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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双
1
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:37:04 ID:w.OycBSI0
お久しぶりです。2年ほど放置してしまいました。すみません。
VIPはすぐ落ちるとのことなので、こちらをお借りさせていただきます。
今回は最終話一つ前の第7話です。遅かったくせにすみません。
ご存じない方は、下記URLを参考ください。
ブーン文丸新聞 様
第一部 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire/retire.htm
第二部完結編 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire2/retire2.htm
では、開始します。
435
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:11:46 ID:OsElsdq60
( ∀ )
ハインリッヒが、自分の事態に気付く数舜前。
スペルカウンターを微小に放ち、ディアブロニューケルンを阻止した。
融合する魔力が均等でなければ発動できない魔法。
モララーは瞬時に見切り、対処した。
均衡の崩れた魔法は、目論見通り雲散したようだ。
そして、必殺の一撃を放つ時こそが最大の隙が生まれる。
今まで動かずに、八重連唱の為に蓄えた力はもう必要ない。
得意の幻影魔法で、最後の一手を打ち。
得意の移動魔法で、足音もなく背後に回り込む。
モララーの手には、光の刃が伸びていた。
残り少ない魔力で使える、絶対致死の攻撃魔法。
手刀の形で、全力を込めて交差するように構える。
436
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:12:48 ID:OsElsdq60
この手を振りぬけば。
ハインリッヒは確実に死ぬだろう。
細い首を、撫でる様に水平に薙ぐことで、生命を奪える。
だが。
それは……殺すということは。
モララーにとっては、重く深く根強い障壁。
でも……!
モララーは歯を食いしばる。
したくない。できれば穏便に済ませたい。
しかし、それは出来ない。
この人間は、たくさんの人を殺してきた。
これからも、ずっとそうあり続けるだろう。
437
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:14:25 ID:OsElsdq60
いつか、シャキンに言われたことが脳裏に浮かぶ。
このまま野放しにすれば、自分の大好きな人たちを失うことになるだろう。
それだけは、嫌だ。
( ∀ )(ボクは……!!)
足を踏み込む。
ぬかるんだ土砂に負けないよう、懸命に力を込めた。
( ∀ )(もう、大好きな人たちを失わないように……)
( ∀ )(大好きな人たちを守るために……!!)
( ∀ )(大好きな『人間』を……!!)
438
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:16:22 ID:OsElsdq60
――――――殺す!!!
.
439
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:18:08 ID:OsElsdq60
甲高い音が鳴り響いた。
寸分狂わずに放たれた一閃。
衝撃で一帯の雨が瞬間的に晴れる。
遅れて起こった現実から。
モララーは懸命に目をそらさず、見続けた。
从 ゚∀从「…………ア?」
ハインリッヒの景色が傾いた。
何事かと抗うが、どうしようもない。
視界がぐるりと回転していく。
見えるのは、自分の身体。
首だけがない、自身の胴体。
440
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:20:05 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从(あァ……なんだ……やられちまったのかよ……)
やけに冷静な自分に驚きつつも、意識が薄れていくことを実感する。
再生魔法を唱えようとしたが、もうそれすら追いつかない。
色々と思うことがあった。
負けた悔しさ、勝てなかった怒り、抗えなかった恐怖。
ハインリッヒの人生の始まりから、今のこの時までが一瞬にして脳裏に駆け巡った。
