更に、ロマネスクよりも体躯の小さいスカルチノフだ。見えるはずがない。
しかし、スカルチノフの指摘は全くもって正解だった。
見えない角度だが、二階のベッドに潜り込んで隠れている女性が居るのだ。
ラウンジ大陸の、都村トソンが。
( -∀-)「……そういえば、忘れていました」
と、観念したかのようにモララーは立ち上がった。
忘れていたのはトソンのことではない。スカルチノフのことだ。
国王スカルチノフは、魔術師でもあった。しかし、戦闘特化ではない。
ちょうど、ツンが似たような能力を持っていたが……要は魔術感覚が非常に優れた人間である。
視覚聴覚などが、生まれつき秀でている。更に、魔術の発生にも敏感であった。
これにより、スカルチノフはモララーの居場所などを見事当てて見せたのだ。
では、何故武士であるトソンが居ることがバレてしまったのか。
54
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:49:47 ID:VC0QHqzQ0
それは、言語変換魔法だ。
初めてトソンに会った時、ラウンジの言葉は全くもって通じなかった。
それをいち早く察知したモララーは、彼女へ言語変換の魔法をかけていたのだ。
常時発動型の魔法であるそれは、今も尚トソンにかかっている。
発生魔力自体は非常に微量であっても、スカルチノフにとっては警笛でも鳴らしていることと同然であったのだ。
トントンと階段を上がっていくモララー。
ベッドのシーツに包まっている人型の隆起に向かって、彼は声をかける。
( ・∀・)「トソンさん。もう、良いですよ」
(゚、゚トソン「……はい」
内容は筒抜けだったし、気配も感じていた。
だからトソンはゆっくりと衣擦れの音を立てつつシーツを捲り、立ち上がった。
モララーはその動作を確認すると、振り返ってゆっくりと階段へ向かい、降りて行った。
その後ろを、トソンはついていく。
少し、怯えながら。
( ・∀・)「ご紹介が遅れて大変申し訳ありません。彼女は都村トソンといいます」
テーブルの前に立ち、手のひらをトソンへ向けながらモララーは紹介をした。
それ以上、言葉は要らなかった。それだけで、一体何者なのか戦争経験者の二人にはわかったはず。
スカルチノフは、黙ってトソンを見ていた。
ロマネスクは、階段から降りてくる時点で既に目を見張り、口をポカンと開けていた。
そして、名前を聞いたと同時にその表情を変える。気づいたのだ。
55
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:52:26 ID:VC0QHqzQ0
( ФωФ)「……ラウンジの方であるか?」
( ・∀・)「えぇ」
( ФωФ)「先ほどのお主の経歴では、彼女の事は出てこなかったのである」
( ・∀・)「意図的に避けていましたから」
( ФωФ)「何故であるか?」
( ・∀・)「……何故ですかね」
( ФωФ)「…………それはお主でないとわからないことである」
( ・∀・)「でしょうね」
/ ,' 3「……ワシには何となくわかるがの」
二人の会話にスカルチノフが割って入る。
視線の先はいつの間にか、トソンではなくモララーに変わっていた。
/ ,' 3「ラウンジ大陸との関係はまだ良くなってはおらん。
更に、ワシらのように戦争経験者からすれば、ラウンジの人間というだけで少し気持ちが揺らでしまうものじゃ
それを配慮してくれたんじゃろう」
もっともらしく、でも正確に。スカルチノフはモララーの心情を語って見せた。
( ФωФ)「そうなのであるか?」
( ・∀・)「……えぇ、そうですね」
56
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:55:26 ID:VC0QHqzQ0
肯定をしたモララーだが、しかし沈黙が挟まれる。
目を閉じて、その内なる心を再度見直し、続ける。
( ・∀・)「でも、それだけではないと思います」
( ФωФ)「……では、再度聞きたいのである。何故なのであるか?」
まるで、父親のように優しい言葉でロマネスクは問う。
( ・∀・)(……あぁ、そっか)
その優しさと慈愛に満ちた言葉、態度を見てモララーはやっとわかった。
何でここまでして、自分は隠したがっていたのか。
( ・∀・)「……純粋に」
そう、ただそれだけなんだ。
(* -∀-)「純粋に、女性を紹介するのが恥ずかしかったんです」
57
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 21:58:02 ID:VC0QHqzQ0
(゚、゚;トソン「えっ!?」
思いがけない言葉に間髪入れず反応を示したのはトソンだった。
それもそうである。
立派な人格者で、大陸の、いや世界の英雄であるモララー=レンデセイバーにしては、とんでもなく幼稚な理由だったからだ。
( ФωФ)「……」
/ ,' 3「……ふふ」
( ФωФ)「……王様、いくらなんでも失礼かと」
/ ,' 3「そういうお主も、口元が緩んでおるぞ」
( ФωФ)「おや……それは大変失礼を……」
と、二人は必至で笑いを堪えるように会話をしていた。
(* -∀-)「わ、笑うこと……なんですかね?」
その結論にモララー自身もビックリしていたから。思わず質問をしてしまう。
/ ,' 3「いやいや、う、嬉しいんじゃよ、モララー君」
笑いを止めようとするが、まだ止まらない。
ロマネスクは君主の前でいつまでも笑っていては失礼と思い、気合で笑いを止める。
そして、同じように思っていたであろうことを代わりに言った。
( ФωФ)「お主は大事な青春時代を、世界の為に全て投資して戦い、守ってくれたのである。
そんなお主が、まるで子どものように、隠した宝物が見つかってしまったかのように」
( ФωФ)「余りにも普通の理由なことが、吾輩たちは嬉しいのであるよ」
58
:
名も無きAAのようです
:2012/07/28(土) 21:58:32 ID:Ky/Fncb60
うふふ
59
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:00:38 ID:VC0QHqzQ0
魔術に長け、誰にも負けず、一切の隙を見せない。
そんな冷酷にすら思えそうな、圧倒的な魔力を持っているモララー。
いつの間にか、忘れて……いや、知らずに通り過ぎてしまったモララー自身の『心』
街を歩いている快活な青年たちと等しく、それを持ち、表してくれた。
それが、まるで保護者の代わりである彼らは嬉しくて堪らなかったのだ。
(* ・∀・)「おかしくないですか?」
/ ,' 3「おかしくない。普通じゃ。至極当たり前過ぎて、忘れてしまう位じゃ……」
一息つけたスカルチノフはそれだけ言うと、黙り込んでしまった。
そして、何かを思索するかのに中空を見上げた。
数刻にも思える沈黙が続いた後、モララーへ再度顔を向ける。
その表情は、硬くて厳しくて……老人ではなく一介の王としての顔つきになっていた。
/ ,' 3「…………モララー君、一つ尋ねる」
( ・∀・)「はい」
/ ,' 3「現在、取り決められている両大陸間の法律では
原則として許可証の持った人間しか、他大陸には居住出来ないことになっておる」
/ ,' 3「彼女は、それを持っているのかね?」
(゚、゚;トソン「あ……そ、その……」
トソンは焦った。
持っているわけがない。
侵入自体が不法だったし、何より本来の責務で考えるならば、こうやって他大陸の人間に顔を見られることすら禁忌なのだ。
60
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:02:50 ID:VC0QHqzQ0
顔を知られた場合、彼女らの作戦では即刻口封じとして息の根を止めることになっている。
しかし、他大陸でも名ぐらいは聞いたことのある黒騎士ロマネスク=ホライゾネルと
大魔術師モララー=レンデセイバーの口を同時に封じることなど不可能。
トソンはその作戦などすっかり諦めて、一般市民としての仮面をかぶって出てくることを決意していた。
いや、もう彼女自身。その仮面はいつしか、本物の顔となっていた。
モララー暗殺に失敗したその日から、嘘を本当と思い込み、そう勤めて生きて、そして死のうと決意している。
( ・∀・)「言い忘れていましたね。彼女はここに来るまでの記憶がありません
会ったのは近辺の河川ですので、持ち物も同時に紛失してしまったのでしょう」
/ ,' 3「そうだったのか……。では、仕方ないの」
( ФωФ)「規定に従うのであれば、身元確認の為にラウンジに帰ってもらうことになるのである」
( ФωФ)「その方が、彼女の為でもあるし、何よりモララー殿も安心できるであろう」
/ ,' 3「違うかね?」
(゚、゚トソン「……」
( ・∀・)「……」
トソンはモララーを見た。
黙って、二人を見ている。
どうするだろう。
普通に考えれば……負担でしかない自分を、置いておく理由はない。
元々、独りになるためにこんな苦行の道を選んでいるのだ。
邪魔な……はず。
61
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:05:31 ID:VC0QHqzQ0
トソンは諦めた。
モララーの口添えがあれば、多分処罰はないであろう。
安全に、無事に祖国へ送り届けてくれるに違いない。
でも……
でも、それでも……
( ・∀・)「それは嫌です」
(゚、゚トソン「!」
自分の気持ちを代弁するように、モララーが口を開いた。
( ・∀・)「規定だろうと、何だろうと。僕は、ここで彼女と共に過ごすことを決めました。」
( ・∀・)「騎士隊長でしょうが、国王でしょうが、法律でしょうが」
( ・∀・)「僕は、従いません」
(゚、゚;トソン「わっ」
力強く言葉を放つと同時に、モララーはトソンの肩を抱き寄せた。
口を真一文字に噤み、力強い意志を視線に込めた。
それでも、彼の姿はまるで子どもが初めて駄々を捏ねるようで、不安がつり上げた眉を震わせていた。
/ ,' 3「……」
( ФωФ)「……」
(; ・∀・)「……」
(゚、゚;トソン「……」
62
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:08:10 ID:VC0QHqzQ0
/ ,' 3「……よう言うた」
( ・∀・)「えっ……」
/ ,' 3「ワシはな、言われるがままの殺戮狂としてキミを戦線に送り込んだことを、ずっと悔いていたんじゃ」
/ ,' 3「結果的に、世界は平穏になった。それでも、ワシはキミという個人そのものの人生を破綻させてしまったんじゃ。
国として、民の傀儡として、冷酷な命令を下すしかなかったんじゃ。」
/ ,' 3「それが今でも、ワシを縛り付けておる……」
( ・∀・)「国王……」
/ ,' 3「じゃが、キミは立派に成長した。大人としてではない、『人間』として、当たり前の青年になってくれた。」
/ ,' 3「それが嬉しくて仕方ないのじゃよ」
国王は決して、誰にも見せたことのない表情をしていた。
一生懸命、目に浮かぶ涙が頬を伝うことのないように我慢し、震えていた。
/ ,' 3「キミには、大した賞与を与えておらんかったからの……。
良い。それぐらい、良い。」
/ ,' 3「キミがそれで幸せに暮らせるというのならば、法律ぐらいなんじゃ。
民を護るのが法律ならば、今ここではそれは適用されん。キミを傷つける為に法律はあるわけじゃないのだからの」
/ ,' 3「特別賞与として、許す。受け取ってくれるな、大魔術師モララー=レンデセイバーよ」
( ・∀・)「……はい!」
( ・∀・)「ありがとうございます、スカルチノフ国王!」
モララーは深くお辞儀をした。
つられて、トソンもお辞儀をする。
/ ,' 3「うむ。では、行こうかの、ロマネスク隊長」
63
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:10:54 ID:VC0QHqzQ0
( ФωФ)「……」
ロマネスクは返事をしない。
少し悩み、罰の悪そうな顔を一瞬だけ見せてから、厳しい顔つきになって席を立ちあがった。
( ФωФ)「国王、吾輩もそうしたいのが山々ではあります。
ですが、吾輩も軍人であります。
最低限、義務として行わなければならないことを果たさせて頂きたいのであります」
/ ,' 3「なんじゃ、せっかく丸く収まるかと思ったのに……」
( ФωФ)「堅苦しいけれども、決めたことはせめて実行に移すまで諦めたくないのであります」
/ ,' 3「……わかった」
何の会話をしているのかわからないモララーとトソンが、頭に疑問符を浮かべていると
ロマネスクが、キッとモララーを睨むように見た。
( ФωФ)「大魔術師モララー=レンデセイバー殿。スカルチノフ=R=マキシス王、直々の厳命である!」
( ФωФ)「我が大陸、我が国、我が民の為! 即刻、王都に戻り、最高権威者として仕えよ!」
(; ・∀・)「!」
スカルチノフのサインが書かれた文書を示しながら、ロマネスクは騎士らしく凛然とした態度で命を告げた。
それを見て気づく。そう、彼らがここに来た本来の理由はこれだったのだ。
隠れて存在の安否を詮索にさせるのではなく、堂々とその存在そのものを脅威としてたらしめる。
城に連れ戻すため、二人はモララーを訪ねたのだ。
(゚、゚トソン(……凄いなぁ)
と状況に似つかわしくない呑気なことをトソンは考えていた。
自分の国でも、多分こんなやりとりは滅多に見られないであろう。
最高権力者が最高権力者の引き抜きを行っている場面。これからの人生では二度と、お目にかかれないであろう。
64
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:13:17 ID:VC0QHqzQ0
それだけ凄い、ということを他文化のトソンですら感じられるのだ。
当の本人であるモララーは……
( ・∀・)「……もしも、それをお断りしたら?」
変わらぬ態度で、決意を更に深くしたかのように答えていた。
( ФωФ)「現法律において、王の命、調印を破棄及び拒絶した場合、最高位の涜神行為に当たるのである」
( ・∀・)「つまり、僕を国賊と見なすわけですね」
( ФωФ)「そうなのである。国賊は確認次第取り押さえ、王立の監獄で幽閉なのである」
ロマネスクは背中の剣に手をかけた。
その眼は紛れもなく本気で、やろうとしていることに一切の迷いはなかった。
( -∀-)「……わかりました」
( ・∀・)「とはいえ、僕としてもそう簡単に従えはしません。
黒騎士ロマネスク=ホライゾネル。あなたが僕を取り押さえられるようでしたら、喜んで投獄されましょう」
( ФωФ)「……良いのである。では、外へ出るのである」
( ・∀・)「了解です」
二人の戦士は、先ほどまでの和やかなムードとは打って変わり
ピリピリと、その闘気だけで焦げ付いてしまいそうなくらいの空気を作っていた。
そのまま小屋を出た二人は、なるべく被害の出ない場所へと黙したまま歩いていく。
小屋には、トソンとスカルチノフだけが残されていた。
(゚、゚;トソン「……」
65
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:15:21 ID:VC0QHqzQ0
正直、置いていけぼり感が半端ないトソンは無言でいるしかなかった。
いきなり国王がやってきて、モララーと楽しく話をし、特例を認めると思ったら
次は突然、造反者として処罰を与えると言ってきた。
展開についていけない。
/ ,' 3「お嬢さん」
(゚、゚;トソン「は、はい!? なんでしょうか!?」
/ ,' 3「ほっほっほっ。良いVIP語じゃの。モララー君の言語変換魔法は完璧じゃな。
大抵、微妙なイントネーションなどが違うはずなんじゃが……」
(゚、゚;トソン「はぁ」
/ ,' 3「……心配かね?」
(゚、゚トソン「……というより、何がしたいのか良くわかりません」
/ ,' 3「それもそうじゃろうな。王が許したと思いきや、次は王が別の命令を下したわけじゃからの」
(゚、゚トソン「結局、どうしたいのですか?」
/ ,' 3「どうもこうも。ただ、ワシらは納得したいだけなんじゃ」
(゚、゚トソン「納得?」
/ ,' 3「うむ。彼の意志、彼の想い、彼の心。それらを全て知り、そして自由にしてあげたい。
それが、ワシらが今日、ここに来た理由じゃよ」
66
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:17:54 ID:VC0QHqzQ0
(゚、゚トソン「でも、それは先ほど……」
/ ,' 3「ほっほっほっ。そうじゃがの。次に納得できていないのはモララー君じゃない。
ロマネスクじゃ。あやつもあやつで頑固者でな。やはり、最も信頼し敬愛している者が傍に居てほしいんじゃよ」
/ ,' 3「だから、今度は全身全霊を持って。言葉でダメならば、力をもって、モララー君と話がしたいんじゃよ」
(゚、゚トソン「……」
/ ,' 3「安心せい。すぐに終わるじゃろうて」
不安そうに窓から二人を見据えるトソンの後ろで、国王は優雅に紅茶を啜っていた。
( ФωФ)「先に言っておくのである。お主を殺すつもりは毛頭ないのである」
( ・∀・)「えぇ、それはこちらも同じです」
小屋から少し離れた、森の近くの傍。
以前、ドクオと戦った地で二人は向き合っていた。
( ФωФ)「純粋に、吾輩は騎士の誇りにかけて、お主を倒すのである」
( ・∀・)「わかりました。では、それ相応の敬意をもって僕も対峙しましょう」
モララーは、手を横へ伸ばした。
すると、モララーの肘から先が同時に発生していた白い魔方陣に飲み込まれた。
数回、手先を動かすような仕草をした後に、大魔術師は一本の剣を取り出した。
67
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:19:46 ID:VC0QHqzQ0
長くもなく短くもない。ブロードソードと呼ばれる、銘もない一般的な剣だ。
黒騎士、それも実力だけでいうならば近衛騎士と変わらないロマネスクに対し、この武器の選択は愚の骨頂である。
が、それも何かの作戦なのかと考えロマネスクは行動する。
( ФωФ)「……吾輩はこれを使わせてもらうのである」
そう言いながら、背中の大剣を引き抜いた。
蒼穹を秘めているかのような美しい刀身。無骨な作りではあるが、さぞや名のある武器であることは一目でわかった。
戦後であっても手入れの欠かしたことのない、彼の愛剣である。
お互いの得物を確認すると、そのまま剣先をギリギリ触れ合わないように突き出した
( ・∀・)「では……いざ、尋常に!」
( ФωФ)「勝負である!」
掛け声と同時に、二人は剣先を鉢合わせる。
一瞬だけ飛び散った火花が、決闘の合図だ。
モララーはそのまま、一足飛びで距離を置いた。
しかし、それを読んでいたかのようにロマネスクは前進をしていた。
( ФωФ)「ふっ!」
( ・∀・)「よっ!」
最低限の動きで、しかし最速の斬撃をロマネスクは繰り出した。
刀身ごとたたき折りそうな袈裟斬りをモララーは、軽々といなした。
( ・∀・)「エアロ!」
空いていた左手で、突風を巻き起こす。
たまらずロマネスクは、その場で踏みとどまってしまった。
68
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:21:28 ID:VC0QHqzQ0
( ・∀・)「フレアボム!」
すかさず連唱。
ロマネスクの周囲に、小さな火球が無数に発生した。
モララーが開いていた手を閉じる仕草をすると、それらは一斉に爆発を巻き起こす!
( ФωФ)「これしき!」
留まる事を知らないかのように、ロマネスクは爆風に耐えて突貫してきた。
距離を置かれることを恐れた黒騎士は、そのまま倒れこむかのように横薙ぎを払う。
( ・∀・)「甘いですよ!」
ギリギリ範囲であったが、モララーはまたも軽く受け流した。
予想違わず転んだロマネスクの、一瞬の隙をついてモララーは魔法を唱える。
( ・∀・)「ブリザードランス!」
今度は氷で出来た槍が3本、ロマネスク目掛けて飛んでいく。
立ち上がり、迎撃するには時間が足りない。
( ФωФ)「わけがないのである!」
大きく重量のある鎧、武器共に前転をした。
重さなど微塵も感じさせない軽やかな動きで体勢を立て直したロマネスクは、飛んでくる氷の刃を一瞬にして撃砕する。
( ・∀・)「……やはり、一筋縄ではいかないですね」
( ФωФ)「当然である。手加減をしたお主に後れを取るほど、吾輩は衰えていないのである」
69
:
名も無きAAのようです
:2012/07/28(土) 22:22:01 ID:htD3oa8.0
最終話来てたか
支援
70
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:23:10 ID:VC0QHqzQ0
ロマネスクの発言の通り。
モララーは手加減していた。とはいえドクオの時のような、全力全開を求めているわけではない。
あれは、間違いなく敵を殺すための魔法だ。それを今から使え、と挑発しているとも違う。
使っている魔法が下級過ぎるのだ。
片手程度で使える弱い魔法で、ロマネスクを倒せるわけがない。
もちろん、先ほどから魔術師としてあるまじき身体能力は、魔法による効果だが……。
( ФωФ)「……何を笑っているのであるか?」
( ・∀・)「え?」
指摘されたモララーは、自らの口元に手を当ててみた。
頬が吊り上っている。なるほど、確かにこれは笑顔だ。
何故、無意識にそんな表情になってしまっているか。それは考えるまでもなく、気づいていた。
( ・∀・)「あなたと手合せ出来ることが、嬉しいんですよ」
( ФωФ)「え?」
( ・∀・)「ずっとずっと、僕の家族のように接してくれたロマネスクさんと……
自分の大切なものを賭けて戦い、そして越えて見せる」
( ・∀・)「こんな嬉しいことがありますか?」
( ФωФ)「……お主も、大概であるな。戦いは嫌いなのかとばかり思っていたのである」
( ・∀・)「嫌いですよ。大嫌いです。けど、それは命のやり取りだからですよ。
力比べをして、相手を打ち負かすことに関しては、僕は後ろめたさを持ってはいません」
( ФωФ)「お主らしい、答えであるな。なるほど。確かに、そう考えれば吾輩も心躍るのである。
世界最強の魔術師を相手に手合せ出来ることは、騎士として誇りなのである」
( ・∀・)「わかりました。それでは、僕もそれに応えるとしましょう」
71
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:25:54 ID:VC0QHqzQ0
( ФωФ)「うむ!」
( ・∀・)「いきますよ!」
モララーは手に持った剣を思い切り振りかぶり、横へ払う。
そこは紛れもなく虚空だったのだが、まるで金属が切り裂かれるような甲高い音が鳴った。
( ФωФ)「!?」
切り裂いた線を中心に、視界がズレた。
ロマネスクの捉えている景色は滅茶苦茶だった。モララーの下半身と上半身がかみ合っていないのだ。
その後ろの見える木々さえも、一致していない。
が、それを確認する前に黒騎士は気配に気づく。
目の前の不可解な現象より、もっと確実な存在感が背後にあった。
( ФωФ)「ふんっ!」
敵意と判断すると、大剣を使うより早く後ろに蹴りを入れる。
手ごたえはあった。しかし、有りすぎた。
(; ФωФ)「な!?」
蹴りは、後ろの気配の腹部を貫通し背中まで突出してしまっていた。
けれど、その気配はモララーではなかった。リアルだけれども、そうではない彼の煙による幻術。
モララー自身は、最初からずっと。景色を切り裂いた、まやかしの後ろに居たのだ。
そのまま距離を詰め、ロマネスクの懐に飛び込んでいた。
( ・∀・)「!」
剣を振りかぶるより早く、ロマネスクは体勢を再び整えていた。
蹴りこんだ足を、軸足にして大剣を上段に構えている。
72
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:27:30 ID:VC0QHqzQ0
この距離では下手に回避すると危ない。
モララーは攻撃を変更し、そのまま肘を突き出した。
(; ФωФ)「ぐおっ!」
肘先を硬質化させ、簡易的な爆風魔法で急加速。
固い鎧ごと、ロマネスクは吹き飛ばされた。
そのまま追撃が来る。
雷の魔法がモララーの剣先から発せられた。
規模は大きくなくとも、電撃は体を痺れさせる効果もある。
しかし、騎士のロマネスクでは空中で回避の出来る術はない。
だが回避はせずとも、防ぐことはできた。
振り上げた大剣をそのまま地面に突き刺し、手を放す。
ロマネスクの眼前で、大剣が激しく稲光をあげた。
クルリと空中で身軽に回転をし、着地をすると捻転を利用したままロマネスクは走り出す。
大剣を加速中に、引き抜き一気に距離を詰める!
(# ФωФ)「はぁあああ!!」
今までと同じではいけない。どうせ距離を取られるだけだ。
ならばこそ。ロマネスクは刃圏外で大剣を振り下ろした。
( ・∀・)「うわっと!」
力任せに振り下ろした大地が弾け、モララーに襲い掛かる。
けれど、そんなもの意味がない。一瞬でそれらは砕け散り、モララーには届くことがなかった。
73
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:30:01 ID:VC0QHqzQ0
が、その一瞬があれば充分であった。
ロマネスクはその一瞬で、一足飛びをしてモララーを攻撃範囲内に収めることが出来たのだ。
(# ФωФ)「うぉおおおお!!!」
( -∀・)「!」
ギィン、と高くも鈍い音が鳴った。
騎士による大剣の横薙ぎは、モララーが手に持っていた凡剣を叩き折ったのだ。
二人の間に、土と金属のかけらが舞っている。
一瞬の隙だと思った。
モララーはそれらに見とれていたと思った。
ロマネスクは最後のチャンスだと思い、手首のみで切っ先を返し再び斬撃を振るった。
……はずだった。
(; ФωФ)「な……に……?」
腕が動かなくなっていた。
いや、腕だけではない。足も首も手先も腰も。何もかもが動かない。
正しくは動かないのではない、抗えないのであった。
先ほど砕いた刃と土。
それが紐のような物へ変形し、まるで未知の物質になったかのようにロマネスクの全身を拘束していたのだ。
( ・∀・)「僕の勝ちでいいでしょうか?」
微動だに出来ないロマネスクの首元へ、モララーが人差し指をそっと当てた。
74
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:33:39 ID:VC0QHqzQ0
(; ФωФ)「く……」
もう一度、破れないかと全力を込めた。
けど無駄だった。力が奪われていってしまうかのごとく、ピクリともしない。
魔術師らしい、細身の体がすぐ傍にあるのに……それには決して届かないのだ。
(; ФωФ)「……まったく、お主とはまともな勝負にならないのである」
ため息をつき、ロマネスクは悔しそうに笑いながら、降参した。
――――。
/ ,' 3「気は済んだかね」
( ФωФ)「はい。ありがとうございました。ご迷惑をかけてしまって申し訳ありません」
小屋に戻り、ロマネスクは礼と謝罪を述べた。
ただのわがままであることは、最初からわかっていたのだから。
/ ,' 3「ちなみにあえて聞くが、勝てたのかの?」
( ФωФ)「いえいえ。一太刀も入りませんでしたよ」
/ ,' 3「ほっほっほっ。相変わらず無敵じゃのモララー君は」
( ・∀・)「いえいえ。ロマネスクさんの身体能力には驚かされました。
まさか、剣を折られるとは思ってなかったので」
(゚、゚トソン(本当にすぐ終わっちゃった……)
談笑している三人を見つつトソンはそう思う。
体感としては、来客二人が来てからの話よりずっと短かった。
見ただけで、かなりの腕前と思えるロマネスク相手に短時間で勝利するなんて……。
75
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:36:14 ID:VC0QHqzQ0
( ・∀・)「ところで、この場合は処罰は如何様に?」
/ ,' 3「もちろん、無効じゃな。処刑失敗というところかの」
( ФωФ)「この令状も必要ないのである」
先ほどの紙を懐から取り出すロマネスク。
その手から何気なくスカルチノフが紙を奪うと、火の魔法を使って燃やしてしまった。
/ ,' 3「さて、満足したことじゃ。これで帰るとするかの」
( ФωФ)「えぇ。そうしましょう」
スカルチノフが離席しようとしたので、黒騎士は優しく椅子を下げる。
ゆっくりと国王は立ち上がると、モララーを見た。
/ ,' 3「モララー君。ワシは今日、大魔術師モララー=レンデセイバーを捜索しにきた」
( ・∀・)「!」
/ ,' 3「しかし、それも叶わず捜査は失敗。森の中を彷徨うだけでおわりじゃ」
/ ,' 3「もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない。会うこともないかもしれない」
/ ,' 3「でも、それでもワシは……今日もどこかで、モララーという青年が世界の為に生きていると」
/ ,' 3「そう確信しておる」
( ・∀・)「……おじい様……」
と、うっかり昔の呼び方をしてしまったモララーが慌てて訂正をしようとした。
76
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:39:48 ID:VC0QHqzQ0
/ ,' 3「ほっ? まだその呼び方をしてくれるのかね?
すっかり忘れてしまったものかと思っておったんじゃが……」
( ・∀・)「忘れるわけがありませんよ。ただ、歳月が経っていたので……その……」
/ ,' 3「良いのじゃ。時が流れても、場所が離れていても。ワシはキミを家族と思っておる」
( ・∀・)「……はい」
/ ,' 3「寂しくなったら、いつでも来るがよいぞ」
スカルチノフは皺のついた手を伸ばしてモララーの頭を撫でる。
恥ずかしそうに、でも誇らしく青年はそれを受け入れた。
( ФωФ)「そうであった」
小屋を出て、転移魔法で王都まで送ると決めた時だった。
( ФωФ)「モララー殿。吾輩の息子のことである」
( ・∀・)「ブーン君ですか?」
( ФωФ)「うむ。あの子は本物の戦を知らない。
強くなろうと一生懸命なのは良いが、まだ心が未熟なのである」
( ・∀・)「……そうでしょうか?」
( ФωФ)「これからも、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げたロマネスク。
スカルチノフにも再度お礼を言い、モララーは転移魔法を発動し二人の恩人を見送った。
77
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:42:26 ID:VC0QHqzQ0
(゚、゚トソン「何だか、嵐のような方々でしたね」
( ・∀・)「そうだね」
時分は既に夕方だった。
伸びた草地が、さらさらと風でなびいていく。
日中の熱は既に沈静化を始めており、涼やかな風が体を打った。
(; ^ω^)「あ、あのー……」
( ・∀・)「おや、キミたち一体どこに居たんだい?」
小屋の影から、子ども達が出てきた。
何か割り込んではいけなさそうな空気だったので、ずっと自重して隠れていたのだ。
(´・ω・‘)「結構前からここに居たんですけどね」
ξ゚⊿゚)ξ「具体的に言うのならば、国王様がいらっしゃった辺りから」
(*゚∀゚)「いやービックリしたわ。ホライゾネル隊長も生で見たの初めてだったし!
更にスカルチノフ国王だぜ? 焦ったわー!!」
( ^ω^)「……」
( ・∀・)「どうしたんだい?」
やっと普段通りの声で話せると興奮している子ども達の中で、ブーン一人だけしょんぼりしていた。
( ^ω^)「あの、父ちゃんとの戦いも見ていたんですお」
( ・∀・)「そうなんだ」
78
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:45:32 ID:VC0QHqzQ0
(; ^ω^)「……なんというか、少しでも父ちゃんに近づいたと思ってたんですけど……
思い上がりでしたお。全然雲の上でしたお」
( ・∀・)「……」
( ^ω^)「何だか、自分が恥ずかしいですお。勝手に知った気になっていたんですお。
もっともっと修行して、強くなりたいと思ったんですお」
( ・∀・)「ブーン君」
( ^ω^)「はい?」
( ・∀・)「僕は、キミが未熟だなんて思っていないよ」
( ^ω^)「え?」
( -∀-)「あの戦いの中で、それだけの実力を見極められて、尚且つ意気消沈せずに
更に高みを目指そうとしているキミが、未熟なんてことはない」
( ・∀・)「もっと自信を持っていいよ。キミは強いんだから」
(* ^ω^)「そ、そうですかお? モララーさんに褒められるなんて……とっても嬉しいですお!」
照れくさそうに笑う少年。
後ろで楽しげに話す少年少女。
本当は、教えられた僕自身だったんだ。
彼らと出会い、様々な出来事を経験することで……僕はおじい様やロマネスクさんと討論することができた。
もしも、大戦後何もなく独りで生きていたら……きっと今頃王都で偉そうに指図をしていることだろう。
79
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:47:52 ID:VC0QHqzQ0
本当に、本当に。
キミたちと出会えて、良かった。
ありがとう。
――――。
時刻も時刻ということで、そろそろお開きとなった。
面倒事に巻き込んですまない、と謝ってからモララー達は子どもを見送った。
(゚、゚トソン「あの」
小屋に戻り、一息つこうと椅子に座った時だった。
トソンは立ったまま入り口のところでモララーに声をかけた。
(゚、゚トソン「……正直に聞いて良いですか?」
( ・∀・)「何でしょうか?」
(゚、゚トソン「ここで生活するより、王都で過ごされた方がずっと有意義だと思います」
( ・∀・)「そうだね」
(゚、゚トソン「経済力、権力。共に揃っているなら、無魔法野菜の栽培など一瞬で叶う夢ですよね」
( ・∀・)「かもね」
(゚、゚トソン「おかしいじゃないですか。何でも出来るのに、何でそれほどまで自己犠牲が出来るんですか!?」
80
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:50:50 ID:VC0QHqzQ0
( -∀-)「……」
トソンの質問は、ずっと前から抱いていたものだった。
暗殺を企てたあの馬小屋での夜。その精神の崇高さに打ちひしがれ、彼女はモララーと生きていくと決めた。
けど、その根源は一体なんなのか。それがさっぱりわからない。
( ・∀・)「……そうだね。以前の僕なら、こう答えるよ」
( ・∀・)「それが僕の罪滅ぼしだから。権力など使わず、ただ一人の人間として世界に抗いたいから」
( ・∀・)「こんな感じだろうね」
(゚、゚トソン「……では、今は違うんですか?」
( ・∀・)「うん。違う。全然違うよ」
(゚、゚トソン「……それは?」
モララーは立ち上がり、そしてトソンの正面に立ち。
恥ずかしそうに、けれど真剣に。
言った。
( ・∀・)「キミと居たいから」
(゚、゚トソン「へ?」
( -∀-)「優雅に暮らすより、ここで気兼ねなくキミと過ごしたい。
自分の心で決めた女性と、これからもずっと生きていきたい」
( ・∀・)「それが実現できないならば、僕は富も権力もいらない。だから、断ったんだ」
81
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:53:33 ID:VC0QHqzQ0
(゚、゚*トソン「あ、え……と……」
( ・∀・)「……ダメかな?」
( 、 *トソン「…………ダメなわけがないです」
(* -∀-)「……良かった」
( ・∀・)
(゚、゚トソン
思わず安堵してしまい。ふと見詰め合う二人。
どちらかが何かを言い出すわけでもなく。でも、何か間の悪そうに。
じっと見つめあい。そして、少しずつ距離を詰めていき
息すらかかってしまいそうなほど近くに寄っていた。
( ・∀・) (゚、゚トソン
ガチャ (*゚∀゚)「ちょいとゴメンなー! 忘れもん取りにきたz」
82
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:56:16 ID:VC0QHqzQ0
( ・∀・)(゚、゚トソン
( ・∀・ )( ゚、゚トソン
(*゚∀゚)
(*゚∀゚*)
83
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 22:59:12 ID:VC0QHqzQ0
(゚∀゚*)「みんなぁあああ!!! モララー兄ちゃんとトソン姉ちゃんがチューしてっぞぉおおおお!!!」
(* ^ω^)「な、なんだってーーー!!!??」
ξ*゚⊿゚)ξ「ちょ、まだ夜には早いわよ!?」
(*´・ω・‘)「き、キミたち! あ、あわわ慌て過ぎでしょ? 何をどどど動揺してんだい?」
(* ・∀・)「ちょ、ちょっとちょっと! な、何で? え?」
(*゚∀゚)「や、だから忘れ物取りにきたんだって」
(* ^ω^)「いやー。しかし遂にですかお。待ち焦がれましたお。
二人とも何かそういうの鈍チンだから、心配してたんですお」
ξ゚⊿゚)ξ「ま、あんたも大概だけどね」
( ^ω^)「? どういうことだお」
ξ-⊿-)ξ「そういうことよ」
(´・ω・‘)「ともあれ、お邪魔してすみませんでした」
( 、 *トソン「いえ……まぁ……」
(*゚∀゚)「で? 結局二人はどういう関係になったわけ?」
( ・∀・)「そういう関係だよ」
( ^ω^)「おー。マジですかお!」
ξ゚⊿゚)ξ「トソンさんも、もちろんそれでいいんですよね?」
(゚、゚*トソン「……うん」
84
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 23:01:32 ID:VC0QHqzQ0
(´・ω・‘)「尚更、ボク達はお邪魔みたいだね。さっさと帰ろうか」
用事を済ませ、今度こそとモララーはしっかり転移魔法を使って子どもたちを家に送った。
(゚、゚トソン「……」
( ・∀・)「トソンさん」
(゚、゚トソン「はい」
( ・∀・)「僕は、世界中を救うなんて力は持ってない」
( ・∀・)「でも、それでも。僕はこの目に見える小さな幸せだけは。何があっても守っていくよ」
( ・∀・)「だから、これからも一緒に居てくれるかな?」
(゚、゚*トソン「……勿論ですよ。私も、そうしたいです。」
(* ・∀・)「じゃ、改めて。不束ものですが今後とも、よろしくね」
(^、^*トソン「はい! こちらこそ!」
扉を閉じ、二人はぼんやりと明かりの灯った小屋へと入っていった。
85
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 23:02:45 ID:VC0QHqzQ0
それから
世界最強の魔術師モララー=レンデセイバーは
小さな幸せを生涯、守り続けていったそうだ。
その人里離れた山奥の小屋では
双つの肩が、いつも楽しげに寄り添っていたという。
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双
完
86
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/28(土) 23:05:14 ID:VC0QHqzQ0
というわけでおしまいです。
完結まで長々とかかってしまいすみませんでした。
前回はまだ続けられるかと思いましたが、今回は本当に完結です。続きはないです。
お付き合い頂いた方々に厚く御礼申し上げます。
連載中のall for〜の方も出来るだけ早く投稿していきたいと思います。
87
:
名も無きAAのようです
:2012/07/28(土) 23:18:02 ID:htD3oa8.0
乙乙
続きが読めるとは思ってなかったんで、復活は嬉しかったよ
お疲れさんす
88
:
名も無きAAのようです
:2012/07/28(土) 23:31:26 ID:Ky/Fncb60
乙
モララーさん流石やでぇ
89
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 00:29:55 ID:4vBKmxtI0
乙です
90
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 01:22:39 ID:rF.ASPZ60
乙
ロマネスクって聖騎士じゃなかったっけ
91
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/29(日) 01:36:39 ID:V4WD5D5w0
……あ、本当ですね
致命的すぎる。全部書き直したいレベル!!
脳内保管でオネシャス! 黒騎士の部分は聖騎士で!!
92
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/29(日) 01:51:30 ID:V4WD5D5w0
作者が全て勘違いしてるなんて恥ずかしいですな。
鎧も黒で統一させてるってことは、完璧にやっちまってます。
それらの記述だけ、再度書き直したい。悔しい。というか情けない!!
93
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 03:07:48 ID:AQhY5JyMO
作者が復帰してから読みはじめたので
他の方とは違い自分のなかでは起承転結すぐだった
(゚、゚トソンのメインもしくはヒロインのやつはうるうるさせるね
94
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 06:13:35 ID:a39CYh3.O
乙乙
楽しかった
95
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 08:48:01 ID:Ed/V319MO
最初から最後まで楽しく読めたよ!
何より完結させてくれたことが本当に嬉しい
乙でした
96
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 08:57:22 ID:yuv0NXOQ0
乙!乙乙!
97
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/29(日) 09:32:07 ID:V4WD5D5w0
/ ,' 3「久方ぶりじゃのう、モララーくん」
枯れた喉から発されたのは、柔らかくも気高さを感じさせる言葉。
懐旧のこもったその言葉にはどこか優しさも覚える。
(; ・∀・)「何故……こちらが……?」
/ ,' 3「まぁ、それは追々話すとしよう。立ち話もなんじゃ、キミさえよければ上がらせて頂きたいのじゃが」
ドアノブを手にしたまま、半身になってモララーは対応していた。
その余りの不敬さに、モララーは自分を恥じると同時に謝罪の言葉を紡ぐ。
(; ・∀・)「し、失礼しました。どうぞ、何分窮屈な場所でございますが……」
/ ,' 3「そこまでかしこまらなくて結構じゃよ。
ワシはキミに、国王と匹敵するほどの位、大魔術師の称号を捧げたつもりじゃ。
昔のように、盟友(とも)として接してくれればよいぞ」
ほっほっほっ、とスカルチノフ国王は、嫌味さを感じさせない笑いでモララーを許した。
いや、元より不敬などとは、彼は思ってもいない。
立場上、その厳しさを見せることはあれ、平時の彼は王ではなく一人の老人なのだ。
( ・∀・)「……ありがとうございます。では、改めて。いらっしゃいませ」
/ ,' 3「うむ。お、そうじゃ。ロマネスクくん、キミも入りなさい」
( ФωФ)「ハッ!」
キレのある返事と共に、扉の影からヌッと大男が出てきた。
聖騎士に与えられる、金の装飾が入った白銀の全身鎧を着こんでいる。背にはVIP大陸の紋章が刻まれたマントも着用していた。
背中には身の丈ほどもある大剣を携えた彼は、有事のロマネスク・ホライゾネルに他ならない。
98
:
名も無きAAのようです
:2012/07/31(火) 19:08:38 ID:0ATSMtLAO
結局電撃の選考どうなったんだ?
99
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/31(火) 19:34:23 ID:NvoWlxrU0
>>98
結局、落ちました。でも講評をもらえたので嬉しかったです。
ストーリーはつまらんけど、キャラクターが活き活きしてるね、と何ともいえない評価でした。
プロの道は険しいです。
100
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 00:58:01 ID:WjAIrc2w0
何次まで進んだの?
101
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/08/02(木) 16:20:24 ID:OLgq5H/U0
ブログの方再開したので、そちらで色々と報告してます。
よろしければ、ご覧ください。
102
:
名も無きAAのようです
:2012/08/04(土) 23:21:51 ID:g0oCRYUUO
面白かった 乙
ブーンの美肌の秘訣は?
