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イベント優先スレ

1名無しさん:2011/05/01(日) 01:39:06 ID:???
・イベントの無い時はここも使えます。
・イベントの開催はここと「雑談用スレ」にイベント情報を貼り付けて告知すると親切。

2波旬:2011/05/23(月) 21:44:32 ID:???

「さぁーて、ここが『良い』かなぁ・・・?」

 高い尖塔の天辺より、煌びやかに輝く眠らぬ町を見下ろす波旬。
 その欲望の密集した空気は、この魔王にとって実に心地の良いものだった。

「・・・なかなか『良い』街だねぇ、欲望が浮き出ててさぁ!」

 ゆっくりと立ち上がる、波旬。
 白い麻の神子服が、熱気を帯びた風にはためいていた。
 瞳を閉じて、発動する・・・“貪欲”の波動。

「一つ二つ三つ・・・結構居るなぁ・・・。
 ふむ、なるほどねぇ・・・。露希ちゃんの考え通り、ここが奴等の巣食ってる場所かぁ・・・」

 ニタリと無邪気に微笑む。
 まるで昆虫の実験を始めようとするような、ワクワクとした子供の眼だった・・・。

「異物は取り除かなきゃね、異天空間・道切り断世!」

 その瞬間、町の・・・妖怪だけが忽然と姿を消した。
 否、引き込まれたのだ。

 道切り地蔵、その歪んだ神格の力すらも・・・更に強力に都合よく使いこなしていた。


 彼らが行き着く先は、欲望渦巻く・・・魔界。
 世界から断絶した、異形の空間。

3フォード「」&澪『』:2011/05/23(月) 21:53:50 ID:HbHPxpxY
この二人は、なんの縁もない。が、今回の出来事が縁となるだろう。


『ここって・・・』

「お主もここへ来たようだな。」

来たのは元・紫狂の澪と正体不明の老人だった。

『何か、嫌な予感がします・・・あの時の、窮奇の時のような・・・』

「窮奇・・・か。(コヤツが噂の大蛇か。)」

4波旬:2011/05/23(月) 22:02:19 ID:???
>>3

 辺りは異界と化していた。
 先ほどまで煌びやかなネオンライトに彩られていた、ビルディングは紫に輝く苔に覆われている。
 アスファルトからは樹海の根が生い茂り、地面を穿っている。

「・・・お呼びじゃない奴等が来ているねぇ」

 そこに降り立った、窮奇の生き写しのような少女。
 いや、年はおろか性別ですらこの者には何の意味もなさないのだろう。

                          デュアル・クロス・アルエット
「・・・キミ達は別に欲しくないから消えろよ、二重十字の雲雀姫」

 白い閃光が、二人の眼前に迫りくる・・・。

5夜行集団:2011/05/23(月) 22:12:17 ID:ajFsrEio
>>3>>4
街は知らない、彼らが消えた事を。
そして彼等も知らなかった。自分達が魔王の標的になっていた事を。

そしてなによりも喜劇的なほどに悲劇的な無知は、
夜行集団の氷亜の想い人が、現在どんな境遇になっているかを彼が知らない事である。

だから夜行集団が転送された時、驚かなかった者はいなかった。
全員が驚愕し、戦慄し、全員が一か所集まって自分達の身に起きた事を知ろうとした。


その為には情報収集だ。そう言ってこの異様な空間を進んでいったのは
氷亜、虚冥、穂産姉妹であった。
そう、つまりこの二人の戦闘に入ってきたのはこの四つの妖怪だけだ。

6名無しさん:2011/05/23(月) 22:22:07 ID:HbHPxpxY
>>4
『【天血弾銃・神殺】』

澪の元に現れた2丁の銃、撃つと大蛇が2頭出てくる。そして、その攻撃を免れる。

「おお、凄い力だな。」

老人はどこか怪しげな表情を浮かべながら、笑顔だった。

>>5

『僕一人では敵いません、あいつをお願いします。僕はこの老人を・・・』

「わしを守ってくれるのか、感謝する。」

今回、この二人はメインでない。メインは夜行集団。
澪は戦いを止め、今から起ころうとすることを見ることにした。

7波旬:2011/05/23(月) 22:45:21 ID:???
>>5

「・・・! 来たね」

 グルリと首を回し、目を見開く波旬。
 その子供染みた動作と、瞳孔の奥の狂喜があまりに対照的で異様だった。

 異常な跳躍と共に、おぞましい笑いが響き渡る。
 氷亜の眼前に、波旬が降り立った。

 貪欲の波長が、辺り一面を覆いつくす。
 無邪気な恐怖が辺りに浸透した。

「・・・やっぱり、なかなか『良い』なぁ!! キミ達の力は非常に便利で頼もしいね!!」

 波旬の妖気が膨れ上がっていく。
 その右腕は、雪の結晶のような形状をした弩弓になっていた!!

         ヴァニティズエリア・トリプルゼロ
「3倍写取・・・【 温もり無き空間・0^3K 】!!」

 極寒の、本物の絶対零度の矢が放たれた。
 その白銀の稲妻は地面に当たると同時に、大気すらも液化させ!
 空気中の水分は辺り一面から集約し! 強固な氷の城となった!!

 氷亜を隔離したのだ。
 わざわざ皆から見えるように、透き通った檻の中に。

「やぁやぁ、いらっしゃい氷亜くん」

 氷の大広間にて波旬がニヤニヤとしながら笑っている。
 自慢気に、愉しげに・・・己の力について語っていく。

「私の力は“貪欲”と言ってね。相手の魂を解析して、その『良い』ところ・・・。
 欲しい部分だけを倍化して修得するんだ。まぁ、簡単に言うと《心が読めて誰にでも成れる》」

 ニタリと微笑む。
 どこか幼くて、活発で、それでいて妖艶な瞳を湛えている・・・。
 その顔は、氷亜の永久凍土の最も奥にある・・・あの顔だった。

「『あの時はよくもやってくれたね』とか言ってみたり!!」

 雪花の顔・・・、だが似ても似つかない。
 瞳の奥が、紫ですらない・・・おどろおどしいドドメ色だった。

8夜行集団:2011/05/23(月) 23:01:07 ID:ajFsrEio
>>7
貪欲、波旬にあったときに感じたそれは全員の神経をざらつかせる不快感であった。
しかし誰もそれに顔をしかめた者はいない。当たり前である、
なぜなら彼らもまた、百鬼夜行の主への欲望を胸に持つ強欲の者たちだからだ。

しかし不快になっているかいないか、顔をしかめているかいないか、
そんな事はこの場において、一切の価値も意味も持たない。
それは目の前からやってきた氷の恐怖の方が、今から戦闘がおこるのであろうと予期している彼等にとっては重要だからだ。

彼等は咄嗟に各々の防御態勢を取った。
土、霊、氷、しかしそれもまた一切の価値も意味も持たない。


「やれやれ僕を御指名かい?子猫ちゃん」

自分の仲間の方を見た氷亜は、彼らが自分とよく似た特質の氷によって遮断されているということを知り、
少しめんどくさそうに頭を軽く描いて波旬のもとに歩きだす。

「これはご丁寧に自分の能力を教えてくれたね。
 馬鹿か、それとも知られても問題ないか・・・まあ後者だろうね。」

そんなこんなでふらふらと話していると氷亜の目に映るのはかつての記憶の投射、
自分が殺め、蔑み消した彼の初恋となったかもしれない優しい感情の種の残骸。

しかし彼の心は一切動かなかった。
なぜなら彼にとってその記憶はただの記憶であって、
氷が解けたその今も、後悔はあってもやはりどうでもいいことなのだ。

「別に何とも思ってないけど・・・まあ懐かしい顔になってくれたんだ。
 ありがとう。」

そして氷亜は、手に握ったその冷度によって強固になった氷の槍を投げた。

9フォード「」&澪『』:2011/05/23(月) 23:09:11 ID:HbHPxpxY
『おじさん、いつ何が起こるか分からないから・・・気をつけて・・・。』

「うむ、ありがとう。
(さてと、見せて貰おうか、夜行集団と言う力を。その力、どこまで貫けるか。)」

澪は常に警戒体制であり、いつでも乱入は出来る。

10波旬(ver雪花):2011/05/23(月) 23:10:40 ID:???
>>8

「どういたしまして!」

 あの顔で、ニッコリと無邪気に微笑む。
 弓を携えていない、左手で氷の槍を易々と掴んで。

「じゃあついでにもっと『良い』ことを教えてあげよう! 私がこの顔になったのはね・・・。
 別にキミの心を揺さぶって心の隙を作りたいとかそんなんじゃない・・・」

 目が三日月に歪む。
 その顔はやはり雪花の生き写しだが、決して雪花のモノではなかった。

「キミが負けた時、一番悔しくなって欲しいからさ・・・!」

 掲げられ、撃ち抜かれる氷の弾弓。
 白銀を巡るブリザードのような音がした、雪崩を起こす直前のような・・・恐ろしいプレッシャーがあった。
 その力も、速度も・・・氷亜の槍をはるかに上回っている!!

「奇しくもこの前と逆の状況だよねぇ!!」

11夜行集団:2011/05/23(月) 23:16:41 ID:ajFsrEio
>>10
「悔しく?
 なんだか分からないな。」

何か来る、それを轟音により感じた氷亜はいち早く、あの方の姿、恩を仇で返した恩人、
氷猩猩の姿になった。
ちなみにこの姿はただ氷亜が憑依しているだけで、氷猩猩の力が直接使用されているのではない。
波旬の能力ではこの不安定な概念は真似できないのだ。

「むしろ僕は雪花に消される事こそ正しさだと思うけどね。」

一度破壊されただけでそれがどうした。
そういってさらに氷槍を怪力によってさらに強力に打ち出す。

12波旬(ver雪花):2011/05/23(月) 23:42:42 ID:???
>>11

「わっかんないかなぁーーーーー!?
 そういうのじゃダメなんだってばーーーーッ!!」

 更に大口開けて笑い出す。
 その眼には若干の苛立ち、そして昂ぶり。
 波旬の右腕は筋張り、筋力細胞が異常な形に蠢くのが見える。

「わかる? 私はただのモノマネじゃない。倍加して写し取るんだ!
 つまるところキミが強ければ強いほどっ、力の差は大きく開いていくんだよ!!」

 一通り話し終えた後、小さく息を吐く。

「そうだね・・・、キミはやる気が無いみたいだから挑発してあげよう」

 右手を掲げ、2匹の白竜を呼び出す。
 それは常に露希の傍らにいた・・・あの白竜。
 それが意味するものは、それらが語るものは・・・。

「露希ちゃんは私が壊した、信じられないなら見せてあげよう」

 懐から小さな羽根を取り出す。
 それはあの時、魂から無理矢理抉り出した・・・露希の記憶、想い。
 投げられた小さな羽根は・・・氷亜の胸の辺りで優しく溶ける。


 心に溶け込む、優しくて、愛おしくて、悲痛で、切ないくらい暖かい言葉。

『そっか。氷亜さんの事大切にしなきゃ。』
『なんて言えばいいか分からないけど…氷亜さんと一緒に居たいんです。』
『でもその気持ち、負けませんよ?ボクだってそれくらい、いやもっと氷亜さんの事が好きです!』

 次々と、溢れてくる・・・想い。
 今となっては叶うはずのない、恋心・・・。

 しかし、その声はいきなり途切れ。
 途端に耳を劈く様な悲痛な声が響き渡る。

『そんな・・・っ・・・。お願いだから止めてっ・・・、皆大切な人たちなんだ!!お願い・・・』

 その声が聞き取れた最後の言葉だった・・・。
 後には延々と、氷の心を持っていたとしても・・・耳を塞ぎたくなるほどの。苦しむような全てを抉り出されたような。
 激痛と呻く断末魔が響く。挙句には狂骨のような怨念のような嘆きそのものの感情だかなんだか分からないものの声が徐々に小さくなっていき・・・消えてなくなった。


「ね、どう? ねぇねぇ今どんな気持ち? それでもまだクールぶってられる?」

 ワクワクと、期待に満ちた嬉しそうな表情で。
 波旬は氷亜の顔を覗いていた。

13夜行集団:2011/05/23(月) 23:53:11 ID:ajFsrEio
>>12
「おい、アネさんアニさん。」
「分かってます。もう既に防空壕はここに。」
『たく・・・なにものなんだアイツは・・・めんどくさいことやって・・・』

氷亜と波旬の間に起こった事を傍から見た虚冥達は、
いち早く防空壕を作り、そこに逃げ込んだ。



「露希・・・?」

彼の目の前に映し出された光景。
自分の目の前で言ってくれた言葉、違う人の前でも言ってくれていた言葉、
嘘ではないのだろう。事実なのだろう。

「何の事言ってんだか?露希が死ぬはずがないじゃないか!」

しかしそれは氷亜の心が破壊されたり取り乱したりはしなかった。
彼はヤンデレ。それは愛の普通を根本から覆すほどの愚かしい愛。
露希が死ぬ事。そんな事は氷亜の中では、
太陽が西から昇るような、空が落ちてくるような、それと並ぶほどの杞憂であった。

むしろ彼は笑っている。ありえないなんて言う事は無い。
太陽は西から昇らない、空は落ちない、そして、露希は死なない。
そんな彼の心はなにかもうひとつ決定的な事が無い限り、変化は見られないであろう。

そして今度に氷亜が繰り出したのは、直径1メートル程の大きな氷塊。
それが怪力によって剛スピードで波旬に襲いかかる。

14波旬(ver露希):2011/05/24(火) 00:00:30 ID:???
>>13

「やめて、氷亜さん! ボクだよ!!」

 いけしゃあしゃあと、
 波旬は露希へと変化する。

 その妖気は、その雰囲気は、その声は。
 露希の“何倍も”露希らしかった・・・。

15夜行集団:2011/05/24(火) 00:09:49 ID:ajFsrEio
>>14
波旬が露希へと変化した時、氷亜ははっとしたように我に帰った。
しかしこの我に帰ったというのは氷亜目線での事で、傍から見れば術中にはまったというのが正しいが。
だが氷亜はそんな事にも気付かず、自分の投げたその氷塊を、
後から高スピードで投げた氷の槍で打ち砕く。

「なんだ・・・露希・・・君はちゃんといるじゃないか・・・。」

両手を膝の上において安心したようなポーズになった氷亜は波旬に笑いかける。
気付いていないのか。あれほどいっしょにいたのに。何倍程度露希らしいと言うだけで。

「何処かに言っちゃんたんだけどさ・・・さっきいた妖怪がね、君が殺されたなんて言うんだ。
 笑っちゃうよね。だって君が死ぬはずないんだから。」

その両手を後ろに周し、完全にリラックスしたポーズになった。
もう既に彼からはもしかしたら戦闘態勢なんて言うものは無いのかもしれない。

16波旬(ver露希):2011/05/24(火) 00:31:08 ID:tElbSrz.
>>15

「大丈夫ですよ! ボクはどこにも行きません」

 少し顔を赤らめて、巨大な狒々となった氷亜の袂に寄り添っていく。
 無防備に、さも自分は心寄せていると言いたげに。

「だってずっと氷亜さんと一緒に居たいから///」

 不自然が際立つ・・・。
 何倍も露希らしいのに、全然露希らしくない・・・。
 だが、心を見透かす貪欲の前には。
 そんなこと、無意味極まる。なぜなら氷亜の心は手に入れているんだから。

「寂しかったんですよね、氷亜さんは心を手放したんじゃなくて・・・。
 心を持っていられなかったんじゃないかなと思うんです。
 誰も気づいてくれないから、誰も触れてくれないから・・・。
 寂しくて、辛くて・・・初めから無かったことにしたかったんじゃないかな・・・」

 でもね、と顔を上げて微笑みかける。

「雪に埋もれた蕾も、ちゃんと生きているように・・・私はちゃんと知ってますよ。
 傷だらけでボロボロだけど、すっかり雪の下で冷たくなっちゃったけど。
 それでも、優しくて温かい・・・氷亜さんの心、ちゃんと見つけましたよ!」

 その手は氷亜の胸を貫き、心臓を握っていた。
 露希の顔は微笑んでこそ居るが、その心の内にあるのは・・・ただの侮蔑。


「このコミュ障ロリコンが」


 奇しくも・・・あの時と真逆の状況だった・・・。

17夜行集団:2011/05/24(火) 00:45:43 ID:ajFsrEio
>>16
温かい言葉、なによりも氷亜の事を思ってくれている。
優しい声、なによりも氷亜の心を落ち着かせる。
少し恥ずかしげに赤くなる顔、なによりも、愛おしい。

そしてそれら全ての露希が、波旬によって存在する露希によって下回る。
本物のロキ=イノセントよりも何倍もロキ=イノセントらしく。

氷亜は抱きしめる。何よりも愛おしい彼女よりも彼女らしいその体。
小さくも強い露希よりもちいさく強い彼女を。
強く抱きしめる、そして胸には大きな風穴があいた。

「露希よりも露希らしい・・・
 いつものも、だ・・・痛いよ・・・痛い・・・痛いよ・・・」

貫かれた彼の顔は、愛した者に罵られ貫かれた雪花の絶望とは違っていた。
笑っていた。笑っていた。
そしてその氷亜の愛した露希よりも露希らしい波旬の露希のその手を堅く握っていた。

「波旬・・・君はバカだ・・・。
 だって露希は・・・露希×1で露希だよ・・・。
 下でもない上でもない、近似値もない、最大値もない、露希で露希なんだよ」

理解した。だから彼はこの手を絶対に離さない。
いくら波旬が振り払っても、彼はまた見えもしない速度で握り返す。
そして、知ってしまったのだ。太陽は西から昇ったのだ、空が落ちたのだ、露希が、死んだのだ。

「え?あ、あれ?・・・・あれ?
 じゃ、じゃあ露希は・・・露希は・・・?
 そういう・・・イヤイヤあり得な・・・あれ・・・どういう・・・いやだ・・・。
 違うよ露希は死なな・・・どこに?・・・嫌だ・・・だって露希は生き続け・・・だってそこにも・・・。
 待てよ僕!!・・・いやだ!!・・・認めるな・・・嫌だ・・・認めるな・・・認めるなってナニヲ?
 嫌だ・・・露希・・・いやだ・・・死・・・いやだ・・・僕は・・・・だって・・。
 露希が今・・・・今そこに・・・いやだ・・・いやだ・・・!いやだ・・・露希!!」




 

「いやだぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

しかし氷亜が笑っていられたのは少しの間だけ。
そこからはこの空間に彼の悲鳴が響き渡るだけであった。
嘆く彼の体から異様なほどの冷気がほとばしる。それは波旬が上にいっても、
一緒により速く凍るだけなのだから。

18名無しさん:2011/05/24(火) 00:53:29 ID:HbHPxpxY
誰かに向けられた言葉ではない。でも聞こえる物には聞こえたはず、彼女の声が。

本物を上回る偽物を遥かに越えて。

「あなたたちに会えたこと、それはボクの一生の思い出。ありがとう。」


露希と言う天使は、消えた。誰にもみとられることなく。それは彼女の望み。

誰も悲しませたくないと言う思い。伝わればいい、この気持ち。

19波旬(ver露希):2011/05/24(火) 01:38:19 ID:tElbSrz.
>>17

「ひっ!!」

 必死で振り払うが、何度も握り返して来る。
 力はずっと上回ってるはずなのに・・・なんなんだこのしつこさは!