その思考も、徐々に霞んでいく。
从 ∀从(これでようやく、お前も……オレ達の『仲間』だな……)
死にゆく瞬間。
ハインリッヒはニヤリとしながら、最期の言葉を口にした。
从 ゚∀从「地獄で、待ってるぜ」
441
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:21:50 ID:OsElsdq60
( ・∀・)
( ∀ )
( ∀ )「……ああ。またな」
442
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:23:37 ID:OsElsdq60
重たい着地音が鳴る。
余波で晴れていた周囲に豪雨が再び降り注いだ。
同時に、ハインリッヒだったものから重力に逆らうように
多量の赤い液体が噴出される。
立ったまま動かないモララーは、その血と雨を一身に浴び続ける。
力が抜けて、死体が地面へ。泥を打ち上げながら倒れこんだ。
遅れて、モララーも膝から崩れ落ちる。
(; ∀ )「はぁ……はぁ……」
呼吸が浅い。
懸命に息を吸っているのに、肺の奥まで酸素が届かない。
こみ上げてくるものがあり、我慢できず吐き出す。
血だった。
大魔法を連発した反動だろう。
せき込みながら溢れてくる体液を、手で抑え込む。
443
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:27:22 ID:OsElsdq60
咳き終え、ガンガンと痛む頭と朦朧とする視界。
そこに映るのは、雨に流れていく二人の赤い液体。
現実に起こった、自分自身の決着を痛感する。
拳を握りしめると、モララーは天を仰いだ。
( ;∀;)
もう雨なのか、涙なのかわからない。
思わず作った握りこぶしを、モララーは地面にたたきつけた。
444
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:29:29 ID:OsElsdq60
砂利で皮が裂けようと
その行為に何の意味が無いと知りつつも
何度も
何度も。
入り混じった複雑な感情を
ぶつけようのない心の内を
流れる雨と血に身を任せるように
ただただ、頭を垂れたまま大地にぶつけながら
仄暗い心に溶かしていくのであった。
つづく
445
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:31:12 ID:OsElsdq60
次回で最終回です。
結構かかるなぁ、と思ってたのですが意外とあっという間でしたね。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
446
:
名も無きAAのようです
:2021/04/10(土) 22:45:56 ID:L4zEoQWc0
乙です!モララーくんついにあちら側の住人になっちゃったか
447
:
名も無きAAのようです
:2021/04/11(日) 00:36:10 ID:3oQQM0P60
ハイン出てきてからの展開特に熱い
448
:
名も無きAAのようです
:2021/04/11(日) 10:24:33 ID:cRjnxFDA0
otsu
449
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:01:28 ID:f.Pjzmts0
/ ,' 3「……む?」
遠くで鳴り響く轟雷が止まった。
作戦室の窓を開き、外を見る。
降り続いていた雨は止み、空からは幾筋もの光が差し込んでいた。
窓の淵からしたたり落ちる水滴を見ていると、国王は何かに気付いた。
/ ,' 3「……まさか」
その原因と理由はすぐに理解できることとなる。
彼の背後が、緑色に輝いたからだ。
この魔法を使える人間を、スカルチノフは一人しか知らない。
事の顛末を見守りながら、深く唾を嚥下すると
次の瞬間には、想像通りの景色が目の前に広がった。
( ∀ )
びしょ濡れの少年が立っていた。
身体をなぞる雨粒すら気にも止めず、俯いたまま。
結んだ長い髪は、絞れそうなほど水分を含んでいる。
/ ,' 3「モララーくん……」
少年の名を呼びかけると、彼は徐に、後ろに手にしたものを見せてきた。
450
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:05:12 ID:f.Pjzmts0
从 ∀从
それは、白炎ハインリッヒ=ボンデリンクの首だった。
背後には、繋がれるべき胴体もある。
/ ,' 3「よくやった。よくやったな、大魔術師よ……!」