103
:
名も無きAAのようです
:2012/08/05(日) 03:18:25 ID:XA0OCOCwO
うわああああああまさか帰ってくるとは思わんかったああああああああああ
超面白かったよおおおおおおモララー末永く爆発しろおおおおおおおおおおおおお乙うううう
104
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/08/05(日) 13:04:12 ID:eHES3fEs0
>>102
モララーさんの新鮮なお野菜パワーですね。
思っていたより、待っていたよーという意見が多くてびっくりしてます。
逃亡だけは、ダメ、絶対と改めて思いました。ご愛読ありがとうございました。
105
:
名も無きAAのようです
:2014/10/23(木) 02:27:49 ID:q1I7r/b20
おつ
106
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 20:46:59 ID:aUR6lmzc0
こんばんは。
作者です。トリップをうっかり喪失してしまったのですが本人です。
少しアイデアが浮かんだので、今から番外編を投下します。
8年ぶりなので、色々つたない部分ありますが読んでいただけると幸いです。
それでは、始めます。
107
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 20:47:54 ID:aUR6lmzc0
(;・∀・)「本当に大丈夫?」
(゚、゚トソン「大丈夫ですって。何度も言っているじゃないですか」
(;-∀-)「でも、もしも本当にそうだったら……。」
ε=(゚、゚トソン「もう。なんで当事者の私より、モララーさんの方が心配してるんですか」
(:・∀・)「と、言われても……。僕だって医者じゃないし」
(-、-トソン「……わかりました。では、明日。ちゃんと病院へ行きます」
(゚、゚トソン「だから、ちゃんと。安全に連れて行ってください。ね?」
(;・∀・)「う、うん。わかったよ」
番外編「三日月の涙」 前編
108
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 20:48:44 ID:aUR6lmzc0
( ・∀・)「……」
白い雪。
室温との差で曇った硝子越しに、モララーは外を眺める。
手にはマグカップが握られているが、熱さは既にない。
しんしんと降り積もる氷の結晶群を、ぼんやりと見つめていた。
(゚、゚トソン「……まだでしょうかねぇ」
キッチンの前に椅子を置いて、同じく座っているトソンがぽつりと呟く。
彼女の持つ、陶器の湯飲みもすっかり冷めてしまっていた。
時計のない部屋。秒針を刻む規則的な音すらも聞こえない。
暖炉からときおり薪が爆ぜて、一瞬だけ空間をよぎる。
それ以外のものは、なにもない。
二人の呼吸どころか、心臓の鼓動すら聞こえそうな静寂。
( ・∀・)「……来た」
遠くで微力な波動を察知したモララーが、小さく言う。
(゚、゚;トソン「は、はい!」
それを合図に、トソンはパタパタと準備を始める。
モララーもその手伝いをするため、腰を上げた。
109
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 20:50:01 ID:aUR6lmzc0
…………数分後。
満足の出来る状態に仕上がった二人が、顔を見合わせたと同時だった。
(*^ω^)「モララーさん! 僕、やりましたおーー!!」
元気よく、ノックもせず、百点の笑顔で。
ブーン=ホライゾネルが、隠居小屋へと入ってきた。
手には、丸められた紙を持っている。
( ・∀・)「やあ、いらっしゃい。ブーン君」
(゚、゚トソン「いらっしゃい。あらあら、ほっぺに雪ついてるよ」
無作法な少年を二人はにこやかな顔で、迎え入れた。
礼儀なんてどうだっていい。
それぐらい、今日は彼にとって嬉しい日なのだから。
ξ#゚⊿゚)ξ「もう! 一人で勝手に行くな、って言ったじゃないの!」
(´・ω・`)「まあまあ。今更、そんなこと無駄でしょ」
(*゚∀゚)「おーす、モララー兄ちゃん、トソン姉ちゃん。お邪魔しまーす!」
ブーンの後に、遅れてやってきた少年少女。
名門と言われるVIP国立闘技学校の制服の上に、厚手のコートを着ているのが二人。
ごく一般の学校制服の少女が一人。
ξ゚⊿゚)ξ「とと。お邪魔します」
礼を欠いたのに気づき、慌てて名門校の少女が頭を下げる。
長いまつ毛、すっと通った鼻に、薄い唇。
寒さでやや紅色になった頬は、本来は透き通るぐらい白い。
眉目秀麗な彼女の名は、ツン=デ=ジェレイト。
細く繊細な手には、ブーンと同じ巻紙が握られていた。
110
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 20:51:09 ID:aUR6lmzc0
(´・ω・`)「こんにちは、お邪魔します」
パチンと指を鳴らして、部屋に入ってきた下眉の少年はショボン=ノーファルだ。
体に降りかかる雪を、自動で防ぐ風魔法を解いたのだろう。
室内の温度を確認すると、静かにコートを脱ぎ始めている。
(*゚∀゚)「見てみー! オレも無事、ゲットできたぜ!」
他の三人より、体格も服装もやや劣る少女。
ツー=チェイルは、モララーにとって初めての下界での友人だ。
人体に害の少ないが、コストがかかる無魔法野菜を率先して斡旋してくれた
最初の商売仲間でもある。
まだあどけなさが残るが、彼女もこれはこれで立派な一人前なのである。
その証である、とある巻き紙を見せびらかしてきたのだ。
( ・∀・)「それは良かった。勉強の成果、出せたんだね」
(*゚∀゚)「なーに言ってんだよ! 兄ちゃんや、みんなが教えてくれたからだろ?」
(゚、゚トソン「お店番やりながらこっちにも来てるんだもの。そんな中で、ちゃんと出来たのはとっても偉いよ」
(*-∀゚)「へへっ、ありがとな。トソン姉ちゃん!」
( ・∀・)「……聞くまでもないとは思うけど。全員……かな?」
ツンは頷き、ショボンもコートから紙を取り出す。
問題ないみたいだ。
111
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 20:52:23 ID:aUR6lmzc0
――――では。
( ・∀・)「みんな、卒業に試験の合格、おめでとう!」
(゚、゚トソン「おめでとー」
トソンが手に持っていた三角錐の筒を弾く。
中に込められた、微小な魔法が発動し、破裂した。
お祝い用の色とりどりの細長い紙は、机の上の御馳走に被らないよう、放射線を描いて落ちていく。
そう、今日は少年少女らにとって大切な日なのだ。
一般学校のツーは卒業の日。
名門校のブーン達は、それに加えて傭兵テストの合格発表日。
両親への報告も軽々に済ませ、彼らはどうしても報告したい恩人の下へ駆け込んだわけである。
お祝いの言葉をもらうと、各々が料理に手を出し、甘い飲み物を口にしていく。
場も温まってきたところで、徐にブーンが立ち上がると、モララーの前で止まった。
( ^ω^)「ふふん! 見てくださいお! 僕、なんと……五位で合格ですお!」
手に持っていた用紙……傭兵テストの合格通知書をブーンは広げる。
消して色あせない魔法のインクで書かれた文章の最後に、彼の名と
彼が、今年の傭兵テスト騎士コースのトップクラスである証の押印がされていた。
( ・∀・)「それはそれは。ロマネスクさんも喜ぶだろうなぁ」
(* ^ω^)「へっへっへー」
112
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 20:53:38 ID:aUR6lmzc0
嬉しそうに照れながら、鼻の下をブーンがこする。
と、その横から被さるようにしてショボンが出てきた。
手にした証書は、ブーンの持っているものとほぼ同じ。
文言が、魔術師コースとなっているだけだ。
つまり。
(´・ω・`)「僕は三位でしたよ」
( ・∀・)「ショボン君も、よく頑張ったね。ノーファル家は安泰だ。」
(゚、゚トソン「はー……。知ってはいたけど、みんな優秀なんだねぇ……」
別段成績の良くなかったトソンが、感嘆の声を漏らす。
そんな自慢気な二人をよそに、机に肘を置いて不満そうな人物一人。
(*゚∀゚)「お? そーいや、ツンはどうだったんだ?」
至極平凡な成績の卒業証書を、胸ポケットにしまいこんでいるツーが
ごちそうの肉料理をフォークに刺しながら問う。
ξ#-⊿-)ξ「聞かないでよ、ツーちゃん」
(*゚∀゚)「なんでだ? ツンも結構すげぇって聞いてるけど?」
ξ#゚⊿゚)ξ「そうだけど!」
( ^ω^)(……否定しないのがツンらしいお)
113
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 20:54:33 ID:aUR6lmzc0
(゚、゚トソン「成績は順位が出てるんだよね? 何位だったの?」
優しくトソンが尋ねると、ツンは嫌そうな顔をして証書を見せた。
そこには、『五位』の意味と取れる内容が書かれていたのだ。
(*゚∀゚)「おぉ、五番? すげーじゃん!」
ξ-⊿-)ξ=3「私は一位合格するつもりで、これまで頑張ってきたのよ。
結果がこれじゃ、納得いかないわ」
(´・ω・`)「実技試験では負けてたんだけどね。筆記試験の方での差が大きくて
それで、ボクの方が勝ってただけさ」
ξ#゚⊿゚)ξ「わざわざ解説しないでよ! 大体、その筆記試験でも
最後の大問の計算ミスなだけじゃない!」
(´・ω・`)「そのミスが、こうして結果として出ているんだから
仕方ないだろう?」
ξ#゚⊿゚)ξ「ムキー! もう一回やったら、絶対私が勝つんだから!」
(´-ω-`)「試験も実戦も同じだよ。次はないもんさ」
ξ#゚⊿゚)ξm9て「部隊に入ったら、絶対遅れはとらないからね!
今のうち、せいぜい優越感に浸ってるといいわ!」
(´・ω・`)「ははは。受けて立つよ」
( ^ω^)「おっおっww 二人とも、元気だおねぇ」
114
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 20:55:57 ID:aUR6lmzc0
なんてことない、いつものやり取り。
同じコースで、同じくらいの実力者の二人。
よくいがみあって、勝負をけしかけ、モララーに困惑されながらも審判を求める。
二人を、ブーンは穏やかに、ツーが能天気に見つめる。
楽しそうで、優しい。そんな子供たちが好きなトソンは、傍らでほほ笑む。
――いつもと、なにも変わらない風景。
(*゚∀゚)「そっかー。三人とも、春から傭兵部隊だもんなー」
柔らかくて温かい空気が、屋外の温度まで下がったような気がした。
悪気のない、当たり前に出てきた言葉。
それは……ある一つの事実を指し示すことになるから。
(゚、゚トソン「……ということは、もう今まで見たいには遊びに来れなくなっちゃうね」
115
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 20:57:16 ID:aUR6lmzc0
固まった空気を、トソンは少しだけ間をおいてから切り裂いた。
最初からわかっていたように、諦めを含めた物言い。
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
(*゚∀゚)「あ、勿論オレはそのまま家を継ぐから、いつも通りだぜ!」
( -∀-)「そうだね。これからも、ご贔屓にさせてもらうよ」
淹れなおしたアージンのカップを、机に置きながら言う。
( ・∀・)「……」
そして三人を一瞥した。
優秀な彼らだ。
これから部隊に入り、国を守る仕事を始めれば忙しくなるだろう。
……何か。
何かしてあげられないだろうか。
116
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 20:58:48 ID:aUR6lmzc0
地位や名誉の問題じゃない。
この世界に生きている、一人の大人として何か。
少しでも、彼らにしてあげられることは……。
( ・∀・)「……!」
閃きと同時に、拳を掌に軽く叩きつける。
音に気付いた子供たちが、視線をモララーへ集めた。
それを確認すると、いつものような優しい笑顔で、彼は言う。
( ・∀・)「記念に、旅行でも行こうか」
(;´・ω・`)「……え?」
ξ;゚⊿゚)ξ「りょ……」
(* ^ω^)(*゚∀゚)「旅行------!!??」
117
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:00:16 ID:aUR6lmzc0
――――――。
大きな雲が、色の濃い青空を泳いでいる。
なだらかではない、積み重なることで生成される入道雲。
輪郭をくっきりと浮かび上がらせる強い日差し。
それは、朱炎の太陽。色濃く枝葉の影を作る、強烈な光を生成している。
耳に届くのは、波の音。
引いては寄せる、浅葱色の水。
陸地付近は透明で、砂の奥には貝殻や石が輝くように反射してまるで宝石のよう。
街では感じられない、べたつく風。
潮の香りを乗せる気流が、乾いた砂を巻き上げていく。
VIP大陸において、今の季節は冬真っ盛りだ。
モララーの住む山奥でなくても、雪は積り、息は白く、手先は赤ばみ、体は震える。
だが、今。
少年少女の眼前に広がっているのは、真逆……『夏』だったのだ。
118
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:01:14 ID:aUR6lmzc0
(*゚∀゚)(* ^ω^)「海だーーーーー!!!」
にぎやかし担当の二人は、さっそくエメラルドグリーンの海水へと飛び込んでいく。
耐水性能のある生地で編まれた、簡素な下着のような格好のままで、である。
(* ^ω^)「ぷえー! ホントにしょっぱいお!」
(*゚∀゚)「うぉおお!? すげえ、めっちゃ泳ぎやすい! 浮かぶ! 浮かぶぞ、ブーン!」
ξ゚⊿゚)ξ「あんた達、準備体操くらいしたら? 足攣っても知らないわよ」
どうせ言っても聞かないだろうが、という含みをこめてツンが、浮き輪を片手に声をかける。
彼女はセパレートタイプのフリル付きの水着を着用していた。
夏の日差しに照らされると、その白い肌がより一層まぶしく見える。
( ^ω^)「だいじょーぶだお! ツンも早く来るおー!!」
(*゚∀゚)「来ねえなら無理やりでも行くぞオラーー!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「きゃっ!? ちょっと、ツーちゃんやめ……キャーー!!」
無理やりツーに手を引かれ、ツンが崩れるように海に飛び込む。
自慢のツインテールをびしょ濡れにしながら、怒りつつも笑顔で反撃した。
ξ*゚⊿゚)ξ「こんのー! くらいなさい!!」
ツンが手に魔力を込めて、波を操った。
騎士の二人には絶対作り出せない形の水を、二人にぶつける。
119
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:01:57 ID:aUR6lmzc0
……はずだった。
それは果たされることもなく、普通に手の平で弾いただけの水量が
ツーの体に小さく降りかかる。
ξ゚⊿゚)ξ「あら?」
(´・ω・`)「モララーさんが言っていたじゃないか。ここは魔法が極端に制限される、って」
遅れて輪に入ってきたショボンは、フード付きの薄手なトップスと、丈の長い水着を下に履いていた。
魔法繊維で編まれた、薄いけれど突起物には絶大な防御を誇る最新のサンダルも身に着けている。
右手には、南国を連想させる編みこみのレザーブレスレットが踊っていた。
ξ゚⊿゚)ξ「確かに、普段よりちょっと身体が重い気もするわね」
(´・ω・`)「それは単なる運動不足じゃないかな」
ξ#゚⊿゚)ξ「なんですって?」
(´・ω・`)「魔術師だからって、日常的に魔法に頼ってるからそうなるんだよ。
僕はいつも、どんな状況でも冷静さを失わないように心がけてるから」
∀゚)ω^)(´・ω・`)「キミと違って、肉体的鍛錬もやってるんだよ」
*゚∀゚)^ω^)(´-ω・`)=3「やれやれ、ちょっと力が抑えられたぐらいで違和感があるようじゃ、ツンもまだまだ……」
120
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:02:51 ID:aUR6lmzc0
(*゚∀゚)( ^ω^)(´・ω・`)「…………ん?」
.
121
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:03:45 ID:aUR6lmzc0
(*゚∀゚)( ^ω^)(´・ω・` )彡
(*゚∀゚)( ^ω^)(´・ω・` )
(*゚∀゚)(* ^ω^)「「つべこべ言わず、遊べ(お)----!!!」
(;´・ω・`)「うわぁああ!!!」
二人に抱えられて海に投げ込まれるショボン。
今日一番の大しぶきが、夏の空へ舞い上がった。
( -∀-)「うん。みんな楽しそうで何よりだ」
122
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:04:30 ID:aUR6lmzc0
腕を組み、嬉しそうにモララーは少年たちを眺める。
簡素な薄手のシャツと短めのズボン。藁で出来た草履の、避暑地スタイルだ。
(゚、゚トソン「ええ、ホント。来てよかったですね」
横に並び立つのは、眉目秀麗なモララーに負けじ劣らず美しい女性。
幅広な麦わら帽子と、ゆったりとした真っ白なワンピース。
農作業のせいでやや焼けた肌が、衣服とのコントラストになっており
一層、その可憐さを際立たせている。
( -∀-)「……トソンさん、体調はどう?」
(゚、゚トソン「今のところは問題ないですよ。ご心配ありがとうございます」
( -∀-)「それなら良かった」
(゚、゚トソン「……?」
(゚、゚;トソン「モララーさん?」
( -∀-)「ん? どうしたの?」
(゚、゚;トソン「いえ、どうして目を瞑ったままなのかな、と……」
123
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:05:35 ID:aUR6lmzc0
ξ゚⊿゚)ξ「わかる? ブーン。あれが、今更になって突然押し寄せた美貌に照れてる男の人の姿よ」
( ^ω^)「ええっ? まさか、長く一緒に住んでるのにも関わらず、あまりの美しさで直視できないってことかお?」
(´・ω・`)「意外とウブなとこあるんですね、モララーさん」
(*゚∀゚)「アッヒャッヒャ! やっぱりおもしれーな、兄ちゃんは!」
突如湧いて出てきた子供たちに、心情を完全に見据えられたモララーは
慌てつつも、笑顔で答える。
(* ・∀・)「こらこら、大人をからかうんじゃないよ。まったく……」
(^、^*トソン「……ふふ。本当に、来てよかったですね」
そう笑顔で言ってくれるパートナーを見て、モララーも全く同じことを思っていた。
( ^ω^)「しかしモララーさん。『三日月の涙』を見せてくれるって、本当ですかお?」
少し遊んだ後の休憩時間。
ブーンは濡れた身体を拭きながらモララーに尋ねた。
( ・∀・)「うん、本当だよ。今日は無理だけど、予定通りなら明日の夜かな」
124
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:07:59 ID:aUR6lmzc0
ξ゚⊿゚)ξ「三日月の涙……って、聞いたことはあるけど」
(´・ω・`)「黄金の光を放つ、美しい宝石のことですよね?」
ξ゚⊿゚)ξ「見た人は、永遠に幸せになれるとか言われてるわね」
(*゚∀゚)「ほー。でも、宝石ならなんで明日じゃないとダメなんだ?
今からでもいいんじゃね?」
( ・∀・)「まあ、それは楽しみにしておいてよ。せっかくのバカンスなんだから。
特にそれ以外予定もないし、とにかく遊んでおいで」
( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ(´・ω・`)(*゚∀゚)「「「「はーーい!」」」
無邪気に駆け出す子どもたちの背中を、目を細めながらモララーは見送った。
――さて。そんな彼らが居る場所は一体どこなのか、という話であるが。
VIP大陸ともラウンジ大陸とも言えない、南に位置する小さな島。
名もなきその場所を、誰かが「レハコーナ島」と呼んだらしく。いつの間にか定着していた。
125
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:09:06 ID:aUR6lmzc0
そこは何もない、ただの無人島。
領土の権利をどちらの大陸も持たないが、不可侵の条約が結ばれているので
住人は存在しない。
船で向かうには遠く、魔法を使うにしてもレハコーナ島の一帯は魔力を消す石が
海底に細かくちりばめられており、無効化されてしまう。
そもそも、たどり着くことすら困難な場所。
人の手が行き届いていないこともあり、自生している植物は活き活きとし
風は魔力もなく澄んでおり、海水も数メートル先の底まで目視できるほど美しい。
秘境と呼ぶにふさわしい名所なわけだ。
(゚、゚トソン「しかし、名前だけなら私も聞いたことありますが。
まさか本当に存在していたとは……。」
( ・∀・)「冬の間は農作業しないから時間が余ることが多くてね。噂は実在するのかどうか
確かめたくなってさ。数年前に偶然見つけた時は、僕も信じられなかったよ」
木陰のハンモックに腰を下ろしながら、モララーはさらりと言う。
(゚、゚トソン「そういえば、魔法が使えないって聞きましたけど。
モララーさんは大丈夫なんですか?」
( ・∀・)「ああ。使えないっていうのは正しい表現じゃなくてね。
結局、ここはスペルキャンセラーを自発的に出す鉱石が影響しているだけだから。
僕は問題ないよ」
(゚、゚トソン「……まあ、そうなんでしょうね」
トソンは後ろを振り向く。
126
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:10:29 ID:aUR6lmzc0
そこには、無人島には似つかわしくない、見覚えのある木製の扉があった。
後ろ側には何もない。ただのドア。
しかし、一度ノブを捻り開けると
目の前に見えるのは、知っている場所。
小さなキッチン、四つの椅子と一つのテーブル。二階へ上がるための曲がった階段。
窓から差し込む光は弱く、今日も固くなるほど積もりそうな雪が降っている。
(゚、゚トソン(家の戸を、魔法で空間ごと繋げるなんて……)
スペルキャンセラーが効かないという、モララーの魔力の強大さを改めて実感する。
と、同時にトソンの脳裏には違うことが思い浮かんでいた。
(-、-トソン(過保護というか、なんというか……)
( 、 *トソン(……そういうところが『らしい』……けど)
遠くの子供たちを見つめるモララーの優しい視線。
トソンも同じくらい、その横顔を優しく、熱っぽく見つめていた。
――――。
(;^ω^)「獲れたおーー!!」
海水から勢いよくブーンが浮かび上がる。
右手に持った銛の先には、3匹もの魚が突き刺さっていた。
127
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:11:41 ID:aUR6lmzc0
(´・ω・`)「これはロックスナッパー、食べると死ぬ。
そっちは、ベルツリー。高級魚だね。
先っぽの奴は、ゴブリントゲカサゴ。ヒレに毒があるから注意して」
(:^ω^)「ほえー。ショボン君、よくわかるおね」
頭を振りながら水しぶきを払うブーン。
ショボンは感心する彼に、半ば呆れたように返す。
(´・ω・`)「敵地の情報を、先に仕入れておくのは常識だろう」
右手のひらを差し出し、空中に映像を浮かび上がらせた。
魔法アイテムの類は、起動用に微弱でも感知できれば、効果の出るものも存在する。
彼が身に着けていたブレスレットは、辞書の役割を果たすものだ。
内地に住む彼らにとって、海は未知な物が多い。
それを見越して、海洋生物をすぐさま検索できるよう辞典を仕込んでおいたわけだ。
( ^ω^)「それじゃ、いったん戻ろうかおね!」
(´・ω・`)「あっちも終わってるといいけど」
二人は、人数分よりやや多いくらいの収穫物を背に、島の内部へと歩き出した。
レハコーナ島は、周囲をぐるりと遠浅の海岸で包まれた孤島。
中心へ向かうほど、なだらかに勾配が増していく森林が生い茂っている。
ツンとツーは、森林地帯で山菜類を採取しているらしい。
せっかくの旅行だが、拠点がいつもの隠居小屋では少々手狭。
しかし、歓楽地でもないので設備も乏しい。
128
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:12:52 ID:aUR6lmzc0
場所はあるのに、都合が悪いこの立地。
一体どうするのか、と皆が思ったことだろう。
そこで、モララーは彼らにこう告げた。
( ・∀・)「家は用意しておくから、食料をとっておいで。鍛錬にもなるだろうし」
と、軽い笑顔で見送ったのだ。
( ^ω^)「しかし、用意するって……家って言ってたおね?」
(´・ω・`)「うん、言ってた」
( ^ω^)「あまりにサラッと言うから、普通に聞き流してたけど……」
(´・ω・`)「……まあ、モララーさんのことだし」
そして二人は、あらかじめ言われていた場所へ到着する。
さっきまで、自然一杯だった地帯に、立派な木製のコテージが聳え立っていた。
( ^ω^)(´・ω・`)「「ほーらね」」
それなりに長い時間と、事前知識があれば、いい加減理解する。
モララーのすることは、規格外なのだと。
ありえない現実が目の前にあろうと、二人が口を揃えて出した言葉で全て解決するのだ。
129
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:14:24 ID:aUR6lmzc0
(゚、゚トソン「ああ、おかえりなさい。二人とも、もう帰ってきてるよ」
( ^ω^)「はーいですお」
一歩、コテージの中へ入ると体中を風が突き抜けた。
乾いた肌は、涼やかな匂いを発している、
( ^ω^)「お?」
(゚、゚トソン「入る際に、体を洗ってくれる魔法みたいだよ」
(´・ω・`)「……凄い。風だけのように思えるけど、これは多重魔法だ。
体表についた水分に、石鹸類を混ぜ込んだ風を噴出。
泡立てることなく殺菌を済ませた後、更に人肌程度の温風で乾燥させている。
単純なようだけど、自動発動型にここまで仕込むなんて……」
( ^ω^)「……。」
ブツブツと冷静に状況を推理するショボンを置いて、ブーンは部屋の中へ入っていく。
ξ゚⊿゚)ξ「おかえりなさい、どうだった?」
広々とした居間の奥に、大きなキッチンが設置されている。
コックを捻れば自動で清流が出てくる流し台。
ボタンを一つ押すだけで、絶妙な火加減が扱える調理場。
何の金属かもわからない光沢を放つ、包丁の切れ味も抜群で
それらを受ける鍋は、本来ならば二時間かかる煮込み料理すら
十数分で終える機能を持っているらしい。
ちょうどブーン達が帰ってくる頃合いを見計らっていたのか
ツンとツーは冷たい飲み物を準備していた。
キッチンにある、石の箱の中は常に冷気を放っており
物は腐らず飲料は夏にはうってつけの温度に下げてくれる代物。
どれでもモララーの魔法による、利器達だ。
130
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:15:18 ID:aUR6lmzc0
( ^ω^)「大漁だったお! ツン達は?」
(*゚∀゚)「おー、こっちもいい感じだぜー」
冷気保管庫には、既に山菜やキノコが調理できるように並べられていた。
見たこともない彩色、大きさ、形の野菜類は子供たちの心を躍らせる。
( ^ω^)「ほえー。これ全部食べられるのかお?」
(´・ω・`)「調べてみよう」
と言いながら、ショボンが端末に魔力を込める。
(*゚∀゚)「そっちが、デューマッシュルーム。砂糖みてぇに甘いキノコだ。
このギザギザした葉っぱがソードリーフ。魚の臭み抜きに使えるんだぜ。
んで、こっちがレッドスカル。猛毒のドラケンピルツと見た目はそっくりだがちゃんと食えるんだ。」
ペラペラと何も見ずにツーは食材の名前と特徴をあげていく。
その数は十数種類もあるが、一度も痞えず言いのけたのだった。
ξ゚⊿゚)ξ「採る前に、全部ツーちゃんが教えてくれたのよ。
毒があったり、調理に時間が掛かりすぎる物は採ってないわ」
(;´・ω・`)「……お見事」
ツーが言っていた内容は、すべて図鑑内の説明と相違ない。
彼女の、八百屋としての経験と知識が如実に表れていた。
( ・∀・)「やあ、おかえりみんな。食材は揃ったかな?」
モララーが、帰宅する影を見て降りてきた。二階のベランダで日向ぼっこをしていたらしい。
131
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:15:59 ID:aUR6lmzc0
彼の顔を見るや否や、満足げに採った南国素材を自慢する子供たち。
成果物に対し、視線を動かしていきながらモララーは口元に指をあてて、何かを考えこむ。
数秒程度の沈黙のあと、手をポンと叩いてニッコリ笑った。
( ・∀・)「よし。今日は僕が作るよ」
( ^ω^)「ええー!? みんなでやりましょうお!」
ξ゚⊿゚)ξ「そうですよ。いくら随伴者でも、モララーさんに任せっきりっていうのは……」
( ・∀・)「まあまあ。じゃあ明日はそうしようか。今日ぐらいは任せてよ。
……とはいえ、待ってるだけというのも退屈だよね」
手を一度、南国素材のフルーツに差し伸べる。
指を折ると、それは重力に反するように浮いた。
それからモララーは、手を横に一度振る。
呼応するように、果物は一瞬にしてみじん切りになった、
サマーバレルという、硬いトゲトゲした皮に覆われた果実は
その外皮を器にしたまま、黄色く芳醇な果肉のみが綺麗に盛り付けられた。
( ・∀・)「せっかくだから、余興でもしながら作ろうと思うんだ。どうだい?」
(* ^ω^)ξ*゚⊿゚)ξ(*´・ω・`)(*>∀<)「「「「ぜひーー!!」」」」
前のめりになりながら、キッチンの前へ押し寄せる子供たち。
空中で火をおこしながら、そのまま風の魔法で混ぜ合わさる野菜。
その下では、気が付けば刺身になっているベルツリー。尾頭付きだ。
一挙手一投足が、一つのショーみたいで各々が歓声をあげながら楽しむ。
132
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:16:41 ID:aUR6lmzc0
(゚、゚トソン(…………)
その後ろで、微笑みながらもトソンは一つだけ違和感を覚えていた。
いつものような優しい笑顔、子供たちを大事にする気持ち。
何も変わらない。普段の彼。
(゚、゚トソン(……あぁ、そっか)
その正体に気付くのは一瞬であった。
モララーが魔法を惜しげもなく使っているのだ。
共に暮らして数年になるが、トソンの記憶の中では彼が魔法を使っている姿は
数えるほどしかない。
その気になれば、天を左右する力を持つ彼が魔法を抑え込むのは何故なのだろう。
一度、聞いたことがあった。
――
――――
――――――
( ・∀・)「んー……。僕も全く使わないわけではないよ。
人里に降りてる時は、変化の魔法を使ってるし」
133
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:17:59 ID:aUR6lmzc0
(゚、゚トソン「でも、農業はさておき。お洗濯とか、料理とかぐらいには使ってもいいのでは?
その方が楽で便利だと思うんですけど……」
( ・∀・)「……トソンさんは、この生活に不満が?」
(゚、゚;トソン「あ、いえ。そういうわけでは。単純に気になってしまって。
普通は、そうするものなんじゃないかなぁ、と」
( ・∀・)「…………」
( -∀-)「トソンさんは魔術師じゃないから、あまり実感がないかもしれないけれど」
言いながら、モララーは手のひらに小さな火炎の球を作り出す。
( ・∀・)「魔法を使うときは、当然魔力を使うんだ。
体の中にあるエネルギーを錬成して、魔法として使用する」
拳を握りしめると、火球は瞬時に消えた。
( ・∀・)「……その感覚が、昔の戦いを思い出しちゃってね。
色々と……過去のことを考えてしまいそうになるんだ」
(゚、゚トソン「……そうだったんですか」
( ・∀・)「とはいえ、嫌いなわけではないから。
いざって時は使うし。生活においても、何か不満とかがあれば
いくらでも善処するから、言ってね」
(゚、゚トソン「ええ、わかりました」
(゚、゚トソン「けれど、便利すぎるのも問題ですからね。
日頃の苦労があるから、便利なことに気が付けますから。
私も、できる限りは自力で生活していきたいです」
134
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:19:17 ID:aUR6lmzc0
( ・∀・)「はは。トソンさんならそう言うと思ってた」
嬉しそうに笑いあう二人。
それからモララーは少し間を置いて、窓から遠くの空を見上げながら告げた。
( ・∀・)「……そうだなぁ。もし僕が、不要不急で魔法を使うのであれば」
( -∀-)「それはきっと……」
――――――
――――
――
(゚、゚トソン(そんなこと、忘れるぐらい楽しい時……なんですね)
眼前で料理ショーは続いていく。
トソンは一つ息を吐いてから、子供たちと同じように輪に入る。
世界最高峰の魔術師は、あっという間に豪勢なフルコースを
観客を飽きさせることなく作り終えたのだった。
135
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:20:39 ID:aUR6lmzc0
――――次の日。
約束通り、子供達だけで朝食の準備をしている時だった。
ブーンがショボンを誘って、朝のランニングを海岸で済ませた後の時間帯である。
(*゚∀゚)「しかし悪ぃな。オレの都合で、短い旅行になっちまってよ」
ξ゚⊿゚)ξ「まあまあ。お店を長く開けるわけにもいかないんでしょ?」
(*゚∀゚)「今年はちょっと不作の年でさ。結構頻繁に入荷しないと
中々商品が集まらなくってよー。いつもは二、三日ぐらいは余裕なんだがなー」
( ^ω^)「商売も大変だおね。僕らと同じ歳なのに、ツーちゃんは凄いお」
(*゚∀゚)「おいおいなんだー? 急に。照れるだろぉ」
(´・ω・`)「実際、病床に伏せてるお父さんを支えながら切り盛りしてるのは
僕たちには到底できないことだよ」
(*-∀゚)「へへ。ありがとな」
(*゚∀゚)「……? お?」
ξ゚⊿゚)ξ「あら?」
二階から、神妙な顔をして降りてくるモララーを、キッチンにいるツンとツーが心配した。
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたんですか?」
( ・∀・)「……うん。ちょっと、トソンさんの体調が良くないみたいで」
136
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:22:04 ID:aUR6lmzc0
(*゚∀゚)「えー!? マジかよ。そりゃヤベェな! オレ、診てみようか?」
支度を即座に切り上げ、ツーが階段の方へ走っていく。
それを防ぐように、モララーは手を彼女の前に出して止めた。
( ・∀・)「いや、大丈夫。僕が付いてるから。けど念のため、病院に行こうと思うんだ。
悪いけど、今日はみんなだけで遊んでて貰って良いかな?」
ξ゚⊿゚)ξ「そんな。トソンさんが具合悪いのに、私たちだけ遊ぶなんて……」
(゚、゚;トソン「ごめんね、みんな」
気をもむ子供達に、寝間着姿のトソンがゆっくりと姿を現して声をかけた。
顔色が悪く、見るからに元気がない。
(-、-;トソン「昨日、はしゃぎ過ぎただけだと思うから。すぐ収まるよ。心配しないで」
( ・∀・)「トソンさん、座ってるよう言ったじゃないか」
せっかくの旅行に水を差したくないのか、健気にトソンはふるまったつもりだった。
しかし、モララーに諭されて部屋に戻る背中は、とても気を揉むなと言うには小さすぎる。
( ・∀・)「とにかく、安静にさせておくから。
予定に変更がないように、善処するよ」
戸を閉める前にモララーはそう言うと、少しの間を置いて青い光が部屋から漏れた。
すっかり静かになってしまったコテージで、子供たちは顔を突き合わせる。
( ^ω^)「晩って……そんなすぐ治るのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「具合は悪そうだったけど……咳とかは別にしてなかったわね。
何か他の病気かしら?」
137
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:23:36 ID:aUR6lmzc0
(*゚∀゚)「うーん。どうだろうなぁ。オレの父ちゃんも、よくあんな感じで
元気だけ出ない、って時あるしなぁ」
( ^ω^)「そもそも、トソンさん記憶がないわけだし。
もしかしたら、自分も知らない持病があったかもしれないお?」
(´・ω・`)「…………」
三人が憶測で議論をする中、ショボンは一人ブレスレットをいじっていた。
そんな上の空の態度が気に食わないのか、ツンが咎める。
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとショボン君、さっきから何知らぬ顔してるのよ」
(´・ω・`)「…………あった」
ツンの静止も聞かず、辞典を開いていたショボンが手を前に出す。
そこには、不思議な光を放つ小さな草が映し出されていた。
(´・ω・`)「レハコーナ島の伝説の一つ『メディクシル』。
万能薬とも言われてて、煎じて飲めばどんな病も傷も、たちまち治るらしいよ」
ξ゚⊿゚)ξ「はぁ〜? そんなものホントにあると思ってるの?」
( ^ω^)「でもこれ、転写魔術で映された本物だお!」
(*゚∀゚)「それじゃ実際に見たことある奴がいる、ってわけだよな」
ξ゚⊿゚)ξ「精巧な作り物の可能性も否めないわよ?」
(´・ω・`)「真偽はわからないけど。どうせなら、探してみない?
きっとこのまま遊んでも、気がかりで集中できないよ」
138
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:24:29 ID:aUR6lmzc0
( ^ω^)「おー。ショボン君にしては、良い提案だお!」
(;´・ω・`)「なんだよ僕にしては、って」
(*゚∀゚)「オレは賛成! 島の探索もしてーし、一石二鳥じゃねえか!」
ξ-⊿-)ξ=3「…………わかったわよ。私も付き合うわ」
三人の前向きな視線を感じ取ったツンも、同意して冒険の支度をする。
とはいえ、元々遠出をする準備はしてきていない。
簡素な衣服と、現地で作れる道具をありあわせ、安全な範囲での探検をすることに決めた。
持っている情報は、ショボンの持つ辞典による写真のみ。
四人はそれぞれ、それを元にあれこれ推測する。
水場の近くな気がする。
誰かがそういえば、確認できる限りの川や湖を探した。
途中で喉が渇けば、木に成っている果物をブーンが採って、ツーが調理する。
草木に隠れた危険な昆虫を、いち早く察するツンが前に立って進んでいく。
ショボンはその後ろから、辞典を見比べつつマッピングを行い、島の情報を集めていく。
皆が皆、使える知識を経験を元に散策していた。
139
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:25:41 ID:aUR6lmzc0
(´・ω・`)「……思ったんだけど」
太陽が真上に君臨する頃合い。
ショボンが、サマーバレルの果肉を嚥下してから一つの思考を口にした。
彼らは今、木陰のもとで簡単なキャンプを作り、昼食を取っている。
魚や果物、野草のサバイバルメニューはどれも垂涎もの。
調味料はツーが腰につけたポーチの中に入っていたので、味付けもばっちり。
舌鼓を打って、次の行き先を決めようとしている時のことだった。
(´・ω・`)「メディクシルって、洞窟の中にあるんじゃないかな」
( ^ω^)「どうしてそう思うんだお?」
セブンストラウトという、淡水魚の塩焼きを咀嚼しながらブーンは尋ね返す。
(´・ω・`)「能動的に発光しているなら、暗いところだろう。
この映像も、背景はゴツゴツした岩場だ」
ξ゚⊿゚)ξ「光の届きにくい岩陰って可能性もあるんじゃ?」
(´・ω・`)「高温多湿な島なのに、メディクシルの生存可能温度はそこまで高くないそうだよ。
つまり、恒常的に低温の個所を好んで生息しているはずなんだ」
(*゚∀゚)「……おー、そういやココ。よく見ると、ディーマッシュルームが小っちゃく映ってるな」
ツーは辞典の映像の端を指さしながら言う。
140
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:26:48 ID:aUR6lmzc0
ξ゚⊿゚)ξ「……? でも、これ昨日見たものとは色が違うような……?」
(*゚∀゚)「光が届いてねえ場所で育つと色抜けするんだよなー。
岩陰とかなら、なんだかんだで光源があるから、こんな風にはならねえよ」
( ^ω^)「ってことは、ホントに洞窟の線が高いのかお?」
(´・ω・`)「うーん、そうなると……」
お手製の地図をショボンは広げる。
本格的に探索できているわけでないが、大体の全体像は見えてきた。
周囲は浅瀬の海岸、島の中心に向かって少しずつ傾斜が形成されており
そこを数本の川が流れている。開けた土地はなく、ただひたすらに樹木が生えている密林地帯。
その中で唯一、川の上流を見つけられた。
他の河川に比べると、中腹ぐらいの位置なのだが。
何故そこが上流と理解できたのかというと、ぽっかりと空いた大穴から水が流れ出していたから。
他の場所かもしれないし、先に進める保証もない。
しかし、戻る時間を含めるなら、選択肢としてはそこしか無さそうだ。
(´・ω・`)「この洞窟に入ってみようか」
ショボンの提案に、三人は力強く頷いた。
141
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:27:40 ID:aUR6lmzc0
――――。
なだらかな岩場の道なき道を進んでいくと、目的地が眼前に広がった。
激しく音を立てながら、虹を作り出しつつあふれ出る水流。
少しでも足を踏み入れれば、抗う間もなく下流まで一気に運ばれてしまうことだろう。
そんな危険地域の脇道を、彼らは見つけた。
(´・ω・`)「……入れるね」
まるで誰かが作ったかのように、人ひとりが歩ける幅。
その先は、ただただ漆黒で塗り固められている。
進めるのか進めないのかすらわからない。
試しに、とブーンが小石を力いっぱい放り投げてみた。
水しぶきの音の中、耳を澄ませると反響が不規則ながらも続く。
何かに止まったというより、フェードアウトするようにそれは消えた。
( ^ω^)「……結構深そうだおね」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
用心深く周囲を見渡した後、ツンが手持ちの鞄から松明を取り出した。
着火用の石を使い、それに火を灯す。
ξ゚⊿゚)ξ「物怖じしてても仕方ないでしょ。こういう時は、入ってみるのが一番」
(*゚∀゚)「おー、賛成さんせー!」
(´・ω・`)「……それもそうだね。あまり遅くなって、約束の時間を逃したら大変だ」
142
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:28:54 ID:aUR6lmzc0
賛同する皆の前を、ブーンがツンから松明を無造作に受け取りながら進む。
( ^ω^)「前は任せるお。みんな、気を付けて行くお!」
訓練ではない、何が起こるかわからない実戦。
戦いがあるのか、ないのか。それすらもわからない。
そもそも、目的の物が存在するかも不明。
それでも、彼らは歩みを進めることに躊躇いはなかった。
自分たちのできることを、できる範囲でやりきりたい。
決意と思いやり。彼らはもう、すっかり一人前になろうとしていた。
――――。
(*゚∀゚)「お? ショボン、何を撒いてんだ?」
薄暗い洞窟内を進んでいるうちに、最後尾のショボンが何かをしていることに
ツーが気付いた。
手に持った、小さな欠片を一定間隔でしっかりと地面に置いている。
置く、というより『埋めている』という表現の方が近いだろうか。
それは赤黒い色をした、如何にも致死性のありそうなキノコの断片だった。
143
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:29:58 ID:aUR6lmzc0
(´・ω・`)「ドラケンピルツだよ。来た道がわかるように、目印にしてるんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「なんでキノコを?」
(´・ω・`)「猛毒種のものなら、生き物が誤って食べることも少ないだろうからね。
石や文字の場合、この暗がりじゃ視認も難しいだろうから」
洞窟内の壁や床は、基本的に青銅色をしている。
生物の気配はないが、それでも念のため。
明らかに、彼らが外から持ち込んだ異物とわかる色と代物でショボンは帰り道を作っていたのだ。
( ^ω^)「さすがだお、ショボン君。僕、正直もうどっちが入り口かさっぱりだったお!」
ξ;゚⊿゚)ξ「あんたはもう少し危機意識を持ちなさいよ」
( ^ω^)「時と場合によるお。入る前に、ショボン君が『後ろは任せて』って言ってたお。
だから僕は、目の前のことだけに集中するようにした。それだけの話だお」
ξ゚⊿゚)ξ「…………ふーん」
虐げられていたのが、遠い過去のことのようだ。
ブーンはすっかりショボンを、一人の相棒として認めていた。
そして、そんな彼を後ろから支えているショボン自身も、同じ気持ちである。
何度か分岐路を選択し、下ったり上ったり。
まっすぐ進んでいるのかどうかもわからないほど奥深くに、既にいるはずだろう。
それでも、先頭を行くブーンに迷いはなかった。
144
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:30:59 ID:aUR6lmzc0
稀に見かける植生をツーが。
鉱物の種類をツンが。
『後ろ』の状況をショボンが。
的確に判断し、歩みを進めていく。
得意分野の話が出るたびに、伝説はもしかして本当なのかもしれない。
そんな気配が、どんどんとはっきりしてくる。
緊張感と、期待が洞窟の深さと比例するように大きくなっていく。
手持ちの松明が消えかかり、帰りを考え始めたその時だった。
(*゚∀゚)「……お?」
歩みを止めたツーが、道の端の方へ歩き出ししゃがみ込む。
何事だろうと、他の三人も後を追った。
背後から視線の先を、灯りで照らす。
そこには、真っ白なデューマッシュルームが生えていた。
ξ゚⊿゚)ξ「……今まで、こんなの無かったのに……」
( ^ω^)「と、いうことは……!」
145
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:32:16 ID:aUR6lmzc0
胸が躍る。
足が速くなる。
慎重さを損なわないように、けれど一秒でも早く。
それが本物でであることを切望するように。
四人は道を進んでいく。
(* ^ω^)「あーーーーーーーーーーっっ!!!!???」
(;´・ω・`)「ど、どうしたんだい?」
残り少ない毒キノコを埋め込んでいる最中だった。
角を曲がり、背中が消えたと同時にブーンが大声で叫んだ。
落盤の心配すらありそうな、その声量を危惧しつつもショボンが駆けつける。
(* ^ω^)「み、み、見てお、ショボン君! あれ!!」
(;´・ω・`)「あ、あれは……!!」
岩壁の色とも違う、浅葱色の淡い光。
細く薄い葉のみで形成された、繊細な草。
図鑑で見たものと少しも違わない。
彼らの目の前に『伝説』が現れた。
146
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:33:55 ID:aUR6lmzc0
――――――――が。
ξ;゚⊿゚)ξ「流石。一筋縄にはいかなそうね」
今すぐにでも手に取りたい所だが、そうはいかない。
彼らが視覚でとらえたメディクシルは、手の届く場所にはなかったのだ。
石を投げてみる。
反響する音は、ずっと遠くで聞こえた。
入り口でやった時同じように、先の見えない反音の仕方だ、
周りを見渡してみる。
ただただ、冷たい岩肌が広がっているだけ。
そう、伝説の薬草は大きな切り立った壁の中腹に、ぽつんと存在していたのだ。
147
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:35:18 ID:aUR6lmzc0
(´・ω・`)「図鑑では、道端に生えているように見えたけど……」
ξ゚⊿゚)ξ「地盤沈下とかあったのかも。結構、このあたりは脆そうよ」
地面に触れたり、断面を見てからツンが言う。
彼女の弱い力でも、押し込めば大地は軽くひび割れた。
(´・ω・`)「魔法が使えるなら、訳もないんだけどなぁ」
ξ゚⊿゚)ξ「どこか下る道がないか探してみましょう」
ツンがそう提案する前だった。
( ^ω^)「ツーちゃん、どうだお?」
(*゚∀゚)「おー、この辺ぐらいまでじゃねーか?」
振り返ると、二人が足踏みを挟みながら何か調べているようだった。
一歩進んで、床を蹴る。また一歩進んで、地面を叩く。
その行為をツンが尋ねると、同時に理解できたことをブーンが答えた。
( ^ω^)「この辺りは結構硬そうだお。踏ん張っても問題ないと思うお」
ξ゚⊿゚)ξ「どういうこと?」
(*゚∀゚)「こういうこと」
ツーは探検用鞄に潜めていたロープを取り出す。
その先をブーンに渡すと、ブーンはしっかりと足をかけられる隆起を探した。
何度か試し、そして結果を告げる。
( ^ω^)「ここからロープで僕が支えるお。それなら、降りられるおね?」
148
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:36:16 ID:aUR6lmzc0
ξ;゚⊿゚)ξ「あんたなら人ぐらい支えられるかもだけど……誰が行くのよ」
(´・ω・`)「僕が行こう」
ロープの先を、腰に巻き込みながらショボンが言う。
(´・ω・`)「ツンやツーちゃんが行くよりは安全だろう?」
ξ;゚⊿゚)ξ「それはそうだけど」
(´-ω-`)「ブーンほどではないけど、これでも鍛えているほうなんだ。
少しは安心してくれていいよ」
ξ゚⊿゚)ξ「…………わかったわ」
止める間もなく、ショボンは歩き出していた。
(*゚∀゚)「岩場の様子はこっちでも見ておくからよー。
ショボンはメディクシルに集中してくれー!」
這いつくばる姿勢でツーが声をかける。
それに対し、不安定さしかない岩場に足を踏み出した少年は、親指を立てて答えた。
(´・ω・`)(想定より、かなり脆いな……)
踏み込みながら、塵が舞う地面を蹴っていく。
少し距離のある場所で、落盤の気配がした。
ここから先、集中的に重心がかかっても問題ないのだろうか。
不安になる。
149
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:37:33 ID:aUR6lmzc0
一歩進むごとに、何かしらの音が鳴る。
大丈夫。
言い聞かせなければ、緊張感に負けそうになる。
腰に巻かれた命綱を、ショボンは強く握ってみた。
近くはないが、遠くもない場所。
そこで、同じぐらい……いや、彼自身全てを守るかのように
どっしりした重圧感を、その紐の先で感じる。
(´-ω-`)(大丈夫)
綱の強度は問題ない。
確信したショボンは、遂に重力で体を保てない空間に身を投じた。
それまでの雰囲気とは全く違う。
下から聞こえていた、うるさいひび割れの音。
舞い上がっていた塵が、目の前の岩壁から噴き出る。
ミシミシと鳴っているのは、手綱なのか、周囲の地盤なのか。
心配する暇はない。
長時間の行動は危険だと、本能でわかっている。
だったら自分は、この友人に預けている細くも力強い糸を信じて。
眼下に見える、淡々しい光へ進むだけ。
150
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:38:47 ID:aUR6lmzc0
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
伸びたロープが、地面と擦れるのを何度見ただろう。
反響するその先で行われている『状況』は、もはや耳だけでは理解できなかった。
それは、彼女にただただ不安をもたらす。
……一方で。
(*゚∀゚)
(;^ω^)
二人は集中していた。
一つの音もこぼさず、一つのヒビも見逃さず。
手に握る、友人の命の状態に神経全てを預けている。
継続するその没入状態に、額から汗はこぼれはするものの。
情報を取り逃がすことは、余さずしなかった。
151
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:39:45 ID:aUR6lmzc0
どれぐらい経っただろう。
自分自身を知覚できている、ツンだけがふと思った。
ξ;゚⊿゚)ξ(喉渇いた……)
飲み物を持ってきていないわけではなく
一人を除き、身動きが取れないとも言えるわけで。
洞窟のひんやりした空気と裏腹に、切迫した状況が続くと
どうしても、体が水分を求める。
荷物は、手の届く場所にはない。
取りに行きたいが、みんなの邪魔はできない。
結果として、ツンは我慢をせざるを得なかった。
あとどれだけ?