「ちっ・・・この・・・ッ!!」

 それは波旬が氷亜を写し取ったとき、わざわざ切り捨てた弱みだった。
 恐い、嫌だ、認めたくない・・・そんな非効率的で無駄で害にしかならない恐怖というモノに。
 たった今、自分は恐怖し! 危機に貶められている!!

 波旬は知らなかった、いや知る気も必要も無かったのだ。
 “何か”の『良い』ところだけ取り出して、いかにそれを増やそうとも。
 絶対に“何か”に成ることなどできないということを。

 何かは『良い』所も『悪い』所も含めて何かなのだから。
 何かの『良い』所だけを何倍にも増やしたら、それは既に何かではないのだから。

「クソッ! どいつもこいつも舐めやがって!!」

 母上・・・いや! あの女もそうだ!!
 隙あらば全部奪ってやろうと思ったのに! アイツの気持ち悪い触手に阻まれて結局アイツの心は取れなかった!! 108年前! アイツは私を逆らえないように作りやがった!!
 信用を得れば・・・、いやコイツ等の力を全部使えば!!
 アイツに一撃をかましてやれると思ったのに! 百鬼の主の力を写し取れば、あの女が喰い付くと思ったのに!!

 いや・・・今度こそあの女を潰してやる!!
 私は誰でもないが、誰よりも強い! 誰よりも優れている!!

「離れろこの野郎ッ!!!」

 自らの腕を引き千切り、氷の城を砕いて脱出する。
 その顔は・・・本来の基礎としたあの窮奇に似た顔になっていた。

「今すぐ叩き潰してやるよ! 『良い』所の絞りカス共がぁああああああ!!!」

 巨大な黒い六方星が空に浮かび上がった。
 その中央に、人の形の上半身が残っている。

「水・金・地・日・土・冥!!!」

 六方星の一角づつに巨大な弓が浮かび上がる!
 氷亜、フォード、わいら、太陽光、穂産姉妹、虚冥をコピーした力だった!!

「まとめて消しとべぇエエエエエエエエ!!!!」


      【星を落とす魔法・惑星直列】!!!


 圧倒する、無限大の・・・トバリを吹き飛ばすほどの力が!!
 空から数多に降り注いだ!!

20ミナクチ:2011/05/24(火) 01:38:41 ID:???
>>17>>18
(まだ直接に、あなた達へのお礼が出来ていませんでしたね)

ぱしゃん、と露希の心は水に包まれた。
柔らかく、いかなる形のものでも許容し受け入れる水が、露希の魂を洗う。

(涙はもう十分に役割を終えたでしょう)

だから今ある悲しみを流しつくして飲み込んで、私は消えよう…。
大丈夫、まだ囚われたままでも、半分を残しているのだから。

そっと、小さな蛇神の幻が微笑んだ。

 ぱしゃり

水がはじけ、無事な姿の露希がそこに。
そして氷亜の傷を半分だけ癒して、水はみるみる凍り付いていった。

21夜行集団:2011/05/24(火) 01:58:08 ID:ajFsrEio
>>19>>20
波旬が手を切断した事で、氷亜による氷の呪いは効かなくなったであろう。
しかし氷亜はまだあきらめていない、もう声はでなくなって、涙を流す目も凍りついた。
ただ泣き顔で凍ったままの表情で、波旬の後を追おうと飛び上がる。

しかし運命の神は、氷亜に味方しなかった。
氷亜の持っていた生命力が凍りつき、大した高さも跳べずに地面に叩きつけられる。

そしてそのまま氷亜は息を引き取る。
筈だった。たしかに運命の神は氷亜に味方しなかった。
しかしどうやら、水の神は彼に味方したようで。

もう動けない、動きたくない、動きたいけど体はもうただの氷だ。
しかし彼は死ななかった。傷は塞がり、心臓の所は凍ったまま、俗に言うコールドスリープ状態であった。

だがそんな氷亜の姿を見て、虚冥、穂産姉妹達が普通の精神状態でいられるだろうか。
それは不可能と言うものだ。虚冥はすでに狂骨と変化し、何度も氷を破壊しようとしている。
穂産日子神はどうしようもなく泣き崩れ、
穂産雨子神は自分の無力さに、拳が血でにじむほど壁を殴っていた。骨は折れなくとも、心は。
なんという悲劇的な情景なのだろうか。なんという無力感の空間なのだろうか。

しかしその悲惨な光景が、いとも簡単的に、瞬間的に、不条理的に、
あっさりとその火を纏った砂利の応酬に破壊されるまで、あと二行後。


そしてこの空間にある概念が発生した。俺だ。
この天狗が、波旬のトバリを切り裂き、理不尽に介入した。
波旬の空間は、その圧倒的過ぎる上に絶対的過ぎる≪存在感≫によって満たされる。

それは窮奇の≪悪意≫のようであり、それは青行燈の≪狂気≫のようであり、
それは波旬の≪強欲≫のようであり、それは桔梗姫の≪幸福≫のようであり、
それはアリサの≪魅了≫ようであり、それは滝霊王の≪潔癖≫のようであり、
それらと同じ、その空間を一色に染め上げる様なオーラーにも似たプレッシャーで、
しかしそれらとは全く違った性質のものだ。

「不遜的、この我が輩を差し置いて一戦を始めているとは。」

誰もが気になる。理由は無い。ただただ気になる。
圧倒されるのだ、僕のそのどこまでも覇者の威厳と言うものに。
私が見る限り、どうやら悲劇がここで起こっていたようだ。空間が凍りつき。
氷亜が凍りつき、この泣き声は氷亜のものであったか、そして俺の威圧感に埋もれる前にあったのは、
氷亜の愛したあの小さな者のソレか。

「久方的だな、波旬。
 しかし貴様の妖気はなぜか以前と変化しているように見えるぞ。」

しばらく見ていたら懐かしい顔があったので、某は波旬に話しかけた。
世間話なぞする気は毛頭ないが、やはり声は掛けたくなるものだ。



しかし、ここまでの展開があまりにも都合が良すぎる。
運がいいと言っても、あまりにも不条理すぎる。ありえない。

そう、都合がよく運が良い。ありえないが当たり前である。彼女がいるのだから。
全ての条理など無視して幸福にし。流れなど無視して安らかにしてしまう。
夜行集団の主、桔梗姫がいるのだから。

私めの天狗は、うえのその大きすぎる力をみた。
やはり先代の主。その力はけた違いだ。
だが僕達の集団も負けているつもりはない。もう既に穂産姉妹、骨、姫、
そして俺も充填完了だ。

だミー達は負けない。波旬の力には劣るが、しかし形は同じ。
なによりも、今現在、桔梗姫が全開の状態でいる以上、負ける筈がないのだ。
だから夜行集団は撃った。その大きすぎる力へと。

22フォード&澪:2011/05/24(火) 02:02:51 ID:HbHPxpxY
「これはこれは・・・」

『これが本物・・・なのか。【戮水刃蛇・山切】』

高圧縮された水の刃を無数に作ると、それは蛇の形となる。

澪はそれを解き放つ

23波旬(verヘキサグラム):2011/05/24(火) 02:21:09 ID:tElbSrz.
>>21

「あぁん!? 天狗ぅ! 鼻高々にしやがって何が傲慢だ!!」

 波旬と天狗・・・。
 流派は違えど、時代は違えど、存在軸は違えど。

 同じ窮奇・・・。いや、スサノオの影たる天逆毎から生まれた兄妹関係である。

「妖気の質? 転生体に決まってんだろ、長生きしすぎてボケたか!?」

 辺り一面を凍りつかせ、地盤の底に沈め、金属が張り、
 焼き尽くされ、岩石が噴き出し、怨念が漂う!!

 その全て、その破壊力はまさに一人で百鬼夜行そのものたる存在のようだった!

「馬鹿が! 私は長所はなんでも奪えるんだよぉ!!
 私は何でも手に入る! 誰にだって成れる! だから何したって無駄だッ!!」

 天狗の力を写し取り、更に姫の幸福の力までも写し取る。
 写し取ってしまった・・・。

「――カッ!?」

 そう、満たす力。
 波旬は頭を抱え、六方星の中で悶え始める。
 欲する力と与える力、相反する特性は波旬にとって猛毒そのものだった。

「〜〜〜! チクショウ、こんな・・・こんないらないモノのせいでッ!!」

 満たされた欲望は脆く、惰弱。
 それすらも姫の幸福の力なのか、それとも貪欲の果ての破滅なのか。

 答えは運命の女神のみぞ知る。

「覚えてろよ・・・あの女以上に・・・お前らの事が殺したくなったぞぉ!」

 数多の波動は貪欲を満たし、破裂させ、押し通す。
 天を覆おう、黒い六方星を撃ち抜き・・・異天の世界が崩れていった。

24夜行集団:2011/05/24(火) 02:40:17 ID:ajFsrEio
>>23
あの一撃は夜行集団としても前代未聞の威力であった。
今まで無かったし、彼等はこれからも絶対にやりたくはないであろう。
なぜならこの一撃で穂産姉妹は力を使い切り、倒れている。
流石の天狗もやはり息が荒く、片膝をついている。
桔梗姫に至っては、その反動で姿を5歳児のものとしてしまうほどであった。

トバリが破られ、この世界に心地よい太陽の光が注ぐ。
まるで夜行集団や澪たちの勝利を祝っているようだ、と言ったらいささか傲慢かもしれないが、
それでもやはり彼等はその日光を、安らかな勝利のマントの様な心持で浴びていた。

仰向けに倒れながら波旬のいる天を見つめる狂骨。
彼もやはり苦しそうだが、ただこの一言は波旬に言いたかった。

「波旬、お前は運が良い。
 もしあの攻撃で姫の力がお前に入っていなかったら、お前は間違いなく俺の狂骨の力に蝕まれていた。
 
 俺の力は、おそらくお前のその傲慢さすら飲みこんで、誰かになりたかった思いも汚して、
 目的すら忘れさせて、お前はなにも異議も意味の無い感情の塊にさせるものだ。
 
 俺の力はたしかに強いかもしれない。傍から見ればうらやましいかもしれない。
 でもお前も知ってるだろう。誰かがそれだけの力を得るって事は、それだけの負債も背負いこむことだってことくらい。」

だからやっぱり姫は凄いんだ、そう言い残してから狂骨はそのまま眠りに落ちた。

25零&フォード:2011/05/24(火) 06:59:52 ID:HbHPxpxY
「やっとこの空間へ入れた。フォード様、夜行集団の力は分かりました?」

『流石だな、あの集団は。仲間の絆とか、強く思う心とか、すべて引っくるめて奇跡を生み出したんだな。』

「私は傷付いた皆さんを手当てしてきます。」

『そうじゃな。わしも手伝うぞ。』

見せつけられた力は、この老人に何を与えたのか。

そして、妹がこの場にいないと言うことにどう思ったか、誰も知るよしはない。

26波旬:2011/05/24(火) 16:47:57 ID:tElbSrz.
>>24

「チクショウ、あの搾りカス共が・・・偉そうなこと言いやがって」

 繁華街よりしばらく離れた路地にて。
 暗い森の中を歩く、満身創痍の魔王。

「なーにが、『力には負債が伴う』だ・・・! そんな下らないこと解析した時点で知ってたよ!
 私はそんないらない負債だって切り捨てて、力だけを手に入れることができるってのによぉ!」

 何一つ間違ったことは言っていない。
 虚冥が正気を保ったまま力を使っていたように、
 狂気を抑える力だって倍化して手に入れることができるのだ。

 否・・・、使用者への邪念すら伴わぬソレは。便利な部分だけを写し取ったソレは。
 もはや虚冥の力とは完全に別物とすらいえたのだ。

 全て上回っていた・・・。
 あらゆる弱点も、相手以上に克服していた。

 しかし・・・

「なんで勝てないんだよぉオオオオオ!!!」

 咆哮が木霊する。
 なにが悪かったのか、運が悪かったのか。
 慢心していたのか、姫の幸福の力なのか・・・。

 波旬は・・・いまだに気づかない。

27伊吹 & 悪樓 & 窮奇:2011/05/27(金) 20:58:59 ID:tElbSrz.

「GYWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 大きく仰け反り、荒れ狂う怪魚。
 その形相は鬼面の様であった。
 触手に絡め取られながらも、嵐を呼び寄せ。
 竜宮の内部は雨風や暴風で酷く荒らされる。

「GEYSHOU!!」

 大きく唸りを上げると、口の中から数多の毒銛を吐き出し、
 魚雷のようにオオダコの眼に放たれる!!

 かつて八十八人の神々を毒した、猛毒の牙である!!


「ミヅチ! なにをもたもたしている!」
『主、窮奇の姦計に図られてご乱心しておいでの様子。その命令は聞けませぬ』
「なっ・・・!・」

 ミヅチの反目、もはや伊吹は竜宮内で完全に孤立していた。
 頼みの伽耶野姫もこれはヤバいとさっさと傍観者に転じている。

「あぁ・・・ああああああッ!!!
 磯臭ぇんだよテメェ等ぁああああああ!! 俺、海より山派だってのによぉおおおお!!!」

 辺りを掻き毟り、とうとう頭角を現す伊吹。
 しかしその姿はヤマタノオロチではなく・・・何かもっと別の。
 強いて言うなら西洋のヒュドラのような、禍々しい姿だった!

 もはや八ツ首ではなく、三ツ首の毒竜は猛毒の潮を吹きながら。
 蟹達を蹴散らし、天業雲のある部屋へと猛進する。

 伊吹の魂や妖気の波長は完全に別のモノになっていた。
 そう強いて言うなら・・・落ちぶれて妖怪化した神のような!
 不恰好で禍々しい妖気である!!

 なにかされている、もはや魂は完全に別物となっている。

28叡肖『』 古蛸「」 解峯〔〕:2011/05/27(金) 21:37:50 ID:1gBuqmPQ
>>27
「くふぅ、これはいい痛みぞ、おぬし!久々に楽しい相撲になりそうじゃのぉ!」

悪樓に足を一本食いちぎられ、青い血を流しながらも大蛸は楽しげに笑っていた。
真っ赤に輝くその身体にぬらりと青く輝く目は、蜘蛛であったころの名残なのか八つある。
そのうちの三つが毒の銛で光を失った。

「ふふ、毒かの。流石に痛みはするが、この程度の量ではわしをどうこうするにはまだ足らぬわ。
 なにより、かつての主様のものに比べたら、どうという事も無いわい」

冷たい海の軟体動物は毒の回りも遅いようだ。なによりアッコロカムイは巨体なのである。

(…とはいえ、この毒が回る前に事を片付けねばの)

悪樓の上下の顎を、半ばから先を食いちぎられた太い触腕の根元の吸盤が捕らえ、その開閉を封じる。
さらに3本の触腕が悪樓の身体に絡み、厳重に巻き付けて引き寄せようとする。
古蛸の足の中央、その嘴のような尖った刃のある口が、ガチガチと音を立てて悪樓を迎え入れようとした。

『こんなことは予測済みなんだってばよっ!』

主が毒持ちなのは承知していた。
衣蛸は八本の筆に墨を含ませ、蟹達の甲羅に解毒の文字を次々と記す。
衣蛸自身の身体にも、色素胞による同じ文字がうっすらと浮かび上がっていた。

〔主様に剣を渡してはいけない!!止めるのだ!〕

解峯に指揮されて衛士の朱蟹が十数匹、伊吹の後を追って走る。
毒竜と化した主の尾に取り付く蟹の数は、刻一刻と増えてゆく。
その重みを引きずって、伊吹は部屋へと走らねばならない。

『やい海牛!この前てめぇに着せた恩あるだろ、今返しやがれ!!』

にたりと笑った叡肖の筆が、逃げ損ねて転がる太った神格に『菖蒲』と記した。
その妖力を吸って、その背に蓑のように菖蒲が一叢生えた。

『おらてめぇ、さっさと主様に縋りに行きやがれ!』

あろう事か叡肖は、海牛を伊吹の向かう部屋の方へと投げ飛ばしたのだ。
その背に生えた、菖蒲の叢ごと。
情け無い声を上げながら、海流に飲まれてきりきりまいした神格は、ぺしゃりと落ちた。
その毒竜の足元へと。

「孫や、わしの解毒もしてくれんかのぅ」
『無茶言うなって!だれが今の爺ィに近寄るかよ!』

アッコロカムイに踏み潰される気はないのだ。
黒蔵は解峯に任せて、衣蛸は窮奇のほうへと走った。

『この退屈な役所を中々楽しい事にしてくれたよな、そこんとこは感謝するわ』

筆を舐めながら窮奇に向かう衣蛸は、実に楽しげである。
その八本の腕にも、色素胞の『力』の文字がうっすらと浮かび上がっていた。

29伊吹 & 悪樓 & 窮奇:2011/05/27(金) 21:57:58 ID:tElbSrz.
>>28

「えぇい! クソッ、離せ!!」

 鱗がボロボロと剥がれ落ち、
 ながらも蟹に挟まれどんどん素早さを失っていく。

 そして、あの菖蒲のウミウシを・・・

「ああああああああ!! なんだ、なんだお前はぁああああッ!!
 キモ、気持ち悪ッ!! は、離せ・・・離れろぉおおおおおお!!」

 しかしいくら猛毒をはきかけたり、振り回したりしても。
 ウミウシは紫の墨を吐くばかりである。

「く、クソがッ!!」

 中央の口から2m程の蛇が這い出し、凄まじい速さで這い進んでいく!
 脱皮! もはや形振りなどまったく気にしていない。


「GYHA!? GYUAAAAAAA!!」

 口を塞がれながらも、更に暴れ狂う怪魚。
 ガチガチと蠢く牙を前に、祖の眼は更に光を燃やす!

「GYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 自らの身体を引き千切り!
 頭だけになった怪魚は自ら大蛸の口の中へと飛び込んでいく!!

 その牙の隙間から、数百本の毒銛を噴き出しながら!!