孫にも等しい子の肩を抱こうと、スカルチノフは近寄った。
だが、その行為は果たされることはなく。
ゆっくり髪を手放すと、一礼をしてからモララーは作戦室を黙って出ていった。
/ ,' 3「……」
言いようのない感情で、スカルチノフは涙を流してしまいそうだった。
歯を食いしばり、まだ作戦会議中であったことを糧に気を取り直し
遺体の処理を迅速に命令した後、国王は仕事へ身を費やすこととした。
――――。
次の日の朝であった。
スカルチノフは隈の出来た顔で、朝食を取りに食堂へ向かっていた。
次々に舞い起こる問題の数々。
最重要地区のニメアが陥落したことで、敵陣営の動きが活発になっていた。
451
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:06:49 ID:f.Pjzmts0
ここで、最善の手を打たないと下手をすれば王都にまで被害が及ぶ。
どうにか出来ないかと策を張り巡らせていたら、いつの間にか朝だったというわけだ。
大きなあくびをし、重たい身体で窓から除く日光を浴びる。
/ ,' 3(……あの子が、早く元気を出してくれればよいが)
戻ってきてから、一度も会話をしていない。
部屋に戻ったことだけは知っているが、何かを話せば
そのガラスのような心を割ってしまいそうで。
本人には伝えていないが、落ち着くまで休暇を与えるように通達していた。
不満を漏らすものも当然いたが、大半は納得してくれたようだ。
部下たちの心遣いに甘え、この問題は一旦保留。
( ・∀・)「国王陛下」
にする、はずだった。
落ちそうな目玉を瞬きでなんとかひっこめ、スカルチノフは狼狽しつつ問う。
/ ,' 3「も、モララーくん。……もう平気なのかの……?」
( ・∀・)「ええ。ご心配おかけました。魔力もすっかり元通りです」
452
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:08:22 ID:f.Pjzmts0
国王と同じような目元で、無理にニコリと笑う。
不健康そうな姿を見て、スカルチノフは改めて彼に静養を薦めた。
だが、その命令にモララーは首を横に振る。
( ・∀・)「陛下。ボクはもう、決めたんです」
( ・∀・)「戦いに身を置く戦士として、突き進むことを」
震える手のひらを見つめながら、強く拳を握る。
( -∀-)「ここで止まっていたら。きっとボクはまた、決意を鈍らせることになる」
( ・∀・)「一度でも手を血で染めてしまったのなら。もう引き返すことはできないんです」
( ・∀・)「だから、ボクを使ってください。どんな戦場でも、戦況でも。
必ず、勝利を約束します。そして一日でも早い勝利と平和をもたらします」
( ・∀・)「それが大魔術師モララー=レンデセイバーの、戦う意味ですから」
453
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:10:11 ID:f.Pjzmts0
/ ,' 3「……モララーくん」
悩んだのだろう。
悔やんだのだろう。
人殺しを、あれほど拒んでいた以上
最初の感覚は、きっと忘れない。
もう少し時間が掛かると思っていた。
だが、想像する以上に彼は強靭な精神を培っていたのだ。
初めて見せてくれた、自ら戦場へ出るという意志。
それがどういうことを意味するのか。
スカルチノフは頷くと、まだ震えている少年の肩に手を置き。
/ ,' 3「精一杯、頑張りなさい。我らがVIPの為に」
激励の言葉をかけることで、その背中を押した。
――――。
( ´_ゝ`)「なあ、弟者」
(´<_` )「なんだ兄者」
454
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:11:33 ID:f.Pjzmts0
騎士と魔術師の兄弟が馬を率いて、戦場へ駆けていた。
数名の戦士達と共に向かう先は、シャトワという地域。
激戦区であり、陥落してしまったニメア地区から遠く離れた戦場だ。
VIP大陸にある数少ないラウンジ側の拠点なのだが
奪還しても、大きなアドバンテージにはならないと放置されていた箇所。
場所も王都から遠く、兵を出そうにも中々出しにくいので
ニメア地区陥落からは、完全に後回しにされていたのだが……。
( ´_ゝ`)「俺達、今から戦後処理に行く……んだよな?」
(´<_` )「そうだな」
( ´_ゝ`)「何やら先行部隊が居るそうだが……。
戦闘開始から、まだ1時間ぐらいだと思うが」
(´<_` )「ああ、そう聞いている」
( ´_ゝ`)「いくらなんでも、早すぎやしないか?