いったいいつまで?
限界はいつになるだろうか。
乾燥で咳が一つ出たのと、それは同時だった。
(;^ω^)「!」
152
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:40:38 ID:aUR6lmzc0
ブーンの握る手の力が強くなった。
さっきまでの、ギリギリ均衡を保つ加減ではない。
重力に反発するような、全力の牽引だ。
地面を割らぬよう、慎重に。
だけど、一秒でも早く。
汗で濡れてしまった手のひらが、摩擦を起こさぬよう
幾重に撒いた手綱を、懸命に引っ張っていく。
待つこと、数分。
飲む固唾すら切らしていたと思ったツンが、ゴクリと嚥下運動をした時だ。
暗闇の向こうから、柔らかな光を放つ薬草を手に持ったショボンが
ひょっこりと土埃にまみれた顔を出した。
ξ;゚⊿゚)ξ「やった!」
抑えてても出てしまった感嘆の言葉を、慌ててツンは両手で塞いだ。
153
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:42:13 ID:aUR6lmzc0
一歩ずつ、自分たちのいる硬い岩盤地帯に戻ってくるショボンを
最後まで見届ける三人。
(*゚∀゚)「……もう大丈夫だな!」
(;^ω^)「ふー! あー、疲れたお!」
ブーンが手に握る力を緩めたと同時に
張りつめていた空気も、一気に和らいだ。
(´・ω・`)「お疲れ様」
ξ゚⊿゚)ξ「ショボンくんこそ、お疲れ様よ。ケガとかない?」
(´-ω・`)「おかげ様でね」
(*゚∀゚)「おぉー! これがあのメディクシルかー!」
ショボンの手にあるのは、根こそぎ持ちとられた
伝説の万能薬メディクシル。
まっすぐ伸びた細い茎、その先に広がる細い卵型の葉先。
特別な見た目ではないが、自発的に光を放っているのは
他の薬草でも見ない、特異さであった。
ξ゚⊿゚)ξ「……これでトソンさんの具合も良くなるかしら?」
(´・ω・`)「わからないけど……。試してみる価値はあるんじゃないかな?」
( ^ω^)「ここまで苦労したんだお。きっと大丈夫だお!」
それぞれが意見を言い合う。
不安を、安堵を、苦労を口々にし合った。
(*゚∀゚)「にしてもよー。こーいうのって、大体、どっかでやべー状況が起こるもんだよなー」
154
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:42:58 ID:aUR6lmzc0
ξ゚⊿゚)ξ「? どういうこと?」
荷物を手に取り、さあその場を去ろうとした時だ。
(*゚∀゚)「いや、だってよー。子供たちだけでやる、小さな冒険とかって
ハプニングが付き物じゃね? そーいうのが、全然なかったなー、って思ってよ」
(´・ω・`)「そんなの、作り話だけの出来事でしょ。
僕らはしっかり準備をして、それに打ち勝った、それだけさ」
( ^ω^)「………………?」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン? どうしたの?」
ロープを手に巻き取った時、ブーンの動きがピタリと止まった。
ツーとショボンが、他愛ない雑談をしているよそで
何かに、じっと耳を傾けている。
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、ブーンったら!」
ツンの声にも反応しない。
ただただ、何かを……。
155
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:43:49 ID:aUR6lmzc0
(;^ω^)「みんな、急いで走るお!!!」
(´・ω・`)「え?」
(*゚∀゚)「ん?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、いきなり何……」
状況を理解できていない三人の手を、慌ててブーンが引いて駆け出す。
それは、小さな音だった。
近くの反響にばかり集中していて気付かなかった。
自分たちの帰る方向の、地面が硬いと思われた一帯。
安全地帯と思っていた場所が、一気に崩落を始めたのだった。
(;゚∀゚)「ヤベッ!?」
(;´・ω・`)「うっ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「そでしょ!?」
(;^ω^)「……!!」
156
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:44:36 ID:aUR6lmzc0
ああ、もしここで魔法が使えていれば。
もう少し、注意深くしていれば。
安堵する間もなく、すぐにその場を離れていれば。
こんなことにはならなかったのに……。
(;゚∀゚)(;´・ω・`)ξ;゚⊿゚)ξ「「「うわぁーーーー!!!」」」
どこにつくともわからない、闇の底へ。
落下しながら、少年少女は深い後悔をしていた……。
後編へ続く。
157
:
名も無きAAのようです
:2020/11/14(土) 21:45:20 ID:aUR6lmzc0
というわけで前編でした。
ホントは前後編には分けずにやるつもりでしたが
思ったより長くなったので分割しました。
後編も今年中目標で投下します。
158
:
名も無きAAのようです
:2020/11/15(日) 00:21:12 ID:qlGfaFec0
乙
久々でうれしい、続き楽しみにしてる
159
:
名も無きAAのようです
:2020/11/27(金) 21:24:23 ID:UTbZonSQ0
楽しいに待ってます!
160
:
名も無きAAのようです
:2020/11/27(金) 23:11:48 ID:shq1V7tQ0
こんばんは。作者です。
久しぶりに筆がノリノリだったので、後編を書き終えました。
三分割しようかと思うレベルに長くなっちゃったのですが、あえて一気投下します。
予定では、明日のお昼ごろに出現しますので。
どうか、よろしくお願いします。
161
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:32:58 ID:HcbLbdA20
こんにちは。予定通り始めます
162
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:33:51 ID:HcbLbdA20
こんにちは
予定通り、今から投下します
163
:
なんか二重で投稿しちゃった。てへ
:2020/11/28(土) 12:34:40 ID:HcbLbdA20
ξ;-⊿゚)ξ「……んん……」
ツンが目を覚ます。
視界がはっきりすると同時に、彼女には実感があった。
――意識が少し飛んでいた、と。
つまり、状況がどうなったのか全く理解できていない。
落盤により、一帯が崩壊。
身体が宙に浮く感覚までは記憶にあるのだが、そのあとの出来事がわからない。
ξ;゚⊿゚)ξ「みんなは!?」
噴き出る冷や汗と同時に、体を持ち上げた。
仰向けに寝転がっていたようで、視界がぐるりと反対に回る。
ξ;>⊿゚)ξ「いっ!?」
血の流れが変わったからだろうか。
全身に鋭い痛みが走る。
身体を検めてみると、あちこち衣服が破れて擦り傷が見えていた。
ξ;゚⊿゚)ξ(…………そんなわけない)
164
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:36:19 ID:HcbLbdA20
その自身の状態に、ツンは違和感を覚える。
反動でクッションになる爆破魔術も、飛翔の為の風魔術も使えなかった。
生身で、崩落に巻き込まれたわけだ。
高さはわからないが、視認はできない程度。
つまり、何も対策せずに軽傷で済むわけがないのだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
誰かが、何かをしてくれたに違いない。
衝撃もあったのか、ふらつく頭を抱えながらツンが歩く。
今、どこにいるかはわからないが
先ほどまでの地面よりも、状態は安定しているらしい。
携えていた道具袋から、松明を取り出そうとした。
しかし、その手は虚空をつかむ。
どうやら、落下時にどこかへ行ってしまったみたいだ。
歯ぎしりをしながら、ツンは歩いていく。
立っているはずなのに、斜めに位置しているかのような平衡感覚。
それでも、彼女はまっすぐ歩いた。
おぼつかない足元を確認しながら、それでも確かに、一歩ずつ。
何度も繰り返した後、ツンは止まる。
165
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:37:00 ID:HcbLbdA20
その先には、漆黒の空間で唯一。
淡い浅葱色の光を放つ薬草。
(; メω^)「おー……。ツン、良かった。無事だったかお」
それを手に持つ、血だらけの幼馴染の姿だった。
三日月の涙 後編
166
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:38:02 ID:HcbLbdA20
(*゚∀゚)「おーい、みんな大丈夫かー?」
遅れて、遠くから元気な声がやってきた。
ツンと同様に、メディクシルの光を辿ってやってきたらしい。
ξ゚⊿゚)ξ「ツーちゃん、ケガは?」
(*゚∀゚)「おう。あちこち痛ぇけど、問題ないぜ」
(;´-ω-`)「ということは、重傷者は一人だけか」
壁を背に凭れて座っているブーンの傍、ショボンが安堵と共に
焦燥感を含めて、現状を表す一言を放った。
彼も女性陣と同様の傷を負っている。
ξ゚⊿゚)ξ「……なにしたのよ、あんた」
(; メω^)「……あの高さじゃ、きっと助からないと思ってお……」
(; メω^)「落ちる前に、持ってた綱でみんなを引き寄せたんだお……」
(; メω^)「それで……少しでも衝撃を和らげようと……」
落下の直前に、ロープを大岩に引っ掛けて速度を。
そして……彼が下敷きになることで、ダメージを分散させた、ということらしい。
ブーンがメディクシルを持っているのは、ショボンの手から落ちそうだったから。
167
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:38:51 ID:HcbLbdA20
ξ; ⊿ )ξ「あんたって、ホント……!」
ツンが唇をかみしめる。
自分ひとりだけならば、回避や防御行動をすることで
無傷ですらあっただろう。
けれど、ブーンはしなかった。
いつもいつも、自分じゃなく誰かの為に。
今この時ほど、自分が腹立たしいと思ったことはない。
強く握った拳を解き、それでも出来ることを。
伏せた視線を戻し、ツンはブーンの体を調べた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……腕や体は問題ないわね。額や目元も切ってるだけみたい。傷は浅いわ」
(´・ω・`)「頭部には見えないダメージがあるかもしれない。あまり動かしちゃダメだよ」
(*゚∀゚)「となると、パッと見で一番やべーのは……やっぱココか」
ツーの目の前には、ひどく腫れあがったブーンの片足があった。
打撲では、ここまで黒ずんだりしないだろう。
間違いなく、折れている。
(; メω^)「……ごめんお」
ξ;゚⊿゚)ξ「なんでアンタが謝るのよ! いいから、じっとして!」
168
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:39:52 ID:HcbLbdA20
自分のものはないが、他の三人の道具入れは無事だった。
入っているものを駆使し、消毒や止血を行う。
だが、それはあくまで応急手当。
いくら闘技学校の知識や、看病経験があっても
治癒まではできていない。
皮膚の下の傷は、炎症を起こしたりしているだろう。
合併症など、心配事は枚挙にいとまがない。
(*゚∀゚)「……どーするよ」
焦りの気持ちをツーが代弁する。
帰り道もわからない。
食料や水だって、そう多くはない。
灯りだけは、かろうじでツーが確保した。
洞窟に入る前に釣った、セブンストラウトの油を持っていたからだ。
ブーンが持っていた綱を短く切り、石で着火させて簡素なオイルランプを作ったのである。
(´・ω・`)「ブーンを抱えて歩くにしても……。体力が持ってくれるかどうか」
ξ ⊿ )ξ「……ああ、もう。なんでこんな時に魔法が使えないのよ……」
自分たちの培ったものが、すべて無為に帰している。
そのことが、酷く気分を落ち込ませた。
同様に、怒りすら覚える。
自分はこうまで無力なのか、と。
169
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:41:03 ID:HcbLbdA20
(; メω^)「……僕を置いて、みんなは先に行ってくれお」
膠着する空気の中、ブーンが一つの意見を出した。
(;´・ω・`)「……ばξ#゚⊿゚)ξ「バカ言ってんじゃないわよ!!」
ショボンが否定するより早く、ツンが強い口調で割って入った。
ξ#゚⊿゚)ξ「どうせアンタのことなんだから!
『僕を置いていけば、みんなは動ける。
そうすればモララーさんに助けを呼んでもらえる』
そんなところでしょ!?」
(; メω^)「……さすがだお、ツン。その通りだお」
ξ#゚⊿゚)ξ「そんなの許さないわ!」
(; メω^)「でも……僕を支えて歩くのは、現実的じゃないお」
ξ#゚⊿゚)ξ「わかってるわよ! だから、別の方法を考えてるの!」
(; メω^)「……ここはさっきまでより冷えるお。長居は出来ないと思うお」
ξ#゚⊿゚)ξ「だったら尚のこと、あんたを置いていけないじゃない!」
(; メω-)「おー……。でも、それじゃ脱出が難しいって、言ってるじゃないかおー……」
ξ# ⊿ )ξ「わかってるってば!」
(;´・ω・`)「……。」
(;-∀-)「……」
170
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:42:13 ID:HcbLbdA20
二人の言い合いが続く。
お互いがお互いを助けたい。
尊いはずの気持ちは、最悪な現状によってすれ違う。
意見がまとまる気配もない。
割って入るにも、代替案が思い浮かばない。
ショボンとツーは、やりとりをただ見ているしかなかった。
(; メω-)「………ふー……」
沈黙が流れる。
ブーンが重い息を吐いて、その空間を埋める。
手には強く握りしめられた、伝説の薬草。
ξ゚⊿゚)ξ「――――!」
その優しい光を見て、ツンに一考が浮かんだ。
しかし、自分の中にある理性が意見を一度取り下げる。
171
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:43:57 ID:HcbLbdA20
ξ ⊿ )ξ「…………」
そして、彼女は自分自身の思考に絶望した。
どうして、否定したのだろう。
最も現実的な方法が目の前にあって。
天秤に計るなら、躊躇しなくても良い問題。
それでも、どこか。
子どもらしい、達成感を求めてしまったのだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ=3「はぁ……」
真っ黒な宙を仰ぎ、深くため息をついた。
悩むのは後だ。
結果もわからないのに、立ち止まる時間はない。
決意をした少女は、ある提案を仲間に告げた。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、メディクシルを使いましょう」
172
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:44:55 ID:HcbLbdA20
(; メω^)「え?」
ξ゚⊿゚)ξ「その薬草は、病気もケガも治るんでしょ?
なら、使っちゃえば良いのよ」
(; メω^)「で、でもこれは、トソンさんの……」
続きを言う口が止められる。
ツンが指でブーンの唇を押さえたから。
(; メω^)「!」
……指先から思いが伝わってくる。
しっとりと濡れているし、小刻みに震えていた。
ブーンが言おうとしたことなど、承知の上だと。
ξ゚⊿゚)ξ「命には代えられないと思うけど?」
(; メω^)「…………」
返答に困っていると、ショボンが動き出した。
薬草を強引に取り返し、ツーへと渡す。
(´・ω・`)「協力しあったとはいえ、これは僕が手に取ってきた物だからね。
使用権はあってもいいんじゃない?」
(; メω^)「ショボンくん……」
ξ゚⊿゚)ξ「ツーちゃん、お願いできる? こういうの得意でしょ?」
(*゚∀゚)「おうよ、任せておけ!」
173
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:46:10 ID:HcbLbdA20
それぞれが動き出す。
ショボンは手元の辞典を使い、わずかな情報でメディクシルの使用方法を。
(´・ω・`)「……!」
(*゚∀゚)「どした?」
(´・ω・`)「…………いや、大丈夫。急ごうか」
(*゚∀゚)「おう!」
実行役をツーが。慣れた手つきで、薬草の葉をむしり取り、器を用意していく。
(; メω^)「みんな……ごめんお……」
繰り広げられる光景に対して、再びブーンが呟いた。
ξ゚⊿゚)ξ「こぉら、さっきも言ったでしょ」
応急手当を続けるツンがそれに答える。
ξ-⊿゚)ξ「謝らなくて良いんだってば」
(; メω-)「……うん。ありがとうだお」
ブーンの体が少しだけ、硬い壁からずり落ちた。
174
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:47:17 ID:HcbLbdA20
――――。
(*゚∀゚)「こんなところか?」
(´・ω・`)「うん。多分ね」
額の汗を拭ったツーが満足げな表情で、ショボンに出来を伝えた。
葉をちぎり、煎じる。
しばらくすると、発光が薬草からお湯へと移りこむ。
とある温度帯になると、浅葱色から紅色へと変化するらしい。
出涸らしになった葉は、茎と共にすり潰して粉砕する。
そうしているうちに、温度が下がり紅色から今度は紫色に変色する。
頃合いの合図だ。
一気に粉を液に投入し、かき混ぜる。
もったりした感覚が次第に、サラサラとした清水のように変わっていく。
すると、一点の色も無い無色透明で発光する液体が出来上がるのだ。
それこそがメディクシルの効果を、十全に引き出す状態らしい。
わずかな知識だけで、二人は薬液を見事に作り上げたのだった。
(; メω^)「おぉ……。それがメディクシルかお……」
ξ;゚⊿゚)ξ「クレスト草みたいな香りがするわね」
(´・ω・`)「根底にある成分が同じなんじゃないかな」
(*゚∀゚)「ほれほれ。ブーン、グイっといけ。熱いうちじゃないと効果が薄れるらしいぞ」
175
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:48:43 ID:HcbLbdA20
(; メω^)「……じゃあ、お言葉に甘えて」
口に含むまで、彼は拒絶しようとしていた。
でもそれは、他の三人の決意を無碍にすることにもなる。
使ってしまった以上、選択肢は他にないのだ。
遠慮をすることなく、ブーンはゆっくりと伝説の薬草液を嚥下した。
(; メω-)「…………」
ξ;゚⊿゚)ξ「ど、どう……?」
(; メω-)
(;´・ω・`)「……見た感じ、特に変化はないけど……」
(; メω^)
(*゚∀゚)「でも、効いてくれねーと困るぜ?」
(; メω゚)
ξ;-⊿-)ξ「……そもそも、本当にコレがメディクシルだったのか
わからないわよね」
( ゚ω゚)
(;´-ω-`)「確かに。もし似たような毒草とかだったら……」
(*゚∀゚)「おいおい縁起でもねーこと言うなよ」
ξ゚⊿゚)ξ「……あら? ブーン、いつの間に目が( * ゚ω゚)「ふふぉおおおおおおお!!!???」
176
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:50:14 ID:HcbLbdA20
さっきまで脱力していた少年は、いきなり起き上がった。
傷で塞いでいた片目も開き、しっかりと自分の足で大地に立つ。
( * ゚ω゚)「こ、こここれ凄いおぉおおお!!??」
ぴょんぴょん飛び跳ねたり、暗がりだというのに付近を走り回ったり。
まるで、大好きなものを目の前にした子どものように興奮している。
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっとブーン! 大丈夫なの!?」
(;´・ω・`)「いや、見ればわかるでしょ」
(*゚∀゚)「アッヒャッヒャ! 効果てきめんじゃねーか!
良かったなぁ、ブーン!」
( * ゚ω゚)「ふひょーーー!!」
安堵の息が二つ、様子が面白くて笑う声が一つ。
その周囲を忙しなく動き続ける、激しい吐息が一つ。
緊張が少しだけ解けたひと時であった。
( ^ω^)「さて、現状についてだけどお」
(´・ω・`)「急に落ち着かないで」
177
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:51:40 ID:HcbLbdA20
数刻し、落ち着いたブーンが会議に加わった。
目下の問題は解決したが、根本的な状況が変わったわけではない。
( ^ω^)「周囲を少し調べた感じ、空いている道は一つだけだおね」
暗闇をブーンが指さす。
その先には空洞があり、道らしき空間が広がっていた。
しかし、数歩進んでみただけでわかる。
向かう先は、下方向。
つまり、洞窟のさらに深くへ伸びているのだ。
(´・ω・`)「まだ入り口しか見ていないから、判断が難しいね」
ξ゚⊿゚)ξ「もしかしたら、ぐるっと回りこんで出口に繋がってるかも?」
( ^ω^)「うーん……。ここは素直に助けを待つのはどうかお?」
(´・ω・`)「そうしたいところでもあるけど……」
ショボンが手首の魔法辞典を見せつけた。
この魔法制御下においても、わずかな魔力だけで起動する
優れた魔術アイテム。
試しに魔力を込めてみるが、全く反応がない。
どうやら、洞窟の深度が増すにつれて制御力が強まっているらしい。
先ほど、メディクシルの使用方法について調べることができたのは
辞典内に発動した際の状況が残っていたから。
つまり、一度開いたページのみだけなら再現できる状態だったわけだ。
178
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:52:43 ID:HcbLbdA20
更に最悪なことに、緊急脱出時に時折使っていた瑠璃のペンダント。
ブーンの首元にぶら下がってはいるが、もちろんそれも使えない。
これは洞窟内だけでなく、島のどこであっても同じ。
モララーが近くにいるから、特にそれを不便に思ってもいなかったが……。
今となっては、ここまで大きく影響するなんて予想だにしていなかった。
(´・ω・`)「モララーさんが、見つけてくれる確証もないよ」
(*゚∀゚)「兄ちゃんなら大丈夫な気もするけどなぁ」
( ^ω^)「確証がないなら、僕らが動くしかないお」
ξ゚⊿゚)ξ「ツーちゃん、今の時間は?」
純金製の懐中時計をツーが取り出す。
針は夕刻前であることを示していた。
モララーは夜になったら、と約束していた。
それまで戻るのか戻らないのか。それもわからない。
後どれだけ待てば? 待ったとして、本当に来れるのか?
ξ゚⊿゚)ξ「こんな冷える所に、薄着なうえに裂傷者多数。
待ってる間に、もしまた崩落があったら……今度こそ、お終いね」
(´-ω-`)=3「……ダメ元で、行動した方が賢明か」
会議の結果をそれぞれが納得し、頷きあう。
進むべきは暗闇の中。
そこは奈落への道なのか、希望への光明なのか。
誰もわからない。
それでも、少年少女は足を進めようと決意を固めた。
179
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:53:51 ID:HcbLbdA20
――――時のことだ。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「お? ツン、どうしたんだお?」
勇み足で進むブーン。
最後の足音が尾いてこないことに気づき、振り返る。
暗闇の中を、ツンがじぃっと眺めていた。
その先にあるのは、崩落した地盤だ。何も変わった様子はないが。
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、ちょっとだけ様子見にいってもいい?」
( ^ω^)「あっちをかお? 瓦礫しかないと思うけど……」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。でも、少し気になるの」
( ^ω^)「??」
不用意に近づけば、また崩壊する恐れもある。
あえて近寄らない判断を下していたが、ここにきて何が気になるのか。
ブーンが訳も分からず、ツンの手にひかれるのでショボン達も同様に連れ立つしかなかった。
180
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:55:12 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「ツーン。あんま触ったりすると危ないおー」
小さな灯りで照らしてもらいながら、ツンが岩の亡骸を調べる。
触り、動かし、登り、蹴って。
光が届かなくなると、足元も安定したのか
簡易ランプを受け取り、ずんずん奥へと進んでいく。
時折、外した髪留めを鏡のように反射させて闇を覗く。
心配するブーン達をよそに、気が済んだツンが少ししたら戻ってきた。
高さのある岩片から、軽く跳躍して降り立つと、意気揚々に言葉を述べる。
ξ゚⊿゚)ξ「ここから戻りましょう」
(; ^ω^)「えぇ……。何言ってるんだお、ツン。頭ぶつけたのかお?
どう考えても危険だお」
ξ゚⊿゚)ξ「一番重傷だったアンタに言われたくないわ」
(´・ω・`)「ブーンに同感だ。見たところ、奥への道は足元に不安はない。
こんな危ない橋を、わざわざ渡ろうとする理由を聞かせてほしいな」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなの簡単なことじゃない。
少なくとも、この先には出口がある。絶対に帰れる道を戻る方が賢明でしょ?」
(*゚∀゚)「けどよ、そもそもどうやって元の場所まで戻るんだよ?」
ξ゚⊿゚)ξ「進んでみたらわかったわ。瓦礫が上手く勾配になってるのよ。
思ったより簡単に帰れるかもしれないわ」
(´・ω・`)「かもしれない、って……」
ξ-⊿゚)ξ「……さっき、ダメ元で行動してみるって言ったの誰だった?」
(´・ω・`)「……」
181
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:57:03 ID:HcbLbdA20
(*゚∀゚)「なるほどな。それならオレはツンに賛成だぜ!
知らねー場所より、よっぽど安心だ!」
( ^ω^)「……それもそうだおね。いけそうなら、試してみてもいいかもしれないお」
(´-ω・`)=3
やれやれ、という仕草をショボンは大げさにする。
その足先は、三人と同じ岩場に向かっていた。
それぞれ、手に灯りを携え自分の足で進んでいく。
少し先すら見えないうえ、足元はおぼつかない。
今踏み込んだ岩は安定しているのか。
急に柔らかな部分が見えてこないか。また地面が急降下しないか。
不安をよそに、歩みが止まることはなかった。
今どれぐらいの位置にいるのだろうか。
誰もわからないが、前進している実感だけはある。
遠くで鳴る、ガラガラという音に怯えながら
鋭利な石片を注意深く避けながら
持ってきた水分が、残り少ないことに焦りながら
皆が緊張し、けれども一歩一歩着実に前へ。
182
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:58:25 ID:HcbLbdA20
……そして。
(;´・ω・`)「! みんな!」
ショボンが声を上げた。
それに伴い、三人が彼の傍に寄って行く。
興奮するような様子で、原因先をショボンは照らした。
赤い色をした、キノコの断片。
間違いなく、彼が持ち込んだドラケンピルツの欠片だった。
( ^ω^)「おー。ということは、結構戻ってこれたんだおね」
(´・ω・`)「逆に言えば、それぐらいの範囲が崩落したってことでもあるけど」
(*゚∀゚)「ともあれ、あと少しなんじゃねえの?」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね。あと一息、ってところなんでしょうけど……」
四人は唸った。
目標が近いこと。
確実に帰れていること。それらに相違はない。
だが、先ほどの進撃とは打って変わり
今、彼らはしり込みしてしまっている。
ふと、ツンが上を見た。
183
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 12:59:24 ID:HcbLbdA20
目の前を見ない理由は一つ。
そこに道はないから。
彼らの前には、切り立った崖が聳えてしまっているのである。
元々は、それを迂回するルートを探していたのだ。
だが、残念なことに行き止まりしか見当たらない。
どう進んだものかと、決めあぐねている時の出来事だったわけだ。
ξ゚⊿゚)ξ「どれぐらいありそう?」
( ^ω^)「うーん……思ったよりは低いみたいだけど……
少なくとも、みんながピョンと飛んでいけそうにはないおね」
小石のソナーや、火種を投げて登頂までの距離を測る。
ギリギリ、端が覗いているのが確認できるが……
少なくとも、常人では届く高さにそれは見えない。
(´・ω・`)「じゃ、どうするの?」
( ^ω^)「……まあ、やってみるしかないお」
ブーンが数歩下がった。
手にした荷物をしっかり紐で縛り、これから来る衝撃で落とさないように。
しっかり固定できたことを見定めると、皆に先を開けて
崖から離れるよう、伝えた。
184
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:00:48 ID:HcbLbdA20
そして。
( ^ω^)「…………ほっ!!」
少ない歩数で、完璧な助走を作り。
完璧なタイミングで、高らかに跳躍をした。
壁を一度蹴り飛ばし、思い切り手を伸ばす。
だが、それだけでは足りない。
まだ壁は続いている。
(; ^ω^)「ふっ!」
状況を瞬時に理解し判断……いや、予想の範囲での次の行動。
上昇のスピードを乗せたまま、壁面にナイフを突き刺す。
それを取っ手に、もう一度腕力だけで跳躍。
これ以上はもう自分ではどうにもならない。
祈るように、ブーンは大きく全開で手を掲げた。
185
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:02:04 ID:HcbLbdA20
(; ^ω^)「届いたお!」
暗闇の奥で、ブーンが高らかに声を上げる。
残された三人は小さく感嘆した。
その後、しばらくするとロープが降りてきた。
魔法の使えない魔術師では、決して登ることは出来ない高さ。
それを生身で到達出来てしまう、ブーンの身体能力の高さが伺える。
ツンが最初におずおずと登り、ツーが鼻歌交じりに合流する。
最後、ショボンが綱を手を伸ばした。
(;´・ω・`)「!!」
(; ^ω^)「ショボンくん!」
186
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:03:06 ID:HcbLbdA20
もしかすると、を考えてはいた。
しかし、実際に起こるとこうまで動揺するのか。
ショボンの足元が、突然瓦解したのだ。
認識範囲外の浮遊感と、激しい衝突音。
数舜遅れて巻き起こる土煙に、激しくむせる。
(;´・ω・`)「……危なかった」
(; -ω-)=3「ああ、良かったお」
あと少しでも、ロープを掴むのが遅れていたら巻き込まれていただろう。
幸い、彼の体は宙に浮いてこそいるが、命綱に体重が乗っている。
声と重みの安心感、自身の責務をすべて背負い込みブーンが手綱を引っ張る。
(´・ω・`)「ん?」
187
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:04:24 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「何やってるお、ショボンくん。ほら!」
薄暗い中で、ブーンの顔が見えてきた頃。
差し伸べられる、細くもしっかりと筋肉のついた手があった。
(´・ω・`)「……なんでわざわざ」
( ^ω^)「いーから、いーから」
(´・ω・`)「……」
そんなことをしなくても、これぐらいなら登りきれる自信はある。
何やら過小評価された気もするが、助けられた恩もある。
( ^ω^)「よいしょっと!」
渋々ながらショボンが応えると、想像よりも強く速く身体が引き上げられた。
勢いでそのままブーンは尻餅をつき、ショボンも地に転がる。
ξ゚⊿゚)ξ「ヒヤっとしたけど、これで全員ね」
(*゚∩゚)「いやー、良かった良かった。オレてっきり……ん?」
ξ゚⊿゚)ξ「ツーちゃん。もうフラグ立てないで」
(*゚∩゚)「んー!」
ツンに口を塞がれ、ツーはじたばたしながら頷き続けるのであった。
188
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:05:45 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「……へへ」
(;´・ω・`)「え、面白い? 今の」
やり取りを見てなのか、ブーンが小さく笑った。
だが彼は首を横に振り、嬉しそうにショボンを見る。
( ^ω^)「以前と逆だおね」
(´・ω・`)「以前?」
( ^ω^)「僕がモララーさん家の樹に登った時だお」
(´・ω・`)「……ああ、そんなことあったね」
( ^ω^)「あの時、魔法でスイっと助けられて。
嬉しかった半面、ちょっと絶望したんだお」
( ^ω^)「魔術師のきみを、こんな風に助けてあげられることなんて
きっと、ないのかなぁ、って」
(´・ω・`)「別に、そんなこと求めてないけど……」
( ^ω^)「わかってるお。でも、こんな状況下だったけど……
僕の手で、君を助けられた。それが嬉しかったんだお」
(´・ω・`)「……そっか」
ショボンは土埃を払い、立ち上がる。
ブーンが、どれだけ真っすぐで、純粋で。
お人好しで、底なしのバカなのか。
189
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:07:08 ID:HcbLbdA20
最初はただの弱虫で愚鈍な奴だと思っていたけれど……
彼は彼なりの強さを持っていた。力だけでなく、心の中に。
(´・ω・`)「ま、今後はこういうことあるかもね。お互い」
( ^ω^)「うん。その時はよろしくだお!」
ブーンは、差し出された手を取り立ち上がった。
――――。
ショボンが予め作っておいた『帰り道』。
洞窟で生物に会うこともなかったが、それも相まって効果は覿面だった。
彼らは迷うことなく進んでいく。
似たような風景の連続で、今どれほどの位置にいるのかはわからない。
だが、確実に帰路につけている安心感がそこにはあった。
(;゚∀゚)「……」
小走りで進む集団。一歩遅れてツーが怪訝な顔をした。
その異変に気付き、ツンが近寄って何事かを尋ねる。
(*゚∀゚)「あー、いや。ちょっと嫌な予感がしてよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、もうフラグ立ては止めてって言ったでしょ!」
(*゚∀゚)「まーまー。言おうが言わまいが、すぐにわかることなんだけどな」
ξ゚⊿゚)ξ「?」
190
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:08:25 ID:HcbLbdA20
言うと同時に、ツーは懐中時計をしまった。
その動作に、なんの意味があったのだろう。
(´・ω・`)「出口だ!」
川の音が近づいてきたからだろう。
一番最初のドラケンピルツだけは、特徴的な形にしておいたおかげでもある。
ショボンは高らかに、小さな冒険のゴールを告げた。
(;^ω^)「……」
(;´・ω・`)「……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……そういうことね」
(*゚∀゚)「時間的に、そうかなーって思ったんだよな」
ゴールはゴールで相違ない。
彼らは自力で、魔法も使えない状況の中
一度は遭難しかけたが、なんとか元の入り口……今では出口に帰ってこれた。
だが、手に持ったランプを消すことは出来なかった。
眼前に広がるのは、ただただ深い闇。
魔法生物、植物が自発的に光を放つものが散り散り見れるが。
それ以外、何もない漆黒の世界。
空に浮かぶ美しい三日月は、彼らを讃えてくれているのだろうか。
191
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:09:31 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「すっかり夜になってたおね……」
やけに大きく聞こえる虫の音が、日没という現実をたたきつけてきた。
緩みかけた緊張を解けず、どっと疲れが押し寄せる。
まだ終わりではなかった。
事実に心が折れかけてしまう。
だが、彼らももうただの子供ではない。
困難に立ち向かう勇気、知恵、力を携えた立派な戦士達なのだ。
(´・ω・`)「マッピングはしてあるけど……安全なだけの道じゃあなかったからね」
ξ゚⊿゚)ξ「つまり、もうひと踏ん張り……ってことね」
(*゚∀゚)「やるしかねーか!」
再度、気を引き締めなおす。
安泰の息を飲みこみ、開きかけた口を閉じ。
――もう一度、最後の冒険へ。
全員がそろって、一歩大きく踏み出した。
192
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:10:57 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「!」
いち早く気付いたツンが、歩みを止める。
(´・ω・`)「え?」
(*゚∀゚)「お?」
( ^ω^)「これは……!」
緑色の魔法陣が、突如発現した。
遅れてやってくるのは、同じ色の光る球体。
陣の中に描かれている六芒星の中に止まると、それは人の形を成していった。
(;・∀・)「ああ、良かった。こんな所に居たんだ」
193
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:12:41 ID:HcbLbdA20
少し焦った様子のモララー=レンデセイバーが、皆の前に現れた。
物質認識転移魔法で、彼らの居場所を特定し慌てて飛んできたのだろう。
(;-∀-)「遅くなってゴメン。ちょっと病院が混んでてさ。
トソンさんは全然大丈夫だったんだけど……」
(;-∀・)「戻ってきてみれば、近くにみんなの姿も気配も、魔力すら感じないから。
どこか、迷子になっちゃったのかもと思ったんだけど……」
(;・∀・)「…………みんな?」
( ´ω`)(*-∀-)ξ;-⊿-)ξ(;´-ω-`) =3
子どもたちは、焦るモララーを他所に。
今日、ようやくつけた安堵の息を心の底から吐き出す。
足の力が抜け、みんなほぼ同時に
地面へ腰を下ろして、夜空を仰いだ。
194
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:14:35 ID:HcbLbdA20
――――――――。
(;-∀-)「面目ない。同伴者失格だ。
みんなの親御さんに合わせる顔がないよ」
珍しく失態を口にし、深々と謝るモララー。
今は、島で最も安全なコテージの中。
談話室に集まり、何故あんな場所にいたのかの理由を聞かせてもらった。
冒険譚を聞くと、みんなの前で青年は保護責任の落ち度を詫びたわけである。
それに対し、汚れは綺麗さっぱり、傷も魔法ですっかり。
更に、モララー特製の疲労回復効果のある薬液を口にしながら
子どもたちはそれぞれの意見を、彼と真逆の表情で言う。
( ^ω^)「謝る必要はないですお。僕らが勝手にやったことですし」
ξ゚⊿゚)ξ「そうですよ。せめて出る前に一言伝えておくべきでした」
(´・ω・`)「終わってみればの話ですけど。冒険っぽくて楽しかったですよ」
(*゚∀゚)「そーそー。トラブルとかもあったけど、なんだかんだでな!」
あっけらかんと笑い、感想を述べることにモララーは甘えない。
自分が付いていれば、怖い思いなどさせることはなかったのに。
195
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:15:51 ID:HcbLbdA20
(;^ω^)「……あ、モララーさん。トソンさんは、どうなんですお?」
いつまで経っても頭を上げない青年に、ブーンが声をかける。
すると、その心配先の女性が物陰から現れた。
(゚、゚トソン「とりあえず、今のところは大丈夫だよ」
朝のぐったりした様子はどこへやら。
灯りに照らされるトソンの表情は、血色も良く健康そのものに見えた。
隣で青くなっている伴侶の背に手を当てながら、トソンは続ける。
(-、-;トソン「むしろ、私こそ謝らないと。本当に、心配かけてごめんね」
状況が変わるかと思いきや、結局は謝罪祭り。
どうしたものかと、子どもたちはそれぞれ顔を見合わせる。
本当に、もう良いことなのだ。
怖かった。痛かった。寒かった。不安だった。
―――けど。
統括して、彼らは口を揃えて言うのだ。
楽しかった、と。
196
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:16:55 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「……そういえば、モララーさん。
今晩、『三日月の涙』を見せてくれるって約束しましたよね?」
膠着した空気に、今度はツンが一石を投じる。
この島に、わざわざやってきた本来の目的の話だ。
(*゚∀゚)「おー、そうだそうだったな。見せてくれよ、その宝石!」
(´・ω・`)「メディクシルみたいに、本当に存在する伝説……
そんなものが拝めるなら、これ以上の謝罪はないと思いますよ」
( ^ω^)「同感だお!」
(;-∀-)「…………そうだね。わかった。ありがとう、みんな」
まだ本当は思っていることもあるが。
様々な感情を押し殺し、モララーはようやく面を上げた。
複雑な表情を隠し、息を一度深く吐き。
また、普段通りの優しい笑顔へと戻す。
( ・∀・)「それじゃ、行こうか」
普段の様子で、青年はみなを案内する。
そこは薄暗いコテージの外。
室内に灯された光源と、月明かり以外何もない真っ暗な世界。
そこに何があるのだろうか。
疑問を浮かべながら待っていると、モララーは何かを念じ始めた。
197
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:18:06 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「……これと……あとはこれかな」
術式が決まり、魔法陣が足元に展開された。
ちょうど、六人全員が入る範囲で地面に浮かび上がる。
最初は白、次に黄色、青や緑など様々な変化をすると
それらは消失した。
( ^ω^)「お? 何がどうなったんだお?」
(´・ω・`)「耐水、耐衝に、防音と水中活動……かな?」
ξ゚⊿゚)ξ「暗視もあったわね」
( -∀・)「ふふ。流石だね、二人とも」
(*゚∀゚)「??」
ξ゚⊿゚)ξ「今、モララーさんが私たちに使った防護系魔法よ」
(´・ω・`)「ちなみに普通はこんなたくさん重ねがけ出来ないからね」
( ^ω^)「ほほー……。お? ということは……」
( ・∀・)「せっかくだし、みんな目を瞑ってくれないかな」
いたずらを仕掛ける少年のような顔でモララーは提案した。
それぞれが期待を胸に、目を瞑る。
( ・∀・)「トソンさん」
(-、-*トソン「!」
そして、移動のための空間転移魔法陣が発動する。
直前、モララーはトソンを抱き寄せ
少しでも不安がないよう、優しく、力強く肩を握った。
198
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:20:45 ID:HcbLbdA20
――――。
( ・∀・)「……よし。さあ、みんな。目を開けて良いよ」
身体の感覚が消え、また戻って。
次に感じたのは、やけにくぐもった周りの音。
足の裏はしっかり地面に着いているはずなのに、やけに浮遊感がある。
事前の対抗魔法で、なんとなくの察しはついていた。
今いる場所も、予想はつく。
しかし、一体何のため……?