「えー、キミからいわれてもさっぱり嬉しくないんだけどー」

 さもつまらなそうな目で、窮奇は叡肖を眺めていた。
 逆心が叡肖の心を覗いたとき、くるりと背を向ける。

「『悪い』けどキミなんて1秒も相手にしたくないな」

 そのまま蟹やウミウシともみくちゃになる伊吹の下へと駆け出した。

30叡肖『』 古蛸「」 解峯〔〕:2011/05/27(金) 22:23:07 ID:1gBuqmPQ
>>29
〔よし、第二陣かかれ!第三陣待機!〕

伸びた黒蔵を担いだままの解峯がきびきびと蟹たちの指揮を執る。
その目が海牛に気づいた。

〔第三陣、海牛殿の援護に回れ。必要に応じて菖蒲の使用を許可する!
 主様を止める事を第一とせよ!〕

朱蟹達が駆け寄り、毒竜の足元を駆け回り、いくらかは踏み潰されながらも
菖蒲の一部を鋏で切り取るとバケツリレーのように手渡しで仲間の蟹に分配し始めた。
蟹たちは一枚づつ菖蒲の葉を持つと、脱皮してなお走る伊吹の下へと駆け寄ってゆく。

「…なんじゃ、いつも可愛がってやってるのにつれないのぅ」

叡肖に袖にされた古蛸は、その口の中に飛び込んできた毒銛ごと悪樓の頭を噛み砕いた。
毒が嘴状の歯の間からごぼりと溢れ、さしものアッコロカムイも苦しげに咳き込む。
太い触腕が宙を震えながらうねり、赤く輝く巨体が揺れた。

「孫や、わしは少し休むぞ。遊ぶのも程ほどにな」

巨大な蛸は、その身体に取り付いてきた部下の蛸達に、しばし身をゆだねた。
しかしその青い目は尚、戦いの行方を追っている。

『あははっ、『悪い』けど俺、君みたいな『良い』女の尻は追っかける性質なんだ』

筆で投げキスでもするように、窮奇に向かって墨の雫を飛ばしながら追いかける叡肖。
なぜか飛んでゆく黒い雫は綺麗にハート型。
フ○コちゃんを追いかけまわすルパ○三世状態なのだが。

『キューウちゃーん♪』

笑った表情で窮奇を追う衣蛸の、その目だけは据わっていた。

31伊吹 & 窮奇:2011/05/27(金) 22:38:00 ID:tElbSrz.
>>30

「・・・」

 その目は完全に叡肖をシカトし、
 逆心の触手だけが叡肖を絡めとった。

 叡肖の方向感覚は反転し、今しがた窮奇とは真逆の方向へ駆け出してしまっている。
 腕に浮かび上がった『力』の文字は『弱』という字に反転されていた。

「あーぁ、やってられないよ。もう」

 蟹に追いすがられる伊吹を見つめると、
 窮奇はヤレヤレとため息をついた。

 そのまま結界を破り、何処かへと消えていく。


 蟹達の追撃も虚しく、とうとう伊吹は竜宮のあの部屋の扉に手をかけた。

「あ・・・はは! ついに」

32叡肖『』 古蛸「」 解峯〔〕:2011/05/27(金) 23:14:22 ID:1gBuqmPQ
>>31
「遊びすぎじゃ、この馬鹿者」
『うぇ?逃げられた?』
〔……お前な〕

いきなり方向転換した衣蛸を、古蛸の赤い触腕が救い上げてずいと押し返した。
その腕にはあまり余力がないようで、孫を押し出した古蛸の腕は伸びたままであった。

「おいたわしや、のう、主様」

伊吹の背に声をかけた赤い巨体は縮み、古蛸は何時ものとおり、赤い衣の壮年の人物の姿を取った。
その片目は瞑れ、手の指は数本がちぎれて青く染まっている。
部下の蛸たちがその身体を支え、傷の手当てをしながら指示通り、伊吹の方へと運んだ。
気がついた叡肖が慌てて解毒の文字を祖父の身体に記したが、
心配ないと告げる古蛸のその声は割れてしゃがれていた。

「まだ悪あがきなさるおつもりか、主様。
 窮奇に誑かされたとて、我らは主様だからこそ慕いもし、従って居るのですぞ」

しばし咳き込んで、古蛸は言葉を継ぐ。毒の雫がその唇からぽたりと落ちた。

「磯臭い竜宮が面白くないこともありましたろう。山が恋しくもありましたろう。
 それを知っているからこそ我ら海の者どもは、ある程度の主様の自由が聞くように
 極力その荷が重くならぬように、我ら自身でこの竜宮を支えてきたのです」

先ほど伊吹の放った、竜宮への苛立ちの言葉が本物なのは傍に居たこの大臣にも判る。
なにも竜宮を私物化するために古蛸は大臣となった訳ではない。
一大事が起こっても対応できるよう、組織の維持や整備にも努めては来たのだ。
単に力あるだけでは、命ひしめく海を束ねる竜宮の維持などできはしない。

主である伊吹にどれほどの負担が掛かっているかは、古蛸も目の当たりにしてきたのだ。

「主様や、本当にそれが主様の願みなのですか?」

どこか寂しげにそう呟くと、伊吹が部屋の扉をあけるのを、あえて古蛸は止めはしなかった。

33伊吹:2011/05/27(金) 23:49:13 ID:tElbSrz.
>>32

「カ・・・ムイ・・・?」

 扉を開けた、その時。
 大蛸の言葉にふと、静かな声を上げた・・・。

「私・・・は・・・?」

 三千年前の怨念そのものである悪樓が消えた影響なのだろう・・・。
 ふと手を止め、大蛸の言葉に振り返った。

 荒れ果てた竜宮と鬼気迫る海の役人達を見渡し、
 ふと疑問を呟く。

「これは・・・私がやったのか?」

 その眼は穏やかな燈に戻っていた。
 凪のように静かな、普段の伊吹である・・・。

「!? あの女は! あの女はどこに行った!?」

 慌てて辺りに叫びだす。
 なにやら辺りを走り出した。

「あやつは逃がしてはいけない! アレは神界を引き落とす力を持っている!!」

 ミヅチや伽耶野もにも聴いて回る。
 その姿はさっきほど天業雲を探す様より何倍も必死だった。

「天逆毎・・・いや窮奇! どこだ!?」
「はーい、ここでーす!」

 突如、背後から声がした。
 その瞬間、翠の長剣が伊吹の胸を貫いていた。

「き・・・貴様・・・!」
「お探し物はこれでしょー? ついでにもう一回言ってあげよう」

 山から海に恵みを齎す河川のように、
 穏やかで暖かかった伊吹の妖気が、再び先ほどの毒竜のように禍々しく変貌していく!

「ハッピーバースデー! 伊吹くん!!」

 伊吹を貫いた天業雲が、ズブズブと吸収されていく。
 その怨念が再び、発露し・・・妖気が膨れ上がっていく。

 3匹の悪樓が、ツングースの怨念そのものである怪魚が。
 竜宮の壁を突き破り、再び暴れんとする。

「カムイ・・・済まん・・・」


 【四魂反転】、これが百鬼の主の新しい力である。
 暴れ狂う妖怪は、神として昇華するのはままある話。
 窮奇はその真逆のことを行えるのだ・・・。

「皆の衆、頼む・・・。私を・・・殺してくれ」

 猛毒の竜が、唸りを上げて竜宮に現れた。
 その首は1つ、だがその巨体は竜宮の城を蹂躙する。
 蛇足とはとても言えない、太く筋骨隆々の四本の足。
 コウモリのような翼が、竜宮の海面を覆いつくし、まるで絵の具が解けるように翼から緑の液体が滲み始める。
 さきほどの大蛸の数倍はあるような巨体が、唸りを上げて辺りの海に多量の毒の潮を流し始めた。

 それは酸化銅・・・金属練成の歴史の末端にして。
 河川や海の者共を全滅させる恐るべき毒である!!


−妖怪目録−
【 毒竜 -どくりゅう- 】

 中国の竜の中でも西洋の概念を含む竜。
 そこに神聖は無く、絶対悪たる存在である。
 その性質は非情に凶暴。

34叡肖『』 古蛸「」 解峯〔〕:2011/05/28(土) 00:14:40 ID:1gBuqmPQ
>>33
「ご安心なされい、この荒れぶりの半分はわしがやらかしましたでの」

自分がやったのかという伊吹の問いに枯れた声で笑ってみせたあたり、
この古蛸は爺ィと言えども蛸族特有のお茶目さは持ち合わせているらしかった。

落ち着いたかのように見えた主に、一同が安堵したその時。
再び慌て始めた伊吹を、窮奇が剣で貫いた。
誰かが悲鳴をあげ、解峯が気色ばむ。

「孫や、解毒の用意をせい。わしは紡ぐぞ。解峯、引き役としてお前の部下の手を借りたい。
 久方ぶりなので、上手くいくかはわからんがの。
 伽耶野殿。この毒が広がらぬように、そしてこの魚が逃げぬように異天空間に封じてもらえぬだろうか」

蛸の大臣は、そう指示を出した。

『うへぇ、俺の墨、足りっかな?他の蛸の墨と筆も借りなくちゃ』

叡肖は蛸達に指示をだし、解峯が選んだ蟹たちの甲に解毒の文字を施した。

「主様のご命令とあらば」

殺してくれと頼む伊吹に答え、先ほどの戦いでちぎれて青い血に汚れた指先を、
アッコロカムイは己の唇に当てた。

35伊吹 & 悪樓×3:2011/05/28(土) 00:37:15 ID:tElbSrz.
>>34

「ウィ、了解であります。Mr.スパイダーオールドマン」

 伽耶野姫、別の名は妖怪・野槌。
 水ではなく、山と土の蛇神信仰の存在である。

 豹変した元・友人をチラリと見据えた後、テキパキと避難指示を打ち出す。
 見るからに無力そうな者共は次々と異天空間へと飲み込まれていく。

「貴方も避難シルププレ?」

 結界の中に囚われた、巴津火を見据え。
 ポツリと声をかけた。

 3匹の悪樓は荒れ狂いながら、襲い掛かる。
 蟹の兵士達を噛み砕くもの、ひたすら竜宮を破壊するもの、蛸に牙をむく者共だ。

 ただこの3匹ですら手におえないというのに・・・。


「毒せよ! 殺せよ! ここは我等が平家の滅ぼされた海!!
 我等は蹂躙された! スサノオの治める海など・・・。
 勝つ者だけにを味方する非道な神の納める海など! みんな腐ってしまえ!!」

 怨念に塗れた竜は咆哮し、毒を撒き散らす。
 その首をかしげ、足下の蟹やカムイを見据えた。

 鋭い爪の生えた巨腕が、竜宮の者達を薙ぎ払わんとする!

36叡肖『』 古蛸「」 解峯〔〕:2011/05/28(土) 00:55:07 ID:1gBuqmPQ
>>36
「そうじゃの、今は殿下を伽耶野殿に頼もうか」

古蛸は伽耶野姫に頷くと、巴津火を封じた黒蔵をその手に委ねさせた。
手の空いた解峯は、これで伊吹の抑えに向かう事が出来る。

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…」

(今の主様を送るには、ウポポよりはこの方が良いのであろうな)

アッコロカムイが唇から歌とともに紡ぎだした細い筋は、傷ついた指先でその血にて青く染まり、
六の六の六倍の本数に広がって大きな網を形作り、広がった。

(糸の紡ぎ方はまだ覚えて居るが、さて、強さは持つじゃろうか)

かつてこの古蛸は蜘蛛であった。
蛸の血の染みた網はその意思を反映し、自在に広がってゆく。
海に着てから久しく糸を紡ぐ事は無かったが、その網が3匹の怪魚を捕らえんと広がる。
細く頼りなげに見える糸の網、それは巨大な陣の形を成していた。

〔タコ、準備はいいか?〕
『いいぞ蟹ちゃん、バッチこい!』

古蛸が紡ぐ間に、それを薙ぎ払おうとする毒竜と化した主の腕を、
解峯がその二股の矛で受け止めようとする。
その抑えにあわせて、毒竜に文字を記そうと、叡肖が筆を構えて待ち受けていた。

37伊吹 & 悪樓×3:2011/05/28(土) 01:10:18 ID:tElbSrz.
>>36

「オーライ、殿下の御入城でありマス」

 巴津火を飲み込むと、伽耶野自身も異天空間の中へと入り込んだ。


 糸に絡められた悪樓は酷く暴れ回るが、
 動けば動くほどに身体に糸が絡まっていく。

 しかし、そこから逃れた一匹が!
 まだに解毒の文字の記されていない蟹へ向けて毒銛を噴き出した!


 受け止められる、鋼鉄の爪。
 しかし、蟹とは群れて初めて力を成す者。
 その巨体に一人で挑むのは、あまりに無謀・・・。

 キチン質の甲羅にヒビが入り、その巨体が踏み潰そうとした。

 咆哮が木霊する。
 ギョロリと筆を持つ蛸を睨み、その字すら消し飛ばす猛毒の息吹を吐き出した!

38叡肖『』 古蛸「」 解峯〔〕:2011/05/28(土) 01:30:28 ID:1gBuqmPQ
>>37
『ぐっ!!』

解峯に向かって飛んできた毒銛を、叡肖はとっさに袖で払おうとした。
しかし衣蛸の硬い殻であるはずのその袖に、ざくりと毒銛は突き刺さっていた。
からん、と筆の一本が叡肖の手から落ちる。

〔おい!〕
『まだっ!』

一本の筆を咥え、開いた腕で叡肖はその殻が刺さったままの袖から毒銛を抜き取った。
袖は二つに裂けている。

(くそ、割れたな)

身体に解毒の文字を浮かばせる間もなく、毒竜に蟹の身体が踏まれた。
そして猛毒の息吹がこの文官を吹き飛ばそうとする。

それはとっさの行動だった。
筆の代わりに抜いたばかりの毒銛を握っていた叡肖は、吹き飛ばされまいと慌てて、
手にした毒銛を毒竜に突き刺していたのだ。

39叡肖『』 古蛸「」 解峯〔〕:2011/05/28(土) 01:41:51 ID:1gBuqmPQ
//表記ミス訂正
 ×その殻が刺さったままの袖から毒銛を抜き取った。
 ○その殻である袖にささったままの毒銛を抜き取った。

40伊吹 & 悪樓×3:2011/05/28(土) 01:46:24 ID:tElbSrz.
>>38

 怨念の毒の潮が叡肖を吹き飛ばすと同時に、
 毒竜が傷みに叫び声を上げた。

「ゴァアアアアアアアア!!!」

 放たれた銛は、毒竜の右目に突き刺さっていた。
 残っていた悪樓の毒が回りはじめる。

「グッ、ガァアアアアアアアアアアアアア!!」

 しかし頭を振って、解峯を完全に踏み抜く。
 ツングースと平家、類は違えど。
 滅ぼされた2つの一族の怨念背負うこの執念は深かった。

 さらによりにもよって、その2つの破滅の縁の地である竜宮に仕えることなど。
 この上ない屈辱と苦痛だった。
 反転した魂の中で降り積もった夥しい量の怨念は、猛毒となって海を毒していく。

 翼をはためかせ、緑の海流を広げようとする。
 凄まじい質量が圧縮されたそれが開放され、辺りに流出すれば。
 ここら一帯の海は死に果てるだろう。

「GYAUSYHAAAA!!」

 悪樓が唸りを上げ、大蛸に止めを刺そうと口をあけて突進する!

41叡肖『』 古蛸「」 解峯〔〕:2011/05/28(土) 02:11:23 ID:1gBuqmPQ
>>40
「よし引けェい!」

控えていた蟹たちに指示が飛んだ。屈強な兵士たちが一斉に網を引く。
アッコロカムイの糸の網は、単に怪魚をからめ取る網ではない。
絡んだものの記憶を引きずり出すのである。

窮奇にゆがめられた記憶、こじれた怨念を手繰り解き、正す作業が始まった。

「主様。平家を滅ぼしたのは、ご自身の意思ではなかったか?」

ヤマタノオロチは平家を滅ぼす事で、奪われた剣を取り返してもいるのだ。

「滅ぼされた部族も、もともとは人間の争い。
 無関係な我ら海の者どもにそれを向けることも御座らぬのではないかね。
 それ、そこの蟹どもの中には、平家に使えていた者たちもおりまするぞ」

海に没した武将の怨念が転じたという、いわゆる平家蟹たちである。
無残に踏み潰された蟹の骸には、それと判る鎧兜を付けた者もいる。

「のう、主様や。怒りをぶつけるのは本当に、この海の者達で良いのですか?」

蛸の血の染みた糸は、狂った主の心を氷の浮かぶ北の海の冷たさでからめとり、冷やそうとした。

42伊吹 & 悪樓×3:2011/05/28(土) 02:37:36 ID:tElbSrz.
>>41

 悪樓の牙は何度も大蛸を食いちぎるが、相手は毒竜を見て、語ることをことをやめない。
 とうとう業を煮やし、数多の槍を噴き出そうとするが。
 不発に終った。

「・・・」

 荒ぶる心は蛸の言葉に耳を傾け、ただただ瓦解する。
 なぜ伊吹がヤマタノオロチではなく、ここまで邪悪でおぞましい竜になったのか。

「・・・私は」

 毒竜の姿は霞のように消えていく。
 反転された魂が、その存在を否定され霧散したのだ。

「重ねていたのか、滅ぼされし我が平家とその原因そのものであるオロチの生い立ちを」

 ごく僅かに残っている、反転された魂の残りが言葉をつむいでいく。

 転生、それはただ依り代に寄生し、生き長らえるだけではない。
 伊吹大明神。
 彼の正体はヤマタノオロチなのか、それとも悪縁に翻弄された安徳天皇なのか。

「恨みきれなかった、私を滅ぼしたこの蛇神の神格を。
 同じだと思いたかったよ、悲願に打ちひしがれし・・・同じ者共だと思いたかった」

 いつの間にか悪樓は消えていた。
 しかしいくら取り繕おうと、ヤマタノオロチは邪神でしかなく。
 その神聖は反転させられて得ただけなのだ。

 滅ぼした相手が、なぜ神となって滅ぼした者を加護するのか。
 その答えは・・・。

「・・・カムイ、竜宮の皆」

 存在自体が薄れていく、伊吹は手を突いた。

「すまなかった」

43叡肖『』 古蛸「」:2011/05/28(土) 03:05:43 ID:1gBuqmPQ
>>42
「主様、また戻ってこられるその日をお待ちしておりますぞ」

またいつか主が転じて生まれてくるまで、この竜宮を組織として生きながらえさせねばならない。
薄れ行く息吹にそう約束したものの、蛸の大臣は自分の代でそれを迎えられないだろう事を
うっすら予感していた。

(主様に、あれ以上のことをしなくて済んだのは、まこと幸いだったのぅ)

傷ついた古蛸は、主を傷つけずに済んだ事にどこかで安堵していた。
しかし代償として古蛸のあちこちに傷口が開き、青く血が流れ白く肉が覗いている。

『爺ィ、張り切りすぎだぞ』

猛毒を浴びてから解毒をはじめたものの、まだ残る苦しみに起き上がることも出来ないままの
叡肖が、担架で運ばれてゆきながらそれでも口では文句を言った。

「年寄りの冷や水じゃ。流石にこたえるのぅ」

北海の怪物は孫の文句をかるく受け流す。

そして一人、無言のままの者。
踏み潰されて砕けた、青い甲冑だったものが肉片と一緒に散らばっていた。
罪人である黒蔵の、海でできた初めての友人だった存在は、ここにて帰らぬ人となった。

44伊吹:2011/05/28(土) 03:27:55 ID:tElbSrz.
>>43

「そうだな、また会おうぞ」

 薄い笑いを浮かべ、小さく吐き出した。
 転生できるのはあくまでヤマタノオロチの魂であり、
 ただの人だった自分はただ消えていくだろう。

 いつしか人にも忘れられ、存在しないものとして。
 歴史を知る者にしか語り継がれまい。伊吹大明神の名は、竜宮でも地上でも。
 あくまでオロチの別の名の1つでしかないのだ。