増援じゃなく、戦後処理だろ?」
(´<_` )「ああ、そうだな。だが、間違いはないぞ」
( ´_ゝ`)「本当か?」
(´<_` )「本当だ。おれにとっては、ようやくなのかとしか思えないが……」
(´<_` )「どうやら、噂の『大魔術師』さんが本気になってくれたらしいからな」
455
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:13:10 ID:f.Pjzmts0
( ´_ゝ`)「近衛魔術師を片手で捻るという、あの噂の……?」
(´<_` )「城で見かけたことがあるが、普通の少年に見えたがな」
( ´_ゝ`)「……いや、なるほど。確かに、本物だ」
(´<_` )「うん?」
( ´_ゝ`)「見えてきたぞ、弟者」
黒煙が空にあがっていた。
強大な魔力の余波を感じながら、戦士たちは戦場へ到達する。
( ・∀・)「ああ、お待ちしてましたよ。ご苦労様です」
出迎えたのは、黒衣から埃を叩き落とす少年。
優し気な笑顔の後ろに広がる光景を見て、戦士たちは青ざめた。
(´<_`;)(何をどうしたら……)
(;´_ゝ`)(これほどの魔術師がこの世に存在するとは……)
居合わせた数名の戦士は、皆が同じような感想を抱いていた。
456
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:14:20 ID:f.Pjzmts0
少年の背後にあるのは、恐ろしいまでの殺風景。
家屋も、木々も、草花も。
人間も。
等しく同じように、消し飛ばされている。
僅かに見え残る、武具や家屋の破片を見て
ようやく、ここには生き物が居たのだろうと理解できるぐらいだ。
( ・∀・)「少し手間取りましたが。これで問題ないでしょう。
逃げ遅れた敵は居ないと思いますが。念のため、索敵をお願いします」
( ´_ゝ`)「……かしこまりました」
戦後処理など必要ないぐらい。
完璧なまでの『制圧行動』
大魔術師モララー=レンデセイバーの、真の初陣はここから始まる。
/ ,' 3「……次はモーケン。その次は、トゲンネ……。その次は……」
会議室で、まるで盤上遊戯のように
スカルチノフは地図の上で駒を動かしていく。
457
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:15:23 ID:f.Pjzmts0
駒の能力は、ゲームにおいては揺らぐことはない。
真っすぐ進む駒は、必ず真っすぐ。
縦横無尽に動ける駒は、どこまでも。
しかし、スカルチノフが今動かしているのは実際の地図。
そこに駒を動かしたとて、普通は実現しない。
何かの理由があって進行が止まったり
そもそも、相手側の『駒』が自分の動かした駒より
優れているため奪えない、など。局面は思うようにいかない。
いかないはず……なのだが。
スカルチノフが手に持っている、最強の駒。
それが授けてくれる情報は、いつだって遊戯のように正確だった。
真っすぐ進めば、必ず進む。
斜めに動かしても、絶対に留まることはない。
/ ,' 3「まるで……風が地を薙ぐようじゃな」
大魔術師を模した黒い駒を眺めながら、スカルチノフは思う。
彼の黒衣と、恐ろしく、神がかった制圧能力。
いつしか、モララーは『黒風』という異名で呼ばれるようになっていた。
458
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:16:55 ID:f.Pjzmts0
ζ(゚ー゚*ζ「……あれ?」
それはとある日の野営だった。
VIP大陸の沿岸部に位置する土地で、ラウンジ大陸へ強制的に乗り込むための
準備をしていた時のこと。
衛生兵として来ていたデレが、モララーの姿を見つけた。
( ∀ )
他を寄せ付けない圧倒的な雰囲気。
まるで触れることを拒むかのように、何か内から威圧的な闘気を発している。
今は戦後処理も終わり、小休憩中だ。
何もそこまで構える必要はあるまい。
声をかけようとしたが、手いっぱいで中々話しにいけず。
ようやく時間が作れたのは、夜も更けてからだった。
459
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:18:42 ID:f.Pjzmts0
ζ(゚ー゚*ζ(モララーくん、どこ行ったんだろう?)