モララーが合図をするまで、疑問は止まらなかった。
そして、その『答え』が少年少女の目の中に入ってきたとき。
(* ^ω^)ξ*゚⊿゚)ξ(*´・ω・`)(*゚∀゚)「「「「うわあーーー!!」」」」
全く同じタイミングで、同じ感嘆の声をあげた。
199
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:22:35 ID:HcbLbdA20
光。
黄金の光。
それは、玻璃色の石に降り注ぐ
月の光で輝いている、美しい景色。
今いる場所は、レハコーナ島からやや遠くの海の中。
条件は、晴れていること。
夏の夜、月が最も大地に近づく日であること。
降り注ぐ月の光が水中を反射し、一点に集められる場所であること。
集められた光を受け取り、さらに吐き出せる物質が、『そこ』にあること。
以上を満たした時にだけ見れる、幻想風景。
海中の鉱石が長い年月をかけて集まり、月光を吸収。
そして、その光は再び天へ還る。
海面から映る三日月が、まるで涙を流しているような景色。
それを作っている希少石を『三日月の涙』と呼ぶのである。
200
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:24:04 ID:HcbLbdA20
(* ^ω^)「凄いお凄いお! なんだおこれ!」
ξ*゚⊿゚)ξ「こんなの初めて見た……」
(*´・ω・`)「……僕も」
(*゚∀゚)「はえー……なんかもう、言葉がでてこねーな」
(゚、゚*トソン「ホント……。綺麗……」
うっとりと、ぼんやりと。
暗視の魔法で見れるようになった、海中の風景をただ眺める。
海流の加減で、その光は揺らいだり、鱗粉のように煌めいたり。
見ているだけで、飽きることのない絶景を広げ続けていた。
( ・∀・)「この辺りに、危険な生き物が近づかないよう結界も張ったよ。
普通なら来れない、夜の海だ。自由に動いていいからね」
みなが感嘆している間に、モララーは術式を完遂させていた。
(* ^ω^)「うひょー! マジですかお! やったあ!」
許可を皮切りに、ブーンは地を蹴り水中へと踊りだす。
魔法の使えない彼だが、かけられている魔法のおかげで
思ったように動けるのだ。楽しくないわけがない。
201
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:25:40 ID:HcbLbdA20
(*゚∀゚)「オレもちょっと泳いでくるー!」
ξ゚⊿゚)ξ=3「もー。もうちょっと見てから行けばいいのに」
(´・ω・`)「本当だよ」
それは他の子どもたちにとっても、同じことだったようで。
最初はただただ、『三日月の涙』を見ていたが
次第に周囲の、もの珍しい海中風景へ興味が移っていった。
( ・∀・)「……さて、と」
まるで、それを待っていたかのように。
モララーはみんなが離れ離れになったのを確認すると
さっきまで抱いていたトソンの肩を放した。
( ・∀・)「ちょっと、みんなとお話をしてくるね」
(゚、゚トソン「! ……はい。いってらっしゃい」
意図を理解したトソンは、その場から動かず。
黙って、海の中へ遠ざかっていく背中を見届けた。
202
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:26:47 ID:HcbLbdA20
――――。
(*゚∀゚)「うっほー! 楽しいなコレ!」
波に乗るように、海の中の流れにツーは身を任せていた。
体の力を抜いて、ゆらゆらと液体と同化するように泳いでいく。
( ・∀・)「やあ、ツーちゃん」
そこへ、踊るように流れてきたモララーが声をかけた。
(*゚∀゚)「おー、兄ちゃん」
( ・∀・)「楽しんでる?」
(*゚∀゚)「おう! そりゃあ、もう!」
満点の笑顔でツーが応える。
その表情が嬉しくて、モララーも顔をほころばせる。
並列して海中を漂っている最中、モララーが手を差し出した。
ツーが、その農作業で硬くなった手のひらを感じ取るとクスリと笑った。
( ・∀・)「?」
(*゚∀゚)「ごめんごめん。兄ちゃん、魔術師の癖に手がゴツイからさ」
( ・∀・)「昔はそうでもなかったんだけどね」
(*゚∀゚)「畑やってりゃ、そうもなるよな」
月明かりのシャンデリアの下、二人は踊るように流れていく。
そうして無心に体を動かすのが楽しくて。
目に映る全てが、新しくて。
ツーは思ったことを、いつも通り素直に述べた。
203
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:28:25 ID:HcbLbdA20
(*゚∀゚)「兄ちゃん、今回連れてきてくれてありがとな」
(*゚∀゚)「うちは父ちゃんのことがあるからさ。
旅行なんて行った経験なかったし。
学校行事のも断ってたぐらいなんだ。家空ける時間長げーからさ」
(*゚∀゚)「だから、人生初めての旅行がここで……更にみんなと来れてさ」
(*^∀^)「オレ、めっちゃ幸せだ!」
屈託のない表情を受け取って、モララーも相応の返事をする。
( ・∀・)「僕も、ツーちゃんに会えて良かった」
( ・∀・)「初めて作った野菜。
売れる保証もないのに、君は二つ返事で店に出すことを了承してくれた」
( -∀-)「戦い以外で、自分にできることが……その成果が一つ達成できて」
( ・∀・)「あの時、本当に嬉しかったんだ」
(*゚∀゚)「アッヒャッヒャ。当然だろー?」
(*゚∀゚)「だって、兄ちゃんの野菜めちゃくちゃ美味ぇんだもん。
これを売らないのは、八百屋として恥だと思ったんだ」
( ・∀・)「それは光栄だ」
(*゚∀゚)「だからよ、兄ちゃん」
204
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:29:32 ID:HcbLbdA20
(*^∀゚)「これからも、どうかよろしくな!」
いつの間にか二人は、地に足をつけていた。
手はつないだまま。真っすぐ向かい合って、思い思い話していたのだ。
自然と握手する姿勢になったツーは、しっかりと手を握る。
( ・∀・)「うん。こちらこそ」
モララーも、未来への期待とこれからの不安。
せめて、良く知る彼女だけでも生涯守り抜こう。
強い気持ちを込めて、手を握り返した。
205
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:31:35 ID:HcbLbdA20
――――。
(´・ω・`)「…………」
ショボンは海面にまであがり、体を浮かせてぼんやり夜空を眺めていた。
波で何度も視界が揺らぐ。
それによって、星の瞬きが不規則になり
まるで万華鏡を覗いているかのような気分になった。
( ・∀・)「ここ、星が良く見えるでしょ」
(´・ω・`)「モララーさん」
姿勢を変えず、目だけで確認した。
声が届く範囲に来たモララーも、同じようにあお向けになり空を仰いでいる。
( ・∀・)「山奥と違って、水が反射してるから
また景色が違って見えて良いよね」
(´・ω・`)「そうですね」
淡々とショボンは返す。
興味がないわけではない。
ただ、非常にリラックスした気持ちになっているため
自然とそうなるのだ。
( -∀-)「…………ねえ、ショボン君」
(´・ω・`)「はい」
206
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:33:07 ID:HcbLbdA20
しばらく漂っていると、モララーが声をかけた。
彼も気持ちと体を弛緩させて、楽なまま問う。
( ・∀・)「ショボン君は、何か夢とかある?」
(´・ω・`)「夢……ですか?」
( ・∀・)「うん。将来どういう風になりたいとか、やりたいこととか」
(´・ω・`)「そうですね……ありますよ」
( ・∀・)「おっ、何かな?」
(´・ω・`)「近衛魔術師になることです」
( ・∀・)「へー。どうして?」
(´・ω・`)「学校に入る前も、入ってからも。
僕はシャキン=ノーファルの息子でした」
(´・ω・`)「……その驕りが、僕をゆがんだ形にしていた」
( ・∀・)「……」
(´・ω・`)「ブーンに助けられ、モララーさんと出会って。
色々見ているうちに、僕思ったんです」
(´・ω・`)「負けたくないなあ、って」
207
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:37:49 ID:HcbLbdA20
(´・ω・`)「世の中にはもっともっと凄い人が居て。
たくさん苦労して、悩んで。それでも頑張っている人がいる」
(´・ω・`)「そんな人達に劣らない、強い人になりたい」
(´・ω・`)「だから、僕は父さんも超えて……近衛の称号を持つ魔術師を目指そう」
(´・ω・`)「そう、思ったんです」
( ・∀・)「そっか……」
初めて会った頃。
まだブーンを一方的に弄んでいた頃。
彼は、まさに自分が言うように自己欲の塊だった。
権力を笠に着て、やりたい放題やって。
人を傷つけるのも平気で行う。
なんて醜く、哀れな少年なのだ。
当時の率直な感想だ。
だが、今はどうだろう。
自分の力をちゃんと見定め、その上で更に先を目指そうとしている。
あの頃の尖った様子は完全になりを潜め、いつの間にか立派な大人へ
足を踏み込んでいる。
208
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:39:34 ID:HcbLbdA20
ブーンやツンの成長も目覚ましいものはあったが。
見てきた中で、一番変化のあったのはこの子かもしれない。
嬉しい感情を堪えつつ、モララーはあえて発破をかけてみた。
( ・∀・)「ショボン君、もし君が偉くなることを望んでいるなら。
もっと先が、実はあるんだけど」
(´・ω・`)「え?」
( -∀・)「……『大魔術師』を目指してみては?」
(;´・ω・`)「ちょっ……!?」
ショボンは、水しぶきを大きく立てながら慌てて体を起こした。
(;´・ω・`)「そ、それは……その……流石に……」
( ・∀・)「ふふ。考えたこともなかった?」
(;´・ω・`)「…………」
209
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:40:45 ID:HcbLbdA20
(;´ ω `)「…………」
( ´ ω `)
(´・ω・`)
(´・ω・`)「……モララーさん。
大魔術師って、人をたくさん殺さないとなれないんですか?」
210
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:41:57 ID:HcbLbdA20
余りにも愚直な質問に、一瞬だけ表情が強張る。
しかし、冗談で尋ねた様子ではない。
不躾を覚悟で問うたという、強い意志が瞳から見て取れる。
……だから、モララーも逃げずに答えた。
( ・∀・)「一応、前代未聞の称号だから何とも言えないけど」
( ・∀・)「誰にも出来ないような偉業を成し遂げたから、頂いた証だと思ってる」
( -∀-)「……形は違えど、きっと成る方法はあるはずだよ。
おじい様なら、そう言うさ」
( ・∀・)「なにせ、大魔術師は『英雄』の証でもあるらしいからね」
多くの命を奪い、人生を閉じさせた元凶。
ラウンジ大陸の人間にとっては、間違いなく『黒風』は災厄そのものだろう。
だが、VIP大陸の人間たちにとっては、彼はまぎれもない英雄だ。
かつては、そんなの偽善だと吐き捨てたこともある。
しかし、心境に変化があったのはショボンだけではない。
今は、少しだけ。
夢への道標でもあるのだと、胸を張れるようになった。
211
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:43:47 ID:HcbLbdA20
(´・ω・`)「…………そうですか」
言葉を聞き、ショボンは深く息を吸い、吐き出す。
そして決意を込めて、思いを告げた。
(*´・ω・`)「なら、なって見せますよ。いつか、必ず!」
( -∀・)「うん。その意気だ。頑張れ!」
モララーは手を高く伸ばした。
(*´・ω・`)「!」
その意味に気付くと、ショボンは嬉しそうに近づき。
力強く、水しぶきと共に
向けられた手のひらを叩いた。
212
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:45:52 ID:HcbLbdA20
――――。
ξ゚⊿゚)ξ「……アンバーかな。それともサンダイヤ……?」
海底に輝く石を眺める背中が一つ。
首を傾げながら、じっと凝らして見定める。
この美しい光を放つ物体は、一体何で出来ているのか。
周りを見ることに飽いたツンは、三日月の涙の下へ戻ってきていた。
ξ゚⊿゚)ξ「あ、これ……まさか!」
注意力を高めて見ていると、答えの一つが浮かび上がる。
( ・∀・)「ツンちゃん、何してるの?」
同時に、海面から降りてきたモララーがやってきた。
ξ゚⊿゚)ξ「モララーさん。この光ってる石
もしかして、主な構成はアブスライトですか?」
自分の疑問の解が合っているのか、期待半分不安半分聞いてみる。
その発言にモララーは驚きながら返答した。
( ・∀・)「正解。よくわかったね」
アブスライトは光や魔力を集めて反射する、特殊な性質を持つ透明な鉱石。
だがツンの前に光るそれは、他の鉱石も混じっているので
普通の感覚なら看破するのは容易ではない。
彼女の持つ観察力に、モララーはいつも感嘆していた。
213
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:48:13 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり。じゃあ、これは別に特殊な宝石ってわけじゃないんですね」
( ・∀・)「そうだね。アブスライト自体は希少だけど……ダイヤやルビーほどではないかも」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、どうして三日月の涙は『宝石』って呼ばれてるんですか?」
( ・∀・)「昔の人の伝承だからかな。
口から口へ言い伝えられたものは、いつしか事実とねじ曲がって流布される。
そんなことは世の中に、いくらでもあると思うよ」
ξ゚⊿゚)ξ「確かに……。これはこれで綺麗ですけど。
実際は、ちょっと珍しいだけの石ころなんですね」
( ・∀・)「伝説ってのは、大体そんなもんさ」
ξ゚⊿゚)ξ「……私は、モララーさんは違うと思いましたけど」
( ・∀・)「うん?」
ξ*-⊿-)ξ「聞いていた伝説より、もっと素敵で。優しくて。
本で読むより、ずっと輝いて見えます」
( -∀・)「あはは。それはどうも」
前ほど、自分の感情を隠さなくなったなぁ。
モララーは成長を喜ぶ。
あの大げさに照れ隠しをする癖は、微笑ましくて好きだったのだが。
今の、この成熟しつつある様相もまた素敵だ。
長い睫毛の横顔を見ながら、そう思った。
214
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:50:08 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「……あのね、モララーさん」
( ・∀・)「なんだい」
ξ゚⊿゚)ξ「あの……洞窟での出来事なんですけど……」
( ・∀・)「うん」
声のトーンが変わったのに気付き、モララーはとある場所を指さした。
腰を下ろすのにちょうどいい高さの岩場だ。
ツンは頷き、モララーと共に移動する。
硬い岩に座ると、ツンは話を再開した。
接触部が痛くならないように、反発の魔術をモララーはかけてくれていた。
ξ゚⊿゚)ξ「私、迷っちゃったことがあって」
( ・∀・)「迷った?」
ξ゚⊿゚)ξ「はい。メディクシルを使おうとした時。
少し考えちゃったんです」
ξ ⊿ )ξ「私たちは苦労して伝説の薬草を取りに来たのに
その成果を持ち帰ることしない、なんて選択をしていいのかな、って」
ξ ⊿ )ξ「ブーンが大変なことなんて、わかってました。
あのまま放置することなんて出来ない。
でも、共に行くのは不可能。」
ξ゚⊿゚)ξ「だったら、メディクシルで回復させて、帰ればいい」
ξ ⊿ )ξ「それだけの……話だったのに……」
215
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:52:07 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「……」
ξ ⊿ )ξ「私……あの時、ブーンのことを……」
ツンの肩は震えていた。
海水の中だから、涙もどのように流れるのかすらわからない。
顔を伏せ、声を殺し。
ただただツンは、小さく鼻をすすっている。
彼女なりに、とても悩んだのだろう。
成果は欲しい。ブーンの命も大切。
そんな葛藤そのものが、許せなかった。
メディクシルが人の命より大切なものではない。
トソンが心配ではあるが、今のブーンほどではないはず。
考えるまでもなく、取るべき選択を……ツンは即断できなかった。
そのことが、彼女自身に重い枷となり心を押しつぶしている。
( -∀-)(ちょっと前までは、自分の責任を人に擦り付けてたりしたのになぁ……)
無魔法栽培の畑に、風魔法を使って横着した時のことだ。
教えられなかったから。とブーンの不手際を非難した。
子どもっぽい癇癪で、少し教育が必要だな。と彼らの親に委ねてみたりもした。
216
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:54:22 ID:HcbLbdA20
そんな彼女が、今。
自分の行動に責務を感じ、そして結果として過ちを犯したのでは、と嘆いている。
波音で聞こえないほどの嗚咽を、モララーは止めてあげようと
ゆっくりと、少女の金髪に手のひらを乗せた。
( ・∀・)「ツンちゃん。何かを決断する、ってのはとても難しいことなんだ」
( ・∀・)「あの時、多分ショボン君もツーちゃんも、同じように悩んでたんじゃないかな」
( ・∀・)「その中で、ツンちゃんが声をあげて決断を促したのは。
とっても素晴らしいことだと思うよ」
( ・∀・)「それに、帰り道のことだってそうだ。
ツンちゃんが気付いてくれたから自力で、出口まで帰れた。
それは立派な功績だ」
ξ,⊿,)ξ「……でも……私……確証もないのに……」
ξ,⊿,)ξ「みんなを……危険な目に……合わせちゃってたかも……」
( ・∀・)「でも結果として、全員帰ってこれた。
だったら、それでいいんだよ」
ξ,⊿,)ξ「……」
217
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:55:37 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「大丈夫だよ。
どんな人だって、常に最善の決断なんて出来るもんじゃない」
( ・∀・)「僕もかつて、たくさんのことを選んできた」
( ・∀・)「自分の力の使い方。世界の為に戦うこと。
そのあとの生き方、出来ることの決断」
( -∀-)「…………本当に、たくさんあった」
( ・∀・)「今でも、悔んだりする。本当にそれが正しかったのか」
ξ ⊿;)ξ「モララーさんも……?」
( -∀・)「当然! 僕も、君たちと同じ人間なんだから」
( ・∀・)「いくら僕でも、時間を巻き戻したり、死んだ人を蘇らせたりはできない。
失ったものを、もう選びなおすなんて出来ないんだよ」
( ・∀・)「……だからね、誓ったんだ。誰でもない、自分自身に」
( ・∀・)「その選択が正しかったって、信じて。
間違ってなかった、と証明するために」
( ・∀・)「一生懸命、生きていこうって」
218
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:57:24 ID:HcbLbdA20
ξ;⊿;)ξ「……モララーさん」
( ・∀・)「ツンちゃん。
君はこれから色々な事を経験していくと思う。
今日みたいな決断をしなくちゃならないことも、たくさんあるだろう」
( ・∀・)「時には、間違えたと後悔してしまうこともあるはずだ」
( -∀-)「……そうなった時は、後ろを見るんじゃなくて」
( ・∀・)「涙を拭いて、前を見よう」
( ・∀・)「そしたらきっと、新しい道が見えてくるかもしれないよ」
( -∀-)「だから、もう泣かないで」
ξ;⊿;)ξ「うぅ……モララーさぁん……!」
慰めるつもりだったのに、逆に泣かせてしまった。
詫びの気持ちをこめながら、モララーは素直に思ったことを口にする。
( ・∀・)「立派になったね、ツンちゃん」
様々な経験を重ね、一人の人間としての悩みを抱えているツンが嬉しくて
モララーはただ、微笑みながら彼女の頭を撫で続けた。
219
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:58:50 ID:HcbLbdA20
――。
( ^ω^)「おー、居たいた。モララーさーん! ツーン!」
未だ泣き止まぬツンを、優しく視ているとブーンがひょっこりと現れた。
状況がわかってなかったのか、不用意に近づいてくる。
そして、ツンの表情を確認した途端に冷や汗を流した。
(; ^ω^)「お? ツン? どうしたんだお?」
ξ,⊿ )ξ「なんでもないわよ」
顔を隠し、しゃがれた声でツンが返事をした。
ブーンは一度モララーを見てから、すぐにツンへ向き直る。
( ^ω^)「何でもない人が泣いたりしないお」
ξ,⊿ )ξ「うっさい! ちょっと一人にして!」
(;^ω^)「えぇー。せっかく良いもの見せてあげようとしたのにー」
肩をがっくり落とし、つま先で地面をぐりぐりといじるブーン。
さっきまでは一人の普通の少女だった、ツンの変わり具合に
モララーは思わず笑みがこぼれる。
流石に言い過ぎたことを後悔したのか
しゃっくりを数回挟んでから、絞り出した声でツンは言う。
ξ,⊿ )ξ「……あとで」
220
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:00:11 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「お?」
ξ,⊿ )ξ「あとで行くから。今は放っておいて」
( ^ω^)「……」
ブーンがその言葉を理解すると、モララーに目配せをした。
ツンも、置かれていた手をそっと頭から離す
言われた通りにしてあげよう。
お互いそう思い、モララーはブーンの案内する先へついていくことにした。
( ・∀・)「何があったの?」
泳ぎながらモララーは尋ねる。
それに対し、待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて少年は答えた。
(* ^ω^)「でぇーっかいクジラが居たんですお!
図鑑では知ってたけど、この目で見たのは初めてですお!」
( ・∀・)「あぁ。そういえば、ホワイトマッコールの生息地だったね」
それは平均して、全長70mは超える巨躯を持つ哺乳類。
寿命も相当に長く、個体によっては数百年は生きるそうな。
221
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:01:58 ID:HcbLbdA20
丸い頭に、鋭利な角度の鰭。
尾は三又に分かれており、分厚い水掻きが隙間を埋めている。
一たび体を波打てば、推進力と共に海流すら操ってしまいそうな
余りにも規格外で大きな生物。
それが今まさに、二人の目の前を轟音を立てて横切って行った。
(* ^ω^)「おほー! このド迫力だおー!」
幾重にもかけられた防護魔術のおかげで、水の勢いも邪魔にならない。
地鳴りのような鳴き声も、耳をふさげば問題ない程度に抑えられている。
( -∀・)「いやぁ、凄いねこれは」
思わずモララーも手で耳を押さえながら感想を呟く。
一体の生き物が、ただ通りすがっただけだというのに。
まるで夜空に弾ける花火でも見たかのように
目から肌から受け取る感触や臨場感は、他では味わえない興奮度合いだった。
( ^ω^)「まったねーー!」
鳴き声に負けないぐらいの声で、去っていくその背へ
ブーンは手を振りながら見送る。
見えなくなるまでそうしていると、彼はゆっくり手を下ろし。
一息溜めてから、言葉を発した。
222
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:03:12 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「モララーさん」
( ・∀・)「なんだい」
( ^ω^)「ありがとうございましたお」
( ・∀・)「どういたしまして」
今回の旅行のお礼だろう。
返事をするモララーに、意図が伝わってなかったと
ブーンは、しっかりと向き合う。
( ^ω^)「今までのことですお」
( ・∀・)「……」
謙遜をして、モララーが口を開こうとする。
だが、それすら理解していたブーンは捲し立てるように続けた。
( ^ω^)「僕は、本当にダメな奴でしたお」
( ^ω^)「周りのことも見えてない。何をすればいいのかもわからない」
( ^ω^)「ただただ、耐え忍べばきっといつか終わるだろう。
そう思って生きてましたお」
それは、モララーに出会うまでのブーンの生き方。
ショボンや周囲からの攻撃に対し、彼は抵抗をしなかった。
家督に傷がつくから。貴族同士の争いを恐れて。
223
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:04:40 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「でも、モララーさんが助けてくれたから」
( ^ω^)「だから僕は、今こうして楽しく生きていけてるんですお」
( ^ω^)「だから、そのことも含めて。お礼をちゃんと言いたかったんですお」
( ^ω^)「ありがとう、って」
( ・∀・)
( -∀-)
モララーが。
彼が、伝えたかったことが。
伝えるべき相手に、先に言われてしまった。
224
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:06:02 ID:HcbLbdA20
言いようのない嬉しさと
寂しさを
モララーはグッと堪える。
そして、彼は少しだけズルをした。
後ろ手に、小さく魔法を唱える。
それは、感情を抑制する弱い魔術。
声の震えを抑え、涙腺の活動を止める。
大人だけが自分に使う、背伸びの魔法だ。
225
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:07:00 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「ブーンくん」
( ^ω^)「はい」
( ・∀・)「反対なんだ」
( ・∀・)「僕が君を助けたんじゃない。
君が僕を助けてくれたんだ。」
( ・∀・)「君と出会わなければ、僕はずっと山奥に一人で。
擦れた心に、野菜を売って生きていくだけの
淡々とした余生を過ごしていたと思う」
( ^ω^)「はい」
( ・∀・)「でも、君が来てくれた。
君だけの話じゃない。色々な世界の話を、人を」
( ・∀・)「他でもない、ブーンくんが連れてきてくれたんだ」
( ω )「はい」
226
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:09:16 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「おかげで、僕は楽しかった」
( ・∀・)「ツンちゃん、ツーちゃん、ショボンくん。
みんな素敵な子たちだ。
そんな子に会えたのは、ブーンくんの力なんだよ」
( ;ω;)「……はい」
( ・∀・)「無味乾燥な世界に、君が僕に色を与えてくれた。
そのことが本当に嬉しいし、感謝している」
( -∀-)「だから……僕の方こそ」
( ・∀・)「ありがとう、ブーンくん」
( ;ω;)「……」
返事もできず、ブーンは涙を流した。
これから、会うことも減るだろう。
学校の時のように、時間を作るのも難しいかもしれない。
自分だけじゃない、たくさんの責任が彼を縛り付ける。
もしかすると、今のように遊んだりすることも最後になるかもしれない。
そう思うと、涙を止めることが出来なかった。
227
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:11:13 ID:HcbLbdA20
嬉しいのに。
尊敬する人から、心からの感謝を述べられて
天にも昇る気分だというのに。
同時に押し寄せる、喪失感がブーンの心を揺さぶってくる。
( -∀-)「そんな泣くなよ。男の子だろう」
抗う姿、感情に葛藤する姿が愛おしく。
モララーは彼の肩を抱く。
( ;ω;)「うわぁあああん!!」
堪らずブーンは声をあげて泣き出した。
いつの間にか、自分の肩よりも低い位置になったモララーの
その大きな背へ、抱きついた。
228
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:12:54 ID:HcbLbdA20
( ;ω;)「モララーさん! 僕寂しいですお!!」
( ・∀・)「うん」
( ;ω;)「怖いですお! これからちゃんとやれるか、不安で仕方ないですお!!」
( -∀-)「大丈夫だよ、君なら」
( ;ω;)「でも……でも……」
( ・∀・)「うん」
( ;ω;)「モララーさんが、言ってくれたように!」
( ;ω;)「父ちゃんの名に恥じないように!!」
( ・∀・)「うん、うん」
( ;ω;)「絶対、絶対に! 立派な騎士になってみせますお!!」
229
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:14:13 ID:HcbLbdA20
( -∀・)「ああ。楽しみにしてるよ」
( ;ω;)「だから……だから……」
( ;ω;)「僕、頑張りますお!! モララーさん!!」
( ;ω;)「本当に本当に!!! ありがとうございましたお!!!!!」
( -∀-)「……こちらこそ、本当にありがとう」
ポンポンと、大きくなった背をモララーが叩く。
ホワイトマッコールの鳴き声に匹敵するような
悲しく、嬉しく、寂しい慟哭。
モララーは黙って、何度も何度も頷きながら
その心の声を受け止め続けた。
230
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:15:19 ID:HcbLbdA20
…………。
皆に、それぞれの言葉を伝え終えたモララー。
満足し、満喫した彼らの旅行はこれで終わりを告げる。
――わけではなかった。
モララーは、とあることを、どうしても。
今回、他でもないみんなに伝えたいことがあった。
それは、彼らへの言葉ではなく
モララー自身の…………。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、あんた目が真っ赤よ」
( ^ω^)「それはツンもだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「こ、これは海水のせいよ!」
(´・ω・`)「耐水魔術あるから、海水は目に沁みないよ」
ξ#゚⊿゚)ξ「うっさい!!」
(*゚∀゚)「なー兄ちゃん、どーしたんだよ。わざわざオレらを集めてさ?」
231
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:16:20 ID:HcbLbdA20
一通りの言葉を交わしたモララーは、時機を見て召集をかけた。
場所は、三日月の涙の前。
子供たちを横一列に並べて、何やら始める気らしい。
彼の一歩引いた位置にはトソンもいる。
( ・∀・)「うん。ちょっと渡したいものがあって」
そう言うと、モララーはゆっくりとブーンの傍に寄った。
( ^ω^)「?」
( ・∀・)「少しジッとしててね」
徐に、手を伸ばす。
その先にあるのは、ブーンが肌身離さずつけていた雫状のペンダント。
空間転移魔法そのものを圧縮している、この世に二つとない瑠璃の首飾りだ。
包み込むように握ると、それは淡く発光を始める。
しばらくし、拳を開くとそこには、翡翠色の装飾が加えられていた。
表面をなぞるように、薄い流線型をしている。
( ^ω^)「お? なんですかお、これ」
( ・∀・)「術式の組み換えを、ドラウシェイドに混ぜて乗算させたんだ。
アブスライトと掛け合わせたら、出来るかなと思って」
(;^ω^)「??」
詳しそうな友人二名に目を配せたが、同じような顔をしている。
困った様子のまま、ブーンはモララーの次の句を待つ。
( ・∀・)「要するに、ブーンくんでも、これを使えるようにしたってこと」
(;^ω^)「ええー!? 魔法が使えない僕でも!? なんでですお?」
232
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:17:22 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「まあまあ。詳しい話すると夜が明けちゃうよ。
グッと握って念じれば、使えるからね。」
(;^ω^)「ほへー。流石はモララーさんですお……」
( ・∀・)「で、これはツーちゃんにもね」
既に同じ装飾のついた瑠璃のペンダントを、ツーへ渡す。
(*゚∀゚)「おおー! オレにもくれるのか! ありがと、兄ちゃん!!」
( ・∀・)「ツンちゃんとショボン君は、今までので大丈夫だね」
(´・ω・`)「ええ。ありがとうございます」
ξ*゚⊿゚)ξ「うわぁ……私のなんだ、これ……。やった」
それぞれの子どもたちに、転移魔法の術式を発動できるペンダントを渡し終えた。
( ・∀・)「僕からの卒業祝い、ってことで」
見た目だけでも、煌びやかな装身具だ。
贈り物としては十分だろう。
素敵なプレゼントを貰って、みなが一様にに喜ぶ。
だが、どうにも解せない疑問があった。
( ^ω^)「でも、モララーさん。なんでコレを?」
233
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:18:23 ID:HcbLbdA20
覚悟をしていた。
この旅行が、みんなで集まれる最後の機会かもしれない。
次はいつになるのか、見当もつかない。
今後は、四人とも違う道を行くのだ。
部隊に編制された場合、同じ組になるとも限らない。
職場で言葉を交わすことすら難しいかもしれないのだ。
それなのに……何故?
どうして、モララーは……。
( ・∀・)
( -∀-)「んんっ」
問いをぶつけられると、モララーは後ろを振り向いた。
軽く咳ばらいをすると、視線をトソンへと向ける。
(゚、゚トソン
“(^、^トソン
彼女が微笑みながら、ゆっくり頷くと。
大きく息を吐いて、意を決するように青年は向き直った。
234
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:19:14 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「…………実はね」
(;-∀-) =3
(* -∀-)
(* ・∀・)
(* ・∀・)「トソンさんに、僕との子どもが出来ました」
235
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:20:37 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)
( ^ω^)
( ω ) ゚ ゚
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ !(あぁ、だからか)
(´・ω・`)
(´・ω・` )彡
(;´゚ω゚`) !?
(*゚∀゚)
(*゚∀゚)「え、マジ!?」
236
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:21:59 ID:HcbLbdA20
(゚、゚トソン「これが一緒に行ける、最後の旅行かもしれないから
心配かけたくなくて隠してたんだけど」
(;-∀-)「かえって、不安にさせちゃったみたいでゴメンね。
もっと早く話しておくべきだった」
(゚、゚トソン「病院に行っている間も、ずっと話してたの。
知ったら、みんなどうするかな、って」
(゚、゚トソン「心配してくれたり、会いに来てくれたりするだろうけど……
忙しい中、揃って山奥まで来るのは大変でしょう?」
( ・∀・)「だから、誰でもペンダントを使って。
いつでも来れるように出来ないかな、って思ったんだ」
つまり、とモララーは続ける。
( ・∀・)「また、あの山小屋に来てほしいんだ」
237
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:22:49 ID:HcbLbdA20
( -∀・)「理由なんてなくていいよ。
気晴らし程度で全然かまわない」
( -∀-)「全員一緒でなくても、ちょっとした空いた時間でも大丈夫だから」
( ・∀・)「これからも……仲良くしてくれたら嬉しいんだ」
(* -∀-)「みんな僕の、僕たちの大事な……」
238
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:24:00 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「大事な、友達だからさ」
.
239
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:24:53 ID:HcbLbdA20
どうだろうか。
と続ける前に、モララーの体には強い衝撃が走った。
( ;ω;)「あ、あた当たり前ですおーーーー!!!
いつでも遊びに行きますおーー!!
おめでとうございますおーーー!! うわぁあああ!!!」
ブーンの感極まった突進を、モララーは踏みとどまって耐える。
そんな幼い行動に、ツンは困ったように笑いながらも
小さく拍手をして祝う。
ξ゚⊿゚)ξ「おめでとうござます、モララーさん、トソンさん」
(*゚∀゚)「アッヒャッヒャ! 二人の子どもなんて、会いに行かない理由がねぇよな!」
(;´・ω・`)「あー、ビックリした。嬉しさで死にかけることってあるんだね」
それぞれが反応を述べ、小さな輪を作った。
一人は捲し立て、一人は祝辞を、一人は胸の鼓動を必死で押さえながら
一人は、ただただ泣きじゃくりながら。
冷たく深い海の底で、笑顔の花が咲いていく。
240
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:26:00 ID:HcbLbdA20
( -∀-)
大切な友達に囲まれ、モララーは思わず頬を緩ませた。
同じように喜びを分かち合っているトソンにそっと手を伸ばしす。
(-、-*トソン
愛しむように、その手を握る。
どんなことがあっても、自分はもう何も手放さない。
罪も幸せも、全てを抱いて生きていこう。
『黒風』……いや、モララー=レンデセイバーは、心から誓った。
241
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:26:46 ID:HcbLbdA20
涙のような三日月は、漆黒の夜空に浮かび上がり。
揺れ動く水面に照らされて、まるで微笑んでいるかのようだった。
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。
番外編 三日月の涙 完
242
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:29:28 ID:HcbLbdA20
以上が番外編です。
モララーのお話は双で終わってましたが、子どもたちの話が完結していないなぁ
と思いだし、構想をぼんやり考えて数年経ってました。
最近、創作らしい創作もしてなかったので筆ならしでもしようかと考えて
今回の番外編を書いてみた所存です。
もしかすると、また筆ならしとかいって、どうでもいい小話くらいは書くかもしれません。
その時はどうぞよろしくお願いします。特に何か考えているわけではないですが。
本編+番外編は、これにて完結としようとは思っています。
ご愛読ありがとうございました。
243
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 16:05:19 ID:yIT7Yo7w0
乙
楽しかったです、
244
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 22:36:27 ID:hCi4UOe60
乙!!
わくわくするシーンばかりで読んでて楽しかった
番外編はずっと子供たちの卒業の話だったんだなぁ
245
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:41:02 ID:oLCKM6Z.0
激しい雨が降っていた。
横殴りの風と、轟く雷鳴。
地に爆ぜる水滴音は、周囲の空間全てを満たすかのよう。
魔法で焼け焦げた大地が、再び湿り気を帯びるに十分な時間。
( ∀ )
一人の少年が、浅く息をしていた。
口からは赤い血が零れている。
膝から崩れたような姿勢で、彼は力なく項垂れていた。
髪の隙間からも漏れてくる雨水は、まだあどけない顔を通してゆき
ただただ、地面へ流れていく。
虚空のような双眸の見つめる先には、人の形をしたものがあった。
……もの、だ。
既にそれは生命活動を行っていない。
本来ついているはずの首と胴体が、全く違う場所に落ちているのだ。
とめどなく流れている血液は、土砂と入り混じっても尚、赤く広がる。
( ;∀;)
246
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:41:43 ID:oLCKM6Z.0
気付かないうちに、少年の瞳は涙で覆われていた。
雨と錯覚するほど、感情を押し流すように零れていく。
命を絞り出すように、深く重いため息が出た。
震える拳を握り、思い切り地面に叩きつける。
心の内が何もまとまらない。
後悔か、諦念か、達成感か。
混濁する心に任せて、少年はただただ呻き声を上げ続けた。
その日。
大魔術師モララー=レンデセイバーは初めて
人を殺したのだ。
247
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:42:28 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。
【零落の黒き風】
.
248
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:44:05 ID:oLCKM6Z.0
――VIP大陸とラウンジ大陸。
お互いの資源を、技術を、我が物にするために始まった戦争。
事の起こりを覚えているものは、もう既に少なく。
いつしか、意地のようなものだけで続いていた争い。
終わりの見えない戦は、歴史的にみればある日突然、というほどあっけなく終わる。
これは、その『終わり』に至る、少し前のお話――――。
嘗九話「大魔術師の称号」
249
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:44:55 ID:oLCKM6Z.0
王都NEET。
絢爛豪華な装飾と上品な石造りの土台や外壁で作られた城があった。
都の名と同じNEETという城である。
大陸間戦争の、情報すべてが集められる間接的な最前線。
今、この大陸で最も多くの演算を行っている会議室の扉を
厳しい眉をした男性が仰々しく開けて入っていった。
(`・ω・´)「スカルチノフ国王陛下。お耳に入れたい話が」
/ ,' 3「ほ? なんじゃね、シャキンよ」
初老の男性スカルチノフ国王は、近衛の位を持つ人間たちの間で指揮を執っていた。
南の戦況を、東の水際の戦いを、北の物資の動きを、西の人の増減を。
余すことなく情報を取り入れ、処理していく。
齢二十七にして、聖魔術師という現場で戦う人間として
最高位の称号を持つ青年、シャキン=ノーファルはやや慌てながら
忙しない王の傍へ跪いた。
/ ,' 3「ワシは今取り込み中でな。ナンジェの戦で圧し負けたせいで
人員が一気に足りなくなっての。急ぎ編成を組み直さねばならんのじゃ」
(`・ω・´)「であれば、ちょうど良き話かと。こちらを御覧いただけますか」
シャキンはそう言うと、立ち上がり
脇に抱えていた封筒から紙を取り出して渡した。
それは魔術の込められた用紙で『投影現像用紙』という。
一枚の中に映像や記録を、分厚い魔導書ほど内包できる優れた情報処理器具なのである。
映し出されているのは、とあるテストの結果。
国王の座す王都から、もっともっと離れた僻地で行われた
傭兵を選定するための試験の様子である。
250
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:46:09 ID:oLCKM6Z.0
/ ,' 3「なんじゃ、こんなもの。ワシは時間がないと言って……」
国王は言葉を止めた。
流れている映像と、書きだされている文字。
それらを一目見て二の句を失う。
国王がやるべきことは、たくさんある。
現状の戦闘状態、陣地の把握。奪還すべき場所、陸路や海路の想定。
戦いだけでない、戦いを支える民草のための政策。
先祖代々受け継がれる業務は、国王一人で担うには余りにも多い。
傍で支える人間は少なくないが、最終的な判決をするのは王だけ。
酷く真面目な性格もあり、部下からの情報はすべて一度目に通すことを決めていた。
結果的に業務が多くなってしまうのだが……そんな王を、誰もが慕っていたため
最初の方こそ、あれこれ言われていたものの、いつの間にか彼の器に身を委ねていた。
そんな多忙な毎日。
何か、状況を打破できる策の一つでも振ってこないか。
そう神に祈りながら、精神をすり減らしつつも懸命に奮起していた時だった。
/ ,' 3「これは本物かね、シャキンよ」
(`・ω・´)「私も真贋を確かめましたが……。紛うことなく本物です」
/ ,' 3「……すぐにこの子をワシの下へ。今すぐじゃ。一時間以内に連れてくるんじゃ!」
251
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:47:36 ID:oLCKM6Z.0
彼の心労を、神は見ていたのだろうか。
とてつもなく希少な宝石の巨大鉱脈を見つけたような。
まさに天からの恵みと言える存在が、用紙に映し出されていたのだ。
――数刻後。
王の一言で動き出した近衛魔術師たちが、転移魔法で帰ってきた。
その中の一人が、場に相応しくないほど幼い少年をの肩を抱いている。
先ほどの用紙に映し出されていた容貌と一致していた。
少年は、転移前に瞑っていた目を開けるとキョロキョロと辺りを伺った。
後ろで簡単に結ばれた長い髪が靡く。
怯える様子もなく、慌てる様子もなく。
ただ、今いる場所を、自分の予想と照合させているだけのようだ。
/ ,' 3「うむ、よく来てくれたの。みな、すまぬが少しだけ席を外してくれぬか」
側近の騎士や魔術師は、どよめいた。
会ったこともないうえ、話したこともない。
紙の上で見た、『事実』だけを知っているからこそ、誰もが反対した。
/ ,' 3「ええんじゃええんじゃ。何かあればすぐ声をあげよう。
ワシは、この子と話がしたいだけなんじゃ」
ここまで意固地になると、梃子でも動かない。
王をよく知る人物たちは、諦めて会議室から外へ出る。
だが魔術師達はその前に、王へ厳重で強固な防護魔術を幾重にも。
騎士は扉のすぐ裏で、いつでも駆けつけられるよう完全武装をして待機した。
252
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:48:26 ID:oLCKM6Z.0
/ ,' 3「まったく、過保護な奴らじゃの。
……まあ、だからこそワシも彼らを気に入っておるんじゃがな」
/ ,' 3「さて、茶でも入れるかの。アージンは好きかね?」
少年は黙って頷いた。
/ ,' 3「そうかそうか。銘柄のこともわかるのか。君は聡(よ)い子じゃの」
言いながら王は、華美な装飾のついたポットを手に取る。
茶葉の入ったそれは、彼の手に触れると突然湯気を噴き出した。
魔法で中に水を生成し、瞬時に適温まで上昇させたのだ。
慣れた手つきで、そのままカップにアージンティーを注ぐ。
近くの椅子にスカルチノフは座るように促すと、少年は従った。
互いの前にカップを置く。
リンゴの果実のような、深い甘みのある香りが空間を満たした。
机を挟んで、二人は向かい合う。
王が勧めると、少年は小さく会釈をしてからアージンを口にした。
/ ,' 3「さて、突然呼び出したりしてすまなかったの。
何事かと、驚いたじゃろ?」
尋ねると、少年はゆっくり首を横に振った。
/ ,' 3「ほ? 想定内じゃったと?」
流石にここまで想定外ではあった、と前置きしつつも彼は続ける。
253
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:49:22 ID:oLCKM6Z.0
自分は、闘技学校で恐れられていた。
自身の中にある、とてつもない魔力。
そのことに気付いてから、あえて隠すようにしていた。
それは調和を乱さないため、彼自身が望んでやっていたこと。
だが、とある日の魔術講義の時間。
彼は、つい普段よりも強い魔法を使ってしまった。
気のゆるみだった。
こうすれば、もっと効率が良いはずだ。
安易な考えで行った、何気ない詠唱。
称号を持たない、見習いの『魔術師』が使うにはあまりに強大な魔術。
上級魔法を披露してしまった時からだった。
以来、彼の周りには人が寄り付かなくなったという。
攻撃されるんじゃないのか。
心の中を読まれたりするんじゃないか。
大事なものを取られたりするんじゃないか。
実は恨まれていたりするんじゃないのか。
思ってもいないことを、周囲は勝手に想像で事実のように捉えてしまう。
悲しくて寂しかったけれど。
自分の力には、何か意味があるはずだ。
きっといつか、役に立つ時が来るはず。
254
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:51:01 ID:oLCKM6Z.0
そう思って耐え忍び……来たる傭兵テストの日。
つまり、今日。
王は手元の用紙に移されていた、テストの成績を読み上げていった。
/ ,' 3「魔法力測定試験……EX(計測不可)
魔術操作試験……SS
魔術習得数実演試験……EX(測定不可)」
他にも行われた試験内容は、全て似たようなもの。
つまり、全ての成績を最高得点、またはそれ以上で叩き出していたのだ。
/ ,' 3「これだけやれば、国の偉い人が一人ぐらいは自分の力に気付くはず……。
そういう魂胆だったわけじゃな?」
肯定の仕草を見て、スカルチノフは堪えきれず笑った。
/ ,' 3「ほっほっほっ! 良かったの。
まさか、一番偉い人に見つけられるとは思いもしなかったか」
嬉しそうに皺を作った顔で、ひとしきり王は喜ぶ。
そして、決意をした。
255
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:52:26 ID:oLCKM6Z.0
/ ,' 3「間違いなく、キミのその才は必要じゃ。
国……いや、世界を変える力になるはずじゃ」
/ ,' 3「これより、キミはワシの傍で仕えるがよい。
そうじゃな……無二の称号『大魔術師』を与えようかの」
/ ,' 3「受け取ってくれるかな? モララー=レンデセイバーくん」
飲み干したカップを皿の上に置き。
大魔術師の称号を授与するために伸ばされた手を、受け取りながら
少年は、嬉しそうに笑って答えた。
( ・∀・)「はい。謹んでお受けいたします。国王陛下」
256
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:53:49 ID:oLCKM6Z.0
――――。
ミ;゚Д゚彡「国王、一体どういうことですか!?」
(;´・_ゝ・`)「『大魔術師』とはなんです!? 我々は何も聞いてませんよ!?」
直後の作戦会議室は、普段の会合よりもっと騒がしかった。
近衛の階級をもつ、長い付き合いの人たちは
国王が取り決めた出来事について、矢継ぎ早に問い詰める。
/ ,' 3「じゃからの、彼はとてつもない魔術師での……」
(;`_L')「実績も何もない、あんな少年をどうして突然接受するのですか!?」
/ ,' 3「成績を見ればわかるじゃろうて」
(:-@∀@)「それは飽くまで試験の結果でしょう?
王が仰ることを鵜呑みにするのであれば、彼は我々の上役になるのですか!?」
/ ,' 3「…………お主ら……ちょっと落ち着け……」
ミ;゚Д゚彡「王が良くとも、軍が認めませんよ!
誰が、あのような子どもに率いられると!?」
/ ,' 3「……はぁ」
大きくため息をつくと、スカルチノフは徐に立ち上がる。
そして、部屋の隅でちょこんと座り、出来事をただ傍観していた少年……モララーへ小さな声で尋ねた。
257
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:54:54 ID:oLCKM6Z.0
/ ,' 3「レンデセイバーくん。キミの実力を皆に証明して欲しい。やれるかの?」
( ・∀・)「構いませんが……一体、何をすればいいんですか?」
/ ,' 3「そのままの意味じゃ。ここにいるのは、ワシの……いや、VIP大陸の精鋭。
大陸間戦争の主導権を握る我が国で、最も強いとされる戦士達じゃ」
/ ,' 3「最前線には『聖』の位を持つものがおるが……
その上に座す『近衛』はそれらを超えるもの。
故に手元に置き、ワシの身と国民たちを守らせておる」
( ・∀・)「つまり、彼らにぼくの魔術師としての力を見せられれば
王のご決断を納得いただけるはず……と?」
/ ,' 3「うむ。人数、場所はキミが決めてくれて構わぬ。
城や無関係の人を傷つけさえ、しなければな。
ああもちろん、殺しはならんぞ」
( ・∀・)「なるほど」
/ ,' 3「まあ、後はワシも見てみたいの。キミの実力を」
モララーは近衛の戦士達を一瞥した。
それから少し考え、できうる限りの最善を尽くせる状況を練りだす。
( ・∀・)「わかりました。お任せください」
勢いをつけて、椅子から飛び降りるモララー。
その行動を一挙手一投足余さず見ていた大人たちは、固唾を飲んで次の句を待つ。
( ・∀・)「今此処にいる皆さん、全員とお相手しましょう」
258
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:56:13 ID:oLCKM6Z.0
ミ#゚Д゚彡「…………は?」
完全に舐めている。
彼らは、子どもの余りにも軽率な言葉に激昂した。
学校を卒業したばかりということは、まだ15歳になったかならないかの年齢だ。
近衛の騎士魔術師達は、戦歴だけでも彼の年齢を優に超える。
そんなまだ尻の青いガキが、一人で自分たちを相手にする?