 まぁそうでなくても。
 これだけ多くの者の命を奪っておきながら、生きようとは虫のいい話である。

 解峯に小さく頭を下げ、
 足音すら立てられない伊吹が大蛸に近寄り語りかける。

「・・・勝手を承知で1つ、頼みたい」

 胸に刺さった天業雲を引き抜き、小さく囁く。

「巴津火を生かしておいて欲しい・・・オロチの転生には時間がかかる。
 それまでに万が一に備え、オロチの名を継いでいる者は必要だろう」

 邪神であっても、反転させられただけであっても。
 オロチの力と神聖は絶大な力を持っていることは確かだった。
 竜宮自体も、ヤマタノオロチという絶対の存在が無ければとうに瓦解していただろう。
 伊吹自身も人でありながらこの地位につけたのはその為なのだ。

「あの女が居ない限り、オロチの神聖は裏返ることは無い。
 私はただあの女に誑かされ、邪悪の力と知恵を注がれた。
 悪いのは全て人であるが故の私の弱さだった。そう・・・伝えて欲しい」

 最後に、と付け加え。
 伊吹は弱く微笑んだ。

「少なくとも・・・“表”の私はみなの事が大好きだった。
 私はこの竜宮で生きることができ、幸せだった。
 今まで世話を掛けたな、ありがとう。カムイ・・・

 その波間に存在が崩れ落ち。
 伊吹の存在は消え去った。

45叡肖『』 古蛸「」:2011/05/28(土) 03:55:58 ID:1gBuqmPQ
>>44
「ご命令、この蛸が確かに承りましたぞ」

天業雲を受け取りながら答えたものの、この古蛸の命で換えられるものであったならと思うのだ。
薄らぎ波間に消えてゆく主の笑顔に大きな喪失感を覚えたのは、この竜宮にて登りつめる内に
いつの間にか権力欲が他のものに摩り替わっていた事を示していた。

(主なき竜宮に、窮奇の討伐か。やれ忙しや)

主との約束を果たすためには、出来は良いが反抗的なあの孫に、今の自分の立場を
何とかして継がせる手段を講じなくてはならない。

(あやつを動かすには目の前に垂らす、活きの良い餌が要るのぅ)

剣を納めに歩き出しながら、蛸の大臣は思案する。
叡肖の本気を引出すには、アッコロカムイにとってのかつての伊吹のような存在がいると丁度良いだろう。
この蛸の大臣にはその餌として、一人思い当たる者があった。

(問題は巴津火殿が聞く耳を持つかどうか、じゃの)

46セツコ&巫女軍団:2011/05/30(月) 21:15:54 ID:c1.PBF/s
いつも平和な《牛神神社》

しかし…今日は慌ただしく、不穏な空気が流れていた。

その神社の唯一の入口の前に三人の影がいた。

巫女服を着て、長い黒髪をポニーテールにし、頭に藤の花を模した縮緬のつまみ花かんざしが挿して、竹箒を持ってる女性――セツコ

黒髪を後ろで短く結んだ、なんかワイルドなイメージの巫女さん――巫女Aこと覇道レイカ

眼鏡をかけたシ、ョートヘアーの若い巫女さん――巫女Bこと橘 美月

巫女A「……ったく、こんな街中で戦争しようってか?随分イカレテル奴らだな…」
二丁の銃を持ちながら、いつもの口調とは違い、素の口調で嬉しそうにしている巫女A

巫女B「なんで嬉しそうなんですか?先輩?」
巫女B「もう………ご丁寧に結界を壊して来ましたよアピールしてきて…相手はキュウちゃんのところ?」
珍しくため息を吐きながら、面倒くさいなって顔をしてる巫女B

セツコ「……考えたくありませんが」
セツコ「他の人達には周りへの被害を押さえてもらってますし、ここは私達で守らないといけないのが辛いですね」
箒で居合の構えをとり周囲を警戒するセツコ

三人は敵の気配を探りながら、戦の準備にはいっている。

さあ………《小さな戦争》の開幕だ。

47渾沌:2011/05/30(月) 21:34:47 ID:tElbSrz.

「いやぁ! はじめまして牛神神社の皆々様!!」

 そこから現れたのは、少し皺のあるパーティースーツを来た細身の男。
 ニコニコと営業スマイル全開で歩み寄ってくる。

 邪気も妖気も感じないが・・・。
 そこには紛れも無く、こびり付いた窮奇の匂いが漂っていた。

「ワタクシは渾沌、今や百鬼夜行となった紫狂の者です!」

 丁寧にお辞儀をする。
 いかにも社交慣れした人間らしい動きだった。

「しかし我々には1つ問題があります!
 我等がアイドル、キュウちゃんのカリスマ性です!!」

 パーティースーツからやたらデカい、選挙ポスターのような窮奇の写真を取り出した。
 いや理想(アイドル)なのはお前の頭の中だけだろう。

「妖怪の皆様からの支持率はなんと脅威の0.3%!!! 誤差より少ない!!」

 そこで、と真面目な顔になり。
 窮奇にも似たあの嫌な笑みを作り出す。

「牛神神社の皆様の信仰を頂戴したい、Noと言うならば」

 突如、森の中からフラッシュのように強い光が目を晦ませた。
 やたら重厚で、鈍いエンジン音が響き渡る。

「99.7%にも兵器で喧嘩を売る、恐るべきテロリストを相手取ることでしょう」

48セツコ&巫女軍団:2011/05/30(月) 22:08:56 ID:c1.PBF/s
>>97

巫女B「あ!指名手配犯だ」
セツコ「!?」
現れた相手…窮奇の匂いがこびりついた相手に向かい、警戒をする二人。

ただ巫女Aだけは黙って見つめる。
つまらなそうに…ただ、相手が語る《戦争の開会式》をつまらなそうに聞いている。

セツコ「そんな事させませんよ」
ポスターを見て一瞬この人大丈夫?って顔をするが…相手がこの神社に危害をくわえると知った瞬間表情を真剣な表情にする。
いつでも戦えるという感じで。

セツコ「なっ!?」
巫女B「ハハハ…本当に戦争だね…」
明らかな兵器の音…それに流石の二人は驚くが……

巫女A「…」パンッパンッ
一人……巫女Aがライトに向かい、引き金を引き、銃弾を二発打ち込もうとするだろう。狙いは光を出してるライトだろう。
巫女A「御託はいいんだよ!テロリスト!テメーらは《つまんねえ開会式》をしないと始められねえのか?」
巫女A「さあ!テメーも武器を出せ!!戦争だ!闘争だ!!つまんねえ《御遊戯》がしたいわけじゃねえだろ?《破壊》だろ?《強奪》だろ?」
巫女A「戦争もしらねえ坊ちゃんが!本当の戦争を教えてやるよ!!!」

そう言いながら……《元・裏の住人》は狂気にみちた顔で、渾沌を睨みながら、素早く相手の頭に向かい引き金を引き銃弾を放つだろう。

巫女B・セツコ((なんかスイッチ入った!?))

49渾沌 & 5人の変質者:2011/05/30(月) 22:26:57 ID:tElbSrz.
>>48

「んなっ!?」

 いきなりの発砲にビックリ。
 パリンパリンと音がして、照明が消える。

「じ、神社に仕える者が殺生を好んで『良い』んですかぁああああ!?」

 渾沌、意外と常識的。
 しかしその背後から馬の嘶くような声と、怒声が聞こえた!

「貴様ああああああ!! よくも俺様のマシンを傷つけたなぁあああああ!!!」
「え・・・? うわぁっ! ちょっと!!」

 凄まじい轟音を上げ、明らかに改造車だとわかるデコトラが猛スピードで飛び出した!
 フロントが僅かにへこんでいる、どうやらコレで衝突して結界をブチ破ったらしい。
 アチラコチラに貼り付けられた無骨なプレートメイルも充分怪しいが、なによりこのデコトラ、妖気を発している!!

「その綺麗な顔、ぶっ飛ばしてんよぉおおおヒャッハーーーーー!!!」

 ねじり鉢巻を巻いた見るからにトラック運転手な壮年が、運転席で叫びをあげていた。
 妖怪と融合し、文字通りモンスターマシンと化したデコトラが銃を持った巫女に迫る!


【犯罪者データ】
古田 明世(59) 懲役8年
−罪状− 違法改造、道路交通法違反、公共建築物破壊3件


 その後ろから、ゾロゾロと4人の人が現れる。
 その格好は一目でサイコとわかる異常な格好をした者達ばかりであった。
 何より・・・全員人でありながら妖気を発している。

 右足の裾が異様に短いズボンを履き、やたら昭和の香りがする格好をした男。
 ガスマスクを付け、掃除機のようなものを背負ったセーラー服の少女。
 全身真っ赤でロングコートを着た青年。
 なんか見るからにエロそうなジジイ。

 中でもロングコートの青年は、特に強いプレッシャーを放っていた。

50セツコ&巫女軍団:2011/05/30(月) 22:53:41 ID:c1.PBF/s
>>49

巫女A「あっ!?こっちとら好きで巫女やってんじゃねえんだよ!?」
巫女A「ここは戦場だろ!?殺戮だろ!?ヒャッハー!!!!逃げるなよ?敗戦者になりたくなけりゃ武器をとれぇ!!!!」
……コイツは貴方達側だろ?

デコトラから逃げるように右へ跳び避け、渾沌の身体に向かい、容赦なく引き金をひき、銃弾を放つだろう。
確実に場慣れした動きだ。

巫女B「わぁ……妖怪化してない?あの人達?しかも一人フラグ立ててない?」
セツコ「《破邪一掃》」
ツッコミをしながら巫女Bは右へと逃げるが…
セツコはデコトラに自ら飛び込み、トラックを両断しようと《破邪》の力を纏った縦一閃を仕込み刀の箒で放ちトラックを縦に両断し通り過ぎようとする。

巫女B「はいはい!!!!どっちが悪役かわからなくなってきたけど、今の気持ちどんな気分?」
渾沌に向かい大きな声で言いながら四人の敵の様子を警戒する。

515人の変質者:2011/05/30(月) 23:19:17 ID:tElbSrz.
>>50

 渾沌は・・・。

「うぅううう、チクショウ・・・」

 デコトラに跳ねられていた。
 腕とか色々折れながら、森の方へ退散して行っている。

「ブルスァ!!!」
「クカカカカカカ! 止まんねぇ・・・止まらねぇよぉ!!」

 割れたはずのヘッドライトにいきなり目玉が浮かび上がり!
 邪気の結界を張って弾丸を弾く!


−妖怪目録−
【 馬鬼 -うまおに- 】

 谷に落ちていった馬が鬼と成ったもの。
 長い鬣と、異様に光る目を持つ。
 その走りは恐ろしく速く、決して止まることが無い。


「むっ! 団塊世代を舐めるなぁああああ!!
 喰らえ! 団・塊☆ドリフトぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 破邪の気を纏ったセツコにとっさに反応し!
 凄まじい勢いでハンドルを切る!!

 デコトラはその巨体とスピードに似合わず!
 ほぼ垂直のドリフトでセツコを回避し!
 あまつさえ、その振り回された荷台が覇道レイカに迫る!!

「見晒せぇ! これが30年間無事故無違反だったゴールド免許の実力だぁああああ!!!」

 説得力があるようでない!!!


 巫女Bに突如として迫る、ガスマスクを着けたセーラー服の少女。

「仲間がいっぱいみたいですっごく、スカッとした気分♪」

 黄褐色のガスが掃除機のような部分から吹き付けられる。
 コレは・・・硫化水素!! まともに吸い込めば一瞬で昏倒・死亡に至るきわめて有毒なガス!

「ふふふふふッ、楽しいねぇ・・・!!」

 ガスマスクの越しでは表情は見えないが、その声だけで正気ではないとわかる。


【犯罪者ファイル】
毒島 霧尾(16) 懲役2年
−罪状− 第6類危険物および第9類危険物乱用、過失致死未遂


「うおおおおおお!! 俺のぉ! 右足がぁ真っ赤に燃えるぅ!!!」

 ほんとに真っ赤に燃えていた!!
 灼熱の衝撃波、そして単純な破壊力を持つその蹴りが攻撃を外したセツコに迫る!!

「ふしゅぅううううう!! 丁度いいやぁ! アンタ妖怪だろ?
 人間を蹴るのは抵抗があるがッ! 妖怪ならまぁSAIAKUでも死にゃあしねぇよなぁあああああ!!!」

 いや、多分死ぬ。
 その衝撃波で後ろの木々が圧し折れていた。


【犯罪者データ】
殴野 万次(32) 懲役10年
−罪状− 傷害5件、公共施設破壊24件、器物破損13件


 戦う巫女たちを見て、息を荒くするジジイ。

「むふっ・・・ふがふが・・・! ふひひひひッ!
 かっ、かわいい巫女さん達かいっぱいじゃあッ!!」


【犯罪者データ】
江口 平助(62) 禁固3ヶ月
−罪状− 下着泥棒、住居不法侵入

52セツコ&巫女軍団:2011/05/30(月) 23:48:55 ID:c1.PBF/s
>>51

巫女A「……遊びがしたいなら別の場所にいけよ?」
あまりにも不幸すぎる渾沌さんに呆れながら、彼女は別の敵…トラックいや馬鬼と運転手を見る。

セツコ「なっ!?」
巫女A「ぐっ……いいぜ!!いいぜ!!!殺戮の舞台にしちゃぁ!!いい感覚だ!!」
セツコの攻撃を避けられ、巫女Aに迫る荷台が当たり、吹き飛ぶ…
が、咄嗟に霊気での結界をつくりダメージは少し防いだ。…がダメージはいっただろう。

巫女A「ホラヨッ!」
銃を捨てると、手榴弾を取り出し、安全ピンを引き抜きトラックに投げるだろう。


巫女B「ちょっ!?鬼ガード」
哀れな小鬼「呼ばr…アババババババ」
嫌な予感がし、顔を引き攣らせると、袖から小鬼を出し、小鬼にガスを吸わせた。
哀れ…小鬼は早い退場となり消えた。

巫女B「アハハ……私は楽しくないかな?けど全国のショタの為なら私は女の子にもセクハラはできる!私が勝ったら全国のショタの為に貴女のパンツをいただく!!」
そんな意味不明な事を言いながら、地面に手をやると何やら呪文を唱え始める。

セツコ「!?」ガキィン!!!
セツコは刀でなんとかソレを防ぐが、後ろに少し吹き飛ばされる。

セツコ「し…死にますよ!なななななんなんですか!?貴方、術師ですか!?妖怪でもおかしいですよ!!」
若干、涙目で抗議しながら、刀を居合で構える。
流石にコイツはヤバイ…私がなんとかしないとマズイと彼女でもわかった。

セツコ「《箒星》」
距離をとり、セツコが刀を振るうと、闇を掃う光のレーザーが殴野に放たれるだろう。





おい……予想してたけど一人待て!!っと中がツッコミをいれよう!
おじいちゃんから巫女Bとセツコのパンチラが見えるだろう。

巫女Bは黒パン!!

セツコは……

ふ ん ど し だぁぁぁぁぁぁあ!!!!!

535人の変質者:2011/05/31(火) 00:28:09 ID:tElbSrz.
>>52

 黒パンを目に焼きつけ、仏のような表情になる江口のジジイ。

『この平助・・・、生涯の思い出となろう・・・あぁ、素晴しき人生よ』


 放たれたレーザーを見据え、狂喜の表情を浮かべる殴野。

「む!? とぅあああああああ!!!」

 再び放たれる、タンカーのように巨大な蹴りがレーザーを吹き飛ばす!
 煙の中から現れた身体は傷だらけだが、レーザーをモロに受けたはずの右足には傷1つ無い!!

「俺よぉ・・・ビル爆破とか見るとすげぇ興奮してさ・・・。
 吹っ飛ばすのが好きなんだろうなぁ・・・、まさか爆薬や重機なんか使わなくても。
 自分の身体でその感触を味わいながらできるなんて・・・すげぇ感動してるんだよ」

 その足は・・・まるで磨きたての金属器のように鈍く、鋭く輝いていた!

「ククク、建物! 車! 金属! ありとあらゆるものを破壊してきたが・・・。
 レーザーすらもぶっ壊せるなんて感動だぜぇええええ! 流石ハガネの右足! 最強だぁあああああ!!」
『巫女服には下着を付けぬと聞くが・・・履いているからこそ良いのだ。
 そして黒というエッチな妄想を掻き立てるそのギャップがまた素晴しいのだ』

 欧野の背後に浮かび上がる、意外と強い妖気! これは名のある土地神と同格である!!
 その姿は・・・背中に笹の生えた、一本足の猪だった!!


−妖怪目録−
【 為笹王 -いざさおう- 】

 背中に笹の生えた巨大な猪。とある山の主とも言われている。
 一ツ目、一本足で記されていることが多く、一本だたらなどと同一視される。
 その力と凶暴さは凄まじく、暴れ狂うこの獣を倒すことはできず、封印するのがやっとだったと言われる。


「パンツ・・・? いいよ、あげる」

 やはり狂気じみた声がガスマスクの向こう側から聞こえる。

「コレ、吸って無事でいられたらねぇ・・・ッ!」
『ふんどしか・・・、なつかしいのぅ。婆さんの下着を盗もうとしてよく殴られたもんじゃわい』

 噴気孔から、濛々と黄褐色の煙が形を成す。
 それは風が吹いても霧散せず、ガスの欠点である風や扱いにくさを完全に克服した・・・意思ある猛毒だった。
 悪意を載せた煙は、地面に伏せる巫女Bに襲い掛かる!!


−妖怪目録−
【 煙々羅 -えんえんら- 】

 突如として現れる意思ある煙、詳細は不明。
 近年ではお化け煙突などの名で知られている。


「ふふふふっ! 吹きかけるなくても、充満させなくても!
 いつでも吸わせられる!! すごいでしょ? ねぇ、すごいよねぇ!!」
『懐かしい思い出に下半身がほっこりしてきたわい・・・おおおお、漲る! 漲るぞおおおお!!!』


「ぐぅああああああああああああ!!!」

 モンスターマシンは手榴弾の直撃を受け!
 運転席付近は吹っ飛ぶ! 更にガソリンに発火、激しく炎上しだした!!

 ・・・しかし、妖気は衰えない!!
『わしもまだまだ現役のようじゃのう・・・!』



 息も絶え絶えに、しかし笑みは崩さず。
 森の中を密かに移動する渾沌。

 予期せぬ自体にとっさに作戦を変更した、陽動作戦である。
 相手の戦力はあらかじめ窮奇に聞かされていたため、相手もあれは第一線でしかないことに気づいていたのだ。

「なぁ・・・オイ、俺も連れてけよ」
「!?」

 渾沌に声をかける、紅いオーバーコートの男。
 その声は明らかに渾沌の心中を見透かしているようだ。

「ボス格に会いに行くんだろ? 俺も連れてけよ・・・あんな雑魚共じゃあ不満だぜぇ・・・」
「貴方だけは・・・キュウちゃんに会わせなくて正解でしたよ」

 ニタリと笑ったその男と渾沌は、神社の本殿へと忍び込んでいった。


【犯罪者データ】
穂村 哲之(28) 死刑囚
−罪状− 殺人8件、連続放火、第1類危険物乱用etc

54牛神神社:2011/05/31(火) 01:01:10 ID:c1.PBF/s
>>53

セツコ「なっ!?」
セツコ(彼に憑いてるコレは…土地神レベルじゃないですか…私で勝てるか…)
セツコ(………けど《相手を殺さず…邪を掃う》)
セツコ「……貴方の…いえ貴方たちの…実力は確かに凄い」
セツコ「けど……私も護りたいのがあるんです」
再び、居合の構えをとり、相手の出方を伺う。
実力差でいえば相手の方が上、戦闘経験も……
だが《想い》は?