本来いるはずのテントに姿はなかった。
知っていそうな人に声をかけたが、首を振るばかり。
最近、よく戦場を共にするという魔術師の一人曰く
夜になると、決まってふらりと外へ出て、朝には戻ってきているとのこと。
移動時はせず、戦闘行動の後にのみ、そういう不思議な行動をするらしい。
階級的には彼は国王に匹敵するうえ、作戦行動には支障がないため
いつしか誰も口出しすることはなくなったのだが……。
ζ(゚ー゚*ζ(大活躍してるし、何か一言声かけてあげたいんだけどな〜)
あの一件以来、モララーが出る戦場は負けなしだ。
ラウンジ側も流石に気付いたのだが、打つ手がないらしい。
というのも、一個師団レベルの能力を個人が有しているというのが
対策を無理にさせているのだ。
そこまで凄まじい制圧力を持つのであれば、一点集中してでも壊滅しに向かうだろう。
だが、ほぼすべての戦場を覆しているのはモララー単身の力。
機動力が常軌を逸しているため、造兵や精鋭を送ろうにも既にモララーは居ない。
地図上の地域の話のはずなのに、まるで闇討ちをされるように
次々に、自分たちの進行や拠点にしていた場所が落とされる。
ラウンジ側からすれば、考えたくもないほどの脅威だ。
着実に戦況が悪化している。懐に攻め込まれるのも時間の問題だろう。
460
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:20:24 ID:f.Pjzmts0
そんな『黒風』は、果たして夜な夜な何をしているのだろうか。
デレは持ち前の探知能力を駆使し、モララーの痕跡を探す。
僅かに残る、魔力の残り香を探して着いた場所は川辺だった。
月夜に照らされる清流の前に、黒衣を纏ったままの少年の姿がある。
顔でも洗っているのだろうか。屈んだ姿勢で水面を見つめているようだ。
ζ(゚ー゚*ζ「モララーく……」
声をかけようとしたデレは、言葉を詰まらせる。
秋の虫が鳴いているせいで、運よくかき消されて良かった。
( ∀ )「……う……うぅっ……」
461
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:21:27 ID:f.Pjzmts0
夜闇に響くのは、少年の嗚咽。
具合が悪いわけではない。
辛そうに、ただただ咽び泣く子どもの声。
ζ(---*ζ(あぁ……私、なんて馬鹿なんだろう)
元々強かった少年。
誰よりも優しかった少年。
死刑囚を手にかけたことで、気持ちが吹っ切れて
そこから快進撃を生み出した少年。
でも、変わったわけじゃない。
彼は、優しい彼のまま。
心を押し殺して、ここまで来たのだろう。
人を殺すことが、辛くないわけがない。
人を殺すことが、悲しくないわけがない。
それでも。
462
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:22:33 ID:f.Pjzmts0
彼は、ただの欠陥品にならないように。
一度踏み出したその道から逸れないように。
懸命に懸命に、戦っているのだ。
普段から放っている、あの無駄にすら思える闘気は
そんな心の内を守るための虚勢なのだろう。
気張ってばかりでは、いずれは疲れ果ててしまう。
だから、時折こうして弱い自分を曝け出しているのだ。
ζ(゚ー゚*ζ(ごめんね、モララーくん。
戦いが終わったら、たくさんお話しようね)
彼のその姿勢に、決意に、水を差すわけにはいかない。
ここで優しくしてしまっては、油断が生まれてしまうことだろう。
最大限に心の内をくみ取るならば
見なかったことにして、明日も同じようにふるまってもらうだけ。
何もできない、してやれない歯がゆさに唇をかみしめつつ
デレは、自分の持ち場へ戻っていった。
463
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:23:53 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「……ふぅ」
鼻をすすり、川の水で顔を洗う。
精神のリセットを行ったモララーは、頬をぴしゃりと両手で挟んだ。
( -∀-)(もうすぐ……もうすぐなんだ……)
まだ日差しの厳しい時期から続けている進軍。
秋になり、目の前に広がるのは敵の本拠地。
ラウンジ王国のラウンジ城。
ラウンジ城に攻め入り、総大将……つまり国王に降伏宣言をさせれば我々の勝利だ。
最大の軍事国家が白旗をあげてしまえば、終戦は揺るぎない。
( ・∀・)(その為に……ボクはここまで来たんだ)
黒衣をぎゅっと握る。
何度も洗っているはずなのに、決して消えない血の匂い。
464