冗談でも笑えない。
( ・∀・)「国王陛下。もう、始めても?」
/ ,' 3「うむ。許可しよう」
ニヤリと笑う国王に、モララーも同じように笑い返す。
( ・∀・)「では、ご照覧あれ」
そして二本の指を、床に突き立てた。
黒い魔法陣が発生し、辺り一帯を覆う。
ミ;゚Д゚彡「なに!?」
(;-@∀@)「次元転移魔法!?」
彼らの中でも扱えるものは多くない。
出来たとしても、不安定でまともに立っていられない状態になるだろう。
だがモララーは、その秘術を完璧に完遂させていた。
259
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:57:35 ID:oLCKM6Z.0
そこは、周りの人間以外は誰もいない真っ黒な空間。
液体を垂らしたような風景の、無限に続く闇だけが満たされている場所だった。
( ・∀・)「さて。王が実力を見せろと仰った以上、ぼくも全力を惜しみません」
( ・∀・)「そうですね。まず一人ずつで来るのだけは、おすすめしませんよ」
( ・∀・)「ぼくを屈服させることが出来れば、皆さんの勝ち。
手が地に触れればそれでお終い、で良いでしょう」
( ・∀・)「皆さんが一人残らず地に伏せられれば、ぼくの勝ち。
もちろん、倒れても立ち上がれば、勝負は続きます」
( ・∀・)「そんな簡単なルールですが。どうでしょうか?」
淡々と告げる、戦いの規則。
手のひらを向けて、提案をする彼に対し、既に場は動いていた。
(;`_L')「!?」
腰につけていた剣を抜き、一足飛びで切りかかっていた近衛騎士。
返事も聞かず、先制攻撃を仕掛けていた。
260
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:58:54 ID:oLCKM6Z.0
だが、刃は届かない。
モララーは差し向けていた手を、そのまま白刃に添えている。
ただ、それだけなのに動かない。
押すことも引くこともできず、騎士はただ全力を剣の柄に込める。
( ・∀・)「ふっ!」
モララーはそのまま刃を握りしめて砕くと、空いた手で腹部に手を当てた。
そして魔力を込める。
(;`_L')「ぐあっ!?」
甲高い音と、重い音が同時に空間中に鳴り響いた。
思わず漏れた呻き声は、瞬時に遠ざかる。
纏っていた鎧が砕け、はるか彼方へ体が転がっていった。
その衝撃の余波だけで、傍に居る者は体制を崩しそうなものだ。
( -∀・)「ね、一人はおすすめしないと言ったでしょう?」
余裕を見せた隙だった。
モララーの背後に黄色の魔法陣が発生する。
そこから伸びるのは、おびただしい数の薔薇の蔓。
上級魔法スペルシーラーは、対象の魔力を完全に封鎖する。
その半透明に光る蔓に触れれば、いかなものであろうと魔法が使えなくなるのだ。
261
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:00:10 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)=3
スペルシーラーやスペルキャンセラーなど、所謂『対抗魔法』と呼ばれるものには
打ち破る方法が二つある。
一つは純粋に、それを回避すること。
魔法に触れさえしなければ、効果は発動しない。
もう一つは、術者の魔力より、より大きな魔力をぶつけること。
網で獲物を捕らえようとも、網の強度が負ければ捕獲にはならない。
今回、モララーはどちらの方法でも回避できたのだが……彼はあえて、後者の手段を取った。
(;^^ω)「!?」
理由は、対象に反撃がしやすいから。
スペルシーラーを唱えていた近衛魔術師は、モララーに強く睨まれる。
周囲の薔薇が解けるように散り、見えない力が一直線に飛んでいく。
途端に、術者は泡を吹いて気絶してしまった。
視線を通して、そのまま脳の機能を混濁させる精神汚染魔法の効果だ。
ミ,,゚Д゚彡「シッ!!」
集中で視野が狭くなったと踏んだ、その近衛騎士は槍による刺突をしかけていた。
並の相手であれば、速度と強度に抗う暇もなく、傷を負って床に転げていることだろう。
( ・∀・)「残念でした」
ミ;゚Д゚彡「あギッ!?」
262
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:02:08 ID:oLCKM6Z.0
まるで紙のように、体を旋回させてそれを躱す。
穂先から体まで、回り込むようにして接近し、鎧に触れる。
短い魔術詠唱で、近衛騎士は気絶した。
身体能力を強化させ、動体視力も超化。
今のモララーは、近衛騎士であれどまともに敵う相手ではない。
( ・∀・)「連携でもしてこないと、あっという間に終わっちゃいますよ。
まあ、ぼくはそれでも構いませんが」
余裕そうに、モララーが手をぷらぷらと振る。
彼の周囲には、既に数人の騎士と魔術師が倒れていた。
既に立っている者と伏せている者が、ほぼ同数になっている。
何度も言うが、王の側近でもある『近衛』の称号を持つ騎士と魔術師は
大陸の中においても、最強に位置する強さを持っている。
そんな彼らを相手に、息を切らすこともなく
たった一人で制圧できるモララー=レンデセイバーは、まぎれもなく異常だった。
地面から突如、激しくせり出す巨大な岩柱。
対象を高速で上昇させつつ、体を断面で傷つける土魔法が発動された。
包み込まれているのは、当然モララーだ。
263
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:03:09 ID:oLCKM6Z.0
だが、聳えた岩山は次の瞬間には氷と化す。
氷の結晶をまき散らしながら砕けると、それはそのまま攻撃へと転じられた。
術者は抵抗も空しく、四肢を氷漬けにされ動けなくなっていた。
次はナイフを投擲されたので、モララーはそれを中空でせき止める。
何本も何本も重なったところで、束に電流がぶつけられた。
二重の攻撃で、一気に押し切る算段だったのだろう。
( ・∀・)「スペルカウンター。レベル10」
( ・∀・)「5倍返し!」
刃は爆ぜたように飛び交い、騎士の鎧を破壊していく。
遠くで援護していた魔術師は、反射された雷撃を防護魔法で防いだが
最終的に威力負けをして、感電と失神をしてしまった。
接近戦を騎士が、遠距離から魔術師が。
お手本のような戦いの連携に、モララーは感心する。
高度な技術、魔術を肌身で感じる。
( ・∀・)(ああ、やっぱ近衛のたちは凄いなぁ)
素直に、そう思った。
彼にとってはわからないが、魔術書や戦術書を読む限りでは
この領域に達するには相応の経験と才能が必要のはずだ。
ならば、努力には敬意を払わなくてはならない。
264
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:04:05 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)「国王陛下、少々失礼。」
/ ,' 3「ほ?」
安全な場所で見られるよう、遠くで離れて魔術結界を張られていた国王。
声を直接脳内に届かせる魔法で、そう言うと
モララーは、今いる次元から国王だけを返した。
( -∀-)「さて……」
攻撃の手は止まない。
回避のために空中へモララーは飛び立つが、氷の刃や火球の嵐が彼を襲う。
合間を縫うように鋭い弓矢も飛んできた。
強化された肉体で、それらを防御しつつ
彼は神経を集中させた。
( -∀-)「無音斬り裂く死の胎動。混沌へと還す静謐の刃よ……」
両の手をかぎ爪状にして力を溜める。
脇を締め、そこに魔力を込めると黒い雷がバチバチと音を立てながら発生した。
(;-@∀@)「ば、バカな……!?」
……その詠唱に聞き覚えるのある魔術師は、腰を抜かした。
騎士は、恐れずに立ち向かっていった。
止めなくては、終わってしまう。
誰もが、次の一手が最後のチャンスであることを悟っていた。
265
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:04:55 ID:oLCKM6Z.0
( -∀-)「心切り裂く瘴炎と化せ」
集中のせいで、浮遊魔法を解いたからか
モララーは落下を始めていた。
着地をした、今こそが好機だ。
残り僅かな近衛騎士たちが、その千載一遇の瞬間を狙う。
(;-@∀@)「違う、そこじゃない!!」
( ・∀・)「ネインエスパルダ!」
一人の近衛魔術師が叫んだ時にはすでに遅く。
狙っていたはずのモララーの体が透けた。
攻撃が空を切る感覚は、希望を絶望へ変える。
それは自動発動される、幻影魔法を事前に使っていたため起こった現象。
彼らの目に映るより、はるか遠くにモララーはいる。
そこで、闇魔法の『大魔法』を既に放っていた。
稲光する両手を一気に握る。
黒い空間を、更に覆いつくすように広がる漆黒の波動。
包み込まれた人間は、永遠に闇の奥底へ落ちていく感覚と
全身を縦横無尽に振り回される錯覚で、一瞬にして廃人へと化してしまう。
扱えるものが多くない、最高等に位置するランクの魔法だった。
266
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:05:42 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)「こんなところで、どうですか」
パンと手を叩くモララー。
いくら何でも、今回は完全発動まで出来ない。
気を失ったと同時に魔法解除。
時空転移魔法も消し、既に周囲は会議室へと戻っていた。
周りに横たわる、戦意を完全に失った最強の兵士たち。
その結果を見て、スカルチノフ王は静かに涙を流した。
/ ,' 3(おお……この子が居れば……戦争は終わる。間違いなく!
『今度こそ』、天は我々を見放しはしなかったか……!)
歓喜に打ち震え手を叩く国王を見て、モララーは満足げに笑った。
つづく
267
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:08:57 ID:oLCKM6Z.0
こんばんは。作者です。
本編の後の話は書かないつもりでしたが、前日譚的なのはまだ書けるな
と思って、書き始めました。
既に完結まで書き終えているので、毎週土曜日か日曜日の夜に投下しようと思っています。
よろしくお願いします。
あ、トリップも無いままだとアレなので、一応新しいのつけておきます。
268
:
名も無きAAのようです
:2021/02/21(日) 22:19:22 ID:tztj5/Vg0
え”マジですか
269
:
名も無きAAのようです
:2021/02/22(月) 00:38:42 ID:L3BGNJn.0
やったぜ
全何話とかは書き上がっててもまだ明かせないやつ?
270
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/22(月) 06:53:35 ID:xn4bgDv.0
>>269
話数については、作品の中にヒントがあるので探してみてください。
来週の更新で、まずわかるかと
271
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:12:02 ID:CwhOLy0A0
嘗八話「モララーの役目」
国王が、側近に僅か15歳の少年を置いたという達しが出てから一週間が経った。
王の目的はただ一つ。
長きにわたる戦争を終結させるため。
その切り札として、モララー=レンデセイバーを手中に収めた。
当然、彼のやるべきことは決まっている。
溢れる魔力、強大な魔術。
多彩な攻撃魔法を行使して、敵軍を瞬時に蹂躙。
別動部隊の為の支援魔法をかけ、進軍速度を急上昇させる。
若さゆえ、魔力の回復は早い。
彼は止まることなく、ラウンジ大陸の部隊を
まさに獅子奮迅の活躍で突破していく。
血の海を、死体の山を、魔術の空を。
決して常人では作り出せない、悪夢のような風景を
虚静恬淡と背後に置いていく。
272
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:13:32 ID:CwhOLy0A0
ミ,,゚Д゚彡「こぉら、レンデセイバー。何度言わせる。
スープを掬う時は手前から奥だ」
(`_L')「食べる際に、いちいちフォークを持ち替えるんじゃない」
(;-∀-)「ぐ……。はい」
――――わけではなかった。
何かしらの策があるのか、モララーは戦場へ出ることなくNEET城で生活をしていた。
庶民の出自ゆえ、特に厳しい教育もなく。
自分には余りにも関係のない世界のことだから、知りもしなかった
基本的な会食でのマナーについて、近衛の役職の方々から教授されていたのだ。
_、_
( ,_ノ` )「お、来たね。今日も頼むよ」
(;・∀・)「はい。頑張ります」
食事が終われば、次は厨房で皿洗いの手伝い。
庶民の者ならまだしも、王族貴族の使う食器類だ。
身体に害が出る可能性のある魔法は使えない。
よって、王宮内の食器類は手洗いのみとされていた。
防水魔法も使えないので、手が荒れる。
モララーは傷に良く効くクレスト草の軟膏が手放せなかった。
273
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:15:30 ID:CwhOLy0A0
|゚ノ ^∀^)「それにしても、あなたも大変ね。こんな雑用ばかり任されちゃって。
よく知らないけど、凄い魔術師なんでしょう?」
( ・∀・)「いえいえ。新参者ですから、これぐらいはしないと」
城の傍にある大きな大きな庭。
兵士達の洗濯物を、モララーと雑用係の女性で手分けして干していた。
干す場合は魔法を使っても問題ないので、モララーは素早く手際よく
紐にシャツを通したり、タオルの皺を完璧に伸ばしながらスタンドへ掛けていく。
量が量なので、二人がかりで魔法を使っても、それなりの時間を要する重労働だ。
慣れている女性は、鼻歌交じりで次々に干し紐へ服を通していく。
モララーと遜色ない速度なのは、熟練の業ゆえだろう。
( ・∀・)「しかし、流石は王宮ですね。外で洗濯物を干せるだなんて」
仕事を終え、出来上がった色取り取りの衣類による虹を前に、腕組をしながらモララーは感嘆する。
|゚ノ ^∀^)「確かにね。普通は家の中だし」
( -∀-)「食事に作法……何もかも、ぼくが知らない生活ばかりだ」
|゚ノ ^∀^)「辛い?」
( ・∀・)「いえ、全く」
モララーは嘘偽りなく、笑顔で答えた。
/ ,' 3『おぅい、レンデセイバーくん』
274
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:17:03 ID:CwhOLy0A0
夜も更けた頃合いだった。
モララーが額に流れる汗を拭っていると、頭の中に声が響いた。
対象とのみ、会話が出来る中級ランクの音信魔法。
魔術師といえ、王がそんな魔法を使えることに驚きつつ
モララーは返事をする。
(;・∀・)『はい、なんでしょうか』
/ ,' 3『少しこっちに来てくれんかの』
魔力の発信源を探る。
モララーが居る場所から、はるか遠く。
王都の上方……城の頭頂部からだった。
(;・∀・)『今すぐですか?』
/ ,' 3『出来る限りの』
(;-∀-)『かしこまりました。では、急ぎで』
モララーが、音信魔法を切ったと同時に念じる。
275
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:18:31 ID:CwhOLy0A0
上部から勢いよく滝のような水が降り注いだ。
全身を洗い流すと、頭を揺さぶり水滴を軽く弾く。
そして、風の魔術と火炎魔術を同時に使用。
温風で肌と衣服の湿り気を、瞬時に無くす。
遠くに生えている、香りの良いシルムの葉をちぎって引き寄せ
手の中に取ると、ぎゅっと握りしめた。
液体に変化したそれを霧状にし、モララーは体に振りまいてから
別の魔術詠唱をする。
( ・∀・)「時の間で空成る間へ。我が描きし時空へ飛ばせ」
青い魔法陣を足元に発生させると、光の球に体が変化する。
空間転移魔法。
彼が、この城に連れてこられた時に近衛魔術師が使ってた上級魔法だ。
( ・∀・)「お待たせしました」
/ ,' 3「ほー。本当にキミはなんでも使えるんじゃの」
276
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:19:43 ID:CwhOLy0A0
そこは、国王の部屋。
王位を脱ぎ、肌触りの良いガウン一枚で過ごせる快適な空間。
夜風が気持ちの良いバルコニーで、王は待っていた。
手には中身の減ったワイングラスを握っている。
普段から肌身離さずつけているという、金色のブレスレットが月光に反射し
少しだけモララーは目を細める。
/ ,' 3「どうじゃね、一週間過ごしてみて」
( ・∀・)「ええ、とても楽しいことばかりです」
/ ,' 3「ほっほっほ。そうかそうか。それは良かった」
( ・∀・)「国王陛下こそ。気は休まっていますか?」
/ ,' 3「ほ?」
( ・∀・)「お部屋の外……後は屋上の方も。
見張りの者が居るみたいですが。普段から、そうなんですか?」
/ ,' 3「おお、それか。
いやな、普段はそこまで厳しくしてはないんじゃよ。
ただ、君が近くに来る場合はどうしても、とな」
( ・∀・)「気配探知魔法は気にならないので?」
/ ,' 3「慣れたもんじゃよ。まったく。みな、過保護すぎるんじゃ」
( ・∀・)「そうですか……」
277
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:21:30 ID:CwhOLy0A0
過保護、と王は言うが。
モララーは、きっとその行為が
ただの善意で成り立っているのだろうと気付いていた。
会って、話して。改めてわかる。
自由そうだけれど、いつも民や国の為を思って
ただひたすらに邁進して生きていることを、肌で感じる。
そんな人に仕えられて、幸せ以外のものはない。
だからこそ、損得勘定なしにこの人を守らなくてはならない、と思うのだろう。
きっと、得体のしれない人物が急に傍に現れたから
みんな普段より、強く緊張しているに違いない。
ましてや、認否はさておき……自分たちより実力は上の存在。
忠義があるのであれば、警戒しない方がおかしい。
/ ,' 3「ところで、今日の訓練はどうじゃった?」
( ・∀・)「そうですね。捗ったんじゃないでしょうか。
みなさん、流石ですよ、昨日より、三十分も長く掛かりました」
/ ,' 3「ほっほっほっ。相変わらず、無茶苦茶なことを言うのキミは。
あれでも、我が大陸随一の精鋭なんじゃがのぅ……」
278
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:23:07 ID:CwhOLy0A0
モララーが先ほどまで行っていたのは
最上級の兵士に与えられる称号『近衛』達との模擬戦。
街から遠く遠く離れた、訓練専用の荒野で毎晩執り行われている。
近衛の兵士たちは、訓練こそすれ戦いの最前線には居ない。
故に、実践の感覚が薄れてしまう。
かといって、まともに相手を出来るのは同じ称号帯の人間のみ。
時間や相手を考えると、実戦形式の訓練をする機会は非常に少なくなってしまう。
そこで抜擢されたのがモララーだった。
それなりにプライドを持っていた彼らだが。
あの日、モララーに完膚なきまでに屈服させられてから
反発するように、挑み続けている。
未だ、誰も彼に土をつけることは適わないが
それでも、着実に距離が縮まりつつある実感はあるそうだ。
( ・∀・)「ところで、国王。ぼくから一つお伺いしても?」
/ ,' 3「おお、なんじゃね。なんでも聞くが良いぞ」
( ・∀・)「初陣はいつ頃になるのですか?」
/ ,' 3「ほっほっほっ。それか」
279
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:25:26 ID:CwhOLy0A0
不満があるわけではなく、純粋なる疑問だった。
スカルチノフは、モララーを戦争を終わらせる最強の手札として引き入れた。
だが、一週間経ってもやっていることは雑務や訓練のみ。
早く戦場に出せば、戦況は一変するはずだ。
なのに、どうして……?
ずっと思っていた疑問であった。
/ ,' 3「キミ一人の力で軍を押し進めるには、まだ信頼がなくての」
/ ,' 3「戦場に出て、場を制圧するまでは良い。
その後どうするか、じゃ。戦場は何も、原っぱだけではない。
野営地、市街地。それらも戦場になりうる」
/ ,' 3「敵とはいえ、非戦闘員をむやみに殺生するのは悪でしかない。
それではいけない。戦争が悪だと、怨恨しか生まぬ。
怨恨は終わりのない戦いを増長しかせん。
ゆえに、残された敵の『民』を保護する義務がワシらにもある」
/ ,' 3「たとえ、彼らが望まなくともの」
/ ,' 3「そこまでのケア、キミ一人で出来るかな?」
( ・∀・)「……いいえ」
280
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:26:57 ID:CwhOLy0A0
/ ,' 3「となれば、人を頼るしかないの。
じゃが、国を離れればワシの庇護も薄くなる。
ただただ、力ばかり強いキミの後ろを、不平不満無く任せられるようになるには
もう少しだけ時間が必要なんじゃよ」
( ・∀・)「なるほど。それでお城中の世話を……」
/ ,' 3「嫌かもしれんが、キミ自身の為に。
我慢して続けてくれぬかの。
時を見て、ワシはキミを使う予定じゃ」
/ ,' 3「その時は頼むぞ。大魔術師よ」
スカルチノフは、心の底からモララーのことを考えてくれていた。
ただの戦闘兵器では、軍の士気を維持するのは難しい。
特に、内戦と違い大陸間の戦争の場合は海も渡るほど長距離だ。
一日二日で終わる戦ではない。
士気が下がれば、質も下がる。
そこまで考慮して、スカルチノフはVIP大陸の一戦士として
モララーを馴染ませようとしていたのだ。
/ ,' 3(……心配しているのは、それだけじゃないんじゃがな)
今までの戦い方、訓練での動き。
スカルチノフは余さず見ていた。
そして、一つだけ気付いたことがある。
281
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:29:27 ID:CwhOLy0A0
それは、戦争においては致命的な弱点。
一人の戦士として、究極の欠陥。
だから、いつかどこかで克服してもらいたい。
しかし、それは本当にモララー自身が許せるだろうか。
堕ちゆく自分を受け入れられるだろうか。
この長い戦争を終わらせるためとはいえ
たった15の少年へ、重い十字架を背負わせるのに
無責任であってはならない。
スカルチノフ国王も、本当はどこかで迷いがあったのだろう。
そのために、少しでも平穏の場を作ってあげたくて
彼を城中作業員として兼任させていたのだ。
( -∀-)「はい。精一杯頑張ります……!」
モララー自身にも覚えのある『弱点』。
それを押し込めるように、強く拳を胸に当てて返事をした。
つづく
282
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:30:53 ID:CwhOLy0A0
おまけ
/ ,' 3「ところで、レンデセイバーくんよ」
( ・∀・)「?」
/ ,' 3「お主、近しい家族がおらんと言っておったの」
( ・∀・)「ええ。親戚は居ましたが……別段仲良くは。」
/ ,' 3「ワシも、妻に先立たれてからもう長くてな。
子供もおらんうちに、いつの間にか年ばかり食ってしまった」
/ ,' 3「ちょうど、息子や孫が居ればのぅと思っておったのじゃよ」
( ・∀・)(まさか……)
/ ,' 3「と、いうわけで。これからは、ワシの事を『お爺ちゃん』と呼んでも良いぞ」
(;・∀・) て「いやいやいや。仮にも国王様が何を仰っているんですか」
/ ,' 3「国王じゃが、一人の老人でもあるんじゃ。人恋しくなって、何が悪い!」
#
(;-∀-)「それはそうでしょうが……」
283
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:31:47 ID:CwhOLy0A0
/ ,' 3「別に、皆の前でそう呼べと言うわけではない。
ただ、少しでもお主にも
王都へ来て、安らかに思える場所があれば、と思ったんじゃが」
/ ,' 3「……ワシのことなんて、そんな風に思いたくないわけかの……」
(;・∀・)(うわあ! わかりやすく落ち込んでるぅ!)
/ ,' 3「寂しいのぅ……寂しいのぅ……」
チラチラ
(;・∀・)
(;-∀-)
(;-∀-)=3
(;・∀・)「わかりましたから。顔をあげてください、おじい様」
284
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:33:00 ID:CwhOLy0A0
/ ,' 3「ほ? 今なんと?」
( ・∀・)「おじい様、です。それじゃダメですか?」
/ ,' 3「よい、良いぞ! それじゃ! おじい様!
* 良い響きじゃのう……」
(;-∀-)(全く、本当に道楽好きな御人だなぁ……)
/ ,' 3「また暇な夜には呼ぶからの。
* その時はちゃんと来るんじゃよ、モララーくん」
( -∀-)「……ええ、わかりました」
王の威厳を下ろした時の、無邪気な老人の笑顔。
この人の為なら、頑張っても良いかもしれない。
そう思いながら、モララーは静かに夜風に当たりつつ
楽し気に話す、老人との会話を楽しむこととしたのであった。
285
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:36:02 ID:CwhOLy0A0
今回はちょっと短めでした。
基本的には土曜日のこれぐらいの時間更新になりそうです。
そんなことより、聖剣伝説LOMのリマスター発売が発表されましたね。
この作品を作る際に、発想の元となった作品なので興奮が止まりませんでした。
良かったらみなさんも、ホームタウンドミナを聞いてみてください。
モララー君の山小屋モデルは、「マイホーム」だったりします。
286
:
名も無きAAのようです
:2021/02/28(日) 06:55:35 ID:CdpBQlSs0
乙です
287
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:29:43 ID:xNGrs6b20
嘗七話「初陣」
( ・∀・)(おや……?)
城に来てから、二週間が経った頃。
テーブルマナーに怒られることもなくなり
皿洗いの速度や精度も格段に上昇した頃。
洗濯物を取り込み、城の倉庫へ戻る途中のことだった。
仰々しい鎧を着た軍隊。
破れたローブを纏う集団。
意気揚々としながら、上部の謁見室へ向かおうとする兵士たちが居た。
それ自体は別に珍しいことはない。
どこかで戦いがあって、戦果の報告に来たのだろう。
だが、今日は違っていた。
その集団から、一人だけ。
分厚い金属の鎧をガシャガシャと鳴らしながら
大股でモララーの所へ向かってくる男性が居たのだ。
288
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:31:19 ID:xNGrs6b20
( ゚д゚ )「……」
(;・∀・)「な、何か……?」
普段誰かに話しかける部位より、かなり上。
意識しないと見えないほど高くにある顔へ、頑張って首を向けながら問う。
だが男性は何も言わず、品定めするようにただただ少年を見つめている。
時折、何かを感じ取ったのか大きく息を吸い込むのだが
その動作が、捕食前の獣のようで強く恐怖心を煽る。
敵兵ではないし、何か粗相をした覚えもない。
どうしたものかと、ピタッと合ってから逸れない鋭い眼光に、脂汗を流している時だった。
ζ(゚ー゚*ζ「こら、怖がってるでしょ!」
( ゚д゚ )「おっ!? お、おお。そうか! こいつは失礼した」
気持ちの良い高い音がパシーンと、モララーの上方から鳴り響く。
杖の先から延びた薄い布が、男性の頭部で叩かれたことが原因である。
音の割に痛みのない小道具を魔法でしまうと
男性の後方から、ゆるりと巻いた髪の小柄な女性が出てきた。
ζ(゚ー゚*ζ「ごめんねぇ。この人、初対面の相手を無言で見つめる癖があって」
( ゚д゚ )「力量を測っているんだ。戦士として必要な行為なんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「だからって、誰も彼もやって言いわけじゃないでしょー?
そんなんだから、ロマネ君に抜かされるんだよ」
(; ゚д゚ )「そ、それは今関係ないだろう!」
289
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:33:19 ID:xNGrs6b20
(;・∀・)「……あの?」
ζ(゚ー゚*ζ「あっと。ごめんごめん。いきなりビックリしたね」
親し気に話す二人の空気と、今の状況がわからず
モララーは中身が山になった洗濯籠を脇に浮かせたまま、動けずにいた。
それを見て、女性は『白魔術師』の証である
戦闘用純白ローブの埃を叩きながら向き合う。
ζ(゚ー゚*ζ「私はレイ=デ=ジェレイド。デレでいいよ。
こっちは私の夫のミラン。みんなからは、ミルナって呼ばれてるんだ。
あなたは、モララー=レンデセイバー君でしょう?」
( ゚д゚ )「君のことが、戦線でも噂になっていてな。
それで気になっていた所、姿を目にしたからつい見入ってしまった。
無礼をしてすまないね」
大男は厳しい顔を緩ませて、握手を求めた。
鎧の胸元に刻まれた白い獅子は、彼が『白騎士』の階級であること示している。
おずおずとモララーも、勢いに飲まれながら大きな手を握り返す。
( ゚д゚ )「しかし、話を聞いた時は何かの間違いかと思ったが……」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、物凄い魔力ね。見たことないわ、こんな膨大な量」
(;・∀・)「ど、どうも……」
近衛の階級の人たちですら、一見ではモララーの強さを看破できなかった。
前情報があったからとはいえ、それを直に見て判断できるとは。
290
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:34:43 ID:xNGrs6b20
( ゚д゚ )「それほどの力量があれば、本当に終わりは遠くないのかもしれんな」
ζ(゚ー゚*ζ「出撃命令とか出ているの?」
( ゚д゚ )「おお、そうだ。戦利品なのだが、綺麗な小刀が手に入ってな。
お近づきの印だ、君にあげよう」
ζ(゚ー゚*ζ「やだ、そんな小汚いもの渡しちゃ失礼でしょ。
モララー君、今度もっとマシなもの持ってくるから。
そんなの受け取らなくていいよ」
(;-∀-)「あー……えーっと……」
似たもの夫婦という言葉があるが、その通りだ。
ペースがわからない。
デレが手綱を握っているように見えるが、デレもデレで
割と相手の様子を伺わずに、話したいことを述べてくるタイプだ。
モララーの周囲で見たことない人種ゆえ、困惑してしまう。
( ФωФ)「二人とも」
そんな二人の背後から、声がかけられた。
ミルナに劣らない、巨大な体躯。
佇まいだけで、モララーも一目でわかった。
かなり強い人だ、と。
291
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:36:49 ID:xNGrs6b20
身の丈ほどもある、大剣を背負った姿。
その階級にのみ着用が許可されている、金細工で魔術加工をされた輝く白銀の鎧。
彼ら、白騎士を従える部隊の総隊長……『聖騎士』だ。
( ゚д゚ )「ロマネスク」
( ФωФ)「寄り道する暇はないのである。
戦果の報告は速やかに行うように、と常に言っているのである」
ζ(゚ー゚*ζ「そうだったね。
ごめんなさい、ロマネく……団長。
じゃあ、レンデセイバー君。またね」
( ゚д゚ )「好きな食べ物とかあれば、教えてくれ。また持っていくよ」
手を振りあい、二人は集団へ戻っていった。
その背を追うように、ロマネスクと呼ばれた軍団長も歩みを進める。
が、歩みを止めて背中越しにモララーへ話しかける。
( ФωФ)「……お主が『大魔術師』であるか」
(;・∀・)「え? あ、はい」
ちらりと、その風貌を見る。
王都での出来事は、ロマネスクの耳にも当然入っていた。
言うように、凄まじい魔力だ。嘘でも誇張でもない。
292
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:38:35 ID:xNGrs6b20
誰かが、その強さを持ってすれば戦争の終結も夢ではないと吹聴していた。
確かに、そうだろう。
……だが。
( ФωФ)(まだ、ほんの子供なのである……)
少しだけ失望のため息をつくと、ロマネスクはそのまま王の下へと歩いて行った。
一人残ったモララーは、無駄に流してしまった汗もそのまま
呆然と立ち尽くす。
(;・∀・)(なんか、嵐みたいだったなぁ……)
同時に思ったこともある。
ここに来て、初対面で。
モララーを恐れなかった人たちに、初めて出会った。
兵士以外の人たちですら、彼を受け入れるのに少しの時間を要した。
にも拘らず、まるで最初から恐怖なんて持たず
純粋にモララー=レンデセイバーという個人を見てきた人は
国王を除いて、居なかった。
( -∀-)(……ああいう人達も居るんだ……)
世の中、知らないこと。まだ出会ったことのない人が、本当にたくさん居るんだ。
改めて、世界の広さを身に染みて感じるモララーなのであった。
293
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:40:37 ID:xNGrs6b20
――――。
/ ,' 3『モララーくん、今からこっちまで来てくれるかの』
またしばらくしてからの事。
普段よりやや緊張気味の声で、王はモララーを呼び出した。
遠隔対話魔法の発信源を辿ると、どうやら『こっち』とは作戦会議室のことらしい。
それだけで、これから告げられるであろう出来事を理解した。
手に汗を握り、短く返事をする。
あてがわれていた自室から遠くないので、その高鳴る気持ちを抑える時間を作るため
モララーは歩いて、現場へ向かった。
/ ,' 3「よく来たの。ま、座りなさい」
( ・∀・)「はい」
既に、王と謁見するのに緊張は無くなっている。
城内の、日常と戦争が入り混じる独特な雰囲気にもとっくに慣れた。
だが、今日だけは違う。
今までにない、新しい出来事がこれから起こる。
その確信で、モララーの額はしっとりと汗ばんでいた。
294
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:42:37 ID:xNGrs6b20
/ ,' 3「この地図を見てくれるかね」
投影魔法で鮮明に映し出された、大陸の地図が部屋の真ん中にある。
スカルチノフが指をさすと、魔力に反応して赤い点が浮かび上がった。
王都から離れた土地。
戦線の激戦区というわけではないが、決して安全ではない地域だ。
/ ,' 3「今さっき入った情報での。
このシャトー方面に、ラウンジ軍の補給地があるそうなんじゃ」
/ ,' 3「隠蔽『呪文』で隠されておったせいで、なかなか見つけられんでな
ようやくしっぽを掴んだのじゃが……」
/ ,' 3「今、近隣で動ける部隊がなくての。
あるにはあるんじゃが……戦闘後で消耗が激しい」
/ ,' 3「じゃが、この機会を逃せば、また拠点を移動してしまうじゃろう。
ゆえに、早く叩く必要がある」
( ・∀・)「そこで、ぼくの出番……というわけですか?」
興奮を押さえながら、静かにモララーが告げる。
スカルチノフ王は、それに対してゆっくり頷いた。
/ ,' 3「聖魔術師シャキンの部隊が、近くで待機しておる。
彼らと合流し、速やかに敵拠点を潰して欲しいんじゃ」
/ ,' 3「出来るかの?」
295
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:44:44 ID:xNGrs6b20
返答は決まっていた。
モララーはゆっくり息を吐くと、覚悟を決めるように力強く答える。
( ・∀・)「はい、出来ます」
少年のやや強張った表情。
その覚悟と……一抹の不安を抱きながら。
スカルチノフは、遠くにいるシャキンへ魔法でやり取りを始めた。
が、その前に何かを思い出した王が、作戦机の傍にあった箱に手をかける。
/ ,' 3「おお、そうじゃ。初陣を飾るキミにプレゼントがあるんじゃった」
( ・∀・)「?」
――――。
(`・ω・´)「……む」
( ・∀・)「お待たせしました。モララー=レンデセイバー、ただいまより作戦に合流致します」
半刻後。
浮遊魔法を使って急行していたモララーが、地へ降り立つ。
長髪と共に、黒い外套がふわりと浮かび上がった。
296
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:47:16 ID:xNGrs6b20
(`・ω・´)「なんだ、そのマントは。黒魔術師の戦闘服とは違うようだが」
( ・∀・)「スカルチノフ国王からの戴物です。初陣祝いだそうで」
(`・ω・´)「……ふん。随分と可愛がられて。良い気分なものだな」
( ・∀・)「はあ……」
(`・ω・´)「いいか。お前を見つけ、そして王に推薦したのは私だ。
つまり、私が居なければ今のお前はここに居ない。
それを肝に銘じておけ」
( ・∀・)「それはどうも。ありがとうございます」
(`・ω・´)「……ちっ。作戦を伝える。こっちへ来い」
いまいち子供らしくない反応が気に食わないのか
シャキンは苛立ちながら、部隊を収集させた。
モララーは彼の態度に、苛立ちを覚えないわけではなかったが
何かを言い返しても、きっとこういう類の人には無意味だろう。
そう思って、グッと堪えることにしていた。
はたして、どちらが大人と言えるのだろうか。
(`・ω・´)「今我々が居る場所がここだ。
敵の拠点は、ここにある。
斥候によると、今動いているのは補給調達部隊のみ。
本隊はそれが戻り次第、活動を開始するそうだ。」
投影魔法で地図を使いつつ、シャキンが状況を説明する。
聞いている人数はかなり少ない。
動ける者だけ集められたようだが、下手すると両手で数えられるぐらいだ。
297
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:48:52 ID:xNGrs6b20
敵の拠点の規模を考えると、明らかに劣勢。
まともな戦闘行為であれば、逃げに徹する状況だが……。
(`・ω・´)「そこで補給部隊を我々が制圧し、その間に……レンデセイバー。
お前が拠点の本隊を潰せ」
( ・∀・)「ぼく一人で、ですか?」
(`・ω・´)「こちらは戦闘行動後なのだ。
逃げているわけでもないのに、連戦はかなり厳しい」
(`・ω・´)「だから、万全のお前一人でやるんだ。
出来るんだろう? 『大魔術師』であれば」
……この人は、多分ぼくの心配なんて微塵もしていないのだろう。
何かしら場をかき乱し、そしてあわよくば漁夫の利で功績をあげておく。
ダメならば、状況を鑑みて撤退を選んだ。そう報告すれば納得が行くから問題はない。
そんな魂胆が、嫌味ったらしい物言いから聞いてとれる。
棘のある言葉から汲み取った裏側に対し、思考を巡らせるモララー。
( ・∀・)「ええ、わかりました」
だからこそ、あえて胸を張って答えた。
内なる感情を押し殺し、何食わぬ顔で返事をすると
ショボンは、やはり不機嫌そうな顔で戦闘の準備を始めた。
( ・∀・)(…………ずるい人間だな)
298
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:49:52 ID:xNGrs6b20
ただ戦争の道具として。
自分の利益のためだけに、他人を利用する。
近衛の階級の人間は、もう上を見ることがない。
それぞれが国王に信頼を置かれているため、降格の心配もないだろう。
だから、権威の割には優しい人が多かった。
初見こそ、様々な軋轢があったにせよ、今ではモララーと不仲とは言えない。
王に呼び出されて、雑談をする夜の時間においても
既に見張りとして警戒する兵士は誰一人居なかった。
逆に、モララーが傍に居るならむしろ安全だろう。
そういう態度が見て取れるほど。
( ・∀・)「覚悟してなかったわけじゃないけど……」
実際に、悪意と悪態をつかれると癪に障るものだ。
このまま感情に身を任せると、自我のコントロールも難しくなりそう。
( -∀-)
国王から受け取った黒外套を、ギュッと握りしめる。
魔法繊維で編まれた特殊な素材のそれは、全ての光を吸収する闇のよう。
静謐を司るような、その様相と
自分を信頼して送り出した王の想い。
それぞれを胸に抱き、飽和させ、怒りを追い出す。
( ・∀・)=3「ふぅ」
一息ついて、顔を軽く叩いた。
開始の合図もないまま、いつの間にかシャキンの部隊は動き始めている。
299
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:52:06 ID:xNGrs6b20
自分が動いても問題ないだろう。
理解したモララーは、期待と不安が入り混じった複雑な感情のまま。
敵の陣営へと単身乗り込んでいった。
そんな背中を見ながら、一人の部下がシャキンに尋ねる。
( ><)「ノーファル団長。
本当に、あのような子供一人に任せて良いのですか?」
問いに対し、シャキンは移動用の馬に乗馬しつつ
鼻で笑いながら答えた。
(`・ω・´)「任せるも何も、奴はやると言った。
その結果を待つだけだ」
( ><)「僕も話は聞いています。
ですが……あの拠点の人数を制圧できるとは、とても……」
そもそもの前情報も少ない。
どんな兵士が居て、どんな武装がしてあるのか。
人数だけは、概算で把握している。消耗したシャキン部隊の5倍は居るそうだ。
(`・ω・´)「新兵が、己の力を過信して戦場で散る。
別に珍しい話でもあるまい。どうであれ、我々には関係ないこと」
(`・ω・´)「補給部隊の殲滅後、報告を待つ。
あの小僧へ手出しの必要はない。帰ってこなければ、我々も帰還すればいい。
これ以上、無駄な戦闘は避けるべきだ」
300
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:55:25 ID:xNGrs6b20
(`・ω・´)「まったく、王の道楽に付き合わされる身にもなってほしいものだ……。
気まぐれで、手駒に出来そうな優れた魔術師を見つけたというのに
まさか、王自らの側近……ましてや、特権階級を授けるとはな」
( ><)「……お気持ち、察します」
遠くで爆発音が鳴り響いた。
方角は、ラウンジの拠点方面。
どうやら、始まったらしい。
シャキンの部隊は、既に街道から逸れた高台の方で待機していた。
遠視、拡大の魔法と気配察知の魔法。
それらを行使して、好機を待つ、
自分たちの根城が攻撃を受けたのでは。
そう判断した、異国の装いをした集団が
案の定、慌てたように走っている姿を部隊の一人が捉えた。
(`・ω・´)「よし、行くぞ!」
数の不利もない。
立地も完璧。
これならば、問題なく勝てる戦。手柄になる。
運が良ければ、自らの招いた誤算の排除も可能。
どう転ぼうが、自分には利しかない。
ニヤリと笑ったシャキンは、馬から跳躍し
風魔術による上空からの奇襲を実施した。
301
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:56:27 ID:xNGrs6b20
(`・ω・´)「これで全部か?」
周囲に出来上がった、死体の山を見ながら聖魔術師が問う。
( ><)「はい。生存者なしです」
( ^^)「こちらも、制圧完了です」
泥が跳ねた頬を拭い、シャキンは遠くに待機させていた自分の馬を呼び寄せた。
軽くまたがり、さらなる追手が来ないか、しばし備える。
(`・ω・´)(思ったよりは時間がかかってしまったな)
いくら有利であったとはいえ、シャキン達は別の地域で戦闘行動をした後だ。
疲労もあったし、体力魔力共に消耗している。
自分たちの拠点を出てから、帰らぬ者になった兵も居る。
それでも、勝利を掴み取ったことには小さな誇りを感じていた。
( ><)「……そういえば団長。本拠点の方はどうなったのでしょう?」
(`・ω・´)「……報告もない。戦闘行為らしき音や魔力も感じない」
(`・ω・´)「この様子じゃ、どうせ死ん( ・∀・)「生きてますよ」
302
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:57:38 ID:xNGrs6b20
(;><)「な!?」
(;^^)「いつの間に!?」
突然、馬の前にモララーが立ちはだかった。
着地音すらしなかったので、本当にいきなり目の前に出現したように見える。
(`・ω・´)(転移魔法ではない……。ならば、風魔法か?)
僅かに足元に残る魔力を感じ、シャキンは憶測した。
物理的に移動してきたにしては、あまりに遠い距離の移動だが……。
それをここまで隠密状態で出来るものなのか?
(;`・ω・´)「……拠点はどうした」
冷や汗を垂らしながら、唾を飲み込み
意を決するように、一つの疑問を尋ねた。
( ・∀・)「とっくに制圧済みですよ。
皆さんの邪魔になってはいけないと思って、待っていたんです」
(;`・ω・´)「なに?」
( ・∀・)「戦果報告をしたいのですが。構いませんか?」
(;`・ω・´)「……」
その素っ頓狂な言葉に、部下と顔を見合わせる。
終わった? 既に?
あり得ない。
あの数を、自分たちの戦闘より早く終わらせた?
疑問は尽きることがないが、一つだけそれを解決する方法があった。
そもそも、それをするためにモララーはわざわざ彼らの前に来たのだから。
303
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:59:38 ID:xNGrs6b20
馬を走らせ、急いで現場へ。
目の前に映る光景は、信じがたいことだが……
モララーの言葉通りの、事実だった。
草は焦げ、家は凍り。
不自然なほど鋭利に切り裂かれた家屋。
無数の光弾痕や、呻き声をあげて横たわるラウンジの武士。
一個師団が近づいても、迎撃の気配がしない時点でわかっていた。
本当に、拠点一つを短時間で潰してしまったのだ。
(;><)「す……凄い……」
(; ^^)「これほどとは……」
倒れている敵兵を見る。
気を失い、浅い呼吸をしているその人物の装いは上位の呪術師だ。
VIP大陸で言うなら、聖魔術師級である。
(`・ω・´)「……」
爆破魔法で消し飛んだ家屋を、シャキンは覗き込んだ。
武装をしていない人間たちも、もちろん存在している。
衛生兵や給仕係だろう。
彼らも余さず、気を失って倒れている。
304
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:00:48 ID:xNGrs6b20
―――――聖魔術師は、既に違和感に気付いていた。
それは、戦闘を行ったのであれば、一つや二つはあっておかしくないもの。
戦士ならば、軍人ならば、誰であろうと作れるもの。
しかし、ここには一つもない。
繊細な動作、気遣いをすれば不可能ではない。
だが、それは……戦争においては、あまりに『無駄』な行為。
(`・ω・´)「!」
(;=゚д゚) 「ッ!!」
息を潜め、気配を殺し。
僅かな呪力で、音を消し。
一切の迷いなく、冷たい刃が首筋を襲う。
部屋の死角に隠れていた、敵兵の一人がシャキンへ奇襲を仕掛けてきたのだ。
305
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:02:09 ID:xNGrs6b20
並の戦士ならばやられていただろう。
だが、そこは聖魔術師。
動きに出る前の、微細な殺気を探知し迎撃行動に入っていた。
瞬時に繰り出せる得意の氷魔法。
動きを予測し、回避のために一歩だけ下がり。
凍てついた刃をもって、確実にその頸動脈を切り裂く!