巫女B「…………《反逆者》藤原千方に仕えし《四鬼》の《一》よ。鬼使い…橘の名において、我と共に敵を撃て…」

ザァァァァァァァァァァァァアン!!!!!!!!!!

風でも霧散しないはずの煙々羅の身体を、《風》が突然阻んでくる…そして女事、木にたたき付けようとする。

何が起こった?

巫女B「おいでませ…《風鬼》」
風鬼「………」
立ち上がった彼女の横に、天狗のような恰好の緑の鬼が内輪を片手に持っていた

風鬼―――藤原千方に仕えた「四鬼」の一。城さえも吹き飛ばすほどの大風を起こし朝廷軍を苦しめた鬼。

風と煙……今戦いが始まる。


巫女A「さて…まだ相手は元気そうだな?」
そう言いながら巫女Aは、地面を蹴る。
するとそこが開き、中にはロケットランチャーが入っており、それを背負い構える。







姫さん「本当だね」
まだ本殿にはついていない最中なのに、何故か彼らに混じって《その親玉》がいた。
悪意も妖気も出さず……彼女は楽しそうにしていた。
コレはまるでラスボスが最初の街の外で雑魚に混じってエンカウントするようなものだ。


一方、本殿では巫女Cが姫がいないと騒いでたのは言うまでもない。

555人の変質者:2011/05/31(火) 22:21:43 ID:tElbSrz.
>>54

 セツコの言葉に昭和っぽい格好をした男は益々火がつく。

「HA−−−ッ! 面白れぇ!! 護れるモンなら護ってみな!
 全てを破壊する、この右足からよぉおおおおおおおおおおおお!!」

 為笹王は唸りを上げ、昭和風の男とのシンクロ率を上げていく・・・!
 憑依共鳴・・・! 窮奇の生み出した新しい妖怪と人の形!!
 その思想と感情にピッタリと波長の合う妖怪を憑依させることで!
 どちらかに主導権を渡すのではなく、共いに共鳴し思考と存在を同化させる。
 これにより霊媒体質や霊能力者以上に妖怪の力を引き出すことができるのだ!!

 やがて男の片目と右足は肥大化し、そこから大規模な陽炎が浮かぶほどの高熱を発し始める!

「喰らいなぁ! 破壊の右足ぃいいいいいいい!!!」

 その凶悪極まりない蹴りが、キャノン砲の如く放たれた!



「ヒィーーーーハァーーーーーーッ!!」

 炎上する運転席ではなく!
 荷台の方から耳を劈くエキゾーストと共に叫び声が聞こえた。
 突如、荷台のドアがぶち破られ! 何処かで見たことがあるだろうであるデザイン!
 ハーレーダビットソン社製の大型バイクが飛び出す!!

「舐めるなぁああああああ!! 俺は大型二輪車の運転も得意なんだぜぇええ!!」

 ブオンブオンとやかましい声と共に、再び嘶く馬の声!
 どうやら憑依対象をこちらに移したらしい。

「昭和の名機の力を思い知れぇええええええええええええええ!!」

 ウイリーをしながら高く飛び上がり!
 大質量のバイクが巫女Aに襲い掛かる!!



「なっ・・・!?」

 ガスマスクをつけた少女が恐れおののく。
 煙々羅をチラリと見据えるが、明らかに怖気づいている。
 呼び出されたそれは明らかに自分に憑いた妖怪よりも格上・・・!

 グルグルと表情のないガスマスクの裏で思考を巡らせるが、
 ハッっと思いついたように懐からペットボトルを取り出す。

「い・・・いいの? そんな風にしてさぁ!!」

 やたら厳重に封のされたその中には、
 透明な液体がチャポチャポと波打っていた。

「わかる!? コレはサリン!! 名前くらい聞いたことあるでしょう!?」

 サリン・・・。かつて第二次世界大戦でナチス・ドイツ軍が開発した神経性のガス。
 かのアドルフ・ヒトラーですらその使用を禁止したといわれる。

「これは硫化水素と違って低濃度でも充分殺傷能力がある!
 いいのかなぁ? そんな風に吹き飛ばすだけじゃあ・・・アナタはもちろん周り人たちだって死んじゃうよ!?」

 ペットボトルの蓋を回すような格好で、脅迫を掛ける。

56牛神神社:2011/05/31(火) 23:02:49 ID:c1.PBF/s
>>55

セツコ「《星掃》」
ただセツコは静かに…静かに目をつぶり、居合の体制をとっている。
《掃いの力》を――
《妖気》を――
《破邪の力》を――
ただ…ただ刀に込めている。

冷静に…心を落ち着かせ……
迫る《大砲》に対し!!

セツコ「《流》」

身体の体制を縦にし、小さな動きで紙一重に避ける……いや、腹部に掠ったがそれは生々しい傷を負う!!

セツコ「《星》」

だが彼女はそのまま《流れるような動き》で相手の腹部に向かい!!

セツコ「《軍》!!!!」
そのまま峰打ちでの《全ての力》を込めた、居合からの連撃を放とうとする。




巫女A「いいね!!いいね!!戦争は数ってか!!」
迫り来る大量のバイクに向かい………いや!!違う!!その前の《地面》に向かってロケットランチャーを撃つ!!
すると地面が吹き飛び砂埃が舞い、視界が遮断され、さらに…地面に大きな穴が空き、バイクが転倒する可能性が高い!

さて……例えば走ってる騎馬隊の前方の騎馬が急に転べば、その後ろの騎馬達はどうなる?

そして撃った瞬間、ロケットランチャーを捨て巫女Aは素早く右横へと転がり避けようとする。





巫女B「で?」
笑顔で首を傾げながら彼女は言う。
風鬼と共に近づく…近づく…

巫女B「毒って怖いよね?けどね……ここの神社の神様ってそれより酷い《毒》を持ってるんだよね」

楽しそうに…《パンツ》の為に!!《ショタ》の為に!!《少女》相手にも《変態》になれる《魔王》は邪悪に笑う!!

巫女B「さて問題……私が風鬼を出した訳は《煙》を飛ばす為ですか?」
牛御前の毒は、どんな毒より強い……
気付くか?《毒使い》?コイツらは神社の神…牛御前が暴れた時に大量の《毒気》を出されたら無事ではない!

その為の対策ぐらいはある!!

さらに!!彼女は知らないかもしれないが…キュウちゃんが現れた時に毒気に蝕まれた土や樹に彼女たちは《何》を使って治した!?

575人の変質者:2011/05/31(火) 23:30:06 ID:tElbSrz.
>>56

「ひっ・・・!」

 まったく怯まない相手に、ガスマスクの少女は慄く。
 なぜ驚かない? サリンだぞ、サリン!!
 
 じっさい彼女が持っているものはただの応急用の薬だった。
 そもそもそこらへんで売ってる洗剤で作れる硫化水素とは違い、
 サリンは特別な器具や工場がないと製造できない為に、一個人が持っているはずないのだ。

「〜〜〜ッ!」

 どうする? 選択の余地など無い。

「この・・・チクショウ!!」

 ペットボトルの中身をぶち撒け、
 硫化水素の煙々羅と共にを突進する!!



「効くかぁアアア!!」

 ウイリーしたバイクは飛び跳ね、易々とロケットランチャーの着弾を回避する!
 馬鬼が入っているのもあるが、この男。素のドライブでウイリージャンプぐらいはできるのだ!

「ヒャッハーーー! このハーレー!
 見た目は昭和でもエンジンはホンダの最新式なんだぜぇ!!
 独身ドライバーの財力舐めんじゃねぇええええええええええええ!!」

 この男曰く、車検は通るものではなく通すものである!
 回避した巫女Aに煙を上げるドリフトで、ピッタリと追いすがり!
 そのまま衝突する!!


「手応え・・・なにぃ!?」

 ギリギリで避けられる、キャノン砲のような蹴り。
 衝撃波で辺りの石畳は吹き飛ばされるが、相手はそれでは止まらなかったのだ!

 昭和の男と暴れる山神は、横をすり抜ける光のスターダストに一閃された

「ヌガーーーッ!!」

 僅かに踏みとどまったその足は、既に一般人のものと大差なかった。

「へっ、やるじゃ・・・ねぇか」

 どこまでも昭和の香りのする男は、そのまま地面に崩れ落ちた。

58牛神神社:2011/06/01(水) 00:06:44 ID:c1.PBF/s
>>57

巫女B「どうしたの?怖いの?お姉ちゃんが慰めてあげようか?」ワキワキ
嫌らしい手の動きをしながら《変態》は、風を放つ《風鬼》と共に近づいてくる。

巫女B「……貴女に」
懐から、姫が暴れた時の為に巫女たちがもつ《毒掃い》の力を込めた塩が入った袋を取り出し、ソレを、風鬼が放つ巨大な風に乗せる!

巫女B「悪い道に進まないように」
《毒掃い》の力を乗せた風が!!硫化水素の煙々羅と少女に向かい放たれ!!《毒》を除過しようとする!!

巫女B「《ショタ》の素晴らしさを私が一週間ミッチリ教えよう!!」
突進してくる少女の突進を避けながら《パンツ》を除いた、全ての武装を…《風鬼の加護》により得た《変態》がくりだす《風の刃》が切り裂こうとする。
やったね!おじいちゃん!出番だよ!


巫女A「来たか!!ガッ!!!」
衝突し吹き飛ぶ巫女A!!確実に骨が折れ、重傷をおった!!
だがぶつかった瞬間見えるだろう。

《邪悪な笑顔》と《三丁目の拳銃》が……

巫女A「チェック…メイトだぁっ…!!!」
ぶつかった瞬間に、相手の頭に向かい、引き金をひき銃弾を放つ。
放たれるのは《ゴム弾》だが……衝撃で脳を揺らし、意識を刈りとるのが狙いだ。

ソレをわざわざ狙ったのか…この女は!相手の的が絞られ、避けられない距離で、相手が油断するであろう…自分が攻撃される瞬間を!!!



セツコ「………貴方こそ…」グフッ
掠ったとはいえ…それでもダメージはデカイ!
刀を杖のようにし、支える。

セツコ「(……人数が足りない…神さまのところですかね?……けど私は追いつけない…)」
力を使い果たし彼女は動けないでいた。

自分ができるのは《仲間の勝利》を願うだけだった。

59真性の変質者:2011/06/01(水) 00:33:29 ID:tElbSrz.
>>58

(よし・・・ッ! イケる!!)

 すれ違いざまに煙々羅を直撃させれば!
 高濃度の硫化水素で一瞬で昏倒・・・に!?

「決ま・・・えっ!?」

 振りまかれた塩によって一瞬で煙々羅が消滅したのだ!!

「ひっ! あっ・・・あぁ!!」

 厳密には毒払いの塩により、硫化水素が分解され。
 それと同時に煙々羅が媒体を保てなくなって消滅したのだ。

 妖怪も毒ガスも失った毒島霧尾はもはやただの少女である。

「!?、い! いやっ・・・」

 さっきから驚いてばっかりだぞコイツ。
 半裸になった霧尾はそのまま胸を隠し、その場に蹲ってしまう。
 ガスマスクの下にあった表情はもう真っ赤。

 あとはズルズルとただどっちが悪役だかわからなくなった巫女Bになすがままである。



「思い知ったかーーーッ! これが昭和の名機の――!?」

 跳ねられてなお、自分に狙いをつける巫女に驚愕し。
 もはや回避も防御もままならず直撃を受ける!

「さ・・・流石は稀代の名機・・・。人は殺せぇねぇ・・・カッ!!」

 そのままバイクから転がり落ちる男。
 そのままバイクは暴走し、横滑りに走りながら樹木に衝突!
 大破した。



「やれやれ・・・不甲斐ないのう」

 そして。ようやく頭角を現す、江口平助!!
 目線は霧尾の方しか見てないが、凄まじいプレッシャーだ!!
 その背後には台風のように辺りを覆いつくす妖気が浮かび上がる!!

「ククク・・・、我等5人の中で!
 最強の妖怪とシンクロ率を誇るワシの実力! 見せてくれよう!!」

 このジジイ! 妖怪と完全にシンクロ・・・いや最早に融合の域に達している!!
 そして、その背後に浮かび上がる! 無数の顔を持つ巨大なキノコ!!
 こいつは・・・ッ! この妖気は・・・!!

 なんということだ・・・! ジジイの下半身は最早エベレスト!!
 霧尾を半裸にしたことで覚醒してしまったのだ!!


−妖怪目録−
【 魔羅 -まら- 】

 波旬同様、天魔として名を記す仏教上の絶対悪。
 欲望の権化であり、釈迦の成道を最後まで妨害した魔王。
 その存在や姿形はアレそのものであるという。

60牛神神社:2011/06/01(水) 00:58:22 ID:c1.PBF/s
>>59

巫女B「さて♪確かパンツくらいくれるんだよね?」ニパーッ☆
《パンツ》一枚になった少女に向かい、彼女は笑顔で近づき、風鬼の力により少女を浮かばせる。

巫女B「さあ…貴女も

   シ   ョ   タ   コ   ン   に   な    ろ   う
      」

セツコ(ごめんなさい…今の私じゃ…美月を止められません……)
セツコは申し訳なさそうに少女の行く末を見ている。

……………………………………………………………うん。どうしてこうなった?
そのまま巫女Bと共に彼女は神社から離れた彼女の家まで連れてかれ、《ショタコン》になる《教育》をされるだろう。
………下手したら《百合》にも目覚めてしまうだろうが。


巫女A「………がっ……骨何本折れたんだ……」
血を吐きながらフラフラと立ち上がる巫女A

セツコ「……なっ!?」
圧倒的なプレッシャーと妖気にただ一人、怯えるセツコ!

勝てるのか?アレに!?
無理だ!!無理だ!!ムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダムリダ!!!

そんな絶望的な状況…

巫女A「ちいせえな」ハッ
……………………巫女Aさん?おじいちゃんのチョモランマ見て何て言いました?ってか嘲笑ってませんか?

巫女B「さあさあ《ショタコン》の素晴らしさをぉぉぉぉ!!」
巫女Bさん?貴女は霧尾ちゃんしか見てないの?もう拉致する気満々だよね!?
そんなにショタコンを増やしたいのか!?















セツコ(………もう、やだ……)
おい!!!!唯一の善意がもう泣きそうな顔してるぞ!!!頭抱えてるぞ!!
なんかセツコ以外、悪人しかいないぞ!?

61セツコ中:2011/06/01(水) 00:59:46 ID:c1.PBF/s
間違えた!!

チョモランマ→エベレスト
です

62真性の変質者:2011/06/01(水) 01:11:14 ID:tElbSrz.
>>60

「ぬははははははははッ!! みるが『良い』!!」

 巫女たちの中心に巨大なキノコが生え!
 金の法師を振りまいていく!!

 その邪悪な波長に、この場の者が全員支配されるだろう!!

「これが天魔の力よ! この波長に当てられた者はッ!!
 皆が皆ッ! 身体がムラムラして服を脱ぎたくてしょうがなくなるのだぁあああ!!」

 その天魔の欲が辺りを支配した!!
 そしてまっさきに支配されたのは!!

「ぬおおおおお!! 身体が熱いのぅううううう!!」

 他ならぬ江口のジジイ!!
 オイやめろ! その状態で全裸になるのは危険だ!
 いや、全裸になって『良い』時なんてないけどッ!!



※ちなみに魔羅は人間の持つ欲そのものなので、
  誰とでもわりとあっさりシンクロします。

63牛神神社:2011/06/01(水) 01:28:57 ID:c1.PBF/s
>>62

キノコの登場に……マズイ!!マズイゾォォォォオ!!!!!

巫女A「ちっ…!?」ウズウズ
巫女B「ぁ…暑くなって来た」ヌギヌギ
胞子にあてられ、巫女Aが顔を赤くしながら服を脱ごうとするが痛みでなんとか理性を保ち…

巫女Bは……この人…完全に脱いでる………

そしてジジイの全r…《ブチッ!!》

……………ブチッ?

何かが切れる音が聞こえた。
そちらを見ると…

セツコ「いい加減に……」ドドドドドドドド
怒りの笑顔を出しながら、限界の筈なのに《掃いの力》を溢れ出し、おじいちゃんに向かっていく!
辺り一面の欲を掃って行こうとする!

セツコ「してくださぁぁぁぁぁぁぁぁあい!!!!!!!!!!!!!!!!」
そして、何かもうブチ切れちゃったセツコの蹴りがおじいちゃんのエレベストに!!!!

セツコ「………ぁぅ」
そして成功失敗問わず、色んな意味で限界になったセツコは意識を手放した…



…………………では場面と気分を切りかえて、渾沌さんたちのところいきますか?

64渾沌 & 穂村:2011/06/02(木) 21:32:41 ID:tElbSrz.
>>54

「!? 貴方、一体なにやって・・・」
「あ? コイツが例の毒使いの親玉だろ?」

 穂村は鎖を引くと、数人の拘束された人間がゾロゾロと現れた。
 目隠しや猿轡をされ、そのほとんどが女子供である。

「じゃあこうやって、一般人をおとりに使うのが一番効果的じゃねぇか」
「貴方という人は・・・ッ!」

 さぁ、という穂村の声と共に。
 人質であり手駒である者達の鎖が解かれる。
 その全員は、額に蝶のような死紋を浮かべていた!

「ククク・・・ひゃはははははははっ!」

 穂村の背後から無数の黒い蝶が噴き出し、辺りを覆いつくした!


−妖怪目録−
【 蝶化身 ‐ちょうけしん‐ 】

 死神の一種である黒い蝶。


 虜達は怨霊のように、姫に掴みかかって行く。
 夥しい数の飛び去る蝶の隙間から、拳銃を構える穂村の狂気の表情が見えた。

65姫さん:2011/06/02(木) 21:59:35 ID:c1.PBF/s
>>64

「あら……中々の外道ね」
その様子を見て姫は感心した。
怒りでも悲しみでもなく…相手の外道っぷりに…

「素敵」
惚れ惚れとした。

何故?
彼女は人が好きだ。
自分達を恐れる人が好きだ。自分達を怖がらない人が好きだ。妖怪を倒す人が好きだ。妖怪を助ける人が好きだ。妖怪に助けられた人が好きだ。成長の可能性がある人が好きだ。自分を倒す人が好きだ。自分を倒す為にどんな手段を使う人が好きだ…っと狂っている程、人を愛してる。

だから貴方みたいな人間は大好きだ。

「貴方のその戦い方いいわ。勝つ為なら…いえ、殺す為なら女子供もゴミのように使う戦い方」
ワラワラと女子供に捕まり、彼女は身動きが取れない。
暴れれば簡単にこの場にいる女子供を殺せる。しかし彼女はしない…

「実に効率のいい。私への対応。私が暴れたり、毒を使えば《私を楽しませる可能性》のある大好きな人間の子供。それを産む可能性がある女性を殺さないといけなくなるから使えはしない」ニヤニヤ
悪意が篭った笑顔で笑う。笑う。











「けどね」
次の瞬間、場の空気が一変した。
寒いのに冷や汗をかかせるこの感覚は?