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:25:10 ID:f.Pjzmts0
この外套を羽織っている以上、自分は戦士でなくてはならない。
戦果をあげるたび、モララーはいつしか大陸中で人気者になっていた。
余りにも驚異的な力は、戦時中のみ畏怖から敬愛へと変わる。
誰もが彼のことを、英雄と呼び、はやし立てた。
モララー自身も、プロパガンダとなることを厭わなかった。
それで安心できる人が、奮い立たせる心があるなら、と。
使いもしない杖を持ってみたり、適当な情報を伝えて記事を書かせたり。
いつしか、名実ともに『大魔術師』となったモララー。
( ・∀・)(そうだ。これでいいんだ)
ラウンジの大群が目の前に広がっている。
呪術師達の呪文を、さらなる圧倒的な破壊力で押し潰す。
武士の長に対し、あえて剣戟で挑み、技を見切った末に首を斬る。
止まることなく進んでくる、魔神のような男に敵兵たちは恐怖した。
465
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:26:30 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)(これこそ、ボクの存在意義)
ラウンジ城までの道を、必死に止めようと武士が突貫してくる。
雷で焼き払い、飛んでくる大岩の群れを指先で破砕する。
( ・∀・)(これこそが、ボクの使命)
真っ赤に染まった袖で、顔を拭う。
数多の先鋭をそろえたはずの、ラウンジ城の最上部。
四散した武士、最強のはずだった呪術師の死体。
それらの先に居る、ラウンジ王国の最高責任者へモララーは歩み寄る。
( -∀-)(そう……ぼくは……ボクこそが)
ガタガタと震える初老の男。
殺せばすべてが終わる。
だが、それだけでは意味がない。
必要なのは、VIPの勝利。得る物が必要だ。
怯える総大将に対し、モララーはあえて
ラウンジ大陸の流儀、戦闘前に名を名乗る
というものに倣い、冷たい声で告げた。
466
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:28:17 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「『黒風』モララー=レンデセイバーだ」
.
467
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:29:59 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「武器を捨てろ。さもなくば殺す」
歯を打ち鳴らし、戦う術を何もかも失った国王は
涙を流し、失禁しながら何度も何度も首を縦に振る。
長きに渡る戦争は、そこで終わりを告げた。
嘗壱話「零落の黒き風」
468
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:31:00 ID:f.Pjzmts0
つづく
469
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:32:49 ID:f.Pjzmts0
第零話「モララー=レンデセイバー」
.
470
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:33:52 ID:f.Pjzmts0
白い息を吐いて、少年は歩いていた。
厚手の服と、背に負った荷物。
背後に流れていくのは、雪化粧をした王都だ。
道行く人たちはみんな笑顔で、子どもも大人も楽し気に歩いている。
それこそ、彼の最大の功績。
身を削り、心を削り。
何度も挫けそうな思いを、何度も奮い立たせ。
ようやくつかんだ、終戦の証。
赤い鼻をしたモララーは、これが最後になるのだろう、と
その明るい風景を横目に焼き付けていた。
ラウンジ王国が堕ちてから数日後のこと。
難しい政は、全て大人たちに任せると
大魔術師モララー=レンデセイバーは、部屋の片づけを始めた。
彼を懇意にしていた者たちは、必死で止める。
(;ФωФ)「何故であるか、モララー殿!」
471
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:34:58 ID:f.Pjzmts0
荷造りをするモララーに、聖騎士ロマネスクは凄まじい剣幕で詰め寄る。
対するモララーは、淡々とした様子で返してきた。
( ・∀・)「ボクの役目は終わりましたから。
これ以上、城に居ても邪魔なだけでしょう」
(;ФωФ)「そんなことはないのである!