(;=゚д゚)「がっ!?」
次の瞬間、敵兵は意識を失い泡を吹いて倒れた。
手に持っていた武器は、凄まじい力で掴まれたせいで
骨の砕けた腕と共に、重力に引かれる。
(`・ω・´)「なんのつもりだ」
(;-∀-)「……」
氷の刃は、斜めに敷かれたスペルカウンターで弾かれ、天井に突き刺さっていた。
問いに対し、焦りながらも間に割り入っていたモララーが答える。
(;・∀・)「そこまでする必要はないでしょう」
(`・ω・´)「……こいつは私を殺す気だったぞ」
306
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:03:36 ID:xNGrs6b20
(;・∀・)「ですから、ぼくが制しました。ぼくの不始末です」
(`・ω・´)「……」
その怯えるような、まだ光を秘めた純粋な瞳。
シャキンの邪魔をしたことを叱責されると、恐れているのではない。
原因はもっと別の……。
(`・ω・´)「お前は先ほど、拠点を制したと言ったな」
(;・∀・)「ええ、その通りだったでしょう。
多少、詰めが甘かったのは認めます」
(`・ω・´)「お前が言う『制する』とはなんだ?」
(;・∀・)「敵兵を屈服させ、再度戦闘行動を起させない状態にすることです」
(`・ω・´)「……」
(`・ω・´)「…………クク。はっはっはっ!!
なんだ、所詮はガキだったか!!」
モララーの答えに、シャキンは大きな口を開いて笑った。
周囲の人間も、堪らずその言葉に失笑する。
307
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:04:36 ID:xNGrs6b20
(;・∀・)「な、何が……!」
味方のはずの人間たちが、まるで途端に敵になったかのよう。
自分がおかしいはずもないのに、咎められる理不尽な感覚。
四面楚歌の状況が呑み込めないモララーの胸元を、シャキンは思い切り掴み引き寄せた。
(`・ω・´)「いいか、小僧。ここは戦場だ。
私たちは、戦争をやっているんだ。子どもの遊びではない!」
(`・ω・´)「お前の戦闘能力の高さには驚かされたよ。
残った魔力を見ても、間違いなくお前は我々の誰より手練れの魔術師だ」
(`・ω・´)「だが……この場において、お前を『強い』とは言わん。
何故だかわかるか?」
(;・∀・)「……」
(`・ω・´)「お前……『一人も殺していない』だろう?」
(;・∀・)「……!」
308
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:05:43 ID:xNGrs6b20
シャキンが言う前に、モララーは既に予感していた。
その核心を突かれることを。
彼の使った強力な火炎魔術も、激しい雷撃も、鋭い風の刃も。
全て、致命傷には至っていない。
気を失わせたり、腕を折ったり足を折ったりしただけだ。
確かに、即座に戦闘行動をすることは難しいかもしれない。
だが、確実な『とどめ』は一人として実行していなかった。
(`・ω・´)「そんな甘っちょろい心構えで戦場に出てくるとはな。
国王も盲目になったものよ。訓練のつもりだったか? えぇ?」
(;・∀・)「お……国王陛下は関係ない!」
(`・ω・´)「ある。王が気付いていなかったわけあるまい。
それでも、淡い期待を込めて送り出したのだろう。責任が伴う行為だ」
(`・ω・´)「だが、結果はどうだ? 私は今、殺されたかもしれないのだぞ?」
(`・ω・´)「私ではなく、別の人間であったなら死んでいたかもしれない。
そうなれば大きな喪失だ。鍛えた戦士を失うのだからな」
(`・ω・´)「わかるか? お前の言う『制圧』が招く結果がこれなのだ!
こんなものが、制圧行動になるわけがあるまい!」
(`・ω・´)「最も簡素でわかりやすい制圧とは、『敵の息の根を止めること』だ。
何故そんな簡単なことができん!?」
309
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:07:15 ID:xNGrs6b20
(;-∀-)「………………ぼくは」
(`・ω・´)「なんだ?」
(;・∀・)「…………」
言葉が出なかった。
何を言っても、きっと返される。
それは、モララー自身が誰よりわかっている。
(`・ω・´)「聞いてやる。言え。何故なんだ? あ?」
(;-∀-)「…………」
詰め寄られた顔をそっと押しのけ。
懸命の魔力で、掴まれた胸元の手を解く。
(`・ω・´)「はっ、言い返せもしないか。臆病者め!」
感情による反論をぐっとこらえ、モララーはマントを翻して歩き出す。
(`・ω・´)「このことは王にも報告するぞ。さぞや残念な顔をするだろうがな」
(`・ω・´)「はっはっはっはっ!」
(; ∀ )(…………くっ!)
モララーは逃げるように、青い色の魔法陣を発動させた。
光に体が消えていくその間も
周囲からの嘲笑だけは、ずっと耳に残っていた。
つづく
310
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:08:00 ID:xNGrs6b20
中々、こいつマジでむかつくな……っていうキャラクターが作れなくて四苦八苦してます。
次回も予定通りに投下しますので、よろしくお願いします。
311
:
名も無きAAのようです
:2021/03/06(土) 22:40:41 ID:oNBg8PhE0
otu
312
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:26:01 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……」
その夜。
モララーは星の煌めく空を眺めていた。
風が強く、空気も薄い。
誰にも邪魔されることのない、自分だけしか居ないと思える空間。
そこは、城の最上部である、見張り台の更に上部。
屋根の上で風ではためく、NEET国の旗が飾られたポールの先に少年の姿はあった。
浮遊と足場固定の魔法を上手に使い、横なぎの激しい気流を物ともせず
ただただ座って虚空を眺めている。
彼の頭に反芻されるのは、戦場での出来事。
自分の甘さが招いた結果と、それを咎められたこと。
シャキンの態度に腹を立てたわけではない。
あの時、あの場においては彼の言動は正しかったと言えよう。
なのに、何故こんなにもやもやするのだろう。
お腹を摩ってみても、答えは見つからない。
( -∀-)=3「……はぁ」
悩んだところで、意味はない。
それを解消する手立てはあるのだが、踏み切れないのは自分の弱さ。
313
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:27:35 ID:2vfxdqwE0
沈む気持ちをため息に出してみたものの、わだかまりは解けない。
頭を思い切りかきむしり、髪がぼさぼさになるまで力を籠め続けた。
自傷行為で少しだけ落ち着いた心を取り戻すと、モララーは立ち上がる。
そして気配の遮断魔術を自分にかけた。
トンッとポールを蹴ると、甲高い金属音が空に溶ける。
見張りの人へ無駄な心配をかけぬように、真っすぐ急降下。
地面に向いていた頭をぐるんと回転させ、足を伸ばし
風魔法で重力と落下速度を相殺させ、ゆっくり着地した。
場所は、自室の窓枠。
施錠せずに出かけたので、そのまま楽に開けられた。
身体を屈ませて、柔らかなカーペットに足を落とす。
埃一つ立てずに受け入れた高級絨毯は、未だに彼の足には馴染まない。
モララーの自室は、城の一角に与えられた。
古い客室を、彼専用に仕立ててもらったのだ。
唯一の身内である親戚は、別に裕福ではなかった。
最低限の生活は保障されていたが、余裕とは無縁の世界。
だからこそ、落ち着かない。
無駄に装飾のされた部屋の照明も、艶やかに磨き上げられたテーブルも。
全身が溶けていってしまいそうなほど、ふかふかのベッドで眠ったことはまだない。
頭から肩まで覆える大きな羽毛枕と、薄いシーツを被って地面で眠るのがいつもの彼の就寝スタイル。
少しでも混乱した脳をすっきりさせようと、煩雑に置かれた寝具に手を伸ばした時だった。
314
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:28:41 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)(ん……?)
部屋の外に、誰かの気配がある。
それも二つ。
こんな夜更けに来る人物には、心当たりがない。
国王ならば『呼び出し』をするはず。
他にあるとすれば、清掃係の人だが……。
どうにも妙だ。
扉を跨いだ先に、じっと佇んでいる。
待ちくたびれているのか、爪先で地を叩く音も聞こえる。
何だろう、と思いつつ、敵意がないことだけは理解できる。
襲ってくるのであれば、もう少し上手に隠れるはずだから。
( ・∀・)(あ、そうだった)
忘れていた気配遮断の魔法を解いてみる。
すると、すぐにリアクションがあった。
「あれ? もしかして、もう部屋に居るのかな?」
「む? しかし、誰も通らなかったであるぞ?」
315
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:30:12 ID:2vfxdqwE0
「そうだけど……。うーん……。いや。やっぱり居るよ」
「おーい、レンデセイバーくーん! いるー?」
高い声と低い声。軽く戸をノックで叩く音もする。
障害物を挟んでいるため、くぐもって聞こえるそれには聞き覚えがあった。
( ・∀・)「どうしたんですか、こんな夜更けに」
ζ(゚ー゚*ζ「おお、やっぱり居た。
やあやあ、こんばんは。いつの間に帰ってきてたの?」
( ФωФ)「……こんばんは、である」
そこに居たのは、白魔術師のデレと聖騎士のロマネスクだった。
嘗六話「戦う理由」
316
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:31:15 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「はい、これ。お茶が好きって聞いたから。私と旦那からね。
初陣お疲れ様の労いの品です!」
( ФωФ)「……こっちは、衣類である。あまり替えを持っていないと聞いたので」
( ・∀・)「はあ、ご丁寧にどうも……」
香りの高い茶葉の詰め合わせと、仕立ての良いシャツを受け取りながら
モララーは戸惑いつつも、二人を迎え入れる。
何度か声をかけてもらったことがあるが、こうして面と向かって話すのは初めてだ。
部屋に客なんて招くこともなかったので、モララーは魔法で簡易ソファーを作った。
普段は使わない羽毛布団に、防水の魔術をかけて、水球を中に閉じ込める。
座れるように形成したそれは、柔らかく二人の腰を受け止めていた。
ζ(゚ー゚*ζ「あれ、何か飲んでたの?」
テーブルの上に置かれた、飲みかけの飲料物を見てデレが問う。
( ・∀・)「ああ、すみません。これは今朝のもので……。片付け忘れていました」
ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだ。何を飲んでたの?」
317
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:32:54 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「クレスト草の薬茶です」
( ФωФ)「クレスト草?」
( ・∀・)「はい、そうです」
ζ(゚ー゚*ζ「塗るのは聞いたことあるけど……飲むのは初めて聞いたなぁ」
( ・∀・)「すり潰して、高い温度で煎ずれば飲めるんですよ。
一種の着付け薬ですね」
ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだぁ。今度試してみようかなぁ」
( ・∀・)「ええ。ちょっとコツが要りますけど、簡単ですよ」
( ФωФ)「……」
( ・∀・)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
( ・∀・)「……おっと。おもてなしもせず失礼。
頂いたお茶、煎れますね」
ζ(゚ー゚*ζ「あら、どうも」
( ФωФ)「かたじけないのである」
ポットを瞬時に洗い、お湯で満たす。
統一感のないカップを人数分揃え、お茶を濾す。
318
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:33:52 ID:2vfxdqwE0
ピーベリーという、柔らかく甘い桃のような香りの茶葉だった。
舌に触れれば、踊るような甘味が口全体に広がる。
( ・∀・)「……」
( ФωФ)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
普段口にしない茶に舌鼓を打っているが、会話は弾まない。
再び沈黙が訪れる。
薄暗い部屋の中で、時計の音だけがただ規則的に鳴り続けていた。
他愛もない会話をしに来たわけではあるまい。
遅い時間。
初陣の後。
報告内容は既に、城内へ知れ渡っていることだろう。
『期待の大魔術師』の戦果だ。誰もが興味を持ったに違いない。
普段では起こりえない、普通じゃない出来事。
関連付けるには、充分な理由だ。
ζ(-ー-*ζ「……ふぅ」
319
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:35:03 ID:2vfxdqwE0
デレが小さくため息をつく。
この均衡状態に、意味がないことはわかっていた。
最初から変な探りを入れる必要もあるまい。
目の前に座る少年の、何かを伺うような目線に観念したのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、レンデセイバーくん」
( ・∀・)「はい」
ζ(゚ー゚*ζ「今日、初めての実戦だったよね」
カップを両手で抱えるように持ちながら、優しい口調で話す。
( ・∀・)「……はい」
ζ(゚ー゚*ζ「どうだった?」
( ・∀・)「どう、とは?」
ζ(゚ー゚*ζ「そのまんまの意味だよ。
人生の初体験だもん、何も感じなかったわけじゃないでしょう?」
( ・∀・)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「よかったら、聞いてみたいな」
( ФωФ)「……」
聖騎士の団長も、表情を変えずに聞きに徹している。
320
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:36:51 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……そうですね」
予想から遠くない内容の質問が出てきたので、モララーは動揺していなかった。
適当な嘘を述べることもできる。
大げさに話を盛って、落胆させることもできるだろう。
でも、何故だろう。
この人たちの前で、そんなことをするのは間違っている。
特別親しい間柄でもないはずなのに。
どうしてか、モララーは取り繕わずに口を開くことが出来た。
( ・∀・)「はじめ、国王陛下に命を下された時は、胸が躍りました」
( -∀-)「ああ、ぼくも遂に戦いの役に立てる時が来た、って」
( ・∀・)「学校での訓練とは違う。自分の意思、行動で全てが左右される戦の場。
そんな所に、自分も足を踏み入れるんだと思うと……」
( -∀-)「……なんだろう。ワクワク……うぅん……。ドキドキしていたのかな」
ζ(゚ー゚*ζ「うんうん。それで?」
( ・∀・)「一人で、拠点を制圧するように言われた時は、ちょっと驚きました。
そこまで任せてもらって、いいのだろうかって」
321
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:38:18 ID:2vfxdqwE0
( ФωФ)「それはシャキンの独断なのである。
力量があれど、新兵を一人で戦場に送り出すなんて、あってはならないのである」
( ・∀・)「ですよね。……でも、ぼくは抗議をしなかった」
( ・∀・)「だって、出来ると思ってしまったから」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
( ・∀・)「敵の拠点を見つけ、どう攻め入ろうか考えました。
奇襲するのか、正面突破なのか」
( ・∀・)「探知魔術で、敵の数が思ったより多くないことがわかったので
結局、正面突破で行こうと決めました」
( ФωФ)(……報告書の通りなら
普通はあの人数を、多くないとは言わないのである)
( ・∀・)「相手が何をしてこようと、勝てる自信がありました」
( ・∀・)「見たことない剣術だったけど。知らない武器だったけど。
魔法……いえ、呪文ですら、ぼくより何もかも劣る連中だった。
だから、怖くなかったんです」
( -∀-)「……でも」
モララーは思い出す。
それは、初めて相まみえた『敵』の姿。
322
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:39:45 ID:2vfxdqwE0
必死の形相で、自分を殺しに来る異国の人間。
気が遠くなるほど積んだ研鑽の時間。いや、毎日サボってたかもしれない。
若い男性だけど、故郷には誰か好い人でも居るのだろうか。
そうでなくても、大事な家族が居たりするかもしれない。
共に汗を流し、涙を飲んだ盟友達と晩酌を交わす約束もしただろう。
ああ、何でもいいから早く戦いが終わらないかな。
何もかも面倒くさい、逃げてしまうか。
一人ひとり、背負う人生がそこにはある。
ぼくは今から、そんな『人間』たちの今日を終わらせるんだ。
( ・∀・)「そんな権利が、ぼくにあるのだろうか」
( ・∀・)「たかだか15の子供が、他人の人生を左右しても良いのか」
( -∀-)「覚悟をしてきたつもりだったけれど……」
( ・∀・)「そう思ったら、魔力を強く込められませんでした」
323
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:41:26 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「結局、ぼくに出来るのは、敵を地に伏せることだけだったんです」
( ・∀・)「情けない話ですよね。
やろうと思えば、出来るはずのことをしないで。勝手にやり遂げた気になってたのに。
結果的に……誰も殺すことは出来なかった」
( -∀-)「殺すことが……怖かった」
それ以上の言葉を紡げなかった。
何を言っても、もう自分を庇護することしかできない。
( ФωФ)「なんとも、甘えた思想であるな」
だから、そう言われても納得しかできなかった。、
数多の戦を勝ち抜き、首を切り落としてきた聖騎士は続ける。
( ФωФ)「情けが仇。自分の逃した敵兵は、いずれ力をもって反逆してくるかもしれない」
( ФωФ)「戦場では死ななかった者が強者である。
運よく生き延び、それを繰り返すうちに強大な力を蓄えるやもしれないのである」
( ФωФ)「だから、反逆の機会を与えぬよう、敵意を持った戦士は余さず殲滅すべし」
( ФωФ)「闘技学校の出自ならば、当然習ってきたはずである」
( ・∀・)「……ええ、もちろん。習いました」
324
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:42:48 ID:2vfxdqwE0
拳を握りしめる。
当たり前のことだ。
我々は戦争をしている。
幼稚な陣取り合戦ではない。
殺せば勝てるし、殺さねば負ける。
戦場に身を置くものならば、誰もがわきまえている心構え。
けど……それでも。
( ・∀・)「学生時代に疎まれている時でも。
こうして皆さんに受け入れてもらえて、お城で暮らしている時でも」
( ・∀・)「ぼくは不思議と、誰かの姿を目で追ってしまう」
( ・∀・)「楽しそうにしている姿、泣いている顔。怒っている背中。楽しそうな足取り。
どんな背景があるのか、いつだって興味がわいてしまう」
( ・∀・)「……人間が、どうしても大好きなんです」
325
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:43:51 ID:2vfxdqwE0
( ∀ )「だから……」
人間一人だけで、どれほどの歴史があるのだろう。
誰と会って、誰と別れたのだろう。
何が好きで、何がきっかけでそれに興味を持ったんだろう。
色んな人の、色んな人生を考えるのが好きだ。
そんな色づく明日を止めてしまうような自分は……堪らなく嫌だ。
ζ(-ー-*ζ「……なぁんだ、そんなこと悩んでたんだね」
( ・∀・)
相槌を打って、子供をあやすように聞いていたデレが鋭い言葉を放った。
少年が抱える、一つの、大きな悩み。
『そんなこと』なんて片付けられるなんて、酷く失望する。
真剣に悩んでいることを、大人は馬鹿にしたがるかもしれない。
幼稚な問題なら、なおさらだ。
それでも、決定的な何かに踏み出せない障壁に変わりはない。
簡単にあしらわれるのは、いくらなんでも。
326
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:45:27 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「私だって、誰かを殺すことは今でも怖いよ」
( ・∀・)「え?」
( ФωФ)「吾輩もである」
(;・∀・)「え? え?」
予想しなかった言葉に、モララーは挙動不審になる。
そのまま、正論で言いくるめられるものだと思っていたから。
まさか、肯定されるとは思わなかった。
白魔術師のデレでも、武勲のある勇士ロマネスクでも。
殺人には抵抗がある……?
ζ(゚ー゚*ζ「いくら敵でも、殺す行為に何も感じないなんて。
そんな人は、滅多に居ないよ」
( ФωФ)「いるとすれば、頭のねじが外れた戦闘狂か。
もしくは、大義名分で感情を押し殺せる大英雄ぐらいなものである」
ζ(゚ー゚*ζ「多少の慣れはあるけどさ。何も感じないって言えば嘘になっちゃうかな」
(;・∀・)「……そう……なんですか」
ζ(゚ー゚*ζ「私ね、今年で3歳になる娘がいるの」
( ФωФ)「吾輩は息子が」
327
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:47:12 ID:2vfxdqwE0
それぞれが、大事そうに持っていたロケットペンダントを見せてくれる。
ぷっくりとした顔の幼児、無邪気に笑う女の子。
二人とも、どこか親の面影がある。
ζ(゚ー゚*ζ「戦いがつらくなった時は、いつもこの子のこと思い出すの。
私がここで踏ん張らなきゃ、この子たちの未来が無くなってしまう、って」
( ФωФ)「相手も、同じことを抱えているかもしれないのである。
けれど、それを考え始めてしまえばキリがないのである」
( ФωФ)「そうなると、もう後に残るのは己が掲げる『正義』のみ」
( ФωФ)「生き残った方が、正しいと証明する」
( ФωФ)「誰かの為ではなく、自分自身の為に。我々は戦うのである」
( ФωФ)「自分たちの未来は、そうやって築いていくしかないのであるよ」
ζ(-ー゚*ζ「ま、うちの旦那みたいに、難しく考えるのをやめる人も居るけどね〜」
( ФωФ)「ミルナは、先ほど言った戦闘狂に片足を突っ込んでいるのである」
ζ(゚ー゚*ζ「でしょうね。だから不用意に敵陣へ突っ込んでケガしちゃったんだけど」
( ФωФ)「間抜けなのである。この場に居ないことを後悔すべきなのである」
328
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:48:46 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……」
( ∀ )
ああ、凄いな。この人たちは。
きっと、本当にたくさんの死体の山を作ってきたんだろう。
その度に、悩んだに違いない。
でも、守るべきものがあって、
それを失いたくない。
だから、戦う。
強い信念を持って生きている、本物の『戦士』なんだ。
モララーの視界が薄く滲む。
感銘を受けただけではない。
……悔しい。
自分も、その領域に入れるだろうか。
不安だらけだ。
今でも相手のことを考えないなんて、出来る気がしない。
理性の箍を外す器用な真似も出来るはずもない。
329
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:50:20 ID:2vfxdqwE0
けど。
それでも。
誰かのためじゃない。
自分の為に……!
( ∀ )「……ぼくも」
ζ(゚ー゚*ζ「ん?」
( ФωФ)「なんであるか?」
( ・∀・)「ぼくも、あなた達みたいな……立派な戦士になれるでしょうか?」
月明かりが部屋を照らす。
深く沈んだ気持ちを払拭するように、瞳に光が灯る。
330
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:51:32 ID:2vfxdqwE0
まだ年若い少年。
背負うには重すぎるかもしれない。
いつか重責に潰されるかもしれない。
しかし、それでも大人たちはあえて言う。
ζ(^ー^*ζ( ФωФ)「もちろん(である)」
少しでも先達の威厳を、若者の未来を明るく照らすため。
大きく頷きながら、返事をしてくれた。
つづく
331
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:52:51 ID:2vfxdqwE0
おまけ
ζ(゚ー゚*ζ「というか、モララーくんなら私たちより、ずっと凄い魔術師になるよ」
( ФωФ)「間違いないのである。
現時点でモララー殿の魔術は、近衛階位の人たちですら恐れているのである」
(* ・∀・)「そ……そうです……か?」
ζ(^ー^*ζ「やだー、照れちゃって。可愛い!
よーし、元気出てきたなら、もうちょっとお話しようか!」
( ФωФ)「では、今後のことを考えて海上決戦の戦術理論でも……」
ζ(゚ー゚*ζ「ロマネ君、そんなクソつまんない話で夜を更けさせるつもり?」
(;ФωФ)「クソつまんないとは失礼である! 大事な知識なのであるぞ!?」
( ・∀・)「……そういえば、お二人はやけに仲が良いですよね」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、うん。幼馴染だからね」
( ФωФ)「実家は共にVIP街なのである」
( ・∀・)「へー……どの辺ですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「うわ、地図も投影できるんだ? キミ、本当に凄いね」
( ФωФ)「吾輩の家は……ああ、そこ。その家である」
332
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:53:49 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「私の家はそっちの方。ね、結構近いでしょう?」
( ・∀・)「凄いなぁ、お二人とも一等地じゃないですか」
ζ(゚ー゚*ζ「でしょう? 頑張ってるんだよ、これでもね。
そうだ。モララーくんのおうちはどこなの?」
(;-∀-)「……あぁ……ぼくは……えー……」
( ФωФ)「……デレ」
ζ(゚ー゚*ζ「ごめんごめん。ね、ね。
ロマネ君の奥さんって、どんな人だと思う?」
( ・∀・)「え? うーん…………何となくでいいですか?」
( ФωФ)「言ってみるのである」
( ・∀・)「背が高くて……髪が長くて……ちょっと冷たい感じの綺麗な人……?」
ζ(゚ー゚;ζ「え、もしかしてモララーくんてば、読心魔法使えるの?」
( ・∀・)「あはは、まさか」(今は使ってないですけどね)
( ФωФ)「まさに、そのまんまの人である」
ζ(゚ー゚*ζ「今は休暇を取って、お子さんの世話してるんだって。
いずれは、どこかで会えるかもね」
( ФωФ)「……いずれ、であるか」
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの、ロマネ君」
333
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:54:53 ID:2vfxdqwE0
( ФωФ)「いずれの話であれば。このまま戦争が長引けば
いつか吾輩たちの息子たちも、戦に出なくてはならないのかもしれない」
( ФωФ)「そんな時……吾輩たちは何が出来るのか……少し不安である」
ζ(-ー-*ζ「……そうだね。まともでいられるか、自信がないね」
( ・∀・)「……ぼく、お二人のお子さんたちと、いつか話をしてみたいです」
( ・∀・)「お二人の住む、VIP街で」
( ФωФ)「!」
ζ(゚ー゚*ζ「!」
ζ(^ー^*ζ「そうね。あなたみたいな子なら、ぜひ友達になってあげて欲しいな」
( ФωФ)「吾輩も同じ気持ちである」
( ・∀・)「ええ、楽しみにしてます」
( -∀-)(……そのために。ぼくは、もっと頑張ろう)
冷めたお茶を一気に飲み干したモララーは、心の中で強く誓った。
334
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:56:00 ID:2vfxdqwE0
以上です。
花粉と忙しさで最近は時間がとりにくいので、書き溜めしておいてよかったと心の底から思いました。
次回もまた土曜日を目途に投下します。
335
:
名も無きAAのようです
:2021/03/14(日) 00:50:25 ID:UxSEJL/U0
乙です
336
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 20:57:47 ID:eAJ/Jxuk0
嘗五話「城の地下深く」
(;-∀-)「……ッ!」
手が止まる。
高速で突き付けた貫き手。
魔力による硬度の上昇、鋭利さの増幅。
一たび触れれば、絶命は免れない必殺の一撃。
あと少し肘を伸ばせば。あと少し膝を踏み込めば。
その絶対的破壊力を持つ複合魔術攻撃は意味を成すはずだった。
だが……出来ない。
あるの夜、デレやロマネスク達から、戦士の本当の声を聞いた。
誰だって、悩んで、苦しんで、それでも尚歩んでいる。
自分も、そうなりたい。そうありたいと望んだ。
踏ん切りのつかない覚悟は、一瞬の隙を生み出す。
ラウンジ大陸の戦士は、生への諦念を瞬時に切り替える。
握っていた刀の柄をより一層強く持ち、敵呪術師の首を撥ねるため
決死の形相で挑んだ。
しかし、そこで意識は途絶える。
貫き手から、掌底へ変化していたモララーの手。
胴に突き付けられた途端、圧縮された風の魔法が背まで貫通するほど
激しく穿たれたのだ。
337
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 20:58:45 ID:eAJ/Jxuk0
(;・∀・)「はぁ……はぁ……」
いつもそうだ。
もう今日で、何度目の前線だろう。
季節は既に夏を迎えていた。
戦闘力の高さだけは、間違いなく認められている。
故に、彼が拠点や敵の急襲を防ぐ場合、常に一人で実行していた。
実際、他の魔術師が居たところで連携が取れるわけでもない。
モララーに協調性がないわけではなく、比肩する人間が居ないからだ。
合わせようとすれば、それだけ能力を落とさなくてはならない。
モララー=レンデセイバーという、唯一無二の切り札を十分に使うにはそれしかなかった。
/ ,' 3「ふぅむ……」
戦果報告を聞いていたスカルチノフ国王は、小さく唸った。
これ以上は、もう危険だ。
そう判断しかけている。
338
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 20:59:46 ID:eAJ/Jxuk0
初陣後から今まで、それなりの時間が経った。
しかし、戦況は変わっていない。
迎撃ばかりで、水際の戦いを制しているだけ。
攻めの一手を、決めあぐねている。
もうそろそろ、ラウンジ側も気付いているだろう。
敵大陸に、異様なほど強力な呪術師が居る、と。
戦後処理を行ってはいるが、モララーの現状であれば
生き残りが居てもおかしくはない。
大陸中に知れ渡っている可能性もある。
/ ,' 3(彼が後れを取るとは思えぬが……)
力を持たない蜂が、強大な敵に向かって群れで襲い掛かることがある。
たった一匹の害虫を倒すためだけに、無数の命を賭して勝利をつかむ。
これは飽くまで昆虫の話だが。
ラウンジ大陸の人間たちに、似たきらいがあるのは良く知っていた。
もしかすると、もしかするかもしれない。
339
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:00:58 ID:eAJ/Jxuk0
モララーを、ただ処分するためだけに想像を絶する軍を率いるかもしれない。
絡め手の可能性もある。
打開する方法としては、ただ一つ。
モララーを主軸に、一点突破でラウンジ大陸の中枢を目指す。
迎撃部隊をすべて殲滅し、戦力を大幅に低下。
そして、大陸の中心人物であるラウンジ王を降伏させる。
それだけだ。
/ ,' 3(しかし、今のモララーくんでは絶対に出来ぬ作戦じゃな)
一点突破までは良い。
だが、問題はその後だ。
彼の進む先進む先で、兵をいちいち捕縛していてはキリがない。
反逆でもされれば、懐から痛手を受けてしまう。
340
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:02:15 ID:eAJ/Jxuk0
また、消耗の多さも問題だ。
敵を殺さないというのは、繊細な手加減が必要な行為。
若さゆえの回復力をもってしても、連戦の期間はどうしても長くなってしまう。
/ ,' 3(…………)
出来るならモララーの意思を尊重したい。
まだ大人になれていない少年の、白いキャンバスを汚す行為を
大人たちが勝手にしていいわけがない。
だが、このままでは意味がなくなる可能性もある。
せっかく掴んだ好機を、いつ再来するかわからないこの時を
手放して良いものなのか。
(;`_L')「国王陛下!」
自室に慌てた様子で、近衛騎士フィレンクトが入ってきた。
/ ,' 3「どうした」
ノックすらせず入ってきたことで、火急の用であることがわかる。
無礼を咎めもせず王は先を促す。
(;`_L')「ニメア地区が陥落しました」
/ ,' 3「なに?」
341
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:03:39 ID:eAJ/Jxuk0
それは、大陸の海岸部の一つ。
攻め入られれば、敵側にとってかなりの優位を取れる拠点。
だからこそ、過剰なほど強力な部隊を編制していた。
白や黒の階位は当然、聖の階位級の騎士と魔術師を
通常の部隊の数倍は揃えていた、強固な守りの最前線が。
/ ,' 3「……生き残りは?」
(;`_L')「小隊の被害は未だ完全に把握できていません。
推定では六割ほど死傷者がいるそうです」
/ ,' 3「六……!?」
部隊の全滅を優に超える数だ。
そこまでしてでも食らいついた彼らを褒めてやりたい。
逆に、そこまでするほど恐ろしく強い敵がいる証明にもなっている。
/ ,' 3「聖騎士と聖魔術師は誰が残った?」
(`_L')「ロマネスク団長のみです。
ただ、彼も重傷を負っていまして……」
/ ,' 3「ふぅむ……参ったのう」
次から次へと問題ばかり。
スカルチノフ国王は頭を抱えて、目を閉じた。
342
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:05:00 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3(……やはり……荒療治しかないかの)
やりたくない、やらせたくない、奥の手。
望まないことだろう。
だが誰かが手ほどきをするのであれば、責任を擦り付けられるかもしれない。
それで、彼の心が少しでも軽くなるのであれば僥倖だ。
/ ,' 3「フィレンクトよ」
(`_L')「はっ」
/ ,' 3「近衛の者たちを集めてくれ。完全武装をさせてな。
準備が整ったら……『常闇の間』へ行くぞ」
(;`_L')「は? な、なぜ今……?」
/ ,' 3「理由は追って話す。
あまり時間がなさそうじゃ。やるしかない時が来たんじゃよ」
(;`_L')「……かしこまりました。通達致します」
343
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:06:00 ID:eAJ/Jxuk0
反論しようとした近衛騎士フィレンクトは、それを黙って飲んだ。
国王がここまで決意をもって命を下すのだ。
よほどの理由がなければしない。
信頼と不安の入り混じった感情を抱え、騎士は部屋を足早に立ち去った。
――。
(;メω-)「……」
(;・∀・)「ロマネスクさん……」
医務室。
激しく負傷した聖騎士団長が、ベッドで浅い息をしたまま眠っている。
いつもは巨大な体も、小さく見えてしまう。
無数の切り傷は包帯とクレスト草の薬液で手当てされているが
癒えるのには時間を要するだろう。
ここまで酷い状態だと、回復魔法を使う方が危険だ。
あれは飽くまで、自身の代謝を促進させて行うもの。
低下した体力の相手に使えば、生命そのものを脅かしかねない。
344
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:07:07 ID:eAJ/Jxuk0
何も出来ないことに、モララーは歯がゆさを覚えながらも
にじみ出ているロマネスクの脂汗を拭った。
たまに、うわ言のように何かを呟いている。
直前の戦闘の状況が、フラッシュバックしているのだろうか。
(;メω-)「ぶすだ……どく……お……ヤツは……吾輩が……」
(;・∀・)「ぶすだドクオ……?」
ζ(゚ー゚*ζ「聞いたことあるよ。『悪鬼』って呼ばれているラウンジの武士だね」
武士とは、VIP大陸で言う騎士の階級。
少し前から話題になっていた、『悪鬼』の通称。
一振りで幾人もの人間を切り伏せる、恐ろしい腕力と技術。
血の海と死体の山を、怯みもせず歩み続ける恐ろしい形相と姿から
そんな通り名で呼ばれるようになったそうだ。
( ・∀・)「そんな危険な敵が……」
看病に来ていたデレが、額に被せていた濡れタオルを取り換える。
ラウンジ側にも、恐ろしい殲滅能力を持った戦士がいるのか。
モララーは少し恐怖を覚えた。
345
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:08:03 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「モララーくん」
ζ(゚ー゚*ζ「国王陛下!」
医務室に突如現れたスカルチノフに、周囲の人間は驚く。
後ろには護衛の近衛騎士と魔術師が、仰々しく武装して立っていた。
( ・∀・)「どこかへ向かうのですか?」
/ ,' 3「うむ。城の地下へ行くんじゃ。キミもな」
( ・∀・)「ぼくも?」
言っていることがさっぱりわからない。
状況を鑑みても答えが出ないが、敬愛する王の命令だ。
モララーはおずおずと、強張っている王の顔を見て頷いた。
―――――NEET城の地下。
城の地下には、食糧の保管庫や訓練所、牢獄などがある。
暴徒が拘留されている危険地域を除き、誰もが行き来できる場所。
大陸最大の規模を誇る、NEETであっても特に他所との変わりはない。
346
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:09:18 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「というのは、建前じゃ」
近衛騎士の鎧が擦れる金属音の響く地下階段を下りながら
スカルチノフは続ける。
灯りを持たなければ、足元も覚束ない螺旋状の階段の先には何があるのか。
/ ,' 3「キミが生まれる前のことじゃ。
王都に、一人の魔術師が現れた」
/ ,' 3「その男は、あらゆる魔術を使いこなし
誰にも負けないほど強大な魔力を内包していた」
/ ,' 3「まるで、誰かさんのようじゃな」
( ・∀・)「……」
/ ,' 3「じゃがの……キミとの大きな違いが一つあったんじゃ」
/ ,' 3「その男は、『禁術』に狂っておったんじゃ」
( ・∀・)「禁術……?」
魔術師ならば知らないわけがなかった。
禁術とは、過去の偉人たちが生み出し、そして封印した特殊な魔術のこと。
347
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:10:40 ID:eAJ/Jxuk0
何故そんなことをしたかと言えば、それは世界の均衡を崩しかねない力を持つから。
また、他でもない術者本人に多大な影響を及ぼすものが大半なのだ。
/ ,' 3「魔力増幅、精神操作。まさに、何でも有りじゃった」
たまたま、スカルチノフがその脅威を看破できた。
周りの人間には、その狂気が何も見えていない状態だったらしい。
放置すれば、国家そのものが転覆していた可能性すらある。
/ ,' 3「ワシらは処刑を試みたんじゃが……結局できたのは、捕縛のみ。
殺すことすら適わぬほど、ヤツはあまりに強大で……狂気に満ちておった」
( ・∀・)「……つまり」
地下牢の更に奥。
封印魔術で隠蔽された扉の先。
誰もが知っている場所の、誰も知らない場所。
今歩いている、この階段の先にあるもの……いや、居る人物。
/ ,' 3「そやつの名は、ハインリッヒ=ボンデリンク。『白炎(ばくえん)』とも呼ばれておった」
/ ,' 3「長いVIPの歴史の中でも、おそらく最大にして最恐の魔術師じゃ」
348
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:12:49 ID:eAJ/Jxuk0
スカルチノフの魔力にのみ反応する、重く硬い鉄の扉が開く。
大声を発しても吸い込まれそうなほど、広大な空間が目の前に飛び込んできた。
淡く黄色い魔法陣が、石畳の上に描かれている。
光源はそれだけ。
天井は暗くて何も見えない闇だ。
『常闇の間』と呼ばれる所以だろう。
そんな無駄ともいえるほど広い部屋に一つ。
ぽつんと、一つだけおいてある椅子があった。
从三//从
座っているのは、やけに細身の男性。
全身を包帯のようなもので捕縛されていて、顔どころか足の指すら見えない。
衣服を纏っているが、経年劣化でボロボロになっていた。
( ・∀・)「この人が……ハインリッヒ=ボンデリンク」
/ ,' 3「第零式帯状封印装具で押さえつけておるが……。
この数十年、水すら与えておらぬのに、こやつはまだ生きておる」
349
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:14:07 ID:eAJ/Jxuk0
第零式帯状封印装具とは
ありとあらゆる魔力や魔法を封じ込める帯の形をした、魔術装具だ。
通常の魔術師ならば、何も出来なくなる。
魔法を使うどころか、魔力そのものを吸い上げるので、戦うことすらままならなくなる。
そのはずなのだが……。
/ ,' 3「何かしらの禁術を使っておるんじゃろう」
呼吸をしている様子もない。
だが、その体に触れるとわずかに温かみがある。
このまま処刑をしようにも、第零式帯状封印装具は魔法を受け付けない。
かといって、物理的に攻撃し、装具が損傷すれば封印効力が無くなってしまう。
その隙に、何かしらの手段で逃げ出すかもしれない。
結局のところ、捉えたまま寿命で死ぬのを待つしかなかった。
それがいつになるのか、皆目見当もつかぬまま、今日を迎えているわけである。
( ・∀・)「国王陛下」
モララーがスカルチノフに向き合う。
( ・∀・)「ぼくを連れてきた理由を教えてください」
わかっている。
予測は出来ている。
それでも、口にしてもらうまでは、逃げたかった。
350
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:15:27 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「うむ」
/ ,' 3「大魔術師、モララー=レンデセイバーよ」
国王はモララーの目を見た。
恐怖と不安、けれど希望を忘れていない純粋な瞳。
この真っすぐな少年の顔を、自分が曇らせることになる。
負い目と申し訳なさと。
やらなくてはならない責任を込めて、告げる。
/ ,' 3「ハインリッヒ=ボンデリンクの『処刑』をお主に命ずる」
モララーの胸に、鉛のような重さが圧し掛かった。
つづく
351
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:16:53 ID:eAJ/Jxuk0
思ったより短くなってしまいましたが
ここらへんがちょうど区切りが良かったので今週はここまです。
また来週も忘れず更新したいです。モンハンの誘惑に負けないように
352
:
名も無きAAのようです
:2021/03/20(土) 21:52:03 ID:/NdRoR5I0
おつでさ
353
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:01:52 ID:24JaPgZA0
(;-∀-)「……処刑、というのは」
脂汗を流しながらモララーが聞く。
/ ,' 3「殺すんじゃ。キミの手で」
逃げの口実を作らないため、スカルチノフは強く答えた。
(;・∀・)「ぼくでなければ、ダメなんですか?」
/ ,' 3「キミでなくては出来ぬことじゃ」
ハインリッヒに対し、後れを取ることなく戦えそうな魔術師には
今まで出会ったことがない。
実力を目で見ているスカルチノフも、
護衛に来ていた近衛級戦士達も、みなが同じ答えだった。
他に出来る人はいない。だから、一任する、と。
(;・∀・)「なぜ、今ここで?」
/ ,' 3「戦況を考えてのことじゃ」
/ ,' 3「キミは、殺人を異様なほど恐れておる」
354
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:03:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3「立派な志じゃ。その生き方を否定はせぬ。
じゃが人を愛しむが故、結果的に大きな足枷になってしまっておる」
/ ,' 3「このままでは、キミの戦術的価値が無くなってしまう」
/ ,' 3「そうなる前に、命を手にかけることを覚え
戦場でその経験を発揮してほしい。そう思ったんじゃ」
/ ,' 3「さすれば、キミは世界を薙ぐ大いなる『風』になれるじゃろう」
(;-∀-)
モララーの心境については、とっくに聞いていた。
直接相談を受けたことはなかったが、何かしらの方法で力になろうと尽力していたのだ。
結果的に、どうしようもなかった。
ただただ時間と戦況だけが流れていく一方。
戦争を終わらせるきっかけには、到底なりえない状態。
/ ,' 3「命に優劣などないと思っておるが……。
こやつは特別じゃ。この世にあってはならぬ存在。
災厄をまき散らす、悪夢ような男なのじゃ」
/ ,' 3「ゆえに、遠慮は無用。気おくれもする必要はない。
ワシの命もある。何も考えず、ただ刑を執行してくれれば良い」
/ ,' 3「出来るな?」
355
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:05:01 ID:24JaPgZA0
スカルチノフは、震えるモララーの肩に手を置く。
黒いマントの上からではわかりにくかったが、その手はじっとり濡れていた。
優しく、諭すように語り掛ける国王自身も。それが本心ではないことが伝わる。
でも、それでも。
一国の王は、一人の将は部下に対し、非常な命令を下さなくてはならない。
わかってる。
ならば、応えることこそが、今の自分の存在意義。
重く深くため息をつき、モララーは目を伏せながら短く答えた。
(; ∀ )「はい」
――――。
部屋には、モララーと死刑囚のみが残された。
重たい封印扉の先には、スカルチノフが待機している。
356
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:06:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3『準備は良いかね、モララーくん』
( ∀ )『……いつでも』
戦いが始まれば、こうした壁越しの魔術会話もできなくなる。
部屋の一帯に、近衛魔術師達が強力なスペルキャンセラーの結界を幾重にも貼るからだ。
城へ被害を出さないための策である。
それでも、彼ら二人が本気でぶつかり合えば、無事で済むかの保証はない。
もし、戦の気配が収まり出てくるのがモララーでなかったら?
想定したくない未来のことを、懸命に振り切りスカルチノフは命令を出す。
/ ,' 3『では、始めよ!』
部屋全体が、無色の魔法陣で覆われた。
同時に、足元に発していた黄色い光が失われる。
( ・∀・)「……!」
遅れて起こった変化は、上空からだった。
何かが落下してきている。
鈍い色を放つ、刃のように薄い金属がハインリッヒに目掛けて落ちてきたのだ。
それはけたたましい音を立てて椅子を破壊する。
木屑が舞い、石に硬い物質が到達した鋭い衝撃音が空間に満ちていった。
357
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:08:10 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)
モララーは構える。
何が起こったのかはわからない。
ただ、その金属物質が零式封印装具を解いたことだけは、本能で理解できた。
異常は既に始まっている。
椅子を失ったはずのハインリッヒは、変わらぬ姿勢で宙に浮いているのだ。
ミシミシという軋んだような音が、今度は鳴り出した。
从三//从
从 ゚//从「…………あ?」
(;・∀・)「ッ!!!」
スペルキャンセラー、レベル10.