なんだコレは?この殺気か?怒りか?
…けど彼女は相手の外道を褒めてた。

ではなんだ?

速く姫を殺さないと…マズイ……自分が殺られてしまうと感じそうなコレは……

66渾沌 & 穂村:2011/06/02(木) 22:04:33 ID:tElbSrz.
>>65

「なっ・・・!?」

 ゾクリとした。
 介間より見えた、冷酷な微笑に。

 自分でも狂っていると自覚する穂村が、戦慄するほどに。

「ッ!! 死ねバケモノぉおおお!!」

 拳銃を乱射する。
 乾いた、発砲音が連続した。

67姫さん:2011/06/02(木) 22:25:18 ID:c1.PBF/s
>>66

「……………………ナメテルノカ?」
まずは右腕の一降りで周囲の女子供を上空へと《どかす》
力加減はされてるのか、木々がクッションになったのか怪我はなく、木々にひっかかるだろう。コレで女子供に銃弾が行く事もないだろう。

続いて左腕の一降りで、左手に多少怪我ができるものの、その銃弾を叩き落とすだろう。

「もっと良い手段あるよな?例えば…さっきいた、うちの巫女たちを操るとか…銃じゃなく爆弾使うとか…あの操ってる人間に爆弾持たせ自爆特攻させたり、ソコにいるびびってる人間を囮に使わせたりよ……人質のフリさせて助ける私を人質で殺させたり、まだまだ《方法》はあるよね?」
言うのは先程貴方がやったやり方よりも《外道な戦法》

ザクッ…ザクッ……
まだ《人間》の姿なのに…そういう形の《妖怪》とも感じさせるような…《異常なモノ》

冷たい表情で…焦る相手を見下すように……

「《妖怪》味方につけて、そんな《戦法》しか考えられないのか?」
……誰だ?彼女は《毒》が《最大の武器》といったのは?

「私の愛した人間は《その程度しか成長しないの?》」
違う…彼女の《最大の武器》は?

「私を楽しませてよ?」
「愛しい人間?」ゾクッ!!
この異常な《人間愛》だ…

このままで銃弾切れになり、彼女に近づかれる……どうする?どうする?

《恐怖》が…《異常》が…《悪意》が…


    ち   か    づ  い   て  く    る   ぞ   !?

68渾沌 & 穂村:2011/06/02(木) 22:32:42 ID:tElbSrz.
>>67

「う、うああああああああああああ!!」

 は、話と違うじゃないか!
 あの女は・・・ッ! 窮奇は人が好きな妖怪だといっていた!
 だから嬲り殺すつもりだったのに!
 今までやってきたように、弱みを握って脅迫して!

 そのまま叫びを上げて、無数の蝶を姫に纏わりつかせる!

「死紋蝶!!!」

 黒い蝶が炸裂し、死を撒き散らした!
 妖怪や神格にも効く、魂を散らす爆撃だ。

 これを使って先ほどの手駒を脅迫すればよかったのだろうが、
 もうそんな冷静なことなど考えていなかった。

 姫の顛末すら見届けず、そのまま背を向けて走り出す!
 木々を掻き分け、どこともいわず。
 ただ姫から逃走しようとした、ただ姫から離れようとした。

69姫さん:2011/06/02(木) 22:53:53 ID:c1.PBF/s
>>68

間違ってない。
確かに彼女は人が大好きな妖怪だ。人から産み落とされた鬼の妖怪。
だから人が好きだ。だから鬼と呼ばれ人に命を狙われても人を愛した。

……………故にその《愛》は《異常なモノ》なのだ。

窮奇もわかってはいただろう…この《異常な愛》を……

「……馬鹿ね…」
姫の顔が鬼のような顔になり、頭に牛の角を生やした姿になる。
すると、ボワァーっと《毒気》が彼女の周りを囲み、《死気》と相殺させようとする。


「……私じゃなくその《蝶》に殺されるわよ?」
真実はわからない。コレは彼女のあくまで予測だが…
あんな強い妖怪が彼に、《殺すという目的》でシンクロしてる《蝶化身》が目的を放棄して、恐怖に満ちた《人間》に《蝶化身》が《憑いていられるか?》

《死》にいたらす対象が《穂村》にいくのではないか?

そんな予測をし悲しそうな表情をする姫。

左手からポタポタと血を流しながら。

「……さて、次は貴方ね」
そして渾沌の方を見るだろう。

70渾沌 & 穂村:2011/06/02(木) 23:03:17 ID:tElbSrz.
>>69

「なっ・・・!」

 穂村の中で何かが抜けていった。
 姫の言うとおり、この小さな死神達は穂村の常人離れした残虐性と、嗜虐趣味に寄り付いたのである。

「い・・がぁあああ!!」

 彼の体から無数の黒い蝶が湧き出し、
 肉体を食い破って何処かへ飛び去っていく。
 ズタズタに引き裂かれた無残な屍骸から、黒い蝶の大群が飛び去っていった。


「そうですねぇ!」

 言うが早いか、渾沌は既に姫にショットガンの銃口を向けていた!
 轟音と共に、無数の散弾が姫を撃ち抜く。

「ふぅーー・・・すいませんキュウちゃん。
 ワタクシは結局、彼等の内の誰一人として纏め上げることができませんでした・・・」

 煙を上げるショットガンを再び向け更に撃ち抜く!

「しかし! 目的は絶対に達成して見せましょう!!」

 ガチャリ、とリロードし。
 再び2発の弾丸を弾倉に込めた。

71姫さん:2011/06/02(木) 23:19:27 ID:c1.PBF/s
>>70

「………ごめんなさい。私は貴方を助けられなかった」
穂村の結末に…彼女は涙を流す。
確かに《異常な人間愛》を持っているが…それと同時に《普通に人が好き》っていうのも彼女は持っている。
だから彼女は《神》として奉られてるのだろう。

故に《異常》



「うっ…ぐはっ…」
身体を打ち抜かれ、口から血を吐く。

「ふふふふ!ハハハハハハハ!!!!それこそ人間!!!!恐れず!!立ち向かい!!!目的を成功するために迷いもない!!!!!!」
二発目の散弾に対し、左腕を振るい、地面にたたき落とそうとする。左腕が再び負傷し、血をポタポタと流す。

「貴方みたいな人間は《大好き》よ!!!」
ダッと駆け出し、リロードの隙を狙い、鋭い爪をもった右腕で、渾沌の左肩から斜めに振り落とそうとする。

………《毒》も《完全な牛御前》の姿には今の彼女はなれない…

何故?先に穂村が操った人間達が木の上で気絶してるからだ…

ここで彼女がソレを使えば《殺して》しまうからだ……

故に穂村の行動は無駄ではなかったと言えよう。

72渾沌:2011/06/02(木) 23:37:33 ID:tElbSrz.
>>71

「グッ・・・!」

 渾沌は後ろに飛びのき、姫との距離をとる。
 鋭い爪が腕を裂くが、肉が蠢き傷はすぐに閉じた。

「ふふふぅ・・・好かれたのは久しぶりですね。
 願わくばその言葉、キュウちゃんに言って欲しかったですよ」

 ライターを取り出し、自らの服に火をつけた。

「貴女は先ほど自爆特攻と言いましたよね、
 まったく・・・狂愛者の発想は似るものなのでしょうか?」

 渾沌は火のついたパーティースーツのボタンを外した。
 その燕尾の上着の内側には・・・。

「愛というものは不思議なものです、貴女が全ての人を好きだとというなら。
 ワタクシは全ての人に嫌われてでもたった一人を愛しましょう。
 いかに気持ち『悪い』と言われようと、ワタクシはたった一人に全てを捧げましょう」

 狂気の沙汰にも程がある、無数のダイナマイト!!

「ふふふふふふふぅッ! さぁ見晒せ! これがワタクシなりの愛の形です!!」

 そのまま姫に突進する。
 火のついた上着は、やがて爆索に着火し・・・

73姫さん:2011/06/02(木) 23:49:07 ID:c1.PBF/s
>>72

「へぇ…………羨ましいわね」
相手が服に火をつけ、ダイナマイトを装備した渾沌を見て、笑う。

「貴方が死に行くのなら止めはしない!!受け止めよう!!背負う!!貴方の《カッコイイ生き様》をっ!!!!!」

ここで彼女の取った行動は……周りに被害を出させない為に…

「ブルァァァァア!!!!」
渾沌が突撃した際に、巨大な牛のバケモノの姿になり、暴れず…渾沌を下敷きにし、巨大なダイナマイトの爆発を彼女の腹で受け止め、周りの人間達に被害を与えない為だろう。

だがソレはいくら頑丈な完全な牛御前の姿の彼女でもただではスマナイだろう。

74渾沌:2011/06/03(金) 00:00:49 ID:tElbSrz.
>>73

「!?」

 突然の変化。
 毒気はないようだが、それでも渾沌は足を止めない。

「ぐふぅ・・・ッ! だがッ!!」

 その巨体で圧し掛かられる。
 体中の骨の軋む音がしたが、何のことは無い。
 どうせすぐに用済みになるのだ。

(やはり避けなかったな・・・!)

 その心中を見抜く。
 渾沌はあのサイコ集団などより、この姫に似ていたのかもしれない。

 不器用で、不恰好で、不気味なくらい狂った。
 以上で過剰な狂愛。

 決して受け入れられないことを承知しながらも、
 それでも愛して止まない・・・何かをしてあげずにはいられないのだ。

「キュウちゃんの未来に、幸多かれ!」

 辺り一体を吹き飛ばすほどの爆風が、姫の身体に炸裂した。

75姫さん:2011/06/03(金) 00:15:04 ID:c1.PBF/s
>>74

「っっっ………!!!!!!!」
周りに被害が出ないように、彼女の腹で全て受け止める。
口から大量の血液を、滝のように流し、腹から肉片をぶちまけながらも、吹き飛ばないように堪える。

「……はぁ……ぃぃ…ぉとこ…だ…な……ゴハッ!!!」
爆発が収まり、人間の姿になり腹がグロイ事になってるもなんとか生きている………がしばらくは動けそうにもない…

自分と似た人間…あぁ……悲しいな……出会いが……違ったら………よかった……の……n

姫の意識は途絶えた

巫女C「姫!!無事なの…!?」
巫女C「治療はぁぁぁぁぁあん!!!速くこいなのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!姫がぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!姫がぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
姫を探しに来た巫女Cがソレを見つけ、慌てて叫びあげる。

渾沌のおかげで、しばらくは姫が命にかかわる重傷を負い、牛神神社の力は弱まった…

ソレはどんな結果をうむのか…今は誰もわからない………

76牛神神社騒動、その後:2011/06/03(金) 00:49:41 ID:tElbSrz.

 爆発と轟音、そして暴走車の乱入。
 様々な事象に通報が入り、牛神神社に警察が調べに入った。

 拉致された異常犯罪者のうち、二人の身柄は確保された。
 それほど離れていない森の中で、酷く欠損した死体を発見。
 持ち物やDNA鑑定から、要警戒人物だった穂村哲之であることがほぼ確定した。

 神社の関係者等に捜査を進めているが、爆発後などがあることから。
 穂村自身が持ち込んだ爆薬が暴発し、被爆したという線が濃厚である。

 なお、この集団拉致事件の首謀者であると考えられる。
 犬井信司の消息は未だに判明していないが、犬井財閥の株価は底値を打ち。
 上昇傾向になると見られている。

――とある新聞の一面より

77天に逆する石積みの塔にて・・・:2011/06/05(日) 12:13:57 ID:tElbSrz.


 恐怖の名を冠する二人の妖怪。
 道切り地蔵の異天空間に、わいらが積み上げた巌窟の城の最奥にて。

 三千年前の装束を纏う窮奇は、独り言のようにポツリと呟く。

「火蜥蜴・・・道切り・・・わいら・・・そして渾沌」

 ふぅ、とため息をつき。
 やれやれとも言いたげなポーズをとった。

「やーってらんないね、私以外の紫狂は全滅じゃないか」

 しかし、ふと思いついたように。
 自分の言った言葉を訂正する。

「いや、一人残ってたね。あと波旬と巴津火は・・・除外かな。
 コイツ等は別に不幸の探求者でもなんでもないし」

 建物全体に張り巡らせた逆心の触手に幾つかの触れるものを感じ、
 頬を緩ませて安物のソファーに座り込んだ。

「『良い』よ、おいで。私の・・・いや。
 紫狂の百鬼夜行が完成する前に、キミとだけは決着を付けようじゃないか」

 窮奇の背後にて、夜行の主の証たる深遠の存在がドクリ、と胎動した。

78織理陽狐/送り妖怪戦闘部隊:2011/06/05(日) 12:37:55 ID:DDrxEC0A
>>77
――数分前。
どろりとした悪意に満たされた巌窟の城の歩廊に、幾つもの足音が響いていた。
暗闇の中に、橙色の炎を揺らめかせる提灯が、ぼんやりと浮かび上っている。
それを片手に携えた、白い着物に羽織りを身繕った狐を先頭に、
後方を、東雲、四十萬陀、そして袂山の送り妖怪たちが着いて歩いてた。

「……マジで、ここに窮奇がいやがんのか」

東雲が辺りを見回しながら、忌々しげな声を前方に投げた。
この空間へ至るまでの道は、織理陽狐の提灯が導いたものだ。

彼の後ろに着く四十萬陀がごくりと喉を鳴らす。
そもそもは織理陽狐一人が出向くつもりだったが、無理を言って東雲や四十萬陀たちも着いてきたのだ。
窮奇との因縁に、決着を付けるために。

何時になく硬い表情を浮かべる織理陽狐は、迷いない足取りである場所へ向かっていた。
最後の戦いへ、提灯が導く先へ。



不意に、織理陽狐が足を止めた。
次いで東雲がはっと目を見開く。
彼らの視線の先には、安っぽいソファに体を預ける、彼女の姿があった。


「待たせたな、窮奇」


金色の瞬く瞳に、窮奇が映った。

79窮奇:2011/06/05(日) 13:06:55 ID:tElbSrz.
>>78

「やぁ、いらっしゃい」

 ニタニタと、あの悪意だらけの笑みが広間の最奥にて出迎えた。
 背後の巨大な樹は、織理陽狐や袂山の皆々を見つけると激しく胎動し。
 まるで数多の蟲が連なったかのように大きく揺らめき、
 毒々しい緑や赤の光を発する。


−妖怪目録−
【 夜行神 ‐やこうがみ‐ 】

 詳細不明。


「待ったよー、今か今かと。
 まぁこっちもそれなりに忙しかったからジャストタイミングかな?」

 窮奇は背後の毒々しい世界樹を指差し、挑発するように語り掛ける。

「ごらん、私の後ろにあるコレが私の百鬼夜行だ」

 その言葉が意味するものは何なのか。
 しかしその疑問を遮るかのように、ただ1つ呟く。

「まぁみんなに言うと混乱しちゃうからね、織理陽狐くんにだけ教えてあげよう。
 他の皆さんは・・・別の部屋で彼等がお相手するよ」

 突如! 織理陽狐と袂山の皆が岩壁で分断され!
 恐ろしい速さで天逆楼の両端へと弾き出されてしまう!


 犬御達の場所には、貪欲渦巻くおそるべき魔王が。
 七生達の場所には、嫉妬逆巻くおぞましき使いがそれぞれ待ち構えていた。

80織理陽狐/送り妖怪戦闘部隊:2011/06/05(日) 13:38:14 ID:DDrxEC0A
>>79
織理陽狐らの視線は、窮奇からすぐに背後の、胎動する巨大樹へと移った。
見上げれば、毒々しく発光する明らかに異質なそれが視界を占領する。
得体の知れないものに対する恐怖が、彼らの背筋を凍らせた。

「何、あれ……!?」

四十萬陀の声が恐怖でうわずる。
「七生、落ち着くのよ」と五月が自分に言い聞かせるように宥める。

織理陽狐は睨むように巨大樹を一瞥する。
窮奇の百鬼夜行であるという、禍々しいそれ。
だがいつまでも眺めるということはせず、窮奇に視線を戻す。

「どういう意――、っ!!」

激しい音と共に、地面が大きく揺れる。
織理陽狐が背後を振り向くのと同時に、岩壁が彼の視界を覆った。



「きゃあぁぁ!!?」
「ちッ!!」

東雲が四十萬陀に手を伸ばすも、届くことなく遮断された。
天逆楼の端に弾きだされた送り妖怪たちは、固い地面に投げ出された。
衝撃に倒れ込む四十萬陀の元に、翠狼が駆け寄る。

「七生姉さん、大丈夫ぜよ!?」
「痛たた……うん、平気じゃん。皆、怪我はない!?」

他の仲間たちも、遅れながら立ち上がる。
しかし、そこに東雲と和戌の姿はなかった。

「犬御の兄さんと和戌とは離れてしまったみたいぜよ」
「そんな……、!?」

四十萬陀が辺りをきょろりと見回す。
視界の奥に、悍ましい魔王の使いが映った途端、彼女の表情は凍りついた。


「七生たちとは離れたみたいだね……」
「くそッ!!」

忌々しげに岩壁を殴ると、東雲はゆるりと振り向いた。

「仕方ねェ……さっさと目の前の奴をぶっ殺して、七生を助けに戻るぞ」

頷いた和戌が、背後に首を動かす。
彼らの視線の先には、魔王が待ち構えていた。




「……どういうつもりじゃ」

行く手を阻む岩壁を睨みながら、織理陽狐が呟く。
だが窮奇に向き合った織理陽狐の顔は、意外なほど落ち着いていた。

「あやつらにあまり舐めてかからぬ方がいいぞ」

その言葉は、自信に満ち溢れている。

81窮奇:2011/06/05(日) 14:04:03 ID:tElbSrz.
>>80

「舐めてないからこそだよぉ」

 ニタニタと悪意のある笑みが、織理陽狐を射抜いた。

「下手に感情逆撫でして・・・。
 コレを破壊されたらたまったモンじゃないからね」

 夜行神の幹には幾つもの目玉のような水晶が浮かび上がる。
 その毒々しい緑や赤の羊水の中に、胎児のような存在が蠢いていた。

「ねぇ・・・、妖怪はどこからやってくると思う?
 百鬼夜行って・・・そもそもなんだと思う?」

 どこか愛おしそうに目を細めて、その胎児を眺めていた。

「その答えがここにある」



 巌窟の右端にて待ち受けていたのは。
 貪欲ゆえに、全ての強さを手に入れようとし。
 全てを捨てざるを得なくなった、欲望の権化・波旬。

「チクショウ・・・あんな、あんな要らない物1つのために・・・。
 全部捨てなきゃならないなんて・・・チクショウがッ!!」

 貪欲という特性は・・・、要らぬ物を断ち切る力には乏しく。
 たった一つの力を捨てる為に、波旬は数百余りの力全てを失わざるを得なかった。

 怒り心頭の波旬は、突如入ってきた侵入者をギロリと睨み付ける。

「はぁー、ふぅーんなるほどねぇー」

 イライラとした表情で犬御達を見据える波旬。
 貪欲が入ってきた者共の心を覗き見て、写し取る。

「冗談じゃない! あの女は私が殺すんだ!!
 ・・・でもどういうわけだかよくわからないけど丁度『良い』」

 ニヤニヤと窮奇に似たあの顔で笑い、おぞましい妖気が溢れ出す。

「お前等全員! 私の強さの肥やしにしてやるよッ!!」

 古の神児服を着た波旬に、犬神の紋章が浮かび上がった!