お主程の功労者、誰も咎めないのである」
( ・∀・)「……そうでしょうか。
世の中、良い人ばっかりじゃないですからね。」
( ・∀・)「自分だって、武勲を上げたのに。
自分だって、仲間を家族を殺されたのに。
自分だって……なんて、恨み言を連ねられるのはゴメンですから」
(;ФωФ)「そっ……!」
否定できず、ロマネスクは言葉を詰まらせた。
特にモララーは年も若い。
大きな目で見れば、みなが称賛しているが
気に食わないと思う人間も、少なからずいるだろう。
特に、王都なんて権力に近い場所では。
(;ФωФ)「国王陛下は、なんと仰っていたのであるか?」
472
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:36:05 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「好きにしなさい、と」
(;ФωФ)「……」
突き放したわけではないだろう。
言葉通りの意味なのだ。
大事な大事な、孫のような存在。
彼が望むことは何でもしてあげたい。
心からそう思っている。
だからこそ、戦争という軛から解放されたのなら
後は、一人の少年として。自由に生かせてあげたい。
それが、国王のできる唯一の償いなのだろう。
モララー自身も、その意図をくみ取り
あえて遠慮することなく、丁重に文言通りの対応をしたわけだ。
その時の、悲しそうな、寂しそうな表情だけは。
モララーは生涯忘れることはないだろう。
473
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:37:01 ID:f.Pjzmts0
( ФωФ)「……キミはもっと、子供らしくして良いのであるぞ」
( ・∀・)「はは。確かに、そうですね」
ロマネスクの抱いた、親心のような言葉に渇いた笑いが漏れる。
元々少なかった荷物を、鞄にしまい込んで留め具を付けた。
( ФωФ)「いつ、出るつもりなのであるか?」
( ・∀・)「部屋の掃除をしてからなので。あと1時間もしたら」
( ФωФ)「……デレが会いたがってたのであるぞ。
キミと話したいことがたくさんある、と」
( -∀-)「会うと、別れるのがつらくなりますから。
ロマネスクさんから、ぼくがお礼を言ってたと伝えてください」
( ФωФ)「……モララー殿」
( ФωФ)「我々は、キミに感謝してもしきれないほどの恩を受けたのである」
( ФωФ)「いつかどこかで、恩返しをさせて欲しいのである」
( ФωФ)「だから……それまで、お元気で」
引き留めることは叶わないと感じたロマネスクは、諭すように言い切ると
大きな手をモララーへ差し出した。
474
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:38:06 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「ええ。ロマネスクさんも、お元気で」
覇気のなくなった、柔和な笑顔で手を取り握るモララー。
上着を着こみ、荷物を背にすると
ロマネスクに一瞥し、部屋を出ていった。
( ФωФ)「……」
残された聖騎士団長は、主の居ない部屋を検めた。
そして部屋に残された茶器の数々を見つけると
少し目を細めてから、その場を退いていった。
( ・∀・)(さて。ぼくは、これからどうしようかな)
475
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:39:08 ID:f.Pjzmts0
冷える鼻を擦りながら、モララーは街道を歩いていく。
王都はすっかり見えなくなっていた。
野垂れ死ぬわけにはいかないので、食糧だけはたくさん積んである。
行き先を考えた時、元々居た家に帰る選択肢は最初から無かった。
戻ったところで、ろくなことにはなるまい。
生き方もそうだが、住むところも考えないと、まともに暮らしていくことは難しいだろう。
モララーの戦う役目は終わったわけだが、自分自身の罪は残っている。
いくつもの人生を終わらせた自分は、簡単に死ぬことすら許されない。
だから、一生懸命生きなくては。
――――でも、何のために?