最大出力のそれを、モララーは瞬時に放つ。
目の前のそれは、次の瞬間にはガラスが砕けるように消え去っていた。
从 ゚//从「おーおー。なんだァ……今のを防げるんかよ……?」
358
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:09:16 ID:24JaPgZA0
男は、ゆっくりと立ち上がった。
放ったのは、高速で強固な精神汚染魔術『ペルドローレ』。
対象を傀儡と化し、意のままに操る闇の禁術だ。
かつて自分と対峙し、正面からまともにかき消せる者は居なかった。
驚きながらも、楽しそうにハインリッヒは肩を揺らす。
从 ゚∀从「どーやら、面白そうなヤツが居るみてェだな……おい」
口元に残った封印装具を取ると、『白炎』は鋭い歯を見せて不気味に笑った。
/ ,' 3「始まったか……」
近衛魔術師達が、足を踏ん張る。
結界に何かしらの魔法がぶつかったのだろう。
常時スペルキャンセラーを使用するのは、並大抵のことではない。
それでも、他の手段がないという王の命と自分の力量を信じた。
359
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:10:45 ID:24JaPgZA0
時折、地面が激しく揺れる。
完全にかき消せなかった魔法のせいか、はたまた何かの衝突か。
中の様子はわからない。
不測の事態に備えて、近衛騎士達も万全の準備をしてある。
どう転ぶか、予想は誰にもできなかった。
楽観的に考えても、モララーが完全勝利できるかは五分五分だ。
魔術師としては、モララーに分があるかもしれない。
しかし、それ以上に危うさを持っているのがハインリッヒ。
下手をすれば国が傾く危険な賭け。
成功すれば、得る物は大きい。
ここで天を味方に出来ずして、長年の戦に終止符を打つことなどできやしないだろう。
スカルチノフ国王は胸に手を当て、ただただ孫の生還を待つこととした。
从 ゚∀从「ギガブラスト! ブラックフォトン!」
( >∀・)「ぐっ!?」
無属性魔法の巨大な爆破力を生む魔術、ギガブラスト。
通常は魔法陣が発生し、それを起点に爆発を巻き起こすもの。
だが、ハインリッヒは小さな光球に変化させて、それを黒い波動魔法で起爆。
目の前で黒煙と共に強い衝撃波が巻き起こる。
360
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:12:09 ID:24JaPgZA0
( -∀・)「エルメス(脚力強化)、ヘラクレス(身体強化)……」
( ・∀・)「プロミネンス!」
高速で距離を取る。
石畳がへこむほどの脚力で後退すると、同時に火炎の上位魔術を放った。
从 ゚∀从「ふゥむ」
ハインリッヒは避けようともせず、迫りくる巨大な火球に手を差し伸べる。
普通なら炸裂し、火柱があがる魔術なのだが
まるで鳥が木に止まるように、ふわりと空中で停止する。
从 ゚∀从「良く練られた魔力量だ。お前……相当な使い手だな?」
(;・∀・)「……」
从 ゚∀从「見たとこ、ガキみてェだが……。末恐ろしい魔術師が出てきたもんだよ」
(;・∀・)「……な!?」
言いながらハインリッヒは空いた手で火球を挟み込む。
すると、見る見るうちにそれは小さく縮んでいった。
从 ゚∀从「『圧縮(コンプレス)』ってんだ。ちょいと力のいじり方を間違えると
一瞬でドカーン! な、おっそろしい魔術だよ。教科書には載ってなかったろ?」
クハハ、と楽し気に笑う。
从 ゚∀从「そーら、おめえのモンだよ。返すぜ!」
361
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:13:45 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「うわっ!?」
振りかぶって返された火炎魔術は、足元で炸裂すると
黄色の薔薇が高速で伸びてきた。
火炎魔術として返したはずなのに、それは封印魔術スペルシーラーとして発動したのだ。
(;・∀・)(なんだ……どうして、そんなことが?」
空中で切り返し、何度も跳躍して躱す。
モララーは防戦一方だった。
今までの魔術師と、何もかもが違う。
敵の呪術師の中にも、こんな理屈を超えた魔法が使える人は居なかった。
从 ゚∀从「気になるか? 気になるよなァ。禁術ってのは、そういうことなんだよ」
从 ゚∀从「お前ら魔術師達はお行儀よく、伝わってきた魔法しか使わない。
だから、攻め方もワンパターンなんだ。
つっても、オレだって新しい属性魔法を編み出せるわけもねえ。
そんなもんが出来たら、それこそ神様だからな」
( ・∀・)「!」
いつの間にか周りを氷の刃で囲まれていた。
モララーは即、スペルキャンセラーを発動してその猛攻を防ぐ。
从 ゚∀从「だが、悪魔になることは出来る。
理を超えた術式で、新しい一手を組むんだよ。
そうすりゃ勝手に道は開けるんだぜ」
362
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:15:07 ID:24JaPgZA0
二重詠唱を始める。
土魔法のガイアクエイクで、辺り一帯の地面を隆起させる。
視界を奪うと同時に、浮き上がった石の塊を凍結。
しばらくは動けないはずだ。
魔法とのリンクを立ち、更に追撃。
片手を大きく上に掲げ、魔力を込めた。
( ・∀・)「彼方より召還せし 無垢にして強固なる破壊神」
足元に橙色の魔法陣が発生した。
力強い気流が発生し、モララーの外套を激しくはためかせる。
( ・∀・)「響かせよ無の螺旋律!」
掲げた手を握りこみ、もう一つの広げた手のひらへ
目の前で激しく打ち付けた。
( ・∀・)「グランドエクスプロード!!」
発声と同時に、前方に七つの魔法陣が高速で浮かび上がる。
激しく発光すると、それは瞬間的に強大な爆発を生み出した。
爆破は連鎖すると、ねじれる様に一つの塊となり
激しい破壊のエネルギーフィールドを生み出す。
これが無属性の大魔法、グランドエクスプロードだ。
あらゆる大魔法の中で、殲滅力ならば随一。
確実に相手の命を奪う強烈な攻撃魔法だ。
炸裂すれば、塵一つ残らない。
363
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:16:53 ID:24JaPgZA0
从 ゚∀从「……ふぅ〜〜。やァれやれ……」
はずなのに。
(;・∀・)「な……!?」
めんどくさそうに、耳に小指を突っ込みながらその男は出てきた。
囚人用の簡素な衣服。
魔術防護もされていない粗末な着物に、焦げ一つつけず。
何も受けなかったかのように、涼し気な顔で歩いているのだ。
(;・∀・)「グランドエクスプロードを……防ぐなんて……」
从 ゚∀从「あァ。悪いな。手ェ抜いてるもんだから、無効化させてもらったわ」
( ・∀・)「なんだって……?」
指先に付いた耳垢を吹き飛ばしながら、ハインリッヒは続ける。
从 ゚∀从「さっきも言ったが、お前の魔力は凄ェよ。滅多にみられるもんじゃねえ」
从 ゚∀从「だが、決定的に足りねえもんがある。そこら辺の雑魚ですら持ってそうなもんだ」
(;・∀・)「!」
从 ゚∀从「『殺気』がねェんだよ。殺す気が無えから、魔法の威力も自然と落ちる」
从 ゚∀从「いやー、全く困ったもんだね。こんなルーキーをオレに差し向けるたァ
スカルチノフは、イカれちまってんのか?」
364
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:18:36 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「違う! おじい様はいつも正しい判断をしてる!」
語気を強くする少年の言葉がおかしくて、死刑囚の男はゲラゲラ笑う。
从 ゚∀从「なんじゃそりゃ。じゃーなんでオレは殺されねェ?
自分と同レベルの魔術師相手を前に、なんであくび混じりなんだよ?」
(; ∀ )「それは……!!」
呼吸が浅くなる。
ハインリッヒに反論しようとするが、上手く言葉が出てこなかった。
从 ゚∀从「殺すのが怖ェくせに、『敵』の前に立つんじゃねえよ!」
片手で闇の波動魔術を放つ。
モララーもカウンターで、同じ魔術を使って反発させた。
从 ゚∀从「よォやく封印が解けて、また暴れられると思ったのによォ!
おめーみてェな甘ちゃんが相手じゃ、食いごたえがねえってもんだ!!」
更に重ねて、両手で相手を押しつぶしにかかる。
負けじとモララーが、足を踏ん張り同じ格好で耐える。
从 ゚∀从「なァ! 名前も知らない坊主! お前、何がしてーんだよ!?」
从 ゚∀从「死刑囚の処刑も出来ないほど、腰の抜けたおめーに何が出来るんだ!?」
(;・∀・)「ぐぅうう……!!」
モララーは押され始めていた。
ハインリッヒが言うように、彼の魔力は決して劣っていない。
こうして、足を踏ん張り腰を入れて魔術を放たないと、撃ち負けるそうになるなど
あり得ないはず。
365
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:20:00 ID:24JaPgZA0
だが、それでも彼は押されていた。
理由はただ一つ。
この目の前にある、黒光粒子砲魔術ブラックフォトンが直撃すれば
命を奪ってしまうかもしれないからだ。
当然、ハインリッヒはそのつもりで撃っている。
だが、モララーは違った。
手繰る魔力を繊細に調整し、死に至るほどの威力にならぬよう加減をしているのだ。
何故、今になっても尚そうするのか。
相手が傍若無人の犯罪者と知っても、不殺を貫くのか。
(; ∀ )(そんなこと……もう、ぼくにはわからない……)
幾度も出た戦場の最中。
敵も味方も、本当に必死で戦っていた。
力の弱い、強いは関係ない。
ただ、己が命を果たそうと命を懸けて散り、また、武勲を立てていた。
366
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:21:12 ID:24JaPgZA0
何故、自分には出来ないのだろう。
何度も自問した。
回を重ねるにつれ、それはもうしがらみのように心を縛り。
いつしか、どこかで彼の『当たり前』になってしまっていた。
習慣のように、人を殺せない。
小さな光線魔術で、額を打ち抜くという動作を試みたとして
きっと今のモララーは、ちゃんと狙ったはずなのに虚空を焦がすことだろう。
怖くて怖くて。
自分の身に迫る責任に耐えられそうにないから。
そんなことしなくていいよ、と身体がもう出来上がってしまっていた。
でも、誰かを殺してしまうよりは良い。
言い訳しながら、何度も戦地に赴いては自己嫌悪に陥っていた。
理想と現実とに挟まれて、潰れそうになりながら。
時折聞こえてくる、仲間のため息にも耐えながら。
ずっと。
(;・∀・)「うあぁあッ!!」
思い切り両手を振りあげた。
進行方向を無理やり上空に持っていき、魔術を雲散させる。
黒い粒子が弾け、雪のように一帯へと降り注いだ。
367
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:22:52 ID:24JaPgZA0
从 ゚∀从
从 ゚∀从=3「はー……萎えるなァ」
飽くまで信念を貫くつもりか。
そうまでして勝てる自信もない癖に。
从 ゚∀从「しょうがねえ。年長者として、下の者には教育したらねェとな」
从 -∀从
从 ゚∀从「バーンプロミネンス」
(;・∀・)「は!?」
片手をちょいと翳しただけだった。
そこに放たれるは、火の大魔法『バーンプロミネンス』
上空に生み出された巨大な火球が、相手を骨すら残さぬほど焼き尽くす超威力の魔法。
瞬間的な威力だけなら、グランドエクスプロードすら凌ぐほどだ。
368
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:24:54 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「スペルカウンター!」
不可解だった。
大魔法の発動には、必ず要るものをハインリッヒは無視して放ったのだから。
まずは詠唱。
大魔法は、自身の魔力と大気中の魔力をリンクさせ増幅して放つ。
ゆえに、詠唱をして周囲の魔力を自身のモノへ隷属化しなくてはならない。
そのコントロールを行う際、片手では抱えきれない魔力量になるため
絶対に両手で撃たないとまともな発動は出来ないはず。
どちらかを怠れば、普通であれば威力が落ちたり唱えることすら叶わない。
それなのに……!
(;・∀・)(威力が、全く衰えていない……!?)
スペルカウンターの防護壁を作り出すが、とっさに放ったためレベルは7。
それでは大魔法は返せない。
魔法陣はひび割れて、今にも壊れそうになっていた。
(;・∀・)「だったら……スペルキャンセラー!!」
落ちてくる速度が下がった所で、スペルキャンセラー。
先ほどより余裕があったので、二重詠唱であれどレベルは10。
十分、バーンプロミネンスに対抗できる。
从 ∀从「そこだよ」
369
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:26:48 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「!?」
ハインリッヒの声だけが聞こえた。
モララーは辺りを伺う。
どこにも居ない。
……否。
どこにも居ないのではない。
何も見えなくなっている。
バーンプロミネンスを、確実に消し飛ばしたのを見たと同時だ。
灯りが途端に消えたように、視界が真っ暗になっていたのだ。
从 ∀从「どうして、スペルキャンセラーにするかね。
スペルカウンターを重ねれば、オレに反撃の一手を浴びせられたはずなのによ」
(;・∀・)「どこだ!」
从 ∀从「能力はピカ一だが……。どうにも、そこんところが足りてねェな。
お前さんは」
370
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:28:06 ID:24JaPgZA0
声のする方向がわからない。
前からも後ろからもするし、真横に居るようにも思える。
スペルキャンセラーを放つが、虚を掴むようにすり抜けていく。
从 ∀从「お前に足りてないものを、このオレ様が与えてやる。
目が覚めたら、オレを追ってきな。居る場所はすぐわかるはずだぜ」
(;・∀・)「ハインリッヒ!!」
膝ががくんと抜ける。
糸の切れた人形のように、モララーは地面に崩れ落ちる。
伏せる彼の意識は既になかった。
从 ゚∀从「……ったく、本当にガキんちょかよ」
モララーすら知覚できないほど、微細な魔力で放たれた幻影魔術。
意識がバーンプロミネンスに向いている最中にそれは、既に命中していた。
本気を出せば、こんな魔法防げないわけがなかろうに。
少し対峙しただけで、理解していた。
甘いのもあるが、性根から優しい人間なのだろう。
人を殺しを、極端に怯えている。、
無意識のうちに、魔法をセーブして放ってしまうのは、そのためだ。
目の前で浅い呼吸のまま、汗を流しつつ眠る少年を見下ろしながら
ハインリッヒはそう思っていた。
371
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:29:16 ID:24JaPgZA0
せっかく面白そうな奴が出てきたのだ。
ここで命を絶ってしまっては、あまりに勿体ない。
从 ゚∀从「さァて。そんじゃまあ、たっぷり教え込んでやろうかね」
从 ゚∀从「人を殺すために、いっちばん大事なもの」
从 ゚∀从「怒り、ってヤツをな!」
高笑いしながら、ハインリッヒはモララーを残して歩いていく。
そして、頑強な封印魔術が施された扉の前に立ち。
まるで当たり前のように、施錠を破壊した。
嘗四話「その扉を開く者」
372
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:30:25 ID:24JaPgZA0
あ。「つづく」を忘れてました。これで今週分は終わりです。
モンハンやりたくてウズウズしてるので、やってきます
373
:
名も無きAAのようです
:2021/03/28(日) 01:45:11 ID:nuaWUJlU0
乙
374
:
名も無きAAのようです
:2021/03/31(水) 21:24:26 ID:o5ygQfm60
乙乙
本編以上に未熟なレンデセイバーさんいいね
375
:
名も無きAAのようです
:2021/03/31(水) 21:25:43 ID:o5ygQfm60
乙乙
本編以上に未熟なレンデセイバーさんいいね
376
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/03(土) 20:45:48 ID:N8bnHeqQ0
こんばんは。
今週はちょっと予定があって、更新は明日になります。
午前中には投下しますので、お待ちください
377
:
名も無きAAのようです
:2021/04/03(土) 22:57:18 ID:nX7ahJxI0
おk
378
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:54:09 ID:HLPKJgY.0
嘗三話「決意」
(;-∀-)
(;-∀・)
(;・∀・)
(;・∀・)「!!」
急いで起き上がった。
脳が覚醒すると同時に、仰向けになっていたことを理解する。
見慣れた天井、室内の風景。
そこは自室だった。
379
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:56:20 ID:HLPKJgY.0
身体を持ち上げた時点で、居場所は理解できた。
だからこそ焦る。
何故、自室に……!?
モララーは急いで窓を開けた。
気圧差により、激しい気流が部屋の中に入ってくる。
大粒の雨が、部屋の衣類や書物を濡らしていくが関係ない。
外は、近年でも稀にみる大嵐だった。
気にも留めず、モララーは窓枠に足をかけ、風魔術で飛翔。
いつも彼が居る、城の一番高い場所へと瞬時に到達した。
(;・∀・)「……はぁ……はぁ……」
肺が押しつぶされそうだった。
呼吸がしにくいのは、大雨と雷を降らす雨雲のせいだけではない。
380
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:57:40 ID:HLPKJgY.0
彼が今ここに、こうして居ること。
何もなしえてないのに、意識を失っていたこと。
それこそが最も大きな原因。
探知魔術を、一帯に張り巡らせた。
城を、城下町を覆いつくせるほど広く、速く。
もしかすると、悪い夢を見ていただけなのかもしれない。
天候不順だから、嫌なイメージばかり沸いてしまうのだ。
そうに違いない。
そう思いたい、
(;-∀-)
(; ∀ )「……………………あぁ。」
381
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:59:13 ID:HLPKJgY.0
小さく呻き声が漏れた。
本来は人が乗る場所でないポールの上から、体が落ちそうになる。
済んでのところで手を伸ばし、落下は避けられた。
風の魔術で姿勢を制御することすら難しい。
それほどまでに、モララーの心は乱れ切ってしまった。
探知魔術で返ってきた結果は、想像通り……いや、想像以上に悪いものだったから。
城下町が焼かれている。
雨のおかげで燃え広がることは免がれたが、家屋が倒壊した事実に変わりはない。
意識を失って倒れている店主。
隣で泥に膝をつき、ただ泣き崩れるその妻。
辛そうな顔で遺体の処理をしている門番が居る。
顔なじみだったのか、知らない人だったのか。
何にせよ、不可抗力で処分せざるを得なかった大事な市民だ。
悲しくないわけがない。
医者達が、魔術師の手を借りて東奔西走していた。
全く手が足りていないことがわかる。
消えゆく少年の命を、救えずに空を仰ぐ中年男性がそこには居た。
不自然なくらい巨大な赤い水の池。
胴体しかない、やけに綺麗な石造。
ねじれて反転した石造家屋や、腐敗した大地。
何をどうすれば、ここまで酷いことが出来るのだ。
382
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:00:37 ID:HLPKJgY.0
(;・∀・)「……! おじい様は!?」
動揺している暇などない。
あの場で、すぐ外に国王が居たはずだ。
捕縛した恨みを持っているに違いない。
危害の状況を確かめなくては。
(;-∀-)「……」
とはいえ、どこにいるかわからない。
気配を探ろうとしたが、城全体に強力なスペルキャンセラーが張ってあった。
壊すのはたやすいが、過剰な防衛措置の理由には心当たりがある。
それはできない。
混濁する脳内を必死で動きまわして、モララーは考える。
思いつく場所を一つ一つ探すか? いや、時間がかかりすぎる。
場所がわからなくても……目印になるものがあれば……。
それを空間転移魔術と繋ぎ合わせてしまえば、きっと……。
口を半開きにしながら、術式を展開しだす。
震える手で、魔力を懸命に操って完遂を目指した。
383
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:01:37 ID:HLPKJgY.0
(;-∀-)(そう……だ。ブレスレット……!)
いつも身に着けているという、代々伝わってきた王家の宝の一つ。
きっと持っているに違いない。
それを手繰れば……!!
切り、貼り、伸ばし、繋げる。
空間転移魔法が放つ青色の魔法陣は、緑色に変色した。
(;・∀・)「……ここだ!」
魔力を込めて、術を起動させる。
光の球に体が変化すると、別の空間へと飛翔を始めた。
予想よりも短い時間で、モララーが発動した新しい魔法は発揮をし終えた。
/ ,' 3「待て」
(;・∀・)「国王陛下!」
手をあげて、降伏の仕草をするモララー。
いち早く察知した国王は、敵ではないとわかっていたから
周囲の近衛兵士達の攻撃態勢を制した。
384
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:03:02 ID:HLPKJgY.0
/ ,' 3「やはりキミじゃったか」
(;・∀・)「ご無事ですか!?」
場所は作戦会議室だった。
国王は普段通りの格好で、いつものように指揮を執っていた。
だが、決定的な違和感がある。
/ ,' 3「ああ、ワシは無事じゃよ」
(;・∀・)
(;-∀-)
言葉だけで、その意図は伝わった。
モララーは歯を食いしばり、血が滲むほど拳を握りしめた。
肩を震わせ、瞼を閉じて、その罪の重さを痛感する。
385
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:04:18 ID:HLPKJgY.0
近衛の階級を持つ、大陸屈指の猛者。
数名、減っていた。
いつも傍に居た近衛騎士も。
自分にテーブルマナーを教えてくれた、あの人も。
そこに居ない。
収集されている人選からすれば、居ないのはおかしい。
状況と、結果。
照らし合わせれば、おのずと答えは出てきた。
出てしまっていた。
彼らは、王を庇い殉職したのだと。
/ ,' 3「モララーくん」
(; ∀ )
386
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:05:51 ID:HLPKJgY.0
/ ,' 3「……」
(; ∀ )
/ ,' 3「モララー=レンデセイバー!」
(;・∀・)「は、はい!」
気持ちが地の淵に陥る前に。
スカルチノフは、あえて厳しい口調で続けた。
/ ,' 3「お主に今一度、命を与える」
/ ,' 3「ハインリッヒ=ボンデリンクの死体を、ワシの下へ持ってくるのじゃ」
/ ,' 3「それまで、この城に入ることは許さん」
/ ,' 3「……良いな?」
387
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:07:02 ID:HLPKJgY.0
(;-∀-)
(;・∀・)「かしこまりました、国王陛下」
顔を叩き、モララーは作戦会議室の外へと歩き出した。
残された部屋で、国王は思う。
未熟な彼に、過度な期待をした自分が愚かだった。
死刑囚であるなら、きっと心の壁を破ってくれると思った。
けれど、やはりまだ少年なのだ。
怖かったはず。
辛かったはず。
ハインリッヒが城から脱走し、城下町を襲い、それからどこへ行ったのか。
見当はつかない。
だが、それでも、これ以上被害を増やすことはできない。
頼れるのは彼だけだ。
自らの判断の甘さを、まだ15の少年一人に背負わせることに
重く深い後悔と自責の念を抱きながら、国王はため息をついた。
388
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:08:27 ID:HLPKJgY.0
街の復興、ラウンジ大陸への対処。
することは、山ほどある。
それを少しでも進めることで、償いとしよう。
願わくば、一日でも早くモララーが戻ってきてくれることを願いつつ
心の内を必死に押し隠したまま、業務を再開するのだった。
( ・∀・)「……」
暗い部屋にモララーは戻った。
開けっ放しの窓から、雨水が絶え間なく流れ込んできている。
手をかざしガラス戸を閉めると、そのまま速乾魔法で部屋の余分な水気を取り払った。
俯いたまま、壁にかかっている黒いマントの下へ歩いていく。
初陣祝いで頂戴した、戦闘用の外套。
今まで返り血を浴びたことがあっただろうか。
綺麗なままの繊維を、そっと撫でる。
何のために、国王は黒い衣類を寄越したのか。
意図を理解できていなかった。
389
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:09:37 ID:HLPKJgY.0
聞いたことはないけれど。
多分、たくさんの赤を浴びても、汚れが目立たないようにと
配慮してくれたのだろう。
『黒』の階級の戦士達の兵具が、その名の通り暗い色で揃えられているのは
泥まみれになろうと、血みどろになろうと構わないようにするため。
ああ。
結局、そんな決意も覚悟もなく。
ずっと、自分は浮ついた気持ちで戦場に立っていたのか。
( ∀ )「……ごめんなさい」
謝罪を伝えたい人たちは、もう聞くことすら出来ないだろう。
苦しい思いを、悔しい思いをさせてしまった。
どれだけ頭を下げても、許しを請うことすら叶わない。
深い深い後悔の念で、心が潰れてしまいそうだった。
自分だけなら、まだ良かった。
390
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:11:11 ID:HLPKJgY.0
いや、違う。
そもそも、その考え方が間違っている。
自分だけじゃないんだ。
ここにきて、世話になった人たち。
関わった以上、もう他人ではない。
そんな当たり前のことすら気付かず。
自分は強いのだから、高潔な志のままで進んでいけると思っていた。
心底、腹が立つ。
甘い。甘すぎる。甘っちょろい。
何度も言われていた気がする。思われていた気がする。
見て見ぬふりをしたのは、他でもない自分自身だ。
( ∀ )「……はぁぁ……」
震える手でマントを掴んだ。
重い溜息は、体内の余分な感情を流してくれる。
391
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:12:29 ID:HLPKJgY.0
もう、自分を責めるのはやめよう。
下を向いている暇があれば、一秒でも早く状況を好転させなくては。
冷静になってきた頭は、徐々に徐々に闘争本能を呼び覚ます。
こうなったのは、誰のせいだ。
自分だ。
……だが、やったのは誰だ。
あいつだ。
あいつが居なくなれば、怖い目にあった人たちも少しは救われるんじゃないか?
心臓が高鳴る。
今までの、緊張とは違う。
熱くて浅い呼吸が全身に思いを巡らせる。
392
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:13:17 ID:HLPKJgY.0
そうだ。
そうだ。
あいつを世に放ったのが自分の責任なら。
自分自身で、始末をつけなくてはならない。
国王の命令だけじゃない。
今、モララー=レンデセイバー自身が思っていること。
――――憎い。
この思いの、諸悪の根源を絶つために……!!
手に取った黒いマントを、モララーは勢いよく引き寄せて羽織った。
再び顔を上げた彼の瞳は、外套のように。
闇を飲み込むかのように、黒く深く染まっていた。
393
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:14:45 ID:HLPKJgY.0
从 ゚∀从「ハッハー! 良い眼になったじゃねーか、モララーよォ!」
そこは、街から遠く離れた平野。
相変わらず大荒れの天気を、障害物なく流し続ける広い大地。
どこで名を聞いたのか、嬉しそうにハインリッヒはモララーを迎え入れた。
被害の状況を追った先。
乱雑に散っている、VIP大陸の兵士たちの死体の海で、白炎は笑っていた。
( ・∀・)「……ハインリッヒ=ボンデリンク」
( ・∀・)「一つだけ、お前に聞きたい」
从 ゚∀从「おォ、なんだ?」
394
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:16:38 ID:HLPKJgY.0
低い声で質問をするモララーに対し、余りに軽い言葉が返ってくる。
苛立ちを覚えつつも、少年は続けた。
( ・∀・)「お前は、どうしてそんな簡単に人を殺せるんだ?」
从 ゚∀从「は? な、なんじゃそら! ハッハッハッ!!」
彼にとっては余りにも荒唐無稽な質問だったのか。
ハインリッヒは笑い出す。
お腹を抱えて、涙を流し、呼吸を整えてから、じっと待っているモララーに返答をした。
从 ゚∀从「んなもん、理由なんてあるかよ」
从 ゚∀从「オレは強い。強いから何をしてもいい」
从 ゚∀从「弱い奴はかわいそうだろォ?
生きてても意味がねェんだ。だから殺す」
从 ゚∀从「そんだけじゃねーか。他に思うことなんてあるのかよ?」
395
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:17:55 ID:HLPKJgY.0
( ・∀・)
( -∀-)
( ・∀・)「……ああ、良かった」
( ・∀・)「お前が、狂ってしまってたり。
悲しい過去があって殺戮を繰り返しているのなら
ぼくは少しは躊躇したかもしれない」
( ・∀・)「でも、違うんだな」
( ・∀・)「正しく、理性と理由を持って人を殺せるんだな」
从 ゚∀从「……ああ、そうだよ。悪いか?」
( -∀-)「いいや、助かった。
おかげで、今度こそ。何も後ろめたさもなく」
396
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:19:24 ID:HLPKJgY.0
( ・∀・)「……ボクは、お前を殺せる」
.
397
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:20:57 ID:HLPKJgY.0
どす黒い感情で、強い言葉が自然と口に出た。
鋭い目つきは、嘘偽りない真実を語っている。
从 ゚∀从(……そうそう。それだよ! それを待っていたんだ!!)
凄まじい力の魔術師と、今から殺しあえる。
全力を賭して、気兼ねなく殺せる。
最高だ。
その為に、自分は強くなった。
弱い奴らを蹂躙し、強い奴を超えて優越感に浸る。
それこそが、自分自身の生きている意味。
おあつらえ向きの相手が、今目の前に立っている。
それも極上の殺気と、怒りを兼ね備えて。
ハインリッヒは、舌なめずりをして歓喜に打ち震えていた。
从 ゚∀从「さあ、やろうぜ……大魔術師サマよォ!!」
つづく
398
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:22:14 ID:HLPKJgY.0
更新日ズレちゃってすみません。
土日のどちらかではでは、必ず更新しますのでお待ちいただければ幸いです。
399
:
名も無きAAのようです
:2021/04/04(日) 23:22:07 ID:/fYsMNHc0
乙カレー
400
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:09:16 ID:OsElsdq60
嘗二話「沛雨に溶けゆく仄暗き心」
ハインリッヒ=ボンデリンクは生まれながらの天才だった。
物心がついたころには、既に中級魔法を十全に使いこなせており
青年の頃には、同年代の敵は居なかった。
凄まじい成長性は、絶対の自信を持たせる。
闘技学校に通う必要すらないと自負し、傭兵試験に強引に参加。
通常の課題とは違う、難易度の高いテストを難なく突破し
晴れて、彼は国の抱える魔術師となった。
当然、彼のやるべきことは決まっていた。
溢れる魔力、強大な魔術。
多彩な攻撃魔法を行使して、敵軍を瞬時に蹂躙。
別動部隊へ支援魔術をかけ、進軍速度を急上昇させる。
若さゆえ、魔法力の回復は早い。
彼は止まることなく、ラウンジ大陸の部隊を
まさに獅子奮迅の活躍で突破していく。
血の海を、死体の山を、魔術の空を。
決して常人では作り出せない、悪夢のような風景を
虚静恬淡と背後に置いていく。
401
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:10:54 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从(つまんねェな)
死体の山をハインリッヒは不満げに蹴り飛ばす。
風の刃で首を切り、炎の柱で体を焼く。
閃光で大軍を薙ぎ払い、土の塊で圧殺する。
从 ゚∀从(なんで、誰も彼も同じことしかできないのかねぇ)
魔法の歴史を紐解いていけば、理由はわかる。
使えないもの、危険なもの。自然の摂理を崩すもの。
それらは淘汰され、忘れ去られた。
今では、最適化された魔術として応用され
万人が速く、正確に繰り出せるものに組み上げられている。
从 ゚∀从(……ああ、なんだ。簡単なことじゃんよ)
封印された『禁術』。
彼はあっさりと使えてしまった。
人を操る魔術、致死の傷を癒す魔術、生態系を崩すような魔術。
どれも簡単だ。
从 ゚∀从(これがあれば、もっともっと楽しめる……!)
402
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:12:18 ID:OsElsdq60
目の前で無残に倒れていくラウンジ兵。
他人の命を奪うのが、ハインリッヒはたまらなく好きだった。
研鑽した力が届かず、絶望の淵に落ちていく顔。
縁者の死を怒りに、復讐者として挑み散っていく者。
圧倒的な力で、圧倒的な他者を蹂躙する。
その征服感が、最高に生を実感させていた。
……いつの間にか、目の前の死体がラウンジ兵だけでなく。
VIP大陸の者にまで及ぶほどの凶行に走ってしまったことだけが
彼にとって、唯一の失敗だった。
不自然な自軍の被害は、完璧には情報封鎖もできず
怪しんだ憲兵が、禁術の使用現場を確認。
激しい応酬と多大な犠牲の伴う戦いが繰り広げられた。
最終的に、彼は虚を突かれ捕縛。
専用の地下牢に投獄されることとなった。
本来なら万物の魔法を封じる護布の中で
その効力を掻い潜る術式を混ぜた、生体活動を極度に遅延させる禁術を使い
いつしかまた、自由に人を殺せる明日を願って。
403
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:13:23 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从(さーて、このガキはどう打って出るんだろうなァ?)
激しい雨の中、二人は距離を置いて対峙していた。
防水の魔術もかけず、髪に服に雨が滑り落ちていく。
前傾姿勢で、出方を待つハインリッヒ。
人を殺すことに怯えていた少年が、一体どんな手段で自分を殺めようとするのか
興味しかなかった。
( ・∀・)「……」
望み通り、モララーが先に動いた。
黒衣に隠れた手をゆっくり前に突き出す。
从 ゚∀从「!」
瞬間、前方の雨粒が道を開ける様に弾けていった。
魔力を込め、空気を高速で打ち出したのだろう。
圧縮(コンプレス)で強化したスペルカウンターで、ハインリッヒは受け流す。
着弾した後方の草原が、水飛沫と土砂を巻き上げて爆発した。
404
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:15:04 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「おっとォ!」
大地を両側に隆起させる。
直後に風の刃が衝突し、岩壁が崩れ落ちていった。
ハインリッヒは嬉しそうに笑うと、すぐさま迎撃を行う。
从 ゚∀从「フォーレンスタイン!!」
手に込めた魔力が青く光り、球体を生成する。
禁術の魔法名を叫ぶと、それは一直線にモララーに飛んで行った。
( ・∀・)「……プロミネンス!」
スペルキャンセラーを構えたモララーだったが、すぐに詠唱を変更する。
彼の洞察通り、それはかき消すことの出来ない魔法。
触れれば、永久的に凍結を繰り返し広がっていく恐ろしい氷魔法なのだ。
だから、モララーは火炎弾の連発で対抗する。
目にも止まらぬ速さで射出された、上級火炎魔法は十を超えた辺りで爆発を巻き起こした。
温度差による水蒸気爆発で巻きあがった煙。二人の視界は遮られる。
从 ゚∀从「アクアレーザー、ツヴァイ!」
指先から、細い水を圧縮させて放つのがアクアレーザーだ。
ハインリッヒは、圧縮(コンプレス)で累乗させ威力を増加。
眼前の煙ごと、一直線に切り裂いて確実に生命を奪いにかかる。
だが、その一閃は途中で角度を変える。
上空のあらぬ方向へ向かう原因は、モララーのスペルカウンターによるものだった。
405
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:16:59 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「ハイライトニング」
塞がっていない方の手で、別の魔法を放つ。
上空に、雷による帯のようなものが形成された。
それは一つに収束すると、ハインリッヒに目掛けて無数の矢のように飛んでいく。
从 ゚∀从「マジックスカルヴ!」
連射される雷の刃は、途中で速度を失った。
ピタリと止まると、次に方向を変える。矛先はモララーの身体だ。
放った魔法を、意のままに操る禁術の効果である。
( ・∀・)「いちいち、面倒な魔法を……」
スペルキャンセラーを発動して、自身の魔法を相殺していく。
見たことのない魔術の連発に、モララーはやや苛立ちを覚えていた。
从 ゚∀从「ハッハッハッ! どうだよ、面白いだろォ!? 禁術はよォ!」
( ・∀・)「微塵も面白くなんかない」
高らかに笑うハインリッヒに、モララーは即答する。
从 ゚∀从「ちまちまやってたって、何も進まねェぜ!?
こっちは『レナトス』を発動してんだ。
そう簡単には魔力切れをおこさねェぞ!」
406
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:18:35 ID:OsElsdq60
通常、魔力を回復させるには休息を取る他ない。
時間経過以外には、薬などを使うしかないが
大気中の魔力を強制的に吸引し、自分のモノとする禁術がある。
それが『レナトス』だった。
植生や動物の生態に、悪い影響が出るので封じられた魔法である。
从 ゚∀从「オレを止めに来たんだろ!? だったらすることは一つじゃねェか!」
从 ゚∀从「取りにこいよ、オレの命をよ!」
( ・∀・)「最初からそのつもりだ」
手を向けると、魔力に引かれて数多の石礫が浮かび上がる。
土の上級魔法、ストーンレインだ。
从 ゚∀从「しょっぺえなァ、オイ!」
ハインリッヒが両手をかざす。
当たればケガではすまない速度や大きさの飛礫が、磁力のようにビタリと止まっていく。
从 ゚∀从「シュラムベディーネン」
徐々に徐々にそれは、形を成していく。
巨大な腕が、大きな腹が、太い足が。
全て岩石で形成された人形が、モララーの前に立ちはだかる。
石と石がぶつかり、軋む音を立てながら腕を振り上げてきた。
407
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:22:06 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「ギガブラスト!」
それよりも早く、モララーが無属性魔法を胸元に叩き込んだ。
動力源である核を完璧にとらえたその一撃は、轟音を立てながら活動を停止させる。
石と雨水の隙間から、鋭い視線が飛んでくることに、ハインリッヒは思わず笑みを浮かべた。
从 ゚∀从「……ハッハッハッ。いいねェ、いいぜ。モララーよォ」
从 ゚∀从「その暴力的な魔術、破壊的な魔力! オメーは、戦いの為に生まれてきたんだな!」
( ・∀・)「違う」
戦うことが、殺し合うことが楽しくてたまらないハインリッヒ。
あざ笑うような挑発に、モララーは間髪入れずに否定する。
从 ゚∀从「違うもんか! そんだけの超人的な能力を、何故正しい方向に使おうとしない!?」
( ∀ )「違う!!」
鳴り響く雷にかき消されぬよう、声を荒げて拒絶する。
( ∀ )「そんな……そんな悲しい生き方をするために、ボクは生まれてきたんじゃない!」
(#・∀・)「人を殺すことが! その為だけの力なんてものが、正しいわけがない!」
408
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:25:01 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「綺麗事を言うんじゃねェよ……。じゃあ、オメーの大好きな国王陛下を
オメーは否定すんのか?」
( ・∀・)「なに……?」
从 ゚∀从「国に仕えている戦士は皆、人を殺すために日々鍛錬している。
そして鍛えられた奴らを、正しく利用するのが統率者。つまり国王だろう」
从 ゚∀从「国王は、戦うことを。戦争の為の力を、正しく使ってると思うが?
オメーは、それを拒むんだな?
間接的な殺人鬼である、国王陛下を否定するんだな!?」
( ∀ )「…………それは……!!」
从 ゚∀从「いいか、モララー!
命を与えられ、戦場に立っている駒が出来ることは二つ!
敵を殺すか、敵に殺されるかだ。それ以上も以下もねえ!」
从 ゚∀从「ごちゃごちゃ難しいこと考える必要なんざねーんだよ。
好きなように、好きなだけ暴れる。
その先にある景色は、死体の山か真っ暗な空か、どっちかだ!」
从 ゚∀从「人を殺す力が、正しくないだァ……? 笑わせるぜ。
その台詞、騎士や魔術師の連中に言えるか?」
(;・∀・)「!」
从 ゚∀从「オメーは自分自身で、戦士としての『仲間』をバカにしてんだよ」
409
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:26:48 ID:OsElsdq60
( ∀ )「違う……違う……!!」
从 ゚∀从「ハッハッハッ! そーかいそーかい。それでも『違う』んかよ」
从 ゚∀从「だったら、することは一つだよなァ……?」
从 ゚∀从「……お前が、真の戦士であることを」
从 ゚∀从「大事な大事なオトモダチに! 国王サマに!
自分の存在価値がまだあることを!
人を殺せるんだ って、証明してみせろや!」
( ∀ )「……さっきも言ったはずだ」
( ・∀・)「最初から、そのつもりだ、と」
410
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:28:03 ID:OsElsdq60
从 -∀从「クク……いいねェ」
まだ迷っていた幼い瞳が、更に深淵を増していく。
もっともっと。
強い殺意を、激しい恨みを!
怒りは力を引き出してくれる。
そんな極上の相手を、自分の培った力で真っ当に殺す。
これ以上の快楽は世に二つと無い。
堪えきれない笑みを浮かべ、ハインリッヒは再びモララーへ猛攻を仕掛けるのだった。
――――。
(;メω-)「む……う……」
遠く離れたNEET城の医務室。
ロマネスク団長が、呻き声を開けながら目を覚ました。
411
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:29:35 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「ここ……は……?」
ζ(゚ー゚*ζ「ロマネ君。よかった、起きたんだ」
川 ゚ -゚)「まだ熱が引いていない。寝てると良い」
天井までの視界を遮るのは、幼馴染と妻の姿。
育児のため一時的に戦線から離れていたはずだが……。
(;メωФ)「クー、どうしてココに?」
川 ゚ -゚)「聞いたこともないくらいの重傷と聞いてな。
居てもたってもいられなくて来たんだ」
摩擦を感じさせない長い髪を、キラキラと反射させながらかき分ける。
ロマネスクの妻のクーレ=ホライゾネルは、不安と安心の入り混じった顔で
疲労の溜まった ため息をついた。
(;メωФ)「ブーンは?」
川 ゚ -゚)「母さんが見てくれてるよ」
(;メωФ)「そうであるか……」
ζ(゚ー゚*ζ「それにしても傷だけで良かったね。
五体満足なのは、幸運だったとしか言いようがないよ」
(;メωФ)「……うむ。ブスダドクオ……恐ろしい男だったのである」
川 ゚ -゚)「……ロマネは知らないだろうが。
実は今の王都は、もっと危険な状態なんだ」
412
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:31:57 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「? どういう……」
言いかけたロマネスクが、とある異変に気付く。
痛む身体を無理やり持ち上げ、窓でもないあらぬ方向の壁を見た。
(;メωФ)「……なんであるか、この強烈な魔力の波動は……?」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、ロマネ君でもわかるんだ。凄いね、騎士なのに」
川 ゚ -゚)「私はさっぱりだが……デレもわかるんだな」
ζ(゚ー゚*ζ「まあね。これだけの魔力、魔術師なら誰でもわかるよ」
(;メωФ)「何が起こっているのである……?」
デレは今の城の状況を説明した。
ドクオに敗れて、ニメア地区が陥落した件。
それに伴い、国王がモララーと『白炎』ハインリッヒを対峙させたこと。
目的は、モララーに殺生の経験をさせて、戦力として扱えるようにすること。
だが、モララーは敗れハインリッヒは逃亡。
街を半壊させて、大きな被害を生み出した。
その後始末として、再びモララーがハインリッヒを追い
今現在、戦っているであろうこと。
413
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:34:03 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「そんな……。モララー殿に加勢は向かってないのであるか?」
ζ(゚ー゚*ζ「わかるでしょ? 巻き込まれるだけだよ」
(;メωФ)「しかし……一度は敗れた相手なのである。
そもそも、モララー殿は強くとも、まだ少年なのである。
いくらなんでも、何もかも背負わせすぎでは……?」
川 ゚ -゚)「……それはきっと、誰でも思っていることだ。
戦線に居なかった私ですら、聞き及んだ情報だけでも
十分に無理させすぎていると感じるよ」
(;メωФ)「だったら……」
ζ(゚ー゚*ζ「それでも、信じるしかないんじゃないかな。
モララーくんなら、きっと出来るって。
この終わりの見えない戦いを、終わらせる光になってくれる、って」
ζ(゚ー゚*ζ「その為に……殻を破るためには必要なことなんだと思う」
(;メω-)「…………残酷であるな」
川 ゚ -゚)「だがロマネも、薄々同じことを思っているんだろう?」
(;メω-)「……だから、言ったのである」
(;メωФ)「残酷であるな、と」
ロマネスクもデレも、直接モララーの人となりを知ってきた身だ。
今、どんな気持ちで戦っているのか。
想像に難くない。
414
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:35:20 ID:OsElsdq60
だけど、それを止めることはきっともう出来ない。
止めてしまえば、彼はもう戦士になることはないから。
取り返しのつかない現実と、向き合う強さを手に入れなくてはならないのだ。
掛けられたシーツを力一杯ロマネスクは握りしめた。
遠く壁の向こうを見つめているデレも、同じような心境だろう。
座して待つしか出来ない、この歯がゆさは激しい雨音の中に溶けていった。
从 ゚∀从「チィッ!」
手で地面を抉り、吹き飛ぶ勢いを殺しながら、ハインリッヒが舌打ちをする。
相変わらずの殺気と鋭い目で、モララーはひたすらに攻撃を続けていた。
いつの間にか、周囲は殺風景になっていた。
何度も何度も強力な魔法が叩きつけられたせいで、岩肌がいくつも露出している。
415
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:36:56 ID:OsElsdq60
豪雨に揺れる草も、雷で焼かれた木々も既に何もない。
モララーの足元、彼の半径数センチのみ自然が残っているだけ。
そう、それは余りにも奇妙で不愉快な状態。
ハインリッヒはとっくに気付いており、苛立ちを覚えていた。
从 ゚∀从(このガキ……さっきから一歩も動いてやがらねェ!!)
圧倒的な差を見せつける為なのか。
手を抜いているのか。
真意はわからないが、一つだけ受け取れる意思がある。
从#゚∀从「てめェ……オレをナメてんのか!?」
( ・∀・)「バカを言うな。手を抜いているつもりはない」
冗談ではないトーンで返事をする。
すっかりモララーは落ち着きを取り戻していた。
その異様な静けさに、ハインリッヒは焦燥感を覚える。
じゃあ、一体なんのつもりなのだ。
殺す気なのはわかっている。
だが、出し惜しみをされるのは、腹が立つ以外のなにものでもない。
ハインリッヒは青筋を立てながら、あえてその意向を砕こうと魔法を放った。
416
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:38:45 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「ガイアクラッシャー!!」
大地にひびが入る。
数舜後、地面が割れて万物を飲み込む岩壁となる。
再び閉じると圧迫し潰し、対象ごと土へと還す『大魔法』だ。
以前と同様、詠唱を破棄しての発動。
普通なら生まれる隙も無く、それは発揮される。
( ・∀・)「もう少しなんだ。大人しくしていろ」
モララーが不機嫌そうに足を踏み込んだ。
破裂する音が鳴り響き、ガイアクラッシャーが打ち消される。
从;゚∀从「なッ……!?」
容易ではないはずだ。
詠唱破棄は工程を飛ばす分、威力が落ちる。安定性も非常に悪い。
だが、ハインリッヒはその問題を禁術の行使で解決していた。
なのに、かき消された?
当然だが、モララーは禁術など使えない。
破った方法は一つ。
スペルキャンセラーだろう。
つまり、純粋な力の差で覆したわけとなる。
从;゚∀从(……まさか……そんなわけが……!!)