 七生達が入った瞬間!
 白い槍が噴き出し、辺りを輝く銀盤へと変え。
 入り口を完全に封鎖してしまう。

「針山十合目! 頂下し!!」

 石英の槍が入って来た者達を牽制するように包囲した。

「姉様の望み・・・絶対に邪魔させない」

 少し背伸びした口紅を塗った黒い翼の少女が語りかける。
 それは・・・、繋ぎとしてもう必要なくなった獄門鳥の身体に寄生した出口町だった!!

82織理陽狐/送り妖怪戦闘部隊:2011/06/05(日) 14:31:14 ID:DDrxEC0A
>>81
様子を変えはじめる夜行神に、織理陽狐が視線を移す。
――どくり、どくり
身体に直接響くような胎動を繰り返す巨大樹。その内に潜む「胎児」を見て、
織理陽狐は目を見開いた。

「これは……」


東雲らの前に立ち塞がる、貪欲な魔王。
苛立つ彼女から溢れだす妖気に、しかし二匹は一歩と引かない。
波旬の強さは百も承知。
覚悟は、この城に入った時から完了している。

「ムカつく顔しやがって……和戌!!」
「わぁかってるよ!」

掛け声と共に、和戌が突如その姿を変えた。
胸にサラシを巻いた、橙色の短髪の女に。
今まで、和戌は変化などできないはず、だった。

「あんたらを倒す為に強くなったのは犬御だけじゃないんだ」

波旬を指差し、戦闘の構えをとる。
ごおっ!! と炎が噴き上がり、和戌の腕や足を取り巻きはじめる。
同時に犬御も、鋭利な風を爪に纏わせる。

「肥やしになるのは、テメェの方だ!」



「!?」

石英の槍が、突然に辺りを包囲する。
送り妖怪たちが恐怖や威嚇を混ぜた視線を、出口町に向けた。

「君は……あの時の!?」

四十萬陀は驚いたようにいうが、ぶんぶんと頭を振った。
もう一度顔を上げた時は、覚悟の据わった表情で。

「悪いけど、行く手を阻むつもりなら」

四十萬陀は、その姿を小さな雀に変え、翼を広げた。
送り妖怪たちがゆっくりと動き始める。

「五月、双葉!!」
「了解っ!」「……」

掛け声と共に二匹の送り雀が飛び上がる。
石英に包囲された銀盤に、視界を阻む薄霧が包み始める。
彼女らの戦闘セオリー、その一だ。

「――無理矢理にでも進ませてもらうじゃん!!」

83波旬/出口町 入江:2011/06/05(日) 15:25:31 ID:tElbSrz.
>>82

「あはははははははッ! そうか、強くなったのか!!
 私達を倒す為にッ!! じゃあその力・・・遠慮なく頂こうか!!」

 おぞましき貪欲の波長が辺りを支配した。
 波旬は右手に犬御のカマイタチを、左手に和戌の焔の爪を写し取る!!

「何を驚いているんだい? 忘れたかい!
 私は誰にでも成れるし、誰よりも優れているんだ!!」

 その妖気の大きさは!
 二人のおよそ倍! まったく同じ力を倍化させて奪い取ったのだ!!

「取るに足らないがそれなりに『良い』力だね!! あははははははははッ!!」

 高々と笑いながら、その両手を合わせ。
 風と炎の混じった砲弾を装填する!
 それは・・・二人の力を倍化させ、さらに融合させた恐るべき灼熱!!

「炎刃砲!!」

 灼熱の光球が、風の速さで撃ち出された!!




「ダメ! 絶対・・・、進ませない!!」

 飛び立つ送り雀達を睨み、固い決意の言葉を放つ。

「針山九合目・尾根渡り!」

 石英の薙刀を作り出し、霧の中に構える。

「姉さまの邪魔だけはさせない・・・! この身体だってくれたんだ!!
 消されかけた私をちゃんと女の子って言ってくれたんだ!!」

 その不相応に大きい薙刀を振りぬき、
 石英の弾丸を撃ち飛ばす!

「お前達なんかを姉さまに近づけるか!!」

 しかし・・・その中にはどこか迷いがあった。
 あの狐も・・・織理陽狐も自分のことをしっかりと見ていた。

 姉さまとあの狐・・・どちらが正しいのだろうか?
 いや、でも。少なくとも目の前の者達は姉さまの敵、全力で対処する!!

84送り妖怪戦闘部隊:2011/06/05(日) 15:54:37 ID:DDrxEC0A
>>83
「くっ……」

そっくりそのまま、炎と鎌鼬を写し取られる。
更に、その力は倍ときた。
分かってはいたが、強力な能力。和戌は苦々しく顔を歪ませる。

そして、風と炎が混合された炎刃砲が撃ち出された。
二人に目掛けて飛んでくるそれに合わせて、和戌と東雲も能力を混ぜ合わせた。
炎と風の盾が、炎刃砲とせめぎ合う。
だが、その力は自分たちの倍。
力を混ぜ合わせた、その倍の力に、次第に押されていく。

「ぐッ……、犬御!!」
「!?」

このまま押しつぶされては共倒れだ。
和戌は、隣の東雲を蹴り飛ばした。
突然のことに対処ができず、犬御は横に放り出される。
そして次の瞬間、和戌は炎刃砲に吹き飛ばされた。

「和戌!!」

東雲が叫ぶ。
ぐぐ、と体を持ち上げた和戌の全身が、焼け焦げていた。

「厄介な力だね……」




石英の弾丸が飛散された。
しかしこの霧の中、狙いの定まらない弾丸を送り妖怪たちは軽々と避けていく。

「窮奇は私たちの仲間をたくさん傷つけた。お返しはするじゃん!」

四十萬陀は一人高く舞い上がると、次々に仲間たちに指示を飛ばした。
双葉の力により、霧の内部でのみ、送り妖怪たちの思考が共有される。

戦闘セオリー、その2。
“炎水包囲”

出口町の周囲を、一斉に四匹の送り妖怪が取り囲む。
翠狼に加え、送り犬、送り雀、送り鼬。
それぞれが水弾、炎弾を出口町に向けて放った。
だが本来、炎水包囲は五匹、和戌を加えて完成するものだ。
一匹がいない分、穴が空いてしまう。

85波旬/出口町 入江:2011/06/05(日) 17:22:00 ID:???
>>84

「厄介? どうしようもないの間違いだろ!!」

 風の力を足に纏い、貪欲の魔王は高速で詰め寄った。
 その炎熱の手が、和戌の首を掴む。

「あはははははッ! ザマァ見ろ雑魚が!!」

 ジリジリと、焔が和戌の肉を焼く。

「ところでそこの薄汚い狼、これ見てどう思う?」

 貪欲は更に犬御や和戌の魂を覗き見る。
 その性格の悪さは、確かに魔王たるドス黒さをむき出しにしていた。

「悔しいだろ? 悔しいよね! お前があんな風にまでして手に入れたかった力を!!
 こんなにアッサリ手に入れちゃうんだからさぁ!!!」

 ただただ優越感に浸りゲラゲラと笑っていた。
 その力の意味や使い方に一切の疑問も持たず。
 ・・・だから窮奇にも見限られたのだろう。

「私は窮奇を殺して、今度こそもっと完璧に転生する!
 もっともっと・・・強くて完璧で! 最高の妖怪に成るんだぁ!!!」



「・・・ッ!?」

 周囲から放たれる炎弾と水弾を翼で受けるが、
 その翼は水圧に折れ、大きく煙を上げる。

「グ、ギギ・・・よくも! 姉さまから頂いた身体を!!」

 回る獣達の僅かな隙、本来は和戌が埋めるべき場所をとっさに探り!
 大きく跳躍して陣の中から脱出する!

「何がお返しだ! お前達まともな妖怪だって・・・!
 私の仲間を・・・、紫狂の友達を奪っていったじゃない!!」

 その涙をいっぱいに溜めた瞳で、仲間達と戦う送り妖怪達を憎憎しげに見つめる。
 その想いは嫉妬か、憎しみか。
 否・・・ただの八つ当たりなのかもしれない。

 織理陽狐によって、嫉妬の念はほとんど解けていたが。
 彼女を未だにここに縛り付けている想いは・・・。
 無理矢理掘り起こされたとはいえ、四十萬陀と同じ仲間意識からだった。

「あなた達なんかに・・・、幸せな奴等なんかに紫狂が負けてたまるか!!」

 黒い妖気が溢れかえり! 部屋全体を覆いつくす。
 それは・・・窮奇ですら使ったことのない、獄門鳥の奥義だった!!



             【針山先端・残虐殿】!!!


 四方八方から白い槍が噴き出し!
 その石英が更に砕け、細い槍が辺りに噴き出す!!
 さらにその槍から、更に細い針が・・・

 数多の枝分かれを繰り返し! 部屋全体はまるで白い菌糸が張り巡らされたように白く染まっていた!!

86送り妖怪戦闘部隊:2011/06/06(月) 21:00:44 ID:/AfNAO.Q
>>85
「うああ゛っ!!」

灼熱の手に首を掴まれ、ジュゥゥと肉が焼け焦げる音がする。
皮膚が焼け爛れていく痛みに、和戌が悲痛な叫びを上げた。
東雲はその場から弾かれたように起き上がる。

「テメェッ、その手を離しやがれ!」
「来、ちゃ駄目だ犬御!! コイツの思う壺……うあああ゛あ゛……!!」

喉が焼けて、次第に叫び声すら小さる。
ヒュゥヒュゥと息が抜ける音。
力が抜けていく腕。

――目の前で仲間がやられるのに、俺は立ち尽くす事しかできねェのか。
――あの時のように?

東雲の見開いた赤い瞳の奥に、血濡れた光景が映った。

「……させるかァァァ!!!」

怒りに頭を支配された東雲は、考えもなしに波旬に向かい爪を振りかざした。
分かりやすい挙動。考えなしの行動。
だが頭に血が昇った東雲は止まらない。
和戌の制止の声も、まるで聞こえていないように。





「やったか……!?」

霧に合わさって煙が上がり、出口町の姿を確認できなかった。
だが、妖気は消えていない。
感付いた四十萬陀が指示を飛ばす一瞬前に、出口町が和戌がいるはずの場から飛び出した。

(しまっ)
「皆、逃げ――」

だが、遅い。
溢れ返る黒い妖気。逃れることの出来ない強大な力。
無作為に張り巡らされていく残虐殿が、送り妖怪たちに襲い掛かる。

「!!?」

四十萬陀の頭の中に、負傷した仲間たちの痛烈な傷みが反響した。
一、二、三……傷を負うものたちを尻目に、石英は菌糸のように枝を伸ばしていく。
四十萬陀のほんの一寸隣を、石英の枝が通り抜けた。
ぞっ、と背筋が凍る。

残虐殿が完成すると同時に、部屋に張り巡らされていた霧が晴れた。
驚いた四十萬陀が慌てて辺りを見回すと、石英の枝に翼を傷付けられた五月がぐったりとうなだれていた。
遠くから空を切る音がして、双葉が飛んでくる。

「五月!!」
「ごめん双葉……やられちゃったわ」

小さく鳴く声はか細い。
彼女たちの戦闘の要であった霧が晴れ、思考共有も効果がなくなってしまった。
――危機的状況。
他の仲間たちも、すぐに立ち上がる者もいるが決して全員ではない。

「……ちょっとまずいじゃん」

強張った表情で、四十萬陀が呟いた。

87波旬/出口町 入江:2011/06/06(月) 21:28:01 ID:???
>>86
「あはははははっ! やっぱり愉しいなぁ・・・欲しいものを壊すのはさぁ!!」

 犬御の拳が、硬い音を立てて空中で静止する。
 犬御の拳を阻んだそれは・・・あろう事か犬神の赤い結界だった!!

「あはははははははははっ! ザマァ見ろ!! 結局お前等は、欲しいものなんて何にも手に入らないんだよぉ!!」

 高らかと上がる、悪質な笑い声。
 ジリジリと火花を上げる結界越しに犬御に語りかける波旬。
 左手で掴んだ和戌の首からいっそう大きな煙が上がった。

「わかるかい? これが強さだ! 私は誰よりも優れているんだから!!」

 あまりの気持ちの昂ぶりに、障壁に僅かなヒビが入っていくことに気付かなかった。

「私が欲しくて、手に入らないものなんて無いんだぁああああ!!!」




 完成した針山、文字通りの地獄絵図。
 なれない身体での発動に出口町は消耗し、薙刀を杖のようにして体重を預けた。

「ふぅー、ふぅー・・・あ、ははは! やった!! 仕留めた!!」

 身動きの出来ない敵たちを前にして、出口町ははしゃぐ。
 その眼は完全に紫濁し、本来の意義を見失ったようでも在った。

「やっぱり紫狂は強いんだ! 幸せな奴等やまともな奴等なんかに負けないんだぁ!!」

 しかし、はしゃぐその両目から。
 不意に涙が零れ落ちているのに気付き、僅かに驚く。

「あ、あれ・・・なんでだろう? あ、あははははは・・・バンザーイ」

 ただただ濁った瞳で、乾いた勝利を歓喜していた。

88送り妖怪戦闘部隊:2011/06/06(月) 21:59:24 ID:DDrxEC0A
>>87
「くそッ……!!」

鎌鼬を纏った爪が止まる。
しかし東雲は拳を持ち上げると、赤い結界に向かってもう一度振り下ろした。

「黙れッ! 黙れェェ!!」

何度も、何度も。
その度に、硬い音と共に攻撃が弾かれる。
拳が傷つき宙に血雫が飛ぶ。

「俺はテメーみたいな奴が大ッ嫌いだ!」

視界の端に映るのは、息も絶え絶えの和戌の姿。
耳にこびりつく粘っこい笑い声。

「強さってのは他人の大事なモンを簡単に奪う。否定するように壊す!!」

――ドクン。
心臓が大きく鼓動する。
悔しさとは違う、その魂を支配するのは「怒り」や「憎しみ」だった。

――ドクン、ドクン。
一陣の風が東雲の体を取り巻く。
何度も、何度も、拳を振り下ろす度に、
東雲の妖力が溢れだすように増していく。

(だから俺は強くなる。もうこれ以上――)

ドクン!!

「テメェなんかに、何も奪わせねェ!!!」

ゴオォォォッ!!!
巨大な風嵐を纏った拳を、ヒビの入った結界に振り下ろした。




「くぅっ……」

四十萬陀は悔しげに呻きながら、はしゃぐ出口町を睨んだ。
部屋全体に張り巡らされた石英の枝。
地面に臥す傷付いた送り妖怪の数は五匹、そして能力の使えなくなった双葉を加えて一匹。
残りの送り妖怪は、四十萬陀を含めて六匹となった。

(諦める訳にはいかないじゃん。
 だけど、ここからどうやってコイツに――)

そこで、四十萬陀ははっと目を見開いた。
殆ど勝利が確定したはずの出口町が、その瞳から涙を零したことに。

『幸せな奴等や、まともな奴等なんかに』

出口町が、何度も繰り返した言葉。

(この子は……)

真っ黒な瞳を揺らめかせて、四十萬陀は立ち上がった。
その姿を、出口町と同じ少女の姿にして。

「どうして、泣いてるじゃん」

89波旬/出口町 入江:2011/06/06(月) 22:22:49 ID:???
>>88

 沸き上っていく妖気、しかし波旬はその力を更に上回っていく。
 まるで虫の行列を応援するかのように、血飛沫を上げて何度も殴りぬく犬御を見定めていた。
 相手が強ければ強いほど好都合、貪欲はやはり残酷に。
 強くなっていく犬御の妖気を倍化させて写し取っていった。

「ほらほら頑張れ頑張れー、どーせ無駄・・・ガァッ!?」

 突然だった。
 現れた腕に波旬は殴り飛ばされ、和戌を手放して地面に叩き伏せられる。

 ガラスの砕けるような音がした。
 波旬を守る赤い結界が、脆くも犬御の拳を貫通したのだ。

 砕けた破片が、どこか面影のあるあの形になり、犬御の振りぬいた腕に纏わり付いた。
 まるで「落ち着け」と言わんばかりに、その手を包みながら消失する・・・。

「う・・・ぐ、チクショウ・・・またッ!!」

 ギリギリと歯軋りする波旬が立ち上がった。

「またこんな要らない物のせいでぇええええええええ!!」

 波旬の貪欲は、犬御の長所を完全に写し取ってしまった。
 またしても・・・波旬を害する長所すら。

(チクショウ・・・どうする!? アレが出てきた時点で・・・この一番強い力は使い物にならない!)

 初めて相手より劣った窮地に、波旬は頭を回す。
 焦りの混じった貪欲の波長が犬御の心の闇に触れたとき、ニタリと閃いた。
 波旬は犬御の心を解析し、もっとも攻撃しにくいという長所を写し取った顔になる。

 それは・・・あの時、大きな犠牲を出した、
 三百年前の傷ついた四十萬陀の姿だった・・・。



「!? な、なによアナタ!!」

 いきなり起き上がり、満身創痍であるはずなのに。
 臆面も無く自分に近づいてくる四十萬陀に驚愕し、石英の薙刀を振りかざす。

「ち、近寄るな!! 今度こそ串刺しにするぞ!!」

 九合目の針山は、僅かに震えていた。

「あなた達なんかに・・・わかるもんか!!」

 なれない口紅の塗られた口が怒声を吐き出し、
 白い串刺す薙刀を大きく振り下ろした!

90送り妖怪戦闘部隊:2011/06/06(月) 23:05:17 ID:DDrxEC0A
>>89
――パリィィィン!!