罪を償うって、どうすればいいのだろう。
476
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:40:07 ID:f.Pjzmts0
血の涙を流し、存命を請う敵兵を殺した自分が
何をすれば許されるのだろう。
新雪を踏みしめながら、モララーは自問する。
考えても考えてもわからないが、一つだけ。
旅立つ前に買い物をしていて、思ったことがある。
( ・∀・)(そういえば、魔法で育てられた野菜は体に悪いって言うなぁ)
戦いの最中、死体の山を積み上げていくうちに
肉類を体がすっかり受け付けなくなってしまった。
その為、野菜を主に食しているわけだが……。
それでは、もしかすると長生きできないかもしれない。
いくら稀代の魔術師といえ、死の病は回避できない。
( ・∀・)(どこかで、無魔法の野菜でも作ってみるのも良いかもしれないな)
477
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:41:06 ID:f.Pjzmts0
歩き始めて、どれぐらい経っただろう。
地図も持たずに出てきたので、今どこに居るのかわからない。
ふと、来た道を振り返ってみた。
足跡すら、降りしきる雪でもう無くなっている。
視界の悪い中では、馬を走らせるものすらいない。
まるで、世界に自分ひとりだけが取り残されたようだった。
( ・∀・)
( ・∀・) !
478
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:42:07 ID:f.Pjzmts0
ふと、モララーは思い立った。
そして防寒具の帽子を一度外すと
長く伸びた後ろ髪を、しっかりと掴む。
逆手で魔力を込め、光の刃を作り出したが
何かを決意すると。
魔法を消し、腰に下げているナイフを引き抜き
刃を束ねた髪先にあてがうと
一思いに、根元から切った。
479
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:43:06 ID:f.Pjzmts0
手を離すと、さらさらと風に乗って髪が流れていく。
すぐに白い景色に溶けていく、自分の片割れを見届けると
モララーは短くなった髪へ、帽子をしっかりと被り直し
前を向いて、再び歩き出すのだった。
どこへ行くのか、どこへ着くのか。
彼自身も、まだ知りもしないままに。
480
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:44:08 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。
【零落の黒き風】
おわり
481
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:49:04 ID:f.Pjzmts0
以上になります。
番外編の時には、もう書かない的なことを言った舌の根も乾かないうちに
こんなものを書いてしまいました。
本編の時間軸に対し、過去と未来をもうやったのでこれで出し切った感はあります。
書こうと考えはしましたが、蛇足になりそうだったのでもうやらないと思います。
本編の最初にノリと勢いで書いた設定を、どうにか壊さないように四苦八苦するのが大変でした。
連載当初の尖った物言いと、連載終盤の優しいモララーのイメージを損なわないようにしてみたつもりです。
思い付きで始めたお話を、まさか元号変わるまで書いているとは思ってもいませんでした。
それほど、自分にとっては思い入れのある作品です。
それではここまで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。
482
:
名も無きAAのようです
:2021/04/17(土) 22:41:12 ID:.ayZ7wCk0
隠居暮らしという物語、モララーの人生を追ったお話もこれでついにおしまいか……
寂しくなるけども、番外編と合わせてとてもよい作品でした
作者さん、最後まで書ききってくれてありがとう。乙!
483
:
名も無きAAのようです
:2021/04/17(土) 23:08:53 ID:/wEHwtXQ0
乙!!!
484
:
名も無きAAのようです
:2021/04/22(木) 14:09:20 ID:b5FvTPps0
重たい内容なのに、最後は晴れやかに感じて良い
またここから本編を読み返したい、乙でした
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