417
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:40:56 ID:OsElsdq60
その才に、ようやく畏怖の念を抱き始めたハインリッヒ。
先ほどから、禁術を用いても動かない戦況に、焦りを感じなかったわけではない。
だが、認めたくなかった。
自分の方が、上のはずだ。
経験も知識も、こんな小僧より勝っているはず。
理解できない。したくもない。
だって、だって。
オレ様は、世界一の魔術師だったんじゃないのか?
大魔法も、禁術も使いこなした。
誰にも負けない、絶対無二の存在なんじゃないのか。
もしかして……。
この小僧は……そんな領域の更に外にいる……
正真正銘の『真っ当な怪物』だって言うのか……!?
理性がようやく、その危険性を理解した。
だが、全て遅かった。
418
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:43:59 ID:OsElsdq60
モララーの準備は既に整ってしまっていたから。
( ・∀・)「……よし、これならいける」
モララーが、小さく頷き魔力を高めた。
足元には、虹色に輝く魔法陣が浮かび上がっている。
動かないのではなく、動けなかったのはすべてこの行為のため。
力を、魔力を溜め、集中するにはその場に留まるしかなかった。
吹き荒れる暴風と雨に晒される黒いマント。
ちぎれそうなほど、長い髪がはためく。
( ・∀・)「行くぞ、ハインリッヒ。覚悟しろ」
キッと目の前にいるハインリッヒを睨みつける。
光を宿さない、吸い込むような暗い双眸が、動揺する禁術使いの眼を捉えた。
( ・∀・)「……八重連唱(エイツスペル)」
419
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:45:34 ID:OsElsdq60
从;゚∀从「は……!?」
何を言ったのか、何も理解できなかった。
二重詠唱(デュアルスペル)ですら、習得は容易ではない。
だが、この若き大魔術師はまさかの『八重』と口にした。
ハッタリだ。そんなこと、出来るわけがない。
何をしてくるのか、身構えるハインリッヒ。
そこから先の行動は、例え彼が世の理から外れた魔術師であろうと
到底理解できず、到達できない領域の神業だった。
( ・∀・)「プロファウンドバスター!」
突き出し開いた右腕を、左手で支える。
紺碧の魔法陣から解き放たれるは、水の『大魔法』。
しかもハインリッヒがやってみせたのを、見よう見まねで覚えた詠唱破棄で、だ。
从;゚∀从「ぐォおおおお!?」
瞬時に発射されるのは、超高圧縮された水の収束砲。
圧縮されたとはいえ、その半径は数メートルに及ぶ。
噴出の勢いで、粉々にするか
そのまま流されて、何かに衝突して死ぬか。
何にせよ、まともに直撃すれば命の保証はない強力な魔術だ。
420
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:47:13 ID:OsElsdq60
ハインリッヒはとっさに、前方に禁術のバリアを張って防いでいた。
カウンターもキャンセルも、間に合わないと判断したためだ。
しかし、それが悪手であることは気付いている。
押さえつけている間に、すぐさま反撃に出ないと危険なのだ。
从;゚∀从「これは……アブソリュートゼロか!」
周囲の水が、みるみるうちに凍結していく。
激流の隙間からわずかに見える景色も、既に氷の壁になっていた。
対象を挟むようにして、氷山を形成。
その合間を、凄まじい速度で氷柱が往復して着弾と共に芯まで凍結させる。
それが氷の大魔法、アブソリュートゼロだ。
从;゚∀从(連続詠唱……しかも『大魔法』のだと……?)
出来るわけがない。
大魔法はそもそも、手練れの魔術師以外は発動することすら
まともに出来ない最高等魔法だ。
ハインリッヒが禁術を用いたとして、どのように組み込めば実現できるのか。
見当もつかない。
从;゚∀从(とにかく、この状況を抜け出さねえと!)
気温が下がり、息が白くなってきた。
足元にひびが入る。
魔力により氷が溶けているわけではない。
これは、土の大魔法ガイアクラッシャーが発動する予兆だ。
421
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:48:40 ID:OsElsdq60
防護壁を保ったまま、ハインリッヒは別の魔法を急いで唱える。
青色の魔法陣を足元に発動させ、空間転移魔法で脱出を試みた。
意識が消える直前、空が白んでいたのが視界の端に映る
遠くにかすかに輝いていたのは、金色の魔法陣。
上空から降り注ぐ強烈な雷の大魔法『ルーミナスブリッツ』は、寸でのところで回避できたようだ。
从;゚∀从「くそっ!」
普段の空間転移魔法であれば、遠く遥か彼方まで飛べただろう。
だが、それは叶わない。
中空に浮かび上がり、ある程度の距離を稼いだと思ったときだった。
より強力な魔法によって足止めされてしまったのだ。
光球になった身体が、人体へ強制変換される。
原因は、竜巻による乱気流だ。
天候が突然悪化したわけではない。
モララーが放った風の大魔法、アイオロスストームによるもの。
大地を抉り空を裂くほどの威力を持つ、巨大な旋風を放つ魔法。
422
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:49:59 ID:OsElsdq60
空中に放り出されたハインリッヒは、すぐさま態勢を整える。
从;゚∀从「!!」
その動作すら既に遅い。
竜巻を横断するように、無数のオレンジ色の光が空を覆う。
円形の陣を描くそれは、途端に爆発の連鎖を巻き起こし巨大な破壊空間へと変貌した。
( ・∀・)「……」
爆風で激しくはためく、外套と長髪。
強い発光と放射熱の降り注ぐ中、モララーは目を細めず
じっと、無属性大魔法の発生源を見据える。
そして気配を感じ取ると、息を一つ強く吸った。
( ・∀・)「「バーンプロミネンス!!」」从∀゚#从
巨大な火の玉が、太陽のような輝きで強烈に拮抗する。
降り注ぐ雨すら、近づく前に蒸発して消え去るほどの高熱空間が生まれ
燃ゆるべきはずの草木すら既に無い。
枯れた大地も、熱せられた鉄のようにゆっくり軟化してゆく。
从#゚∀从(んなわけがあるか……!!)
ハインリッヒが憤ったのは、彼が完全詠唱でバーンプロミネンスを放ったからだ。
詠唱破棄の場合と違い、安定性も魔力量も増大する。
そのはずなのに……なぜ、互角になる……?
423
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:51:48 ID:OsElsdq60
押しても押しても、込められる限界の魔力を撃っても
手順を省き、なおかつ連続で詠唱している最中という不安定な状態の!
片手間のような大魔法相手に、なぜ勝負がつかない!?
これが、本気の大魔術師の力だというのか……!?
从#゚∀从「だったらァ!!」
使うのは禁術。
ハインリッヒは自らの身体へ、過剰に回復する魔法を使った。
通常なら、すぐに組織が壊死してしまう危険な治癒魔法。
だが、それを上回る破壊が起これば話は別。
从#゚∀从「グランツプロメテウス!!」
両手を掲げ、魔力を込める。
深紅の魔法陣が浮かび上がり、その先に生まれたのは太陽だった。
正しくは、太陽のような火炎球。
バーンプロミネンスをも超える、赤を超え白く輝く光の塊。
触れるどころか、近づくだけで骨も焼け散るほどの熱量と
一帯を焦土にするには容易い範囲を持つ、危険な魔法。
下手な術者であれば、コントロールすら出来ずに燃え尽きてしまうほど。
禁術を使い、強制的に魔力を隷属化し、肉体を再生し続けなくては使えない、まさに秘術だ。
424
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:53:10 ID:OsElsdq60
从#゚∀从「こいつで終わりだァああッッッ!!」
まだ消えていない、目の前の熱エネルギーフィールドに向かって
ハインリッヒは、思い切り投げつけた。
从;゚∀从「!?」
はずだった。
竜巻の乱気流は、グランドエクスプロードで晴れていた。
姿勢を保つための魔術は、空中浮遊と無反動化のみで良かったはずだ。
それなのに、なぜ自分は未だに遠くに向かうような『流れ』に抗っている?
从;゚∀从「ネインエスパルダかよ……!」
周りを見渡すと、真っ黒な空間に居るようだった。
悪天候を上手く利用されたみたいで、気付くのに遅れてしまったのだ。
一体いつから?
グランツプロメテウスは、発動すら出来なかったのか?
考える暇もない。
居るだけで、精神が摩耗する場所な上に
次、いつ追撃が来るかわからないのだから。
今は急いで、この空間から脱出を……。
从 ゚∀从「……待てよ」
425
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:55:14 ID:OsElsdq60
スペルキャンセラーを倍加して放とうとしたハインリッヒは、魔力の発生を止める。
猛攻撃が始まる前、モララーが口にしていた言葉。
八重連唱(エイツスペル)
何を連続詠唱するのか、気にする隙もなかったが。
何故、八つなのだ?
大魔法の連発を全属性行うなら、『九つ』のはず。
炎、水、氷、風、雷、土、光、闇。
この世に存在している属性はこれだけ。
無属性の魔法形態もあるので、加えれば九個あるはずなのだ。
モララーは既に、八つ使っている。無属性を使用したのならば、残りの属性は一つだ。
从 ゚∀从「こいつァ、都合が良いじゃねーか」
度重なる禁術と攻撃のせいで、既に心身ともに限界が近いハインリッヒ。
だが、それでも彼は笑った。
殺し合いの最中、勝てる算段が見つけられた快楽。
自分より上位の存在を、自らの術で殺せる喜び。
今、これからやる方法を使えば実現が出来る。
光明に希望を賭したハインリッヒは、手をかざし魔力を込めた。
426
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:56:41 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「我は刻もう汝の名を」
真っ黒な半円状の空間が目の前にあった。
発動と同時に地表に降り立った闇の大魔法の中には、ハインリッヒが居るはず。
火炎の禁術は既に相殺し終えており、その場にはもうない。
モララーは最後の止めを刺すために大魔法の詠唱を行っていた。
( ・∀・)「神は下そう聖なる裁き」
左手を広げて、前に突き出し言葉を繋ぐ。
足元には銀色の魔法陣が。
そして周囲には、地面からいくつもの光の柱がそびえたっている。
( ・∀・)「根源へ還れ」
( ・∀・)「シャイニースティングレイ……!」
一帯に発生していた光が、帯となりモララーの左手へ収束する。
凝縮され小さな球になると、モララーはそれを握りしめた。
それは、光の弓に変化する。
激しくエネルギーの噴出する弓弭。
右手で弓柄を握ると、同じような波動の矢が形成された。
427
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:58:14 ID:OsElsdq60
水の大魔法、プロファウンドバスターほどの範囲はないが
逆に収斂されたことで、破壊力を増大させた光の大魔法。
最後の決め手だけは、詠唱を行い完全な威力で放とうと決めていた。
だから、モララーはわかっていたのだ。
ネインエスパルダでは、ハインリッヒが死にはしないことを。
次に姿が見えた時、その時こそ全力全霊の魔法で殺す。
決意を込めて、出方を待った。
( ・∀・)「……!」
どれだけの時間を待っただろうか。
息を吸って、吐いて。
次の一撃で、確実に仕留める。
決意を持つには十分な時間。
突如、ネインエスパルダが破られた。
紙を引き裂くように、大きく手を振りかぶり漆黒を消し飛ばしていく。
428
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:59:42 ID:OsElsdq60
从 ∀从
禁術使いは、まだ頭の中が安定しないのか。
その行動だけで手いっぱいなのか。
あまりにも、隙だらけだった。
( -∀-)「……」
( ・∀・)「終わりだ!」
少しだけ震える手を、矢に番えた指を。
覚悟を持って振り切った。
光の弓矢が、一直線に飛んでいく。
衝撃でモララーの足元に唯一残っていた、最後の草原が土に還る。
雨水を寄せ付けることなく、何にも阻まれることなく真っすぐに。
ハインリッヒの、項垂れた脳天に飛んでいき
強い衝撃波を放ちながら、激突した。
429
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:01:25 ID:OsElsdq60
(;・∀・)「!?」
すぐに異変に気付く。
……衝撃波が出るわけがない。
命中すれば、抵抗もなく彼方へ光矢は飛んでいく。
武器では決して作りえないほどの、鋭利な痕を残すだけのはず。
ハインリッヒは、手を突き出して受け止めたのだ。
異変はもう一つある。
ネインエスパルダを破り裂いた手に、暗黒の球体が握られていたのだ。
从 ∀从「クク……ハッハッハッ!」
430
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:03:06 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「なァ、モララー。お前、疑問に思ったことァねえか?」
从 ゚∀从「なんで、この圧縮(コンプレス)なんて、単純な魔法が
禁術に指定されているのか、ってよォ……?」
停止したシャイニースティングレイが、徐々に丸みを帯びていく。
あっという間にそれは、反対の手に握った黒球と同じサイズに変貌する。
高らかに笑うハインリッヒは、興奮しっぱなしだった。
こんなこと、普通はできるはずがない。
出来るわけもない禁術だと思っていた。
从 ゚∀从「コンプレス自体は、なんてこたァねえ魔法だ。
当然だよな。これは、ある魔法の一過程にすぎねえんだからよ」
高純度で、高密度の魔力。
それが生み出す、ハインリッヒすら目で見るのは初めての大禁術が
今完成しようとしていた。
从 ゚∀从「こいつは、魔力同士を合成するためにある禁術でなァ……」
両手に込めた、大魔法の圧縮体をハインリッヒは合わせていく。
从 ゚∀从「相反する属性を重ねると出来る、とんでもねェ破滅魔法が、この……!!」
从 ゚∀从「ディアブロニューケルンだ!」
431
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:04:58 ID:OsElsdq60
発動してしまえば、それはまさに悪魔(ディアブロ)の如き効果をもたらす。
小さな村一つなら、容易に消し飛ばせる殲滅力。
それだけなら、グランドエクスプロードでも事足りるだろう。
この禁術の恐ろしい所は、凄惨な爪痕を残すこと。
余波だけでも、皮膚は焼けおち治癒魔法すら受け付けなくなる。
少しずつ身体を蝕み、やがて確実に死に至る。
植物や土壌も同じだ。
魔力残滓がある限り、育つことも植えることもない。
『死』という概念そのものを顕現するような、恐ろしい禁術。
使おうと考える者もほとんどおらず
実現に至る威力を生み出せるほど強い魔力を持つ者も、過去に居なかった。
それが今、ここにある。
从 ゚∀从「さあ、覚悟しろよモララー……!!
てめェの魔法で、この大地もろとも!」
从#゚∀从「消えてなくなれェーーーー!!」
432
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:06:41 ID:OsElsdq60
次の瞬間。
ハインリッヒは無手になっていた。
433
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:08:05 ID:OsElsdq60
从;゚∀从(……な……に……?)
さっきまで抱えていた、モララーの大魔法。
圧縮されたそれは、既にない。
どこにも、ない。
空の手を見てみるが、わずかな魔力があるだけ。
逆にそれが、本当に消失したことを実感させる。
从;゚∀从「!」
焦ったハインリッヒは、次に目の前にいるモララーを見た。
何かをしたはずだ。
そう思い視線を動かす。
从;゚∀从(ちげェ!)
視界に捉えた場所に、モララーの姿はあった。
だが、そこには居ない。
見えているのは幻影。
ずっとその場を動こうとしなかったモララーが、どこにも居ないのだ。
一体どこへ……!?
434
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:10:00 ID:OsElsdq60
脳内をフル稼働させてハインリッヒは魔法で探る。
そして見つけた。
从;゚∀从(後ろか!!)
ハインリッヒは振り返ることは出来なかった。
風景が傾く。
全く力の入らない首へ、懸命に力を込める。
ダメだ。
無理なのだ。
彼の、その首は既に…………。
435
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:11:46 ID:OsElsdq60
( ∀ )
ハインリッヒが、自分の事態に気付く数舜前。
スペルカウンターを微小に放ち、ディアブロニューケルンを阻止した。
融合する魔力が均等でなければ発動できない魔法。
モララーは瞬時に見切り、対処した。
均衡の崩れた魔法は、目論見通り雲散したようだ。
そして、必殺の一撃を放つ時こそが最大の隙が生まれる。
今まで動かずに、八重連唱の為に蓄えた力はもう必要ない。
得意の幻影魔法で、最後の一手を打ち。
得意の移動魔法で、足音もなく背後に回り込む。
モララーの手には、光の刃が伸びていた。
残り少ない魔力で使える、絶対致死の攻撃魔法。
手刀の形で、全力を込めて交差するように構える。
436
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:12:48 ID:OsElsdq60
この手を振りぬけば。
ハインリッヒは確実に死ぬだろう。
細い首を、撫でる様に水平に薙ぐことで、生命を奪える。
だが。
それは……殺すということは。
モララーにとっては、重く深く根強い障壁。
でも……!
モララーは歯を食いしばる。
したくない。できれば穏便に済ませたい。
しかし、それは出来ない。
この人間は、たくさんの人を殺してきた。
これからも、ずっとそうあり続けるだろう。
437
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:14:25 ID:OsElsdq60
いつか、シャキンに言われたことが脳裏に浮かぶ。
このまま野放しにすれば、自分の大好きな人たちを失うことになるだろう。
それだけは、嫌だ。
( ∀ )(ボクは……!!)
足を踏み込む。
ぬかるんだ土砂に負けないよう、懸命に力を込めた。
( ∀ )(もう、大好きな人たちを失わないように……)
( ∀ )(大好きな人たちを守るために……!!)
( ∀ )(大好きな『人間』を……!!)
438
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:16:22 ID:OsElsdq60
――――――殺す!!!
.
439
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:18:08 ID:OsElsdq60
甲高い音が鳴り響いた。
寸分狂わずに放たれた一閃。
衝撃で一帯の雨が瞬間的に晴れる。
遅れて起こった現実から。
モララーは懸命に目をそらさず、見続けた。
从 ゚∀从「…………ア?」
ハインリッヒの景色が傾いた。
何事かと抗うが、どうしようもない。
視界がぐるりと回転していく。
見えるのは、自分の身体。
首だけがない、自身の胴体。
440
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:20:05 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从(あァ……なんだ……やられちまったのかよ……)
やけに冷静な自分に驚きつつも、意識が薄れていくことを実感する。
再生魔法を唱えようとしたが、もうそれすら追いつかない。
色々と思うことがあった。
負けた悔しさ、勝てなかった怒り、抗えなかった恐怖。
ハインリッヒの人生の始まりから、今のこの時までが一瞬にして脳裏に駆け巡った。
その思考も、徐々に霞んでいく。
从 ∀从(これでようやく、お前も……オレ達の『仲間』だな……)
死にゆく瞬間。
ハインリッヒはニヤリとしながら、最期の言葉を口にした。
从 ゚∀从「地獄で、待ってるぜ」
441
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:21:50 ID:OsElsdq60
( ・∀・)
( ∀ )
( ∀ )「……ああ。またな」
442
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:23:37 ID:OsElsdq60
重たい着地音が鳴る。
余波で晴れていた周囲に豪雨が再び降り注いだ。
同時に、ハインリッヒだったものから重力に逆らうように
多量の赤い液体が噴出される。
立ったまま動かないモララーは、その血と雨を一身に浴び続ける。
力が抜けて、死体が地面へ。泥を打ち上げながら倒れこんだ。
遅れて、モララーも膝から崩れ落ちる。
(; ∀ )「はぁ……はぁ……」
呼吸が浅い。
懸命に息を吸っているのに、肺の奥まで酸素が届かない。
こみ上げてくるものがあり、我慢できず吐き出す。
血だった。
大魔法を連発した反動だろう。
せき込みながら溢れてくる体液を、手で抑え込む。
443
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:27:22 ID:OsElsdq60
咳き終え、ガンガンと痛む頭と朦朧とする視界。
そこに映るのは、雨に流れていく二人の赤い液体。
現実に起こった、自分自身の決着を痛感する。
拳を握りしめると、モララーは天を仰いだ。
( ;∀;)
もう雨なのか、涙なのかわからない。
思わず作った握りこぶしを、モララーは地面にたたきつけた。
444
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:29:29 ID:OsElsdq60
砂利で皮が裂けようと
その行為に何の意味が無いと知りつつも
何度も
何度も。
入り混じった複雑な感情を
ぶつけようのない心の内を
流れる雨と血に身を任せるように
ただただ、頭を垂れたまま大地にぶつけながら
仄暗い心に溶かしていくのであった。
つづく
445
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:31:12 ID:OsElsdq60
次回で最終回です。
結構かかるなぁ、と思ってたのですが意外とあっという間でしたね。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
446
:
名も無きAAのようです
:2021/04/10(土) 22:45:56 ID:L4zEoQWc0
乙です!モララーくんついにあちら側の住人になっちゃったか
447
:
名も無きAAのようです
:2021/04/11(日) 00:36:10 ID:3oQQM0P60
ハイン出てきてからの展開特に熱い
448
:
名も無きAAのようです
:2021/04/11(日) 10:24:33 ID:cRjnxFDA0
otsu
449
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:01:28 ID:f.Pjzmts0
/ ,' 3「……む?」
遠くで鳴り響く轟雷が止まった。
作戦室の窓を開き、外を見る。
降り続いていた雨は止み、空からは幾筋もの光が差し込んでいた。
窓の淵からしたたり落ちる水滴を見ていると、国王は何かに気付いた。
/ ,' 3「……まさか」
その原因と理由はすぐに理解できることとなる。
彼の背後が、緑色に輝いたからだ。
この魔法を使える人間を、スカルチノフは一人しか知らない。
事の顛末を見守りながら、深く唾を嚥下すると
次の瞬間には、想像通りの景色が目の前に広がった。
( ∀ )
びしょ濡れの少年が立っていた。
身体をなぞる雨粒すら気にも止めず、俯いたまま。
結んだ長い髪は、絞れそうなほど水分を含んでいる。
/ ,' 3「モララーくん……」
少年の名を呼びかけると、彼は徐に、後ろに手にしたものを見せてきた。
450
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:05:12 ID:f.Pjzmts0
从 ∀从
それは、白炎ハインリッヒ=ボンデリンクの首だった。
背後には、繋がれるべき胴体もある。
/ ,' 3「よくやった。よくやったな、大魔術師よ……!」
孫にも等しい子の肩を抱こうと、スカルチノフは近寄った。
だが、その行為は果たされることはなく。
ゆっくり髪を手放すと、一礼をしてからモララーは作戦室を黙って出ていった。
/ ,' 3「……」
言いようのない感情で、スカルチノフは涙を流してしまいそうだった。
歯を食いしばり、まだ作戦会議中であったことを糧に気を取り直し
遺体の処理を迅速に命令した後、国王は仕事へ身を費やすこととした。
――――。
次の日の朝であった。
スカルチノフは隈の出来た顔で、朝食を取りに食堂へ向かっていた。
次々に舞い起こる問題の数々。
最重要地区のニメアが陥落したことで、敵陣営の動きが活発になっていた。
451
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:06:49 ID:f.Pjzmts0
ここで、最善の手を打たないと下手をすれば王都にまで被害が及ぶ。
どうにか出来ないかと策を張り巡らせていたら、いつの間にか朝だったというわけだ。
大きなあくびをし、重たい身体で窓から除く日光を浴びる。
/ ,' 3(……あの子が、早く元気を出してくれればよいが)
戻ってきてから、一度も会話をしていない。
部屋に戻ったことだけは知っているが、何かを話せば
そのガラスのような心を割ってしまいそうで。
本人には伝えていないが、落ち着くまで休暇を与えるように通達していた。
不満を漏らすものも当然いたが、大半は納得してくれたようだ。
部下たちの心遣いに甘え、この問題は一旦保留。
( ・∀・)「国王陛下」
にする、はずだった。
落ちそうな目玉を瞬きでなんとかひっこめ、スカルチノフは狼狽しつつ問う。
/ ,' 3「も、モララーくん。……もう平気なのかの……?」
( ・∀・)「ええ。ご心配おかけました。魔力もすっかり元通りです」
452
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:08:22 ID:f.Pjzmts0
国王と同じような目元で、無理にニコリと笑う。
不健康そうな姿を見て、スカルチノフは改めて彼に静養を薦めた。
だが、その命令にモララーは首を横に振る。
( ・∀・)「陛下。ボクはもう、決めたんです」
( ・∀・)「戦いに身を置く戦士として、突き進むことを」
震える手のひらを見つめながら、強く拳を握る。
( -∀-)「ここで止まっていたら。きっとボクはまた、決意を鈍らせることになる」
( ・∀・)「一度でも手を血で染めてしまったのなら。もう引き返すことはできないんです」
( ・∀・)「だから、ボクを使ってください。どんな戦場でも、戦況でも。
必ず、勝利を約束します。そして一日でも早い勝利と平和をもたらします」
( ・∀・)「それが大魔術師モララー=レンデセイバーの、戦う意味ですから」
453
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:10:11 ID:f.Pjzmts0
/ ,' 3「……モララーくん」
悩んだのだろう。
悔やんだのだろう。
人殺しを、あれほど拒んでいた以上
最初の感覚は、きっと忘れない。
もう少し時間が掛かると思っていた。
だが、想像する以上に彼は強靭な精神を培っていたのだ。
初めて見せてくれた、自ら戦場へ出るという意志。
それがどういうことを意味するのか。
スカルチノフは頷くと、まだ震えている少年の肩に手を置き。
/ ,' 3「精一杯、頑張りなさい。我らがVIPの為に」
激励の言葉をかけることで、その背中を押した。
――――。
( ´_ゝ`)「なあ、弟者」
(´<_` )「なんだ兄者」
454
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:11:33 ID:f.Pjzmts0
騎士と魔術師の兄弟が馬を率いて、戦場へ駆けていた。
数名の戦士達と共に向かう先は、シャトワという地域。
激戦区であり、陥落してしまったニメア地区から遠く離れた戦場だ。
VIP大陸にある数少ないラウンジ側の拠点なのだが
奪還しても、大きなアドバンテージにはならないと放置されていた箇所。
場所も王都から遠く、兵を出そうにも中々出しにくいので
ニメア地区陥落からは、完全に後回しにされていたのだが……。
( ´_ゝ`)「俺達、今から戦後処理に行く……んだよな?」
(´<_` )「そうだな」
( ´_ゝ`)「何やら先行部隊が居るそうだが……。
戦闘開始から、まだ1時間ぐらいだと思うが」
(´<_` )「ああ、そう聞いている」
( ´_ゝ`)「いくらなんでも、早すぎやしないか?
増援じゃなく、戦後処理だろ?」
(´<_` )「ああ、そうだな。だが、間違いはないぞ」
( ´_ゝ`)「本当か?」
(´<_` )「本当だ。おれにとっては、ようやくなのかとしか思えないが……」
(´<_` )「どうやら、噂の『大魔術師』さんが本気になってくれたらしいからな」
455
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:13:10 ID:f.Pjzmts0
( ´_ゝ`)「近衛魔術師を片手で捻るという、あの噂の……?」
(´<_` )「城で見かけたことがあるが、普通の少年に見えたがな」
( ´_ゝ`)「……いや、なるほど。確かに、本物だ」
(´<_` )「うん?」
( ´_ゝ`)「見えてきたぞ、弟者」
黒煙が空にあがっていた。
強大な魔力の余波を感じながら、戦士たちは戦場へ到達する。
( ・∀・)「ああ、お待ちしてましたよ。ご苦労様です」
出迎えたのは、黒衣から埃を叩き落とす少年。
優し気な笑顔の後ろに広がる光景を見て、戦士たちは青ざめた。
(´<_`;)(何をどうしたら……)
(;´_ゝ`)(これほどの魔術師がこの世に存在するとは……)
居合わせた数名の戦士は、皆が同じような感想を抱いていた。
456
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:14:20 ID:f.Pjzmts0
少年の背後にあるのは、恐ろしいまでの殺風景。
家屋も、木々も、草花も。
人間も。
等しく同じように、消し飛ばされている。
僅かに見え残る、武具や家屋の破片を見て
ようやく、ここには生き物が居たのだろうと理解できるぐらいだ。
( ・∀・)「少し手間取りましたが。これで問題ないでしょう。
逃げ遅れた敵は居ないと思いますが。念のため、索敵をお願いします」
( ´_ゝ`)「……かしこまりました」
戦後処理など必要ないぐらい。
完璧なまでの『制圧行動』
大魔術師モララー=レンデセイバーの、真の初陣はここから始まる。
/ ,' 3「……次はモーケン。その次は、トゲンネ……。その次は……」
会議室で、まるで盤上遊戯のように
スカルチノフは地図の上で駒を動かしていく。
457
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:15:23 ID:f.Pjzmts0
駒の能力は、ゲームにおいては揺らぐことはない。
真っすぐ進む駒は、必ず真っすぐ。
縦横無尽に動ける駒は、どこまでも。
しかし、スカルチノフが今動かしているのは実際の地図。
そこに駒を動かしたとて、普通は実現しない。
何かの理由があって進行が止まったり
そもそも、相手側の『駒』が自分の動かした駒より
優れているため奪えない、など。局面は思うようにいかない。
いかないはず……なのだが。
スカルチノフが手に持っている、最強の駒。
それが授けてくれる情報は、いつだって遊戯のように正確だった。
真っすぐ進めば、必ず進む。
斜めに動かしても、絶対に留まることはない。
/ ,' 3「まるで……風が地を薙ぐようじゃな」
大魔術師を模した黒い駒を眺めながら、スカルチノフは思う。
彼の黒衣と、恐ろしく、神がかった制圧能力。
いつしか、モララーは『黒風』という異名で呼ばれるようになっていた。
458
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:16:55 ID:f.Pjzmts0
ζ(゚ー゚*ζ「……あれ?」
それはとある日の野営だった。
VIP大陸の沿岸部に位置する土地で、ラウンジ大陸へ強制的に乗り込むための
準備をしていた時のこと。
衛生兵として来ていたデレが、モララーの姿を見つけた。
( ∀ )
他を寄せ付けない圧倒的な雰囲気。
まるで触れることを拒むかのように、何か内から威圧的な闘気を発している。
今は戦後処理も終わり、小休憩中だ。
何もそこまで構える必要はあるまい。
声をかけようとしたが、手いっぱいで中々話しにいけず。
ようやく時間が作れたのは、夜も更けてからだった。
459
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:18:42 ID:f.Pjzmts0
ζ(゚ー゚*ζ(モララーくん、どこ行ったんだろう?)
本来いるはずのテントに姿はなかった。
知っていそうな人に声をかけたが、首を振るばかり。
最近、よく戦場を共にするという魔術師の一人曰く
夜になると、決まってふらりと外へ出て、朝には戻ってきているとのこと。
移動時はせず、戦闘行動の後にのみ、そういう不思議な行動をするらしい。
階級的には彼は国王に匹敵するうえ、作戦行動には支障がないため
いつしか誰も口出しすることはなくなったのだが……。
ζ(゚ー゚*ζ(大活躍してるし、何か一言声かけてあげたいんだけどな〜)
あの一件以来、モララーが出る戦場は負けなしだ。
ラウンジ側も流石に気付いたのだが、打つ手がないらしい。
というのも、一個師団レベルの能力を個人が有しているというのが
対策を無理にさせているのだ。
そこまで凄まじい制圧力を持つのであれば、一点集中してでも壊滅しに向かうだろう。
だが、ほぼすべての戦場を覆しているのはモララー単身の力。
機動力が常軌を逸しているため、造兵や精鋭を送ろうにも既にモララーは居ない。
地図上の地域の話のはずなのに、まるで闇討ちをされるように
次々に、自分たちの進行や拠点にしていた場所が落とされる。
ラウンジ側からすれば、考えたくもないほどの脅威だ。
着実に戦況が悪化している。懐に攻め込まれるのも時間の問題だろう。
460
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:20:24 ID:f.Pjzmts0
そんな『黒風』は、果たして夜な夜な何をしているのだろうか。
デレは持ち前の探知能力を駆使し、モララーの痕跡を探す。
僅かに残る、魔力の残り香を探して着いた場所は川辺だった。
月夜に照らされる清流の前に、黒衣を纏ったままの少年の姿がある。
顔でも洗っているのだろうか。屈んだ姿勢で水面を見つめているようだ。
ζ(゚ー゚*ζ「モララーく……」
声をかけようとしたデレは、言葉を詰まらせる。
秋の虫が鳴いているせいで、運よくかき消されて良かった。
( ∀ )「……う……うぅっ……」
461
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:21:27 ID:f.Pjzmts0
夜闇に響くのは、少年の嗚咽。
具合が悪いわけではない。
辛そうに、ただただ咽び泣く子どもの声。
ζ(---*ζ(あぁ……私、なんて馬鹿なんだろう)
元々強かった少年。
誰よりも優しかった少年。
死刑囚を手にかけたことで、気持ちが吹っ切れて
そこから快進撃を生み出した少年。
でも、変わったわけじゃない。
彼は、優しい彼のまま。
心を押し殺して、ここまで来たのだろう。
人を殺すことが、辛くないわけがない。
人を殺すことが、悲しくないわけがない。
それでも。
462
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:22:33 ID:f.Pjzmts0
彼は、ただの欠陥品にならないように。
一度踏み出したその道から逸れないように。
懸命に懸命に、戦っているのだ。
普段から放っている、あの無駄にすら思える闘気は
そんな心の内を守るための虚勢なのだろう。
気張ってばかりでは、いずれは疲れ果ててしまう。
だから、時折こうして弱い自分を曝け出しているのだ。
ζ(゚ー゚*ζ(ごめんね、モララーくん。
戦いが終わったら、たくさんお話しようね)
彼のその姿勢に、決意に、水を差すわけにはいかない。
ここで優しくしてしまっては、油断が生まれてしまうことだろう。
最大限に心の内をくみ取るならば
見なかったことにして、明日も同じようにふるまってもらうだけ。
何もできない、してやれない歯がゆさに唇をかみしめつつ
デレは、自分の持ち場へ戻っていった。
463
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:23:53 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「……ふぅ」
鼻をすすり、川の水で顔を洗う。
精神のリセットを行ったモララーは、頬をぴしゃりと両手で挟んだ。
( -∀-)(もうすぐ……もうすぐなんだ……)
まだ日差しの厳しい時期から続けている進軍。
秋になり、目の前に広がるのは敵の本拠地。
ラウンジ王国のラウンジ城。
ラウンジ城に攻め入り、総大将……つまり国王に降伏宣言をさせれば我々の勝利だ。
最大の軍事国家が白旗をあげてしまえば、終戦は揺るぎない。
( ・∀・)(その為に……ボクはここまで来たんだ)
黒衣をぎゅっと握る。
何度も洗っているはずなのに、決して消えない血の匂い。
464
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:25:10 ID:f.Pjzmts0
この外套を羽織っている以上、自分は戦士でなくてはならない。
戦果をあげるたび、モララーはいつしか大陸中で人気者になっていた。
余りにも驚異的な力は、戦時中のみ畏怖から敬愛へと変わる。
誰もが彼のことを、英雄と呼び、はやし立てた。
モララー自身も、プロパガンダとなることを厭わなかった。
それで安心できる人が、奮い立たせる心があるなら、と。
使いもしない杖を持ってみたり、適当な情報を伝えて記事を書かせたり。
いつしか、名実ともに『大魔術師』となったモララー。
( ・∀・)(そうだ。これでいいんだ)
ラウンジの大群が目の前に広がっている。
呪術師達の呪文を、さらなる圧倒的な破壊力で押し潰す。
武士の長に対し、あえて剣戟で挑み、技を見切った末に首を斬る。
止まることなく進んでくる、魔神のような男に敵兵たちは恐怖した。
465
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:26:30 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)(これこそ、ボクの存在意義)
ラウンジ城までの道を、必死に止めようと武士が突貫してくる。
雷で焼き払い、飛んでくる大岩の群れを指先で破砕する。
( ・∀・)(これこそが、ボクの使命)
真っ赤に染まった袖で、顔を拭う。
数多の先鋭をそろえたはずの、ラウンジ城の最上部。
四散した武士、最強のはずだった呪術師の死体。
それらの先に居る、ラウンジ王国の最高責任者へモララーは歩み寄る。
( -∀-)(そう……ぼくは……ボクこそが)
ガタガタと震える初老の男。
殺せばすべてが終わる。
だが、それだけでは意味がない。
必要なのは、VIPの勝利。得る物が必要だ。
怯える総大将に対し、モララーはあえて
ラウンジ大陸の流儀、戦闘前に名を名乗る
というものに倣い、冷たい声で告げた。
466
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:28:17 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「『黒風』モララー=レンデセイバーだ」
.
467
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:29:59 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「武器を捨てろ。さもなくば殺す」
歯を打ち鳴らし、戦う術を何もかも失った国王は
涙を流し、失禁しながら何度も何度も首を縦に振る。
長きに渡る戦争は、そこで終わりを告げた。
嘗壱話「零落の黒き風」
468
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:31:00 ID:f.Pjzmts0
つづく
469
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:32:49 ID:f.Pjzmts0
第零話「モララー=レンデセイバー」
.
470
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:33:52 ID:f.Pjzmts0
白い息を吐いて、少年は歩いていた。
厚手の服と、背に負った荷物。
背後に流れていくのは、雪化粧をした王都だ。
道行く人たちはみんな笑顔で、子どもも大人も楽し気に歩いている。
それこそ、彼の最大の功績。
身を削り、心を削り。
何度も挫けそうな思いを、何度も奮い立たせ。
ようやくつかんだ、終戦の証。
赤い鼻をしたモララーは、これが最後になるのだろう、と
その明るい風景を横目に焼き付けていた。
ラウンジ王国が堕ちてから数日後のこと。
難しい政は、全て大人たちに任せると
大魔術師モララー=レンデセイバーは、部屋の片づけを始めた。
彼を懇意にしていた者たちは、必死で止める。
(;ФωФ)「何故であるか、モララー殿!」
471
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:34:58 ID:f.Pjzmts0
荷造りをするモララーに、聖騎士ロマネスクは凄まじい剣幕で詰め寄る。
対するモララーは、淡々とした様子で返してきた。
( ・∀・)「ボクの役目は終わりましたから。
これ以上、城に居ても邪魔なだけでしょう」
(;ФωФ)「そんなことはないのである!
お主程の功労者、誰も咎めないのである」
( ・∀・)「……そうでしょうか。
世の中、良い人ばっかりじゃないですからね。」
( ・∀・)「自分だって、武勲を上げたのに。
自分だって、仲間を家族を殺されたのに。
自分だって……なんて、恨み言を連ねられるのはゴメンですから」
(;ФωФ)「そっ……!」
否定できず、ロマネスクは言葉を詰まらせた。
特にモララーは年も若い。
大きな目で見れば、みなが称賛しているが
気に食わないと思う人間も、少なからずいるだろう。
特に、王都なんて権力に近い場所では。
(;ФωФ)「国王陛下は、なんと仰っていたのであるか?」
472
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:36:05 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「好きにしなさい、と」
(;ФωФ)「……」
突き放したわけではないだろう。
言葉通りの意味なのだ。
大事な大事な、孫のような存在。
彼が望むことは何でもしてあげたい。
心からそう思っている。
だからこそ、戦争という軛から解放されたのなら
後は、一人の少年として。自由に生かせてあげたい。
それが、国王のできる唯一の償いなのだろう。
モララー自身も、その意図をくみ取り
あえて遠慮することなく、丁重に文言通りの対応をしたわけだ。
その時の、悲しそうな、寂しそうな表情だけは。
モララーは生涯忘れることはないだろう。
473
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:37:01 ID:f.Pjzmts0
( ФωФ)「……キミはもっと、子供らしくして良いのであるぞ」
( ・∀・)「はは。確かに、そうですね」
ロマネスクの抱いた、親心のような言葉に渇いた笑いが漏れる。
元々少なかった荷物を、鞄にしまい込んで留め具を付けた。
( ФωФ)「いつ、出るつもりなのであるか?」
( ・∀・)「部屋の掃除をしてからなので。あと1時間もしたら」
( ФωФ)「……デレが会いたがってたのであるぞ。
キミと話したいことがたくさんある、と」
( -∀-)「会うと、別れるのがつらくなりますから。
ロマネスクさんから、ぼくがお礼を言ってたと伝えてください」
( ФωФ)「……モララー殿」
( ФωФ)「我々は、キミに感謝してもしきれないほどの恩を受けたのである」
( ФωФ)「いつかどこかで、恩返しをさせて欲しいのである」
( ФωФ)「だから……それまで、お元気で」
引き留めることは叶わないと感じたロマネスクは、諭すように言い切ると
大きな手をモララーへ差し出した。
474
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:38:06 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「ええ。ロマネスクさんも、お元気で」
覇気のなくなった、柔和な笑顔で手を取り握るモララー。
上着を着こみ、荷物を背にすると
ロマネスクに一瞥し、部屋を出ていった。
( ФωФ)「……」
残された聖騎士団長は、主の居ない部屋を検めた。
そして部屋に残された茶器の数々を見つけると
少し目を細めてから、その場を退いていった。
( ・∀・)(さて。ぼくは、これからどうしようかな)
475
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:39:08 ID:f.Pjzmts0
冷える鼻を擦りながら、モララーは街道を歩いていく。
王都はすっかり見えなくなっていた。
野垂れ死ぬわけにはいかないので、食糧だけはたくさん積んである。
行き先を考えた時、元々居た家に帰る選択肢は最初から無かった。
戻ったところで、ろくなことにはなるまい。
生き方もそうだが、住むところも考えないと、まともに暮らしていくことは難しいだろう。
モララーの戦う役目は終わったわけだが、自分自身の罪は残っている。
いくつもの人生を終わらせた自分は、簡単に死ぬことすら許されない。
だから、一生懸命生きなくては。
――――でも、何のために?
罪を償うって、どうすればいいのだろう。
476
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:40:07 ID:f.Pjzmts0
血の涙を流し、存命を請う敵兵を殺した自分が
何をすれば許されるのだろう。
新雪を踏みしめながら、モララーは自問する。
考えても考えてもわからないが、一つだけ。
旅立つ前に買い物をしていて、思ったことがある。
( ・∀・)(そういえば、魔法で育てられた野菜は体に悪いって言うなぁ)
戦いの最中、死体の山を積み上げていくうちに
肉類を体がすっかり受け付けなくなってしまった。
その為、野菜を主に食しているわけだが……。
それでは、もしかすると長生きできないかもしれない。
いくら稀代の魔術師といえ、死の病は回避できない。
( ・∀・)(どこかで、無魔法の野菜でも作ってみるのも良いかもしれないな)
477
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:41:06 ID:f.Pjzmts0
歩き始めて、どれぐらい経っただろう。
地図も持たずに出てきたので、今どこに居るのかわからない。
ふと、来た道を振り返ってみた。
足跡すら、降りしきる雪でもう無くなっている。
視界の悪い中では、馬を走らせるものすらいない。
まるで、世界に自分ひとりだけが取り残されたようだった。
( ・∀・)
( ・∀・) !
478
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:42:07 ID:f.Pjzmts0
ふと、モララーは思い立った。
そして防寒具の帽子を一度外すと
長く伸びた後ろ髪を、しっかりと掴む。
逆手で魔力を込め、光の刃を作り出したが
何かを決意すると。
魔法を消し、腰に下げているナイフを引き抜き
刃を束ねた髪先にあてがうと
一思いに、根元から切った。
479
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:43:06 ID:f.Pjzmts0
手を離すと、さらさらと風に乗って髪が流れていく。
すぐに白い景色に溶けていく、自分の片割れを見届けると
モララーは短くなった髪へ、帽子をしっかりと被り直し
前を向いて、再び歩き出すのだった。
どこへ行くのか、どこへ着くのか。
彼自身も、まだ知りもしないままに。
480
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:44:08 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。
【零落の黒き風】
おわり
481
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:49:04 ID:f.Pjzmts0
以上になります。
番外編の時には、もう書かない的なことを言った舌の根も乾かないうちに
こんなものを書いてしまいました。
本編の時間軸に対し、過去と未来をもうやったのでこれで出し切った感はあります。
書こうと考えはしましたが、蛇足になりそうだったのでもうやらないと思います。
本編の最初にノリと勢いで書いた設定を、どうにか壊さないように四苦八苦するのが大変でした。
連載当初の尖った物言いと、連載終盤の優しいモララーのイメージを損なわないようにしてみたつもりです。
思い付きで始めたお話を、まさか元号変わるまで書いているとは思ってもいませんでした。
それほど、自分にとっては思い入れのある作品です。
それではここまで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。
482
:
名も無きAAのようです
:2021/04/17(土) 22:41:12 ID:.ayZ7wCk0
隠居暮らしという物語、モララーの人生を追ったお話もこれでついにおしまいか……
寂しくなるけども、番外編と合わせてとてもよい作品でした
作者さん、最後まで書ききってくれてありがとう。乙!
483
:
名も無きAAのようです
:2021/04/17(土) 23:08:53 ID:/wEHwtXQ0
乙!!!
484
:
名も無きAAのようです
:2021/04/22(木) 14:09:20 ID:b5FvTPps0
重たい内容なのに、最後は晴れやかに感じて良い
またここから本編を読み返したい、乙でした
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