障壁が破れる音と共に、東雲が拳を振り抜いた。
同時に、和戌がどさりと地面に落ちた。
波旬の頬を殴り飛ばした態勢のまま、胸を激しく上下させる。

「はあッ、はあッ」

東雲を中心に巻き起こる妖気の渦が、段々と彼の内へ潜まっていく。
視線の先には、砕けた障壁を纏う腕があった。
破片はしばらくして消滅してしまったが、東雲は脂汗を浮かべながら瞳を閉じ、腕を体に抱いた。

(……悪ィな)

すうっと頭が落ち着いていくのが分かる。
妖気の波長が落ち着いていく。

東雲の力の引き金は、まさしく「怒り」。
彼の中で憎しみや怒りが増徴すればするほど、それを糧に、妖力が跳ね上がるのだ。
ただし、東雲自身にその自覚はないが。

和戌の無事を確認すると、東雲は波旬を見下ろす、

「!!!」

――が、
その瞬間、東雲の体が硬直した。
波旬の顔が、変化している。
肩を過ぎる程に伸びた黒髪。
人形のような白い肌。
黒曜石のような瞳をした、今よりずっと幼い顔。

「七、生」





「――確かに、私にはわからないかもしれないじゃん」

ぽたり、ぽたり。
振り遅された薙刀の切っ先が、四十萬陀の額に血を浮かばせた。
震える刃を目前に、少女は動かなかったのだ。

頬を、赤い血が伝いおちる。
周囲の送り妖怪たちは、固唾を飲んで二人を見ている。
四十萬陀の顔は僅かに恐怖を滲ませてはいたが、真っ直ぐに出口町を見ていた。

「でも、本当に君は一人?」

誰も自分のことを分かってくれる人がいないのなら、なぜ出口町は戦うのか。
――何の為に? 誰の為に?
四十萬陀の黒い瞳に、金色の灯が燈る。

「私の知ってる人が言ってたじゃん」

白い着物をたなびかせ、桜吹雪の舞う木の上で。
提灯を携えた狐がいつかいった言葉。

『不幸も幸福も、望めば手に入るものなのじゃ。
 少し手を伸ばせるなら、絶対にその者は幸福になれる』

四十萬陀が、出口町に向かって手を差し出す。

「気味が不幸だって、まともじゃないって、それを決めたのは誰?」

――手を伸ばして、そう伝えるように。

91波旬ver(幼少七生)/出口町 入江:2011/06/06(月) 23:36:17 ID:???
>>90

「犬御・・・」

 波旬は今までに無く、貪欲の波長を張り巡らせ、細心の注意を払う。

(心の中を写し取っただけでは、完全には騙し込めない)
(それはあの時にしっかり経験して、学んだ)

 波旬は雪花に化けて戦いを挑んだ夜行との戦いを思い出す。
 直接貪欲で写し取れなければ、本人よりも本人らしく化けることはできないのだ。

「・・・」

 ただ無言で、どこか弱く、依存したような目で。
 犬御の懐に擦り寄ったあの日の七生。

(だが臆することはない。一瞬、ほんの一瞬隙があればいい。
 懐に潜り込んで、一撃で抉り取る!)

 犬御の心の闇をそのまま映したような黒曜石の瞳が、真っ直ぐ見上げた。

(今だっ!!)

 心の揺らぎを見切り、カマイタチを纏った右腕が犬御の心臓部に打ち込まれようとする!!




 振り下ろされた薙刀は、面と向かう七生の横を掠めていた。
 床に思い切り打ち付けられた石英の薙刀は、鈍い音を立てて折れていた。

「ぅ、うぅ・・・」

 生首だけで彷徨いながら生まれた自分。
 人やまともな妖怪達に阻まれ、そんな醜い形ですら確立できなかった自分の存在。
 ただただ嫉妬していた。
 始めから五体満足で、きちんと存在できて、強くてカッコいい妖怪達に。

「ち、違・・・、でも最初に私を認めてくれたのは姉さまで・・・ッ」

 強さは自分で掴めと叱咤されても、ただ苛立ちを募らせるだけだった。
 それこそお前が死ねば私は自分の力で強さを掴めたのに、と。
 手も無いこの身体でどうやって掴めというのだと。

 だが、気づいてしまう。窮奇も織理陽狐も・・・この目の前の妖怪も。
 自分を歪みだと、不完全なただの噂と見ていないこと。

「やめろ・・・やめろ、やめろ! う、うるさい・・・」

 ただ力なく首を振る。

『キミは本当に一人?』

 七生の言葉が心を揺らす。
 一人じゃなかった、少なくとも。

「道切りも、カエルさんも、金蔓さんも・・・姉さまも。
 友達だったのかな? 友達だって、仲間だって言って良いのかな?」

 少なくとも皆に、まともではないと・・・まぁ言われたこともあったが。
 それでも皆、受け入れていた。
 歪んだ邪気の中にも確かに、儚くも純粋な想いはあった。

 幸福も不幸も、手を伸ばせばどちらでも手に入る・・・。
 では自分が今求めるべきなのは、幸福か、不幸か?

 答えを前にして、石英の銀板は砂の城のように崩れていった・・・。

92送り妖怪戦闘部隊:2011/06/07(火) 00:24:05 ID:/AfNAO.Q
>>91
(違う! 違う! コイツは本物の七生じゃねェ!!)

脳内では分かっている。
だが東雲は頭を振ることも、視線を逸らすこともできなかった。
あの頃の、東雲の記憶に残ったままの「七生」。
東雲がまだ、幼い「犬御」でいた頃の少女。
そして、己の弱させいで傷付けてしまった七生の姿。
それらは、東雲の心を揺らすには充分すぎた。

霞む視界からそれを覗く和戌が、必死に東雲に声を掛けようとする。
しかし焼けた喉からは、虚しく息が漏れるだけだ。
当時、二人の姉のような存在だった和戌も、波旬が変化した七生の姿に動揺していた。

(でも、アイツは七生じゃないんだよ! しっかりしな、犬御……!!)


時が止まったような感覚。
遠い日の思い出が、急に脳内を駆け巡る。
手を繋いで山を走り抜けた、幼い二人の子供の背中。

――あの頃の七生は、とても小さくて
  いつも臆病なアイツの手を、ずっと俺が引っ張っていた。
  何も言わなかったけれど、嫌な顔はせずに着いてきてくれるのが嬉しくて、
  俺はそんな七生が、ずっと、――……


ド、ッ


幼い七生の姿をした波旬の右腕が、東雲の身体を確かに貫いた。
しかし、その直前、
東雲が波旬の腕を掴んだことにより、狙った場所を僅かに外すことになった。
右腕が貫いたのは、――右肺。
纏われた鎌鼬の刄が、彼の体内をぐちゃぐちゃに掻き乱す。

「が、ぐああ゛……!!」

大量の赤黒い鮮血が、とめどなく口内から溢れ出す。
だが東雲の大きな手は、身体に刺さった幼い波旬の右腕を、しっかり掴んで離さない。

(好き、で……)

東雲はそのまま、波旬の体を愛しげに抱き寄せた。


【嵐神・怒豪風】


途端、激しい嵐風が東雲と波旬を切り裂き始めた。
怒りで溜め込んだ妖力を、一気に爆発させるように。
例え波旬が力を倍にしたとしても、この距離では自らも巻き添えを食らうだろう。
東雲は、体を抱く腕に力を込めた。
それは決して逃がさない、とも取れるが、どこか彼女を守ろうとしているようにも思えた。




崩れさっていく石英の銀盤。
元通りの岩窟の壁になり、送り妖怪たちがお互いを支えながら立ち上がり始める。

「……そうじゃん」

四十萬陀は、出口町の目の前でにこりと微笑んだ。

「紫狂は不幸を追い求めていたけど、君たちは仲間だったじゃん?」

彼女がここまで怒れる、仲間意識を持てるほどなのだ。
出口町は一人ではなかった。
仲間の為にだからこそ、彼女は戦えたのだ。

「それに私、きっと君と友達になれる。織理陽狐君だって、皆だって。ね?」

送り妖怪たちが集まってくる。
その視線には警戒が含まれているのは確かだが、明らかな敵意はなかった。
四十萬陀は、差し出した手で、出口町の手を包み込もうとする。

93波旬ver(幼少七生)/出口町 入江:2011/06/07(火) 01:03:11 ID:???
>>92

(取った!!)

 振りぬいた瞬間、確信した勝利。
 しかし・・・

「!?」

 とっさに掴まれた腕。
 しかし貪欲で探りを入れても、それは拒絶するわけでも見破られたわけでもない!
 現に貫いた腕は、現在進行で犬御の身体を引き裂いている!

 むしろ逆、相手は完全に騙されていた。
 騙されていたからこそ、“ただ抱き寄せられた”のだ!!

「こ・・・このッ! これだから男ってヤツは・・・ッ!」

 必死で離れようとするが、今回は相手や自分を引き裂くだけの腕力は持ち合わせてはいなかった!
 そしてこの後は必ず来る! あの時と同じ決死の攻撃が!!
 わかってはいたものの、回避することは敵わない・・・。
 今回は写し取った相手が弱すぎたのだ。

「ギャアアアアアアアアアアア!!!」

 溜め込まれていた、本能の一撃とも言うべき風の攻撃が。
 犬御もろとも波旬の身体を引き裂いていく。

「う・・・うぐっ! チクショウ!!」

 欲しい物はなんでもすぐに手に入る魔王だからこそ、
 その欲すべき、想うべき相手に対する心を、決意を最後まで理解できなかった。
 なんでも手に入ったからこそ、2度もこの想いを軽んじ、敗北したのだ。

「チクショウガァァアアアアアアアアアア!!」

 夜行との戦いで消費しきった身体がとうとう存在を保てずに霧散する。
 その呪詛のような言葉を吐き捨てて。

― 覚えてろよ・・・ 私に手に入らないものなんて無いんだ、できないことなんて無いんだ! ―

 最後まで、ただ相手を嘲る闇そのものが散っていく。

― お前等と違って生き返ることも簡単なんだよ! 30年・・・いや10年だ!!
  10年あれば私は自分の命だって、もう1つ手に入れることができるんだ、ザマァ見ろ!!! ―

 波旬は、貪欲の魔王は・・・今この場より、消失した。




「・・・仲間、友達」

 紫濁ではない、黒く澄んだ瞳が。
 ただ差し出された手と笑みを交互に見据え、迷っていた。

「みんなも・・・?」

 後の者達を見渡すが、やはり躊躇いがちに俯く。
 包まれようとした自分の手を、脅えるように引っ込めようとするが。
 それよりも早く、七生の手の温もりが出口町に伝わった。

「・・・うん!」

 戸惑いながら、脅えながら。
 それでもただ頷いた。

 紫狂の裏切りになるかもしれないけど、まぁ大丈夫だろう。
 なにより窮奇自身が言ってたのだ、「四十萬陀ちゃんは大親友」だと。
 『幸せ』と『不幸せ』どっちも大事で、どっちもかけがえの無い自分自身には違いないのだから。

 石英の小さな鋲が出口に現れ、廊下の道の一本を沿わせていく。

「ねぇ・・・行って、あの標の導く方に。
 あなた達の邪魔はもうできないけど、足止めもしなくちゃいけないから」

 その二つの果ての答えがこれである。

「大丈夫、あの狐さんなら。一人でも大丈夫。だからアナタは行って」

 ニッコリと微笑んだ、要は窮奇の元に誰も生かせなければ『良い』のだ。
 あの人なら最高の足止めになるだろう。

「因縁なんかより、倒すべき夜行なんかより。もっと大切なモノがあるはずだから」

94送り妖怪戦闘部隊:2011/06/07(火) 01:29:51 ID:/AfNAO.Q
>>93
荒らぶる鋭利な風の刄。巨大な嵐風が肌を裂く。
噴き出した血が巻き込まれて、赤い風が東雲と波旬を取り囲む。
怒りと共に溜め込んだ妖力の最大出力は、上位妖怪と遜色ないものだった。
ただし、その攻撃自体に東雲の体が耐えられるかといえば話は別になる。
体を保てなくなった波旬が霧散し、抱えるものがなくなった東雲は、そのまま後ろに倒れこんだ。
右肺は既に使い物にならない。
加えて身体中の器官も、侵入した鎌鼬によって滅茶苦茶に傷つけられていた。
たった今生きているのが不思議なほどの東雲は、波旬の嘲り声に、真っ赤な唾を吐き捨てた。

「そした、ら、今度こそ、ブッ殺、してや、るよ……」

どさり、と地面に俯せに倒れこむ。
憔悴した表情で、東雲は意識を落とした。




手を取ってくれたことに安心して、四十萬陀はにへらと頬を弛ませた。
誰かの手が取れるなら、彼女はもう大丈夫。
決して、不幸じゃない。

出口に現れた鋲が導く先を見て、四十萬陀は少し躊躇うような顔をしたが、
織理陽狐の強さは知っている。
それに、今の出口町は充分信じられる存在だ。

「……うん!」

四十萬陀は頷くと、仲間を集めて出口へ駆け出しはじめた。
だが途中で思い出したように振り向くと、

「今度、袂山に遊びにおいでよ!」

そう明るい笑顔で出口町にいって、四十萬陀は再び背中を見せて駆け出した。
あの幼い頃とは違う、少しだけ大きくなった少女の姿で。

95窮奇:2011/06/09(木) 21:36:06 ID:mwvR0u1Q

 天逆楼の最深部にして中枢部である夜行神の苗床にて、窮奇はあのへばりつくような口調で言葉を連ねていた。

「百鬼夜行絵巻、大陸においての山海経、そして全てのルーツとなる神話・・・。
 特定の時期において、今まで自然の精霊や伝承の一端でしかなかった妖怪は爆発的な勢いで具現化する。
 全てがそうとは言わないけど、何処かの時期でこの夜行神が一枚噛んでいることは確かだろうね。そして妖怪達の百鬼の争いの黒幕の内の1つである」

 胎動する夜行神の前に立つ窮奇。
 その表情はやはり見慣れたあの悪逆に満ちた表情だった。

「わかるかい? この夜行神は・・・“存在を培養する”神なんだ・・・。
 細胞片を卵細胞が取り込めばクローンが生まれるように。僅かな魂の欠片や魑魅にもなれぬ気と-け-もいうべき精霊を取り込み、妖怪として転生させることが出来る」

 挑発するように織理陽狐の顔を指差す。

「もうすぐ産まれるのは私と同等の悪意を持つ、3人の同僚だ。その3つの中には当然、ヤマタノオロチも入っている・・・。
 もちろん巴津火のような出来損ないの幼態は期待しない方が『良い』」

 さも楽しそうに、窮奇は歩み寄ってくる。

「わざわざ竜宮に行って、大き目の記憶の欠片を持ってきたんだからねぇ!」

96織理陽狐:2011/06/09(木) 22:01:27 ID:DDrxEC0A
>>95
「なるほど……お主の百鬼夜行、というのはそういう意味か。
 お主もこの夜行神を使って、転生を繰り返していたのか?」

夜行神を見上げる。
胎動する巨大な幹の中には、彼女と同じ悪意を持ったものたちが、今か今かと産まれる時を待っているのだろう。
毒々しい光の下に、窮奇の悪辣とした笑みが映る。
挑発するように指を刺され、織理陽狐は静けさをたたえた瞳で窮奇を見据えた。
歩み寄ってくる、息が詰まりそうなほどの悪意。
だが――、

「儂は嬉しいぞ、窮奇」

織理陽狐は、この場にあまりに不釣り合いな笑顔をこぼした。

「その百鬼夜行が完成する前に、儂と戦うことを選んでくれて、感謝する」

ふわり、軽い足取りで前に出る。
窮奇との距離を詰める。

そして、空気が止まった。

はっと気が付けば、織理陽狐の表情が鋭いものに変わっている。
思わず震えてしまいそうな、刺すような殺意は、背後の夜行神に向けられていた。

97窮奇:2011/06/09(木) 22:26:18 ID:mwvR0u1Q

「いいや、私達の転生は少し違うよ。記憶や力を受け継ぐだけの転生さ。
 過去の記憶と現在の心がゴチャゴチャでなかなか大変だったんだよぉ」

 だが幸運なことに・・・いや、不幸にも。
 獄門鳥と天逆毎の思想はピタリと一致し、善人を食らうと云われる魔獣・窮奇の名で呼ばれるまでに至った。

 しかし逆心の触手が織理陽狐の殺意の琴線に触れたとき、表情を引きつらせる。
 ドロリとした悪意は、急に張り詰めるような敵意へと変わった。

「・・・やらせると思うか?」

 夜行神を庇う様に黒い触手を噴き出す。
 それは強大な密度で圧縮され、可視にもなった逆心の触手だった!

「残念だねぇ・・・、キミもこれを見れば・・・。
 もう少し喜んでくれると思ったんだけどなぁ・・・っ!」

 目を見開く、古の装束を破くことなく。
 まるで初めからそうであることが前提のように、白い翼がスルリと現れた。
 ドクドクと溢れ出す強大な妖気。

 百鬼の主となり、夜行神の力を一部取り入っているのだろう。
 かつて犬御と対峙したあの時は強大ながらも不安定な波長だったが。
 今回はまるで大山の如く、安定している。

「・・・潰させやしないよ、この存在があれば。もっともっと多くの想いをへし折れそうなんだ。
 幸せなヤツを簡単に不幸せにも出来る、不幸せなヤツの想いをもっともっと加速させることが出来る」

 拠り代の必要が無くなった、完全なる天逆毎が具現化する。
 巨大な獣面の女神は、真っ赤な瞳で織理陽狐を見下ろした。

98織理陽狐:2011/06/09(木) 22:58:32 ID:DDrxEC0A
>>97
完全なる姿になった天逆毎を、鋭い表情をした織理陽狐が睨みつける。
巨大な妖気に対応するように、彼からも三叉の狐の尾がひゅるりと姿を現した。
狐火を灯した尾は、織理陽狐の妖気の大きさを表すように、ずるずると巨大なものになっていく。

激しい轟音と共に、硬い巌窟の地面を突き抜けて、火柱が幾つも燃え上がった。
太い火柱は狐火でできており、橙色の火の粉を周辺に吹き散らす。
金色の瞳は、天逆毎の赤い瞳の奥をじっと見詰めた。
その奥に隠された真意を覗き込むように。

(窮奇、お主は何故不幸を追う?)

織理陽狐がかたり、と下駄で石床を叩く。
同時に、三本の火柱がうねりを上げて天逆毎目掛けて襲いかかった。
その一本は、背後の夜行神を捉えている。

――止めてみせる……必ず!!

ごおっ、と三叉の尾が大きく火を揺らす。
白い着物を覆う羽織りが、熱気をもった風にゆらりと揺れた。

99窮奇:2011/06/09(木) 23:20:16 ID:mwvR0u1Q
>>98

 燃え上がる焔の中から黒い触手が噴き出し!
 夜行神を狙う火柱を灰色の砂に変えて崩してしまう。

 焔の中から猛る声が上がり、おぞましき獣面が飛び出してくる。
 巨大な手が織理陽狐のいる場所を叩き伏せた。

 赤い眼はただ赫々と燃え上がり、不幸だけを見据えている。
 織理陽狐を追うように、黒い触手が織理陽狐へ次々と迫撃を仕掛けていく!


 夜行神は胎動する。
 幸福と不幸の争いを見送る、かつての邪神達。
 人の形ではなく、完全に怪物であるそれは。
 何を想い2人の争いを見送るのか。


 煙を上げる天逆毎は、グルリとあたりを見渡した。
 立ち上がり、夜行神の前に立ちふさがっている。

100織理陽狐:2011/06/09(木) 23:42:48 ID:DDrxEC0A
>>99
火柱を突き抜けた天逆毎の手が眼前に迫る。
叩き潰される寸前の所で、織理陽狐が後ろ脚を蹴った。

後退した織理陽狐を、黒い逆心の触手が追いかける。
三本の巨大な尾を駆使し触手を跳ね除けながら、織理陽狐は右へ左へと攻撃をいなしていく。

体に煙を纏わせながら立ち上がった天逆毎は、
夜行神を守るべく立ち塞がる。
織理陽狐は一本の尾を使い逆心を弾くと、開かれた細い道の間を潜り抜けた。

尾で地面を叩くと、大きく飛び上がる。
高い天井に届くかと思うほど、天逆毎を見下ろすほどに。


風を切り落ちていきながら、三本の尾を天逆毎に向ける。
橙色の燐火が燃え上がり更に尾を大きくさせる。
まるで焔で出来た槌を振り下ろすように、天逆毎に叩き付ける。


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